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新暦71年4月29日、この日、ミッド臨海空港が炎に包まれた。 それは初めは小さな火だったが、すぐに建物全てに燃え広がる業火と化した。 炎は逃げ遅れた人々を遠慮なく焼き、その命をデスの下へとへと引きずり込む。 この青い髪の少女『スバル・ナカジマ』もまた、その炎に包まれた空港の中にいた。 「お父さん……お姉ちゃん……」 スバルは泣いていた。 父を求め、姉を探し、既に火の海と化している空港内を彷徨いながら、ただ泣いていた。 死の恐怖や孤独、もちろんそれも泣いている理由には含まれるが、他にももう一つ理由がある。 先程炎の中で一瞬だけ見えた、炎を纏った人型の巨大な何か。それが辺りに火をつけながら移動するのを確かに見た。 おそらくあれが、ミッドチルダで最近確認され始めた異形……モンスターなのだろう。 モンスター達が多くの人々を殺す。その事実がスバルが泣くのに拍車をかけている。 自分も殺されるのだろうか? 瓦礫の爆発がスバルを吹き飛ばしたのは、ちょうどそんな事を考えていた時であった。 爆風は子供を吹き飛ばすには十分すぎるほどの威力。その爆発によって、スバルは天使像の正面まで吹き飛ばされた。 「痛いよ……熱いよ……こんなのやだよ……帰りたいよぉ……」 スバルはただ、泣いていた。 光がやみ、次にグレイが見たものは辺りを焼き払う炎。 彼は辺りを見回し、落ち着いて自分の今置かれている状況を確認する。 まず理解したのは、ここが建物の中だということ。広さはミルザブールの街にあった城と大体同程度だろうか。 次に理解したのは、どうやら今は何らかの理由で火事になっているということ。 真っ先にイスマス城での事件を思い出すが、あれはモンスター軍団の襲撃によるもの。これとはおそらく無関係だ。 続いて装備を確認。自分が使っていたディステニィストーン『邪のオブシダン』と『水のアクアマリン』がなくなっていた以外は万全の状態だ。 そして最も重要なこと……一緒に来たはずの仲間が周りにいないということを理解。 転移の時に事故でも起こって散り散りになったのか、それともグレイから見えないだけで近くにいるのか。今はそれを確認できる状況ではない。 「……全く、エロールもふざけた事をしてくれる」 とにかく出口を探すべく、すっかり手に馴染んだ古刀を手に歩き出した。 Event No.01『ミッド臨海空港』 ピシィッ。 天使像の根元にヒビが入る。それも不幸なことに傾いている方向は正面……すなわち、スバルのいる方向だ。 だが、当のスバルはそれに一切気付かない。今もこの場で泣き続けている。 「助けて……誰か、助けて!」 ここにはいない誰かへと助けを求めるが、それを聞き届けられる者は誰もいない。 さらに悪いことに、それを嘲笑うかのようにヒビが像の表面へと面積を広げていく。そして―――――ビキィッ。 スバルが音に気付き、後ろを見る。そしてその目に自分への直撃コースで倒れてくる像を見た。 自分の死が確実になっていると本能で理解し、とっさに目をつぶってうずくまる。そんな事をしても何にもならないと分かっているのに。 そして、その像はスバルを―――― 【レストリクトロック】 ――――押し潰さなかった。 「よかった、間に合った……助けに来たよ」 いくつもの光の輪が、倒れこむ天使像を縛り上げて落下運動を封じる。 その後ろ上方には、白い服に身を包んだツインテールの女性……『高町なのは』の姿。彼女の使った魔法が像を止めたのである。 そしてなのははスバルの所まで下りていくと、優しく笑ってスバルを安心させる。 「よく頑張ったね、えらいよ」 死を覚悟したときに来てくれた助け。それはスバルの緊張の糸を切り、再び泣かせるのには十分だった。 但し、今度の涙は先程までのものとは全く違い、恐怖ではなく安堵で流したものだが。 「もう大丈夫だからね……安全な場所まで、一直線だから!」 『上方の安全を確認』 防御魔法『プロテクション・パワード』で護られたスバルを背に、なのはが愛杖『レイジングハート』を構える。 レイジングハートが上空を確認。彼女(AIが女性の人格なので、彼女としておこう)が言うには、上は安全。 それはつまり――――思い切りブチ抜いても問題は無い、という事だ。 「レイジングハート、一撃で地上まで撃ち抜くよ!」 『All light. ファイアリングロック、解……』 空港の天井をブチ抜くべく、デバイスの制限であるファイアリングロックを解除しようとする。 だが、その寸前にレイジングハートが何かの反応を検知。一瞬の後にはその正体を理解し、なのはに報告していた。 『マスター、人間とモンスターの反応を確認しました』 「え!? レイジングハート、数と方向は?」 『数はそれぞれ一つずつ。うち一つはあの少女のいる方向から接近していまs「グオオオォォォォォォ!!」 レイジングハートがそれを言い終える頃には、既にそのモンスターが近くまで来ていた。 魔族系モンスターの中でも高位に位置する炎の魔人『イフリート』。それがそのモンスターの名だ。スバルが見たモンスターというのもこいつである。 「あ、ああ……」 スバルの顔に恐怖が蘇り、へたり込む。 だが、そんな事など知らぬとばかりにイフリートが拳を振り上げた。 【ヒートスウィング】 拳を思い切り横に振り抜き、炎を纏った拳撃を放つイフリート。それを見たスバルは反射的に目をつぶる。 だが、どうやら今日のスバルは「潰されそうになるが潰されない」というパターンに縁があるらしい。 あらかじめなのはが張っていたプロテクション・パワードがスバルを護る。いくらイフリートの攻撃でも、さすがに一発や二発では壊れはしない。 「グルルルゥゥゥ……」 防がれたことを本能で理解するイフリート。どうやらかなり苛立っているようだ。 だが、執念深いモンスターはその程度では諦めない。再び拳を振り上げる。 どうやら一度で駄目なら壊れるまで叩くつもりのようだ。 そして再び―先程までは気付かなかったが、斬撃の痕がついた―拳を振り下ろした。 「させない! アクセルシューター……」 それを視認したなのはが、すぐさま自身の周囲に光弾を形成。その数、およそ十。 目標、スバルへとヒートスウィングを繰り出そうとするイフリート。光弾の発射準備完了。 「シューーーート!」 そして、一斉発射。 その光弾は狙い過たず(外れていたとしても遠隔操作できるが)イフリートへと接近し、そして―――― 【アクセルシューター】 【強撃】 まるで示し合わせたかのようなタイミングで、なのはの魔法ともう一つの反応の主……グレイの斬撃が決まった。 時間は少し遡る。 グレイはこの世界に着いてから、ずっと空港からの出口を探していた……が、一向に見つからない。 まあ、彼はここの構造を知らない上に、出口に繋がっているであろう道も炎や瓦礫で閉ざされているのだから当然ではあるのだが。 おまけにマルディアスにいた炎関連のモンスターまで襲い掛かってくるのだから、そのせいでさらに時間が浪費される。 ……と、またモンスターが近寄ってきた。外見からしておそらくはイフリート。だとすればかなり厄介な相手である。 幸い、以前戦った時にイフリートは聴覚で相手を探しているということを知ったので、やりすごすのは楽だ。一対一でこんなものの相手をするのはかなり骨である。 息を殺し、身を潜め、イフリートが通り過ぎるのを待つ。そしてイフリートが通り過ぎ……る前に、あるものを発見。 グレイがその目に捉えたのは、泣きじゃくるスバルの姿。悪いことにイフリートの進行方向にいる。 彼は必要とあらば人殺しすら厭わない性格だが、さすがに目の前で子供が襲われるのを見過ごすほどの冷血漢ではない。 【光の腕】 だからこそ、刀からの光線をイフリートめがけて放った。 それは見事に直撃し、さらに着弾箇所がパァンと起爆。イフリートを怯ませる。 この行動は、スバルが助かったという意味では吉だったが、グレイにとってはおそらく凶。今のでイフリートに気付かれてしまった。 戦闘開始である。 【払い抜け】 先手を取ったのはグレイ。刀を構え、素早く横をすり抜けるように斬りつける。 そしてその勢いに乗ったまますぐに離脱。何せ相手がどれ程の怪力かは身をもって知っているのだ。喰らったら到底ただでは済まない。 ふと、熱と焦げ臭いにおいを感知。発生源である右腕を見ると、火がついていた。 「ちっ……なるほど、セルフバーニングか」 火を消しながら、この火の原因を理解する。そういえばイフリートは常時火の防御術である炎のバリア『セルフバーニング』を張っていた。 幸い火のダメージも、皮膚の表面が少し焼けただけで大したことはない。 いずれにせよ、下手に近付けばセルフバーニングで焼かれる。ならば離れて光の腕などで攻撃すべきか? そう考えていると、いつの間にかグレイの体が宙に浮いていた。そのままイフリートの正面へと引き付けられる。 (まずい……!) グレイは何度かこの技を見ていたし、受けたこともあったからその正体を知っている。 この技は高位の大型魔族が扱う大技『コラプトスマッシュ』。簡単に言えば目の前まで相手を浮かせ、ラッシュを叩き込むという技だ。 だからこそ、すぐに離れようとするが体が動かない。どうやら念力か何かで引き寄せているようだ。 【コラプトスマッシュ】 ズドドドドドドドドドォン! グレイの体にイフリートからのラッシュが入る。一発だけでも相当の威力があると音で分かるような打撃だ。並の人間なら軽く死ねるだろう。 そのままラッシュの勢いを殺さずにグレイを放り投げ、空港の床へと叩きつけた。その箇所を中心にしたクレーターの出来上がりである。 これで死んだだろうと思ったのか、イフリートがグレイへと背を向けてスバルの方へと歩いていった。 だが、イフリートは一つ大きな誤算をしていた。 「まだ、だ」 それは、グレイがこれで死ぬほどやわではないということ。 確かに普通ならこれで死んでいた。だが、グレイは長旅の間に大いに鍛えられていたのだ。それこそイフリートのような高位モンスターとも真っ向から戦える程に。 もっとも、これでダメージが少ないという訳ではない、というかむしろかなりのダメージを受けているのだが。 イフリートはそんなグレイに気付かず、スバルへと接近。そして咆哮。ヒートスウィングを繰り出すが、それはプロテクション・パワードで止められた。 一方のグレイは刀を杖代わりにして立ち上がり、再び構えてイフリートへと駆ける。 そして、イフリートが二発目のヒートスウィングを放とうとした時―――― 【アクセルシューター】 【強撃】 全くの偶然だが、なのはの攻撃と同時に強烈な一撃を見舞った。 「人……? レイジングハート、もしかして」 『先程キャッチした反応と一致。どうやら彼があの反応の主のようです』 なのはがグレイの姿を見て、先程のレイジングハートの報告を思い出す。そういえば人間とモンスターの反応が一つずつと言っていた。 すぐにその事を問うと、返ってきたのは肯定の意。どうやらもう一つの反応の主はグレイで間違いないらしい。 手に持っている刀と状況から察するに、おそらくイフリートの腕に斬り傷を付けたのも彼だろう。 そのような事を話している間にグレイがなのはに気付き、言葉を発する。 「あの子供とは別の人間だと……?」 グレイが知る限りでは、先程までなのはの姿は無かった。それなのにここにいる。 ならばスバル同様にここに迷い込んだか、もしくは何かの目的があってここに乗り込んできたか、である。 この火災を起こした張本人という可能性も一瞬考えたようだが、それを考え出すとキリがないのですぐに切り捨てた。 それに……今はそんな事を考えている場合ではない。なぜなら、 【ヘルファイア】 イフリートはこの二人の思考が終わるのを待つほど律儀な相手ではないのだから。 なのはとグレイ、この二人からの攻撃はイフリートをキレさせるには十分。怒りに任せて火炎弾を放った。 グレイはこうなることも予想していたのか、重傷の体にムチ打って回避する。 【プロテクション・パワード】 一方のなのはも、すぐさまプロテクション・パワードを展開。ヘルファイアを受け止めた。 このバリアはヒートスウィングでも受け止められる程の強度を持つ。ならば最下級クラスの攻撃術くらい、防げない道理は無い。 「魔法盾だと? イージス……いや、セルフバーニングか?」 それを見たグレイが驚く。このような術はマルディアスでは見たことが無い。 一瞬セルフバーニングや盾を作り出す土の防御術『イージスの盾』が頭に浮かぶが、どちらとも全く違う……ならばこの世界特有のものだろうか? いずれにせよ、こんな事を考えている場合ではない。それよりもイフリートをどうにかする方が先だ。 炎の中で炎の魔物を相手にする事ほどの下策は無い。外に放り出せば少しはマシになるだろう。 だが、グレイ一人では到底無理だ。今の満身創痍の状態はもとより、万全の状態でも厳しいだろう。 キレたイフリートの打撃を避けながら、どうやって放り出すかを考える。クリーンヒットを喰らうのと策を思いつくのでどちらが先かと思いながら。 【アクセルシューター】 「アクセルシューター、シュート!」 声とともに形成された五つの光弾が、イフリートの背に突き刺さる。声の主はなのはだ。 イフリートの出現により救助が遅れているので、いいかげんに何とかしないとここにいる二人も助けられないと思ったのだろうか。 そのままカートリッジをロードし、さらなる光弾を形成して立て続けに撃ち込む。何度も撃ち込めばさすがに参るはずだ。 ちなみに遠くからの攻撃なのでセルフバーニングの影響は無い。セルフバーニングで防げるのは炎のみなのである。 これらの攻撃は確かに効果はあった。だが、それは同時にイフリートの怒りを増幅させる。 次の瞬間、なのはの動きが止まった。その体勢のまま浮き上がり、イフリートの前へと引っ張られる。 これはもしかしなくてもコラプトスマッシュの予備動作。このままいけば徹底的にボコボコにされるだろう。 結果だけ言えば、なのははボコボコにはされなかった。 【かぶと割り】 初撃が打ち込まれる前に高く跳んだグレイが、そのまま頭をかち割るかのような一撃を見舞ったのだ。この体のどこにそんな力が残っているのだろうか。 さすがにこれには参ったのか、イフリートの束縛が外れる。その隙に距離を取った。 さらにその近くにグレイが着地し、なのはが礼を言うより前に問うた。 「おい、奴を遠くに吹き飛ばす術はあるか?」 「え……はい、それならいくつか持ってます(術……? 魔法のことかな?)」 術という聞き慣れない単語に首をかしげるも、おそらく魔法のことだろうと思って返事をする。 なのはの持つ魔法には『ディバインバスター』や『スターライトブレイカー』といった砲撃が存在する。これならばイフリート相手でも遠くへ吹き飛ばすくらいはできそうだ。 そしてその答えに満足したのか、グレイは先程思いついた策を話した。 「あの人達も、モンスターと戦ってくれてる……なのに、私は……ッ!」 スバルは未だ、泣いていた。但し、先程までの恐怖とも安堵とも違う理由で。 あの二人はあんな大物モンスターと戦っている。それも、なのはの方は間違いなく自分を助けるために。 それなのに自分は何も出来ない。それが悔しくて泣いているのだ。 もちろん、何の力も無い自分が行っても一撃でハンバーグにされるのは目に見えている。だが、それでもだ。 「もう嫌だよ、泣いてばかりなのも、何もできないのも……」 【腕力法】 気の補助術『腕力法』で腕力を高め、疾駆。後方ではなのはが杖の先端に魔力のチャージを始めている。 このまま斬りかかって来るかと思ったのか、イフリートが腕を横薙ぎに振るおうと構える。 が、その腕は結果的に空中を空振ることになった。 グレイが床に刀を突き立て、結果的にそれが軽いブレーキとなって減速。結果、そのままなら命中するはずだった腕はむなしく空を切った。 そして、それが大きな隙となってイフリートの命運を決めることとなった。 【天狗走り】 床から刀の切っ先が離れ、それが大きな反動を生む。 そして反動は巨大な運動エネルギーを生み、イフリートの体を直撃した。 エネルギーをその身で全て受け止めることになったイフリートは当然耐えられるはずもなく、空高く舞い上がった。 命中と同時に左腕が燃え上がるが、すぐに腕を振って鎮火する。 そして、その時こそがなのはの待っていた好機。すぐさまレイジングハートを空中のイフリートへと向け、そして叫んだ。 「ディバイィィィーーン…… 【ディバインバスター】 ……バスタァァァァァーーーーーー!!」 閃光。 レイジングハートの先端に集められた魔力が、光の砲撃となってイフリートへと飛ぶ。 砲撃はそのままイフリートを飲み込み、それだけでは飽き足らず天井をブチ抜く。 その結果、天井にはそのまま脱出路に使えそうな大穴が空いた。姿の見えないイフリートはおそらくそこから放り出されたのだろう。 一方の外……正確には空港付近の海面。 「グギャアアアアアアァァァァァァァ……」 海上へと浮かび、これから地獄に堕ちるような悲鳴を上げるイフリートがいた。 イフリートの体は大部分が炎でできている。それが大量の水でできている海に落ちたとすればどうなるか? 答えは簡単。今のイフリートのように体の炎が消え、そのままあの世へと逝く、である。 そうしてイフリートは消えていく体の炎とともに命も消した。 「こちら教導隊01、エントランスホール内の要救助者、女の子一名と男性一名を救助しました」 空港上空。なのはがグレイとスバルの二人を抱えて飛んでいる。ちなみにグレイの意識は無い。 コラプトスマッシュを喰らってボコボコにされ、さらにそこから無茶な戦闘。気の回復術『集気法』を使う間もなく気絶するのは無理もないだろう。 そして二人を抱えているなのはだが、その状態でも平気な顔をしている。一体どこにそんな体力があるのだろうか? 『ありがとうございます! でも、なのはさんにしては時間がかかりましたね』 相手の通信士がはずんだ声で答える。が、それと同時に疑問を返した。 救助に向かったのはエースオブエースとまで呼ばれる程の腕利きの魔導師。それにしては少し救助に時間がかかっている。 大方、要救助者がなかなか見つからなかったのだろうと思った通信士だが―――― 「……中にモンスターがいたんです。多分、かなり強力な」 ――――全く予想もしない形で返された。 『モンスター!? 何でそんなものが空港に……』 いくつかの疑問が浮かぶが、とりあえずそう聞き返す。 それに対し、なのはが返したのは沈黙。彼女にも理由などというものは分からない。 「……とにかく、西側の救護隊に引き渡した後、すぐに救助活動を続行しますね」 そう言うと、なのははすぐに救護隊の元へと飛んでいった。 戻る 目次へ 次へ
