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クリフトとアリーナへの想いはPart.9 934 名前 737  Mail sage 投稿日 2009/04/26(日) 13 46 45 ID zl3V/Yqy0 この喧嘩ネタは時の砂をオチに使いたかったのですが、 ケンカに発展しなくて止めたバージョンがあります。 ↓分岐ということで読んでください。 「なんでそこで勇者の名前が出てくるのよ? 勇者は関係ないじゃない!」 「いいえ!関係ありますともっ!!」 「何の関係があるって言うのよ!?」 「姫様は無神経すぎるんですっ! 私の気持ちなんてちっとも分かって下さらない!!」 「クリフトの気持ちって何よ!?」 「私が姫様のことを愛しているということですっ!!」 クリフトはハッとする。アリーナはその大きな瞳をさらに丸々とさせていた。 アリーナは頬を紅く染めることは全くなく、 完全に脳裏にない不意打ちの言葉をくらったような表情であった。 クリフトは自らの発言が時期尚早であったと嘆いた。 「……………………………。」 アリーナのその表情と微妙な沈黙に耐え切れなくなったクリフトは 思わず先ほど手に入れた“時の砂”を振りかざした。 砂がさらさらと舞い、時がぐるぐると巻き戻されてゆく。 「平気よ。クリフトはマーニャの心配でもしてればいいじゃない!」 アリーナが先ほどと全く同じ言葉を紡ぐ。 クリフトは時が戻ったのだと自覚した。 言葉を選んでから口を開く。 「………いいえ。私はアリーナ姫が一番心配なのです。」 「何よ、さっきはマーニャと二人で楽しそうに―――――」 アリーナはクリフトを見る。 少し悲しそうな憂いを含んだクリフトの瞳にアリーナは言葉を失った。 「…………………………。」 二人は無言で見つめ合う。 「うーん……。クリフトが反論しないからケンカにならないわねぇ。」 少し離れたところで二人の様子を見ているマーニャが呟いた。 「ま、アリーナが一応嫉妬らしき態度を見せたし、まぁいっか。」 「ちっともよくねぇよ。」 マーニャの側にいた勇者が反論した。 「あのさぁ、こういう命賭けてる場所では もうちょっと真面目にやってくれない?」 「あら、あたしはいたって真面目よ。 “真面目に不真面目”なのがあたしのモットーなの!」 「下らない屁理屈言ってんじゃねーよ!」 勇者とマーニャは火花を散らして睨みあう。 無言で見つめ合うクリフトとアリーナ。 その神妙な雰囲気にアリーナは耐えきれなくなったのか、 アリーナが沈黙を破った。 「ま、まぁ海賊の宝も無事見つけたし、一件落着ね! 勇者、もう帰りましょう!」 アリーナは勇者とマーニャの元へ駆けていった。 その後姿をクリフトはじっと眺める。 勇者と会話をするアリーナ。 二人には身分など関係なく、いたって自然体であった。 自分も勇者のようにアリーナと出会えていたら、 あのように対等に接することが出来ていたんだろうか。 クリフトは悲しくなった。 「おーい、クリフト!リレミトで帰るぞ~!」 うつむいた顔を上げると、勇者が笑顔でこちらを見ていた。 クリフトが駆け寄ると、勇者はつい先ほど手に入れたはぐれメタルの剣を差し出した。 「クリフト、これお前が使えよ。ずっとマグマの杖じゃ飽きるだろ?」 「勇者さんはいいのですか?」 「オレはほら、天空の剣 待ちだから。」 勇者からはぐれメタルの剣を受け取る。最強の攻撃力の剣だ。 クリフトはなんだかこれが勇者からのエールのような気がした。 「ありがとうございます…………頑張ります。」 (これで少しは肉弾戦がマシになって、ザラキの頻度が減ればいいけど……。) 勇者の本心をクリフトは知る由もなかった――――。 《おわり》
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クリフトのアリーナへの想いはPart5 159 :お題【つよい人】1/5 ◆VmkRIFTnuM :2006/05/08(月) 00 50 18 ID xa3dDpol0 ねえ。起きてよ……。 窓から新緑の香りが風に乗ってふわりと運ばれてくる。 その窓の近く、ベッドに横たわるクリフトの髪をあたしはそっと撫でた。 荒い息。 滲む汗。 ぎゅっと寄せられた眉間の皺。 嫌だよ。 クリフトのこんな顔、見たくないのに……。 額に手を当ててみる。 その熱さにびっくりして、思わず手を引っ込めた。 「……」 冷たい水でタオルを濡らして、クリフトの首筋をそっと拭いた。 眉間の皺が少し和らいで、ふう、と小さなため息が聞こえた。 気持ちいいのかな……。 少し拭いただけなのに熱を帯びてしまったタオルをもう一度湿らせて、額にのせた。 「ねえ、クリフト……?」 あたし、パデキアを探しに行って、怪我しちゃったんだよ。 いつもみたいに、ホイミしてよ。 あんまりクリフトがホイミばっかりしてくれるから、あたしも覚えちゃったんだよ。 いつもクリフトがあたしにしてくれるみたいに、そっと、ホイミの呪文を唱えてみる。 「……」 何も起こらない。 武術大会で優勝して、あたしは強くなったって思ってた。 でも……。 あたしはサントハイムのみんなだけじゃなくて、クリフトたったひとりすら、 救うことができない。 どんなに、お城の壁を叩き壊すことができても。 どんなに、大きな岩を叩き壊すことができても。 それって、本当に、強いってことなのかな。 だって、力が強くたって、できることは……壊すことと……殺すこと。 クリフトみたいに、怪我で苦しむ人を救うことなんてできない。 ブライみたいに、闘わないで敵をやり過ごす術なんて知らない。 目の前で苦しんでるクリフトひとり、どうすることもできない。 「……起きてよ……」 いつもみたいに、おてんばが過ぎるあたしを叱ってよ。 あたし、ひとりで無茶しちゃったんだよ? 勇者さんたちが来てくれなかったら、死んじゃってたかもしれないんだよ? そんなあたしを叱らないで、どうしてそんな顔して寝てるのよ。 「……ねえ……」 もう一度、ホイミの呪文を唱えてみる。 ──何も、起こらない。 どうして、あたしは呪文ひとつ使いこなすことができないんだろう。 壊すことができるあたしより、治すことができるクリフトのほうが、ずっと、ずっと……。 強くなりたい。ずっとあたしはそう思ってた。 でも、強いって、何だろう……? 何かを犠牲にする強さなんて、いらないよ……。 何度目だったか、あたしが桶の水を換えに部屋を出たとき、勇者さんたちが戻ってきた。 手には、あたしが見つけることができなかったパデキアを持って……。 「ご心配をおかけしました」 パデキアを飲んで二日後には、クリフトは起き上がれるまでに病状が回復してた。 いつものような、優しい笑顔に戻ってた。 「……?」 でも、ふと目を離したとき、クリフトはまだ苦しそうな顔をしてた。 あたしの目線に気づくと、いつもの優しい笑顔を見せた……。 ……我慢、してるのかな……心配させないように、って……。 「クリフト……大丈夫?」 「ええ。大丈夫ですよ。姫様のホイミが効いたみたいです」 「え」 や、やだ。聞こえてたの、あれ。 「ば、馬鹿っ!」 照れくさくてあたふたするあたしの姿を見て、クリフトがくすくすと笑う。 ああ、でも、いいなあ、クリフトが笑ってくれるのって、嬉しいなあ。 あたしはクリフトの額に、自分の額をこつんとくっつけてみる。 ……もう、あんなに熱くないね。 「……もう、無茶しないでよ」 「姫様にそう言われるとは思いませんでしたよ」 傷を癒すことができて、いろんなことを知ってて、苦しいことも我慢できて……。 「……あたし、クリフトより強くなれるかな?」 「……はっ?」 あたしはそっと、クリフトから身体を離した。 「姫様……もう、無茶は……」 そこまで言って、クリフトがふと目を伏せた。 「……無茶は、させません。ご心配をおかけしました」 「……うん。ごめんね……」 クリフトがあたしにホイミの呪文を唱えてくれた。 暖かくて柔らかい光に包まれて、あたしの傷が癒されていく。 「もう、痛くないから」 「傷が残っては大変ですからね。私には、こんなことしかできませんから」 クリフトにしか、できないことがあって。 あたしにしか、できないことがあって。 きっと、それで、いいんだよね。 「ありがと、クリフト」 綺麗に癒された傷を見て、あたしはクリフトに精一杯の笑顔を向けた。
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クリフトとアリーナの想いはPart7 698 :1/6:2007/09/12(水) 06 13 25 ID vm6sdHgY0 サントハイムの城につづく石畳の道は、丘の急な斜面を蛇行しながら通っていた。 クリフトは、その道を汗をぬぐいながら、登っていた。 季節は初夏。 道に根を張らぬよう周囲の木は伐採されている為、日の光を遮るものも無い。 丘の上には、まだ城は見えない。 クリフトは青い空に浮かぶ積雲を見つめながら、一歩一歩踏みしめるようにして歩いた。 幼い頃に両親をうしなったクリフトは、教会の運営する孤児院で育った。 慈善活動とはいえ天から金が降ってくるわけでもなし、収容されている子供の数が増えれば食事も寝床も行き渡らなくなる。 そうなると年長の者から順に、孤児院から去っていく事になる。誰が言うでもなく。 クリフトはそんな不問律を幾度も見てきた。 そして、クリフトもまた同じようにして孤児院を出たのだった。 しかし、彼は幸運である。行く当てがあるのだから。 彼は、孤児院にいる間、神父の説教を熱心に聴き、またその意味をよく理解した。 彼の利発さに気付いた神父は、様々な儀式の執り行い方や、より深い教義や、生命に作用するいくつかの呪文を彼に教えた。 クリフトはたちまちそれらを飲み込んだ。 そして、若干15歳にして神官として認められたのだった。 しかも、初めての任地はサントハイムの城。 孤児院を出たばかりの少年には、信じられない出世である。 だが、彼にとってはそんなことはどうでも良かった。 彼は生まれて初めて、自由というものを実感していた。今まで孤児院の塀の中の世界しか知らなかったのだ。 知らない道を歩き、知らない人間とすれ違う。それだけで嬉しかった。 新しい生活の不安も、照りつける太陽も、彼の足取りをとめることは出来なかった。 やがてクリフトの眼前に大きな門が姿をあらわした。高さは3m以上はあるだろうか。 