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・このお話しは、anko1706 北のドスさま 前編その2 の続きの話しとなっております。 なのでそちらを読んでいないと、何がなんだがさっぱりわからないと思います。 ・その他の注意は前編と同じです。 「何か聞きたいことがあるって顔だねぱちゅりー?」 麓の村にある宿屋にて、男がぱちゅりーに尋ねる。 「むきゅうー、そのとおりよ。でも何度聞いても人間さんがまるで無視して答えてくれないから…」 ドスの群れへと視察へ行ったその後、 男とぱちゅりーは暴動の主犯であるまりさを抱えて、まっすぐ麓の村へと帰った。 途中の森で何度かぱちゅりーが男に話しかけたのだが、 男はキョロキョロと周りを見回すばかりでまったく反応してくれず、ぱちゅりーはそのうち質問することを諦めた。 ちなみにまりさは道中ずっとドスが悪い、ドスを制裁すべきだと、ギャーギャーうるさかったので、 男が当身をくらわせ、今は気を失っている。 そんなわけでドスの群れを出てからはじめて二人は言葉を交わしたのであった。 「いやー、ごめんごめん。ちょっとね、森内の死角をさがしてたんだわ。 それにあの森はドスたちのテリトリー内だぜ、どこに耳があるかわかったもんじゃない。 うかつなことを喋って相手にこっちの情報を与えることもないと思ってね」 「むきゅ!それじゃ、人間さんはドスが何かを企んでいると思っているわけ?」 「いや、まあ、どうかな?それをこいつに訊こうと思って連れてきたんだけどね」 男はベッドでぐったりと気を失っているまりさを指差す。 「まあ、あの群れには何かあるのは確実だろう。色々と気になる点も多かったし…」 「むきゅ、その人間さんが気になった点をぱちぇは聞きたいのだけれど」 ぱちゅりーもまた、あの群れにはなにか得体の知れない違和感を感じていた。 だが具体的にどこがどう怪しいのかと問われると、何とも言いがたい。 しかしぱちゅりーは、男ならばこのもやもやとした感覚に、しっかりとした答えを与えてくれるのではないかという期待があったのだ。 「んーとだな、まず第一にドスが直々に森の入り口で待っていたことかな」 男は顎に手をやりながら答える。 「むきゅ?それは人間さんたちとの協定関係を重要視してたからじゃないの?」 「まあそうだな、そう考えるのが一般的だと思う。 だが報告書によると、前回まで、つまり先輩が視察をしていたときには ドスはわざわざそんなことをしていなかったみたいだぜ、 なぜ今回にかぎってわざわざそんな面倒なことをしたのかな?」 男は逆にぱちゅりーに質問する。 「そ、それは、私たちが始めて森に来たから迷わないように気を使ってくれたんじゃないかしら?」 「いや、それはないよ。だってあいつ自分で言ってただろ『いつものにんげんさんとちがう』って、 あいつは今回オレたちが先輩の代理で来ることは知らなかったはずだ」 「!そういえば」 ぱちゅりーはハッとした様子で頷く。 「オレにはなにか……、森に見られたくない光景があって、 それを隠すためにわざわざ自分で群れまでの道案内をしたんじゃねえかと思えるんだわ。 例えば、群れの一部のゆっくりたちが他のゆっくりたちを虐待してるところとかさ」 そう男は指摘した。 そして実際にこの予想通り、男とぱちゅりーがドスに連れられて森を移動しているコースの すぐ目と鼻の先の場所では、いつものように幹部ゆっくりたちが奴隷たちをこき使っている光景が繰り広げられていたのだ。 それらの発覚を恐れたドスが、問題のない順路で群れまで先導したというのがことの真相であった。 「まあ、実際になんらかの虐待をしている所を隠しても、広場にゆっくりたちが集合したときの様子でバレバレだったんだけどね 集まってきた連中はほとんどズタボロで目が死んでたから」 「むきゅ!ゆっくりの数を数える為に、みんなが広場に集まったときの話しね! そのことのならぱちぇも気づいていたわ」 「みたいだね。やつらの出方を見たかったから、お前には黙ってるように合図したわけなんだが」 あの時、後から広場にやってきたゆっくりたちは、みな一様に目に光がなく、疲れきっている様子だった。 まあ相手は野生で暮らすゆっくりだ。疲れていたりボロボロだったりするのはそれ程変ではない。 だが問題は、はじめに広場で丸々と太って、とってもゆっくりしていた連中との対比だ。 同じ環境で暮らしているのにもかかわらず、ここまでの差が出るのは明らかにおかしい。 明らかになんらかの差別的な行為がこの群れで行われていることは、間違いなかった。 ぱちゅりーが初めに気づいて男に言おうとしたのはこのことである。 「その他にもぱちぇは、あのときのドスの冷や汗をかいた様子を見て、 ゆっくりの数をごまかしてるんじゃないかと疑ったんだけど…」 ぱちゅりーが躊躇いがちにあのときの自分の推測を口にする。 結局ぱちゅりーが睨んだ洞窟にはゆっくりの姿はなかったが、 その他の場所に隠れていないとも限らないと、ぱちゅりーは思い直していた。 「え?そうなの。オレはそれはないと踏んでたけどね。だってそんな簡単にバレるような嘘つくわけないだろ? もしそんなことしてたとしても、ゆっくりを数え終わった後に、隠れてそうな洞窟探し回れば一発で見つかっちゃうじゃん。 あの人そういうの絶対見逃さないから。 毎回毎回先輩の視察を経験しているドスがそんなアホなマネするとは思えんね。」 と、あっさりぱちゅりーの推論を否定する男。 「む、むきゅうー」 そう言われてみれば確かに男の言う通りである。 ぱちゅりーは段々自分の浅はかさが、恥ずかしくなってきた。 「あいつが冷や汗かいてビビッてたのは、単純に緊張と、 ボロボロのゆっくりのことを、突っ込まれやしないかとドキドキしてたからだろうな。 多分そのことを指摘されたときに備えて、何らかの言い訳は用意してあったと思うけどね。 大方、こっちが何を言っても実際に現場を押さえない限り状況証拠しかないから平気と踏んでたんじゃないかな?」 これまた男の予想は当たっており、ドスは男がゆっくりの数を数えている間、 何時ゆっくりたちの貧富の差を指摘されないかドキドキしていたのだ。 もし、指摘された場合は、現在は食の安全を最重要に考えており多少無理してでも食料を 集めるようにしているとか何とか言って誤魔化すつもりであった。 しかし、ドスの予想に反し、以外にも男は(ゆっくりたちの様子を窺うために)この事をスルーした。 もしも相手がいつも視察に来るおねえさんなら、絶対こんなことはあり得なかっただろうとドスは思った。 こうしてドスは、男のことを警戒するに値しない、大したことのない人間と結論付けるに至ったのだ。 まあ、要するに完全に男の術中にはまっていたわけである。 「そしてお次はあの洞窟内にあった大量の食料だ」 「むきゅ。あれは凄かったわね」 あのときの光景を思い出してか、遠い目をするぱちゅりー。 「凄いなんてもんじゃないさ、あれはもう緊急時の備えの保存食なんてレベルを超えてるよ。 あれだけの量をかき集めるのは半端じゃないぜ、恐らく群れのほとんどのゆっくりが ほとんど何も食わずに四六時中駆けずり回わって集めたんじゃないか?」 男は始めに食料庫を見たときから違和感を覚えていたのだ。 いくらなんでもこの量はおかしい、と。 事実あの大量の食料はドスが計画の為に、奴隷ゆっくりたちをフル動員させてかき集めたものであった。 「あれは、そう、明らかに何らかの用途を想定されて用意されたもんだろう」 「その用途ってなにかしら?」 「さあ?さすがにまだそこまではわからんね。 単純に考えれば、ドスが食料を独り占めするためかな… でも、そんな食い意地はってるようなタイプには見えなかったんだよな、んーちょっと想像つかねえ」 男はガリガリと頭を掻きながら唸る。 さしの男も、今の時点でドスが人間に対して反乱計画を練っており、 そのための奴隷ゆっくり増強のために、大量の食料が使われる予定だとは気づいていなかった。 男は一連のドスの不審な行動は自分の統治に問題あり、と人間に思われることを防ぐための措置と考えていた。 つまるところ、それ程事態を重くみていなかったのだ。 そもそも無知で愚かなゲスゆっくりならともかく、ある程度の知識があり、人間の強さをわかっているはずのドスが、 人間に攻め入る理由などないと考えるのが普通であり、男が今の時点で反乱の可能性を疑えなかったのは無理からぬことと、言えないこともなかった。 「んでもって最後はあのまりさたちの暴動だな」 「むきゅ!そうね、突然のことでぱちぇはビックリしたわ」 「オレも少しだけ驚いた。が、一番驚いたのはドスだろうな、あの慌てっぷりは演技とは思えない。 あのときのドスは本気で焦っていた。それは間違いないと男は感じていたし、 もし仮にこれがドスの企みだとしても、そんなことをするメリットはドスにはまったくないのだ。 「ところでぱちゅりーは、あのまりさたちの行動をどう思う?」 「むきゅうー、難しいわね。ゲスの考えることはよくわからないから… 多分人間さんより自分たちのほうが強いということを証明しようとしたんじゃないかしら? 野生のゆっくりは人間さんなんかちょろいと思っているゆっくりが多いから」 「証明?何のために?」 「さあ?そこまでは分からないわ。ゲスゆっくり特有の自己顕示欲や万能感の現われかしら?」 そんな意見を口にするぱちゅりー。 「ふむ。まあ普通の群れのゲスならそういうこともありえただろうな。 だが今問題にしているのはドスの群れのゆっくりの話だ。 村長の話じゃ、ゆっくりたちは人間に対して恐怖を抱いているように思える。 そんなゆっくりたちが、わざわざ人間に攻撃を仕掛ける理由とは何か? 答えは現状のドスの圧政を終わらせるため、だ」 「む、むきゅう?」 突然の男の答えに混乱するぱちゅりー。 「わからないか?今までの流れから、ドスが群れのゆっくりたちにとって辛い統治の仕方をしているのはほぼ確実だろう。 ゆっくりたちは考える。何とかしたい。でも相手はドスだ、自分らがかなう相手ではない。そこで人間の出番さ。 自分たちが人間に対して反乱を起こして怪我でもさせれば当然その責任は群れの長であるドスが被ることになる。 そうなれば現状の統治の仕方が問題視され、何らかのペナルティを受ける事になる。 あわよくば人間がドスを処分してくれるかもしれない。 と、まあ大方そんな所だろ、なあ、まりさ!」 男はベットのまりさに向かって声をかける。 「………にんげんさん」 いつから目が覚めていたのだろうか?まりさがむっくりと起き上がり男の方に向き直ると がばっと、顔を地面にこすり付けて懇願しはじめた。 「おねがいしまずうううううううううう!まりさたちはどうなってもいいですから、 あのどすをなんどがしてくださいいいいいいいいいいい! むれのみんなは、どれいのようにこきつかわれているんですううううううう! みんなぜんぜんゆっくりできてないんですうううううううううう! まりさたちはもうげんっかいなんですううううううううううううう!」 泣きながら訴えるまりさ。 その様子を見て男はまりさの願いを、 「やだよ!バーカ!」 「どじでそんなこというのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」 きっぱりと拒否したのだった。 「ゆうううううううう!どうして?どうしてええええええええ!」 「やめろバカ騒ぐな、お隣の部屋の客に迷惑だろうが!」 「ゆぶぶぶぶぶぶ!」 ギャーギャーとうるさく騒ぎ立てるまりさの口を強引に閉じさせる男。 それでも喋り足りないのかゴモゴモと口を動かそうとするまりさ。 「あーもー鬱陶しい、おいぱちゅりーこいつに説明してやれ」 いちいち説明するのが面倒なのか、ぱちゅりーに解説を促す男。 「ゆう、ごめんなさいねまりさ。多分あなたの言うようにドスは群れのゆっくりたちに酷いことをしているんだと思う。 でも、それはあくまで群れのゆっくりたちの問題。人間さんの出る幕じゃないわ。 ましてや、あのドスは人間さんとの約束事はきちんと守ってる。現状のドスをどうこうする理由が人間さんには無いの」 「そういうことだ。別にオレたちは正義の味方じゃない。 極端な話し、人間とのルールさえ守ってくれれば、群れがどうなろうと知ったこっちゃないんだわ、これが」 「ゆううううう!」 男とぱちゅりーの説明に唸ることしかできないまりさ。 頭は悪くないらしく、今二人が言ったことがきちんと理解できているようだ。 「でも、でも、まりさたちは、にんげんさんたちにたいして、はんらっんしたよ! それはどすが、みんなにひどいことをしたからおこったことだよ! どすをなんとかしないかぎり、るーるをやぶってにんげんさんのむらへおりたり、 めいわくをかけるゆっくりが、ふえることになるよ!」 このまま放っておけば人間にとってもよろしくない事態になると、必死に訴えるまりさ。 「ハァ…それがバカだって言ってんだよまったく…」 「ゆ?」 男は溜息をつく。 「あのな、お前さん、どうやら人間に危害を加えたら処分されるのは自分たちと、 責任ゆのドスだけだと思ってるみたいだけど、それは甘い考えだぜ。 人間を傷つけるような危険なゆっくりの群れを人間が放っておくはずないだろが、そんなことになったら、群れごと全駆除だっての。 ドスと心中するのがお前らの望みなのか?もしそうだというのなら悪くない手だけどな」 「ゆうううう!!!」 まりさの目が驚愕に見開かれる。どうやらそこまでの事態は想定していなかったようだ。 まりさの考えでは、処分されるのは直接手を下した自分たちと責任ゆのドスだけで、他の群れのみんなは助かると思っていたのだ。 「やれやれ、わかったら人間に攻撃してドスを駆除させるなんてバカげた作戦は止めにしな。 今回の件は、お前のその馬鹿げた覚悟と、オレに攻撃する際、手加減してたことに免じて見逃してやるよ 今度群れに行ったときに、お前の仲間も連れてきてやるから、そいつらと一緒にどこか別の森に行くなり何なりしな」 そう男が突き放す。 「…………」 まりさは全餡子を必死に回転させて、これからのことを考えていた。 男は自分や反乱に加わったみんなを見逃してくれるといっている。このまま大人しくしていれば、夢にまでみた自由が手に入るのだ。 ほかの森へ移り住んでも生活は辛いだろうが、今よりはずっとましなはずである。 だが、しかし、もし今自分が逃げれば、群れで苦しんでいるほかのゆっくりたちはどうなる? あんなところに居続ければ、間違いなく一度もゆっくりすることなく、永遠にゆっくりしてしまうことだろう。 ダメだ!他のゆっくりを置いて、自分だけ逃げるわけにはいかない! こうなったらもう賭けだ。 確証はないし、それこそ群れごと人間さんに滅ぼされてしまう可能性があるが、このまま何もしないわけにはいかない。 「に、にんげんさん…」 「ん?なんだ?まだ何かあんのか?」 スウ、とまりさは大きく息を吸い込むと、意を決して発言した。 「にんげんさんが、どすをなんとかするりゆうはほかにもあるよ! あのどすは、にんげんさんのむらにたいしてはんっらんをたくらんでいるんだよ!!!」 「……ふーん」 気のない返事をする男。 対して、まりさは必死に続ける。 「う、うそじゃないよ!かんぶゆっくりたちがはなしているのをきいたんだよ! なにかひみつへいきもあるってはなしだよ!このままじゃにんげんさんたちもきけんなんだよ!」 「……ふーん。なんだか腹が減ってきたな。そろそろ飯にでも食いに行くか、ぱちゅりー」 「ゆがあああああああああ!まりさのはなしをきいてね!ほんとなんだよ!あのどすはきけんなんだよ!せいっさいしてね!」 騒ぎ立てるまりさを無視すると、男はぱちゅりーを抱えてさっさと部屋を出て行ってしまった。 慌ててまりさも追いかけるが、ドアをきっちりと閉められてしまう。 こうなると、ドアノブに届かないまりさにはどうしようもない。 「ゆうう、どうすれば」 部屋に一人残されたまりさは、うなだれながら呟いた。 「人間さん!あのまりさの話し本当かしら?」 「あん?反乱を企んでるとかいうやつ?」 村の飯屋にて、食事の最中にぱちゅりーが聞いてきた。 「そうよ、そのドスが反乱を企んでいるという話し。 ぱちぇは、まりさが出まかせを言っているんじゃないかと思ってるんだけど… もし本当にそんな事実があるなら、あんな最後のタイミングまで黙っている必要ないわけだし…」 ぱちゅりーはまりさが、ドスを人間に倒してもらうために嘘の情報をいっているのではないかと怪しんでいた。 正直まりさたちの境遇には同情するし、あのドスに対してもいい印象を持たない。 しかしだからといって、それに流されて判断を誤るわけにはいかない。 そのぐらいの分別はぱちゅりーにあったのだ。 「オレは絶対にあり得ない話しじゃないとは思うけどね。 火のないところには何とやらって言うし、群れでそういう噂が本当に広まってるなら可能性はなくはない。 まりさの奴が最後まで黙ってたのは絶対の確信がなかったからだろうな。 いざドスを倒してから、そんな事実はありませんでした。てなことになったら、シャレにならんことぐらいあのまりさでもわかってるはず。 それに群れのボスであるドスが人間に反乱を企んでるなんて、ゲスが人間にチョッカイ出したことなんか比較にならないくらい大問題だからな。 それこそ全駆除の可能性大だ。 まりさとしても、できるだけは口にしたくはなかったんだろう」 男が慎重な意見を述べる。 可能性はなくはないとったところか。 「それでもあえてそのことを口にしたのはドスが憎いから?」 「というよりも、本気で群れの現状を何とかしたいと思ってるんじゃないか? 自分は死ぬ覚悟でオレに仕掛けてきた点といい、あいつはバカだがそれなりに見所あるゆっくりだな。 ちょっとだけお前に似てるかもな?タイプは違うけど」 「ちっとも似てないわ!」 心外だとばかりにぶすっと頬を膨らませるぱちゅりー。 「まあ、なんにせよだ。明日からあの群れの様子をひっそりと探ってみるつもりさ。 そのために死角とか確認したわけだし、全てはそれからだ。その間、あのまりさのことはお前に任せるよ」 そう言って男は席を立って伸びをした。 次の日、ぱちゅりーとまりさを宿に残し、男は単身森へと向かっていた。 周囲を警戒しつつ、ゆっくりと慎重に進んでいく。 森のあちこちで見張りと思われるゆっくりが配置されていたからだ。 しかし所詮はゆっくりのざる警備である。 男とて、だてに日々野山を駆けずり回っているわけではない。 訓練されていない野生のゆっくりの包囲網を突破することぐらいわけはなかった。 (これはこれは、ずいぶんと厳重なことで、よほど見られたくないもんがこの森にはあるとみえるねえ…) そう思いながら、徐々に森の中心部へと近づいていく。 群れに近づくにつれて、だんだんとゆっくりたちの姿が増えていった。 そして、そこで見たゆっくりたちの光景は男が想像していたものよりも遥かに酷いものであった。 「ほらほら、さっさとはたらくみょん!」 ビシッ!ビシッ! 「ゆぎゃああああああああああああ!」 「ゆるしてえええええええええええ!」 幹部みょんたちにムチのような棒を振るわれ、泣きながら作業をするゆっくりたち。 「おねがいです!おちびちゃんはびょうきなんです!なにかたべだせてあげないとゆっくりできなくなっちゃうんです」 「どれいのこがどうなろうがしったこっちゃないよ!それくらいわかれよー!」 懇願するれいむから食料を取り上げる幹部ちぇんたち 「んほおおおおおおおお!あのまりさ!きにいったわああああああああああああああ! すっきりしつにはこんでちょうだい!」 「いやだあああああああああ!すっきりしつにはいきたくないいいいいいいいいいいい!」 ありすに見初められ、無理やりどこかへ連れて行かれるまりさ。 (……これは、予想していたよりずっと酷いな) そこで男が見たものは奴隷ゆっくりたちの地獄であった。 (まさかこれほどとは……。あのまりさの言っていた反乱の話しも、あながち嘘とは言えなくなってきたな。 あるいはオレは少し事態を甘く見ていたのかもしれん) 正直男はこの光景を見るまでは、ドスに対して不審を突きつけ、厳重注意で穏便に終わらせようかなと考えていた。 今までのことは多少行き過ぎた群れの統治が貧富の差や、ゆっくりたちの不満に現れたのだろうと思っていたのだ。 だが現場を実際に見て考えが変わった。 これは統治というレベルではない。群れの全てのゆっくりが、何かの目標に向けて一斉に稼動しているように見えたのだ。 その目標が人間への反乱だった場合断じて見過ごすわけにはいかない。 (多分本格的な活動を開始したのは前回の視察の直後からだろうな。そうでなければこの不審な動きを先輩が見逃すはずがない。 村長が言ってた、群れに降りてきたゆっくりの話しや、食料庫にあった大量の食料の計算も大体合う。 今回の視察までに大量に食料を集めておき、数の確認が終わってから一気に子作りして戦力の増強を図る算段。 万一見つかっても、次の視察までは最大数を超えても協定違反にはならないから一応言い逃れは可能。 ちっ、考えてやがるな) 男は日が暮れるまでの間、観察を続けると、一旦引き上げることにした。 あのまりさから詳しい話を訊き、対策を考える必要があったからだ。 「むきゅ!だからお野菜は人間さんが畑を耕やしたり種をまいたりするからきちんと育つの 勝手に生えてくるのは雑草ぐらいよ!」 「ゆうう!しらなかったのよ!どすはそんなことぜんぜんおしえてくれないから!」 男が帰ってきたとき宿屋の部屋では、ぱちゅりーがまりさに色々なことを教えていた。 やはりゆっくり同士、それなりに話しは合うようだ。 「おい、まりさ」 男はまりさに向かって声を掛ける 「ゆっ!にんげんさん!しんじてね!あのどすははんらんを…」 「ストップ!それ以上喋るな!」 男はまりさの口を強引に閉じさせる。 「もがもが!」 「いいかまりさ、オレ以外の、例えばこの村にいる人間とかにむやみにそのことを話すなよ、いらん混乱を招く可能性があるからな。 それから今からする質問に正直に答えろ、そうしたら協力を考えてやってもいい」 コクコクと頷くまりさ。 男は手を離しさまざまな質問をまりさにした。 ドスが食料を急激に集めはじめたのはいつからか? ドスは具体的にどのようにしてゆっくりたちを統治しているのか? 人間の村を襲うのはいつごろの予定なのか?また具体的にどのような作戦を立てているのか? 準備をはじめた時期についてはほぼ男の予想通り、前回の視察の直後だという。 また群れに降りてきたゆっくりについては、あまりのノルマの厳しさに集団脱走事件が起こり、 そのときに一匹だけ脱出に成功したゆっくりではないかという話しだ。 結局そのゆっくりも群れの実態の発覚を恐れたドスにより村人の前で潰されたわけなのだが。 まりさはドス他にも群れの仕組みなどを答えることができたが、 計画のことについては、流石に噂レベルでしかわからないということだった。 「成る程ね、密告のシステムか。エグイこと考えやがるねえ」 「むきゅ!まったくだわ!いくらなんでもやりすぎよ!」 憤慨するぱちゅりー。 「ゆっ!でもまりさはみっこくなんてしないよ!まりさのなかまたちだってそうだよ!」 「だろうな、だからこそこんな大それた作戦をばれずに実行できたわけだ。 ん?てことは今の奴隷ゆっくりたちはお互いに監視しあってないのか?」 「そうだよ!まりさたちはみんなできょうりょくしあって、むれからどすをおいだしたいんだよ! でもどれいゆっくりみんながそうなわけじゃないよ!なかには、わるいゆっくりもいるよ!」 ドスの作りだした密告システムだが、現在は初期ほど強力には機能していなかった。 何故なら、他のゆっくりを積極的に売るようなゲスはもうほとんど幹部候補ゆっくりになっており、 今現在の奴隷ゆっくりは、他ゆを密告することに抵抗を覚える善良ゆか、幹部候補になりたくてもなれないような、よほど要領の悪いアホゆがほとんどだったのだ。 だからこそまりさたちはお互いに結束することができたし、 ドスは奴隷のコントロールが難しくなってきたとして計画の実行をはやめたことに繋がっているのである。 「ふむ。だがそれは好材料ではあるな、上の連中とゲスだけ綺麗に消せばいいわけだ」 「むきゅ!でもどうやって?群れを全滅させずにドスや幹部や奴隷に混じってるゲスを選別して駆除するのは難しいと思うけど…」 ぱちゅりーの疑問は最もだった。 「まあ、それはおいおい考えるよ。どちらにしろ現状じゃ情報が少なすぎる、反乱計画の概要がわからん限り動きようがない。 ……そういえばまりさ、お前なんか秘密兵器があるとか言ってなかったけ?」 「ゆっ!そうだよ!でもまりさたちもうわさでしかきいたことがないんだよ! でもなんだかたべるとゆっくりできなくなっちゃうきのこが、かんけいしてるみたいだよ!」 「キノコ?毒キノコでも人間にプレゼントして食わせる作戦か?」 ふーむと男は唸る。 (そういえば食料庫に見たことがないキノコが大量にあったな。 この地方の固有種なんじゃないかと思っていたが、あれがそうなのか?) しかし男の疑問は程なくして解けることとなった。 それも考えうる最悪の形で……。 いつもの様に死角から双眼鏡で群れの様子を窺う男。 しかし、なんだか今日はいつもと様子が違った。群れの広場にドスと幹部ゆっくりたちが集まっているのだ。 どうやら幹部ぱちゅりーが嫌がる奴隷まりさにキノコを食べさせようとしているらしい。 (おいおいまさかマジで毒キノコ作戦なのか?) そう訝しげに様子を見ている男。 そしてキノコを食べはじめるまりさ、キノコを飲み込んだところでまりさは苦しみはじめそして、次の瞬間 (!?) 何と、まりさの口から小さな光弾が発射されたのだ。 光弾は一直線に進み、切り株に命中して小さな焦げ目を作った。 それを見て大喜びするドスと周りのゆっくりたち。 光弾を吐き出したまりさは、無残にも全ての餡子を吐き出し息絶えていた。 「……なんじゃありゃ。ちっ、思ったより面倒なことになりそうだねこりゃ…」 男はそう思わず呟いていた。 一体何なんだあれは?自分はこれでもゆっくりのプロのつもりだが、あんなものは今までお目にかかったことがない。 (あれがまりさのいっていた秘密兵器か。小型のドススパークといったところか? 一発の威力は小型の花火程度かな、食らってもちょっと火傷する程度だろうな。 だがそれはあくまで一発の場合だ。 もし奴らが100匹200匹単位で村にやって来て、一斉発射なんかされたらかなりヤバイことになるぞ。 まず間違いなく怪我人が出る。建物もぶっ壊れる。クソ!冗談じゃねえ) ゆっくりたちとの戦いは、ただ勝てばいいというものではない、人間側が無傷で完全勝利しなければ意味がないのだ。 もし、村の人間が誰か一人でも怪我をする事態にでもなればそれはすなわち男の、いや男の所属している組織全体の責任となるだ。 ドスをはじめとする人間を傷つけることが可能な武器を持ったゆっくりたちが、戦いの準備をしている。尋常ならざる事態だった。 (最悪ドスだけを始末すればそれでいいと思っていたが、そうもいかなくなっちまった) この状況では、手っ取り早くドスのみを制裁するという手段はもはや下策と成り果てた。 仮にもし今ここで男が群れに突っ込んで行けば、ドスは倒すことはできるだろう。 が、四方に逃げ散らばる群れのゆっくり全てを倒しきることはできない。 つまり、人間を傷つけることができるゆっくりたちが、森に散らばることになるのだ。 それがどれだけ厄介な事態かは、少しでも想像力があればわかろうものだ。 唯一の救いはドスと一部の幹部以外は人間と戦うことは望んでいないということか。 (全ゆっくりが集まっている機会を狙って一気にゲスどもを殲滅するのが理想か…) 応援を呼ぶ手もあったが、男はなるべく大事にはしたくなかった。 変に事を荒立てると、先輩の責任問題になる可能性があったからだ。 (とはいえやはりオレ一人では、不測の事態に対応できない可能性があるな。 失敗は許されないが、できるなら応援は呼びたくない……。 仕方ないな、またあいつの力を借りるのは癪だが場合が場合だ、連絡をするかあの女に…) 後編その2へつづく。
