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魔法少女ニニンがなのは伝 「音速丸襲来!!」 魔法の使えるごくごく普通の小学3年生、高町なのは彼女はある日親友であるフェイトにこんな事を言った。 「ねえフェイトちゃん。召喚魔法ってした事ある?」 「召喚魔法? 知ってはいるけどしたことないな。でもどうしてそんな事を?」 「ユーノ君が知ってるって言うから、ちょっと試してみようと思ったんだけど。フェイトちゃんも一緒に手伝ってくれない?」 「面白そうだね、良いよ。でも何を召喚するの?」 「えへへー実はフェニックスを召喚してみようと思ってるんだ」 そんなこんなでなのははユーノとフェイトの助けを借りアースラで召喚魔法を行い高位の召喚獣の召喚を試みる事となった。 「リリカル、マジカル、フェニックス召喚!」 なのはとフェイトが魔力を注ぎ、円形の魔法陣に魔力が溢れ爆音と共に煙が立ちこめた。 「あれ…もしかして失敗?」 フェニックスが召喚できればそれは相当な大きさの筈なのだが立ち込める煙にはそんな影はない、代わりに妙に味のある濃い~声が響いた。 「呼ばれて飛び出てアンポンタン!! ハッスルハッスル音速丸ううううう!!!!(若本)」 「音速丸さん、あんまり叫ばないで下さいよ。音速丸さんの声でまた空間が歪んだじゃないですか」 「そうですよ音速丸さん、今アニメが良いところなんですから…あれ? なんで我々こんな所に?」 煙の中から現れたのは羽のある丸っこい黄色い物体と忍者みたいな格好の人だった。 「これは一体?…」 「この人達が召喚獣?…」 突然、丸っこい物体と忍者が現れて呆然とするなのはとフェイト。 「音速丸さん! 突然見知らぬ所に来たと思ったらツインテールの美少女が目の前に!!」 「しかも二人ともステッキらしき物を持っている様子…これはもしや魔法少女的な何かでは!?」 「落ち着けお前ら~。ここで慌てれば確実に死亡フラグ確定!! 俺がまずファーストコンタクトを試みるずらああああ!!!!(若本)」 音速丸と呼ばれた丸っこいのはフヨフヨとなのは達の所に飛んで来た。 「きゅ~んきゅ♪ きゅ~んきゅ♪(若本)」 「きゃっ この子人懐っこいよフェイトちゃん」 「それに意外と可愛いね、なのは」 音速丸は鳴き声(?)を上げながらなのはとフェイトに近づき擦り寄って顔を舐めたりしだした。 「音速丸さんがカワイイ系の動物キャラのマネして美少女にセクハラしてるぞ!!」 「ズルイっすよ音速丸さん! 俺たちにもおすそ分けしてください~」 「黙れ~い!! このクルピラ野郎共が~!! 美少女と美女は俺のモノとハムラビ法典に書いてあんだよ~~!!(若本)」 なのはとフェイトにくっつく音速丸に不満の声を上げる忍者達、その忍者達に音速丸は本性を曝け出して吼えた。 「うわっ! なんかベリーメロンっぽい声だよフェイトちゃん」 「私はどっちかって言うとアナゴ的なものを感じるな」 そして落ち着いた所で音速丸たちの自己紹介が始まった。 「初めましてお嬢さんがた~俺の名は音速丸、第108銀河大統領にして、今年度抱かれたい男ナンバー1だ。ぶるううあああああ!!!!(若本)」 「ホントですか!?」 「なのは大統領ってなにか特別なおもてなしした方が良いのかな?」 「なのはちゃんフェイトちゃんそれ嘘だから。音速丸さん純真な子供に嘘を言って混乱させないで下さい。ところで僕の名前はサスケって…」 「あ~、こいつらは忍者その1、2、3でいいからよ(若本)」 「ひどいっすよ音速丸さん! 他の奴はともかく俺は名前があるんですよ!」 「サスケさん! 声がキング・オブ・ハートだからって調子に乗ってるんじゃないですか!?」 「五月蝿いぞ雑種!」 「うわ! 逆ギレのうえ王様モード(by fate/stay night)だよ」 ヒートアップする音速丸と忍者3人になのはとフェイトは苦笑いするしかなかった、そんな所にはやて達、八神家一行がやって来て音速丸のハチャメチャのギアを上げた。 「うわっ! なんやこのハチャメチャな空気は…っていうか何で忍者さんがこんな所におるん?」 「ピコピコピーン! おっぱいレーダーに反応ありいいい!!(若本)」 音速丸はそう叫ぶと八神家一…いやアースラ一の巨乳であるシグナムに(その胸に)飛び込んだ。 「うわっ! なんだこの丸っこいのは!?」 「おっぱ~い! おっぱ~い! おっぱあああああい!!!!(若本)」 「ひゃっ! 服の中に潜り込むな!」 音速丸は“おっぱい”と連呼しながらシグナムの服の中に入ろうとその丸いボディで暴れまわる。 「音速丸さんずるいっすよ~!」 「そうです俺たちにもおっぱい分けてください!」 「馬鹿野郎がああああ!! この世のおっぱいは全て俺のものだってこの前国会で決まったろうが!! ぶるううああああ!!(若本)」 「なんかこの丸っこい子、セルみたいな声やな」 「あたしはブリタニア皇帝だと思うな」 「私はメカ沢さんの声に聞こえますよ、はやてちゃん」 シグナムにセクハラを続ける音速丸に八神家の皆は音速丸を見て各々に感想を言った、そして音速丸のセクハラはレヴァンティンの一撃で終わる事となった。 続かない。 目次へ 次へ
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なのは×終わクロ クロス元:終わりのクロニクル 最終更新:08/03/29 序章『聖者の行進』 第一章『佐山の始まり』 第二章『二人の出会い』 第三章『彼方の行方』 第四章『君の印象』 第五章『過去の追走』 第六章『意思の交差』 第七章『初めての再会』 第八章『これからの質問』 第九章『意思の証』 小話メドレー クロス元:多数あるため割愛 最終更新:08/03/30 1st 2nd 3rd 4th 5th 魔法少女リリカルなのはFINAL WARS クロス元:ゴジラ FINAL WARS 最終更新:08/05/24 ミッドチルダ1~愚挙開始~ ミッドチルダ2~繁華街戦~ ミッドチルダ3~摩天楼戦~ ミッドチルダ4~千年竜王~前編 ミッドチルダ4~千年竜王~後編 拍手感想レス :すっごく面白そうです。なのはHEARTSぜひ始めてください。 :続きが楽しみでなりません。他にも両作品の出雲や風見、ユーノ君なども登場してほしいところです。 :人間シリーズで高町家の人たちや友人たちとの再会が見たいです。 TOPページへ このページの先頭へ
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マクロスなのは 第29話『アイくん』←この前の話 『マクロスなのは』第30話「アースラ」 『誰かいませんか!?』 数台のエンジン音と共に、拡声器を介したティアナの声が耳に届く。 彼女の後ろにはEMPで立ち往生してしまった自動車を路肩に除けて、後方の輸送隊に道を作っていくバトロイド形態の消防隊所属VF-1C。 ここは先の防空戦闘によってめちゃくちゃになってしまった、三浦半島の南端に位置する町だ。 ―――――いや、だったと言った方が正確か。 ティアナの声に続いて上空からは消防隊のヘリとガウォークのVF-1Cの爆音が轟き、抱えていた水をぶちまけていく。救助活動が開始されてから今までの数時間に、数千トン以上の水を投下したと聞く。しかし完全に焼け石に水。周囲どこを見ても炎の壁が家だったものを包んでいた。 その中の一軒に大量の水が降り注ぎ、その延焼の度合いを弱める。そこでスバルは気づいた。 (あの家、ビーコンが発信されてない!) そこには救助隊が突入して、生存者の有無の確認を行ったというビーコンの発信がなかった。どうも周囲の火災の度合いが強すぎて、先遣の救助隊が近寄れなかったようだ。 『(ティアナ、ちょっとそこの家の中を確認してくる!)』 『(わかった。5分以内に戻ってきなさい。ここにそう長く留まれそうにないから)』 ヴァイスのバイクに跨りながら小回りを武器に、バルキリーを含む輸送隊の先の方で誘導するティアナは、少しだけ速度を緩めながら念話で返してきた。 『(了解!)』 輸送隊から離れたスバルは、その民家の玄関を拳撃で吹き飛ばし、内部に突入する。 周囲の温度は極めて高く、バリアジャケットなしではとても入れなかっただろう。そして同じように、この家の住人が簡単な魔導士であってくれたなら、対煙、対熱のシールドを張って未だに救助を待ってくれている可能性があるのだ。魔力反応はまったく感知できなかったが、あのEMP(電磁波ショック)の後では機器は信用できない。 もっとも、だれもいないことに越したことはないのだが――――― 「誰かいませんかぁ!?」 返事はない。 それに肉が焦げるような嫌な臭いが鼻につく。 (でも!!) 踏み抜きそうな脆くなったフローリングの廊下をさらに奥へ。 倒れた家具が道を塞ぐ。・・・・・・家具?いや、家の支柱だ。どうやらそれを隠していた壁は崩れたか、燃え尽きたかしたようだ。 本来壁だったのだろうその場所を、さらに奥に進んだ彼女が見たのは、1人の焼死体だった。全身炭化し、もはや性別もわからないその遺体に思わず歯がみする。 しかしその時、パチパチと家が焼ける音以外の〝声〟がした。その声は幼いを通り越して赤ん坊の声だった。それはどうやら遺体近くの金庫から出ているようだ。ドアの前には入っていたのだろう貴金属の姿。代わりに中に何か入っているのは明白だ。しかし開けるためのダイヤルの数字など知ったものでない。 (壊すか・・・・・・でももし中身が生き物なら、衝撃が危険すぎる) 加えて、天井から聞こえる建材が折れる音はまだ断続的なものだが、だんだんとその間隔は連続的なものになってきている。この家がその重量に耐えられない時が来ようとしているのだ。 猶予はない。ダメもとでノブに触れる。 「熱っち!」 素肌の部分が焼けるような痛みを訴えるが、この皮膚は人間のような脆弱なタンパク質ではない。戦闘機人の強靭な人工皮膚なのだ。 熱さに耐えてノブを捻ると、その強力な筋力を―――――使うまでもなかったようだ。それは何の抵抗もなくするりと開き、同時に泣き声のボリュームが上がる。 「よ~しよしよし・・・・・・」 スバルは水でぐっしょり濡れたタオルに包まれたその子を抱き上げると、対熱シールドで包み、自分のバリアジャケットの生命維持システムに組み込んだ。 「もう、持たないか!」 崩壊の音はすでに爆音に近い轟音を放っている。これに崩れられたらさすがに助からない。かといって来た道を戻って脱出するには遅すぎる。 こんな時どうするか? スバルは1つしか回答を持ち合わせていなかった。 「最短を一直線に、抜く!」 右腕のリボルバーナックルのカートリッジが数発ロードされ、そのフライホイールが高速回転する。 「ディバイィン、バスタァー!」 よく制御された魔力砲撃は六課に入る前のそれとは違い、ムラなく直線的に進路上のものを吹き飛ばした。 元から崩れそうなものをさらに壊したのだ。モタモタできない。砲撃を放った次の瞬間にはウィングロードを展開し、自ら切り開いた道を進む。その間も雪崩の如く建材が頭上に降り注ぎ、その進路を妨害する。 それらを撥ね退け、すすむ! ――――― ススム! ――――― 進む! しかし、あと5メートルというところで再びその道は瓦礫によって埋め戻されてしまった。 (畜生!) この崩壊の度合いでは退ける暇も、砲撃をする暇もない! やはり軽率だったと思わずにはいられない。一人ならともかく、救助した者の命も預かっているこの身なのだ。 あの時砲撃で壊さず、来た道を戻っていればあるいは――――― 後悔の念に押しつぶされそうになったその時、行く手の道に巨大な〝手〟が差し込まれた。そしてその一掻きは瞬時に脱出ルートから障害物を消し去ってくれた。 「脱出!」 煙と粉塵を払いのけて屋外へ。そのままウィングロードは上空まで伸びていく。 助けてくれたバルキリーは消防隊のVF-1Cではなく、フロンティア基地のVF-11のようだ。バトロイドの機首には獰猛なサソリを思わせるノーズアートが見えた。 すれ違いざまコックピットのパイロットに片腕を上げて礼を言う。 ここまで来ると助かったと油断するのが人の性。だがまだ終わってない。 「か、瓦!?」 向き直った目前には降り注ぐ無数の瓦。一時期ブームになった建材だが、今は勘弁してくれ。それにその後ろには倒れ掛かってくる家本体。 バトロイドの人はコックピットでコンソールを叩いている。どうも武装が動かずに悪態をついているようだ。 反射で頭と、抱いている形で確保されている赤ん坊をそれぞれ両腕で庇う。そして魔力障壁を展開。PPBSを最大出力! 数十を超える無駄に重い瓦で叩かれ、息つく暇もなく、倒れ掛かってくる家の屋根という物理的な圧迫力を前に、どこまで耐えられるか自信はない。しかし、それが己にできる精いっぱいの対策だった。 (どうかこの子だけでも!) ・・・・・・衝撃! 自身の上昇速度と、瓦の自由落下とで弾丸並みに重い衝撃が魔力障壁に降りかかり、フィードバックが体力と魔力を、そしてカートリッジを削っていく。しかし屋根はこんなものではないはずだ。瓦が割れていく轟音の中、覚悟を決める。 (あと屋根1つくらい・・・・・・このまま押し返す!) 根拠ゼロの覚悟の中、目標である屋根を見据えようと頭上に振り返ると一転 「あれ?」 そこには瓦とともに倒れてくる屋根など存在せず、大きく抉られた屋根だけが存在していた。 (あの抉り方は砲撃・・・・・・?) 角度から砲撃ポイントと思しき公道付近を見ようとすると――――― 『(スバル遅い!もう10分以上経ってるわよ!)』 バイクのアイドリング音と共に付近の公道から放たれた相棒の念話は、スバルに今度こそ、助かったのだという事を実感させた。 (*) 「まったく、フロンティア基地の人に気づいてもらえなかったら、どうする気だったのよ!」 「いやはや、面目ない」 2人乗りするバイクの前部で運転する、相棒の叱責すら心地よい。 あのフロンティア基地航空隊の人は防空戦からそのまま救助活動に参加していたそうで、今回は魔力砲撃の魔力を探知して、単体だった事から応援に来てくれたそうだった。 消防隊は魔力を探知する事はともかく、どのような魔法なのか、場所及び個数など、そんな分解能のいい装置なんて持ってない。そのためまさに幸運と呼ぶにふさわしい生還劇だったようだった。 「・・・・・・もっとも、スバルが1人で行くなんて言い出した時に、念話で周囲に展開してた部隊へちょっと口添えはしといたけどね」 前言撤回。 幸運なんかじゃない!やっぱりこの相棒は最高だ! 「やっぱりティアは凄い!大好き~!」 「こ、こら!いくら私でも事故る!お腹を必要以上に押さえるのはやめなさい!私達2人だけじゃないのよ!」 「そ、そうだね」 今背中には、あの火事場から救出した小さな命がある。この命を救えたことこそ、自分達がここに来た甲斐があったというものだった。 「・・・・・・それにしてもアルト先輩大丈夫かな?」 「そうねぇ。ライアンさんも他の同僚の人から撃墜されたとしか聞いてなかったみたいだし・・・・・・やっぱり通信網が回復しないとなんとも言えないわね」 「・・・・・・うん。でも今回の攻撃、何かおかしい。通信が遠隔地のどこにも繋がらないなんて・・・・・・」 今回の通信途絶問題、EMPによる通信機器破壊だけがその原因とは考えられなかった。事実、EMP範囲外で故障していないはずの自分達の機器も、1キロを超える電磁波無線通信を完全に断たれていた。 ミッドチルダ全域に有線網を持つMTT(ミッドチルダ電信電話株式会社)による調査では、自分達が知る限りでもこの現象は関東全域に及んでいるらしく、未確認だがそれ以上の範囲に及んでいる可能性があるそうだった。 おかげで現状使えるのは念話、半径1キロ未満の電磁波通信、あまり広まっていないためほぼ管理局のJTIDS(戦術統合分配システム)に限定されるフォールド通信。そしてMTTの有線通信網だけという、新暦100年とは何だったのかと突っ込みたくなるようなお粗末なことになっていた。 それに問題は通信だけではない。 「追いついたわね」 先ほど誘導していた輸送隊のトラックが見えてくる。大部分がコンテナ設備を積んだ大型トラックだ。 後方の中型トラックには道すがら回収した避難民が乗りこんでいるが、それはバスのようなものではなく、〝ディーゼル駆動〟の中型コンテナトラックだ。別にバスなどの車が徴用できなかったわけではない。 先のEMP攻撃は、この町を含めた半径10キロメートルにわたって軍用でないすべての電子機器を破壊しつくした。しかし、被害はそれにとどまらない。通常EMPはマイクロ秒単位で発生して瞬時に消えてしまうが、今回はそれの後、継続して被害を与えていた。先ほどの電磁波による通信と、次世代型大出力大容量バッテリーだ。 このバッテリーは従来の物と違って化学反応を用いないことで、一つで最大数百ボルトの電圧を得たり、充電することができる。 最近では原料から、どこかの世界の呼び方を踏襲して「フォールドカーボンバッテリー」と呼ぶそうだが、このバッテリーはクラナガンではシェア70%に及ぶ電気自動車に搭載されてる。具体的には民衆車、バス、通常2輪などの馬力を要求されない車だ。 ここで本題だが、今回、このフォールドカーボンバッテリーがこのEMP範囲内に入ると、たった数分で使い物にならなくなる現象が起こっていた。 おかげで災害出動した陸士部隊の輸送隊は軒並み立往生を喰らい、代わりに水素・石油など化石燃料車に依存する民間輸送業者が各地からかき集められていた。そのため目前を列を組んで走るトラックには「クール特急便」やらド派手な電飾を施した族仕様のトラックなど、シュールな光景が広がっている。自分達が乗るこのロータリーエンジン式バイクも現在水素で稼働しており、ヴァイスの趣味が功を奏した結果となっていた。 「前の方が騒がしいわね・・・・・・」 ティアナが言う通り輸送隊の前の方で人と救助ヘリの行き来が激しく起こっている。どうやら目的地だった小学校に到着し、先遣隊との合流を果たしたらしかった。 先遣隊は消防隊の大部分のVF-1Cとともに本職の消防救助隊が初動で動いたもので、本格的な病院設備は自分達がこのトラック達のコンテナ設備として持ってきた。 「先遣隊には転送でシャマル先生達も先に来ているはずだし、行ってみましょう!」 「うん。この子も預けなきゃいけないし!」 「そうと決まれば!」 アクセルを吹かして小学校への道をひた走る。そこに地獄が待っているとも知らずに――――― (*) 5時間後 三浦半島緊急避難指定小学校 楽しい休日になるはずだったこの日は、スバルにとって忘れられない地獄となった。 最初に言おう。はっきり言って自分の無力さを痛感させられた。 意気揚々と小学校に踏み入れてみれば、当然だが校舎が野戦病院と化していた。普段子供たちが学友達とともに学ぶ教室は集中治療室になり、「ろうかは走らない!」と書かれた廊下は、患者達の病室と避難民の収容設備となった。そして体育館は遺体安置所としてその機能を果たしていた。 空調がEMPでやられていたため形容しがたい悪臭がそこかしこから漂い、阿鼻叫喚の悲鳴がどこからともなく聞こえた。それでも合流したシャマルさん曰く、自分達が麻酔を始めとする様々な医療物資を補給して、改善された結果だというから二の句がつげない。 私達が来る前は一体どうだったというのか・・・・・・ 自分はその身体能力を買われて救助隊の手伝いをしたが、その仕事はなのはさんがデパートでの火災の時、自分を助けてくれたように、劇的で感動を呼ぶような憧れていた物では到底なく、ひたすら、ただひたすらに泥臭い仕事だった。名目こそ生存者の捜索と救助だが、実質遺体の捜索と鎮火への協力だった。 時間が経ち過ぎている。 それは痛いほどわかってる。だが、もっと他に、何か、こうならない方法がなかったものなのか? そう自問せずにはいられない。 『ガジェットは用がなければ家の中まで入ってくる可能性は極めて低いので、家の中で待機するようお願いします』 これは管理局が民間人に向けて行った行動指針だ。まぁ、その理屈はわかる。事実最前線で戦ってガジェットが理由なく故意に民間人の家を襲撃したりしたことはない。 今日自分達が少女を助けるために陸戦型ガジェットと召還魔導士と交戦したのは、ここから十数キロの地点。 次善の策として民間人が家の中に閉じこもるだろうこともわかる。 だが、その結果がこれだ。 防空ラインが少しずつ後退して、ついにはこの上空が戦闘空域となり、ガジェットとゴースト、バルキリーの墜落で発生した火災は、当たり前だが局所集中していないため鎮火には膨大な人手を要した。職務を離れる前に見た集計表によれば、他の避難所も足すと死者200人超、重軽傷者6000人弱、焼け出された避難民は約10万人らしい。 それにEMPによって通信網がマヒしていることが悔やまれる。あれがなければ発覚が速まって初動から大規模転送で救助隊を緊急投入できたはずだし、火災で有線通信網がズタズタになったここでも、リアルタイムで情報を共有することができたはずだ。バッテリーにしても陸士部隊などの災害出動した部隊が立ち往生せずに来てくれたらなど、ifは尽きない。 頭がこんがらがり、フラッシュバックする救助活動時の凄惨な現場のイメージを頭を振って振り払う。しかし簡単には離れてはくれない。助け出した人は十人以上。だけど――――― 「結局、命まで助けられたのは最初の1人だけだったな~」 思い出すは金庫に入っていた赤ん坊のこと。 今思えば金庫の前にあったあの焼死体は、あの子の母親だったのだろう。おそらく火災にまかれて進退極まった彼女は、子供だけでも助けようと思い、あの中に入れたに違いない。 赤ん坊が酸欠にならなかったのは奇跡に近いが、状況が状況だけに最善の策だっただろう。 救えたのはたったの1人だったけど、その存在はスバルにとって大きな救いとなった。 「なのはさんも、こんなこと思ったのかな・・・・・・?」 以前自分が被災した火災について調べたことがある。確か店側の避難指示が功を奏して死者はなく、避難時の混乱で骨折などのケガ人を数十人出す程度だったと記憶している。だが彼女のキャリアの中には、他の次元世界での時空震に対する災害派遣など、今回の都市災害を凌駕するような経歴が存在する。自分と同じとは言わないまでも、同じような経験をしているのは間違いなさそうだった。 「それでもなのはさんは、あんなに笑顔でいられるんだ・・・・・・やっぱり敵わないよ・・・・・・」 思わずため息が口をついて出る。 