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原点 ◆3k3x1UI5IA ……その薄暗く、粉っぽい、殺風景な倉庫の中に、それらは無造作に転がっていた。 何の変哲もない、ごくごくありふれた、数本の金属バット。 少年は、しばし動きを止める。 彼らしからぬ、何かを惜しむような、懐かしむような、微妙な表情。 「……思い出すね、姉様。『僕たち』の、『私たち』の『始まり』を」 ガラガラと音を立てて扉を開き、少年は体育倉庫に足を踏み入れる。 あたりにはハードルやら、跳び箱やら、ボールの入った籠やらが散在しているが、それらには目もくれず。 少年――名簿の上では『ヘンゼル』として登録されている――は、そしてそっと金属バットを拾い上げる。 ずしり、とした手ごたえ。冷たい手触り。 『あの時』と変わらぬ、金属の棒。 『あの時』から月日が流れ、『彼ら』は多くのものを失った。 涙を忘れた。恐怖を忘れた。過去を忘れた。空の青さを忘れ、太陽の眩しさを忘れた。 自分たちの本当の名前さえも忘れてしまった。 それらを失った代わりに、世界の『真理』を知った。何が起こっても笑っていられるようになった。 自ら受け入れ、堕ちていった暗黒の闇。 その『始まり』を思い出し、少年はうっとりとした笑みを浮かべる。 幼い顔には似つかわしくない、とろけるような、淫靡な微笑み。 少年は唄うように囁く。この場所・この時間に居ない、過去の『彼女』に向かって、優しく囁く。 「大丈夫だよ、姉様。これは『仕組み』なんだ。 殺して殺されてまた殺す、世界はそうして円環(リング)を紡ぐんだ」 『あの時』は、両手で構えるのがやっとだった。 ふらつきながら、泣きながら、拘束されている相手に振り下ろすのが精一杯だった。 そんな、子供の手にはいささか余るような凶器を、しかし少年は片手で構えて軽く素振りする。 重さ・長さ共に丁度いい。素振りの度に脇腹は痛むが、これなら戦える。 反対側の手にももう1本拾って持ち、二刀流の剣士のように構えてみる。……いけそうだ。 普段愛用していた2本の手斧のように手に馴染む。 『あの時』から――強要された『最初の人殺し』の時から比べれば、少年は確実に強くなっている。 だって…… 「だって、僕らはこんなにも人を殺してきたんだもの。いっぱいいっぱい殺してきている。 だから……!」 * * * 逃走を決断したヘンゼルだったが、しかし一直線に逃げるほど彼は単純ではない。間抜けでもない。 逃げるに際し一番怖いのは、背中から狙撃されることだ。 『魔法使い』は、言ってみれば射程も性能も分からぬ銃火器を持っているようなもの。不安は尽きない。 森に逃げ込んでも、例えばロケット砲のような高威力の『魔法』があれば、森ごと吹き飛ばされるかもしれない。 次に怖いのは、複数の追っ手に追いつかれること。 バルキリースカートが万全で、全てのアームを「脚」として使えればかなりの速度が出せる。 けれど、今はそれは望めない。 生身の足で走ろうにも、折れた肋骨がかなり痛む。短距離ならともかく、長距離走は正直言って辛い。 だからヘンゼルは、あえて逆を突いた。 わざわざ派手に学校を囲む塀を飛び越えて見せた後、その陰に隠れて方向転換。 塀の陰に隠れてしばらく小走りに走って、別の所から、今度はこっそり塀の内側に戻る。 こうすれば敵たちとの直線距離は縮まってしまうが、相手の死角に隠れつつ、その動きを見ることができる。 しばらく追っ手の有無を確認しようと、体育館の陰に身を寄せて、ついでに武器でもないかと覗いてみて…… そして、発見した体育倉庫。発見した金属バット。 本当は思い出などに浸っているヒマはない、と分かっているのだが、ついつい昔のことを思い出してしまう。 彼が『ヘンゼル』になった頃のことを思い出してしまう。 そして同時に、最愛の存在のことも。 * * * 「姉様はどうしているのかな。『魔法使い』相手じゃ姉様も勝手が違うだろうし、うまくやってればいいんだけど」 未だ会えない双子の片割れのことが気にはなるが、でも実のところ、さほど心配してはいない。 彼女の強さは誰よりも彼がよく知っている。彼女1人でも、簡単に殺されるとは思えない。 ただ、自分がそうであったように、未知の力持つ相手を『殺しきれない』こともあるのではないか――? 彼としては、そちらの心配の方が強い。 「この世界は、殺すか殺されるかしかないんだ。だから殺そう、もっと殺そう。僕らが殺そう」 自分に言い聞かせるように、少年は囁く。 体育倉庫の薄闇の中に、泣きながら別の子供にバットを振り下ろす、自分自身の幻影を一瞬だけ垣間見て―― 少年は、それでも微笑む。どこか寂しさのある笑顔で、それでも微笑む。 「さて……これから、どうしようかな。あの『魔法使い』のお兄さんたちとは、まだ会いたくないんだけど」 どこかで非常ベルらしき音が鳴っている。逃げてきた校舎の方だ。 また何か状況の変化があったのだろうか? いくら自分好みの武器を手に入れたと言っても、さっきの『魔法使い』たちに正面から遭遇するのは避けたい。 核鉄の治癒効果が働き始めているとはいえ、傷はまだ痛むし、バルキリースカートも損傷したままだ。 どうやら追っ手もないようだし、最初に考えていた通り、学校から離れて休息を取るのが一番だろう。 が――このベルの音が気にならないと言ったら、嘘になる。 もしも混乱が起きているなら、それに乗じれば楽に殺せるかもしれない。沢山殺せるかもしれない。 薄暗い倉庫の中、少し迷った彼は、そして……。 【D-4/学校・体育館体育倉庫/1日目/真昼】 【ヘンゼル@BLACK LAGOON】 [状態]:中度の疲労。脇腹に裂傷及び肋骨数本を骨折(無茶をすれば動ける程度) [装備]:金属バット×2@現実、天罰の杖@ドラクエⅤ、バルキリースカート(核鉄状態)@武装錬金、 [道具]:支給品一式、スタングレネード×7、殺虫剤@現実、 [思考]:久しぶりに昔のことを思い出した……。 第一行動方針:学校から離れて休息する?(バルキリースカートも回復させたい) 第ニ行動方針:学校校舎の非常ベルが気になる? 第三行動方針:『魔法使い』に関する情報を集める(『魔法』関係者は警戒する)。 基本行動方針:いろんな人と遊びつつ、適当に殺す。 [備考]:バルキリースカートの使用可能なアームは2本。 メロを魔法使いだと認識しました。 殺虫剤を「魔法封じスプレー禁超類」だと思っています(半信半疑)。 逃げるかどうか、逃げるとしたら逃走方向は次の書き手さんに任せます ≪141 真実は煙に紛れて(4) 時系列順に読む 144 三宮紫穂の憂鬱(前編)≫ ≪141 真実は煙に紛れて(4) 投下順に読む 143 Fighting orchestra/戦奏(1)≫ ≪136 嘘とブラフは言葉、意識させれば力 ヘンゼルの登場SSを読む 158 運命のルーレット廻して(前編)≫
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前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ 一〇三 闘いを終えた君は、一息つく前に少女たちに怪我の具合を尋ねる。 キュルケは火傷と打ち身を、タバサは擦り傷をこさえているが、いずれもたいした負傷ではないようだ。 「私の≪ファイヤーボール≫もタバサの≪エア・カッター≫も、足止めにしかならないんだもの。危なかったわ」とキュルケは言うが、 七大蛇の一匹を相手に短時間とはいえ互角に闘うなど、普通の人間ではまずなしとげられぬ壮挙だ。 君はキュルケのことを、ただの放埓な快楽主義者かと思っていたのだが、大いに認識を改める。 タバサは高揚も恐怖も示さぬあいかわらずの態度で、黙々と血のにじんだ手の甲を手巾で拭いている。 この少女はまだ幼いといってもいい容姿なのに、最初から最後まで冷静な態度を保ち続けた。 単に感情に乏しいというだけではなく、過去にも怪物相手に闘った経験があるのでは、と君は考える。 キュルケにくらべて怪我が少ないのも、体が小さいからというわけではなさそうだ。 ルイズは、月大蛇に絞めつけられた手足にどす黒い痣ができ、何ヶ所か筋を違えてしまっているが、裂傷や骨折はないようだ。 あの怪物に襲われてこの程度の怪我ですんだのだから、奇跡的な幸運といってもよい。 フーケ――学院長秘書のミス・ロングビル――はそれほど幸運ではない。 左腕は肘が後ろ向きにねじ曲がり、口から流れる血には泡が混ざっている。 折れた胸骨が肺を傷つけてしまったのだろう。 意識を失い、その美しい顔は青ざめ、石像のように生気がない。 フーケが腰から提げている雑嚢を調べてみるか(一五三へ)、それとも手段があるなら彼女を治療してやるか(一八七へ)? 一五三 フーケは口から血を流して咳き込み、ときおり 「テファ……」と何者かの名前らしき言葉を呟くが、 君はかまわず雑嚢をさぐり、すぐに古びた書物を見つけだす。 この世界の何者にも読めぬ文字――君の故郷アナランドの文字だ――で表題が記されたその本を手にとり、内容を確認する。 本の記述は予想したとおりのものであり、かつて暗誦できるほどに何度も読んだ、非常に馴染み深いものだ。 この本が≪エルフの魔法書≫などではないことを、君は知っている。 この本は、アナランド以外の場所にあってはならぬものなのだ。 本を背嚢にしまい、さらに雑嚢を調べると、宝石細工のメダルと、油の小瓶がみつかる。 