約 40,744 件
https://w.atwiki.jp/mwtrpg/pages/67.html
ここでは戦闘の準備段階について説明します。 戦闘敵の決定 深度による敵の強化 敵の群れ 中ボス ミミック 強敵 戦闘 イベントで敵の襲撃に遭ったり、強敵フラグが100%になった時に戦闘場面に入ります。 戦闘は『敵の決定ダイス→戦闘処理→戦闘終了ダイス』という流れになっています。 敵の決定 まずは敵の数、強さ、先攻/後攻について決定します。 これらの項目は<敵確定ダイス>を振ることで決定します。 <敵確定ダイス>(コンマ1の位) 1:雑魚(先攻) 2:雑魚(後攻) 3:やや弱い(先攻) 4:やや弱い(後攻) 5:互角(先攻) 6:互角(後攻) 7:やや強い(先攻) 8:やや強い(後攻) 9:強い(先攻) 0:強い(後攻) コンマ1の位の出目によって先攻/後攻と敵の強さが決まります。 敵の脅威度は『雑魚』,『やや弱い』,『互角』,『やや強い』,『強い』の5段階です。 ダイス 脅威度 敵のランク 先攻/後攻 1 雑魚 探索地ランク-2 先攻 2 後攻 3 やや弱い 探索地ランク-1 先攻 4 後攻 5 互角 探索地ランク 先攻 6 後攻 7 やや強い 探索地ランク+1 先攻 8 後攻 9 強い 探索地ランク+2 先攻 0 後攻 例)『Rank1【[[灰色の森]]】』の深度1で敵と遭遇し、ダイス目 0 だった場合、 『強い(ランク3)』の敵が登場し、PCは後攻となります。 なお、同じ「雑魚」であっても、探索地ごとにパラメータが変わります。 出現した敵のパラメータについては各探索地の敵情報を参照してください。 また、<敵決定ダイス>の出目が現在深度以下のゾロ目だった場合、中ボスが出現します。 この時、コンマ1の位が偶数であれば後攻、奇数であれば先攻となります。 例)深度4では 44 , 33 , 22 , 11 のいずれかで中ボス出現。 深度による敵の強化 各探索地では深度によって出現する敵の強さの分布が変わってきます。 具体的には、深度が2進むごとに一段階ずつ強い敵が出現するようになります(最高強い)。 移動時の出現敵は、その探索地の深度1と同じです。 敵ダイスの見方をまとめると、以下の表のようになります。 深度→ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 0 ↓Dice 1先 雑魚 やや弱 互角 やや強 強い 2後 3先 やや弱 互角 やや強 強い 強い 4後 5先 互角 やや強 強い 強い 強い 6後 7先 やや強 強い 強い 強い 強い 8後 9先 強い 強い 強い 強い 強い 0後 敵の群れ 敵は必ずしも一匹で現れるわけではなく、時には群れとの戦闘になることがあります。 同時に出現する敵の数は先ほどの<敵確定ダイス>を振った時のコンマで決定します。 すなわち、『コンマ十の位-コンマ一の位(0は10として計算)』が敵の出現数です。 この時の結果が2以上であれば、敵の群れとの戦闘となります。 なお、敵の最小数は1体、最大数は5体です。 敵の群れはそれ自体をひとつのまとまり(個体)として捉えます。 そして、群れを構成している敵の数が多いほど攻撃力は上昇します。 群れは構成している敵の数と同じLPを持ち、攻撃力にランク×敵の数の補正が加わります。 敵の攻撃補正値は、物理攻撃と魔法攻撃の両方に加算されますが、 敵のLPを1減らすごとに攻撃補正値も敵ランク分ずつ減少します。 例)『Rank1【灰色の森】』の深度1で敵と遭遇し、コンマ 51 だった場合、 『雑魚(ランク1)』の敵が4体登場し、PCは先攻となります。 この時の、敵の群れのパラメータは 『HP 5 LP 4 RP 1 攻撃補正値+4』 群れの攻撃は全てにLP貫通効果(LP減少によるHP減少のストップ無効)を持ち、連続してLPが削れられることもあります。 例)上の例の敵がHP20 LP3の傭兵を攻撃し、ダイス10+8(クリティカル)を出した場合 ダメージ 10+8+4=22 被ダメージ HP20 LP3 ⇒ HP18 LP2 このように、普通は20を超えたダメージはLP減少によってHPに影響を与えませんが、 LP貫通効果を持った攻撃はLP減少後もHPにダメージを与えます。 中ボス 敵確定ダイスを振った時に、深度以下のゾロ目が出た場合、各探索地固有の中ボスが出現します。 中ボスは一般敵よりも強く設定されていますが、中ボスとは何度でも戦闘できます。 中ボスについての詳しいデータは各探索地の詳細を参照してください。 ミミック 探索中や移動中に特定のイベントを引いたり<鑑定ダイス>で 00 を出すと、 ミミックとの戦闘になります。 ミミックは同じ探索地に出る敵に比べて若干強く設定されていますが、 倒すと宝石(装飾品)を落とします。 ミミックの落とす装飾品は他では売られていないものです。 また、<探索ダイス>で 00 が出た場合はジャックポットミミックと戦えます。 通常のミミックよりLPが1高いですが、倒すと宝石の他に『探索地ランク×1,000G』の大金が手に入ります。 ミミックとは何度でも戦えるため、金策にはうってつけでしょう。 各探索地に現れるミミックは弱点属性を持っており、効率的に戦えば一攫千金も夢ではありません。 強敵 探索中に強敵フラグが100%に達すると、その場で強敵が出現します。 強敵はその探索地の個体では最強の存在です。 強敵戦からは逃走ができないので、自分の力量が強敵に及ばないと思う場合は、探索をやめることも必要になるでしょう。 強敵は倒すと武器と防具に特別な効果を付与する『特殊強化素材』か金を落とします。 何を落とすのかは強敵の止めを刺した時のダイス目で決まります。 戦う敵が決まったら、次はいよいよ戦闘に入ります。 戦闘2へ 以下広告
https://w.atwiki.jp/foresanc/pages/1906.html
バンディットヴァーミン 概要 分類 魔獣・輩蟻系 主な生息地 山間部などの高地 知能 昆虫並 属性 無 危険度 D+ 備考 群れで生息田畑を食害する 魔獣の一種。 人間の幼児ほどの体躯を持つ、アリとゴキブリを掛け合わせたような外見の魔物。 主に山野に生息している。 ほぼ本能しか持たず、雑食性で草木や野菜、動物や魔物から人間までなんでも食べる。 群れを成して行動する習性を持ち、リーダーなどは持たず全体の意思に従って行動する。 個体の9割以上は雌で通常は単為生殖で自分のクローン(それも既に胎内に子を宿している)を産み落として個体数を増やし、秋の初めの繁殖期にのみ雄を産む。 しばしば群れを成して田畑や家畜などを襲って被害を与えることから忌み嫌われている。 個々の戦闘能力そのものは高くないが口からは強酸性の唾液を発射する。 技・魔法 アシッドジュース 口から強酸性の体液を発射する。 経歴 2012年6月30日 山地討伐 山地の敵として化蛇らと共に登場。 エコーやエリオらと交戦するがあっさり蹴散らされて全滅した。 由来 「Bandit(山賊)」+「Vermin(害虫)」 アースガルド ゴキブリ 害虫 虫 蟻 魔物
https://w.atwiki.jp/erinn/pages/69.html
豚 食べても食べてもなくならない豚の群れがダーナ親族の主食だったとの言い伝えがある。 食べても次の日には数が戻っていたという。 フォークがささったまま豚が行進しているといった表現もあるほど、豊富にあった食料とされている。 豚の群れを持っていたのはダグダともマナナーンマクリールとも説がある。 .
https://w.atwiki.jp/homuhomu_tabetai/pages/2104.html
作者:hg1M/kvmo 第1部・『アンアン』と呼ばれた仔その1 その2 その3 第2部・蛇足、あるいはとある公園職員の独白 ジャンル:あんさや群れ ほむまど群れ ゲス稀少種 仲間割れ 共食い 実験 箱庭 誤認 食物連鎖 感想 すべてのコメントを見る ここにある中で一番つまんない
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/977.html
※この作品は以下のものを含みます 脇役な虐待お兄さん 比較的普通の良いゆっくり 比較的普通の悪いゆっくり あんまり目立たないドスまりさ タイトルで既にバレバレな内容 それでも良い方のみ、以下にお進みください 汝は餡狼なりや? やあ! 僕は虐待お兄さん! 最近、村の近くにドスのいるゆっくりの群れが住み着いたってんで、早速虐待しに行っているところさ! 武器は持たない! 空手だ! というか今日はあくまで様子見なので、特に何をするということもないのだけれど。 歌でも歌っちゃいそうな気分で歩いていると、すぐにドスまりさのデカ頭が見えてきた。 まずは定番の挨拶でもして、こっちに気を向けてやろう。僕は木陰から飛び出しながら、言った。 「やあ! ゆっくりしていって……ね?」 お決まりの言葉の途中で、僕は思わず声を止めてしまった。 というのも、ドスまりさやその周りのゆっくりの様子がおかしかったからである。 僕を目の当たりにしても、「ゆっくりしていってね!」と返さないどころか、警戒する様子さえない。 何やら複雑な事情がありそうである。 「ゆっ……なんだ、人間のお兄さんだね。ゆっくりしていってほしいけれど、まりさ達は今はゆっくりできないよ……」 しょぼくれた様子のドスまりさ。ますますワケが分からない。 「どうしたんだお前ら、何かあったのか?」 あまりに特異な状況に、思わずギャクタイズムソウルもなりを潜めてしまった。僕はドスまりさに近寄り、事情を聞くことにした。 「ゆっ、お兄さん、実はね……」 ドスまりさはぽつりぽつりと話し始めた。 その群れは、ごくごく普通のゆっくりの群れであった。 前いた場所に野生動物が増えてきたため大移動を行い、最近ここに住み着いたのだ。 中には人間に喧嘩を売るような愚かなゆっくりもいたが、案の定そういう連中は早死にしてしまった。 なので今では、残ったゆっくりだけで、できるだけ人間に関わらずゆっくり過ごそうということになったのだ。 しかしここで、ちょっとした異変が起きた。 或いはそれが全ての始まりであったのかもしれない。 「ゆゆっ! みなれないまりさだよ! ゆっくりしていってね!」 「ゆっくりしていくんだぜ!」 流れ者の一匹のまりさが、群れの仲間に加わったのである。 まりさはすぐに一匹のれいむと仲良くなり、一緒に過ごし始めた。ここまでは群れも、新しい仲間を素直に歓迎していた。 だがしかしある朝、そのれいむが無残に食い殺された屍体となって発見されたのである。 近くには野犬やれみりゃもおらず、人間が近づいた痕跡もない。 疑いの目は、自然な流れとして、新参のまりさに向けられた。 昨晩れいむと最後までいたのもまりさだし、同じ巣に住んでいてれいむが外に出るのに気づかないはずがないと皆は思った。 「ちがうんだぜ! まりさはやってないんだぜ! どす、みっかだけまってほしいんだぜ! そのあいだにまりさが、しんはんにんをみつけてみせるんだぜ!」 その申し出は受け入れられた。まりさの必死さと、れいむを殺した犯人に向ける怒りに、嘘はないとドスは感じたのだ。 しかし翌朝、まりさは群れの縄張りの西端で屍体となって見つかった。これにも、食い殺されたようなあとがあった。 誰がやったかは分からない。事実なのは、犯人と疑われたまりさがもう死んでしまったことである。 多くのものは、れみりゃの仕業に違いないと思った。そのくらいしか犯人のあてがなかった。 しかしさらに翌朝、縄張りの中心にれみりゃの帽子とちぎれた羽が落ちているのが発見された。 群れのゆっくり達は昨晩は一歩も巣の外に出なかったが、何かが揉み合っているような音がしたと証言した。 ここに来て、ドスと側近のぱちゅりーは事態がただならぬ方向に動き出していると悟った。 静かなゆっくりの群れの中で起きた、連続殺ゆっくり事件── その犯人は、この群れの中の誰かである目算が高い── ゆっくり達は互いに疑心暗鬼に陥り、さりとて仲間を犯人と決め付けることもできない。 このままではゆっくりできなくなってしまう。そのことだけは皆漠然と感じていた── ……と、そういう事情であるらしい。 「ふぅむ」 中々興味深い話ではある。が、僕の虐待欲求とは全く関係がない。 関係がないが、この事件を放置してゆっくりを虐待しても、収まりがつかない気がするのだ。 なんというか伏線が回収されてない小説でも読んでいる気がして。どうにかできないものか。 ゆっくり共々車座になって思い悩んでしまった。その状況に違和感を覚えなかった時点で、虐待お兄さんとしては既におかしい行動だと自分でも思ったけど。 しかしそこはそれ、ゆっくりとは違う。僕はすぐに面白いことを思いついた。 「ねぇドス、こんなのはどうだい?」 「ゆっ、何?」 群れのゆっくりの注目を浴びる中、僕はコホンと咳払いして喋りだす。 「君達の話を聞いていて、どうやらこの群れの中に犯人がいるらしいという事情は分かった。 だがそれが誰なのかまではわからない。それで困ってる。そうだね?」 「むきゅっ、そうよ!」 ドス側近のぱちゅりーが合いの手を入れる。 「対応策は色々あるだろう。夜に寝ずの番を立てるとか、戸締りをするとか。 だが寝ずの番を立てたところで、その番が襲われたら意味がない。一晩中外にいることになるからね。 最悪、寝ずの番として選ばれたゆっくりが犯人だったら、そのまま逃げられたり、また誰か殺されてしまうかもしれない。 戸締りをしていても、相手はれみりゃさえ殺してしまうようなやつだ。家の中まで入られてしまえば一貫の終わりだろうね」 「ゆ、ゆゆゆゆぅぅぅぅ~~~!!!」 「いやだぁあああああ、ごわいよぉぉぉぉぉ!!!」 僕の煽り口調に、ゆっくり達が恐怖に震えだす。そうでなくっちゃいけない。 「そこで提案がある。君達の中で、最も犯人として疑わしいゆっくり。それを僕に差し出して欲しい」 「「「「「ゆゆっ!!!???」」」」」 ゆっくり達がいっせいに声を上げた。 「どういうことなの!? ちゃんと説明してね!!」 ドスが詰め寄る。こうして見るとほんと迫力あるなぁ。 「いいから、落ち着いて話を最後まで聞いてね。 何も、そのゆっくりをすぐに殺すって言ってるわけじゃない。僕の家に連れ帰って、監視するだけさ。 そして翌日以降、しばらく誰も殺されなかったら、僕が捕まえてるやつが犯人ということになるだろう?」 「むきゅ、でもはんにんがころすのをがまんしたら、むじつのなかまにつみをきせることになるわ……」 ぱちゅりーが反論してきた。こいつは中々に頭がいいみたいだね。 「まぁ、そう思うだろうさ。 でもねぱちゅりー、一度仲間の味を覚えたゆっくりというのはね、その味に取り憑かれて……」 できるだけ怖い表情を作って詰め寄っていく。 「む、むきゅ、むきゅきゅ……!」 怯えるぱちゅりー。 「ゆっくりを食べずにいられないゆっくりになってしまうんだ……!」 「むきゅきゅううーーーーー!!!」 口からデロリと生クリームを垂れ流して気絶するぱちゅりー。気の弱いやつである。 別に嘘は言っていない。甘いものが大好きなゆっくりにとって、同じゆっくりは最も身近な甘味である。 餓えた状態になくとも共食いに走るゆっくりというのは、自然の中でもたまに出てくるのだ。 なんとも業の深い生き物である。 すっかり怯えてしまった群れに向けて、僕は説明を続けた。 「で、さっきの続きだけど。 もし容疑者ゆっくりを捕まえた状態でいても殺ゆっくり事件が発生した場合、まだ群れの中に犯人がいるということになる。 その場合は、また一番疑わしいゆっくりを僕に差し出してもらう。 これを殺されるゆっくりがいなくなるまで続ければ、いつかは犯人が見つかるだろう?」 「で、でもそれじゃあなかまがたくさん死んじゃうよ!」 慌てた様子でドスが反論してきた。 犯人が捕まればそれでいいが、逆に言えば捕まらない限り犠牲が出続けるわけだからね。 「勿論、それは分かってるさ。でも他の方法で犯人を捕まえられる算段はあるのかい? 群れ全部を監視することは、いくらなんでも僕にもできないし」 「ゆ、それは……」 僕は元気付けるようにドスに言う。 「なに、そんな心配することはないよ。疑わしいゆっくりは、夕方に投票でもして決めればいいじゃないか。 昼の間は皆で協力して犯人の痕跡を探すなりして、効率的に時間を使えばいいんだから。 それで犯人が分かれば、それが一番いいわけだしね」 「ゆ……なるほど。お兄さんのいうことにもいちりあるよ」 時間を有効に使う、というところで納得したのか、ドスはしきりに頷いた。 そしてドスは皆に向き直って、声を張った。 「みんな! はなしはきいていたね! お兄さんのいうとおり、みんなできょうりょくして犯人をさがすよ!」 「「「「「ゆっくりりかいしたよ!!!!!」」」」」 解決の糸口が見え始めたからか、群れにも活気が戻ってきたようだ。 うんうん、良いことだね。なんだか僕まで嬉しくなってきたよ。 「さて、それじゃあ今日の容疑者ゆっくりを決めてほしいんだけど」 「「「「「ゆ゛っ!!!???」」」」」 いや、『ゆっ!?』て。 「だからさっき言ったじゃないか。皆で誰が犯人と思うか決めてくれって。 もうすぐ日も暮れちゃうし、早く決めてくれないとまた被害者が出ちゃうよ」 なんともおめでたい餡子脳っぷりである。本当に大丈夫かなぁ。 どのゆっくりも考え込みすぎて顔が赤くなってきたので、僕はいい加減助け舟を出してやることにした。 「まぁ、まずドスまりさは違うと思うよ。これだけ大きいのが夜中歩き回ってたら、さすがに皆気づくだろうしね。 あと、ぱちゅりー種も違うかな。いくらなんでもぱちゅりーにれみりゃは殺せないだろう。 同様の理由で、子供のゆっくりも違うだろうね。──だから残るのは、大人のゆっくりだ」 「「「「「ゆゆゆゆゆゆ~~~~~~……」」」」」 これで容疑者候補は半分程度にまで絞られたが、それでも皆悩んでいた。 だが効果はあったようで、やがて話し合っていた数匹のゆっくりが声を上げた。 「あのきのしたにすんでるありすがあやしいよ!!!」 と一匹のありすを名指しした。 当然、たまったもんじゃないのは当のありす本人だ。 「どぉじでぞんなごどいうのぉぉぉおおおおおおおおおお!!!!」 発言したゆっくりに対してくってかかるありすだったが、別のゆっくりがその理由を語る。 「だってありす、あのまりさといっしょにすんでたれいむがうらやましいっていってたでしょ! だからきっとありすがれいむをころしたんだよ!!!」 「そうだとしても、ありずがまりざをごろずりゆうはもっどないでじょおおおおお!!!???」 「はんにんだってばれそうになったから、くちふうじをしたんだよ!!!」 何匹かのゆっくりがありすを攻め立てると、他のゆっくりもそれに迎合し始めた。おお、醜い醜い。 まぁそれだけ、連日連夜の殺ゆっくり事件にストレスがたまっていたということだろう。 なんでもいいから、罪を押し付けられる相手が欲しいのだ、要は。 「決まったようだね」 僕はありすを持ち上げ、しっかりと胸に抱いた。 「いや゛あああああああ!!! ありずはなにぼじでないいいいいいい!!!」 「はいはい落ち着いてね。何も殺すって言ってるわけじゃないんだから」 じたばた暴れるありすをなんとか押さえつけると、群れの中から数匹のゆっくりが現れた。 ありすが三匹にまりさが三匹。いずれも子ゆっくりである。 「おかーさんをはなせえええええええ!!!」 「おかーさんはなにもしてないよ!! きのうはゆっくりこもりうたをうたってくれたよ!!」 「おねがいじまずぅうぅううう!! おがーざんをだずげでえええええええ!!」 「みんな……!」 必死に無実を訴える子供達。自分を信じてくれた子供達に涙を流す母。 その姿に群れのゆっくり達の何匹かはほろほろと涙をこぼしている。実に感動的なシーンだ。ゆっくりじゃなければ。 「大丈夫さ。本当に君達のお母さんが何もしてないというなら、真犯人が捕まったときにちゃんと解放するよ。それまでの辛抱だよ」 僕もついつい情にほだされ(たということにして)、子供達を慰めた。 ありすも、こんな良い子供達を前にいつまでも無様に泣いているわけにはいかないと思ったのだろう。 「だいじょうぶよ、しんぱいしないで! おかあさんはきっとぶじにかえってくるからね! だからみんなはゆっくりまっててね!」 「「「「「「ゆっくりまってるよ!!!!!!」」」」」」 強い絆で結ばれた親子の姿がそこにあった。ドスも側近ぱちゅりー(いつの間にか復活していた)も滝のような涙を流している。 「じゃあ行こうか、ありす」 「ええ」 僕はありすを連れて、ゆっくりの群れを去った。 後ろからはいつまでも子ゆっくり達の声が聞こえてきていた。 そして、翌日。 結論から言えば、ありすは犯人ではなかった。群れで新たな犠牲者が出たからだ。 しかも殺されたのは、犯人として疑われたありすの長女まりさだった。 「どうしたものかな」 朝イチで群れに行ってそのことを聞いた僕は、ありすに事実をありのまま伝えるかどうか迷った。 残された子供達は意気消沈した様子であり、泣き叫ぶことすらしなかった。 だが結局、何も知らせないことにした。わざわざ心労をかける必要もなかろう。 ちなみにありすは牢獄代わりに透明な箱に入れてある。子供達を心の支えにしているのか、大人しいものだった。 え? 虐待しないのかって? いやいや、確かに僕は虐待お兄さんだが、無実のゆっくりを虐めるのは好きではないのだ。 ……というのは嘘で、これも考えあってのことである。 僕は既にある推理を打ち立てていた。まだ『もしかして』というレベルで、だけど。 でももしそれが正しいなら、容疑者ゆっくり達には事件解決まで健康に過ごしてほしい。 それに一応、ドスと約束したことでもあるしね。今後のためにも、信頼は得ておくに越したことはない。 そう、既に僕の中では、今後のプランが構築されつつあった。僕が最大限の利益を得る方法が…… 夕方になって再び群れを訪れると、今日の下手人はあるまりさに決定されたようだ。 「なにをいってるんだぜ! まりさははんにんなんかじゃないんだぜ!」 そう主張するが、決定は決定なので覆らない。 このまりさ、流れ者のまりさともありす一家とも普段から折り合いが悪かったらしく、犯人候補の槍玉に上がったらしい。 普段からのご近所づきあいって大切だよね。『イツカハヤルトオモッテタンデスヨー』ってやつだ。 「おかーさんひどいよ! わるいおかーさんはもうかえってこないでね!」 「おかーさんはもうまりさたちのおかーさんなんかじゃないよ! ぷんぷん!」 「ゆっきゅりちんでね!」 「どぉじでぞんなごどいうんだぜぇぇぇぇぇぇ!!!???」 しかも昨日のありす一家と違って家族からの人望すらないらしい。何気に末っ子が一番口が悪いな。 僕はまりさを連れ帰り、昨日のありすと同じく透明な箱に詰め込んだ。 ここからは似たような事態が続いていくので、できるだけ簡潔に追っていこう。 さらに翌日。 今度はまりさ一家の三姉妹の末っ子が殺されていた。 しかも昨日のありす家のまりさが殺されたのは巣の外だったのに、この末っ子は巣の中で殺されていたのだ。 巣の入り口は壊されており、誰かが侵入したものと思われた。 ドスは夜の番をしていたが、犯人の姿を見つけることはできなかった。 「なにかおおきなものがはいってきてあかちゃんをごろじぢゃっだぁあああ!!!」 「どぉじでえええ!!! まりざのいぼうどおおおお!!!」 