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≪自殺志願≫の捜索 ◆ ◆ 敗北から学び廃屋を教え、 快楽から習い骸骨を数え、 抵抗から修め貞操を救え。 振り向いて、立ち止まり、 踵を返して、立ち行かん。 始まりを終わりまで続け。 零の横に零を掛けて三つ、 零の底に零を並べて二つ。 逢わせて一つ、 這わせて零へ。 優しい僕から、 賢しい貴女に、 疚しい試験と、 寂しい試練を。 ◆ ◆ 「はぁ…………」 零崎双識は地図を見ながら溜息を一つ付いた。 現在地はE-6の分かれ道の片方から移動して少し。 とりあえず気配の方向を地図で確かめてみると、 D-6の骨董アパート、 D-5の清涼院護剣寺、 C-6の不要湖、 C-4の百刑場、 A-6の三途神社 この五つの建物関連のある方向に一つ、 D-6の骨董アパート、 D-7の浪白公園、 C-6の不要湖、 斜道卿壱朗研究施設、 真・真庭の里 この五つの建物関連がある方向に一つ、 とりあえずこの二人は地図上で当て嵌まる建物が、 D-6の骨董アパート、 C-6の不要湖、 中心部分を目指す上では恐らくこの近くを通るだろうし、 二つあるから上手く行けば合流出来るだろう。 次にもう二つの気配、 ランドセルランド…………には恐らく居ないだろう、 気配がそれにしては遠い、と考えると、 澄百合学園、 ピアノバー・クラッシュクラシック、 学習塾跡の廃墟方向に別々ではあるが二つ。 この時点でどれかに誰かが居る確立は三分の二と結構高い。 乗っても問題は無い程度に当たり易い賭けである。 更にピアノバー・クラッシュクラシックの事を考え、 とある一人の零崎。 零崎曲識の事も考えていた。 「とりあえず予想が正しければ」 そう言いながら、 指で地図のピアノバー・クラッシュクラシックの名をなぞり、 「トキが…………居るはずかな?」 道路のど真ん中を歩きながらで無用心な事この上ない。 しかし、その事をまるで考えず地図を見つつ考え始める。 《逃げの曲識》、 《少女趣味》、 禁欲者で菜食主義、 零崎三天王の一人で、 限定した殺人しかしない零崎曲識。 戦わずに逃げるしかしなさそうでなんとも言えないが、 「とりあえず地道に一人一人集めるしかないかな?」 それじゃあ目的地はピアノバー・クラッシュクラシック、 と言う事にして行動を始めようかな? でも、 「うふふ…………やっぱり子荻ちゃんに会いに行こうかな?」 澄百合学園に行く方向も検討し出す。 家族の事はいいのか零崎双識? 「こんな事態だから流石にスパッツははいてないだろうし」 ここに誰か人が一人でも居たら、 まず間違いなく零崎双識は変態だと所構わず言い触らすだろうが、 幸いと言うべきか残念と言うべきかこの近くには人は居ない。 残念………… それはそれで、 澄百合学園に家族の一人が居るのだが、 家族の事は全く考えていないのに澄百合学園を目指そうか検討している。 家族愛ゆえか?偶然の副産物か? それとも、 スカートへの執着心が妙な方向で力を持ったのか? 一応賭けでも二分の一と普通ぐらいの倍率はあるにはあるが………… そう言う訳で今歩いているのは南の方向。 そして、 ブツブツやら「うふふ」と笑いながら歩いて早くも橋まであと僅か。 しかし、端から見ると完全に危ない人物である。 「ん?――え」 一人で家族の事やスカートの事を考えていて警戒を怠っていた、訳ではなく、 十分警戒はしていたのでこの辺りに人が居ないのは分かっている。 橋のど真ん中に置かれている物体が目に入った。 そのため、一瞬だけ思考が停まった。 それだけであるが、その置いてある物が怪しすぎる。 バイク。オートバイ。 名称、モンキー。英語表記、MONKEY。 目立った特徴、小さい。 「……………………」 それが今まさに目の前にある状況。 橋のど真ん中に小さいとは言えバイクが置かれている状況。 怪しい、怪しい、妖しい。 「いや、妖しいは違うか」 首をブンブン振りながら独り言。 妖しいでは なまめかしい の方の意味になってしまうが、 とりあえず、圧倒的に、決定的に、怪しい。 橋と言う周りから見られ易い場所の、 しかもそのど真ん中にバイクが置かれている状況。 普通なら危険と思い遠回りするなり、橋を駆け抜けるなりするが、 あっさりと歩きながらバイクに近付く。 周りに人が居ない事を知っているから――ではなく、 周りから少なくともこちらに向けた殺意を感じなかったから、 である。 零崎一賊は殺意に敏感なのである。 まあ、それは置いて置いて。 「ふんふんふん――――鍵は勿論……フルフェイス型のヘルメットに………… ガソリンは満タン、と――おや?運転の説明書まであるぞ?」 見れば見るほど完全にバイク。 それも誰でも移動を簡単に行える様に説明書まである。 これは―――― 「どうやっても一人しか乗れないであろう大きさ、満タンのガソリン、誰でも扱えるように説明書、 これから考えられる事は…………殺し合い促進の為の移動手段か?」 小さい分、個人向けではあるが、 これを使って誰か轢くなり、誰か捜索するなり、罠として使うなり、 用途はかなり豊富。 敵さんもどうやら本気みたいだな。 この状況を、 零崎で唯一確固たる意思の元で殺しを行う≪少女趣味≫ならば、 「良くない」と表すかも知れないし、 自分が死ぬ事になったあの早蕨の太刀使いの長男ならば、 「最悪だ」と言うかも知れないし、 零崎の秘中の秘でもあるあの不出来の弟ならば、 「傑作だ」と笑いながら言うだろう。 だったら―――― 「少しばかり、一賊の人間集めを急いだ方がいいかな?」 こんな調子で色々な所に殺し合いを促進する道具が置かれていては、 いくら一賊の人間でも殺されかねない。 特に、まだ慣れていない上に両手が無いだろう…… 「――伊織ちゃん」 居るかも知れない可愛い可愛い妹のためにも、 このバイク利用させて貰おう、水倉神檎。 一賊の敵、試験はまだまだ出来そうにないが、 首を洗って待っていて貰おうか? 「それじゃあ、捜索開始。試験はまだ時間が掛かりそうだ」 バイクに跨って、 速度を上げて、 目指す場所は、 澄百合学園。 まだ見ぬ敵と、 まだ見つからぬ一賊。 この二つを目指して零崎双識は進む。 しかし、 「小さいなぁ、これ…………」 ゆらゆらと少し危なっかしげに揺れているバイクと細い身体。 体躯と合わず小さいバイクなので若干苦戦気味の様子。 これは初っ端から不安。 大丈夫なのか零崎双識? 【1日目 深夜 F-6から移動中】 【零崎双識@人間シリーズ】 [状態] 健康 [装備] フルフェイスヘルメット@現実 モンキーバイク(ガソリン満タン)@現実 [道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3) [思考] 基本 家族と行動を共にする 1 家族の気配に向かって移動 2 自分からは仕掛けないが、無論一賊に仇なす者は皆殺し 3 水倉神檎を「一賊に仇なした者」として認識 4 家族集めを急ぐ ※とりあえず澄百合学園を目指しています。 019← 020 →021 ← 追跡表 → 009 零崎双識 ―
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【名前】石凪萌太 【出展】戯言シリーズ 【種族】人間 【性別】男 【声優】 【年齢】 【外見】 【性格】 【口調】 一人称: 二人称: 【呼称】 [[]]→ [[]]→ 【特異能力】 【備考】