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「それでは、フェイトちゃんの嘱託魔導師試験合格を記念して・・・」 「乾杯!」 アースラ艦内では、本局で試験を終えたフェイトのささやかな祝賀会が開かれていた。最低限のオペレーター以外は食堂に集合し、そ の主役のフェイトはその中で恥ずかしそうにしつつ、皆に持ち上げられていた。 「あ・・・ありがとございま」 「飲めー!歌えー!騒げー!デストローイ!!!」 「ハイ、ハイ、ハイハイハイハイリンディ提督のちょっといいトコみてみたーい!!!」 「YEAAAAAAAAAAAAAAAAAAHUUUUUUUUUUUUUUUU!!!!」 ささやかと言うには騒ぎ過ぎである。この艦の理性でもあったクロノ・ハラオウンがいないと言う事はこれほどまでに混沌を呼ぶのか。 「どーしたのー?フェイトちゃんの為の宴なのに~」 「リンディ提督、いえ、その・・・うわ、酒臭」 「ぶふ~ん、リンディママに全部話して御覧なさ~い、っていうかなのはちゃんでしょ~?」 「・・・はい」 その時、通信音が響き、ヘッドセットをつけっぱなしのエイミィが出た。 「はいはい~ああ、クロノ君?」 通信に応対するエイミィのさりげない言葉に戦慄が走り、全員が一瞬で凍りつく。 「うん、今フェイトちゃんの試験終わって・・・え?組織の人と連絡取りたい?わかった・・・最寄の電話ボックスと組織の人を繋ぐから」 「組織・・・?」 フェイトがリンディに怪訝な顔をして尋ねる。リンディは少々顔を引き締める。 「ええ・・・クロノとなのはちゃんには今、捜査の依頼が来ていたからそちらに向かってもらっていたの、後数時間で定期連絡が来るだろう し、その時に一度戻ってもらうように言っておきましょうか?」 「いえ・・・大丈夫です、ですが」 フェイトは真っ直ぐにリンディを見つめ、言った。 「私の方から会いにいきます」 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ネアポリス市内のケーブルカー 車掌の笛の音が響く。 「ふぇぇー!!待ってぇ!待ってください!」 ドアが閉まりきる前に間一髪滑り込んだなのは、周りの乗客の注目の的となり、軽く誤魔化し笑い。 「危なかったぁ・・・」 「もう少し待ってくれてもいいよね・・・外国の交通はしんどいよ・・・」 席を探すなのはとユーノだがその最中とんでもない人物を見つけてしまった。 「あ」 「あ」 「あ」 先程空港で自分達を騙した人物・・・ジョルノ・ジョバーナと聞いた彼がボックス席にいた。 「えと・・・座ってもいいですか?」 「え?いや、ああ、どうぞ・・・」 ジョルノと向かい合って座るなのは、荷物は通路側に置く。なのはの横の座席にユーノがちょこんと座る。 「君は・・・いや、覚えてないのか・・・?」 「さっき、空港で会った、ジョルノ・ジョバーナさんですよね?」 「・・・ああ、そうだけど・・・」 「荷物・・・無いんですか・・・」 若干落胆した顔を見せるなのは、ジョルノはそこで話を切り出す。 「その・・・さ、こう言うのは何だけど君は危機感が足りないように思えるんだ、僕が泥棒まがいの事をしていると知っているならわざわざ近寄ったりしないと思うし、荷物だって抱えて持つほうが安全じゃないか?」 「じゃあ、また盗むんですか?」 流石のジョルノも頭痛を覚えた。 「出来るなら今やってみてください」 「(なのは・・・ちょっと怒ってる・・・?)」 「(うん)」 念話での会話すら・・・いや、念話だからこそなのはの静かな怒りが伝わってきた。元よりなのはは曲がった事が嫌いであった、如何なる 理由があっても、どんな境遇であろうと、犯罪に手を染める事を許せない、頑固で真っ直ぐな性格であった。 「出来るのなら今すぐに、盗んでみてください」 「・・・なら、遠慮無く」 ジョルノは即座になのはの荷物を掴む、だが、そこまでだった。 「これは!?重い・・・!!」 出発前 「はいこれ、なのはちゃんは女の子だから色々入れなきゃいけないでしょ?盗まれたりするかもしれないし、特性のスーツケースを用意したのよ」 「なのはちゃんの魔力波動を登録すれば他の人には開けるどころか持つ事すら出来ないようにしてみたよ、開けっ放しには注意してね」 「ありがとうございます、エイミィさん、リンディさん」 「提督・・・僕には・・・」 「それじゃあいってらっしゃい」 「・・・はい・・・」 ジョルノは自分の判断が間違っていた事に気付いた。 この少女は・・・危機感が無いのではない。 危機感を持って、あえてこの場所にいるのだ・・・と 「そうか、お前がジョルノ・ジョバーナか・・・」 そんな中、唐突に話しかけてくる男がいた。ケーブルカーの上の方からゆっくりと歩いてくる、おかっぱ頭の男。 「・・・あんた、誰です?」 「あ、すみません、今ちょっと取り込み中なのでお話なら後にして・・・」 なのはの言葉が途切れる、そばで見ていたユーノは男がなのはに向かって手を突き出したのを見た。 「すまないが・・・ちょっと話したい事があってね、少し時間をもらうよ」 男がすぐに手を離した、にも拘らずなのはは口を塞がれたかの様に呻いている。 「むぐッ!?むぐう!!?」 『ジッパー』がなのはの口に縫い付けられている所為で喋れないのだ。 「ば、馬鹿な!?こんな事が・・・」 「ジョルノ・ジョバーナ、率直に聞きたい・・・このような能力を使う者を見た事は無いか?」 「この様な・・・他にも能力を持つ者がッ!!」 殴った。振り下ろすような拳がジョルノの顔を打ち抜く。 「質問はいらない、ただ答えればいい・・・ここ数日ギャングの中で腕に心得のあるやつが連続して狙われている・・・俺の仲間もその襲撃にあっている、それはどうやら特異な能力を持った奴らが、何らかの目的で集中してここ一帯を狙っている・・・という事なんだ・・・」 「・・・」 「お前が空港周辺で稼いでいるのは知っている・・・だから、妙な奴が来たなら一番お前が詳しいと思ってな・・・」 「・・・魔術士連続襲撃事件か」 「(ゆ、ユーノ君!)」 男が声の方向に向き直る、しかしフェレットであるユーノを当然無視してなのはへと。 「今のは君の声かい?オカシイ、な?口を閉じているのに喋るなんて・・・それに何やら・・・連続襲撃事件と聞こえたが気の所為かい・・・?」 「(ごめんなのは・・・!!)」 「・・・」 なのはは何も言わずじっと堪えた。男はそれを恐怖で緊張していると感じ取ったのか、少し優しい口調で 「じゃあ一つだけ答えてくれないかな・・・?俺の言ったギャングが連続して狙われている事件について、君は心当たりがある・・・イエスかノーか首を動かして答えてくれ」 イエスと応じれば、当然更なる追及を受けるだろう。 ノーと応じれば・・・解放してはくれないだろう、解放してくれたとしても背後関係を洗われる。 どちらも選べない状況で逡巡するなのは、顔に一筋流れる汗を ベロンッ! 男が舐め取った。 「!!??!?!?」 「(こいつ・・・!!)」 「・・・」 「俺ね・・・人が嘘をついてるかどうか汗の味で解るんだ・・・この味は答える事に嘘・・・つまり答える事を隠したい・・・って事」 今度はなのはの肩口から二の腕の辺りまでがジッパーで大きく開かれた。 「ムゥー!!ムグゥー!!」 なのははすっかり気が動転していた。無理も無い、こんな身の危機では成人男性ですら悲鳴を上げて逃げ出す程だ。 「もう少し、話を聞く必要があるようだな・・・俺の名はブローノ・ブチャラティ・・・あまりにだんまりが続くようなら質問を『拷問』に変える必要があるぜ・・・」 「(なのは!!目くらましと解呪をセットでぶつける!!この場は脱出だ!)」 念話の声に理性を取り戻すと同時に、閃光弾の様な光が炸裂した。 「ぐぅっ!!?」 「うああッ!!」 ジョルノとブチャラティが目を押さえて仰け反る。 解呪によって身体のジッパーが無効化した事を確認すると、脱出経路を探そうと目を走らせた刹那、なのはに見えた。 『Protection』 窓の外で鉄槌を振りかぶる少女の姿が 「おらあああぁぁぁ!!!!」 窓ガラスを突き破って来た少女の鉄槌がなのはのプロテクションに食い込み・・・ぶち破った。 衝撃でそのまま反対側の壁まで吹っ飛ばされるなのは 「っかはっ・・・」 瞬時にバリアジャケットを展開していなかったら壁に叩きつけられて気絶していただろう・・・同時にレイジングハートを展開し、対峙するなのは。 「誰なの!?」 「命はもらわねぇ・・・おとなしくやられてくれ」 to be continue・・・ 前へ 目次へ 次へ
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「俺の家族を…」 刀に鳩尾を貫かれながらも彼は呟いた…その様は無残そのものだった。 向こうでに転がっている超一流の戦士でさえ、彼を死のふちに追いやり、 今まさに命を奪わんとするこの男には全く歯が立たなかったのだ。 もとよりただの人間が不意をついたところで勝負になるはずもない。 「ふん」 男が嘲笑を漏らし、刀を握る手に力をこめる。 もはや勝負は決した。うっとおしい蝿どもを始末し、左腕に取り戻した「母」と共に 約束の地へと行き…この星を取り戻すのだ。男の頭にはそれしかなかった。 「俺の故郷を…よくもやってくれたな。」 彼は、自らを貫く刀身に指をかけた。もはや虫の息、それだけの 動作を行うだけでも全身全霊を持ってせねば不可能であった。 そんな僅かな動きに男は気づかない―――以前の男にはありえない油断と見落とし。 慢心と歓喜のせいだろうか?いや、そもそも彼はすでに英雄とまで 称えられた男ではない。足元をすくわれるほどの狂気にそまっていても不思議ではないのだ。 「うおおおおおお!」 「何――っ!?」 男が彼の動きに気づいた時―――いったいどこにそんな力が残っていたのだろうか――― 彼は手に力を込め自らに更に深く刀を刺した。 握り締めた刀を持ち上げ、男に持ち上げられていた足を地に着けた。 そして、さらに力を込め……男ごと刀を凪ぐように振り回した。 予想外の抵抗に男は振り飛ばされる。 弧を描いて床に叩きつけられ、ほんの一瞬だけ意識が一瞬吹っ飛ばされたようだ。 「あんたは…あんただけはぁぁぁ!」 その隙を見逃さず、間髪いれずに彼が男へと突進した。 両腕で男をがっしりとつかんで引きずり上げ、その勢いまま 押し出す―――その行き先は底の見えない奈落… 押し返す間もなく引きずられ、ついには足場が途切れて…男は光が渦巻く奈落へと 落下していった。 男を突き落とした彼も自らの勢いを殺しきれずに宙に放り出される。 その腕を掴んだのは…先ほどまで倒れ伏していた彼の親友であった。 「お前を…お前まで死なせるわけにはいかないんだよ・・・!」 全力を持って引き上げようとする戦士…しかし、戦士も男との戦いで ダメージを負っている、加えて「彼」は生きているのがありえないくらいの危険な状態だ。 両者共に支えきれるはずもなく…男と同様に奈落の中へ落下していった。 「うわぁぁぁぁぁぁ!」 暖かい…なんだ、この感覚は?これが魔晄の本質? まるで・・・何があってもいつかはそこへ帰って安らげる場所のようだ・・・ 強靭な精神を持つ戦士とてこの心地よさにずっと身を任せていたいとの誘惑にかられる。 しかし心のどこでそれを引き止める意思があることに気づいた。 「そうだ、アイツを…アイツを助けなきゃ…アイツを助けて俺も生きて帰って…」 そう思ったとき、彼の意識は途切れた。 今回の任務は骨が折れた。 確保対象のロストロギアは「星そのもの」が保有する莫大な魔力を吸い上げる機関。 幸い不法所持している集団はその力を最大限に引き出す事ができなかったものの 未完成状態でさえ推定Sランク相当以上の砲撃を連射という真似が出来たのである。 制御が甘いのか命中精度に何があったお陰でどうにかなったがこんなものが完成したらと思うとぞっとしない。 端末兵器は無力化し、局員達に研究員も逮捕させた。機関は停止させたものの これだけのシロモノだ、まだ安心は出来ない。 安全のため機関から局員を遠ざけ、炉心の状態を確認しなければならない。 キーを操作し扉を開けて機関内部に入る、機関停止して間もないためか外に比べて若干暑い。 通路を進むと奥のほうに緑色の光が見えた、位置的にはおそらくあれが炉心だ。 さらに進んでそれを目の前にする。先ほど見えた光は機関が吸い上げたエネルギーの残滓のようだった。 今この瞬間にも光はだんだん弱くなっている、大した魔力も感じないし暴発の危険性は無いだろう。 これほど大規模なものは自分ひとりでは封印できない、区域を封鎖させて後は専門の局員達に 任せるとしよう。 「ぐ…」 炉心の奥を覗き込もうとしたとき何かが聞こえた―――ような気がした。 そこでフェイト・T・ハラオウンが見たのは・・・大剣を持った傷だらけの男が倒れている様であった。 「彼の持つ魔素にも似たエネルギー・・・これは本人の持っているエネルギーというよりも 長時間それに晒されていた結果と見るべきかな」 白衣の男がカプセルを眺めてつぶやく 「セフィロス…ザックス…ティファ…」 「先日、爆発現場から回収してからずっとこのようにうわ言を繰り返すだけです。 精神に重度の影響をもたらす何かがあったと考えられます」 カプセルの中の彼が呻き、それを受けて白衣の男の傍らの女が言う。 「さて、この拾いものはとんだお荷物なのか思わぬ掘り出し物になるのか…どちらだろうね」 ジェイル・スカリエッティはめったに見せない険しい表情でカプセルを見つめた。 目次へ 次へ
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メビウス×なのは氏の手がけた作品 No. タイトル 005 反逆の探偵 TOPページへ バトロワまとめへ このページの先頭へ
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魔法少女ニニンがなのは伝3 「看病と聞いてエロイことしか考えられない……そんなお前は俺の兄弟だ~ by音速丸」 今までのあらすじ、変態セクハラ魔人と3馬鹿忍者が海鳴の町にやって来たのでした。 「ちょっ! なのはちゃんそれマジ容赦ないよ!!」 「えっと…そう言われましてもこの台本にそう書いてあるので…」 「いやっ! 幼女にヒドイ事を言われるのは案外悪くないぞ!」 「サスケさん……あんたって人は」 本当のあらすじ、音速丸ご一行がなのは達の所にやって来たのでした。 「おかしい…(若本)」 音速丸はハラオウン家の居間でスナックとコーラを食しながら話題のヤンデレゲーが原作のアニメを見ながら呟いた。 サスケが音速丸のその独り言を聞いて言葉を返す。 ちなみにサスケはさすがに何もせず厄介になるのはあまりに申し訳ないという事で家事に勤しみ部屋の掃除をしていた。 「おかしい? あ~“スクールデイ○”ですか。確かにこんな主人公が女の子とチョメチョメでニャンニャンするなんておかしいですよね~」 「ぶるううわあああ!! 違うぞいサスケ! まあ確かにそれも一理あるが……俺が言いてえのは俺達のこの状況だよ!!!(若本)」 「はあ…と言いますと?」 「俺達がここに来てどんだけ経ってるよ~サスケ?(若本)」 「2週間くらいですかね」 「そのと~り! 2週間だよ2週間、普通それくらい時間がありゃあ女キャラの一人や二人とフラグくらい立つだろうがよ!? なのに俺たちときたら、こうやって時間を無駄に浪費してるだけじゃねえかよ!!!(若本)」 その音速丸の言い分に流石にサスケも開いた口が塞がらなかった。 サスケは仕事の為に家を開けがちなハラオウン家の家事手伝いに忙しいし他の忍者も無駄飯喰らいを感じて高町家や八神家の家事や家業の手伝いに回っているが、音速丸ときたら毎日エロゲ(しかもクロノの部屋のPCで)やってるかアニメ見てるかしかないのだ。 「いや音速丸さん……やっぱフラグ云々を言うなら何か行動をしてからの話では?」 「ほ~う…何か行動? 例えば何だサスケ?(若本)」 「まず我々の家事に手を貸すとか…」 「大却下ぜよ~! そういうのはおめえらがやってろい!(若本)」 「うわ~堂々とニート宣言ですか? それじゃあ他のクロス作品のキャラでも見習ったらどうですか?」 「ほう~う、サスケにしちゃあ良い事言うじゃねえか。それじゃあ他のクロス作品キャラがどうやってフラグを立ててるか分かるかサスケ?(若本)」 「そうですね~、まずは劇的な出会いとか?」 