ガタガタ震えるまりさ姉妹。これでまた、事件は振り出しに戻ったわけだ。 ドスも側近ぱちゅりーも色々考えているようだが、中々犯人を見つけ出す良い手立ては見つからないようである。 その日は一匹のちぇんが容疑者として僕に引き渡された。 昼の犯人捜索を、親代わりであった病気のらんしゃまの看病を理由に断ったためだ。ほとんど言いがかりである。 だが、やはりと言うべきか、ちぇんもまた犯人ではなかった。 縄張りの外れで、何かに絞め殺されたかのようならんしゃまの屍体が見つかったからである。 この日もドスが深夜遅くまで番をしており、らんしゃまが巣を出て行くのを見かけたらしい。 そして追いかけたものの途中で見失い、明け方近くになってようやく変わり果てたらんしゃまを発見したのだ。 子供を連れ去られ、伴侶を喪ったゆかりんはひどく消沈していた。 その日はある一家の母れいむが容疑者として引っ立てられた。 翌朝、れいむの巣の中で一人娘のまりさが殺されていた。 このとき父まりさは、子供を守るために、自分も群れを見張ろうと巣の前で歩哨に立っていたという。 しかしついうっかり眠ってしまい、朝になって巣の中に戻ると、ぺしゃんこになった子まりさの姿があったという。 巣の入り口は破壊されておらず、犯人の進入経路は謎なままだった。 容疑者として、一人ひっそりと暮らしていたみょんが上げられた。 その次の朝には、別の場所に住んでいたみょんの両親の、母みょんのほうが遺体となって見つかった。 遺体には暴行、もといすっきりー!した痕跡があり、幸いにも蔓に実った子供達は無事だった。 遺体は鋭利な刃物で下半分を切断されたような状態だった。凶器は恐らく、近くに落ちていた細長い石だろう。 なんとか無事に生まれた落ちた赤みょんは、そのまま父みょんが育てることになった。 容疑者として、群れ一番の性欲を誇るありすが引っ立てられた。 もうこの時点で、それまでの被害者の共通点を見出して犯人を決めるという余裕はゆっくり達から抜け落ちている。 翌朝見つかったのは、ありすのセフレ(笑)の一匹であった子ぱちゅりーの屍体だった。 同じくセフレ(笑)であったまりさ、れいむに事情聴取が行われたが、三匹は仲が悪かったらしく、お互いに何も知らないと主張した。 最近は子ぱちゅりーばかりがありすの寵愛を受けており、二匹は常々快く思っていなかったようである。 性欲全開ありす達とずっと仲の悪かった、別の理性的なありすが引っ立てられた。 また最近側近ぱちゅりーは、屍体発見の報を受けるたびに「むきゅー!」とクリームを吐き出して失神してしまうらしい。 全体的に、精神の限界が近いかもしれない。 さらに翌朝、理性ありすと同棲していたまりさが死んでいた。 巣の中にあった木の枝で目を刺し殺されていたのである。 しかもそれだけではなく、巣の入り口からは誰が入った痕跡もなかった。 またドスが一晩中見張りをしていたのだが、その間ありすとまりさの巣に誰かが入っていく様子もなかったという。 ドスが見張っていたすぐそばに二人の巣があり、この証言の信頼性は高かった。 この日の容疑者には、ある大家族を一人で支えていた母れいむが上げられた。 理由は巣が一番近いからだった。 そのまた翌朝、れいむ一家の末っ子の赤れいむが殺されていた。 この赤れいむは生まれつき跳ねることができない未熟児だった。 屍体は見るも無残な姿で、餡子の染みとしか分からないほどまでに念入りにすり潰されていた。 昨晩のまりさと同じく、密室状態での殺ゆっくりだった。 しかし赤れいむ以外の子供は一切被害を受けておらず、また殺されたことにさえ気づかなかったという 姉妹達は、元々ゆっくりできてない赤ゆっくりが嫌いだったようで、特段悲しむ素振りも見せなかった。 繰り返される悲劇に、群れのゆっくり達は、ゆっくりとその精神をすり減らしていく。 このままでは群れ自体が長く続かないことだろう。それは僕の望むところではない。 ──さて。 もうそろそろ、解答に入ってもいいかもしれない。 群れ全体のストレスも既に限界であるし、側近ぱちゅりーに至ってはいい加減クリームを吐き出しすぎである。 まぁ毎日野菜クズなんかを差し入れしてやってるから死ぬということはあるまいが。 僕は家を出て、いつもより早めに群れに向かった。 続き このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/1681.html
・タイトルでわかるでしょうが、まりさつむりが出ます ・ていうか、モロにキリライターあきさんのつむり漫画にインスパイアされました ・同じようなシチュエーションで、違う展開になるような感じ ・漫画や、その原作のSSを読んでなくても問題はありません ・特に愛でではなく、特に虐待でもなく、と作者当人は思っています。 ・ごめん、やっぱ特定種虐待かも。 とある森の広場に、大勢のゆっくりが集まっていた。 「ゆゆ! もう、まりさはあんなのと一緒に暮らしたくないよ!」 一匹のゆっくりまりさが、大きな声で言っている。 「ゆゆぅ……」 「……まりさがそう言うのもしょうがないね」 「でも、あの子はどうしようか……」 他のゆっくりたちはそれを聞いて、諸手を上げて……というわけではないが、その言い 分に同意しているようだ。 「とにかく、まりさのおうちには置いておけないよ! またかわいいゆっくりしたつむり がやられたら大変だよ!」 まりさは、さらに言い募る。 「ゆぅ……つむりちゃんがあぶないのは駄目だよね」 「ゆっくりできなくなるよ……」 「長……」 「むきゅぅ」 話を振られて、この群れの長をしているぱちゅりーが答える。 「とにかく、おちびのまりさはもうつむりと一緒には住めないわ。でも、まだ小さな子だ から群れから追放したらぜったいに死んじゃうから、追放もできない。どうするかはこっ ちで話し合って決めるわ」 ぱちゅりーが「こっち」と言っているのは、長とその側近の群れの幹部による会議のこ とである。それほどおかしな結論を出したことは無いので皆には信頼されている。 「ゆん! まりさは、あいつがおうちから出ていくならそれでいいよ!」 まりさは納得した。 そして、そのまりさが納得したのなら、と他のゆっくりたちも全てを長と幹部に任せる ことにした。 ゆっくりたちが思い思いの方向に散っていく。 残ったのは、長のぱちゅりー、幹部のまりさ、れいむ、ありす、ちぇん、そして頭はよ いが体が弱いぱちゅりーの世話や護衛をしているみょん。 「みょん、あの子を見ていてね」 「ぺにす!」 みょんは、了解して跳ねて行った。行く先は長のおうちだ。そこには一匹の子まりさが 怪我をした体を横たえて眠っていた。 子まりさをみょんに任せ、ぱちゅりーたちは幹部会を開いた。と、言ってもその場で円 になって話し合うだけだが。 「長……どうしようか」 「……ようするに問題は、あの子をどうするかよ。それさえ解決してしまえばいいわ」 事の発端は、とある特殊な一家での出来事であった。 番を既に亡くした親まりさが二匹の子供を育てていた。 その一家を他と異ならしめていたのは、まりさつむりの存在である。 長女の姉まりさは黒白帽子を被ったごく普通のまりさだったが、次女の妹が帽子の代わ りに貝殻を被ったまりさつむりであった。 本来は水辺に生息するまりさの変異種であるが、ごくごく稀に、普通のまりさからも産 まれることがある。ただ、その場合は本来のまりさつむりが持つ水に強いという特性が無 く、帽子が貝殻であること以外は普通のまりさ種である。 その貝殻は帽子よりも遙かに重いために跳ねられず、移動速度はゆっくりにも程がある 遅さである。 重い代わりに固いので貝殻を防御に使えないこともないが、所詮帽子の代わりに頭に乗 っている程度の大きさなので完全に体を隠すことはできず、重さのデメリットを覆うほど のメリットは期待できない。 はっきり言って、通常のまりさ種が劣化したとしか言いようが無いのだが、本当にごく 稀に生まれるために希少価値があり、珍しいものをゆっくり感じるゆっくりたちには持て 囃され易い。 現に、そのつむりも群れの人気者であった。 その影で不平をためていたのが姉まりさである。 既述のごとく、つむりは移動にも困難をきたすほどであるので、親まりさはつむりの世 話にかかりっきりで、二言目には「おねえさんは自分でできるでしょ」であった。 しょうがないことなのだが、それをしょうがないと諦めるには姉まりさは幼過ぎた。 つむりが群れのみんなにちやほやされているのを誇らしげにするのも気に入らなかった。 親まりさとしてはあくまでもつむりを誉めているだけで他意の無いつもりでも、愛情に飢 えた姉まりさはそう受け取らない。 遂には、だいぶひねくれた性根になってしまっていた。 「つむりはとてもゆっくりできるね!」 という言葉は、自分はゆっくりできない子だ、という非難に、 「つむりはみんなの人気者だね!」 という言葉は、お前はみんなに好かれてないね、という罵倒に、 「つむり、おかあさんの帽子に乗っておさんぽに行こうね」 という言葉は、お前はついてくるな、という拒絶に――。 そして、今日、とうとうそれが爆発した。 親まりさが狩りに行っている間、いつものようにつむりの世話をしていた姉まりさは、 つむりが転んで動けなくなったのを助けようとして、ぴたと立ち止まった。 ――こんなやつ、ぜんぜんゆっくりしてにゃいよ! と、姉まりさは思った。いったいこれのどこがゆっくりしているのか、ドン臭くて転ん だら自分で起き上がることもできないじゃないか。 そうしているうちに、どんどん姉まりさの中で妹への軽蔑が育っていった。 ――こいつ、ずっとおかあさんにめんどうみてもらうつもりにゃの? ゆぷぷ、と嘲笑った。そうすることで、たまりにたまったストレスを解消していた。 これまでも、姉まりさはこうやって珍しいという以外に取り得の無いつむりを軽蔑する ことで、爆発寸前の感情を抑えていたのだ。 だが、その日のそれは少し長かった。 そのため、いつもならすぐに助け起こしてくれるはずの姉まりさがいつまでも来ないと 思ったつむりが声を上げた。 「にゃにちちぇるの! はやくたちゅけちぇよ!」 命令しよう、とかそんな気持ちは当然つむりには無かった。多少言葉遣いが乱暴なのは 姉妹ゆえの気安さである。 「ゆっ!」 しかし、親の何気ない言葉ですら自分への雑言に変換してしまう姉まりさである。もち ろんそれをつむりが自分を下に見ていると受け止めた。 「なにいってるにょ! じぶんでおきれないむのーめ!」 姉まりさは、つむりの貝殻を押した。 「ゆわわわわ!」 ごろりと貝殻が転がり、それにつむりの体は持っていかれてしまう。 「ゆぷぷぷぷ!」 姉まりさはそれがあまりに無様なので面白がって何度も転がした。 「や、やめちぇぇぇ! たちゅけちぇぇぇ! おきゃあしゃーん!」 とうとうつむりが号泣した時に、親まりさが帰ってきた。 親まりさは激怒して、姉まりさを折檻した。 「いもうとをいじめるなんてゆっくりしてない子だよ!」 「いぢゃぃぃぃ、やめぢぇぇぇ!」 今度は姉まりさが痛みに泣き叫ぶ番だった。 そして、その折檻は次第に折檻の域を超えていく。 「つむりをいじめるクズはゆっくりしね!」 凄まじい勢いでの体当たり。死んでもおかしくない一撃。 その言葉も、その威力も、はからずも自分では平等に接していたつもりの親まりさが無 意識のうちに、珍しくみんなに持て囃されるつむりの方を優先していたことを示していた。 それをはっきりと姉まりさは感じ取った。 あくまでも、「いもうと」をいじめるのはいけないことだ、と言っていたのならばよか ったのだが――。 つむりも泣いていたし、姉まりさも泣いていた。それを聞きつけておとなりのゆっくり 家族が何事かとやってきて、姉まりさが怪我をしているのを見て驚いて群れのみんなを呼 んだ。 姉まりさは、長ぱちゅりーが適切な治療を施して自分のおうちに寝かせたので命に別状 は無かった。 広場で群れの集会が開かれ、そこで親まりさは何があったのかを長から尋問されてあり のままを正直に答えた。 群れには掟があり、それによると親による子供への体罰は認められているものの限度が あり、目安としては皮が破れ、餡子が出たらやりすぎということになっている。 姉まりさは最後の強烈な体当たりを貰った時におうちの壁にぶつかって少し皮を切って いたために、親まりさはぺんぺん三回の刑を言い渡された。 ぺんぺんとは……ようするにおしりぺんぺんである。ぷりんと尻を出させてそこを口に くわえた棒で叩くのだ。 親まりさは掟に従い罰を受けた。 しかし、その直後、じんじんした尻の痛みに耐えつつも、親まりさは言ったのだ。 もう、あの姉まりさと一緒に暮らすことはできない、と。 通常ならば、姉妹の間でのことだしつむりに怪我らしい怪我はなく、やった姉まりさも 相応のおしおきを受けているのだからそんなことは言うもんじゃないと長や幹部たちが諭 して、他のゆっくりたちもそれに同意して宥めにかかるところである。 だが、希少なとてもゆっくりできると評判のまりさつむりが絡んでいるだけにそう単純 には行かなかった。 また同じことがあったら、今度はつむりが死んでしまうかもしれない、そうなったら大 変だ、と親まりさが主張し、他のゆっくりたちがそれに理解を示したのである。 ――まりさつむりは珍しくてとてもゆっくりできる。それは保護するべきだ。 長と言っても、ぱちゅりーは強権でもって群れを治めているわけではないので、その状 況では、もはや姉まりさには親と妹と同居を続けることを諦めてもらうしかなかった。 「むきゅぅ……やっぱりなんとかまりさを説得するべきかしら」 諦めてもらうしかない、とは言うものの、長ぱちゅりーは迷っていた。親まりさを説き 伏せてやはり家族一緒に暮らすのがゆっくりできる道ではないのか、と思い直しているの だ。 「ゆん、いいかな」 幹部のまりさが発言を求めた。 「むきゅ! なにかしら」 と、発言を促したぱちゅりーの目は輝いていた。 この幹部まりさは、幹部の中でも特に信頼されていた。他のれいむ、ありす、ちぇんら がこの群れで産まれ育ったのに対し、このまりさは方々を流れ歩いていて半年ほど前にこ の群れに入ったばかりである。 いわば生え抜きではなく外様であるが、やはり知識や経験が豊富で、瞬く間に長をはじ めとする群れのゆっくりたちに頼られるようになった。 「いっしょに住ませないようにするのはいいと思うよ」 と、幹部まりさは言う。 「まりさが聞いた話なんだけど……」 と前置きして、幹部まりさはかつて耳にしたという話を披露した。 ほとんど今回の事件と同じである。 二匹のまりさが生まれ、片方がまりさつむりだった。親は重い貝殻で動けないつむりの 世話にかかりきり、みんながちやほやしてくれるのでますますつむりへ愛情を注ぎ、それ を不平に思ったもう一匹の子供が親が留守の間につむりに暴力を振るったのだ。 そちらの方はこちらの方よりも悲惨な結末を迎えた。つむりが死んでしまい、帰ってき た親が激昂してもう一匹の子供を殺した。 結局、その親は二匹の子供を失った上に、子殺しの罪でゆっくり死刑になるところを、 事情をくまれて群れからの追放刑をくだされた。 親子三匹が三者ともゆっくりできなくなったわけである。 「むりに一緒に住ませてたらそういうことが起きるかもしれないよ」 と、幹部まりさは言う。 「むきゅ、それならやっぱりあの子の引き取り手を探すしかないわね」 「ゆぅぅぅ、誰がいいかしら」 「ゆん! それならまりさが引き取るよ!」 と、幹部まりさが言ったので長たちはびっくりした。 「みんなも知っての通り、まりさはわるい人間さんにいじめられてもう赤ちゃんを産めな いんだよ」 それはまりさが群れに入ってすぐに聞かされたことがあった。その際に番のれいむと子 供たちを殺されたことも。 「だから、あの子を自分のおちびのつもりで育てるよ」 「ゆゆっ、まりさがそう言ってくれるなら」 「まりさったらとかいはね!」 「ちぇんももちろんさんせいだよー、ねえ、長」 「むきゅ、ぱちゅもまりさが引き取ってくれるなら安心だわ」 というわけで、まりさのおかげで一気に話はついた。 「ゆぅ……」 「ゆっくりしていってね!」 しばらく長のおうちで傷を癒してから幹部まりさのおうちに移った姉まりさは、歓迎の 挨拶に返事もせずにいた。 言われれば思わず返事をしてしまうはずのゆっくりしていってねに無反応という時点で、 姉まりさが相当心に傷を負っていることがわかる。 「まりさの寝るとこはそこだよ! ごはんもあるからむーしゃむーしゃしようね!」 草を敷き詰めた寝床に、たっぷりのごはん。 「むーちゃむーちゃ」 機械的にごはんを咀嚼してから、姉まりさはおやすみも言わずに寝床に転がった。 「ゆっくりおやすみ!」 その声に対しても無反応であった。 幹部まりさは、優しい笑顔でそれを見ている。 無理も無いのだ。 姉まりさは、ついさっき怪我から回復したところへ、ことの次第を聞かされたのだ。つ まり、親がもう自分と住みたくないと言ったことを。 ――まりさは、もうどうなってもいいよ。 ――おかあさんと住めないなら、もう一人で暮らすよ。 ――このおうちも、すぐに出ていくよ。 そう思いながら、姉まりさは眠りについた。 「出て行くの?」 「ゆん」 翌朝、姉まりさは目覚めるとすぐに幹部まりさに出て行くことを告げた。 「ごはんとか自分で取れるの? おうちは作れるの?」 「ゆ? ゆぅ……」 改めてそう言われれば、そんなことは一切できないことに気付く。どんなに一人で生き ていくと言ったところで、そんな知識も能力も無い。 「そ、それでも、まりしゃはひとりでくらしゅんだ!」 泣きながら叫んだ。 「じゃあ、一人で暮らす方法を教えてあげるよ」 あっさりと幹部まりさは言った。 「ゆゆ?」 「まりさは、この群れに来るまえは一人でたびをしていたから一人で暮らす方法を知って いるよ。だから、それを教えてあげるよ」 「ゆゆゆ?」 「それを覚えて、もっと大きくなったら独立して一人で暮らせばいいよ」 「……」 捨て鉢だった姉まりさは、閉じていた目を開かされたようだった。 まりさの特訓が始まった。 幹部まりさは狩りにまりさを連れて行った。跳ねる速度が全く違うために、帽子の上に まりさを乗せていった。 ――お帽子さんの上にのってるよ! いつも、おかあさんのお帽子に乗せてもらうのはつむりだった。貝殻の重量があるので つむりを乗せればいっぱいいっぱいなので、まりさは乗せてもらえなかった。 「ようく見学するんだよ!」 まりさを下ろして、幹部まりさは狩りをする。 テキパキと食べ物を集める。他のゆっくりたちと比べればその成果は一目瞭然であった。 ――このまりさ、すごいよ! 幹部まりさの意図した通りになった。まずそうやって自分の力を見せつけ、言われた通 りにしていれば自分もこうなれると思わせる。 それから、幹部まりさは様々なことを教えた。 効率的な狩りの仕方。 虫さんとの戦い方。 或いは、戦ってはいけない虫さんのこと。 小動物や捕食種などをやり過ごすための擬態のやり方。 まりさ種の特殊技能とも言える帽子で水に浮くやり方。 おうちの選び方。 そして、他のゆっくりとの戦い方。 一人で暮らせるようになるために、まりさはそれらを次々に吸収していった。 二匹の関係が少し変わったのは、まりさが成体サイズになりかけの頃だった。 自分で虫を取れるようになり、狩りが面白くてしょうがないまりさは、ついついできる だけ戦うなと言われていたカマキリに挑み、見事にざっくりと頬を切り裂かれてしまった のである。 すぐに幹部まりさが駆けつけてきてカマキリを追い払ったので助かったが、まりさはこ っぴどく叱られると震えた。 「ゆっ!」 しかし、幹部まりさは叱ったりはせずに、すぐにまりさを群れに連れ帰り、長のおうち へ行って治療してもらった。 「長、ゆっくりしないではやくしてね!」 いつになく取り乱している幹部まりさを、怪我している当人であるはずのまりさはどこ となく第三者のような目で見ていた。 第三者と言っても、醒めていたのではない。 むしろ、そんな視点で見たことにより、いかに幹部まりさが自分を大切にしているかを 知った。 「まりさ、まだカマキリさんと戦うのは早いよ。ゆっくりりかいしてね」 お叱りは、怪我の治療が終わってからだった。叱りつつも、愛が感じられた。 「ゆ、ゆっぐりりがいしぢゃよ」 まりさは、泣きながら言った。 それから二匹の仲は単なる一人で生きていく方法を教え学ぶというだけの関係から、よ り親密なものになった。 「おとうさん、きょうも狩りは上手くいったね!」 「ゆん、そうだね! まりさが手伝ってくれるからとても楽になってゆっくりできるよ」 一緒に暮らし始めてから一年。 既に、まりさは幹部まりさをおとうさんと呼ぶまでになっていた。 幹部まりさ――以後は義父まりさと呼ぼう――は、教え子の成長に満足していた。 もう、立派に一人で暮らしていける。 しかし、それを言わないことに義父まりさは一抹の後ろめたさを感じていた。 ――もう少し、もう少しだけ、この子と一緒に―― 義父まりさの、子供とともに暮らしたいという都合によるものだった。 ゆっくりの寿命は、それほど長くはない。 義父まりさは、自分の命数も残り少ないと感じていた。だからこそ、その短い間だけで もこの子とともに、二度と再び得られると思っていなかった我が子とともに――そんな気 持ちを抑え切れなかった。 「ゆっくりただいま!」 「ゆっくりただいま! それじゃ長のおうちに行こう」 「ゆん!」 親子は群れに帰ってくると長の家に向かった。 狩りの得意なこの親子は、自分たちが食べる分よりもかなり多くの食べ物を調達してく るので、その余った分を群れの備蓄として、長のおうちの貯蔵庫に入れているのだ。 長のおうちは、広場に面した所にある。 「ゆゆっ!?」 広場には、群れのゆっくりがほとんど集まっていた。 「むきゅ、おかえりなさい」 それは、どう見ても集会であった。 「まりさたちは今日はちょっと遠出していたから朝からずっといなかったんだけど、何か あったの?」 「むきゅ、まりさが怪我したのよ」 ゆっくりたちは微妙な、あまりに微妙すぎてゆっくりにしか理解できないニュアンスの 違いで名前を呼び分ける。 「ゆゆ!? まりさが!?」 「……」 義父まりさが驚き、まりさは沈黙する。 怪我をしたまりさと言うのは、まりさの親だったのである。 狩りの途中に高いところから落ちてあんよを大怪我したらしい。ぱちゅりーの見立てで は、おそらく完治は不可能とのこと。 「それで、どうするか話し合っていたんだね」 「ええ……」 と、答えるぱちゅりーは歯切れが悪い。どうしたのかな? とまりさたちが訝しげに思 っていると、幹部のちぇんが言った。 「それで、もうまりさは狩りが満足にできないから、まりさが戻ればいいって言ってたん だよ」 どちらもまりさなのでややこしいが、要するに親まりさが狩りができないので、姉まり さが元のおうちに戻って親と妹のつむりの面倒を見ろ、ということである。 「ゆゆゆ!?」 正直、冗談じゃない、という感じの声をまりさは上げた。本来の親のことも妹のことも 忘れかけて「おとうさん」と新たな生活をしているというのに――。 その態度から、拒絶の意思を感じた他のゆっくりたちは口々に戻るべきだ、親と妹をゆ っくりさせてあげるべきだ、と言った。 この辺りは、ずるいと言うべきだろう。 つむりはとてもゆっくりできるね、とちやほやしておきながら、重たい貝殻をかぶった つむりの面倒を見るのは相当に困難であることは親まりさのことを見て重々承知している ゆっくりたちは、自分がそれをやるのはごめんだと思っているのである。 