望むならば君のものにしてもよい。 「ちょっと、なにやってんのよ! 早くミス・ロングビルの手当てをしないと」と言うルイズだが、 君が手にした≪エルフの魔法書≫を見て言葉が途切れる。 「じゃあ、まさか、ミス・ロングビルが……≪土塊のフーケ≫?」 ルイズは信じられぬといった表情で、地に伏したフーケを見つめる。 「まさか学院長の秘書が、噂の大怪盗だったなんてね」 キュルケも驚きを隠せない。 「治療が必要。このままだと死ぬ」 タバサはそう言うとフーケに≪治癒≫の呪文をかけるが、これはあくまで応急処置であり、死なせぬようにするためには学院に連れ戻り、 ≪水≫系統の高位の魔法使いの手を借りる必要があるらしい。 キュルケとタバサは意識のないフーケを青い竜――シルフィードという名のタバサの≪使い魔≫――の背に乗せると、自分たちもそれに跨り、先に学院に戻ると言い残して竜を飛び立たせる。 残された君とルイズは、すっかり暗くなった森の道を歩いて、学院まで引き返さねばならない。二一二へ。 二一二 ルイズに速度を合わせてゆっくり歩くが、月大蛇との闘いで傷つけられた彼女は、見るからに辛そうな様子で脚を引きずっている。 見かねた君はルイズに手を貸してやることにする。 君はルイズを抱きかかえるか(二三五へ)? それとも背嚢を体の前に回し、彼女を背負ってやるか(二四三へ)? 二四三 初めは自分で歩けると言い、君の申し出をつっぱねるルイズだが、何度も説得するうちにやがて 「そ、そこまで言うのなら……あんたの顔を立ててあげるわよ」と言って、 君の背中にしがみついてくる。 「ねえ」 君に背負われてからしばらくして、ルイズは君に話しかける。 「あんた、メイジだったのね。あれだけの≪ファイヤーボール≫は、キュルケでもそう簡単には作り出せないわ。 どうして今まで黙っていたの? 魔法を使えないわたしを気遣ったつもり?」 彼女の静かだが怒りを秘めた真剣な口調に、その場しのぎのごまかしは通用しないと悟った君は、正直にすべてを話すことに決める。 それから数十分のあいだ、君はいつになく饒舌かつ熱心に、君自身のこと、故郷のことを語り続ける。 シエスタやマルトーたちを相手に披露する、いつもの笑い話や冒険談とは口調がまるで違う。 この見知らぬ異郷の地で、誰かに本当の自分を知ってほしかったという思いもあるのかもしれない。 君は語る。 邪悪な大魔法使いに≪諸王の冠≫を奪われ、法も秩序も国民の士気も崩壊の一途をたどる、祖国アナランドのこと。 祖国を危機から救うため、≪諸王の冠≫の奪回という危険な任務を、剣士にして魔法使いでもある君が自ら買って出たこと。 シャムタンティ丘陵、魔の都カレー、バク地方、ザメン低地などの危険に満ちた土地を横断し、大魔法使いの居城であるマンパン砦まであと少しというところで、 このトリステインに召喚されてしまったこと。 任務は極秘のものであるため、ルイズたちに対しても身の上を偽らざるを得なかったこと。 この世界における魔法使いの特殊な立場を知り、自身も魔法の使い手だとは言い出しにくくなってしまったこと。 この手で全滅させたはずの邪悪な七大蛇が、なぜかは解らぬが生き返り、この世界に居ること。 ルイズはときどき質問を挟みながらも、君の話に熱心に聞き入っている。 月がひとつしかなく星々の並びもハルケギニアとは違う、異世界から君が来たということを最初は信じなかったが、君の真剣な態度と言葉は説得力に満ちている。 それに加えて、つい先刻闘ったばかりのハルケギニアの幻獣とは異質な怪物どもの存在も、話の信憑性を高めている。 「それじゃあ、その冠は今でも、悪い奴が持っているの?」 君はそうだと答える。 大魔法使いは≪諸王の冠≫の神秘的な力をものにし、『さいはての毒虫の巣』と呼ばれる混沌としたカーカバードを統一したうえで、 怪物と悪漢どもによる最強の軍団を作り出すつもりなのだ。 そうなれば、アナランドだけではなく≪旧世界≫と呼ばれる大陸のすべての国家にとって、大いなる脅威となるだろう。 「わたしが、わたしがあんたを召喚したせいで……?」 ルイズが君の耳元で力なく呟く。 彼女は君を召喚してしまったことに対して、少なからぬ自責の念を抱いているようだ。 ルイズを慰めるか(四八へ)? 無言で先を急ぐか(一四六へ)? 四八 確かに、このまま君がこちらの世界に留まり続ければ≪諸王の冠≫はアナランドに戻らず、大魔法使いはカーカバードを統一し、 ≪旧世界≫の自由の民のあいだに恐怖を振り撒くことだろう。 極端な言い方をすれば、彼女の召喚魔法のせいで、いくつもの国が滅びるかもしれぬのだ。 しかし、君はこの小さな少女を責める気にはなれない。 故意に自分をを≪使い魔≫として召喚したわけではないのだから、ルイズが責任を負うような問題ではない。 それに、自分がこの世界に来てからまだ一週間ほどしか経っておらぬのだから、もと居た世界にたいした影響はないはずだ、と慰めの言葉をかける。 君の言葉を聞いたルイズは、 「ごめんね。でも、あんたが早く帰れるように、わたしも協力するから……」と、君の耳元でささやく。 いつもは高慢な『ご主人様』が謝罪の言葉を口にしたことに、君は耳を疑う。 その後も歩き続け、学院の門にたどり着いたところでルイズをそっと降ろす。七七へ。 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
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228.残酷な神さま [2日目深夜] 夢を見た。 とびきりのごちそうを目の前にしてうかれはしゃぐビニット。 そんなビニットを、行儀が悪いとたしなめるデフォルテー。 にぎやかな晩餐だった。 早くも葡萄酒を飲みはじめているソリンがいれば、鼻歌を歌いながら楽しそうに料理を運ぶテーリングがいる。 そして私のとなりには、まだ髪を伸ばしはじめたばかりの幼いWが座っていた。 彼女は瞳をきらきらと輝かせながら、テーブルの上に置かれた箱から赤色の包装紙をはがしとっている。 その箱は、私たちがついさっきWに贈ったものだ。 よほど中身が気になるのか、彼女は夢中になって紙をはがしていた。 ようやく開けた箱の中から出てきたものを見て、彼女は歓喜の声をあげた。 小さな手で大事そうに取り出したそれは、レースのついた白いリボンだった。 彼女はリボンを笑顔でにこにこと眺め、小鳥のようにかわいらしく喜びをさえずった。 「ありがとう、お姉ちゃんたち。とってもうれしい」 その笑顔があまりに可愛らしかったので、見ていた私の顔は大いにゆるんだ。 しあわせな誕生日のひとときだった。 口の中が血にあふれたことで、私は夢から目覚めた。 現実は夢とほど遠い、酷いものだった。 力まかせに斬りつけられたために胸も腹も見事なまでに裂けている。 骨などは砕けているに違いない。 即死ではないだけ、奇蹟とも言えるくらいだった。 夜の森であるために自分の体があまりよく見えないことを、正直ありがたいと思った。 もはや痛みの感覚すらないのだから、想像するだけでおそろしい。 さすがに呆然としたが、すぐに右手がなにかを握っていることに気がついた。 バスタードソードだった。 思い出して顔をゆっくりと上にあげたところ、人の顔があった。 暗さのため人であるとしかわからなかったが、♂クルセイダーに間違いないだろう。 目が合った気がした。 ♂クルセイダーは低い声で私にぼそりとこぼした。 「死ぬのが、怖いのか?」 首を振る力が残っていなかったので、私は声を使った。ただしできる限り簡潔な言葉を選んだ。 「少しも怖くないですわ。ただ悲しいとは思いますけれど」 「どうしてだ?」 ♂クルセイダーは矢継ぎ早に聞き返してきた。せっかちな男だ。それでも素直に答えることにした。 どうせ自分がもう長くないと思ったからである。 「守りたい人を守れずに死んでしまうこと。そのことが悲しいのですわ」 声に出したことで悲しさが強まった。 自分がここで死ぬこと。それはかまわない。それだけの罪を犯したとも思う。 ただそれでもWを守れないで死ぬことが、ひどく悲しかった。 「なるほど、愛するものを守ろうとする力か。どうりで強い。 しかし残酷な話だ。守りきれずにお前は死ぬ。やはりこの世界には救いの神などいなかったというわけだ」 男は冷ややかな口調で言った。 クルセイダーが神を信じていないというのもおかしな話だが、この島ならそんなこともあるかもしれない。 私は思ったことを口にした。 「たしかに神さまはいないかもしれないですわね。もしいるのだとしたら、こんなことが許されるはずありませんもの。 こんな人を殺し合わせるような、腐った遊戯が存在していいはずがありませんもの」 だけど、と続けた。 「さきほど私は夢を見ましたわ。なつかしい夢を。 死ぬ前の最後の夢としては……悪くない夢でした。 二度と見ることはかなわないと思っていた笑顔が、見られましたから。 もしかすると、そんな小さな奇蹟くらいなら、神さまは起こしてくれるのかもしれませんわね。あまり意味はありませんけれど」 蝋燭の炎が消える前の最後の輝きというものだろうか。 手足はもうぴくりとも動かせないのに、口だけがよく動いた。 気が狂いそうになるほどだった痛みも今はなく、まるでどこにも怪我などしていないように感じられた。 それでも自分が死ぬということは不思議と理解できていた。 死を受け入れつつあった私の意見に♂クルセイダーは感銘を受けたらしい。 