約 40,754 件
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau9/pages/811.html
薄暗くじめじめとした空間をたいまつの光がぼんやりと赤く照らす。 いくつかの黒い人影が、黒く、球形に近いぶったいと向き合っていた。 時刻は正午を回ったところだと言うのに、活力の根源たる陽の光はまったく見られなかった。 そう、ここは洞窟の中。 それも、ドスまりさが率いるゆっくりの群れが住処としている場所。 人間の集団と正面切っての戦いでは勝ち目が無い事を知っているドスまりさは、群れのゆっくり達へ田畑や人間の所有物を荒らさないよう言い聞かせていた。 しかし、生物の集団としての宿命か必ず一定量存在するならず者のゆっくりはドスの言うことなど聞かず、たびたび人里へ行っては己が欲求を満たすために田畑を荒らし、作物を盗んでいく。 そのたびに人間達は畑荒らしの実行犯を捕獲し、ゆっくりのルールで裁かせる為にドスへ引き渡していた。 今までは。 いくら引き渡しても一向に減らないならず者ゆっくりに業を煮やした人間達は、ついに最終的解決手段としてドスの群れを屈服させる事を決定。 その結果がこの睨み合いの状況と言うわけだった。 ドスまりさに相対する人間達の手がゆっくりをぶら下げていた。 いずれも群れでは腕の覚えのある者ばかり。 洞窟を防衛するために人間達に立ち向かったは良いが所詮はゆっくりで、同数の人間と戦うことになってはどうしようもなかった。 防衛ゆっくりはドスまりさを屈服させるための担保とされていた。 「いた゛い゛よおおぉぉぉ」 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…」 「やっぱりにんげんにはかてないよ…」 「どす…もうあきらめようよ…ゆっくりしたいよ」 戦闘意欲をなくしたゆっくりたちがわずかに体を揺らしつつ呟く。 人の耳には聞こえがたいような音量であったが、ドスまりさの責任感を刺激するには十分だった。 「ごめ…ゥッ…んねえ゛ェッ…ぇぇぇ!ま゛り゛さ゛ッ…だめなどす…ュッ…ごめんゥッ…え゛えええぇぇ!!」 巨体に相応しい巨大な目から帯状の涙を流し、大切な仲間へ許しを請うドスまりさ。 大玉な饅頭とバレーボール大の饅頭の悲鳴とも会話ともつかない音声の大合唱は暫く続き、地底湖でも作るつもりかというほどの涙を流した後のドスまりさが人間に提案をした。 「ま゛り゛さ゛はと゛うなって゛もいいか゛らほ゛か゛のゆっく゛りはた゛す゛け゛て゛く゛た゛さ゛い゛!おねか゛いし゛ます!!」 ドスまりさは自分の命を対価に群れの保全を願う。 ドスがいなくなったところでならず者ゆっくりはまた現れるのは確実。 人間にとって本来ならば割に合わない取引であるが、意外な事にドスまりさの願いは聞き届けられた。 ドスの命も保障すると言う破格の好条件で。 ドスまりさは人間に見せられた文章を読み、健康的な肌色を怒りで赤くし、ついで己の立場を思い出して青くなり、内容を理解してからは真っ白にと愉快な光景を見せていた。 「な゛に゛こ゛れ゛え゛えぇ゛ぇぇっ゛!!」 文章は人里とドスの群れが交わす約束を記した物だったが、その内容がドスに顔色の変化を強要していた。 以下にその内容を一部記す。 にんげんとどすはただちにたたかいをやめる。 はたけをあらしたわるいゆっくりは、にんげんとゆっくりがさばく。 どすのむれがすむばしょは、どすのどうくつとそのまわりのしんりんにかぎる。 どすのむれは、にんげんにあたえたそんがいをすぐにおぎなう。 どすのむれは、こわしたにんげんのいえをしゅうりするためにはたらくゆっくりをひとざとにおくる。 どすのむれはにんげんにめいわくをかけたおぎないとして、ふゆまでのあいだひとつきにあつめたしょくりょうのはんぶんをにんげんにわたす。 ゆっくりはとくべつなきょかがなければひとざとにはいってはならない。 にんげんはゆっくりがすむばしょにじゆうにはいれる。 ゆっくりがひとざとでじけんをおこしたばあい、にんげんがさばく。 にんげんがむれのすむばしょでじけんをおこしたばあい、にんげんがさばく。 どすのむれがほかのゆっくりのむれとやくそくをするばあい、にんげんにそうだんする。 どすのむれできまりをつくるときは、にんげんにそうだんする。 これらをどすのむれがまもっているかかくにんするため、ひつようなにんずうのにんげんがどすのどうくつにちゅうざいする。どすはかれらのせいかつにきをくばらなければならない。 いじょうのやくそくはとりきめのつぎのひからじっしする。 苛烈というほか無い内容だった。ドスまりさが怒りを覚えるのも無理はない。 いくらなんでもこれは酷いと感じたドスまりさは目の前の人間に注文をつけはじめた。 「こんなひどいやくそくできないよ!ぷん!ぷん!」 「にんげんだけじゃなくてゆっくりもゆっくりできるようにしてね!!」 まりさは頬を膨らませて威嚇するが文書を渡してきた男は涼しげな顔を崩さない。 「いやならこの群れは地上から消えることになる。もう少し立場と言う物をわきまえた方が良い。」 「ゆ゛っ!ゆ゛う゛う゛うぅ゛ぅーーーー!!」 結局、ドスまりさは人間達の要求をほぼそのまま飲んだ。 まりさが唯一引き出せた譲歩といえば「ゆっくりがひとざとにはいりたいばあいは、さとのいりぐちできょかをもらう。」という事ぐらいだろう。 賠償が終われば少しは楽になるだろうとまりさは考えていたが、それが甘い考えであったことをすぐに知ることになる。 饅頭と対等な協定を結ばなきゃならん理由など無い。 ───ある里長 ドスの群れ対策会議にて by sdkfz251 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutau9/pages/2163.html
そのありすは、いわゆるレイパーと呼ばれる類の存在ではなかった。 ありすにはゆっくりしたつがいのまりさがいて、 二匹は同じ群れに生まれ、子供のころから互いに想い合った相手であり、 結ばれてから二年の歳月を重ねる間に幾度も愛を交わし、多くの子を設けた幸多き所帯であった。 ――つい、この間までは。との但し書きが着くが。 * * * 「ありちゅは、れいぴゃーになりゅわ!」 働き者で群れでも知られたありすとまりさ、親ゆっくり二匹の努力のたまものだろう、 山の地質柔らかな斜面に掘られたありす一家のおうちは、ありすとまりさ夫婦と赤ゆっくり四匹を家人としてなお大きい。 もう日も山の向こうにすっかり落ちた夕暮れ時。 一家そろっての夕食の最中に一匹の赤ありすがやおら叫んだその言葉に、他の家族は唖然として言葉を失った。 叫んだ赤ありす自身も、おこりのように身を震わせるばかりで後に続く言葉がない。 数秒、痛々しいまでの沈黙が続いてようやくのこと、親ありすが口にしたきのこを飲み下して「ふぅ」とわざと軽めのため息を吐いて、 おうちの地面を睨みすえる赤ありすに優しい声でゆっくりと諭す。 「……ばかなことをいわないでね、ありす。レイパーになんて、なるものじゃないの」 「だっちぇ!」 いつもいってるでしょう、と宥める親の言葉に赤ありすが示すのは強い峻拒の構え。 これは奇妙な反応だ。思わぬわが子の様子に親ありすは思わず親まりさの顔を見る。 「ありす。めったなことはいうもんじゃないのぜ。レイパーになるような子は、まりさとありすの子じゃないのぜ?」 「だっちぇだっちぇ!」 親ありすの困惑を受け、親まりさが少し強めの態度でありすを叱るが、それでも赤ありすは強情に顔を横に振るばかり。 これにはまりさもやはり驚いた。 なぜ、レイパーが憎まれるのか。レイパーになってはいけないのか。 そんな道義的な教育は、生まれてこの方欠かしたことがなかった。 だから、赤ありすも理屈の上ではレイパーがどういうものかわかっていないはずがない。 だというのに、突然のこの言動はいったいどうしたものなのか。 親まりさも初めての娘の反抗に面食らってしまい、親ありす共々戸惑うばかりで続く言葉がない。 ありすという種は確かにレイパーになりやすい気質を持つ、といわれることが多い。 これは別に統計をとった説ではないから、実のところはわからない。 幻想郷にごく一部を除いて統計学を理解する者は存在しないから、調べる手段がないとも言える。 そのうち、暇に任せて八雲紫か八雲藍あたりが計測に乗り出すかもしれないが、とにかく今は俗説の域を出ない概念ではあった。 ただし、ありすレイパー論をとる場合でも、レイパーとなる個体が自身をレイパーと認識することは稀であるとされる。 レイパーありす当人の認識する世界では、レイプと呼ば ルとは限らない。 己を偽るということを知らないだけに、純真な子どもが抱いた悪意はストレートに相手にぶつけられることもまた多いのだ。 表立って苛められるようなことこそあまりなかったが、森の集会場に連れて行ってもありす種はのけ者にされることが多かった。 親ありすと親まりさもそれを知っていたから、なるべく集会場には子どもを連れて行かなかったし、 子どもたちにも他の種の子どもには近づかないよう、群れにあと数家族いる他のありす種の家族の子と遊ぶように教えていた。 ことに、この子たちが生まれる直前に群れの長が代替わりしてから、ありす種に対する群れの空気が極端に悪化しているところでもあった。 もっとも、不運なことにこの夫婦の子どもたち以外には群れの中に同じ世代の子ありすはいなかったから、 少し年の離れたお姉さんありすたちに子どもを預ける形になってしまっていたが。 それでも、親ありすと親まりさには他種の子ゆっくりに近づけるより、子どもたちにとってもはるかによい事だと思っていた。 そして聞き分けの良い娘たちは、その母の言いつけを守って年上の同種の子供たちとばかり楽しく日々を過ごしているように見えた。 だが、この反応を見るにおそらく子どもたちにとってそれは物足りないことであったらしい。 「ごめんね、ありす。おかあさんがありすで、ありすをありすにうんでしまってごめんね……」 きっと、赤ありすは同世代の友達を求めて親の目の届かぬうちに多種の赤ゆっくりに近づいたのだろう。 きっと、赤ありすは近づいた相手から手ひどく心無い拒絶を示され、レイパーの子と罵倒されたのだろう。 きっと、赤ありすはそれでも友達を作ることを求めて多種の赤ゆっくりを追いかけて、その親ゆっくりによって追い払われたのだろう。 そして、おそらく、赤ありすはその際に成体ゆっくりから呵責のない制裁を受けたに違いがない。 かつて、幼い自分がそうだったように。 よく見れば、カチューシャに隠すよう――というより、必死に隠していたのだろう――にして赤ありすの頭には浅く、 だが鋭く刻み込まれた噛み傷があった、 その傷が、親ありすが今推測したこと全てが事実であるということを雄弁に物語っていた。 母ありすが、涙ながらに泣き濡れるわが子に何度も、繰り返し、己の愛を伝えるために身体をすりすりとすりつける。 そしてその体験は全ての子供たちが多かれ少なかれ経験することだったらしく、親ありすが思わず零した涙をきっかけに おうちの中はたちまち赤ちゃんたちの泣き声で満たされてゆく。 「ゆえええぇぇん! おきゃーしゃんはわりゅきゅないありちゅだよ!」 「ゆあああぁぁん! しょうだよ、おきゃあしゃんとありちゅをいじみぇりゅばきゃのふぉうがわりゅいゆっくちだよ!」 「ゆあああぁぁん! ありちゅおにぇーしゃんがれいぴゃーににゃるにゃら、まりしゃもれいぴゃーになりゅ!」 「ゆうううぅぅん! ありちゅもれいぴゃーににゃりゅ! にゃって、わりゅぐちいうみんにゃにしきゃえししゅりゅ!!」 赤ちゃんたちが口にする他のゆっくりたちへの呪詛の言葉は、自分が言わせたものだ。 繰り返し繰り返し、身体を擦り付けながらゆんゆんと泣くわが子らに謝罪の言葉を投げかけつつ親ありすは自分を責めた。 この子たちには、ゆっくりしたゆん生が待っているはずだった。 ありすではなく、まりさに生まれていたならきっとゆっくりできるはずだった。 それを自分がありすに生んでしまったばかりに、この子たちは赤ちゃんのときからゆっくりすることを許されずにいる。 過去、自分がそうであったように。自分のようにならないように、この子たちを育てようと誓ったというのに。 自分が進んだ道を、結局わが子らも進もうとしている。今静かに、優しく寄り添ってくれているまりさの助けを得ていながら。 まりさの体温を暖かく感じながら、己の親としての力量のなさを、ありすは深く、率直に恥じた。 (……だからこそ、もっと、がんばらなくっちゃ) そして、勇気付けられる。 まりさは自分がここにいると、無言のうちに伝えてくれている。支えてくれると、支え続けてみせると、そう告げている。 だが、ありすは忘れていた。 あるいは、餡子脳の悲しさか、ついぞ理解していなかった。 ありすの在り方は、ありす自身で全て決められるものではない。ありすがゆっくりの社会に身を置いて生きていく以上、 彼女と同じゆっくりコミュニティに属する他のゆっくりたちの考え方によっても左右されるのだ。 だからこそ、ありすはある程度の安全を群れという社会から提供されるのであり、 ある程度の束縛を群れというコミュニティから受けるのだ。 結局のところ、両親ゆっくりたちが自分の生まれ育った場所だからという心情的な理由だけを重視して、 このありす種に対して非妥協的な群れの中の暮らしを続けるという選択肢を選んだその時点において、 ありすたちが迎えるこの未来は必然であったと言うべきだろう。 ――どごん。 それは、突然の出来事だった。 何か大きく重くて硬いものがおうちの玄関を偽装する枯れ枝の束を打ち砕く大きな音が、おうちの中に響き渡った。 「はじしらずなレイパーいっかがいた!」 その反響音がまだ収まらない中、外から吹き込む冷たい風にそれより一層冷ややかな声音が乗って、巣穴の奥底の一家のもとまで届く。 あまりに突然に外界から訪れたゆっくりできない刺激に襲われ、 すっかり自分達家族だけの世界に閉じこもっていた一家は目を白黒させるばかりでとっさに反応することもできない。 「「「「「「ゆ゛っ!?」」」」」」 もしこれが捕食種の襲撃ならば、間抜けな声を発してわたわたと玄関の方へと振り向く前に、 赤ちゃんの一匹二匹は命を落としていたことだろう。 今回のケースでは幸いというべきか、そのような事態は起きなかった。 そして不幸というべきか、外界からおうちの中へ、一歩踏み込んで放たれた声はありすたちにとって聞きなれた声だった。 「きたないなありす、さすがきたない」 実のところそれは幸いでもなく不幸でもなく、親ありすたちの選んできた道の行き当たる先であったに過ぎない。 聞きなれた、同じ群れに暮らす、忌々しくも恐るべきその声の主の姿を睨み、 親まりさは何が起ころうとしているのか今ぼんやりとながら理解しつつあった。 ヒカリゴケが照らし出す闇の中にぼんやりと浮かぶ、その白髪、白装束の体付きてんこの姿は見間違えようもない。 それは、一家にとっての災いのかたちそのものだった。 「ぶろんこ……!」 傍らで伴侶のまりさが発した憎憎しげな声を耳にして、親ありすは驚きを隠せなかった。 長年共にあったありすですら聞いたことのない、憎悪に満ちた声でまりさがよばわった相手の名前。 それは、てんこの変種の一つ。ありすとまりさの属する群れの長の名だった。 先代のドスが亡くなってから、群れでもっとも力あるゆっくりであったために実力で長の地位を得たゆっくりだ。 その力はドスには一歩及ばないとはいえ、確かに他の群れのゆっくりたちよりはるかに優れたものではあったが、 いかんせんおつむが残念だった感は否めない。 さらに性格もまたお世辞にもいいとは言えず――ことに、先代のドスが心を砕いためーりんやありすといった差別されやすい種の保護、 群れの調和の維持など意にも留めず、ありすを『かわそうびのれいぱー』だの、みょんを『カスのさむらい』だのと言って 一部の種を公然と差別する態度を取った。 差別というより、群れのあり方そのものを歪めていったそれは迫害という『政策』に近いものだったともいえる。 極めつけに誰にとっても不幸なことは、おつむが弱い割りにぶろんこにはカリスマ性と煽動者としての才が兼ね備わっていたことだろう。 今日、この群れや、この群れと極めて近しい関係にある近隣の群れにおいてありす種への風あたりがますます強まってきているのは、 このぶろんこの精力的な活動によるものだと言ってまず間違いはない。 そして、その常にシンパが周りを固める『にんきもの』のぶろんこが夜間突然ありす種のおうちを『訪問』する時、 ただぶろんこ一匹でことに及ぶことなどありえるはずもなかった。 「さんをつけろよデコスケやろう!」 親まりさの反感もあらわな呼びかけに、応じたのは当のぶろんこ――てんこの変種だ――ではなかった。 ぶろんこの背後には、他にも何匹ものゆっくりがいた。今親まりさを怒鳴りつけたのは、ぶろんこのすぐ隣にいるまりさだ。 そのまりさと反対側のぶろんこの隣には、隣家のちぇんが枝を咥えてこちらを睨みつけていた。 三匹の後ろにも、大勢のゆっくりがいるようだった。見える限りの髪飾りに、ありすたちには見覚えがある。皆、群れのゆっくりだった。 「おいィ? おまえら、さっきのはつげんがみえたか?」 「みえた、っていうかきこえたよ!」 「レイパーになるっていってたね!」 「おお、きたないきたない」 やいやいと騒ぐ闖入者たち。 まりさもありすも、おうちの外を見たくはなかった。 きっと群れ中総出で押しかけてきたに違いない。疑う余地なくそう思わせるほどに、外から伝わる悪意のざわめきは大きく、強烈だった。 「きょう、むれのこどもたちがここのありすのくそちびにさんかいれんぞくみつめられたらしい。 ぶろんこがおもうに、こいつらがほんのうてきにレイパータイプであるのはかくていてきにあきらか」 「きた! だんていきた!」 「わかるよー、これでかつるんだねー!」 ぶろんこの一言ごとに、周囲の取り巻きがはやし立てる。 これが今の群れの風潮だ。ぶろんこが煽れば、皆が踊る。罪ないものを嫌になる。 踊らされていることに気がつかない彼らにも。こんな群れに残ることを選んでしまった自分にも。 切なくなるほどの情けない想いが、ありすとまりさの口元に半笑いとなって浮かんだ。 「それでせいさい、ってわけだ」 「ほう、けいけんがいきたな。そのすいそくはどこもおかしくはない」 わざとらしいため息交じりのまりさ言葉に、ぶろんこが勝ち誇って絶壁の胸を反らす。 確かに、これまで受けた数々の嫌がらせという経験は生きた。 子ありすが他の子ゆっくりに近づいた、そんなものはきっかけに過ぎないと推察できる程度には。 今まで群れに所属するゆっくり個々の間で起きていた悪意の暴発――いや、ぶろんこがそうなるように仕向けた敵意の爆発が、 群れ全体という規模で引き起こされたというだけのことなのだ、これは。 悪意の大きさは段違いだったが。冬の入りという、皆が一番気が立っている時期だ。 なかなか準備が進まない一家も決して少なくない群れの中、日々つもりゆく不満や不安そのはけ口として、 ありすたちの家族はおあつらえの存在だったのだろう。 そうだ。差別されるべき対象であるくせに、大家族を抱えてなお冬篭りの備えは万全だったこの一家は敵視されて当然だったのだ。 群れに漂う空気の悪化は、まりさも少し前から感づいていた。避けられないことだったかと、親まりさは深い溜息と共に瞑目する。 「おきゃ……しゃん? ありしゅが……ありしゅ、レイパーになるにゃんていったかりゃ……?」 「ありちゅたちが、おともだちほちいとおもったきゃら、みんなおきょってるの……?」 まだ幼い子供たちには、そんな成体ゆっくりの世界の事情はわからない。 親ありすも、わざわざ子供たちにあまりにも醜い世界の事実を噛み砕いて説明してやろうなどとは思わなかった。 自分のせいでおうちが襲われている、そう思って恐怖とは違う理由で震える赤ありすたちに、ただ身体をすりすりと擦り付けて慰める。 大丈夫だよ、絶対にありすの赤ちゃんのせいじゃないからね、そんな当たり障りのない慰めの言葉と共に。 それでもゆんゆんと泣きじゃくる我が子の柔らかい感触を感じながら、親ありすは自分の愚かさを呪っていた。 「いかせていたら、こんなさきのみえたむれからはもうにげだしていたのぜ」 ああ、本当に。隣でまりさの言うとおりだ。 生まれ育ち、住み慣れたこの森にこだわらなければ。過去の暖かな家族の記憶に縋って、立ち去るという選択肢を惜しまなければ。 今頃、もっとまともな環境を子供たちに与えられたかも知れないのに。 親ありすは悔やんだ。自分だけの感傷に浸り、結果的に家族を窮地に追いやる自分の罪の重さを。 同時に誓う。恐らくは追放という処分を受けるだろうこの機会に、子供たちのために本当のゆっくりプレイスを探し出すことを。 群れを出る時期を春の訪れまで待ってもらえるならば言うことはない。 そうでなくとも、今は冬の入りだ。本格的な寒さの到来にまで、まだ時間がある。 子供たちにひもじい思いはさせられない。寒さに震える夜など絶対に迎えさせるつもりはない。 まりさもありすも、群れで一、二を争う狩りの名手だ。冬場に虫さんがどんな場所に隠れているかも、知悉している。 この近場で、ここほど住みよくはなくても仮初のおうちに出来そうなゆっくりスポットもいくつか知っていた。 食料を持てるだけ持って、新たなおうちを作り、とりあえず春までを何とか凌いで、雪が溶けて麗かな風が吹き始めてから、 一家揃ってありす種を差別する事のない新天地を探す旅に出よう。 そうして辿り付いた新たなゆっくりスポットで、本当のゆっくりを手に入れるのだ。 ――そんな幻想を適える未来など、一家に与えられることはなかったが。 「ぶろんこさん」 「なにかな?」 「レイパーとそのかぞくはしけいですか?」 「しけい」 「そうですかありがとうひそうのけんすごいですね」 「それほどでもない」 「どっ……どぼぢでぞんなごどいうのおおおおぉぉぉぉっ!!?」 死の宣告は、とても簡明で、あっさりしたものだった。驚愕に眼を剥いた親ありすが自分の聞き間違いを疑う余地もないほどに。 側近まりさの半ば事務的な確認に、ぶろんこが淡々と応じる。 その応えを受けてわざとらしく側近まりさは重々しく頷き、背後に居並ぶ群れのゆっくりたちへと振り向いて告げた。 「やはりかぞくもしけいだった。しかもひそうのけんもってるのにけんきょにもそれほどでもないといった」 群れにおける罪ゆっくりの処罰は、何事も全てぶろんこ一匹が決裁し、群れの皆へと通達する。 この瞬間、ありす一家全員の死刑が確定した――もちろん、ここまで押しかけた時点でそんなものは半ば決まっていたが、 集団をなす以上は形というものはゆっくりにあっても大事なもののようだ。 場に満ちていたざわめきが急速に引いてゆき、代わりに夜風より冷たい静寂が入れ替わった。 もちろん、そこにあるものが喧騒であれ静寂であれ、その上に殺意が乗っている事にはなんの変わりもなかったが。 「なんで! なんで、おちびちゃんだぢまでごろざなぐぢゃいげないの……!」 「ぶろんごおおおぉぉぉぉ……っ、びゅべっ!?」 群れの不満を解消するだけなら、何も命まで奪うことはないはずだった。ましてや、幼い子供の命に何の落ち度があるだろう。 ありすの悲痛な叫びに、まりさの鬼気迫る怒号が続いた。吼えるだけでなく、ヒカリゴケを蹴立ててぶろんこ目掛けて一直線に奔った。 後先など考えてはいなかった。勝算も何もあるはずもなかった。 ただ、理不尽な運命の上に残忍な結末を自分たちに与えようとするこの悪魔のようなゆっくりが許せなかった。 だから雄叫びを引いて、まりさは疾った。ぶろんこを打ち倒し、その判断の愚かさを思い知らせてやろうと突き進んだ。 燃え立つほどの怒りに駆られた、無謀とも思えるまりさの突進を見て、ぶろんこは冷たく笑っていた。 今に見ていろ、と親まりさは迫る怨敵をねめつけて思う。 親まりさは、狩りの名手だ。野ねずみや山ねずみみたいな小動物だって、一対一なら狩ることができた。 ぶろんこでも、一匹では無理だった。身体は大きくてえらそうなくせに、あいつは狩りがヘタなのだ。 幾ら力が強くたって、動きが鈍いあいつになんか負けはしない。この低い天井で、身動き取りに食い状況なら尚更だ。 親まりさは、そう信じているのだろう。 親ありすもまた同じくまりさに勝機はあると信じ、彼女がぶろんこを倒すことで状況が好転することを願った。 そしてその雄叫びの反響が収まるよりも早く、到底それは果たせない願いだと思い知らされた。 「……おいィ? おまえらはいっきゅうゆっくりのぶろんこのあしもとにもおよばないきんぱつのザコ」 「ゆがっ!?」 親まりさが生涯最高の身ごなしで素早く飛びつき、ぶろんこの身体を食い破ろうとしたその時には。 目の前まで迫っていたはずのぶろんこは、そこにいたのにいなかった。 いったい、何が起きたのか。何が起きようとしているのか。 