約 1,433,500 件
https://w.atwiki.jp/kuriari/pages/102.html
クリフトとアリーナの想いは Part4.2 909 :【暑がり・寒がり】1/2 ◆cbox66Yxk6 :2006/04/14(金) 17 33 26 ID 1LJiWNv+0 「う~、あーつーいー・・・」 真夏の行軍は、かなり過酷である。 暑さしのぎのためにピンクのレオタードを装備したアリーナがうんざりしたように天を仰ぎ、ぎらぎらと照りつける太陽を恨めしげに睨む。暑がりのアリーナにとっては辛い季節だ。 「ほんと、暑いわね」 同じく暑がりのマーニャが鉄の扇をパタパタさせながら同意する。こちらもアリーナと同じくピンクのレオタードを装備していたが、踊り子の服に比べると布地が多いため、暑さしのぎといってよいのか微妙なところだ。 ふたりでさんざん暑い暑いと呻いていると、見ているだけで暑苦しいクリフトが水筒を差し出した。 「ありがと」 「あら、気が利くじゃない」 お礼を言いつつ水筒を受け取ったアリーナだったが、ふと目の前の青年の服を掴んだ。 「ね、クリフト、暑くないの?」 真夏の日差しの中でも神官服。それも全く着崩したところがない。 「いくらあなたが寒がりだからって、これじゃ暑いわよね」 脱いじゃえばいいのに。 アリーナの言葉に、クリフトはやんわりと笑うとわざとらしく祈りのポーズをする。 「これも神のご加護・・・ではなく、慣れですね」 精神修練のひとつですから。 事も無げに言い切る。 その言葉を聞いたマーニャが、鼻の頭にしわを寄せた。 「精神修練ね」 ふ~ん、私が一番苦手なことだわ。 何気なく聞き流しかけたマーニャだったが、はたとクリフトの衣に視線を移した。 そしてしげしげと分厚い神官衣を見つめると、にやりと笑う。 その笑いになにやら不吉な予感を覚えたクリフトが、知らず身を引く。 マーニャはそんなクリフトの腕を取ると、からかいの色を滲ませて耳元で囁いた。 「もしかして『あの状態』を隠すために厚着してるんじゃないの?」 視線だけでアリーナを指し示し、マーニャが聞いてくる。 瞬間、クリフトの顔がこわばる。が、それこそ精神修練の賜物か。即座に笑顔を作るとシラをきる。 「まさか」 「嘘」 「違いますよ」 「ほんとに?」 「本当です」 クリフトのその言葉に、マーニャはにんまりとする。 「じゃ、証拠みせて」 言うや否や、アリーナを呼び寄せる。 「なぁに」 小首をかしげてやってきたアリーナにマーニャが微笑む。 「アリーナ、ちょっと膝に手を当てて屈んでみてくれる?」 「こう?」 腕に押し上げられ強調されたアリーナの胸が、クリフトの視界に映し出される。 同時に、クリフトの笑顔が凍りつき、身体が硬直した。 マーニャはその様子を満足げに眺めると、満面の笑みを浮かべた。 「じゃ、見せてもらいましょうか?」 力なく歩み去るクリフトの背を見送りながら、マーニャは思った。 「そういえば」 ステテコパンツってクリフトとソロ、つまり『若者』は装備できないのよね。 「つまり、そういうことか」 ―――いま、ドラクエ世界の、最大にしてどうでもいい謎が解けた。 (終)
https://w.atwiki.jp/kuriari/pages/91.html
クリフトとアリーナの想いは Part4.2 797 :隙間風1/1:2006/04/04(火) 16 16 19 ID wPcTlD/d0 ー隙間風ー その日は夕方から風が強かった。 そんな中山小屋を見つけられたのは幸運だった。 資材置き場として使われていたのだろうが生憎と火を起こせる様な場所は無かったが この強風が避けられるだけでもありがたいことだった。 「ふ~すごい風~」 アリーナ姫の美しい髪も今日は砂埃や葉っぱが絡みついている。 ようやく風を避けられ、ほっと一息つきながら手串を通して必死に髪を整えていた。 何とか3人が横になれる場所はあったのだが粗末なつくりの山小屋隙間風が吹き込んでくる。 季節外れの強風、寒さ対策をするには早い季節で手持ちの防寒具が少なかった。 クリフトはお歳を召してるブライ様を心配して自分の分を渡して就寝した。 「クッシュン」 深夜可愛いクシャミで目を覚ました。 いまだに風が吹き止まずギシギシを山小屋を揺すり、隙間風が体温を奪っていく。 「姫さま眠れませんか?」 クリフトが毛布を渡したかい合ってか、寝息を立ててるブライを起こさぬようにそっと声をかける。 声をかけられたアリーナはマントと毛布を自分の体に巻きつけながらモゾモゾと身を起こした。 「そうね、小屋なのにけっこう風吹き込むわね」 動きにくいと言って厚着を嫌うアリーナは薄着なのでこの隙間風は堪える様だった。 「私どもの準備が悪く、姫さまにご不便をおかけして申し訳ございません。」 「ん、クリフトのせいじゃないわよ。」 そう入ったもののアリーナの肩は小刻みに震えていた。 自分の毛布はすでにブライに渡してしまっいて他に渡せるようなものはない。 何か方法は無いかと考えをめぐらせるクリフト。 あっ、この自分のコートみたいな上着なら姫さまを包めるかもしれない。 必着することになってしまうけど、ここは仕方ありません! そう他に方法が無いんだし、不本意ではありますがこの不肖クリフトが姫様を あっためて差し上げるしかないんです!!! クリフトはプチプチと早急に上着のボタンを外していく 「ちょっ、ちょっと、な、なに!?」 「ひ、ひめ・・・」 明らかに暴走した考えに取り付かれてるクリフト いきなり服を大きく広げ、覆い被さって来ようとする。 その姿はなんというか・・・・コートを広げて見せてくる変態っぽかった。 しかしクリフトがアリーナまで達することは無かった。 「なに考えてるのよーー!!!」 ドガッ!! アリーナの強烈な鉄拳が決まってクリフトは壁まで吹っ飛ばされた。 「ぐ、ぐえ・・・」 断末魔を残してクリフトは気絶した。 「ったく、突然なにしようとするのよ!」 大きく肩で息をしながらアリーナは突然のクリフトの行動に今でもドキドキして胸が熱かった。 クリフトの本意とは違ったがとりあえずアリーナは暖まったようだった。
https://w.atwiki.jp/kuriari/pages/127.html
クリフトのアリーナへの想いはPart5 292 :【結婚承諾秘話】1/18 ◆cbox66Yxk6 :2006/05/23(火) 20 25 43 ID DpCbqtoT0 渦中の人物が大広間に姿を現した時、そこにいた誰もが息を呑み、そしてざわめいた。 細身でありながらも脆弱さを感じさせない均整の取れた体。不思議な色合いの艶やかな蒼髪と深い青の瞳。真新しい服を颯爽と着こなし瑠璃色のマントを翻して王の御前に向かうは、救国の英雄の誉れ高き青年。 先の魔軍襲撃より三年。 すっかり大人の落ち着きを身につけた彼の名はクリフトといい、先頃まで王宮付神官として、またサントハイムの復興の一翼を担ってきた人物であった。 頭脳明晰、容姿端麗と誉れ高い彼だが、その穏やかな物腰からは想像も出来ぬほどの剣術の達人でもあり、さらに回復呪文や致死呪文といった高等魔法も操る世界屈指の猛者でもある。それに加え、見かけによらぬ堅固な意志と豪胆な実行力を兼ね備え、近隣諸国の老練な政務官を相手に、はたまた海千山千の商人連を相手に一歩も引かない駆け引きのうまさを遺憾なく発揮し、ここ最近敏腕政務官の称号を得、密かに恐れられているという。 クリフトは己に向けられる好意の視線と、それに倍する羨望の眼差し、そして悪意に満ちた眼光をひしひしと感じつつ、ゆっくりと赤い絨毯を踏みしめ、前に進んだ。 彼の見つめる先には、彼の敬愛する王と、彼が何よりも大切に思う姫の姿。 その脇にうっそりと佇む老人は、幼い頃から目をかけてきた青年の晴れの姿に、僅かながらに鼻を赤くさせていた。 やがて大臣の声が響き、クリフトが御前で跪くと広間は水を打ったように静まり返った。 「これよりサントハイム王宮付神官兼政務官クリフトの叙爵式を執り行う」 大臣の声に玉座を立ち上がったサントハイム王は、伝家の宝刀を掲げると、クリフトの肩口に押し当てた。 サントハイム王国における叙爵は、先王のとき以来簡略化が図られ、本人の希望があれば非公開で行うことも可能であったが、この度の叙爵には多くの貴族からの要望があり公開となった。しかしそれは、平民出身のクリフトを公の場で貶めるために意図されたものでもある。いくら王宮の一角で育ったとはいえ、貴族の社会とは無縁の生活をしてきたクリフト。当然のことながら貴族のしきたりなど知りはしないだろうと、高をくくっていた貴族の一派は、衆人環視の中物怖じひとつせず、粛々と儀式をこなしていくクリフトに苛立ちを感じ始めていた。だが、国王の朗々とした声が広間を満たすと、好奇も露にクリフトを見やった。 サントハイムが定める爵位は、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の5爵。それに名誉国民に値する準男爵、士爵、騎士の称号がある。本来であれば、式の前にどの位が与えられるのか公表されるのであるが、此度の叙爵ではあえて事前公表をせず、式での発表となっていた。それ故、クリフトがどの爵位を賜ることになるのかは、誰もが注目すべきことであったし、また若い貴族の子息たちにとっては別の意味でも気になることでもあった。おそらく、クリフトの功績から言えば、男爵以上を授与されることは疑いないとは思いつつも、それが伯爵以上であった場合、貴族の未婚の子息にとっては、正直歓迎せざる事態を招くのである。サントハイムにおける伯爵位、それは王族との婚姻が可能になることをさす。 国王の声が響き渡り、クリフトが一段とこうべを垂れた。 「此度の功績を以って、そなたに『男爵』の位を授与する」 その瞬間、アリーナは思わず身を乗りだしかけ、傍らに控えていたブライに無言で止められた。 抗議の声をあげかけたものの、ブライが僅かに首を振るのを見ると、姿勢を元に戻し、心配げにクリフトを見つめた。 己の爵位が明らかにされた時、クリフトは青く澄んだ瞳を伏せ、僅かに身動ぎした。 (間に合わなかった・・・) 国王から言い渡されていた期限は3年。 