クリフトは傍らの門番に声をかけた。 「あの、すいません」 「うん?」 門番は気だるそうに返事をした。 この炎天下に厚い甲冑を身に着けているのだから無理もない。 「城内の聖堂につとめるよう陛下と教会より仰せつかったクリフトという者ですが」 「あぁ。話は聞いてる。今、門を開けてやる。」 そう言うと門番は、ドンドンと門を叩いた。内側からかすかに返事が聞こえる。 「例の神官が着いたぜ。門を開けてやってくれ。」 それからしばらくすると、ガラガラと大きな音を立てて門が開いた。 クリフトは門番に礼を言って、城内へと足を踏み入れた。 そこは広大な庭園だった。 庭師の手入れが行き届いた木々や花がそこかしこに並び、噴水は涼しげな水音を立てていた。 クリフトはゆっくりと歩き出した。 辺りには人がまったくいない。 懐の時計は、2時を指していた。最も暑い時間だ。 皆、日光を避けて城の中にいるのだろう。 先ず王様に赴任の挨拶をしなければならない。 建物はいくつもある。どれに王様がいるのだろう。クリフトには皆目見当もつかなかった。 門の所まで戻って聞こうか?いや、自分で探そう。 別に急ぐわけでもない。それに、もう少しこの庭園を歩き回ってみたい。 そんな子供っぽい好奇心にクリフトは従う事にした。 夏の重たい空気の中を、花から花へと蝶が舞っていた。 静かだった。噴水の音も、遠くから聞こえるセミの鳴き声も、音として認識するにはあまりに景色に溶け込みすぎていた。 「あなたね?今日ここに来るって言う神官は」 少女の声が、静寂を破った。 クリフトは声のしたほうを見上げた。 傍らのヒノキの太い枝の上に声の主がいた。 その少女は、麻のワンピースに身を包み、木漏れ日に照らされながらこちらを見下ろしていた。 歳は自分よりも2つか3つは下のようだ。 栗色の髪に赤い瞳が印象的なかわいらしい少女だ。 「ああ、僕の事です。君もここで働いているの?」 「わたし?」 彼女は少し驚いた風に目を見開いた。 「私は・・・うーん。働いてるって言うのはちょっと違うような。まあ、でもそんなようなものかもね。」 身格好からして身分は高くなさそうに見える。 「僕が来る事、よく知ってましたね。」 「それはそうよ」 少女はさも当然というように答えた。 「この城にはこれまで何人も神官がいたけど、皆おじさんばかりだもの。若い子が来るっていうんで何日も前から噂の種になってたのよ。」 「そういえば、人が見えないけれどもどうなってるんでしょう?」 「アフタヌーンティーよ。皆でお茶を飲みながらくだらないおしゃべりしてるわ。」 彼女はそう言って悪戯っぽく笑った。 こんなことを言って大丈夫なんだろうか。 「王様に会うにはどこに行けばいいかわかります?」 「あっちよ」 彼女はヒノキの枝の上で立ち上がると、尖塔がいくつも並ぶ大きな建物を指差した。 「わかりました。色々と教えてくれてありがとう。」 クリフトは彼女の指差した方へと足を向けた。 すると少女がクリフトを呼び止めた。 「ねえ、あなた名前は何ていうの?」 「え、ああ、クリフトですけど・・・。あなたは?」 「私の名前?それは、秘密。」 「?」 「そんな事より行かなくていいの?王様を待たせたりしたら一大事よ。」 彼女の言葉を聞いて、クリフトは慌てて走り出した。 宮殿の入り口で名を告げると、クリフトは謁見の間に通された。 少女が冷やかしたような事態にはならなかった。王様はまだ部屋には居なかったのだ。 クリフトはそこで立ったまま待ち続けた。 王様が謁見の間にやってきたのは10分ほど経った頃だった。 左右に控えていた近衛兵は、田舎から出てきたばかりの少年などには視線もくれてやるものか、という風に澄ましていたが、 王様自身はクリフトにねぎらいの言葉をかけてくれた。 クリフトが王族と直に会うことなど、もちろん初めての事だったが、 今までに、王様というものに持っていた威圧的なイメージはそこには無かった。 クリフトは、抱えていたいくつかの不安の中の一つが杞憂に終わったことに安心した。 それからクリフトは聖堂に行き、同僚となる神父にも挨拶を済ませた。 少女の言うとおり、神父は50近い中年の男だった。 彼から神官が被る縦長の帽子を授けられた。 それを被った時、クリフトは身が引き締まるのを感じたのだった。 城内を歩くと、侍女や使用人の女が遠巻きに自分の事を見たり話したりしているのが気になった。 神父が言うには、彼女たちは常に退屈しているのだというが、クリフトにはよく解らなかった。 新参者がせねばならない面倒な種々の物事を片付けた頃には、太陽は西の空に沈もうとしていた。 ようやく一段落つけると、クリフトは宮殿のテラスで夕日を見ながら涼んでいた。 彼方に見える黒い林からヒグラシの物憂げな鳴き声が聞こえてくる。 この城でやっていくためには、神学や呪文に長けているだけではダメだということをクリフトは1日目にして痛感していた。 もっと世間を知らなければ・・・。 空が紅から群青に変わろうという時、ひとりの老人がクリフトに声をかけてきた。 「おぬしが赴任してきた神官かな?」 老人は、緑色のローブを身に纏い、その右手には樫の杖が握られていた。 禿げ上がった頭と、豊かなあごひげを持ち、小柄ながらも威厳を感じさせる男だった。 「わしは魔法使いのブライ。この城では姫様の教育係を任されている。」 「はじめまして。クリフトといいます。」 クリフトは背筋を正して答えた。今日何度目の挨拶だろうか。 「(最近の若者にしては悪くない返事だ、感心感心。)実は、我らが姫君、アリーナ様がおぬしに興味がおありでな。 おぬしと話がしたいと仰っている。すまぬが、姫様の部屋までご足労願えぬかの?」 「喜んで。」 クリフトは、そのブライに付き従って城内を歩いていった。 城内は夕食の準備で慌ただしく人が往来していた。 姫の部屋は、最上階の一角にあった。ブライが手の甲でドアをノックした。 「どうぞ」 中から返事がした。それから二人は部屋へと入っていった。 さすがは一国の王女の部屋である。壁には趣向を凝らした装飾がなされ、天井にもキラキラと輝くシャンデリアが吊ってあった。 例の姫は、正面のソファーに腰掛けていた。 彼女を目にした時、クリフトは度肝を抜かれた。 そこにいたのは昼間、ヒノキにのぼっていた少女だったからだった。 あの栗毛の少女が、今度は膨らみ袖のついた豪奢なドレスを着て目の前に座っているのだ。 「ブライは席をはずしてくれる?」 少女、いやアリーナが言った。 「わかりました。・・・しかし、姫様。私が見ていないからといって粗相をなさってはいけませんぞ。」 ブライはそう言って、部屋から出て行った。そうするや否や、アリーナはクスクスと笑い出した。 「驚いた?」 アリーナはさも楽しそうだ。クリフトは呆然としていた。 「驚いたなんてもんじゃありませんよ・・・。」 クリフトは思わず汗をぬぐった。これは昼間の汗とは違う。冷や汗である。 「あんな所で何をなさっていたんです?あの時言ってくれれば好かったのに・・・。」 「あはは。それじゃあ詰まんないわ。あなたを驚かせようと思ってたんだもん。」 「人が悪いです。」 クリフトはムスッとして言った。 「この事、お父様やブライには内緒よ。あんな格好で城外を歩き回ってたなんて知れたら大目玉だから。」 「それは・・・約束しかねます。」 「イジワル!」 アリーナは口をへの字に曲げて、声を上げた。 「そういう問題じゃないでしょう・・・。」 そう答えたクリフトだが、自分をじっとにらみつけているアリーナの妙な真剣さに思わず笑いがこみ上げてきてしまった。 これではもう、まじめに話など出来そうもない。 彼女の前では、肩肘を張って、大人ぶってみても全く通用しないようだ。 「わかりました。この事は、ブライ殿には黙っておきます。」 クリフトの言葉に、アリーナは笑顔で返事をするのだった。 そんなアリーナに微苦笑を禁じえないクリフトであったが、同時にこれほど愛らしい人もいないとも思うのだった。 出会いが人生を変えることは往々にしてあることだが、この出会いが二人の人生をどのように変えるかを知る者は誰もいないのだった。 窓の外に広がる初夏の夜空には、天の川が輝いていた。
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本当はクリアリが好き 440 名前が無い@ただの名無しのようだ :02/10/16 01 11 ID vLrfr6pI ここはハバリアの宿の一室、女のおしゃべりの声が聞こえます。 先日パーティーに加わったアリーナ姫も楽しそうに参加しております。 女性が4人もそろえば話題も色めいたことになるのは当然で・・・・ 「・・・んでアリーナはどんな男がタイプなのよ?」 と聞くのはこの手の話にノリノリなマーニャ姐さん。 「・・・うーん、強い人かな!?あんまり考えたことないな~」と話が自分に振られると困った様子の姫。 「アリーナさんこういうこと苦手そうね」とミネアさんが微笑みます。 「うん、同年代の遊び相手はクリフトしかいなかったし」と姫も微笑かえします。 「そのクリフトは?」と勇者ちゃんが興味深げに聞きます。 「クックリフト!?」アリーナ姫は予想外の質問に少々動揺した様子。 「あー、クリフトいいじゃん。頭いいし、顔もそこそこだし」と姫の動揺を察したマーニャ。 「常識ありますしね」と続くミネア。 「やさしいしね~」と追い討ちをかける勇者。 「いやっクリフトとは幼馴染でずっと一緒にいるから、何ていうかほら・・・」と否定する姫、なぜか顔が少々赤くなっています。 「やさしいしね~」と追い討ちをかける勇者ちゃん。 「いやっクリフトとは幼馴染でずっと一緒にいるから、何ていうかほら・・・」と否定する姫、なぜか顔が少々赤くなっています。 「あっそうなの?んじゃあたしクリフトの恋人に立候補しちゃおうかな~道中長そうだし」とマーニャ。 「姉さん!・・・でもクリフトさんなら悪くないわね~」とミネア。 「ズルーい、私も参戦する~」と勇者ちゃん。 3人がからかいモードに入ったとは知らずにアリーナ姫は焦り始めました。 (クリフトに恋人が出来ようが私には関係ないわっ・・・でも・・・) 「あれ!?どしたの?アリーナ。黙りこくちゃって、もしかしてクリフトのこと・・・」と横目な勇者ちゃん。 「んなことないっ!でもみんなクリフトはやめといたほうがいいとおもう、うん。強くないしっ」と言い訳姫。 「あー私は男に強さなんて求めないわ。