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勘違いゆっくり 44KB ※独自解釈だらけです。 ※虐待成分は頑張ってみましたが、もしかしたら薄目かも? ※馬鹿みたいに長いです。 ※前作『ふたば系ゆっくりいじめ 277 騙されゆっくり』と前々作『ふたば系ゆっくりいじめ 274 嘘つきゆっくり』をお読みいただいてからお読みください。 先代の長ぱちゅりーは、通常のぱちゅりー種と比べても非凡な才をもって群れに貢献して来た。 だが、どんなに頑張っても、母の偉業を超えたとは思えなかった。 危険な生物が居ない安全なゆっくりプレイスを発見して群れを作り、 見晴らしの良い場所に分散して巣を作らせる事で、お互いの巣を見張り、危険をいち早く察知する。 狩りの担当を分担する事で食糧の確保を容易にした上で、人口統制の為に『すっきりー!ははるだけにすること』と制限を設け、 生まれた赤ゆっくりがある程度育ったら『がっこう』に預ける事で子育ての負担を減らし、群れに教育を施して事故死を防ぎ、社会性を学ばせる。 物々交換の概念を持ち込み、狩りの成果を働きに応じて配分することで原始的な貨幣制度の先駆けを作り、 『おうた』や『おいしゃさん』のようなサービス業が成り立つように社会制度を整える。 お薬になる草の種を丘に蒔き、大量に生えさせておく事でいつでもお薬が使えるようにしておいたり、 悪い事をしたゆっくりを丘の上でお仕置きする事で、『なにがわるいことなのか』を群れに理解させたりする。 これらは全て、元飼いゆっくりだったという先々代の功績である。 年老いた飼い主さんが永遠にゆっくりしてしまった事で身寄りを無くした先々代は、 巷に溢れる野生のゆっくり達が全然ゆっくりしていない姿に一念発起し、ゆっくりを導く事を志したのだと言っていた。 多大な変革をゆっくり達にもたらした偉大な先々代は、自分の娘にもその志を継いで欲しいと願って非情に徹し、厳しく教育した。 生まれたときから長になるべく、帝王教育を受け続けた娘はその期待に見事応えてみせたのだった。 しかし幾ら非凡であったとしても、天才と秀才を比べれば前者に目が向くのが世の常である。 まして子供の頃からその天才を目の当たりにしていれば、いかに秀才とはいえ生まれる感情がある。 それは『劣等感』。 確かにこのぱちゅりーは優秀であった。否、優秀すぎた。 只でさえ人間の教育を受けたゆっくりでありながら、学者であった飼い主から様々な英知を授かり、 それでいてぱちゅりー種にありがちな、知性を鼻にかけた思い上がりの片鱗すら見せなかった。 完璧すぎる母に追い付こうとがむしゃらに突っ走った。 母の功績に縋るのではなく、それを超える何かを常に追い求めた。 気が付けば番を迎える事も無く、孫の姿を見せる事さえ出来ないまま、 偉大なる母は永遠にゆっくりしてしまった。 偉大なる先々代の死を悼み、涙に暮れる群れの嗚咽を背後にして、 母の死に顔を見ながら先代の長ぱちゅりーは思った。 ゆっくりなのに、ゆっくりする事を忘れて頑張った。 それなのに結局母には勝てなかった。 必死に頑張った日々は、徒労に終わってしまった。 ならば。 いつか生まれてくるであろう自分のおちびちゃんは、絶対ゆっくりさせてやろう。 後悔する事のない、幸せなゆん生を送らせてやろう、と。 こうして長ぱちゅりー親子の『勘違い』が始まってしまったのだ。 『勘違いゆっくり』 「……むきゅ………むきゅ……………」 山の裾野に広がる森の中心、ぽっかり開いた場所にある小高い丘を目指して一匹のぱちゅりーが這いずっていた。 何かに酷くぶつけたような打撲傷が顔中に広がる姿は痛々しい物であったが、その顔に浮かべた形相が哀れみを根こそぎ奪っていた。 (むっきゅうぅぅぅぅぅぅ!ぱちぇをゆっくりさせないむのうなむれはゆっくりしね!) 般若もかくやと言わさんばかりの憤怒の相。最も般若は嫉妬の怒りだが、このぱちゅりーが抱いていたのはもっと醜いもの。 『逆恨み』であった。 (あんなみえみえのわなにかかったむのうなまりさのせいで、ぱちぇがこんなおおけがをおったのよ! おかげでおかあさんがひとりじめしていたまりさからとりかえしたすぃーまでこわれちゃったじゃない!) 酷い責任転嫁もあったものだが、ぱちゅりー視点ではこれが事実であり、真実である。 そもそもあのスィーは、それを欲しがった娘の我侭を聞き入れた先代の長が群れの皆にある事無い事吹き込んで、 持ち主のまりさを無理矢理悪者に仕立て上げ、強引に追放する事で取り上げた物だ。 いかに長の言葉とはいえ、本来なら疑うゆっくりも現れておかしくない行為だが、この群れにおいては事情が異なる。 長の言う通りにしていれば、必ずゆっくり出来る。 先々代の優秀さが、群れのゆっくりから『長を疑う』事を忘れさせてしまったのだ。 如何に先々代が優秀であっても、その子孫まで優秀であるとは限らないのに。 (じぶんのてでしけいにできなかったのはくやしいけど、にんげんさんがかわりにまりさをおしおきしてくれるわ! にんげんさんなんかそれくらいしかやくにたたないんだから、しっかりまりさをころしておきなさい!むきゅ!) この半年間、ぱちゅりーの逆鱗に触れて殺されたゆっくりの数は両手の指に余る。 月に三人以上殺している計算だが、実際に悪事を働いたゆっくりはいない。 苛烈な恐怖政治が、皮肉にも秩序を保つ要因になったのだ。 その事が逆に長の権限を高め、更なる虐殺を呼んでしまった訳だが。 鬱蒼と茂っていた森の木々が途切れ、目の前が急に開ける。 群れが根城にしていた丘の天辺で、周囲を見張っていた子まりさが長の帰還に気付き、急いで駆け寄る。 「ゆっくりおかえりなさい、おさ!……そのけがはどうしたの!?……それに、おかーさんたちは……?」 ぱちゅりーの怪我を見て、何事かあった事を悟ったらしい。顔色を変え、詰め寄る子まりさ。 群れを見捨てた事がバレたらまずい、そう考えた長ぱちゅりーは咄嗟にひと芝居打つ事にした。 「むきゅっ!おちびちゃんたちをみんなあつめなさい!いますぐよ!」 「わ、わかったよ!ゆっくりしないで、みんなをあつめるよ!」 ぱちゅりーの血相に気圧されたのだろう、慌てて『がっこう』のある方角へ駆け去る子まりさを見送り、 ぱちゅりーは自身の身の安全を図る為の筋書きを検討し始めた。 しばらくして、丘の天辺に陣取ったぱちゅりーを囲むように沢山の赤ゆっくりと、子供達が集まっていた。 皆の不安そうな視線を浴びながら、ぱちゅりーは精一杯無念そうな表情を作り、告げた。 「……おちついて、よくきいてねみんな。……ぱちぇたちは、にんげんさんのひきょうなわなにつかまっちゃったの。 そして、…………みんな、にんげんさんにころされちゃったわ………」 長の言葉にぴたっと静まる子供達。 だが、泣き出すゆっくりはいない。余りに衝撃的な内容に、理解が追い付いていないのだ。 「……ま、まって!それじゃ、まりさのおかーさんや、おとーさんは……?」 恐る恐る長に問いかけるのは、見張りをしていた子まりさであった。 ぱちゅりーは子まりさを見やり、沈痛な面持ちで頷いた。 「……おちびちゃんたちの、おかーさんたちはね……ぱちぇだけでもにげてって…… のこされたおちびちゃんたちをおねがいって、ぱちぇをたすけてくれたの………」 その答えを聞き、血の気が引く子まりさ。 やがて長の言葉を理解したのだろう、子供達からざわめきが漏れ始め、それは段々と大きくなっていく。 「……うそだ。うそだうそだうそだ、うそだぁぁぁぁあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」 「ゆ゛ぎゃ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!お゛ぎゃ゛あ゛じゃ゛ん゛がじん゛じゃ゛っ゛だぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!」 「どぼぢでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛え゛ぇ゛ぇ゛!!がな゛ら゛ずがえ゛っ゛でくでるっ゛でい゛っ゛でだの゛に゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!」 「みゃみゃぁぁぁぁあぁぁぁぁ!!ありちゅいいこになりゅがら゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!み゛ょ゛どっ゛でぎでぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛え゛ぇ゛ぇ゛!!!!」 「ぱちぇの、ぱちぇのぴゃぴゃとみゃみゃがぁぁぁぁ!!げほっ、ごほっ……ゆげぇっ!!!」 現実をひたすら否定するもの、戻ってこない父や母を呼び続けるもの、ショックの余り餡子を吐き出すもの……。 森を揺るがす子供達の慟哭はその日の夕刻まで続いたと言う。 しかしぱちゅりーは気付かなかった。 彼女の言葉を聞き号泣する子供達の中に、凍えるような冷たい視線を向けるグループが混じっていた事に。 季節は巡り、春。 うららかな陽気に降り積もった雪が融け、丘の周りに分散する巣が姿を現す。 結局、大人の居ない群れの中で冬籠りを成功させたゆっくりは三分の二にも満たず、そこかしこで犠牲になったゆっくりを偲ぶすすり泣きが聞こえる中、 ぱちゅりーは再び長の地位に就く事になった。 この群れで唯一の大人であり、父や母から自分達の養育を任されたと主張した事もあるが、 涙に暮れる子供達に行った演説が決定打となったのである。 『かなしいのはわかるわ、ぱちぇもくやしいもの。 ……だったらつよくなりなさい!つよくなって、ふくしゅうしなさい!そのためのほうほうはおしえてあげるわ! おかあさんたちのかたきをとりたかったら、ぱちぇについてきなさい!!』 ぱちゅりーのこの言葉で、子供達の親を慕う悲哀はどす黒い復讐の念に変わった。 だがこの演説の本当の狙いはぱちゅりーの手足となる強力な兵隊を作り、自らの屈辱を果たすこと。 あくまでもぱちゅりーにとって都合のいい群れを作る為に、人間と言う敵を利用したのだ。 こうしてぱちゅりーの指導と言う名の独裁と、子供達の特訓と言う名の地獄は始まってしまった。 「むきゅ!にんげんさんははちさんよりつよいのよ!だからはちさんのおうちをもってこれるなら、にんげんさんにかてるわ!」 「そのあまあまはぱちぇのおかげでとれたのよ!だからぱちぇのものだわ!」 「……これはみんなががんばってとってきたんだよ。おさはなにもしてないよね」 「うるさい!ぱちぇのいうとおりにしてればつよくなれるのよ!これもしゅぎょうなのよ! くちごたえはゆるさないわ!こんどなまいきなくちをきいたら『おしおき』よ!」 「…………」 「むきゅう!にんげんさんはかずがおおいわ!だからどんどんすっきりー!してこどもをふやしましょう!」 「……むれにいるのはこどもだけだよ。すっきりー!したらしんじゃうよ?」 「だったらしなないようににんっしんっすればいいのよ!」 「……どうやって?」 「むきゅぅぅぅっ!!それくらいじぶんでかんがえなさい!!」 「「…………」」 「むきゅう、ごはんがすくないわね!かりにでるにんずうをふやしましょう!」 「……かりにでられるこはみんなでてるよ。あとはがっこうのこどもたちぐらいしかいないよ?」 「なら、そのこたちもかりにだしましょう!じゅぎょうのいっかんとしてこどもたちをかりばにだすのよ!」 「……こどもたちだけじゃ、かりはできないよ?どうするの?」 「まりさたちがめんどうみればいいじゃない!もちろん、かりののるまはまもりなさい!」 「「「…………」」」 「むっきゅ!おくすりがたりないわね!まったく、そんなにけがするなんて、なんてむのうなのかしら!!」 「……それは、おさがおくすりになるおはなをたべちゃったからだよね?みんなのけがも、おさのめいれいのせいだよね?」 「おかのおはなは、ぱちぇのおかあさんのおかあさんがあつめてきたのよ!だったらぱちぇのものでしょう!!」 「……とにかく、おくすりあつめてくるね。こんどはたべないでね?」 「そうよ、そうやってどんどんぱちぇにみつぎなさい!そうすればみんなゆっくりできるわ!!」 「「「「…………」」」」 やがて季節は一巡する。 山の裾野に広がる森の中心、ぽっかり開いた場所にある小高い丘が、再び冬枯れの木々に囲まれる。 群れの大部分を占めていた赤ちゃんがバレーボール大からバスケットボール程に成長した頃。 一年前と同じ早暁の空を背景に、長は再び人間の里を襲撃しようとしていた。 「みんな、ぱちぇはにんげんさんがきらいよ! れいむを、まりさを、ありすを、ぱちぇを、ちぇんを、みょんを! あらゆるゆっくりをごみのようにころすにんげんさんが、だいっきらいよ! みんな、ぱちぇはふくしゅうをのぞんでいるわ! ぱちぇのむれのみんな、みんなはどう!? にんげんさんにふくしゅうしたい? にんげんさんがひとりじめするおやさいをとりかえし、にんげんさんをぼっこぼっこにして、 にんげんさんをどれいにしてつぐなわせる、なさけようしゃないふくしゅうをしたい!?」 「「「「「「「「「「ふくしゅう!ふくしゅう!ふくしゅう!ふくしゅう!」」」」」」」」」」 「そうよ、ならばふくしゅうよ! ぱちぇたちのむれはいちどにんげんさんにやぶれたわ。いまやかつてのいきおいもない。 でも!にんずうこそすくないけれど、みんなはいっきとうせんのふるつわものよ! だったらみんなとぱちぇで、……ええと、たくさんのぐんしゅうだんになるわ!! ぱちぇたちをわすれようとするにんげんさんたちにおもいださせましょう! かみをくわえてひきずりたおし、おめめをあけさせておもいださせましょう! おひさまとじめんさんのあいだには、にんげんさんがおもいもよらないゆっくりがあることをおもいださせましょう! ごじゅうにんのゆっくりのぐんだんで、にんげんさんのゆっくりぷれいすをうばいつくしましょう! と、いうわけで、おひさまがのぼるまえにそうこうげきをかけるわ!! こんどこそにんげんさんをやっつけて、みんなのかたきをとりましょう!!」 「「「「「「「「「「えいえいゆーっ!!!」」」」」」」」」」 ぱちゅりーの演説に鬨の声で応える群れ。 当初の半分以下、五十をいくらか下回る程度にまで減ってしまったが、その分質は以前の群れを大きく上回る。 なにしろ一対一なられみりゃとさえ戦える個体がごろごろ居るのだ。 今度こそ勝てるに違いない!! ぱちゅりーはそう確信していた。 勝てるも何も実際には畑泥棒でしかないのだが、復讐に燃える悲劇のヒロイン気取りで自己陶酔しているぱちゅりーには気付かない。 「まりさ、まりさ!」 「……ここにいるよ、おさ」 ぱちゅりーの呼び掛けに応えたのは、あの見張り役の子まりさだった。 バスケットボール大にまで成長した子まりさは、機転が効く上に群れのゆっくり達に慕われており、 それを買ったぱちゅりーに抜擢され、補佐としてその烈腕を振るっていた。 ぱちゅりーにとっても自分の言うことに従順なまりさは非常に有用であった為、今回の遠征では重要な役目をさせるつもりであった、 「まりさ、あなたにとくべつにんむをあたえるわ! せんけんたいになって、わながあるかどうかたしかめるの! でも、わながなくてもそのままとつげきしちゃだめよ! ぱちぇたちがおいつくまで、しゅういのあんぜんをかくほするのよ! ……できるわね!?」 「……わかったよ。おさがおいつくまで、まってるよ」 勿論ぱちゅりーがまりさを押さえたのは、まりさの身を思ってのことではない。 自分より先に美味しいお野菜を独り占めさせないように、抜け駆けを防ぐ為である。 「それでいいわ。……じゃあまりさ、これをわたしておくわね」 そう言って取り出したのは、先を削って鋭く尖らせた木の枝。 口で銜えるしか物を持つことが出来ないゆっくり達が使う、標準的な武器であった。 「これはぱちぇがつくったぶきよ。ふいをうてばにんげんさんにもこうかはあるわ。 これをもっていきなさい。もしもにんげんさんにみつかったら、なかまをよばれるまえにこれでやっつけるのよ!」 「……うん、ありがとう、おさ」 素直に礼を言って受け取るまりさに満足したぱちゅりーは、群れを率いるべく身を翻した。 まりさの目の前に、ぱちゅりーの背中が現れる。 「……これで、ふくしゅうができるよ」 「…………ゆ゛っ゛!?」 一瞬、ぱちゅりーには何が起こったのか理解できなかった。 体を貫く衝撃、一拍遅れて届く激痛。 「ゆ゛ぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」 ぱちゅりーの背中に枝が生えていた。 それは先程、ぱちゅりー自身がまりさに与えた武器。 ぱちゅりーが無防備な背中を晒した瞬間、まりさが渾身の力を込めて突き立てたのである。 「いぢゃい!いぢゃいぃぃぃぃ!!なんでごどじゅるのぉぉぉぉ!!ばりざぁぁぁぁぁ!!」 「だまれ」 「ゆ゛っ゛!?」 普段の従順な態度を一変させ、ぱちゅりーを汚物でも見るかのように見下すまりさに気圧され、ぱちゅりーは思わず黙り込む。 「なにがおかあさんのかたきだ!むれのみんながにんげんさんにころされたのは、みんなおまえのせいじゃないか! おまえがついたうそにだまされたせいで、みんなゆっくりできなくされたんじゃないか! そのうえまりさたちにまでうそをついて、にんげんさんとたたかわせようとするなんて、どこまでみさげはてたげすなんだ! おまえはもうおさじゃない!おまえが!おまえこそがまりさたちのおかあさんたちのかたきだ! みんな!もうこいつのいうことなんてきかなくていいよ!みんなでこいつにふくしゅうするよ!」 そう言われて気付く。全てのゆっくりが、ぱちゅりーに憎悪を込めた視線を向けていた事に。 そして口々に鋭い枝や固そうな石をくわえ、ぱちゅりーににじり寄っていた事に。 蒼白になったぱちゅりーに、まりさの無慈悲な宣告が届いた。 「さあみんな!すぐにはころさないように、でもけっしてゆっくりできないように! いちねんぶんのうらみをこめて!おとうさんとおかあさんのうけたくるしみをなんばいにもして! ゆっくりできないぱちゅりーにぶつけてあげようね!」 「「「「「「「「「「ゆっくりできないぱちゅりーはゆっくりしね!!!!!」」」」」」」」」」 「ゆ゛ん゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」 ぱちぇりーは気付いていなかったのだ。 自分がこの群れの為にした事など何も無い事を。 群れのゆっくり達が従っていたのは、このまりさだという事を。 そして…… 今やこの群れの全てのゆっくり達が、ぱちゅりーを仇と恨み、敵を討とうと思っている事を。 必要とあらば仲間の命はおろか、自らの命さえ投げ出す覚悟を決めていた事を。 表面上はにこやかな表情の下で、仇敵に従う屈辱に心の中で血涙を流しながら、それを受け入れていた事を。 そして一年もの長い年月を掛け、用意周到に準備された復讐が、今まさに果たされようとしている事を。 自分の命令に従順な群れに満足し、堕落しきったが故に勘が鈍ったぱちゅりーには気付けなかったのだ。 話は去年の晩秋、群れが人里を目指して総出撃した朝まで遡る。 「おちびちゃんたちはここでまっててね!おやさいさんとりかえしたら、いっぱいむーしゃむーしゃしようね!」 「あかちゃんたちをよろしくなんだぜ!すぐもどってくるから、いいこにしてるんだぜ!」 「……ゆっくりわかったよ!あかちゃんたちはまりさたちがまもるよ!」 群れ全員での総攻撃を狙っていた長ぱちゅりーだが、副将のまりさから『あかちゃんたちはまだ、たくさんあるけないんだぜ!』 と進言され、赤ちゃんの同行を諦めざるを得なかった。 そうするとまた別の問題が浮上する。 赤ちゃんは基本的に手がかかるものだ。それこそ朝から晩まで親が面倒を見なければならないくらいに。 だが、赤ちゃんがいる親だけを残して行く事は出来ない。そんな事を認めたら群れの半数が脱落してしまう。 いくら長ぱちゅりーに秘策ありとはいえ、それだけの戦力を遊ばせておく訳にはいかない。 どうすれば、と頭を悩ませる長に、再び副将のまりさから進言があった。 『なら、せめてこどもたちだけはおいていくんだぜ!』と。 『がっこう』を卒業したゆっくりは親の監督の元で群れの仕事を覚えて行く。 要は半人前の扱いなのだが、今回の出征において全員動員されることが決定している。 現在『がっこう』に在籍しているゆっくりは現在六十人前後。 その内、半年間の義務教育を経て卒業寸前のゆっくりは九人いる。 片手で数えられる程度とはいえ、それだけいれば赤ちゃんの面倒くらいは見ていられるだろう。 まりさの進言にそう結論付けた長は、百人近い群れの赤ちゃんと『がっこう』の生徒達をおいて行く事を決定したのだ。 早暁の空に鬨の声を響かせながら出陣して行く親達を見送る子まりさ。 後に群れの帰還を最初に発見する事になる彼女は、明日『がっこう』を卒業する予定であった。 最年長であった為に子供達のまとめ役として抜擢され、出陣直前まで大人達からレクチャーを受けていたのだ。 遠ざかる大人と成人一歩手前の先輩達の姿を見届け、子まりさは踵を返して『がっこう』へ向かった。 『がっこう』への道すがら、思い返すのはまだ赤ちゃんだった頃に見た、丘の上で必死になって長を説得していたれいむの事。 母はれいむのことを「げす」呼ばわりしたが、子まりさにはそうは思えない。 ゲスとは、自分の為に他人をゆっくりさせない、自分本位なゆっくりの事である。 本当にゲスであるなら、あの時吐いた嘘で何の利益がれいむにあったと言うのだろう? いつも上手なお歌を聞かせてくれたれいむが、涙を浮かべて教えてくれた『おにーさん』のお話は、 まだ赤ちゃんだった子まりさにも解る程に説得力があった。 そしてれいむがぼろぼろの姿で組み敷かれ、群れの皆にゆっくりできなくされていた時、 全てを諦めたようなれいむの目に、寂しそうな、悲しそうな、そして何より悔しそうな無念の表情に、 そして最後の一瞬、痛みとは違う何かに流された涙に。 その死に様を嘲笑う姉妹達の中でただ一人、子まりさだけはれいむが正しいと直感した。 だからそれを嘘と断じ、あまつさえあんなに残酷な『おしおき』を実行した長ぱちゅりーを、子まりさは信じられなかった。 その後に繰り返された『おしおき』を目撃する度、子まりさの疑念は膨らんで行った。 食糧不足で赤ちゃんに食べさせる事が出来ず、やむなく食料庫から盗み出したれいむは殺される程悪かっただろうか? そのれいむの子供であり、親の復讐に燃えて長に襲いかかったちぇんは果たして反逆者の汚名に相応しかったのだろうか? 群れ中の狩りの名人を総動員しても捕る事が難しい蜂の巣を、たった一人で捕るように命じられたみょんは本当に臆病者だっただろうか? それらを指摘して、長を諌めようとして『おしおき』されたまりさ達はどうだろうか? そして今、群れの大人達を率いて人間の畑を襲いに行くぱちゅりーは、本当に正しいのだろうか? 先々代はおろか、先代の治世すら知らぬ子まりさには大人達が持つ長への盲信が無い。 そしてれいむの事件で群れの有り様に疑問を持った子まりさは、ゆっくりらしからぬ深い洞察力を獲得するに至ったのである。 「……やっぱり、おさのいうことはおかしいよ…………みんな、だいじょうぶかなぁ……」 とは言え、子まりさはまだ『がっこう』も卒業していない、半人前とも認められていない子供だ。 親の庇護を受け、授業以外では狩りにも同行できない子まりさが疑問を呈しても 「おちびちゃんにはまだむずかしいことだよ!それよりおへやのおかたづけしなさいね!」 「おちびがそんなむずかしいことかんがえてちゃだめだぜ!それよりみんなとあそんでくるんだぜ!」 などと返され、子まりさの疑問は大人に憧れる子供の背伸び程度にしか受け取られない。 子まりさが幾ら疑問を持ったとしても、子まりさに出来ることは無かった。 精々こうして群れの行く末を憂いることしか出来ないのである。 「……ゆっ!とにかくまわりをみはって、あかちゃんたちをまもらなきゃ!まりさ、がんばるよ!」 子まりさは気分を切り替え、丘の周囲を見回ってまわる。 この季節、越冬の準備をするのはゆっくりだけではない。 熊や猪、蛇などの森に棲息する生物も越冬のために食糧を集めているのだ。 そしてゆっくり達の中身は栄養価の高い餡子。 当然狙われる確率も高く、何時襲われるか解らないのでこうして見張りを立て、警戒しているのである。 そして半分程廻った時、子まりさは見慣れぬゆっくりが丘を見上げて佇んでいる事に気付いた。 「ゆっ!そこにいるのは、だれ!?」 「!?」 そこに居たのは黒いお帽子を被ったまりさであった。 しかし、子まりさには見覚えが無い。 群れの中のまりさのお帽子は皆ピンっと立っている。 あんなに縒れ縒れで、所々破けているようなお帽子を被っているまりさはいない。 髪の毛もあんなにボサボサで、くすんだ金髪をしたまりさもいない。 お肌もボロボロで、細かい傷だらけのまりさもいない。 大きさからすればもう大人なのだろう、この群れでこの大きさのゆっくりなら出征に参加していない筈が無い。 かなり不審ではあったが、とりあえずご挨拶しようと近付く子まりさに、見慣れぬまりさはゆっくりと振り向いた。 「ゆっ!?」 そのまりさには、片目が無かった。 左目の上からあんよに掛けて、大きく抉ったような傷跡があったのだ。 子まりさはその傷の事を知っている。 ゆっくり殺しなど、重罪を犯した罪ゆっくりに対してのみ行われていた刑罰。 『おめめえぐりのけい』。 片目を抉り、群れから永久追放する刑の痕であった。 子まりさも、実際に『おめめえぐりのけい』の受刑者に会うのは初めての事だ。 『がっこう』での授業でも教わったし、度々「わるいこはおめめをとられちゃうんだよ!」と親から叱られた事もあり、 その傷が悪いゆっくりの証である事は理解していたが、粛清の嵐が吹き荒れる今の群れではあまり意味が無い。 先代の長の頃は、この『おめめえぐりのけい』が最も重い処罰であった。 それは先々代が『たとえあいてがゆっくりごろしでも、ゆっくりがゆっくりをころしてはならない』と定めた為であったのだが、 今代の長はあっさりとその禁を破り、長を侮辱したれいむを皮切りに死に至る程過激な『おしおき』を何回も強行した。 反発もあったが、長は『ゆっくりできないゆっくりをおいだしたら、ほかのむれにめいわくがかかる』と反対派を丸め込み、 それでも反対するゆっくりを『こいつらはゆっくりできない』と無実の罪を着せ、『おしおき』で殺していったのだ。 最近生まれた赤ゆっくり達はその恐ろしい『おしおき』しか知らない。 今の群れにとって、悪いゆっくりとは死んだゆっくりの事である。 いくら知識として知っていても、経験の無い子供達にとっては実感の無い、遠い過去の出来事だ。 だから子まりさも、その傷を持ったまりさに平然と挨拶できたのだ。 「ゆっ!まりさおねーさん、ゆっくりしていってね!」 「ゆ゛っ゛!?……ゆっ、ゆっくじして……い゛っ゛……で…………ゆ゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛ん゛!!! ばりざぁ!!ゆ゛っ゛ぐじじでい゛っ゛でね゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛っ゛!!!!!」 子まりさの無邪気な挨拶に、傷まりさは感極まったように号泣しながら挨拶を返す。 「ゆっ!?」と驚く子まりさだが、それ程この傷まりさにとっては驚天動地の出来事だった。 この『おめめえぐりのけい』の事は、この辺り一帯の群れに広く知れ渡っている。 「かたほうのおめめのないゆっくりは、とてもゆっくりできないゆっくりだよ」 どんな小さな群れであっても、この話は必ず伝えられており、それ故にどの群れも傷まりさを受け入れる事は無かった。 『おめめえぐりのけい』の受刑者の末路は、孤独な野垂れ死にが定番だったのである。 そんな受刑者の中にあって、この傷まりさは二年もの間生き延びて来た希有な例であった。 元々狩りが得意だった事に加え、皮肉にも野山の危険物を見分ける群れでの教育が功を奏した結果である。 追放されたゆっくりが群れに近づき、それが発覚したら群れ総出でゆっくり出来なくされてしまう。 