まりさの餡子脳が状況をゆっくり理解するより、遥かに早く横殴りの強烈な衝撃が身体を襲う。 直線的な軌跡を描いて横に吹き飛び、壁に叩きつけられても、まりさには何がなんだかわかっていなかった。 「そのきんぱつのザコどもがいっきゅうゆっくりのぶろんこにたいしてナメタことばをつかうことで……」 「ゆびっ!?」 「……ぶろんこのいかりがうちょうてんにたっした」 「ゆげぇっ……!!」 「このいかりは、しばらくおさまることをしらない」 「ゆぼぇぇっ……」 どごん、ぼすっ。 ぶろんこが憎憎しげな言葉を吐くたび、それなりに重量のあるものを打ち据える、鈍い音が連続した。 その合間に聞こえる悲鳴は、全てまりさのものだ。 (どぼぢで、まりざがぼごぼごにざれでるの……?) 右に跳び、左に跳ね、天井に打ち据えられ、地面を舐めさせられた。 自分の身体が叩き潰され、形を失い、ぐずぐずに崩れていく。気の遠くなるような激痛の中で、まりさは未だに状況を理解できずにいる。 まりさの方が、狩りが上手い。まりさの方が、器用に動ける。まりさの方が、だから強いはず。 そう信じていたのに。そこから未来が開けるはずだったのに。 現実は、何故そうならないのだろう。 どうして、まりさの身体が痛いんだろう。 当たり前の結果だった。 まりさは、確かに狩りは上手だった。群れ一番の名手だった。ぶろんこなぞ足元にも及ばない、周辺にも知られた達ゆっくりだった。 だが、同じゆっくりと戦ったことなどなかった。まりさが立ち向かったのは、あくまでむしさんであり、ねずみさんだ。 ゆっくり同士には、ゆっくり同士なりの戦いの呼吸というものがある。 ぶろんこはその呼吸に通じていて、まりさはその点ずぶの素人でしかなかった。 動きが多少素早いだけの、直線的な動きしか出来ない貧弱ゆっくりだった。 これがぶろんこと同じタイプの、枝を咥えたみょん種であればまだしも善戦できただろう。 だからこそぶろんこはみょん種をも排斥したのだが。 そのことを、素人の悲しさで全くまりさは理解しできていなかった――無謀な試みだったのだ。最初から。 親ありすには、伴侶がぶろんこの手にした木で出来ているように見えるナニカで縦横無尽に殴り飛ばされる姿を見ていることしかできなかった。 といよりも、最初にすっと横に身をかわしたぶろんこがまりさを力任せに壁に打ち付けた瞬間から、思考停止してしまっている。 他のゆっくりたちもまた、無言だった。一様に、ぶろんこと同じ冷ややかな笑いをアワレな親まりさに向けてはいたが。 誰も手を出さず、声すら出さず、一方的な暴力を見守るだけ。夜のしじまの中に、重たい打撃音ばかりが響き渡る。 やがて『べしゃっ』と汚い音を立てて親まりさが湿った地面に崩れ落ちる頃には、 帽子も、身体も、何一つかつてのまりさの面影を残していないズタズタにされた金髪のザコがいた。 「ばっ、ばりざあああぁぁっ!!」 「まりさおきゃあしゃん!!」 「おきゃーしゃーんっ!!?」 呆然とことの成り行きを見守っていたありすたちが、ようやく我を取り戻す。 取り戻しても、できることといったら何の役にも立たない悲鳴をあげることぐらいのもの。 逆転の期待なんて、どこにもない。 地面に這い蹲ったまりさは、少しでも身体を動かせば餡子がごっそりと漏れ出してしまいそうな大怪我だった。 ありすだって、まりさには及ばないものの運動神経には自信がある。 だが、まりさに及ばない自分が、そのまりさを一方的にうちのめしたぶろんこに勝てるなんて幻想はいくら餡子脳でも抱けなかった。 なら、せめて、ありすが時間を稼ぎ、子供たちだけでも逃がす? おうちの出口はぶろんこの後ろ、大勢の群れのゆっくりが固める向こうにあるのにどうやって? ……そもそも、まりさのいない世界が来るとするならば。 それにどれほどの価値があるというのだろう。 例え、自分の赤ちゃんがその世界に存在するのだとしても。そんなもの、到底まりさの代わりには、成り得ないじゃないか。 (まりさ、ありすはどうしたらいいの?) 今まで、何事も二匹で相談して決めてきた。 お互いを大切にし、お互いの意志を尊んで、ゆっくりした生活を営んできた。 すべての世界の事象は、ありすとまりさのつがいを中心に回ってきた。 だが、今ありすが求める答えは、相手から返って来ることはない。おそらく、今日を境に永遠に。 幻想を抱くことも、現実逃避することさえも許されない。まりさが、目の前であんなことになっているのだから。 ほんの一瞬の懊悩の時間が、永劫に続くという地獄の責め苦のようにありすの心を責め、苛む。 「――おまえ、ちょっとぶろんこよりかりがうまいからってちょうしぶっこきすぎてたけっかだよ?」 「もうやべでえええぇぇっ!!」 ――結局、永劫とも思える一瞬の間に、ありすは求める答えを見出せなかった。存在しない正答は、当然のごとく見出せなかった。 うざったそうに告げるぶろんこが振りかざした禍々しい光を見て、親ありすはそれ以上の思考を放棄して堪らずに跳ねた。 低い天井に頭をぶつけながら、少しでも早く親まりさの下に駆け寄ろうと跳ね続けた。 あの光がまりさを襲う前に、自分が身代わりとなってあげたかった。子供たちなんてもうどうでもよかった。 脳裏を占めるのはまりさだけ、それ以外の何も、今のありすには思い浮かばなかった。 「……あ、あじず……」 跳んで、頭をぶつけ、地面に落ち、涙目ながらにまた跳び、頭をぶつけ、また地面に落ち。 這いずるのとさして大差ない、しかし当の本人は必死そのもののウケないコントのようなありすの姿を見て、まりさが何かを言いかけた。 助けを求めようとしたのか。それとも、来るなと警告を発しようとしたのだろうか。 親まりさの気性を考えれば多分、後者だろう。あまり、意味のある警告ともなりえなかったが。 いずれにせよ、もう確認することはできない。 その瞬間、ぶろんこが手にした鞘に納まったままだったひそうのけん――どこかで拾ってきた長めの果物ナイフ――を抜き放ち、 まりさの頭頂へと迷わず振り下ろしたから。 「ばり……っ!!」 「あじ……びゅっ」 末期の呼びかけを、言い終えることなく。聞き終えることなく。 銀色のきらめきが、まりさの中心を一直線に駆け抜けて。家族の目の前で、まりさは天辺から底部まで、真っ二つの饅頭へと姿を変える。 後一歩までに迫ったありすの、ガタガタと震える子供たちの、目の前で。 あっさりと。実にあっさりと。 まりさは、死んだ。何事も成すことなく、死んだのだ。 「まり……あ、あああぁぁぁ……」 ありすは必死に跳ねて、まるで間に合わなかった。 滂沱の涙を流しても、切り裂くような絶叫を放っても、それは死に逝くまりさの為には何の助けにもならなかった。 よろよろと、ありすは両断されたまりさへと縋りついた。肌を触れ合わせた。早くもその身体は冷たかった。 ありすにぬくもりをくれた数少ないゆっくり。その中で、もっとも暖かくありすの心身を包み込んでくれたまりさ。 綺麗に二等分されてしまった今となっては、もはやそこにぬくもりなどない。 ぬくもりばかりか、ありすの心から光すら奪ってしまった。恐らくは、永遠に。 「そうぞうをぜっするかなしみがありすたちをおそうがおれはべつにぜつぼうするひつようはなにもないとおもうな」 「ゆあ……あ、あああ……あぁ……」 どこまでも冷ややかな、ぶろんこの声は遠かった。 現実が、遠かった。ありすの理解できる世界の外にあった。 昨日までの穏やかな暮らしが、悪意に気付かぬ、見て見ぬ振りをした幸せな世界こそが、ありすの望んだ世界だった。 そのありすの世界と、現実の世界を分ける障壁が全て奪い去られた時、その現実が要求する理解と許容をありすは受け入れられなかった。 意味を成さない声を口から絶え間なく漏らすこと以外、外界になんらかの反応を占めそうなどとは思えなかった。 否、自分を守ってくれる障壁そのものであったまりさの存在しない世界こそが、ありすにとって意味を成さないものだった。 たとえ、己の命が掛かった状況であっても。 何よりも大切なはずの、子供たちの命が掛かっている状況であってさえも。 閉ざされた世界の幸せは、開かれた世界の絶望に呑まれ、砕かれ、消え去ってしまったから。 「おまえもすぐにぜつぼうしながらきえていくだろうからな」 それでいいから。もう、ありすをはやくここからけしてしまって。 掠れた外界の認識から、愉快そうな響きを込めたぶろんこの一言をだけを取り入れて、ありすは心の底からそう願った。 大勢のゆっくりたちが、ありすの、ありすの子供たちの髪を噛んでおうちの外へと引きずり出す間、そう願い続けた。 引きずり出された後、まん丸なお月様が輝く夜空の下で、群れ中のゆっくりから嘲罵を受けながられいぷされる間も、願い続けた。 そうして、ありすの意識はレイパーに襲われたゆっくりが往々にしてなるように、頭から無数の蔦を生やしたところでようやく途絶えた。 その3へ
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/2961.html
「ん? 怪我してるじゃないかれいむ。」 俺は庭でヨタヨタとすり足で動いているれいむに声をかけた。 見た感じ右の方にいくつかの擦り傷が見える。 「ゆゆ・・・れみりゃからにげてたんだよ・・・」 まあ怪我で済んだらのなら僥倖だろ。食われる方が多いのだから。 などと考えている時、ふと頭にある考えが過った。 「れいむ、俺が治療してやるよ。」 「ゆ! ほんと? おにーさんありがとう!」 れいむは嬉しそうな顔をしてこちらに近づいてきた。 一時間後。俺はれいむを抱えて、れいむが住んでいるという群れの傍までやってきた。 「よし着いたぞ。歩けるか?」 れいむを地面に下ろした途端に、ピョコンピョコンと元気よく跳ねながら 「すごくゆっくりできるよ! とってもげんきいっぱいだよ!」 俺の足にすりすりしてきた。 怪我の方は完璧に治したのだから当然である。しかし本当の事は言わない。 「そうか。でもまだ完治してないんだからな。明日まではそのままじゃないと大変だぞ!」 「ゆゆ・・・ゆっくりわかったよおにーさん! れいむはおとなしくしてるね!」 「ああわかった。明日になったら取りにくるからな。それじゃあ。」 「さよならだね!!!」 俺は自分の家へと戻っていった。 な訳もなく、俺はすぐさま近くの木の陰に隠れる。そして気づかれぬようにれいむの後をつけていった。 れいむは大人しくしろと言ったのに元気に跳ねている。まあ完治してるから問題ないんですけどね。 すると、目の前にまりさがやってきた。れいむはお決まりの挨拶を交わそうとする。 「ゆっくりしていってね!!!」 しかしまりさからの返事はなかった。それどころか 「うわああああああ!!! ゆっくりできないへんなゆっくりがいるんだぜ! まっしろなんだぜ!」 とガタガタと白目で震えていた。ビビりすぎだ。 れいむはその態度に怒っているのか、腹を突き出すように出して威嚇のポーズをとった。 「なにいってるの? れいむだよ! ゆっくりあやまってね!!!」 「れいむはそんなしろくないぜ! あたまにすてきなおりぼんもないぜ!」 「いいかげんにしてね!!! れいむおこるよ!!! れいむはちりょうちゅうなんだからね!」 言い争っているが、まりさの言い分も分からなくはない。 何せ今のれいむは全身を包帯でグルグル巻きにされ、顔だけが見える状態なのだ。 傍からみれば飾りのないミイラ饅頭である。 「うぞづがないでねええええええええ!!! ゆっぐじでぎないゆっぐりはじねえええええええ!!!」 「ゆぐぅ! けがにんのれいむになにするの! れいむおこったよ!!!」 遂にまりさは耐えきれずに攻撃を仕掛ける。れいむもそれに応戦した。 しかしこのれいむ。以外と運動神経抜群である。まりさの攻撃を無駄のない動きで避けつつ まりさへカウンターを当てている。お前のような怪我人がいるかと言いたい。 ガヤガヤと騒ぎになったせいか、どこからかゆっくりがまた現れた。 「どうしたんだぜ!」 またまりさである。しかも2匹 「れいむのなまえをかたるゆっくりがきたんだぜ! やっつけるんだぜ!!!」 「わかったんだぜ!」 「でるたあたっくなんだぜ!!!」 三匹のまりさはれいむを三角形の形で囲むと、同時に体当たりを何度も仕掛ける。 「いじゃい゛よ゛! やべでね゛! でいぶはけ゛がに゛ん゛な゛ん゛だよ゛!!!」 流石に三対一では分が悪い。れいむはなすすべもなくボコボコにされていく。 「うるさいんだぜ! うそつきはしあるのみだぜ!!!」 「まりさのしんゆうはそんなへんなかっこうはしてないんだぜ!」 「ここがはかばなんだぜ!」 三匹の絶え間ない暴力の雨に次第に弱っていくれいむ。そしてついに 「ゆっくり・・・したけっかが・・・これだよ」 力尽きた。ピクリとも動かない。 「やったね!!!」 「まりさたちはつよいんだぜ!!!」 「へんなゆっくりにむれはあらさせないんだぜ!!!」 勝利の余韻に浸っている三匹。 どうやらやっと群れの面々も来たようで、頻りに群れへ自分たちの手柄をアピールしている。 「まりさたちのせんじゅつでいちころだったぜ!」 「すごいわまりさ! さすがありすのだーりんね!!!」 「りっぱなんだねー。わかるよー。」 「まりちゃおかーしゃんしゅごーい!」 群れ中から褒めたたえられている三匹。と、ここでネタばらし。 俺は群れに向かって大声で叫んだ。 「なんてことだ! 治療中のれいむが! 誰がこんなことを!」 群れ全員がこちらを見た。特にまりさはぷんぷんと怒りながら 「なにいってるの! それはれいむじゃないよ!」 と言ってくるので、心優しい俺は包帯を外してみせた。 次第にあらわになるれいむの姿。まりさ達は少しづつれいむの姿が見えるたびに、ガクガクと震え出した。 「でいぶううううううううううう!!!! どうじでじんじゃってるのおおおおおおお!!!」 「むきゅん! こんなになぐられたあとがあるなんて!」 「おぎゃーしゃあああああああんんん!!!」 群れのゆっくりはまりさ達を覗いて皆がれいむの遺体に泣きつく。 俺はすかさず解説を挟む。 「れいむの怪我は酷かったから、包帯を巻いて今日一日安静にしてもらおうとしたんだ。それなのにこんな目に合うなんて・・・」 素晴らしい棒読みである。そしてこの解説を聞いたまりさ×3は、後ろに少しづつ下がりながら、涙目で叫んでいた。 「ゆゆ! ちがうんだぜ! じこだったんだぜ!」 「おりぼんがみえなかったんだぜ! しかたがないんだぜ!」 「ちゃんとせつめいしないれいむがわるいんだぜ!」 しかしそれを群れのゆっくりが許すわけもなく 「いつもあってるれいむがわからないなんてさいていね! まりさなんてもうだーりんじゃないわ!」 「くじゅなおきゃーしゃんはゆっきゅちちんでね!」 「どうぞくごろしはしざいよ! ゆっくりうけいれてね!」 「もこたんインしたお! フルもっこにしてやるお!」 「ゆっくりほられるんだぞ!」 まりさ達はついに背に木を置いた形で周りを群れのゆっくりに囲まれた。 「やべるんだぜ! じょうだんはほどほどなんだぜ!」 「ありずう゛う゛う゛う゛!!! ばりざはがぞぐでしょおおおおおおおおお!!!!」 「ばりざだぢわるぐなああああああああいいいいいいい!!!!!」 なんか忘れられてるし、帰るか。ついでだから子供を何匹か貰っていこう。治療費だ。 「ゆ! おしょらをとんでるみたいー♪」 「しゅごくゆっきゅちできゅるこうけいだね!」 「ときゃいはなこうけいね!」 【あとがき】 最近あとがきに書くことがないから困る 誰も読んでないから問題ないでしょうが。 by バスケの人
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/629.html
・このお話しは、anko1706 北のドスさま 前編その2 の続きの話しとなっております。 なのでそちらを読んでいないと、何がなんだがさっぱりわからないと思います。 ・その他の注意は前編と同じです。 「何か聞きたいことがあるって顔だねぱちゅりー?」 麓の村にある宿屋にて、男がぱちゅりーに尋ねる。 「むきゅうー、そのとおりよ。でも何度聞いても人間さんがまるで無視して答えてくれないから…」 ドスの群れへと視察へ行ったその後、 男とぱちゅりーは暴動の主犯であるまりさを抱えて、まっすぐ麓の村へと帰った。 途中の森で何度かぱちゅりーが男に話しかけたのだが、 男はキョロキョロと周りを見回すばかりでまったく反応してくれず、ぱちゅりーはそのうち質問することを諦めた。 ちなみにまりさは道中ずっとドスが悪い、ドスを制裁すべきだと、ギャーギャーうるさかったので、 男が当身をくらわせ、今は気を失っている。 そんなわけでドスの群れを出てからはじめて二人は言葉を交わしたのであった。 「いやー、ごめんごめん。ちょっとね、森内の死角をさがしてたんだわ。 それにあの森はドスたちのテリトリー内だぜ、どこに耳があるかわかったもんじゃない。 うかつなことを喋って相手にこっちの情報を与えることもないと思ってね」 「むきゅ!それじゃ、人間さんはドスが何かを企んでいると思っているわけ?」 「いや、まあ、どうかな?それをこいつに訊こうと思って連れてきたんだけどね」 男はベッドでぐったりと気を失っているまりさを指差す。 「まあ、あの群れには何かあるのは確実だろう。色々と気になる点も多かったし…」 「むきゅ、その人間さんが気になった点をぱちぇは聞きたいのだけれど」 ぱちゅりーもまた、あの群れにはなにか得体の知れない違和感を感じていた。 だが具体的にどこがどう怪しいのかと問われると、何とも言いがたい。 しかしぱちゅりーは、男ならばこのもやもやとした感覚に、しっかりとした答えを与えてくれるのではないかという期待があったのだ。 「んーとだな、まず第一にドスが直々に森の入り口で待っていたことかな」 男は顎に手をやりながら答える。 「むきゅ?それは人間さんたちとの協定関係を重要視してたからじゃないの?」 「まあそうだな、そう考えるのが一般的だと思う。 だが報告書によると、前回まで、つまり先輩が視察をしていたときには ドスはわざわざそんなことをしていなかったみたいだぜ、 なぜ今回にかぎってわざわざそんな面倒なことをしたのかな?」 男は逆にぱちゅりーに質問する。 「そ、それは、私たちが始めて森に来たから迷わないように気を使ってくれたんじゃないかしら?」 「いや、それはないよ。だってあいつ自分で言ってただろ『いつものにんげんさんとちがう』って、 あいつは今回オレたちが先輩の代理で来ることは知らなかったはずだ」 「!そういえば」 ぱちゅりーはハッとした様子で頷く。 「オレにはなにか……、森に見られたくない光景があって、 それを隠すためにわざわざ自分で群れまでの道案内をしたんじゃねえかと思えるんだわ。 例えば、群れの一部のゆっくりたちが他のゆっくりたちを虐待してるところとかさ」 そう男は指摘した。 そして実際にこの予想通り、男とぱちゅりーがドスに連れられて森を移動しているコースの すぐ目と鼻の先の場所では、いつものように幹部ゆっくりたちが奴隷たちをこき使っている光景が繰り広げられていたのだ。 それらの発覚を恐れたドスが、問題のない順路で群れまで先導したというのがことの真相であった。 「まあ、実際になんらかの虐待をしている所を隠しても、広場にゆっくりたちが集合したときの様子でバレバレだったんだけどね 集まってきた連中はほとんどズタボロで目が死んでたから」 「むきゅ!ゆっくりの数を数える為に、みんなが広場に集まったときの話しね! そのことのならぱちぇも気づいていたわ」 「みたいだね。やつらの出方を見たかったから、お前には黙ってるように合図したわけなんだが」 あの時、後から広場にやってきたゆっくりたちは、みな一様に目に光がなく、疲れきっている様子だった。 まあ相手は野生で暮らすゆっくりだ。疲れていたりボロボロだったりするのはそれ程変ではない。 だが問題は、はじめに広場で丸々と太って、とってもゆっくりしていた連中との対比だ。 同じ環境で暮らしているのにもかかわらず、ここまでの差が出るのは明らかにおかしい。 明らかになんらかの差別的な行為がこの群れで行われていることは、間違いなかった。 ぱちゅりーが初めに気づいて男に言おうとしたのはこのことである。 「その他にもぱちぇは、あのときのドスの冷や汗をかいた様子を見て、 ゆっくりの数をごまかしてるんじゃないかと疑ったんだけど…」 ぱちゅりーが躊躇いがちにあのときの自分の推測を口にする。 結局ぱちゅりーが睨んだ洞窟にはゆっくりの姿はなかったが、 その他の場所に隠れていないとも限らないと、ぱちゅりーは思い直していた。 「え?そうなの。オレはそれはないと踏んでたけどね。だってそんな簡単にバレるような嘘つくわけないだろ? もしそんなことしてたとしても、ゆっくりを数え終わった後に、隠れてそうな洞窟探し回れば一発で見つかっちゃうじゃん。 あの人そういうの絶対見逃さないから。 毎回毎回先輩の視察を経験しているドスがそんなアホなマネするとは思えんね。」 と、あっさりぱちゅりーの推論を否定する男。 「む、むきゅうー」 そう言われてみれば確かに男の言う通りである。 ぱちゅりーは段々自分の浅はかさが、恥ずかしくなってきた。 「あいつが冷や汗かいてビビッてたのは、単純に緊張と、 ボロボロのゆっくりのことを、突っ込まれやしないかとドキドキしてたからだろうな。 多分そのことを指摘されたときに備えて、何らかの言い訳は用意してあったと思うけどね。 大方、こっちが何を言っても実際に現場を押さえない限り状況証拠しかないから平気と踏んでたんじゃないかな?」 これまた男の予想は当たっており、ドスは男がゆっくりの数を数えている間、 何時ゆっくりたちの貧富の差を指摘されないかドキドキしていたのだ。 もし、指摘された場合は、現在は食の安全を最重要に考えており多少無理してでも食料を 集めるようにしているとか何とか言って誤魔化すつもりであった。 しかし、ドスの予想に反し、以外にも男は(ゆっくりたちの様子を窺うために)この事をスルーした。 もしも相手がいつも視察に来るおねえさんなら、絶対こんなことはあり得なかっただろうとドスは思った。 こうしてドスは、男のことを警戒するに値しない、大したことのない人間と結論付けるに至ったのだ。 まあ、要するに完全に男の術中にはまっていたわけである。 「そしてお次はあの洞窟内にあった大量の食料だ」 「むきゅ。あれは凄かったわね」 あのときの光景を思い出してか、遠い目をするぱちゅりー。 「凄いなんてもんじゃないさ、あれはもう緊急時の備えの保存食なんてレベルを超えてるよ。 あれだけの量をかき集めるのは半端じゃないぜ、恐らく群れのほとんどのゆっくりが ほとんど何も食わずに四六時中駆けずり回わって集めたんじゃないか?」 男は始めに食料庫を見たときから違和感を覚えていたのだ。 いくらなんでもこの量はおかしい、と。 事実あの大量の食料はドスが計画の為に、奴隷ゆっくりたちをフル動員させてかき集めたものであった。 「あれは、そう、明らかに何らかの用途を想定されて用意されたもんだろう」 「その用途ってなにかしら?」 「さあ?さすがにまだそこまではわからんね。 単純に考えれば、ドスが食料を独り占めするためかな… でも、そんな食い意地はってるようなタイプには見えなかったんだよな、んーちょっと想像つかねえ」 男はガリガリと頭を掻きながら唸る。 さしの男も、今の時点でドスが人間に対して反乱計画を練っており、 そのための奴隷ゆっくり増強のために、大量の食料が使われる予定だとは気づいていなかった。 男は一連のドスの不審な行動は自分の統治に問題あり、と人間に思われることを防ぐための措置と考えていた。 つまるところ、それ程事態を重くみていなかったのだ。 そもそも無知で愚かなゲスゆっくりならともかく、ある程度の知識があり、人間の強さをわかっているはずのドスが、 人間に攻め入る理由などないと考えるのが普通であり、男が今の時点で反乱の可能性を疑えなかったのは無理からぬことと、言えないこともなかった。 「んでもって最後はあのまりさたちの暴動だな」 「むきゅ!そうね、突然のことでぱちぇはビックリしたわ」 「オレも少しだけ驚いた。が、一番驚いたのはドスだろうな、あの慌てっぷりは演技とは思えない。 あのときのドスは本気で焦っていた。それは間違いないと男は感じていたし、 もし仮にこれがドスの企みだとしても、そんなことをするメリットはドスにはまったくないのだ。 「ところでぱちゅりーは、あのまりさたちの行動をどう思う?」 「むきゅうー、難しいわね。ゲスの考えることはよくわからないから… 多分人間さんより自分たちのほうが強いということを証明しようとしたんじゃないかしら? 野生のゆっくりは人間さんなんかちょろいと思っているゆっくりが多いから」 「証明?何のために?」 「さあ?そこまでは分からないわ。ゲスゆっくり特有の自己顕示欲や万能感の現われかしら?」 そんな意見を口にするぱちゅりー。 「ふむ。まあ普通の群れのゲスならそういうこともありえただろうな。 