約 1,724,937 件
https://w.atwiki.jp/kt108stars/pages/7288.html
関連スレ 大物困の予感新人君 468 名前:前スレの558[sage] 投稿日:2012/04/25(水) 08 15 32.50 ID ??? うちの新人困ったちゃんが予想以上に香ばしかった件についてちょっと報告させてもらうわ 困ったちゃん語録by先週土曜の新人だけの交流会で独りだけ泥酔時 先輩に対して ・俺よりやってる時間が圧倒的に短い癖に大物ぶって偉そうにしてやがってお前らみんな俺から 見たら初心者に毛が生えたみたいなモンなんだよ ・俺に対して先輩ぶりたいなら未訳サプリありのシャドウランくらいマスターしてみせろ ・シーン制だのPC番号だの補助輪付きのシステムじゃなけりゃまともにマスタリングもロールもできない ザコがシステムを語るなんて百年早いガープスで色々な性格のPCを作ってロールできるようになってから そう言うことは言え 同級に対して ・おまえ等みたいな新人が良ゲーマーになるか屑ゲーマーになるのかは最初が肝心だから俺が ビシバシ育て上げてやるから感謝しろよ ・フィア出すのゲームバランス度外視のキャラクター重視のバカゲーじゃなくてゲームバランスの しっかりした硬派なゲームでガッチリと遊ばしてやるぜ 昨日困ったちゃんと話したが完全に記憶が飛んでいて本人は覚えて無いってのがまた笑えるw しかも、バイキングでみんなソフトドリンクのなか1人だけ二十歳になったからって飲み放題に アルコールをプラスするという協調性の無さを露呈してくれた 469 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2012/04/25(水) 08 18 57.70 ID ??? 酒も飲まずに他人に対して強く出る馬鹿も嫌だが、 酒を飲まないと強く出れない&年上含めた他の大人がノンアルコールの中飲みまくる アホはもっと嫌だなw 470 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2012/04/25(水) 08 31 11.37 ID ??? 酒は飲んでも呑まれるな、て言葉を知らないのかね。 471 名前:NPCさん[age] 投稿日:2012/04/25(水) 08 36 27.47 ID ??? それだけ酒の上でも言ったんだから、やらせたら良いんじゃね? 上手くやればそれで良いし、できないなら口だけのカスだから勝手に出ていくでしょう。居心地が悪くなって。 472 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2012/04/25(水) 08 36 52.87 ID ??? 次はICレコーダー持参だな 473 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2012/04/25(水) 08 37 33.32 ID ??? 470 一浪して新人で20才だと4月生まれで最近20才になったばかりだろ ひょっとしたら初めての飲酒かもしれない もしそうだったら初めてだから自分の限界がわからなかったんだろう 474 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2012/04/25(水) 08 42 41.30 ID ??? フリードリンクにアルコール付いたときの値段は異常。 大口叩いたわけだし、蹴り倒すくらいの勢いでGMやらせてみたいもんだw 475 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2012/04/25(水) 08 54 00.31 ID ??? 未成年じゃないよな? しかし、アレだなもうダメさがにじみ出てるw FEARがヌルゲーて実プレイなしだよな? しかし、いい反面教師がいるな。そいつ以外の新人にあいつみたいにはなるなといえばいいわけだしw 476 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2012/04/25(水) 08 56 17.42 ID ??? よく読んだら新人交流会(他が18,19)の中、自称1浪の20歳が飲みまくったのかw よく店側が「おい、お前(たち)、学生証の生年月日見せろ」って言わなかったものだなあ。 477 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2012/04/25(水) 09 30 31.43 ID ??? 毎回思うけどハンドアウトやPC番号ってそんなにゆとり仕様かねぇ それぞれの立場やら導入をサクッと説明出来てスムーズに始められる程度の認識しかないんだけど 478 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2012/04/25(水) 09 44 21.27 ID ??? 477 それぞれの立場や導入を“サクッと説明”するなんてとんでもない! 微に入り際を穿ち、聞かれていない事までひけらかしてゲップが出るまで「重厚で骨太な世界観」から教え込まなくてどうするんだ! って、ハンドアウト嫌いの先輩が昔いってた。 480 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2012/04/25(水) 09 51 59.60 ID ??? 自称20歳の困様が上げてる硬派なシステムのシャドウランだって 極めてシーン制(FEARっぽいの)に近いけどね。 ヒーローポイントがあって、それぞれの場面ごとに切り替えるので。 …困様のガープスでは未使用CPによる、ヒーローポイント的演出は やらないだろうし、シャドウランじゃカルマポイント使わせてもらえないのだろうかw 485 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2012/04/25(水) 10 31 39.80 ID ??? 一生懸命習い覚えたノウハウが 「実はそこまで苦労しなくても問題なく回せるんだよ」と言われて これまでかけてきた労力なり自負なりが全否定されたと感じるのかもしれん 486 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2012/04/25(水) 11 09 33.04 ID ??? あっさり追い抜かれてるからな 492 名前:NPCさん[sage] 投稿日:2012/04/25(水) 11 30 37.00 ID ??? ハンドアウトで無に帰す程度の能力と経験しかないのが拒否反応とヒステリー起こした可能性も。 スレ322
https://w.atwiki.jp/kt108stars/pages/4521.html
913 名前: NPCさん [sage] 投稿日: 2009/01/23(金) 03 31 11 ID ??? この間、コンベで最近中古で買ったPSゲームのスプリガンルナヴァースを元ネタにした 月の古代文明シナリオをやったら、なんか緑の月とかいうのが元ネタですねって言うのがあらわれた。 元ネタ認定厨って困ったちゃんとしては軽度だけどウザイよな。 914 名前: NPCさん [sage] 投稿日: 2009/01/23(金) 03 46 37 ID ??? 元ネタ認定厨がウザいのは、 元ネタがあっていても、はずれていても、どっちにしろ面倒なところだ。 915 名前: NPCさん [sage] 投稿日: 2009/01/23(金) 05 00 39 ID ??? 元ネタがあってる 簡単に元ネタがわかるなんて底が浅いですね 元ネタが違ってる バレたからって必死で否定しないでください。見苦しい。元ネタからずらしたりもだめですよ、今さら スレ215
https://w.atwiki.jp/chisakiss/pages/56.html
千咲ちゃん、鏡の世界に迷い込む 内容 本文 感想コメント 内容 閉じられた世界の中で、天使学校時代のガヴリールとタプリスが幸せに過ごすお話。 本文 ――――――――――――――――――(00/25)―――――――――――――――――― ―朝 タプリスの家― ピピピピピッ カチッ タプリス『……もう、朝ですか? 早く……起きないと』 タプリス『んーっ、今日も良いお天気ですね』 タプリス『ふふ、学校まで並んで歩いていくには、もってこい、です』 タプリス『さてと、急いで準備をしましょうか』 ―― タプリス『ハンカチよし、鍵よし……』 タプリス『前髪は……っと』スッ ピンポーン タプリス『わわっ、もう先輩、来てしまいました』 タプリス『だ、大丈夫ですよね、きっと』 タプリス『はーい、今行きますー!』 ガチャ タプリス『お待たせして、すみません!』 ガヴリール『いいえ、こちらが少し早く着いてしまったみたいですから』 ガヴリール『気にしなくても良いですよ、それと……』 ガヴリール『おはようございます、タプリス』ニコッ タプリス『はい、おはようございます、天真先輩っ』 ――――――――――――――――――(01/25)―――――――――――――――――― ―通学路― タプリス『うーん……』スッ ガヴリール『タプリス、どうしました?』 タプリス『あ、いえ! なんでもないです!』 タプリス(前髪がやっぱり、ちょっとだけ気になります……) タプリス(こんなに綺麗な先輩と、一緒に歩いているんですから、尚更です) ガヴリール『ちょっと、こっちを向いてもらえますか?』 タプリス『え? は、はい……』 ガヴリール『ふふっ、今日もちゃんと、かわいいですよ』 タプリス『先輩!? な、ななな、何を……』カァァ ガヴリール『そんなに気にしなくても、大丈夫だと言いたかったんです』 タプリス『そ、そうですかね……? あ、ありがとうございます』 ガヴリール『そういえば今日は、みんなでお昼を一緒に食べる約束をしているんです』 ガヴリール『いつもの屋上で、なんですけど、タプリスも来ませんか?』 タプリス『は、はい! ぜひ行かせてください! 絶対行きます!』 ガヴリール『よかった。では、お昼休みに屋上で待ち合わせということで』 タプリス『了解です!』 タプリス(えへへ、先輩たちと一緒にお昼ごはん……) タプリス(天気もとても良いですし、きっと楽しくなりそうです) ――――――――――――――――――(02/25)―――――――――――――――――― ―お昼休み 学校の屋上― ガヴリール『サターニャさん、またメロンパンだけですか?』 