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組織東方の組織・忍第六武衆団 ・暴走森林種族ナタルク 南西の組織 中央の組織 組織 東方の組織 ・忍第六武衆団 盗賊団狩りしている過激な忍たちの集団 昔は聖域に潜んでいたが、ノヴァティのFにより半壊された。 戦争の裏スパイもやったりする、工作部隊でもある。 ・暴走森林種族ナタルク 暴走森林ナタルで暮らす種族 町の村人と戦などをしている、今でもいけにえとかしてる。 南西の組織 中央の組織
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属性と技能 基本属性 火 火炎や火の玉を出したり火を噴いたりする技能を取得できる。 火 火とは反対に水圧で敵を押しつぶしたり津波を起こしたりできる。 風 風を起こし竜巻を発生したりできる。 地 大地を動かす特技の習得が可能になる。 雷 雷の電気の力で敵を麻痺させる。 特殊属性 闇 陰より強力で聖の反対の属性 聖 陽より強力で闇の反対の属性 陽 聖にはならないが闇とは反対の属性 陰 闇にはならないが聖とは反対の属性 基本技能 *
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(不)愉快な仲間達@雑談掲示板の住民 ここはメンバーなら変更可能です。 メンバーになりたい方はおっしゃってください。 メンバーではないが変更を求む方も言ってください 古参(完全雑談からの仲間) Jポッター 超古参の異名持ち 一番初めに参戦したベラトン・ロハン・勇などとリア友 賢い方、オタなどには入らない雑談のみ。 刈谷勇 本名ですか?と問われるが遊びで作った偽名らしい Jポッター・ベラトン・ロハンなどとはリア友 ベラとは趣味が合う。 ロハン ゲームクリエイターを目指す人たぶん… ↑と同じ。 ゲームを作りたがっていたような…オタには少し近いかなw 新参(ロード・プロネミアンスからの仲間) アメジスト 詳細不明 パール アメジストと共に現れた詳細不明
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男は死を迎えようとしていた。 剣でもって腹から背骨までを貫かれた身体。あまりにも失われ過ぎた血液。銃弾により撃ちぬかれた胸郭。 深く暗い海中へと沈みゆく身にあっては一切の救援も期待できず、呼吸すらも許されず、ただ数秒後に迫り来る完全な死を待つのみであろう。 だが、神無きゆえに奇跡も無いはずの地獄にて死を受け入れんとしていた男の身を、一つの奇跡が救った。 輝く銀の盤。丸い鏡のような平面が、海底へと沈み行く男の下に現われたのだ。 傷だらけの身体が銀盤の中へと沈み、そして消え去る。 彼を飲み込んだ銀盤もまた、一瞬の後に消えうせた。 己が身に起こった異変に気が付いたのか、ただ一瞬だけ意識をかすかに取り戻した男の視界に映りこんだものは、自分を覗き込む澄んだ湖水のような瞳のおぼろな印象。 それだけを見て、彼の意識は再び深い闇の中へと沈んでいった。 「ああ良かった、気がついたのね」 金髪のメイド少女、ローラが嬉しそうな声をあげる。 秘薬まで使って行われた『治癒』の魔術による治療を受けてから丸一日、まったく意識が戻らなかった男が目を覚ましたのだ。 看病の手伝いを任されていた少女にとって、喜ばしいのは当然だった。 ベッドの上で薄く目を開けた男の、灰色の視線がローラの瞳と結ばれる。 と、同時に二人を結ぶ、銀の糸のような何か。 「え? えっ!?」 不思議な現象に少女が困惑している間に、その銀弦は消えていた。 ローラには何がおこったのか、さっぱり理解できない……むしろ、何も起こっていないように思える。 不思議がる少女。彼女が首を捻っている間に、男は上半身をベッドから起こしていた。 「あっ、まだ起きない方が良いですよ。治癒の魔法を使ってもらってても、完全には治って無いぐらい凄い傷だったんですから」 「いや、もう大丈夫だ」 そう告げて男はベッドから立ち上がる。 メイド少女はその姿に思わず目を細めていた。 ほんの少し前まで昏睡していたとは思えない、しっかりと背筋を伸ばした姿。 整ってはいるが美男では無い、鋭さを感じさせる目鼻立ち。灰色の髪と灰色の眼。 そのいずれもが、まるで内側から光を放っているかのような眩しさを感じさせる何かを内包していた。 年のころは30代の半ばだろうが、溢れんばかりの活力とにじみ出る強靭な意思が彼を中年と呼ぶ事をためらわせる。 特にその瞳。 灰色という、本来ならばどっちつかずの曖昧さの代名詞ともなる色彩でありながら、あまりにも鮮烈な、黒と白の間にこれほど強い色があったのかと感嘆させずにはいられない程の強烈な力に満ちた双眸は、男の姿をしてまるで太陽の化身のように感じさせた。 「それよりも今は私を召喚したというメイジに逢いたい。案内を頼む」 「は、はい。先程まで付きっ切りで貴方を看病されていたんですが、今は昼食のために食堂の方に行っておいでで、待っていれば戻って来られると思いますけど、あの、でも、お急ぎでしたら食堂にご案内しますね」 並みの貴族では及びもつかない威厳に訳も無く恐れ入ってしまって緊張しながらも、ローラは男を先導するため部屋のドアノブに手をかける。 そんな風に緊張して余裕の無い少女だったから、気がつかなかった。 自分が何の説明もしていないのに、男は自分がメイジに召喚されたのだと知っていた事。 男がベッドサイドに掛けられたボロボロの黒いローブ――召喚された時に男が着ていた物――を手に取り羽織った時には、まるで新品になったように疵も破れ目も無くなっていた事。 そして彼の身体に付けられていたはずの、『治癒』の魔術をもってしても回復させきれなかった怪我が、ほぼ完全に消えうせている事実に。 「シエスタの連れて来てた男の子が? 貴族と決闘!?」 二人が到着する直前、食堂ではちょっとした事件が起こっていた。 給仕を手伝っていた平民の少年と貴族の少年がなにやら諍いを起こし、広場に場所を移して決闘をするという騒ぎにまで発展したのだという。 その決闘の当事者の一人がルームメイトの連れて来た友達だと同僚のメイドから聞いて、ローラはそのルームメイト、シエスタの事を心配していた。 相手は貴族で自分達は平民。決闘の結果と貴族のきまぐれいかんでは、貴族にケンカを売った累が友人にも降りかかるかもしれず、そうなった時に抗うすべなど平民には無いのだから。 ハルケギニアにおいて、ことトリステイン王国において、貴族と平民の間にはそれほど絶対の差があるのだ。 「あの……ミスタ、申し訳ないのですが……」 チラチラと上目遣いに自分が案内してきた黒ローブの男へと視線を向けるローラ。 自分の仕事を考えれば彼の主人である貴族の元へ彼を送り届ける事を優先すべきなのだが、仲の良い有人であるシエスタの巻き込まれた事件の方がどうにも気になってしまう。 そんなローラの気持ちをくみとったのか、男は広場の方へと歩き出した。 「古来よりの類例なき使い魔として召喚された人間。その一人が私であり、もう一人がその少年であるのなら、わたしにとっても興味深い。ゆこう」 そう言って、けれど急ぐ様子も無く、見慣れない場所を楽しんで歩く旅行者のようにゆったりと、ローラを従えて男はヴェストリの広場へと歩を進めてゆく。 それは決闘などとは呼べない、一方的な蹂躙だった。 当事者、どちらにとっても。 青銅の人形にパーカー姿の少年が何度も殴り倒される。 戦女神を模した人形の動きは多少優秀な戦士のそれとそう変わらない程度ではあったが、少年の身体能力は明らかにそれより劣っていたし、なにより人の拳では青銅を砕く事などできはしない。 少年は大した反撃も出来ず、8度殴られ8度地に倒れた。 全身から出血し、左腕の骨は折れ、その姿は誰が見ても死に体にしか見えない。 決闘を観戦していた誰もが思う。所詮平民は貴族には勝てないのだと。 貴族である生徒達は優越感と確信をもって。平民である使用人達は恐怖と諦めをもって。 だが、少年は、平賀才人は諦めを踏破して立ち上がった。 止めようとする桃色髪の主人を振り切って立ち上がり、敵であるギーシュから投げ渡された剣を手に取り―――そして一瞬の内に青銅の戦乙女を切り裂いて倒したのだ。 慌てた『青銅』のギーシュが6体の『青銅』のゴーレム・ワルキューレを呼ぶ間があったのは僥倖であったろう。 けれど、呼び出されたワルキューレは戦う余地すら与えられず、右手のルーンを輝かせる才人によって一方的に倒されていった。 「続けるか?」 顔面に蹴りをくらって倒れたギーシュの、顔の脇に剣を突き立ててサイトが問う。 「ま、参った」 震える声でギーシュが敗北を認めた瞬間、沸きあがった驚きの声で広場が揺れる。 メイジには決して勝てないはずの平民が勝利したのだ。 物見気分で決闘を見物していた学生達の心に、使用人達の心に、この事件は様々な衝撃を与えた事は間違いないだろう。 「サイト! サイト!」 偉業を成し遂げた少年はしかし、全身全霊を燃やし尽くしたように倒れて意識を失い、桃色の髪をしたメイジの手で揺すられも気がつかないぐらい熟睡していた。 「見事な意地であった、少年。挫けぬ意思は魔導師だけの物では無いのだな」 その二人へと近づき、ローラを従えた黒いローブの男は眠るサイトへと掌を向ける。 男とサイト、使い魔として召喚された人間という稀有な共通点を持った二人を銀弦が繋いだ。 次の瞬間、しかし銀弦は熱も破壊ももたらさない炎となって消えうせてしまう。 「!?」 「ちょっとアンタ、私の使い魔に何をしてるのよ!」 驚きに顔をこわばらせた男に食って掛かる桃色髪のメイジ、ルイズ。 その剣幕に気がつかず、男は眠るサイトへと視線を固定したままだ。 更にルイズを無視するように、呟くような声が男の背後からかけられる。 「みつけた」 振り向けば身長よりも長い杖を手にした小柄な少女がそこに居た。 食事を終えた後、決闘騒ぎには興味も示さず、校舎の医務室から薬草をもらって部屋に帰り、入れ違いに居なくなっていた使い魔を探しに来ていたメイジ。 男の召喚主である、青い髪の貴族である。 「娘よ、そなたがわたしの恩人か?」 「タバサ」 問い掛ける男に対し、瀕死の男を召喚し、咄嗟の機転で凍結魔法を使って出血と生命活動を極限まで低下させて半ば冷凍保存する事でその命をこの世に繋ぎ止め、 学園へと運び込みギリギリの状態で矢継ぎ早に治癒の呪文を使って、彼の一命を取り留めさせた優秀な魔術師である少女は、何の説明もなく、端的に名前だけを名乗る事で答えた。 メガネ越しに男へ向けられる、厳冬の澄んだ湖水を思わせるタバサの瞳。 灼熱の太陽を宿した灰色の瞳がそれを見つめ返す。 いつのまにか、見詰め合う二人の胸を繋ぐ銀の糸。 更に、銀弦は周囲に広がり、生徒達へ、使用人達へ、眠るサイトへ、大地や木々や校舎へと男を中心として結ばれ、広がり、あたり一面を覆っていた。 タバサの名乗りを受けて、使い魔たる男は自らの名乗りをもって返す。 「心よりの感謝を、タバサ。私は相似大系魔導師、グレン・アザレイ。人はわたしを『神に近き者』と呼ぶ、そなたらもそうしろ」 苛烈な太陽を思わせる威厳を纏った男の名乗りに、誰もがあっけにとられた。 服装からして貴族にも見える、けれど平民のように杖も持たない、相似大系などという聞いた事も無い魔術系統を名乗る、使い魔として召喚された男の、 不遜とも自惚れともとれる仰々しいセリフに、笑うべきなのか畏れるべきなのか判断もつかなかったのだ。 だが、広場を覆わんばかりに伸びる銀弦が男の仕業なのは間違いないだろう。 