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血の枷(智の加勢) その三十二階建てのマンションは通常ならば、京都一の高級住宅街である城咲に要塞の如く聳え立ち、その中に幾人もの高所得者やその縁者を守っている。 しかし、今、その屋上から見渡せる街並みは、京都のものではない。 ——どちらにしろ、その点での異常は、少女には分からなかっただろう。 その赤い少女には、分からなかっただろう。 理由は二つ。 一つは、彼女は京都に来たことがないということ。 そしてもう一つの理由は——京都の風景を知っていたとしても、彼女は今、酷く動揺しているということ。 ぺたりと座りこんだ少女の名は、水倉りすか。 六六五の称号を持つ魔法使いにしてこのバトルロワイヤルの主催者、水倉神檎の娘。その属性は『水』、種類は『時間』、顕現は『操作』。『赤き時の魔女』の称号を持つ、運命干渉系の魔法使い。 『魔法狩り』を行う、魔法使い。 けれど彼女は呆然として、暗い中に目を落としていた。 どうして父親は自分をここに連れてきた? これも方舟計画の一部なのか? どうして父親は殺し合いなどさせる? これでは父親は悪しき魔法使いじゃないか? どうして父親は自分など目にも入っていないかのように、歯牙にもかけていないかのようにする? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうしてどうしてどうしてどうしてどうして———— 何が起きているのか? 何故こんなことになっているのか? 何時まで続けるつもりなのか? 誰が巻きこまれているのか? 何? 何故? 何処? 何時? 何? 何が何が何が何が何が何が何が何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何何———— 「——こういうときに」 りすかは、ようやく前を見る。 「落ち付けというのが——キズタカなの」 息を吸って、吐く。 精神が落ち付いていなければ、できることもできなくなる。魔法使いであるりすかは、それを身に染みて知っていた。 思考を整える。 熱くなった頭が、緩やかに冷えていく。 「……オーケー、少しは落ち付いたのがわたしなの」 りすかは立ち上がる。視界が上昇する。 するとそこに——子供の姿が映った。 「初めまして——じゃ、ないですね」 手すりの上に、この高い建物の手すりの上に、内向きに足を下ろし腰掛けている。 少年にも少女にも見える、おかっぱ頭の子供。 風に煽られて、セーラーのカラーが踊る。 彼はりすかに向けて少し首を傾げ、はにかんだように笑った。 「こんにちは、りすかさん。僕が水倉鍵です」 落ち付いたはずのりすかの精神が、再び波立つ。 水倉鍵。 『六人の魔法使い』の、六番目。 一度だけすれ違い、その一瞬でりすかの魔法式を壊しかけた『魔法封じ』 息を飲んだりすかの前で、水倉鍵は軽く両足を揺らす。 「遅いですよ、りすかさん。もしも僕が殺人者だったら、今ごろりすかさんは死んじゃってますよ」 「……水倉、鍵?」 「そうですよ、水倉鍵です。何かご質問がありますか?」 「どう、して、こんなところに」 「どうしてでしょうねえ、どうでもいいじゃないですか、そんなこと」 「……お父さんは、何をしようとしてるの」 押し殺した声で尋ねたりすかに、水倉鍵は笑ってみせる。まるで普通の子供のように、無邪気な笑みを浮かべてみせる。 「やだなあ、目指す所はもう知っているでしょう? 知ってるんでしょう? ああ、このゲームのことですか、これの目的を聞いているんですね。分かりました、それではお答えできませんとお答えしておきましょう」 「……っ」 「怒らないでくださいよ、りすかさん。ただ、それじゃあ、りすかさんにとって重要だと思われることだけ、ちょっとだけお話しましょうか——といっても、そんなに長い話じゃないんですけどね。 要するに、ですね。 この殺し合いに勝てば、神檎さんに会える。 ……そういうわけですよ、単純でしょう? 明快でしょう? りすかさんに与えられた、ちょっとしたチャンスです。ずっとずっとずっと捜し求めていたお父さんに会う、チャンスです。りすかさんにとっては、これはそういうものだと思っていただいていいんですよ。 参加者を全員殺せば、りすかさんは」 「……お前!」 「怒らないでくださいって、言ってるじゃないですか。一応、僕は主催者側の人間——文字通りの意味で人間ですから、首輪をはめたりすかさんにとっては、不都合なことも起こりうるんですよ。僕がここにいる以上、例の魔方陣も発動しないでしょうし。 ……ひょっとしたら、僕にはそれを爆発させる力なんてないかもしれませんけど。ねえ、どう思いますか? どっちだと思います?」 りすかは——動けなかった。 両手を握り締めて、年下に見える少年を睨みつけて、それでも。動くことが、できなかった。 それを見て何を思ったのか、水倉鍵は「えへへ」と笑う。 小さな身体が、手すりから飛び降りる。りすかの前に、着地する。 「供犠さんから聞いてますか? 僕はゲームが好きなんですけど……ゲーム盤の駒を動かすのは好きでも、ゲーム盤の上に乗るのは嫌いなんですよね。そういうわけですから、これで失礼します」 水倉鍵が、歩き出す。 りすかの横を、通りすぎる。 悠々と——すれ違って行く。 「頑張ってくださいね、りすかさん」 奇妙なくらいに明るい声が、残る。 りすかの背後で、ドアの閉まる音が響いた。 「……気にしちゃいけないのが、言葉なの」 唇を噛み締めながら、俯きそうになった顔を上げて、りすかは自分の身体を確かめる。 いつも通りの赤い髪。 いつも通りの赤い服。 いつも通りの赤いニーハイソックス。 いつも通りの銀の手錠。 いつも通りの赤い帽子。 ただ一つ欠けているのは——カッターナイフ。 ホルスターごと、カッターナイフが消えている。 「困ったの……あれがなくちゃ軽減されないのが痛みなんだけど、そもそも分からないのが魔法を使えるかどうかなのね」 ぺたぺたと、りすかは自分の体に触れる。 原則として、水倉りすかは生きている限り魔法を使うことができるはずだ。その体を流れる血に、父親の手で刻まれた魔法式のために。 存在自体が魔法。 魔法があってこその存在。 だが、そもそもりすかを創作した水倉神檎ならば、『ニャルラトテップ』水倉神檎ならば、りすかの魔法式に手を加えるくらい、あるいは容易いのかもしれない。 ——君達の力は僕達の方で、ある程度制限させてもらったよ。 りすかにとって忌々しいことこの上ない影谷蛇之の台詞が、蘇る。 僕達の方で、とは言っているが、影谷にできるのは『固定』のみのはず。 ならば、やはり水倉神檎がそこに関わっているのだろう。 「嫌なのは試してみて魔力を消費しちゃうことだし……かといって、大事な場面で初めて使えないって分かるのも……はあ。折角お父さんに近いところまで来たのに、こんなのってないの」 ジレンマだった。 そして、気がつく。 当然ながら、思い出す。 りすかの『座標』、半分以上が彼女の身体である供犠創貴の存在。 どこにいるかは分からないが、そこにいるのは分かる。 そこにいるのは分かるから——飛べるか? 『省略』できるか? りすかは目の前に転がっていたデイパックを開く。 「できるかどうかじゃないの」 ざっと中を見て、使えそうな物を探す。 ——やがてりすかの手は、サバイバルナイフを掴んだ。 「やるかどうか、なの」 サバイバルナイフの先が、指を僅かに切り裂く。 流れ出した赤い血を見つめて、りすかは思い描く。 創貴と話し合う。創貴と考える。創貴の指示を聞く。創貴と一緒に戦う。それが、いつも通り。 一人で効率の悪い「魔法狩り」をしていた頃からは、もう随分と時間が経っていた。離れて別々の戦いをするということは、既に今のりすかには考えられなかった。 「えぐなむ・えぐなむ・かーとるく か・いかいさ・むら・とるまるひ えぐなむ・えぐなむ・かーとるく か・いかいさ・むら・とるまるく」 万全を期して、呪文をも唱える。 魔法を使おうとしてみて、分かる。 明らかに、りすかの魔力は弱まっている。 「えぐなむ・えぐなむ・かーとるく か・いかいさ・むら・とるまるひ えぐなむ・えぐなむ・かーとるく か・いかいさ・むら・とるまるく えぐなむ・えぐなむ・かーとるく か・いかいさ・むら・とるまるひ えぐなむ・えぐなむ・かーとるく か・いかいさ・むら・とるまるく——」 ぐらりと、世界が揺れる。 「……あ」 瞬間、りすかは失望する。 時間を飛んだ。それは確かだ。 にも関わらず、『そこにいる』という感覚には、まだ全くと言っていいほど近づいていなかった。 りすかが立っているのは何かの建物の中、階段の踊り場のようだ。状況からして、おそらくは先ほどの屋上から、ここまで降りてきたのだろう。 その程度の力しかないのか、精神を練りきれていなかったのか。 少なくとも、これが今のりすかの限界だ。 七日はおろか、創貴のいる場所へ辿り付くまでの時間を『省略』することすらできない。 悄然と頭を垂れたりすかの視界に—— 水玉模様のデスサイズを携えた少女の姿が映った。 「……え?」 思わず呆けた声を漏らし、次いで最初に他者の存在を確認しなかったことを悔やむりすかに対して、そのやや背の低い黒髪の少女は、少し笑って見せた。 