自らが憧れる人物の器の大きさに改めて感嘆し、自らが志望していたレスキューという仕事をこの心境で改めて六課を卒業した時、志望できるか不安になった。それどころかこの管理局という仕事に関しても、だ。 そう考えると意図せず頭が真っ白になり、その視線が外に向く。 小学校の屋上というロケーションは、残暑の暑さを感じさせぬ涼しげな風で額をなで、意識をその視界に集中させる。周囲は未だ所々で火災の跡がまだくすぶっており、先ほど交代した陸士部隊と、消防団のVF-1C。4時間前にやってきたフロンティア基地航空隊のバルキリー隊が生存者の救助、もしくは焼失・倒壊した民家からヒトを探していた。 ここから見るとバトロイド形態のバルキリーしかその姿を確認できず、暗い中をサーチライトで照らしながら作業する姿は孤独に思えた。 そこで、背後の扉を開く音に振り返る。 「ティア・・・・・・」 この最高の相棒は、今は珍しい化石燃料式バイクという小回りのきく乗り物を持ちこんでいたことから、伝令を行わされ、それぞれの避難所と救助活動の最前線、そして管理局地上本部のあるクラナガンとを繋いでいた。 「伝令はもういいの?」 「うん。治安隊の白バイと交代してきた。でもバイクは傷だらけにしちゃったし、燃料はすっからかん。ヴァイス先輩怒るだろうな~」 そう笑いながら隣に座る。 「・・・・・・それでさ、あんた、なんでこんなとこにいるの?何とかと煙は~って―――――!」 〝煙〟と聞いた瞬間、こちらの表情が曇るのがわかったのだろう。冗談は通じないと努めて明るく接してくれていた相棒はその表情を深刻にして、正面から両肩を掴む。 「ねぇスバル?まさかとは思うけど、バカな真似は―――――」 「大丈夫だよ。なのはさんが、ティアが、みんなが生かしてくれた命なんだ。粗末になんかできないよ。でもね・・・・・・でも、これからどうしたらいいのかわからないんだ。ねぇ・・・・・・わたし、何になりたかったんだっけ?」 「そんなの、私にはわかんないわよ」 「・・・・・・え?」 「私が知ってるのは人を助けよう、守ろうって努力するあなたの後ろ姿だけ。そりゃ今まで一緒にいてレスキューに携わりたいとか、なのはさんみたいになりたいとか、いろいろ聞いたわよ。でもね、それって私がちっちゃい時に『お兄ちゃんのお嫁さんになる!』って言ってたのと大して変わらないのよ。何になるのか、そういうことを考えるために、憧れのなのはさんがいる六課という研修所を選んだ。違う?」 「そう・・・・・・なのかな?」 「うん!まだ私達は何にでもなれるんだから!」 「そうだね・・・・・・これから、考えていけばいいんだ」 そう考えると、少し心が軽くなった気がした。 「・・・・・・そう言えばティアって昔の夢、お嫁さんだったの?」 「う、うっさいわね!そうよ!悪い!?」 「ううん。全然」 やってしまったという顔になって頬を赤らめるティアの姿に、いつの間にか笑顔にさせられていた。 救助活動を終えてからようやく笑えた気がする。本当にありがとう、ティア。 (*) 「そう言えばね、伝令やっている間に分かったことなんだけど、アルト先輩、やっぱり見つからなかったんですって」 あれからすぐ打ち明けられた真実に、スバルは思ったより冷静でいられた。 「そっか・・・・・・結局、あの時の恩返しできなくなっちゃったか」 「―――――意外ね、あんまり驚かないの?あんな殺しても死にそうになかった人なのに」 「まぁね。今回痛いぐらいわかったけど、人間って簡単に死んじゃうんだよ。「奇跡の生還」なんてのはアニメやドラマみたいなもんだけ。大抵はよほど準備してた結果であって、奇跡なんかじゃないよ」 「なんだ、醒めてんのね。弄りようがない」 ティアの肩をすくめる様子に一気に頭が過熱する。 (まさか死んだアルト先輩をダシにしようと?いくらなんでもそれは!!) 「ティア、いくらなんでもそれは酷いと思う。アルト先輩はそんな悪い人じゃなかったし、私達、何度も助けてもらって―――――」 言い終わらないうちにティアの右手が優しく左頬に添えられる。しかし肌に感じたのは相棒のぬくもりではなく、冷たい金属的な何か。 「ごめんなさい。そういう意味で言った訳じゃないの」 気付いてみればティアの顔には、自分に付けたのと同じであろう耳に掛ける方式のインカムがあった。 「ティア、これ・・・・・・?」 「JTIDSの端末機よ。陸士部隊の備品から貰ってきたの。これがないと、電磁波通信できない今の状態じゃ私達の座標を掴めないからね」 「??・・・・・・それって?」 どうも状況を上手く理解できない自分がもどかしい。頭を冷やさないと・・・・・・ 「まぁ、ちょっと待ってなさい。―――――はい、私です。―――――はい、もう見つけました。JTIDSの端末をつけさせたので、座標はえっと・・・・・・JMG00658の端末で固定してください。―――――はい、それでは転送2名、お願いします」 そうしてティアは、私の耳に掛けたインカムの番号を再確認しながらインカムの通話ボタンから手を離すと、面白そうに言う。 「スバル、じっとしてなさいよ。じゃないと〝何か置いてきちゃう〟かもしれないから」 「へ?」 (ただの転送魔法にどんな危険があるの?) 回転が遅い頭で疑問に思ったが、すぐに理由を知ることとなった。 突然体を包むように展開される円筒状のシールド。それに反応する間もなく、自らの体が青い粒子となって分解していく。 (え、えぇ!?) もはや喋る口もない。数瞬後には視界と意識は閉ざされていた。 (*) スバルとティアナ〝だった〟光の粒子達はシールドの内部で徐々に不可視の波へと変換され、シールド展開から1.5秒後、この世界から消滅した。 2人がいた場所は何事もなかったかのように、静けさに包まれていた。 (*) あれからどれぐらい時がたったのだろう? スバルは気づくと、光の粒子になった体は再生され、しっかり光るパネルの上に立っていた。 (パネルの上!?) 周りを見回す。そこは辺りが見渡せる開放的な小学校の屋上ではなく、無骨な隔壁が覆う、少なくとも室内だった。 「どうやらちゃんと揃ってるみたいね」 ティアナが後ろから肩を叩いて言う。 「え、ティア、これは─────」 「見ての通り〝転送機〟よ」 狼狽する自分を見て面白がるティアナは、足元の床と天井に付く丸い小さなパネルを指差して言った。 ただの転送魔法ならスバルはこれほど狼狽しなかっただろう。転送魔法は科学的には空間歪曲による〝空間の置き換え〟がその原理であり、最初から最後まで意識と実体を保ったまま転送座標の空間と自分の空間が置き換えられる。そのためほとんど自覚することなく転送は終始する。 エレベーターを想像してもらえばわかりやすいだろう。我々は階数を映すディスプレイと重力加速度の変化によって移動を自覚するが、それらが全くない場合、完全に自覚することなく移動を果たすだろう。つまり、エレベーターの高さ(Z軸)移動だけでなく、平面(X,Y軸)移動を可能にしたものが転送魔法だ。 しかしこの「転送機」は第6管理外世界が発案、製作したものだ。彼らは魔法が使えないため、まったく別の方法を編み出した。それにはフォールド技術である次元航行技術が用いられた。 転送シークエンスとしてまず、気流による物質欠損をなくすため円筒状の気密シールドを展開。次に分子レベルにまで転送物を分解する。そして構成情報をフォールド波に変換し、それを再物質化点に送る。再物質化時にはフォールド波の次元干渉する特性を使って、無から元素を生み出し再構成するという方法を採っている。 つまり転送魔法のように実体が行き来するのではなく、構成情報が行き来するためエネルギー量は圧倒的に少なくてすむ。 これは当に革新的な技術であった。 この技術があったからこそ第6管理外世界の住民、ブリリアントは恒星間戦争を有利に戦えたと言えよう。 しかし管理局では特定の次元航行船しか採用していない。なぜなら魔法が使える彼らには、どこでもある程度手軽に使える転送魔法の方が使い勝手がよかったためだ。 この転送機の真価は3つ。1つは情報の行き来のため転送可能距離が次元空間を介してさえ数千キロ単位であること、2つ目は魔法でないためAMF下にも対応できること、そして最後に、最大一括転送可能人数が20人を誇るため、部隊の高速展開ができることと言えよう。 「それで、ここはどこなの?」 その質問に答えたのはティアではなかった。 「L級巡察艦の56番艦、『アースラ』や」 「や、八神部隊長!?」 部屋の外から突然現れた上官に、ティアとともにあわてて敬礼した。 「うん、なおれ」 はやての許可に腕を降ろした。するとティアは物珍しそうに周りを見渡す。 「しかしL級巡察艦なんてまだ運用されていたんですね」 自分が知る限り、L級巡察艦は40年以上前に設計された次元航行船だ。 当時警察としての側面が強かった次元パトロール部隊(時空管理局・本局の前身)は、乗員が20人程のパトロール挺しか配備していなかった。しかしロストロギアを狙う次元海賊の勢力は強大になっていき、人数も艦自体に武装がない事も問題になってきた。 そんな背景から作られたL級巡察艦は、150メートルを越える当時としては大船だった。この艦は初めて常時2個小隊(50人)の武装隊と乗員を1年間無補給で養える空間が設けられており、当時輸送船に任していた武装隊の輸送と展開を円滑に行えるようになった。 そのため当時初めて採用された転送機と相俟って〝事実上の強襲揚陸艦〟と呼ばれ、海賊達の恐怖を誘った。 またこの艦には様々な魔導兵器が搭載されている。特に有名なのは『アルカンシェル』と呼ばれる魔導砲だ。この殲滅兵器は現在も管理局で最も高い威力を誇り、最新鋭のXV級戦艦でもこの砲は踏襲されている。 また、このL級巡察艦は全部で56隻が造られたが、ロストロギアに侵食・汚染されて自沈処理された1隻以外は対外攻撃によって撃沈された事はなく、生存性の高さは折り紙付きだった。 確か20年前より老朽化から、順次退役していったはずだった。 「違うんよ。本当ならアースラは、1カ月前に廃艦になる予定だったんや」 「じゃあどうして?」 この問いにはやては微笑むと、 「その辺の事は食堂に行ってから話そうか」 と告げ、廊下を歩いていった。 (*) はやてに連れられ来た食堂は、艦内とは思えぬほど広い空間に作られていた。 すでに席には、どんな理由か知らないが、今回の救助活動に前半しか参加していなかったなのはを初めとする隊長、副隊長陣にヴァイスや〝ふくれている〟ランカ、そして〝早乙女アルト〟がいた。 「アルト先輩!?」 「・・・・・・いよぅ」 どうやらすでに、ここにいる者の誰かから〝手厚い歓迎〟を受けたらしい。彼の左頬には真っ赤になった平手打ちの後があった。 「大丈夫ですか?」 「ああ、撃墜寸前にはやてに転送されたんだ。それで『死後の世界って案外に俗っぽい所だったんだ』って無駄に感心したりして─────」 「いえいえ、そうじゃなくて、〝ここ〟の事です。」 自分の左頬を指差す。 アルトは左頬を抑えて押し黙ると、ふくれている緑の髪した少女を見る。しかし彼女は 「アルトくんなんか、大っキライ!」 とそっぽを向いてしまった。 (*) 幾何学模様に変化する空。 次元空間内に設けられた巨大な空間には、中規模の次元航行船用停泊ドックが浮いていた。 以前は本局の前身である次元パトロール部隊が母港としていたが、組織の格上げと船体の大型化に伴い、20年前から管理局は使っていなかった。 今では第1管理世界に2番目に近い大型次元航行船の受け入れ港(1番目はミッドチルダ国際空港)のため民間船の多く停泊するこの港には、久しぶりに管理局の艦船が入って来ていた。 胴体に2本の腕を着けたような意匠のこの艦は、20年前まで造船されていたL級巡察艦という型だ。1番艦からの運用期間が40年以上という非常に息の長いこの型は、ここにある改修用ドックで運用できる170メートルにギリギリ収まっており、往年は軽快艦として活躍した。 そして今、このドックに停泊しているのは、この型の最後の船、56番艦『アースラ』だった。 (*) 「・・・・・・それで、なんでここに集めたんだ?」 アルトが少し不機嫌に、はやてに問う。 スバル達が来てからも、まだフロンティア基地航空隊のヴィラン二佐やミシェルなどの上級士官が、このアースラの食堂に集められていた。 アルトとしては戦死騒ぎで、来る人来る人の悪い意味での〝手厚い歓迎〟に辟易していた。 「うん、まずはレジアス中将の話を聞いてくれるか?」 はやてはそう告げると席に着いた。 レジアスは食堂に併設されている小さな舞台に上がるとスピーチを始める。 「あー、諸君。こんな大変な時になぜ突然、こんな所に呼び出されたか疑問に思っていると思う。だがそれだけ重要なことであると考えてくれ」 レジアスは公聴者達を見渡すと続ける。 「知っての通り、我が地上部隊はミッドチルダを守護するために設立された組織だ。しかし最近の情勢は良くなく、六課と、フロンティア基地航空隊のおかげで地上の治安は維持されている。だが諸君、あと〝たった半年〟で双璧の1つである六課は解体されてしまうのだ!残念ながら地上部隊には、今まで通り、現在の戦力をクラナガンに〝釘付け〟にし、維持させることはできない」 現在六課戦力はクラナガンに釘付けになっているが、他の方面部隊も強力な戦力である彼女らを必要としており、一点集中には限界であった。 「そこで、我々地上部隊は半年後をめどに、地上部隊の保有する六課戦力を合わせ、〝本艦〟をベースに特別部隊を編成する!」 レジアスの宣言に動揺が走る。これまで地上部隊は艦艇を採用したことはなかった。しかし問題はそれだけにとどまらない。六課と合わせる特別戦力。ここにフロンティア航空基地の面々がそろっているといことは───── 「特別戦力にはバルキリー隊を使う。そのためアースラは今から1カ月の改修をもって、バルキリー隊の〝移動航空母艦〟として運用する!」 ─────もはや誰も止められないところまで事態は進行していた。 (*) 「しかし、よくこんなお誂え向きの船を見つけられたな・・・・・・」 アルトの呟きに、隣りに座るランカが耳打ちする。 「この船はね、出張中私の艦隊の旗艦だったの」 かいつまむとこういうことらしい。 第6管理外世界へのランカの貸し出しを決定した本局は、ランカ座乗艦はいざ危険になった時に、安全に戦線離脱できる次元航行船がよいと考えた。しかし大型フォールドスピーカーやフォールドアンプ、ステージの設置などを行うサウンド仕様への新鋭艦の改装は元に戻す時に困難を極めるため、解体寸前のこの艦に白羽の矢がたったのだ。 そうして何事もなく戦争が終結し、最後にランカをミッドチルダまで輸送する任務を達成した後、このドックで解体される予定だった。しかしレジアスがランカを招待した会食の折りに、彼女が 「古くなったからって、解体されてしまうのはやっぱり寂しいですね。機関長さんが『まだ十分動けるんだ!』って座り込みをやってました」 という話題を提供したという。するとレジアスは食い付き、本局からアースラに残りたいという乗員込みで破格の値段で買い落とし、今に至るという。 (なんて大胆な男なんだ・・・・・・) アルトはある意味感心した。 彼が視線を舞台に戻すと、今度は技術士官が改装の概要を説明しているところだった。 「─────アースラにはディストーション・シールド(次元歪曲場)、サウンドシステム、航法システムなどがすでに完備されており、この辺りの改装は行いません。主な改装部はバルキリー用の格納庫の増設で、現在10~14機程度の運用を想定しています。また既存の対空魔力レーザーCIWSに加え、自己完結のブロック型ミサイルランチャーを─────」 そんな中、ミシェルが話しかけてきた。 「おまえ、これからどうする?俺としてはおまえには3期生の教導に回ってほしいと思ってる。そうすりゃあのヒヨコどもでも2~3週間ぐらいで─────」 ミシェルはそこまで言ってアルトの放った鋭い眼光に、言葉を発せなくなった。 「・・・いや、ミシェル。俺は前線を退くつもりはない。確か格納庫には予備の〝ワルQ(きゅー)〟(この世界でのVF-1の愛称)があったはずだ。あれを貰う」 アルトの視線が、隣に座る少女に注がれる。 彼女は壇上で、復活に涙するアースラ機関長の話に夢中らしい。まったく気づかない。 「俺はコイツを─────ランカを守ってやらなきゃいけないんだ。今日の事でよくわかった。俺はできる範囲でもいいからコイツを他人任せにしたくない。この手で守ってやりたいんだ。も─────」 〝もちろん、なのはやさくら達だって同じだ。〟と言おうとしたアルトだが、ミシェルの手が肩に置かれ、言えなかった。ミシェルはかつてないほどの笑顔を作る。 「そうか、やっとお前も〝心を決めた〟ようだな。あのプレイボーイが、うん、うん」 なんだかわからないが、ミシェルはしきり感心する。アルトにとっては、ただ自らの手で大切な人〝達 〟を守る事を、新ためて決意しただけなのに。しかしミシェルは、両方が勘違いしていることに気づかないうちに話を続けた。 「よし、お前の一世一代の決断に俺は乗ったぞ。今日、基地に帰ったらすぐ、技研の田所所長に連絡を入れろ。『例の計画の件で、ミシェルから推薦されました』って」 「そうするとどうなるんだ?」 「まぁ、見てからのお楽しみだ。とりあえず、(ランカちゃんを)しっかり守ってやれよ」 「なに言ってるんだ。当たり前だろ。(みんなを守っていくなんて)」 色恋に関して天然バカの早乙女アルトと、勘違いしてしまったミシェル。まったくもってお似合いの相棒だった。 (*) その後、今後の計画についていろいろと話し合われ、地上時間2200時をもって終了。 各自部隊へと帰還していった。 (*) 2314時 聖王教会中央病院 そこにはなのはとランカの姿があった。 2人の目的の1つは突然幼生化したアイくんの精密検査。そしてもう1つは保護された少女に関するものだった。 この時間の病院は消灯後であり、通常静かなもののはずだ。しかし三浦半島の市街地で出た重篤患者がここに集められて治療が行われていたため、今も忙しく人が行き交っていた。 「こんなに怪我人が出たんだ・・・・・・」 ランカは病院のロビーで全身に包帯を巻かれた人や、虚ろな目でベンチに寝かされながら点滴を打たれている人、etc、etc・・・・・・を見て呟く。 皆顔は暗く、項垂れていた。 「ランカちゃんがいなかったらもっと被害が出てた。だからランカちゃんのせいじゃないよ」 だがなのはのフォローもあまり効果ない。 確かにアルトが生きていたことは言葉に表せないほど嬉しかった。しかし今回の事件で200人以上の死者が出たことには変わりなかった。 ランカは俯こうとして自らの抱く緑の物体と目が合った。 それは愛らしく 「キュー?」 と鳴く。 「アイくん、励ましてくれるの?」 「キューッ」 アイくんは喜色をあらわに、肩に飛び乗ると、頬をすりつけた。 「にゃはは、かわいいね」 なのははアイくんだけではない。そんな緑色の1人と1匹を見てそう言った。 (*) アイくんは精密検査では異常は何も発見されず、ランカの持つバジュラの幼生に関する科学的データと比べても同じだった。唯一わかっているのは、縮んだのは元素分解による質量欠損であること。これは体表面にエネルギー転換装甲を物質操作魔法した時と同様の特殊な反応があったためだ。しかし『魔法を介さない元素操作は不可能』なはずだが、ランカには物質操作魔法の素養もなく、デバイスもシャーリーによると対応していないそうだった。 謎を呼ぶアイくんだが、〝動く生物(質量)兵器〟が無害化したのと同意のため、周囲は無条件で受け入れていた。 (*) 清潔な白一色の部屋。 俗に病室と呼ばれるその場所は、通常ベッド数が4の広い病室だったが、今ベッドは中央に1つしかなかった。 そしてそのベッドにも、不釣り合いなほど小さな女の子が1人、眠っているだけだった。 その部屋の唯一の扉が開かれ、2人の人影が部屋に入る。しかしそれでも少女は目を覚ます様子はなかった。 「・・・この子がそう?」 ランカはなのはの問いに頷くと、アイくんを伴って少女をのぞき込む。 医師によれば衰弱の度合いは低く、今日、明日にでも意識を回復するという。 まだ精密検査は行われていないが、この子が通常とは違う人の手によって作られたという可能性が第108陸士部隊のギンガ・ナカジマ陸曹からもたらされていた。現場から1キロ離れていないところで輸送業者の事故があり、そこで密輸されていた生体ポットの主が、あの少女だと言うのだ。 ギンガはベルカのボストンで唯一生体ポットと関係のある「メディカル・プライム」が〝何らかの事情〟を知っていると見て調査しようとしたが、それはなのはによって止められていた。なのはにはメディカル・プライムとの独自のパイプがあり、「公式の調査で相手を硬化させるより、そこから聞いたほうがよい」との判断であった。 まだ向こうとは通信していないが、なのは自身は〝恩人〟であるあの企業を疑いたくなく、少女が人造であるとはっきりするまでは聞かないつもりだった。 閑話休題。 アイくんは寝ている少女が心配なのか「キューッ」と鳴きながら張りついた。 そんなアイくんのぬくもりを感じたのだろうか?少女が口を開いた。 「ママ・・・」 だが意識が戻ったわけではなく、目を閉じたまま手が宙をさまよっている。なのははそんな少女の手を握り、 「大丈夫、ここにいるよ」 と呼び掛ける。 すると少女の腕の力は抜け、また眠りの底に沈んでいった。しかしその少女の顔は、なのは達が入ってくる前よりいくぶんか微笑んで見えた。 ―――――――――― 次回予告 VF-25という翼を失ったアルト しかしそれは新たに手にする力への序章に過ぎなかった! 次回マクロスなのは第31話「聖剣」 その翼、約束された勝利の剣につき――――― ―――――――――― シレンヤ氏 31話
