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412: 名前:マロン☆03/27(土) 20 58 52 手術室のドアの向こうでピッ――と長い音がする その音はあまりにも悲しくて…残酷な音色だった 私はおばさんを睨みつける 恨み、憎しみ、そして…怒りの米タメでおばさんを睨む こいつのせいで…こいつらのせいでッッ!!!!! 結華の人生はめちゃくちゃになったんだ!!!! 許さない… 許さないッッッッ!!!!!!!!!!!! それから、結華の葬式があった その日は、よくドラマで見る光景と同じく雨が降っていた その雨は結華の今までの悲しみの涙だったのかもしれない 私は葬式で結華のおばあちゃんから結華からの手紙と小さなかわいらしい袋を受け取った おばあちゃんは涙を浮かべながら「結華の友達でいてくれてありがとう…」と言われた 私のほうこそ… 私のほうこそ友達でいてくれてありがとう… 馬鹿で我侭で自己中で結華を傷つけた私とずっと親友でいてくれて本当に本当にありがとう…!! 私の目からは大粒の涙が零れ落ちてきた そして…結華が火葬場に運ばれた… 私も火葬場へとついていった おばあちゃんが結華の顔を最後に見てやってくれと言われたし…私も結華の顔を見たかったから… 火葬場に着いた私は火葬される前の結華の顔を見た 結華の顔は死んでいるとは思えないほどきれいだった 結華の顔を見ると思いだす… 結華との楽しい思い出… 色々な結華の表情がシャボン玉のように浮かんできてすぐに消える とうとう、結華が火葬される時が来た 結華が火葬するところに入ろうとする 「結…………華………!!」 私は火葬されようとしている結華の名前を呼んだ 勿論答えは返ってこない… 「やめて…!!結華を…結華を燃やさないで!!」 私は涙を流しながら結華を燃やすため火葬するところに入れる係の人に叫んだ 私が係の人を止めようとして行こうとすると一緒に来ていたお母さんが私を押さえた 私は必死にもがく 「やめてェェェェェェ!!!!結華を…結華を燃やさないでェェェェェェェェェェ!!!」 私は必死に叫ぶ 私の叫びが聞こえないのかのように係の人はどんどん結華を火葬していく 「やめてよォ…!!やめろォォォォォォ!!!!」 私は声がかれるくらいに叫んだ だけど、私の願いはかなわず結華は火葬されてしまった 「いやァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!! 結華ァぁァァァァ!!!!」 私は心の底で思って信じてたんだ 結華は死んだふりをしていてどこかで生き返って私にいつものような笑顔で笑ってくれるのを… 「ゆ……………いか…………………」 私は枯れた声で結華の名前を呼んだ やっぱり返事は返ってこない… 私はここでやっと分かった… 本当に結華は 死んだのだと 416: 名前:マロン☆03/28(日) 21 39 20 結華の死を理解した私は目の前が真っ暗になった… 悲しみの一色に心は染まって私の目からは多分光が失われたいたと思う 私はお母さんに支えられて家へと帰った 家に帰った私は部屋へと戻りドアの前で泣き崩れた 「結…………華………うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」 すっかり枯れてしまった声で泣いた 私はしばらくずっと泣き続けていた 私は、喪服のポケットの中に入れておいた結華からの手紙と 小さな可愛い袋が入ってあったのを思い出した 私はポケットからその二つを取り出した そして、手紙を開いて、見た 未那へ 今日、2月17日は何の日か分かる?? なんと!!私達が出会って親友になって10周年の記念日でした~ 今日渡したそっちの小さな袋は私達二人だけのお揃いだよ!! 世界にたった一つだけ!! 一応すごくお金がかかったんだよ!! 感謝してよね!!(笑) な~んてね!冗談だよ!! でも、最近未那と一緒にいることが少ないような気がするんだ… 未那はクラスのみんなから人気があるから仕方ないけど やっぱり寂しいなァ~ でも、私達の絆は一生切れることないものだと思ってるよ! これからもわがままで馬鹿で寂しがり屋の私をよろしくね!! そして、これからもいつも通りの優しくて笑顔の可愛い私の親友の未那でいてね!! 結華より 手紙を読んだ私は目からまた涙があふれてきた ごめん…ごめんね… 私…結華の様子に気づいてあげられなくて… もっと私が相談に乗ってあげればよかった… 結華の強がりは私を思いっきり頼っていた強がりだったんだね… 結華なりに私に頼ってたんだね… 私が鈍すぎて気付いてあげられなかったんだね 私がもう一つの小さな袋を開けるとその中には 私と結華の名前が掘ってあるハート形のペンダントと 私と結華のマスコットのストラップだった 私は結華からの贈り物を思いきりギュッと抱きしめた 「結華の馬鹿ぁ…嬉しいけどお揃いじゃないじゃん…結華と二人で持っていなきゃお揃いじゃないじゃんッ!!」 私は、泣きながら結華からの贈り物を強く強く抱きしめ今はいない結華に向かって怒った 神様……… 結華を… 私の大切な親友を ――返してください―― なんでもしますッッ!! だから、結華を 返してください 419: 名前:マロン☆03/29(月) 20 34 54 小学校を卒業し、春休みに私は転校した 見送りにはクラス全員が来てくれた でも、一人足りない… 一人…一人だけ足りない… クラス全員とそのほかの人たちに見送られて私は引っ越した 新しい家にも着き、あっという間に春休みは過ぎて行った とうとう私が転入する中学校への登校日がやってきた 私の心は不安で埋め尽くされた 中学校へ着くとクラス票が張り出されていた 私の名前は"1-A"に書かれていた 自分のクラスを確認した私は、クラスの担任である先生がいる職員室へと向かう 私達のクラスの担任の先生は女の先生で名前は小川麻奈美(オガワ マナミ)と言う先生だった 容姿としては、茶髪の髪の毛を軽くまいており、目にはブルーのアイシャドーを付けているぱっちりしている。唇は、薄いピンク色の色つきリップを付けていて、スタイルはいいけど意外に胸が小さい。 「では、神崎さん、クラスへ行きましょう」 私は小川先生の後ろをついていく 私は小川先生の後ろをついていきながらたくさんの生徒を見た 生徒達はみんな楽しそうに友達としゃべったり、ふざけ合ったりしている 私だって…此処に結華がいたら… 私の眼から涙があふれ出てきた ――結華―― この言葉を聞くだけで涙が出るなんて… 私弱虫だな… クラスに着くとホームルームが始まり転入生紹介で私は紹介された 自分の名前もかき紹介を終え、自分の席へと向かった 私の席の隣の子は雪咲祐梨亜と言う子だった 綺麗でつやのある腰まである黒髪を今日はそのままストレートしていた 瞳は、奇麗な黒で顔も整っていて唇も薄い桜色 スタイル抜群だった 「よろしくね!神崎さん」 これが私と祐梨亜との出会いだった 休み時間になると女子が雪咲祐梨亜のところへと群がっていく 隣の席の私としては凄く迷惑だ… 私は自分の席をたち屋上へと向かった 423: 名前:マロン☆03/30(火) 11 13 29 私は屋上でただ空を眺めながら結華との思い出を思い出していた 楽しそうな笑顔や、悲しげな顔、苦笑いしている顔や色々な表情を思い出していた 私の目からはまた涙が流れていた 涙は拭いても拭いても流れてくる 「私、いつからこんな弱虫になっちゃったんだろう… 結華にはいつも強がっていたくせに…」 私はその場に座り込む 私が一人で泣いていた時だった 後ろのドアが開いて、誰かが入ってきた 私は振り向いた そこにいたのは…雪咲祐梨亜だった 「神崎…さん?……泣いてるの?」 私の様子を見た雪咲祐梨亜は私のもとへと駆け寄ってきて心配してくれた なんだろう?この安心感は… 結華といた時と同じような安心感 「何か悩んでいることがあるの?それなら一人で抱え込まないで私に全部相談して…?」 雪咲祐梨亜は私に優しい声で言ってくる 私はそれから雪咲祐梨亜に私の思っていることを全部言った 祐梨亜は私の話を首を軽く縦に振りながら聞いてくれた そして、私に優しく微笑んで 「神崎さん!!私達は今日から友達ね?私のことは祐梨亜って呼んで?未那…」 ふと、祐梨亜が結華に見えた そして、私達は約束をした 何 が あ っ て も 決 し て 裏 切 ら な い と でも、この約束が簡単に破られて裏切られるだなんてこの時は思いもしなかった 428: 名前:マロン☆03/30(火) 21 07 28 それから私と祐梨亜は仲良くなった 毎日一緒に行動して、一緒に学校生活を過ごしていた 私は、結華といるようでそして、新しい友達ができてとてもうれしかった この幸せがいつまでも続けばいいと思っていた そんなひそかな願いは簡単にもろく壊された ある朝、私が学校へ行くと私の机には 「死ね」や「ワガママ」などと胸に刺さる言葉が書かれていた 多分、私が祐梨亜と仲良くしているのを恨んだ女子たちの仕技だろう 私はその落書きを雑巾で消す その日は早めに学校に来ていたので 祐梨亜が来る前に何とか消すことができた 祐梨亜に心配をかけたくない そして、祐梨亜が来た 私は笑顔で祐梨亜に話しかける 「おはよう!!祐梨亜ッ!!」 私が笑顔であいさつした横を祐梨亜が何も言わず通り過ぎていく え…? 「祐…梨……亜…?」 私が祐梨亜の肩を触ろうとした瞬間私を丸で汚いもの扱いするのかのように手を払い私を突き飛ばした 突き飛ばされた私はそのまま教室のドアにぶつける 「触らないで?汚らわしいっ!! 未那…私はもう、あんたの味方じゃない!!あんたの味方は、このクラスの誰一人としていないのよ!!」 祐梨亜は私を指さし見下す 「何で!!?私と祐梨亜は友達じゃなかったの?! 約束したよね?!私達はお互い絶対に裏切らないって…」 祐梨亜は私を見下し鼻でフッと笑うと 「ハァ?アハハハハハ…あんたみたいな馬鹿でワガママが私の友達なわけないじゃない!! それに…私あんたのこと一度も友達だと思ったことないよ!!!」 アレ?このセリフどこかで聞いたことがある… そうだ…私が結華と喧嘩した時だ また、結華と祐梨亜が重なって見えた 432: 名前:マロン☆03/31(水) 20 55 46 また…言われちゃったなァ… 私のこと友達だと思っていなかったなら 何で私に話しかけてきたの?! 転校してきた初日から無視してくれたほうがずっとましだったのに… 何で私に優しい言葉をかけてくれたの? それならいっそのことひどいことを言われたほうがましだったのに… 何で私と友達になったの…? 何で? ナンデ……? 私の目からは自然と涙があふれ出てきていた 「うわっ…こいつ泣いてるし…キモッ」 祐梨亜の仲間達が私に暴言を投げ捨てる 心が痛い… その日から私の地獄の日々が始まった 私が毎日学校へ行くと机には様々な暴言が書かれた紙が貼られており、迷惑メールや電話も増えてきた そんな日々を過ごすうちに私の身体も精神も心もボロボロになりかけていた 友達だと思っていた人に裏切られた いつしかこの思いは悲しみではなく『恨み』に変わって行った ある日、私がいつも通り学校へ行くと私はいきなり教室の入り口付近で足をかけられて転んだ 「……痛ッ…」 右膝には血がにじんでいた 「大丈夫ぅ?ずいぶんど派手に転んだねェ?キャハハハハ」 祐梨亜が私に話しかけてくる 私は祐梨亜を睨む 私の睨みを見た祐梨亜は私の髪の毛をつかみ 「この髪の毛長すぎね?私達が可愛くカットしてあげる!」 そして、祐梨亜はハサミを取り出し私の腰まであった髪の毛を首までのショートにした まぁ、ちょうど髪の毛がうっとうしいと思ってたからいいけどね… でも、確実に体も心も精神もまたぼろぼろにはなっていたんだ… 444: 名前:マロン☆05/16(日) 21 03 16 いじめに我慢しきれなくなった私はクラス全員をある日屋上に呼び出した お前らに地獄を見せてやる!!! 私が屋上のドアを開けると目の前に入ってきた景色は クラス全員がちゃんといた 「クスクス…遅かったじゃん…」 と祐梨亜が笑いながらいう 「あんたらが早いだけだよ…バーカ」 私はそれなりに反抗する 私だって、やられっぱなしじゃないんだから!!! 「いつからそんな口きけるようになったのォ~?」 と祐梨亜に付きまとっているブスでぶりっこ女・東条由美子(トウジョウ ユミコ)が言う 「お前はお母さんですか?私がいつこんな口を聞こうと私の勝手…お前らに教える必要はない… てか、ぶりっこ黙れ…臭い・キモイ・ウザい・この世から消えろ」 私は冷たい目で祐梨亜と由美子を睨む 「ヒドォ~イ!!由美子は臭くないし、キモイもないしウザくもないわよォ~!!!由美子は世界で一番可愛いんだからァッ!」 と由美子が言う はっきり言ってもいいなら言います みてて吐き気がする 「ゆ…由美子になんてこと言うのよ!!お前のほうがキモイし!!由美子に謝れよ!!」 と祐梨亜が言う 「嫌だね!!何で私が悪いわけ?私は親切に本当のこと教えてあげているだけじゃん!」 私が言っても誰も信じてくれないだろうけどね… 「でも、まぁいいや…これから貴方達にいいものを見せてあげる…」 私は不気味に笑うと屋上のフェンスのほうへと歩いて行った 「イッツ・ショータイム!!私は今からお前らの願っていることをかなえてあげる! 皆の願い事は一つ…『私が消える』ことでしょ?」 皆の口から相槌を打つのが聞こえてくる 「だから、私皆の前から消えてあげる…だけど、私はお前らを一生恨み続ける!!!!!!」 そう言って私はフェンスを飛び越える そして、最後に 『さ よ う な ら』 そういうと私は屋上から落ちる 「未那…?ぃやぁぁぁぁああああああ!!!」 と祐梨亜の叫び声とともに私は地面へと落ちて行った 448: 名前:マロン☆05/21(金) 21 27 07 祐梨亜目線 「祐梨亜!!どうしよぉ!!!私…私ぃ!」 と言って私の部屋に駆け込んでくるのは私の双子の妹の雪咲真里亜だった 私達は一卵性の双子 だから、私たちの顔つきなどもすごく似ていて 同じ格好すればばれない 昔から体の弱い私は私の格好をした真里亜に変わりに学校へ行ってもらっている でも、最近、真里亜の様子がおかしい なんというか、帰ってきても凄く悲しそうな顔して帰ってくる 私が理由聞いても答えてくれない 「どうしたの?」 私は真里亜に問いかける 「祐梨亜ぁ…私…私…人を死に追い詰めちゃった…」 と真里亜は涙を流しながらいう 「どういうこと…?説明して?真里亜」 と私は真里亜に聞く 真里亜は何もかも説明してくれた つまり、私の代わりをしていた真里亜は、東条由美子って子に頼まれて断ると 「断ったら、あんたの大切な妹とあんたの親友の未那を殺す。そして、あんたの大切なものからどんどん消していく」 と脅迫して断れなかった だって、東条由美子の家は有名な組(悪いほう)だったから 由美子ならやりかねない… 真里亜は由美子の脅迫に負けてしまったということだ 「私…人殺しだよォ…ぅっく…ヒック…」 真里亜…私が身体なんか弱くなければ真里亜も未那って子も悲しまずに済んだんだね… 全部私のせいだ… 「真里亜、大丈夫だよ?真里亜は悪くない…悪いのは全部私…もう、今から真里亜は真里亜。私は私で未那さんを虐めたのは私、未那さんを死まで追いつめたのも全部私 だから、真里亜が罪悪感を感じることはないんだよ!」 そう言って私はにっこり微笑む 私がすべて悪いんだ… だから、この問題の始末くらい私が自分でしなきゃね… 「祐梨…亜ァ…ごめん…ぅっく本……当に…ヒックごめん」 真里亜は言葉をとぎれとぎれに私に謝る 「真里亜、もう謝らなくてもいいんだよ!」 そう言って私は真里亜の頭を撫でる 罪をかぶるのは私だけでいいの… 皆か幸せになれるなら私は自分の自由を捨てたってかまわない!! 呪いの鬼ごっこ-助かる確率1%- 続き11
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307: 名前:みるみる☆04/11(日) 15 11 23 ◆ どろり、溶ける君の声。 ◆ 大きな洗濯機が並ぶ室内は、陽炎になっている外の様子よりもずっとずっと暑い。 『ふんわり乾燥まであと15分です』と機械が知らせてくれた。 「…… どうしてこんな事になっているんでしょう」 2人しかいない室内に、思ったよりも自分の声が響いた。 吐息とも溜息とも取れるものが、目の前にいる、彼の飴色の髪を震わせる。 斜陽に照らされたそれは、きらきらと反射した。 「……どうしてかな」 「とぼけないでください」 このコインランドリーには2つしか椅子がない。 最初はおとなしく1人一つずつ椅子に座って、シーツが洗い上がるのを待っていたのに、「大人のキスを教えてやるよ」とか変なことを彼が口走って、なぜか今に至る。 「もう、最悪です」 「だったら降りればいい」 そう。今私は彼が座っている、その大腿部に座っている(というか座らされている)ので、私がここから降りれば、それだけで事は終わるのだ。 それなのに。 「恥ずかしくて嫌なのに、気持ち良くて逃げられない、でしょ?」 「……言葉で責めるのが好きなんですか?」 にやりと彼が笑う。 汗が気持ち悪い。 べっとり張り付く肌着が気持ち悪い。 不意に、この体勢のまま、横にあるもう一つの椅子に倒れ込む。 クッションも何もない木の椅子なので、割と痛かった。 恨めしげな顔で彼を見ると、「何?」と笑顔で答えられる。 「あなたって本当に、一人称は『僕』なのに、完全に俺様キャラです……」 309: 名前:みるみる☆04/13(火) 00 09 42 「今夜は、お客さんを呼んでいるじゃないですか」 だからこんなに大量のシーツを洗いに来たのに。 全く彼は向こう見ずというか考えなしというか、「こんなこと」をして、シャワーも浴びずにどうやって家まで帰るというのだろう。 「うん、家帰ったら、今日はできないから」 「……若いですねぇ」 「お前もだろ」 彼が少し疲れたような苦笑を漏らす。 吐息が耳朶にかかって、ぞくりと背筋が震えた。 あと10分。 乾燥機から出る熱気も手伝って、この部屋の中は異様な暑さだ。 2人が体を密着させていれば、それだけで脱水症状になってしまいそうなくらいに。 私だけでなく彼も、頬に一筋亜麻色の髪が張り付いて、瞳も熱にうなされているように少し潤んで見える。 このまま溶けてしまいそうだと思った。 310: 名前:みるみる☆04/16(金) 21 53 41 吸い込む空気ですら喉をむっと温めていく。 私の意識でさえも蕩け始めたのか、視界がぼんやりとはっきりせず、夕日に染まる天井をぼんやりと眺めていた。 機械はシーツを乾燥し終えたようで、陽気な電子音が部屋に響いた。 「時間切れですよ」 彼は名残惜しそうにゆっくりと起き上がり、ふわふわになったシーツを引っ張り出し始めた。 私も起き上がって、外の様子を眺める。 すっかり夕暮れ色になってはいるが、そとは建物や道路の発する熱でまだまだ暑そうだ。 「どこ見てるの?」 すかさず彼が尋ねる。 まるでこちらを見ろと言わんばかりに。 この人は私の視界を独り占めするつもりなのだろうか。 「ちょっと思い出していました」 「何を?」 「碧ちゃんのことです」 その言葉を口にした瞬間、なにか胸にふわりと風が吹いたような気がして、自然と笑みがこぼれた。 「なんだか久しぶりに聞く名前だね」と、彼も少し懐かしげに答える。 312: 名前:みるみる☆04/23(金) 00 18 22 311高坂 陽様 お久しぶりです! すみません、凄く「あれ、終わり?」みたいな終わり方で……これが私の今の全てです← 深くできませんでした; でも楽しんで貰えたのなら私も嬉しいですv 本当にいつも丁寧なコメントを頂いて感激しておりました……。 ありがとうございます! これからもちまちま頑張りますw ◆ 彼に渡されたシーツを両手に抱えて、私達は夕暮れの町に出た。 髪が、まだ少し熱を持った風にふわりと揺れる。 そう、あの分厚いコートは着ていない。フードももう被らない。 2人で並んで、表の通りをゆっくり歩く。 碧ちゃんのおかげだなぁ、としみじみ思う。 あの不思議な、緑の髪の少女が居なくなってから、少しずつ私の周りは変わってきている。 琥珀くんは牢には入らなかった。 政府が差別によって起こった事件であって、琥珀くんも被害者だと判決を下した。 よって、無罪放免。 だからこうやって、2人で洗濯なんかしている。 あんな大勢の前で大きな事件が起こったのだから、お偉いさんも無かったことにはしておけなかったのだろう、「colored」への差別を禁止する、とした。 もちろん、そんなものを文章にしても、すぐに効果は現れない。 それでも、少しずつ変わっている。 世界は変わっている。 313: 名前:みるみる☆04/24(土) 17 23 09 「また会いたいよね」 急に隣の琥珀くんに言われたので、心を見透かされたような気がした。 「また思い出してたんでしょ? 碧ちゃんのこと」 何で気付かれたんだろう、と疑問に思いながら、私はこくりと頷く。 会いたい。もう一度だけでもいいから。 思い起こしてみれば、碧ちゃんが「この世界」にいた時間は1週間にも満たない。 毎日色々なことが起こりすぎて、だから長く感じたのかもしれない。 その所為か、私の心には急にぽっかりと穴が開いてしまったようだ。以前ほどの虚無感はないにせよ、開いた穴はなかなか塞がってくれない。 今でも鮮明に思い出す、最後の瞬間。 緑の髪が風に吹き上げられていた。 手を伸ばしたけれど届かない。もっと身を乗り出して、地球に引っ張られるその体を引き留めようとした。 何をしているのか自分でも分からない、ただ何か叫んでいた。 思い切り上半身が柵の外に乗り出した、そのとき。 緑の彼女は何か呟いて、笑った。 そして、その翡翠のような瞳がゆっくりと閉じられた。 全ての時間が止まったような気がした。 感覚という感覚が一切消え失せて、ただ視覚だけは研ぎ澄まされたように、鮮やかな緑を捉えていた。 普段の私なら、これから起こることを恐れて目を覆っていただろうに、そのときは何故か目が離せなかった。 地面に付く直前、彼女は消えた。 314: 名前:みるみる☆04/30(金) 00 37 05 ざわめく下の人たちとは正反対に、時計塔の4人は、固まったように碧ちゃんが落ちたはずの地面を見つめていた。 驚きで声すら出なかったのかもしれない。 或いは、私と同じように、「碧ちゃんならそんなこともあり得る」と心のどこかで納得していたのかもしれない。 ひび割れた鐘の音が、今までの出来事が嘘ではないことを証明していた。 「お別れの挨拶もしてないです」 少し怒ったように言ったつもりが、笑いを含んだ響きになる。 何故だか、悲しい気分にはならない。 あの人なら、明日にでも空からまた降ってきそうな気がするからだろうか。 いつの間にか家の近くまで来ている。 「あ、もう来てるし」 琥珀くんがそう言って、歩調を早める。 家の玄関の前に、琥珀くんと、それから私の友人達が居る。 勿論髪の毛は茶色。 最初は私も気後れしたけれど、みんな私の髪を好奇の目で見たりしない。 ただの、友達。 急に、背後から髪の毛をぐしゃぐしゃにされた。 「よお」 振り向かずとも声の主は分かる。 かつかつとヒールの音が響いているから。 その後ろにもう1人いることも。 そう、私達の新しい友達の、そのまた新しい友達は、赤かったり青かったりするのだ。 315: 名前:みるみる☆05/08(土) 19 49 45 ◆ 折角シーツまできちんと敷いていたのに、みんなはトランプやワインの瓶が散らかっている床に寝転がって、そのまますうすう寝息を立てている。 私はみんなを起こさないように、できるだけ音を立てずに食器を片付けた。 「もう明日で良いんじゃない?」 後ろで眠たそうな琥珀くんが呼ぶ。 「あと少しで終わりますから。先に寝ていても良いんですよ?」 317: 名前:みるみる☆05/09(日) 23 18 14 316華奈LOVE♪様 あげありがとうございます! ◆ 後ろに目があるわけではないので、琥珀くんの表情は窺えない。でも、気配だけで明らかに私の言葉に気分を悪くしたのが分かる。 私の手だけがせわしなく動いて、広い空間にかちゃかちゃと音を立てている。 「なんか、さ」 気まずい沈黙をそろりと抜け出したように、琥珀くんが呟いた。 「……どうしたらいいんだろう、母さんのこと」 言葉の途中で話を変えたような響きだったが、とっさに変えた話題にしては重すぎる。 私は止めどなく水の流れる蛇口をひねって止めて、手を濡らす雫を振り落とした。 318: 名前:みるみる☆05/09(日) 23 49 32 振り返ると、彼は思っていたよりもずっと悲愴な表情で、ソファーに座っていた。 「自分がやったことで責任が取れないなんて、想像も付かなかった。無罪って聞いた時に、ほっとする反面、ああこれでいいのかなって思ったんだ。罪が無いわけない。僕は取り返しの付かないことをした」 「刑務所入りしなくて拍子抜けした、ですか?」 「違う、そんなんじゃ――」 「償えませんよ。あなたはそうやって、一生後悔してれば良いんです」 絶望したように、茶色い瞳が翳った。 これでいい。何かの罰を持って償おうなんて、そんな甘ったれた常識は捨ててしまえばいい。 琥珀くんはなにか言いたげにこちらを向く。 私は黙って、その言葉がこぼれ落ちるのを待つ。 やがて、薄い唇が開かれた。 「……小町って」 「何ですか?」 「ちゃんと、僕のこと好きなのかなって」 私の決して強くはない心に、大きな杭が打たれたような気がした。 そんなことを疑っているの? 甘いだけが恋ではないのに。 嫌いになるわけ、無いのに。 「今日も、ずっと冷たい。いつも、僕からしか――」 「ごちゃごちゃ言わないでください」 いつの間にか、私は彼の頬を両手で捉えていた。 泣きそうだから、酷い表情をしているかもしれない。 そして、乱暴に口づけをする。 「っ痛……」 歯と歯がぶつかり合って、一度琥珀くんが逃げようとする。 その頭を掴んで、引き戻す。 私がまだキスが下手なのは知っている癖に、どうしてそんな我が儘を言うの? 舌も、唇も、傷ついていく。 口いっぱいに、甘くて苦い鉄の味が広がる。 どちらの血かなんて、もう分からない。 いつの間にか流れ落ちた涙を、私より一回り大きい手が拭ってくれたのが分かった。 番外編おしまい 319: 名前:みるみる☆05/09(日) 23 53 07 番外編までお付き合いいただき、ありがとうございました``* 短編集を短編板でやっていこうと思います。 スレ名は予定通り「こんせんとらぶ」です。 また半分現実みたいな中途半端ファンタジーになる予感……; それでは、本当にありがとうございました!
