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柴家の一族 柴 幸之助が初代の柴グループの総社長だが…その先は不明である 柴家の主な人物の家系図 柴 幸之助 ━━━ 柴 魔弓 ┃ ミア━柴 幸戦 ━━ 柴 幸念 ┃ ┃━━━━┃━━━┃━━━━┃ ┃ ┃ ┃ ┃ ┃ 柴 元禄 柴 幸作 柴 勝正 柴 幸街 柴 幸羽 柴家の人物の簡単な説明 柴 幸之助柴家の一代目の主 魔弓が妻。子は幸戦、幸念 柴 幸戦柴家の二代目主 ミアが妻、子は元禄 柴 幸念妻は不明。子は幸作、勝正、幸街、幸羽 柴 元禄早く他界したため、三代目にはなれなかった 妻は菊理。子は彦緑と元雲。 柴 幸作柴 幸念が親。三代目主 妻は黒陽 雪姫。雪姫が禁断の魔術により生まれ変わったため黒陽 雪姫が禁断の魔術で30年ほど若返り不老不死になったのである 子は、幸源、幸松 柴 勝正サイトの人間に殺害されたが、その犯人を幸作が死より怖い恐怖を味あわせて殺害した。 柴 幸街妻は律子。子は幸道。 柴 幸羽妻はリム。子は幸炎、羽天、幸決
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【虚無の使い魔と煉獄の虚神3・貴族と盗賊】 トリステイン魔法学園教師『疾風』のギトーは風のメイジである。 彼は常々『風』の魔法こそは最強の系統であると信じていた。 どの系統よりも早く、攻撃魔法も豊富で、なにより風は『遍在』する。 だが今、風が遍在するという事の意味を改めて知り、そしてそのチカラに驚愕の念を感じさせられていた。 「相似魔術は似た物同士を同じものとする魔術系統。 そして風、つまり大気の組成はこの世界の何処に在っても『似た』ものである。 ならばその相似を利用すれば、世界のいずこであろうとも視界を通す事も出来る」 偽装のために用意された杖を握るグレンの説明に、集まった学園教師達がどよめく。 かつて地球全土にちらばる数万の魔導師すべてに己の声を届けた『神に似た』男にとって、ハルケギニアの何処に土くれのフーケが逃げ出そうと見つけ出すのは容易い。 倒壊した本塔の前に集まった、目をつむらされたサイトを除く全員の眼球は銀弦で繋がれ、 それを介して網膜に飛び込む光を『似せ』られる事で、馬車を駆って逃げるフーケの姿を確認していた。 学園から盗んだ馬に乗って逃げるマント姿の人物の背に、奇妙な形の金属塊「破壊の杖」が背負われているのを、彼等ははっきりと見た。 「なんとも凄まじい魔術じゃな……ご協力を感謝しますぞ、ミスタ・アザレイ」 額に浮いた冷や汗を拭いつつオールド・オスマンは感謝を口にした。 学園長の唱えたライトの魔法で照らされている他の教師達は言葉も出ない。 本当はそうやって『視た』場所に、ここに居る全員を転移させる事も可能だったがグレンは黙っておくことにする。 単なる盗賊退治に誇り高き魔術師が全員で押しかける事もなかろうと思ったからだ。 だが、双月の月光の下でおこなわれる会議は紛糾した。 図書室や学園長室、ついでに女子大浴場などが含まれた校舎である本塔が倒壊。 グレンが咄嗟に救助したおかげで死傷者は無いが、オスマン氏の秘書ミス・ロングビル女史が行方不明。 甚大な被害を隠せる訳も無く、明日にも王国へ情報は流れ、騎士団の一つも調査に派遣されるだろう。 場合によっては学園の警備体制等に抗議や指導が与えられるかもしれない。 誇りを傷つけられたと言うなら、これ以上の事もそうはあるまい。 ゆえにオスマン氏は学園の問題は学園で解決すべしと言ってフーケ討伐の志願者を募るが、誰もその杖を掲げて志願しようとはしない。 貴族であるならば立ち上がってしかるべき時のはず。 けれど教師達の誰もがそれを躊躇うのは、噂されるフーケの力に恐れをなしての事だ。 一人、戦えば自分が盗賊を殺してしまう事に恐れを感じている者も居るが、それは少数の例外に過ぎない。 中には数人、目の前の強力無比な使い魔にやらせれば良いではないかと言いたげな視線をグレンに向ける者さえいた。 その中で、桃色の髪をなびかせた少女が杖を掲げる。 事件の目撃者としてキュルケやタバサ、サイトと共に連れて来られていたルイズであった。 「ミス・ヴァリエール!? なにをしているのです! 貴女は生徒ではありませんか! ここは教師にまかせて―――」 「誰も掲げないじゃないですか」 決然と正面を見据え、強く唇を噛んで少女は決意を表明する。 隣では主人が蛮勇を行使することに呆れつつ諦めたように肩をすくめるサイト。 それでも、逃げ出そうなどという意思は微塵も感じられない。 更にツェルプストーとしてヴァリエールに後れをとるワケにはいかないとキュルケが、キュルケが行くのならとタバサが杖を掲げた。 そんな少女達の姿に、ローブの使い魔が自らも杖を掲げて喝采を送る。 「見事なり。これぞ魔術師。これぞ誇り。 魔術という翼を背に、高く駆けんとする魂の在り様。 貴族を、教師を名乗りながら恐れに負けた者達、翼を持ちながら飛ぶ事を忘れた者達は、 彼女等の前に等しく頭を垂れよ」 グレンの言葉は正しい。 正しいがゆえに、教師達の誰もが黙り込み、ある者は怒りの視線を向け、ある者は自虐に顔を歪ませる。 誇りを口にして貴族を名乗るのなら、どんな敵にも困難にも退く事は許されないのだから。 同時にグレンの言葉は正しくない。 誰もが心に正義を抱きながら、現実のままならなさを、己の矮小さを、思い知らされながら大人になってゆくのだ。 誰もがグレンのように桁外れの実力で純粋な正義を持ったままで大人になれるわけでは無いのだから。 それでも、その真直ぐな怒りと歓喜には誰も文句をつけられなかった。 正しいことは正しいのだと断じる、決して自ら膝を折る事を良しとしない大貴族の少女の姿は、恐怖に敗北した自分達にはあまりにも眩しかったから。 