これまでにも何度か試し、その度に追い払われて来たから傷まりさにはそれがよく解っていた。 それが今日、世も明けない内に総出撃していく群れの姿を目にした時、押さえていた思いが爆発した。 (あのおかに、かえりたい!) ゆっくり出来なくされた身であっても、やはり故郷は恋しいもの。 あんなに大勢でどこへ行くのかは知らないが、今ならあの丘を一目見る事くらいは出来るだろう。 それでもう心残りは無い。後はこの苦しいゆん生に、いつ幕が下りても悔いなく逝ける筈だ。 そんな決意を胸に、傷まりさは丘を目指して近付き、子まりさに発見されたのだ。 (……ああ、みつかっちゃった。せめて、さいごにちょっとだけでも、おかでかけっこしたかったなぁ……) 傷まりさの脳裏を諦めが支配する。 覚悟を決めた傷まりさの耳に、子まりさのご挨拶が飛び込んで来たのはそんな時だった。 予想外の優しい言葉に感極まり、号泣する傷まりさが泣き止んだのは、朝日が半分程昇りかけた頃であった。 嗚咽の合間合間に、断片的に挟まれる壮絶なゆん生を聞かされた子まりさは、もらい泣きしながら傷まりさを慰めていたが、 どうしても気になったそれを尋ねずにはいられなかった。 「……ねぇ、おねーさん。おねーさんはどうしておめめをとられちゃったの?」 そう、片目が無いゆっくりは大悪人の証である以上、どんなに善良そうに見えても仲良くは出来ない。 仲良くする振りをして近付き、隙を見てご飯や宝物を奪い取ったり、無理矢理すっきりー!したりするのが目的かも知れない。 今のまりさの双肩には百匹以上の子供達の命が懸かっている。どんな小さな異常でも見逃すわけにはいかなかった。 だが、それを聞いた傷まりさが再び目を潤ませた。 何かを耐えるように唇を噛み締めて涙を堪え、ぽつりぽつりと語り出す。 「……おさがまりさをわるものにしたんだよ…………まりさが……すぃーをひとりじめしてるって………、 あのすぃーは……おかーさんのかたみだったのに…………だいじなだいじな……まりさのたからものだったのに……、 ………ゆっ、ゆえぇぇぇえぇぇん!!!」 そこまで語った所で堰を切ったように泣き崩れる傷まりさの姿に、子まりさは確信した。 (やっぱり、あのおさはうそつきなんだ!れいむおねーちゃんをいじめたのも、おかーさんたちをつれてったのも! みんなうそなんだ!……おさはけんじゃなんかじゃない!おさのほうが、くずだったんだ!) 子まりさと傷まりさの出会いは、双方にとって幸運であった。 子まりさにとって傷まりさは漠然でしかない長への疑いを証明する生きた証拠であり、 傷まりさにとって子まりさは自分の言葉が嘘偽り無い事を信じてくれた恩人である。 子まりさの不信感がピークに達していたこと、傷まりさのホームシックが再燃していたこと。 まさに奇跡の確率で絶好の機会がかち合った、幸運な出会いであったのだ。 子まりさは傷まりさを連れ、赤ちゃんと子供達が集められている『がっこう』に向かった。 そこは入り口を倒木で塞がれた洞窟で、子ゆっくりサイズなら通り抜けられる狭い隙間が倒木の端に開いており、 いざと言うときは、そこを塞いで外敵の侵入を防げるようになっている。 教師役の大人ゆっくりは倒木を乗り越えなければならないが、逆に言えばそうしなければ入れない安全な場所である。 「ゆっくりただいま!」 「……あいことばをいってね!……むしさんがいないなら、あまあまをたべればいいじゃない!」 「あまあまがないなら、むしさんをさがせばいいじゃない!」 「ゆっ!せいかいだよ!……おかえり、まりさ!」 入り口を封鎖している倒木の枝が動き、そこから一人の子れいむが出てきた。 見張りの交代要員である。本来あまり運動の得意でないれいむに任せるような仕事ではないが、 卒業を目前に控えた九人の子ゆっくりは子まりさを除き子れいむと子ありす、そして子ぱちゅりーで占められていた。 ひと月遅れて入学したちぇんやみょんはまだ一人で出すには不安だったし、何より赤ちゃんの面倒を見なければならない。 百匹近い赤ちゃんの世話をしながら危険な見回りなぞできない。 仕方なく、年長組が見張りを持ち回り、残りの生徒達と年長組の子ぱちゅりーが赤ちゃんのお世話をすることにしたのだ。 そして外から聞こえて来た合い言葉に、まりさと交代する為に出て来た子れいむが見たものは、見慣れた子まりさの顔と、 「ゆ゛っ゛!?……まりさ、そのおねーさんはだれなの?」 面識の無い、片目を無くしたまりさの顔であった。 「……れいむ、よくきいて。もしかしたら、いつもまりさがいってることがほんとうかもしれないよ」 「……どういうこと?まりさ、おさのことでなにかあったの?」 「それをせつめいするんだよ。みんなのところでおはなしするから、みはりはすこしまっててね」 そして子まりさは年長組の仲間達に自分の推理を打ち明けた。 それを聞いた子れいむ達の反応は様々であった 「そんなはずないわ!おさはいつでもただしいのよ!」と長の正当性を主張するありす、 「むきゅ!かためをなくしたゆっくりのおはなしなんて、しんじられるわけないでしょう!」と授業で得た知識を元に否定するぱちゅりー、 「でも、さいきんのおさがおかしいのはほんとうだよ?ゆっくりしてなかったよ?」と長への不信感を漏らすれいむ。 喧々諤々と続いた話し合いを収めたのは、子まりさの発言であった。 「おさがただしいのか、まりさがただしいのか、みんながかえってきたらたしかめてみようよ。 まりさおねーさんはもりにかくれていて。みんなにみつからないようにちゅういしてね」 そうしてしばし時が過ぎ。 二百匹を超えた大集団は、ぱちゅりーただ一人の生還を持って全滅したのである。 長ぱちゅりーから群れの顛末を聞かされ、森を揺るがす慟哭に泣き疲れた赤ちゃんと子供達を寝かしつけ、 年長組は再び長の正当性を議論し始めた。 ありすの論調は変わらず長の擁護、最も半数の二人程は半信半疑と言った所。 逆に意見を翻したのはぱちゅりー。こちらは一人が慎重派、もう一人が完全に疑い始めた様子。 れいむは長の涙に同情したのか、片方が長を擁護し始め、片方が長への不信感を露にするも、勢いは無い。 平行線を辿りつつある議論に、まりさはある提案をする。 「じゃあ、とりあえずおさのゆうとおりにしようよ。 おさがただしいならゆっくりできるはずだし、おさがまちがってるならゆっくりできなくなるから、 これからのおさがどういうふうにむれをゆっくりさせるのか、みとどけてからはんだんしよう」 この提案を年長組は全員受け入れた。 実際、幾ら考えても解決しないのならこれからの動向で判断するしかない。 ほぼ博打のような提案ではあったが、現時点ではそれ以外に方法は無かった。 そして彼女達は、いきなりその答えを突きつけられた。 今までの群れでの冬籠りは、それぞれの家庭ごとに行っていた。 しかし今回は話が違う。 何しろ大人が全滅している上、群れの殆どはまだ赤ちゃんなのである。 ならば一カ所に食べ物と群れを集め、全員で冬籠りすべきだと言う意見に、ぱちゅりーはこう返したのである。 「いままでどおりでいいでしょ!かえるひつようはないわ!むきゅ!」 この言葉に唖然となったのは年長組だけではない。 後輩のちぇんやみょんを含む『がっこう』の生徒達の大半が、長の台詞に度肝を抜かれた。 長ぱちゅりーにしてみれば、一カ所に集まるなど言語道断である。 何かの弾みで口を滑らせ、群れを見捨てたことがバレでもしたら、即座に殺されてしまう。 そうでなくても、暗殺の危険性を考えれば皆と一緒にいるより、一人でおうちに籠っている方が安全なのだ。 しかし子供達にとってこれは死刑宣告にも同等の命令である。 長の言葉である以上は従う義務が発生する。だが、素直に従えば待っているのは、死。 年長組においても意見は分かれ、結果ありす二人とぱちゅりーとれいむが一人ずつ年長組を離脱。 群れの三分の一を率いてそれぞれの巣に別れ、冬籠りを開始した。 残されたグループはおうちの貯蔵食糧を持ち寄り、『がっこう』にて共同生活を行うことにした。 そして、春。 分散して冬籠りをしていたゆっくりは物の見事に全滅した。 初めての越冬と、赤ちゃんの食欲を考えに入れず、食糧の計算を間違えて餓死したれいむのグループ。 黒ずんだ何かが大量に茎を生やし、あたかも小さな森のような様相を醸していたありすのグループ。 強度の足りない巣が大崩落を起こし、全員生き埋めとなったぱちゅりーのクループ。 その他にも赤ちゃんだけで越冬しようとして失敗したり、食糧不足の果てに凄惨な殺し合いが起きた巣もあった。 まりさ達、共同生活グループは多少の犠牲者を出したものの、初めての越冬を成功させた。 それはまりさ達だけではなく、あの傷まりさの協力あってのものであり、傷まりさへの偏見は大幅に薄れていた。 また共同生活を提案し、そのリーターシップをとったまりさに対する信頼も大きくなり、 実質まりさは生き残ったグループの長といっても過言ではない立場に就いていた。 同時にそれは、まりさが持っていた現状の長であるぱちゅりーへの不信感を、群れが共有することを意味していた。 しかしまりさはそれを表に出すことを硬く禁じた。 「おさがどんなにあやしくても、おさはまだおさなんだよ。いま、おさにきづかれたら『おしおき』されちゃうかもしれないよ」 こう説得して廻り、はっきり長ぱちゅりーを疑っているゆっくりにも、未だ半信半疑のゆっくりにも、 とりあえず長の命令に従うよう頼み込んでいたのである。 そして長の就任演説を経て、一年間に及ぶ独裁政治が始まり。 長ぱちゅりーは己の態度で持って、まりさ達の不信感を確信に変えてしまったのである。 そして舞台は再び現在に戻る。 ぱちゅりーは今、自分が育てた屈強な兵士達に暴行されていた。 「これでもくらえ!」 「ぴぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 硬い小石を四方八方から吹き付けられ、 「に゛ゃ゛ぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」 「……また、つまらないものをきってしまったみょん」 尖った枝で何度も何度も斬りつけられ。 「こんなやつにおかざりなんてもったいないんだねー!!わかるよー!!」 「や゛べて゛え゛え゛え゛え゛え゛!お゛がじゃ゛り゛や゛ぶがな゛びでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!!」 お飾りを目の前で細切れにされ、 「こんないなかもののあかちゃんなんて、ぜったいうまれないようにしましょう!」 「ゆ゛ぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!ぼう゛ゆ゛る゛ぢでえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛!!!!!」 ぺにぺにを切り取られ、それを押し込んだ上で棒切れを突き込んでまむまむを潰し、 「こんなやつがぱちぇのどうるいだなんて、なのれないようにするわ!」 「ばぢぇ゛の゛ずでぎな゛がみ゛の゛げがあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!! 少しずつ髪を力づくで引き抜かれて、禿げ饅頭にされ、 「ぱちゅりーのきたないおかおをきれいにするね!」 「q゛あ゛w゛せ゛d゛r゛f゛t゛g゛y゛ぶじごl゛p゛!!!!!!」 砂を撒いた木の皮に顔を押し付け、そのままおろし金のように動かしてぱちゅりーの皮を削る。 おおよそ考えつく全ての苦痛を、ぱちゅりーは味わっていた。 たまに「ゆげぇっ!!」と生クリームを吐いても「まだまだおわらないよ!」と強引に押し戻されて、死ぬことも叶わない。 最初に宣言された通り、死なないギリギリを見極めた絶妙な手加減を加えられた生き地獄が延々と続けられていた。 その様子を離れた場所で窺うゆっくりがいた。 傷まりさである。 便利な道具でしかなかった自らの群れに、ゆっくりできなくされているぱちゅりーを無表情で見つめ続ける傷まりさの元に、 クーデターに成功し、今やこの群れの長になったまりさが歩み寄る。 「……まりさおねーさんはやらないの?」 長まりさの疑問に、無表情を崩して苦笑を浮かべて答える。 「まりさのぶんはもうおわってるよ。あのすぃーが、まりさのぶんまでぱちゅりーにしかえししたんだよ。 だからまりさはもういいんだよ。いま、あいつがうけるべきはまりさたちのふくしゅう、なんだからね」 母の形見であったスィーごと罠に掛かった顛末はすでに聞いていた。 傷まりさにはそれがスィーの意志であったように思えたのだ。 ならばその意志を汚す真似はすまい。傷まりさは自然にそう思えたのである。 「……うん、わかった。じゃあ、そろそろしあげにはいるね」 その言葉に感じ入るものがあったのだろう。 一つ頷き、踵を返した長まりさは未だ醜い悲鳴を上げ続けるぱちゅりーの元へ向かう。 「みんな!いっぺんやめてね!まりさとおはなしさせてね!」 その言葉に群れが静まる。先程までの喧噪が嘘のような静寂の中、 「……ゆ゛っ゛……ゆ゛っ゛……」と痙攣するぱちゅりーの耳元へ長まりさが囁く。 「……なんでこんなめにあっているのか、わかってる?ぱちゅりー?」 その言葉に反応したのか、白目を剥いていたぱちゅりーの口から断末魔以外の言葉が漏れる。 「……ぱ……ちぇを……ゆっ………く……り………させ………な……い……げすは………し……ね………」 反省の色の欠片も無い、醜い性根を表したかのような呪詛を聞き、まりさは落胆した。 こいつは、自分が何故こんな目に遭っているのか理解できていない。 これでは、自分達の復讐が成ったとは言い難い。 自分のせいで、自分が無能だったせいで殺されることを自覚させて、より深い絶望にたたき落とさねば、 死んで行った親兄弟達に申し訳が立たないだろう。 しかし長まりさにはこれ以上のアイデアは無かった。 こいつに自分の罪を認めさせる方法が、この拷問以外に思い付かなかったのである。 (……しかたないね。そろそろれみりゃがおきるころだし、ざんねんだけど、とどめをさそう) 心の中でため息をつき、ほぼ一日中続いた拷問を終わらせる決意を固める。 「みんな、このぱちゅりーをもりのそとにたたきだすよ!」 「「「「「「「「「「わかったよ、おさ!」」」」」」」」」」 群れはもうまりさを長と認めていた。 あの過酷な一年の間、このまりさに従っていれば生き残ることが出来た。 それだけでなく、優れた洞察力からくる統率力、計画性、全てにおいて突出していたまりさは群れの憧れでもあった。 その長の言うことをどうして疑うことが出来るだろう? 「それじゃあ、ぱちゅりーをもりのそとまではこぶよ!ゆっくりてつだってね!」 「「「「「「「「「「まかせてよ、おさ!」」」」」」」」」」 虫の息のぱちゅりーを長まりさが跳ね飛ばす。 「ゆ゛っ゛!?」と転がって行く先にいたちぇんが勢いをつけて蹴り上げる。 「ゆ゛ぎっ゛!?」と跳ね飛ばされた先にいたみょんが銜えていた枝で打ち返す。 「ゆ゛びぃ゛っ゛!?」と飛んで行く先にいたれいむがぷくーっ!して跳ね返す。 「ゆ゛がぁ゛っ゛!?」とパウンドする先にあったぱちゅりー達が作った壁にぶつかり、転げ回る。 「ゆ゛ぶっ゛!?」と蹲ったぱちゅりーを、走り寄ったありすが跳ね飛ばした。 ピンボールの玉よろしく、森の木々の合間を跳ね回ったぱちゅりーが森と人里を分ける平原に放り出されたのは、すっかり夜も更けた頃であった。 ……ふああ。あー、さむっ。 また急に冷え込んできやがったな。 いくら夜明け前だっていっても、まだ秋の範疇だろうに。 これは今年の冬も厳しくなりそうだな……。 ……ん?なんだありゃ。 饅頭?……いや、ゆっくりか? あんな飾りも髪も無いゆっくりなんて見たこと無いぞ。 ……うわ、なんだこりゃ? こんなに全身ボロボロになるなんて、何があったんだ一体? ……お、意識はあるようだな。 ってか、この様で生きてるって、ゆっくりってのは随分頑丈に出来てんだな。 前に燃やした奴らはあんなにあっさり死んじまったのに。 ……『ぱちぇの群れを知ってるの?』? お前ぱちゅりーだったのか?いや、あの群れに居たって事は…… ……そうか、お前さんあの時逃げ出したぱちゅりーだな? せっかく逃げ出したってのに、何でそんな重傷負ってんだよ? ……『ゲスなまりさに追い出された』だって? いや、お前さん確か長だったんじゃないのか? ……『ゲスまりさに騙されたゲス達に乗っ取られた』ぁ? よく解らんが、世代交代でもあったのか……? しかしよく無事だったな、この辺りはれみりゃの縄張りだぞ? ……『ぱちぇの群れは、れみりゃを倒せるくらいに強いのよ』って…… なあ、それって強いのは群れであって、お前さんじゃないよな? なのに何でお前さんがれみりゃに襲われない理由になるんだよ。 ……『ぱちぇのお陰で強くなれたんだから、ぱちぇが強いに決まってるでしょう』? おいおい、何なんだそりゃ。三段論法にもなってないぞ。 ……ああ、わかった。 お前、群れでいつもそんなこと言ってたんだろ? そりゃ追い出されるわな。 あのまりさが言ってた通りだわ。とんでもない無能だな、お前。 ……『ぱちぇは長なのよ!何でも知ってる森の賢者なのよ!』って言われてもな。 実際長としては無能だぞ?お前。 そもそも長に必要なのは『古い知識を生かして、新しい何かを創り出す程度の能力』なんだよ。 知ってるだけじゃ役に立たないのさ。 古い掟の問題点を見つけてそれを改善した掟を決めたり、今までの狩りで餌が獲れないなら原因を探って狩り方を見直す。 それが出来るから、長ってのは慕われるんだよ。 何を勘違いしているんだか知らないが、お前が長の器じゃないってのはそのゆっくり達にも解ってたんだろうな。 ……なあ、ぱちゅりー。 お前は、群れの為に何か新しいことをしたのか? ……暴れんなよ。全然痛くないけどな。 ああもう、生クリームが飛び散って汚れちまったじゃねえか。 ……ああ、鬱陶しい! おらよ!どこにでも飛んで行きやがれ! ……結構飛んだな。 ……おや、三軒隣の御仁井さん。こんな所でどうされました? ……れみりゃの調達ですか。そりゃご苦労様です。 ……いえ、ちょっとね…… 無能なぱちゅりーに絡まれて、野良着を汚されちまったもんで。 あんまりムカついたんで、森の方へ思いっきりぶん投げてやったんです。 ……ははは、止してくださいよ。 俺に虐待は向いてませんって。 ……それよりも例の研究は進んでるんですか? 確か、ゆっくりを使った画期的な農法だとか何とか…… 山の裾野に広がる森の中、人間に捕まって投げ飛ばされたぱちゅりーは、奇跡的に生きていた。 しかしその姿は到底無事とは言えなかった。 お飾りも髪も無くし、所々薄くなった皮からはじくじくと生クリームが滲み出している。 それでも尚、残された目には執念の炎が燃えていた。 「……ぱちぇは……おさなのよ………いだいな……もりのけんじゃなのよ………… ……ぱちぇをゆっくりさせるのは…………すべてのゆっくりの……………ぎむなのに……………」 ぱちゅりーに帰る場所なぞどこにもない。 あの丘に向かうのは論外だ。 忌々しいゲスまりさに騙された無能な群れが襲いかかってくる。 人間の里に留まれば今度こそ殺されるだろう。 他の群れに匿ってもらおうにも、お飾りはおろか、髪さえ無くした自分を迎え入れてくれる筈が無い。 行きずりのぱちゅりーを襲ってお飾りを奪おうにも、満身創痍のこの身では到底実行できまい。 まさに八方塞がりの状況。 先程から妙に体がだるい。 悪寒は治まるどころかどんどん悪化してゆく。 あんよの感覚が殆ど無い。 (……そういえば、さっきからぜんぜんいたくないわね……?) 嫌な予感が彼女の脳裏をよぎる。 強ばってなかなか言う事を聞かない体を無理矢理動かして、後ろを振り返ったぱちゅりーの目に、 「……む゛ぎゅ゛う゛ぅ゛う゛う゛ぅ゛う゛う゛っ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛ぅ゛っ゛!?!?!?!?!?」 見えては行けない筈の光景が見えてしまった。 ぱちゅりーが這いずった後を追うように、白いナニカが線を描いている。 それは、ぱちゅりーの生クリーム。 彼薄皮一枚を残して剥ぎ取られた皮から滲み出した生クリームが、少しずつ、少しずつ、 ぱちゅりーのあんよと言う絵筆によって、冬の森というキャンバスを汚していたのだ。 痛みが治まったのではなかった。最早痛みすら感じない程に、感覚が鈍り切っていたのである。 「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!じに゛だぐな゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛!! だれ゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!だれ゛がだずげろ゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」 一体どこにそれだけの底力があったのか。 誰もいない森の中に、ぱちゅりーの叫び声が谺する。 そしてその谺は、届いてはいけないものに届いてしまった。 突然響き渡る羽音に、ぱちゅりーがピタっと黙る。 恐る恐る目を向けた先にいたのは、 「う~☆あまあまみつけたど~☆」 「どぼじであ゛がる゛い゛の゛に゛れ゛み゛り゛ゃ゛がい゛る゛の゛お゛お゛お゛お゛お゛!!!!!!」 そう、昼間は眠っている筈のれみりゃであった。 このれみりゃが特別だった訳ではない。 森の奥地は木々が密集しており、昼間であっても尚薄暗い。 木漏れ日に気をつけさえすれば、昼間でもれみりゃが活動するには充分な暗さがある場所なのだ。 その為、ここに足を踏み入れるゆっくりは相当訳ありでもなければ存在しない。 こうしてたまに迷い込んでくるゆっくりは、れみりゃ達にとって最大のご馳走であった。 「う~☆つかまえるど~☆ふゆのでなーにするんだど~☆」 「い゛や゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!ばな゛ぜえ゛え゛え゛え゛え゛え゛!!お゛う゛ぢがえ゛る゛う゛う゛う゛う゛う゛!!」 帰るべきお家なぞ何処にも無いことを忘れ、ぱちゅりーは泣き叫ぶ。 「うるさいんだど~☆しゃべれないようにするんだど~☆えいっ☆」 「ゆ゛ぶっ゛…………!!!!」 舌を引っこ抜かれ、お口に石を詰められて、ぱちゅりーは喋れなくなる。 ぱちゅりーが静かになったのを確認すると、れみりゃは満足そうに巣のある老木へ飛んで行った。 それからおよそひと月。 ぱちゅりーはまだ生きていた。 老木のうろを利用したれみりゃの巣には、同じように捕まったゆっくり達が沢山並んでいた。 れみりゃはその日の気分で啜る餡子を変えているようで、様々な種類のゆっくりが用意されている。 しかもこのれみりゃは、死ぬまで餡子を啜ろうとはしない。 死にそうなギリギリまで吸い上げ、痙攣を始める直前で止める。 その加減はまさに職人技と言えよう。 そして餡子を吸い上げたゆっくりの口に、うろに自生していたキノコを詰め込むのだ。 そんな怪しげなキノコなぞ食べたくもないが、それ以外に食糧は無いし、どのみち食べても食べなくてもれみりゃに詰め込まれる事に変わりはない。 どうやら毒キノコの一種らしいそれは、口に含んだ途端に気分が悪くなり、悪寒や幻聴が聞こえ始める。 そして酷い時には幻覚を見るようになる。それも、自分が最もトラウマにしている幻覚をだ。 (だまれえええええええ!!ぱちぇはむのうじゃないいいいい!!) ぱちゅりーを襲う幻覚、それはあのまりさでも罠に掛かったことでもない。 あの人間に言われた一言、それがいつまでもリフレインするのだ。 ………お前は、群れの為に何か新しいことをしたのか?……… (なんで……なんでぱちぇが……もりのけんじゃがこんなめに……) 本当にそうだったか? 本当に自分は森の賢者として相応しかっただろうか? 母の死は本当に母が無能だった所為なのだろうか? あの時、冬籠りの食糧が尽き、実の母を無茶苦茶になじったあの時。 『ごはんもまんぞくにあつめられない、むのうなおかーさんはゆっくりしないでしね!』 『……ごめんなさい、むのうなおかーさんで。せめておかーさんをたべてゆっくりしていってね! …………さぁ、おたべなさい!』 目の前でもの言わぬ饅頭になってしまった母を見て、自分は何を思っていただろうか? 『むのうなおかーさんは、ぱちぇのごはんぐらいにしかやくにたたないわね!』 そんなことしか思ってなかった気がする。 あの時、本当に賢者と呼ばれる程賢かったのなら、食糧を得る手段を思い付けたのではないか? いや、そもそも食糧不足に陥ること自体無かったに違いない。 (……そんな……そんなはずないわ…………ぱちぇはわるくない………わるいのはみんなげすのせいにちがいないわ……) あのまりさ達は本当にゲスだったろうか? むしろ自分より有能だったのではないだろうか? (……ちがう……ぱちぇは…………いだいな……もりのけんじゃなのよ…………) 疑問が浮かぶ度に脳裏で必死に否定するぱちゅりーに、またあの声が聞こえてくる。 ………お前は、群れの為に何か新しいことをしたのか?……… (うるさい!うるさい!うるさい!うるさぁああああいいいい゛い゛い゛い゛い゛い゛!!!!) 春はまだ遠い。 れみりゃが冬籠りを終えて、ぱちゅりーを全部食べ尽くすまで。 幻聴は毎日、ぱちゅりーを責め立て続けた。 ぱちゅりーは最後まで気付けなかった。 自分が賢者でも長でもなく、只の無能なゲスでしかない事を。 ……それを心のどこかで認めてしまっていた事を。 ※気付けば連休中盤だよ!時間懸かり過ぎだろコノヤロー!! お待ちいただいた方々には大変お待たせいたしました! 前作に感想を付けてくださった皆様のご期待に、 「(ハードルを上げるのは)もうやめて!作者の(チキンハートな)ライフはもうゼロよ!!」 状態で悶えながら書いては直し、書いては直し。 気付けば前作を遥かに超える長文になっておりました。 皆様のご期待に応えるべく、作者の筆力の限界まで絞り出しました、 本当にこれで応えられているか不安でいっぱいですが、これ以上お待たせできないだろうとうp決行。 ……どうか皆様のご期待に応えられてますように。 ※まりさについて(補足) 前作『騙されゆっくり』のまりさについて、感想にてさんざん指摘されておりました通り、 あれはまりさの脳内補完によるものです。 実際にれいむを襲っていたときはんなこと一切考えておりません。 何も知らずに死ぬよりも、罪を自覚してから死んだ方がより絶望感は凄いだろうと思い、最後に反省させる描写を入れましたが、 良い奴で終わらせるのは許すまじ!と前々作のまりさの行動を脳内補完させたのですが、 思ったより解りづらかったみたいで、反省しております。 本来作者が作品に解説を入れるのは反則だと思っているのですが、今回は作者の筆力不足によるものですので、 急遽解説を入れさせていただきました。 トップページに戻る このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね! 感想 すべてのコメントを見る ゆゆーん!このしょーとすとーりーさんはとってもゆっくりできるおはなしさんだね! -- 2015-10-08 03 16 52 ゆっくりできたよ! -- 2014-05-12 13 38 27 『ゆっくりできないゆっくりをおいだしたら、ほかのむれにめいわくがかかる』 当代ぱちぇは無能でゲスだが、これだけは正しいと思う。傷まりさと違って濡れ衣じゃない真正のゲスなら、他の群れに迷惑をかけるだろうし逆恨みして復讐に来るかもしれない。 畑に手を出そうものなら、群れのゆっくり全体が悪いと判断されて一斉駆除をされるかもしれない。 ゲスはきっちり殺しとかないと、何をしでかすか分かったもんじゃない。 -- 2012-09-22 20 40 08 よくやった!!いつゲスパチュが不幸になるか楽しみだった!!ゲスは結局滅びるんだよ!www -- 2012-07-11 22 27 01 ゆっくりできないくずなぱちゅりーはゆっくりしないでしんだね!おおぶざまぶざま -- 2012-05-22 09 22 30 ヒヒヒヒヒヒィィィィィィィィィィヤッッッッッッッッッッッハーーーーーーーーー ーーーーーー!!!!! れみりゃGJ!! -- 2012-03-14 22 25 53 まりさGJ! -- 2010-10-10 01 56 45 ぱちゅりーざまぁwwww 凄くすっきりしましたー! -- 2010-10-03 18 51 17 見張り子まりさも虐待してほしかった -- 2010-09-13 17 45 16 けんじゃ(笑) -- 2010-06-21 21 02 14 うーん、森の賢者(笑)に己の過ちや無能を認めさせるのって、 世界平和を実現するくらい難しいんじゃなかろうか… -- 2010-06-21 13 19 20 とてもすっきりー!できた -- 2010-04-21 01 29 49