だが今問題にしているのはドスの群れのゆっくりの話だ。 村長の話じゃ、ゆっくりたちは人間に対して恐怖を抱いているように思える。 そんなゆっくりたちが、わざわざ人間に攻撃を仕掛ける理由とは何か? 答えは現状のドスの圧政を終わらせるため、だ」 「む、むきゅう?」 突然の男の答えに混乱するぱちゅりー。 「わからないか?今までの流れから、ドスが群れのゆっくりたちにとって辛い統治の仕方をしているのはほぼ確実だろう。 ゆっくりたちは考える。何とかしたい。でも相手はドスだ、自分らがかなう相手ではない。そこで人間の出番さ。 自分たちが人間に対して反乱を起こして怪我でもさせれば当然その責任は群れの長であるドスが被ることになる。 そうなれば現状の統治の仕方が問題視され、何らかのペナルティを受ける事になる。 あわよくば人間がドスを処分してくれるかもしれない。 と、まあ大方そんな所だろ、なあ、まりさ!」 男はベットのまりさに向かって声をかける。 「………にんげんさん」 いつから目が覚めていたのだろうか?まりさがむっくりと起き上がり男の方に向き直ると がばっと、顔を地面にこすり付けて懇願しはじめた。 「おねがいしまずうううううううううう!まりさたちはどうなってもいいですから、 あのどすをなんどがしてくださいいいいいいいいいいい! むれのみんなは、どれいのようにこきつかわれているんですううううううう! みんなぜんぜんゆっくりできてないんですうううううううううう! まりさたちはもうげんっかいなんですううううううううううううう!」 泣きながら訴えるまりさ。 その様子を見て男はまりさの願いを、 「やだよ!バーカ!」 「どじでそんなこというのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」 きっぱりと拒否したのだった。 「ゆうううううううう!どうして?どうしてええええええええ!」 「やめろバカ騒ぐな、お隣の部屋の客に迷惑だろうが!」 「ゆぶぶぶぶぶぶ!」 ギャーギャーとうるさく騒ぎ立てるまりさの口を強引に閉じさせる男。 それでも喋り足りないのかゴモゴモと口を動かそうとするまりさ。 「あーもー鬱陶しい、おいぱちゅりーこいつに説明してやれ」 いちいち説明するのが面倒なのか、ぱちゅりーに解説を促す男。 「ゆう、ごめんなさいねまりさ。多分あなたの言うようにドスは群れのゆっくりたちに酷いことをしているんだと思う。 でも、それはあくまで群れのゆっくりたちの問題。人間さんの出る幕じゃないわ。 ましてや、あのドスは人間さんとの約束事はきちんと守ってる。現状のドスをどうこうする理由が人間さんには無いの」 「そういうことだ。別にオレたちは正義の味方じゃない。 極端な話し、人間とのルールさえ守ってくれれば、群れがどうなろうと知ったこっちゃないんだわ、これが」 「ゆううううう!」 男とぱちゅりーの説明に唸ることしかできないまりさ。 頭は悪くないらしく、今二人が言ったことがきちんと理解できているようだ。 「でも、でも、まりさたちは、にんげんさんたちにたいして、はんらっんしたよ! それはどすが、みんなにひどいことをしたからおこったことだよ! どすをなんとかしないかぎり、るーるをやぶってにんげんさんのむらへおりたり、 めいわくをかけるゆっくりが、ふえることになるよ!」 このまま放っておけば人間にとってもよろしくない事態になると、必死に訴えるまりさ。 「ハァ…それがバカだって言ってんだよまったく…」 「ゆ?」 男は溜息をつく。 「あのな、お前さん、どうやら人間に危害を加えたら処分されるのは自分たちと、 責任ゆのドスだけだと思ってるみたいだけど、それは甘い考えだぜ。 人間を傷つけるような危険なゆっくりの群れを人間が放っておくはずないだろが、そんなことになったら、群れごと全駆除だっての。 ドスと心中するのがお前らの望みなのか?もしそうだというのなら悪くない手だけどな」 「ゆうううう!!!」 まりさの目が驚愕に見開かれる。どうやらそこまでの事態は想定していなかったようだ。 まりさの考えでは、処分されるのは直接手を下した自分たちと責任ゆのドスだけで、他の群れのみんなは助かると思っていたのだ。 「やれやれ、わかったら人間に攻撃してドスを駆除させるなんてバカげた作戦は止めにしな。 今回の件は、お前のその馬鹿げた覚悟と、オレに攻撃する際、手加減してたことに免じて見逃してやるよ 今度群れに行ったときに、お前の仲間も連れてきてやるから、そいつらと一緒にどこか別の森に行くなり何なりしな」 そう男が突き放す。 「…………」 まりさは全餡子を必死に回転させて、これからのことを考えていた。 男は自分や反乱に加わったみんなを見逃してくれるといっている。このまま大人しくしていれば、夢にまでみた自由が手に入るのだ。 ほかの森へ移り住んでも生活は辛いだろうが、今よりはずっとましなはずである。 だが、しかし、もし今自分が逃げれば、群れで苦しんでいるほかのゆっくりたちはどうなる? あんなところに居続ければ、間違いなく一度もゆっくりすることなく、永遠にゆっくりしてしまうことだろう。 ダメだ!他のゆっくりを置いて、自分だけ逃げるわけにはいかない! こうなったらもう賭けだ。 確証はないし、それこそ群れごと人間さんに滅ぼされてしまう可能性があるが、このまま何もしないわけにはいかない。 「に、にんげんさん…」 「ん?なんだ?まだ何かあんのか?」 スウ、とまりさは大きく息を吸い込むと、意を決して発言した。 「にんげんさんが、どすをなんとかするりゆうはほかにもあるよ! あのどすは、にんげんさんのむらにたいしてはんっらんをたくらんでいるんだよ!!!」 「……ふーん」 気のない返事をする男。 対して、まりさは必死に続ける。 「う、うそじゃないよ!かんぶゆっくりたちがはなしているのをきいたんだよ! なにかひみつへいきもあるってはなしだよ!このままじゃにんげんさんたちもきけんなんだよ!」 「……ふーん。なんだか腹が減ってきたな。そろそろ飯にでも食いに行くか、ぱちゅりー」 「ゆがあああああああああ!まりさのはなしをきいてね!ほんとなんだよ!あのどすはきけんなんだよ!せいっさいしてね!」 騒ぎ立てるまりさを無視すると、男はぱちゅりーを抱えてさっさと部屋を出て行ってしまった。 慌ててまりさも追いかけるが、ドアをきっちりと閉められてしまう。 こうなると、ドアノブに届かないまりさにはどうしようもない。 「ゆうう、どうすれば」 部屋に一人残されたまりさは、うなだれながら呟いた。 「人間さん!あのまりさの話し本当かしら?」 「あん?反乱を企んでるとかいうやつ?」 村の飯屋にて、食事の最中にぱちゅりーが聞いてきた。 「そうよ、そのドスが反乱を企んでいるという話し。 ぱちぇは、まりさが出まかせを言っているんじゃないかと思ってるんだけど… もし本当にそんな事実があるなら、あんな最後のタイミングまで黙っている必要ないわけだし…」 ぱちゅりーはまりさが、ドスを人間に倒してもらうために嘘の情報をいっているのではないかと怪しんでいた。 正直まりさたちの境遇には同情するし、あのドスに対してもいい印象を持たない。 しかしだからといって、それに流されて判断を誤るわけにはいかない。 そのぐらいの分別はぱちゅりーにあったのだ。 「オレは絶対にあり得ない話しじゃないとは思うけどね。 火のないところには何とやらって言うし、群れでそういう噂が本当に広まってるなら可能性はなくはない。 まりさの奴が最後まで黙ってたのは絶対の確信がなかったからだろうな。 いざドスを倒してから、そんな事実はありませんでした。てなことになったら、シャレにならんことぐらいあのまりさでもわかってるはず。 それに群れのボスであるドスが人間に反乱を企んでるなんて、ゲスが人間にチョッカイ出したことなんか比較にならないくらい大問題だからな。 それこそ全駆除の可能性大だ。 まりさとしても、できるだけは口にしたくはなかったんだろう」 男が慎重な意見を述べる。 可能性はなくはないとったところか。 「それでもあえてそのことを口にしたのはドスが憎いから?」 「というよりも、本気で群れの現状を何とかしたいと思ってるんじゃないか? 自分は死ぬ覚悟でオレに仕掛けてきた点といい、あいつはバカだがそれなりに見所あるゆっくりだな。 ちょっとだけお前に似てるかもな?タイプは違うけど」 「ちっとも似てないわ!」 心外だとばかりにぶすっと頬を膨らませるぱちゅりー。 「まあ、なんにせよだ。明日からあの群れの様子をひっそりと探ってみるつもりさ。 そのために死角とか確認したわけだし、全てはそれからだ。その間、あのまりさのことはお前に任せるよ」 そう言って男は席を立って伸びをした。 次の日、ぱちゅりーとまりさを宿に残し、男は単身森へと向かっていた。 周囲を警戒しつつ、ゆっくりと慎重に進んでいく。 森のあちこちで見張りと思われるゆっくりが配置されていたからだ。 しかし所詮はゆっくりのざる警備である。 男とて、だてに日々野山を駆けずり回っているわけではない。 訓練されていない野生のゆっくりの包囲網を突破することぐらいわけはなかった。 (これはこれは、ずいぶんと厳重なことで、よほど見られたくないもんがこの森にはあるとみえるねえ…) そう思いながら、徐々に森の中心部へと近づいていく。 群れに近づくにつれて、だんだんとゆっくりたちの姿が増えていった。 そして、そこで見たゆっくりたちの光景は男が想像していたものよりも遥かに酷いものであった。 「ほらほら、さっさとはたらくみょん!」 ビシッ!ビシッ! 「ゆぎゃああああああああああああ!」 「ゆるしてえええええええええええ!」 幹部みょんたちにムチのような棒を振るわれ、泣きながら作業をするゆっくりたち。 「おねがいです!おちびちゃんはびょうきなんです!なにかたべだせてあげないとゆっくりできなくなっちゃうんです」 「どれいのこがどうなろうがしったこっちゃないよ!それくらいわかれよー!」 懇願するれいむから食料を取り上げる幹部ちぇんたち 「んほおおおおおおおお!あのまりさ!きにいったわああああああああああああああ! すっきりしつにはこんでちょうだい!」 「いやだあああああああああ!すっきりしつにはいきたくないいいいいいいいいいいい!」 ありすに見初められ、無理やりどこかへ連れて行かれるまりさ。 (……これは、予想していたよりずっと酷いな) そこで男が見たものは奴隷ゆっくりたちの地獄であった。 (まさかこれほどとは……。あのまりさの言っていた反乱の話しも、あながち嘘とは言えなくなってきたな。 あるいはオレは少し事態を甘く見ていたのかもしれん) 正直男はこの光景を見るまでは、ドスに対して不審を突きつけ、厳重注意で穏便に終わらせようかなと考えていた。 今までのことは多少行き過ぎた群れの統治が貧富の差や、ゆっくりたちの不満に現れたのだろうと思っていたのだ。 だが現場を実際に見て考えが変わった。 これは統治というレベルではない。群れの全てのゆっくりが、何かの目標に向けて一斉に稼動しているように見えたのだ。 その目標が人間への反乱だった場合断じて見過ごすわけにはいかない。 (多分本格的な活動を開始したのは前回の視察の直後からだろうな。そうでなければこの不審な動きを先輩が見逃すはずがない。 村長が言ってた、群れに降りてきたゆっくりの話しや、食料庫にあった大量の食料の計算も大体合う。 今回の視察までに大量に食料を集めておき、数の確認が終わってから一気に子作りして戦力の増強を図る算段。 万一見つかっても、次の視察までは最大数を超えても協定違反にはならないから一応言い逃れは可能。 ちっ、考えてやがるな) 男は日が暮れるまでの間、観察を続けると、一旦引き上げることにした。 あのまりさから詳しい話を訊き、対策を考える必要があったからだ。 「むきゅ!だからお野菜は人間さんが畑を耕やしたり種をまいたりするからきちんと育つの 勝手に生えてくるのは雑草ぐらいよ!」 「ゆうう!しらなかったのよ!どすはそんなことぜんぜんおしえてくれないから!」 男が帰ってきたとき宿屋の部屋では、ぱちゅりーがまりさに色々なことを教えていた。 やはりゆっくり同士、それなりに話しは合うようだ。 「おい、まりさ」 男はまりさに向かって声を掛ける 「ゆっ!にんげんさん!しんじてね!あのどすははんらんを…」 「ストップ!それ以上喋るな!」 男はまりさの口を強引に閉じさせる。 「もがもが!」 「いいかまりさ、オレ以外の、例えばこの村にいる人間とかにむやみにそのことを話すなよ、いらん混乱を招く可能性があるからな。 それから今からする質問に正直に答えろ、そうしたら協力を考えてやってもいい」 コクコクと頷くまりさ。 男は手を離しさまざまな質問をまりさにした。 ドスが食料を急激に集めはじめたのはいつからか? ドスは具体的にどのようにしてゆっくりたちを統治しているのか? 人間の村を襲うのはいつごろの予定なのか?また具体的にどのような作戦を立てているのか? 準備をはじめた時期についてはほぼ男の予想通り、前回の視察の直後だという。 また群れに降りてきたゆっくりについては、あまりのノルマの厳しさに集団脱走事件が起こり、 そのときに一匹だけ脱出に成功したゆっくりではないかという話しだ。 結局そのゆっくりも群れの実態の発覚を恐れたドスにより村人の前で潰されたわけなのだが。 まりさはドス他にも群れの仕組みなどを答えることができたが、 計画のことについては、流石に噂レベルでしかわからないということだった。 「成る程ね、密告のシステムか。エグイこと考えやがるねえ」 「むきゅ!まったくだわ!いくらなんでもやりすぎよ!」 憤慨するぱちゅりー。 「ゆっ!でもまりさはみっこくなんてしないよ!まりさのなかまたちだってそうだよ!」 「だろうな、だからこそこんな大それた作戦をばれずに実行できたわけだ。 ん?てことは今の奴隷ゆっくりたちはお互いに監視しあってないのか?」 「そうだよ!まりさたちはみんなできょうりょくしあって、むれからどすをおいだしたいんだよ! でもどれいゆっくりみんながそうなわけじゃないよ!なかには、わるいゆっくりもいるよ!」 ドスの作りだした密告システムだが、現在は初期ほど強力には機能していなかった。 何故なら、他のゆっくりを積極的に売るようなゲスはもうほとんど幹部候補ゆっくりになっており、 今現在の奴隷ゆっくりは、他ゆを密告することに抵抗を覚える善良ゆか、幹部候補になりたくてもなれないような、よほど要領の悪いアホゆがほとんどだったのだ。 だからこそまりさたちはお互いに結束することができたし、 ドスは奴隷のコントロールが難しくなってきたとして計画の実行をはやめたことに繋がっているのである。 「ふむ。だがそれは好材料ではあるな、上の連中とゲスだけ綺麗に消せばいいわけだ」 「むきゅ!でもどうやって?群れを全滅させずにドスや幹部や奴隷に混じってるゲスを選別して駆除するのは難しいと思うけど…」 ぱちゅりーの疑問は最もだった。 「まあ、それはおいおい考えるよ。どちらにしろ現状じゃ情報が少なすぎる、反乱計画の概要がわからん限り動きようがない。 ……そういえばまりさ、お前なんか秘密兵器があるとか言ってなかったけ?」 「ゆっ!そうだよ!でもまりさたちもうわさでしかきいたことがないんだよ! でもなんだかたべるとゆっくりできなくなっちゃうきのこが、かんけいしてるみたいだよ!」 「キノコ?毒キノコでも人間にプレゼントして食わせる作戦か?」 ふーむと男は唸る。 (そういえば食料庫に見たことがないキノコが大量にあったな。 この地方の固有種なんじゃないかと思っていたが、あれがそうなのか?) しかし男の疑問は程なくして解けることとなった。 それも考えうる最悪の形で……。 いつもの様に死角から双眼鏡で群れの様子を窺う男。 しかし、なんだか今日はいつもと様子が違った。群れの広場にドスと幹部ゆっくりたちが集まっているのだ。 どうやら幹部ぱちゅりーが嫌がる奴隷まりさにキノコを食べさせようとしているらしい。 (おいおいまさかマジで毒キノコ作戦なのか?) そう訝しげに様子を見ている男。 そしてキノコを食べはじめるまりさ、キノコを飲み込んだところでまりさは苦しみはじめそして、次の瞬間 (!?) 何と、まりさの口から小さな光弾が発射されたのだ。 光弾は一直線に進み、切り株に命中して小さな焦げ目を作った。 それを見て大喜びするドスと周りのゆっくりたち。 光弾を吐き出したまりさは、無残にも全ての餡子を吐き出し息絶えていた。 「……なんじゃありゃ。ちっ、思ったより面倒なことになりそうだねこりゃ…」 男はそう思わず呟いていた。 一体何なんだあれは?自分はこれでもゆっくりのプロのつもりだが、あんなものは今までお目にかかったことがない。 (あれがまりさのいっていた秘密兵器か。小型のドススパークといったところか? 一発の威力は小型の花火程度かな、食らってもちょっと火傷する程度だろうな。 だがそれはあくまで一発の場合だ。 もし奴らが100匹200匹単位で村にやって来て、一斉発射なんかされたらかなりヤバイことになるぞ。 まず間違いなく怪我人が出る。建物もぶっ壊れる。クソ!冗談じゃねえ) ゆっくりたちとの戦いは、ただ勝てばいいというものではない、人間側が無傷で完全勝利しなければ意味がないのだ。 もし、村の人間が誰か一人でも怪我をする事態にでもなればそれはすなわち男の、いや男の所属している組織全体の責任となるだ。 ドスをはじめとする人間を傷つけることが可能な武器を持ったゆっくりたちが、戦いの準備をしている。尋常ならざる事態だった。 (最悪ドスだけを始末すればそれでいいと思っていたが、そうもいかなくなっちまった) この状況では、手っ取り早くドスのみを制裁するという手段はもはや下策と成り果てた。 仮にもし今ここで男が群れに突っ込んで行けば、ドスは倒すことはできるだろう。 が、四方に逃げ散らばる群れのゆっくり全てを倒しきることはできない。 つまり、人間を傷つけることができるゆっくりたちが、森に散らばることになるのだ。 それがどれだけ厄介な事態かは、少しでも想像力があればわかろうものだ。 唯一の救いはドスと一部の幹部以外は人間と戦うことは望んでいないということか。 (全ゆっくりが集まっている機会を狙って一気にゲスどもを殲滅するのが理想か…) 応援を呼ぶ手もあったが、男はなるべく大事にはしたくなかった。 変に事を荒立てると、先輩の責任問題になる可能性があったからだ。 (とはいえやはりオレ一人では、不測の事態に対応できない可能性があるな。 失敗は許されないが、できるなら応援は呼びたくない……。 仕方ないな、またあいつの力を借りるのは癪だが場合が場合だ、連絡をするかあの女に…) 後編その2へつづく。
https://w.atwiki.jp/c21coterie/pages/109.html
Sina(堀江伸一さんの)ゲーム製作に関する思いつき集。 デザイン アメリカンなクリーチャーデザインは動きがあってそこからデザインが決定される。 日本の場合は静止画のかっこよさがあってそこから動きが算出される。 ような気がする。 唯一アメコミヒーローは静止画っぽい。 動き 「2Dのゲームはやりつくされた」 と任○堂の偉い人はいったとか。 カオス理論、離散系、フラクタクル、高度なアニメーションとの融合、協力プレイの分野はやりつくされてないと思う。 特に写像を取って画面全体や周囲の状態をどんどんダイナミックに変化させていくゲームやその手の対戦ゲームやシミュ系ではまだまだ改良の余地はありそう。 ダイナミックに変化するゲームの例。 カオス理論やスメールの馬蹄を応用したシンプルな例。 http //blog.livedoor.jp/lkrejg/archives/65234684.html このゲームでは楕円ボールを拡散する、引き寄せる操作を繰り返すと、スメールの馬蹄と同じ効果をもたらし、なおかつ引き寄せを長時間行うことでボールが一箇所に集まるという安定状態になる。 カオス理論 カオス理論だが、カオスの種類が一種類だとユーザーはルールの単調さに飽きてしまう。 解決法は複数ある。 1 ステージを増やす。 2 カオスを生成するルールを改造する。 3 料理で食材を増やすように複数のカオスを適度に混ぜることで解決を図る。 1は色々。 1に関する基本はゲーム好きなら誰でも知っていると思うが一応記載。 最も古典的かつシンプルなBOIDで説明。 トリノホシよりずっと古い教科書的な話。 Boidのシステムは鳥の群れを再現できるが、これを元にユーザーが写像を応用した命令を鳥たちに出せるゲームを考える。 まずステージやゲームのルールについて考える、鳥が減っていくダメージゾーンだのコイン集めだの、敵だの群れを乱す撹乱要因だの風だの鳥たちを所定の場所まで連れて行くゲームなど色々用意できる。 これだけでも驚くほどのステージを用意できる。 現実の鳥なら風一つとっても色々だ。 山からゆったり降りてくる巨大なつむじ風に乗りながら、つむじ風とともに海を渡るトンビの群れだの、山でさえぎられた風に向かって山下から山上まで風を求めて一直線に羽ばたいて飛ぶ鳥だのを考えてみて欲しい。 ゆえに風一つとっても非常にたくさんの状況を創出しえる。 Boidのシステムを群れ単位で戦闘するゲームに応用すれば、お腹が減ったらユニットの戦闘力ダウンだから食事所をどうするかだとか、病気を持ったユニットを避けたり逆に相手に送り込んだり、繁殖力を持ったユニットを用意するだの幾らでも応用を作ることが出来る。 ステージも基本ギミックの組み合わせで無数のステージを用意できる。 ステージ*カオスのルール*命令*ステージのクリア条件。 という膨大な量の組み合わせを試すことが出来る。 2 2は色々である。 カオス的ルールは無数にある。 群れでカオスを作り出すルールに例をとれば、横移動は得意だが縦は苦手だの、質量が大きな影響を与えるだの、群れのメンバーのうち指定したユニットの性格や移動パターンを変更する命令だのもありだろう。 問題は計算量かな。 3 3は複数のカオスを用意し、これらを混合するゲーム。 最も分かりやすいのは群れゲーム。 性格や行動パターンの違う(別種の)群れを空間的に離して配置。 ユーザーが自分の好みで群れ同士を近づけたり遠ざけたりして混合するなどして楽しむ。 写像や命令の適用範囲(群れに対する命令の届く範囲)を制限することで、ユーザーの命令組み立てレベルに数学でいう線型性を導入できる。 改造 どんなゲームシステムでも数学から見れば数字が変化しているだけ。 どの部分も意味論を取っ払って、変化の形だけに注目すれば幾らでも改造できる。 実際任天堂などは「敵がまっすぐ進む」という単純な部分にすら工夫をたくさんしている。 まっすぐ等速で進む敵→緩急をつけてまっすぐ進む。 複数の敵をリズミカルに出す→出す順番や出る場所周りの地形を複雑に組み合わせて幾らでもゲーム性を作り出す。 他にサイズを変える、形を変える、HPを変更する、透明にするなどまっすぐ進むだけでもその組み合わせは膨大な量となっている。 もし平面上で敵を閉路巡回させる事を数学的に分析するなら X、Y、サイズを実数、形を平面の限定部分空間として サイズ*X*Y座標は3次元空間となるし、その空間内での点の動きが閉路巡回を現す曲線となる。 同じように A=形*X*Y*サイズというちょっと難しい空間内での動きも考えることが出来る。 敵が2キャラ等になったらA*Aという空間を考えることが出来る。 これがさらに閉路巡回でないならもっと難しいことになる。 また意味論を無視するのも大事。 選択肢が一つしかない場所を改造するなら。 横スクロールアクションゲームで上下2本道をだす。 シミュレーションゲームで2個選択肢を出す。 これは数学的にいえば選択肢を増やすといいう群準同形写像。 意味さえ考えなければどの部分も抜け目なく改造できる。 別ジャンルからの取り込み コミュニケーションを主体に取り込んだボードゲームはネットゲームより一歩先を行っている側面もあるような気がする。 HP、偉大な発明の功罪 HPを数学的に分析すれば 最もシンプルなHP概念は数直線状の実数。 この発明を使うのがいやという意見もあるのでそれについて考察。 まずHPがいやならHP概念のないゲーム、トランプや協力系のボードゲーム、将棋など無数にあるゲームをリストアップすればよいがそういうと見もふたもないので、ここではHPの改造について考察する。 数直線HP少し進化するとMP等との間に2次元の関係を作り出す。 MPを消費してHPを回復、MPを消費して戦闘を短くするなどである。 2次元にはコンボゲージや必殺逆転などがある。 さて、単純にHPが0になったら終わりでないゲームとは何か? まずゲームオーバーのあるゲームについて考える。 何らかの要素によって構成される適当なN次元空間を考える。 N次元空間はゲームのキャラや環境やらパラメータやらを現す。 N次元空間の中の限定部分空間としてゲームオーバーとなる空間を提供し、そのN次元空間に対する操作を考える。 ゲーム中操作が繰り返されることで、いつかはゲームオーバーとなるが、ユーザーはゲームオーバーを避ける操作を行う必要が生まれる、空間内にゲームオーバーが散らばることで単純なHP0=ゲームオーバーの単調から逃れることが出来る。 この場合の問題は適切な写像をとることで、HP0即ゲームオーバのゲームと同じになる可能性が残ることと、ユーザーにとって見通しが悪くなることである。 実際は複雑なゲームオーバー条件は、シミュレーションゲームなどでは普遍的に使われている。 当たり前の話。 数学的に同じ構造をしたゲームでも、表現がアクションゲームか、時間をかけてじっくり遊ぶシミュかや、画面の雰囲気が違うだけでもユーザーに与える影響や選択やユーザ体験には大きな違いが生まれる。 だから単純にはいえない。 結局どこに複雑さを押しやるかということかもしれない。 ゲームオーバーのないゲームについて考える。 キャラや状況のN次元空間内にゲームオーバーがない代わりに、プレーヤに不利や有利が持たされるゲーム。 ゲーム内を動き回り時間内にポイントをためるゲームでキャラの動きが重くなったり早くなったりそういう常識的な話である。 キャラがN次元空間のどこにいるか、N次元空間からどんな結果を引き出すか。 その程度に過ぎない。 結局HPという概念は偉大なのであり、ゲームらしいゲームの裏は数字の群れに過ぎない。 だからシステムのどこもよく似ている。 HPという概念を変化させることでたどり着ける、HPの近接領域はシミュレーションゲームだったり他のシステムだったりの事なのである。 問題は定性的な情報やユーザーのコミュニケーションや人間的な反応の関わる部分。 これはゲーム構造の外にある。
