約 2,167,649 件
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1477.html
待ち焦がれた期待は裏切られて、ひよっこどもにも失望する。 最高の玩具を手に入れて、荒れ狂った心のままに88mm砲をぶち込んだ。 俺としてはほんの軽い憂さ晴らし。 けれども、それ以来ひよっこどもは腫れ物にでも触るかのような態度。 日常を侵す警報は鳴りもしない。 心の獣は精神力という名の鎖で形だけは雁字搦め。 切欠さえあれば獣は鎖をたやすく引き千切れるし、むしろ俺から外してやる。 暴れだすまでどれだけ猶予があることか。 さて、今日は個別スキルとかいうお遊戯を眺めさせてもらうとしよう。 魔法少女リリカルなのはStrikerS―砂塵の鎖―始めるか。 第6話 ひよっこの心、はんたの心 「おらぁ!!いっくぞー!!」 「くっ!!」 目の前の女性はヴォルケンリッター『鉄槌の騎士』。 前線フォワード部隊スターズ分隊ヴィータ副隊長。 彼女の気合いの乗った声にあたしの身体は自然と身構える。 グラーフアイゼンを構え、掛け声と共に駆けてくるヴィータ副隊長から視線を外さず、 私は自分のデバイスに声をかけていた。 「マッハキャリバー!!!」 「Protection.」 突き出したアームドデバイスのリボルバーナックルの上にシールドが張られ、 ヴィータ副隊長の振り下ろしたグラーフアイゼンと火花を散らせてぶつかり合う。 歯を食いしばり、砕かれそうなシールドを必死に維持しているのに、 グリップコントロールをしてくれているはずのマッハキャリバーごと 土をえぐりながら身体はじりじりと後ろに下がっていく。 「てぇぇぇぇぇぇぇりゃぁぁぁぁぁっぁぁぁぁ!!!!!」 瞬時にグラーフアイゼンを振りかぶりなおしたヴィータ副隊長の 気合いと共に繰り出された攻撃が私のシールドに叩きつけられると、 シールドは維持されているにも関わらず、私の身体は吹き飛ばされて、 傍らの木にその身を打ち付けられた。 「うー、痛ッたったー・・・・・・。」 「なるほど。やっぱバリアの強度自体はそんなに悪くねぇな。」 「ありがとうございまーす。」 褒められてしまった。 身体に響く痛みよりも嬉しさが勝ってしまう。 「私やお前のポジション『フロントアタッカー』はな。敵陣に単身で斬りこんだり、最前線で防衛ラインを守ったりが基本なんだ。防御スキルと生存能力が高いほど、攻撃時間が長く取れるし、サポート陣にも頼らねぇで済むってこれはなのはに教わったな?」 「はいっ!!ヴィータ副隊長」 「受け止めるバリア系、弾いて逸らすシールド系、身にまとって自分を守るフィールド系。この3種を使いこなしつつ、ぽんぽん吹き飛ばされねぇように、下半身の踏ん張りとマッハキャリバーの使いこなしを身につけろ。」 「はいっ!!がんばります!!」 「I learn.」 「防御ごと潰す打撃はあたしの専門分野だからな。グラーフアイゼンにぶっ叩かれたくなかったらしっかり守れよ。」 隊長達の訓練を続ければ強くなれる。 ヴィータ副隊長の言葉にそんな考えを持ちながらマッハキャリバーと共に返事を返した。 「エリオとキャロは、スバルやヴィータみたいに頑丈じゃないから反応と回避が まず最重要。例えばこうやって、こんなふうに・・・・・・。」 そう言って説明しながら、オートスフィアからゆっくり飛んできた魔力弾をステップを 踏むようにして避けてみせてくれるフェイトさん。 「まずは動き回って狙わせない。」 オートスフィアが対象を見失ったみたいにぐるぐる回る。 「攻撃が当たる位置に・・・・・・。」 説明を続けながら足を止めたフェイトさんに再びオートスフィアから魔力弾が撃たれる。 「長居しない。ね?」 「「はい!!」」 攻撃をかわしたフェイトさんが笑って僕達にそう声をかけてくれる。 フェイトさんの説明は続く。 「これを低速で確実にできるようになったらスピードを上げていく。」 走る速度をあげたフェイトさんにオートスフィアから次々と立て続けに魔力弾が 撃ち込まれるけど1つも当たらない。 ステップを踏むたびに、フェイトさんを狙った魔力弾はかわされて地面に突き刺さり 炸裂していく。 「「あっ・・・・・・・。」」 足を止めたフェイトさんにオートスフィア全部からの高速で飛ぶ魔力弾が炸裂した。 土煙がもうもうと立ち上る。 大丈夫なのだろうか、フェイトさん・・・・・・。 「こんな感じにね?」 後ろから聞こえたフェイトさんの声に驚いて振り向くと、フェイトさんがいる。 どうしてとばかりに土煙のほうを見れば、ちょうど土煙がはれたところ。 地面にはえぐりとられたような跡が、フェイトさんがさっきいた場所から 今いる場所までつけられている。 「す、すごっ・・・・・・。」 僕はそれだけしか口にできなかった。 「今のも、誰もがやればできる基礎アクションを早回しにしてるだけなんだよ。」 「「はい。」」 「スピードがあがればあがるほど勘やセンスに頼って動くのは危ないの。」 そう言って屈んで視線を僕達にあわせてくれるフェイトさん。 「『ガードウイング』のエリオはどの位置からでも攻撃やサポートができるように。 『フルバック』のキャロは素早く動いて仲間の支援をしてあげられるように 確実で有効な回避アクションの基礎、しっかり覚えていこう。」 「「はい!!」」 がんばろう。 ただ、まっすぐにそれだけを僕は考えていた。 「うん。いいよ、ティアナ。その調子・・・・・・。」 「はい!!」 なのはさんの言葉に返事を返しながら、周囲から縦横無尽に襲い掛かってくる アクセルシューターを休まずシュートバレットで迎撃し続ける。 どれだけの時間この作業を続けただろうか。 既に足元には魔力カートリッジのマガジンが大量にばら撒かれている。 「ティアナみたいな精密射撃型はいちいち避けたり受けたりしていたんじゃ 仕事ができないからね。」 「Ballet, Left V, Right RF」 「Alert.」 なのはさんの言葉を聞き流すような感じでクロスミラージュに次の弾を指示。 指示内容『次弾装填、左ヴァリアブルシュート(誘導弾)、右ラピットファイア(連射)』。 告げるのとほぼ同時にクロスミラージュからの警告が響く。 背後から飛んでくるアクセルシューターに気がついた。 反射的に右に跳んで転がるが、転がった先へ先へと次々に魔力弾が着弾しては炸裂する。 「ほら、そうやって動いちゃうと後が続かない!!」 なのはさんの厳しい言葉がとんでくる。 叱責と同時に放たれるのは誘導弾と高速弾が1発ずつ正面から。 「Ballet V and RF.」 回避前に告げた指示がクロスミラージュに受諾される。 私は左のクロスミラージュからヴァリアブルシュートを放つ。 なのはさんの赤い誘導弾をあたしの撃った魔力弾が追いかけていく。 そのまま間を置かないで右のクロスミラージュからのシュートバレットで高速弾を迎撃。 「そう、それ!!足は止めて視野は広く。射撃型の真髄は?」 「あらゆる相手に正確な弾丸をセレクトして命中させる。判断速度と命中精度!!」 なのはさんの問いに一息で答えながら、右のクロスミラージュを3連射して迎撃。 続けて先ほど撃ったヴァリアブルシュートが迎撃を終えていない赤の魔力弾に 狙いを定めて撃つ。 その間も警戒は怠らず視界は動かさず手も止めず、左のクロスミラージュに 新たな魔力カートリッジを装填。 「Reload.」 「チームの中央に立って、誰よりも早く中・長距離を制す。 それがわたしやティアナのポジション、『センターガード』の役目だよ。」 「はい。」 クロスミラージュに魔力カートリッジの装填受諾を確認。 なのはさんの言葉に耳を傾け、反射のように返事をしながら 右のクロスミラージュを連射し続ける。 短い返事を返すのがやっとでまともな会話している余裕なんてない。 きつい。 これが個人スキルの訓練……。 「揃いも揃って・・・・・・。戦いをお遊戯と勘違いしているのか?」 「判断材料が少ないため回答不能。」 「アルファは今の状態をどう思う?」 「ファジーな質問にはお答えしかねます。」 「言い換えよう。多少ひよっこどもと隊長どのに横から手を出すのはどうか?」 「マスターに『面倒』が増えてもよろしいのならば、私はマスターに従います。」 「ノーペナルティで手を出せないものかな。」 「可能性は極小ですが、向こう側より攻撃をうけた場合および敵対した場合があります。 ただし、前者の場合は殺傷できず、殺傷に及んだ場合『面倒』がさらに増えます。」 「『面倒』なことだ。」 ドラム缶のアルファを押しながら、視界に奔る情報を眺め俺はそう呟いていた。 「いやぁ、やってますなぁ。」 ひよっこ達の様子をウィンドウ越しにリアルタイムで観察しながら 俺は隣に立つシグナム姐さんに同意を求めるようにそう呟く。 「初出動がいい刺激になったようだな。」 「いいっすねぇ。若い連中は……。」 「若いだけ会って成長も早い。まだしばらくの間は危なっかしいだろうがな。」 「そうっすねぇ。シグナム姐さんは参加しないんで?」 「私は古い騎士だからな。スバルやエリオのようにミッド式と混ざった近代ベルカ式の 使い手とは勝手も違うし、剣を振るうしかない私がバックス型のティアナやキャロに 教えることもないしな。ま、それ以前に私は人にモノを教えるという柄ではない。」 そう言ってシグナム姐さんが苦笑する。 傍目には単なる美人とはいえ姐さんは古代ベルカの騎士、ヴォルケンリッター。 どれほどの戦闘経験があるのか計り知れない。 「戦法など届く距離まで近づいて斬れぐらいしか言えん。」 「へっへへへへ……。すげえ奥義ではあるんすけど……。 たしかに連中にはちいっと早いっすね。」 斬れぐらい『しか』とさらりといえる辺り、年季が入っている。 さすがはヴォルケンリッターといわざるをえない。 ひよっこどもがそんな言葉を言えるようになるのはいったいどれほど後だろうか。 もっとも、よほどの才能に恵まれたとしてもほとんどのやつは口にできないだろう。 ふと、思い出したかのように、シグナム姐さんが傍らのウィンドウを指差して口を開く。 「そういえばあの男、訓練にも参加せずさっきからあそこでなにをやっている?」 「ああ、凄腕さんっすね。わからないっすよ。 訓練のたびにああやって1人、時間いっぱいドラム缶押ししてるんすから。」 「なにか意味があるのか?」 「わかんないっす。今度聞くついでにやらせてもらったらどうっすか?」 「ふむ・・・・・・良い精神修練になりそうだし面白そうだからな。そうさせてもらおう。」 「いいっ!?まじっすか!?」 冗談で言ったつもりだったのに……。 極めた人っていうのはやっぱなにかが突き抜けてるもんなのかねぇ。 笛の音が訓練場に鳴り響く。 「はい。それじゃ午前の訓練終了!!」 なのはさんがそう言ってくれたけど、土塗れのあたし達4人は返事もろくに返せず 息も絶え絶えに座り込む。 「はい、おつかれ。個別スキルに入るとちょっときついでしょう。」 「ちょっと……と、いうか……。」 「その……かなり……。」 なのはさんが微笑みながら声をかけてくれたけど、ティアとエリオが 必死で呼吸を整えながら、途切れ途切れに返事を返す。 ちょっとどころじゃないくらいきついです、なのはさん。 「フェイト隊長は忙しいからそうしょっちゅう付き合えねぇけど、 あたしは当分お前らに付き合ってやるからな。」 「あー、ありがとう……ございます。」 グラーフアイゼンを構えながらそう告げるヴィータ副隊長の言葉に あたしは笑って返事ができただろうか。 たぶん引き攣っていたと思う。 「それから、ライトニングの2人は特にだけど、スターズの2人もまだまだ体が成長している最中なんだから、くれぐれも無茶はしないように。」 「「「「はい!!」」」」 「うん、それじゃお昼にしようか。」 「お遊戯お疲れ様、隊長様方。」 フェイト隊長の言葉にあたし達が返事を返し、なのはさんがご飯にしようと言った直後、 そんな声が響いた。 左に視線を向けるといつの間にか現れたはんたさんの姿。 いつのまに……。 「お前か、なのはを半殺しにしたとかいうやつは。今までどこに・・・・・・いや、 それ以前に訓練サボっておいていきなりお遊戯とはどういうつもりだ、お前!!」 なのはさんとフェイト隊長ははんたさんになにを言われたか分かっていないのだろうか?逆にヴィータ副隊長は挑みかかるように言い返す。 「たかが陸曹兼空曹にすぎない俺の口からはとても・・・。」 「いいから言えっつってんだよ!!」 そう叫びながらヴィータ副隊長がグラーフアイゼンを地面にたたきつけると、 叩きつけられた地面が砕け弾ける。 ヴィータ副隊長怖い。 けれど、はんたさんのほうも怖い。 リニアのときのはんたさん、後から戦闘記録を見せてもらって確認までしたけれど、 『危ない』でも『巻き込む』でもなく『殺す』と明確に口にしてあたし達を前の車両へ 追い立てていた。 訓練生や街中でふざけ半分に殺すとか口にする人がいるけど、そんな優しいものじゃない。 何度も見直すたびに異常さが際立つ。 まるでガジェットドローンを倒すついでにあたし達も殺そうと思っているかのような。 まさかそんなことないよね。 同じ六課のメンバーなんだし。 その考えがどうしても離れなかったのだけど・・・・・・。 そして今、目の前の光景を見るとやっぱり間違いって考えるほうが間違いに思えてくる。 張り詰め始めた空気を敏感に察した身体が無意識に強張り始める。 隣のティアは蒼白だし、エリオとキャロも震えている。 あ、そういえばエリオとキャロの2人、初任務のとき凄い言葉言われてたもんね。 こんな状態でそんなことを考えていられるあたしは余裕があるのかな。 「それでは遠慮なく分かりやすく一言で言わせていただこうか。 ようするに・・・・・・揃いも揃って馬鹿揃いか、この馬鹿ども。」 「な、な、な・・・・・・。」 さらっと物凄いこと言われた。 馬鹿?ねぇ、馬鹿って言われた?ねぇ、馬鹿って言われたの? みんなの様子を見ていられた余裕(?)の状態から一転して頭がパニックを起こし始める。 あたし達の前にいたヴィータ副隊長は、怒りのあまり口が動かないみたいで 『な』を言い続けて震えているし、なのはさんとフェイト隊長は顔色も変えずに 警戒(でいいのかな?)しているようだ。 はんたさんの言葉が続く。 「フロントアタッカー、フルバック、ガードウイング、センターガードとか言ったか。 突っ込むだけでろくに遠距離攻撃も前線構築もできないひよっこフロントアタッカー!! 単身でまともに戦えないひよっこフルバック!! 身体に見合わない装備抱えた速さしか取り柄が無いひよっこガードウイング!! 無能にもほどがあるひよっこセンターガード!! それを指摘しないで小手先に走る隊長格3人!!馬鹿と言ってなにが悪い。」 「上等じゃねぇか。アイゼン!!シュワルベ・・・・・・。」 ヴィータ副隊長がグラーフアイゼンに指示を言い終えるより早く、響く銃声が7発。 あたしは突然襲った額の激痛になにが起こったかさえわからない。 「3人死亡確定。エリオ、疲れているところ油断しないでストラーダを構えて 後ろに飛びのいた判断力と行動力は素晴らしい、◎をあげよう。 キャロとペット君も疲れているだろうに横っ飛びしたのは悪くない、○をあげよう。 ただ体勢が崩れて後が続かなくなることを忘れないように。 なのはとレイジングハート、シールドを展開した判断力と速度と行動予測◎。 フェイトとバルディッシュ、回避運動に移りながらバリアジャケットに着替えた判断力◎。 さて、ろくに経験値が蓄積されていないガラクタデバイス所持者で簡単に熱くなる馬鹿とぼけっとしている馬鹿と呆然としている馬鹿の死亡確定馬鹿面3人組み、御反論は?」 額の痛みとはんたさんの言葉になにが起こったのか今更気がついた。 はんたさんの両手に構えられた2挺のハンドガンにも。 そしてさっきまであたし達の左にいたはずのはんたさんが、 右にいてあたし達に背中を向けていることにも・・・・・・。 ティアはなにが起こったかさえ理解できていないみたいに呆然としちゃっている。 逆に、なのはさんとフェイト隊長は油断せずにバリアジャケットを展開していて、 まさに一触即発というやつだ。 ああ、またあのときの再来と思い身体が震え始めた・・・・・・のだけど、 その空気は背中を向けたままのはんたさんがハンドガンを下げたまま 口を開いたことで終わりを告げる。 「高町なのは一等空尉どの、俺が言いたいのはそんなところだ。 もちろんあなたにはあなたの育成計画があるのだろうが、 あんまりにもあんまりだったのでヴィータ副隊長どのが『言ってもいい』と ほざいたから遠慮なく言わせてもらった。 ああ、そうか。子供脅してガム巻き上げるようなガキ対策の訓練プログラムなのか。 それなら悪いことをしました。すいません。」 「てっめぇーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」 機械的に言葉を話しているような背中を向けたままのはんたさんに 起き上がったヴィータ副隊長がグラーフアイゼンを振りかぶって殴りかかる。 はんたさんは・・・・・・シールドさえ張らないなんて!! いくら非殺傷設定があるからってこのままじゃ・・・・・・・。 大変なことになるって思ったあたしは目の前の光景に目を奪われた。 振り下ろされたグラーフアイゼン。 はんたさんは振り返ろうともせず、自然に滑らかに身体を軽く横にずらす。 そのままグラーフアイゼンを右手の銃杷でいなす。 そして身体を回転させて左手の銃把で ヴィータ副隊長の左頬(正しくは左顎だったらしい)を殴り飛ばした。 この間、いったい何秒だったんだろう? って、ええ!? ヴィータ副隊長のシールド壊れてるよ!? 魔力の補助や力の差とかあるにしても人がこんなに空を跳ぶってどれだけ力強いのさ!? 宙を舞ったヴィータ副隊長が大地に叩きつけられ地を滑る。 「アルファ、絶妙なサディスト設定をありがとう。」 「問題ありません。マスター。敗北の可能性は0。想定されるイレギュラー全てに対し 事前に対応済みです。左手による攻撃の際、射程の関係から95%以上の確率で 肘を使うことによる殺傷およびUSP連射による追撃における蓄積ダメージが 唯一の不安要素でした。」 なんかすごくヤバい発言しなかった?はんださんのデバイス。 でも、強くなりたいって格闘訓練を続けたから感じる。 はんたさんのあれは、何回も何回も繰り返し続けた動きのそれだ。 かけらほどの淀みさえ感じられない洗練された動き。 それに、あんなにあっさりヴィータ副隊長がやられるなんて・・・・・・。 目の前の光景が信じられなくて無意識のうちに右の頬を抓っていた。 「それで殺り合うのかどうか、さっさと決めてくれないか?」 はんたさんの言葉になのはさん達がバリアジャケットを解除していく。 はんたさんが舌打ちしたような気がしたけど気のせい? 転がったままピクリとも動かないヴィータ副隊長。 呆然として座り込んだまま動けないティア。 地面に横になったままのキャロ。 ストラーダを構えたままのエリオ。 視界にそんな皆の姿を捉えながら頭の片隅では別のことを考えていた。 六課の強さの序列、いったいどうなっているんだろう? 「電撃でたたき起こすか?」 昏倒したヴィータ副隊長をどうやって運ぶか話しているとき、 当たり前のようにそう尋ねたはんたが怖くてしかたがない。 何ボルトあるか知らないスタンガンにデバイスを変形させて物凄い放電させてるし。 結局、ヴィータ副隊長は昏倒したままスバルの背中に背負われている。 何よりも強烈に印象に残ってしまったのは初対面のときだった。 あたしの魔力弾が戦いの引き金となってしまったとき。 今でもあのミスが塞がらない傷口のように疼くような痛みを心に与える。 なのはさんが次の日あたし達の前に現れたときはそれこそスバルと一緒に幽霊だと 大騒ぎしたくらい、徹底的に冷酷に機械的になのはさんを攻撃 (処理って言うほうが正しいかも)してなのはさんがやられてしまったのを失う前の 意識がかろうじて覚えている。 そのせいか六課のメンバーと紹介された今でもこの男『はんた』に近寄られると 無意識に体が強張ってしまう。 そういえばスバルが初任務の映像を飽きもせずに見直していたけど、 なにか面白いことあったっけ? 相手に先制されちゃったのと、スバルがリニアの天井壊しちゃったのとエリオとキャロが 少し危なかった部分とはんたがリニアを片っ端から穴だらけにしたぐらいしか あたしとしては注意点がなかったように思うのだけど。 それよりもはんた、あれだけの射撃魔法(砲撃魔法か?)を使えるのだったら 最初から援護してくれればいいのにとか思ったし・・・・・・。 「なるほど、スバルさんのお父さんとお姉さんも陸士部隊の方なんですね。」 「うん。八神部隊長も、一時期、父さんの部隊で研究していたんだって。」 キャロの言葉に返事を返しながら、あたしは黙々と目の前の山盛りパスタと格闘する。 訓練の後はお腹がすいてしかたがない。 それにしても訓練の後のご飯ってどうしてこんなにおいしいんだろうね。 「へぇー。」 「しかし、うちの部隊って関係者繋がり多いですよね。隊長たちも幼馴染同士なんでしたっけ?」 「そうだよ。なのはさんとはやて部隊長は同じ世界出身で、フェイトさんも子供のころはその世界で暮らしていたとか……。」 驚きの声を上げるキャロ。 思い出したように疑問を投げかけるティアにシャーリーさんがパンを頬張りつつ 答えてくれる。 「ええっと、たしか管理外世界の97番。」 「そうだよ。」 「97番ってうちのお父さんのご先祖様がいた世界なんだよね。」 エリオの言葉に、山盛りのパスタを手皿に取りながら答える。 あ、エリオのお皿も空っぽだ。 とってあげるとしよう。 子供はたくさん食べて大きくならないとね。 あたしもまだなのはさん達に比べれば子供だけど……。 「そうなんですか?」 「うん。」 「そういえば、名前の響きなんかなんとなく似ていますよね。なのはさん達と……。」 「そっちの世界にはあたしもお父さんも行ったことないし、よくわかんないんだけどね。 あれ?そういえばエリオってどこ出身だっけ?」 「あ、僕は本局育ちなんで……。」 エリオの言葉にティアのパスタを食べる手が止まる。 なんでだろう? 「管理局本局?住宅エリアってこと?」 「本局の特別保護施設育ちなんです。8歳までそこにいました。」 そこまで言われてまずいことを聞いてしまったことに気がついた。 思念通信でティアが怒っている。 あたしはどうしようといわんばかりの表情だっただろう。 「あ、あの、気にしないでください。やさしくしてもらってましたし、 ぜんぜん普通に幸せに暮らしてましたので。」 「あ、そうそう。そのころからフェイトさんがずっとエリオの保護責任者なんだよね。」 「はい!!もう物心ついたときからいろいろよくしてもらって、魔法も僕が勉強し始めてからは時々教えてもらっていて、本当にいつもやさしくしてくれて、僕は今もフェイトさんに育ててもらっているって思ってます。」 年下の子に気を使わせてしまった。 シャーリーさんが話の向きを変えてくれて助かったけど。 今後気をつけよう。 エリオがフェイト隊長との出会い話を続けながら、 どこか思い出すかのような遠い目をし始めた。 「フェイトさん、子供のころに家庭の事情でちょっとだけ寂しい思いをしたことが あるって……。だから寂しい子供や悲しい子供がほっとけないんだそうです。 自分もやさしくしてくれる暖かい手に救ってもらったから……って。」 「羨ましい考え方だな。」 「「「「「えっ!?」」」」」 あたし達みんなが驚く。 空耳じゃない? 今の言葉っていったい誰の……。 周囲を見回したけど、結局誰の言葉かわからずじまいだった。 他の席の誰かの声がたまたまタイミングよくはまっただけだろうって……。 どうして気がつけなかったのだろう。 あたしの後ろの席ではんたさんがパスタに種入りマスタードを丸々1瓶かけていた。 夜の訓練所に笛の音が響き渡る。 「はーい。夜の訓練おしまい。」 「「「「ありがとうございましたー。」」」」 フォワード4人にそう言ってあげたけど、みんなは掠れるように答えるのが精一杯な様子で傍目にも疲れきっているのがわかった。 ティアナとキャロは座り込んじゃってるし、エリオもストラーダを杖にしてるし、 スバルは他の3人よりは大丈夫そうとはいえ、それでも膝に手をついている。 昔のあたしもこんなだったのかな。 「「「「おつかれさまでしたー。」」」」 「はーい。」 「ちゃんと寝ろよー。」 「「「「はい。」」」」 重い体を引きずるように隊舎へと帰っていくフォワード4人に、 ヴィータちゃんが声をかけている。 わたしは端末を操作しながらヴィータちゃんの様子を伺うが、 その表情はどこか不満がありそうな感じだ。 「しかし、お前、本当に朝から晩まで連中に付きっ切りだよな。疲れるだろ。」 「わたしは機動六課の戦技教官だもん。当然だよ。」 「あと、あれだ。なんつうか、もっと厳しくしねぇでいいのか?あたしらが昔受けた新任教育なんて歩き方から挨拶までもうなんでもかんでも厳しく言われてたじゃねぇか。 物凄ぇ癪だけど、あのはんたとかいうやつの言葉も一理あるかもって思っちまった。」 「戦技教導隊のコーチングってどこもだいたいこんな感じだよ。細かいことで叱ったり 怒鳴りつけたりしている暇があったら、模擬戦で徹底的にきっちり打ちのめしてあげる ほうが教えられる側は学ぶことが多いって。教導隊ではよく言われてるしね。」 「おっかねぇな。おい。」 ヴィータちゃんがどこか引き攣ったような声でそう言ってきた。 当たり前のことを言っているだけだと思うけど。 端末の操作が終わり、訓練場の建物が消えていく。 「わたし達がするのはまっさらな新人を育てる教育をするのじゃなくて、 強くなりたいって意思と熱意を持った魔導師達に今よりハイレベルの戦闘技術を 教えて導いていく。戦技教導だから。」 「まぁ、なんにせよ大変だよな。教官ってのも。」 「でもヴィータちゃんはちゃんとできてるよ。立派立派。」 「撫でるなー!!なんだよー!!」 そう言いながらヴィータちゃんの頭を撫でてあげると 子供扱いするなって言わんばかりに叫ぶヴィータちゃん。 でも、ヴィータちゃん、顔が笑っていたら嫌がってることにならないよ。 「今日の戦闘データ、また分類してデータルームに送っておいてくれるかな。」 「All right.」 「うん、ありがとうね。レイジングハート。」 六課の隊舎への帰り道。 なのはのやつがレイジングハートにそんな声をかけている。 連中は自分達がどんだけ幸せなか気づくまで結構時間が掛かるだろうな。 自分勝手に戦っているときも、いつだってなのはに守られている幸せに・・・・・・。 あたしはスターズの副隊長だからな。お前のことはあたしが守ってやる。 「うん?なに?」 「なんでもねぇよ!!行くぞ!!なのは。」 「うん。ヴィータちゃん。」 あたしの心を読んだみたいなタイミングでなのはが振り返るからまじで焦った。 ごまかすみたいにあたしはそう言ったけど・・・・・・。 どんどん歩みを進めていくあたしの横を笑いながらなのはがついてくる。 「そういえばヴィータちゃんもわたしと同じではんた君に負けちゃった組だね。」 「うるせー!!あれは不意打ちだったからだ。油断してなきゃ負けるはずがねー!! いつかそのうち絶対にぶちのめしてやるんだからなー!!」 「それは楽しみなことだな。しかし、『油断』なんて言うとは冗談のセンスもあったんだな。」 俺は独りでそう呟く。 誰もいなくなった夜の訓練場。 シミュレータに登録された環境、この日は廃墟すらない舗装路、を呼び出し歩みを進めた。 レーダーレンジの内側で面白い会話をしていたからアルファに拾わせてみたが。 是非ともそう願いたいものだ。 そうでないとあまりにも退屈すぎる。 今から始めるのはアルファが視界にデータを送ることができるという時点で 思いついた訓練方法。 毎日のように繰り返し続けているあまりに虚しい戦いだが、 ないよりはマシだと言い聞かせて繰り返し続けている。 「マスター。今日の相手はいかがしましょうか?」 「ニュービートラ200機、殲滅した端からエンドレスで増援。 戦闘論理はサーチアンドデストロイ、イレギュラーあり、ミサイル弾数無制限で。 こちらの装備は・・・・・・パイルバンカー限定としよう。アルファ、セットアップ。」 「了解しました。バリアジャケット展開。それでは戦闘シミュレータ開始します。 シミュレータは2時間継続されますが、中断する際にはお申し付けください。」 周囲に現れたよう視界奔るデータで作られた黄色い丸っこい車の群れ。 そういえば、このミッドチルダでもありそうなデザインだな。 ただ、致命的なまでに違うのは、ルーフ部分にごっそりとミサイルがついていること。 ハンターとして駆け出しのときに戦った1500Gの賞金首。 あのころは戦車があったから、タイヤの機動力を殺せる砂漠で戦ったから、 そしてなにより相手がたったの1匹しかいなかったから倒せたと思っている。 もしも舗装路で無限の増援があれば楽しい戦いができるだろうと思った殺し相手。 周囲からマッハ1で一斉にミサイルが飛び交うのが開始の合図だった。 しかし、なのは達もこのぐらいの訓練をやらせればいいだろうに。 疲れたなんて座り込んだり歩いたりできるなら経験としてたいしたものではないのだから。 ヴィータはシールド系、バリア系、フィールド系とか言っていたか。 全てが潰されるこんな飽和攻撃を前にどうするというのだろう。 フェイトも基本ステップとか言っていたが、飛びのくくらいでこれが避けられるなら ぜひともやってみせてほしいものだ。 動きを止めないで狙わせないという部分には同意だが。 そしてなのは、これを全部撃ち落せるものなら落としてみせろ。 敵を蹴散らしたほうが早いなんていって相手を仕留めに掛かるかもしれないが、 敵の増援が無限だったらどうする。 殲滅戦と消耗戦の区別どころか意味さえ知らないのではないかと思えてならない。 そんな思考を傍らに、蹴り飛ばしたニュービートラが視界を奔るデータ上で宙を舞い、 背中から轢き殺しにかかったニュービートラを宙を舞ってかわしながら パイルバンカーを突き立てる。 ご丁寧にボロキレ、じゃなくてバリアジャケット、にアルファが干渉することで、 本来感じるはずの負荷まで再現してくれる徹底振り。 さて、地面から足を離してしまうのは自殺行為。 それでも本当にどうしようもないときはやらざるをえない回避行動。 もっとも、着地が狙われるのは目に見えている。 いくら経験を積もうとも、決して0にできない着地硬直時間があるのだから。 当然のように着地に合わせてとんできたミサイルの群れ。 しかし、今はこのボロキレ、じゃなくってバリアジャケット、のおかげで 空中で回避動作が行える。 着弾前に文字通り空を走り抜け、別のニュービートラにパイルバンカーをつきたてた。 ああ、しまった。 立て続けに襲ってくるミサイルの雨を回避しながら次から次へとニュービートラを 殴り、蹴り飛ばし、投げ飛ばし、パイルバンカーでぶち抜きつつ思った。 大口径の機銃をぶちまけてアクセルターンを連発してくる、 あの気高き野バス達と踊ったほうが面白かったかもしれない。 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanoharow/pages/681.html