アリーナが他国と婚姻を結ばなくてはならない状況を回避すべく、寝る間も惜しんでサントハイムの復興に尽力をしてきた。そしていま、サントハイムの復興は軌道に乗り、アリーナの縁談はある程度の自由を得た。しかし、クリフト自身が、それに追いつくことができなかった。 予感はあった。 クリフトはともすれば虚ろになりがちな己が心を叱咤し、答辞を述べる。 爵位は国王の采配ひとつで決まるものではない。 何人かの重鎮と話し合いを重ね、そして与えられるもの。その重鎮たちが特に何かことを起こすことなく、今日の日を臨んできたことから、おそらくは伯爵位を望めないであろうことはうすうす勘付いていた。そう、下位の爵位をクリフトが得たところで、何もできないことはわかっていたから。 貴族の位は簡単に得られるものではない。頭では理解していた。しかし、現実になると虚しさと憤りで自身が押しつぶされそうな気持ちになる。 クリフトは答辞を述べ終えると、ただ一度だけちらりと愛するものへ視線を送った。 心配げに見守るアリーナと視線が絡まる。 一瞬のうちに胸を満たした苦しさに思わず息を詰まらせ、クリフトはアリーナから視線をはずした。 これ以上彼女を見つめることは到底できなかった。 己の不甲斐なさを彼女の前でさらけ出してしまった。 どの爵位が与えられるかを決めるのはクリフトではない。しかし、徒に彼女を惑わせ、それでいて別離の苦しみを与えてしまったのは、己の罪するところであったとクリフトは自戒する。 先の戦いの折、彼は愛する姫君と共に何度となく死線を潜り抜けてきた。それは辛く苦しい旅路であったけれども、共有する時間が増えるほど、ふたりの距離は縮まっていった。それは、若いクリフトを錯覚に陥らせてしまっていた。姫君と神官、ふたりの距離は縮まっていなかったというのに、縮められるのではないかと、淡い期待を抱いてしまったのだ。そしてそれは、ふたりを相思相愛の間柄に押し上げたものの、立ちはだかる現実の壁の前に敢え無く玉砕してしまった。 クリフトは苦しい息のもと、かすかに唇を噛み締めた。 (姫様に、期待を持たせるべきではなかった) たとえ彼女から想いをぶつけてきたとしても、かわし続けるべきであったのだ。 クリフトが悔恨の念に囚われている間にも、式は滞りなく進行していき、そして終わりを迎えた。 クリフトは大臣の合図に、ゆっくりと面を上げる。 広間を満たす安堵の空気と、年頃の娘を持つ貴族たちの思惑がクリフトを貫き、その居心地の悪さに、今更ながらに吐気を催した。 それでも、ただひたすらに自制心を働かせ、御前を辞そうと身体に力を入れたその時だった。 妙な緊張感に溢れたその場にそぐわない、飄々とした声がクリフトの鼓膜を打った。 「陛下、この場を借りてひとつ御許しいただきたいことがございます」 それは、長く苦しい旅を共に駆け抜けてきた矍鑠とした老人のもの。 誰もが一目置きながら、その詳細を知るものがほとんどいないという謎の老人。王の教育係として、そして王女の教育係として、はるかな昔からサントハイム王家の傍らに位置してきたその者の発言に、広間の誰もが注目していた。 老人はゆっくりと身体を動かすと、誰にもわからぬようにアリーナに小さく笑みを送り、クリフトのもとへと歩み寄った。そして、クリフトの傍らに立ち、玉座に向かい合うと、そのまま言葉を続けた。 「このクリフトめを、わしの養子として正式に迎えようと思っております」 この発言には、当のクリフトも驚き、不敬に値することも忘れ思わず声を上げていた。 「ブライ様・・・」 小さく呟かれた言葉にブライは呵呵と笑う。 「そんなに驚いた顔をするな。ただでさえ締まらないおぬしの顔が、よけいに阿呆に見えるぞ」 それは妙に威厳を感じさせる笑いで、そして誰かを思わせる顔であった。 クリフトがそれを不審がる暇もなく、広間の一角から糾弾の声が上がった。 「王の御前、無礼であるぞ!!」 それはまだ年若い貴族の青年から発せられた。 彼の言うことは正しい。 王が臨席するその席で、如何に重鎮として扱われていようとも、臣下が王に物申すことは火急の事態でもない限り不敬罪に値する。 この糾弾に勇気を得たのか。もともとこの得体の知れない老人を快く思っていなかった貴族の面々がそれに呼応した。 「越権行為ですぞ」 「なんたる不敬!」 「即刻立ち去られよ!」 非難の的とされたブライは、それでも平然と佇み、国王を見つめていた。 その悪びれない態度に、さらなる怒号が重なりそうになる瞬間、玉座に腰掛けていた人物からため息混じりの声が響いた。 「叔父上も、お人が悪い」 「え?」 驚きの声をあげたのは、国王の横で事の成り行きをはらはらしながらも、いつでも飛びかかれる体制で見守っていたアリーナだった。 アリーナの疑問は広間にいた人々の疑問でもあったらしい。口を開きかけていた青年貴族たちはそのままぽかんと口を開けていた。しかしそれは、年若い者たちだけでなく、サントハイムの重鎮とされていた何人かも同様であった。 国王が叔父上とよぶ存在。それの意味するところは、先々王の遺児、先王の兄弟を指す。水面下で囁きが交わされる。先々王の私生児が存在するという噂は本当であったのか、と。そういった噂は以前から囁かれていたけれども、王の側近たちの口は堅く、確証を得るまでにいたれなかったのである。 突如現れた王族。その驚愕の事実も他所に、当の本人たちはいたってのんびりと会話を繰り返す。 「はじめっからそのおつもりだったのですな」 「ほっほっほ」 「またそうやって煙に巻く。どうりで落ち着き払っていると思いました」 「うむ?そうだったかのう」 「本当にお人が悪い。最初からそう言っていただければ、私の気分も幾分か楽でしたのに」 「なんでも楽をしようとするのは、おぬしの子供のときからの悪いくせだったのう。苦労せい、苦労せい」 かっかっかと笑い飛ばすブライに、ばつの悪そうな顔をした国王がわざとらしく咳く。 その様子に目を細めたブライが、言葉を重ねる。 「で、養子の件はお許しいただけるのですかな?」 ピクリと体を震わしたクリフトの肩に手を置き、ブライは問う。 国王は肝心なことを言いそびれていたことに気づき、重々しく頷いた。 「うむ、許そう」 威厳を持って答えた国王ににやりと笑うと、ブライは慇懃に答える。 「ありがたき幸せにございます」 そして目をまん丸にして驚いているアリーナに優しく微笑みかけると、クリフトの肩をバシッと叩いた。 「ほれ、許可が下りたぞ。ということで今日からわしはおぬしの父親じゃ。かっかっか」 クリフトは、しばしどう答えてよいものか迷っていた。展開が速すぎてどう反応していいのか、戸惑っているようでもあった。それでも何かを答えなければ失礼に当たると口を開きかけたところ、またしても抗議の声が上がった。 「陛下、そのような重要なことを何の相談もなしに決められては困りますぞ!」 それはサントハイムの重鎮の中でも保守的な考えを強く持っていた侯爵位の大貴族であった。 彼は立派な髭を震わせながら、憤りも露にクリフトを睨む。 「陛下、物事には秩序というものがございます。このクリフトめは平民の子供。そのようなどこの馬の骨ともわからぬ血の流れているものを、由緒正しきサントハイム王家の血を引くブライ翁の養子になどと・・・正気の沙汰とは思えませぬ」 彼の弾劾は、一時は国王の心を動かしたかのように見えた。なぜなら、国王は彼の方をまっすぐに見据えたから。しかし、国王から漏れた言葉に彼は己の失態を知る。 「そなたは、クリフトがアリーナの乳兄弟であることを知った上で、そのような発言をしたのか?」 「え?」 唐突に投げかけられた言葉に、疑問を覚えるも、それを深く追求する間もなく国王が睨んだ。 「確かそなたにはアリーナと同じ年の娘がおったな」 その言葉に、侯爵ははっとする。そしてあいまいな笑みを浮かべると、阿るように言葉をつむぐ。 「はい。しかし、妻は病弱でして・・・」 「アリーナが産まれた時、余は国王に即位して間もなかった」 侯爵の言葉を遮り、国王は滔々と続ける。 「王妃は身分の低く、確たる後ろ盾をもっておらなんだ。それでも、出産で身体を壊した王妃は乳飲み子を抱え毎日必死になって頑張っておった。そう、だれぞに乳母を頼もうとしても、その年に限って『病弱』なものが多く断られ続けていたからのう」 まっすぐに向けられた視線に居心地の悪さを感じた侯爵は、身動ぎをすると俯いた。そんな侯爵に構うこともせず、国王は言葉をつむぐ。 「その時じゃった。エンドールへ遊学していた折に知り合った友人が、妻を連れて訪ねてきたのは。彼は余の窮状を知り、最愛の妻を乳母にと危険も顧みず申し出てくれた。・・・それが、クリフトの父母じゃ」 国王は遠い昔に思いを馳せながら、当時の友人にますます似てきたクリフトに笑みを送る。 そして傍らで固唾を呑んで見守っていた娘に微笑みかけると、打って変わって静かな口調で述べた。 「親子二代にわたる国家への献身を、身分だけで貶めることは許さぬ」 静まり返った広間を見渡すと、国王は件の侯爵の姿に目を留める。 「そなたはクリフトをどこの馬の骨かわからぬ者の子と言ったが、そもそも乳は血液から作られるものと聞く。ならば、その乳を飲んで育ったアリーナはどこの馬の骨ともわからぬ者の血によってつくられていると言ってもよいのであろうかな?」 やや意地の悪さを含んだ質問に、いままで血統至上主義できたものたちは一斉に視線を逸らし、さりげなく後方へ下がった。侯爵にいたっては今にも倒れそうなほど顔色が悪くなっていた。 国王は再度広間を見渡すと、低く押し殺した声で訊く。 「まだ何か異議のあるものはいるか?」 聞くぞ? 旗色の悪さを悟ったものたちは俯いたまま、その視線をやり過ごす。 息をするのも気詰まりなほどの静けさが、あたりを支配していた。 すべてが萎縮する中、ゆっくりと自慢の髭をしごいていたブライが、そのような空気を物ともせず口を開き、クリフトの頭を杖の先で小突いた。 「ほれ、しゃきっとせぬか。そんなんではこのわしの・・・フレノール公ブライの跡を継げぬぞ!」 ブライの声が響くと、貴族の中の何人かが泡を食ったように声をあげた。 「フレノール公!?」 「あの流浪の公爵と言われた?」 「いや、しかし、実在していたのか?」 