https://w.atwiki.jp/yukkuri_gyakutai/pages/816.html
山の中をゆっくりと歩く。 普段からこの近辺の里の人間はこの山の恩恵を預かっている。 その山にゆっくりの群れが移住してきたというので私がそれを確かめに行く事になった。 山の中を歩いていると程なく目的の物体を見つけた。 言うまでもない、ゆっくりだ。 「ゆ~♪みてまりさ!ここにはごはんがいっぱいあるよ!!」 「本当だねれいむ!ここはゆっくりできるね!」 オーソドックスなペアの饅頭を見つけると私は話しかけた。 「やあこんにちは。ゆっくりしているかい?」 「「ゆ!ゆっくりしていってね!!」」 こちらに気づいてお決まりの挨拶を返した 「おじさんもゆっくりしていってね!」 「おじさんはゆっくりできるひと?」 まだ対して山に踏み入っていないのに見つかるとは……思ったよりも人里の近くに住み着いたんだろうか。 「ああ、ゆっくりできるよ。ほら、これをやろう」 そういって私は持っていた袋の中からお菓子を渡してやる。 「「む~しゃ、む~しゃ、しあわせ~!!」」 よし、食ったな……。 「「おじさんありがとう!もっとお菓子をちょうだいね!!」」 さてと、目的を果たさないとな 「ああ、もっとあげよう、ただその前にちょっと聞いていいかい?」 「「ゆ!ゆっくりきかせてね!!」」 私は質問を続けた。 「君たちの群れのリーダーに会わせてくれないかい?」 「りーだー?ねえまりさどうしよう?」 「ゆ!だいじょうぶだよれいむ!このおにいさんはゆっくりできるひとだよ!」 「わかったよまりさ!ゆっくりつれていこうね!」 「「ゆっくりついてきてね!!」」 そういってゆっくりたちは私を案内する様に跳ねていった。 よし、まずは成功と。 少しの間歩くと、開けた草原にたどり着いた。 ここは里から来た時に休憩に使ったりする人も多い場所だ。 今は山に立ち入る時期でもないから人の姿を見る事はない。 その代わりに、大量のゆっくりがゆっくりとしていた 数が多いな……。 「「ゆ!ついたよ!!ゆっくりおかしをちょうだいね!!」」 全くこの饅頭、もう約束を忘れているな。 「その前にリーダーを連れてきてね。そうすれば皆にもお菓子をあげるよ」 そんな問答をしていると、突然目の前に鈍い音を共に巨大な何かが降ってきた。ふむ、これは…… 「「「どすまりさだーー!!」」」 ゆっくりの群れってのはドスが登場する時は必ずこう言うのであろうか?まあどうでもいいが とつぜんのドスの登場に群れのゆっくり達も集まってきていた。 「ゆ!人間がなんの用なの!ここはまりさたちのゆっくりプレイスだよ!!」 そう言って威嚇している。 「ゆゆ!ちがうんだよどす!!」 「そうだよ!このおにいさんはゆっくりできるひとだよ!!」 「ゆ?どういうことなの?」 そうドスが聞き返したので代わりに答える。 「いやなに、最近ここらにゆっくりが住み着いたっていうからね、これはお近づきの印だよ」 そう言うと私は持っていた袋を逆さまにして中身をぶちまけた。 あふれ出るお菓子の山に集まっていたゆっくり達は呆然としていた。 「ゆ?ゆゆ??」 「おかしだ!ゆっくりできるよ!!」 「でもにんげんのもってきたものだよ!たべたらゆっくりできなくなるかもしれないよ!!」 「ゆ~でもおいしそうだよ!!」 「おか~しゃんゆっきゅりちゃべたいよ!!」 突然の出来事にゆっくり達がざわめく。ここで一斉に群がらなかったのは意外ではあった。 「ドスまりさ、私は別にお前達をどうこうしようと思ってきたわけじゃない。ちょっと聞きたいことがあるんだ」 とつぜん食べ物をくれる人間に正直戸惑いを隠せないドスまりさだが 食べ物が増えるのは正直望ましい。 「だいじょうぶだよどす!」 「さっきまりさたちもたべたけどゆっくりできたよ!」 その言葉が決定打になったのか、ドスまりさは私のほうに向かって口を開いた。 「分かったよ!人間さんはゆっくりできそうだね!皆!食べてもいいよ!!」 その言葉を皮切りに、群れ全体がお菓子の山に向かって殺到していった。 ゆっくり達の群がる山から聞こえるしあわせ~の連呼。 それを尻目に私はドスまりさに質問を始めた。 「じゃあ聞きたいんだがドスまりさ。お前達はなんでここに移住していきたんだ?」 「前に済んでいたお山さんがゆっくりできなくなっちゃんだんだよ!!」 「ふむ…それは何でだ?」 「皆でゆっくりしようと食べ物を集めていたんだけど、虫さん達やお花さんたちがいなくなっちゃったんだよ!!」 「なるほど、それでここに来たのか」 そこまで聞いて私は話す内容を変えることにした。 「ところでドスまりさ。お前はいっぱいリボンがついているな」 「そうだよ!皆が自分の命よりも大事なおリボンをつけてくれたんだよ!!」 そういって誇らしげに胸(?)を張った。 「そのリボンはこの群れのゆっくりたちのなのかい?」 「そうだよ!それだけ皆に信用されているんだよ!!」 「ふぅむ。なあドスまりさ、それは群れの皆のリボンなんだよな?」 「そうだよ!さっきも言ったでしょ!!」 ……こいつは気づいていないのか? 「じゃあドスまりさ。なんでここのゆっくり達はお前にリボンを預けているのに、リボン無しのゆっくりがいないんだ?」 「……ゆ?…ゆゆゆ!??」 ここまで言われてやっと気づいたらしい、この群れには飾りのないゆっくりが一匹もいない事に。 「どゔい゙ゔごどな゙の゙ーーーー!!!??」 その言葉を聞いて一匹のゆっくりれいむがドスに近づいてきた、このタイミングで来たってことはサブリーダーか何かかな? 「どうしたのどす!ゆっくりしようよ!」 「れ゙い゙む゙!!ごの゙り゙ぼん゙ばど゙ごがら゙もっ゙でぎだの゙ーーー!!? その一言で察したのか、ゆっくりれいむは慌てた様子だった。 「ちがうんだよどす!これはどすがよろこぶとおもってみんなでやったんだよ!!」 「ゆ゙ゔゔゔ!!?どゔじでぞん゙な゙ごどずる゙の゙!??」 尚も言い募るれいむだが横槍を入れてやる 「あーあ。可愛そうにな、そのリボンのゆっくりたちは今頃全然ゆっくりできなくなっているだなあー」 「ゆ゙ゔゔゔゔゔゔゔゔゔゔ!!!??」 ドスまりさはショックで叫んでいる。さて少し様子をを見るか。ちょうど騒ぎを聞きつけたゆっくり達が固唾を呑んでいる。 ……しばらくたって叫び続けていたドスまりさがいきなり黙った。落ち着いたようだ。 さて、どうでるかな。 「ゆうう……。仕方ないね!おリボンを取られたゆっくりは可哀想だけど皆でゆっくりしようね!!」 ふむ……それがお前の答えか、ドスまりさ。 その答えを聞いたゆっくり達は安心したかのようだった。 「そうだよ!しかたないよ!」 「どすにつけるからっていったのにいやがったゆっくりたちがわるいんだよ!」 「れいむたちのリボンはあげちゃうとゆっくりできなくなるからそうしたんだよ!しかたないよね!!」 次々と言い出すゆっくりたち。 さて、じゃあ最後の仕事にかかるかな…。 「ふーん。まあいいや、ところでドスまりさ。ちょっとこっちを見てくれ」 「ゆ?ゆっくり見るよお兄さん」 そういって素直にこちらを見つめるドスまりさに 私は隠し持っていたものをゆっくりを突きつけた。 「ゆゆ?お兄さんそれは何?」 そう言ったドスまりさの声と、突きつけられたものから出た轟音は同時だった。 「ゆ゙っぎ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙っ゙ぃ゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い」 「「「「「「どずま゙り゙ざがあ゙あ゙あ゙あ」」」」」」 轟音の後には片目から大量の餡子を流して悶えるドスまりさと、それを見て混乱に陥ったゆっくりの群れだった。 別にたいしたことはしていない、ただ隠し持っていた猟銃をほぼ零距離でドスまりさの目に向かって撃っただけだ。 いくら硬い皮だといっても目は別だ、至近距離で当てれば目を突き破り中まで弾丸で抉られる。 変わったところといえばその猟銃は隠しやすいように銃身を切り詰めてあるのと、中に入っているのが対巨大ゆっくり用の 弾丸である所くらいだ。その弾丸はゆっくりの体内で反応を起こしてゆっくりの餡子をどろどろにしてしまう。 即効性が高く即巨大ゆっくりを行動できなくして、じわじわと死に至らしめる。 この弾丸、試してはいないが実はドスまりさの皮に当たっても体内にめり込んでくれるらしいので、当たりさえすればいいらしいが わざわざ目に撃ち込んだのこの方が苦しいからというのと、弾丸を撃ち込むゆっくりは大体気に食わないというだけだ。 普通ならば銃を突きつける前にドスまりさに警戒されるようなものだが、前もってお菓子を与えた事と話をしたことで ワンクッション置いてから、握手をするように銃を突きつけたことがドスまりさの判断を鈍らせることになった。 「さてドスまりさ、お前に言っておくことがある」 「ゆ゙ぎ゙ぎ゙ぎ゙ぎ゙ぎ゙ぎ゙ぎ゙」 身悶えているがこちらを睨んでいる事から聞こえてはいるだろう。 「お前は前いた山から食べ物が消えたといったな?それは間違いだ。お前達が後の事を考えずに取りすぎた結果だ」 「ゆ゙……だっ゙でだべも゙の゙な゙い゙どみ゙ん゙な゙ゆ゙っ゙ぐり゙でぎな゙い゙でじょ゙よ゙お゙お゙!!」 「それも間違いだ。お前が群れを考えなしに肥大化させずに管理していれば、その山はそんな事にはならなかった」 さらに私は続ける 「そしてお前は自分のリボンは他のゆっくりを犠牲にしたものであるにも分かったのに外さなかった。自分の群れの事しか考えられない お前達はこの山を食い尽くし、その後は近くの人里にも襲い掛かるだろう。そんな群れはここに置くわけにはいかない」 まあ他にも言いたいことはあるが大まかにはこんなものだ。 「ぞん゙な゙ごどじな゙い゙よ゙お゙お゙お゙お!!!!」 弾丸の毒が効いて動けないドスまりさが叫ぶ。 叫びながら餡子を口から大量に吐き出した。あ、なんか幻覚とかドスパークとかに使うキノコも一緒に出てる。 これで完全に危険は無くなったな。まあどのみち後は死ぬだけだが。 「お前がどう思おうと別にそれはどうでもいいんだ。問題はお前達はいずれはそうするから駆除するって事だけさ」 そう言いながら、私は用が済んだので帰り支度をする。 そうしている私の周りをゆっくり達が取り囲んだ。 「よ゙ぐも゙どずを゙ごろ゙じだな゙!お゙ま゙え゙ばゆ゙っ゙ぐり゙じね゙!!」 「「「「「「「ゆ゙っ゙ぐり゙じね゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙!!!」」」」」」」 そう言って群れ全体が波のように私になだれ込んできた。 もうドスは死亡認定かよ。 ここで反省すれば死なずに済んだかもしれないのに…。 そう思っていると私を囲んで突進してきたゆっくり達が私にたどり着く前に突進する勢いのまま倒れ込んでいった。 「ゆ゙ゔ!!ぐる゙じい゙よ゙お゙お゙お゙!!」 「どゔじでえ゙え゙え゙え゙え゙!!」 「ゆ゙ぎゅゔゔゔゔぐる゙ぢい゙よ゙お゙お゙お゙お゙お゙゙!!!!」 まあさっきあげた菓子にも当然一服盛ってある。 これも特殊なものでゆっくりのみに反応する毒らしい。 食べても普通に生活する分には問題は無いが、殺意を持った攻撃を仕掛けたりする位興奮すると反応するらしい。 それにしてもこれをくれたあの鬼意山…一体どうやってこんなものを。 そう思いながら私はゆっくりと苦しみながら壊滅するしかない群れを後にした。 私のする事はたいしたことではない。新しく来たゆっくりの群れがそこにいても大丈夫なものかを判別するだけだ。 山の生態系を再起不能なまで壊さないか、人間に害が無いかぐらいを確かめて、大丈夫ならば何もしない。 どんな群れでもとりあえず毒入りの菓子は渡しておく。 群れが心変わりした時の為の、言わば保険だ。 毒の効き目は一世代のみらしいので次の世代のゆっくりや新しく群れに加わったゆっくりがゲスだったりしたら あまり意味は無いが他の問題は別に対処する鬼意山がいるので私の考えることではない。 あくまでも私のすることは住み着いた時点のゆっくりの査定だけだ。 最近はドスのふりをした巨大ゲスゆっくりとかもいるらしいし、案外今回もそうだったかもしれないなあ。 このSSに感想を付ける
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/3342.html
『おうち宣言の果てに 後編』 24KB 制裁 自業自得 お家宣言 群れ ゲス 自然界 独自設定 ナナシ作 ざわ…ざわ…。 ざわめく群れの広場。 長ぱちゅりーが緊急集会を開くということで、群れにある広場には沢山のゆっくりたちが集まってきていた。 しかし、その場にいるゆっくりたちを観察すると、ふと妙なことに気づく。 確かに沢山のゆっくりが広場に集まっているのだが、その中において、れいむ種の数がほとんど見当たらないのだ。 別に緊急会議において、れいむ種だけ連絡をしていないとかそういうことはない。 きちんと今日会議があることは、群れの全ゆっくりが知っているはずなのだ。 にもかかわらず、広場にいるのはれいむ一派を率いるボスれいむと、その取り巻き数匹のみであった。 「むきゅ!ほかのれいむたちはどうしたの!」 広場の中央にいる長ぱちゅりーが、ボスれいむに問いかける。 「ゆふふふふ、しんぱいしなくても、みんなおうちにちゃんといるよ! さいきんぶっそうだからね、れいむたちがおそとにでているあいだに、ほかのげすゆっくりたちに、 れいむたちの、ゆっくりしたおうちを『おうちせんげん』されちゃうとこまるからね! まあ、かいぎのないようは、あとでれいむがみんなにつたえておくからあんしんしてね!」 (ゆぷぷぷぷ!バカなぱちゅりーだよ。 れいむたちを広場に集めて、そのスキにおうち宣言して、れいむたちからおうちを奪おうったってそうはいかないよ。 全てのおうちには、部下のれいむたちを配置済みなんだよ! おお、おろかおろか、無駄な努力だったね!) ニヤリと笑うボスれいむ。 ボスれいむは今回の緊急収集は、おうちに居座っているれいむたちを一旦外に出させるための口実だと推測したのだ。 ゆえに、おうちに居座っている全てのれいむたちには、会議には参加するなと指示してある。 広場にれいむ種の姿がほとんど見えないのはそのためだ。 「ゆふふふふ!さあさあどうしたの? さっさとかいぎをはじめようよ!れいむたちのことならしんぱいないよ!」 勝ち誇った様子のボスれいむに対して、長ぱちゅりーは静かに語りだす。 「そう、れいむたちはこのばしょにこないのね。 それは…………けいかくどおりね!」 「ゆ?」 戸惑うボスれいむをよそに、カッと目を見開く長ぱちゅりー。 「きょうみんなにあつまってもらったのは、ほかでもない、むれにあらたなおきてをていあんするためよ! ぱちぇは、このむれのあたらしいおきてとして、おうちせんげんきんしほうをていあんするわ!」 「「「「!!?」」」」 ざわ…ざわ…。 長ぱちゅりーの宣言を受けてざわめく広場。 当然の反応だ、おうち宣言といえばゆっくりの特性とすら言える考えかたの一つである。 いわゆる、『お野菜は勝手に生えてくる』や『おちびちゃんはゆっくりできる』などと並んだゆっくりが生まれつき持つ本能的的な概念なのだ。 それを突然禁止するなど、戸惑いが起こってあたりまえなのである。 「はああああああああああああああん!ふざけるなあああああああああああああああああ!」 そして当然の如く誰より強く反発したのはボスれいむだった。 「おうちせんげんをきんしするぅ?きはたしかなのおおおおおおおおおおおお! おうちせんげんはねぇ、ゆっくりのでんっとうと、かくしきにのっとった、ゆいしょただしいぜったいのるーるなんだよおおおおおお! それを、きんしするなんてばかなこといわないでね!これはぜんゆっくりにたいする、ぼうとくこういだよ! こんなげすはせいっさいすよおおおおおおおお!」 必死になって訴えるボスれいむ。 ボスれいむとしては、こんな掟は是が非でも通すわけには行かない。 今この群れで、おうち宣言のよってもたらされる既得権益の恩恵を、一番に受けているのはボスれいむなのだから。 だが悲しいかな、強力な既得権益を維持するためにはそれ相応の強力な力いる。 人間の世界で言えばそれは、集団だったり金だったり人脈だったり地位だったり……。 しかし、今のボスれいむはそのどれもが不足していた。 「ゆゆ!まりさは、おさのていあんにさんせいなのぜ! もうおうちせんげんなんて、こりごりなのぜ!」 「みょん!そもそもだれもいないところで、ただせんげんしただけで、おうちがてにはるということじたいおかしいんだみょん!」 「わかるよー!ちぇんもまえまえから、このるーるはなんだかおかしいとおもってたんだねー!」 「だいたい、おうちせんげんなんて、いなかもののすることなのよ! とかいはなゆっくりはそんなことしないわ!」 広場に集まっているボスれいむ以外のゆっくりたちは、みなこぞって長ぱちゅりーの提案を支持する。 このゆっくりたちは、おうち宣言によって不利益を被っている立場なので当然といえば当然の反応だ。 「れいむ!あたらしいおきてをつくるさいのるーるはしっているわね! かいぎにあつまった、ゆっくりたちの、はちわりいじょうのさんせんをえられれば、あたらしいおきてをつくることができるのよ! このけっかはむれのそういなのよ!うけいれなさい!」 「ゆぐぐぐぐぐ!」 言葉に詰まるボスれいむ。 ちゅりーの言うとおり、群れでは会議に集まった8割以上のゆっくりが賛成すれば、新たな掟を作ることができるというルールは確かにある。 しかし、8割という条件の難しさから今まで新しい掟が作られた前例はなかったのだ。 実際もしこの場にれいむ一派のれいむたちがいれば、賛成が8割を超えることはなかっただろう。 だがボスれいむは、おうち宣言を警戒するあまり、ほぼ全てのれいむにおうち待機を命じてしまった。 その警戒が仇となってしまったというわけだ。 おうち宣言を絶対視していたボスれいむは、まさか長ぱちゅりーがルールそのものを変えてくるなど予想外だったのだ。 逆に言えば、今この群れが置かれている状況はそれまでのルールを変えなければならないほど切羽つまったものだったともいえる。 どちらにせよ、これでこの群れ内にかぎっては、おうち宣言というふざけた概念は消滅することになる。 「むきゅ!それじゃあ、あらためてせんげんするわ! いま、このときより、このむれではおうちせんげんきんしほうをしこうするわ! それにともなって、いままでされたおうちせんげんも、すべてむこうとするわ! れいむ!おうちにいすわっているほかのれいむたちにも、このことをしっかりとつたえてちょうだい! わかったわね!」 「ゆぐぐぐぐ!こんな!こんなばかなことが……」 歯を食いしばり、悔しげに唸るボスれいむ。 しかし多勢に無勢、今は大人しく引き下がるほかない。 (ゆぐううううう!ちくしょう!今に見てろよおおおおおおお! こんなことで、れいむのゆっくりが壊されてたまるかあああああああ!) だがしかし、ボスれいむは何も諦めてははいなかった……。 数日後……。 「わかるよー!きょうもたいりょうなんだねー!」 ポヨンポョンとゆっくりにしては軽快なステップで、自身のおうちへと跳ねているちぇん。 その帽子には、溢れんばかりの食料が押し込まれている。 おうち宣言禁止法によって、自らのおうちをれいむから取り戻したちぇんは、 れいむによって食い荒らされた保存用の食料を再補充するために、日々森を駆け巡っていたのだ。 そして、その甲斐があってかちぇんのおうちには再び充実した貯蓄が蓄えられつつあった。 「わかるよー!ちぇんのおうちにとっちゃくなんだねー!」 自身の根城にたどり着くちぇん。 だがちぇんは予想だにしていなかった。 そこに、再び悪夢の光景が待ち構えていようとは。 狩りから帰ってきたちぇんが、自分のおうちで見た光景は…… 「すーやすーや!ぐごごごおお!」 「がーつがーつ!うめ!これめっちゃうめぇ!」 「ゆふぃー!れいむのすーぱーうんうんたいむのはじまりだよおおお!」 れいむだった。 信じられないことに、数匹のれいむが自分のおうちで好きほうだい振舞っているのだ。 あるれいむは、大口を開けて草のベットで昼寝をしていた。そのしまらない口からは涎がたっぷりと流れ落ち、ベッドに染みを作っている。 あるれいむは、ここ数日の間にちぇんが一生懸命集めた食料を無遠慮に食い散らかしていた。 あるれいむは、おうちの中央でうんうんをしていた。多分部屋の隅でするよりも、真ん中でしたほうが広々として気持ちいいからという理由からだろう。 「なっ、なんなのおおおお!これはあああああああ!わからないよおおおおおおおお!」 絶叫を上げるちぇん。 もはや何が起こっているのか、ちぇんには理解不能である。 「ゆゆん?なんなの?うるさいよ!しずかにしてね!ゆっくりできないよ!」 そんなちぇんの様子に対して、見当ハズレの反応をするれいむ。 「わからないよおおおおおおお!おまえらちぇんのおうちでなにやってるのおおおおおおお!」 「なにって?れいむたちはただゆっくりしているだけだよ! それのいったいなにがいけないの!ばかいわないでね!」 「そうだよ!まったくちぇんはゆっくりしてないねぇ!むーしゃむしゃ!げっぷ!」 「でる!れいむのげいじゅつてきな、うんうんがでるよおおおおおおお!」 悪びれるどころか、なおも好き勝手振舞うれいむたち。 「ふざけないでねえええええ!もうここはれいむたちのおうちじゃないんだよおおおおお! ゆっくりするならどこかほかのばしょでやってね!それくらいわかれよおおおおおお!」 怒りが頂点に達したちぇんを尻目に、れいむは呆れたような口調で語りだす。 「ゆふう!これだからばかなゆっくりはこまるね! あのねぇ、なにかかんちがいをしているようだけど、れいむたちのこうどうは、 むれのおきてにのっとった、なんらひなんされるものじゃないんだよぉ!」 「わからないよおおお!おうちせんげんはもうきんしされたんだよ! だからここはもうれいむのおうちじゃないんだよ!だからでてってよ!」 「ゆふん!たしかにちぇんのいうとおり、おうちせんげんは、きんしされたね!だからこのおうちはれいむのものじゃないよ! でもね、だからといって、ちぇんのものでもないんだよ!」 「ゆ?え?」 予想外の答えに、キョトンとするちぇん。 「だってちぇんは、このばしょでしてないんでしょ?おうちせんげんを! だったらこのばしょはだれいのものでもないんだよぉ! ということは、このばしょにあるごはんさんも、べっどさんも、みんなみんな、だれのものでもないんだよぉ! れいむたちはねえ、ただおちているごはんさんや、べっどさんをつかってゆっくりしているだけなんだよ! ちぇんだって、かりでおちている、ごはんさんをひろってきてるでしょ? それとおなじことなんだよおおおおおおおおお!」 そう、そうなのだ! 長ぱちゅりーによって、この群れではおうち宣言は一旦白紙に戻されたばかりでなく、その後のおうち宣言まで禁止されているのだ。 おうち宣言とは、いわば所有権の宣言に他ならない。 