この糸がどんな意味をもつかは判らないが、判らないからこそ不気味でもあるのだ。 そんな沈黙の中で、グレンの名乗りを正面から受けた小さな少女は。 「そう」 それだけ言って、興味が無いかのように背を向けた。 歩きながら、タバサはゴソゴソとマントの下から本を取り出して読みはじめる。 そんな様子に気分を害した風も無く、グレンはタバサの後についてその場を去っていった。 いつのまにか銀弦が消えていた広場に残るのは、なんとも言い難い沈黙に包まれた野次馬達。 完全に無視されて呆然とするルイズと、話しかけるタイミングを逸して佇むギーシュ、そしてグースカと寝息を立てるサイトの姿であった。 【虚無の使い魔と煉獄の虚神1・北風と太陽】 グレン・アザレイは相似世界に生まれ育った魔導師である。 彼の生まれた相似世界では、似ている物同士は影響しあい、干渉しあうために物理法則が一定しなかった。 これは彼の世界だけではなく、彼が知る1千を越える魔法世界の全てにおいて見られる物理法則の揺らぎの一形態である。 周期運動が一定しない円環世界ではその揺らぎを観測して操る円環魔術が、時間の流れすらゆらぐ再演世界では再演大系が生み出されたように、相似世界の人々は似ている物を同じ物として操る魔術大系を発達させた。 ローブの損傷を無傷のベッドシーツと『相似』させて修復したのも相似魔術なら、自身の怪我を健康体のローラと『相似』させて完全回復させたのもグレンの魔術であり、 そのついでに脳と脳を『相似』させる事で彼女の記憶から自分の置かれた状況やこの世界の言語、 ローラが知る限りの国際情勢などを読み取ったのも魔術によってであった。 尤も、目覚めた瞬間は自分がどれほどの危険度がある状況下に在るか不明であったから記憶を読み取るような無作法を行ったのであり、 基本的に理由も無く他者の記憶を探るような行為を良しとしない良識は、グレンも持っている。 なので、自分が召喚された世界の事をより知るため、頻繁に読書をしているグレンの姿は学園の図書館等で頻繁に見かけられていた。 タバサと一緒の時もあれば、一人の時もあった。 時にはタバサの部屋で並んで本のページを捲っていて、そんな時には、知らず知らずの内にグレンとタバサの間を銀弦が結んでいる事もあった。 『似た』もの同士を結びつける相似大系魔術における魔力の源たる銀弦だが、それ自体はなんら現象を起こすわけでも無く、 そもそも相似魔術師以外には見る事が出来ても干渉する事は出来ないので、タバサはまったく気にする事無く、目撃した周囲の人間も気にしなくなっていく。 静かに、なんの事件も無く、ただ学園の片隅でページをめくるメイジと使い魔。 グレン・アザレイなる使い魔が貴族なのか平民なのか、そもそも何者なのかは判らないが、「メイジを知りたければ使い魔を見よ」という格言は本当なのだと、 学生や教師達は呆れ半分にタバサとその使い魔の存在に馴れていくのだった。 一方、いつも騒がしいのがもう一組の使い魔と主人である。 召喚された翌日の決闘騒ぎに始まって、主人であるルイズをからかうサイト、サイトを折檻するルイズの姿はそこら中で目撃されていたし、 失敗魔法の爆発を放ちながら追うルイズと、死に物狂いで逃げ回るサイトの追いかけっこも、女子寮の廊下では3日とおかずに繰り広げられている。 寮に響く高らかな鞭の音やサイトの悲鳴にはもう皆が慣れっこになっているし、昨日の教室ではサイトが思春期らしい寝言を言ってクラスメイト達を爆笑させ、 その夜にはルイズがキュルケというメイジの少女と盛大なケンカをしていたらしいと、噂になっていた。 なんと言っても年頃の少年少女が詰め込まれた、それでいて娯楽に乏しい学園内であるからして、その手の騒動は無聊を慰める話題として面白おかしく話題にのぼり、 憶測と脚色に彩られて広まる事となる。 タバサにしてもグレンにしても、その手のゴシップには興味の無い性格ではあるが、彼等とて人間であり食べる物は食べないと生きてはいけない。 アルヴィーズの食堂の隅で椅子を引いてタバサを座らせ、自身も食卓についたグレン達の耳にも少年達が大声で、あるいは少女達がヒソヒソと話す噂話は飛び込んでくるのであった。 ちなみに、今朝も床に座って硬パンと薄いスープを食べさせられているサイトと違い、グレンの食事は生徒達のそれと同じものが用意されている。 ルイズのように使い魔への躾云々を考えなければ同じものをもう一人分用意してもらうように厨房に頼む方が本当は手間無く簡単なので、まるっきりこだわりの無いタバサはそのようしたから。 そんなワケで主が始祖ブリミルへの祈りを短く呟き、その隣で神に似た者と称された使い魔が彼自身の世界の神に祈りを捧げる間にも、 『平民のサイト』『ルイズ・ド・ラ・ヴァリエール』ついでに『キュルケ・フォン・ツェルプストー』という名は白いテーブルクロスの上を跳ね回り、二人の耳の中にも跳び込んで来るのだった。 共にフォークを手に取る主従は普段食事の時にもあまり会話を交わさないのだが、聞くともなしに聞いてしまった噂話の名前に誘われてだろう、珍しくタバサの方から口を開く。 「あの時彼に何をしたの?」 唐突で短い問いは普通の者なら意味を汲み取れるかどうかの瀬戸際と言った所だが、グレンはその意思を正確に汲み取った。 タバサはグレンが目覚めた日、サイトに銀弦を繋いで炎を上げたのはなんだったのか、と聞いているのだ。 「何もしてはいない。いや、わたしはあの悪鬼の少年に対して何も出来ないと言うべきであろう」 「悪鬼?」 「彼はおそらく、私があの時居たのと同じ世界から召喚された。魔法に満ちた千の世界の中、唯一神の恩恵を与えられぬ、魔法無き世界。 我等魔法使いは地獄と呼ぶ世界の、我等が悪鬼と呼ぶその世界の住人は、ただ認識するだけであらゆる魔法を消去する」 「魔法を消去……」 「我等の魔法は、わたしの身につけた相似大系を始めとして円環大系、完全体系、神音体系、聖痕体系など多岐に渡るが、法則の歪みを『観測』する事から始まるという点では一千魔法世界ことごとくの魔法大系が同一のものだ。 それぞれの世界に特有の自然秩序のゆらぎを観測し、ねじ伏せる事から魔法は始まる。だが、地獄には世界の揺らぎが無い。ゆえに、かの世界には魔法が無く、その住人は魔法を観測する事が出来ない。 出来ない結果――悪鬼が五感のいずれかにでも観測した魔法は崩壊し、魔炎となって消滅させられる。 だからこそ我等は神の恩恵たる魔法無きその世界『地球』を地獄と呼び、住人達を悪鬼と呼びならわした」 「……消えてない」 「そう。過日、あの悪鬼の少年が気絶し、認識が途切れている間にわたしが繋いだ相似魔術の銀弦は彼の少年に認識されず繋がったが、 治癒と言う影響を与えようとした瞬間にその変化を『感じ取った』肉体そのものが銀弦を魔炎へと変えた。 つまり、あの少年が悪鬼である事は間違いない。だが、この世界の住人が使う魔法は少年が観測しても消えていない、悪鬼の魔法消去の影響を受けていない ……そもそも、この世界の魔法大系は『法則の歪みを観測する事から始まる』という我等の魔法とは、その基本則からして異質なものだ。 ならば、わたしにとっての魔法とこの世界の魔法は、まるで違うものなのだろう」 「なぜ?」 「違うという事に違うという以上の意味は無いものだ。 わたし自身、この世界のような『世界』の存在は知らぬし、我等の知る魔法世界『群』と、はるか断絶した場所にこの世界はあるのだと推測する。でなければ、世界の狭間を渡ることの出来るわたしが、この世界から出てゆく方法がわからぬ理由が無い」 「そう」 「このハルケギニアには魔法が存在する。だが、我等魔法世界の住人にとって魔法は誰もが例外なく持つもの。個々の力の差はあれども一つの世界の住人の中で持てる者と持てぬ者に分かれる事は無い。 そもそも自然秩序に歪みが無いと言う点では、この世界は地獄にこそ『似て』いる。だがそなたらも、そなたらが平民と呼ぶ住人達も悪鬼では無い……」 「そう」 ハルケギニアの住人からすれば壮大過ぎるスケールの話を相変わらずの無表情で聞いて、雪風の二つ名を持った少女は黙々とハシバミ草サラダを口に運ぶ。 だが、グレン・アザレイの言葉に秘められたもう一つの意味、そしてグレン・アザレイがこの世界に呼ばれる直前に行った行為を知っていれば、流石のタバサとて恐れを感じただろう。 魔法の全てが燃え尽き、奇跡滅びる荒野・地球。 その地球を地獄と蔑み、その住人を悪鬼と恐れながら、なぜ魔法使い達はその世界を目指したか。 それは、魔法を更なる高みへと研鑽するため、実験と実証を行うため、物理法則の安定した実験場、自然秩序にゆらぎの無い地球の環境が必要だったからだ。 そうして、魔法使い達は一部の者だけが地獄の国家と結びつき、悪鬼達には秘密裏に実験場を利用する特権を有した『協会』を作り出した。 その枠組みを正義で無いと断じ、たった一人で一千世界、総人口5億を超える魔術組織を相手に宣戦布告し、たった一人で地獄の悪鬼60億を皆殺しにして地球を魔法世界の万民に解放しようとした血まみれの英雄こそがグレン・アザレイ。 「わたしは天より神に近き力を与えられ、神に似た心を求め、神の如く成すべき事を求めて魔法世界を放浪し、辿り付いた地獄世界の解放こそを我が使命と思い定め戦い敗れ ……その果てに、自然秩序が安定し、かつ悪鬼の棲まぬこの世界へと呼び出された。これは、あるいは天命であるか?」 「……?」 何者をも焼き尽くす太陽を魂とする男の呟きが持つ本当の意味を、冷たい北風で感情を凍りつかせた青い髪の少女は、まだ知らない。 グレン・アザレイは雪風のタバサの使い魔である。 使い魔ではあるが、同時期に召喚されたゼロのルイズの使い魔、平賀才人のように掃除や洗濯などの労働を課せられているわけではない。 そもそも、学園生徒の身の回りの世話は学園付きのメイドが行っているのだ。 ルイズのように『メイジとして使い魔を従える事』に拘らないのなら、元来必要の無い行為。そしてタバサは大抵の事に拘らない少女である。 ついでに『メイジとして使い魔を常に傍らに連れて歩く』事にも拘らなかった。 その結果として、グレン・アザレイは本日、主人の居ない魔法学園の中庭を一人で歩いていた。 何処に居ても翳る事の無い太陽のように威風堂々とした歩みで、とても使い魔としてこの学園に居るのだとは思えない王者のような風格を纏って闊歩する姿。 あまりに堂々としているため、教師のみが閲覧を許されるはずの『フェニアのライブラリー』から書籍を借り出すことをメイジである当直の司書が断ることが出来ない程だった。 そうして数冊の本を小脇にタバサの私室に向かって歩むグレンを呼び止めたのは、燃えるような紅い髪の女生徒である。 「あら、ミスタ・アザレイ。貴方のご主人様はどうしたのかしら?」 「雪風の娘は私用で学園の外へ出かけている、微熱の魔術師よ」 中庭に設えられたテーブルで、メイドに用意させた紅茶と焼き菓子を前に、優雅な昼下がりを楽しんでいるらしい『微熱』のキュルケ。 タバサの数少ない……と言うか、ほぼ唯一の友人である彼女とグレンは、一応程度にお互いを見知っている。 「残念。サイトはヴァリエールと一緒に馬で何処かへ出かけちゃうし、ペリッソンもステックスもマニカンもエイジャックスもギムリもつまらない事でギャンギャン煩いし、 せっかくの虚無の曜日に無為な時間を過ごす事になるなんて、まったく嫌になるわ……ねぇミスタ、よろしければ午後のお茶をご一緒しませんこと?」 「いただこう」 キュルケも高速で空を飛べる手段――例えば竜のような――でもあればルイズとサイトを追っていただろうが、残念な事にそのようなツテは無い。 魔術師ならぬ者にとってみれば飛行魔法で飛んでゆけばと思うのだろうが、 馬で走るような距離を飛べばすぐに精神力が尽きてしまうし、疾走する馬に追いつけるような使い手などそうそう居ないのだ。 