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見よ!塾長は紅く燃えている 「わしが男塾塾長、江田島平八である!!」 「いえ、そのような大きな声を出さなくても聞こえますよ、江田島先生。 むしろ、そんな大声を出せばあたりの人に気付かれ」 「わしが男塾塾長、江田島平八である!!」 「…………はあ」 エリアでいえば、E-5にあたる川の傍の草原。 そこで、2人の男が会話をしていた。 1人は大柄な体躯に、見事なまでに髪のない頭、それでいて精悍な顔つきで立派なひげに和服を着た男。 もう1人は対照的に、端正な顔つきに金髪の優男といった印象の男だった。 大柄な男、江田島平八と青年、玉藻京介が遭遇したのはついさっきのこと。身構えた玉藻に江田島が「わしが男塾塾長、江田島平八である!!」と叫び、 玉藻が唖然としたところに江田島が自分はこのゲームに乗っていないことを申告。互いに自己紹介を始めたところだった。 ……ちなみに、もう江田島は自分の名前を叫んだのだから、さっきの自己紹介は本当は必要なかった、という ツッコミはしてはいけない。ていうかしても無駄だ。 「私は玉藻京介と言います。童守小学校で教育実習生をしています」 「ほう。教育実習生、ということはお主も将来は教師を目指すものか」 「ええ。今は見習いの身ですが、ね。いつか生徒達に学業を教えたいと思っています。 もっとも……それを叶えるためには、まずここを抜け出さなくてはなりませんが」 「うむ」 江田島はこのゲームに乗るつもりは全くない。 確かに人が生死をかけた戦いで自分を磨くということは知っている。 だが、これはそんなものではない。こんなものではそんなことは望めない、いや望んではいけない。 あのワポルという男はただ楽しみたいだけだ。そのような事は赦せない。 それにあの説明の時を見る限り、明らかに学生が何人か見受けられた。 若者は国の宝。その芽を殺し合わせて絶つなど、断じて赦せん! 「とりあえず、まずは人員を集めましょう。私たちだけではどうしようもありません。 私たちのように、このゲームに抵抗する人間はきっといるはず。その人たちと合流、結託。 それから、この首輪を外す方法なりを模索しましょう」 「うむ。それがよかろう。わしが男塾校長江田島平八である!!」 「それはもういいですから…」 玉藻があきれ果てながら、つっこんだ。 しかし、それはどうやらすこし遅かったらしい。 「ねえ。あんた、すっごい大きな声してるね」 声に2人が振り向くと、そこには白い布だけを羽織った銀髪の少年がいた。 「うむ。わしが「君は何者だい?」ある!!」 江田島の声を玉藻が遮り、少年に問う。 少年はすこし不機嫌な顔になった。 「俺が何者か、かー。……それは俺が一番聞きたいことなんだよ。 俺は自分が何者か分からない。脳細胞がずっと変異を続けててさ、どんどん記憶が失われてくんだ。 どこで生まれたのか、本当の名前がなんなのか、本当の性別も、親も分からないんだ」 「……君は何を言ってるんだ?」 玉藻が少年の奇妙な言動にいぶかしげな顔を見せる。少年はそれを無視して続ける。 「俺は自分が何者か知りたい。その為には、他人と自分を比べてみればいいと思うんだ。そうして自分の正体を探すんだ。 そう、他人の……――とさ」 「?今、何と言―」 次の瞬間、少年は玉藻の目の前まで接近していた。 一気に接近してきた。地を蹴って、ほんの刹那の間に。 (なんという、脚力!まずい、対応が…!) 玉藻が後ろに下がろうとするが、少年はそこで腕を振りかぶり、 玉藻に向かってそれが突き出され― 横からの鉄拳でその腕を防がれた。 「え!?」 「ぬおおおおおおおおお!」 鉄拳の持ち主、江田島が少年の伸ばした腕を殴り飛ばし、殴り飛ばされた腕に吊られて少年も吹き飛ばされる。 が、地面に激突するかと思った時、手を地面につくと、バク転のように体を回転させ、見事に着地した。 着地した少年は、驚いた顔で玉藻の前に出た江田島を見る。 「すげえ……今の力、ただの人間とは思えないよ!あんたもネウロみたいな魔人なの?!」 「魔人……?」 玉藻がその言葉に反応するが、少年はそれを意に介さず、江田島だけを見ている。 「俺のスピードにもついてこれたし……気が変わった。そこのお兄さんにしようかと思ったけど、やっぱあんたにするよ」 少年が身をくぐめるのを確認し、江田島も身を構える。 「玉藻よ。下がっておれ」 「……それがよさそうですね」 玉藻が江田島から距離をとる。この戦いに、自分は邪魔になる。そう悟った。 少年は喜悦に顔を歪ませ、言った。 「あんたの中身を、見せてくれ」 少年が地を蹴り、江田島に肉薄し腕を突き出す。明らかに細い腕、だがその力がとてつもないということは 既に江田島は先の拳で把握していた。少年の手は握り締められてはおらず、むしろ開かれている。じゃんけんで言えば、 グーではなくパー。ただし指を立て、掴むイメージのパーだ それに今江田島の目の前でおこる豪速、怪力が備わり、人間に直撃したならば……人間の肉がまるでワニに噛まれた ようにそがれてしまうに違いない。つまり、あれがどこに当たろうが危険だ。あの腕は、まさしく喰らい付くワニの顎も同然! 「ふん!」 その顎を紙一重でかわし、江田島も鉄拳を打ち出す。だが少年は身軽にそれをジャンプでかわし、今度は怪力の腕を振り下ろす。 江田島はそれを正面から拳で迎え撃つ 江田島の正拳と少年の腕が激突する。少年の開かれた指が江田島の拳に突き刺さる。 華奢な細腕とは思えない力。それが江田島の腕に一気に襲い掛かる。 「凄いなあんた!俺にこんなに対抗できた奴、始めてみた! あんたみたいな奴の中身を見れば、俺の中身もわかるかもしれない……なあ、何者なんだよあんた!ネウロみたいな魔人? まあ、後であんたの中身を見れば済む話なんだけどさ!!」 嬉々とした少年がもう片方の腕を空中で江田島に振りかぶる。もう一つのワニの顎が江田島に襲い掛かる。 「わしが何者か、知りたいか……」 「えっ!?」 が、次の瞬間少年の体勢が空中で崩れた。なぜか。 簡単な話。江田島が少年の指の刺さった拳を一気に引いたのだ。 ただ引いただけではない。それはもう恐ろしいまでの速さ。空中で踏ん張るものなどない少年は引っ張られ、 そして江田島に近づかせられる。 「あ、あんた…!まさか、この為に俺の指を……力を抜いてたのか!?」 全力を出して少年をただ吹き飛ばしてしまったらこうはいかない。肉を切らせて骨を絶つ。江田島は少年の力と自分の力が拮抗 するように、腕の力を調整したのだ。最初の手合いで少年の一撃が自分の全力より弱いと察した江田島は、目算でその力を調整、 ぶつかった時に瞬時に微調整をした。 力の調整、それは江田島ほどの男でなければそうそうできない所業である。 結果、少年は江田島に引き寄せられる。その先に待つのは、江田島の片方の鉄拳。 カウンター。こちらに向かう力と逆の力。その2つがぶつかった時、そのダメージは倍増する! 「わしが男塾塾長」 江田島の拳が少年の胴を直撃し 「江田島平八であーーーーーーーーる!!!!」 華奢な少年の体を紙のようにふっ飛ばし、埋まっていた指をも引き剥がし、少年は川の方へと吹っ飛んだ。 50メートルほど吹っ飛んだ少年の体が、無防備に川へと着水した。 やがて大きな水しぶきが上がったのを見て、江田島は安堵する 「あの者……恐ろしい相手であった。だがどうやら精神は童同然。是非わしが正しき道を導いてやりたいところだった……む?」 揺れる水面を見ていた江田島に奇妙なものが見えた 「あれは……何!?」 それはしゃれこうべ。要は、頭蓋骨。それが川の水面をいくつも揺れて動いているのだ。 さっきの少年のもの?いや、それにしては多い。川を漂い流れるいくつもの髑髏。それは果たして地獄のような光景。 百戦錬磨の江田島といえど、気を揺るがさざるを得なかった。 そして、そのわずかな心の隙を……『彼』は見逃さなかった。 「ぐうううう!!」 咄嗟に、地を蹴った江田島。だが、一歩遅かった。その背中を何かが大きく抉った。 江田島はその痛みに耐え、振り向きざまに拳を繰り出すが、彼はそれを軽々とかわした。 江田島の後ろにいた人物、それは当然1人しかいない。 「玉藻……お主……!」 「一気に致命傷を与えるつもりだったのですが……まさか背後の攻撃に気付くとは思いませんでしたよ」 江田島の怒りの視線を受けてなお、さっきまで友好的であった青年、玉藻京介は血の滴る刀、三代鬼徹を平然と構えている。 その表情には不敵な笑みが浮かんでおり、罪の意識はまるで感じられない。 「江田島先生。あなたはどうやら人間の中でもかなり強力な力を持っている方のようだ。 私はこのようなところで死ぬつもりはないのでね。素直に優勝するとしましょう」 「貴様!!」 裏切りに激昂した江田島が玉藻に向かって走り、拳を突き出す。だが、玉藻は先の少年のようにアクロバットではないものの、 身軽にそれでいて華麗にも見えるほどの動きでそれをかわす。 「おや、江田島先生。さっきより拳が鈍っているようですね。やはり背中の傷はそれなりに影響が出たようだ」 「ふん!!」 玉藻の言葉に答えず江田島は蹴りを玉藻に繰り出す。だが、その時背中の傷から痛みが走った。 「ぐ、ぬ…!」 本来の江田島ならば、これくらいの傷はなんてことはない。なにしろマグナムの一撃にすら耐えられる強靭な肉体だ。 だが、ここでは彼の身体能力は著しく弱まっていた。拳の威力。そして体の強靭さ。しかも理由はそれだけではない。 玉藻の使っている三代鬼徹。これは素でも石斧をたやすく切り裂くほどの切れ味があるが、肝心なのはこの刀が『妖刀』である点である。 「足を止めていいのですか?」 「なに?……!?」 すこし後ろに下がった玉藻を見て、江田島の瞳孔が開いた。さっきまでの玉藻とは明らかに違う点があった。 尾だ。玉藻の尻から金色の尾が生えているのだ。 「その尾は……狐か!」 「そう。教えてあげましょう。私は妖狐。古来より人間達に災厄と混乱をもたらしてきた、妖狐・玉藻です」 妖狐。要は、狐の妖怪である。古来より妖狐は400歳を越えると、人化の術を覚え人に化け人に災いをもたらす事を掟としている。 400歳をこえた彼、玉藻もそれに漏れず、完全なる人化の術を完成させるため、立野広の頭蓋骨を求めて童守小学校の教育実習生としてやってきた。 だが、それを鵺野鳴介に阻まれる。 その時の鵺野に興味を抱き、彼に再び術を仕掛けるがそれも突破され、ますます興味を持った。その矢先の出来事がこのゲームだった 先刻、江田島が気をとられた水面の髑髏。あれは、玉藻の仕業だ。妖狐の術の一つ、『幻視の術』。 古来狐は舞い落ちる木の葉で人を化かす、というのはよくある話。だが妖狐の場合は、木の葉だけに留まらない。 動いている物にならばどんな物にでも幻覚を纏わせる事ができる。 さっきの場合、玉藻は少年の着水によって川に起きた波紋。揺れて動くそれに髑髏の幻覚をつけ、江田島を動揺させた。 その隙に、三代鬼徹で切りかかった。さっきのからくりはこんなところだ。 先の鬼徹に話を戻そう。三代鬼徹は妖刀である。それは所持者が不幸にあったという逸話だけでなく、 これの持ち主ロロノア・ゾロが、目に見えない場所に鬼徹があったにもかかわらずそれを感知できたことから、 妖怪でいう妖気的なものが鬼徹にはあると伺える。 ではそれを妖怪であり妖気を操る玉藻が持てばどうなるか。ただでさえ強力な妖刀が、彼の妖気により強化されてもおかしくはない。 妖気により強化された妖刀、制限により弱まった肉体。この2つの要素が超人、江田島平八の背中に深い傷を負わせたのだ。 「鵺野先生を殺すのは残念ですが、私もここで死ぬつもりはない、もとより人間などに殺されるとは思っていない。 故に、私はあなた達を殲滅する。妖狐のプライドの下にね。もちろんあのワポルという男もただでは終わらせませんが」 「……」 「おや、裏切られた怒りで言葉も喋れなくなりましたか。その背中の裂傷で立っていられるとはたいしたものです。 このまま切り殺してもいいのですが、あなたの格闘術が優れているのはすでに把握しました。 ですから……あなたは一気に焼き殺すとしましょう!」 玉藻の尾が動き、摩擦を起こす。するとそこから炎が起こり、玉藻の周りを螺旋状に包んだ。 『妖狐 火輪尾の術』。妖狐は尾をすり合わせる事で炎を起こし、それを自在に操る。 俗に言う狐火と言う奴だ。ただの炎ではなく、霊的な炎であり、それは全てを焼き尽くすという。 「はっ!」 玉藻が江田島に指を向けると、炎が一気に江田島へと向かう。江田島が逃げる間もなく、炎は江田島の体を直撃した。 「ぐっ!!!!」 「ははははははは!悲鳴をあげないとは驚きましたよ。かつて、多くの霊能力者がこの術に敗れ去った。 ……最近唯一1人だけ、この術に耐え切った男がいましたが……彼は霊能力者であり、白衣観音経を使ってやっとだった。 この意味が分かりますか?江田島先生」 江田島の答えを聞くまもなく、江田島に襲い掛かる炎が強くなっていく。 江田島の服は焼け消え、彼の体がどんどん火傷に包まれていく。 「霊能力者ではないあなたにはこの術に耐えるすべなどありえないということです!」 炎のレベルは既に玉藻に言わせれば『道鏡レベル』に上がっている。道鏡とは奈良時代の僧であり、 要するにその彼が耐えられたレベルの炎、ということである。 江田島の体を灼熱が襲う。江田島の体に激痛が走る。 だが、その江田島の口がゆっくりと動いた。 「……玉藻、よ……一つ、問う……」 「!?ば、ばかな!このレベルで喋れる気力があるというのか!」 江田島の体は炎に包まれている。炎は酸素を消費する。江田島はもはや呼吸すら辛い状態のはずなのに、言葉をつむいでいる。 そもそも、常人ならば既に焼け死んでいるほどの炎のはずだ。 「……教育、実習生、というのは……おぬしの、偽りの、姿か……?」 「……ええ。それがどうかしましたか。そのような物、ある生徒の頭蓋骨を得たいが為の仮の姿! 汚らわしい人間どもなど、私にとってはどうでもいい!」 「そう、か……」 それを聞き、江田島の腕がゆっくり動く。 「まだ動けるとは!ですが、これで終わりです、『空海レベル』!!」 炎が更に勢いを増し、平安時代に天台宗を開いたという僧、空海が耐えられた炎にまで温度のレベルが達する。 江田島の体がどんどん焼け焦げていく。 「これで流石に終わりでしょう。あなたは恐ろしい超人でした。ですが、もうここが限界で……!?」 玉藻の言葉が止まった。いや、止まらざるを得なかった。 江田島の鋭い、威圧を伴った眼光が、玉藻を射抜いていたからだ。 (許さぬ、許さぬぞ玉藻京介!) 江田島は憤怒していた。 教師とは、若人を導く者。若人は、国の希望。若人は、国の未来。その若人を導く教師、それは誇りに溢れなければならない。 だからこそ、許せない。 若人を殺す為に、教師を目指す者を騙ったこの男が。 今から若人の命を刈らんとするこの男が! この男にこのまま殺されるわけには行かない。この炎に焼かれるわけには行かない。 「心頭滅却すれば、火もまた涼し!!」 江田島が叫ぶと、まるで炎が江田島の体を避けるようになった。それはまるで伝説に語り継がれるモーゼのよう。 もっともモーゼが割ったのは水であり、今江田島の体を避けて割れているのは炎だが。 「ば、馬鹿な!私の炎が!! な、なぜ……! !?まさか、あなたは……気の使い手!」 江田島平八は霊能力者ではない。 だが、百戦錬磨の戦士であり、闘士である。その過程で、彼は『気』を会得していた。 その『気』が無自覚か、それとも故意にか、霊的な炎から江田島を守っていたのだ。さながらそれは、『気』の鎧。 ……加えるなら、なにしろ彼は大気圏を突入しても平気だった男。恐らくその時もこの『気』が作用したのだろう。 つまり、肉体が弱まってるとはいえ、玉藻の業火には充分堪えることができたのだ。 江田島が構える。それは拳を打ち出す構え。 「っ!だが、例え気を使えたとしても!全身火傷に背中の裂傷!もうあなたは満足に動けないはず! ならば、私が今直接その心臓を貫いてあげましょう!」 江田島が接近してくる前に、玉藻は地を蹴って突進。三代鬼徹で江田島の心臓を貫く事にした。 妖気を伴った鬼徹の剣速と、満身創痍の江田島の拳、速いのは明らかに前者。玉藻はそう判断した。 (そう、人間如きに、霊能力者でもない相手に、この玉藻が破れるはずがない!) その思いとともに、玉藻は江田島に突進する。 玉藻は焦っていた。いや、動揺していたというべきか、無自覚のうちに。 彼の自慢の術が霊能力者でもない相手に破られた。それは彼のプライドをかなり傷つけていた。 ただでさえ鵺野に敗北してから間がない。その傷はかなり深いものだ。 そのプライドの傷による焦り、それが玉藻の正常な思考力を奪った。 江田島の構えが、玉藻の刀がとどくはるか前で突き出される。 「気が狂いましたか江田島先生!そのようなところでは、拳が届きま――」 彼は油断した。焦りから油断した。 江田島の『気』が腕に収束した事に気づかなかった。 いや、気付いたとしても、江田島はそれを放てないと思ったかもしれない。何しろその腕は、 気で防いだとはいえ、かなりの火傷に覆われているのだから。 「若人の、未来……若人の、希望……絶たせは、せぬ!!」 だが、彼は知らなかった。 目の前の男が何者なのか。 何回も聞いていたはずなのに。 彼は、若人を導く者、その頂点にいる男。 若人を導き、若人の成長を見守る男。 そして、若人の希望を守る漢! 「わしが男塾塾長、江田島平八である!!!!」 その叫びと共に放たれた拳、そこから放たれた、更なる拳、気でできたその拳が、接近していた玉藻を直撃した。 「なっ!!ば、馬鹿な、この、私が!!!」 『千歩氣功拳』。その技が、玉藻の体を遥か彼方まで吹き飛ばした。 ***** 「ぐっ……まだ、まだ」 江田島は、自分のデイパックと玉藻のデイパックを拾い上げると、ゆっくりと歩き始めた。 衣服はほとんど残っていない、裸同然。その裸の体には見るのも痛々しい火傷が広がり、背中には大きな裂傷がある。 普通の人間なら死んでいて当然の傷。だが、江田島は歩みを止めない 「我が命……風前の灯、なれど……若人の未来の為ならば!この命、まだまだ燃やしつくそうではないか!」 彼はまだ自分にやるべきことは残っていると思った。あの少年も、玉藻もおそらくまだ死んでいないだろう。 それに、まだまだこのゲームに乗った悪漢はいる、彼の勘がそう言っている。 彼は歩む。満身創痍の体。 けれど、歩む。全ては若人の未来のために。 なぜなら、彼は。 「わしは、男塾塾長、江田島平八である!!」 【E-5 川岸・中央部西側 / 一日目 黎明】 【江田島平八@魁!男塾】 【装備】 なし 【所持品】 支給品一式<江田島>、支給品一式<玉藻、地図以外>、不明支給品1~3<江田島>、不明支給品0~2<玉藻> 【状態】:全身火傷、背中に深い裂傷、全裸 【思考・行動】 1:ゲームに反抗し、若人を守る。 ※ 参戦時期は、後続の書き手に任せます。 ※ 江田島の傷はかなりの重傷です。放っておくと命を落としかねません。 ※ 玉藻京介、銀髪の少年を危険人物として認識しました。 **** 「くっ……まさか、妖狐である私が、2度も人間に敗れる、など……」 玉藻もまた江田島ほどではないが、かなりのダメージを負っていた、なにしろ千歩氣功拳が直撃したのだ。 妖狐といえどただではすまない。 「鵺野鳴介……江田島平八……何故だ、何故、人間はあれほどになっても、あんな力が出せる!」 鵺野鳴介は、傷だらけの体で玉藻に立ち向かってきた。結果、彼は一旦倒された。 火輪尾の術で試した時も、彼は生徒を守り、大きな霊力を出して術を破った。 そして、江田島平八。満身創痍だった彼。普通ならば動けないはずの彼が、その力を発揮して玉藻を撃退した。 「知りたい…あの大いなる力の秘訣が……私があの力を、手に入れる事ができれば!」 彼には元から興味があった。鵺野の力への興味が。脆弱で汚らわしいはずの人間が発揮した力の秘密。 その興味は、先の江田島の力によって更に強まった。 「……すこし、方針を変更しましょうか……どの道、これでは満足に戦えない。 回復を待ちつつ、窮地に陥った人間を観察……そして、あの力の秘密を見つけ出す! その後、人間の殺戮を始めましょう」 デイパックは失ったが、地図だけは携帯していたのが幸いだった。それを広げ、潜伏する場所を探す。 「ここから近い場所は……あのビル街でしょうか」 地図で見れば南のほうに、肉眼では左の方に確認できる大きなビル街。 その中でも、二つのビルがくっついているように見える建物が気になった。 「都庁に似ていますが……あのような場所なら、監視カメラなども完備しているはず。 それを掌握できれば、人間の観察も容易になる。それに、高い場所なら眼下で起こった事も見渡せる……」 玉藻は立ち上がると、ゆっくり歩み始めた。 玉藻は気付かない 2人の共通項は『教師』 そして、2人の力の源もまた、近しいものであることに 【E-3 橋の袂 / 一日目 黎明】 【玉藻京介@地獄先生ぬ~べ~】 【装備】 三代鬼徹@ONE PIECE 【所持品】 地図 【状態】:全身への痛み 【思考・行動】 1:都庁に似た建物に潜伏し、窮地に陥った人間を観察。人間の力の秘密を得る。 2:力の秘密を得た後は、人間の殺戮を開始、優勝を目指す。 ※ 参戦時期は、ぬーべーを火輪尾の術で試した直後です。 ※ 首さすまたがなく、自分の髑髏を取り出せないため妖狐本来の姿にはなれません なるには、首さすまたが必要です。 *** 時は僅かに遡る。 「あー、いったー。あのおじさん、本当凄いや。肋骨を折られるなんてネウロ以来だよ」 川、江田島たちのいるところの対岸、そこにさっきの少年、自身の世界で怪盗サイと呼ばれる者はいた。 先の江田島の鉄拳で川にたたき付けられたサイは、激しい痛みに耐えて水中を泳いだ。そして対岸までいき、切り立った崖のようになっている川岸を 痛みに耐えつつ、その怪力で強引によじ登り、崖からあがった後、今陸地をゆっくり歩いているところだった。 ちなみに、江田島たちがそれに気付かなかったのは、川の幅が広く対岸が遠かった事、まだ辺りが暗かった事、何より本人たちがそれどころではなかった事、が起因している。 「にしても、いつもより体が脆い気がするよ……いや、力も弱まってるし、今も回復が遅いなあ。 それでも、もう動けるくらいには治ってるんだけどさ」 ずぶぬれで歩きながらサイは考える。自分の身に起こっていることを。 サイにはいくつか普通の人間と違う点がある。 まず驚異の身体能力と怪力。それはさっき、江田島平八と渡り合ったところから察せられる。 本来なら人間の頭、体を一発で完全破砕できる。 それで、弱まっていてなお、江田島を恐れさせる威力が出る。 次に驚異的回復能力。その自己回復の速さたるや、銃で両足を打ち抜かれても、すぐ後には二階の窓から楽々と逃亡をはたし、 頭を銃でうたれても、腹をナイフで刺されても死なない。サイの身体はそれほどにまで強靭。だが、それもここでは弱まっている。 それでも常人に比べれば回復は速いのだが。 「デイパックの口ちゃんと閉めといてよかったよ。水が入ったら大変だしね……ん?」 呟きながら歩いていたサイは、前方にあるものに気付いた。 桜。綺麗に咲き誇る桜。辺りに花びらが舞い地面を覆い尽くすほど散っている。さながら桜色な絨毯のよう。 その絨毯の上で、少女が一人死んでいた。 一目で死んでいると判断したサイは別に驚きも悲しみもせず、桜の花びらに既にいくらか覆われた、 どこか幻想的なその死体に近づき、その死体をまじまじと見つめた。 「普通の女の子っぽいけど、でもあのおじさんみたいに実は凄いのかも。 ……ま、『見れば』わかるか」 そう言って、サイは腕を振りかぶり、躊躇いなくその豪速の腕を少女に振り下ろした。 もちろん、相手への言葉を忘れずに。 「あんたの中身を見せてくれ」 ***** ボキンメキメキブシャベキピチャ パキンメリメリメリップチュッズパッポキッ ボキ バキン グシャッ ***** 「ちぇっ、結局普通の女の子だった。がっかりだなー」 ミシ ミシ メキ 「やっぱり頭を一発か。顔見知りか、あの子がよほど油断してたのか」 ミシ ミシ メキ 「俺みたいに速い奴かも。俺だって額に銃を押し付けるくらいできるし」 ミシ ミシ メキ 「火傷があったからまちがいないよね。ま、俺には関係ないし」 ミシ ミシ メキ 「ここにいるのって、結構凄い連中ばかりな気がする。そいつらの中身を観察すれば、俺の中身もわかるかも知れない」 ミシ ミシ メキ 「さて、こんな感じかな?」 桜の木の麓、そこに少女が一人立っていた。 黒髪のショートカットに髪留め、愛らしい顔立ちに小柄な体駆。 それは、ここで死んでいた少女、西蓮寺春菜と瓜二つだった。ただし服だけは違う。ピンクを基調としたピンク色の女子高生制服。 童実野高校という学校の女子用制服だった。 「俺の支給品にこれが入っていたのはラッキーだったなー。あー、あー。…声帯の感じから声はこんなものかな」 春菜の姿をしたそれは、彼女によく似た声を出し、そして先ほどまでここにいたサイと同じ口調で話した。 これがサイの特徴の一つ、変装能力。いや、むしろ変形能力と言った方が妥当かもしれない。 サイは細胞の変化が著しい。先にサイが脳細胞の変化を言っていたが、それが一端。細胞は常に変化を続けている。 更に、サイはその変化の方向性を変えることができる。それにより、自身の姿を自在に変えられる。時には140cmの老婆になったことも、 果てには犬にまでサイは変化した事がある。 怪盗サイ。それが彼の呼び名である。ただ、これは略称であり本来の呼び名は、 『怪物強盗X・I』 サイの犯行は誰にも見られない。誰もその姿を目撃できない。陰も形も捉えられない。 正体が分からない、サイの姿は『未知』である。ゆえに『X』。 姿が見えない、サイは『不可視』である。ゆえに『Invidible』、頭文字は『I』。 それを率直に並べて『XI』。続けて読んで、『サイ』。それが、サイの呼び名の語源。 その理由がこの変形能力。誰にでもなれる。だから誰も目撃できない。ただそれだけ。 「口調は、まあ、その辺の女子高生のを見習おうかな。知り合いにあったら、無口でいようっと。 それに、そうすれば相手の反応で本来の性格、口調が把握できるし」 サイはしばらくはこの春菜の姿でいる事にした。 理由は、このゲームの攪乱だ。サイは、他人の中身が見たい。中身を見る事で自分の中身を見つけたい。 ここにいるのはそれにふさわしい人員ばかりかもしれない。 かといって、全員自分の手で殺したい、というわけではない。別に彼は中身が見れればいいので、死んでいても問題はない。 木っ端微塵でもない限り。となれば、ここにいる者をできるだけ混乱させれば、殺し合いは促進するはずだ。 「それには俺のこの能力は向いてる。なにせ、濡れ衣なんてお手の物だし。着せたい奴に化けて誰か殺せばいい。 それに……俺にはアレもあるし」 サイがここに来る直前、その身に取り込んだものがある。 電子ドラッグ。ある教授が作り出したそのプログラム、それは映像プログラム。だが、その視覚情報は人間の脳に多大な影響を与える。 脳内麻薬の大量分泌。それによる身体能力の著しい向上。 そして一番の効果、それは人間の深層心理の犯罪願望を開放する事だ。 たとえ犯罪者の素質がなく、良心的な人間だったとしても、そのプログラムを見せられたならば、誰でも持っているような願望が特化され、 犯罪願望となる。 人は誰でも理性を持つ。電子ドラッグは、犯罪を抑えるその理性を完全に消し去ってしまう。そんな悪魔のプログラム。 それをサイは脳内に持っている。そしてそれを、他人に見せて暴走させる事ができる。 それには目を合わせてかなり相手に近づく必要があるのだが。 これを使えば、たとえやる気のない人物でも、暴れさせる事ができる。サイはそう考えた。変身能力と電子ドラッグ。 この2つを使い分け、殺人者を増やしていこう。そしてそれで増えた死体の中身を、自分が見る。 生来、面倒くさがりなところがあるサイはそう決めた。 そう考え、サイは立ち上がり、桜の下を去る。と、足を止めて振り返った。そして笑顔で言う 「せっかく中身を見せてもらったし、サービスであんたの姿を借りさせてもらったよ 名前も知らないけど……ありがと。じゃあね」 そう言って、前を向くと、今度こそその場から去った。 後に残されたのは、桜色の絨毯と、その上に乗る……『箱』。 それは確かに『箱』だった。立法系の形に、さっきまでサイが来ていた布が包んでいる。一体それは何か。 サイの支給品か?いや、違う。 最後に、サイの犯行について記述しよう。 強盗、と呼ばれるからには何か盗み、怪盗と呼ばれるからには高価な美術品などを狙うと思うだろう。 確かにサイは芸術品を盗む。だが、それだけではない。芸術品が盗まれたところから、さらに1人、 人間が消えるのだ。 それだけではない。後日、その現場にあるものが届く。それが『赤い箱』。 ガラス張りで立方体のそれは、赤いとしか言いようがなく、ただただ赤い。 一体、それはなんなのか……ヒントは、その箱の重量。 その箱の重量は、ガラスを除けば攫われた人間とほぼ同じ。 更にヒントを言えば、細胞のDNAも完全一致する。 ここまで言えば、もう言うまでもない。 届く箱とは、攫われた人間そのものであり、人間がサイにより破砕され、箱に圧縮され成り果てた姿なのだ サイは人間の中身を見たい。余すところなく見たい。だから箱を作る。上下左右前後から見れる『箱』。 その為にサイは人を『箱』にする。 これがサイの犯行の全容である。 花びらが、箱になりはて、布に覆われた『西蓮寺春菜』の上に積もっていく。 たとえ知り合いがそれを見つけても、彼女と気づく事は、まずないだろう。 花びらは、それを哀れむかのように、まだまだ舞い散っていた。 【E-5 桜の木の下 / 一日目 黎明】 【XI@魔人探偵脳噛ネウロ】 【装備】 童実野高校の女子制服@遊戯王 春菜の髪留め 【所持品】 支給品一式 不明支給品(0~2) 【状態】:西蓮寺春菜の姿 肋骨損傷(数時間で回復可能) 【思考・行動】 1:この会場の奴らの『中身』を見て、自分の『中身』を見つける。 2:変身能力で混乱を起こす。できれば集団。自力での襲撃も行動範囲内。 ※ 参戦時期は、HALⅡからHALの目を得た直後です 故に、電子ドラッグを使う事ができます。本来はサイの指令を刻み込む、つまり支配下に置くこともできますが、 制限によりその力は使えず、また効果もそれほど大きくなく、 「犯罪への禁忌感を減らす」、要は相手を犯罪に走らせやすくする程度です。 サイはまだその制限を自覚していません。 ※ ワポルが定期放送で死亡者の発表について触れなかった為、死亡者発表については知りません。 ※ 春菜の名前を知りません ※ 江田島平八を『凄い奴』と認識。 ※E-5に、サイが着ていた布と、箱状に圧縮された春菜の肉塊が放置されています 024 小さな勇士 投下順 026 恐るべき妖刀 023 聞く耳持ちません 時間順 026 恐るべき妖刀 初登場 江田島平八 初登場 玉藻京介 初登場 XI 029 想い人