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第3話「決意の変身」 「……」 結界に覆われ、力を持たぬ者を拒む死都と化した海鳴市。 その一角に、漆黒の帽子とコートにその身を包む、一人の男がいた。 男はビルの一室より、全てを見つめていた。 なのはとヴィータの戦闘を、フェイトやユーノ達の介入を。 そして……この世界の住人に在らざる、光の一族の姿を。 「……ヒビノミライ。 いや……ウルトラマンメビウス……」 「民間人への魔法攻撃……軽犯罪ではすまない罪だ……!!」 バルディッシュの矛先をヴィータへと向け、フェイトは彼女に問う。 何が目的で、こんな真似をしでかしたのか。 どうして、なのはが狙われなくてはならないのか。 様々な思いが、彼女の中で交錯していたが……断言できる事は一つ。 なのはは、深い闇の中から自分を救い出してくれた……彼女がなければ、今の自分はない。 だから……今度は自分の番。 絶対に、なのはをこの手で守ってみせる。 「あんだ、テメェ等は……管理局の魔道師か?」 「時空管理局嘱託魔道師……フェイト=テスタロッサ……!!」 フェイトが構えを取る。 いつでもヴィータに斬りかかれる様に、完全な攻撃態勢。 それに合わせ、ミライもメビウスブレスに右手を添える。 二人とも、ヴィータが下手な動きを見せたならば、即座に攻撃を加えるつもりであった。 瞬時に攻撃を放てる状態を保ち、フェイトはヴィータに交渉を持ちかける。 「抵抗しなければ、弁護の機会が君にはある。 同意するなら、武装を解除して……」 「誰がするかよ!!」 ヴィータは強く床を蹴り、勢いよくビルの外へと飛び出していった。 交渉に応じる気は、彼女には全くない。 そんな強い意思表示をするかの如き行動であった。 こういう反応が返ってくるのは、フェイト達には十分読めてはいた。 ならば、こちらもそれ相応の行動を取らせてもらうまでである。 「ユーノ、なのはをお願い……!!」 「うん、分かった。」 「フェイトちゃん、僕も行くよ。」 「お願いします、ミライさん。」 フェイトはユーノになのはを託し、ヴィータを追った。 ミライも彼女を援護すべく、階段へと走りビルの屋上に駆け上る。 ここでようやく、なのははミライの方へと目を向けた。 フェイトやユーノと違い、見知らぬ始めて出会う人。 あの人は一体、誰なんだろうか。 まだぼんやりとしている意識の中で、なのははその背中を見つめていた。 そんな彼女へと、ユーノはすぐに回復呪文を発動させる。 「ユーノ君……」 「うん……フェイトの裁判が終わって、皆でなのはに連絡しようとしたんだ。 そうしたら、通信は繋がらないし、確認してみたら広域結界が出来てるし…… だから、慌てて僕達が来たんだよ。」 「そっか……ごめんね……ありがとう。」 「あれは誰? なんでなのはを……」 「分からない……急に襲ってきたから……」 「そう……でも、もう大丈夫。 フェイトもアルフもいるし、それにミライさんだって……」 「ミライさん……ミライさんって、さっきの人……?」 「うん、僕達もさっき知り合ったばかりだけど……僕達の味方だよ。」 「バルディッシュ!!」 『Arc Saber』 海鳴市上空。 外へと出たフェイトは、ヴィータ目掛けてバルディッシュを大きく振り下ろした。 それに伴い光り輝く刃が放たれ、ヴィータに襲い掛かる。 だが、ヴィータもそれに合わせて攻撃を仕掛けてきた。 「グラーフアイゼン!!」 『Schwalbefliegen』 四つの小さな鉄球を出現させ、グラーフアイゼンで打ち放つ。 鉄球と刃が交差し、互いの敵目掛けて迫る。 ヴィータはとっさに障壁を発動させることにより、アークセイバーを防ぐ。 一方のフェイトは、持ち前のスピードで鉄球を交わそうとする。 しかし……鉄球は、フェイトの後ろからピッタリと着けてきていた。 何とかホーミングから逃れようと、フェイトは更にスピードを上げる。 すると、その時……突如として数発の光弾が飛来し、鉄球を全て打ち落とした。 ビルの屋上から、ミライが援護を仕掛けてきたのだ。 それを見て、ヴィータは軽く舌打ちをするが……この直後。 凄まじい勢いで、下から何かが迫ってきている事に、彼女は気づいた。 「バリアァァァ……ブレイクゥゥゥゥッ!!」 「!?」 下から迫ってきた、犬の耳と尻尾を持つ女性――アルフの拳が、ヴィータの防壁に叩きつけられる。 防壁が、音を立てて崩れ落ちる。 すぐさまヴィータは、アルフへと反撃に移った。 すかさず防壁を展開した彼女へと、グラーフアイゼンを勢いよく振り下ろす。 防壁越しにも伝わってくる、強烈な衝撃。 アルフは踏ん張りきれず、地上へと落下していった。 「きゃああぁぁっ!!?」 「……っ!!」 『Pferde』 アルフに鉄槌を下して間も無く、ヴィータはすぐに術を発動させる。 彼女の両足に光が集い、その機動性を増加させる。 フェイトが、既にかなりの至近距離まで迫ってきていたのだ。 間一髪、ヴィータは素早い動きでフェイトの一撃を回避する。 だが……それで終わりではなかった。 「今だ!!」 「何!?」 ヴィータ目掛けて、一発の光弾が放たれた。 ミライが先を読み、仕掛けてきたのだ。 ヴィータの肩に、まともに光弾が直撃する。 威力は然程ではないが、それでも耐え切るには少々無理のある一撃であった。 体勢を崩し、よろけるヴィータ。 すぐに体勢を立て直そうとするも……それよりも早く、アルフのバインドが発動した。 ヴィータは空中で拘束され、身動きを取れなくなってしまう。 「しまった……!!」 「終わりだね……名前と出身世界。 目的を教えてもらうよ。」 「くぅっ……!!」 バルディッシュの矛先を向け、フェイトはヴィータに問う。 アルフのバインドは、そう簡単に打ち消せる代物ではない。 後は、ヴィータが素直に話してくれれはそれで良し。 話してくれなくとも、その時は管理局まで連行するだけの話である。 勝利はほぼ確定したようなものであった。 しかし……アルフがここで、異変に気づいた。 直感的に、強い力がこの場に近づきつつあると、そう感じたのだ。 「っ!! 何か……やばいよ、フェイト!!」 「危ない!!」 「!?」 ミライが二人に向かい叫んだのと、ほぼ同時だった。 フェイトとアルフの前に、長剣を携えた一人の女性が現れた。 騎士をイメージさせるバリアジャケットに身を包む、ピンク色の髪の女性――シグナムは、いきなり仕掛けてきた。 その手の長剣――レヴァンティンを、フェイトへと向けて振り下ろしてきたのだ。 とっさにフェイトは、バルディッシュでその一撃を受け止めるが……相手の力の方が強かった。 「くぅっ!?」 押し負け、フェイトは数メートル後方に下がらせられる。 アルフはとっさに彼女を助けようとするが、その瞬間であった。 大柄な、アルフ同様の耳と尻尾を持つ男――ザフィーラが、アルフへと飛び蹴りを叩き込んできた。 アルフはその一撃を、とっさにガードするも……力が半端ではなく強い。 彼女もまたフェイト同様に、大きく吹っ飛ばされるハメになってしまった。 「フェイトちゃん、アルフさん!!」 「シグナム、ザフィーラ……」 「レヴァンティン、カートリッジロード……!!」 『Explosion』 レヴァンティンの刀身がスライドされ、薬莢が排出される。 それと同時に、レヴァンティン全体を爆発的な魔力が包み込んだ。 繰り出されるは、シグナムの奥義。 敵対する全てのものを切り裂く、必殺の剣撃……!! 「紫電……一閃っ!!」 剣は、フェイトへと真っ直ぐに振り下ろされた。 とっさにフェイトは、バルディッシュで防御をしようとする……が。 その威力は、あまりに強すぎた。 バルディッシュが……真っ二つに切り裂かれたのだ。 そしてシグナムは、二撃目に移る。 再びレヴァンティンを振り上げ……そして、振り下ろした。 『Defensor』 とっさにバルディッシュが、防壁を展開させた。 だが……それでも、その威力は絶大。 フェイトは凄まじい勢いで落下し、地上のビルへと叩きつけられた。 そのまま、床を突き破り下の階にまで到達する。 「フェイトォッ!!」 アルフはすぐにフェイトを助けに行こうとする。 だが、対するザフィーラがそれを許さない。 彼女の前に立ち塞がり、行く手を遮る。 何とかして、助け出さなければならない。 アルフが動けない今、それが出来るのはただ一人……ミライだけであった。 傷ついているなのはは勿論、その治療に当たっているユーノにも、彼女の救出は難しい。 すぐにミライは、フェイトが落下したビルに向かおうとする。 「アルフさん、僕が行きます!!」 「ミライ……ごめん、フェイトの事お願い!!」 「どうした、ヴィータ……油断でもしたか?」 「うっせーよ、こっから逆転するところだったんだ。」 「そうか……それはすまん。」 シグナムは、拘束されたヴィータの救出を行っていた。 ヴィータ一人の力ではバインドを解けないとみるや、己の術で解除にかかる。 結果、バインドはあっけなく消滅した。 拘束が解かれ、ヴィータが自由の身となる。 「だが、あまり無茶はするな。 お前が傷つけば、我等が主が心配する。」 「わかってるよ……もう。」 「それから……落し物だ。」 「あ……」 「破損は、直しておいたぞ。」 ヴィータの頭に、赤色の帽子をかぶせた。 先程、なのはとの戦いで彼女が落としたものであった。 シグナムが破損を修復した御蔭で、傷一つなく新品同然。 ヴィータは素直に感謝の意を、彼女に伝える。 「ありがと……シグナム。」 「ふっ……状況は四対三。 数の上では此方が劣ってはいるが……」 「一人は、大した戦闘能力はねぇ。 実質三対三だ……そいつは、あたしが引き受ける。 色々と邪魔してくれやがったからな……!!」 「分かった、そいつは任せよう。 一対一なら、我々ベルカの騎士に……!!」 「負けはねぇ!!」 ヴィータとシグナムが、勢いよく飛び出す。 シグナムは、フェイトが落ちたビルへと。 そしてヴィータは、フェイトの救出に向かおうとしていたミライの元へと。 なのはと共に様子を見ていたユーノは、それにいち早く気づいた。 このままじゃ、皆が危ない。 ミライがヴィータに抑えられるであろう今、フェイトを助けにいけるのは自分だけである。 彼は傍らに立つなのはへと、術を発動させた。 彼女の身が、エメラルド色に輝く結界に包まれる。 「これは……」 「回復と、防御の結界魔法。 なのはは絶対に、ここから出ないでね……!!」 ユーノは飛び立ち、フェイトが落ちたビルへと向かう。 なのははそんな彼の姿を、ただ見ているしかなかった…… 「ぶっ潰れろぉぉっ!!」 「っ!?」 ヴィータは大きく振り被り、グラーフアイゼンを振り下ろしてきた。 ミライはとっさに反応し、両手を前に突き出す。 ∞の形をした、防護壁――メビウスディフェンサークルが展開される。 グラーフアイゼンの一撃は、それによって受け止められた。 しかし、ヴィータにとってこの程度は予想の範囲内だった。 「防壁は流石に使えるか……けど!!」 ならばと、ヴィータは空へと飛び上がる。 ここまで様子を見てきて、分かった事が一つある。 それは、ミライの戦闘力がこの中で最も低いであろうという事だった。 彼はここまで、光弾以外の攻撃を一度も使っていない。 そしてその光弾の威力は、弱くはないが高くもない。 ここから推測できるのは、ミライには必殺の一撃が無いという事。 攻撃を受けても、そう怖くはない相手であるということだった。 更に……攻撃面以外にも、もう一つミライには致命的な欠点が見つかった。 彼は自分達とは違い……空を飛べない。 こうして空から仕掛けていけば、圧倒的有利である。 ヴィータは無数の鉄球を出現させ、その全てを一斉に撃ちはなった。 『Schwalbefliegen』 「こいつで……蜂の巣にしてやる!!」 空から降り注いでくる、魔力弾の嵐。 ミライはすぐさま防壁を展開するも、防ぎきれるレベルの攻撃じゃない。 数発程受け止めた後……防壁に、亀裂が走った。 「駄目だ……このままじゃ……!!」 「うおおおおぉぉぉっ!!」 追い討ちを仕掛けるべく、ヴィータが再び迫った。 グラーフアイゼンを大きく振り上げ、全力で打ち下ろしにかかる。 このままじゃ、確実にやられる。 ミライは、己が敗北するかもしれないと薄々感じ取っていた。 少なくとも……今のまま戦っていたのでは、彼女には絶対に勝てないと。 (やるしかないか……!!) この状況を打開するには、打つ手は一つしかなかった。 人間としての――ヒビノミライとしての姿から、ウルトラマンの姿に変身することである。 しかしそれをすれば、自分の正体を皆に知られてしまう。 メビウスブレスに関しては、時空管理局がウルトラマンメビウスの事を知らないから使う事が出来た。 自分の武器であると、辛うじて隠し通す事が出来るからだ。 だが……変身してしまえば、そうもいかなくなるだろう。 自分がウルトラマンである事を知られたくないのには、ある大きな理由があった。 それは、皆を危険な目に合わせたくないから。 これまで自分の兄達がそうだったように、ウルトラマンは侵略者から狙われやすい立場にある。 そうなると、周囲のものにも危険が及んでしまう。 それ故に、全てのウルトラマン達は己の正体を隠して戦い続けてきた。 そしてその正体がばれた時には、地球を去っていったのだが…… 唯一、メビウスだけは例外だった。 彼は己の正体を明かした上で、尚も地上にとどまった唯一のウルトラマン。 地上に留まる事が出来たのは、自分を信じてくれる大切な仲間がいたから。 彼等と一緒に戦い続ける事を望み、そして彼等もそれを望んでくれたからだった。 しかし、この世界には来たばかり。 正体を明かして、果たして良いものか……そう、考えてしまった。 だが……すぐにミライは、一番大切なことに気づく。 (ここでやらなきゃ……皆が危険な目に合うんだ!! 僕の事を助けてくれた人達を……今度は、僕が助けるんだ!!) 己の使命は、人々を守り抜くこと。 それこそがウルトラマンの役目。 自分を救ってくれた者達を、見捨てる事なんか出来ない。 ミライは意を決し……メビウスブレスのクリスタルに、右手を添えた。 「っ!?」 ヴィータは、直感的に動きを止めた。 何かは分からないが……嫌な予感がする。 ミライの一連の動作から、そう感じ取る事が出来た。 そして、その予感は見事に的中する。 ミライは右手を勢いよくクリスタルから離し、メビウスブレスの力を解放する。 そのまま、左手を大きく天空へと突き上げ……雄叫びを上げた。 「メビウゥゥゥゥスッ!!」 ミライの身が、眩い光に包まれる。 ヴィータはその眩しさから逃れようと、とっさに顔を背ける。 そして、光が晴れた時……そこにミライの姿は無かった。 その代わり……そこには、銀と赤のカラーをした一人の戦士が立っていた。 変身を遂げたミライ――ウルトラマンメビウスが。 その大きさは本来のそれとは違い、ヴィータに合わせた人間サイズだった。 流石に、本来の大きさで挑んではヴィータを殺しかねないと判断した結果である。 「ミライさん……!? バリアジャケットを装着した……いや、これは何かが違う……!!」 「ザフィーラみたいに、別の姿に変身したってのか? けど、守護獣とは感じが全然違うし……何者なんだよ、お前は!?」 「……ウルトラマン。 ウルトラマンメビウスだ!!」 戻る 目次へ 次へ
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魔法少女リリカルなのはVS轟轟戦隊ボウケンジャー クロス元:轟轟戦隊ボウケンジャー ExtraTask 01 異界の来訪者 ExtraTask 02 隠されし術 ExtraTask 03 新たなる冒険者(1)(2) 魔法少女リリカルなのは―MEIOU クロス元:冥王計画ゼオライマー 第一話 冥王、黄昏に降臨す 第一話―B 少年は牢獄に己を失う フェイト外伝――月下光影―― クロス元:忍~Shinobi~ ※完結 第一話 朧月 第二話 嵐 第三話 双雷 最終話 暁光 なのは×錬金 クロス元:武装錬金、からくりサーカス、鋼の錬金術師 シャンバラを往く者 第1話 郷愁/黒死の蝶 第2話 海鳴の途絶える日/Link 第3話 真理の扉/からくり~しろがね 第一幕 開幕ベル 第4話 『光』(前半)(後半) LYRICAL THAN BLACK クロス元:黒の契約者 最終更新:09/12/21 予告編 第一話 彼女の空を星は流れ……(前編)(前編―B) 第二話 彼女の空を星は流れ……(後編)(後編―B) 第三話 新星は夜天の空を焦がし……(前編)(前編-B)(前編-C) 4/20 作者:LTB3話を微修正。次回は5月上旬を目標に。 拍手感想レス :LYRICAL THAN BLACKは設定に違和感がなくて面白いです!! :黒の契約者が面白いです。待ってます。 :塞がれた瞼から 流れ出した涙 :繰り返し蝕まれる 理性と血の欠片 :気づいたんですが、海鳴市って東京にはないんですよ。 :うっわーーw続き読みてぇーっつか、あの黒契をよくくっ付けたなーw最高b コメント欄 感想、ご質問等ございましたらお気軽にお使いください この続きをどれだけ待ち望んでいたか・・・・ -- 名無しさん (2009-12-21 23 33 43) LYRICAL THAN BLACKの続きが見れて、本当にうれしいです! これからも体調に気をつけて頑張ってください! -- 名無しさん (2009-12-22 08 05 36) DARKERきた!これで勝つる!! -- 名無しさん (2009-12-22 21 02 07) なのは×錬金の方もぼちぼちでいいので更新お願いします -- 名無しさん (2009-12-22 23 00 14) 遅かったじゃないか・・・感動してしまったよ -- 名無しさん (2009-12-23 13 22 00) 更新される日を楽しみに待ってました。これからも期待しています。 -- リョウ (2009-12-23 21 03 35) いつか来ると信じていた -- 名無しさん (2009-12-24 09 41 56) 待ち続けていた意味があったなぁ……おもしろいよ! -- 名無しさん (2009-12-24 23 53 40) 待っていたよ。この瞬間を -- 名無しさん (2009-12-27 13 08 45) ジャック・サイモンはまだですかー? -- 名無しさん (2009-12-31 16 58 18) ボウケンジャーのクロス、今更だけど続き気になるw;^^ -- 名無しさん (2010-01-01 11 17 09) 新たなる冒険者っていうのが気になるね? -- ボウケングリーン (2010-01-01 22 51 19) コメントありがとうございます、少々質問等に返信を。中断中の作品が気になる方もいらっしゃるようで、大変申し訳ありません。 恥ずかしながら、上記のどちらも、当時オリジナルの敵(ボウケン)や多重クロスを軽く考えていたのが中断の原因です。 錬金は特に長編になる上、ボウケン完結後と書きましたので、今からでも、しっかり固めてから再開したいと考えております。 ジャック・サイモンは次々回。 -- なのはVSボウケン (2010-01-02 23 34 53) 全く違和感なく読めてびっくりしました!続きをとても楽しみに待ってます!! -- 名無しさん (2010-01-05 00 47 19) ボウケンの続き、いつまでも待ってます! -- 名無しさん (2010-01-05 03 03 45) 個人的に話数の短いLYRICAL THAN BLACKを優先して欲しいですねww -- 名無しさん (2010-01-05 20 28 39) どうでもいい事なんですが、3話読んで気になったんですが、 風邪や花粉症と時差ボケは性質が違うのではないでしょうか?(契約者でもなるのでは?) 最後の黒さんは、警官に本当に聞きに行かれたらやばかった?これは次回で語られるんでしょうか。 -- 名無しさん (2010-01-21 21 43 33) 良かった…(つд`) 作者さんが生きてて… -- 名無しさん (2010-01-28 21 12 19) ハヴォックの話がどうなるか楽しみすぎる -- 名無しさん (2010-01-28 22 46 23) 時差ボケに関しては、今はらしくないミス、とだけ。 黒の発言は、店員がアパート隣室の黒人バボなので、口裏合わせを頼める――と思ってましたが、 改めて確認したらちょっと似てるけど別人でしたorz 何十回と復習したのに勘違いしてたようです。面目ない -- なのはVSボウケン (2010-01-29 00 44 24) DTBの雰囲気が消えずにうまくマッチしていました。続きを楽しみにしています。 警官が店員に聞きに行かれたら、たぶん黒は2人を連れて警官が聞きに行った隙にでも逃げれたのではないでしょうか。 -- 名無しさん (2010-02-01 02 52 12) 名前 コメント TOPページへ このページの先頭へ