「ゆゆぅ」 「むきゅぅ……」 義父まりさはぱちゅりーを見て渋面になった。群れのゆっくりたちがこれだけ同意見だ と、もう長でも覆せない。 義父まりさは、まりさを戻したくはなかった。それならばさっさと一人立ちさせた方が いいと思っていた。 一度、まりさが一人で出かけて帰ってきた時に、 「ゆん、さっきつむりとおかあさんを見たよ」 と言ったことがあった。既に義父まりさをおとうさんと呼び始めた頃だった。 「それで、どう思った?」 と聞いたところ、 「ゆぅ……それが、どうとも思わなかったよ」 と、まりさはゆっくりと笑った。 義父まりさは、僅かな悲しさは感じたものの、これでいいのだと思った。親と妹に屈折 した感情を持っていたまりさである。どうとも思わない、というのは餡子を分けた家族に 対していかにも冷たくゆっくりしていないようだが、まりさにとってはそれが十分に前進 なのだ。 いや、むしろどうとも思わないことによって、まりさは過去を吹っ切って前に進もうと することができるのかもしれない。 しかし、圧倒的多数の言葉が、まりさを攻め立てる。これに抵抗するのは群れの一員で ある以上非常に難しいことだった。 「ゆゆぅ……」 弱気になったまりさは、義父まりさを見て、それから親まりさを見た。 「ゆっ!」 まりさは衝撃を受けた。 まりさとしては、そこで親まりさが過去のあれこれは水に流してまた一緒に暮らそう、 と言えば少しは心が動いただろう。 だが、親まりさの目にはありありと嫌悪感がにじみ出ていた。あんな奴とは一緒に暮ら したくないが、しょうがない、と言わんばかりの目。 「……やだよ」 その目を見た次の瞬間、まりさは言っていた。 「戻りたくないよ。まりさは、まりさはおとうさんとずっと暮らすんだ!」 「そ、そんなのゆっくりしてないよ!」 まりさへの反論がなされると、すぐさまそれに同調する声が上がる。 義父まりさは、その間にも、他の幹部に詳しい話を聞いていた。 そもそもまりさは、つむりに暴力を振るった罪でおうちを追い出されて義父まりさに引 き取られた、という形になっている。 今回のことは、その罪を許しておうちに帰す、ということになっている。 それゆえに、拒絶を続けるまりさに対してこんな声が上がった。 「それなら追放だよ! おうちに戻るか群れから出ていくかどっちかだよ!」 またまた、それに賛同する声が上がる。 「ゆっ!」 義父まりさは、それを聞くと長ぱちゅりーを見て叫んだ。 「長! まりさがおうちに戻るか群れから出て行くかを選ぶということでいいんだね!」 「むきゅ」 ぱちゅりーは突如そう言われて戸惑ったが、すぐに義父まりさの意図を了解した。ぱち ゅりーが頭がよかったこともあったが、義父まりさは、ぱちゅりーにだけは、実はもうま りさは一人立ちできるんだけど自分の我侭でそのことをまりさには告げていないことを話 していたからだ。 「そうね。みんなの意見もそのようだし、そういうことにするわ。まりさ、明日の朝まで に、どちらかを選びなさい」 「ゆ!? ……そ、そんな」 まりさは、二択に見せかけた一択を与えられた気分で泣きそうであった。群れから出た ら生きてはいけない以上、もう一つの選択をするしかないではないか。 「ゆぅ……」 「……」 親まりさを見ると、まりさがおうちに戻ることを拒絶したことに気分を害したらしく、 先ほどよりもさらに険しい目をしている。 あんな親がいるところへは戻りたくはなかった。 「それじゃ、解散よ」 「ゆっくりかいさんするよ!」 「ゆゆぅ、なんとかなってよかったね!」 「ゆっくりおひるねするよ」 「むーしゃむーしゃしようね」 ぱちゅりにー言われて散って行くゆっくりたちは、全て解決済みだという態度であった。 選ばせると言いつつも、選択の余地などないことは明らかだったからだ。 皆、群れで生まれ、群れで育った。群れからの追放は、それだけで死を意味した。 「まりさ、朝までに考えておくんだよ」 おうちに帰って義父まりさにそう言われたまりさは、信頼していたおとうさんと長が自 分の味方をしてくれなかったことに怒り叫んだ。 「考えるっていっても、そんなの決まってるよ! 群れから出ていけるわけないんだから、 まりさは前のおうちに戻るよ!」 「ゆゆ? なんで?」 不思議そうな義父まりさに、まりさは絶句する。ふざけるなと言葉を叩きつけようとし た時、義父まりさがゆっくり微笑んで言った。 「群れから出ていけばいいよ。まりさなら、立派に一人で生きられるよ」 「ゆゆゆ? ほ、本当に?」 憧れていた。一人で暮らすことに、そんなゆっくりになることに。 「そのために、おとうさんはたくさんのことを教えたんだよ。まりさはもう大丈夫だよ」 「ゆっ、ゆぅぅぅ」 尊敬する義父まりさにそう言われて、まりさは感極まって涙ぐむ。 涙腺が決壊したのは、義父まりさの次の言葉によってだった。 「今までそのことを黙っていてゆっくりごめんね。……まりさと少しでも一緒に暮らした かったんだよ。……じぶんで一人で暮らせる方法を教えたくせにね」 「ゆ! ま、まりじゃも! まりじゃも、おどうざんど!」 「ゆん、うれしいよ。こんどのことはむしろいいきっかけだと思うんだよ。こんなことで もないと、まりさはいつまでもまりさと離れられないからね」 「ゆっ! ……ゆ、ゆっぐりりがいずるよ!」 翌朝。 広場に群れのゆっくりたちが集まっていた。 長ぱちゅりーの前に、まりさがいる。 「まりさ、ちゃんと決めたわね?」 「ゆん!」 それに頷くと、ぱちゅりーは改めてまりさに問う。 「まりさ、前のおうちに戻るか、群れから出て行くか、どっちにする? ゆっくりよく考 えて答えるのよ。一度答えたら無かったことにはできないわ」 「群れから出て行くよ! まりさは一人で暮らすんだ!」 迷いなく答えた。 それがわかっていた一匹のまりさと、それを予想していた一匹のぱちゅりー以外のもの はまるでまりさが言った言葉が全く理解できない未知の言語でもあるかのような呆けた顔 をしていた。 「ゆゆん」 まりさは、不適に笑っていた。どいつもこいつも、どうせまりさは前のおうちに戻る方 を選ぶのだと思い込んでいたに違いない。そういった勝手な思い込みを覆すのには、ある 種の爽快感があった。 「ゆ、ゆっくりできないよ!」 誰かがそう言ったのを手始めに、様々な声が上がった。ようは、群れから出たらゆっく りできないから止めろ、というのだ。勝手な思い込みをしていたことを完全に露呈した形 となった。 「むきゅ! この答えは覆せないわ」 「そうだよ、どちらかを選ぶように言ったのは群れのみんなでそれを長が認めたんだから、 選んだことを止めさせようとするのはゆっくりしてないよ!」 ぱちゅりーと義父まりさがすかさず言った。 集会でみんなが望み、長が承認したことは群れの掟と同じである、という掟なのである。 既に旅立ちの用意はできていた。 まりさは、すぐに群れを出ることにした。 義父まりさや長、幹部たちをはじめとしたゆっくりが見送りに来ていた。 親まりさは、長のおうちの貯蔵庫から食べ物を援助すると言われて、それならあんな子 に面倒見てもらわないでも大丈夫だよと言って、愛するつむりのいるおうちに帰ってしま った。 それに対してまりさは、どうとも思わなかった。 「ごはんだよー、もってってねー」 幹部のちぇんが葉っぱにくるんだ食べ物をくれた。 「まりさ……ほんとうに行くの?」 幹部れいむが、心配そうに言った。 「れいむ、もうこの子が選んだんだから……」 幹部ありすが自分も心配そうにしつつも、れいむを嗜めた。 「まりさなら、だいじょうぶだみょん!」 口にくわえた棒を、くいっと上げて、長の護衛のみょんが言った。みょんには口で棒を 操る方法を教わっていた。いわば、第二の師であった。 「むきゅ……まりさは追放だから。この群れの近くに来ては駄目よ。……でも、それでも ゆっくり死刑になったりしないわ。だから、本当に危なくなったら遠慮なく帰ってきてい いのよ」 「それじゃあ、まりさ。おとうさんが教えたことを忘れないでね。まずはちゃんとしたお うちを見つけるんだよ。それから、それから……」 「ゆゆん、おとうさん、大丈夫だよ!」 「ゆゆぅ、しっかりね。まりさ。しっかりね」 結局最後まで未練がましいのは義父まりさであった。 名残惜しくはあったが、まりさは、とうとう群れから出た。 一月が経った。 まりさは、元いた群れから少し離れた――と言ってもゆっくりの足ではけっこう遠い― ―所へおうちを構えて立派に生活を営んでいた。 群れを出てから、すぐにおとうさんと狩りをしながら目をつけておいた洞窟をとりあえ ずのおうちにして、そこを基点にして四方を探索し、とうとう群れから距離があり、雨露 も凌げてさらには少し高いところにあるため浸水等の心配もない理想的な洞窟を見つけて そこに住むことにした。 「ゆっ! ここをまりさのおうちにするよ!」 と、おうち宣言をした時は、感無量であった。 「ここはまりさのゆっくりプレイスだよ! たくさんゆっくりするよ!」 憧れていた一人の生活。 だが、既にたっぷりと義父まりさの愛情を受けてしまったまりさだ。寂しさは否めない。 「ゆゆん」 その寂しさを紛らわすように、まりさは近辺の探索に出た。義父の薫陶よろしくゆっく りと慎重に進む。 陽が落ちかかる頃には寝床に敷く草と、少しばかりの木の実を調達することができた。 「ゆゆゆゆゆ! きょうはちょっと遠くまで行くよ!」 新たなおうちに住み始めてから半年、まりさは思い切ってあんよを伸ばした。 以前、よく義父まりさと遠出の狩りをした時にゆっくりおひるねしていた草原に行って みたのだ。 運がよければおとうさんに会えるかも――。 そう思っていたまりさの期待は叶えられることになる。 「ゆぴぃ~」 とおひるねしているのは、見間違えるはずもないおとうさんだ。 「そろーりそろーり」 「ゆゆっ!?」 近付いてびっくりさせてやろうとしたまりさの目論見は上手くいかなかった。 さすがはおとうさんだ。ぐっすり寝ているように見えてまりさの立てた微かな物音に目 を覚ました。 「ゆっくりひさしぶり!」 「ゆゆっ、ゆっくりひさしぶり、元気そうでよかったよ!」 義父まりさは、たまたま会ったような風であったが、実はここ最近、まりさがいつか来 るに違いないと思って頻繁にここに来ていた。 「ゆゆっ、おとうさん、まりさね、すごくゆっくりしたおうちを見つけたよ!」 話したいことはいくらでもあった。時間の経つのも忘れて、まりさはいかに自分がゆっ くり立派に暮らしているかを語った。 それからも、時々まりさはその草原で義父まりさと会った。まりさは群れを追放された が、その追放されたまりさと群れのゆっくりが接触してはいけないということはないので、 こうして群れから遠いところで会う分には何も問題は無かった。 「こんど、まりさのおうちにあそびに来てよ!」 「ゆゆん、それじゃおじゃましようかな」 「ぜったいだよ! ゆっくりできるごちそうを用意しておくからね!」 「ゆっ、それは楽しみだよ」 おひさまが三回通ったら……すなわち三日後にまた会うことを約束して別れた。 まりさは、早速明日からおとうさんをもてなすごちそうを探すために狩りに励もうと意 気揚々としていた。 その立派で逞しくゆっくりした後姿を見て、義父まりさはゆっくりと笑っていた。 その姿が見えなくなるまで、じっとそこにいた。 姿が見えなくなると、義父まりさは真一文字に閉じていた口を開けてごほごほと咳をし た。それまでなんとか押さえ込んでいたものが一気に奔出するごとく、咳は長い間止まら なかった。 「ゆゆっ?」 三日後、約束を果たすために草原にやってきたまりさは、義父まりさではないゆっくり がいるのを見つけた。 とてもゆっくりした場所なので、他のゆっくりがゆっくり休もうと思ってもおかしくは ないが、そのちぇん種のゆっくりにはなんだか見覚えがあった。 「ゆっ、ちぇん!」 近付いてみれば、それは元いた群れの幹部のちぇんであった。 「ゆっくりひさしぶり!」 「ゆぅ……ひさしぶりだね」 しかし、なんだかちぇんはゆっくりしていない様子であった。 「ゆゆ? どうしたの?」 「おちついて聞いてね、ゆっくりは誰でもいつかは永遠にゆっくりしちゃうんだよ、わか ってねー」 「……どうしたの? ちぇん」 落ち着けと言いつつ、あからさまに自分が落ち着いていないちぇんの態度と、その言動 にまりさはなんだかゆっくりできない感じがした。 「まりさが……ゆっくりしちゃったんだよ」 「ゆっくりただいまだよー」 群れに戻ってきたちぇんを長たちが出迎えた。 「……」 ちぇんの後ろにいるまりさは案の定沈みきっていて、声をかけるのが憚られた。 「ちーんぽ」 護衛のみょんが、まりさの横についた。 まりさは、義父の死によって、特別に少しだけ群れに戻ることを許されている。その間 は何か変なことをしないように監視がつくのが掟であって、長たちはまりさがなにかやら かすとは思っていない。 義父まりさは昨晩、永遠にゆっくりしてしまったそうだ。 少し前から、咳ばかりしてかなり体調は悪かったという。 ――まりさの前では咳なんかしてなかったよ。 すぐにまりさは、おとうさんが心配かけまいと平静を装っていたことを悟った。 群れの外れにあるおはかに義父まりさは眠っていた。 まりさは、ちぇんから義父の死を知らされてからここに来るまでの間に花を摘み取って いた。それを、おはかに供える。 その後、義父まりさのおうちに行った。所々変わったところはあったが、ほとんどまり さが暮らしていた頃と同じであった。 そして、もう必要無いはずのまりさの寝床がそのままにしてあるのを見て、まりさはゆ ぐっと呻いた。 「……まりさ、一人にして欲しいよ」 「むきゅ、わかったわ。もう時間も遅いから、明日の朝までそこにいることを許すわ。… …みょん」 「まーら!」 みょんが、おうちの入り口に陣取った。 長たちが引き上げてしばらくすると、みょんの所まで微かな押し殺した声が聞こえてき た。 「ゆぐっ、ゆぐっ、ゆええええええええええん! おとうじゃん、おどうじゃーん! ゆ ひっ、ゆわあああああああああん!」 そして、朝。 泣き疲れてそのまま眠ってしまったまりさは、すっきりと目覚めた。 「長、ゆっくりありがとう。それじゃ、まりさはおうちに帰るよ!」 「むきゅ……まりさが、あなたに伝えてくれと言っていたことがあるわ」 「ゆゆっ!?」 ぱちゅりーは、昨日はそれを伝えてもまりさがまともに受け止められる状態ではないと 思い、黙っていたのである。 「まりさは、一人で生きていける方法を教えたけど、それは一人で生きていくためだけの 方法じゃないわ。いつか好きなゆっくりができて一緒に住んで赤ちゃんを産んで家族がで きた時、きっと家族でゆっくりするのに役に立つ。だから、まりさは一人で暮らすという のに変にこだわらないで欲しい……そう言っていたわ」 「ゆゆぅ……ゆっくりりかいしたよ」 一人で暮らすという本懐を達しつつも寂しさを感じていることを、義父まりさは見抜い ていたのだろうか。 まりさは、陽が落ちないうちに、群れを出て行った。 「おみずさんをごーくごーくするよ!」 喉が渇いたまりさは、おうちの近くにある川に水を飲みに行った。この川は所によって は川淵の地面と川面の間が切り立っていて、注意しないと転落する恐れがあった。 淵が緩やかな斜面になっている場所もあり、そこまで行くのが無難なところであった。 しかし、まりさは迷わずに危険な箇所へと跳ねていく。まりさにはおとうさんから伝授 された秘密兵器があった。 「ゆっ?」 先客がいた。 一匹のゆっくりありすが、水を飲もうとしている。 「ゆゆっ、あぶないよ!」 しかし、今にも落ちそうであった。 「ゆんっ!」 まりさは、ありすの髪の毛をくわえて引っ張った。 「あぶないよ!」 「ゆぅ……ゆぅ……ゆぅ……お、み、ず……」 「ゆゆっ」 そこで、まりさはありすの肌が乾ききっていることに気付いた。これは相当に喉も渇い ているだろう。 おそらく、渇きに耐え切れずに歩いているところへ川の流れる音が聞こえ無我夢中で水 に向かったのだろう。緩やかな箇所へ行く気力も無いか、そもそもそういうことを考える ことすらできなかったか。 「ゆゆっ、待っててね!」 まりさはお帽子から、ストローを取り出した。 これぞ、秘密兵器である。人間が森に遊びに来た際に紙パックの飲料を飲んで、パック を捨てていったものからストローをいただいたのだ。 ポイ捨てはゆっくりできない行為だが、まりさにとっては離れたところにある水を吸い 上げて安全に飲めるストローはとてもゆっくりできたので、ポイ捨てに感謝していた。 「ゆっ」 川面にストローをつけて水を吸い上げる。口の中まで吸わずに止め、ストローの中に水 が溜まった状態にした。 そして、それをありすの口元に持っていって水を噴き出して垂らしてやった。 「ゆゆゆゆっ!」 ありすは、僅かな潤いに反応した。 繰り返し繰り返し水を垂らすと、ありすは段々と元気になってきた。 「ゆん、こうやるんだよ」 もう自分で吸えるだろうと踏んだまりさは、ありすにストローを貸して上げて、水の飲 み方を教える。 ありすは物凄い勢いで水を吸い上げて飲み始めた。 「ゆぅぅぅ、たすかったわ。まりさったらとってもとかいはね!」 「ゆゆぅ」 とかいは、というのがありす種にとっては最上の誉め言葉であることを知っているまり さは照れた。 まりさは、ありすをおうちに招いてごはんを振る舞った。 以前ならば、ありすが回復すれば丁重に出て行ってもらっただろう。 だが、今のまりさは義父まりさの遺言により、前よりも積極的に他ゆっくりと関わろう としていた。 カサカサの肌に水を吸わせて汚れを落とすために水浴びをしてきたありすが、意外なほ どの美ゆっくりだったことも一因ではあった。 ありすと暮らすようになって一週間ほど経った。 ありすはまりさほどに狩りは得意ではなかったが、身体能力はやや高く、覚えもいいた めに狩りの助手として十分以上の働きを見せていた。 そうやって二匹で狩りをしていると、義父まりさのことが思い出される。 かつての義父まりさの役目を自らがこなし、ありすがかつての自分の役目ではあるが、 それは懐かしい共同作業の記憶を呼び起こした。 ありすは行くあてもない旅ゆっくりだった。こうして狩りの手伝いをする代わりにまり さのおうちに住まわせてもらっている、という形だ。 その内に出て行く、と言いつつもいつ出て行くかということは両者の間ではちょっとし た話題にも上がらない。 ――ずっと、まりさのおうちにいてもいいよ。 そう言おうとして言えないまりさであった。 「ぜんりつせんっ!」 「ゆゆ!?」 狩りをしていると、声をかけられた。 「ゆゆ、みょん!」 「ひさしぶりだみょん」 それは、元いた群れの護衛みょんであった。 なぜこんなところにいるのかと問えば、狩りに来たという。 最近、群れの周りで採れる食べ物が減ってきているので、みょんのような群れでも体力 のあるゆっくりは遠くまで狩りに出ているそうだ。 長ぱちゅりーは優秀な長であった。 だが、それゆえにその言いつけを守って危険を避けたりした結果、群れのゆっくりが増 えすぎてしまったのである。 「ゆゆぅ、群れのみんなはゆっくりしてる?」 まりさは、尋ねた。 群れを出てから随分と経っている。その間にまりさも色々なことがあった。子供の頃は わからなかったことも少しはわかるようになっている。 「長の言いつけ通りしてるから大丈夫だみょん」 「ゆぅ……それで……」 「みょん?」 「おかあさんと、つむりは、どうしてるの?」 まりさは思い切って言った。群れを出てから徐々に変わってきていたことに、一度は捨 てた親と妹への気持ちがあった。 みょんは、まりさがそんなことを聞いてくるとは思っていなかったので驚いたようだが、 すぐに教えてくれた。 つむりは相変わらず珍しいゆっくりとして、群れで大切にされてゆっくりしているらし い。 「ただ……まりさは……」 と、みょんは親まりさに言及する際に口ごもった。 親まりさは、あんよを怪我して満足に狩りをできなくなり、まりさが群れを出て行って しまってからは長から食料の支給を受けて生活していた。 長からの支給というのは、つまりは群れのみんなが狩りをして、自分たちが食べる以上 の成果があった場合に長のおうちの貯蔵庫へ入れる食べ物からの支給である。 いわば、親まりさとつむりは群れに養われているということになる。 「最初は、すまなそうにしてたみょん……でも……」 と、みょんは俯いて言った。 それが続けば、それが当たり前だと思ってしまう。 いつしか親まりさは、群れをゆっくりさせる珍しくてかわいいつむりと、それを産んだ 親である自分がそういう待遇を受けるのは当然だと思うようになった。 長や幹部はそれとなく注意しようとはしたが、周りのゆっくりが進んでその言い分を認 めてしまうので、親まりさもそれを改める必要を感じていなかった。 とても珍しくてゆっくりできるつむりがいることを、まるで群れのステイタスのように 感じているものが多かったのである。 今では、親まりさはつむりの世話をする以外はほとんど動かなくなっているようだ。そ のつむりの世話も、つむりが成長してきてそれにつれて貝殻も大きくなり重量が増してか らは億劫がっている。 「ゆゆぅ……」 まりさは、複雑な顔をしていた。 親への気持ちが変わった理由に、一人で暮らして狩りをしてみて、はじめてどれだけの ことをしていたのかを知ったからというのがあった。 自分と二匹の子供が食べるだけのごはんを狩り、手のかかるつむりの世話をする。その 労力は大変なものであり、それを思った時、まりさは素直に、 ――ゆゆっ、おかあさん、凄いことをしていたんだ! と、思った。 今でも好きかと言われれば認め難いが、凄いゆっくりだと思う気持ちは事実であり、一 緒に暮らせと言われたらごめんだが、どこかまりさの見えない遠いところでゆっくりして いてくれればいいという程度の気持ちにはなっていた。 話に聞けば、ゆっくりしているらしい。 だが、それは明らかに堕落であり、まりさの感情を和らげている原因である尊敬の念を 失わせる要素であった。 「ゆぅ、教えてくれてありがとう!」 「ちーんぽ! みょんはそろそろ帰るみょん」 みょんと別れて、まりさも、ありすとともにおうちに帰った。 その道すがら、自分がどういう経緯で群れを出て一人で暮らすようになったかをありす に話した。 そして、言った。 「ありすがよければ、ずっとまりさのおうちにいてね!」 さらに、三ヶ月ほどの時が流れた。 まりさのおうちには、依然としてありすが住んでいる。 まあ、つまりはそういうことだ。ゆっくりおめでとう。 しかし、二匹はゆっくりできない顔でおうちの中で身を寄せ合っていた。 おそとでは、凄まじい暴風雨が荒れ狂っていた。 台風である。 風が強くなってきたので早々に狩りを切り上げたのは正解だった。おうちに帰ってから しばらくすると、強い雨が降り出した。 これも義父まりさに仕込まれた慎重さのおかげだと、まりさは今は亡き養父にゆっくり 感謝した。 日頃から、せっせと石を運び込みそれを積み上げて、おうちが浸水してきたら避難でき るようにしていたし、ごはんも石の上に上げてある。 それでも、二匹は震えていた。 どんなに賢く優秀なゆっくりでも、所詮はゆっくりであり、やれることは限られている。 人間ですら完全に克服できているとは言い難い大自然の猛威に対して、万全を期すことな どできるはずもない。 そして、台風はほぼ丸一日をかけてゆっくりと通過していった。 入り口を塞いだ枝やら葉っぱやらを除けて外に出て見ると、一帯がメチャクチャになっ ていた。