サターニャ『え、そうだけど』 ガヴリール『ダメですよ、それだと栄養が偏ってしまいますから』 ガヴリール『私のおかずを分けてますね』 サターニャ『ほんと!? いつも悪いわね、ガヴリール』パクパク サターニャ『んーっ、いつ食べても、あんたのおかずはおいしいわ!』 ガヴリール『いえいえ、お気になさらないでください』ニコッ タプリス『そ、それじゃ天真先輩の食べる分が減っちゃいますから、わたしのも!』 ヴィーネ『じゃあ、みんなでおかずを共有しましょうか』 ラフィエル『うふふ、いいですね』 サターニャ『お礼に今度、このサタニキア様が厳選した激ウマのメロンパンを』 サターニャ『みんなにごちそうしてあげるわ!』 ガヴリール『ありがとうございます、楽しみにしてますね』 ヴィーネ『もう、サターニャはほんと、メロンパン大好きね』 サターニャ『ふふっ、メロンパンに関してだけは、誰にも負けない自信があるわ』 ラフィエル『それ以外は……ちょっと、残念ですけどね』 サターニャ『残念って何よ! ひどいでしょ!』 みんな『あははははっ』 タプリス(みなさん、和気あいあいで、ごはんの時間がとても早く感じられます) タプリス(お昼の授業は体育から始まるので、少しだけ憂鬱ですけどね) ――――――――――――――――――(03/25)―――――――――――――――――― ―放課後 学校の図書室― タプリス(何か面白そうな本は、あるでしょうか) タプリス(ここにある本は、ほとんど読んでしまいましたからね) タプリス(新しい本は……っと) ガヴリール『あら、タプリス?』 タプリス『て、天真先輩じゃないですか。奇遇ですね』 ガヴリール『ええ、タプリスも、ここによく来るのですか?』 タプリス『はい、結構来ていますけど、もしかして、先輩も?』 ガヴリール『そうですね、私も頻繁に利用しています』 タプリス『そうだったんですか、知りませんでした……』 ガヴリール『ふふっ』 タプリス『先輩? どうしました?』 ガヴリール『いえ、こうやって、会う約束をしていないのに』 ガヴリール『自然と会ってしまうのって、なんだか良いなって』 タプリス『そうですね。偶然とはいえ、お会いできるなんて』 タプリス『わたしも嬉しいですっ』 ガヴリール『そうだ、タプリスのおすすめの本を教えてもらえませんか?』 タプリス『わたしのおすすめ、ですか?』 ガヴリール『ええ、普段タプリスがどんな本を読んでいるのか、知りたくて』 タプリス『えっと……笑わないでくださいね?』 ガヴリール『笑ったりなんかしませんよ』 ――――――――――――――――――(04/25)―――――――――――――――――― ガヴリール『童話、ですか。いいですね』 タプリス『はい、昔から好きなんです。特に女の子が、色んな場所へ旅する物語が』 タプリス『この年になっても読み続けてるなんて、恥ずかしいかもしれませんけど』 ガヴリール『恥ずかしいだなんて、そんなこと、絶対ありませんよ』 タプリス『そ、そうですかね』 ガヴリール『童話には、人としてどう生きるべきかの教訓が』 ガヴリール『たくさん詰まってますから』 タプリス『そこまで深くは考えたこと……なかったです』 ガヴリール『そうですか? でも、自分が知らないうちに、きっと学んでいるはずですよ』 ガヴリール『何か落ち込むようなことがあったとしても、好きな本を読んでいると』 ガヴリール『勇気や元気をもらえたり、しますよね?』 タプリス『は、はい、わかります! それは、何度もありました!』 ガヴリール『であれば、ちゃんとタプリスは学んでいるんです』ニコッ タプリス『先輩……、ありがとうございます』 タプリス『そんなふうに言ってもらえたのは、わたし、初めてです』 ガヴリール『ふふっ、では改めて、タプリスの好きな本、教えてくれませんか?』 タプリス『はいっ、えっとですね……』 ―その日の晩 タプリスの家― タプリス『今日もたくさん、天真先輩とお話できました』 タプリス『わたしの好きな本、今頃、読んでくれてるかな……』 タプリス『明日、感想とか、いろいろお話できるのが、本当に楽しみです』 タプリス『……そうだ、わたしも前に借りた本、読まないと』 タプリス『ああ、でも今日はもう眠いですね、続きは明日にしましょうか』 タプリス『……おやすみなさい』 ――――――――――――――――――(05/25)―――――――――――――――――― ―朝 タプリスの家― ピピピピピッ カチッ タプリス「……朝、ですね」 タプリス「学校、行かないと」 ―― タプリス「ハンカチよし、鍵よし……」 タプリス「前髪は……よしっと」スッ タプリス「いってきます」 ―朝のHR 学校 タプリスの教室― 担任「今日は10人欠席だ。風邪が流行ってるから、皆も注意するように」 タプリス(昨日よりも、さらに増えましたね……) タプリス(先輩たちは大丈夫でしょうか) ―お昼休み ガヴリールの教室― サターニャ「ガヴリール達なら、体調不良で休みよ」 タプリス「え、月乃瀬先輩と白羽先輩もですか?」 サターニャ「ええ。まぁ、ガヴリールはズル休みかもしれないけどね」 タプリス「うちのクラスでも風邪が流行ってて、結構お休みの人が多いんです」 タプリス「もう夏になるっていうのに、珍しいですよね」 サターニャ「まぁ、この大悪魔であるサタニキア様は、風邪なんかに負けないけどね!」 タプリス「あははは……」 ――――――――――――――――――(06/25)―――――――――――――――――― ―ヴィーネの家― ヴィーネ「来てくれてありがとうね、タプちゃん。ごほっ……ゴホゴホッ」 タプリス「いえ、気にしないでください。それより、お加減いかがですか?」 ヴィーネ「何日か前から、微熱と咳が続いてる感じね」 ヴィーネ「たぶん、風邪だと思う」 タプリス「そうですか……、天真先輩と白羽先輩もお休みらしいです」 ヴィーネ「ええ、そうみたいね。ガヴは、ほんとかどうか、わからないけど」 タプリス「……それでは、わたし、他の先輩たちのところにも行ってみたいと思います」 ヴィーネ「わかったわ、みんなによろしくね」 タプリス「はい、それでは失礼します」 ―その日の晩 タプリスの家― TV『現在、風邪が大流行しており、学級閉鎖になるところも増えて――』 ポチッ タプリス「どこの学校も、似たような感じみたいですね」 タプリス「でも、先輩たちだって、普通の風邪の症状みたいでしたし」 タプリス「すぐに良くなりますよね、きっと」 タプリス「……そうだ、あの本の続き、読まないと」 ―― タプリス「……あれ、もうこんな時間。面白くて、ついつい読み込んでしまいました」 タプリス「天真先輩も……この本の主人公のように、更生してくれたら良いんですけど」 タプリス「まぁ、難しいですかね……」 タプリス「それでは、今日はもう寝ましょうか」 タプリス「……おやすみなさい」 ――――――――――――――――――(07/25)―――――――――――――――――― ―朝 通学路― ガヴリール『タプリスが教えてくれた本、読みましたよ』 タプリス『……ど、どうでした?』 ガヴリール『とても優しさを感じられる良い本でした。私も大好きになりましたよ』 タプリス『本当ですか!? よかったぁ……』 ガヴリール『なんというかですね、読み進めているうちに』 ガヴリール『タプリスがどんなお顔をして、この本を読んでいるかが』 ガヴリール『目に浮かんできたんです』 タプリス『わたしが、ですか?』 ガヴリール『ええ。あ、ここで笑っただろうな、ここで泣いちゃっただろうな、って』 ガヴリール『この本をあなたが好きだって言った理由、わかった気がします』 タプリス『それは、すごく嬉しいですけど……少しだけ、恥ずかしいです』 ガヴリール『タプリス、今日の放課後、あなたのお家に寄っても良いですか?』 タプリス『え、もちろん、それは良いですけど』 ガヴリール『私のお気に入りの本を持ってきましたから』 ガヴリール『もしよかったら、一緒に読みたいなと思いまして』 タプリス『本当ですか!? ぜひ、読みたいです!』 ガヴリール『では、決まりですね』 ――――――――――――――――――(08/25)―――――――――――――――――― ―放課後 タプリスの家― ガヴリール『ちょうど西日が差し込んでますね、綺麗です』 タプリス『暑くないですか?』 ガヴリール『いえ、ちょうどよいですよ。では、早速ですが』 タプリス『ところで、一緒に読むと言ってましたけど、どのように……』 ガヴリール『それはもちろん……』 ―― タプリス(まさか、こんなに密着しながら並んで読むとは思いませんでした……) ガヴリール『私はもう、何度も読んでいますから』 ガヴリール『タプリスのペースで進めていいですからね』 タプリス『は、はい』 タプリス(こうやって、誰かと一緒に本を読むなんて、いつ以来でしょう) タプリス(子供の頃、お母さんに絵本を読んでもらった時、ですかね) ガヴリール『なんだか、新鮮でいいですね』 タプリス『新鮮、ですか?』 ガヴリール『タプリスが本を読むペースが、よくわかるので楽しいです』 タプリス『遅くないですかね?』 ガヴリール『いえ、ちょうど良すぎて、驚いています』 タプリス『そ、それなら、よかったです』 タプリス『……』 ガヴリール『……』 ぎゅぅ タプリス『……先輩?』 ガヴリール『……こういうのって、昔から憧れていたんです』 ――――――――――――――――――(09/25)―――――――――――――――――― ガヴリール『自分の大好きな本を、こうして、一緒に読んでくれる相手がいる』 ガヴリール『それはとても、幸せなことだと思うから』 タプリス『そうですね、わたしも』 タプリス『先輩にわたしの好きな本を読んでもらえて、嬉しかったです』 ガヴリール『……それなら、よかった』 ガヴリール『夕日が、沈んできましたね。一日がもう、終わってしまいます』 タプリス『先輩?』 ガヴリール『この時間が、ずっと続けばいいのに』 タプリス『そうですね。わたしも、そう、思います』 タプリス『先輩。もし、よかったらなんですけど……』 タプリス『この後も、一緒に本を読みませんか?』 ―その日の晩 タプリスの家― ガヴリール『それでは、もう遅いですし、そろそろ寝ましょうか』 タプリス『そうですね……、名残惜しいですけど』 タプリス『……わたし、最近、眠るのが少し怖いんです』 タプリス『夢の中で、なにか怖いことが起こっている気がして』 タプリス『起きても全く、思い出せないんですけど……』 ガヴリール『……そんなの、ただの夢ですよ。