うれしそうに言った。 「神はいる。しかしその程度のことしかしてくれないということか。なるほど。あきれるくらいに残酷な神だ」 けれど、どこか自嘲しているようにも聞こえた。 「ええ。ほんとうに残酷ですわね」 そう答えて私も少しだけ笑った。 奇妙なことだと思った。 私も彼も、命のやりとりをしていたはずなのに。殺し合いをしていたはずなのに。 さらに私はまもなく死ぬ。ところが彼に対する怒りや憎しみが少しも沸いてこなかった。 「悔いはないのか?」と彼が聞いてきたので、「悔やんだところでしかたがないですわ」と返した。 悲しいという感情だけは尽きなかったけれど、はっきりどうしようもないと思った。 つきものが落ちたみたいだった。 「自分が助からないことくらいわかりますもの。 だからあとはあの子の無事を祈るだけ。どんなに悲しくても、今の私にできることは、たったそれだけ。 ところであなたには、いませんの? 守りたい人。あなたはなんのために戦っていましたの?」 ♂クルセイダーは淡々とした口調で答えた。 「俺には誰もいない。俺はこのどうしようもない人生に、ただ抗っていただけだからな。 だがそれも終わりだ。結局は俺も、残酷な神にもてあそばれて死ぬらしい。所詮、人の力ではどうにもならないということだろうな」 私は驚いて彼を見つめた。表情はわからなかったが、荒れた息を吐く音が耳を通して聞こえてきた。 はっとして自分が握る剣の先を凝視した。 剣先がまっすぐに♂クルセイダーの胸へと伸びていた。 「あなたも、でしたのね」 そう言うのがやっとだった。 だから彼に怒りも憎しみも沸かなかったのだと、ひどく納得した。 ああ、と♂クルセイダーが頷いたので、ため息をもらした。 どうにか笑顔を作ったが、たぶん彼の目には見えないだろう。 それでも笑顔で話しかけた。 「それにしてはおたがいに、長く話ができていますわね」 「なに、残酷な神のほんの気まぐれというやつだろう。最後くらいは好きに愚痴れとでも言いたいのだろうが、馬鹿馬鹿しい」 「まったくですわ。どうせ気まぐれを起こすなら、こんな現実をねじまげるくらいしてもらいたいですのに」 「同感だ。こんな現実は───、こんなくだらない死にかたをする人間は、俺たちで最後にしてもらいたい」 彼が笑った気がした。私も口もとをほころばせている。 終わりの時間が、すぐ目の前まで来ていた。 とつぜん思いついたように♂クルセイダーが言った。 「お前の守りたいやつの名前を教えてくれ。俺もそいつの無事を祈ろう。 一人より、二人で祈ったほうが効き目があるかもしれんだろう」 「誰に祈るのです? あなたのいう残酷な神さまにですか?」 驚くより先に聞き返していた。 「そうだな、最後くらい神に祈ってやろう。クルセイダーらしくな」 皮肉なのか、心からの言葉なのか、よくわからなかった。 朦朧とする意識で、かろうじて答えた。 「それは、たのもしいですわね」 「だろう。だから名前を教えてくれ」 W。 そうつぶやこうとしたが、唇が動かなかった。 残念だけれど、ここまでということなのだろう。 視界もぼけはじめている。私の世界が終わるのだ。 「まったく。神はどこまでも、俺につめたいらしい」 意識の底で♂クルセイダーの声が聞こえた。けれど、それもすぐに消えてしまった。 <♂クルセイダー> 現在地:E-4 髪 型:csm 4j0h70g2 所持品:S2ブレストシミター(亀将軍挿し) 備 考:♂騎士を生かしはしたものの、迷いはない 状 態:左目の光を失う 脇腹に深い傷 背に刺し傷を負う 焼け爛れた左半身 死亡 グラリス 現在地:E-4 容姿:カプラ=グラリス 所持品:TBlバスタードソード、普通の矢筒、スリープアロー十数本とそれを穂先にした銛 状態:裂傷等は治療済み 左手首から先を失う 死亡 残り22名 戻る 目次 進む
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「…せッ!…せッ!…せッ!」 暗闇の中円周上に配置された篝火の光の中心には四方を杭に結わえ付けられたロープで囲まれた空間だけが浮かぶ 周囲をぼうっと篝火に照らされる空間を熱狂しながら凝視する人間の顔だけが浮き上がらっせ、その光景は太古の神を祀る儀式を思わせる 「殺せッ!殺せッ!殺せッ!」 老いも若きも男も女もが狂ったように同じ言葉を繰り返す 人々の視線の先には互いの肉を食み、血を啜り合いながら殺しあう2匹の獣 …ならぬゆっくりの姿があった 里の野外に特設された即席のリングの中には1匹のゆっくりまりさとゆっくりフランが向かい合っている ゆっくりまりさは目と口の部分に穴が開いた底部以外顔全体を覆う派手なマスクを被っており、 そのマスクのそこらかしこはフランに切り裂かれたのか無残にも体までにもその裂傷は達して致命傷ではない物の餡がポタリポタリと垂れて 大きくその体を伸縮させて息をついている 方やゆっくりフランは素顔で、顔に自分の傷から漏れた餡とまりさの餡で汚れながらも、 その目には狂気の色が宿り口を大きく開いてこびりつく餡をなめると笑みを浮かべた ルチャゆっくり 最近考案されたゆっくりを使った娯楽のひとつ、早い話がゆっくりを使った賭け格闘技である。 リングで戦うゆっくりはゆっくりドールと呼ばれ相手が戦意を失うか・気絶するまで行われる… しかしゆっくりは本来温厚で臆病な性格なので捕食種を除け自発的に戦うことはない だが、彼らやその親しい者の危機には勇敢に立ち向かうケースもある その事から人間が野生の比較的体格がいいゆっくりを見つけると家族や親友を攫いそれを人質として戦いに赴かせるのである 場合によっては無理やり子供を孕ませてそれを利用する 負けたり・無様な試合をすれば人質の命は主人の気分ひとつ次第 故に戦うゆっくり達に躊躇いはない ……常にガチ勝負且つゆっくり特有の肉体の脆弱さもあいまって死者は耐える事はない 死の恐怖に抗い勝ち続けるゆっくりにはマスクが与えられ、そして更に勝ちぬいたマスクゆっくりは自由を勝ち取る事ができる マスクは数多の同族の屍を踏み越えた強者の証、それを脱ぐ時は敗北を意味する マスクを剥がれたゆっくりはそのマスクを捨て新たにマスクを得るまで再び戦いを続けなくてはならない ゆっくりドールにとってマスクは頭の飾りや帽子以上の価値、命そのもの ゆっくり達にとっては語源のルチャリブレよろしく自由を勝ち取るための戦いであるのだ このまりさはルチャゆっくりでは現在一番人気の花形ゆっくりドール。 デビュー以来負け知らずで特に華麗な空中技に定評がある ルチャゆっくりの中では殿堂入り確実の生ける伝説ゆっくりドールである かたやフランのほうは中堅クラスであるものの高い戦闘力と凶暴性で最近のし上がって来た実力派、決して楽勝な相手とは言い難い 今現在餡子が漏れているマスクまりさは体力的にも長期戦は不利、しかしフランは警戒を奇襲し徐々にコーナーへ追い詰めて行く いくら手負いとてマスク持ちは百戦錬磨の猛者、迂闊な攻撃は仕掛けない辺りフランも並みのゆっくりドールではない マスクまりさがコーナーポストに背をつきの呼吸が乱れかと思うとと体を僅かに傾けるのを見るや雷のごとく飛び掛った 「ますくとられてゆっくりしね――ッ!」 だがマスクまりさは睨み付けたまま動かない。 コーナーに居る以上フランの突進を下手に回避しようとしても逃げれず、リング外に逃げようとしてもその隙に無防備な部分を晒すだけという事を知っている。 そしてコンマ一秒の世界のタイミングで避ける事を決意した マスクまりさは息一つすると極限まで集中する。 一つ息を吐くと空気を震わす観客の歓声がフッと消え、今まで気にならなかった生暖かい風の張り付く感触を感じ、 目の前に向けられたフランの鋭い牙がスローモーションビデオを見てるかのごとくゆっくりと近づく 5センチ... 3センチ... 2センチ... 1センチ... フランは勝利を確信していた 牙は確実に柔らかい皮膚を突き破り餡を抉った後奴は豚のような悲鳴を上げるだろうと カチン!! だがフラン確信とは裏腹に牙のぶつかる音だけが響いた 「うっ!?うーっ!?」 いつの間にか眼前のまりさは霞のごとく消えていた まりさの見せた隙はフェイクだったのだ 後悔したところでもう遅い 次の瞬間頭部に強烈な衝撃が走り地面に叩きつけられると目の前が餡で真っ黒に染まり何がおきたか理解できぬまま事切れた フランだったものから飛び出した餡子の山からムクりとマスクまりさが立ち上がる お互いの鎬を極限まで削る我慢比べにまりさは勝ったのだ ――すたーだすとればりぇ マスクまりさの得意技の一つ 敵の攻撃を極限までひきつけてコンマ一秒のタイミングで敵の頭上に飛び上がりそのまま全体重をかけて敵を地面に叩きつける その一連の動作は流星の如く華麗でそれ見た誰もが魅了される程の高難度の空中技 「ウィナーッ!エルゥ――ッマリィーサァ――!!」 審判が勝者の名前を告げると観客席からは悲鳴のような歓声と怒声が起き周囲に紙吹雪が舞った 「まりさー!よくやったぞ!」 一人の若い男がロープを潜りリングにうつ伏せに寝転がっているまりさの元へ駆け寄る 「おにー…さん…まりさ…がんば…たよ」 ずり落ちた帽子を力なく少しだけ挙げて顔半分をセコンドの男のほうに向けるとにこりと微笑んだ 「ああ…頑張ったとも!後10勝だ!!後10勝てばお前は自由になれるんだぞ」 「うん…でも…まり…さだめ…かも…」 「何言ってんだ怪我はたいした事ないぞ!