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【名前】戯言遣い 【出展】戯言シリーズ 【種族】人間 【性別】男 【声優】 【年齢】19歳 【外見】 短髪。女装しても似合うような風貌。 【性格】 女に優しく男に冷たい。何故か年下の少女には異様に好かれる。 【口調】 一人称:僕 二人称:君 【呼称】 玖渚友→友 哀川潤→哀川さん、潤さん(注意時) 兎吊木垓輔→ 時宮時刻→ 西東天→狐さん 西条玉藻→玉藻ちゃん 紫木一姫→姫ちゃん 匂宮出夢→出夢くん 奇野頼知→奇野さん 萩原子荻→子荻ちゃん 石凪萌太→萌太くん 誰でもない彼女→ 千賀てる子→てる子さん 闇口濡衣→濡衣さん 【特異能力】 ※《無為式》 又は《なるようにならない最悪(イフナッシングイズバッド)》。本人が何もしなくても、周囲が勝手に狂い出す特異体質。例外は完全に同一である零崎人識か「名前の無い人間」。 【備考】 戯言シリーズの主人公兼語り部。「いーちゃん」。 メイドとベスパをこよなく愛する京都在住の大学生。玖渚友の幼馴染みで、想影真心の元ルームメイト。
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【新本格魔法少女りすか】からの出典 りすかのカッターナイフ 供犠創貴に支給。 りすかが魔法を起こす為、自傷する際に使うカッターナイフ。これで傷付けた場合、りすかは痛みを感じないらしい。それ以外はごく普通の品。
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真庭狂犬 No. タイトル 作者 019 虚刀『鑢』対人類最終『橙なる種』 名無しさん
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真庭忍軍最古vs相生忍軍最後 「待たせたか?」 橋。 つい三十分も前でない時間に虚刀流と出会い、 情報交換を行い、さっさと去った場所。 そこに居たのは―― 「いいや」 真庭忍軍十二頭領が一人、 真庭狂犬。 真庭の里設立にも関わったとされるほどに長生きの人物、ではなく、 その特殊な忍法で女の体を乗り移り乗り移り生きて来た。 しかも乗り移った女の記憶を自分の物に出来ると言う、 戦闘、技術、知識などの全てに置いて万能を狙える忍法。 名は、忍法・狂犬発動 しかし、欠点がある。 一つはいくら自分の物にしても体が実践できる物でないと意味を持たない。 一つはこの忍法を使用する本人の性格である。 その問題ある本人の性格は、 仲間に対する極端なまでの情、そして激情的な性格。 この二つが災いして、 四季崎記紀が作りし完成形変態刀十二本。 これを集める為に鳳凰が行った策を無駄にしかけた上、 結果的に自分と仲間一人が死ぬ事になった事を知らない。 「不判」 「一つ判らない事がある」 戦闘前、既にお互い向けてに殺気を出しながらも、 あくまでも冷静沈着な左右田右衛門左衛門。 「あ?」 「なぜ邪魔をした?」 もしも、さっき二人を殺そうとした時に真庭狂犬が手裏剣を投げなければ、 あのまま悲鳴の一つ出させずに二人を瞬殺する自信があった、 そして、あの場面で、二人と交渉する前ならいざ知らず、 殺そうとする時に邪魔が入るとは思っていなかった、 それだけに左右田右衛門左衛門にとっては謎であった。 「なぜあの二人を殺す邪魔をした?」 殺さないのなら殺す、 殺すのならその後殺す、 あの状況下で、 まさに二人とも殺そうとしたあの状況下で、 仲間ならいざ知らず、 仲間でもないただの見ず知らずの人間を二人、 見逃す、いや逃がす要因は、 忍者である自分達にはないはず。 ましてや状況が状況の中で、 二人も見逃す要因は無いに等しい。 にも関わらず、 なぜ真庭狂犬はあの二人を逃す様な真似をしたのか? 「最初に――」 「ん?」 静かに、 「最初に殺そうとしたのが男の方だったら良かったんだけど」 静かに、 「女の方だったのが頂けないねえ」 静かに語る。 「見た所プロのあんたと戦って無傷で済む保証がないからねえ」 「ふむ」 無傷で済ませるつもりも生かすつもりも無いが、 続けさせる。 「近くに予備の肉体を残して置きたかっただけさ! さっさと終わらせてあの女の肉体を乗っ取って、 虚刀流と一緒に居るオレンジ色の奴の肉体を乗っ取ってやるんだから!」 「ほう?…………では、どうやって虚刀流を追うつもりだ?」 「血の跡を追うだけだ」 詰まる所、 左右田右衛門左衛門との戦い無傷で済む保証が無い、 だから近くに一つ予備とでも言うべき肉体を残したかった。 忍者らしい発想と言えば忍者らしい発想であり、 忍者らしからぬ発想と言えば忍者らしからぬ発想である。 それよりも重要なのは…… 「鳳凰さまを殺すってのは本気か?」 「ああ、本気だ」 一瞬の間も開かぬ返答。 一瞬顔が引き攣り掛けるがそれを抑え、 全身を屈める。 近くに替えの肉体がある内に、 つまり、 だから、 「だったら死ねええええええええええ!」 捨て身特攻が出来る。 そう己に向かって突っ込んでくる真庭狂犬を見ながらも冷静に、 「さて、真庭狂犬よ…………」 一人呟くように言い、 「お前は何と言って死ぬのかな?」 背弄拳が発動した。 「お、おぉお?こ、これって確か……」 真後ろからの殺気、この技に覚えがあるだろう。 長年、と言っても既に随分前だが、 鎬を削り戦って来た忍びの技なのだから、 覚えがあるのは間違えないだろうが、 「で、でも確か相生忍軍は…………!」 既に壊滅させたはずの相生忍軍の技。 それを目の前で披露されて驚きでの混乱模様。 「残念ながら生き残りが居たと言う訳だ」 そう冷静に言いながらボウガンの先を向け、 「言い残す事は?」 聞く。 絶体絶命に近い現状。しかし、 「…………」 「ん?」 真庭狂犬は笑っていた。 ニヤニヤと声に出さず、笑っていた。 「確か……相生拳法の……背弄拳……だったけこれ?」 返答を期待していない様な声ではあるが、 自信満々の声で続ける。 「後ろの有利は誰にでも判るけどさあ?」 一気に走り出す。 何を狙っているか判った左右田右衛門左衛門だが、 既に遅く、 「後ろに川なんかあったら、回り込み様が無いよなあ?」 川を後ろにニヤニヤと笑う真庭狂犬、 それを苦々しげに見ながらも回り込み様が無い左右田右衛門左衛門、 よって真庭と相生、それぞれの忍が向かい合う図となった。 「………………」 「………………」 言葉に出さずともどちらも殺る気満々、 殺す気満々であるが難しい状況である。 真庭狂犬は下手に動けば後ろを取られる状況で、 左右田右衛門左衛門はボウガンがあるものの、 下手に使えば避けられる事は判り切っている。 つまり両方が両方打つ手が無く、 「………………」 「………………」 お互いほぼ同時に自分の支給品から使えそうな物を探す事になった。 「………………ち」 「………………ふ」 結果、良い物を見付けられなかった狂犬と、 良い物を見付けた右衛門左衛門と言う状況である。 真庭狂犬の方は持たないよりもと言った感じで、 右手に二個、左手に一個手裏剣を持った状態である。 「それでは…………今度こそ」 片手を支給品の入っている袋に突っ込みながら、 真庭狂犬………… 「お前は何と言って死ぬのかな?」 戦闘は再開した。 その言葉と共に投げた物体。 それは、真庭忍軍十二頭領の一人、 左右田右衛門左衛門の背弄拳が効かなかった忍、 巻戻しの鴛鴦の武器、 永劫鞭。 「え……ちょぉあああああ!?」 一つに付き10本の鞭が付いている永劫鞭、 それを前から投げられている現状、 前は向かって来ていて不可能、後ろは川で論外、 左右に避ける時間もなし。 詰まる所防御しか不可能な現状で、 長い長い間戦いを経験した真庭狂犬がそれを間違えるはずも無く、 両手に持っていた手裏剣から手を離し、 腕を顔の前に交差させ防御に移り………… 「甘い」 シュッ、と言う音と共にボウガンの矢が発射され、 「ぐはぁが?!」 見事に腹に突き刺さった。 無論、投げ付けられた永劫鞭も止まらず、 真庭狂犬に追い討ちを掛ける様に10本余さず全身に巻き付き、 その先に付いている刃物で全身を切り刻まれた。 「ぬぅぅぅうぅぅうぅうぅ!」 全身の10の切り傷から血を流し、 全身に鞭を巻き付けられた現状。 腹に刺さった矢を右手で抜きながらも、 それでも殺気が止まる事を知らぬ様に狂犬から溢れていたが。 「無駄だ」 その殺気に対する返事は無常。 「その状況下で、勝てるなどと言う甘い事は考えれまい」 いくら近くに替えの肉体があろうともそこまで生かさず終わらす。 次の矢を番えつつも油断無く、 しっかりと狂犬を見据えるつつそう言う右衛門左衛門。 「それではさらばだ――――真庭狂犬!」 シュッと言う音と共に発射された矢、 真庭狂犬の頭を狙ったボウガンの矢は、 外れた。 「なっ!?」 後ろを見せない様に前を向いたまま川に飛び降りた狂犬。 狂犬のその行動に気が付き、 すぐに川に近付き身を乗り出すように下を覗き込み、 顔に向けて先ほど狂犬が抜いていたボウガンの矢が飛んで来た。 「ぬぉおおおおお!?」 この時、 もしも真庭狂犬の体に10本の鞭の内の一本が腕に絡まっていなかったら、 もしも真庭狂犬が傷を負っていなかったら、 もしも真庭狂犬の狙いが首でなかったら、 もしも真庭狂犬の手に血が付いていてボウガンの矢が滑らなかったら、 もしももしももしも一つでも偶然が噛み合わなかったら、 問答無用に矢は当たっていただろう。 咄嗟、文字通り咄嗟に全身を反らせての回避、 仮面に一筋の傷を付けて行く矢を見ながら、 ギリギリの所で致命的な一撃を避け切った。 「くっ!真庭狂犬ッ!」 しかし避けてからでも遅すぎた。 既に川には真庭狂犬の姿も見えず、 取り残された様に浮かぶディパックが一つ、 それ以外は見える範囲では何も無かった。 「ちっ…………」 辺りを確認するとあるのは川辺に一つの小さな穴、 下水管の一つだがそんな事は関係がない。 関係が有るのは、 その下水管に足を掛けて左右田右衛門左衛門に反撃、 そして左右田右衛門左衛門が避けるのを確認してから川に潜った。 