約 7,108 件
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/13.html
本編目次(0~50話) No. タイトル 時間 登場人物 作者 000 オープニング 阿良々木暦、戦場ヶ原ひたぎ、影谷蛇之、水倉りすか、水倉神檎、真庭蝙蝠、真庭人鳥 ◆rOyShl5gtc 001 しかつもんだい編(前編)しかつもんだい編(後編) 深夜 供犠創貴、無桐伊織 ◆rOyShl5gtc 002 2話 深夜 阿良々木暦、神原駿河、哀川潤 ◆T7dkcxUtJw 003 3話 深夜 傍系の病院坂迷路、兎吊木垓輔、式岸軋騎、串中弔士 名無しさん 004 めいろマイマイ 深夜 八九寺真宵、病院坂迷路 ◆iaNM/KCMCs 005 5話 深夜 零崎人識、玖渚友 ◆iTZECfXJ4g 006 錯綜思考(策創試行) 黎明 奇野頼知、萩原子荻、石凪萌太 ◆wUZst.K6uE 007 ボルトキープの再開 深夜 零崎曲識 ◆rOyShl5gtc 008 たかしフォックス 深夜 時宮時刻、西東天、羽川翼 名無しさん 009 試験開始 深夜 西条玉藻、紫木一姫、零崎双識 ◆iTZECfXJ4g 010 不運の結果(風雲の経過) 深夜 匂宮出夢、櫃内夜月、千石撫子 ◆wUZst.K6uE 011 11話 深夜 真庭人鳥、誰でもない彼女 ◆kCGp90my/U 012 死闘(四闘) 深夜 闇口憑依、ツナギ/繋場いたち、真庭鳳凰、千賀てる子、鑢七実 名無しさん 013 13話 深夜 闇口濡衣、左右田右衛門左衛門 ◆kCGp90my/U 014 世界の終わり、正しくは始まり(前編)世界の終わり、正しくは始まり(中編)世界の終わり、正しくは始まり(後編) 深夜 戯言遣い、戦場ヶ原ひたぎ ◆wUZst.K6uE 015 15話 深夜 想影真心 ◆kCGp90my/U 016 16話 深夜 櫃内様刻 ◆T7dkcxUtJw 017 17話 深夜 鑢七実、奇策士とがめ、否定姫 ◆kCGp90my/U 018 血の枷(智の加勢) 深夜 水倉りすか、病院坂黒猫 ◆iTZECfXJ4g 019 虚刀『鑢』対人類最終『橙なる種』 深夜 鑢七花、想影真心、真庭狂犬 名無しさん 020 ≪自殺志願≫の捜索 深夜 零崎双識 ◆kCGp90my/U 021 偽装観(疑想感)《前編》偽装観(疑想感)《後編》 早朝 奇野頼知、萩原子荻、石凪萌太 ◆wUZst.K6uE 022 開戦時刻 深夜 羽川翼、西東天 ◆wUZst.K6uE 023 過去の彼方(仮虚の刀) 黎明 鑢七花、想影真心、四季崎記紀 ◆kCGp90my/U 024 誰事(戯言) 黎明 戯言遣い、戦場ヶ原ひたぎ、左右田右衛門左衛門 ◆kCGp90my/U 025 真庭忍軍最古vs相生忍軍最後 黎明 真庭狂犬、左右田右衛門左衛門 ◆kCGp90my/U 026 逢魔が時(大凶刻)《前編》逢魔が時(大凶刻)《後編》 早朝 鑢七実、奇策士とがめ、否定姫、時宮時刻 ◆wUZst.K6uE 027 停まらない害悪(染まらない帷幄) 早朝 兎吊木垓輔 ◆iTZECfXJ4g 028 不殺の刀と不生の刀《前編》不殺の刀と不生の刀《後編》 早朝 鑢七花、想影真心、四季崎記紀左右田右衛門左衛門、零崎人識、玖渚友 名無しさん 029 神はあまり役に立たない? 早朝 真庭鳳凰 ◆kCGp90my/U 030 30話 深夜 病院坂迷路、八九寺真宵、零崎曲識 ◆T7dkcxUtJw 031 死者一人(小さき鳥) 深夜 真庭人鳥、誰でもない彼女 ◆T7dkcxUtJw 032 メイドが行く!(冥土に逝く?) 早朝 千賀てる子 ◆kCGp90my/U 033 末路(順)《前編》末路(順)《後編》 早朝 奇野頼知、萩原子荻、石凪萌太、羽川翼、西東天 ◆wUZst.K6uE
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/5.html
まとめサイト作成支援ツールについて @wikiにはまとめサイト作成を支援するツールがあります。 また、 #matome_list と入力することで、注目の掲示板が一覧表示されます。 利用例)#matome_listと入力すると下記のように表示されます #matome_list
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/41.html
世界の終わり、正しくは始まり(中編) 「ところで」唐突に、声の調子が真剣なものに変わる。 「あなた、どうしてここにいるのかしら」 「………?」 どうして………? それは、ぼくが今一番したい質問なのだけれど。 「私と同じく、強制的に連れてこられてここにいるのかしら。それともまさか、自分から望んでここへ来たとか? 何をさせられるのか知った上で、この悪趣味な首輪の中に、自分の首を突っ込んだとか?」 「………」 あり得ない、とぼくは思う。少なくとも、ぼく自身は。 「別に、あり得ないことじゃないわよねえ」 しかし彼女は、そんな風に言う。 「大層な“ごほうび”も出るみたいだし、向こう見ずな人間が何匹釣り針に掛ったって、別に不思議ともなんとも思わないわ。欲にまみれた俗物たちの醜い蹴落とし合い。『見世物』としては最高の部類なんじゃないかしら。いつか読んだギャンブル漫画を思い出すわ」 「………」 欲するものがあるから、得られる機会があるから、そこへ手を伸ばす。 その手で奪うことになろうとも。逆に、何かを失うことになろうとも。 欲望は人を鈍磨させる。 ぐい、と、後頭部への圧力が増す。殴られた部分に、鈍痛がぶり返す。 「本当、吐き気がするわ」 まさしくそれは、吐き棄てるような口調だった。 「どうしてこう、次から次へと変な物ばっかり寄ってくるのかしら。普通にしていたいだけなのに、まともな人間でいたいだけなのに、それがいけない事? 殺し合え? 馬鹿じゃないの? 最後の一人になれ? まずあなたが死になさいよ。如何なる望みもくれてやる?」 そんなこと、いったい誰が望んだっていうのよ———。 絞り出すような声音で、彼女は言った。 「私を、私たちを巻き込まないでよ。もう沢山なのよ、こんなこと」 「………………」 それを、ぼくに言うのはお門違いだ。 ただの八つ当たりにしか、それはならない。 実際それは、八つ当たりのつもりで放った言葉だったのだろう。 他に言うことは無いとでもいうように、後ろからの声はぱたりと止んだ。無言の中に、二人分の足音だけが静かに続く。 無人の静寂とは、また別の種類の静寂。 ————。 しかし彼女は、わかっているのだろうか? 今この状況で、そんな言葉を言ったということが、一体どんな意味を持つのかということを。 もしも彼女が、生き残るつもりでいるというのなら、この悪夢から、生きて逃れたいというのなら——— たとえ相手が、通りすがりの脇役だったところで。 取るに足らない、場繋ぎ役の道化だったところで。 そんな言葉は、ここで吐くべきじゃあなかった。 「全くの同意見だね。笑えるくらいに吐き気がするし、滑稽なくらい馬鹿みたいだ。ただ君が思い浮かべたっていう漫画、多分ぼくも読んだことがあるやつだと思うけど、あれは名作だとぼくは思うね。あの緊迫した雰囲気は凡人に出せるようなものじゃない」 微かな動揺を背後から感じる——ことが可能なほど、ぼくは器用じゃない。 「『一杯の茶のためなら、世界なぞ滅んでもよい』——ドフトエフスキーだっけ? 人間の欲望ってまさにそんな感じだよね。