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第118話 鎌石村大乱戦 第二幕 ~龍を屠る赤き一撃~(後編) ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ (クソッ、視界がぼやける。腕にも力が入らない。結局俺はこのまま誰一人守り抜く事すら出来ずに死んじまうのか…。 クレス悪い…。あれだけ大口叩いて別れたってのに、アーチェの仇を討つ事も、この娘を守る事も出来なかった…) 思い返せばここ最近の記憶は後悔ばかりだ。 村を守れなかった事。再会したクレス達の足手纏いにしかなれていない事。 ここに来てから起きた分校での出来事。アーチェの死。 そしてこの女の子の事。 (せめてアシュトンだけは止めないと…。俺がこの娘に持ってきちまった災いだからな…。 くそっ、俺に力があれば…。何でもいい。俺に力をくれ。この娘を守れるだけの力をっ!) そう俺は願った。神様なんていないって思っている。それでも祈らずにはいられなかった。 心の底からこの女の子を守りたいとそう思った。その思いを遂げる為強く、強く願った。 そして、その願いが何かを起こした。 先程この女の子のデイパックから転がり落ちていた水晶玉が、俺の足元で赤く眩い光を放っている。 (これは…? あの娘の荷物から出てきた…。一体なんだろう?) 俺はそれに思わず手を伸ばした。触れた途端体に何かが流れ込んで来る。 その瞬間。今まで俺の頭の中にあった微かにしかない、 雲の様に掴み所の無い断片的なイメージが、一つ、また一つと、まるで実体を持つかの様に収束していった。 そう、これは特訓の中で浮かんでいた断片的なイメージ。これを習得できればきっとクレス達の助けになれる。 そう感じ、いつも掴もうとしては霞のように消えていってしまっていたその感覚が、今俺の中に確かに一つの形を成して存在していた。 触れていた水晶玉は光を失い、透明な水晶玉に戻っている。 今の現象が俺に何か影響を及ぼしたのかわからない。 わかる事は唯一つ。俺にはまだこの娘を守れる可能性が残されているという事。 矢を構える。 この技に必要なのは送った闘気が拡散しない様に矢に定着させる事。 そして、それを幾重にも重ね合わせ、ただ一点のみを貫く為に研ぎ澄ます。 そう、どんなに強固な鱗に覆われた龍でさえ、その一撃の下に屠る。 そんな意味を込めたこの技の名前は、 「『屠龍』! ぶちぬけぇええええ!!」 解き放たれた赤き必倒の一撃。 俺の想いの全てを乗せた一筋の光がアシュトンに襲い掛かった。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 「フギャー!(やばいぞアシュトン! 避けろ!)」 (出来ない。体が重くて思うように動かせない。『トライエース』の反動? 違う、もう呼吸は整えられてるし、さっきまでこんなに体が重いなんて事は無かった) ふと、前を見ると女の子と目が合った。その手に持っている杖が輝きを放っている。 (あの娘の紋章術? 重力操作の?) 「ギャース!(チッ、世話の焼ける宿主だ!)」 「フギャー!(全力で行く、踏ん張れよ!)」 ギョロとウルルンが同時に巨大なブレスを真っ直ぐ向かってくる赤い闘気を纏った矢に浴びせる。 それでもチェスターの放った矢は一向に止まる気配を見せない。二人の吐く炎と氷の渦を受けながらも真っ直ぐに迫ってきている。 体は未だにあの女の子の紋章術で動かせない。だから、せめて二人の応援をしようと彼らを見上げた時、僕は自分の目を疑った。 何故かはわからないけど二人の体が透けてきているのだ。 「二人共もう止めるんだ! このままだと君達が魔力を使い果たして消滅してしまうよ!」 こんな事今まで無かったけど、どう考えても今魔力を使い果たそうとしている事が原因なのは明白だ。 「ギャッ(何寝言を言っている)」 「ギャフッ(お前が死んだらどの道俺達も死ぬんだ。無駄口叩いてないで手伝え)」 「駄目だ、あの娘の紋章術の所為で体が動かないし剣も持ち上げられない」 尚も迫り来る赤い闘気を帯びた矢に懸命にブレスを放ち続ける二人。 それでも勢いを少し落とすのが精一杯。確実に僕らの命を奪おうとそれは迫って来ていた。 「ギャギャ(ウルルン)」 「ギャーフ(そうだな…)」 「どうしたのさ? 二人共?」 僕はいつもと違う雰囲気の声を発する二人に急に嫌な感覚を覚えた。 「ギャッギャギャフン(今まで楽しかったぞ。アシュトン)」 「ちょっと!? ウルルン? 何言ってるの?」 「ギャース(このままでは3人纏めてあの世行きだからな。お前だけでも生きろ、アシュトン)」 「ギョロ!? 何勝手な事を言ってるのさ?」 「ギャフフギャフー(なんだかんだ言って俺たちはお前の事が気に入ってるんだ)」 「ギャッギャー(だから、お前にはもっと生きていて欲しい)」 二人が信じられない事を言っている。僕を生かす為に死のうとしている。 止めなくちゃ、そんな事受け入れられるはずが無い。 「待ってよ! また僕を困らせる様な事を言って! お願いだからたまには言う事を聞いてよっ!」 「ギャー(いいか? これを凌ぎきれたら一旦退け。北西の方角から二人。まだ遠いが近づいてきている)」 「ギャッフ(ボーマンが味方を連れて来たとは考えにくい。『トライエース』を撃った疲労状態でこれ以上の戦闘は危険だ)」 もう二人の姿は目を凝らさなければ視認出来ない程に薄くなっている。 「ギョロ! ウルルン! 話を聞けよっ! 僕達はこれからもずっと3人でっ!」 つい語気が荒くなってしまったけど、二人が思い直してくれるならそんな事構わない。 「ギャフー(生きろよ)」 「ギャース(生きろよ)」 そう言い残し二人は更に吐き出すブレスを巨大にさせた。 僕らに迫る矢は漸く止まり、そして纏わせた闘気を拡散させるように巨大な爆発を起こした。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 「これで決まって無ければ…」 もう駄目だ、立っているだけで精一杯だ。血と一緒に残された気力も流れ落ちてるみたいだ。 爆煙の先に人影が蹲っているのが見える。 突如として吹いた夜風が煙を晴らしてくれた。 ぼんやりとした視界で捕らえたアシュトンのシルエットに違和感を覚える。 (何かが違う…。いや、それよりも倒せたのか?) しかし、どうやら俺の願いはさっき叶えて貰った分で受付が終了したらしい。 フラリと立ち上がるその姿が見えた。でもおかしい。さっきより小さく見える。 完全に晴れた視界のおかげで漸くその違和感の正体に気付いた。 背中の龍がいないのだ。 「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」 突然叫び声を上げたアシュトンが続けて、ものすごい形相で俺を睨んできた。 「殺してやる! 次に会った時は必ず殺してやるっ! 二人が受けた苦痛を何倍にして味合わせてから殺してやるからなっ!!」 怨念の様なものを込めながら呟くアシュトンを中心に霧が発生したかと思うと、ややあってから霧が晴れた。 その時にはあいつはこの場から姿を消していた。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ (なんとか追っ払えたみたいだな…) チェスターが張り詰めていた緊張を解いた瞬間、急に膝がガクリと崩れ落ちた。 前のめりに倒れる彼を受け止めたのは硬い地面の感触ではなく、 何か別のやわらかい、擬音で例えるならフニャンといった感触だった。 「だっ、大丈夫ですか?」 意識を失いかけていたチェスターはその呼びかけで瞼を再び開けた。 その彼の目に飛び込んできたのは (特盛りっ!) 何が特盛りなのかは敢えて説明するまでも無い。 「ごっ、ごめん! 大丈夫、大丈…」 慌てて飛び退いたものだからまたしてもグラリときてしまう。 再び倒れようとするチェスターを受け止めようとしたソフィアだったが、 散らばった瓦礫に躓いてしまい、チェスターを支えきる事は出来ず二人仲良く転倒してしまった。 「ホントッ、ごめん。もう大丈夫だから゛!」 意図せずソフィアを押し倒すような形になってしまったチェスター。 そんな彼の眼前に広がった光景は童顔巨乳美少女のあられもない姿。 激しい戦闘の末所々破けてしまっているストッキング。 チラリと白い下着が見える様に捲くれ上がったミニスカート。 そして、先ほど彼を受け止めた豊かな胸。 その周囲の布地はアシュトンの『ハリケーンスラッシュ』やら何やらを受けて白い肌や下着が見え隠れしている。 更に、チェスターは健全な17歳男子である。目を逸らそうとしてもどうしてもチラチラとそれらに目が行ってしまう。 そう、彼は将来的には仲間内から『スケベだいまおう』というありがたい称号を賜る身。 そんな彼の男としての悲しい性がそうさせるのであった。 (イカン鼻血が…) そして、彼は昏倒した。 ただでさえ脇腹に穴が開いて血が足りない状況だというのに、余計なところからも出血してしまったのだから無理も無い。 チェスター・バークライト享年17歳出血多量にて死亡 【チェスター・バークライト死亡】 ○●○●○●○●○●○●○●○● (ここは…?) 俺はやけに眩しい所に寝転がっていた。 起き上がると鼻からツツーっと鼻血が垂れて来るのを感じ取ったので素早く袖で拭った。 (おかしい、さっきまで夜だったのに…。しかもさっきの女の子がいない) 「チェスターさん」 背後から聞き覚えのある声に呼びかけられた。俺は立ち上がって声の主の方に向き直った。 「お久しぶりです。お元気にしてましたか?」 そう言って礼儀正しい一礼と共に優しい笑顔を俺に向けたのは 「ミント? ミントじゃないか!?」 「はい」 そう、目の前にいるのはサラリと流れるような長い金髪と、聖母の様な微笑みを併せ持つ女の子。 どこからどう見てもあのミントだ。 そして、その横には栗色の髪をした小さな女の子が立っている。 その女の子は俺と目が合うと小さな会釈をしてきた。 俺はその会釈の返答として軽く微笑み返した後に、俺の中に湧き出た疑問をミントにぶつけた。 「どうして死んだミントが俺の前に? 待てよ? もしかして、俺死んじまったのか?」 錯乱する俺の質問に首を左右に振るミント。 「いいえ、チェスターさんはまだ生きていますよ。ただ、近くを通りかかるって話を伺ったものですから。一言挨拶を、と思いまして。 それと、どうしてもあなたに会いたいという人を連れてきました」 そう言ってミントは俺の視界から外れるように横に移動した。 ミントの背後に隠れていた人物が俺の目の前に現れた。 見間違うはずも無い。アイツの姿がそこにはあった。 ピンク色の髪をポニーテールに纏め、その髪と同じ色をした瞳でいつも挑みかかるように睨んできたアイツだ。 「アーチェ!」 アーチェに歩み寄る。話したい事がいっぱいあった。沖木島では再会して直ぐクロードに殺されちまったから。 だけど急に現れるものだから何を話せばいいかわからなくなっちまった。 よく見るとアーチェは俯いて小刻みに震えている。 そうかそうか。俺と会えてお前も嬉しいのか。こういうところはやっぱりかわいいなと思ってしまう。 「アーチェ…」 ズドム! 呼びかけながら一歩踏み出した俺の顔面にアーチェの鉄拳が炸裂した。 2HIT! 3HIT! 「何よ! 何よ! ちょっとあの娘がかわいいからってデレデレしてっ!」 4HIT! 5HIT! 6HIT! 「そんなに大きいのがいいのか!? 大きいのがいいのかぁー!!」 7HIT 8HIT! 9HIT! 「このスケベだいまおう! チェスターなんかーっ!」 訳もわからず連打を浴びた俺はグロッキー状態。頭の周りをヒヨコ達がくるくると回っている。 「巨乳の角に頭をぶつけて死んじゃえー!!」 10HIT! アーチェのアッパーカットが俺の顎にクリーンヒット。俺はマットの上に沈んだ。 「しばらくこっち来んな! 行こっ! すずちゃん! ミント!」 アーチェはそう叫び踵を返すと、ミントの傍らにいた少女を伴って光の中へと消えていった。 「あっ! 待って下さいアーチェさん。それではチェスターさんごきげんよう。クレスさんとクラースさんにも宜しくお伝え下さい」 (えっ!? ちょっとミント! この扱いは酷くないっすか?) そうして俺は、この眩しい真っ白な世界の中で暗闇へと落ちていった。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 「ってか、待てアーチェ! 巨乳に角なんてないぞ!!」 アーチェに向けて手を伸ばした俺の手は擬音にしてフニュンといった感触のモノを掴んだ。 【チェスター・バークライト生存確認】 次第に覚醒していく意識。今俺の右手に掴んでいるモノの正体を知覚するのに2秒程かかった。 どうやら俺はさっき助けた女の子に膝枕されている状態な様だ。 そして、伸ばした手は彼女の豊かな胸を下から持ち上げている様な格好になっていた。 「キャアッ!」「うわぁ、ごめん!」 慌ててその場から飛び退く俺。しまった。また急に動いちまったら。 「って、あれ? 傷が塞がっている」 「あの…、うなされていた様ですけど大丈夫ですか?」 胸を抱きかかえ、ちょっと涙目になりつつ上目遣いで俺に尋ねてきた。 (何だこれは? 反則だろ…) 「いや! もう! ホント大丈夫だから。それよりも君が傷を治してくれたのか?」 「はい。これを使って」 そう言って彼女はなにやら複雑な構造をした金属の塊を俺に見せてきた。 「もうエネルギーが切れちゃったから使えないけど、まだ痛みますか?」 傷はもう痛まない。服を捲くって確認してみたが綺麗に傷が塞がっている。 (どういった原理か判らないけど、きっとミントの法術を貯めこんでおける道具かなんかなんだろう。っとそれよりも) 「なぁ、君に聞きたい事があるんだ」 突然まじめな顔になった俺にこの娘も表情を強張らせる。 「君言ったよね。金髪の女の子を殺したって。アシュトンから君を守ったけど、事と次第によっては君を…」 殺す。そう続けようとしたが、どうしてもその続きは声に出せなかった。 命がけで守った娘だからだろうか。それとも、ずっとそばにいる長髪の男を守りながら戦っていた姿を見た所為だろうか。 不思議とこの娘が理由も無くあんな惨い殺し方をする訳が無いという確信があった。 少女は目を伏せポツポツと言葉を紡いでいく。 「多分あなたが言っている女の子は私達との戦いで負った傷が原因で亡くなったんだと思います。 でも、そうするしかなかったんです。でなければ私達は皆あの子に殺されていた…」 「ちょっと待ってくれ! あの女の子に? だって君達はそこの男の人と、 もう一人の金髪の男の人も含めて3人もいるじゃないか! それがあの子一人に?」 「そうだ! クリフさん! あの人はとても強いからきっと大丈夫だとは思うけれど、やっぱり心配。助けに行かなくちゃ」 そう言ってこの女の子は横たわる男を背負おうとして 「キャッ!」 つぶれた。 「おいおい、大丈夫か? 君の体格でそいつをおぶってくなんて無理だ。 それよりもさっきの続きを聞かせてくれ。納得できたら俺も手を貸すから」 男の下敷きになったこの娘を引っ張り出して、服についたホコリを払ってやった。 別にセクハラ目的とかそんなんじゃないんだからな。勘違いすんなよ。 「すみません。ありがとうございます。それでは続きですけれど…」 こうして彼女は自分達と金髪の少女との間に何があったのかを俺に話してくれた。 【D-5/深夜】 【ソフィア・エスティード】[MP残量:10%] [状態:疲労中] [装備:クラップロッド、フェアリィリング、アクアリング、ミュリンの指輪のネックレス@VP2] [道具:ドラゴンオーブ、魔剣グラム、レザードのメモ、荷物一式] [行動方針:ルシファーを打倒。そのためにも仲間を集める] [思考1:レナス@ルーファスを守る] [思考2:クリフと合流する] [思考3:フェイトを探す] [思考4:四回目の放送までには鎌石村に向かい、ブラムスと合流] [思考5:自分の知り合いを探す] [思考6:ブレアに会って、事の詳細を聞きたい] [思考7:レザードを警戒] [思考8:チェスターを信頼] [備考1:ルーファスの遺言からドラゴンオーブが重要なものだと考えています] [備考2:ヒールユニット@SO3を消費しました] 【チェスター・バークライト】[MP残量:50%] [状態:クロードに対する憎悪、肉体的・精神的疲労(中程度)] [装備:光弓シルヴァン・ボウ@VP、矢×15本、パラライチェック@SO2] [道具:チサトのメモ、アーチェのホウキ、レーザーウェポン@SO3、荷物一式] [行動方針:力の無い者を守る(子供最優先)] [思考1:クロードを見つけ出し、絶対に復讐する] [思考2:このままソフィアについて行く] [備考1:チサトのメモにはまだ目を通してません] [備考2:クレスに対して感じていた劣等感や無力感などはソフィアを守り抜けた事で無くなりました] [備考3:スーパーボールを消費しました] [備考4:レーザーウェポンを回収しました] 【レナス・ヴァルキュリア@ルーファス】[MP残量:40%] [状態:ルーファスの身体、気絶、疲労中] [装備:連弓ダブルクロス、矢×27本] [道具:なし] [行動方針:大切な人達と自分の世界に還るために行動する] [思考1:???] [思考2:ルシオの保護] [思考3:ソフィア、クリフ、レザードと共に行動(但しレザードは警戒)] [思考4:四回目の放送までには鎌石村に向かい、ブラムスと合流] [思考5:協力してくれる人物を探す] [思考6:できる限り殺し合いは避ける。ただ相手がゲームに乗っているようなら殺す] [備考1:ルーファスの記憶と技術を少し、引き継いでいます] [備考2:ルーファスの意識はほとんどありません] [備考3:半日以内にレナスの意識で目を覚まします] [現在位置:D-5東部] ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 「一体何が起きたっていうんだ?」 E-4を北東方向に突っ切ろうとしていたクロードが、目的地の確認をしようと探知機にスイッチを入れた時だった。 そこに表示されていたのは六つ集まっていた反応の内二つが北西に移動していた。 そしてそれを追う様にして少し離れた位置にあった光点も移動している。 他の三つの光点は位置を変えていない事から何かあった事は明確であった。 それを確認したのが一時間位前の出来事。 そしてD-5に足を踏み入れたので、再確認の為に探知機を起動したクロードは目的地に更なる変化が訪れている事に気が付いた。 「近くに誰かいる?」 目的地としていた三つの反応があった場所には現在二つしか反応が無かった。 そして、おそらくさっきまでその地点にいたと思われる反応が自分の直ぐ近くにあるのだ。 (何があったのかを聞かなくちゃ) 探知機の反応を頼りに周辺を探すクロード。 「この辺りの筈なんだけれど…。うわっ!」 夜の暗闇の所為で足元にあった何かに躓いてしまった。 やけに重たい感触だったのだが、今のは一体なんだろうと振り向いたクロードは驚いた。 「ちょっ!? 君大丈夫? って、アシュトンじゃないか!? しっかりしろアシュトン!」 アシュトンを助け起こし、肩を揺さぶる。 「うっ、クロード?」 目を開けたアシュトンと目が合った。何故倒れていたのか? とか、平瀬村に向かったんじゃないのか? 等の疑問が浮かんだが、 まず最初にクロードはアシュトンの体の変化について尋ねた。 「アシュトン。ギョロとウルルンはどうした?」 二人の名を呼ばれたアシュトンその身を強張らせる。 「…。あいつらが…」 今までクロードが見たことも無い暗い怒りを秘めた表情のアシュトンが先程の戦いで起きた出来事を語り始めた。 「…」 アシュトンの語った内容を聞き終えたクロードは言葉を失った。 「僕行かなくちゃ…」 フラリと立ち上がったアシュトンを慌ててクロードが止める。 「行かなくちゃってどこに? そんな体でどうするつもりなんだよ?」 「決まってるじゃないか、二人の敵討ちだよ。僕はあいつらが許せないんだよ。僕から大切な友達を奪っていったあいつらが。 あの時は二人が逃げろって言ったから逃げてきたけどさ、このままだとあいつらがどこかに行ってしまうからね。 少し休んで疲れも取れたから大丈夫だよ」 「アシュトン、君がどれだけ悲しいのかはよくわかるよ。でもね、敵討ちなんかしてもあの二人は生き返らないんだよ」 (そう、ここで死んでしまった皆も…) 「そんな事はわかってるよ! でもあの二人の為に何かして上げられる事がこれ位しかないんだ! だから僕は行くよ。クロードが止めたって無駄だからね」 それを聞いたクロードは少し悲しげな顔をした。 (あの温厚なアシュトンがこんなにも憎しみに囚われてしまうなんて…。 それにねアシュトン。ギョロとウルルンが命がけで守ろうとした君に対して望む事は、敵討ちとかそんな事じゃなくて、 二人はなにがあろうと君に生き抜いて欲しいって思っているんじゃないのかな?) そう口に出そうとしたがクロードはやめておいた。 今の彼にはきっと何を言っても心に届かない。そう判断したのだ。 だから変わりに 「わかった。僕も行くよ。敵討ちを認めることは出来ないけど、そんな危険な連中を野放しにするなんて出来ない」 アシュトンに対して同行を求めた。 こんなにも危うい状態の友人を放っておくなんて事は彼には出来なかったし、 近くにいればアシュトンの無茶を止める事が出来るかもしれないと思ったからだ。 「そう…。じゃあついて来て、こっちだよ」 アシュトンは剣を掴んで虚ろな眼をしながら北の方向へと歩みだした。 クロードも荷物を纏めてアシュトンの後について行く。 これが良くない兆候だとはわかってはいたものの、今のクロードにはどうする事も出来なかった。 【D-5/黎明】 【クロード・C・ケニー】[MP残量:100%] [状態:右肩に裂傷(応急処置済み、大分楽になった)背中に浅い裂傷(応急処置済み)、左脇腹に裂傷(多少回復)] [装備:エターナルスフィア@SO2+エネミー・サーチ@VP、スターガード] [道具:昂魔の鏡@VP、首輪探知機、荷物一式×2(水残り僅か)] [行動方針:仲間を探し集めルシファーを倒す] [思考1:アシュトンと共に行動] [思考2:プリシスを探し、誤解を解いてアシュトンは味方だと分かってもらう。他にもアシュトンを誤解している人間がいたら説得する] [思考3:レザードを倒す、その為の仲間も集めたい] [思考4:ブレア、ロキとも鎌石村で合流] [備考1:昂魔の鏡の効果は、説明書の文字が読めないため知りません] [備考2:アシュトンの説明によりソフィアとチェスターは殺し合いに乗っていると思っています] 【アシュトン・アンカース】[MP残量:60%(最大130%)] [状態:疲労中、激しい怒り、体のところどころに傷・左腕に軽い火傷・右腕打撲・ギョロ、ウルルン消滅] [装備:アヴクール、ルナタブレット、マジックミスト] [道具:無稼働銃、物質透化ユニット、首輪×3、荷物一式×2] [行動方針:第4回放送頃に鎌石村でクロード・プリシスに再会し、プリシスの1番になってからプリシスを優勝させる] [思考1:チェスターとソフィアを殺してギョロとウルルンの仇を討つ] [思考2:プリシスのためになると思う事を最優先で行う] [思考3:ボーマンを利用して首輪を集める] [思考4:プリシスが悲しまないようにクロードが殺人鬼という誤解は解いておきたい] [備考1:ギョロとウルルンを殺された怒りが原因で一時的に思考1しか考えられなくなっています] [思考2:イグニートソード@SO3は破損しました] [現在位置:D-5南西部] 第118話← 戻る →|―| 前へ キャラ追跡表 次へ 第118話 チェスター ― 第118話 ソフィア ― 第118話 レナス@ルーファス ― 第118話 クロード ― 第118話 アシュトン ―
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第129話(後編) とある癒し手達の戦場 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 『いくぞ!』 合図と共に俺とルシオが同時に動き出す。 そんな俺には金髪が、ルシオの方には髪が長い方の女が張り付いた。 今こいつを相手してやる時間は無い。後ろからさっきの様な魔法が飛んできたら厄介だからだ。 だが、幸いな事に戦場は俺向きになってくれていた。狭い路地ではなくなり開けた空間になっている。 今までは真正面から突っ込まざるを得ず、自慢の俊足を生かせなかったが今は違う。 360度あらゆる角度から標的に迫れる。それに刀身ではなく柄を握れる様になったのがでかい。 さっきまでは思いっきり握る事が出来なかった為、競り合った時に負けていたが、しっかり握れる様になった今の俺に力押しですら負ける要素は無い。 正面から突っ込むと見せかけて瞬時に相手の後ろを取る。俺達エインフェリアが持つ戦技の一つ『ダーク』だ。 標的がこちらに振り返るがもう遅い。 下段に構えた右手で一閃。ここで相手が超反応を見せる。手にした短刀で受け止めずに身を捻りこちらの切っ先をかわす。 斬撃の軌道をひるがえして、真一文字の横薙ぎに切り替えた。更にワンテンポ遅れて左手を振り下ろす。 尚もこの金髪は足掻く。 身体を沈ませ横薙ぎを回避。更には短刀で左手からの斬撃も防がれ、同時に奴からは足払いが仕掛けられた。 その足払いを跳躍と共に飛び越え無防備を晒す顔面に膝蹴りを叩き込む。 だが、無理な体勢からの反撃だった故に、思う様に力を込める事が出来なかった。 即座に体勢を整えた男から獅子状の闘気が放たれた。 まだ空中にいる俺は回避が出来ない。直撃だけ間逃れる様に剣を交差させる。 吹き飛ばされる俺に追撃が迫る。先ほど飛ばしてきた地を這う斬撃だ。 少々厄介だが、俺にだってこの程度の芸当は出来る。左右の剣を振り『スプラッシュ』を飛ばす。 一撃目で相手の剣圧を打ち消し、もう一発が金髪目掛けて飛んでいく。 今はこれでいい。 何度も言うがこの金髪を今相手にしてる時間は無い。こいつの足止めさえ出来ればそれでいい。 その間にあの魔法使いを殺しにいける。 丁度一直線に並ぶ様な構図の真ん中に俺がいる。最早金髪の位置からでは俺を阻めまい。 一気に間合いを詰めようと駆け抜ける俺に迎撃の構えを見せる女。 だが、そんな中思いも寄らない人間が視界の端に移った。 ミランダである。 丁度崩れたブロック塀の一角。こいつらが出てきたのと同じ民家からあの女が何度も後ろを振り返りながら出てきたのだ。 (あの女っ! いなくなったと思ったらこんな所に! それよりも不味い。 あの家から出てきたという事はこいつらと組んだという事か…。傷を癒す力をこいつらに使われたらジリ貧になる) 優先目標を変更。まずはミランダだ、位置的にも近い。 剣の間合いへと迫る俺に漸く気付いたミランダが驚愕の表情を浮かべる。 身に迫る恐怖に体を強張らせ硬直しているミランダに容赦なく剣を叩きつける。 だが、 「ミランダっ!」 奴の名を叫びながら魔法使いが身を挺してミランダを庇った。 ミランダを押し退け、入れ替わる様に俺の剣閃をその身に浴びる女から血飛沫が上がった。 (即死とはいかんが十分だ。このまま止めを刺してやる) 再度剣を振るおうと振りかぶった俺の目の前の空間が眩い光を放った。 その光の中から金髪の剣士が飛び出してきた。 (こいつは転移が使えるんだったな…) 俺の剣閃を受け止めたこいつが凄まじい形相で睨み付けてきた。 俺はそんな目の前のこいつに嘲笑混じりに言い放った。 「今度は守れなかったみたいだな」 「何だとっ!?」 怒れる瞳で俺を射抜いてくるが、それは純然たる事実であった。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 暖かな液体が私の身体を濡らしていく。 白を基調とした修道服を染め上げていく赤が、その液体の正体を物語っていた。 (これは…血?) そう、これは目の前に崩れ落ちた私と同い年位の少女の体から今も尚噴き出している。 この場にいる全ての者達を吹き飛ばす爆弾を仕掛けた私の事を、その身を挺して庇った少女が流している。 「ミラ…ンダ…逃…げて…」 尚もこの少女からは私の身を案じる言葉が投げかけられる。 (どうして? まだ会って1時間も経っていないのに…どうしてここまで出来るの? 交わした言葉は一言二言だというのに…) 震える手で抱きかかえてる身体が物語っている。今すぐにでも傷を塞がなければこの子は助からないと。 その光景を眺め呆然としている私に、私の中の一人が語りかけた。 放っておいて早く逃げましょう。どうせ爆弾でここの皆さんは死ぬのです。例え爆弾で死ななかったとしても、いずれは死ぬのです。 神の使いはこの島で生き残れるのは一人だけだとおっしゃいました。何故ならそれが神の御意志だから。 仮にこの方を今ここで癒してもルプス門の時と同様に、再び死の恐怖に晒す事になるだけ。 だから逃げよう? その言葉に耳を傾けつつも私は動けないでいた。何故なら私の手の中にいる少女の身体が懸命に生きようとしているから。 全ての生きとし生けるものに備わっている生存本能が、彼女を延命させようと健気に働いている。 そう、この子は救いを求めている。敬虔なオラシオン教団の修道女であるこの私の目の前で救いを求めている。 それも私を庇ってこんな目に遭ってしまったこの子が。 そんな彼女を救わずして何が癒しと言えるのでしょうか、何が安らぎと言えるでしょうか? 目の前で救いを求めている少女を救えずして、この世の全てに癒しと安らぎをもたらす事が出来るの? そんな事出来る訳がありません。 「神よお許し下さい…。例え、この行為が神の御意志に背く様な罪深い行いだとしても。私はこの方を救わずにはいられないのです」 神に許しを請いながら、今まで何千何万回と繰り返してきた祈りの動作に移る。それと共に傷を癒していく聖なる輝きが彼女を照らしだした。 奇跡の光を浴びる傷口が、今まで治してきたどんな傷よりも早く治癒していく。 「ミランダ…? 貴方…その力…」 (まだ喋ってはいけません。じっとなさってて下さい) 祈りを中断する訳にもいかず、変わりに目で彼女に語りかける。 「危ない…から…早く逃げ…」 (絶対に貴方を癒してみせます。だからお願いです。じっとしてて下さい!) もう少し。後もう少しなのです。体の奥まで切り裂いたこの傷をもう少しで塞ぐ事が出来ます。 そうすればこの子を救う事が出来る。なのにどうして? 神よこれが貴方に背いた私に与えられる罰だというのですか? 目の前。私達を見下ろしている人影。それは先程までクレスが足止めをしていた洵。 刀身を赤く染め上げる血を滴らせながら彼は剣を振り上げている。 