万が一当たらなくても問題が無い逃走の手段としての攻撃、 たとえ当たっても問題が無い必殺の手段としての攻撃、 仲間に対する情に厚かろうと、激情家であろうと、 歴戦の忍者である事には変わり様がなかった。 「どうする…………」 逃がしたのが正直痛いが、 今から上流か下流のどちらかに居ると思われる追いかければ、 真庭狂犬に追いつけるかも知れないが………… 「――――罠か?」 あの状況からの反撃は無いと思っていただけに、 警戒心が強くなっている、そう自覚していても、 動くに動けない。 結局の所決められずに時間が過ぎ、 その分だけ真庭狂犬の逃げる距離を稼ぐ事になり、 もう追いつけないだろうと自己完結で諦める事になった。 そして地面に落ちている三枚の手裏剣を拾いつつ本日早くも二度目の、 「次に会った時は殺す」 居るかも知れない相手に伝える様に、 負け惜しみの様にそう言って橋を渡って行った。 「不殺」 「上手く行かないものだ…………」 どうも殺し運が悪い左右田右衛門左衛門。 結局、罠を警戒するあまり、 川を流れる真庭狂犬のデイパックを取らず仕舞である。 【1日目 黎明 E-5から移動中】 【左右田右衛門左衛門@刀語シリーズ】 [状態] 健康 [装備]ボウガン(矢付き)@戯言シリーズ 永劫鞭×1@刀語シリーズ 手裏剣×3@刀語シリーズ [道具]支給品一式、ランダム支給品(1~2) [思考] 基本 姫を探しつつ、見つけた姫以外の人間は殺す。 1 姫を見つけたら、以後は姫の指示に従う。 2 姫を闇口濡衣が何らかの方法でも守っていたら闇口濡衣と手を組む。 3 姫が参加していなかった場合は、闇口濡衣と手を組む。 ※肉体の制限がどの程度の物か判ったかも知れません 「……はっ……はっ……はっ……はっ……はっ……」 Gー4のコンクリートの海岸。 結局、真庭狂犬は最後の投擲以外に手はなく、 左右田右衛門左衛門が罠を警戒せずに、 そのまま追い掛けられていたら死ぬしかない展開であった。 しかし結果は追い掛けられず逃げ切りに成功、 勝利とは言えないまでも敗北とも言えない、 そんな半端な結果に終わってしまった。 「……はっ……はっ……はっ……はっ……ガハっ!……はっ……」 しかしその結果にしても問題である。 全身は傷だらけの上に荷物は落とし、 恐らく内臓まで傷付けているボウガンの矢の一撃。 それを利用しての必殺も避けられ、 唯一の戦利品と言える物は全身に巻き付いて離れない永劫鞭一つ。 向こう岸には病院があり泳いで渡れれば治療は出来るかも知れないが、 虚刀流とその虚刀流と互角に近い戦いを繰り広げた少女が居る。 そんな場所に敵である自分が治療しに行くなど死にに行く意味しかない。 まさに絵に描いた様な絶望的状況である。 あくまで、普通ならば。 「お……女……の体……だ」 女の体、それさえあれば今は乗り越えられる。 乗り移って、生き残れ、戦える。 「……近くに…………」 体を引きずる様に動き出す感染。 近くに感染相手を探し動く。 蠢く。 揺らめく。 動き出す。 感染する狂気。狂気の感染。 感染の狂犬。狂犬の感染。 殺す為でなく。 殺される為でなく。 感染する為に。 「……女……」 【1日目 黎明 G-4から移動中】 【真庭狂犬@真庭語】 [状態] 脇腹にボウガンの矢による刺傷(重傷)、全身に切り傷×10(軽傷) [装備]永劫鞭×1@刀語シリーズ [道具] なし [思考] 基本 真庭鳳凰と真庭人鳥を勝ち残らせる。 1 隙を見てあの小娘の体を乗っ取ってやる 2 真庭の里にもう一度繁栄を 3 急いで適当な体を乗っ取る ※参戦時期は七花に殺された後です。 ※体は戦乱時代の物です。 ※体に永劫鞭を巻き付けたままです。 ※体は結構ヤバ目です。 ※真庭狂犬のデイパックは川を流れたままです 024← 025 →026 ← 追跡表 → ― 左右田右衛門左衛門 ― ― 真庭狂犬 ―
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錯綜思考(策創試行) 「イシナギという魚をご存知ですか?」 大して険しくもない、ただ薄暗いだけの山道の中を、二人の人間が歩いている。 一人は足首まで届くほどに長い、美しい黒髪を携えた少女。 一人は伸ばしっぱなしの黒髪に、カチューシャをつけた痩身の男。 少女の唐突な問いに対し、男は「いや」と、まるで興味がないという風に、そっけなく返す。男の前を歩く少女も、まともな返答を期待していなかったように、男のほうを振り返ることなく言う。 「北海道に主に生息する魚です。一般的にはマイナーな魚ですけれど、体長が2メートルを超えるものもあって、大物狙いの方たちにとっては人気が あるようです。もちろん食用にもなります。煮付けや刺身として食べることが主だそうですね。ちなみに肝臓には、多量のビタミンAが含まれているそうですよ」 「へえ」男は、あくまでそっけなく言う。「肝臓まで食べるのかよ、その魚」 「いえ、ビタミンAとはいってもあまりに多量すぎるので、食べてしまうと過剰症を起こして、頭痛、吐き気、皮膚剥離などの症状が出るそうです」 「毒じゃねえかよ」 男が呆れたように言うと、少女はくすりと笑った。「そうです、イシナギは危ないんです」 男はまた「へえ」と返す。それは先程のそっけなさとは別の、知っていることを今初めて聞いたように振舞うような、微妙な白々しさがあった。 それからまた、二人は会話を交わすことなく山道を歩き続ける。山道とはいっても、辺りに生い茂っているのは樹木の類ではない。 竹である。 広大な面積の、そのほぼ全てを青々とした竹で覆われた山。 地図に記された名は、雀の竹取山。 少女が先を歩き、男がその後に続いて歩く。頂上から麓へ向けて、下山する形で。 少女のほうは、高校の制服らしき特徴的なセーラー服。男のほうは、薄手のタンクトップにハーフパンツ、足元はなんと下駄という、どう考えても山歩き には向いていない服装であるにもかかわらず、どちらも不自由そうなそぶりを見せることなく、軽快な足取りで進んでゆく。 少女が懐中電灯で照らしているとはいえ、足元が少し見える程度の山道を坦々と歩いてゆく二人。その自然な足取りが、逆に不自然に見えてしまうような光景だった。 「ところで、奇野さん」少女が、今度は振り返って言う。「今のこの状況について、奇野さんはどうお考えですか?」 奇野と呼ばれた男はその質問に対し、少し嫌そうな表情を見せた。 「どうって言ってもな――まあ、非常識っつーか、信じがたい状況ではあるよな。信じる信じないの話じゃねえのかも知れないけどよ。 話は単純に見えるのに、突拍子もない部分が多すぎる。なんていうか、現実的な夢の中にいるみてーだ」 「現実的な夢、ですか。なるほど」 実際にはその逆でしょうけどね――少女は独り言のように言って、また小さく微笑んだ。 逆――現実的な夢の、逆。 夢のような、現実。 男――奇野は、数時間前に自分が見た光景を回想する。ほんの数分間の間に繰り広げられた、いっそ滑稽ともいえるくらいに不条理な光景。 血、肉、骨、首、臓器、脳漿、死体。 そのすべてが、今ではもう、幻のように消えうせて。 ………。 すべて、現実なのか。 あの光景も、今の、この状況も――― 「『現実的で構わないから、いっそ夢であってほしい』」 はっとしたように、奇野は顔を上げる。 「そう思っていますか? 奇野さん」 少女は振り返ってはいなかった。しかし奇野は、少女のその言葉だけで、視線とはまた別の何かによって射すくめられたような感じがした。 「余計な心配だよ、お嬢ちゃん」 余裕を表現するためか、奇野は肩をすくめた。 「お嬢ちゃんこそ、実際ついていけてねーんじゃねーの? あんた、一般人なんだろ? それがこんな、冗談が冗談してるみたいな状況に放り込まれて」 「もちろん夢であってほしいと思っていますよ。私は」 少女はあっけらかんと言う。 「奇野さんの言うとおり、私は見てのとおりの普通の女子高生ですから。私からすれば、現実的な夢も夢のような現実もありません。夢のように夢心地ですよ。間違って醒めてしまいそうです。 夢の中というよりも、漫画の中にいるような、あるいはゲームの中にいるような、いやむしろ小説の中にいるような心地です」 「小説…」 なぜだろう、そこだけ妙に納得がいく気がするのは。 「それにしちゃあ、随分と軽く構えてるように見えるけどな」 「重く構えるだけ動きづらくなるだけです。当然、軽く見ているつもりもありませんけれど」 少女の声色が、少しだけ真剣味を帯びる。 「今の状況に救いがあるとすれば、不条理な状況ではあれど、状況そのものが不鮮明ではないというところでしょう。ですから今のところ、 地に足がついている感じがするのは確かです。何しろ目的がはっきりしていますからね。それ以外にすることがない、というくらいに」 「目的…」 「殺し合い」 真剣さを帯びていたとはいえ、その言葉はあまりにも軽く発せられた。 自分たちの目的。自分たちがここにいる理由。 そう、この状況がいくら信じがたいものであろうとも、そこだけははっきりしている。 殺し合い。 殺し合い以外に、することがない。 「………」 奇野自身、それは常々口にしたいと思っている言葉の一つだったが、それは軽々しい心構えで口に出してしまうと、予想以上にえらい目に遭う言葉であるということを、奇野は身をもって経験していた。 だからこそ、それをあっさりと口にしてしまう少女の態度に、奇野は少なからず違和感を覚えた。 こともあろうに、『参加者』の一人である奇野が、自分のすぐ背後を歩いているという状況にもかかわらず―― 「勝つつもりで、いるのか?」短い沈黙を、今度は奇野が破った。「こんな、でたらめな、無茶苦茶な闘いなんかに、強制的に放り込まれて、本当にあんた、最後まで生き残るつもりなのか?」 「生き残るつもり?」 少女の声は変わらない。 「そんなもの、生まれたときからずっとあります」 「………」 「生き残るつもりがなくて、人間がどうやって生き続けられるというのですか。偶然で死に、必然で死に、当たり前のように死に続けるこの 人間という種類が。生き残る気もないのに生き続けている人間なんて、それはただ他者によって生かされているというだけの事。生かされているのは 死んでいることと同義。生き恥という言葉すら勿体ない。