まして火の系統を得意とするキュルケにとって、風の系統である『フライ』は、あまり得意な魔術では無かった。 そんなワケで『微熱』のキュルケは、最近恋の炎を燃やしている相手・サイトが先祖代々の宿敵ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールと二人きりでお出かけしている休日の午後、たった一人で気だるげにお茶をたしなむしかなくなってしまったのである。 とは言え、結果として無聊を囲って友人の使い魔をお茶に誘うハメになってしまったのは、昨夜サイトに迫っている最中に闖入してきた男友達を得意の『火』でブッ飛ばしたキュルケの自業自得なのだが。 そんな事情はしらず、見る者を引きつける魅力的な笑顔でキュルケの差し向かいに座ながら、グレンは軽く指を動かす。 紅茶の満たされたキュルケカップと、中身の入っていないカップが銀弦で結ばれ、そこから『強制的に結果を似せられた』因果が働いき一瞬でカラのカップに紅茶が満たされた。 結果を用意して原因を自然秩序に強制する『概念魔術』は、相似大系の中でも高等技術に分類されるが…… グレン・アザレイはその魔術をたかが紅茶を注ぐ事だけに使用する。使用出来る。 相似魔術の天才、相似世界の至宝とまで呼ばれ、産まれたばかりの闇の中で魔術を使ったという男は、呼吸をするように自然に魔術を使うのだ。 「まぁ、紅茶を注ぐためだけに魔術を使うなんて、随分精神力に余裕があるのね、ミスタ」 「否。相似大系の魔術は類似する形象に魔力を見出す体系なのだ、系統魔術のメイジよ。 そなたらの言う『精神力』という概念はわたしの魔術には該当せず、ゆえに精神力の枯渇という事態は無い。」 ゆったりと紅茶を味わいながらグレンが答える。 似た形が有る限り、相似魔術師はそこに魔力を見出す。 そしてグレン・アザレイは物質を構成する原子にすら類似を見る怪物だった。 ゆえに、その魔力は無限。 たとえ千の魔術を千度行使しようとも『神に似た者』に魔力の枯渇は存在しない。 「絶倫なのねミスタ・アザレイ。 貴方のその魔術でタバサが何処で何をしているのか調べたり、タバサの所まで飛んで行ったりは出来ないの?」 「可能だが、既に出立の時に何処に行くのかは雪風の娘自身に聞いている。聞いたが、雪風は答えず聞かれたくないように見えた。 ならば本人が語るべきと思うまで余計な詮索はするべきではあるまい」 「……そうね。あの子が話すべきだと思ったら、話してくれるわよね」 一口紅茶を啜って、ホッと息をつきながらキュルケはこぼす。 同時にグレンを見るその目がキラリと光った。 『思ったより人間味があるし、あらためて見ればけっこうイイ男じゃない?』という光だ。 いわゆる美男ではないが、覇気と知性が調和した雰囲気と、30代半ばとは思えぬ深い思惟を湛える灰色の双眸。 放浪の旅ゆえにか鍛えられ均整の取れた体躯は、そこいらの軟弱な貴族の子弟――例えばギーシュとか――などとは比べ物にならない、大人の力強さを感じさせる。 なにより太陽を連想させる在り様は、情熱の炎をもって任じるツェルプストーの恋の相手としてふさわしい。 と、そこまで考えてキュルケは首を振った。 グレン・アザレイはタバサの使い魔だ。 恋において他人の恋人を奪う事も辞さない、ついでに宿敵ヴァリエールの使い魔なら奪う事などこれっぽっちも気にしないキュルケだったが、 相手が学園に来てから唯一と言ってよい友人のタバサとなれば話は別だった。 イイ男だけど友達の使い魔は奪えないわね。 そう結論して、グレンとは(キュルケ規準で)ごく健全なけだるい午後の会話を楽しむのだった。 『雪風』のタバサは北花壇騎士団の騎士である。 ガリア王城に咲く花々の名を付けられた東・西・南の花壇騎士団の中には、存在せぬはずの『北』花壇の騎士。 日の差さぬ影に咲く陰性のアダ花の如く人に知られる事無く、ガリアの国益のために暗躍する、半ば特殊部隊の様相を呈する裏の精鋭部隊。 騎士の名誉とは程遠く、家名を名乗ることも憚られるような任務に就くがゆえ、彼等は多くの場合騎士隊の隊士番号で呼ばれる。 青い髪の小柄な少女の隊士番号は7号。 そして、彼女と対峙する鋼鉄の男は3号。 かつて、ただの王族の姫でしかなかったタバサに戦う技術を叩き込んだ師に当たるメイジの一人であった。 「アンタ、平民を召喚したって? 笑わせるわね! 魔法しか能が無いクセに、素質を見る使い魔召喚でそのザマじゃあ、程度が知れるってモンじゃないの!」 無表情でたたずむタバサの前で、少女が大口をあけて笑う。 タバサと同じ青い髪の、端正な顔立ちも似通った娘であった。 だが貴族の気品も何も無く、悪意に顔を歪めて笑う様子がその美しさを台無しにしている。 慈愛をもって民を睥睨すれば美しかろう青い瞳をもった双眸も、すがめるようにねめつける、貴族にあるまじき上目遣いを続けたせいか三白眼のように見えてしまうのだ。 細く長い手足に形の良い指先。やわらかな白い肌が覗く胸元は、タバサとは比べ物にならない豊かさを誇っている。ふっくらとした頬やひいでた額を見れば、 彼女が可憐に微笑めばどれほど美しい少女であるかを想像させ、それだけに残念に思わせるだろう。 そんな少女の頭上には、豪華な王冠が輝いている。 少女の名はイザベラ。ガリアの王ジョゼフの娘であった。 美男王ジョゼフ。外見ばかり不釣合いに立派な無能王とも揶揄される王の、その血を分けたガリア王女はまた、タバサの従姉でもある。 そして魔術の腕前が不自由なこの17歳の従姉姫は、15歳にしてトライアングルクラスの魔術師としても卓越した能力をもった従妹に対し、嫉妬し、憎悪していた。 たかが魔法、などというのはハルケギニアに住む者には言えない言葉だろう。 貴族とは魔術師であり、貴族とは魔法。それが平民にも貴族にも王族にも共通するこの世界の価値観。 高貴なる者ほど強力な魔法を操る力を始祖ブルミルより与えられるというのが、普段は信仰など口にしない人々の間にすらも流れる『常識』であった。 だからこそ、イザベラはタバサを憎んだ。憎んで罵り、辱め、侮辱し、それでも無表情をきめこむ様子に更に怒りを沸き立たせ、尚更に苦しめようとするという悪循環に陥っている。 今日もまた、嘲笑にも顔色を変えない人形娘を苦しめるためイザベラは酷薄な口調でタバサに、北花壇騎士団7号に命令を下した。 「今日のアンタの仕事は裏切り者の処罰よ、7号。貴族5人を含む騎士40人を殺して脱走した北花壇騎士団3号、『石礫』のオージェを捕縛、もしくは抹殺してきなさい」 「……」 さあ恐れよと言わんばかりの、わざとらしい程おどろおどろしい口調で告げたイザベラに、タバサは黙って頷いた。 無表情のままで。 そんな様子に更なる怒りを募らせるイサベラだったが、タバサは別に彼女を怒らせようと無口無表情を貫いているワケでは無かった。 口を開けば、あるいは感情を顕にすれば、きっと目の前の従姉を殺してしまうから、その情動を押さえつけていたのだ。 父を謀殺し、母を狂わせた憎き伯父王の娘。 それだけで、その怒りが理不尽と知りながらもタバサは冷たく暗くけれど眼も眩むほど熱い殺意に囚われそうになるのだから。 背を向け、静かに退出する雪風の少女。 忌々しそうに舌打ちしてその背を見送るガリア王女は、自分が足蹴にしている氷がどれほどの薄氷であったのか、まったく自覚してはいなかった。 『石礫』のオージェは快楽殺人症を患う狂人である。 ガリアの一貴族として生を受けた男は、土のメイジとしての豊かな才能を有していた。 もし彼の精神が正常であったなら、オージェは冶金や土木の分野で平民の生活を助け、 国を豊かにする一助となっていたかもしれない。 だが、彼の興味はただ効率的な殺人にのみ向けられ、その才能も戦いのためだけに注ぎ込まれていった。 2メートルに届くかと思えるほどの体躯に、鋼鉄で出来た鎧を纏ったゴーレムのように表情の無い顔。 かすかにガリア王族の血が混じる群青の髪を短く刈りそろえ、顔にも鎧に隠された全身にも無数の傷痕が刻まれている。 その中の一つ、若い頃に決闘で付けられた傷は、オージェの性器を切断し彼を女を愛する事が出来ない身体にしたのだと言う。 その日以来、『石礫』のメイジは人間を縊り殺す事でしか絶頂を感じられなくなったのだとも。 「どうしました、シャルロット様。逃げているだけでは相手を殺せませぬぞ?」 「…………」 殊更丁寧な口調で、『石礫』はタバサを嬲る。 男が纏う鎧は鎧に見えてさに有らず。 ゴーレムを生み出す魔法を応用し、土より生み出した外骨格を鋼鉄の強度へと錬金し、 人を凌駕した運動能力と防御力を実現するという、彼自身のオリジナルスペルの産物である。 その腕力は容易く人間の首を胴からちぎり取り、拳の一撃で岩をも砕く。 現に、豪腕がタバサをかすめて当たっただけで大人が二人で手を繋いでやっと抱えられそうな太さの幹をもった大木を粉砕しているのだから。 『石礫』の魔術『アサルト・アームズ』。 この魔術による肉弾の攻撃だけで、オージェは100人を超える人間を解体してきたのだ。 「あああぁぁぁぁぁ、シャルロット様ぁ……わたくしは、わたくしは新しい北花壇騎士として連れてこられた貴女を初めて見た時から、 この手で貴女を壊したいと思っていたのですよ! その細い手足を引き千切り、小さな頭蓋を握り潰し、 ハラワタに手を突っ込んで子宮を引きずり出す事ができれば、どれほどの快感であることかと!!」 迫る巨漢の腕を、タバサは紙一重で避けて呪文を紡ぐ。 未だ雪の残る高山の中腹、針葉樹の生い茂る森で二人は対峙していた。 かたや欲望のために仲間すら殺し、その果てに逃亡者となった殺人鬼。 かたや愛する者を尽く奪われながら命令に従うしか無い氷の少女。 血と淫欲に溺れた、血走った眼で自分に向かってくるメイジを前に、少女はこんな任務に自分が召喚した使い魔を係わらせないようにした事を安堵していた。 ―――この狂った男とて、かつての師匠でありかつての同類。 自分とて殺意に狂ってこのような怪物にならぬと、タバサは自身を信じ切る事はできない。 ならば、他の誰かにこんな戦いなど見せられようものか。 血塗られた道を歩くのは、自分独りで十分だ。 「…………」 大きな杖で口元を隠すようにしたまま呪文を完成させるタバサ。 生み出された氷の矢が次々と『石礫』の装甲へとぶつかって行く。 「無駄です! 無駄、無駄、無駄なのですよぉぉシャルロット様あぁぁぁ!!」 そう。ぶつかって行くだけだ。その矢は、装甲を貫かない。 風の刃も、氷の矢も、空気の大鎚すらも弾き返す恐るべき鎧に、タバサの呪文はまるで効果をあげていなかった。 「デル・ハガラース」 外骨格によって人間では考え難いレベルまで強化された脚力を駆使し、弾丸が飛ぶかのような速度で間合いを詰めて殴りかかる男の攻撃を、 呪文を使ってタバサは避ける。 恐るべき機動力をもった敵の攻撃をこうして避け続ける事が出来ているのは、呪文の補助と卓越した先読み、 そしてなによりこの場所が森の中という、小柄なタバサにとって有利で、大柄なオージェにとって不利な場所だったからだ。 だが、それでも勝機があるようには見えない。 絶望的なタバサの悪あがき、何度も放たれるアイシクル・ランスは外骨格の表面を叩いて散るだけでしかない。 対して、『石礫』の攻撃を一発でも受ければタバサは確実に沈む。 「アヒャヒャヒャヒャヒャアァァァ! どこまで逃げ切れますかな、お嬢様あぁぁぁ!?」 木々の間を縫って逃げるタバサを、『石礫』は木々を打ち倒して追いかけ続ける。 時折その腕から放たれるのは、二つ名の通りの石のツブテ。 