少し離れた位置で地に伏していたクレスが、こちらに駆けつけようとしているけれど間に合いそうにない。 だけれども、まだこの祈りを中断する事は出来ません。塞ぎきれていない傷が体の中で内出血でも起こしてしまえば命に関わります。 逃げなさい!と私の生存本能が告げている。祈りを止め直ぐにでも逃げろと大声を上げている。 確かにそうすれば私は助かるでしょう。この子を置いて逃げ出せば、まず洵は彼女を殺すでしょう。 その間にクレスが駆けつける事が出来ます。その後は彼に任せておけば私は助る。 だけれど、例えそうだとしても、私は祈る事を止めない。止められるはずがない。 命に関わる様な傷は後もう少しで塞げる。だから止める訳にはいかないんです。 「結局は邪魔な存在になったかミランダ…」 冷酷な眼差しを向ける洵が私に向かって呟いた。 避ける術は私にはない。 振り下ろされる剣をただ黙って見つめる事しか出来ない。 刹那。閃光が糸状に走った。 いつの間にか剣を振りきっていた洵。 それをじっと眺めていた私の視界がぐらりと揺らいだ。 癒しの光を浴びせていた少女の胸が次第に近付いていく光景を見て、漸く私は自分の首が切り落とされた事を悟った。 意識を失う寸前に見た彼女の傷口は完全に消えていた。その事実が死に逝く私にとって唯一の救いだった。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 「ミランダー!!」 彼女の名前を叫ぶクレスの声。 傷口はもう痛まない。次第にはっきりしていく視界と意識の中、目の前の光景に唖然とした。 ミランダの服を着た体がそこにはあった。但し頭があるべき場所にない。その頭部があるのは横たわる私の胸の上。 「いやあああぁぁぁぁぁっ!」 思わず命を賭して私の傷を治してくれた相手だという事も忘れてそれを払い除けてしまう。 地面を転がる頭が私を見つめる様に止まった。 「どうしてこんな酷い事をするの? 私は貴方を助けてあげたのに」 そう言われた気がした。 「違う…、違うの…」 とてつもない罪の意識が私の体を地面に縫い止める。ぺたりと座り込む格好で呆然とミランダの頭を見つめていた。 心の中では弁解の様な謝罪が繰り返されている。直ぐ近くに迫る危険にさえ気付かずに。 「傷が治ったか…。まぁいい。ならばもう一度斬るだけだ」 そう呟いた男の声を聞いてそちらを振り向いた。 私が見上げる男は剣を振り上げている。 (もう…いいよ…) その姿を見て私は純粋にそう思った。命の恩人にあんな仕打ちをする醜い自分なんて生きている価値はない。 それにクロードやアシュトンの事も考えたくなかった。いっその事殺してもらった方が楽になれる。 そう思って自らの運命を受け入れる様に瞳を閉じた。 「その子から離れろぉっ!」 叫ぶ声。閉じた目を開くと目の前には輝く金髪と赤いバンダナを付けた男の子が立っていた。 一瞬クロードかと思ったけど違った。クレスが私を守る様に立ちはだかってくれている。 でも、もういいのに…。私の事なんて守らなくていいから… 「立つんだっ! レナッ!! そこから逃げて! 早くっ!」 相手と鍔迫り合いを行うクレスが、尚も私に向かって叫ぶ。 だからもういいって言ってるじゃない。それにね、つらいの…。もう何も考えたくない。 きっと生きていても私は何もする事が出来ない。 「僕達には君の力が必要なんだ! だから立ち上がって! 生きてくれ! レナッ!!」 (必要? 私の力が? そうか…さっきマリアが言ってた。私の力は首輪を外すのに必要だって。 だから勝手に死ぬ事すら許さないって。あるのかな? 私にしか出来ない事…) そこでふと思い当たる事があった。鷹野神社でレオンが紙に書いていた物。 死んで間もない人の首輪に付いた結晶体。 丁度私の目の前に…。 そこまで考えて私は身震いをした。 (そんな恐ろしい事出来ない。これ以上ミランダの遺体に何かするなんて。それは命の恩人にする様な真似じゃない) でも、これを調べれば首輪を外せるかもしれない。 多くの人を救えるかもしれない。殺し合いだって止められるかもしれない。 従わなければ首輪を爆破される。そう思って殺し合いをしている人だっているかも…。 私の気持ちは揺れ始めていた。ミランダの遺体を辱める様な行いはしたくない。 だけど、その先の無数に広がるもしもが、私の体を後押しする。 出来ない…。いやだ…。やりたくない…。 否定的な言葉が胸中を駆け巡っているのに、とうとう立ち上がってしまった。 ゆっくりと歩み寄りミランダの頭を見つめる。 「来ないでっ! 何をするつもりなのっ!? もうこれ以上私に酷い事しないでっ!!」 虚空を見つめるその瞳が私に向かって叫んでいた。 その言葉の一つ一つに胸の奥をえぐられるような痛みを覚えつつ、私は決心して未だに温もりが残るミランダの頭を拾い上げた。 「ふざけるなっ! これが心のある人間のする事なのかっ!! お前なんて助けるんじゃなかった! 呪ってやる! 絶対に呪ってやるっ!!」 怨嗟の声を聞きながら指を首輪にかける。 (恨むなら恨んで下さい。それでも…それでもやっぱり私は…) 「救いたいのっ! 助けを求めてる人達をっ! 一人でも多く! だから、だから…」 思い切って引っ掛けていた指を引く。するりと首輪が抜けて私の手の平に乗っていた。 そっとミランダの頭を身体の所に持っていってから首輪の内側、結晶体やその他レオンが書き込んでいた不明点を解き明かすべく指を這わしていく。 頭に叩き込んだ図面を頼りに指を動かし、結晶体が放つ紋章力の質や流れ等を読み取っていく。 どんどん埋まっていく図面の中の赤い文字。両の手を血で真っ赤に染めながらも私は作業を進めていった。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 「しっかし、どこ行っちゃったんだろ? ミランダ」 最後の信管を抜き取ってから結局私は居間に戻ってマリアの言ってた銃を作っていた。 最後のグリップ部分のネジを締めた丁度その時。 バンッ!と力任せにこの家のドアが開かれた。 (敵!?) 咄嗟に出来たての銃と『マグナムパンチ』のコントローラーを握り締め立ち上がる。 (居間の入り口は一つだけ…。来るなら来なさい! このプリシス様がぶっ飛ばしてやる) 「プリシスっ!! 何か書くのを貸して!!」 居間に飛び込んできたのはレナだった。 服と両手は血だらけで、その右手には血まみれの首輪が握られていた。 「ちょっ! レナ!? どうしたのさ? それ」 「いいから! それよりも早く書く物を!!」 レナの様子が尋常ではない。 取り敢えず言われた通り紙とペンを手渡す。 するとレナは何かに取り憑かれた様に紙に何かを書き込んで行く。 至る所に血がこびり付いたりしているが、それでも構わず手を動かしていった。 横からそれを覗いた私は声を失った。 (これって首輪の結晶体の構造式? それにこっちは回路に流れる紋章力の数式? まさか…) レナが持ってきた首輪を見つめる。 それに付着している血液は随分と真新しい。 (誰かが…死んだの? 誰? マリア? クレス? それともミランダ?) 居ても立ってもいられなくなってきた。外では仲間達が戦っている。 (私も…私も力を貸さなくっちゃ!) 「レナ! その作業を続けてて! 私みんなを助けてくる!!」 「待ってプリシス! もう終わったわ。貴方は一刻も早くあれを完成させて! マリアには私が代わりにそれを届けるから。プリシスも自分にしか出来ない事に専念して」 私にしか出来ない事…、それは当然首輪の解除装置の作成だ。 ここまで詳細がわかれば試作品の解除ツールに数式を打ち込むだけで完成するはず。 私はレナの言葉にうなずき返し、完成したばかりの『サイキックガン』をレナに手渡した。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ (くっ、なんて事なの?) なんとか茶髪の剣士の振るう剣を、弾が切れてただの鈍器と化したライフルで打ち払う。 少し前に背後からクレスとそれに遅れてレナの絶叫が聞こえてきた。 ミランダが彼らの目の前で侍男に殺されてしまったのだ。 (私が指揮を取る以上、不要な犠牲なんて絶対に出させない! なんて言った結果がこのザマ…) 「痛っ」 今は自分の不甲斐無さ嘆いている場合じゃない。 私がやられてしまったら、戦局がもっと悪くなってしまう。 振るわれる攻撃を砲身を振るって逸らしていく。 なんとか致命傷は負わないでいるけれど、完全に防戦一方になっている。 剣のリーチを掻い潜って私の蹴りの間合いまで踏み入る事が出来ない。 普段は懐に入られてしまった時の自衛用に繰り出すため身に付けた体術だ。相手を攻め崩す為のものじゃない。 苦し紛れにライフルを振り回しても剣術の心得がある相手に通用する訳も無い。 (プリシスまだなの? これ以上は持たせられないわ) 「これでも…」 目の前の剣士が刀身に電撃を纏わせている。 (まずい、避けきれない!) 「食らえ!」 「っああああぁぁぁっ!」 私の体を高圧の電流が駆け抜けた。しかもその衝撃で思わず武器を取り落としてしまう。 迫る追撃を痺れて自由の利かない体でただ眺めているしかなかった。 (こんな所で…。私はまだやれるのにっ!) 絶望的な死を前にしても尚私は尽きる事のない闘争心をむき出しにしている。 (普通だったら悲鳴の一つでも上げる所なんでしょうけど、良かったわ。そんなみっともない真似をせずに済んだみたいね) 逆袈裟に斬り付けられる斬撃。もう回避も間に合わない。 一瞬で私の体は断ち切られ両断されてしまうだろう。 その運命を受け入れようと硬く目を閉じた。だが、いつまでたっても構えていた瞬間が訪れない。 恐る恐る目を開けると、そこには紋章術で作り出した障壁で私の事を守っているレナがいた。 「自分のやるべき事をやれば勝てるって言ったのはマリアでしょ? そう簡単に諦めないでっ!」 身体に自由が戻っている。どうやら駆けつける一瞬前に浄化の紋章術もかけていてくれたのだろう。 そんな私にレナが目で合図をよこす。彼女のミニスカートの右ポケット。そこからフェイズガンのグリップが飛び出していた。 即座にグリップに手を伸ばし彼女のポケットから取り出す。手に馴染むこの感じ。プリシスはばっちり仕事をこなしてくれたみたいだ。 (だったら、私も私の役目を果たさないとね!) 障壁に叩きつけられている刀身目掛けて発砲。光弾を受けた刀身ごと茶髪の剣士が後方へと吹っ飛んでいった。 (威力も申し分無し。これならいけるわ!) 【F-01/早朝】 【クレス・アルベイン】[MP残量:40%] [状態:体の至る所に掠めた程度の切り傷] [装備:護身刀“竜穿”@SO3、ポイズンチェック] [道具:カラーバット@沖木島] [行動方針:皆を救うためにルシファーを倒してゲームを終了させる] [思考1:仲間を守る(特にマリアを)] [思考2:侍男(洵)と茶髪の剣士(ルシオ)の対処] [思考3:チェスターを説得する] [思考4:チェスターが仲間を連れて帰ってきてくれるのを待つ] [思考5:次の放送後に鎌石村方面に向かう] [現在位置:平瀬村の民家B外 『スターフレア』でほぼ更地になった一帯] ※プリシス達の持つ首輪の情報と鷹野神社の台座の情報を聞きました。 【マリア・トレイター】[MP残量:85%] [状態:電撃による軽い火傷 右肩口裂傷・右上腕部打撲・左脇腹打撲・右腿打撲:戦闘にやや難有] [装備:サイキックガン(フェイズガンの形に改造):エネルギー残量〔10〕[90/100]@SO2] [道具:荷物一式] [行動方針:ルシファーを倒してゲームを終了させる] [思考1:侍男(洵)と茶髪の剣士(ルシオ)の対処] [思考2:チェスターが仲間を連れて帰ってきてくれるのを待つが、正直期待はしていない] [思考3:次の放送後に鎌石村方面に向かう] [思考4:戦闘終了後ブレアを確保したい] [現在位置:平瀬村の民家B外 『スターフレア』で被害を受けていない一角(道幅が狭い)] ※クレスに対し、絶大な信頼をおいています。 ※高い確率でブレアは偽者だと考えています。 ※プリシス達の持つ首輪の情報と鷹野神社の台座の情報を聞きました。 ※マリアの考察 自分たちはFD世界から観測できるエターナルスフィアではなく、 別の平行世界の(ED空間から独立した)エターナルスフィアに存在している。 ルシファーはエターナルスフィアそのものになった(ブレアの言葉から)。 そのため、万物を実現する力を手に入れた ルシファーは本来のFD空間におらず、ES内に自分が創造した仮想のFD空間に存在している。 ルシファーはエターナルスフィアと融合したことに気付いていない。 ルシファーの居場所さえ特定すれば、フェイト、マリア、ソフィアの能力は重要ではないと考えています。 【レナ・ランフォード】[MP残量:25%] [状態:仲間達の死に対する悲しみ(ただし、仲間達のためにも立ち止まったりはしないという意思はある)、 精神的疲労極大、ミランダが死んだ事に対するショック、その後首輪を手に入れるため彼女に行った仕打ちに対する罪悪感] [装備:魔眼のピアス(左耳)@RS] [道具:首輪、荷物一式] [行動方針:多くの人と協力しこの島から脱出をする。ルシファーを倒す] [思考1:侍男(洵)と茶髪の剣士(ルシオ)の対処] [思考2:次の放送後に鎌石村方面に向かう] [思考3:レオンの掲示した物(結晶体*4、結晶体の起動キー)を探す] [思考4:自分達の仲間(エルネスト優先)を探す] [思考5:アシュトンを説得したい] [思考6:エルネストに会ったらピアス(魔眼のピアス)を渡し、何があったかを話す] 【プリシス・F・ノイマン】[MP残量:100%] [状態:アシュトンがゲームに乗った事に対するショック(また更に大きく)、クロードがゲームに乗った事に対する(ry、ボーマンが(ry] [装備:マグナムパンチ@SO2、盗賊てぶくろ@SO2] [道具:無人君制御用端末@SO2?、ドレメラ工具セット@SO3、解体した首輪の部品(爆薬を消費。結晶体は鷹野神社の台座に嵌まっています)、 メモに書いた首輪の図面、結晶体について分析したメモ荷物一式] [行動方針:惨劇を生まないために、情報を集め首輪を解除。ルシファーを倒す] [思考1:首輪を解除する装置を作成する] [思考2:次の放送後に鎌石村方面に向かう] [思考3:レオンの掲示した物(結晶体*4、結晶体の起動キー)を探す] [思考4:自分達の仲間(エルネスト優先)を探す] [思考5:クラースという人物も考古学の知識がありそうなので優先して探してみる] [備考1:レナが解明した結晶体の内容によって制御ユニットをハッキングする装置はほぼ完成(後はプログラムのソースに数値を打ち込むだけ)] 【洵】[MP残量:10%] [状態:手の平に切り傷 電撃による軽い火傷 全身に打撲と裂傷 肉体、精神的疲労大] [装備:ダマスクスソード@TOP,アービトレイター@RS] [道具:コミュニケーター@SO3,アナライズボール,@RS,スターオーシャンBS@現実世界,荷物一式×2] [行動方針:自殺をする気は起きないので、優勝を狙うことにする] [思考1:金髪剣士達を倒す(まだ増援が出てくるかもしれないと警戒はしている)] [思考2:ルシオ、ブレアを利用し、殺し合いを有利に進める(但しブレアは完全には信用しない)] [思考3:他の事は後で考える] [備考2:ブレアの荷物一式は洵が持っています] [現在位置:平瀬村の民家B外 『スターフレア』でほぼ更地になった一帯] 【ルシオ】[MP残量:5%] [状態:身体の何箇所かに軽い打撲と裂傷 肉体、精神的疲労大] [装備:アービトレイター@RS] [道具:マジカルカメラ(マジカルフィルム付き)@SO2 コミュニケーター, 10フォル@SOシリーズ,ファルシオン@VP2,空き瓶@RS,グーングニル3@TOP 拡声器,スタンガン,ボーリング玉@現実世界,韋駄天×1@SO2,首輪,荷物一式×4] [行動方針:レナスを……蘇らせる] [思考1:青髪女達に対処(まだ増援が出てくるかもしれないと警戒はしている)] [思考2:洵と協力し、殺し合いを有利に進める] [思考3:ブレアから情報を得る] [思考4:他の事は後で考える] [備考1:ロキの荷物を回収しました] 【IMITATIVEブレア】[MP残量:100%] [状態:気絶中 腹部の打撲 顔や手足に軽いすり傷] [装備:無し] [道具:無し] [行動方針:参加者に出来る限り苦痛を与える。優勝はどうでもいい] [思考1:???] [備考1:ロキが死んだ事は知りません] パラライズボルト〔単発:麻痺〕〔50〕〔0/100〕@SO3 セブンスレイ〔単発・光+星属性〕〔25〕〔0/100〕@SO2 万能包丁@SO2がそれぞれ平瀬村の民家B外 『スターフレア』で被害を受けていない一角(道幅が狭い)に落ちています。 【ミランダ・ニーム死亡】 【残り17人+α】 第129話(中編)← 戻る →第130話 前へ キャラ追跡表 次へ 第129話(中編) クレス 第131話 第129話(中編) レナ 第131話 第129話(中編) プリシス 第131話 第129話(中編) マリア 第131話 第129話(中編) ミランダ ― 第129話(中編) 洵 第131話 第129話(中編) ルシオ 第131話 第129話(中編) IMITATIVEブレア 第131話
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凛然たる戦い ◆OSPfO9RMfA 月と街灯の弱い光が照らす夜道を、言峰綺礼は歩いていた。 ただ夜風に当たりたかっただけではない。 聖杯戦争が開始された。最後の一組になるまで行われるバトルロワイヤルだ。隠れ続けるのも一つの作戦だろう。 しかし、今は身体、魔力、令呪、サーヴァント、全て万全の状態だ。今の内に情報収集を行い、敵となるマスターやサーヴァントの情報を得られれば、後々役に立つだろう。 その為、野外に出て散策を行っているのだ。 「キレイ、一ついいだろうか」 霊体化して同行しているセイバー、オルステッドから声を掛けられる。 いちいち確認を取る辺り、オルステッドの律儀さや几帳面さ、あるいは融通の効かなさが垣間見れる。 「何だ?」 「ここから南西に300mの位置、公園の入り口に強い『憎悪』を感じる」 「宝具の力か」 『憎悪の名を持つ魔王(オディオ)』 オルステッドを、魔王オディオと化すセイバーの最終宝具。その完全解放は綺礼とオルステッドの全魔力、令呪三画を持ち得ても使用不可能だと言うことも聞かされている。 そして、その宝具の一部の力を使い、負の感情や記憶に反応する能力は使用していることも。 だが。 「それで、それがどうしたと言うのだ? それがマスターやサーヴァントとは限るまい」 「確かに、誰もが『憎しみ』と呼ばれる感情を持つ。だが、この聖杯戦争においてNPCは平凡な日常生活を行わさせられている。ここまで強い『憎悪』はマスターかサーヴァントでしかたり得ないと判断した」 「なるほど……」 この街は聖杯戦争の為に『方舟』が用意したものだ。唐突にNPC同士が殺し合いを始め、その流れ弾でマスターが死んでしまう……等という展開は余り好ましくないはず。 ならば、NPCが戦いの火ダネとなる強い『憎しみ』を抱いているはずはない、と言うのがオルステッドの推論である。 「一理あるな。では、そちらに向かってみよう」 仮に推論が外れたとしても、大きなリスクはない。オルステッドの助言を聞き入れ、足を公園へと向ける。 「ところで、セイバー。その宝具でどこまで探知できる?」 「魔力のある限り、としか言えない。だが、私の魔力はそう強くない。時を超えることは無理だ。この街全てを把握しようとすれば、令呪一画分の補助は必要だと思われる」 「ふむ」 オルステッドは生前、太古の昔からはるかなる未来まで、時代や場所の垣根を越えて『憎悪』を探り当て、力を与えたと言われる。底知れぬが、逆に大食らいな宝具とも言える。 そして、負担にならない程度の魔力消費量で常時稼働させたときの探知範囲が300m程なのだろう。相手がアーチャーの場合、その範囲外から攻撃を仕掛けてくることも可能であるし、相手が強い『憎悪』を持ち得ているとは限らない。 センサーとしては頼り過ぎるには、やや不安が残る。しかし、この感知能力はアドバンテージに成りうる。 「悪くはないな」 綺礼は今後の戦略を練りながら、歩を進めた。 ◆ 『方舟』が用意した公園。それはジャングルジムや滑り台などの遊具、木製のベンチに街灯……日本の公園らしすぎる、特に意匠も無い公園だった。 それでも日中は子供達が遊びに来るであろうそこに居たのは、黒いバイザーとマントを身につけた男だった。オルステッドが指摘するまでもなくわかる。この男が強い『憎悪』の持ち主だと。 男は綺礼が視界に入るや否や、拳銃を突きつけた。互いの距離は公園の端と端で50mほど。一足飛びに駆けるには、やや遠い。 「マスターか?」 「……そうだ」 男の問いに正直に答えるかどうか一瞬迷ったが、正直に答えた。その問いをすると言うことは、男は紛うことなくNPCに非ず。故に、否定したとしてもすぐにばれる薄っぺらい嘘にしかならない。 「そうか」 独り言のように呟くと、男は躊躇いもなく拳銃の引き金を引いた。月と街灯の弱い光の下ではマズルフラッシュがよく見えた。 オルステッドは即座に実体化すると、綺礼の前に立ち、剣を用いて銃弾を弾く。 「それがお前の英霊か」 男は先に英霊を出させた優越感か、唇を釣り上げる。そして左手を掲げ、声高らかに宣言する。 「こい、バーサーカー!!」 「■■■――――!!」 男の前に、咆吼をあげながらバーサーカー、ガッツが実体化する。 鉄塊と表現する方が正しい大剣を携え、禍々しい黒の鎧を身に纏った巨大な体躯の英霊。獣のような兜が、綺礼とオルステッドを睨み付ける。 「(まずい……セイバーにバーサーカーは相性が悪い)」 懐から黒鍵を三本取り出し、刀身を具現化させながら心の中で舌打ちをする。 即時撤退を視野に入れるが、それを指示するよりも早く、ガッツが動く。 「■■■――――!!」 「キレイ!」 大剣を振り上げながら、猪突猛進に綺礼達に襲いかかる。綺礼達との間に障害物は無く、例えあったとしても何の障害にもならず突き進んでくるだろう。 オルステッドが応戦するために前に出て駆ける。相性が悪いとは言え、撤退のタイミングを逃した以上、サーヴァントにはサーヴァントが応戦するしかない。 二騎のサーヴァントは剣を交えながら、少しずつ戦場をずらしていく。 「そこだ」 そして二人のマスターの射線が通ると、再び男は綺礼に向けて拳銃の引き金を引いた―― ◆ オルステッドとガッツの相性は極めて悪い。致命的だと言っても良い。 ひとつ、『対英雄』 オルステッドの持つ保有スキルで、英雄的な英霊と戦う際、相手の英霊のパラメーターを1ランク下げる。これがオルステッドの持つ最大のアドバンテージの一つである。しかし、反英雄的な英霊や、狂人、悪人には効果がない。そして、ガッツは狂人だ。 ふたつ、宝具の差。 オルステッドは宝具として魔剣を持っている。だが、ランクがCであり、その能力も解錠、結界破壊に傾倒し、攻撃的な宝具ではない。対するガッツの『狂戦士の甲冑』 はランクBであり、攻撃を通すのも容易くない。さらに、オルステッドには防具となる宝具は無い。 最後に、パラメーターの差。 バーサーカーとして現界し、さらに狂化のスキルで強化されたガッツのスペックに、オルステッドは圧倒的に負けている。 故に。 「■■■――――!!」 オルステッドが地を這うのは、戦う前から明白であった。 「ぐっ」 身体を起こそうとして、脱臼した左肩の痛みに顔をしかめる。鉄塊の暴風と表現すべき攻撃は全てブライオンで受けて直撃は無いものの、遊具や地面に身体を何度も叩きつけられた。身体はきしみ、金色の髪の一房が赤く染まっていく。 対するガッツは無傷。何度か直撃を入れたが、甲冑にヒビ一つ付かない。それどころか、攻撃を通らないことを察したのか防御を捨て、全力で攻撃に費やしてきた。 令呪でオルステッドをブーストしたところで、勝機があるかどうかも分からない。 「人の心は弱く脆い……」 それはオルステッドが身をもって知ったこと。 だから、折れた心の刃は脆い。 故に。 「だが、私は信じると決めたのだ! マスターを!!」 だからこそ、折れぬ心の刃は強いのだと。 勝機無き相手に対しても、戦え抜けると。 オルステッドは地を踏みしめ、剣を構えた。 「■■■――――!!」 狂戦士は立ち上がり、戦意を見せる勇者に何も思うことなく、鉄塊を掲げるように振り上げ―― 「バーサーカー!!」 ――背を向け、駆けだした。 ◆ 黒衣の男、テンカワ・アキトは23歳だ。 彼は妻との新婚旅行出発の際に妻と共に「火星の後継者」に拉致された。そして救出された後、彼は妻を取り返すために体術等の訓練を積んだ。厳しい訓練を血が滲むような努力を復讐心で成し遂げ、一級として使えるまでに成長した。 しかし、それでもわずか数年。 十年以上、聖堂教会の代行者として数々の死徒や悪魔憑き、魔術師を葬り去ってきた綺礼にとっては、付け焼き刃でしかない。 アキトは綺礼との射線が通ると、拳銃の引き金を引いた。 綺礼は弾丸を避けた。 「なに……?」 その余りにも容易く行われる行為に、アキトは動揺を覚える。 綺礼は黒鍵を手に構え、駆け出す。 再び鳴る銃声。二発、三発。 それをかわし、または黒鍵で受け流す。銃弾に恐れることなく、真っ直ぐアキトに向けて走る。 綺礼の右手から黒鍵が投擲される。 動揺が身体を支配し、避けられないと悟ったアキトはとっさに左腕で顔を庇う。 熱さと痛みがアキトの左腕と左腿を襲う。それから即座に、綺礼の右足刀蹴りがアキトの胸に突き刺さる。突き刺さった三本の黒鍵を抜く暇も無かった。突風に煽られた枯れ葉のように吹き飛ばされていく。 「バーサーカー!!」 「■■■――――!!」 一人では勝ち目はないと、アキトはサーヴァントを呼ぶ。 マスターの声を受けたガッツは、オルステッドに背を向け綺礼を目指し駆けた。 「キレイ!!」 オルステッドの声が公園の闇を切り裂く。 意図は伝わっている。 綺礼は後ろに下がりながら、懐から取り出した黒鍵を投擲する――足を負傷し動けぬアキトに向けて。 「■■■――――!!」 マスターを失うとサーヴァントは現界出来ない。 狂化を受けても主従の関係を理解しているのだろう、ガッツは自身の腕で黒鍵を防いだ。 宝具である甲冑には黒鍵は刺さりもせず、金属音を鳴らして弾かれた。 「■■■――――!!」 そしてガッツが来た方向から飛んできた真空波も、大剣で防いだ。 オルステッドが放った真空の刃も、アキトを狙っている。ガッツはその方向に投げナイフを放つが、当たった気配はない。 綺礼とオルステッドは射線がちょうどVの字になるように遠距離攻撃をしつつ、距離を取って闇へと消えていく。ガッツはアキトの目の前で防衛に徹するしか無かった。 公園には、狂戦士と黒衣の男だけが取り残された。 ◆ 綺礼は路地裏に逃げ込むと、背を壁に委ねた。まだ緊張は解かない。 およそ数分後。霊体化したオルステッドが綺礼の元まで辿り着くと、実体化する。 「キレイ、先ほどと同じ憎悪の反応は無い。少なくとも、300m以上は離れたはずだ。もう少し魔力をつぎ込めばさらに捜索範囲を拡大できるが」 「いや、周囲に居ないと言うだけで十分だ」 黒鍵を服に収納し、一息付く。綺礼にとって、このぐらいの戦闘は準備運動でしかない。故に、呼吸が乱れた訳ではない。 実体化したオルステッドを目視する。 額には裂傷、血が流れて金色の髪が一部赤く染まっている。先ほどから左の二の腕を右手で押さえている。痛むほどの傷を負ったのだろう。左肩も脱臼している。 「危ないところだった。一番会ってはいけない相手に一番最初に遭遇するとはな」 「すまない、キレイ」 「謝る必要はない。令呪の損失も無く切り抜けたのは申し分無い成果だ。それに、セイバーの感知能力を使えば、同じ相手に正面から当たることも無くなるだろう。悪くはない」 申し訳なさそうに項垂れるオルステッドにそう言って宥める。事実、オルステッドにとっての天敵をマーク出来たのは、十分な成果である。 もし、オルステッドが負傷した時に出会っていたら、もっと酷い損害になっていただろう。万全の時に会えたのは、不幸中の幸いだ。 「セイバーがバーサーカーをマスターから遠ざけて、時間稼ぎをしてくれたからこそだ。感謝する」 感謝の言葉を述べると、オルステッドは澄んだ瞳で綺礼を見つめ返す。 「私はキレイ、あなたを信じると決めた。だから、その為に全力を尽くす。それだけだ」 オルステッドのその瞳を見て、その言葉を聞いた綺礼は―― ――私が裏切ることによってその瞳が濁ったら、どれだけ美しいことだろうか―― 「……セイバー。霊体化し、身体を癒すことに専念してくれ。この状態で敵と遭遇した場合、令呪による治癒も考える」 沸き立った感情を良識で握りつぶし、苦虫を噛みしめたような声で呟いた。 オルステッドが霊体化したのを確認すると、歯を食いしばり、壁を殴りつけた。 【B-8/公園北の住宅街/1日目 未明】 【言峰綺礼@Fate/zero】 [状態]健康、魔力消費(微) [令呪]残り三画 [装備]黒鍵 [道具]特に無し。 [所持金]質素 [思考・状況] 基本行動方針:優勝する。 1.オルステッドが治癒するまで身を潜める。 2.黒衣の男とそのバーサーカーには近づかない。 [備考] バーサーカー(ガッツ)のパラメーターを確認済み。宝具『ドラゴンころし』『狂戦士の甲冑』を目視済み。 【セイバー(オルステッド)@LIVE A LIVE】 [状態]額裂傷、左腕二の腕の骨にヒビ、左肩脱臼、全身打撲、魔力消費(微) [装備]『魔王、山を往く(ブライオン)』 [道具]特になし。 [所持金]無し。 [思考・状況] 基本行動方針:綺礼の指示に従い、綺礼が己の中の魔王に打ち勝てるか見届ける。 1.霊体化し、治癒に専念する。 [備考] 半径300m以内に存在する『憎悪』を宝具『憎悪の名を持つ魔王(オディオ)』にて感知している。 アキトの『憎悪』を特定済み。 ◆ 公園から少し離れた草むらの中で、アキトは身を潜めていた。 左腕と左腿に刺さった黒鍵を抜くと、予めコンビニから手に入れたガーゼを当て、包帯を巻く。 ガッツは手伝ってくれない。一人で行った。 「……」 無言で地面を殴りつける。 アキトは怒りを覚えていた。 綺礼とオルステッドにではない。 自分にだ。 先の戦闘は勝てた戦いだった。 『慢心』と『出し惜しみ』。その二つで痛み分けという結果になった。 一つ、己より強いマスターが居ないと過信してたこと。拳銃と体術、そのアドバンテージがあるからと慢心していた。 二つ、道具の出し惜しみしていたこと。 拳銃はNPC時代に手に入れたCZ75B。アキトからすれば骨董品だが、使用には問題がない。しかし、替えのマガジンが無く、現在装弾されている10発しか無い。コンビニでは売ってないので、どこかで手に入れなくてはやや不安が残る。 そしてもう一つ、温存していた物がある。ズボンのポケットに手を入れて、中に入れてあったものを取り出す。 ――チューリップクリスタル。 テンカワ・アキトはA級ジャンパーである。 A級ジャンパーとは、生身でボソンジャンプが行える人間のことである。 ボソンジャンプとは一種の瞬間移動、正確には時空間移動のことで、その為には演算ユニットとチューリップクリスタルが必要である。 演算ユニットは手元になくても、『方舟』の外であっても、『どこか』に存在すればいい。そして、演算ユニットが『どこか』にあることは確認済みである。 チューリップクリスタルはボソンジャンプをするための消耗品である。 平たく言うと、テンカワ・アキトは瞬間移動をすることが出来、その為に必要なチューリップクリスタルを手にしている。 2つ。 そう、『2つ』だけなのだ。 こちらは銃弾のようにコンビニどころか、『方舟』の中をひっくり返しても存在するかどうか分からない。 令呪と同等の、それ以上の切り札となりうる存在。 だが、先の戦闘で、この切り札を切れば――ボソンジャンプしてアキトが安全な所に移動し、ガッツに戦闘を任せれば、痛み分けなどという結果ではなく、勝利をもぎ取れたはずだ。 それを『まだ序盤だから』『2つしか無いから』等と言う躊躇いと、『銃弾を避ける常人ならざるマスター』に動揺したせいで、このような結果を招いてしまったのだ。 それがもの凄く、憎い。 己が憎い。 ユリカをむざむざと拉致させた自分の非力さは、今もなんら変わってはいない。 己の中の『憎しみ』が、どす黒く、強くなっていくのを感じる。 「――」 いつの間に実体化したのか、無傷のガッツがアキトを見下ろしていた。 「大丈夫だ。今度はしくじらないさ……」 アキトは自戒を独り言のように呟きながら、拳を強く握りしめた。 【B-8/公園/1日目 未明】 【テンカワ・アキト@劇場版 機動戦艦ナデシコ-The prince of darkness-】 [状態]左腕刺し傷(治療済み)、左腿刺し傷(治療済み)、胸部打撲、疲労(小)、魔力消費(小)、強い憎しみ [令呪]残り三画 [装備]CZ75B(銃弾残り10発) [道具]チューリップクリスタル2つ [所持金]貧困 [思考・状況] 基本行動方針:優勝する。 1.次こそは勝利のために躊躇わない。 [備考] セイバー(オルステッド)のパラメーターを確認済み。宝具『魔王、山を往く(ブライオン)』を目視済み。 演算ユニットの存在を確認済み。 【バーサーカー(ガッツ)@ベルセルク】 [状態]健康 [装備]『ドラゴンころし』『狂戦士の甲冑』 [道具]義手砲。連射式ボウガン。投げナイフ。炸裂弾。 [所持金]無し。 [思考・状況] 基本行動方針:戦う。 1.戦う。 [備考] 特になし。 BACK NEXT 031 せんそうびより 投下順 033 新しい朝が来た、戦争の朝だ 031 せんそうびより 時系列順 035 働け BACK 登場キャラ NEXT 001 言峰綺礼・セイバー 言峰綺礼&セイバー(オルステッド) 067 勇者の邂逅、聖者の会合 028 テンカワ・アキト&バーサーカー テンカワ・アキト&バーサーカー(ガッツ) 050 主よ、我らを憐れみ給うな