んでもクリフトって結構強いと思うわ、こないだの戦闘もいいザキっぷりだったし~」とにやにやマーニャ。 「そっそれにクリフト、高所恐怖症だし。塔では涙ぐんでたし」とタジタジ姫。 「高いところなんてそう行くものじゃないですし」とさらりとミネア。 「えーっと、水も怖いって・・・・」と冷や汗姫。 「別に問題ないでしょ、そのくらい」とにっこり勇者ちゃん。 「そっそもそも頭かたいしこうゆうこと苦手なはずよ」と自分のことを棚にあげ必死な姫。 「浮気しなくていいじゃない」ととどめのマーニャ、2人も頷きます。 「・・・・とっとにかくクリフトはやめといたほうがいいと思うわ。そう、今日は疲れたし明日も早いんでしょ、もう寝よ」 とアリーナ姫はそそくさと逃げるようにベットに潜りこみました。 それを見ながら3人はにんまりと笑ったのでした・・・・・ 翌日から・・・ 「いったーい、クリフト~ホイミして」 「はい、勇者さん大丈夫ですか?」 (ホイミできるのになんで自分で治さないのよっ) 「クリフトさん~、これ運んでもらえますか?重くって」 「馬車の中へでいいんですね?ミネアさん」 (おいっ!さっきその荷物片手でもってなかったっけ?) 「クリフト~~」 「わわっマーニャさんっ!!抱きつかないでくださいっ」 (・・・・・・・!!!) とアリーナ姫をやきもきさせる3人のクリフトくんへの露骨なアプローチ(ただしアリーナ姫の前のみ)が始まったのでありました。 ついでいうとクリフトくん、なぜかスタンシアラ、滝の流れる洞窟、世界樹、天空への塔といった高いところ、水のあるところは必ずスタメンにさせられたのでした。 (おしまい)
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【クリアリ】クリフトとアリーナの想いは Part13【アリクリ】 513 名前 きゅうりの人 Mail sage 投稿日 2013/12/19(木) 05 34 47.09 ID 0k7Dbh3j0 「今年のクリスマスの予定もつまらないわ! ミサなんて誰が喜ぶのよ!」 「姫様、クリスマスのミサは大切な儀式なのですよ?」 「ああもう、そんなの何度も聞いて分かってるわ! でも苦手なのよ!」 クリフトはため息をついた。 「では、姫様はどのようなクリスマスをご所望ですか?」 アリーナは少し考えてから答えた。 「そうね…ささやかなホームパーティーかしら。」 一瞬不思議そうな顔をしたクリフトが、微笑みを浮かべて聞く。 「ささやかな、ですか?」 「そうよ、お城の盛大なパーティーじゃなくて、家族だけの。」 「ああ、そういう、家族の団欒のようなパーティーですね。」 「堅苦しいパーティーはもう嫌なの!」 アリーナは家族の温もりを感じられるパーティーをしたことがないのであろう。 そんなアリーナの心中を察し、クリフトは少し切なくなった。 「そうですか…でも、そういうお立場ですからね。」 「分かってるわ。」 少しの間、沈黙が流れた。 「クリフトって、クリスマスは忙しいのよね?」 「ええ、朝からずっと仕事です。クリスマスですから。」 「夜に会えない?」 「え?」 「2人でパーティーできないかな、ちょっとだけでもいいから。」 クリフトは少し考えて、穏やかに答えた。 「せっかくですが、あらぬ誤解を招きますゆえ、ご遠慮申し上げます。」 「誤解って何よ!」 「私とて男です。そんな夜更けに2人きりで…」 「そんなの、気にしないわ!」 「しかし・・・」 煮え切らないクリフトに、アリーナはもどかしくなる。 「もう、クリフトと結婚できたら解決なのにね!」 「えっ…」 「でも、クリフトは弱いから無理ね! 私、自分より強い男じゃないと結婚できないわ!」 突然のアリーナの言葉に叩きのめされたクリフトは、言葉を失っていた。 「もういいわ。無理言って悪かったわね。 お仕事がんばってね!」 去っていくアリーナの後姿を見ながら、クリフトは呟いた。 「せめて…ザキでも使えれば…」 かくして、神官はザキへの思いを募らせていった。 そして殺戮神官の伝説は始まった!
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クリフトのアリーナへの想いはPart6 843 :828(1/6):2007/01/28(日) 01 03 59 ID Fv+Qc1d60 宿で会った老人に案内され、病人が寝ている部屋に入った瞬間、 その禍々しい空気に息が止まりそうになった。 ベッドに力なく横たわる、神官だと言う青い髪の青年。俺より、少し年上かな。 そいつの周りを、黒々とした霧が取り巻いている。 その霧は悪意に満ちて、青年を食らい尽くそうとしているように見えた。 俺の背後で、ミネアが、小さな悲鳴を上げた。 ―――ミネアにも、見えるんだな。 「ソ、ソロさん…近づくと、うつるかもしれません…。」 ミネアが「うつる」って言っているのは病気のことじゃないって分かっている。 でも…。 「ひ、めさ、ま…」 そのとき、青年が何かをつぶやいた。 「私…お、守りします…。ひめ…。」 何を言っているのかは良く分からなかったけれど、その言葉の切実な響きは、 俺の心の中の何かに触れた。 ―――こいつを、助けたい。 何故だか、強烈にそう思ってしまった。 他の皆に聞こえないよう、小さい声で、ミネアにささやく。 「あの黒いの、どうやったら追っ払えるんだ?」 「本人の体力と気力次第…。でも、あの方は、病で弱っているようですね…。 もう、あの闇を払う体力は残ってないのではないかと思います…。」 痛ましそうにミネアがつぶやく。 「てことは、病気が治れば、あいつが自力で黒い奴を追っ払えるってことか?」 「本人の、気力次第ですけど…。」 「よし。」 俺は、皆の方を向いて叫んだ。 「俺たちも、ソレッタにパデキアを探しに行くぞ!」 その後、いろいろあったが、俺たちは万病に効くというパデキアの根っこを持ち帰った。 その神官…クリフトが、パデキアの根っこを煎じた薬を飲み干した次の瞬間に、 奴の周囲を取り巻いていた黒い霧は文字通り霧散した。 クリフトが回復し、クリフト、ブライ、アリーナの3人が、導かれし者達だって分かり、 彼らがパーティに加わることになり、そんなてんやわんやの翌日。 俺達が朝食を食べていると、二階から足音が聞こえてきて、クリフトが下りてきた。 へえ。こいつの神官服姿、初めて見た。 さらさらの青い髪、整った顔、すらりと伸びた背筋。 それらを神官服に包んだクリフトの姿は、どこから見ても、「神官です!」って感じで、 俺は何だかおかしくなってしまった。 ミネアが、気遣わしげに尋ねた。 「クリフトさん。もうお加減はよろしいんですか?」 「ええ、まだ少しふらふらしますが、大丈夫です。本当にお世話をおかけいたしました。」 「ダメだよー、クリフト、まだ寝てなきゃ。」 アリーナが口を尖らしてクリフトに駆け寄る。 「大丈夫ですよ、姫様。ご心配をおかけして申し訳ありません。 皆さんを長く足止めするわけにも行きませんし、少しずつ体を慣らさなければ。」 アリーナの頭を愛しそうになでながら、クリフトが微笑む。 …なんだか、これって、ただの主人と臣下、って感じじゃねえよなぁ…。 2人の姿をぼんやり眺めていたとき、ふと、クリフトの左手に違和感を感じた。 ―――黒い霧が…まだ、残っている? 結局、俺達はクリフトの体力回復を待って、1週間ほどミントスで過ごすことにした。 その間、俺は注意深くクリフトを観察していた。 ミネアに聞いたところによれば、そもそも、あの黒い霧は、闇の力によるものらしい。 人が取り付かれた場合、払わなければ、そのうち取り込まれて殺されるんだそうだ。 闇を、障りなくその身の内に飼うことができるのは、魔の物だけ…。 でも、クリフトからは、魔物の気配はしない。どっちかっていうと、教会のぼーさん臭い。 どういうことなんだ?これは。 クリフトの体力もすっかり回復し、翌日、ミントスを離れるという日の夕方。 俺は、クリフトを外に呼び出した。 道々、どう話を切り出すか悩んだが、回りくどいことは得意じゃない。 結局、港の上の小高い丘の上に着くと、単刀直入に聞くことにした。 「あのさ、クリフト。あんたの左手。なんかおかしくねぇ?」 クリフトは、この質問を予想していたんだろう。ため息をつくと、小さく笑った。 「やはり、ソロさんは、気づいてらっしゃったんですね…。」 そして、クリフトはぽつりぽつりと語り始めた。 「ザキ」という禁呪のこと。それを習得するためには闇の力の召還が必要なこと。 「私の場合、焦る余りに、体力が低下しているところに無理に大きな力を召還して しまったようで、あのようなことになりましたが、…もう大丈夫です。」 「って、今回みたいに、また、あんたが病気や怪我になったときは?大丈夫なのか?」 俺の言葉に、クリフトは右手で、左手首を握りこむ。 「もはや、この闇の力は私の体の一部。私が弱ったり死んだりすれば、それに応じて 闇の力も弱くなり、消滅します。…皆さんに、危険が及ぶようなことはありません。 私が、させません。」 「でも。じゃあ、なんで、左手で触らないようにしてるんだ?」 クリフトの顔がこわばった。 俺は気づいていた。 クリフトは、決して左手で人に触れようとしない。 何かのはずみで触れそうになったときも、ごく自然な動作で左手を後ろに隠していた。 こわばった表情のまま、クリフトは、俺から目をそらすと、搾り出すように言った。 「私の、左手は…穢れています。だから…その手で、人に触れるわけにはいかないんです。」 俺は、息を呑んだ。 そうか、こいつは根っからの神官だ。 人生を神様に捧げて生きようとした奴が、神の教えに背いて闇をその身に飼う…。 それは、きっと、ものすごく辛いことなんだろう。 無言で立ち尽くす俺たちの足元を風が通り抜けて、草を揺らす。 夕陽は、既に水平線にわずかな光のかけらを残すのみになっていた。 「あんたが、そこまでするのは、姫さんのためか?」 クリフトの肩が小さく跳ねた。 「姫さんのためなら、神様にも背くのか。」 クリフトがゆっくり俺の方を向いた。 真摯な目。 そこには、迷いはなかった。 そして、クリフトは、はっきりと、短く、一言だけ答えた。 「ええ。」 ―――あの方のためならば、私は地獄の業火に焼かれてもかまわない。 その目が語っていた。 同じ目だ。 あの日の、シンシアの目。 ―――あなたを、殺させはしないわ。 俺は、気がつくとクリフトの左手をつかんでいた。 「な?」 