身体は張るもので、命は懸けるもので、肉は斬らせるものだってね。一秒の幸福の得るために、永劫の世界でも紙クズ同然の扱い。大した等価交換だよ」 「ちょっと」 後頭部に、再び軽い衝撃。 「誰が喋っていいと許可したの? 勝手な行動はするなと、再三に渡って警告したはずよ」 「散々疑問符付きで話しかけておいて、返答すら許可しないって方がおかしいとぼくは思うけど。ぼくの話はそんなに警戒すべき要素なのかな。たとえ奴隷が相手だとしても、必要以上に自由を剥奪するのは、君自身のためとしても良くない」 確認はできないけれど、相手が苛立った表情をしているのが容易に想像できる。 「……口を開くだけならまだしも、減らず口まで許可するつもりはないわよ」 「軽口も教養の内だと思うけどね」 「……口で言ってもわからないみたいね」 敵意を一層、強烈に感じる。確認せずとも、声の調子だけで、はっきりとわかるくらいに。 「言葉が理解できないのだったら、鉛弾はどうかしら。そんなにご所望なら、引き金くらいいくらでも引いてあげるわよ。二発でも三発でも、あなたの口が大人しくなるまで」 後頭部への圧力は、中へめり込まんばかりに強くなっていた。本気で痛い。 「黙るつもりがないなら、本当に殺すわよ」 「無駄だよ」 容赦のない敵意(と痛み)にあてられながらも、平静を保った口調でぼくは言う。 「そんな脅し文句、ぼくには通じない。ぼくは既に、今のきみがぼくを殺すことができないことを絶対的に確信している。なぜならきみがその手に持って、ぼくの頭に突きつけ続けているそれは、拳銃の類なんかじゃないからだ」 ◆ ◆ ◆ 時代がかった町並みを通り過ぎ、ぼくたちは雑木林の中を歩いていた。林をふたつに分けるようにして一本の道がまっすぐ通っており、真上を見れば、木々に遮られることなく真っ暗な夜空を見ることができる。 こうして歩いていると妙な閉塞感を感じる。木々の間隔はまばらで、昼間であれば明るいと思えるくらいの林ではあったが、今は夜の闇のせいで、明かりのないトンネルの中を進んでいるような気分だった。 「『最初からすべてお見通し』——みたいな言い方になりそうでちょっと嫌だけど、おかしいと思っていたのは、きみが病院でぼくの背後から声をかけてきた、あの時からだった」 ぼくは前を向いたまま、独り言のように自分の後ろを歩く相手へと語りかける。顔の見えない、名前すら知らない相手と話すというのは、どうもやり辛い。 「きみはあの時、二つの音を発したね。きみの『動かないで』の声と、銃声一発。この場合、字面的に音と言うより声と言うべきかな? まあ、どっちでもいいんだけど」 冷徹な「Freeze」の声と、鋭くも乾いた破裂音。 「とにかくその二つの声を聞いたことによって、ぼくはきみが銃器の類を所持していると判断したわけだ」 あるいは、判断させられた——なのか。 ぼくは続ける。 「今更のようだけど、ぼくはあの時、きみが拳銃の類を構えているのをこの目で確認していない。ぼくが後ろを振り返らなかったから——否、きみが振り返らせなかったからだ。あの時から今に至るまで、ずっとね」 もっともあの薄暗い廊下だったら、離れた場所に立つ相手の持っている物なんて、ぱっと見ただけじゃわからなかっただろうけど。 「シュレディンガーじゃないけど、ぼくが目で見ていない以上、ぼくにとってきみが持っているのが拳銃の類でない可能性は存在する。ここまでは当然、可能性の話に過ぎない。ただそう考えた場合、あの時の一連の流れの中に、ある一つの事実を見出すことができる」 「回りくどい言い方はよしなさい。聞いててうざいわ」 苛立った声が、後ろから飛ぶ。 「推理小説の解答編みたいな形式、私は嫌いなの。無駄に演出的な順序立てして話したり、無駄に引き延ばしたような台詞をダラダラ何行も連ねたり。たいていの解答編は一ページもあればまとめ可能なんだから、あなたもそうなさい」 身も蓋も有りはしない。 回りくどいのは認めるけれど。 「まあ、努力はするよ………ともかく、もしきみがあの時に銃弾を発射したのだとしたら、銃声が聞こえたのはなんら不自然なことじゃない。ここで問題にされるべきは、聞こえなかった音のほうだ」 「聞こえなかった——ですって?」 “世界で唯一の音であるかのように、くっきりと響く残響音”。 足りない音が、あの場所にはひとつあった。 「銃火器の類は、派手な音を鳴らすのが特徴だ。ただし、音を出すのは何も銃本体だけじゃない。あの時足りなかった音ってのは、弾丸が鳴らす音の方さ」 銃を発砲すれば、当然のこと銃弾が飛ぶ。 発射音の後には、着弾音、または跳弾音が聞こえなければおかしい。 あの閉めきった建物の中で発砲すれば、弾丸は必ず、ぼくからそう遠くない所に着弾する。コンクリの壁やリノリウムの床に当たれば、それなりの音が響くはず。ガラスや調度品に命中すればいわずもがなだ。 「空砲が発射されたって可能性もあるけれど、このゲームの主旨から言って、あっち側がわざわざ空砲入りの銃を支給するってのはどうしても腑に落ちない。きみに銃弾を改造するスキルがあったとしても、空砲を撃たなきゃならない理由なんてない」 淡々と、あくまで淡々と。 ぼくは、言葉を紡いでゆく。 「あの時、弾丸は発射されていなかった。推理ってわけじゃないから、あくまで妥当性の問題ではあるけれど、きみが初めから銃器を所持していないと考えるのは妥当じゃないとは言えない」 「だから回りくどいのよ、この演説家気取り」 相変わらず、声は冷たいながらも苛々としていた。今まで黙って聞いてくれただけ良かったのかもしれない。 相変わらず、声は冷たいながらも苛々としていた。今まで黙って聞いてくれただけ良かったのかもしれない。 「あなた、大事なとこを無視してるじゃない。銃声じゃあないっていうなら、最初の音は何だっていうつもり?」 最初の音というのは、あの破裂音のことだろう。 「さあね、君の持ち物を把握してる訳じゃないから、そこは何とも言えない所だけど。銃声に代わる音を出せるような道具——例えば火薬玉みたいな物を使ったのかもしれないし、きみが自分の声で作った音だったのかもしれない」 そういう声帯模写って聞いたことあるし。 「無茶苦茶ね。暴論と言い換えてもいいわ」 「そのへんは、きみの暴言とおあいこってことで」 「自惚れないで。私の暴言は、暴徒や暴動や暴風雨よりもずっと暴力値が高いのよ」 ………暴力値? 「じゃあ今のぼくが持つ情報だけを用いて、あの破裂音の正体を推測してみようか」 ぼくは続ける。 「きみの持ち物は把握してないと言ったけど、ぼく自身の持ち物は既に確認してる。あれを見て思ったのは、このデイパックが全員に与えられているとしたら、中身はみんな一緒なのか、それともみんなバラバラなのかってことだ」 その辺の説明が全然されていなかったから、杜撰だと思ったのだけれど。 「今、きみの荷物と比較できればいいんだけれど、仮にきみが教えてくれたところで、それを鵜呑みにするのはあまりにナンセンスだ。だからやっぱり明確なことは言えないけれど、ある程度、推測することくらいはできる。 ぼくの持っている荷物のなかで、注目すべきは——注目しないべきは、といった方がいいのかな。生き残り——サバイバルという言葉を、今ぼくたちがいる状況を表す言葉として用いるなら、地図、食糧、コンパス、時計、懐中電灯。 この5つは、言うなれば『あって当たり前』の物として類別することができるんじゃないかな。普通のキャンプですら必要必需品のアイテムだしね。むしろこれじゃ足りないくらいだ。 病院から出てすぐ、きみはぼくのデイパックからこの懐中電灯を取ってぼくに渡したね。