魔法少女リリカルなのはBR Stage03 紡がれる絆 ◆19OIuwPQTE /07「死闘」 黒い戦斧を振り上げ、迫り来る黒い短剣を弾く。 それだけでバルディッシュを持つ手が痺れ、取り落としそうになる。 それをどうにか堪え、続く二撃目をシールドで防ぐ。 そのまま一旦距離をとり、再び斬りかかる。 ハッキリ言って、僕は戦いには向いてない。 僕が得意とする魔法は、防御や結界などの支援魔法ばかり。逆に、攻撃魔法全 般には全く適正がなかった。 そんな僕が金居を相手にして、今なお接近戦を挑んでいる理由は一つだけ。 金居には遠距離攻撃が効かない。 それは射撃魔法であろうが、砲撃魔法であろうが変わりない。そのどちらもが 金居のバリアに弾かれてしまう。 おそらく、ゼロ距離からならバリアも発生しないだろう。だが、それでは接近 戦を行うのと変わりがない。 つまり僕の目論見は、前提から崩れていたのだ。 どんなになのはが強くても、金居に遠距離攻撃が効かない以上、“砲撃魔導師” であるなのはの攻撃は、そのほとんどが無意味。必然的に接近戦をしなければ ならなくなる。 そして今のなのはに、そんな危険を冒させる訳にはいかない。 倒すのなら、金居を先に倒すべきだったのだ。 だけど後悔している暇はない。 今僕に出来る事は一つ。 限界まで時間を稼ぎ、崩落によって出来るだろう空間の穴に、金居を叩き落と す事だ。 そうすれば金居は、少なくともこの会場には戻ってこれなくなる。 問題は、それまで僕が生きていられるかだ。 現在僕の有利な点は一つ。相手に姿が見えないという事だけだ。 けど金居は、その見えない僕に容易に対応している。 おそらく地面を踏んだ時の足跡とか、バルディッシュを振るった時の風斬り音 とか、あるいは僕自身の気配だとか。 そういった些細な物から判断しているんだろう。 もしこれで僕の姿が見えていたのなら、きっと僕は既に死んでいる。 つまり一瞬でも油断すれば、その場で死ぬ。 けど、他に手段はない。 緊張で呼吸が乱れる。 疲労から足が縺れそうになる。 あまりの実力差に心が挫けそうになる。 その全てを堪えて、眼前の敵へと挑む。 その時だった。 「もう貴様の時間稼ぎにつき合う気は無い!」 「ッ! バルディッシュ!」 『Sonic Move.』 金居が地面を攻撃し、土煙が舞う。 すぐにその意図を察し、離脱する。 だが僅かに遅く、左腕に熱が奔る。 『大丈夫ですか?』 「大丈夫。深くはない。 それよりも、問題は」 金居を中心に土煙が舞っている。 そこには、僕が移動した跡がはっきり残されていた。 これではステルスの意味がない。 「これで終りだ。無駄な抵抗は止めて、大人しく死ね」 「っ…………!」 そこに僕が攻め入れば、土煙がまた僕の軌跡を残すだろう。 そして僕の居場所を完全に把握できる金居は、容易に僕を殺せる。 かと言って逃げだせば、あいつはなのは達を殺しに行くだろう。 それだけはさせる訳にはいかない。 だから逃げる事は絶対に出来ない。 故にこれで詰み。 戦う事も、逃げる事も封じられた僕は、ただ死を待つしかない。 …………だからと言って、諦める事だけは出来ない! 「ッ! オォォォォオオオオオオッッッッ!!!!!」 せめて一矢報いようと、渾身の力を籠めてバルディッシュを振りかぶる。 ステルスに使っていた魔力さえ攻撃に回す。 金居はそれを当然の様に受け止める。 ブリッツアクションで四肢の動きを加速し、怒涛の連続攻撃を叩きこむ。 だがその全てを、金居は防ぎ続けている。 一度でも守勢に回ればそこで負ける。 息つく間も惜しんで攻め続ける。 その中に僅かな隙を見つけた。 残された体力も少ない。 その僅かな隙に、渾身の力でバルディッシュを叩きこむ。 だがそれを、金居は深くしゃがみ込んで躱した。 それが作られた隙であると理解する間もない。 金居はしゃがんだまま、まま背中が見える程に体を捻じり、黒い短剣を斬り上 げるように降り抜ぬく。 咄嗟に回避しながらシールドを張る。 だが―――― 「ジェェアァァァアアアアッッッッ!!!!!」 「――――ッ!!」 敵の渾身の一撃の前に、僕のシールドは容易く切裂かれた。 そのまま上下からの挟み込む様な一撃。 それを見て僕は、ここで死ぬんだと理解した。 「――――ごめん、なのは」 そう諦めの言葉を残す――――直前。 「セイクリッド、クラスター!」 僕と金居の周囲に、複数の小さな魔力弾が穿たれ、爆散した。 金居はその攻撃に驚き動きを止め、土煙が相手の姿を隠せそうなほどに舞い上 がる。 その隙にどうにか距離を取り、安全圏まで離脱する。 目の前に、今の攻撃を行った人物であろう、どこか見覚えのある少女が降り立 った。 この少女は一体誰なのかと考えて、そもそもこの会場には、残り四人の人物し かあり得ない事に思い至る。 「君は……一体……?」 「大丈夫? ユーノさん」 そのどこか聞き覚えのある声を聞いて、少女の格好にも見覚えがある事に気づ く。 なのはと同じ結い方の金色の髪。似通った形状のバリアジャケット。 そして、緑と赤のオッドアイ。 「まさか、ヴィヴィオ!?」 「うん。そうだよ、ユーノさん」 改めてその顔を確かめれば、確かに面影が色濃く残っている。 それに今更ながらに気付いた事だが、彼女はその手足にマッハキャリバーとケ リュケイオンを装備している。 これで気づかない方がおかしい。 「でもその姿は、一体……」 「それは後で。今はあの人の相手をしなきゃ」 「――――ッ! そうだね、話はあいつを倒してからだ」 ヴィヴィオの視線の先では、晴れていく土煙の中に金居の姿が見えている。 あいつの表情は判らないが、その気配が険呑としている事は感じ取れる。 「ヴィヴィオ。君は前衛と後衛、どっち?」 「前衛だよ」 「それならバルディッシュを渡す。代わりにケリュケイオンを渡して。 後方支援は僕の領分だ」 「うん、わかった。 バルディッシュ、力を貸してくれる?」 『Of course.』 バルディッシュと交換したケリュケイオンを装着する。 ヴィヴィオも慣れたような手付きでバルディッシュを構える。 金居との距離は十メートルもない。 「気をつけて。あいつに遠距離攻撃は効かない。 射撃にしろ、砲撃にしろ。撃つならゼロ距離からだ」 「わかった。行くよ、バルディッシュ!」 『Yes sir. Haken Form.』 先制はヴィヴィオ。 バルディッシュがその姿を光刃の大鎌へと変化させ、僕とは比べ物にならない 威力の力で、金居に向けて一撃する。 僕は攻撃対象にならないよう、再びステルスで姿を隠す。 対する金居は、ヴィヴィオの一撃を金色の短剣で防ぎ、もう一つの短剣でヴィヴィオへと攻撃する。 だがそれは、突如出現した虹色の障壁に阻まれた。 「今だ! ケリュケイオン!」 『Boost Up. Acceleration.』 「もう一つ!」 『Boost Up. Strike Power.』 その隙にヴィヴィオにブーストを掛ける。 それによりバルディッシュの光刃は、通常よりもさらに大きな刃となっていた。 大鎌による攻撃の特徴に、防御の難しさがある。 生半可な防ぎ方では、肝心の刃が回り込むように届いてしまうのだ。 ましてや、ブーストにより巨大化した今の光刃なら尚更だ。 金居とてそれは百も承知している。 大鎌を防ぐうえで最適な、面での防御手段を持たない金居は、ヴィヴィオの攻撃を全て回避するか、受け流している。 「ハアッ!」 「チィッ!」 ヴィヴィオが金居へと攻撃すれば、金居はそれを躱す。 その隙にもう一つの短剣で斬りかかれば、障壁に阻まれ距離を取られる。 攻撃の速さはヴィヴィオが。手数の多さは金居が強く。一撃の威力はほぼ同等。 双剣と大鎌がぶつかり合う度に、激しい衝撃が大気を揺るがす。 ―――それはもはや、僕では届かない領域の戦いだった。 /08「受け継がれるもの」 光刃の大鎌を振り抜く。 金居はそれをうまく躱し、隙だらけとなっている私の懐に斬りこんでくる。 だがそれは、私の体から発生する虹色の障壁――聖王の鎧によって防がれる。 その隙にバルディッシュを振り抜き、僅かに距離を取らせる。 そこにもう一閃。今度は刃を引っ掛けるように旋回させる。 金居はそれを双剣で受ける。 だがそのまま堪えるのではなく、体と双剣を逸らして受け流す。 マッハキャリバーで急速後退。 反撃を受ける前に距離を取る。 金居の攻撃は、その大半が魔力の障壁――聖王の鎧によって防がれている。 だが、それに安心する事は出来ない。 ゆりかごに直結していない今、聖王の鎧の防御力は以前に比べて数段劣る。 ある程度力を籠められた攻撃ならば、その筋力と相まってバリアを抜いてくる 事もあるだろう。 だから、それを可能とする程の隙を与える訳にはいかない。 故に取りうる戦法はヒット ウェイ。 ソニックムーブとマッハキャリバーによる一撃離脱―――ではない。 その姿から、金居とキングはおそらく同じ存在だろう。 つまり、なのはママから伝え聞いたその回復力も同じである可能性がある。 現に、私達が金居から逃げ出した時に、金居はユーノさんによる砲撃の直撃を 受けたはずなのに、大してダメージを受けた様子がなかった。 ならば金居を倒すには、その回復力を超えた一撃が必要と言う事。 つまりこの戦いは、先に必殺の一撃を決めた者が勝者となるのだ。 バルディッシュの柄を短く持ち、小さく半回転する様に刻む。 ブーストによって強化された魔力刃は、もはやそれだけで脅威だ。 その巨大な刃は、双剣を交差して受け止めた金居を僅かに後方へと弾く。 そこにバルディッシュを槍の如く突き出す。 金居は状態を逸らして躱し、そのままバク転で距離を取る。 金居の視線が私から外れた僅かな隙に、その背後へと高速移動する。 そのままバルディッシュを一際大きく振りかぶり、 『Haken Slash.』 「ッ――――!?」 力の限りバルディッシュを振り抜く。 強化された大鎌の光刃は、受け止めた所でその守りごと切り裂くだろう。 金居はそれを深くしゃがみ込むことで躱す。 私の体は慣性に従い、金居に背を向ける事となる。 それを好機と見た金居が双剣を振り上げ、力を籠める。 聖王の鎧を破るには十分な威力が籠められた双剣が、私へと襲いかかる。 直前、下方からの奇襲があった。 私に必殺の一撃を叩き込まんとした金居に、巨大な刃が襲いかかる。 慣性によって金居に背を向けた私は、魔力刃にマッハキャリバーで更なる遠心 力を与え、その回転方向を制御したのだ。 地面から刃が生えたと錯覚しそうな振り抜き。 金居は辛うじて半身になって避ける。 そこに左手を突き付ける。 「プラズマスマッシャー!」 ゼロ距離から砲撃を叩きこむ。 それにより金居は大きく撃ち飛ばされる。 「バルディッシュ!」 『Zamber Form.』 バルディッシュを大剣へと変化させる。 金居の強さはもう理解している。 故に、敵が体勢を立て直す前に、強大な一撃で打ち倒す。 「撃ち抜け、雷神!」 『Jet Zamber.』 長大化した魔力刃による一閃。 武器の延長と判定されたのか、遠距離攻撃を無効化するバリアは発生せず、その身体を魔力刃が切裂いた。 だが、金居はまだ倒れてはいない。 マッハキャリバーで金居へと接近する。 あれで倒せないのなら、直接その首か心臓を断ち切る。 流石にダメージがあったのか、金居は片膝を突いたまま動かない。 バルディッシュを金居に向けて振り下ろす。 「……俺を……」 「――――っ!」 ガキィン、と音を立てて防がれた。 バルディッシュは交叉された双剣によって受け止められている。 金居が立ち上がる。 双剣はバルディッシュを受け止めたままだ。 その両腕は、見て判る程に力が込められている。 「俺を、舐めるなァァアアアッッッ!!!!」 「なッ――――!!!」 そのあまりの斥力に、バルディッシュを持つ手が跳ね上げられる。 その瞬間バルディッシュが蹴り飛ばされ、さらに足払いを掛けられる。 私の体が崩れた体制のまま宙に浮いた。 「オォオオラァアアッッッッッッ!!!!!!!」 「ッ――――――ガハッ!!!」 顔を掴まれ、一回転。そのまま地面に叩き付けられた。 あまりの衝撃に呼吸が止まり、心臓が不整脈を起こす。 地面からのバウンドでありながら、かなりの高さまで跳ね上げられる。 そこへさらに金居の追撃が入る。 「ジェアァァァアアアアアアッッッッッ―――――!!!!!」 「ッッッ―――――!!!!」 振り上げられた双剣。 そこに膨大な量のエネルギーが集束し、二色の光に輝きだす。 そこから想定される威力に背筋が凍りつく。 「ラウンドシールド!」 『Enchant. Defence Gain.』 反撃も回避も間にあわない。 全魔力を防御に集中させ、少しでもダメージを減らそうと試みる。 そこへさらに、ユーノさんとケリュケイオンによる防御支援も加えられる。 だが――― 「ハアァァァァァ――――――ッッッッッ!!!!!」 「ッガァァアアアッッッ――――――!!!!!」 極限まで高められたその一撃は、それの守りを全て粉砕した。 勢い良く地面に叩きつけられる。 体は何十メートルも転がり、一つの大きな瓦礫に激突した。 その衝撃で瓦礫は崩れ、私の体はそこでようやく止まってくれた。 瓦礫で体を支え、ふらつく頭を手で押さえながら立ち上がる。 その時だった。 パシャリと、水溜りでも踏んだかのような音がした。 周囲からは、どこか鉄のような臭いがする。 それを不思議に思い、足元を見れば、 そこには夥しい量の血溜まりがあった。 僅かに混乱していた頭が漂白され、一気に冷静さを取り戻す。 まるで冷水を頭から被ったかの様に青ざめる。 それ程までに、この光景は衝撃的だった。 この血溜まりは自分の物ではない。 防御が功を奏したのか、私には大出血をするような傷はない。 それに、これがただ一人の人物からの出血だとすれば、 これは既に致死量を超えている。 私は思わず周囲を見渡してしまい、一目で “ソレ”を見つけてしまった。 “ソレ”は両足を潰され、首を切断された、私の知ってる誰かの死体だった。 ホントは、何となく予想していた。 あれほど激しく戦っても、いっこうに姿を現さない二人。 最初に金居から逃げた時の、ユーノさんの言葉。 きっと二人はもう、死んだのだと分かってた。 …………出来れば、知らないままでいたかった。 それが現実逃避だという事も。いつかは絶対に知る事になるのも理解している。 けど、だからと言って、せめてこんな風に死んだなんて知りたくなかった。 心の底から、怒りが沸々と湧き上がるのがわかる。 あいつを許せないという感情が強くなる。 けど――― 『ヴィヴィオ』 「……大丈夫。ちゃんと、頑張れるから」 怒りも悲しみも、憎しみも受け入れる。 どれも大切な私の感情の一つだから。 けど二度と、それに飲まれたりはしない。 なのはママに、強くなるって約束したから。 だから負けない。他の誰かに負けるのはいい。 けど、自分にだけは負けられない―――! 私の戦う理由は、怒りや憎しみじゃなくて、大切な人たちを守るため。 こんな、悲しみしか生まない争いを終わらせるために、戦うんだ。 だからこんな所で、立ち止まってなんかいられない。 スバルの亡骸から、リボルバーナックルとデイバックを受け取る。 彼女がそれらを装備したままだったのは、瓦礫に潰され隠れていたからだろう。 それが、私がぶつかった際に瓦礫が砕け、露出したのだ。 デイバックからもう一つのリボルバーナックルを取り出し、装備する。 サイズは私に最適化されたが、色彩は白系統のまま。 多分、マッハキャリバーがそうしたのだろう。 リボルバーナックルが装備された両拳を打ち鳴らす。 両手首のナックルスピナーが唸りを上げる。 瓦礫に潰されたせいで多少傷が入ってはいたが、使用に問題はないようだ。 「―――行こう、マッハキャリバー。 こんな事を、全部終わらせる為に」 『ええ、行きましょう』 ガチャリと、両手のリボルバーナックルが音を鳴らす。 その音はまるで、反撃を告げる狼煙の様だ。 金居はユーノさんの支援だろう、緑光の鎖に囚われている。 ウィングロードで金居の頭上まで跳び上がる。 スバルのリボルバーナックルのスピナーが高速回転する。 「リボルバー、キャノン!」 「また不意打ちか!」 その渾身の一撃を金居に向けて叩き込む。 それに気付いた金居は渾身の力で鎖を引き千切り、大きく飛び退いて躱す。 交わされた一撃が地面を砕き、大量の粉塵を巻き上げる。 「てやぁぁあ―――!」 『Storm Tooth.』 「チィッ!」 それを煙幕に金居へと追撃し、ギンガのリボルバーナックルで打ち下ろす。 金居はそれを、双剣を交差して受け止めるが、その威力に防御を崩す。 そこへ再び、スバルのリボルバーナックルを打ち上げるように叩き込む。 胴体に直撃を受けた金居は大きく殴り飛ばされるが、空中で体勢を立て直し着 地する。 「貴様。その武器は……」 『そうです。あなたが殺した、スバル・ナカジマとギンガ・ナカジマの武具で す』 「そうか。そう言えばあの女を殺したのは、この辺りだったな」 そのどうでもいいような言い方に、頭に血が上るのがわかる。 それはマッハキャリバーも同じなようだ。 『今なら解る気がします。これが、「怒る」という感情』 「マッハキャリバー……」 その言葉が、酷く尊く、そして悲しいモノの様に感じた。 けど、今は感傷に浸る暇は無い。 金居がスバルやギンガの敵だというのなら、なおの事ここで倒す必要がある。 マッハキャリバーに戦闘準備を告げ、カートリッジをロードする。 「最初から全開で行くよ、マッハキャリバー」 『All right.』 「フルドライブ!」 『Ignition.』 「ギア・エクセリオン!!」 『A.C.S. Standby.』 マッハキャリバーに魔力翼が発生する。 両腕を上げ、前方へと構える。 応じるように、金居も双剣を構える。 『金居。あなたに、最後に一つだけ言っておきます』 「ほう。何だ?」 『―――わたしは、あなたを決して許さない』 その言葉を合図に、金居へと向けて突撃する。 攻撃方法は単純な正面突破。 だが単純であるが故に強力な一撃は、金居の防御を容易く崩す。 続く一撃は回避されるが反撃はない、否、反撃を当てる隙など与えない。 A.C.Sによって強化されたマッハキャリバーの加速は、反撃された所で当たる 前にその射程から逃れる事が出来る。 今の私達に攻撃を当てるには拘束して動きを止めるか、同等かそれ以上の速度 で迫るか、防御か迎撃によるカウンターが条件となる。 だが金居には私達を拘束する術はなく、またそれ程の移動速度もない。 故に金居が取れる手段はカウンターの一つしかない。 「たあッ―――!」 「グウッ―――!」 ナックルダスターにより強化された一撃を、金居は双剣を交差して受け止める。 そこに残ったもう一つの拳を叩き込む。 「リボルバーキャノン―――ッ!?」 「セヤアッ!!」 瞬間、金居がわざと上体の力を抜き、私を加速させる。 A.C.Sによる加速と、リボルバーキャノンの撃ち抜きに合わせて前蹴りを打ち 込まれる。 聖王の鎧による自動防御が発動するが、金居の人外の筋力に私自身の加速も相 まって、その防御は容易く破られた。 その衝撃のよってお互いに弾き合う。 どうにか着地するも、大きくせき込む。 『大丈夫ですか?』 「……どうにか…ね」 インパクトの瞬間なら威力はこちらが上。 だが、金居は基礎能力で勝る。力比べになれば、こちらが不利だ。 「なら、プラズマアーム!」 両腕に稲妻を纏わせる。 それは両腕のリボルバーナックルと相まって、より強力な効力を得る事となる。 おそらく、単純な一撃の威力はこれで互角。 金居へと突撃し、雷撃を纏った拳を打ち抜く。 それに合わせるように、金居が双剣を振りかぶる。 一撃目。ぶつかり合った右拳と黒い短剣が、周囲に衝撃波を起こす。 二撃目。速度で勝る私の左拳が、筋力で勝る金居の金色の短剣に防がれる。 三撃目。お互いの上段蹴りが激突し、一時的に距離が出来る。 四撃目。私のリボルバーキャノンと、金居の双剣による一撃が激突する。 五撃目。ノックバックで距離の開いた金居に突撃し、追撃の一撃を入れる。 六撃目。プラズマアームの電気エネルギーを圧縮し、直接金居へと撃ち込む。 七撃目。先の一撃で体の浮いた金居に、再びリボルバーキャノンを叩き込む。 大きく金居が吹き飛ばされ、瓦礫の山へと突き刺さる。 乱れた息を急いで立て直す。 十秒に満たない攻防で、もう息が上がっている。 魔力の限界はまだ遠い。だが体力の限界が近づいている。 瓦礫の中から金居が姿を現す。 その姿に目に見えるダメージはない。 やはり金居を倒すには必殺の一撃を決める必要がある。 腰を深く落とし、必殺の一撃に神経を集中させる。 こちらの覚悟を見てとってか、金居が双剣に力を籠め始める。 即座に金居に向けて突撃する。 金居の全力での一撃は驚異的だ。 完全に力を溜めきる前に、必殺の一撃を叩き込む。 「おおおおオオオオオ――――!!!!!」 「ハァアアアアッッッ――――!!!!!」 それを認識した金居が、合わせるように双剣を振り抜く。 魔力を可能な限り聖王の鎧へと注ぎ込む。 金居の双剣はやはり聖王を切り裂き、その先の私を切り裂かんと迫り来る。 それを、ナックルバンカーで強化したギンガのリボルバーナックルで防御する。 リボルバーナックルに阻まれた双剣が妖光を放ち、全てを断ち切らんと軋みを 上げる。 双剣を受け止めたナックルスピナーが高速回転し、二つの刃を弾き飛ばさんと 火花を散らす。 それは十秒か、一分か、それ以上か。 筋力で劣る私が、金居に圧され始めた時だった。 ビシリと音を立て、リボルバーナックルと金居の双剣に亀裂が入る。 ギンガのリボルバーナックルが、金居の双剣と共に破砕する。 残るカートリッジを全てロードする。 「一撃……、必倒―――!!!」 「ッッッッ――――――!!!!!!」 そのまま武器破壊により体勢の崩れた金居に左拳を打ち込み、その先端に魔力 スフィアを形成して押し当てる。 「ディバイン―――!!!」 押し当てられたスフィアは膨張し、金居の体勢をさらに崩す。 そこに渾身の力で、スバルのリボルバーナックルを叩きこんだ。 「―――バスター―――ッッッ!!!!!」 撃ち出された閃光は金居を飲み込み、必殺の威力を以って吹き飛ばした。 「はぁ……はぁ……、っはあ……」 肩で大きく息をする。 どうにか敵は倒した。 だがマッハキャリバーはフルドライブを維持している。 金居はバスターの直撃を受けた。 ならばその生死はともかく、少なくとも戦う事は出来ないはずだ。 だが、聖王としての闘争本能が、まだ気を緩めることを良しとしないのだ。 そしてその直感が正しかった事を、私はすぐに知る事になる。 「ヴィヴィオ!」 ユーノさんが近づいてくる。 その手にはバルディッシュを持っている。 弾き飛ばされた時に回収してくれたのだろう。 その表情には金居を倒した事による安堵が浮かんでいる。 だがそれは、今この場においてはあまりにも致命的だった。 「ダメ! ユーノさん、逃げて!!」 「――――ッ!? しまった!!」 瓦礫の中から、金居が飛び出してくる。 その手には機械仕掛けの剣――パーフェクトゼクターが握られている。 金居はそれを大上段に構え、ユーノさんに向けて振り下ろす。 「ハアァァアアアッッッ!!!」 「このおッ―――!!」 マッハキャリバーがまだフルドライブであったことが幸いした。 辛うじて二人の間に割り込み、聖王の鎧とスバルのリボルバーナックルで防ぐ。 だが、パーフェクトゼクターによる攻撃は強力過ぎた。 聖王の鎧は容易に斬り裂かれ、攻撃を受け止めたスバルのリボルバーナックルに亀裂が奔る。 そしてそのままの勢いで、ユーノさん諸共に弾き飛ばされた。 すぐさま体勢を立て直し、ユーノさんを抱えて距離を取る。 「……やっぱり、無事たった」 「気付いていたのか」 「何となくだけどね」 相対する金居には目立った傷がない。 否。僅かに見える傷もあっという間に再生していく。 不死身、という言葉が脳裏を過ぎる。 それは奇しくも、確たる事実でもあった。 「ユーノさん、バルディッシュを」 「わかってる」 「もう少し頑張らないとね、バルディッシュ」 『Yes, sir. Riot Blade.』 「レヴァンティンも、手伝って」 『Jawohl.』 バルディッシュを受け取り、ライオットブレードへと変形させる。 更にデイバックからレヴァンティンを取り出し、左手に装備する。 「バルディッシュ」 『Thunder Arm.』 「ケリュケイオン」 『Boost Up Acceleration. Enchant Defence Gain.』 バルディッシュの詠唱により電撃が左手に集中発生し、握られたレヴァンティ ンが帯電する。 そこにユーノさんの支援が行われ、移動と防御が強化される。 「行くよ、みんな!」 紫電を纏う双剣を構え、金居へと突撃する。 これが金居との、最後の戦いになるようにと願いながら。 Back 魔法少女リリカルなのはBR Stage02 心の力を極めし者 時系列順で読む Next 魔法少女リリカルなのはBR Stage04 虹の星剣 投下順で読む 高町なのは(StS) ユーノ・スクライア ヴィヴィオ キング 金居
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2111.html
魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者 第四話 海鳴市 時刻は夜の8時頃、三日月の光りが周囲を優しく照らす冬の夜。夕食と入浴を終えたすずかは 数匹の子猫と一緒に、自室でアリサとの会話を楽しんでいた。 今日の学校での出来事や、最近始まったドラマやアニメの評価などの雑談、 そして、今度訪れるフェイトについての話に、二人とも時間を忘れて夢中になる。 「フェイトがこっちに来るって聞いて、なのは本当に嬉しそうだったもんね」 机に無造作に並べてある自分達やフェイト写真を見ながら、電話越しにすずかに話すアリサ。 彼女の左右で寝息を立てている犬の頭を撫でているその表情は、フェイトと合える事への嬉しさに満ち溢れていた。 そして話は弾み、3人仲良し組のリーダ的存在であるアリサは『フェイトのお迎えイベント』を企画。 その案に、すずかも声を弾ませながら賛成。『プレゼントに何送ろうか?』『場所は翠屋』なと、とんとん拍子で話しが進む。 「ふふっ、今から楽しみね・・・そういえば、ガンダムは何してるの?」 ソファから立ち上がり、近くの窓に向かって歩きながら、アリサは尋ねる。 主人が離れた事に眠りについていた犬は起き、アリサの方に顔を向けるが、窓の近くで立ち止まったため再び寝息を立てる。 『ガンダムさん?今は部屋で勉強してると思うよ』 「勉強?なんでまた?」 『ほら、ガンダムさんこの世界の事知らないから・・・・・・外に出た時に見たもの全てに驚いちゃどうしようもないからって』 「なるほどね~」と呟きながら、アリサは窓のガラス越しに冬の夜空を見上げる。 窓から見る夜空は、あの時の様に満天の星空で輝いていた。 「・・・・・・・だけど、もしかしてガンダムって始めて『テレビ』見たとき、『ひ・・人が小さくなって薄い板の中で動いてる!!!』とか いったんじゃないの?・・・ははははは冗談よ冗談!!」 「・・・・・・・・よくわかったね、アリサちゃん』 数秒の沈黙が続く。電話越しから子猫の鳴き声が聞こえる。 「あ~・・・・・だけどまぁ、なのは達にも早く会わせたいわ。その時はやっぱり、『ロボット』ってことで通すの?」 『うん。ガンダムさんの要望でもあるんだ。だからアリサちゃん』 「分かってるわよ。このことは二人だけ・・じゃなくて、月村家の皆さんと私だけの秘密って事でね。ふふっ、なのはとフェイトには悪いけど」 二人がガンダムを見たら、どんな顔をするのだろうと思いながら、アリサは再びソファに座り、すずかとの会話を楽しんだ。 結界内 すずかとアリサが会話に花を咲かせている頃、勉強中と思われていたナイトガンダムは 「くっ!!」 上空から降り注ぐ鉄球攻撃を必死に避けていた。 なのはを助けた結果、ヴィータと戦う事となったガンダム。だが、始まってみれば戦局は一方的なものであった。 「おらぁ!!」『Schwalbefliegen』 ヴィータは目の前で軽く投げはなった小さな鉄球を、ナイトガンダムに向かってグラーフアイゼンで叩きつける。 叩きつけられた鉄球は、赤い光り纏った砲弾と化し、道路を走るナイトガンダムに迫る。 その攻撃を盾で防いだり、剣で斬り払うなどして、どうにかやり過ごすが、そのたびに新たな砲弾が迫り来る。 ヴィータとナイトガンダム、この二人の致命的な差は、『空が飛べない』という事であった。 仮に飛行能力が無くとも、弓矢などの射撃系の武器や、射撃魔法を使えば、反撃する事が出来るが、ナイトガンダムはそれらの武器や魔法を使うことが出来ず、 相手が接近戦を仕掛けたときに反撃しようという考えも、ナイトガンダムが飛べないと解った以上、ヴォルケンリッターの中で唯一射撃系魔法が使えるヴィータが、 そのような手段をとる筈がなかった。 そのため、空中で攻撃を行なってくるヴィータに攻撃する事が出来ずにいた。 何度目かになるシュワルベフリーゲンを放つヴィータ。 彼女にとっても、ナイトガンダムが空を飛べないという事は予想外だった。 あの時、自分の攻撃を難なく受け止めた時点で、ナイトガンダムが只者ではないと分かった。 彼女も一人の騎士である。あいつのような騎士との戦いはシグナムほどではないが嫌いではない。 今まで戦ってきた魔道師は全員たいした奴らでは無かったし、あの白い服を着た魔道師も接近戦に持ち込んだらあっという間に片付ける事ができた。 だが、あいつ『騎士ガンダム』は装備からして自分と同じ接近戦主体。自分のグラーフアイゼンとあいつの剣がぶつかり合う空中戦を期待していたのだが、 現実は彼女の期待を反した結果だった。 「(まったく・・・・・期待させやがって・・・・)」 内心で毒を吐きながらも、空中に浮いたまま攻撃を続けるヴィータ。その表情は正に『楽しみを奪われた子供』であった。 相手が空を飛べないと分かった時点で、ヴィータは『上空からの射撃魔法による攻撃』という戦法をとる事にした。 一個人としてなら、あいつに合わせて地上で戦う事も悪くはない。だが、今の自分ははやての騎士。絶対負けられない戦い。 今までの主だったら、効率や勝率など無視して自分勝手に戦っていたが、はやてのために戦う今は効率や勝率などを優先する必要がある。 ならやることは一つ、あいつの射程外から攻撃を行ない、時間を稼ぐ。仕留める事は無理でも、シグナム達が来るまでの時間を稼ぐには十分。 正直自分の性格には合わない攻撃手段だが、文句を言う事などできなかった。 「だめだ・・・・このままでは・・・・」 数度目となるシュワルベフリーゲンの砲弾を切り払ったナイトガンダムは、現状の打開策を必死に考える。 彼とて、今まで空を飛ぶ敵と戦った事が無いわけではない。だが、その様な敵が現れた場合は、 僧侶ガンタンクの魔法や妖精ジムスナイパーカスタムの矢などに頼っていた。 自身でも、ペガサスに乗ったり、剣や電磁スピアなどを投げるなどの荒技で対応していたが、この世界ではペガサスを呼ぶ事は出来ないし、 武器を投げるとしても、彼女『ヴィータ』が相手では、避けられるか切り払われるのが目に見えていた。 魔法も使う事は出来るが、彼女との距離を考えると、届くとは思えない。魔力を無駄にするだけ。 唯一届くかもしれない魔法も、詠唱時間がかかるため、詠唱中に餌食になるのが目に見えている。 