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マクロスなのは 第24話『教導』 前半←この前の話 『マクロスなのは』第24話 後半 (*) 10分後 「え~!? ダメだよシャーリー、人の過去勝手にばらしちゃあ!」 六課に帰還してすぐ伝えられた事実に思わずその言葉が口をついて出た。 なんでもティアナ達に教導の意味を教えるために自分の撃墜の話をしてしまったのだと言う。 「ダメだぜ、口の軽い女はよぅ」 バルキリーから降りて何事かと見に来ていたアルトが愚痴る。普段の彼のセリフとは思えなかったが、なぜだが違和感はなかった。 「あの・・・・・・その・・・・・・見てられなくて・・・」 シャーリーは頭を下げるが事態はそんな簡単ではない。自分の撃墜に関わる情報は管理局内では未だに『TOP SECERT(最高機密)』であり、違反すれば問答無用で軍法会議になりかねない。 それも機密に関わることなので完全非公開で行われ、どうなるか全くわからない。 だがなのはは、この中に告発するような者はいない事を知っていた。 なぜならこれが機密である事を知っているのはフェイトとヴィータ、そして自分だけだったからだ。 アルトやさくらも─────いや、教導の卒業者には〝教訓〟として話していたし、完全無欠に無関係な天城君は 「(ドラマの)続きはどうなった!」 と叫んで既に宿舎に飛び込んでいた。 (もう・・・・・・) ため息をつくと、頭を下げて両手を合わす困りものの友人に再び目をやった。 (仕方ない。言うのが少し早くなっちゃっただけかな) 思いなおした彼女はシャーリーからティアナの居場所を聞き出すと、義務付けられている報告を済ましてそこに向かった。 (*) 機動六課敷地内 桟橋 ティアナはこの場所が好きだった。 夜風に吹かれながら明るい月と対称的な暗い海とを眺め、この真夏に涼しげな波音を聞けるこの場所が。 普段は訓練が終了して2,3分ほどゆっくりしていく場所だったが、ここへ来てもう20分。まるで不思議な魔法がかかったようにその場を動けずにいた。 早く強くなりたいと思っていた。だけど、間違ってるって叱られて、隣を走る相棒にも迷惑かけて悲しい思いをさせた。 これらの出来事は彼女を深く落ち込ませた。 (それに、私は結局・・・・・・) (*) 「ティア・・・・・・」 彼女から『独りにして』と言われていたスバルだが、遠く離れた茂みに隠れてエリオ、キャロと共に彼女を見守っていた。 そこに数人の闖入者が現れた。 「アルト先輩?」 スバルの疑問形の呼び掛けに、彼は無声音とジェスチャーで 「よ!」 と挨拶する。その後ろでもさくら、そしてシャーリーが 「こんばんは」 と会釈した。 どうしたのか聞こうとしたスバルだが、ティアナの声が聞こえてきたため中断された。 『なのは・・・・・・さん?』 振り向いたティアナの視線の先を追うと、軽く手を後に組んだなのはの後ろ姿があった。 (*) なのははそのまま自らの隣に座り込み、涼しむように、明るい月が暗い海に沈んでいく幻想的な風景を眺める。 そんな沈黙が10分ほど・・・いや20秒ぐらいの事だったかもしれない。ともかく、その沈黙に堪えられなくなって口を開く。 「・・・あの、シャーリーさんやシグナム副隊長にいろいろ聞きました。」 「〝なのはさん〟の失敗の記録?」 「え・・・・・・」 てっきり「なんの話?」と聞かれると思っていたティアナは少し狼狽する。 「あ、いえ、そうじゃなくて─────」 ティアナは自らの思考力が上手く回っていない事を改めて実感した。なのは達が帰投してからそれなりに時間が経過しているのだから、シャーリーでもシグナムでも聞く機会があったはずだ。 そんな簡単なことすら失念していたことにティアナはすこし可笑しくなった。 「無茶すると危ないんだよって話だよね」 なのはの確認に、ティアナの頭ではさっきの話がフラッシュバックする。 普通の、魔法すら知らなかった9歳の女の子が、魔法をその手にしてすぐに死闘を繰り返した。 少女はその後も自分の信念と守りたいもののために「早く強くなろう」として命懸けの無茶をし続け、遂には撃墜され、瀕死の重傷を負ったという話。 その少女が目の前にいるなのはであると聞かされたティアナの解答は、1つしかなかった。 「すみませんでした・・・・・・」 なのははそんなティアナに頷き1つを返した。 (*) 「じゃあわかってくれたところで聞くけど、ティアナは自分の射撃魔法をどうして信じないの?」 「それは・・・・・・兄を最後の最後で守りきれなかった魔法だから・・・・・・」 ティアナと彼女の兄ディーダ・ランスターの射撃魔法は少し特殊で、通常の半分以下の大きさの魔力球(魔力弾)を使用する。これは誰も使えないから特殊というわけではなく、練る魔力量が少ないため6~8歳の子供が普通の魔力球の練習のために使う。 つまり、リンカーコアがあるものなら誰でもできるという事だ。 しかしほとんどの場合で真っ直ぐにしか飛ばず、誘導性能や機動力など汎用性に優れた通常の魔力球には到底及ばないため使われないのだ。 しかしディーダはこれを究めることによってそれを練習用から実戦レベルにまで引き上げた。 練る魔力量が少ないということはそれだけ早く生成でき、小さいということは空気による減殺が少なくなり、より遠距離に届く。 また、真っ直ぐにしか飛ばないというのは最高クラスの信頼性の象徴であり、なのはの砲撃ですら反動で多少のブレが出る。つまり戦場の原則である『敵より早く、敵より遠くから、敵より正確に狙い撃つことができる』そんな技だった。 事実彼の技術は陸士部隊の目に止まり、装備改編前に負担の大きい魔力砲撃に代わる主力攻撃方法となっていた。 閑話休題 「そっか・・・・・・でも模擬戦でさ、自分で受けてみて気づかなかった?」 なのはの問いかけの意味が分からず首を捻る。 「ティアナの射撃魔法って、ちゃんと使えばあんなに早く撃てて、当たると危な いんだよ」 「あ・・・・・・」 「私は今まで一度もティアナとは撃ち合ったことはないでしょ?だって正面から早打ち勝負したら絶対ティアナの方が早くて正確に当たるから。だから、そんな一番いいところをないがしろにしてほしくなかったんだ。・・・・・・まぁ、でもティアナの考えたこと、間違ってはいないんだよね」 なのはは言うと、隣に置かれていたティアナのデバイス『クロスミラージュ』を手に取る。 「システムリミッター、テストモードリリース。高町なのは一等空尉。承認コード、NCC-1701A」 『OK,release time 60 seconds.(承認。解除時間60秒。)』 解除を見届けたなのははデバイスを起動状態にし、ティアナに渡す。 「命令してみて。〝モード2〟って」 ティアナはそれを受け取ると、おそるおそる指示を出す。 「モード・・・・・・2」 直後銃全体がオレンジ色に瞬いたと思うと 『Set up.dagger mode.』 という復唱と共に変形していく。 フロント・サイト(照星)の付いたマガジンを兼ねるグリップと、ピストルグリップ辺りで折れ・・・いや、折れていた物を引き起こしたというほうが正しい。 ともかく、引き起こされて真っ直ぐになった銃身は、ピストルグリップの下から魔力刃で覆うようにして銃口までつながる。 そして最後に銃口から、自らが作戦時無理やり作った魔力刃より大きなそれが、まるで短剣のように伸びた。 「これ・・・・・・」 自らの相棒の変貌に目を白黒させるティアナになのはは説明する。 「ティアナは執務官志望だもんね。ここを出て、執務官を目指すようになったらどうしても個人戦が多くなるだろうし、将来を考えて用意はしてたんだ」 ティアナは規定の60秒が経ったのか元に戻ったクロスミラージュを握りながら涙する。そんな彼女になのはは続けた。 「クロス(近距離)はもう少ししたら教えようと思ってた。でも出撃は今すぐにでもあるかも知れないでしょう?だからもう使いこなせてる武器と魔法をもっと確実なものにしてあげたかった。だから1つの技術を身につける事が目的のさくらちゃんとは違ってゆっくりやってたんだけど・・・・・・ゆっくりって地味だから、あんまり成果が出てないように感じて、苦しかったんだよね。・・・ごめんね。」 「ごめん・・・・・・なさい・・・・・・こんなに私のために準備してくれてたのに・・・・・・私、なのはさんの期待に応えられなかったみたいで・・・・・・」 「・・・・・・え?どうしてその結論!?」 「だって2発目の砲撃、なのはさん、結構本気で私を落としにかかったじゃないですか!」 「ああ、それは・・・・・・」 なのはにとって触れたくなかった、できれば触れずに行きたかったこの事柄。しかし残念なことにティアナはその事実に気付いていたのだ。 もし彼女が事前に彼と接触せずにこの場面に遭遇してしまっていたら、バレまいと思って彼にしたときとまったく同じ嘘をついて煙に巻こうとしただろう。 (なんてバカだったんだろ・・・・・・私・・・・・・) この分では自分の教える優秀な生徒達の前では、彼にしたような嘘を見破るなど児戯にも等しきものだったようだ。 だからなのははそれを教えてくれ、さらには受け止めてくれた彼に改めて感謝した。 「ごめん!実は・・・・・・あれは私のせいなの!」 なのははすべてを話した。 彼女自身から湧きあがった黒い考え、そしてそれに至った理由を。 ティアナはこの告知を少し驚いた様子だったが静かに聞き入り、最後にはどこか嬉しそうな表情へと変わっていた。 こうなると納得出来ないのはなのはの方だ。自分は最悪の場合ティアナ自身の魔導士生命に終止符すら打ちかねない行為を教官の身の上で行ったのだ。批難される事こそあっても、その様な表情を浮かべられる場面では無いはずだっだ。 「落ち着いてるんだね」 「はい。だって、私の前にそれを怒ってくれた人がいるみたいでしたから」 「それってーーーーー!?」 「私、宿舎の屋上から見たんです。なのはさんとアルト先輩が言い争ってるのを。・・・・・・先輩すごいですよね、あんなに離れてたのにちょくちょく何を言ってるのか聞こえるって」 「・・・・・・」 「その時は断片的過ぎて先輩がどうしてあんなに怒ってたのかよくわからなかったんですけど、やっとわかりました。たぶんですけど、アルト先輩に嘘をついたんですよね?」 ティアナにどこまで聞かれていたかわからない以上、嘘を重ねても仕方ない。なのはは正直に頷く。 「でも、今話してくれた話は本当の方だった。だからちょっとびっくりしましたけど、なのはさんがちゃんと私と向き合ってくれてるってわかったらうれしくって」 その顔にウソはない。その事実になのはは安堵したが、彼女のセリフはまだ終わっていなかった。 「・・・・・・でも、やっぱりちょっと強引だと思います。不発だったからよかったですが、もし撃ってたら私、ここにいられませんでした」 こちらの心情は察してくれたが、さすがにティアナもあの砲撃を無条件に看過することはできなかったようだ。 そこでなのははひそかに温めていたできれば切りたくなかった打開策のカードを使うことにした。 「ごめんね・・・・・・・それで考えたんだけど、ティアナ言ってたよね?さくらちゃんみたいな教導をしてほしいって。もしティアナが望むなら明日からでもできるけど、どうする?でも私は・・・・・・あー、もちろんティアナ達全員をどこに出しても恥ずかしくないエース級のAランク魔導士にしてみせるよ!だけど私ね、あなた達には―――――!」 「いいですよ、このままの教導で」 ティアナは言うと、座り込んでいたポートから立ちあがって清々しそうな表情で大きく伸びをする。 「本当言うと私、なのはさんに煙たがられてる、手を抜かれてるって思ってたんです。でも、全然そんなことなくて・・・・・・。だからもう、そのことはいいんです。それに今の様子だと、この教導には普通とは違う秘密があるみたいですし」 「にははは・・・・・・」 危うく言いそうになったが、立場上はにかみ笑いで応える。しかし内心切り札のカードの無力化に焦っていた。 「(これ以上私がティアナにしてあげられることなんて・・・・・・)」 「そこで私から一つだけお願い、聞いてもらっていいですか?」 「なに・・・・・・かな?」 脳裏を最悪の可能性が過る。 小さきは自らの職権の乱用、果ては犯罪まで。ティアナがそんなこと願うわけないと思ってはいても、彼女の魔導士生命を奪うかもしれなかった対価としてはそれも止むをえぬとも思えてしまっていた。 だからティアナの次の言葉を聞いた時、なのはは心底安心したという。 「もう一度、模擬戦を受けさせてください!」 なのはは自らの生徒の純真さと安心感に万感の思いをもって頷き、それに応えた。地平線の先に見えていた月は軌道の影響で沈まず、新たに登ったもう1つの月とともにクラナガン湾を照らしていた。 (*) スバルには2人の会話は聞こえなかったが、どうやら和解できたようなのでそっと胸を撫で下ろした。 そんな彼女の肩が〝とん〟と叩かれる。振り返るとさくらが〝昨日と同じジェスチャー〟をしていた。 その意味を即座に理解したスバルは頷くと、ここにいたギャラリーと共にその場から撤退した。 (*) なのは達が戻ってきたのは10分後だ。2人はロビーに入るなり驚く。 「よぅ、遅かったじゃねぇか」 婉曲語法で2人を迎えたヴィータの手には数枚のトランプが握られている。 また彼女だけでなく、シグナムやシャーリー、アルト、さくらにフォワードの3人と総勢8人が1つの机を囲んで同じようにトランプを握っていた。 「・・・みんなどうしたの?」 しかしなのはの問いはアルトの宣言でかき消された。 「いざ、革命!」 放られる1枚のジョーカーに3枚のファイブ。しかし上には上・・・・・・いや、下には下がいた。勝ち誇った顔をするアルトの前に4枚のスリーが放られたのだ。 驚愕するアルトに放った主が厳かに告げる。 「勝ちを急ぎすぎたな大富豪よ」 シグナムは微笑を浮かべると8切りして4を投げると1抜けした。 盛者必衰。アルトは一気に都を追われることになった。 悔しげに項垂れるアルトと大富豪に興じる人々。なのはとティアナは石像を続けていると、背後の入り口の扉が開いた。 「お、やっとるやっとる~」 現れたのは何か箱を持ったはやてとフェイトだった。箱には〝ビンゴ抽選機〟とある。 「いったい何事なの?」 なのはのその問いに、はやては笑顔で答える。 「さくらちゃん発案のビンゴ大会や。・・・・・・おーい!みんなこっから1枚とってな」 はやての呼び掛けに大富豪に興じていた人々がわらわら集まって来て、ビンゴカードの束から1枚ずつ引き抜いていく。 「さぁ、ティアナさんもなのはさんもどうぞ」 空気から取り残されていた2人もさくらに招き入れられ、和やかな、そして楽しげな人々の輪の中に入っていった。 (*) そのビンゴ大会はひどく白熱した。賞品として先着3名にゲームに参加した者なら一度だけ言うことを聞かせられる〝王様カード〟なるはやて特製の手作りテレカが手に入るためであろう。 途中ロビーに来た天城が司会進行を申し出たり、ヴィータがビンゴ抽選機(取っ手を回して番号のついたボールを出す機械)を盛大回して誤ってぶちまけるハプニングがあったりと波乱を巻き起こした。 しかし誰の顔からも笑顔は片時も消えず、階級などない学校のレクレーションのように和気あいあいと進行した。 そしていろいろあって何度か振り出しに戻り、3枚目になってしまったビンゴカード。おかげでまだ勝利条件であるトリプルビンゴに到達した者はいなかった。 「─────54番!さぁ、誰かいませんかぁ!」 天城がハイテンションで転がり出た球の番号を読み上げる。それに1人の少女がニヤリと微笑んだ。 「ふ、みんな済まねぇな。トリプルビンゴだぜぇ!」 ヴィータが雄叫びと共にカードを持った右手を突き上げた。 そして天城から王様カードを受け取ると、〝ビシッ〟とアルトを指差した。 アルトは自らの一列も埋まっていないカードを見て覚悟を決める。 そしてヴィータは王様カードをどこぞの長者番組の紋所のように彼にかざすと、高らかに宣言した。 「早乙女アルト!私と明日勝負しろ!」 極めてヴィータらしい命令にアルトはため息をつく。今や彼の方が上官なので拒否権がないことはなかったが、余程と言える断る理由が思いつかなかったようだ。 「仰せのままに・・・・・・」 体の演技こそ王妃に従えるナイトのようであったが、不服そうに答えたという。 (*) その後また振り出しに戻るなど激闘が20分ほど続いてようやく残りの2枚の行き先が決定した。 それはどういう因果かティアナとアルトであったが、2人ともすぐには権利を行使せず、夜も遅かったのでそのまま解散する事になった。 (*) 次の日 スターズ分隊の再模擬戦は、引き分けに終わったライトニング分隊の後に行われた。 2人の機動は訓練通りだが、クロスシフトAからBや、BからAの変更の流れは滑らかで、なのはをずいぶん手こずらせたという。 そして───── (*) スバルの連続攻撃とティアナの間断ない誘導弾の攻撃を受け、白いワルキューレは遂に地上に引きずり下ろされた。 しかし地に足を着いた彼女の砲撃力はそれでも強力であり、高度の優位に立ったスバルでも近づけなかった。 だがそんな彼女の前に虚空からティアナが現れた。 この間合い、シールド展開は間に合わない。まさに一騎打ちの早撃ちの距離だ。 どうやら早撃ちなら勝てるという助言に忠実に従ったらしい。 だが───── (甘い!) なのはは魔法の起動の邪魔になるレイジングハートを右手に持ちかえると、利き手である左手の人差し指をティアナに向ける。 「クロスファイヤー、シュート!」 放たれる小型魔力弾。確かにティアナの射撃魔法は優秀だが、その魔法を模倣できないわけではない。 なのはとの勝負においては単純な魔法の起動時間の勝負ではないのだ。 (惜しかったけど残念だったね) なのはは勝利を確信した。しかしここは地上。つまりティアナのフィールドだった。 魔力弾はティアナを貫通して、そのまま彼女ごと消えた。 「フェイク(幻影)!?」 続いてレイジングハートが右から飛翔してきた魔力弾によって弾かれ、地面に転がった。 「え!?」 そちらを見ると、砲撃用魔法陣を展開したティアナがいた。 そう、何もかも罠だったのだ。 わざと目の前に出現して助言に従った一騎打ちが狙いであるようにアピールして見せたのも、なのはが砲撃を行わずいつもの癖でレイジングハートを持ちかえる(デバイスにプログラムされていない魔法を本体経由で使おうとすると、無駄に処理しようとして発動が少し遅れるため)のも、全てティアナの狙い通りだったのだ。 あたかも助言に従った演技をすることによって、本来レイジングハートによって飛行魔法などの面において優越するがゆえに、選択肢が多いはずのなのはの選択肢を完全に奪い取る老獪な罠。 なのはは急いでレイジングハートに駆け寄るが間に合わない! 結果として右手のビルの2階から放たれたオレンジ色した魔力砲撃が、無防備の彼女を直撃した。 (*) 「やったぁ!」 ティアナがビルから出てくると、彼女を迎えたスバルにハイタッチした。 なのはは晴れていく煙の中から姿を現すと、そんな2人に笑いかけた。 「うん。文句のつけようがないくらいいい戦いぶりだったよ。それに一撃どころか撃墜されちゃうとはね」 教官の面目丸つぶれだよ~と彼女は嬉しそうに苦笑すると、遠くで観戦するライトニングの2人に集合の合図を放った。 (*) 「みんなお疲れ様。今日は午前までで訓練は終わりだけど、定期模擬戦のレポートを書いて今日の18時までに提出してね」 「「はい!」」 4人は今回引き分けか勝ちだったので気分は良さそうだ。いつもの訓練終了時と違って覇気があった。 「あと、解散前に私から渡すものがあります」 『何だろう?』という顔をする4人の前に、昨日渡すはずだった4冊の冊子を取り出した。 「今日は訓練開始から6カ月の節目の月だからね。これまでやってきた訓練の要点とかアドバイスとかをまとめてあります。暇な時でいいから目を通してね」 「「はーい!」」 4人はそれを受け取ると、互いに目配せしながら指示もないのに整列した。 「え?・・・・・・みんなどうしたの?」 ティアナが代表するように応える。 「実は私達、昨日話し合って、なのはさんに伝えたいと思ってた事があるんです」 なのはからすると全く意表をついたものであり、何を言われるか少し心配したが、先を促す。 すると4人は声を揃えて合唱した。 「「半年間ありがとうございました。これからもよろしくお願いします!」」 それはまるで小学生のようなお礼の言葉だったが、心がこもっているためノー・プロブレム。 なのはは最上級の笑顔で 「こちらこそ」 と応えた。 この時、なのはは照れ笑いする自らの教え子達を見て誓ったという。 『この子たちは絶対私の手でどんな状況でもあきらめずに打破できるような一流のストライカーにして見せる。他の生徒のように短期ではできなかったけど、この子たちなら絶対大丈夫。だから何があっても、誰が来ても、この子達は落とさせない。私の目が届く間はもちろん、いつか一人で、それぞれの空を飛ぶようになっても』と。 (*) さて、昼頃から始まったアルトvsヴィータの模擬戦だが、一進一退の攻防をみせた。 そのため我慢出来なくなったさくらとフェイトが、続いて天城とシグナムが参戦する大演習となった。 勝敗についてはまた機会があれば記述したいと思う。 その2週間後、サジタリウス小隊の出張任務は解かれ、別れを惜しみつつフロンティア航空基地に帰投した。 ―――――――――― 次回予告 アルト達が第一管理世界に来てからここまでで半年が経っていた こんなにも長い間、第25未確認世界は指をくわえて一体なにをやっていたのか!? 次回マクロスなのは第25話「先遣隊」 想い人を奪われた少女の思いが炸裂する―――――! ―――――――――― シレンヤ氏