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「ゆっくりいじめ系1447 騎馬民族の襲来」?の続きです。 俺設定があります 他の書き手様の設定を拝借しています。 ◆ 彼らは「ゆっくり」を「ゆっくりさせない」ために生まれた。 彼らの祖先、めーりん種が受けてきた迫害の歴史、 その中で育まれた恨みと、復讐の共通無意識が、 彼らを生んだ。 それは進化なのだろうかか? 彼らは、地を素早く駆ける「足」を手に入れ、 「ゆっくりする」ことを捨てた。 ◆ 「ユラクス=メーリン」率いる部隊は、先ほどの戦闘で手に入った戦利品を 携えて、森の中を行進する。 目指すは、彼らの数少ない拠点にして、ユッティラ大王の居城のある 王都「ホン」だ。 「ゆぅぅぅぅぅぅっ・・・・」 「ゆぇっ・・・ゆぇっ・・・」 部隊の構成員の帽子の中からは、小さく短い嗚咽の様な物が漏れてくる。 奴隷として、「ホン」で働かせたり、ドゲスの群れ、人間の集落や、 ゆうかの農園に売り飛ばすために連れてきた子ゆっくり達だ。 赤ゆっくりでは脆弱すぎて使い物にならず、 大人ゆっくりは大人ゆっくりでその精神構造が 腐りきっているためにほとんどの場合使い物にならない。 精神がまだ固まっていない子ゆっくりを「ホン」で 「加工」し、「教育」することで初めて、 奴隷ゆっくりとして出荷できるのだ。 「ホン」に向かう道中、頭上を黒い影が閃いたかと思うと、 一匹のきめぇ丸が「ユラクス」の前に降り立った。 「ユラクス殿、お帰りになられましたか」 王都「ホン」の周辺を警戒する、斥候のきめぇ丸だ。 きめぇ丸は騎馬めーりんの盟友であり、 戦争時の略奪品の何%かを報酬として、 通訳、あるいは斥候とかなりの数が雇われている。 「(辺境の虫以下のクズどもの集落を3、4個潰し、また2つの村に貢納を約束させたぞ)※翻訳」 「それは、重畳。子息殿の活躍に大王もお喜びになるでしょう」 「(世辞はよせ、俺など所詮父上の第7子、王族の末も末。しかもまだ四十騎の将でしかない青二才だ)」 「いえいえ、ユラクス殿の才覚は決して御兄弟の方々には決して劣ってはおられませんよ・・・・」 偵察方のきめぇ丸がいるという事は王都ももうすぐだろう。 そんな事を思いながらきめぇ丸とのたわいのない話に花を咲かす。 「王子、配下の方々も疲れております・・・・そろそろ・・・」 通訳役のきめぇ丸が、二匹に近づいて来て、言う。 確かに、配下の者たちは長い軍旅で疲れている。 こんな所で時間を費やすのも 「(うむ、すまぬ・・・・ではなきめぇ丸。今度うまい赤ゆっくりでも奢ろう)」 「いえいえ、ユラクス殿もお気をつけて」 きめぇ丸と別れると、「ユラクス」隊は、一路王都を目指した。 森の中、何の前触れもなく、その平原は突然出現する。 まるで、森の中にコンパスで円でも描いたような 綺麗な円形の平野がそこには存在していた。 ユッティラ=メーリン=カーンの王国の都、「ホン」。 彼らの崇拝する戦の女神「紅美鈴」にちなんでつけられた名前だ。 騎馬めーりん、きめぇ丸、奴隷ゆっくりなど、おおよそ100匹近くの ゆっくりがここに常駐している。 それ以外の騎馬めーりんは、王族も含めてほとんどが戦場だ。 水に強いまりさ種の帽子などで作られた簡素なテントと、 盛り土や石を組んで作られた「かまくら」のような 簡単な構造の住居が、いくつか並んでいた。 「さあ、このれいむ、健康で頑丈な皮の持ち主で、奴隷にはぴったり!さあ、買った買った」 「ゆっ!草で3日分!」 「虫で4日分だぜ!」 「虫で5日分!」 「「「「ゆっ!!!!」」」 「虫5日分!他の方はおられませんか?」 逃亡帽子の為に飾りを奪われ、頬に刺青を入れられ、 奴隷用に「教育」されたれいむの周りを、 きめぇ丸と数匹のまりさが囲んでいる。 奴隷ゆっくりの「せり」だ。 司会を務めるのはきめぇ丸だ。 買い手は、主に奴隷商人として生計を立てる 西のゲストリート出身のゲスまりさ達だ。 騎馬めーりんは他のゆっくりを憎悪しているが、 話の通じる商売相手なら別だ。 彼らが憎むのは頭も悪く、感性も腐りきった普通のゆっくりであり、 ごく一部の頭の良いゆっくりは他種でも尊重した。 「むきゅっ!その子たちは東の第2番倉庫に移動よ」 「(解りました・・・・おい、糞饅頭ども、ゆっくりしないでこっちに来い! 引き殺されたいかぁっ!!)」 「「「どぼじでぎょんなぎょとずるにょぉおおおおお」」」 この記録係のぱちゅりーなどいい例だろう。 基本的には知能指数の非常に高い騎馬めーりんだが、 暗記力と、その持続力は優秀なぱちゅりー種には及ばない。 故に、知能が高すぎて愚鈍な普通のゆっくり達の群れから 迫害されたり追い出されたりしているぱちゅりー種を保護し、 秘書や、奴隷ゆっくりの管理、「ホン」の出納係などとして 使っているのだ。 彼女たちは「官僚ぱちゅりー」あるいは「秘書ぱちゅりー」などと呼ばれ、 騎馬めーりんの社会ではほとんど騎馬めーりんと同格の地位を与えられて おり、特に優秀な官僚ぱちゅりーは死んだ騎馬めーりんの帽子を与えられ、 王城に出入りする権利すら与えられるのだ。 騎馬めーりんは社会は、優秀な個体を異端として迫害するゆっくりと違い、 徹底した実力主義の社会なのだ。 それは王族すら例外でなく、無能な騎馬めーりんは、たとえ王の長子でも 王族の証である「メーリン」姓をはく奪され、 一兵卒の身分にに落とされることすらあった。 王族とて、その身分に安住し、「ゆっくり」することなど許されない。 それが、騎馬めーりんの社会なのだ。 「ユラクス」は、配下の兵たちと兵舎で別れると、 一人王城に向かった。 石組みで作られた大型の無骨な小屋。 これが王城である。 内部に入ると、官僚ぱちゅりーが忙しく働いている。 彼女たちには帽子が無い。 彼女たちは、騎馬めーりんの群れに加わる通過儀礼として、 帽子をその時の王に捧げるのだ。 それは、二度と普通のゆっくりの群れには戻らないという意思表示だ。 「(大王はおられるか?)」 「むきゅっ?ユラクス様、御帰還なさったのね」 官僚ぱちゅりーは、騎馬めーりんの言語を習得しており、 きめぇ丸の通訳を必要としない。 「残念ながら、陛下はここにおられないわ」 「(何処の戦場に?ここの所、ドスの群れとの大きなトラブルは無かったはずだが?)」 「『東のドス』との国境紛争よ。しばらくはお帰りになられないと思うわ」 『東のドス』 「ホン」の遥か東に存在するゆっくり達の国の主。 ゆっくりを見下す騎馬めーりんですら、その偉大さには 敬意を払わざるを得ない、一世一代の豪傑ドス。 それが『東のドス』だ。 その実態は謎に包まれており、その姿を見た者すらいない。 以前ユッティラが使者を出した時も、応対したのは 副王ににして参謀のぱちゅりーであり、 最後まで謁見することすら叶わなかったのだ。 「むきゅん。ある偵察部隊が襲った辺境の村が、 たまたま『東のドス』の支配下になってらしくて」 「(その村の支配権をめぐっての戦争か・・・・ 相手が相手だけに長引くな・・・・・・・・・・)」 支配権、という言葉が出たが、滅ぼさずに村を支配下に加える場合もあるのだ。 騎馬めーりんは、無作為にゆっくりの集落を襲っているわけではない。 貢納を受け入れた村は、襲わずに税を絞りとり、 じわじわと苦しめるやり方をする。 際限なく、ゆっくりを殺し続ければ、自分の首を絞めるはめになる。 餌を際限なく食べて、餓えるゆっくりどもと彼らは違うのだ。 「むきゅん。「ホン」の治世は、「ユゴデイ」様が執っておられるわ。 御報告なら、「王の間」へどうぞ」 「(ありがとう。では)」 「ユラクス」はぱちゅりーと別れて王の間へと向かった。 王の間は、これが強大な騎馬めーりんの王国の 国王の部屋かと疑問に思われるほどの簡素だった。 騎馬めーりんは質実剛健を好む。 それは王族とて例外ではない。 王座にはユッティラの姿はなく、 その前に仮設された簡素な椅子に、 王族の長子、「ユゴデイ=メーリン」が 座っていた。 「ユゴデイ」には左目が無く、 顔には醜い傷が幾筋も走っている。 帽子は、まりさ種の物にれいむ種のリボンを付けた物で、 髪の毛は殺したゆっくりの飾りで埋まっていた。 王国黎明期からユッティラ王のすぐ傍らで戦場に立ち、 ドスの群れを含むいくつもの群れとの闘争を生き残ってきた 歴戦の勇者。それが「ユゴデイ」だ。 ユッティラ王には子供が多いが、後継者となるのは まず彼に間違いないと、群れの間では言われていた。 所詮第七子で、体格も小さめの「ユラクス」には 雲の上のめーりんだと言っていい。 「(兄上、辺境視察の任務、完了して帰還致しました)」 「(おお、ユラクスか!ようかえった。まあ、こいつを食え)」 「(ありがたき幸せ)」 「ユゴデイ」は、傍らに転がっていたボロボロの 赤まりさを「ユラクス」に差し出した。 「ゆべ・・・もと・・・ゆく・・・・・」 うめき声を上げるまりさを気にすることなく、 「ユラクス」はまりさを貪る。 痛めつけた赤ゆっくりは、 騎馬めーりんにとっては最高の御馳走だ。 「(4つの村を滅ぼし、2つの村を隷属させました)」 「(うむ、若いながらお前はよくやってくれる。 兄としてたいそう、鼻が高いぞ)」 「(お褒めに預かり、光栄です)」 「(時にユラクス・・・・・・)」 「ユグデイ」は言葉を切ると、 ゆっくりとその話を切り出した。 「(今度、父上が帰り次第、『あの国』を再び攻めるぞ)」 「(!!!!!!)」 『あの国』 「ホン」の騎馬めーりん達の間で その言葉が意味する事は一つだ。 『のうかりん共和国』 数匹ののうかりんと、何十匹ものゆうか、 そして、群れを追い出された真面目で頭のいいゆっくり達が、 豊穣の神にして、太陽の化身「カザミ」を氏神として 団結する共和制の農業国家。 幾度となく騎馬めーりん達が支配下に置こうとして、 果たすことができなかった好敵手。 その征服はユッティラの先代の王からの、 王国の課題ともいえる物だった。 「(その時は、お主に先鋒を任せよう。準備しておけ)」 「(!!!!!!有難うございます!!)」 「ユラクス」は興奮で胸がはじけ飛びそうだった。 王家に宿願ともいえる戦いの先鋒に自分が? これからは寝られない夜がつづきそうだと、 「ユラクス」は思い、ニヤリと笑った。 続く 騎馬めーりんの設定を、他の書き手様に使っていただいて、 嬉しさでいっぱいです。 騎馬めーりんの設定は、好き勝手使ってください。 人の数だけゆっくりの設定があるのが、このスレなのです。 このSSに感想を付ける
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タオバオのコスプレ衣装などの出品で見かける 「10-30元とかの安い商品は何?」 「征集とは?」 「成团・不成团って?」 それらは征集システムで販売されている征集商品です。 目次 征集システム・征集商品とは 大まかな流れ 用語集 代行業者 征集商品の買付可否 じゅりさんの解説 征集商品の買い方 征集システム・征集商品とは 制作前の商品を征集段階として定金(前金)で出品し、欲しい買い手たちに買ってもらうことで資金を集めつつ需要を見る方式を征集システム。 この方式で販売される商品を当ウィキでは征集商品と呼んでいます。 大まかな流れ 商品やセラーによって多少違う場合もあると思われます。 用語集 【定金】前金購入してもなにも発送されない仮想商品 【尾款】後金 【全款】全額 【现货】在庫 【予售】予約 【成团】商品化決定一定数の定金(前金)が集まれば成团。商品が制作される。商品ができたら、定金を支払った買い手は尾款(後金 定金を支払った残りの額)を支払い購入する。定金を支払っていない買い手は全款(全額)を支払い購入する。 【不成团】ボツ定金(前金)が集まらなければ不成团。ボツになる。この場合定金は買い手へ返金される。しかし、クレカを利用している場合は返金されない。正確には返金を受け取る方法がない。仮想商品の定金の注文は、期限切れにより取引が完了しているため。(詳しくは「退款」と「退货退款」)成团済みの商品の定金を買うのが安心。 代行業者 征集商品の買付可否 業者によると思われるので要問い合わせ。 じゅりさんの解説 元ツイート 【征集システムについて】 タオバオ個人輸入(特にコス衣装)で起こる 「10-30元とかの安い商品は何?」 「もしかして詐欺とか?」 って疑問を解決するべく適当に解説してみたので読んでみてください〜!間違ってたらごめんだけど、タオバオでコスプレ衣装の購入を考えてる方には絶対勉強になるはず! (2020/11/3) ちなみにですけど、クレカだけで戦ってる勢は定金買った後に不成团(ボツ)になったとしても返金して貰えないから要注意で…… 定金買うなら成团してる商品の定金買った方がいいよ 頭金30元が掛け捨てになってもいいからとにかく衣装を作って欲しいんや!!という意思の固い方のみしょっぱな買ってね 正確には「返金してもらえない」というよりは「金を受け取る方法がない」んですよね 定金という仮想商品は発送済みかつ(時間切れで)確認收货しちゃってるから取引終了してるのでなすすべなしという… ※セラーとの交渉次第では「代わりに割引クーポンあげるね」という結果になる場合もあります。 代行業者の征集商品の買付可否 (元質問箱) Q.征集システムについて分かりやすく説明して下さってありがとうございます!タオバオ新○線経由で征集システム商品を事前に買う場合、送料は事前入金分と本入金分2回払わなけれはいけないのでしょうか? A.ご質問ありがとうございます!ぶっちゃけ分かんないっす!! タオバオ新○線さんを利用していた際に征集商品を買い付け依頼したことがないんです、お役に立てず申し訳ないです😢 また、定金商品の送料についてですが、定金商品は言わば「仮想商品」であり、定金商品買おうが何かが発送されることはないので送料は必要ないです。 あまりお役に立てなくてごめんなさい💦 代行業者を挟まず自力で購入する方法については私以外の神解説ブログがありますのでそちらを是非ご覧いただければと思います…… https //change-shop.com/taobaoshipping/ (URLが質問箱できちんと表示されるか分からないので回答ツイにツリーでぶら下げておきます〜) 征集商品の買い方 合わせて読みたい:征集システム 定金の購入方法 意向金 尾款の購入方法(定金購入済) (元ツイート/元質問箱) Q. いつも丁寧で有益な情報ありがとうございます!いつも代行業者を利用していましたがこの度初めて代行を使わずにtaobaoで通販することが出来ました。スクショなどを用いたわかりやすい解説本当にありがとうございます。今回は(文字化け?不明)の商品でしたので良かったのですが、定金/意向金・尾款の商品の購入方法がわかりません。定金などの際は、送料についてや受取り、評価はどうしたらよろしいでしょうか?また尾款の際は定金分を購入した旨などお店に連絡をとるものでしょうか?ざっと質問と画像欄を確認させて頂きましたが既に何度か解説させてましたら申し訳ございません。 A.征集商品の買い方 ご質問ありがとうございます! スクショ解説いつもクソ雑ですみません!!!でも伝わってたみたいで良かったです!!あとあと直買い成功おめでとうございます👌 さて、それでは本題の定金/意向金/尾款についてです!まだ私も征集商品についてはコスプレ衣装購入のケース、具体的にいうと三分妄想さんと江南家さんの征集システムしか理解出来てません、すみません!ただコスプレ衣装系の業者による征集システムはほぼ同じ流れのとこばかりだとは思います!が、全ての業者が同じシステムとは限りませんのであくまで一例ということでお願いします🙇♂️ 定金の購入方法 征集商品は定金(前金)の商品を30元ほどの安価な価格で販売しています。征集システムについては以前解説したのでそれ参照でお願いします! 征集システム 30元の商品は普通に購入して大丈夫です。定金はあくまで仮想商品なので、配送先はどこでもいい(ので自宅にしてみてる)、配送方法も「自行联系卖家发货」でも「官方物流-集运」でもどっちでも大丈夫です!が、オススメは「自行联系卖家发货」の方です。対して差はないですが「官方物流-集运」の場合、4PX転送手配ページに転送待ち商品として仮想商品の情報が永遠に残り貯まっていくためです。(言葉だと分かりづらいと思うのでリプツリーに画像貼るようにしますね!!) 情報が永遠に残ろうが全く支障はないので官方物流で購入しても大丈夫です👌 あと受取についてですが、ほっといたら自動的に受取になって評価に進みますので放置でも大丈夫です👌評価についてですが、征集商品のレビュー欄に商品未発売なのに多数コメントあると思うんですが、定金商品購入者が「楽しみです!」とか「ここはこう作って欲しいなぁ〜」みたいな期待してます系コメントを残すのが通例のようです。 意向金 タオバオ初心者(笑)なので初めてききましたこの言葉😇コスプレ衣装購入においては「定金」「尾款」を理解していれば大丈夫だと思います、多分! すみません意向金については「分かりません!」が回答ですヾ( 3ヾ∠)_ まろ注:Twitterのフォロワーさんからの情報で、「支払う意思があることを示すお金。取引失敗しても返金されない場合もある。」とのこと。定金と似たようなものでしょうか? (わかる方メールフォームから教えてください byまろのすけ) 尾款の購入方法(定金購入済) 定金購入済かどうかは店舗が何かしらの方法で確認しているようで、特にショップに連絡なしに尾款商品を購入しても普通に発送してくれます👌 なので定金商品を購入済なのであれば、ショップに個別連絡入れる必要はないかと…!(三分妄想さんの場合はそうでした) ざっとこんな感じですね!!もし抜けあったらすみません〜〜〜!!!よきタオバオライフを〜〜!!!
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ちゅい ちゅゆ xちゅなx TW歴は6年でそこそこ前からプレイしております。 色んなキャラ入れてますが、名前で分かりやすいんじゃないかな(;´▽`A`` にくきゅうのキャラは全部ちゅいのサブっていう噂もあるよ! 現在アナイス育成中なので、アナイスでいることが多いかと思います。 あと、ここのメンバーページの管理をしてますので、何かあったら言ってください(*´▽`*)
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『『こーまの王 「館」』』 36KB 愛で 観察 思いやり 引越し 捕食種 希少種 自然界 愛護人間 創作亜種 独自設定 ○○あき 作 待っていてくれた人にごめんなさい 『こーまの王 「館」』 ○○あき 作 前作の『こーまの王 「賢者」』の続きです。 知性や能力の高いゆっくりが登場します。それに違和感や不快感を感じられる方は回避願います。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 秋風が肌に染みだすのを感じる、そろそろ野生のゆっくりは越冬の準備を進めなければならない。 飼いゆとして育ち、越冬経験の無いぱちゅりーには不安な事ばかり。 特に洞窟の岩肌は冷たく、どんなに枯草をひいても底から冷える寒さを感じる。 『ではこれよりさくやは、えっとうようのかりにいってまいります。 かえりはおそくなりそうですので、おしょくじはめーりんにごよういさせますので。』 『わかったんだどぉ!ごくろうさまなんだどぉ』 『では・・・・』 声と共にれみりゃの前からさくやの姿は消え失せる. さくやは群れの越冬用食料を集めに出た、捕食種の食料は通常種なのだが生かしておくためには多少の草や虫は必要。 その質は悪ければ悪い程、通常種は苦しみ甘味を増す。 そして良い質の物は自分達で摂り、冬の間に味覚は偏るのを調整する。 いつもならばめーりんを引き連れて荷物持ちをさせるのだが、それでもゆっくり2匹ではたいした量は運べない。 『むっきゅ?たべものをはこぶならすぃーをつかうといいわ!これならさくやだけでもたくさんはこべるわよ。』 『おかりしてかまわないの?』 『ぱちゅはこのあたりのことをよくしらないわ、とおくまでいったりしたらかえってこれないわね。 だからつかうことないから、えんりょなくつかってちょうだい。 それよりちょっとおしえてほしいことがあるの・・・・・』 『なにかしら?』 『むっきゅ!このへんに・・・・・・・』 今年はぱちゅりーの所持していたすぃーがあり、これに乗せて運べば1匹でも沢山の食料を運ぶ事が可能。 ぱちゅりの提案を受け、さくやは1匹だけで狩に出掛けて行った。 『ことしはぜんぜんはえていないわね・・・・』 昨年茸が生えていた場所に今年はまだ影も姿も見つからない、夏の猛暑が影響したらしく山菜の生育が遅れている。 しかし冬の間を通常種ばかりを食べていたら、舌が甘味に麻痺してしまいかねない。 どうしても美味しい山菜を貯め込む必要がある。 『しかたがないわね・・・あそこにいってみましょう・・・・・・』 通常種の群れは、何かしら狩場に近い場所に作られる事が多い。 秋が遅れた分、今ならまだ採り尽くしてはいないだろう。 さくやは通常種の縄張りへと向かった。 そこを避けていたのは通常種はさくや達の大事な餌故、余計な戦いで餌の数を減らしたく無い。 しかしだからと言って、美味しい山菜を譲ってやる理由も迷う必要も無かった。 『たしかあのおかのむこうにきのこさんがあったはずよね・・・・・・ん?なにかしら?』 丘上にある松林にやってくると、何やらそこから騒がしい声がする。 別に通常種から隠れて行動している訳でも無かったので、興味半分で近寄ってみた。 そこに見えたのは、紅髪に黒い羽の生えた見た事の無いゆっくり。 そしてそれを囲む通常種達の姿。 『みたこともないゆっくりだみょん!ぜんぜんゆっくりしてないやつだみょん!』 『わかるよーぜんぜんゆっくりできないんだねぇー』 『げらげらげら~まりささまにさからうからこんなめにあうんだぜ!』 その見慣れるゆっくりは、既に通常種に虐げられボロボロになっていた。 この紅髪のゆっくりとさくやは、別に知り合いでも無かったので別に無視しても良かった。 しかし通常種が調子に乗っている姿は癪に障る。 『ゆっくりしてなければいじめていいのかしら?』 『あたりまえだみょん・・・・ゆ?だれ・・・・・・・・・ゆ?』 後ろから尋ねる声にみょんが振り向いた時には、口から背中に枝が突き抜けていた。 さくやはその枝を一気に引き抜く、みょんの傷口からはホワイトチョコが流れ落ちる。 まりさとちぇんの目前に、みるみる白い水溜りは広がっていく。 『た・・・た・・す・・けて・・・・・くれだ・・・みょ・・ん』 『ゆ!ど・・どど・・どど・・・どおぢでこんなことをするんだぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』 『わがらないよぉーちぇんはなんにもわるいことはしてないんだよぉー』 『そのこをいじめるすがたはゆっくりしてなかったわよ。 ゆっくりしてないゆっくりは、いじめていいらしいからゆっくりりかいするといいわ。』 みょんの声で我に帰る2匹、何時の間にやられたのか理解出来ず混乱する。 理解出来ようがさくやには関係ない、ちぇんの眉間を喰いちぎる。 『ゆぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』 『ゆわわわわわわわわわわわ!』 ちぇんの額と両目が、チョコの穴で繋がり目玉がその間を漂う。 激痛に転がり苦しむちぇん、その姿にまりさはただたじろぐだけ。 『さっきあなたはどおして?ときいたわね・・・』 『そ・・・そうなんだぜぇ!まりさだってがんばっていきてるんだぜぇ!』 『それはあなたがむだにいきているからよ、さすがにさくやもしんだゆっくりにはこんなことはしないわ。』 『どおじでそんなご・・・・・・・ゆ”!・・・ゆ”・・・ゆ”・・ゆ”・・・・・』 最後の台詞を大きく口を開けた瞬間に、まりさの半身だけが後ろに倒れる。 ゆっくりの開きとなったまりさの下半身からは、舌だけがバチバチと身体を叩いて暴れていた。 残ったのはさくやと虐められていた、見慣れぬゆっくりだけとなる。 『ほんとにくずははきけがするわね・・・・さて・・・・あら・・・けっこうやられちゃっているわね・・・・・』 『こ・・・・ぁ・・・・・・こ・・・・・・ぁ・・・・』 『みたことないけどいちおうきしょうしゅのようね・・・・ふぅ~・・・・・・ ほっておくわけにもいかないわ、まえにもこんなことしたばかりなのに・・・・・』 その見慣れぬゆっくりは、まだ生きていたがかなり衰弱している。 希少種ならば見捨てる訳にもいかない、れみりゃの群れの再興には多くの仲間が必要なのだから。 さくやはすぃーに積んでいる食料の上に、そのゆっくりを乗せると住処目指して走り出す。 かなり弱っているので急がねばならない。 『れみぃはふゆもここですごすの?』 『それをいまかんがえているんだどぉ・・・・まえのこーまかんはあったかかったんだどぉ。 でもここはさすがにさむすぎるんだどぉ・・・・・』 さくやが越冬の準備を始めだし、れみりゃもそろそろ対策を練らねばならなかった。 前に住んでいた森には、それぞれ住処とする虚や小さな穴があったのだが。 ここは岩肌剥き出しの洞窟、地面の冷たさが体温を奪う。 『むっきゅ!そこでぱちゅからていあんがあるんだけど・・・・・』 『なんだどぉ?』 『ぱちゅはおひっこしをしたらいいとおもうの。』 『それはれみぃもかんがえたんだどぉ、でもいきさきがないんだどぉ・・・・・・』 ぱちゅりーの提案はれみりゃも考えた、しかし行先がなければ引越しのしようが無い。 だがぱちゅりーには、それについても考えがあった。 『むっきゅ!だからぱちゅはやしろさんにすんだらどうかとおもうの。』 『やしろさんってなんなんだどぉ?』 『そうね・・・・やしろさんというのは、ひとさんにとってのせいいきみたいなものかしら?』 ぱちゅりーが考えたのは、どこの村にも豊作を祈願する神を祭った小さな社がある。 そしてその場所一帯は、あえて何も建てられない事が多い。 これならば住処を追われる事も無いだろう。 『ひとさんにちがづくのはあぶないんだどぉ!』 かつてれみりゃは、人によって群れと番を失いこの様な場所まで追いやられた。 人に脅威を感じた故、敵を知るべく連れて来られたのがぱちゅりーである。 『そうね・・・・ゆっくりがたたかってかてるあいてではないわ・・・・・ でもねひともむじょうけんで、ゆっくりをころしているのではないのよ。』 『う?』 人はゆっくりを憎み疎んでいるとれみりゃは思っていた、しかし人には人の事情がある。 そもそもこの国に、所有者の居ない土地は存在しない。 害がなければ問題は無いのかもしれないが、蝗の如く自然を喰らい尽くすとなれば大問題である。 『むっきゅ、とりあえずそこは、ぱちゅにまかせてもらってだいじょうぶよ!』 『でもいそがなくてもだいじょうぶなんだどぉ・・・・れみぃのこーまかんはてっぺきなんだどぉ!』 『むきゅ・・・・・れみぃ・・・・ちょっとこれをみてくれるかしら?』 れみりゃの言葉に、ぱちゅりーは表情を曇らせて話す。 