「私も単なる噂だと思っていました」 それらの言葉を煩そうに聞き流していたブライだったが、己の身分を告げたにも拘らず驚きのひとつもみせぬ養い子に不服そうに眉をひそめた。 「おぬしは驚かぬのじゃな」 つまらぬのう。 心底つまらながっているブライに、それまで畏まってきたクリフトは思わず笑みを漏らしていた。 「確証を得たのはいまですが、薄々はそうではないかと・・・」 「うむ?」 「先の旅の折、フレノールに立ち寄ったあのときから、ずっと疑問に思っていましたから。どうしてこれほどの規模の町が、『姫様』のお顔を存じ上げないのか、と」 例え公式行事に姿を現さない王女の顔が広く知れ渡っていないとはいえ、絵姿ひとつないというのは、少しおかしいのではないか。 まるで誰かが意図的に『姫様』の姿を隠しているかのように。 「あれは、やはりブライ様のお心遣いだったのですね」 姫様が、ただ一人の人間として、ただのアリーナとして存在できる場所を作るために。 そしてそれを行っているのは恐らく姫様を心から大切に思っている人物。 耳に届く『幻のフレノール公爵』、水面下でささやき続けられている『先々王の遺児』の存在。 ブライが時折国王に対してみせていた倣岸な態度。ブライの年齢。それらから推測するは・・・。 「ほっ、まさかそんなことで見抜かれるとは」 侮れぬのう。 そうひとりごち、それでも頼もしい跡取りの誕生に、ブライは相好を崩した。 そしてクリフトの手をとり立ち上がらせると、そっと背中を押した。 「ほれ、姫様のところへ行かんか」 「え?」 ブライの意図することがつかめずクリフトが首を傾げると、ブライは眉をあげて「よもや・・・」 と呟く。 「おぬし、まだ自分のおかれた立場を理解しておらんのか?」 わかっておらんようじゃのう。 へんなところで頭が切れるくせに、自分のこととなると全く頭の働かなくなるクリフトに深々とため息を漏らすと、疑問符で頭をいっぱいにしている青年に問いかけた。 「クリフト、貴族の爵位についてはある程度知識はあろうな?」 突然問われた内容に戸惑いつつも頷くと、ブライはにやりと笑った。 「父親が公爵の場合、息子の爵位は?」 「爵位を受け継ぐまでは一階下の侯爵を名乗ることができます。また、養子など特殊な事情を持っている場合は、正式に爵位を譲られるまでは二階下の伯爵・・・」 そこまで言って思い当たったのか、クリフトははっと顔を上げた。 「そう、おぬしは今日から『フレノール伯クリフト』じゃ」 駄目押しとばかりに突きつけられた事実に、クリフトは僅かに体を震わせた。 ちらりと玉座を窺うと、国王が傍らに腰掛けていた娘になにやら囁いている。 アリーナが弾かれたようにこちらを見た。 正面から視線が絡む。 アリーナの瞳が揺れ、声にならぬ呟きがクリフトに届く。 「クリフト・・・」 「姫様」 欲しくて得られなかったもの。 全身全霊をかけて求め続けてきた存在。 それがいま・・・。 「ほれ、行った行った」 女人を待たせるものではないぞ。 くだけた調子で急かすブライの目尻にも、僅かな光がともる。 ずっと二人を見守ってきたブライは、彼らの知らぬところで何度となく心を痛めてきた。 クリフトを養子に迎えることは容易い。しかし、実績が伴わなければ認められない。 度重なる苦難と葛藤。ブライが見守る中、それらを乗り越え、クリフトは自力で爵位を手に入れた。それは、男爵という格下ではあったけれども、何の後ろ盾もない青年が得るには並大抵の努力ではなかったであろう。だからこそブライは、自力で爵位を手に入れたクリフトだったからこそ、己の養子に迎える決断を下した。それでも、クリフトを取り巻く苦難は形を変えて襲いかかってくるであろう。たとえどんなに本人が努力をしても、それが通用しない相手も存在するからだ。 しかし、とブライは思う。 ひとりであったらくじけてしまう道のりであろうとも、ふたりであったならば乗り越えてゆけるかもしれない。 教育係として長く仕えてきたアリーナは、多少破天荒なことろはあるものの、その実芯の強い女性である。彼女ならば、クリフトを支え、共に苦難の道を乗り切ってくれる。そう信じている。 衆人が固唾を呑んで見守る中、蒼髪の青年が歩みを進めた。 アリーナが椅子から立ち上がり、クリフトのもとへと駆け寄る。 大臣が、どうしたものかと窺うと、国王は目線だけで頷き、黙認を決め込んだ。 後に、この場に居合わせたものたちは、物語の一節を読み上げるかのようにうっとりと語る。 それはまさにロマンス。 「姫様」 「クリフト」 互いに距離をつめ、手を取り合ったふたりは暫し見つめ合い、微笑んだ。 やがて蒼髪の青年は片膝をつき、王女の手を取ったまま真摯に語りかけた。 「姫様、ずっとずっとお慕い申し上げておりました」 紡がれる一言一言に万感の意を込めて、青年は愛する姫君を見上げる。 姫君は緋色の瞳を微かに潤ませ、小さく頷く。 「もし、お心に叶いますれば、私と永久の契りを交わしていただけませぬか?」 それは、クリフトがずっとずっと告げたくて告げられなかった想い。 初めは苦しい片恋だった。 次に待っていたのは、すれ違う心だった。 そして互いの想いを知りつつ、ただひたすらに想いを隠し続けた日々。 両想いゆえの苦難の数々。 それでも、そこに諦めという言葉はなかった。 ずっとずっと求め続け、喘ぎ続けた。 アリーナの手が震えていた。 それを支えるクリフトの手も。 ふたりの想いが交錯し、そして形を結んだ瞬間だった。 「喜んで、お受けいたします」 桜色の唇から紡ぎだされた言葉。 クリフトはアリーナを見つめた。 アリーナはクリフトに微笑みかけた。 クリフトが立ち上がり、アリーナがそれに寄り添った。 アリーナの手にクリフトの唇が落ち、アリーナがはにかんだ。 穏やかで幸福な時間が流れ、緊張を繰り返してきた広間に、不思議な安らぎを与えた。 あるものは思った。「これは天の采配だ」と。 あるものは思った。「赤い糸は存在するのだ」と。 あるものは思った。「運命だったのだ」と。 どこからともなく拍手が沸き起こり、ふたりを包み込んだ。 驚いたふたりが、自分たちの世界に浸っていたことに改めて気づき、赤面する。 そんな初々しいふたりをある老夫婦は微笑ましげに見つめていたし、アリーナの婿の座を狙っていた青年貴族はむっとしたように視線を逸らした。 劇的な展開にため息を禁じえなかった大臣が、国王に耳打ちすると、重々しく頷いた国王が、玉座から立ち上がりふたりのもとへと向かった。 それに気づいたふたりは国王の方へ向き直ると、礼をとる。それを片手で制しながら、国王は問いかけた。 「アリーナ、彼でいいのだな」 まっすぐに射抜くように見つめてくる父王に、アリーナは迷いのない目で答える。 「はい」 アリーナの言葉に、「そうか」と短く頷くと、クリフトの方へ向き直る。 片膝をついて畏まろうとしたクリフトの手を握ると、僅かに首を振り立ち上がるように促す。 クリフトは若干の戸惑いを見せたものの、国王の意図に従い背筋を伸ばして姿勢を正した。 「クリフト、立派な青年になったな」 それは父親から息子にかけられる言葉のように情愛に満ちていて。 背の高さからやや見下ろす格好となってしまった国王にクリフトは改めて親愛の情を覚えた。 国王はクリフトの気持ちを察したか、少しだけ人懐っこい笑みを見せ、そして真剣な眼差しを向けると厳かに告げた。 「娘を、頼む」 「はい」 それは、クリフトがアリーナの婚約者として正式に認められたことであり、長年サントハイムの首脳部を悩ませてきた問題が解決した瞬間でもあった。 胸にこみ上げてきた思いに、思わず涙したブライだったが、その直後に響いた声に激しい頭痛を覚えた。 「よかった~。ほんとどうしようかと思っていたのよ。クリフトが相手なら喧嘩しても手加減する必要はないわね~」 万が一負傷しても、クリフトなら自分で治せるしね。 アリーナの切実な言葉はしかし、多くの者たちにさまざまな反応を呼び起こした。 事実、父親であるサントハイム国王は眉間を押さえて深々と嘆息したし、クリフトは「それはよかったですね」とやや引きつった笑みを浮かべた。また、クリフトとアリーナの婚約にいつ異議を唱えようかと画策していた青年貴族たちは皆、一様に視線を逸らし、一拍おいてクリフトとアリーナに惜しみない祝福と盛大な拍手をおくった。 アリーナの意図がどこにあったかはわからないが、期せずして反対派を押さえ込むことに成功したようである。 こうしてクリフトの叙爵式は、一部波乱の様相はみせたものの終了し、近日中に国内外にアリーナとクリフトの婚約の報が伝えられた。 後日、旅の仲間たちがふたりを祝福するために駆けつけた。 当初はからかう気満々だった面々だったが、次のクリフトの言葉に誰もが押し黙る。 「皆様の『あたたかい』ご協力のおかげで、姫様と婚約することができました。本当にありがとうございます。そして、これからも『よろしく』お願いしますね」 ソロは、「友情」という名のもとの、辛く苦しい無償労働の日々を思い、マーニャはカジノのコインに釣られて、分厚い岩盤を吹き飛ばすため攻撃呪文を連呼した日々を思った。 また、ミネアは「ミネアさんしか頼ることができないのです」と真摯に訴えかけてきたクリフトを思い出して頬を赤らめ、ライアンは「とある調査」のためにクリフトと共にイムルを訪れた時のことを思い返して思わず咳払いをした。 そして、トルネコは・・・・・・いつもの陽気さを潜め、ただ一言呟いた。 「もうこりごりです・・・」 それぞれの胸に何を秘めているのかそれはわからなかったが、ブライはこの様子を見て少しだけ 胸が痛んだ。 「クリフト・・・おぬし」 一体何をやらかしたのじゃ? 破竹の勢いで進められたサントハイム復興の裏側で、何が起こったのか。 関係者の口は堅く、その内容は杳として知れない。 (終)
https://w.atwiki.jp/kuriari/pages/113.html