それとて、手足に当たればタバサの命綱とも言える素早さを奪うだろう。 ひたすら逃げ回り、氷の矢を放ちながら、刻一刻とタバサの敗北―――魔力切れは近づいていた。 だが。 先に膝をついたのはタバサではなく男の方であった。 「ば、馬鹿な……身体が……うごか……」 「これで、最後」 動けなくなった男に対し距離をとって宣言するタバサの前に浮かぶ氷の槍が、その詠唱に合わせて大きく、より凶悪に育ってゆく。 アイス・ジャベリン。 『雪風』の得意とする風の魔術の中でも、強力な攻撃魔術。 「なにをし……なにをしたのです……シャル……ロット様!」 「人間は低温に弱い。体温がわずか4度下がっただけで生命活動にすら支障をきたす。 貴方の鎧には断熱の効果も多少あるけれど、あれだけのウィンディ・アイシクルを受ければ温度が下がる ―――今の貴方の冷え切った鎧は、貴方の身体を凍らせる氷の棺も同然」 めずらしく饒舌に、タバサはかつての師匠に言った。 「貫けない鎧なら、貫かずに倒す方法を考える。貴方がかつて私に教えた戦い方の一つ」 「……クッ……クククッ……くはははははは! お見事! お見事ですシャルロット様、いや北花壇騎士7号! 貴方は最早私などより数段上の殺人者として完成されていた! 素晴らしい! 実に素晴らしいですよ!!」 「殺しはしない。このまま昏睡してもらう」 ジャベリンですら『石礫』の外骨格は貫けないだろう。 ここから更に体温を低下させ、意識を失った所で学園からここまでタバサを送迎してきた竜騎士を呼んで牢獄にでも運べば良い。 そのためのジャベリンを放つタバサ。 「では優秀な生徒に最後のはなむけを贈りましょう7号。良く見ておきなさい!!」 迫り来る槍を前に、男は自ら魔術を解除した。 むき出しにされた生身に突き刺さる氷塊は、分厚い胸板を貫通し、大量の血液を飛び散らせ、凍て付かせながら大穴を開ける。 「!?」 「こ……れが、北花壇……騎士の……誇り無き殺し屋の……末路……貴方もいずれ……こうなるのです……7号……あはは……ははははは…………」 逆流した鮮血を口から吐き出し、凄惨な笑みを浮かべて『石礫』のオージュは事切れた。 流石に顔色を失うタバサ。白い残雪の上に広がってゆく真紅。 覚悟は出来ている。 父を殺し母を狂わせた者達の首を尽く落とし、母を狂気から救い出す。 それさえ叶えば、自分がどんな無残に死のうともかまわないと、そう誓ったのだ。 だから、今更恐くなど無い。恐くないと決めた。 ブルリと震える自分の肩を、ぬくもりを求めるように強く掴んで、タバサはしばし死体の前に立ち尽くす。 抱きしめてくれる誰かなど、求めていないと自分に言い聞かせながら。 次へ 目次に戻る
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動画(youtube) @wikiのwikiモードでは #video(動画のURL) と入力することで、動画を貼り付けることが出来ます。 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/17_209_ja.html また動画のURLはYoutubeのURLをご利用ください。 =>http //www.youtube.com/ たとえば、#video(http //youtube.com/watch?v=kTV1CcS53JQ)と入力すると以下のように表示されます。
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サイト サイトとは、魔神と魔女などによって構成された組織である 行動範囲は幅広く、さまざまな魔神や魔女で構成されている 階級 組織長 魔女ディアノーズ 冷酷な女。サイトの組織長だと思われる 組織副長 魔神セイレント 無口で言われた支持は確実に成し遂げる男 組織副長 火蝶リアン 火の化身で闇の魔法使い。 組織副長 魔女クリス 謎多き魔女 情報収集係長 桐林四南 桐林一族から抜け出してきた魔法使い 情報収集係 ゼン スラム街の情報交換屋をしている。 情報収集係 卯山堅太郎 下界から逃亡してきた日ノ国出身の人 貿易担当 マーズン 詳細不明 貿易担当 鈴川ゼロヌ 詳細不明 スパイ排除担当 ニートラス 詳細不明。スパイ排除する担当の魔法使い
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ガリアとトリステインの国境付近に位置するとある都市。 その中の娼館や賭場などがひしめくいかがわしい一角で、一人の男が酒を飲んでいる。 いや、飲んでいるとは言えないだろう。 口元まで完全に隠す白い仮面を付けた男は、注文したブランデーを机に放置したまま手を出す様子も無い。 どの道奇妙な仮面を外さねば、琥珀色の命の水を口に入れる事はかなうまい。 濃紺のツバ広の羽付き帽子に、同色のマント姿がランプに照らされる。 腰には長い杖と長剣を手挟んだメイジと思しき男は沈黙したまま、 不思議なデザインの指輪を付けた人差し指で神経質そうにテーブルをコツコツと叩いていた。 誰かを待っている様子である。 それから4半時ほどして、男の前に女が現われた。 異装の女だった。 絹糸で織られた緋色の布地に複雑な絵柄が刺繍された、ボタンを一切使用していない服。 袖は膝に届くほど長く垂れ下がり、腰には艶やかな太い帯が巻かれている。 場末の酒場ではあまりに目立つ服装をした美女は、向けられる好奇と奇異の視線も気にせぬかのように、仮面の男と同席した。 あまりの怪しい組み合わせに、流石にちょっかいをかけようという者は居ない。 女は男の前に放置されていたグラスを手に取り、琥珀色の液体をクイッと一息に飲み干した。 結い上げてなお腰ほどに届く黒髪が揺れる。 一見涼しげな美女だが、それだけの所作で並みの男なら生唾を飲み込む程に色気が醸し出されていた。 「おまたせしてもうたなぁ、子爵はん? 早速やけどレコン・キスタの皇帝閣下からのご命令を伝えるえ」 ほうと、酒気を吐息と吐き出してから、女は白い仮面に向けてそう告げる。 男は無言。 だが、もし顔が見えていたのなら、珍しそうに眉を跳ね上げていたかもしれない。 「皇帝閣下のご命令」という厳粛な言葉に、ここまで明らかな侮蔑と嘲笑の響きを込められる女など、そうは居ないだろうから。 【虚無の使い魔と煉獄の虚神4・】 ―――グレン・アザレイは相似魔術の魔導師である。 かれの生まれた相似世界では、この世界やサイトの故郷である地球のような『建築資材』という概念が薄い。 高位の魔導師が概念魔術を操れば、土でも砂でも、あるいは水や空気すら思い通りの形に形成して建物でも何でも作り出す事が出来るからだ。 しかもそうやって造られた形は、相似魔術か悪鬼の魔法消去の影響を受けない限りほぼ永久的に存在し続ける。 自然、相似世界ではそうした土や砂を魔術で加工した建造物が、乱れた自然法則の影響を受けにくくするために独創的な形を与えられ、人々の住居となっている。 逆に道路は、相似世界の住人ならば誰もがルイズ達メイジがフライやレビテーションの魔法を学ぶ年頃よりも早く教えられる転移魔法での移動がしやすいよう、それぞれが『似た』形で短く区切られて整えられている。 かくのごとく、魔法という奇跡が万民に等しく与えられる魔法世界は、地球やルイズ達の世界と比べて圧倒的に豊かだ。 鍬を振るえば同時に操られた数十本が振り下ろされる。 水袋に水を汲めば相似弦で結んだその数十倍の量の水も持ち運べる。 しなびた無数のリンゴと新鮮な一つのリンゴを結んで、すべてを新鮮なリンゴに変える事すら、手軽に出来る相似世界の魔術。 かつて『地獄』で、魔導師ベルニッチが言った 「エントロピーの法則やエネルギー保存の法則など、持たざる者の泣き言に過ぎん」 とは、そういう意味だ。 その反面、建築に係わる資材や工法のような技術・知識が発達していない場合も多く、相似世界で言うなら他にも乗り物や乗騎などといったものはあまり発達していない。 住民の殆どが空間転移を行い、大規模輸送すら高位魔導師の手を借りればそれほど難しくない世界では無用の長物だ。 更にグレン自身が発明した任意の空間同士を繋げる『移送扉』の魔術は、娯楽として以外の乗り物をかの世界から徹底的に廃絶させた。 そんなワケで、自分の世界では無い『それ』はグレンにとっても珍しく興味深い。 「風竜での移動とは、なかなかに風情があるものであるな」 雲海を下に見下ろすほどの高空を、二つの月に照らされて飛ぶ孤影。 紋章の付いていない鎧を着た竜騎士に駆られる風竜は、 ガリア北花壇守護騎士団の騎士を秘密裏に任務の地へと送り届ける役目を与えられた輸送役の下級騎士だ。 ハルケギニアの輸送手段の中で最も早く最も高くを飛ぶ風竜の飛行は、それだけに尋常ではない寒さに晒される。 高空での夜間飛行は、真夏でも氷点下の気温にさらされるのを避けられない。 ゆえに、竜騎士の鎧は毛皮で裏打ちされ、軽量化も兼ねて金属部分は最小限に絞られた形状になっている。 金属が凍りついて触れた部分の皮膚が凍傷になるのは、敵の剣や矢玉よりよほど切実な恐怖なのだから。 手綱を取る顔を隠したその騎士の後ろ、グレン・アザレイと『雪風』のタバサは普段と変わらぬ服装で竜の背に跨っていた。 二人と、そして竜騎士の周囲を覆うのは空気の壁。 竜の動きを阻害しない蛇腹状の構造へと概念魔術により固定された空気は、鋼鉄以上の硬さと空気そのものの軽さをもった透明の外壁だ。 通常の竜の背なら受けるはずの突風は、この壁の中には入ってこない。 更に、出発前の服の中の空気と周囲の空気を『相似』させ続ける事で、壁の内部は快適な温度を保っていた。 そんな状態ならば夜の高高度飛行も物見遊山気分だろう。 グレンは竜のウロコを撫でてみたり、眼下で千切れ飛ぶように流れる雲を見て楽しそうにしていた。 実は、相似魔術は高速での飛行を行えない。 せいぜいが空中に浮いて歩く程度だという制約は、神の如きグレンとて変わらなかった。 だからこそ、普段体験出来ない夜間飛行に余計とご満悦なのだ。 グレンは冴え冴えと雲海を照らす二つの月を見上げる。 一千魔法世界全て月の数は一つ。 この光景もまた、世界を渡る旅人であったグレンにとっても珍しい絶景。 「此処で見る物聞く物実に新鮮である。吸血鬼とやらに出会うのが待ち遠しいものだ」 心底本気の顔でそう言ったグレンに、彼の腕の中のタバサは呆れたように本から上げた温度の無い視線を向け、竜騎士は怯えたように面頬の下で息を呑む。 彼等は今夜、ハルケギニアで最悪の妖魔とも恐れられる吸血鬼を退治するため、ザビエラ村という小村へと向かう最中であった。 その恐るべき敵を自分一人で倒すのは難しいと、タバサは信念を曲げて使い魔であるグレンを任務に連れてきた。 魔法による探知すら欺いて完璧に人間に化ける吸血鬼を見つけ出すには、囮が必要不可欠だと考えたからだ。 それに妖魔退治ならば、北花壇騎士団の仕事としての汚れ仕事という意味合いは薄い。 タバサの要請と吸血鬼の生態を聞き、二つ返事で引き受けたグレン。 恐るべき怪物と戦うという気負いはこの男には無い。 そんなグレン達の横顔を、地平の果てから登り始めた朝日の光が照らす。 「夜明けか……」 薄れる月光。 黄金に染まる雲海。 その光景に黒いコートの旅人は、自分が一度死んだ魔炎の雲海を、双子の弟と再会した黎明のサハラを思い出して目を細めた。 この世界は、かの『地獄』に似る。 その光景の中で相似魔導師は小さく、世界は美しいと呟いていた――― ―――平賀才人は地球人である。 地球人である彼に、ここが異世界だと云う事を雄弁に知らせる二つの月が、夜明けの光に薄まってゆく。 