少し笑って、口を開いた。 「やれやれ。全く、驚いたよ。僕はそろそろ、常識で物事を判断するのを止めたほうがいいのではないかと思い始めたところでね。 僕はほんの少し目を向こうに向けて、それから何となく階段の上を見上げた。そしたら女の子がそこにいた、と。これは誰だって驚くだろうさ。何かトリックがあるというのは当然誰しも考えるだろうが、ここで僕を驚かせたって何にもならない。 だいたい、当人がびっくりしたような顔をしているんだから、もしトリックだとしたら笑い事だ。それじゃあ、どうしてだ? ここで僕は、分からなくなりそうで、常識を捨てたくなる。その気持ちも分かって欲しいね。 でも、常識で物事を判断するのを止めたら、それじゃあ僕は一体何で物事を計ればいいのだい? 大体、誰かに何かを説くときだとか、常識って言うのは意外と使い道の多いやつでね。なくなった穴を埋める代わりのものっていうのは、なかなか見つけるのが難しそうだ。 もっともこんなこと、きみに聞いたって分かるはずもない、失礼したね。あっと、別にきみを馬鹿にしているわけじゃないぜ。これは勿論だ、初対面の人間を馬鹿にするなんてこと、いくら僕でもやったりはしない。 うん? 初対面とは言ったが……ひょっとするときみ、あの変態じみた男に食ってかかっていた子じゃないかな? 違っていたら失礼、でも僕はこれでも、記憶力だとか、そういう所には自信があってね。 ……おーい、聞いているかい? 聞いているなら返事くらいはしてくれたまえよ、いくらびっくりしたと言ったって、よりびっくりしたはずの僕の方は、もうすっかり回復したんだから」 「……聞いてるの」 ようやく、りすかは言葉を口にする。 「聞いてるんだけど……処理が追いつかないのが、あなたの言葉なの」 「おや、ごめんよ」 悪びれた様子もなく、少女は肩をすくめた。 指につけた傷から血が流れなくなりつつあるのを確かめながら、りすかは静かに息をつく。 「とりあえず……ええと。確かに、影谷に怒ったのはわたしなの」 「ああ、やっぱりそうだね。その声にも聞き覚えがある。そうか、つまりきみが『りすかちゃん』で間違いないわけだ。そうすると僕の方も名乗るくらいはしておくべきかな? 僕の方だけ一方的に名前を知っているというのは、ちょっと礼を欠くかもしれないしね。 それじゃあ名乗っておこう、僕は病院坂黒猫。病院はそのまま病院、坂道の坂、黒い猫で黒猫だ。変わった名前だとはよく言われるよ」 「病院坂、さん。水倉りすかっていうのが、わたしの名前なの」 「りすかちゃんと呼んでも構わないのかな? ちなみに僕のことは、気軽にくろね子さんと呼んでくれても大丈夫だ」 「……なんでもいいの」 至極微妙な表情で、りすかは頷く。 病院坂黒猫、りすかにとっては割とついて行き辛い性格だった。 「時に」 何でもなさそうな口調で、病院坂は会話を継続する。 「できれば、りすかちゃん、こっちに降りてきてもらっても構わないかい? 僕はこの通り、結構チビでね、見上げ続けるのは結構疲れるんだ。 僕がそっちに行くっていうのは、できれば止めておきたくってね……というのも、自慢じゃないが僕は、階段を上るのに大量のエネルギーと勇気が必要なんだよ。ひどく不経済なことにね」 本当に自慢にならなかった。 堂々と言うようなことではなかった。 どういう表情を浮かべていいか分からないりすかに、病院坂はさらに言葉を重ねる。 「ひょっとしてこれを、この水玉模様の鎌を警戒しているのかい? だとしたら安心してくれたまえ、僕にはこれを振るってきみを傷つけるような力はないよ」 その言葉に、否が応でも水倉鍵の台詞を思い出す。 ——参加者を全員殺せば—— 眼下の少女、病院坂は、本人の申告通りならばひどく体力がないらしい。 りすかの動揺を知ってか知らずか、病院坂は肩をすくめる。 「そうだね、どっちかっていうときみが僕を殺すかもって方がまだ有り得る」 「——そんなことはしないの」 不意に、りすかは声を上げた。 凛と、きっぱりと、病院坂の言葉を否定する。 「わたしはそんな——軽蔑すべき駄人間じゃない。殺し合いなんて冗談じゃないの。 差し出された機会なんて受け取るものか。 気に入らない機会なら、わたしが全部壊してみせる。 目的なら、わたしはわたしのやりたい方法で掴み取るの」 創貴がどう言うかは、まだ分からない。 けれどこれが、今のりすかの本心。 彼女の、導き出した答え。 どの程度りすかの心情を理解したのか、病院坂はシニカルに笑い、頷いた。 「それなら、懸案事項は何もない。良かったら色々と話を聞かせてくれたまえ。分からなくて気持ち悪いことが、沢山あるのでね」 マンションの正面玄関を窺える辺りに場所を移し、りすかと病院坂は向かい合って座っていた。 りすかはサバイバルナイフを持ったままだが、病院坂は大いに持て余していたデスサイズを仕舞っていた。 どうやって収納したかは、神のみぞ知る。あれが水倉神檎の策だとしたら、それこそ皮肉なことこの上ないが。 「魔法……なんて聞くと、まるで夢の世界だね。そのくせ、結構共通しているような部分もあるようだから、そう、言ってみればパラレルワールドかな。僕から見ればの話だがね」 「……まさか思わなかったのが、魔法を知らない人がいることなの。本当にごちゃごちゃでぐちゃぐちゃなの。この地図も、そう」 一つの島の中に、砂漠から山まで。自然環境だけでなく建物も、無秩序にあちこちに配置されている。それらをざっと眺めて、りすかは溜め息をついた。 「僕達がいるのは……ここのようだね。あえてマンションと書いてあるからには、ひょっとすると特別な場所なのかな。まあ、こんな状態で特別も何もないね。どうだい、りすかちゃんの知っている場所というのはあるかい?」 「う……ん」 りすかは躊躇いがちに、その一点を指し示した。 E−7。 市街地に位置する、コーヒーショップ。 「多分だけど……確証はないんだけど、わたしの家なの。それで、多分、わたしと合流しようとする人が行くのが、ここだと思うの」 「なるほど。で、どうするんだい?」 「行くの」 今度は、すぐさま答える。 「キズタカと会わなくちゃいけないの。それに、ひょっとしたらツナギさん……わたし以外の魔法使いも、ここにいるかもしれないの。可能性があるなら、行ってみなくちゃ」 「そうかい、それじゃあここでさようならということになるのかな」 あっさりと言った病院坂を見て、りすかはきょとんと瞬く。 一緒に行動しようと、積極的に思っていたわけではない。 しかし、その言葉があまりにもさらりと放たれたために、虚を衝かれたような顔をした。病院坂がそれを見て、仕方なさそうに笑う。 「僕もここにいたくてしょうがないわけじゃないが、特に行く当てもないし、きみと違って明確な探し人もいないことだしね」 「で、でも」 口篭もって、りすかは言葉を探す。 何故、そこに迷いが生まれるのか。あっさりと発てないのか。 答えはやがて、見つかる。 「なんだかそれじゃあ……悪いのがわたしの気分なの。なんだか、見捨てていくみたい」 「僕を連れていくのかい? 別に構わないが、先に言っておくと僕は相当の足手まといだぜ。少なくとも、殺し合いとやらに関してはね。よほどの奇跡か、全てのバランスを破壊するアイテムでもない限り、僕はどこかで死ぬだろうさ」 「だったら、余計なの。一番気分が悪いのが、ここで別れて後で死の報せを聞くことなの」 「どうかな? 例えばきみが、その『魔法』とやらで僕を守ろうとしたとして、守りきれなかったらきみにとってはかなりショックだろう」 「殺させないの」 りすかは真っ直ぐに、病院坂を見る。 真剣な赤い目と、シニカルな笑みを含んだ黒い目が、正面からぶつかる。 サバイバルナイフを握るりすかの手に、力が篭った。 「わたしは、できれば、誰にも死んで欲しくないの。単なる理想に過ぎなくても、理想を追わなくなったら、諦めたら、ただのできそこないなのがわたしなの」 水倉りすかは、諦めない。 たとえ相手が父親で、神にして悪魔『ニャルラトテップ』だったとしても。 たとえ怪物のごとき人間が、大量に参加しているのだとしても。 たとえ自分の魔力が、何らかの方法で弱められているとしても。 りすかは、自分に諦めることを許さない。 二人の間に沈黙が挟まれる。 どこか余裕のありそうな病院坂の目が、やがて細まった。 「……分かったよ、りすかちゃん。