「俺達の出会いも十分に劇的だったぜ~(若本)」 「いきなりセクハラ攻撃ですからね……それじゃあ、やっぱり恒例のあのイベントですかね…」 アースラ内の訓練室になのは・フェイト・はやての3人が並んでいる。その3人の前には音速丸が腕を組んでパタパタと飛んでいた。 「え~では、そういう訳でこれからおめえらと模擬戦を行ううう!! ぶるあああ!!(若本)」 いきなりハイテンションでぶっ飛んでる音速丸になのは達は恐る恐る疑問を口にした。 「えっと…音速丸さん…どうして突然模擬戦を?」 「どういう訳なのかよく分からないんですが…」 「なんか、相変わらずテンション高いんやな~」 音速丸は厳密な会議の結果(酒飲んでアニメ見ながらサスケ達とくっちゃべった)やはりクロスキャラがフラグを立てるには模擬戦が1番という結論に落ち着いた為にこうしてなのは達を集めたのだった。 「グダグダあふあふ言ってんじゃねええ!!! 俺がやるって言ったらやるんだよロリっ子どもがああああ!!!!(若本)」 「でも私達って結構魔道師ランク高いんですよ?」 強引な俺理論を展開する音速丸になのはが心配そうに聞く、だが音速丸は不敵に笑ってこれに返事を返した。 「ふっ…おめえら~、一つ聞くがこの世で1番強いと思うのはだれだ~?(若本)」 その突然出た音速丸の質問になのは達は困惑しながらもそれぞれに答える。 「孫悟空」 「江田島平八」 「範馬勇次郎」 「くく…実はな~俺は孫悟空と戦って勝ったんだぜ~(若本)」 「「「本当ですか!?」」」 「もちろんさ~(若本)」 3人にそんな事を言う音速丸、その彼に近くで成り行きを見ていたサスケが耳打ちする。 「音速丸さん、子供に嘘言っちゃだめですよ。っていうかこの子達って強いらしいですから止めた方が良いですよ…」 「何言ってんだよサスケ~俺が孫悟空と戦ったってのは本当だぜ~。それに所詮9歳のロリっ子が使う魔法なんて大したことねえよ~(若本)」 「音速丸さ~ん、それじゃあ始めますよ」 「お~う分かったぜなのは~。ほれサスケ下がってろい、このロリっ子どもを今からホヒンホヒンにしてやるからな~(若本)」 音速丸の話を信じた3人の魔法少女は全力全開、手加減抜きで魔法を使った。 「スターライト…」 「プラズマザンバー…」 「ラグナロク…」 眩い光が収束し莫大な魔力が渦を巻き、3人の最大最強の大技が放たれる。 「「「ブレイカー!!!」」」 「げぼちょおおおおおおんんんん!!!!!(若本)」 今日も哀れな珍獣の絶叫が木霊する。 「ま~ったく。えれえ目に会ったぜ、まさかあんな魔法使うなんてよ~。っていうか全然魔法少女的じゃねえぞあれは…(若本)」 音速丸は先の模擬戦で大怪我(?)を負い体中に包帯を巻いた状態になっていたのだ。 音速丸はそうしてハラオウン家のベッドの上で養生しアニメを見ながら愚痴を漏らす、まあ彼にとってはこの方が文句を言われずにアニメを見れるのでありがたい限りだった。 そこにノックが鳴りフェイトの声が届いた。 「あの…音速丸さん…ちょっと良いですか?」 「むううう!! ちょっ、ちょっと待ちなさいよマドモアゼル! 今、股間のエッチピストルを仕舞うからして~(若本)」 「は、はい…」 音速丸はそう言うと見ていた18禁アニメの再生を止めて散らばっていたエロゲーのパッケージを仕舞って、難しそうな本を並べて最低限の見栄を張る準備を整える。 「ささ、お嬢さん。準備が整いましたぞなもし~(若本)」 「それじゃあ…失礼します」 音速丸のいる部屋にフェイトがおずおずと入ってくる、彼女は音速丸の包帯だらけの身体を見て心底すまなそうな顔をする。 「その…すいません。私達のせいで音速丸さんにケガをさせて…」 「いや~、まあ気にすんなってよ~ミス美少女~。俺ってばあの時変身するの時の呪文考えてたらボーっとしちゃってよ~、おめえらは悪くねえって(若本) 「そ、そうなんですか?」 元々は音速丸が言い出した模擬戦なのにケガをさせた責任を感じるあたりフェイトの人柄の良さが伺えた。 「でも私のせいでもありますから……看病させてもらっていいですか?」 「なんですとおおおお!!! まあいいだろう、おめえがどうしてもと言うならば看病させてやろう~(若本)」 こうして音速丸はフェイトにトンデモ看病をさせることになった。 音速丸はさっそくフェイトの膝の上を占拠してセクハラモードに突入する。 「看病と言うものは痛みに震える患者に直接手を触れて痛みを和らげる…ということなのだ!! まずはケガの早くなる呪文キダイスと唱えながら頭をナデナデしろい!!!(若本)」 「分かりました、キダイスキダイスキダイス、こうですか?」 「う~ん、もっと~もっとだ~!!!(若本)」 「キダイスキダイスキダイスキダイス(以下略)」 まあ、つまり“大好き”に聞こえるっていう最高に馬鹿らしいセクハラトラップな訳である。 そして音速丸がそれだけで終わるはずも無く、彼のセクハラ攻撃はまだまだ続く。 「よ~し次はシテルアイと言いながら包帯取替え~」 「シテルアイシテルアイシテルアイ」 「では音速丸様ウフ~ンと言いながらメシ~」 「音速丸様…ウフ~ン」 「それじゃあ、服を脱いで1番セクシーだと思うポーズをしろい!!!!(若本)」 「ふえ? セクシーですか?」 もはや取り繕う事もしなくなった音速丸、突っ込み役がいない為にどこまでもヒートアップしていくセクハラ攻撃であった。 「お~い音速丸。生きてるか? フェイトがいないんだが…」 そこでクロノが見たのはフェイトの膝の上でにやけた顔でよだれを垂らす音速丸の姿だった。 「音速丸……ブレイズキャノンで黒焦げかスナイプショットで蜂の巣のどっちが良い?」 「ちょっ! 待てってクロスケこれには深~い訳が(若本)」 「問答無用」 「ぶるううあああああああああああ!!!!!(若本)」 この珍生物は何度ヒドイ目にあっても懲りたりはしない、今日も海鳴の町に彼の声が木霊する。 続くかも(?) 前へ 目次へ 次へ
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「将来の夢はなんですか?」 小学生にとって、教師のその質問はごくありふれたものであるだろう。 多くの子供達は多様な、しかしある程度定例化した答えを答える。 『お巡りさん』『歌手』『スポーツ選手』『お嫁さん』―――。 いくつもの夢があり、それぞれに輝きがあるものだ。 太陽の光のように、美しいが誰もが毎日見ている、普遍的な輝きが。 ただ、その中に誰も見た事のない光を放つ夢があった。 一人の少女が抱く、黄金の輝きを放つ夢が。 周囲の同年代の子供達の中で、世界の常識に照らし合わせて『その中で異物であると削ぎ落とされてしまう夢』 誰のものとも違う、奇妙とも言える『偉大なる夢』を抱く少女が一人。 「この高町なのはには『夢』があるッ!!」 高町なのは。現在、小学三年生。 彼女が、まだ幼くして自らの黄金のような夢を自覚するのには、この歳から更に過去へと遡らなければならない。 なのはがまだ小学校に入る前、その時に転機は訪れた。 なのはの家族はまさに理想的と言ってよかった。 母は優しく美しく、父は若くて強い。二人の兄と姉は妹であるなのはを守り、育む事に全力であったし、そんな家族の誰かに不幸が訪れるような悲劇的事件も起こる事はなかった。 誰もが羨む平穏な生活の中で、なのはは育っていった。 ただ一つ、この素晴らしい環境の中でなのはの心に影を落とすものがあったとするなら、それは些細な『疎外感』であっただろう。 まだ年若い父と母の夫婦愛は新婚のような雰囲気を保っていたし、運動音痴のなのはと違い身体能力に優れた兄と姉は我流の剣術を共に競うように鍛錬し合っていた。 なのはと他の家族の間に不仲や壁が存在したわけではないが……それでも、父や母、兄や姉が、自分とは違う特別でより強い絆によって結ばれているような感覚を覚えていた。 自分だけが、一家の輪からほんの少しだけはみ出ている―――そんな『疎外感』が常になのはの中にあったのだ。 いつしか、なのはは内向的な性格に育っていった。 人と合うと目を背けたり俯いたりするような、あからさまに暗い性格ではなかったが、まず他人の顔色を見るような癖が付くようになってしまった。 好きな事は、友達と外で遊ぶ事より、CPUや電子機器といった機械を弄る事。 愛らしい容姿が、なのはをジメジメとした暗い雰囲気から遠ざけてはいたが、彼女がいつか成長した時人付き合いの苦手なタイプの人間になってしまう事は誰が見ても時間の問題だった。 しかし、ある事件がきっかけでなのはは劇的に変わる事になる。 いつものようになのはが公園で、別に誰かと遊ぶわけでもなくブランコに乗って蕾も付いていない桜の木を眺めていると、いつの間にか隣に知らない女の人が座っていた。 いつの間に座ったのか? 何処から来たのか? わからなかったけれども、女の人はなのはより年上だがそれでもまだ年若い少女のようだった。 何故隣に座るのかなのはが尋ねると少女は、 『自分と同じようにひとりぼっちでさびしそうだな』と思っただけだ、と答えた。 その言葉が、寂しそうな子供を慰める安い同情の言葉だと思うほどなのはは捻くれてはいなかったし、事実少女はそんな同情心など欠片も抱いていなかった。 なのはも感じたのだ。『この人も、きっとひとりでさびしいんだろな』と。 それからなのはは、少女と少しの間だけお話をした。 なのはは自分の素敵な家族の事や、その日起こった事を話し、少女がこの町の人間ではなく、何かするべき事の為にここへ来た事を知った。 少女の言う『やるべき事』の為に、話せる時間はほんの少し。この公園で約束もなく会って、数十分話すだけだったが―――なのはにとって、このまだ名も知らない少女との時間はひどく心休まる時間だった。 そして、多分そう長い時間ではなかっただろうが、ある日唐突に少女は元の場所へ帰る事になった。 この町でやるべき事が終わったらしいのだ。 結局、それが何であったのか、なのはは最後まで知らなかった。 別れを告げた少女は、ほんの少しだけ寂しそうな色を瞳に浮かべたが、いつもと同じ優しい笑顔のままだった。 なのはは、彼女と付き合った僅かな時間を噛み締め、涙を堪えて名前を尋ねた。 少女は答える事無く、ただ黙って公園の木を指差した。 その木には、まだ蕾すら付いていなかったというのに―――『桜の花』が咲き誇っていた。 ただ一日限り咲いた桜の花弁は、別れを告げるように、またなのはを優しく包み込むように風に舞って美しく降り注いだ。 気が付くと、少女はもう何処にもいなかった。 まるで『魔法』を使ったように。 彼女は『魔法使いの少女』だった。 その事実を、もちろんなのはは知らない。しかし―――。 有り得ない桜の花を、異常気象や何らかの科学的要因があったのだと理屈付けて納得する方法は幾らでもあったが、なのはは何故かそれが『魔法』だったのだと漠然と感じていた。 誰も信じない。誰もが鼻で笑う。しかし、なのはは信じた。それこそが重要だった。 少なくとも、あの時あの少女が、この広い世界にある辺鄙な町の小さな公園の片隅で座り込む、小さな少女の小さな悩みを見つけてくれたのは確かだった。 この世界で、より大きな不幸や事故は幾らでも転がっているというのに、あの少女は高町なのはの小さな苦しみを見逃さなかったのだ。 そして、自らのやるべき事と同じくらい大切に、なのはとの時間を過ごしてくれた。 ひとりの人間として敬意を示してくれるつき合いをしてくれた。 あの少女の『心』が、何よりも『魔法』のようになのはの心をまっすぐにしてくれたのだ。 もうイジけた目つきはしていない……。 彼女の心にはさわやかな風が吹いた……。 少女はなのはを『魔法に触れさせない』という態度を貫き、その力をほとんど見せなかったが……高町なのはが持つ本来の魔法の素質は、たった一度だけ見せた『花の魔法』を切欠に、静かに目覚め始めていた。 彼女に秘められた類稀なる魔法の素質が目覚めた今、なのはの気持ちを止める事は出来ない……。 彼女の中に生きるための目的が見えたのだ。 こうして『高町なのは』は、 ミリオンセラーのアイドル歌手に憧れるよりも―――『魔法少女』に、憧れるようになったのだ!! 「……と、いう事があったの」 「いい話だねえ」 「まあ、なのはの夢については分かったわよ。……でもだからって、授業中に立ち上がって叫ぶのはやりすぎじゃない?」 「すごい迫力だったもんね。先生、ちょっと泣いてたよ」 「う……っ、ごめんなさい」 お昼休み。アリサとすずかの二人の親友と一緒にお弁当を囲んだなのはは、前の授業時間に自分の仕出かした事を思い出して冷や汗を浮かべた。 「相変わらず、あんたって唐突に性格変わるわよねえ。ま、その理由も今分かったけど」 「うん、なのはちゃんって一年生の頃から『魔法少女』の夢を話してるけど、そんな理由があったなんて知らなかったな」 「……でもさ、真剣なのは分かったけど、だからこそ余計に厳しくない? 現実的に考えて『魔法少女』なんてさ」 笑顔のすずかに対して、眉を顰めるアリサの言葉に、なのはも苦笑した。 アリサがなのはの夢をバカにしているワケではないのは十分理解している。そもそも『魔法少女』という夢が、あまりに現実的ではない事は小学生のなのはにも分かっている事なのだ。 まだ子供のなのはがそんな夢を語っても、周囲の大人は本気にはしないだろう。 しかし、なのはが本当にその夢を目指していると理解したからこそ、アリサは心配するのである。 現実を見ろとか、無理だとか言うつもりはない。ただ、とても難しい目標である事は確かなのだ。 それが分かるからこそ、なのははアリサの言葉に素直に頷く。 「うん、分かってるよ。世の中に『魔法少女』なんて職業はないし、実際に『魔法』なんて存在する可能性も少ない……」 「ない、とは言い切らないのね」 「それに関してはね、わたしもなんとなく『あるんじゃないか』って感じちゃうんだ。 ただ、それはとは別にわたしは目指す夢は『魔法』という力で誰かを助けるものじゃあない。例えば杖を振って誰かにドレスをあげたり、食べ物を出してあげたりする……そういう単純な『与える幸せ』じゃないと思うの」 なのははいつしか視線を上げ、未だ入り口すら見えない夢の先を見据えていた。 「あの日、あの人はわたしに魔法を掛けたわけじゃない。ただ話を聞いてくれただけだった。 でも、あの時交わした言葉の一つ一つ、あの人の笑顔一つ一つが、わたしにとって『魔法』だった。たくさんの人が住むこの町で、たった一人の小さなわたしを見つけて、そして悩みを消してくれた―――わたしも、あんな『魔法』が使えるようになりたい」 「だからわたしは、『魔法少女』になろうと思う!」 迷いなど欠片も無く、そう力強く断言するなのはの横顔に、アリサとすずかはいつしか呑まれていた。 この『高町なのは』という少女と出会い、初めて『魔法少女になる』と話したのを聞いた時、二人は当然戸惑った。 『魔法少女』! この子はまじにそんな事に憧れているのか!? そんな非現実的な事に関わろうとしているのか!? こいつ、正気なのか? とも思った。 ―――しかし。 なのはの話の中には『正義の心』があったのだ。 アリサもすずかも、良くも悪くも今時の子供である。より現実的な視点や考えを持とうという意思がある。 こんな話を大真面目にするなんて恥ずかしくて出来ない同年代の子供達が多い中で、なのはの真っ直ぐな『正義への意思』は黄金のように輝き、二人を惹きつけて止まないのだった。 「……ふ、ふん! だから、そうやって自分の世界に唐突に入るの、や、やめなさいよねっ」 なのはの決意を秘めた凛々しい横顔に見惚れていたアリサは、我に返ると慌てて赤くなった頬を誤魔化すように捲くし立てた。 「でも、そういう時のなのはちゃんって、なんだかカッコいいよね……」 一方のすずかも、頬を染めながら少し恥ずかしそうに笑っている。 二人の親友は、普段の少しドジなほんわかとしたなのはが好きだったが、その穏やかな顔の奥に秘めた別人のように強い意志の力に憧れを抱いてもいるのだった。 「わたしにしか出来ない事があるとしたら、それはきっとコレなんだと思う。そう自信が持てるッ」 この時、なのはは『運命』のようなものを感じていた。あるいは、あの日あの少女に出会った時から。 その『運命の瞬間』までの全てが、その時に備えてのものなのだと。 なのははこの奇妙な確信を抱く『運命』に対して『覚悟』をしていた。 『覚悟』は『絶望』を吹き飛ばす。それが自信へと繋がるのだ。 そして、この日の放課後、学校からの帰り道で―――ついに、なのはは運命に出会うのだった。 『助けて……』 運命の声を、聞いたのだ。 to be continued……> 『第一話、後半へ』 目次へ 次へ