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328: 名前:雷蓮☆2011/08/17(水) 11 51 12 ~蓮side~ 委員会の仕事で戻ってきた教室に、 舞の姿はなかった。 「どこ行きやがった……?」 「あ、蓮きゅん!」 「あぁ? げっ……」 俺のことを「きゅん」とか言うこいつの名前は、 宮前左端(みやまえ さたん)。 ちなみに男。 俺と同じく、星光10大人物の一人。 「蓮きゅん!どうしたのお?」 「いっつもふざけた言葉使いやがって……」 「ひっどい!!もう、お婿にいけない!!」 「もうとっくに行けないだろ」 「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」 「ハンッ。どーでもいいけどよ、舞はどこ行った?」 「んー? あぁ、舞ちゃん?」 「あぁ」 「蓮きゅんの心のなか~」 「殺されたいのかてめぇは……」 「きゃっ!襲われちゃう~」 「これ見よがしに、嬉しそうな顔すんな!!気色悪ぃ!!」 ダメだ……。 こいつと話してると、ラチがあかねぇ……。 他の奴に聞こ。 「舞ちゃんなら、海馬先輩に呼ばれたお」 「は……?」 「危ないんじゃない~? 裏門に呼び出されたらしいお」 「何で引き止めなかった……」 「双子ちゃんが探しにいったし、左端がでる幕じゃないお~」 「双子が……?」 「蓮きゅん、気をつけてね~。舞ぽんもだけど~」 こいつは本当に、どこまでもふざけやがる……。 「左端は、情報提供するだお~」 「珍しいな。お前、面倒ごと嫌いだろ?」 「舞ぽんが可愛すぎるから、左端、動くよ~」 えへっと可愛く言ってみせてる左端。 だが、実際可愛くない。 女子は大喜びだろうが、男の俺にはわかんねぇ。 左端は、可愛いくてイケメンで有名。 だが、内面は腹黒でいろんな人の「ネタ」を持っている。 いわば、情報屋。 元々、左端の家が秘密の国家機関と関わっている。 だから、学校のやつらの人生の歴史なんて すぐに調べられる。 こいつはそれで、星光10大人物になった。 だが、それを知っているのは星光10大人物のみ。 他のやつらには、何ひとつ知られていない。 「左端、海馬先輩のやってきたことに そろそろ歯止めをかけたいお」 「やってきたこと?」 「たあっっっくさんの悪行を働いてるんだもん~。許せないね~」 こいつの目が光る。 「俺らじゃあ、広範囲の仕事は無理だぞ?」 「なら、俺も参加させてもらおうか」 「あ!颯斗っち~」 「颯斗!!」 ぬらりと出てきたのは、黒鉄颯斗(くろがね はやと)。 こいつも星光10大人物の一人。 普段はクールで大人しいが、実は日本のスパイ。 他国の偵察や、怪しい組織を取り締まったりしている。 だから、左端との関わりは深く 小さいころから互いを知っている。 こいつの運動神経は、はかりきれない。 言うならば、妖怪のよう。 「俺では少しの力にしかなれぬかもしれないが、よろしく頼む」 「お前……なんつう所から来てんだよ」 「なんつう……とは? 普通に天井からだが?」 天井からぶらさがって会話してる時点で 普通じゃねぇんだよ。 「颯斗っち、今日仕事じゃなかったの?」 「香港で依頼を受けていてな。もう終わった」 「そっかぁ~。えらいえらい」 颯斗はかなりの電波系。 こいつもイケメンでかなりモテるのに、とんだ残念系。 けど、そこが可愛いという女子がいるから人気が絶えない。 「お前、教室のドアから入って来れねぇの?」 「つい、天井から入ってしまうのだ。すまぬ」 「いや、もういいや……」 星光10大人物のこいつも、 いざとなれば凄い。 ……のに、性格が残念系ばっかだ。 331: 名前:雷蓮☆2011/08/17(水) 17 11 45 ~海馬side~ 「最悪……」 帰り道、一人つぶやく私。 何であの子に歯向かわれるの? この私が……。 でも、今回は本気よ。 蓮様は無二の完璧な人材。 私にピッタリじゃない! なのに……どうして、あの子なんか……!! 「何たくらんでるかは知らないっすけど、 舞ちゃんを傷つけるなら阻止します」 「っ……!? く、蔵間……じゅん!!?」 「今まで、先輩の悪行を黙って見てましたが……。 もうそろそろ、限界がきました。 舞ちゃんと蓮の仲を引き裂いて見てください。 俺も一応、ちゃんとした家柄なんでね。 人一人、永久追放だってできますから。 ナメないでくださいよ?」 「なっ、何が言いたい!?」 「舞ちゃんに傷一つ、またつけてみてください。 あなたのその首、ちゃんと胴体と繋がっているか 分かりませんよ? 俺だって、不良なんですからね……先輩?」 「お前っ……!!」 「恋路を邪魔する奴が、一番許せなくてな」 「殺せるのなら殺してみ……」 「先輩だからって、容赦しません」 彼はにっこり笑って、姿を消した。 「な、何だったんだ……」 しかし、本気の目だった……。 いかん。怯えてはならない!! この私、欲のためならば何だってする。 そう決めた。 揺るぎない精神が、なおかき立てる。 狂気を、欲望を、快感を……。 蔵間に警告されても、私は手に入れる。 蓮様、ただ一人を……。 332: 名前:雷蓮☆2011/08/17(水) 17 33 22 ~舞side(普通視点)~ 翌日- 「大丈夫だ。このことは蓮には言わない」 「は……はぁ……」 今お話中の相手は、黒鉄颯斗くん。 電波系のキャラでお馴染みだ。 「左端もだお~」 この子は、宮前左端くん。 可愛いイケメンキャラでお馴染み。 個性派軍団です。もちろん、星光10大人物の。 「それで、昨日は足を踏まれたと?」 「うん……。すっごい剣幕で……」 「それは怖かったな」 「颯斗っちはわかんないでしょ、怖いって。 あのね、颯斗っちはいつも任務で しょっちゅう怖い経験してるから、 怖いっていう本当の感情が薄れてるんだお」 「え、に、任務って……?」 「とにかくだ!!舞自身の単独行動は命とりになる。 年中無休で、傍に護衛をつけなくてはな……」 「そんなのやりすぎだお、颯斗っち!! それじゃあ舞ぽんは、おちおち恋愛日記も書けないでしょ!?」 「そ、そうか……。それはすまなかった……」 「いや、私書いてないし、そんなの……」 「えぇ!?」 左端くんが驚く。 「そんな乙女チックなこと、しないよ」 「では、ダンディチックなことはするのか!?」 一体どういう会話をしたら、 ダンディチックって文字が並ぶ言葉が出るんですか!? 「あの、颯斗く……」 「「舞ちゃんは確かに危ない」」 私が混乱しているところに、 双子がようやくきてくれた。 「お、お前ら……」 「沙奈っちに瀬奈っち?」 「「最悪の場合、死だ」」 「なっ……!?」 「そこまで事態が進んでんの!?」 「「何しろ、自身が地獄に落ちてもいいと言うのだから」」 「そんなに女は怖いのか……」 「颯斗っち、これは論外だから安心して!! 女の子はもっと可愛いことして、 ふわふわしてて、もう何やっても可愛い生き物だよ!?」 二人のとんでもない会話が始まる。 「「とにかく、舞ちゃんを一人にしないで」」 「そうだな。全力を尽くそう」 「うん!!舞ぽん、俺から目を離しちゃダメだよ?」 なぜか左端君に、ウィンクされる私。 「あ、ありがと……」 正直、やりずらいです。 333: 名前:雷蓮☆2011/08/17(水) 17 46 15 「おはよ~。昨日は大変だったらしいね」 教室から入ってきたのは、蔵間くんだった。 「な、んで…‥知ってるの?」 蓮と一番近い関係の、蔵間くんには知られたくなかったのに……。 「ちょっと昨日、見ちゃってね」 「見たって…何を」 「先輩が舞ちゃんにヒドいことしてるとこ」 「「じゅん!!」」 「じゅんぽこ、知ってたの?」 「じゅん、お前見ていたのか?」 みんなが蔵間くんに詰め寄る。 「見ていたって言うより、聞こえてきたって方が正確」 「「つまり、近くにいたってワケではないのね」」 「そう。俺、いっつも屋上で寝てるんだ。 たまたまぼーっとしてたらさ、先輩の怒声が聞こえてね」 「このこと、蓮には」 「もちろん、言わないでおくよ。 でも、蓮はもうこのこと知ってるハズ」 「え……?」 「そうだよね? 二人共」 蔵間くんの視線は、左端くんと颯斗くんにそそがれた。 「左端…くん…? 颯斗く…・・・ん?」 「あり? もうバレてたんだ?」 「すまぬ、舞。実は、薄々勘ずいていたのだ」 「左端、海馬先輩の今までしてきたこと知ってる。 だから、舞ぽんが呼ばれたときも 怪しいと思ってたんだ。 ごめんね、なんか探るようなことしちゃって」 「ううん。そんなことより、多くの人を巻き込むことはできない」 「でも、舞ぽんの危険が!!」 334: 名前:雷蓮☆2011/08/17(水) 18 37 39 「私は大丈夫!あんまり、大事にしないで」 コツコツ… 「ここまできて、まだいい子ぶってるの?」 「っ……!?」 「海馬先輩…だお?」 「「海馬先輩!!」」 「まだ、懲りていないようね」 「何を言われようと、一歩も引くつもりはないです」 「私に足を踏まれようと、びくともしないってわけ?」 面白い子と言って、私の机を思いっきり蹴る。 ガンッ 「何するん……」 「目障りなのよ!!!早く消えなさい!!」 「っ……!!?」 「あんたみたいな貧弱な仔猫は、お呼びじゃないの!!」 「それでも、蓮が好きって気持ちは変わりません!!」 「そういうところが、一番嫌なのよ!!」 バシンッ 先輩は私の頬を思いっきり叩いた。 その生々しい音が、教室に響き渡る。 ガラッ… 運悪く教室に入ってきた蓮に気づくまで、あと5秒---。 336: 名前:雷蓮☆2011/08/17(水) 19 24 38 「っ!!」 ふいに開いた教室のドアに気づいた蔵間くん。 先輩もびっくりして後ろを振り向く。 「れ、蓮様……」 っ……!!? れ、蓮……? 恐る恐る顔を上げると、さっきの状態を見てか ものすごい剣幕でたっている。 「な、に……してんだよ」 「蓮様!!これには理由がっ……」 「そんなの、理由になんねぇよ!!今すぐ謝れ!!」 「なっ……!? 蓮様!?」 「俺はてめぇなんかに、興味はねぇ。 けどよ、大切なやつ傷つけられんのは放っておけねぇ」 「れ…ん…」 ダメだ……。 もう、泣きそう……。 「こいつを傷つけるのも、泣かせるのも全部 この俺しか許さねぇ……。 早く謝れよ。3年だからってデカイ面してんじゃねぇぞ」 蓮は今までにないメンチをきって、 先輩を威嚇している。 さすがにみんな背筋が凍って、 話す言葉がない。 「嫌よ。私は……悪くない!!」 ダダダダッ… 「おい!!ま……」 ガシッ 私は追いかけようとする蓮の腕を、必死に掴む。 「いいよ、もう。何でもないから……」 「っ……!!お前…‥また、そうやって……俺に黙ってるのかよ!?」 「え……」 「また、そうやって迷惑かけるとか言って突き放すのかよ!?」 「そ、そんなこと……」 「なら、昨日何で俺に言ってくれなかった? どうせさっきも蓮には言うなって言ったんだろ!? 何で俺を頼ってくれないんだよ!!?」 急に怒る蓮に、私はただ黙っていた。 けど、一言一言が胸に突き刺さる。 「おい!!何とか言えよ!!舞!!」 「っ……」 「舞!!」 「っ……たいよっ」 「聞こえねぇ……。何だよ……?」 「っ……たいよ。蓮と一緒にいたいよぉっ!!」 「っ……!!」 「もっと蓮と一緒にいたい!! だけど、あの先輩は何するか分かんないんだよ!? もし、蓮に何かあったら私……私、立ち直れないよ!!」 本音が次々と口からこぼれる。 抑えられなくなってしまったこの気持ち。 大粒の涙が、溢れ出てくる。 今まで言えなかった気持ちを、制御できなくなってしまった。 「でも、できないの!!今回だけはっ!! 好きで黙ってたわけじゃないよ!! 大切だから、愛しいと思うから言えなかったの!!」 「ま……い……?」 「本当は誰よりも大好きで、愛しくて……!! この気持ちは誰にも負けない!! だからこそ、守り抜きたいのっ……。大切な蓮を……。 でも、ごめんね……。 もう、蓮の苦しむ姿……見たくないよ……」 ダッ… 「舞!!」 338: 名前:雷蓮☆2011/08/17(水) 21 47 26p 気づいたら走り出していた。 でも、もう後には戻れなくて。 何であんなにムキになったんだろう……。 私……蓮をあんなに不安にさせてたの…知らなかった……。 私は体育館の裏側で、時間を潰すことにした。 5分後- ピロリン! 「っ……!?」 突然のメールの受信音。 びっくりして携帯を開くと… 「知らないアドレス……」 メールの内容を確認すると、それは--- “ あなたに謝りたいことがあるの。 さっき叩いてしまったこととか…。 来るか来ないかは、あなたの勝手。 星光公園の前で待ってる。 3年F組 海馬由奈 ” 答えは一つ。 星光公園に行って、すべて和解してもらおう。 私は携帯を片手に、急いで海馬先輩の待っている所へ向かった。 339: 名前:雷蓮☆2011/08/17(水) 22 03 43 星光公園- 「はぁっ、はぁっ……っ海馬…先輩……?」 星光公園の前には、先輩の姿はなかった。 「裏の入り口にいるのかな……?」 ザッ… 「あ……せんぱ……」 「全部あなたのせいよ!!」 「海馬先輩……?」 「どうしてあなたなんか!! この、いいこぶりが!!!」 「ここまできて、まだそんなこと言うんですか!?」 「当たり前でしょ!? あたしはあんたなんかクズって思うわ!!」 「ちょっと待ってくだ……」 「あなたなんか消えていなくなればいいのに!!」 ドンッ 先輩は私を強く突き飛ばした。 足を崩して、そのまま私は後方へといく。 私の後ろには、多くの車が走る道路。 「っ!!ちょっと!戻って来なさいよ!!」 「せ…んぱ……」 キィィィィィー… 嫌だ……。嫌だよ……。 まだ……蓮に、ごめんねって…… ドォンッ!! 言って……ない……の……に……。 その後の意識は、静に途絶えた。 340: 名前:雷蓮☆2011/08/18(木) 07 43 02 ~蓮side~ 「舞!!」 舞は俺の声に反応せず、 ひたすら走っていった。 「……止めないの?」 蔵間が俺に問いかける。 けど、俺は立ちつくしているだけだった。 「蓮きゅん……。こういうとき、立ちつくしてると違うよ?」 「……」 「好きな人追いかけてさ、後ろからぎゅってするんだよ?」 「蓮……。お前の愛はそれくらいしか、なかったのか?」 「……分かってる。けど、……」 「何を迷っているのだ?」 「そうだよ、蓮きゅん!!」 「蓮……、舞ちゃんは追いかけてくれるのを待ってるよ?」 「……自信がねぇ……」 「え?」 左端が俺に近寄る。 「あいつをこれから、幸せにしてやれる自信が……ねぇんだよ」 俺はうつむいて、涙を必死にこらえた。 「そうか。なら、舞は俺がもらう……」 この声は…… 「伊玖っ……!?」 「俺が幼いときから、舞といることは知ってるだろ。 なら、お前の代わりに近くにいてやれるのは 俺しかいないだろう」 「……あぁ、そうだな…」 「蓮」 「あ?」 ゴスッ 「ごはぁっ!?」 伊玖は俺の腹に、一撃を与えた。 「っつー……てんめぇっ!!」 「それが、今の舞の気持ちだ」 「っ……!!?」 「いや、もっと大きい。 あいつは、バカでどうしようもない奴だが 人を大切に思うことだけは、人並みを越えている。 毎晩、毎晩、俺に電話で お前からのメールがきただの、愛してると言われただの ノロケ話ばっかりさせられて。 あげくの果てには、デートの報告までされた。 ここまで幸せそうに話したことはないから、 ずっと聞き入っていたが……。 今のお前には、あいつを笑顔にできないんだな?」 「っ……」 「哀れだな……。 こんなにも、お前は非力だったのか。 この俺が唯一譲った男だというのに、 見込み違いだったようだ」 「っ……待てよ!!」 「何だ……? 呆れた男に用はない」 「ごめん!!」 「っ……な、何を……」 「俺、一人でずっと悩んでた。 本当に不良相手でいいのかって。 でも、今のこと聞いて安心した。 ごめん、俺が一人で甘えてただけだった。 確かに、あいつは俺よりももっと大きいもの見てた。 こんな自分が恥ずかしいって思った……。 気づかせてくれて、ありがとな」 「……役目は果たしたからな、鈴音、康介」 「は?」 がっしゃーん!! 俺は目が点になる。 ろうかから、妙な物音が聞こえた。 「伊玖ー!!それはこっちに戻ってきてからの台詞!! 今ここで言ったらバレるでしょーが!」 「伊玖ー!!お前、褒美のお菓子はナシだぞー!!」 341: 名前:雷蓮☆2011/08/18(木) 07 52 37 廊下からひょっこり顔を出したのは、 鈴音と康介…。 「おい、伊玖……どういう」 「こういうことを予測して、 俺が説得しろと鈴音と康介に頼まれていた。 お前が本気になってよかった」 「ちょ、まっ」 ピロリロリ~♪ 「蓮、電話」 蔵間が俺のカバンから取り出す。 「は? 非通知じゃねぇか。 蔵間、お前出てくれ」 「あ、うん。もしもし? はい、そうですけど……。 ……え? 今……何て……?」 ピッ 「え、おい。何だって?」 「……星光……病院から……電話」 「病院?」 「舞ちゃんが……車に引かれて重体だって」 「っ……!?」 「蓮きゅん!!早く行こう!!」 「あぁ!!」 「俺は先生に言っておこう」 颯斗が猛スピードで駆け抜ける。 それに続くとばかりに、 俺らは病院へ向かった。 342: 名前:雷蓮☆2011/08/18(木) 08 33 33 ~病院~ ガラッ 「舞!!」 舞のいる病室を開けると、 そこには海馬先輩がいた。 「てめぇっ……」 「ごめんなさい……。 まさか……本当にこんなことになるなんて……」 彼女は涙を流して、俺らに土下座した。 「もう、舞さんに手を出しません!! ですから……せめて、ここにいさせてください……。 最後のお願いです!!どうか……」 すると蔵間が俺の横で言った。 「舞ちゃんに傷をつけたら、どうなるか警告したよね?」 急に剣幕が恐ろしくなる蔵間。 「おい、くら……」 「蓮はちょっと静にしてて。 先輩、俺はもう永久追放する準備はできています」 「ごめんなさい!!ごめんなさい!!」 「もし、このまま舞ちゃんが目を覚まさなかったら…… ごめんなさいで済みませんよ!!?」 「舞ぃっ!!」 後ろから鈴音が、舞が寝ているベッドに走ってきた。 舞は頭を包帯でぐるぐる巻にされて、 腕は骨折したようで動きがとれる状態ではない。 その姿を見て、泣き崩れる鈴音。 「まいいいいいー!!」 「あの姿を見て、あなたは今も舞ちゃんを憎みますか?」 「っ……!!」 「それでも、地獄に落ちることを本望と言えますか?」 「はっ……!!本当に……申し訳ありませんでした……」 「俺はっ……!!そういう理不尽な人間が、一番嫌いだ!!」 その言葉に海馬先輩は、 改めて大切なことに気づいたらしく、 顔をあげてただ泣いていた。 「舞……」 俺は愛しい人の名前を呼ぶ。 けど、返事はない。 寝息だけが聞こえてくる。 静かで、でも、苦しいような……。 鈴音は唯一無事だった舞の左手を、 自分の頬に当てて泣いていた。 双子は鈴音の向かいに座り、 舞に「大丈夫だよ」と声をかけている。 蔵間は切なげな目で、舞を見る。 康介は泣きつづける鈴音の隣で、 舞を見守っている。 俺はこの光景に、恐怖を覚えた。 もし、もし……舞が目を覚まさなかったら……。 目の前が真っ暗になる気がした。 345: 名前:雷蓮☆2011/08/18(木) 13 54 49 ~舞side(普通視点)~ 深夜2時- フワァ… 風……? 気持ちいい風だ……。 ここは……どこだろう……? 確か……車に跳ねられて……それで…… パチ…… ここは……病室……? まわりを見てみると、 いつも一緒にいるみんながいた。 でも、みんな疲れて寝ていた。 「み……んな……」 私……生きてる……。 生きてるよ、私……。 涙が絶え間なく、こぼれてくる。 「起きたのね……」 この声…… 「海馬……先輩?」 「私がバカだったみたいね。 結局、地獄が怖くなって逃げ出して……。 いいこぶりっこしてたのは、 私の方だったのかもしれない……」 「せん…‥ぱ」 「これで最後……。 もう生きるのに希望なんてない。 疲れたわ、私……。 それに……親にあわす顔がない」 ダッ…… 「せんぱっ……つー…」 先輩は、病室を出て行ってしまった。 私はまだ傷が治ってないために、 すぐには追いかけられない。 それでも、近くに置いてあった松葉杖を使って 先輩を追いかけた。 まわりにいるみんなに気づかれないように…。 346: 名前:雷蓮☆2011/08/18(木) 14 25 32 それも虚しく、 廊下でひっそり立っていた 颯斗くんに引き止められる。 「何をしているのだ、舞」 「颯斗……くん。そこを……どけて……」 「ダメだ。今のお前に、夜風は刺激が強すぎる」 「そんなこと……ないよ……」 「今、目覚めたばかりのお前を このまま屋上に連れていくと思うか?」 「っ……時間がないのっ!!」 「っ……!? 舞!!」 カッツカッツ なれない松葉杖を、必死に動かして 一歩でも多く前に進んで行く。 「舞!!いいかげんに……」 「先輩を見捨てらんないよ……」 「っ……?」 「颯斗くん……。星光10大人物なんでしょ? 私も、颯斗くんも……。 危険なことで、噂になるよりっ、 いいことの方で……噂になった方がっ…… 絶対に、居心地っ……いいよ……?」 「舞……」 「先輩、屋上に自殺……しに行った……の」 「それは本当か?」 「う……ん。早く……行かないとぉ……間に合わ……きゃっ!?」 松葉杖で歩いている途中だった。 ふいに後ろから、横抱きにされる。 「っ……れ……ん?」 「なーにやってんだ、バカ」 「蓮!!お前、寝ていたんじゃ……」 「本気で寝れるかよ。 好きな奴が生死さまよってんのによ」 「れん……」 「わーってるよ。行けばいいんだろ?」 「はぁ……。10大目のすることが分からない。 ……が、こういうことで目立つのも悪くはないな」 颯斗くんが呆れながらも、嬉しそうに言う。 「颯斗くん……」 「俺も強力させてもらおう」 「ありがとう、颯斗くん」 「「私たちも」」 「っ……!? 双……子……?」 「あたしたちもいるよ?」 「舞ー!!ふざけんな!! 勝手に死なれちゃ困る!! 誰が鈴音を止めるんだよ!!」 「り……んね、こ……すけぇ……」 「舞ぽんったら、 左端のことこれっぽっちも気にしてくれないじゃん!! もう、いじけちゃうおーーー」 「左端くん……」 「舞は相変わらず、危ないことが好きだな」 「そうなの? 俺には舞ちゃんには珍しいことだと思ってるけど?」 「舞ちゃんの悪口、許さないよ?」 「伊玖……蔵間くん、蒼太くん……」 「みんな……ありがとぉー……」 嬉しくって視界がゆがむ。 「みんな、病院嫌いだから眠れねぇんだと」 蓮がニッと笑う。 「ちょっと屋上でUNOでもしようぜー!!」 康介の一言で、みんな屋上へ向かう。 私は嬉しくて、蓮の胸の中で泣いてしまった。 君を好きになる5秒前 続き11