「征こう、誇り高きメイジの娘ら。剣を握れ悪鬼の少年。なに、直ぐに済む瑣末な用事だ」 言われてデルフの柄を握るサイト。その左手にルーンが輝く。 次の瞬間、室内から三人の貴族と二人の使い魔の姿が消えて、枯葉で出来たヒトガタが現われ、そしてクシャリと崩れ落ちた。 『土くれ』のフーケは逃亡者である。 なれば注意は怠らない。 本来なら近場の街へと逃げ込んで、そこから馬車などで獲物を売り払える大都市へと移動するものだが、 用心のために森林地帯へと逃げ込んだフーケは森の入り口で馬を逃がし、獣道同然の森道へと分け入っていた。 細身ではあっても、ぬくぬくと暮らしてきた貴族とは心身の鍛えかたからして違う自分なら、森を抜けるまで二日とかかるまい。 そこからフライで半刻ほども飛んで馬車を拾える街まで行くつもりであった。 この森の中なら、学園のメイジが空を飛ぶ使い魔を放っても見つからないから、もう追っ手の心配は無いだろう。 そう思った矢先、フーケは来ないはずの追っ手によって包囲されていた。 「冗談!? いくらなんでも追いついて来るのが早すぎるよ!」 ざぁっと音がしたかと思うほどの勢いでフーケの顔から血の気が引く。 飛んできたのでも隠れていたのでもない、系統魔術では考えられない空間転移で現われた魔術師に囲まれれば、それも当然か。 「観念していただきましょうか、盗賊フーケ! まさかこの状態から逃げられるなんて、思っていませんわよねぇ?」 「くっ……」 キュルケの宣言にフーケは奥歯を軋ませる。 正面に立つのは、似合わない簡素な杖を持った怪物魔術師。 左右にはそれぞれ、青髪の『雪風』と赤毛の『微熱』というトライアングル・メイジ。 背後には『ゼロ』のルイズと、錆びた剣を構えたその使い魔が立っている。 一番組し易いように見えるのは後ろの二人だが、そちらに逃げれば正面の怪物に背中を見せる事になるだろう。 万事窮すかと、フーケの四肢から力が抜け、勝ち誇ったキュルケの笑い声が森にこだまする。 「おっほっほ! おほほっ! この多勢に無勢じゃ、私の炎を出すまでも無かったわね、さあ、大人しくお縄に……」 「待って、ツェルプストー」 勝ち誇るキュルケ。それを遮るルイズ。 「なによヴァリエール。フーケ捕縛の功は自分のものにしたいって言うの? まぁ最初に杖を掲げたのは貴女なんだし、べつにかまわないけど」 「違うわ。ただ、大勢で一人に襲い掛かるなんて貴族のやり方じゃ無いと思っただけよ。 『土くれ』のフーケ、貴族の誇りをかけて、貴方に決闘を申し込むわ!」 「なっ!?」 突然の行動にフーケが驚きの声をあげる。 続けて巻き上がったのは、キュルケ、サイト、デルフからの非難の嵐。 「ちょ、ヴァリエール、なに馬鹿な事言ってるのよ!」 「そうだぞルイズ! お前って魔法使えないんだろうが! あんなゴーレム作れるやつと、ゼロのくせに決闘なんかしたら殺されちまうぞ!」 「そうだぜ娘っ子、考え直せって」 「うるさいうるさーい! 私はね、自分が恥ずかしかったのよ! ミスタ・アザレイが私を貴族だと褒めてくれた時、私はあさましい事を考えていたわ。 討伐に名乗りを上げたのは確かに誇りのためでもある。 でも、フーケを捕まえたら認めてもらえるかも、もうゼロとは呼ばれなくなるかもって思ったのよ。 こんなの誇りある貴族の考え方じゃない。 その上、今だって私はなにもしていないも同然じゃない。 ツェルプストーの言ったとおり、最初に杖を掲げたのは私よ。 だから私が責任もって、正々堂々貴族らしく決闘でフーケを捕まえるわ。 我侭なのはわかってる。 でもそうしなきゃ、私はミスタ・アザレイの言った『貴族』では居られなくなるの!」 一息にそう言ってルイズはフーケに杖を向けた。 「私を倒したら好きに逃げていいわ『土くれ』のフーケ。さあ、杖を取りなさい!」 あっけに取られるキュルケやフーケ。無表情なタバサ。 そしてグレンの顔には、深い笑みが刻まれる。 彼女のあり方こそ誇り。 正しいと思う事を、命を捨ててでも貫こうとする意志が、人をより高きへと至らせるのだ。 かつて千の魔法世界に対してたった一人で戦いを挑んだグレンの誇りと、彼女のそれは等価のもの。 震えを隠して勝てぬ相手から視線を逸らさず仁王立ちするルイズ。 小さくて頼り無く、けれど心が震えるような自分の主人である少女を守るように、サイトはフーケとルイズの間に入るように立った。 「って言うか俺の事は犬とか奴隷とか散々な呼び方なのに、あの人はミスターかよ。お前やっぱヒデーヤツだよな。知ってたけど」 「な!? こんな時にいきなり何を言ってるのよ?」 「使い魔はご主人様を守るものなんだろう? ルイズが決闘するんなら俺も参加しないワケにはいかねーじゃねーか。 正直恐いけど、すっげー恐いけど、つきあってやるから感謝しろよな」 グレンの笑みは更に濃くなった。 悪鬼の少年が見せたこれもまた誇り。 決闘の作法も知らぬ無骨さ無作法さではあるが、少年のそれい忠誠とも勇気とも、あるいは愛とも呼ばれる高貴な魂の在り方だ。 「ふざけんじゃないよ甘ちゃん貴族が! 誇りなんかが何の役に立つって言うんだい!」 「退いてなさいサイト! 決闘は1対1でするもんよ!」 二人の姿に何を感じたのか、激昂するように叫びながら銀色のタクトのような杖を抜いてフーケが呪文を唱え始めた。 サイトを突き飛ばして迎え撃つルイズ。 体勢を崩したサイトだったが、その身体はグレンの魔術で支えられ、浮かされ、 いつのまにかルイズから少し離れた場所に集まっていたキュルケやタバサの隣に降ろされる。 唐突に始められた決闘に先制したのはルイズ。 どうせ失敗する魔法ならと、ごく短い呪文で唱えられる『明かり』の呪文を使って爆発を起こす作戦を選んだ。 だが、それでは狙いをつけられない。 フーケはバチンと音をたてて弾けた失敗魔法で頭上の太い枝が落下してくるのを、素早く避けながら呪文を完成させている。 