そんなふうに生き続ける人間の気が、私には一向に知れませんね」 奇野はまた沈黙せざるをえなかった。 なぜこの少女は、こんな言葉を平然と吐く? 「それに」少女は仕切りなおすように言う。「可能性の上でなら、私たちが勝つ方法はいくらでもあります。最初、あの白い部屋の中で主催者側の人間が言っていた言葉、覚えていらっしゃるでしょう? この闘いではあらかじめ、バランスをとるための配慮がなされていると」 「……ああ」 「? どうかしまして?」 「いや――つまり、それがお嬢ちゃんの自信の根拠ってことか?」 「確かに私はただの普通の一般人ですけれど、目的が殺し合いだったところで、主催者側から平等に勝つチャンスを与えられているとするなら、 一般人という属性を悲観する意味はないということです。むしろ私のような一般人こそ、早い段階で動いておく必要があります。状況に呑まれるのは 三流の証拠。求められるのは俊敏な思考と、正確な試行。戦略こそが鍵です」 「クリティカルだな」 「タクティカルですね」 軽い冗談のつもりが軽く流されてしまった。立つ瀬がない。 とはいえ、少女の言い分には奇野もそれほど異論はなかった。おそらくこの闘いには、最初に見たような相当な力を持つ『異能者』が 何人も参加していることだろう。しかし主催者側によってその実力に均衡がもたらされているとするなら、目の前の少女でさえ、確かに 戦い方しだいではいくらでも勝ち目はある。知力と戦略。この闘いでは、それこそが物をいう。 しかし奇野がそういうと、少女は「それは違いますよ」と否定した。 「違う? 何が」 「戦略が鍵になる、とは言いました。しかしそれは『参加者の戦闘能力が均衡しているから、より巧みな戦略を練ったものが勝利する』 という意味ではありません。なぜなら私は、参加者の能力に制限が加えられているというのが真実だったとしても、それによって参加者全員の 能力のバランスが均衡しているとは考えていないからです。少なくとも、私が主催者側の人間だとすれば、絶対にそうはしないでしょう」 「なんでそう思う?」 「面白くないからです」 長い黒髪が竹やぶに引っかからないように気をつけるようなそぶりを見せながら、少女は細い竹藪を掻き分けてゆく。 山頂からは、既にだいぶ下っている。今は二合目あたりだろうか。足取りが鈍らないのは奇野も同じだったが、少女のほうは まともな道も道標もないはずのこの山道を、まるで自分の庭であるかのように、迷う気配もなく進んでゆく。 「先ほど私は、自分がゲームの中にいるようだ、といいましたが、例えとして言うならあの表現は間違いでしたね。なにしろここは まさにゲームの中なのですから。生身の人間が参加する、実際の命をかけたサバイバルゲーム」 バーチャルの世界でないというだけ――少女はそういった。 「他の人間が一方的に殺されたんじゃ面白くない――あの主催者側の人間は、確かそんなふうに言っていましたね。一方的な殺戮では ゲームにならない。ゲームにならなければ面白くない。だからバランスをとるために、力を制限する。それだけ聞けば、確かに自然な流れに 見えます。しかし主催者側の立場で考えた場合、どうしても納得できない部分があるんです。そうは思いませんか?」 奇野は沈黙を保った。少女は続ける。 「このゲームの参加者がどういった基準で選ばれたのか、私たちにとって走る由もありませんが、『他の人間が一方的に』という言葉から あの妙ちくりんな衣装の人達のような異能者を筆頭とした、いわゆるプロのプレイヤーと、私のようなごく普通の一般人が、同時に参加していると 推察されます。一方的な殺戮では面白くないといっておきながら、殺し合いという事柄に関して、経験も能力も、価値観さえも、極端なまでに 異なる人種を同じ舞台に立たせてしまっている。この時点で、既に矛盾していると思いませんか?」 「………」 「一般人を同じ舞台に立たせてしまっている以上、バランスをとろうと思えば、それは相当な制限を『異能者』の側にかけることを 意味します。当の異能者、プロのプレイヤーの方達からすれば不本意極まりないことでしょうけど、しかしそれは、主催者の側にとっても 望ましい状況とは言えるでしょうか。こんな特殊な場所、ステージを用意し、おそらくは相当な、異常なほどに現実離れした 『異能者』達をわざわざゲームのプレイヤーとして選出しておきながら、その肝心の『異能』に対し、主催者の側でわざわざ 制限をかけているんですよ? ゲームを観戦する側からすれば、その異能こそをフルに発揮してやりあってほしいと考えるのが 自然でしょう。バランスを重視するというのならそれこそ私のようなただの高校生を集めてやったほうがむしろ面白くなりそうです。 わざわざ武器まで与えているんですから。はたしてこれが自然な流れといえるでしょうか? 違和感で人が死ねるなら 私は既に15回は死んでいます」 奇野は答えない。少女はさらに続ける。 「このようなゲームに限って言えば、プレイヤーの能力の低下は、すなわちゲームのクオリティの低下に直結する。牙と爪をもがれた 獣同士の殺し合い。そんなもの見て楽しいと思いますか? かめはめ波は強すぎるから使用禁止、空を飛べると卑怯だから舞空術も禁止、 体力がありすぎるから、サイヤ人は身体能力も制限。天下一武道会にそんな制約があったら嫌でしょう。ヤムチャさんどころか、 ミスターサタンが素で優勝することだってあり得てしまいます。盛り上がりに欠けすぎです」 言いたいことはよくわかるが、最後の例えに意味はあるのか。 「まあ…確かに」 奇野は言ってから、内心でもう一度つぶやいた。まあ、確かに。 少女と話しているうちに、奇野は今の状況に対してやたら客観的な意識を持ってしまっていたことに気づく。考えてみれば、自分こそまさにその『異能者』の側として参加している人間の一人ではないか。 「つまり、お嬢ちゃんは」奇野は、右手に持った荷物を軽く持ち直しながら言う。 「こう考えてるってのか? このゲームの主催者は、ゲームのバランスをとるつもりはない、と」 「いいえ、違います」 少女はまたも否定する。 「主催者はこのゲームのバランスに対して最大限の配慮を行っているはずです。バランスという言葉を最初に持ち出したのは 主催者の側なのですから。ゲームバランスというのは、ゲームが成り立つか成り立たないか、その一端を握っているといっていいほど 重要なものなのですから。こんな大掛かりなゲームを作り上げるような人間が、そこをおろそかにするはずはありません」 それができなければクリエイターとして失格です。 少女はそんな風に言った。 「ですから、私の予想―予想というよりは期待ですけれど―している限りでは、主催者側からのあの言葉は、こういった意味を 持っていると考えています。『用意はしておいた。それを使って、後は自分たちで好きなようにバランスをとれ』」 「『それ』?」 「裏技、ですよ」 鳥でも飛び立ったのか、二人の頭上の竹の葉がざわざわと派手な音を立てて揺れた。 「レーシングゲームで言えば、ショートカットのようなものですか。とにかくそういったものがこのゲームの中には存在していると 私は期待しています。このゲームにおける最大のポイントの一つは、プレイヤーの自主性。主催者の側ではあえてバランスを取らずに 最終的なバランスはプレイヤーに決定させる。私たちにランダムに与えられた武器とはまた別の、ゲームの内部そのものに組み込まれた 不確定要素。ゲームのクオリティの最大限に維持し、かつ全てのプレイヤーに勝利条件を与えることができる、まさに裏技です。 あくまで予想に過ぎませんが、それを探してみる価値は十分にあると思います」 「………」 奇野はまたも、沈黙せざるを得なかった。 絶句、というよりも、言いたいことはあったが、それを口に出すべきか躊躇した、といった感じである。 反応に困ったといってもいい。 確かに少女の言い分には一理あると言えなくもない。しかしそれは少女自身、期待、という言葉を用いていたとおり、 あまりに希望的な観測というか、都合の良すぎる考えではないだろうか。 この少女の自信は、そんな曖昧なものに依拠したものだったのか? 大体裏技って何なのだ。コマンド入力でフルオプションに一足飛びでもする気でいるのか。 奇野は嘆息した。やはりこの少女は『一般人』の側の人間だ。 殺人鬼を恐れない人間は二種類いる。鬼をも恐れぬほどの力を有する人間か、殺人鬼を知らない人間のどちらか。 参加者全員が殺人鬼である可能性すらあるこの状況で、殺し合いという言葉を軽々しく使い、参加者の一人である奇野に、堂々と背中を預けている。 人が死ぬ光景すら目の当たりにして、なお現状を認識できていない。 まさしくゲーム感覚である。 この少女と組んだのは、ある意味では正解だったかもしれないな―― 奇野がそう思い、この雀の竹取山における少女との邂逅、この少女と組むことになった山頂での出来事を思い起こし始めた、そのほぼ同時。 奇野は、それを目視した。 ◆◆◆ 声をかけてきたのは、少女のほうからだった。 雀の竹取山、その頂上地点で一人佇んでいた奇野頼知の前に、散歩でもするかのような優雅な足取りで、その少女はあらわれた。 ごきげんよう、と、気さくな感じに声をかけながら。 それに対し奇野は、当然の如く警戒した。相手が年端も行かぬ少女であるということは、奇野にとっては気を緩める理由には まったくならない。むしろ今の状況において、丸腰のまま、しかも真正面から接近してきたことが、奇野にはこの上なく不気味に思えた。 そんな奇野に対して、少女はあくまでも優雅に、柔らかな笑顔を浮かべながら、両手を頭の上でひらひらと振った。 こわがらなくてもいいですよ、とでもいいたげな仕草で。 少女は言った。 私は、あなたと戦うつもりは毛頭ありません。 とりあえず、私の話を聞いてはいただけないでしょうか、と。 この時点で、奇野がこの少女に対して一切、何の攻撃も加えなかったことに関して疑問を挟む余地はあるかもしれない。 少女の言うところの『異能者』側の人間、プロのプレイヤーである奇野が、あからさまなまでに隙だらけの相手を目の前にして、 ただ相手の動向を窺っていたというのは不自然ではないだろうかと。 