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episode9 《直人目線》 ――学校もすっかり冬休みに入って、あと数日もすれば恋人達のクリスマス。 ……なのに全っ然嬉しくない! それと言うのも愁ちゃんが実家に帰っちゃったから。 1週間程前、夏はオレん家で過ごしたからって愁ちゃんは遠慮して、冬休みの間は実家に戻るっていきなり言い出した。 オレは泣いてでも引き留めるつもりだったけど……。 伯母さん達も大晦日とお正月だけは日本に戻ってくるらしいから、さすがに家族水入らずの時間を壊すのは悪いと思って渋々納得した。 「じゃあギリギリまで家にいたらいいじゃん!」って諦められずに言ってみたけど、愁ちゃんも家の大掃除とかしたいらしくて。 ……そうして冬休みが始まったものの愁ちゃんと恋人同士になってから長期間離れるなんて初めてで、オレはやっぱり寂しくて耐えれなかった。 最初の数日は拓也や桜と遊んだりしてたけど、家に帰ってお母さん達が帰ってくるまでは独りぼっち。 ――なでなでしてくれたり、ギュってしてくれたり、キスしてくれる人は勿論いない。 「……ただいま」 夕方、学校から帰ってきてリビングの電気をつける。 シンと真っ暗なリビングに自分の声だけが響く。 愁ちゃんが先に帰ってたら……笑いながらおかえり、って言ってくれるのに。 そのまま愁ちゃんの部屋に入り、ランドセルを背負ったままベッドにボフンと倒れこんだ。 愁ちゃんのニオイ……。 ……ニオイでも嗅げば寂しさが紛れるかと思ったけど……余計会いたくなっただけだよ。 目を瞑って愁ちゃんを想う。 お母さん達がすぐ近くにいるのにキスをねだると見せる困った顔。 愁ちゃんの名前を呼ぶと振り向いて微笑んでくれる優しい笑顔。 オレの横でスウスウと寝息をたてる綺麗な寝顔。 いろんな愁ちゃんの表情を思い浮かべると胸が締め付けられる。 会いたい。 会いたい。 愁ちゃんに会いたい。 顔だけ上げて、時計に目をやると今は5時前。 愁ちゃん家はここから電車で2時間半近くかかる。 ……だから愁ちゃん家に行く時は車がほとんどで、駅からはおぼろげにしか覚えていない。 でも、会いたくて。 お母さんには愁ちゃん家についてから電話しよう。 オレは決心すると、家を飛び出した。 × 電車を乗り継ぎ、駅の改札を抜けると、オレはおぼろげな記憶をたよりに歩きだした。 冬は日が落ちるのも早く、すでに外は真っ暗で。 愁ちゃんがオレん家に居候する事になってからは一度も行った事がなくて、半年以上経って久しぶりに見ると街もすっかり変わっていた。 「多分……こっちかな……」 一人で夜に、それもこんなに遠くまで来たのは初めてで心細くなる。 それらしき道を歩いていると同じ様な家が並ぶ住宅街に出た。 あの辺りだったかも……、いや、あっちだったかも……。 うろうろと歩き回ってふと周りを見渡すと、もうすっかり道に迷ってしまった自分に気付く。 ただでさえよく知らない道なのに、とっぷりと暗闇につつまれては、もうどっちへ進んでいいのか全く分からなくなってしまった。 「足……痛い……」 さっきから休みなく動かし続けた足はジンジンと痺れ、鉛のように重い。 「……愁、ちゃん……ぅっく……」 我慢してたのに、じわぁっと涙が出てきて視界がぼやける。 こんな事で泣くなんてみっともなさすぎる。 ゴシゴシと上着で目を擦って、流れてこないように上を向くと顔にポツポツと冷たいものが当たった。 ……もう最悪。 雨まで降りだしてきちゃった……。 雨は小降りながらも冷たくて、すでに手足の先は感覚を失うほど冷えきってしまっている。 少しでも暖めようとかじかんだ手を合わせてハァーっと息をかけると、白い息となってすぐに暗闇に消えていった。 傘も差さずに当てもなくノロノロと歩いているオレを周りの人は不思議そうに見ていて。 「……オレ、ほんとに何にも考え無しに来ちゃった……」 凍える唇でポツリと呟く。 そう言えば、お母さんにまだ連絡もしていなかった事に気付く。 時計も携帯もないからわからないけど、多分9時ぐらいだとしたらもう帰ってきてるに違いない。 ……もう、諦めて帰ろう。 お母さん、心配してるだろうな。 駅についたら公衆電話から電話して謝ろう。 そう思い、オレは雨の中、駅の方へと歩きだした。 その時、突然後ろから「ナオッ!」と声がして、ビクリと後ろを振り向く。 ――そこには、会いたくて堪らなかった人の姿。 息を切らせてオレを見つめる愁ちゃんがいて。 「しゅ……愁ちゃん!」 「ナオ!」 突然の事に立ち尽くすオレに駆け寄って、愁ちゃんはギュウとオレを抱きしめる。 道行く人が好奇の目でオレ達を見ているけど、愁ちゃんはおかまいなしに苦しくなる程強い力でオレを包んだ。 「なんで……なんで……オレがここに居るって、わかったの?」 震える声で愁ちゃんに尋ねると、愁ちゃんは抱きしめながら答える。 「叔母さんからナオがいないって連絡があって……もしかしたらと思って探してたんだよ。……心配かけて」 「ごめん……なさい。……オレ、愁ちゃんにどうしても、会いたくなって……」 「だからって……こんな遅くに誰にも連絡なしにいなくなったら心配するだろ……」 愁ちゃんの胸に涙でぐちゃぐちゃの顔を押し付けながら謝ると、愁ちゃんの声は本当に心配していたみたいで、少し震えているみたいだった。 ごめん。 ごめんね愁ちゃん。 「そうだ……叔母さんに連絡しないと」 愁ちゃんは思い出したように身体を離して、携帯電話を取り出すとお母さんに電話をかけた。 「……はい。ナオには僕からも良く言っておきますので……はい。今日はこちらに泊めさせます。……はい」 愁ちゃんと目が合い、困ったような顔で電話を渡される。 愁ちゃんの表情から察しはついたけれど――電話を代わると耳をつんざくような罵声から始まり――――お母さんに死ぬほど怒られた。 「――しばらく愁君家に泊まってもいいけど、次からこんな勝手な事しない事!! わかった!?」 「……はい。お母さん……ごめんなさい」 ――――電話を切った後、愁ちゃんをおそるおそる見上げる。 「……次からは、俺の携帯に連絡しなね? 番号、後で教えるから」 愁ちゃんは優しくそう言ってハンカチを取り出すと、涙と雨でぐちゃぐちゃな顔を拭いてくれた。 自分の首に巻いていたマフラーをフワリとオレの首に巻き付けてから、もう一度ギュッと抱きしめられる。 まだ身体は冷えきっているけれど、心はもう寒くはなくて。 「ナオ、帰ろっか」 「……うん」 愁ちゃんに差し出された手を握ってゆっくりと歩き出す。 歩きながら愁ちゃんに聞いたら、愁ちゃん家はもう少し先にあったようで、後少しだったねと慰められた。 そのまま道を歩いていると、ある事に気付いて顔を上げる。 「あ……雪だぁ」 雨はいつの間にか雪に変わっていて、地面にフワリと落ちては消えてゆく。 「雪……今年初めてだね」 「うん。キレイ……」 「まだ、ナオの手冷たいね」 そう言って愁ちゃんはオレの手を両手で包み、ハァーっと温かい息をかける。 じんわりと温かさが拡がる。 さっき、自分でも同じ事をしたけれど、愁ちゃんにされる方が何倍も温かく感じる。 止まっていた涙がまたじわりと浮かんでは零れる。 「愁ちゃん……心配かけて……ほんとにごめんね……」 「もう謝らなくていいから。俺に会いにきてくれたんだし。嬉しいよ。それに……」 「……それに?」 「初雪まで、一緒に見る事が出来たんだから」 そう言って愁ちゃんはオレを包んでいた手を引き寄せて、オレの唇に自分の唇を重ねた。 × 愁ちゃん家に着いて、リビングに通されながら周りを見渡す。 ……久しぶりに愁ちゃん家に来たけどやっぱり広いなぁ。 おなじ一軒家でもオレん家とは全然違う。 「何キョロキョロしてんの」 タオルを持ってきた愁ちゃんに声をかけられ、慌てて視線を愁ちゃんに向ける。 「あっ……やっぱり愁ちゃん家は大きいなぁと思って」 一人だと広すぎて困るけどね、と淋しげに笑ってから、愁ちゃんはオレに近づいて濡れた髪を拭いてくれた。 愁ちゃんの温かな手がそっとオレの頬に当てられる。 「まだ体冷えきってるし、お風呂入っておいで?」 「一緒に入る」 ギュ、と愁ちゃんの服を掴みながら答えると、愁ちゃんは少し驚いたようだった。 「俺、さっき入っちゃったもん」 「……じゃあ入んない」 「なんか、今日は甘えただね」 唇を少し尖らせながらワガママを言うと、愁ちゃんが困ったような表情を見せた。 自分でも子供染みた事を言ってる事ぐらいわかってる。 「……もう、離れたくないんだもん」 掴んだ服を引き寄せて愁ちゃんの腰に手を回す。 やっと会えたのに一瞬でも離れたくない。 そんなオレを愁ちゃんは優しく抱きしめてから、頬にキスをして答える。 「わかった、じゃあ着替え持ってくるからそれに着替えよ? そのままじゃ風邪引いちゃう」 「……うん」 ちょっと待ってて、と言って愁ちゃんは自分の部屋から服を持ってくると、オレの濡れた服を脱がせ始めた。 「ナオ、両手上げてー」 オレが言われた通り両腕を上げると、着ていたセーターとシャツを脱がせて、愁ちゃんの長袖のTシャツを頭から被せてくれる。 オレにはちょっと大きくて袖がもたつくけど、愁ちゃんの匂いに包まれて幸せだった。 × 「……ナオ? お皿洗いにくいからもうちょっとだけ離れてもらっても……」 「やだ」 ご飯を食べてからも、後片付けをしたり愁ちゃんは忙しそうだけれど、オレは小さな子供みたいにずっと愁ちゃんの服の端を握って、ピッタリと後にくっついていた。 「……仕方ないな」 洗い物を諦めた愁ちゃんはソファに移動して、オレを膝の上に乗せると抱きしめながら頭を撫でてくれる。 「愁……ちゃん」 探し回っていた時の不安感が徐々にほぐれてゆき、少しずつうつらうつらと睡魔が襲ってくる。 なんか、頭もボンヤリする……。 「ふぁ……っくしゅ!」 「あーあ……。やっぱり風邪引いたんじゃない?」 オレの熱を計ろうと愁ちゃんがおでこを合わせる。 「んー……、ちょっと熱いかも」 ……違うよ。愁ちゃん。 この熱さは風邪じゃなくて、愁ちゃんが近くにいるからだよ? 顔を寄せて、愁ちゃんの唇に自分から唇を重ねる。 「っ……んん、ん」 愁ちゃんの舌を絡めとるように接吻けを交わし、しばらくして少し顔を離すと愁ちゃんの手が両頬に添えられる。 「……やっぱり顔熱いよ、ナオ。熱あるみたいだしもう寝ないと」 愁ちゃんのバカ。 誘ってるのに。 「……寝ない。愁ちゃんとずっと一緒にいる」 はぁ、と愁ちゃんは困ったような顔をして溜め息をつくと立ち上がると、奥の部屋から毛布を出してきてオレと愁ちゃんを包むようにくるまった。 「ナオ、今本当に熱あるんだって。……今日はもうダメ。ずっとナオの側にいるから、今日はもう寝な? 歩き回ってしんどかったんでしょ」 ……自分ではよくわからないけど、どうやら本当にオレは熱があるみたいで、愁ちゃんが真剣な顔で言うからコクリと頷くしかなかった。 すると愁ちゃんはやっと安心した表情をみせてオレを優しく包み込んだ。 ――そのまま愁ちゃんの胸に耳を当てるとトクントクンと柔らかい鼓動が聴こえて、まるで子守唄みたいに聞こえる。 サワリと緩やかに髪を鋤かれるように撫でられているとウトウトと目蓋が重くなってくる。 「愁、ちゃん……大好きだからね」 「知ってるよ。俺も大好きだよ」 愁ちゃんの静かな声を聞きながら、オレはゆっくりと目を閉じた。 × 「ん……んん……」 ぼんやりと霞んだ視界の中、うっすらと目を開ける。 頭がガンガンして、寒気がするのに身体は熱くて汗が流れている。 ……そうだ。オレ……昨日から熱が出て……。 回らない頭で昨日の事を思い出す。 確か愁ちゃんとソファで毛布にくるまって寝たんだけど……。 今、オレがいるのはベッドの上。 おそらく愁ちゃんがオレが寝付いたのを見計らってベッドに運んでくれたんだろう。 起き上がろうと身体を少し起こそうとしたが、頭を上げた瞬間フラリと目眩が襲い、またポスンと枕に頭を沈めた。 愁ちゃんは……? 頭だけ横を向けると、愁ちゃんがスウスウと寝息を立ててベッドに寄り添うような形で眠っているのが見えた。 ……多分、一晩中オレに付き添ってくれていたんだろう。 「ありがとう……愁ちゃん……」 オレは掠れる声でそう呟くとまた、深い眠りに落ちた。 × 「ナオ、ご飯できたよ」 愁ちゃんの声に反応して次に目を開けると、愁ちゃんの顔が間近に見えた。 オレ……どのくらい眠っていたんだろう。 「あ……ありが……ケホッ! ケホッ! ゴホッ!」 お礼を言おうとして口を開いたら咳で上手く喋れない。 熱は少し引いたみたいだけど、まだ身体はだるくて、食欲も全くない。 「食欲無いかもだけど、薬飲まないといけないから食べよう? お粥作ったから」 「ごめ……、愁ちゃ、ケホ……今、食欲ない……」 「じゃあ、飲み物だけでも……」 「いらな……い」 心配してくれる愁ちゃんには本当に申し訳ないけど、今起き上がって何かを食べたり飲んだりはとてもできそうになくて、オレは荒い息を繰り返すしかなかった。 横目で愁ちゃんの様子を伺うと、愁ちゃんは心配そうに眉を寄せてオレを見つめている。 すると少しの間考えた様子で、愁ちゃんはおもむろにコップを口に運んでからオレに顔を近づけて唇を合わせた。 「ん……んん……」 コクリと喉が動き、冷たい飲み物が喉を通る感覚がする。 火照った身体には冷たくて気持ちがいい。 一旦喉を潤すと身体は水分を欲していたらしく、喉がもっと欲しいというように張り付いた。 「だめ……愁ちゃ……、伝染っちゃ……うよ」 「知ってる? 風邪はね、人に伝染した方が早く治るんだって」 そんなの、迷信だと思うんだけど……。 まだ飲む?と聞かれて、つい頷いてしまった自分もどうしようもない。 ――愁ちゃんは優しく微笑んでから、また顔をオレに近づけた。 × × × 続き × × × episode9 特別編 ※こちらは違う作者様が書かれた小説キャラとのコラボとして書かせて頂いた物でepisode9の途中から別ルート設定になっています。 special thanks 作者:かずい様/作品名:「どうして 変態 なんですか」/キャラ:中田慎也・雪代旭 × × × 《直人目線》 やっぱり愁ちゃんには会えなかったな……。 もう家に帰ろう……。 暗い気持ちのまま、駅に着いたオレは、切符を買って改札口へと向かう。 ドンッ! 下を向いていたため、前に気付かなかったオレは誰かにぶつかって尻餅をついてしまった。 「ごめんねー。大丈夫?」 「あっ、ごめんなさいっ……こちらこ……」 差し出された手を握って立とうとして、相手をみてビックリしてしまった。 栗色の髪の毛に、淡い青色の瞳。 そして何より愁ちゃんに引けをとらない程の美しさに息を呑んでしまう程。 「すげー濡れてるね。傘持ってないの? 名前は?」 オレを起こしながら、愁ちゃんと同い年ぐらいのその人は次々と質問してくる。 あまり知らない人に名前を言ったりするのもどうかと思ったけど、助けてくれたし悪い人では無さそうだし、ずっと一人で心細かったからつい答えてしまった。 「あ、えっと、ちょっと人を探してたら突然雨が降ってきちゃって……。柊、直人です」 「俺は中田慎也。直人君かー。人探してるなら手伝ってあげよっか? 何て言う人?」 絶対、言っても知らないと思うんだけど……。 ぐいぐい詰め寄られて何だか言うしかない状況。 何か、顔、近いっ……! 「えっ……。でも、もう家も見つからなかったしもういいかなと思ってたんですけど……。えっと、南川……愁って言って……」 「あ、俺知ってるけど」 !? 中田、さん(?)の意外な言葉に息が止まりそうになる。 「えっ!? な……何で?」 「だって俺、愁と同じ小学校だもん。学年は違うけど、あんな美形俺が見逃すはずないし」 ……最後の方の意味はなんだか良くわからなかったけど、やっと愁ちゃんに会えると思うと嬉しくて心臓が高鳴る。 「あ、あの! 家とかはわかったりしますか?」 「わかるよ。超近所だもん」 やった! 神様っているんだ! こんな偶然あり得ないよ普通! 「連れてってあげたいけど、今恋人と待ち合わせしてるからなー。どうしよっかな」 「いいです! 大体はわかるので、道順だけ教えて下さいっ!」 息を上げて、中田さんの服を掴む。 すると中田さんは少し考えた後、膝を少し曲げてオレと目線を合わせると、ニコッと笑って答えた。 「わかった。じゃあ、教えるから耳貸して?」 なんで耳打ちなんだろう?と思いながらも耳を寄せる。 ベロッ…… 「ひ、ゃっ……!」 不意打ちで耳たぶを舐められて、変な声が出てしまった。 慌てて身体を離そうとするものの、ガシッと腰に手を回されて逃げれない。 人が沢山いる駅の構内なのに、全く構う様子もなく、熱い舌を耳に差しこんでくる。 ピチャ、ピチャと言う音が頭に響く。 怖い……! 何この人……!! 「やめ……て、下さ……!!」 「へぇー。直人君は耳が感じるんだね。俺が調教してあげ……ぐはッ……!!」 いきなり唸り声を上げて、中田さんの手が弛んだので、慌てて身を引くと中田さんの後ろに高校生ぐらいの男の人が血相を変えて立っていた。 どうやら後ろから思いっきり蹴ったらしい。 「慎也ァァァァッ!! ……お前っ!! お前は何をやってんだァァァァ!!」 「あ、旭。いや、今人助けをだな……がはぁッ!!」 