そうも熱烈に口説かれちゃしょうがない……勿論これは冗談だけど、それじゃあしばらくは一緒に歩かせて貰うことにしよう。僕が誇れるのはこの頭くらいだが、多少は何かの役には立つだろうさ。探偵編の、始まりというわけだ」 「……?」 「こっちの話だよ」 「……よろしくお願いするの、黒猫さん」 差し伸べた手は、確かに握られた。 【1日目 深夜 G−5 玖渚友が住むマンション】 【水倉りすか@新本格魔法少女りすか】 [状態]健康、魔力若干消費 [装備] サバイバルナイフ [道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜2) [思考] 基本 創貴と合流し、できればお父さんを止める 1 創貴と会うためにコーヒーショップに向かう 2 創貴に会えたら、基本的にその指示に従う 3 黒猫さんと行動、できるだけ魔力は温存したい 4 殺し合いは嫌 多少魔法を制限されているようです。詳細は後の書き手さんにお任せします。 【病院坂黒猫@世界シリーズ】 [状態]健康 [装備] なし [道具]支給品一式、水玉模様のデスサイズ@零崎一賊シリーズ、ランダム支給品(1〜2) [思考] 基本 分からないことは分かりたい 1 りすかちゃんと一緒に行動、色々調べてみる 2 考えて分からなければ……どうしようか 3 そういえば、様刻君はどうしてるかな? 4 死ぬならそれはそれで仕方ないね 魔法等についてりすかから聞きました。 017← 018 →019 ← 追跡表 → ― 水倉りすか ― ― 病院坂黒猫 ―
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sirokitori
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第一回放送までの本編SS 【オープニング】 No. タイトル 登場人物 作者 000 オープニング 阿良々木暦、戦場ヶ原ひたぎ、影谷蛇之、水倉りすか、水倉神檎、真庭蝙蝠、真庭人鳥 ◆rOyShl5gtc 【深夜】 No. タイトル 登場人物 作者 001 しかつもんだい編(前編)しかつもんだい編(後編) 供犠創貴、無桐伊織 ◆rOyShl5gtc 002 2話 阿良々木暦、神原駿河、哀川潤 ◆T7dkcxUtJw 003 3話 傍系の病院坂迷路、兎吊木垓輔、式岸軋騎、串中弔士 名無しさん 004 めいろマイマイ 八九寺真宵、病院坂迷路 ◆iaNM/KCMCs 005 5話 零崎人識、玖渚友 ◆iTZECfXJ4g 007 ボルトキープの再開 零崎曲識 ◆rOyShl5gtc 008 たかしフォックス 時宮時刻、西東天、羽川翼 名無しさん 009 試験開始 西条玉藻、紫木一姫、零崎双識 ◆iTZECfXJ4g 010 不運の結果(風雲の経過) 匂宮出夢、櫃内夜月、千石撫子 ◆wUZst.K6uE 011 11話 真庭人鳥、誰でもない彼女 ◆kCGp90my/U 012 死闘(四闘) 闇口憑依、ツナギ/繋場いたち、真庭鳳凰、千賀てる子、鑢七実 名無しさん 014 世界の終わり、正しくは始まり(前編)世界の終わり、正しくは始まり(中編)世界の終わり、正しくは始まり(後編) 戯言遣い、戦場ヶ原ひたぎ ◆wUZst.K6uE 013 13話 闇口濡衣、左右田右衛門左衛門 ◆kCGp90my/U 015 15話 想影真心 ◆kCGp90my/U 016 16話 櫃内様刻 ◆T7dkcxUtJw 017 17話 鑢七実、奇策士とがめ、否定姫 ◆kCGp90my/U 018 血の枷(智の加勢) 水倉りすか、病院坂黒猫 ◆iTZECfXJ4g 019 虚刀『鑢』対人類最終『橙なる種』 鑢七花、想影真心、真庭狂犬 名無しさん 020 ≪自殺志願≫の捜索 零崎双識 ◆kCGp90my/U 022 開戦時刻 羽川翼、西東天 ◆wUZst.K6uE 030 30話 病院坂迷路、八九寺真宵、零崎曲識 ◆T7dkcxUtJw 031 死者一人(小さき鳥) 真庭人鳥、誰でもない彼女 ◆T7dkcxUtJw 【黎明】 No. タイトル 登場人物 作者 006 錯綜思考(策創試行) 奇野頼知、萩原子荻、石凪萌太 ◆wUZst.K6uE 023 過去の彼方(仮虚の刀) 鑢七花、想影真心、四季崎記紀 ◆kCGp90my/U 024 誰事(戯言) 戯言遣い、戦場ヶ原ひたぎ、左右田右衛門左衛門 ◆kCGp90my/U 025 真庭忍軍最古vs相生忍軍最後 真庭狂犬、左右田右衛門左衛門 ◆kCGp90my/U 【早朝】 No. タイトル 登場人物 作者 021 偽装観(疑想感)《前編》偽装観(疑想感)《後編》 奇野頼知、萩原子荻、石凪萌太 ◆wUZst.K6uE 026 逢魔が時(大凶刻)《前編》逢魔が時(大凶刻)《後編》 鑢七実、奇策士とがめ、否定姫、時宮時刻 ◆wUZst.K6uE 027 停まらない害悪(染まらない帷幄) 兎吊木垓輔 ◆iTZECfXJ4g 028 不殺の刀と不生の刀《前編》不殺の刀と不生の刀《後編》 鑢七花、想影真心、四季崎記紀左右田右衛門左衛門、零崎人識、玖渚友 名無しさん 029 神はあまり役に立たない? 真庭鳳凰 ◆kCGp90my/U 032 メイドが行く!(冥土に逝く?) 千賀てる子 ◆kCGp90my/U 033 末路(順)《前編》末路(順)《後編》 奇野頼知、萩原子荻、石凪萌太、羽川翼、西東天 ◆wUZst.K6uE
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開戦時刻 「……ふん、まさか、こんな場所にまた来ることになるとはね」 エリアH-8。西東診療所。 時計の針が、零時半を少し回った頃。 畳敷きの待合室の中、狐面の男は周囲をぐるりと見回した後、大して感慨深くもない様子で言った。 「二度と来る機会はないと思っていたが――しかし、見知らぬ場所に見知った場所があるってのは、どうにもつまらないものがあるな。こと二度も捨てた場所ともなるとな――まるで堂々巡りでもさせられているかのような気分になる。この世で何が無駄かと言って、同じ無意味を繰り返すことほど無駄なことはねえからな……同じ失敗を繰り返すほうが、まだ有意義ってもんさ」 「……お茶どうぞ」 木目調の卓袱台の上に、紅茶の入ったカップが静かに置かれる。 羽川翼は、自分の分のカップを置きながら狐面の男にちらりと目線を向ける。 当然のこと表情は窺えない。ただ相手もこちらを見ているのは分かったので、何となく目線を切り、卓袱台をはさんで狐面の男と向かい合う形で腰を下ろす。 狐面の男は、自分の前に置かれたカップに一瞥をくれることもなく、虫でも観察するかのような視線をじっと羽川のほうに向けてくる。いや、仮面をつけているため、視線を向けているのかどうかは正確には分からないのだけれど。 「ふん、なかなか似合うな」ややあって、狐面の男が口を開く。「意外な程にな」 「……どうも」 「その眼鏡と、実によく調和している」 「はあ……」 羽川の、今現在の服装。 パジャマ姿での参戦という嫌がらせに近い仕打ちを受けていた羽川だったが、この西東診療所において、既に別の服装へと着替えを終えていた。 巫女装束に。 狐面の男の持つデイパックになぜか収納されていた、見た目麗しい巫女装束の姿に。 「………………」 似合ってはいる。 確かに、似合ってはいるのだ。 しかしこの格好、パジャマ姿とはまた別の意味において、相当恥ずかしいものがある。 基本的に目立ちすぎる。 まるでコスプレでもしているかのようだ。 そもそも、似合っているからどうというような話でもない。 それに、なにより、それ以前に。今の羽川がどういう服装をしていたところで―― 「まあ、どんな格好をしていたところで」狐面の男が言う。「猫耳のせいで、ふざけているようにしか見えんがな」 「……………………」 あまり触れてほしくない所に触れられた。 自分はもっと不自然な物を顔面に付けている癖に。 ちなみに羽川の髪型は三つ編みでなく、結われても纏められてもいない。纏めようにも、ヘアゴムの代わりになるようなものは何もないのだが。 「腕は平気か」 「え?」 「さっきコイツが強引に組み伏せていたようだからな。骨でも痛めてねえかと思ったんだが」 狐面の男が指さした先には、着物を身に纏い、和風の装いをした女性が――いや、女性の風貌を象った人形が、部屋の隅で静かに佇んでいた。 