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マクロスなのは 第18話『ホテルアグスタ攻防戦 前編』←この前の話 『マクロスなのは』第19話「ホテルアグスタ攻防戦 後編」 シグナムが敵を発見した頃、地上の戦線に変化が起こっていた。 突然北西5キロの位置に巨大な魔力反応があったかと思えば魔法が行使され(この時の魔法はキャロの報告により召喚魔法と判明している)、同時にガジェット達の動きが変わった。 いままで陸空でガジェットが展開していても共同で組織的に何かをすることはなかったのだが、彼らは突然連携を始めたのだ。 陸戦型の進攻を阻止している陸士にⅡ型が上空からレーザーによって空襲。たまらず塹壕から飛び出した陸士に陸戦型がレーザーを集中射する。 結果、戦線は一気に総崩れになった。 「後退!六課のラインまで後退するんだ!!」 森の中に命令という名の怒声が響き渡る。しかしその声は敵の攻撃と友軍の砲火の前にすぐかき消される。もちろん各人を無線という通信回線で繋いでおりその意図は全体にすぐに伝わるが、激しい空襲と陸戦型の追撃を前になかなかうまくいかなかった。 MINIMI(軽機関銃)が放つフルオートの発砲音を轟かせながら陸士部隊の1個分隊が後退していく。 後退の援護は2人1組で構成され、片方が後退する時はもう片方が敵へと援護射撃して頭を押さえる。MINIMIに代表される分隊支援火器の登場で分隊でも容易になったこの戦術機動だが、今回の敵は手強すぎた。 後退を援護していた片方が、被弾を恐れず突入してきたⅢ型のレーザー攻撃を足に受けて転んでしまったのだ。援護射撃が止み、後退中の相方が無防備となる。 「この野郎!」 一部始終を目撃していたロバートは振り返りざまにそのガジェットⅢ型を照準すると、装填されていたカートリッジ弾を撃ち込む。だがその1発はすんでのところで〝回避〟された。 「チッ!」 ロバートは銃のセレクタレバーをフルオートにすると、トリガーを引き絞った。 レールガン方式を採用したため、この銃に薬莢はない(廃莢口は適正によってベルカ式カートリッジシステムを着けることができるよう、残されている)。そのためマガジンは純正89式小銃の約2倍の装弾数(66+1発)を誇り、まだ半分程残っているはずだ。 最初の5、6発が敵の滑るような機動で回避されたが、後退中だったあの相方が援護して十字砲火を形成。その後は命中し、途中で完全に沈黙した。 「くそ!動きまで良くなりやがった!」 吐き捨てると足を撃たれた部下に肩を貸し、すぐに後退する。 だがあることに気づいた。 その部下は足に命中弾を浴びたはずなのに外傷がなかったのだ。 「負傷者の搬送はお任せください」 「頼む!」 駆け寄ってきた隊員の左腕に赤十字の腕章を認めると、彼を託して後退援護の射撃を後方に放つ。 相方の退避を確認。即座に銃撃を止めて遮蔽物から出て後退する。その間は阿吽の呼吸で相方の援護射撃が放たれた。 しかし小隊長である自分がいつまでもこうしてはいれない。後退しながらHMD(ヘッド・マウント・ディスプレイ)を一瞥して増援として近くにいた1人を呼び寄せた。 その間に頭に引っ掛かっていた事象を確認するためJTIDS(統合戦術情報分配システム)に届く負傷者情報を呼び寄せてみると、やはり誰1人出血を伴った負傷者が出ていなかった。このやられ具合だと軽く10人以上の重傷者が出ても不思議ではないはずだ。 その時、後方監視していた自身の89式小銃『エイトナイン』が音声とHMDで警告を発する。 『Get down!(伏せろ!)』 愛機の情報を疑いなく信じると、考える間もなく伏せる。 数瞬後、立っていたら腰あたりを薙ぐはずだったレーザーは射軸上にいたすべてを焼いていく。 それに構わず伏せたままランチャーにカートリッジ弾を装填し発砲。弾体はⅢ型のシールドを対シールド機構とその物理的な推進力を盾に突き破ると、そこで内包されていた魔力を爆発的に炎熱変換して自爆した。 目標の沈黙を確認すると後方に振り返る。薙いだレーザーは射角的に先ほどの衛生兵と負傷者を巻き込んだはずだった。しかしそこには問題なく搬送していく彼の姿があった。 「なに?」 だが攻撃が幻覚でなかった証拠に増援として来た1人の陸士が腰辺りを抱えてうずくまっていた。 「おい、大丈夫か!?」 「は、はい・・・・・・」 苦しそうに応える彼に駆け寄ってみるが、抱えていたその患部に外傷は見られなかった。これには彼も驚いたようだ。 これではっきりした。どうやら敵は非殺傷設定で攻撃しているらしかった。しかも非戦闘員を巻き込まないよう選択的に。 とにかく彼に訓練に使う魔力火傷用の簡易的な麻酔魔法をかけると、肩を貸しつつ戦線に復帰させた。 「どうやら今までの奴よりは、理性ある奴が操作してるらしいな・・・・・・」 その後ロバートの小隊は第2次防衛ラインまで後退すると、六課の4人を加えて迎撃を始めた。 (*) 上空でも突然動きの良くなった敵に翻弄されかけていた。 「まとめて、ぶち抜けぇー!」 ヴィータが鉄球を10発生成するとアイゼンで加速、向かってくるガジェットⅡ型に当てようとした。しかし───── 「なに!10機中3機だけだと!?」 驚くのも無理はない。いままで奴等が自分の攻撃の回避に成功した記憶はない。それが突然、自らの攻撃が避けられるほど動きが良くなったのだ。 しかしヴィータにはあまり関係ない。 「めんどくせぇ!アイゼン!」 「Raketen form.(ラケーテンフォルム)!」 アイゼンは1発ロードするとクラスターエンジンを展開する。 「ラケーテン、ハンマー!!」 雄たけびも高らかにそのまま敵に突貫し直接叩き潰してしまった。 (*) 『どうやら有人操作に切り替わったようだ。各員、注意して敵に当たれ』 ホークアイの指示が飛ぶ。その指示に戦術が一新された。 いままでの数に物を言わせた戦いから、いつもの戦いに。 バルキリーは空を舞い、景気良くミサイルをお見舞いする。そして魔導士部隊も砲撃を惜し気もなく撃ち込む。 外したミサイルや砲撃、ガジェットの破片は六課のザフィーラとシャマルの展開した広域バリアによってすべてがホテルとの衝突を免れた。 (*) そして六課のラインでは、すでに第256陸士部隊の全部隊が防御の正面であるホテル前のC-3エリア付近に集結。迎撃が行われていた。 『第3小隊損耗率30%!後退します』 「安心しろ、ラインは支える。後ろで休んでろ」 『了解。感謝します』 『こちらスターズ3。C-2エリアに孤立していた第4小隊第2分隊と合流。本隊と合流するため、支援願います』 「第5小隊了解。10秒後20秒間全力射撃する。その隙にこっちに走って来い!」 『スターズ3、了解』 『第2分隊、了解』 ロバートは無線から手を離すと、隊に呼びかける。 「俺の合図で〝あっち〟に20秒間全力射撃。向かってくるスターズのお嬢ちゃんと第2分隊の連中に当てるな!・・・・・・3、2、1、今だ!」 その合図に第5小隊の保有する合計25の火器が一斉に弾幕を形成した。 頭のよくなったガジェットたちはそれに当たるまいと遮蔽物に隠れる。 その隙に遅滞行動(撃っては後退、撃っては後退という戦闘機動を交互に行い、敵の進攻を遅らせる戦術的後退術)をしていていつの間にか包囲されてしまった第2分隊はスターズ3、スバル・ナカジマを先頭に走って来た。彼女は猛烈な突破力を武器に敵の群れを突貫していく。 既定の20秒が経ったときには隣にいた。 そしてさらに上空のあの赤く幼い魔導士からの空爆とオレンジ色の髪をツインテールにした二丁拳銃使いの誘導弾が、動きの止まったガジェット達を撃破していった。 (やっぱり六課は心強い!) ロバートは彼女達がいる限り、管理局は無敵だ。と実感した。 (*) ホテル東部 高度4000メートル 元々動きの良かったゴーストはバルキリー隊が対応に当たったが、更に頭の良くなったゴーストは危険な存在になっていた。 高空より侵入してきたゴースト6機は連携とりつつ接近してくる。 ホテル東部を担当することになったサジタリウス小隊はさくらの狙撃に援護されながらそれに応じた。 しかし狙撃は当たらず、天城の放ったマイクロハイマニューバミサイルの弾幕も絶妙な連携プレーで突破してきた。 これまで4カ月という訓練期間の短さをハード(機体性能)によって補ってきた感のあるバルキリー隊は苦戦を強いられることになった。 (*) ドッグファイトに持ち込まれたサジタリウス小隊の2機は徐々に分断。距離を離されていく。 『離されるな天城!』 アルト隊長の声が耳朶(じだ)をうつ。 「しかし・・・・・・くそ・・・・・・」 ゴースト3機に囲まれた自分は、さくらの支援狙撃もむなしく隊長のVF-25と完全に分断されていた。 最高速度で優越しているため、ファイターに可変して振り切ることも選択肢だろう。しかしそれでは防衛ラインに穴を開けることになり、隊長や下界の陸士達、つまり友軍を見捨てる事となる。 隊長も3機のゴースト相手では分が悪い。それが増えたら尚更だ。 天城は持ちうる技術を結集して何とかさばこうと努力するが、ゴーストの機動性、バルキリーの火力、賢い頭脳を与えられたそれは徐々に彼を追い詰めていった。 (転換装甲のキャパシティがやべぇ・・・・・・) 空戦では余剰エネルギーが最大限利用できるガウォークで戦闘しているにもかかわらず、構造維持エネルギーが限界に到達しようとしていた。それは限界を超えたとき、自機の損壊を意味する。 (そろそろ潮時かな・・・・・・) 度重なる被弾の衝撃で精神の参っていた天城は自暴自棄になっていた。 彼は左手に握るスラストレバーを45度倒してファイターに可変する。そして目前で丁度旋回してきたゴーストに狙いを定めると突撃した。余剰エネルギーの関係でPPBSは作動しない。 しかし彼は躊躇わなかった。 こちらの乱心に気づいたのか通信機ががなりたてているが、彼には聞こえない。そして目前のゴーストが視界いっぱいに広がり───── (*) 「天城ィィィーッ!!」 『天城さん!!』 アルトとさくらの声が空にこだまする。 爆発したその場所からは大量の金属片が下に力無く落ちていき、これまた大量の黒煙がその場を包んでいた。 イジェクト(緊急脱出)は・・・・・・・確認できない。 ゴーストが撤退していく。いや、ガジェット達も同じく撤退するらしい。 『そんな・・・・・・天城さん・・・・・・!』 さくらの茫然とした声が聞こえる。 「畜生!」 自らの担当した3機のうち2機を叩き落としていたアルトは、あと少しだったのに!とコックピットの内壁を叩く。 (また俺は失ったのか!?スミスやマルヤマ、ジュンのように!!) 暴発しそうな激しい感情と共に、バジュラ本星突入作戦で散って行った部下2人の顔が脳裏を過る。 しかし視線を落としたアルトは、ディスプレイの表示に息を呑んだ。 天城のVF-1BとのJTIDS(相互データリンク)が接続されたままだ。 (これは、ひょっとして・・・・・・) 顔を上げたアルトの目に飛び込んできたのは、ガウォークでホバリングしたVF-1Bだった。 『・・・・・・あれ?』 モニターに拡大された天城のアホ面(づら)が印象的だった。 (*) 「逃がしたか・・・・・・」 こちらは地下駐車場。謎の人型甲虫と遭遇したシグナムだが、取り逃がしてしまっていた。しかし〝それ〟が抱えていた箱は斬撃によって吹き飛ばされ、床に四散していた。 シグナムはそんなこと全く関しなかったが、敵は違ったようだ。身軽になった体で意外に小さな〝箱の中身〟を拾い上げ、光学迷彩を再起動して闇に消えていった。 「大丈夫ですか!?」 さっきの警備員だ。派手に戦闘をやらかしたので様子を見に来たのだろう。 「ああ。犯人はとり逃してしまったが」 「そう、ですか・・・・・・」 彼は周囲を見渡す。 めくれ上がったコンクリートの床。 深い切り傷の残る柱や壁。 最早廃車であろう高級車。etc、etc・・・ その場は破壊の限りを尽くしたような光景が広がっていた。 (*) 「ぶつかる前に相手が自爆しただとぉ?」 天城に生還の理由を聞いていたアルトが驚きの声を上げた。 彼によるとその時は気にしなかったが、特攻の瞬間なぜか相手は銃撃を止めて回避に専念したらしい。 『何か無人機のくせに端々の挙動が人間ぽかったんですよね・・・・・・まるで事故を回避しようと急ハンドルした感じでした』 天城は元々突っ込むつもりのため当然追う。VFは可変という特殊機構を持つため小回りでは負けない。 結局天城は衝突を免れないコースをとり、今まさにぶつかる!という時に自爆したらしい。 「う~ん・・・・・・」 アルトは理解出来ずに頭を捻る。 無人機なのだから戦術・戦略上必要なら自爆や特攻することはよくある。しかし突っ込む天城を撃墜して止めようとせず、全力で回避し、なおかつ回避不能とわかると自爆してくれるとは・・・・・・ 「有人操作だから術者に良心が働いたのか・・・・・・?まぁいい、とりあえず天城、もう二度とあんなことするなよ!」 『すいません・・・・・・』 天城に釘を刺すと、被害報告を待つホークアイに回線を繋ごうとした。しかし今度はさくらから通信が入った。 「どうした?」 『お願いがあります』 (おいおいなんだ、このデジャブは) アルトは一瞬躊躇うが、先を促す。 『はい。実は─────』 その願いはまたしてもアルトを驚かせた。 (*) 「まぁ箱はしかたないよ。邪魔者が強すぎただけだから。・・・・・・うん、お疲れ様。あとは中身をそのままドクターに届けてあげて」 ルーテシアはデバイスを通した通信を終えると魔法陣を解除する。 すると自らが操作していたガジェットとゴースト達の縛りが解かれた。しかし完全にではない。彼女が最後に発した命令は〝速やかな撤退〟だった。 インゼクト・ズークによってプログラムを根こそぎ書き換えられた機械達はこれに従って撤退を始めた。 「・・・・・・結局、品物の中身は何だったんだ?」 ゼストがローブを片手に聞いてくる。 「よくわかんないけど記録媒体だって。オークションに出す品物じゃなくて密輸品みたいだけど・・・・・・」 「・・・・・・そうか」 彼はそう言ってローブを手渡し、自身は交戦地帯だった所に視線を投げた。 そこでは突然攻撃を止め、撤退していくガジェット達を見送る管理局員達の姿があった。 「管理局も強くなったものだ。以前のままなら突破されていただろうに・・・・・・」 彼は上空を警戒飛行する空戦魔導士部隊とバルキリー隊を一瞥する。その時少女の手が彼のローブを弱く摘まんだ。 「・・・・・・さて、お前の探し物に戻るとしよう」 ルーテシアは頷くと、転送魔法を行使。魔力反応を感知したバルキリー隊が駆けつけた時にはすでにもぬけの殻であった。 (*) 「甘いな」 変装したグレイスが呟く。 「やはり子供だ。それほどまでに人を傷つけたくないか」 「なァに、目的が遂行されるなら良心を通してもいいさ」 スカリエッティはそう言うと、先ほど転送されてきた『ガリュー』という人型甲虫から受け取った記録媒体を自らの端末に繋いだ。 立ち上がるウインドウ群。その一番上のタイトルには〝ユダ・システム〟とあった。 「なるほど、有機ネットワーク構造による人工生命か・・・・・・」 彼の顔に徐々に笑みがこぼれてきた。 コンピューターに意識を持たせるという命題には誰一人として成功していない。 しかし例外を言えば製作元でも解析不能なデバイスの基本フレーム、特にインテリジェントデバイスだ。現在その製作技術は戦争で完全に失われており、戦前から稼動していたオートメーション工場にその生産を100%依存している。 だがその意識を持たせる方法が目の前に転がっているのだ。学者として興奮しないはずがなかった。 「どうだ?品物は」 「あぁ、実に素晴らしい。・・・・・・だがこのシステムのプログラムは・・・・・・変だな?この矛盾したサブルーチンはなんだ?これではこのシステムの良いところである自己保存本能が働かない」 実はそこはシャロン・アップルの事件をきっかけにこのシステムに追加されたところだ。 2040年に試作されたゴーストX-9のメインコンピュータはマージ・グルドアの手によって完成を見た。 彼は伝説のバーチャル・アイドル「シャロン・アップル」のシステムエンジニアであり、彼の構築したシステムは仮想空間の中で生物の自我、無意識レベルの感情をもエミュレートする恐るべきものだった。 事実自我を持ったシャロンはマクロスシティにおいて暴走している。理由について統合軍は、機密事項としてそれ(暴走の事実すら)をひた隠しにしているが、彼らも詳しいことは知らないらしい。 ともかく、それでもブラックボックス化したマージの基礎システムはゴーストの中に生き続けていた。なぜなら誰も彼の基礎理論を理解できず、これを分離してしまうとシステムが完全に崩壊してしまうからであった。 そこで封印サブルーチンをL.A.I社が幾重にも掛け、自我を、自己保存本能を完全にオーバーライドしていた。 お陰で最新のゴーストは、ユダ・システムを解放してもまず安心になったのだ。 更によいことに、自らを守ろうとする考えがなければ戦術・戦略及び効果面でしか物を考えないので、彼ら無人機は必要ならば平気でその身を捧げる事ができる。 ユダ・システムを解放したゴーストが、優秀で重要な有人機を守るために、自ら敵弾に当たりに行った例が少なくないのはこのためだ。 ちなみにユダ・システムを自我レベルまで完全解放できるのは、オリジナルを押さえているフロンティアのL.A.I社だけだ。 しかしスカリエッティはプログラムを斜め読みしただけでその機能が封印されていることを言い当ててしまった。これはまさに生身の人間では最高峰の天才と言えた。 「まあ、好きにしろ。こちらとしてはどんなものが完成するのか楽しみだ」 「ご期待に沿えるよう、頑張ってみよう」 彼はほの暗い不気味な笑みを浮かべると、改良のため前時代的なキーボードに手を伸ばした。 グレイスの扮装する男はそれを見届けると、手の内にあったトラックのキーを握り折った。 (*) ホテル内部では予定通りオークションが開始されていた。 しかしその茶髪でドレスを着た美女は会場には入らず、身内からの報告に耳を傾けていた。 『─────という顛末(てんまつ)でガジェットは撃退できたんだけど、召還士は追えませんでした』 『でも近隣の部隊に要請はしましたから、転移座標ぐらいならわかるかも知れないです』 その身内─────シャマルと彼女を手伝うリィンフォースⅡの報告にはやては、六課には負傷者もいないし目立った被害もなく、自らの任務も順調なため良しとした。 『それじゃ、任務を続行するわね』 「ああ、お願いな」 映像通信を切ったはやては、暫し思考の海に浸る。今回の襲撃は不可解な点が多かった。 