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砕け散る。 元々は形を保っていた筈の無機物たちが、強大なる力の乱舞によって砕け、空気中に塵となって舞っている。 もしも並の格闘家たちがストリートファイトに興じていたとしても、こうはなるまい。 まるで、これではゲリラ戦でも行われたような惨状だ。 それも一方がその絶大な力で押しているわけではなく、双方が超人と呼ぶに差し支えなき力を存分に振るっているから質が悪い。 紅色の狐が、ひらりひらりと身をかわす。 優雅で流麗なものとはかけ離れた、とことん戦闘行為の為に極められた、粗雑ながらも確実な回避の動作。 つい一瞬前まで顔面があった場所を、鋭い拳が打ち据えていく。 狐に致命的な傷こそ与えないものの、万一回避を誤ればどんな惨状が待っているかは想像に難くなかった。 いや、それ以前に。 それほどまでに強力な老人の攻撃を連続してかわしながら、息をあげていない狐がまず、明らかに異常だ。 スーパーの鮮魚コーナーに並んでいる、『死んだ魚』のように濁った亡者の瞳――決して光の灯らない瞳で無感情に老人を見つめ、一手一手の攻撃を危なげに、しかし確実にかわしていく。 老人の動作は確かに卓越していて、まさしく武技を極めし戦士であることが窺える。 その証拠に、行動に支障はないとはいえ、紅き狐は全身へと打撲を受けていた。ダメージは決して零ではない。 彼女の手にかかってきた数多の存在が見たなら、思わず感嘆の声を漏らさずにはいられないかもしれない。 あの生物兵器と、ここまで対等に渡り合うなんて。 「…………、」 狐の挙動を待たずに、拳士は次なる一手を繰り出す。 相手に何一つとして行動を許さないその戦闘スタイルは、紅狐と互角以上に戦うことのできる有効なそれだ。 何せ、狐は軍部が公認するほど強力な生体兵器ではあるものの、老人のような武道家とは決してイコ―ルでない存在なのだから。 「確かに、見事な身のこなしだ。お主ほどの逸材は、捜したってそうそう見つかるまい」 手を休めぬまま、老人――東奔西走は語る。 狐はそれに耳を貸しているのか貸していないのか分からない。 感情の起伏が限りなく乏しいこの紅狐にも知能はあるだろうが、感性まで備わっているとは限らないのだ。 それはきっと、本人にしか分からないことなのだろう。 東奔西走は目の前の狐がどういった存在であるかを知らないゆえ、そこまで意識を回すことは当然不可能だ。 それに、言葉が通じているかどうかは、大した問題ではない。 言葉が通じないのなら実力で語り聞かせればいいだけ。 戦いに生きるものはそうでなければならない。 「だが、な」 狐の腹部へ、正拳の一撃がヒットする。 久しくなかった手応えだが、それは非常に浅い一発となってしまった。 この程度の当たりなら、町中の不良やごろつきでも問題なく反撃を返してくるだろう――東奔西走が、『並』であったなら。 当然、『敵』を抹殺せんと狐は反撃をしようとするが、行動が開始されるよりも早く東奔西走はより鋭い一撃に切り替える。 付け入る隙など与えない。 一手一手に意味がある。 たとえば何てことのない、大したダメージにすらならなかった先の正拳突きでさえ、次への連結の意味を含めての計算された打撃。 何も考えずに避けるだけでは、隙など見出せる筈もない……!! 「――お主は欠けている。お主には、魂が足りぬ」 紅色の狐・小神さくらは強者だ。 多少腕の立つ格闘家であっても、大抵はその並外れたスペックをもって無理矢理押し潰して終わらせてしまう。 散弾で何度か撃たれても倒れず、無論銃弾の一発や二発ではその生命を奪う一因にすらなることはできない。 そんな彼女がいまこうして押されている理由とは、即ち技術面だ。 攻撃を避けるのだって、全てその身体能力に頼っている。言ってしまえば、技術もへったくれもないごり押しということ。 現に彼女の動きは東奔西走の激しい攻撃の中で、攻撃を避けてこそいれど流麗な動きとはいえぬそれへと変化しつつあった。 もしも小神さくらという兵器が更に進化を遂げて、もっと確固たる自我を植え付けられたなら話は違ってくる。 東奔西走の攻撃を力押しではなく技術でかわし、彼の猛攻の抜け道を計算して行動できたなら、戦況は互角には持ち込めた筈だ。 いわば、職人と機械。 同じ作業を延々繰り返す機械は確実性こそ保証されていても、永遠に同じ場所に止まったまま決して進めない。 その点職人ならば年月を重ねるごとに技は進化を遂げ、確実性では勝てずとも、やがてその技は唯一のそれに肉薄していく。 「そのような、心の宿らぬ戦い方で」 さくらは逃れつつも、東奔西走の急所を狙う。 鍛えられたその肉体を一撃で貫けるかどうかは怪しいところだが、さくらの力も人間としては間違いなく規格外に位置する大きさ。 内臓を抉るくらいは期待できるかもしれない。 そこで生まれた隙に更に付け込んで一気にペースを奪い取れば、老人一人ごとき殺すのは造作もない話だ。 ごくごく機械的に、さくらは東奔西走抹殺の算段を組み立てていく。 体内の臓器の位置など大体の察しは付く。 仮に臓器を捉えられずとも兵器の拳で打たれれば、老いた肉体でまったくの無傷とはいかない筈。 さくらは東奔西走の上段蹴りが剛、と轟く音を聞きながら、その片腕を老人の胸の中央めがけて突き出した。 「…………!?」 がしぃぃっ、という快音が響く。 さくらは相も変わらずの濁った瞳のまま、目元を訝しむようにぴくりと動かした。 感情の機微と呼べるほど大層なものではなかったが、その機械思考にノイズを走らせるだけの効果はあったようだ。 東奔西走は小神さくらの殺人拳を腕の中央付近から掴み取り、自らの身体へのダメージを最小限に抑えたまま、身動きを封じていた。 さくらは引き抜こうとするも、東奔西走の追撃がそれを許さない。 相手の肉をも裂きかねない、小神さくらの鋭き手刀が彼の腕を潰さんと放たれるが、インパクトを受けたのはさくらの方だった。 まるで、巨大なハンマーで打ち上げられたような衝撃を感じた。 テニスボールにでもなったような、これまで感じたことのない感覚。 痛みよりも衝撃が大きい。 ごぎゃりという嫌な音は、しっかりとさくらの耳に入っていた。 「――――この東奔西走を、破れると思うな!」 東奔西走の打った打開策は限りなく単純だ。 目の前の機械のように冷徹な狐の行動をこれまでの打ち合いから推察するに、まずは不自由な片腕をどうにかせんとする筈と分かった。 後は単純、さくらが僅かにでも隙を見せたところで思い切り人体の急所の一つ、『顎』をアッパーカットで打ち抜く。 どんなに優れた格闘家であろうとも、人間の枠に収まっている限りはこの一撃を無傷で済ませることはどう考えたって不可能。 東奔西走だって、今撃破した紅狐に同じ攻撃を喰らっていたなら、手痛いダメ―ジになっていたことは間違いない。 根拠は、さくらの腕を掴んでいた左腕にある。 小神さくらの腕自体は見かけ通り少女のそれだったが、引き抜かんとする力は予想を超えた強さだった。 力が無かったなら、より高い威力での一撃を打てた。 しかも、直撃とはいかずとも腕に接触してしまったあの手刀もまた、少女の肉体からは考えられない威力だった。 骨がやられていないか不安になる――折れてはいないだろうが、鈍痛はしばらく消えないかも知れない。 しかし処置はまだ出来ない。 何故なら、 「……なん、と」 ――小神さくらは、付近の電線の上にて屹立していたからだ。 漫画や映画に代表される忍者のイメージと、まったく同じ光景。 両手を広げてバランスを取ろうとするでもなく、紅き狐はただ冷淡に佇みながら、あの濁った瞳で東奔西走を見据えていた。 瞬間、不覚にも背筋へ寒気を感じた。 彼女の濁った瞳はさっきまでの交戦でさんざん見ている筈なのに、改めて目を合わせてみるとよく分かる。 あれは――『死者』の目だ。 あんな目をした『人間』を、東奔西走は見たことがない。 四字熟語になったことで一部の記憶に欠損が出ているが、それでも断言できる。あれは、怪物であると。 「…………」 さくらのやっていることは、決して達人芸ではない。 東奔西走の猛攻をひたすらにかわし続けたのと同じように、持ち前の身体能力を駆使して強引にバランスを維持しているだけだ。 そこに『理屈』なんて欠片もない。 出来ることだから出来る。 たったそれだけの理不尽の下に、小神さくらは立っている。 忍者のように、幽鬼のように。 「…………」 身体状況、把握。 疲労・支障なし。 負傷・ 全身打撲、支障なし。 腹部へのダメージ、支障なし。 足へのダメージ、やや行動に支障あり。だが殺人続行の上で支障なし。 脳へのダメージ、脳震盪。だが、視界さえ使えれば戦闘続行に支障なし。平衡感覚など、自力で補う。 その他のダメージ、下顎部粉砕骨折。会話行動に大きな支障はあるだろうが、そもそも殺戮遂行の上で会話行為など不要。 よって、結論――戦闘および殺戮・続行。 「――――」 小神さくらは冷淡な動作で、高所からクロスボウの矢で東奔西走を射らんとする。 流石にその動きをくい止めることは出来ないが、ボウガンの矢ごときこれだけの間合いがあれば脅威でも何でもない。 十分に避けられる。 更に、回避の為に用いた運動をそのまま転換し、小神さくらの『着地点』を狙った重い一撃を打ち込むことも十分に可能。 そう、さくらは転落死も有り得る高所から、ボウガン発射後即座に飛び降りることを決行していたのだ。 超人的な身体能力を持っているとはいえ元は人間。無茶な着地を試みれば、骨が砕けるのは当然。 さくらは空中を落ちながらも、東奔西走の動きをしっかり濁りきった両の眼で捉え、彼の意図を機械的に認識する。 速い。 無策に受け身を取っては、老人の一撃が自分の頭を砕く。 ならばと、さくらはまともな人間であれば馬鹿馬鹿しいと一笑に伏すような行動を、平然と試みた。 「二段跳び、じゃとッ!?」 二段跳び――それこそ格闘ゲ―ムの中のような話であって、現実には到底無理とされる馬鹿馬鹿しい技術。 さくらはそれをやってのけた。 東奔西走は一瞬思わず瞠目したが、すぐにその仕掛けに気付く。 如何に生体兵器である小神さくらであれど、流石にそこまでの超人的技能は持ち合わせていない。 彼女がやったのは、単なるくだらない取捨選択だ。 クロスボウの矢ではなく、クロスボウ『本体』を落下しつつ片手で掴み――地面へと着地する直前に、全力で地面へと叩きつける。 本体は無惨な姿を晒しているが、この取捨選択は完全な妙手だった。 もしも武器を失うことを躊躇でもしていたら、東奔西走の渾身の一撃を無防備な体勢で直撃することになっていたのだ。 そうなれば――さしものさくらとて、ひとたまりもない。 東奔西走もまた戦闘勘を存分に働かせ、さくらのトリックを瞬時に見破り、死角へと逃れたさくらへ拳を打――てなかった。 (東奔西走……ルール、能力……!!) ぎり、と東奔西走は歯噛みする。 さくらのいる位置は、ほんの僅かではあったが東奔西走よりも『北側』だったのだ。 ほんの僅かの差異が、東奔西走の手を否応なしに鈍らせる。 ル―ル能力の制限がなければ、これほどに大きな隙を曝すことはなかった。 とことん、東奔西走は四字熟語として貶められたこの肉体を呪いたいと心から思った。 「…………」 さくらはディパックから『あるもの』を取り出した。 それは本体を失ったクロスボウの矢だ。 その殺傷能力はわざわざ試さずとも、その鋭い切っ先が、光を反射しておこる金属光沢が無言の内に語っていた。 さくらは躊躇無くそれを振り下ろす。もちろん、素手で。 《東西にしか移動できない》ルールの縛りによって、一瞬だが確かな隙を作ってしまった東奔西走は避けようとするが、遅い。 クロスボウの矢の鋭い切っ先が彼の胸板を裂いて、真っ赤な液体を漏らさせていた。 「っっ……!」 傷口は決して深くはない。 あと一瞬対処が遅れていたなら致命傷だったかもしれないが、とりあえず今のところは問題ないようだった。 東奔西走は矢を振り下ろしたことで位置が若干ながら変動したさくらへ、迷わず重い一撃を打ち込む。 それは彼女の手元の棍棒へと吸い込まれ、無惨にもクロスボウの矢はその棒状の部分から真っ二つにへし折れてしまった。 だが手はある。 クロスボウの矢を、更にディパックから取り出す。 本体を捨てたのは別に無我夢中だったとかではなく、この矢単体であっても殺人用途で十分に利用可能と判断したからでもあった。 刺し貫く。 狂い無く急所を狙ったその一撃は、回避を取っていたとはいえ東奔西走の左腕を、またも浅くではあるが確かに裂いていた。 あれでは掠り傷だ。 やはり急所を突かなければ――さくらが再び矢を東奔西走へと向けようとしたその刹那、老人の姿は視界から消えていた。 「…………? 、――――!!??」 いや、違う。 東奔西走は、全速力で小神さくらの懐へと踏み入っていたのだ。 これは危険な賭けだった。さくらの反応速度が想定より僅かにでも速ければ、一撃の代償として手痛い傷をもらう可能性がある。 しかし、この狐を沈められるならば。 そう考えた東奔西走は捨て身の一手として、この方法を選んだ。 強烈な速度で叩き込まれた正拳突きが、そのまま威力を殺せずにさくらの肉体をくの字に曲げさせて、彼方へと吹き飛ばした。 あまりにも呆気ない幕だったが、東奔西走としては珍しく冷や汗を流すに足るだけの戦いだったと、いえる。 命を奪えたかどうかはわからない。 ただ、当面の脅威は去ったといっていいだろう。 「さて、のう――」 安堵の息を漏らした途端、痛みを思い出した。 結局本来の用途での使用とならなかった矢によって切り裂かれた胸。命にも行動にも支障はないが、処置しておきたい。 腕の掠り傷もそうだが、化膿されては困る。 (ユキコたちは、大丈夫かのう……) 処置も施したいが、まずは合流が先だ。 彼は現在彼女・狭山雪子がどんな状態であるかを知らない。 知らないが、何となく言いしれぬ胸騒ぎだけは感じていた。 しかし、どうにもできない。 自分の無力を痛感しながら、東奔西走はかつて別れた、今はもう壊れてしまった少女を探して歩き出した。 四字熟語VS生体兵器――勝者、四字熟語・東奔西走。 【C-6/市街地/一日目/昼】 【東奔西走@四字熟語バトルロワイヤル】 [状態] 疲労(中)、胸に裂傷(命・行動に支障なし)、左腕に掠り傷(行動に支障なし) [服装] 特筆事項なし [装備] なし [道具] 基本支給品一式、ランダム支給品×2 [思考] 基本:殺し合いを潰す。 1:一先ずは狭山雪子と他二名に追いつく。狭山が南北に行ったのならば協力者を捜す。 2:傷の処置も余裕があればしておきたい。 3:出来ることならタクマを探す。 4:二人(行木団平、ジャック・ザ・リッパ―)には警戒しておく。 [備考] ※四字熟語バトルロワイヤル、死亡後からの参戦です ※ル―ル能力により東西にしか移動できません ◆ ◆ 小神さくらは、すっくと立ち上がった。 強く打ち付けられたことで胃液と僅かな吐血を催したものの、別段何でもないかのように立ち上がってみせた。 彼女は生体兵器だ。 それゆえにその生命力は常人とは一線を画しており、東奔西走の一撃をもろに受けてもどうにか生命を保つことには成功していた。 とはいえ、腹部へのダメージはかなり甚大だ。 徒手空拳でこれほどのダメージを背負う羽目になるとは、小神さくらにしたって思いもしなかっただろう。 さくらはボロボロだ。 だが、その生命を削りきるにはまだまだ足りない。 防戦一方のまま場所を移動しつつ戦った疲労も。 アッパ―カットにより脳は揺らされ、衝撃で半壊状態にある下顎も、見た目は深刻な損傷に見えるが、足りない。 腹部へのダメージは強大だが、やはりまだ足りない。 行動可能。 小神さくらは感慨も風情もなく、微塵の名残惜しささえ感じないままで、次なる獲物を今度こそ仕留めるべく歩き出した。 濁った、死んだ魚のような瞳のままで――― 【小神さくら@俺のオリキャラでバトルロワイアル2nd】 [状態] 全身打撲(活動に支障なし)、左足に裂傷(処置済、行動に若干の支障あり)、下顎が半壊、腹部にダメージ(極大) [服装] 特筆事項なし [装備] なし [所持品] 基本支給品一式、クロスボウの矢、ランダム支給品1~2 [思考] 基本:殺し合いを遂行する。 [備考] ※俺のオリキャラでバトルロワイアル2nd、死亡後からの参戦です ※支給品は確認しましたが、武器はもう残っていないようです ※クロスボウは破壊されました 時系列順で読む Back:優しくキミは微笑んでいた Next:行人不知 投下順で読む Back:空蝉 Next:行人不知 070:失踪する思春期のパラベラム『バーンアウト』 小神さくら [[]] 070:失踪する思春期のパラベラム『バーンアウト』 東奔西走 [[]]
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絶望の夜を、希望の朝に継いで 「メルディ」 キール・ツァイベルは、隣り合った褐色の肌の少女に声をかけた。 「…………」 彼女の耳には、果たしてその言葉は届かなかった。 「メルディ…!」 メルディと呼ばれた褐色の肌の少女に、キールは再度声をかける。 「…………」 それでも届かぬ、自身の声。キールは苛立って、つい語調を荒げる。 「メルディ! 聞こえているなら返事をしろ!」 「!」 その言葉で、ようやくメルディは耳を叩く声の存在に気付いた。 メルディは首を弾かれたかのように持ち上げ、そしておもむろにキールの顔を見る。 「…はいな」 そして、その返答はただただ弱々しかった。 「…ったく、お前って奴は…」 キールは思わず、焦点を結ばない彼女の瞳に苛立ちと、そしてどうしようもないもどかしさを覚えてしまう。 ネレイドに憑かれた、その後遺症。メルディの心は、ほとんどここに在らずといった様相を呈していた。 (…無理もないけれどな…) ネレイドが彼女に付いた際、繰り出したあの強大な力を考えれば無理もなかろう。 そして、あの力ゆえに自身らが命拾いしたことを考えれば、これまたどうしようもないもどかしさに、キールの心は苛まれる。 先刻E2の城に降り注がんとしていた、轟雷の驟雨。 そしてあれを止めたのは、メルディの…メルディの招来したネレイドの、闇の極光の力であることは、変えようのない真実。 あの雷の雨の威力は、思い出すだけでも鳥肌が立つ。この程度の小規模の戦いには、本来使うような代物ではない。 さすがにあの一撃の威力は、シゼル城を守っていた黒体を破砕した、改良型のフリンジ砲ほどではあるまい。 しかし、確実にセレスティアの七大秘宝の一つ、バンエルティア号に搭載された主砲の威力は軽く凌駕していた。 47年型12連装クレーメルエンジンの叩き出す、2万8000エストの出力… それを以ってして放たれるバンエルティア号の晶霊砲は、直撃なら並の駆逐艦ぐらい木っ端微塵に爆砕できる。 いわんや、人間がそれに巻き込まれでもしたらどうなるか。結論は簡単である。 グロビュール歪曲の原因となる晶霊力元素にまで肉体は還元され、影も形もなくなる。つまり、跡形もなく消滅する。 メルディの肉体は、それほどの威力を持つバンエルティア号の主砲をも超える、強大なエネルギーの砲身となったのだ。 あれほどのエネルギーをほぼ完璧に相殺できるだけのエネルギーを行使して、体が粉微塵にならなかっただけでも奇跡的である。 力を用いたその代償が、精神力の減殺だけで済んだなら、それは大儲け。破格の取り引きと言えよう。 メルディの心は、それゆえに心ここにあらずといった状況にあった。 「…ちくしょう」 思わずキールは、毒づいた。手に握り締められた、リッドのチョーカーを震わせながら。 クレーメルケイジを奪われただけで、どれほど自分が無力な存在になるかを思い知らされながら。 本来なら、ネレイドに殺されるべきは、自分であったのに。 この忌まわしき世界から抜け出す力を持った、リッドとメルディこそが生き延びるべきであったのに。 (…僕は…無力過ぎる…) キールの目の中で、光が揺れる。目の奥が熱くて、そのくせからからになっている。 「リッド…埋めてきちゃったな…」 「ああ…」 さすがにリッドの死体を運ぶのは、自分達2人だけでは厳しい。だが、死体を野ざらしにするのは余りにしのびない。 ゆえに、リッドはその場で土葬して、キールらはその場を去った。 メルディから借りたクレーメルケイジで、威力を絞った「ロックブレイク」を用いて地面に穴を掘り、略式の葬儀を行なった。 セイファート教の聖なる印である、十字型に結ばれた木の棒を立て、「リッド・ハーシェル、安らかに眠れ」と記した。 それが、リッドに出来たせめてもの供養。 形見分けとして、リッドのチョーカーを首から外し、リッドの装備を貰い受けて、2人は今ここにいる。 「これで…良かったんだよな、リッド」 キールの頭の片隅では、リッドの首を切り落として首輪を持って行け、と言う声も聞こえた気がした。 だが、さすがにそんな死者を辱めるような厚顔無恥な行いは、キールには行ない得なかった。 ましてや、それが腐れ縁とは言え、長い旅のうちに真の友情を結んだ友の亡骸とあれば。 「…いっぱい、人が死んだな…」 「…ああ」 「このままじゃ、もっと人が死ぬか?」 「…ああ」 「メルディも…いっぱい人殺しちゃったよ」 「違う…それは違う」 最後の言葉は、断言するキール。 「メルディ…死ぬのが怖くて、ネレイドに体譲ったよ。そのせいで、人を殺しちゃったよ… 最後には、リッドも殺しちゃっ…」 「違う! どれほど精緻な論理を組まれようと、どれほど合理的な解を演繹されようと、そればかりは譲るものか!! リッドを殺したのはネレイドだ!!!」 ヒステリックな物言いになるのを、分かってはいても抑えることはできない。キールは、本気の怒りを乗せて叫んだ。 「…リッドを殺したのは、ネレイドだ」 もう一度繰り返すキール。溢れそうになる怒号を、必死にせき止める。 「そしてネレイドをこの会場にけしかけたのは、ミクトランだ」 非論理的な当てこすりだと分かっていても、キールはその逆恨みを口にせずにはいられなかった。 ミクトランがネレイドをこの会場に招待するなど、数分の議論もなくして論破できる馬鹿馬鹿しい迷妄。 神を使役するなど、命の定まった存在にできようものか。愚劣で稚拙な論理展開である。 それでも、そんな邪推や逆恨みを口にせずにはいられるほど、キールは冷血ではない。 怒りで心が煮えたぎりそうで、悲しみで心が凍り付きそうで、憎しみで心が焦げそうで、身悶えするほどに苦しんでいる。 「…だからお前には罪はない。真に罰せられるべきは、ミクトランなんだ」 「…はいな…。キール、メルディ分かったよ…」 「それでいい。生き延びることさえ出来れば、セイファートに罪を懺悔する時間ならいくらでもある。 だから今は、生き延びることを考えろ」 そのために、今できること。キールにできることは、キール自身が良く分かっている。 キールは羊皮紙と羽ペンをとりながら、メルディの書き連ねたメルニクス語のメモに、付記や注釈を盛り込む。 この島においては、どういう理論が働いているのか詳細は不明だが、何故かキールにもメルニクス語の読解ができる。 本来なら、キールは辞書抜きにはメルニクス語の読解は不可能なはずであるのに、である。 (この空間における異常な晶霊力の振る舞いが、僕らの体内の水晶霊力を解して脳に作用し、 オージェのピアスと同等の効果を言語読解能力にまで拡張した結果なのか?) 仮説はいくつか考え付くが、現状ではそれより重要な情報はいくらでもある。 その結果が、キールの皮袋の中に眠る、紐で綴じられた分厚い羊皮紙の束。 この2日のうちに集め、整理し、交換して手に入れた情報はすでに膨大なものとなっている。 最初は数枚のメモ片も、今や膨れに膨れてレポートと呼ぶにふさわしい、分厚い冊子となっている。 この空間とエターニアとの間の、晶霊学的差異。 この島の各地で、行軍や作戦の合間に行なったグロビュール歪曲係数の測定結果。 ファキュラ説の成立・不成立の確認。それから派生する、この空間を成立させている原理や理論への考察。 ジェイと出会ってからは、よりこの島における戦術・戦略の眺望、そして各マーダーへの具体的対抗策。 また、ミンツ大学では教養科目で僅かにしか習わなかった、戦術・戦略論の基礎知識。 そして、現在のところ最も重要な情報である、首輪の安全な解除方法。 (メルディがネレイドに乗っ取られてる間、メルディは色々首輪を見てみたよ) すなわち、精神をバテンカイトス側に引きずり込まれた状態で、物質世界を「見てみた」結果が、そこには記されていた。 更には、この会場をバテンカイトス側から観察した差異の知見という、素晴らしいおまけまで付いている。 そこに記された事実から、キールは次々と情報を吸収してゆく。 (なるほど…物質世界側からの物理的な干渉をするなら、首輪は即座に爆発する。 けれども、バテンカイトス側からの干渉なら、首輪の起爆システムに引っかからずに首輪を分析できる… 怪我の功名とも言うべき、合理的な首輪の解析手段だ) だがその功名を得るための「怪我」は、あまりにも大き過ぎる。キールはリッドやメルディを想いながら、顔をしかめた。 (だが、この記述はかなり信頼度が高いな) そこにあったメルディの首輪の観察結果は、今のところキールが採取し分析したどのデータや仮説とも矛盾していない。 (首輪を解除するに当たっての大問題は…) 首輪に仕掛けられた起爆装置の感度。首輪の起爆装置は、あまりにも感度が高過ぎる。 (…首輪に仕組まれたどの装置にも、首輪の起爆装置と直結したブービートラップが仕掛けられている。 装置のどこか一箇所が少しでも異常動作すれば、問答無用でドカンといく代物か。 起爆装置そのものを解除するにしても、起爆装置自体が十重二十重のブービートラップで守られている。 ここまで偏執的な装置を組むミクトランも、さすがと言ったところだな) 休息中、事情を筆談で説明しメルディにまとめてもらった首輪の情報は、すらすらとキールの頭に入ってくる。 さすがはセレスティアの筆頭晶霊技師、ガレノスの直弟子と言ったところである。 ミンツ大学の中でも、十分優等生と認定されるだけの、分かりやすくまとまった素晴らしい書き方である。 これなら、自身が再編集する必要もない。 メルディはそれだけ、ネレイドに意識を乗っ取られている間、一意専心で首輪の解析に励んでいたのだろう。 このまとめを書き終えた際の、メルディの糸が切れたかのような虚脱ぶりを見れば想像は容易。 まとめを書いている最中とその前後の、躁鬱病の患者にも似たその落差を見れば――。 (とにかく、これ以上メルディを傷付けてなるものか) 今度こそ、守る。ファラを、そしてリッドを失ったキールとメルディ。これ以上、失われてなるものか。 (そのために、メルディには負担をかけられない) メルディはネレイドに意識を乗っ取られ、挙句には生身のまま激烈な破壊力をもたらす闇の極光を解放しているのだ。 メルディの精神はすでに限界すれすれまで磨耗している。 あと一度、上級晶霊術やそれに匹敵するほどの精神的負担がかかれば、恐らくメルディは耐え切れない。 メルディは、完全に壊れてしまう。 (今は、ロイドと合流しないとな) ロイドが生きていてくれたなら。 セイファートの恩寵を賜ったリッドでさえ命を落とすほどの、熾烈な戦いが巻き起こったのだ。 ロイドが生きていてくれる保証も、どこにもない。生きていたとしても、どれほどの手傷を負っているのかも分からない。 メルディからクレーメルケイジを借り受ければ、今なら「ナース」と「レイズデッド」が使える。 「ナース」は、一度に全ての仲間の傷を癒すことの出来る晶霊術。 「レイズデッド」は、命の熾火がほんのひとかけらでも残っていれば、それを再び燃え上がらせることの出来る蘇生の術。 この術さえあれば、仲間達を救護することが出来る。 肉体と霊魂を結ぶ緒が切れていないなら、致命傷を負った仲間も助け出せる。 (生きていてくれよ…ロイド。