これが禁止されるということは、この群れにある全ての物の所有権は、すべて宙に浮いてしまっている状態と同義である。 いや、より正確に言えば、この群れからは所有権という概念が消滅してしまったと言うこともできる。 ともすれば、いまれいむが言ったように、元ちぇんのおうちにある食料や家具などは、ちぇんの持ち物足り得ない。 いかにそれらがちぇんが集め、作ったものであることが明らかであったとしても、おうち宣言をしていない以上は、 それらは誰の所有物でもなく、そこらへんに落ちているものと同等の扱いを受けることになるのだ。 これらのことを利用し、ボスれいむ率いるれいむ集団は他ゆんの獲得してた食料をはじめとする持ち物を、 片っ端から横取りする作戦を開始したのだ。 今、ちぇんのおうちでくりひろげられているのと同じような光景は、ボスれいむの指示によって、群れ全体で見ることができた。 無論こんな事態になるとは、長ぱちゅりーはまるで想定していなかった。 長ぱちゅりーの取った行動は、何か問題が起こったから、その問題の原因となっているものを取り除くという単純にして明快な解決方法ではあったのだが、 そのことによって、また新たな問題が発生するかもしれないという可能性には気づけなかったのだ。 れいむの集団を率いているボスれいむもまた、当初はこのことに気づいていなかった。 だがしかし数日後には、このおうち宣言禁止法の盲点に気づき行動を開始することになる。 その意味でボスれいむのズル賢さは、長ぱちゅりーよりも上だと言えるかもしれない。 が、しかしボスれいむはある致命的な勘違いをしていた。 それは……。 「ゆふふふふ!どうやらりかいできたようだね!わかったらごはんをおいてさっさとどっかいってね! れいむは、すーぱーおひるねたいむの、つづきをしなきゃいけないんだからね!」 「むーしゃむしゃー!じわあせぜええええええ!」 「でるよおおおお!れいむのすてきなうんうんがとまらないよおおおおお!」 すっかり勝ち誇った様子のれいむたち。 ちぇんはそんなれいむたちを冷め切った目で見つめそして、 「わかれよー!このげす!」 ドン! 「ゆぴぎゃああああ!」 そのうちの一匹に体当たりをかまし、吹き飛ばした。 「ゆぎゃああああ!いだいよおおおおおおおおお!」 「ゆゆゆゆゆ!なにするのおおおお!」 「どうして!ゆっくりできないよ!」 完全に予想外のちぇんの行動に慌てふためくその他のれいむ。 どうしてちぇんがこんな酷いことをするのか、その理由がれいむにはわからない。 「ちぇん!いったいなんなのこのしうちは!このおうちはちぇんのものじゃないんだよ! それがわかってるの!」 「おまえらこそ、じぶんたちのたちばをわかれよー!」 理不尽に対して憤る様子のれいむに対し、バカにしきった口調で答えるちぇん。 「ねんじゅうおうちでぐうたらしたり、ほかのみんなにたかったりしているれいむたちはわからないかもしれないど、 かりばは、せんじょうなんだよー! だれのものでもない、しょくりょうはちからでうばいあいなんだねー! おまえらが、ここにおちているごはんさんをもっていくというのなら、ちぇんはそれをちからずくでそしするだけだよー!」 言うが早いか残りのれいむたちにも攻撃を仕掛けるちぇん。 「ゆぎゃあああああ!」 「やべでえええええ!」 ドガ!バキ!グチャ! 次々とおうちからはじき出されていくれいむたち。 「おらおらさっさとどいてねー! いままでは、おなじむれのよしみで、たしょうはえんりょしてたけど、 そっちがそのつもりなら、こっちもこんごいっさいようしゃしないよー!」 「どじでえええええ!なんでこうなるのおおおおおおお!」 想定外のちぇんの行動に悲鳴をあげるれいむたち。 ボスれいむをはじめとするれいむ一派は勘違いをしていた、今まで他のゆっくりがれいむの集団に腹立ちを感じながらにも、 手を出せなかったのは、おうち宣言という強力な後ろ盾があってこそなのだ。 それがなくなってしまった以上、れいむたちを暴力から守る壁は存在しない。 おうち宣言が無効になったことにより、他ゆんのおうちにある物は誰のものでもない、よって勝手に食べたり持っていってもよいという理屈は、 なるほど確かにその通りだ。 しかし誰のものでもないということは、つまり前回のおうち宣言作戦とは違い、れいむたちのものになったわけでもないのである。 他ゆんが大人しく、れいむたちのされるままにしているわけがない。 ゆっくりの群れはその内部こそは平和だが、ひとたび外に出ればそこは熾烈な縄張り争いの連続だ。 群れの掟にしても、他ゆんの持ち物を強引に奪ったり、無意味なゆっくり殺しは禁止されているが、 狩場での食料をめぐっての争いは良しとされている。 これは野生に生きるものたちでは当たり前のことなのだ。 まあ、それでも同じ群れの仲間同士なので、いろいろと融通が利く場面も多いのだが、 今回の件でれいむ一派は完全に自分たち以外のゆっくりを敵に回してしまった。 さらに悪い事にれいむたちが自分たちで言い出した、群れ内にあるものは誰のものでもない宣言により、 この群れからはただでさえ曖昧なゆっくりたちの所有という概念が消えたのだ。 これは強いものが全てを支配する、完全な弱肉強食時代に突入したことを意味する。 今日、この日より群れの様子は一変することとなった。 そして基本能力も低い上に、群れ内での繋がりも希薄なれいむたちが、この事態の深刻さに気づくのにそう時間はかからないだろう。 れいむたちの地獄はここから幕を開ける。 一週間後……。 「ゆひい!ゆひい!」 群れ内にて、ズタボロになったある一匹のれいむがキョロキョロとあたりを必死に見回している。 そんなれいむの頭のには、数個のどんぐりが乗っかっている、れいむが必死になって集めた僅かな食料だ。 しかし、そんな僅かな食料も、もし他のゆっくりに見つかるようなことがあればたちどころに奪われてしまうことだろう。 今の群れの状況では、それが当たり前なのだ。 そのためにれいむは念入りに周囲を確認し続ける。 「ゆぐぐぐ!ゆっくりできないいいいいい!」 あまりのゆっくりできなさから、思わず唸り声を上げるれいむ。 そう、あの日から全てが変わってしまったのだ。 ボスれいむ率いるれいむ集団の群れ乗っ取り作戦は、前記の通り失敗に終わった。 そして、その後に待っていたのはれいむたちに対しての厳しい冬の時代である。 一応れいむたちは、あからさまに掟を破っていたわけではないので制裁こそされなかったが、群れのみなの心証は最悪だった。 そして、その弊害として、みんながみんなれいむたちの食料を横取りするようになったのだ。 もちろんこれは掟違反とはならない。おうち宣言が禁止されているこの群れでは、所有という概念そのものが存在しないのだから。 仮にれいむたちが持っている食糧を無理やり奪い取ったとしても、それは単純に強いゆっくりが、落ちている食料を拾っただけだという扱いになる。 そのときたまたまれいむがすぐ近くにいただけだった、それだけのことである。 要するに群れに存在している全てのものは、誰のものでもなくどれだけ勝手に持っていってもお咎めなしということだ。 このことより、群れにいたれいむたちは、その全ての持ち物を他ゆっくりたちに取り上げられることになる。 実際能力の低いれいむたちは、他ゆんたちにとってもいいカモだっただったのだろう。 自分たち以外の全ての群れのゆっくりから、常に食糧を狙われることとなったれいむたちの生活は一気に苦しくなった。 さらに、もとよりこの群れにいるれいむたちは、数ばかり多くて基礎能力が低い個体ばかりだったことも事態に拍車をけることになる。 奪われたのなら奪い返せばいいじゃないかと思うかもしれないが、やはり基本能力が低いれいむたちでは、 その他の優秀なゆっくりたちには、まるで太刀打ちすることができなかった。 今までれいむ集団が好き放題やってくこれたのは、所詮おうち宣言という強力な後ろ盾があっての話というわけだ。 ちなみに、れいむ以外のぱちゅりーなどの力の弱いゆっくりたちは、相手の持ち物を奪わない代わりに、 自分の持ち物にも手を出さないという、掟とは別の紳士協定を他ゆんたちと早々に結ぶことで強奪を回避した。 一部のれいむたちも、その協定を他ゆんと結ぼうとしたようだが、当然のごとく拒否されることになる。 それだけおうちを奪われた恨みは根が深いものがあったということだろう。 こうしてれいむたちは、群れ内において、周りが全て敵という八方塞の状況に追い込まれたのであった。 「はぁ、ひさしぶりのごはんさんだよぉ!」 れいむは、目の前の数個のどんぐりを見つめながらしみじみと呟く。 あの日以来、ほとんどろくなものをれいむは食べていなかった。 何故なられいむが狩場で狩りでもをしようものなら、食料を得るたんびに周りにいるゆっくりたちからすぐさま奪われしまうからだ。 かといって、れいむの実力では他ゆんの食糧を力づくで奪うことなど不可能だし、最近ではみな警戒しておうちには必ず見張りがいるのだ。 そんな状況の中、みなの目を盗みながら必死で確保したのがこの数個のどんぐりなのである。 「ゆふぅ!もっとたくさんむしゃむしゃしたいよぉ!どうしてこんなことに……。 ゆう、でもいまはしかたないね、それじゃゆっくりいただきま………」 「ゆゆ?こんなところでれいむがなにかたべようとしてるのぜ?」 「ほんとだわ、わたしたちもごいっしょさせてもらおうかしら?」 「!?」 れいむが、数個のどんぐりを口に含もうとしたちょうどそのとき、近くの茂みからまりさとありすのつがいが現れた。 その突然の事態に、恐怖に見開かれるれいむの瞳。 「やっ、やめてね!とらないでね!れいむのどんぐりさんとらないでねえええええ! でいぶはもうみっがもろくにたべてないんですううううううう! おねがいだから、みのがしてええええええええ!」 今までの経験により、どんぐりを強奪されると感じたれいむは、必死に自分を見逃してくれるよう懇願する。 しかしまりさとありすは、そんなれいむの様子にも顔色一つ変えない。 「とる?れいむは、いったいなにをいっているのかしら? ありすたちは、おちているごはんさんをひろうだけよ?そうでしょまりさ!」 「そうなのぜ! べつにそのどんぐりさんが、れいむのものってわけじゃあるまいし、いったいなにをあわてているのかぜ!」 そういいながらじりじりとれいむに近づいていく二匹。 「ゆっ、ゆひいいいいい!おっおねがいだよおおおおお! れいむたちがわるかったよおおおおお!だからもうゆるしてよおおおお!ゆっくりさせてええええええ!」 「あら?さっきかられいむは、いったいなにをいっているのかしら? れいむはべつにおきてをやぶったわけじゃないし、なんにもわるいことしてないわよね!」 「そうなのぜ!だからこれからまりさたちがすることも、べつになんらわるいことじゃないのぜ! ゆふん!」 言いながらまりさは、れいむに対して軽く体当たりをした。 「ゆがべし!」 しかしそれでも、貧弱な上に消耗しているれいむには充分な威力だったようで、 れいむは、もっていたどんぐりを盛大に待ち散らしながら、後方へと吹っ飛ばされる。 「あらまりさ、こんなところに、どんぐりさんがおちてるわ! ちょうどこばらがすいてきたところだし、いただくとしましょう!」 「ゆゆ!それはいいかんがえなのぜ!それじゃさっそく、 むーしゃむしゃー!それなりー!」 地面に転がったどんぐりを、まったく躊躇なく食す二匹のゆっくり。 当然だ、それは誰の物でもない、ただ落ちているにすぎない食料なのだから。 まりさたちがそれを食べたところで何の罪もない。 「あっ!ああああああ!でいぶのどんぐさんがあああああああああああああああ!」 目の前で、必死にの思いをしてまで手に入れたどんぐりを食べられ絶望の声を上げるれいむ。 「ふう、それじゃあいきましょうかまりさ、いつまでも、しりあいのみょんにるすばんをさせていたらわるいわ!」 「ゆゆそうだったのぜ!まったくふべんなよのなかになったものなのぜ!」 「ほんとにね、こんなことのげんいんになったゆっくりは、しねばいいのにね!」 それだけ言うと、れいむを無視していずこへと去っていくまりさとありす。 後には放心状態のれいむだけが残った。 その瞳には溢れんばかりの涙が溜まっている。 「ゆっぐううう!ゆっくり!ゆっくりしたいよおおおおおおおおお! どうしてれいむがこんなめにいいいいいい! うわあああああああああああああああああああああ!」 自身を襲った余りの仕打ちに号泣するれいむ。 しかし、どれだけ泣いたとことで誰かが助けてくれる筈もない。 れいむは、空腹と極度のゆっくりできないストレスにより、この二日後に永遠にゆっくりした。 場所は変わってここは群れの外の狩場。 身も心もズタボロになったれいむがまたここにも一匹。 「ゆぐぐぐ、こんなはずじゃ………」 ずりずりとボロボロになった身を引きずるれいむ。 息も絶え絶えのその様子は、その他のれいむたちよりも一層酷い風に見受けられる。 それもそのはず、このれいむは騒動の発端となったれいむ一派を率いていたボスれいむだったのだ。 このボスれいむの現状は悲惨の一言である。 何故なら、ボスれいむは群れのゆっくりたちからだけでなく、れいむ一派のれいむたちからも恨まれていたからだ。 群れ中から敵視されているとは言え、れいむ一派のれいむたちはまだれいむ同士で組むことができる余地がある。 事実、幾つかのれいむのグループは、巧みに連係することにより、 まったくゆっくりできない劣悪な環境ながらも、何とか生きていくことはできてはいた。 しかし、このボスれいむは、同じれいむたちからさえも、こうなった事態の責任ということではぶられていたのだ。 群れ内にて自分以外が全て敵、まさに孤立無援の四面楚歌の状態である。 もはやこのボスれいむは完全に『詰んで』いた。 「ゆふふふ……ごはんさん、むしゃむしゃしたいよぉ……ゆふふふ…」 虚ろな表情にて、群れの外にある狩場をふらふらとうろつくボスれいむ。 もうずいぶん長い間、食料を口にしていない。 それもそのはずで、どれだけ頑張って食料を確保しても、みなから恨まれているボスれいむは優先的に強奪の対象とされてしまうからだ。 今も狩場の周りにいるゆっくりたちが、チラチラとボスれいむの様子をうかがっている。 ボスれいむが何か食料を手に入れたら、口に入れてしまう前に奪う気なのだ。 「ゆぐぐぐぐ……どうして…どうして!」 ボスれいむは虚ろな頭で考える、自分の計画は完璧だったはずなのだ!何故ならおうち宣言はゆっくりの絶対のルールだからだ。 そうだ!そうだとも!こんなの間違っている!おうち宣言を禁止するなんて、言語道断な行為のはずだ! みんなおかしい!まちがっている! 本来、おうちも家具も食料も、全てがゆっくりしているゆっくりのために存在している、すなわちれいむのために存在しているのだ! しかしそれらは、嘆かわしいことに、ゆっくりできないゆっくりがひとりじめしている! そんな愚かな連中に、あらためてそれらは誰の物であるかを主張し、しっかりと理解させる!それがおうち宣言の本来の意義のはずだ! 「ゆふ…ゆふふふふふふ!」 そうだ!かまうことはない!おうち宣言禁止法など、所詮は自分の利益しか考えないゲスが、 本来れいむの物であるはずの物を横取りしようとして、でっち上げた悪法にすぎない。 そんなもので、でんっとうあるおうち宣言を封じ込めようなどとは片腹痛い! 今こそ真に正しい秩序の復活の時なのだ! ボスれいむは、力の入らない身体を振り絞り、大きく息を吸う。 そして、渾身の気力をもって、高らかに宣言する。 「ここをれいむのゆっくりぷれいすにするよ!!!」 決まった!見たか!これが完璧なおうち宣言だというものだ! これで愚か者どもも理解したはずだ。 いったい何が正しいことかということを! この群れがいったい誰のものかと言うことを! そしてこのむ……。 グサ! 「………あ?」 ボスれいむの思考は突然自身を襲った未知の衝撃により中断した。 ボスれいむのすぐ後ろにはみょんがいた、そしてみょんは木の枝を加えており、その枝は後ろからボスれいむの身体を後ろから貫通して前に突き出て……。 「ゆぎゃあああああああああああああああああああああああ!」 事態を把握したボスれいむの口から絶叫がほとばしる。 「みょん!こいつは、むれのおきてできんしされている、おうちせんげんをやらかしたみょん! これはもうせいっさいするしかないみょん!」 「ゆゆ!そうだねこんなげすはせいっさいだよ!」 「わかるよー!やっとげすがほんしょうを、あらわしたんだねー!」 「おきてをやぶったんだから、しょうがないわよね!」 グサグサグサ! 四方八方から枝を加えたゆっくりたちが迫り、次々と身体を貫かれていくボスれいむ。 「ゆぎょえええええええええ!やべでええええええええ!だずげでええええええええええ!」 痛みで我に返ったボスれいむが、必死に助けを求める。 しかし、ただでさえみんなから嫌われている上に、新たなる掟であるおうち宣言禁止法をも破ってしまったボスれいむの声を聞くものはいない。 いや、それどころか、みなボスれいむを直接制裁する口実ができたと、積極的に木の枝を突き刺してくる。 「なんでええええ!なんでわからないのおおおおおおお! ぜんぶれいむのもののはずなのにいいいいいい!おうちせんげんしたでしょおおおおおおお! いだいいいいい!やべでえええええええ!」 多数の木の枝で全身を貫かれ、ハリネズミのような有様になったボスれいむ。 もはや誰もボスれいむの話を聞いてなどいない。 このまま苦痛と絶望に飲み込まれながら、ゆっくりと死に絶えていくことだろう。 ボスれいむが最後までしがみついていたおうち宣言など、所詮状況が変わればただの悪法にすぎないということだ。 「れいむ、けっきょくのところおうちせんげんは、あなたが、いいえ、ゆっくりたちが、 おもっているほど、ばんのうではないとうことなんでしょうね。 それにさいごまできづかなかった、いや、きづこうとせずに、おうちせんげんをしたあなたは、ゆっくりのかがみかもね。 でもぱちぇはそんなのはごめんだわ」 制裁されるボスれいむを遠巻きに眺めながら、長ぱちゅりーはそんなことを呟いたのだった。 おしまい。 以下全然読む必要のない後書き。 こんな拙い文章を最後までよんでくださってありがとうございました。 何が面白いのかわからなくなったら初心に帰ればいい。 今回のテーマは回帰、まあ上手くいったかどうかはわかりませんけどね。 少しでも読者の方々がゆっくりできたら幸いです。 と、まあそんなわけでまた次の機会によろしくお願いします。 ナナシ。
https://w.atwiki.jp/power99/pages/58.html
メイン 4 アカデミーの伝承師 4 竜亀 4 夜群れの伏兵 4 凍氷破 4 タッサの介入 4 腹背 /// 面従 4 提督の命令 4 クアンドリクスの命令 4 群れの渡り 4 伐採地の滝 1 平地 12 島 1 森 4 神秘の神殿 4 蔦明の交錯 2 伐採地の滝 サイド 3 庁舎の歩哨 4 待機 4 岸の飲み込み 4 恋煩いの野獣
https://w.atwiki.jp/futabayukkuriss/pages/846.html
つむりとおねえさん 63KB ・タイトルでわかるでしょうが、まりさつむりが出ます ・ていうか、モロにキリライターあきさんのつむり漫画にインスパイアされました ・同じようなシチュエーションで、違う展開になるような感じ ・漫画や、その原作のSSを読んでなくても問題はありません ・特に愛でではなく、特に虐待でもなく、と作者当人は思っています。 ・ごめん、やっぱ特定種虐待かも。 とある森の広場に、大勢のゆっくりが集まっていた。 「ゆゆ! もう、まりさはあんなのと一緒に暮らしたくないよ!」 一匹のゆっくりまりさが、大きな声で言っている。 「ゆゆぅ……」 「……まりさがそう言うのもしょうがないね」 「でも、あの子はどうしようか……」 他のゆっくりたちはそれを聞いて、諸手を上げて……というわけではないが、その言い 分に同意しているようだ。 「とにかく、まりさのおうちには置いておけないよ! またかわいいゆっくりしたつむり がやられたら大変だよ!」 まりさは、さらに言い募る。 「ゆぅ……つむりちゃんがあぶないのは駄目だよね」 「ゆっくりできなくなるよ……」 「長……」 「むきゅぅ」 話を振られて、この群れの長をしているぱちゅりーが答える。 「とにかく、おちびのまりさはもうつむりと一緒には住めないわ。でも、まだ小さな子だ から群れから追放したらぜったいに死んじゃうから、追放もできない。どうするかはこっ ちで話し合って決めるわ」 ぱちゅりーが「こっち」と言っているのは、長とその側近の群れの幹部による会議のこ とである。それほどおかしな結論を出したことは無いので皆には信頼されている。 「ゆん! まりさは、あいつがおうちから出ていくならそれでいいよ!」 まりさは納得した。 そして、そのまりさが納得したのなら、と他のゆっくりたちも全てを長と幹部に任せる ことにした。 ゆっくりたちが思い思いの方向に散っていく。 残ったのは、長のぱちゅりー、幹部のまりさ、れいむ、ありす、ちぇん、そして頭はよ いが体が弱いぱちゅりーの世話や護衛をしているみょん。 「みょん、あの子を見ていてね」 「ぺにす!」 みょんは、了解して跳ねて行った。行く先は長のおうちだ。そこには一匹の子まりさが 怪我をした体を横たえて眠っていた。 子まりさをみょんに任せ、ぱちゅりーたちは幹部会を開いた。と、言ってもその場で円 になって話し合うだけだが。 「長……どうしようか」 「……ようするに問題は、あの子をどうするかよ。それさえ解決してしまえばいいわ」 事の発端は、とある特殊な一家での出来事であった。 番を既に亡くした親まりさが二匹の子供を育てていた。 その一家を他と異ならしめていたのは、まりさつむりの存在である。 長女の姉まりさは黒白帽子を被ったごく普通のまりさだったが、次女の妹が帽子の代わ りに貝殻を被ったまりさつむりであった。 本来は水辺に生息するまりさの変異種であるが、ごくごく稀に、普通のまりさからも産 まれることがある。ただ、その場合は本来のまりさつむりが持つ水に強いという特性が無 く、帽子が貝殻であること以外は普通のまりさ種である。 その貝殻は帽子よりも遙かに重いために跳ねられず、移動速度はゆっくりにも程がある 遅さである。 重い代わりに固いので貝殻を防御に使えないこともないが、所詮帽子の代わりに頭に乗 っている程度の大きさなので完全に体を隠すことはできず、重さのデメリットを覆うほど のメリットは期待できない。 はっきり言って、通常のまりさ種が劣化したとしか言いようが無いのだが、本当にごく 稀に生まれるために希少価値があり、珍しいものをゆっくり感じるゆっくりたちには持て 囃され易い。 現に、そのつむりも群れの人気者であった。 その影で不平をためていたのが姉まりさである。 既述のごとく、つむりは移動にも困難をきたすほどであるので、親まりさはつむりの世 話にかかりっきりで、二言目には「おねえさんは自分でできるでしょ」であった。 しょうがないことなのだが、それをしょうがないと諦めるには姉まりさは幼過ぎた。 つむりが群れのみんなにちやほやされているのを誇らしげにするのも気に入らなかった。 親まりさとしてはあくまでもつむりを誉めているだけで他意の無いつもりでも、愛情に飢 えた姉まりさはそう受け取らない。 遂には、だいぶひねくれた性根になってしまっていた。 「つむりはとてもゆっくりできるね!」 という言葉は、自分はゆっくりできない子だ、という非難に、 「つむりはみんなの人気者だね!」 という言葉は、お前はみんなに好かれてないね、という罵倒に、 「つむり、おかあさんの帽子に乗っておさんぽに行こうね」 という言葉は、お前はついてくるな、という拒絶に――。 そして、今日、とうとうそれが爆発した。 親まりさが狩りに行っている間、いつものようにつむりの世話をしていた姉まりさは、 つむりが転んで動けなくなったのを助けようとして、ぴたと立ち止まった。 ――こんなやつ、ぜんぜんゆっくりしてにゃいよ! と、姉まりさは思った。いったいこれのどこがゆっくりしているのか、ドン臭くて転ん だら自分で起き上がることもできないじゃないか。 そうしているうちに、どんどん姉まりさの中で妹への軽蔑が育っていった。 ――こいつ、ずっとおかあさんにめんどうみてもらうつもりにゃの? ゆぷぷ、と嘲笑った。そうすることで、たまりにたまったストレスを解消していた。 これまでも、姉まりさはこうやって珍しいという以外に取り得の無いつむりを軽蔑する ことで、爆発寸前の感情を抑えていたのだ。 だが、その日のそれは少し長かった。 そのため、いつもならすぐに助け起こしてくれるはずの姉まりさがいつまでも来ないと 思ったつむりが声を上げた。 「にゃにちちぇるの! はやくたちゅけちぇよ!」 命令しよう、とかそんな気持ちは当然つむりには無かった。