地面から生み出される岩のツブテ。 自分めがけて飛んで来るそれを、ルイズは木の幹に隠れる事で回避した。 「ルイズ!」 やはりマトモな魔法など使えないルイズに、見ちゃいられないとばかりに駆け出そうとするサイトだったが、その肩をキュルケに掴まれて止められた。 「止めちゃダメよダーリン。あの子は今、命よりも大事なものを賭けて戦っているんだから」 「そんなの理解できねーよ。命より大事なものなんて、有るワケないじゃねーか」 「あら、ギーシュのゴーレムに何度も立ち向かって行ったアナタが、判らないはずないでしょう?」 「それは……」 キュルケのもっともな言い分に押し黙る。 けれどサイトは、我侭だとわかっていてもルイズにそんな危険な事をして欲しくないと思った。 ルイズが怪我をしたり死んだりするぐらいなら、自分が戦って傷付く方がずっとマシだと。 でも、それもまたルイズが今戦おうとしている理由と同じ種類の心の在り方なのだ。 「誇りのために戦う者を止める事は神にとて出来ぬ。今は剣を置いて見守りたまえ、少年」 「けど、それでもおれ、納得できねぇよ……って、俺が剣を置いたらアンタは魔法が使えないんじゃないのか?」 「わたしとて彼女を手助けしたくなる自分を抑えるのは、いささか難儀している」 グレンの言葉を聞いて、サイトは初めてこの立派すぎる魔術師を同じ人間なのだと感じた。 そしてルイズの戦いから視線を離さないままの彼の言葉に免じて、デルフを地面に突き立てる。 その目の前で、ルイズは貴族にも恐れられる名うての盗賊相手に善戦して見せていた。 最短のスペルで連続して放たれる失敗魔法。 下手な鉄砲もなんとやらで、狙いこそ付けられないがフーケもウカツに近づけない。 元来『土』属性は攻撃魔法に乏しい系統であり、巨大ゴーレム召喚には長い詠唱が必要とあって、 このような正面からの1対1の戦いには不向きである。 それでも不向きどころか魔法成功率ゼロのルイズに、端から勝ち目など無いはずだ。 腹が立つ。 勝てるはずも無い戦いに挑む無謀さに、それを支える彼女の誇りに、フーケは心底腹を立てていた。 「そぉら、捕まっちまいな!」 「灯りよ! 灯りよ! 灯りよ!」 ルイズの足元から、蛇の姿をした小型のゴーレムが生み出される。 それは対象に絡み付き、動きを封じる鎖。 だが、立て続けに放たれたルイズの魔法の一つがラッキーにもその胴体を粉砕する。 自由になると同時に、フーケの狙いを外すため転がるように走り出す。 続けて、同時に複数の『明り』を灯す魔法を唱えるルイズ。 本来なら広い範囲を照らすために使われる魔法だが、ルイズの狙いの通り複数の爆発が森の中で発生した。 「くっ、このっ!」 爆発の脅威に体勢を崩しながらも呪文を完成させるフーケ。 地面から放たれるツブテは、またも木の幹に当たって突き刺さる。 伊達に母や上の姉から魔法を使った折檻を何度も受けてきたわけでは無い、おてんばのルイズだ。 並みの使い手の呪文なら、タイミングを読んで逃げるだけなら不可能では無い。 それ以上に、フーケの放つ呪文には手心が加えられている。 殺傷力の高い呪文、一撃で殺せるような呪文を、フーケは唱えられなくなっていた。 ゼロと笑われ、侮られ、罵られ、それでも誇りを捨てなかった少女の、学院での姿を知っていたから。 どこまでも貴族であろうとする姿に、殺したくは無いと思ってしまったから。 「ストーン・ブリッド!」 「灯りよ!」 石のツブテがルイズの肩を打ち、痺れに杖を取り落とす。 小さな爆発がフーケの側で弾け、顔を隠していたフードが剥がれる。 現われた顔に驚くルイズに、フーケの、ミス・ロングビルの杖が突きつけられた。 だが杖はナイフではない。 驚きを押し殺し、ルイズは左手で杖を掴んでそのまま茂みに飛び込む。 その様子に、サイト達はたまらず跳び出しそうになる。 「ルイズ!」 「来ないで! 来たら食事抜きぐらいじゃ済まさないんだからね!」 「……っこの馬鹿ルイズ! なんでそんな意地をはるんだよ!」 「私は―――貴族なのよ」 「なんだよそれ。貴族って魔法使いの事なんだろ? オマエはマトモに魔法使えないんだろう? だったら決闘なんか止めて逃げても良いじゃねぇか!」 戦いを止めさせたくて、最早懇願するようなサイトの声が茂みに隠れているルイズへと向けられる。 それを聞きながら、泣きそうな声出してんじゃないわよ駄犬使い魔などと思いながら、 ルイズは明りよりも詠唱時間の長い『ファイヤーボール』を唱えていた。 この呪文で起こされる爆発なら、多少狙いが外れても相手にダメージを与えるだろう。 「魔法が使える者を貴族って言うんじゃないわよ―――」 呪文を完成させ、同じく長めの呪文を完成させてこちらに向けてきたフーケに杖を向けて立ち上がる。 「敵から背を向けない者を、その誇りをこそ、貴族って呼ぶのよ!!」 ビタリとお互いを指し合う杖と杖。 二人の体内に練り上げられた魔力が、放たれる瞬間を待って唸りをあげるかのようだ。 運が良ければ合い打ち。運が悪ければルイズは死ぬ。 はりつめた頬、毅然とした瞳。今のルイズは、サイトが見てきたどの瞬間よりも確実に美しい。 その誇りが、内なる輝きが、フーケにとってはたまらなかった。 「何が誇りだい! なにが貴族だい! 貴族だったわたしの父親は誇りを守って、主君の娘を守るために反逆者として殺された! わたしの両親を殺した貴族達は、誇りを口にして一人の罪も無い娘を殺そうとして、 その子の母親や私の家の使用人達を殺していった! そんな貴族に、そんな誇りに、何の価値があるっていうのさ!?」 血を吐くような叫び。 それは世の理不尽への怒りであると共に、貴族の全てが目の前の少女のようだったらという思いの表れでもあった。 その勢いに言葉を失うルイズ。 答えたのは異世界の魔術師だ。 「そこに価値など無い」 「なっ、無いってアンタ!?」 静かで端的な言葉。 