気にする必要なんて、ありません』 ぎゅぅ タプリス『先輩?』 ガヴリール『……タプリスには、私が付いてますから』 タプリス『ありがとうございます、先輩……、おやすみなさい』 ガヴリール『おやすみなさい、タプリス』 ――――――――――――――――――(10/25)―――――――――――――――――― ―朝 タプリスの家― ピピピピピッ カチッ タプリス「……朝、になっちゃいましたね」 タプリス「学校は……、ああ、学校閉鎖って連絡が来てましたっけ」 TV『原因不明の高熱を訴える患者が増大し、医療機関は――』 ポチッ タプリス「……先輩たちの様子を見に行かないと」 ―サターニャの家― サターニャ「ゴホッ、ゴホゴホッ、すまないわね」 タプリス「いえ、大丈夫です。あと何か、して欲しいこととか、ありますか?」 サターニャ「……メロンパンが食べたい」 タプリス「それは我慢してください……」 サターニャ「何よ、何でもって言ったじゃない! ゴホッ! ゴホッ!」 タプリス「あまり大声を出すと、お体に障りますよ」 サターニャ「情けないわ、まさか私がこんなになるなんて」 タプリス「胡桃沢先輩はまだ、軽い方ですよ」 タプリス「他の先輩方はもう……、歩くのも厳しい方もいますから」 サターニャ「そうなの。それにしても、一番ナヨナヨしてるあんたが元気とは」 サターニャ「わからないものね」 タプリス「ナヨナヨって……」 サターニャ「だったら、こんなところにいないで」 サターニャ「他のみんなのところに、行ってやってちょうだい」 タプリス「わ、わかりました。それでは、失礼しますね」 ――――――――――――――――――(11/25)―――――――――――――――――― ―その日の晩 タプリスの家― タプリス「みなさんのお家を回ってたら、すっかり遅くなってしまいました」 タプリス「さすがに少し、疲れましたね」 タプリス(……でも、どうして) タプリス(先輩方はみな、原因不明の高熱を出してしまっていて) タプリス(クラスのほとんどの人も、お休みしてしまっているのに) タプリス(わたしだけ平気なのでしょう) タプリス(昔から特別、病気に強い体では、なかった気がするんですけど) タプリス「……考えても仕方ありませんね」 タプリス「今日も、あの本を、読みましょうか」 ―― パタンッ タプリス「やっぱりいいですね、この物語……」 タプリス「夕日が差し込む部屋で、一緒に読書とか、たまりません」 タプリス「いけない、もうこんな時間。そろそろ寝ないと……」 タプリス「早く、こちらのみなさんも、元気になりますように」 タプリス「ん……? こちらの? って、わたし、何言って……」 タプリス「わたしも、疲れてるのかもしれませんね」 タプリス「もうこれ以上、みなさんの具合が悪くなるのは……、つらいです」 タプリス「……おやすみなさい」 ――――――――――――――――――(12/25)―――――――――――――――――― ―お昼休み 学校の屋上― サターニャ『ほら、いつぞやのお礼のメロンパンよ!』 ガヴリール『すごい数のメロンパンですね……』 ヴィーネ『こんなの、食べきれるはずないじゃない!』 ラフィエル『あらあら』 タプリス『でも、せっかく胡桃沢先輩が持ってきてくれたんですから!』 ガヴリール『では、いただきます』モグモグ サターニャ『ど、どうよ』 ガヴリール『おいしいです、サターニャさん。とっても』 サターニャ『そう、私が用意したんだから、当然よ!』 タプリス『さすがメロンパン通の胡桃沢先輩ですね』 ヴィーネ『それしか、取り柄がないけどね』 サターニャ『だから、そんなことないってば!』 みんな『あははははっ』 ―放課後 ガヴリールの教室― タプリス『お邪魔……します』 ガヴリール『あら、タプリス。いらっしゃい』 ガヴリール『そうだ、今日この後、予定とかありますか?』 タプリス『えっと、今日は……』 ラフィエル『ごめんなさい、ガヴちゃん。今日、タプちゃんは私と予定がありまして』 タプリス『え? 白羽先輩……?』 ガヴリール『そうですか、残念です』 ラフィエル『では、タプちゃん。行きましょうか』 タプリス『えっ、えっ?』 ――――――――――――――――――(13/25)―――――――――――――――――― ―タプリスの家― TV『現在、舞天市では、行方不明者が続出しており――』 ポチッ タプリス『行方不明だなんて、怖い話ですね……、犯罪でなければよいのですが』 ラフィエル『……おそらく、そろそろ限界ということでしょう』 タプリス『限界?』 ラフィエル『そして……なるほど、この本が引き金になったんですね』 タプリス『白羽先輩、何を言って……』 ラフィエル『タプちゃん、私は今から、あなたの前から消えますね』 ラフィエル『この本に、私が触れることで』 タプリス『えっ?』 ラフィエル『それが本来あるべき姿、ですから』 タプリス『い、言っている意味がよく……』 ラフィエル『もう薄々、わかっているんじゃないですか?』 タプリス『……』 ラフィエル『タプちゃん。向こうの私に会ってください』 ラフィエル『会って、よろしくお伝えくださいね』 タプリス『せ、先輩、待って――』 スッ シュゥゥゥ ―その日の晩 タプリスの家― タプリス『向こうの白羽先輩って、いったい……』 タプリス『よくわからないことだらけです……、もう、寝ましょう』 タプリス『……おやすみなさい』 ――――――――――――――――――(14/25)―――――――――――――――――― ―朝 タプリスの家― ピピピピピッ カチッ タプリス「……朝、ですね」 TV『以前より発生していた、原因不明の高熱患者は徐々に減少し――』 ポチッ タプリス「……」 タプリス「白羽先輩のところへ、行きましょうか」 ―ラフィエルの家― ラフィエル「いらっしゃい、タプちゃん」 タプリス「し、白羽先輩、具合の方は……」 ラフィエル「ええ、もうすっかりよくなりました。すぐにでも、学校へ行けるほどです」 タプリス「それはよかったです!」 ラフィエル「それよりも、タプちゃん。その本は……」 タプリス「これは、白羽先輩に見ていただきたくて、持ってきたんです」 ラフィエル「もしかして……魔導書、ですか?」 タプリス「そ、そうなんですか?」 ラフィエル「ほとんど魔力は残っていないみたいですけど……」 ラフィエル「キャパシティ自体は、大した代物ですね。では、肝心の魔力はどこに……」 タプリス「おそらく、ですけど……その膨大な魔力がどこで使われたのか」 タプリス「わたしに、心当たりがあります」 ラフィエル「……詳しく、お話してもらえますか?」 ――――――――――――――――――(15/25)―――――――――――――――――― ラフィエル「今のタプちゃんのお話からの推測ですが……」 ラフィエル「タプちゃんの願いと、本に蓄えられていた魔力が合わさり」 ラフィエル「現実の世界とそっくりの、鏡の世界が構成されてしまった、と」 タプリス「はい……、おそらくわたしは」 タプリス「夜に眠ると、そちらの世界へ行くことができるみたいです」 ラフィエル「ですが、次第に現実の世界の人々が」 ラフィエル「病に伏せるようになってしまったことから」 ラフィエル「鏡の世界の人の維持には、現実の世界と同じ人の精気が」 ラフィエル「必要だったようですね」 ラフィエル「だから、鏡の世界で存在が消えた人は、現実の世界で寛解した」 タプリス「なるほど……、そんなことが起きて……」 タプリス「だとしたら、わたしはとんでもないことを……」 ラフィエル「いえ、これは一種の事故のようなものです」 ラフィエル「タプちゃんが気にすることはありませんよ。幸い、死者は出ていません」 ラフィエル「このまま、本の魔力が尽きれば、ゆっくりと鏡の世界は消えていくでしょう」 タプリス「そうですか……で、でも……」 ラフィエル「どうしました?」 タプリス「い、いえ、何でもありません……」 タプリス(そうだとしたら……) タプリス(わたしはもう、あちらの天真先輩とは会えないんでしょうか……) ――――――――――――――――――(16/25)―――――――――――――――――― ―数日後の放課後 学校 ガヴリールの教室― サターニャ「やっと、体が本調子になってきたわ」 ヴィーネ「ええ、クラスのみんなもほとんど、復帰したみたいだしね」 タプリス「みなさんが元気になられて、よかったです」 ラフィエル「でも、ガヴちゃんが、まだ来ていませんね」 サターニャ「どうせまた、ズル休みじゃないの?」 ラフィエル「……まさか」 ヴィーネ「どうしたの、ラフィ」 ラフィエル「タ、タプちゃん、付いてきてください!」 タプリス「えっ、あ、はい!」 ―ガヴリールの家― ガヴリール「はぁ……はぁ……」 タプリス「天真先輩! だ、大丈夫ですか!」 ラフィエル「危険な状態ですね……、ガヴちゃんの精気がほとんど残っていません」 タプリス「ど、どうして。他の方は、もう治ったのに」 ラフィエル「もしかすると、鏡の世界のガヴちゃんが……」 ラフィエル「消滅を拒んでいるから、かもしれません」 タプリス「……ッ」 ラフィエル「このままでは、鏡の世界が消える前に……」 ラフィエル「ガヴちゃんの精気が尽きてしまいます」 タプリス「そんな、どうすれば……」 ガヴリール「大体……、事情は、飲み込めた……」 タプリス「せ、先輩、寝てないとダメです!」 ――――――――――――――――――(17/25)―――――――――――――――――― ガヴリール「……そんな、ワガママな私には」 ガヴリール「私自らが直接、触れないとダメってことだろ?」 ラフィエル「そうですね……、本に触れさせても、恐らく無駄でしょう」 タプリス「でも、直接なんて、どうやって……?」 ラフィエル「……では、みんなで川の字になって寝ましょうか」ニコッ タプリス「え? 白羽先輩?」 ラフィエル「もちろん、タプちゃんと手を繋ぎながら、ですよ?」 ガヴリール「まぁ、それが……、一番だな」 タプリス「わ、わかりました! よくわかりませんけど、わかりました!」 ぎゅっ ラフィエル「では、おやすみなさーい」 タプリス「お、おやすみなさい」 ガヴリール「……狭いし、苦しい」 ―――――― ―――― ―― ―ガヴリールの家― タプリス『ここは……天真先輩のお家? あ、綺麗なので向こうの、ですね!』 ラフィエル『そうみたいです、タプちゃん。無事、成功です』 タプリス『あ、白羽先輩! 天真先輩も!』 ガヴリール『……それで、もう一人の私ってどこだよ。家にいないってことは外か』 タプリス『そうですね、い、急いで探さないと!』 