ガジェット達の襲撃はわずか25分で終わりを告げ、即座に撤退してしまった。 最初の15分はいつも通りだが、後が違った。突然召還士が現れてガジェット達の動きが良くなったかと思えば、まるでこちらを気遣ってくれたかのように非殺傷の攻撃に終始した。 どうやらいままでガジェットを使っていた敵と、今回ガジェットを操った召喚士は別の考えを持っているらしい。 少なくとも召喚士の方は、目的のためなら人殺しもためらわない〝彼〟のような人物とは思えなかった。 (人間がやることには必ず意味がある。これほどの良心がありながら、その召還士がやろうとしたことはなんやろうか?) まずガジェットが主でないのは確かだ。彼らは防衛部隊をかき回しただけで本質的にはなにもしていない。 (となると本命があるはずやけど、まだ何の報告も上がって来て─────) 「主、はやて」 振り返ると、バリアジャケット姿のシグナムがいた。しかし彼女の頬には一筋の切り傷があり、血がにじんでいる。 「なんや?階段でも転げ落ちたんか?」 はやてのジョークに彼女は 「いえ」 と、無愛想に応対する。 (職務に徹するのもいいけど、もうちょい愛想よくしても良いと思うんやけどなぁ・・・・・・) はやては生真面目な身内に、胸の内で場違いな評価を下すと先を促した。 「はい。私は地下駐車場の警備に付いていたのですが、巡回中妙な車上あらしに遭遇しました」 「どんな風に妙なんや?」 「それが人間ではなくて、人型の甲虫のようなフォルムをしていました。残念ながら追いきれませんでしたが・・・・・・」 「そうか・・・・・・」 使い魔や他の次元世界の多様な生態系があるためそのような生物がいること自体は不思議ではない。しかし管理局が遭遇してきた使い魔以外は、生命体であってもほとんどが知性体ではなかった。つまり、牛や魚などと同じだ。 また、生態系の問題から次元世界間の移動はほとんど禁止されていた。 例外として召還魔法により古来から使役され、安全性の確認されている種については召還魔法による呼び出しなど一時的に連れ出すことは認められている。 となると召還士という共通点から今回の事件との関わりがある可能性は高い。 「・・・・・・それで、何を荒らしてったん?」 「はい、密輸品を運んでいたトラックの荷台らしいのですが、何を盗んだのかなど、それ以外は不明です。目下のところトラックの持ち主を捜させています」 「了解や。その生物について管理局のデータベースで調べといて。他にも何か分かったら知らせてな」 「は!」 シグナムは敬礼すると一階に続く階段を降りていった。 (*) その頃なのはとフェイトは会場内で警備に着いていた。 しかしフェイトが合流したのは1分程前からだ。 フェイトは出動しようとシャマル達と合流して準備していたが、敵が本気になってからたった10分で撤退したため出鼻を挫かれていた。 彼女は 「外のガジェットは撤退したから、出動待機は解除。私達は警戒任務に集中してだって」 と、シャマルからの要請をなのはに伝える。 ずっと会場内で警備に着いていたなのははフォワード4人組を含め防衛部隊に目立った被害がないことを聞いて肩をなでおろした。 「あともう1ついいニュース。懐かしい人に会ったよ」 「え?だれ?」 「それは・・・・・・あっ、来たみたい」 フェイトの視線はオークション開催寸前の舞台に向けられている。仕方ないのでなのはも彼女にならった。 『─────ではここで、品物の鑑定と解説を行って戴けます、若き考古学者をご紹介したいと思います』 拍手のなか現れた青年はなのはにとってとても馴染深い人物だった。 そう、彼女を普通の少女からこの世界に引き込んだのは他でもない彼であった。 『ミッドチルダ考古学士会の学士であり、かの無限書庫の司書長、ユーノ・スクライア先生です』 『あ・・・・・・どうも、こんにちは』 彼はマイクの前で少し緊張した様子で挨拶した。 ―――――――――― 次回予告 なのはの過去とさくらの出生秘められたものとは? そしてさくらの願いとは? 次回マクロスなのは第20話「過去」 追憶の歌、銀河に響け! ―――――――――― シレンヤ氏 第20話へ
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第8話「激闘の始まりなの」 「嘘……」 「何なの……あれは……!!」 モニターを見て、エイミィとリンディは言葉を失った。 サーチャーには一切反応は無かった 空を割り、あの大型生物―――ベロクロンが現れる前兆は、一切見られなかった。 タイミング的に、ヴォルケンリッター達を助けに現れたかのようには見える。 だが……シャマルを助けた仮面の男の手のものにしては、様子がおかしすぎる。 その表情こそ伺う事は出来ないが、仮面の男は明らかに戸惑いを見せている。 こうなれば、考えられる可能性は一つ……第三者の乱入しかない。 「……皆、注意して!! 相手が何者かは分からないけど、嫌な予感がするわ!!」 『いえ……何者かは、分かってます!!』 「ミライ君……?」 『……あれは超獣です。 奴の……ヤプールの生み出した、超獣です!!』 「超獣……!?」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「な……なんだよ、これ……!!」 「怪獣……だって……!?」 招かれざる来訪者の姿を前にして、誰もが動きを止めた。 ミサイル超獣ベロクロン……この場には、全く相応しくない存在。 ベロクロンは唸りを挙げ、荒々しく息を吐いた。 ミライはすぐになのは達へと念話を送り、敵の正体について教えた。 ベロクロンは、ヤプールが最初に作り出した超獣。 ウルトラマンエースを苦しめ、そして自身も苦戦を強いられた強敵。 そんな相手が現れた原因は、一つしかない……ヤプールはこの世界で復活を果した。 何故、こんな急速に復活したかは分からないが……考えるのは、問題を全て片付けてから。 皆が事態に対応すべく、動こうとする……が。 その瞬間、まさかの事態が起こった。 「……今だ、引くぞ!!」 「なっ!?」 全員の動きが止まった一瞬の隙を突き、ヴォルケンリッターが動いたのだ。 今ならば、結界を破壊できる……ヴィータはグラーフアイゼンのカートリッジをロードする。 そして、グラーフアイゼンを巨大な破壊槌―――ギガントフォームへと変形させた。 この状態ならば、たとえ堅固なこの魔力結界でも……十分に破壊できる。 ヴィータは全力で、グラーフアイゼンを結界に叩きつけた。 「しまった……!!」 「ぶち抜けぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」 結界に、大きな風穴が開く。 そしてその瞬間、ヴォルケンリッターが急速離脱を開始した。 突如として現れた怪獣の正体は、気にならないといえば嘘になる。 だが、今はここから抜け出ることが最優先事項である。 それに……なのは達は強い。 きっとこの程度の敵は退けられるだろうから、大丈夫だ。 そう思ったが故の行動であったが……一人、ダイナだけは脱出を渋っていた。 「ダイナ、おい!!」 「あいつ、一体何を考えている……?」 「……メビウス。」 「ダイナ……?」 「……ごめん!!」 「!!」 ダイナは、たった一言メビウスに告げ、そしてようやく撤退を開始した。 彼の一言の謝罪が、その心情の全てを物語っていた。 ダイナはウルトラマンとして、凶悪な怪獣や侵略者達を相手に戦い続けてきた。 それこそが、ウルトラマンである自分に出来る事であると信じての行動だった。 そんな彼にとって、ベロクロンを置いて撤退するというのは、苦渋の選択だったのだ。 ダイナは悩んだ末に、自分の仲間達を取った。 メビウス達を信じるしかない……そう割り切って、ダイナは空へと消えていった。 「ダイナ……分かった。 皆さん、破れた部分の結界を急いで塞いでください!! ベロクロンを、絶対に外に出したら駄目です!!」 ダイナが何故戦っているのかは分からない。 だが、彼には邪ではない目的があることだけは、間違いない。 この決断も、苦渋だったに違いないだろう。 ならば同じウルトラマンとして、必ずベロクロンを倒すまでである。 ベロクロンを外へ出さないようにと、職員達が結界を塞いだ。 それと同時に……ベロクロンが動いた。 全身の突起が、勢い強く発射される。 ミサイル超獣の由来は、この突起―――全身に装備されたミサイルにある。 標的は、この場にいるベロクロン以外の全て。 「うわぁっ!?」 「ちょっと、何て数撃ってきてるのさ!!」 放たれたミサイルの数は、百は超えているであろう数。 その上、ベロクロンの突起は次々に再生していっている。 早い話が、敵の弾数は無限―――撃ち放題だ。 なのは達は、スピードを上げてミサイルを回避しにかかる。 だが……厄介なことに、ミサイルはホーミング式だったのだ。 「振り切れない……!?」 ぴったりと、ミサイルは逃げるなのは達を追尾してくる。 強引に振り切ろうと、なのは達は曲芸飛行と見紛う様な軌道を描きながら空を飛んだ。 だが、ミサイルも全く同じ軌道を取ってくる……振り切れない。 こうなれば、とる手段は一つ……迎撃しかない。 なのはとフェイトは、お互いに頷き合い、カートリッジをロードさせた。 新たな力を得た今のデバイスならば、かなりの数を落とせる。 「アクセルシューター!!」 『Accel Shooter』 「フォトンランサー!!」 『Photon Lancer』 「シュートッ!!」 「ファイアッ!!」 二人は、後方へと振り向き様に魔力弾を一斉発射。 襲い掛かるミサイルの群れを、一気に爆破しにかかった。 結果は重畳……ミサイルは次々に爆発の連鎖を起こし、打ち落とされていく。 流石に全てとはいかないが、かなりの数をこれで撃墜できた。 残るミサイルは、距離を離した後に再度迎撃しよう。 そう思い、二人がスピードを上げようとする……が。 「ギャオオオォォォォォッ!!」 「えっ!?」 ベロクロン本体が、ここで仕掛けてきてしまった。 口を開き、勢いよく火炎を放射してきたのだ。 とっさに二人は障壁を展開、火炎を防ぎにかかる。 だが……無情にもミサイルの嵐は、彼女達の無防備な背後へと迫ってきていた。 二人がそれに気付いたのは、既にミサイルとの距離が後僅かとなっていた時だった。 「なのは、フェイト!!」 「くそ、この距離じゃ……!!」 ユーノ達はすぐさま援護に回ろうとするも、それは不可能だった。 ミサイルを引き離そうとして飛び交っていた内に、二人との距離を少し離しすぎていたからだ。 間に合わない……このままでは、確実にミサイルは直撃する。 二人の身長以上の大きさがあるミサイルを、それも何発も受ければ、バリアジャケットの防御も役を成さないだろう。 致命傷は確実……なのはとフェイトは、迫り来るミサイルを前に、思わず目を閉じてしまった。 だが……その瞬間だった。 「セヤァァァッ!!」 「え……!?」 「ミライさん……!!」 突如として、二人の目の前に眩い閃光が走った。 そして、その光が晴れた時……そこには、メビウスディフェンサークルを展開したメビウスがいた。 ギリギリ、二人の援護に入る事が出来た……迫り来るミサイルを全て、メビウスはバリアで受け止めた。 間に合わないと誰もが思った中、何故メビウスはそれが出来たのか。 その理由は一つ……彼が思わぬ手段で、一気に間合いを詰めてきたから。 その手段とは、、ウルトラマンの本来のサイズ―――眼前のベロクロンと同じ程の、巨大な体躯に戻る事。 巨大化する事により、一気に二人との距離を縮めたのだ。 怪獣相手ならば、態々人間サイズに合わせる必要は無い……全力で打ちのめすのみ。 メビウスはミサイルを全て受け止めきると、そのまま上空へと飛び上がる。 そして、体を回転させて一気に急降下。 ウルトラマンジャックが編み出した、必殺の蹴り技―――流星キック。 その強烈な一撃が、ベロクロンの眉間にもろに叩き込まれた。 ベロクロンはたまらず、怯んで攻撃を中断してしまう。 「ギャオオオォォォォッ!!」 「いける、これなら……!!」 先ほどまでは、敵の余りの大きさに圧倒され気味だった。 だが、ミライが巨大化した今……そんな不安は、全て掻き消えた。 一気に反撃に出るべく、皆が行動に移る。 まず、まだミサイルにつけられているクロノ達が動いた。 敵の動きが一瞬でも止まってくれたのなら、十分に効果を発揮できる攻撃手段がある。 かなりの荒業ではあるが……これが、最もベストな手段。 「よしっ……さぁこい!!」 「ほらほら、こっちだよ!!」 三人は一気にスピードを上げ、ベロクロンの背後左右から迫った。 ミサイルも当然ながら、それをピッタリとつけてくる。 メビウス達はそれを見て、すぐにその狙いを察した。 そして、三人とベロクロンとの距離がギリギリまで詰まった時……クロノの合図で、全員が動いた。 「今だ!!」 三人が上空へと急上昇する。 ミサイルは、勿論それを追尾しようとする……が。 三人と全く同じ軌道を取っていたのが、ここで仇になった。 彼等とミサイルとでは、大きさが違う。 スレスレでベロクロンを回避する事は出来ず……ミサイルは全て、ベロクロンにぶち当たった。 「グギャアアァァァァァァッ!!??」 「やった!!」 「攻撃の手を緩めるな、一気に攻めるぞ!!」 全身から黒煙を噴出しながら、ベロクロンが悲鳴を上げる。 敵が弱った今、ここで一気に攻めに出る。 メビウスは勢いよく前へと踏み込み、ベロクロンに殴りかかった。 だが、ベロクロンとてここで倒れるほど弱くは無い。 メビウスの拳を受け止めると、ベロクロンは大きく口を開いた。 火炎放射の他にもう一つ、ベロクロンには口から放つ武器がある。 それは、全身の突起よりも更に巨大なミサイルだった。 「セヤッ!?」 メビウスはとっさに腕を振り払い、拳を自由にする。 だが、この距離ではかわせない。 確実に命中してしまう……そう思われた、その矢先の事だった。 今度は先程とは逆……なのはとフェイトが、メビウスを助けに入った。 二人はカートリッジをロードし、より堅固な障壁を同時に展開した。 『Protection Powered』 『Defensor Plus』 「バリア……!!」 「バーストォッ!!」 攻撃を受け止めると同時に、二人は魔力を込めて障壁を爆破した。 その狙いは、障壁の爆破による攻撃の相殺。 そして、その余波を相手にぶつける事。 ベロクロンは爆風と衝撃に煽られ、倒れこみそうになる。 だが、流石になのは達の何十倍という巨体は、そう簡単には倒れるものではなかった。 しかし……そこへと、思わぬ追撃が迫った。 「だったら……これでどうだぁっ!!」 ゴシャァッ!! 「グギャアァッ!?」 ベロクロンの顔面に、巨大な鉄槌が叩きつけられた。 その正体は、先程ダイナがメビウスに投げつけた残骸―――高層ビルである。 この攻撃を放ったのは、ユーノだった。 彼は、チェーンバインドでビルの残骸を縛り……そのまま持ち上げて、ベロクロンに叩きつけたのだ。 とてつもない荒業ではあるが、効果は絶大だった。 ベロクロンは流石に耐え切れなくなり、地面に倒れ伏せる。 「ユーノ君、ナイス!!」 「しかし、かなり荒っぽいやり方だな……」 「あのヴィータって子のデバイスを見て、思いついたんだ。 ハンマー投げの要領で、こういう風に出来ないかなって。」 初めて試してみた攻撃ではあったが、中々うまくいってくれた。 倒れこんだベロクロンは、なのは達を力強く睨みつける。 そして、肩のミサイルを一斉放射しようとした……が。 それを直感的に察したクロノとアルフが、先に動いていた。 バインドの同時発動。 光の鎖がベロクロンの全身を拘束し、身動きをとれなくした。 ミサイルを使えなくなるという予想外の事態に対し、ベロクロンが唸りをあげた。 今こそが、ベロクロンを撃破する最大のチャンス。 「皆、今だ!!」 メビウスが、一斉攻撃の合図をかけた。 レイジングハートとバルディッシュに、カートリッジがロードされる。 S2Uの先端から、魔力が溢れ出す。 メビウスが右手をメビウスブレスに添え、大きく腕を開きその力を解放する。 それとほぼ同時に、ベロクロンは拘束を力ずくでぶち破った。 だが……時は既に遅し。 攻撃の準備は、完了している。 「ハァァァァァァァッ!!」 「ディバイィィン……!!」 「プラズマ……!!」 「ブレイズ……!!」 「セヤアアァァァァァァッ!!」 「バスタァァァァァァッ!!」 「ブレイカァァァッ!!」 「カノンッ!!」 メビュームシュート・ディバインバスター・プラズマブレイカー・ブレイズカノン。 莫大な量の魔力と光線が、一斉にベロクロンへと放たれた。 一発一発だけでも、必殺技と呼ぶに相応しい破壊力を持ち合わせている攻撃。 そんな代物を、四つも同時にときた。 当然……防御魔法もバリアも持っていないベロクロンに、耐え切られるわけが無い。 「グオオオォォォォォンッ!!??」 ドグオォォォォォンッ!! ベロクロンは、見事に爆発四散した。 破片すら残さずの、完全消滅。 その様子を見て、なのは達はようやくため息をつけた。 ヴォルケンリッター達との戦いから、ベロクロンへの連戦。 流石に体力的に厳しいものがあったが、とにかく勝つことは出来た。 ここでメビウスも、人間サイズへと体の大きさを変える。 『皆、お疲れ様。』 「けど……素直に、喜べる結果じゃないな。」 「……ヤプール……」 シャマルを助けに現れた、仮面の男。 空を割って現れた、ヤプールの超獣。 今回の戦いは、事件を更なる混沌へと誘ってくれた。 単に、闇の書の守護騎士達を捕まえるだけでは片付けられない……そんな状況になってしまったようである。 『兎に角、皆一度戻ってきて。 話はそれからにしましょう。』 