そして洞窟の奥へとれみりゃを連れて行く、そこには岩の隙間からチョロチョロと滴る水が溜まっている。 これまで水の確保は、近くの川まで行くか雨水を貯めていた。 ある日、岩の隙間から水が出る様になり、容易に水が手に入る様になったとれみりゃは喜んでいた。 しかしこれは、重大な問題を抱えている事をれみりゃは知らない。 『おみずさんがわいているんだどぉ・・・・これがどうしたんだどぉ?』 『むっきゅ・・・・ゆっくりおちついてきいてね?これはここがくずれるかもしれないよちょうなのよ・・・・』 『れみぃのこーまかんがくずれるだどぉ?』 『そうよ・・・・くわしくはぱちゅもしらないけど、いままでなかったところからおみずさんがでるとあぶないのよ。』 ぱちゅりーれみりゃが話している間も、隙間から水が染み出し続ける。 この夏にTVで見た事を思い出し不安が増す。 『むっきゅ!つ・・つめたいわ!!ゆゅ?』 天井から雫が落ちてきた、よく見ると天井や他の箇所からも水が染み出してきているではないか。 ここは危ないとぱちゅりーは直感する。 『れみぃ!おねがい!ぱちゅをしんじておちびちゃんをつれてここからでるのよ!』 『う?ど・・どうしたんだどぉ?・・・・!』 急に慌てだすぱちゅりーに驚くれみりゃ、だがこれまで染み出す程度だった隙間から水の量が増えている。 何が起こっているのかは解らないが、れみりゃも何か危険な物を感じた。 『めーりん!おちびちゃんをつれてそとにでるんだどぉ!れみぃもいっしょにいくんだどぉ!』 『じゃおぉぉぉぉぉぉぉ!』 れみりゃの声に即座に反応して洞窟の奥へと駆けるめーりん、奥では2匹がお昼寝の真最中。 スヤスヤと寝息を立てて気持ち良さそうに眠っている2匹、起こさぬよう素早く咥えると急いで出口を目指す。 そしてれみりゃは、その更に奥に隠してあった大事な物を取りに行く。 だが洞窟内にピキピキ響く地鳴り、事態は急変した。 『むきゅう!れみぃ!なにをしているの!はやくにげてぇぇぇぇぇ!』 めーりんと共に洞窟の外に出たぱちゅいいーが叫ぶ、このままではれみりゃが危ない。 危険を冒してまでれみりゃが取りに行った物、それは番であった亡きふらんのお帽子。 『あったどぉ・・ふらんをおいてにげるのはもぉいやなんだどぉ・・・・』 お帽子を咥え駆けるれみりゃ、パラパラと天井から砂が降ってくる。 ここが崩れるのは時間の問題だった。 『ゆゅ・・・?ゆ!みゃみゃ!』 『むきゅ!ふ・・ふらん!あぶないわ、ちかよっちゃだめぇぇぇぇ!』 目を覚ました子ふらんが訳も分からず、母を求め洞窟に入ろうとする。 既に土煙で中の様子は見えない、だが刻一刻と事態は悪化していく。 『うぅーーーーーーーー!う?ふらん!』 土煙の中から飛び出したれみりゃと擦れ違いで、母を助けに子ふらんが入る。 そしてそれを追いかけ飛び込むぱちゅりー。 『う?いみゃのはみゃみゃ?みゃ・・・・・・ぐひぃ・・・・・・・・』 『むきゅぅぅぅぅぅ!ふらんしっかりしてぇ!いますぐぱちゅがだしてあげるから!』 崩れ落ちた小石に直撃して子ふらんは気を失う、だが幸いにも追っかけてきたぱちゅりーによって直に救出される。 すぐさま洞窟を飛び出すぱちゅりー、これで全員なんとか難を逃れる事は出来た。 だが住処を失い路頭に迷う事になってしまう。 『れみぃのこーまかんが・・・・・・・』 『れみぃ・・・・むきゅ・・・・こうなってはしかたがないわ!おひっこしよ!』 『でも・・・・ひとさんにちかづくのはあぶないんだどぉ・・・・』 『ぱちゅにまかせて・・・かんがえがあるの・・・・とりあえずここにいてもなにもかわらないわ!』 このままここに居ても何も解決しない、まずは安全な場所に移動する必要がある。 しかしれみりゃの従者であるさくやは、越冬用の狩に出ていて何時戻るか分からない。 ぱちゅりーは本来ならば、人と交渉してから社を根城として借り受けるつもりだった。 しかしそんな事は言っていられない、とりあえずめーりんを伝言に残しれみりゃ達と社へ向かう。 『むきゅぅ~おそとをすぃーもつかわずにでるのはひさしぶりだからつかれるわぁ・・・・』 『だいじょうぶだどぉ?』 社まではまだ距離があると言うのに、改めて己の体力の無さを実感させられるぱちゅりー。 れみりゃも気絶したふらんを抱えていたが、それでもぱちゅりーよりは速い。 だからと言って先にれみりゃ達を行かせると、土地勘の無いぱちゅりーには社の場所が分からない。 結果、れみりゃを待たせるしか無かった。 『ご・・・ごめんなさいね・・・すぃーさえあれば・・・・むきゅぅ・・・・・・』 こうしてれみりゃ達は、牛の歩みよりも遅く急ぐ。 その頃さくやへの伝言に残っためーりんは、元こーまかんだった場所で気持ち良さそうに寝ていた。 『な・・・な・・な・・・なにこれぇーーーーーーーーー!ど・・ど・・・どうなってるのぉぉぉぉぉぉぉ?』 故あって予定を切り上げて戻り、こーまかんがあった場所を見たさくやの絶叫が木霊する。 どう見ても洞窟崩落で、めーりんが死んでいるように見えなかったからだ。 『じゃぉ・・・じゃお?』 『え・・え?え?いきてる?』 さくやの叫びでめーりんは目を覚ます。 死んだと思い込んでいためーりんが、生きている事にさくやはビックリする。 そんなさくやにめーりんは、暢気に欠伸をしながら事情を話し出す。 『じゃおじゃおじゃおーん!じゃおじゃおじゃお!』 『なるほど!まったくわからないわ!』 普段はある程度のコミュニケーションはとれているが、流石に事の詳細となると一切分からない。 とりあえずれみりゃ達は無事らしい、ならばめーりんに案内してもうしかない。 『もういいからおぜうさまのところにはやくあんないしなさい・・・』 『じゃおじゃお?』 『ん?ああこのこはひろったの、えっとうのごはんさんじゃないわよ!』 さくやが引いていたすぃーの上には沢山の茸などの山菜が、そしてその上に置かれた紅髪のゆっくりの姿。 衰弱激しく未だ気を失ったままである。 『このこをみてもらおうとおもってね・・・かいゆだったのなら、なんとかしてくれるかもしれないでしょ?』 『じゃお!じゃおーーーーー!』 『わかったからはやくあんないしてちょうだい・・・』 弱り食事も取れなくなったゆっくりを回復させる方法は、野生のゆっくりの持つ知識の中には無かった。 しかし人の技術ならばそれも恐らく可能であろう。 さくやはめーりんに先導させてれみりゃの元へと急ぐ、この衰弱したゆっくりの為にも時間が惜しい。 『むぎゅううう~う~ぢぬわぁ~ぱちゅわぁ~ぜ~はぁ~ぜ~はぁ~』 『たいじょうぶだどぉ?そんなにしんだかっただどぉ?』 れみりゃ達が社に着いた時には、既に日も落ちかけて薄暗くなっていた。 普段出歩かないぱちゅりーにはかなり辛かったらしく、息も絶え絶えで社の床下で転がっている。 無人の小さな社は神社らしく外を朱色に塗られ、最近あったであろう神事の跡がそこかしらに残っていた。 周囲を床まで木で覆われていたが、裏側にあった隙間からなんとか床下に入る。 『う~なんだかあかくておちつくんだどぉ~』 紅い外壁がいたく気に入ったのか、れみりゃは何度も外に出ては社を眺めていた。 しかしこれは人によって建てられた物、ゆっくりが住み着くには問題がある。 ぱちゅりーの腹案がどう言う物なのか分からない以上は、話を鵜呑みにして油断する事は出来ない。 『ぱちぇにきたいするんだどぉ・・・・・』 しかしここを気に入ってしまった以上は、ぱちゅりーの策に期待するしか無かった。 今日は急遽の引越しだったため、昼からずっと食事を摂っていない。 『みゃみゃ~おにゃかちゅいただどぉ~』 『うぅ~こまったんだどぉ・・・・ごはんさんはこーまかんといっしょにうまっちゃたんだどぉ・・・』 蓄えてあった食糧は洞窟の中に置き去りとなり、さくやとめーりんは2匹とも出払っていて不在。 おまけに子ふらんは気絶したままで、迂闊に側を離れて狩に出る訳にもいかない。 だからと言ってぱちゅりーに行かせでもしたら、間違い無く何処かで野たれ死ぬだろう。 『むきゅう~ふぅ~ふぅ~れみぃ・・・・』 床下でのびていたぱちゅりーが、子れみりゃの声で起きてきた。 疲労困憊ながらもなんとか床下から這い出てくる。 『・・・・・・・・・ほんとうにだいじょうぶだどぉ?れみぃにはしにそうにみえるんだどぉ?』 『も・・・・もんだいないわ・・ぜぇ~はぁ~』 『かわりにれみぃがいくどぉ・・・』 ぱちゅりーは喘ぎながら社の階段を登ろうとしたが、体力尽きた身体では登る事ままならない。 看かねたれみりゃが代わりに社に上がった、そこにあったのは祭壇に捧げ物として置かれた供物。 供えられてから日がたっているのか、少し干からびている蜜柑やさつま芋等が並んでいた。 『うぅ~すごいごちそうなんだどぉ~!でもこれはひとさんのごはんさんなんだどぉ・・・・』 『ふぅ~むっきゅ~それはもんだいないわ・・・・・ ひとさんは、おそとにおかれたごはんさんはぜったいにたべないから・・・』 大きな寺や神社に供えられた供物ならまだしも、村の小さな社に捧げられた供物は食べる事はほとんど無い。 仮に食べるとしても、捧げたその日のうちに回収してしまう。 『あしたぱちゅがひとさんにこうしょうにいくからそのときにあやまっておくわ。 だからきょうのところは、そのごはんさんをいただきましょう・・・・・』 『うぅ~わかったんだどぉ、でもあしたはれみぃもいっしょにいくんだどぉ!』 れみりゃは供物の中から、干からびた蜜柑を頂戴すると子れみりゃの前に置いてやる。 皮は干からびているが中の実はまだ水分をたっぷり含み、酸味と甘味の調和が素晴らしかった。 『うぅ~おじぇうのしゅ~ぱ~でなぁ~たいむにゃんだどぉ~む~ちゃむ~ちゃ・・・ちあわちぇ~~~~』 『いっぱいむ~しゃむ~しゃするんだどぉ・・・・』 余程餓えていたのか子れみりゃは、一心腐乱に蜜柑を貪り食べる。 しかしれみりゃとぱちゅりーは、気になる事があり食事を摂ろうとはしなかった。 子ふらんがまだ気絶したままで目を覚まさない、いくら衝撃を受けたとは言え大分時間がたっている。 2匹は口にこそしなかったが、流石にこれはまずいと内心気が気で無い。 『うぅ!しずかにするんだどぉ!だれかくるんだどぉ!』 外で何かがやってくる音に気がつき、すぐさまに子れみりゃとぱちゅりーを床下に避難させる。 そして自分は物陰に隠れ何者かを確認、引きずるような車輪の音だがそれほど大きくはない。 『うぅ!これはゆっくりが2ひきとすぃーのおとだどぉ!このおとは・・・』 夕闇の中で音だけで判断するれみりゃ、そしてこの足音には聞き覚えがある。 そうこれはれみりゃのよく知るあの2匹の音。 『さくやーーーーーーー』 『はい?ただいまもどりました。』 社の前にはさくやとめーりんが辿り着いていた、思わず従者の名を叫ぶれみりゃ。 いくら気丈に振舞えど、抱えるその不安を拭いきる事なぞ出来無い。 その不安が爆発してしまう。 『れみぃのおちびがぁぁぁ・・・・ふらんがあぶないんだどぉ・・・・・どうしていいかわからないんだどぉ・・・・』 『お・・・お・・・・おぜうさま?どうしたのです?』 さくやの顔を見て緊張の糸が切れてしまったのか、思わずさくやに泣きつくれみりゃ。 だが事情の説明も無くただ泣き崩れるれみりゃに、さくやもただオロオロするばかり。 『むきゅ!さくやがもどってきたの?むっきゅ?れみぃ!ないてるばあいじゃないわ!』 れみりゃの声に飛び出てきたぱちゅりー、れみりゃが泣いているには驚いたがそれどころでは無い。 さくやが引張っていた自分のすぃーを確認すると、れみりゃに声をかける。 『れみぃ!ないていてもふらんはなおらないわ!いまからぱちゅがひとさんのところにいってくるわ! さくやとめーりんはこのごはんさんをすぐにおろして!』 『いまからですか?もうよるさんですしあすにされたら?』 『むっきゅ!だめよ!ふらんにはいますぐにでも、おれんじじゅーすさんがひつようなの!』 暗い夜道を進んでは狸や野犬等の獣に襲われる危険性がある、だがぱちゅりーはさくやの提案を一蹴してしまう。 オレンジージュースが何なのかはれみりゃ達は知らない、だがふらんに必要な物と言われては放ってはおけない。 『そのおれんじじゅーすさんでふらんはたすかるのかだどぉ?』 『むっきゅ!もちろんよ!おれんじじゅーすさんはゆっくりにとってばんのうなおくすりよ!だから・・・ むっきゅ?このこはだれかしら?』 めーりんが食料をすぃーから降ろすのを待ちきれず、ぱちゅりーは自ら降ろそうとすぃーに乗る。 そこで初めて、見知らぬ紅髪のゆっくりが乗っている事に気がついた。 『あぁ・・・・すみませんが、ついでにそのこもなおしてやっていただけませんか?』 『むっきゅ!わかったからはやくこれをのけてちょうだい!』 さくやは子ふらんのついでに、その紅髪のゆっくりの治療を頼む。 どうせ必要なのは同じオレンジジュース、二つ返事で了承するぱちゅりー。 紅髪のゆっくりを社の床下に移動させると、食料も次々と降ろされる。 『むきゅ?これは・・・・・さくやこのきのこさんをもらってもいいかしら?』 『ん?いいですよ、おなかでもすいたのかしら?』 『ちがうわ、このきのこさんはおかねさんのかわりにつかえるわ!』 さくやの集めた食料にあったのは茸の王様松茸、これとの交換ならば嫌がる人は少ないだろう。 もともとゆっくりと人では対等の交換は望めない、だがこれで対等以上の交換条件が揃った。 松茸を2本持つとぱちゅりーは、眼下に広がる人里へと下る。 『むきゅ・・・・いそがないと・・・・・』 すっかり陽も落ち辺りは真暗、街灯も少なく民家の明かりが目立つ。 ぱちゅりーはその中でも、目的のオレンジジュースが置いてありそうな商店を探す。 だが街暮らししかした事の無いぱちゅりーは、郊外の店舗は閉まるのが早い事を知らなかった。 『むきゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!これはいったいどうなってるのぉ~~どこのおみせやさんもあいていないわぁ!』 思いもよらぬ事態にうろたえるぱちゅりー、だからと言って何もせずに帰る事は出来ない。 今のぱちゅりーに、2匹のゆっくりの命がかかっている。 『むきゅう・・・・どうしたらいいの・・・・・』 進退窮まったぱちゅりーが立ち止まったのは自動販売機の前、サンプルの中にオレンジジュースがあるのが見える。 しかしお金を持たないぱちゅりーに買えない事は承知してた、ただ何となく明るい場所を求めて留まっただけ。 だがその判断は、意図しないところでぱちゅりーに功を成す。 「あぁ?何かと思えばゆっくりか・・・」 商店が閉まって困るのは本来はその一帯に住む住人、当然喉が渇いて飲み物を欲しても売っているのは自動販売機だけ。 晩酌用のビールを切らしてしまい、仕方がなくここに買いにきた男性に出会う。 『むっきゅ!おにいさんおねがいがあるの・・・』 「飼ってくれってのなら断る!」 『ちがうわ!ぱちゅにおれんじじゅーすさんとこむぎこさんをうってほしいの!』 「売って欲しいって・・・・お前金持ってんのか?と言うかゆっくりのくせに銭の価値を理解してやがるのか!」 『ごめんなさい・・・ぱちゅはおかねさんはもっていないわ、でもこれとこうかんでおねがいできないかしら?』 「こ・・これは!」 ぱちゅりーは男性に松茸を1本だけ差し出しす、流石に松茸だけはどんな素人が見ても一目で判る。 恐る恐る松茸を手に取ると男性は、何度も首を縦に振って了承した。 だが常時小麦粉を携帯しているのは、特異な愛で派お兄さんぐらい。 「と・・・と・・・りあえずお前うちに来い!うちにあるだけくれてやる!あと・・あぁオレンジジュースか・・・・」 男性は持っていた千円札を、自動販売機に突っ込むとボタンを連打しだす。 ガッコンガッコンと景気良く落ちてくるオレンジジュース。 安売りの販売機だったので、10本ものオレンジジュースが取り出し口に詰まる。 「あ・・・・・詰まった・・・・」 『むきゅぅぅ・・・・おにいさんいそいでぇ~』 5本でも取り出し難いと言うのに、流石に10本となると出す事が出来ない。 男性は隙間から指と枝を突っ込み、ジュースを横にずらそうと四苦八苦する。 その横でぱちゅいりーがヤキモキしていた。 「お~し!何とか出来た!さて次はうちに行かないとな・・・・よし!じゃあうちに行こう。」 自販機から取り出すのに時間がかかり、男性の家に着いた時には9時を過ぎる。 抱えられて連れて来られたぱちゅりーは、子ふらんの容態が気になってしかたがない。 だからと言ってここで男性を怒らしては、折角のチャンスを失ってしまう。 『むきゅ・・・おにいさん?』 『あ?何?小麦粉ならすぐ用意するよ。」 『ぱちゅはふらんのためにいそがないといけないの・・・・・』 「ふらんって・・・・捕食種だろうが・・・・お前はどっちかと言うならその餌に入るんじゃ?あれ?お前飼いゆ?」 そこで初めて男性はぱちゅりーの金バッチに気がつく、そして何かしら事情があるのを察した。 通常種が捕食種を守ろうとする時点でただ事では無い、しかも飼いゆの最高峰である金バッチゆっくりならば尚更である。 「わかった、巣まで送ってやっからまずは事情を話せ!」 『むきゅ・・・・わかったわ・・・ぱちゅはね・・・・・』 ぱちゅりーは男性にこれまでの経緯を話す。 飼いゆとして暮らしていたぱちゅりーが浚われてこの山へやって来て、そこで出合ったれみりゃに共感した事。 れみりゃは群れの再興を目指しているが、住処が崩落してしまい子ふらんが怪我をした等を話す。 「ふ~ん・・・なるほどねぇ~じゃあとりあえず行くか」 「むっきゅ?いくってどこに?」 男性はぱちゅりーの話を聞き終えて最初の1言がこれだった、返事も待たずにぱちゅりーを持ち上げ抱える。 その手に持った袋の中には、先程購入したオレンジジュースと小麦粉が入いっていた。 「何処も何もその社に決まってるだろが、今からお前だけで帰ってどれだけ時間がかかると思ってんだ?」 『むきゅ・・・でも・・でも・・・・・・』 「あぁ?まだ何か困ってる事でもあるのか?」 『ごめんなさい・・・ぱちゅたちはかってにそこにおいてあったごはんさんをたべちゃったの・・・・・・』 ぱちゅりーは社に住む事も供え物を食べてしまった事も、まだ誰にも許可を取れてはいない。 今日の所はとりあえず薬が欲しかっただけで、許可を取るのは後回しにしていた。 「ご飯ってあのかっさかさの蜜柑とか芋かよ?あんなもん猿も喰わねぇよ! 畑荒らさなきゃ誰も文句なんかつけないから大丈夫だって・・・とりあえず時間が無いんだろ急ぐぞ!」 『むっきゅ、おにいさん・・・・』 「あぁ?何だ黙ってないと舌噛むぞ。」 『ありがとう・・・・』 「その台詞はそのふらんが助かってから言え、ゲームや漫画じゃないんだから死んだゆっくりは蘇らないぞ!」 男性は自転車の前カゴにぱちゅりーを入れ、山の入り口にある社に向かって走り出す。 流石に運動の苦手なぱちゅりーであっても、すぃーで移動してきただけあって少し遠い。 街灯の無いあぜ道は真っ暗で、それが逆に夜空の星を鮮やかに魅せる。 20分ほど走ると暗闇の中に、薄っすらと小さな屋根が木の間に見えた。 「あそこで間違いないな?」 『むっきゅ!まちがいないわ!』 自転車のライトに鳥居が照らされ、その下に2匹のゆっくりがこちらを伺っている。 れみりゃとめーりんが、帰りの遅いぱちゅりーを心配して待っていたのだ。 だが流石に、そこに人の姿を確認すると物陰に隠れる。 『れみぃ~おくすりをもらってきたわ~』 『う~?ぱちぇのこえだどぉ!』 ぱちゅりーの声に無事帰還した事を安堵するれみりゃ、すぐに物陰からぱちゅりーを迎えに出てくる。 だがぱちゅりーの側には人に姿があったので、警戒して近づいては行かない。 「まぁ・・・・なんだ・・・とりあえずそのふらんを連れて来い、まずは兎に角も看てみるから・・・・」 『むっきゅわかったわ、れみぃふらんをこのおにいさんにみせてあげて・・・あとあのこもいっしょにおねがい。』 『う?ひとさんになおしてもらうんだどぉ?』 『そうよ!ぱちゅたちにはできないことがひとさんにはできるのよ!いそいで!』 『わ・・・わかったんだどぉ!』 ぱちゅりーの言葉に従い、れみりゃは急ぎ社の床下で伏せる2匹を連れてくる。 未だ気を失ったままの2匹、赤髪のゆっくりは衰弱が原因と思われるがふらんは原因がわからない。 「どれ?ふ~ん・・・・・まぁとりあえずこいつから・・・・・・」 『こ・・・ぁ・・・・こあ」 「お!効いた効いた!」 男性は2匹をしげしげと眺めると、赤髪のゆっくりにオレンジジュースをキャップ1杯分だけかける。 すると赤髪のゆっくりはモゾモゾと動きだした。 「こいつはこれでOKだろう、後は少しずつオレンジジュースを飲ませてやれ。 絶対に一度に沢山やるなよ!身体が吸収し過ぎて舌が肥えるうえに、記憶まで糞に混じって出ちまうぞ!」 『むっきゅ!ゆっくりりかいしたわ!』 次に男性は子ふらんを手に乗せ顔をしかめた、特にこれといった外傷が見当たらないのだ。 身動き一つしない子ふらんだったが、その体温がまだ生きている事を証明している。 「まさかな・・・・・あ!これは酷いな・・・・・・・」 『むっきゅ!』 子ふらんのお帽子を取ると、そこには大きく陥没して頭部が割れる怪我があった。 中身の餡が割れ目から見えている。 「洩れちゃいないようだがかなりヤバイな、まぁ蓋しとけばいけるかも知れん。」 男性は用意していた小麦粉を取り出すと、それをオレンジジュースで練り始める。 凹んだ頭部を少し切り開き、そこに練った物を流し入れた。 再度蓋をして、上からオレンジジュースをかけて終了。 すると子ふらんがプルプルと少し震え、ずっと閉じていたその目を見開く。 『うぅ~おじぇうのいもうちょがおめめしゃんをあけちゃんだどぉ~』 子ふらん意識を取り戻した事に喜び、子れみりゃが側へと飛んできた。 抱きつく様に擦りあう姉妹、だが何か様子がおかしい。 『ううううううううううううううううううううううぐあう!』 『うぴぃぃぃぃぃぃぃぃぃ・・・・・・い・・・・・・い・・・・・・・』 子ふらんが突然唸り咆哮を上げると、姉である子れみりゃに噛みつく。 そして姉を一心不乱に喰らう子ふらん、その姿は獣の如き殺気を帯びている。 あまりの事にあっけにとられ、れみりゃやぱちゅりーは子ふらんを止めるのが遅れてしまう。 我に帰った時には、子れみりゃ既に半身を喰われ虫の息。 「おい・・・・・あれ止めなくていいのか?」 『むっきゅ!むきゅうううううううう!ふらんなにしてるのぉぉぉぉぉぉぉ!』 『おちびちゃんがおちびちゃんをををををを?』 『だ・・・だ・・だめですいもうとさまぁぁぁ!』 さくやが中枢餡を止めて子ふらんを静止させるが、そこには既に息絶えた子れみりゃの姿。 その後も子ふらんは静止を解かれると、目に写った者相手かまわず飛び掛ってくる。 そこにはもうれみりゃもさくやさえも区別は無い、これでふらんの静止を解く訳にはいかなくなってしまう。 それを一部始終見ていた男性が、さくやのゆっくりを静止させる能力に気づく。 「おい・・そこの銀髪のゆっくり・・・・」 『ゆゅ?ぎんぱつ?それはさくやのことかしら?』 「あぁお前だよ。お前はどうやらゆっくりの動きを止めれるみたいだが、それは何匹でもいけるのか?」 『そうね・・・・ちかくにいればむれひとつぐらいならいけるとおもうわ。 でもこれでいもうとさまからはなれなくなってしまったわね・・・・』 「それは俺がなんとかしてやるから、その能力を生かして働いてみないか? ここに住むのも俺が、自治会長に話しをつけてやるから。」 男性がさくやの能力と引き換えに、住む場所の提供を申し出る。 正直いってこれはれみりゃ達にとって、喉から手が出る程欲しかった話だった。 社に住む事が出来るうえに、中枢餡を損傷して狂ってしまった子ふらんをどうにかしてくれると言うのだから。 『むきゅ・・・おにいさん・・・・ふらんをどうするつもりかしら?まさかころさないわよね?』 だがぱちゅりーは、単純に人の言葉を鵜呑みにはしない。 万が一にも最悪の事態を想定する。 人との具体性の無い約束は、後でどんな罠が待っているか分からない。 「お?流石にお前は賢いな・・・・大丈夫だちゃんと医者に診せてやるから任せておけ。」 『むっきゅ・・・それだったらおねがいしたいわ・・・・もぅぱちゅたちではふらんをたすけられないもの・・・ れみぃどうかしら?ぱちゅはこのおにいさんのていあんをのむしかないとおもうの。』 ぱちゅりーは男性から、子ふらんを医者に診せるとの言質を貰う。 元々ここまでぱちゅりーを連れてきてくれた時点で、この男性が信用出来そうな気はしていた。 欲しかった約束は貰った、後は当主の許可を得るだけ。 『うぅ・・・・さくやになにをやらすきなんだどぉ?』 喉から手が出る程の条件だったが、男性がさくやに何をさせる気か判らない。 配下の者の安全が保障されていない話に、主のれみりゃが容易に乗る訳にはいかなかった。 「ん?ああ畑の監視官をしてもらえないかと考えてる」 『むっきゅ?はたけさんのかんしかん?』 『はたけってなんだどぉ?』 野生のゆっくりに畑の概念は無く、如何なる植物も自然に生えてくる物であり栽培すると言う知識は無い。 だが人の下によって、生まれ育まれきたぱちゅりーは理解出来る。 『むきゅ・・・・そうね・・・・・』 理解しているだけに説明に困るぱちゅりー、容易に野菜は生える場所と説明すれば誤解が生じる可能性がある。 かと言って育成過程等を難しく説明しても、れみりゃ達に理解して貰えない。 「畑ってのはお前らが子供を育てるみたいに、人が野菜を大事に育ててる場所だ。」 『ひとさんがおやさいさんをそだててるんだどぉ?かってにはえてくるんじゃないんだどぉ?』 「野菜は赤ゆの様に弱い植物なんだ、誰かが面倒をみてやらんと枯れちまうんだ。」 男性はれみりゃに、野菜は面倒をみないと育たないとだけ説明した。 種だの土壌がどうだのと説明しても、ゆっくりには理解出来ない事は分かっている。 『よくわからないんだどぉ・・・でもひとさんがめんどうをみているってのはわかったどぉ』 とりあえずは人が管理している場所で、そこで植物が育てられていると言う事は理解するれみりゃ。 ここまで理解出来れば、何故さくやが監視しなければならないかは推察出来る。 『つまりはゆっくりからはたけさんをまもればいいんだどぉ?』 「おぉ~察しがいいな!御名答だ!ゆっくりが畑を荒らしに来たら、ゆっくりの動きを止めて呼んでくれればいい。 後の駆除はこっちでやるからさ・・・・それに余った野菜もお前らにやる。」 畑の監視をすれば住居どころか、売れない野菜までくれると言う破格の条件が提示される。 だがこれにれみりゃは以外に反応を示した。 『おやさいさんはいらないんだどぉ!れみぃはこーまかんのあるじなんだどぉ! ここにすませてもらうだけでじゅうぶんなんだどぉ!』 「ほぉ~ゆっくりが言うねぇ~いいねぇ~その誇り高き信念って奴は俺も嫌いじゃない。 とりあえず監視官の仕事はOKって事でいいな?後は俺に任せておけ。」 長としてのプライドかそれとも人への警戒か、れみりゃの誇りが食べ物の施しを拒む。 だがこれでさくやにやる畑の監視は認められた。 男性もれみりゃの長としての姿勢が気に入ったらしく、子ふらんを連れて暗闇の中を帰って行った。 『いもうとさまはだいじょうぶでしょうか・・・・・』 『もぅれみぃには、おにいさんにまかせるしかないんだどぉ・・・・・』 さくやとれみりゃは、その姿を見えなくなるまで見送って呟いた。 賽は投げられたのだ、後は流れに身を任すしかない。 『むっきゅ!わすれていたわ!めーりん!このこをなかにはこんでちょうだい!」 『じゃおおおおお!』 赤髪のゆっくりをめーりんに、社の床下へと運ばせるぱちゅりー。 続くように皆の床下へと入って行った。 社の床下には建築時の廃材だったのか藁や木屑が置かれ。 秋風の冷える夜でも暖かく、昼の疲れもあり皆ぐっすりと眠りにつく。 『むきゅ・・・・さぁのみなさい・・・・』 『ごくごく・・・・こぁ~』 しかしぱちゅりーは寝る事なく、紅髪のゆっくりの看病をする。 これから1晩中、少しずつオレンジジュースを与えなければならない。 量の加減の作業もあり、これはぱちゅりーにしか出来ない作業である。 ゆっくりにとって万能薬のオレンジジュースの唯一の欠点、それは大量に与え過ぎると口が肥えてしまう事。 