両目は閉じられ、眠ったようにぴくりとも動かない。 「いえ、私は全然――あの、それより」 ぺこりと、丁寧な仕草で頭を下げる羽川。 「先程は、その、すいませんでした。いきなり刀を向けるような真似をして」 「『刀を向けるような真似を』。ふん、真似というより、実際に斬り殺されかけたようだったがな。避けるのがあと一瞬遅れていたら、首が胴体とさようならだったぜ――まあ、あくまで俺の主観で判断した限りでは、だが」 「…………」 嫌な言い方をする。 それを言うなら、羽川の主観では避けたというより、ただ転んだだけだったように見えたが。 「――まあ、いきなり斬りかかってきたことに関しちゃあ、別に気にしてはいねぇよ。殺されかけるのには大分慣れてるからな……それよか、むしろあれで仕留めきれなかった己の甘さを反省するこったな。刀を向けた挙句やり損じて、しかもその相手に謝るなんてダセェ真似はするな。あの時死にかけたのは、俺でなくむしろお前のほうだったのだからな、羽川翼。骨を痛める程度だったら、随分すぎるくらいにいい方だったぜ」 「…………」 「刀を使って、しかも不意打ちまでかけて、俺みたいな戦闘能力皆無の相手に一太刀も浴びせられねえなんざ論外だぜ? 武闘派はまず状況と闘ってこそ武闘派なんだよ。いみじくもプロのプレイヤーなら、状況に呑まれるような醜態は晒すな」 …………ん? あれ? 言っていることが何かおかしい……? 羽川は首を傾げた。 「どうも俺の回りには、そういう奴ばっかが集まってくる傾向があるんだよなあ…………優秀なわりに、むら気が多いというか、使える割に扱いに困るというか。匂宮兄妹といい絵本園樹といい……まあ、切れ過ぎる刃ほど手に余るというのは世の常ではあるんだが――」 愚痴るように、ぶつぶつとひとりごちる狐面の男。視線は既に羽川のほうを向いていない。 「あ――あの、」 羽川は、念のために言っておくことにした。 「あん?」 「いきなり斬りかかったりしたから誤解されたかもしれませんけど、私別に、危ない人――とかじゃないですよ?」 「…………?」 数秒の沈黙。そして、 「……お嬢ちゃん。今までに、刀を使ったことはあるのか」 「ありません」 「人を斬ったことは」 「ありません」 「人を殺したことは」 「ありませんってば」 「……………………」 「……………………」 おいおいおい、と、たちの悪い冗談を聞かされたような仕草で頭をかく狐面の男。 「何の躊躇もなく斬り込んできたもんだから、てっきり『殺し名』あたりの人間とでも――ああ、姓は羽川だっけな……どちらにせよ、そういう領域に所属する住人かと思っていたんだが……初対面の人間にあんだけ容赦なく斬り込んでおいて、ただの一般人はねえだろ――」 狐面の男の言葉を聞きながら、羽川は数十分前の自分の行動を思い返していた。 確かに、あの時自分がおかしかったことは、漠然とではあるが覚えている。 いや、今この時点でも、その違和感は継続しているのだ。動もすればまたさっきのように自我を見失ってしまいそうな不安定さが、絶え間なくまとわりついている。 自分を遠くに見ているような。 自分が遠くから見られているような。 そんな、どっちつかずの不安定さ。 「…………」 羽川の座っているそのすぐ脇。そこに、一本の刀が携えられている。 斬刀・『鈍』。まさしく、今までの話の中で何度も言及されてきた、羽川が振りかざしたという例の刀。 狐面の男と出会い、この場所に移動してくるまでの間に、羽川はほとんど正常な精神状態を取り戻していた。しかしその間、羽川はずっと、この刀を肌身離さず携え続けていた。 どうしても、側から離しておくことができない。 いつでも斬りかかることができる体勢。 いつでも斬り殺すことができる体勢。 どうしてか、そうしておきたいと思ってしまう。 しかし『普通でない』というのなら、目の前でぶつくさと何かを呟いているこの男こそそうなんじゃないかと、羽川は思っていた。 初対面の人間に突然殺されかけたにも関わらず、それがさも当然であるかのように――殺しかけた本人である羽川のことを、『そういう人間であることが当然』とでもいうような扱い方を、この人はしていた。 今の状況に、全く動じている様子がない。 普通じゃない。今の羽川と同じく。 「あの…………ところで、」 「ちょっと待った」 質問の台詞を遮り、おもむろに立ち上がる狐面の男。卓袱台を迂回し、つかつかと羽川の前まで歩み寄ってくる。 正座している状態の羽川を見下ろす姿勢で、自分の着流しの袖を軽く捲りあげる。きょとんと見上げる視線を全く意に解さない様子で、両手を羽川の頭の上へと伸ばしてくる。 「え? あ、あの――」 「少しじっとしていろ」 そう言うといきなり、羽川の頭に生えたふたつの可愛らしい猫耳を、両手でがしりと掴んだ。 「ひゃうっ!?」 「ふん。確かに頭皮と一体化してやがる……縫いつけた跡なんかもねえな。こりゃマジに天然か……? 手触りも人間のそれとほとんど同じ、か」 「ち、ちょっと……!」 身をよじる羽川に構うことなく、両手で猫耳を隅々まで弄り回す狐面の男。 指先で、また手のひらで。 外側を、内側を、 先端部を、付け根の部分を。 さわさわと、なでなでと、ぐりぐりと、こしょこしょと。 優しく、柔らかく、しかし執拗に。 奥の奥まで調べ尽くすような手付きで。 「あっ、やっ、やだ……っ! あん……だ、だめ……あっ……やぁ……っ! も、もう、やめ、やめてくださ……あんっ!」 「ふむ……どうやらマジに本物のようだな、こりゃ。ふん、成程、こりゃあなかなかに興味深い――」 二、三度、納得したようにうなずいて猫耳から手を放し、そのままさっさと自分の座布団へと戻る。狐の面を自然な動作で外し、まだ湯気の立っている紅茶をすする。ふう、と軽く息を吐き、言葉通りに一息ついたような表情を浮かべた。 「で、何だ」 「……………………」 実際のところ、たったいま卓袱台の上に置かれた狐の面について質問しようと思っていたのだが、盛大に出鼻をくじかれた上に、質問の中心である仮面をあっさりと外されてしまったため、思いきり質問し辛い状況になってしまっていた。 羽川は顔を真っ赤にして、仮面を外した男の顔を睨みつけた。しかし睨まれている本人が瓢々とした顔で茶をすすり続けているのを見て、無駄だと諦める。 仮面を外した男の素顔は、思っていたよりも普通だった。 声の調子からそれほど若い年齢ではないことは分かっていたが、それでも予想していたよりはずっと若く、精悍な顔付きをしている。 白い着流しがよく似合う、日本的な顔立ち。 特徴的と言えるくらいに目付きが悪い。 「…………」 羽川は何となく、その顔に見入ってしまっていた。 「――ん、どうした。沈黙されても、俺には質問を先回りできるほど気の利いた能力は所有しちゃいないんだが」 「……セクハラですよ、今の」 「ん?」さも意外な事を言われたでもいうような表情。「何のことだ」 「他人の耳を勝手に触らないでください」 「猫耳を触るというのは、セクハラ行為にあたるものなのか」 「本人の同意なしに不必要な身体接触を行なった場合は大抵セクハラです。猫耳でもなんでも同じことです」 「『猫耳でもなんでも同じことです』。ふん、そりゃ悪かったな。だが――」 しれっと、狐面の男は言う。 「俺はその猫耳が、まさかお前の耳だとは思っていなかったんだよ。何しろ俺の目の前にいるのは人間で、俺が触れたのは猫耳なわけだからな。猫耳とは、猫の耳と書いて猫耳と呼ぶ。つまり本来は猫が所有して然るべき物体であるわけだ。お前の耳だと先に言ってくれりゃあ、俺もそう無神経に触るような真似はしなかったんだが」 「…………」 それって、「まさかこんな事がセクハラになるとは思いませんでした」的な言い訳なのでは。 屁理屈というか、白々しいにも程がある。 この男、見掛けによらずたちの悪い種類の人間なのかもしれない。羽川は、目の前の男に対する警戒レベルを少しだけ引き上げた。 「で、さっきしかけた質問はもういいのか」 言いながら狐面の男は、卓袱台に置いてあった仮面を被りなおした。 反省の意識ゼロである。 「……えっと」羽川は少し考え、せっかくまた被りなおしたのだからと(ある程度、意趣返しの意味もこめて)結局聞いてみることにした。「その怪しげなお面は、いったい何なのかと思いまして」 「狐だ」 「…………」 説明されてしまった。 