旭と呼ばれた人はそのまま中田さんの胸ぐらを掴んでオレから引き剥がすと、お腹に膝蹴りを入れてからボコボコに殴りつけている。 ダメだ。このままでは中田さんが死んでしまう。 しばらく二人をぽかんと眺めていたオレはハッと我に返り二人を止めた。 バタリと床に倒れた中田さんを足蹴にしながら、慌てた様子で旭さんはオレに謝り始めた。 「ごめん!! 大丈夫!? 慎也に変な事されなかったか!? いや、既にされてたか……。あー……本当にごめん!! お願いします!! 警察には言わないでやってくれないか、コイツは変態なだけで悪い奴では……」 「あ……大丈夫、大丈夫ですから、あの、落ち着いて下さい」 自分より焦っている人を見るとなぜか自分がしっかりしなくてはと思ってしまう。 「ナオッ!!」 聞き覚えのある声にバッと振り返ると、ずっと会いたくて堪らなかった人の姿が。 「……愁ちゃん!!」 駆け寄ってきた愁ちゃんに思わず抱き付いた。 なんで愁ちゃんがここにいるの、とか、勝手に会いにきてゴメンとか、話したい事はいっぱいあるんだけど……。 「色々ナオにも話したいけど……とりあえず、何、この状況?」 愁ちゃんが本当にわからないと言った様子でオレ達を見つめる。 「……直人君は愁の家を探してたんだってさ。で、俺に道を聞いてた訳」 いつの間にか立ち上がった中田さんがパンパンと服を払いながら、ものすごく簡単に説明した。 あの……、中田さん、それじゃあなたが今何で鼻血を出しているのか全然説明になってません。 「慎也……。……大体状況が分かったよ……」 「何だよ。久しぶりの再会なのに」 「はぁっ!? 知り合い!?」 愁ちゃんと中田さんが知り合いだった事に、旭さんはビックリして声を上げた。 「……まあ、一応。ナオ、慎也に何されたの?」 「え!? えーっと、何もされてないよ」 愁ちゃんに本当の事を言えば中田さんが何されるかわからなくて、とりあえず嘘をつく。 旭さんとチラリと目が合うと口パクで「ゴメン」とまた謝られた。 「小学校の時ならまだしも、未だに手当たり次第に周りにちょっかい出すの止めてくれませんか」 「最近はしてないよ。旭って言う可愛い恋人が出来たから」 愁ちゃんが冷たく他人行儀に言うと、中田さんはひょうひょうと旭さんを抱き寄せながら答える。 待ち合わせしてた恋人って旭さんの事だったんだ。 ……って、ええ? それって、つまり、オレと愁ちゃんみたいな関係ってこと? 「誰が、いつ、お前の恋人になったんだよ!!」 グイッと中田さんを引き剥がしながら旭さんが嫌がってる様子を見ると……違うような気もするけど。 「とにかく、愁に会えて良かったね。直人君」 「あ……はい。ありがとう……ございます」 特に中田さんには何もされていないけどお礼を言った。 「ナオ、叔母さんにも連絡しないといけないし、そろそろ行こう」 「あ、うん」 ぐいと愁ちゃんに手を引かれると、中田さんが笑いながらヒラヒラと手を振った。 「直人君、またねー。あ、愁もなー」 「俺はもう会いたくない」 手を引かれながらチラリと愁ちゃんを見上げると、いつもの優しい愁ちゃんと違って、静かに怒っているようだった。 ……何があったんだろう……。とにかく、中田さん……変な人だったな……。 そんな事を考えながら、オレはズルズルと愁ちゃんに引かれながら駅を出た。 特別編 終わり × × × 本編続きへ × × ×
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13: 名前:赤闇 (AldickGl/2)☆10/12(火) 05 31 42 「……聞いたことがないなぁ、その名前も」 上流貴族というものは大体知っているつもりだったが、まさか知らないことがあるとは思ってもいなかった。 だが、それも当然と言えば当然なのだろうか。歴史の闇に呑み込まれ、消えていった一族があってもおかしくはない。 「そうですか……やはり、私が死んだ後に衰退してしまったのでしょうか」 「……まあ、そんなに気を落とすなセシリア。俺なんかただの〝その他多数〟とかでしかないんだから」 がっしりとした体付きにカーキ色の軍服を纏う姿は確かに軍人その物だったが、その軍服も全く見たことのない型のものだ。 雪は確かめるように何度か頷き、自分の足下に落ちたままだった袋を拾い上げた。 「……それで、僕に接触してきた理由は何ですか? セシリアさん」 一番自分にとっては疑問であったそれを、雪は彼女の目を見て問うた。 「……えっと……その、大変言いづらい事なのですが…………」 もごもご、と口籠もり、恥ずかしがっているかのようにセシリアの首が目を逸らす。だがすぐに意を決したかのように表情を引き締め、雪へと視線を向けた。 「……私の首を、くっつけては下さいませんか?」 「………………えぇ?」 余りにも的外れのような、予想していなかった〝お願い〟に、彼は思わず間の抜けた声を上げて聞き返してしまう。 「だから、このお姫サマの首をちょちょいとくっつけてくれって話しだよ。簡単だろ、現代少年」 あっけらかんと言ってのけ、白髪の交じった短い金髪を掻き乱して欠伸をするゲーデに雪は「僕は雪です」と訂正してから溜め息を吐いた。 「えっと、聞きたいことが三つくらいあるんだけどいいかな。まず一つ目。何で首をくっつけたいの? あの世、っていうか……天国に行ったら、傷も何もかも元通りになるんじゃないの?」 肉体と霊体に負った傷は、所謂冥界や冥府、天国というところに行けば全て治るのでは? 雪は今までそう考えていた。だがもしかして違うのだろうか、なんて事も考える。 14: 名前:赤闇 (AldickGl/2)☆10/12(火) 05 32 37 「……確かにそうなのですが、何というか…………と、とにかく、これだけが心残りなんです」 慌てた様子で自分に告げ、軽くこちらに生首を差し出してくるセシリアーデを手で軽く制して、雪は指を二本立てる。 「二つ目。……二人とも、怨念や恨みの類は?」 ロンドン塔に留まる亡霊達は、死ぬ間際まで苦痛を感じ、息絶えていったはずだ。自分に無実の罪を着せた人間を、自分を処刑した人間を、今でも永遠にこの場に留まって呪い続ける。そうではないのか。 「ンなわけねーだろ。俺は元々戦死だったからそこまで恨みはねーよ」 「私も、同意見です。……もう過ぎてしまったことです。今更何を言っても私が生き返ることはないのですから、もう数年でそんな思考は打ち切りました」 口許に微笑すら湛えて口にするセシリアーデの言葉に、雪は眉根を寄せる。 「……自分が、無実の罪で殺されたとしても?」 「はい。……苦しまずに死ねただけ、私は幸せだったんです」 そんな発言、自分には一生できそうもない。これは彼女の生来の性格か、優しさか、それとも余程彼女ができた人間なのか。 「……そっか。すごいね、君は」 ほんの少し暗い影を落とし、雪はぽつりと呟けば再び指を立てる。 「えっと……そして三つ目。これが一番訊きたいことなんだけど……」 「何だよ」 「何でしょう?」 早くしろよ、と苛立っているような視線と、どこまでも優しい視線を一新に受け止めながら、雪は数え切れなくなった息を大きく吐いた。 「……仮に僕が首をくっつけるとして。僕は、セシリアさんの首に触ることができるの?」 もう実体を持たない幽霊に、自分のような生身の人間が触れられるのか。まさか無理矢理魂を引っ張り出して、といったことをするのか、と雪はオカルトじみたことも一緒に考えてしまう。 「できます」 「できるから安心しろ、ソソギ」 「いや何で幽霊に触れるのかが分からない! それと何で首がくっつくのかも分からない!」 この際ゲーデに馴れ馴れしく名前を呼ばれようがどうだっていい。全く動じることもなく確信を持って言い切った二人に、雪は思わずそう声を張り上げてしまう。 15: 名前:赤闇 (AldickGl/2)☆10/12(火) 05 33 22 「私が心から思っているからこそ、貴方にも触れられるのです。だから、安心して下さい」 優しい声音はいつまでも変わることはなく、雪の耳に心地良さすら持って入り込む。 「そうだそうだ、女を助けてこその男だろ! ……お前、男だよな?」 「正真正銘の男です」 それをすぐさま男らしく低いながらも澄んだ声に遮られ、彼は顔を顰めてゲーデに言い放った。 「怖い怖い」なんて肩を竦める軍人を横目に、雪は諦めたように肩を落とし、自分の足下に拾ったばかりの袋を置いた。 「……ソソギさん?」 その場で大きく伸びをして、髪を手櫛で整えてから雪はセシリアーデに視線を向ける。とはいっても、糸目なのだからどのような目付きをしているのかまでは窺えないのだが。 「首、貸してくれるかい?」 今度は、彼女が間抜けた声を上げて疑問を示す番だった。 「え?」 「……くっつけて欲しいんでしょ? 今この場には僕しか居ないし、君がそれで成仏できるっていうなら、手伝うよ」 苦笑のような笑みを浮かべて、少し照れくさそうに言った彼の表情を見て、ほんの少し背が小さいだけの少女は手に持った自分の生首、その表情をぱっと明るいものへと変えた。 「おっ、やるねぇソソギ。……頼むぜ」 茶化したような前半の言葉とは違い、懇願のような励ましのような、曖昧な響きを持つ声。ゲーデの様子に雪は一瞬ぽかんとしていたものの、すぐにセシリアーデに向き直った。 16: 名前:赤闇 (AldickGl/2)☆10/12(火) 05 34 16 ゆっくりと両手を差し出し、その手に小さな人間の頭部を持つ。ずっしりと手にかかる重みとさらさらとした髪の毛の感触で、確かに自分が触れているのだということが理解できた。 頬を両手で挟み込むようにして持ち、ゆっくりと彼女の首へと持っていく。 白い骨や赤い血液、肉の見えた生々しすぎる傷口には流石に一瞬躊躇が芽生えたが、不思議と嫌悪感はなかった。 首と首との切断面をくっつけた途端、ぐちゅ、と粘着質な音が聞こえてくる。 まるで、この少女が今も尚生きているかのように。 そのままほんの少しずつずらして位置を調整し、怖ず怖ずと、これまた緩慢な動作で手を離す。 そうすれば、首には切断した後こそ残っていたがしっかりと頭部があるべき場所に存在していた。 「……一応、ただ乗っかってるだけってわけじゃないみたいだし……大丈夫かな?」 顎に指を当て、まるで授業中のように首を傾げながら、雪は上下左右、様々な角度から確認する。セシリアーデもまた、自分で触れたりして確認していた。 「うん、大丈夫だ。これで大丈夫」 何故だか達成感を感じながら、雪はうんうんと頷いて口許ににっこりとした笑顔を形作った。 「おー、こりゃまあ上手くくっつけたモンだな」 ゲーデが彼女の隣で感嘆の声を漏らすのもまた、嬉しくて堪らない。 自分が、何百という時を超えて一人の少女の無念――というには少し平凡すぎるのだが――を晴らすことができた。それが嬉しい。 しばらくは呆然とした様子で自分の身体を見たりするのを繰り返していたセシリアーデだったが、雪に視線を向ければ長い睫毛で縁取られた空色の瞳を細めた。 「……ありがとう、ありがとうございます。ソソギさん、本当に……ありがとう、ございます」 「いや、いいんだよ。実は僕も、上手くできる自信がなかったんだけど。……それと、後はこれかな」 今にも嬉し涙をぽろぽろとこぼしてしまいそうな程の様子で自分に感謝の念を告げてくる彼女に苦笑混じりに言い、雪はそこで思い出したかのように身を屈める。 17: 名前:赤闇 (AldickGl/2)☆10/12(火) 05 35 39 自分の足下に置いていた、土産の菓子やらが入った袋。その口を結ぶ桃色のリボンを解く。 「っと。ちょっと御免ね」 髪留めで留められることもなく、ただ下ろされていたセシリアーデの金髪を少し避け、彼女の首にリボンを通す。 そしてそれを蝶ネクタイのように首の前で結んでから、雪は今度こそ終了だと言わんばかりに息を吐いた。 「……どう? 首の傷隠してみたんだけど」 首に巻かれる、柔らかい布製のリボン。青白い肌には些か眩しすぎるが、雪からしてみればよく似合っていると思えた。 「よく似合ってるぜ、セシリア」 ははっ、と笑い、ゲーデは彼女の肩をぽんぽんと軽く叩く。 「……ここまで、して貰えるなんて……思っていませんでした。……もう私は居ない筈なのに、居てはいけないのに、……本当に、何とお礼を言ったらいいのか」 「気にしないで。首をくっつけるのはまだしも、リボンは僕の勝手な行動だから。でも気に入って貰えたなら僕も嬉しいよ、セシリアさん」 この世に存在していようといなかろうと、困っている人ならばどうしても助けたくなるものだ。少なくとも自分はそうだし、恐らく善哉であってもそうしたのではないか。 最初こそは恐怖と戸惑いでまともに口も利けやしなかったが、こうして見れば今の自分達と何ら変わりない、ただの一人の少女と男に見える。 「俺からも礼を言っておくぜ。……ありがとな、ソソギ」 「……いいんですよ、少しでも助けになれたなら」 こうしてかしこまって二人に礼を言われると、流石に少し照れを感じてしまうし恥ずかしい。そこまで大それた事をしたわけではない、と雪は思っていた。 その意思を告げようと再び口を開いた途端、今度はぱたぱたという小走りのような足音が近付いてくる。 それはセシリアーデやゲーデとは違う、明らかに生きた人間のそれ。 「……そろそろ、ですね。私はもう、この世に心残りはありません」 「俺もだ。……コイツと一緒にアッチに行こうじゃねーか」 セシリアーデの肩を抱きながら力強く言ったゲーデに、雪は冗談っぽくにやりと笑った。 「……彼女への告白ですか?」 「ばっ、ンなわけないだろ! 俺には一応妻も子供も居たんだよ! ……丁度セシリアくらいの娘がな」 がしがしと頭を掻き、ばつが悪そうにぼそりと呟いたゲーデに、流石に冗談が過ぎたかと雪は俯いてしまう。 18: 名前:赤闇 (AldickGl/2)☆10/12(火) 05 36 36 そんな彼の心境すら見透かしたように、ゲーデは笑った。 「でもいいんだ、俺は自分で守りたいものを守るために戦えたんだから。……クサいとか言うなよ、言ってる俺も恥ずかしいんだから」 雪とゲーデのやり取りを黙って見ていたセシリアーデはくすくすと笑い、少しだけ悲しげに目を伏せた。 「……ソソギさん。貴方のことは、あちらに行っても忘れはしません」 「僕も同じだ。忘れない。……といっても、忘れられそうにないんだけどね」 こんな奇跡にも近い出来事、一体どうすれば忘れられるというのだろうか。 もし綺麗さっぱり忘れられる方法があるならば、それを教えて欲しい。尤も、それを実践することは有り得ないが。 足音が次第に大きくなり、確実にその音の主が近付いてきていることを伝えてくる。 それもまた理解しているのだろう。セシリアーデとゲーデは、互いに笑みを浮かべ、ゆっくりと空気に融け混じるようにしてその輪郭をぼやけさせていく。 つい先程までは生きている人間のようにはっきりとした輪郭を持ち、透ける事もなくその場に存在していた二人が徐々に消えていくのを、雪は悲しげな光を宿した瞳で見つめていた。 「……ソソギさん、ありがとうございました。……また、生まれ変わってでも会うことができれば、素敵ですね」 「もしも本当に天国があって、生まれ変わりっていう概念があるなら……今度は、今の世界は、少なくとも世界中で戦争をしているような、物騒な世界じゃないから」 確かに、争いや飢餓という問題は絶えない。なくなることはないのだろう、と少し悟った気分にもなる。だがそれでも、彼女が今度生まれてくる世界は、果てしなく平和であって欲しい。 もう、無意味にその命を散らすことがないように。 「……そうだな、俺は是非ともコイツと一緒に生まれ変わってみてぇな」 最後まで絶えることない笑顔。最初は少し苦手とすら思えていたゲーデの笑みすら、今では名残惜しく感じてしまう。 今では既に声すら少し聴き取りづらい。それでも、雪は一字一句を逃さないように務めた。 それまで緩やかだったぼやけ方が、急にその速度を増していく。 「……さようなら、ゲーデさん。セシリアさん」 殆ど景色と一体になった状態の彼女らに届くよう、雪は涙を流すこともなく、声を上擦らせることもなく、声を上げた。 19: 名前:赤闇 (AldickGl/2)☆10/12(火) 05 37 27 別れの言葉が合図だったかのように、既に消える寸前にあった二人は完全に輪郭と色彩を失い、元から居なかったかのように掻き消えた。 現実離れしたその現象に、雪は虚空を見つめたままでその場に立ち尽くす。 そんな彼を現実へと引き戻したのは、丁度背後から近付いてきていた足音だった。 自分の名を呼ぶ声に肩を震わせ、ゲーデのときのように肩越しに振り返る。 小豆色の髪と紙袋を揺らしながら近付いてくる善哉に、雪はほっと息を吐いた。 「……善哉、どこに行ってたの?」 「それはこっちの台詞だ馬鹿。ちょっと速めに歩くだけで迷子ですか、ユキくんは」 そんな嫌味にも、雪は「仕方がないな」というように微笑で答える。 普段ならば、ユキと称せば面白いぐらいの反応を示してくれる彼が全く反応を示さないことに、善哉は不思議に思ったのかその顔を覗き込んだ。 「雪、お前何かあったのかよ。ユキって言って怒らないなんていつものお前じゃないぞ」 こつん、と頭を小突かれ、雪は笑ってそれを受け流す。 きっと善哉に話しても、このことは夢か見間違いと称されるに違いない。だって実際、自分だってあまりにも幻想的――もとい、ファンタジー的過ぎて呆然としているのだから。 一人の少女と、その保護者じみた一人の男。 ただ血塗られた歴史だけを凝縮したこのロンドン塔という城塞で、人間の闇以外の一面を見ることができた気がした。 「何でもないよ」 20: 名前:赤闇 (AldickGl/2)☆10/12(火) 05 38 28 ふふっ、と笑いリボンをなくした袋を大事そうに抱えた雪に、思わず空耳かと思ってしまうような声が届く。 風の音だろうか。誰かの話し声だろうか。草木が揺れる音だろうか。 男特有の低い声と、少女特有のソプラノ。その二つの声が、同時に『ありがとう』と言葉を響かせたような気がした。 二人の感謝の言葉は、空耳だろうか。 思わず頭上を見上げてしまった雪に、訝しげな表情で善哉は首を傾げる。それだけでは飽きたらず、更には彼の肩を掴んでかなり強めに揺さぶることまでした。 「おーい、雪。どうした? 眠いのか? 疲れたのかー? 自分が揺さぶられているせいか、彼の声が少し揺れて聞こえてくる。 むっ、と普段通りに顔を顰め、軽く善哉の手を叩いてその揺れを止める。大人しく手を離し、「悪い」と謝ろうと善哉は肩を竦めた。 しかし、次の瞬間にはもう雪は笑顔を浮かべていて、その謝るタイミングも逃してしまう。 「……雪?」 「…………今居る地球上の人間って、一体何人が『苦しまずに死ねたからそれだけでも幸せだ』なんて笑顔で言えると思う?」 〝苦しまずに死ねただけ、私は幸せだったんです〟。セシリアーデの言葉をなぞるように、雪は善哉に問い掛ける。 問われた善哉はと言えば、唐突すぎる質問に数秒ほど思考を停止してしまっていたが、ぽつりと呟く程度に口にした。 「そんなの、分かんねーよ。誰にも。苦しむ苦しまないに限らず、誰でも死にたくねぇはずなんだから。そもそも、死んだら誰も何も言えない。〝死人に口なし〟って、よく言うだろ?」 善哉の答えも分かる。誰しも、死にたくはないのだ。しかもそれが無実の罪であるのならば尚更。当然、自分も死にたくはない。 「……でもいきなり何でこんなこと訊くんだよ」 善哉に今度は問い返され、雪は少しだけ考える素振りを見せてから頭を振った。 「別に、何でもないよ。理由はないかな」 そう言い切れば清々しげに微笑んで、雪は自分の手を何かの感触を確かめるようにぎゅっと握る。 まだ、彼女の髪の感触が残っているような。そんな錯覚。 「ただ少し、いい思い出ができただけだよ」 Fun. 21: 名前:赤闇 (AldickGl/2)☆10/12(火) 05 55 29 ◆後書き お早う御座います、今日は、あるいは今晩は。 赤闇と申します。短編でこうして話しを書き終えるのは初めてだったりするのでちょっと興奮気味です。 普段はファンタジーでバッドエンド、シリアスなものばかりを考えて執筆していますが、今回は少し趣向を変えてみました。 