最初からそれが入ってるのを知ってるみたいに。多分きみも、自分の荷物に懐中電灯があったからぼくのデイパックにもそれが入っていると予想していたんじゃないのかい? で、この中で銃火器の代わりになりそうな道具はあるかな——まあ、ないね。武器になりそうな物すらないね——じゃあ、銃声の代わりになりそうな物は? 建物の中で反響するくらいの破裂音を奏でることができそうな物は? ここで、今度こそ注目すべきものがひとつある。 懐中電灯だ。 なんの変哲もない、コンビニでも売ってるような普通の懐中電灯だね。つまり普通に考えるなら、この懐中電灯の中には電池が組み込まれているはずだ。 これ以上勿体ぶるのは忍びないから、この際はっきり言ってしまおう。 きみは乾電池を破裂させることで、その破裂音を銃声の代わりにしたんだ。 乾電池を火にくべると——つまり加熱することで、乾電池は爆発する。他ならぬきみ自身が言っていたことだ。熱源をどうやって確保したのかはわからないけど、あそこは病院だし、可燃物とかは容易に確保できそうな気がするね。 そういえば、乾電池とスチールウールを組み合わせることで火を起こすことができるとか聞いたことあったかな。まあ、その辺は完全に想像の域かな。熱を加えてから破裂するまでのタイムラグが問題だけれど、熱の強さ次第では、破裂するまでの時間を限りなく短縮できる。 ぼくにあの音を聞かせれば取りあえずは良かったんだろうし、あの時はたまたまきみが『動くな』と言った直後に爆発したのかもしれない———とまあ、今のぼくに推測できるのはこのくらいかな。 ついでに言うなら、きみがわざわざぼくのデイパックから懐中電灯を取って渡したのは、自分の懐中電灯が使えなかった状態だったからじゃないかな。電池が入っていなければ、ただの筒だからね、 そしてぼくの後頭部に押し当てられているこれが、正にその『ただの筒』となった、懐中電灯だったとしたら———」 「………………」 「………………」 「………………」 「………………」 しばらくの間、沈黙が場を支配する。土を踏む音だけが二人分、一定間隔を保って続く。 「………勘違いしないでよね」 数十秒に渡る沈黙の後、ようやくといった感じで彼女は声を発する。 「別に、あなたのために今まで黙って聴いてたわけじゃないんだからね………あまりに馬鹿馬鹿し過ぎて、口を挟む気にもならなかっただけなんだからね………」 脱力感全開の口調だった。 新ジャンル、脱力系ツンデレ。 「…さっき、推理小説の解答編みたく、って言ってた自分が馬鹿だったことを認めるわ……こんな糞っ滓みたいな推理、実際に小説に使ったら社会的に死刑よ」 「だから推理じゃないって」ぼくはなるべく相手を刺激しないように言う。「ただの戯言さ」 「そう、じゃあおあいにくさま。戯れるための言葉なんて、私はこれっぽっちも聞きたくはないの」 放たれる敵意に、殺意が混じったように感じた。それは単に、ぼく自身の危機感から生じた感覚だったのかもしれないけれど。 「本当に言葉じゃわからないみたいね——もういいわ。これ以上そんな妄言を撒き散らすつもりなら、とっとと」 「報告ならいいんだろう?」 「は?」 ここで主導権を渡すわけにはいかない。 ここからが、本当のぼくのターンなのだから———。 「何かあったら即座に報告するよう、ぼくに言ったのはきみだろ? 実はさっきから、報告すべき事態が生じているんだけれど」 「………何よ、さっさと言いなさい」 「実はね——」 ざり、と。 靴の裏で、地面の感触を確かめるように擦る。 「ぼくの後ろ——つまりきみの後ろでもあるわけだけど、誰かいる。さっきからずっと、ぼくらを付けてきている」 ◆ ◆ ◆ 彼女がぼくから注意をそらしたかどうかも、思わず後ろを振り返ったかどうかも、前を向いたままのぼくからは確認することはできない。 だから、これはほとんど賭けのようなものだった。 両膝を曲げ、両手を前に出し、身体を思いきり低く屈める。地面に這いつくばるような低姿勢のまま、後ろ回し蹴りのようにして、背後の相手に足払いを繰り出す。 小さな悲鳴とともに、ようやく視界に捉えることができた人影が、地面に仰向けに転がる。素早く立ち上がって追撃を仕掛けようとするが、焦りのせいかバランスを崩してしまい、立ち上がるのが一瞬遅れる。 その一瞬の間に、相手は体勢を整えようと、両手両足の力を使って後方へと飛び退る。林の中へ逃げ込む算段か。 中途半端な姿勢のまま、ぼくは懐中電灯を相手へと向ける。突然の光を受け、相手が眩しそうに目を細めるのが、闇の中に浮かび上がるようにして見えた。 その隙にぼくは立ち上がり、一気に相手との距離を詰める。右手に持った黒い塊のような何かを、相手がこちらへと向けてくる。ぼくは懐中電灯を武器に、その右手を思いきり薙ぎ払った。 「………っ!」 相手の右手が、あさっての方向へと弾き飛ばされる。抑圧したような悲鳴が漏れたのが聞こえたが、それでも手に持った何かを離さなかったのは、流石と言うべき所なのだろうか。 懐中電灯を離し、硬直した相手の右手首を捕える。そのまま押し倒すように地面へ組み伏せようと、左手に力を込める。 「………!? う………っわ!!」 刹那、自分の身体が空中へと浮かぶのを感じた。視界がぐるりと反転し、逆さまの木々が暗闇のなかに見える。戸惑う暇もなく、ぼくは頭を地面に向けたまま落下する。 「———ぐあっ!!」 頭から着地することは何とか避けたが、肩と背中をしこたま地面へ打ち付ける。衝撃が脳を効果的に揺さぶる。 巴投げ———! ぐらぐらと揺れる頭で、どうにか理解する。ぼくが相手の右手を掴んだ時、空いた状態の左手は、既にぼくの襟元を捕えにかかっていたのだろう。 畜生。 ぼくは小さく毒づく。素人じゃない。闘い慣れてる。 地面の上を転がりながら林の中へと逃げ込み、なんとか体勢を整えて相手に向き直る。相手の方も既に起き上がって、少し離れた所から、こちらをじっと見つめている。 両目は既に、暗闇に順応している。ぼくはようやく、相手の姿をはっきりと目に捉えることができた。 声でわかった通り、女の子。 服装は、ブラウスにプリーツスカート。明かりがないためよくは見えないが、その簡素な雰囲気から、学校の制服のようにも見える。 思っていたより、ずっとたおやかで華奢に見える体躯。背もそれほど高くはない。ぼくと同じくらいか。 そして、右手に持った何か。 否——もう「何か」ではない。ぼくにはそれが何なのか、明確に理解できている。 突如、その黒い塊から閃光が放たれる。鼓膜を掻き乱す不快な音とともに、稲妻のようにほとばしる蒼白い閃光。 冗談のように全身が粟立つ。いや、もう冗談では済まない。 ぼくにとっては、ある意味拳銃よりも驚異に値する代物。 「スタンガン——か」 ぼくは思わず声に出して言う。それが、まったく意味のない行為だと知りながら。 あれが今までずっと、ぼくの後頭部へと押し当てられていたわけだ。余裕ぶって講釈かましてた自分を馬鹿らしく感じる。 相手の右手が、再びこちらへと向けられる。 そして、全身から放たれる敵意。 先程まで背中で受けていた敵意を、ぼくは真正面から受け止める。 敵意。 敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意、敵意。 敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意敵意! 今までのそれとは、まるで比べ物にならない。 敵意だけでは恐怖に足りないなんて、とんだ戯言だった。ここまで研ぎ澄まされた敵意、中途半端な殺意よりよっぽど恐怖に値する。 