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第9話「仮面の男」 「タリャアアァァァァッ!!」 「グゥ……ッ!!」 M78星雲、光の国。 その訓練場において、二人の赤い巨人が対峙していた。 真紅の若獅子ウルトラマンレオと、その師ウルトラセブン。 レオはセブン目掛けて勢いよく拳を繰り出すが、セブンはそれをタイミングよくガード。 そのまま、セブンは拳を打ち上げてレオの腕を大きく払った。 「ジュアァッ!!」 「イリャァァッ!!」 そのまま、がら空きになったレオの胴目掛けてセブンが蹴りを繰り出す。 だが、レオは素早く膝と肘を動かし、その一撃を受け止めた。 攻防一体の技術、蹴り足挟み殺し。 セブンの足に激痛が走る……しかしセブンは、ここで引かなかった。 強引に足を捻って技から脱出し、そのままレオの喉求目掛けラリアットをかましにいったのだ。 しかし、レオは大きく体を反らしてこの一撃を回避。 そのままオーバーヘッドキックの要領で、セブンの肩に一撃を入れた。 「ジュアッ!?」 とっさにセブンは、後ろに振り返りレオに仕掛けようとする。 だが、振り向いた時には……レオの拳が、セブンの目の前にあった。 勝負はついた……レオは拳を下ろす。 セブンは首を横に振り、溜息をついた。 「参った……やっぱり格闘戦になると、お前の方がもう俺より上だな。」 「ありがとうございます、隊長。 でも、途中で俺も危ないところがあったし……」 「おいおい……隊長はもうやめろと言っただろう?」 「あ……はい、セブン兄さん。」 一切の光線技や超能力を使わない、格闘戦のみによる組み手。 勝負は、レオの勝利に終わった。 こと格闘戦において、今やレオは、光の国でも最強レベルの戦士の一人になる。 しかしそれも、全てはセブンがいたからこそである。 レオはかつて地球防衛の任務に就いた際、セブンから戦う術を教わったのだ。 当時のレオは、光線技を殆ど使えなかった為に、格闘技術をとことん磨かされていた。 時には、「死ぬのではないか」と言いたくなる程の、とてつもなく辛い特訓もあった。 だがそれも……地球防衛の為に、やむを得ずのことであった。 セブンはその時、ある怪獣との戦いが原因で、戦う力を失ってしまっていたのだ。 その為、まだ未熟であったレオを一人前にする事で地球を守ろうと、あえて心を鬼にして接していたのである。 そしてその末、今やウルトラ兄弟の一人となるほどにまで、レオは成長を遂げたのだ。 ちなみにレオがセブンの事を隊長と呼ぶのは、その時の名残である。 「でも、光線技やアイスラッガーを使われたら、どうなっていたか……」 「はは……じゃあ、今日はこれまでだな。 後少ししたら、交代の時間だ……それまで体を休めておけ」 「はい。」 光の国では今、二人一組によるメビウスの捜索が行われていた。 もうしばらくしたら、セブンとレオは前の組との交代時間である。 それまで体を休めるべく、二人は一息つこうとした。 だが……そんな時だった。 訓練場の上空へと、文字―――ウルトラサインが出現したのだ。 「ウルトラサイン……ゾフィー兄さんからのメッセージだ!!」 「『メビウスかららしきウルトラサインを、見つけることが出来た』……!!」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「ちょ、やめろ!! アリア、何とかしてくれ~!!」 時空管理局本局。 クロノとエイミィは、ユーノを連れてある人物の元を訪れていた。 クロノに魔術の基礎を叩き込んだ師匠、リーゼ=ロッテとリーゼ=アリアの二人。 この二人は、グレアムの使い魔でもある。 久々の再会という事で、ロッテはクロノにじゃれ付いている訳で、エイミィ達はそれを面白そうに眺めている。 クロノからすれば、はっきり言って迷惑この上ないのだが。 「……なんで、こんなのが僕の師匠なんだ。」 「あはは……それで、今日の用事はなんなの? 美味しそうなネズミっ子まで連れてきて……」 「っ!?」 身の危険を感じ、ユーノが顔を強張らせた。 リーゼ姉妹は、ネコを素体として作られた使い魔。 フェレットモードのユーノからすれば、天敵とも言える存在なのだ。 人間状態である今は、何の問題も無いが……万が一動物形態へと姿を変えたら、どうなる事やら。 「闇の書の事はお父様からもう聞いてるけど、やっぱりそれ関連?」 「ああ……二人は、駐屯地方面には出てこれないか?」 「私達にも、仕事があるからね。 そっちに出ずっぱりって訳にはいかないよ。」 「分かった……いや、無理ならそれはそれでいいんだ。 今回の用件は、彼だからな。」 「?」 「ユーノの、無限書庫での捜索を手伝ってやってくれないか?」 「無限書庫……?」 「今から、早速頼みたいんだ。 ユーノを案内してやってくれ。」 「うん、そういう事ならいいけど……」 「ユーノ君、二人についていって。」 ユーノはロッテとアリアの二人に連れられ、無限書庫へと向かう。 無限書庫とは、様々な次元世界の、あらゆる書籍が治められた大型データベース。 幾つもの世界の歴史が詰まった、言うなれば世界の記録が収められた場所。 まさしく、名が示すとおり無限の書庫である。 しかし……文献の殆どは未整理のままであり、局員がここで調べ物をする際には、数十人単位で動かなければならない。 必要な情報を一つ見つけるだけでも、とてつもない作業になるのだ。 ユーノはそこへと足を踏み入れた時、正直度肝を抜かれたものの、すぐに冷静さを取り戻す。 クロノが自分に頼むといった理由が、これでやっと分かったからだ。 「成る程、確かに僕向けだね……」 ユーノは術を発動させ、とりあえず手近な本を十冊ほど取り出す。 複数の文章を一度に同時に読む、スクライア一族特有の魔術の一つ。 これを駆使すれば、大幅に調査時間を短縮する事が可能である。 その術を目にし、ロッテとアリアは感嘆の溜息を漏らした。 「へぇ~、器用だね……それで中身が分かるんだ。」 「ええ、まあ……あの、一つ聞いてもいいですか?」 「ん、何かな?」 「……リーゼさん達は、前回の闇の書事件の事、見てるんですよね?」 「あ……うん。 ほんの、11年前の事だからね。」 ユーノは、前回の闇の書事件について詳しく知ってるであろう、二人に尋ねてみた。 闇の書の情報を集める上で、この話はどうしても聞いておきたかった。 ただ……クロノ達には、それを聞けない理由があった。 先日、局員の一人から聞いてしまったのだが…… 「……本当なんですか? クロノのお父さんが、亡くなったって……」 「……本当だよ。 私達は、父様と一緒だったから……近くで見てたんだ。 封印した筈の闇の書を護送していた、クライド君が……あ、クロノのお父さんね。 ……クライド君が、護送艦と一緒に沈んでくとこ……」 「……すみません。」 「ああ、気にしないで。 そういうつもりで聞いたんじゃないってのは、分かってるから。」 やはり、悪い事を聞いてしまった。 これ以上、辛い過去を思い出させるわけにはいかないと思い、ユーノは話を打ち切った。 すると、その時だった。 ユーノはある本のあるページを見て、ふと動きを止めた。 「え……?」 「ユーノ君、どうしたの?」 「まさか……これって……!!」 術を中断し、ユーノは直接本を手に取った。 そこに記載されていたのは、ある世界の太古の記録。 光の勢力と闇の勢力との戦いの記録だった。 こういった戦い自体は、多くの次元世界の歴史中にもある為、なんて事は無かった。 だが……問題は、その本の挿絵にあった。 挿絵に描かれている戦士の姿……それは、紛れも無くあの戦士と同じものであった。 「どうして、ウルトラマンダイナが……!?」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「たっだいま~」 「おかえりなさ~い。」 それから、しばらくした後。 まだ本局で用事のあるクロノを残して、エイミィは一人ハラオウン家へと帰宅した。 ちなみにリンディも、別件で先程本局へと出向いた為、不在である。 エイミィは帰り際に近所のスーパーで買い物を済ませていたようであり、その手には買い物袋があった。 フェイトとミライ、それに遊びに来ていたなのはの三人で、早速冷蔵庫に食品を入れ始める。 「艦長、もう本局に出かけちゃった?」 「うん、アースラの追加武装が決定したから、試験運用だってさ。」 「武装っていうと……アルカンシェルか。 あんな物騒なの、最後まで使わなければいいけど……」 「クロノ君もいないし、それまでエイミィさんが指揮代行ですよね。」 「責任重大よね~……」 「ま、緊急事態なんて早々起こったりは……」 その時だった。 ハラオウン家全体に、緊急事態を告げる警報音が鳴り響いた。 エイミィの動きが止まり、その手のカボチャがゴロリと床に落ちる。 言った側からこんな事になるなんて、思いもよらなかった。 すぐにエイミィはモニターを開き、事態の確認に移る。 そこに映し出されたのは、ヴォルケンリッターの二人……シグナムとザフィーラ。 「文化レベルはゼロ、人間は住んでない砂漠の世界だね…… 結界を張れる局員の集合まで、最低45分はかかるか……まずいな……」 「……フェイト。」 「うん……エイミィ、私とアルフで行く。」 「そうだね……それがベストだね。 なのはちゃんとミライ君はここで待機、何かあったらすぐ出れるようにお願い。」 「はい!!」 フェイトは早速自室へと戻り、予備のカートリッジを手に取る。 アルフがザフィーラの相手をする以上、シグナムとの完全な一騎打ちになる。 先日の戦いでは、超獣の乱入という事態の為に勝負はつけられなかった。 今度こそ、シグナムに勝利する……フェイトは強く、バルディッシュを握り締めた。 「いこう……バルディッシュ。」 『Yes sir』 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「くっ……!!」 その頃。 二手に分かれ単独行動に移ったシグナムは、現地の巨大生物を相手に苦戦を強いられていた。 先日現れたベロクロンよりも、その全長はさらに巨大。 シグナムは一気に片を付けようと、カートリッジをロードしようとする。 だが、その直後……背後から、十数本もの触手が一斉に出現した。 まさかの奇襲に反応しきれず、シグナムはその身を絡み取られてしまう。 「しまった!!」 何とかして逃れられないかと、シグナムは全身に力を込める。 だが、力が強く振りほどく事が出来ない。 そんな彼女を飲み込もうと、巨大生物は大きく口を開けて迫ってきた。 ザフィーラに助けを求めるにも、今は距離が離れすぎている。 こうなれば、体内からの爆破しかないか……そう思い、覚悟を決めた、その矢先だった。 『Thunder Blade』 「!!」 上空から、怪物へと光り輝く無数の剣が降り注いだ。 とっさにシグナムが空を仰ぐと、そこにはフェイトの姿があった。 フェイトはそのまま、剣に込められた魔力を一気に開放。 剣は次々に爆発していき、怪物を一気に吹き飛ばした。 触手による拘束も解け、シグナムは自由になる。 『ちょっとフェイトちゃん、助けてどうするの!!』 「あ……」 「……礼は言わんぞ、テスタロッサ。 蒐集対象を一つ、潰されたんだからな……」 「すみません、悪い人の邪魔をするのが私達のお仕事ですから……」 「ふっ……そうか。 そういえば悪人だったな、私達は……預けておいた決着は、出来るならもうしばらく先にしておきたかった。 だが、速度はお前の方が上だ……逃げられないのなら、戦うしかないな。」 「はい……私も、そのつもりで来ました。」 空から降り、二人が地に足を着ける。 シグナムはポケットからカートリッジを取り出し、怪物との戦いで失った分を補充し、構えを取った。 それに合わせて、フェイトもバルディッシュを構える。 しばしの間、二人の間に静寂が流れる……そして。 「ハァッ!!」 「うおおぉぉっ!!」 勢いよくフェイトが飛び出し、それに合わせてシグナムも動いた。 二人のデバイスがぶつかり合い、火花を散らす。 すぐさまフェイトは一歩後ろに下がり、再び一閃。 シグナムも同様に、カウンター気味の一撃を放つ。 直後、とっさに障壁が展開されて互いの攻撃を防ぎきった。 「レヴァンティン!!」 「バルディッシュ!!」 『Schlange form』 『Haken form』 二人はそのまま間合いを離すと、カートリッジをロードしてデバイスの形態を変えた。 フェイトは大鎌のハーケンフォームに、シグナムは蛇腹剣のシュランゲフォームに。 シグナムは勢いよく腕を振り上げ、レヴァンティンの切っ先でフェイトを狙う。 フェイトはそれを回避すると、ハーケンセイバーの体勢を取って静止。 その間に、レヴァンティンの刃が彼女の周囲を包囲する。 しかし、フェイトは動じることなくシグナムを見据え……勢いよく、バルディッシュを振り下ろした。 「ハーケン……セイバー!!」 「くっ!!」 光の刃が一直線に、シグナムへ迫ってゆく。 シグナムはとっさにレヴァンティンの刃を戻し、その一撃を切り払う。 その影響で、フェイトのいた場所が一気に切り刻まれ、凄まじい砂煙が巻き起こった。 だがその中から、三日月状の影―――二発目のハーケンセイバーが、その姿を見せてきた。 一発目との間隔が短すぎる為に、切り払う事は出来ない。 すぐにシグナムは、上空へと飛び上がる……が。 「ハァァァァッ!!」 「何っ!?」 上空には、既にフェイトが回り込んでいた。 バルディッシュの刃を、シグナム目掛けて勢いよく振り下ろしてくる。 だが、シグナムはこの奇襲を思わぬ物を使って回避した。 それは、レヴァンティンの鞘。 彼女にとっては、鞘もまた立派な武具だった。 これは流石に予想外だったらしく、フェイトも驚かざるをえない。 その一瞬の隙を突き、シグナムはフェイトを蹴り飛ばした。 だが、フェイトも一歩も引かない。 落下しながらも、カートリッジをロード……バルディッシュの矛先を、シグナムへと向ける。 『Plasma lancer』 「!!」 光の槍が放たれ、シグナムへと真っ直ぐに迫る。 彼女はとっさに剣を通常形態へと戻し、鞘とそれとを交差させる形で防御。 一方フェイトも、着地と同時にバルディッシュを通常形態へと変形させた。 両者がカートリッジをロードさせる。 フェイトが前方へと魔方陣を展開し、魔力を集中させる。 シグナムがレヴァンティンを鞘に収め、魔力を集中させる。 「プラズマ……!!」 「飛龍……!!」 「スマッシャアアァァァァァッ!!」 「一閃っ!!」 膨大な量の魔力が、同時に放たれた。 その威力は、完全な互角。 両者の一撃は真正面から真っ直ぐにぶつかり合い、そして強烈な爆発を巻き起こした。 それと同時に、二人が跳躍する。 「ハアアァァァァッ!!」 「ウアアアアアァァァァァッ!!」 空中で、バルディッシュとレヴァンティンがぶつかり合った。 雷光の魔道師と烈火の将。 二人の実力は伯仲……完全な五分と五分だった。 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「ヴィータちゃん……やっぱり、お話聞かせてもらうわけにはいかない? もしかしたらだけど……手伝える事、あるかもしれないよ?」 丁度、その頃。 別の異世界では、なのはとヴィータが対峙していた。 フェイトが向かって間も無く、ヴィータがこの世界に出現した為、なのはが向かったのだ。 なのはは今、ヴィータと話が出来ないかと思い、相談できないかと持ち掛けていた。 だが、ヴィータはそれを受け入れようとしない。 「五月蝿ぇ!! 管理局の言う事なんか、信用出来るか!!」 「大丈夫、私は管理局の人じゃないもの。 民間協力者だから。」 (……闇の書の蒐集は、一人につき一回。 こいつを倒しても、意味はない……カートリッジも残りの数考えると、無駄遣いできねぇし……) 「ヴィータちゃん……」 「……ぶっ倒すのは、また今度だ!!」 「!?」 「吼えろ、グラーフアイゼン!!」 『Eisengeheul』 ヴィータは魔力を圧縮して砲丸状にし、それにグラーフアイゼンを叩きつけた。 直後、強烈な閃光と爆音がなのはに襲い掛かった。 足止めが目的の、言うなれば魔力で作ったスタングレネード。 効果は十分に発揮され、なのはの動きを止める事に成功する。 その隙を狙い、ヴィータはその場から急速離脱する。 「ヴィータちゃん!!」 『Master』 「うん……!!」 レイジングハートが、砲撃仕様状態へと姿を変化させる。 なのははその矛先を、ヴィータへと向けた。 一方のヴィータはというと、かなりの距離を離した為か、流石に余裕があった。 この距離からならば、攻撃は届かないだろう。 そう思っていた……が。 「え……!?」 『Buster mode, Drive ignition』 「いくよ、久しぶりの長距離砲撃……!!」 『Load cartridge』 「まさか……撃つのか!? あんな、遠くから……!!」 『Divine buster Extension』 「ディバイイィィィン……バスタアァァァァァァァッ!!」 「っ!?」 絶対に届く筈が無い。 そんな距離から、あろうことかなのはは撃ってきたのだ。 そして彼女の照準には、寸分の狂いも無い。 放たれた桜色の光は、まっすぐにヴィータへと向かい……直撃した。 ズガアアァァァァァン……!! 「あ……」 『直撃ですね。』 「……ちょっと、やりすぎた?」 『いいんじゃないでしょうか。』 思ったよりも威力が出てしまっていた事に、なのはも少し驚いた。 まあレイジングハートの言うとおり、非殺傷設定にはしてあるから、大丈夫ではあるだろう。 少し悪い気はするが、これでヴィータが気でも失っていたら、連れ帰るまでである。 数秒後、徐々に爆煙が晴れていくが……その中にあった影は、一人ではなかった。 「あれは……!!」 「……」 ディバインバスターは、ヴィータには命中していなかった。 先日クロノと対峙していた、あの仮面の男が姿を現れていたのだ。 仮面の男は障壁を張って、直撃からヴィータを守っていた。 なのはもヴィータも、呆然として仮面の男を見るしかなかった。 「あ、あんたは……」 「……行け。」 「え……?」 「闇の書を、完成させろ……」 「!!」 仮面の男の言葉を受け、ヴィータがこの世界から離脱しようとする。 とっさになのはは、二発目の長距離砲撃に入ろうとする。 だが、それよりも早く仮面の男が術を発動させた。 この距離からの発動は、通常ならばありえない魔法―――バインド。 光が、なのはの肉体を拘束する。 「バインド……こんな距離から!?」 『Master!!』 とっさになのはは魔力を集中させ、バインドの拘束を解いた。 しかし、時既に遅し……その場には、ヴィータも仮面の男も姿もなかった。 身動きを封じられた隙に、逃げられてしまったのだ。 『Sorry, master』 「ううん……私こそごめんね、レイジングハート。 エイミィさん、すぐそっちに戻りま……!?」 仕方が無い。 そう思い、帰還しようとした……その矢先だった。 突然、強烈な地震が発生したのだ。 空に浮いていた為に、なのはには一切影響は無いが…… 「地震……驚いたぁ。」 『待って、これ……なのはちゃん!! 急いで、そこから離れて!!』 「え……?」 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― (ここに来て、まだ……目で追えない攻撃がきたか……!! 早めに決めないと、まずいな……!!) (クロスレンジもミドルレンジも、圧倒されっぱなしだ……!! 今はスピードで誤魔化せてるけど、まともに喰らったら叩き潰される……!!) フェイトとシグナムの一騎打ちは、更に激化していた。 スピードで勝るフェイトと、技術で勝るシグナム。 どちらも、決め手になりえる一撃を相手に打ち込めないままでいた。 フェイトにとっては、なのはとの一騎打ち以来の激戦。 シグナムにとっては、何十年ぶりとも言える激戦。 ここまでの苦戦を強いられるのは、お互いに久々だった。 勝負をつけるには、やはり切り札を使うしかないだろうか。 (シュトゥルムファルケン、当てられるか……!!) (ソニックフォーム、使うしかないか……!!) 二人が同時に動く。 次の一撃でもなお決められなければ、もはや使うしかない。 奇しくも、二人の思いは一致していた。 しかし……この直後、思わぬ事態が起こった。 フェイトの胸を……何者かの腕が、貫いた。 「あっ……!?」 「なっ!?」 シグナムは、フェイトの背後に立つ者の姿を見て驚愕した。 その者とは、先程までヴィータと共にいたはずだった仮面の男だった。 彼がヴィータの元に現れたのは、ホンの数分ほど前の出来事。 この世界に転移するまで、最低でも十数分かかる……ありえないスピードである。 いや、この際それはどうでもいい。 今の最大の問題は、彼がフェイトに攻撃を仕掛けたという事実。 フェイトは、完全に意識を失っている。 シグナムはそれを見て、最悪の事態―――貫手によるフェイトの殺害を、考えてしまった。 「貴様!!」 「安心しろ、殺してはいない。」 「なんだって……なっ!?」 「使え。」 男の手のは、フェイトのリンカーコアが握られていた。 使えという言葉の意味は、勿論決まっている。 フェイト程の魔道師のリンカーコアを手に出来たとあれば、一気に相当数のページが埋まる。 シグナムは、こんな形での決着は望んでいなかった。 だが……自分は、はやてを救う為ならば、如何なる茨の道をも歩もうと決意したのだ。 全ては彼女の為……ならば、敢えて汚れ役となろう。 『ザフィーラ、テスタロッサのリンカーコアを摘出する事が出来た。 ヴィータも引き上げたようだし、我々もここで引くぞ。』 『心得た……テスタロッサの守護獣には?』 『ああ、テスタロッサを迎えに来るよう伝えておいてくれ。 それまでの間は……私が、彼女を見ておこう。』 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 『待って、これ……なのはちゃん!! 急いで、そこから離れて!!』 「え……?」 エイミィが、切羽詰った声でなのはに告げた。 解析してみた所、この地震はある自然災害を併発する可能性が極めて高いと出たのだ。 それは、なのは達の知る自然災害の中でも、最高クラスの危険度を持つもの。 『近くの火山が、もうすぐで噴火しちゃうの!!』 「ええっ!?」 火山の噴火。 テレビなどで何度かその光景は目にしてきたが、それが齎す被害は凄まじいものがある。 この世界には文明が存在しない為、犠牲者は出ないのがせめてもの救いだろう。 すぐになのはは、エイミィに指定された火山から離れる。 それから数十秒後……爆音を上げ、山からマグマが噴出した。 ドグオオオオォォォォン……!! 「うわっ……凄い……」 灼熱色の光が、辺り一面を照らす。 初めて目にするその光景に、なのははただただ呆然とするしかなかった。 それは、モニター越しに見ていたエイミィとミライも同じだった。 しばらくして、噴火は収まるが……その直後。 モニターからけたたましい警報音が鳴り響いた。 なのはの耳にも、それは届いている。 『これって……!!』 「エイミィさん、何があったんですか?」 『気をつけて、なのはちゃん!! 何かが、火山の下から出てこようとしてる!! これは……現地の、大型生物……!?』 「大型生物って……もしかして、この前の超獣みたいな奴……?」 その、次の瞬間だった。 山の麓から、唸りを上げてそれは出現した。 全身が蛇腹のような凸凹に覆われた、色白の怪獣。 足元から頭頂部に向かって体全体が細くなっていくという、特徴的な体躯。 ミライはその姿を見て、驚愕した。 出現したのは、かつて彼が戦った経験のある相手。 どくろ怪獣……レッドキング。 『レッドキング!? そんな、あんなのが異世界にも生息しているなんて……!!』 「ミライさん、もしかして……あの怪獣って、かなり強いんですか?」 『うん、僕も直接戦ったことがあるから分かる。 それに、兄さん達もそれなりに苦戦させられたって聞いてるし……なのはちゃん、相手にしちゃ駄目だ!!』 『見つからないうちに、早く逃げ……え!?』 「……エイミィさん、ミライさん?」 『そんな……大変、なのはちゃん!! フェイトちゃんが……!!』 「えっ!?」 エイミィとミライは、モニターに映し出された光景を見て驚愕していた。 仮面の男により、フェイトのリンカーコアが摘出されてしまった。 幾らなんでも、仮面の男の移動が早すぎる……完全に、予想外の事態だった。 すぐにエイミィは、本局へと連絡して医療スタッフの手配を要請。 その後、アルフにフェイトを救出するよう指示を出した。 「エイミィさん、フェイトちゃんは!!」 『リンカーコアをやられちゃった……!! 今、急いで本局の医療スタッフを送ってもらってる!!』 「分かりました、私もすぐそっちに……キャァッ!?」 フェイトの元へと駆けつけようとするなのはへと、無慈悲な一撃が繰り出された。 それは、レッドキングが投げつけてきた大岩だった。 不運にも、彼女はレッドキングに見つかってしまったのだ。 とっさになのはは、上空へと上昇してそれを回避する。 レッドキングはなのはを一目見るや、敵と判断してしまっていた。 その強い闘争本能に、火がついてしまっていた……最悪としかいいようがなかった。 この様子じゃ、戦う以外に無い様である。 「こんな時に限って……!!」 『なのはちゃん、僕がすぐそっちに行く!! それまで、何とか持ちこたえて!!』 「はい……分かりました!!」 敵のサイズを考えると、確かにミライが一番の適任になる。 彼の到着まで持ちこたえるか。 もしくは……彼が到着する前に、レッドキングを撃破するか。 今は、一刻も早くフェイトの元に向かいたい。 撃破とまではいかなくとも、ミライの到着までにある程度のダメージさえ与えられれば、大分楽になる。 幸いにも、消耗は殆どしていない……やれなくもない。 「いくよ……レイジングハート!!」 『Yes sir』 戻る 目次へ 次へ