「価値など無いのだ。時に人は虚言を弄する。口先だけの誇りに意味など無い。 ただ貴族であるだけの貴族にも価値など無い。 誇りとは、価値無きものに価値を与えんとする努力によって意味を持つ。 貴族とは、より高くあらんとする信念によって高貴たりえる。 だがそうして生まれた価値は、時を場所を容易く越えた不滅なる至宝となるのだ。 そなたの父親が命を賭して守った誇りを、そなたが引き継いだように」 その言葉に、フーケは耐え切れなくなった。 押し殺してきたマチルダ・オブ・サウスゴータという幸せだった少女が、顔を出すのを止められなくなったのだ。 杖を落す。 その杖の上に、彼女の頬を流れ落ちた熱い水滴が雫となって落ちた。 キュルケ・アウグスタス・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーはヴァリエールの宿敵の家系に生まれた貴族である。 が、今はこの、目の前でいじけている少女を慰めても良いか、と思っていた。 「結局……私って何の役にも立ってないじゃない」 森の中で地面に直に座るのも気にする余裕無く、三角座りで膝に顔を埋めているヴァリエールの娘を。 「なに言ってんの。ミス・ロングビルの……じゃなかった、フーケの心を折ったのはアンタの『誇り』よルイズ。 いじけて無いで胸を張りなさいよ。ただでさえ小さい胸なんだから」 「だっ、誰のなにが小さいですってぇ!」 キュルケに詰め寄って怒鳴るルイズ。 立ち直りが早いのも彼女の美点だ。特にキュルケにとっては、イジリ甲斐があってとても良い。 もう心配はいらないだろう。後考えるべきはフーケの処遇をどうするかだった。 決闘に敗れたと認めて、フーケは大人しくしている。 だが、あんな話を聞いた後で官憲に突き出すというのも気が引けた。 貴族を散々出し抜いて怒らせたフーケの罪状を考えれば、彼女の死刑は間違いないのだから。 どうしたものかと皆が頭を悩ませる中、タバサがポツリと呟いた。 「グレンの腕ゴーレム」 「なに? あの腕がどうかしたの?」 「フーケは死体も残らず潰されて死ぬ」 不吉な呟きに顔色を蒼白にするフーケ。 だが、キュルケはその意味を正確に理解した。 「なるほど、死んだ事にするってワケね。流石ねタバサ、伊達に本ばっかり読んでるワケじゃないわ」 青い髪が乱れるのもかまわずワシワシとタバサの頭を撫でるキュルケ。 タバサは無表情でされるがままだったが、何処か嬉しそうにも見える。 後日調査が派遣される事も考えて、適当な場所にグレンの巨大な『腕』を使って一発パンチを打ち込んでから、 一行は無事学院へと帰還したのだった。 あとは後日談になる。 恩人の形見である『破壊の杖』を取り返してもらったオスマン氏は大変喜び、シュヴァリエの爵位申請を提案してくれた。 サイトは破壊の杖が自分の故郷で使われる武器だと気付き、オスマン氏に入手の経緯を尋ねたが、 残念ながら元の世界に帰る方法に繋がる話は聞けなかった。 その代わり、自分の左手に浮かぶルーンがガンダールヴという伝説の使い魔の物であるという話は聞けたのだが。 それからオールド・オスマンは、自分は味方であるからサイトの手助けになるように便宜を図る事、 同じくグレン・アザレイの身柄も、国やアカデミーからちょっかいをかけられぬようにする事を約束してくれた。 倒壊させられた歴史ある本塔は、再建に数年を要すると思われていたが、 神の如きグレンの魔術によってわずか半日で修復され、学院倒壊の報を受けて駆けつけた王国騎士隊に首を捻らせた。 今は基礎部分の岩盤には教員が総出で『錬金』と『固定化』をかけてまわっている。 盗難がおこなわれた翌日に予定されていた『フリッグの舞踏会』だが、残念な事に延期されてしまった。 いくらグレンが修復したといっても内装の不備までは完璧には直っていない。 こちらは専門職である平民の業者が入って、やはり『錬金』が得意な土のメイジと共に修繕に精を出している最中だ。 『土くれ』のフーケを討伐したという事で、ルイズ達は一躍注目を集める存在になったが、 本当は彼女を捕らえたワケではないルイズ達にとっては居心地が悪い注目だった。 尤も、盗賊フーケは二度と現われないはずだから、事がバレる心配は無いはずだが。 余談だが、あの討伐の日からルイズとキュルケはお互いを家名ではなく名前で呼び合うようになっていた。 サイトも、犬やら奴隷ではなくサイトと呼んでもらえる割合が多くなったようだ。 まだミスターとは付けてもらっていないが……無い方が親しみを持たれているようなので別に良いとサイトは思っている。 タバサとグレンは相変わらず本ばかり読んでいるが、サイトやルイズと逢えば挨拶ぐらいはしてくれるようになっていた。 そして…… 「失礼します。今日のスケジュールを確認して下さい、オールド・オスマン」 すっかり元の姿を取り戻した学院長室に、スッキリしたメガネの女性が入ってきた。 書類を抱えた理知的なその女性は、ミス・ロングビルその人である。 「おお、ミス・ロングビル。今日の下着は何色かね?」 「延期になった舞踏会に王女殿下の行幸があるかもしれないという事で、その準備としての会談が……」 オスマン氏の早朝セクハラを華麗にスルーして、ミス・ロングビルは秘書の職務をこなしてゆく。 盗賊をやめる事を誓ったフーケであったが、ある所に仕送りをするために金が必要だと聞いたキュルケが、学院に残る事を勧めたのだ。 貴族の子弟を集めた学院の長であるオスマン氏付きの秘書の給金は存外良い。 過去セクハラに耐えかねて辞める秘書も多かっただけに尚更だ。 話し合いの結果、ミス・ロングビルは逃げるフーケを見かけて追跡し、追いついた所でルイズ達が発見、合流したのだと云う事で口裏を合わせる。 「これで色々便宜も図ってもらえるわね」とは、キュルケの弁。 それを聞いて嘘をつくのは貴族的に良いのか? などとサイトは思ったが、 サイトとてフーケを警察に突き出したいワケでは無いから何も言わなかった。 トリステイン魔法学園に、一時の平和な時間が流れている。 それは、嵐の前の静けさかもしれなかったが。 次へ 前に戻る 目次に戻る