驚愕したクリフトが、慌てて手を引っ込めようとするが、許さず左腕ごと抱え込むと、 クリフトの左手の手袋をむしりとった。 「な、何をするんですか、ソロさん、やめて下さい…!」 クリフトがかすれた声で叫ぶ。 俺は聞く耳を持たずに、手袋を脱いだクリフトの左手を、両手でがっしりと握った。 「穢れてなんかいねえよ。」 俺から左手をもぎ離そうとしていたクリフトの動きが止まった。 「あんた、守りたいから、この呪文を身に付けたんだろ。姫さんを守るためには、 必要だったんだろ。それが、何で穢れてるんだよ!」 クリフトは、呆然と俺を見ている。 クリフトの思いは、多分、シンシアと同じ、思い。 それは、とっても身勝手な思いで、今でも納得できないけれど。 それでも、それは、決して邪な、穢れたものなんかじゃない。 「この左手は、姫さんを守る、…姫さんだけじゃなくて、俺達全員を、 守ってくれる手じゃねえか。」 クリフトが震え始めた。 「俺は、頼りにしてるぜ、この左手。」 ニヤリと笑ってクリフトを見ると、クリフトは顔をくしゃくしゃに歪めていた。 ―――あーあ。きれいな顔が台無しだ。 俺は、クリフトの肩に手をかけると、促した。 「ほら。帰るぞ。泣くなって。そんな顔してたら、姫さんに振られるぞ。」 「泣い、てなんか…。大体、私と、姫様は、そん、なんじゃ…。」 …そんなに声詰まらせながら泣いてないって言われたってなぁ…。 ふーん、でも、違うのか? クリフトの片想いなのか? そんなことを考えながら歩いていた俺の背中に、クリフトが小さい声で呼びかけた。 「…ソロさん。」 「ん?」 振り向くと、クリフトの目元はまだ赤かったが、涙は消えていた。 「…ありがとうございます。」 晴れ晴れとしたクリフトの笑顔と、「ありがとう」の言葉が胸に染み入るようで、 俺は急に照れくさくなって、慌てて前を向いた。 …今度、こいつに、アリーナが口移しでパデキア飲ませたこと言ってみようかな。 どんな反応するんだろうな。 俺は、星が輝き始めた空を眺めながら、再びニヤリと笑った。
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クリフトのアリーナの想いはPart11 422 名前 従者の心主知らず 砂漠のバザー編 1/11 Mail sage 投稿日 2010/11/21(日) 23 57 27 ID 3GeiDYf70 最近クリフトが独り言を教えてくれなくなって、ちゃんと聞こうと決めたのはお城を出てからのこと。 今まででわかったことは、 独り言の内容は、立場や身分、町の構造について?みたいなやっぱり難しいことだったってことと、 教えてくれない理由は、なんて言えば私に一度で伝わるかすぐに浮かばないからなんだって。 確かにクリフトってたんたんとしゃべるときは難しい言葉を使いがちだけど。 でも私なんか思ったことはぽんぽん言っちゃうのにクリフトは気をつかいすぎなのよ。ほんとそう思うわ。 でも私は今別のことで頭がいっぱい。やっと来たわよ砂漠のバザー! 「来たわ来たわ!ここが砂漠のバザーね。うっわー面白そう!」 「にぎやかですね!どこからこれだけの人が砂漠のまん中に集まったのか」 クリフトもまわりをきょろきょろしてる。それもそのはず、砂漠にテントやお店、人や物であふれてたんだもの。 ブライはちょっと疲れてるみたい。なんにも言わないわ。 「すっかりおそくなっちゃったわ。今からぜんぶのお店を見物するわよ!いいでしょ?ねっねっ」 「やれやれ、遅くなったのは姫さまがほこらへ寄り道するからでしょうに……」 やっとブライがしゃべったと思ったらお説教だった。でもほんとに疲れた声だったから無視できなかった。 「だってだって、もしエンドールにこっそり通してくれるようならバザーのあと行こうと思ったんだもんっ」 「ほー。しかし優秀な衛兵のおかげでそうはいきませんでしたなあ」 「うー。じいのいじわるっ」 そう、私たちはここに来る前にエンドールに続くらしい旅の扉があるほこらに寄ってきたの。 というより、私が道を間違えちゃって偶然たどりついただけなんだけど。 いつだったか誰かが言ってた旅の扉がここなんだと知って、思わず喜んだのをじいはよく思ってなかったのね。 ほこらにはお城の兵士がいて結局通してもらえなかった。 肝心のクリフトは、あれが旅の扉、なんと神秘的な!みたいなこと言っててぜんぜんこっち見てくれないし。 こういうときこそその難しい話で兵士を説得させてくれればいいのよ。 でもお父さまの命令なら仕方ないわ。 お城の外には出てもいいってお許しをくれたんだもの、今度エンドールにも行きたいってお願いしてみよう。 兵士をみね打ちしてこっそり通るのはそれからでも遅くないわ。 どうせ旅するならこっそりじゃなくて堂々と行きたいものね。 そんなことがあって、ほんとうなら午後のティータイムには着くはずの砂漠に夕方近くにたどり着いたわけなの。 「姫さま、もし店を回るのでしたら急ぎませんと。片付けているところもありますよ」 「えっうそっ」 クリフトの視線の先を追ってみると、お店の人が売り物にシートをかけたり片付け始めたりしてた。 「ほんとだ!何よー、夜はお店は開いてないの?つまらないわねー」 「おー残念ですな。寄り道した報いですかな?砂漠のバザーはもう終わり!ささ、帰りましょう」 「やだ、帰らないもんっ」 そこでひらめいたの。すぐ先に見えた宿屋の看板! 「決めたわ、今日はあそこで泊まりましょ?それで明日めいっぱいバザーを楽しむの!ねっねっ」 私はふたりに振り返る! 「……まあ、夜に外を歩くよりは無難でしょうね」 「わたしは静かな所でないとよく寝つけないと以前申し上げたはずですのにのう……」 「ちょっと、なんでふたりとも元気ないのよ」 「い、いえ、元気がないわけでは……ともかく、宿をのぞいてみましょうか」 「うん!」 クリフトの言葉で私たちは宿屋のテントをくぐった。 「うわーすごーい」 中に入ったら砂の上にシートがひいてあって、もう何人かの人が荷物をまとめたり寝転んだりしてた。 「こんばんは。旅人の宿屋へようこそ。3名様でいらっしゃいますか?」 「……ええ」 宿をとるのはクリフトにお願いして私はシートの一つをさわってみた。編みこんである。うすーい。 あそっか、砂がやわらかいから厚いおふとんにする必要がないのね。でも編みこんであるのは? 「ブライブライー。どうしてこんなに編みこんであるおふとん使うのー?」 「これ姫さま、声が大きい」 「あ、ごめんなさいっ」 私は思わずまわりを見た。そういえば他の人もいるんだったわね。 「旅の方、砂漠は初めてかね?」 となりで荷物をまとめてた人がにこにこしながら話しかけてきた。白い変てこなぼうしをかぶってる。 「ええ、そうなの。うるさくしてごめんなさい」 「いいっていいって。まだ寝る時間じゃないしねえ」 「すまんのう」 話しかけてきた人は優しい人だった。怒ってなくてよかったー。 その人は行商人で、バザーのこととか砂漠のこととかエンドールの武術大会のことまで話してくれた。 そうそう、編みこんであるおふとんを使うのは強度を重視したためなんだって。 うすいのは持ち運びを楽にするためでもあるんだって。 それからこの宿ではみんなで並んで寝るんだって。外で星を眺めながら寝る人もいるみたい。 私たちのことも聞かれたけど、じいがかわいい孫ふたりと気ままな旅をしてるんじゃってごまかした。 あれ、私クリフトの妹ってことになっちゃったのね。でも確かにそんな感じかも。 もうすぐ夕食だからといってその人が宿を出ていくとき、私はお礼を言うのを忘れなかった。 お部屋も仕切りもない。たった今出会ったばかりの旅人たちが、みんなで並んで寝転んで夜を明かす。 そこでさっきみたいに情報を交わし合ったり仲よくなったりするんだわ。ああ、これこそ旅って感じじゃない? やっぱり旅って、冒険って、最っ高!!!あーあ、やっぱりメイとももう少し話がしてみたかったな。 クリフトがお支払いをすませたみたいでこっちに来た。気づいたらまわりに人はいなくて三人だけだった。 わくわくする私とは正反対にクリフトはかたまってた。 「予測はしていました。していたのですが、いざ目の当たりにしますと……」 「クリフトどうしたの?何を予測してたの?」 「……この宿の構造です」 クリフトは青ざめた顔してる。青ざめたというか、表情はそんな雰囲気なんだけど、顔自体は赤いの。 クリフトってほんと赤くなったり青くなったり器用よね。 宿の構造かー。あ。そういえば。そういえばそうじゃない!そうよそうよ!私はにこにこしてクリフトに言った。 「クリフトー、今日は見張りをしなくていいわよね。部屋も分かれてないし仕切りもないし」 「……………………」 「じいも、今日はいっしょに寝るわけよね」 「……まあ、そうなりますな」 「じゃあじゃあ、今日は姫とか教育係とか家来とか、そういうのぜんぶ抜きにして三人並んで旅人しましょっ」 「とんでもないことですっ」 ひっくり返った声を出したのはクリフトだった。 「な、なによ、なんでよー」 「た、ただでさえ仕切りがないというのにまして、ひ、ひ、姫さまと隣り合わせで眠るだなんてそんなっ」 「?」 クリフトは壁のほうを向いてぶつぶつ言い始めた。あ、いつもの独り言だ。 「神よ、これは日頃の善行に対する恩恵なのでしょうか、それとも日頃の悪行に対する試練なのでしょうか。 不肖クリフト、今日ほどあなたの存在を遠くに感じたことは……」 「ちょっとクリフト、どうしちゃったのよ。いきなり神学のお勉強始めないで」 クリフトの独り言は止まらない。やけに神よ神よって言ってる。 なんだろう。ただでさえ仕切りはないのに、いっしょに寝るなんてそんな……なに?神さまが遠いってなに? クリフトは、私といっしょに寝るのいやなのかな。あ、寝相が悪いからかな。 でもちっちゃなころはいっしょに寝たことだってあったはずなのにな。いっしょに。そう、いっしょに……。 しばらくぶつぶつ言ってたクリフトがやっとこっちを向いた。さっきよりはもとに戻った顔色で言う。 「やはり私は警備をさせていただきます」 「だめよ、今日は三人で旅人するの。クリフトが見張りをするんだったら私も見張りする!」 「なにをおっしゃいますか、姫さまはどうかお休みください」 「いやよ、私が寝るんだったらクリフトも寝るの!」 「姫さま……っ」 「今日はみんないっしょなのっ!」 なんで私こんなに必死になってるんだろ。なんでちょっとだけ泣きそうになってるんだろ。