ただでさえ体力の無いぱちゅりー種、しかも子ふらんの為に慣れない里をすぃーで走り回り疲れている。 『むきゅ・・・う・・ぅ・・・むきゅ!ねてはだめよ!このこのいのちにかかわるわ!』 必死に己を鼓舞しながら、眠気と戦い紅髪のゆっくりを看病するぱちゅりー。 混沌とし意識の焦点が合わず、ぼんやりながらもそんなぱちゅりーを見つめる紅髪のゆっくり。 『こ・・・あ・・・?』 現と幻の区別がつかぬ中、額に汗するぱちゅりーに今は亡き母の姿を思い描く。 夜がしらじむ頃には通常種にやられた腫れもひいていた。 『こぁ~こぁ?こあこあ!』 紅髪のゆっくりが目覚めた時には、怪我は癒え痛みはまったく感じられない。 そしてその横で疲れて眠るぱちゅりーの姿、夜明けまで奮闘し癒えたのを確認すると気絶するかの様に眠りにつく。 薄っすらと覚えている昨夜の情景を思い出す。 思わず感謝の気持ちを込め、眠っているぱちゅりーに頬を擦りつける。 『むにゅ・・むきゅ・・・・むっきゅ?きがついたのね・・・・・よかった・・・わ・・・・・』 その感触に目を覚ますぱちゅりー、すぐにその相手が紅髪のゆっくりである事に気がついた。 元気になった姿に安堵するが、すぐに疲労から眠気に襲われ混沌としながら眠りにつく。 それからぱちゅりーが目を覚ました時には、既に太陽は高く昇り時刻は昼を過ぎる。 『むきゅ~んん~?ぱちゅはなにをしていたのかしら?』 『こあ!こあこあ!』 紅髪のゆっくりが慌てて外に飛び出していく、そしてすぐにれみりゃを連れて戻ってきた。 れみりゃは、起きたばかりのぱちゅりーを床下の外へと連れ出す。 『ぱちぇありがとうなんだどぉ!おかげでりっぱなこーまかんができたんだどぉ!』 『むっきゅ?れみぃ?なにを・・・・・?まぶしくてみえないわ!』 寝起きのうえに徹夜だったぱちゅりーには、いきなりの光は眩しく何も見えない。 やがて目が光に慣れてくるにつれて、その目に写ったのは人影と紅い小屋の様な建物。 『むっきゅ?これは・・?』 「おー起きたか寝ぼすけ」 そこにいたのは、ぱちゅりーが昨夜出会った男性と見知らぬ男性が数人。 皆で社の裏に小屋を建て、さきほど紅く塗り終えた所である。 「ここに住めるように、自治会長から許可貰ってきてやったぞ。」 『むっきゅ?じゃあこうにんになったのね!」 「だが条件は話した通りだ、それもこいつと本ゆんの許可は出てるし問題ないな。」 男性は昨夜のうちに自治会長と話をつけてくれ、ここに住むどころか専用の家を作ってくれた。 子ふらんは昨夜のうちに、ゆっくりの餡医に預けられている。 交換条件だったさくやによる畑の監視、これはぱちゅりーが眠っている間に既に始められていた。 『さぁきょうこそはおやさいさんをひとりじめする、げすなじじぃからおやさいさんをてにいれるよ!』 『えいえいゆーーーーー!』 『はぁ・・・・・ばかばっか・・・・・』 「こ・・これは凄いな・・・・・糞饅頭共が木偶人形の様になったぞ!」 監視を始め僅か数分で初の襲撃があり、速攻でさくやの能力の有効性を見せる結果となった。 畑に侵入しようとした所をさくやによって静止され、そのまま固まる野生のゆっくり達。 男性達がそれを拾う様に集め一箇所に集める。 『ゆ?ゆゆゆ?どぼぢでこんなとこにいるのぉぉぉぉぉぉ?』 「はっはっは!馬鹿が騒いでやがる!」 『じじぃぃぃぃぃぃ!はやくここからだせぇぇぇぇぇぇぇぇ!』 「お前等は加工所送りだ!いや~良いゆっくりもいたもんだ!愉快愉快!」 さくやの能力により楽に、畑を荒らすゆっくりを集める事が可能となった。 こうして高い評価を得て、気を良くした自治会長の計らいでこの小屋を建てて貰えたのである。 「塗装をどうしようかと思ったんだが、こいつが五月蝿いから紅く塗っておいたぞ。 神社も同じ朱色だから、違和感が無くてちょうどいいしな。」 男性の指差す先に満面の笑顔のれみりゃが、建ったばかりの新こーまかんを眺めていた。 人の配下となるのはれみりゃにとっても思うところはあるが、それ以上に味方と考えるのならこれほど心強い存在は無い。 幸いにもここは山と人里を分ける場所にあり、山のゆっくりはここを通らなければ里には行けず。 畑はさくやが監視しているので隙は無いだろう。 『こーあこーあ!』 「むっきゅ・・・くすぐったいわよ・・・・あなたしゃべれないのね・・・・なまえはなんというのかしら?』 ぱちゅりーの看病により助かった紅髪のゆっくりは、話す事が出来ないようで「こぁこぁ」としか話さない。 それでもぱちゅりーに対する感謝を表そうと身体を擦り付け、親愛を込めて頬を舐めてくる。 「こあでいいじゃねぇか?さっきからこあこあ鳴いてるし。」 『むっきゅ!そうね!きょうからあなたはこあよ!こあゆっくりしていってね!』 「こーあ!こあこあ!」 こうしてれみりゃは、新たな仲間と居城となる場所を得る。 今後人との協定は、れみりゃに何をもたらす事となるのか・・・・ 力が仲間を呼ぶのか仲間が力を呼ぶのか、れみりゃの群れ再興はここから今始まる。 おわり ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー まさか続きを書こうとしてこんなに時間がかかるとは思いもしませんでした。 これも全部仕事が忙しくなったのが悪いんです・・・・・・ 申し訳ありませんが、続きはかなり時間かかると思われます。 時間が無さ過ぎて全然纏まりません。 出来るだけ頑張ってみますので、どうぞお見捨てなきよう御願い致します。 ふたば系ゆっくりSS感想用掲示板 http //jbbs.livedoor.jp/otaku/13854/ ○○あきのSS感想はこちらへ http //jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/otaku/13854/1275503703/ 誤字・脱字等あれば勘弁して下さい これまで書いた物 anko1218 ゆ虐ツアー anko1232 ゆ虐ツアー お宅訪問編 anko1243 ゆヤンワーク anko1495 ゆ虐にも補助金を anko1785 ゆうかにゃんはアイドル anko2265 『てんこふみふみ』 anko1237 デスラッチ01 雪原のまりさ anko1250 デスラッチ02 まりさの思い出 anko1274 デスラッチ03 まりさとつむり anko1282 デスラッチ04 まりさとおにいさん anko1314 デスラッチ05 まりさとおちびちゃん anko1337 デスラッチ06 まりさとリボン anko1341 デスラッチ07 まりさと春 anko1711 デスラッチ08 まりさの子ぱちゅりー anko1931 デスラッチ09 まりさの写真 (終) anko1296 デスラッチ外伝01 まりさとまま anko1505 デスラッチ外伝02 まりさとめぐりあい anko2208 デスラッチ外伝03 まりさに出会うまで・・・・・ anko1276 ゆっくり種 anko1278 ゆっくり種2 anko1291 ゆっくり種3 anko1310 ゆっくり種4 anko1331 ゆっくり種5 anko1350 ゆっくり種6 anko1391 ゆっくり種7 anko1482 ゆっくり種8(終) anko1362 ケーキ anko1527 極上 anko1612 砂の世界 anko1768 永遠の命 anko1779 塗りゆ anko1863 れみりあが愛したおちびちゃん anko1872 疾風ゆっくリーガー anko1942 ゆっくりキング anko1969 ゆクライド anko2032 夏だ!プールだ!まりさと遊ぼう! anko2192 いっかのすえ anko2237 ゆ出 anko2314 『とある秋の恵みの攻防戦』 anko2355 『思えばそこは幻想郷』 anko2406 『こーまの王 「賢者」』 _・)ジ- ↓
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「ゆ? ゆっくりうごいてるよ! もうすぐうまれるね!」 「ゆゆ! ほんとだわ! いまやわらかいばしょをよういするわ!」 ありすは急いで脇の方に置いてあった枯草を、れいむの前に敷き詰める。 ちょうどそこは、れいむの頭から生えている赤ちゃんたちの落ちる場所である。 「ゆっくりうまれてね!」 「「「ゆっゆ!」」」 産まれる直前ともなると、親の言葉に反応してプルプルと震える事ができる。 れいむはその振動を感じ取って幸せに包まれた。 もうすぐ愛する我が子と会える事に。 「ゆゆ! うまれるわ! ゆっくりがんばってね!」 ありすが掛け声をかける。れいむは子供たちが無事に生まれる事を願っていた。 ポロリと。頭の茎から一匹のありすが落ちた。そしてそれを皮きりに残り七匹も枯草の上に落ちてくる。 たっぷりと敷き詰めた枯草の上は柔らかいのだろう。落ちた後も枯草の上でモゾモゾとしていた。 親である二匹は心配そうに見つめていた。 やがて、三匹が目を開けた。そして二匹の方を向いて、生まれたてとは思えないほど大きな声で 「「「「ゆっきゅりちていっちぇね!!!」」」 そう言った。れいむはその光景を見て思わず涙ぐむ。 「ゆぐ、ゆぐっ!・・・ゆっくりしていってね!!!」 ありすもとても幸せそうな顔で挨拶を交わす。 「ゆーゆ♪」 「ゆっきゅりごひゃんたべちゃわ!」 「ゆっくりー!」 ありすが三匹とれいむが五匹。植物型でも少々多い。 が、両親は特に気にしなかった。今の季節は春である。食料も出産前から十分に溜めている おうちの方も、ゆっくりにしてはかなり広い方なので、狭いという事もない。 「おちびちゃんたち! ゆっくりごはんをたべてね!」 れいむがそう言うのと同時に、頭の上から茎が落ちてきた。 子供に送られていた栄養がたっぷりと詰まっていて、味もほどほどに抑えられている茎は 最初に子供が食べるものとしては最高の餌だ。 ありすとれいむはそれらを口の中に入れて、むーしゃむーしゃと噛み砕いた。 「ゆゆ! ゆっきゅちごひゃんをとらないでね!」 一匹の赤れいむが怒り出す。れいむは謝りながら 「ごめんねあかちゃん! でもこれでやわらかくなったからゆっくりたべれるよ。」 「ゆっくりたべてね!」 生まれたての赤ちゃん達はむしゃむしゃと柔らかくなった茎に被りつく。 そして生まれて初めての食事を楽しむ。 「「「「「「「むーちゃ!むーちゃ! ちあわちぇー!」」」」」」」 「ゆっきゅちちちぇいってね!!!」 「ゆ?」 両親は何か違和感を感じた。が、この時はそれは何なのかはわからなかった。 食事を終えた赤ちゃんたちは、さっそく家の中で遊んでいた。 「ゆっっきゅちおうたをききちゃいよ!」 「ありちゅはとかいちぇきなおうちゃをききちゃい!」 「れーみゅはすりすりしちゃいよ!」 無邪気に親に甘える赤ちゃん達。その中で変な言葉が聞こえてきた。 「ゆっゆっー! ゆっきゅりちちぇいっちぇね!」 一番小さい赤れいむである。 「ゆゆ? れーみゅたちはゆっきゅちちちぇるよ?」 「どうしたのあかちゃん? ゆっくりしてるわよみんな?」 赤れいむに話しかける家族。しかし帰ってくる答えは 「ゆっゆっゆー!」や 「ゆっくりー♪」 「ゆ?」 といった言葉しか返さない。というか基本的に「ゆっくりしていってね!!!(発音修正済み)」 か、「ゆー」とかしか言わないのだ。 「ゆ? どうちちゃったのれーみゅ?」 心配そうに見つめる兄弟 「ゆゆ! どうなってるの? まさかびょうきなの!」 れいむはソワソワと落ち着きなくおうちの中をうろついている。 ありすは家族を落ち着かせようとした。 「おちついてねみんな! いまぱちゅりーをよんでくるわ!」 そういって大急ぎで近くのぱちゅりーを呼びに行った。 「むきゅん! これはせんぞがえりね!!!」 「ゆー? なにそれぱちゅりー?」 ぱちゅりーの言った言葉の意味がわからないれいむ達。ぱちゅりーは話を続けた。 「むかしむかし、ゆっくりがだれにもじゃまされずにゆっくりしていたじだいとがあったのよ! むかしはみんな『ゆっくりしていってね!!!』しかいわなかったそうだわ!」 「それで! だいじょうぶなのあかちゃんは!」 ぱちゅりーはあくまで冷静にみんなに話す。 「おちついてねありす。これはとてもうんのいいことなのよ! むかしのゆっくりはぜったいにゆっくりできるっていいつたえがあるの! このこもとてもゆっくりできるはずよ!」 「ゆゆーん! さすがれいむたちのこだね! とってもゆっくりできるなんてすごいね!」 「とってもとかいはなこね! ありすはうれしいわ!」 「れーみゅはとちぇもゆっきゅりできるんだね!」 家族はとてもゆっくりできるという事を大いに喜んだ。 そして家族の生活は始まった。 最初の頃は、言葉が伝わらずに大変苦労したが、それでも長い間暮していると、言葉が伝わるようになっていった。 元々、ゆっくり達の話す『ゆっくり』にはかなり広い範囲の意味が込められている。 それこそ『おいしい』という意味から敵がいるかいないかまで、状況に応じて意味が違ってくる。 太古のゆっくりはその微妙なニュアンスの違いを感じ取っていたのかもしれない。あるいは意志の疎通など必要なかったのか。 とにかく、進化したとはいえ現在のゆっくり達の遺伝子にもそれは受け継がれている。 要は馴れれば分かるようになってくるのだ。 「ゆっくりしていってね!」 「そうねれいむ! きょうはおそとでとかいてきなひなたぼっこをするわ!」 「ゆっくりおひさまにあたろうね!」 「おかーさんもゆっくりいくよ!」 「ゆっくりしていってね!!!」 「ゆー!」 この一月の間に完璧なコミュニケーションが取れるようになった。 家族は近くの野原で思い思いに遊んだ。 「ゆっくりころがるよー!」 「ゆゆー! まってねばったさん!」 「ゆゆーん! とかいはのたんぽぽよ! れいむにあげるわ!」 「ゆっくりー! ゆっくりしていってね!!!」 「おねーちゃん! れいむもほしいよ!」 両親はその光景を眺めていた。 「みんなとってもゆっくりできてるね!」 「そうよね。ありすたちはとってもしあわせものね。」 互いに頬を寄せ合う二匹。それは親愛の証でもあった。 その時だった。二匹の後頭部ががっちりと何かに掴まれたのは。 「ゆゆ! だれなの! ゆっくりはなしてね!」 「そうよ! ありすたちはとってもよっくりしてるのよ!」 「ぷくううううううううう」と膨らんで怒り出す二匹。しかし掴んだ相手はそんな事はまるで気にしなかった。 「う~♪ あっまあまだっどぉー♪」 間抜けな声が聞こえた。そしてそれは近くで聞いてはいけない声だった。 「「でびりゃだあああああああああ!!!!!」」 「やめてね! おかーさんたちをはなしてね!!!」 子供たちは両親を掴んだ敵に対して体当たりを繰り出す。しかしそんなものは効果がない。 「うー? じゃまなんだどぉー! ちっちゃいあまあまはおちびちゃんたちのぶんなんだからー! だまってるんだどぉ♪」 そういって足でガッ!っと踏みつける。 「やべちぇえええええええええ!!!!」 「いたいですうううううううう!!!! 「ありすもういやああああああ!!! だれかたすけてえええええええええ!!!!」 次々に踏みつぶされる兄弟。あのれいむも家族を助けようとするが、 「まってねれいむ!」 長女のありすに止められた。 「ゆ! ゆっくりしていってね!」 「わたしたちじゃかてないわ! どすをよんできて!」 れいむ達の家の近くにはドスまりさが住んでいる。群れは持っていないが、ドスの周りには大勢のゆっくりが住んでおり れいむ達もその一つだ。 ドスならばみんなを助けられるとありすは考えた。 「ゆっくりしててね!!!」 れいむはそれを理解して急いでドスの家へ向かっていった。 れみりゃは家族を踏むのに夢中で気づかなかった。 「う~? ぷにぷにしておもしろいどぉ~♪」 「いじゃいよ! やめてよ! ゆっくりできないよ!」 れいむは走った。途中で何度も転びそうになりながらも必死で走った。家族の為に。 その思いが通じたのか、何の障害もなくドスの家の前についた。 「ゆっくりしていってね!!!」 そういってドスの家へ飛び込むれいむ。 「ゆゆ? ゆっくりしていってね!!!」 中にはドスと何匹かのゆっくりがいた。その中にはぱちゅりーのつがいのまりさもいた。 「どうしたの? ゆっくりはなしてね!」 ドスの声に反応して、さっそく助けを求めようとするれいむ。 しかし 「ゆゆ? ちゃんとはなしてくれないとわからないよ! ドスだっておこるよ!」 「ゆ・・・ゆっくりしていってね!!!」 「さっきからなにいってるかわからいよ! れいむはちゃんとしゃべってね!!!」 「ばかなの? しぬの?」 かれこれ10分はこんな調子である。 れいむの言葉は馴れた家族には伝わったが、初めて会話する他のゆっくりには通じなかったのだ。 「ゆ・・・ゆっゆっくりしていってね!!!」 ついには泣きだしながら喋るれいむ。 「だからわからないっていってるでしょ? ばかなの?」 だんだんとドスは苛立ってきた。そしてもう家から追い出そうかと考えたちょうどその時 「どすー!たいへんなんだよー!れいむとありすたちがれみりゃにおそわれてるんだよー!」 「れみりゃのこどもたちもいっぱいきてるみょん!」 運よくれみりゃ達を目撃したちぇんとようむがドスに伝えに来たのだ。 「ゆ! わかったよ! すぐいくね!」 「ゆっ!ゆっくりしていってね!!!」 ドスがやっと動き出した事に喜ぶれいむ。 そして一目散に家族の元へ向かった。 助けを連れて戻ってきたれいむ。しかしそこに居たのはれみりゃ達とただの皮だった。 「うー! おいしかったどぉー! れみ☆りあ☆うー☆」 「とってもえれがんとだどぉ~♪ れみりゃのおちびちゃんはとってもかりしゅまなんだどぉー!」 「さくやー! のどがかわいた~♪ れみりゃはおれんじじゅーすがのみたいどぉー!」 「うっうー! のう☆さつだんすでふみふみだどぉ~♪」 そこには餡子を失って皮だけになった家族で弄ぶれみりゃ達がいた。 既に光のない眼で空を見ている両親と兄弟。先ほどまで元気に動いていた家族。 それが今ではただの動かない皮。 「ゆ・・・・ゆっくりじでいっでねぇえええええええええ!!!!!!!」 れいむは半ば半狂乱になりながらゴロゴロと転がりまわった。 それを周りのゆっくりが止めてるうちに、ドスはれみりゃ達に近づいた。 「ゆっくりできないれみりゃはゆっくりしんでね!!!」 それだけ言い放つと、口からドススパークを放ち、れみりゃ達をあっという間にやっつけた。 このれみりゃ達はみんなのごはんとして分けることになった。 ドスの家の前。近くのゆっくりが全員集まり、れいむとありす達を土の中に埋葬していた。 そこには当然れいむが居るはずである。しかしれいむはそこから少し離れた場所にいた。 近づけて貰えないのだ。 ゆっくり達は最後の別れを済ませた後に、口ぐちにれいむを責め立てた。 「れいむがちゃんといわないからありすたちはしんだんだみょん!」 「こどもなんだからしゃべれるでしょ! ほんとにできそこないのゆっくりだね!」 「ありすたちがしんだのはれいむのせいだね! はんせいしなくていいからゆっくりしんでね!!!」 「ことびゃもまちょもねはなちぇないなんて、ゆっきゅちできにゃいね!!!」 「ほんとはきょうだいをゆっくりさせたくなかったんでしょ!」 遂にはドスまでも 「れいむのせいだからね! ドスがもっとはやくついたらみんなぶじだったんだよ! わかってるの? ばかなの? しぬの? ゆっくりしないでどっかいってね!!!」 「ゆゆ・・・ゆっくりしていってね!!! ゆっくりしていってね!!!」 「ゆっくじでぎるわげないでしょおおおおおおおおおおおお!!!! どっどどでていってねえええええええ!!!!!」 こうしてれいむはこの付近から立ち退くことになった。れいむにとって嬉しかったことは ぱちゅりーだけは最後まで味方でいてくれた事だ。 「れいむ、たべられるものやかりのしかたはおぼえてるわね?」 出発当日、ぱちゅりーは朝早くからやってきて真剣な目で問いかけてきた。 「ゆっくりしていってね!!!」 ぱちゅりーには言葉の意味がわからなかったが、おそらく肯定したのだと思って話を続けた。 「そう、おうちのつくりかたもだいじょうぶね? これはあさごはんよ!」 そういって口から差し出したのは、はちみつだった。 野生のゆっくりにとっては滅多に食べれない貴重なものである。 「ゆっくりしていってね!!!」 「れいむもゆっくりしてね!!! がんばってねれいむ!!!」 帰って行ったぱちゅりーの後ろ姿を寂しげに見つめながら、れいむは新たな家を求めて旅立った。 【あとがき】 昔書いて途中でほったらかしたヤツ うん。何に影響を受けてたかよくわかるな俺 あと、久々に発掘した時に書かれてたメモが 【メモ】 ジャギ様登場 どういうことなの…… byバスケの人 このSSに感想をつける
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アスキーアート注意、携帯で読まれている方はアスキーアートの部分を飛ばしてお楽しみください。 説明をわかりやすくするための配慮ですので、要望があれば文章にて詳しく説明します。 ぱちゅりーちゃんが部屋の隅に置かれたピアノ、アップライトのタイプです。それに、近づきます。私たちはぼぉーっと見ていると、ぱちゅりーちゃんから手招きをされてしまいました。 やや小走りでピアノに近づくと、パチュリーちゃんはピアノの蓋を開け、鍵盤に掛かっている布を取り説明を始めます。 「今から教えることは、そうね。たとえ楽器を始めなくても、とても有効なこと。自慢して優位にも立てるし、役に立つ場面も多い。作曲なんかを志すんだったら、必須。覚えておくことね」 前置きをそこそこに、ぱちゅりーちゃんが鍵盤に手を置きます。 「手を生卵を持つようにとかどうでもいいのよ、大切なのは知識。それから、フォーム。人は、皆それを異端というけれど。 …音階、スケールと呼ばれるもの。『ドレミファソラシド』の綺麗な並び、あれが『スケール』」 「…?」 早速話が飛躍して、わからないです。ぱちゅりーちゃん…? 「難しい話ではないわ。単純に『ドレミファソラシドにする作業』と覚えてしまえばいい。試しに、ドからずっと白鍵を弾くと、綺麗な音が聞こえるわよね?」 ドレミ~…と、ぱちゅりーちゃんが音を奏でていきます。確かに、綺麗に音が響いていきました。 「なら、レからなら」 ぱちゅりーちゃんは、黒鍵が2つある場所の真ん中からドレミを弾き始めます。レ、ミ、ファと、なんだか残念な音が聞こえました。 「そんなあからさまに顔をしかめないでよ、聞いてくれてるんだなってわかって嬉しいけれど。これ、『法則』を使って綺麗な音にすることが出来るの」 ぱちゅりーちゃんが、再びレの場所からドレミを弾いて行きます。今度は、黒鍵を交えて。レ、ミ、ファ…、先ほどの残念な響きとは打って変わって、全く『ドレミの響きと一緒』の、音を一つあげた綺麗な響きが聞こえるじゃないですか! 「どう? これが、スケール。これね、きっと音楽の授業で先生から説明を受けているのだろうけれど、皆理解しようとしないで名前だけ知っているだけだと思うわ。『音階』、これは『2、2、1、2、2、2、1』の法則。この221がドレミファソラシドなのよ」 「えっと、」 「『全全半全全全半』ね。もしくは、『2こ2こ1こ2こ2こ2こ1こ』。言葉で説明も出来るけど、絶対に誤解するから。見ていて」 │ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ └┘└┘ │ └┘└┘└┘ │ └┘└┘ ││ド │ │ │ │ │ │ │ド │ │ │└─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘「あぁ~面倒臭い!! そうよ、どうせ手抜きよ! 私には無理、なんか文句ある!?」「落ち着いて、ぱちゅりーちゃん!」「これでずれてたらどうしようもないわ。ともかく、鍵盤があるわね。『ド』から始まるドレミの法則」│ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ │2 ││ │ ││││││ │ ││││ ││ └┘└┘ │ └┘└┘└┘ │ └┘└┘ ││①│ │ │ │ │ │ │ │ │ │└─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘「ずれた。ごめん」「諦めないで、ぱちゅりーちゃん!」「まあいいや、黒鍵の番号は上に表記するわ。ともかく、これが最初の『2』…」 2 2│ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ └┘└┘ │ └┘└┘└┘ │ └┘└┘ ││①│①│ │ │ │ │ │ │ │ │└─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘「2つめの『2』。2こ数えたわね?」 2 2│ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ └┘└┘ │ └┘└┘└┘ │ └┘└┘ ││①│①│1 │ │ │ │ │ │ │ │└─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘「3つめは『1』だから2つ『数えない』の」 2 2 2│ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ └┘└┘ │ └┘└┘└┘ │ └┘└┘ ││①│①│1 │①│ │ │ │ │ │ │└─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘「4つめの『2』…。この数える作業を、1の手前の6つ目まで続けて」 2 2 2 2 2│ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ └┘└┘ │ └┘└┘└┘ │ └┘└┘ ││①│①│1 │①│①│①│ │ド │ │ │└─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘「それぞれ2つずつ数えて、最後は『1』だから」 2 2 2 2 2│ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ └┘└┘ │ └┘└┘└┘ │ └┘└┘ ││①│①│1 │①│①│①│1 │ド │ │ │└─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘「1つ数える。おわり。で、また続けるならドから『2』」「…、ええと」「『2』とはグループ、『1』とは単音。口で言われたり文章にされるとなんでわかりずらいかは、『実際にやれない』からなのよ。音を出して、①と1の部分だけ弾いてみて? この場合だと、綺麗に音をだせるのは当たり前だけど」恐る恐る、震える手でドレミを弾いていきます。ぱちゅりーちゃんみたいに指全部ではなく、人差し指で、一つ一つ。…何も代わり映えの無い、ただのドレミでした。緊張する必要性はさっぱりでした。「そんな、不機嫌な顔しないの。今のは例だから、とびきりわかりやすいね。…これを、レの法則に当てはめる」 2 │ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ └┘└┘ │ └┘└┘└┘ │ └┘└┘ ││ド │①│①│2 │ │ │ │ド │ │ │└─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘ ↑スタート「あんまりに面倒だから途中までやっちゃったわ。どう、気付いた? さっきの時は『黒鍵に当てはまってた2』が、『白鍵まで来ている』のよ。