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覚悟君が戻ってきた。 新暦0074年10月。 あの日の約束を、ぎりぎり果たしたその日に、や。 そうは言うても、わたしだけの力とちゃうねんけどな。 わたしかて、ヘタな謙遜をする程度の日々を送ってきたつもりはないねんけど、一人じゃ単なる小娘やんか。 聖王教会の…カリムの強力な後押しがあって、ほんっとに辛うじてこぎつけた結果やな。 完成した隊舎の執務室にやってきた覚悟君と向かい合ったら、 おっきくなった背に、いろいろ言うてやりたくなったわ。 けどな、うち、覚悟君の言葉、しっかり覚えてるねん。 せやからな…戦士に、敬礼や。 覚悟君も、わたしに敬礼してくれた。 「…………」 「…………」 結局、それだけやった。 そのまんま、三十秒くらいして。 「じゃあ、みんな…呼ぶな?」 「頼みます、八神二等陸佐殿」 魔法少女リリカルなのはStrikerS 因果 第八話『対超鋼・機動六課』 「みんなそろったところで、状況を整理してみよか」 「うん、そうだね」 「行き違いがあったりしたら、困るもんね」 「了解した」 今、いるのは、わたしとなのはちゃん、フェイトちゃん。 うちの子らはガジェット退治の応援その他に駆り出されてて、来週までは戻ってこられへん。 リィンも今は、そっちについていってる。 覚悟君とすぐに会わせられないのが残念やけど… あ、ちなみに、他人行儀は即刻禁止したで。 覚悟君だけそんなことやったら、なのはちゃんやフェイトちゃんにも、遠回しにそれ、押しつけることになるねんな? …それにな。 『勘違いしたらあかんて。 わたしらを結びつけるのは上下関係やない。 おんなじ、願いや。 戦う理由や…違うか? そう思うから、戻ってきてくれたんやろ、覚悟君』 『…相違なし。 謝罪する』 まあ、三年前は嘱託魔導師待遇(魔法使えないのにヘンな話やけど)で、わたしらの仕事、手伝ってもらってたから、 管理局の組織に正式に組み込まれることを自分で選んだ手前、組織の仕組み、ないがしろにできん思うたんやろな。 でもそれは、中身をしっかり守ってくれれば、形なんかどうでもええねん。 なのはちゃんにフェイトちゃん、シグナムたちもそうしとるみたいにな。 「…まず、どうしてカリムの、聖王教会の後押しが強まったのか? これは覚悟君が詳しいはずやな」 「強化外骨格、雹(ひょう)の発見ゆえに!」 なのはちゃんも、フェイトちゃんも、息を呑んだ。 わたしだって、カリムから聞いたときは、同じやった。 あんなことが、あった直後やったから… 「野生の火竜が丸呑みにしていたものを、おれが回収した」 「それってつまり、この世界に飛ばされてきたのは、覚悟くんだけじゃなくて…」 「呼ばれたのは、強化外骨格そのものであるかもしれぬ」 なのはちゃんに応える覚悟君の目つきは、鋭かった。 「強化外骨格に宿るは、理不尽に蹂躙されし魂なれば。 カリムの予言の一節に符合せし部分あり」 古い結晶と 無限の欲望が 集い交わる地 死せる王の元 聖地より彼の翼が蘇る 死者達が踊り 中つ大地の法の塔は空しく焼け落ち それを先駆けに 数多の海を守る法の船は砕け落ちる 「踊る死者達、これ強化外骨格の瞬殺無音を意味するならば… ミッドチルダに吹き荒れるは、大殺戮の嵐!」 「地上本部への…」 「強化外骨格を使った…」 「毒ガス攻撃!」 真っ昼間の晴天なのに、雷が轟音を立てて落ちてくるのを、わたしらは確かに聞いた。 本部からの事情聴取では知らぬ存ぜぬで突っ張り通したけど、 わたしは確かに知ってる。 瞬殺無音がなんなのか、零(ぜろ)から聞いて、知ってる。 十秒足らずで都市ひとつ根こそぎ鏖(みなごろ)す。 姿無く、音も無く、匂いもせず、ただ瞬間的にやってきて、あとは原型をとどめない…化学兵器、戦術神風(せんじゅつ かみかぜ)。 「強化外骨格は…零(ぜろ)は、悪用されるの?」 「断じて否。 下郎にその身を許す零(ぜろ)ではない! 雹(ひょう)もまた我が父、朧(おぼろ)の超鋼なれば、不仁を為すこと、決してありえぬ」 「お父さんの?」 重々しく頷いて、覚悟君は続ける。 「零(ぜろ)、雹(ひょう)がこちらに存在する以上…現人鬼(あらひとおに)の纏(まと)いたる霞(かすみ)もまた在ると考えるべき! 外道に堕ちくさった散(はらら)ならば、強化外骨格の力、罪なき人の抹殺にふるったとて、何ら不思議なし」 フェイトちゃんが、ちょっと痛々しそうに目をそらしとる。 お兄ちゃんのことを「鬼」って呼んで、討つべき悪としてにらみ続ける覚悟君や。 たとえ冷たくされたって、虐待されたって、 それでもお母さんのこと信じ続けたフェイトちゃんには、やりきれないものがあるかもしれへん。 「でも、それをやるのが散(はらら)さんて決まったわけやない」 「だが、そう考えねばならぬのだ、はやて」 「これ見いや」 ウインドウを起こして、映像を再生する。 百聞は一見にしかずやて。 「これは、玩具(ガジェット)」 「三週間前の、ヴィータの戦闘記録や」 その日、現れたガジェットは、たった五体。 せやけど、その分、特別製やった。 数でタカをくくった地上部隊三十人が、あっさり片付けられてもうた理由は、 ヴィータがグラーフアイゼンで殴りかかった瞬間に、すぐわかった。 「…これは、まさか!」 さすがの覚悟君の顔色も、これには変わって当然やな。 あれの意味を知らなかった、なのはちゃんとフェイトちゃんだって、同じ顔したんやもん。 「わかるか、展性チタンや。 展性チタンの装甲を持った、ガジェットや」 ブースターで噴射しながら正面からぶち砕く、ラケーテンハンマー。 あれをくらって、吹っ飛ばされておきながら、ガジェットは表面が一瞬へこんだだけで。 装甲表面全体をぷるんと震わせた思うたら、元通りの形になって、元気ハツラツでミサイルを撃ってきた。 AMF(アンチ・マギリング・フィールド)で魔力が消されてまう上に、 通った威力、衝撃もこんな風に散らされるんじゃ、苦戦するのも当たり前や。 最終的に、ひとつ破壊している間に、残り全部に逃げられて。 「…わかるか、これがどういう意味か、わかるか?」 「展性チタンは、強化外骨格の装甲にのみ用いられし素材」 「せや。 強化外骨格の技術を解析してる、何者かがいるっちゅうことや。 もっと、聞くで? これ、放っておいたら、この先どうなるか」 「瞬殺無音の暴露…」 「わたしは、もっとおそろしいこと考えとるねん」 正直、口に出すのもイヤな可能性やけど、 目をそむけるのは、絶対にあかんねや。 だから、言う。 「強化外骨格の、量産や」 覚悟君の息が、数秒間も止まったのを感じた。 なのはちゃんとフェイトちゃんには、あらかじめ伝えておいた、一番悪い予想。 もしも…もしも、色々とタガの外れた人が、それを使って何かやらかすのなら。 そこから描かれる未来図は、この世の、破滅や。 「覚悟君だけの問題とちゃうねんて。 もう、とっくの昔に。 せやからな、探そう? 一緒に…止めなきゃいけない人達を」 「…了解。 おれの拳ひとつでは、因果は届かぬと認識した」 「うん、ええ子や」 一人で背負い込もうとするんは、覚悟君の一番心配なところ。 何も、覚悟君は、人類最後の戦士やあらへん。 支え合って、わたしらは、もっと強うなれるんや。 「…で、次は、一体、どこでそんな技術を解析しとるのか、って話になるんやけど」 「言いにくいけど、一番最初に思いつくのは…」 「零(ぜろ)だね」 なのはちゃんの後を、フェイトちゃんが引き継いで、はっきり言うた。 「ロストロギアに匹敵するものなら、管理局で解析するのは当然だから…問題は、その後」 「管理局から悪漢どもへ情報の漏洩ありと?」 「そうだとしか思えない。 そうでなければ、別の強化外骨格を… 覚悟の言っていた、霞(かすみ)を持っていると考えるしかなくなる」 「であれば…散(はらら)か」 覚悟君の拳が、きりりと握られた。 考えるな、ちうても無理なんや。 それは多分、覚悟君にしか背負えないものやから。 外野から、とやかく言えることと違う。 違うんやけど、でも、一人で背負い込むのは反対やし。 もし、対決に立ち会うようなことがあったら、わたし…何をしてあげられるんかなあ? …あかん、あかん。 今考えることとちゃうで。 「散(はらら)さんより現実的な危険は、獅子心中の虫やで、覚悟君。 姿も形もない霞(かすみ)より、現にある零(ぜろ)や」 直接的な表現を避けつつ、覚悟君流にむずかしい言葉をまぜてみる。 我ながら上出来やな。 「覚悟君、言うてくれたやんか。 零(ぜろ)は征くべき場所に打って出たのだ、って」 「…うむ」 「じゃあ、管理局外部に漏れてる展性チタンの技術。 これは、零(ぜろ)が撒いたエサとちゃうか?」 「!!」 ふふん、目つき、変わったやんか。 せやせや、男の子はくさってちゃダメやて。 「そろそろわたしらが、零(ぜろ)の声に応える番やて」 「敵の技術、零(ぜろ)ではなく、霞(かすみ)に由来していた場合は?」 「もし、そうなら…零(ぜろ)を取り戻す、立派な大義名分やんか。 そのときは、零(ぜろ)と覚悟君の、全力全開であたる時や!」 一人で行かせるとは限らへんねんけどな。 わたし、策士やねん。 覚悟君、それに気づいてるのかいないのか、わからへんけど… 「はやて」 「ん?」 「命令を! 機動六課が葉隠覚悟に!」 こういうツボ、しっかり心得てるとこ、ホンットにニクイわ。 覚悟君の場合、完っ璧、これが天然やから、なおさらや。 あのシグナムでさえ、なんと古風な…とか言うて笑うんやで? でも、闘志がわく。 「違うで、覚悟君」 「違う?」 「古代遺物管理部、機動六課が正式の名前や。 せやけどもうひとつ、わたしらにだけ見える三文字がある。 わたしらの背負う役目と同じように」 思い切りもったいぶって、気を引いて、 そして、力いっぱいに、名乗る。 「『対超鋼』! 『対超鋼』機動六課(『たいちょうこう』 きどうろっか)や!」 「対超鋼、機動六課!」 「たとえ相手がロストロギアだろうと、強化外骨格だろうと、 わたしらは一番最初に立ち向かって、一番最後まで立っている。 機動六課は、そういう部隊や」 居住まいを正す。 八神はやて、上官モードや! 「葉隠覚悟陸曹」 「はっ」 「貴官は本日より機動六課中枢司令部、ロングアーチに所属。 わたし、八神二等陸佐の直属として、対超鋼戦術顧問を命じる!」 「対超鋼戦術顧問、拝命いたします!」 「うむっ」 覚悟君の敬礼に、わたしも敬礼。 なのはちゃんも、フェイトちゃんも、敬礼。 一人前の仕事をするには、まだまだ時間がかかるねんけど、 生まれたばかりの機動六課は、今、確かに歩き出してる。 (グレアムおじさん…見てて、な) 空の彼方に、そっと、祈った。 「是非もなし」 なのはが指揮する『スターズ』分隊の配属候補、二人の話になってすぐ、 覚悟はそう言って、なのはの選択を全肯定した。 スバル・ナカジマとティアナ・ランスター。 私となのはみたいに、ずっと、二人でやってきたっていうコンビらしいけど。 「両名すでに、恐怖超えたる器なり。 錬磨おこたらねば一廉(いちれん)の戦士たるも夢ではなし」 「さすが…直接見てきた覚悟君はひと味違うね。 でも、びっくりしなかった?」 「何が」 「スバルちゃんのこと」 覚悟にとっては、この世界での全ての始まりだったはずの女の子。 火事の中、生命を賭けて助けたこの子が今、機動六課に名前を連ねようとしている。 少しだけ、黙ってから…覚悟は、うなずいた。 「できることなら、平和の中に生きてほしかった」 それを聞けて安心したよ、覚悟。 戦いだけで頭が埋まっているような男の子じゃないって、三年前から知ってはいるけどね。 覚悟のあの強さは、聞けば五歳のときから仕込まれてきたものだっていうから。 …私も、境遇としては似たようなものだった。 だから、三年前、聞いたんだ。 辛くなかったか、って。 そうしたら。 『おれを宝と呼んでくれた父上の顔は、辛き日々を乗り越えし成果。 あの顔を見たくて、おれは頑張り続けていたのだと、あの時に知ったのだ。 おれほどの果報者、そうはおるまい』 私がついに手に入れられなかったものを、覚悟は手にいれることができて。 でも、一緒に辛いことを乗り越えてきたはずのお兄ちゃんに、そのお父さんが殺されて。 忘れろだなんて、言えるわけがない。 でも…それでも、私は、思うんだ。 大好きだったお兄ちゃんのこと、悪とか、殺すとか、そんな風に思い続けるなんて、哀しすぎる。 散(はらら)さんがどういう人か、まだ私は知らないけれど、戦いになるようなことは、できれば止めたい。 だけど、ね。 「だが、戦場にて勝てぬ大敵を前に一歩も引かなかった事実。 決意を身をもって示す者を前にして、おれに何が否定できよう」 小さく笑うなのはみたいに、私の意見も、覚悟と同じ。 『覚悟』に余計な口ははさめないんだ。 今は、何も言ってあげられそうにない。 「…採用、決定だね」 「二人の教練、くれぐれも抜かりなきよう!」 「何を言ってるのかな? 覚悟くんも教官になるんだけどなあ」 「む…」 「覚悟くんぬきじゃ、意味ないよ? 対超鋼戦術顧問さん?」 「…了解、未熟ながら死力をつくそう」 「うん、いいお返事。 じゃあ、まずはわたしに教えてね」 なのはが席を立って、覚悟もそれに続く。 三年ぶりの、話仕合(はなしあい)に行くんだね。 最後のあれは、確か… 『後の先を狙い続けて膠着状態に陥った場合、いかに敵を崩すか?』でもめたときだったっけ。 「零(ぜろ)は無くても、大丈夫?」 「あなどるなよ! 当方にカリムより賜(たまわ)りし爆芯『富嶽(ふがく)』あり!」 「そうこなくっちゃ! …フェイトちゃん、どうする?」 いきなり話をふられて、今までずっとぼんやりしてた私はちょっと反応が遅れたけど。 「うん、行くよ」 バルディッシュを握り締めて、私も立つ。 私の率いる『ライトニング』分隊、二人の資料をファイルにしまって。 エリオ・モンディアル。 キャロ・ル・ルシエ。 私の養子、二人。 『真に我が子を思っての決断なれば良し』 覚悟は、そうとしか言わなかった。 …言われるまでも、ないよ! レリック関係だけじゃなくて、私達が追うのは今や、強化外骨格に、謎の生物兵器人間… 死の危険が飛躍的に高まってきたのは、肌で感じる今日この頃だから。 そのために、私がいる。 なのはがいる。 むざむざ死ににいかせるような教練なんか、絶対にしない。 私も、エリオとキャロには、もっと安全に生きてほしかったけど、 二人の選んだ道には、きっとゆずれないものがあるはずだから。 だから、道半ばで倒れたりしないように、最後まで戦える力を、しっかりあげるんだ。 ―――『対超鋼』機動六課、動き出す日は、すぐ近く。 前へ 目次へ 次へ
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第2話「再会は唐突になの」 「平行世界……ですか?」 「ええ、間違いないでしょうね。 あなたのいうGUYSという組織は、私達の知る地球にはありません。 それに、怪獣は兎も角、ウルトラマンについては聞いた事がないですし……」 それから、しばらく経った後。 フェイトは用事で席を外した為、ミライはリンディと一対一で話をしていた。 ちなみに話の最中に「誰がフェレットもどきだ」という怒鳴り声が別の部屋から聞こえてきたが、 リンディが「なんでもない」というので、二人とも気にしないことにした。 ミライは、自分の状況について――自分がウルトラマンであるという事実は隠して――全てを説明した。 そしてリンディは、自分達――時空管理局について、一切合財の説明をミライへとし終えた。 時空管理局とは、時空に存在する幾多もの並行世界を管理する事を目的としている組織。 次元の間を渡り歩き、それぞれの平行世界が干渉しあうような危険事態を避ける為に彼等は活動している組織である。 当然のことながら、ミライはただただ驚くしかなかった。 そんな組織が存在していたなどと、考えた事も無かったからだ。 だが、リンディが嘘を言っているようには見えない。 それに……自分が置かれていた状況を考えれば、寧ろ十分にありえる事である。 自分はあの時、兄達と共に異次元に生きる悪魔との激闘を繰り広げていた。 そして、その悪魔が倒れたことにより異次元は崩壊したが…… 異次元の崩壊に巻き込まれ、そしてどこか別の次元に出てきてしまった。 こう考えると、全ての辻褄が合う。 「分かりました……リンディさん、ありがとうございます。」 「……」 「……どうかしました?」 「いえ、やけにあっさりとこちらの話を受け入れてくれたものですから。 もうちょっと『信じられない』とか、そういう反応をするかと思ってましたので……」 「リンディさんが、嘘を言っているようには思えませんでしたから。 こうやって僕の事も助けてくれた、良い人ですしね。」 「あらあら……」 ミライが、こうもあっさりと自分達を信用してくれた事に、流石にリンディも驚かされていた。 普通は疑われてもおかしくない状況なだけに、ミライの反応が予想外だったからだ。 しかし、自分達を信じてもらえないよりかは断然良いに決まっている。 素直……いや、純粋と言うべきだろうか。 彼には、そんな感じの雰囲気があった……優しい人であると、直感的に感じさせる雰囲気があった。 「それでミライさん、これからの事なんですけど…… ミライさんがいた世界が見つかるまで、時空管理局であなたを保護したいと思います。」 「え……いいんですか?」 「山ほどある次元世界の中から、ミライさんの世界を見つけ出すのには時間がかかるでしょうから。 それまでの間、どうぞゆっくりしていってください。」 「リンディさん……ありがとうございます!!」 「ああ、そんなに頭を下げないで。 これも私達の仕事なんですし……」 深く頭を下げるミライを見て、リンディは少しばかり苦笑する。 この人は、本当に純粋で優しい人なのだと。 その後リンディは、ミライが寝泊りする部屋を用意しなければと、医務室を発とうとする。 ミライもその後に続こうとするが、リンディに「大事を取って楽にしておいたほうがいい」と 言われたので、体も少しばかり重たいし、ここはその言葉に甘える事にした。 その後、ミライは横になると、あっという間に眠りについた。 「艦長……ちょっといいですか?」 「あら、先生にエイミィ。 一体、どうしたんです?」 一方、医務室を出たリンディはというと。 医務室に戻ってきた船医と、この艦の管制官であるエイミィと、出てすぐの廊下で出くわした。 見たところ、二人とも表情が険しい……何かがあったのは、容易に推測できる。 リンディはそれを察し、黙って首を縦に振った。 それを見て、船医は自分の持っていたカルテ……先ほど書いた、ミライのカルテを彼女へと手渡す。 その内容を見て、リンディも彼等同様に表情を変え、言葉を失った。 カルテに記されていたのは……通常では、絶対にありえない内容だったからだ。 「これ……どういうことなんですか?」 「それは私の台詞ですよ。 普通の人間じゃ、こんな数値が出るなんてありえません。 何とか治療こそ出来たからいいですけど、こんなの……今までに前例がないです」 「……ミライさんは、人間じゃないかもしれないってこと? 確かに話してる限りじゃ、どこか普通の人とは違う感じがしてたけど……」 カルテに記された、ミライの体調に関する数値。 体温・脈拍・血圧……その全てが、通常の人間ではありえない数値を示していたのだ。 もしもこんな数値を常人が記録しようものなら、確実に死んでいる。 つまり、早い話がミライは人間じゃない可能性があるという事なのだ。 しかし……使い魔の類ではなさそうだし、ましてや傀儡兵などの筈がない。 一体、彼は何もなのだろうか。 リンディは、ミライの正体について考え込むが……その謎に関して、ここでエイミィが口を開いた。 「艦長、その事なんですが……これ、見てもらってもいいですか?」 「エイミィ、これは?」 「さっき先生に頼まれて、彼……ミライ君が眠っている間に、こっそり調べてみたんですが…… ミライ君の体内から、ロストロギアらしきものの反応が検出されたんです。」 「ロストロギアが……!?」 エイミィが手渡したのは、ミライから検出された謎の反応――ロストロギアらしき反応について、纏めた物であった。 船医は診断中、ミライの体から妙なエネルギーを感知した為、エイミィにそれについての調査を依頼していた。 その結果……ミライの体内――その『左腕』から、ロストロギアらしき何かの反応が検出されたのだ。 持ち主と一体化する事で力を発揮するロストロギアは、確かにある事はある。 使い手こそ少ないものの、ユニゾンデバイスがその良い例である。 となれば、ミライの数値が異常なのは、このロストロギアが原因なのだろうか。 ……いや、検出されたのは、あくまでロストロギア『らしき』反応。 異世界には、まだまだ自分達の知らない技術が山ほどある……ロストロギアと断定するには、少し材料が足りない。 結局のところ、分からない事だらけである。 確かめるには、ミライ本人に聞くしかない……彼の目が覚めるまで、待つしかないか。 軽いため息を退いた後、三人は少しばかりの不安を胸にして、そのまま自分達の職場へと戻っていった。 ヴィーン、ヴィーン…… 「う~ん……なんだ、この音……?」 いきなり耳に響いてきた大音量に、ミライは目を覚まさせられた。 大きな欠伸をした後、眠気眼をこすりながらベッドから起き上がる。 一体、どれくらい寝てただろうか……ボーっとする頭で、周囲を見渡す。 そして、しばらくして眠気が覚めてきた時。 ようやくミライは、鳴り響いている音の正体に気づくことが出来た。 GUYS本部で何度も聞いた、聞き覚えのある嫌な音…… 「これって……警報!?」 鳴り響いているのは、警報音だった。 理解すると同時に、一気にミライの目が覚める。 この艦に、何かが起こっている……危険が迫っているのかもしれない。 すぐにミライはベッドから降り、ブリッジへと向かう事にした。 自分とて、クルーGUYSの一員として働いてきた経験がある。 世話になってばかりにもいられないし、何か手伝いをしたい。 