休めばすぐ治るからな!」 男がまりさを優しく抱きかかえて顔を見るとハッとしたと表情を見せると途端に真っ青になった 何とまりさの左目を両瞼が縦にぱっくり切れ眼球から透明な液が漏れている すたーだすとればりぇを決める為に跳躍した際、満身創痍のまりさはタイミングが少し遅れたため運悪くフランの牙が目を掠ってしまったのだ 「もう…まりさは…あかちゃんのために…たたかえないの…?」 後10回とはいえ戦う相手はどれも強敵ぞろい、片目で戦うには余りにも手に負えなさ過ぎる さりとて傷が癒えても片目に慣れるまでまでじっくり休養する時間などまりさには与えられない 「あ…今すぐ治療するからな!だからじっとしてろ!!」 男はまりさをマスクを丁寧に脱がし、しっかりとまりさを抱えると揺れぬ様急ぎ足で幕舎の中へ入るとベッドにおろして くすり箱をひっくり返すと治療を施したが潰れた目はどうにもならなかった 「畜生…なんてことだ…」 男がまりさを見下ろして項垂れていると幕舎の中に恰幅のいい中年の男が不機嫌な顔をしながら入ってきた 「全く何てことだ!あれだけ投資してやったのにこれからって時にしくじるとはなぁ!!」 どうやらまりさの主人はこの人物らしい 「お…御館様、こいつは片目をやられだけです再起不能になった訳じゃないんです!あと十勝なんです!!どうか見捨てないでやってください!!!」 「饅頭ごときに情が移ったのか?動ける動けねぇじゃねぇよ!確実に勝てるようなじゃなきゃ駄目に決まってんだろうが! 怪我をしてもう使い物にならんなんて知れたら商品価値は無いも同然なんだよ!」 中年男は腕を組むと幕の中を言ったりきたりしながらブツブツと何かをつぶやている 「そうだ…コイツとかなことの試合を組もう。目は形だけ直しとけ、眼帯とか包帯はつけるな。 伝説の終焉って売り込みでコイツには華々しく最後の花道を飾らせてやろう!次の試合だ!わかったな!」 そう捲くし立てると中年男は近くにあった水瓶をけり倒してがっくりと崩れ落ちる若い男を尻目に出て行った ふかんぜんねんしょー 複数の重賞を勝利した競走馬達もその最後は決して安らかじゃないんだってね byおれまりさとかイワレタ人 このSSに感想を付ける
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248.混迷の戦場[3日目朝] 一瞬の自失から立ち直り、♂ハンターは目前の少女へ一歩踏み出した。 ♀アーチャーを取り返さなければいけない。 どうすればそれが可能かは分からない。 だけど今の自分には手伝ってくれると言った仲間達が居る。 一方♀スパノビと♀ハンターは武器を構える。 「ふぁる!」 ピーイ ♀ハンターの掛け声と共にファルコンが飛び立ち頭上で旋回を始めた。 さらに弓へ矢をつがえてミストレスへ向ける。 だが紫髪の少女は彼女達にあっさり背を向けた。 そして♂ハンターへ語りかける。 「のう王子様。我の夫となる覚悟はできたかえ?」 その表情には昨夜♀スパノビ達に見せた凶悪さのかけらもない。 少女のあまりに無防備な姿に、狙いを付ける♀ハンターの内に迷いが生じた。 武器を持つ腕を下ろしそうになる彼女を♀スパノビが叱咤する。 「撃ってください。ミストレスは彼を誘惑して何かするつもりです」 「…うん!」 ♀ハンターは改めて弓を引き絞った。 だが先に矢を放ったのは♂ハンターだった。 「チャージアロー!」 「きゃっ」 ♀ハンターの手から矢がはじき飛ばされる。 「何をするんですか」 ♀スパノビは助けようとしたはずの♂ハンターへ厳しい視線を向けた。 だが彼女よりもさらに激しい反応を示した者が居た。 ピィィーッ 『何しやがンだてめえぇっ』 鋭い爪と嘴が宙より襲いかかる。 抉られた腕からぱっと血がしぶいた。 「Ouch!流石はイッツァBlue bird・ダイヤも貫く・幸運の力」 気の鎧をまとって♂ハンターの前に立った♂モンクが陽気に歌う。 顔前で十字に組んだ腕には深い傷が刻まれていた。 金剛不壊もファルコンの鋭い爪の前には効果がない。 しかし彼はひるまない。 「告白タイムだ・my brother・俺っち防ぐぜ・おしおきだっちゃー・今さら・雷・怖くナイナイ♪」 ♂モンクはミストレスが右手に気を集めていることを感じていた。 表面がどうあれ、いつでも電撃を使える用意はしているということだ。 だからこその金剛。 しかし怒りの治まらないふぁるは突入方向を変えて襲いかかる。 『てめーに用はねえ!どけっ』 気の鎧は体の動きを制限する。今度は♂ハンターを庇い切れない。 「ニューマ!」 ♂ハンターを切り裂こうとしたふぁるの翼がいきなり強い気流に吹き上げられた。 「やめとけ、鳥。やりあいてえわけじゃねえが黙って見過ごすつもりもねえ」 苦虫を噛みつぶしたような、しかし断固とした表情で♂プリが言い切る。 仲間達に守られた♂ハンターはアーバレストを♀スパノビへ向けた。 「その子を撃たせるわけにはいかないんだ」 「彼女はミストレスです。見た目にだまされては――」 「知ってる」 「――そうですか」 これ以上の説得は危険と判断した♀スパノビは♀ハンターに下がるよう合図する。 忠告はした。望んで危険を冒そうとする者を引き止めて逆恨みされてはつまらない。 「ほんに良い男じゃの。我が王子様は」 ミストレスは妖艶に笑う。 この展開を読み切っていたわけではない。 だが♂ハンターが彼女を庇おうとすることは予想の内だった。 そして状況は彼女にとって決定的に有利に運んでいた。 ♂ハンターの前へ紫の髪の少女がたどりつく。 「♀アーチャー…俺は」 彼は少女へ手を伸ばそうとする。 だが彼女の眼は♂ハンターを見ていなかった。 視線は彼の顔を向いているのだが、はるか遠くを見ているように焦点が合っていない。 「♀アーチャー?」 「だめ!逃げて!」 ミストレスの意図に気付いたのは、正面に居るただ一人の女性――♀騎士だけだった。 その叫びと急激に高まる気に反応し、電撃を受け止めようと♂モンクが身構える。 だが♀騎士は激しく首を振った。 「違う!そっちの2人!」 ♀騎士の声が届くより早く、ミストレスは振り向きもせず♀ハンターへ紫電を放った。 羽虫たちの数多の目を持つ彼女にとってそれは造作もないこと。 「きゃあああっ」 大きく弾き飛ばされた♀ハンターは悲鳴を上げて倒れ伏した。 『おい相棒っ…てめえ、殺すっ』 矢のように飛来したファルコンの爪をミストレスは余裕を持ってかわした。 ♂ハンターに歩み寄ったことで彼女もニューマの範囲に入っている。 これで矢と鷹は無力化した。♂モンクも金剛を使っている以上他のスキルを使えない。 つまり彼女が恐れるべき相手はもはや居ない。 彼女は♀ハンターにとどめを刺すべく再び右手へ雷光を集めた。 「させません!」 「…う…お姉ちゃん…?」 しびれて立ち上がれない♀ハンターを庇い♀スパノビが立ちはだかる。 一発喰らって吹き飛ばされるのは覚悟の上だ。♀ハンターが回復して逃げるまでの時間が稼げればそれでいい。 「愚かよの」 ミストレスは狙いを正確に定める。 前に立った小娘を弾き飛ばして後ろのハンターへ叩きつけるまでだ。 だが、その背に誰かがしがみついて邪魔をした。 「whaaaaat!?」「危ねえぞ!」 出遅れた♂モンクと♂プリの声を背に♀騎士は必死でミストレスに抱きつく。 戦うことは怖い。 傷つくことも、傷つけることも怖い。 だけど決めたのだ。騎士であるということは人を守ること。 彼女はずっと触れずにいた武器を手にした。 「放さぬか。おんしから死にたいかえ」 ミストレスは♀騎士に右手を向けようとする。 だがその手がびくりと止まった。 「やめてください」 ♀騎士の握った錐はミストレスの抱く卵へ突きつけられていた。 動きを止めたミストレスの右手を♂ハンターが握る。 「お願いだよ。♀アーチャー。目を覚ましてくれ」 彼は♀アーチャーに、そしてミストレスに呼びかけた。 「ミストレス。俺の♀アーチャーを返してくれ。その卵の中にいる仔なら代わりの体になるんじゃないか?」 「……」 紫髪の少女は考えるようにうつむいた。 彼女は事の初めから羽虫たちに周囲に居る者の様子を監視させていた。 だからこそ2つの集団が顔を合わせる絶妙のタイミングで顔を出せたのであり、そして万一の切り札となり得る「彼」が近くにいることも知っていた。 彼女は屈辱に身を震わせながらもその切り札を使うことにした。 「助けてーっ、誰かーっ!」 悲鳴。 ミストレスの、助けを求める悲鳴。 あまりに不似合いで、そしてあまりに場違いな悲鳴。 その場の誰もが無意識の内に絶対あり得ないと考えていた行動を目にして思わず硬直した。 「彼」はどこまでも騎士だった。 ♀プリとその父親が見込んでいたとおりに。 恐怖に縛られ、後悔に囚われ。 それでも助けを求める声を無視できなかった。 おそるおそる忍び寄った「彼」が見た物は、 倒れた人物とそれを守って立つ人物。 それに1人を2人がかりで押さえつけ、人質に取ったように見える集団だった。 そして「彼」はそれぞれの正体を判別することができなかった。 「彼」は名を♂騎士と言った。 ♂プリースト 変化無し ♂ハンター 変化無し ♂モンク 状態:腕に裂傷 ♀騎士 備考:殺人に強い忌避感とPTSD。刀剣類が持てない 笑えるように ミストレスにしがみついている ♀ハンター 状態:♀スパノビを信頼、ふぁると遭遇で勇気りんりん、でも知らない人達ちょっと怖い ミストレスと遭遇、JTにより負傷 ふぁる 変化無し ♀スパノビ 変化無し ♂騎士 現在地:E-6 備 考:GMの暗示に抵抗しようとするも影響中、混乱して♂ケミを殺害 体と心の異常を自覚する ♂ケミのところに戻りできるなら弔いたい、誤解から♀Wiz達と小競り合いの末逃走、助けを呼ぶ声を聞きミストレスその他を発見 ミストレス 備考 :本来の力を取り戻すため他人を積極的に殺しに行く。 ♂ハンターの誘惑と♀ハンターへの報復、両方実行中。卵はもうあと僅かで孵化 ♀騎士に動きを制されている ※人数が多いため246.みっつの遭遇と変化がない部分は状態欄省略 戻る 目次 進む