しかしこの疑問に対して、奇野はこう答える。奇野は相手が少女ということで気を緩めるこそなかったが、『この少女であれば いつでも殺せる』という感想を抱いた。このゲームの趣旨から言えば、目の前にいる相手を殺さないというのは確かに愚行であると いわざるを得ない。 しかし「殺す」という選択肢には、それが取り返しのつかない結果を生むという条件が付随する。少女を殺すことで、ゲームにおける 対戦者を一人減らすことができるのはプラスではあるが、逆に今ここで、少女の話をまったく聞かずに殺してしまった場合、 それがマイナスの結果を生むことにならないとは言えない。 要するに、「いつでも殺せるのならば、少女の話を聞いてからでも遅くはない」という、妥当というか、ごくありきたりとも いえるような理由において、奇野は状況を保留することを選択した。 少なくとも奇野自身は、自分がそういった考えを持って少女を攻撃することをしなかったと、そう自分を納得させている。 少女が続けて奇野に対して言ってきたことは、奇野にとっては、いや一般的な観点から見ても、十分に予想の範囲内のことだった。 要点だけを言えば、自分と組まないか、である。 この闘いを生き残るために、二人で組んで行動しましょう、と。 当然のこと、奇野があっさり「組む組む組みたい組みましょう」と少女の提案を受け入れることはなかった。 生き残るためには、一人で行動するより多人数のほうが基本的に有利、という理屈は正しい。しかしこのゲームは、 最終的に一人が生き残ることを前提としたゲームである。 何人がチームを組んだところで、生き残るのはただ一人。 そんな趣旨のゲームの中において、協力という言葉がどれほどの打算を含んでいるのか、それが分からないほどに奇野は馬鹿ではなかった。 しかし少女は、そんな奇野の心情を見越したように言葉を紡ぐ。 私はあなたを殺そうとは思っていません。 どころか、私はここで誰も殺そうとは思っていないんです。 もちろん、私が死ぬつもりもありません。 私はただ、生きてここから帰りたいだけなんです。 その矛盾をはらんだ言葉に、奇野は訝しんだ。 結論だけを言えば、少女はこう提案してきたのだ。このゲームの勝者に与えられる権利、どんな願いでも一つだけ 叶えることができるという、途方もない権利。 私の望みは、ただ生きてここから帰ること。 だから私は約束します。 『このゲームに参加した、全ての人間を生き返らせること』―――。 私が最後まで生き残った暁には、必ずそれを願うと。 ………。 奇野は黙って、その少女の言葉を聞いていた。 全員を生き返らせることができるのかどうがは定かではないですけれど、「何でも」と言ってはいるし、願い事が一つだけというなら ポルンガでなく神龍のほうでしょうから、大丈夫でしょう――そんな訳の分からない言葉さえ聞き流して。 結果的に、奇野は少女と組むことを了承した。 少女の甘言に乗せられたわけでは、勿論ない。 殺しはするが、必ず生き返らせる。 そんな言葉を真に受ければ、それこそ馬鹿である。 ただ奇野は、またも保留することを選択したのだ。少女を攻撃しなかったときと、ほとんど同様の考えにおいて。 今のうちは、利用できるものは利用しておこうと。 少女とて、まさか本当に最後まで奇野と行動するつもりではあるまい。 ころあいを見て奇野を殺すつもりだというなら、それより先に自分のほうがころあいをみて少女を殺せばいいだけの話。 それまでは、この少女を自分の『所有物』のひとつとして連れていておいても、おそらくマイナスにはならないだろう、と。 しかし奇野のこの考えは、先ほどの思考と同じく、奇野が自身の選択に対して納得のいく理由を考えたというだけの、 いわゆるあとづけに近いものだと言っていい。 奇野が少女に対し攻撃を加えなかったことも、奇野がこの少女と組むことを決定したのも、奇野にとっての、このゲームの スタート地点である雀の竹取山の山頂において、彼がそこから数時間ものあいだ「様子見」と称して動こうとしなかったことも、 余裕のあるときならば、相手を小馬鹿にしたような軽薄な態度で相手に望むはずの彼が、少女との会話においてほとんど受動的な 受け答えしかできていないことも、すべては同じ理由に基づくものであるといえる。 裏の世界の住人である奇野頼知は、殺し合いの場という一般的には非常識な状況も、むしろそれが日常であるような世界で生きてきた。 だから今現在の状況も、あまりに現実離れしているとはいえ、奇野にとっては日常の延長線上のようなものだと考えている。 殺し合いというなら、ここは自分のフィールドだと。 そういうふうに、むしろ余裕を持って臨んでいた。 しかし実際には、奇野は自分の心理状態を正確に把握できてはいない。 「呪い名」。 「殺し名」七名の対極に位置し、戦闘集団である「殺し名」とは真逆、非戦闘集団としての性質を持ちながら、 ある意味「殺し名」以上に忌み嫌われている集団。「呪い名」六名。 その三番目に名を連ねる「呪い名」が一名、「奇野」。 奇野頼知の有する能力は、人殺しという目的に対して言うなら、確かに特出して有効なものであるといわざるを得ない。 しかしその能力は、いうなら鳥籠の中の鳥を殺すような、相手を完全に自分の領域の中に引き込んでこそ威力を最大に 発揮するような、そういった類のものである。 この闘いの中において奇野は、殺し合いという名のフィールドの内部に強制的に放り込まれた形である。 裏の世界の住人とはいえ、奇野はあくまで「呪い名」なのだ。 戦場の外部にいてこそ威力を発揮する奇野が、完全に戦場の内部、殺し合いの渦中に引きずり込まれてしまった。 その現実が、自身でも気づかないうちに、彼からプロのプレイヤーとしての余裕を奪った。 恐怖、緊張、焦燥。そういったものが、今の彼の選択肢をどうしようもなく狭めている。 要するに、彼は状況に飲まれているのだ。 さきほど奇野は、少女が自分に安易に背中を預けている、と言った。 しかしそれは、奇野が自分の前を歩く少女の行動に完全に追従しているといってもよい形である。 行動だけではない。 協力という言葉にどれほどの打算がこめられているのか理解していたはずの奇野が、少女の言葉で安易に「組まされる側」に回ることを 良しとし、少女と出合ったときには確実に警戒心を抱いていたはずの奇野が、ゲームのバランスを問題にした先の会話において、 少女が自分たち、プロのプレイヤーと同等の力量を有しているという可能性を完全に失念してしまっている。 彼――奇野頼知は、自分が既に目の前の少女にすら飲み込まれつつあることに、まだ気づいていない。 ◇◇◇ 「なんだ――あれ」 麓まであと数分もかからないというところで、奇野は少し離れたところにある、細く背の低い竹が密集したようにして生えている 竹藪の中に、隠されるようにして置かれている何かを見つけた。 「あら、この距離からもう見えますか。目がいいんですね、奇野さん」 ビタミンAは豊富に摂ってるんでね――奇野は冗談めかしてそういった。 見えたとはいっても、この暗さの中では、さすがにそれが何なのかまでは判断できない。 少女がそれを隠している竹藪をかき分けるところに至って、ようやく奇野は、それが何なのかはっきりと見ることができた。 それは一台のジープだった。 アウトドア用だと一目でわかる、この竹藪に停められているのが不自然なほど豪胆なデザインのジープ。 運転席を見ると、そこには鍵がささったままの状態になっている。 少女はジープの窓をぽんぽんと叩いた。 「裏技とまではいきませんけど、まあ、隠しアイテムといったところでしょうね」 奇野はジープと少女を交互に見つめた。 裏技。 隠しアイテム。 まさか、こんなものが本当にあるなんて―― 「そういえば奇野さん」少女はジープの後部座席のドアを開きながら言った。 「山頂で私が言ったドラゴンボールのたとえ話、覚えていますか? 願いがひとつというなら、ポルンガでなく神龍だと言う話」 またか。奇野はそう言いそうになるのを内心で思うに留めた。 どれだけドラゴンボールが好きなのだ。 「神龍は叶えてくれる願いはひとつだけですが、一度に多人数の人間を生き返らせることができる。ポルンガは三つの願いを 叶えてくれますが、ひとつの願いにつき、生き返らせることのできる人間は一人だけ。そういう設定でした。 しかし魔人ブウ編において、ポルンガも一度に多人数の人間を生き返らせることができるようにパワーアップされてしまっているんです。 ナメック星人の手によって」 それがどうした、木野は思った。だから言った。「それがどうした」 「おかしな話ですよね。神と同等の存在であるはずの神龍やポルンガが、パソコンのOSをバージョンアップでもするかのように どんどん便利にされてっちゃってるなんて。確実に人間の命の重さを念頭に置いたはずの設定なのに」 「ご都合主義もほどほどに、ってことか? お嬢ちゃん」 「神なんてその程度、ということですよ、奇野さん」 少女は奇野に手を差し伸べてきた。握手を求めてきたわけではない。奇野は少女の意図を察し、右手に持っていた荷物を少女に差し出した。 荷物、といってもディパックではない。 奇野が今まで、山道の中で引きずるようにして運んでいた、それ。 それは人間だった。 少年と呼べるくらいの年齢にみえる風貌。 敏捷そうな長い足。 服装は作業服らしき、緑色のツナギ。 端正なその顔からは、完全に血の気が失せてしまっている。 口元からわずかに漏れる呼吸音で、かろうじて少年が生きているのが判断できるほどに。 少女は奇野からその少年を受け取ると、作業服の襟首をつかんで「よいしょ」と気合いを入れつつ、少年をジープの後部座席に放り込んだ。 「さて、奇野さん」ジープの後部座席のドアが閉められ、代わりに助手席のドアが開かれる。 「とりあえず私たちがすべきことは情報収集ですが、それに専念するというわけにも行きません。既に私たちより積極的な行動に 移っているプレイヤーもいるはず。警戒することも必要ですけれど、そういうプレイヤーに対してこそ、先手をもって 制していかなければなりません」 「言われるまでも」 「幸い『情報』に関しては、私たちは一歩先行していますからね」 少女は自分のディパックを背から下ろした。 