まりさとありすが出会った近くの川も大増水していた。 それでも、おうち選びの際に高いところにあることを吟味したおかげか、浸水の憂き目 に遭うことはなかった。 「風さんも雨さんも帰ったからゆっくりできるよ!」 「ゆっくりしましょうね!」 まだ地面が濡れており、当分外に出て跳ね回るのは危険と判断した二匹は、備蓄の食糧 を食べておうちで過ごした。 台風が去った後は、晴天となり、次第に地面も何もかも乾いていった。 「ゆぅ……ありす、まりさはちょっとお出かけしたいよ」 「ゆ?」 まりさは、群れの様子を見に行きたいと思っていたのだ。 「まりさは、群れからついほーされたけど、長とかみょんとか、それでもまりさに優しく してくれたゆっくりはいたんだよ」 どうにも、それらの知り合いが心配なのだ。 「わかったわ。私はあしでまといになるから、待ってるわ」 ありすよりも、まりさの方が足が速い。自分が着いていけば、まりさがそれに合わせな くてはならないので、ありすは残ることにした。 「ゆん、それじゃ行ってくるね、ゆっくりしないですぐ帰ってくるよ」 「ゆゆっ」 一応追放中の身なので、こそこそとまりさは群れにやってきた。 「ゆぅ……」 群れのゆっくりが通りかかれば身を隠す。 「みんな……あんまりゆっくりしてないよ」 どのゆっくりも、目がギラついてゆっくりしていない。なんでそんなにゆっくりしてい ないのかと思ったら、どうやら必死になってごはんを探しているらしい。 まりさは、おとうさんに伝授された秘密兵器その2であるびにーるぶくろさんを被って 隠密行動をとった。ゆっくり以外には通じないから気をつけろ、というおとうさんの言葉 はもちろん肝に銘じている。 「おにゃかすいちゃよぉぉぉぉ」 「おちびちゃん、ゆっくりごめんね! おかあさんが狩りが下手だから」 「ゆ、ゆゆっ! お、おにゃかすいちゃけど、がまんすりゅよ!」 「お、おちびちゃん!」 微笑ましくも、いや、微笑ましいからこそ痛ましいそんな親子がいた。 「おにゃかすいちゃよぉぉぉぉ」 「おちびちゃん、ゆっくりごめんね! おかあさんが狩りが下手だから」 「あやまりゅぐらいならさっさとごはん持ってきてね! おかあさんはむのーだにぇ!」 「ど、どぼじでそんなごというのぉぉぉぉ!」 痛い一方の親子がいた。 皆、飢えていた。 ――ゆぅ、長は何してるんだろう。 疑問に思っていると、みょんがいた。 ガサガサと近付き、声をかける。 「だんこんっ!」 みょんは、驚いた。 「全然気付かなかったみょん。これがうわさに聞くおんぎょーのじゅつかみょん」 「みょん、いったいどうしたの? 長は?」 「……いーんぽ」 みょんは、がっくりと沈んだ声を出した。 「長は……まりさのところに行ってしまったみょん」 「ゆゆゆ!?」 長ぱちゅりーは、台風が去った後に死んでしまっていた。 台風そのものに殺されたわけではないが、それへの対策にあれこれ頭を悩ませて働いて いたために過労で倒れたのだ。 そもそも虚弱なぱちゅりー種の上に、長は既にゆっくりとしては老齢と言ってよく、遂 に回復することはなかった。 残された幹部――れいむ、ありす、ちぇんはうろたえた。 すぐに、この三匹の中から次なる長を選ぶべきであったが、そんな程度のことすら考え 付かなかった。 ――こんな時、まりさがいてくれたら。 三匹とも思った。まりさというのは義父まりさのことだ。 幹部を勤めていた三匹は、それなりに優秀だったし自信も持っていた。しかし、長ぱち ゅりーがいなくなってしまったら何をしたらいいのかがわからない。 「わからない、わからないよー」 と、ちぇんなどは壊れたように呟き続けていた。 「わかったよー」 力なく言ったのはしばらく経ってからだった。 そう、ちぇんは理解したのだ。 自分たちは、あくまでも長の指示を受けて、それを実行する能力が高いのであって、自 ら何をするかを考え付くことはできない、と。 それをれいむとありすにも説明し、ゆっくりりかいさせた。 で、理解したからといってどうなるものでもない、それならば誰か別のものを長に立て なければならないが、そんなものはいない。 結局は、この三匹が、群れでは最も優秀なのだ。 そこで、出てきた愚痴が、 ――こんな時、まりさがいてくれたら。 で、あった。 長とまりさのありし日を思い起こしてみれば、長が自らの考えを述べ、何か意見がある かと問うた時、声を上げるのは常にまりさだけであった。 時には、長が、 「むきゅ! それは思ってもいなかった視点だわ!」 と、嬉しそうに言って方針に修正を加えることもあった。 幹部の中で、まりさだけが、長と同じように自ら方針を考えることができたのだ。 ぱちゅりーの過労の蓄積は台風より遙か以前、まりさの死後に始まっていたと言えた。 幹部連は長のおうちで愚痴りまくっていたが、時々思い出したように、 「ゆゆっ! ぐちってる場合じゃないよ!」 「そうね、ぐちに逃げるのはとかいはじゃないわ!」 「これからどうするか考えないといけないね、わかるよー」 とか前向きな感じになったりもしたのだが、それではと思考した瞬間にどっちが前だか 後ろだかわかりゃしねえという感じになり、いつしか交わされるのは愚痴ばかりというグ ダグダ状態に陥っていた。 そこへ、群れのゆっくりたちが押しかけてきた。 群れのゆっくりたちは、幹部連を過大評価しており、長が死んだのは悲しくゆっくりで きないことだけど、幹部が残ってるから大丈夫だ、と安心していた。 台風によって森が荒らされ、狩りが以前より上手く行かなくなり、満足にむーしゃむー しゃできなくなっていた。 皮肉なことに、長ぱちゅりーの台風対策が適切だったために群れで死んだのは過労死し た長だけであり、他のゆっくりは生き残っていた。 本来喜ばしくゆっくりできるそのことが、食糧難に拍車をかけていたのである。 「長のおうちには、こういう時のためにごはんがたくさんあるよ! すぐにそれを配って くれるよ!」 と、もっともな期待を持っていたゆっくりたちだったが、幹部会が愚痴り大会と化して いたためにその期待は裏切られた。 「もうゆっくりしてられないよ! こっちから貰いに行こうよ!」 誰かが言うと、我も我もと賛同者が集まり、群れ全員が長のおうちへ押しかけたのであ る。 「ゆゆゆ、たいへんだよ、みんな怒ってるよ」 「と、とりあえず、ちょぞーこのごはんを配りましょう」 慌てて、望み通りにした。 「ごはんを配るからならんでねー、ならばないとあげられないよ、わかってねー」 愚痴ってばかりだった幹部たちだが、それでも腐ってもなんとやら、やるべきことがは っきりするとテキパキと動いた。 とりあえず、配り始めるとみんなの怒りは鎮静化した。 だが、幹部たちがほっとしたのも束の間、全員に配り終えるとそこかしこから不満の声 が上がった。 「ゆ? み、みんなびょうどーに配ったよ?」 「そ、そうよ、ありすたちだってみんなと同じだけよ」 配分に不満があるのかと思った幹部れいむとありすだが、不満は少し別のところにあっ た。 「ちょぞーこにはもっとたくさんごはんがあるんだぜ!」 「そうだよ! れいむ見たよ、もっとたくさんあるよ!」 一匹一匹あたりの配分量が平等なのは当然のこととして、貯蔵庫にある食料を全てこの 場で分配しろというのである。 「ゆゆ、いっぺんに渡したらいっぺんに食べちゃうよー、そうしたらゆっくりできないか ら少しずつ配るよー、わかってねー」 「まりさはそんなバカじゃないんだぜ!」 「そうだよ、れいむはちゃんと少しずつ食べるよ!」 幹部たちは困惑した。絶対こいつらは貰ったら食べられるだけ食べる、なぜならバカだ から、と思った。 しかし、群れのゆっくりたちがそう言い出したのにも理由が無いことはなかった。 「ちぇんたちは、ごはんを自分たちだけでむーしゃむーしゃするつもりなんだぜ!」 一匹のまりさが言ったのに、同意の声が次から次に上がった。 これは、愚痴り倒していた幹部たちのミスであった。 群れのゆっくりたちが余剰食糧を長のおうちの貯蔵庫に入れていたのは、いざとなった らそれをみんなに配ってゆっくりするためである。 まさに今がいざという時なのに、いつまでも配られないのだから、そういう疑いを持た れるのは仕方無いことであった。 「ゆゆゆ、れいむたちはそんなゆっくりできないことしないよ!」 「みんなのごはんを独り占めなんていなかもののすることだわ!」 「ちょっと配るのが遅れただけなんだよー、わかってよー」 幹部たちは、事態が思っていたよりも深刻で、このままではリンチされることすらあり うると悟ると必死に弁明した。 だが、一度根を張り芽吹いた疑心は、口で何をどう言っても晴らせるものではない。 「ゆぅ、しょうがないよ」 「それでみんなが納得するなら……」 「わかったよー、全部配るからもう一度ならんでね……」 とうとう、疑いを晴らすために、言われるままに貯蔵庫を空にして分配するしかなかっ た。 「みんな、少しずつ食べるんだよ!」 「一気にむーしゃむーしゃしたら駄目よ!」 「そんなことしたらゆっくりできないよ、わかるよねー?」 幹部らは注意したが、空腹でイラついてゆっくりできなくなって幹部の吊るし上げまで やったゆっくりたちは、念願のごはんを手に入れてとてもゆっくりした顔で帰っていった。 「「「ゆゆぅ……」」」 心配そうにそれを見送った幹部たちだったが、見事なまでにその心配通りになって群れ の食糧難はさらに深刻なものになっていた。 「もう、少しずつ食べていたゆっくりたちもちょぞーこから配ったごはんを全部食べてし まったみょん」 もはや、群れの誰もが満腹になるまでむーしゃむーしゃなどできなくなっていた。 体の弱いものや、子供から犠牲者が出始めていた。 死ゆっくりは、群れの外れの墓地に葬られている。 幹部の中から新しい長に選ばれたちぇんが、断固としてとった処置だった。 前の長ぱちゅりーから、飢餓状態になってもゆっくりの死体を食べることはギリギリま で認めるべきではないと、きつく言い聞かされていたからだ。 穴を掘って埋める作業すら空腹の身では億劫であり、葉っぱや草を被せておけばいいの ではないかという意見も出たが、それでは簡単に払いのけることができるので、穴を掘り 返すという労力を強いるためにも、埋めることにしたのだ。 空腹で一度ゆっくりの甘味を口にすれば、もう我慢できなくなる。 そして、とも食いが禁忌でなくなれば、後は疑心暗鬼がはびこり互いを食い合う地獄が 待つのみだ。 「そうなるぐらいなら、飢えて死のうよ。わかってよー」 と、幹部のれいむとありすに言った時のちぇんは、強い意志をみなぎらせていた。長の 貫禄が出てきたとれいむとありすは思った。 しかし、それでも、以前のように長の命令通りに群れが一丸となって動くなどという状 態とは程遠かった。みんな、特に仲がいいもの同士で組んで思い思いに狩りに出て運良く たくさんの獲物を得ても、それを他のゆっくりには悟られないようにして自分たちだけで 分けていた。 長のおうちの貯蔵庫は、あれ以来、空のままである。 とりあえず、しばらくはしょうがないと長ちぇんも諦めているようだ。 「ゆぅ……おかあさんとつむりは?」 「……」 みょんは、黙って跳ねた。 ついてこい、と言っているようだった。 行く先は、墓地である。そこでまりさは悟った。 「……おかあさん」 みょんが棒で指し示した地面に向かって、まりさは呟いた。 当然のことであるが、親まりさは、食糧難の波をもろに受けた。 貯蔵庫を空にした大分配には預かったものの、以降は支給が途絶えた。したくとも、貯 蔵庫は空なのだ。 親まりさは幹部たち(その時はまだちぇんが長になっていなかった)に掛け合った。 つむりを養うために食べ物が要る。 それを、ひたすら下手に出て懇願すれば、一応、つむりは珍しいから大切にすべきと思 ってはいる幹部たちは僅かでも食料をくれたかもしれない。 だが、空腹と先行きへの不安から気が立っていた親まりさは、居丈高に要求したのであ る。 気が立っているのは、幹部たちも全く同様であった。 「ゆっくりでてってね! れいむたちはシングル幹部なんだよ!」 「そうよ、忙しいのにいなかものの相手してられないのよ!」 「もうわかって欲しくもないよー」 親まりさは、追い返されてしまった。 シングル幹部の意味はさっぱり不明だが、おそらく長がいなくて困っている幹部という 意味であろう。 親まりさはあらん限りの罵倒をしたが、無視された。 そこで、他のゆっくりたちから貰うことにした。 ゆっくりたちは、なんとか採ってきた食べ物を、えらっそうに要求する親まりさにくれ てやるのは嫌だったが、そうしないとつむりが永遠にゆっくりしてしまう、と言われると 不承不承ながら少しずつ食べ物を与えた。 だが、その内に何匹か、幹部たちも上げてないのに、なんで自分たちが上げる必要があ ると言ってそれを止めてしまった。 「ゆっくりしてないね! これでかわいいかわいいつむりが死んだら、おまえらのせいだ よ!」 と、親まりさに言われて怯んだものの、食べなければ自分たちが死ぬのだ。 「死んだらゆっくりできないよ! 自分が死んだら、どんなにつむりがゆっくりできても 意味ないよ!」 そう言い放って、そのゆっくりたちは去っていった。 「ゆふん! ゆっくりできない奴らだよ! かわいいつむりにごはんをくれる優しいゆっ くりは他にたくさんいるよ!」 と、親まりさは言ったものの、次々にごはんをくれるゆっくりは減っていき、遂にはお となりに住んでいたれいむ一家だけになってしまった。 そうなると、れいむ一家もすぐに音を上げざるを得ない。分母が激減したのだから、当 然差し出す食料は飛躍的に増大し、親まりさの要求通りにしたられいむたちの方が餓死し てしまう。 「ゆゆぅ、れいむのおちびちゃんにもむーしゃむーしゃさせて上げたいし、これが精一杯 だよ」 と、それでもれいむは幾許かの食べ物を上げようとしたのだが、親まりさがキレた。 「これっぽっちじゃ、つむりがおなかいっぱいにならないよ! それとそれと、その木の 実もちょうだいね!」 「で、でも、そうしたられいむのおちびちゃんが……」 「ゆゆゆっ!!」 そこで、親まりさはこれまで思っていても言わなかったことを口にしてしまう。 「そんなおちびちゃんなんかよりつむりの方が大事だよ! つむりのために死ぬならゆっ くり死ねるでしょ!」 「ゆゆゆっ! まりさはゆっくりしてないよ! 確かにつむりちゃんは大事だけど、れい むのおちびちゃんだって大事だよ!」 さすがに、れいむが怒った。 「いい加減にするんだぜ!」 そこへ、一匹のまりさがやってきて、親まりさへ体当たりした。 「もうがまんできないんだぜ!」 「やっちゃえ、ゆっくりやっちゃえ!」 「つむりの親だからっていばりすぎだよ!」 それは、早々に親まりさへの食料供出を拒んだゆっくりたちだった。 ずっと親まりさのことを苦々しく思っていたのが、遂にその鬱憤が爆発したのだ。 「や、やべ! ま、まりざは、づむりのおが、ゆべ!」 親まりさは、つむりのおかあさんであると何度も言ったが、はっきり言ってそんなこと はわかった上での行動である。無視してボコボコにされた。 親まりさが完全に動かなくなるまで、暴行は止まなかった。 つむりの親のまりさが死んだ、という報を受けて、幹部たちがやってきた。 「まりさたちがやったんだぜ、どうしても我慢できなかったんだぜ」 親まりさをリンチして殺したまりさたちは犯行を認めた。 「「ゆゆぅ……」」 「だいたいわかったよー」 唸るばかりのれいむとありすを尻目に、ちぇんが言った。 ちぇんは、まりさたちにぺんぺん十回の刑を言い渡した。 ゆっくり殺しの割りに軽い罰にみんなが驚いていると、ちぇんはそのわけを説明した。 「まりさは、れいむのおちびちゃんが死んじゃうのに、ごはんを取ろうとしたんだねー、 放っておいたられいむのおちびちゃんは死んじゃったかもしれないよ。だから、まりさた ちはそれを助けたことになるよ。でも、やっぱりゆっくり殺しはゆっくりできないからぺ んぺん十回でゆっくりはんせいしてね、このりくつわかってねー」 ちぇんは、適当にその場にいるゆっくりから刑の執行者を選んだ。 ゆっくり殺しの割りに軽い、とは言ってもぺんぺん十回の刑は決して楽な罰ではない。 尻の皮が破れて餡子が流出することもある。 しかし、ちぇんが選んだのはどれも腹ペコでふらふらのゆっくりであったので、ぺんぺ んとお尻を叩く力はあからさまに弱かった。 「それじゃ、まりさを埋めてあげようねー」 と、ちぇんの指揮のもとに親まりさを埋葬してその件は終わった。 この一件で、れいむとありすは幹部の中ではちぇんが一番優れていると認め、これを長 に推した。ちぇんは悩みつつもこの話を受けて、新しい長が誕生した。 「……おかあさん」 あんなに、狩りが得意でたくさんのごはんを帽子に詰めて帰ってきた働き者のゆっくり だったのに……。 既得権益、などという言葉はもちろんまりさは知らなかったが、 ――ゆぅ……何かしてもらうのが当たり前だと思うと、ゆっくりしてないゆっくりにな るんだね。 と、思った。 「……つむりは?」 「あの子は、生きてるみょん」 親まりさの死を嘆き悲しみつつ、それでも他のゆっくりに少しずつ食べ物を恵んでもら って生きているらしい。 「ゆっ……行ってみるよ」 「……気をつけるみょん。いちおうまりさは追放中だみょん」 「ゆん、ゆっくりしんちょーに行くよ」 まりさは、つむりのいるところ――すなわちあの時以来近付くこともなかった生家へと 向かった。 「ゆっくりおじゃまします」 まりさは、周りに誰も他のゆっくりがいないのをよく確認した上で、一声かけつつ中に 入った。 「ゆっ!」 つむりはすぐにわかった。ていうか、わからざるを得なかった。 でかい貝殻がどんと鎮座しているのである。嫌でも視界に入る。 「つむり……」 こちらに背中を向けているので、まりさは前に回りこんだ。 「ゆぅ……ごはん、ごはんちょーらい」 つむりは、まりさが食べ物を持ってきたと思ったらしい。 「……」 まりさは無言のまま、帽子から葉っぱに包まれたお弁当を取り出してつむりに与えた。 「ゆわわわ、ごちちょーだよー」 今のこの群れの食糧事情からすると、まさにそれは御馳走と言うに相応しいものだった。 「むーちゃむーちゃ、ち、ち、ち、ちあわちぇぇぇぇぇ!」 つむりは、嬉しそうにゆっくりとお弁当を食べた。 「ゆぅ……」 つむりが食事をしている間、まりさは久しぶりに見る我が妹を観察していた。まだ義父 まりさが存命の頃に、遠くから親まりさの帽子に乗っているのを見たのが最後だ。 今のつむりは、とてもではないが帽子の上になど乗れない巨大さになっていた。 貝殻が体に合わせて大きくなっている上に、親まりさでも動かすのが困難になってから 自分の体の重さを持て余してろくに動いていないのだろう。でっぷりと太っている。 ――ゆゆゆ、かわいくないよ。みんなはこれでゆっくりできてるの? かつて、まりさはつむりのことをあんなの可愛くないと思っていたが、それはもちろん 嫉妬から来る強がりで、幼い頃のつむりを思い出せばやはりとても可愛らしくゆっくりで きることは認めざるを得ない。 まりさの疑問は、つむりが未だに群れのみんなをゆっくりさせていると思うが故の疑問 であったが、既にその人気は陰りが生じている。はっきり言って見てくれがそのようなの でしょうがない。 親まりさの死後も、僅かとは言え他のゆっくりがつむりに食べ物を与えているのは、ひ とえにつむりが珍しい希少な存在だから、生かしてはおこうと思っているからだ。 「ゆぅー、ごちちょーしゃま! とっちぇもゆっくちできちゃよ!」 容姿の次に気付いたのが言葉遣いだ。既に大人と言っていいサイズなのに、赤ゆっくり 言葉が抜けていない。 その方が可愛いからと、親まりさも他のゆっくりも矯正しなかったためだ。 「ゆゆゆ!?」 ごはんを食べて落ち着いたつむりが、まりさの顔をじーっと見る。 「お、おねえしゃん!」 「ゆぅ……ひさしぶりだね、つむり」 と答えたものの、さて久しぶりの姉妹対面で、何をどう言ったものかとまりさは迷った。 そもそも、ただ単につむりがどうしているのかを見たかっただけであり、目的は既に達 している。 一応追放中なので長居はよくない。 すぐに帰ろうと思ったが、つむりがぷるぷると震えて涙を流しているのを見て、あんよ を止めた。 「お、おねえしゃん……」 「つむり……」 姉との再会に感動しているようだ。それを見ていると、まりさにも何かこみ上げてくる ものがあった。 「おかあしゃんが……」 「ゆん、みょんに聞いたよ。……まりさは、おかあさんのこと恨んだりしてないよ」 実は恨んでないは言いすぎなのだが、その方がつむりがゆっくりできるだろうと思って そう言った。 「つむりも、おねえしゃんのことを聞いちゃよ、おねえしゃん、じぶんのおうちがあって、 ゆっくちちてるっちぇ」 「ゆん、なんとかゆっくりやってるよ」 こうして、妹のつむりとゆっくりと話していると、まりさはとても穏やかな気持ちにな った。 会って話せてよかったよ、それじゃまりさは追放中だから…… そう言って、帰ろうとしたその時、つむりが満面の笑みで言った。 「つむりをむかえにきてくれちゃんだね! はやくおねえしゃんのおうちにつれてっちぇ よ!」 おかあさんが死に、みんなよそよそしく入り口から僅かな食べ物を投げ入れていく、そ れをずりずりと這って食べる生活に、つむりは疲れ果てていた。よそよそしいのは親まり さを殺してしまった後ろめたさからなのだが、つむりはてっきりみんなに自分が嫌われて しまったのだと思っていた。 その境遇に同情すべき点はある。 「ゆっくちさせちぇね! おねえしゃん!」 だが、つむりにゆっくりした笑顔で言われたまりさは、例えそのような事情を細かく知 っていても同情などしなかっただろう。 当たり前のように、これまでずっと離れて暮らしていた群れから追放中の姉にゆっくり させてと要求するつむりに、まりさはゾッとしていた。 その悪寒が、同情など吹き飛ばしたに違いない。 すぐに、なんて図々しいんだ、とは思った。しかし、最初のゾッとした感じの正体がわ からなかった。 「ゆゆーん、つむり、ゆっきゅちできりゅよ!」 嬉しそうにしているつむりを見ていると、ようやくそれが掴めて来た。 何かをして貰うのが当たり前だと思っているあの笑顔。 全く悪意無く、無邪気に、他者に奉仕を求める笑顔。 何かをしてもらった時に「ゆっくりありがちょう」とお礼ぐらいは言うだろう。でも、 きっと言っているほどには感謝していないに違いない。それが、当たり前なのだから。 突然変異のつむりは、満足に自分では動けない。本来のつむりと違って水にも弱くて泳 げない。だから、他者の力を借りねば生きていけない。 だから、こうなるのは、それこそ当たり前なのである。 その悪意無き傲慢、無垢なる怠惰にまりさはゾッとしたのだ。 今まさに、自分がその奉仕者と思われていることに悪寒を感じたのだ。 「ゆゆゆゆ! な、なに言ってるの! まりさは、つむりをおうちに連れていったりしな いよ!」 まりさは、慌てて言った。ただ、久しぶりにつむりの顔を見て帰ろうと思っていたのが あまあまな考えであることを思い知り、こうして訪ねてきたことを後悔していた。 「にゃ、にゃんでしょんなこというにょおおお!」 「なんでもなにも、まりさだって大変なんだよ、つむりの世話をしてたらまりさがゆっく りできなくなっちゃうよ!」 そうだ。そろそろ秋が来る。越冬の準備を始めねばならない。そして、無事に冬が越せ たら、ありすとすっきりして子供を産んで、自分の家族を作るのだ。 ――それを、こんな。 こんなのが転がり込んで来たら(そもそもそこまで移動できないだろうというのはさて 置いて)越冬も危うくなるし、とても子作りなどできない。いやいや、そもそもその時点 でありすが出て行ってしまうかもしれない。 「ま、まりしゃだっちぇ、じぶんで狩りとかしちゃいよ! でも、むりにゃんだよ!」 「ゆゆぅ……」 つむりの言葉に、まりさは口ごもる。 動けないからと、おかあさんにいつも構われていたつむりが羨ましくてしょうがなかっ た。これなら、動けなくてもいいから自分もつむりに生まれたかったと思ったことは数え 切れないほどだ。 しかし、つむりはつむりで、元気一杯に跳ね回り狩りをする他のゆっくりたちを羨まし く思っていたのだ。そのことに、ようやく気付いた。 しかし……。 「ゆぅ、ゆっくりりかいしたよ。つむりもかわいそうなんだね」 「ゆぅ、おねえしゃん……」 「でも、しょうがないよ」 「ゆっ!」 「つむりをゆっくりさせようとしたら、まりさがゆっくりできないんだから、しょうがな いよ」 「お、おねえしゃん!」 「わかってるよ。つむりが悪くないのはわかってるよ。でも、まりさのゆん生をつむりに 上げるつもりはないよ。まりさは、まりさはまりさでゆっくりするよ」 「ゆ、ゆっぐち、ゆっぎゅぢさせちぇぇぇ! つむりは、ひどりじゃゆっぐちできにゃい んだよぉぉぉ!」 「それもわかってるよ。でも、おかあさんやみんなのおかげでたくさんゆっくりできたし ょ。それで……満足してね」 「嫌ぢゃああああ! つむりは、ゆっぐちちだいよぉぉぉ!」 「とにかく、まりさはもうここには来ないよ。ゆっくりりかいしてね! ……ゆっくりさ ようなら!」 まりさは、泣き喚くつむりを置いておうちを出た。 すぐにびにーるぶくろを被り、そのまま真っ直ぐ群れを出た。 一年後――。 「「ゆっくりおじゃまするよ!」」 「ゆん、かんげーするよ。ゆっくりしていってね!」 群れにやってきたれいむとまりさの番を、長のちぇんは暖かく迎え入れた。 群れは栄えていた。 すっかり長が板についたちぇんは、かつてのぱちゅりーに劣らぬ尊敬を群れのみんなか ら集めていた。 れいむとまりさは、ここの群れに入りたいと申し出た。 「わかったよー。それなら群れの掟を守るんだよ。わかってねー」 「「ゆっくりりかいするよ! 掟を教えてね!」」 掟は、ぱちゅりー時代からそう変わってはいない。ただ、一つ追加されていた。 まりさつむりについては、口にしないように。 「「ゆゆ?」」 それまでは、掟を聞くたびにいちいち納得していたれいむとまりさが、それを聞いて不 思議そうにする。 無理もないと思いつつ、長ちぇんは説明した。 一年前、この群れには成体サイズまで成長したまりさつむりがいた。色々あったが、食 糧事情が最悪の中で群れのみんなで養っていたのだが、とうとう冬を越せずに死んでしま った。 越冬に失敗するという止むを得ない事故であったが、せっかく群れで生まれ育った珍し いまりさつむりを死なせてしまったことをみんな後悔しているので、その話になるとゆっ くりできないから触れないようにしている、と。 「「ゆっくりりかいしたよ!」」 れいむとまりさは、頷いた。 「ここに来る前はどうしていたの?」 「ゆゆ、まりさたちはおさななじみで……」 幹部れいむが、二匹に話しかけているのを見て、ちぇんは気付かれないように溜息をつ いた。 越冬に入る時に、誰かがつむりと一緒におうちに入るべきではないか、という話は一応 幹部会で出るには出た。 希望者を募ったが、冬の間の重労働を意味するそれに名乗りを上げるものはいなかった。 冬篭りは、食料の備蓄などが上手く行かなければ飢餓地獄から、果ては家族同士で喰ら い合う餓鬼地獄へと至ってしまうが、それが上手くいけば、狩りにも行かずに家族一緒に ゆっくりできる時間にもなるのだ。 秋の内に、目先のゆっくりを捨てて頑張ったゆっくりに与えられるご褒美とも言えた。 それが、つむりと一緒に住んでその世話をするとなると、ありえない話になる。 夏に台風が来てぱちゅりーが死に、食糧難になり、秋になって多少事情はよくなったも のの、どの家族も越冬にギリギリの食料しか確保できていなかった。むしろ、ギリギリと は言え、なんとかなりそうな量を確保できたのは僥倖であった。 ちぇんは、群れのみんなの、つむりを明らかに足手まといに感じて関わりたくないとい う空気を読んで断を下した。 「出せるだけのごはんをつむりに上げてね。おちびちゃんがたくさんいるところとか、そ れぞれの事情があるから、ちぇんからはこれだけ出せ、とは言わないよ。でも、全然出さ ないっていうのもゆっくりできないよね。わかってねー」 皆、悲しいほどに少量の食料を出した。塵も積もれば、で集めるとそれなりの量になっ たが、越冬に十分かといえば、明らかに心許なかった。 「それじゃ、塞ぐよー、ゆっくりえっとうしてねー」 みんなで、つむりのおうちの入り口を枝や葉っぱで塞いでいった。 「ゆわあああん、これじゃたりにゃいよぉぉぉ! 冬さんを越せないよぉぉぉ!」 つむりが泣き叫んでいたが、お構いなしに作業を進めた。 「じにだぐにゃいよぉぉぉ、つむり、じにだぐにゃいよぉぉぉ!」 「みんなも大変なんだよ、わかってねー」 「だちでえええ、だちでよぉぉぉ! おねえしゃん……おねえしゃんのところにつれでい っでよぉぉぉ!」 「おねえさん、っていうのはまりさのことだねー、どこかで立派に暮らしてるらしいけど、 誰もおうちの場所は知らないんだよー……よし、塞がったよー」 「ゆぐっ、ゆひぃ、たりにゃいよぉ、だちてよぉ……ゆべ!」 「がまんして、少しずつ食べてれば大丈夫だよー」 「い、いぢゃいいいい、こ、ころんじゃっだよぉぉぉ、おこちちぇ、誰かおこちちぇ、つ むり、ひどりじゃ立でにゃいよぉぉぉ!」 「それじゃ、また春に会おうねー、わかるねー」 「ゆ、ゆぴゃあああ! ひじょいよぉぉぉ! ひとりでえっとうなんでむりだよぉ! お、 お、おがあしゃあああああん! お、おねえじゃあああああん! つぶりは……つぶりは、 ひとりじゃ生きられないよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」 自分をはじめ幹部たちや、一部のゆっくりは理解していた。 つむりの越冬は失敗するだろう、と。 越冬失敗による死ということにして、つむりを片付けるのだ、と。 そして、春になり、どの家族もなんとか越冬に成功して喜び合った。 そして、案の定、つむりは唯一の脱落者となったのである。 春から夏になり、今年は台風も来なかったので、食料は安定して得ることができたため に群れはここまで回復し、新参を受け入れるまでになった。 ただ、余裕が出てくると、みんなの中に、珍しくゆっくりできるまりさつむりを死なせ てしまったことを後ろめたく思う気持ちが蘇ってきた。 だから、もう触れないようにしたのだ。 掟にまでして、もうみんなでゆっくり忘れよう、と。 こうして新入りに掟を説明するちぇんは忘れることはできないが、それは長として死ぬ とわかっていながらつむりを見捨てた責任だと思っている。 「長!」 幹部れいむに呼ばれて、ちぇんは俯いていた顔を上げた。 「このれいむとまりさ、まりさに会ったらしいよ」 「ゆゆ!?」 「そもそも、ここの群れのことは、まりさに教えてもらったんだぜ」 と、新入りまりさは言う。 このまりさに群れのことを教えてくれたまりさというのが、どうやらあのつむりの姉で かつてこの群れを追放されたあのまりさらしい。 「いっしょに行こうって言ったけど、ついほーされてるから、って言って来なかったんだ ぜ」 「じぶんが行ったら、みんながゆっくりできなくなる、って言ってたよね。とてもゆっく りしてるまりさだったから、ゆっくりできなくなるわけないのにね」 それを聞いて、ちぇんは閃いた。 もしかしたら……いや、きっと、まりさはまた群れに様子を見に来たのだ。 みょんに聞いたが、まりさはステルス機能を持った袋を持っており、それを被って完全 に姿を消すことができるらしい。 そうやって姿を消して様子を見に来て、そして、新たな掟にしてまで、みんながつむり のことを忘れようとしているのを知ったのではないか。 そして、つむりの姉の自分を見れば、みんな嫌でもつむりのことを思い出す。だから、 自分が行けばみんながゆっくりできなくなる、と言ったのでは。 推測だが、きっとそうだろうとちぇんは思った。 そして、もうまりさはこの群れにはやってこないだろう、と。 まりさがおうちを構えているらしいという方角を見て、ちぇんは、 「ゆっくりしていってね」 と、言った。 その後ろで、まりさがどうしていたかを幹部れいむに聞かれたれいむとまりさが答える 声が上がっていた。 「それで、ありすといっしょに暮らしてて、赤ちゃんもいて、ゆっくりしてたよ!」 「ゆゆぅ、れいむたちもあんなふうなしあわせなー家族になりたいよ」 終わり 愛ででも虐待でもない! って書いてたら、最後の最後で立派なつむり虐待だよ。でももう知らないよ。 改めて、多大なインスパイアを与えてくださったキリライターあきさんに感謝いたしま す。 過去作品 ふたば系ゆっくりいじめ 340 ゆっくりほいくえん
https://w.atwiki.jp/beefkomatu/pages/63.html
ゾンビの群れ。 犬でもできることに気が付いた。 犬ゾンビは45レベ。 二体出せる。 まあでも分身の能力はゾンビアーミーとかわらないけどね。 ゾンビイヌの群れみたらハリボテでもびびるっしょ。 てか大使だしてパーフェクトミミックミラージュミミックで大使六体にみせることもできるんじゃ。 ワラゲでビビらすだけなら十分だよね。
https://w.atwiki.jp/fab4assimilation/pages/9.html
皆さんは「ダンバー数」をご存知でしょうか? これは英の人類学者であり進化心理学者のロビンダンバー教授が1989に発表した 有力な仮説です。 The Social Brain Hypothesis Robin I. M. Dunbar Evolutionary Anthropology, 6(5), 178-190, 1998 簡単に述べると、霊長類の群れには個体数限界があり、それは、脳の新皮質の割合と比例する。 というものです。 以下簡単に説明します。 霊長類は毛繕い(グルーミング)に1日の多くの時間を費やします。グルーミングは、群れの序列などのストレス緩和に役立ち、群れの中の個体同士の関係性を良好に保つ役割を果たしてると考えられてます。 このグルーミングに費やせる時間と、群れの大きさの限界は比例します。この比例関係と脳のサイズ(新皮質の割合)も比例します。 つまり群れの大きさは、脳のサイズ(新皮質の割合)、グルーミングに割ける時間の2つと強い相関関係があるということです。 この比例関係から、逆算すると、ヒトの場合は平均150人(100-230) だろうという推測ができます。 しかし、ヒトはサルのようにグルーミングに時間を費やしません。ダンバーは神経機序の類似性から、ヒトの場合何気ない会話や噂話といったおしゃべりの時間がそれに当たると関連付けました。 何気ない対話や噂に費やす時間が、群れの序列のストレスを緩和するグルーミングより短時間で済むのは、1対1ではなく同時に複数を相手にできるからだと考えられます。 ただし、親密な関係性維持のためには一度に数人が限度だと推測されています。 このことは毛繕いの簡略化という意味でチープグルーミングと定義されています。 相関関係に戻って、この150人という数字を基に調査すると、狩猟生活で簡単な儀式を共有できる部族の集団構成人数と合致(平均148.4人)することをダンバーは見い出しました。 これらのことから、自然な状態であるなら、人の生物としての集団維持限界は150人くらいだろうと推測しています。 裏付ける補強証拠として、仕事や趣味など様々な集団の調査をあげ、150人くらいの規模が安定し活発であると言及してます。 産業革命より前の文明社会でも、(自然村=生活共同体としての最低単位)村落は多くが150人クラスです。他にも軍隊の生活規模での基本単位、中隊も150人であるなど、多くの場面でも150人という単位は重要な意味を持ってそうです。 また、より濃いあるいは薄いつながりとして、「ダンバー数」の150人以外にも『5,12,35,150,500,2000』といった集団単位に、何らかの普遍性がありそうという別の知見などを示してます。 なお、補足説明で有名なのは透湿防水生地で独占的成功を収めてるゴアテックスの 会社社長ビル・ゴア氏の経験則からの経営方針。 150人くらいだと、緩い規則でも仕事は上手く行く。 それ以上だと、規則、序列から管理部門といったものに、予算と人員が食われてしまう。 なので大きくなってきたら、分割して次の拠点を造る。 というものです。 これは、霊長類の群れの安定や分裂(ヒトの場合150人チンパンジーの場合50を超えると急に、ズル、サボり、争いなどが増える)の傾向と合致しているうえに、成功例であるので、ビジネス書などで取り上げられてます。なので、ご存知の方も多いかと思います。 以上がダンバー数のおよその説明です。 「ダンバー数」に関してより詳しく知りたい方はWikiや心理学者村山航さんによるレジメなどを参考にしてください。 wikiロビンダンバー https //ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AD%E3%83%93%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%80%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%BC 村山航氏によるレジメhttp //koumurayama.com/koujapanese/socialbrain.htm
https://w.atwiki.jp/n4908bv/pages/237.html
召喚呪文 周囲にいる魔物を呼び寄せ誘導する呪文。 対象は既に戦っているか識別出来ている魔物である必要がある。 周囲に魔物がいなくてもレベル上げするのに重宝する。 群れの一部を呼び寄せる場合、かなりの高確率で群れそのものを呼び寄せるので注意を要する。 範囲は非常に広い。消費MPは小。
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/3917.html
『野良れいむはゆっくりしたい』 66KB 思いやり 不運 自業自得 日常模様 駆除 番い 群れ 野良ゆ 加工場 現代 独自設定 なんか迷走気味。 気ままあき 「ゆっ……ゆぅぅぅ……」 公園をずりずりと這っている汚い成体れいむがいる。 髪の毛や肌は言うに及ばずお飾りに至るまですべてがボロボロの野良れいむだ。 れいむは思う。なんでこのゆっくりはこんなにもゆっくりしていないのだろうか?と。 れいむは思う。なんでこの世のあらゆるものはゆっくりをゆっくりさせてくれないのだろうか?と。 れいむは思う。なんで人間さんはゆっくりに対してこんなに酷いことをするの? れいむはもっとゆっくりしたいよ。 誰でもいいかられいむをゆっくりさせてよ…… このれいむに親はいない。 気がついたら両親はれいむを残していなくなっていた。 唯一妹のまりちゃがいたが、幼い姉妹には食べる物も住むところもなかった。 親を探しにいこうとしたがすぐ疲れて歩けなくなった。 れいむは仕方なく人間に助けを求めた。 「ごはんさんをちょうだいね!あまあまでいいよ!」 「かわいそうなれいみゅにおうちをちょうだいね!ごうていっでいいよ!」 自分がそう言った時の人間の目は今でも忘れられない。 底冷えするような冷たい目。まるで汚物を見るかのような嫌悪の視線。 そして無関心。無視。幼いれいむのささやかな希望をかなえてくれる人間は1人もいなかった。 当然餓えた。ひもじかった。寒かった。心細かった。 そうこうしている内に妹のまりちゃが衰弱して死んだ。 幼いれいむは仕方なく死んだまりちゃの死骸を食べてその命を繋いだ。 まりちゃは確かにあまあまで美味しかった。 が……だがれいむの腹はふくれたが心には満足感なんて欠片もなかった。 同族喰いはゆっくりできないという本能ゆえだろうか? れいむはますますゆっくりできなくなり確実に弱っていった。 まだ自分は全然ゆっくりしていない。いやゆっくりさせてもらっていない。 それなのにもう死ぬのか?ここでなんの意味もなく野たれ死ぬのか? 嫌だ!もっとゆっくりしたい!もっともっともっと!……しかし意識はだんだん薄れていく。 もうれいむがここまでかと思った時… 「ゆっ?こんなところによわっているおちびがいるのぜ!」 「まりさ!このこをむれまではこんでちょうだい!」 「わかったのぜ!」 ……れいむは狩りにきていた公園の野良ゆっくりにその命を救われる。 れいむはただちに公園の群れに連れて行かれそこで治療を受け、ごはんさんを食べさせてもらいようやく元気になった。 そして身寄りのないれいむは公園の群れに入れてもらいそこで生きていくことになったのだ。 だがこの時れいむは周囲の大人たちがまだ幼い自分をゆっくりさせてくれると漠然と考えていた。 かすかに記憶にある両親が自分をゆっくりさせてくれたように、 群れの大人たちもかわいいれいむをゆっくりさせてくれるはずだと思っていた。だが…… 「きゃわいいれいみゅをゆっちちゃちぇてにぇえ!」 「ゆっ?なにいってるのぜこのおちびは?まりさたちがおまえをゆっくりさせるわけないのぜ」 「ど、どぼじてぞんなごというにょぉぉぉっ?れいみゅはまだきゃわいいあかちゃんなんりゃよ? ゆっくちしゃせてあげにゃいとだめでしょぉぉぉっ!?」 「あなたはありすのおちびちゃんじゃないもの。ゆっくりさせてあげるぎりなんてないわ」 「ゆぅぅっ!?」 「それよりれいむ。むれのいちいんになったいじょう、あなたもきちんとはたらいてもらうわ。むきゅ」 「むれにしょぞくしているいじょう、みんななにかしらのおしごとをしてるんだからとうぜんだみょん!」 「あ、あかちゃんのれいみゅにおしごとなんでむりにぎまっでるでしょぉぉぉぉっ!?」 「ちゃんとおちびにできるしごとをまわすからだいじょうぶなのぜ」 「おしごとをしないと、むれのおきてでせいさいっされるからさぼっちゃだめよ?」 「むれにでいぶをやしなうよゆうはないんだよー。ゆっくりしないでそくざにわかってねー!」 「ゆんやああああああっ!どぼじて?どぼじてだれもれいみゅをゆっくちちゃちぇてくれにゃいにょぉぉぉっ? ゆっくち!ゆっくちぃぃぃぃっ!みんにゃれいみゅをゆっくちちゃちぇてよぉぉぉぉぉっ!」 その日かられいむの群れでの日々が始まった。 ゆっくりできない群れでの強制労働……それはただ柔らかい芝生の雑草とりをしたり、 群れの一員として長ぱちゅりーから群れの掟や生き抜く為の知恵を勉強するだけのものであったが まだ赤ゆっくりであったれいむには耐えがたいほどにゆっくりできない事だらけであった。 なんでまだ赤ちゃんのれいむがこんな目に? もっと思う存分すーやすーやして思う存分お寝坊やお昼寝をしたい。 もっと美味しいものをたくさんむーしゃむーしゃしたい。 もっと遊びたい。おうたを歌ってゆっくりしたい。もっとゆっくりしたい。もっともっと…… だがこの群れは親がいない新参者にそんな自堕落なゆっくりなど許してくれなかった。 れいむの不満は日ごとにつのり……れいむが赤ゆっくりから子ゆっくりへと成長した頃、 いっそこんな群れなど出て行ってやろうかとれいむは本気で思って準備したことがあった。 群れの大人たちはそんなれいむの胸中を察したのだろうか、 ある日、群れ一番の狩りの名手と名高い野良まりさがれいむを狩りに同行させたことがあった。 「やべてえええええっ!」 「でいぶのなわばりをあらすなんて、とんだげすゆっくりどもだよ!」 「まりちゃはげすじゃにゃいもんんんんっ!ごはんしゃんをとりにきちゃだ……ゆぴぃ!」 「ゆんやあああっ!ありずのおじびちゃんがぁぁぁっ!どぼじてぇぇぇっ? ありすはなにもわるいごとじでないでしょぉぉぉ!」 「このごみすてばはおさでいぶのむれがしきっているかりばなんだねー!」 「ここのごはんさんをよこどりするやつはむれにけんかをうるげすなのぜぇっ!」 「ゆっくりりかいしたら、ゆっくりしないでしんでね!すぐでいいよ!」 「いやだぁぁぁぁっぞんないながものなしにがたじだぐないぃぃぃっ!ば、!ばりざぁぁぁっ!おちびじゃぁぁぁぁんっ! だれでもいいがらとかいばなありずをたずげてよぉぉぉぉっ!」 野良まりさに連れられたれいむは物陰からその様子を見た。いや野良まりさに見させられた。 食べられる物を手に入れようと路地裏のゴミ捨て場にちょっかいを出したが為に、 ゴミ捨て場をテリトリーとしている野良ゆっくりの群れに制裁される野良ありすの親子の……その末路を。 ほんの少し。ほんの少し生ゴミを頂戴しただけで片目を潰され、髪の毛は抜かれ、お飾りを没収され、 子供のまりちゃは潰されるというあまりにも残酷で容赦のない狂気の制裁を。 野良ありすがこれでもかと苦しみを与えられた末に殺された現場をれいむは見てしまった。 制裁の現場を初めて見たれいむはあまりの恐ろしさになにもしゃべることができなかった。 なんだこれは?同じゆっくりなのになんであのでいぶたちはあんなに楽しそうにこんな酷い仕打ちができるのだ? 分からない。いや分かりたくない。ただただ理解不能としか言いようがない光景だった。 れいむはおそろしーしーを盛大に漏らしながらガタガタ震えるしかなかった。 そこへ野良まりさが冷めた目でゴミ捨て場の制裁を見ながら、れいむに語りかけてきた。 「……みるがいいのぜ。あれがむれにはいっていないのらのまつろなのぜ」 「ど、どぼじて……?どぼじてご、ごんなごとをずるのぉぉぉっ……?」 「むれにとってかりばはせいめいせんっなのぜ。そこをあらすやつはそくざにせいさいっされるのぜ」 「だ、だからってこ、こんなひどい……」 「のらのせかいはきびしいからしかたないのぜ。だけど……れいむはべつなのぜ。 まちがってほかのむれのごみすてばにはいりこんだくらいならば、 よほどうんがわるくないかぎりまずせいさいっはされないとおもうのぜ」 「ゆっ?な、なんで…」 「れいむがこうえんさんのむれにしょぞくしているから、だぜ」 「……?」 「ほかのむれのゆっくりをかってにせいさいっしたら、むれどうしのぜんめんこうそうっにはってんしかねないのぜ だからそのばあいはこうえんのむれにくじょうをいいにきて、ごはんさんをちょろまかしたのなら そのぶんをべんしょうさせるぐらいでてうちしておわるのがふつうなんだぜ」 「ゆ、ゆう……」 「……うしろだてってやつなのぜ。むれというちからをはいけいにもったゆっくりにはてはだしずらいものなのぜ でもあそこのありすたちのようにむれという、うしろだてがないとかるくみられて……」 「……そ、そくざにせいさいっされる?」 「そうだぜ。それもたくさんのゆっくりでよってたかって……のらゆっくりだからいーらいーらもそうとうたまってるのぜ」 「……」 れいむはそんな群れ同士の関係など初めて聞いた。 野良ゆっくりの社会がそんな風に成り立っていたとは…… だがこれは別に群れ同士で協力しあったりとかしているわけではない。 街という野良が生きるには過酷な状況、そして過去に起きた様々な問題や悲劇から 野良ゆっくり達が痛い目にあいながらも少しづつ学んで自然と現在の状態に落ち着いたというだけのものだ。 