そう思ったが故の行動でもあった。 そして、少し道に迷いながらも、ミライはアースラのブリッジへと辿り着いた。 そこでは……かなりの混乱が起こっていた。 「駄目です、海鳴市の映像出せません!!」 「結界が張られている……ミッドチルダ式じゃないのか……!?」 「なのはさんとの連絡は?」 「駄目です、繋がりません!!」 アースラに混乱を齎した、未曾有の事態。 それは、ある次元世界で結界魔術が発動され、魔術が発動されている地域――海鳴市の様子が、一切把握できなくなった事であった。 クルーは解析を急いでいるが、思うように作業が捗らない。 その原因は、使われている魔術の術式にあった。 自分達が使っているミッドチルダ式とは、全く異なる術式で結界が張られているのだ。 その為、術式の正体を探し当てるのに、相当の時間を取られてしまっている。 この海鳴市には、自分達の関係者である魔道師―――高町なのはがいる。 彼女と連絡が取れさえすれば、内部の状況が把握できるのだが……通信が繋がらない。 「艦長、ハラオウン執務官やフェイトちゃん達は?」 「まだ裁判中……出られる状況じゃないわ。 戻ってきたらすぐにでも向かってもらうけど、それまでは……応援、すぐに本局に要請して。 時間は少しかかってしまうけど、向こうから武装局員を回してもらうしか手はないわ。」 今このアースラには、戦闘要員が一人もいない。 殆どの者達が出払ってしまっているために、現地へと派遣できる者が一人もいないのだ。 非戦闘要員を送り込むという手もあるにはあるが、それは余りにも危険すぎる。 結界魔法を展開されているという事は、すなわちそこで戦闘行為が行われているということなのだ。 ましてや相手は、未知の術式使い……無謀も無謀である。 リンディは艦の指揮があるから、現地に出るわけにはいかない。 本局の者達に頼る以外、打つ手はない……誰もが歯がゆい思いをしていた。 すると……そんな最中で、ミライは口を開いた。 「僕に行かせてください!!」 「ミライさん!?」 「いつのまにブリッジに……てか、今の発言……」 クルー全員の視線が、ミライに集中させられる。 彼等はようやく、ミライがブリッジに入ってきていた事に気がついた。 作業に集中していたために、誰もその存在に気づけていなかったのだ。 だが、何より驚かされたのは彼の発言である。 確かに現状、誰かが現地に赴いてくれればありがたいのだが…… 「気持ちは嬉しいんだけど……ミライ君は、民間人だからね。 悪いけど、危険な目には……」 「僕はクルーGUYSの一員です!! 確かに、皆さんとは立場は少し違いますけど……困っている人を守るのが、僕の仕事です!! 戦闘の経験もありますから、多少の事なら問題はありません……お願いします!!」 「ミライさん……」 リンディ達への恩返しをしたいという気持ちは、勿論ある。 しかしそれ以上に……困っている人を見逃すわけにはいかない。 そんな強い正義感が、ミライを突き動かしていた。 ここでリンディは、少し考え込む。 確かにミライは、今は民間人という立場上にあるが……彼は、地球防衛チームGUYSの一員だという。 その言葉を信じるならば、彼には戦う力があるという事になる。 現状、戦力が欲しいのは紛れもない事実。 ならば……ここで下手に躊躇って、取り返しのつかない事態にするぐらいならば……!! 「エイミィ、ゲートを開いて!!」 「わっかりました、すぐにいけますよ!!」 「ミライ君、頼んだよ。」 「皆さん……ありがとうございます!!」 ミライを転送させるべく、一斉にクルー達が動き出した。 その姿を見て、ミライは笑顔で礼をする。 必ず、彼等の期待に答えよう。 そう心に誓い……ミライは、海鳴市へと転送された。 「よし……皆、解析急ぐよ!!」 「了解!!」 ミライを無事送り込めたのを確認し、皆が作業を急ぐ。 彼がこうして名乗り出てきてくれたのだから、自分達も頑張らなければならない。 より一層、クルー全員が気を引き締める。 すると……その時であった。 「艦長、一体何があったんですか!!」 「アースラ中、警報鳴りっぱなしじゃないの!! なのはとの連絡も取れないし、何がどうなって……」 数人の男女が、慌ててブリッジへと駆け込んできた。 彼女等――先のプレシア事件の裁判を終えたフェイト達へと、皆の視線が釘付けになる。 一方のフェイト達はというと、ブリッジの様子を見てすぐに事態を把握した。 大切な友人であるなのはとの連絡が取れなくなったその矢先に、この騒動。 彼女に、何かがあったのだと……そう、容易に推測する事が出来た。 「皆、最高のタイミング……すぐにゲート出せるよ!!」 「ラケーテン……ハンマアアァァァァァァッ!!!」 「きゃああぁっ!!??」 結界に閉ざされた街――海鳴市。 その内部では、リンディ達の予想通り戦闘が行われていた。 白いバリアジャケットに身を包んだ少女――高町なのはは、相手の攻撃を受けて大きく吹っ飛ばされた。 そのまま、後方にあるビルの窓ガラスをぶち抜き、ビルの中に転がり込む。 そこへ追い討ちを仕掛けるべく、相手の赤いバリアジャケットに身を包んだ少女――ヴィータが迫る。 「うあぁぁぁぁぁぁっ!!」 「っ!!」 『Protection』 なのはの手に握られていたレイジングハートが、とっさに防壁を展開する。 ギリギリのところで、ヴィータの破壊槌――グラーフアイゼンの一撃を、受け止める事に成功した。 だが……受け止める事は出来ても、防ぐ事は叶わなかった。 「ぶちぬけぇぇぇぇっ!!」 ヴィータは己の全力を込め……グラーフアイゼンを振りぬいた。 そして……音を立て、なのはの防壁が砕け散った。 鉄槌はなのはのバリアジャケットの一部を、そのまま粉砕する。 なのははその衝撃で、その場に尻餅をついてしまった。 「そん……な……」 「……」 ダメージの影響だろうか、なのはの視界はぼやけていた。 震える手で、レイジングハートを構える。 しかし、幾ら戦う意思があろうと……こんな状況で、勝てる筈などない。 言葉を発する事もなく、ヴィータはグラーフアイゼンを振り上げる。 (こんなので……終わり? 嫌だ……ユーノ君……クロノ君……フェイトちゃん……!!) 目を閉じ、友達の名を呼ぶ。 このまま皆と会えずに終わるなんて、そんな結末は望んでいない。 そんなのは嫌だ……皆に会いたい。 そう、強く願った……その時だった。 ガキィンッ!! 「え……!?」 なのはの願いは、天に届いた。 再会を強く望んだ、漆黒のバリアジャケットに身を包む一人の少女が、彼女の前に現れたのだ。 その少女――フェイトは、己のデバイスであるバルディッシュで、ヴィータの一撃からなのはを守っていた。 「フェイトちゃん……?」 「ごめんなのは、遅くなった。」 「ユーノ君も……?」 なのはの傍には、魔道師の少年――ユーノ=スクライアがいた。 彼はなのはのダメージを回復すべく、術を発動させようとする。 さらにその直後……一発の光弾が、グラーフアイゼン目掛けて放たれた。 光弾を放ったのは、三人から少しばかり離れた位置にいた彼。 他でもない、先に転送されたミライだった。 彼は転送後すぐに、フェイト達と合流して、彼女等と共に動く事にしたのだ。 その左手には、先程までは見られなかった装備――ロストロギアらしき反応を検出された、その原因。 ミライの戦闘における要である、メビウスブレスが装着されていた。 「フェイトちゃん、今だ!!」 「はい!!」 ヴィータは光弾命中の衝撃で、僅かばかりだが体制を崩す……その隙を、フェイトは見逃さなかった。 すばやくバルディッシュを振り、彼女を押し返す。 ヴィータはよろけながらも、何とか持ち直し、グラーフアイゼンを構えなおした。 魔道師が三人……内二人は、明らかに戦闘向けのデバイスを装備している。 戦力差では、圧倒的に不利…… 「仲間か……!!」 『Scythe form』 バルディッシュがその姿を変える。 矛先から、金色に輝く雷電の刃が出現した。 サイズフォームの名が示すとおりの、大鎌形態――近接戦用形態。 その刃をヴィータに向け、フェイトは静かに、しかし力強く答えた。 「友達だ……!!」 戻る 目次へ 次へ
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マクロスなのは 第25話『先遣隊』←この前の話 『マクロスなのは』第26話「メディカル・プライム」 八神はやては部隊長室で、今後の六課の運用について思索をめぐらせていた。 脳内会議の議題に上がっているのはカリムの預言の事だ。 設立から半年。六課はその任務を忠実に果たし、今に至る。現状に不満はない。しかし不安要素はあった。それは『〝事〟が、六課の存続する内に起こるのか』という問題だ。 六課はテスト部隊扱いのため、あと半年足らずで解体される。1年という期間は何もテキトーに決めた期間ではない。聖王教会と本局の対策本部が議論の末導き出したギリギリのラインだ。 今より短い場合の問題は言わずもがなだが、逆に長いとそれはそれで問題がある。今でこそガジェットの出現から出動数が多く、各部隊からの信頼も厚い六課だが、当時は必要性の認識が薄かったため本局でさえ設立には渋ったのだ。それは予算の問題のみならず、当時対立関係にあった地上部隊が黙っていない。という意見もあったからだ。しかしこの問題は『地上部隊のトップであるレジアス中将が賛同した』というイレギュラーな、しかし嬉しい出来事から片づいている。 だがもう1つ問題が上げられていた。それは六課への過剰な戦力集中だ。地上部隊20万人の内、4万人は事務・補給・支援局員である。 そして残る16万人を数える空戦魔導士部隊や陸士部隊である純戦闘局員の内10人ほどしかいないSランク魔導士を八神はやて、高町なのは、ヴィータ、シグナムと4人も六課に出向させている。 このランクの持ち主は『北海道方面隊など6つある地方方面部隊、5個師団(2万7千人)に1人いるかいないか』という希少な戦力であり、本局ですら少ないSランク魔導士のこれほどの集中投入は極めて思い切った人事だった。 そのため『気持ちは分かるが、そう長くは留めて置けない』というのが周囲の本音だった。 仮に1年後に同じような部隊を本局主導で再編する場合を考えても、地上部隊を頼れない分、生み出されるであろう戦力の低下は憂慮すべき問題であった。 そこで『何か妙案がないだろうか?』と思考をめぐらせていたはやてだったが、その思索は打ちきられることになった。 空中に画面が浮かび、電話の呼び出し音が締め切った室内の空気を震わす。画面の開いた場所は左隣の人形が使うような小さなデスクだ。本来なら補佐官であるリインが受けるはずだが、今ここにいないことは承知済み。右の掌を空中にかざして軽く右に滑らせると、その動作を読み取った部屋が汎用ホロディスプレイを出現させる。この部屋だと電灯のスイッチなどの操作を行うものだが、こんな時のために電話もその機能に加えている。おかげで次のコールが鳴る前に通話ボタン触れることができた。 「はい。機動六課の八神二佐です」 サウンドオンリーの回線だったが、 直接外部から電話がかかることはなく、地上部隊のオペレーターを経由したルートが普通だ。しかし聞こえてきた声はオペレーターの声ではなく、レジアスのものだった。 『はやて君か。いきなりで悪いが1330時頃にこちらに来てほしい』 「え? ほんとにいきなりやなぁ・・・・・・もちろん何か買ってくれるんよね?」 はやての冗談にレジアスは電話の向こうで豪快に笑う。 『なるほどな。グレアムのヤツがそうやって「部下がいじめてくる」と嬉しそうに嘆いていた意味がようやくわかったよ』 レジアスのセリフに、はやては「バレてたか」と苦笑いする。 グレアムは以前本局の提督を勤めていた人物で、当時足が悪く両親のいなかったはやての、いわゆるあしながおじさんであった。 またはやて自身、『闇の書事件』の責任を取って自主退職するまでのほんの1年だけ彼の元に嘱託魔導士として配属されており、当時同事件で主犯者扱いされていたはやてが管理局に慣れるよう手を尽くしてくれていた。 彼女を学費面での援助によってミッドチルダ防衛アカデミーに入学させてくれたのも、管理局で風当たりの悪かった当時の身の振り方を教えてくれたのも彼だった。 閑話休題。 『・・・・・・まぁ、実際買ったのだがな。きっと君も驚くだろう』 「え、いったいなんなのや?」 『ああ、─────だ』 レジアスが口にしたその名は、確かにはやてが驚くに十分値するものだった。その後はやては2つ返事で了解し、身支度のために席を後にした。 (*) 同日 1200時 訓練場 午前中に行われた抜き打ちの模擬戦になんとか勝利した六課の新人4人は、一時の休憩に身を任せ、地面に座り込んでいた。そこへなのはにヴィータ、そしてフェイトを加えた教官陣がやってきた。 「はい。今朝の訓練と模擬戦も無事終了。お疲れ様。・・・・・・でね、実は何気に今日の模擬戦がデバイスリミッター1段階クリアの見極めテストだったんだけど・・・・・・どうでした?」 一同の視線が集まるなか、後ろのフェイトとヴィータに振る。 「合格」 「まぁ、そうだな」 2人とも好意的な判断。そしてなのはは───── 「私も、みんないい線行ってると思うし、じゃあこれにて1段目のリミッター解除を認めます」 その知らせを耳にした4人は〝やったぁ!〟とうれしさのあまり座り込んでいた地面から跳ね上がる。 「お、元気そうじゃないか。それじゃこのまま昼飯抜きで訓練すっか」 ヴィータのセリフに4人の子ヒツジは青ざめ、一様に首を横に振った。 彼ら新人にとって唯一の平安といっても過言ではない食事の時間は絶対不可侵の聖域であり、守らねばならぬ最終防衛ラインだった。 「も~、ヴィータちゃんったら」 なのはに言われヴィータは 「冗談だよ」 と、猫を前にしたハムスターのような目をした4人に言ってやる。 しかし彼女の目が〝本気(マジ)〟だったことを書き添えておこう。 落ち着きを取り戻した4人にフェイトが指示を続ける。 「隊舎に戻ったらまず、シャーリーにデバイスを預けてね。昼食が終わる頃にはデバイスも準備出来てると思うから、受け取って各自しっかりマニュアルを読み下しておくこと」 それにヴィータの補足が付く。 「〝明日〟からはセカンドモードを基本にして訓練すっからな」 しかしその補足を聞いた4人は、自分達が間違っていると思ったのか空を仰ぐ。真上に輝く真夏の太陽は、まだ時刻が正午であることを知らせていた。 「〝明日〟ですか?」 「そうだよ。みんなのデバイスの1段目リミッター解除を機会に、私とヴィータ教官のデバイスも全面整備(フルチェック)とアップデートをすることになったの。だから今日の午後の訓練はお休み。町にでも行って、遊んでくるといいよ」 なのはのセリフに、4人は先ほどを数倍する大声で、喜びの雄叫びを上げた。 (*) 同時刻 フロンティア航空基地 第7格納庫 「あと30分で出撃だ。しっかり頼むぞ」 愛機であるVF-25を引っ掻き回している整備員達に檄を飛ばす。 彼らはそれぞれの仕事をこなしながらも 「「ウースッ」」 と、まるで体育会系のような返事を返す。そして点検項目を並べたチェックボードを効率よく埋めて、整備のために開けたパネルやスポイラーを定位置に戻していった。 そんな中、こちらへと1人の整備員がやってきた。しかし他の整備員と違ってそのツナギはあまり機械油に汚れていないように見える。どうやら新人らしい。 「どうした?」 「はい、アルト一尉。恐縮ですが、モード2のバトロイドのモーション・マネージメント比は今までの1.50倍で良いでしょうか?先ほど戦闘のデータを見る機会があったのですが、自分の見立てではあと0.04増やした方が動かしやすいように思います」 幾分か緊張した様子の新人に言われて初めて思い出す。そう言えば確かに前回戦闘の最中、そのような違和感を覚えたような気がする。もっともSMSへの先行配備の段階から乗っているVF-25という機体なので多少の誤差など十分カバーできるが、修正するに越したことはなかった。 「よく気付いたな。そうしてくれ」 答えを聞いた新人は満面の笑みを作って 「はい!」 という返事とともに敬礼し、再びバルキリーに繋がれたコントロールパネルに返り咲いた。そこで航空隊設立当初からVF-25のアビオニクスを任せている担当者が 「やっぱり言ってよかったじゃねぇーか」 と、入力する新人の肩をたたく。 「俺達でもコイツのことは完全には把握してないんだ。だからこれからも新人とか専門外とか関係なしにどんどん聞いてくれよ!」 「はい!・・・・・・じゃ先輩、さっそくひとついいですか?」 「おう、なんだ?」 「明日地元から彼女が来てくれるんです!それでクラナガンでデートしたいと思うんですが、どこかいいスポット無いですか?」 「え・・・・・・彼女とデート?あ・・・・・・いや、俺はそういうのよくわからなくて・・・・・・その・・・・・・だな」 こういう事象に対しては知識がないのか大いに困っているようだ。そこへ彼の同期がデートと言う単語を聞きつけたのか機体越しに呼びかけてきた。 「どうしたんだよシュミット?お前俺たちと違ってモテるだろ?意地悪しないでデートスポットの一つや二つ教えてやれよ!」 「そういうわけじゃねぇんだよ加藤!」 「じゃあなんだよ?」 「だって・・・・・・なぁ?」 困ったように言うシュミットに安全ヘルメットを外してポニーテールの長髪を垂らした新人が 「ふふふ」 と蠱惑的に微笑んだ。 (*) その後彼女は 「キマシタワー!」 と叫びながらやってきた女性局員や、 「なになに?諸橋(その新人)に〝彼女〟がいるって!?」 とVF-25の整備を終えて集まった整備員集団に囲まれていた。しかしその顔触れはアビオニクス担当者であるシュミット、そして新人を含めて全員自分と同年代ぐらいだった。別に特殊な趣向を持った人間がそう、というわけではない。この航空隊に所属する整備員はほとんど同年代なのだ。 これはこのミッドチルダでOT・OTMという新技術に、最も早く順応したのが彼らのような若者であることの証左であった。 もっとも教養としての現代の技術はともかく、OTMはゼロスタートであったおかげで3カ月前まで整備の質はあまり良くなかった。それが第25未確認世界でも最新鋭機であったVF-25なら尚更だ。 しかし最近ではアビオニクスを整備するシュミットのような人材が育ってきてくれたおかげでなんとか乗り手である自分や、たまに技研から出張してくる田所所長などに頼らなくても良いぐらいの水準に到達していた。 しばらく馴れ初め話を語る諸橋とデートスポットの位置について真剣に話し始めた彼らの様子を遠巻きに眺めていたが、整備が終わった彼らとは違い、自分の仕事は目前に差し迫っている。名残惜しいが列機を見回ることにした。 まずはVF-25の対面で整備が急がれている天城のVF-1B『ワルキューレ』だ。 純ミッドチルダ製であるこの機体は、製作委任企業であるミッドチルダのメーカー『三菱ボーイング社』の技術者が、わざわざ整備方法を懇切丁寧に講義していた。そのため比較的整備水準は初期の頃から高かったようだ。 現在パイロットである天城はコックピットに収まり、ラダー等の最終点検に余念がなかった。 まるで魚のヒレのように〝ヒョコ、ヒョコ〟と垂直尾翼や主翼に付けられている動翼であるエルロンが稼動する。 「あ、隊長」 こちらに気づいた天城は立ち上がると、タラップ(はしご)も使わずコックピットから飛び降りる。 コックピットから床まで3メートルほどあり、生身なら体が拒否するところだが、その身に纏ったEXギアが金属の接触音とともに彼の着地をアシストした。 「今日のCAP任務が8時間ってのは本当っすか?」 「そうだ。今日はだましだまし使ってきた機体の総点検らしいからな。六課にいて一番稼働率が少なかった俺たちで時間調整するんだと」 「・・・・・・ああ、そうですか」 気落ちした表情に続いて小声で 「俺は六課でも出撃率100%だったのに・・・・・・」 という天城の嘆きにも似た呟きが聞こえたが、どうしようもないので 「まぁ、頑張れ」 と肩を叩いてその場を離れた。 次にVF-1Bの隣りに駐機するさくらのVF-11G『サンダーホーク』に視線を移す。 こちらは元の世界でも整備性が高い機体なので、性能に比べて整備が容易になっている。そのためかこちらにはもう整備員の姿はなく、さくら自身が最終点検を行っていた。 サーボモーターなどを使い、電子制御で機体の操縦制御を行う形式であるデジタル・フライバイ・ワイヤの両翼の動翼に、順番に軽く体重を乗せて動かない事を確認する。 そして次に『NO STEP(乗るな)』という表示に注意しながら上に昇ると、整備用パネルが開いていたり、スパナなど整備員の忘れ物がないか確認していく。 よほど集中しているのかアルトが見ていることには気づいていないようだった。しばらくその手際眺めていると、後ろから声をかけられた。 相手はVF-25を整備していた整備員だ。どうやらようやく全ての点検・整備が終わったらしい。 アルトはもう一度点検を続けるさくらを流し見ると、自らの愛機の元へ歩き出した。 (*) 1330時 機動六課 正門 そこにはヴァイスのものだという、このご時世には珍しい内燃機関の一種である、ロータリーエンジン式のバイクに跨がって六課を後にしようとしているティアナ達と、見送るなのはがいた。 「気をつけて行ってきてね」 「は~い、いってきま~す!」 なのはの見送りに後部座席に座るスバルが返事を返すと、ティアナは右手に握るアクセルをひねった。 石油ではなく水素を燃料とするそれは電気自動車や燃料電池車の擬似エンジン音だけでは再現できない振動やエンジン音を轟かせて出発する。そして狼の遠吠えのようなエキゾーストノートを振り撒きながら海岸に続く連絡橋を爆走していった。 なのはは背後の扉が開く気配に振り返る。するとそこには地上部隊の礼服に袖を通したはやての姿があった。 「あれ? はやてちゃんもお出かけ?」 「そうや。ちょっとレジアス中将に呼ばれてな。ウチがおらん間、六課をよろしく」 「は!お任せください!八神部隊長」 わざと仰々(ぎょうぎょう)しく敬礼するなのはに、 「似合えへんなぁ」 とはやてが吹き出すと、なのはもつられて笑った。 その後はやてはヴァイスのヘリに乗って北の空に消えていった。 (*) その後ライトニングの2人を見送ったフェイトと合流したなのはは、 「(フェイトの)車の鍵を貸してくれ」 というシグナムに出くわしていた。 「シグナムも外出ですか?」 フェイトがポケットから鍵を取り出し、シグナムの手に置きながら聞く。 「ああ。