わかんない……。 「……クリフト、姫さまに寝ずの番をさせるつもりはあるまい?今回は引き下がれい」 そこにじいが。じいが……。 「そうよそうよ!引き下がれーいっ」 「そ、そんな……」 じいのまねして私も口をとがらせた。じいが言ってくれれば絶対よ!だって2対1でクリフトの負けだもの! クリフトは諦めたようにがっくりと下を向いた。私はちょっとだけ胸がちくっとした。クリフトがゆっくりと顔を上げる。 「あの、ブライさま……ではせめて、中央にいてくださいますか……」 「むぅ?」 「あっダメっ。中央は私が寝るの。だってふたりを守るには真ん中にいたほうがいいでしょ?」 「姫さま……いえ、視界にはふたりが同時に入ったほうが一瞬の隙を突かれた際には」 「おぬしら、さっきから何を口論しておるんじゃ。わしゃ疲れた。腰も痛いしのう。この場所はもらうぞ」 「あ、うん。ごめんなさい」 「は、申し訳ありません……」 じいは一番はじっこにおふとんを用意してねっころがった。 「クリフト」 「はい!」 「隣人にはおぬしらは兄妹ということになっておる。おぬしに限ってそんなことはないとは思うが、くれぐれも わしの目を覚まさせるまねはするでないぞ」 「……はい……」 クリフトは返事をしながら口に手を当てた。難しい顔してる。でも私はじいの言葉が気になって。 「じい、それどういうこと?」 「んん?そうさの、姫さまの素性を知られぬよう兄妹らしい振る舞いを心がけよと言ったんじゃよ」 「ふーん、そういうこと……」 気づいたらクリフトはあっちを向いてた。視線の先を追ってみると他の人たちの荷物とかおふとんとか。 なに見てるの?って聞こうと思ったらクリフトのほうが先にしゃべった。 「姫さま、今夜はやはり、中央でお休みになっていただけますか……」 「え?う、うん……」 クリフトはまた口に手を当てて考えごとしてる。きっと難しいこと考えてるんだろうな。 ふたりを守るには真ん中にいたほうがいいと思ったんだけど、それもちがったのかなあ……。 でも宿の人が戻ってきたせいもあって結局聞けなかった。 夜。 もう一つの大きなテントで夕食をすませてオアシスの水で体を流して歯みがきして。 見たことのない料理、何もかも初めてのことで楽しいはずなのに、なんでか気分はすぐれなかった。 早く三人で休みたい。早く三人でいっしょにごろんてなりたい。私はそのことばっかり考えてた。 宿に戻るともう寝てる人もいた。あの行商人さんももう横になってた。羊を数えてるみたい。声が聞こえた。 「さて、わしらも休みますかの」 「うん」 私はおふとんにごろんてなってブランケットにくるまった。けっこうあったかい。 砂漠の夜は冷えるって聞いたけどこれならぐっすり眠れそう。 「これこれ姫さま、お祈りを忘れてはなりませんぞ」 「……はーい」 私は起き上がって両手をぎゅっとした。私たちの国では朝晩のお祈りはおつとめとして日課になってるの。 お祈りを簡単にすませて私はまたブランケットにくるまった。 となりを見るとブライが上着をたたんでた。反対側を見たらクリフトもぼうしをとって上着を脱ぎ始めてた。 よく考えたら、旅に出てからふたりが着替えてるの初めて見るかも。 だって今までは私が寝るまでふたりは起きてたし私が起きたときにはふたりはもう着替えてたから。 なんか、新鮮だなー。そう思ったら自分が今パジャマになってるのがちょっと恥ずかしくなった。 「では姫さま、おやすみなさいませ」 「うん、おやすみ、じい」 じいもお祈りを終えたみたいでブランケットにくるまった。私はちょっとだけほっとした。 でもクリフトはまだ起きてた。手を胸に当ててぎゅっとしてる。それから両手をぎゅっとして目を閉じた。 たいまつの火でほのかに見える顔は、何か考えごとをしてるみたいにも見えた。長い……。 「……クリフト?」 「……………………」 思わず声をかけちゃったけど返事はなかった。私はずっとクリフトを見てた。 ずいぶん長いこと待ったと思う。やっとクリフトが目を開けた。ゆっくり私のほうを見る。 「姫さま、申し訳ありません。なんでしょうか」 「ううん、ごめんなさい。お祈りのじゃましちゃったのね」 「いえ、そんなことは……少々長すぎましたね」 それだけ言うとクリフトは前を向いた。 「普段はそうでもないのですが、心に迷いや戸惑いがあるとどうしても長くなってしまうのですよ」 苦笑いするクリフト。でも私はぜんぜん笑えなくて。 「……心に迷いや戸惑いがあるの?」 聞いちゃった。クリフトはしばらく黙ってたけど、前を向いたまま言ったの。 「……そうですね。旅に出てからいろいろなことがありすぎまして、未熟な自分を思い知らされる毎日ですよ」 「……そう」 「寝ましょうか」 そう言ってクリフトも横になった。ブランケットを胸もとまであげて、両手を胸に置く。 まるで寝ててもお祈りしてるみたい。 宿の人が来てたいまつの火を消してった。一瞬真っ暗になって、そのうちあたりがぼんやりしてきた。 「お休みなさいませ、姫さま」 「うん、おやすみ」 まわりで寝てるのは知らない人たち。砂漠ではみんなでいっしょに夜を過ごす。 普通の家に生まれてたらきっと何でもないことだったんだろうな。 でも、今は私もいっしょよね。姫とか関係なく普通の旅人として、じいとクリフトといっしょに寝てるのよね。 私今、自由なんだよね。ねえクリフト……。 ふと目が覚めてとなりを見るとクリフトがいなかった。あわてて反対側を見たらじいはいた。寝てる。 なぜかほっとした。クリフト、お手洗いにでも行ってるのかな。どうしよう、私も外に出ようかな。 うん、そうしよう。私が外に出るときクリフトはついてきたんだから、今度は私がクリフトについていこう。 外に出たら少しだけ風がふいてた。月や星がきらきらしてて思ったより明るかった。 だからオアシスのそばでクリフトが座ってるのもすぐわかった。今夜はぼうしのかぶってないクリフト。 「クリフト」 「ひ、姫さま!どうかなさったのですか?」 「どうかなさったじゃないわよ。クリフトがいなかったからさがしに来たんじゃない」 「そ、そのようなこと……」 「っもう、心配させないでよね。ほんとにびっくりしたんだから」 「……申し訳ありません……」 私はクリフトのとなりに座った。クリフトは少しだけ後ずさりしたけど、私は気にしないふりをした。 「夜になると砂漠もずいぶんすずしいわ。風がきもちいい……」 「……そうですね。熱を吸収しやすく放出しやすい、この地表や気候のなせる業だそうですよ」 「ふーん、そうなの」 普通に話はしてるけど、何だかよそよそしい気がする。もう気にしないふりは無理。私は思い切って聞いた。 「ねえクリフトー」 「……なんでしょうか」 「私といっしょに寝るの、いやだった?」 「え?」 「クリフトが今起きてるのって、私のせい?」 「そ、そのようなことは……」 「でも、ここについたときからクリフトずっと変。いっしょに寝ようって言ったときもすっごく反対してたし」 「……………………」 私はまっすぐクリフトを見た。でもクリフトは私から目をそらした。前を見たまま難しい顔してる。 やっぱり、いつもと違う……今までと違う……。ねえ、昨日の笑ってたクリフトはどこ……? 「立場を、考えますから」 「………………」 「お忍びの旅とはいえ、姫さまは姫さまであり、私は一従者に過ぎません」 「…………」 「教育係のブライさまならまだしも、私のような身分の者が姫さまの寝所までお供をするなど」 「だから、今日はそういうの抜きにしてって言ったじゃない」 「……………………」 「私は今日はクリフトの妹なの。じいは私たちのおじいちゃんなの。家族がいっしょに寝ることってあるでしょ? ちっちゃなころはいっしょに寝たことだってあるのに、なんでそんなに立場立場って」 「それが、以前申し上げた絶対的称号だからです」 クリフトの言葉がやけに冷たく響いた。なんで……。なんで私、泣きそうになってるんだろう。 「…………っ」 「ひ、姫さま……?」 クリフトが私を見たのがわかった。 「だから、だからそういうの抜きにしてって言ってるじゃない!!難しい話なんか聞きたくない!!! そんなこと言って、ほんとは私のこときらいなんでしょ!?」 「ち、ちがいます!断じてそのようなことはっ!!」 「じゃあなんで、なんで今日はいっしょに寝てくれないのよ!他の人たちはみんないっしょに寝てるのにっ!! なんで私だけ、みんなと違うのよっ!!!」 「姫さま……」 「なんでっ……」 私に自由を教えてくれたのはクリフト。でも、その自由を奪うのもクリフト……? 私きっと、ショックだったのね。クリフトはいっつも私の意見に賛成してくれる、そう思ってたから。 力強く反対されたことが、まるで私のこと否定されたみたいで、ショックだったのね……。 「姫さま……」 私は返事ができなかった。早く、宿に戻ろう。早くじいといっしょに寝ちゃおう。そう思って立ち上がろうとした。 「姫さま……もしも……もしもの話です」 クリフトが話し始めた。やけに低い声。そう、昨日のフレノールのときみたいに。 私は立ち上がるのをやめて少しだけ顔を上げた。クリフトは、今度はちゃんと私を見てた。 「仮定の条件を持ち出すことは現実性に欠ける話題であり、身にそぐわぬものとすら思っていましたが…… もし、姫と従者、いえ、神官という立場すらなくして申し上げてよいのなら、そのように考慮していただけるのなら、 私の答えには、その……もう一つ、あります……」 「う、うん……」 「このような場に相応しからぬ発言を、お許しいただけますか……?」 「いいわよ、なんでも話して」 そうは言ったものの、少しこわかった。クリフトからまた否定されるようなことを言われたら……。 でも私は次の言葉を待った。きっと、それでもクリフトは私に賛成してくれるって、心のどこかで期待してるのね。 クリフトはやけにまわりをきょろきょろしてた。かと思ったらオアシスのほうをじっと見たりして。なんでだろう? しばらくたってやっと、遠慮がちに小さくぼそっとつぶやいた。 「……私も、男なんです」 「え?」 私はクリフトの言っていることがよくわからなかった。 「男なんですよ……。ですからその、あまりに目の前に無防備な女性が横たわっていますと、その……」 「………………」 「だ、だきしめたくなったりするんです……」 「…………」 えっと……。私はいっしょうけんめい頭の中を整理した。これは難しい話?かんたんな話? 