クリフトのアリーナへの想いはPart5 長編3/12 1へ2006.03.09 115 :1/8(前スレ506):2006/05/01(月) 01 28 11 ID sqYiRxji0 少し埃っぽい空気の中に漂うインクの匂い。 クリフトはこの匂いが好きだ。幼いころから親しんできた様々な書物はみんな、この匂いでクリフトの鼻をくすぐっていた。成長した今でもこの匂いの中にいると落ち着きを感じるし、ひとりで本と対面して過ごす時間を楽しむことができる。 ここはサントハイム城の書庫。書庫と言っても雰囲気は図書館といった感じで、城の南側の一角に設けられており、天窓もありとても明るい。所狭しと備えられたいくつもの本棚のせいで風通しが悪いのが難点なのだが、クリフトはこの書庫がとても気に入っている。 ここ最近は忙しい日々が続いていたが、今日は午後からは何も仕事がない。クリフトは久しぶりに書庫へと脚を向けた。 「懐かしいな」 以前に読んだことのある本を手にしてクリフトは微笑む。昔は本当によくここに出入りしていたものだ。この書庫の中のどれだけの本を今まで読んだだろう。子供向けの絵本から世界各地の地図まで揃うこの書庫の中にいれば退屈しない。それほどクリフトは本の好きな少年だった。 手に取った本を携え広い書庫の中をゆっくりと歩く。書庫の中にはいくつかのテーブル席があり、ちょっとした読書スペースになっている。腰を落ち着けて読もうと考えたのだ。 「姫さま…!」 書庫の一番南側。天窓を真上にし、出窓のそばにあるテーブルに見えたのはサントハイムの姫君、アリーナの姿だった。あまりの日当たりのよさについうとうととしてしまったのか、テーブルの上に伏せるようにしてよく眠っているようだ。長いオレンジ色の髪の毛 がふんわりとその華奢な肩を覆いテーブルの上に流れている。 クリフトは少々ためらったが、静かに向かい合う席に腰を下ろした。テーブルに上には先日アリーナがメイドから進められたという恋愛小説があった。本を読んでいる途中に眠くなってしまったのだろう。クリフトの渡した栞が本の間に挟まっている。アリーナはかなり終盤まで読み進めたようだ。 「……姫さま?」 そっとそう呼びかける。アリーナは目を覚まさない。本当によく寝入っているらしい。頬のラインに沿うようにして落ちる髪の隙間から愛らしい寝顔が見てとれて、クリフトは微笑まずにはいられない。気持ちよさそうに眠るアリーナの様子は、ただそれだけでクリフトの心を和ませる。 向かい合い、こんなにも近い距離にいれば、自然と漂ってくるよい香り。香水でもつけているのだろうか。最近の忙しさの中、アリーナと顔を合わす機会も減ってきている中で彼女の姿を久しぶりに目にすると、不思議なほど大人びて見えるときがありクリフトは少し戸惑いさえする。見張りの兵士の目を盗んでは城の外に出てドレスを泥だらけにしたり、悪ふざけをしているうちに城の噴水の中に落ちてしまったり、挙句の果てには樹に登り落ちかけてドレスの裾を破いてしまったり。そんな風だったアリーナが懐かしい。おてんばな行動やいたずらを繰り返すが、怒られるときはいつもクリフトと一緒だった。この書庫で勉強をしているクリフトに泣きついては、一緒に怒られてくれと頼むのだ。国王や大臣、ブライのお説教を一緒に聞いていたあのころが急に懐かしまれる。いつしかアリーナは自分を必要としなくなってしまったのではないかという不安に襲われさえして、クリフトはついいたたまれない気持ちになってしまう。 栞を手渡したあの時、アリーナは「置いていかないでね」と言ったが、置いていかれそうなのはこっちのほうだと。 「はぁ……」 クリフトはため息のような吐息を漏らした。 先日のお見合いは結局なし崩しのような形となり、また機会を改めてと言うなんとも後味の悪い、すっきりしない形で幕を閉じたのだが、クリフトにとっては思い知らされた感があった。アリーナのそばに長年仕えてきたと言えども、それはやはりひとりの家臣と言う身分の上での話。エンドールからのお相手を目の前に、恭しく接待する自分はやはりアリーナからは遠いのだ。身分、家柄、血筋… …何をとってもそれは自分に備わっているものではなく、そしてそれを望むことはこの命を与えた神を否定していることであり、神官としてのクリフトを苦しめた。 それでも……。 「お風邪を召されますよ」 少しだけ開いている窓から吹く風が少し冷たく感じられ、クリフトは立ち上がり上着を脱ぐとアリーナの肩に羽織らせた。 こうしてあの旅のときのように安心しきった寝顔を見せてくれいる。無防備なアリーナの様子が微笑ましい。大切なのは、今この時間。こうしてこの安らかな寝顔を見ているだけでも幸せではないか。 そういう風にクリフトは思い直す。 『好きです』と繰り返すのはいつも心の中。ふと心のたがを緩めてしまえば口をついて出てしまいそうだ。今でさえ、そっと手を伸ばしその滑らかな頬や髪に触れたいと思ってやまないのだから。 ふわっと浮き上がるような不思議な感覚と共にアリーナは目を覚ました。どれくらい眠ってしまっていたのだろう。外はまだ明るい。 そんなに遅い時間ではないことは察せれるのだが……。 「クリフト!?」 壁にかけてあるはずの時計を探そうと視線をあたりにめぐらせれば、真正面にクリフトの姿を捉えた。アリーナが来たときにはこの書庫には誰もいなかったはずなのにいつの間に来たのだろう。 「クリフト、寝てるの?」 肩にはクリフトの神官服がかけられている。ずれ落ちないように両手で引っ張りながらアリーナは問いかけた。 帽子を脱ぎ出窓に少々体重を預けるようにしてクリフトは眠っていた。アリーナが問いかけても返ってくるのは規則正しい寝息のみだ。わずかに開いた窓から吹いてくる風がクリフトの髪の毛を揺らしている。 「クリフト……」 アリーナがクリフトの寝顔を見るのは初めてのことだ。あの旅の間でも一度も見たことはなかった。お互い何の差もない、旅の仲間だ。アリーナも当然野宿の際に寝ずの番をすることがあった。もちろんアリーナはそれを不服に思うことはなかったし、自分の務めと責任を果たすつもりでいた。それでもクリフトだけは、アリーナが見張り番のときは交代を申し出た。仲間であるとはいえ、姫を差し置いて寝てはいられない。だからアリーナは旅の間も一度もクリフトが眠っているところを見たことがなかった。 それが今はなんとも穏やかに、心地よさそうに眠っているではないか。アリーナはついついその寝顔をじっと見つめてしまう。城にいる間はもちろんのこと、旅の最中でもクリフトはいつもピシッとしていて服装にしろ姿勢にしろ乱れたところを見たことがない。そんな彼がこちらの視線にも呼びかけにも気づかないまま、ぐっすりと眠っている様子はとても新鮮だ。 アリーナはそんな様子のクリフトを見つめ、色味のよい唇の端をキュッとあげて笑う。あどけない寝顔を見ながら、アリーナは少し安心した気持ちになる。いつもきっちりとしているクリフトの少しだらしのない一面を見れたこともそうだが、この距離感がなんとも心地良い。忙しい中で顔を合わす機会も少なくなり、遠く感じていたクリフトの存在が物理的にだけではなく精神的にも近づいたように感じる。 「ねぇ、クリフト。起きないの?」 起こそうと言うわけではないが、少し退屈に感じてしまったアリーナはそんな風に優しく声をかける。クリフトからの返答はやっぱりなくて、落ち着いた寝息が聞こえてくるのがおかしい。 傍らに置いた恋愛小説のように激しく盛り上がるものが恋愛ではなく、ただ静かに穏やかに、日々の平穏の中で育まれる恋もあるのだと言うことにアリーナは気づいていない。そして自分の心の中に小さな恋の芽が芽吹いていることにも気づいてはいないのだ。アリーナの心はまだほころび始めた蕾でしかない。 それでも、なんとも不思議な安心感と居心地の良さ。お互いのする呼吸のリズムがぴったりと合うかのような、計らずとも揃う波長のようなものなのだろうか。クリフトといるときの空気がアリーナは好きだ。なんだかとても、落ち着いた気持ちになる。つい比較してしまうのは先日、とりあえず形だけお見合いをしたエンドールからの訪問者の男性だ。より一層、この空気のよさを感じられる。 「ねぇ、何かおしゃべりしてよ」 小さく笑いながらアリーナは催促する。やっぱりクリフトは眠っている。アリーナは再びテーブルの上に両腕を置き、伏せるように身体をかがめてクリフトを見上げる。 *** 「やれやれ、どこに行ったのかと思えば……」 すっかり日が傾いた夕暮れ時。城内ではアリーナ姫の姿が見えないとちょっとした騒ぎになっていた。メイドや兵士たちが城内のあちこちを探し回り、数名の兵士たちが城の外まで探しに出ようかという事態にまでなりかけていた。 半隠居生活を送るブライもそんな騒ぎとなってしまっては引っ張り出されざるを得ない。メイドから話を聞いたブライは、城の中の思い当たる場所を順に探し始め、程なくしてこの書庫にたどり着いた。 ひとつのテーブルに向かい合い昼寝を続ける男女。男は幼いころから面倒を見てきたまだまだ未熟な神官で、女は自分の仕えている主君の姫君であった。 「まったく…、世話の焼ける姫様じゃ」 吹き込む風が冷たくなってきたのを感じ、ブライは出窓を静かに閉めた。 クリフトの秘めたる想いにブライは気づいている。そしてアリーナがクリフトにだけは心を許すと言う部分があると言うことも察している。いいのか悪いのか、許されるのか許されないのか、ブライのような老獪にも判断しかねることでありただ静観しているのみだ。 ふたりとも愛おしい。願わくばこの行く先に、あふれるほどの幸せが待っていて欲しいと思う。 願わくば、願わくば……。 「これ、起きぬか。このバカ者めが」 ブライは杖の柄でクリフトのこめかみを小突いた。 END. 前2006.04.26 続き2006.07.05_2
https://w.atwiki.jp/seradarea/pages/13.html
アルム オーバーロード セリカ エイヴ グレイ ソードナイト ロビン ボウナイト クリフ ダークナイト エフィ ゴールドナイト クレーベ ゴールドナイト増援 ルカ バロン増援 パイソン ボウナイト増援 フォルス バロン増援 シルク ホーリィナイト増援 リュート ダークナイト増援 メイ ホーリィナイト ボーイ ダークナイト ジェニー ホーリィナイト セーバー ソードナイト バルボ バロン増援 カムイ ソードナイト増援 レオ ボウナイト増援 アトラス バトルモンク増援 ジェシー マスターアサシン増援 と戦います。必ず自軍の所だけ回復床があります。心配しないでも勝てるように敵のステータスは、大体、最上級兵種レベル10ぐらいなので大丈夫だと思います。