そんな異邦の空を眺めたまま、サイトはじっと座ったままだった。 「また眠れなかったのか、相棒」 「なんだデルフ、起きてたのか?」 「起きるも何も、俺っちは剣だから眠らなくても平気なんでなぁ。退屈が過ぎる時にゃあ百年ばかり眠りもするが、基本的には起きてらぁ」 「へぇ……そりゃ便利そうだな」 もしルイズに寝ずの番とかでも申し付けられた時には重宝しそうだなぁ、などと考えて生返事。 この数日あまり睡眠をとっていないので、今のサイトには覇気がまるで無い。 「何だ何だ相棒。娘っ子と同じ部屋で緊張でもして眠れねぇのか?」 「違うよ。少し考え事をしてるだけだ」 藁束の上にあぐらをかいて、ベッドで眠るルイズを起こさないように小声でやりとりするサイトとデルフ。 確かに見た目だけなら極上の美少女であるルイズと一つの部屋だというのは、緊張しないでも無い。 眠っている間は、あのキツい性格も関係無く、まるでお伽噺のお姫様のような少女なのだ。 薄いネグリジェの下には下着を付けていないという事を知っているので、その事を考えるとドキドキして鼻の奥にツーンと鉄の臭いがしてくる。 それに、フーケ退治の時に見せた眩しい程の誇り高さは、サイトの胸に焼きついている。 あと、最近はちょっとだけ優しくなった気もするし。 基本的に調子に乗りやすい普段のサイトなら、夜這いの一つかけてもおかしくは無い。 だが、今は別の人物がサイトの心を独占していた。 グレン・アザレイの事だ。 とは言っても、間違っても「うほっ、イイ男」な意味では無い。断じて。絶対。 あの盗賊討伐から数日後、グレンは自分が召喚された時サイトの世界に居た事を明かした。 その世界は千を超える魔法世界群の中で唯一奇跡に見放された世界である事。 奇跡果てる地ゆえに魔法使い達に地獄と呼ばれて恐れ、蔑まれている事。 住人は悪鬼と恐れられ、グレン達の魔術を観測出来ず、観測できぬがゆえに消去する事。 そして、グレンがその世界を魔法使いに開放するため、住民60億を滅ぼそうとしていた事まで、サイトに語ったのだ。 もしグレンの計画が成功していれば、サイトは家族や友人もろとも海の底に沈んでいたのだと云う事すらはっきりと。 憎むべきなのだろうか? だが、正直なところ話のスケールが大きすぎて実感に繋がらない。 グレンの高潔な人格の一端に触れた今、彼が大量虐殺を企んだテロリストだとも感じられない。 とは言え、わざわざそんな嘘をつく人物でもないだろう。 事実は事実として受け止めるとして、自分はどうするべきなのか。 指針すら見えず、サイトはきっと明日も眠れぬ夜を過ごすハメになるだろう。 考える内にも日は昇りゆき、窓から差し込む陽光が寝不足の眼に痛い。 そろそろご主人様を起こして、朝食掃除洗濯の三連コンボを始めないと、と考えつつ、サイトの頭の片隅にふと疑問が湧いた。 そもそもあの男はなぜ、自分にそんな事を明かしたのだろうか? ―――ゼロのルイズは、幼いころから魔法が使えない貴族である。 厳格な母親の容赦ない叱咤が、上の姉の悪意の無い激励が、使用人達の心無い視線が、幼い少女にはとても辛かった。 つらくて、つらくて、いつも逃げ込んでいた庭の池に浮かぶ小船の中。 その中で泣いている、小さな女の子の夢を、ルイズは見ていた。 泣いているルイズを救ってくれるのは、涼しげな笑顔の貴族。 少年から青年へと変わりゆく最中の、凛々しい魔法使いだった。 ルイズの母が、いずれ必ず王家を守る三つの魔法騎士隊のどれかで隊長になるだろうと太鼓判を押し、強力な魔法使いである父が数年の内にスクウェアメイジのレベルに至るに違いないと語る俊才。 そしてなにより、ルイズの婚約者でもある、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵。 彼は泣いているルイズの肩を抱き寄せると、ルイズをあやすように歌を歌ってくれた。 亡き母上さまから教わったという不思議な秘密の歌を、美声を響かせて歌う。 ワルドがそれを歌うと、キラキラと輝く何かが、二人の周囲をまるでホタルのように飛び回るのだった。 それは魔法ではない不思議。 杖も持たず、呪文も唱えていないのだから魔法であるはずがない。 誰にもナイショだよ、とワルドが微笑みかける。 誰にもナイショと、幼いルイズが力強く頷く。 「ワルドさまは歌い手になるの?」 幼い少女の無邪気な質問。 そうなれば良いと幼いルイズが思うぐらい、ワルド青年の歌声は美しく清らかに聞こえたからだ。 ワルドは笑う事無く、真剣な顔でそれを否定する。 「ぼくは騎士になるんだ、小さなルイズ。誰にも負けない、強い騎士に」 「ではワルドさまは戦いにゆくのね? なりあがりのゲルマニア貴族や、にっくきツェルプストーをやっつけるのね?」 「それよりももっともっと、強くならなきゃダメなんだ」 「恐ろしいトロール鬼や、もっと恐ろしいエルフとも戦うのですか?」 「そうだよぼくのルイズ。ぼくは、エルフにだって勝てるようにならなきゃいけない」 「……こわい」 ルイズは思わず顔を伏せてしまった。 お伽噺でしか知らないエルフが恐かったのではない。 それを倒すと言った時のワルドの眼が、恐ろしいと感じたのだ。 だが、ワルドはそれに気付かず、ルイズの頭を撫でる。 「恐くなんかないよルイズ。たとえエルフからでも、君はぼくが守ってあげるから」 「ワルドさまが守ってくださるの?」 「ああ、ルイズは俺が必ず守る」 突然変化した声に、幼いルイズはハッと頭を上げた。 いや、もう幼くは無い。いつのまにか16歳の現実のルイズになっている。 そして、ワルドだった凛々しい貴族は、どこか抜けた顔のパーカー姿の平民になっていた。 「ななななななんで、アンタが……」 「ルイズは俺が守る」 「へへへ平民のくせに、ななな生意気言ってるんじゃ無いわよ!」 「ルイズは俺が守る」 現実世界では見た事が無いようなキリリと締まった表情で、オウムのように同じセリフを繰り返すサイト。 なぜかドキドキと激しく鼓動しはじめる心臓。うまく息継ぎが出来なくて苦しい。 視界がグルグルと回って、足元がおぼつかなくて、くるしくてくるしくて―――目が覚めた。 ガバリと起き上がって見れば、見慣れた学生寮の自室である。 丁度よっこらしょと立ち上がった使い魔と目が合う。 「ひっ!?」 そしてルイズが気付くのは、自分の服装が身体の線が殆ど丸見えの薄いネグリジェ姿だと云うこと。 ボッと火がつきそうな勢いで、ルイズの頬から耳から全身までが赤く染まる。 「ん? なんだルイズ、もう起きたの―――」 「ごごごご主人様を呼び捨てにしてんじゃないわよ犬うぅぅぅっ!!」 まだ明けきらぬ学院の朝、爆発音が轟き、心地よい一時を邪魔された学生多数。 何も悪い事などしていないのにテレ隠しで吹き飛ばされる使い魔一名。 ゼロのルイズが寝ぼけてやったらしい、というウワサが今朝の朝食の席を賑わせる二番目にホットな話題であった。 さて、では一番の話題は何かと言うと、トリステインの麗しの王女殿下、アンリエッタの学園視察についてである。 ゲルマニア訪問の帰途のついでという形ではあるが、学院とその生徒にとっては名誉な事。 延期になった『フリッグの舞踏会』に合わせておいでいただくという計画もあったのだが、急ピッチで進められた大ホールの補修作業は残念ながら間に合わず、代案として野外でおこなわれる『使い魔品評会』を、殿下をお迎えして執り行うという決定で、品評会の主役になる二年生の間ではどんな芸をさせるかと皆余念が無い。 「しかし姫様のいらっしゃる使い魔品評会で、平民が二人も出るなんて、魔法学院の恥だよな」 「いや、あの青髪のちびっ子は昨日から外出許可を取って何処か行ってるらしいぜ」 「そりゃ、平民を出すのが恥ずかしくって逃げたんじゃないのかね?」 ワハハハハと、ルイズに聞こえるのもかまわず、そんな噂話をする後ろのテーブルの一団。 「あいつら、全然わかって無いわねぇ。その方が幸せなんでしょうけど」 なぜか隣の席について、床で硬いパンを齧っているサイトに向かって「ダーリンあーん♪」とかやっていたキュルケが哂った。 「そりゃあね。あんなトンでもない魔術を見せられたら、あんな事言えなくなるだろうけど。 レベルじゃなくって次元が違うもの。 エルフの使うっていう先住の魔術と、どっちが強いのかしらね」 キュルケの差し出したフォークの先のレアステーキに食いつこうとしていたサイトの頭を掴んでギギギと押さえながら、ルイズはぼやく。 呪文も無しに巨大な腕ゴーレムを操り、魔法の鏡も使わずに遠くを見通し、瞬間転移魔術まで軽々と操るグレンの魔術。 元々ゼロと笑われている自分ならともかく、魔術に自信と矜持のある人間ほどそれを失ってしまいかねない。 その意味では、キュルケの精神的な強さは立派なものだ。 魔法の腕前以上に自分の美貌にこそ自信と誇りをもっているからにしても、だ。 一瞬の隙を突いて掴まれた手から逃れてステーキ肉に突進したサイトの肩を捉えてチキンアームスープレックスで沈めながら、ルイズはライバルの家系である女メイジに、心の中で拍手を送っていた。 ―――平賀サイトはガンダールヴである。 その手の甲にルーンが輝く時、人間を越えた素早い動きで剣を振るう事が出来る。 あらゆる武器を操るブリミルの左手と伝えられる伝説の使い魔は、剣を持てば青銅を容易く両断する。 そんなワケで、サイトの周囲にはバラバラに切断された青銅のゴーレム・ワルキューレが転がっていた。 「ダメだ。全然訓練にならねぇ」 「なっ、失礼じゃないかね! キミがどうしてもと言うから訓練とやらに協力してやってるのにだな!!」 「だってマジで弱いんだもん」 ルイズから、午後の品評会に備えて剣舞の練習をしておけと言われたサイトは、ギーシュに頼んで実践形式で訓練をしようと思ったのだ。 だが、いざ始まってみるとわずか5秒で7体全てを倒してしまった。 ガンダールヴの力、伊達に伝説と言われていない。 こんな訓練ではダメだ。 こんな程度では、あの魔術師には勝てない。 フーケのゴーレムすら、一瞬で握り潰したグレン・アザレイには。 いっそフーケことミス・ロングビルにでも特訓相手を頼もうか。でも大っぴらには出来ないよな、と考えるサイト。 「弱い……このボクが……ボクのワルキューレが……弱い?」 考え込んでいたから、なんだかんだで人の良いギーシュが泣き崩れているのには、まったく気付いていなかった。 ---- 次へ 前に戻る 目次に戻る