すなわち、次の『1』は」 2 『①』│ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ └┘└┘ │ └┘└┘└┘ │ └┘└┘ ││ド │①│①│2 │ │ │ │ド │ │ │└─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘ ↑スタート「ここね。わかりづらいかもしれないけど、ここ。黒鍵を使うのよ、そうすれば矛盾が無くなる」「…!」 2 ① 2 2 『①』 (2)│ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ ││││ │ ││││││ │ ││││ ││ └┘└┘ │ └┘└┘└┘ │ └┘└┘ ││ド │①│①│2 │①│①│①│2 │(1)│ │└─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘─┘ ↑スタート ↑ゴール「こうなるわね。『2つずつ音を出して、前の音。ときどき1つだけの時がある』って解釈しているわ。どう、わかりやすい?」「…AAが変だから、なんとも」「ああもう、本気だすわよ! 見てなさい!」│ │ ││ │ │ │ ││ ││ │ │ │ │││ ││ │ ││ │ │ │ ││ ││ │ │ │ │││ ││ │ ││ │ │ │ ││ ││ │ │ │ │││ ││ │ ││ │ │ │ ││ ││ │ │ │ │││ ││ └ ┘└ ┘ │ └ ┘└ ┘└ ┘ │ └ ┘└┘ ││ド │ │ │ │ │ │ │ド │ │ │└─ ┘─ ┘─ ┘─ ┘─ ┘─ ┘─┘─ ┘─┘─┘「こうして、」│ │ ││ │ │ │ ││ ││ │ │ │ │││ ││ │ ││ │ │ │ ││ ││ │ │ │ │││ ││ │ ││ │ │ │ ││ ││ │ │ │ │││ ││ │ ││2│ │ │① │2││2│ │ │① ││ ││ └ ┘└ ┘ │ └ ┘└ ┘└ ┘ │ └ ┘└┘ ││ド │ ① │ ① │ 2 │ ① │ ① │①│ 2 │①│ │└ ┘─ ┘─ ┘─ ┘─ ┘─ ┘─┘─ ┘─┘─┘ ↑重要! ↑「どうよ!」「さっきみたいに『1』の部分が割り振りされてないからなんとも…」「ああもう何とでもいいなさいよ! ほら、さっさと①の部分を弾いて」ぱちゅりーちゃんは怒り気味ですが、どうしたのでしょう。ともかく、歯向かうと怖いので素直に黒鍵を交えて①の部分を弾きます。レ、ミ、ファ…。ひ、弾けました! 『ドレミファソラシド』と、『レから始まった綺麗なドレミの並び』が、弾けました!「…これが、『スケール』。ドレミよ、『コード』を弾く上でとても重要になる。スケールの呼び方は始まりの場所により『Cのスケール』などと呼ぶわ。日本的な言い方だと、『ハ長調』とか。『長調』もスケールと同じ意味で、ドレミよ。様々な曲は、このスケールにより『8つの音にふるいを落とされて』形成されているの。もちろん、このスケールはどんな場所から、黒鍵からでも通用するわ。本当、『枠組み』ね」【ついでに、ピアノ フラッシュ でググると一番上あたりにピアノのフラッシュが出てくるわ。パソコンの環境が整ってる方は、是非試してみて頂戴。携帯の方は、こんなアスキーアート使って申し訳無いわ。私は携帯で見る人を心がけて文章を構成しているつもり、けれどこの説明はどうしてもわかりやすくしたくて。コメントで、要望があればこの部分だけスレに投下するから、べっかんこで見て頂戴】【ぱちゅりーちゃん…?】【…閑話休題。戻りましょう】「なるほど…。これにより、『不協和音』というか、残念な音を防ぐのですね」「お、物分りいいじゃない。その通り、和音とは限らなくても、『バンドの楽器の音』の残念な音を防ぐために重要。今から説明するコードなんて、まさに防ぎまくりよ? じゃあ、下記を見て」│ │ ││ │ │ │ ││ ││ │ │ │ │││ ││ │ ││ │ │ │ ││ ││ │ │ │ │││ ││ │ ││ │ │ │ ││ ││ │ │ │ │││ ││ │1││3│ │ │2││ ││ │ │ │ │││ ││ └ ┘└ ┘ 4│ └ ┘└ ┘└ ┘ │ └ ┘└┘ ││ド │ 2 │ ミ │ 1 │ ソ3│ │ │ │ │ │└─ ┘─ ┘─ ┘─ ┘─ ┘─ ┘─┘─ ┘─┘─┘「この『ド、ミ、ソ』。すでに、コードよ」「なるほど、音が重なってますもんね」「ええ。これも、法則。一応このドミソはドの『次の音』から数えて『4、3』の区切りになっているわ、数えてみて頂戴」「…数えました、ちゃんとあります!」「この『次の音』っていうのが落とし穴で、私もよくだまされたわ…。まあ、これがいわゆる『メジャーコード』。覚えなくていいけどね、どうせ『スケールで変わる』のだから」│ │ ││ │ │ │ ││ ││ │ │ │ │││ ││ │ ││ │ │ │ ││ ││ │ │ │ │││ ││ │ ││3│ │ │ ││ ││ │ │ │ │││ ││ │1││ミ│ │ │3││ ││ │ │ │ │││ ││ └ ┘└ ┘ │ └ ┘└ ┘└ ┘ │ └ ┘└┘ ││ド │ 2 │ 1 │ 2 │ ソ4│ │ │ │ │ │└─ ┘─ ┘─ ┘─ ┘─ ┘─ ┘─┘─ ┘─┘─┘ ※ミはフラット(♭、一つ下がる)になっています! 「これ、『マイナーコード』。『真ん中が一つ下がる』って解釈でいいわ。まあ、法則は【3、4】とあるのですけれど。そんな大事じゃないからすみつきカッコ。 これら、2つを用いるわ。他にも何種類かコードはあるけど、基礎はこれ。覚えきれないだろうし、正直他のコードは『これの応用、展開』だから直接覚えなくていいわ。本格的に『ジャズ』などをやるんだったら必要だけど」 「は、はあ」 「このメジャーとマイナーコード。使い分けは、スケールよ。コードは何もつかなければ基本的にメジャーを差すわ。Dのコードは『レから始まる4、3』で『レ、ファのシャープ(♯、半音上がる方)、ラ』。 でも、スケールがC、『黒鍵がさっぱりない』状況だったら? …『スケールは絶対』、妥協して『真ん中のファ♯をただのファに下げる』。これが、マイナーコードね」 「…なるほど!」 「理解した? 『スケールにあわせる』のよ、ガツガツ和音の種類を覚える必要は無い。メジャーコードを率先して覚えて、余力があったらマイナーも。 スケールはね、既に先人がリストを作っているからググりなさい、そして照らし合わせる。メジャーコードもスケールもなるべく『直感で覚えた方がいい』わね、覚えないと満足に『ソロも出来ない』し、何より面倒じゃない?」 「なるほど、メモメモ…」 【ちなみに、英語のドレミはドから『C,D,E,F,G,A,B,C』になっています! コードのAA、ずれていてごめんね! だから今紹介したDのコードはレから始まっていることになるんだね! 日本語も、ハニホヘトイロハ! これは覚えなくていいかな、以上咲夜メモでしたっ!】 「うわあ! びっくりした!」 「何驚いているの? それに、メモ用紙持って無いじゃない。ともかく、ざっとこの位かな。これさえ頭の片隅に入れておけば、あとは手が動くだけ。手が動けば、ライブが行える」 今人が居たような気がしたんだけど、気のせいかな。ぱちゅりーちゃんが私に優しく語り掛けてくれます。 ずっと先にあると思っていた、ライブ。案外、手の届くところにある様な気がします。 けれど、キーボードって、こんな簡単なのかな…? 「楽器はね、基本的に簡単なのよ。難しいことを要求しなければ。ベースでいう『スラッピング、スラップ』とかギターでいう『ハーモニクス』、これは簡単か。まあ、とか。 『基礎を固めること!』さなえちゃんにキーボードの楽器説明で『ケーキのデコレーション、苺の部分』って説明したけどキーボードにも『スポンジ』なる『クリーム』なる部分があるの。まずは、『スポンジから』よ!」 ぱちゅりーちゃんが拳を高らかに挙げ、熱く私たち2人を呼びかけます! 私も、なんだかやる気が出てきました…。やるぞお、キーボード…!! さとりちゃんの様子を伺います。さとりちゃんは、目を点にして思考を放棄したみたいです。サクサクと小刻み良い音を立てながらルマンドとホワイトロリータを口に頬張っています。 戻って来て、さとりちゃん! 「…ぷはっ、何よ、なんなのよ! どーせ私はドラムだもん、ただ叩けばいいんだもんっ! ぷんっ」 「拗ねちゃったわね。いつか機嫌直るでしょう、放っておきましょう」 ぱちゅりーちゃんの手慣れた扱いに、一抹の恐怖を感じました。 「それと、練習に楽器店で触った『ペラペラな鍵盤』のものを使わない方がいいわよ、あれはあくまで『本番用』。ちゃんとハンマーが付いていて『重い』やつじゃないと指の筋力がつかないのよ、変な癖も付くだろうし。 家、近いのでしょう? よかったら家のピアノを使わせてあげるわ、指を動かせるようにする楽譜も簡単なのを用意しましょう。指をある程度。『森のくまさん』が弾ける程度になれば和音は自由に押さえられるわ」 『森のくまさん』…。さらっと言われましたけど、それって十分ピアノが弾けているのではないでしょうか。 まだまだ道のりは遠い…。 「そうでもない、大体『3日』くらいあれば弾けるわ。『1日や2日』じゃあ無理、2日目どうしても弾けなくて不貞寝して、3日目何故かスイスイ弾けるようになるだとか。 『ウィザードリィ』、わかる? 別に、たとえではないけれど。あのゲーム、『寝るとレベルがあがる』のよ。手も、休めるとなんか動くようになるのよね」 弦楽器だけでは無く、とことんピアノに詳しいぱちゅりーちゃん。ぱちゅりーちゃんは、本当にピアノやキーボードをやっていないのでしょうか? 「ぱちゅりーちゃん、実は鍵盤弾けるのでは無いですか? さっきのドレミも、『指全体を使って、指5本だけでは足り無そうになったら親指を駆使して』弾いていましたし」 「…むきゅ。まあ、それこそ森のくまさんくらいなら」 「やってみてくださいよ!」 意外な所に、お手本となる人がいたなんて! 是非やって貰いたいです、どんな風なのか! 「ええ、恥ずかしいわ、正直…」 …しかし、ぱちゅりーちゃんは乗り気ではありません。顔に赤みをおびらせ、照れています。…そんな格好には騙されませんよ! さっき散々不恰好でお菓子をバリボリ食べていた人が恥じらいの何を語るのですか! 「ほら、ほら! やってください!」 「むきゅ…。わらわ、ないでね?」 ぱちゅりーちゃんが不安そうに私たちの顔色を伺います、そして弾き始めました。…あるー日、もりのっなっか~♪ 「…ぷ。ふ、くすくす」 上手い、上手いのだけれど! …元々の曲の固有概念と単音だけのチープな演奏、何よりその様な演奏をぱちゅりーちゃんが弾いているというギャップが、笑いを、誘う…! 「は、はっは! あっはっはっはっは! やめて、く゛る゛し゛…!」 先ほどから空気を噴き出していたさとりちゃんがバカ笑いを始めました。堪えられない、十分に堪えたという顔つきです。 ぱちゅりーちゃんの顔色は、湯気が立つのではないかというスピードでどんどん紅潮していきます。 「だから、演奏したくなかったのよ!」 ぱちゅりーちゃんが涙目になりながら、とうとうそっぽを向いて拗ねてしまいました。拗ねる人多いですね、私たち。 ごめんごめんと後ろから声をかけて肩を叩き、ぱちゅりーちゃんを慰めます。 「…くすん、むきゅ。ともかく、あれくらいが目安ね」 「…目安、かあ」 笑ってはいたけれど。私にとっては死活問題です。 確かにチープな演奏でしたが、両腕、指ともしっかり動いていてはたから見て『ピアノが弾ける』といえるほど弾けていました。保育園の先生とか、あんな感じです。 あれを、3日で? 「…できるか、なあ」 「ふふ。難しいかもね、自分の家でゆっくり練習したいでしょ? まあ、最初は『はちぶんぶん』あたりを練習してなさい、楽譜はきっとあるからあげるわ」 「はあい」 私は意識したやる気ない返事をぱちゅりーちゃんに返します。 もちろん、ふざけてですけれど。 「全く。…応援、するわ」 「ありがとう。…ぱちゅりーちゃんは、毎日どのくらい練習しているの?」 「むきゅ。10分」 「…え?」 まさか、そんな? そんな練習時間で、あそこまで上手に? 「気が向いたときに気が向いているだけ弾いているわ。防音室だから、人目も時間も気にしなくていいの。便利ね、軽いスタジオにもなるし」 「…うーん、上手になるまでは?」 「それも、10分。気が向いた時でいいのよ、『縛られるとやる気を失う』わ。やる気を失うだなんてもってのほか、『楽器にすら触らなくなる』のですもの!」 「…そっか」 確かに、一番危惧すべき事。『飽き』、それが来たら最後、惰性でやってもどうかと思うしなあ…。 私は深くうんうんと頷き、ぱちゅりーちゃんの話を理解した事を示します。 「さとりちゃんには、本当に悪いのだけれど。ドラムについては、全くわからないの。個人スタジオには付き添うわ、だから申し訳ないのだけれど、」 「自分でやれってことね。勿論よ、私は人に教えて貰うから始めたのではないわ」 さとりちゃんも、手に拳を作り呼びかける、決意を私たちに示すように答えます。 ううん、熱い。皆が皆、それぞれの意思を持っている…。 「…もう、夕方の5時。早いわね、親の人は心配しない?」 ぱちゅりーちゃんが部屋の壁に掛けてある時計を見上げて呟きます。さとりちゃんが、喋ります。 「私は、帰るわ。妹、…。誰かしら、いるだろうから」 私とぱちゅりーちゃんと違い、家が遠いのも理由にあるのでしょう。特に引き止めず、次に私の決断が求められました。 「…もう少し、居させて欲しいな。ピアノで、練習したいです」 「むきゅ。わかったわ。それじゃあ、一旦解散しましょう、玄関まで見送るわ」 「ええ、お願い」 さとりちゃんが一足先に立ち上がり、ドアを開けて部屋の外にでます。ひょいとお盆を拾うぱちゅりーちゃん、私たちも後に続いて最後だった私は部屋のドアを閉めました。 トタトタとそこそこの音を立てて階段を降り、玄関前で『じゃあね』と挨拶をしあい、さとりちゃんがドアの鍵を開けて外にでます。 パタン、と扉が閉まる音。少しして、ぱちゅりーちゃんは鍵前まで出向き鍵を閉めました。ぱちゅりーちゃんは一旦リビングに入り、お盆を置きました。 「ふう。…さなえちゃん。あなたは、被害者だと思うわ。 …憧れと羨望は違う、羨望はいつしか嫉妬へと行き着くの」 「…ぱちゅりー、ちゃん?」 「ごめん、忘れて」 いきなり、本当にいきなり。ぱちゅりーちゃんから意味深な事を言われて、戸惑ってしまいます。 ぱちゅりーちゃんは素早く階段を駆け上がっていって、『早く、早く!』と囃し立てられてしまいました。 …羨望、いつも。ぱちゅりーちゃん、何を知って…? 「遅いわよ、さなえちゃん! 先に楽譜探して置くわ!」 「あう、待ってくださいよ、ぱちゅりーちゃん!」 …、今は、楽器だ。折角家が近く、ピアノが触れるのだから。めいっぱい、触っておこう! 駆け出すような事はせず、静かに階段を登っていく。目の前の部屋に入り、楽譜はどこだと慌てふためくぱちゅりーちゃんを横目に私も楽譜探しを手伝う事にしました。 「…もしもし、ママ? …うん、ごめんね、どうしてもママに尋ねたくて。尋ねるっていうか、お願い。 うん、えっと、お金を振り込んで欲しいんだ。ピアノとキーボード、それと電子ドラム買うから…。うん、うん、50万くらいあれば足りるかなあ。わからないけど、お願い。いつもの通帳でいいよ、ママも面倒だろうし。 キーボード、始めるんだ。学園の友達で、誘われて。嬉しかったよ、度々ママに相談してたけど、もうその必要も無さそうだよ…。 …いいや。自分の力というか、自分たちの取り巻きでやりたい。また一人でに上手くなったとかで、疎遠になったら嫌だもん。教師は、つけなくていいよ。 …大丈夫だよ、さなえだってママの子なんだから。絶対に、成功してみせる。うん、連絡する。じゃあね、仕事、…早く終わったらいいね」 東風谷さなえのロックバンド! NEXT,To Be Continued! →東風谷さなえのロックバンド! 結成へ ←東風谷さなえのロックバンド! 発心へ この質と量、読みやすさ。 -- 名無しさん (2009-05-04 11 01 30) こりゃあわかりやすい説明だわ AAをこうやって使う表現方法もあるんだね -- 名無しさん (2009-05-04 13 10 44) 今日は更新しないのかな?期待しています -- 名無しさん (2009-05-05 04 05 39) 名前 コメント
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設定的には虐待が好きでない虐待お兄さん&2の続き。 虐待というよりは実験。 すっきりちうい。 そしてオリキャラ&俺設定てんこ盛りなので、嫌いな人は回れ右、というより左(ブラウザバックボタン) やあ、僕は虐待お兄さん!!でも、本日行うのは虐待じゃなくて実験だよ!! 僕は実験の方が大好きなんだ!!ヒャア!!我慢できねぇ、実験だぁ!!! …という事で実験に移ることにする。 まずは材料として、赤ゆっくりを9匹用意。 れいむ、まりさ、ぱちゅりー、ちぇん、みょん、れみりあ、さくや、ふらん、めーりん、各1匹づつである。 ちなみに、全員体無し、同種同士の親から植物性出産で生まれた赤ゆっくりである。 さらに、生まれてすぐ、ゆっくりしていってねの声を上げている途中で催眠ガスで眠らせたため、全員ゆっくりと眠っている。 これなら少々のことで目は覚まさない。 さて、それでは処置開始。 まずはれいむを手に取り、台の上に乗せ、左頬の辺りの皮をメスで円を描くようにして切り取る。 そして、次にはまりさの右頬にも同じ事を行う。 そうしたら餡子の露出している所を合わせ、小麦粉で溶いた水で合わせ目を塞ぐ。 それが終わったら少し様子見をし、癒着していることを確認したら、今度はまりさの左頬の辺りの皮を…という事を繰り返す。 その結果出来たのが、円状に並んで連なる赤ゆっくり達。 ちなみに顔は全員外側を向いている。 現在の状態を例えるなら、ポン・デ・リングを思い浮かべてもらえば分かり易いだろうか。 最後に繋げたれいむとめーりんの間を確認する。 …うん、問題なし。 軽く気付け薬を嗅がせた後一発で全員が目を覚ます魔法の言葉を唱える。 「ゆっくりしていってね!!」 「「「「「ゆっくちしちぇいっちぇね!」」」」」 効果は抜群だ。 全員が一気に目を覚ました。 「ゆ?おにーちゃんじゃれ?」 「おかーちゃんは?」 「みょんみょん?」 「わかりゃにゃいよー?」 「じゃおーん?」 等、口々に言葉を発する赤ゆっくり達。 ちなみに、この赤ゆっくりの親たちは、壁際にある箱の中につがいごとに分けられている。 しかし、その箱は防音対策が完璧に施されているため、今のように赤ゆっくりの様子を見て何か叫んだり箱に体当たりをしても 何の物音も立てなかったりする。 さて、試しに軽く指先で霊夢を小突いてみる。 「「「「「ゆぐっ!!」」」」」 途端、全員が苦悶の表情になった。 やはり、餡子がくっついている状態だと、痛みは共通に感じる様である。 「にゃにしゅるのぉ!!ゆっくりやめちぇね!!」 「ゆあーん!!ゆあーん!!」 「おかあちゃんのところまでにげりゅよ!!」 「わかりゃにゃいよぉー!!」 「うあ゛ー!!うあ゛ー!!」 等、その後の反応は種によってさまざまであった。 そして、 「しょろーりしょろーり、ゆっ!!うごけにゃいよぉ!!」 「「「「「ゆううううう!!!!」」」」」 赤まりさの声で、動けない事にようやく気づいた一同。 いくらなんでも遅すぎである。 「おにいしゃん、たちゅけてぇ!!」 「ゆっきゅりできにゃいぃぃいいい!!!!!」 「むぎゅううぅうぅ!!」 「ゆっきゅりちね!!!ゆっきゅりちね!!!」 パニックになる赤ゆっくり達だが、ふと親ゆっくりの方を見てみると、そちらも大盛り上がりを見せていた。 大声で赤ゆっくりに何か叫んでいるだろうもの、狂ったように何度も箱の壁にぶつかるもの、ただ泣いているもの、様々である。 しかし、防音対策されている箱に入れている以上、音は漏れないし、自分自身の大変さのために赤ゆっくりは親の存在に気づいていない。 …実験に邪魔だからという事で防音の箱に入れたけど、やっぱり音聞こえた方が良かったかな? 一瞬そうは思ったものの、実験の邪魔に繋がる可能性のある事は出来るだけ避けた方が良いのは確かなので、このまま進める事にする。 さて、もぞもぞと振動はするものの、大して動けないポン・デ・ゆっくりの赤ゆっくりたち。 当然こんなものを作るのが実験ではなく、これはあくまで下準備である。 ここで取り出しますは1匹のゆっくり。 成体のゆっくりぱちゅりーである。 そいつを赤ゆっくりたちの前に置く。 「「「「「おにぇえちゃんたちゅけちぇえ!!」」」」」 たちまちぱちゅりーに助けを求める赤ゆっくりたち。 しかし、ぱちゅりーはその様子を薄く笑いを浮かべたまま見ているだけだった。 そこで、僕はこうぱちゅりーに命令を出す。 「じゃああちゅりー、好きなゆっくりですっきりしていいぞ、ただし1回だけな。」 その言葉を聴いた途端、にんまりとした表情を浮かべるぱちゅりー。 その表情はぱちゅりーではなく、むしろれいぱーありすのものである。 「むぎゅぅうぅぅうう!!!あがんぼぅのばりざがわいいわ゛ぁー!!!!!!」 言動までれいぱーありすそのものである。 それもそのはず、このぱちゅりー、見た目こそぱちゅりーだが、中身はげすれいぱーありすである。 それも3匹分。 どういう実験で出来たかの説明は別の機会に回すが、ぱちゅりーの皮に3匹分のげすれいぱーありすを詰め込んでできた このあちゅりー(ありすが中身のぱちゅりーなのでこう呼んでいる)、頭が良い上にげすであるため、強い存在であると 認めた僕に対しては絶対服従をするので何かと実験の役に立っている。 しかしやはりまりさに行ったか。いくら外側が変わっても頭が良くなってもありすはありすといった所か。 「「「「「ぎぼちわりゅいぃいぃいぃ!!!やめちぇええぇえええ!!!!」」」」」 ひたすらに赤まりさを嘗め回したりすりすりしたりでぃーぷちゅっちゅをしたりするあちゅりー。 そして気持ち悪さで顔を歪めるまりさ、だけではなく他の赤ゆっくりも顔を歪めている。 痛みだけではなく触覚も共有しているようだ。 「んほぉぉぉおぉぉ!!!あがんぼぅま゙りざぁ、ずでぎよぉぉぉぉぉぉおお!!!」 「「「「「ゆげべぇえぇぇえぇえ!!」」」」」 本領発揮といわんばかりに赤まりさにぺにぺにをたたきこむあちゅりー。 体格差もあるが、そもそも自由に動けない赤まりさにはその体を貫く凶器から避ける術はなかった。 「んほおぉお!!!んほぉおおぉぉおおぉ!!!!!!」 激しく体を打ち付けるあちゅりー。 「「「「「ゆっ!!やべ、ぢぇええぇ、げべっ!!」」」」」 そのリズムに合わせるように苦悶の声を上げる赤ゆっくり達。 どうやら同一の痛みを味わっているせいか、シンクロしているようで、どの赤ゆっくりも同じ声を上げている。 「んっほおおぉぉ!!! すっきりー!!!」 「「「「「ゆびゃががが!! ちゅっきりー!」」」」」 隣の赤ゆっくりとの接合面から剥がれてしまうんではないかと思ったが、何とかその様な事もなくすっきりが完了したようだ。 さて、僕が見たいのはここからだ。 念のためあちゅりーを赤まりさから引き剥がしつつ赤ゆっくりたちの様子を見る。 すると、するすると赤まりさの頭から茎が一本生えてきた。 普通ならこの時点で赤ゆっくりは黒く朽ちて死んでしまう。 それは、体内の餡子量が、茎と新たにできる赤ゆっくりが作られるだけの量が無い為である。 なら、餡子が足りていればにんっしんできるのか? そして、今回のような複数種のゆっくりと融合している場合、出来る赤ゆっくりはどの種類が出来るのか? それが今回の実験の趣旨である。 「「「「「ゆげげげげげ!!!!」」」」」 ぼこんという音がしたので良く見てみると、まりさの丁度逆側にいたれみりあとさくやが皮だけになっていた。 そしてだんだんと潰れていくふらんとみょん。 他の赤ゆっくりもものすごい苦悶の表情を見せている。 そしてそれに比例するように大きく太くなっていく茎と、そこに生る赤ゆっくりの実。 6つ生っており、どんどん大きくなる赤ゆっくり。 それに比例するようにどんどんと潰れていくポン・デ・ゆっくり。 30分もすると、生っている赤ゆっくりは、母体と同じだけの大きさになった。 「ゆぶぇへぇええへえべふぇへぇへへへ…」 ポン・デ・ゆっくりも膨らんでいるのはもはやまりさしか残っていない。 それも、中身を吸われた事によって人格はとうに失われたようで、あらぬ方向を見たままケタケタ笑っているだけだ。 まあ、くっつけて中身を混ぜ合わせたのと同じ事だからある程度は予想はついていたが。 多分、元々の赤まりさの餡子分など、茎が出来た時点で全て無くなっていただろう。 そして、茎の先に出来た赤ゆっくりを確認。 6つのうちの3つはありす種。 そして残りは、まりさ種が2つとれいむ種が1つ。 「…まいったな。」 僕は思わず呟いた。 予想ではありす種とまりさ種のみ、もしくはありす種と他様々な種類のゆっくりが生ると思っていたのだが、 今回のように母体であるありす種とまりさ種と1種だけ違う、ということになるとは少々予想外だった。 1種だけでは、ただの取替え子である可能性が残るからだ。 そのため出来るだけそうなる可能性を下げようと同種同士の親から赤ゆっくりを選定したのだが、 それでもごらんの有様である。 「…仕方ない、もう一度やり直すか。」 そう呟きつつ生っている赤ゆっくりまりさを毟って食べる。 小さくゅっと声を上げたが、無視。 うん、甘くて美味い。 とはいえ甘すぎる事もない、なかなか良い具合の甘さである。 と、そこで気がついた。 このまりさの中身は紛れもない餡子であり、クリームやカスタード、プリン等他ゆっくりの中身は入っていない。 つまり、茎、もしくはへた部分にそれらを正しい赤ゆっくりに変換する機能が備え付けられているはず。 そこで、茎を根元から引っこ抜いてみた。 「ゆべ!!ふへぇふぇふぇへへへ…。」 一瞬反応はあったものの、目玉を左右違う方向にぐるぐると回しながらまた良く訳の分からないことを呟き続けている。 まずは、その赤まりさを割ってみた。 「ゆぼむぎゃ!!」 そして、中を覗いて見ると…ああ確かに色んな中身が混じり合っている。 色もものすごく、とてもじゃないが口に入れる気も起きなかったので、ごみ箱に叩き込んだ。 次に、引っこ抜いた茎を見てみる。 根元部分には訳の分からない色の餡子がついているそれを、根元から先までメスですっぱり切り開けてみた。 「お、これはこれは…、なるほど。」 茎の断面図を見てみると、根元部分には変な色の餡子があったものの、先の方に行くすぐの所、一番手前に出来た実の寸前で 透明になっている。 すくって舐めてみると甘い。どうやら砂糖水のようだ。 どうやら、茎に吸い上げた餡子を砂糖水にろ過する働きがあるようである。 本来の実験は失敗したが、今回は興味深いデータをとる事が出来た。 とりあえず再度の実験の前に、加工所へ用を済ましがてらあちゅりーと散歩に出るか…。 そう思いつつあちゅりーを抱え上げ、僕は実験室を出たのであった。 あとがき 題名は、妖怪虐待お兄さんを縮めたもの。 『あやかしぎゃくにい』と読んで下され。 あちゅりーについては次に書きます。 by ノーム・ライヴ 今まで書いたもの 小ネタ269 虐待が好きでない虐待お兄さん ゆっくりいじめ系1684 虐待が好きでない虐待お兄さん その2 ゆっくりいじめ系1723 キノコ狩り ゆっくりいじめ系1772 はないちもんめ