せめて、「レイズデッド」で踏み止まれる程度でいてくれ!) 果たして、そのキールの望みは叶えられた。 丘を登り切ったところで開ける、夜明けの草原の橙の海。 「メテオスォーム」の集中爆撃を受けたかのように、黒々とした盆地が広がる。 E2城の跡地。 二度の大崩落を起こしたE2城は、もはや地面に打ち込まれた礎石がなければ、そこに城があったなどとは誰も信じまい。 「サウザンドブレイバー」と闇の極光が真正面からぶつかり合い発生した爆風で、残っていた城壁なども全て空に帰した。 爆風の余波だけで、これほどの大破壊が起こったのだ。 改めてキールは闇の極光の超絶的な力に恐怖し、そしてこの地での決戦に巻き込まれながら生き延びた幸運に安堵した。 そして、その爆心地にたたずむは、鳶色の髪の少年。アイスブルーの髪の青年。そして、見慣れぬ1人の男。 アイスブルーの髪の青年は、ただ2人に頭を垂れていた。心なしか、その瞳が揺れているようにも見えた。 そして、その青年に向かい、鳶色の髪の少年は語りかける。非を責めるようではなく、励まし奮い立たせるような表情で。 そして見慣れぬもう1人の男は、それを見てこくこくと頷いている。2人のやり取りの結果を、鷹揚に承認するかのように。 そして3人は、手を差し伸べ合い、一つにそれを固め合う。3本の手は、いずれも無傷ではなかった。 けれども、みな生きている。生きているのだ。 キールは、歓喜の声を上げそうになった。メルディも、わけも分からずといった様子でキールに倣う。 キールは叫んだ。鳶色の髪の少年の名を。 鳶色の髪の少年は呼んだ。キールの名を。 鳶色の髪の少年は、目に歓喜と希望を宿し。 アイスブルーの髪の青年は、目に思慮と憂いを宿し。 そして見慣れぬ1人の男は、目に不屈の正義感を宿し。 キールは確たる足取りで、鳶色の髪の少年に歩み寄る。 メルディはふらつく足取りで、キールを追う。 希望と絶望がない交ぜになった、甘く苦い再会が、この殺戮の島の上にて果たされた。 その再会を見届けつつ、双月は地平線に抱かれる。 その再会を祝福しながら、太陽は地平線より這い上がる。 消え行く星々は、何を思い蒼穹にうずまるのか。 この夜を耐え切った五つの希望の灯火は、半日ぶりの日の光に瞳を、そして心を震わせていた。 「クキュキュキュクィッキー!」(ほんと、こいつぁ喜んでいいやら悲しんでいいやら…オレには分からねえぜ) メルディの傍らに寄り添う一匹のポットラビッチヌスは、その灯火を見やりながら、一声だけ鳴いた。 【キール 生存確認】 状態:TP65% 絶望と希望がない交ぜ 所持品:ベレット セイファートキー ムメイブレード ホーリィリング リバヴィウス鉱 キールのレポート(キールのメモを増補改訂。キールの知りうるあらゆる情報を記載済み) 基本行動方針:脱出法を探し出す 第一行動方針:ロイド達と情報交換及び作戦会議を行う 第二行動方針: 首輪の情報を更に解析し、解除を試みる 現在位置:E2城跡地 【メルディ 生存確認】 状態:TP15% 軽微の火傷 精神磨耗(TP最大値が半減。上級晶霊術の行使に匹敵する精神的負担で廃人化) 所持品:BCロッド スカウトオーブ C・ケイジ (サック破壊) 基本行動方針:キールに従う(自己判断力の低下) 現在位置:E2城跡地 【ロイド=アーヴィング 生存確認】 状態:HP5% TP20% 右肩に打撲、および裂傷 右手甲複雑骨折 胸に裂傷 疲労 歓喜と希望 所持品:トレカ、カードキー エターナルリング ガーネット 基本行動方針:皆で生きて帰る、コレットに会う 第一行動方針:仲間達と情報交換および作戦会議を行う 第二行動方針:仲間達と行動 第三行動方針:協力者を探す 現在位置:E2城跡地 【ヴェイグ=リュングベル 生存確認】 状態:HP20% TP45% 思慮と憂い 所持品: 忍刀・紫電 ダーツセット クナイ(3枚)双眼鏡 チンクエディア エルヴンマント ダオスの皮袋(ダオスの遺書在中) ジェイのメモ(E3周りの真相、およびフォルスについての記述あり) 基本行動方針:未決定。作戦会議後に決定する 第一行動方針:グリッド達と行動を共にする 第二行動方針:ティトレイに再会すべきか否か葛藤している 現在位置:E2城跡地 【グリッド 生存確認】 状態:顔面強打 左腕に凍傷 若干の疲労 不屈の正義感 所持品:マジックミスト、占いの本 、ハロルドメモ ペルシャブーツ 基本行動方針:生き延びる。 漆黒の翼のリーダーとして行動 第一行動方針:ヴェイグ達と共に行動する 第二行動方針: プリムラを説得する 第三行動方針:シャーリィの詳細を他の参加者に伝え、先手を取って倒す 現在位置:E2城跡地 ※キールとメルディのフリンジのルール この会場においては、キールはインフェリアの五大晶霊、メルディはセレスティアの五大晶霊を体内に宿している。 C・ケイジなしでは、それぞれの体内に持つ属性同士のフリンジで作成される晶霊術のみ使用可能。 またこの際上級晶霊術は使用不可。また晶霊術の威力も低下する。 C・ケイジがある場合、C・ケイジと体内にある属性同士でのフリンジが可能。 この際上級晶霊術も使用可能だが、体内の属性のみのフリンジでは、やはり上級晶霊術は使えない。 すなわち、C・ケイジを介さないフリンジでは、上級晶霊術は使用不可とする。 また、C・ケイジが二つ揃ったなら、劇中にフリンジの描写を挟むことにより、C・ケイジ内の大晶霊の組み替えも可能。 現在のところ、メルディの持つC・ケイジにはセレスティアの五大晶霊が、 プリムラの持つC・ケイジにはインフェリアの五大晶霊が込められていると推測される。 前 次
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Fighting orchestra/戦奏(3) ◆JZARTt62K2 「この、叫び声は……!?」 薫との戦闘の最中、プレセアは何者かの悲鳴を聞いた。 魂から絞り出したかのような叫び声は長く尾を引いた後、力尽きたように薄れていく。 誰かが、戦いに敗北したのだろう。 (一体、誰が……!) プレセアは焦った。もしかしたら、今の悲鳴が仲間のものかもしれないからだ。 なにせ、ジーニアス達は2対4の戦いを強いられている。苦戦しないわけがない。 (これは、かなり厳しいですね……) 決していいとは言えない戦況に、プレセアは危機感を募らせた。 そもそも、こんな泥仕合になるはずではなかったのだ。 本来ならプレセアがすぐに薫を倒し、ジーニアス達に合流する予定だった。 だが、甘かった。 プレセアは、薫の実力を完全に読み違えていた。 「余所見してる暇はねーぞぉっ!」 薫が念動力のハンマーを作り、滅多矢鱈に振り回してくる。 プレセアは攻撃を避け、時には防ぎ、そして反撃した。 鉄の戦槌が薫を打ち据えようと唸りを上げる。 しかし、攻撃は届かない。鉄槌が敵に触れる直前で、ガチン、と音を立てて見えない壁にぶつかってしまう。 薫の張るバリアに当たったのだ。 念動力の壁は破れないほど強固なものではなかったが、どうしても威力と速度は殺がれる。 グラーフアイゼンがバリアを打ち破っている間に、薫は後ろに逃げてしまった。 結果として、全くダメージを与えられない。こんなことが何度も繰り返されていた。 (予想外に厄介な相手ですね) 明石薫のスペックは圧倒的だった。 攻撃では威力が高い衝撃波を連発し、防御においてはいつでも展開可能なバリアがある。 更に空も飛べ、障害物を持ち上げることまでしてくる。 強い。プレセアは、素直にそう思った。 それでも、ここでこれ以上時間を取られるわけにはいかない。 さっきの悲鳴がジーニアス達のものだったら、もはや一刻の猶予もないのだから。 (後先考えている余裕はありません) プレセアは、グラーフアイゼンを両腕でしっかりと握り締める。 今までは怪我をしている右肩に気を使っていたが、そんなことを気にしていられる状況ではない。 武器を持ち直したプレセアが前を見ると、無数の石ころが宙に浮いていた。 薫による物体操作である。 念動力によって浮いた石々が、羽虫のように空中で蠢いている。 警戒を強めるプレセアは、ふと、石の軍隊を挟んで苦しそうな顔の薫を見た。 「ハァッ……ゼェッ……」 好き勝手に暴れていた薫も、流石に体力が尽きてきたようだ。 それはつまり、薫も賭けに出たということ。 「……これで、決着しそうですね」 「ああ……。あたしの勝ちでなぁっ!」 薫の敵意を全身で受け止めながら、プレセアはハンマーを持つ腕に規格外の力を篭めた。 EXスキルのひとつ、――マイトチャージ。 プレセアが力を込めている間にも、撃ち出されるのを待つだけの石群は次々と増えてゆく。 幾多もの石の弾丸がプレセアに狙いをつけ、女王の命令を待ち焦がれた。 石を従えた女王と、鉄を携えた戦士が対峙する。長かった戦いにも、遂に終焉が迫る。 始まりの合図は、薫の号令。 「行けぇ石どもっ! サイキック・ショットガン!」 薫の命令によって無数の石が銃弾となり、プレセアに向けて突撃する。 津波のように打ち寄せる、数多の石弾。 「――はあぁっ!」 プレセアは、その銃弾の雨に突っ込んだ。 石礫がプレセアの腕を、腹を、脚を、貫き撃ち抜き食い破る。 それでもプレセアは止まらない。 グラーフアイゼンで頭だけを防御し、顔面から飛び込むような形で石の雨を突き抜けた。 プレセアがとったのは力づくの作戦。本当に何の芸もないただの突進。 石の槍衾を突破したとき、プレセアの身体はボロボロになっていた。 肉は削れ、血は噴出し、無事な場所などひとつもない。 だが、生きている。 「マジ……かよ!?」 プレセアが顔を上げると、驚きの表情を形作っている薫の顔が間近にあった。 『肉を切らせて骨を断つ』を地でいく無茶苦茶な攻撃は、確かに成功したのだ。 「……終わりです」 プレセアは呟くと、グラーフアイゼンを振り被った。 「ちぃっ」 振り被られた鉄槌を見た薫が慌てて見えない壁を張る。 それに構わず、プレセアはグラーフアイゼンを振り下ろした。――地面へと。 「は?」 呆けた声を出す薫の足元で、土が抉れて飛び散った。 空振り。 薫の代わりに地面を穿ってしまったプレセアは――しかし、鉄槌を振り上げなかった。 グラーフアイゼンは地面に突き刺さったままである。 これは“空振りではあっても失敗ではないのだから”。 「――塵と化しなさい!」 瞬間、地面が爆ぜた。 グラーフアイゼンが突き刺さった場所を中点として大爆発が巻き起こる。 「奥義、烈破焔焦撃!」 爆炎は地面を焼き、空気を焙り、そして明石薫を吹き飛ばした。 念動力のバリアも、真下からの爆発に対しては無力である。 吹っ飛ばされた薫は空高く放り投げられると、茂みの奥へと堕ちてゆく。 悲鳴すら上げることなく、バベルの誇るレベル7の超能力者、ザ・チルドレンはプレセアの視界から消え失せた。 「敵、殲滅完了――」 後に残ったのは傷を負った少女と、焼け焦げた巨大なクレーターのみ。 長く続いた二人の戦いは、ここに終結した。 しかし、全ての戦いが終わったわけではない。 「早く、行かないと……」 プレセアは、勝利の余韻に浸ることもなく駆け出した。 ジーニアス達の下に向かい、援護するためだ。 けれども、体調は万全とは程遠い。 石礫を喰らった手足は傷だらけで、右肩の傷は殆ど開いてしまっている。 出血もひどく、焼け付くような痛みが身体全体を軋ませる。 プレセアは顔をしかめながらも、脚を動かすことを止めない。 激痛を抱えながら、うつろな魂は走り去った。 ――そして、静寂が訪れる。 プレセアが去った後、森は急激に静かになった。 二人の戦いによって、獣や鳥や虫といった森の生物が完全にいなくなってしまったためだ。 もはや、この周辺の森に生きているものは一つもない――。 否。 まだ、息をしているものがあった。 「うー…………」 明石薫は、生きていた。 身体中に火傷を負っており服もボロボロだったが、かろうじて呼吸をしている。 無意識のうちに作り出した力場が爆炎のダメージを和らげ、落下の衝撃を最小限に抑えたのである。 プレセアが生死確認を行わなかったことも大きかった。九死に一生を得るとはまさにこのことだ。 茂みに埋まっている薫は、苦しげに顔を歪めている。――ふと、その茂みに異変が生じた。 呻き声を上げる薫の周りで、一人でに石ころが持ち上がったのだ。 念動力による物体操作。 しかし、薫は意識など取り戻していない。 「あ゛ー…………」 薫が再び呻き声を上げ、それに呼応するように石ころが旋回した。 異変はそれだけではない。薫が何か動作をするたびに、周囲の物が空を飛ぶ。 石に葉、土に枝。遂には倒木までもが飛行し出す。 あらゆるものがグチャグチャに飛び回る中、薫がむくりと起き上がった。 しかし、白目で頭をカクカク動かしている姿は、普段の薫からは想像もつかない。 当然だ。薫は今、自分の意志で動いていないのだから。 薫の脳は、とうの昔に限界を迎えていたのである。 「の゛ー…………」 石や木を引き連れたまま、薫がよちよちと歩き始めた。 一歩を踏み出すたびに周りの倒木が持ち上がり、薫を中心として狂ったように飛び回る。 無心の女王が物言わぬ兵隊達を引き連れ、本能のままに行軍してゆく。 ――オーバーヒート。 脳がまだ完成しきっていない子供が強力な超能力を行使し続けることにより、能力が暴走する現象。 その際、能力者は意識を失ってしまい、行動は予測不可能となる。 なお、暴走時の能力は威力がケタ違いに上がっているため、注意が必要である―― ※ ※ ※ ※ ジーニアスの目の前で、黒焦げになった何かがゴミのように転がった。 数秒前までイキモノだったそれは、もはやただの黒い塊にしか見えない。 イリヤの放った火炎弾が、ジーニアス達を守っていたウツドンを焼き殺したのだ。 「あ、あああぁぁ」 陽炎の中、ジーニアスは思わず膝を突きそうになる。 今まで共に戦ってくれたウツドンが死んだことが悲しく、悔しい。 だがそれ以上に、現状のあまりのどうしようもなさに目眩がしてくる。 すぐ前には、敵に押さえ込まれていて動けないアルルゥ。 ウツドンを焼き殺した炎の先には、無傷で立ちはだかる3人の魔術師。 どう考えてもジーニアス一人では攻略不可能な壁だ。 どれだけ強力な晶術を使っても、悪足掻きにしかならないだろう。 (――って、ダメだ! ここでボクが諦めたら、全てが終わる!) ジーニアスは諦めかけた自分に活を入れ、折れかけた心を修正する。 どれだけ絶望的な状況に陥っても希望を捨てることだけはできない。 精神を奮い立たせたジーニアスは、汗でベタベタになった手の中のカードを見た。 それは、アルルゥが落とした『駆』のカード。アルルゥを抱えた時に抜け目なく回収していたのだ。 (……やるしか、ない) カードを見つめたジーニアスは、心の中で呟く。 意は決した。後はただ、進むのみ。 ジーニアスはカードに魔力を込めた。敵の魔術師やアルルゥを見て使い方はわかっている。 青髪の魔術師は、カードに全神経を集中させた。裂帛の気合とともに。 (ドワーフの誓い第16番、『成せばなる』!) ジーニアスの身体を風が包み込み、『駆』のカードが発動する。 『駆』は、短距離勝負で無敵のスピードを誇る獣。使用者に最速の足を与えるカードである。 クロウカードの力によって俊足を得たジーニアスは、力強く地を蹴り飛ばす。 ――そして敵に背中を見せ、一目散に逃げ出した。 「ッ! 仲間を見捨てるの!?」 背後から、驚いたようなさくらの叫び声が追って来る。 アルルゥを完全に見捨てたのだ。当然の反応だろう。 それに対して、ジーニアスは吐き捨てるように応えた。 「ボクはまだ死ねないんだよ!」 その答えを聞いた少女達は、 「このッ……そこまで外道だとは思いませんでしたわ!」 ベルフラウは怒り、 「ウソ、本当に、逃げちゃうの……?」 梨々は戸惑い、 「ひどいよ!」『一緒に戦ってきた仲間じゃなかったんですか!?』 さくらとリインは悲しみ、 「やっと本性を表したわね! ほら、私の言った通りじゃない!」 イリヤは歓声を上げ、 「…………」 アルルゥは無言を通した。 それら一切合切を無視して、ジーニアスは背後の森に飛び込んだ。 と、すぐに倒木に足を取られ、無様に転倒してしまう。 「あはははははっ!」 『Chain Bind』 姿勢を崩したジーニアスを見て、嘲笑と共にイリヤが拘束魔法を放つ。 二本の魔力の鎖がジーニアスに襲い掛かる。 「……『駆』!」 が、ジーニアスは前転して姿勢を正し、再び『駆』を使用した。 転んだにも関わらず、流れるような動きで加速したジーニアスを捉え損ね、魔力の鎖が地面を貫く。 鎖を回避して走り出したジーニアスは、またも途中で腕を木にぶつけた。 バランスを崩し速度を落としたジーニアスが、ふらふらと森の中へと消えてゆく。 「ッこの! 逃がさないわよ!」 確実に狩れると思った獲物に攻撃を避けられたイリヤはムキになった。 S2Uを中段に構え、逃げる獲物を追い詰めるべく追跡を開始する。 「イリヤちゃん、一人で行っちゃダメ!」 「全く、さっきのことをもう忘れたのかしら!? しかたないですわね……梨々、その子は任せましたわ! あと、亜人のあなた! あんな下衆に見捨てられたからって気にする必要はありませんわよ!」 「う、うん。わかった!」 「…………」 ジーニアスを追って飛び出したイリヤの後に、さくらとベルフラウが続く。 梨々はアルルゥを押さえる役目があるため、一人でお留守番だ。 茂みが掻き分けられ、3人の人間が森へと消える。 4人が入っていった森からは、すぐに魔法による轟音が聞こえてきた。 戦争は、どちらかが全滅するまで終わらない。それが摂理だとでも言うように、子供達は戦い続ける。 だが、その戦闘から一時的に離脱できた幸運な者もいる。取り残された梨々とアルルゥだ。 「さくらちゃん、気をつけてね……。多分、警戒すべき人はあの男の子だけじゃないはずだから……」 イリヤとベルフラウを危険だと疑う梨々はさくらを心配し、 「うー……」 梨々に押さえつけられているアルルゥは、ジーニアスが消えた森をずっと睨みつけていた。 ※ ※ ※ ※ 「こ……のっ!」 『Accel Shooter』 殺意を孕んだイリヤの魔法が放たれる。何発もの光弾が獲物を食らおうと空を駆けた。 しかし、アクセルシューターが狙った場所に辿り着いたときには、獲物は既に消えていた。 弱弱しい背中を見せながら逃げるジーニアスは攻撃が当たる瞬間だけ『駆』を使用し、危なげながらもイリヤの魔法を避け続けている。 その度にイリヤは悔しそうに唇を噛み締め、S2Uを強く握り込む。 ジーニアスはふらつきながらも要所要所で『駆』を使い、なかなか狩られてくれない。 あと、少しなのだ。だが、その『あと少し』が、遠い。 イリヤは再びS2Uを構え、逃げるジーニアスを追おうとした。 直後、背後から『仲間』の声がかけられる。 「イリヤ、待ちなさい! 一人で先行してはいけないとあれほど言ったでしょう!」 追いついてきたベルフラウである。 その言葉に対して、イリヤも負けじと言い返す。 「だって、あと少しで捕まえられるのよ? もたもたして逃がしたら、また人殺しをするに違いないわ!」 「こちらの消費も考えなさい! あなただって、魔力が残り少ないのではなくて?」 「……ッ!」 ベルフラウの言葉に、イリヤは反論できなかった。 魔力が残り少ないのは確かだ。 魔術回路“そのもの”であるイリヤでも、度重なる戦いによってかなりの魔力を消費していた。 凶戦士の英霊すら軽く使役できるほどの魔力量を持つイリヤにも限界はある。 疲労もひどく、気を抜くと倒れてしまいそうだ。 だが、それでも。 (あと一人……あと一人殺せば回復できる) あと一人なのだ。ジーニアスさえ殺せれば、『ご褒美』で体力を回復できる。 アルルゥを殺してもご褒美は貰えるが、さくら達にバレないよう殺すのは骨が折れる。 『仲間』もまだまだ利用できそうであり、ここで切り捨てるのは得策とは思えなかった。 ならば、衰弱しているジーニアスを狩るのが一番効率的である。 皮算用を始めたイリヤの前で、ジーニアスがまた転倒した。 10メートルほど先の地面で、今にも死にそうな魔術師がふらふらと起き上がる。 それを見たイリヤの心に、焦りと後悔の感情が浮かび上がった。 こうして話している間に追いかけていれば、トドメが刺せたのではないだろうか? あれだけ弱った敵なら、流石に自分一人でも倒せるのではないか? イリヤは、決めた。 「もういい! 私一人でやるもん!」 「イリヤッ!」 ベルフラウの叫びを無視し、イリヤはジーニアスに向けて突進する。 それを見たジーニアスはすぐさま『駆』を使い、森の奥へと飛び込んだ。 それを追ったイリヤも森に消え、2人の姿はすぐにベルフラウの視界から消えた。 「このっ……もう知りませんわ!」 イリヤに拒絶されたベルフラウは頬を膨らますとそっぽを向く。 その後ろから、足音が近付いてきた。 少し遅れてしまっていたさくらが、ようやく追いついたのだ。 「はあっ、はあっ、ベルちゃん、イリヤちゃんは!?」 「勝手に先に行きましたわ。あんな子、どうにでもなればいいんです」 怒りを顕にしたベルフラウが冷たい言葉を吐く。 元々イリヤにいい感情を持っていなかったこともあって、ベルフラウは本当にイリヤのことなどどうでもいいと思っていた。 さくらは、そんなベルフラウを悲しそうに見た後、リインに尋ねる。 「リインちゃん。エリアサーチ、まだ使える?」 『は、はいです。使えますけど、でも、さくらちゃんの魔力が……』 「さくら、なぜそこまでしますの!? イリヤは私達の言葉を無視して行動しているんですのよ!」 あくまでイリヤを助けることに拘るさくらを見て、ベルフラウが昂ぶった。 さくらだって魔力を消費している。魔法の並列使用を行ったため、むしろ3人の中で最も消費しているかもしれない。 イリヤは、ここの島で始めて出会った、数時間しか一緒に過ごしていない相手だ。 勝手に突っ走って敵を捕まえようと――いや、むしろ殺そうとしている危険な少女。 普通に考えれば、さくらが身を削って助ける必要などないはず。 それでもさくらは言った。 「でも、見捨てることなんてできないよ。仲間なんだもん」 ベルフラウは声を詰まらせた。 さくらは、本当にイリヤのことを思いやっていた。 いや、イリヤだけではないだろう。さくらは、合って間もないはずの梨々も、ベルフラウも、敵でさえも思いやっている。 それが、木之本さくらという少女。 周りの誰かが傷ついたり、悲しんだりするのが見たくなくて。 その為に頑張って、苦しんで、傷ついて。 それでも、笑い続ける人間。まるで、あの先生のような―― ベルフラウは、髪をぐしゃぐしゃと掻き毟った。 そして叫ぶ。とても不機嫌そうに。 「ああもう! 何で私の周りには死ぬほど馬鹿なお人好しばかり集まるのかしら! ……わかりましたわ。行けばいいんでしょう、行けば!」 「ベ、ベルちゃん?」 「魔力切れの魔術師一人行かせるわけにはいかないわ」 「それは……」 「それに、今のあなた一人では碌に援護も出来ないのではなくて?」 「……うん。ありがとう、ベルちゃん」 「……それは偽名なの」 「ほえ!?」 「ベルフラウ。私の名前は、ベルフラウ=マルティーニですわ」 「あ、う、えっと……。ありがとう、ベルフラウちゃん」 「うん。わかればよろしい」 急な名前変更宣言に慌てるさくらを見て、ベルフラウは笑った。 それは、この島に着てから始めて浮かべた、無敵の笑顔。 その笑顔を見たさくらは、戸惑いながらもおずおずと笑みを返す。 「止めよう。あの男の子を、イリヤちゃんを、戦いを。大丈夫……私達なら、絶対大丈夫だよ」 「ええ。こんな馬鹿らしい戦いは、さっさと終わりにしてしまいましょう」 『はい、リインも頑張るです!』 頷き合った三人は、イリヤを追って駆け出した。 その途中で、ふとベルフラウは考える。 ――それにしてもあのジーニアスって少年、動きが何か変でしたわね。 まるで、攻撃範囲ギリギリに陣取って敵をおびき出す『誘い込み』をしているような―― ※ ※ ※ ※ 「よかった……。ちゃんと、付いて来てる」 ジーニアスは、泥で汚れた口元を拭いながら呟く。 後ろを盗み見ると、遠く離れた木々の隙間にイリヤがいるのがわかった。 それを確認したジーニアスは“わざと”木の根に蹴躓き、できるだけ無様に見えるように転んだ。 ジーニアスの転倒を見たイリヤは速度を上げ、トドメを刺そうと一気に接近する。 地面に這い蹲っていたジーニアスはすぐに起き上がり、再び『駆』を使って逃げ出した。 不恰好に。ただ、不恰好に。 (これで、十分アルルゥから引き離せたかな) イリヤさえ傍にいなければアルルゥが殺されることはない――。それが、ジーニアスの考えだった。 イリヤは自分達に問答無用で襲い掛かり、翠星石を殺した殺人鬼だ。 機会があれば何の躊躇もなくアルルゥを殺すだろう。 だが、他の少女達はどうだろうか? イリヤに騙されている、他の少女達はどうだろうか? イリヤが自分を殺そうとしたときにイリヤを非難した、魔術師の女の子はアルルゥを殺すだろうか? ウツドンが殺されたときに思わず目を伏せていた、コレットに似た女の子はどうだろうか? 敵であるはずのアルルゥに励ましの言葉を送った、高飛車な女の子は? 多分、大丈夫だろう。 あれだけ優しい少女達なら、間違ってもアルルゥを殺したりはしないはずだ。 (それに、裏切りに対してあれだけ怒る人に、悪い人はいないはずだしね) ゼロスの裏切りに怒り、悲しみ、悔やみ抜いたロイドのように。 ならば、残る問題はイリヤだけ。 イリヤさえ自分が引き付ければ、アルルゥの安全は保障される。 (それなら、僕のプライドなんて安いもんだ。喜んで悪役になってやる!) つまり、ジーニアスは“わざと”無様に逃げるフリをし、イリヤを引き付けていたのだ。 ただ、アルルゥからイリヤを引き離すためだけに。 現在、事はジーニアスの思惑通りに進んでいる。 このままいけば――いずれ自分は追い詰められるだろう。 残る魔力は少なく、イリヤの気を引くための演技で身体は傷だらけだ。 (ごめん、プレセア。アルルゥのことは任せた。それとごめん、ベッキー。約束、守れそうにないや。でも、それでも――) ジーニアスは、小さく吼える。 「翠星石の仇だけは、絶対取るから……!」 牙を隠した獲物と狩人の追走劇も既に終盤。 ジーニアスが『駆』を使い、イリヤが追撃をかけるというループが終わろうとしている。 ちょうどその時、どこか遠くで爆発音が響いた。 ※ ※ ※ ※ 城の前にある森は、見るも憚られる惨状を呈していた。 多くの木が薙ぎ倒され、あちこちで火が上がり、爆発まで起こっている。 その上空に、浮かぶ影が一つ。 「あら、なかなか楽しそうなことをしているわね」 永遠に赤い幼き月。幻想郷のヴラド・ツェペシュ。紅い悪魔。 レミリア・スカーレットは、その黒翼を大きく揺らす。 レミリアは戦場と化した森を見下ろすと、小さな唇の端を吊り上げた。 「さて、どこから蹴散らそうかしら?」 悪魔が乱入し、舞台はますます混迷を極め始めた。 運命の針が狂い出す。 想いは全て空回り。 デウス・エクス・マキナなど顕れない。 カーテンフォールには未だ遠く。 少年少女は踊り続ける。 【E-4~F-4のどこか/森/1日目/夕方】 【追う魔術師と追われる魔術師】 【ジーニアス・セイジ@テイルズオブシンフォニア】 [状態]:疲労(大)、魔力消費(大)、全身に擦り傷 [服装]:普段着、足は快速シューズ。 [装備]:ネギの杖@魔法先生ネギま!、快速シューズ、クロウカード『駆』 [道具]:ナマコ型寝袋、支給品一式、木村先生の水着@あずまんが大王、モンスターボール(空)@ポケットモンスター 海底探検セット(深海クリーム、エア・チューブ、ヘッドランプ、ま水ストロー、深海クリームの残り(快速シューズ))@ドラえもん [思考]:負けてたまるかぁっ! 第一行動方針:アルルゥがいる場所から十分イリヤを引き離したら、相討ち覚悟でイリヤに特攻する。 第二行動方針:プレセアなら薫を倒せると信頼しているが、やっぱり心配。できればアルルゥのことを任せたい。 第三行動方針:もし生き残れたら、後で改めて湖底都市を探索する。 基本行動方針:主催者の打倒 参加時期:ヘイムダール壊滅後。ちなみにあえてクラトスルート。 [備考]: ジーニアスは、薫がゲイボルグを投げた人物なのでは、と疑っています。 【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/stay night】 [状態] 魔力消費(大)、疲労(大)、全身に切り傷(応急手当済み、命に別状はない) [装備] S2U@魔法少女リリカルなのは、凛のペンダント@Fate/stay night [道具] 支給品一式 [思考] ひとりで殺れるもん! 第一行動方針:ジーニアスを殺す。できればさくら達に殺害現場は見せたくない。 第二行動方針:できるだけ悪評を流せる者を少なくしてこの状況を抜けたい。 第三行動方針:とにかく生き残りたい。 基本行動方針:優勝して、自分の寿命を延ばす。 ※セイバールートの半年後から参戦。 ※イリヤのついた嘘の内容 翠星石を殺したのはジーニアス レンを殺したのは正体不明の魔術師 はやてには会っていない ※桜と梨々の知り合いの情報を聞いている。 【E-4~F-4のどこか/森/1日目/夕方】 【イリヤの援護に向かう二人】 【木之本桜@カードキャプターさくら】 [状態]:血塗れ、左腕に矢傷(処置済)、魔力消費(大) 、疲労(大) [装備]:パワフルグラブ@ゼルダの伝説、クロウカード『水』『風』 リインフォースII(待機フォルム)@魔法少女リリカルなのはA s [道具]:基本支給品 [服装]:梨々の普段着 [思考]:大丈夫。きっと、止められる! 第一行動方針:誰も殺さずにこの状況を収めたい。当面の目標はイリヤの援護とジーニアスの捕獲。 第二行動方針:リインのエリアサーチを定期的に使いながら移動し、友達を探す。 第三行動方針:他にも協力してくれそうな人を探す。 基本行動方針:襲われたら撃退する(不殺?) [リインフォースIIの思考] リイン、がんばるです! ※永沢、レックス、ジーニアスを危険人物と認識。梨々の知り合いの情報を聞いている。 【ベルフラウ=マルティーニ@サモンナイト3】 [状態]:疲労(中)、魔力消費(中)、精神的疲労(まだ完全ではない)、墜落による軽い打撲傷 [服装]:『ザ・チルドレン』の制服姿(野上葵の物) [装備]:クロウカード『火』『地』 [道具]:支給品一式、湿ったままの普段着 [思考]:あの少年……まさか! 第一行動方針:ジーニアスを捕獲する。イリヤは気に入らないが、さくらが行くようなので一緒にイリヤを援護する。 第二行動方針:召喚術師と交渉し仲間になってもらいたい。リインと八神はやてに期待。 出来ればメイトルパの少女(アルルゥ)とも交渉したい。 ジーニアスに裏切られたところを見たため、アルルゥにはやや同情的。 第三行動方針:みかの安否が心配。早く戻って合流したいが危険には巻き込みたくない。 第四行動方針:殺し合いに乗らず、仲間を探して脱出・対主催の策を練る。 