この話しは、書き終えるまでにそこまで時間がかかりませんでした。累計して一週間もないと思います。 まあ、実際は今日で一気に書き上げたんですけどね。朝日が見えるぜコノヤロー。 ということで、以下。以下はこの作品を作るに当たっての紆余曲折とキャラのお話です。 元々この話を書こうと思った理由は、俺自身が拷問具や残酷な歴史などを通してロンドン塔に興味を持ったからでした。 中古本屋で買った本を少しばかり読んだらもう火がついてしまいまして、止まらなかったんです。 そしてふと「首をくっつけてくれないと成仏できない幽霊と、優しい男子高校生のお話が書きたい」と思ったんです。そう、これだけ。 少し俺の主観も入っているので、雪や善哉の発言が的外れに見えるかも知れませんが、悪しからず。雪の原爆発言は俺なりに考えたんです…(´・ω・`) そして少し書き方を変えようと改行を入れたら何とまあ読みづらいwwwやっぱり俺にこの書き方は合わないと言いたいのですか、ゲーデさん(白目 理由はいつも、単純です。俺が初めて完結させた小説、「Want to return」も「グロい話が書きたい」だけでしたから。 それと裏設定ですが、この小説とWantはちょっとだけ繋がっているんです。本当に少しだけ。キャラで。 雪峯 雪 「ゆきみね そそぎ」と読みます。男の子です。 ちょこっと姓を変えただけで、元はWant to returnに出てきたサーベル使いの行峯くんと同じ子です。なので裏設定としてフェンシングで全国大会一位の成績を誇ります。 まさかただの出落ちでしかなかったコイツがここまで昇格するとは思いませんですだよ。 善哉 善哉 「ぜんざい よしや」です。間違っても「ぜんざい ぜんざい」ではありません。 名前の元ネタは俺が漢字クイズの善哉を「よしや」と間違えて読んだからです。ごめん善哉くん。安直で。 姓と名前が若干似ている所か全く同じ。ということで、似た姓名コンビとして今回雪くんと一緒に出してみました。案外お気に入りなんですよ。 ちなみに裏設定でコイツは剣道部です。案外似た者同士。 セシリアーデ=ルゥ=フェイ 金髪ドレスの中世のおにゃのこ。おにゃのこキャラは全体的に苦手ですが、大好きな子です。可愛いと思ってます、自分で。 モデルは雪くんの言っていたアン=ボレイン。首のない王妃の亡霊です。王妃じゃないけどお姫様だけど。 名前は浮かばなかったのでツイッターで急募をかけました。「マリー」や「ジュリエッタ」など多数の候補、有り難う御座いました。 ゲーデ=ギーディ 軍服のオッサンです。オッサンまじぱねぇ。 最初は軍人ではなく、セシリアちゃんを処刑した男だったんです。初期設定では断頭台の擬人化男。断頭台に宿った怨念などが人の形になったものという設定でした。 でもゲーデってぶっちゃけ、俺の書くファンタジー長編にいるとあるキャラの武器名なんですよね。どうしよ。 ……中世の時代って軍服あったんでしょうかね。それだけが気掛かりです。 それでは、長々と綴りましたが、そろそろ後書きも締めさせて頂きます。 ここまで読んで下さった方、有り難う御座います。次からまた陰鬱なダーク野郎に戻ります。俺がほのぼのを書くとこうなるよー、って感じですね。 これを見て、拷問具に興味を持てとは言いませんが少しでも中世に対して興味を持って頂けると嬉しいかなぁ、なんて。 それでは、またどこかのファンタジーの世界で会いましょう。ぺこり。 22: 名前:赤闇 (AldickGl/2)☆10/12(火) 06 04 36 ああっと、書き忘れが…! 備考ですが、「苦しまずに死ねただけ~」の下り。 セシリアーデは描写や外見から分かるとおり、斬首刑(首を切り落とす処刑方)で殺されています。 ですが中世では斬首刑というのは一気に首を切り落とすのであまり苦痛がなく、貴族にのみ許された贅沢な死に方だったんだそうです。 当然それでも死にたくないので、本当に逃げ回った人も居るようですが。4回目でようやく首を切断できたという話しもありますから、処刑者の腕がよく、尚かつ抵抗しなければ即死できる死に方なんでしょうか。 参考書籍は「残酷と怪異 血塗られた真実の世界史(実業之日本社)」と「ウィキペディア(主にイギリス、ロンドン塔の項目)」です。 前者が俺的に物凄く好みでして。探してみるといいかもしれません。 それでは今度こそペコリと頭を下げてピュッと消えます。
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78: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/18(日) 22 29 09 パタン 一人部屋に入り、今日の駿の言葉を私は思い返していた。 『あれ以来……響はすっかり生きる気力を失っちまったように見えた。それこそ響のほうが死んじまったみたいに。そりゃあ俺だって同じだったさ。だけどあいつはその場に居たんだ、ダメージはでかかっただろう、誰よりも。 響は荒れた。あんなに好きだったバスケから離れ、飲酒や喫煙を繰り返した。暴力沙汰なんて日常茶飯事だった。シンが居なくなった街で、何人も女を抱いてたって噂もある』 『あいつは、女なんか信じられないって、家族以外の女は一切信用しなくなった。笑うこともほとんどなくなった。本当に変わってしまった』 『それに……』 『それに……何?』 私が聞き返すと、駿は苦渋そうな表情を見せた。駿のあんな顔、見るの初めてだった。 『あいつは、シンが逝ってしまってから、柏木と何かあったんだよ。絶対に。 何しろ、柏木の名前に絶対に触れないようになっていたからな。もちろん、奴の話題には触れたくなかったっていうのはある。けど……おかしかった。遠くで「柏木」っていう単語が聞こえただけで、目つきが鋭くなって、オーラも明らかに変わった。 けど、俺にもそれは未だに分かんねえ。聞かなかったっていうよりも、聞けなかった』 『そして、中3の夏だな。一年経っても、響はあまり変わっていなかった。もう受験なんて絶望だ、そんな状態だったときだ。……あの人が現れた』 『あの人って?』 『俺達の監督だよ。斎藤先生な。 本当にたまたま、響と俺は近所の公園に居た。昔俺達がいつも練習していた公園だ。 確か、響は煙草を吸っていた。だが、そこに落ちてた空気の抜けていたバスケボールを拾って、「懐かしいな」ってあいつはちょっとだけ笑ってた。で、俺達がミニゲーム紛いのことをしていたら、先生が居たんだよ。 先生は、小さい子達にバスケの楽しさを教えようとしていたらしい。そこに俺達が居た。 そこで、俺ら二人は誘われたんだよ。一緒にやらないかって』 『最初は俺も響も、興味がなかった。高校教師なんかが、俺達みたいなやつ相手に本気で言ってんのかって。 とりあえずそのとき、斎藤先生は練習を見に来ないかって誘った。その後初めて、高校が西南高校だって分かった。俺達はかなり驚いた。何しろ、小さい頃からバスケが強いって有名で、夢見てた高校だったからな。 俺達は、練習を見に行った。そこで、俺は、久しぶりに響のあんな生き生きした顔を見た。きっと俺も同じだっただろう。 先生は、俺達二人が来たのを見て、これだけ言った。「条件は、酒と煙草をやめることだ」ってな。 響はすっかりその域から足を洗った。それくらい、西南のバスケ部が魅力的だった。 俺たちは推薦で西南高校に入った』 ……私の知らなかった、彼らの哀しい過去。 79: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/18(日) 22 37 41 最後に駿は、私の目を真っすぐ見つめてこう言った。 『莉恵。響は、お前が来てからちょっとだけ前に戻った気がするわ。 前みたいに笑うことはあんまりないが、表情に変化が出た。何より、女を信用してマネージャーにするなんざ、考えられなかった。 ……もしかしたら、お前になら、響の傷を治してやることが出来るかもしれない』 心の方のな、と悪戯っぽく笑って駿が付け加えた。 『あいつ、女癖悪いだろ?ああ見えて、つらいんだよ響も。シンをあんな目に合わせた柏木のこともあって、まともに女と向き合えねぇんだ。セクハラ紛いのことされたかもしんねぇが、莉恵に対するそれはちょっと違ったのかもな』 そこまで話したときには、もう昼休みが終わる二分前だった。 『じゃあ、とりあえず俺は戻るわ』 ひらひらと手を振って、いかにも軽く駿は戻って行った。 思い出すのもつらかっただろう。なのに、話してくれた。 「響……」 掠れた声で、誰もいない部屋で私はそう彼の名を呼んだ。 * 過去編をさっさと終わらせたくてかなり適当な文章になってしまいました(泣) それにしても中2とは思えない行動達ばかりに目を見張ります←自分で書いといて 次回から、莉恵が動き出すはず!響と濃く絡ませたいなー 80: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/20(火) 22 17 27 ガチャッ 突然、部屋のドアが開いた。驚いて目を向けると、そこに立っていたのは響で、私が反応する間もなくずかずかと無遠慮に入り込んできた。昨晩のことも忘れて、私は目を丸くしてその様子を見ていた。 「……なんだ、今度は逃げないのな」 そんな私を見て、響がそう言った。 今日の昼に駿にあんな話聞いたら、誰でもちょっと見方変わりますって。昨晩のことはもちろん簡単には許せないけど、お人好しな私はすでにそれを水に流そうとしていることに気付いた。ああ、この性格どうにかならないのかな。 「……きのうのアレは「響」 「……何だよ」 「……煙草、苦かったでしょ?」 私がたった一言、そう告げると響が目を見開いた。そりゃあそうだ。彼が喫煙していた時期は、当時だけで今はすっかり足を洗ったのだから。私の言葉の意味はつまり、 「……誰に聞いた。駿か?」 一気に声のトーンが低くなる。 「……」 図星だったので黙っていた。 「それで?可哀そうにーだとか、辛かったでしょうだとか言う気か?こっちの気持ちなんか分かんねえくせに」 は? 「……分かるわけないでしょ!この馬鹿!」 「あ?」 響がぽかんと口を開ける。そりゃあそうだ、いきなりこっちが逆切れしたんだから。 けど、もう止まらない! 「当たり前でしょ?私は響みたいな経験したことないんだから、そういう人の気持ち何て分からない!分かったようなフリされるほうが嫌でしょ」 響がどんどん不機嫌な顔になっていくのが目に見えていたが、どうしても止められない。 「……うっせぇ。 俺があの後、柏木に何したか知ったら、お前も逃げるんだろ」 「……あの後?」 駿すら知らなかった過去の話だ。 「あァ」 自嘲気味に、響が笑った。 「俺は、柏木をめちゃくちゃに犯した」 「……え?」 そういう響の顔はひどく疲れていて、それでいて哀しそうだった。 またこの顔してる……。 最近よく見るこの表情。 (どうやら原因は、) (ここにあるのかな) 81: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 17 25 49 「俺は、あの事件の後一度だけ柏木に会ってんだよ。一人でな」 忌々しそうに、それでいて何を考えているのか分からない響の表情。 「あれから一カ月弱くらいたってた。柏木は、これ以上あの学校にはいられなくて転校が決まっていた。 夏休みのもう最後だった――……」 * もう夜で、辺りは暗い。道路と、公園内の水銀灯だけが辺りを照らしている。俺が着いたころにはもう奴は先に来ていて待っていたようだ。 「なんだ」 開口一番、これだけ言った。文句を言いながら来てしまう俺もどうかと思うが。 この女は許せない。どうにかしてシンと同じくらい、否それ以上に苦しめてやろうと日々考えていたに違いない。 「……好きにしていいよ」 「は?」 柏木は、来ていた真っ白のワンピースの裾を自らの手でたくし上げた。細く、白い太ももが露わになる。 「ふざけんな。それで帳消しにしようってか?」 「……本当に、何してもいいよ」 柏木が無言で近づいてきて、来ていた羽織りを脱ぎ肩を出す。 情けないことに俺は、このまま何もせずこいつを転校させてやるよりは、好きにさせてもらおうと考えた。 荒々しく奴のワンピースの背についているファスナーを下げる。ビリっと微かに音が聞こえた。そしてそのまま一気に服を脱がせる。 そのまま奴を地面に押し倒し、いきなり下着の上から指を押し付けた。 「んうっ……」 まだ何もしていないのに、湿っている奴のそこに俺は嫌悪感しか感じることが出来なかった。 82: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 17 36 28 一気に下着もはぎ取ると、風と夜の空気を素で感じたのか柏木が一瞬顔をしかめる。 柏木を生まれたままの格好にさせると、俺は奴の中に一気に指を二本突っ込んだ。 「はぁっ……ん!いきなりすぎっ……」 くちゅくちゅと卑劣な音を立て、奴が俺の下で善がる。 もう何も考えられず、ただただ行為を続けていた。 何の意味もない行為。 しばらくそれを続けたかと思えば、今度は足を思いきり開かせ、その足を俺の肩に乗せた。 「ふっ……はぁ」 とろんと溶けてしまいそうな目で見てくる柏木。慣れているのだろう、こんなこと。あぁ、俺は普段のこいつの目も嫌いだがこの目も嫌いだ。気色悪い。 「んーーっ……!!」 思いっきり秘部に吸いついてやると、次から次から柏木のそこから溢れ出てくるとろんとした液体。舌を何度も激しく抜き差しすると、しばらくして柏木が一際大きな声で鳴き、びくっと身体が跳ね上がった。達してしまったのは分かったが、俺は間髪を入れず自分の物をそこにあてがった。 「あぁっ……あぁぁ!!」 いきなり動き出した俺に、とにかく声を出して喘いでいる。それもつかの間、少しすると自ら腰を動かし始めた。 ……分かってる。俺は、利用されている。 「……ふ、あぁぁっ!!んぅっ」 ぎりぎりのところまで抜き、また最奥まで。 パンパンと肌が当たる音と、ぐちゅぐちゅという厭らしい音が周りを支配していた。 「んっ……あぁぁっもう駄目!!」 柏木が頂点に達し、ぐったりとしたすこし後に俺は奴の中に欲のすべてを出し切った。 さっきまでの激しい行為が嘘のように、辺りはしーんと静まりかえっている。 83: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 17 47 31 * 「あろうことに、あいつは『相川響に、夜の公園で無理やり犯された』ってことだけを周りの人間に流し、学校を出て行った。もちろん周りの目は変わったし、学校なんて行けたもんじゃねぇ」 「なっ……向こうがやったことじゃないの!?」 「奴の挑発じみたことに乗った俺が悪かったんだよ。 ……むちゃくちゃにしたのは事実だ。 これでも、まだ何か言う気か?逃げるなら今の内だぜ」 私を見て響がそう言う。 あぁ、何て哀しい人なんだろう。 「……響」 「……俺が、あのときにもっとシンを止めてりゃ良かったんだよ。大体なんでその前に柏木の奴のとこにのこのこ行ったりしたんだ。 俺のせいで、シンはっ……」 「響!」 私は思わず大声で響に怒鳴った。 ……彼が泣いているような気がしたからだ。だがその瞳に涙は浮かんでいない。だけどきっと、この人泣いている。心が。 「もういいよ……」 「よくねぇ」 私を睨みつけ、歪んだ表情で響が言う。 「俺がシンを殺したも同然だ。俺は何もしちゃいねぇ。結局あいつも助けられなかった、自分自身も――っ!?」 私何してんだろ。気が付いたら、私は響の身体を引き寄せて彼を抱きしめていた。いつの日か、響が私にしてくれたのと同じように。 あぁ、こんなことするのこれが最初で最後だよ!?だから、ちゃんと聞いてよね。 「……充分響は苦しんだ。悔んだ。 もう、いいじゃん。終わりにしよう」 「……!」 私に抱きしめられたまま、響が体を硬くした。 「私だって……中3の頃、今何かより全然人のこと信じられなかったから、女を信じられないっていう響の気持ち分かる。 だけど……もういいよ」 「……放っておけよ」 あのね、響。 私には、あんたの「放っておけ」が、「助けて」にしか聞こえない。 84: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 17 56 26 「……そのシンくん?慎太郎くんだって、響にずっと抱えないでほしいってずっと願ってるよ……」 私がぽつりと漏らすと、響が押し黙った。 分かるでしょう?誰もそんなこと望んでいないんだよ。 どこに柏木さんだけが幸せになって、響に幸せになっていはいけない理由がある? 「慎太郎くんは響が大好きだったと思う。もちろん駿だって。 ……私は嫌。響がずっとそんな風に溜め続けるなんて。 響のこと、そりゃあ……変態だし偉そうだし気に入らないと子いっぱいあるけど、信じるよ。私は。 だからさ、私のこと信じてよ。 女の子だってね、響の思ってるような子は意外と少ないから!沙耶だって、クラスの子達もみんな良い子でしょ? だから、もうやめ―――っ!!」 唇を突然塞がれ、言葉が続かなくなった。急なことで、しかも体があまりにも密着していたから抵抗することも出来ずにそれが終わるのを待った。 数秒もすればキスが終わり、響は少し私から離れた。 「……響?」 不安になって私がそう呼び掛けると、ふっと笑っているのが空気で分かった。 「……俺に説教するなんざ、何時の間にそんなに偉くなったんだよ?お前は」 それが、あまりにも元の調子に戻っていたので、安心やら何やらで私の方がぽろっと泣きだしてしまった。 あれ、おかしい。これ、私が泣くとこじゃないよね?響じゃないの? 絶対、私泣き虫になった。響のせいだ。 「……何でお前が泣いてんだよ」 ちょっと可笑しそうに響が言う。 「それはこっちのセリフ……!馬鹿っ!!」 私は響の胸を借りて、気が済むまで思いっきり泣いた。そんな私を、この人はくすくすと笑いながらあやす様に頭を撫でていた。ああ、変なの。 85: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 18 04 59 「ひっくっ……はぁ」 今何時なんだろう、少なくとも深夜0時は過ぎているんだろうな。 ようやく泣きやみ暗闇の中、響の腕の中に居るまんまで私は声を聞いた。 「……人が黙って聞いてれば、変態だのセクハラだの消えろだの好き勝手言ってくれるじゃねーか」 「へ?いやいやそこまで言ってないから!勝手に捏造しないでくれますか」 暗い部屋の中、お互いの声だけが響いている。 「莉恵」 「ん?」 ぐいっと響が顔を近づける。真っ暗だけど、これだけ近いと表情がよく分かる。もう哀しそうな顔はしていなかった。 「……お前に礼を言うなんざ癪だが、まあ世話になったけどああやっぱりめんどくせえ」 「はぁ!?」 (全く、素直じゃないなあ) 「莉恵」 「今度は何?」 「……俺、近いうち柏木んとこ行くわ」 「私も行く」 即座に私がそう返事したので、響がちょっと驚いた顔をした。そりゃそうだ、私は別に何の関係もないもんね。 「だってバスケ部のマネージャーだもん。西南高校の」 「……」 しばらく響は黙ってたけど、そうだな、と言って笑った。その笑顔は、悔しいけど誰よりもかっこよかった。 (いつも、そんな顔してた方が全然いいよ) こんなこと言ったら怒られそうだから、心の中で私はそう呟いた。 86: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 20 51 51 それから約二週間、私達は普通に(以前と同じように)過ごした。朝起きて学校に行き、授業を受け、沙耶や他のクラスメイトと休み時間はいっぱいしゃべって放課後は部活。 部活中も、私は自分の仕事をこなす。 そんなこんなで、夏休みまであと一週間になった。 「それで、莉恵。何時の間に元に戻ってたんだよ?」 「んー……半月前くらいかな?☆」 「何☆マーク付けてんだ!俺がどんなに心配したかしってんですかーぁ」 「ごめんって、駿。感謝してますよー!」 駿はまだ不貞腐れたような顔をしている。そりゃあそうだ、心配だったんだろう、響のことが。