ラフィエル『ガヴちゃんは、私がおぶってあげますね?』 ガヴリール『……不本意だが、頼む、ラフィエル』 ――――――――――――――――――(18/25)―――――――――――――――――― ―住宅街― タプリス『空に、たくさんの色が混ざってます……』 タプリス『それと、ところどころに、虹色の穴のようなものが……』 ラフィエル『この鏡の世界が、崩壊しかけている証ですね』 ラフィエル『それとその穴、間違っても触れてはいけませんよ』 タプリス『ど、どうしてです?』 ラフィエル『おそらくそれは、どの世界にも属すことのない、次元の狭間』 ラフィエル『落ちたら一生、戻ってこれませんから』 タプリス『わ、わかりました……』 ガヴリール『それで、どこ探すんだよ。時間もあまりないぞ』 ラフィエル『そうですね……』 タプリス『……わたしに、心当たりがあります』 ―学校の図書館― タプリス『天真先輩……』 鏡ガヴリール『タプリス、ラフィ、それと……あなたは、もう一人の私?』 ラフィエル『なるほど。この世界では、ガヴちゃんだけが、昔の姿だったんですね』 ラフィエル『ということは……タプちゃんの願いというのは、これですか?』 タプリス『はい、おそらく……』 ラフィエル『これで辻褄が合いました。なぜガヴちゃんだけが、消滅しなかったのか』 ラフィエル『……この世界で自我を強く、持ちすぎてしまったのですね』 ラフィエル『だから、タプちゃんと過ごした、この世界を』 ラフィエル『去りたくなかった、といったところでしょうか』 鏡ガヴリール『……そのとおりですよ、ラフィ』 ――――――――――――――――――(19/25)―――――――――――――――――― 鏡ガヴリール『ここは、タプリスとの思い出の場所、ですから』 鏡ガヴリール『お互いの大切なものを、共有して、分かち合って』 鏡ガヴリール『私たちは、心の奥底から、繋がることができたんです』 鏡ガヴリール『ここだけは……私が守らないといけません』 鏡ガヴリール『だから私が、消えるわけには、いかないんです』 ガヴリール『……言いたいことは、それだけか』 鏡ガヴリール『……』 ガヴリール『大切な場所? 守らなきゃいけない?』 ガヴリール『それはお前が、命張ってやらないといけないことなのか?』 鏡ガヴリール『……そうです』 ガヴリール『本当にお前、私の一部なのか? そんなことも、わからないくせして』 鏡ガヴリール『な、なにを言って……』 ガヴリール『お前のいちばん大切なものは、なんだよ? この場所なのか?』 鏡ガヴリール『……そ、そう――』 ガヴリール『違うだろうが!』 鏡ガヴリール『……ッ』 ガヴリール『お前がいちばん大切にしないといけないのは……、こいつじゃないのか?』 タプリス『て、天真先輩……?』 ガヴリール『場所なんて……過去の思い出なんて、どうでもいいんだよ』 ガヴリール『大事なのは、これからこいつと……どうするか、じゃないのか?』 鏡ガヴリール『わ、私には……未来なんて……』 ガヴリール『……私が死んだら、お前も死ぬんだぞ?』 ガヴリール『お前は、こいつから、私たちを奪う気なのか?』 鏡ガヴリール『……ッ』 ――――――――――――――――――(20/25)―――――――――――――――――― 鏡ガヴリール『……わかり、ました』 ガヴリール『そうか』 鏡ガヴリール『ですが、少しだけ……五分だけ、時間をいただけないでしょうか?』 鏡ガヴリール『この子と、五分だけ……、どうか、お願いします……』 ガヴリール『……わかった。ラフィエル、外に出るぞ』 ラフィエル『は、はい』 バタンッ タプリス『……』 鏡ガヴリール『……ごめんなさい、みっともないところを見られてしまいましたね』 タプリス『い、いえ、そんな……』 鏡ガヴリール『まさか、自分自身に説教をされるとは思いませんでした』 タプリス『せ、先輩、わたし!』 鏡ガヴリール『ありがとうね、タプリス』 タプリス『えっ』 鏡ガヴリール『偽りの私に、かけがえのない思い出をくれて、どうもありがとう』 タプリス『……い、偽りなんかじゃないです、先輩は』 鏡ガヴリール『タプリス?』 タプリス『わたしがどれだけ、先輩のことを尊敬していたと思ってるんですか』 タプリス『今の先輩は紛れもなく、あのときの天真先輩そのものです』 鏡ガヴリール『そう……それなら、よかった』 鏡ガヴリール『私の大好きな本、また、読んでくれると嬉しい』 タプリス『……もう、数え切れないくらい、読みました』 タプリス『先輩が、どんなお顔をして読んでいるかが、目に浮かんでくるくらいですから』 タプリス『だから……これからも、たくさん、たくさん読みます』 鏡ガヴリール『そうですか……では、いつでも会えますね』ニコッ ――――――――――――――――――(21/25)―――――――――――――――――― ガヴリール『……時間だ。いくぞ』 鏡ガヴリール『みなさん、タプリスのこと、よろしくお願いします』 ラフィエル『ええ、任されました』 ガヴリール『……心配するな』 タプリス『先輩……ぐすっ……本当に、本当に、ありがとうございました』 タプリス『わたしの夢を叶えてくれて、ありがとう、ございました!』 鏡ガヴリール『……タプリス』 ぎゅぅぅ タプリス『あっ……』 鏡ガヴリール『また、会いましょうね』 タプリス『……はいっ』 パァァァァッ ガヴリール『……成功したか』 ラフィエル『これで、ガヴちゃんの精気の流出は、止まったはずです』 ラフィエル『あとは時間とともに、回復するでしょう』 ガヴリール『……タプリス、大丈夫か?』 タプリス『はい、わたしは大丈夫です』 タプリス『それより今回は、みなさんに、多大なご迷惑をおかけして……』 ガヴリール『お前の迷惑なんて、いつものことだろ』 タプリス『うぅ……』 ラフィエル『まぁ、そんなところもかわいいって、ガヴちゃんは言いたいんですよ』 タプリス『えっ?』 ガヴリール『……勝手に言ってろ』 ガヴリール『ほら、さっさと、帰るぞ』 タプリス『は、はい!』 ――――――――――――――――――(22/25)―――――――――――――――――― ―数週間後 ガヴリールの家― タプリス「天真先輩、またこんなに散らかして!」 タプリス「あっちの先輩だったら、こんな汚部屋、絶対に認めないですよ!」 ガヴリール「私はな、常に進化してるんだよ」 タプリス「そうやって、意味のわからないことで誤魔化そうとして……」 ガヴリール「というわけで、掃除、よろしく頼むわ」 タプリス「はぁ、もう……しょうがないですね」 タプリス「まずは棚の掃除から……って、あれ、この本は……」 タプリス(そうですよね、こっちの先輩が持っていたっておかしくないですよね) タプリス(昔好きだった本、ということですから) ぎゅぅ タプリス(天真先輩……) ガヴリール「どうしたんだ、本なんか抱えて」 タプリス「い、いえ、何でもないです」 ガヴリール「ああ、その本、まだあったのか」 タプリス「え、先輩もしかして、覚えて……」 ガヴリール「それ、もう読まないから処分していいぞ」 タプリス「はぁ!? な、何を言ってるんですか!」 ガヴリール「な、なんだよ、そんな大声出して……」 タプリス「信じられません! この本は、先輩の大好きな本なんですよ!」 ガヴリール「言っただろ、私は過去にとらわれない天使だって」 タプリス「聞いてませんし、言ってません!」 ――――――――――――――――――(23/25)―――――――――――――――――― ガヴリール「まぁいいや。じゃあ、私が処分するから、寄越せ」グイッ タプリス「ダメです! 捨てさせません!」グイッ ガヴリール「私の持ち物なんだから、どうしようと私の勝手だろ!」グイッグイッ タプリス「これだけは、絶対にダメなんですってばッ!」グイッグイッ スポンッ タプリス「あ」 ガヴリール「え?」 ヒュゥン ゴスッ ガヴリール「あがッ!!」 バタンッ タプリス「あわわ……、本の角が、先輩の頭に……」 ガヴリール「」 タプリス「せ、先輩、大丈夫ですか?」ユサユサ ガヴリール「……ん」 タプリス「よ、よかったぁ、無事だったんですね」 ガヴリール「……タ、タプリス?」 タプリス「はい?」 ぎゅぅぅ タプリス「せ、先輩? 急に抱きつくなんて……」カァァ ガヴリール「タプリス……また、会えて嬉しいです」 タプリス「えっ? ま、まさか……」 ガヴリール「ええ。そのまさか、です」 ――――――――――――――――――(24/25)―――――――――――――――――― ガヴリール「やっと、表に出ることができました」 タプリス「せ、先輩っ!」 ぎゅぅぅ タプリス「わたしも……わたしも、お会いしたかったです!」 ガヴリール「もうタプリスったら、くすぐったいです」 タプリス「でも、どうして急に出ることができたんですか?」 ガヴリール「もしかすると、あちらの私の意識が途絶えたから、ですかね」 タプリス「あははは……心当たり、大アリです」 ガヴリール「ですけど……、一日くらい、体を借りてもいいですよね」 タプリス「はい、大丈夫です! わたしが許可します!」 ガヴリール「ありがとう。それにしても、ひどい部屋ですね。私の格好も」 タプリス「これが、あっちの先輩のスタイルですから……」 ガヴリール「ですが、全て片付けてたら、それだけで一日が終わってしまいます」 ガヴリール「最低限だけ準備して、すぐに出発しますよ、タプリス」 タプリス「え、ど、どこにですか?」 ガヴリール「それはもちろん……図書館です」 ガヴリール「タプリスと読みたい本がですね、まだまだ、たくさんあるんですから」 タプリス「あ……えへへ、わたしも、です」 ガヴリール「さ、タプリス、行きましょうか」 タプリス「はいっ、天真先輩っ」 おしまい ――――――――――――――――――(25/25)―――――――――――――――――― SS一覧へ このページのトップへ 感想コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る
https://w.atwiki.jp/mushi/pages/171.html