「何か・・・方法は・・・・・・・・」 『ビル』という建物の屋上に上ったとしても、空を飛べる彼女は楽々と移動する事ができる。 登りきった途端に場所を移動されてしまえば意味がない。 「せめて・・・・ヴィータの高さまで飛ぶ事ができれば・・・・・・ん?」 ふと、打開策を考えるナイトガンダムの頭に、今日アリサとやったゲームの映像が浮かび上がった。 そのゲームは、様々な障害物や敵を乗り切り、自分が操るキャラを目的地まで連れて行くというゲームだった。 その中に、普通のジャンプでは飛び越える事ができない絶壁を飛び越えるために使う『ジャンプ台』という、撓る細長い板があったことを思い出した。 「・・・・・・やってみるしかない・・・・・・・・」 頭の中で大まかな作戦を練ったガンダムは早速行動に出た。 迫り来るシュワルベフリーゲンを切り払った直後、ナイトガンダムは信号の近くに止められいてる車に向かって全速力で走り出す。 その行動に、ヴィータは多少不審な顔をするも、鉄球を形成、シュワルベフリーゲンを放つためにアイゼンを振り被る。 だが、それより早くナイトガンダムは目的の車に近づき、勢いをつけてジャンプ。車の屋根に勢い良く着地した瞬間、 再びジャンプし信号機の上で着地。そして直に背中に背負っていた電磁スピアを近くのビルの壁目掛けて投げる。 上手い具合に電磁スピアが刺さった事を確認したナイトガンダムは、それ目掛けて三度目のジャンプを行い、電磁スピアの持ち手部分にバランスよく着地する。 その瞬間、ビルの外壁に刺さった電磁スピアはジャンプ台の様にガンダムの体重により撓り、 結果、電磁スピアは即席としてだが、『ジャンプ台』としてその役目を果たし、ナイトガンダムを一気にヴィータのいる上空まで導いた。 「なっ!!?」 自分に向かって猛スピードで迫ってくるナイトガンダムに、ヴィータは驚きながらもシュワルベフリーゲンを放つ。 放たれた鉄球は、真っ直ぐにナイトガンダムに向かうが、 「はぁ!!!」 その攻撃を、ナイトガンダムは右手に持った剣で一閃、すべて破壊しスピードを落とす事無く上空のヴィータまで近づく。そして 「はぁあああ!!!」 気合の声と共に、ヴィータに横一文字の斬撃を繰り出した。 迫り来る斬撃をヴィータは咄嗟にアイゼンの柄で防ぐ。ぶつかり合った瞬間、 硬い物がぶつかる音が辺りに響き渡り、互いの武器の接触部分に激しいスパークが発生する。 こうなれば後はただの力比べ、互いに互いを押し切ろうと力を込める。だが、 「・・・・・くっ・・この・・・・・」 ナイトガンダムの勢いをつけた特攻に対し、自分は不意を付かれた上に空中に浮いていただけ、 徐々にアイゼンが押されていく事、自分が力負けしけいる事に、ヴィータは隠す事無く顔を顰める。そして 「はぁ!!」 そのままナイトガンダムはヴィータを横一文字に切り払い、道路目掛けて吹き飛ばした。 勢いを無くし、自由落下をするナイトガンダムに対し、力の限り投げつけたボールの様な勢いで地面に向かって落下するヴィータ。 だが、彼女とて騎士の一人。そのまま落下するような事は断じてしない。 「なめんな!!」 落下をしながらも、ヴィータは即座に飛行魔法を使い、勢いを殺しならも態勢を整える。 靴底でアスファルトの道路を削りながらも、道路に『落下』ではなく、どうにか『着地』することが出来たヴィータは途中、 信号機で一度着地しながらゆっくりと降りてくるナイトガンダムを睨みつける。 「・・・・・へっ・・・・やっぱり、おめぇには、こんな姑息な手は通じねぇみてぇだな・・・・・アイゼン!!!」『Raketenform 』 獰猛に微笑ながら、アイゼンのカートリッジをロード、ラケーテンフォルムに変形させナイトガンダムに向ける。 その姿を見たナイトガンダムも、再び立てと剣を構え、ヴィータの攻撃に備える。 「・・・・・一つ聞きたい・・・・何故君は戦っているんだ・・・・・」 「はぁ?そんなんテメェに関係ねぇだろ?」 「いや、君の瞳からは悪意邪な欲望が感じられない・・・・・目的を話してくれないかい・・・・・」 「・・・・へっ、会ったばかりの相手になぁ・・・『アタシらの目的は~です』なんて言えるかってんだ!ボケェ!!!」 アスファルトを蹴り上げ、一気にナイトガンダムに迫るヴィータ。だがその時 「そこまでだよ!!!」 突如上空から聞こえた声と共に、ヴィータの手足に金色の輪が出現し、彼女の手足を締め上げた。 「・・・なっ!?バインド・・・・この・・・・くっそ!!!」 茂垣ながらも、自分を拘束したであろう相手を魔力反応と声から瞬時に見つけ出したヴィータは、険しい顔をしながら上空を見上げる。 その姿にナイトガンダムも釣られて空を見上げる。するとそこには、狼の尻尾と耳を持った忍と同じ位の歳の少女と 漆黒の服とマントに身を包み、右手には黒く輝く戦斧を携えた、すすかやアリサと同じ位の歳少女がいた。 「何モンだてめぇら!!」 「・・・時空管理局嘱託魔道師、フェイト・テスタロッサ。君は民間人への魔法攻撃を行なった。軽犯罪では済まない罪だ。 だけど、これ以上抵抗しないこと、名前と出身世界、目的を話してくれれば、君に弁護の機会を与える事ができる」 二人はゆっくりと地上に降りる。その内の戦斧を携えた少女はゆっくりとヴィータに近づき、 「あんただね、なのはが言っていたガンダムって」 狼の尻尾と耳を生やした少女はナイトガンダムの側に降りると。腰をかがめ、マジマジと見つめる。 「へぇ~・・・・ほんと、見た事がない種族だね・・・・何処の世界出身だい?っと、そんな事を聞くのは後だね。 私の名はアルフ。先ずはお礼を言わせておくれ。なのはを助けてくれて、ありがとう」 無邪気な子供のように微笑むアルフに、ナイトガンダムも自然と笑みを漏らす。 「いえ・・・・・あの、貴方達は・・・あの子の知り合いなのですか?」 「まっ、そんな所さ。ああ、なのはなら安心しな。ユーノが・・・ああ、アタシらの仲間が介抱しているから大丈夫だよ」 なのはを一人残した事を心配していたナイトガンダムは、アルフの報告を聞き、安心した事を表すように深く息を吐く。 そして彼女から聞いた『なのはを助けてくれて』という言葉から、なのはの仲間であると改めて確信したガンダムは、構えも説こうとするが、 「っ!いけない!!!」 場の空気が変わった事を理解したガンダムは、叫びながら反射手に地面を蹴り、フェイトとの距離を一気に縮める。 その突然の行動に、フェイトやアルフは勿論、拘束されているヴィータさえ何事かと驚くが、彼の行動の意味を直に知る事となる。 ナイトガンダムがフェイトの隣に来た瞬間、上空から急降下してきた人物が、ヴィータを尋問してたフェイトの真横に着地し、問答無用で右手に持っている 剣を横なぎに振るう。突然の事態に対応しきれないフェイト、だが、場の空気が変わった事を感じたナイトガンダムにより フェイトに当たる筈だった一撃は、彼の盾によって防がれた。 「えっ?」 突然の事態に対応しきれないフェイト 「・・・ほう」 不意打ちの筈の自分の攻撃を察知した所か、見事に受け止められた事に、つい声を出して感心してしまう襲撃者。 ナイトガンダムはそんな驚いたり感心してる二人を無視し、盾で剣を受け止めたまま、右手の剣で襲撃者に斬りかかる。 下からの袈裟による斬撃を、襲撃者はバックステップで交わすと同時に、持ってる剣を空に向かって掲げる。 「・・・レヴァンティン・・・・カートリッジロード」『Explosion』 剣から鳴り響く電子音と共に、襲撃者が空に向かって掲げている剣から、薬莢が排出される。 その瞬間、突然発生した炎が、剣の刃の部分だけを包みこむ様に燃え盛る。そして 「紫電一閃!!」 叫び声と共に、襲撃者の女性の女性は地面を蹴り、ナイトガンダムに向かって突撃、 燃え盛る炎の剣『レヴァンティン』を容赦なく振り下ろした。迫り来る攻撃に、ナイトガンダムは先ほとど同様に、盾で防ごうとするが、 レヴァンティンが盾に直撃した瞬間、激しい衝撃がナイトガンダムを襲った。 「・・な・・・なんて・・・・・重い攻撃だ・・・・・」 先程のヴィータの金槌を越える衝撃に、顔を顰めながらも耐える。足が地面に陥没し、アスファルトが砕け散る。 それでもなお、ナイトガンダムは攻撃を耐えつづけ、押し返そうとする。 紫電一閃の斬撃を正面から防がれた事に、襲撃者は悔しさよりも、強い相手に出会えた事に、自然と口をほころばせる。 「・・・・・・・正面から絶えるとはな・・・・・ヴィータが苦戦するわけだ・・・・・だがな!!」『EXPLOSION』 電子音と共に、レヴァンティンの刃を纏っていた炎は一層激しさを増す。そして 「はぁあああ!!!」 襲撃者の気合の声が木霊した瞬間、接触部で魔力爆発が発生。レヴァンティンの刃はナイトガンダムを盾ごときり払い、吹き飛ばした。 「くっ、この!!」 ナイトガンダムを吹き飛ばした襲撃者を睨みつけるアルフ。直に渾身の一撃を叩き込もうと拳を握り 突撃しようとするが 「でぉああああ!!」 突如上空から聞こえて来る叫びにアルフは攻撃を中断、障壁を展開する暇が無かったため、咄嗟に腕を頭の上まで上げた後、 肘を曲げ交差させる。その直後、声の主と思われるアルフと同じ狼の尻尾と耳を持った男性が、拳を振り下ろしてきた。 叩きつ得られた瞬間、衝撃と痛みがアルフを襲う。 「くっ・・・・この・・くらい!!」 歯を食いしばりながら耐え抜くアルフ。相手の拳の勢いが弱まった所で、交差している腕を払い、距離をあける為に上空へと逃げる。 だが、アルフを攻撃した男も、狙いをアルフに定めたのか、後を追うように飛行を開始した。 「・・・・ああ・・・・・」 自分を庇ってくれたナイトガンダムが吹き飛ばされた瞬間を見たフェイトは、バルデッシュをサイズフォームに変形させ、 襲撃者に向かって切りかかろうとする。だが、 「よくもやってくれたな!!」 ナイトガンダムが襲撃者の攻撃を防いでいた数十秒の間に、ヴィータは自分を拘束していたバインドを解除。 攻撃に入ろうとするフェイトより早く、グラーフアイゼンを叩き付けた。 フェイトは先程の汚名を挽回する様に素早く反応しバルディッシュで防御、力比べになる前に切り払い、吹き飛ばされたナイトガンダムの元へ向かった。 「ちっ・・・・・」 フェイトを逃がした事に舌打ちをしながらも、自分を助けてくれた襲撃者『シグナム』の方に顔を向ける。 「あんがとな・・・・・助かった・・・・」 言っている途中で恥ずかしくなったのか、そっぽを向きながら小さな声でお礼を言うヴィータに、 シグナムは一瞬呆気にとられた顔をするが、直に微笑む。 「しかしどうした、ヴィータ?油断でもしたか?」 「うるせぇよ!・・・・まぁ、間違ってはねぇけどよ・・・・・だけどな、これから逆転して、あいつらをボッコボコにする予定だったんだよ!」 確かにあの時、自分はナイトガンダムとの戦いに集中していた。だから自分を拘束したあの二人の存在には気付かなかった。 あいつらの仲間が来るかもしれないのに、周囲の警戒を怠っていたために起きた事態。油断以外の何者でもない。 だからこそヴィータは素直とは言い難いが認めた。二度とこのような過ちを起こさないために。 「そうか・・・だが、すまなかった。遅くなってしまって」 「気にすんな・・・助けてもらった事に変わりはねぇからな・・・・」 「そうか。だがあまり無茶はするな。お前が怪我でもしたら、我らが主も心配する。あとこれを。破損は直しておいたぞ」 妹を心配する姉のように優しく語り掛けながら、シグナムはなのはの砲撃で吹き飛んだヴィータの帽子を 彼女の頭に優しく乗せる。 「・・・・ありがと・・・・シグナム・・・・・」 自分で帽子の位置を整えているヴィータを一瞥した後、シグナムは後ろを振り返る。 そこには、先程自分を攻撃しようとした少女が、同じく自分が吹き飛ばした一見小型の傀儡兵に見える者の側で何かを話しており、 上空では少女の守護獣であろう少女が、ザフィーラと激しい空中戦を繰り広げていた。 「・・・状況は・・・実質3対3。だが、奴は何者だ?小型の傀儡兵の様に見えるが・・・・・」 「ワカンネ。だげど、この世界じゃ傀儡兵を作る技術はないし、管理局に関しても知らないっていってた。もしかしたら あいつらの仲間ですらないかもしれねぇ・・・・・まぁ、収集対象には変わりはねぇがな」 アイゼンにカートリッジを補充品しなら、今時分が知りえる情報を話すヴィータ。 「あいつ・・・・ガンダムって言ってたな。あいつは空を飛べない。下手すりゃ魔力はあっても魔法すら使えないかもしれない。 だけど剣術に関しては強い・・・・間違い無くな・・・・・ベルカの騎士のアタシらには厄介な敵だ」 カートリッジの補充を終えたアイゼンを一度振り、シグナムの前へと出るヴィータ。 直に補充したばかりのカートリッジをロードし、ラケーテンフォームへと変形させる。 「シグナム・・・・・わりぃが、ガンダムはアタシがやる。シグナムはあの黒い魔道師の相手を頼む。空を飛べば、向こうも食いついてくる筈だ」 「・・・・・お前から進んで相手を選ぶとは珍しい・・・いや、初めてかもしれんな・・・・お前の話から、 ガンダムとやらの相手をしてみたかったのだが・・・・・まぁ、また今度にしよう」 『また今度』というシグナムの言葉に反応したヴィータは、アイゼンを横に振り被りながらも、吐き捨てるように笑う。 「無駄だと思うぜ。一度収集した相手からは収集できない。ここであいつをぶった押せばもう戦う機会なんて無いんだからな。 ただの時間の無駄になる。それには、分かってるだろ、シグナム。『一対一ならベルカの騎士に』」 「『負けはない』・・・ふっ、その通りだ・・・・・行くぞ!!!」 「あの・・・・大丈夫・・・ですか・・・・」 シグナムの一撃で吹き飛ばされたナイトガンダムの元へ向かったフェイトは、抱き起こすように、ナイトガンダムの体に手を回す。 「ああ・・・・大丈夫・・・・・ありがとう」 「いえ、お礼を言うの私のほうです。あの時、私を庇ってくれてありがとうございました。それに・・・・なのはを助けてくれて」 なのはの名前が出た途端、フェイトは悔しそうに俯く。 事態を知り、フェイト達が駆けつけた時には、すでになのはは襲撃された後であった。 もし、あの時ナイトガンダムが駆けつけなかったら、なのはは魔力を奪われていたに違いない。 フェイトはただ悔しかった。自分に手を差し伸べてくれたなのはを、『友達』と言ってくれたなのはを助けられなかった事に。 「・・・・・・・気を落とす事はないよ。君はなのはさんの危機を知って駆けつけた。友達を救うために。 それに、もしヴィータ達の仲間の到着が早かったら、結果的になのはさんは危なかった。今こうして彼女達をなのはさんの元へ 向かわせないでいられるのは、君達のおかげだ・・・・私こそお礼を言わせてください。助けていただき、感謝いたします」 跪き、頭を垂れるナイトガンダムに、フェイトはどうしていいのか慌てる。 「い・・・・・いえ、そんなことないです。あ、名前がまだでした。私はフェイト、フェイト・テスタロッサ。一緒にいた子はアルフ。 あと、敬語とかは使わないでください。私・・偉くありませんから・・・・」 「わかったよ、フェイト。私の名前はガンダム。ラクロアの騎士ガンダム。同じく敬語とかは使わなくていいよ。偉くないからね」 ナイトガンダムの物言いに、先程まで落ち込み気味だったフェイトの顔にも笑みが浮かぶ。 その顔を見たナイトガンダムも安心したのか、釣られて微笑むが、直に顔を引き締めた。 「フェイト・・・・・現状では3体3。だが、私は空を飛ぶ事が出来ない。おそらく君達の戦闘では足手まといになるだろう。 それになのはさんの事もある。ここは撤退をすべきだと思う・・・・・どうだろう」 「うん。私も同じことを考えていた。ちょっと待ってて」 瞳を閉じ、急に黙り込むフェイト。数十秒後、瞳を開け、再びナイトガンダムを見据えた。 「今、ユーノと相談してみた。アルフと協力すれば何とか出来るみたい」 「分かった。それまでは私達が彼女達の相手をして注意を引きつけよう。私でも囮くらいにはなれる筈だ」 二人は同時にヴィータ達の方を向く。すると、ヴィータはナイトガンダムと目が合った瞬間、獰猛に微笑みながら、 ラケーテンフォームへと変形させたアイゼンを突きつけ、シグナムは空が飛べるフェイトを誘うように飛行を開始する。 「・・・相手は決まったようだ。がんばろう!」 「うん!」 「フェイトちゃん・・・・・・」 フェイトが上空へ上がる姿を見たなのはは小さく名前を呟く。 今なのはは、ユーノが張った結界魔法『ラウンドガーダー・エクステンド』の中で佇んでいた。 その結界を張ったユーノもまた、自分達を閉じ込めている結界を破壊すべく、周辺調査のためこの場にはいない。 「・・・・・・みんな・・・・・・」 自分も皆の所で戦いたい。だが、時より体にほとばしる痛みが、その願いを叶える事の難しさをなのはに無理矢理教える。 それでも、彼女は一番痛む左腕を押さえながら、ゆっくりと戦いの場絵へと歩み始める。その時、 『Master』 見た目からも、使い物になるのか疑わしいほど大破したレイジングハートが、なのはを呼び止める。そして 『shooting mode acceleration』 その電子音の直後、レイジングハートから桃色の羽が生えた。まるで、自分はまだ戦える事を主張するかの様に。 「レイジング・・・・・ハート・・・」 なのははレイジングハートが自分に何をさせようか直に理解できた。だが、間違いであって欲しいため、口を噤む。だが 『Let s shoot it. starlight Breaker』 なのはの思いを代弁するかのように、レイジングハートは呟いた。 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3482.html
FF8inなのは クロス元:ファイナルファンタジーⅧ ~Prologue~「壊れた日常」 第一話「start」(全ての始まり) 第二話「move」(動き出すとき) 第三話「A new life」(新しい生活) 第四話「The rest time」(休憩の時間) 第五話「Battle start」(戦いの始まり) 第六話「cool face,heat soul」(冷たい顔、熱い魂) 第七話「Squall`s lesson」(スコールの特訓) 第八話「Sacrifice for victory」(勝利のための犠牲) TOPページへ このページの先頭へ アルティミシア城のボスも出して欲しいです! 特にコキュートスとドルメン -- 機動兵器8型BISファンクラブ (2010-06-29 16 35 56) この語の展開では絶対に必要なので出すつもりです。お楽しみに!! -- レオンハート (2010-06-30 22 05 37) ティアマト…ダークフレアの威力はともかく、苦戦した覚えは無いですね…いかんせん遅すぎる。 …コキュートスは召喚魔法以外には反撃してくるから、キャロかルーテシアの独壇場? -- 機動兵器8型BISファンクラブ (2010-06-30 22 28 15) 僕はオメガウェポンとアルテマウェポンに苦戦しました。一応、コキュートスとドルメンはスコールとフェイト、なのはのパーティーで行くつもりです。 -- レオンハート (2010-07-01 18 45 17) 単純な砲撃や格闘だけでなく、ジャンクションを利用したトリッキーな戦い方こそスコールの魅力だと思っています。セイレーンやケルベロスなどの特殊系GFに期待してます。 -- 名無しさん (2010-07-01 20 36 19) とりあえずさ、ちゃんと本スレに投下した後にssは保管庫に収録した方がいいですよ。無理なら避難所の代理投下の方に。一応ここのルールですし、守らないと余計で面倒な荒れとか起こる可能性もありますので -- 一応忠告 (2010-07-01 21 26 08) そうですね。すみませんでした。一応、避難所に保管しておきました。ご忠告、本当にありがとうございました。 -- レオンハート (2010-07-01 22 31 18) アルテマウェポンかなつかしいな~。こいつとオメガには全滅しまくったからな。8のアルテマウェポンは7とは強さが桁違いだしね。 -- 名無しさん (2010-07-02 02 05 25) オメガはともかくアルテマはそんなに強くもなかった、ジャボテンダーやトンベリキングの方が苦労しました…。 -- 機動兵器8型BISファンクラブ (2010-07-02 06 39 00) アルテマには、最初にリヒト・ゾイレ2連発されてマジで嫌になったので、リノアとスコールでボコボコにしました。オメガはもう嫌… -- レオンハート (2010-07-02 18 11 58) 取りあえずスカとアル様が仲良くできるとは思えないんだ。どっちも自分しか生きられない世界を目指してるから。良くてgive-and-take。勿論ラストは裏切り行為。 -- 名無しさん (2010-07-02 19 33 53) ↑あの…既にJS事件は終わっていますよ。 詳しくは第三話を参照して下さい。 -- 機動兵器8型BISファンクラブ (2010-07-02 21 24 32) あなたは本スレの職人ではないようですが -- ゼロ (2010-07-03 00 39 33) ここ最近、なぜか本スレに書き込もうとしてもケーブルがいかれてるのか設定がいけないのか、本スレ自体が見れないんです。今は、仕方なく避難所に投稿してあります。 -- レオンハート (2010-07-03 09 20 27) 保管庫に直接投下した方が早いようなので、一応運営スレに書いておいた方が無難ですよ。揉めますし -- ゼロ (2010-07-03 16 46 35) 管理局オワタorz -- 名無しさん (2010-07-03 16 52 03) 文章力が低いな…と思っていましたが7話の序盤はかなり読み応えがありました。スコール視点の書き方は面白いんですけど、リリカルキャラとの絡みになると妙に薄い感じがします。スコールの性格上難しいと思いますが、頑張って完結させて下さい。 -- 名無しさん (2010-07-03 20 09 01) …オメガウェポンはゼルが居ないと辛かったです。 ところで、オメガウェポンはデスは使わない筈ですよ。 -- 機動兵器8型BISファンクラブ (2010-07-09 17 16 13) 最初にレベル5デスを使ってきますよね。ちょっとここではレベルという観念が使えないのでただのデスにしました。 -- レオンハート (2010-07-10 09 35 45) オメガウェポン戦はもう少し引っ張ってもよかったのでは? -- 名無しさん (2010-07-10 19 28 57) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2066.html
Pyrophobia スバルを取り巻く山林、木漏れ日の様に注ぐ月光がその少年を照らしていた。剣を持ち、衣服を血に濡らした少年を。 ……何だろ、見覚えがある様な……? その顔立ちにスバルは誰かの面影を見る。だが気のせいだったのか、はたまた付き合いが薄い相手だったのか、誰を重ね見たのかは解らなかった。 「あの」 と、少年が声と共に踏み込んできた。それに対してスバルは、 「……!」 後ずさる、という行動で応える。そうする理由は、一重に少年への不審と疑心だ。 「待って下さい! 僕は……」 そんなスバルを少年は追いかけた。手を伸ばしてこちらを掴もうとし、直後、 「皆殺しだああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーッ!!!」 憎悪の咆哮が山間に響いた。 「―――っ!?」 込められた狂気に鳥肌がたつ。それは少年も同様だった。2人は足を止めて声のした方向、隣接する山の頂上部を見た。 満月を傍らに掲げる山頂、そこに声の主はいる。 ……一体、誰が……? スバルは固唾を飲み、硬直した。大音の後の静寂、緊迫が山腹に張り詰め、そして爆発した。 「!!」 山頂よりも僅かに下方、その位置で天上方向への破壊が放たれたのだ。遠目にも木々と土砂が、半端ではない質量が舞い上がったのが見て取れる。 「まずい!」 少年が焦りを含んで叫ぶ。声にこそ出さなかったが、スバルもそれは同様だ。 ……あれだけの質量が、あの高さから落下したら……! そうでなくとも、それだけの質量を浮かせる破壊が生じたのだ。その三つが重なって起きる事態は、 「――崩落!!」 上り詰めた所で質量は落下し、再度の轟音を立てて山頂付近に激突した。破壊によって緩んだ地質は再度の打撃によって瓦解し、落下した質量と共に流れ落ちる。 その方向は、自分達のいるこの山だ。 「く……っ!」 迫る怒濤を回避すべくスバルは動いた。足場に魔法陣を出現させ、右の拳を地面に叩き付ける。 「ウイングロード!!」 宣言はスバルが遺伝した先天系魔法の名、空中に架け橋を作る能力だ。蒼の帯が空中へと伸びたのを確認し、スバルはその上を駆ける。 ……急げ! マッハキャリバーがいない為、スバルの移動速度は格段に下がっている。息を切らして走る間も崩落は迫り、やがてスバルがいた場所へと到達した。 「うあっ!」 自然災害の圧倒的な威力に、ウイングロードの基点が呑み込まれた。振動、倒壊、そして消滅、基点部からウィングロードが分解していく。 分解を視界の端に捉えたスバルは離脱を決行、幸いにして高低差も少なく、草の上を数転しただけで着地する事は出来た。 ……助かった…… 振り返った先で、ウイングロードが完全に消滅する。加えて見れば、今まで自分が立っていた場所は土砂によって完全に埋まっていた。 と、被害を見やった所でスバルは一つの事実を思い出す。 ……あの子は、どうなっちゃったんだろ…… 自分と対峙していた、剣を片手にした血塗れの少年。彼は崩落から逃れられたのだろうか。 「あ」 思いと共に見回した所で、さした時間もかからずに少年は見つかる。少年は、空中に立っていた。 「…飛行魔法」 それは魔導師にとって、優秀と凡庸を分ける目安。それ単体ならば簡単でも、他の挙動や魔法との同時並行は困難な、ある意味では“基礎にして奥義”とも呼べる技能だ。 ……それを、あんな小さな子が…… その事実に、嫉妬を通り越して驚きに至ってしまう。自分や今はいない相棒が、憧れて止まないその技能を、年端もいかない少年が使う事に。 何時しか少年は降下を始め、積もった土砂の上に足をつける。その表情は、緊迫の一色。 「――何者だ」 少年は手に持つ剣を構え、一方へと声を放つ。誰かいるのか? その疑問にスバルは視線を向け、 「……え?」 人影を見た、と言って良いのだろうか。月光に浮き出るその輪郭は、巨大な両腕の人型だった。 「―――ッ―――ッ―――ッ」 巨大な両碗を土砂に突き立て、その人型は唸りを漏らす。 「一体、どうやって……」 そこまで言って、スバルは一つの推測を閃いた。荒唐無稽で、しかし恐らく正しいだろう推測を。 ……まさか、土砂に乗ってきたの!? 恐らく咆哮の主もこの人型だろう。そして殺意を持った人型は攻撃手段として、移動手段として崩落を起こした。 「何て無茶苦茶な……」 思わず想到しそうしそうになる無茶だった。とスバルが驚愕する内に、人型は暗がりから土砂によって開けた場所へ進み出た。その姿にスバルは、え? と驚きを零す。 その人型に、見覚えがあったからだ。 「……ナンバーズ12、ディード」 ジェイル・スカリエッティによって制作された戦闘機人、その12号機だ。しかし今の様子を見て、スバルは自分の知るディードと重ねる事が出来なかった。 ……そりゃ、あの子とはそんなに交流は無かったけど…… だが、希薄な感情と冷静沈着な性格をした女性だった筈だ。だが今の彼女はまるで獰猛な獣に見える。そもそも自分が知るディードは、あんな腕をしていない。 「……一体、何が…」 ディードの異様にスバルは息を飲む。 「――見つけたぁ」 あたかも頬まで裂けている様な、そんな笑み。狂気と獰猛を混濁させた感情が放たれた。 「奴をぉ……出せぇ……っ」 「だ、誰の事……? 奴って……」 後ずさるスバルにディードはにじり寄り、決まってる、と続ける。 「糞野郎を………セフィロスを、出ああああぁぁぁぁぁぁぁせえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっッ!!!」 巨大な両腕を振るい、ディードが疾走した。 ● 崩落した土砂の上を駆け、ディードは狙うべき獲物を見定めた。 ……タイプゼロ・セカンド……ッ!! 見た事も無い子供がいるが、そちらは後回しだ。勿論逃がすつもりは無いが、かといってタイプゼロ・セカンドより優先する程ではない。 ……セフィロスを引っ張り出す、餌ぁ……っ!! 幸先が良い、とディードは思う。このゲームが始まって早々、セフィロスに繋がる参加者と出会えた事は。 「らあああああああああああッ!!」 振り抜くのは左碗、三つ指が環状に並んだ義手だ。三本の尖鋭を窄めれば、それは一本の巨大な槍となる。 「………っ!!」 焦燥と共に避けたタイプゼロ・セカンド。その座標を左腕が抜き、先にあった樹木の腹を貫く。尖鋭と大出力の貫徹により、左腕は肘辺りまで埋まる。 一般的に見れば失策、だが、 「それで避けたつもりかぁっ!!」 作業用アームから転用された義碗は更なる出力を発揮、樹木から引き抜くのではなく、横に抜いて樹木を破った。それによって樹木の上半分が倒れ、木片が散弾の如く飛び散り、 「うあ……ッ!」 中空のタイプゼロ・セカンドを撃った。 細々とした木片群がタイプゼロ・セカンドの柔肌に刺さり、彼女の着地体勢を崩す。山林部から土砂の上へと落ち行く彼女に、ディードは更なる追い打ちをかけた。 右腕で左肩を触れる様な準備態勢、腰を存分に捻り、そして、 「うぅぅぅぅぅぅらああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっッ!!」 さながらホームラン狙いでバットを振るように、高速を持って右腕が振り抜かれた。その射線上にあるのは、体勢を崩したタイプゼロ・セカンドの体躯。 「……が…ッ」 強固にして鈍重、それを慣性のままに振り抜く一撃は強力無比。右腕がタイプゼロ・セカンドを跳ね飛ばし、土砂に叩き付けた。 土砂の上を転がり続けるタイプゼロ・セカンド、それを追ってディードは跳ねる。 「――はッ!!」 両腕を上から振り抜いて地に叩き付け、その反動によってディードは高速を得た。そして横転が止まり、体を軋ませるタイプゼロ・セカンドに向けて、再び腕を叩き付ける。 かに見えた。 「――――――――ぶっ!!?」 だが叩き付けられたのは、ディードの方だった。 中空で構えた直後に感じたのは、顔面に感じた強固で平たい打撃。慣性としては自らその打撃に突っ込んでいるのだ、その威力は一入に加わり、 「がぁああああアァァぁっ!?」 体躯を若干捻りつつ、ディードは打ち返された。 ……な、にが……? 鼻腔に流血と粉砕を感じつつ、ディードは着地する。そして視線をタイプゼロ・セカンド、たった今自分が打撃を喰らった地点に向ければ、 「餓鬼ぃ……ッ!!」 優先順位を下と定めた、血塗れの少年が剣を構えていた。察するに、自分の顔面を打ったのはあの剣の腹か。 「そこまでだ!」 少年の凛とした声が山間に響く。 「時空管理局執務官、クロノ=ハラオウンだ! これ以上の戦闘行為を行うつもりなら……僕が相手をする!!」 ……クロノ=ハラオウン……? 少年の宣言、その内容にディードは疑問を持つ。直接の面識こそ無いが、クロノ=ハラオウンという人物についてはDr.からある程度知らされていた。 若年にして執務官を勤めた優秀な魔導師、後にフェイト=テスタロッサの義兄となり、大型次元航行艦の提督となった傑物だ。ちなみに二児の父親らしい。 ……だが…… 今目の前にいるのがそのクロノ=ハラオウンというのか。どう見ても10歳かそこらの子供にしか見えない。それこそ回想した情報の一つ、“若年にして執務官を勤めた優秀な魔導師”の様だ。 ……しかも、名乗りも執務官…… どういう事だ、と思う。 まさか、今目の前でクロノ=ハラオウンを名乗った少年は、過去から来たとでも言うのか。 ● どういう事か、とスバルは思う。自分とディードの間に立ち、宣言した少年について。 ……クロノ…ハラオウン……? 名前ぐらいなら聞いた事がある。機動六課の後見人の一人で、フェイト隊長の義兄。そして本局でも有数の能力を誇る優秀な人材。 ……でも…… そのクロノ=ハラオウンは自分よりも歳上だ。目の前の少年がそのクロノ=ハラオウンと同一人物とは思えない。 「君は……」 「――どぉでもいぃ」 滲み出る怨嗟の呟き、それがスバルの注意をクロノからディードへと移させた。口角と鼻から僅かに血を滴らせる彼女は、巨大な両碗を揺らして立ち上がる。 「お前達が何なのか、は、どぅでもいぃ……」 こちらに向けた双眸は怨嗟一色。そして、 「殺されてくれれば……あいつを見つけ出せれば……どぅでもいぃッ!!」 疾走。 「まだやるつもりか!?」 向かってくるディードに対し、クロノは再度剣を構える。 ……駄目…ッ! それでは抑えられない、とスバルは判断する。先ほどは顔面、不意打ち故にどうにかなったが、敵対者として認知された今、華奢な少年の身体能力で対応出来るとは思えない。 「私がッ!」 ディードを迎え撃つべく、スバルはクロノの脇を抜けて走る。 「いけない……戻って下さいッ!」 走り抜けるスバルの背に少年の声がかけられる。それを無視してスバルは自身の能力を起動させた。 「――IS、発動ッ!!」 叫びと共に起こるのは変色、スバルの双眸が金色へと変ずる。戦闘機人としての覚醒だ。 ……振動拳で、ぶちぬくッ! 狙うは自身のインヒューレントスキルによる両碗の粉砕。機械、特に戦闘機人に対して絶大な攻撃力を持つこの能力なら有効だ、とスバルは判断する。 「おぉ………ッ!!」 「らあああああああぁぁァぁぁぁぁッ!!」 叫びの交差は体躯の交差。ディードは左腕を、スバルは右腕を振りかざし、互いを打ち抜こうを疾駆する。 「「―――――――――――――――――――――――っッっ!!!!」」 迫り、到達し、動きは起こり、そして、 「――まぁまぁ」 と、 「ワシの為に争っちゃイヤん」 隻眼の老人に、ディードとスバルの乳が鷲掴みされた。 ……あれ? 何だろう、何か変だな、そんな風にスバルは思う。確か自分はディードと決死の一撃を交わそうとして、緊迫の中で疾走した筈なのに。 「ふむふむ」 その筈なのに、 「ほうほう」 一体どうして、 「どちらも中々どうして……」 突然現れた老人に、 「絶品じゃのう!」 乳の品定めをされているだろう。 「い、いやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!?」 気がついた時には絶叫、止まっていた右拳を老人の顔面に叩き付けた。この反応はディードも同様だったらしい。叫びこそあげなかったが、止まっていた左腕が老人の後頭部を打つ。 結果は大打撃の挟み撃ち。 「ぶほおおおおおおおおおおおおおッッ!!?」 珍妙な叫びと共に老人が吹っ飛んだ。 「はぁ……はぁ……はぁ……」 思わず肺腑の息を使い切り、全力全開で一撃を振り抜いてしまった。両腕で胸部をがっちりと隠し、へたり込んでスバルは息継ぎする。 ふと見やれば、後方ではクロノが頬を赤くして明後日の方向を見ていた。 ……な、何だったんだろう……? 否、誰だったのだろう、と言うべきか。突如現れた老人にスバルは疑問を馳せる。そうしてその姿を見ようと吹っ飛んだ方向を見やり、 「…あれ?」 いなかった。影も形も無く、老人の姿はなかった。 「ど、どこに……」 辺りを見回して、 「ふぅむ、随分派手な挨拶じゃのう、お嬢さん」 「――っ!?」 すぐ隣にいた。前触れも無く、気配もなく、余韻も無く、スバルの隣に隻眼の老人はいた。 「あ、あなたは?」 先とは別の意味で、スバルは老人を警戒する。気配も無しに吹っ飛ばされた位置から自分の隣に移る。それを出来る人物が、ただ者である筈は無い。 「ありゃ、忘れちまったかの?」 警戒心を剥き出しにするスバルを、老人は意外そうな表情で見返す。 「わしわし、八竜の虚空。崩や塁とかと一緒に顔見せしたじゃろ?」 ● 聞き慣れない単語に、思わずスバルは問い返していた。 「はち、りゅう……? 崩に塁って……人の名前ですか?」 「異な事を言うの、お嬢ちゃん。……確か、スバルちゃんじゃったか?」 ほとほと不思議に思ったのか、虚空なる老人は腕を組んで首をひねった。 「お前さん、烈火やら紅麗やらと一緒におったじゃろうが」 「烈火? 紅麗……? 誰の事ですか?」 「……本気で覚えとらんのか?」 眼帯に覆われていない片目を細め、虚空は思案するようにスバルを見る。 「覚えてないとか、そういうんじゃなくて……本当に、知らないんですけど」 勿論お爺さんの事も、とスバルは付け加え、対する虚空は、ふぅむ、と唸って天を見やった。 「一体全体どうなっておるのか……忘れさせられた? 確かに記憶を操る魔導具もあったが……」 「何をぉ……ごちゃごちゃとぉ……ッ!!」 悪寒。次いで脊髄反射。 「うわ……ッ!」 飛び退いたスバルと虚空、つい先ほどまでいた地点がディードの義碗によって叩き潰された。 「和むなぁ……人のぉ……触ってぇ……糞爺ぃ………ッ!!」 気のせいか殺意が強まってる様な、とスバルは思う。 「死ぃねぇッ!!」 と、ディードは再び迫る。身構えるスバルだったが、 「ふむ、やれやれ」 虚空がそれに先んじた。 「随分と曇った戦い方をするの、お前さん」 「……ッ!!」 突かれた左腕、しかし虚空は跳ねてそれを躱す。 「そんな戦い方じゃ、ワシみたいのは捕まえられんがなぁ」 「黙れ!!」 振られた右腕、それも虚空は空中で身を回して逸らした。 「ほれほれ、ワシはここじゃよ?」 「がああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっッ!!」 乱雑に両の義碗を振るディード。五月雨と言っても良い連撃を、しかし虚空は適切に躱す。 「……すごい」 いつの間にか隣に並んだクロノが呆然と呟く。声にこそ出さなかったが、スバルもまた同様だ。 ……やっぱりあの人、ただ者じゃない…… まるで川を流れる木の葉みたいだ、と虚空の体術を表現してスバルは息を飲む。あれ程の体術、格闘派のシグナム副隊長やシスター・シャッハでも出来ないだろう。 「あああああああああああああああああああッっ!!」 そんな中、ディードが痺れを切らしたように吠えた。 「これでッ! 死ねッ!!」 渾身の一撃、そう表現出来る振り抜きが果たされた。果たしてそれは、虚空の胴を捉えた。 「お爺さんッ!!」 身を乗り出したスバル、その先で老人は義碗を受け、 「え」 消えた。 否、消失した訳ではない。花びらにも似た欠片の群へと変じたのだ。赤い様でいて時に金色を放つそれは、 「……火の粉?」 呟いたのはクロノだった。それを切っ掛けにして、変化は起こる。 「――――!!!」 大気に揺らいでいた火の粉が突如として旋回、次第に火力を強め、さながら竜巻となって夜天に渦巻いた。 竜巻はやがてうねり、一つの形を作る。顎を持ち、目を持ち、しかし手足は無い。その姿は、 「蛇…ううん、これは――竜!」 『――左様。これぞ八竜が一角、虚空の姿ぞ』 竜と化した炎、それが放つのは先ほどまで老人だった、虚空の声だった。圧倒的な威圧を宿し、竜の言葉は三人に降り注ぐ。 『さあ、まだ戦うか娘よ。この儂の姿を見て、未だ戦意をまき散らすか……!?』 圧力を向けられたのはディードだった。彼女はへたり込み、呆然と虚空を見上げる。 ……戦う、なんて言える筈無いよね…… 協力してくれているとはいえ、虚空の威圧はスバルにも及んでいた。息も詰まる緊張を強いられる感覚、それを向けられて、尚も戦闘継続と言える筈は無い。 そう、スバルは思っていた。 「……ぃ」 だが紡がれた言葉は、スバルの予想に反していた。 「………ひ、ぃ」 「――え?」 スバルの見やる先で、ディードが崩れ始めていた。 全身を震わせ、双眸は焦点を結ばず、嗚咽するように喉を痙攣させ、そして、 「火いいいいいいいぃぃぃぃいぃぃぃ嫌ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっッっ!!!?」 「「『――――――!?』」」 それは狂乱だった。火の竜と化した虚空を見て、ディードは狂ったように鳴き叫ぶ。 「嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌あっ!! こないで寄らないで焼かないで御免なさいやめて下さいいぃぃぃぃぃぃッッ!! 腕、うでっ! 燃えるっ! 焼かれる! 灼かれる!! 爛れちゃうよ溶けちゃうよ痛くなっちゃうよぉっ!! やめてお願いだからもう焼かないでええええええぇぇぇぇぇぇッッ!!!」 ……ど、どうしちゃったの!? その異様にスバルは驚愕する。先ほどまで暴力の限りを尽くしたディードが、これでは一辺して愚図る赤子ではないか。こんな様子を、そうなる理由を、スバルは全く知らない。 「やだやだやだやだやだやだもうやめてぇ!! もうやめてよおぉっッっ!!!」 泥に、涙に、鼻水に、唾液に、そして恐怖に塗れてディードは腕を振り回す。 まるでこの場にいない誰かを振り払うように。 そして、 「……いけない!!」 クロノの叫びは、両腕を上げたまま身を逸らしたディードに向けたもの。 「きえてえええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえぇぇぇぇぇっ!!」 そのまま地に叩き付けた。 「しまった!!」 危機感がスバルの脳裏を走った。見やるに今の一撃はディードの全力全開、そして彼女の一撃は崩落を引き起こすだけの威力を出せる。 ……つまり……!! スバルが足場の揺らぎを感じた、直後、 「「―――――――――――――――――――――――――――――っッっ!!!」」 スバルとクロノが立つ土砂塗れの大地が、再び崩落した。 【一日目 AM0 40】 【現在地 G-7 山麓】 【ディード@魔法少女リリカルなのはStrikerS 片翼の天使】 [参戦時間軸]11話中。自室で寝ていた頃 [状態]健康・憎悪・錯乱・鼻骨骨折 [装備]両腕の義手 [道具]支給品一式、救急箱 [思考・状況] 基本 セフィロスを殺す 1.火嫌っ! 火怖い!! 火消えてよぉ……ッ!!! [備考] ※主催者から直接送り込まれた、いわばジョーカーです。食糧は他の参加者よりも充実しています ※左の義手からはAMFバリアが外されています ※腕の構造上、手持ち武器を握って使うことができません ※炎熱に対して極度の恐怖心を持っています ● 人為の災害に呑まれつつも、スバルは生存を断念しない。 「ウイングロード!!」 再度発現される、青い架け橋。地を基点にするとまた土砂に砕かれてしまう為、空中にそれを生じさせてスバルは飛び移る。が、 「う、うわ……!」 崩落を足場とした跳躍は不完全だった。ウイングロードの端に手はかかるが慣性を殺し切れず、 ……振り落ちる……!? 危機感、瀕死の予感が走る。だがそこに救いの手はあった。 「手はいるかな? お嬢ちゃん」 「お爺さん!」 虚空と名乗り、そして炎の竜に変じた老人が自分を見ている。いつの間にか、ウイングロードに移動したようだ。 彼の助力でスバルはどうにか路上に這い上がる。その際、尻を掴まれた気もするがとりあえず置いておく。スバルの望みは、自身の生存だけではないからだ。 「あの子を……!!」 クロノ=ハラオウンを名乗ったあの子は、どうなってしまったのか。ウイングロードの上からスバルは崩落を見回し、やがて見つけた。 土砂に呑まれつつある、少年を。 「……助けなきゃ!」 望みと共にウイングロードは伸張、流されるクロノに並ぶ。スバルは路上を駆け、クロノへと手を伸ばす。 「掴まって!!」 「……………ッ!!」 伸ばされたスバルの手に、少年もまた手を伸ばす。だが、それは救済を求めた手ではなかった。 「――え」 スバルが握ったのは、少年の手ではなかった。固いその感触は人のそれではなく、器物のそれ。 掴まされたのは、少年の握っていた剣だった。 「ま、待ってよ!」 ……私が掴みたいのは、こんなんじゃない!! しかしクロノは、最早スバルの届かない程に埋もれ、流されている。 ……私が掴んでも一緒に引きずり込まれちゃうから? だから君は私の手を掴まないの!? 「これを使ってくれって、君はそう言うの!?」 持たされた剣の意味をスバルは問う。そして見やる先で、少年は答えた。 「――生きて下さい!!!」 土砂に呑まれながらも、死に呑まれながらも、その少年は、確かに笑んでいた。 【クロノ=ハラオウン@マスカレード 死亡】 【一日目 AM0 45】 【現在地 G-7 山麓上空】 【スバル=ナカジマ@反目のスバル】 [参戦時期]STAGE9 C.C.に気絶させられた後 [状態]膝に擦り傷・体のあちこちに木片が刺さっている・ウィングロード発動中 [装備]エスパーダ・ロペラ@リリカルなのはMS [道具]虚空@FLAME OF SHADOW STS・支給品一式・ランダム支給品0~2個 [思考・状況] 基本:ルルーシュを探す 1:あの子を…助けられなかった………っ! 2:ルルーシュに会わないと…… [備考] ※名簿はルルーシュの名を見つけた時点で見るのを中断しています。よってフェイト・エリオ以外の六課メンバーの存在を知りません ※「参加者はそれぞれ別の時間から来ているのでは?」という疑念を持ちました [虚空 思考・状況] 基本:この殺し合いを止めたい 1.極力、自分の攻撃力を使わずに戦闘を止める 2.スバルを支えたい ※まだスバルの体内に宿っていません。宿るまでスバルは虚空の能力を使えません ※参加者の体に宿っていない間、虚空の取れる行動は以下の通り。 ①人間形態での独立行動(異常にすばしっこい事を除けば常人並み) ②火竜形態への変身(姿が変わるだけ。特殊能力は使用不可) ③神出鬼没 ※G-8山頂付近が削れ、G-7山麓に土砂が積もっています ※崩落による土砂がH-7の川に流れ込みました。この区域のみ川が浅瀬になり、横断出来ます。尚、土砂の中にクロノ=ハラオウン@マスカレードの死体が埋まっています 【火竜】 ・扱い/支給品指定。デイバックの中に“力の塊”として収納されている。火竜は、その状態では一切の行動を取る事が出来ない(虚空は例外) ・使用方法/“力の塊”状態の火竜に触れる事。それによって火竜が体内に入り、使用可能となる。その場合、腕に火竜の頭文字が刻まれる ・備考/体内に宿る参加者が死亡した場合、再び“力の塊”状態となって体外に出る。その状態なら別人が宿す事も可能。ただし火竜の記憶は維持 ・制限/①能力発動の際に、火竜の頭文字を描く事 ②ある程度の体力・精神力を残している事 ③使用する度に体力・精神力を消耗する事。度合いは発動する能力の規模に比例 052 本編投下順 054
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2524.html
クロノは任務中に保護した管理外世界の男性に頭を悩ませていた。 保護したのは年は二十歳前後、体格の良く顔も整っている人間だったと思われる男性。 だったと思われる、というのは今は見た目にはわからないが、拾った時は昆虫っぽい亜人だったからだ。 第一、人間は…人間以外でもほとんどの生き物は、例えSランクオーバーの魔導士だろうが、生身で宇宙空間に漂っていて無事だったり、この船の検査を無意識に無効化したりはできない。 …船に回収してからすぐにクロノ達は彼の検査を行った。 だがその男を詳しく調べようとしたその時…不思議なことが起こった。 補佐であるエイミィと担当者しかまだ知らない事実だがいくら調べようとしても何も見えてこなくなったのだ。 クロノは記録されていたその映像を見て色々な手を試した無駄な時間を思い知りため息をつき、クロノの意識は男性を保護することになった経緯を思い返す…それはある管理外世界が滅んだことが観測されたのが始まりだった。 まず管理外世界は基本的に不可侵である為、詳しい事情はクロノ達にもわからないということを先に述べておく。 その世界の統一国家であるクライシス帝国は、管理局が禁忌とする質量兵器と強力な兵を多数保有しており、独特の文明を発達させていた。 宇宙空間にも進出していることなどが確認されており、本来は管理世界の一つに数えられるはずだった。 だがどういう経緯か、未だ管理外世界とされており、交渉も殆ど行われていなかった。 そんなクライシス帝国だったが、先日突然その世界も巻き添えにして滅びたらしい… それだけなら管理局の上層部は、質量兵器等は危険であると言う認識を深めるだけで終わっていただろう。 他にも何らかの理由で滅びの危機を迎える管理世界が100以上もあるのだから。 だがそれが止んで暫くたったある日のこと。 ほんの一瞬だけ、クロノが乗るこのアースラの総エネルギー量がカスに思えるほどの超超高エネルギーを秘めた何かが、その付近で観測された。 (観測されたエネルギー量からいって、無関係だとしても遠からず原因究明に派遣されていただろうが)恐らく、それがクライシス帝国を滅ぼした原因ではないかと管理局は予想し… その捜索のためクロノらに消失した地点に向かい痕跡を探るよう命令が下った。 そこで見つけたのが、この男性、『南光太郎』だった。 名前は寄り添うように漂っていたバイクと車もクロノ達はアースラに収容しており、その二機から聞いた。 回収した時の光太郎の姿と同系統のフォルムを持つ二機が(魔力などは全く持っていないようだが)意思を持ち、話を聞くことができたのは行幸だった。 昆虫っぽい亜人の姿から人間の姿になったのはつい先程、検査を止めて暫くしてからのことだった。 …戻ったら戻ったで全裸で、一目でわかる程鍛えられた体と『凄く…世紀王です』ということはわかったが、どうでもいいことだ。 この男性の名前は南光太郎。21歳…クロノの、妹みたいな友人と同じ地球の日本出身らしい。 バイクも車も、詳しくは教えてはくれなかった。 乗り物とはいえ、強引な手段を使うことを好まないクロノは無理に口を割らせたりはしなかった。 クライシス人が地球に潜入していたと言うのだろうか? それとも地球人が何らかのアクシデントに巻き込まれクライシス帝国にいたのか。 管理世界のどこかから違法に地球とクライシスを行き来していたのか。 疑問は尽きなかったが、光太郎が目覚めれば解決するだろうし、クロノの頭を悩ませている問題ではなかった。 ただ、二台がクロノが地球のことをそれなりに知っているのに『南光太郎』の亜人形態を知らないことに戸惑いを見せていたのが気になった。 体の検査を諦めたものの、もしもの時は軟禁できるよう用意された別室にクロノは入る。 光太郎が寝かせられた備え付けのベッド以外に殆ど何もない部屋は、清潔感のある白系統の色で統一されている。 部屋の中へとクロノは足を進め、絵や写真の一枚もなく、殺風景な部屋で寝息をたてている光太郎の様子を伺う。 存外整った顔に浮かぶ表情は険しく、何か悪い夢でも見ているようだった。 時折、「教えてくれ…キングストーン」とか寝言を言っているが、何のことかまではクロノにもわからなかった。 まさか人名などではないだろうが。 クロノが悩んでいるのは、光太郎をどうするかだった。 法的には何も問題はない。クライシスも地球も管理外世界だし、犯罪らしい犯罪を起こして捕まえたわけでもない。余罪も、多分無い。 何故あんな場所にいたのか追究は必要だろうが、重要参考人程度で済むだろう。 どちらの世界で何をしていようが、それは管理局が裁くものでもない。 自分が調査している原因に深く関わっているだとか、普段からクロノ達が回収・管理して回っている『ロストロギア』に即認定されるであろう 『キングストーン』を二個持っているなどとは思いもしなかったクロノは光太郎の罪状などについては、そう考えていた。 いや、もし持っていると考えても『八神家』という前例をよく知っているクロノの考えは変わらなかっただろう。 ちなみにロストロギアとは…過去に滅んだ超高度文明から流出する特に発達した技術や魔法の総称で危険なものも多く、主に時空管理局が管理していた。 今クロノが気にしているのは、罪科ではなくクロノ達では検査できなかった肉体をそのまま報告すれば本局がどう判断するかだった。 宇宙空間で生存可能な人間…強引に管理下に置かれ実験に協力させられることになるのだろうか? 「…ここは?」 考えに耽っていたクロノは男が発した声に目を見開き、光太郎を見た。 光太郎の目が薄く開いていた。男が目覚めるのを見ながらクロノは顔を顰め、光太郎をモニタしているはずの担当者へと通信を繋ぐ。 担当者から帰ってきた答えはデータには全く変わりない、ということだった。 クロノの表情は報告を聞いてより険しくなる。 覚醒することも察知できない隠蔽能力ってなんだ? もし逃げられて一旦見失ったら発見は困難かもしれない。 実験体になることを強制されるのでとか気にするクロノの嫌な予感を更に加速させながら光太郎は体を起こした。 「目が覚めたか」 「君は…」 意識が完全に戻っていないらしく、目を瞬かせた光太郎は次の瞬間クロノの肩を掴んでいた。 クロノは肩の痛みで呻き声をあげるのをどうにか堪える。 思っていたよりも、遙かに素早い。 出世をして前線を退いたとはいえ、未だ一線級の魔導師であると自負していたクロノは反応が遅れたことに自尊心を傷つけられた。 光太郎の方は、そんなことを気にする余裕など持ち合わせていない。 クロノの肩を握り潰しかねない強さで掴みながら、光太郎は詰問する。 「クライシスはッ! 地球はどうなったんだ!?」 「落ち着け…ッ、」 そう言ってクロノは手を退けようとしたが、光太郎の腕はビクともしない。 肩を掴む光太郎の、改造強化された手の力は次第に強くなっていく。 「これが落ち着いていられるかよッ、頼むから教えてくれ!」 「痛いんだ!! 僕の肩の骨が砕ける!! 教えてやるから落ち着けと言ってるんだ…!」 「す、すまない…」 苦しげなクロノの言葉を耳にし少し冷静さを取り戻したのか、光太郎は掴んでいた肩を離してクロノに詫びる。 自由を取り戻したクロノは、肩の痛みを我慢しながらクライシス帝国のある次元世界が滅んだ事、地球は無事である事を説明しはじめた。 クライシスが滅んだ事、地球は無事だと言う事を聞いた光太郎は一瞬笑い、今は深い悲しみを表に出す。 「今度は僕から質問させてくれ。クライシスが何故滅んだかや君が何故あの場所にいたのか。君の出身なども含めて知っていることを」 「世界が滅んだのは、多分…俺が、クライシス皇帝を殺したからだ」 クロノは(他人からみれば少しの間だったが、)暫く二の句が告げられなかった。 ……何を言ってるんだコイツは?というのが素直な気持ちだった。 クライシス皇帝を殺す事と世界が滅ぶ事は関連性などないようにクロノには思える。 死ぬ前に皇帝がロストロギアを暴走させ、世界を道連れにしたということだろうか? 皇帝を殺したことについては、それこそクロノの権限ではどうにもできない事柄だ。 管理外世界で人殺しが行われたら、それはその世界の法で裁かれる。 だがその世界も滅んでいたら…? 管理局はその場合代わりにやるような機能は無い。 突拍子も無い話に困惑するクロノに、光太郎は憂い顔のまま説明を続ける。 「クライシス皇帝の力は怪魔界全体に広がっていたらしい。奴を殺せば怪魔界全てが滅ぶ。そう奴は言っていた」 「…信じがたい話だな。それで君は、どうしてそんなことを?」 少し身を引き、何かをしようとしたなら今度は返り討ちにする用意をしながらクロノは質問を重ねた。 だがその質問には光太郎は意外そうな顔をした。 「? 知らないのか? クライシス帝国は地球を侵略してたからじゃないか」 「なんだって?」 「本当に知らないのか!? 帝国50億の人間を移住させる為に、クライシス帝国は色んな怪人を送り込んでいただろう!?」 興奮状態の光太郎を宥めながらクロノは記憶を探ったが、やはりクライシス帝国が地球に攻め込んでいたと言う話は記憶に無い。 そんな話があれば義妹達から真っ先に聞かされているはずだ。 「そんな話は、聞いたことが無いな…」 疑わしげに返すクロノに、光太郎は怒りを隠さなかった。 「冗談きついぜ。ゴルゴムから半年、やっと平和になった日本に奴らが侵攻していたことは、全世界で知られているはずだ」 「ゴルゴム?」 これもまた前回地球を、海鳴を訪れた時には全く聞かなかった話にクロノの困惑は深くなっていく。 ゴルゴムという単語にも困惑した表情を深くするだけなのを見て、光太郎は怒りを通り越し、呆れたようだった。 「ゴルゴムも知らないのか? 話にならないな…他に誰かいないのか? ニュースとかに目を通してる人とかさ」 少しクロノを笑う光太郎に、クロノは不愉快さと持つと共に何か…決定的に見落としていることがあることを確信していた。 「僕だって大きなニュース位は聞いている。君こそ、どうも僕の知る地球とは違うように感じるんだが」 「はぁ? 地球が二つあるって言うのか? 悪いが、冗談なら俺は」 「冗談じゃない! いいか? 少し話を整理するから僕の質問に答えてくれ」 そう言ってクロノは、ゴルゴム等を知らない事に呆れ、怒ったままの光太郎に幾つか質問をしていく。 質問の内容に光太郎は素直に答えてくれているようにクロノには感じられた。 余り嘘などが得意なようには見えないし、頭がイカレているようにも見えない。 幾つかの質問を終えたクロノは不承不承ながら、一つの事を認めた。 「…僕が知る地球と君の言う地球は別のもののようだな」 光太郎も、クロノの質問から予想していたのか驚きはしなかった。 むしろ驚きはクロノの方が大きかった。 次元世界に地球は一つだけだ。 クロノの義妹や友人のなのはが住む世界の地球だけだ。 だが光太郎の地球はそこではない。 クロノの知る地球はゴルゴムが日本を占領したことなど無いし、クライシス帝国の侵略など受けていない…それに改造人間。 仮面ライダーなんて存在しない。 信じられない話だが…だが、こう考えればしっくり来るという考えがないわけではない。 次元世界では未だ確認されていない、次元世界の外が更に存在しそこの地球にクライシス帝国は侵略を行っていた… 次元を渡る能力を持たなかったにも関わらず、そんなことがあるというのだろうか? 専門家ではないクロノには判断が付かなかった。 ただ分かるのは、思っていたよりも遙かに光太郎は厄介な問題児だということだ。 「今度は俺の質問に答えてくれ。地球でもクライシスでもない、ここはどこだ? 船の中みたいだが」 「…アースラだ。君には悪いが暫く航海を続けるよう命令がきている。後で世話を」 クロノが説明しようとした途中で、光太郎は突然壁の方へと目を向けた。 「どうかしたのかい?」 尋ねながら、さりげなく光太郎の見ている方を見たが殺風景な壁があるだけで特に目に付くものはない。 だというのにクロノの脳裏にも何か引っかかるものがあった。 それが何かクロノが答えを出す前に光太郎が尋ねる。 「アクロバッターやライドロンも、俺のバイクと車もここにいるのか?」 「…どうしてわかったんだ?」 光太郎にはまだ収容したことは伝えていない。 だがしかし、光太郎が視線を向けた方向には、確かに二機を収容した場所があることとクロノは知っていた。 名前を知っていたことからブラフで言っているのかと考えるクロノに光太郎は爽やかな笑顔を見せて答えた。 「俺とアクロバッターは仲間だからだ」 何かそういう機能があるのだろうが、勘弁してくれとクロノは思った… * 光太郎が目覚めて半月近くが過ぎた。 状況に余り変化はない。 クロノ達は怪魔界を滅ぼしたロストロギアの実態調査及び探索の任務中で、相変わらず航行中だった。 光太郎はその途中で救助されたクライシス帝国の被害者と言う扱いを受けている。 改造人間だと言う話は信じてもらえたが、皇帝からクライシス帝国の幹部、怪人達をほぼ一人で倒し、クライシス帝国を壊滅させたと言う話までは話半分に聞かれているのだ。 勿論光太郎もただ彼らの保護にあるのがよいとは思っていないのだが、彼らとは技術体系が違うのでどうしようもなかった。 ライドロンやアクロバッターが何故か一緒に回収されていたが、ライドロンの力でも地球への帰還は出来ないという回答が来ている。 怪魔界と地球を行き来するのと管理局が行っている管理世界間の移動は異なる技術であるらしい。怪魔界からであれば地球へ行けたが、怪魔界はもうないのだ。 だが、地球への帰還を諦めてはいない。クロノは協力を約束していたし、光太郎自身も研究者達を訪ねるなり、探していく決意を固めていた。 その体には少なくとも五万年もの時間があるのだから。 そんなわけで機密に関わる場所に入るわけにも行かない光太郎は、一先ずクロノの保護下で管理世界の知識を吸収することに努めていた。 それに関して、この管理世界の地球で使われている言語と光太郎の地球の言語は同じだったのは幸いだった。 光太郎自身も驚くほどの吸収力を見せ、光太郎はミッド語を学び、知識を得ようとしていた。 クルーの娯楽や学習のため用意された蔵書に目を通しながら光太郎は驚いていた…理解力などが向上しているようだ。 だが、驚きはすぐに消え光太郎は恐怖を感じた。 本を読む手が止まり、虚空を見つめる光太郎の脳裏には、こちらに来てから一度だけ夢の中で語り掛けてきたキングストーンの声が響いていた。 夢の中で、光太郎の故郷の地球に似た風景の中でキングストーンは光となって現れた。 光太郎を照らし、穏やかで力強い声で光太郎に語りかけた。 『光太郎よ、お前の肉体は遂に創世王の肉体となった』 (ど、どういうことだ? 信彦のキングストーンは確かに破壊したはずだ) 『宇宙に投げ出され漂流するお前は、クライシス帝国の民を切り捨てる決断をしたことで弱り、孤独を恐れた。 無意識にそれを埋める存在を求めたのだ…アクロバッター、ライドロン、そして、それらよりも先に、お前が破壊したと思っていた『月の石』がそれに答えた』 (答えてくれ! キングストーン。『月の石』がまだあったと言うなら、信彦は生きているのか!?) 50億の民を切り捨てたと言う声に怯みながら、肝心な所を答えないキングストーンに苛立った光太郎は叫んだ。 だが、キングストーンはあくまで静かに光太郎に答えを返す。 感情を乱す光太郎を打ち据えるように、厳かに声を響かせる。 『信彦は死んだ。クライシス帝国とお前が殺したのだ』 (……そうか) 『だが、我らはお前が何度でも蘇るように、また何度でも蘇る。光太郎、お前が望みさえすれば…何度でも。光太郎よ。成長するのだ…さすればアクロバッターを呼んだように故郷の地球を感じられるであろう。