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『聖なる夜のジェラシー』 24KB 嫉妬 妬み 越冬 同族殺し 野良ゆ 希少種 現代 めりーくりすまーす(棒読み) 以下:余白 『聖なる夜のジェラシー』 *善良なゆっくりが酷い目に遭います *希少種 *希少種優遇 一、 「せっせ、せっせ……」 身も凍るような冷たい風が吹き抜ける路地裏を忙しなく走り回る一匹の野良ゆっくりがいた。 ほこりにまみれて淡い灰色になりつつある黒い三角帽子。 土や泥水がこびりついた金髪と、傷だらけのあんよ。 跳ねるたびにゆらゆらと揺れるお下げのリボンは半分ほどが破れている。 野良ゆっくりのまりさ。 大きさはバスケットボールほど。 その口にはどこかのゴミ捨て場から拾ってきたのか、破れたタオルが咥えられていた。 大方、この冬を乗り切るために必要なのだろう。 街で暮らす野良ゆっくりの越冬は難しい。 野生と違い、暖かい巣穴の奥で過ごすことができないからだ。 皮しかない顔に容赦なく吹き付ける北風。 雪が降る日は頭に積もった雪を舐め溶かさないと、すぐにぐずぐずの濡れ饅頭になってしまう。 さらに四方をコンクリートに囲まれ、陽も満足に当たらない冬の路地裏は天然の冷蔵庫と化す。 陽の当たる場所に出て行き暖を取ろうとすれば間違いなく人間によって駆除されてしまうので、冷蔵庫の中に閉じ籠るしかない。 それでも、野良ゆっくりたちは明日を生きるため、懸命に跳ね回る。 「れいむがさむいさむいにならないように、がんばるよっ!」 かじかむあんよ。 冷たい顔の皮がアスファルトにぶつかるたびに、痛みが走る。 それでもあんよを動かし続けるしかない。 おうちに帰れば寒さに震え、飢えに苦しむ最愛のれいむが待っているのだ。 断っておくが、れいむは生活のすべてをまりさに任せてゆっくりしているわけではない。 一週間ほど前に、“ゆっくり狩り”と称して路地裏に雪崩れ込んできた小学生グループによって“遊ばれて”しまったのである。 あんよは使い物にならないほどに痛めつけられ、片方の目玉は在るべき場所にない。 ぺにぺにを引き千切られ、まむまむもぐちゃぐちゃのミンチにされた。 れいむが、まりさと一緒に冬を乗り切ったあと、二匹のちびちゃんを生んで育てるのが夢だと話していたことが、文字通りの夢 物語となってしまった。 れいむはズタボロになってしまった自分の顔や、身体のあちこちを見て泣きながらまりさに「れいむとわかれてね」と訴えてい たが、まりさはそれを聞き入れなかったのだ。 「れいむ! ゆっくりただいま!」 「ゆっ……。 ま、まりさ……ゆっくり、おかえりなさい……」 「どうしたの? げんきがないよ? ぐあいでもわるい?」 まりさがれいむの頬をぺーろぺーろと舐めながら心配そうに瞳を覗き込む。 れいむがまりさの優しさに思わず揉み上げを震わせる。 「いつも、ごめんね……。 れいむ、なんにもまりさのやくにたてなくて……」 「そんなことないよ! まりさは、れいむがいるからがんばれるんだよ!」 「……まりさ……。 ゆっくり、ありがとう……」 二度、三度と互いに頬をすり寄せ合った後、二度、三度のふれんちちゅっちゅ。 れいむが嬉し恥ずかしそうに頬を染める。 (まりさ……ほんとうに、ほんとうに、だいすきだよ……) 動けない自分を。 愛するゆっくりの欲求を満たしてあげられない自分を。 迷惑ばかりかけている自分を。 何も言わずに支えてくれて、自分のことを好きだと言ってくれるまりさは、れいむにとっての全てだった。 「れいむ! みて! とっても、あったかそうな“もうふさん”をみつけてきたよっ!」 「ゆ?」 まりさが自慢げに破れたタオルをれいむに見せる。 れいむが「ゆわぁ」と目を輝かせた。 気温は日に日に下がってきており、特に朝夕の冷え込みが激しい。 ワンルームの段ボールハウスで暮らす二匹は、寄り添うことでした暖を取る方法がなかった。 まりさが嬉しそうに咥えたタオルをれいむにそっと巻いていく。 「ゆ、ゆゆーん……。 まりさ、あったかいよ……。 まりさも、こっちにきてね」 「ゆっくりりかいしたよ」 破れているとはいえ、少し長めのタオル。 まるで一本のマフラーを二人で巻き合う恋人たちのように、タオルで繋がるまりさとれいむは互いに見つめ合って微笑んだ。 「れいむ……」 「なぁに?」 「まりさと……ずっといっしょにゆっくりしようね」 「……うん。 ありがとう……まりさ」 もそもそと顔だけ動かして、まりさの頬にそっと唇を当てるれいむ。 それから二匹は段ボールハウスの中から長方形に区切られた世界を無言で見つめていた。 「ゆ……?」 その長方形に白い粒が降りてくる。 「ゆきさん、だね……」 「きょうのよるもさむくなりそうだよ……。 れいむ、まりさにぴったりくっつていね」 「ゆんっ////」 寄り添う二匹。 生きて行くことがどんなに辛くても、互いの頬から伝い合う温もりが「明日も生きていたい」と願わせる。 そのとき。 近くに何者かの気配がした。 勘のいいまりさが視線をきょろきょろと左右に動かす。 「どうしたの、まりさ……?」 横目でまりさに声をかけるれいむ。 まりさはすぐにでも段ボールハウスを飛び出していって、周囲の確認をしたかったがタオルで包まれているため、それができな かった。 「ゆぅ……。 なんでもないよ。 まりさのきのせいだったみたい。 ごめんね」 「んーん……いいよ、べつに」 (……たしかに、だれかいたようなきがしたんだけど……。 にんげんさんだったら、すぐわかるよね……。 ねこさん、かな ……? それとも、いぬさん……?) 思考を巡らすまりさを余所に、れいむはまりさの温もりに安心しているのかいつのまにか、「すーやすーや」と寝息を立ててい た。 まりさが寄りかかるれいむの顔に自分の顔をそっと重ねる。 この日の夜も寒かった。 それでも、まりさが見つけてきた破れたタオルのおかげで幾分寒さが緩和されていたのか、真夜中に寒さで目が覚めるような事 はなかった。 二、 「くりすます?」 「むきゅ。 そうよ。 ぱちゅをかってくれていたにんげんさんにむかしきかせてもらったおはなしだから、まちがいないわ」 クリスマス。 人間たちの文化にそういうものがあるらしいことをまりさは初めて聞いた。 「とおくから、にんげんさんたちのおうたがきこえてくるでしょう? あれは、“くりすますそんぐ”さんっていうのよ」 最近野良ゆっくりになったばかりの元・飼いゆっくりのぱちゅりーが目を細めてまりさに語る。 「むきゅきゅ。 ぱちゅも、ずっとまえに、にんげんさんといっしょに、くりすますをおいわいしたわ」 懐かしそうに、悲しそうに、寂しそうに、言葉を紡いでいくぱちゅりー。 まだ白さが残っているナイトキャップには、一部だけ激しく破れた痕跡がある。 捨てられる際に、バッジをむしり取られたのだろう。 飼いゆっくりの転落ゆん生話はありふれている。 ぱちゅりーの過去も想像に難くない。 「おいわい、ってどんなことをするの?」 「そうね……。 だいすきなひとといっしょにすごすひとがおおいらしいわ」 「だいすきな……? それなら、まりさは、まいにち、くりすますさんをやっているよ!」 「むきゅきゅ。 でも、くりすますさんは“とくべつなひ”なのよ?」 「どういうこと……?」 まりさが小首を傾げるような仕草をしてぱちゅりーに視線を向けた。 「だいすきなひとに、“くりすますぷれぜんと”をあげたり、いっしょにいーちゃ、いーちゃ、したりするのよ」 ぱちゅりーの言葉にまりさがしばらく考え込む。 ぱちゅりーはまりさを見つめながら「少し難しかったかしら?」と様子を伺っていた。 当のまりさはというと、ちゃんとぱちゅりーの言葉を理解しており、「いーちゃいーちゃなら毎日してるよ」だの、「毎日れい むと一緒にいるよ」だのと思いを巡らせている。 しかし。 「くりすますぷれぜんと、っていうのはなんなの?」 「だいすきなひとに、おくりものをあげることよ」 「ごはんさんとかじゃなくって???」 「それは、ふだんからもっていってあげているのでしょう? ふだんとちがうものを、くりすます、というとくべつなひにあげ ることに、いみがあるのよ」 「なんだかとってもゆっくりできそうだね。 よーし、それじゃあ、れいむにすてきなぷれぜんとさんをさがしてくるよ!」 「きっと、れいむもよろこぶとおもうわ」 クスクスと笑うぱちゅりーを見て、まりさがふと気になったことを訪ねようとした。 「ぱちゅりーも何か貰ったの?」と聞きかけてしまったまりさが慌てて口を閉じる。 ぱちゅりーはまりさが何を言おうとしたのか察しているのか、むきゅきゅ、と小さく笑っただけだった。 実はと言うと、ぱちゅりーはまりさとれいむの関係について知っている。 れいむがどういう状況に置かれているかも、何もかも。 ぱちゅりーとれいむもお喋り友達である。 だからこそ、まりさに、クリスマスの話題を振ったのだ。 友達のれいむに幸せになってほしかった。 友達のまりさにれいむをもっと幸せにしてあげて欲しかった。 あるいは、一年前に飼い主と共に祝ったクリスマスの幸せをまりさとれいむにも感じてほしかったのかも知れない。 ――もう、みんな、死ねばいいのに……。 どこからか声が聞こえた。 まりさとぱちゅりーが周囲を見回す。 しかし、誰もいない。 まりさとぱちゅりーが背中合わせにくっついて警戒を始めた。 「いま、たしかに、なにかきこえたわよね……?」 「ゆっ。 まりさもきいたよ。 このちかくにだれかがいるよ……。 にんげんさん……かな?」 「だとしたら、たいへんよ……。 はやく、どこかにかくれないと……」 しかし、何処へ行きようもなかった。 先ほどの声がまりさとぱちゅりーに向けられたものであれば、声の主はまりさとぱちゅりーの動きを把握しているだろう。 下手に何処かへ隠れれば、逃げ出すこともできないままに窮地に陥ってしまう可能性も高い。 だが、それ以上声は聞こえなかった。 また、誰もまりさとぱちゅりーの前に現れることもなかった。 「さいきん、だれかにみられているようなきがするんだよ……」 ようやく周囲の空気も落ち着き始めた頃に、まりさがぽつりと呟く。 「むきゅ……?」 「おうちのちかくに、だれかがいるようなきがして……。 いつも、おうちのまわりをみにいくんだけど、だれもみつからなく て……。 ごはんさんをとりにいくときも、うしろがきになってしかたがないよ……」 「そういうことが、なんどもあるのかしら?」 「ここさいきんはずっとだよ……。 まりさはともかく、れいむのことがしんぱいで……」 「れいむは、なにかいっていないのかしら?」 「れいむは、なにもかんじていないみたいだったよ」 「そう……。 なんだか、ゆっくりできないわね……」 人間がこんな事をするはずがない。 人間がゆっくりを監視するぐらいなら、一思いに出て行って潰しにかかるほうが圧倒的多数だろう。 では、犬や猫なら。 これも同じで、犬や猫はゆっくりを食糧としか見ていないので、見つけた瞬間襲いかかるはずだ。 元・飼いゆっくりである本物の賢者・ぱちゅりーでもこの疑問を解決することができなかった。 謎は深まるばかりである。 不意にまりさが口を開いた。 「ゆっくり……なのかな……?」 「まさか。 もうすぐ、ほんかくてきにふゆさんがくるのよ……? みんな、ごはんさんをあつめたり、あたたかいものをさが すのに、おおいそがしのはずだもの。 おうちをうばいにこないということは、そういうことにはこまっていないはずだから、 ゆっくりとはちがうとおもうわ……」 「ゆぅ……たしかにそうだね……」 なんとなく、きょろきょろと周囲を見渡すまりさに、ぱちゅりーが再び言葉をかけた。 「まりさ……。 さっきのはなしはわすれてちょうだい」 「ゆ……? くりすますのこと?」 「そうよ。 さっきは、れいむにくりすますぷれぜんとをあげてほしいとはいったけれど、れいむをひとりにしないほうがいい かもしれないわ……」 「ゆ…………」 「まりさも、きをつけて。 なにかに、ねらわれているかもしれないわ……」 「ぱちゅりー」 「むきゅん?」 「くりすますさんは、いつかわかるの……?」 「……まちのにんげんさんのなかに、あかいふくをきた“さんたさん”というひとがあらわれたら……たぶん、そのひがくりす ますだとおもうわ」 それから言葉を繋げようとしたぱちゅりーに、悪戯っぽい笑みを浮かべてみせたまりさが「じゃあ、まだクリスマスまで時間が あるんだね」と言い残し、路地裏の奥へと走って行った。 ぱちゅりーはそれを制しようとしたがいかんせん、間に合わない。 跳ね去っていくまりさの後姿を見ていると、それ以上声を張り上げることもできなかった。 「むきゅー……」 のそのそとこの場を移動し始めるぱちゅりー。 向かう先はまりさとれいむのおうちだ。 最初は二匹で狩りに出かけると話をして、まりさとれいむのおうちを後にしたので、まりさの帰りが遅くなるとれいむに余計な 心配をかけてしまう。 ずりずりとあんよを這わせながら、どうやってプレゼントの事を伏せたまま、れいむにまりさの行動について教えるべきかと考 えを巡らせていた。 大通りへと道が続く路地裏の十字路には、人間の街の陽気な音楽が風に乗って届いてくる。 とても、同じ世界で生きている生き物だとは思えなかった。 自分たちがこれほどまでに冬の冷たい風に苦しんでいるというのに、人間たちはまさにどこ吹く風と言わんばかりである。 昼間なのにキラキラと彩られた街の欠片を見つめながら、ぱちゅりーはそれから目を逸らすように再びあんよを蹴った。 この日が十二月二十三日。 テレビのニュースでは、今年はホワイトクリスマスになるだろうとの事だった。 三、 ぱちゅりーと別れたまりさは一直線にある場所へと向かっていた。 まだれいむが元気だった頃。 一緒に路地裏を跳ね回っていた頃。 二匹だけで遊びにきた廃材置き場。 ここでは、れいむの好きなものが良く見つかる。 その正体はというと何でもないただのパチンコ玉なのだが。 良く二匹で転がし合って遊んでいたパチンコ玉も、れいむがあんなことになってしまって以来、目にすることもなかった。 あの頃は二匹で食糧を集め、拠点である段ボールハウスに暗くなる前に戻ってくれば良かったのである。 たまに遊びに行くことだってできた。 「ゆぅ……。 さがそうとするとなかなかみつからないね……」 廃材置き場のあちこちをうーろうーろするまりさ。 まりさの言葉は的を射ており、探そうとすればするほど見つかりにくい物というのはこの世界に山ほどある。 暗くなる前に見つけてしまいたい、という気持ちがまりさを更に焦らせた。 目に見える範囲はすべて探したつもりである。 今度は廃材の隙間に潜り込んでいかなければならない。 一度、廃材の下に潜り込んで壊れた傘を拾おうとしていたとき、廃材のバランスが崩れあわや生き埋めにされるという事態にな りかけたことがある。 なるべくなら、そこに目をつける前に目的の物を見つけてしまい、早くれいむの元へと帰りたかった。 「ゆぐ……やっぱり、このたいせいはきついね……」 廃材の山の中に頭だけ突っ込んでお尻をぷりんぷりんと動かしながら無理矢理、廃材の隙間に入り込んで行く。 当たりだった。 廃材の下に、一個だけパチンコ玉を見つけた。 それも最近捨てられたばかりなのか、あまり錆びておらず銀色がなかなかに美しい。 舌を伸ばせばこれ以上奥に進まなくても良さそうだ。 「ゆっくりみつけたよ!」 四苦八苦しながら自らの手中に収めたパチンコ玉を見てまりさが満足げな笑みを浮かべた。 そのときだった。 「…………っ!!」 あの視線を感じる。 どこからだろうか、それは判らない。 だが、確かに見られているのだ。 動くことができなかった。 ここは廃材置き場である。 逃げ道は一か所……すなわち、ここまで来た道しかない。 「だれなの……? いいかげんにでてきてね……? まりさ、おこるよ……?」 後半から徐々に声のボリュームを小さくしていきながら、まりさが恐る恐る静かな空間に問いかける。 しかし、返事は返ってこない。 それなのに、確かに何かがいる。 「……へぇ。 くりすますなんだ。 ふたりでいっしょに……? たのしい? しあわせ? そう、よかったわね……。 ねた ましいわ」 「…………!!」 「ほんとうに、もう……しねばいいのに」 「だれ……なの……?」 廃材の陰から一匹のゆっくりが姿を現した。 緩いウェーブのかかった少し明るめの茶色の髪の毛。 そして、まりさを射抜く不気味なほどの光を湛えた緑色の瞳。 それは希少種・ぱるすぃである。 ペットショップ市場に出回ってからまだ日が浅い。 ゆっくりの中では珍しく、疑い深く警戒心が強い、ある意味ではもっとも野生ゆっくりらしいゆっくりである。 ちなみに捕食種ではないらしい。 捕食種ではないが……。 「ああ、ねたましい……。 かえりをまっているこいびとがいるのがねたましい。 そのこいびとにぷれぜんとをあげようだな んてかんがえかたがねたましい。 くりすますにふたりですごすあいてがいるのがねたましい。 りあじゅーがねたましい……」 恐ろしいほどまでの嫉妬心を持つゆっくり。 相手の一挙一動に対して嫉妬心を剥き出しにするのが、このぱるすぃの特徴である。 故にペットとしては向かなかったのだろう。 こんな都会の路地裏で見かけるということは、ぱちゅりー同様に人間に飼われていたものが捨てられたのに違いない。 怯えて動けないでいるまりさに体当たりを仕掛けるぱるすぃ。 理由は判らないが、あの緑色の瞳に覗きこまれた瞬間、まりさは金縛りにあったように動けなくなってしまった。 それはゆっくりにしては勘のいいまりさが感じた確かな畏れ。 目の前のゆっくりが確実に自分を殺そうとしていることが理解できる故の硬直。 「や、やめてね……。 ねたまないでね! ねたまないでね!」 「ああ……ねたましい、ねたましいわ……」 体当たりで突き飛ばされたまりさが螺旋階段の縁で止まった。 ビルの非常階段だが、地下に向かって続いているようでまりさがいる位置から下までの高低差は五メートルほどもある。 「どぉして、こんなことするのぉぉぉぉぉ?!!」 「こいびとがいるのがねたましい。 ぱるすぃはしあわせになれなかったのに、まりさがしあわせそうにしているのがねたまし い……」 「ま、まりさはぱるすぃのことなんてしらないよ! いいがかりはやめてね!!!」 「……くりすますをいわえる、まりさが……ねたましい」 「ゆひいいぃぃぃぃぃぃ??!!!」 聞く耳持たぬぱるすぃの冷たい視線にまりさがおそろしーしーを漏らしながら後ずさる。 それからすぐに気付いた。 これ以上後ろに下がると螺旋階段の下に落ちてしまう。 それだけはなんとしても避けなければならない。 それなのに。 「やめてね! ぱるすぃ! まりさ、おちちゃうよぉぉぉぉぉぉ」 「いきるきぼうがあるのがねたましい。 たすかりたいとおもえるのがねたましい」 「ゆああああああああああ!!!!」 ぱるすぃがまりさに体を当てる。 そのまま体勢を崩したまりさは螺旋階段の下へと真っ逆さまに落下していった。 「おそらをとんでべびゅぎゅぇッ??!!!」 螺旋階段の底に叩きつけられた衝撃でまりさの皮が破れ、目玉が飛び出し、中身の餡子を周囲にぶちまけた。 「ゆ゛っ、ゆ゛っ」と呻き声を上げながら最早動くことの叶わぬまりさが虚ろな目で、螺旋階段をゆっくりと降りてくるぱるすぃ を見上げている。 やがて、潰れてしまって切れ切れの呼吸をしているまりさの傍までやってきたぱるすぃがにこやかに微笑んだ。 「さかさまてんろーのはてまでようこそ」 「っ?!!」 「こんなたかさからおちて、いきているうんのよさがねたましい……」 「~~~~~ッ??!!!」 ぱるすぃの口に咥えられているのは尖った木の枝。 ぱるすぃはそれをまりさの皮にゆっくり、ゆっくり、何度も、何度も刺し込んだ。 「ぱるすぃもしあわせになりたかったわ……。 くりすますをだいすきなひとといっしょにすごしたかったわ。 すてきなくり すますぷれぜんとさんをもらいたかったし、わたしてあげたかったわ……」 自虐的な笑みを浮かべながら、ぱるすぃがまりさの残されたもう片方の目玉に木の枝をずぶりと突き刺した。 瀕死のはずのまりさが皮をびくつかせて痙攣を起こす。 血走った目玉の奥からぷしゅぷしゅと餡が溶けたような液体が噴き出している。 「まりさは、しあわせなゆっくりだから……しねばいい」 「!!???」 滅茶苦茶な理屈をまりさに対してぶつけるぱるすぃ。 ぱるすぃはまりさの目玉にそっと唇を当てると、まりさの目玉を上下の歯で挟んで噛み千切った。 瞬間、目の前が真夜中になってしまうまりさ。 「ぱるすぃとおんなじせかいをみているはずなのに、ぱるすぃがみているよりもたくさんのきれいないろをみている、そのおめ めがねたましい。 だから、もう、みえなくなっちゃえばいいのに」 それからまりさの唇を噛み千切って吐き捨てる。 「こいびとにやさしいことばをかけてあげられるこのおくちがねたましい。 ちゅっちゅなんてして、こいびとをどきどきさせ てあげられるこのくちびるがねたましい……」 びくびくと痙攣を起こすまりさにもはや意識はない。 「……まりさがいきていることのすべてが……ねたましい……」 そう言ってぱるすぃは、まりさがぴくりとも動かなくなるまで、延々と尖った木の枝を刺し続けた。 くすくす、くすくすと笑いながら。 「妬ましい、妬ましい」と呟きながら。 四、 ぱちゅりーはまりさの後を追いかけていた。 れいむにまりさのことを話した後、いつまで経っても戻ってこないまりさのことが心配になったのだ。 そこでぱちゅりーはれいむに全てを打ち明けて、尋ねた。 まりさはきっと、れいむにあげるプレゼントを探しに行ったに違いない。 どこに探しに行ったか心当たりはないものか、と。 しばらく考え込んだれいむが思いついたように、まだ自分が元気だった頃にまりさと良く遊びに行った廃材置き場の事を語って 聞かせた。 まだ、日没までには時間がある。 だが、何かトラブルに巻き込まれているのかも知れない。 「まりさぁ! どこなの? ここにいるのぉ……?」 ようやく廃材置き場までたどり着いたぱちゅりーが息を切らしながら叫んで呼びかける。 しかし、自身の声が周囲のコンクリートに反響するだけで、まりさからの返事はない。 ずりずりとあんよを這わせて廃材置き場の周辺を調べ始めるぱちゅりー。 ぽん……ぽん……ぽん……ぽん…… 目の前の螺旋階段から何か音が聞こえてきた。 ぱちゅりーが思わず身構える。 ぽん……ぽん……ぽん……ぽん…… 人間の足音とは違う。 まして、犬や猫のものでもない。 そう、まるで。 (ゆっくりが……とびはねて、のぼってきているみたいな……) 「たすけにきてくれる、ともだちがいるのがねたましいわ……」 「!!!」 螺旋階段の下から声がした。 ぱちゅりーが恐る恐るあんよを踏み出すのと、ぱるすぃの緑色の瞳が視界に入るのがほぼ同時。 ぱるすぃはぱちゅりーの事を見つめながらゆっくりと螺旋階段を昇り終え、ゆっくりと近づいてきた。 先ほどのまりさと同様、どうしてかぱちゅりーも動くことができない。 「まりさを……みかけなかったかしら……?」 「みかけたわよ……。 さっき、ぱるすぃがえいえんにゆっくりさせちゃったけれど……」 ぱるすぃの言葉を聞いたぱちゅりーが後頭部を鈍器で殴られたような衝撃を感じる。 今、このゆっくりはなんと言ったのだろうか。 永遠にゆっくりさせちゃった。 そんな事を軽いノリで言ってのけたのである。 「そこのかいだんのしたをみてみるといいわ。 まりさが、つぶれているから……。 まりさはやっとしあわせになれたのよ。 だれからもねたまれることなく、しずかにねむりについたの」 「なにを……いってるの……」 「ぱちゅりー? ぱるすぃはね、まりさと“れいむ”のことがねたましくてしょうがなかったわ。 あんなになかがよくて、い つもいっしょで……」 「まりさとれいむのおうちのまわりにいたのは、ぱるすぃ……なの?」 「そうよ。 ねぇ? ぱちゅりー。 ぱちゅりーも、ほんとうは、まりさとれいむがねたましくてしかたがなかったんじゃないの?」 「!!!!!」 「ぱちゅりー“も”にんげんさんにかわれていたのでしょう? いっしょに、くりすますをおいわいしたんでしょう? でも、 いまはできないのよね……? でも、まりさとれいむはそれができる……。 ねたましかったはずよ……ほんとうは」 淡々と言葉を続けるぱるすぃに、ぱちゅりーは微かに震えていた。 ぱるすぃはクスクスと笑うと、ぱちゅりーの横を通り過ぎて廃材置き場を出て行こうとする。 「……れいむのところにいくの……?」 「まさか。 れいむは、ねたましくないもの……。 むしろ、かわいそうとおもうぐらいよ……。 だって、くりすますのよる に……それまでいっしょにいただいすきなひとをまちつづけていも……そのひとはもう、じぶんのところにはこないのだから……」 「ぱるすぃ……あなたは……」 「くりすますなんてだいきらい。 ぱるすぃをすてたにんげんさんのことをおもいだすから。 ぱちゅりーだってそうなんでし ょう? まりさとれいむにもくりすますのことをおしえてあげたのは……、いやなおもいででしかないくりすますを……かえよ うとしただけじゃないの……?」 「そんな……ことは……」 「だから、ぱるすぃは、ぱちゅりーのことがすきよ。 ぱるすぃと、おんなじおもいをして、なにかしようとしたのだから」 「……それだけのりゆうで、まりさをえいえんにゆっくりさせたの?」 震えながらぱちゅりーが尋ねる。 ぱるすぃはまるで枯れ木に突如として咲いた桜のような笑顔を浮かべて「そうよ」と言った。 「あぁ……。 でも、そうね……」 「むきゅ……?」 それから、百面相のように表情を変えるぱるすぃが突如として、ぱちゅりーを睨み付けた。 口元が歪んでいる。 「おともだちとたくさんおしゃべりできて、たのしそうなぱちゅりーは…………」 ぱちゅりーが顔面蒼白になって後ずさる。 それ以上、動くことはできなかった。 ぱるすぃの口に咥えられた尖った木の枝。 その先端にこびりつく餡子。 「――――ねたましいわ」 五、 日付が変わってクリスマスイヴ……。 れいむは段ボールハウスの中でガタガタと震えていた。 まりさが持ってきてくれたタオルにくるまっていても、寒さは緩和されない。 まりさの温かさが恋しくて恋しくて仕方がなかった。 「さむい……さむいよぅ……。 おなかが……すいたよう……」 飢えと寒さがれいむを容赦なく襲った。 深夜。 テレビのニュースの通りに雪が降り始めた。 雪を見ていると、ますます寒さが激しくなってきたような錯覚を覚える。 「まりさ……どこぉ……」 いつまで経っても帰ってこないまりさ。 動けないれいむには、まりさを探しに行くことも何もできない。 ただただ、待つしかない。 決して戻ってくることはないまりさを……れいむは待ち続けた。 まりさが帰ってきたら「おかえり」と言ってあげよう。 きっとまりさも寒いと思っているはずだから、すーりすーりして温めてあげよう。 何か嫌なことがあったのなら聞いてあげよう。 ……「おかえり」と言ってあげたい。 すーりすーりして温めてあげたい。 まりさの話を聞いてあげたい。 「ただいま」と言ってほしい。 すーりすーりして温めてほしい。 まりさに話を聞いてほしい。 会いたい。 逢いたい。 「まりさ……れいむは……まりさに、あいたいよ……。 あいたいよ……。 あいたいよぅ……」 ぽろぽろと涙を零すれいむ。 その涙も凍りつくのではないかと思うほど、冷気は容赦なくれいむを蹂躙していた。 目の前が霞んでいく。 れいむにも限界が訪れ始めているのだろう。 思い出が巡っていく。 ぱちゅりーに話した言葉。 まりさと一緒に遊んだ廃材置き場の光景が思い浮かぶ。 まりさは、本当に自分にあのとき遊んでいたパチンコ玉をプレゼントしてくれるつもりだったのだろうか。 幸せだな、とれいむは心の中で呟いた。 一度は捨てた自分の命を繋いでくれたのは他ならぬまりさ。 れいむはまりさをずっと信じている。 それでも、まりさは来なかった。 れいむはいつの間にか眠りについていた。 そして、そのまま、二度と目覚めることはなかった。 元はあの一件以来極端に落ちていたれいむの体力。 まりさが傍にいてくれることで辛うじて繋がっていた命の断片。 それを冬の凍てつく風が容赦なく壊してしまったのである。 翌朝。 固まったように動かなくなったれいむが入った段ボールハウスの前にぱるすぃがいた。 口に咥えたパチンコ玉をそっと段ボールハウスの中に入れる。 れいむの死に顔は不思議と穏やかなものだった。 帰ってこないまりさを恨むようなことはしなかったのだろうか。 自分が裏切られたのだとは思わなかったのだろうか。 ぱるすぃが唇を噛み締める。 それから、溜め息をついた。 「……それでも、まちつづけてしまうのは……。 いったい、どうしてかしらね……。」 「……だから、くりすますは“とくべつなひ”なのかしら……」 「ねたましいわね……」 La Fin