俊ちゃんとは? 名前:俊ちゃん(しゅん-ちゃん) 通称:俊ちゃん 蟲との関係:いとこ 職業:車検屋 生年月日:不明 身長:不明 体重:不明 血液型:不明 星座:不明 女関係:これでも嫁持ち 結婚記念日:2008/11/08(土) 口癖:「蟲ちゃん、オンナ欲しいんでしょ?」 好きなスロット:4号機 嫌いなスロット:リンかけ 現在の進行状況:ハゲかけ 昔は蟲ともスロについて語りあった仲だがそれも4号機まで。 5号機になり、スロットから手を引いた「俊ちゃん」は、 あろう事か蟲の愛する「リングにかけろ」を口頭でクソ台扱い。 この発言を期に蟲とは険悪に。 それとはまた別の発言により事態は更に険悪になる。 ・・・が仲良し。 (イラスト:蟲) 車検屋俊ちゃん その1 蟲:2008/02/25(月) 21 27 09 つか今日 その俊ちゃんが職場に車を取りに来て、車検してくれたんだが、 ほんっとムカつくなぁコイツは!!! 今日の会話↓ 俊「蟲ちゃんさぁ、そろそろ新しい車に買い換えたら?」 俺「はぁ? 何でぞ、3年のローン組んで、240万も出して買ったんだぞ。」 俊「プッ。 もっと女にモテる車に乗らなきゃ。」 俺「ちょ、どういう意味だ! おりゃ あと10年はコレ乗るつもりだぞ!」 俊「まぁ蟲ちゃんがそれで良いなら、べつに良いけどさ。 フヒッ。」 俺「(カッチ~~~~ン!!)」 俊「ところでさぁ、今度コンパでも開いてあげよっか?」 俺「・・・何だって?(ピクッ)」 俊「いやぁ~、俺けっこう女友達多くてさぁ~。 どうよ?」 俺「・・・・。」 俊「・・・・?」 俺「・・・・要らねぇ。」 俊「えっ? 何で? オンナ欲しいんでしょ?」 俺「要らねぇ!! 俺は『ポリシー』でオンナ作らねーだけなんだよ!!!(ビキビキ)」 ・・・とか訳分からん負け惜しみをほざいて、俊ちゃんを追い返しました。 ああ、俺のバカぁ・・・(涙) 俊ちゃん監禁説 蟲:2008/07/14(月) 22 09 34 俺の親戚の俊ちゃんってヤツもな。 今の彼女(婚約者)と、ある真夜中にドライブに行ったんだと。 で、人里離れた山奥で、告白したんだと。 ・・・しかし結果は玉砕。 まぁ俺なら一瞬で諦めてる展開なんだが。 しかし俊ちゃんは諦めなかった。 「もし付き合ってくれないなら、このまま一生帰さねぇ!!」って。 一晩中拝み倒して、半泣きで懇願し続けたんだと。 そしたら朝方、ようやく「OK」と・・・。 まぁ結果的にはめでたしめでたしだけどさ。 そこまでしなきゃ彼女ってできないのか? 無理だよ・・・そんなん。 車検屋俊ちゃん その2 蟲:2008/12/11(木) 02 19 02 今日は待ちに待ったボーナス支給日♪ 相変わらず雀の涙だが、この不景気の中、貰えるだけでも有難いのかもしれない。 (つーか職場でオナる様なヤツがボーナス貰っても良いのだろうかw) さて早速このボーナスの使途を考えてみる。 まず最優先事項は、先日川スタの駐車場でドギャンとぶつけた愛車の修理。 左側面のエアロを新品に替えて、あとボディーのひび割れた箇所も直す。 それからタイヤの側面にもヒビが入ったから、後輪2本を新品に交換。 そして忘れてならないのが、オカンに立て替えてもらったままの、 俊ちゃんの結婚式時のご祝儀3万円。 それと3年前から ずーっと欲しかった、バーバリーのダウンジャケット(6万円)。 そんで残ったお金が、全てパチンコの軍資金となる。 まぁナンボ残るか分からんが、車の修理代が一番ネックだな。 どんぐらい掛かるか、俺には想像もつかん・・・。 という訳で、仕事帰りに早速俊ちゃんの所へ愛車を持って行き、見てもらう事に。 一通り点検してもらった後、俊ちゃんがポツリとつぶやいた。 俊「蟲ちゃん・・・結構がいに(※)ぶつけたな。」 (※:阿波弁で「凄い」の意) 俺「え゙っ・・・そうなん!? エアロだけ交換したら、ボディーの傷は大した事ないんじゃ・・・」 俺の言葉を遮るように、俊ちゃんはベゴンとエアロを外す。 するとエアロの下には、バキバキに割れた、悲惨なボディーが・・・ orz 俊「こりゃあ結構掛かるな。 エアロの新品が3万として、後は板金屋で3万+α。」 俺「ぐはぁ、そんな殺生なっ!!(涙)」 俊ちゃんは溜める様にして こう切り出した。 俊「さて・・・蟲ちゃんには2つの選択肢がある。」 俺「!?」 俊「その①。 6万出して、エアロを新品にして、ボディーも綺麗に直す。」 俺「ぐっ・・・!」 俊「その②。 応急処置で塗装だけ塗って、見て見ぬフリする。 そして余った金でパチンコを打つ。」 俺「②でお願いします!!(即答)」 優柔不断な俺にしては珍しく、0.2秒での決断であった。 まぁ今すぐ錆びたり壊れたりしないらしいし、俺さえ気にしなければ、問題ナッシングらしい。 フッ。そもそも俺の車の助手席に、女の子が乗る事もないからな・・・(哀) そんな訳で、何か分からん洗浄液やら塗料やらで、目立ちにくい様カモフラージュしてもらう。 僅か30分にして、応急処置完・了!! 俺「ありがとな! んで、代金だけど・・・」 俊「要らんよw 浮いた金で、北斗でもリンかけでも、今から打ちに行ってきない。」 俺「ちょぉぉおお!!(涙) お前けっこう良いヤツだな! 恩に着るぜ!!」 俊「ほな頑張って~。」 かくして いきなりボヌスがブッ飛びそうな危機を、何とか-0円で回避!! タイヤ2本の注文だけして、俊ちゃんの職場を後にする。 うーむ、やっぱ持つべきものは修理工のいとこだな!! まぁ愛車の塗装がハゲてきたら可哀想だが、車の主もハゲかけだしな!プハハ!w あ~ホント助かった。 今日ほど彼女居なくて良かったと思った日は無いぜ! わはははは!w こうして一点の迷いもなく 鴨ミリへ向かう、人生の負け組パチンカー・蟲なのであった・・・。
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/281.html
第24話『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。空が荒れる日――』 風が止んだ。 強い日もある。弱い日もある。 でも、まるで空気が動かない日なんて、いつ以来だか思い出すこともできない。 燦然と輝く太陽。しかし、時折、通り過ぎる暗雲が大地に影を落とす。 上空では、緩やかな風が流れているのだろう。 白い雲は高く、黒い雲は低く、高低差のある雲が別々の速さで移動する。 二色の雲の隙間から、光の筋が後光となって十字に走る。 畏敬すら感じる雄大な空の景観。初めて見る空の異変に、せつなは本能的な恐怖を感じていた。 「せつな、どうしたの? 急がないと遅刻しちゃうよ?」 「ええ、ごめんなさい。ねえ、ラブ。台風の前っていつもこうなの?」 「う~ん、よくわからないよ。あたしは雷が鳴らない限りは気にしないし」 「雷も怖いけど、もっと良くないことが起こりそうな気がするの……」 授業が始まっても、せつなは空模様の移り変わりが気になって、ずっと窓ばかり見ていた。 それは他の生徒も同じようで、先生も特に注意しようとしない。 不自然なくらい静かだった外の様子が変わっていく。 再び風が吹き始め、上空の青空を包むように、南から本格的に厚い雲が押し寄せる。 パラパラと小雨が振り出した時点で授業は中断され、昼を待たずして全校生徒は帰宅を命じられた。 「あ~あ、今日の給食楽しみだったのにな」 「もう、ラブったら。それどころじゃないでしょ?」 せつなが、普段とは表情の違う商店街を眺めながらたしなめる。 人々の笑顔と、幸せが集まる場所。それがクローバータウンストリートだった。 道を歩いているだけでお店の人から声をかけられたり、挨拶したり。買い物する人、散歩する人で賑わって。 そんな喧騒は鳴りを潜め、シャッターを閉じた店舗ばかりが並び、閑散とした雰囲気が漂う。 「開いてるのは、日用品と食料品のお店だけね」 「うん、おかあさんは遅くなるって言ってたね。水とかがよく売れるからって」 流石に、ラブも不安そうに街の様子を見渡す。 台風は、毎年、必ずと言っていいほどやって来る。でも、今回は超大型と呼ばれる規模の大きいものだった。 大事な街、大切なお店の数々。二人で空を見上げながら、大きな被害が出ないことを祈った。 『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。空が荒れる日――』 桃園家の庭で庭木の支柱を立てていた圭太郎が、手を止めて帰宅したラブとせつなを迎える。 既にアンテナの補強を済ませ、ゴミ箱や鉢植え等も、全て家の中に移してあった。 「お帰り。ラブ、せっちゃん」 「ただいま、おとうさん」 「おとうさん、お仕事じゃなかったの?」 「お母さんから連絡があってな、早引きして帰ってきたんだ」 「そっか、予報よりも早く荒れそうだもんね」 「私も何か手伝うわ」 庭の手入れや大工仕事は圭太郎に任せて、ラブとせつなは溝と排水溝の掃除を受け持った。 準備の遅れている近所の家の手伝いもしていたら、あっという間に夕方になった。 既に空は分厚い雲に覆われていて、太陽なんてどこにも見えない。 それなのに、空が赤い。 夕日とは異なる光景。一面に広がる雲が、絵の具でも落としたかのように真っ赤に染まっていた。 「明日が本番らしいが、今夜から荒れるかもしれないな。ラブとせっちゃんはもう家の中に入っておくんだ」 「おとうさんはどうするの?」 「僕は今からお母さんを迎えに行く。そろそろ終わる時間だろう」 「あたしも行こうか?」 「私も行くわ」 「ありがとう。でも、まだ風も雨も弱いから大丈夫だ」 圭太郎を見送ってから、ラブとせつなは万一に備えた避難用具をカバンに詰めていく。 懐中電灯・ローソク・マッチ・携帯ラジオ・予備の乾電池・救急薬品・衣料品・非常用食料・携帯ボンベ式コンロ。 全部入れたら、ちょうど大きなカバン四つになった。 「こうしてみると、なんだか旅行の準備みたいだね」 「そうね、役に立たないといいのだけど……」 空の色が赤から黒に変わってきた頃、あゆみと圭太郎が帰宅した。 外の雨はますます激しくなっていて、二人ともレインコートを羽織っていた。 「ただいま。ラブ、せっちゃん」 「遅くなってしまったよ」 『おかえりなさい!!』 家族が揃ったことで、ようやくせつなにも笑顔が戻る。 あゆみの買ってきた食材で、三人で夕飯を作ることにした。 「今日はゴーヤと、じゃがいもを買ってきたのよ」 「どうしてゴーヤなの?」 「沖縄から上陸するから、そこの食材を縁起を担いで食べるといいらしいの」 「じゃがいもは何に使うのかしら?」 「台風の日は、なぜかコロッケがよく売れるのよね。だからコロッケも作っちゃいましょう」 「うん。なら、それは私に任せて!」 「あたしはゴーヤチャンプルを作るよ」 「あらあら、じゃあわたしはお吸い物でも作ろうかしら」 普段通りの楽しい夕ご飯。こんな時でも、家族が揃っていれば不思議と安心できる。 話題は主に台風のお話だったけど、三人とも、不安を煽らないように冗談を交えて聞かせてくれた。 「僕が子どもの頃は、台風が来ると、なんだかワクワクして楽しかったな」 「お父さんは、学校が休みになるのが嬉しかったんでしょ?」 