「狐というのはイヌ科キツネ属の哺乳類だ」 「知ってます」 「知ってたのか」 「知ってます」 「そうか」 結局、空振りのような会話に終わった。 空振りというか、空回りというか。 「広義においてはキツネ族のオオミミギツネ属、ハイイロギツネ属、イヌ族のカニクイキツネ属、フォークランドキツネ属、クルペオキツネ属まで含める場合もあるのだがな」 「知ってます」 そして誰もそんな詳しい所まで聞いていない。 そんなに「知りません」と言わせたいのだろうか。 ともあれ。 今までのやりとりで、羽川はこの男の人となりをある程度理解していた。 適当で、場当たり的で、他人に合わせるということをしない。まるで何かに流されるような、何かを受け流すような話し方。 真正面から向き合っても、どこか別のところから見られているような感じ。 違う次元にいるような。 違う世界にいるような。 そんな、掴みどころのない人間性。 ――実は俺、何も考えてないんだよ――。 あの言葉も、あながち嘘ではないのかもしれない。 「そういやお前」またも唐突に口を開く。前置きの仕草すらも無しだ。「道中、その猫耳に関して俺が尋ねた時、『怪異』がどうとか言っていたな。そのことについて、ちょっと詳しく聞かせてみろ」 「……はい」 詳しく――と言われても、詳しく話せるだけの情報を今の羽川は持ち合わせてはいない。自分が怪異に見舞われたときの記憶は、そのほとんどが失われたままなのだから。 残っている記憶といえば、春休み、阿良々木暦が吸血鬼という怪異に襲われた時の記憶。だがそれに関しては、羽川は口をつぐんだ。結局説明したのは、かろうじて記憶に残っている自身の体験に自己解釈を加えたもので、とても説明と呼べるようなものではなかった。 しかし。 「面白いなあ」 狐面の男は話を聴き終えると、しばしの沈黙の後そう言った。 「面白い……ですか」 「面白い。徹底徹尾掛け値無しに面白い。なるほど、『怪異』ね……そういうものが存在するから、そういうものに遭遇することがあるからこそ、世界ってのは――運命ってのは面白い。しかし、『この世界』の中で動くことにどれほどの意味があるのか、今の時点では 計りかねるがな……まあ、だからこそ面白いっていうのもあるが」 さっきから思っていたことだが、この人の話はすぐに独り語りのような調子になる。内容も自己完結的になってしまうのだから、聞いている側としては対処に困る。 どういう意味ですか、と羽川は訊いた。 「この世界はどうも、本来の筋から外れたところにある――というのが、今の俺の印象だ」 本来の……筋? 「確かに、変な所に連れてこられたとは思いますけど」 そう言う羽川に狐面の男は、そういうことじゃないんだよ、と首をゆるりと振った。 「ここは『外側』に近い場所だってことさ。元の世界を物語の本編と喩えるならば、この世界は番外編――といった所か」 「番外編……」 「ボーナストラック、あるいは二次創作か。あくまで喩えでしかないが。どこまでも不条理でありながら、それが許されてしまう世界。むしろその不条理でこそ成り立ってしまっている世界。……ふん、不条理で話が成り立つたあ、条理が聞いて呆れるね。まあ要するに、ここは本来の世界とは少々ずれた場所にある世界だってことだ。物理的にも観念的にもな。この物語は別世界での出来事です、本編とは全く関係ございません――ってか」 「…………」 「俺は既に、因果から追放を受けた身だからな――――本来、こうして俺に役割らしい役割が与えられていること自体が、そもそもおかしいのさ。絶対不変の因果とは無関係の所で進められているイレギュラーの物語、というのが、この世界に対する俺の見解だ」 「……よく、分からないですけど」 「分からんでもいいさ。どのみち仮説でしかないのだからな。合っていようがいまいが、そんなことは同じことだ」 ここまで喋っておいて「そんなことは同じこと」と締めるこの神経。やはり掴みどころが見えない。 「最後まで生き残れば、どんな願いも叶える――と言ってましたよね」 「ああ、言っていたな」 「あなたには、何か決まった願い事があるんですか?」 「『何か決まった願い事が』。ふん、願い事ねえ。まあ、あるといえば数えきれない程にあるが――」 狐面の男は、何か遠くものを見るように、顔を少し上げる。 「まずはこの、ふざけた遊びを企画したっていう、水倉神檎とかいう人間――そいつに御目見え願いたい」 「…………」 真剣、に感じた。 声も、恐らくは狐面の下の表情も。 「番外とはいえ、こんな愉快な催し物を実行しちまうようなイカレた存在がいると知って、それをむざむざ放っておく手はねえ。俺は神様なんざ毫ほども信じちゃあいないが、それに限りなく近い存在くらいならあってもいいと考えている。ある意味、俺がそうなろうと しているようなものだからな……ひょっとしたら、その水倉神檎こそがまさにそれなのかもしれん。可能性のひとつとして想像してはいたが、物語の外側に立つために最も手っ取り早いのは、世界の内部に働きかけることよりも、直接外側にアプローチをかけることだ。『既に外側に立っている人間に手引きをしてもらうこと』――くっくっく、馬鹿臭え程に単純だが、これほど確実で楽な方法も他に無え。これぞまさしく、裏技ってわけだ」 独り言のような、胡乱な言葉の漏出。 というか、後半は完全に独り言のように聞こえた。 不審がる羽川に気をとめる様子もなく、意味の分からない――意味の通じない言葉を、仮面の裏から発し続ける。 まるで、狂人のように。 「…………っ!」 じりじりじりじりじり。 雑音。意識の壁を叩く雑音。 また――あの感覚が来る。 「……ん、どうした」 「あ、いえ――つまりあなたは」羽川は言う。「あなたは、この闘いに乗る、ということですね」 「ん? ああ、まあそういうことになるな。生き残らなければ、願い事もへったくれもねえからな。それが最低条件だ」 殺し合いですよ、という羽川の言葉に対し、殺し合いだな、と淡白に返す狐面の男。 何を今更、とでも言いたげな口調で。 「どうした、怖気づいたか」 じりじりじりじりじり。 羽川は、視界が暗転しそうになるのを寸前で堪えた。 「さっきも言ったが、ここでそういう甘さはお前の寿命を縮める以外に何の役にも立たんぜ。こりゃあ、今のお前に言っても詮無きことだろうが――」 仮面越しにでも分かるくらいの重圧が、まっすぐに羽川を捕える。 「俺の見る限り、お前はそれなりに面白い。素質がある、資質がある、天稟がある。『怪異』の話とはまた別の、世界と関わりを持つに足る素質をな。ただお前には少々、その自覚が足りなさすぎる。今のお前は精々、一般人の尺度からしてしか特殊性を認めることができない程度だ。この世界でその程度の才能は、容易く喰われる」 「………………こ、」 「その素質の活かし方を――お前自身の使い方を、俺がサポートしてやる。強制する気はねえが、俺と一緒にいる限り、お前の身の安全はある程度保証してやるぜ。言っておくが、今のお前が一人で生き残れると思うな。戦闘能力云々の問題じゃねえ。お前に必要なのは、言うなれば――」 びくん。 と、弾かれたように立ち上がる羽川。 「――――殺せば」 じりじりじりじりじりじりじりじりじりじりじりじりじりじりじりじり。 雑音が脳を侵食していく。 精神を支配される感覚。 魂を操られる感覚。 「殺せばいいんですね」 「……あん?」 「殺せば、それでいいんですね?」 羽川の豹変に、狐面の男は一瞬訝んだ様子を見せたが、すぐに「ああ、そうだ」と返した。 「ここでは、それが正しい。それこそが正答であり、正当だ」 「わかりました」こくり、と虚ろにうなずく羽川。「それでいいなら、そうします」 それでいいなら、そうします。 羽川はしばらくその言葉だけをぶつぶつと繰り返していたが、ふいに糸の切れた人形のように、ぺたりと座りこむ。 黒色の袴が、畳の上にふわりと広がった。 「……阿良々木くんが」 「うん?」 「阿良々木くんが――どこかに」 「阿良々木……ああ、お前の知り合いか。そいつもここに来てるんだな?」 無言で頷く羽川。 「やれやれ……甘さは命取りっつってる側から身内の心配か。まあいい、仲間が増えるに越したこたないからな。そいつもついでに探すか。……ああそうだ、羽川翼。お前、これを使え」 部屋の隅、指さした先で眠ったように佇んでいる和装の人形。 「刀を扱ったことがないというなら、その日本刀は無闇に使わんほうがいい。