https://w.atwiki.jp/kuriari/pages/82.html
クリフトとアリーナの想いは Part4.2 668 :【姫様がいっぱい!?】1/5 ◆cbox66Yxk6 :2006/03/22(水) 21 24 13 ID 6JsiJkcp0 アリーナとクリフトの仲を邪魔したいサントハイム王は今日も玉座で唸っていた。 「・・・なんか、こう、あやつをぎゃふんと言わせられるような・・・」 眉間に寄せられたしわの深さに、苦悩の一端が垣間見える。 しばし、うんうんと唸っていた王だったが、急に立ち上がるとブライを呼びつけた。 何事かと慌ててやってきたブライに、王はにこやかに告げた。 「ちと悪いが、勇者殿を呼んできてくれんかのう」 ブライは、また陛下のご病気が始まったと内心ため息をついたが、賢明にも表情に出すことはしなかった。 「陛下、準備が整いましてございます」 「うむ」 ブライの声に重々しく頷いたサントハイム王は、傍らに控える人影に視線を送る。 「頼みましたぞ、勇者殿。いや、アリーナたちよ」 「は~い、お父様」 サントハイムの傍らに控えていたのは、アリーナにモシャスをした勇者ソロと、そのソロの口添えでピサロから借りてきたマネマネ数匹。こちらもアリーナにモシャス済みだ。 サントハイム王が画策したこと。それは偽のアリーナをたくさん仕立てて、クリフトに本物を当てさせようというものだ。しかも、その中には本物はいない。 単純な思いつきとはいえ、王は自分の考えに悦にいっていた。 アリーナにモシャスした勇者を見たとき、王は本人と思わず間違えかけた。さすがに長く共に旅をしてきただけのことはあり、アリーナの癖や仕草もよく知っている。その他のマネマネ集団は若干不安が残るものの、見た目は完璧だ。 王は内心高笑いをしていた。 父親である自分でさえこうなのだから、クリフトなどひとたまりもないだろう。 (やっとクリフトのすまし顔に泥を塗ってやれるわい) 王の表情から何を悟ったのか、ブライが深々とため息をついた。 そして頭を振ると、疲れの滲む声で奏上した。 「陛下、姫様がただいま城を抜け出したとのことですじゃ」 わざわざ警備まで甘くして、何も知らないアリーナの脱走を促す。 本来なら部屋にでも閉じ込めておければよいのだろうが、あの『アリーナ』がおとなしく閉じ込められているとは考えにくい。というか、閉じ込めることすら不可能である。 ならば、いっそのこと城から出ていてもらおう、というのが王の考えであった。 (普段ならば、姫様が脱走しただけで怒鳴り散らすというのに) ブライはその報告に嬉々としている王を見つめ、複雑な顔をした。 (はたして、うまくいくものかのう) ブライの呟きはサントハイム王の喜びの前にむなしくかき消された。 「のう、クリフト。ちょっとわしの座興に付き合ってくれんか」 なに、お前にとってはそんなに難しいことじゃなかろうて。 含み笑いをするサントハイム王にクリフトは何やらよからぬ予感を覚えたが、それを押し隠し王の次なる言葉を待った。 「そなたがどの程度アリーナのことを理解しておるか、知りたくてな。この中から本物を見つけてほしいだけじゃよ」 ずらりと並ぶアリーナにクリフトは軽いめまいを覚える。 偽者とわかっていても、愛する人がずらりと並ぶ光景は圧巻である。 仕方なく、ひととおり視線を送ったクリフトは、おもむろに口を開いた。 「申し上げます。この中に本物の姫様はいらっしゃいません」 クリフトの声と同時に、アリーナの怒鳴り声が響き渡る。 「ひどいわ、クリフト!!」 目を吊り上げて怒る『アリーナ』にクリフトは冷たい視線を向ける。 そしてにこやかに笑った。 「こんなところで何をなさっておいでです?ソロさん」 「げ、ばれてる」 思わず呟いたソロに、クリフトは追い討ちをかけるように言い募る。 「わざわざピサロさんに『マネマネ』までお借りしてきたのですか」 クリフトの言葉にモシャスを解くと、ソロは両手を上げた。 「降参」 クリフトは満足げに頷くと、王に向かって礼をとる。 「用件は以上でございますか?」 あまりにもあっさりと見破られてしまい、あっけに取られていた王は「うむ」と応じると、クリフトに退室を促した。が、クリフトが扉の前まで行ったとき、躊躇ったように呼び止めた。 「クリフト、そなたはそこまでアリーナのことを・・・いや、なんでもない。行ってよいぞ」 王の言葉に扉の前で優雅に一礼すると、クリフトは静かに退出した。 「あ、クリフト、待ってくれよ」 ソロは、王にぺこりと頭を下げるとクリフトのあとを追いかけていく。その後姿を見つめながらブライが口を開いた。 「陛下、いかがですじゃ」 ブライの言葉すら耳に届いていないのか、王は片手を額に当ててうつむくと、深々とため息をついた。そして少し切なげに呟く。 「あんなにあっさりと見破られたのでは、認めるしかないではないか」 自分ですら一瞬戸惑ったというのに、あやつは躊躇いもしなかった。 それはすなわち、それだけアリーナのことを理解しているわけで。 悔しいと思いつつも、そこまで娘をわかっていてくれるとなると、男として認めざるを得ない。 非常に不本意だが、王はすこし感動していた。 だが・・・・・・。 「えぇい、かわいげがなさすぎるわ!!!」 急に声を荒げた王にびっくりしたマネマネの何匹かがモシャスを解き、まごまごした。 「やっぱり、いやじゃ、いやじゃ、いやじゃ・・・認めとうないわい」 泣きじゃくる王を、はじめのうちは遠巻きに見ていたマネマネたちだったが、次第に一匹、二匹と集まってくると、代わる代わる王の肩をぽんぽんと叩いた。 「おぉ、そなたたちはわしの気持ちをわかってくれるのか」 魔物に同情され、あまつさえ慰められてしまった王にブライは頭痛を覚えた。 「陛下、頼みますからそろそろ大人になってくだされ」 アリーナの姿を保ったままのマネマネをわざわざ選んで、縋り付いて泣く王は、なんだかすこし幸せそうであった。 「お~い、クリフト、待ってくれよ」 長い廊下の先で立ち止まり振り返ったクリフトに、ソロは不思議そうに訊く。 「なぁ、お前さ、どうしてわかったんだ」 おれ、結構自信あったんだぜ? ブライから話を聞いたソロは、実は密かに何度も練習を積み重ねてきた。 そして、ブライにさえお墨付きをもらえるようになったというのに、ああもあっさりと見抜かれたのでは納得できない。 ソロの問いにクリフトは頷いた。 「そうですね。ソロさんはとても上手に化けていらっしゃったと思いますよ」 「じゃ、何でだよ?」 ソロが繰り返して聞くと、クリフトはすこし悪戯っぽく笑った。 「ヒントをあげましょう。外出された姫様はそのあと、どこへ向かったのでしょう」 お城の外に一度出たからといって、お城の外だとは限りませんよね。 クリフトの言葉に、一度は首を傾げたソロだったが、その意味に思い当たって吹き出した。 「そういうことか」 「そういうことですよ」 そうじゃなかったら、結構危なかったかもしれませんね。 照れたように付け足したクリフトに、ソロは微笑んだ。 「そっか」 うまくやってるんだな。 旅の間、ぜんぜん進展しないふたりにやきもきしたこともあったけど、それは杞憂だったようだ。 「よろしかったら、私の部屋でお茶でもしていきませんか?」 「おう」 勢いよく答えたソロだったが、次の瞬間「あっ」と口を押さえた。 「どうしたのです?」 クリフトが驚くと、ソロは少し顔を赤くした。 「もしかして、おれ、お邪魔虫?」 ソロの言葉にクリフトは声を上げて笑った。 「大丈夫ですよ。今日はまだ、そこまでいっていませんから・・・って何て顔をなさっているので す。冗談ですよ、冗談」 おいおい、全然冗談に聞こえないんですけど。 (終)
https://w.atwiki.jp/yugio/pages/6311.html
サクリファイス・ロータス(アニメ) 効果モンスター 星1/闇属性/植物族/攻 0/守 0 自分のエンドフェイズ時にこのカードが墓地に存在する場合、 自分フィールド上に表側攻撃表示で特殊召喚する事ができる。 このカードがフィールド上に表側表示で存在する場合、自分のスタンバイフェイズ毎に このカードのコントローラーは1000ポイントダメージを受ける。 サクリファイス 下級モンスター 再生 植物族 闇属性 同名カード サクリファイス・ロータス(OCG)
https://w.atwiki.jp/kuriari/pages/197.html
クリフトとアリーナの想いはPart7 2007.04.28の詩よりインスパイア 321 :【詩】1/9 ◆cbox66Yxk6 :2007/05/04(金) 03 16 02 ID dfejicMU0 「まだ……残っていたのですね」 古ぼけた机の引き出しの底板をはずすと、微かにかび臭さの漂う紙の束が姿を現した。 『日記』と題字されたそれは、クリフトが旅に出る前まで日課としてつけていたものだ。 いや、正確にいえば、裏日記といったところか。 人知れず保管されていたその日記帳には、誰にも吐露できない、まだ青い春の中を彷徨っていた頃のクリフトの思い出が詰まっている。 「懐かしいですね」 ぱらぱらと頁をめくれば、苦悩と情熱でかき乱れる己の姿が垣間見え、自然、苦笑混じりの微笑を浮かべる事になる。 「しかし、よく残っていたものですね」 しみじみと呟き、つい一月ほど前までのサントハイム城の姿を脳裏に描き出す。 数年にわたる魔物の占拠、そして無人の荒城……。 決して短いとは言い難い月日の間、誰の手入れもされずに放置されていた城は、至る所が傷み、破壊されていた。 その中にあって、城内の教会とそれに隣接していたクリフトの部屋は、まさに神の奇蹟か、殆どあらされた形跡も無く、以前の姿を保ち続けていた。 「神聖な空気を嫌ったのでしょうね」 サントハイム城の復興を手伝いにやってきてくれたトルネコが、教会の祭壇に飾られたご神体に目を光らせながら、そう呟いていたのを思い出す。 「このご神体の指にはめ込まれていた指輪に、魔を退ける力があったのでしょう」 もっと早く気づいていれば、旅の間も楽ができたかも、とため息混じりにそう言った希代の大商人。