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「はやてちゃん……本当に、ごめんなさい……!!」 『ええって、気にせんで。 すずかちゃんとふたりで鍋はちょう寂しかったし、すずかちゃんが誘ってくれて……』 その頃。 八神家では、一同が暗い面持ちをしていた。 その理由は、はやてに寂しい思いをさせてしまったこと。 今日は、すずかが家へと遊びに来る筈の日だったのだ。 だが、皆の不在の為にそれが叶わなくなってしまった。 もっともはやては、すずかの家にお邪魔させてもらったので、あまり寂しい思いはしていないようではあるが…… 「はい、じゃあヴィータちゃんに代わりますね。」 「……はやて、もしもし……?」 「……寂しい思いを、させてしまったな。」 「うん……」 守護騎士として、主であるはやてに何とお詫びしたらいいだろうか。 主に対する責任感から、そんな思いをヴォルケンリッター達は抱えていた。 ただ、一人だけ―――アスカだけは、それにプラスアルファの要素を抱えてしまっていた。 あの状況では、仕方なかったとはいえ……ウルトラマンである自分が、怪獣を野放しにしてしまった。 その事実に対する申し訳なさが、彼にはあったのだ。 シャマルによると、あの後すぐに怪獣はメビウス達が撃破したようではあるから、それだけが救いだったが…… 「……アスカ、すまないな。」 「いや……謝らなくていいよ。 気にしてないって言えば、嘘になるけど……俺は、はやてちゃんや皆の為に戦うって決めたんだしな。」 後ろ向きに考えていても仕方ない。 あの場でああしなければ、今度は大切な者達が危機に晒されてしまっていた。 それに……自分はあの時、メビウスならばきっと怪獣を倒してくれると、そう信じて行動したのだ。 アスカは頭を振り、ネガティブな気持ちを振り払う。 過ぎた事を悔やんでいても、何も始まらない……大切なのは、これからだ。 「しかし、あの巨大生物……一体何なんだ?」 「メビウスは、何か知っていたみたいだけど……俺はあんな怪獣、見たこと無いぞ。」 アスカは、スーパーGUTSの隊員として、そしてウルトラマンとして多くの怪獣を見てきた。 だが、ベロクロンは見た事の無いタイプの相手だった。 空を割って現れるなんて、これまでに前例が無い。 異次元からの侵略者……そう考えるのが、自然だろうか。 「あの生物……確か、シャマルを助けた仮面の男が現れてすぐに出現したな。 まさか、あの男が呼び寄せたというのか?」 「ううん、それは無いと思うわ。 あの仮面の男は、私に闇の書の呪文を使うように言ってきた。 あんな生物を呼び出せるのなら、そんな真似しなくたって皆を助けられたんだし……」 「確かにそうだな……両者に関係はないと見るべきか。 あの仮面の男に関しては、どう思う?」 「何者かは分からないわ……少なくとも、当面の敵ではないと思うけど……」 「……今回の一件で、恐らく管理局も本腰を入れてくるだろう。 我々も、あまり時間が無い……」 「ああ……一刻も早く、主はやてを闇の書の真の所有者に……」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「カートリッジシステムは扱いが難しいの。 本来なら、その子達みたいに繊細なインテリジェントデバイスに組み込むような物じゃないんだけどね…… 本体破損の危険も大きいし、危ないって言ったんだけど、その子たちがどうしてもって…… よっぽど悔しかったんだね、自分がご主人様を守ってあげられなかったこととか……信頼に応えきれなかった事が。」 「ありがとう……レイジングハート。」 「バルディッシュ……」 数分後。 ハラオウン家に戻ったなのはとフェイトは、デバイスについての簡単な説明をまずは受けていた。 今回の戦いは、二機のパワーアップがあったからこそ乗り越える事が出来た。 これでやっと、互角にヴォルケンリッターと戦うことが出来る。 二人は自分達のデバイスへと、心から礼をした。 「モードはそれぞれ3つづつ。 レイジングハートは中距離射撃のアクセルと、砲撃のバスター、フルドライブのエクセリオンモード。 バルディッシュは汎用のアサルト、鎌のハーケン、フルドライブはザンバーフォーム。 破損の危険があるから、フルドライブモードはなるべく使わないようにね。 特に、なのはちゃんの方は。 かなりの負担になるから、フレーム強化をするまでは絶対にエクセリオンモードは、使わないでね?」 「はい。」 「……今、片付けるべき問題は二つね。 一つは勿論闇の書だけど、もう一つ……」 「ヤプールが、この世界にいた……それも、こんなに早く復活するなんて。」 最も恐れていた、最悪の事態が実現してしまった。 あの時……確かにヤプールは、メビウスと共に次元の割れ目へと落ち込んだ。 それも、瀕死の重傷を負った身で……ヤプールの消滅は確実だった。 しかし……ヤプールは、この世界に降り立ってしまった。 そして驚異的な速さで復活を果たし、自分達の目前へとベロクロンを出現させてきた。 「……僕の所為です。 ヤプールは、僕と一緒にこの世界に……!!」 「そんな、ミライさんの責任じゃないわ。 ミライさんが来たのは、全くの偶然だし……!!」 「それにミライ君は、そのヤプールを倒そうとしてたんでしょ? だったら、そんな風に気にしなくても……それに、復活したならまた倒せばいいじゃない。」 「確かにその通りだな。 ヤプールが、ミライさんが言うとおりの悪魔だというなら……何をしでかすか分かったもんじゃない。」 「ヤプールの目的……そういえば、何であんなタイミングで……超獣、だっけ? あんなのが出現したのさ?」 「それなんだよね……」 何故、あのタイミングでヤプールが仕掛けてきたのか。 単純な侵略が目的だというのなら、普通に街中でベロクロンを出現させればよかった筈。 それを態々、結界の内部で出現させた理由がいまいち分からないのだ。 可能性としてありえるのは、二つ。 一つ目は、ミライとダイナ―――ウルトラマンの撃破が狙いだった事。 ヤプールからすれば、ウルトラマンは憎むべき敵……この可能性は、十分考えられる。 実際問題、ヤプールはこれまでに何度も、ウルトラマンの撃破に的を絞って仕掛けてきた事があった。 エースキラーやメビウスキラーが、その最もたる例である。 だが……二つ目の可能性の事を考えると、どうもこの可能性がありえるかどうかが分からなくなってしまう。 それだけ、もう一つの要素―――ヤプールの狙いが闇の書であるという可能性が、強すぎるからだ。 闇の書の圧倒的過ぎる力を、ヤプールが狙っているというのは、十分にありえる。 「でも、だったらヤプールがどうして闇の書の事を知っているんですか?」 「ヤプールは、強い邪悪な力の存在を感じ取るのが得意だからね。 闇の書の詳しい事は分からなくても、漠然と、強い力だって事は感じ取れたんだと思うよ。」 「もしかして……クロノ君の前に現れた仮面の人が……?」 「いや、それは無いと思う。 もしもあの仮面の男がヤプールなら、闇の書の呪文を使えなんて言う必要がない。 ……謎が増える形になってしまうけど、仮面の男はヤプールとはまた別の相手だと思うんだ。」 「……闇の書の主が、ヤプールって可能性は?」 「それは私も考えていたわ。 でも、それだと少し妙なのよね……」 「妙?」 「まずは、ウルトラマンダイナだ。 ミライさんと同じウルトラマンなら、そんな悪魔に加担するなんて考えられないよ。」 「僕もそう思います。 さっきだって、ダイナは僕にすまないって言ったし……」 「それに、何よりも守護騎士達の事だ。 彼等はまるで、自分の意思で闇の書の完成を目指しているようにも感じるんだ……」 「え、それって何かおかしいの? 闇の書ってのも、要はジュエルシードみたく、力が欲しい人が集めるもんなんでしょ? だったら、その力が欲しい人のために、あの子達が頑張るってのもおかしくないと思うんだけど。」 「……それが、そうでもないんだよね。」 闇の書の主がヤプールなのかもしれない。 この可能性は、ダイナが加担している時点で既に希薄である。 そして、それに駄目押しをかけるのが守護騎士達の存在。 彼等の性質を考えると、ヤプールが主の場合……どうにもおかしな点が出てきてしまうのである。 「第一に闇の書の力はジュエルシードみたいに自由な制御の効く物じゃないんだ。」 「完成前も完成後も、純粋な破壊にしか使えない。 少なくともそれ以外に使われたという記録は一度もないわ。 ……ここまでは、ヤプールの目的と一致してなくも無いんだけど……」 「問題なのは、闇の書の守護者の性質だ。 彼らは人間でも使い魔でもない。」 「え……?」 「人間でも、使い魔でもない……?」 「彼等は、闇の書に合わせて魔法技術で作られた疑似人格。 主の命令を受けて行動する……ただそれだけのためのプログラムに過ぎないはずなんだ……」 人間でも使い魔でも無い、魔法技術で生み出された存在。 その言葉を聞き、フェイトは己自身の事を考えてしまった。 彼等守護騎士達は、まさか…… 「私と同じような……?」 「違うわ!!」 「!!」 フェイトの呟きを、リンディは真っ向から否定した。 彼女は確かに、人とは違う生まれ方をした存在。 プロジェクトFによって生み出された、クローン人間である。 だが……それでも、生まれ方が少し違うだけで、立派なフェイトという人間なのだ。 「……フェイトさん、貴方は普通の人間よ。 間違っても、そんなこと言わないでね……」 「はい……ごめんなさい。」 「あ、あの……じゃあ、もしかして僕の様な存在ってことですか? 人間の姿を借りた、ウルトラマンみたいな……」 「いや、ウルトラマンとはまた別の存在だよ。 闇の書の守護者は、闇の書の防衛プログラムが実体化して、人の形を取ったものなんだ。」 エイミィがモニターに、ヴォルケンリッター達に関する詳細を映し出した。 今回の魔道師襲撃事件に加え、過去の闇の書事件に関するデータ。 今現在で分かっている情報全てが、モニターに映し出されている。 それの必要な部位を見ながら、クロノが説明を続けていく。 「守護騎士達には、意思疎通のための会話能力があるのは、これまでの事件でも確認できている。 だが……彼等に感情が表れたっていう例は、一度も無いんだ。」 「魔力の蒐集と主の護衛、それだけが彼等の役目の筈なんだけど……」 「でも、ヴィータちゃんは怒ったり悲しんだりしてたし……」 「シグナムからも、確かに人格を感じました。 仲間や主の為にって……」 「主の為に……あ!!」 ミライはここで、クロノ達が何を言いたいかを悟った。 もしも主がヤプールの場合、彼等の行動はありえないのだ。 人格や感情が形成される筈が無い……ヤプールにとって、そんなものは不要な代物だ。 ただ、自分の思い通りの手駒であればそれでいい筈。 仕えている途中で、何らかの理由で形成されたとしても……ヤプールなら、それを平気で潰すだろう。 それに何より、あの悪魔の為に自分達の意思で蒐集を目指すなんて……そんな馬鹿な話、ある訳が無い。 「……つまりヤプールは、闇の書の横取りを狙ってるって事かな?」 「まあ、現状ではその可能性が濃厚なんだけど……まだ断言は出来ないね。」 「詳しい事は、調査を進めてみなければ分からないか。 それにしても……闇の書自体についての情報が、やっぱり少なすぎるな。」 今は少しでも、闇の書に関する情報を集めるべきである。 その為に、クロノはここでユーノを頼る事にした。 スクライア一族である彼には、うってつけの仕事が一つあるからだ。 「ユーノ、明日から少し頼みたい事があるんだ。」 「いいけど……僕に?」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「じゃあ……アレの出現には、自分は関係ないと言うんだな?」 「ああ……ヤプール、だったか。 ウルトラマンに関しても、初耳だが……」 深夜。 日も完全に沈み、草木も眠る丑三つ時。 全く人気の無い路地裏で、仮面の男と黒尽くめの男が対峙していた。 仮面の男は、黒尽くめの男に対してかなりの不信感を抱いていた。 それもその筈……あのベロクロンの出現は、黒尽くめの男の仕業である可能性が高いからだ。 「なら、お前の言っていた切り札とか言う生物はどうなる?」 「ガディバは、私が生み出した魔道生物の一種だ。 アレは、敵に乗り移り操る事が目的の寄生獣……確かにその過程で、ガディバにある程度の力は蓄えられる。 だが、ガディバ単体には戦闘能力は無い……超獣なんぞとは、全く別の代物だ。」 「……お前が現れた時期と、ヒビノミライが現れた時期は、多少のズレがあるとはいえかなり近い。 お前がもしもヤプールだというのなら、辻褄が合うぞ?」 「ならば、私がお前に何故あのデバイスを渡せた?」 「……」 仮面の男は、黒尽くめの男がヤプールなのではないかと疑っていた。 しかし、黒尽くめの男はそれを断固として否定している。 実際、否定出来るだけの証拠が黒尽くめの男にはあった。 それは、彼がデバイスを手渡した事。 黒尽くめの男は、デバイスに関する知識を持ち、そして作り上げるだけの技術があるということだ。 この世界に来て間もない筈のヤプールに、それが出来るとは到底思えない。 超獣という未知の兵器を生み出せるだけの技術力があるとはいえ、デバイスとそれとは全くの別物だ。 やはり、単なる偶然の一致に過ぎないか。 仮面の男は、しばし考えた後……謝罪の言葉を口にした。 「すまないな……少し、考えすぎていたようだ。」 「そうか……まあ、気にしないでくれ。 確かに、私をヤプールだと判断してもおかしくはない状況だったしな。」 「……じゃあ、私は戻るとしよう。 また何かあったら、連絡する。」 「ああ……」 仮面の男が、その場から姿を消した。 その後……黒尽くめの男は、微笑を浮かべる。 それは、明らかな嘲笑。 ものの見事に口車に乗ってくれた、仮面の男に対する嘲りの笑みだった。 「くくく……馬鹿な奴等だ。」 仮面の男の推測には、実は穴があった。 ヤプールがデバイスを作り上げられる理由が、一つだけ存在しているからだ。 それは……ヤプールが、前々からその存在を知っているという可能性。 魔法の力を、黒尽くめの男―――ヤプールが既に知っているという事だった。 「闇の書の力……ようやく我が手に収められる時が来たのだ。 光の一族を抹殺し、地球をこの手にする時が……何者にも、邪魔はさせん。 そう……何者にもな……!!」 戻る 目次へ 次へ
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その一撃は唐突だった。 『予測』不能ッ、『防御』も不能ッ! 完全に不意を突いて、その一撃は用心深いなのはの懐に直撃した。 今、SLBの為の魔力を終息し終え、発射寸前という臨界状態のなのはの胸から、何者かの手が『生えている』―――ッ!! "ドッバアァアアアア―――z_____ッ!!" 「なッ……ぁ、ぁああ……ッ!!?」 突如、何の前触れもなく自身の体の内側から走った衝撃に視線を降ろせば、何者かの腕が胸から突き出ていた。 肉体を突き破って出てきたものではない。しかし、この手は確かになのはの内部を貫いて出現しているッ! そして、その手のひらの中には、なのはの魔力の源である『リンカーコア』があった。 貫いていたのは『肉体』ではなく『魔力的器官』だ。 「な……なのはァアアアアーーーッ!!」 ある種凄惨な光景に、それを見てしまったフェイトが悲壮な叫びを上げた。 しかし、助けに行きたくとも、シグナムがそれを許さない。 「う……あ、あ、ぁあああ……っ」 全身を襲う脱力感と内臓に直接触れられているような激痛を感じながら、なのはは思考を回転させた。 SLBは……『撃てる』! 依然、魔力は集束中! だが、自身の魔力が猛烈な勢いで減少している。『行動』しなければ、今動けるうちにッ! すぐにでも気絶してしまいそうな、断末魔の一瞬! なのはの精神内に潜む爆発力がとてつもない冒険を生んだ。 普通の魔導師は追い詰められ、魔力が減少すればリンカーコアを庇って逃げようとばかり考える。 だが、なのはは違った! 逆に! 『な、何……この子!?』 遠く離れたビルの屋上から、なのはのリンカーコアをデバイス『クラールヴィント』によって掴んでいたシャマルも、その変化に気付いた。 「レイジング……ハート、『バインド』……ッ!!」 なのはは自らの心臓とも言うべきコアを握り締めた敵の腕を、逆にバインドで自らの体ごと縛り付けて、固定したのだ! 「馬鹿な、正気か……っ?」 「なのは、なんて事を……!」 それと見たシグナムとフェイトも戦闘を中止するほどの、驚愕の判断だった。 自分のリンカーコアを握る相手の腕を、逆に『固定』する。普通の者はそんな判断は下さない。 実際に、なのはも一人で戦っていたのなら、こんな無茶はしなかっただろう。まず、ダメージを最小に押さえる事を考える。 しかしッ、なのはは本能で理解していた。 感覚で分かる。魔力が吸い上げられる感覚、この手は自分の魔力を『吸収』している! (これは……『この攻撃』はマズイッ! 魔力弾とか結界とか、そういう魔法攻撃じゃなく、この全く違う『攻撃』は危険だ……ッ!) 敵を倒す為の手段ならば、コアを捉えた時に全ては決している。 だが、敵はコアを潰すのではなく吸収する事を選んだ。 その行為にどういう『目的』があるのかは分からない。しかし、魔力を『奪う』という手段が、計り知れない『大きな目的』に直結しているのだと、なのはは直感した。 この『敵』、この『目的』を放置しておくのは危険だ。ここで倒しておかなければならない―――ッ! なのはは、己の直感に従って、そう判断したのだった。 