そして戻る事も』 自分が兄弟のような、あるいはそれ以上に想っている親友と戦い、殺した記憶が光太郎を苛む。 改造手術から、ゴルゴム神殿の崩壊から信彦を残して一人で脱出したことも。 実際は死んでいなかったとしても…ブラックとして、RXとして合計二度も殺したことも光太郎の魂に深い傷として残っていた。 (もう一つ教えてくれ…怪魔界は、滅んだのか?) 『渦中にいたお前は、理解しているはずだ。今は思い出すまいとしているに過ぎない…』 そして怪魔界の人間。 否…怪魔界に生きる全ての生命を自分の手で滅ぼしてしまったという事実が、光太郎の心に新たな、とても深い傷となって刻み込まれた。 クライシス帝国との戦いで大切な人を失い、既に傷ついていた光太郎の心には、それは重すぎた。 そうして弱った光太郎の心が『月の石』を呼びよせ、二つのキングストーンを揃える事になったのだと言われた光太郎は、 光太郎は表情を歪めながら、それでもキングストーンに尋ねた。 地球に戻る事ができると言う言葉は、微かな希望だった。 クライシス帝国の侵略から守った地球を見たい。 それに共に戦った仲間や、先輩、叔父夫妻の子供達も地球にいるのだ。 (…戻れるっていうのは本当なのか? どうして、そんなことがわかる!?) 『かつて同じような事があったからだ。光太郎…前創世王も、五万年前に同じ道を辿った』 (…ど、どういうことだ!) 『創世王は、肉体を失うまで今のお前と同じくクライシス帝国のような侵略者と戦い続けた。そして人々を守り、傷つき倒れお前も知るあの姿となった』 光太郎が見た創世王の姿は、巨大な心臓のような姿だった。 それが、遠い昔は違う姿を取り光太郎と同じように戦っていたと、キングストーンは言った…にわかには信じがたいことだった。 『そして、侵略者と対抗する内に創世王を神と崇めるようになった支援者達が、ゴルゴムを作った。肉体を失った創世王は、それを受け入れる他戦う術がなかった』 (…! 馬鹿な…馬鹿なことを言うな!! あの創世王が、俺と同じようにクライシスと戦っていたというのか!?) 自分達を浚い、改造したゴルゴムと創世王が。 数多くの悲劇を生んだあいつらと同じだと認めることはできず、光太郎はいつの間にか叫んでいた。 だがそんな光太郎の激情も物ともせずに、キングストーンの言葉は光太郎の中に強く響いてきた。 『その通りだ。光太郎、お前はまだ、創世王が歩んだ道を一歩進んだに過ぎない。だが、彼よりも更に成長せねばならない…新たな創世王が生まれるその日まで。戦い続ける為に。半ばで倒れ、ゴルゴムなど作らぬ為に』 (何を…言ってるんだ。キングストーン) 『だがそれは、心までも新たな創世王となるということ。お前を苛む孤独は完全に消え、お前は人を必要としなくなる…多くの人々がお前を恐れ、数少ない者達がお前を崇めても』 (……俺は、俺は人間だ!) 『いずれ、遠くない未来…たった千年程の時間が過ぎれば、お前は人々に心動かされる事はなくなるだろう…賢き道を行け、光太郎』 キングストーンはそう言っていた。 光太郎はその言葉を思い出し、より孤独と郷愁、そして未来への不安を感じていた。 「…そうなるとは思えないぜ。キングストーン、この孤独がいつか消えるって言うのか? 俺は、あの創世王と同じ道をなぞっているだけなのか?」 嘆く光太郎にキングストーンは答えなかった。 代わりに教えられたことは、かつての創世王が同じような事故にあった時は地球に戻るまで千年以上の歳月を必要としたということだった。 光太郎の心は深く沈みこんでいった。 そこへクロノがやってくる。 クロノは管理局本局にもうすぐ到着すると告げた。 「それから君は一度管理局の保護下に置かれることになる。管理世界にない感染症がないか、その逆も含めて君の体を検査したり前科が無いか調べる少しの間だけだ。 直に、多分君は地球へ送られることになるだろう」 クロノはそういうと、海鳴市にある家やこちらにあるオフィスの場所や連絡先を光太郎に教える。 今の光太郎の記憶力なら、それを覚える事はそう難しい事じゃなかった。 「開放されて、もし困ったことがあったら連絡をしてくれ」 「それなら、俺のアクロバッターとライドロンを頼んでいいか?」 光太郎の申し出に、クロノは陰りのある笑顔を見せて頷いた。 軽く音速を超える速さで怪人を轢き殺してきた車を、質量兵器を禁忌とする管理局に引き渡して弁護するのは流石のクロノにもできることではない。 「元からそのつもりだ、あんなもの…本局には渡せないからな。君のバイクと車は責任を持って預かっておく」 「頼む、世話をかけるな」 「気にするな。お陰でクライシス帝国のことも少しはわかったから、その礼代わりさ」 素直に礼を言って光太郎はクロノと別れ、アースラを下りる。 アクロバッター達と分かれたのは、クロノによればアクロバッターと、特にライドロンが管理局が禁止している質量兵器に認定される可能性がある。 航行中、クロノと話した際に二機の性能を知ったクロノに渋い顔で言われた光太郎はクロノの伝手を頼むしかなかった。 余りよくないことだが、抜け道が結構あるらしい。 そして…本局を訪れた翌朝には、光太郎は身柄を移送されていた。 移送先は周囲を荒野に包まれたこれもまた殺風景な場所だったが、地上である分アースラよりはマシだとさえ光太郎は感じた。 施設内では、白衣を着た男が秘書らしき女性を伴って光太郎を待ち受けていた。 男は二十歳を少し過ぎただけのようにも、四十を超えているようにも光太郎の目には映った。 性差はあるが、隣に立つ紫のロングヘアーの女性とその男はどこか似ていた。 「君が光太郎だね?私が君の担当になったジェイル・スカリエッティだ。ドクターと呼んでくれると嬉しいな」 「よろしくお願いします。ドクター」 がっしりと握手をする光太郎を見るドクターの秘書らしき女性の笑顔が微かに深くなった。 光太郎はそれ気づき、女性にも挨拶をする。 「君のようなケースはとても希少だからね。協力に感謝するよ」 「お手柔らかに頼みますよ」 「私に任せておきたまえ…全てね」 そう言ったドクターの目に狂ったような光が宿ったが…ゴルゴムの科学者に比べれば幾分マシ、としか光太郎の目には映らなかった。 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/152.html
それは小さな思いでした。 新たに始まる私達の日々。 決めたのは、戦う事を諦めない事。 誓ったのは、昨日よりももっと強くなる事。 走り出した復讐のプログラミング。 もう、二度と大切な人を傷付けないために。 宇宙の騎士リリカルなのはBLADE…… 始まります。 ピピピピピピピッ…… 鳴り響く目覚まし時計のアラーム音。 「……ん。」 はやては時計をパシッと叩き、アラームを止めた。 明るい朝日が差し込み、今日もいつも通りの日常が始まる。 起き上がって横を見ればヴィータはすやすやと寝息をたたて眠っている。 はやてはクスッと笑いヴィータに布団をかけ直し、そのままリビングへと向かった。 「……ん……あ?」 リビングのソファで眠っていたシグナムは、キッチンから聞こえる音に目を覚ました。 「ごめんな、起こした?」 「あ……いえ。」 キッチンで朝食の準備をしていたのははやてだ。 「ちゃんとベッドで寝やなあかんよ?風邪ひいてまう」 「す、すみません……」 シグナムは自分にかけられた毛布をたたみながら謝罪する。 「シグナム、夕べもまた夜更かしさんかぁ?」 「あ……あぁ、その……少しばかり……」 シグナムの答えに「ふふっ」と笑うはやて。 間違っても闇の書を完成させる為にリンカーコアを蒐集していた等とは言えない。 「はい、ホットミルク。ザフィーラのもあるよ」 「ありがとう…ございます。」 シグナムははやてから差し出されたホットミルクを両手で受け取り、礼を言う。 「すみません、寝坊しました!」 そうこうしていると、今度はシャマルがエプロンを付けながら急いでリビングに入ってくる。 「おはよう、シャマル」 「……ああ、もう……ごめんなさい、はやてちゃん!」 シャマルはあいさつと同時に謝罪しながらキッチンに入る。もちろんはやては「ええよ」と笑う。 「おはよう……」 次にリビングに入ってくるのはシンヤだ。 「おはよう……ってなんや、シンヤも夜更かしさんか?」 「ああ……まぁね。それより、ホットミルクはあるかい?」 やはりはやてにはすぐに見破られてしまうのか。返事を返しながら着席し、ホットミルクを要求するシンヤ。 「あ……シンヤくん、その前に顔洗ってきなさい!」 それを聞いたシャマルは腰に手を当て、まるで母親のように言う。 「朝からうるさいなぁ、もう洗ったよ」 「あはは、流石シンヤやなぁ。はい、あったまるよ」 「ああ、ありがとうはやて」 シンヤの返答を聞いて笑いながらホットミルクを差し出すはやて。シンヤも「ふふ……」と笑いながら受け取る。 「(あったかい……な。)」 シンヤは手に持ったホットミルクを見つめる。そうしていると、人間だった頃の記憶が甦ってくる。 普通の家と何も変わらない朝食の風景。そこにいるのは父さん、ケンゴ兄さん、ミユキ、フォン、そして…… タカヤ兄さん。 思い出した途端に、シンヤの中から何かが込み上げてくる。自然にカップを持つ手が震えてくる。 「(タカヤ兄さん……いや、ブレードッ!)」 強くカップを握りしめ、それにより中のミルクが振動する。そして憎しみの次に込み上げる感情は、喜び。 「(ククク……ブレードは今頃……)」 考えれば考える程笑みがこぼれる。はやて達に気付かれはしないが、ちょっと危ない笑いだ。 第4話「ペガス発進!新たなる力、起動!」 それは昨日の出来事。 「ハッハハハハハ……アーハッハッハッハッ!」 笑いながらクロノから離れてゆくエビル。 しかし…… 「……ん?」 エビルの周囲から現れた、輝く鎖のような物が自分目掛けて飛んでくる。これには見覚えがある。 「人間共が使うバインドとか言う奴か……」 クロノの目の前で堂々と去ろうとしているエビル。もちろん執務官として逃がす訳にはいかない。 ましてやエビルは闇の書に関わる者。クロノとしても尚更逃がす訳にはいかない。 テッカマンとまともに戦っても勝ち目は無い。なら、バインドで何重にも拘束し、 動きを封じて転送する。今がそのチャンスかもしれない。いや、今しか無いというべきか。 詠唱を終え、『ディレイバインド』を発動するクロノ。エビルの周囲に現れた鎖はエビル目掛けて飛んでゆく。 しかし…… 「消え……ッ!?」 目の前のエビルが消えた。そして一瞬、クロノの肌を風が掠めた。 「(まさか……)」 そして背後から感じる何者かの気配。クロノは恐る恐る後ろを振り向く。 そこにいたのは、自分の首筋辺りにテックランサーを突き付けて立っているエビル。 「……ッ!?」 「お前、死にたいのか?」 「何を……!」 「せっかく見逃してやろうと思ったけど……そんなに死にたいなら望み通り殺してやるよ!」 エビルはテックランサーを振り上げる。それを見て「殺される!」と思ったクロノは反射的に目をつむる。 「(………な?)」 しかし、テックランサーが自分に突き刺さる事は無かった。 ゆっくりと見上げれば、エビルはテックランサーを振り上げたまま静止している。 「…………。」 『(くれぐれも、殺さないでね。)』 エビルの脳裏をよぎるシャマルの言葉。 こんな虫けら一人、殺そうと思えば一瞬だ。だが、それはできない。してはならない。 ブレードならまだしも、こいつはただの人間だ。 「チッ……今回だけは見逃してやるよ。」 「……な!?」 「ただし……これが最期のチャンスだ。次は無いと思え……!」 「…………!」 エビルの恐ろしい声に返す言葉を失うクロノ。さすがのクロノでも死の恐怖を感じたのは初めてだった。 「それより……ブレードを追い掛けたらどうだ?」 さっきの恐ろしい声とは打って変わり、今度は少し楽しそうに言うエビル。 「……なに!?」 「ククク……行ってやれよ?楽しい事になってるかもなぁ」 最後にそう言い、また笑いながら立ち去ってゆくエビル。 「(ククク……『俺は』殺さないさ。後は知らないけどねぇ……)」 エビルはそう思いながらまた楽しそうに歩き始めた。 「そうだ……Dボゥイ!」 クロノはエビルが見えなくなった頃にやっと正気を取り戻し、空に上がる。まずはエビルが言うようにブレードを追うのが先だ。 「……にしても、なんでこんな時に!」 こんな非常時に敵から逃げ出したブレードに対し愚痴を零しながらクロノは捜索を開始した。 ハラオウン家、クロノ自室。 現在、クロノは通信中。相手はレティ提督だ。 内容は、グレアム提督の口利きのお陰で武装局員の指揮権が借りられた、という話。 『それはそうと……』 「何ですか?レティ提督」 『Dボゥイの様子はどう?』 「……はぁ。今はアースラで眠ってますよ……」 クロノは少ししかめっ面をして答える。 『そう……昨日は散々な目にあったみたいね?』 それを見たレティはクスクスと笑いながら言う。まぁ昨日といっても正確には今日だが。 「はぁ、もう……死ぬかと思いましたよ……まったく。」 『フフ……まぁ助かって良かったじゃない』 「……それはそうですけど……」 言いながらかなり不機嫌そうな表情をするクロノ。 ここで再び回想シーンだ。 「……Dボゥイ!!」 クロノはブレードの捜索を開始してすぐにブレードを発見、地面に佇むDボゥイに呼び掛ける。 「聞こえないのか、Dボゥイ!」 今度はさらに接近して呼ぶ。それに気付いたブレードはゆっくりとクロノへと目線を向ける。 この時、ブレードの瞳の色が赤くなっていることにクロノは気付かなかった。 「一体どういうことなんだDボゥイ!理由の無い敵前逃亡なんて……ッ!?」 言いながら歩み寄るクロノの動きが止まった。ブレードはクロノの目の前で肩から二本のテックランサーを出し、連結したのだ。 「D……ボゥイ?」 「うおおおおおおッ!」 テックランサーを振り回し、クロノに襲い掛かろうと走ってくるブレード。 クロノは咄嗟に空に飛び上がり回避する。 「何をするんだDボゥイ!」 「うおお!おおおおお!」 言葉は通じず、さらにクロノに追撃しようとするブレード。もちろんクロノは全力全開で逃げる。 「くそッ……本当にデンジャラスボゥイだな、キミは!」 クロノはしばらく逃げ続け、いよいよもってキレかけていた。逃げながらブレイズキャノンの発射準備に入り…… 「クソ……なんでこんなこと……」 クロノの中で何かが弾けた。意識を集中させるクロノ。 そして一気に急降下……いや、落下する。ブレードもそれを追うためすぐに急降下。 「うおおおおおおッ!!」 ブレードは叫びながらクロノの顔面を狙ってテックランサーを振るう。しかしクロノはそれを顎を上げて紙一重で回避。そして…… 「何なんだアンタはァーーーーーーーーーッ!!」 『ブレイズキャノン』 急降下してきたブレードの腹にS2Uを突き付け、零距離でブレイズキャノンを発射。 お互いに落下する。 「……やったか?」 ダメージは与えられないまでも衝撃は伝わったはずだ。そう思いブレードを見る。 しかし、やはりブレードは無傷。普通に立っている。クロノは「ダメか」と思った。しかし…… 「うおおおおおおッ!」 「何!?」 次の瞬間、ブレードはまた両手で頭を抱えて苦しみ出したのだ。 本当に苦しそうにもがき苦しみ、そして最後はその場に倒れた。 「Dボゥイ?」 「…………。」 返事は無い。ブレードは死んだように動かない。 やがてブレードの体は緑の光に包まれ、人間の姿に戻った。 その時、近くに割れた緑のクリスタルが落ちていたという……。 『……で、拘束されてアースラに転送されたわけね』 「はい。まったく、Dボゥイの奴一体何考えてんだか……」 話をまとめるレティ。クロノは大きな溜め息をつきながら答えた。 「お、クロノ君。どう?そっちは」 部屋から出てきたクロノに、リビングで冷蔵庫を漁っていたエイミィが話し掛ける。 「武装局員の中隊を借りられたよ。そっちは?」 「よく無いね~。夕べもまたやられてる」 エイミィは昨晩の被害について説明する。昨日は魔導師が十数人、リンカーコアを持つ野性生物が5匹。 いずれもリンカーコアを奪われており、野性生物の内一匹はエビルが倒した龍だ。 「そういえば、Dボゥイ……目が覚めたらしいよ」 「そうか……。」 エイミィはリモコンのボタンを押し、さっきまで空中に表示していた闇の書の画像を別の画像に切り替えた。 「……これは?」 表示されているのは緑のクリスタル。だが、割れてしまっている。 「うん、Dボゥイが変身……テックセットだっけ?に使うクリスタル。」 「……でも、割れてるぞ?」 「うん……これが割れちゃったらもう……テックセット、できないらしいよ……」 「……そんな!」 クロノは耳を疑った。いきなり逃げ出して、いきなり襲い掛かって、いきなりテックセット不能なんて……訳がわからなさすぎる。 「……とりあえず今、艦長が事情を聞いてるらしいよ」 「…………。」 アースラ、面会室。 ガチャリとドアノブを回す音が聞こえ、リンディが入ってくる。 「Dボゥイ……。」 「…………。」 Dボゥイは何も言えない。 「理由の無い敵前逃亡……それにクロノ執務官に襲い掛かった理由、聞かせて貰えるかしら?」 「…………。」 数時間後。 「あ、メール……」 携帯の着信に気付いたなのは。 相手はクロノだ。どうやらレイジングハートとバルディッシュは来週には修理が終わるらしい。 それともう一つ、フェイトに「寄り道は自由だが夕食の時間には戻ってくるように」と伝えて欲しいとの事。 なのははレイジングハートの復活を心待ちにしながら、フェイトやアリサ達と思い思いの時を過ごす 同刻、八神家。 「カートリッジか?」 シャマルがカートリッジに魔力を込めていると、目の前で壁にもたれているシンヤが話し掛けてくる。 「うん、昼間のうちに造り置きしておかなきゃ」 シャマルが答える。 「大変だね。一人で任されっぱなしで」 「ううん、バックアップが私の役割だからね。これくらい平気よ」 カートリッジを眺めながら笑顔で言うシャマル。 「そうか。ま、俺には造れ無いしね」 「それに、お前にカートリッジは必要無いからな」 今度は外出準備中のシグナムが上着を着ながら言う。 確かにテッカマンには魔力もカートリッジも全く関係無い。 「まあね。シグナムはこれからはやてのお迎えかい?」 「ああ。お前も来るか?」 「遠慮しとくよ。俺が行く意味が無いからね。」 シンヤはシグナムの誘いを断る。 別段はやてを嫌いな訳でも無いが、ただ迎えに行くだけならわざわざ自分が行く必要も無い。 シグナムは「そうか。」と言い、そのまま部屋を出た。 一方、再びアースラ。 「Dボゥイ……そろそろ答えてくれないかしら?悪いようにはしないから……」 「…………。」 ずっとだんまりを決め込むDボゥイにリンディは半ば諦めかけていた。その時…… 「俺は……」 「……?何、Dボゥイ?」 「俺が、人の心を保っていられるのは、テックセットしてから30分が限界だ。」 「……え?」 予想外の展開にキョトンとした顔をするリンディ。 「テックセットしてから30分が経過すれば、俺の心はラダムに支配され、身も心もあの化け物になってしまう。」 「そんな……!?」 リンディはあまりにショッキングな事実に口を塞ぐ。 「だから……30分が経過して、できるだけクロノから離れようとしたのね……?」 「…………。」 「でも……それならどうして貴方はまた人間に戻れたの?」 ここで疑問に思った事を質問してみるリンディ。 「恐らく、暴走する直前にエビルのPSYボルテッカを受けて体力を消耗していたからだろう」 「…………。」 今度はDボゥイの説明に言葉を無くすリンディ。 「いいえ……きっと違うわ。」 「何?」 「貴方がまた人に戻れたのはきっと、貴方が人でありたいと願ったからよ」 リンディの言葉に驚くDボゥイ。まさかこんな風に言われるとは思っていなかった。 「貴方は化け物なんかじゃないわ。だって、ちゃんとこうして戻って来れたじゃない」 「……だとしても、変身できなくなった俺にはもう生きる意味なんて無い」 「……そんなこと言っちゃダメよ。生きてる事に意味があるんだから……」 突然ネガティブな話をしだしたDボゥイ。リンディは戒めるように説得を試みる。 「……仮に変身できたとしても……もう戦いたく無い。」 「……どうして?」 「こんないつ化け物になるか解らない奴がいても迷惑なだけだろ……」 「…………。」 Dボゥイの話を聞きながら黙って深く息を吸い込むリンディ。 「それに、俺はもう誰も傷付けたく無い。これ以上戦ってまた皆を……」 「い い 加 減 に な さ い ッ ! !」 「……!?」 リンディは大きな声でDボゥイを制した。それこそ他の部屋にまで聞こえるくらいの、特大の声で。 「さっきから聞いてれば化け物だとか傷付けるとかって……あなたは誰も傷付けたりしてないじゃない!」 「傷付けてからじゃ遅いんだよ!俺みたいな化け物、いつ仲間を襲うかわからない!」 「いいえ、貴方は人間よ!化け物なんかじゃ無いわ!」 「……何と言おうが、俺にはもう変身能力は無い!もう戦え無いんだよ!」 「…………!!」 しばし流れる沈黙。リンディも黙ってしまう。いや、何か考えがあるのだろうか? 「……わかりました。」 「…………。」 だが今度はやけにあっさりと引き下がる。そのままリンディは席を立ち、面会室を後にした。 本局、メンテナンスルーム。 ピピピピピピピピッ バルディッシュとレイジングハートの改修作業を進めていたマリーの元に通信が入る。 「誰だろ……?」 言いながらボタンを押し、相手をモニターに映す。 『久しぶりね、マリー』 「あ……お久しぶりです、リンディ提督!どうしたんですか?」 相手はアースラ艦長リンディ・ハラオウン。 『それが……ちょっと急ぎの用なのよ』 「はぁ……。」 『とりあえず、今から送るデータを見て頂戴。』 「あ、はい。」 マリーは受信したデータを見る為にボタンを押す。 同時にモニターに割れた緑のクリスタルと、そのデータが表示される。 「これは……テッククリスタル?……ですか?」 表示されている名前を読み上げるマリー。 『ええ、その割れたクリスタルを元通りに直して欲しいの。できれば一週間以内で』 「ええ!?む、無茶ですよ……こんな複雑なデータ……ロストロギア級じゃないですか!!」 モニターに表示されているだけでもテッククリスタルのデータは膨大な量となっており、それでもまだ未知の部分が多いという。 『そこをなんとかお願い!今必要なのよ、コレ……』 「う~ん……」 う~んと唸り、しばらく考えるマリー。 「……わかりました。完全に元通りになる保証はありませんけど……」 『ありがとう、感謝するわ!』 数分後、マリーの元にテッククリスタルが転送される。 「さてと……どうしようか……」 割れたクリスタルを眺めるマリー。 「そうだ……アレなら……」 何かを思い出したマリーは、ぽつりと呟いた。 その日の晩、ハラオウン家。 「……Dボゥイ、入るよ?」 言いながらDボゥイの部屋に入り、パチッと電気をつけるフェイト。 「ねぇ、Dボゥイ……」 「……何だ。」 ふて腐れたようにベッドに寝転がったまま素っ気ない返事を返す。 「その……変身、できなくなったんだって……?」 「ああ、その通りだ。戦え無い俺に生きる意味なんて無い」 気まずそうに話を持ち掛けるフェイトに、Dボゥイは冷たい口調で返す。 「前にDボゥイ……ラダムを倒すのは使命だって言ってたよね……?」 「…………。」 「その……ラダムって何なのかイマイチよくわかんないけど、Dボゥイの気持ち……わかるよ」 「……お前に何がわかる?」 Dボゥイはフェイトの顔を見ず、窓を向いたまま答える。 「使命……目的の為に、強い意思で自分を固めちゃうと、周りの言葉が入らなくなるから……」 「…………。」 「そうなっちゃうと、使命を果たすまでは一歩も後に引けなくなる……。」 Dボゥイは黙ってフェイトの話を聞く。 「……それが間違ってるかもって思っても……疑っても……」 「…………。」 「だけど、絶対間違って無いって信じてた時は……信じようとしてた時は……誰の言葉も入ってこなかった。私がそうだったからね」 「お前……」 ここで始めて振り向き、フェイトと顔を合わせたDボゥイ。 それはかつてのフェイト自身の話。フェイトは母親であるプレシア・テスタロッサの命令に従い、その使命の為になのは達と戦い続けた。 「だからこそ、その使命が果たせ無くなったら……拠り所を無くしちゃったら……どうしていいのかわかんなくなっちゃう……」 フェイトはかつて母親の為に戦い続けたにも関わらず、その母親に見捨てられ、自分を見失いかけた。 当時のフェイトは、使命を見失った今のDボゥイと似ていると、そう言いたいのだ。 「Dボゥイのとはちょっと違うかもしれないけど……強い心で、想いを貫けば……」 「ミユキ……」 「……え?」 Dボゥイがぽつりと呟いた言葉に「え?」という顔をするフェイト。 「……いや、何でもない。」 「………。」 「……少し、フェイトの姿が死んだ俺の妹の姿と被ったんだ。」 妹?そんな話初耳だ。気になったフェイトはそれについて言及することにした。 「Dボゥイ……妹いたの?」 「ああ……元の世界でな……」 それからフェイトはしばらくDボゥイの妹……ミユキについての話を聞いていた。 自分と年が近い事や、優しい性格だった事など、色々だ……。 「Dボゥイの様子はどうだった?」 「うん……まだしばらくは落ち込んだままかな……」 リビングに戻って、クロノに報告するフェイト。 妹の話など、今まで言わなかったような話をしてくれるあたり、少しずつだが心を開いてくれている。そう考えると、やはり嬉しかった。 「……あれ?」 だが、フェイトはそこで一つの矛盾に気付いた。 「Dボゥイ……記憶、戻ったのかな……?」 妹の話をするという事は記憶が残っているということになる。 つまり、Dボゥイは少しずつだが記憶を取り戻しつつあるのか…… もしくは、「最初から記憶を失ってなどいない」のか…… 一週間後。 この一週間、海鳴市に住む者は皆、思い思いの時を過ごした。 なのはは毎日魔法のリハビリに勤しみ、本局でもバルディッシュとレイジングハートの改修が進む。 そしてその間にもシンヤを含めたヴォルケンリッターはリンカーコアの蒐集を続ける。 一方、Dボゥイはやり切れない思いで葛藤を続けていた。 ラダムは憎い。だがまたいつ仲間を襲うか解らない為、戦うのが怖い。さらにテックセットも不能ときた…… 「ありがとうございましたー!」 本局の医務室からなのはが出てくる。すると、「なのは!」と呼びながらユーノ、アルフ、フェイトが駆け寄ってくる。 「検査結果、どうだった?」 「無事、完治!」 アルフの質問に笑顔で答えるなのは。魔力は完全に回復したらしい。それを聞いてフェイト達も笑顔になる。 「こっちも、完治だって!」 フェイトとユーノの手に輝くのは、赤い宝石と黄色い宝石。レイジングハートとバルディッシュだ。 「そう、よかったぁ!じゃあ戻ったら、レイジングハートとバルディッシュの説明しなきゃね」 二機のデバイスとなのはが完治したとの報を受けたエイミィは通信相手に喜ぶ。 「それから……Dボゥイにはこっちも説明しなきゃね……」 隣のモニターを見るエイミィ。そこに映し出されていたのは青い巨大なロボット。この世界的には傀儡兵というべきか。 「ふふ……Dボゥイ、驚くだろうな……ってコレ!?」 突如、警報が鳴り響く。モニターにはアラートの文字。要するに緊急事態だ。 「……管理局か。」 「でも、チャラいよこいつら?」 ザフィーラとヴィータ、それとエビルが大勢の武装局員に囲まれていた。 「ふん……こんな奴ら相手にしたってつまらないよ」 だがエビルは余裕な態度だ。ブレードがいない今、この世界にエビルを楽しませる相手はいないのか…… しかし、次の瞬間周囲の局員は一斉に撤退し…… 「上だ!」 「スティンガーブレイド、エクスキューションシフト!!」 ザフィーラの声に上を向けば、そこにいるのは青く輝く大量の剣を従えたクロノ。 次の瞬間大量の剣は三人に向けて降り注ぎ、爆発。 眩しい光と爆煙が立ち込める。 「少しは、通ったか……!?」 はぁはぁと息切れしながら言うクロノ。しかし、ザフィーラの腕に何本かの剣が刺さっただけで、 特に大きなダメージを与えた様子は無い。しかもその剣もすぐに抜かれてしまう。 一方、アースラ。 「クロノ君、今助っ人を二人転送したから!」 『……なのは、フェイト!?』 エイミィの言葉に下を振り向くクロノ。そこにいるのはなのはとフェイト。もう完治したのかと驚くクロノ。 そして二人は新たなデバイスの名を叫ぶ。 『レイジングハート・エクセリオン!!』 『バルディッシュ・アサルト!!』 二人の体はピンクと黄色の光に包まれ、バリアジャケットの装着が完了。 二人は新しくなったデバイスを構えた。 「どうDボゥイ?あの子達の新しい力。」 「……俺には、関係無い。」 モニター越しに二人を見ていたDボゥイに話し掛けるリンディ。 「やっぱり……戦うのが怖いの?」 「ああ、その通りさ。第一今の俺は変身できない。行っても足手まといになるだけ……」 「そうでも無いっスよー!」 リンディに答えるDボゥイの言葉を遮り、大声で言うエイミィ。 「何だと?」 「Dボゥイはテックセットできるよ!」 「馬鹿な……クリスタルが無いのにどうやって?」 その質問に対し、「ふふん」と笑いながら目の前のパネルをカタカタと叩くエイミィ。 そして表示された画像。それは格納庫らしき場所に保管されている青いロボット。 「これは……!?」 「よくぞ聞いてくれましたぁ!機動兵ペガス、Dボゥイのテックセットを可能にするサポートロボだよ!」 エイミィの言葉に驚いて言葉も無いDボゥイ。 「これ元は作業用のロボットなんだけど、一週間でここまで改修するのは大変だったのよ?」 リンディが「ふふふ」と笑いながら言う。 「だが、テックセットができたとしても……もう俺は戦いたくない!」 モニターを見れば、なのは達は相手の守護騎士と何か喋っている。エビルは腕を組んで黙っているようだが…… 「もう嫌なんだ……俺が弱いせいで……俺の力が足りないせいで、これ以上誰かが傷付いていくのは……!」 「Dボゥイ……」 「大丈夫よ、Dボゥイ。」 リンディが優しい口調で言う。 「貴方は強いわ。だって、強い心を持っているもの」 「……提督。」 俯いていたDボゥイはゆっくりと顔を上げる。 「そうだよ!今までだって、ちゃんと戦ってきたじゃない!」 「……エイミィ。」 今度はエイミィだ。 「そりゃあ、人間は誰だって一度くらい失敗するわ。でも、それで諦めちゃダメよ!」 「だが……俺は……」 「いい?貴方は化け物なんかじゃないわ。れっきとした人間よ!」 「……俺は……。」 確かに今自分が行かねば、なのは達がヴォルケンリッターを倒せたとしてもエビルにまで勝てる保証は無い。 「それに、もしまた暴走しても私達が絶対元に戻すから!」 エイミィが自信に満ちた表情で言う。何故か信じてみたくなるような、そんな笑顔だ。 エイミィとリンディの激励に心を揺さぶられつつあるDボゥイは、俯きながらぎゅっと拳をにぎりしめる。 『強い心で、想いを貫く。』 さらに、あの日のフェイトの言葉がDボゥイの脳裏をよぎる。 もうDボゥイの答えは決まっていた。 いや……最初から決まっていたはずだ。家族や友人がラダムのテックシステムに取り込まれたあの時から。 さっきまでのDボゥイはただ、その決意から逃げていただけ。 そして…… 「俺は……俺はッ……!!」 次の瞬間、Dボゥイは転送ポートを目指して一気に走り出していた。それを見たリンディとエイミィはニコッと笑いアイコンタクト。 「お待たせしました!機動兵ペガス……発進ッ!!」 パネルのボタンを押すエイミィ。それと同時にDボゥイはアースラから姿を消した。 「話し合いをしようってのに武器を持ってやってくる馬鹿がいるか、バァ~カ!」 「いきなり襲ってきた人がそれを言う!?」 上空からグラーフアイゼンを突き付けるヴィータに、なのはが反論する。 「この感覚は……まさか……!」 しかし二人のやり取りを無視して割り込むエビル。 「あ?どうしたんだよシンヤ?」 「まさか……ブレードか?」 エビルの態度がいつもと違う事に気付いたザフィーラとヴィータ。 「いや……まさか……ブレードはもう……!」 小さな声でブツブツと驚きの声をあげるエビル。ブレードはもはや完全にラダムと化したはずだ。 まさかまたここに現れるなんてことは有り得ないはずだ。 しかし、エビルの予感は的中することとなる。 近くに現れた魔法陣から現れたのは見覚えのある男……。 「Dボゥイ!?」 「Dボゥイさん!」 「あいつ……ブレードの野郎か!」 フェイト、なのは、ヴィータもそれぞれに驚く。もちろんフェイトとなのはは嬉しそうな表情で。 「ク……ククク……兄さぁん、流石だよ兄さぁん!!ラダムの支配を脱したんだね!?」 そしてエビルは両手を広げて笑い出す。 「Dボゥイ、もう大丈夫なの……!?」 「ああ、俺はもう迷わない! ……エビル!俺は貴様らテッカマンを一人残らず滅ぼすまで戦い続ける!」 フェイトに返事を返しながらエビルを指差すDボゥイ。エビルも実に楽しそうだ。 「フン、いつラダムに支配されるか解らない兄さんにそれができるかな?」 「黙れエビル!俺は確かに人間では無いかも知れない……!」 その言葉になのはとフェイトは顔をしかめる。 「……だが、貴様らの様に人の心まで捨てはしない!俺は……俺はァッ……!!!」 次の瞬間、少し離れた空中に魔法陣が現れ、中から青いロボットが飛んでくる。 「テッカマンブレードだッ!ペガァスッ!!」 言うと同時に一気に飛び上がり、大きな声で青いロボットの名を呼ぶDボゥイ。 ロボットの名は『ペガス』。 ペガスの背中が開き、中に人一人が入れるスペースが現れる。 『マッテイマシタ。騎士ブレード』 「行くぞ、ペガスッ!!」 『ラーサッ!!』 そしてDボゥイがペガスの内部に入り、再び閉じる。次の瞬間にはペガスの頭部が変型。 そして中から現れたのは紛れも無い『テッカマンブレード』だった。 「また変身できたんだね!」 「クリスタル……直ったんだ!」 なのはとフェイトも嬉しそうな、ヒーローを見るような目でブレードを見る。 ブレードはすぐにペガスの背中に飛び乗り、連結したテックランサーを振り回しながら回転させ、構える。 そして…… 「テッカマンブレェーーードッッ!!!」 テックランサーを構え、大きな声でその名を名乗った。 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2683.html