「……れいむはむれがきらいかだぜ?」 「ゆっ!?そ、そんなこと……」 「かおにでてるんだぜ。むれのおしごとはぜんぜんゆっくりできないって。 でもれいむはむれのおしごとをしてるからこそ、そのむれにまもられてもいるのぜ?」 「……ゆう。まりさにはぜんぶおみとおし、なんだね」 「べつにたいしたことはないのぜ。そのていどのことならなんとなくふんいきでわかるものだぜ」 「たしかにむれのおしごとはゆっくりできないよ……れいむはもっとゆっくりしたいよ……」 「ゆっくりしててごはんさんやおうちさんがてにはいるなら、いくらでもゆっくりしていればいいのぜ。 でもげんじつにそんなことありえないんだぜ」 「……」 「まあそれでもむれがきらいならむりじいはしないのぜ? れいむがひとりでもいきぬくつよさがあるとおもうのならいつでもでていっていいのぜ」 それだけ言うと野良まりさはくるりと背を向けて公園へと帰っていく。 元々野良まりさは本当は狩りにきたわけではなく、れいむにこの野良の現実を教える為に公園の外にまで出てきたのだ。 もう用は済んだ。あとはこの野良ゆの現実をれいむが受け入れるかどうかであり、れいむ自身の問題である。 そのれいむは割り箸で身体中を串刺しにされた野良ありすの亡骸を、目に焼き付けるように悲しげに見ると…… 野良まりさの後を追って公園へと跳ねていったのだった。 そして結局れいむは公園の群れに残った。 あんなものを見せられた後では自分ひとりの力でゆっくりする自信など、とてもおこらなかったからだ。 れいむは公園で雑草とりや花壇の水やり等の仕事をしていく日々を選んだのである。 毎日の仕事さえきっちりやれば思う存分……とまではいかなくてもそこそこのゆっくりはできる。 それで満足するべきかもしれない。れいむは段々そう思い始めてきた……が。 そんなれいむの前に思う存分ゆっくりを享受している(ように見える)異質の存在が現れた。 ときどき公園に飼い主とともに遊びにくる飼いゆっくり達である。 「まりさー、ちぇんー、あまり遠くへいっちゃ駄目よー」 「わかってるよおねえさん!」 「ひさしぶりのこうえんさんなんだよー!おもうぞんぶんかけっこするんだねー!」 飼い主のお姉さんに連れられて公園に遊びにきた金バッジのまりさとちぇん。 れいむが生まれてはじめて見る飼いゆっくりは何から何まですべてがゆっくりしていた。 汚れなど何一つないもちもちの肌、綺麗な金髪に黒髪、お飾りに至るまで綺麗で輝いていて とにかくなにもかも。すべてがゆっくりしていた。 「ゆわぁぁぁっ……すごぉぉぉくゆっくりしているよぉぉぉぉっ……」 「なにをみてるのれいむ?」 「なにってありす、あのまりさたちみてよ!すごいよ……ふたりとも、ものすごいびゆっくりだよぉぉぉぉっ! それにそれにものすごぉぉぉぉくゆっくりしているよぉぉぉぉっ!」 「……だから?」 「だ、だから……?れいむもあんなふうにゆっくりしたいよ!どうすればああいうふうになれるの?ゆっくりおしえてね!」 「ふう~……れいむ?あれはありすたちにはてがとどかないせかいにすんでいるゆっくりよ。 そんなものにあこがれてはいけないわ」 「ゆっ?なにいってるの?おなじゆっくりでしょ?あのまりさたちがゆっくりできてるんだから れいむだっておなじようにゆっくりできるはずだよ!」 「……」 そうだ同じゆっくりじゃないか。れいむと何が違うというのだ? 住む世界が違う?なんだそれ?何を言っているのか分からない。 所詮野良ゆっくりであるありすじゃ聞いても埒があかない。そうだあのゆっくりとしたまりさ達に直接聞いてこよう。 どうすればれいむもまりさやちぇんのようにゆっくりできるのかを! そう思うなりれいむは飼いゆっくり達の元へと跳ねていった。 後方でありすが飼いゆっくりに関わってはいけない!行くな!と制止する声が聞こえたような気がするが、 れいむのようやくゆっくりできるかもしれないという逸る気持ちに打ち消された。 「ゆっくりしていってね!」 「……ゆっ?」 「なんなのーこのれいむー……?」 れいむはかけっこをして遊んでいる飼いゆっくりの二匹に渾身の挨拶をした。 が、金バッジをお飾りにつけたまりさとちぇんはどこか困惑気味だ。 まあ薄汚い野良れいむにいきなり話し掛けられたら誰だって迷惑そうな顔をするだろうが。 だが当のれいむはそんなことおかまいなしに飼いゆっくりの二匹に話しかけた。 「ねえ!まりさとちぇんはどうしてそんなにゆっくりしているの?れいむもゆっくりさせてね!すぐでいいよ!」 「ゆうっ?なんでまりさがれいむをゆっくりさせてあげないといけないの?」 「ゆっくりのひとりじめはいけないんだよ!ゆっくりはみんなでわけあわなきゃいけないんだよっ!」 「そんなこと、ちぇんたちにいわれてもこまるんだねー」 「まりさたちだって、おねえさんにおねがいしてようやくこうえんさんにゆっくりしにこれたのに……」 「ゆっ?おねえさん……?」 「あそこのべんちさんでごほんをよんでるにんげんさんのことだよー」 「まりさたちはあのおねえさんのかいゆっくりなんだよ」 「ゆっ!か、かいゆっくり!?かいゆっくりってごうていっなおうちにすんでいて、 まいにちあまあまたべほうだいっで、びゆっくりとすっきりーしほうだいで、にんげんをどれいにして、 かいってきにまいにちをおもうぞんぶんゆっくりしているあのかいゆっくり!?す、すごいよ! れいむもかいゆっくりにしてねっ!いますぐかいゆっくりにしてねっっ!はやくしてねぇぇぇぇっ!?」 飼いゆっくりと聞いてれいむは野良ゆっくりにありがちな理想(妄想)の飼いゆっくり像をぶちまけた。 人間を奴隷にして思う存分ゆっくりする。それは恐らくほとんどのゆっくりがもつ思考であり願望であろう。 だがそんなれいむの願望を聞かされた飼いゆっくりである当のまりさとちぇんはいきなり激高した。 「「ふ、ふ、ふ、ふざけないでねぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」」 「ゆゆゆっ!?」 「な、なにがにんげんさんをどれいになのぉぉぉぉっ!?ばかなこといわないでねぇぇぇぇぇっ! まりさとおねえさんはかぞくどうぜんっなんだよぉ!」 「あまあまたべほうだい?すっきりーしほうだい?ねごとはねてからいうんだねー!」 「ど、どぼじてふたりともいきなりおこってるのぉ!?ばかなのっ?しぬのぉぉぉっ?」 「ばかなのはれいむのほうでしょぉぉぉっ!かいゆっくりをなめているのはれいむのほうでしょぉぉぉぉっ!?」 「れ、れいむはなめてなんか……」 「かいゆっくりはたしかにのらよりおいしいものをたべてるよー!でもそれはちぇんたちが おしごとをしているからだよー!」 「お、おしごと!?かいゆっくりにもおしごとがあるの!?」 「そうだよ!かいぬしであるおねえさんをゆっくりさせているから、まりさたちもゆっくりさせてもらえるんだよ!」 「おねえさんにゆっくりしてもらうのはむずかしいんだねー!かいゆっくりもらくじゃないんだよー!」 「にんげんをゆっくりさせる……?ゆんっ!そんなのかんたんだよ!ぜんぜんむずかしくないよ!」 「……なにがどうむずかしくないっていうの?」 「だってゆっくりしているれいむをみれば、にんげんはとたんにめろめろになってゆっくりするはずだものっ! しゅっけつだいさーびすっでれいむのゆっくりしたおうたをきかせてあげればもうかんっぺきっだよ!」 「……」 「……」 自慢げにゆふんっとふんぞり返るれいむ。 そんなれいむに心底呆れ、冷めた視線でれいむをじとーっと見る金バッジまりさとちぇん。 これまた野良ゆっくりにありがちな短絡思考である。 何に対してゆっくりを感じるかは人間とゆっくりでそれぞれ違うというのに…… 人間とゆっくりの価値観の違いなど野良ゆっくりであるれいむには理解できないのだ。 「……れいむをみてもおねえさんはたぶんゆっくりしないよ」 「ゆっ?そんなわけないよ!れいむをみればぜったいにゆっくりするはずだよ!ゆぷぷっまりさはみぐるしいね! いくられいむがゆっくりしてるからってしっとしないでね!」 「じゃあきくけど、れいむをみてゆっくりできたよーっていったにんげんさんがいままでにひとりでもいたのー?」 「ゆうっ!?」 「そんなにれいむをみてゆっくりできるのなら、れいむはのらなんてやってないはずだよ」 「れいむがとくいなおうただって、おねえさんからみたらたんなるざつおんなんだよー。 そんなのじゃ、にんげんさんはだれもゆっくりなんてしてくれないんだよー。ゆっくりわかってねー」 「ど、どぼじてぞんなごというのぉぉぉぉぉっ!?」 だが確かにそうだ。 れいむを見てゆっくりできるという人間がいれば、れいむはとっくの昔に飼いゆっくりになれてたはずだ。 それどころか……ここでれいむはハッと昔を思い出した。 赤ゆっくりだった頃のれいむ……路上で妹まりちゃと餓えていたあの頃…… いくらゆっくりさせてね!とれいむが言っても人間達はれいむなど相手にもしなかった。 それどころか軽蔑するような冷たい目をされた。汚物を見てしまったとでも言いたそうな露骨な無視をされた。 今思えばあれらの目は揃いも揃ってこうれいむに言っていた気がする。 れいむ、お前は全然ゆっくりできない……と。 「ち……ちがうっ!ちがうぅぅぅぅっ!れいぶはゆっぐり!ゆっぐりでぎるんだぁぁぁぁっ!ゆんやあああああああっ!?」 「そのばそのばのくうきをよんで、おねえさんにゆっくりしてもらえるようにふるまうのはほんとうにたいへんなんだよ!」 「れいむがいうやりかたじゃ、おねえさんはうっとおしがってふゆかいにかんじるだけなんだよー! とてもくあないけどゆっくりなんてしてくれないんだねー!」 「そうだよ!おともだちなんてかいゆっくりどうしじゃないとだめだし!」 「すっきりー!なんてごんごどうだんっなんだねー!」 「あまあま?したがこえるからよほどとくべつなひじゃないかぎり、たべさせてなんてもらえないよ!」 「ぞ、ぞんなぁぁぁっ!?なにぞれぇぇぇぇっ!はなしがちがうでしょぉぉぉぉぉっ!?」 「はなしがちがう?まりさはれいむがいうような、おとぎばなしじみたもうっそうっをはなしたおぼえはないよ!」 「かってにひとりでそうだとおもいこんでいただけだよー。それをちぇんたちのせいにするなんてわからないよー!」 「だ、だって……かいゆっぐりはゆっぐりでぎるはずなのにぃぃぃぃぃっ……」 「それはれいむがこうだったらいいなっておもいこんでいるだけの、れいむにだけつごうがいいかいゆっくりでしょ!」 「にんげんさんにゆっくりさせてもらうじゃないんだねー!ちぇんたちががんばって にんげんさんにゆっくりしてもらって、そのあとにちぇんたちもごほうびとしてゆっくりさせてもらうんだよー」 「そうだよ!れいむがいってることはじゅんじょがぎゃくだよ!」 「ぎゃ、ぎゃく……?」 「まりさとちぇんはかいぬしのおねえさんとはかぞくどうぜんだよ!でもかぞくでもじょれつというものはあるんだよ!」 「ちぇんたちをかってくれているおねえさんがうえ!ちぇんたちがした!なんだねー」 「やしなってもらっているおちびちゃんがおやよりえらいなんてありえないのとおんなじだよ!」 「それなのに……ちぇんたちをかってくれるおねえさんがどれいなんてとんでもないんだねー!」 「ゆ、ゆうぅぅぅぅぅ………」 「それにいくらかぞくでも、これだけはやっちゃだめっていうのがどうしてもあるよ! それはゆっくりのかぞくもにんげんさんのかぞくもおなじことだよ!」 「かってにのらをつれこんで、おちびちゃんをつくるとかねー!もしそんなことをしたらどうなるかしってるー?」 「ゆっ……?お、おちびちゃんはかわいくてゆっぐりできるんだがら、うまれたおちびちゃんもとうぜん…」 「かってなんかくれないよー!それどころかおやこともどもすぐにすてられちゃうんだねー!」 「ゆ、ゆううううううううっ!?な、なにぞれぇぇぇぇぇぇっ!?」 公園の群れに掟というルールがあるように、飼いゆっくりには飼いゆっくりのルールがある。 金バッジまりさ達からそのルールの数々を聞かされたれいむは驚きと愕然の連続だった。 こんなにゆっくりしている(ように見える)飼いゆっくりの生活がこんなにゆっくりできないものだったとは! 飼いゆっくりはれいむが毎日やらされているゆっくりできないお仕事とは無縁の存在だと思ってたのに。 れいむは次第に裏切られたような気分になっていった。 「かいゆっくりのざはあんたいっじゃないんだよ!かいぬしさんのきぶんしだいであっというまに のらのなかまいりをしちゃうことだってあるんだよ!」 「かいゆっくりはのらゆっくりとつねにとなりあわせなんだねー!ちぇんたちはそのぷれっしゃーさんにたえながら まいにちまいにち、けんめいにおねえさんをゆっくりさせようとどりょくしてるんだよー!」 「まりさたちがほんとうにゆっくりできるのは、きょうみたいにごほうびでこうえんさんに あそびにつれてってもらうことくらいだよ!」 「かいゆっくりはれいむがおもってるほどらくしょうなそんざいじゃないんだねー。わかってねー!」 「ゆっ……ゆゆゆっ……」 「ゆんっもういいよ!ちぇん、あっちのすなばさんのほうにあそびにいこう!こんなれいむにつきあっていたら まりさたちがゆっくりあそぶじかんがなくなるよ!」 「そうだねー!じゃあねれいむー。かいゆっくりになればゆっくりできるなんてばかなゆめはもうみないでねー!」 そう言って砂場の方へ去っていく金バッジまりさとちぇん。 れいむはふたりに言われたことがあまりにもショックで追いかけることも、その場を動くこともできなかった。 飼いゆっくりは野良と違い衣食住が保証されているとはいえ、それは未来永劫続く保証ではない。 飼い主の気分、飼いゆっくりの態度次第であっというまにすべてを失いかねない砂上の楼閣なのだ。 そのことを充分自覚しながら飼いゆっくりは飼い主をゆっくりさせる為に努力しなければならない。 そう飼いゆっくりには野良ゆっくりとは別の苦労や悩みがあるのだ。 れいむはそれらの事情を知らなかった。そして知ってしまった。 一見この上なくゆっくりしているように見える飼いゆっくりですら毎日やらなきゃいけないお仕事があり、 そして人間を奴隷にして思う存分ゆっくりするなど到底できないという現実に。 こうしていつか自分も飼いゆっくりに……と密かに思っていたれいむの願望は粉々に砕け散ってしまったのだった。 「れいむ!まりさとずっといっしょにゆっくりするのぜ!」 「ゆゆ~ん!れいむ、まりさとずっといっしょにゆっくりするよ!」 飼いゆっくりとの出会いと別れからまたしばらく時間がたって…… 野良ゆっくりにしては珍しく成体にまで成長したれいむは群れの若いまりさと番になった。 そう……れいむは遂に現実に妥協したのだ。 野良の厳しさを知った今のれいむには、群れを出て思う存分ゆっくりできる理想のゆっくりプレイスを ひとりで探しに行く覚悟や力、自信はなかった。 さらに飼いゆっくりの現実と実態を知ってしまった以上、 自分のゆっくりを犠牲にして他者をゆっくりさせることに血道を上げる飼いゆっくりになりたいとも思わなくなった。 まあ、それ以前に野良が飼いゆっくりになるなどまず不可能なことなのだが。 だったらこの群れでそこそこのゆっくりを享受して生きていくしかないのではないか? れいむは成体になるまで現実と妥協して生きる選択を選ぶことをためらっていた。 だが遂にれいむは決断した。野良ゆっくりとして僅かなゆっくりを糧にこの群れで生きていくことを。 「じゃあれいむ……さっそくすっきりー!をしておちびちゃんをつくるのぜ?」 「ゆゆ~ん♪まりさったらせっかちすぎだよぉ~~♪」 「ゆふんっゆっゆっゆっ……」 「ゆゆんっゆゆっ……ゆっゆっ……」 「む、むほぉぉぉっ!むほほほぉぉぉっ!いいのぜれいむぅ!れいむのまむまむはごくじょうっなのぜぇぇぇぇっ!」 「ゆほぉ!ゆほぉ!ゆほぉぉぉっ!ぎ、ぎてえばりさぁぁぁ!ゆほほおぉぉぉぉっ!?」 「「すっきり―――――っ!」」 ……とまあ、こうして番になったその日の夜に見てて気持ちが悪くなるすっきりー!に及んだれいむとまりさ。 すっきりー!が終わった直後にたちまちの内にれいむの額に茎が伸び…… れいむはれいみゅ2まりちゃ1、計3体の赤ゆっくりを授かったのだった。 「それじゃあきょうのおしごとにいってくるのぜ!」 「ゆっくりいってらっしゃいまりさ!ごはんさんをたくさんとってきてね!」 「まりさにまかせるのぜっ!」 妊娠したれいむは動けなくなる為、群れの仕事を一時的に免除される。 代わりに番のまりさがれいむの分まで群れの仕事に従事することになるのだ。 そして今れいむはこれ以上ないくらいに幸せだった。 なぜならこの群れに来てからはじめてと言っていい程のゆっくりを思う存分味わっているからだ。 ゆっくりできないお仕事をせずに一日中おうちでのんびりしてていいだなんて夢のようだ。 しかも目の前にはこの上なくゆっくりできる自分のおちびちゃんが茎から垂れ下がっている。 おちびちゃんの安らかな寝顔を見ているだけでれいむはさらにさらにゆっくりできた。 おちびちゃんを作れない飼いゆっくりなんか問題にならない。 今この時こそが本当のゆっくりだとれいむは確信した。 これでこのゆっくりとしたおちびちゃん達が生まれたら、れいむはさらにゆっくりできるだろう。 おちびちゃんたちが産まれた時のことを考えるとれいむは今から笑いが止まらない。 そしてれいむが妊娠してから数日がすぎ……いよいよおちびちゃんが生まれる日が来た。 「ゆゆっ!そろそろおちびちゃんがくきさんからはなれそうだよ!まりさはおちびちゃんをうけとめてあげてね!」 「くきさんのしたにまりさのおぼうしをゆっくりおくのぜ!」 「ゆゆ~ん♪これでじゅんびっばんたんっだよ!おちびちゃんたち、ゆっくりうまれていってね!」 れいむの頭の茎にぶら下がった赤ゆっくり達がゆらゆらを揺れている。 茎から赤ゆっくりが落ちる前兆だ。 れいむとまりさが期待に満ちた顔でしばらく見守っていると……ぷちっと音がして茎の一番先にあるれいみゅが落ちた。 「きゃわいいれいみゅがゆっくちうまれりゅよ!………ゆぴっ!」 「お、おちび!?だいじょうぶなのかぜぇぇぇぇっ!」 「ゆっ、ゆぅぅぅぅ……ゆっ!(キリッ)ゆっくりしていっちぇにぇえ!」 「ゆゆ~~ん!とっ~~てもゆっくりとしたおちびちゃんだよぉぉぉぉっ!」 「おちび!まりさはまりさなのぜ!りりしいおちびのおとうさんなのぜ!」」 「れいむはれいむだよ!ゆっくりしているおちびちゃんの、ゆっくりしているおかあさんだよぉぉぉ!」 「ゆんっ!おとうしゃん……おかあしゃん!」 「「「ゆっくりしていってね!」」」 れいむはもう最初のれいみゅ一号が産まれただけでかなりの浮かれ気味だったが、 まりさが次のおちびちゃんも生まれそうなことに気が付いたこともあって残り二匹もなんとか無事に産み落とした。 そして出産の後に待っているのは多忙な子育ての日々。 だがれいむにとって、ゆっくりできない重労働であるはずの子育ては苦痛ではなかった。 むしろかけがえのない宝物を大事に育てているという思いに身も心もこの上なくゆっくりできたのである。 頼りがいのある番のまりさ。かわいいおちびちゃん達。それらに囲まれてこれ以上ないほどにれいむは幸せであった。 「むーちゃむーちゃ!ちあわちぇぇぇぇっ!」 「ゆっ!おなかぽんぽんになったら、うんうんをちたくなったのじぇ!」 「ゆゆ~ん!しゅっきりー!」 「ゆーん!おちびちゃんたち、と~ってもゆっくりしているよぉ~♪おちびちゃんのためにも おかあさんはこそだてさんをがんばるよぉぉぉっ!」 そしてさらに少しの時が流れて……れいむの子供が赤ゆっくりから子ゆっくりに成長しつつあったとある日。 その日れいむ一家はその日のお仕事を終えた後、公園をみんなで散歩することになった。 ちょうどよく晴れたうららかな陽射しの散歩日和だったので、れいむの子供たちは大喜びである。 れいむとまりさは木陰でのんびりうたた寝をし、子供達はおいかけっこ等をして遊んでいるそんな穏やかな時間…… そんなゆっくりとした時間は唐突に終わりを告げた。 「ゆんやああああっ!ゆんやああああああっ!」 「……ゆ、ゆゆっ!?」 「お、おちびちゃんのこえがきこえたよ!いったいどこから………ゆああああああああっ!?」 我が子の悲鳴にれいむとまりさは夢の世界から現実の世界へと呼び戻された。 寝ぼけまなこで慌てて我が子を探し……そしてあまりの光景に思わず叫んだ。 なぜなら人間の子供がれいむのおちびちゃんたちを足蹴にしているという身の毛もよだつ光景だったからである。 「やめちぇぇぇぇっ!れいみゅにいたいこちょちないでよぉぉぉぉぉっ!」 「いもうちょにひどいことしゅるくそにんげんはまりちゃがぷくーでせいさいっちてや……ゆべぇ!?」 「やべちぇよぉぉぉっ!まりちゃをけりゃないでよぉぉぉっ!どぼじでこんにゃひどいこちょしゅるにょぉぉぉぉっ!?」 「何故って……お前らが俺の焼き芋をよこせなんて言うからだろ。 俺は嫌だって断わったのにいつまでもつきまとってさ……終いにはあまあまよこさないゲスは制裁するよ!とか言って お前らの方から俺の足に体当たりかましてきたじゃないか。だから俺もやり返しただけだ文句あっか?」 そう事実はすべてこの少年の言うとおりであった。 屋台で石焼き芋を買った少年が公園のベンチに座って食べようとしたら 赤れいみゅたちが焼き芋の匂いにつられてのこのこやってきて 「そのあみゃあみゃしゃんをちょうりゃいね!」と言ってきたのだ。 ただでさえなけなしの小遣いで買った焼き芋だ、野良に餌付けする趣味がない少年は当然「嫌だよ」と断わった。 そしてぎゃーぎゃ騒ぎ立てる赤れいみゅ達を無視して焼き芋を黙々と食べ始めたのだ。 普通は拒否された時点で諦めるものだが……そこは諦めが悪い上に逆恨みが得意なゆっくり。 いつの間にかれいみゅ達の頭の中で少年は「れいみゅのあまあまを横取りするゲス人間」になっていた。 そして逆切れによる制裁が開始される。少年の足に体当たりを始めるれいみゅたち。 黙々と食べていた少年は赤れいみゅたちの言動行動にだんだん腹がたってきた。 せっかくいい陽気だから奮発して美味しそうな焼き芋を買って 公園で食べながら久しぶりにのんびりしようと思っていたのに、 なんでこんな野良ゆっくりに罵詈雑言を浴びせられた上に暴力を受けなければならないのだ? 野良ゆっくりが邪魔でうるさくて、せっかくの焼き芋が全然美味しく感じない。 お前らいい加減にしろ!……という経緯で現在に至るわけである。 「あ、ああ……に、にんげんさんにばりざの……ばりざのおちびだちがいじめられでるぅぅぅぅっ!?」 「や、やべろぉぉぉぉっ!それいじょうれいぶのがわいいおちびじゃんたちをいじべるなぁぁぁぁぁっ! ばりざぁぁぁぁっ!あれっ!あれをかせえっ!いますぐがぜえぇぇぇぇぇっ!」 「ゆっ!れ、れいぶ!?ぞ、ぞれはだめなんだぜっ!ぞれはぁぁぁっ!」 「ゆがあああああああああああっっ!」 「れ、れいぶぅぅぅっ!」 だがそんな事情など木陰で昼寝ぶっこいていたれいむとまりさが知るはずがない。 知っていればれいむもまりさも公園の群れに所属している野良ゆっくり、 人間の怖さは嫌というくらいに知り尽くしているから、ただひたすら少年に平身低頭して謝ってすませたかもしれない。 だがれいむとまりさ……特にれいむは寝ぼけて混乱していた。最愛の子供の危機に気が動転していた。 「ゆぴぃ……も、もうやらぁぁぁっ……」 「お、おうち…おうちかえりゅぅぅぅぅ………!」 「……はあ、もういいや。