多少言葉遣いが乱暴なのは 姉妹ゆえの気安さである。 「ゆっ!」 しかし、親の何気ない言葉ですら自分への雑言に変換してしまう姉まりさである。もち ろんそれをつむりが自分を下に見ていると受け止めた。 「なにいってるにょ! じぶんでおきれないむのーめ!」 姉まりさは、つむりの貝殻を押した。 「ゆわわわわ!」 ごろりと貝殻が転がり、それにつむりの体は持っていかれてしまう。 「ゆぷぷぷぷ!」 姉まりさはそれがあまりに無様なので面白がって何度も転がした。 「や、やめちぇぇぇ! たちゅけちぇぇぇ! おきゃあしゃーん!」 とうとうつむりが号泣した時に、親まりさが帰ってきた。 親まりさは激怒して、姉まりさを折檻した。 「いもうとをいじめるなんてゆっくりしてない子だよ!」 「いぢゃぃぃぃ、やめぢぇぇぇ!」 今度は姉まりさが痛みに泣き叫ぶ番だった。 そして、その折檻は次第に折檻の域を超えていく。 「つむりをいじめるクズはゆっくりしね!」 凄まじい勢いでの体当たり。死んでもおかしくない一撃。 その言葉も、その威力も、はからずも自分では平等に接していたつもりの親まりさが無 意識のうちに、珍しくみんなに持て囃されるつむりの方を優先していたことを示していた。 それをはっきりと姉まりさは感じ取った。 あくまでも、「いもうと」をいじめるのはいけないことだ、と言っていたのならばよか ったのだが――。 つむりも泣いていたし、姉まりさも泣いていた。それを聞きつけておとなりのゆっくり 家族が何事かとやってきて、姉まりさが怪我をしているのを見て驚いて群れのみんなを呼 んだ。 姉まりさは、長ぱちゅりーが適切な治療を施して自分のおうちに寝かせたので命に別状 は無かった。 広場で群れの集会が開かれ、そこで親まりさは何があったのかを長から尋問されてあり のままを正直に答えた。 群れには掟があり、それによると親による子供への体罰は認められているものの限度が あり、目安としては皮が破れ、餡子が出たらやりすぎということになっている。 姉まりさは最後の強烈な体当たりを貰った時におうちの壁にぶつかって少し皮を切って いたために、親まりさはぺんぺん三回の刑を言い渡された。 ぺんぺんとは……ようするにおしりぺんぺんである。ぷりんと尻を出させてそこを口に くわえた棒で叩くのだ。 親まりさは掟に従い罰を受けた。 しかし、その直後、じんじんした尻の痛みに耐えつつも、親まりさは言ったのだ。 もう、あの姉まりさと一緒に暮らすことはできない、と。 通常ならば、姉妹の間でのことだしつむりに怪我らしい怪我はなく、やった姉まりさも 相応のおしおきを受けているのだからそんなことは言うもんじゃないと長や幹部たちが諭 して、他のゆっくりたちもそれに同意して宥めにかかるところである。 だが、希少なとてもゆっくりできると評判のまりさつむりが絡んでいるだけにそう単純 には行かなかった。 また同じことがあったら、今度はつむりが死んでしまうかもしれない、そうなったら大 変だ、と親まりさが主張し、他のゆっくりたちがそれに理解を示したのである。 ――まりさつむりは珍しくてとてもゆっくりできる。それは保護するべきだ。 長と言っても、ぱちゅりーは強権でもって群れを治めているわけではないので、その状 況では、もはや姉まりさには親と妹と同居を続けることを諦めてもらうしかなかった。 「むきゅぅ……やっぱりなんとかまりさを説得するべきかしら」 諦めてもらうしかない、とは言うものの、長ぱちゅりーは迷っていた。親まりさを説き 伏せてやはり家族一緒に暮らすのがゆっくりできる道ではないのか、と思い直しているの だ。 「ゆん、いいかな」 幹部のまりさが発言を求めた。 「むきゅ! なにかしら」 と、発言を促したぱちゅりーの目は輝いていた。 この幹部まりさは、幹部の中でも特に信頼されていた。他のれいむ、ありす、ちぇんら がこの群れで産まれ育ったのに対し、このまりさは方々を流れ歩いていて半年ほど前にこ の群れに入ったばかりである。 いわば生え抜きではなく外様であるが、やはり知識や経験が豊富で、瞬く間に長をはじ めとする群れのゆっくりたちに頼られるようになった。 「いっしょに住ませないようにするのはいいと思うよ」 と、幹部まりさは言う。 「まりさが聞いた話なんだけど……」 と前置きして、幹部まりさはかつて耳にしたという話を披露した。 ほとんど今回の事件と同じである。 二匹のまりさが生まれ、片方がまりさつむりだった。親は重い貝殻で動けないつむりの 世話にかかりきり、みんながちやほやしてくれるのでますますつむりへ愛情を注ぎ、それ を不平に思ったもう一匹の子供が親が留守の間につむりに暴力を振るったのだ。 そちらの方はこちらの方よりも悲惨な結末を迎えた。つむりが死んでしまい、帰ってき た親が激昂してもう一匹の子供を殺した。 結局、その親は二匹の子供を失った上に、子殺しの罪でゆっくり死刑になるところを、 事情をくまれて群れからの追放刑をくだされた。 親子三匹が三者ともゆっくりできなくなったわけである。 「むりに一緒に住ませてたらそういうことが起きるかもしれないよ」 と、幹部まりさは言う。 「むきゅ、それならやっぱりあの子の引き取り手を探すしかないわね」 「ゆぅぅぅ、誰がいいかしら」 「ゆん! それならまりさが引き取るよ!」 と、幹部まりさが言ったので長たちはびっくりした。 「みんなも知っての通り、まりさはわるい人間さんにいじめられてもう赤ちゃんを産めな いんだよ」 それはまりさが群れに入ってすぐに聞かされたことがあった。その際に番のれいむと子 供たちを殺されたことも。 「だから、あの子を自分のおちびのつもりで育てるよ」 「ゆゆっ、まりさがそう言ってくれるなら」 「まりさったらとかいはね!」 「ちぇんももちろんさんせいだよー、ねえ、長」 「むきゅ、ぱちゅもまりさが引き取ってくれるなら安心だわ」 というわけで、まりさのおかげで一気に話はついた。 「ゆぅ……」 「ゆっくりしていってね!」 しばらく長のおうちで傷を癒してから幹部まりさのおうちに移った姉まりさは、歓迎の 挨拶に返事もせずにいた。 言われれば思わず返事をしてしまうはずのゆっくりしていってねに無反応という時点で、 姉まりさが相当心に傷を負っていることがわかる。 「まりさの寝るとこはそこだよ! ごはんもあるからむーしゃむーしゃしようね!」 草を敷き詰めた寝床に、たっぷりのごはん。 「むーちゃむーちゃ」 機械的にごはんを咀嚼してから、姉まりさはおやすみも言わずに寝床に転がった。 「ゆっくりおやすみ!」 その声に対しても無反応であった。 幹部まりさは、優しい笑顔でそれを見ている。 無理も無いのだ。 姉まりさは、ついさっき怪我から回復したところへ、ことの次第を聞かされたのだ。つ まり、親がもう自分と住みたくないと言ったことを。 ――まりさは、もうどうなってもいいよ。 ――おかあさんと住めないなら、もう一人で暮らすよ。 ――このおうちも、すぐに出ていくよ。 そう思いながら、姉まりさは眠りについた。 「出て行くの?」 「ゆん」 翌朝、姉まりさは目覚めるとすぐに幹部まりさに出て行くことを告げた。 「ごはんとか自分で取れるの? おうちは作れるの?」 「ゆ? ゆぅ……」 改めてそう言われれば、そんなことは一切できないことに気付く。どんなに一人で生き ていくと言ったところで、そんな知識も能力も無い。 「そ、それでも、まりしゃはひとりでくらしゅんだ!」 泣きながら叫んだ。 「じゃあ、一人で暮らす方法を教えてあげるよ」 あっさりと幹部まりさは言った。 「ゆゆ?」 「まりさは、この群れに来るまえは一人でたびをしていたから一人で暮らす方法を知って いるよ。だから、それを教えてあげるよ」 「ゆゆゆ?」 「それを覚えて、もっと大きくなったら独立して一人で暮らせばいいよ」 「……」 捨て鉢だった姉まりさは、閉じていた目を開かされたようだった。 まりさの特訓が始まった。 幹部まりさは狩りにまりさを連れて行った。跳ねる速度が全く違うために、帽子の上に まりさを乗せていった。 ――お帽子さんの上にのってるよ! いつも、おかあさんのお帽子に乗せてもらうのはつむりだった。貝殻の重量があるので つむりを乗せればいっぱいいっぱいなので、まりさは乗せてもらえなかった。 「ようく見学するんだよ!」 まりさを下ろして、幹部まりさは狩りをする。 テキパキと食べ物を集める。他のゆっくりたちと比べればその成果は一目瞭然であった。 ――このまりさ、すごいよ! 幹部まりさの意図した通りになった。まずそうやって自分の力を見せつけ、言われた通 りにしていれば自分もこうなれると思わせる。 それから、幹部まりさは様々なことを教えた。 効率的な狩りの仕方。 虫さんとの戦い方。 或いは、戦ってはいけない虫さんのこと。 小動物や捕食種などをやり過ごすための擬態のやり方。 まりさ種の特殊技能とも言える帽子で水に浮くやり方。 おうちの選び方。 そして、他のゆっくりとの戦い方。 一人で暮らせるようになるために、まりさはそれらを次々に吸収していった。 二匹の関係が少し変わったのは、まりさが成体サイズになりかけの頃だった。 自分で虫を取れるようになり、狩りが面白くてしょうがないまりさは、ついついできる だけ戦うなと言われていたカマキリに挑み、見事にざっくりと頬を切り裂かれてしまった のである。 すぐに幹部まりさが駆けつけてきてカマキリを追い払ったので助かったが、まりさはこ っぴどく叱られると震えた。 「ゆっ!」 しかし、幹部まりさは叱ったりはせずに、すぐにまりさを群れに連れ帰り、長のおうち へ行って治療してもらった。 「長、ゆっくりしないではやくしてね!」 いつになく取り乱している幹部まりさを、怪我している当人であるはずのまりさはどこ となく第三者のような目で見ていた。 第三者と言っても、醒めていたのではない。 むしろ、そんな視点で見たことにより、いかに幹部まりさが自分を大切にしているかを 知った。 「まりさ、まだカマキリさんと戦うのは早いよ。ゆっくりりかいしてね」 お叱りは、怪我の治療が終わってからだった。叱りつつも、愛が感じられた。 「ゆ、ゆっぐりりがいしぢゃよ」 まりさは、泣きながら言った。 それから二匹の仲は単なる一人で生きていく方法を教え学ぶというだけの関係から、よ り親密なものになった。 「おとうさん、きょうも狩りは上手くいったね!」 「ゆん、そうだね! まりさが手伝ってくれるからとても楽になってゆっくりできるよ」 一緒に暮らし始めてから一年。 既に、まりさは幹部まりさをおとうさんと呼ぶまでになっていた。 幹部まりさ――以後は義父まりさと呼ぼう――は、教え子の成長に満足していた。 もう、立派に一人で暮らしていける。 しかし、それを言わないことに義父まりさは一抹の後ろめたさを感じていた。 ――もう少し、もう少しだけ、この子と一緒に―― 義父まりさの、子供とともに暮らしたいという都合によるものだった。 ゆっくりの寿命は、それほど長くはない。 義父まりさは、自分の命数も残り少ないと感じていた。だからこそ、その短い間だけで もこの子とともに、二度と再び得られると思っていなかった我が子とともに――そんな気 持ちを抑え切れなかった。 「ゆっくりただいま!」 「ゆっくりただいま! それじゃ長のおうちに行こう」 「ゆん!」 親子は群れに帰ってくると長の家に向かった。 狩りの得意なこの親子は、自分たちが食べる分よりもかなり多くの食べ物を調達してく るので、その余った分を群れの備蓄として、長のおうちの貯蔵庫に入れているのだ。 長のおうちは、広場に面した所にある。 「ゆゆっ!?」 広場には、群れのゆっくりがほとんど集まっていた。 「むきゅ、おかえりなさい」 それは、どう見ても集会であった。 「まりさたちは今日はちょっと遠出していたから朝からずっといなかったんだけど、何か あったの?」 「むきゅ、まりさが怪我したのよ」 ゆっくりたちは微妙な、あまりに微妙すぎてゆっくりにしか理解できないニュアンスの 違いで名前を呼び分ける。 「ゆゆ!? まりさが!?」 「……」 義父まりさが驚き、まりさは沈黙する。 怪我をしたまりさと言うのは、まりさの親だったのである。 狩りの途中に高いところから落ちてあんよを大怪我したらしい。ぱちゅりーの見立てで は、おそらく完治は不可能とのこと。 「それで、どうするか話し合っていたんだね」 「ええ……」 と、答えるぱちゅりーは歯切れが悪い。どうしたのかな? とまりさたちが訝しげに思 っていると、幹部のちぇんが言った。 「それで、もうまりさは狩りが満足にできないから、まりさが戻ればいいって言ってたん だよ」 どちらもまりさなのでややこしいが、要するに親まりさが狩りができないので、姉まり さが元のおうちに戻って親と妹のつむりの面倒を見ろ、ということである。 「ゆゆゆ!?」 正直、冗談じゃない、という感じの声をまりさは上げた。本来の親のことも妹のことも 忘れかけて「おとうさん」と新たな生活をしているというのに――。 その態度から、拒絶の意思を感じた他のゆっくりたちは口々に戻るべきだ、親と妹をゆ っくりさせてあげるべきだ、と言った。 この辺りは、ずるいと言うべきだろう。 つむりはとてもゆっくりできるね、とちやほやしておきながら、重たい貝殻をかぶった つむりの面倒を見るのは相当に困難であることは親まりさのことを見て重々承知している ゆっくりたちは、自分がそれをやるのはごめんだと思っているのである。 「ゆゆぅ」 「むきゅぅ……」 義父まりさはぱちゅりーを見て渋面になった。群れのゆっくりたちがこれだけ同意見だ と、もう長でも覆せない。 義父まりさは、まりさを戻したくはなかった。それならばさっさと一人立ちさせた方が いいと思っていた。 一度、まりさが一人で出かけて帰ってきた時に、 「ゆん、さっきつむりとおかあさんを見たよ」 と言ったことがあった。既に義父まりさをおとうさんと呼び始めた頃だった。 「それで、どう思った?」 と聞いたところ、 「ゆぅ……それが、どうとも思わなかったよ」 と、まりさはゆっくりと笑った。 義父まりさは、僅かな悲しさは感じたものの、これでいいのだと思った。親と妹に屈折 した感情を持っていたまりさである。どうとも思わない、というのは餡子を分けた家族に 対していかにも冷たくゆっくりしていないようだが、まりさにとってはそれが十分に前進 なのだ。 いや、むしろどうとも思わないことによって、まりさは過去を吹っ切って前に進もうと することができるのかもしれない。 しかし、圧倒的多数の言葉が、まりさを攻め立てる。これに抵抗するのは群れの一員で ある以上非常に難しいことだった。 「ゆゆぅ……」 弱気になったまりさは、義父まりさを見て、それから親まりさを見た。 「ゆっ!」 まりさは衝撃を受けた。 まりさとしては、そこで親まりさが過去のあれこれは水に流してまた一緒に暮らそう、 と言えば少しは心が動いただろう。 だが、親まりさの目にはありありと嫌悪感がにじみ出ていた。あんな奴とは一緒に暮ら したくないが、しょうがない、と言わんばかりの目。 「……やだよ」 その目を見た次の瞬間、まりさは言っていた。 「戻りたくないよ。まりさは、まりさはおとうさんとずっと暮らすんだ!」 「そ、そんなのゆっくりしてないよ!」 まりさへの反論がなされると、すぐさまそれに同調する声が上がる。 義父まりさは、その間にも、他の幹部に詳しい話を聞いていた。 そもそもまりさは、つむりに暴力を振るった罪でおうちを追い出されて義父まりさに引 き取られた、という形になっている。 今回のことは、その罪を許しておうちに帰す、ということになっている。 それゆえに、拒絶を続けるまりさに対してこんな声が上がった。 「それなら追放だよ! おうちに戻るか群れから出ていくかどっちかだよ!」 またまた、それに賛同する声が上がる。 「ゆっ!」 義父まりさは、それを聞くと長ぱちゅりーを見て叫んだ。 「長! まりさがおうちに戻るか群れから出て行くかを選ぶということでいいんだね!」 「むきゅ」 ぱちゅりーは突如そう言われて戸惑ったが、すぐに義父まりさの意図を了解した。ぱち ゅりーが頭がよかったこともあったが、義父まりさは、ぱちゅりーにだけは、実はもうま りさは一人立ちできるんだけど自分の我侭でそのことをまりさには告げていないことを話 していたからだ。 「そうね。みんなの意見もそのようだし、そういうことにするわ。まりさ、明日の朝まで に、どちらかを選びなさい」 「ゆ!? ……そ、そんな」 まりさは、二択に見せかけた一択を与えられた気分で泣きそうであった。群れから出た ら生きてはいけない以上、もう一つの選択をするしかないではないか。 「ゆぅ……」 「……」 親まりさを見ると、まりさがおうちに戻ることを拒絶したことに気分を害したらしく、 先ほどよりもさらに険しい目をしている。 あんな親がいるところへは戻りたくはなかった。 「それじゃ、解散よ」 「ゆっくりかいさんするよ!」 「ゆゆぅ、なんとかなってよかったね!」 「ゆっくりおひるねするよ」 「むーしゃむーしゃしようね」 ぱちゅりにー言われて散って行くゆっくりたちは、全て解決済みだという態度であった。 選ばせると言いつつも、選択の余地などないことは明らかだったからだ。 皆、群れで生まれ、群れで育った。群れからの追放は、それだけで死を意味した。 「まりさ、朝までに考えておくんだよ」 おうちに帰って義父まりさにそう言われたまりさは、信頼していたおとうさんと長が自 分の味方をしてくれなかったことに怒り叫んだ。 「考えるっていっても、そんなの決まってるよ! 群れから出ていけるわけないんだから、 まりさは前のおうちに戻るよ!」 「ゆゆ? なんで?」 不思議そうな義父まりさに、まりさは絶句する。ふざけるなと言葉を叩きつけようとし た時、義父まりさがゆっくり微笑んで言った。 「群れから出ていけばいいよ。まりさなら、立派に一人で生きられるよ」 「ゆゆゆ? ほ、本当に?」 憧れていた。一人で暮らすことに、そんなゆっくりになることに。 「そのために、おとうさんはたくさんのことを教えたんだよ。まりさはもう大丈夫だよ」 「ゆっ、ゆぅぅぅ」 尊敬する義父まりさにそう言われて、まりさは感極まって涙ぐむ。 涙腺が決壊したのは、義父まりさの次の言葉によってだった。 「今までそのことを黙っていてゆっくりごめんね。……まりさと少しでも一緒に暮らした かったんだよ。……じぶんで一人で暮らせる方法を教えたくせにね」 「ゆ! ま、まりじゃも! まりじゃも、おどうざんど!」 「ゆん、うれしいよ。こんどのことはむしろいいきっかけだと思うんだよ。こんなことで もないと、まりさはいつまでもまりさと離れられないからね」 「ゆっ! ……ゆ、ゆっぐりりがいずるよ!」 翌朝。 広場に群れのゆっくりたちが集まっていた。 長ぱちゅりーの前に、まりさがいる。 「まりさ、ちゃんと決めたわね?」 「ゆん!」 それに頷くと、ぱちゅりーは改めてまりさに問う。 「まりさ、前のおうちに戻るか、群れから出て行くか、どっちにする? ゆっくりよく考 えて答えるのよ。一度答えたら無かったことにはできないわ」 「群れから出て行くよ! まりさは一人で暮らすんだ!」 迷いなく答えた。 それがわかっていた一匹のまりさと、それを予想していた一匹のぱちゅりー以外のもの はまるでまりさが言った言葉が全く理解できない未知の言語でもあるかのような呆けた顔 をしていた。 「ゆゆん」 まりさは、不適に笑っていた。どいつもこいつも、どうせまりさは前のおうちに戻る方 を選ぶのだと思い込んでいたに違いない。そういった勝手な思い込みを覆すのには、ある 種の爽快感があった。 「ゆ、ゆっくりできないよ!」 誰かがそう言ったのを手始めに、様々な声が上がった。ようは、群れから出たらゆっく りできないから止めろ、というのだ。勝手な思い込みをしていたことを完全に露呈した形 となった。 「むきゅ! この答えは覆せないわ」 「そうだよ、どちらかを選ぶように言ったのは群れのみんなでそれを長が認めたんだから、 選んだことを止めさせようとするのはゆっくりしてないよ!」 ぱちゅりーと義父まりさがすかさず言った。 集会でみんなが望み、長が承認したことは群れの掟と同じである、という掟なのである。 既に旅立ちの用意はできていた。 まりさは、すぐに群れを出ることにした。 義父まりさや長、幹部たちをはじめとしたゆっくりが見送りに来ていた。 親まりさは、長のおうちの貯蔵庫から食べ物を援助すると言われて、それならあんな子 に面倒見てもらわないでも大丈夫だよと言って、愛するつむりのいるおうちに帰ってしま った。 それに対してまりさは、どうとも思わなかった。 「ごはんだよー、もってってねー」 幹部のちぇんが葉っぱにくるんだ食べ物をくれた。 「まりさ……ほんとうに行くの?」 幹部れいむが、心配そうに言った。 「れいむ、もうこの子が選んだんだから……」 幹部ありすが自分も心配そうにしつつも、れいむを嗜めた。 「まりさなら、だいじょうぶだみょん!」 口にくわえた棒を、くいっと上げて、長の護衛のみょんが言った。みょんには口で棒を 操る方法を教わっていた。いわば、第二の師であった。 「むきゅ……まりさは追放だから。この群れの近くに来ては駄目よ。……でも、それでも ゆっくり死刑になったりしないわ。だから、本当に危なくなったら遠慮なく帰ってきてい いのよ」 「それじゃあ、まりさ。おとうさんが教えたことを忘れないでね。まずはちゃんとしたお うちを見つけるんだよ。それから、それから……」 「ゆゆん、おとうさん、大丈夫だよ!」 「ゆゆぅ、しっかりね。まりさ。しっかりね」 結局最後まで未練がましいのは義父まりさであった。 名残惜しくはあったが、まりさは、とうとう群れから出た。 一月が経った。 まりさは、元いた群れから少し離れた――と言ってもゆっくりの足ではけっこう遠い― ―所へおうちを構えて立派に生活を営んでいた。 群れを出てから、すぐにおとうさんと狩りをしながら目をつけておいた洞窟をとりあえ ずのおうちにして、そこを基点にして四方を探索し、とうとう群れから距離があり、雨露 も凌げてさらには少し高いところにあるため浸水等の心配もない理想的な洞窟を見つけて そこに住むことにした。 「ゆっ! ここをまりさのおうちにするよ!」 と、おうち宣言をした時は、感無量であった。 「ここはまりさのゆっくりプレイスだよ! たくさんゆっくりするよ!」 憧れていた一人の生活。 だが、既にたっぷりと義父まりさの愛情を受けてしまったまりさだ。寂しさは否めない。 「ゆゆん」 その寂しさを紛らわすように、まりさは近辺の探索に出た。義父の薫陶よろしくゆっく りと慎重に進む。 陽が落ちかかる頃には寝床に敷く草と、少しばかりの木の実を調達することができた。 「ゆゆゆゆゆ! きょうはちょっと遠くまで行くよ!」 新たなおうちに住み始めてから半年、まりさは思い切ってあんよを伸ばした。 以前、よく義父まりさと遠出の狩りをした時にゆっくりおひるねしていた草原に行って みたのだ。 運がよければおとうさんに会えるかも――。 そう思っていたまりさの期待は叶えられることになる。 「ゆぴぃ~」 とおひるねしているのは、見間違えるはずもないおとうさんだ。 「そろーりそろーり」 「ゆゆっ!?」 近付いてびっくりさせてやろうとしたまりさの目論見は上手くいかなかった。 さすがはおとうさんだ。ぐっすり寝ているように見えてまりさの立てた微かな物音に目 を覚ました。 「ゆっくりひさしぶり!」 「ゆゆっ、ゆっくりひさしぶり、元気そうでよかったよ!」 義父まりさは、たまたま会ったような風であったが、実はここ最近、まりさがいつか来 るに違いないと思って頻繁にここに来ていた。 「ゆゆっ、おとうさん、まりさね、すごくゆっくりしたおうちを見つけたよ!」 話したいことはいくらでもあった。時間の経つのも忘れて、まりさはいかに自分がゆっ くり立派に暮らしているかを語った。 それからも、時々まりさはその草原で義父まりさと会った。まりさは群れを追放された が、その追放されたまりさと群れのゆっくりが接触してはいけないということはないので、 こうして群れから遠いところで会う分には何も問題は無かった。 「こんど、まりさのおうちにあそびに来てよ!」 「ゆゆん、それじゃおじゃましようかな」 「ぜったいだよ! ゆっくりできるごちそうを用意しておくからね!」 「ゆっ、それは楽しみだよ」 おひさまが三回通ったら……すなわち三日後にまた会うことを約束して別れた。 まりさは、早速明日からおとうさんをもてなすごちそうを探すために狩りに励もうと意 気揚々としていた。 その立派で逞しくゆっくりした後姿を見て、義父まりさはゆっくりと笑っていた。 その姿が見えなくなるまで、じっとそこにいた。 姿が見えなくなると、義父まりさは真一文字に閉じていた口を開けてごほごほと咳をし た。それまでなんとか押さえ込んでいたものが一気に奔出するごとく、咳は長い間止まら なかった。 