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build-41.65時点の情報です。以下の内容はアップデートにより仕様が変更される可能性があります Q:突然キーボードの入力が受け付けなくなった Q:ゾンビに攻撃されてからずっと気分が悪いんだけど… Q:ゾンビ病にならないコツは? Q:ゾンビと戦っていないのに突然具合が悪くなった。怪我してないのに体力が減っていく。 Q:「太り過ぎ」、「やせ衰え」って出てきたんだけど… Q:罠ってどう仕掛けるの? Q:罠を仕掛けたのに獲物がかからない。 Q:○○が出来ない。コマンドが出ない。 Q:欠けた石が拾えない Q:家具の取り方は?ベッドとかの「1/2」「2/2」って何? Q:大工で誤った場所に設置してしまった。○○を壊したい! Q:突然火事になったんだけど… Q:突然キーボードの入力が受け付けなくなった A:半角/全角キーが切り替わったか、日本語IMEのバグ。 旧verIMEへの切り替えやUSキーボードに切り替えで安全にプレイできる。詳細は「キー入力不可バグの解決方法」に記載 Q:ゾンビに攻撃されてからずっと気分が悪いんだけど… A:残念ながらゾンビ病に侵されてしまった可能性がある。 ゾンビの攻撃で傷を負った場合、「引っ搔き傷7%」「裂傷25%」「咬み傷100%」の確率でゾンビ病に感染し、気分が悪く、不安を感じはじめ、ストレスが増え続けます。 出血が止まらず、最終的に体力が無くなるか数日すると発症(死亡)し、ゾンビに変異します。 残念ながらバニラでは治療の手段はありません…。 新しい自分の為に物資をかき集めるもよし、片道切符でルイビルの街を目指してもよし、思い残すことのないように終活を始めましょう。 Q:ゾンビ病にならないコツは? A:「背後を守る」「防具や衣服を着る」ことで防げるかも。 プレイヤーの弱点は「背中」で、背後から攻撃を受けると高確率で「咬み傷」や「致命傷」を受けてしまう。 接近されたときやドアからゾンビが飛び出してきた時に焦って逃げようと目の前で振り向いてしまい、そのまま背中を噛まれてしまうことが多い。 「戦闘中や作業中こまめに後ろをチェックする」「曲がり角は余裕を持って曲がる」「ゾンビが潜んでいそうな部屋やトイレのドアに対して、叫ぶ、叩く、開けて即閉める」など、用心するしかない。 密着された場合はダメ元でプッシュしたほうがいい場合もある。 また衣服には防御率が存在し、確率でその部位へのダメージを肩代りしてくれる可能性がある。 重ね着することで防御率も上がるが、着込むと熱中症や脱水など健康への影響が大きくなってしまうので気をつけよう。 衣服はダメージを受けると損傷し防御率がなくなってしまう。特に手袋はいつの間にか損傷していることもあるのでよく「点検」しましょう。 Q:ゾンビと戦っていないのに突然具合が悪くなった。怪我してないのに体力が減っていく。 A:病気や食中毒、痩せ過ぎの可能性が高い。 死体や血痕まみれの場所に長くとどまったり、睡眠不足、ずぶ濡れや不衛生のまま長時間活動すると風邪や病気になってしまう。 拠点周りやよく通る場所の死体を移動させ、できるだけ死体の側に留まらないように心がける。バスタオルなどでこまめに濡れをケアし、万が一病気になった場合でも、目一杯食べてゆっくり休めば治るかも。 また、「焦げ」「腐った」食べ物、毒を持ったキノコ・ベリー・漂白剤を摂取したり料理に混ぜたり、煮沸していない生水を直接飲むと食中毒を起こし死に至る。 食中毒は致死性が高く、直ちにレモングラスを複数摂取するしかない。 キノコ、ベリーの毒は特性 薬草採集者、または「雑誌(薬草採集者)」で見分ける事が可能。レモングラスは採取モードで集めよう。料理中、漂白剤が近くにあるとランダムで混ぜてしまう危険性があるので保存場所には注意。 Q:「太り過ぎ」、「やせ衰え」って出てきたんだけど… A:キャラクターステータスで、高いカロリーを維持することで体重が増え、カロリーが足りない場合はどんどん痩せていく。 体重が増えすぎると「太り過ぎ」「肥満」になり持久力や走る速度が落ちてしまう。カロリーの低い食事と積極的な活動を心がけよう。走り回っても良いがフェンス乗り越えを繰り返すのが手っ取り早い。 逆に、体重が低すぎると「やせ衰え」になり、体重が35kg以下になると死亡してしまう。 デブ活にはハイカロリーなスナック菓子、ライス、乾燥豆、アイスなどや、「釣り」「狩猟」で入手可能なウサギ・魚もコスパが良い。食べられる状態になる度に「全部」一気に食べるのが一番。 Q:罠ってどう仕掛けるの? A:罠を所持品に入れた状態で地面を右クリック→○○を設置するで設置。 再度右クリックで「罠の回収」「獲物の確認(獲物を回収する)」「餌を追加」ができる。(餌がカバンに入っていたり、腐っているものは使えない。) Q:罠を仕掛けたのに獲物がかからない。 A:時間帯が悪い、餌が違う、プレイヤーが近すぎるなどが考えられる。詳しくはPZwikiの罠猟を参照。https //pzwiki.net/wiki/Trapping/ja ウサギ・リスが罠にかかる時間は夜19 00~5 00なので昼間に確認しにいこう。餌だけ取られてしまう場合もあり、長時間放置すると罠が破壊されてしまう。 また、罠を設置した場所がプレイヤーから「常時」75マス以上離れている必要があり、近くを通ったりするだけでも掛からなくなる場合があるので注意。 それでもダメなら更に距離を開けるか、置く場所そのものを変えてみる。(南に75マス以上→北に75マス以上に変更など) ネズミ捕りの場合はプレイヤーの付近でも捕れる。 Q:○○が出来ない。コマンドが出ない。 A:試行錯誤してみる。 カバンから出す、メインやサブに装備をしてみる、箱から出す、アイテムを選択して右クリックで見てみる、左上のメニューから探すなど。痛みで眠れないなら鎮痛剤や睡眠薬。 Q:欠けた石が拾えない A:主に採取モードで入手。 道路や街中で入手しやすい。 Q:家具の取り方は?ベッドとかの「1/2」「2/2」って何? A:左上の棚アイコンの「移動」でプレイヤーのインベントリに収納出来る。 自作出来ない「窓」「カーテン」など大抵の物を取ることが可能。物によっては「大工仕事」「電気工作」が必要なもの、失敗すると壊れてしまう物もある。 あまりにも重量オーバーの場合も移動出来ないので持ち物を減らそう。 ベッドや大型金属棚など一部の家具は「1/2」「2/2」などパーツ状態になる。 パーツが揃っていないと組み立て(設置)できない。設置したい場所の近くに全てのパーツを集め、1つを所持品に入れて設置を選択しよう。 また、「移動」に失敗すると壊れてパーツが足りなくなる場合がある。 Q:大工で誤った場所に設置してしまった。○○を壊したい! A:「移動」や「解体」が無理な壁など、大抵の物はスレッジハンマーで「撤去」できる。 スレッジハンマーは大型倉庫や工事現場、消防署、ガレージなどで入手できる他、マンホール付近に落ちている場合もある。 基本的にレア品なので地道に探すしか無い。出るときは出る。がんばれ。 Q:突然火事になったんだけど… A:オーブンの電源切り忘れ、発電機の故障、電子レンジでステンレスを温めたなどが考えられる。 オーブンの電源を入れっぱなしにしたり、発電機を修理しないまま使い続けると爆発するので注意。 室内でキャンプファイヤーや火炎瓶を使えば当然火事になるし、燃えたゾンビから延焼する可能性もある。 また、電子レンジで鍋やバケツといった金属製のものを温めると発火する。(現実でも発火するので気をつけよう) 出火した場合は直ちに消化器を装備して使うか水の入ったバケツ等で対応可能だが、大抵の場合は取り返しが付かないので用心しよう。