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@wikiにはいくつかの便利なプラグインがあります。 アーカイブ コメント ニュース 動画(Youtube) 編集履歴 関連ブログ これ以外のプラグインについては@wikiガイドをご覧ください = http //atwiki.jp/guide/
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東方自警団「鬼殺し」 東方地域を拠点とする自警団 下界でいう侍+魔法使いな集団 組織構成 組織は、魔将を一番上としその下に侍五将その下に兵士という形になっている 魔将 上田政宗 火の国出身の魔侍。お菊が正室、鈴江と千登勢が側室 副魔将 〃政利 お菊の子、有能な軍師。 副魔将 本田湯吉 上田一族に使えてきた本田家の名軍師。 副魔将 西郷勝正 西郷家で一番の力持ち。一振りすれば悪人は消える 侍五将 鈴村彦辺江 五の砦の防衛を任されている。鈴村家のジィ 侍五将 前原松家 奈句丹城の城主。魔法剣の風の舞が得意 侍五将 上田政和 お菊の子、二の砦の防衛を任されている 侍五将 〃政子 お菊の子、女性で若いのに男たちに決して負けない 侍五将 本田湯道 湯吉の子、たくましく四の砦の防衛担当 治安侍 〃湯一 治安を守る魔侍。湯道の弟 治安侍 上田鈴和 鈴江の子、三の砦の防衛担当 治安侍 〃政木 千登勢の子。魔法剣はやや強い。 土地の名前 管理者 説明 一の砦 上田法泉 上田政宗とは従兄弟の関係 二の砦 上田政和 二の砦の内部はかなり複雑 三の砦 上田鈴和 鈴江の子の中で一番強いらしい 四の砦 本田湯道 四の砦は武器倉庫が多く設置してある 五の砦 鈴村彦辺江 五の砦の最年長で最強の武士 戦争と歴史 ガイト暦12年 鬼殺し設立。 ガイト暦19年 五の砦が陥落した。サイトの陰謀と判明。 サイトの東方支部の幹部ジャッカルと鈴村彦辺江が戦闘。 彦辺江が四の砦に避難。 日丸城が陥落。城主の上田法武がサイト東方支部に監禁された。 ガイト暦22年 サイト・イージスの砦奇襲戦永田川流、洋二、洋実、洋流、上田法元、法栄、法欧が砦を奇襲 作戦は成功。相手に大打撃を与えた。洋実は死亡した。 サイト・商業街道奇襲戦商業街道を永田宣夫、上田法見が奇襲。作戦は成功。 法見が亡くなってしまった・・・。 五の砦略奪戦・日丸城撃破戦上田政宗らが五の砦を略奪。日丸城を魔法により爆破し破壊した。
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武器一覧 ここに書いてあるのは製作中の前の創造段階ですw 次回作のRPGまたはアドベンチャーゲームでの武器一覧になります。 一般武器一覧 名前 攻撃 防御 速さ 回避 命中 チャージ 魔力 体力 入手法 属性 雷宝剣 +5 0 +1 0 0 +1 +2 0 イディスの迷宮 雷 ショートボウガン +2 0 0 15% 0 0 0 +1 マルクの町 無 ライトアックス +3 0 -1 -1 0 +1 +3 0 光の魔石を斧系 光 ポイズングローブ +2 0 +1 +1 0 0 0 +2 火の国 毒 注意 ライトアックスの場合、光の魔石を斧系と書いてあるが、闇の血が多いと失敗する。闇の魔石<光の魔石の力でないと失敗しやすい ライトアックスは一つの光の魔石だから 闇の魔石(0)<光の魔石(1)の改良でないといけない
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その夜、身体は確かに重なり合っていた。 心も確かに重なったと思っていた。 そう、思い込んでいた。 【虚無の使い魔と煉獄の虚神】 アルビオン女王ティファニアの即位式は、近年まれに見る盛大なものになった。 ロマリア法皇を筆頭としてハルケギニア各国の指導者達が一堂に会するなど、そうある事では無い。 宮殿の大広間は荘厳な空気によって満たされていた。 天より降り注ぐのはステンドグラスに屈折させられた色とりどりの陽光達。 柔らかな明かりに照らされる貴族達の顔は、皆一様に厳めしい様子をしていた。 伝説では始祖ブリミルがアルビオンに降臨して最初にシティ・オブ・サウスゴーダを、 次にこのロンディニウム、その中心であるハヴィラント宮殿を建造したと伝えられる。 真偽の程はともかく、歴史と格式においてはロマリアの大聖堂を上回る宮殿だ。 6000年と言う時間が、広間に居る者達全ての上に深深と降り積もる。 蓄積された歴史。それが保持する想念と魂。 神聖さの皮を被るために作り上げられた大気は、逆に虚飾を剥ぎ取る効果を持っている物だ。 王侯たちの仮面に隠された警戒と欲望と策謀が、ステンドグラスの陰影のように諸侯の顔に浮かび上がっていた。 この戴冠はハルケギニアの未来を占う一手。 張り巡らされた欲得の意図が、蜘蛛の糸が獲物を捕えるが如くにじっと沈黙の中で待つ。 ここに有るのは、見かけとは裏腹の俗世の滓だけなのかもしれなかった。 張りつめた空気が揺らぐ。 足音も衣擦れの音さえも響く中、静々と現れるのは聖杖を手にしたアルビオン教会の司教達。 その司教達が複雑で退屈な儀式によって場を清めた後、壇上にロマリア法皇・エイジス三十二世が現れた。 端正な、端正すぎる美貌の若き法皇の唇から始祖への祈祷が零れ落ちる。 聖歌隊じみた清浄でありながら深く強く響く声による祈りの声。 満座の人間達から生み出されて篭っていた人の気と熱が、新春の風に吹かれたかのように掃われてゆく。 