いいかお前らこのくらいで勘弁してやる。これで懲りたら二度と人間に食い物をねだるんじゃ…」 「れいぶのおちびじゃんをいじべるくぞにんげんはゆっぐじじないでじねぇぇぇぇっっ!」 「え…」 まりさの帽子の中には以前公園で拾ったという所々錆びている果物ナイフが忍ばせてあった。 このナイフはまりさといえどよほどの事がない限り使わない、まさに切り札中の切り札である。 我が子の危機に逆上したれいむはまりさの帽子の中のナイフを強奪すると、 ナイフを口にくわえて少年目掛けて突進したのである! れいむのゆん生最大最後の火事場の馬鹿力+後ろから突進してくるれいむに気付かない少年……その結果は? 「ゆ、ゆぐおおおおおおおおおっ!ゆんぎゅおおおおおおおおおおっっっ!!」 「痛っ……!?な、なんだよこれ……痛てええええええっ!?」 れいむの果物ナイフは運良く……いや運悪く少年のズボンとスニーカーの間の隙間、すなわち靴下に直接突き刺さった。 突き刺しただけでは飽き足らず、れいむは渾身の力で少しでもナイフを深く刺そうと踏ん張る。 そして逆上したれいむの火事場の馬鹿力によって果物ナイフは少年の足になんと1cm強も刺さった。 少年はいきなり足を刺されたことによる激痛で遂にうずくまってしまう。 れいむに刺された足の靴下は血でまっ赤なっていく…… まさか少年も野良ゆっくりごときにこんな怪我を負わせられるとは思ってもいなかっただろう。 「ゆふぅー!ゆふぅぅぅー!ゆふぅぅぅぅぅ―――っ…………!」 「ゆえーん!おきゃあしゃぁぁぁぁんっ!」 「まりちゃこわかったのじぇぇぇぇぇっ!」 「れいみゅもきょわかっちぇよぉぉぉぉっ!」 「ゆふぅぅぅぅー……ゆふぅぅー……お、おちびじゃんだち……も、もうだいじょうぶ……だよ……ゆっ!」 そして力を使い果たしたのか、れいむは果物ナイフを口から離した。 とたんにれいむの口からナイフを齧ってた部分の前歯と下歯が砕けたものがボロボロと地面に落ちる。 歯が砕けるのもかまわずに果物ナイフを噛み締めていたのだ。 なんとも無駄にご立派な母性パワーである。 「い、いてぇぇぇぇ……!いてえぇぇぇ!なんだよこれ……っ!な、なんで俺がこんな目にぃ!」 「ゆわぁぁぁい!れいみゅのあみゃあみゃをよこどりちた、げすにんげんがくるしがっちゃるよぉぉぉぉっ!」 「ちゅよーいおきゃーしゃんにしぇいしゃいされて、いいきみなのじぇぇっ!」 「にぇえくやちい?ねえいみゃどんなきもちぃ?ねえねえどんなきもちぃ~~~~?」 「ち、ちくしょう……おまえら……!おまえらぁぁぁっ!」 「「「おおっきょわいきょわいっ!げしゅにんげんはゆっくちくるしんでいっちぇにぇぇぇっ!げらげらげらぁぁぁっ!」」」 「ゆふぅぅぅー、ゆふぅぅー、ゆふふぅぅぅー………ゆっ!?ゆっ……ゆゆゆゆゆゆゆっ!?」 傷ついて動けなくなった少年の姿を見たとたん、いい気になって勝ち誇るれいむの子供たち。 足を刺された痛みにうずくまって涙目で悔しがる少年。 そして放心状態で息を整えていたれいむは……はっと我に返った。 人間を傷つけたという自分がしでかした事の重大さに愕然となる。 重大さを自覚したとたん、れいむの身体がガタガタと震えだしてきた。 れいむはあまりにも無我夢中で全然気がつかなかったのだ……人間に手を出すという事の恐ろしさを。 さらに人間を傷つけるのは確か群れの掟で禁止されていた。もし破ったら制裁…… と、そこへようやく番のまりさが駆けつけてきた。 「れいぶぅぅぅっ!」 「ま、まりざぁぁぁぁっ!?」 「はやぐにげるのぜぇぇぇっ!おちびたちっ!おとうさんのおぼうしのなかにはいるのぜっ!」 「ゆっ?にゃにいっちぇるにょ?こりぇからこのげすにんげんをれいみゅがゆっくちしぇいしゃい……」 「ゆがああああっ!いいからはやくなかにはいるのぜえぇぇぇっ!」 「ゆっ?ゆゆゆっ?」 「れいみゅ、おしゅらとんでるみちゃい!」 「ゆわーい!まりちゃ、おとうしゃんのあたまのうえでこーりょこーりょしゅるのじぇえ!」 「ついてくるのぜれいむ!ゆっくりしないではやくにげるのぜぇぇぇぇぇっ!」 「わ、わがっだよぉぉぉっ!」 まりさは調子に乗って少年を制裁しようとするおちびどもを強引に三つ編みで掴んで帽子の中に放り込むと、 少年が地面に落とした焼き芋も抜け目なく拾って一目散におうちへ向かって逃げ出した。 れいむも慌ててまりさの後を追って跳ねていく。 少年から一刻も早く離れんが為に。この場から一秒でも早く逃げ出すために。 幼少の頃から人間の強さ恐ろしさをよく知っているれいむとまりさは人間に勝てるなんて欠片も思わなかった。 だからとにかくひたすら死ぬ思いで逃げていった。 「ちくしょう……ちくしょうっ……!い、痛っ……足が、足がいたいよぉぉぉぉっ……!」 「おい君……どうした?」 「え?あ、足が…足がちょ、ちょっと痛くて……」 「足……?た、大変だ!君こんなに血が出ているじゃないか!まってなさいっ!いま携帯で救急車を呼ぶから!」 「す、すいません…」 「それにしてもどうしたんだいこんな酷い刺し傷……通り魔にでもやられたのか?」 「え?えっと……」 れいむに足を刺された少年は、運良く公園に犬の散歩に来ていた初老の男性によってすぐに助けられた。 刺し傷の経緯を聞かれて一瞬沈黙する少年……正直に言っていいものかどうかと。 しかし考えるうちにその脳裏にあのゆっくりどもの姿が思い浮かんでくる…… 自分の足を錆びた果物ナイフで刺した、あの薄汚れて目が血走った野良れいむ。 苦しんでいる自分をムカつく顔であざ笑った赤ゆっくり達。 食い物を強請られ、逆切れされ、軽く痛めつけて追い返そうとしただけなのに、刺されて怪我を負い、 苦しんでいるのに追い討ちとばかりにバカにされ、おまけに焼き芋も奪われた。 ……まったく思い出すだけで腹がたってくる。あんな野良どもにかける慈悲などないっ! 少年はためらうことなく今起きた事実をありのまま初老の男に伝えたのだった。 「……………ここに住んでいるらしい野良ゆっくりにやられました」 この瞬間。数年に渡って人間に迷惑をかけず賢明に暮らしていた公園の群れ……その命運は尽きた。 「むーちゃむーちゃ!ち、ちあわちぇぇぇぇぇっ!」 「くしょにんげんきゃらとりかえちた、あみゃあみゃのあじはかくべつっなんだじぇぇぇぇっ!」 「やきいもさんはとてもゆっくちできりゅにぇえ!むーちゃむーちゃぁぁぁぁっ!」 公園の片隅……群れのおうちが並ぶ場所にある、 とある横倒しのダンボール箱の中から赤ゆっくり達の歓喜の声が聞こえる。 言うまでもなくここはれいむとまりさのおうちである。 少年から無事に逃げ切ったれいむ達は、腹がへったとぐずるおちびちゃん達にとりあえず焼き芋を与えた。 れいむのおちびちゃん達は生まれて初めて食べるほくほくの焼き芋の味に幸せいっぱいだったが、 れいむとまりさの顔は晴れなかった……普段ならおちびちゃんの喜ぶ姿を目を細めて喜ぶはずなのに。 「ゆう……れいむ。やってしまったものはもうしょうがないのぜ」 「で、でもまりさぁ……このことがむれのみんなにしられたらせいさいっされるよぉぉぉ……?」 「たぶん……だいじょうぶなのぜ」 「ゆっ?」 「まりさはれいむのところへいくまえにしゅういをみわたしてみたのぜ。 群れからはなれたばしょだったせいか、まわりにむれのゆっくりはだれもいなかったのぜ」 「じゃあ……れいむたちがだまっていれば……」 「そうだぜ。だれにもばれないのぜ……ばれなければとうぜん、せいさいっもされないのぜ」 「そう…うまくいくかな?」 「だいじょうぶなのぜ!それに……ゆっくりのこうげきなんてにんげんさんにしたらかすりきずにもならないのぜ。 だからあのにんげんさんもたいしたけがじゃないはずなのぜ!おおごとになんてなるわけないのぜ! れいむがしんぱいすることはなにもないのぜ!」 「…・…ゆん。そうだね……そうだよね!」 れいむとまりさは自分の心の平穏を取り戻す為に、「たいした事じゃない。大丈夫」だと必死に自分に言い聞かす。 確かに幸運にもれいむが少年を襲った現場を目撃した群れのゆっくりはいなかった。 人間にとって野良ゆっくりの攻撃など普通ならば命に関わるものではないはず。 ならば大丈夫……大丈夫のはずだ。あと不安材料があるとするならばそれは…… 「ゆげーぷっ!くっちゃ!くっちゃ!なのじぇ~~っ♪」 「ゆー♪れいみゅおにゃかぽんぽんだよぉ~♪」 「ゆっくちー!にぇえにぇえおきゃあしゃん!」 「……ゆっ?な、なあにおちびちゃん?」 「やきいもしゃんはとてもゆっくちできりゃよ!れいみゅまたやきいもしゃんをたべちゃいよ!」 「そ、それはよかったね!やきいもさんはれいむおかあさんがいつかまた…」 「おきゃあしゃん!またあみゃあみゃをひとりじめにちゅるげしゅにんげんをしゃいしぇいちてね! そちたらまたやきいもしゃんをれいみゅにけんじょうっしゃせちぇね!」 「ゆゆゆっ!?」 「……まずいのぜこれは……」 これだ。れいむのおちびちゃん達はいま「強いお母さんがゲス人間を制裁した」と思い込んで調子にのっている。 無理もない、圧倒的な力で少年に虐められていた(と思い込んでいる)赤れいみゅ達にとって 少年を痛がらせて自分達を救ったれいむはヒーローであり英ゆんなのだ。 もしれいむとまりさもバカでゲスだったら、赤れいみゅ達と同じ考え方をしていい気になったはずである。 そして人間を奴隷にするとか息巻いた挙句、人間に挑んで潰されるか虐待されるかして終わっただろう。 が、あいにく二匹ともゲス気質は多少あるもののバカではなかった。 バカだったら街という過酷な状況にあって、野良の分際で成体になるまで生き延びられるわけはない。 人間の子供を傷つけたとはいえ幼少の頃よりさんざん思い知らされている人間の恐ろしさと強さ、 掟破りの重大さはよくよく理解しているのだ。 しかし事態は重大だ。 かつてのれいむがそうであったように、このおちびちゃん達は野良社会のしがらみや現実などまだ知らないのだ。 当然悪いことをした、大変な事をしてしまったという自覚も教養もない。 その上ゆっくりはすぐに自慢したがるナマモノだ。 このままでは赤れいみゅ達の口から人間を傷つけた事が群れ中に広まって、 やがてれいむ一家は掟破りの名の元に群れから制裁されるに違いない。 だから赤れいみゅ達に口止めをしなくてはならないのだ。それもいますぐ! 「お、おちびちゃんたち……?きょうのことはだれにもいっちゃだめだよ?これはかぞくだけのひみつっだからね!」 「ゆゆっ?どうちておきゃあしゃんのぶゆうでんっをはなしちゃいけにゃいの?」 「おきゃあしゃんはえいゆんっなのじぇ!むれでししそんそんかたりつがれるべき、れじぇんどっなのじぇえ!」 「れいみゅ、おともだちにおきゃあしゃんのゆうしをじまんちたいよ!せんぼうっのまなざしでみられちゃいよ! にゃにょにどうしていっちゃだめなんていうにょ?ばきゃなの?ち…」 「ないしょにしないとゆっくりできなくなるよっっ!」 「ゆぴぃ!?」 「ゆ……ゆっくち……できにゃくにゃるのじぇ?」 「ど、どぼじてぞんなごというにょぉぉ………?」 「いまのおちびたちにはむずかしい、おとなのはなしなのぜ。でもいつかかならずそのりゆうをせつめいしてあげるのぜ」 「だからだれにもいわないでね!みんなゆっくりできなくなるのはいやでしょ?」 「う、うん……わかっちゃ…」 「まりちゃ、ゆっくちできなくにゃるのはいやなのじぇ……」 「ゆぅぅぅ……れいみゅ、みんなにじまんちたいにょにぃぃぃ…!」 れいむの一喝でおちびちゃん達はそれぞれ不満たらたらではあったが今日の一件を内緒にする事には同意した。 とりあえずほっと一安心するれいむとまりさだが……ゆっくりは都合の悪い記憶ほどすぐ忘れるものだ。 このままではいつか緘口令を忘れたれいみゅ達の口から一家の秘密が群れに漏洩するだろう。 そうならないように手間はかかるが、こうなったら毎日毎日おちびちゃん達に言い聞かせるしかない。 と、これからの事を考えると少し憂鬱になるれいむとまりさであった。 ……が、結果から言うとその心配は杞憂に終わった。 何故なられいむのおちびちゃん達が口を滑らすよりも早く、群れの破滅がやってきたからである。 そして……れいむが少年の足を刺した日から3日後。 その日は朝からなにか妙であった。いつもと違う朝……そんな違和感がずっとしていた。 はじめにその違和感に気付いたのは群れのありすであった。 「ゆっ……?へんね……こうえんさんに、にんげんさんがひとりもいないわ……? いつもならこのじかん、にんげんさんたちがさんぽやじょぎんぐにくるはずなのに……」 そして午前9時きっかりになると30人ほどの人間が一勢に公園に足を踏み入れた。 群れのゆっくり達はいつもと違う人間達のその様子になんだろうと首をかしげるばかりだ。 野良たちが不思議がってる間にも人間は群れのおうちがある場所へとやってくる。 と、そこへ人なつっこくて公園に遊びにくる子供達の人気者だったちぇんが、挨拶しようと人間達の前に笑顔で出てきた。 「ゆーっ!にんげんさんたちゆっくりしていて」 グシャッ! ……その瞬間、群れの野良ゆっくり達の時間が止まった。 男が挨拶しようとしたちぇんを踏み潰したのだ。あっさりと……なんの警告もなく無言で。 そしてちぇんの死骸から足をどけると男たちは全員一勢に帽子を被った。 よく見ると人間達はみんな手にゴミ袋やトングをもっている。それを見た野良ゆっくり達に戦慄が走るっ! すべての野良がこの手の種類の人間をよーく知っているからだ。そうこの人間たちは…… 「か、か、か、か……かこうじょだぁぁぁぁぁぁっ!?」 「い、いっせいくじょよぉぉぉぉぉぉっ!?」 「どぼじでええええええっ!?れいぶたちなにもわるいごとじでないでしょぉぉぉぉぉっ!?」 「ゆんやぁぁぁぁっ!?くじょはいやだぁぁぁっ!かこうじょはゆっくりできないぃぃぃぃぃっ!」 そう加工所による一勢駆除の始まりである。 瞬く間に公園に住んでいる野良ゆっくり達は、加工所駆除班によって残らず潰されてゴミ袋に死骸を放り込まれていく。 おうちは壊され、溜め込んだごはんなどはゴミ袋に詰められてゴミ収集車に放り込まれる。 野良ゆっくりが加工所職員に抗議したり命乞いをしても無駄だ。 駆除班の面々は野良の言葉になど一切耳を貸さず、ただ黙々と作業を遂行するだけである。 野良ゆっくり達は揃いも揃って理解したくないのに全員ゆっくり理解してしまった。 この人間たちは一切の容赦なく自分達を皆殺しにしようとしている、と。 こうなってはもう野良ゆっくりにできる手段はただひとつしかない。 とにかく一勢駆除から逃げるという手段しか。 「ゆんやああああっ!じにだくないっ!ばりざまだじにたくないよぉぉぉぉっ!」 「にげるよぉっ!でいぶはゆっぐりじないでこうえんざんがらにげるよぉぉぉっ!」 「もうすぐでぐちだみょん!ここをでれば……ゆゆゆっ!?」 数ヶ所ある公園の出入り口にはすべて前もってバリケードが設置されていた。 たかが1mほどの板が公園の出入り口すべてに立てかけられているだけのものだがこれで充分。 ゆっくりのジャンプ力でこの板は決して飛び越えられないし、体当たりして突き崩すことも不可能だからだ。 公園の周囲はコンクリートの壁や、植え込みで完全に囲まれている。 出入り口さえ封鎖しておけばこの公園から野良ゆっくりが逃げ出す事は完全にできないというわけだ。 「ゆっ!ゆっ!いたさんはゆっくりどいでね!でないとでいぶがかこうじょにつかまっちゃうでしょぉぉぉぉっ!」 「ごのっ!ごのっ!ありずのとかいはなたいあたりでたおれなさい!ごのいながものっ!いながものぉぉぉぉっ!」 「ちぇんたちがこれだけたいあたりしてもびくともじないよぉー!わがらないよぉぉぉっ!?」 「ゆ、ゆんやああああ!かごうじょのにんげんざんはごっちごないでね!ごっちごないでねぇぇぇぇっ!?」 「どぼじでごっちぐるのぉぉぉ……ゆっ!?でいぶおそらをとんでいるみた……や、やだぁぁぁぁっ! ぞのふぐろざんはいやだぁぁぁっ!ふぐろざんにいれないでぇぇっ!なんがゆっぐじでぎないにおいがずるぅぅぅっ!」 完全に脱出不可能となった公園を逃げ回る野良ゆっくり達。 だが加工所職員たちは別段慌てることもなく順調に野良ゆっくり達を始末していく。 もう群れの全滅は時間の問題と言えた。 そして群れが壊滅していく様子をただ一匹、呆然と見ている者がいた……この群れの長をやっているぱちゅりーである。 「ど、どぼいうごとなの……?なんでぱちゅのじまんのむれが……いきなりこんな……」 吐きたい気持ちを懸命に抑えつつ唖然と群れの崩壊を傍観する長ぱちゅりー。 今のぱちゅりーには潰されていく群れのゆっくり達を助けようという気はまったく起きなかった。 いや助けようにもあまりに恐ろしい光景にあんよがすくんで身動きがとれないと言う方が正しいか。 なんだこの非日常的な光景は? 加工所による一勢駆除? なんで?駆除対象にならないよう、ぱちゅりーは毎日必死に群れを治めてきたはずだ。 群れのみんなも毎日毎日、人間さんに課せられたゆっくりできないお仕事を頑張ったはずだ。 公園を訪れる人間さん達の評判も上々だったはずだ。 なのになぜ?なぜ?なぜ……… 「……おい。お前がこの群れの長をやっているぱちゅりーだな?」 「………」 「おいっ!」 「……むきゅきゅっ!?に、にんげんさん!?ど、どぼじてごんなっ!?み、みんなをはやっ!はやぐたすげっ!」 「助けるも何も、もうほとんど終わったよ」 「……むきゅ?」 長ぱちゅりーが我に返ると、確かに群れの駆除そのほとんどは終了していた。 群れのゆっくりのほとんどは潰されてゴミ袋に詰められ、おうちであるダンボール等も残らず徹去されている。 この公園にかつて野良ゆっくりの群れがあったという痕跡、そのすべてが加工所職員によって跡形もなく消されていた。 なんの前触れもなくやってきた加工所駆除班による、あまりといえばあまりに酷いこの仕打ち…… 長ぱちゅりーは吐きそうになるのを堪えつつ、自分に話し掛けてきた職員に聞かざるをえなかった。 「な、なんで……?どぼじてごんなごと……ずるの……?」 「残念だよ。俺たち加工所としてもこの群れの駆除はできればやりたくなかったのだが……」 「む、むきゅ……?ざ、ざんねんって…」 「別にこのままなんも説明せずに全部駆除してもいいんだが、ここは長い間人間の言うことをよく聞く 都合のいい……いや優秀な群れでい続けたからな。最後に長であるお前にだけは教えてやるよ。 なぜこの公園の群れが一勢駆除の対象になったのかを」 「ど、どういうごと……?」 「お前知ってるか?3日前……この公園で人間の子供が野良ゆっくりに足を刃物で刺されるという事件が起きた事を」 「し、しらないわ!そんなおはなし、はつみみよぉぉぉっ!」 「その子供の話によるとな。この公園に住んでいる野良ゆっくりに刺されたらしいとのことだ。 犯人はまりさとれいむの番で、なんでもれいむの方に果物ナイフでグサッとやられたんだと。 あとその番にはガキが2~3匹いたって話だが、それについても何か心当たりはないか?」 「む、むきゅ……まりさとれいむのつがいはむれにもたくさんいるから……それだけじゃわからない、わ」 「……そうか。それでな足を刺された子供の両親がひどく怒ってな……運良く子供の足に障害は残らなかったらしいが なんであんな危険な野良の群れを公園に放置しとくんだって、自治体や保健所に抗議しまくってな」 「で、でぼっ!でぼそのにんげんさんをさしだのは、ぱちゅのむれのこじゃないのがもじれないわ! にんげんさんだって……にんげんざんだっでこのむれのごとはっ!」 「ああ。よ~く知ってるよ。この群れの連中が安易にそんなバカなことするはずがないってな」 「だ、だっだら…」 「だがな本当に残念な事に……お前達は運が悪すぎた」 「む、むきゅっ?」 「運悪く事件をマスコミが嗅ぎ付けてなぁ。テレビのニュースでこの事件が全国放送されちまったんだよ」 「ど、どういうごとなの……?」 「多くの人間が『この公園の野良ゆっくりに子供が刺された』という事件を知ってしまったってことだ。 そしてとてつもない世論が巻き起こった。公園の群れを今すぐ駆除しろっていう世論がな。 あの群れに限ってそんな事あるはずがないって反論しても、とても世間が聞き入れてくれるような状況じゃなかった。 ニュース放送後、加工所には24時間ひっきりなしに駆除要請の電話がきたんだわ」 「………」 「すまん。一勢駆除を中止するよう俺たちも努力したんだが結局、上司の鶴の一声で公園の駆除が決定しちまった」 「……」 「残念だなあ……この群れは2年半も続いた奇跡的な群れだったのに」 「…」 「長……?おい俺の話を聞いているのか?おーい」 長ぱちゅりーはもう何も聞きたくなかった。考えたくもなかった。 子供を刺した野良ゆっくり親子がこの群れの子であろうとなかろうと 事件がこの公園で起きた以上、この群れの滅びは必然だという事を理解してしまったからだ。 現実感がなかった。長年さんざんゆっくりしないで積み上げてきた群れがこうも簡単にあっさりと崩れるというのか? 今まで自分の、そして群れのみんなの苦労はなんだったのだろう? みんなでゆっくりできる群れを作っていこうと懸命に頑張ってきたというのに…… ……長ぱちゅりーの家系は代々この群れの長をしてきた。 ぱちゅりーのお母さんもそのまたお母さんも、そのまたまたお母さんも……みんなこの群れの長をしてきた。 代々の長ぱちゅりーはひたすらに自分はゆっくりなどせず群れの存続に全力を傾けてきた。 そんな先代の長である母に幼いぱちゅりーはある日聞いたことがある。 「むきゅっ!どうしておかあさんはもっとゆっくりしないのかしら?もっとゆっくりしたらいいのに……」 「おかあさんはおちびちゃんたちがゆっくりしているのをみているだけで、とてもゆっくりできるわ! つぎも、そのつぎも、ずーっとおちびちゃんたちがゆっくりしていけるむれをつくることが おかあさんにとってのゆっくりなのよ!むきゅっ」 「……?」 その時は先代の母ぱちゅりーが何を言っているのかさっぱり分からなかった……が、 自分が長となり群れを仕切るようになって、ようやく死んだ母の言葉が理解できるようになった。 ただ自分だけがのんべんだらりとゆっくりするよりも、 群れのみんながゆっくりできる群れの維持に努める方が何倍もゆっくりできるという事に。 長という仕事に対するやりがい……とでも言うのであろうか?生きがいといってもいいのかもしれない。 しかしそれにしても人間の街における野良ゆっくりの地位は非常に低い。 生存権を人間に公認してもらうどころか黙認してもらうことすら野良にとっては大変なことだ。 何代にも渡って人間に認めてもらおうと努力をし、時には蹴られ殺されながらも話し合い、一生懸命みんなで頑張って、 その困難な問題点を少しづつ、少しづつ解決していく達成感は長として何事にも替え難い喜びであった。 すべては群れのおちびちゃん達の為に。 おちびちゃん達のおちびちゃんの為に。 まだ見ぬずっと未来のおちびちゃん達の為に。 群れという財産を先代たちから引継ぎ、今を犠牲にしてぱちゅりー以下、 群れの全員は代々ゆっくりできないお仕事に従事してきた。群れを未来に引き継ぐ為に。 そしてようやく人間さんに認められつつあったのに……すべては水泡に帰した。 この日唐突にぱちゅりーは全部失った。群れも。仲間も。公園と言うゆっくりプレイスも。過去も未来も現在もすべて。 長ぱちゅりーにはもう自分の命しか残ってない。だが仮に命だけ助かって何になるというのか。だから 「む、むきゅ……むきゅきゅきゅきゅ……っ!え、エレエレエレエレ……!」 