その言葉に聖職者であるクリフトが難色を示すと、彼はいつもの優しい微笑を浮かべたままこう続けた。 「でも、この指輪がここに存在していたから、お城の人たちも無事に戻って来られたの かもしれませんね」 指輪の存在に気がつかなかったからこそ魔に打ち勝つだけの実力を手に入れることができ、また、この指輪の存在がサントハイム城の人々を魔の手から守り抜いていたのではないか。 「この指輪がここに存在したこと、それこそが神の奇蹟ですよね」 ―――信仰に厚いサントハイムの人々に示された神の恩恵ですよね。 そう彼は締めくくった。 その恩恵に与ったもののひとつが、いまクリフトの手元にある。 面映いような嬉しいような不思議な感覚に、頁をめくる手を早めれば、遂に最後の日付となる記述に行き当たった。 「……そういえばこんなものも書きましたね」 そこに書かれているもの。 それは、一篇の詩―――自由を求めていまにも飛び出していかんとする敬愛する姫君を、サントハイムの王女アリーナを想って詠んだ詩だった。 「……見つからなくてよかったかも」 その一字一字を目で追いながら、クリフトは思わずくすりと笑う。 比喩が施されているとはいえ、それは明らかに恋心を彷彿とさせる。 「……仕舞っておこう」 少し照れくさくなって冊子を閉じようとすれば、それを横合いから素早く奪う手があった。 「え?」 驚いて振り返ると、そこには華やかな正装に身を包んだ美しい姫君がつい先頃までクリフトの持っていた冊子を手に立っていた。 「もうクリフトったら、ずるいわよ。自分だけ宴を抜け出して」 「ひ、姫様?」 突然の来訪者に驚きと戸惑いを隠せない。 「どうしてこちらに?」 よりにもよって一番まずい相手が目の前に現れ、クリフトは内心かなり強い動揺と焦りを感じていた。 が、クリフトの心など知る由もないアリーナはぷうっと頬を膨らませる。 「それはこちらの台詞ね。サントハイム城復興記念の祝宴を抜け出して、どうしてここにいるのよ。ソロたちだってまだ広間にいるのよ」 「それは……華やかな席が苦手だからです」 常だったらうまいかわし方も思いつくであろうに、アリーナの手にする冊子が気になり受け答えに集中できず、つい馬鹿正直に答えてしまう。 「クリフト、あなたね、私が宴を抜け出すたびいつも言っていたじゃない。 『主役が席をはずしてどうするのですか』って。今日はあなたも主役の一人でしょ」 案の定、揚げ足をとられ、クリフトは言葉に窮した。 「そ、それはそうなのですが……」 ちらちらと冊子に視線を送りながら口ごもれば、アリーナは漸くその存在に気づく。 そして『日記』という文字を目にするや、にんまりと笑い頁を繰った。 「おもしろそうね。じゃ、これと交換に、ひとりで抜け出したことを不問に付してあげるわ」 「えっ」 思いもかけない事態にクリフトが硬直すれば、アリーナは嬉しそうに読み進める。 「えーっと、なになに……『今日、サランの町で写真が売られていた。被写体を見れば姫様のお姿……なんとけしからぬ事だ。仕方がないので私はそこにあった全ての写真を買い占めた。これで、姫様のお写真で妙な気を起こすものもいないことであろう。 おぉ神よ。お導きをありがとうございました。 ……とはいえ、かなりの出費を要してしまった。今月こそは『新・信仰と祈り』が買える と思っていたのに……来月に持ち越しのようだ』って何これ?写真?そんなの見たことないわ。 クリフト、後で出しなさいよ……次は」 次々と読みあげていくアリーナに、我に返ったクリフトは必死の思いで冊子を取り返そう と試みる。 「姫様、お返しください」 「いいじゃない」 ひらりひらりとクリフトをかわしながら、アリーナは器用に目を通していく。 「姫様っ」 経験が物を言うのか。 正装に妨げられ、思うように動けないクリフトに対し、こちらは盛装とも言える華やかな衣装を身に纏っているにもかかわらず、アリーナの動きは留まるところを知らない。 次々と頁をめくっては、焦るクリフトをからかうようにひらりと身をかわす。 とはいえ、やはり動きながら冊子をめくるのは難しいようで、読む頁は飛び飛びになっている。そのせいであろうか、クリフトが見られては困ると思っているようなものは意外と避けられているようだ。 不幸中の幸いといって良いのかは判らないが、それがクリフトにとって救いであるのは今のところ確かだった。 だが、その幸運にクリフトが感謝する暇があらばこそ。彼が長年信仰してきた神は、彼に試練を突きつける。 ふいに、動きを止め、アリーナがしげしげと冊子に見入った。 そして小首を傾げたと思うと彼女はその華の顔を引きつらせ、次の瞬間、お腹を抱えて笑い出した。 「姫様、返してくださいっ」 漸く動きの止まったアリーナの手から冊子をもぎ取ったクリフトだったが、肩を震わせ、目に涙をためて笑い続けるアリーナの姿に、不審なものを感じた。 「そんなに大笑いされるようなものがございましたか?」 恥ずかしいというよりはあっけに取られ、そう問えば、アリーナは涙の滲む目をこすりながら開きっぱなしになっていた日記を指差した。 「その頁……」 アリーナが見ていた頁に視線を落とせば、そこには彼が記した『詩』が載っていた。 「ご、ごめん。笑うつもりじゃなかったんだけど……なんだかその」 笑いの滲む声に、クリフトはそこはかとない寂寥感を覚える。 見つかると困る、そう思っていた『詩』。 それは、如何に比喩が用いられているとはいえども、見る人が見れば誰が誰を思って書いたものかは一目瞭然の代物だった。 だからこそ危惧していた。 秘めたる想いを、彼女に知られてしまうのではないかと。 それなのに、彼女はこの詩を読んでただ笑うに留まっている。 即ち、彼女はこの詩の真意に気づいていないということなのだろう。 クリフトの、彼女への恋心に気づいていないということなのだろう。 ―――これほど赤裸々な想いにすら気がついてもくれないのか。 肩透かしを食らったように思えて項垂れれば、笑いをおさめたアリーナが、クリフトの顔をのぞきこむようにして微笑んだ。 「ごめんね。本当に笑うつもりじゃなかったのよ。だってとても素敵な詩なんですもの」 だけどね、と彼女は赤らんだ頬を押さえながら続ける。 「何だか少し照れくさいかも」 「照れくさい?」 不思議に思って問い返したものの、自作の詩を見遣れば、若すぎる感性が妙な羞恥心をあおる事に納得する。 「まぁ、確かに、照れくさいかもしれないですね」 冷静に分析し頷くと、アリーナが怪訝そうにこちらを見上げてくる。 いったい、何だというのだろう。 目線で訊ねると、彼女は困ったように眉根を寄せ、口を開いた。 「ねぇ、クリフト。私の言葉の意味、わかってる?」 「え?それはどういう……」 唐突な言葉に、首を捻る。 先程の言葉に、どんな意味があったというのか。 もう一度考えてみるもののさっぱり見当がつかず、お手上げとばかりにアリーナを見れば、彼女はやれやれといった様子でため息を漏らした。 「わかってないのね」 そのあきれた様子に、クリフトはますます当惑を深める。 一体全体、なんだというのだろう。 謎かけのようなアリーナの態度に混迷を繰り返す。 ―――自作の詩、姫様の笑い、照れくさい。 焦れば焦るほど、訳がわからなくなりクリフトは心底困惑する。 「姫様……」 答えを求めて声を発せば、それまでじっとクリフトを見つめていたアリーナがその言葉を遮った。 「ねぇ、クリフトは自分のことを書かれた詩を読んでも照れくさくないの?」 ―――彼女は一体、何と言ったのだろう。 混乱する頭を小馬鹿にするかのごとく、いち早く反応したのは彼の胸だった。 「あ……」 信じられないほど鼓動が早まり、息苦しささえ感じる。 何故?と思う間もなく、全身が熱くなる。 「姫様、それは……」 思考より先に言葉が漏れる。 どくどくと脈打つ音が耳に響き、頬が火を噴くのではないかと心配になるほど熱くなる。 自分の体はどうなってしまったのかと疑いたくなる。 冷静になるんだ、と己に言い聞かせてみるものの、思うようにならない。 自分の意志とは関係なく、胸が高鳴り、頬が熱をおびる。 潤む瞳でアリーナを見遣れば、こちらを見上げていた彼女と正面から視線が絡んだ。 「姫様……もしかして私の詩の意味を?」 掠れた声でそう呟くと、彼女は先程よりもはるかに赤くなった頬を押さえながら恨めしげに睨んだ。 「やぁね、もう。どうしてさらっと流せないのよ。……そんな反応されたら、こっちまで恥ずかしくなっちゃうじゃない」 そう文句を言いながらも、アリーナは律儀に頷く。 「わからないわけないじゃない」 アリーナは笑う。 「だってね、私もクリフトと同じ気持ちだから」 自身も白磁の肌を薔薇色に色づかせながら、彼女はクリフトの赤くなった頬へ手を伸ばす。 「クリフトに比べたら、まだ短い想いかも知れないけど」 それでもね、と迷いのない瞳でクリフトの目を覗き込む。 「想いの深さなら、負けないわよ」 生来の勝気さすら覗かせて、アリーナはますます艶やかに微笑む。 「クリフト。私、あなたが好きよ」 ―――素敵な告白を、ありがとう。 ―――誰かが呼ぶ声がする。 そう知覚すると同時に背後で扉が勢いよく開け放たれ、酒瓶をかざしたソロとマーニャが なだれ込んできた。 「おい、クリフト。おまえ、ずりーぞ。すこしはおまえものめよな~」 「宴はさ、もう終わりらしいんだけど、ブライが秘蔵の酒を出すから、部屋で飲みなおさないかって~」 「おまえ、こんどはさんかしろよなー。さっきろうかですれちがったアリーナにもさんかするようにいっといてやったんだからさ~」 「そうそう、酔った勢いで……なーんてこともあるかもよ~」 相当酒を過ごしたのか。呂律が怪しい。 それでも妙な使命感に駆られたふたりは、クリフトを誘うべく歩みを進める。 「ちょっとぉ~」 「クリフトってばよ~」 ふらふらと覚束ない足取りでクリフトに近づいてきたふたりだったが、次の瞬間、酔いなど忘れてしまったかのような俊敏な動きを見せた。 「ちょっと、クリフト。あんた、大丈夫なの?」 「まじ、ふつーじゃねーぞ、その顔色。飲みすぎたんか?」 「そんなことどうでもいいから、ソロ、水よ」 「お、おう」 「クリフトも遠慮なんかしなくてもいいから横になんなさいよ」 急にどたばたと立ち回り始めたふたりを前に、クリフトは不思議そうに小首を傾げた。 