基本行動方針:先生のもとに帰りたい。 [備考]: ベルフラウは、ロワの舞台がリィンバウムのどこかだと思っています。 ロワの舞台について、「名もなき島」とほぼ同じ仕組みになっていると考えています。 (実際は違うのですが、まだベルフラウはそのことに気づいていません) ベルフラウは、レックスが名乗るのを聞いていません(気絶していました)。 余計な危険を少しでも避けるため、ベルとだけ名乗っています……が、勢いでさくらに名乗ってしまいました。ダメダメです。 【E-4~F-4のどこか/森/1日目/夕方】 【捕らえる怪盗と捕らわれた獣使い】 【梨々=ハミルトン@吉永さん家のガーゴイル】 [状態]:右腕骨折及び電撃のダメージが僅かに有り(処置済) 。 イリヤとベルフラウに確信的疑念。若干精神不安定。 [装備]:白タキシード(パラシュート消費)&シルクハット@吉永さん家のガーゴイル :タマヒポ(サモナイト石・獣)@サモンナイト3、ワイヴァーン(サモナイト石・獣)@サモンナイト3 [道具]:支給品一式 [服装]:白タキシード&シルクハット [思考]:この子に話を聞けば何かわかるかも……。でも、また嘘を吐かれたらっ! 第一行動方針:生き残りたい。さくらだけは信じている。 第二行動方針:ベルフラウは間違いないと言っていたが、アルルゥが本当に危険人物か確かめたい(ベルフラウが嘘を吐いていると思っている。 第三行動方針:双葉かリィンちゃんの友達(はやて優先?)及び小狼を探す。 第四行動方針:殺し合いに乗ってない人と協力する。 ※永沢、レックス、イリヤ、ベルフラウを危険人物と認識。薫の事も少し疑っている。 ※ランクB~Aの召喚術のため、梨々はワイヴァーンを使えません。タマヒポは使えます。 ※桜の知り合いの情報を聞いている。 【アルルゥ@うたわれるもの】 [状態]:疲労(中)、魔力消費(中)、背中に大きな裂傷、頭にたんこぶ、梨々に捕獲されている [装備]:なし [道具]:基本支給品(食料-1)、クロウカード『泡』 [服装]:普段着である民族衣装風の着物(背中の部分が破れ、血で濡れている) [思考]:う~(ジタバタ) 第一行動方針:なんとかサモナイト石を取り戻して脱出したい。見捨てられたため、ジーニアスに対して強い敵意と不信感。 第二行動方針:イエローや丈を捜したい。放送前には城に戻る。 基本行動方針:優勝以外の脱出の手段を捜す。敵は容赦しない。 参戦時期:ナ・トゥンク攻略直後 [備考]:アルルゥは獣属性の召喚術に限りAランクまで使用できます。 ゲームに乗らなくてもみんなで協力すれば脱出可能だと信じました。 サモナイト石で召喚された魔獣は、必ず攻撃動作を一回行ってから消えます。攻撃を止めることは不可能。 【E-4~F-4のどこか/森/1日目/夕方】 【仲間の救援に向かう戦士】 【プレセア・コンパティール@テイルズオブシンフォニア】 [状態]:体力消耗(大)、中度の貧血、右肩に重度の裂傷(処置済+核鉄で、なんとか戦闘可能なまでに回復していたが、再び傷が開きかけている) ツインテール右側喪失、思いきりハサミにトラウマ的恐怖、全身に無数の裂傷 [装備]:グラーフアイゼン(ハンマーフォルム)@魔法少女リリカルなのはA’s、エクスフィア@テイルズオブシンフォニア [道具]:カートリッジ×10@魔法少女リリカルなのはA’s、支給品一式(生乾き、食料-1) [服装]:冒険時の戦闘衣装(ピンク色のワンピース、生乾き) [思考]:二人とも、どうか無事で……! 第一行動方針:ジーニアスとアルルゥを援護する。イリヤには容赦無し。 第二行動方針:放送前には城に帰還して、レミリアと合流。 基本行動方針:ジーニアスとアルルゥが生きている間はゲームに乗らない。レミリアの捜し人を捜す。 [グラーフアイゼンの思考]:話しかける隙がない……。 ※プレセアはアリシアの死を知った以降から参戦。 ※グラーフアイゼンはこの状況を警戒しています。 【E-4~F-4のどこか/森/1日目/夕方】 【チルドレン暴走中】 【明石薫@絶対可憐チルドレン】 [状態]:暴走状態。全身打撲及び火傷。 [装備]:なし [道具]:基本支給品、バレッタ人形@ヴァンパイアセイヴァー [服装]:バベルの制服(焼け焦げてボロボロ) [思考]:の゛ー………… 基本行動方針:無差別攻撃。 [備考]:脳がオーバーヒートを起こしたため、暴走状態に陥りました。 周囲の物を手当たり次第に念動力でぶん回し、突発的に大爆発や地割れなどを引き起こします。 一定時間経つとぶっ倒れて元に戻るかもしれませんし、戻らないかもしれません。 【E-4~F-4のどこか/空中/1日目/夕方】 【悪魔襲来】 【レミリア・スカーレット@東方Project】 [状態]:魔力消費(中) [装備]:飛翔の蝙也の爆薬(残十発)@るろうに剣心、シルバースキンAT(ブラボーサイズ)@武装錬金 [道具]:支給品一式(食料-1)、思いきりハサミ@ドラえもん、クロウカード1枚(スイート「甘」) [服装]:シルバースキンAT(シルバースキンの下は全裸、服は洗って干している) [思考]:ちょっとだけ、私の時間を使ってあげるわ。 第一行動方針:とりあえずプレセア・アルルゥと合流。 または、そこらへんのやつを捕まえてフラン・レイジングハートなる人物・喋る杖の事を聞き出す。 第二行動方針:フランを知っている瞬間移動娘、及びフランをプレセア達に探させる。 第三行動方針:服が乾き、なおかつ時間があり、更に気が乗っていたら爆薬で加速の実験をする。 基本行動方針:フランを捜す。ジェダは気にくわない。少しは慎重に、しかし大胆に。 ※フランドールに関する情報、 『紙の束』『赤い宝石』『レイジングハートと遊ぶ』『喋る杖』『貴女自身の魔法、スペルカードを使ってください』『仮面の女』 を手に入れました。 【F-4/橋/1日目/夕方】 【戦場に向かう二人】 【レベッカ宮本@ぱにぽに】 [状態]:背中に裂傷(応急処置済)、疲労(中) [服装]:普段通りの服と白衣姿 [装備]:木刀@銀魂、魔導ボード@魔法陣グルグル、救急箱(プレセアの治療に使われたもの) [道具]:支給品二式、15歳のシャツ@よつばと!を裂いた布、宇宙服(最小サイズ)@からくりサーカス [思考]:ジーニアス、死ぬなよー! 第一行動方針:ジーニアス達の援護に向かう。 第ニ行動方針:殺し合いのゲームに乗っている奴がいたら、ぶっ飛ばす。 第三行動方針:後で改めて湖底都市を探索する 基本行動方針:主催者の打倒。 参加時期:小学校事件が終わった後 【福富しんべヱ@落第忍者乱太郎】 [状態]:体のあちこちに軽い傷、疲労(大)、びしょぬれ。 [装備]:なし [道具]:ヒラリマント(チョンマゲに纏わりつくように引っかかっている) [思考]:ま、まってよう! [備考]:凶暴化は一旦治った後、何かのきっかけでフラッシュバックのように再発した例も報告されています。 体力消費が激しいため、いつ気絶してもおかしくない状態です。 【ウツドン 死亡】 ≪140 Firing line/火蓋 時系列順に読む 146 Fate end/必死(前編)≫ ≪142 原点 投下順に読む 144 三宮紫穂の憂鬱(前編)≫ ≪140 Firing line/火蓋 ジーニアスの登場SSを読む 146 Fate end/必死(前編)≫ ≪140 Firing line/火蓋 プレセアの登場SSを読む 146 Fate end/必死(前編)≫ ≪140 Firing line/火蓋 アルルゥの登場SSを読む 154 歪みの国のアリス≫ ≪140 Firing line/火蓋 イリヤの登場SSを読む 146 Fate end/必死(前編)≫ ≪140 Firing line/火蓋 梨々の登場SSを読む 154 歪みの国のアリス≫ ≪140 Firing line/火蓋 桜の登場SSを読む 146 Fate end/必死(前編)≫ ≪140 Firing line/火蓋 明石薫の登場SSを読む 146 Fate end/必死(前編)≫ ≪140 Firing line/火蓋 ベルフラウの登場SSを読む 146 Fate end/必死(前編)≫ ≪140 Firing line/火蓋 レミリアの登場SSを読む 146 Fate end/必死(前編)≫ ≪140 Firing line/火蓋 しんべヱの登場SSを読む 157 全世界ナイトメア≫ ≪140 Firing line/火蓋 ベッキーの登場SSを読む 157 全世界ナイトメア≫
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Firing line/火蓋 ◆CFbj666Xrw 「おいジーニアス、大丈夫か!?」 慌ててボードに乗ったレベッカが滑るように飛んでくる。 「プレセア、まって」 その逆方向からはアルルゥが飛び出した。 遭遇し、顔を見合わせ、見つめ合う。 「大丈夫だよベッキー、プレセアだ! ボクの仲間だよ!」 「アルルゥ、ジーニアスは仲間です。怖がらないでください」 「へえ、そうなのか」「ん、わかった」 短い自己紹介は終わる。 信頼できる仲間というものは、それを信じられる限りとても貴い。 仲間の仲間であっても、ある程度は信用しても良いと思わせてくれた。 続けてプレセアは遠くからこちらに近づいてくる集団を指して言う。 今さっき、ジーニアスに二重の捕縛魔法を放ってきた集団である。 「では、あの人達は?」 「あいつらは……敵だけど、悪いのは一人なんだ。他のみんなは、きっと騙されてるだけだよ」 「そうですか。では話し合いでなんとかなるかもしれません」 プレセアの言葉は頼もしくすらあった。 * * * 「仲間が居たの……!?」 氷の束縛を破壊した少女を見てイリヤが息を呑む。 更に獣耳の少女と、イリヤ達の場所からは木陰になって見えないがまだ誰かが居るらしい。 木陰に居る方はおそらく最初にジーニアス達を襲った時に見かけた金髪の少女だろう。 問題は新手の少女二人だ。 彼らに仲間が居たというのは、まずい。 「でももしかしたら、今度こそ話し合えるかもしれないよ」 「そ、そうね……」 さくらはそう言うが、イリヤにとってそれは一番危険な事なのだ。 (最悪のケースは、真実が露呈してこの場に居る全員を敵に回す事――!) さくらと梨々、明石薫にベルと名乗った少女、更にジーニアスに金髪の少女にその仲間二人! しかもその八名の内、最低でも五名は常人を外れた戦闘能力を持つ事が確定している。 こんなに多人数の相手が敵に回るだけではなく、全員に自分を危険人物だと認識されて逃したら、 その後に情報が広がる事を考慮すれば、出会う人間の相当な割合が即刻敵に回る事になる。 それは最後まで生き残れる可能性が絶望的なまでに低くなる事を意味する。 だが戦えば袋叩きにされて確実に死ぬ。 (私がやらなければいけない事は対立を維持する、それしか無いわ。 しくじったかな、少々巻き込んだ人数が多すぎる……) 慄然となるイリヤに更なる悪い情報が追加される。 「ん? あれ、あれ?」 リインは怪訝な声を上げて目を凝らした。 「どうしたの、リインちゃん」 「えっとですね、さっきリインの魔法を破壊したあの女の子のハンマー、なんだか見覚えが有る気がするのです」 プレセアの振るうハンマー。 その正体はそれを振るうプレセア自身ですら知らない事だ。 「リインのマイスターはやての騎士ヴィータさんのデバイスで…… えーっと、つまり同僚のグラーフアイゼンっていうデバイスに似ているんです。 ただハンマーフォルムだと普通のハンマーにも似たような物が有りますから、 他人の空似ならぬ他杖の空似かもしれませんけど」 「それじゃ呼び掛けてみたら……」 「グラーフアイゼンさんは凄く無口ですけど、必要なら応えてくれると思います」 (な……!) イリヤは表情を隠す猶予すらなく青ざめた。 (まずい、まずい、まずい、まずい……!!) あのハンマーに知能が有って信用できる仲介役になるというなら、全ての矛盾が露呈する。 (どうすればいい? リインを破壊……ダメ、敵だと露呈するだけじゃない。 グラーフアイゼンというあのハンマーを破壊……でもその為には戦闘にならないと。 だけどこの状況から戦いに押し込む建前が無い。 逃げる……ダメ、この人数から危険人物という噂を流されたら風説から逃げきれない。 いっそ不意打ちで数を減らして……それも生き残れる確率は無いに等しい。 どうすればいいの? どうすれば……) 完全に八方を塞がれ、イリヤは慌てふためく事しかできない。 リインはグラーフアイゼンに呼び掛けようと息を吸い込むアクションをして…… * * * 「プレセア、何か良い方法でも有るの?」 「はい。アルルゥの召喚獣で威嚇しましょう」 「ん……アルルゥの出番?」 獣耳の少女アルルゥは首を傾げて問い返す。 「出番です。召喚獣を盾にすれば、威嚇になって攻撃を躊躇うと考えられます。 出来るだけ威圧効果の高い召喚獣を選んでください」 「ん……それじゃ、ンアヴィワ」 アルルゥは綺麗な翠色の石をかざし、唱えた。 瞬時に空間が捩れ、翼を持った赤銅色の獣が出現する。 ワイヴァーンだ。 「ンアヴィワ、にらんでて」 「………………」 ワイヴァーンは応えない。 何も応えずに大きくその鎌首をもたげて…… 「………………プレセアおねーちゃん、ごめん」 悪い事をしてしょげ返るような声色で、アルルゥが言った。 「……どうかしたのですか?」 不吉な予感を感じて聞き返すプレセアに、案の定危険な答えが返ってきた。 「ンアヴィワ、とまってくれない」 「…………え?」 ワイヴァーンは、その顎から向かい来る集団に向けて猛り狂う劫火を吐き出した。 * * * 少女の呼びかけに応え、中空から一匹の竜が姿を表す。 「な、なにあれ……」 「ワイヴァーン!?」 ベルフラウが悲鳴のような声を上げた。 「みんな、逃げて! 攻撃が来るわ!」 「なにい!?」 薫の驚愕の声。 そして次の瞬間、劫火が炸裂した。 * * * 「制御できない……それはどういう事ですか?」 「アルルゥ、よくわかんないけど……ンアヴィワ、こうげきしかしてくれないみたい」 「……そうですか」 「……ごめん」 アルルゥはぺこりと謝る。 直前に彼女達が攻撃を回避するのが見えたが、彼女達が生きていたのを喜ぶ事はできない。 今はもうもうと上がる煙が向こうとこちらを仕切っているが、これが晴れた時は戦いが来るだろう。 「でもあいつら、ほんとに交渉なんて出来たのか? 怒りっぽい奴とかさ」 「怒りっぽい奴、ですか? ……そういえば、見覚えのある女の子が居ましたね」 それは言うまでもなく明石薫の事だ。 「知ってるのか?」 レベッカの問い掛けにプレセアは頷き、答えた。 「はい。彼女も危険人物です」 「そうなの? 確かに凄く暴れてて危険といえば危険そうだったけど……」 二度目に出会った時は、思い返せば話し合えそうにも感じた。 もしかしたら単なるすれ違いだったのではないかと思える程度に。 「怒った時が危険です。彼女はただの八つ当たりで二人を殺害しています」 「な……それほんと!?」 「本当です」 それはプレセアがまだ思いきりハサミの影響を受けていた時の事だ。 森の中で他の危険人物達(そう、アルルゥも居た)と二人の少年を包囲していた。 その時に突如現れ、二人を跡形もなく消し飛ばしたのだ。 ――――と、プレセアには見えていた。 真実は違う。 確かにもしかしたら明石薫本人も似たような事をしでかす可能性は十分にあったが、 その時に起きた事はベルカナ(現偽薫)の作り出した幻影による二人の救出だったのだ。 そこに本物の明石薫は関わっていない。 アルルゥは二人が生きている事と、その時の薫が何か妙だった事を知っていた。だけど。 「………………」 言わないでおく事にした。 アルルゥにもあの時の薫が何だったのかよくわかっていないという理由も有ったが…… 何より叱られるのがイヤだった。このまま行けばあまり叱られないで済みそうだし。 「まさかあいつら、殺人鬼の同盟じゃねーだろーな!?」 「他の3人までそうとは限りません」 驚くベッキーをプレセアがたしなめる。 「でも危険な事には変わりないよ。 ベッキーは隠れてて……イリヤに優先的に狙われてるのはボクみたいだから。 勝ったら、呼びに行くよ」 「バカ言うなよ、ジーニアス。……勝ったって、呼びに来れるとは限らないだろ」」 「…………」 言葉に詰まる二人に、プレセアがフォローを入れる。 「では城に行って増援を呼んでください。レミリアという人がそこに居ます」 「レミリア? なんだよそいつ。なんで一緒に来てないんだ?」 「判りません。人を使おうとする、少し偉そうな人です。 でも悪い人では無いと……思います。 その人に会って『たくさんの人が居る。妹さんを見た人も居るかもしれない』と言えば、出てきてくれると思います。 もし出てくれなければ、そこで待っていてください。苦戦したらそこに逃げ込みます」 プレセアの言葉にベッキーは更に困惑する。 こんな島で妹を捜す者がどうして城に篭もりっきりなのだろう? だが仲間を呼べるかもしれないというならそれは重要だった。 「おねがいします」 「……ん、判った。じゃあ行ってくる。良いか、死ぬなよ!」 「うん、ベッキーも気を付けて!」 レベッカは魔導ボードを走らせて飛び去った。 ジーニアスはそれを見送ってから、プレセアに礼を言う。 「ありがとう、プレセア」 「……もしもレミリアが来てくれれば頼もしいのは事実です。 それから本気で危なくなれば城まで後退する事も考えないといけません」 「うん、わかってる。それじゃプレセアと……アルルゥ、だっけ。アルルゥも、よろしくね」 「ん」 アルルゥはこくりと頷き、サモナイト石を構えた。 それに並びジーニアスも、ポケットからモンスターボールを放り投げてウツドンを呼び出す。 「ウツドン、命令したらそれに従って」 ウツドンは答えず葉を揺らすだけ。だが、こちらは忠実だ。 「ジーニアス、チャージを」 「うん、判ってる」 プレセアはハンマーを持つ腕に規格外の力を篭める。――マイトチャージ。 ジーニアスはいつでも放てるように魔法を詠唱する。――スペルチャージ。 「危険人物というのはあの宙に浮かんでいた少女と、それからどれです?」 「白い女の子だよ。あいつは……ボクの仲間を殺した。あいつだけは許せない」 「……判りました。アルルゥ、良いですか?」 「うん。だいじょうぶ」 着々と戦いの準備を整える。 相手には騙されてる人が混ざっているのかもしれない。 それでももう戦いは避けられない。殺さないようにするしかない。 それに間違いなく、絶対に許せない敵が居る。だからそれと戦う事に迷いは要らない。 相手は数で勝っているのだ。甘さは敗北と死に繋がるだろう。 だから、ジーニアスとプレセアは戦う事には迷わないでいられた。 アルルゥに至っては……たとえ騙されているとしても、敵には一切容赦するつもりがなかった。 そして煙は晴れて――戦いの火蓋が上がる。 * * * グラーフアイゼンは唯一、彼らの側で迷い、悩んでいた。 迷いと悩みの理由の一つは、敵勢の中に居たリインフォースIIの姿。 (何故あれがここに居るのだ? ……あの子は完成していなかったはずだ) ミッドチルダ式とベルカ式の要素が混ざった、しかも現存する唯一となるはずのユニゾンデバイス。 それは八神はやてにとってもそう簡単に作り出せるものではなかった。 試作品ですら実験段階を出ず、意志もまだ持っていない。はずだった。 その完成予想図の姿が、何故かこの場所に存在していた。 他にも悩み事は有る。 プレセアにあの時の明石薫が幻影だった事を教えるべきか? 白い少女の持つS2Uの機能について助言すべきか? だが問題は……今それをすれば、プレセアの集中力を欠きかねない事だった。 状況はあまりに危険だ。 下手な助言をすればその動揺がプレセアの死に繋がりかねない。 この争いはプレセアの本意では無い。グラーフアイゼンは彼女を死なせたくないと思っていた。 どうすればいいかの答えは出ず、寡黙なデバイスは悩み続ける。 * * * 「くそ、やる気十分って事かよ!」 明石薫が毒づいた。 彼女が咄嗟にサイコキノで全員を持ち上げ後退させた事で、怪我をした者は誰も居ない。 だが戦いが避けられない事は明白だった。 「ベルちゃん、ワイヴァーンとか言っていたけどあいつのこと、知ってるの?」 「ええ、あれは召喚獣ですわ。攻撃用召喚術により召喚された召喚獣です」 「攻撃用って……もしかして、攻撃にしか使えなかったりするの?」 さくらの問いにベルフラウが答え、すぐさま梨々がその答えに疑問を呈す。 「その通りです」 「それじゃ誤発って事も有るんじゃ……あの子、様子が変だったよ」 「有り得ませんわね。メイトルパならサモナイト石の使い方くらい知っているはずですわ。 変な世界からのはぐれ召喚獣からじゃあるまいし。相手は本気ですわ」 ベルフラウの言葉はよく判らなかったが、とにかく機能を判って使ったと言うらしかった。 だが梨々にはそれすらも疑わしい。 梨々はベルフラウが、あの危険な少年レックスの仲間、タバサではないかと疑っているのだから。 梨々にはもう、イリヤもベルフラウも対立を深めようとしているようにしか見えない。 明石薫すら信じる事が出来ないでいた。 (どうすればいいの……?) 一つだけ判っている事が有るとすれば……戦いになってしまう事は、もう避けられない。 どうすれば戦いを収められるのか惑いながらも、ただ死にたくないと思った。 イリヤは思いがけない幸運に茫然としていた。 これほど望む方向に転がるとは思いもしなかったのだ。 だが状況は依然、悪い。 (まずはジーニアスを殺して、グラーフアイゼンも壊して……目標が多すぎるわ。 相手を皆殺しにして疑われないのが最善だけど、そんな事できるわけが無い) ある程度までの成果で満足する事。 そして出来るだけ多くの成果をもぎ取る事。 ベストは上手く立ち回り美味しい結果だけを頂く事だが、そんなに都合良く行くはずがない。 数の上で有利といっても安心できるような相手ではないのだ。 (第一放送まで……ここが勝負所ね) 覚悟と決意を胸に、イリヤはS2Uを強く握り締めた。 明石薫はあまり考えていなかった。 相手が敵という認識が揺らいでいなかったのだ。 だからむかつく奴らに一撃を見舞う、それだけで良いと思っていた。 (けど、ちょっと疲れたな。……ま、大したこと無いけど) ……明石薫は、気づいていない。 自ら力の限界の一つが近づいている事に。 使いすぎた力の過負荷が脳の機能を疲弊させ……暴走の危険が迫っている事に。 明石薫は気づいていない。 ベルフラウはどう立ち回ればいいか考えていた。 彼女にとって重要な事は、『出来れば召喚術師を仲間にして』みか先生の所に戻る事だ。 さくら達を助ける理由は別にない。どちらが正しいのかすら怪しい状況なのだから。 ここまで危険な事態になれば即逃げても良いくらいだ。 だが下手に逃げれば逆に身を危険に晒しかねない。 生き残るにはどう立ち回ればいいか、ベルフラウは考えていた。 さくらは感じていた。 事態が悪い方へと転がっている事に。 その事に焦りを覚えてはいたが、さくらに選べる選択肢はあまり無い。 せいぜい…… 「……リインちゃん。殺さないように、戦いを止めよう」 「は、はいです」 それだけだ。 「…………絶対……ぜったい、大丈夫だよ……」 魔法の言葉すら、この場面では頼りなく感じられた。 それでも、その言葉を信じ続けた。 そして煙は晴れて――戦いの火蓋が上がる。 * * * 城の一室にて……レミリアは優雅に紅茶を嗜んでいた。 葉がイマイチの一品だが、それでも少しは楽しめた。 「さて、あの娘はちゃんと再会できたかな? 私が定めてやった、運命通りに」 そして偉そうに呟いた。 ――レミリアは確かに運命を操る程度の能力を持っている。 それは人の出会いなどにも影響する力であり、本来ならプレセアとジーニアスを再会させる事は容易い。 ただ、元々レミリアは全ての運命を操れるわけではない。 この島に来てからは尚更だ、操れるものなど一部に過ぎない。 レミリアは、運命を操ろうとしても手応えが無く、操れているのかいないのかすら判らなかった。 しかしそれでも「運命を操ったからそうなったのだ」と言えばそれを反証する事は出来ない。 悪魔の証明というやつである。 よってレミリアはプレセアをジーニアスと再会できるように運命を操ったと宣言する。 もし出会っていなければこの宣言はそのまま独り言で誰にも言わない。 成功したら私のおかげ、失敗したらおまえの運が悪かった。 実に狡い。 「しかし……なんだおまえは?」 「…………ふえ?」 振り返ったそこには……肉ダルマが居た。 福富しんべヱである。 「えっとね、気づいたらこの島に流れついてたの。」 「ふん、そうか。で、おまえ」 「な、なに?」 レミリアは威圧的に問うた。 「フラン、という娘を見ていないか? ちょっと私みたいなやつだ」 「フラン…………あれ?」 「見たのか?」 肉ダルマ扱いの福富しんべヱはしばらくうーんうーんと唸って。 「…………えっとね、レイジングハートと遊ぶのとか、喋る杖があなたの魔法を使ってくださいとか、 そんな事を言ってたような気がするの。でも、ぜんぜん思い出せない」 「思い出しなさい」 「む、むりだよう」 どう爆発するか判らない、危険かも知れず、危険でないかもしれず。 こちらはまだ、そんな状況だった。 * * * その頃、野上葵は彼女が明石薫と思いこんでいる少女と共に湖畔に居た。 間違っても城の窓から見られたりしないように森の中をここまで南下してきたのだ。 途中で物騒な破壊痕が無数に有ったため、出来るだけ迅速にここまで突っ切ってきた。 目指す場所はこの先の橋を渡った先の、廃墟にある病院である。 薫に出来る限りちゃんとした治療をしてやりたいと思った為だ。 あと自分の左足に、義足だとかそういう物が見つかるかもしれないと期待していた。 ……失った足の事は極力考えたくもなかったが。 「さあ、後は橋を一気に渡ってしまえば誰にも見つからんで病院まで直行や」 これからやる事を再確認して、それを実行しようと思った時……ふと、湖を見た。 * * * 「――見つけたの」 雛苺は、笑った。 その手の内に有るのは紅く輝く翠星石のローザミスティカ。 そして湖底に眠る、翠星石の死体だ。 輝きながら水面に浮いているローザミスティカを見つけるのはそう難しい事ではなかった。 だけど翠星石を見つけるのは予想以上に時間が掛かってしまった。 すぐ下に有ると思っていたのに、水に流されて場所がずれていたのである。 「ふふ、これで翠星石と一緒なの」 別に翠星石の死体は特別意味が有る物ではない。 翠星石のローザミスティカだけでも翠星石と一緒と思うことも出来た。 死体を捜したのはそれがすぐに見つかるだろうと思ったからのついでに過ぎない。 いつ取り込んでも良いローザミスティカをまだ手に持っているのもそれだけの事だ。 雛苺は翠星石のローザミスティカを自らの内へと取り込んだ。 それから翠星石の体を持っていこうと引っ張って。 「……あれ」 その一部が湖底に引っかかっている事に気が付いた。 ――だから首だけを持っていく事にした。 「みんな仲良し、なの」 雛苺はぎゅっと二人を抱き締める。 恐怖に歪んだ真紅の顔も、安らかに微笑む翠星石の顔も、雛苺にとっては等しく愛しい存在だ。 それがもう死んでいて、頭だけである事など大した事ではない。 ただ二人を抱えていくのは少し大変だと思った。だから。 「真紅、翠星石、ごめんなさいなの。ちょっとだけ悪戯するの。髪で遊ぶのは楽しいの☆」 楽しげに笑って、ちょっとした悪戯をした。 「さあジャコ、真紅と翠星石ともこれで仲良しなの。 さっきの所に戻って契約する相手を捜すの。みんなみんな仲良しになるの」 力を漲らせた雛苺の言葉に応え、ジャコは雛苺と共に水面へと上昇する。 水面は見る見るうちに近くなり、そして―― 湖畔から湖を眺めていた野上葵は、見た。 湖から飛び出した人形達の姿を。 それは奇怪なカボチャのお化けの姿をしていた。 その背中にはあまりに壊れた笑みを浮かべる少女人形が乗っていた。 そしてその首には……髪が絡まっていた。 ――恐怖に歪んだ少女人形の首と、安らかに微笑む少女人形の首が、各々の髪の毛で吊り下げられていた。 【F-4西端/森(川の近く)/1日目/夕方】 【運命の再会?と大切な妹】 【プレセア・コンバティール@テイルズオブシンフォニア】 [状態]:体力消耗(小)、軽度の貧血、右肩に重度の裂傷(処置済+核鉄で、なんとか戦闘可能なまでに回復)。 ツインテール右側喪失。思いきりハサミにトラウマ的恐怖。 マイトチャージ状態(一時的に攻撃力などが上がる力溜め。何度も使えるが極短時間のみ) [装備]:グラーフアイゼン(ハンマーフォルム)@魔法少女リリカルなのはA’s、エクスフィア@テイルズオブシンフォニア [道具]:カートリッジ×10@魔法少女リリカルなのはA’s、支給品一式(生乾き、食料-1) [服装]:冒険時の戦闘衣装(ピンク色のワンピース、生乾き) [思考]:ジーニアスとアルルゥを殺させはしません。 第一行動方針:戦って状況を打開する。明石薫とイリヤには容赦無し。 第二行動方針:放送前には城に帰還して、レミリアと合流。 基本行動方針:ジーニアスとアルルゥが生きている間はゲームに乗らない。レミリアの捜し人を捜す。 ※プレセアはアリシアの死を知った以降から参戦。 ※グラーフアイゼンはこの状況を警戒しています。 【ジーニアス・セイジ@テイルズオブシンフォニア】 [状態]:かなり疲労。中程度の魔力消費。何か呪文を唱えスペルチャージ済。 [服装]:普段着、足は快速シューズ。 [装備]:ネギの杖@魔法先生ネギま!、モンスターボール(ウツドン)@ポケットモンスター、快速シューズ、 [道具]:ナマコ型寝袋、支給品一式、木村先生の水着@あずまんが大王、 海底探検セット(深海クリーム、エア・チューブ、ヘッドランプ、ま水ストロー、深海クリームの残り(快速シューズ))@ドラえもん [思考]:イリヤだけは許さない。 第一行動方針:戦って状況を打開する。明石薫とイリヤには容赦無し。 第二行動方針:殺し合いのゲームに乗っている奴がいたら、倒す。 第三行動方針:後で改めて湖底都市を探索する。 基本行動方針:主催者の打倒 参加時期:ヘイムダール壊滅後。ちなみにあえてクラトスルート。 [備考]: ジーニアスは、薫がゲイボルグを投げた人物なのでは、と疑っています。 【アルルゥ@うたわれるもの】 [状態]:軽い疲労、頭にたんこぶ。 [装備]:タマヒポ(サモナイト石・獣)@サモンナイト3、ワイヴァーン(サモナイト石・獣)@サモンナイト3 [道具]:基本支給品(食料-1)、クロウカード二枚(バブル「泡」、ダッシュ「駆」) [服装]:民族衣装風の着物(普段着) [思考]:やっちゃえばいい 第一行動方針:戦って状況を打開する。誰に対しても容赦無し。 第二行動方針:イエローや丈を捜したい。放送前には城に戻る。 基本行動方針:優勝以外の脱出の手段を捜す。敵は容赦しない。 参戦時期:ナ・トゥンク攻略直後 [備考]:アルルゥは獣属性の召喚術に限りAランクまで使用できます。 