「……長ぱちゅりー。今までご苦労様」 「エレエレエレ……!い……いまま…・・ありが……ど……に、にんげ……さ………………」 長ぱちゅりーは致死量の生クリームを吐き出すと、そのまま静かに息を引き取った。 絶望の中で自ら選んだ自殺だというのに、なぜかその死に顔は安らかなものに見える。 長の最後を看取った職員は溜め息をつきながら群れとその長の死を悼んだ。 「死ぬ間際の断末魔がもっとゆっくりしたかった…じゃなくて今までありがとう、か。 本当にお前は群れのことを誰よりも考えていたんだな……ぱちゅりー……」 こうして公園の群れは加工所による一勢駆除によって跡形もなく滅んだ……が、 そういえばあのれいむとその家族はどうなったのであろうか? 群れの仲間たちと共に駆除されたのであろうか? 実はれいむ一家はまだ揃いも揃ってピンピンしていた。 ちょうどこの日、れいむ一家に割り当てられたお仕事は公園の周囲のゴミ拾いだった。 そのお仕事にれいむがおちびちゃん達の社会見学もかねて一家総出でお仕事に行くことを提案、 まりさがその提案を受け入れ一家全ゆんが公園の外に出ていたのだ。 「ゆんっ!ゆっくりこうえんさんにかえってきたんだぜ!」 「おしごとするつもりがついあそんじゃったね!」 「でみょ、こうえんしゃんのそとをいっぱいみれちぇ、れいみゅはたのちかっちゃよ!」 「またおそとをみんなでぼうけんっするのじぇ!」 「しょろしょろおうちかえりょうにぇえ!れいみゅおうちでゆっくちちたいよ!」 要するに当初、公園の周囲のゴミ拾いをするはずだったのだが おちびちゃんどもにせがまれて持ち場を離れ、公園から少し離れた所まで遊びにいってしまったという訳だ。 だがそのせいで一勢駆除をまぬがれたのだから無駄に運がいいと言えよう。 もっとも……その悪運も本日この時までなのだが。 「……ゆっ?こうえんさんのいりぐちにだれかいるのぜ?」 「にんげんさんがおおぜいいるねまりさ。でもあのにんげんさんのかっこうはどこかで…………ゆぁぁぁぁぁっ!?」 「あ、あ、あれはか、かこうじょなんだぜぇぇぇぇぇっ!?」 「な、なんでぇぇぇ?なんでこうえんざんにかごうじょのにんげんがあるのぉぉぉぉぉっ!?」 「ん?なんだあの野良……もしかして公園の生き残りか?」 「れいむとまりさの番だぞ。ガキもいる……もしかしたら!」 「ああっ!こいつらは絶対駆除しないとっ」 驚愕したれいむとまりさの大声でれいむ一家の存在に気付いた加工所の職員たち。 れいむ達を駆除しようと道具を手に近付いてくる。 なんで?どうして?公園に加工所が?いやだ!加工所はゆっくりできない! 野良にとって最大の恐怖対象である加工所職員との遭遇にパニくるれいむ達であったが、 命の危険が迫っている以上いつまでも錯乱していられない。 「れ、れいぶぅぅぅっ!おちびをつれでにげるんだぜぇぇぇぇっ!」 「ゆっ!?わ、わがっだよまりざぁぁぁっ!お、おちびちゃんだちはれいぶのあたまにしっかりつかまっででね!」 「お、おちょうしゃんもおかあしゃんもいったいどうしたんだじぇ?」 「あんなくちょにんげんどもにゃんきゃ、このあいだみたいにゆっくちしぇいしゃいしゅれば……」 「ゆああああああっ!にげるよぉぉぉぉっ!」 人間を制裁?この期に及んでなにを言っているんだこの糞ちびどもは! 冗談じゃない!人間になんか勝てるわけがない!この間のアレはまぐれもいいとこだ! 人間の強さを知らない無知で恐れを知らない子供はこれだから嫌なんだ! ともあれ今はとにかく逃げなければならない。 加工所の人間がなぜ公園にいるのかという疑問はどうでもいい、とにかく逃げ切ることだ! 逃げなければ駆除されてしまう! 「ゆんっ!ゆんっ!ゆ……ばりざおそらとんでいるみだ……ゆああああああああっ!は、はなぜぇ!はなぜぇぇぇぇっ!」 「どぼじておちょうしゃんがつかまっちぇるのじぇぇぇぇっ!?」 「ゆ、ゆぅっ!?」」 お帽子の中に次女まりちゃを入れて、れいむの後ろを懸命に跳ねていたまりさが加工所職員に捕まった。 逃げられないように両手で持ち上げられている。 まりさはじたばたと足掻くがとても人間の手からはとても逃れられそうになかった。 そしてまりさ達の悲鳴を聞いて二匹が捕まったと知ったれいむは思わず逃げるのをやめて振り返ろうとしたが…… 「おきゃあしゃぁぁぁんっ!きゃわいいまりちゃをゆっくちたしゅけ」 「れいむぅぅぅっ!ばりざだちにかまわずいくのぜぇぇぇぇっ!ばりざたちはもうだめなのぜっ! だからっ!だがらせめてれいむたちだけでもにげきるのぜぇぇぇっ!」 「ば、ばりざぁぁぁっ!?」 「にゃ、にゃにいっちぇるのじぇおとうしゃんんんんっ!?きゃわいいまりちゃをおいてっちゃらだめなのじぇぇぇぇ? きゃわいいまりちゃはゆっくちたすけなきゃだめでしょぉぉぉぉぉっ!」 「うるざいっこのちびぃぃぃっ!じょうきょうみてものをかんがえろぉ!ばりざだちはもうだめなんだぁぁぁっ!」 「どぼちてしょんなきょちょいうのじぇぇぇぇっ!?」 「いげぇっ!いげぇぇぇぇっ!れいぶぅぅぅぅぅっ!!」 「……っ!」 一瞬躊躇したれいむだったが、捕まった自分達を切り捨てて逃げろというまりさの叫びが届いたのか、 れいむはまりさ達に背を向けて再び逃げ出した。 まりさと次女まりちゃを置いて逃げるのはれいむにとってもまさに断腸の思いである。 頭の上のれいみゅ達はそれでもぎゃーぎゃー言ってたが、逃げるのに必死なれいむには聞いてる暇はなかった。 さらに運もれいむに味方した。 れいむは無我夢中で人間が入りづらい細い路地から細い路地へと逃げ回り追手を振り切る事に成功。 番のまりさと子供のまりちゃを見殺しにするという手痛い犠牲を払いつつも一勢駆除から逃げ切ったのであった。 「おでがいじますぅぅぅぅっ!かわいぞうなれいぶのおちびちゃんをたすけてくだざいぃぃぃぃぃっ!」 「ゆっ……ゆっ……ゆっくち……ゆっくちぃぃ……」 数日後。とある路上でれいむが通行人に対して泣きながら物乞いをしていた。 加工所からはどうにか逃げ切ったれいむ達だったが、公園というおうちを失ったため当然のごとく貧窮した。 れいむは最初、どこか別の群れに入れてもらおうと思ったのだが…… だがれいむは幼少の頃、群れのまりさに見せられた別の群れによる凄惨な制裁の光景がトラウマとなっていた。 よその群れに接触する勇気がどうしてももてなかったのだ。 よって必然的に残された家族だけで他の野良ゆっくりが住んでいない薄汚い路地裏等で暮らすこととなる。 家族だけで野良暮らしをするという事はこれからは自分達だけで食料を調達しなければならいという事だ。 が、野良ゆっくりができる食料の調達方法など限られている。 その中でもゴミ捨て場を荒らせばどうなるのか……はれいむは嫌というほどに知っているので、 れいむ一家の食事はそこいらから抜いてきた苦い雑草がほとんどになった。 当然ゆっくりできない日々が続く。 れいむはおうたを歌ったりしておちびちゃん達を少しでもゆっくりさせようとするが、 れいみゅ達は次第に衰弱していった。そして…… 「おにゃか……すいちゃ……やきいもしゃん……たべちゃいぃぃ………ゆっくちぃぃ……」 「おちびじゃぁぁぁんっ!じっがりぃ!じっがりじでよぉぉぉぉっ!」 「お……おきゃーしゃぁぁぁん……」 「ゆっ!お、おかあさんはここだよ!おちびちゃんはなしたいことがあるのなら、ゆっくりおかあさんにはなしてね!」 「おきゃーしゃん……どぼじて……どぼじてれいみゅをゆっくちちゃちぇて……くれにゃいにょ……?」 「ゆ……ゆぅぅぅっ!?」 「あみゃあみゃ……たべちゃいよ……くしょにんげんを……しぇいしゃいちて……れいみゅにあみゃあみゃ……」 「ご、ごべんねっ!ごべんねぇぇぇっ!にんげんをせいさいっするなんでおかあさんにはむりだよぉぉぉっ!」 「しょん……にゃあ……も、もっと……ゆっくち……」 「お、おちびじゃぁぁぁぁぁんっ!」 一番上の子供。れいむが初めて産んだ長女れいみゅはこうして餓死した。 お母さんは強い、いざとなったら糞人間を制裁してあまあまを持ってきてくれるはずとれいみゅは無邪気に信じていた。 その思い込みが当の母親であるれいむに否定された時、心の支えを失った長女れいみゅの心は折れた。 心が死を受け入れた。死を拒絶できる体力はもうれいみゅにはなかったのだ。 「お、おちびじゃん……れいむのおちびちゃんがぁぁぁぁっ!」 「ゆっ……ゆぅぅぅっ……」 「ゆうっ!?」 だが悲しみに暮れる暇はなかった。何故なら三女れいみゅもまた飢餓によって死に瀕していたからだ。 それも危篤状態でありすぐに姉の後を追いかねない。 もうこうなっては苦手だのなんだのと言ってられなくなった。 れいむに思いつく我が子を助ける手段はもうただひとつしかなかった。 その手段とは……人間に泣きつくことである。 「おねがいじまずっ!えいえんにゆっくりしそうな、れいぶのがわいいあがちゃんをたずげてぐださいっ! おびじちゃんはおなかがすいてしにそうなんです!がわいぞうなんですっ! あばあばじゃなぐてもいいです!にんげんざんのたべものならなんでもいいんでずっ! ぜいだくいいまぜんっ!だがらなにかたべるものをれいむにっ!かわいぞうなおちびじゃんにめぐんでぐだざいっ! おちびちゃんがしんじゃっだられいむはゆっくじでぎまぜんっ!だがらおねがいじまず!おでがいじまずぅぅぅぅっ!」 れいむは泣きながら必死に叫ぶ。 道行く通行人たちに我が子の救済を訴える。咽が潰れてもかまわないくらいの勢いで大声を絞り出して。 だが人間は誰一人として振り向かない。誰もれいむ親子を見ようともしない。完全なる無関心。露骨なまでの無視。 こんなにおちびちゃんが苦しんでいるというのに。れいむが平身低頭して頼んでいるというのに。 なんで人間はこんなにも冷たくて不人情なんだ。 れいむはすでに大泣きしているくせに泣きたくなってきた。 そしてれいむは物乞いしているうちに思い出す。今のこの状況はあの時とまったく同じだと。 あの時……赤ゆっくり時代の自分。妹のまりちゃと凍えながら道行く人間に助けを求めた。 しかし人間は汚物を見たとでも言いたげな不快な目をするだけで一向にれいむと妹を助けようとはしなかった。 なぜ人間はこうまでれいむ達に対して冷淡だったのか?その理由は今ならわかる。 野良ゆっくりが人間にこれ以上ないほどに嫌われているという現実を知った今の自分ならば。 じゃあやはり駄目なのか? 野良であるれいむのおちびちゃんなど人間は助けてくれないのか? (そ、そんなのいやだよ!だっておちびちゃんがいなくなったら、れいむはひとりぼっちになっちゃうんだよ!?) (ひとりぼっちはゆっくりできないよ!でもおちびちゃんがひとりでもいれば!れいむはゆっくりできるよ!) (だかられいむのためにおちびちゃんをたすけてね!れいむがゆっくりするためにおちびちゃんをしなせないでね!) ゆっくりというのは根が正直にできている。 いくら心の中で思ってるだけでも言葉尻にそれとなく本心が現れてしまうものなのだ。 もともと野良の子など助ける気がない通行人だが、 れいむの言葉の端々に独りよがりなゲスっ気を感じるとさらに無視するようになっていった。 人間は野良ゆっくりの何が嫌って、こういう自分のゆっくりの事しか考えてない所が一番嫌いなのだ。 「ゆっ…・・ゆっ……も、もっちょ……ゆ………」 「おでがいじまずっ!れいむをゆっぐじざぜで!おちびじゃんをたずげてれいぶをゆっぐじざぜてぇぇぇぇっ! ゆんやあああああっ!どぼじでだれもれいぶをゆっぐじさぜでくれないのぉぉぉぉぉっ!?」 「…………」 ゆっくりしたい。ゆっくりさせてとただひたすらに人間に懇願し泣き喚くれいむ。 そうしてる間にれいむの隣りでは三女れいみゅが静かに息を引き取ったのだが…… おちびちゃんの為と言いながらもその実、自分のゆっくりの事に夢中なれいむはまったく気がつかなかった。 れいむが三女れいみゅの死に気付いたのは30分もたった後のことである。 「ゆっ……ゆぅぅっ……ゆぅぅぅぅ………」 さらに数日後……れいむはまだかろうじて生きていた。 子供達が永遠にゆっくりした後どこをどう彷徨ったのだろうか…… 肌は蹴られたと思われる打撲痕がいくつもあり髪の毛も荒れ果て、もみあげは片方なくなっている。 左眼の視力も失っていてお飾りである紅白リボンもボロボロだ。もう生きているのが不思議なくらいの姿である。 「ゆっくりしだい……ゆっくり……ゆっくりぃぃぃぃぃ……っ!」 れいむは彷徨ううちにいつの間にか公園へと舞い戻っていた。 無意識にれいむがそのゆん生でもっともゆっくりできた場所である公園へとあんよが向いたのであろうか。 しかしれいむには故郷に戻ってきた感傷などなにもなかった。 ただひたすらゆっくりしたい、ゆっくりしたいという思いばかりが頭の中をぐるぐる回っていた。 「……ゆっ?」 そんなれいむがふと顔を上げると、公園のベンチで男が焼き芋を食べている。 ベンチに楽に腰掛けて美味しいものを食べてゆっくりしている人間の姿を見てるとれいむの目に涙がどんどん溢れてきた。 普通こいういう場合、嫉妬した野良ゆっくりが人間に対して食べ物を恐喝するものだが 今のれいむは少し違っていた。ただ悲しかった。どうしてこうも世界はゆっくりにだけ厳しいのだ。理不尽すぎる。 れいむはよれよれとその男の前にいくと、不審な顔をする男に対して問いかけてきた。 「どうじて……?どうじてにんげんさんばかり……いつもおいしいものたべているの……? いいおうちにすんでいつもゆっぐりじているの?なんでれいぶにはゆっくりできるものがなにもないの……? のらだがら……?れいむがのらゆっぐりだからみんなじていじわるずるの……? でものらでもれいぶこんなにがんばっだよ……なのにもうれいぶにはもうなにもないよ。 ばりざもおちびちゃんもなにもないよ……れいぶはただゆっぐりじだがっただけなのに…… れいぶ……れいぶゆっぐりじだい……ゆっぐり……ゆっぐりぃぃぃぃ……」 「お前……まさか……?」 男に対して弱々しく抗議するれいむ。 ゆっくりさせてくれ。とにかく自分をゆっくりさせてくれとひたすら繰り返す。 突然現れたれいむに男は少し驚いたふうだったが…… れいむが投げかけた疑問に男はしばらく考えこむとやがてれいむに話しかけてきた。 「れいむ……人間だって最初はお前達ゆっくりと同じだったんだ」 「……ゆっ?」 「人間も大昔は洞穴に住んでいて毎日ド貧乏だったのさ。そして毎日生きるか死ぬかの狩りをして 必死に生きていたんだよ」 「う、うぞだよ……にんげんざんはおおきなおうちをいくつももっでるよ……あまあまだって……」 「それは昔の人間達が頑張ったからさ。自分はゆっくりしないで子供や家族、群れ、村、国の為に代々必死に頑張った。 だから子孫である俺たちが現在快適なおうちに住んだり、美味しいものを食べたりできるようになったんだ」 「じ、じぶんは……ゆっぐりじながったの……?ぞ、ぞんなの……」 「……ゆっくりできないって?」 「ぞ、ぞうだよ……ばかだよぞんなの……じぶんがゆっぐりでぎながっだらいみないよ……」 「……だからお前はゆっくりできないんだよ」 「ゆっ!?」 「自分は他者をゆっくりさせようとはしないのに、自分だけ一方的にゆっくりさせてもらおうなんて……ないだろ」 「ぞ、ぞんないいがたっで……」 「お前さ。一度でも誰かを本気でゆっくりさせてあげようと思ったこと、ある?」 「ゆっ!?」 ……なかった。考えてみればれいむは誰かにゆっくりさせてもらおうという事ばかり考えていて、 誰かをゆっくりさせてあげようなんて本気で考えたことなど一度もなかった。 群れの共同作業は苦痛でしかなかった。自ら進んで他ゆんのお仕事を手伝ったことなどただの一度もない。 いつも自分の分のお仕事が終わればさっさとおうちに帰ってゆっくりしていた。 番のまりさはれいむが妊娠中や子育てで忙しい時に、二匹分のお仕事を頑張ってたくさんごはんをもってきてくれた。 れいむはまりさの献身に見合うだけのゆっくりをさせてあげただろうか? おちびちゃんに至っては単に自分やまりさに似ててかわいくてゆっくりできるから産んだだけのことだ。 子供のお世話を頑張ったのも、れいむが自分は良妻賢母だね!と自画自賛してゆっくりする為だ。 「ゆ、ゆゆゆゆゆぅぅぅ……っ!」 「図星か……どうやら思い当たる節は山ほどあるみたいだな」 「ち、ちがうぅぅぅぅ……!れ、れいぶは……れいぶはぁぁぁぁっ!」 「なあ。もう一つ聞くがれいむは親や大人のゆっくり達からなにか受け継いだものがあるか?」 「ど、どおいうごとぉ……?」 「れいむの親はれいむに命を授けたわけだよな。でも命だけだ。命以外に親から受け継いだものはあるのか? 人間は色々なものを親や先祖から受け継いでいるぞ。歴史、文化、技術、知識、住居、インフラ…… 数え上げればきりがない財産を受け継いでいる。だから現在人間はゆっくりできるんだ」 「ゆっ?ゆゆ……っ?」 「じゃあゆっくりはどうだ?ほとんどの野良ゆっくりが残したのは ゆっくりが人間にこれ以上ないというくらい嫌われている、ゆっくりが暮らしにくい世界だけじゃないのか?」 「……っ!?」 「自らなにも生み出そうとせず、真におちびちゃんの将来のことなど考えず、その日暮しに甘んじて、 ただその時だけ自分がゆっくりできればいい……そうやってひたすら自分のゆっくりばかり考えてきたんだろうよ。 そしてれいむ、お前もそうだ。お前も自分のゆっくりしか考えてこなかったんだ」 「ぞ、ぞんなっ……!ぞんなごとないっ!」 「じゃあお前は自分のおちびちゃんに何か与えたのか?命以外の何かを?」 「ゆ、ゆううううっ」 「おちびちゃんが安心して暮らしていける環境をれいむは作ろうとしたのか?おちびの未来を本当に思っていたのなら…」 「や、やべて……っぞれいじょういわないでぇぇぇぇ……っ!」 ゆっくりしたい。ゆっくりさせて。 れいむが赤ゆっくりの頃から今までずーっと求めてきたのはただそれだけだった。 自分のことだけ。自分のゆっくりだけを追い求めてきた。 男の言うとおり真の意味でおちびちゃんの将来などこれっぽっちも考えてこなかった。 「自分のことしか考えられない奴はいずれすべてを失うんだよ」 「れいぶは……れいぶはぁぁぁ……!」 「だからな。れいむは自分のゆっくりしか考えなかったから、ゆっくりできるものはなにも残らなかったんだ」 「あ……あああ………っ!」 れいむは何故か思い出した。あの時のことを…… そうだあの時……あの少年の足ににナイフを突き刺したあの時。 あの時れいむは本当におちびちゃんのことを思って少年を攻撃したのだろうか? いや、おそらくは違う……れいむはただおちびちゃんという「ゆっくり」を失うことに怯えただけだ。 今までさんざんゆっくりできなかったれいむ。 そしてようやく手に入れた「おちびちゃん」というゆっくり。 ゆっくりできるおちびちゃんを失うかもしれないと思ったとたん、れいむは冷静に物を考えられなくなったのだ。 「でも一口に野良ゆっくりと言っても前にここにあった公園の群れ、あれだけは他の野良と違ってたなあ」 「………ゆっ?」 「この間一勢駆除されちまったけど、ここの公園の群れは自分のゆっくりを我慢して人間社会に適応しようと 懸命に努力してたっけ……ああいう群れこそ生き残るべきだったのにな」 「こ、こうえんさんのむれが……いっせいくじょ!?な、なんで?ど、どぼじてぞんな……っ!」 「あーなんでもこの公園で、野良ゆっくりの親子が人間の子供の足を刺した事件が起きたらしくてな……」 「……ゆっ!?」 「群れはそのとばっちりを受けて駆除されちまったんだと。俺もたまに公園で群れの連中に会ったけど、 愛想がよくて野良にしておくには惜しいほど気のいい野良ゆっくりどもだったのにな……それだけに残念だ」 「ゆっ……ゆぁぁぁぁぁ………っ!」 れいむはその説明だけですべてをゆっくり理解した。 人間の子供に危害を加えたのは間違いなくれいむだ。 れいむのせいで群れのみんなが駆除された!? れいむが自分のゆっくりだけを守ることばかり考えて、その他の事は一切考えようとしなかったせいで…… 『自分のことしか考えられない奴はいずれすべてを失うんだよ』 「ゆっゆっゆっ……・…ゆべろおえぇぇぇぇぇぇっ!?」 「う、うわっ?どうしたお前いきなり餡子吐き出してっ!」 「ゆげろぼえぉぉぉぉぉっ!ゆべぇぇぇぇっ!ゆぶぅぅぅぅぅぅっ!」 止まらない。 止まらない吐き気。 自分のゆっくりどころか、群れのみんなのゆっくりを奪った原因が他ならぬれいむ本人だという罪悪感。 その圧倒的ストレスに今の衰弱したれいむの心と身体は耐え切れなかった。 吐く。吐く。ただひたすら餡子を口から吐き続けるれいむ。 気がつけばれいむはもう体内の餡子の大部分を吐き出し終えていた。 ほとんど皮だけの状態でピクピクするばかりである。 「……べん…・・なざ……」 「ん?どうしたれいむ?お前何か言いたいのか……?」 「ごべ……んなざ……い……ごべん……なざい……れ、れいぶ……じぶんの……ゆっ……ゆっぐりじか…… か、かんが…えで……まぜんでじだ……ば…ばりざぁ……おじびちゃ……み、みんなぁぁぁ…… ごべんな……ざい……ごべんなざい……れいぶをゆるじで……ゆるじ…………も……もっど……ゆっぐり………」 れいむは息を引き取る最後の瞬間まで謝り続けていた。 番のまりさに。おちびちゃん達に。そして群れの仲間たちに。 死の淵で悔恨と罪悪感と失意と絶望に包まれて……れいむはゆっくりと永遠にゆっくりした。 その最後を男は見届けた。そしてれいむが動かなくなると小さな溜め息をした。 そして死んだれいむに近付き、紅白リボンの裏を確認すると寂しげに呟く。 「まさか……俺がこいつの最後を見届ける羽目になるとはな」 実はこの男はれいむのことを以前から知っていた。 このれいむは昔、男の家でおうち宣言して殺された一家の最後の生き残りなのだ。 男は親と子ゆっくりは潰したが、まだ赤ゆっくりであったれいむとその妹のまりちゃの命だけは助けた。 生きられるものなら生き抜いてみろという気持ちから出た、ただのきまぐれであったが…… 「ここでお前を偶然見かけたときは正直目を疑ったぞ?ゆっくり違いかと思ったが本ゆんに間違いなかった。 何故ならリボンの裏の目立たない所に、れいむ自身も気がついてない小さな染み汚れがあったからな」 男はその後、暇ができると時々公園へ足を運んでれいむの様子をそれとなく観察していた。 観察はただの好奇心だが……かすかに期待もあった。 「いい群れに拾われたのをきっかけに、お前が親や姉妹とは別の生き方をするんじゃないかと期待してたんだ。 親の罪を背負って厳しい現実に翻弄されつつも、善良なゆっくりになって全うに生きていくのではないかとな…… ま、結局ゲスにはならなかったものの自分本位である所は変わらなかったな」 そう言うと男はゴミ箱に備え付けられている箒とちりとりを持ってくると、 れいむが吐き出した餡子をきれいに箒で集めてチリトリに入れてゴミ箱に捨てた。 最後に皮だけになったれいむの亡骸を摘み上げると… 「まったく……親がバカだと子も浮かばれないよな」 なんの躊躇いもなく男はゴミ箱にれいむの死骸を放り捨てた。 そして男は餞別だとばかりに食い残しの焼き芋もゴミ箱に投げ込むとそのまま公園を去っていったのだった。 終生自分のゆっくりのみを追いかけ続けたれいむの死に顔は、 安らかだとはとてもいえない醜く歪んだ苦悶に満ちたものであったという…… あとがき 前作の勝手な再投稿は正直すまんかった…… そしてなんか書いてるうちに気がついたらanko3379の続きっぽい内容に。 無駄に長く書く癖がつきそうなので次回はもっと短く書きたいです。