小学生のときからの親友だったんだもんね。なんやかんやで報告が遅れてしまった。沙耶には少し前に報告済みである。 「……もう大丈夫だよ、きっと。 そろそろケリつけにいくみたい」 「ケリ?」 「うん」 今日から三者面談で、授業は午前のみとなる。そして今週の水曜日は部活がオフ。私と響はその日に柏木さんの居る北星高校へと乗り込む(?)のだ。 「しかし、莉恵……やっぱりな、お前なら何とかなりそうだとは思ったがよー」 こんなに俺引きずってたのに、その悩みをたった一晩で消しやがった。駿は頭を掻きながらそう言い笑った。 あ、そういえば。 「夏休み入ったら結構すぐに合宿だよね」 「おう。結構長いからなーしかもキツいんだよなぁ……」 「ふぅん……。色んな学校が参加するんでしょ?」 「そうそう。良い経験になるけどな。 お前もしっかり体力つけとけよ」 「はいはーい」 水曜日の件が終わったら、一気に合宿モードに切り替えよう。 もっとも、響が何を柏木さんに言うつもりなのかとかは、何にも聞かされていないのだが。 87: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 21 00 37 そして二日後、響にとっては大きな転機となるはずの水曜日がやってきた。 「起立ー、礼ー」 がやがやとみんなが教室から出て行く。そんな中、私は少し緊張して時計を見つめていた。 「莉恵!今日でしょ?頑張りなさいよ」 沙耶が声をかけてくれる。……そうだ、私は西南高校マネージャーとして付いていくんだから!!しっかりしなきゃ。 「それにしても、マネージャーだから付いていくっていうその理由、ちょっとおかしくない?プライベートの問題でしょー」 「……あ、やっぱり?」 だって、心配だし見届けたかったし、どうなるか。 なんて、本人の前では口が裂けても言えない。 「じゃあね、莉恵。行ってらっしゃい」 「うん!またメールするね」 私は沙耶と別れたら、響と待ち合わせてしている正門に向かった。同じクラスだから別に良いんだけど、教室から二人して一緒に出ていくのもどうかなあと思ってね。 「響」 「……」 門にもたれかかって音楽を聴いているらしい。声が届かなかったので私は後ろまで近付いてつんつんっと背中を突いた。 「っ!……ああ、お前か」 「ご、ごめんそんなにびっくりするとは思わなかった……。 響もしかして緊張してる?」 「……」 無理もないと思う。生易しい問題ではなかったのだから。思いだして考えるというだけで辛かっただろう。 「行くか」 「……うん!」 一拍置いて、私は返事を返した。さあ、いよいよだ。 88: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 21 08 30 ピーーーーッ 北星高校の体育館内で、集合の合図の笛が鳴るのが見えた。 雰囲気からして、今から休憩のよう。これを逃す手はない。 響もそう思ったのか、真っすぐ体育館を歩きだした。私もそれに従う。 「……あれ、あなた方は」 一人の北星の部員らしき男の子が私達に目を留めた。練習試合でこの間会ったばかりだし、しかも響は有名だから覚えているのだろう。その部員に私は声をかけた。愛想の悪い響だから、こういうのは私の役目。 「突然お邪魔してすみません、マネージャーさんと少しお話したいんですけど」 「あぁ、凛ちゃん?ちょっと待っててください」 しばらく待っていると、来た。遠目でも分かる。ちょっと苦手なタイプかもしれない。 顔が見えるくらいのところで、向こうは驚いたように足を止めた。しかし、すぐさままた歩を進める。 柏木さんは私達の前を通って体育館の裏の出口から出た。そこで話すという意味だろう。 「……何の用?」 訝しげに彼女が問いかけてきた。 ここからは響の出番だ。私は一歩下がって二人を見つめた。 響は、何を言うつもりなんだろう。 「……お前多分、シンに祟られると思うわ」 (は!?) まさかの祟り発言(笑)に、私は口をぱっくり開けた。 89: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 21 21 48 「へ……」 柏木さんもわけがわからないのか、呆気にとられたような顔つきだ。うんうん、今だけは私彼女と同感かも。 「いや、シンは優しいからもしかするとそんなことしねえかもな。けど例えば俺や駿が死んだら、お前が死ぬまで呪うと思う」 「……」 「死んでも消えないんだよ。お前のしたことは。 ……俺こそ、あのときは無理やりして悪かったが」 「!」 柏木さんがそのときのことを思い出したのか、小さく反応を見せた。私も響が謝罪の言葉を述べたことがとても意外だった。 「今、マネやってんだろ。良い仲間が出来たんだろ、お前は満足してんのか?」 「……そりゃあ。みんな優しいし元気だし、安心出来るし」 「そーかよ。 せいぜい間違い犯さず生きることだな、これからは。 それが何よりの罪滅ぼしだ」 「……!!」 それを聞いた途端、柏木さんが泣きだしそうな顔をしてこう言った。 「何よ偉そうに。馬鹿みたい……どうして許すの?」 「馬鹿はこいつのが移った」 響は私を指さしながらそう言う(ちょっと!)。 「許しちゃいねー。許すことは一生ないけど二度と同じことはすんなっていう警告だ」 「……」 柏木さんは響の勢いに呑まれ、何も言い返せない様だった。 「おい、行くぞ莉恵」 「え」 もう良いの? そう思い響の顔を見たら、荷が取れたような、晴れた顔をしていた。 (……良かった) 私たちが背を向け、とりあえず帰ろうとしたとき。 「……あんたのほうこそ、真っ直ぐ生きなさいよね。 あたしは祟られないように、向き合っていくから。 お人好し過ぎんのよ、あんた変わったわね。そのうち痛い目合うわよ」 確かに柏木さんがそう言うのが聞こえた。 言葉は素直じゃないけど、きっと今までの彼女とは違っただろう。 今度こそ私たちはそこを離れ、体育館の横を横切って学校から出た。 90: 名前:葵 (3e6wZ9rNfs)☆10/21(水) 21 31 03 「ん~、甘い!!疲れた時は甘いものに限る!!」 あの後、私は近くにあったファミレスに立ち寄ってデザートタイム。二時前という中途半端な時間帯から、客は少なかった。私がさっきから頬張っているのは、苺パフェ!!そこ、顔に合わないとか言わない。私苺には目がないんだよ。 響はドリンクバーを啜っている。(しかも烏龍茶) 「疲れたって、お前何もしてねーだろ」 「いーえ、いきなり祟るだのなんだの言いだしたときは怪しい宗教にでも入ったのかと」 「殴るぞ」 「すいません」 だけど、本当に良かった。本当になんてもんじゃない、本当に本当に。 あれからあまり深い話はしていないけど、何も話さなくとも相手の心境は分かり切っている。 (だって、表情(かお)が全然違う) きっと自分では気付いていないんだろうな。その表情が、以前と違って柔らかなものになっていることに。 まあ元が元だし響だから、にこにこ笑ってるって感じではなく、棘がちょっとなくなったというか。 柏木さんも言ってたな、「変わった」って。 私は今の響しか知らないから何とも言えないんだけど。 「莉恵」 「?」 「お前俺が思ってた以上に変わってるわ」 「……そうみたいですね」 この間から言われているこの言葉だけど、褒め言葉として受け取ってもいいのかしらね……。 「ありがとう」 「えっ?」 ぽつんと漏らされたその言葉に耳を疑った。 young leaf 続き5
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どうも、雪代旭ですが。 俺は気付くと前方にろうそくが一本灯っているだけの、薄暗い部屋にいた。 (なんだ…ここは) 辺りを見回そうとしたが、何かで首を固定されているのか、動くことが出来ない。 (どうなってるんだろう…) 首どころか手足まで拘束されていることに気付いた。 微動するとジャラジャラと鎖の擦れる音が聞こえる。 わずかな光で部屋のつくりを見る限り、壁はレンガになっていて、扉は俺の目の前には無い。 俺は急に不安を感じた。 (だ…誰かいないのか?) 服は身についているはずなのに、すごく寒く感じる。 全然動けないし。 俺がこの状況にうろたえ始めてしばらくすると、いつの間にか部屋に人が入ってきた。 「誰…だ?」 何度も言うように部屋は薄暗く、相手の顔がはっきり見えない。 「いい格好だな、旭」 発された声は、どこかで聞いたことがあるものだった。 「な…っまさか、慎也?」 「正解。旭をオモチャにしたくて連れてきた」 突然、薄暗かった部屋に明かりがついた。 部屋は思っていたより広く、…というかレンガ造りでも何でもない。 四方は白く、慎也はまるで宙に浮いているかのように見える。 「え…なに、これ?」 俺の身体には頑丈に鎖が施されており、服を着ていると思ったのは間違いだった。 こんなとこに連れてこられたっけ? でもって、服脱がされてこんな状態にされたっけ? 学校から帰り、晩飯を食べ、風呂に入ったり宿題したり…という記憶は鮮明に残っているのだが。 「旭が可愛すぎるからいけないんだぞー?」 え、待て待て。慎也の野郎は何をほざいていやがるんだ? 「心配するな。後で旭をくださいって家族の皆様にお願いしに行く」 「そんなこと心配してる訳じゃない!」 っていうか何言ってんの? 全く理解が出来ない。 「じゃあ学校のことか? 俺がちゃんと首輪つけて毎日連れて行ってやるよ」 違う! いや違くはないけど。 そういうことを問題としているわけではなくて…。 というか俺自身も今の状態にあまり矛盾を感じていないことが不思議だった。 「ま、その前に…」 慎也は俺の下あごをくいっと上げ、 「第二ラウンド行くか?」 「ぎゃーーーっ!」 飛び起きた衝撃で、俺はベッドから転げ落ちていた。 床に頭をぶつけ、いつもは半寝の状態なのに、今日はいやにすっきり目覚めた。 横で目覚ましとして使っている携帯電話が鳴り響いている。 「旭くん!? どうしたの、大丈夫?」 小学二年生の妹が俺の部屋に入ってきた。 いつも通りの自分の部屋を見渡すと、さっきのが夢であったことがようやく分かった。 (あぁ、マジで覚めてくれて助かった…) 「じゃ、旭くん。あたし行ってくるね」 赤いランドセルと右手に紙袋を持った妹がそう言った。 こんな早朝から出て行く妹の行き先は学校ではない。 妹の名は、雪代霙(ゆきしろみぞれ)。 自分の妹をこんな風に言うのは嫌なのだが、彼女は子役タレントだ。 しかもドラマやCM、映画にも出ていて結構売れていたりする。 みぞれなんて変わった名前も、両親がタレントにすることを見越してつけたものだ。 母さんは、"雪と霙でしっくりくるじゃない?"と言っていた。 みぞれが出て行ってすぐ後、母さんが玄関まで寝巻きの俺を呼びに来た。 「旭、悪いけどみぞれに着いていってあげてくれない?」 「え、俺学校あるんだけど」 「学校始まるの8時半でしょ。歩いて10分もかからないところに学校があるんだから大丈夫よ。 私、今日早朝出勤なの。お父さんは一昨日から出張だし」 …正直面倒くさいが、仕方ない。 子役とは言ってもタレントであるので、結構変なヤツに過去狙われたりしていたからな。 俺は猛スピードで支度をし、妹の後を追いかけた。 全力で走ったので案外早く妹の姿を見つけることが出来た。 だがそれは、駅前の駐輪場で背の高い青年と何かを話している姿だった。 (やばい…早速絡まれてんのか?) ところが…ん? よく見るとあれ、俺の学校の制服じゃね? そして、みぞれの前には俺のよく知った人がいた。 「みぞれー!」 「あ、旭くん!」 みぞれは俺に気付くと、俺の元へ駆け寄ってきた。 「みぞれ、大丈夫か!? あの野郎になんかされたか??」 「ううん、でもなんか、君のつぼみは美味しそうだとか言われたよ」 やっぱりか! やっぱりかぁぁぁぁ!! 俺はその言った相手を睨みつけ、 「慎也! 人の妹に変なこと吹き込むな!!」 と怒鳴った。 「よう、旭。っていうか旭の妹さんだったのか、みぞれちゃんが」 慎也はみぞれを自分より高い位置まで抱き上げた。 みぞれはたのしそうにきゃっきゃ笑っている。 「兄妹揃って可愛いなー。雪代家は」 「旭くんも可愛いの? 男の子なのに?」 慎也の腕からみぞれが降りると、俺はすぐに彼から妹を引き剥がした。 そして、妹を慎也の変態の魔の手から守るべく、間に入り込む。 「あぁ、可愛いよ。ペニス握ってあげたらすっごい可愛い声出すんだよ」 お前なに言ってんだ、いたいけな小学二年生に!! 「ぺにすってなにー?」 みぞれも聞き返すな、頼むから! 「男ならみんな付いてるものだ。みぞれちゃんには付いてないけど、気持ちよくなら俺がしてやるぞ?」 「え、ホント?」 俺が突っ込む間もなく、みぞれと慎也の会話は淡々と続いた。 みぞれの前にしゃがみこみ、肩に手を置いて諭すように言った。 「いいか、みぞれ。コイツと喋るな。変なことされるぞ。 スカートどころか、パンツに手突っ込まれるぞ」 「あたし、そんなの慣れっこだよ」 …そうだった。 芸能人の(つまり顔もよい)妹は今までも、ロリコンの方々に油断したらそういうことをされまくっている。 小学二年生で身体を触られるのに慣れっこな妹って…とても不憫だ…。 「あ、そうだ。早くしないと収録時間に間に合わないんじゃないのか?」 みぞれは毎日、朝の子供向けの番組に出演している。 収録スタジオは駅一つで着くのだが、流暢にしている場合ではない。 …増して、慎也のアホに付き合っている暇はない。 「旭くんが一緒に行ってくれるの? ママは?」 「母さんは仕事だってさ。だから今日は俺が行く」 と俺が言うと、みぞれはやったーと、声に出して喜んだ。 それを見ると微笑ましくなる。あの悪夢を忘れさせてくれるくらい。 …だったのに、横の変態が、 「みぞれちゃん、俺も行っていい?」 その答えをみぞれは、俺に求めてきた。 うるうるとした瞳で俺を見つめる。断りたいのは山々なのだが…。 「はぁ…。ただし、子供たちに手を上げるなよ。司会の人とか、カメラマンとかもダメだ。 っていうか今から出会う人に絶対声をかけるな。電車内で変なことするな。分かったか?」 「それはそうと、慎也なんでこんな早朝からいるわけ?」 車内のつり革を持つと同時に、俺は慎也に聞いた。 「ん? 早朝でしかも今日みたいに風の強い日は下着がよく落ちてるんだよ。 それを拾って落とした人に届けにいくまでの過程がいい感じな気がしてな」 もういいや。まともな理由があると思ったの俺が間違いでした。 「なー旭ー、俺さ、痴漢やってみたいんだ。でもさすがに見知らぬ人にやったら犯罪だから、旭にやってもいいか?」 「ダメに決まってるだろ。車内で変なことするなって言っただろ」 見知らぬ人にやったら犯罪っていう常識は一応あるんだな。 普段から見知らぬ人にSMプレイはお好きですかとか聞いてるから知らなかったよ。 一駅だけなので、電車に乗っている時間は極短い。 俺はみぞれに手を引かれて電車を降りた。 「旭くん、きっぷここに入れるんだよ」 と、みぞれは改札口を指差す。 「へー、みぞれ凄いなぁ」 俺は愛想を持ってみぞれに言った。 改札口にきっぷを通すなんて誰もが知ったことだが、 それを言うと彼女の夢を壊してしまいそうな気がした。 そんな俺達のやり取りを、横で慎也は笑っていた。 「な…なんだよ」 「旭くんかっわいー」 「うるさいなっ!」 別にそういうわけではないと思うが、シスコンかのように見られて俺は赤面する。 …シスコンでも慎也みたいなヤツよりマシだけど。 駅を出るとすぐのスタジオにむかってみぞれは走り出した。 「ありがとう、旭くん。あたしはもう大丈夫だよ」 そういって手を大きく振り、ビルの中に入っていた。 俺は慎也が他の子役タレントに目をつけずに済んだことを心から安心した。 「みぞれちゃん、可愛いな」 「…絶対変なことすんなよ」 「しないよ。幼女相手は、例え相手が承諾しても犯罪になるらしいからな」 犯罪にならなければしてたのかよ。 ったく人の妹に、しかも小学二年生に手を出すなんて信じらんねー。 「子どもはいいよなー。調教しがいがあるっていうか。 俺以外に感じない身体にしてやりてえな」 どうですか、この朝っぱらからの変態発言。 俺は正直きついです。…でもそれに慣れさせられるくらい、今まで聞いてきた。 「雪代ー、C組の立花ってヤツがお前に用があるってさ」 三限目の休み時間、俺はクラスメートに肩を叩かれ、こういわれた。 教室の外側を見てみると、立花くんが困った表情で俺の方を見ている。 「どうしたの?」 立花くんにそういうと、彼は手招きした。 そのまま立花くんについていくと、階段の踊り場に行きついた。 「あ…あの、雪代くん。昨日は変なトコみせちゃって…ごめんなさいっ」 立花くんは深々と頭を下げる。 「いや、いいよ。俺の方こそごめん…なさい」 「ううん、雪代くんは悪くないよ…。でね、あの…お願いなんだけど、 ぼ…僕が中田くんを好きだって…誰にも言わないで、ほしいんだ…」 「あ…うん」 当の本人には言ってしまったけどな。 B組、つまりは俺の教室の前の廊下に、慎也はいる。 男子と話しているのでとりあえずは、犯罪になるようなことはしないだろう(男子相手でも油断できないけど)。 「立花くんは、」 「あ…葵でいいよ」 俺が話を切り出すと、立花くん、もとい葵はそういった。 「じゃ、葵。…てさ、本気で慎也が好きなの?」 聞くと葵はあからさまに顔を赤らめ、 「…うん、好きだよ」 「え、でもアイツあんなんだぞ?」 人差し指で向こう側にいる慎也を指差して言う。 変態なんですよ、あんなにという風に。 「やっぱ顔か?」 まぁ、顔・スタイルはずば抜けて良いしな。 彼の素性を知らない女の子がいつも寄り添ってくるし。 変態だって分かった瞬間、逃げていく子が多数だけど。 「顔もカッコイイけど…」 葵は恥ずかしいと言わんばかりに、顔を紅潮させる。 「人前であんなこと平気でいえるなんて、何か…羨ましくて」 ……。 俺は黙る以外のことが出来なかった。 だって、あんなヤツを羨ましいって言うんだぞ? 俺は絶対憧れたくないな。 憧れたくないランキング第一位だ。 「あーさひくん」 葵との話が終わると慎也がやって来た。 「なか、だくん…」 葵は顔面が沸騰するくらい赤面し、階段を下に駆け下りていった。 「あ、葵!」 俺の止める間もなく。 「あれ、もしかして俺、邪魔した?」 「そういうのじゃねえよ。お前と一緒にすんな」 慎也を無視して教室に戻ろうとする、と彼は俺の肩を掴んだ。 「次の時間部屋班決めるだろ? 旭、俺と一緒にならねえ? 二人一部屋だからいいことし放題だぞ」 部屋班…とは、来月の合宿の部屋班のこと。 「ぜーーーーったいに断る!」 「何で? 昨日セックスしたんだから、二回目以降も同じだろ?」 「だが断る。っていうか二回目以降が何であるんだよ!」 部屋班だから女子と一緒になることはないが、 慎也の場合男子でも平気で夜這いとかするだろう。 コイツと同じ部屋になる人には申し訳ないが、俺は絶対却下だ。 「旭もツンデレだよな。せっかく俺が誘ってんのに」 と、俺を抱きしめ耳元で囁いた挙句、舐めてきやがった。 「!!!!…なにするんだよ、アホ! 変態!! お前は誰とでもいいんだろ!? じゃあ葵を誘えよ」 「葵くんは隣のクラスだから、一緒になれないだろ。それに」 慎也は俺の視線上に、目を持ってきた。 俺のことをじっと見つめ、 「俺は旭がいいの。旭としたい」 「俺はしたくありません。というわけで断固断る」 そして毎度のことだが何故すること前提なんだ。 「じゃあしたくなるようにしてやるよ。合宿までにな」 またもや慎也は俺の耳たぶを舐めた。 「…ぁっ、やめろって!!」 そういってやめるような相手ではない。 「慎也…っ、ほら、チャイム鳴ったぞ」 休み時間終了のチャイムが鳴り響いた。 「あー嫌だー絶対中田とはなりたくない。 誰となってもいいから、先生でもいいから中田だけは嫌だぁぁ」 四時間目、ホームルーム。 担任の先生が部屋割りの話を持ち出した途端、男子軍団からはこの非難だ。 ヤツの変態度合いが女子のみに発揮されるのなら、 思春期の男子のちょっと行き過ぎた感じととらえることもできるが、 …(何度も言うようで恐縮ですが)男子をも餌食にするからな。 奇遇だな、俺もそう思っている。 とクラスメートの男子に相槌を打つ。 …奇遇ではないな、必然か。 そんな中、当の本人は窓際の一番後ろの席で――。 「中田、ホームルームとはいえ授業中だぞ。本をしまえ」 エロ本読んでました。 先生に注意されると慎也は、 「先生。先生はスカトロに興味ないんですか? 俺はあります。だから読んでいるんです」 と、持っているエロ本を前に突き出した。 いや、全く持って意味が分からん。答えにもなってないし。 「いや…もういい。なんでもない」 先生諦めちゃいましたよ。まぁコレも日常茶飯事みたいなもんだから。 学級委員が教卓のそばに行き、では部屋班を決めてくれと言った。 当たり前だが、みんな慎也に近づかない。 本人はまだスカトロ専門誌を読んでいる。 よし、今の内に違う人と組んでおこう。 「瀬戸、誰か決まってる?」 「あ、悪い。中田予防で大分前から決めてる」 「そ、か。桜田は?」 「俺も」 その後何人にも聞いたが、決まって答えは同じだった。 ちくしょーっ 俺も"中田予防"しておくんだった。 みんなそんなに嫌か。…当たり前だわな。 慎也は友達にはしたいタイプだけど、恋人は絶対に嫌だよな。 やばい。やばいです。 本気で早く決めないとマジで慎也とになってしまう。 あんな歩く性欲のカタマリと一晩でも同じ部屋で過ごすとどうなることか。 想像しただけでぞっとする。それでなくても俺の貞操は無茶苦茶なのに。 女子側はもう全員決定していた。 焦って辺りを見回すと、一人で居る人がいた。 「あ、…」 声をかけようとしたが、なんかかけづらい。 あまり、というか一言も喋ったことのない人だし。 いや、でも慎也となるよりは数段も数十段もマシ。 この機会に仲良くなれるだろうしな。 「あのさ黒崎、誰もいないんだったら、俺と…」 「え、あ…?」 黒崎は戸惑っている。 なんか俺、踏み外してる? 「雪代…、あの俺で良かったら…」 「ダメー旭は俺となるから」 アホが背部から抱きついてきた。 「黒崎くんはいつも津田くんと一緒にいるだろ? 旭は俺のものだからダメ」 津田は今日、インフルエンザで欠席だった。 ていうかお前…せっかく黒崎が了承しかけてくれたのに(身の危険が回避されそうだったのに)、 なんてこというんだよ。 そしていつ俺はお前のものになったんだ。 あと離れていただけませんか。すごく鬱陶しいです。 続き