ゲームに乗らなくてもみんなで協力すれば脱出可能だと信じました。 サモナイト石で召喚された魔獣は、必ず攻撃動作を一回行ってから消えます。攻撃を止めることは不可能。 【F-4西端/森(川の近く)/1日目/夕方】 【一時的多勢】 【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@Fate/stay night】 [状態] 魔力消費(中)、疲労(中)、全身に切り傷(応急手当済み、命に別状はない) [装備] S2U@魔法少女リリカルなのは、凛のペンダント@Fate/stay night [道具] 支給品一式 [思考・状況] 第一行動方針:状況を打開したい。ジーニアスは最優先標的。 第二行動方針:できるだけ悪評を流せる者を少なくしてこの状況を抜けたい。 第三行動方針:とにかく生き残りたい。 基本行動方針:優勝して、自分の寿命を延ばす。 ※セイバールートの半年後から参戦。 ※イリヤのついた嘘の内容 翠星石を殺したのはジーニアス レンを殺したのは正体不明の魔術師 はやてには会っていない ※桜と梨々の知り合いの情報を聞いている。 【梨々=ハミルトン@吉永さん家のガーゴイル】 [状態]:右腕骨折及び電撃のダメージが僅かに有り(処置済) 。 イリヤとベルフラウに確信的疑念。若干精神不安定。 [装備]:白タキシード(パラシュート消費)&シルクハット@吉永さん家のガーゴイル [道具]:支給品一式 [服装]:白タキシード&シルクハット [思考]:イリヤとベルフラウをどうにかしたいけど戦いが始まって……っ 第一行動方針:生き残りたい。さくらだけは信じている。 第二行動方針:双葉かリィンちゃんの友達(はやて優先?)及び小狼を探す。 第三行動方針:殺し合いに乗ってない人と協力する。 ※永沢、レックス、イリヤ、ベルフラウを危険人物と認識。薫の事も少し疑っている。 桜の知り合いの情報を聞いている。 【木之本桜@カードキャプターさくら】 [状態]:血塗れ、左腕に矢傷(処置済)、魔力消費(小) [装備]:パワフルグラブ@ゼルダの伝説 リインフォースII(待機フォルム)@魔法少女リリカルなのはA s [道具]:基本支給品 [服装]:梨々の普段着 [思考]:敵対している相手を殺さずに、捕縛などで無力化する。 第一行動方針:誰も殺さずにこの状況を収めたい。 第二行動方針:リインのエリアサーチを定期的に使いながら移動し、友達を探す。 第三行動方針:他にも協力してくれそうな人を探す。 基本行動方針:襲われたら撃退する(不殺?) ※永沢、レックス、ジーニアスを危険人物と認識。梨々の知り合いの情報を聞いている。 【明石薫@絶対可憐チルドレン】 [状態]:かなり疲労。本人は気づいていないが暴走寸前。右足打撲。 [装備]:なし [道具]:基本支給品、バレッタ人形@ヴァンパイアセイヴァー [服装]:いつもの制服 [思考]:あいつらぶっとばす!! 第一行動方針:極悪人(と吹き込まれた)ジーニアスはゆるさねえ! 第ニ行動方針:葵や紫穂を探す。二人に危害を加える奴は容赦しない。 第三行動方針:あの女(ベルカナ)に会えたら、仕返しをする。 最終行動方針:ジェダをぶっ飛ばして三人で帰る。 [備考]:薫は、ベッキー&ジーニアスの2人が、城から飛び出した影の正体かと疑っています。 【ベルフラウ=マルティーニ@サモンナイト3】 [状態]:体力消耗、精神的疲労(まだ完全ではない)、墜落によって軽い打撲。 [服装]:『ザ・チルドレン』の制服姿(野上葵の物) [装備]:クロウカード『水』『火』『地』『風』 [道具]:支給品一式、湿ったままの普段着 [思考・状況]:死なないように立ち回り、出来ればリインかアルルゥの協力を得たい。 第一行動方針:とにかく生き残る。 第二行動方針:召喚術師と交渉し仲間になってもらいたい。リインと八神はやてに期待。 出来ればメイトルパの少女(アルルゥ)とも交渉したいが、敵対意志有りと認識。 第三行動方針:みかの安否が心配。早く戻って合流したいが危険には巻き込みたくない。 第四行動方針:殺し合いに乗らず、仲間を探して脱出・対主催の策を練る。 基本行動方針:先生のもとに帰りたい。 [備考]: ベルフラウは、ロワの舞台がリィンバウムのどこかだと思っています。 ロワの舞台について、「名もなき島」とほぼ同じ仕組みになっていると考えています。 (実際は違うのですが、まだベルフラウはそのことに気づいていません) ベルフラウは、レックスが名乗るのを聞いていません(気絶していました)。 余計な危険を少しでも避けるため、ベルとだけ名乗っています。 【F-3/城内の食堂/1日目/夕方】 【レミリア・スカーレット@東方Project】 [状態]:魔力消費(中) [装備]:飛翔の蝙也の爆薬(残十発)@るろうに剣心、シルバースキンAT(ブラボーサイズ)@武装錬金 [道具]:支給品一式(食料-1)、思いきりハサミ@ドラえもん、クロウカード1枚(スイート「甘」) [服装]:シルバースキンAT(シルバースキンの下は全裸、服は洗って干している) [思考]:フランの事、もっと思い出しなさい。 第一行動方針:しんべヱからフランの事を聞き出す。 第二行動方針:お茶を飲みながら放送と夜の訪れ、及びプレセアとアルルゥを待つ。 第三行動方針:フランを知っている瞬間移動娘、及びフランをプレセア達に探させる。 第四行動方針:服が乾き、なおかつ時間があり、更に気が乗っていたら爆薬で加速の実験をする。 基本行動方針:フランを捜す。ジェダは気にくわない。少しは慎重に、しかし大胆に。 【福富しんべヱ@落第忍者乱太郎】 [状態]:体のあちこちに軽い傷。体力消費(大)。びしょぬれ。凶暴化終了。 [装備]:なし [道具]:ヒラリマント(チョンマゲに纏わりつくように引っかかっている) [思考]:そ、そんな事を言われても…… [備考]:凶暴化は一旦治った後、何かのきっかけでフラッシュバックのように再発した例も報告されています。 [備考]:体力消費が激しいため、いつ気絶してもおかしくない状態です。 【F-4/森/1日目/夕方】 【レベッカ宮本@ぱにぽに】 [状態]:背中に裂傷(応急処置済)、疲労中程度 [服装]:普段通りの服と白衣姿 [装備]:木刀@銀魂、魔導ボード@魔法陣グルグル! [道具]:支給品二式、15歳のシャツ@よつばと!を裂いた布、宇宙服(最小サイズ)@からくりサーカス [思考]:急いで城に行ってレミリアを捜す。 第一行動方針:レミリアを捜し、ジーニアス達への救援を頼む。 第ニ行動方針:殺し合いのゲームに乗っている奴がいたら、ぶっ飛ばす。 第三行動方針:後で改めて湖底都市を探索する 基本行動方針:主催者の打倒。 参加時期:小学校事件が終わった後 【E-5/湖畔の茂み/1日目/夕方】 【野上葵@絶対可憐チルドレン】 [状態]:左足損失、超能力の連続使用による微疲労、精神的疲労、強い決意 [装備]:無し [道具]:支給品一式、懐中時計型航時機『カシオペア』@魔法先生ネギま!、飛翔の蝙也の翼@るろうに剣心 ベルカナのランドセル(基本支給品、黙陣の戦弓@サモンナイト3、返響器@ヴァンパイアセイヴァー) [思考]:??????(飛び立つ雛苺を目撃) 第一行動方針:廃墟の病院に薫を避難させたい。 第ニ行動方針:薫を守りながら紫穂を探す。 第三行動方針:レミリアかフランドールに出くわしたら、逃げる 第四行動方針:逃げた変質者(ベルカナとイエロー)は必ずぎったんぎったんにしたる 基本行動方針:三人揃って皆本のところに帰りたい [備考]:ベルカナが変身した明石薫を本物だと思い込んでいます。 イエローをサイコキノ、ベルカナも何らかのエスパーと認識しました。 なお二人が城戸丈を猟奇的に殺害し、薫に暴行をしたと思っています。 テレポートに掛かっている制限は長距離転移不可(連続転移は可)、 「意識のある参加者(&身に着けている所持品)は当事者の同意無しでは転移不可」です 他者転移禁止の制限には気づいていません。 【偽明石薫(ベルカナ=ライザナーザ@新ソードワールドリプレイ集NEXT)】 [状態]:気絶、明石薫に変身中。左腕に深い切り傷、全身に打撲と裂傷(応急手当済み)、 あばら骨数本骨折(他も骨折している可能性あり)、出血による体力消耗 [装備]:全裸(シーツを何重にも羽織っている)、 [道具]:なし [思考]:………… 第一行動方針:明石薫のふりをして、この場を切り抜ける 第二行動方針:イエローと合流し、丈からの依頼を果たせるよう努力はする(無理はしない) 第三行動方針:仲間集め(イエローと丈の友人の捜索。ただし簡単には信用はしない) 基本行動方針:ジェダを倒してミッションクリア 参戦時期:原作7巻終了後 [備考]:制限に加え魔法発動体が無い為、攻撃魔法の威力は激減しています。 変身魔法を解除した場合、本来の状態(骨折数箇所、裂傷多数、他)に戻ります。 【E-6/湖面/一日目/夕方】 【雛苺@ローゼンメイデン】 [状態]:真紅と翠星石のローザミスティカ継承。精神崩壊。見るものの不安を掻き立てる壊れた笑顔。 [服装]:普段通りのベビードール風の衣装。トレードマークの頭の大きなリボンが一部破けている。 [装備]:マジカントバット@MOTHER2、 生首付きジャック・オー・ランタン@からくりサーカス(繰り手もなしに動ける状態) ※:ジャコの首には真紅と翠星石の生首が髪の毛で括り着けてあります。 [道具]:基本支給品一式、ぼうし@ちびまる子ちゃん ツーカー錠x5@ドラえもん 光子朗のノートパソコン@デジモンアドベンチャー、ジュジュのコンパス [思考]:さっきの場所に戻って誰かに契約してもらうの 第一行動方針:誰かに媒介(ミーディアム)の契約を結ばせ、『力』の供給源にする。 第二行動方針:「新ルールのアリスゲーム」(=殺し合いのゲーム)に乗って、優勝を目指す。 基本行動方針:優勝して、「永遠に孤独とは無縁な世界」を作り、真紅を含めた「みんな」と暮らす。 [備考]: 雛苺は真紅と翠星石のローザミスティカを獲得したため、それぞれの能力を使用できます。 自分の支給品をマトモに確認していません。 『ジャック・オー・ランタン』は、真紅の持っていた「人形に命を吹き込む力」によって一時的に動ける状態です。 ただし雛苺の『力』を借りて動いているので、この状態は維持するだけでも雛苺の『力』を消耗します。 翠星石のローザミスティカでドールとしての力も回復しましたが、最大MPごと増えるような回復と思われます。 ≪167 少し遅い(前編) 時系列順に読む 143 Fighting orchestra/戦奏(1)≫ ≪140 Frozen war/冷戦 投下順に読む 141 真実は煙に紛れて(1)≫ ≪140 Frozen war/冷戦 プレセアの登場SSを読む 143 Fighting orchestra/戦奏(1)≫ ≪140 Frozen war/冷戦 ジーニアスの登場SSを読む 143 Fighting orchestra/戦奏(1)≫ ≪108 使用上の注意をよく読んでください アルルゥの登場SSを読む 143 Fighting orchestra/戦奏(1)≫ ≪140 Frozen war/冷戦 イリヤの登場SSを読む 143 Fighting orchestra/戦奏(1)≫ ≪140 Frozen war/冷戦 梨々の登場SSを読む 143 Fighting orchestra/戦奏(1)≫ ≪140 Frozen war/冷戦 桜の登場SSを読む 143 Fighting orchestra/戦奏(1)≫ ≪140 Frozen war/冷戦 明石薫の登場SSを読む 143 Fighting orchestra/戦奏(1)≫ ≪140 Frozen war/冷戦 ベルフラウの登場SSを読む 143 Fighting orchestra/戦奏(1)≫ ≪108 使用上の注意をよく読んでください レミリアの登場SSを読む 143 Fighting orchestra/戦奏(2)≫ ≪135 隠密少女Ⅱ しんべヱの登場SSを読む 143 Fighting orchestra/戦奏(2)≫ ≪140 Frozen war/冷戦 ベッキーの登場SSを読む 143 Fighting orchestra/戦奏(2)≫ ≪108 使用上の注意をよく読んでください 野上葵の登場SSを読む 147 Friend ship/親友≫ ≪108 使用上の注意をよく読んでください ベルカナの登場SSを読む 147 Friend ship/親友≫ ≪140 Frozen war/冷戦 雛苺の登場SSを読む 157 全世界ナイトメア≫
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エスパー・フィーバー ◆uOOKVmx.oM 遠くのオデン屋で一人の少女が愚痴を零している。まるで飲んだくれの親父ようだ。 その近くでは少年が鼻歌交じりに鍋をかき混ぜたり、何人かで談笑していたりもしている。 ボーっと立っていると、後から来た少女や少年が横をすり抜けて談笑の輪に加わって行った。 何だか楽しそうだ。何かから開放されたような安堵感、小学校の休み時間のような感覚。 そういえばさっきから紫穂と葵の姿が見えない。二人とも何処に行ってしまったのだろうか。 いつだって一緒だった二人。自分の一部と言ってもいい程、何の遠慮もなく付き合える仲間。 大声で叫ぶが応答は無く、薫は自分一人だけ取り残されたような恐怖さえ感じた。 泣きたくなる恐怖心を深呼吸して振り払い、冷静に周囲を見回すとどうだろう。 目に映るもの何もかもが歪んでいた。コーヒーに垂らしたミルクのように空間が歪んでいる。 それに気がついた瞬間、足元の感触が消えた。奇妙な浮遊感と共に湧き上がる不安感。 プールで溺れたかのように手足をバタつかせるが、何故か超能力が使えず、声も出ない。 そして助けを求めて遠くで談笑している少年達の方へ視線を送り、愕然とする。 首の無い少年少女、薬品で爛れた少女、包丁が刺さっている少年、四肢がバラバラの少年。 楽しげに談笑していたそれらが、一斉に薫の方を向いた。 「うわぁぁぁぁ―――――!!!」 跳ね起きた明石薫を待っていたのは、光の存在を許さない完全な闇だった。 だた暗いだけなのだが周囲の静けと相まって不気味さを醸し出し、薫を混乱へと導く。 眠っている間に見た夢の内容など覚えてはいない。だが漠然とした不安だけは残されていた。 無差別に開放した念動力が周囲の木々を砕き吹き飛ばすが、闇に遮られてそれを確認できない。 破壊の手応えを感じながらも不安に狩られた薫は、我武者羅に闇の中から飛び出した。 「うおっ、まぶしっ!!」 思わず腕で視界を遮る。闇に慣れていた薫の目に、眩しい陽光は強烈だった。 彼女が吸血鬼なら間違いなく灰になって消滅していたことだろう。 周囲の木々を薙ぎ倒したおかげで、森の中だというのに直接日光が降り注いでいたのだ。 薫は眩しさに顔を顰めながら、ゆっくりと明るさに慣れるように目を細く開こうとする。 その時、上空からの響く音を聞いた。例えるなら高速で飛行する時の風きり音。 反射的に顔を上げた薫の瞳に、眩しい太陽を横切る影が映った。 (誰かがいる? 葵?! いやさっきの女か?!) それは突き穿つ死翔の槍。礼拝堂を崩壊させても勢いは衰えず、遥か彼方へ向けて飛翔する。 何処から来たのか、何処へ行くのか、それは分からない。何故なら―― 「目が、目がぁ――!!」 直射日光を目の当たりにした薫は、目を押さえてのたうち回っていた。 ○ ○ ○ 「あんたら、薫と紫穂を知っとんの? 二人に何しよったん?」 ベルカナの首筋には鋭利なガラス片が突きつけられ、圧し掛かった戸棚が動きを封じていた。 いたるところに突き刺さった破片は血を滲ませ、確実に命を削っていくのが感じられる。 分かる範囲であばら骨を何本か、それと四肢も骨折している可能性が高い。 身動きが出来ないので正確ではないが、手足の感覚が失われていないことは幸いだった。 目前の少女のように四肢を欠損してはいないが、問題は首がいつまで繋がっているか。 負傷と束縛に加えてここは閉鎖空間、都合良く助っ人が来ること期待できない。 (絶体絶命とは、こういう状況のことですわね) 他人事のようにベルカナは状況分析をしていた。身体に走る痛みが頭を鮮明にする。 今必要なのは泣くことでも怒ることでもなく、僅かな情報から活路を搾り出すこと。 身動きが取れないのだから、他に出来ることが無いと行えばそれまでだったが。 迂闊に口を滑らすと痛い目を見る、今それを身体で思い出させてもらったばかりだ。 素直に情報を吐けば助かるなどとは、新米の盗賊でも考えはしない。 情報の重要性と有用性は、上司である盗賊ギルドの女幹部に散々思い知らされていたから。 先ほどの言動からして、目前の少女は森で出会った赤毛の少女の仲間というのはほぼ確実。 思えばあの少女もフォース・エクスプロージョンやフライト、テレキネシスを自在に操っていた。 その同類と考えれば、目前の少女がテレポートやアポートを自在に操れても不思議はない。 (厄介な奴らに目を付けられてしまいましたわね。まったく運が悪いですわ) だが悲観的な情報だけではない。仲間の情報を欲しがるということはロケーションや マインド・スピーチといった探知系や念話系の魔法は使えないということだ。 悪魔の中には、魔法のような力を特殊能力として好き放題に使いこなせるタイプも存在する。 彼女らが系統立った魔法を習得しているのではなく、独自の特殊能力だとすれば納得もいく。 「なに黙っとんのや、薫と紫穂をどうしたって聞いとんよ?!」 いつもなら一瞬で数時間ほど議論したような検証を行うのだが、待ってはくれないらしい。 たった数秒、返答を遅らせただけで少女が声を荒立てて、ガラス片を首筋に軽く当てる。 薄っすらと血の糸が引かれた。冷静で落ち着いて態度に見えるが、案外そうでもないらしい。 この子も自分と同じように精一杯の虚勢を張っているのだと、そう思うと少し笑みが零れた。 「ベルカナさん!!」 「――!?」 悲鳴に似たイエローの声に、驚いた少女が視線を向け、ガラス片が首筋から僅かに離れた。 あの子はまだ無事のようですわね。ホッとすると同時に、最悪でも彼女だけは逃がさなければ、 そんな思いが再度込み上げる。それを嘲笑うかのように戸棚は重く圧し掛かっていた。 戸棚の下敷きになった少女は自分の質問に答えないばかりか、薄っすらと笑みを浮かべていた。 突き付けたガラス片をものともせず、葵を嘲笑っているようにすら見える。 薫や紫穂に何かしたのか、それを思い出して笑っているのか。 葵の脳裏に青髪の少年の死体が浮かび、それが血に塗れた二人の姿に摩り替わった。 恨めしそうにこちらを見つめる頭部だけになった薫と紫穂の姿に。 血液を沸騰させそうなくらいの怒りが込み上げて、ガラス片を持つ手に力が入る。 そうだ、サクッと首筋を掻き切ってしまえばいい。 こんな女、苦痛と苦しみの中で懺悔させればいい。 だが葵の手は動かない。後一歩と言うところで動かせない。 無意識に直接人を殺めることに対する禁忌を感じているからか。 そうではない。求めているのは希望、二人が無事だという希望と確証。 それを得たいがために、彼女は命を奪う数ミリ前で留まっていたのだ。 「ベルカナさん!!」 「――!?」 背後からの叫び声に葵は驚き振り向く。この部屋にもう一人いるとは計算外だ。 ベルカナが葵に出会った時の衝撃と困惑を今度は葵自身が受けることとなった。 声の主は小さな、といっても葵と同じくらいの少女。この女の仲間か。 汚れたシーツに包まっていたので気がつかなかったのか。 「ベルカナさんに何を!」 激しい敵意を放つ少女を確認して葵の顔色が変わった。 見れば手には何も持っておらず素手。恐れることは何もないはず。 だが葵の注意を引いたのは彼女自身ではない。彼女の周りにあるもの。 小石や砕けた戸棚の破片、割れたガラス片、それら諸々がカタカタと震えている。 室内だと言うのに風が巻き上がるような感覚は、薫が念動力を制御し切れない時の感覚に似ていた。 「サイコキノやて?!」 サイコキノ(念動力者)は能力がシンプルな分、高い超度を持つ者も多く存在する。 目の前の少女の超度が実戦レベルであったなら、今の葵が正面から勝てる可能性は薄い。 最強超度を誇る明石薫は例外としても、その能力は非常に戦闘向けとされており、 特に逃げ場のない空間では無類の強さを発揮する。正面から相手するのはバカか薫のやることだ。 「邪魔や、引っ込んどれや!」 超度不明な少女を他の部屋へテレポートさせようとするが、何故か効果が無かった。 間違いなく上方数m、上階の部屋へと送ったはずなのに少女の身には何も起こらない。 何度テレポートさせようとしても、少女は転移する様子もなく葵を睨み付けていた。 そればかりか少女は葵に向かって駆け出そうとする。 「く、来るな!」 少女にテレポートが通じない、それは葵に蕾見管理官の言葉を思い出させた。 『テレポートはね、近い念波で干渉しちゃえば発動しないのよ』 この少女は、そんな高度な技術を持ったエスパーなのだろうか。 咄嗟に近くにあった物、ベルカナに落としたのと同じ戸棚を少女の頭上へとテレポートさせた。 焦ったためか、思ったより少女が小柄だったのか、頭上数十cmに戸棚が現れる。 「上ですわ、イエローさん!」 「?! ダイレク、お願い!」 葵はテレポートが完全に封じられていないことに一抹の安心を得た後、驚愕した。 転移させた戸棚が、空中で方向転換して壁に激突したからだ。 ベルカナの声に反応したイエローの巻き起こした突風が、ほんの一瞬だけ戸棚の落下を防ぐ。 それと同時に巨大な――葵よりもイエローよりも巨大な大剣が意思を持った獣の如く飛び上がり、 回転する斬撃で落下物を壁へ叩き付けたのだ。 斬撃の余波で天井や石壁に幾多の傷が付けられ、戸棚は床に落ちて砕けた。 一仕事終えた大剣はイエローの周囲をフワフワと漂っている。間違いない、サイコキノだ。 「お、大人しくせんか! こいつがどうなっても知らへんで!!」 「この……!」 葵はベルカナに再度ガラス片を突きつけた。期待通りイエローと大剣の動きが止まる。 こんな低脳犯罪者のような台詞など、口にしたくなかったが仕方がない。 まだまだ優位だと自分に言い聞かせ、葵は湧き上がる恐怖心を押さえ込み、イエローを睨み返す。 ゲームに乗るような連中でも仲間は大切なのかと、しかし薫と紫穂はもっと大切なのだと。 お互いに相手の存在を否定しあう。その僅かな膠着を崩したのは階下から響く爆音だった。 「な、なんや!?」 「なに、この音!?」 遠くのような近くのような、それでいて城を揺るがすほどの爆発音。 何が起こったのか。周囲に気を配っても、礼拝堂で起こった大爆発を彼女達が知るすべはない。 両者に走った僅かな動揺、お互いが僅かな隙を狙い、そして警戒して二人は再び睨みあった。 「ひぃっ!?」 葵が短い悲鳴を上げた。 いつの間にか片腕の自由を取り戻していたベルカナが葵の腕を横から掴んだのだ。 爆音の主でも目の前のサイコキノでもない、無力化したはずの少女に腕を捕まれただけ。 たったそれだけのことだが、ホラー映画の途中で悪戯された子供のように虚を突かれたことと 爆音が連想させたフランドールへの恐怖心が重なり、葵は反射的に手を引っこめるかのように ベルカナからテレポートで数m離れてしまった。 「今だ、行ってダイレク!」 葵自身が失敗したと認識するより早く、睨み合いの呪縛から逃れた大剣が彼女に迫る。 斬撃を避けるため、今度は緊急テレポートで鉄扉の前まで移動するが、大剣は葵のいた場所の 手前で大きく曲がるとベルカナに乗っている戸棚へと突き刺さった。 そのままフォークリフトのように持ち上げると、大剣は戸棚を葵に向かって投げ付ける。 (あの子、直接戸棚を動かしたり、殴りには来ぃへん? もしかして大きな物は動かせないん?) 砕けながら飛来する戸棚を危なげなくテレポートで回避しつつ、そんなことを考える。 危惧したよりも超度が低いか、自分と同じように能力を制限されているのかは分からない。 他に分かることは室内にある武器として扱えそうな物が底をついたこと、巨大な剣を自在に操る サイコキノには迂闊に接近できないことくらいだ。 ベルカナに駆け寄るイエロー、そして空中の大剣が番犬のように葵を威嚇していた。 「……セコい真似しくさってからに!」 葵はギリギリと鳴らしながら親の仇のようにイエローを睨み付けた。 飛び回る大剣の余波で部屋の物品は砕かれ、床は台風が通った後のように散らかり放題だ。 それが意味するところは、武器になりそうな物を奪われたというだけではない。 床一面に散らばった破片は、サイコキノにとって絶好の凶器に早変わりするのだ。 室内で四方八方から襲われれば、今の自分で逃げ切れるものではない。 そしてもう一人の少女。サイコキノではなく、あっさりと押し潰された方だ。 弱いのは当然だが、あの状況で腕を掴んできた。それは、ただの悪足掻きだとは思う。 だがもしサイコキノと組んでいるエスパーだったら。そう一度意識すると疑心暗鬼になってしまう。 戦闘向きでなければテレパスか、でなければサイコメトリーか。 寄り添って立つイエローとベルカナの姿が、薫と紫穂の姿とダブった。 怒りに任せて飛び掛かかり、寄り添う二人を八つ裂きにすらしたくなる。 だが薫と紫穂を助けるまで無茶は出来ない、してはいけないと自己を押さえつけた。 「覚えとれよ! あんたら必ずギッタンギッタンにしたるわ!」 ドラマに出てくる関西風ヤクザのような捨て台詞を残して、葵は室外へとテレポートした。 「え、退いてくれた……良かった……」 静まり返った部屋の中で、サイコキノと誤認されたイエローが安堵の息を漏らしていた。 ○ ○ ○ 葵は城内を次々とテレポートを繰り返してゆく。寝室、私室、書斎、書庫その他もろもろ。 二人組のエスパーとはいえ片方は重症、部屋に出口は一つしか無く、遠くにはいけない。 城内にいるスカーレット(姉)に見つかれば、弄り殺されることだろう。 薫と紫穂のことを聞き出せなかったのは辛いが、仕方がない。 どうせ本当の事を言うとも限らないのだから、最初から躊躇せず殺せばよかったのだ。 あんな二人組にどうこうされる薫と紫穂ではないだろう。今はそう信じるしかない。 (でも、あいつら見逃してええんか?) 少年の惨殺死体が脳裏に浮かぶ。今は、まだ、薫と紫穂に何もしていないのかも知れない。 だが、これから、何かするかも知れない。あの少年のように惨殺するかもしれない (とーぜん、見逃したらアカンよなぁ) 葵は手当たり次第に目に付いた部屋に入ると中の家具を廊下へとテレポートさせていた。 既にベルカナ達のいた部屋の前には、ベッドを二つばかりテレポートさせ逃げ道を奪っている。 5分ほどで次々と近くの部屋から家具が、先程の部屋前へと積み上げられていった。 葵の悩んでいたのではない。 薫と紫穂の情報を聞き出さずに、あの少女達を殺すことを自分に納得させていたのだ。 (逃げ場はないで。防げるもんなら防いでみい) 山と詰まれた家具と、開いた形跡のない鉄扉。 その二つを前にした葵は深呼吸して心を落ち着かせて、静かに呟いた。 「死にさらせ」 質量という名の兵器を矢継ぎ早に部屋内へテレポートさせた。 たった三十センチの高さから落とすだけでも、重量だけで徐行する車並の破壊力を持つ。 無数の部屋から掻き集められたそれらが一つの部屋へ放り込まれるまで、一分も掛からなかった。 普段ならこの程度の連続テレポートなど造作もないのだが、今はやけに疲れる。 葵は乱れた息を整え、静かになった部屋の中へとテレポートした。 確認したかった。二人は死んだだろうか、もし生きていても重症は逃れないだろう。 もし生きていたなら、もう一度だけ薫と紫穂のことを聞いてみよう。 漠然とそんな事を考えていた。もしかして防がれたかも、そんな不安も心の隅にあった。 「ゴホッ、ゴホッ、やったんか?」 部屋の中は埃が舞い上がって凄い事になっていた。 もう少し待ってから入ればよかった、そんな事を考えつつ周囲に気を配る。 万が一、サイコキノが生きていても対処できるように細心の注意を払って死体を探す。 (凄い埃やなぁ、ん?) 宙を舞う埃は眩しい日光の中に、プランクトンのような幕を作っていた。 だがどこか変だ。小さな窓には鉄格子が嵌っていたはず、その影がないのだ。 壁際までテレポートすると鉄格子を外された小窓を見上げた。 (逃げられた? あんな所から?) 暫し愕然とするが、すぐに気を取り直す。絶対に逃がしはしない。 自分の黒星はチルドレンの黒星、薫と紫穂がいないからと言って負けるわけにはいかない。 そう心に誓った時、足に妙な感触を覚えた。まるでケーキを潰したような柔らかい感触。 恐る恐る視線を向けると、ドロリとした奇妙な形に拉げた物体が目に入る。 家具に潰された人間の頭が、浜辺で割られるスイカのように砕け、潰れ、飛び散っていた。 その内容物の上に葵は立っていたのだ。右か左かも分からない眼球が虚空を見つめていた。 「――――!!」 込み上げる嘔吐感を両手で押さえて無理やりに飲み込む。 覚悟はしていたが、覚悟だけでどうにか出来るものでもない。 己の意思に反して残された片膝がガクガクと笑い、身体をその場に投げ出す。 改めて潰れた頭部を見れば、頭部に青い毛髪が残っていた。これはさっきの少年の生首か。 直接殺したのが自分ではないと少し安心する反面、恨めしい表情の生首がクチャっと 潰れる様を想像して葵は身悶えた。 (こ、この子はもう、ええよ……え?) 少年の頭から視線を逸らそうとした先に、まだ人の姿をしている少女を見つけた。 壁際にいくつか積み重なった家具の隙間に助けられているようにも見える。 逃げようとして間に合わなかったサイコキノか、もう一人の方か、両方か。 (あれだけやってまだ生きとるんか? 悪運の強いやっちゃな。でもウチの勝ちや。 薫と紫穂を傷つけるような奴は、ウチが全部排除したる) ○ ○ ○ 「え、退いてくれた……良かった……」 静まり返った部屋の中で、サイコキノと誤認されたイエローが溜め息を漏らした。 助かったと思うと同時に、相手の子を傷つけないで済んだという安堵も含んでいるのだろう。 「あ、ベルカナさん、大丈夫ですか?!」 「ええ大丈夫。ありがとうイエローさん、助かりましたわ」 「だ、だって血がこんなに……」 「出血しているので大袈裟に見えますけれど、幸い軽傷ですわよ。冒険者にはよくある事です」 体中から血を流し、全然大丈夫そうには見えないベルカナが平然と言い放った。 それでも心配するイエローを「大丈夫」の一言で黙らせる。精一杯の虚勢。 本当は立っているだけでも辛い、だがここでイエローに弱気を見せるわけには行かない。 「あの子、一体――」 「シー!」 ――ゴトッ、ゴトッ 喋りかけたイエローの口をベルカナが塞いだ。 鉄扉の向こうで何かが動くような、何か置かれたような音だった。 (出口を塞がれましたか。となると次は―――) 冒険者もモンスターや討伐相手を洞窟や室内に閉じ込める事がある。 