むしろこっちの――なんつったかな……ああ、微刀『釵』だかの方が、お前には合っているはずだ」 狐面の男が指示を出すと、人形――微刀『釵』は、ゆっくりとした歩調で羽川の前まで歩いてきた。 「当面のお前の役割は、そいつを使って俺と、お前自身を守ることだ。繰り返し言うが、あらゆる手段を行使することを迷うな。ここで通用するような常識はないと考えろ。非常識に染まることを覚えろ」 お前にはその素質がある。 そう言って立ち上がり、襖を大きく開け放つ。 「行くぞ。いつまでもここで寛いでいるわけにはいかん。番外編は短期決戦と、相場は決まっているからな」 草履を履き、正面玄関に向けて歩き出す狐面の男を、羽川が静かに追っていく。 虚ろな表情で。 定まらぬ足取りで。 さながら、人形のように。 「阿良々木……くん…………」 右手に携えられた日本刀が、かちりと鍔鳴りの音を立てる。 時計の針が、ちょうど一の時刻を示していた。 【1日目 深夜 西東診療所 F-8】 【西東天@戯言シリーズ】 [状態]健康 [装備] なし [道具]支給品一式、ランダム支給品1 [思考] 基本 遊ぶ 1 十三階段再結成 2 闘いに勝ち抜き、水倉神檎に会う 3 羽川の使いようを模索する。 【羽川翼@物語シリーズ】 [状態]健康 精神的に不安定(時宮時刻の想操術により半自我喪失状態) [装備] 斬刀『鈍』@刀語シリーズ、微刀『釵』@刀語シリーズ、巫女装束@刀語シリーズ [道具]支給品一式、ランダム支給品1~2 [思考] 基本 阿良々木君を助ける 1 西東天についていく 2 西東天の言う通りに動く ※微刀『釵』は所有者の命令通りに動きます。 ※操想術による影響は受けていますが、まだ完全に発動しているわけではない様子です。 ※羽川はまだ猫耳しか出てませんが、何かのきっかけで完全にブラック羽川になるかもしれません。 021← 022 →023 ← 追跡表 → ― 羽川翼 ― ― 西東天 ―
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【名前】水倉りすか 【出展】新本格魔法少女りすか 【種族】魔法使い 【性別】女 【声優】 【年齢】 【外見】 【性格】 【口調】 一人称: 二人称: 【呼称】 [[]]→ [[]]→ 【特異能力】 【備考】
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死闘(四闘) ここは『絶望の果て』である。 この表現は殺し合い——バトルロワイアル——が行われているからでなく、この場所が『絶望の果て』ということである。 本来ならこの赤神イリアの屋敷は鴉の濡れ羽島にあるべきものであるが、現在は地図のH-4に建っている。 鴉の濡れ羽島とはロシア語で《絶望の果て》という意味である。 そこに建つ建物というものは、いったいなんであろうか。 絶望の上に建つ建物とは。 どれだけの恐怖を、破壊を、混乱を、そして絶望を生み出したのであろうか。 そして今生まれているのは、死闘。 ◆ ◆ 命を懸けた戦いで最も恐怖すべきであるのは、 体に口——にしては、凶暴さを滲み出している——を生やしている一人の少女である。 闘う姿はまるで妖怪ものであった。 その力は主催者と同じ『魔法』の一種であり、彼女はその力をあの男——水倉神檎——に与えられたのであった。 『魔法』といっても様々なものがあり、魔法使いそれぞれの個性がある。 あの真っ赤な、安全ピンの様な、ジャケットの男は『属性』が『光』、『種類』が『物体操作』の魔法使いであったが、 対する少女は『属性』が『肉』、種類が『分解』の魔法使いである。 体に口を持つ少女の攻撃は、人ならざる攻撃であった。 しかし、身体性能の差であろうか、他の者との戦闘センスの差であろうか。 その絶大なる力をもってしても闘いに終わりを告げることは出来ていない。 そうして額の口が、不機嫌そうに、歯軋りをした。 『ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ』 最も破壊している者は——周りの豪華絢爛な装飾などを構いもせずに、 いやわざと壊すことにより戦いを有利にしているのかもしれないが——最も素早い動きで手に持つ拳銃を使う者である。 彼は最初に殺された忍者集団と同じような装束をしていた。 確かにその動きはただならないものではあった。 彼は殺人を厭わない忍者集団のなかの、 12人の頭領——口から刃物を出すものと同等の者たち——の中でも抜きん出た実力を持つ者であった。 さらに、その左手は彼のものとは思えない形ではあるが、 彼が彼の時代とは形が全く違う拳銃を使えているのは——忍法記録辿り——そのおかげであるのだ。 「忍法断罪円!!」 最も混乱を生んでいるのはそれらあらゆるものをかわし続ける女である。 彼女は艶やかな若草色の和装であり、それに似合う和風美人である。 そして、全ての攻撃をかわし続けるだけではなく、着物の裾すら、乱さずに攻撃を避けている。 誰もがその技術——空蝉——を見破れず、困惑しているようだ。 一方彼女は余裕の表情で、その様子は明らかに相手の疲れを待ち反撃の機会を伺っているようだ。 「若い・・・・・・」 そして最も絶望を生み出しているのはメイド服の彼女であった。 彼女はこの屋敷のお嬢様——赤神イリア——の警護担当として戦闘訓練を受けた戦闘メイドであった。 しかし、本来ならばこのような化物たちのなかでは彼女も霞んでしまう存在であったかもしれなかった。 では、なぜ彼女が絶望を生み出せているのだろうか。 それはこの屋敷をくまなく知りえているからではない。 確かにそれも原因の一つかもしれないが主なものではない。 主な原因とは彼女の胸に刺さっている一つの刀である。 それを刀とよんでいいのかは、悩むところだが——明らかに苦無の形をしている——つくった本人が 刀だというのだから間違いはないのだろう。 その刀、悪刀『鐚』は『活性力』に主眼が置かれた、 所有者の疲弊も死も許さず人体を無理矢理に生かし続ける凶悪な刀である。 そんな刀を接近戦のエキスパートが使えばどうなるだろうか。 どれだけ動きを高めるだろうか。 どれだけタフになるだろうか。 そういった理由からして彼女は絶望を生むにいたっているのである。 「埒があきません こんなスリリングな削り合いかわし合いなどに——全く意味はありません。そうは思いませんか?皆さん。 あなた達は一度死んで見ませんか?」 しかし誰も決定打を打つことが出来ないままであった。 ◆ ◆ その四人からなる死闘——四闘——を・・・・・・ じいっ、と。 まるっ、と。 ぎょろり、と。 ぐるり、と。 まじまじ、と。 しっとり、と 女は——眼を凝らすようにして、死闘と、それをする者たちに——眼を向ける。 時には全体に。 時には個々に。 時には口に削られた残骸に。 時には所々にある銃創に。 時にはあらゆるものをかわし続ける者が次にかわす技に、方向に。 時には服の上からでは分りにくいが、——推測ではあるが——自分が以前使っていた刀に 眼を。 その——両のまなこで。 見る——視る——観る——診る——看る。 全て——総て——凡て——観察するように——舐めるように診察する。 「・・・・・・ふうん。なるほど、理解したわ」 やがて、屋敷のそとから覗く彼女はそう呟く。 「個々の基礎体力、技術、経験、特殊能力、道具、見取れるものすべてを。そしてこの死闘の先もね」 ◆ ◆ 彼女が持つ特異性それは、 天才性の発露——見稽古。 それは『天才』が持つものにしては、行き過ぎたもので、 まるで『天災』といった人にはわからざるものと同じカテゴリーに含まれるものである。 見た技をそのまま自分のものとして習得できる戦闘技術。 また、その『眼』の力は、他人の戦闘技術を習得するだけにとどまらない——ありとあらゆるものを看破する、そんな眼である。 どんな技も、どんな動きも。 どんな弱点も。 ひとつ残らず見通せる——鑢七実の見稽古 いったい彼女はなにを見取ったのであろうか。 ◆ ◆ 「もう、見取れるものは見取ったし、この死闘がこのまま終わるのは、 わたしにとって良いことは一つもないわね。草は、草が如くむしってやりましょう」 彼女が手にするはRPG-7。 本来ならこのような広い場所で、このような者たちに効果覿面な道具ではないが、 使うのが死闘の結果すらも見通す『眼』を持つ彼女である。 