「ドラゴンボールの世界では、ほとんどの戦いにおいて物を言ったのは当然のごとく戦闘能力。しかしドラゴンボール収集の クエストにおいては、重要なのはやはり情報だった。ブルマさんは本当に有能な技術者でしたね」 またもそんなことを言い、少女はディパックの中身をひとつ取り出した。 「………」 ドラゴンレーダー、ではあるまい。 しかしその形状は、限りなくそれを髣髴とさせる。 緑色の画面の中央部に、小さな光点がふたつ灯っているのが見える。それが何を示しているのか、確認することすら余計だと奇野は思った。 今のところ、このエリアに他の参加者はいないようですね――そう言って、少女はディパックを背負いなおした。 「生きるためには生き残ること。ここが戦場だというのなら、生き残るために戦いましょう。 たとえ舞台が神の手の上だったところで、たとえ相手が魑魅魍魎の集まりだったところで――」 少女は、鋭利な日本刀のような笑みを浮かべた。 「私の名前は萩原子荻。正々堂々手段を選ばず真っ向から不意討って御覧に入れましょう」 奇野は少女のその笑みに気を取られ、少女が何を呟いたのか聞いていなかった。 【1日目 黎明 雀の竹取山 B-8】 【奇野頼知@戯言シリーズ】 [状態] 健康 [装備] なし [道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3) [思考] 基本 とりあえず生きることが優先。そのためには誰でも殺す。 1 今のところは、少女の示すとおりにしておく。 【萩原子荻@戯言シリーズ】 [状態] 健康 [装備] 簡易レーダー(『生存者』の首輪に反応。同エリアにいる参加者の位置を示す) [道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3) [思考] 基本 生き残るために、常に最善の策を考えておく。 1 情報収集を優先。特に参加者に関する情報がほしい。 2 今のところ、一番警戒すべきなのは目の前の「奇野」。 3 『彼』が参加しているかどうか気になる。 「裏技」「能力の制限」に関しては、実際は可能性のひとつ程度にしか考えていない。 「クビツリハイスクール」時点の萩原子荻。 【石凪萌太@戯言シリーズ】 [状態] 意識混濁 [装備] なし [道具]支給品一式、ランダム支給品(1~3) (現在は子荻が所有) [思考] 意識混濁のため思考停止中 005← 006 →007 ← 追跡表 → ― 奇野頼知 ― ― 萩原子荻 ― ― 石凪萌太 ―
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【刀語】からの出典 微刀『釵』 西東天に支給。 もしくは「日和号」。『人間らしさ』に主眼を置いた完成形変体刀。 四脚に高下駄を履き、四碗それぞれに日本刀を持ち、太陽電池で動く日本人形。本来は周囲の人間を皆殺しにする様に出来ているが、このバトロワでは所有者の命令に従事する仕様になっている。 斬刀『鈍』 羽川翼に支給。 柄や鍔、鞘に至るまで真っ黒な刀。『切れ味』に主眼を置いた完成形変体刀。物体の分子構造を破壊し、どんな物でも手応えなく切断出来る。 柔球術用の球 真庭人鳥に支給。 良く跳ねるゴム玉。加速次第では人をはね飛ばす威力を発揮する。 炎刀『銃』 誰でもない彼女に支給。 回転式連発拳銃と自動式連発拳銃の1セット。『連射性と速射性と精密性』に主眼を置いた完成形変体刀。物体の分子構造を破壊し、どんな物でも手応えなく切断出来る。 悪刀『鐚』 千賀てる子に支給。 電気を帯びたクナイ型の刀。『活性力』に主眼を置いた完成形変体刀。体に差し込む事により、どんな傷も疲労も癒し、死ねなくなる。
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【名前】供犠創貴 【出展】新本格魔法少女りすか 【種族】人間 【性別】男 【声優】 【年齢】 【外見】 【性格】 【口調】 一人称: 二人称: 【呼称】 [[]]→ [[]]→ 【特異能力】 【備考】
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15話 「げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげら……き?……げらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら」 暗闇の中、 地図で言うE-5にある尾張城の近く………… そこに、笑い声が響いていた。 哄笑、 そう言うに相応しい笑い声、 辺り一帯を呑み込もうとしているかの様に、 凶暴で、獰猛で、それでいて虚ろな笑い声が………… しかし、 まるで雑音が混じっているような、 まるで錆び付いているような、 まるでどこまでも空虚、 そんな、何とも言えない様な声で、 橙色なる種、想影真心。 人類の最終と言われる存在が、 笑っていた。 ただ、 オレンジ色の髪を振り乱しながら、 笑っていた。 片手に、 一本の抜き身の黒い刀を持ちながら、 笑っていた。 狂気に染まっているかの様に、 笑っていた。 尾張城、 終わりの城の城門の上、 オレンジ色の最終、 想影真心が笑っていた。 原因は一本の刀、 四季崎記紀が作った千本の中の一本、 完成形変体刀十二本の内で、 『毒気の強さ』に主眼が置かれて作られた刀。 名前は、 毒刀『鍍』 普段は禍々しい色の鞘に収められた、 大きく反った鍔のない黒刀だが、 今は鞘がない状態で、 橙色なる種、 想影真心の右手にしっかりと握られていた。 毒刀『鍍』を持った者は、 刀の毒、四季崎記紀の魂に蝕まれる。 最終だろうと最初だろうと最強だろうと最弱だろうと最悪だろうと最善だろうと、 一切関係なく乗っ取られる。 毒刀『鍍』、 それを持っている想影真心もまた、 刀の毒に毒されていた。 完全に毒されたとは言えないが、 おそらく、既に正気の欠片も残っていないだろう。 「げらげらげら……しき?げらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげ……しきざ……げらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら」 笑い続ける想影真心。 そのオレンジ色の目に見えているのは何か? 狂気に満たされている様な 空虚で虚ろな眼で、 一体どこを見ているのか? それとも、 実際は未だに正気を残しているのか? だとしたら何か刀の毒を打ち破る策はあるのか? もっとも、 ただ虚しく笑い声が辺りに響くだけで、 誰も現れそうに無い………… 不意に城門を降り、 走り出した人類最終、 終わりの城を後に残して、 哄笑を後に引き連れながら、 風を切り裂きながら、 走る。 目的は殺戮か? 目的は救済か? 唯一無二の最終は、 どこに向かって走るのか? 欠陥製品、 人類最弱、いーちゃんの居る所か? それとも、 紅い請負人、 人類最強、哀川潤の居る所か? それとも、 狐面の男、 人類最悪、西東天の居る所か? それとも…… それとも………… それとも……………… そして、 城を走り去った人類最終。 後に残った尾張城は、 静かに建っているだけだった………… 何事も無かったかのように、 ただそこに静かに建っているだけだった………… 既に誰か居た跡はない。 城門の前に、 一個の禍々しい色の鞘が残されているだけで、 そこで何があったかを語る物は、 何一つとしてなかった………… 「げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げら…………き崎?……げらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげら……きき……げらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げら、しき…………げらげらげらげらげらげらげらげらげら」 どこかに向けて走り続ける人類最終、 そのオレンジ色の目には何が映っているのか? 彼女を救える者も殺せる者も……………… まだ、彼女の前に現れそうに無い。 【1日目 深夜 E-5から移動中】 【想影真心@戯言シリーズ】 [状態] 猛毒刀与により狂気 [装備] 毒刀『鍍』(猛毒刀与発動中)@刀語シリーズ [道具]支給品一式、ランダム支給品(1〜2) [思考] 基本 不明 1 げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげら……しき……げらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげら……きき……げらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら げらげら、しき…………げらげらげらげらげらげらげらげら げらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげらげら ※何処に向かっているかは、後の作者さんにお任せします。 ※ネコソギラジカルで哀川潤に負けたしばらく後です。 ※刀の毒が回りきった場合、四季崎記紀に乗っ取られるかは後の作者さんにお任せします。 014← 015 →016 ← 追跡表 → ― 想影真心 ー