その後に取る代表的な方法は二つ。増援や準備万端にしての再侵攻、もしくは焼き討ちだ。 この状況で見逃してくれると考えるのは楽観的過ぎるだろう。 もしも自分が彼女のように無制限にテレポートを使えるのなら、即席で効果的な戦法は一つだ。 それに相手がテレポートを使うのでは、ここで普通に逃げても直ぐ追いつかれてしまうだろう。 「急いで逃げないといけませんわね。イエローさん、小窓の鉄格子を斬れますか?」 「うん、多分。ダイレク、お願い」 ふわりと舞い上がった魔剣が、まるで鉄格子がチョコレートであるかのように軽く切断した。 明かり取りの小窓は小さいが子供なら、小柄なイエローなら何とか通れるだろう。 それを確認したベルカナは荷物から首輪と一枚のコインを取り出し、イエローの手に握らせた。 「あなたはそこからお逃げなさい。私は多分すぐ戻ってくるあの子を引き止めてみます」 「え? やだ、そんなのやだ! 一人で逃げるなんて、ベルカナさんまでいなくなったら僕――」 「あらあら、何を勘違いしているのかしら。それは後であなたを探すための目印ですわよ」 「でも――」 納得のいかないイエローの口に、ベルカナは人差し指を当てて言葉を封じた。 イエローの耳元で時間がないこと、自分に勝算があること、二人一緒だと危険なことを 適当に含ませ、とびきりの笑顔を見せて、彼女に一人で逃げることを承諾させた。 純真なイエローを言いくるめるなど、闇市で値切るよりも容易いことだった。 「うふふ。私のいない間、悪い子に騙されちゃ駄目よ。あなたは素直すぎですからね。 ダイレク、イエローのことをお願いね」 飄々と騙している本人が警告をする。自分が一緒にいる間は騙されてもいいのだ。 少女を頼まれた魔剣はクルクルと戸惑ったように回転していた。 「はい……でも本当に大丈夫ですか……本当にまた――」 「大丈夫、魔法使いのお姉さんを信用なさい。じゃあ、また後で」 「……また、後で」 意を決めたイエローが小窓から城外へ飛び出す。下が水とはいえ城の四階、十分危険な高さ。 だがシルフェのフードが風を巻き上げ、彼女の身体を押し上げると足元にダイレクが滑り込む。 魔剣に乗った彼女は、まるで風の波でサーフィンでもするかのように空を駆けて行った。 (さて、私も悪足掻きをしますか) ベルカナは少し躊躇した後、拾ったガラス片を胸元から下へ滑らせ、一気に衣服を切り裂く。 まだ男に見せた事のない白い肌、揺れるほどない小振りな胸は流れ出る血と傷に汚されている。 幸いにして幾多の裂傷は致命的ではない。だが服と共に傷口から追い出されたガラス片達は 更なる流血の花を置き土産としていった。治療せずにいれば長くは持たない。 このまま時間が立てば鮮血で編んだドレスで着飾ることになるだろう。 傷の重さを知りつつも、ベルカナは下着をも切り裂いて一糸纏わぬ姿を晒した。 お調子者の貧弱盗賊が覗いていないかと少し背筋が寒くなったが、服を脱いだからだろう。 どうせ自分の裸を晒すわけではないから全裸でもいいか、そう考えていたのだが、 やはり気恥ずかしさを感じ、汚れが少ないシーツを身に纏う。 服を切り裂いた行為に特に意味はない。ただ脱ぐ時間が惜しかっただけだ。 脱ぎ掛けで死ぬなんて、全裸で死ぬよりも恥ずかしい。 切り裂いた衣服は、見つからないように砕けた戸棚の影へと放り込んだ。 装備品もまとめてランドセルに放り込み、丈のランドセルと一緒に投げ出す。 (後は気力と――運次第ですわね) ふとイエローに幸運を呼ぶコインを渡したことを思い出す。 後で居場所を探すロケーション用だったが、彼女が自分の幸運を持ってくのなら悪くない。 イエローに吹き込んだように勝算はある。多くて一割か二割。上手くいけば一石三鳥な作戦。 問題は生存率が五割以下と予想できる上に、生き延びても後は運任せ、他人任せなことだ。 それでも高確率で足止めになることを考慮すれば、悪くはない作戦だと思う。 他の方法も考えたが、正面から迎え討てる相手ならイエローを先に逃がしたりはしない。 (上手くいったら御喝采) ベルカナは自分の腕にガラス片を突き立てた。鋭い痛みが頭に響く。 多少回復したとはいえ残りの精神力は少ない、というかハッキリ言って足りない。 魔法を使った後に気絶しては元も子もないのだが、そもそも魔法が発動するかも怪しい。 だからといって諦めるわけにはいかない。足りなければ搾り出す。無理矢理にでも。 ベルカナは残された経験点を精神力へ注ぎ込むかのように、痛みで意識を支えて詠唱した。 ――シェイプ・チェンジ それは術者を全く別の存在に変身させる魔法。ベルカナの小柄な身体が、手足が縮んでゆく。 長い栗色の髪は赤みを帯びて短く、発展途上と言い張る小振りな胸もまな板へと萎む。 一瞬で女性を感じさせていたベルカナの肢体は、二次性徴期前の少女のものへと変貌した。 (長くは……意識が……持たない……か) 少女の綺麗な腕にガラス片を突き立て、ベルカナは辛うじて己を現実へ縛り付ける。 先程の魔法でベルカナの精神力は限界を迎えていた。 一瞬でも気を抜けば、死神に根こそぎ意識を刈り取られ、そのまま目覚めない事だろう。 姿を変えてからどれだけ経過したか。数秒か、数分か? 霞む意識では分からない。 何も無い空間から戸棚が、本棚が、ベッドが現れては床に叩き付けられてゆく。 思ったよりも早く、もしくは遅くあの少女が準備万端で殺しに来たのだ。 (やはり……そう……来ました……か) 歯を食い縛って虚空を睨みつけるも視界は霞み、身体は糸の切れた人形のようにへたり込む。 姿勢を支える余力も無く、別の世界へ旅立つ意識を未練がましく引き止めるので精一杯。 あの程度の怪我など『ベルカナの身体』ならば苦しみはしても大事は無い。 誤算だったは『変身した少女の身体』にとっては大怪我だったということ。 手足と共に傷口も縮んだので出血は多少抑えられているものの、貧血を起こすには十分だった。 『き、君はまだこっちに来ちゃいけない! 頑張ってくれ!』 幻聴か、城戸丈の声が聞こえたような気がした。 そんなことは言われなくても分かってる。だからあなたは安心して眠りなさい。 目の前の床に転がっている城戸丈の首に向かって、そう視線で答える。 空元気でも声を出せる余裕は残っていない。 頭上から襲い来る凶器に残された全ての気力を叩き付け、そしてベルカナは意識を失った。 ○ ○ ○ 「何があったん!? しっかりせい! ウチや、葵や!」 葵は折り重なった家具の隙間にいた少女へ必死に呼びかけていた。 彼女の頭には、先程までの物騒な考えなど微塵も残っていない。 家具の山から少女を助け出し、力一杯に抱きしめていた。 なぜなら、その少女は人を殺してでも守ろうとした大切な仲間だから。 見間違えるはずは無い。明石薫だ。親よりも長く付き合っている仲間。 彼女が何故ここにいるかなど、深くは考える余裕は無かった。 抑えていた色々な感情が、最も大切な仲間と再会できたことで爆発していたのだ。 「起きろや薫! あいつらにナニされたん!? 返事せぇよ!」 必死に薫へ呼びかけるが、意識の戻る気配は一向に無い。 薫はシーツ1枚の他は何も身に着けておらず、拷問でも受けたのか全身が傷付いていた。 腹部や手足の一部は腫上がり、左腕には抉ったような深い傷が残されている。 鋭い物で刻まれたような無数の裂傷は身体のいたるところに見られたが、幸い葵の知識でも 応急処置の可能な程度のものだった。楽観は出来ないが命に別条は無いだろう。 それなのに薫の意識は戻らなかった。 平らな胸にそっと手を当てるとトクン、トクンと温かい生命の鼓動を感じられる。 生きている、その穏やかなリズムは葵の心を落ち着けていく。 そうだ。薫や紫穂が死ぬわけない。大丈夫、すぐに紫穂も見つかる。 なぜなら薫は見つかったのだから。そして自分と薫の二人が探すのだから、すぐに見つかる。 「相変わらず、アンタはねぼすけやなぁ。ええわ、ウチが守ったるからゆっくり寝とき」 腕に抱いた薫の頬を軽く指先でつつく。普段は騒々しいが寝顔は天使のように可愛らしい。 葵は薫の体を優しく拭う。バベルの制服を着ていたはずなのに、シーツの下は何故か全裸だった。 あの二人にどんな酷い事をされたのだろう。もう少し遅かったら、そう考えただけでも恐ろしい。 偶然ここに気が付かなかったら、今頃は青髪の少年のようにされていたのだろう。 あの少女がバベルの制服を知っていたのは、薫を脱がして酷い事をしたからだ。 猟奇殺人のイメージから、あの二人に性的な暴行を受ける最悪の事態を思い浮かべて―― しまいそうだったが、葵の乏しい性知識では薫が二人にセクハラしている姿しか浮かばなかった。 とにかくあの二入が薫に酷い事をしたに違いない。 「起きたら一緒に紫穂を探そうな。ウチらなら直ぐ見つかるに決まっとる。 そんで三人揃って、あの女達をぎったんぎったんに仕返ししたろうな」 自分の腕に抱いている薫が、殺意を向ける相手ベルカナ本人だとは想像もしていなかった。 ○ ○ ○ その頃『本物』の明石薫はというと―― 「あっちゃー、こっちに飛んでったと思ったんだけどな。」 飛翔するゲイボルグを人影と勘違いした薫は、槍の飛んでいった方向、南へ向かっていた。 湖上でキョロキョロと周囲を見回すが、湖の周辺に人影は見当たらない。 視力が完全に回復する前に無理して追いかけたため、あっさりとゲイボルグを見失っていたのだ。 湖の中に、ダムに飲み込まれた廃村のような街を見つけた薫は、ジーッと湖底を見つめる。 少し顔を水に突っ込んで探して見てみたが、すぐに飽きた。 「水の中に人がいるわけないよなー。向こう岸に降りたのかな……ん、なんだありゃ」 波も少ない湖上を静かに漂う赤い宝石に薫は首を傾げた。なんで宝石が浮いているんだろ? それは見る者を安心させるような柔らかな光を発して、薫の視線を静かに受け止めていた。 【E-6/湖上(飛行中)/1日目/昼】 【明石薫@絶対可憐チルドレン】 [状態]:ぐっすり眠って疲労は回復。右足打撲。 [装備]:なし [道具]:基本支給品、バレッタ人形@ヴァンパイアセイヴァー [思考]:何だろ、これ? さっきの影は何処に行っちゃったんだろ? 第一行動方針:葵や紫穂を探す。二人に危害を加える奴は容赦しない 第ニ行動方針:とりあえず、あの女(ベルカナ)に仕返しをする 最終行動方針:ジェダをぶっ飛ばして三人で帰る [備考]: 湖上のローザミスティカ(翠星石)を発見しました 上空を南に飛んでゆくゲイボルグを人影と誤認した上、見失っています。 (横に投げて太陽光が城内に入ったのでゲイボルグを南方向きに投げたと判断しました)。 【F-3/城外(空)/1日目/昼】 【イエロー・デ・トキワグローブ@ポケットモンスターSPECIAL】 [状態]:擦り傷多少、破ったシーツを身体に巻きつけた、深い悲しみ [装備]:シルフェのフード@ベルセルク、魔剣ダイレク@ヴァンパイアセイヴァー おみやげのコイン@MOTHER2 [道具]:スケッチブック、基本支給品、首輪@城戸丈、 [思考]:ベルカナさん……大丈夫ですよね? 絶対また会えますよね? 第一行動方針:城から離れる 第二行動方針:レッド達と合流し、このゲームを破る方法を考える 第三行動方針:丈の友人と合流し伝言を伝え、協力を仰ぐ 第四行動方針:丈の首輪を調べる。または調べる事の出来る人間を探す。 基本行動方針:ゲームには絶対乗らない 参戦時期:2章終了時点(四天王との最終決戦後。まだレッドに自分の正体を明かしていない) [備考]:魔剣ダイレクのソードエレメンタル系は魔力を必要とするため使用不可 魔剣ダイレクとシルフェのフードを併用して飛行中(風で跳んで、ダイレクで滑空を繰り返し) イエローの進行方向は次の書き手さん任せです 【F-3/城の一室/1日目/昼】 【野上葵@絶対可憐チルドレン】 [状態]:左足損失、超能力の連続使用による疲労、安堵感 [装備]:無し [道具]:支給品一式、懐中時計型航時機『カシオペア』@魔法先生ネギま!、飛翔の蝙也の翼@るろうに剣心 ベルカナのランドセル(基本支給品、黙陣の戦弓@サモンナイト3、返響器@ヴァンパイアセイヴァー) [思考]:良かった。薫が無事でホンマに良かった。 第一行動方針:薫はウチが守ったる 第ニ行動方針:薫と一緒に志穂を探す 第三行動方針:レミリアかフランドールに出くわしたら、逃げる 第四行動方針:逃げた変質者(ベルカナとイエロー)は必ずぎったんぎったんにしたる 基本行動方針:三人揃って皆本のところに帰りたい [備考]:ベルカナが変身した明石薫を本物だと思い込んでいます。 イエローをサイコキノ、ベルカナも何らかのエスパーと認識しました。 なお二人が城戸丈を猟奇的に殺害し、薫に暴行をしたと思っています。 テレポートについて 葵のテレポートは有効活用すると「装備取り上げ」や「石の中にいる」が強力過ぎと判断し 「意識のある参加者(&身に着けている所持品)は当事者の同意無しでは転移不可」として描写しています。 修正 【偽明石薫(ベルカナ=ライザナーザ@新ソードワールドリプレイ集NEXT)】 [状態]:気絶、明石薫に変身中。左腕に深い切り傷、全身に打撲と裂傷(応急手当済み?)、 あばら骨数本骨折(他も骨折している可能性あり)、出血による体力消耗 [装備]:全裸(シーツを羽織っている)、 [道具]:なし [思考]:気絶中(ベタだけど記憶喪失のふりでもしようかしら) 第一行動方針:明石薫のふりをして、この場を切り抜ける 第二行動方針:イエローと合流し、丈からの依頼を果たせるよう努力はする(無理はしない) 第三行動方針:仲間集め(イエローと丈の友人の捜索。ただし簡単には信用はしない) 基本行動方針:ジェダを倒してミッションクリア 参戦時期:原作7巻終了後 [備考]:制限に加え魔法発動体が無い為、攻撃魔法の威力は激減しています。 変身魔法を解除した場合、本来の状態(骨折数箇所、裂傷多数、他)に戻ります。 鉄扉に魔法が掛かっている為、ベルカナ以外は解呪か扉を破壊するかしないと開きません。 「シェイプ・チェンジ」について 明石薫に変身しています。持続時間は永続(本人の任意で解除)で精神以外は完全に薫です。 超能力もコピーされていますが、経験不足なので消耗は激しい上、使い分けは出来ません。 ≪096 セイギとギセイ/DOMINO 時系列順に読む 099 霧中逃避行 ~Panic Hopper~≫ ≪096 セイギとギセイ/DOMINO 投下順に読む 098 隠密少女≫ ≪082 世の中捨てたものじゃないから 明石薫の登場SSを読む 109 出会いはいつも最悪で≫ ≪084 籠の中の鳥達 イエローの登場SSを読む 118 迷走≫ 野上葵の登場SSを読む 108 使用上の注意をよく読んでください≫ ベルカナの登場SSを読む
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この作品は性的表現が含まれています。 過激な性的描写が苦手な方には不快となる内容なのでご注意ください 「夢じゃ……無いんだよね……?」 私、藤原千花は気が付いたら知らない場所に拉致されて、殺し合いを強要されています。 それが嘘では真実だと見せつけるために、モニター越しで幼い少女が残酷に殺される姿が映し出されていました。 「お家に帰りたい……皆に遭いたいよ……」 不安のあまり、生徒会メンバーを思い出していたら涙が零れ落ちた。 少女がたった一人で見知らぬ土地に放り出され、殺し合いをやらされているのだ。 恐怖に感じないハズはない。 「殺し合いに反対な人もきっといるはずです。まずは人を探しましょう」 不安で心が押し潰されないよう、ポジティブ思考で動こうと決めた。 何かをしていないと、いつまでも涙が出てきてしまいそうだから。 向かった先は小さな集落でした。 そこに行けば、他の参加者に会えるかもしれない。 話し合えばきっと分かり合えるはずです。 誰だって殺し合いなんてやりたくないはずだから。 パチパチパチ…… 集落の中央では焚き火が置かれており、淡い光と薪が焼ける音が響いている。 焚き火の周囲にはいくつもの人影があった。 あれは参加者達に違いない、私も仲間に入れてもらおう。 皆で脱出の方法を探せばきっとなんとか出来ます。 集落の廃屋の壁から顔を出した千花はすみませーん、と言いそうになった声を急いで止めた。 そこにいたのは参加者達では無かったからだ。 子供のような背丈で緑色の肌をした醜悪な怪物達が 焚き火の前でけたけたと談笑を繰り返している。 主催者である怪しい男の言葉を思い出す。 ここにはオークやゴブリンなどNPCが存在し、参加者を性的に襲うと。 それが事実だとしたら、この怪物達に見つかったら…… (はやく、逃げないと!) 身の危険を感じた千花は一歩後ろへ下がる、すると。 ペキッ 足元に木の枝が落ちているのに気付かず踏みつけてしまった。 「ゴブ!?」 「ゴブブ!!」 音に反応したゴブリン達が一斉に動き出した。 「ひっ」 短い悲鳴をあげた千花の周囲を取り囲んだゴブリン達は 千花の姿を舐め回すような視線で見つめ、よだれを垂らしながら舌なめずりをする。 一匹のゴブリンが千花に飛びかかり、スカートにしがみ付いた。 「いや……こないでっ!やだぁぁ!!」 ゴブリンの体重が加わり、バランスを崩した千花は尻もちをつく。 隙を待っていたとばかりにゴブリン達が次々と千花に群がった。 「離してっ!いやぁ!やめてぇっっ!!!!」 ゴブリン達の手が千花の体を弄り、衣類を引き裂いて 制服が破り捨てられ、下着姿が露わになる。 「ゴブヒャヒャ!」 「ゴブリィィ!」 ゴブリンの一匹が千花のブラジャーを掴んだ。 「ううっ……お願いです。やめてください……」 力任せにブラジャーが引き千切られると 衝撃で地下の胸がぷるんっと揺れる。 低身長ながら、同じ年頃の女性達と比べても一際豊満なサイズの胸を 下衆な笑みを浮かべたゴブリンが乱暴に掴みかかった。 「イヤぁぁぁ!!誰か!、助けてくださいぃぃ!!だれかぁ!!」 「その娘から、離れろぉぉぉぉっっっっ!!!!」 ザシュッ 「ゴブゥ!?」 千花に馬乗りしていたゴブリンの頭部が斬り裂かれ絶命する。 更に斬撃が振るわれ、二匹目、三匹目とゴブリンが斬り捨てられた。 「ゴブリンめ!お前達の好きにはさせない!うおおおおおっ!!」 現れたのは鉢巻きをした若き青年の剣士だった。 青年剣士は長剣はがねのつるぎを装備し、次々とゴブリンに斬りかかった。 「ゴブブッ!」 「ゴブ―ゴブー!」 千花に気を取られ、周囲を警戒していなかったゴブリン達は 青年剣士の奇襲によって数匹斬り殺され、逃げ去っていった。 「君、大丈……おっとゴメン」 「え?……きゃっ!その、助けてくれてありがとうございます……」 千花の痴態に気付いた青年剣士は慌てて目を反らす。 その反応に気付いた千花も慌てて両手で胸元を隠し、青年剣士へお礼を言った。 「人助けは冒険者の務めだからな。はい、これ」 青年剣士は千花を見ないように顔を背けたまま、服を渡した。 「これは?」 「俺の支給品さ。『きぬのローブ』と『はがねのつるぎ』の二つが入っていたんだ」 「支給品……そうだ私のも!」 そこで千花はまだ、自分の支給品を確認していなかったのに気付いた。 いそいそときぬのロープに着替えた千花はデイバックの中身を確認しようとした時 ズシン……ズシン…… 巨大な人影が近づいてきた。 「う、うしろ……」 「え?」 青年剣士が振り返ると目の前には身長6mほどの怪物が立っていた。 人間を遥かに超える巨体に牛のような頭部。 ファンタジー作品を少しでも齧った物ならそいつの存在は知っているだろう。 強大な怪力を誇る怪物、ミノタウロスを 「ブモオオォォーーーー!!!!」 怪物が吠える。 圧倒的体格差に加え、両手に持つ巨大なハルバードは二人を威圧させるには十分だった。 「なんだよこれ……う、うわああああぁぁっっ!!」 青年剣士が雄叫びをあげながらミノタウロスに特攻を仕掛ける。 先手必勝、攻撃される前に攻撃するのは策としてはありだろう。 しかし―― ブオンッ! (あれ?) 突如、青年剣士の視界がぐるぐると回る。 既に攻撃を終えたミノタウロスに 両手で口元を押さえて震える千花の姿が見えた後に 視界が地べたに固定された。 青年剣士の攻撃が届くよりも早く リーチもパワーも圧倒的なミノタウロスの斬撃が青年剣士の首を刎ねていた。 宙を舞った頭部は地面を転がり、頭を失った体は切断面から血が噴水のように噴き出していた。 NPCの強さは固定ではない。 ある程度、腕の立つ参加者なら苦も無く排除可能なNPCもいれば 相当の苦戦を強いられるボスNPCも混じっている。 運悪くこの集落にもボスNPCがいた。 多数のゴブリンを従え、集落を拠点とするミノタウロスもそのボスNPCの一人である。 【青年剣士@ゴブリンスレイヤー 死亡】 「そんな……私を助けてくれた剣士さんが……」 「ブルルルッ!」 ミノタウロスが鼻息を荒くしながら千花を睨みつける。 「い、や……いやああああっっ!!」 ズシン、ズシンと近づいてくるミノタウロスに恐れをなした千花は悲鳴をあげながら逃げ出した。 すると千花の目の前の地面が爆ぜて砂埃が舞った。 「ひぃっ……」 砂埃の中から地面に突き刺さった血濡れのハルバードが顔を出す。 千花の逃げ道を塞ぐためにミノタウロスが手に持ったハルバードを投げつけたのだと理解するのに時間はかからなかった。 その気になれば今の投擲で千花を真っ二つにする事も可能だっただろう。 『残念ながら』ミノタウロスは易々と千花の命は奪わない。 主催者によって女は徹底的に性的凌辱を与えるよう改造されている。 NPCに捕まったが最後、決して清いまま死ねることはないのである。決して…… 「く、来るなぁ!!」 藁にも縋る想いでデイバックに手を伸ばした千花が見つけたのは拳銃だった。 相手は殺し合いを強要された人間では無い。 ただ本能のままに強姦や殺戮を繰り返す怪物だ。 千花は何の躊躇も無く、ミノタウロスに向かって銃弾を撃ち込んだ。 「うわああああああっ!!」 千花は叫びながら発砲を続けた。 放たれた銃弾が次々とミノタウロスの体に突き刺さり、撃たれた個所から緑の血が垂れる。 カチカチッ…… 弾が尽きた。 拳銃の小さな弾丸ではミノタウロスの皮膚を貫いても筋肉で止められ、内臓には届かなかった。 「ブモオオオオッッッッ!!!!」 「うぁぁ、ああっ……」 激怒したミノタウロスの雄叫びに 千花はガタガタと身体を震わせ、立つ事もままならなくなり ぺたりと地面に座り込む。 すぐに癒えるかすり傷とはいえ 孕み袋に過ぎない小娘如きに、己の血を流させたのだ。 ミノタウロスにとっては屈辱である。 徹底的に制裁を与えてやらなければ気が済まない。 これから始まるのは ゴブリン達にとっては宴であり 千花にとっての地獄の始まりである。 「ひっ、いやぁぁぁぁぁッ!!」 きぬのローブを引き裂かれた千花はミノタウロスに持ち上げられる。 ミノタウロスの下腹部には丸太のようなサイズの肉棒が膨れ上がっていた。 「やめてぇっ!本当に、それだけはやめてぇっっ!!」 ミノタウロスの爪が千花の秘所を守る最後の布を引っ掛けて裂いた。 布が取り払われ、千花のピッタリと閉じた陰部が露出する。 本来なら千花は、どこかで気の合う男を見つけて 時には笑いあったり、喧嘩したり、思い出を増やして お互いの恋心に気付いて、告白したり、告白されたりと 素敵な恋愛の末に、自分の純潔を捧げるのだろう。 そう、かぐや様のように恋愛をしたかったんだ。 ブチブチブチィ!! 「いぎゃあ゛ぁぁッ!!!!ひぎゃぃぎィィィ!!!!げほお゛ォォッ!!」 ミノタウロスの巨根が千花の陰部を貫いた。 明らかに人間に入れるサイズではないそれが 千花の膣口を裂き、筋を千切りながら抉り犯す。 腹部は内側から押し込まれた陰茎がくっきりと浮かぶほど歪に盛り上がり 骨盤は損傷し、内臓は押し上げられ、胃に溜まった物は逆流し 口から吐瀉物がゴボゴボと溢れ落ちる。 「や゛ぁっ、ら゛ぁ……もぅ、ぬ゛いでっ……ぐふえ゛あ゛ッ!!」 ミノタウロスが前後運動を繰り返し、陰茎をピストンさせる。 陰茎が押し込まれる度に、千花はうめき声を漏らしながら、吐瀉物を吐き出す。 目から大粒の涙が零れ落ち、女性器からは陰茎を伝って血がボタボタと滴り落ちた。 「フゴッ!フゴッ!フゴォォォ!!」 「う゛ぐえ゛ぇぇぇッ!!お゛ながっがぁ、もっどぉふぐら゛んでっいぎぃィィ!!」 射精が近づいてきたミノタウロスは更に陰茎が膨張し ピストン運動も早くなっていく。 陰茎の刺激が最高潮に達したその瞬間。 「ひっぎゃぅ!?お゛ながぁ、がァァっさげう゛ゥゥゥゥゥッ!?」 ミノタウロスの陰茎から粘着な種汁の濁流が弾けるように放たれ 千花の下腹部へと大量に注ぎ込まれた。 叩きつけるような勢いで吐き出された種汁によって千花の腹部は まるで臨月の妊婦かの如く膨張した。 「あ゛ぁぁ……わら、ひぃ……どぅひてぇ?こん、にゃ……めにぃ……」 ずちゅっ 長い射精を終えたミノタウロスは千花の陰部から陰茎を乱雑に引き抜いた。 すると千花のポッカリと開き切った膣口から 綺麗なピンク色の子宮がだらりと露出して股の下にぶら下がった。 子宮口からは黄ばんだヘドロのような汁が噴き出し、ボチャボチャと地面に零れ落ちた。 ミノタウロスは満足したのか千花をゆっくりと地面に降ろし どこかへと立ち去って行った。 これで終わったんだよね。 とっても酷い目に遭ったけど、あとはゆっくり休めるよね。 先の事は不安だけど、今だけはただ眠っていたいな。 「ゴブ?」 「ゴブブブ」 「ゴブーッ!」 悪夢はこれで終わりじゃありませんでした。 「ゴブヒヒ!」 「ゴブゴブー!」 抵抗する力も完全に失った千花の前に 複数のゴブリン達が集まっていた。 彼らはミノタウロスが千花を犯し尽す様をじっと見ていたのだ。 自分達の番が回ってくるまで 我先にと千花の股下へ移動したゴブリンが 千花の秘所へと陰茎を挿入する。 既に限界以上にまでこじ開けられ、子宮も露出している膣だろうと関係無い。 今度は俺がマーキングするんだとばかりに腰を振って陰茎を叩きつける。 「いぎゃあ゛ぁぁッ、やめでぇぇっ、いぎゃひい゛ィィッ!!」 千花の豊満な乳房を前に興奮したゴブリン達が乱暴に爪を立てて掴み 桜色の乳頭をむしゃぶるように齧り付き ゴブリン達の孕み袋の証となる傷跡を付けた。 「いゃ……も、うころ゛じってぇ……お゛ごぉ゛ッ……!!」 ゴブリンの一人が千花の口内へ陰茎を押し込んだ。 彼らには体を綺麗にする習慣は無い。 当然、風呂にも入らない。 陰茎は汚れが溜まり、汚物を発酵させたような酷い悪臭を放っている。 「う゛ぐぅぅっ!おぐぅっっ!」 千花の呼吸が苦しくなっていようがお構いなし。 ゴブリンは両手で千花の頭を鷲掴みにして喉奥まで陰茎を突き続ける。 「んぐっ!お゛ごぉ゛ッ……!」 膣内と口内を犯していた二人のゴブリンが同時に射精した。 陰部から黄ばんだ種汁が再び溢れ落ち 喉に放出した種汁は吐き出す事を許さず 全て飲み干すまで頭を押さえ付けられていた。 ゴブリン達の責め苦に耐え切れなくなった千花は 視界がぼんやりと薄まり、意識を手放した。 その後、千花が目を覚ますと見慣れた風景が広がっていた。 辺りを見渡すと四宮かぐや、白銀御行、石上優、伊井野ミコ 生徒会メンバーが揃っている。 「あれ?ここは……生徒会室?それに皆……みんなぁ〜、うわあああぁん!!」 そこは秀知院学園生徒会室だった。 会いたかった人達の姿に千花は思わず泣き崩れる。 「よ゛がっだぁぁ〜!!もう二度と会えないとばかりぃ〜〜!!」 「ちょ、ちょっと!どうしたの?藤原さん」 「きっと何か悪い夢でも見てたのかもしれないな」 「呑気に生徒会室でお昼寝なんてするからですよ」 「学校にゲームを持ち込んでる石上が言える事じゃないでしょ!」 元の世界に帰れたんだ。 そうですよね。だってこんな殺し合いが現実で起きる筈がありません。 ゴブリンやミノタウロスはアニメやゲームにしか存在しない架空の生物なんですから。 あれはとても恐ろしい悪夢だったんですよ。 だからもう忘れましょう。 夢は起きたら忘れるものです。 ボキッ! 千花の右腕が変な方向に折れ曲がっていた。 「え?どうして?」 気付くと四宮かぐやが、白銀御行が、石上優が、伊井野ミコが 醜悪なゴブリンの姿へと変化していく。 ケタケタと笑いながら四匹のゴブリンが千花へ飛びかかった。 「いやああぁぁぁぁっっっっ!!!!」 休む事など許されなかった。 ゴブリンが満足するまで楽しませるのが孕み袋の務めである。 勝手に気絶しよう物なら手足を折ってでも叩き起こし、もう一度犯す。 「殺じでぇぇっ!!も゛う゛っわだしを、ごろじてェェェェ!!む゛ぐうう〜っ!!」 ゴブリン達の凌辱は続く。 再び陰部と口内に陰茎を押し込まれる。 乳房を乱暴に掴んで引っ張られ、乳頭を噛み付かれる。 それが終わるとしたら 志を持った参加者達によってゴブリン達を全て討伐するか。 それとも凌辱の果てに衰弱し、命が尽きるかのどちらかだろう。 【藤原千花@かぐや様は告らせたい〜天才たちの恋愛頭脳戦〜】 [状態]:右腕骨折、股関節損傷、会陰裂傷、腟壁裂傷、子宮脱、全身に引っ掻き傷&噛み跡、疲労(極大)精神的疲労(極大) [装備]:無し [道具]:無し [思考・状況] 基本方針:??? 1:???(正常な判断が出来ない状態になっています) [備考] ゴブリン達による凌辱を受け続けています。 死亡させないように扱われていますが時間が経つごとに衰弱が進みます。 『支給品紹介』 【きぬのローブ@ドラゴンクエストシリーズ】 DQ4以降の作品及びリメイク版DQ3に登場する防具。 いずれの作品でも【しゅび力】は低く、序盤用の防具となる。 【はがねのつるぎ@ドラゴンクエストシリーズ】 本編全シリーズ皆勤賞の偉大な武器で、モンスターズ、不思議のダンジョンシリーズでもほぼ常連。 主に序盤から中盤に切り替わるあたりで店に並ぶようになる。 【ベレッタM84@現実】 ダブルカラムマガジンの採用により.380ACP弾を13発装填可能で、警察用や護身用・競技用としても使用される。 様々なドラマやアニメやゲームでも使用されているポピュラーな銃の一つである。 『NPC紹介』 【ゴブリン@ゴブリンスレイヤー】 成体でも人間の子供程度の身体に膂力と知能しか持っておらず 単体ではあまり強くないうえに討伐報奨金も低く玄人からは獲物扱いされないため、新人冒険者などには侮られることが多い。 しかし、動きが素早いうえに悪知恵が利き、暗闇でも見える目と高い嗅覚を持って絶えず闇間から徒党を組んで襲いかかるため 実は最も多くの新人を殺害している存在でもある。 【ミノタウロス@オリジナル】 集落を根城とし、周辺のゴブリンを統率するボスNPC。 活動範囲は主に集落とその周辺をうろつくのみで 基本的には集落に近づいてきた参加者を待ち構える門番である。 女性参加者は殺さずに、戦闘能力のみを奪い、孕み袋として活用し 男性参加者は躊躇する事無く命を奪う。 体格は6m、武器は両手斧のハルバードで軽々と振り回す。 肉体も頑丈であり、拳銃の銃弾では皮膚は傷ついても筋肉を貫く事ではできない。