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episode13-2 ≪千秋目線≫ あいつの姿が見えなくなってから愁に視線を向ける。 「初めてナオ君と話したよ。……良い子そうだね」 「良い子だよ」 ふふっと愁が柔らかく笑う。 その幸せそうな笑顔が俺の心を締め付ける。 俺はスゥッと深呼吸をすると愁に向かって口を開いた。 「あー……愁」 「何?」 「……俺、あの子に俺達が昔付き合ってた事言っちゃったから」 「っ……!?」 サァッと愁の顔色が変わったのが見て取れる。 まあ、数年も前に別れてて今は友達だと思ってる奴に言われれば当たり前だろうな。 「別に本当の事でしょ? こーいうのは後々バレる方がこじれるんだからさ。早くぶっちゃけるに超したことはないでしょ」 「……それはそうなんだけど」 愁は家に戻ってからの事を考えたのか、長い睫毛を伏せて何とも言えない様な複雑な表情を浮かべた。 「何そんな難しい顔してんの。まあ、あん時は……何つーの? 若気のいたりってやつ? 安心しろよ。今は愁の事なんてなんも意識してないから」 ホラ、午後の授業始まるよ? なんて軽く笑ってから愁の背中を押して教室に入る。 ――心の中は全く違う事を考えていたけど。 全く、自分でも本当に良くこんな嘘が吐けると思う。 なんで俺じゃなくてあいつなんだろう。 従兄弟だから? ……俺だって、中学の時から愁の事をずっと好きなのに。 もちろん今でもその想いは消えなくて、そしてこの先も消える事は無いだろう。 さっきあいつにも言ったけれど、別に仲を壊してしまう事なんて簡単にできる。 二人の関係や昔の俺達の関係を言うだけでも、相当周りは引くだろうし。 でも、それをしないのは……愁の事が好きだから。 愁の悲しむ姿を見たくないし、愁には好きな奴と幸せになって貰いたい。 ……その好きな奴が俺だったらと、もう何回思っただろうか。 でも生憎、恋愛って奴はそんな単純には成立しない。 愁と別れても友達の関係が続いている事をむしろ感謝するぐらいなのに。 そもそもあいつがこの学校に入学するって聞いた時から、なるべく顔を見ないように避けていたし、もし会ったとしても俺達の事を言うつもりも無かった。 勿論さっきだって本気で襲うつもりなんて毛頭ない。 でも、面と向かってあの“当然のように愛されてます”って顔を見てたら、俺の内側からどんどん黒い物が噴き出してきて歯止めが効かなくなってしまった。 ……俺はただ、愁を好きな奴が此処にも居るって事を伝えたかっただけなんだ。 ーー授業はすっかり始まっているけど、俺の耳には一切入ってこない。 離れた席で教科書に目を落とす愁の横顔をぼんやりと見詰めながら、俺は三年前――中学三年生の冬を思い返していた。 × × × 3年前 回想 《千秋目線》 × × × 男とは、心と体は別に機能することが出来る生物だと改めて実感する。 それはある意味博愛で、そして残酷でもある。 「もっとキスして」 そう言って自分から愁の唇を塞ぐ。 深く舌を差し入れて貪るように接吻けを交わすと、最終的には愁の方から苦しくなって頭を離そうとする。 俺はそれでも頭を押さえて離さない。 付き合ってから、これで何度目の行為だったかな。 するとなったらキスも前戯も何もかも最後までしてくれるけど、愁から求められたことは一度も無い。 ……身体は満たされても、心は決して満たされない事を知っているから。 俺に言わないだけで、愁には別に好きな人がいる事はとっくに気付いているんだ。 そして、俺がその人の代わりになれない事も。 ――それでも、俺は愁が好きなんだ。 「ん……、ふ」 愁の物を銜えて精一杯の奉仕をすると、愁は眉を寄せて声を出さずに快感に耐える。 声出してくれた方がやり甲斐あるのに。 チラリと横目で俺の顔を挟む内腿に目線を向けると、小さなホクロが目に入った。 愁にホクロなんて珍しいな。 口から手に変え、動かし続けながら顔を横に向ける。 ホクロを舐めとるように舌を這わせると、やっと愁の昂った声を聞く事が出来た。 「……ぁッ……千、秋……何……」 「愁。もう乗っていいでしょ?」 愁と付き合うようになったのは中3の夏から。 入学した時から愁は普段決して目立つような行動はとらないけれど、その美しさは群を抜いていた。 1年の時はクラスが違っていたけれど、時折見かける愁の周りにはいつも人がいて、優しい笑顔で会話していたのが印象的だった。 2年になって、同じクラスになった時は嬉しくて嬉しくて。 誰よりも愁と仲良くなって、いつか時が来たら俺の気持ちを言おうと決めた。 でも、仲良くなればなるほど話に「ナオ」という言葉を耳にするようになる。 ――直人っていう従兄弟がいるんだけど、その子が――。 ――ナオは俺達の学校に行きたいみたいで――。 ――ごめん。今日はナオの家に寄って帰るって約束したんだ。 嬉しそうに話すお前を見て、姿もわからない相手にどれだけ俺が嫉妬したと思う? 俺は愁のネクタイをシュルリと解くと馬乗りに跨った。 「愁。今日で最後にする。せめて最後は……俺を……ナオ君だと思っていいよ」 ネクタイを愁の目に巻き付け、きつく結んで視界を遮る。 「何言って……!? 千秋っ! これ外……!」 そのままもう一度深く接吻けをする。 幻でもいい。本気で、愁に愛されたい。 「愁、ちゃん……」 耳元で囁くと、途端に愁の身体が反応し始める。 「っ……! その呼び方やめっ……」 「愁、ちゃん。……挿れるね?」 グズグズにほどけた自分の蕾に愁のモノをあてがい、ゆっくりと腰を落としてゆく。 ズズッと卑猥な音が身体の中に響く。 俺が基本受け役なのは、やっぱり受けの方が愛されてる感じがするからって理由だけなんだけど。 「ふ……っ……」 「愁、ちゃん……?」 もう一度、愁の耳元で囁く。 最初は抵抗していた愁も、視覚を失い快感だけを与え続けてやれば、次第に倒錯状態に陥っていった。 「……んっ、……ぁ……」 「……愁……ちゃん」 心はひどく傷ついているのに、初めて愛されているような感覚に包まれる。 愛情。嫉妬。虚無感。幸福感。 一度に余りにも多くの感情を抱えすぎて自分が保てなくなりそうになる。 自分で望んだことなのに、もし今あいつの名前で呼ばれたら自分のネクタイで絞め殺してしまうかもしれない。 快感だけに集中しろ。そう決めて、俺はまたゆっくりと腰を上下に動かしていく。 頭が蕩けそうになるのを必死に堪えながら、掴んで抑えていた愁の手を俺のモノにそっと触れさせる。 愁は促されるまま両手でゆっくりと包み、愛撫し始めた。 壊れ物を扱うように、優しく、丁寧に。 「愛し、てる……」 「俺、も……」 ……初めて愁の口から本当の愛の言葉を言われた気がするよ。 愁が俺の顔を見れない事で気が緩んだのか、大粒の涙が頬を伝った。 episode13-3 《直人目線》 ――あれから午後の間どうやって過ごしたかほとんど覚えていない。 気がついたら自分の部屋のベッドに腰掛けて、ぼんやりと壁を見詰めていた。 家に着いたら愁ちゃんの方が先に帰ってきているかと思ったけれど、どうやらオレの方が早かったみたいだ。 美倉さん……と愁ちゃんがオレより前に付き合っていた? 最後に二人が並んでいた場面が頭の中でフラッシュバックする。 背の高さも同じぐらいで、どちらも見とれるほど格好良い。 あれが本当のお似合いカップルって奴なんだろう。 オレ……愁ちゃんのこと……一体どれだけ知ってたのかな……。 コンコンとドアがノックする音に続いて「ナオ」と愁ちゃんの声がした。 愁ちゃん、いつの間にか帰ってきてたんだ。 「ナオ、……入ってもいい?」 ドア越しに遠慮がちに話し掛けられる。 「……」 口を開いたものの、言葉が出てこない。 しばらくの間。 足音がしないって事は、ドアの向こうではオレの返答を待っているんだろう。 聞きたくない……けど、聞かないと前に進めない気がする。 オレは決心して深呼吸すると、いいよとドアの向こうに声を掛けた。 ゆっくりとドアが開いて愁ちゃんが入ってくる。 ポスリとオレの横に腰掛けると、静かな声で話し始めた。 「千秋から……どこまで聞いたか判らないけどーー」 「全部知りたい」 愁ちゃんの言葉を自分の言葉で遮る。 「愁ちゃんの事、好きだから……全部知りたい」 まっすぐ愁ちゃんの瞳を見詰める。 愁ちゃんは少し驚いたような顔をしたけれど、しばらくの沈黙の後、わかった、とゆっくり話し始めた。 どれもこれも初めて聞く話ばっかりだった。 オレと初めて会った時から想ってくれていた事。 嫌われるんじゃないかとずっとその想いを黙っていた事。 そして……美倉さんとの事。 話を聞いている内につまらない嫉妬心は掻き消えて、愁ちゃんの言葉一つ一つに涙が出そうになる。 「千秋には悪いと思うけど……昔も今も、俺が愛してるのはナオだけだよ」 愁ちゃんは話の最後をそう締め括った。 言葉が、心に染み渡る。 美倉さんの事を思うと、むしろこんなに愛されて申し訳ないような気さえしてしまう。 オレも……愁ちゃんにその分の愛をちゃんと返さなくちゃ。 「あのさ、……オレ、背伸びたよね?」 「え? うん、伸びたね」 唐突な質問に愁ちゃんが戸惑ったような声で返答する。 愁ちゃんにはまだ足りないけど、小学生の時からは確実に伸びている。 「だから……オレ、もう子供じゃないよね?」 「? ……何? いきなり……わっ」 愁ちゃんの肩を掴むと、そのままポフッと自分のベッドに押し倒した。 「愁ちゃんがオレの事好きで居てくれてるように、オレも愁ちゃんの事愛したい。だから……今日はオレが上になる」 「なっ……ナオ、本気で言ってんの?」 思わぬ提案に、さすがの愁ちゃんも少しだけ焦った表情を見せる。 愁ちゃんが焦るとことか久しぶりに見た。 いっつもオレが照れて焦ってばっかりだったから、ちょっとはオレも成長したのかも。 「本気じゃなきゃ、こんなこと言わないよ」 安直な考えだけど、そうしたら愁ちゃんの事が本当に全部知れる気がするんだ。 「愁ちゃん。オレの事好きになってくれてありがとう」 「ナオ……」 そう言ってオレは、初めて愁ちゃんにキスをした時のようにそっと愁ちゃんに唇を近づけた。 長い睫に縁取られた愁ちゃんの瞼に接吻けを落とす。 愁ちゃんはゆっくりと瞼を上げ、至近距離で柔らかく微笑んだ。 オレもニコリと微笑みを返して今度は首筋にキスをする。 そのまま鎖骨辺りまで舌を這わすと愁ちゃんの身体がピクリと反応を示した。 いつもの愁ちゃんの真似をしてチュウと吸い付いて唇を離せば肌に桜の様な痣が残る。 「愁ちゃんにも……キスマーク付けちゃった」 「好きなだけ付けていいよ。後でお返しに俺も付けるから」 クスクスと愁ちゃんが楽しそうに笑って首筋に顔を埋めてくる。 今日はオレが攻めなのに、なんだかやっぱり愁ちゃんに攻められてる気がする。 「指……入れるね?」 「……うん」 自分の唾液で十分に濡らした指をそっと差し込むと、クチュリと内側の粘膜に触れる感覚。 そこは口の中の様にしっとりと薄い膜で被われていて、それでいて蕩けるように熱を持っていた。 「……っ」 ヒュッと愁ちゃんが短く喉を鳴らして息を吸う音が耳元で聞こえた。 痛くないか不安になって愁ちゃんの顔を覗き込む。 「大丈夫? 痛くない?」 「痛く、ない……よ」 今まで見た事無いような表情がオレを一層ドキドキさせる。 上気した頬や、吐く息すら艶めかしい。 爪を立てないよう慎重に指を擦り動かすと、他とは異なる感触を指先が捉えた。 そこに触れた瞬間、愁ちゃんの腰がヒクリと揺れる。 オレが何度も感じた事があるあの感覚。 多分、ココが愁ちゃんの“イイ所”なんだろう。 グゥッと指の腹に力を入れて押し付ける様に撫でると、愁ちゃんが唇を噛んで快感に応える。 「ふっ……ナ、オ……そこ……」 小さく喘ぐ愁ちゃんは鳥肌が立つ程妖艶で、愁ちゃんがもっと気持ち良くなるように何度も何度も指を往復させていると、急に愁ちゃんにグイと頭を強く引き寄せられて唇を奪われる。 今まで以上に激しいキスで、苦しくなって唇を離すと銀色の糸が俺達を繋げる。 自分から離したのにその糸が切れてしまうのがなんだか悲しくて、途切れる前にもう一度深く唇を重ね合わせた。 気を抜くと指の動きが疎かになっていて、愁ちゃんに耳元で止まってるよ、と囁かれる。 攻めるのって案外難しい。 今はオレじゃなくて愁ちゃんをより気持ち良くさせたいのに、気付けばすっかり受け身体勢になっている自分がいる。 でも、感じている愁ちゃんを見ていたらオレの方が先に我慢できなくなってしまった。 多分……もう良いよね。 オレはゆっくりと指を引き抜くと、自分の腰を擦り寄せて少しずつ前へと押し出していった。 「っ……」 思った以上にそこはきつく、ギチギチと入り口で止まってしまってなかなか愁ちゃんの様に上手くいかない。 無理矢理進めても愁ちゃんが痛がりそうで怖い。 オレが戸惑っていると愁ちゃんが苦しそうな顔を少し微笑ませて口を開いた。 「……っはぁ……ナオの気持ちはもう十分伝わったから……無理しなくて良いよ」 「で、でも今日はオレがっ……ぅわっ」 そのまま胸を押されてベッドの上でくるりと上下反対に体勢を変えられてしまう。 上目遣いで悔しそうに愁ちゃんを見上げると、瞼に優しくキスを落とされた。 「たまにはこういうのもいいけど、やっぱりナオの可愛い声が聞きたい」 ぴったりと額を付けて話しかけられる。 愁ちゃんの瞳に自分の顔が映ってるのが見えた途端、なぜか今までのことを急に意識してしまって顔が一気に火照ってくる。 「ナオの続きはまた今度ね」 ああ、今回こそ照れないって思ってたのに。 さっきまで優勢だったのに、形勢逆転。やっぱり愁ちゃんには敵わない。 オレは半ば諦めて、愁ちゃんのリードに身を任せゆっくりと目を閉じた。 × × × 続き × × ×
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36: 名前:血桜☆05/01(土) 15 26 49 早速来た。 「よぉよぉ姉ちゃん達ぃ~?今からここの路地裏でパーティー やるんだけどよぉ?一緒にこねぇ?」 あーあ・・・、はまりました。 まぁ、演技で誤魔化そう。 「いっ、嫌です!」 すると、肩を掴んできた。 本当なら、「キショいんだよ!この変態男!お前は豚でも相手してろ!」 て言いたいけど我慢。 「いいじゃねぇかよぉ?ホラ行こうぜぇ?」 「すっ少しだけなら・・・・?」 よぉ~し、作戦成功♪ 路地裏に連れて行かれた。 二人でガタガタ震える真似 「なっ何のパーティーですか?」 男は、チッチッチッと指を振ると言った。 「そりゃあお楽しみィ!」 コソッと耳打ちしてきた 「幽美?もうやるよ?」 よぉ~し!パーティー内容変更! 麻薬パーティーならぬ、血塗れパーティーに変更♪ 41: 名前:血桜☆10/12(火) 19 04 35 私は、男をとっ捕まえた 「うあっ!何すんだこのアマ!!殺すぞ!」 問答無用で男の背広を引っぺがし、胸ポケットをさぐる 「見~~~っけ♪」 私は、男の目の前に白い粉の入った小袋を掲げた 「やっやめろ!それは!!」 闇は、ニヤリと笑い、 「『それ』ってなぁに?」 と聞き返した 私は、袋を引き千切り、口のなかに粉を放った 「がはっ!けへっ!」 咽た、水……、ま、いっか 男はワナワナしている 男の声を聞きつけたのか、他の仲間がやってきた 粉塗れの私の口を見て、驚いていた 「んなっ!てめ、何して……!」 粉を舌で舐め上げる そして、小刀を取り出す 「あんたら全員捧げ物!悪く思わないでね!」 男に切り掛かろうとした その時だった ダァン!!! 一発の銃声が鳴り響いた 男の仲間が発したものなのか 弾丸は、私の左胸に飛び込んできた 血が飛び散る 男が笑う 44: 名前:血桜☆10/15(金) 19 16 50 一瞬の沈黙 弾けるように散った薔薇の花は、茎と供に地に落ちた 「幽美ィィィィィィ!!!!」 叫び声に消された夜の静寂 闇は、キッと男を睨む 「おぉっと?お前も撃ち殺されたいか?そこを動くな!」 すると、何を思ったのか、闇は小刀を取り出した。 闇は、小刀を胸に垂直に突き刺した 「グァッ……。」 血が垂れた 闇は呪文を唱えはじめる そして ザシュッッ 小刀を、奥底に突き刺した 青く染まる二本の薔薇 それを嘲笑うかのように下を見る男 闇は、嬉しそうに、何かを予知するように 幽美に向かって囁いた 「幽美?貴方に決めた。次の呪魂の魂を継ぐ者…… 私は貴方を離さない。地獄の果てまで貴方に一生を 捧げ……る……。」 ドサァッ 『いい気味よ……、ニンゲン……』 45: 名前:血桜☆10/17(日) 15 22 01 二人の少女は動かなくなった 「フン、これだからガキは困るんだよなぁ、 何ゴッコしてたんだか知らないが、あの世で楽しく遊んでらぁ。」 ザッ 男は、そのまま帰ろうと後ろを振り返ろうとした 「これ、ずっと脳味噌ン中にあると痛いんだよねぇ。 オカエシシトクワ、オロカモノ。」 男の目の前には、この世の者とは思えない声を発する、 撃ち殺したはずの少女だった 少女の手のひらには、男が撃った銃の弾 弾は血塗れだ そして、撃ち込んだはずの場所にはキズ一つ無かった 「なっ……、おまッ!何者だ!!」 ふ、と笑みを零し少女は答える 「私は、霊河鈴、違う、呪魂様に魂を捧げる生贄となりうる ニンゲンを捕らえる死霊…… 幽美と呼びなさい!!!」 ザシュッ 白い刃を持つ鎌を振り上げ、男を一刀両断した 鎌の色は、透き通るように白く、赤い月のように妖しく光る。 「闇、貴方には、これから長らくお世話になるね。 ヨロシク、『闇月火』(ヤミゲッカ)」 幽美は、鎌に向かい呟いた、まるで、闇に向かって呟くかのように 幽美の持つべき鎌の名は、『闇月火』 48: 名前:血桜☆10/27(水) 20 27 31 幽美は、神社に戻る 途中で、何を思ったか立ち止まってしまった 握っていた鎌を、両手で熱く握った ポタッ 「へ……へへ……う……。」 