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不殺の刀と不生の刀《前編》 「不面白」 わけのわからないなにやら高い建物が立ち並ぶ鉄の道を音も無く駆け抜けながら、右衛門左衛門は呟く。 「面白くないな、まさか敵をこうも殺し損ねるとは」 あのおかしな二人組といい、真庭狂犬といい、どちらも十分に殺せる相手だったにも関わらず、どちらも殺せてない。 傍目からみてもわからないが、その表情は不愉快そうに歪んでいる。 「これでは姫様の安全が保障されないではないか…」 頼みはあの闇口とかいう者だが、結局のところどこまで信用できる相手かわからない、 ちなみに虚刀流はあの時にすでに除外されている。 本来ならば、あの場で始末したかったが、炎刀無しでは勝算が薄いことと一応否定姫には害が無いことがわかったからこそ何もしなかった。 だが後の奴らは違う特に狂犬は狂犬だけは始末しておきたかった。 だが、今頃悔やんでも仕方が無い。 こうなれば一刻も早く姫に合流すること、それが今はそれが第一目標、そして、 「その前に出遭うものは」 不生、生かしはしない 「しかし、虚刀流、以外と冷静であったな…」 虚刀流を見たとき、恐らくは戦いになるだろうと思った。 なにせ、自分こそが奇策士を葬った相手なのだから、怒り狂いはしなくても生かしておこうとは思わないだろうと、それでも一応否定姫のことを伝え、奇策士を助けてやるから代わりに否定姫を頼むと、言葉だけでもかけるつもりだった。 だが、実際はあっさりしたものだった。 というよりこの戦いについてわかってもいなかった。 「まあ、いいか」 虚刀流の心境などどうでもいい、とりあえず姫に害するものではない、それだけが重要だ、ならば始末は最後でもいい。 そう言えば、他にも殺し損ねた二人がいたが、あれにおいても大丈夫だろう。見慣れない格好ではあったが、こちらに話した内容からして殺し合いには乗り気ではないらしい、ならば無視してもいい。 「そして、もう一つ」 真庭鳳凰の暗殺、これについては無理にやる必要もないのだが、一応自分が生前に受けて実行出来なかった任務だ 後腐れが残っていては面白くない。 「全く、死んだ後も気の休まる暇がないな」 別にそれが嫌なわけでもないがな、と締めくくり、再び駆ける、音もなく静かに駆け続ける。 夜通し駆け続けているにも関わらず、その顔には全く疲れは浮かんでいないが、内心は少々焦っていた。 「それにしても、まずいな…」 未だに誰も殺せていない。すでに空は白みがかってきているにも関わらずだ。 「確か、一定期間誰も死ななければこれが爆発するのだったな」 と、忌々しげに首についているものを撫でる。 「まさか、まだ誰も死んでないなどということはないだろうが」 それでも一抹の不安が拭えない。 やはり目につくものは殺す。 それが一番の方法だろう。 そんな物騒なことを考えていた矢先に、彼らは現れた。 「おい、いい加減にしろよ。これで何回目の休憩だ?虚弱体質とかそういうもんを超えてすでに歩く気がねえだろ!?」 「うう、しーちゃん以外と冷たいね、僕様ちゃんだってこれでも精一杯歩いてるんだけど」 「お前今んとこ歩いてる時間と休憩してる時間だったら、休憩してるほうが長いだろ」 人識はあきれたようにため息をつきながらも、道に座り込んだ玖渚の隣に腰を下ろす。 なんだかんだでやはり彼は面倒見がいいのだった。 「てかさ、これが終わったらお前マジで体ちょっと鍛えろよ」 「うに、そうしたいのはやまやまだけど、そういうことをするだけの体力もないからね」 いや、お前やる努力もしてないだろと、突っ込もうとしてため息で呑み込む。 言ったところで、なんやかんやと流されるのがオチだ。 「全く、あんだけ時間かかってまだこんだけしか進んでねえってどうよ?」 そう愚痴りながら地図を開く、このへんだったら恐らくF-6地点だろう。 G-7から夜通し歩いてまだここだ。 いや、夜通しというのも変な話だろう、なんせ、その過程で何回休憩を取ったかもう数えるのもダルイ。 始めは仕方ないか程度で付き合ってたが、いい加減にイライラしてくる。 しかし、それでも玖渚を捨てていかないあたりやはり彼は面倒見がよかった。 「まあまあ、いいじゃん、急いだってしょうがないよ、ほらウサギとカメってどっちが勝った?」 「あんなもんただの詐欺だ。そもそも競争してるときに寝るなんて馬鹿以外の何者でもねえだろ」 「わかんないよ、他の参加者だってこんな時間だから寝てるかもしんないし」 いねえよ、そんな奴、と人識は投げやりに突っ込む。 そこでいったん会話が途切れ、 「あ、そうだ!」 という玖渚の言葉で再び始まる。 「いいこと思いついたよ、しーちゃん」 「なんだよ」 休むなら黙って休め、と人識が思いっきり顔に出しているにも関わらず玖渚は笑顔で続ける。 「僕様ちゃんが休まないで、もっとてきぱき進める方法」 「へえ、何だよ?」 「おぶって」 殺そうと思った。 いやお前、休憩しといてそれは無いだろとかいう突っ込みの前に、殺そうと思った。 そんな気持ちを抑えながら。 「却下」 とにべもなく切り捨てる。 「えー!どうして?いいじゃん、それだったらきっと早く進めるよ」 どこへだよあの世へかよ、といいかけるのを我慢して言う。 「お前を背負って早く進むくらいなら、休憩しながらいったほうがましだっつうの」 「ちぇっ、せっかく寝れると思ったんだけどな」 まじめにヤバイと思った。 お前人の背中で寝るつもりだったのかとか言う突っ込みの前に、ヤバイと思った。 さっきは殺さないでおこうと決意を固めていたから我慢できたが、今回はまずい。 殺そうと思ったうえにさらに殺そうと思ったから、 ちなみに冗談だ。 うん、きっと冗談だよな。 「まったく、兄貴といいお前といい、ストーカーに引き篭もり、なんで俺の周りにはこんな連中ばっか…」 「うに、類は友を呼ぶって言うけどね」 咄嗟に言い返したくても、言い返せない。 ここまでくると、ひょっとして、俺もそういう類の人間なのかとか思ってしまう。 そんな矢先 「不聞、聞くまでも無いと思うが、お前たちも参加者だな?」 と、背後から声がして振り向くと、 仮面をかぶった変人がいた。 いや、待て待て、こいつが変人と決まったわけじゃない。 ひょっとしたらちょっと仮面が好きな人かもしれないだろ。 などと、一生懸命思い込もうとしている人識を差し置いて 「うわあ、初めて出会う人にしては濃い人が出てきたね、人識君」 まず、玖渚がそんな風に第一声をあげる。 「ほら見て、あの仮面何書いてるのかな、ふにん?」 「しのばず、だ、これは不忍と読む」 「しのばず?」 「まあ、言うなれば、私は忍者ではないということだ」 とりあえず、普通の人間じゃないことは確定した。 「まあ、それはどうでもいいことだ。私が忍者であれ、なんであれ、な。そんなことより私にとって大事なのは」 ゆっくりとボウガンの矢先を二人に向けながら、 「お前たちを殺すことだ」 と、話を締めくくる。 「かはは、傑作だ、傑作だぜ」 話を黙って聞いていた。人識が突然笑い出す。 「不判、笑う意味がわからんな」 まだ結構距離は離れているが、ボウガンから矢が放たれれば即死する可能性もある。 決して笑えるような状況ではないはず、にも関わらず人識は笑う。 「かっはっは、虚弱体質に振り回されて、イライラしてるところで、記念すべき最初の相手が出てきたと思ったら、仮面の変な奴だったってか、傑作どころじゃねえぞ」 一通りむなしそうに笑ったあと、 「なあ、とりあえずここはお互いに出遭わなかったことにしようぜ」 と、唐突にとんでもないことを口走る。 「なんだと?」 仮面で表情は隠れているが、それでも声に驚きをのせて男は、右衛門左衛門は聞く。 「それは、命乞いか?ならば」 「違うっつうの、なんで、会って早々に命乞いするんだよ?俺はそんな愉快なキャラじゃねえ」 さっきまでの笑いはどこへやら、イライラとした口調に戻り人識は続ける。 「別にここで戦ってあんたを殺すことに関しちゃなんも思わねえよ、けどな」 「けど?」 「やなんだよ」 「は?」 「てめえみてえな奴が殺す奴第一号なんてごめんだっつってんだよ!」 そこで、堰をきったかのように言葉があふれ出す。 「ったく、なんなんだ、今の状況だけでもわけがわからねえってのに、その連れがこんな虚弱体質、そして、現れた最初の敵はこんな奴かよ?ここは普通もっとそれにふさわしい奴だろ?なんでこんな濃い奴が!?俺、なんか悪いことしたっけ、いや、してないよな!?なのにこりゃねえだろ!?」 ひとしきり喋り、ぜえぜえとあえぎながら最後に締めくくる。 「ほんともう傑作としかいいようがねえ」 「あのさ、しーちゃん」 とりあえず、終わったのかと玖渚が声をかけてくる。 「とりあえず、しーちゃんは愉快なキャラだと思うよ」 「うるせえ」 「とにかくだ」 明らかに緩んできた空気をしめなおそうとするかのように、右衛門左衛門は少し下ろしかけていたボウガンを再び向けなおす。 「お前がどう思っていようと、私はお前を見逃す気はない」 「おいおい、かんべんしてくれよ。美人にそんな台詞言われりゃ嬉しいが、あんたに言われても嬉しくねえ! なんで、俺にそこまで固執すんだよ!」 「その刀だ」 「は?」 右衛門左衛門は人識が腰元にさしている刀を指差す。 「その刀は私の物だ。一本はあったが、もう一本はどこにいったのかと思っていたが、お前が持っていたとはな」 「ああ、そうだったのかよ」 「別に無くても困るものでもないが、一応使い慣れた武器なのでな、返しても」 「ほらよ」 最後まで言い終わる前に、と言うより、刀が私の物だと言ったその時からすでに刀を腰から外し、人識は刀を放り投げていた。 刀は地面を滑り、少しずつ距離を詰めていた右衛門左衛門の足にぶつかって止まる。 そのまま、しばし沈黙。そして 「……なんの真似だ?」 と、右衛門左衛門が理解できないように口を開く。 「ようするに、それを返して欲しくて、俺に挑んできてるわけだろ?だから返してやるっていってんだよ、これで俺は面倒な殺しはしねえでいいし、あんたもまだ生き残れるってわけだ、ほら、やっぱ、俺って真人間だよな」 あまりにも相手を舐めた言動と態度ではあったが、右衛門左衛門は表情を変えずに、じっと刀を見つめ、 「不解」 と再び口を開く。 「私はお前の敵だぞ?その私にわざわざ武器を与えるなど…」 「いいんじゃない?人識君が返すって言ってんだしさ」 玖渚の言葉にも反応せず、右衛門左衛門は刀を見つめたまま動かない。 その様子にしびれを切らしたのか人識は 「ああ!勝手にしろよ!とりあえず返すもんは返したんだしもう行くぜ」 と勝手に簡潔に完結させ、くるりと右衛門左衛門に背を向ける。 最早興味さえ失ったかのように、こちらに向けられるボウガンを無視して 「あ、ちょっと待ってよ人識君!」 突然の行動に驚きながらも玖渚はその後を追いかけ、右衛門左衛門と刀だけが残される形になる。 