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その戴冠式は前代未聞と噂され、ハルケギニアの歴史にも長く残る事となった。 始祖より伝わる3つの玉座の一つ、アルビオン王家の冠を戴くのは少女ティファニア。 尖ったエルフの耳をもつ、異相の王女である。 電光石火の勢いでハヴィランド宮殿を陥落させ、主立ったレコン・キスタ上層部を捕縛した王党派が、王権の復活を宣言してから一週間。 わずかな期間の間に、レコン・キスタはほぼその軍門に下っていた。 5万の兵士を擁した艦隊を全滅させ、8万を超える兵士を中央突破で破った武勇。 ありえない速度での司令部撃破によって、反乱軍上層部の殆どが一網打尽で縄についた。 レコン・キスタ内部を飛び交うの噂には、それを成した伝説の存在が常に付いて回っている。 伝説の虚無を操る始祖の継承者と、それを守る最強の『神の盾』。 転移魔法による進軍をしていたため、本拠地から遠く離れた土地で日干しになっていた主力部隊は元より、アルビオン各地に散らばっていた部隊は恐れをなして次々に投降する。 特にガンダールヴの鬼神の如き戦いぶりを、戦艦を撃ち落す虚無の魔法を見た主力軍の兵士が抱かされた恐怖は深く強い。 実際の被害は全軍の十分の一にも満たなかったが、王軍の生み出した戦果と勇名、特にその先陣であるサイトへの畏怖を刻まれたレコン・キスタに、組織的な反撃をする余力は無かったのである。 既に主だった指揮官は捕縛され、賞罰の徹底と国軍の再編成が急ピッチで進められていた。 反乱軍という位置付けで敗戦を迎えたレコン・キスタ将兵の不安は、当然ながら大きかった。 王軍によって意図的に流された風説には、全員が斬首、あるいは家族にすら累が及ぶとするものも有ったのだから。 だが、不安が最高潮に高まった彼等へと発表された処分は、常識を疑うほどの温情的な処置だった。 反乱軍貴族のうち、指導者格は領地財産没収の上でアルビオン追放。 無領の下級貴族は免職の上で再度の仕官を望む者は平等にとりたてる。 平民は特に積極的に反乱に加担、先導をした者を除いて、全員を無罪放免。 希望者は降格の後、引き続き国軍兵士として仕える事を許すという破格のものだ。 それはティファニアが温情処置を望んだ事と、あまりにも反乱軍の数が多く国軍の数が少なかった事から採られた異例の措置だったが、結果として復活した王家は将兵達から歓呼を持って迎えられる事となった。 その中で発表された新国王の即位は、すべての国民から驚きをもって迎えられる事となる。 王家の血とエルフの血を、二つながらに持つ少女。 しかもその少女こそが、始祖ブリミルに連なる系譜の正当な証たる『虚無』を操ると言うのだ。 圧政者たるレコン・キスタからの解放。 正当なる血脈。 少数で多勢を打ち破った、伝説級の実績。 それらをもってしても、万民を納得させる戴冠とはなるまい。 そう予想しながらもティファニアを擁立した貴族達の予想は、驚きをもって覆される。 それはロマリア教皇、聖エイジス32世の戴冠式出席の報によってであった。 そも王権とは始祖ブリミルの名によって神から与えられるものである。 ために、時に成り上がりの蛮族と誹られるゲルマニアにおいてさえ、皇帝の戴冠を行うのは聖職者の役割であった。 その点は、始祖を始まりとするアルビオン王家ならばなおの事。 敬虔なとは言えないものの、祭壇に祈りを捧げる事も知っているティファニアは、逃亡時代に世話になった修道院の院長に話を通して、その伝手で戴冠式をおこなってくれる司祭を見つけるつもりだった。 だが、その儀式を教皇直々に執り行ってくれるという。 それはもちろん、純粋な信仰の発露やアルビオン王家への好意というワケではなく、始祖の正統の証『虚無』の使い手である新女王をとりまく様々な政治的判断と妥協、そして思惑ゆえの事なのだろうが…… ともかく、その事実はティファニアの正統性を主張する錦の御旗となる。 各国の王もその意向を無視するわけにはいかず、ゲルマニアやトリステインからはその代表が、ガリアからも大使が到着した。 いずれ玉座に座り女王となるのでは無いかと噂される王女アンリエッタ。 ゲルマニアの至尊の王冠を戴く皇帝、アルブレヒト三世。 唯一国王が欠席となったガリアからは王ジョゼフの一子、王女イザベラが。 それぞれの国が誇る最新の戦列艦とその護衛を引き連れて、ハルケギニア王権の担い手達が王都ロンディニウムに集う。 錚々たる列席者に、歓迎は内戦で疲弊したアルビオンにかなう最上級の用意がなされ、王都はお祭騒ぎに包まれた。 街には時ならぬ市場が建ち、内戦に疲弊していた住民達の顔にも笑顔が戻った。 商魂たくましい商人達が浮遊大陸の方々から集まって、珍しい商品を露店に幾つも広げて見せる。 物々しく兵士が巡回する街角を子供達や着飾った女達がさざめきながら行き交う。 街角で旅芸人が歌を披露すれば、道化が踊り、街娘が男達の手をとって踊り出す。 ロンディニウムのそこかしこで「女王陛下万歳!」の叫びが上った。 それは本当に女王の即位を祝う声ではなく、戦争という抑圧から開放された衆愚の無責任な叫びだが、それでもエルフの血を引くティファニアの即位を心底嫌悪してはいないという、その現われではあった。 そんな大騒ぎの中の戴冠式3日前。 国賓として宮殿へと訪れたアンリエッタに、ルイズは再会したのであった。 「お久しゅうございます、姫様」 毛足の長い赤絨毯に膝をつき、ルイズは深々と頭を下げる。 驚くほど広く天井の高い部屋を、魔法の明りとクリスタルを組み合わせたシャンデリアが照らしている。 その輝きにも負けない気品を持った生まれながらの王族の少女は、水晶のついた王家の杖を手に堂々と立っていた。 アンリエッタの隣に控えるのは宰相マザリーニ卿。 背後をルイズは名前も知らないヒポグリフ隊の隊長と近衛騎士達が直立不動で固めている。 「姫様におかれましては御身おかわり無く、まことにお喜び申し上げます」 平静な声が口から滑り落ちる。 ルイズの声の調子に単なる貴族の子女以上の何かを感じたのか、マザリーニ卿のみがわずかに眉を動かした。 ルイズはアルビオン王政府から借りた、ごく薄い桃色の礼服を身につけてアンリエッタを迎えている。 桃色の髪が映える衣装によって、ルイズの生まれ持った気品が普段以上に強調されて、一種の風格にまで高まっている程だ。 その指に光るのは水のルビー。 不思議な感覚だった。 幼い頃共に遊んだとは言え、自分にとって最も敬愛する王女アンリエッタを前にして、ルイズは平静な気持ちを維持している。 しかも辣腕で知られる枢機卿や屈強な魔法衛視隊の歴々までもが控えるその正面で、堂々としていられるのだから。 そう。ルイズは今から戦うつもりだった。 それは槍の替わりに意思を、魔法の替わりに言葉を交わす、けれど命を賭けた戦いである。 自分と、そして己が使い魔の命を賭けた戦い。 なぜかマントをつけていないルイズの姿を見て不思議そうにしながら、アンリエッタは親友の手をとって立ち上がらせる。 「まぁルイズったら……まだあれから10日しか経っていないわ。 けれどあまりにも色々な事があったから、つい長い時間が過ぎたと勘違いしてしまうのね。 お願いよ、私の大切なおともだち。 どうかこの10日間になにがおこったのか、私に話して聞かせてちょうだいな?」 顔をあげたルイズの瞳を正面から見つめて、アンリエッタはそう言った。 その潤んだ瞳には、ウェールズ皇太子がどうなったのかを聞きたいという感情が浮かんでいる。 親愛なる王女の望みを汲み取ったルイズは、王宮の一室に与えられた自分の部屋へとアンリエッタを案内する。 「では姫様、こちらへ。わたくしが見聞きした全てを、お話させていただきます」 それは部外者には聞かれたくないという意思表示。 王女の目配せを受け取って、マザリーニ枢機卿を含めた全員が部屋で待つ。 どうせ魔法なりの手段で盗み聞きはされるのだろうが、それはアンリエッタの立場上言っても仕方の無い事だろう。 慣れた様子で宮殿付きのメイドにお茶を淹れさせたルイズは、アンリエッタと向かい合って椅子に座る。 用事を済ませば静々と退出する、教育の行き届いたメイドが樫材の扉の向こうへと姿を消した。 それからルイズは、アンリエッタに向かって日が沈むまで語った。 伝説と伝説と伝説に彩られ、異世界の魔法が乱舞する10日間の記憶の全てを。 【虚無の使い魔と煉獄の虚神】 虚無の使い手とは、歴史上・信仰上の問題として決して無視できない重みを持っている。 古い時代と比べれば始祖への尊敬など薄れてしまった、聖職者すら信仰を見失いがちな現代においても、決して軽視は出来ない伝説だ。 それが表ざたにされずに隠されているのならともかく、新女王がその担い手であると発表されればなおの事。 まして、伝説の虚無が一軍を破るほどの実質的な「戦力」であるとなれば、各国の王とて無視はできまい。 事実、それによってアルビオン王家は起死回生を果たし、ロマリア教皇すらも動いたのだから。 だからこそ、ルイズとサイトの立場は微妙だった。 その存在と力は既に風説となってアルビオンは元より他国にまで流布している。 それどころか、5万の空軍を壊滅させたのも、虚無とその使い魔の仕業だと噂されているのだ。 無かった事には出来ないだろう。 一国の軍隊に比肩しうる伝説の存在が三人。 1人はアルビオンの女王であり、2人はトリステインの貴族とその使い魔。 異邦の魔法を操る錬金大系の魔導師がアルビオンに居て、神の如き力を振るう相似の魔導師はガリアのメイジの使い魔だ。 更に、死者たる大系魔導師達を操る謎の第三勢力。 戦いをひっくり返す事も出来る未知の戦力の分散と集中は、為政者にとって決して見過ごせるものではあるまい。 既にアルビオン王政府はヒラガ・サイトとグレン・アザレイに爵位と領地の授与を打診している。 王党復活に特に尽力の有った二人を、自国の貴族として迎え入れると言うのだ。 それどころか、ルイズとタバサ、それにギーシュやキュルケに対しても同様の叙勲を申し出ている。 ただし、各国の貴族としての立場を鑑みて、それぞれの実家や国家に了解を得てから、という話にはなっているのだが。 他の三人がどうするのか、ルイズには分からない。 領地継承の目が無い三男であるギーシュにとっては渡りに船だろうし、断る事はあまり考えにくい。 キュルケは確か一人娘だったとは思うが、ゲルマニア貴族が勢力拡大のチャンスを棒に振るかどうかは五分だろう。 タバサの立場は更に微妙だ。 彼女の実家がどのような家系かは知らないが、あからさまな偽名を名乗って留学してきたガリア貴族で、しかもトライアングルクラスの実力者となれば只者ではあるまい。 その上、あのグレン・アザレイの主人となれば、無能で知られるガリア王とて放任すると云う事は考えられなかった。 そしてルイズとサイト。 二人を系譜の面から考えれば、その戦力はトリステインが保有するのが筋となる。 しかしサイトはあくまでルイズと個人の契約によって結び付けられているワケだし、ルイズの実家ヴァリエール家とて、一つ事あれば反旗を翻して王軍と伍す気概と実力は持っている大貴族。 国際的な視点、そして国内の火種として考えても、ルイズの存在は微妙に過ぎる。 だからと言ってアルビオンに二人の下駄を預けて済ませるには、あまりにも危険で魅力的過ぎる武器なのだった。 つまるところ、ルイズ達はうっかり救国の英雄となってしまったため、軍事バランスのコントロールという国際間ゲームのカードに否応無くされてしまっているのが現状なのだ。 アルビオン首脳部はあくまで貴族としての信義から恩賞を与えたいと言っているが、それもテファとモードと言う強力なカードを二枚、既に手中にしている安心感からの発言であることは否めまい。 また、彼等は自分達が与える爵位等を各国が拒否した場合、それと同等の栄誉を与えるべしとの圧力もかけていた。 つまり、グレンやサイト、そしてルイズを我が物としようと言うのなら、それ相応の格を与えて遇せよと言うのだ。 かくして、戴冠式を控えた3日間の宮廷は、きらびやかな見た目とは裏腹に、多大な緊張感を孕んだ外交戦の舞台となっているのだった。 笑顔でもって各国の客人をもてなしながら、様々なカードを切る事に余念が無いアルビオン。 新女王ティファニアが座る玉座の隣で指揮を執るのは、宰相に抜擢されたマチルタ・オブ・サウスゴータその人である。 世事と交渉に長けて世慣れた彼女は、盗賊時代に集めた貴族の醜聞すら利用して、既に頭角を現し始めていた。 反乱貴族から巻き上げた潤沢な資金と、美貌の辣腕宰相の姿に、新生アルビオンは一筋縄では行かぬと政治屋達は噂しあう。 一方、タバサとグレンを当然のように侍らせるのはガリア王女イザベラ。 王宮の一角にて国許から連れて来た使用人達を使って豪華の極みのような生活をしているものの、あまり派手に姿を現すことも無く、傍観者ぶった態度で静観を決め込んでいる。 その沈黙から他国に侮られる面もあったが、グレンという最強の鬼札を手にしている状況にアルビオンの警戒は深まっていた。 