「ゆゆっ?」 三日後、約束を果たすために草原にやってきたまりさは、義父まりさではないゆっくり がいるのを見つけた。 とてもゆっくりした場所なので、他のゆっくりがゆっくり休もうと思ってもおかしくは ないが、そのちぇん種のゆっくりにはなんだか見覚えがあった。 「ゆっ、ちぇん!」 近付いてみれば、それは元いた群れの幹部のちぇんであった。 「ゆっくりひさしぶり!」 「ゆぅ……ひさしぶりだね」 しかし、なんだかちぇんはゆっくりしていない様子であった。 「ゆゆ? どうしたの?」 「おちついて聞いてね、ゆっくりは誰でもいつかは永遠にゆっくりしちゃうんだよ、わか ってねー」 「……どうしたの? ちぇん」 落ち着けと言いつつ、あからさまに自分が落ち着いていないちぇんの態度と、その言動 にまりさはなんだかゆっくりできない感じがした。 「まりさが……ゆっくりしちゃったんだよ」 「ゆっくりただいまだよー」 群れに戻ってきたちぇんを長たちが出迎えた。 「……」 ちぇんの後ろにいるまりさは案の定沈みきっていて、声をかけるのが憚られた。 「ちーんぽ」 護衛のみょんが、まりさの横についた。 まりさは、義父の死によって、特別に少しだけ群れに戻ることを許されている。その間 は何か変なことをしないように監視がつくのが掟であって、長たちはまりさがなにかやら かすとは思っていない。 義父まりさは昨晩、永遠にゆっくりしてしまったそうだ。 少し前から、咳ばかりしてかなり体調は悪かったという。 ――まりさの前では咳なんかしてなかったよ。 すぐにまりさは、おとうさんが心配かけまいと平静を装っていたことを悟った。 群れの外れにあるおはかに義父まりさは眠っていた。 まりさは、ちぇんから義父の死を知らされてからここに来るまでの間に花を摘み取って いた。それを、おはかに供える。 その後、義父まりさのおうちに行った。所々変わったところはあったが、ほとんどまり さが暮らしていた頃と同じであった。 そして、もう必要無いはずのまりさの寝床がそのままにしてあるのを見て、まりさはゆ ぐっと呻いた。 「……まりさ、一人にして欲しいよ」 「むきゅ、わかったわ。もう時間も遅いから、明日の朝までそこにいることを許すわ。… …みょん」 「まーら!」 みょんが、おうちの入り口に陣取った。 長たちが引き上げてしばらくすると、みょんの所まで微かな押し殺した声が聞こえてき た。 「ゆぐっ、ゆぐっ、ゆええええええええええん! おとうじゃん、おどうじゃーん! ゆ ひっ、ゆわあああああああああん!」 そして、朝。 泣き疲れてそのまま眠ってしまったまりさは、すっきりと目覚めた。 「長、ゆっくりありがとう。それじゃ、まりさはおうちに帰るよ!」 「むきゅ……まりさが、あなたに伝えてくれと言っていたことがあるわ」 「ゆゆっ!?」 ぱちゅりーは、昨日はそれを伝えてもまりさがまともに受け止められる状態ではないと 思い、黙っていたのである。 「まりさは、一人で生きていける方法を教えたけど、それは一人で生きていくためだけの 方法じゃないわ。いつか好きなゆっくりができて一緒に住んで赤ちゃんを産んで家族がで きた時、きっと家族でゆっくりするのに役に立つ。だから、まりさは一人で暮らすという のに変にこだわらないで欲しい……そう言っていたわ」 「ゆゆぅ……ゆっくりりかいしたよ」 一人で暮らすという本懐を達しつつも寂しさを感じていることを、義父まりさは見抜い ていたのだろうか。 まりさは、陽が落ちないうちに、群れを出て行った。 「おみずさんをごーくごーくするよ!」 喉が渇いたまりさは、おうちの近くにある川に水を飲みに行った。この川は所によって は川淵の地面と川面の間が切り立っていて、注意しないと転落する恐れがあった。 淵が緩やかな斜面になっている場所もあり、そこまで行くのが無難なところであった。 しかし、まりさは迷わずに危険な箇所へと跳ねていく。まりさにはおとうさんから伝授 された秘密兵器があった。 「ゆっ?」 先客がいた。 一匹のゆっくりありすが、水を飲もうとしている。 「ゆゆっ、あぶないよ!」 しかし、今にも落ちそうであった。 「ゆんっ!」 まりさは、ありすの髪の毛をくわえて引っ張った。 「あぶないよ!」 「ゆぅ……ゆぅ……ゆぅ……お、み、ず……」 「ゆゆっ」 そこで、まりさはありすの肌が乾ききっていることに気付いた。これは相当に喉も渇い ているだろう。 おそらく、渇きに耐え切れずに歩いているところへ川の流れる音が聞こえ無我夢中で水 に向かったのだろう。緩やかな箇所へ行く気力も無いか、そもそもそういうことを考える ことすらできなかったか。 「ゆゆっ、待っててね!」 まりさはお帽子から、ストローを取り出した。 これぞ、秘密兵器である。人間が森に遊びに来た際に紙パックの飲料を飲んで、パック を捨てていったものからストローをいただいたのだ。 ポイ捨てはゆっくりできない行為だが、まりさにとっては離れたところにある水を吸い 上げて安全に飲めるストローはとてもゆっくりできたので、ポイ捨てに感謝していた。 「ゆっ」 川面にストローをつけて水を吸い上げる。口の中まで吸わずに止め、ストローの中に水 が溜まった状態にした。 そして、それをありすの口元に持っていって水を噴き出して垂らしてやった。 「ゆゆゆゆっ!」 ありすは、僅かな潤いに反応した。 繰り返し繰り返し水を垂らすと、ありすは段々と元気になってきた。 「ゆん、こうやるんだよ」 もう自分で吸えるだろうと踏んだまりさは、ありすにストローを貸して上げて、水の飲 み方を教える。 ありすは物凄い勢いで水を吸い上げて飲み始めた。 「ゆぅぅぅ、たすかったわ。まりさったらとってもとかいはね!」 「ゆゆぅ」 とかいは、というのがありす種にとっては最上の誉め言葉であることを知っているまり さは照れた。 まりさは、ありすをおうちに招いてごはんを振る舞った。 以前ならば、ありすが回復すれば丁重に出て行ってもらっただろう。 だが、今のまりさは義父まりさの遺言により、前よりも積極的に他ゆっくりと関わろう としていた。 カサカサの肌に水を吸わせて汚れを落とすために水浴びをしてきたありすが、意外なほ どの美ゆっくりだったことも一因ではあった。 ありすと暮らすようになって一週間ほど経った。 ありすはまりさほどに狩りは得意ではなかったが、身体能力はやや高く、覚えもいいた めに狩りの助手として十分以上の働きを見せていた。 そうやって二匹で狩りをしていると、義父まりさのことが思い出される。 かつての義父まりさの役目を自らがこなし、ありすがかつての自分の役目ではあるが、 それは懐かしい共同作業の記憶を呼び起こした。 ありすは行くあてもない旅ゆっくりだった。こうして狩りの手伝いをする代わりにまり さのおうちに住まわせてもらっている、という形だ。 その内に出て行く、と言いつつもいつ出て行くかということは両者の間ではちょっとし た話題にも上がらない。 ――ずっと、まりさのおうちにいてもいいよ。 そう言おうとして言えないまりさであった。 「ぜんりつせんっ!」 「ゆゆ!?」 狩りをしていると、声をかけられた。 「ゆゆ、みょん!」 「ひさしぶりだみょん」 それは、元いた群れの護衛みょんであった。 なぜこんなところにいるのかと問えば、狩りに来たという。 最近、群れの周りで採れる食べ物が減ってきているので、みょんのような群れでも体力 のあるゆっくりは遠くまで狩りに出ているそうだ。 長ぱちゅりーは優秀な長であった。 だが、それゆえにその言いつけを守って危険を避けたりした結果、群れのゆっくりが増 えすぎてしまったのである。 「ゆゆぅ、群れのみんなはゆっくりしてる?」 まりさは、尋ねた。 群れを出てから随分と経っている。その間にまりさも色々なことがあった。子供の頃は わからなかったことも少しはわかるようになっている。 「長の言いつけ通りしてるから大丈夫だみょん」 「ゆぅ……それで……」 「みょん?」 「おかあさんと、つむりは、どうしてるの?」 まりさは思い切って言った。群れを出てから徐々に変わってきていたことに、一度は捨 てた親と妹への気持ちがあった。 みょんは、まりさがそんなことを聞いてくるとは思っていなかったので驚いたようだが、 すぐに教えてくれた。 つむりは相変わらず珍しいゆっくりとして、群れで大切にされてゆっくりしているらし い。 「ただ……まりさは……」 と、みょんは親まりさに言及する際に口ごもった。 親まりさは、あんよを怪我して満足に狩りをできなくなり、まりさが群れを出て行って しまってからは長から食料の支給を受けて生活していた。 長からの支給というのは、つまりは群れのみんなが狩りをして、自分たちが食べる以上 の成果があった場合に長のおうちの貯蔵庫へ入れる食べ物からの支給である。 いわば、親まりさとつむりは群れに養われているということになる。 「最初は、すまなそうにしてたみょん……でも……」 と、みょんは俯いて言った。 それが続けば、それが当たり前だと思ってしまう。 いつしか親まりさは、群れをゆっくりさせる珍しくてかわいいつむりと、それを産んだ 親である自分がそういう待遇を受けるのは当然だと思うようになった。 長や幹部はそれとなく注意しようとはしたが、周りのゆっくりが進んでその言い分を認 めてしまうので、親まりさもそれを改める必要を感じていなかった。 とても珍しくてゆっくりできるつむりがいることを、まるで群れのステイタスのように 感じているものが多かったのである。 今では、親まりさはつむりの世話をする以外はほとんど動かなくなっているようだ。そ のつむりの世話も、つむりが成長してきてそれにつれて貝殻も大きくなり重量が増してか らは億劫がっている。 「ゆゆぅ……」 まりさは、複雑な顔をしていた。 親への気持ちが変わった理由に、一人で暮らして狩りをしてみて、はじめてどれだけの ことをしていたのかを知ったからというのがあった。 自分と二匹の子供が食べるだけのごはんを狩り、手のかかるつむりの世話をする。その 労力は大変なものであり、それを思った時、まりさは素直に、 ――ゆゆっ、おかあさん、凄いことをしていたんだ! と、思った。 今でも好きかと言われれば認め難いが、凄いゆっくりだと思う気持ちは事実であり、一 緒に暮らせと言われたらごめんだが、どこかまりさの見えない遠いところでゆっくりして いてくれればいいという程度の気持ちにはなっていた。 話に聞けば、ゆっくりしているらしい。 だが、それは明らかに堕落であり、まりさの感情を和らげている原因である尊敬の念を 失わせる要素であった。 「ゆぅ、教えてくれてありがとう!」 「ちーんぽ! みょんはそろそろ帰るみょん」 みょんと別れて、まりさも、ありすとともにおうちに帰った。 その道すがら、自分がどういう経緯で群れを出て一人で暮らすようになったかをありす に話した。 そして、言った。 「ありすがよければ、ずっとまりさのおうちにいてね!」 さらに、三ヶ月ほどの時が流れた。 まりさのおうちには、依然としてありすが住んでいる。 まあ、つまりはそういうことだ。ゆっくりおめでとう。 しかし、二匹はゆっくりできない顔でおうちの中で身を寄せ合っていた。 おそとでは、凄まじい暴風雨が荒れ狂っていた。 台風である。 風が強くなってきたので早々に狩りを切り上げたのは正解だった。おうちに帰ってから しばらくすると、強い雨が降り出した。 これも義父まりさに仕込まれた慎重さのおかげだと、まりさは今は亡き養父にゆっくり 感謝した。 日頃から、せっせと石を運び込みそれを積み上げて、おうちが浸水してきたら避難でき るようにしていたし、ごはんも石の上に上げてある。 それでも、二匹は震えていた。 どんなに賢く優秀なゆっくりでも、所詮はゆっくりであり、やれることは限られている。 人間ですら完全に克服できているとは言い難い大自然の猛威に対して、万全を期すことな どできるはずもない。 そして、台風はほぼ丸一日をかけてゆっくりと通過していった。 入り口を塞いだ枝やら葉っぱやらを除けて外に出て見ると、一帯がメチャクチャになっ ていた。まりさとありすが出会った近くの川も大増水していた。 それでも、おうち選びの際に高いところにあることを吟味したおかげか、浸水の憂き目 に遭うことはなかった。 「風さんも雨さんも帰ったからゆっくりできるよ!」 「ゆっくりしましょうね!」 まだ地面が濡れており、当分外に出て跳ね回るのは危険と判断した二匹は、備蓄の食糧 を食べておうちで過ごした。 台風が去った後は、晴天となり、次第に地面も何もかも乾いていった。 「ゆぅ……ありす、まりさはちょっとお出かけしたいよ」 「ゆ?」 まりさは、群れの様子を見に行きたいと思っていたのだ。 「まりさは、群れからついほーされたけど、長とかみょんとか、それでもまりさに優しく してくれたゆっくりはいたんだよ」 どうにも、それらの知り合いが心配なのだ。 「わかったわ。私はあしでまといになるから、待ってるわ」 ありすよりも、まりさの方が足が速い。自分が着いていけば、まりさがそれに合わせな くてはならないので、ありすは残ることにした。 「ゆん、それじゃ行ってくるね、ゆっくりしないですぐ帰ってくるよ」 「ゆゆっ」 一応追放中の身なので、こそこそとまりさは群れにやってきた。 「ゆぅ……」 群れのゆっくりが通りかかれば身を隠す。 「みんな……あんまりゆっくりしてないよ」 どのゆっくりも、目がギラついてゆっくりしていない。なんでそんなにゆっくりしてい ないのかと思ったら、どうやら必死になってごはんを探しているらしい。 まりさは、おとうさんに伝授された秘密兵器その2であるびにーるぶくろさんを被って 隠密行動をとった。ゆっくり以外には通じないから気をつけろ、というおとうさんの言葉 はもちろん肝に銘じている。 「おにゃかすいちゃよぉぉぉぉ」 「おちびちゃん、ゆっくりごめんね! おかあさんが狩りが下手だから」 「ゆ、ゆゆっ! お、おにゃかすいちゃけど、がまんすりゅよ!」 「お、おちびちゃん!」 微笑ましくも、いや、微笑ましいからこそ痛ましいそんな親子がいた。 「おにゃかすいちゃよぉぉぉぉ」 「おちびちゃん、ゆっくりごめんね! おかあさんが狩りが下手だから」 「あやまりゅぐらいならさっさとごはん持ってきてね! おかあさんはむのーだにぇ!」 「ど、どぼじでそんなごというのぉぉぉぉ!」 痛い一方の親子がいた。 皆、飢えていた。 ――ゆぅ、長は何してるんだろう。 疑問に思っていると、みょんがいた。 ガサガサと近付き、声をかける。 「だんこんっ!」 みょんは、驚いた。 「全然気付かなかったみょん。これがうわさに聞くおんぎょーのじゅつかみょん」 「みょん、いったいどうしたの? 長は?」 「……いーんぽ」 みょんは、がっくりと沈んだ声を出した。 「長は……まりさのところに行ってしまったみょん」 「ゆゆゆ!?」 長ぱちゅりーは、台風が去った後に死んでしまっていた。 台風そのものに殺されたわけではないが、それへの対策にあれこれ頭を悩ませて働いて いたために過労で倒れたのだ。 そもそも虚弱なぱちゅりー種の上に、長は既にゆっくりとしては老齢と言ってよく、遂 に回復することはなかった。 残された幹部――れいむ、ありす、ちぇんはうろたえた。 すぐに、この三匹の中から次なる長を選ぶべきであったが、そんな程度のことすら考え 付かなかった。 ――こんな時、まりさがいてくれたら。 三匹とも思った。まりさというのは義父まりさのことだ。 幹部を勤めていた三匹は、それなりに優秀だったし自信も持っていた。しかし、長ぱち ゅりーがいなくなってしまったら何をしたらいいのかがわからない。 「わからない、わからないよー」 と、ちぇんなどは壊れたように呟き続けていた。 「わかったよー」 力なく言ったのはしばらく経ってからだった。 そう、ちぇんは理解したのだ。 自分たちは、あくまでも長の指示を受けて、それを実行する能力が高いのであって、自 ら何をするかを考え付くことはできない、と。 それをれいむとありすにも説明し、ゆっくりりかいさせた。 で、理解したからといってどうなるものでもない、それならば誰か別のものを長に立て なければならないが、そんなものはいない。 結局は、この三匹が、群れでは最も優秀なのだ。 そこで、出てきた愚痴が、 ――こんな時、まりさがいてくれたら。 で、あった。 長とまりさのありし日を思い起こしてみれば、長が自らの考えを述べ、何か意見がある かと問うた時、声を上げるのは常にまりさだけであった。 時には、長が、 「むきゅ! それは思ってもいなかった視点だわ!」 と、嬉しそうに言って方針に修正を加えることもあった。 幹部の中で、まりさだけが、長と同じように自ら方針を考えることができたのだ。 ぱちゅりーの過労の蓄積は台風より遙か以前、まりさの死後に始まっていたと言えた。 幹部連は長のおうちで愚痴りまくっていたが、時々思い出したように、 「ゆゆっ! ぐちってる場合じゃないよ!」 「そうね、ぐちに逃げるのはとかいはじゃないわ!」 「これからどうするか考えないといけないね、わかるよー」 とか前向きな感じになったりもしたのだが、それではと思考した瞬間にどっちが前だか 後ろだかわかりゃしねえという感じになり、いつしか交わされるのは愚痴ばかりというグ ダグダ状態に陥っていた。 そこへ、群れのゆっくりたちが押しかけてきた。 群れのゆっくりたちは、幹部連を過大評価しており、長が死んだのは悲しくゆっくりで きないことだけど、幹部が残ってるから大丈夫だ、と安心していた。 台風によって森が荒らされ、狩りが以前より上手く行かなくなり、満足にむーしゃむー しゃできなくなっていた。 皮肉なことに、長ぱちゅりーの台風対策が適切だったために群れで死んだのは過労死し た長だけであり、他のゆっくりは生き残っていた。 本来喜ばしくゆっくりできるそのことが、食糧難に拍車をかけていたのである。 「長のおうちには、こういう時のためにごはんがたくさんあるよ! すぐにそれを配って くれるよ!」 と、もっともな期待を持っていたゆっくりたちだったが、幹部会が愚痴り大会と化して いたためにその期待は裏切られた。 「もうゆっくりしてられないよ! こっちから貰いに行こうよ!」 誰かが言うと、我も我もと賛同者が集まり、群れ全員が長のおうちへ押しかけたのであ る。 「ゆゆゆ、たいへんだよ、みんな怒ってるよ」 「と、とりあえず、ちょぞーこのごはんを配りましょう」 慌てて、望み通りにした。 「ごはんを配るからならんでねー、ならばないとあげられないよ、わかってねー」 愚痴ってばかりだった幹部たちだが、それでも腐ってもなんとやら、やるべきことがは っきりするとテキパキと動いた。 とりあえず、配り始めるとみんなの怒りは鎮静化した。 だが、幹部たちがほっとしたのも束の間、全員に配り終えるとそこかしこから不満の声 が上がった。 「ゆ? み、みんなびょうどーに配ったよ?」 「そ、そうよ、ありすたちだってみんなと同じだけよ」 配分に不満があるのかと思った幹部れいむとありすだが、不満は少し別のところにあっ た。 「ちょぞーこにはもっとたくさんごはんがあるんだぜ!」 「そうだよ! れいむ見たよ、もっとたくさんあるよ!」 一匹一匹あたりの配分量が平等なのは当然のこととして、貯蔵庫にある食料を全てこの 場で分配しろというのである。 「ゆゆ、いっぺんに渡したらいっぺんに食べちゃうよー、そうしたらゆっくりできないか ら少しずつ配るよー、わかってねー」 「まりさはそんなバカじゃないんだぜ!」 「そうだよ、れいむはちゃんと少しずつ食べるよ!」 幹部たちは困惑した。絶対こいつらは貰ったら食べられるだけ食べる、なぜならバカだ から、と思った。 しかし、群れのゆっくりたちがそう言い出したのにも理由が無いことはなかった。 「ちぇんたちは、ごはんを自分たちだけでむーしゃむーしゃするつもりなんだぜ!」 一匹のまりさが言ったのに、同意の声が次から次に上がった。 これは、愚痴り倒していた幹部たちのミスであった。 群れのゆっくりたちが余剰食糧を長のおうちの貯蔵庫に入れていたのは、いざとなった らそれをみんなに配ってゆっくりするためである。 まさに今がいざという時なのに、いつまでも配られないのだから、そういう疑いを持た れるのは仕方無いことであった。 「ゆゆゆ、れいむたちはそんなゆっくりできないことしないよ!」 「みんなのごはんを独り占めなんていなかもののすることだわ!」 「ちょっと配るのが遅れただけなんだよー、わかってよー」 幹部たちは、事態が思っていたよりも深刻で、このままではリンチされることすらあり うると悟ると必死に弁明した。 だが、一度根を張り芽吹いた疑心は、口で何をどう言っても晴らせるものではない。 「ゆぅ、しょうがないよ」 「それでみんなが納得するなら……」 「わかったよー、全部配るからもう一度ならんでね……」 とうとう、疑いを晴らすために、言われるままに貯蔵庫を空にして分配するしかなかっ た。 「みんな、少しずつ食べるんだよ!」 「一気にむーしゃむーしゃしたら駄目よ!」 「そんなことしたらゆっくりできないよ、わかるよねー?」 幹部らは注意したが、空腹でイラついてゆっくりできなくなって幹部の吊るし上げまで やったゆっくりたちは、念願のごはんを手に入れてとてもゆっくりした顔で帰っていった。 「「「ゆゆぅ……」」」 心配そうにそれを見送った幹部たちだったが、見事なまでにその心配通りになって群れ の食糧難はさらに深刻なものになっていた。 「もう、少しずつ食べていたゆっくりたちもちょぞーこから配ったごはんを全部食べてし まったみょん」 もはや、群れの誰もが満腹になるまでむーしゃむーしゃなどできなくなっていた。 体の弱いものや、子供から犠牲者が出始めていた。 死ゆっくりは、群れの外れの墓地に葬られている。 幹部の中から新しい長に選ばれたちぇんが、断固としてとった処置だった。 前の長ぱちゅりーから、飢餓状態になってもゆっくりの死体を食べることはギリギリま で認めるべきではないと、きつく言い聞かされていたからだ。 穴を掘って埋める作業すら空腹の身では億劫であり、葉っぱや草を被せておけばいいの ではないかという意見も出たが、それでは簡単に払いのけることができるので、穴を掘り 返すという労力を強いるためにも、埋めることにしたのだ。 空腹で一度ゆっくりの甘味を口にすれば、もう我慢できなくなる。 そして、とも食いが禁忌でなくなれば、後は疑心暗鬼がはびこり互いを食い合う地獄が 待つのみだ。 「そうなるぐらいなら、飢えて死のうよ。わかってよー」 と、幹部のれいむとありすに言った時のちぇんは、強い意志をみなぎらせていた。長の 貫禄が出てきたとれいむとありすは思った。 しかし、それでも、以前のように長の命令通りに群れが一丸となって動くなどという状 態とは程遠かった。みんな、特に仲がいいもの同士で組んで思い思いに狩りに出て運良く たくさんの獲物を得ても、それを他のゆっくりには悟られないようにして自分たちだけで 分けていた。 長のおうちの貯蔵庫は、あれ以来、空のままである。 とりあえず、しばらくはしょうがないと長ちぇんも諦めているようだ。 「ゆぅ……おかあさんとつむりは?」 「……」 みょんは、黙って跳ねた。 ついてこい、と言っているようだった。 行く先は、墓地である。そこでまりさは悟った。 「……おかあさん」 みょんが棒で指し示した地面に向かって、まりさは呟いた。 当然のことであるが、親まりさは、食糧難の波をもろに受けた。 貯蔵庫を空にした大分配には預かったものの、以降は支給が途絶えた。したくとも、貯 蔵庫は空なのだ。 親まりさは幹部たち(その時はまだちぇんが長になっていなかった)に掛け合った。 つむりを養うために食べ物が要る。 それを、ひたすら下手に出て懇願すれば、一応、つむりは珍しいから大切にすべきと思 ってはいる幹部たちは僅かでも食料をくれたかもしれない。 だが、空腹と先行きへの不安から気が立っていた親まりさは、居丈高に要求したのであ る。 気が立っているのは、幹部たちも全く同様であった。 「ゆっくりでてってね! れいむたちはシングル幹部なんだよ!」 「そうよ、忙しいのにいなかものの相手してられないのよ!」 「もうわかって欲しくもないよー」 親まりさは、追い返されてしまった。 シングル幹部の意味はさっぱり不明だが、おそらく長がいなくて困っている幹部という 意味であろう。 親まりさはあらん限りの罵倒をしたが、無視された。 そこで、他のゆっくりたちから貰うことにした。 ゆっくりたちは、なんとか採ってきた食べ物を、えらっそうに要求する親まりさにくれ てやるのは嫌だったが、そうしないとつむりが永遠にゆっくりしてしまう、と言われると 不承不承ながら少しずつ食べ物を与えた。 だが、その内に何匹か、幹部たちも上げてないのに、なんで自分たちが上げる必要があ ると言ってそれを止めてしまった。 「ゆっくりしてないね! これでかわいいかわいいつむりが死んだら、おまえらのせいだ よ!」 