その様子に、相手の意図は理解できずともさすがに罠ではないと確信したのか、ボウガンを下ろし、 刀を拾うために腰をかがめ、 「まあいい、これでお前たちから刀を奪う必要は無くなったわけだな」 刀の柄を握り、 「だが、お前たちを殺す理由が無くなったわけではない」 次の瞬間、一気に二人の、正確には後方を歩いていた玖渚との距離を詰め、刀を振り下ろしていた。 刀を拾い、ボウガンをしまい、抜刀し、距離をつめ、斬る。 動作は単純、だがそれらは恐ろしいほどの速さで繰り出されていた。 簡単にあらわせば、刀を拾った次の瞬間にそれらの行動を右衛門左衛門はやってのけていた。 常人ならば、目では追いきれないほどの速度で、 相手が玖渚ならば、何をされたのかもわからないまま絶命していただろう。 相手が玖渚ならば。 「かはは、なかなか面白いことするじゃねえか」 「不禁、驚きを禁じえないな、止められるとは」 「ほえ?」 だからこの構図は至極当然であった。 右衛門左衛門の振り下ろした刀を玖渚ではなく人識がナイフで受け止めているこの構図は。 玖渚当人は何が起こったのかもよくわかっていない。 だが、わかっている右衛門左衛門は言う。 「まさか、あの状態から割り込んでくるとはな」 そう、人識ならば今の斬撃程度止められることは右衛門左衛門にも予想はついている。 だが、右衛門左衛門は玖渚を狙っていたのだ。 あの隊列ならば、振り向いてから動いたのでは、人識に玖渚をかばう暇は無かった。 だが、人識は、右衛門左衛門が動いた瞬間に同時に動いていた。 こちらを見るでもなく、そのままの体勢で、流れるように体を回転させ、 玖渚の背後に接近していた右衛門左衛門の前に立ちふさがり、刃を止めていた。 玖渚からすれば、人識が消えたようにしか見えなかっただろう。 結局、殺されそうになった当人が一番最後にその構図を眺めることになった。 「あれえ?しーちゃんいつの間に?」 あまりに呑気なその問いかけに 「いきなり、弱そうな奴から狙うとは、いい雑魚キャラっぷりだな。前言撤回だ、一番最初に殺すのにふさわしいぜ、お前」 全く取り合うことなく、人識は刀を弾く。 「これは、殺し合いだ。弱いものから死ぬのは当然だろう?そもそも…ん?お前」 再び、斬りつけようとして、突然、右衛門左衛門は声を怪訝な物に変える。 「どうしたよ?そんなに俺が美形で驚いたか?」 「近くで見れば、似ているな」 「あ?」 「さっき遭遇した二人組のうちの一人に似ているな、いっくんといったか…」 「いーちゃんだ!」 突如、割り込んできた声に驚いたように右衛門左衛門は玖渚に視線を向ける。 「知り合いか?」 「うん、どこにいたか教えてもらえない?」 「不在、もうどこにもいない」 「え?」 いつも浮かべているよりさらに明るい笑顔を浮かべる玖渚に、氷のように冷たい声で右衛門左衛門は返す。 「私が殺した」 もちろん右衛門左衛門は殺していない。 だが、玖渚の反応を見て揺さぶりをかけることにした。 今の反応からして、さっきの男の知り合い、それも親しい仲であることは間違いない。 ならば、この嘘に反応して動揺し、怒り、闇雲に突っ込んでくればしめたものだ。 今は人識が邪魔で殺せないが自分から突っ込んでくれば殺すのは、 「かはは!傑作だ!傑作だぜ!こりゃ!」 などと考えてるところに。 全く予想もしてない反応を人識がする。 「どうした?お前は奴に似ているが、ひょっとすると兄弟か何かか?」 「はっ、兄弟?んなもんじゃねえよ、兄弟なんざ、あの馬鹿兄貴だけで充分だっての」 「不判、よくわからんな、それではつまり赤の他人ということか?」 「いいや、俺とあいつは鏡のように同じで、対極だ。けどな、俺とあいつは決定的に違うところがある」 「不聞」 人識が話すのを最後まで聞かず、右衛門左衛門がさえぎる。動揺が無いとわかった以上、これ以上喋っても仕方が無いと思ったか、 「どうでもいいことだ。貴様がなんであれ、先刻も言ったように私の目的はお前たちを殺すことと言っただろう」 といい終わると同時に動く。 凄まじい速さで突き出された突きは、やはり同じようにとめられる。 「かはは、なるほどな、こりゃあいつを殺したってのもまんざら嘘でもねえか」 「どういうことだ?」 「ああ?どういうこと?そんなこと決まってんだろ?」 止めた刀の切っ先を押し戻し、人識は笑う、見る者をぞっとさせるような顔で、 「戯言だよ、ばぁか!」 そして、戦闘は始まった。 同じ頃E-4地点 玖渚がウサギとカメのどちらが勝ったという話を持ち出し、人識が詐欺だと言っていたその頃。 同じく参加者であり、実力的にはウサギと言っていいような鑢七花は。 「くー…」 寝ていた。 別に周りを警戒してもいないように。 「おい、起きろ!」 そんな彼に声が掛けられる。 「う…うん」 たった一声で一気に覚醒するさまは見事だが、まだ寝ぼけているのかしきりに目をこすっている。 はっきり言って完全に無防備、というか頭の悪さ丸出しである。 しばらくぼーっとした後に思い出したように声に応える。 「なんだよ?誰か来たのか」 「いや、そういうわけじゃねえんだがよ」 と、何かの足のついた布団のような物に寝転がっている少女が目を閉じたまま口だけを動かす。 その様は不気味その物だが、事情を知っている七花は別段驚きもせず、逆に口を尖らせる。 「なんだよ、だったら起こすなよ、迷惑な奴だな」 「おいおい、そりゃねえだろ、俺がいなかったらここに来て寝ることも出来なかったんだからな」 「そりゃ、まあそうなんだろうが…」 七花は納得がいかないという風な顔をするが、実際に、いや本人が思っている以上に今眠っている真心、正確には真心の体に残った四季崎記紀には助けられている。 まずもってこの城にたどり着いたとき、七花は立ちすくんだ。 まずでかい そして大きさもそうだが何より、勝手に扉が開いた。 しかも、その扉にしても透明で中が見えている。 知る人が見れば、ここが病院でそれが自動ドアで材質がガラスというのがわかるのだろうが、当然ながら七花はびびった。 山にこもったサルをいきなり都会に連れてくれば、当然ながら混乱するが、七花も同じようなものだった。 どうしていいかわからずおろおろしてるところに記紀が助け舟を出さなければ未だに中にすら入れなかっただろう。 そして中に入った後も問題だった。 とにかく入り組んでいる。階段はやたらとあるし、部屋も多い、ついでになにか横に文字が書いてある扉もあった。 それがエレベータという名前であることなど七花にわかるわけもなかった。 そこでまた記紀に助けられ、どうにか瓶や箱がたくさん置いてある部屋へとたどり着けた。 後は記紀に言われるまま、色々な箱をかき回し、何かベトベトする布切れのようなものを剥き出しの腕や足に貼って、そこで、 「なあ、これって体とかにも付けといたほうがいいのか?服脱がすの面倒なんだが…」 などと現代でやれば犯罪、というより人として色々やばめなことを口走った七花に 「ん?別にいいんじゃね、正直こいつの体もう大分回復してるしな、適当な応急処置でいいだろ」 と、意図はちがってはいるが絶妙にフォローを入れ、色んな意味でまた助けられた。 そして結局、この最上階のこの部屋に来たというわけだった。なんだかんだで助けられまくりな七花である。 ちなみに記紀は一番下の階の部屋にしようと言ったのだが、ご多分にもれず七花は高いところが好きなので、強引にこの部屋になった。 と、そんなこんなしてるうちにさっきの疲れも出て寝入ってしまった次第である。 はっきり言って馬鹿丸出しなのであった。 「で、だ。これからどうすんだよ虚刀流?」 「どうってと?」 「だからよ、こいつが回復してからだよ」 「言ってんだろ、とがめを捜すって」 「どうやって?」 そう聞かれて七花返答につまる。 正直何も考えていない。けどそれを認めたらかっこわるいので認めることもできない。 「何も考えてねえみたいだな」 しかし、即座にそれも見抜かれる。 「なあ、虚刀流、今の状況ぐらいわかってるよな?ん?」 「うぐぐ…」 どうもさっきいじめた仕返しらしい、答えられないと見越して、質問を連発してくる。 「ま、いいや、じゃあ今から俺がかいつまんで説明してやるよ」 挙句の果てに上から目線で物を言ってくる。 「ようするにこれは殺し合いなんだよ。しかもわけのわからん力を持った奴による…な」 「はあ…」 「しかも勝ち残れるのは一人、そして一日以内に誰も死ななきゃコイツが…爆発する」 「へえ…」 「勝ち残った奴はなんでも好きな願いを叶えてもらえるらしいが…っておい!」 話の途中で七花が寝ていた。どうも難しすぎたらしい。 「は…お、起きてるぜ」 半分垂れた涎を拭きながらも取り繕うが、バレバレである。 「全く、これが俺の作った刀の完了だってか…悲しいぜ」 動いてるのは口だけなのに、哀愁が伝わってくるあたり相当に悲しいらしい。 さすがにヤバイと思ったのか七花は弁解する。 「や、でも今までの話はわかったぜ、ようするに殺し合いだろ?」 「そら、さっきあのお面野郎にも言われただろうが…」 「うぐ…」 「まあ、いいや…そんだけわかってりゃ十分か」 もうこれ以上突っ込んでも悲しみが増すだけと悟ったか、話を切り上げ記紀は本題へと入る。 「ようするにだ、あの白髪のお嬢ちゃんもこの殺し合いに巻き込まれてるかもってこった」 「とがめが…」 「もしそうだとすれば、あのお嬢ちゃんも誰かに狙われてる可能性があるだろ?」 「そ、そんな!?」 ようやく話の重大性がわかったらしい七花に記紀は続ける。 「今のこの小娘はよ、俺の毒にやられて突っ走ってたが、最初からこの殺し合いに乗り気な奴もいるだろうぜ、なんせ願いがなんでも叶うってんだからな」 淡々と、記紀は語り続ける。 「しかもよ、俺はコイツの記憶をちと探ったんだが、ヤバイ連中が結構いたぜ、さすがにその連中がどんな奴でコイツがそいつらにどんな感情を持ってるかまでは探れねえけどよ、特に上げるとするならやっぱりこいつだな。名前は哀川潤」 「あいかわ?そんな奴聞いたことねえけど、強いのかよ?」 「ああ、強いぜ、聞くも馬鹿馬鹿しいあだ名を多く付けられてるが一言で表せば、人類…最強だ…」 「じんるい…最強…」 その言葉の重みに発した本人である記紀でさえ畏怖を感じる。 