「い、いえ、だからといって別に好きだからとか姫さまだからとかそういうわけではなく、その……っ あ、あるんですよっ!男にはそういう……衝動が……っ」 「えっと、じゃあじゃあ、じゃあさ、クリフトの向こうに寝てた女の人も、おんなじように抱きしめたくなっちゃうの?」 「いえ、それは……いや、あの……ああもう、なんと申し上げればよいかっ」 手で顔を隠すクリフト。余裕のない感じが昨日のフレノールと重なる。子どもみたいなクリフト。 「…………あるいは、そういうこともありえるという話です…………」 顔を隠したままクリフトは小さく答えた。そっか。あるんだ。……そっか。そうなんだ……。そうなんだ! そうよね、私はともかく知らない女の人を抱きしめちゃったら失礼だものね。ううん、変態だわ。痴漢だわ。 だからそうならないようにクリフトは外に出てたのね。 そうか、だから人は宿をとるとき男の人と女の人で別れるのね。確かにお城でも寝るときはみんな別々だったわ。 なーんだ、そういうことだったのかー。そう思ってふと一つの結論にたどりついた。 「クリフトのエッチ!」 クリフトは手で顔を隠したまま小さくため息をついた。 「……ええ、ええ、私は未熟者です……」 やけにがっくりしてるクリフト。さっきまでの冷たい雰囲気はどこへやら。私はもう少しからかいたくなった。 「うふふ、クリフトのえっちー」 「ひ、姫さま……?」 「えっちー」 「……………………」 「クリフトって、ああいう大人の女の人がいいのね。クリフトのへんたーい」 「そ、そんな……もう、勘弁してください……」 「ふふふ。へんたーい」 「でも安心した。私ね、クリフトは私のことほんとにきらいなんだって思ってたの」 「そんなわけありませんよ」 「うん、よかったー」 「私はむしろ、姫さまのほうが……」 「え?」 「その…………寛大さに救われました……」 「え、なんのこと?」 「いえ……私も姫さまへの誤解がとけて安心しましたということです」 やっとクリフトが笑った。もうよそよそしくない。冷たい雰囲気もない。昨日の笑ってたクリフトだ。よかった……。 今夜も月がきれい。星がよく見える。 クリフトが外に出たのはもう一つ理由があって、このきれいな景色を眺めるためなんだって。 さっきまで数えて理由が三つじゃない?やっぱりクリフトって難しいこと考えすぎだわ。 でもオアシスを眺めながらため息をついてまったりしてるクリフトを見ると、ほんとにそうなんだなって思う。 「……私が、姫さまを嫌いになどなるはずがないのです」 「え?」 「毎晩、こうして景色を眺める度に思わずにはいられません」 「…………」 「特にこんな、星のきれいな夜には……」 言いながらクリフトは遠い夜空を眺めた。私もなんとなくいっしょに眺めてみる。 「夜には……なあに?」 「いえ、その、ふるさとや……ふるさとが……い、いえっきれいな星ですね!」 「?う、うん、そうだね」 …………ぷ。 「もうー、クリフトったらー」 「な、なんでしょうか」 「こういうの、昨日もなかったー?いい夜とか、きれいな星とか。でも別に私にわかるようにっていっしょうけんめい かんたんな言葉に変えてくれなくっていいよー」 「は…………」 「夜にはふるさとのことを思うんでしょ?そうよね、お城を出てからもうずいぶんたつものね」 「は、はい……そうですね」 「お父さまも大臣も、神父さんもあのネコも、みんな元気にしてるかなぁ」 「……便りがないのは元気な証拠。皆さま元気にしていらっしゃると思いますよ」 「うん、そうよね」 「私にはあの星はこれから会うはずの強いライバルたちの顔に見えるわ」 「ライバルですか。数え切れないではありませんか」 「その数え切れないライバルたちをどんどん打ち負かしていくのよ!」 「なるほど。そして姫さまがあの夜空の一番星になるのですね」 「そう!私がいちばん輝くの!」 クリフトが笑ってる。よかった。あのとき宿に戻っちゃわないでほんとうによかった。よかったー。 「姫さま、宿に戻りましょうか」 「え?クリフトは大丈夫?」 「ええ、あれはただの衝動ですから。今はもう大丈夫です」 「そっか。わかったー」 「ご迷惑をおかけいたしました……」 「ううん、いいのよ。もしクリフトがあの女の人を抱きしめそうになったら私がみね打ちしてあげるから安心して」 「そ、それはたのもしいですね…」 肩の力が一気に抜けた。クリフトといっしょに宿に戻ってまたごろんとなる。今度はぐっすり眠れそう。 きっとクリフトは、いちばん言いにくいことを言ってくれたのね。男の子の秘密。 私だって、女の子の秘密を話すのはちょっと恥ずかしいもの。 でも、そうやってちっちゃなころみたいに何でも話してくれればいいのよ。あんまり難しく考えないで。 幼なじみなんだから。ねえクリフト……。 「私もあのくらいたくさん買い物したいわ!いいでしょ?いいでしょ?」 「強欲なる者はやがて地獄におちると言いますな。姫さまもゆめゆめ買いすぎることのないように」 「わかってるって。私はささやかな物でいいの。強い武器があればそれで。防具はいいの。武器があれば。 だってやられる前にやっつけちゃえばいいんだから」 「やれやれ。強欲なのやら強情なのやら」 「さすがは姫さまですね」 「さあさ、めずらしいツボはいかが?見るだけでも見てってちょうだい」 ふと女の人に声をかけられた。 「めずらしいツボ?ふつうのツボに見えるけど。どこが違うのかしら?」 「だまされてはなりません。めずらしかろうとツボはツボ。必要のないものは買わないことです」 「ブ、ブライさま、聞こえていますよっ」 「ふふふ。まあまあそう言わずにダンディーなおじいさん、見るだけ見てってちょうだいな」 「な、なぬっ」 「ねえねえクリフト、今の人、昨日クリフトの向こうで寝てた女の人よ。抱きしめちゃう?」 「だ、抱きしめませんっ」 「ふふふ」 南の砂漠のバザー。世界中を旅してるからこの砂漠でバザーを開くのはひさしぶりなんだって。 そんな偶然に出会えるなんて、私はきっと運がいいのね。やっぱり旅って最高だわ。 「フー、しかし暑い暑い。こう暑いと頭がぼーっとしてきますな」 「少しどこかで休みましょうか」 「ねえねえ。私ね、お昼のメニューはもう決まってるの。昨日のご飯のときメニューを見て決めておいたのよ。 休むならあそこにしましょ?ねっねっ」 「そういえばもうすぐ昼時ですね」 「日陰ならどこでもええわい。とりあえず一杯の水が飲みたいのう」 「じゃあ決まり!ほら、あそこのおっきなテント!行きましょ!行きましょ!」 「あ!姫さま探しましたぞ!すぐにお城にお戻りください!王様が、王様が大変なのです!」 「え……?」 突然私たちを呼び止めたのはお城の兵士。楽しく過ごすはずの時間が、音を立てて崩れ始めた。
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クリフトとアリーナの想いは Part4.2 791 :【新生活応援】 ◆cbox66Yxk6 :2006/04/04(火) 10 31 19 ID hfoE1uZQ0 時は4月、桜の花の下で新生活がスタートした。 クリフトは澄み切った青空を見上げながら、大きく息を吸い込んだ。 ここはゴッドサイド。神の息吹をもっとも近くに感じる神聖な場所。そして神職につくものの憧れの土地。 クリフトは王命を受け、4月からゴッドサイドの歴史編纂事業に携わることとなった。期限は無期限。憧れの土地、そして人生初となる一人暮らし。最愛の人と離れてしまったことはクリフトの心をひどく苛んだけれども、新天地での生活に淡い期待と喜びを抱いていたのもまた事実であった。 「さて、部屋はこれくらいで大丈夫ですね」 サントハイムから持ち込んだ荷物の整理も終わり、クリフトは一息入れようと紅茶のポットを手にした。 コンコンコン。 遠慮がちに扉が叩かれ、赤毛の少女・・・いや女性が顔を出した。 「えへ、遊びに来ちゃった~」 いたずらっ子のように舌を出し、はにかむアリーナにクリフトは微笑んだ。 「ようこそ、おいでくださいました」 アリーナに椅子を勧めながら、クリフトはカップを二客用意する。 ふわり、と紅茶の香りが漂い、アリーナは目を細めた。 「いいなぁ、一人暮らし。私もしてみたいな」 無理だろうけどね。 ちょっとつまらなさそうに唇を突き出し、部屋をぐるりと見渡す。 広すぎず、狭すぎず。一人暮らしとしてはまずまずの部屋のようだ。 いいなぁ、いいなぁと部屋の中を見て回っていたアリーナが、不意に背後からクリフトの首に飛びついてきた。 「わ、あ、危ないですよ」 ポットを落としそうになったクリフトが焦りながら注意する。 するとアリーナはむっとしたようにポットを奪い、ちょっと乱暴に机の上に置いた。 そしてクリフトと向かい合うと、今度は正面から抱きついた。 「・・・したら承知しないから」 胸に抱きついていたせいで少しくぐもっていたが、クリフトはアリーナの言葉を確かに聞いた。 浮気したら承知しないから。 かすかな嫉妬。いや、不安か。 照れたように呟くアリーナが愛しくて、クリフトはそっと抱きしめる。 「しませんよ」 「・・・ほんとに?」 「おや、お疑いですか?」 私には姫様だけですよ。 耳元でそっと囁くと、アリーナがますます顔を押し付けてきた。 照れているのだろうか。髪の毛の間からちらりと見える耳が赤い。 クリフトがクスクスと笑うと、アリーナが少し赤い顔でしかめっ面をした。 「なによ!」 拗ねてそっぽを向くアリーナの頬に手を伸ばすと、そっと仰向かせた。 「姫様・・・」 「・・・ん」 唇が重なる。 ふたりっきりの部屋。ほんのり甘い紅茶の香り・・・。 ふたりはうっとりと口づけをくりかえす。 「ね、また、遊びに来ていい?」 アリーナが小さな声で呟くと、クリフトはもう一度軽く口付ける。 「ぜひ・・・お願いします」 お待ちしておりますよ、姫様。 そう続けたクリフトの唇にそっと人差し指を当てると、アリーナは首を横に振った。 「ふたりっきりのときは・・・ね?」 アリーナの言わんとすることを察したクリフトは、最近ますます綺麗になってきた恋人を再度抱き寄せ囁いた。 「待っていますよ、アリーナ」 アリーナ・・・アリーナ・・・。 何度も耳元で囁かれる。 とてもとても幸せな時間。 アリーナは優しい彼の腕の中で瞳を閉じる。 「愛しています、アリーナ」 「愛しているわ、クリフト」 クリフトの新生活、それはふたりを遠ざけ、そして近づけていた。 「ブライ、アリーナを知らんか?」 