それこそが、若干20代の若輩がハルケギニアにおける至高の格式を誇るロマリアの玉座に収まった理由にも思えた。 「いよいよ戴冠ですわね、アンリエッタ」 「はい……ハルケギニアの歴史に刻まれる戴冠ですわ、母さま」 並み居る貴賓の中で、筆頭の座席に迎えられるのは王女アンリエッタとその母であるトリステイン大后マリアンヌ。 前王弟の妻とその娘であり、新女王の伯母と従妹ともなれば、この序列も当然であろう。 本来ならば大后を第一とし、王女は第二となるのが原則ではあるが、 順序が逆転してアンリエッタが第一座に腰掛けているのは、彼女の女王即位が近日中に内定しているからである。 その二人を、下座から面白く無さそうに見ているのはゲルマニア皇帝アルブレヒト三世だ。 好色漢として、そして同じくらい精力的かつ野心的な政治家として知られる皇帝だったが、今回はほぼ蚊帳の外である。 自国の貴族、ツェルプストーの一人娘も今回のアルビオン王政府逆転劇の英雄とされては居るが、 やはり並み居る伝説の再来を前にしては端役に過ぎないだろう。 そもそも、アルブレヒトにとって自国の大貴族などライバルに他ならない。 自分と共に列席したツェルプストー当主とその夫人の誇らしげな顔を見て、皇帝はこっそりと舌打ちした。 レコンキスタの脅威が晴らされたのは喜ばしいが、それに伴ないアンリエッタとの結婚が破棄になってしまった。 元々水面下での話し合いの末に決定された事で、まだ発表される前だったために、誰の名誉も傷付かなかったとは言え、 逃がした麗しき若鮎の味を想像するだに惜しい事をしたと思う。 それだけでも不機嫌になる要素は十分だと言うのに、その上更に腹立たしい事がゲルマニア皇帝には有った。 自分の席次が列席した3つの大国、当事国たるアルビオンと儀式を執り行うロマリアを除く三国の中で最下位だという事実。 国王本人でなく、名代の小娘を送り込んできたガリア。 ジョゼフ国王息女イザベラよりも下位の席に自分が置かれた事を、隠しもせずに苦々しく思うアルブレヒトであった。 尤も、蚊帳の外という意味ではガリアとて変わりは無い。 より正確には、おのずから望んで蚊帳から外に出たと言うべきか。 ジョゼフの指示により、イザベラはタバサとグレン・アザレイの戦果を謹んでアルビオンに譲渡した。 つまり、50隻の戦艦、5万の兵士を一瞬で打ち破った伝説を、アルビオンの力とする事を勧めたのである。 どうしても国力の低下を免れていないアルビオンにとっては垂涎の譲渡であった。 5万を打ち破る最強の風魔法は、アルビオンの領土を切り取ろうと望む野心家達を1人残らず封じ込める。 また、国内に少なからず残る反乱の火種を吹き消す風ともなろう。 それが、ガリアに対してとてつもなく大きな借りを作る事になってしまうとしても。 元々低姿勢だったアルビオンの外交筋が、更に慇懃になったとイザベラは単純に笑っている。 だが彼女の側に控えるグレンやタバサ、それにカステルモールは気付いていた。 ジョゼフは、タバサ達の首を自分の権力で刎ねられる位置に置いておく事を狙っていると。 その身柄を、地位をアルビオンに保障させるわけにはいかぬと、そのための策だと、彼等は知った上で乗った。 この優雅かつ壮麗な、1ヶ月以上にも渉る祝祭が終わる時。 それが、あるいは決戦の時になるかもしれないと、タバサは氷のように表情を変えぬ仮面の下で考えていた。 悲喜交々、様々な思惑が入り混じる仮面劇の舞台に、主演女優が入場する。 ざわめく満座の貴族達。 当然だろう。 たとえ事前に知っていたとしても、彼等の殆どが始めてティファニア女王の姿を見るのだから。 アルビオンの、いやハルケギニア初のエルフの血を引く女王の戴冠。 その衝撃を、アルビオン貴族は可能な限り効果的に利用した。 七色の羽根をあしらった純白のドレスに、王家を象徴する明るい紫のマント。 前髪を上げ、複雑に結い上げられた髪型は美しいかんばせとエルフの特徴である耳をこの上なく目立たせている。 豊か過ぎるバストが押し上げる胸元には王家の紋章。 手には特に儀式の時のみ用いられる、巨大な水晶のはまった古杖を握る。 その装いの全てが、ティファニアの彫像じみた美貌を最大限にまで飾り立てていた。 ざわめきは一瞬にして静寂に取って代わられる。 エルフに対する本能的な恐怖と、美貌に対する素直な感嘆。 その二律背反が、その場の誰からも言葉を奪ったのだ。 ゴクリと、誰かが息を呑む音がして―――それが余計に沈黙を強いる。 今なら、息を吐き出す音さえもこの大広間に響くような気がしたからだ。 圧倒的な静寂の中、ティファニアと、その隣に影のように従う女宰相マチルダ・オブ・サウスゴーダが静かに進む。 祭壇を前に膝をついた彼女を向かえるのは、ただ1人平静と微笑を崩さぬ教皇エイジス三十二世だ。 壁に直接彫刻され、錬金によって黄金に飾られている始祖像を背に、教皇の姿は伝説の聖者そのものにすら見える。 「汝、アルビオン王女ティファニア。 そなたは始祖ブリミルの御名の下、アルビオンの王としての責務に全霊をかける事を誓うか?」 「誓います」 「汝、アルビオン王女ティファニア。 そなたは始祖ブリミルとアルビオン王家の名の下、全ての国民の幸福を守るために杖を取ると誓うか?」 「誓います」 「汝、アルビオン王女ティファニア。 そなたは杖にかけて、王女としてメイジとして名誉と誇りと信仰を守り抜くと誓うか?」 「この杖にかけて」 「よろしい。ならば始祖と我が名、ロマリア法皇エイジスの名において、 アルビオン女王ティファニアに王権の継承と戴冠を認める」 膝をつきこうべを垂れるティファニアの頭上に、美しき法皇の手から冠がかぶせられた。 形式とは言え、この瞬間にティファニアは始祖ブリミルの血統であるとロマリアによって認められた事になる。 その正当性に異を唱える者は、ロマリアの権威に対して異を唱えるのど同等とされると云う事だ。 