「目標、変更……既に、『位置』は掴んでいるの……ッ!」 『……! い、いけない!!』 レイジングハートの砲口が向きを変える。 シャマルは我に返った。あの少女は、自分を捉えている。自分は既に狙われている、と! 「スター……ライト……ッ」 「シャマル!」 冷静に動けたのはザフィーラだけだった。 アルフとユーノを弾き飛ばし、全速力でシャマルの元へ駆けつける。 「ブレイカァァァーッ!!」 次の瞬間、桃色の閃光が一直線に空間を切り裂いた。 『シャマル、無事か!?』 『……ええ、なんとか。寸前でザフィーラが防御してくれたわ』 『だが、逸らすので精一杯だった。おまけに、俺もダメージを受けた。とんでもない威力だ、片腕が動かん』 爆光の後、すぐさま念話を飛ばしたシグナムの心に仲間の声が返ってくる。 シグナムは安堵した。 ヴィータの消息も不明な今、これ以上仲間を失うのは御免だった。 そして今、もう一つの意味でも安堵していた。 なのはは、SLBを放つと同時に、力尽きて倒れ伏していた。 「さすがに、無茶をしすぎたようだな。だが……正直冷や汗をかいたぞ。恐ろしい発想と度胸を持った魔導師だ」 「な、なのはぁ~……」 一方のフェイトはシグナムとは全く正反対の心境だった。 「わ……私、どうすれば……? な、なのはが……嘘だ!」 「……どうやら、あの魔導師がいなければ本当に何も出来ないようだな」 未だ戦える状態にありながら、既に戦意喪失してうろたえるしかないフェイトを冷めた目で一瞥し、シグナムはレヴァンティンを構えた。 予想外の事態はあったが、魔力は十分に手に入れた。あとはヴィータを回収して、増援が来る前にここから逃走するだけだ。 「ザフィーラとヴィータの容態も気になる。さっさと済ませるか……消えろ!」 目の前にシグナムが迫っても、もはや震えることしか出来ないフェイトに向かって無慈悲に剣を振り上げる。 ―――しかし、突如下方から閃光が飛来し、シグナムは反射的にそれを回避した。 「何……っ!?」 「……え?」 フェイトから離れたシグナムを、更に別の閃光が襲う。 桃色の光を放つ魔力弾。それが四つ、ミサイルのように自在に軌道を変えて、シグナムに襲い掛かっていた。 それはッ、間違いなくなのはが持つ魔力の光! 彼女の魔法『ディバインシューター』だったッ!! 「な……」 フェイトは目を見開いて、魔力弾の飛来した方向に視線を走らせた。 「ディバイン……シュー……ター……」 「なのはァアァァァ―――ッ!!」 起き上がる事も出来ないほど衰弱した体で、しかしなのはは半ば無意識に魔法を使い続けていた。 朦朧とする意識で操作されているとは思えないような正確さと、獣のような獰猛さで、ディバインシューターは逃げ回るシグナムに追い縋っていく。 「うっ、ううっ……。本当に、その通りだったんだね……なのは」 フェイトは、ボロボロになりながらも戦うなのはの姿に溢れる涙を堪えきれず、震える声で呟いた。 脳裏に、かつてなのはと戦った時の事が思い出される。 あの時、なのはの示した『覚悟』が。その時、なのはが言葉にした『覚悟』が。 「『いったん食らいついたら、腕や脚の一本や二本失おうとも決して『魔法』は解除しないと』私に言った事は!」 海上での戦い。事実上、なのはとの最後の戦いになったあの時、彼女の叫んだ言葉が鮮明に浮かんでくる。 その言葉は、あるいは冷酷な響きを持っているのかもしれなかった。 ―――しかし、同時にフェイトは別の言葉も思い出していた! なのはが、厳しさだけではなく、途方もない優しさを抱えている事を実感した時の言葉も! 全ての出来事が終わり、一旦のの別れとなった、二人で会ったあの時の事―――。 「これから、もうしばらくお別れになっちゃうね……なのは」 「……うん」 「私ね、なのはと友達に……なりたいな」 「……」 必死に言葉を紡ごうとするフェイトの様子に、なのははチラリと一瞥を向けただけだった。 「でも、私、友達になりたくても、どうすればいいかわからない……。だから、教えて欲しいんだ、どうしたら友達になれ―――」 「ねえ、フェイトちゃん。さっきからうるさいよ 『友達になりたい』『友達になりたい』ってさァ~~」 「え……」 無言のなのはに不安になり、捲くし立てるように喋っていたフェイトは、突然遮ったなのはの突き放すような言葉に凍りついた。 恐る恐る顔を上げれば、なのはは戦った時のような強い視線で自分を見つめている。 その強すぎる意志の瞳を、フェイトは睨まれているのだと感じた。 「どういうつもりなの、フェイトちゃん。そういう言葉は私達の世界にはないんだよ……。そんな、弱虫の使う言葉はね……」 「ご、ごめんなさい……っ!」 なのはの強い口調に、フェイトは絶望的な気持ちになりながら俯いた。 拒絶されたのだと、考えた途端に涙が溢れてくる。 友達になりたいなどと、なんておこがましい考えだったのか。フェイトは自分が分不相応な領域に踏み込んでしまったのだと感じた。 ……だが、そんな弱気な考えに沈んでいくフェイトを意に介さず、なのはは告げた。 「ごめんなさい……もう友達なんて欲張りな事言わないから……っ」 「『友達になりたい』……そんな言葉は使う必要がないんだよ。 なぜなら、わたしや、わたしの親しい人達は、その言葉を頭の中に思い浮かべた時には! 実際に相手を抱き締めて、もうすでに終わっているからなの―――」 そして、なのはは泣きじゃくるフェイトを強く抱き締めた。 「え、なのは……?」 「『友達になりたい』と心の中で思ったのなら、その時スデに絆は結ばれているんだよ」 そう言って笑ったなのはは、やはり、いつもの幼い少女の顔ではなかったが―――フェイトの全てを包み込むような、黄金の輝きを放つ笑顔を浮かべていた。 「な、なのはァァ~……ううッ」 「フェイトちゃんもそうなるよね、わたしたちの友達なら……。わかる? わたしの言ってる事……ね?」 「う……うん! わかったよ、なのは」 「『友達だ』なら使ってもいいッ!」 今度は嬉しさで泣きじゃくるフェイトの体を抱き締めた、小さいけれど大きく、暖かいなのはの腕を、今でもはっきり覚えている―――。 「―――わかったよ、なのは! なのはの覚悟が! 『言葉』ではなく『心』で理解できたッ!」 ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ ┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ そして、フェイトは変貌していた。 その『面がまえ』は、10年も修羅場を潜り抜けてきたような『凄み』と『冷静さ』を感じさせる。それは、はっきりと『成長』だった。 もう、プレシアの影を追い続ける泣き虫のママッ子(マンモーニ)なフェイトはいなくなったのだ! 「『友達になりたい』と思った時は、なのはッ!」 『<Scythe form> Setup!』 フェイトの戦いの意思に呼応し、バルディッシュがフォームを変化する。 「―――すでに私達は絆で結ばれているんだね」 かつてない速度で飛翔する。 本来の戦闘スタイルを取り戻したフェイトは、かつてなのはと戦った時と同等……いやかつて以上のスピードでシグナムに肉薄した。 レヴァンティンの刃と、バルディッシュの光刃が激突する。 「何、この気迫……! さっきとはまるで別人だ!?」 『シグナム、聞こえる? ザフィーラとヴィータを連れて逃げたいんだけど、ダメなの! まだ私の腕は固定されているみたいなのよ!!』 眼前に迫るフェイトと聞こえてきたシャマルの念話に、歴戦のシグナムをして冷たい戦慄が走り抜けた。 「やるの……フェイトちゃん。わたしは……あなたを、見、守って……いる、よ……」 ―――もはや半ば気を失いながら、魔法を行使し、且つ自分の命を鎖にして敵を捉える続ける少女の覚悟。 ―――僅か時間で、臆病な弱者から戦士へと変化した目の前の少女の成長。 シグナムは自らの体験している出来事が、まったく未踏の領域にある事を理解した。 苦境には何度も立たされた。命がけの戦いにも挑んだ。 だが、今自分が目にしているものは、それらとは全く種類が違う『脅威』だ―――! 「何者だ……お前達は!?」 「なのはが選んだ……『撃退』じゃなく『撃破』! アナタたちはここで倒すッ! 私はフェイト・テスタロッサ! 高町なのはの『友達だ』―――ッ!!」 バ―――――z______ン! リリカルなのはA s 第二話、完! 戦闘―――続行中!! ヴィータ―気絶中。 シャマル―拘束中。 ザフィーラ―負傷。なのはのバインドを解除作業中。 アルフ、ユーノ―負傷、気絶中。 なのは―昏睡状態。しかし、魔法は依然継続中。 to be continued……> 前へ 目次へ 次へ
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第11話「兄弟の思い」 「ギャオオオォォォォォッ!!」 「くぅっ……なんて馬鹿力なんだい!!」 ドラゴリーの強力なパワーを前に、アルフが毒づいた。 先程、ムルチを惨殺した時点で薄々感じてはいたが、ドラゴリーの怪力は尋常じゃない。 チェーンバインドによる拘束を力ずくで破り、防壁による防御も強引に打ち砕く。 恐らくは、なのはが対峙していたレッドキングと互角以上。 しかもドラゴリーは、遠距離用の破壊光線も持ち合わせている。 一方それが乏しいアルフにとっては、こういったパワータイプの相手はかなり相性が悪い。 不幸中の幸いは、小回り面で完全に上回っている事だった。 アルフはヒットアンドウェイを基本に、真正面からはなるべく挑まずにいる。 「はああああぁぁぁぁぁぁっ!!」 拳に魔力を集中させ、後頭部へ全力で叩きつけた。 その衝撃で、ドラゴリーがよろける……ダメージは確実に通っている。 少し時間はかかるが、このままいけば何とか倒せそうである。 尤も、それには攻撃を回避し続けなければならないという問題はある。 相手の攻撃は、一発一発が大きい……一撃見舞われるだけで、形勢が一気に変わってしまうからだ。 「ギャオオオォォンッ!!」 ドラゴリーは大きく咆哮し、アルフ目掛けて拳を振り下ろしてきた。 アルフは即座にスピードを上げ、その一撃を回避。 拳は地へと打ち付けられ、莫大な量の砂塵が立ち上った。 アルフはその影に隠れ、ドラゴリーへと一気に接近。 この距離ならば、破壊光線はこない。 その腹部目掛けて、飛び蹴りを叩き込もうとする……が。 「ギャオォォ!!」 「なっ!?」 ドラゴリーが口を開き、火炎を放射してきた。 まさか、まだこちらに見せていない攻撃手段があったとは。 とっさにアルフは防壁を展開し、火炎放射を耐え切ろうとする。 しかし……防御の為に動きを止めてしまうのは、あまりに危険だった。 ドラゴリーは、この隙を狙い……全力の拳を叩きつけてきた。 ガシャン。 「キャアアァァァァァァァッ!?」 防壁が、音を立てて砕け散った。 アルフは後方へと大きくふっ飛ばされ、派手に地面に激突する。 そのまま、その身は砂の中に埋もれこんでしまった。 焼けた砂が肌を焼く。 早く脱出しなくてはと、アルフは上空へと飛翔。 砂の中から、何とか抜け出す……が。 「えっ……嘘!?」 脱出した彼女の目の前には、ドラゴリーの拳があった。 出てくる瞬間を、完全に狙われてしまっていた。 距離が近すぎる……防壁の展開が間に合わない。 アルフはとっさに腕を十字に組んでガードを取るが、これでどうにかできる筈も無い。 ここまでか……そう思い、彼女はたまらず目を閉じてしまう。 しかし……その瞬間だった。 ドゴォンッ!! 「ギィャアァァァァァァァァァァァァッ!!??」 「えっ……!?」 アルフに激突寸前だったドラゴリーの拳が、突然止まった。 よく見るとその肩からは、煙が生じている。 アルフもドラゴリーも、何が起こったのかまるで分からない。 しかし直後に、事態の意味を理解する。 ドラゴリーの背後に立つ……拳を突き出した、青い巨人の姿を見て。 アルフはすぐさまドラゴリーから離れ、その巨人の傍らへと近寄る。 「青い巨人……あんた、もしかしてメビウスが言ってた……ヒカリって奴?」 「ああ……メビウスの仲間だな。 何とか、助けられてよかった。」 ウルトラマンヒカリ。 かつてメビウスと共に地球を守り抜いた、青き光の巨人。 ゾフィーがメビウスの元に現れたのと同様に、彼もまたアルフを助けに現れたのだった。 アルフは彼の話を、メビウスから既に聞いていた。 メビウスすらも上回るかもしれない、強力な力を持ったウルトラマンと。 ドラゴリーはすぐに二人へと振り返り、破壊光線を両の瞳から放つ。 しかし、とっさにアルフが前に出て防壁を展開。 その攻撃を塞ぎ切ったのを見て、ヒカリは首を縦に振り彼女に礼を言う。 「ありがとう、助かったよ。」 「いいってこと、さっき助けられちゃったしね。 じゃあ、二人でとっととこいつをやっつけちゃおうじゃないの。」 「ああ……頼むぞ!!」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「キュオオオォォォンッ!!」 「くっ……!!」 バードンが大きく羽ばたき、突風を巻き起こす。 メビウスとゾフィーはしっかりと地面に足を突き、踏ん張ろうとする。 その二人の体が盾代わりとなって、なのはを羽ばたきの猛威から守っていた。 彼女は二人の御蔭で、受ける被害が少なくてすんでいる。 この隙にと、なのははカートリッジをロード。 迎撃に出るべく、周囲に魔力弾を発生させ始める……が。 なのはがそれを放つよりも早く、バードンが動いた。 強く地を蹴り、三人目掛けて真っ直ぐに滑空してきたのだ。 その嘴の狙う先は、ゾフィー。 まずは彼から始末するつもりらしい。 「ジュアアッ!!」 「ギュゥゥッ!?」 しかし、ゾフィーとてここであっさり敗北するほど愚かではない。 嘴が胸に突き刺さろうとしたその直前に、嘴を両手で掴みとったのだ。 突撃を阻止されたバードンは、ならばと大きく翼を羽ばたかせる。 ゾフィーをそのまま、上空へと持ち上げていったのだ。 「ジュアッ!?」 「ゾフィーさん!!」 『Accel Shooter』 この状況では、両手を離した瞬間に嘴で刺されてしまうだろう。 すぐになのはは、魔力弾を一斉に放った。 ここで注意しなければいけないのは、ゾフィーに命中させてはならないということ。 彼に当ててしまっては、元も子もない。 精神を集中させ、魔力弾を操作する……狙いは、飛行の要である翼。 「いっけぇぇぇぇっ!!」 「ギュオオォォッ!?」 攻撃は、見事に全弾命中した。 翼を撃たれたとあっては、バードンも現状を維持することは不可能……体勢を崩さざるをえない。 その瞬間を狙って、ゾフィーは嘴から両手を離した。 失速したバードンの嘴は、空しく空を切る。 契機……ゾフィーは、バードンの顎に蹴りを打ち込んだ。 バードンは空中へと打ち上げられ、そしてそのまま脳天から地面に激突する。 数秒遅れてゾフィーが着地……バードンが起き上がるのとほぼ同時に、右手を突き出し、その指先から蒼白い光を発射した。 Z光線―――かつてゾフィーがバードンと対峙した際に使った、必殺光線の一つである。 バゴォン!! 「キュオオオォォンッ!!」 爆発が起こり、羽根が飛び散った。 バードンは皮膚から黒煙を上げながら、悲鳴を上げる。 仕留め切ることこそ叶わなかったものの、確かなダメージは与えられている。 ならばと、メビウスが追撃にかかった。 まっすぐに飛び出し、その胴体に拳を打ち込む。 バードンはその攻撃に怯むも、すぐにメビウスへと翼で打ちかかった。 「ミライさん、伏せて!!」 「!!」 「キュオオォォ!!」 なのはの言葉を聞き、とっさにメビウスはその場に伏せた。 直後、バードンの翼が彼の頭上を掠める。 その次の瞬間……レイジングハートから、莫大な魔力光―――ディバインバスターが放たれた。 今度は先程までとは違い、本来の威力を取り戻している。 バードンは翼へともろにその直撃を喰らい、大きく吹っ飛ばされた。 「今だ!!」 なのはは、間髪いれずにバインド魔法を発動させた。 彼女は以前、ミライからウルトラマンが使う武器についての話をしてもらったことがあった。 そしてその時、彼は確かにいった。 その武器の内の一つ―――ウルトラマンタロウのキングブレスレットは、バードンを相手に絶大な効果を発揮したと。 タロウはかつてのバードン戦において、ブレスレットでバードンの嘴を縛るという奇策を取った。 それにより、バードンが放つ強力な火炎を封じ込んだのだ。 なのはが放ったバインドは、まさしくそれと同じ。 バードンの嘴を縛り上げ、しっかりと閉じさせたのである……これでは、もう火炎は使えない。 「よし……メビウス、離れろ!!」 「はい!!」 これで間合いを離せば、残る遠距離攻撃は羽ばたきだけ。 そしてその羽ばたきも……恐らく、先程までに比べて大幅に威力は落ちているに違いない。 アクセルシューター、Z光線、ディバインバスター。 ここまで使ってきた技の全ては、バードンの翼に集中して放ってきたのだ。 その翼は、今やかなり傷ついている……飛行して間合いを詰めてくるのも、容易では無いだろう。 「キュオオオォォン!!」 バードンは大きく翼を羽ばたかせ、突風を巻き起こそうとする。 だが……やはり、その勢いは衰えていた。 なのはでも、十分に耐え切る事が可能なレベル。 バードンは確実に弱っている……今こそが、撃破する最大のチャンスである。 三人は互いの顔を見て頷きあうと、トドメの一撃を放つべく行動に移った。 「ジュアアァッ!!」 勢いよく、ゾフィーが飛び出した。 風の勢いが無い今、バードンに近寄る事は容易い。 彼は上空へと飛び上がり、突風に逆らいながらバードンへと接近。 