じり、と、少女がこちらへ一歩踏み出す。 こちらから仕掛けた時点で、既に話し合いの機会は失われたも同然だった。奇襲をかけて主導権を握り、なんとか説き伏せるつもりでいたのだが———失敗した。 少女の双眸は、さながら獲物を狩る虎だった。 虎視眈々。言葉として填りすぎだ。 「ったく……結局こうなるのかよ………!」 デイパックを肩から外し、地面へと投げ落とす。相手の背中は既に空いているようだった。先手を取られた気分で、ぼくは臨戦体勢をとる。 こちらは徒手、あちらには凶器。それだけで既に、決定的とも言える開きだ。 でも、こちらに勝算がないわけではない。 膠着を解き、相手が先に攻撃体勢へと移る。 右手を向けたまま、こちらへ飛びかかってくる少女。ぼくは咄嗟にバックステップで後方へと下がる——かのように見せかけ、さりげなく足に引っ掛けておいたデイパックを、蹴り込むようにして相手へと飛ばす。 足による投擲。当然それは命中精度に欠けるもので、デイパックは少女の右脇を抜けるような軌道で飛んでいったが、相手はそれに少なからず動揺したらしく、両手で身体をかばうような姿勢になる。 右手が引っ込んだその隙に、跳躍するように地面を蹴って相手へと接近。突き出されるスタンガンを仰向けに倒れるように避けながら、スライディング気味に蹴りを繰り出す。 回避と攻撃の複合。 しかし一度足払いをくらっているせいか、ぎりぎりの所で回避される。ぼくの頭上を飛び越えるようにしての強引な回避。結局地面へ転がったようだが、うまいこと受け身をとったようで、即座にこちらへ向き直る。 やはり一筋縄ではいかない。ぼくも即座に起き上がり、続けて攻撃を仕掛けようとする。 「………がっ!?」 顔面に激痛が走る。右目の下辺りに、何かがぶつかったような感覚。何か投げつけられたか、と、意外に冷静な頭で思う。 地面にぼとりと落ちたそれを見ると、さっきぼくが投げ捨てた懐中電灯だった。起き上がり様に拾っていたらしい。人のことは言えないが、油断のならない真似をする。 まずい——脳が焦りを訴える。投擲により隙を作ってからの攻撃。その点で、奇しくもぼくと相手の戦略は共通していた。 違うのは、投擲により生じた隙の大きさ。顔面に衝撃を受け、反射的に目を閉じてしまっている状態。この状況下で、それは永遠にも匹敵する隙。 そしてもうひとつ。 相手にとって、ぼくに一撃でも叩き込むことができれば、この勝負は決まる。素手のぼくとは、一撃の殺傷力が違う。 ここへきて、護身用というオチもあるまい。 一撃必殺。 スタンガン。 「く………ああぁ!!」 目を開くより先に、ぼくは右側へ向けて力の限り跳躍した。飛んだ先に木が立っていたら、もろに頭から激突していた形だったが、幸いぼくの身体が味わったのは、地面との衝突による衝撃だけだった。 顔を向けると、さっきまでぼくが立っていた場所にスタンガンを突き出している少女が見えた。本気で際どい所だったらしい。 有無を言わさず、少女が追撃をかけてくる。倒れている状態のぼくへ容赦なく振るわれるスタンガン。それを回避しつつ、何とか起き上がろうとする。 しかし相手はそれを許さなかった。スタンガンに気を取られている隙に、強烈なローキックを足首に見舞われる。ぼくは三度倒されて、地面との再会を果たす。どうやらぼくは、このパターンがよほどお気に入りのようだ。 仰向けに倒れたぼくを、毒牙を携えたような瞳で見下ろしてくる少女。スタンガンが構えられる。いつかの情景が脳裏にフラッシュバック。 どうする、考えろ。状況を打開しろ。見下ろされるのはこれで何度目だ? その時は何を相手にしていたのだっけ。鉈? ナイフ? 拳銃? いや拳銃は違う。あの時上から拳銃を構えてたのはぼくの方だ。確か無様にかわされてしまったのだっけ。あれはどうやって——— ぶん、と。 スタンガンを持った右手が、顔面へ真っ直ぐに降り下ろされる。 眼前に迫る、蒼白い閃光。 「う、おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」 ぼくは左腕を、大きく弧を描くようにして振りかざした。上半身の力だけをフルに使い、振り下ろされる右腕に対し、横薙ぎの掌底を叩き込む。 「く———うっ!」 軌道をずらされた右腕の一撃は、ぼくの頭部の右脇へと突き刺さる。紙一重。そのまま相手の右腕を掴み、渾身の力で引き倒す。 しかし相手も只では転ばない。倒れ様に、ぼくの顔面に蹴りを打ち込んでくる。防御が間に合わず、もろに喰らってしまう。 「か………は………!」 身体を引くことで衝撃を軽減することはできたが、そのぶん大きく吹っ飛ばされてしまう。本当、今日は色々と飛ぶ日だ。 痺れる頭をどうにか制御し、立ち上がる。よし、とりあえず危機は回避した。まだいける、まだいけるぞ、ぼく。 蹴撃が思いのほか効いた風を装って、ぼくはよろよろと近くの木にもたれかかる。それを見て、勝機を得たとばかりに突っ込んでくる少女。 フェンシングの剣のように突き出されるスタンガン。 その一撃は、今度は空を切らなかった。 スタンガンの先端が、ぼくのジャケットへぐさりと突き刺さる。 飛び散る火花。ほとばしる閃光。煙を上げて焼け焦げるジャケット。 そして——— 結果焼け焦げたのは、ぼくのジャケットだけだった。 「………くっ!!」 少女の焦ったような声。彼女がスタンガンを突き出してくると同時に、ぼくは自分のジャケットを、スタンガンめがけて投擲していた。 それは防御の意味もあったが、もうひとつ、広げられたジャケットを暗幕として使う、という目的もあった。 今の一撃によって、彼女は放電時の閃光を、暗闇に慣れた状態の両目で至近距離からもろに受けた形になったはずだ。対してぼくの方は、大きく広げられたジャケットに遮られ、閃光が届くことはない。 狂わされた視覚、ジャケットに覆われたスタンガン。 その隙はもはや、永遠にも等しい。 ぼくは背後の木を反動に使い、一足飛びに距離を詰める。しかし少女は退かない。絡んだジャケットごと、右手を前に突き出してくる。 しかしその攻撃は、まるで方向の定まらない一撃。 捨て身の一撃というには、あまりにも温い。 突き出される右手へ、叩き下ろすように手刀を放つ。がくん、と右手が崩れ落ち、ジャケットが地面にはらりと落ちる。現れた少女の右手は、空だった。 ぼくの両手が、少女の手首をふたつ同時に捉える。 投げ技を仕掛ける隙は与えない。飛びかかった勢いそのままに、全身を使って体当たりをかます。相手のバランスが後ろへ崩れたところを狙い、一気に両手に力を込め、叩き付けるようにして地面へと押し倒す。 打ち付けた両腕から、鈍い衝撃が全身ヘと伝わる。だが掴んだ両手は離さない。 かふ、と、苦しげに息を吐く音が少女の口から聞こえる。 それが終了の音だった。 林の中に、再び静寂が戻ってくる。 呼吸が乱れているのを今更のように自覚。酸素が足りないせいか、先程の衝撃が効いているせいか、頭がいい具合に揺れている。睡魔とも錯覚できそうな疲労感。 少女のほうも、同じように息を荒くしている。しかしその表情に浮かんでいるのは、不気味なくらいの冷静さだった。 そして、敵意。 その表情からは、想像もつかないくらいの敵意。スタンガンの閃光も真っ青の敵意。 この状態で、まだ敵意を収めるつもりがないのか………。 呆れるより先に感心できる。 「………屈辱だわ」 互いに呼吸が落ち着いてきた頃、少女は溜め息とともに呟いた。 「こんな背景の端っこに立ってそうな、通行人Zみたいな男にやられるなんて——この一幕だけで、自分の重要度が極端に下がった思いよ」 通行人Zて。 強そうだなおい。 