法王本人までもが出張ってきたロマリアは、しかしガリア同様の沈黙を守っている。 美貌の青年、聖エイジス32世は不思議な微笑みの下に本意を隠したまま、ただ水面下で「始祖の恵児たる虚無の担い手に、相応の敬意を払うべし」との意思を伝えるのみ。 ただ、その忠実な配下である各国の司祭達を通して、秘密裏に働きかけがあったとも無かったとも噂されていた。 ある意味で最も蚊帳の外に居るのがゲルマニア皇帝であろう。 大貴族であるツェルプストーの判断には、皇帝であっても横槍の口出しはできにくい。 実の娘の参加した騒ぎに、一大事と駆けつけたツェルプストー当主が居る現状では尚更だろう。 それに、英雄の1人とは言えキュルケは端役に過ぎないのだから旨味は少ない。 その上、レコン・キスタの脅威が去ったため、手の平を返したトリステインによってアンリエッタとの婚約は立ち消えになった。 結局、国政から開放されたのを幸いと食べて呑んで狩りや遠乗りの話しに花を咲かせる、ただのヨッパライ貴族のオヤジと化した皇帝陛下であったという。 そして最後の一国トリステインは、決断を迫られていた。 最大の焦点はサラガ・サイトの処遇。 平民だが、伝説の存在であるガンダールヴの彼を貴族として叙するべきか否か。 その決断しだいでは、アルビオンが彼を自国の貴族として迎えるだろう。 虚無の担い手とその使い魔は一組だとも考えられるが、それならばアルビオン女王ティファニアがガンダールヴを従えてもかまわないのだから。 いや、ヒラガ・サイトの処遇に注目しているのはトリステイン一国では無い。 アルビオンは元より、ロマリア法王もガリア国王も、息を潜めて事態の推移を注視している。 8万の大群を先陣にて貫き穿つ『神の盾』にして『アルビオンの槍』。 4大国の要人達から注目される少年はけれど―――暗い部屋の中で独り沈み込んでいた。 赤と青の月明かりが、分厚いカーテンの隙間から差し込む。 この広い部屋にある明かりはそれだけだ。 サイトが一声かければ、隣室に控えたメイドが蜜蝋のロウソクに火を灯して現われるはずだった。 蜀台やランプを用意し、豪勢な食事を持ち込み、浴びるほどの酒や招かれている芸人や楽士を呼んでくる事も出来るだろう。 けれど、サイトは暗い部屋の隅で床に座り込んで、ただ膝を抱えるのみである。 暗闇の中で、サイトはじっと手を見る。 その手の中に残るのは、巨大な鎚と槍を投げた感触。 高揚しきっていたあの戦いの最中では気がつかなかったが、今は小刻みにその手が震えている。 自分は人を殺したのだ。 自分の手で、自分の意思で、自分と同じ人間を殺したのだ。 ギーシュのゴーレムやワルドの遍在を切り捨てるのとは意味が違う。 水の秘術で動かされていた死者を斬ったのとも意味が違う。 裏切り者のワルドの腕を落とした時でさえ……もしも殺していたら、平静で居られた自信は無い。 それは、人殺しを罪悪とする平和な日本で育った少年には重過ぎる事実だった。 回転する巨大な鉄槌に飲み込まれて挽肉になった兵士と軍馬。 電柱よりも巨大な槍に貫かれて串刺しになったメイジ。 その命を奪った感触は手の中に残っていなくても、込み上げてくる嫌悪感は止める事ができなかった。 「母ちゃん……父ちゃん……」 アンタ達の息子は人殺しになっちまったよと、サイトは小さく呟いた。 それは少年の知る社会の常識において、許されないような怪物になったという意味なのだ。 どうでもいいような学校での毎日だとか。 どうでもいいような日曜日の過ごし方だとか。 母親の味噌汁の味だとか、新聞を読みながら屁をこくような父親との団欒だとか。 そんなどうでもいい、けれど掛け替えのない日々に、殺人者になったサイトはもうきっと戻れない。 俯いたまま、下唇をきゅっと噛む。 そうやって我慢しようとしたのに、せつなくて涙が溢れるのを止められなかった。 「…………サイト」 ほんの半月で聞き慣れた優しい声に、真っ暗な部屋へと目を上げれば、そこに桃色の髪の少女が立っていた。 ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエール。 サイトのご主人様の姿は、闇の中にあってなお輝くように美しかった。 「ルイズ?」 「ごめんねサイト……私のせいで……私のために、そんな風に傷付いて……」 泣き出しそうな潤んだ瞳。 細く頼り無い体を罪悪感に絡み獲られられながら、けれどルイズの頬はどこか上気したように朱に染まっている。 膝をつき、サイトを抱きしめたルイズの身体からは、甘い少女の香りと女の鼓動が伝わってきた。 「大丈夫だから。アンタは私の使い魔だもの。だから、サイトの罪は私のものよ。 死んでまで操られていたかわいそうな魔導師を斬ったのも私が命令したから。 たくさんの兵隊に向かっていったのも私がそう望んだから。 魔法で増えたワルドに向かっていってくれたのも私のためだもの。 サイトは悪い事なんてなにもしていないわ。 貴方の罪は私から生まれたものだから、全部私が引き受ける。 貴方の痛みは私の責任で生まれるものだから、全部私が引き受ける。 だからサイト。貴方を罪深くして、貴方を痛くするのは私だけよ?」 少女の瞳が熱くゆらめく。 愛でもって全ての罪を浄化する慈母のように。愛でもって全てを奪いつくす娼婦のように。 ガンダールヴ・サイトという存在が各国の要人達から注視されている現在に在って、ルイズはサイトに自分だけのナイトで居て欲しいと望んでいた。 誰かに、例えばティファニアに奪われたくない。 離れ離れになるのも絶対に嫌だ。 それはある意味で、ボタンの掛け違いのような偶然によって生まれた感情だったかもしれない。 サイトが本来の、もっとお調子者で年相応にスケベな一面を見せていたら、今ほど抵抗無く惚れ込む事は無かっただろう。 けれど幸か不幸か、グレン・アザレイの存在がサイトから余裕を無くさせ、結果として本来よりも幾分か慎重で苦悩する少年へとサイトを成長させていた。 ワルドの裏切りからもう少し時間を置く事が出来れば、ルイズももう少し冷静になれただろう。 けれど嵐のような事態の推移が、そのための時間を少女から奪い取った。 間髪入れずに目の前に晒された『虚無の担い手』という自身の価値が、少女により強く負担を与えた事も影響しているだろう。 だから不安定な少女は求めた。 強く、優しく、自分のためだけに戦ってくれるナイトを。 「ねえサイト。私は貴方と一緒に居るわ。 そのためにトリステインを、ヴァリエールを捨ててもかまわない。 誓って。貴方だけが私を捕まえて、貴方だけが私を痛くするんだって。 そうしたら貴方の罪も罰も痛みもすべて、私だけが引き受けてあげるから」 少女は告げる。少年がどの陣営に連れて行かれる事になろうと、自分はそれに同行するのだと。 それは甘やかな堕落の蜜。 そこに縋ればあらゆる罪から逃れる事ができるだろう。 サイトの手がルイズの抱擁に答えようと持ち上がり……そして力無く落ちた。 それは、それだけは出来ない事だった。 自分の罪を使い魔と主人という関係性に縋ってルイズに押し付けるなど、男として出来る事では無い。 それ以上に、サイトには目標があったのだ。 倒すべき、いつか戦うべき目標。 5万の人間を一瞬で滅ぼし、その虐殺を虐殺であると受け入れた神に似た男。 自分自身の罪をルイズに押し付けるような男が、その前に立つことなど出来ないだろう。 だからサイトは泣いた。ただどうにもならない事に泣いた。 その涙を、愛しそうにキスで拭うルイズ。 誰よりも近くに居ながら、二人の心は誰よりもすれ違っている。 けれどその日。 二人の身体だけはベッドの中で重なるのだった。 雲が高い。 ここはハルケギニアから遠く離れたコンクリートとアスファルトで固められた世界。 排気ガスの充満する空を割いて、ギラギラと輝く真夏の太陽が地上を照らす。 反射熱で大気は炙られ、陽炎のように視界を歪めていた。 そんな灼熱の東京で、ほんのわずかに見える小さな緑地の中に、その施設は建っている。 神社でありながら、いかなる宗教でも無いとされるその施設の名は靖国神社。 戦争によって没した死者を英霊として祭る、巨大な慰霊碑。 その境内に、1人の男が立っていた。 一見して西洋人とわかる男の姿は、この場所では奇異かと言えばそうでも無い。 あまり知られていないが、靖国神社には戦没した西洋人の御魂も祭られているため、ここを訪れる外国人も皆無では無い。 だが、その男のいでたちは、やはり奇異だと言わねばならないだろう。 突き刺すような日差しを無視した、まるで男自身が逃げ水であるかのような印象を与える白いスーツ。 白い帽子の下には、道化を連想させるうさんくさい笑顔。 なにより奇異を感じさせるのは、右目を覆う銀の眼帯の存在だ。 彼を不思議そうに見る、境内を掃除した帰りの老人は知るまい。 この男が、東京を核爆弾で滅ぼそうとしているテロリストの協力者だなどとは。 大きな黒い目を不思議そうに眇める、老人の孫らしい少年も知るまい。 この男が、百年以上の時を日本の歴史と共に過ごした『悪い魔法使い』である事など。 男の名は王子護ハウゼン。 自身の感覚を起点に世界を認識した形に変える完全大系の魔導師にして『マジシャン』の異名を持つ魔人である。 だが王子護はその時、ただ静かに眠る魂に哀悼の意を捧げていた。 彼が日本という国に現われて百年。 政府の裏の顔に携わる時間も長かった男は、軍人の指導教官という立場だった時代もある。 もっとも生徒は異世界から追放された犯罪者達であり、彼等の乗る飛行機には片道分だけの燃料しか積まれていなかったが。 つまるところ、特攻隊のパイロットの養成が王子護ハウゼンの仕事だったのだ。 だから此処には彼の教え子も奉られている。 他の多くの刻印魔導師には別の、専任係官や犯罪魔導師も共に埋葬されている寺があるのだが、日本という国家を守るために南海で散った彼等の御霊だけはこの靖国に眠るとされたのだ。 本当にこの地が核によって更地になるかもしれないからと一度だけ手を合わせに来たのは、長すぎる時間を生きる怪物の中に残った、わずかばかりの人間性の表れだろうか。 炎天下の境内に立ち尽くすハウゼンは、じっと靖国本殿へ視線を向けたままでいる。 その中に有るのは整然と並べられた無数の木札。 そこには一枚一枚に1人ずつ、戦没者の名前が余さず記されている。 ここにあるのはこの札と魂、それにわずかな遺品のみで、遺体や骨は一切無い。 そもそも死体が残るような死に方をした者など、あの悲惨な戦争に駆り出された魔導師の中には1人も居なかったのだから。 だが、だからこそこの靖国という形こそが、魔法世界の中で唯一神無き地、奇跡に見放された世界と言われる地球で、罪人として命を落とした魔法使い達の死を弔うのに、あるいは相応しいのかもしれないと王子護は皮肉気に思う。 その皮肉な笑顔を崩さぬまま、無数の札の中から一つ一つ教え子の名を読み取っていく王子護。 高位魔導師である彼にとって、悪鬼による魔法消去さえ受けなければ境内からでもその全てを読む事に支障は無いのだ。 その中の一つを目にした時、ふと魔法使いの視線が止まった。 書かれているのは教え子の名では無い。 「シラヌイ……キミは本当に死んだんデスかね?」 『不知火』と呼ばれたその男は、公館において刻印魔導師を統率する専任係官の1人だった。 スローターデーモンと恐れられ、魔導師を死地に追いやる悪鬼の中の悪鬼。 魔法も使えず特殊な能力も無く、しかし極まった剣の技で不知火の如く眼前から消え失せ、相手がそうと気づかぬ内に殺害したという。 その技の冴えは、当代で最強と噂される『鬼火』のそれにも匹敵するか。 