「心からの祝福を、神聖にして偉大なるブリミルの正しき後継者、私の兄弟よ」 だが、続けて発せられた言葉に、広間の貴族達がざわめく。 法皇の言葉は戯言では済まない。 公式の、しかもこれほど大規模な儀式の場で発せられた言葉の重みはアルビオン大陸そのものよりも重かろう。 それが「ブリミルの正しき後継者」にして「私の兄弟」などとは。 ありえない言葉に、各国の貴族達どころかアルビオン貴族でも中枢に居ない外様――今回の内乱で 日和見を決め込んでいた者――達もが驚愕に震えている。 その混乱はアルブレヒトにとっても同じだった。 これでは、ロマリアが、否ハルケギニア全土の教会がアルビオンを全面的に支持すると言っているようなものでは無いか。 ゲルマニア皇帝はせわしなく視線を泳がせ、そしてアンリエッタやガリアの小娘がまるで動揺していない事に気がついた。 思わず歯噛みする。 これが、知る者と知らぬ者を隔てる壁こそが、この席次の意味かと気がついたのだ。 数少ない動揺していない者、つまりこれから先の展開を知っている者達が、整然と動き始めた。 トリステイン第二位、王家に次ぐ権勢を誇る大貴族ヴァリエール家の席から、1人の娘が立ち上がる。 桃色の髪。鳶色の瞳。 小さな身体に一杯の誇りをみなぎらせた、ヴァリエールの精髄のような少女だ。 アルビオン様式の白いドレスを纏い、貴族の証たるマントはなぜだか付けていない。 育ちを感じさせる洗練された動作で、ルイズ・フランソワーズ・ド・ラ・ヴァリエールは祭壇へと歩む。 その途中、こちらも立ち上がっていたアンリエッタの前で膝をついたルイズに、マリアンヌ大后の手からマントが掛けられた。 更なる驚愕が満場に満ちる。 それはマリアンヌ自身が、自らのマントを外して少女に与えたからだ。 自身の王位継承権、トリステインの第二位たるそれを破棄し、少女を擁立するという意思表示に他ならない。 文句を言う者は居ないだろう。 ヴァリエールの直系ならば、それだけの血統と家格、そして権力は有している。 だが、そうそう有り得る事でも無いし、なぜこの場でという疑問も残った。 そんな困惑を置き去りに、ルイズは祭壇にたどり着き、女王ティファニアと法皇エイジスに並んで立つ。 「私は祝う。この喜ばしき日を。 偉大なる始祖の残したる奇跡、おおいなる力、虚無の系統の復活の日を。 そして運命に導かれ、この良き日良き場所にてその担い手が三人、こうして揃った事を!」 エイジスの宣言は、最初誰もが意味を飲み込めなかった。 やがてジワジワとその意味を理解し、人々は先程まで以上の激しい驚きの渦に投げ込まれることとなる。 アルビオン王家の逆転劇。 50の戦艦と5万の兵士を一瞬で沈め、8万の軍隊を突破して、数百リーグ離れた敵本拠を落とした奇跡。 反撃ののろしから勝利までわずか3日という、現代の神話。 いかなる強大な魔法がそれをおこしたのか。 他国の王侯貴族の誰もが知りたがった答えが、ここに明かされたのだ。 目の前で呪文が唱えられる。 聖句にも似た、誰もが初めて聞くルーンの連なり。 ルイズが唱えるそれは、幻影の魔法。 実物さながらの幻が、広間の天井にあの戦いの様子を映し出していた。 前方に8万の兵士。自軍はわずかに500人。 その先陣を駆けるのは、全裸の飛行魔導師と1人の剣士の背中だ。 誰もが上を見上げ、その迫真の映像に見入る中、ティファニアの「虚無」が心に直接語りかける。 (これは本当にあった戦いの記憶。私達を守って戦ってくれた使い魔の勇姿) 系統魔法にはない、精神を司る虚無魔法の初歩の初歩「念話」に驚く人々に、法王が告げた。 「紹介しましょう。我等が使い魔、伝説の神の盾と神の笛、そして名も無きもう一人を」 静かな、けれど良く通る声に人々はエイジスへと目を向け、その指差す天井へと再び目を向け――あっと声を上げた。 そこに開くのは空間の穴。 移動を司る虚無魔法の中級の下「移動の門」により、そこは宮殿の外と繋げられていたのだ。 「馬鹿な!? あれは我が公国の!?」 叫んだのはクルデンホルフ大公だろう。 蒼穹に見事な隊列を組んで空を舞うのは、大公国が誇る空中装甲騎士団の竜なのだから。 本来その主人の言う事しか聞かず、そもそも調教に時間がかかるドラゴン。 それをああも容易く見事に操るのは、伝説の神の笛ウィンダールヴに違いあるまい。 あらゆる獣を操るその力の前には、虎の子の竜騎士団も意味を成すまい。 まさか勝手にその証明のために使われるとは業腹な事だと、政敵の慌てぶりに少しだけ溜飲を下げたアルブレヒトであった。 そうこうする内にも、編隊から外れた二頭の竜と1人の男が降りてくる。 三人の虚無の使い手の左右に降り立った竜からは、白銀の鎧を纏った二人の騎士。 そして正面にはブーメランパンツ一丁でスキンへットの男が空中から降り立つ。 あらかじめ打ち合わせされていたのだろう。 数人の女官が現れて裸の男にガウンとシュバリエのマントを着せて体裁を整えた。 男とは、もちろん錬金大系魔導師・スピッツ・モード。 「あれが記すことさえはばかられる使い魔か」「確かにはばかられる」と、紳士淑女がひそひそと言い交す。 エイジス三十二世自身はそんな事は言っていないのだが、杖も持たずに空を舞う姿にはそう誤解させるだけの説得力があった。 ともかく、三人が降り立ったのと同時に天井の門は消え、広間は元の姿を取り戻す。 変化したのは、とても広間の入り口からは入らないはずの竜の巨体が二つ。 そして虚無の使い手達の前に跪く三人の使い魔達であった。 1人はロマリアを表す青と赤に聖なる白のペンタグラムが染め抜かれたマント。 メイジのそれに近い、白い軽装竜騎士の装束に身を包んだ神官・ジュリオ・チェザーレ。 1人はアルビオンを象徴する青に七色の羽根を意匠したシュバリエのマント。 ベルトを緩めれば即座に脱衣できるように工夫された仕立のガウンを着た魔導師・スピッツ・モード。 