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閃光のもたらすもの【side two】 「うわっ!何だ!?」 ロイドが驚愕の声を漏らす。その選考を目にすれば当然の反応だった。 「マズイな、かなり近い。ここにいては巻き込まれる可能性が高いな」 ジューダスは一人推測を立てる。メルディはなにやらあらぬ方向を向いていた。 「どうしたメルディ」 ロイドが不思議に想って声をかける。だがメルディは閃光とは少しずれた木々の奥をみつめていて返事はしない。 どうしたんだろうとロイドが思ったとき、ジューダスの結論は出た。 「よし、ここからを離脱しよう。城への行路は変更だ」 「もと来た道に戻るのか」 ジューダスはマントを翻して言う。 「あぁ。ここは危険すぎる。東のほうに村があったハズだ。一先ずそこに・・・」 「バイバ!ちょっと待ってよ!」 メルディが徐に叫ぶ。だがその視線はまだあらぬ法を向いたままだ。 「さっきからどうしたんだよメルディ。ここは危険だってジューダスが言ってたろ」 ロイドが半ば呆れてメルディを諭す。だがメルディはそのあらぬ方へと走り出す。 「メルディ!?」 「メルディ!勝手な行動は慎め!置いていくぞ!」 ジューダスが叫ぶが、メルディの口からは意外な言葉が返ってきた。 「あっちに人が倒れてるよ!助けなきゃ!」 「「何だって!?」」 二人は同時に叫び、顔を見合す。 「メルディ!俺も行くぜ!」 ロイドも駆け出す。ジューダスはその場で「好きにしろ」と言って、急いで後を追った。 そこには、完全に石化した青年が倒れていた。 「バイバ!ひどいよぅ」 「こりゃ完全に行動不能だな・・・」 二人はその姿を見るなり感想を漏らした。 後ろからジューダスが追いつき、その光景を一通り見てから口を開く。 「どうやら、こいつがヴェイグとかいう男のようだな」 「え!?」「バイバ!」 二人は驚きの色を隠せない。そしてようやっと先ほどの放送でヴェイグという名をどのように扱っていたかを思い出した。 「そうか、完全に死んでないっていうのはこのことだったのか」 「その通りだ・・・が、メルディ」 ジューダスは一度メルディへと視線を向け、再び石化した青年を見下ろす。 「本当にこいつを助けるのか」 メルディはムっとなってジューダスに言い返す。 「助けられる人を放っておくなんて、そんなのメルディはイヤ」 「こいつが起きた時に襲い掛かってきたらどうする」 間髪入れずにジューダスが紡ぐ。流石にメルディは後ずさりしたが、「でも・・・」と続く。 しかし、 「こいつが良人だなんて証拠がどこにある。僕達に何かメリットはあるのか。そもそも・・・」 「ジューダス!」 ロイドが口を挟む。何とかそれでジューダスの怒涛の質問攻めは息をいれてくれた。 ロイドが続けて言う。 「俺も助けてやりたいんだ。だから頼む、ここは見逃してやってくれ」 パンと両手を合わせてお願いする。もう諦めたのか、ジューダスは「ふん」とだけ漏らし、その場でたたずむ。 「好きにしろ。ただし、己の責任は己で負うんだぞ。判ったな」 ロイドとメルディは顔をあわせ、二人同時にジューダスにお礼を言った。 僕も丸くなったな・・・そう思い、先ほどの選考が放たれていた空を見る。 知らずして閃光は止んでいた。戦闘が終わったのかとジューダスは思考を巡らせる。 そしてメルディは青年と向き合う、が、ここで重大なことを思い出してしまう。 「大変!リカバー使えないよ!」 「え!?本当かよ!?」 「はいな・・・補助系の晶霊術はクレーメルケイジがないよ使えない・・・」 二人して慌てる。そして行き着く先は決まっている。二人は同時にジューダスのほうを向いた。 「エリクシールはやらないぞ。これはもしもの時だけだ」 の言葉に一蹴された。 「ケチケチすんなよせこい奴だな」 「あのな、こればっかりは譲れん。自分たちで何とかしろ」 「くっそ~(人でなし)」 「何か言ったか」 「いやべっつに~」 二人のやりとりをメルディはオロオロしながら見つめていた。 ふと、ジューダスの脳に一つの単語が引っかかっていた。 「メルディ、クレーメルケイジとはなんだ」 聞かれたメルディはおずおずと説明を始める。 「えっと、コレぐらいの形しててここに持つところがあって。そこに大晶霊を入れるよ」 メルディはジェスチャーで説明したが、とても判断できるような出来ではなかった。 が、ジューダスは”これぐらいの形”という動作で何かわかったのか、ザックの中をあさりだした。 「これのことか」 ジューダスの手には先ほどのメルディの説明が具現化したモノがあった。 「ワイール!それだよぅ!」 「え!?これかよ!?」 ロイドも驚く。まさかこんな形で巡りあうとはメルディは思いもしなかっただろう。 ジューダスからクレーメルケイジを手渡されたメルディは、今度こそ術を施す。 『リカバー』 幸いなことに中に入っていた晶霊達はみなセレスティア属性のものばかりだった。 故に、ノームとヴォルトの力でリカバーが使えたのだ。 青年の体は土色から徐々に本来の色を取り戻し始める。 頭から回復がはじまり、今ではすっかりその色がもどっていた。 「まだ寝てるよ・・・生きてるか」 「メルディ、助けておいてそれは不謹慎だぞ。さて・・・」 ロイドは辺りを見回す。これから村に行くと言っていたが、今は静かになっている。 「どうするんだ?村に行くのか?」 ジューダスに質問を投げかけ、ゆっくりと応えを返す。 「確かに閃光は止んだが、戦闘が終わったと決めるのはまだ早い。ここはさっきもいった通り村に向かおう」 二人は返事をする。そして、当然の如くその疑問は浮かぶ。 「こいつ、どうするんだ・・・」 今は眠っている青年に指差し、疑問をぶつける。 ジューダスとメルディは不敵な笑みをしてロイドを見つめて口を開く。 「己の責任は己で・・・な」 「メルディ重いのだめよ。ロイドよろしくな!」 がっくりと方を落とすロイド。 「また俺が背負うのか・・・」 一目見るだけで自分より大きいであろうその青年を背負い、ロイドはもう歩き出している二人の後を追った。 「でも、何でジューダスはクレーメルケイジ持ってること、言わなかったか」 「お前たちが聞かなかったからだ」 「そっか~」 【ジューダス:生存確認】 状態:健康 所持品:アイスコフィン、忍刀桔梗、(上記2つ二刀流可)、エリクシール 基本行動方針:ミクトランを倒す 第一行動方針:シースリ村に向かう 第二行動方針:協力してくれる仲間を探す 第三行動方針:ロイド、メルディと行動 【ロイド:生存確認】 状態:健康 所持品:ウッドブレード(自作)、トレカ、カードキー 基本行動方針:皆(Sの仲間及び協力してくれる仲間)で生きて帰る 第一行動方針:シースリ村に向かう 第二行動方針:協力してくれる仲間を探す 第三行動方針:ジューダス、メルディと行動 【メルディ 生存確認】 所持品:スカウトオーブ、リバヴィウス鉱 状態:TP消費(小) 背中に刀傷 左腕に銃創 (小) ネレイドの干渉はほぼ皆無 基本行動方針:元の世界へ帰る 第一行動方針:シースリ村に向かう 第二行動方針:ロイド、ジューダスとともに行動する 第三行動方針:仲間と合流する 【ヴェイグ 生存確認】 所持品:スティレット チンクエデア グミセット(パイン、ミラクル) 状態:右肩に裂傷 意識不明 基本行動方針:不明 第一行動方針:不明 現在位置:B7森林地帯 前 次
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瓦礫の山の前に立つ宏也 剣を折られ、体中切り刻まれた状態で落下していったハンニバル 恐らくは、あの瓦礫の山の下敷きになっているだろう ………だが、死んでいるはずがない まだ、生きているだろう あの男は、不死身の男 不死身の狂人 …あの程度で、死ぬはずもない ざわり、髪を伸ばしながら、宏也は油断なく瓦礫の山を睨みつける 既に、再生も終わっているはずだ ならば、あちらも、こちらの隙をうかがっているはず…… 直後、瓦礫の山の一部が、吹き飛んだ そこから、再生した剣を手にしたハンニバルが飛び出してくる 心臓に刺さっていた辰也のナイフも、いつのまにか抜けていて…あれだけ宏也が切り裂いてやった体も、完全に再生していた 「---ったく、化け物が!」 迫る剣閃を、伸ばした髪で受け止めていく 切り刻まれた髪があたりに飛び散り、二人の視界を塞いだ ……いや 視界が塞がれたとしても…ハンニバルに対して、それは意味がない 「っ!?」 「…外したか」 宏也の腕を、ハンニバルの剣がかする いつのまにか外されていた、ハンニバルの眼帯 「最強の目」が姿を現し、宏也を睨みつける 奪う為に他者に与え、そして実際に奪った、ありとあらゆる「目」に関する有利な都市伝説を混ぜ合わせた、最強の目 視界を塞がれようと、意味をなさない それは、獲物を絶対に捕らえ、逃がさないのだ 「はて、お前は接近戦闘はさほど得意ではなかったはずだが」 「なぁに、地獄を見せられたんでね」 笑って見せながらそういって、ハンニバルに殺意を向ける その殺意は、現実となって、ハンニバルに襲い掛かる 伸びた髪の全てがハンニバルを捕らえ、引き裂かんと荒れ狂う しかし、ハンニバルは暴風のように襲い掛かってくるそれらを、全て切り落とした かすかに右半身を掠ったものの、たいしたダメージにならず、即座に再生される 二人の攻撃の余波が、辺りの瓦礫を破壊し、轟音を立てていく 瓦礫だけではない 壁に、床に、天井に 無数の切れ跡が刻まれていく それほどまでの、攻撃のぶつかり合い 殺意のぶつかり合い そして、一方からは、激しい憎悪もまた、ぶつけられる 「…ったく、余計な事口走りやがって」 「ふむ?……私はただ、事実を伝えただけだがね?」 それが、余計だと言うのだ 舌打ちしながら、一瞬でも動きを止めようと、脚を狙って、攻撃する しかし、左足を狙ってのその攻撃は、即座に撃ち落され、不発に終わる 変わりに、宏也の攻撃をかいくぐりながら接近してきたハンニバルの剣が…宏也の肺を、貫く 「っぐ!?」 「事実を伝え、認識させる事は、悪い事ではあるまい?」 肺を貫いた剣が引き抜かれる それは、続けてもう一つの肺も貫いた 大量に出血する宏也から、ハンニバルは距離をとる 「あれは、私の息子だ。息子に、父親が事実を伝えるのが悪だとでも?」 