「殺すがいいわ、殺すがいいのよ。そして人気投票の結果を見て己の行為を悔いなさい。人気上位キャラを殺すことがどういう意味を持つのか、その身で存分に味わうがいいわ」 「………何のことかよくわからないけど」 ぼくは彼女に応じる。 「一応、さっきのきみの質問には答えておくよ。ぼくもきみと同じく、強制的に参加させられたクチさ。自分から参加なんて冗談じゃない。しばらくは、病院のベッドの上で暮らす予定だったのに」 「だから何? 同じ境遇にいるから心中を察しろとでも言うの? 辛いのはよくわかる、仕方なく殺すのはわかってるから、恨むつもりはない——とでも言ってほしいの?」 冷笑を浮かべながら言う少女。 「それとも、殺す以外の選択肢を画策でもしてるのかしら。今度は妄想じゃなく、本当に手籠めにしてみる?」 「ふん」 ぼくは軽く鼻を鳴らす。余裕ぶって見せたつもりだったが、様になっていたかどうかはわからない。 「選択肢がないのも、困りものだとは思うけれど」 ぼくは、少女から手を離した。 「何かを選ぶのって、あんまり好きじゃないんだよ」 少女は動かない。そのままの姿勢で、こちらを見上げている。 ぼくはゆっくりと立ち上がる。 「きみに明確な目的があるっていうんなら、あのまま黙って従ってても別に良かったんだ。奴隷の真似事でも、遮蔽物の真似事でも、何だってね」 真似事は道化の役割だからね。 そう言ってぼくは数歩後ろへと下がり、木の幹に背中を預けつつ、地面に腰を下ろした。 「今だって、きみの分まで選択権を握るつもりなんて、ぼくにはないよ」 「………よく言うわ」 少女は言う。 「派手に抵抗しておいて、よくそんなことを堂々と言えるわね。あんなによく喋る道化なんて見たことないわよ」 「きみがあんなことを言うからいけないんだよ。ぼくが黙っていたように、きみだって、あんな余計なことを言うべきじゃあなかった」 ——そんなこと、一体だれが望んだっていうのよ。 「生き残りたければ、きみは口先だけでも殺人者に徹するべきだったんだ。殺人鬼になるべきだった。殺し屋になるべきだった。最悪に、なろうとすべきだった」 ——私を、私達を巻き込まないでよ。 ——もう沢山なのよ、こんなこと。 「そんな、『どこにでもいるような普通の女の子』みたいな、『日常から非日常へ放り出された不憫な少女』みたいな台詞を軽々しく吐いていたら、この闘いを生き抜いていくことなんて、間違いなくできないんだよ」 ましてや、吐いた相手がぼくだったなら——。 沢山だというのなら、巻き込まれたくないと言うのなら——— 出会った時点で、ぼくを殺しておけばよかったのだ。 「逃げるのもいい。ぼくを殺すのもいい。何もしないのも選択肢の内だ。ただしどれを選んだにせよ、今のきみじゃあ、遅かれ早かれ確実に死ぬ。それをただ伝えたかっただけさ」 言いたいことはすべて言った、とばかりに、ぼくは嘆息し、沈黙する。 「………………」 相手も沈黙を続けていたが、しばらくして「………本当によく回る舌ね」と、今度は少女のほうが嘆息した。 「あなた、むかつくわ」 ぼくはそれに対し、嘆息しながら肩をすくめる。「よく言われるよ」 少女は嘆息しながら言う。「次に私があなたの後ろに立った時は、首筋を喰いちぎられる時だと思いなさい。精々背後に怯えているがいいわ」 ぼくは嘆息しながら言う。「そのへんは、信じる心で何とかするさ」 まるで、素直じゃない子供同士の喧嘩の後の仲直りのようだなと、嘆息まじりにぼくは思った。 014← 014 →014 ← 追跡表 → ― 戯言遣い ― ― 戦場ヶ原ひたぎ ―
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/52.html
【名前】兎吊木垓輔 【出展】戯言シリーズ 【種族】人間 【性別】男 【声優】 【年齢】 【外見】 【性格】 【口調】 一人称: 二人称: 【呼称】 [[]]→ [[]]→ 【特異能力】 【備考】
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/16.html
3話 《害悪細菌》 町中を歩く男が一人いた。 その姿は殺し合いの場にして奇妙と言わざるをえない。 純白のスーツ、手袋、靴、腕時計。そのどれもが着用する人によっては残念なものにしかならないものである。 そのセットを着こなしている彼の歩く姿は軽く優雅である。 彼は電子工学・情報工学・機械工学の天才技術者に 「自分の持つスペックのその全てを全て《破壊する》ためだけに費やした、 その気になれば万能の最強にすら匹敵するその能力を 全部《破壊する》ためだけに費やした、ごく専門の、ごくごく専門の、専門過ぎる極まった破壊屋」 と言わしめた男、兎吊木垓輔以外の誰でもなかった。 《街》 森を歩く男が一人いた。 その姿は田舎に住んでいる牧歌的な青年のような外見であり、 この姿も殺し合いの場にして奇妙と言わざるをえない。 スリーブレスの白シャツ、よれよれだぶだぶのズボン、 両足にぼろぼろのサンダルを履き、丸いサングラスに首にかけた白いタオル、 さらに麦藁帽子ときている完璧すぎる田舎の青年だった。 彼は究極絶無のサイバーテロリスト集団9名の天才の中にいて、 オフライン上での唯一の実働担当であり、 裏の顔として『殺し名』の中で最も忌み嫌われる殺人鬼集団『殺し名』序列3番目《零崎》に所属する、 零崎一賊三天王《零崎軋識》という顔を持つ、式岸軋騎以外の誰でもなかった。 《害悪細菌》 「何で傍系の病院坂迷路である私がこんなふざけたイベントに参加しているんですか。バックアップはバックアップなんですよ。」 愚痴りながら歩いているのは―傍系の―病院坂迷路である。 『彼女』と形容したくなる『彼』は、町中を歩いていた。 こんな殺し合いには参加する意味は全くないですからね。 こんな人が集まりそうな町中からはおさらばして隠れていよう。 まあ、私みたいなことを考える人も数多くいるかもしれませんね。 そうなったら皆殺しかも、いや、あの忍者らしい人たちがいるから大丈夫かも。 あ、なんか人がいる。かなり紳士っぽい姿なんですけど、ああいう人に限って串中先生みたいな人だったりして・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ いやいや、串中先生みたいな人が多くいては困りますから、あの人は普通の紳士さんでしょう。 まあ最初から殺し合いに乗っている異常者には見えませんからね、話しかけてみましょう。 「おーい、そこの白いスーツのお兄さん。」 白いスーツの男が気づいて歩いてこちらにやってくる。 「おやおや狂った殺し合いの場ではじめて出会う人が、自分から話し合うような人とは、俺はついているな。」 「は?」 白いスーツの男はなぜか私の首に手をかけて言う。 どういうことだ、これでは私は殺人者である狼に食い殺される羊ではないか。 男の握力が強いのか首の骨から折れてしまいそうだ。 声にならない声を出しながら 「冗談はやめてくださいよ。」 「かわいそうだけど、君程度の人間にこれを使うわけにはいかないからね。このまま死んでくれ。」白いスーツの男はそういって、釘バットを見せた。 私が死ぬ?ありえない、そんなのありえない、ありえない、ありえない、 ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、 ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、 ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない、ありえない。 