ポタタッ ポタッ 「雨が降ってきた…… うっ……ひっ……。」 雨じゃないくせに、偽りの体のくせに 自分の涙なんて 知らない 知らない 「うっ……うああああぁ!!!!」 うるさい 雨音がうるさい うるさいってば 「大雨……、うっく、ひっく……」 うるさいのに 止められない 「やっ……。」 「『夜美』……。」 闇 闇 闇 夜美 夜美 「いやだ……、寂しいよォ……、闇……。」 夜美はいない 楽しかったあの頃には戻れない 夜美はいない 闇もいない 闇もいない 鎌に語っても、返事が聞こえるわけじゃないのに 聞こえるかもしれないけど また、雨が降るから 語りかけない__ 永久に 闇はいない 闇の代わりに得た重い武器を抱え、 私は、語らずに永久を過ごす 「私が」 私が呪魂様を継ぐんだ 闇と会う為に さよなら 『夜美』 またね 『闇』 58: 名前:血桜☆11/07(日) 18 57 52 夜の道に、妖しく光る赤…… それは、少女の持つ哀しき鎌の輝きか それは、哀しみに暮れた少女の瞳か 悪魔のような紅蓮の瞳を輝かせ、たった今作ったばかりの 骸の山を見下ろす ああ、なんと心地良いのか 人魚の振るう鎌は、昼は、海のように青く、深く輝き、 夜は、血のように赤く、あの空の月のように赤く…… あの少女の瞳のように赤く…… カガヤイテイタンダ キレイダネ ザンコクデ、カナシクテ 少女は呟く 「貴方はキレイだよ、闇。」 血の涙を流し、少女は歩く、自分が上へ行く為に 『鈴』という名を捨て、幽美という名を貰い受け、 「例え人が滅びようと……。」 ヒトリボッチになろうと構わない そばには闇がいるのだから 「例え人が滅びようと……。」 ワタシハ…… 76: 名前:血桜☆11/08(月) 18 12 05 久しぶりに、私と闇の仮の家に帰った 闇の使っていた枕がある。 「いいにおい……。」 胸が熱くなった テレビを付けると、あの学校が映っていた 「行方不明者続々……?」 行方不明者のリストが映った 最後の二名の所に…… 桜井 千桜 桜井 美桜 と載っていた プッと吹いてしまった 人間って オモシロイ 一旦ちょん切る 84: 名前:血桜☆11/09(火) 09 36 49 テレビを消し、風呂に入り血を流し、服も着替えた 髪の毛を束ね、外に出た。 「今日は……。」 呪魂様の命日 久しぶりに神社に行った 神社の裏を通り、がしゃ髑髏が散らばる細い枝道を通る 道には血がべったりと付いており、薄気味悪い 小さなお堂を見つけた その前には、山のように骨が積まれていた 彼岸花を置いて、その場をさった。 「サァ、ヒトヲカラネバ……、キョウハジュゴンサマノメイニチ… マッテテネ、闇」 外に出ると、月が出ていた 闇を失くした日と同じ 夜美を無くした日と同じ 赤い月が、妖しく光っていた 瞳なき瞳は赤く光り、今日も人を狩るぞと狙っている。 今は無き友の鎌とともに リィーーーー………ン 101: 名前:血桜☆11/12(金) 19 07 45 100記念!特別読み切り 番外編【闇の過去】 炎の中に聳える幼き少女は ワ ラ ッ テ イ タ ン ダ 少女はいつも【不吉】と呼ばれた 黒い透き通った髪に金色に輝く瞳 闇に紛れ瞳を輝かせる黒猫を思わせた 黒猫を不吉と呼ぶ者は多い しかも、彼女は赤と黄色のオッドアイ 悪魔にも勝る美しさを周りの者は嫉み、その瞳を嫌った 両親は、少女の赤い瞳を刳り抜いた 少女はもがき、苦しんだ。 まだ五歳の幼い少女に、何の罪があろうか この世の者とは思えぬ声を発して苦しみ、赤い血を流し気絶した。 両親は目玉を売り払い、少女を残して消えた 親戚を転々としていったものの、全ての者から嫌われた 『みぃちゃん、何もしてないのに……』 自分をみぃと呼んだ少女は、ポロポロと涙を零した 少女は、【人魚姫】という絵本を読んだ 『なんで、おひめさまは自分をさしたのかなぁ。』 幼い少女は考えた 答えをみつけた。 じぶんはいらないそんざいだからかなぁ 「なら、みぃちゃんもいらないから、さすんだよね!」 包丁を掴んで呟いた 「みぃちゃんを可愛がってくれる人、お空の上にいるかなぁ?」 少女は、【お空の上】で一匹の人魚を見つけた 火傷が全身に広がっており、少女と同じく片方の目が無かった。 「やけど、いたいの?みぃちゃんも、おめめ痛かった!仲間だね!」 ニッコリと人魚は笑った 人魚の笑みは、とても優しかった 今まで少女に向けられてきた笑顔は、優しいものはなく、気色の悪い 欲に塗れた笑顔だった。 人魚が口を開いた 「私を信じて?」 何のことかは分からない ただ少女は、笑顔で、 「うん!!」 と笑った 炎の中に聳える幼き少女は ワ ラ ッ テ イ タ ン ダ― ザンコクな笑みを浮かべて END 107: 名前:血桜☆12/11(土) 21 07 45 「嫌!助けて!お願いだから!」 「やめろ、やめてくれ!やめろぉぉ!」 鎌を振れば、何時だって首がとれる 鎌を構えれば、何時だって悲鳴が木魂す 鎌があれば― 何時だって、人は死ぬ 「死んで……、呪魂様の為に……。そして、私の夢の為に。」 あぁ、堕ちてゆく 何時からだろう こんなにも笑顔になったのは 人は脆く、崩れ落ち、私は快感の海に溺れる 人一人殺すだけで、【また一つ、闇に近づける】 その想いだけが、私の重く残酷な鎌を操っていた 人は、最後の一人となった時― どんな想いを抱くだろう 私には考えられない 私は、人間だった 最後くらい、人間らしく、二人まとめて殺してあげる 一人より、絶望感が少ないから 優しい―…… でしょ 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 ザシュッ 「や……やったぁ。」 皆、皆、皆、皆 ぜーんぶ 「死んだぁぁーーーーーーーーーーッ!!」 次から次へと湧き出てくるこの感情 血の雨が降り注ぐ 地面は何時の間にか赤く染まる 今まで私が殺した人間の血が降って来た 狂い、一人の為に多くの者を殺めた 手は、赤から黒に染まり 血が滲む程に鎌を握り締めた 痛みがジワジワと身体を蝕み、快感へと姿を変える 何もかもが狂い、全てを失くした島に、少女が哂う。 全ては― 私が呪魂様に仕えた事から狂い始めたこの歯車 ドクンッッ 急な衝撃が、少女の哂いを 歯車を止めた この世がフリーズしたかのように、 何の音もしない 何も動かない 少女は倒れた 少女は、血の涙を流した 「何もない……、全部殺しちゃった…… 私、ヒトリボッチ……?」 この世のフリーズが止んだ 思考回路はショートする 歯車は、おかしな方向に回り始めた 少女は、今までの感情に襲われた 痛み 恐怖 嘆き 憤怒 孤独 狂気 哀しみ そして― 闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇― 「ぎゃあああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!」 「やだ!やだ!やめろ!黙れ!黙れ!死ね!消えろ!」 「私は何も無い!無い!無い!消えた!全て消えた!」 「や………だ……、きえ……ろ―」 ブチッッ ザー―…… 耳にノイズが聞こえた― 108: 名前:血桜☆12/11(土) 21 17 35 「ねぇ、これで良かったのかな」 「うん、貴方はもう、こんな思いしなくていい」 「夜美、これからはずっと一緒?」 「うん、鈴、離れちゃダメだからね?」 ノイズが止む 少女は、負の感情という鎖から解き放たれた その瞬間― 島から、わずかな吐息が消えた― END 109: 名前:血桜☆12/14(火) 21 00 17 Thanks☆☆**v(o^(ェ)^o)v。o○。o○ネ兄○o。○o。v(o^(ェ)^o)v**☆☆Thanks キ…(-_-)キ(_- )キ!(- )キッ!(. ゚)キタ!( ゚∀)キタ!!( ゚∀゚ )キタ━━!! 人魚の生贄 ~お次はだぁれ~ やっと……、完結ゥゥゥ!!。*†*。☆ャッ(@^Å^@)タァ-☆。*†*。 この小説が完結したのも、応援してくれた読者の皆様のおかげです! 最後は、哀しいENDにしたつもりですが、最後まで何が何だかよく分からない小説でした……・・・( ̄▽ ̄აა)ゞ・・・ そっ、それはともかく、最後まで読んでくれた読者さん! 感謝の気持ちでいっぱいです!念願だった100レス突破も! 嬉し過ぎて、家ン中洪水中です!(なんか水がしょっぱい) 。・°°・(*1))・°°・。ウワーン!! これにて、終わりましたので…… また新しい小説書こうかなと考えております! では、また縁があったら、どこかでお会いしましょう! (○≧ω≦)ノ彡* ..。o○Bay☆Bay○o。.. *⌒Y⌒Y⌒☆
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151: 名前:マロン☆11/02(月) 私とユキちゃんは見つめあったままだった 何もしゃべらず静まり返っていた時ユキちゃんがしゃべりだした 《ユキチャント貴方ハ同ジダネ? 貴方モ未那ッテ子ガ憎インデショウ? 殺シタインデショウ? ユキチャンハネ、クラスノ皆ニ虐メラレテイタノ》 なんで私に話すのよ? 私とユキちゃんは違うもん!! 私は、ユキちゃんと違っていじめられてなんかいないし 祐梨亜に仲間って思われているもん!! 「わ…私は…貴方とは違う!! 私はあなたと違うわッ!!貴方と一緒にしないで!!」 私はユキちゃんに向かって叫んだ だけど、内心少しだけユキちゃんを信じてみようとどこか心の端っこで考えていた 私の言葉を聞いたユキちゃんは私を少し悲しげな眼で見つめると 《違ワナイヨ…ユキチャント優奈チャンハ同ジダモン》 そういうとユキちゃんは私のほうへと歩み寄ってきた 153: 名前:マロン☆11/05(木) 22 33 20 ユキちゃん目線 優奈チャントユキチャンハ違ワナイヨ… ユキチャンハ、優奈チャンノコト思ッテ言ッテイルノニ… 優奈チャンハ、ユキチャント同ジダヨ 優奈チャンモ虐メラレテイルヨネ? 『未那』ッテ言ウ女ノ子ニ… 祐梨亜チャンモ優奈チャンノこコトナンカ心配シテナイヨ? 皆、優奈チャンノコト嫌ッテイルンダヨ? ナンデワカルカッテ? ダッテ…優奈チャンハ ユキチャンノ生マレ変ワリダカラ… ユキチャンノ家ハネ? 必ズ、胸元ニ黒イ竜ノアザガアルノ ユキチャンニモアルヨ? ア…デモ、彫刻等デ八ツ裂キニサレタカラ 残ッテイナイヤ 名前:マロン☆11/07(土) 11 58 31 新井優奈目線 「こっち来ないでよ…なんでこっちくんのよ?!」 ユキちゃんは確実に一歩一歩私のもとへと歩み寄ってくる 私は逃げようとしても足がセメントに埋められたのかのように動かない 「嫌ァ!!来ないでェェ!!来ないでよォ!!」 私は、必死に抵抗した 私が抵抗している間にユキちゃんは私の目の前に来ていた そして、私の服のブラウスのボタンをブチッと女の子の力とは思えない 男の子以上かもしれない力ですべてのボタンをちぎり取った そしてそのボタンを廊下に投げると私の胸元にあるアザを見て怪しげに笑い 《フフ…ヤッパリアッタ…黒イ竜ノアザ》 と不気味に言った。ブラウスのボタンをちぎられ一瞬何が起こったのかわからない私はしばらく放心状態だったのかもしれない ユキちゃんの不気味な声でハッと我に返った私はやっと今の状態が分かった ユキちゃんが見ていたあざは、私が生まれた時からお母さんもおばあちゃんも先祖からずっと受け継がれているらしい …って今はそういう場合じゃない!! 私は、その場を走って逃げだす 右手でボタンをちぎられた所をぎゅっと握りしめながら 見られたくなかった… 誰にもこの胸元のあざを見られたくなかったのに この胸元のあざは私のコンプレックス的なもの このあざが嫌いで私は、昔ここを包丁で刺したことがある まあ、そんなグッサリとじゃなくてプスッぐらい 包丁で刺した場所が治ってもこのあざの一部が消えることはなかった それより、刺してもまた浮きあがってくる… 私は昔からこのあざを嫌って自虐を続けていた 162: 名前:マロン☆11/08(日) 21 23 18 ―10年くらい前― 私の年齢は今、14なんだ この話は10年も前の話になる 私が4歳のときに幼稚園であったプール遊びでのこと この時ってあんまり、男のからだとか女のからだとか気にしたりしない頃じゃん?(男子は下はいてたけど) だから、みんな裸になって夢中でプールで遊んでいた時のことだった 突然私の初恋相手の進藤歩(シンドウ アユム)が私の右の胸元を見て言った 「お前、その右のそれどうした?」本来はこんなにうまくしゃべれてなかったんだけど それを言われた私はその時になって思った 私の右の胸元にできているあざはどうにかならないのかって 誰が広げたのかわからないけどそれから幼稚園で私は虐められるようになった 私が幼稚園へ行くと皆必ず声をそろえてこういう 『うわァッ!!!こっち来るんじゃねーよ!!お前の体腐ってんだからさ』 私はその言葉を言われるたびに胸が苦しめられた 私だって好きでこんなあざ作っているわけじゃないし ―私の体は腐ってなんかいない!!!― しばらくは我慢できた私だったけど年長になったあの日だけは許せなかった 私は年長になって、幼稚園へ来た時のことだった 一人ずつ与えられているロッカーの中に鞄をしまおうとした時だった ロッカーを開けると猫の死体が入っていた 幼稚園で猫の死体ってお前らドラマに影響されすぎだっつーの!!今思えばこう思える 私はその猫を幼稚園のグラウンドの端っこにお墓を作って上げた 私は教室に入り、友達も誰もいない私だから静かに家から持ってきた本を読んでいた 年長にもなれば本は読める わからない感じのところはお母さんに振り仮名を振ってもらったし それに、この本は私の今はいないおばあちゃんが私に買ってくれた最後の本だし すると、誰かに本を取り上げられた その相手は、そう私の初恋相手進藤歩だった 「何?この本?意味わかんねーし!!こんなの捨てちゃおうぜ!!」 進藤歩は私が呼んでいた本を少し読むとすぐにつまらなそうな顔をして私の本を床に投げつけた 私は驚いて立ち上がる 歩は男友達がすごく多いので歩が床に投げつけた本をその仲間たちが拾ってどこかへ持ち去って行った 私は、クラスでもすごく足が速かったので男子にすぐに追いついた 私が男子たちの後ろの襟をつかんだ すると、驚いたのか男子たちは、私を押して外へと逃げ出した 私は、尻もちをついて転んだがすぐに立ち上がり男子たちの後を追った 167: 名前:マロン☆11/09(月) 21 27 09 先生たちが口々に「先生たちが行くからここで待ってなさい」と言っていたけど私は先生たちの言葉を無視した 幼稚園の外に出た私は辺りを見回す 見つけた!!男子たちが向かっている方面は、川のほう 私は直感的に嫌な予感がした 私は急いで男子たちの後を追う それから数分後。男子たちの走るペースが落ちている 私は全力疾走で男子の本を持っているやつを追い詰める そいつは、川がもう真後ろに来ているところまで逃げ切ったけど その先は、川だったし正面からは私が追い詰めているから逃げれなかった 私は、男子に少し震えた声で言った 「私さ…あんた達になんか悪いことした!!?あんた達に憎まれてもしょうがないようなことした!!? なんであたしばっかり虐められなきゃいけないわけ!!?」 私は怒りと悲しみを交えたような声で男子に怒った そう、何故私ばかり虐められるのか その瞬間だった。私の怒りに驚いたのかそれとも、私をいじめるためにやったのか今考えてもわからないが 私が追い詰めた男子が川に本を投げたのだ 川に本を投げた男子は少し驚いた顔をして、しばらく放心状態だった 私は放心状態になっていた男子を押しのけた川の中へと潜って行った 綺麗な川だったのが幸いだった。 もぐって、目を開ければ遠くのほうまで見えるほどきれいだった ただ、川の深さは小さい時の私で壁に手が着かないととても浮かんでいられる状態じゃなかった それで、やっとおばあちゃんが買ったくれた本を見つけることができた ビニールのブックカバーを付けていたし、川に入って直後に取れたからなのかあまりぬれてはいなかった 私は、その本を陸に置くと少し深呼吸をした だけど、近くにいた男子は面白半分に本をけってまた川へと落とした。 すごい勢いで蹴ったので遠くに飛ばされた 私は男子を睨むと本が落ちた場所へと泳いで向かった しかし、運悪くその場所は先ほど私が浮かぶために手についていたような壁もないし、先ほどの所よりも深かった 私は、大きく息を吸うと川の中へと潜った やばい…全然本が見つからない… おばあちゃんが買ってくれた大事な本なのに…!! ごめんね…ごめんねおばあちゃん!!必ず本見つけるから許してね 私は心の中で何度も何度もおばあちゃんに謝りながら本を探した だけど、本は見つからなくてもう諦めようと思って水面に上がろうとした時だった 足にとてつもない痛みを感じた そう、足がつってしまったのだ 足がつった私は、何とか水面に顔を出そうとしたけど足が痛くてたまらない 呼吸もできないし…苦しい… 私このまま死ぬのかなぁ? なんで私が死ななければならないのですか?神様 悪いのは幼稚園のみんななのに すべて私が悪いことになるのですか?神様 神様は私の味方じゃなくてあいつらの味方なんだ… 不公平…すぎる… 心の声とともに私の意識は遠くなっていった 174: 名前:マロン☆11/16(月) 12 13 27 目を覚ました私が最初に見たものは白い天井だった 目を覚ました私は、周りを見渡した そうか…ここ病院なんだ… 私助かったの…? 私は、横になっていた体を半分起こした 「私は…助かったの?それとも…死…んで…いるの?」 私は、震えていた。もし、自分が死んでいたらどうしようかとここが夢の世界で実際に私は川でおぼれ死んじゃったって その時、病室のドアが開いた 入ってきたのはお母さんだった お母さんは私が起きているのを見て目から大粒の涙をこぼしていた 「優奈ァ…生きててくれてありがとう…生きててくれて本当に…あり…がとォ……」 お母さんは私に涙を流しながら抱きついた これは、夢?それとも、現実? 「お母さん…私は…生きて……るの?」 私は、恐る恐る聞いてみた 本当は聞きたくないことだったけど 勇気を出して聞いてみた お母さんは私をさらに力強く抱きしめて 「優奈は生きてるよ……ちゃんと生きている」 お母さんは私を抱きしめながら優しい声で言った お母さんの言葉を聞いた私は今までずっと我慢していた感情があふれ出した 「う…うぁぁぁぁぁッ!!!」 大声で泣いた。声がかれるんじゃないかってくらい 最終的には声は枯れたんだけどね… お母さんからの話によると 私が全然水面に上がってこないから怖くなった男子たちが幼稚園の先生に言いに行ったらしいんだよね それで、先生たちは救急車とレスキュー隊?みたいな人を呼んだらしい 先生達は誰一人おぼれている私を助けようとしなかったんだと思うと怒りが込み上げてきたがそれは何とか抑えつけた それで、レスキューの人たちが川に潜って、おぼれている私を助けてくれたのはいいんだけど その時は、大量に水を飲んでいて危険な状態だったらしく すぐに病院に連れて行ったんだって お母さんが病院に着いたころには私は病室で寝ていたんだけど そのまま7日も眠り続けていたらしい お母さんの話を聞いた気がついた おばあちゃんが買ってくれた本は…!!? 「お母さん!!本はッ!!?おばあちゃんが買ってくれた本はッ!!?」 私は少し興奮気味にお母さんに聞いた お母さんは黙ってうつむいたまま答えない そっか…本は見つからなかったんだね… あはは…そっか…おばあちゃんが買ってれた…本は… 私は声を出さずにただただ、涙をこぼして泣いていた するとその時心の中の誰かが私に言った 全部幼稚園ノ皆ガ悪インダヨ 皆ガ優奈ト仲良クシテイレバコンナコトニハナラナカッタノニ… スベテ幼稚園ノ皆ガ悪インダヨ そうだ…すべてあいつらが悪いんだ 「殺してやる…」 呪いの鬼ごっこ-助かる確率1%-