「行くぜ! 俺の必殺技……パート2!!」 ――Full Charge―― 電王の掛け声に応えるように、チャージされたフリーエネルギーがデンガッシャーの剣先へと収束されて行く。 チャージが完了し、デンガッシャーから離れたオーラソードは、周囲のワームの身体を切り裂きながら飛んで行く。 電王が振るうデンガッシャーに合わせて、空を舞うオーラソードは滑るように飛んで行くが―― 「えぇっ……!?」 『Protection,EX』 その先にいたのは、高町なのはであった。 なのはの危機を察知したレイジングハートは咄嗟にバリアを展開し、オーラソードを弾く。 しかし、直撃を防ぐことには成功したが、それでも衝撃はなのは側にも伝わる。 結果、バリア毎弾かれたなのはの体は、そのまま地面へとたたき付けられることとなった。 「ハイパー……キック!!」 ――Rider Kick―― ハイパーカブトは真っ直ぐに、宙に浮かんだコキリアワームへと真っ直ぐに飛んで行く。 まるで竜巻のようなタキオン粒子を纏ったその脚は、激しい火花を散らせながら、コキリアワームを打ち貫いた。 着地すると同時に、時間は元の流れを取り戻し、展開されたカブトの装甲も元の位置へと戻って行く。 やがて、変身を解除すると同時に意識を失った天道は、過度の疲労からか、その場に倒れ込んだ。 その後、意識を失った天道は、すぐにアースラの医務室へと運び込まれた。 幸い天道のダメージはそれほど重い訳でも無く、すぐに意識を取り戻す事が出来た。 それも起きるや否や、天道の態度は相変わらずの尊大さ。 流石の加賀美もはやても、呆れずにはいられなかったという。 勿論、呆れた反面、天道がいつも通りの態度であることには安心を覚えたが。 「どう? 美味しい?」 「……んー…………」 現在は、はやてがお見舞いついでに作った料理を、天道が食べている最中である。 メニューの内容は“オムライス”。 単純で平凡な料理でありながらも、料理人の実力を見る事が出来る料理だ。 そんなオムライスを、しばらく味わった天道が出した答えは。 「……まぁまぁだな」 「うんうん、まぁまぁかぁ……って! 美味しくないんかい!!」 「……まぁまぁだな」 はやての料理に対する評価は一言のみ。“まぁまぁ”だ。 そんな天道の態度に多少の落胆を覚えたが、なんだかんだで美味しそうに食べてくれている。 まぁ、これはこれでいいのかな?等と考えながら、はやては天道を眺めていた。 ACT.20「FULL FORCE-ACTION」前編 それから数日の日をおいて。 今日も天道は、このアースラ内での生活を強いられていた。 ……と言っても最近は以前程の危険人物扱いでは無く、良太郎並の行動は許されていたが。 良太郎はたまに元の家に戻っているらしいが、まぁそんなことは天道にとってはどうでも良かった。 それよりも天道にとって最も重要なのは、今の自分がこの戦艦内でどう生きていくかだ。 そしてその答えが、天道が今まさに立っている場所にある。 目の前にあるのは、沢山の食材に、まな板、包丁、その他諸々。 そう。ここは厨房だ。アースラの食堂で、皆の料理を作る、厨房だ。 そんな場所に、天道総司は立っていた。 それも、白いエプロンを着けた―――コック姿で。 「よし、では今日も一日。旨い飯を作るぞ!」 「「「はいッ!!」」」 天道の掛け声に、厨房の料理人達は声を揃えた。 すぐに天道は自分の持ち場につき、局員達の昼食の準備を始める。 手慣れた手つきで、冷蔵庫から持って来た新鮮な野菜に包丁を突き立てて行く。 その包丁さばきは見事の一言。 素早く野菜を捌きながらも、決して形を乱すこと無く、常に一定の間隔で綺麗に捌いている。 厨房で料理を作る局員達は、目を輝かせてそんな天道の包丁捌きを見詰めていた。 さて、何故天道が食堂で料理を作っているのかと言うと―――時は数日前へと遡る。 それはある日の事だった。 いつも通りに、クロノに持って来られた料理を完食した天道。 そんな天道が、箸を見つめながら、ぽつりと言った。 「やはり……旨くないわけじゃないが……旨い訳でもないな」 「失礼な。だいたい君はそんな贅沢を言える立場じゃないだろう?」 天道の食べっぷりを黙って見ていたクロノであったが、これには流石に呆れ顔。 クロノも小さなため息を落としながら、むすっと言い返す。 一方で天道は、箸を持ったまま、何かを考えるような姿勢で食器を見詰めるのみ。 「そんなに不満なら、食べなければいいだろう? それか、君が自分で作れば――」 「――それだ」 「へ……?」 「俺をここの厨房へ案内しろ」 「…………」 クロノが言い終えるのを待たずに、天道はすっくと立ち上がった。 困ったクロノは、渋りながらも艦長であるリンディに連絡を入れ、指示を仰いだ。 結果、答えは即座に帰って来た。 「面白そうだから、いいじゃない」 と、これがリンディ・ハラオウン艦長が出した答えであった。 アースラで起こったあらゆる責任を負うべき館長である筈なのに、そんなに軽くていいのかと クロノは突っ込みたくて仕方がなかったが、どうせ自分が何を言っても無駄なのだろうと。 またしてもクロノはため息を落としながら、リンディの思いつきに付き合うことにした。 そういう訳で、早速天道は食堂へと招かれ、自慢の腕前を奮って見せた。 リンディとクロノ、二人分の晩御飯を作ることになった天道は、“味噌汁”、“鯖の味噌煮”、に、白米という非常に単純な料理を作った。 当初はあまりの平凡さに、期待外れだ何だと言っていたが――― 一口食べればそんな考えはすぐに吹き飛んだ。 天道の料理を食べた二人がどんな反応を示したのか。それは最早想像に難くない。 料理も単純ながら、二人の感想も至って単純。「旨い!」の一言。 こうして天道の料理の噂は瞬く間にアースラ内に響き渡り、翌日には厨房で実際に料理を作る立場に。 翌々日には、厨房の料理長のポジションを任せられる程になっていた。 これが、アースラ内での天道の自由な行動を許す大きなきっかけになったのは、まず間違いないだろう。 たった数日ではあったが、天道の料理を食べた人は、明らかに天道に対して好意を抱いていたからだ。 実際、この数日間、アースラの局員達はこの食堂の料理ばかりを好んで食べるようになったと言う。 と言うのも、天道の料理は、食べた者を昇天させてしまう程の美味しさなのだ。 そうなるのも当然と言えば当然だろう。 と、こうして料理長として料理を作る事になり、現在に至る訳である。 天道が野菜を刻んでいると、ふと背後から何者かの気配を感じた。 「止まれ。俺が料理をしている時、その半径1m以内は神の領域だ」 「…………」 背後の気配が止まった。流れる沈黙。 キリのいい所まで作業を終わらせた天道は、ゆっくりと背後へと振り向いた。 「なんだ、クロノか。どうしたんだ?」 天道に話しかけた相手は、他ならぬクロノ・ハラオウンであった。 当初は厨房の料理人にアドバイスでも頼まれたのかと思ったが、相手がクロノなら話は別だ。 一応形だけでも天道はクロノの指示に従っている以上、蔑ろにする訳にも行かない。 天道も警戒心を解き、エプロンを外して応対した。 「何だ。そんないつも通り真剣な顔をして」 「天道……君の処分が決まった。一緒に艦長室まで来てくれるかな。 ……あといつも通り真剣な顔って何だ。」 「気にするな……ようやくか。待ちくたびれたぞ」 クロノはどことなく心外そうに呟くが、天道はお構いなしにエプロンを脱ぎ始める。 考えてみれば、天道がクロノとこんな風に話すようになったのも、ごく最近―― とくに、暴走したカブトを、ザビーが身を呈して救った時からなのだろう。 あれ以来、天道は少しだけクロノという人間を見直したのだ。あくまで少しだけだが。 きちんとエプロンを畳んだ天道は、それをクロノに渡しながら、不敵に微笑んだ。 ◆ それからややあって天道は、クロノに案内され、艦長室の前まで連れられた。 どうやらクロノは艦長室の中まで同席する必要はないらしい。 案内を終えたクロノは、「自分の役目は終えたから仕事に戻る」と、そのまま天道の前から姿を消した。 調度クロノの姿が見えなくなると同時に艦長室のドアは開かれた。 中から、自分を呼ぶリンディ・ハラオウン艦長の声が聞こえる。 声に導かれ、天道は一歩踏み出す―――刹那、室内の予想外の和風さに一瞬とは言え天道は自分の目を疑った。 無理もない。これまで天道は、アースラ内部で機械的な部屋ばかりを見て来たのだ。 それなのに、まさか艦長室がこんなにも庶民的な部屋だと一体誰が想像しただろうか。 と言っても、天道にとって和風の空間というのはかえって落ち着ける空間なのだが。 「どうしたのかしら? 天道さん。この部屋がそんなに意外だった?」 「……ああ。少しはいいセンスをしてるようだな」 「それはどうも」 天道がこの部屋に入った瞬間から既に表情に小さな微笑みを浮かべていたリンディだが、 天道にセンスを褒められた事に気を良くしたのか、リンディはさらに上機嫌そうに微笑み返した。 いや、天道にとってはこんな会話はどうでも良い。 重要なのは、自分に下される処分についてだ。 と言っても、管理局――というよりもネイティブの連中が天道の力を必要としている以上、 天道に実害が及ぶような処分が下されるとは思えないが。 それ故に天道は、自信満々といった雰囲気で、腕を組みながら言った。 「そんな話はどうでもいい。それより、俺に下された処分とやらを聞かせて貰おうか」 「まぁそう慌てないの……処分と言うよりも、ちょっとしたお話があって呼んだだけだから」 「話だと? 言っておくが俺は、管理局に入るつもりは無いぞ」 「ええ、その話なんだけど……」 ばつが悪そうに苦笑しながら、リンディはテーブルのボタンを押した。 同時に、リンディと天道の眼前に、宙に浮かぶモニターが現れる。 天道もいい加減見飽きた技術である為に、今更驚いたりはしない。 モニターに映し出された人物は、天道の顔を見るなり、満面の笑みを浮かべ、画面に身を乗り出した。 「いやぁ~……貴方が天道さんですか! どうやら噂通りの方のようですね!」 「…………」 モニターに映る一人の男。歳は中年程。体格は小太り。 正直言って、どこにでも居そうな普通の男だ。 天道はモニターに映った男に、冷たい視線を送る。 「……どうやら噂通り、クールな方のようですね! いやぁ益々素晴らしい!」 「要件は何だ。わざわざこうして俺を呼び出したんだ。俺に何か言いたい事があるんだろう」 「いやぁ~……本当に素晴らしい、まさに天道さんのおっしゃる通り! 今回は一つ、話したいことがありましてねぇ……」 モニター画面の中で、気のいい笑顔を続けていた男の表情が変わる。 笑顔という点では変わらないが、その中にもどこか真剣な色合いを浮かべたような表情。 天道には、この男がどこか気味悪く感じられた。 「あ、その前に……私はネイティブの根岸と申します。以後お見知りおきを」 「ネイティブだと……?」 「ええ、ですがその件はまたの機会に。時間も無いので、今は天道さんへの処分だけ伝えさせて頂きます」 ネイティブという単語を耳にすると同時に、天道の目付きも変わる。 何せ今最も優先すべき謎なのだから。 天道はちらりとリンディを見やるが、リンディも申し訳なさそうにゆっくりと首を横に振るのみ。 どうやらリンディ提督ですら、ネイティブという言葉についてはあまり知らないらしい。 仕方がない……と、天道はため息混じりにモニターに視線を戻した。 「えー……結論を言わせて貰うと、天道さんにこれといった処分はありません。 そしてリンディ提督とアースラスタッフ一同には、今後は天道さんの指揮下に入って頂きます」 「「な……!?」」 不敵な作り笑顔を全く崩さないままに、根岸が言った。 対照的に、天道とリンディの二人が驚愕に表情を固める。 もちろんリンディにとってそれは不服な事なのだろうが、天道とていきなりこんなことを言われても訳が解らない。 つまりは、自分を管理局に入れるということだろうか? だとすれば、天道はそんな命令に従うつもりは無い。 というよりも、アースラのスタッフを、それほど天道は欲してはいないのだ。 自分一人でも十分戦える以上、本当に味方として信用できるかもわからないような組織を側に置く天道ではない。 と、天道がそんな事を考えていると、横に座っていたリンディが声を張り上げた。 「ちょ、ちょっと待って下さい! それは一体――」 「まぁまぁ落ち着いて! 別にリンディ提督の階級を下げるとか、天道さんを上司 として管理局に招き入れろとか、そんな事を言ってるんじゃありませんよ」 リンディの言葉を遮って、根岸が苦笑気味に続ける。 「リンディ提督以下アースラスタッフ一同には、ただ天道さんの手助けをして欲しいんですよ」 「手助けだと……?」 「ええ、貴方は今まで通り、ワームを倒してくれればいい。 そのために必要であれば、彼女達の力を借りればいいんです」 「……生憎だが、俺にそんな手助けは必要な――」 「まぁまぁまぁ! そう言わずに! あって損するものじゃないでしょう! つまり、貴方は今まで通り、我々は貴方に協力したい……そう言ってるんですよ」 またしても天道が言い終える前に、根岸が割り込んだ。 正直あっさり納得することは出来ないが、現時点では根岸の言い分に、 天道にとって損失になるような事が見受けられないのも事実だ。 もしも向こうから何らかの要求が突き付けられたなら、また話は変わって来るが。 根岸は正直言ってZECTの加賀美総帥や三島と同じくらいに胡散臭い。 だが、根岸が自分の力を必要としていることに恐らく嘘はないのだろう。 ならば、こちらから利用してやるまで。 以上の点を踏まえて、暫く考えた後、天道は結論を出した。 「……いいだろう。ただし、俺の邪魔だけはしない事だな」 「えぇ、はい、それはもちろんです! リンディ提督も、分かってますね……?」 「……わかりました。私たちは今まで通り、仮面ライダーと協力して敵を倒せばいい……ということですね?」 根岸の問いに、リンディは少し表情を曇らせながら、答えた。 まぁ根岸のような胡散臭い男にいきなりこんなことを言われれば誰だってそうなるか、 などと考えながら、天道もリンディの顔を見つめる。 リンディに言わせれば、天道もまた仮面ライダーの一人。 ならば、今まで通り仮面ライダーをサポートすればいいと判断したのだろう。 リンディの答えを聞いた根岸もまた、満足そうな笑顔を浮かべ、大きく頷いた。 こうして、結果的に天道は無罪放免。 それどころか、アースラスタッフという心強い味方を手に入れる事になるのであった。 ◆ 天道が食堂に戻った時には、局員達の朝食も終わり、人影も少なくなってきた所だった。 食堂に見えるのは、サボり癖があるのか仕事が暇なのかは知らないが、のんびりと朝食を食べている数人のみ。 そんな人々も次第に食事を終え、自分の持ち場に戻って行く。 そんな中で、段々と人が居なくなってゆく食堂を見守っていた天道の目に、明らかに不自然な姿をした一人の男が映った。 鋭く尖った二本のツノを持ち、頭から足先まで全身真っ赤っかという異様な姿を持った怪人。 野上良太郎に取り憑いた、赤鬼の姿をモチーフとしたイマジン。 名前は―――モモタロスというらしい。 どうやら初陣の時から、良太郎がイメージしていた桃太郎と、このイマジンのイメージが一致していたらしい。 そんな理由で、いつからかモモタロスと呼ばれるようになったこのイマジン。 本人はそんな名前のセンスに非常に不服そうだが。 良太郎に取り憑いたばかりのモモタロスは、誰とも打ち解けようとはしない。 ただ、たった一人でふて腐れたように食堂の椅子に寝そべっていた。 傍らに置かれたコーヒーは既に冷めている様子で、どうやらモモタロスは長時間ここでダラけていたのだろうという事が伺えた。 ◆ 良太郎や他の局員達にいつの間にやらモモタロスと名付けられたこのイマジンは、 何をするでもなく、ただぼーっと天井を眺めていた。 モモタロスは今、非常に苛立っていた。 良太郎という特異点の少年に取り憑いてしまった事に関しては、今はそれほど悔やんではいない。 寧ろ、イマジンとして過去を侵略するよりも、正義のヒーロー電王として、侵略者を倒す方が、段違いにカッコイイ。 元々派手にカッコよく戦いたかった彼にとっては、電王として戦えるという事はプラスなのだ。 1番の問題はその後。電王としての戦いの中で、自分の最高にカッコイイ―筈の―必殺技を、なのはにぶつけてしまった事だ。 勿論、彼に言わせればあんな邪魔なところにいたなのはが悪いのだ。 だが、それでいいのかという疑問が、彼の心を苛む。 なのはが悪いと決め付けて逃げる事は確かに簡単だが、それは本当にカッコイイのか? 小さな子供を傷付けて、自分は平然と罪から逃れようとする。 そんな形が、本当に彼が望んだ物なのか? 答えは、Noだ。 今の自分が最高にカッコ悪いという事は、彼自身が1番理解しているのだ。 だが、だからと言って不器用な彼に、今更素直に頭を下げるなど、出来る筈もない。 だからこそむしゃくしゃと悩んでいるのだ。 良太郎には口を利いて貰えなくなり、何処か責められている気がしてなのは達に顔を合わせる事も出来ない。 「畜生……良太郎の奴、人を悪者みたいな目で見がって……」 天井を見詰めたまま、小さな声で呟いた。 寂しさや虚しさといった感情が嫌と言う程に込められた声。 それは、周囲の者が見ているだけでも、何処か可哀相に思えてくる程だった。 ややあって、うじうじと寝転んでいた彼の視界に、一人の男が入った。 自分を見下ろすその顔には、確かな見覚えがある。 天然パーマに、嫌に落ち着き払ったいけ好かない野郎――天道総司だ。 何か言いたい事でもあるのか、天道はただ自分を見下して気味悪く立っていた。 「……なんだよ?」 「ここは寝る所じゃない。飯を食わないのなら出て行け」 「っるせぇな! 言われなくても出てってやるよ!」 言われた途端に腹が立った。 すぐに立ち上がったモモタロスは、天道に背を向けて、ズカズカと歩いて行く。 別に行く宛てはないが、今ここにいることが胸糞悪い。だから出て行く。 そう考え、食堂を出ようとするが――― 「待て」 「……あ?」 「お前、顔が赤いぞ」 「な……!? べ、別に赤くなんてねぇよ!?」 食堂のドア付近で振り向くと、何やらトレイに食器を乗せながら、天道が言った。 顔が赤い。この一言で、何故か心の中身を見透かされたような気がしたモモタロスは、少し焦ったようにそれを否定する。 いや、元々モモタロスは顔が赤い訳だが。 と、モモタロス本人も、ややあってその事実に気付いた。 「って……俺の顔は元々赤いだろうが!!」 モモタロスが怒鳴るが、天道は耳を傾ける様子も無く、マイペースに作業を続ける。 トレイに乗っているのは、魚と白いご飯。 それをテーブルに置いた天道は、モモタロスに視線を送った。 「お前、今日は何も食べてないだろう」 「別にちょっとくらい食わなくたって死にはしねぇよ」 「いいから食べろ。腹が減っていては、余計に苛々するだけだ」 天道の言葉に、モモタロスは誰が食うもんかとそっぽを向くが―― 刹那、モモタロスの腹がぐうと音を鳴らした。 そういえば、昨日の夜からろくに何も食べていなかったなぁと。 そんな状態で天道の作った料理を見てしまって、腹が減らない訳が無かった。 ご飯からは白い湯気が立ち上り、味噌に漬けられた魚は美味しそうな香りを醸し出す。 気付けばモモタロスは、渋々ながら天道が誘導するテーブルの席に着席していた。 あくまで渋々ながらだ。別に食べたい訳じゃないからな! と心の中で繰り返しながら。 「……礼なんて言わねぇからな」 「いいから黙って食べろ」 「チッ……相変わらずいけ好かねぇ野郎だぜ……」 言いながら、天道が作った「鯖の味噌煮」という料理を箸で口に運ぶ。 口に入った鯖を、歯で噛み砕いた瞬間――― モモタロスの目はかっと開かれ、口元が緩んだ。 「どうだ?」 「ッ……うっめぇぇぇぇぇええええええぇ!!!」 天道な問い掛けに答えながらも、残った鯖味噌と白米を、ガツガツと頬張る。 美味い。美味過ぎる、と。 あまりの美味しさに、初めての料理を次々と飲み込んで行く。 モモタロスがそんなペースで食事を続けると、鯖味噌も白米もあっという間に無くなっていた。 完食したモモタロスは心底幸せそうな表情で腹を叩きながら、椅子の背に体重を預けた。 ややあって、ふと天道を見てみると、天道はやけに自信ありげな表情で、人差し指を天井に向けていた。 「おばあちゃんが言ってた……料理とは常に人を幸せにするべきものだ……ってな。 どうだ。少しは気持ちが楽になったか?」 「へっ、別にメシ食ったくらいで変わるかよ」 天道に顔を背け、腕を組んで答える。 確かに言われてみれば、料理を食べている間はまるですべて忘れたように幸せな気持ちだった気がする。 気はするが、素直になれないモモタロスは、改めて美味しい等とは絶対に言う気は無い。 第一、そんな気がするだけでは意味が無いのだ。 問題は良太郎やなのは達にこれからどう顔向けすればいいのか。 例え一時的に気持ちが切り替わろうが、根本的な問題を解決しない事には何も変わらないのだ。 そんなモモタロスの懸念を知ってかしらずか、天道がぽつりと呟いた。 「そうか。ならば自分はどうしたいのか……まずはそこから考え直すんだな」 「あ? 俺がどうしたいかだ?」 「変な言い訳を考えずに、素直になることも時には必要という事だ」 言いながら、天道は食器の乗ったトレイを厨房へと運んで行く。 何が言いたいんだよと言い返したかったが、どうせ天道はそこまでは教えてはくれないだろう。 自分で考えろ、と。恐らくはその一言で済まされてしまう。 ならばわざわざ自分から悔しい思いをしに行く事も無い。 それ故に、モモタロスは、一人で考える事にした。 「あぁ……さっきのメシ上手かったなぁ」 と、その前にぽつりと一言。 結局、すぐには難しい考え事には入れないモモタロスであった。 しかしもしかすると、モモタロスがこうして少しは前向きに思考出来るようになった原因は、天道の料理にあるのかも知れない。 と言っても、それは誰にも――おそらくモモタロス自身にもわからないことだろうが。 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2855.html
魔法少女リリカルなのは外伝・ラクロアの勇者 第13話 「・・・・・・以上だ」 季節は冬のため日が暮れるのも早く、辺りは夜の闇に包まれていた。 フェンスに背を預け、口出しなどをせずに黙ってナイトガンダムの話を聞いたシグナムは、 一度大きく息をはいた後フェンスから背を離し、ゆっくりと体をフェンスの方へと向ける。 ビルの明かりや車のライトにより夜の街が美しく輝く光景を見つめながら、ゆっくりと口を開いた。 「・・・・・・闇の書のことは私達の方がよく知っている。貴様の勝手な予想だといえなくもない。だが・・・・」 闇の書が完成すれば、主は絶大な力を手に入れる事が出来る。その事には疑問を一切感じていなかった・・・・最近までは。 切っ掛けはヴィータの煮え切らない言葉だった。 「闇の書が完成すれば、はやては本当に幸せになれるんだよね?」 最初は自分を含めた全員が即答した『そうだ』と。だがその後、その言葉が妙に心に引っかかっていた。 当然だと確信できる断固たる自信。だが、その自信を不安に変えてしまうモヤモヤした感覚。 だが、先ほどのナイトガンダムの話しがそんな不愉快な気持ちを中和してくれた。 同時に思った。なぜ自分達は今までの主の末路を忘れてしまっていたのか、と。 自分達ヴォルゲンリッターは魔力生命体。そのため、自分達自身が闇の書に吸収されてしまう事もあったが、全てではない。 おぼろげに憶えている記憶では、闇の書の完成に携わった事もある。 だが結末が思いだせない。主は死んだのか?世界の覇者となったのか?自分達はどうしていたのか? まったく思い出す事が出来ない。まるで記憶がリセットされたかの様に。 ナイトガンダムの話しでは、闇の書は悪意のある改変が原因で恐ろしいデバイスと化しているらしい。 その影響が自分達に出ていても可笑しくはない。今までの主の末路を知らない事が正に言い例だ。 確かにその事は認めようと思う。だが、 『闇の書が完成すれば、主は絶大な力を手に入れる事が出来る』 その事だけは否定する事は出来ない。 実際、力を手に入れる事は確か。それを主の治療に役立てる事も出来るはず。 ナイトガンダムの話しでは完成した闇の書の力は無差別破壊にしか使われていないと言っていたが、 それは制御できなかった主が原因ではないのだろうか? 「騎士ガンダム・・・お前の話は『記録』から出た結論であり、真実ではない。確かに否定できない部分もある、だがすべてを話を鵜呑みにする事など出来ない」 確かにシグナムの言う通りだと思う。今自分が話した事は経験したわけではなく記録から調べた『結論』 闇の書の力に関しても無差別破壊にしか『使われていない』と記録されてはいたが『使う事が出来ない』というわけではない。 それこそ、主を救う様な効力もあるかもしれない。 「侵食に関してもそうだ。元々、今回の主の侵食は特別だ。本来闇の書は前の主が死を迎えた時点で合致する魔力資質の持ち主をランダムに選び転生する。 だが、今回は時を待たず生まれて間もない主の元へと転生、それから今までの10年近くの間、肉体と魔力に負担を与え蝕んできた。 そして闇の書が活性化し、我々守護騎士ヴォルケンリッターが表に現れたことで魔力の消耗が一段と増し、主の病状を悪化させてしまった。 お前の話の様に収集を一定に抑え適度に消費すると言う方法、健康な人間なら出来ただろう。だが、主は違う。 幼き頃から蝕まれた体は侵食を抑える事が出来ない・・・・・・・方法は無いのだ・・・・・」 ナイトガンダムの方へとゆっくりと体を向ける。そして正面から彼を見せた後、深々と頭を下げた。 「お前の話を理解し、納得しようとする自分がいる!だが、同時にその事を否定する自分がいる!! 騎士ガンダム!!・・・・時間をくれ・・・・・仲間にも話したい・・・・・」 この頼みが虫のいい話だとは分かっている。だが、シグナムにはそれしか手段が無かった。 仲間と直には連絡が付かず、主の正体がばれている。有利な条件は一つもない。 ナイトガンダムが仲間に念話を入れたら一環の終わり。おそらく自分がレヴァンティンを構えるよりは早いだろう。 正に自分達の命運は彼の意思に左右されている。 「・・・・頭を上げてくれ、シグナム」 言われるがままに頭を上げるシグナム、直に答えを聞こうとするが、その彼女の行動をナイトガンダムは掌を突き出し静する。 「・・・・私は管理局に協力しているだけのただの次元放浪者だ。逮捕などの義務は無いし、気持ちが 整理出来ていない君をどうこうする気は毛頭無い。むしろ私の推論を真面目に聞いてくれた事に感謝する。ありがとう」 今度は反対にナイトガンダムが深々と頭を下げた。その光景にシグナムはあっけに取られると同時にどうしたら良いのか言葉を詰まらせる。 「それに、私達は君達の主を見つけなければならない。先ずはそれを優先する必要がある」 「なっ!?貴様何を言っている!!主はやが(最初は!!」 『自分達の主を見つけなければならない』この発言にはさすがに食いついた、気づいている筈だからだ。 自分達の主が『八神はやて』だという事に。咄嗟にその事を言おうとするが、ナイトガンダムの大声に阻まれてしまう。 「最初は、『八神はやて』だと思っていた。だが、彼女から魔力を感じる事は出来なかった。闇の書の主である以上、魔術師、 もしくは魔力を持つ人間で無ければならない筈。確かに君達と関わりがあることは確認出来たが、わかったのはそれだけだ。 魔法の事を知らない少女に検査や真実を話すわけにもいかない。君たちの関わりに関しても、八神はやての話から君達が魔法を使える 様な事は言っていなかった。君達の事も『遠い親戚』と言っていた。本当に知らないのだろう、君達の正体を」 ナイトガンダムが嘘を言っている事は直に分かった。彼の勘の良さは理解してる。 間違いなく『八神はやて』が闇の書の主だと理解してる筈。 魔力に関しても現状では闇の書に封印されているだけであり、魔法の事を知らないというのは 自分達を『遠い親戚』と周囲に認識させるための嘘。奴が気づかない筈がない。 