「御酒は……ほとんど召しておりませんが?」 どこかぼんやりとしてはいるものの、酔いの見られないしっかりとした口調で告げられ、慌てていたふたりは怪訝そうに振り返った。 「お酒を?」 「飲んでない?」 「えぇ。ほとんど口にしておりませんが?」 クリフトが頷くと、ふたりは顔を見合わせ、いままで以上に慌てた様子でクリフトに駆け寄ってきた。 「ちょっと、なんかの病気じゃない?」 「パデキアいるか?」 真剣そのもののふたりに迫られ、クリフトは思わず仰け反る。 「いえ、別に病気って訳では……姫様に日記を見られただけ……」 思わず正直に答えかけ、慌てて口を噤む。 が、ふたりがそれを聞き逃してくれるはずも無く――。 「ちょ、なに?なんかあったの?そこんとこ、詳しく話しなさいよ」 「え、まじ?っておまえ、手に何もってんのさ」 「あら?日記帳?ちょっと貸してごらんなさいよ」 「あ、ちょっと、それは……」 「ほら、マーニャ。いまだ」 「あ、そ、そんな……あぁぁぁ」 妙に連携の取れたふたりの攻めにあえなく撃沈したクリフトを残し、ソロとマーニャは日記を手に廊下を走り去る。 そして―――クリフトの裏日記は、見たくもない陽の目を見ることとなる。 「ふぉふぉふぉ、若いっていいのう」 真っ白な髭をしごきながら、ブライが柱の影から姿を現す。 それを聞こえない振りでやり過ごせば、目の前に桃色の鎧を纏った戦士が立ちふさがる。 「なんと情熱的な……いやいや、拙者、クリフト殿を見直しましたぞ」 褒めているのか、からかっているのかわからない口調。クリフトは即座に踵を返し、人影の少なそうな中庭に足を踏み入れる。 「あら、クリフトさん。ごきげんよう」 いつもと変わらぬ笑顔でミネアが近寄ってくる。 一瞬身構えたものの、あまりに普段どおりの彼女にほっと力を抜く。が、直後クリフトは顔を赤らめて全力疾走する羽目になる。 「クリフトさん。この水晶玉ならアリーナさんの○○も××も覗き放題ですよ? おいくらで買われます?」 一行の良心と思っていたミネアにまで、ソロとマーニャの手は伸びていた。 その衝撃に打ちひしがれながら中庭を突っ切れば、前方に丸っこい影が現れた。 「やぁ、クリフト君。大変そうですね」 一行の中で唯一の妻帯者、トルネコ。 彼は穏やかな微笑を浮かべて、クリフトを労う。 「でも、よかったじゃないですか。アリーナさんと両想いになれて。クリフト君、頑張っていましたからね。神様がきっと恩恵を与えてくださったのですよ」 からかいも冷やかしの色もない、優しい言葉。 クリフトが思わず頭をさげると、彼はクリフトの肩をぽんぽんと叩きつつ、囁いた。 「―――で、私にも神の恩恵のおすそわけを。アリーナさんとの婚儀がまとまったら、ぜひあの日記を出版しましょう。絶対売れますよ」 ―――世界を救った勇者たちに、神は恩恵を与え給う。 神の恩返し―――クリフト編・完
https://w.atwiki.jp/kuriari/pages/397.html
ペギー,◆e.sLpeggy2クリフトのアリーナの想いはPart12 425 名前 戦う理由 1/4 Mail sage 投稿日 2011/10/17(月) 23 53 41.96 ID 9GJ7VNi00 「クリフトー、稽古しようぜ、稽古。」 「またですか、あなたも元気ですね。」 クリフトは剣を振り回す俺を、苦笑しながら眺めた。 「たまにはライアンさんと練習したらどうです?」 自分の剣を取りに行きながらも尋ねてくるクリフトに、俺は首を振った。 「いや、ライアンさんの剣は重いから、体調万全じゃないとしんどい。」 「調子が悪い時は、私程度がちょうど良いと言うわけですか。」 クリフトは、ちょっと傷ついた顔をしたが、それでも剣を構えてくれた。 「ふぃーっ、疲れたーーー!!」 ひと通りの打ち合いを終えると、俺は、その場に座り込んだ。 「お疲れ様です。」 クリフトが笑いながら長剣を拭って鞘にしまう。 俺はクリフトを見上げた。 「お前、よくそんな長い剣使ってるよな。扱いづらくないか?」 前々から思っていたことだ。 しかしクリフトは、手に持った剣を眺めて首を傾げた。 「そうですか?…私は、初めて習ったのが長剣でしたから…。」 「へえ?珍しいな。」 普通は短めの剣から入るもんだけど。 と、クリフトが苦笑した。 「私が最初に習ったのは実戦ではなく、剣舞の方でしたので。」 「ああ、なるほど。」 以前アリーナから聞いたことがある。 神官は皆、神に納めるための剣舞を習うんだって。 「お祭りの日には飾りのついた長い剣を持って皆で舞うんだけど、 それがね、すっごい綺麗でカッコいいの!」 アリーナはそう言って目をキラキラさせていたっけ。 「そういわれると確かに、お前の剣の動きって舞みたいだよな。 何だかこう、流れるみたいで。」 俺は褒めたつもりだったんだけど、クリフトは嫌な顔をした。 「…まだ、そう見えますか?」 どうやらクリフトは、自分の剣が実戦向きでないと言われているように 感じているらしい。 「何だよ、別にいいじゃないか、動きは綺麗な方が。」 しかしクリフトは首を振った。 「剣舞のために習う剣技は、あくまでも舞であって 人を傷つけることがあってはならないんです。 切っ先で人を傷つけないように剣を引いてしまう癖を直すのに 随分苦労しました…もう克服したつもりだったんですが。」 「へぇ…。」 俺は、クリフトを見上げながら、ふと考えた。 神に捧げる技としてしか剣に触れたことのなかった神官。 サントハイムがあんなことになってなければ、こいつはきっと 戦いとは縁遠い場所に身を置いて一生を過ごしたに違いない。 俺は山奥で育ったせいか、魔物とやり合うのも日常茶飯事だった。 物心ついた頃には、短剣を握ってスライムとやり合っていたものだ。 でも、クリフトにはそういう攻撃的なニオイを全く感じない。 むしろ、こいつの能力は命を生かす方に発揮される類のものだ。 そんなこいつが、今のように平然と魔物を屠るようになるまでには、 きっと俺には想像もできないような葛藤があったに違いない。 長くて重い長剣を実戦で使えるようになるまでにも、 血のにじむような努力をしてきたんだろう。 そして、こいつがそんなにも努力する、その理由はもちろん…。 「クリフトー!」 明るく響く声に、クリフトがすごい勢いで振り返った。 「姫様!」 そして、手を振るアリーナのもとに笑顔で駆け寄っていく。 毎度の光景を眺めながら、俺はごろんと草の上に横になった。 たとえ想いが届かないとしても。 たとえ単なる独りよがりだとしても。 その人を守るためなら、自分の生き方を変えることも厭わない。 クリフトは、そうやって強くなってきた。 今のあいつの太刀筋は、決して俺やライアンさんに劣らない。 だったら、俺はいったい何のために強くなっているんだろう。 太陽がまぶしくて、俺は目を閉じた。 脳裏に、羽帽子をかぶって微笑む、懐かしい顔が浮かぶ。 強くなって、戦って、その後、俺にはいったい何が残るんだろう。 不意に、そのまま大地に溶けてしまいそうな疲労感が俺を襲った。 目を閉じてもまだ太陽はまぶしかったけれど、顔を背けるのも億劫で 俺はそのままじっと横たわっていた。 と、不意に目の前が翳って、俺は目を開けた。 そこには頬を膨らませてこちらを覗き込むアリーナの顔があった。 「ソロったら、稽古するんなら、私も呼んでくれればよかったのに!」 俺はゆるゆると首を振った。 「無理。今晩は俺が不寝番だもん。お前とやり合う体力はないの。」 「…どうも先ほどから、そこらへんが引っ掛かるんですよね…。」 アリーナの後ろでクリフトがブツブツ言っている。 「それよりも、ソロ、クリフトがお茶淹れてくれるって!行こう? 稽古して喉渇いてるでしょう?私、何だかお腹も空いちゃった。」 「でしたら、昨日街で買ったクッキーがあるので、 それをお出ししましょうか。」 「やったー、クリフト大好き!ほら、ソロ、早く起きて!」 アリーナが俺の手をつかんで、ぐい、と引っ張り上げた。 さすが力は抜群だ。俺はあっという間に引き起こされた。 「稽古ではライアンさんや姫様に比べて力不足かもしれませんが、 あなたの喉の渇きを癒すくらいは、お役に立てると思いますよ。」 そう言って笑うクリフトに、アリーナが笑いかけた。 「うん、クリフトのお茶はどこのお店よりも一番美味しいものね!」 「ひ、姫様にそう言っていただけるなんて、光栄です…。」 「…。」 ―――ああ、そうか…。 笑顔で言葉を交わす2人を見ながら 俺はふいに目の前が開けたような気がした。 俺の戦う理由。 俺が強くなる理由。 それは目の前にあるじゃないか。 大切な友人たちの愛する者が奪われないように。 あんな悲劇を二度と繰り返さないために。 そして戦いが終わった後に、こいつらが変わらず笑顔でいてくれたら そうしたら、きっと、俺も何かを掴める気がする。 俺は2人に向かって手を差し伸べた。 「よし、お茶も飲むしクッキーも食べるぞ! そしてたくさん修行して、俺はもっと、もっと強くなるからな!!」
https://w.atwiki.jp/kuriari/pages/341.html