「いつまでも、綺麗に立ち回れると思わないことね」 発射と同時に、ふぅー。と、よく似合うため息をつくのだった。 ◆ ◆ 一方、屋敷内は悲惨な事態になっていた。 屋 敷の装飾はもとの絢爛さのみる影もなく、屋敷内は台風でも通ったあとかのようだった。 そこにあるのは残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、 残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、草、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、 残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸、残骸であった。 その草は所々赤い、若草色であった。少しづつ、少しづつ、赤く染まっていくそれはよく見れば和装であった。 『天災』である『天才』はその様子を見ながら踏みつける。 まだ息があるのだろうか。 闇口である彼女は——売りが主人以外の誰からも攻撃を受けたことも、 触れられたことも無いということもあり——未だ息をしていた。 彼女は自分を死に至らせただろう者の足をつかむ。 実際のところ、意識はなかったかもしれないが。 鑢七実は深く、深くため息ををつき。 そして——眼を細め、非常に冷酷な死線を彼女に向け。 「何を勝手に、わたしの肌に触っているのですか——この、草が。」 つかまれたのと反対の足で——女の頭を踏みつけた。 繰り返し。繰り返し。繰り返し。 相手の反応などまるで構わず——踏みつける。 「草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。 草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。 草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。草が。」 程なく——女の頭部は失われた。 跡形もなく——ただの血だまりに、肉だまりと化した。 それでも若者の手は女の足首をつかんだまま放さなかったが——女は無情にも、足首を軽く振るだけで、その指を払った。 【闇口 憑依@零崎一賊シリーズ 死亡】 ◆ ◆ 「はぁ、はぁ、なんなのよ。魔法も使っている様子もないのに、化物かあいつら」 身体に口を生やした少女ツナギは走っていた。 その様子には闘いの最中の威圧感はなく、今は心なしか焦っているようにみえる。 彼女は主催者である水倉神檎によって「魔法」使いにされた少女である。 そして彼に殺されることをも同時に願っている。 彼女は体に512の口をもち、2000年以上生きている「魔法」使いではあるが、 そんな彼女からしても先ほどの死闘を繰り広げた者たちは、埒外に感じたのである。 「まずはあのコーヒーショップに向かうか」 いくら戦闘に自信がある彼女でも不安に感じたのであろう。 仲間がいるかもしれない場所に魔女は向かった。 【1日目 深夜 H-4】 【ツナギ/繋場いたち@新本格魔法少女りすか】 [状態]身体中にかすり傷、疲労(中)、口の出現により服が所々破れています [装備]なし [道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜3) [思考] 基本 「水倉りすか」「供犠創貴」 を探す 1 コーヒーショップに向かう 館からは離れたところに忍者はいた。 流石忍者とでもいうべきか、戦線から離脱する早さは誰よりも早いものであった。 「あの爆発に直接巻き込まれてしまっては、我でも危なかったであろうな」 忍者集団の頭領の中の頭領、真庭鳳凰は偶然にも爆風から逃れることが出来たのだ。 「しかし、この忌々しい首輪のせいで、頭領のうち残っているのは我を含めて三人か。 もし生き残り、もとの世界に戻っても我一人ではどうしようもないな。狙うは優勝して願いを叶えてもらうことか」 しかしそれを本当に信じてよいのだろうか。 まずは生き残った頭領たちとあうことをめざすか。 そのために目指すのは真庭の里であろうな。 此処からは遠いみたいだが、地図の果てがどうなっているかも気になるな。 【1日目 深夜 H-5】 【真庭鳳凰@刀語シリーズ】 [状態]身体中にかすり傷、疲労(小) [装備]ジェリコ941 [道具]支給品一式、ジェリコ941の予備銃弾(残り60パーセント)、ランダム支給品(1〜2) [思考] 基本 真庭頭領を探す 1 地図の果てを確かめる。 2 主催者が本当に願いを叶えるだろうか・・・? フラフラと歩く姿は、メイド服でありながらも、メイド服は破れ、焦げボロボロである。 しかし、余計にその姿が本来このような場には相応しくないメイドであることと相反して、奇妙な威圧感を生み出している。 何も考えていないように見えるその姿。 しかし、彼女には確固たる意思、目的がある。 「あらゆることはお嬢様のために」 【1日目 深夜 H-4】 【千賀てる子@戯言シリーズ】 [状態]軽い火傷、疲労(小)、悪刀『鐚』により回復が早いです [装備] 悪刀『鐚』 [道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜2) [思考] 基本 すべてはお嬢様のために 1 お嬢様を探しだし、いない場合優勝を目指す。 ※悪刀『鐚』の力により体の「活性力」が高められています。 程度はどれぐらいであるかは後の書き手さんに任せます。 ◆ ◆ 「ふふ、でも面白いわね。これ」 すでに肉塊となった者の支給品を見ながら呟く。 見ているものは、ある心臓である。 なぜかその心臓は切り離されているというのに、バクバクと脈を打っている。 その心臓は、五百年の時を生きる最強クラスの怪異、 自称「鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼」キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードのものである。と、説明書きと一緒にあったものだ。 そして他にもパーツが支給品としてあると。 この心臓は本来、吸血鬼とその知り合いにとってしか意味を成さないものであった。 しかし、手に入れたのは『眼』を持つ彼女であった。 彼女の『眼』にも『健康』までは見取れない。 しかし吸血鬼の『再生力』は? 凍空一族の筋力による怪力ではない、能力的である『怪力』を見取れた彼女にはそれは不可能だろうか。 否 可能であった。 しかしあくまでも『吸血鬼』の一部であるものからは、一部の『再生力』しか見取れなかった。 しかし『再生力』に特化した吸血鬼の、それも心臓である。 一部といえども、その『再生力』は並み知れないものであった。 最強の『再生力』を見取った彼女は、礫の山を歩きながら再度呟く。 「この『再生力』があればわたしでも本気をだせるかもしれない…… 出してみたい。わたしの本気を。あの子にも見せてやりたい。わたしの本気を」 ふふっ、天才は笑う。 「この後はどうしようかしら。 いくあてもないし、地図にある不承島にでもいってみるかな。 もしかしたら、あの子もいるかもしれないしね」 そして、血に染まった草鞋を気にする風もなく、何事もなかったかのように——歩みを再開させた。 【鑢七実@刀語シリーズ】 [状態]健康 [装備] なし [道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜2)、キスショットの心臓 闇口憑依の支給品(確認済み) [思考] 基本 不承島にいってみる 1 七花とあってみたい 2 完璧な『再生力』を見取るために吸血鬼のパーツを集める 3 『再生力』を見取り自分の本気を出してみたい 011← 012 →013 ← 追跡表 → ― 闇口憑依 ― ― ツナギ/繋場いたち ― ― 真庭鳳凰 ― ― 千賀てる子 ― ― 鑢七実 017
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【名前】八九寺真宵 【出展】物語シリーズ 【種族】幽霊(迷い牛) 【性別】女 【声優】 【年齢】 【外見】 【性格】 【口調】 一人称: 二人称: 【呼称】 [[]]→ [[]]→ 【特異能力】 【備考】