「(奴はわざと認識しようとしている・・・・・八神はやてが我らの主ではなく、 ただの月村すずかの友達だという事に。私の頼みを聞き入れるためにか・・・・・)」 「それに、私は君から主の名前を一切聞いていない。常に『主』と呼んでいるだけで名前を明かさない。それではわかるわけがない。 主に忠誠を誓う君のことだ、問いだ出しても口を割ることはないだろう」 あの時、大声を出して、自分の発言を阻んだのはこのためだとシグナムは理解した。 もし、あの時自分が主の名を出してしまっていたら、主が『八神はやて』だという事を認めてしまい、この嘘を作る事は出来なかったからだ。 「特徴は聞く事が出来たから其処から探りを入れてみようと思う。良いヒントを手に入れたから、3日で結論が出るだろう」 おそらくこの3日が期限ということだろう。その意思が伝わった事を確認させるため、しっかりと頷く。 「一方的に話してすまなかった。だが、最後に言わせてくれ。先ほど私が話した事、確かに今までの記録から導き出した推論に過ぎない。 だが、その推論を導き出した時に使ったのは過去に起こった『真実』だ。その事を忘れ名でくれ・・・・・失礼するよ。さすがにはやてが心配するだろう」 ナイトガンダムと共に屋上に来てから30分以上経過している。世間話に花を咲かせていたという理由はそろそろ通じなくなる頃 「肝に銘じておく。最後に聞かせてくれ・・なぜ、私に・・・我々にに機会を与えてくれた。その気になれば私達を捕獲し、 今回の騒動を終らせる事も出来た。それを・・・お前は・・・・」 シグナムの問いに、ナイトガンダムは数秒沈黙する。此処からでも聞こえる町の喧騒が、沈黙を打ち消すかのように響き渡る。 「・・・・・確かに、『管理局』としてなら、君の言った様にすればよかっただろう。だが、先ほども言ったが私は『管理局』の 人間ではない。烈火の将シグナム、私は主を思う貴方の忠義に心打たれた。だからこそ一人の騎士として決断した」 シグナムを安心させるように微笑みながら近づき、ゆっくりと右手を差し出す。 「私達は平和的な解決を望んでいる。そして君達が此処から慕う主を救いたいとおもっている。 今まで敵対していた同士だ。直には結論は出ないだろう・・・・だが、もし私達の力が必要なら、その時は力を貸そう」 その申し出を受けいるかの様に、シグナムは普段はあまり見せない笑顔でナイトガンダムの手を取り、握手を交わした。 「・・・・・もし・・・お前との出会いが・・・このような形でなければ・・・・・私はお前と・・・・ どれほどの友になれただろうか・・・・・・」 「・・・・・・まだ遅くは無い・・・・・だが、これだけは憶えていてくれ。 どのような結果であれ、私は、君を友と思っている・・・・・・迷惑ですか?」 言い出した後、不安げは表情をするナイトガンダムに、シグナムは自然と吹き出してしまう。 今までの張り詰めた空気を一層するかの様に笑うシグナムに、ナイトガンダムは呆気にとられながらも、釣られたかのように微笑んだ。 「・・・・・・あ~あ・・・知っちゃったか・・・・・まぁ、直にアクションを起こさないでくれたのは嬉しい誤算かな」 海鳴大学病院から1キロほど離れたビルの屋上、ナイトガンダムとシグナムを覗いていた人物が独り言をもらす。 「・・・・・三日か・・・・・完成の頃ね。イエスの生誕の日に父様の念願が叶う・・・・・お祝いの準備、ロッテに頑張ってもらわないと」 言葉を弾ませながら転送魔法を発動、誰に見つかる事無く、監視者『リーゼアリア』は地球から姿を消した。 二日後 月村家リビング 時刻は午後七時、夕食を済ませた月村家の住人一同はリビングに集まり食後のお茶を楽しんでいた。 ナイトガンダムが旅したラクロアの様々な場所やすずかの学校での出来事、そして忍のノロケ話などを肴に花を咲かせる。 (ノロケ話に関しては真面目に聞いていたのはナイトガンダムのみで、ほかは聞き流したり、 静かにお茶を飲んだり、ワザとらしくトイレに行ったりなど、様々ではあったが自分の世界に入り込んでいた忍は気づく事はなかった) 「あの、一つお伺いしたいのですが」 忍のノロケ話が終った所で、ふと疑問に思ったことをナイトガンダムは口に出してみる。 以前アリサも口にし、皆の話の中にも出てきた『クリスマス』という単語について。 「ああ・・・・ガンダム君の世界には無いわよね。こっちの人間の誕生日だし。クリスマスっていうのはねぇ~・・・・・・」 顎に人差し指を乗せ、天上を見つめながら考える事約一分。ばつの悪そうな表情で一度ナイトガンダムを見つめた後、 「・・・ノエル、御願い!」 ノエルへと投げた。 回答を投げられたノエルは、一度忍をジト目で見つめた後、正反対の優しい瞳でナイトガンダムを見据え、話し始めた。 「お答えしますガンダム様。クリスマスとは、この世界『地球』の人物イエス・キリストの誕生を祝う記念日です」 「まぁ、前夜祭である24日と本番である25日に祝うって事よ。イエス・キリストの誕生を祝うって言うのはもう建前ね。 ケーキ屋、玩具屋、その他諸々の商売人が気合を入れる日であると同時に、家族や恋人、友人なんかが破目を外して騒ぐ日って事。まぁ、言ってしまえばお祭ね」 ノエルの説明にイレインが独特の補足をいれる。 二人の説明により疑問が解消されたナイトガンダムは、大きく頷いた後、深々と頭を下げ、お礼を言った。 「だから忍殿は嬉しそうなのですね。恭也殿と過ごす明日や明後日が」 「そうなのよ~。明日は恭也と翠屋で・・・・・深夜まで・・・・・あああああん!!!もぉぉぉおぉぉぉおぉお!!!!」 急に顔を真っ赤にしながら転げまわる忍に、ナイトガンダムを含めた全員が避けるように自然と後ろへと下がった。 「・・・ああ~・・・ごめんなさい。我を忘れたわ・・・・」 『そんな、お客さんの前で』や『なのはちゃん達に聞こえちゃうわ!』などの謎の言葉を叫びながら転げまわる事約1分、 ようやく回りの空気に気付いた忍は我に帰り、大きく咳払いをした後、椅子に座りなおす。 「まぁ、24日は恭也といちゃ・・・じゃなくて翠屋でアルバイトだけど、25日は月村家の皆でクリスマスパーティーと洒落込みましょうか。 今年は騒ぐわよ~。なにせ二人も新しい家族が増えたんだからね~」 ナイトガンダムとイレインを交互に見つめながら嬉しそうに言う忍に、 「・・・・ま・・・まぁ・・・・・とりあえずお礼は言っておくわ・・・・ありが・・とう」 イレインは顔を真っ赤にし、そっぽを向きながら呟くようにお礼を言う。だが ナイトガンダムは珍しく何かを考え込むように俯き、黙り込んだ。 「・・・ガンダムさん・・・・・どうしたの?」 普段は見せない態度に、すずかは皆を代表して尋ねる。俯いているため、顔を覗き込もうとするが、 それより早くナイトガンダムは顔をあげ、普段通りの笑顔を向ける。 「ああ、ごめん。少し考え事をしていた」 不安そうな表情のすずかに申し訳ない気持ちになりながらも、安心させるために優しく頭を撫でた。 「(・・・・家族・・・か・・・・)」 すずかの頭を撫でながらも、その言葉が心に響く。 記憶喪失である自分には故郷を見つける事もできない。旅をしていた時に色々な場所を目を凝らして見てみたが、 何も感じる事は無く、自分という人物を知る人もいなかった。 だが、そんな根無し草の様な自分を、何の疑いも無く保護してくれ、『家族の暖かさ』を教えてくれたのは月村家の皆だった。 この暖かさに何時までも甘えたいという自分がる。 同時に、異邦人である自分がこのまま甘えて良いのかと考えてしまう。 「(・・・今は考えるのを止めよう。明日や明後日を楽しみにしている皆の気持ちを濁してはいけない。それに、明日は答えが出る)」 病院でのシグナムとの会話から今日で2日、明日で3日になる。彼女がどのような答えを持って現われるか不安になる。 その答えによって、今回の事件の結末が分かるといっても過言ではないからだ。 彼女達が自分達の道を進むか、協力を求め、共に主を救おうとするか。 「(願わくば・・・共に歩む道を選ばん事を・・・・・・)」 翌日 「はぁ!!」 真冬の早朝、ほのかに霧が立ち込める月村家の庭。冷たくも暖かさを持った眩しい朝日が 顔を出そうとしている時間。 ナイトガンダムは日課である剣の鍛錬を行っていた。 吐く息が白く濁り、嫌でも外の寒さを実感させる。だが、ナイトガンダムはそれを感じさせない動きで剣を振るう。 数にして100回目の素振りが終った時。 「朝から熱心ね~」 パジャマ姿でガウンを羽織った忍が、両腕にコーヒーを持って近づいてきた。 「まったく・・・・・此処じゃ戦いなんて・・・・あったわね、最近。でも、常にモンスターが出てきたり、 雌雄を決するライバルがいるわけじゃないんだから、たまには朝寝坊でもしなさい」 「申し訳ありません。ラクロアからの日課でして・・・・・・いただきます」 断りを入れた後、忍が持って来たコーヒーを啜る。 この飲み物を初めて飲んだ時はあまりの苦さに咽てしまった事を憶えている。 このような飲み物をおいしそうに飲んでいる忍を不思議に思いながらも、なれるように努力はしたが結果は惨敗。 それ依頼、コーヒーを飲む時は角砂糖×3とミルクというオプションが欠かせなくなっていた。 コーヒーの温かさが心地よく、砂糖の甘さが体を落ち着かせてくれる。 隣に座ってその光景を満足そうに見ていた忍も自分のブラックコーヒーを一口啜る。 「・・・・そういえば、忍殿はどうしてこんな朝早くに?」 「昨日言っていた翠屋でのアルバイト。今日は特別忙しくなるから仕込から手伝うのよ。 でも目的はもう一つ、ガンダム君に聞きたい事があったから」 両手でカップを包み込むように持ちながら、中のコーヒーを揺らし遊ぶ。 そして再び一口飲んだ後ゆっくりと首を動かし、ナイトガンダムを見据えた。 「・・・・ガンダム君さ・・・・・ずっと・・・この家で暮らさない・・・・・私達の家族として・・・・」 その発言に正直驚く、だが、忍の瞳は真剣だった。 「ガンダム君がこの世界の住人じゃない事は分かっている。我侭だとは理解している。だけど私達にとってガンダム君はもう家族なのよ。 だからね、もし帰る様な事があっても此処にいて欲しい。ラクロアに未練があるのなら別だけど・・・・」 不思議とラクロア・・・・・スダ・ドアカワールドには未練が無かった。故郷が分からないのか原因なのか、帰りたいという気持ちを感じた事は無かった。 もし、サタンガンダムが健在の時にこの世界に来たのなら、一刻も早く帰りたいと願っていただろう。 だが、奴を倒した今その心配も無い。ラクロアにも平和が訪れるだろうし、モンスターも大人しくなる筈。 キャノンやタンク、アムロ達もいるから治安の心配も無いだろう。 だからこそ、忍の申し出は魅力的に感じてしまう。忍の申し出を受け入れたいという自分がいる。 「・・・・忍殿・・・・・私は・・・・(騎士ガンダム」 自然と回答を口にしようとした瞬間、頭の中に声が響き渡る。 その声に聞き覚えがあるナイトガンダムは、いつも持参していた携帯電話を忍に見える様に取り出し、 言断りを入れた後、その場から離れた。 忍は誰かから電話が来たのだろうと思い、軽く手を振り見送る。 そして、怪しまれない程度に距離を取った後、ただ電源が入っている電話を耳に押し付け、 さも会話をしてるかの様に念話に答え始めた。 「(シグナムか・・・・・・答えはでたのか?)」 「(その事についてだ・・・・・申し訳ないが今すぐ、海鳴大学病院まで来て欲しい、無論一人出だ)」 突然の呼び出しに不審感を憶えるが、答えが出たかもれないこと、 そして一人の騎士としてシグナムを信用しているため、その申し出に乗る事にした。 通話が終ったかのように電話を切る真似をしたナイトガンダムは忍の所まで戻り、今から出かけることを伝える。 「何?朝からデート?羨ましくなんかないぞ~!!」 「いえ、そういうわけでは・・・・」 「嘘よ・・・・・・・・出かけるの?」 急に真面目な表情で尋ねる忍に、ナイトガンダムは真実を話してよいのか、迷ってしまう。 こんな時、咄嗟に嘘がつけたらと内心で後悔する。 「いいわよ、何も言わなくて。君がやましい事をする子じゃないって理解してるから、何も聞かない。 だけどこれだけは言わせて、気をつけてね」 その忍の気遣いに、ナイトガンダムは黙って頭を深く下げ答えた。 「ふふっ、いってらっしゃい。気をつけてね」 「はい、いってきます」 忍に背を向け、走り出すナイトガンダム。 この日12月24日、彼にとって、そして闇の書事件に関わる者にとって最も長い一日が始まった。 「シグナム、すまない」 ナイトガンダムが着いた時には、シグナムは既に着いており、病院前のバス停に備え付けられているベンチに腰を下ろしていた。 遅れてきたナイトガンダムを一瞥した後立ち上がり、彼の元へと近づく。 「答えを聞かせる・・・・・だが、場所は私の指定した場所・・・・それが条件だ」 「・・・いいだろう」 了承の言葉を聞いたシグナムは早速転送魔法陣を展開、ナイトガンダムが中に入った事を確認した後、 転送を開始、地球から姿を消した。 無人世界 到着した次元世界は、砂漠に覆われた何も無い世界だった。 二人が本気で剣を交えた世界に酷似してるが、夜なのか太陽の光りが全く無く、 嫌でも肌寒さを感じさせる。 月と思われる惑星の明かりだけが唯一の光となり、二人の姿をてらしていた。 「ここは・・・・・・他の皆はいないのか?」 軽く周りを見渡しながらシグナムに尋ねる。てっきりヴィータなど、他の守護騎士もいるかと思ったのだが、 目視は無論、気配すら感じる事が出来ない。 さすがに不審に思ったナイトガンダムはシグナムに尋ねようとしたその時、 「・・・・愚かな・・・・」 素早く体を向けたシグナムは、突如ナイトガンダム目掛けて砲撃を放ち、彼を吹き飛ばした。 完璧な不意打ちによる攻撃だったため、ナイトガンダムは防御をする暇も無く喰らい、吹き飛ばされた。 「ぐっ・・・がはっ・・・・・・シグナム・・・・・・なぜ・・・・」 「なぜ・・か・・・・・・これを見ればわかるだろう?」 急に光りに包まれるシグナム、徐々に体の形が女性から男性へと変わってゆく。見覚えのある男の姿に 「貴様は・・・・」 痛む体を起し、シグナム『だった』人物を睨みつける。 その殺気が篭った視線を、シグナムに化けていた『仮面の男』は鼻で笑って受け流す。 「ご苦労な事だ・・・のこのことついてきて・・・・・」 「・・・・・貴様・・・・一体何が目的だ!!!」 あの時はシグナムに協力し収集を行っていた。だが、シグナムの様子から彼女達の仲間だとは思えない。 その問いに答える事無く、仮面の男は足元に転送魔法陣を展開、その場を後にしょうとする。 その光景を見たナイトガンダムは、咄嗟に近づこうとするが、ダメージが残った体は満足には動いてくれなかった。 「・・・我らの目的は闇の書の終焉・・・・・貴様の様な生ぬるいやり方では解決などしないのだよ。 後は我々に任せて、君は此処で遊んでいると良い」 突如地面が盛り上がり、雄たけびと共に巨大なミミズの様な生物『赤竜』が数匹現われた。 目標を弱っているナイトガンダムに定めたのだろう、鉤爪が付いた触手を鳴らしながら様子を伺う様にゆっくりと近づいてくる。 「安心しろ・・・全てが終ったら迎えに来る・・・・・そう、全てが終る。今日という日に・・はは、ははははははははは!!!」 勝利を確信したかのように、笑いながら魔法陣と共に消えてゆく仮面の男。 呼び止めようとナイトガンダムは声を荒げるが、その声は獲物を前にした赤竜の咆哮に打ち消されてしまった。 数時間後 :海鳴大学病院 出会いは突然だった。すべては『アポ無しで行ってビックリさせてあげましょ?』という提案から始まった。 なのはとフェイトははやてに会うのは初めてだった。自分達は初めてだから連絡した方がいいのではという フェイトの提案をアリサは 「だからこそいいのよ!事前に連絡なんかしたら面白みにかけるってものよ!」 その意見をバッサリと切り捨てる。 そのアリサの提案に何気なく乗った事で起こったシグナム達との出会い。 突然の出会いになのはとフェイトは戸惑い、シグナムとシャマルは警戒を強くし、 ヴィータは遠慮なく二人をにらみ付ける。 互いにギクシャクしながらも、なるべく普段通りにお見舞いをし、普段通りに別れの挨拶をし、帰宅するが なのはとフェイトは残った、話をするために。だが、 「おりゃああ!!!」 彼女達を待っていたのは、ヴィータによるアイゼンの洗礼だった。 シグナムがとめる間も無くその打撃はなのはに直撃、爆発を起し辺りを炎で包む。 ヴィータは冷静さを失っていた。もうすぐ闇の書が完成し、はやてが助かる。 それなのに、あいつらは何食わぬ顔でやってきた。 あいつらは管理局の人間、はやてを封印しようとし、はやてを助けようとする自分達の邪魔をしてくる悪魔の様な奴ら。 だからこそ呼んでやった。自分の攻撃を受けて尚、何事も無く炎の中から現われる白い魔道師に向かって 「・・・悪魔め・・・・・」 「・・・・・悪魔で・・いいよ・・・・」 その言葉を悲しげな表情で受け止めたなのははゆっくりと左腕を肩の高さまで上げ、セットアップしたレイジングハートを掴む。そして 「悪魔らしいやり方で・・・話を聞いて貰うから!!!」 ヴィータの純粋な殺気に耐えるかのように唇をかみ締め、足を踏ん張る。 そして臆する事無く決意を込めた瞳でヴィータを見据え、レイジングハートの切っ先をヴィータに向けた。 その光景に、フェイトもデバイスをセットアップしようとする。だが、 「ヴィータ!!よせ!!!」 聞いている側の耳が痛くなる程の声でシグナムが叫ぶ。 その声にフェイトは驚き、なのはとヴィータ、シャマルは自然とシグナムの方へと顔を向ける。 「あぁ!?邪魔すんな!!シグナム!!こいつらが来たって事はガンダムの野朗がチクッたって事だ!! 正体が知られたからにはなぁ、手遅れになる前にさっさと口封じるぞ!!」 シグナムを睨みつけ、一方的に言い放った後、再びなのはに攻撃を行なうため地面を蹴りアイゼンを振るう。 その攻撃をなのははラウンドシールドで防ごうとレイジングハートを構えようとする。だが、 ガキッ!! 「・・・・・シグナム・・・てめぇ・・・・・」 ヴィータのアイゼンを防いだのはなのはの防御魔法ではなく、シグナムのレヴァンティンだった。 シグナムを仲間ではなく、一人の敵として睨みつけ、ヴィータはアイゼンに力を込める。 その純粋に相手を叩きのめそうとする攻撃に、 「いい・・・加減に・・・しろ!!!」 シグナムは鍔せりあい状態のレヴァンティンを切り払い、ヴィータを吹き飛ばした。 「っ!てめぇ!!裏切る気か!!はやてがどうなってもいいんかよ!!!」 「冷静になれといっている!!高町なのは、正直に答えてくれ。お前達は今日なぜ此処へ来た」 突然の質問に、なのはは戸惑いながらもレイジングハートを下ろし、正直に答える。 「えっ、それは・・・・・はやてちゃんのお見舞いにです」 「そうか。テスタロッサ、八神はやてが我らの主だと何時知った?」 今度はフェイトへと質問を投げかける。 なのは同様、突然の問いに戸惑いながらも、しっかりとシグナムの瞳を見据え答える。 「はやてが闇の書の主だと知ったのは、今・・・・・あの病室でです。はやての事は 私もなのはも、すずかから聞きました。写真で顔は見た事はありますが、直接出合ったのは初めてです。本当です」 「嘘つくんじゃねぇ!!ガンダムから聞いたんだ(それはないわ。ヴィータちゃん」 話にならないとばかりに、頭ごなしから否定するヴィータを、今度はシャマルが止める。 大きく舌打ちをし、シャマルを睨みつけるが、その瞳を正面から見つめ返しながら、シャマルはゆっくりと話し出す。 「多分・・いえ、間違いなくなのはちゃんの言う通りよ。今周囲を検索してみたけど、魔力反応が出ない以上、 他に局員がいるとは思えないわ。私達の事を知っていたのなら、それなりの準備をしてくる筈よ。 それに二人が私達を見たときの顔、とても驚いていた。いくら強くても、咄嗟に嘘がつけるような器用な子達じゃないわよ」 「なっ・・・・でも・・・・・」 ようやく頭が冷えてきたのか、殺気が徐々に消え困惑した表情になる。 それでも納得できないのか、自然とアイゼンを下ろしながらも、困惑した表情で食いつく。 そんな困惑するヴィータに、なのはとフェイトは一度顔を見合わせた後、戦闘の意思がない事を示すため 展開していたデバイスを待機モードにし、シャマルの説明に乗る様に話し始める。 「本当だよ、ヴィータちゃん。私達本当にはやてちゃんのお見舞いに来ただけ。ヴィータちゃん達がいるなんて知らなかった」 「なのはの言うとおりです。それよりシグナム、ヴィータが言っていたガンダムの事・・・・聞かせてもらえませんか?」 二人もまた、ヴィータの口からガンダムの名が出たことが気になっていた。 彼女の口ぶりから、ナイトガンダムはシグナム達とはやての関係を知っていた事になるからだ。 「ああ・・・・今日が期限でもあるからな・・・・教えよう」 無論、騎士ガンダムの事を疑っていたわけではない。だがなのはとフェイトの様子に安心感を得たシグナムは、 自然と微笑みながら話し出そうとした・・・その時。 「なっ!?魔力反応が!?突然」 突如強力な魔力反応が現れた事をシャマルはいち早く感じ取る。同時に 「っ!きゃ!?」 「なっ!?バインド!?」 突如出現した蒼い光りの帯がなのはとフェイトの体を拘束した。 よほど強力なバインドなのか、必至に解こうとするが、ただもがくだけに終ってしまう。 「な・・・・なんなんだよいきなり!?」 拘束されたなのは達の姿に、ヴィータは唖然としながらも、グラーフアイゼンを握りるてに力を込め、周囲を警戒する。 シグナムもまたレヴァンティンを取り出し、騎士甲冑を身に着ける。 なのはとフェイトを拘束したとなると、彼女達の味方である管理局である可能性は無い。 ならば自分達の味方。だが、そんな人物など・・・・・・心当たりは奴しかいない。 「出て来い!!貴様だという事は分かっている!!!」 響き渡るシグナムの怒声。すると、それに反応するかのように上空の空間が歪み、 仮面の男がゆっくりとその姿を現した。 「やはり気が付いていたか・・・・・・だが、私の姿を見つけ出す事は出来なかったようだな」 シグナム達を見下ろしながら淡々と話す仮面の男。だが、当のシグナム達は話を聞いてはいなかった。 彼女達はただ見ていた。仮面の男が脇に抱えている『者』を。なのはとフェイトは唖然とし、シグナムとヴィータは怒りのあまり歯を噛み砕かん勢いでかみ締める。 シャマルは両手で顔を覆いながら、へたりこむ。そして自然と大声で叫んだ。その『者』の名前を。 「ザ・・・・・ザフィーラ!!!」 その名でようやく気付いたのか、仮面の男は注目の的にされているザフィーラの襟首を掴み、見せ付けるように前に差し出す。 一切抵抗せず、仮面の男のされるがままにされるザフィーラ。もし死んでいたのなら自分達という存在は死体となって居座る事は出来ない。 だからこそ生きている筈。それでも四肢をだらけさせ、血を屋上の床に滴り落としているその姿に、怒りと隠す事などできない。 「ああ・・・・収集の帰りだったのだろう。此処に来る時に偶然出会ってな・・・・・しつこかったので黙らせた・・・・・ほら」 まるでゴミでも投げるかの様に血だらけのザフィーラをシャマルに向かって放り投げる。 屋上の床に叩きつけられ、一度大きくバウンドした後転がり、シャマルの目の前でようやく止まる。 「ザフィーラ!しっかりして!!」 大声でザフィーラの名前を叫ぶが、返事はおろかピクリとも動かない。 仲間の無残な姿に、シャマルは我を忘れそうになりながらもしゃがみこみ、回復魔法を掛ける為に右手を翳す。 「・・・てめぇ・・・・・・・そこを動くなぁ!!!!」 カートリッジをロードし、アイゼンをラケーテンフォルムへと変形、 ロケットブースターの遠心力を使い、回転しながら仮面の男目掛けて突撃する。 『あいつをぶち殺す』今のヴィータの行動力はそれだけだった。 仲間をあのような姿にしたあいつを許せない・・・・・否、許すという事など誰が出来ようか。 シグナムもまた、レヴァンティンのカートリッジをロード、剣身に炎を纏わせ、ヴィータに続く。 奴の強さは理解している。だが、自分とヴィータの同時攻撃なら十分倒せる相手。それで、仮面の男は防御などせず、腕を組んだまま 自分達を迎え入れるかの様にじっと佇んでいた。 「へっ!?余裕のつもりか!?それともビビッて動く事も出来ねぇか!?なら、じっとしてな!骨ばっきばきにしてやらぁ!!!」 獰猛に笑いながら叫ぶヴィータにも、仮面の男は一切アクションを起こさない。 ヴィータと違い多少冷静さが残っているシグナムは、そんな仮面の男の態度に不審感を感じる。 そもそも、なぜ奴はザフィーラを返したのだろうか? 邪魔なら消すなり、拘束するなりすればいい。もし、何かの理由で殺す事ができないのなら、わざわざ自分達に見せ付けるように返すなど変だ。 まるで自分達に冷静さを失わせるかのような・・・・・・・・ 「っ!シャマル!!!離れろ!!!」 「えっ?」 突然のシグナムの叫びに、回復魔法を施していたシャマルは自然と上空にいるシグナムへと顔を向ける。 ザシュ! ザフィーラの手がシャマルの胸を貫いたのは同時だった。 何かが抜け落ちた感覚がシャマルを襲う。 口をパクパクさせるが、言葉を発する事ができない。それでも力を振り絞り瞳をザフィーラの方へと向けるが、 其処には、ザフィーラはいなかった。 「・・・・・・収集完了・・・・・・もう消えろ」 仮面の男は左腕に闇の書を出現させ、貫いた右腕の掌にあるリンカーコアから魔力収集を開始する。 今までシグナム達がやってきた様な魔力のみの収集ではなく、リンカーコアそのもを収集する行為。 「安心しろ、本物は一足先に収集した・・・・・・安心するがいい・・・・」 「・・・・が・・・ぁ・・あ・あ・・あああああああああああああああああ!!!!!」 ようやく声を出す事ができたが、体を襲う喪失感により、叫ぶ事しか出来ない。 体は足元から徐々に粒子となり消えて行き、数秒後にはシャマルという存在はこの世から完全に消失した。 「シャマ・・・・ル・・・・・・シャマル!!!」 仮面の男が張ったバリアを破壊寸前まで貶めながらも、シャマルの消失にヴィータは攻撃の手を緩めてしまう。 その隙を仮面の男は見逃さなかった。 「・・・馬鹿が・・・・」 見下した様に呟いた後、ヴィータのわき腹目掛けて容赦なく蹴りを放つ。 直撃した瞬間、何かが折れる生々しい音と共にものすごいスピードで地面へと落下する。 「ヴィータ!!」 地面に叩きつけられる瞬間、シグナムが咄嗟にヴィータを抱きとめるが、勢いは殺しきる事が出来ずに、地面へと叩きつけられた。 だが、仮面の男の攻撃は緩まない 「・・・・・スティンガーブレード・・・・・・」 上空にいる仮面の男は、ミッド式の魔法陣を展開。周囲にナイフサイズの魔力刃を多数形勢する。その数100以上。 ザフィーラと違い防御しきれないと感じたシグナムは、気絶しているヴィータを抱え避けようとする。だが、 「ふふふっ・・・・いいのか?この魔法は物理破壊の殺傷設定・・・・・お前が避ければ下の病室・・・・お前達の主もたたではすまないぞ・・・」 シャマルを消したもう一人の仮面の男の声に、シグナムは地面を蹴ろうとした足を止める。 そして、一度射殺さんばかりに上空の仮面の男をにらみつけた後、ヴィータを抱きしめパンツァーガイストを展開。その直後、 「エクスキュージョン・シフト」 一本でも十分な殺傷設定のある魔力刃が、一斉にシグナムへと降り注いだ。 「ヴィータちゃん!!!シグナムさん!!!」 「・・・酷い・・・・」 拘束されているなのはトフェイトはただ見ている事しかできなかった。 全ての魔力刃が、シグナムへと降り注ぎ、爆音と煙が辺りに立ち込める。 そして煙が晴れ、彼女達が見たのは、血にまみれ殆ど原型を留めいていないバリアジャケットを着たシグナムが、 ヴィータを抱きしめ、ただ蹲っている姿だった。 「・・・生きているか・・・・」 「こいつらは無駄に丈夫だ・・・・・・それに餌を殺すわけにはいかないだろう・・・・・」 一度シグナム達の姿を確認した地上にいる仮面の男は、ゆっくりとなのはへと近づく。 先ほどのシグナム達の末路を間近に目撃したため、恐怖に顔を引きつらせながらも、バインドを解こうと必至にもがく。 だが、バインドを解くより早く、なのはの元へとたどり着いた仮面の男はなのはのバリアジャケットの襟をつかみ、 無造作にフェイト目掛けて投げはなった。 バリアジャケットの基本防御性能のためか、痛みを感じる事はなかったが、これからどうなってしまうのかという恐怖が彼女達を襲う。 「安心しろ・・・・・お前達にはまだ仕事が残っている・・・・・」 右手からカードを取り出し、二人に向かって投げはなつ。 すると二人を囲む様に壁が現われ、閉じ込めるように二人を囲んでゆく。 「クリスタルゲージ・・・・・お前達ならバインドを含め10分程度で解けるだろう・・・・・まぁ、無理でも10分で全てが解けるように設定はしてある」 「その後、拘束を解かれたお前達には、時間稼ぎという仕事が待ってる・・・・・」 一方的に話す仮面の男達になのは達は目的を聞こうと叫ぶが、防音性なのか、無視を決め込んでいるのか、 仮面の男達は何も答えることなく、仮面の男の一人が二人が入ったクリスタルゲージを上空へと運んでいく。そして もう一人の仮面の男は蹲っているシグナムへと近づき、一瞥した後、闇の書を出現させ右腕を突き出す。 「・・・・・お前達も・・・もう狂った運命に振り回されることもない。安心して消えるがいい・・・・・」 「・・・・終ったようだな・・・・・」 シグナムとヴィータが光となって消えて行く姿を確認した仮面の男は、上空にクリスタルゲージを固定した後、 閉じ込められているなのは達の方へと顔を向ける。 「お前達の仲間・・・・・騎士ガンダムは闇の書の主が八神はやてだと偶然とは言えいち早く気付いていた。 だが、奴はこれを公表しようとはしなかった。奴は闇の書が壊れている事をシグナムに話し、奴らが納得する時間を与えた。 あのプログラム達は主のことを本当に慕っていたのだろう。奴らはお前達に協力を申し出るつもりだった。だが、 主を救ったとして何になる?所詮暴走して破壊の限りを尽くし、また転送するだけだ。愚かで甘い考え。 まぁ、奴は今頃赤竜と遊んでいる事だろう・・・・・あの腕なら死ぬ事はあるまい」 腿に付けられているカードホルダから一枚のカードを取り出し、それで顔を隠した後、拭うように右へと動かす。 「だからこそ、我々が行うのだ・・・・・闇の書の永久封印を・・・・・・」 高町なのはへと姿を変えた仮面の男は、話は終わりとばかりに背中を向け、屋上へと向かう。 其処には、フェイトに姿を変えたもう一人の仮面の男、そして、転送魔法陣から出てきた八神はやてが寒そうに体を震わせていた。 前へ 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3334.html