魔法を使えず、感知も出来ず、治療魔術の恩恵も受けられないがゆえに、この世界の戦闘技術は奇形的な鬼子となった。 その限界を極めた、一匹の剣鬼。 で、ありながら、不知火は刻印魔導師だけを特攻機に乗せて戦場へ送る事に反対した。 そして専任係官は刻印魔導師を管理監督する者だと言って、自らもゼロ戦に乗り込み―――当然の如く帰還しなかったのだ。 だが、王子護は不知火が死んだとは感じていない。 自身も選任係官として公館の歴史と共に歩んできたその中で、最も死ぬ姿が想像出来なかった男が彼だ。 認識によって世界を書き換える魔法使いにすら、死を空想できない戦鬼。 太平洋で戦死したとして木札一枚奉られているのが彼の知る不知火だとは、王子護には思えなかった。 「ササキ・タケオ……そう言えばキミはそんな名前でしたっけネ、シラヌイ」 数十年ぶりに同僚の本名を確認するように呟いて、王子護はきびすを返した。 感傷はここまで。 この先は『仕事』を十全に片付けねばならない。 周囲の視線が途切れる瞬間、王子護は転移魔法を発動させた。 目の前の空気の揺らぎを空間の歪みと認識して、そこに無理矢理転移の扉を作り出したのだ。 不知火のように消え失せる白スーツの魔法使い。 後にはただ、セミの鳴き声と真夏の日差しだけが降り注いでいた。 そんな、真昼の東京から遥か次元を隔てて離れたハルケギニアの夜。 二つの月が照らす水面は、美しい赤と青の月光に染まる。 地球の月よりも位置が近いのか、あるいは惑星そのものが大きいのか。 この世界で満月の夜は、夜半を過ぎて街の明かりが消えた時間でも十分に明るい。 フラフラと水面の月を覗く少女の顔もはっきりと見えるぐらいに。 まだ若い、綺麗な顔立ちをした娘だった。 笑顔を見せれば誰もが好感を抱くだろうその顔は、しかし今は絶望の色に染められている。 大切な何かを失った表情だった。 失いすぎて、なにもかもを見失った表情だった。 悲しみが、苦しみが深すぎて、自分自身のありかさえ見失い―――彼女は目の前の河に身を投げた。 大きな水音が夜陰を裂く。 水を吸った衣服は瞬時に重苦しい拘束具になり、このまま沈めばわずかな時間で少女の命は失われるだろう。 だが、冷たい水に身体を絡めとられ、意思が決した自分の死に肉体が従おうとしたその時、強烈な恐怖が生存本能を呼び起こした。 死にたくない。生きたい。 自殺のために飛び込んでいながら、少女は死を恐れてもがく。 喉に流れ込む川水を吐き出し、酸素を求めて浮上すべく手足をめっくらぽうに振り回した。 死ぬのは嫌だ。そう、本当は死にたくなんて無かった。 辛い思いもした。大切なたった一人の父親を亡くした。だけど死にたくない。死ねない。 父を自殺においやった、あの憎い貴族がのうのうと生きているのに、死ねるものか。 狂おしく生を望む必死の形相に、怒りと憎しみの色が加わる。 と、その身体がフワリと浮力を得た。 誰かが河に飛び込み、溺れている自分を抱きかかえてくれたのだと少女が気付いた時には、その逞しい腕で河原に引き上げられていた。 強く咳き込んで肺に侵入しかかっていた水を吐き出す少女。 その咳は、いつのまにか嗚咽へと代わっていく。 ずぶ濡れになった頬を涙がこぼれ落ちる。 悔しかった。悲しかった。 なによりも大切な人を亡くして絶望しながら、それでも生を望む浅ましさが。 だれよりも大事な人を死に追いやられながら、復讐も出来ない無力さが。 幸せだったのに。母親を早くに亡くして、父親と二人だけで暮らしてきたけれど、自分達は幸せだったのに。 誰に迷惑をかけるわけでもなく、ただ平穏に暮らしていた。 街の片隅でごく普通の居酒屋を営んでいた父と、ちょっと引っ込み思案なウエイトレスだった自分。 父が腕を振るった料理が評判で、近所の家族連れなども多く訪れたこじんまりとした店。 酔っ払うといつも歌声を披露する昔楽団員だったというオジサンや、会うたびに飴玉をくれたお爺さんが常連だった。 親子の小さな生活は、たった1人の貴族の、ほんの気まぐれで壊される。 半年前、たまたま徴税官のチュレンヌという貴族の不興を買った父の店は、ありえない額の税金を掛けられて潰されたのだ。 役人によって差し押さえられた店の前で親子は途方にくれた。 正当な手続きなど行われていない。 文句を言っても聞いてもらえない。 それどころか、店の前を通りかかったチュレンヌに縋りついて直訴した親子の目の前で、徴税官はとりまきに命じて無数の攻撃魔法を店へと放たせたのである。 それは圧倒的な、平民などにはどうしようもないメイジの力。 何もかもを奪われ、恐ろしい力を見せ付けられ、父は心身を病んだ。 病に倒れ、日がな一日床についたまま呆けたように壁を見つめるだけの父。 変わり果ててしまった、料理が上手くて、働き者で、いつも笑顔だった大好きな父親。 その父が、昨日首を吊って死んだ。 賃仕事から夕方遅くに帰宅した娘の目の前で、バラック小屋の柱からぶら下がった父親の足が揺れる。 カーテンも無い窓から差し込む夕日で真っ赤に染まったその光景を見て、少女は全てが終わったのだと知ったのだ。 嗚咽が慟哭に変わり、少女は喉も千切れよとばかりに泣きじゃくった。 彼女を水中から引き上げた太く逞しい腕は、ただ静かに肩を抱いてくれている。 分厚い胸板。温かい体温。それと、河に跳び込んだせいで流れてしまった微かな香水の残り香。 散々泣いて泣き疲れて、見上げた顔には見覚えがあった。 撫で付けた黒髪と割れた顎。 いまはベットリと顔に張り付いてしまっている、瀟洒な口髭と顎髭。 「どうやら落ち着いたみたいね、ジャンヌちゃん?」 体格に似合わないオカマ言葉の優しい声。 穏やかそうなつぶらな瞳の中年男性は、少女の小さな幸せだった店と同じ通りで酒場を営んでいる人物だった。 「スカロンさん……」 「もうっ、びっくりしたわよ。貴女を探してたら、こんな所で溺れてるんだもの!」 なぜ探していたのかは言われなくても知れた。 父の死体が見つかって、その場に居なかった自分を心配した知り合いの大人達が探して回ってくれたのだろう。 そう思ってみれば、何処かからおーいだとか、見つかったかーだとか言う声が聞こえる。 スカロンは「見つけたわよー」と大きな声で叫んでから少女、ジャンヌを抱き上げた。 「大丈夫だから。苦しい日も悲しい日もあるけれど、生きていればきっと良い日は来るから。 諦めちゃダメよ。絶望しちゃダメよ。なにより、貴族の横暴なんかに負けちゃダメ。 神様は見ていらっしゃるもの。悪い人にはきっと天罰が下るわよ」 優しい声が耳元に響く。 ポンポンと背中を叩く大きな手に、ジャンヌは元気だった頃の父親を思い出してまた泣き出してしまった。 泣いたままの少女を『魅惑の妖精亭』へと連れて帰るスカロン。 それからジェシカに付き添われて身体を拭いてもらい、桶に張った温かな湯で身体を洗ってもらった。 優しさが疲れ切った心と身体に染みこんでくる。 「ウチに来ると良いよ。私達と家族になろう?」と言われながら、ジェシカのベッドで並んで眠るジャンヌ。 その一瞬前、大きなコウモリかカラスが飛び立ったような変な幻を見て、少女は重いまぶたを閉じるのだった。 大きなコウモリかカラスが舞い降りた。 徴税官チュレンヌは二つの月の光の下で、目の前に影が降り立った時にそう感じた。 いや、違う。 魔獣幻獣が跋扈するハルケギニアにとて、人ほども大きなカラスやコウモリなどそうは居ない。 ましてやトリステインの首都トリスタニアという大都会に、そんな未開の怪物など現われるはずが無いのだ。 「人間!?」 誰何の声をあげれば、思った通りにソレは人間であった。 ただ黒いマントを身に付けているために、カラスやコウモリの類に見えたのだ。 「何者だ貴様!?」 「このお方を徴税官チュレンヌ様と知って行く手を阻むか?」 周囲のとりまきが詰問口調の声をあげる。 今の今まで街の酒場でタダ酒を飲んでいた男達は、気が大きくなっていた。 だから逆に、注意力や判断力は最低中の最低にまで低下している。 男はマントこそ付けていたが杖は持っていなかったので侮ったのだ。 その腰に一振りの曲った大剣を提げている事も気が付かずに。 目深に被った奇妙な形の帽子のツバの下の眼光が、尋常な物では無い事も気付かずに。 「もちろんチュレンヌ様と知っててトオセンボしてるわよん。 アンタが悪徳徴税官で、どうしようも無い下衆って事もね。 でもタダ酒たかる程度ならまぁ見逃すかと思ってたのよ? その程度の小悪党、貴族に限らず何処にでも居るもの。 だけど―――アンタのせいで人死にが出たとあっちゃあ捨ててはおけないわ。 たとえ王女殿下と始祖ブリミルが見逃しても、アタシのご先祖様が許さないのよ!!」 男の……それとも女なのか、やたら野太い声だが女言葉の口上に、チュレンヌのとりまきは嘲笑と共に杖を構えようとして――― 首が落ちた。 一瞬で5人のメイジが、抵抗も出来ずに真紅の飛沫を上げる噴水と化す。 呆然とする仲間達。 目の前のマントの男が不知火のように消え失せたかと思った次の瞬間、抜く手も見せずに振るわれた異国調の剣で切り殺されたのだと理解出来ただろうか。 限界まで研ぎ上げられた技量はまさに魔法の領域。 おそらく痛みも感じる隙無く死んだ5人がぐらりと揺れて倒れるよりも前に、更に3人が斬殺される。 ここに至ってようやく漆で朱に塗られた鞘をカラリと石畳の上に投げ捨てて、八艘の形に剣……否、カタナを構える男。 長さは子供の身の丈ほどもある刀は、俗に胴田貫と呼ばれる大物。 特に朱鞘のソレは鎧すら断ち切ると言われ、カブトワリの異名をもって知られる大太刀である。 豪腕でもってその刀を軽々と振り回す怪人は、低い声でたった一人生き残ったチュレンヌに向かって滔々と宣告する。 「護国の戦鬼ササキタケオの遺志によりて、無辜の人々を脅かす犯罪魔導師を狩らん。 ―――アンタはやりすぎたのよ、死んであの娘の父親に謝りなさい」 「ヒッ!?」 慌てた徴税官チュレンヌの舌が回転する。 だが、男の動きはメイジが呪文をつむぐよりもなお高速だった。 魔法を持たず、治癒魔法の恩恵も受けられぬ平民だからこその鍛え上げられた四肢。 そこから生み出される決死の意を伴った剣の業は、奇形的とも言えるだろう。 人が言葉を発するよりもなお速いという、まさに迅雷の剣閃。 ある種の論理体系にて編まれた足の運び、腰の捻り、一刀を振り抜く腕の動き。 その全てが一体となった刀は、白光となってチュレンヌを袈裟に切り裂いた。 呪文を唱えるための肺と、生きるための心臓、そして杖を握った腕を一瞬で切断されて、徴税官は単なる肉の塊と化す。 8人分の血溜まりの上にビシャリと音をたてて転がる男の上半身。 見開いた目が、自分を殺した剣鬼の姿をうつろに写す。 死の間際に気がついただろうか。自分を殺した男が、何度もタダ酒を飲んだ酒場のオカマ店主だという事に。 そしてもう一つ。 黒に見えたマントは年代を経て返り血を浴びたため黒ずんでいるだけで、元々はカーキ色だった事に。 剣鬼が身に纏うのは、襟に少尉の階級章が縫い付けられた大日本帝国海軍の外套。 第二次大戦中の南海にて消えた公館の専任係官、スローターデーモン佐々木武雄の遺品であった。 次へ 前に戻る 目次に戻る
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スレ番号 この技どんな技? 質問番号 837 レス番号 839 参考 羽根折り腕固め 昔、ライガーが「獣神ライガー」時代に「鬼殺し」という技を使ってたと聞いたことがあるが、どんな技だったの? 「鬼殺し」=中途半端なフルネルソン 編者注 フルネルソンから相手を引きずり倒してのハーフネルソン。 「骨法」の技らしい。 羽根折り腕固めの元祖という意見も有る。 関連するリンク 名前 連絡事項