「ははは、それもあるなあ」 「えぇ~信じられない。学校に行けないと寂しいじゃない!」 「そんなことよりも、街が壊れちゃわないか心配だわ」 「わたしの父、おじいちゃんはね、台風の日でも仕事してたわ」 「畳職人だったのよね?」 「ええ。『この家も職人の手によるものだ、滅多なことじゃビクともしねえ』ってね」 小さな台風なら、せつなも昨年に経験している。しかし、それは直撃もしておらず、大きな被害もなかった。 今回は規模が違う。書籍やテレビで、台風の本来の破壊力を知ってしまった。この街にも、同じことが起こるかもしれない。 青い顔をしているせつなを心配して、食事が終わっても四人は一緒に過ごした。 テレビを見ながら、みんなで体を寄せ合うようにして居間で過ごす。 ラブはせつなが小刻みに震えているのを見て、そっと、自分の掌をせつなの手の上に重ねた。 「せつな、怖いの?」 「うん。空が荒れるなんて、私には馴染みのないことだから……」 「そっか、ラビリンスじゃ天候すら管理されてたんだよね」 「信じがたい話だなあ……」 「安心だけど、それも寂しい気もするわね」 「私も、天気は決まってない方が好きよ。でも、自然は優しいだけじゃないのね」 「心配いらないよ! あたしがついてるじゃない!」 「わたしも頼ってもらわなくちゃ」 「僕が補強したんだから、絶対に大丈夫だ」 「うん、ありがとう」 せつなは努めて笑顔を作る。でも、不安は晴れなかった。 せつなが心配しているのは、自分のことではなくて、この家のことだけでもなくて―― 大好きなこの街が、壊れてしまうことだったのだから。 天と地を貫く眩い閃光。 月の光もなく、星が輝くこともない、 暗く、深い、漆黒の闇を、一瞬にして白く照らし出す雷光。 大量の雨粒が地表に叩きつけられる騒音の中にあって、一層の存在感を持って轟き渡る雷鳴。 この世界では古来より「神鳴り」と恐れられた、大自然の脅威の一つ。 「なのはわかるんだけど……ちょっと脅えすぎよ? ラブ」 「いや、だって怖いよ? って、キャアァァ――!!」 「はぁ~、それじゃ自分のベッドには戻れそうにないわね。しょうがないから一緒に寝ましょう」 「えへへ、やったね!」 雷の被害にあって命を失う確率は、一億分の一とも言われている。 ある意味、もっとも被害の少ない自然災害なのだが、ラブの言うには危険だから怖いわけではないらしい。 「キャアァァ――!!」 「はいはい、大丈夫よ」 先ほどとは、まるで正反対。せつなは、脅えてしがみ付くラブの背中をさすりながらクスリと笑った。 この様子では、朝まで寝かせてもらえないかもしれないと。 不思議なことに、そんな頼りないラブの体温を感じていると、さっきまで恐れていた台風の不安も薄らいでいくのだった。 雷が止んだのは、深夜遅くになってからだった。そこで、やっとラブが眠りに付く。 しかし、その後も暴風雨は容赦なく襲いかかる。 窓を叩く雨の音によってせつなが目を覚ましたのは、本来なら学校に遅刻してしまうような時間だった。 「ラブ、起きて。もうこんな時間よ」 「うう~ん? まだ暗いよ?」 「暗いのは厚い雲が空を覆っているからよ。風も昨日にも増して強いわ」 「どれどれ……。キャッ!」 外の様子を確認しようとしたラブが、慌てて窓を閉める。 突風と、それによって運ばれた雨が、ラブのパジャマを容赦なく濡らした。 「これは、確認するまでもないね。今日も学校は休みだよ」 「それはわかるけど、商店街や学校は大丈夫かしら?」 朝だというのに外に光はなく、まるで夜のように暗い。 真っ黒な厚い雲が、空を一面に覆う。微かに東の空が赤いのが、朝日の残滓なのだろう。 空は変化がないように見えて、よく目を凝らせば、雨雲がかなりの速度で移動しているのがわかる。 秋の高い空とは対照的に、厚い雨雲は地上に降りようとしているかのように、威圧感を伴って低く低く漂う。 「なんだか、雲が落ちてきそうで怖いわね」 「バケツをひっくり返したような大雨も、この雲から生まれてるんだよね。だから重たいのかな?」 「クスッ、確かにこれだけの雨を降らせる雲が、空に浮かんでいるのは不思議ね」 「こんなに強い風が吹いてるんだもん、雲なんてビュンって飛ばされちゃいそうなのにね」 せつなにとって、この世界の出来事は常に驚きと発見に満ちている。 ラブもそんなせつなと共に過ごすことで、多感な感性が更に敏感になっていた。 これまでなら、静かに通り過ぎるのを待つだけの台風にも、こうしてあれこれと想いを巡らせる。 雲は、大気中にかたまって浮かぶ水滴や氷の粒で構成されているらしい。 高度も大きさもバラバラだが、質量など無いに等しいだろう。本質的には霧と全く同じものなのだとか。 そんなものが台風の風圧にも散り散りにされず、地上に洪水をもたらすほどの大雨を降らせ、木々をなぎ倒す落雷をも発生させる。 なんて神秘的な存在なのだろうと思う。あらためて、祖国ラビリンスが失ったものの大きさを知る。 「ラブ~、せっちゃん~、朝ご飯ができたわよ」 『は~い!!』 食卓には圭太郎が先に座っていて、珍しく新聞を広げていた。行儀が悪いとあゆみに注意される。 頭をかきながら、ラブとせつなに気が付いて挨拶をした。二人も笑って返事をする。きっと、台風の被害が気になるのだろう。 暴風警報で、当然のように学校は自宅待機。一部の地域では避難勧告も出ているらしい。圭太郎とあゆみの仕事も休みになった。 テレビのニュースでは、屋根の一部がはがされたり、自宅の一部が水没したりと、痛々しい報道が続く。 その都度、せつなの表情は曇っていく。何もできないとしても、ここでじっとはしていられない。そんな気がしてくる。 「おかあさん。私、食事が済んだら外の様子を見てくる」 「ダメです!」 「危ないことはしないわ! テレビじゃこの辺りは映らないもの。ちょっと見に行くだけだから」 「ダメと言ったら、ダメよ。外に出ると危ないからお休みなのよ」 「でもっ!」 「せつな。あたしたちは、あたしたちにできることをしようよ」 「私たちにできることって?」 「えっと、トランプ遊びとか、録画しておいた映画を観るとか」 「…………」 「あはは。ダメ……かな?」 「せっちゃん、自然に対して人が出来ることはないの。それよりもラブの勉強を見てあげて」 「わかったわ、おかあさん。ラブ、今日の私は特別に厳しいわよ?」 「お手柔らかにお願いします……」 昼過ぎになって、更に台風は勢いを強めた。まるで地震でも起きたかのように家が揺れ、ミシミシと軋みを上げる。 圭太郎とあゆみはそれでも落ち着いていて、「大丈夫よ」と微笑んだ。 結局、勉強の後は本当にトランプで遊んだり、映画を観たりして過ごした。ただし、あゆみと圭太郎も一緒に。 家族四人でお出かけすることはあっても、こうして一日中家で一緒に過ごすのは初めてだった。 せつなは不謹慎だと思いつつも、子どもの頃は台風が楽しみだったと言った、圭太郎の気持ちが少しだけわかるような気がした。 台風のような非日常でしか、得られない時間がある。そして、発見があるのだと。 暴風雨は、強くなったり、弱くなったりを繰り返しながら、深夜まで続いた。 流石に慣れてきたのと、やっぱり緊張が続いて疲れていたのだろう。その日はみんな早く布団に入って、ぐっすりと眠った。 「なに……これ?」 昨日とはまるで別世界。どこまでも青く澄み渡る空は、かつて見たこともないくらいに美しかった。 これが――台風一過。台風が過ぎ去った後、清清しい天候になること。 でも、せつなには、そんな空を楽しむ心の余裕なんてなかった。 「ひどい……。ずいぶんやられちゃったね」 「こんなのって……」 「せつな?」 「こんなのって、こんなのってないわっ!」 支柱を立てたにも関わらず、大きく二つに折れた庭の木。 建物の一部が損壊し、あちこちで看板や旗が引き千切られた商店街。 なぎ倒されて、へしゃげた駅前の自転車の山。ブロック塀ごと倒れてしまった学校のフェンス。 休日で生徒の居ない校庭では、数人の教師がゴミの回収作業に追われる。 四つ葉公園の美しい紅葉は、見る影も無いほどに葉が散って、剥き出しのハダカの枝が痛々しく連なる。 真っ赤な絨毯と感じていた落ち葉は、風で飛ばされて四方八方に散乱する。もはや、秋の風情の欠片も感じられない。 「自然は、美しくて、優しくて、心を豊かにしてくれるものじゃなかったの?」 肌を撫でる爽やかな秋風ですら、今のせつなには暴風の名残のように思えて憎らしかった。 街中を駆け回って、クタクタになった先にたどり着いたのは、先日、写生会でモチーフにした四つ葉公園の湖の畔だった。 無残に散った葉っぱは、風に散らされて水面を覆う。 ロープで繋がれていたであろう数隻のスワンボートは、湖の中央で転覆していた。 「帰らなきゃ。きっと、みんな心配してる……」 フラフラと、せつなは歩き始める。 一つ一つの被害なら、かつてのラビリンスの襲撃ほどではないだろう。 でも、ここまで広範囲に、一度に何もかも滅茶苦茶にするなんて。そんな暴力がこの世界にあるだなんて、認めたくなかった。 どの道を通って帰ってきたのか、自分でもわからない。ふと気が付けば、せつなは商店街に戻ってきていた。 なるべく、足元しか見ないように歩いてきたからだ。 目の前には駄菓子屋さんがある。お婆さんが低いキャタツに乗って、壊れた日除けを外そうとしていた。 「おばあさん。それ、私にやらせてください」 「おや、せつなちゃんかい。助かるよ」 その後も、一通りの掃除や後片付けを手伝った。 全てを終えて帰ろうとするせつなを、お婆さんが引き止める。 「お待ち、疲れたろう? そんな時は甘いお菓子が一番さね」 「でも……」 「いいから、お上がり。そんな顔をしてる娘を放っておけるもんかい」 話したいことがあるからと、強引に店の中に押し込まれる。 ちゃぶ台の前で正座するせつなに、熱い緑茶とお店のお菓子が振舞われた。 「泣きそうな顔をしてたよ。何かあったのかい?」 「何かって……。何もなかった場所なんて、どこにもなかったわ」 「そうだね。起きちまったことは、クヨクヨしたって始まらない。そうは思わないかい?」 「ラビリンスなら……。ラビリンスの科学力なら、台風だって押さえ込める。天災なんて失くすことができる」 「そういや、お前さんはプリキュアの一人だったね。でも、あたしはそんなの御免だね」 「どうしてですか? こんなに酷い目にあったのに」 「人間ってのは傲慢な生き物でね。どんなに幸せに恵まれたって、すぐに慣れちまって感謝の気持ちを失ってしまう。 だから、時々こうやってガツンと神様に叱ってもらう必要があるんだよ」 「この街の人たちは、叱られるようなことなんてしてないわ!」 