「ふざaaけeるな。なんで俺が死ななくちゃいけN」 ゴギッ、と言う音がしてから‐傍系の-病院坂迷路は声を発さなくなった。 ふぅ、これでやっと一人か、あいつは良くこんなこと軽くやってのけるな。 まあ、しかしあのマンションがあるということは、この場所に死線がいるかもしれないな。 いたならば誰かに殺されてしまうなよ。ああ、愛しの死線、君はこのふざけた場所にいるのかな。 君がいる、いないにしろ、水倉と言うやつの思惑に乗るのはいただけない。 こんなプログラムは壊してしまおう。参加者もろとも壊してしまおう。 クラックは俺の専売特許だからな。そのためにまず、この忌々しい首輪だな。首輪と言えば《二重世界》ダブルフリック「日中涼」が思いだされるな。なつかしいな、友達の自慢は最高だからな、誰かに自慢したくなる。 ここで考えを深くしていく。 一見無機質な首輪をはずすとなるとサンプルの首輪が必要となるな。首を切断できるような道具があれば、さっきの奴のをもらえたのにな。 だがマンションにいけば、刃物のぐらいあるだろう。 あとは機械類だが、これはマンションに必ずあるだろうな。 あのマンションが玖渚友が住んでいたマンションならば。 しかし先ほどのことを考えると、自分の知らないことも多くありそうだな。 白いスーツの男、『裁く罪人』『害悪細菌』こと兎吊木垓輔はマンションに向かった。 【-傍系の-病院坂黒猫@世界シリーズ 死亡】 【1日目 深夜 G-4】 【兎吊木垓輔@戯言シリーズ】 [状態] 健康 [装備] 懐中電灯、コンパス [道具]愚神礼賛(シームレスバイアス)@戯言シリーズ、支給品一式×2、ランダム支給品(1~5) [思考] 基本 害悪細菌としてうごく 1 とりあえずマンションへ 《街》 式岸軋騎は悩んでいた。 彼は皆がいた部屋で家族の、家賊の気配を感じていたのだ。「レン」こと自殺志願の零崎双識ほど出ないにしろ、彼にも零崎の気配を感じ取ることは出来た。 さらに、彼の視界には見たくはないがある男が見えた。 純白のスーツ、手袋、靴、腕時計のあの男を見たのだ。 そうなると、他にも《仲間》がいるかもしれないし。何よりも彼女がいるかもしれない。 「どちらを優先するべきかが問題だな」 確かに家族のやつらはこの殺し合いの場でもっとも輝くだろうし、普通に考えて負けることは少ないだろう。 それにかわって玖渚友―死線の蒼―には戦闘能力は皆無である。普通に考えてここは――――しかし、いるかもしれないという可能性だけで家賊を見捨てることは出来ない。 しかし彼女がもしいたら。しかし、、、、、、、、、、 その姿を隠れてみていた姿があった。 さすがに数多の戦場を越えてきた彼は気づいた。 「そこにいるのはだれっちゃか。」 しまった。つい演じていた方の零崎軋識の口癖が出てしまった。 出てきたのは学生服を着た女であった。 「いやぁー、びっくりしましたよ、こんなところでどこぞかの雷娘みたいな口調の人を見るなんて。」 「うっ、口が滑っただけだ。そんなことより手を上げてゆっくりとこちらに来い。変な様子を見せたら殺す。」 ジェリコ941をみせて言う。 「分りましたよ。こんなか弱そうな学生が雷神様に勝てるわけないじゃないですか。」 何だこのガキは、殺し合いの場だというのに、へらへらしすぎている。 「うるさい、しゃべるな。」 「さあ、このぐらいでいいでしょう。この後はどうしたらいいですか。痴態をみせろとでも。」 「誰もそんなことは言っていないまずバックをよこせ。」 もしかしたら、自分のように裏の世界の人間なのかもしれない。 「わかりましたよ。それっ。これでいいですか。ここまでしたんです。お願いがあるんですけど。」 「自分がいつ殺されてもおかしくない状態でよくそんなことがいえるな。」 「だって主催者のことを知っている人を、あなたは情報を聞く前から殺すのですか。」 「なにっ、でもその事が本当かは分らないだろう。」 何を言い出すと思ったらふざけたことを。 「でも本当のことだろうと、嘘だろうと、殺してしまっては分りませんよ。」 こいつは馬鹿な学生ではないようだな、利用できるかもしれないな。これから俺がどう動こうとこいつに殺されるとは思われんしな。 「いいだろう、殺さないでやる。だが変な様子を見せたらすぐに殺す。 おれについてこい。歩きながらお前が話しを聞いて嘘吐きか、そうでないか調べる。」 「分りました。ではまず周囲を歩いてここがどこだか調べましょう。」 「ああ。バックはこちらで預かる。」 「ちなみにさっき言ったことは嘘ですから。」 …意味がわからない。へらへらしていたのは頭がおかしかったから、ここが殺し合いをする場所だとわからなっかたのか。 「は、なにを言ってる。そんなにすぐばらすやつがいるか。なんでばらした。」 「だって嘘吐きだと思われるのは心外ですからね。 それにあなたが少しは冷静そうですから、今言っても問題ないかと。 僕みたいな使える人間を切り捨てるのはもったいないと思いますよ。僕は将棋で例えるなら【王】ですから」 「お前はとことん人を馬鹿にしてるな。まあ、いい。近くの建物にでも行くぞ。お前の名前はなんて言うんだ。俺は式岸軋騎だ」 「串中弔士です。これからよろしくお願いしますね。」 ここに奇妙なペアが生まれた。 しかしこの狂った殺し合いの中で対極的な行動を示した二人の天才はいったいどう動くのか。 【1日目 深夜 B-5】 【式岸軋騎@戯言シリーズ】 [状態] 健康 [装備] 懐中電灯、コンパス [道具]ジェリコ941@戯言シリーズ、支給品一式×2、ランダム支給品(1~5) 串中弔士のバック [思考] 基本 家賊といるかもしれない玖渚友どちらを・・・ 1 とりあえず今いる場所を串中弔士と確認 【串中弔士@世界シリーズ】 [状態] 健康 [装備] なし [道具] なし [思考] 基本 どんな面白いことがおこるだろうか。 1 とりあえず今いる場所を式岸軋騎と確認 002← 003 →004 ← 追跡表 → ― 傍系の病院坂黒猫 ― ― 兎吊木垓輔 ― ― 式岸軋騎 ― ― 串中弔士 ―
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/44.html
病院坂黒猫 No. タイトル 作者 018 血の枷(智の加勢) ◆iTZECfXJ4g 病院坂迷路 No. タイトル 作者 004 めいろマイマイ ◆iaNM/KCMCs 傍系の病院坂迷路 No. タイトル 作者 003 3話 名無しさん 串中弔士 No. タイトル 作者 003 3話 名無しさん 櫃内夜月 No. タイトル 作者 010 不運の結果(風雲の経過) ◆wUZst.K6uE 櫃内様刻 No. タイトル 作者 016 16話 ◆T7dkcxUtJw
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/124.html