そのまま急降下し、その脳天へと蹴りの一撃を叩き込んだ。 バードンはその場に倒れこみ、脳天を押さえ悶えている。 それを合図に、なのはとメビウスが動く。 「ハァァァァァァァッ……!!」 「レイジングハート、カートリッジロード!!」 『Divine buster Extension』 メビウスがメビウスブレスのエネルギーを開放し、なのはがカートリッジをロードする。 それから僅かに遅れて、ゾフィーが両手の指先を己の胸元で合わせた。 その右手が、眩い光に包まれる。 直後……メビウスとなのはが、必殺の攻撃を打ちはなった。 「ディバイン……バスタアァァァァァァァァッ!!」 「セヤアアァァァァァァァッ!!」 メビュームシュートとディバインバスターが、バードンに直撃する。 バードンは呻き声を上げ、もがき苦しむ。 後もう一押しで、バードンを倒す事ができる。 そして、ゾフィーがそのもう一押しを打ち込むべく、動いた。 光り輝く右手を、バードン目掛けて真っ直ぐに突き出す……その右手から、轟音を上げて光が放出される。 ウルトラ兄弟最強の光線―――M87光線が、今放たれたのだ。 「ジュアアアァァッ!!」 メビウスとなのはが放った光線を、更に上回る破壊力。 その一撃を見て、なのはは驚きを隠せなかった。 もしかすると、スターライトブレイカー以上の破壊力があるかもしれない。 これが、ウルトラ兄弟長男の実力。 その直撃を受け、とうとうバードンは限界を迎えた。 大きく唸りを上げた後……爆発四散。 バードンは、ついに倒されたのだ。 なのはとメビウスが、喜び声を上げる。 そして、その後……二人は、ゾフィーと向き合った。 「ゾフィー兄さん……」 「メビウス……」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「ハァァァッ!!」 「そこぉっ!!」 アルフとヒカリの拳が、ドラゴリーへと同時に叩き込まれた。 ドラゴリーは後ずさり、叫び声を上げる。 だが、ドラゴリーもそう簡単には倒されてくれない。 両腕を二人へと向け、そこからミサイルを放って反撃する。 アルフはとっさに、障壁を展開してそれを何とか防ぐ。 そしてヒカリは、右手のナイトブレスから、光り輝く剣―――ナイトビームブレードを出現させ、ミサイルを切り払った。 そのまま間合いを詰め、ブレードを真っ直ぐに振り下ろす。 メビウスのメビュームブレードを上回る、ヒカリ必殺の剣。 その一撃を受けて、ドラゴリーの右腕が見事に切り落とされた。 「ギャオォォォォンッ!!」 「今だっ!!」 「ああ!!」 ドラゴリーが片腕を失った今こそが、攻めに出る最大の契機。 アルフはチェーンバインドを発動させ、その身を縛りにかかった。 怪力を誇るドラゴリーならば、チェーンバインドから抜け出すのは本来容易。 しかし、それはあくまで両腕があればの話……片腕の力だけでは、難しかった。 ヒカリは剣を収め、そしてナイトブレスに手を添える。 ナイトブレスの力を解き放ち、敵へと浴びせる必殺の光線―――ナイトシュート。 ヒカリは腕を十字に組み、その一撃を放った。 メビウスのメビュームシュートとは対照的な、蒼い光。 そしてその威力は……メビュームシュート以上。 「ギャオオォォォンッ!!??」 直撃を受け、ドラゴリーが背中から倒れこむ。 そして直後……爆発し、消滅した。 その様子を見て、アルフはガッツポーズをとった。 ヒカリもそんな彼女を見て、頷く。 お互いの協力の御蔭で、この強敵に無事打ち勝つ事ができた。 二人はその事を、相手に感謝していた。 「ありがとう、ヒカリ……えっとさ。 あんたがこうしてここにいるって事は、ミライの事……?」 「ああ、メビウスが出したウルトラサインの御蔭で、見つけ出す事ができた。 メビウスの元にも、もう仲間は向かっている。」 「そうかい……あっと、こうしちゃいられなかったね。 悪い、ヒカリ……折角助けてもらったのにさ。」 「分かっている、待っている人がいるんだろう? 俺の事は気にせず、行ってやれ。」 「うん……ありがとうね!!」 アルフはフェイトの元へと駆けつけるべく、転移魔法を発動。 この世界から姿を消し、元の世界へと戻った。 ヒカリはそれを見届けると、その場にしゃがみこむ。 そして……バラバラにされたムルチの死骸を手に取った。 「水生生物のムルチが、こんな所にいるわけが無い。 やはりこれは、何かしらの改造を受けているに違いない。 ならば、ドラゴリーが現れたのを考えれば……全ての元凶は、あの悪魔か……!!」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 『そうか……分かった。』 「ゾフィー兄さん……ヒカリは、何て言っていましたか?」 「やはり、異世界に現れた怪獣はヤプールが解き放ったものである可能性は高いそうだ。 ……予想していた以上に、事態は進んでいるようだな。」 ヒカリからのテレパシーを受け取り、ゾフィーは重い顔をする。 今、メビウスとなのはは、ゾフィーから全ての事情を聞かされていた。 先日、ゾフィーとヒカリの二人は、メビウスの捜索に当たっていた。 ヤプールとの決戦に臨んだ異次元世界。 その入り口だった地点を、重点的に二人は探していた。 しかし、メビウスの足跡は全く見当たらなかった。 捜索を開始してから、それなりの日にちが経つというのに、全くの進展が得られない。 最早、メビウスを見つけ出すのは不可能なのではなかろうか。 光の国には、そう思う者も中にはいたが……決して、ウルトラ兄弟達は諦めなかった。 最後まで諦めず、不可能を可能にする。 それこそが、ウルトラマンだからだ。 そして、その末……ついに彼等は、メビウスを見つけ出した。 崩壊した異次元世界の入り口から、かすかな光―――ウルトラサインが見えたのだ。 メビウスが、毎日欠かさずにウルトラサインを送り続けてくれた御蔭だった。 すぐさまゾフィーは、ヒカリを連れてその向こうへと飛んだ。 ゾフィーは、異世界へと渡る力を持つ数少ないウルトラマンの一人。 かつて、エースがヤプールとの決戦に望んだ際も、彼の御蔭で異世界へと渡ることが出来たのだ。 その為、彼等はメビウスの元へと駆けつけられ……そして話は、今に至る。 ちなみにゾフィーは、ウルトラサインの御蔭で全ての事情は把握しているので、話はスムーズに進めることが出来た。 「はい……ゾフィー兄さん、僕は……」 「分かっている……共に戦いたいというのだろう。」 「はい。 僕は、時空管理局の皆さんにとてもお世話になりました。 皆がいなきゃ、僕はこうしていられませんでした。 だから……一緒に、戦いたいんです。 闇の書の事も、ダイナの事も、ヤプールの事も……皆と協力して、解決したいんです!!」 メビウスの強い決意の言葉を聞き、ゾフィーは首を縦に振った。 助けられた恩は、返さなければならない。 きっと、自分も同じ立場ならそうするだろう。 それに……ダイナとヤプールという要素が出てきた今、これは自分達の問題でもあるのだ。 ゾフィーはなのはへと視線を向け、自分の意思を彼女へと告げた。 「メビウスの事を……よろしく頼む。」 「ゾフィーさん……はい!! こちらこそ、よろしくお願いします!! あ、自己紹介がまだでしたね……私はなのは、高町なのはです。」 「ありがとう、なのは。 メビウス、この世界での地球に関しては、このままお前と時空管理局に頼もう。 我々兄弟は、近辺の異世界の捜索に当たるつもりだ。」 「分かりました。」 闇の書を初めとする地球での問題は、メビウスと時空管理局が変わらず引き受ける。 そして、近辺世界の捜索はウルトラ兄弟達が当たる事となった。 レッドキングやバードンといった自分達の世界の怪獣が、異世界に現れるようになってしまった。 このまま、怪獣達を野放しには出来ない……被害が及ぶ前に、自分達ウルトラ兄弟が怪獣を撃破する必要がある。 それに、恐らくヤプールは近辺世界のどこかに潜んでいるに違いない。 ヤプールの撃破の為にも、自分達がやらなければならないのだ。 「リンディさん達に、帰ったら伝えませんとね。」 「うん……じゃあ、ゾフィー兄さん。 ヒカリや兄さん達に、よろしくお願いします。」 「ああ……気をつけるんだぞ。」 その後、なのはが術を発動させ、この異世界から離脱した。 それを見届けると、ゾフィーも空高く飛び上がっていった。 宇宙警備隊と、時空管理局。 今この時……二つの組織は、手を組んだのだ。 平和の為、共に戦い合う仲間として…… ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「よかったですね、ミライさん。」 「はい、ありがとうございます。」 数時間後、時空管理局本局。 帰還したなのは・ミライ・アルフの三人は、リンディ達と共に会議室にいた。 彼等はあの後、皆に異世界で起こった事の全てを説明した。 ヤプールが改造したと思われる怪獣が、異世界に解き放たれている事。 無事、ミライがゾフィーと再会できた事。 そして、ゾフィー達は今後異世界の捜索に当たってくれるという事。 話を聞き、リンディ達は大いに驚かされこそしたものの、全て承知した。 今回の事件は、かつてのPT事件とは比べ物にならない規模になっている。 宇宙警備隊の者達が協力してくれるというのは、願っても無いことであった。 直接会って話を出来なかったのが唯一残念ではあったが、目的は同じもの同士、いずれ再会は出来るだろう。 その後、リンディはフェイトの容態について説明を始めた。 「フェイトさんは、リンカーコアに大きな損傷を受けたけど……命に別状はないそうよ。」 「そうですか……よかったぁ。」 「そうですね……私と同じように、闇の書にリンカーコアを蒐集されちゃったんですね。」 「アースラが起動中でよかった。 御蔭で、なのはの時以上に素早く対処に回る事が出来たから。」 「だね……」 「……あの後、駐屯地中のシステムが全部、クラッキングでダウンしちゃって。 ごめんね……あたしの責任だ……!!」 エイミィは、今回の事件に対して深い責任を感じていた。 フェイトの救援を要請した後、何者かがハラオウン家中のシステムに侵入を仕掛けてきていたのだ。 その所為で、全てのシステムがダウン……一時的に、誰とも連絡が取れない状態になったのだ。 ミライ達が連絡を取る事が出来なかったのは、これが原因だった。 その後、エイミィは急いでシステムを復帰させ、本局への連絡を繋いだ。 丁度その時本局では、アースラの試運転の為にスタッフが大勢集まっていた為、迅速な対応を取る事が出来た。 「そんな、エイミィさんの責任じゃないですよ。」 「そうだよ……エイミィがすぐシステムを復帰させてくれた御蔭で、何とかなったんだしさ。 それに、仮面の男の映像だって何とか残せたわけだし……」 「けど……おかしいわね。 あのシステムは全部、本局で使われてるのと同じ物なのに……あんな頑丈なのに、外部から侵入できるのかしら?」 「そうなんですよ。 防壁も警報も素通りで、いきなりシステムをダウンさせるなんて……!!」 このクラッキングには、一つだけ腑に落ちないことがあった。 一体、どうやってあの厳重な防御を潜り抜け、システムを落としたのだろうか。 それも……一切の防御プログラムを、全く反応させずにという離れ業でである。 現在、防御システムはより強力なものへの組み換えを行っている。 再度の侵入だけは、どうあっても防がなくてはならない。 「それだけ、強力な技術者がいるってことですか?」 「組織立ってやってるのかもしれないね。 闇の書の守護騎士達か、仮面の男か、それともヤプールなのかは分からないけど……」 「タイミング的に、ヤプールの可能性が一番高いが……ミライさん、心当たりは?」 「あるにはあるんだ。 マケット怪獣っていって、怪獣のデータを実体化させて戦わせる技術なんだけど…… このマケット怪獣をネット上に出現させれば、ネットワークを侵略する事も可能なんだ。」 「怪獣のデータって……まあ、滅茶苦茶やばいウィルスってとこ?」 「そういうことになっちゃうね。 でも……これはGUYSのメテオールだから、ヤプールが持ってるとは思えないんだ。 もしかすると、僕みたいに体をデータ化させて、ネットワーク内に侵入できる超獣がいるのかもしれないけど……」 「体のデータ化……ミライ君って、そんなのまで出来るわけ?」 「はい、出来ますけど。」 さりげなく、かなり凄い能力について言ってのけた。 本当にウルトラマンというのは、人知を超えた力の持ち主である。 しかし、この話の御蔭で可能性は出てきた。 ヤプールによるクラッキングと考えるのが、現状では妥当な判断だろう。 「アレックス、アースラにはもう問題はないわよね?」 「はい、すぐに動かせます。」 「分かりました……予定より少し早いですけど、これよりアースラを司令部に戻します。 なのはさんは、御家の方も心配しているでしょうから、そろそろ帰らないとね。」 「あ、でも……」 「フェイトさんの事なら、大丈夫。 私達が見ているから……何かあったら、連絡するわ。」 「リンディさん……はい。」 駐屯地のシステムがクラッキングされるというアクシデントがあった以上、司令部はアースラに戻すのが妥当な判断である。 無論、それでフェイトの折角の学校生活を潰すという真似をするつもりはない。 出動待ちという形で、今まで通りの生活を送ってもらう予定である。 ミライも、彼女と同様の状態でいてもらおうと思う。 フェイトが回復するまでは少々時間もかかるだろうし、現状では彼が一番の戦力である。 「それじゃあ、私はこれで……」 『なのは、ちょっと待って。 少しだけ、話させてくれないかな?』 「あ……ユーノ君?」 なのはが帰還しようとした、その時だった。 無限書庫から回線を開き、ユーノが通信を入れてきたのだ。 彼がこうして連絡を入れてきたということは、闇の書についてなにかが判明したという事だろう。 なのはは足を止め、彼の話を聞くことにする。 「ユーノ、何か分かったんだな?」 『うん……ただ、分かったのは闇の書の事だけじゃないんだけどね。』 「え……ユーノ君、それってどういうことなの?」 『……ウルトラマンダイナの正体が、分かったんだ。 ミライさんの予想は当たってた……ダイナはやっぱり、異世界のウルトラマンだったんだ。』 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「助けてもらったって事で……いいのよね……?」 「少なくとも、奴が闇の書の完成を望んでいる事は確かだ……」 同時刻、八神家。 ヴォルケンリッター達とアスカは、今日の事に関して話をしていた。 突如として戦いの場に乱入し、そして自分達を助けていった仮面の男。 彼に関しては、あまりに謎が多すぎる……一体、何が目的であんな真似をしているのだろうか。 唯一分かっているのは、闇の書の完成を望んでいるという事実だけなのだが…… 「完成した闇の書を、利用しようとしているのかもしれんな。」 「ありえねぇ!! だって、完成した闇の書を奪ったって、主以外じゃ使えないんじゃん!!」 「完成した時点で、主は絶対的な力を得る。 脅迫や洗脳に、効果があるはずも無いしな……」 完成後の闇の書を扱えるのは、唯一主であるはやてのみ。 他のものがそれを利用するというのは、どう考えても不可能なのだ。 ならば、何故仮面の男が自分達の手助けをするのか……それが、全く分からない。 皆が考え込むが……その時だった。 アスカが、ある可能性に気付いて口を開いた。 「……もしかしてさ。 あの仮面の男……俺達と同じように、はやてちゃんを助けたいって思ってるんじゃないのか?」 「あいつ等が?」 「まあ、それだったらどうしてはやてちゃんの事を知ってるんだって話にはなっちゃうけど…… あ、あくまでこれは、もしもそうだったらいいなって願望だから。 結局のところ、どんなつもりなのかは分からないし……やっぱ、警戒は必要だよな。」 「……一応、この家の周囲には厳重に魔力結界は張ってあるから、はやてちゃんに危害が及ぶ事はないと思うけど……」 「念の為、シャマルは主の側からなるべく離れないようにしておいた方が良いだろうな。」 「うん……」 兎に角、厳重注意する以外に今は手が無い。 はやての身に何も起こらないよう、自分達で精一杯守り抜かなければならない。 皆はこれまで以上に、一層気を引き締めて事態に当たろうと決意する。 しかし、そんな中……ヴィータが不意に、口を開いた。 「あのさ……闇の書が完成して、はやてが強力な力を得て…… それで、はやては幸せになれるんだよな?」 「どうした?」 「闇の書の主は、絶対的な力を得る。 私達守護騎士が、それは一番よく分かっているでしょう?」 「そうなんだけどさ……私はなんか、なんか大事な事を忘れてる気がするんだ。」 「大事な事って……ヴィータちゃん、どうしたのさ。 急にそんなこと言い出しちゃって……」 「……実を言うと、急にってわけでもないんだ。 ちょっと前から、こんな風に考えちゃってて……」 「ちょっと前から……いつ頃からだ?」 「あの、変な怪獣が現れた時から。 あの辺から、何か嫌な感じがしてさ……」 「怪獣……確かメビウスは、あれをヤプールだとか呼んでたけど……」 以前、結界を打ち破って現れた怪獣―――ミサイル超獣ベロクロン。 あの謎の生物の御蔭で、自分達は無事逃げ延びられた。 だが……あれが出現した頃から、ヴィータは何か違和感を感じていたのだ。 そう、ヤプールという名前を聞いた……あの時から。 自分達は、もしかしたら何か大切な事を忘れているんじゃないかと。 (ヤプール……何なんだろう。 前にも、どこかで聞いた事があったような……) 戻る 目次へ 次へ