「まあ高いところにいる神様にゃ、良い人悪い人なんて区別は付かないのかもしれないね」 「だったら、そんな神様なんていらないわっ!」 「要るんだよ。自然を畏れて、その恵みに感謝する心。それを失わないためにはね」 珍しく饒舌なお婆さんの言葉に、せつなは黙って耳を傾ける。 人間は自然の一部であり、自然を排除するのではなくて、共存してその力を借りることで発展してきた。 信仰や宗教、祭りや儀礼、詩歌や踊り、絵画や彫刻、住まいやエネルギー。せつなが愛する、この街の全てもまた、自然から生まれたのだと。 自然の力に「八百万の神々」を感じ、畏れ敬い、感謝と謙虚の心を持って、自然と共に生きていく。 その心を失った時、人もまた、人間らしさを失うのだと。 「夜があるから夜明けもあるんだよ。壊れやすいものだからこそ、大切にしたいと願うのさ」 「でも、取り返しの付かないものを失う人もいるはずよ」 「取り返しの付くものなんて、そうそうありはしないよ。だからこそ、人は支え合うんじゃないのかい?」 「だけど……だけど……。こんなの、悲しいものっ!」 お婆さんは一度話を切って、お茶の代わりを淹れる。せつなが落ち着くのを待って、再びゆっくりと話し出す。 「あたしだって、天災を歓迎してるわけじゃない。悲しい時は泣くといい。でも、それが済んだらもう一度街を見てごらん」 「もう、十分に見たわ……」 「いいから、ごらん」 せつなは再び外に出る。そこには、朝とは比べ物にならないくらいの人々が集まっていた。 それぞれ壊れた家を直したり、掃除や片付けをしたり。 それは、たった今、せつなもやっていたこと。ただ、一つ違うのは―― みんな、笑顔で取組んでいることだった。 「よっ、婆さん。壊れた日除けの代わりを持ってきてやったぞ」 「ありがとうよ。お礼に好きなお菓子を持って行っておくれ」 「馬鹿言わないでくれよ、とても釣り合うもんじゃねえよ。でもまあ、今日は大サービスだ」 被害の小さかった者は、大きかった者を助ける。助ける方も、助けられる方も、瞳に強い意思の力が宿っていた。 「どうして? こんなに滅茶苦茶になったのに」 「到底、立て直せないとでも思ったかい? まあ、一人じゃ無理だろうけどね」 「悲しいって気持ちを、悔しいって気持ちに変えて頑張るのさ。いつか、楽しいって気持ちに変わるまでね」 「一人じゃないから? そうね、一人で直すわけじゃないのよね」 「おじさま、私にも何かやらせてください!」 せつなは、日除けの取り付けの手伝いを申し出る。それが終わったら、他のお店の手伝いに回るつもりだった。 明るい表情で作業に取り掛かるせつなを、お婆さんは眩しそうに見つめてつぶやく。 「納得なんてしなくていいのさ、まだ若いんだからね。でも、あたしはこの歳になって思うんだよ。 幸せなだけの世界なんて、不幸なだけの世界と、なんの違いもありはしないってね。 望まなくたって、不幸は必ずやってくる。だから、幸せに向って精一杯頑張るんだよ」 笑顔を振りまきながら修繕を手伝うせつなの元に、三人の少女が駆け寄る。 「見つけたっ! せつな、心配したんだよ!」 「ごめんなさい、ラブ。私、今日一日、ううん、落ち着くまで、みんなの手伝いをするって決めたの」 「そっか。じゃあ、あたしも一緒にやるよ!」 「しょうがないわね。今日は仕事の予定もないし、アタシも手伝うわ」 「わたしの家は大丈夫だったから、一緒にやらせて」 若い娘たちが懸命に働く姿を見て、周囲の大人たちもやる気を漲らせる。 負けてはいられないと思ったのだろうか? いつの間にか、四つ葉中学の生徒や、他校の学生たちまで参加していた。 せつなには、お婆さんの呟きがちゃんと聞こえていた。 その意味は半分も理解できなかったけど、一つだけ確信が持てたことがある。 きっとこの街は、前よりもっと、もっと素敵な街として甦るって。 美しく澄み渡る青空は、そんなせつなたちを優しく見守っていた。
https://w.atwiki.jp/sousakurobo/pages/632.html
むかしむかしあるところに、一条 遥という年齢の割に小さな、可愛い女の子がいました。女の子は赤い頭巾が似合っていたので、みんなから赤ずきんと呼ばれていました。 ある日、お母さんが赤ずきんに言いました。 「おばあちゃんの家までケーキと葡萄酒を持って行ってちょうだい。道に迷わないように気をつけるのよ」 「大丈夫、まかせて!」 赤ずきんはお母さんと指切りをして、家を飛び出しました。 ♪ ♪ ♪ 赤ずきんが歌を口ずさみながら森の中を歩いていると、ばったりと狼に出会いました。赤ずきんは狼に礼儀正しく挨拶をしました。 「こんにちは、狼さん」 「やあ、赤ずきんちゃん。どこへ行くんだい?」 「おばあちゃんの家までちょっとお使いに」 「そうかい、偉いね。おばあちゃんの家はどこにあるんだい?」 「森を越えてすぐのところ」 「そうかそうか」 狼はこう言いました。 「赤ずきんちゃん、お花を持って行ってあげたらおばあちゃん喜ぶんじゃないかな」 「なるほど」 赤ずきんは納得して、花を摘み始めました。 「じゃあ、僕はこれで」 ――――赤ずきん、なんてかわいらしくてぷにっとした娘だろう。しめしめ、婆さんと一緒に食ってやるか。 ♪ ♪ ♪ 赤ずきんと別れた狼は、真っ直ぐにおばあさんの家へ向かいました。 「誰だい?」 「赤ずきんです。ケーキと葡萄酒を持ってきたから、中に入れてください」 ちょっと無理のある裏声でした。 「まあ、赤ずきんちゃん。鍵は開いているから、早く入っていらっしゃい」 狼は心の中でほくそ笑み、扉を開けてそのままおばあさんを丸呑みにしてしまいました。 ♪ ♪ ♪ それから少しして、赤ずきんはたくさんの花をケーキや葡萄酒の入ったバスケットと一緒に抱えて、おばあさんの家にたどり着きました。 ――――なんか雰囲気が今日はおどろおどろしいなあ。 赤頭巾は首を振ってその感情を払い落とすと、大きな声で挨拶しました。 「こんにちは、おばあちゃん」 すると家の奥からくぐもった声が聞こえてきました。 「おお、赤頭巾か。こっちへ来なさい」 なんか声がおかしいような気がしましたが、おばあさんは病気なのでそのせいだと赤ずきんは考えました。 赤ずきんは言われた通りに奥の部屋へ行きました。しかし、横になっているおばあさんの様子がなんだか変です。 「おばあちゃんの耳、なんで大きいの?」 「赤ずきんの言う事がよく聞こえるようにだよ」 「じゃあおばあちゃんの目は、なんで大きいの?」 「そりゃ赤ずきんがよく見えるようにだよ」 「じゃあじゃあ、おばあちゃんの手はなんでこんなに大きいの?」 「赤ずきんをしっかり掴めるようにだよ」 「おばあちゃんの口、恐ろしく大きいね」 「それはね、お前を一口で食べ」 「お前のようなババアがいるか」 ジョインジョインハルカァ。 ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます) +... 名前
https://w.atwiki.jp/ritsuss/pages/732.html
憂鬱ww -- (名無し) 2009-09-01 22 51 00 恥じらう律ちゃん(←註:紅玉は一応、こう表記するのを標準としている。読み方は勿論“りっちゃん”ですので御安心を)は何か新鮮で、イイ……。 -- (紅玉国光) 2009-09-29 19 17 18 ところで、新入生見学会の時のメイド服とどう違うのか、執筆者の方教えて頂けませんか~? -- (紅玉国光) 2009-09-29 19 19 17
https://w.atwiki.jp/takeshimachan/pages/15.html
ここにどんどん竹島ちゃんの画像を貼っていってください。
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/286.html
第29話『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。天まであがれ!(前編)――』 裏返しに並べられた百枚の読み札が部屋に散らばる。囲むのは、ラブと美希と祈里の三人。 ドキドキしながら一人づつめくっていく。 「よしっと。次はラブの番よ」 「よーし……て。えぇ――ボウズが出ちゃった。とほほ……」 「わたしの番ね。やった! 姫よ。もらっちゃうね!」 「勝負有りね。でも、ほんとせつな遅いわね。どこまで行ってるのかしら?」 噂をすれば影。階段を勢いよく駆け上がる足音が響く。 何かあったのだろうか? せつながこんな風に慌てることは滅多になかった。 「みんな! 手を貸して欲しいの。凧揚げをするわよ!」 『えぇ~~!』 騒動は、突然にやってきた。 『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。天まで上がれ! (前編)――』 のどかなお正月の昼下がり。 ラブの部屋に集まるのはいつもの四人。カードを囲んで真剣な表情で向かい合う。 歌かるたの散らし取り。百人一種の代表的な遊び方だ。 読み手のラブが読み札を切る。その順に和歌を読み始める。 「むらさめの~」 む、の時点で下の句のカードを探し始める祈里。 五文字目で思いついて探しだす美希。 一番遅れて歌を判別するせつな。 『はいっ!』 三人の手が同時に重なる。上から順に祈里、美希、せつな。 そして取り終える百枚の札。 戦果はせつなが四十枚。美希が三十二枚、祈里が二十八枚だった。 「参りました。もう、せつなには敵いそうもないわね」 「せつなちゃん凄い。こんなに早く百種全部覚えちゃうなんて」 「やっとよ。ブッキーなんて読む前から探し始めてるじゃない」 始めのうちは、下の句まで読んでからしか探せなかったせつなが一番弱かった。 しかし、驚くほどの勢いで記憶していく。 数順目には覚えきってしまい、圧倒的な強さを見せつけた。ラブはともかく、美希や祈里はもちろん暗記している。 そしてせつなには、まだ一字覚えや二字覚えなんて知識はない。 そのハンデを跳ね返すのが、視力と反射神経、そして記憶力だった。 下の句が配置されてる位置を全て把握してしまう。探し始めるのが一歩遅れても、手が最短距離で札を奪うのだ。 コンコン 部屋のドアが控えめにノックされる。あゆみが差し入れにきたのだ。 トレイに乗っているのは、おせんべいと緑茶だけ。女の子のおやつには華やかさが足りない。 「ごめんなさいね、紅茶とお菓子を切らしちゃたの」 「おかまいなく、おばさん」 「わたしたち、毎日お邪魔しちゃってるから」 「たはは、せつなと食べ過ぎたよね」 「もう! 