死者一人(小さき鳥) 「とにかく……今のぼくにできる最善を尽くそう」 目の前に横たわる、真っ赤な髪をした人類最強(自称)さん。 彼女が確かに気を失っていることを確認して、ぼくは―――真庭忍軍頭領が一人、真庭人鳥は行動を開始した。 鳳凰さまのため、真庭忍軍のため、そしてぼく自身の今後のために、この女はここで味方につけておくべきだ。 少なくとも―――敵に回してはならない。 人一倍臆病なぼくの、臆病ゆえの警戒心が、そう告げている。 震える手で、炎刀を奪う。 つい先刻、運が悪ければぼくは彼女に殺されていた。 完全に、ぼくは何の痕跡も残さず、天井裏に身を潜めたはずだった。 しかし、他の十二頭領達と比べても決して劣っていないはずのぼくのそれを―――彼女は、看破してしまった。 まるで、そうなるのが当然だと言わんばかりに、あっさりと破ってしまったのだ。 忍法柔球術にしても……果たして、ぼくの柔球術にあそこまで耐えた相手が他に居ただろうか? ぼくを殺した―――もっとも何故かこうして生きているものの―――右左田右衛門左衛門にしても。 柔球があの速度、威力に達するより先にぼくを殺したに過ぎず、柔球術そのものは攻略できていないというのに。 仮に、彼女があと一、二分耐えれていたとしたら。 加速した柔球が硝子を割り、外へ飛び出すまで耐えれていたとしたら。 その場合、負けていたのはぼく―――そんな段階まで、彼女は柔球術に耐えたのだ。 間違い無い……彼女の単純な力量は、ぼくよりも上。 即ち、真庭忍軍十二頭領の面々と同格か、それ以上。 本来なら―――忍法運命崩しが無ければ、ぼくでは彼女には敵わないのだ。 炎刀に続いて、彼女の分の道具袋―――ぼくのものと、ほぼ同一だ―――も回収しておく。 ただ―――運命崩し無しでは敵わない。 それで、逆に安堵できたこともある。 本来勝てないような相手に勝てたということは、ぼくの運命崩しが正しく作用しているということだから。 絶対的な、絶望的な力量差をも引っくり返せるこの忍法が、今もなおぼくを守っているということだから。 そして、それはつまり、ぼくらをこの場に呼んだ彼らには、ぼくの幸運に枷を設けることはできなかったということで。 崩れた運命は―――主催者にもどうにもできないということだ。 「なら……ぼくの強運が……ぼくの強さが……奴らと事を交える際には、役に立つかもしれない。 鳳凰さま達のお役に、立てるかもしれない」 鳳凰さまも狂犬さんも、何も考えずに主催者に従うような人じゃない。 表向きは殺し合いに乗ったとしても、腹の底で虎視眈眈と反撃の機を狙い堪え忍ぶ、彼らはそんなしのびだ。 だから、ぼくが彼らの足を引っ張るわけにはいかない。 ぼくはぼくがすべきことを―――人類最強の請負人との交渉を、成功させる。 どんなに怖くとも……どんな手を使ってでも……必ず。 「と、とりあえず炎刀と道具袋は回収したし……他に暗器の類も隠し持ってはいないみたいだ。 あとは……そうだ、一応縛っておくべきかな?」 目覚めてすぐに、襲いかかってくるかもしれないから。 そう思い立ち、部屋の中を探索する。 十分な長さの縄があればいいのだけれど、生憎この部屋には見当たらない。 他の部屋を回ってみれば見つかるかもしれないが、彼女がいつ目を醒ますかわからない以上、それは危険だ。 本当ならしのびの嗜みとして、どんな状況にも対処できるよう道具は常に一式持ち歩いているのに。 残念な事に、便利過ぎるということなのか、そちらの道具類は奪われてしまったようだ。 「でも、柔球を奪われなかっただけいいのかな。 柔球無しじゃ、最強さんは倒せなかっただろうし……そうだ」 最強さんから回収した、彼女の道具袋を開く。 予感がする……『運が良ければ』この中にきっと……。 ぼくの袋にも入っていたあれやそれを脇に退けながら、中身を検分していく。 程無くして、手頃な長さ、手頃な太さの縄数本が、袋から顔を出した。 「やった! これで縛れ―――!」 「おいおい、最近のお子様はそんなプレイが好みなのかい?」 「!?」 お、遅かった? 振り返れば―――彼女はゆっくりとその身を起き上がらせていた。 反射的に、彼女から離れようと後ろに飛ぶが―――狭い部屋のこと、大して距離は取れはしない。 だ、大丈夫だ―――柔球も炎刀も、こちらの手にある。 対して相手は素手で、しかも手負いだ。判断を間違えなければ、戦いになっても負けは無い。 拘束できなかったのは痛いけれど……そこまで状況が悪化したわけじゃない。 落ち着け。落ち着いて、交渉をすればいいんだ。 「さっきはちょいとしてやられちまったが……今度はそう簡単にはいかないぜ? 言っておくがあたしは変身する度に戦闘力が遥かに増す。その変身をあたしはあと二回残してる……この意味がわかるな?」 「ぼ、ぼくはお前と戦う気はない……話し合いがしたい」 「話し合い?」 『話し合い』という単語に最強さんの眉がぴくりと動く。 ど、どうだ……? 交渉に、乗ってくれるか……? 「話し合いねえ。お前と話して、あたしが何か得をするのか? この距離だ、あたしはほんの数歩踏み込むだけで、お前を殺せるんだぜ?」 「ぼくとお前、互いに得のある話だ。 そ、それに、今のお前にぼくは殺せない。お前がぼくに何かするよりも早く―――ぼくはこれをお前に撃てるんだから」 彼女にもよく見えるよう、炎刀を持った右手を胸の高さまで持ち上げる。 炎刀『銃』。 その恐ろしさは、身をもって味わったのでよく理解している。 これの速射性ならば、彼女がぼくに迫るよりも先に、彼女の身体を撃ち抜くことは十分に可能だ。 「……おお、こわいこわい。仕方ない、話くらいは聞いてやるよ」 「じゃ、じゃあ単刀直入に言う。ぼくと手を組んでくれ、人類最強の請負人」 「手を組むだ? おいおい、最初にあいつらが言っていたことを聞いてなかったのか? 最後の一人になるまで殺し合えって言ってたのを聞かなかったか? 見せしめで殺されちゃったお仲間の死にザマを見なかったのか、『真庭忍軍の十二頭領くん』よぉ?」 ……えっ!? な、何故知っているんだ!? ぼ、ぼくは彼女に一度も名乗ってない。真庭忍軍の頭領という身分を明かした覚えもないのに。 「いや、ギャグで言ってんのか? はじめに殺された真庭忍軍十二頭領とかいう連中。 最初の場所でお前はその連中と一緒にいた。 お前の格好には連中と同一の意匠が取り入れられている。 それに、さっきお前自分から忍法とか言ってただろうが。 これだけヒントが有ったら、お前の正体なんて簡単に検討がつくっての。 口から武器を吐き出した、あのびっくり人間の名前が真庭蝙蝠だったから……差詰お前は真庭ペンギンってところか?」 「あ……そ、そうだ。ぼくの名前は真庭人鳥。 察しのとおり、真庭忍軍十二頭領が一人『増殖の人鳥』だよ」 おおお落ち着け! た、たかが名前と立場を知られただけだ、大したことじゃない。 その程度は彼女の協力が得られれば明かそうと思っていたんだから、それが早まっただけだ。 名を知られたそれ自体よりも、その動揺を面に出してしまう方が色々とまずい……動じていない風を装うんだ……。 「じゃあ人鳥、あたしと手を組んでどうする? 結局最後に生き残れるのは一人だってのに」 「別に最後の一人になる気はない……ぼくの目的は、この首輪を外すことだ」 「へえ?」 ぼくらの行動を制限する首輪。 首輪がある限り、いつ蝙蝠さん達のように殺されるかわからない。 だから一刻も早く外したいが……そう簡単に外せれば、苦労はない。下手に解体を試みても、爆発するのが落ちだろう。 けれど、鳳凰さまならば。 鳳凰さまの左腕―――忍法命結びで接続した川獺さんの左腕―――なら、忍法記録辿りがある。 無生物に込められた「記録」を読み取る、忍法記録辿り。 この首輪を外すにあたり―――これ以上に適した忍法は無いだろう。 鳳凰さまについての具体的な言及や忍法の詳細は伏せつつ、そう説明する。 「だから、仲間と合流するまでの間……ぼくの護衛を頼みたい。 護衛をしてくれれば、お礼としてお前の首輪も外す。 ぼく一人では生き残れる可能性はそう高くないだろうし―――お前一人でその仲間に会っても、首輪を外しては貰えない。 た、互いに得のある話だと思う……」 「……成程ね。