主はやての前任地だった第108陸士部隊のナカジマ三佐が、こちらの合同捜査の要請を受けてくれてな。その打ち合わせだ」 「あ、捜査周りの事なら私も行った方が─────」 しかしフェイトの申し出は 「準備はこちらの仕事だ」 とやんわり断られた。 「お前は指揮官で、私はお前の副官なんだぞ」 そう言われてはフェイトに反論の余地はない。 「うん・・・・・・ありがとうございます─────でいいんでしょうか?」 「ふ、好きにしろ」 そう言ってシグナムは駐車場の方へ歩いていった。 なのははそんな2人を見て、『知らない人が見たらどっちが上官なのかわかるのかな?』と思ったという。 (*) その後デスクワークをしなければならないというフェイトと別れ、なのはは六課隊舎内にあるデバイス用の整備施設に到着した。 「あ、なのはさん」 画面に向かっていたシャーリーが振り返って迎え、その隣にいたヴィータも 「遅かったじゃねーか」 といつかのように婉曲語法で自分を迎えた。 「ごめん、ごめん。それでどう?上手く行ってる?」 なのはは言いながらシャーリーの取り組んでいる画面を後ろから覗き見る。 自らのデバイス『レイジングハート(・エクセリオン)』は昼飯前からシャーリーに預けられており、アップデートは開始されているはずだった。 「はい、あと2時間ぐらいでアップデートは終わる予定です」 プログラムを構築したシャーリーの見立てにミスはない。ディスプレイに表示された終了予定時間は1時間以下だったが、こういう終了時間は信用できないのが世の常。それを証明するように次の瞬間には3時間になったり30分となった。 ヴィータの方も似たり寄ったりで、プログラムのアップデート率をみる限り、自分の1時間後ぐらいに終わるだろう。 しかしなのはは画面を眺めるうちにあることに気づいた。 自分とヴィータだけでなく、まだもう1つデバイスのアップデート作業が進行しており、もう間もなく終わりそうなことに。 検査兼整備用の容器に入った待機状態のそのデバイスは〝ブレスレット型〟だった。 「ねぇシャーリー、あのデバ─────」 デバイスは誰の?とは問えなかった。その前に持ち主がドアの向こうから現れたからだ。 「あ、なのはさん、お久しぶりです!」 地上部隊の茶色い制服に身を包み、ニコリと嬉しそうに挨拶する緑の髪した少女、ランカ・リーがそこにいた。 (*) ランカは本局の要請で無期限の長期出張に出ていた。 行き先は〝戦場〟だ。 第6管理外世界と呼ばれる次元世界で行われていた戦争は、人対人の戦争ではなく、対異星人との戦争だった。 本来管理局は非魔法文明である管理外の世界には干渉しないのが基本方針だったが、その世界の住人は管理局のもう1つの任務に抵触した。 それは〝次元宇宙の秩序の維持〟だ。 彼らは70年程前に次元航行を独自に成功させ、巡回中だった時空管理局と遭遇したのだ。 運の良いことに極めて友好的で技術も優秀な人種であったことから、1年経たないうちに管理局の理念に賛同した彼らと同盟を結ぶに至った。 以後管理局は次元航行船の建造の約8割をその世界に依存しており、管理局の重要な拠点だった。 しかし2ヶ月前、その世界で戦争が勃発した。 その異星人は我々人間と同じく〝炭素〟ベースの知性体(以下「オリオン」)であったが、彼らは突然太陽系に入ると先制攻撃を仕掛けてきたのだ。 当然管理局に友好的だったその惑星(以下「ブリリアント」)の住人は必死に応戦する。 管理局との規定により魔導兵器縛りだったが兵器の技術レベルではなんとか拮抗。戦力は圧倒的に劣っていた。しかしブリリアント側にはある〝技術〟があった。 次元航行技術だ。 この技術は実は超空間航法『フォールド』と全く同じ技術で、第25未確認世界(マクロス世界)とオリオンの住人達は知らなかったが、空間移動より次元移動に使う方が簡単だった。 この技術によってオリオン側の先制攻撃と戦力のメリットを塗り潰し、比較的戦いを有利にすすめた。 しかし所詮防衛戦でしかなく、オリオン側の恒星系の位置がわからないため、戦いは長期化の様相を呈していた。 だが捕虜などからオリオンの情報がわかるにつれて、戦争の必要がないことがブリリアント側にはわかってきた。 彼らの戦争目的は侵略ではなく〝自己防衛〟だという。 何でも彼らの住む惑星オリオンからたった数百光年という近距離にあったため、 「ベリリアン星の住人が攻めてくる!」 という集団妄想に駆られたらしい。 それというのもブリリアント側が全く気にしていなかった、それどころか最近までまったく観測すらしていなかったものが原因であった。それは次元航行に突入する際に発生してしまう短く超微弱なフォールド波だ。 これを次元航行発明から70年間完全に垂れ流しつつけ、これを受信したオリオンが盛大に勘違いした。 彼らにはまだフォールド技術は理論段階で、空間跳躍以外の使用法を全く思いつかなかった。そのため管理局に造船を任されてどんどん新鋭艦を次元宇宙に進宙させていったブリリアントの行為は、オリオン側にとって奇怪に映った。船を造ってどんどんフォールドするのはわかる。宇宙開発というものだとわかるからだ。しかし恒星外にフォールドアウトするでもなく、ただため込んでいるようにしか見えないその行為は、オリオンの住人にとって艦隊戦力の備蓄と思われてしまったのだ。 そう勘違いしてしまったオリオンは半世紀の月日をかけてフォールド航法を理論から実用に昇華させて、のべ一万隻もの宇宙艦隊を整備。そして今、万全の準備をして先制攻撃に臨んだようだった。 しかし実のところ彼らのことはまったく知らなかったし、『協調と平和』を旨とするブリリアントは知ったところで侵略するような野心もない。 そこで和平交渉のためにまず戦闘を止めようと考えたブリリアントは、次元宇宙で〝超時空シンデレラ〟とも〝戦争ブレイカー〟とも呼ばれるランカ・リーの貸出しを要請したのだ。 管理局としても戦争による新鋭次元航行船建造の大幅な停滞は困るし、70年来の大切な盟友を助けたいという思いがあった。 こうして1ヶ月前、六課に対し最優先でランカの出張を要請したのだ。 六課やアルトは危険地帯へのランカの出張に渋ったが、ランカの強い思いから根負けしていた。 こうして第6管理外世界に出張したランカは、本局の次元航行船10隻からなる特務艦隊と航宙艦約100隻から成るブリリアント旗艦艦隊に守られながら局地戦をほぼ全て歌で〝制〟して行ったという。 確かなのはが最後に見た関連ニュースは「全オリオン艦隊の内、50%がブリリアント側に着いた」というものだった。 そのランカがここにいるということは───── 「戦争は終わったの!?」 ランカは頷くと続ける。 「みんないい人達なんだよ。ただ誤解があっただけなんだ」 そう笑顔で語る少女は、とても恒星間戦争を止めた人物には思えぬほど無邪気であった。 (*) 1424時 クラナガン地下 そこは戦前は半径10キロメートルに渡って巨大な地下都市があり、戦時中は避難民が入った巨大な地下シェルターだった。 一時は全区画にわたって放棄されていたが、今では歴代のミッドチルダ政府の尽力によって大規模な地下街が再建されている。 しかしその全てに手が届いたわけではない。一部の老朽化や破壊の激しい区画は完全に放棄され、そうでなくともただのトンネルとして利用されていた。 そこを1台の大型トラックが下って(クラナガンから出る方向)いた。 そのトラックのコンテナには『クロネコムサシの特急便』のロゴとイメージキャラクターがペイントされ、暗いトンネル内をヘッドライトを頼りに走って行く。 運転手はミッドチルダ国際空港近くの輸送業者の新人で、この道は彼の先輩から教わったものだ。 地上のクラナガンに繋がる道はどこも渋滞であり、拙速を旨とする彼ら輸送業者はこの廃棄区画を開拓したのだった。 しかし残念ながら路面状態はよくない。 その運転手はトラックの優秀なサスペンションでも吸収できなかった予想以上の縦揺れに驚く。 「いかんな・・・積み荷が揺れちまうじゃねぇか」 彼はシフトレバーについたつまみを操作すると、ヘッドライトをハイビームにする。 すると少しは視認範囲が広かった。しかし───── (しっかし、いつ来ても廃棄区画は気味悪りぃな・・・・・・) 右も左も後ろにも他の車は見えない。それが彼に昨日見た映画を思い出させた。 それはベルカ(位置は第97管理外世界でアメリカ合衆国)の〝ハリーウッド〟で撮影された映画で、タイトルは「エイリアン」だ。 ストーリーは時空管理局の次元航行船が、新らたに発見された世界の調査のために調査隊を派遣する所から始まる。 そこには現代の技術レベルを持った町があったが、人の姿がない。調査が進むにつれてこの惑星の住人が、ある惑星外生命体の餌食になっていたことがわかった。 しかしその時には遅かった。 魔法の使用を妨害するフィールドを展開する敵に対し、調査隊には腕利きの武装隊が随伴していたが、また1人、ま1人と漆黒のエイリアンの餌食になっていく。 また、次元航行技術があったらしいこの世界は、厳重に隔離されていたが次元空間へのゲートが開きっぱなしだった。 このままではエイリアン達がこちらの世界に来てしまう。 何とか現地の質量兵器を駆使して次元航行船に逃げ延びたオーバーSランクの女性執務官リプリーと、1人の調査隊所属の科学者の2人は、艦船搭載型の大量破壊魔導兵器であるアルカンシェルによるエイリアンの殲滅を進言。そのエイリアンの危険性は認められ、それは決行される。 大気圏内で炸裂したアルカンシェルは汚染された町をクレーターに変え、船は次元空間に戻った。 しかしリプリー達が乗ってきた小型挺には小さな繭が─────! という身の毛もよだつ結末だ。 さて、問題のシーンは物語の終盤。先の生き残った2人と、3人の武装隊員が現地調達した軽トラで、小型挺への脱出を試みた時だった。 その名も無き(劇中ではあったと思うがいちいち覚えていない)武装隊員はこのようなだれもいない地下の道を走っていた。 しかし賢しいエイリアン達は天井に潜んでいた! ノコノコやってきた軽トラに飛び乗った〝奴ら〟は2人の武装隊員の断末魔の悲鳴とともに運転席を制圧。危険を感じ取ったリプリー達3人は荷台から飛び降りた─────というシーンだった。 (・・・・・あれ、俺って名も無き犠牲者その1じゃね─────) 彼の背筋に冷たいものが走る。 「ま、まさかな。そうだよ、杉田先輩だって10年以上この道を使ってたんだし、前にも先輩と1回通ったじゃないか」 わざと声を出して自らを勇気づける。 そして彼はラジオを点けると局を選ぶ。すると特徴的なBGMと共にCMが聞こえてきた。 『─────毎日アクセルを踏み、毎日ブレーキを踏み、毎日荷物を積み降ろす。・・・あなたのためのフルモデルチェンジ。新型〝ERUF(エルフ)〟登場─────!』 彼はそれを聞きながらそのBGMを歌い出す。 「いぃつ~までも、いぃつぅ~までも~、走れ走れ!ふふふ~のトラックぅ~」 それを歌うと何故か恐怖も飛んでいった。 (やっぱこの曲はいいねぇ~。でも─────) 彼はこのトラックのフロントにあるシンボルマークを思って少し申し訳なく思った。 そこには『ISUDU』ではなく、『NITINO』のマークがあったりする。 (どっちが悪いってわけでもないんだが・・・・・・) 彼はそう思いながらも歌い続けた。 「ど~こぅ~までも、どこぅまでも~、走れ走れ! ISUDUのトラック─────」 (*) 5分後 『そろそろクラナガン外辺部かな』と思った彼は、GPS(グローバル・ポジショニング・システム。全地球無線測定システム)で位置を確認する。その時、一瞬サイドミラーが光を捉えた。 「?」 再び確認するがなにもない。 (勘弁してくれよ・・・・・・映画のせいで敏感になってるんだな・・・・・・) 彼はそう結論を出すと運転に意識を集中する。しかし今度はコンテナの方から無理に引き裂かれているのか、それを構成する金属が悲鳴のような悲鳴を上げる。 「ちょ・・・・・・マジで・・・・・・」 積み荷は食料品や医療品などで勝手に動くものは積んでいないはずだ。 (ということは・・・・・・!) 彼の頭に映画のシーンがフラッシュバック!あの武装隊員の断末魔の悲鳴が頭に響く。 (落ち着け、落ち着け、 落ち着け、落ち着け、 落ち着け、落ち着け、 落ち着け、落ち着け、 落ち着け、落ち着け、 落ち着け、落ち着け─────!!) 彼はもはやパニック寸前だ。しかし無慈悲にもその時は訪れた。 一瞬静かになり、彼が振り返えろうと決意した瞬間───── 耳をつんざく轟音と眩いまでの黄色い閃光が閃光手榴弾のように彼の視界を奪った。 すでに冷静さを欠いていた彼は驚きのあまりハンドル操作を誤り、トラックを横転させてしまった。 (*) 横転事故より15分後、トラックに搭載されていた緊急救難信号を受信した救急隊が現場に急行していた。 「・・・・・・おい、あれか?」 救急車を運転する救急隊員が助手席に座ってGPSを操作する同僚に聞く。 「ああ、そうらしい。しかし、こんな薄気味悪い場所で事故らんでも・・・・・・」 「こんな場所だからだろ。・・・・・・運転席に付けるぞ」 救急車は横転したトラックの本体─────牽引車近くに横づけする。 「大丈夫ですか!?」 ドアを開けて助手席の同僚がトラックに呼びかけるが返事はない。車を離れているのだろうか? 後ろではもう1人の同僚が救急車の後部ハッチを開けて、懐中電灯でトラックを照らす。 どういう訳かコンテナだけがひどく損傷していたが、運転席付近は無傷だ。シートベルトさえしていれば助かりそうだが───── いた! エアバックで気絶しているらしい。トラックの左側を下に横転しているため、宙吊りになったまま項垂れている。 外に出た同僚2人はデバイスで超音波を発生させてフロントガラスを1秒足らずで割ると、センサーで彼の状態を調べる。 「・・・・・・大丈夫だ。バイタル安定、骨も折れてない」 2人は運転手を事故車両から引き離していく。 その間に運転席に残っていた彼は、どうも妙な事故なため、無線で1番近い治安隊に事故調査隊の派遣の旨を伝えた。 (*) 20分後 「通報を受け派遣されました第108陸士部隊、ギンガ・ナカジマ陸曹です」 『地上部隊 第108陸士部隊』と書かれたメガ・クルーザーのHMV(ハイ・モビリティ・ヴィークル。高機動車)に乗ってきたのは3人で、内2人は白衣を着、もう1人は挨拶をした地上部隊の茶色い制服を着た1人の女性隊員だった。整備されていないこの地下空間は世間では犯罪者の温床にもなっていると言われていることから、治安隊の代わりに陸士部隊の調査隊として派遣されたとのことだった。 「この事故はただの横転事故と聞きましたが・・・・・・」 「はい。それが事故状況がどうも奇妙でして、それほど大きな衝撃でもないはずなのにコンテナだけが吹き飛んでいて・・・・・・」 確かに救急車のヘッドライトに照らされたコンテナは、原型を止めないほどにひどく損傷していた。 「運転手の方(かた)は?」 ギンガの質問に救急隊員は困った顔をする。 「・・・・・・それが運転手も混乱していまして・・・・・・お会いになりますか?」 「できるならお願いします」 ギンガは同乗者の2人に現場検証を頼むと、運転手が手当てを受けているという救急車に入った。 「本当なんだよ!あの〝エイリアン〟が出たんだ!!」 そう手当てしながら困った顔をする救急隊員に喚く運転手に、ギンガは〝ギョッ〟とする。 (そうかぁ、あの映画を見た人かぁ・・・・・・) 彼女は彼に、一気に親近感を覚えた。 彼女も実は1年ほど前にその映画を劇場でみていた。人には言えないが、その後1ヶ月ぐらい1人で真っ暗な部屋に入る時には、デバイスをその腕に待機させねば安心できなかった。 「すみません、そのエイリアンのお話をお聞かせ下さい。私はそのために管理局から派遣されました」 「なんだって!・・・・・・それじゃあの映画は!?」 思わせぶりに頷いてやると運転手の口はようやく軽くなり、やっと事故の状況が判明した。 (*) 「コンテナが勝手に爆発ねぇ・・・・・・」 救急車から出たギンガが腕組みして考える。 地面に散らばる積み荷は食料品などで爆発するような物はないし、クロネコムサシの本社から預かったそのトラックの輸送物リストもほとんどが医療品や食料品と書いてある。 しかし本当にエイリアンが来たなどということはあるまい。 鑑みるにこれはテロで郵便爆弾の誤爆という可能性があるが、どこかの政府系機関に届ける予定の荷物は───── 「・・・・・・あれ?」 ギンガの目がリストの一項目で止まる。 (これがベルカのボストンで?) 内容物は、輸入品としては珍しくないとうもろこし。しかしベルカの比較的北にあるボストンでは寒すぎて生産していない。 ビニールハウスという手もあるが、最近赤道付近の地価は安く、補助金も出るためそんなところで作るメリットはない。 それどころかボストンでは10年前からあるベンチャー企業の進出が進んでおり、農業をやるような場所はもう残っていないはずだった。 (確かその企業がやっているのは医療用のクローン技術─────) そこまで考えた時、一緒に来た調査隊員の自分を呼ぶ声が耳に入った。 「はーい。今行きます!」 ギンガはリストを小脇に添えると声の主の元へ走る。 「どう─────」 どうしました?と問うまでもなかった。 彼は顔を上げると〝それ〟をライトで照して見せる。 そこには他の積み荷と違って無粋な金属の塊『ガジェットⅠ型』の大破した姿があった。 「他にもこんな物が」 少し離れていたもう1人が、床に転がっているそれを指先でトントンと叩いて見せる。 「それは・・・・・・生体ポット!?」 ギンガは目を疑うことしかできなかった。 (*) 『君はいったい何をやっているのかね!?管理局に感づかれたらどうする!』 画面の中で怒鳴る背広を着た中年男にスカリエッティは涼しい顔をして答える。 「〝あれ〟が本物かどうか試しただけですよ。それに、管理局など恐るるに足らない」 その軽い態度に更に熱が入ったのかまた怒鳴ろうとした中年男だが、画面の奥の人物に制される。 『しかし社長!』 中年男は社長と呼ぶ30代ぐらいの若い人物に異議を唱えようとするが、彼の鋭い視線だけで黙らされてしまった。 社長は中年男が席に座るのを確認すると、今度は彼自ら詰問し始めた。 『スカリエッティ君、我々はもうかれこれ7年間君の研究のために優秀な魔導士達の遺伝子データを提供してきた。だが我々が君に嘘をついた事があるか?』 「いいえ。おかげさまで研究は順調に進んでますよ」 『なら今後、このような事は無いようにしてくれたまえ。・・・・・・それと〝あの子〟の確保は後回しでも構わないが、一緒に送った3つのレリックの内〝12番〟は必ず回収したまえ。あれがなければこの計画は失敗だ』 「仰せのままに」 スカリエッティの同意に社長は通信リンクを切った。 画面に『LAN』という通信会社の社名が浮かぶ。この回線はミッドチルダから太平洋を横断し、ベルカの大地まで繋がった長大な有線回線だ。 現在ミッドチルダ電信電話株式会社(M T T)に市場で敗れたこの会社はもうなく、海底ケーブルは表向き放棄されている。しかし海底ケーブルというローテクさ故に注目されず、盗聴も困難なため、水面下で動く者達の機密回線にはもってこいだった。 「またスポンサーを怒らせたの?」 いつものように気配なく彼女はスカリエッティの背後に現れた。 「まぁね。しかし必要なことさ。それに、彼らには〝あれ〟の重要さがわかっていない」 スカリエッティは肩を大仰に竦めると首を振った。 「そう・・・・・・。まぁ、私はあなたの副業には干渉しないけど、せいぜい頑張ってね」 グレイスは微笑むと退室していった。 「・・・・・・ウーノ」 スカリエッティの呼びかけに、彼の背後に通信ディスプレイが立ち上がり、彼の秘書を映し出す。 「はい」 「あれは本物だったか?」 「確定はできませんが、恐らく本物でしょう。」 スカリエッティはその答えに陶酔したように 「すばらしい・・・・・・」 とコメントすると、〝それ〟の追跡を依頼した。 (*) 『ベルカ自治領 マサチューセッ〝チュ〟州 ボストン』 その地域は最近発展してきた医療科学系企業『メディカル・プライム』が席巻していた。 この企業はミッドチルダでは禁止されている「クローン技術」を用いて、要請を受けた本人のクローンの臓器を作っている。無論これは移植のためだ。 この『クローン臓器移植法』は、移植時の拒絶反応が全くないことから定評があった。 しかし従来の全身のクローン体から、移植のため一部を取り出すという行為はクローン体を殺す事を意味し、倫理上の問題があった。 そこでこのベンチャー企業は必要な臓器を必要なだけ、ある程度〝瞬時に〟クローン化する技術を開発し、これを武器に発展してきていた。 社名の「メディカル・プライム」も「最上級の医療を!」という熱い思いを込めて付けられたもので、お金さえあれば〝パーツ〟の交換で脳を含めた若返りすら可能だった。 現在、その企業内では深夜に関わらず、上級幹部達が緊急会議の名目で集っていた。 ある幹部が通信終了と同時に口を開く。 「全く、あの男の腹の内は読めん」 それに対し、スカリエッティに怒鳴っていた中年男が彼に怒鳴る。 「なにを言っている!やつなど野心丸見えじゃないか!だから犯罪者と手を組むことには反対だったのだ!」 「・・・しかしあいつにしかこの計画は遂行できないだろうな」 5,6人の幹部達が思い思いに意見をぶつける。今までこの議論が何度重ねられたことか。しかしやっぱり最後の結論は決まっている。 「諸君、すでに賽(さい)は投げられたのだ。この計画にスカリエッティを巻き込んだことを議論しても仕方がない。それに管理局には非常用の鈴が着いている。〝不本意だが〟もしもの時は彼女に揉み消してもらおう。我々はスカリエッティを監視しつつ、ベルカの誇りである〝あの船〟の浮上を待てばよいのだ。あの船さえあれば、ミッドの言いなりになってしまったこの国の国民達も、目が覚めるはずだ!」 社長の熱を含んだスピーチに幹部は静かに聞き入る。そして社長は立ち上がると、会議室に飾られた今は無きベルカ国の国旗に向き直り、掛け声を上げる。 「偉大なるベルカに、栄光あれ!」 「「栄光あれ!!」」 幹部達も立ち上がり、彼に続いた。 ―――――――――― 次回予告 地下より現れた謎の少女 同時に始まったガジェット・ゴースト連合の一大攻勢 彼らは無事クラナガンを守りきることができるのか? 次回、マクロスなのは第27話「大防空戦」 「サジタリウス小隊、交戦!」 ―――――――――― シレンヤ氏 次