「----っ、の」 ……ばちばちと 赤い、どこか禍々しさを感じさせる光が、宏也の傷口に発生する 体内に埋め込まれた賢者の石が、致命的な傷を再生させていっているのだ 「……お前を、辰也の父親とは認めねぇ!!!」 殺意が乗った髪が、ハンニバルを襲う 想定外のスピードだったのか、完全に避ける事を諦め、右半身を犠牲にするハンニバル 右半身が、原形も残さないほどにズタズタに切り裂かれ……しかし、やはり即座に再生する ほぅ、とハンニバルがどこか感心したような声をあげた 「…なるほど、賢者の石か。はて、どこで手に入れたのか…」 どこか楽しげに、宏也を見つめるハンニバル …その身を解体して、賢者の石を手に入れようか、とも考えているかもしれない 不完全なものとは言え…賢者の石は、貴重な存在なのだから 「……父親とは認めない、か?……だが、あれは私の血を分けた存在だ。誰が否定しようが、あれが私の息子である事に代わりはない。お前とて、その事実を知っていたからこそ……気づいていたからこそ、あれを私から遠ざけたのだろう?」 「煩ぇよ、この腐れ外道が…………確かに、血の繋がりはあるだろうよ、だが」 ざわりと 殺意が膨れ上がる 四方八方から襲い掛かる攻撃を、ハンニバルは全て撃ち落していく それでも、宏也は攻撃の手を緩めない 時折、かすかに掠るその攻撃は、徐々に深くなっていく 「てめぇに、辰也の父親を名乗る資格なんざ、存在しねぇよ!!」 そして 宏也の攻撃が……とうとう、完全に、ハンニバルを、捕らえた 「ぐ、ぬぅ!?」 さぁ、全てズタズタに引き裂いてやる 宏也の殺意が、ハンニバルを押しつぶそうとする ……その時 ハンニバルが、鞘を あの古めかしい、しかし、豪華な装飾のなされたそれを……宏也の髪から、引き剥がしたのが、見えた 「………?」 疑問に思いながらも、しかし、躊躇無く、ハンニバルの全身を切り裂いた宏也 このチャンスを、逃すものか 不死身の狂人? だが、真なる不死身など、そうそう存在する訳でもない それこそ、神に呪われて不死になったのだという彷徨えるユダヤ人や彷徨えるオランダ人ならともかく…それらもまた、神が降臨した時には許され、不死ではなくなるのだ…、いかに都市伝説の力を得たとはいえ、完全なる不死など存在しないのだ ならば 死ぬまで、殺すまで 反撃の機会など与えない その心壊れ尽くすまで、殺し続けてやる 再生し続けるその体を、切り裂き続ける 攻撃の手を緩めようとしない宏也 …だが 「っ!?」 すぱぁん、と 右肩に、大きな裂傷が出来た 赤い光と共に再生していく傷 すぱぁん、すぱぁん…と 似たような傷が、宏也の体に生まれ始めた 「な……っ」 「やれやれ、私は遠距離戦闘は苦手なのだがね?」 切り裂かれながらも、剣を降るハンニバル …その一振り一振りが、衝撃波を生み出し、宏也の体を切り刻む このまま攻撃をくらい続ければ…賢者の石の力を、使い尽くしてしまう ハンニバルの動きを封じたその状態は、しかし、宏也にとっても、行動を制限するものになってしまったのだ 宏也は舌打ちし、ハンニバルを解放すると、さらに距離をとる ……再生の、速度が 徐々に、遅くなっていっている ………このままでは…………まずいかもしれない 「…父親を名乗る資格、か………では、お前はあれから、私という父親を奪うつもりかね?」 それに、対し ハンニバルの再生速度は…まったく、弱まっていない ほんの数秒程で、その体は無傷な状態へと戻ってしまう 駄目だ あの再生を封じる手段を見つけなければ …勝ち目など、存在しない 「…っは…………てめぇが何を言おうが、てめぇに父親なんざ名乗らせねぇよ……何だったら、俺があいつの父親になってやらぁ」 劣勢の状態を隠すように、どこか軽い調子で、そういって 出血によって、頭に血が上った状態も、少し改善されて …宏也は、ハンニバルを飲み込んだ都市伝説を見極めることに、集中し始めた 決闘は、まだ始まったばかり されど、戦況は明白なりて………--------------- to be … ? 前ページ次ページ連載 - 狂科学者と復讐者
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サムライ◆DzuK1MKXmE 「それで──あんたは何百年も後の時代から来たって言うのかい?」 高代亨、イナズマの語る現代を聞き、いくらなんでもそれは無いだろうと伊達政宗が笑い。 「それは俺の台詞なんだが……」 拳を燃やす者がいれば、生身で空を翔る者など、伊達政宗がイナズマに語る戦国時代はあまりにも荒唐無稽すぎるものだった。 (いや、だがしかし──) その能力により、人の感情の機微さえも敏感に感じ取ることのできるイナズマであるからこそ。 奥州筆頭・伊達政宗を名乗り、蒼い装束に三日月の鎧兜纏った、その男の言葉に嘘が無いことを見抜く。 (それとも、自分を伊達政宗だと思い込まされた統和機構の合成人間…なのか?) なんにしても最初に出会った者の二人のうちの一人。 伊達政宗が己と同じく殺し合いを好しとしない者であった事は幸運だったのだろう。 「あんたの話も俺からは相当にheavyでfantasticだぜ!」 「ふっ、こればかりはお互い様…ということだな」 それぞれの時代や自身についての情報交換を終えた二人は顔を見合わせる。 「ハッ、まあこの状況が悪趣味なjokeじゃないってんなら」 「あの女が恐ろしく強大な力を持っているのだけは間違いだろうな」 そう、すべての推測は憶測の域を出ず、彼らが真実を確かめるには余りに情報が少ないのだろう。 話を変えるように政宗は首に嵌められた鈍色の金属をコツコツと叩く。 「ところでアンタの”物の急所を突く能力”でもコイツは何とかならないのかい?」 「ああ、この首輪には物体の脆い所──その”線”がどこにも見あたらん…」 「Shit!! 俺の雷も弾かれちまった、一体こいつは何で出来てやがる!?」 「どうやら俺たちで首輪をなんとかするのは無理らしい」 「Hye それでもこいつを外すのを諦めのは早すぎるってなあ!」 「ああ、今の俺たちだけでは無理だとしても」 「この首輪をどうにか出来る力を持った人間がいる可能性はZeroじゃない」 「そういうことだな」 反逆の意思を秘めた二人が不敵に笑う。 そして──。 ☆ ★ ☆ イナズマと政宗の話が決まった。 主催に対抗する為に首輪を解除する、その為には同じ意思を持つ者を探す必要があり、 この広大な島を探索する為に彼らはそれぞれが二手に別れて行動することにした。 「俺が島の南側を…あんたが北側を探索をする。だが、あまり無茶はするなよ」 「ハッ、俺は奥州筆頭・伊達政宗だぜ。そう簡単に死にはしねえさ!」 それに俺にはコイツがある。と腰に差した片倉小十郎「黒竜」を抜く。 月明りを帯びた黒竜の刀身が政宗の呼び掛けに応じるが如く輝いた。 「ならば、次の放送時刻に再びこの場所で落ち合う。それが叶わなければさらに次の放送で──」 「──ok see you Lightning!!」 島の中央「D-4」草原での再開を約束したイナズマと伊達政宗はそれぞれの道へと別れていった。 ──だが、暗闇へと消えていった伊達政宗の後姿に、イナズマは言い知れぬ不安を感じていた。 政宗の行く手、そこにはうっすらと、だが確かな”線”がイナズマには見えていた。 「──死ぬなよ、伊達政宗」 【D-4 草原南/一日目/深夜】 【高代亨@ブギーポップシリーズ】 【状態】疲労(小)、能力の不調に違和感あり 【装備】稲妻の剣の鞘 【道具】基本支給品、ウェイバー@ONE PIECE 【思考】基本:戦う力のない者を守る。 1:島の南側を探索して殺し合いに乗らない参加者や首輪を解除できる者を探す。(対象が強ければ別行動、弱ければ同行して守る) 2:次回放送時に伊達政宗とD-4で合流する。(合流できなければ次の放送時に改めて合流する) 3:ブラッドレイを警戒。 4:死ぬなよ…政宗。 【備考】 ※『イナズマ』能力を使用している間は徐々に疲労が増加。 ※今のところ本名を名乗るつもりはない。 ★ ☆ ★ 名も無きサムライの残したこんな言葉がある。 『武士道とは死ぬことと見つけたり』 その言葉の意味や真意がどのような物なのか、それを余人が知る術はない。 ──そして、ほんの少しだけ時が巻き戻る。 「ああ──俺が北に行く」 「だが島の北には奴がいる」 イナズマと伊達政宗を退けた恐るべき男、キング・ブラッドレイ。 「どっちにしたって島を調べなくちゃならないんだろ?だったら北には俺が行くぜ!」 「それならば、怪我を負ったあんたよりかは無傷の俺が北に行くべきだろう?」 イナズマの言葉に対して腰に手を当てた政宗が舌を濁す。 「なあ、Lightning 此処は何も言わず俺に任せてくれないか」 俺は行かなけりゃならないと、政宗の眼がイナズマに深く語りかけた。 それにどちらにしたってこの島が危険な事には変わりがなく。 あの男(ブラッドレイ)を野放しにしておく事だって出来ないだろう。 「だから、北には俺が行く」 独眼竜の決意は変わらず。 (──そうか) その眼を──統和機構の最強と戦ったことのあるイナズマは知っていた。 (伊達政宗─やはり本物の戦国武将。サムライか) かつて、誰よりもサムライに憧れて、サムライを目指したからイナズマだからこそ解る事がある。 眼前に起つ伊達政宗はそれに意味が有る無しや命の危険などを省みず。 相手が強敵だからと決して逃げる事はしない。真に己と同じサムライなのだと直感する。 (いや…俺自身はその資格をとうに失ってしまったか) 頭を振って苦笑した。 