この首輪を解除してくれるのか。 流石のあたしにもこいつはどうにもできそうに無かったし、そりゃ助かるな」 「それじゃあ―――」 「ああ、悪くない条件だな だが断る」 え…………え? 「いや、本当悪くない条件だと思うんだよ……人類最強の請負人としては、ぜひ請け負いたい依頼だ。 ただ、あたしはバトルロワイアルでやらなくちゃいけない事があって、殺らなくちゃいけない奴がいるんでね。 だから、あたしはまだバトルロワイアルのルールを破ることはしたくない……そんなわけだから、悪いな人鳥」 そう言って、彼女は笑みを浮かべる。 先程ぼくを襲ったときのような、獰猛な笑みを――― 「あ……ああ…………」 「あたしのために、死んでくれ」 「うあああああああああああっ!!!」 殺したくないっ、戦いたくないっ! だけど―――死にたくはもっとないっ! 右手の炎刀―――人類最強に狙いを定め、引き金を引く! ぱん、ぱんぱん。 乾いた音が室内に響き―――三発の弾丸が、放たれた。 放たれた―――そう、たしかに放った、放ったはずなのに! 「な、なんで無傷なんだ! どうして当たらないんだよっ!?」 一発たりとも、彼女の身体に当たってはいなかった。 嘘だ……この距離で外れるなんて……! ぼ、ぼくには運命崩しが、絶対の幸運があるはずなのに! 「なあ、お前拳銃を撃ったこと無いだろ」 「っ!?」 「扱いが素人同然……いや、もっと酷いな。その構え、その持ち方じゃ奇跡が起こったところで相手には当たらねーよ。 やれやれだ……『銃は剣よりも強し』……確かに名言だが、素人に持たせるなら銃よりまだ剣の方がマシだな」 「う、うるさい! ぼ、ぼくにはまだ、まだこれがある!」 ぼくの奥の手、忍法柔球術! 反射を利用した、『増殖の人鳥』の名前の由来―――! 懐から、二つの柔球を取り出し―――人類最強へと、投げつけた! 投げられた柔球は、壁で反射し、加速しながら部屋中を跳ね回り―――乱舞する! 「ほい、キャッチだ」 「…………な」 ……だが。 柔球は一度も、反射しなかった。 否、乱舞するはずだった柔球を二つとも―――反射するより先に、彼女が抱えていた。 「この忍法……加速する前のボールを捕っちまえば、それだけで攻略できるんだな、これが。 初見なら皆ボールを避けるだろうから通用しても……二回目以降は通じない、それだけだ。 まあ、この弱点にお前が気付いてなかったってことは、この技を二度受けた奴が今まで存在しなかったってことなのか? ……どうでもいいな」 そんな事を言いながら、人類最強は一歩一歩こちらに歩を進めてくる。 な、なんでこんなことに……ぼくには、絶対の幸運があるはずなのに―――! 「ああ、それはきっとお前は運を使い果たしちまったんだよ。 この人類最強の請負人、哀川潤が気を失っている間に、あたしを殺しておけば良かったのにな。 折角のあたしを討ち取るチャンスを棒に振ったのは、お前自身なのさ」 「そ、そんな―――」 に、逃げないと……でも、一つしかない扉は彼女の後ろ―――無理だ。 残りの柔球を投げて、その隙に? いや、それもどうせ無効化されるだけだ……。 ぼくが何もできないうちに、人類最強―――哀川潤がぼくの前で歩みを止める。 「そういやお前、戦いたくないって言ってたっけな。 残念だが―――戦わなければ生き残れないってのが、バトルロワイアルって事だ」 それが、ぼくが聞いた最後の言葉だった――― ■ ■ 「いや……ぼくの幸運は、まだ……少しだけ残っていたよ……」 ぼくの腹を、拳の一突きでぶち抜いて……哀川潤は部屋を去っていった。 何とか……本当に何とか、まだ息はあるけれど……もう駄目なのが、自分でもわかる。 どれだけ幸運だろうと……奇跡が起こったところで……もう……死は避けられない。 「でも……今回は、後に残せるものがある……」 前回。 左右田右衛門左衛門に殺されたときとは違って……鳳凰さまに、狂犬さんに、残せるものがある。 それだけが救いで、それだけが幸運だった。 ぼくの視線の先。 止まらない血で、畳に書いた文字。 ところどころ字が震えているけど、読めなくはないだろう。 そこには、ぼくを殺した相手の名前が―――『哀川潤』という名前が書かれている。 この場を訪れた鳳凰さまが、狂犬さんが、もしくは他の誰かがこれを見てくれれば。 それだけで―――ぼくの死は無駄では無くなる。 「やっぱり……ぼくは戦いたくなんてなかった……けど」 それでも、前よりは。 前よりは……何かを遺して死ねましたよね、鳳凰さま―――? 【真庭人鳥@刀語 死亡確認】 【残り 41名】 ※骨董アパート・戯言遣いの部屋に真庭人鳥の死体が放置されています。 ※死体の近くに『哀川潤』と書かれたダイイングメッセージが残されています。 ■ ■ 「さて、予定通り人鳥はダイイングメッセージを残してくれたな」 息絶えた人鳥と、死体の側の『哀川潤』の文字を確認して、あたしはアパートを後にする。 いーたんの部屋で本物を待ち伏せしようと思ってたが、予定変更だ。 このバトルロワイアルで、とにかく多くの参加者に『哀川潤』を敵だと認識させる。 それが、あたしが本物の哀川潤を確実に殺し、本物に成り代わるために新たに考えた策だ。 あたしが哀川潤を名乗り、悪逆非道の限りを尽くせば。 そのリバウンドが、何も知らない本物へと襲いかかる。 如何に人類最強の請負人と言えど―――自分以外が全て敵じゃ、どうしようもないだろう? 勿論他の参加者を敵に回すのはあたしも同じだが……その程度、どうにでもしてみせよう。 「このアパートを少年が……おっと、いーたんが訪れたとき、待っているのはガキの死体とダイイングメッセージか。 せいぜい頑張りな、名探偵さん。鴉の濡れ場島ではあたしが勝ったが―――さあ、今度はあたしに勝てるかな?」 【1日目 深夜 骨董アパートD-6】 【誰でもない彼女@戯言シリーズ】 [状態] 全身打撲、哀川潤の姿 [装備] 炎刀『銃』@刀語(回転式連発拳銃・残弾6/6) [道具] 支給品一式×2、柔球@刀語×4、炎刀『銃』の弾、縄、ランダム支給品1~4 [思考] 基本 哀川潤を殺して、私が本物に成り代わる。それを邪魔する奴も殺す 1 哀川潤を名乗って悪逆非道の限りを尽くし、他の参加者に『哀川潤』への敵意を抱かせる。 ※参戦時期は、哀川潤に成り代わると友のマンションで戯言遣いに言ったよりも後です。 030← 031 →032 ← 追跡表 → ― 誰でもない彼女 ―
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/88.html
【名前】真庭人鳥 【出展】刀語 【種族】人間 【性別】男 【声優】 【年齢】 【外見】 【性格】 【口調】 一人称: 二人称: 【呼称】 [[]]→ [[]]→ 【特異能力】 【備考】
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/9.html
@wikiにはいくつかの便利なプラグインがあります。 アーカイブ コメント ニュース 動画(Youtube) 編集履歴 関連ブログ これ以外のプラグインについては@wikiガイドをご覧ください = http //atwiki.jp/guide/
https://w.atwiki.jp/nisioisinnbr/pages/83.html
【名前】羽川翼 【出展】物語シリーズ 【種族】人間 【性別】女 【声優】 【年齢】 【外見】 【性格】 【口調】 一人称: 二人称: 【呼称】 [[]]→ [[]]→ 【特異能力】 【備考】