書庫で調べ物をしていたブライのもとをサントハイム王が訪ねた。 「さぁて、城の中にいらっしゃらぬようならば、あやつのところ、ではないでしょうかのう」 「あやつ、とは?」 「クリフトのことですじゃ」 「クリフトはゴッドサイドであろう?」 「キメラの翼を使えばすぐですな」 「・・・それでは、クリフトを遠くにやった意味がないではないか」 「ゴッドサイドにおいて行われる歴史書編纂および神学サミットにクリフトを参加させることは、非常に有益かと存じますが」 「・・・ブライ」 「わしはいま忙しゅうございます。行かれるならおひとりでどうぞ」 「余はゴッドサイドとやらに行ったことがないのじゃ」 「では諦めることですな」 文献から目も上げずに答えるブライに、サントハイム王は顔をしかめる。 「そなた、わしとその本とどちらが大事じゃ?」 「陛下、国事と私事とどちらが大事ですかな?」 むむ、と言葉に詰まるサントハイム王だったが、言い返す言葉が出てこないと、涙目になりながら口をへの字に曲げた。 「ブライのケチ~」 ばーか、はーげ、おまえのかあちゃん、でーべーそー!! 「陛下!!」 はぐれメタルも真っ青な見事な逃げっぷり。 ブライが書物から顔を上げ怒鳴った時には、サントハイム王の姿は忽然と消えていた。 取り残されたブライは、しばし呆然としていたが、やがて深々とため息をつくとゴッドサイドで幸せな時を送っているであろう青年を思い浮かべた。 「今度戻ってきたら、何かおごってもらわないと」 割に合わんわい・・・。 ブライの呟きが静けさを取り戻した書庫にかすかに響いた。 (終)
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クリフトのアリーナの想いはPart11 338 名前 1/2 Mail sage 投稿日 2010/09/14(火) 23 50 23 ID /dj5K+wu0 スレ読み返しててネコの日SSに萌えたので書いてみました **** ……こまったな、どうしよう…… ふかふかの体毛と、蒼い目をしたネコが鏡をみたまま茫然としている。 時はちょっとだけ遡る。 「ええと、杖はこっちと。大分数が増えましたね…」 旅の途中の宿の一室。 クリフトは持ち込んだ一行の荷物の整理をしていた。 そろそろ終わりかと、一息ついたところで先ほど立てかけた杖が不意に倒れてきた。 あわててつかもうとしたところ、魔法が発動したのだ。 戦闘に用いるものなら、それなりのパワーを込めないと術は発動しない。 しかしこの杖は戦闘に使うものではなかった。 先日みつけたサントハイムの至宝”変化の杖”だったのだ。 何だか急に部屋の家具が何倍もの大きさに感じ、おかしいと思い鏡の前に立ったとき ようやくクリフトは自分に何が起きたか理解した。そうして冒頭に移る。 思いもかけず変身したクリフトだったが、徐々に冷静になり始めた。 宿の中だし、大きな危険はないだろう。 仲間に会えば、勘の良いミネアさんかトルネコさんあたりが気がついてくれるかもしれないが、 変化の杖の効果はせいぜい1~2刻ほどだ。このまま部屋の中にいてもよいかもしれない。 ****** そんな思考をしていると、自分を呼ぶ声が聞こえる。 「クリフトいる~?」 バタンとドアが開き、飛び込んできたのはアリーナ姫さまだ。 「いないのか……あれ、ネコだ……ここの宿の仔かしら?」 突然の来客にワタワタしていると、身体が宙にういた。 その瞬間に暖かい感覚に包まれる。 「ふふ、やわか~い。ミーちゃんみたい」 (………わ!わわっ、姫さまに触られるなんてっ) 思いもよらず想い人に抱えられて、ジタバタしているクリフトの耳の側から声が聞こえる。 「これ、うごかない!」 予想以上に近くからの声色に、おもわず固まったクリフトを赤い目が見つめている。 「うん、イイコイイコ。……あれ、おまえキレイな蒼い目をしているね………クリフトみたい」 一瞬、今の自分の姿がネコということを忘れ、 (姫さま!!)と呼びかけたつもりで口を開くと「にゃ~」という声が飛び出した。 「あ、返事をした。賢いのね!本当にクリフトみたい。」 クリフトの身体を優しい感覚がすべる。 彼女は自分が本物のクリフトなんて考えてもみないのだろう。 クスクス笑いながら、言葉を続ける。 「うふふ、クリフトはね、私の家臣で幼馴染なの。 今一緒に旅をしているのだけどね、男のくせに私より弱くって、体力がなくて、高いところが苦手で、水もダメなの!」 姫様の口から自分のことが聞けるのはうれしいけど。 撫でられている毛も、とても気持ちがよいけど。 ……しかし………… 何だかいたたまれなくなってきたクリフトに、思いもよらない言葉がふってきた。 「でもね、とっても優しくて、真面目で、一生懸命で、誠実で…………………………………大好きなの。」 クリフトを撫でている手が止まる。 「…………本人の前じゃ、絶対にいえないのにね。 いつか言えるかなぁ、そうしたら姫じゃなくて女の子として見てもらえるかなぁ………………」 呆然としている頭に優しい感覚が落ちた。 床におろされたクリフトが我にかえったときは、すでに足音は遠ざかっていった。 一匹残されたクリフトは小さい声でニャーとないた。 (了)
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クリフトとアリーナへの想いはPart9 114 名前 歩兵  Mail sage 投稿日 2008/05/18(日) 00 28 16 ID cIC2pNtt0 はるかなる思い 1 アリーナ15歳 「すまん、アリーナ」 王は深々とわが子に頭を下げた。 「いいのです、お父様」 アリーナは穏やかに笑みを浮かべる。 「私だってこの国の王女。どれだけおてんばでわがままと言われようと、この国の ために何をすべきかわかってます」 「しかし、お前はこの国、いや世界を救ってくれた。すでに充分すぎるほどのことをして くれている。お前がイヤだと言うなら、わしは…」 「もうやめましょう、お父様」 アリーナの瞳は澄んでいた。迷いのない人間のもつ不思議な穏やかさをたたえていた。 「でも、約束ですよ。2年間は私の好きなようにさせてもらうって」 「うむ。好きにするがよい。夜な夜な男遊びを繰り返すとか、犯罪を犯さない限りは 私はもう何も言わん。思うがままに行動してよい」 「ありがとう。男遊びの趣味はないから安心していいわよ」 一瞬だけ、アリーナはかつての表情と口調に戻った。 翌日、アリーナはサントハイムを発った。 アリーナは世界中を旅した。モンバーバラで流行の芝居や踊りを堪能し、アネイルで 温泉に浸かり続け、エンドールで武術大会に飛び入り参加し、ミントスで水揚げ されたばかりの魚料理を食べつくし、ガーデンブルクで女性衛兵たちに武術を師範し、 ソレッタで村おこしの一環として「アリーナ」という名のパデキアの売り込みに協力して キャンペーンの先頭に立ったり…。 しかし、アリーナが一番輝いていたのは、やはり勇者、ライアンらとともに遠征軍を組織し、 デスパレスでの残党たちを討伐したことだった。自ら魔物たちと戦うアリーナの姿は、 まるで残りわずかな青春を燃やし尽くそうとするかのような激しさがあった。 そして、アリーナの傍らには、常に護衛として随行するクリフトの姿があった。 はるかなる思い 2 アリーナ 17歳 「エンドールのマイケル王子、サントハイムのアリーナ王女と結婚」 この知らせは世界中をかけめぐった。 マイケル王子はエンドールを離れ、サントハイムに婿入りする。 世界の強国であるエンドールとサントハイムが婚姻関係で結ばれたことで、世界は ますます平和なものになるだろうと、世間では好意的に受け止められた。 式典は両国で大々的に行われた。 マイケル王子は20歳。エンドールでは「図体はでかいが、頭が弱いんじゃねえの」と しばし陰で笑われていた。しかし式典ではアリーナが気品ある振る舞いで夫をたて 各国からは「似合いの夫婦」と好評を博した。 サントハイムに住居を移してからも、アリーナは一歩下がって夫を立て続け、仲睦まじい 夫婦として国民から愛された。 クリフトはサントハイムを離れ、ホフマンタウンの教会に赴任した。 自らの希望だった。 クリフトはそこでずっと神の教えを説き続けた。信心深い者もそうでない者もいたが、 クリフトは誰にでも分け隔てなく接し、人々から慕われた。 はるかなる思い 3 アリーナ 20歳 アリーナは男女の双子を出産した。 世界中はその知らせに喜び、平和を実感した。 夫マイケルは喋るのが苦手で、語彙が極端に少ない上にどもるくせがあった。 しかし公の場ではアリーナが終始夫をカバーし、惜しみない献身ぶりで立て続けた。 各国からは「美しく聡明な王女」と賞賛された。 クリフトはアッテムトの教会に異動した。 そこは想像以上に過酷な場所だった。 モンスターこそいなくなったものの、ガスは相変わらず噴出して人々を蝕んでいた。 クリフトが最初にしたことは、聖書を机の引き出しの奥に仕舞いこむことだった。 次の日から、クリフトの過酷な日々が始まった。 朝暗いうちから起きだし、鉱山に入る。そこでガスが噴出してくる場所に行って 土砂で埋めるのだ。この過酷な作業でクリフトの体調もかなり悪化したが、クリフトは やめなかった。 昼になると診療所を訪れる。今もガスで身体を悪くした者は多いが、それを治療する 人手が全くいなかった。クリフトは彼らを見舞い、勇気付け、出来うる限りの治療を 行った。 その後は近くの林に向かい、木を切り倒す。クリフトはここを開墾して畑にするつもり だった。危険な鉱山での仕事に頼らなくても、農業で何とか生活が成り立つように なれば、との思いだった。暗くなるまで斧や鍬を振るい続けた。 すっかり暗くなると、クリフトは教会の小部屋に戻る。そこで粗末な食事をし、 神に祈りをささげ、寝台に倒れこむ。それがクリフトの毎日だった。 過酷な献身を続けるクリフトの姿は、アッテムトの人々を驚かせるに充分だった。 周囲からは「そこまでしなくていい、あなたが倒れてしまう」と何度も忠告を受けたが、 クリフトは「困っている人を救うことが神の意思であり、私の喜びです」と穏やかに 微笑んだ。誰もがクリフトのその態度に感動した。 はるかなる思い 4 アリーナ 22歳 サントハイム王が崩御し、アリーナがサントハイムの女王に即位した。 アリーナは、わずか1日で喪服を脱ぎ捨て、翌日には政務についた。 「私は女王。