スバル・ナカジマはその日、最高に浮かれていた。訓練後だというのに息を切らして、病院へと走る。手に握りしめたカードは、ティアナのデバイスであるクロス・ミラージュ。 スバルも同席するという条件で、持ち出しは許可された。難しいかと思ったが、なのはもシャーリーも意外にもすんなりと快諾してくれた。 ティアナからの頼みだと聞くと、なのはは困ったような、寂しいような、複雑な顔をしていたが。 病院の玄関を通り、一直線にティアナの病室へ。少し遅れてくるというエリオとキャロには差し入れを頼んでおいた。 自分は一分でも一秒でも早くティアナにクロスミラージュを会わせたかった。 「ティアー、クロスミラージュ持ってきたよ……って、あれ?」 ドアを開ければすぐにベッドが目に入る。しかし、いつもそこにいるはずのティアナの姿がない。これは初めてのことだった。 てっきりティアナも早く対面したいだろうと思ったのだが。 室内に入り、見回しても姿はない。 「どこ行っちゃったんだろ……出かけてるのかな」 沈黙すると微かに音が聞こえる。これまで声で掻き消されていた小さな物音は、入り口横の個室からだった。そこにはトイレと洗面台が備え付けられている。 「ティアー、いるの?」 といっていきなり入るわけにもいかず、ノックをするが返事はない。しばらく耳を澄ましていると、蛇口から水の流れる音が延々と続いている。 その音に隠れたほんの僅かな声をスバルは聞き逃さなかった。 正確にはそれは声というより、喘ぎ。誰に対してでもなく、ひたすら荒い呼吸音が繰り返される。 「ティア!? 大丈夫!?」 鍵は掛かっていなかった。思い切って扉を開け放つと、ティアナは洗面台の横で座り込んでいた。こちらに気付いた様子も無く、俯いて肩を上下させている。 「ティア!!」 「……スバル?」 跪いてティアナの肩を揺すると、小さく返事を返した。 肩を掴んだだけで異常な熱が伝わってくる。喉が乾いて水を飲みに来たが、途中で力尽きたのだろう。 「待ってて、今人を呼んでくる!」 「やめて!!」 立ち上がろうとしたスバルの服をティアナが掴んだ。どこにこんな力が残っていたのか、不思議なくらいの強い力で。 横顔は真っ赤に上気し、全身にびっしょりと汗を掻いている。呼吸は未だ治まらず、それでも掴む手は緩めない。 スバルはその場に縫い止められた。それは腕力によってではない。彼女の発した叫びが、動くことを許さなかった。 「スバル……傍にいて。さっきから見えるの……ずっとあたしを見てる」 「ティア……」 「融合体が……デモニアックがずっと……! あたしを笑ってるの……!」 「ティア!!」 服を掴む手は小刻みに震えていた。背中合わせに戦ってきた彼女が、背中を預けてきた彼女が、今はこんなにもか細く怯えている。 ひょっとしたら、あの日の記憶がフラッシュバックしているのかもしれない。ただ自分が気付いてやれなかっただけで、これまでも何度もあったのかもしれない。 それが無性に切なくて、瞳から涙が零れた。思わず抱き締めたくなる衝動に駆られる。そして自分が付いていると言ってあげたくなる。 でも駄目だ、それでは何の解決にもならない。大事だからこそ、このまま放ってはおけない。 スバルは大声で人を呼ぶ為に、息を吸い込んだ。 突然掴まれた手が動き、直後に身体が引き倒され天井が映る。掴む力より更に強く、不意を突かれたこともあって抵抗もできなかった。 ティアナが馬乗りになり、首に手が添えられる。細い指がゆっくりと滑らかに絡みつく。 その光景はどこか現実味に乏しく、金縛りになった。 「ティア……どうして……?」 荒い息も、体の震えも変わらない。なのに、ティアナの纏う雰囲気は別種のものに変わっている。 これまで感じたことのない異質な気配。目の前の少女は自分の知るティアナではないように思えた。 包帯の下の目を窺うことは叶わず、その目が何を見つめているのかは分からない。 「どうして? ねぇスバル……あんた、あたしに何か言うことがあるんじゃないの?」 吐息混じりの一言がスバルを撃ち抜いた。目が見開かれ、表情が強張る。 思い当たることは一つしかない。それはずっと胸に秘めていたこと。それを見抜かれた驚きで、スバルの心は大きく揺さぶられた。 本当は、ティアナが目を覚ましたあの時、最初に言うべきだった。何度でも懺悔して許しを請うべきだった。そうすればこんなことにはならなかったのに。 実際、ティアナの前でこそ平静を装っていたが、毎日病室を訪ねる前に深呼吸をしていた。 自分が奪った彼女の夢は両手に余るほど重く、謝罪は鉛のように胸に沈んで出てこなかった。 日に日に重みを増す罪悪感。責めてくれれば楽もなっただろうが、彼女は自分を労ってくれさえした。 彼女はきっと気付かない。いつも自分が、彼女の眼を覆う包帯を直視できなかったことに。そして今、それは目の前にあった。 ティアナの指に力が入り、首が絞められる。スバルは抑えていた手でティアナの手を撫でた。 こんなことは自己満足に過ぎない。彼女を救うことにはならない。でも、この手を振りほどくこともできそうにない。それがティアナの答えなら、甘んじて受けようとさえ思う。 「あたしの……」 ティアナに応え、スバルの弾丸も装填される。 それは他でもない、自分自身を撃つ為の銃弾。もう逃げることは許されない。たとえ、それが心を砕いたとしても。 ※ 何か言いかけるスバルに、ティアナはゆっくりと力を掛けていく。抵抗しようと思えば簡単なはずなのに、彼女は受け入れようとしている。 それを俯瞰的に見ているもう一人の自分がいた。それは完全に乖離した存在ではなく、あくまで同じもの。冷静でいようとしている自分だった。 冷静な自分は今も叫び続けている。 (馬鹿スバル! 早く逃げて!) スバルを認識した途端、身体と心の制御が利かなくなった。融合体の姿がスバルと重なり、沸々と熱いものが込み上げ、被害妄想と強迫観念が自我を歪めていく。 それを見つめる自分は、封印していた闇が曝け出される痛みに悲鳴を上げている。 それは心の奥深くに確かに眠っていたもの。それ故に恐ろしかった。暴走し、増幅された怒り、憎しみ、嫉妬がスバルを殺めようとしていることが。 (馬鹿! なんで! なんでそんな……!) スバルは子供をあやす様に優しく手を撫でる。それが意味するものは分からないが、彼女が何かを受け入れ、諦めていることは理解できた。 瞼の裏で融合体が踊る。愚か者二人がすれ違い、食い違う様が最高に楽しいとでも言うかのように。 たとえ幻でもそれが我慢ならなかった。自分の人生を歪め、最も見せたくないものを最も見せたくない人に見せる、最悪の拷問。 胸の中からどす黒い炎が燃え上がる。それは、これまで冷静でいようとした自分すら呑み込み、そして狂っていく。 融合体の姿がスバルに完全に重なった時。 ティアナの口は"ティアナ自身"に止めを刺す為に言葉を紡ごうとしていた。 「あんたの……!」 ※ 上下に向き合う二人。しかし、ティアナはスバルを、スバルはティアナの目を見ることはない。 互いの目に映るのは、相手ではなく自分。ティアナは瞼の裏で蠢く無数の融合体の中に、スバルは罪の象徴であるティアナの目を覆う包帯に、それぞれ目を背けてきた鏡像を見つけた。 ティアナにとってそれは、絶対に言いたくなかった言葉。言えばスバルを傷つけ、自身の醜さと弱さを露呈することになる。 それでも、その言葉は心の底で澱のように凝り固まって、スバルから寄せられる優しさでも溶けることはなかった。 スバルにとってそれは、言わなければならなかった言葉。でも言えなかった言葉。沈黙の理由を問われた時、その言葉を肯定された時、この関係は壊れてしまう。 何度病室に通っても言い出せず、どれだけ献身的に尽くしても罪悪感は消えなかった。 言ってしまえばもう戻れない。言葉は矢となって突き刺さり、鎖となって心を縛る。例え相手が許したとしても、自分自身を決して許せなくなる。 それは呪詛。沈黙、吐露、どちらを選ぼうとも苦しみ、己を苛むことになる呪い。そうと知っていても止められない。胸の内に渦巻く激しい感情の波に飲み込まれ、 急きたてられ――そして呪いは放たれた。 「あんたのせいで……!」 「あたしのせいだ……!」 二度と引き返せない決別の台詞は、二人、計ったように同時に放たれた。 一度堰を切ってしまった思いはもう止められず、荒れ狂いながら全てを押し流していく。 「あんたのせいであたしの目は……!!」 「ごめん……あたしのせいでティアは……! 本当にごめんなさい……!」 それきり言葉は途絶えた。水の流れる音と、ティアナの吐息、スバルのしゃくりあげる声、それだけだった。たったそれだけでも、二人はお互いの言いたいことを痛いほど理解していた。 どれだけ嘆いても時は戻らない。だが、止められなかった。諸刃の剣で傷つけ合う行為に意味などないと分かっていても。 ※ 膠着は長くは続かなかった。やがてティアナに限界が訪れる。 ドクンと胸の奥深くが疼く。心臓が更なる暴威を以て胸を締め付ける。血液が沸騰しているのではないかと思うほど身体を巡る熱は高まり、 渇いた喉からは呻きすら出てこない。犬のように舌を突き出し、必死に酸素を取り込もうと喘ぐ。 体中の細胞が作り変えられていくのを感じる。全身を襲う痛みは目を抉られる比ではない。 皮膚が張り裂け、肉を食い破って何か別の生き物が体内から生まれようとしている気がした。 全ての自分が焼き尽くされていく感覚。激しい頭痛で思考はままならず、視界が赤く染まり、無数の融合体がケタケタと声を上げてティアナを嘲笑する。 それら全てが相まって、比喩でなく発狂を予感させた。 ※ 「ティア……ごめん」 掛けられる言葉は無く、ただ名前を呟く。どんな言葉でもティアナを救うには至らないだろう。 それが何に対しての謝罪なのか、最早分からない。人を呼ぼうにも、身体が動かないことか。苦しみを和らげてやることすらできないことなのか。 そもそも彼女が自分を庇ったことか。或いはその全てなのか。 意識が朦朧とし、視界がぼやける。喉を締め付ける力は増すばかりで、とてもティアナの力とは思えない。 残された力でそっと右手を伸ばし、ティアナの頬に触れる。その腕も凄まじい力で握られ、立てられた爪が食い込む。それでも撫でる手は止めない。 彼女の痛みは想像するしかないのがもどかしい。分かるのは何かにしがみつかないと耐えられない苦しみだということだけ。 できることなら代わってあげたいと思う。その原因を作ったのは自分だから。せめてこれで彼女の痛みの何分の一かでも自分に刻まれればいい。 抗おうとする身体を意志で捩じ伏せ、意識を失うまで、スバルはずっとティアナを見つめていた。 ※ 後悔も激情も完全に消え去り、残ったのは痛みと苦しみ。じきにそれすら麻痺していく。このまま死ぬか狂ってしまえば解放されるのだろうか。 緩やかに消えていく意識に触れるものが一つ。とうに触感も無くなっているのに、それだけは感じられた。 それは以前にも悪夢から救い出してくれた手だった。 その手を握る。固く強く握って、絶対に離れないように。離れればもう二度と帰れない気がした。 手は無意識を漂うティアナを導く。向かう先には光が見えた。光は膨らみ、その中へと入っていく。 ずっと待ち望んでいた。悩み、苦しみ、それでも渇望し続けた光。自分はようやく帰ってこれた。これで戻れる、取り戻せると思った。 眩い光が目を刺激する。これまで形容できなかった光は、気づけば蛍光灯の光に変わっていた。滲むようだった視界は徐々に鮮明に変わっていく。 まだ実感が湧かないが、地獄のような悪夢から自分は現実に立ち帰っていた。あれほど苦しかった身体は嘘のように楽になっている。 そして、現実に帰ってきても手が消えていないことに気付く。左手に伝わる感触――自分を導いてくれた優しい手。これのおかげで帰ってこれたのだ。 やがて完全に光に慣れた目に、最初に飛び込んだもの。 それは自分の右手の下で動かなくなった優しい手の主。 目が見えるようになった暁には極上の笑顔を見せてくれるはずだった、スバルの姿だった。 ※ おかしい。そんなはずはない。そんな言葉が最初に浮かんだ。 混乱し、纏まらない思考を必死に整理していく。まず自分は薬を飲んだ。そして水を求めて洗面所へ――駄目だ、ここから先が思い出せない。 誰かが来た気がする。多分、自分にとってとても大事な人物。 「……スバル!」 ティアナは全てを思い出した。スバルに馬乗りになり、首を絞め、そして責め立てたこと、その全てを。 すぐさまスバルから降り、肩を掴んで身体を揺らす。脱力したスバルは人形のように首をがくがくと揺らすだけで、目を覚ます様子はない。 (まさか――) 全身に悪寒が走る。六課に戻れなくてもいい。もう一度、光を失ったとしても――構わない。 スバルを失うことが怖かった。他の何を取り戻しても、対価に彼女を失えば意味がなくなってしまう。 「起きて! 起きてよ、スバル!!」 願いを込めて名前を呼ぶと、微かに呻き声が聞こえた。口に手をかざすと息が当たる。 生きている。生きていてくれた。喜びのあまり身体を抱き締めようとする寸前、ティアナは違和感に気付いてしまった。 まずスバルの肩を抱く手。黒いグローブが嵌められている。BJのものと見た目は近いが、それは肘の辺りまでをすっぽりと包んでいた。 自分はいつの間にこんなものを付けたのだろう。記憶を辿ってみても、やはりそんなことはしていない。 見た目はグローブであるにも関わらず、触感は皮膚に近い不思議な感触だ。 続いて声。ヘルメットやマスク越しのようなくぐもった声に聞こえる。そのくせ、エコーが掛かったように不自然に響く。 もう何度目か、急速に不安が膨らんでいく。ざわめく胸を押さえても柔らかさはなく、早鐘を打っているはずの鼓動は感じられない。 鎧のようでもあり、甲殻のようでもあり、ざらついて乾いている。 ティアナはふらつきながら立ち上がり、正面を見据える。そこにはいるはずのないものが立っていた。 「なに……これ……」 数秒間、思考が止まった。 色合いを濃くしたオレンジの髪は後ろへ放射状に流れ、ライオンのたてがみを思わせる。 双眸は左右に鋭く吊りあがり、明らかに人とはかけ離れている。瞳の色は髪よりも濃い朱。髪の色、鼻から下を覆うマスクと合わせて燃え盛る炎のようでもあった。 上半身には、胸元から体のラインを浮き彫りにする白のドレス。青く発光する線で縁取られている。衣服という感覚は無く、露出した肩と二の腕と同じく質感は硬い。 肌はまるで石像のようで、やはり人のそれではない。 下半身は更に異常だった。スラリとした人間的な上半分と正反対の怪物的な姿。太腿から下は本来の脚より一回りは太く、より鎧に近い。 金属の体毛とでも言うべきか、黒光りする突起に覆われ、尖った爪が並んだ脚は強靭な肉食獣の後肢という印象を受ける。 人のようで人でなく、獣のようで獣でない。通常の融合体とは違うが、紛れもなく融合体である。 瞬間、ティアナは拳を振り上げた。 これが融合体ならスバルを守らなければ、と咄嗟に考えた。或いは、そう考えることで自分を守る為の方便としたかったのかもしれない。 ともかく、融合体目がけて拳を叩きつける。この心を蝕む不安と恐怖が消えることを願って。 結果、融合体は目の前から消えた。しかし同時に、自分の中でも何かが壊れた。 ガラスが割れる音と共に拳は白い壁にめり込み、亀裂を生じさせた。割れた鏡の破片が水に流されて耳障りな音楽を奏でている。 普通の人間ではないスバルを失神させることができたのは、この力のせいだ。あの声も、手のグローブも、それで全てが繋がる。 おそるおそる後ろ髪を触ると、隠れて二本、螺旋に捻じれた角が並んでいた。 全てが理解できた。自分は融合体に――デモニアックになってしまったのだと。 「――――!!」 声にならない叫びが病院中に響いた。しかし、それを悲鳴と思う者はいまい。聞けば誰もが、怪物の咆哮だと恐れるだろう。 発した本人でさえそうだったのだから。 ※ 院内はあっという間に混乱に陥った。原因は突然院内に轟いた咆哮。逃げ惑う人波に逆らって走る少年が一人。エリオ・モンディアルだった。 キャロと共に差し入れを買い、スバルに遅れて病院に来たエリオは、咆哮の時には既に院内に入っていた。幼い顔は途端に精悍に変わり、キャロに先んじて声の元を探す。 階段を駆け上がり、人の流れを頼りにその階を目指す。走りながらも、ティアナの病室に近付いていると感じていた。 違っていてほしいという願いも空しく、ティアナの病室の前に辿り着く。 扉の前には小さな人だかりができていた。異変を感じても、それを確かめる勇気がないのだろう。 「通してください、管理局の魔導師です! 扉から離れて、すぐに避難してください!!」 蜘蛛の子を散らすように人だかりが崩れる。やがて完全に人が消えたのを確認すると、ストラーダを構えて扉を開け放つ。 入り口から見る限り姿もない。しかし水の流れ出る音と、気配から何かがいることは確か。 ゆっくりと入口横の個室を覗き込んだエリオは、思わず声を抑えられなかった。 「スバルさん!!」 瞬時に身体を乗り出す。そこには朱色の髪をした何者かが昏倒したスバルを抱きかかえて立っていた。声に反応して振り向く顔は想像通り、人ではない。 融合体はスバルを手に掛けようと、彼女の首を指でなぞっている。もう片方の左手はスバルの手を握っていた。 言葉よりも動く方が速いと、ストラーダを融合体目がけて突き出す。融合体は抱えていたスバルを背後に突き飛ばし、遅れて自分も回避行動を取るが、 一瞬速くストラーダが右腕を貫いた。 叫びも上げず、鮮血が飛び散るより先に融合体は傷口を押えて、エリオの脇を走り抜ける。下手すると自分でも追いつけない速度で。 爆発的な瞬発力に限っては完全に上回っていた。 エリオが振り向いた時、既に融合体は窓ガラスを突き破って逃走していた。 「エリオ君!」 「僕は融合体を追いかけるからスバルさんを!」 「エリオ君、一人で追っちゃ駄目だよ!」 「でも放ってはおけない。この下は通りなんだ! 大丈夫、無茶はしないから! ロングアーチへの連絡もお願い!」 追いついてきたキャロと一通りのやり取りを済ますと、エリオは窓から通りを見下ろす。民間人の悲鳴は、融合体の逃走経路を示すかのように順番に上がっている。 それを見たエリオは顔を歪め、忌々しげに舌打ちした。 「許さない……! 絶対に許さないぞ、融合体……!」 無茶はしないとキャロの手前は言ったが、守りきれる自信は無かった。今、この瞬間も融合体への怒りが爆発しそうになる。 ヴァイスを殺め、ティアナを傷つけ、スバルまで――次から次へと自分の大事なものを奪っていく。 こんな気持で戦ってはフェイトに叱られるだろうが、今はこの感情が力になる。全ての融合体を殺し尽くすまで戦える。 ティアナが抜けてからというもの、戦闘はなかなか思うようにいかず、三人全員がストレスを内に抱えていたように思う。 しかし、その中で支えになったのは間違いなく融合体への怒り。少なくとも自分はそう思っていた。 首を振って迷いを振り払う。すぐさまエリオも飛び降り、再び悲鳴を頼りに走り出した。あの融合体を必ず仕留めると暗い決意を誓って。 ※ 恐怖――思考はそれ一色に染まっていた。 逃げて、逃げ続けて、無数の人間とすれ違った。その内、自分を恐れなかった人間は一人もいなかった。誰もがデモニアックと呼び、恐れ戦いた。 ひたすら走り、いつの間にか姿は人間に戻っていた。それでも走り続けた。行く当てなどないというのに。 どれだけ走っても息が切れず、裸足なのに痛みもほとんど感じない。エリオに刺された傷はもう出血が止まっていた。 こうなると、自分は本当に融合体へと変貌してしまったのだと実感する。 ティアナは、エリオに理解を求めようとはしなかった。こんな自分を見られたくないというのもあったが、怖かったというのが一番の理由。 問答無用に自分を狩ろうとするエリオ。恐怖と憎悪の視線を送る人達。そして何より自分自身が怖い。このまま何もかもから逃避したかった。 ポツリと雨粒が顔に当たる。曇天だった空は、いつの間にか泣き出してしまったらしい。ふと頬に触れると、雨でないもので濡れていた。 やがて雨は本降りとなり身体を濡らす。ティアナは途方に暮れた。目が見えるようになったなら、こんな天気も喜んで眺めていられると思っていたのに、今は孤独を助長するだけ。 しかも自分は寝間着姿だ。道行く人が、今度は好奇の視線で見ていることに今更気付いた。 人の流れから弾き出されるように、ティアナは裏路地に逃げ込む。 暗く湿気た壁。ゴミや様々なものが入り混じった異臭が鼻についた。 転がるように、どこかの店の裏口、非常階段の下に座り込む。臭いが気になるが仕方無い。近くて雨が防げて、なるべく死角になる場所と言えば、ここしかなかった。 そういえば、と握り締めていたものに今になって気付く。 一枚の白いカード。相棒であるデバイス、クロスミラージュ。スバルが握っていたのを思わず持ってきてしまっていた。 今、自分の右手には、デモニアックの証である黒い紋章が刻まれている。皮肉にも人でなくなった証と、それから人々を守る為の力だったものが両手にあった。 病院で鏡に映った姿と同じ。いくら半身に魔導師としてのBJの名残を残しても、もう半分はデモニアックそのもの。 どちらでもあるが、どちらでもない。人間には戻れず、かといって悪魔にも堕ちきれず、孤独に怯えている。 「なんで……なんでこんなことになったんだろう」 全てが怖くて堪らなかった。人を守るはずだった自分が無力で守られる立場になり、一転して今は狩られる立場にある。 訳も分からず、人という種から弾き出された戸惑いは、誰にも理解できるはずがない。 エリオの判断は正しい。頭ではわかっていても、同僚に化け物扱いされて追い立てられるのは悲しくて、辛かった。 「仕方無いか……ほんとに化け物だもんね」 これまで特に神の存在を信じたことは無かった。でも今はほんの少し信じてみようと思う。きっと神は自分が疎ましいのだろうと。 両親を失い、兄を失い、夢を、同僚を失った。守ってきた人や共に戦った人々には拒絶され、そしてこの有様。 分かっている。真に呪うべきは己の愚かさであるということも。 だが、言わずにはいられない。この仕打ちは無いだろうと。もう自分には生き場所もない。 誰かに寄りかからず、他人のせいにもしない。起こった事実を受け止め、自分の糧とする。常に前を見て上を目指す。 それがティアナ・ランスターだったはずなのに。 ただ取り戻したかっただけ。単に視力でなく、ねじ曲がったティアナ・ランスターという自分を含めた全てを。無い物ねだりだと知っていた。 でもそれの何が悪い。願いは――そんなに我がままなことなのか。 待機モードのクロスミラージュを回しながらティアナは溜息をついた。昨日、スバルに頼んだ時にはこんなことになるとは思ってもみなかった。 ただ別れを言いたいだけだったのに、何の因果か、今となってはこれだけが自分の唯一の味方である。 話したいと思った。クロスミラージュと別れて一週間と少し、話したいことは山ほどある。 だが、ティアナはぐっと飲み込んで堪えた。今、こんなところで会話していては誰かに気付かれてしまう。ただ傍にいてくれるだけでいい。それだけで少しだけ安心できた。 膝を抱えてひたすら雨が過ぎるのを待っていると、安心したからか急に睡魔が襲ってきた。そういえば、昨日からろくに睡眠をとっていない。 融合体でも眠くなるのか、などとどうでもいいことを考えた。 抗おうとしたが、動くのも面倒だったので、次第に身を任せていった。 目が覚めたらまた暗闇でもいい。それでもいいから、この悪夢が終わってほしいと思いながら。 うたた寝を初めて数分後、ドアが開閉し、誰かが階段を下りてくる音で目を覚ました。即座に、近くのゴミ箱の影に隠れる。 じっと息を殺して通り過ぎるのを待つ。そうすることで余計に緊張が増した。 何故隠れたのだろう、突然の不意打ちで驚いたのだろうか。ただ怖いと思ったら自然と身体が動いていた。 まるで怪我をした野良猫そのもの。暗がりを選んで潜み、惨めにも身体を震わせている。 「おい、こんなところで何してるんだ?」 低く太い男の声がして、ティアナはビクンと身体を跳ねさせた。縮こまり、固く目を瞑って聞こえない振りをする。 しかし見逃してはくれなかった。足音は徐々に近づいてくる。 目を開けると、そこにはイメージ通りの屈強な男が立っていた。 「嫌……来ないで!!」 叫んでも男は聞いてくれず、それどころか手を伸ばしてきた。 一瞬で恐怖が加速する。視界が赤く染まり、またも融合体が視界の端からちらついてきた。耳鳴りが酷く、キーンと甲高い音で全ての音が掻き消されていく。 この男の目的は暴行なのか保護だったのか、どんな理由だろうと関係ない。今のティアナにとっては、近づく者全てが恐怖の対象だった。 ティアナは首を振って最後まで抵抗を試みたが、男が腕を掴むと同時に、男の姿は完全に融合体と化す。その瞬間、声にならない悲鳴が突き上げ、理性の針は振り切れた。 ※ 件の融合体を目撃証言を頼りに追跡するエリオ。それも途中で途切れ、見当もつかなくなってしまう。 全力疾走を歩きに変え、冷静さを取り戻したエリオの頭には幾つも疑問符が浮かぶ。 何故あの融合体は誰も襲わないのか? 負傷しているからなのか? それに越したことがないとはいえ、なんとも不気味だった。 もう一つ、あのスピードなら回避は十分できたはずなのに、何故余計なアクションを挟んだ? スバルに構わなければ反撃までできたのに。 あの病室にはティアナがいなかった。スバルが逃がしたのかもしれない。その際に融合体に攻撃され気絶したと考えれば一応の辻褄は合う。 咆哮からの時間差――殺すにせよ逃げるにせよ時間はあったはず。争った形跡もほとんどない。腑に落ちないことだらけである。 本当にあの融合体はスバルを殺そうとしていたのだろうか。ふと、そんな有り得ない考えが過るが、一度芽吹いた疑惑はそう簡単に消えてくれない。 そうだとして一つ可能性はある。だが、それはエリオにとって最悪の可能性であるが故に、考えることを拒否したかった。 でも、まさか――そんな考えを繰り返していた時、遠くで轟音が響いた。ざわめきは波紋となってエリオの元まで届く。推理を中断し、エリオは再び走り出した。 とある店の裏路地、そこに朱の髪の融合体はいた。4~5メートル先の壁には男が白目を剥いて叩きつけられていた。おそらく殴られただけで死んではいない。 「やっぱりお前は……! やっぱりお前も同じだ!! 人殺しの悪魔!!」 胸に再び怒りが灯る。荒れ狂う感情に任せて怒りの言葉を叩きつけても、融合体は反応しない。しかし、今度は先程とは違い、明らかな殺気が感じられた。 エリオはストラーダを構える。同時に、殺気は急速に膨れ上がり、形を成して襲ってきた。 脇腹、紙一重を拳が掠める。咄嗟に身体を捻らなければ確実に鳩尾に叩きこまれていた。 後ろへ跳躍、距離を取る。融合体はその距離を一跳びで縮め、回し蹴りが頭上を通過。 エリオはまたも距離を取った。 今度も紙一重。同じ紙一重でも、今度は確実な紙一重だった。 エリオには融合体の動きが見えていた。厳密に言えば、視認は追い付いていない。 しかし、その動きは完全な直線。点と線の攻撃しかない。しかも大振りである為、軌道の予測は容易だった。病室で見た動きは気のせいだったのかと思うほど、単調で単純。 融合体は両手を垂らし、腰を落とし身を低く保つ。その髪、その下半身からも四足の獣を連想させるが、はっきり言えば獣にも劣っている。 エリオは目を凝らし、融合体の動きに最大限の注意を払う。動く瞬間さえ分かれば勝てる確信があった。 じりじりと距離を開いて攻撃を誘う。対する融合体はそれを逃げると思ったのか、一気に迫る。それも右腕を大きく振りかぶりながら。 思わず笑いが零れそうな程に単純な打撃。エリオは加速しながら前に踏み出す。お互いが猛スピードで走る為、激突は一瞬だった。 その瞬間、エリオは小さい身体を僅かに逸らした。右の耳を突風が駆け抜ける代わりに、ストラーダは融合体の右脚の大腿を深々と貫いていた。 本来は腹を狙ったつもりだが、激突があまりに速く狙いが定まらなかった。 ストラーダの穂先を半ばまで脚に埋め込んだ融合体は苦悶の叫びを上げ、エリオごと強引にストラーダを引き、投げた。 それも予想内と、エリオは軽々と受け身を取る。猫のように器用に空中で態勢を立て直し、これで止め――と思いきや、融合体は負傷しているにも関わらず、背を向けて走り出した。 「逃がすか!!」 と、追いかける寸前で踏み止まる。融合体に殴られたらしき男を放っておくわけにもいかなかった。おそらく命に関わる程でもないだろうが。 あの傷ではそれほど遠くにはいけない。この男の傷の確認を早々に終わらせてから追うことにした。 ※ 恐怖で狂乱状態に陥っていたティアナは、更なる恐怖と痛みによって冷静さを取り戻しつつあった。しかし、依然として理性は戻っていない。 むしろ狂気はそのままに、狩人を排除することにのみ知恵を絞り、意識を研ぎ澄ませる。ある意味ではより悪化したと言えた。 未だ心は人ではなく、獣のままで言葉と狩りの仕方を思い出しただけに過ぎない。 今のティアナにとって、エリオは"エリオという名の敵"でしかなく、それが自分にとってどんな存在だったかは完全に吹き飛んでいた。 或いは、ここまで堕ちてしまえば思い出さない方が幸いと、心が拒否しているのかもしれない。 単調な攻撃では、どう足掻いてもエリオには勝てないと、ティアナは考えた。せめて武器さえあれば、身体能力に分のある自分が有利になるのだが。 周囲を見回しても武器になりそうなものはなかった。かといって鉄パイプや角材では話にならない。 何か武器はないのか。武器は――あった。手に握りしめたカード、切り札はずっと自らの手の内にあった。 クロスミラージュ――これは自分の武器。使い慣れた武器だ、とそれだけは覚えている。 「あんたで……。あんたがあれば、あいつを殺せる……!」 手放す時、別れを告げたいと思ったほど苦楽を共にした愛器。 十数分前まで唯一の心の拠り所だった相棒。 ティアナの、十二日振りに再会したクロスミラージュへの第一声はそれだった。 変わり果てた主に対し、クロスミラージュは困惑の言葉を返した。 『マスター、相手はライトニング03ですが、本当によろしいのですか?』 「うるさい!! あんたまであたしを裏切るって言うの!?」 ティアナは、クロスミラージュに激昂で返した。たかが武器でさえ意のままにならない。その憤りを一方的にぶつける。 本当は誰もティアナを裏切ってなどいない。それでも、ティアナは誰よりも孤独に打ち震えていた。 『……現在、待機モードでロックされています。解除の許可は出ていません。解除にはスターズ01と――』 「そんなことなら……あたしがあんたを解き放ってあげる」 『マスター!?』 クロスミラージュを握り締める。青い光が瞬くと、クロスミラージュは掌に吸い込まれるように埋もれた。 頭の中に無数の情報が流れ込んでいく。クロスミラージュの構造、その全てがそこにはあった。 ロック、リミッター、出力etc――全てが自由自在。これまでより、そしてこれから何年掛けて共に戦うよりも深く、ティアナはクロスミラージュを理解し、一体となった。 とはいえ、あまりに乱雑に弄り過ぎては修正できない。そもそも専門家でないティアナには知識が不足していた。 その為、今回はロックの解除に留め、融合を解除。ついでにうるさいAIも少し黙らせておく。 「行くわよ、クロスミラージュ」 準備は整ったとばかりに、ティアナはそこでエリオを待ち受ける。 融合によって、デバイスとのシンクロはより高度なものとなった。 しかし、それはクロスミラージュを託したシャーリーやリィンの意思である同調ではなく、支配と呼べるものだった。 今のティアナは獣ではない。狂戦士か或いは戦鬼か――少なくとも人でないことだけは確かだった。 術も叩き込まれた戦技も全てを思い出した。その理念、理由、それを教えてくれた人の顔を除いて。 前へ 次へ 目次へ