そして当の聞き手である七花もその重みを感じるのか、しばらく顔をしかめ、そして重々しく口を開く。 「じんるいって何?」 「お前、もう鑢の名を捨てろ!そしてどこかで自殺しちまえ!全く何がどうなったらこんなのが完了形になっちまうんだ!?」 もう声だけなのに嘆きがもろに伝わるほどの突っ込みを入れたあと、もう説明するのも面倒になったのか一気に言い切る。 「ようするに、こいつとおんなじくらい強いってことだ!」 とりあえず、この不毛な会話を早く終わらせたい一心で言った言葉ではあったが、それはあまりに直接的すぎた。 「はあ!?」 その言葉に今度は七花が怒鳴る。 「おかしいだろ!?こいつみたいな奴が無名でいただけで驚きなのに、それと同じくらいのがもう一人いる!? どうなってんだよ、それじゃ俺が日本最強を名乗ってのが馬鹿みてえじゃねえか!?」 「ええい!逆切れすんな!そしてお前は馬鹿みてえじゃなくて馬鹿だ!」 言い返して何か最早会話の質が一気に下がってしまったことに気づいた記紀は気づき強引にまとめる。 「なんにせよ、俺の見た未来にはこんな連中いなかったが、いるのは事実だし仕方ねえだろ!それにだ、お前にとって大事なのはそこじゃねえ、あの嬢ちゃんのことだろうが」 「何?」 「もし、コイツに近い奴があの女を殺しにかかって生き残れると思うか?」 そんなこと聞かれるまでもない。 ウサギにすら負けると自負するとがめがこれほどの相手に生き残れるはずがない。 それこそあっという間に障子紙を破り捨てるように、殺されるだろう。 「け、けどよ…」 それでもなんとか、なんとかその絶望的な事実を否定したくて、必死に記憶を探る。 彼自信似合わないことだとわかっていてもとがめが絡んでるならそんなことは言ってられない。 そして、一つの希望に行き当たる。 「そ、そうだ、何か最初に制限がどうのとか言われたじゃねえか!?俺たちが公平になるようにって」 「へえ、そんなことは覚えてたのかよ?そりゃあすごいな、けど無理だ」 感心するそぶりを見せながらも、七花の希望を記紀はあっさり切り捨てる。 「こいつと戦ったお前ならわかんだろ、こいつの化け物じみた力がよ、確かにコイツの力はある程度の制限を受けている。けどな、所詮ある程度なんだよ、お前にしたってな、反面弱い奴に対しての底上げが行われたとは思えねえよ」 「そ、それじゃ」 「不公平だ!なんて言うなよ世の中なんざそんなもんさ、そもそもそこまで公平を重んじるってならこんな奴を連れて来る必要なんてどこにある?適当な連中をかき集めりゃいいだけだろうが」 反論したくても出来ない、全てにおいて筋が通り過ぎているからだ。 さらに記紀は続ける。 「こんなありえねえことが出来る奴の思惑なんざしらねえがよ、奴の見たがってんのは人智を超えた連中の殺し合いなんだろうぜ、だとするなら参加者全員をあの嬢ちゃんにあわせるわけねえだろ。ようするに嬢ちゃんみたいなおそらく奴らは餌なんだよ、化け物みたいな連中がやる気にさせる、な」 「どういうことだ?」 「例えばよ、お前率先して相手を殺したいとか思うか?」 その問いに七花は首を横に振る。 とがめの命令ならば相手を殺すことにためらいはないが、それ以外のことで殺しをしたいとは思わない。 所詮自分は刀なのだから。 「そう、力を持ってても戦いたがらねえ奴だって結構いるだろうさ。じぶんが殺されることになってもな。けど、もし他の連中が自分の大事な、例えばお前にとっての嬢ちゃんを殺すとか思ったらどうするよ?」 そんなこと言われるまでもない、とがめに害を為すなら。 例え誰であろうと容赦するつもりはない。 「そういうこった。結局自分だけじゃなく、大切な誰かの命を守るためにも誰かを殺さなきゃいけねえんだよ。…そろそろ俺の言いたいことがわかってきたか?」 「ああ」 鈍い七花もようやく記紀の言わんとすることを理解する。 ようするにどうすると言ったのはこれからのことだけではなかった。 この少女を真心をどうするか、と聞いたのだ。 先ほどは毒刀に毒され正気を失っていたから襲ってきた。 だが記紀の言葉通りならば、真心もまた大切な者がいるとすれば、正気に戻った今もこちらを敵とみなさない 保障はない。 いや、もし敵意を抱かないにしてもいずれこの力がとがめに向けられるかもしれないのだ。 ならば、いっそ 「ここで、やっちまえ、てか」 「ああ、正直こいつが起きたらヤバイんじゃねえか?お前コイツに勝てるかよ」 そんなものは聞かれるまでもない、勝てる自信など無いにも等しい。 恐らく、先ほど繰り出した技は覚えられているだろう。そしてこちらの動きも 「どのみちあの時点でお前に殺されるのが普通だったんだ。今やられても文句は言えねえさ」 「こいつが死んだら、あんたはどうなるんだ?」 「そりゃ俺も消えちまうな、けど今更だろ?お前はあの時俺を八つ裂きにしたじゃねえか」 そう、確かにあの時、鳳凰に乗り移った記紀を七花は殺した。 だが、あれは毒刀を得るためだ。今は理由が、 「理由がねえなんて言うなよ、刀なんてのはそういうもんだ。斬る理由を選んでんじゃねえよ」 「あんた、死にたいのかよ?」 「いんや?出来ることならこの先にいる人外の連中相手に俺の作った最高傑作がどこまで戦えるのか見てみたいに決まってんだろ?」 「だったら」 「けどよ、この場でその最高傑作に斬られるってのも職人冥利に尽きるってもんだ」 脅すような七花の物言いに、記紀はひるむことなく言い返す。 その言葉は今までの言葉のように飄々としたものはなく、職人の意志を感じさせる。 そんな言葉だった。 「そんで、どうすんだよ?」 答えを求められても、簡単には出せない。 記紀の言うとおりなら、自分は刀としてこの少女を斬るべきだ。 持ち主を守ることもまた刀の役目なのだから。 けれど七花は人間でもある。一度殺さなかった命を殺しなおすのもためらわれる。 (あいつなら、右衛門左衛門ならどうしたかな) 刀として作られたわけでもないのに、下手をすれば自分よりも刀らしいあの人間ならば、 いや、そんなことは考えるまでもない。 あの男なら顔色一つ変えず。殺してのけるだろう。 彼もまた刀、なのだから。刀として刀 ならば自分もそうすべきだ。所詮刀に感情など必要無いのだから。 七花はむくりと体を起こし、手を手刀の形にして、ゆっくりと真心に近づく、 そして真心のすぐそばで手刀を振り上げ 「やっぱやめとくよ」 と、唐突に手を下ろす。その判断に驚いたか記紀は言う 「それでいいのか、お前は刀だぜ?邪魔者は」 「俺は刀でもあるけど、同時に人間でもあるんだ、一度助けた人間を無抵抗なうちに殺しなおすのはやっぱり――やだよ」 みなまで言う前に七花はその言葉を否定する。 そう、自分はただの刀ではない、鑢七花というれっきとした人間なのだから。 持ち主がいない今は自分で判断し、自分で考え答えを出す。それが今の自分だ。 「もし、こいつが回復したら今度こそ殺されるかもしれないぜ?それに嬢ちゃんだって」 「そのときはそのときだ。襲い掛かってくるなら俺だって迎え撃って戦うさ、殺すつもりで」 その時にもしも勝てたなら今度は容赦しない、勝てる勝てないなど別にして、それが今自分が人間として出せる 一番の答えだ。 それに、と七花は続ける。 「とがめだって簡単には殺されないさ。あいつは奇策士なんだぜ?それになにより、俺の所有者だ」 そういって笑う。心の底から自分の所有者を信じてる。そう感じさせる笑顔で。 その答えに記紀はため息をつく。 「全く、本当に情けねえなあ、それで本当に俺の作った刀かよ」 「悪かったな」 ふてくされたように答える七花に、半ばあきらめのように記紀は言う。 「まあいいさ、それがお前にとっての姿なら、まあ、完了ってことなんだろうさ、その完了したお前がどこまでやれるか見せてもらうとしよう」 「ああ、ただしその頃にはあんたは八つ裂きなってるだろうけどな」 「なんでだよ!?」 と、最後は半ば突っ込むような形で会話は終了した。 それにしても、と、七花は思う。 この刀鍛冶は本当に意地が悪いと思う。 恐らくは記紀はこうなることがわかってて、それでも動揺させてやろうと、こんな話をしたに違いない。 人をこんな時間に起こしてまで、それも理由はさっきのいじめの意趣返しと言ったところなのだろう。 本当に底意地が悪い、などと見積もってた。 この言葉を聞くまでは。 「にしてもつまんねえ、この場で修羅場が見れると期待したんだがな」 「は?」 言葉の意味がわかっていない七花を無視して記紀は続ける。 「どうも当面は戦う必要が無いみたいなのはわかったか?だから、もう目ぇ開けろよ、真心」 その瞬間、真心の眼が億劫な様子など微塵も無く開かれ、にやりと笑い、ガラリと変わった口調で言う。 「みたいだな、どうもあんたそこまで悪い奴でも無いみたいだ」 その瞬間七花は確信した。 この刀鍛冶最低だ、と。 【1日目 明朝 E-4休息中】 【鑢七花@刀語シリーズ】 [状態] 大分回復した [装備]捨てた [道具]捨てた [思考] 基本 とがめと否定姫を捜す 1 とりあえず無駄に殺しあいたくないな 2 ここは一体なんなんだ 3 人類最強ってどんな奴だ 4 四季崎記紀うぜえ ※参戦時期は否定姫と旅してる最中です。 ※毒刀に斬られました。 ※ゲームについてちょっと理解しました。 【想影真心@戯言シリーズ】 [状態] 覚醒 (猛毒刀与による効果で頭の中に四季崎記紀が居る) [装備] なし [道具]落とした(地図くらい残ってるかも) [思考] 基本 起きたばっかりで不明、話は全部聞いてた模様、七花は敵でないと認識 ※七花の繰り出した技は全て習得した? 【四季崎記紀@刀語シリーズ】 [思考] 基本 とりあえず生き残る(?) 1 虚刀『鑢』がどの程度戦えるのか見たい ※体は動かせるようですが動かす気はない様です。 027← 028 →028 ← 追跡表 → ― 鑢七花 ― ― 想影真心 ― ― 四季崎記紀 ―
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【名前】否定姫 【出展】刀語 【種族】人間 【性別】女 【声優】 【年齢】 【外見】 【性格】 【口調】 一人称: 二人称: 【呼称】 [[]]→ [[]]→ 【特異能力】 【備考】