クリフトとアリーナの想いはPart10 396 名前 1/7(506) Mail sage 投稿日 2009/10/02(金) 14 43 32 ID 0n3aubOf0 軽やかな足音が遠くから聞こえてくる。 このリズムは少しお急ぎになっている姫さまだろう。 どんどんこちらに近づいてきている。 おそらくもうすぐそこにまでやって来ているのではないか。 「クリフト! 結婚するって本当なのっ!?」 突然現れた意外な人物の、あまりに突拍子もない言葉にあたりは一瞬に して静まり返る。 ここは城内厨房横の食堂。時刻は午後2時前。 午前中の仕事に思いのほか時間のかかってしまったクリフトは、城の使 用人たち数名とともに遅めの昼食をとっていた。和やかだったテーブルは 誰もが雑談を止め、手にしていたスプーンを宙に留めた。厨房の奥から片 づけをしていたらしいコックと夫人も何事かと顔をのぞかせる。 クリフトが一口大にちぎったパンを口に運ぼうとしていたまさにその 瞬間だった。口をあけたまま呆然としているクリフトに、突然の訪問者は ずかずかと近づいてくる。 「結婚、するの!?」 毛先がくるんと巻いている赤みを帯びた長い髪が揺れている。パンを持 ったままのクリフトが視線を上へと向けると、そこにはよく見知った姿が あった。山吹色のワンピースを身にまとったアリーナだった。 楽しい食事の時間は一気に妙な雰囲気に包まれる。周りの人間の視線は 突然現れたアリーナからクリフトの方へと移り、その他のテーブルからも 好奇の視線が注がれる。 クリフトは何とも気まずい状況に追い込まれてしまった。食べかけのパ ンを皿に戻すと立ち上がり、アリーナを食堂の外へと促す。 「…姫さま、…ここでそのお話はちょっと……」 「え? 何?」 「ですから、…場所を変えましょう。こちらへ」 「大臣がさっき言ってたのよ。クリフトももういい年だし、ちょうど縁談 があ…」 「姫さま!」 尚も言葉を続けようとするアリーナを何とか遮って、クリフトは歩幅を 大きく取りながら歩き食堂から出て行った。それにアリーナは小走りでつ いて行く。 普段と何の変わり映えもない昼下がり。改めて何事もなく穏やかに過ご せることの平和さを感じていたというのに、アリーナの思いもよらぬ発言 で一気にクリフトの心のうちは荒れ模様だ。 食堂を出てすぐ右に曲がりしばらく進むと、数多くの葡萄酒を保管して いる小さな倉庫がある。クリフトはそこまで歩き足を止めた。ここならそ うそう人通りもなく、聞かれてはまずい話をするにはまずまず適している 場所だ。 「……どなたからお聞きになられたんです?」 クリフトはアリーナの方を向くとため息交じりにそう問いかけた。 「だから、さっき大臣が言ってたの。クリフトに縁談があるって。相手は 庭師のザンクの、3番目の娘だって」 「……はぁ…」 「結婚するの、クリフト…?」 クリフトは軽く俯き一瞬額に手を遣った。めまいがしそうだった。 確かについ先日、大臣に呼び出され何事かと行ってみると1枚の写真を 渡された。そして結婚する気はないか、と言われたのだ。クリフトくらい の年齢になるとサントハイムでは結婚を考えていてもおかしくはないし、 まさに年頃と言えるだろう。無論、アリーナに密やかな恋心を抱き続けて いるクリフトは縁談話を丁重に断ったのだが。 「…確かに、大臣様よりお話は頂きましたが、お断りしましたよ」 「そうなの?」 「はい」 「…そうなんだ。…あぁ、びっくりしちゃったわ」 「姫さまは少し早とちりをしすぎです。人の話はもう少し落ち着いてお聞 きになられないと……」 「わかってるってば。お説教はいや」 そう言うとアリーナはぷいっとクリフトから顔を背けた。そんなアリー ナの態度にクリフトは小さくひとつ苦笑い。 「でも、不思議ね。大臣ったら何であんなに人を結婚させたがるのかしら。 私にあーだこーだ言うのは仕方ないけど、クリフトにまで言わなくてもい いのに。おせっかいね」 アリーナはクリフトへと視線を戻すとそんな風に言って軽く首を傾げ た。それに対してクリフトは曖昧な笑みを見せる。 クリフトは大臣の言葉を思い出していた。 『幼いころからよく知っているお主が結婚するとなれば、姫のお考えも少 しは変わるのではないかと思ってな』 あまりにもアリーナが自分自身のことに対して無頓着であることに大 臣がしびれを切らしていることはクリフトもよく知っていたが、まさかそ の矛先が自分の方へ向くとは思ってもみなかった。大臣に時折少し強引な 手法が見られるのは否めない事実ではあったが、ただ己の果たしたい目的 のためだけに他人を利用するような人物ではない。ちょうどタイミングよ く年頃の娘の結婚話がどこかしらから舞い込んできて、それをクリフトに あてがったというだけのことだろう。そしてあわよくば、アリーナの結婚 に関して何らかのきっかけになれば、と。クリフトはこの件についてそん な風に解釈していた。 「大臣様は姫さまのことを心配していらっしゃるのですよ。いつまでもお ひとりと言うのは、やはり将来のことを思うと……」 クリフトの言葉にアリーナはまたぷくっと頬を膨らます。 「わかってるわ。何回も何回も何十回も聞きました!」 「それでしたらもう少し……」 「……結婚、絶対しなくちゃいけないのかな」 アリーナはどこか少し諦めの色を含んだ言葉を漏らし、倉庫の脇の壁に 背中をもたれさせた。同じようにして壁に添えた指先から、ほんのりと冷 たさが伝わってくる。左側にクリフトを見上げて、少しの間をおいて声を 発した。 「…クリフトは、いつか結婚したいと思ってる?」 「……結婚、ですか…」 自分が結婚すること、家庭を持つこと、考えてみても不思議なほどに現 実味がなかった。大臣に言われたとおり、まさに自分は年頃だ。 もう10年近くも前にアリーナに恋をして、それがどう転んでも叶わぬ 恋だと知り、それでもただ守りたい一心で城を飛び出したアリーナを追い 途方もない旅に出た。運命の光に導かれて勇者と出逢い世界中を跨ぐ旅を して数多くの女性に出会ったけれど、誰かに心が揺らぐことはなかった。 恋い焦がれたアリーナの存在はあまりにも色鮮やかで、哀しくなってしま うほど。 想いはその後も変わることはなく、他意のないアリーナに自分自身の結 婚について尋ねられてしまうと、すぐには言葉が出てこない。慎重に言葉 を選び、震えそうになる声で返事をする。軽く目を伏せ、アリーナのまだ 少し幼さの残る愛らしい顔が見えないようにして。 「……私は…、神に仕える身でありますし、まだまだ未熟者ですから…… 結婚などは考えられません」 「そっか…。ずぅっと、ひとりでいるの?」 「……先のことはわかりませんが、そうなるかも知れませんね」 クリフトは目を開けた。アリーナの顔が見える。 大臣から手渡された縁談相手の写真を見て、どこかアリーナに似た部分 を探してしまったことを思い出した。 いつか、この想いに区切りをつけることができたら、自分も誰かと一緒 になることを選ぶかもしれない。でもそれは、いったいいつのことなのだ ろうか。叶わぬ願いをいつまでも胸の内で暖めていても仕方がないのに、 何をきっかけにあきらめたらいいのかわからなかった。 「でも、ずっとひとりじゃさみしくなってしまうかもしれないわよ?」 アリーナはクリフトの想いを知るはずもなく、そんな風に無邪気に質問 を重ねていく。クリフトは少し困ったように笑った。 「それは姫さまも同じでしょう」 「わたしはさみしくなんかならないわ。いつかまた冒険の旅に出たいし、 お城のみんながいてくれるからさみしいだなんて思わないもの」 「それは私も同じですよ。城の仕事が忙しいので、さみしいとは思いませ ん」 「じゃあ、ふたりとも結婚しなくていいね」 ふふ、とアリーナは笑った。 対称的にクリフトは返答に詰まってしまう。アリーナはいつかはきちん と結婚をして、サントハイムの女王として国を治めていかなければならな い。世継を残していかなければならない。そういう立場なのだ。結婚をし ないという選択肢はあり得ないというのに。 「……ですが姫さま、…大臣様をあまり困らせてはいけませんよ。ご縁談 も、あまり頭ごなしに拒まれるのはどうかと…」 アリーナはもたれていた壁から身体を離すとするりとクリフトよりも 向こう側へ移動する。ワンピースの裾がひらりと揺れる。 「わかってる。…だけど、もう少しだけ、自分のやりたいことをしたいの」「はぁ……」 「…ちゃんとしないとって思ってる。でも、自分のやりたいことをあきら めたくないもの。わたしは、もう少し時間が欲しいだけ」 以前と比べてアリーナは一国の姫としての自覚をしっかりと持つよう になった。それは日ごろそんなに会うことはないクリフトも、ブライなど から聞き及んでいる。自室の壁も旅から戻って以降一度も修理を頼んだこ とはない。アリーナはアリーナなりにしっかりと考えているのだろう。 「それに、どうせまたみんな言うんだわ。おしとやかにしなさい、おとな しくしなさい、女の子らしくしなさい、武術なんてとんでもないって。結 婚する人にもそんな風に言われちゃうのかしらね」 「……私は…」 拗ねたように言うアリーナに、思わずクリフトは声をかける。 「私は、……姫さまは姫さまのままで、姫さまらしくいてくだされば、そ れで良いと思います」 「クリフト……」 「お元気で明るく活発で、いつもにこにことされている姫さまが、一番良 いと思います。ドレスを着ていなくても、髪を結っていなくてもいいんで す。いつも通りの姫さまが、私たちの姫さまですから」 アリーナの言葉はどこかさみしげに感じられ、そんな言葉がクリフトの 口をついて出てきていた。慰めるわけでも諭すわけでもない、少し低めの 優しい声で言うクリフトの言葉がアリーナの胸にじわりと沁みる。 「……そうね、クリフト。ありがとう。お姫さまはぜったいにおしとやか じゃなきゃいけないってわけじゃないもの」 「あまりおてんばすぎるのも困りますが……」 「わかってる!」 そう言ってアリーナはにっこりと笑う。それはもう、美しく咲き誇る大 輪の花のように。クリフトを幸せな気持ちにしてくれる、クリフトの一番 好きなアリーナの表情だった。 「あっ。クリフト、今何時?」 「……もう2時を回っていますね」 「いけない、勉強の時間だわ。ブライに怒られちゃう。クリフト、またね」 そう言うとアリーナはクリフトに手を振り駆け出して行った。クリフト は節の目立つ大きな手を胸元に掲げ手を振り返し、取り出した懐中時計を 上着のポケットにしまった。鎖の絡む細かい金属音がした。 あんな笑顔を見せられては、あきらめられるわけがない…。 心の中でそんな呟きともぼやきともつかない言葉を漏らし、軽くため息 をついてから食堂へと戻る。そこはアリーナが来る前の賑わいを取り戻し ていたが、クリフトにはやはり何とも言えない気まずさが残り食事どころ ではなかった。 「すみません。夕食にまた、食べにきます」 手つかずだった豆のスープをコックに渡し、クリフトは食べかけだった パンのみを持って自室へと戻って行った。その後姿を食堂にいた多くの人 が軽い挨拶と共に見送る。 「言っちゃえばいいのにねぇ、『好きだ』って」 誰かがそんな風に放った言葉に、食堂にいた者は皆一様に頷いていた。 END.