主に食べてるのはラブでしょ」 「スーパーなら開いてるわね、後で買い出しに行ってくるわ」 「おかあさん、それなら私が行きます」 せつなはスッと立ち上がり、自分の部屋に上着を取りに行く。 一緒に行くと言った、ラブたちの申し出をやんわりと断る。少し外の空気を吸いたくなっただけ、すぐ帰るからと。 ラブたちは、せつなが帰るまでボウズめくりをしながら待つことにした。 せつなは一人、お正月の人通りの少ない商店街を歩く。 冷たい風が、暖房で火照った体に心地良かった。澄んだ美味しい空気を胸いっぱいに吸い込む。 始めてのお正月。そして、大切な家族や仲間とずっと一緒にいられる時間。楽しくて、嬉しくて、心は弾みっぱなしだ。 百人一首も楽しかった。いくつかは学校で習ったものもあったけど、新しい歌もたくさん覚えることができた。 最初は全然取れなかった札が、見る見るうちに自分の手元に集まっていくのも面白かった。 でも、夢中になるのはここまでかなって、そう感じてもいた。 これ以上やれば、どんどん差は開いていくばかりだろう。結果の見えているゲームでは楽しさは半減してしまう。 みんなの笑顔を曇らせないためにも、ここからは手加減が必要になるかもしれない。 一枚取るたびに大喜びしているラブが、少しだけうらやましいと思った。 競技と呼ばれるものですら、その本当の喜びは勝利することではないのではないか? せつなはこの世界に来て、強くそれを感じるようになっていた。 カルタに限った話ではない。学校の勉強も、スポーツも同じ。せつなにとっては、全力で取り組み、本領を発揮できる場ではなかった。 やりすぎれば目立ってしまう。それがいけないことではないのだけど……。 せつなは、称賛されることも、嫉妬されることも、そのどちらも好きではなかった。 ぼんやり考えながら歩いていたら、お目当てのスーパーに着いた。メモを見ながらお菓子を購入して、これでおつかい終了だ。 帰り道で駄菓子屋のおばあさんとすれ違った。 「おや、せつなちゃん。正月早々おつかいかい?」 「はい、お茶菓子を切らしてしまって」 「フン、感心しないねえ。正月の三が日からお店開けてちゃ、風情もへったくれもありゃしない」 「すみません。お店が開いたら駄菓子屋さんにもお邪魔します」 「そうじゃないんだよ。だけど、つまらない世の中になっちまったね」 「どうかなさったんですか?」 せつなには、なんだかおばあさんの元気がないように見えた。気になって少しお話がしたくなった。 おばあさんも愚痴の相手が欲しかったのだろう。お店の裏口を開けて、お茶を入れてくれた。 話し相手ができて嬉しいのか、いくらか機嫌も良くなって昔話を始める。 「昔はこの辺りは四ツ葉町商店街なんて呼ばれててね、そりゃあ趣のある人情溢れる町だったよ」 「私には、今でも幸せの集まる素晴らしい街に思えます」 「無論、悪くはないさね。でも、お正月だって昔に比べたら随分味気なくなったもんだよ」 お正月でも休まないお店ができて、お正月の準備がどんどん質素になっていったこと。 洋服が普及して、手間のかかる着物姿で出かける人がとても少なくなったこと。 テレビゲームの流行と共に、外で元気よく遊ぶ子がいなくなってしまったこと。 「お正月といえば男の子は凧揚げ、女の子は羽子板で遊んだものさ。どっちも見なくなっちまってね」 「羽子板は昨日やりました。凧揚げって何ですか?」 「そうか、ついに知らない子まで現れたのかい。興味あるなら凧職人を紹介してあげるよ」 おばあさんは返事も聞かずに立ち上がろうとする。言葉とは裏腹に、会わせたがっているように感じられた。 せつなは会ってみることにした。 おばあさんに連れられてやってきたのは、通りから少し奥に入ったところにある木造の古い家屋だった。 外見は普通の住宅。でも、一歩敷居をまたげば、そこは本格的な工房だった。 「凧じじい、お客を連れてきてやったよ。顔くらい見せたらどうだい」 「凧じじいはやめろ。もう凧なんて何年も作ってねえや、梅干ばばあ」 「ふん、梅干はお互い様さね」 「あの、初めまして。東 せつなと申します。凧を見せて頂きたくて」 「奥の部屋にあるのがみんなそうだ。好きなだけ見ていきな」 おじいさんはこちらも見ずにそう言った。あまりの無愛想っぷりに、駄菓子屋のおばあさんまで腹を立てる。 だけど、せつなにはぶっきらぼうな態度の中にも、温かさのようなものを感じ取っていた。 クリスマス以来、おじいさんがとても好きになっていた。いや、お年寄りの人間としての深みに、とても関心を持っていたのだ。 工房を通り抜け、言われた部屋に足を進める。そして――息を呑んだ。 そこにはおびただしい数の凧が保管されていた。それはまるで凧の博物館のようであった。 形も色々だが、大きさも様々だ。ノートくらいの小さなものから、全長が四メートルを超えるほどの大凧まであった。 描かれている絵も素晴らしかった。十二支に浮世絵、昆虫や魚を形取ったもの。そして、一番目を引いたのが、大凧に描かれた勇ましい鎧武者。 絵の良し悪しなんてわからないせつなにも、その迫力には心を揺さぶられた。 「凄い……」 「そうかい? 頭の固いじじいでね。装飾品としてなら今でも買い手がつくのに、頑として売ろうとしないのさ」 「どうしてですか? こんなに綺麗なのに」 「凧は飛ばしてこそ凧だってね。今では作るのも辞めちまって、扇子作りで食いつないでるのさ」 「その扇子もすっかり売れなくなっちまったがな」 おじいさんが手を休めて様子を見に来てくれた。何のかんの言っても気にはなっていたらしい。 「扇子だって美術用途なら売れるだろうに、タコ作ってた割には頭の固いじじいだよ」 「そっちのタコとは違うんじゃ……」 「違わねえよ。ひらひらした足をつけてたから、その昔は関西でイカなんて呼ばれててな。粋な江戸っ子が張り合ってタコと名付けたのが由来よ」 「その割には骨がありますね」 せつなは竹で作られた凧の骨組みに目を奪われていた。見事なまでに強度を計算して張り巡らされている。 この骨組みこそ、凧の出来の要だと思えた。大真面目の指摘なのだが、おじいさんは大笑いした。 「わっはっはっ、こりゃあ一本取られた。面白いお嬢ちゃんだな、気に入った! 何でも聞きな」 おじいさんの家は代々、凧職人であったらしい。父親から技術を学んだのだが、その修行は熾烈を極めたものだった。 下図が描けるようになるまで十年、骨を削れるようになるまで、また十年。 父親で師匠だった人の教え。「迷わず、一心に数をこなせ。後は指が教えてくれる」 その教えを守り、死に物狂いで凧作りの技術を身に付けた。 そこまでして一人前になっても、家族を養っていけるほどの収入があるわけではない。 どんなに精巧に作っても、目的は子供の遊び道具だ。そんなに高い値段が付けられるわけではない。食いつなぐには副業をこなす必要があった。 それでも、おじいさんは凧作りに誇りを持っていた。 クローバータウンが四ツ葉町と呼ばれていた頃、正月に限らず、冬にはあちこちで凧が揚がっていたものだった。 シーズン中は修理に追われ、それ以外の季節は冬に備えて作り貯める。 全ては子供たちの笑顔のため。貧しくても充実していた日々だったという。 「ところが近頃ときたら、凧揚げどころか凧を知らない子供までいる始末でな」 「……すみませんでした」 「今じゃ伝統工芸とか言っては、金持ちが道楽で買い求めるくらいでな。そんなもんのために作ってるんじゃねえやな」 高額で買い取るとの申し出もあったらしい。おじいさんはその全てを断ってきた。 凧作りを神棚に上げるつもりはない。凧揚げは庶民の遊び。時代と共に必要とされなくなるのなら、失われるのも運命だと。 副業で続けていた扇子作りも、もう採算が合わなくなってきているらしい。何より凧作りを辞めてしまったことで、創作意欲が失われてしまっていた。 だから、今年の冬が過ぎたら工房をたたむのだとか。 おどけた口調で話してはいたものの、その表情はとても寂しそうだった。 このままではいけないと思った。 子供たちの笑顔のために頑張ってきた、おじいさんの幸せが失われてしまう。 そして、おじいさんの手で笑顔になれるはずの、子供たちの幸せも失われてしまうのだ。 「お願いがあります! 私に凧を作ってもらえませんか? お年玉と、お小遣いも少しは貯まっています」 「気持ちは嬉しいが、俺はもう凧作りは辞めたんだ。金なんて要らねえから、ここにあるのを好きなだけ持って行きな」 「どうしても――作ってほしいんです」 「駄目だ! 俺は頭が固いんでな、作らねえと決めたら二度と作らねえ」 そこから先は意地の張り合いだった。せつなはあきらめようとせず、おじいさんも頑として譲らない。 せつなは最後の賭けに出た。この工房にある中で一番揚げるのが難しい凧。つまり、大凧をせつな一人で空に揚げることができたら作ってもらうと。 そんなこと出来る訳がない。あきらめさせるにはいい方法だと、おじいさんも約束してくれた。 持ち帰ることができるような大きさではない。後で友達を連れて取りに来るからと約束して、ひとまず引き上げることにした。 「すまなかったね、せつなちゃん。大変な約束をさせちまって」 「いえ、興味があるのは本当です。あれが空に揚がるところを見てみたいわ」 予想を超えた展開に、おばあさんは戸惑っていた。子供好きな人だから、若い子とお話するだけで気分が晴れるんじゃないかと期待しただけだった。 せつなもそれは感じていた。おばあさんの様子がおかしかった理由が、あのおじいさんのことだってことを。 おばあさんは、ラブのおじいさんの源さんって方とも仲が良かったらしい。また一人、四ツ葉町から職人が消えていくのが寂しかったのだろう。 せつなには、その気持ちの全てが理解できるわけではない。 せつなはクローバータウンが好きだ。友達と遊ぶゲームだって楽しいと思うし、機能的で扱いやすい洋服だって大好きだ。 だけど、そのために古き伝統が失われていいとも思わない。晴れの日には着物も着たいと思うし、羽子板やかるただって凄く楽しいと思う。 一つはっきりしているのは、幸せは輪だってこと。それを広げていくことが大切なんだってこと。 おじいさんは今、その輪から外れようとしている。 だから――凧を揚げるのだ。 輪の中に居る――みんなのためにも。外れつつある――おじいさんのためにも。 せつなはおばあさんと別れ、家に向かって走りだした。 『帰ってきたせっちゃん――ある日のせっちゃん。天まであがれ!(後編)――』へ続く
https://w.atwiki.jp/lebekun/pages/43.html
曲名 神保町哀歌 点数 91 備考 邪神ちゃん渾身の演歌で可愛らしい声を残しつつ拳の効いた歌い方で何度でも聴いていられる。6章まであるらしい。 関連ワード 91 歌謡曲