「ふっ、あんたがそこまで言うんならもう止めはしないさ」 「ハッ、そうこなっくっちゃな thank you !!」 イナズマの拳を叩き、政宗が親指を立てる。 その胸に秘めた思いは。 「このまま負けっぱなしってワケにはいかない──だろ King!!」 ここに二つの道がある。 イナズマが見た死の”線”を伊達政宗が超えるのか。 それとも別の道を辿るのか。 それはまだ誰にもわからない。 【D-4 草原北/一日目/深夜】 【伊達政宗@戦国BASARA】 【状態】疲労(小)、左脇腹に裂傷(応急手当て済み) 【装備】黒竜@戦国BASARA 【道具】基本支給品、ランダムアイテム(個数、内容ともに不明) 2:次回放送時に伊達政宗とD-4で合流する。(合流できなければ次の放送時に改めて合流する) 【思考】基本:主催者の首を獲る。誰だろうと挑まれれば受けて立つ。 1:島の北側を探索して殺し合いに乗らない参加者や首輪を解除できる者を探す。 2:次回放送時にイナズマとD-4で合流する。(合流できなければ次の放送時に改めて合流する) 3:ブラッドレイを倒す。 4:イナズマにいずれ借りを返す。 ※伊達政宗が実際には北側のどちらに向かうのかは次の書き手氏にお任せします BACK NEXT 027 彼女の理由 投下順 029 本当の願い/不屈の意志 026 我刀・ノヴァ 時系列順 030 考察(人それを深読みと言う) BACK 登場キャラ NEXT 009 雷速剣舞/隻眼邂逅 伊達政宗 037 荒ぶる者どもに吹き荒れろ嵐 イナズマ 044 夢追う鷹は刃を隠す
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「…せッ!…せッ!…せッ!」 暗闇の中円周上に配置された篝火の光の中心には四方を杭に結わえ付けられたロープで囲まれた空間だけが浮かぶ 周囲をぼうっと篝火に照らされる空間を熱狂しながら凝視する人間の顔だけが浮き上がらっせ、その光景は太古の神を祀る儀式を思わせる 「殺せッ!殺せッ!殺せッ!」 老いも若きも男も女もが狂ったように同じ言葉を繰り返す 人々の視線の先には互いの肉を食み、血を啜り合いながら殺しあう2匹の獣 …ならぬゆっくりの姿があった 里の野外に特設された即席のリングの中には1匹のゆっくりまりさとゆっくりフランが向かい合っている ゆっくりまりさは目と口の部分に穴が開いた底部以外顔全体を覆う派手なマスクを被っており、 そのマスクのそこらかしこはフランに切り裂かれたのか無残にも体までにもその裂傷は達して致命傷ではない物の餡がポタリポタリと垂れて 大きくその体を伸縮させて息をついている 方やゆっくりフランは素顔で、顔に自分の傷から漏れた餡とまりさの餡で汚れながらも、 その目には狂気の色が宿り口を大きく開いてこびりつく餡をなめると笑みを浮かべた ルチャゆっくり 最近考案されたゆっくりを使った娯楽のひとつ、早い話がゆっくりを使った賭け格闘技である。 リングで戦うゆっくりはゆっくりドールと呼ばれ相手が戦意を失うか・気絶するまで行われる… しかしゆっくりは本来温厚で臆病な性格なので捕食種を除け自発的に戦うことはない だが、彼らやその親しい者の危機には勇敢に立ち向かうケースもある その事から人間が野生の比較的体格がいいゆっくりを見つけると家族や親友を攫いそれを人質として戦いに赴かせるのである 場合によっては無理やり子供を孕ませてそれを利用する 負けたり・無様な試合をすれば人質の命は主人の気分ひとつ次第 故に戦うゆっくり達に躊躇いはない ……常にガチ勝負且つゆっくり特有の肉体の脆弱さもあいまって死者は耐える事はない 死の恐怖に抗い勝ち続けるゆっくりにはマスクが与えられ、そして更に勝ちぬいたマスクゆっくりは自由を勝ち取る事ができる マスクは数多の同族の屍を踏み越えた強者の証、それを脱ぐ時は敗北を意味する マスクを剥がれたゆっくりはそのマスクを捨て新たにマスクを得るまで再び戦いを続けなくてはならない ゆっくりドールにとってマスクは頭の飾りや帽子以上の価値、命そのもの ゆっくり達にとっては語源のルチャリブレよろしく自由を勝ち取るための戦いであるのだ このまりさはルチャゆっくりでは現在一番人気の花形ゆっくりドール。 デビュー以来負け知らずで特に華麗な空中技に定評がある ルチャゆっくりの中では殿堂入り確実の生ける伝説ゆっくりドールである かたやフランのほうは中堅クラスであるものの高い戦闘力と凶暴性で最近のし上がって来た実力派、決して楽勝な相手とは言い難い 今現在餡子が漏れているマスクまりさは体力的にも長期戦は不利、しかしフランは警戒を奇襲し徐々にコーナーへ追い詰めて行く いくら手負いとてマスク持ちは百戦錬磨の猛者、迂闊な攻撃は仕掛けない辺りフランも並みのゆっくりドールではない マスクまりさがコーナーポストに背をつきの呼吸が乱れかと思うとと体を僅かに傾けるのを見るや雷のごとく飛び掛った 「ますくとられてゆっくりしね――ッ!」 だがマスクまりさは睨み付けたまま動かない。 コーナーに居る以上フランの突進を下手に回避しようとしても逃げれず、リング外に逃げようとしてもその隙に無防備な部分を晒すだけという事を知っている。 そしてコンマ一秒の世界のタイミングで避ける事を決意した マスクまりさは息一つすると極限まで集中する。 一つ息を吐くと空気を震わす観客の歓声がフッと消え、今まで気にならなかった生暖かい風の張り付く感触を感じ、 目の前に向けられたフランの鋭い牙がスローモーションビデオを見てるかのごとくゆっくりと近づく 5センチ... 3センチ... 2センチ... 1センチ... フランは勝利を確信していた 牙は確実に柔らかい皮膚を突き破り餡を抉った後奴は豚のような悲鳴を上げるだろうと カチン!! だがフラン確信とは裏腹に牙のぶつかる音だけが響いた 「うっ!?うーっ!?」 いつの間にか眼前のまりさは霞のごとく消えていた まりさの見せた隙はフェイクだったのだ 後悔したところでもう遅い 次の瞬間頭部に強烈な衝撃が走り地面に叩きつけられると目の前が餡で真っ黒に染まり何がおきたか理解できぬまま事切れた フランだったものから飛び出した餡子の山からムクりとマスクまりさが立ち上がる お互いの鎬を極限まで削る我慢比べにまりさは勝ったのだ ――すたーだすとればりぇ マスクまりさの得意技の一つ 敵の攻撃を極限までひきつけてコンマ一秒のタイミングで敵の頭上に飛び上がりそのまま全体重をかけて敵を地面に叩きつける その一連の動作は流星の如く華麗でそれ見た誰もが魅了される程の高難度の空中技 「ウィナーッ!エルゥ――ッマリィーサァ――!!」 審判が勝者の名前を告げると観客席からは悲鳴のような歓声と怒声が起き周囲に紙吹雪が舞った 「まりさー!よくやったぞ!」 一人の若い男がロープを潜りリングにうつ伏せに寝転がっているまりさの元へ駆け寄る 「おにー…さん…まりさ…がんば…たよ」 ずり落ちた帽子を力なく少しだけ挙げて顔半分をセコンドの男のほうに向けるとにこりと微笑んだ 「ああ…頑張ったとも!後10勝だ!!後10勝てばお前は自由になれるんだぞ」 「うん…でも…まり…さだめ…かも…」 「何言ってんだ怪我はたいした事ないぞ!休めばすぐ治るからな!」 男がまりさを優しく抱きかかえて顔を見るとハッとしたと表情を見せると途端に真っ青になった 何とまりさの左目を両瞼が縦にぱっくり切れ眼球から透明な液が漏れている すたーだすとればりぇを決める為に跳躍した際、満身創痍のまりさはタイミングが少し遅れたため運悪くフランの牙が目を掠ってしまったのだ 「もう…まりさは…あかちゃんのために…たたかえないの…?」 後10回とはいえ戦う相手はどれも強敵ぞろい、片目で戦うには余りにも手に負えなさ過ぎる さりとて傷が癒えても片目に慣れるまでまでじっくり休養する時間などまりさには与えられない 「あ…今すぐ治療するからな!だからじっとしてろ!!」 男はまりさをマスクを丁寧に脱がし、しっかりとまりさを抱えると揺れぬ様急ぎ足で幕舎の中へ入るとベッドにおろして くすり箱をひっくり返すと治療を施したが潰れた目はどうにもならなかった 「畜生…なんてことだ…」 男がまりさを見下ろして項垂れていると幕舎の中に恰幅のいい中年の男が不機嫌な顔をしながら入ってきた 「全く何てことだ!あれだけ投資してやったのにこれからって時にしくじるとはなぁ!!」 どうやらまりさの主人はこの人物らしい 「お…御館様、こいつは片目をやられだけです再起不能になった訳じゃないんです!あと十勝なんです!!どうか見捨てないでやってください!!!」 「饅頭ごときに情が移ったのか?動ける動けねぇじゃねぇよ!確実に勝てるようなじゃなきゃ駄目に決まってんだろうが! 怪我をしてもう使い物にならんなんて知れたら商品価値は無いも同然なんだよ!」 中年男は腕を組むと幕の中を言ったりきたりしながらブツブツと何かをつぶやている 「そうだ…コイツとかなことの試合を組もう。目は形だけ直しとけ、眼帯とか包帯はつけるな。 伝説の終焉って売り込みでコイツには華々しく最後の花道を飾らせてやろう!次の試合だ!わかったな!」 そう捲くし立てると中年男は近くにあった水瓶をけり倒してがっくりと崩れ落ちる若い男を尻目に出て行った ふかんぜんねんしょー 複数の重賞を勝利した競走馬達もその最後は決して安らかじゃないんだってね byおれまりさとかイワレタ人 このSSに感想を付ける