悲しみに伏せっている状況ではありません」 その毅然とした態度はサントハイム国内のみならず、各国からも絶賛された。 国葬、即位式でもアリーナは完璧に自らの役割を果たした。 それに対して、夫マイケルはあまり公の場に顔を出さなくなった。 宮廷での噂によれば、ノイローゼ気味であるらしい。 クリフトの労苦が、徐々に実りつつあった。 アッテムト鉱山から有害なガスはほとんど出なくなり、体調を崩していた人々も 一人二人と社会へ復帰してきたのである。 クリフトの開墾した畑も、収穫があがりはじめた。おそらく来年か再来年のうちに 農業で生活していける者も出てくるだろう。 人々はみなクリフトに惜しみない感謝を送った。 クリフトもまた、人々を救えたことで感動していた。 「やっとアッテムトの人々の暮らしが落ち着いてきた。そろそろ、神の教えを説く という本来の職務ができそうだ」 そう考えていたクリフトだが、彼はほどなくロザリーヒルズへの赴任を命ぜられる ことになる。 はるかなる思い 5 アリーナ 25歳 夫マイケルは、宮殿にこもって全く外に出てこなくなった。 精神面でまいってしまったという。 アリーナは多忙な政務の傍ら、時間をみつけては夫のもとを訪れた。一切文句は 言わず、ただひたすら優しい笑顔で励まし続けた。 まるで天使のようだ、と宮廷での評判だった。 ロザリーヒルズに移ってすぐ、クリフトは病に倒れた。 アッテムトで無理を重ねた反動が来たらしい。 エルフたちの手厚い看護がなかったら、おそらくその生命の火は消えていただろう。 クリフトが数年後、やっとおきあがった時には、クリフトの体から肉は削げ落ち、 顔は痩せこけていた。 それでもクリフトは、再び職務を再開し、毎日献身的に教会の仕事をこなした。 エルフ、ホビットたちがその信者になった。 はるかなる思い 6 アリーナ 30歳 アリーナの治世により、サントハイムはますます繁栄した。 すでにエンドールとの間には絆が生まれていたが、アリーナはさらに世界中を飛び回り、 各国と友好関係を築き、平和を守った。 経済政策でも、王宮の役割を縮小し民にまかせる方針を掲げ、それにより民間に 活力がわきあがり国は栄えた。 しかし、いいことばかりではなかった。 アリーナの夫マイケルは、もはや宮廷の自室から一歩も出なくなっていた。 もともとエンドールでも精神薄弱の傾向があったらしく、年を経るにつれそれが 加速してきたようだ。 世間では「最高の女王、最低の婿」とはやされた。 それでもアリーナは夫に愛想を尽かすでもなく、少しでも時間があれば夫のもとに おとずれ、こまごまと世話を焼いた。 クリフトはエンドールに赴任した。 体はまだ充分癒えたとは言えないが、早朝から深夜まで精力的に職務をこなした。 エンドールは世界一の商業都市であり、「金さえ儲ければいいよ。宗教など知らん」 という拝金主義者が多かった。しかし、「それでいいんだろうか」と疑問をもつ者も 少数ながらいた。クリフトは辛抱強く神の教えを説き、人はお互い助け合う存在で あることを日夜語り続けた。 少しずつではあるがその教えは、エンドールの民の間で広まっていった。 はるかなる思い 7 アリーナ 35歳 サントハイムで、アリーナは5年後の議会の設立を宣言した。 王政はそのまま保存するが、実権を徐々に国民の手に移管していくのがアリーナの 考えだった。 国民は王室を慕っており、特に民主化の希望があがっていたわけでもないが、 あえてアリーナはそれが近代国家への道だと考え決断した。 世界からはその英断を称えられた。 その一方では、健康を害していた夫マイケルが、ついに病死した。 国葬が行われ、アリーナは全てを取り仕切った。 この時もアリーナは国葬の時以外は喪服をつけず、政務を執り続けた。 国中を飛び回って政務に勤しみ、夜は子供たちを育てるその姿に、近習たちは涙した。 クリフトはデスパレスに赴任し、司祭となった。 魔物の本拠地が取り壊され、ようやく人が住み始めたこの地方には、そもそも 教会すらなかった。 クリフトは自分で教会を建てることから始めなくてはならなかった。 さらに、奥深くには魔物の生き残りがまだおり、しばしば人を襲う事件が起こっていた。 クリフトはそのたびに剣を抱えて討伐に赴いた。以前の健康なクリフトだったら、目を つぶってでも倒せたような魔物たちと、クリフトは青色吐息で戦った。 そんな毎日に、クリフトの肉体はすっかり傷ついていた。 それでもクリフトは、魔物が出るたびに剣を手に取った。 人々はそんなクリフトを敬愛した。 掘っ立て小屋同然の教会の中で、信者は増える一方だった。 はるかなる思い 8 アリーナ 40歳 息子リチャード王子の成人を期に、アリーナはリチャードに国王の座を譲り、自身は 摂政となった。 ちょうど議会が設立され、サントハイムは議会君主制へと歩み始めた。 混乱もあったが、アリーナは改革には痛みを伴うものだと知っていた。 国の近代化のためには、それが必要なことだと信じた。 少しずつ、国は落ち着きを取り戻していった。 クリフトの今度の赴任地は、サントハイムだった。 20年ぶりの帰郷だった。 クリフトは司教となった。しかしクリフトに変化はなかった。ただひたすら、体の 不調に耐え神の道を人々に説き続けた。 王宮には一度も近寄らなかった。 はるかなる思い 9 アリーナ 45歳 アリーナは摂政職を退き、一切の公職から身を引くと宣言した。 国民からも国外からも、それを惜しむ声はひっきりなしに寄せられた。しかし国政では すでに新国王リチャードのもと、議会に権力が移り始めており、大きな影響は なかった。 アリーナは1人、静かに王宮の片隅へと移っていった。 クリフトは健康不良を理由に、神官職を辞した。 実際、この頃のクリフトは歩くのも困難なほどまで悪化していた。 大司教からも慰留されたが、クリフトの決意は固かった。 クリフトは1人、数十年をおくった教会を後にした。 はるかなる思い 10 季節が秋から冬へ変わろうとしている頃。 エンドール近くの小島、すっかり緑の消えた山道を、1人の男が歩いていた。 「今年の冬は寒くなりそうだな」 クリフトだった。しばらくの療養生活の後、ようやく外を歩ける程度には回復していた。 かつての精悍な顔立ちと頑健な肉体は、今はまったく面影をとどめていない。 ただし、瞳に宿る知性と誠実さはいささかも失われてはいなかった。 クリフトは足をひきずるように、王家の墓へと向かった。 「クリフト、来たのね」 入り口に先約がいた。アリーナだった。護衛もつけず、おしのびで来たようだ。 「陛下…」 「陛下はやめて。私はもう女王でも何でもない、ただのおばさんよ」 アリーナはころころと笑った。彼女もまた年相応の皺と脂肪をたくわえていた。 しかし、若い頃にはなかった落ち着きと深みもまた備わっていた。 「随分久しぶりね」 「あれから、もう30年がたっているのですね」 30年前。2人は何かにとりつかれたかのように世界中を飛び回っていた。 夢がまもなく終わり、現実が待っていると知っていたから。 せめて、今だけは短い夢を楽しみたいと思っていたから。 それから30年。2人は国のために、人のために、自らを犠牲にして働き続けた。 2人はその過ぎていった歳月に、しばし思いをはせた。 はるかなる思い 11 ここは王家の墓。エンドールの王族及び皇族たちの眠りの場。 アリーナはそれぞれの墓前で祈りを捧げた。クリフトもそれにならった。 「お父様…私、女王として精一杯尽くしました。褒めていただけますか」 「マイケル…子供たちは立派に育ったわ」 「ブライ…おてんば姫だった私だけど、国を思う気持ちは負けなかったわ」 墓参りを終え外に出たときは、すでにすっかり陽は落ちていた。 「じゃあ、帰ろうか」 2人は船着場まで向かい、そこからサントハイム向けの船に乗った。 夜の帳の中、船はゆっくりとサントハイムに向かう。2人は船上で備え付けの 椅子に並んで座り、しばらく無言で暗い海を見つめていた。 「クリフト、これからあなたどうするの」 サントハイムの街の灯が近づいてくる頃、アリーナが口を開いた。 「はい、しばらくは療養に専念するつもりです。体調のいい時には教会に来て、 神の教えを広める手助けができればと」 「私も、そろそろ王宮を出ようと思うの。国はリチャードと議会にまかせておけば 大丈夫」 「そうでしょうか。まだまだアリーナ様は必要なお方だと思いますが」 「いつまでも、私がいたんじゃ皆のためにならないわ。子供たちも成人したし。 それに、必要な時にはいつでも会えるしね」 はるかなる思い 12 そして、アリーナはクリフトの方へ向き直って言った。 「どう、クリフト。私と暮らさない?」 クリフトの目は点になった。 「わ、わわわ私とですか」 「何驚いてるの。私を好きだって言ってくれた気持ちはもうないの?」 アリーナの悪戯っぽい言葉に、クリフトはあわてて首を振る。 「そんなことはありません。私の気持ちはずっと変わりません。でも、私でよろしい のですか?」 アリーナは直接は答えず、海を見ながら言った。 「マイケルとは政略結婚だったけど、それは最初から決まっていたこと。あの人は 弱い人だったけど、やさしかった。愛してはいなかったけど好きだった。もしも 病気で死んだりしなかったら、ずっと添い遂げるつもりだった。だけど、子供たちも 立派に育ったし、もう10年たった。あの人も許してくれると思う。 私がクリフトを愛してたのかどうかは、正直自分でもよくわからない。でも、ずっと 私にとっては一番大切な存在だった。マイケルには悪いけどね。辛い時には いつも、あの結婚前の旅を思い出してた。あれが心の支えだった。クリフトは 私でいいの?」 「いや、いいも何も、私はアリーナ様にお仕えすることが最大の喜びでした」 「じゃあ決まりね。小さな家を借りて2人で住もう。あ、一応言っておくけど籍は 入れないわよ。子供も無理、跡目争いにでもなったら大変だから」 「はい、それはもちろん」 「しばらく静養していいお医者にかかれば、きっとクリフトの体調もよくなるはず。 そうなったらまた2人で、世界を旅行しようよ。これまで2人とも身を犠牲にして 働いてきたんだから、少しくらい楽しんでもいいよね」 「はい、姫さま」 20年ぶりにクリフトがアリーナをそう呼んだ時、ちょうど船がサントハイムに 到着した。 アリーナは立ち上がって手を伸ばした。クリフトがおずおずとそれを掴んだ。 こうして2人は、遅れてきた青春の光に向かって歩き出した。 (了)