最後の一人は、トリステインとヴァリエール家の紋章が共に刺繍されたシュバリエのマント。 白銀の軽装鎧を身に纏い、伝説の剣デルフリンガーを背負った細身で長身の騎士。 鎧のために顔は窺えないが、美しい金髪がその隙間から覗いている。 「この三名を、今日この日より虚無の自由騎士に任じる。 すなわち、ただ虚無の使い手を守護することのみをその使命とし、いかなる国権・利害にも縛られぬシュバリエ。 彼等のその権利と義務を、アルビオン、トリステイン、そしてロマリアの名において認めるものとする」 どよめく貴族達。 そして同時に納得した。 たった一人で戦況を変える力。一騎当千どころか万の兵士に匹敵する戦力。 その保有によって国単位の軍事力を変化させる存在。 そんなものを、アルビオン一国、それどころかヴァリエール公爵家が単独で持つ危険性。 それを緩和するための自由騎士宣言だ。 他国の干渉を最小限にして国の建て直しに時間を費やしたいアルビオン。 大きすぎる力を持ったために、他の貴族から危険視される事を避けたいヴァリエール。 ヴァリエールを危険視しつつ、その力を自国に繋ぎ止めておきたいトリステイン。 虚無の力を束ねて聖地奪還を望む、しかし同じく聖地奪還を掲げたレコンキスタの反乱のせいで、 まだ実際に軍事的な行動としては動きを始めにくいロマリア法皇。 それぞれの思惑が重なった結果が、この虚無の使い手と使い魔の発表、その処遇なのだと。 戴冠の儀式は続く。 これから新女王は祝福の言葉を幾つも送られ、自身の決意を詩として始祖像に捧げねばならない。 その儀式を残して、ヴァリエールの娘は自らの使い魔に抱き上げられて場を辞した。 あくまでも、この式の主役はティファニアだからだと言う配慮であろう。 また、お姫様だっこで運ばれるルイズの姿に、あの二人は婚約でも交わしているのだろうと噂しあった。 そう、周囲の人々は思っている。 だが真実はまるで違うのだ。 退場する娘を見送る、ヴァリエール夫妻の苦々しい表情。 二人の側に控える、従来は身体が弱く公式の席には現れなかった次女の姿。 そして、この場には居ないヴァリエール家長女。 その全てが示す内幕を知っているテファとマチルダは、友人と言ってもよい少女を壇上から心配そうに見送るのだった。 「まったく……なんで私がこんなマネをしなきゃならないのかしら」 「……ごめんなさい、姉さま」 ドカッとソファに身を投げ出すように座った鎧の人物に、まるで覇気のないルイズが謝罪する。 ここはヴァリエール公爵家に用意された宮殿の一室。 魔法による聞き耳をたてる者が居ないのを確認して兜を外したのは、ルイズの姉エレオノールだった。 「いいわ。貴女が悪いわけでは無いもの。 なにより、こんな事になって一番キツいのはちびルイズだって事はよく判ってるわ」 「姉さま……」 「悪いのは逃げ出した貴女の使い魔よ。サイトと言ったかしら? その平民、見つけたら私もお父さまもタダじゃおかないわ―――って言うか殺す」 慣れない、重い鎧を外しながら、エレオノールが毒づく。 そう。 戴冠式を前にして、ガンダールヴは逃げ出してしまったのだ。 その事を隠すため、法皇とテファ、それにマチルダとアンリエッタやヴァリエール公爵が合議。 秘密を知る人間を最小にするため、伸長と体力と鑑みてエレオノールが偽サイトを演じる事になってしまったのだった。 ちなみに「胸が無いので男装に無理が無い」というのも選ばれた理由の一つなのも、エレオノールがカリカリしている理由である。 「やめて姉さま! サイトは悪くないわ! サイトを追い詰めたのは私なの。 それに、サイトに抱かれたのだって……私が望んだ事だもの」 が、それ以上に彼女を立腹させているのは、サイトがただ逃げただけでは無いと云う事だ。 エレオノールがまだ会った事も無い、その平民の使い魔は、こともあろうにルイズを傷物にしてから逃げ出したのである。 その事を愛娘から聞かされた時、公爵は使用人達に草の根分けても探し出せと命じようとして―――その一瞬後に押し黙った。 静かに、ただ静かに怒り狂う妻の迫力に圧倒されたのである。 伯爵夫人カリーナ、かつて「烈風カリン」の名で恐れられた母の怒りに、同行していた娘達も震え上がった。 その事が、幸いにも機密の漏洩を防ぐ結果となる。 アルビオン、トリステイン、そしてヴァリエール家が抱える信頼の置ける密偵が合議の末放たれ、姿をくらませたサイトを探す。 見つければ打ち首――と言うワケにはもういくまい。 たとえ代理を立てての儀式であったとしても、各国王侯の前でサイトには過ぎた地位が与えられたのだ。 「きっと色々あって混乱しちゃってるだけなんだわ。 サイトは絶対、私の所に戻ってきてくれるはずだもの」 それになにより、今の様子を見るにルイズが決して許すまい。 ならば一度魔法でボコボコにして、是が非でも娘の婿として迎える他あるまい。 それが、公爵の選んだ答えだった。 エレオノールもその選択には否は無い。 望むのは、サイトをボコる時には自分も絶対に参加しようと云う事ぐらいだ。 「なんでも良いから、とっとと帰ってきなさいよね……」 弱々しい妹を見るに忍びず、窓の外の高い高い空を見つめながら、エレオノールは疲れた声で呟くのだった。 さて、そうして遥か高空で知らない間に大変なことになっているサイト本人はどうしているかと言うと…… 女の所に居たりするのだった。
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バラバラです誰か言うかは決まってませんw 「先に行けよ」 「うっうん、分かった絶対帰ってこいよ」 バーン、「ギャァアアアア」 「怪物の声?」「あいつはどうしたんだ?」 戻ると血まみれでアイツの右手と怪物の死骸しかなかった・・・。
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