と、親まりさに言われて怯んだものの、食べなければ自分たちが死ぬのだ。 「死んだらゆっくりできないよ! 自分が死んだら、どんなにつむりがゆっくりできても 意味ないよ!」 そう言い放って、そのゆっくりたちは去っていった。 「ゆふん! ゆっくりできない奴らだよ! かわいいつむりにごはんをくれる優しいゆっ くりは他にたくさんいるよ!」 と、親まりさは言ったものの、次々にごはんをくれるゆっくりは減っていき、遂にはお となりに住んでいたれいむ一家だけになってしまった。 そうなると、れいむ一家もすぐに音を上げざるを得ない。分母が激減したのだから、当 然差し出す食料は飛躍的に増大し、親まりさの要求通りにしたられいむたちの方が餓死し てしまう。 「ゆゆぅ、れいむのおちびちゃんにもむーしゃむーしゃさせて上げたいし、これが精一杯 だよ」 と、それでもれいむは幾許かの食べ物を上げようとしたのだが、親まりさがキレた。 「これっぽっちじゃ、つむりがおなかいっぱいにならないよ! それとそれと、その木の 実もちょうだいね!」 「で、でも、そうしたられいむのおちびちゃんが……」 「ゆゆゆっ!!」 そこで、親まりさはこれまで思っていても言わなかったことを口にしてしまう。 「そんなおちびちゃんなんかよりつむりの方が大事だよ! つむりのために死ぬならゆっ くり死ねるでしょ!」 「ゆゆゆっ! まりさはゆっくりしてないよ! 確かにつむりちゃんは大事だけど、れい むのおちびちゃんだって大事だよ!」 さすがに、れいむが怒った。 「いい加減にするんだぜ!」 そこへ、一匹のまりさがやってきて、親まりさへ体当たりした。 「もうがまんできないんだぜ!」 「やっちゃえ、ゆっくりやっちゃえ!」 「つむりの親だからっていばりすぎだよ!」 それは、早々に親まりさへの食料供出を拒んだゆっくりたちだった。 ずっと親まりさのことを苦々しく思っていたのが、遂にその鬱憤が爆発したのだ。 「や、やべ! ま、まりざは、づむりのおが、ゆべ!」 親まりさは、つむりのおかあさんであると何度も言ったが、はっきり言ってそんなこと はわかった上での行動である。無視してボコボコにされた。 親まりさが完全に動かなくなるまで、暴行は止まなかった。 つむりの親のまりさが死んだ、という報を受けて、幹部たちがやってきた。 「まりさたちがやったんだぜ、どうしても我慢できなかったんだぜ」 親まりさをリンチして殺したまりさたちは犯行を認めた。 「「ゆゆぅ……」」 「だいたいわかったよー」 唸るばかりのれいむとありすを尻目に、ちぇんが言った。 ちぇんは、まりさたちにぺんぺん十回の刑を言い渡した。 ゆっくり殺しの割りに軽い罰にみんなが驚いていると、ちぇんはそのわけを説明した。 「まりさは、れいむのおちびちゃんが死んじゃうのに、ごはんを取ろうとしたんだねー、 放っておいたられいむのおちびちゃんは死んじゃったかもしれないよ。だから、まりさた ちはそれを助けたことになるよ。でも、やっぱりゆっくり殺しはゆっくりできないからぺ んぺん十回でゆっくりはんせいしてね、このりくつわかってねー」 ちぇんは、適当にその場にいるゆっくりから刑の執行者を選んだ。 ゆっくり殺しの割りに軽い、とは言ってもぺんぺん十回の刑は決して楽な罰ではない。 尻の皮が破れて餡子が流出することもある。 しかし、ちぇんが選んだのはどれも腹ペコでふらふらのゆっくりであったので、ぺんぺ んとお尻を叩く力はあからさまに弱かった。 「それじゃ、まりさを埋めてあげようねー」 と、ちぇんの指揮のもとに親まりさを埋葬してその件は終わった。 この一件で、れいむとありすは幹部の中ではちぇんが一番優れていると認め、これを長 に推した。ちぇんは悩みつつもこの話を受けて、新しい長が誕生した。 「……おかあさん」 あんなに、狩りが得意でたくさんのごはんを帽子に詰めて帰ってきた働き者のゆっくり だったのに……。 既得権益、などという言葉はもちろんまりさは知らなかったが、 ――ゆぅ……何かしてもらうのが当たり前だと思うと、ゆっくりしてないゆっくりにな るんだね。 と、思った。 「……つむりは?」 「あの子は、生きてるみょん」 親まりさの死を嘆き悲しみつつ、それでも他のゆっくりに少しずつ食べ物を恵んでもら って生きているらしい。 「ゆっ……行ってみるよ」 「……気をつけるみょん。いちおうまりさは追放中だみょん」 「ゆん、ゆっくりしんちょーに行くよ」 まりさは、つむりのいるところ――すなわちあの時以来近付くこともなかった生家へと 向かった。 「ゆっくりおじゃまします」 まりさは、周りに誰も他のゆっくりがいないのをよく確認した上で、一声かけつつ中に 入った。 「ゆっ!」 つむりはすぐにわかった。ていうか、わからざるを得なかった。 でかい貝殻がどんと鎮座しているのである。嫌でも視界に入る。 「つむり……」 こちらに背中を向けているので、まりさは前に回りこんだ。 「ゆぅ……ごはん、ごはんちょーらい」 つむりは、まりさが食べ物を持ってきたと思ったらしい。 「……」 まりさは無言のまま、帽子から葉っぱに包まれたお弁当を取り出してつむりに与えた。 「ゆわわわ、ごちちょーだよー」 今のこの群れの食糧事情からすると、まさにそれは御馳走と言うに相応しいものだった。 「むーちゃむーちゃ、ち、ち、ち、ちあわちぇぇぇぇぇ!」 つむりは、嬉しそうにゆっくりとお弁当を食べた。 「ゆぅ……」 つむりが食事をしている間、まりさは久しぶりに見る我が妹を観察していた。まだ義父 まりさが存命の頃に、遠くから親まりさの帽子に乗っているのを見たのが最後だ。 今のつむりは、とてもではないが帽子の上になど乗れない巨大さになっていた。 貝殻が体に合わせて大きくなっている上に、親まりさでも動かすのが困難になってから 自分の体の重さを持て余してろくに動いていないのだろう。でっぷりと太っている。 ――ゆゆゆ、かわいくないよ。みんなはこれでゆっくりできてるの? かつて、まりさはつむりのことをあんなの可愛くないと思っていたが、それはもちろん 嫉妬から来る強がりで、幼い頃のつむりを思い出せばやはりとても可愛らしくゆっくりで きることは認めざるを得ない。 まりさの疑問は、つむりが未だに群れのみんなをゆっくりさせていると思うが故の疑問 であったが、既にその人気は陰りが生じている。はっきり言って見てくれがそのようなの でしょうがない。 親まりさの死後も、僅かとは言え他のゆっくりがつむりに食べ物を与えているのは、ひ とえにつむりが珍しい希少な存在だから、生かしてはおこうと思っているからだ。 「ゆぅー、ごちちょーしゃま! とっちぇもゆっくちできちゃよ!」 容姿の次に気付いたのが言葉遣いだ。既に大人と言っていいサイズなのに、赤ゆっくり 言葉が抜けていない。 その方が可愛いからと、親まりさも他のゆっくりも矯正しなかったためだ。 「ゆゆゆ!?」 ごはんを食べて落ち着いたつむりが、まりさの顔をじーっと見る。 「お、おねえしゃん!」 「ゆぅ……ひさしぶりだね、つむり」 と答えたものの、さて久しぶりの姉妹対面で、何をどう言ったものかとまりさは迷った。 そもそも、ただ単につむりがどうしているのかを見たかっただけであり、目的は既に達 している。 一応追放中なので長居はよくない。 すぐに帰ろうと思ったが、つむりがぷるぷると震えて涙を流しているのを見て、あんよ を止めた。 「お、おねえしゃん……」 「つむり……」 姉との再会に感動しているようだ。それを見ていると、まりさにも何かこみ上げてくる ものがあった。 「おかあしゃんが……」 「ゆん、みょんに聞いたよ。……まりさは、おかあさんのこと恨んだりしてないよ」 実は恨んでないは言いすぎなのだが、その方がつむりがゆっくりできるだろうと思って そう言った。 「つむりも、おねえしゃんのことを聞いちゃよ、おねえしゃん、じぶんのおうちがあって、 ゆっくちちてるっちぇ」 「ゆん、なんとかゆっくりやってるよ」 こうして、妹のつむりとゆっくりと話していると、まりさはとても穏やかな気持ちにな った。 会って話せてよかったよ、それじゃまりさは追放中だから…… そう言って、帰ろうとしたその時、つむりが満面の笑みで言った。 「つむりをむかえにきてくれちゃんだね! はやくおねえしゃんのおうちにつれてっちぇ よ!」 おかあさんが死に、みんなよそよそしく入り口から僅かな食べ物を投げ入れていく、そ れをずりずりと這って食べる生活に、つむりは疲れ果てていた。よそよそしいのは親まり さを殺してしまった後ろめたさからなのだが、つむりはてっきりみんなに自分が嫌われて しまったのだと思っていた。 その境遇に同情すべき点はある。 「ゆっくちさせちぇね! おねえしゃん!」 だが、つむりにゆっくりした笑顔で言われたまりさは、例えそのような事情を細かく知 っていても同情などしなかっただろう。 当たり前のように、これまでずっと離れて暮らしていた群れから追放中の姉にゆっくり させてと要求するつむりに、まりさはゾッとしていた。 その悪寒が、同情など吹き飛ばしたに違いない。 すぐに、なんて図々しいんだ、とは思った。しかし、最初のゾッとした感じの正体がわ からなかった。 「ゆゆーん、つむり、ゆっきゅちできりゅよ!」 嬉しそうにしているつむりを見ていると、ようやくそれが掴めて来た。 何かをして貰うのが当たり前だと思っているあの笑顔。 全く悪意無く、無邪気に、他者に奉仕を求める笑顔。 何かをしてもらった時に「ゆっくりありがちょう」とお礼ぐらいは言うだろう。でも、 きっと言っているほどには感謝していないに違いない。それが、当たり前なのだから。 突然変異のつむりは、満足に自分では動けない。本来のつむりと違って水にも弱くて泳 げない。だから、他者の力を借りねば生きていけない。 だから、こうなるのは、それこそ当たり前なのである。 その悪意無き傲慢、無垢なる怠惰にまりさはゾッとしたのだ。 今まさに、自分がその奉仕者と思われていることに悪寒を感じたのだ。 「ゆゆゆゆ! な、なに言ってるの! まりさは、つむりをおうちに連れていったりしな いよ!」 まりさは、慌てて言った。ただ、久しぶりにつむりの顔を見て帰ろうと思っていたのが あまあまな考えであることを思い知り、こうして訪ねてきたことを後悔していた。 「にゃ、にゃんでしょんなこというにょおおお!」 「なんでもなにも、まりさだって大変なんだよ、つむりの世話をしてたらまりさがゆっく りできなくなっちゃうよ!」 そうだ。そろそろ秋が来る。越冬の準備を始めねばならない。そして、無事に冬が越せ たら、ありすとすっきりして子供を産んで、自分の家族を作るのだ。 ――それを、こんな。 こんなのが転がり込んで来たら(そもそもそこまで移動できないだろうというのはさて 置いて)越冬も危うくなるし、とても子作りなどできない。いやいや、そもそもその時点 でありすが出て行ってしまうかもしれない。 「ま、まりしゃだっちぇ、じぶんで狩りとかしちゃいよ! でも、むりにゃんだよ!」 「ゆゆぅ……」 つむりの言葉に、まりさは口ごもる。 動けないからと、おかあさんにいつも構われていたつむりが羨ましくてしょうがなかっ た。これなら、動けなくてもいいから自分もつむりに生まれたかったと思ったことは数え 切れないほどだ。 しかし、つむりはつむりで、元気一杯に跳ね回り狩りをする他のゆっくりたちを羨まし く思っていたのだ。そのことに、ようやく気付いた。 しかし……。 「ゆぅ、ゆっくりりかいしたよ。つむりもかわいそうなんだね」 「ゆぅ、おねえしゃん……」 「でも、しょうがないよ」 「ゆっ!」 「つむりをゆっくりさせようとしたら、まりさがゆっくりできないんだから、しょうがな いよ」 「お、おねえしゃん!」 「わかってるよ。つむりが悪くないのはわかってるよ。でも、まりさのゆん生をつむりに 上げるつもりはないよ。まりさは、まりさはまりさでゆっくりするよ」 「ゆ、ゆっぐち、ゆっぎゅぢさせちぇぇぇ! つむりは、ひどりじゃゆっぐちできにゃい んだよぉぉぉ!」 「それもわかってるよ。でも、おかあさんやみんなのおかげでたくさんゆっくりできたし ょ。それで……満足してね」 「嫌ぢゃああああ! つむりは、ゆっぐちちだいよぉぉぉ!」 「とにかく、まりさはもうここには来ないよ。ゆっくりりかいしてね! ……ゆっくりさ ようなら!」 まりさは、泣き喚くつむりを置いておうちを出た。 すぐにびにーるぶくろを被り、そのまま真っ直ぐ群れを出た。 一年後――。 「「ゆっくりおじゃまするよ!」」 「ゆん、かんげーするよ。ゆっくりしていってね!」 群れにやってきたれいむとまりさの番を、長のちぇんは暖かく迎え入れた。 群れは栄えていた。 すっかり長が板についたちぇんは、かつてのぱちゅりーに劣らぬ尊敬を群れのみんなか ら集めていた。 れいむとまりさは、ここの群れに入りたいと申し出た。 「わかったよー。それなら群れの掟を守るんだよ。わかってねー」 「「ゆっくりりかいするよ! 掟を教えてね!」」 掟は、ぱちゅりー時代からそう変わってはいない。ただ、一つ追加されていた。 まりさつむりについては、口にしないように。 「「ゆゆ?」」 それまでは、掟を聞くたびにいちいち納得していたれいむとまりさが、それを聞いて不 思議そうにする。 無理もないと思いつつ、長ちぇんは説明した。 一年前、この群れには成体サイズまで成長したまりさつむりがいた。色々あったが、食 糧事情が最悪の中で群れのみんなで養っていたのだが、とうとう冬を越せずに死んでしま った。 越冬に失敗するという止むを得ない事故であったが、せっかく群れで生まれ育った珍し いまりさつむりを死なせてしまったことをみんな後悔しているので、その話になるとゆっ くりできないから触れないようにしている、と。 「「ゆっくりりかいしたよ!」」 れいむとまりさは、頷いた。 「ここに来る前はどうしていたの?」 「ゆゆ、まりさたちはおさななじみで……」 幹部れいむが、二匹に話しかけているのを見て、ちぇんは気付かれないように溜息をつ いた。 越冬に入る時に、誰かがつむりと一緒におうちに入るべきではないか、という話は一応 幹部会で出るには出た。 希望者を募ったが、冬の間の重労働を意味するそれに名乗りを上げるものはいなかった。 冬篭りは、食料の備蓄などが上手く行かなければ飢餓地獄から、果ては家族同士で喰ら い合う餓鬼地獄へと至ってしまうが、それが上手くいけば、狩りにも行かずに家族一緒に ゆっくりできる時間にもなるのだ。 秋の内に、目先のゆっくりを捨てて頑張ったゆっくりに与えられるご褒美とも言えた。 それが、つむりと一緒に住んでその世話をするとなると、ありえない話になる。 夏に台風が来てぱちゅりーが死に、食糧難になり、秋になって多少事情はよくなったも のの、どの家族も越冬にギリギリの食料しか確保できていなかった。むしろ、ギリギリと は言え、なんとかなりそうな量を確保できたのは僥倖であった。 ちぇんは、群れのみんなの、つむりを明らかに足手まといに感じて関わりたくないとい う空気を読んで断を下した。 「出せるだけのごはんをつむりに上げてね。おちびちゃんがたくさんいるところとか、そ れぞれの事情があるから、ちぇんからはこれだけ出せ、とは言わないよ。でも、全然出さ ないっていうのもゆっくりできないよね。わかってねー」 皆、悲しいほどに少量の食料を出した。塵も積もれば、で集めるとそれなりの量になっ たが、越冬に十分かといえば、明らかに心許なかった。 「それじゃ、塞ぐよー、ゆっくりえっとうしてねー」 みんなで、つむりのおうちの入り口を枝や葉っぱで塞いでいった。 「ゆわあああん、これじゃたりにゃいよぉぉぉ! 冬さんを越せないよぉぉぉ!」 つむりが泣き叫んでいたが、お構いなしに作業を進めた。 「じにだぐにゃいよぉぉぉ、つむり、じにだぐにゃいよぉぉぉ!」 「みんなも大変なんだよ、わかってねー」 「だちでえええ、だちでよぉぉぉ! おねえしゃん……おねえしゃんのところにつれでい っでよぉぉぉ!」 「おねえさん、っていうのはまりさのことだねー、どこかで立派に暮らしてるらしいけど、 誰もおうちの場所は知らないんだよー……よし、塞がったよー」 「ゆぐっ、ゆひぃ、たりにゃいよぉ、だちてよぉ……ゆべ!」 「がまんして、少しずつ食べてれば大丈夫だよー」 「い、いぢゃいいいい、こ、ころんじゃっだよぉぉぉ、おこちちぇ、誰かおこちちぇ、つ むり、ひどりじゃ立でにゃいよぉぉぉ!」 「それじゃ、また春に会おうねー、わかるねー」 「ゆ、ゆぴゃあああ! ひじょいよぉぉぉ! ひとりでえっとうなんでむりだよぉ! お、 お、おがあしゃあああああん! お、おねえじゃあああああん! つぶりは……つぶりは、 ひとりじゃ生きられないよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」 自分をはじめ幹部たちや、一部のゆっくりは理解していた。 つむりの越冬は失敗するだろう、と。 越冬失敗による死ということにして、つむりを片付けるのだ、と。 そして、春になり、どの家族もなんとか越冬に成功して喜び合った。 そして、案の定、つむりは唯一の脱落者となったのである。 春から夏になり、今年は台風も来なかったので、食料は安定して得ることができたため に群れはここまで回復し、新参を受け入れるまでになった。 ただ、余裕が出てくると、みんなの中に、珍しくゆっくりできるまりさつむりを死なせ てしまったことを後ろめたく思う気持ちが蘇ってきた。 だから、もう触れないようにしたのだ。 掟にまでして、もうみんなでゆっくり忘れよう、と。 こうして新入りに掟を説明するちぇんは忘れることはできないが、それは長として死ぬ とわかっていながらつむりを見捨てた責任だと思っている。 「長!」 幹部れいむに呼ばれて、ちぇんは俯いていた顔を上げた。 「このれいむとまりさ、まりさに会ったらしいよ」 「ゆゆ!?」 「そもそも、ここの群れのことは、まりさに教えてもらったんだぜ」 と、新入りまりさは言う。 このまりさに群れのことを教えてくれたまりさというのが、どうやらあのつむりの姉で かつてこの群れを追放されたあのまりさらしい。 「いっしょに行こうって言ったけど、ついほーされてるから、って言って来なかったんだ ぜ」 「じぶんが行ったら、みんながゆっくりできなくなる、って言ってたよね。とてもゆっく りしてるまりさだったから、ゆっくりできなくなるわけないのにね」 それを聞いて、ちぇんは閃いた。 もしかしたら……いや、きっと、まりさはまた群れに様子を見に来たのだ。 みょんに聞いたが、まりさはステルス機能を持った袋を持っており、それを被って完全 に姿を消すことができるらしい。 そうやって姿を消して様子を見に来て、そして、新たな掟にしてまで、みんながつむり のことを忘れようとしているのを知ったのではないか。 そして、つむりの姉の自分を見れば、みんな嫌でもつむりのことを思い出す。だから、 自分が行けばみんながゆっくりできなくなる、と言ったのでは。 推測だが、きっとそうだろうとちぇんは思った。 そして、もうまりさはこの群れにはやってこないだろう、と。 まりさがおうちを構えているらしいという方角を見て、ちぇんは、 「ゆっくりしていってね」 と、言った。 その後ろで、まりさがどうしていたかを幹部れいむに聞かれたれいむとまりさが答える 声が上がっていた。 「それで、ありすといっしょに暮らしてて、赤ちゃんもいて、ゆっくりしてたよ!」 「ゆゆぅ、れいむたちもあんなふうなしあわせなー家族になりたいよ」 終わり 愛ででも虐待でもない! って書いてたら、最後の最後で立派なつむり虐待だよ。でももう知らないよ。 改めて、多大なインスパイアを与えてくださったキリライターあきさんに感謝いたしま す。 過去作品 ふたば系ゆっくりいじめ 340 ゆっくりほいくえん 元ネタSS「赤ちゃんまりさとまりさつむり」 元ネタ絵 byキリライターあき トップページに戻る このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね! 感想 すべてのコメントを見る 義理の母まりさがすうーごくゆっくりしてた。( ≧∀≦)ノ -- 2021-01-08 17 59 15 母まりさが怪我したときの周囲の反応がリアルでよかった 自分たちは関わりたくないから姉のお前がなんとかしろって世話を押し付けようとする汚さとか まりさのゆん生をあげる気はないっていう気持ちもすごく納得できる よいお話だと思います -- 2019-01-18 01 16 58 つむりのゲス率は高い -- 2018-12-30 16 13 38 ↓3ゆっくり視点では悪い人間で間違いないだろ -- 2017-11-03 20 22 18 つむりと親まりさザマァ で面白かった -- 2017-10-25 23 52 37 この話で学んだことそれは、楽してる奴は、人間だろうが!ゆっくりだろうが! 厳しい社会じゃ生きれねぇんだよ!って事だな。いやー勉強になったなぁ。 (((uдu*)ゥンゥン -- 2017-08-05 23 28 36 ≫「みんなも知っての通り、まりさはわるい人間さんにいじめられてもう赤ちゃんを産めな いんだよ」 それはまりさが群れに入ってすぐに聞かされたことがあった。その際に番のれいむと子 供たちを殺されたことも。 どこが悪い人間さんなんだ それにしてもつむりは自分が生きる資格があると思ってんのが終わってるな -- 2017-01-04 15 23 17 結局良くした奴はひとり立ちできず死ぬってことなんだねー -- 2016-12-31 14 18 40 結果を見てゲスと言えるものはいるけどそれでも何故こうなったのか前提を見ると仕方ない。全員根本的には悪くはない。 けどその結果死んでも仕方ない。 -- 2016-10-24 06 34 15 まりさつむりは確かに希少種さんでかっこいいけど普通のまりさに比べて動けないから狩りに行けないから立派な役立たずだね〜わかるよー -- 2016-08-15 18 26 13 ゲスな時点で悪いだろうが、親失格にも程があるわ さらに姉妹が居ても寄生される可哀想な被害ゆが増えるだけだろ -- 2016-03-24 16 37 25 *↓13 弟いるけど、そういう意味ではゆっくりできないよー 上の子としては、そういいたくなる気持ちはわかるけどねw 自分的には、誰も悪くないと思う。 一見ゲスな親まりさやれいむ、つむり本ゆにしても、例えば 上にもう2-3ゆの姉妹が育ってれば、ここまで関係が歪む事は なかったろうしね。 -- 2016-01-16 19 38 56 あのくそまんじゅうさんをせいっさいしたおかあさんはゆっくりできるね! -- 2015-01-27 15 47 26 姉まりさ 良かったね。ゆっくり小説・漫画は、こーゆーのが、一番ゆっくりできるよ。わかってねー。 -- 2015-01-01 01 29 37 なにいってるんだ!!ゆっくりは皆平等だろ平等に糞饅頭だろーが!! -- 2014-12-01 00 39 08 姉まりさが幸せになれたのでとてもゆっくりできた -- 2014-08-04 18 30 23 最低のばかくそ親マリさはただのごみくず -- 2014-06-23 01 24 37 みんなのあんよをひっぱる馬鹿つむりは、ラオウにぐちゃぐちゃにされて死ね害虫め! -- 2014-06-02 23 39 49 ↓えいこくでしたwすまない -- 2014-06-01 21 12 56 マジで思うんだけどさぁ~、まりさつむりってちょっとだけゲスゆになってないかーだって姉まりさが様子見にきたときには、完全にゲスななまけもののセリフになっていたしさ~、かわいいちぇんがけっかいをはっていた時には、もうげすゆが、死ぬ10秒前に言うような言葉を言っていたし、親まりさにいたっては、もうかんぜんなゲスになっていた、つむりのほうが大事とかリンチされて、「とうぜんさー英国紳士してはねーwww(どこぞのえいくしんし風に言ってみた)」だから姉まりさ意外のゲスごみつむりとごみ親マリさは、三角頭に刀でぶっつぶされてね!www「てかw、つむりみたいな障害饅頭が人気者になるとか、ははははははーwwwマジうけるーwwwwwwwwwwwwwwww(どっかの時を止めるスペックを持つ少年風に言ってみた)」 -- 2014-06-01 17 54 35
https://w.atwiki.jp/hazama/pages/1859.html
20231119| 20231223 ガドーの日記 ガドーの日記 夢の中、過去の記憶を思い出す。 あれはそう、確か今の群れに拾われた時の話だ。 湧き上がる激しい怒り。カーグの顕現たる激怒を宿した俺は、吹き飛ばした混沌を追って、雪の中を滑り降りる。下に中くらいの1と、ちびが3見える。中くらいのに向けて棍を振り下ろす。 「################」 何かを思い出した気がした。何かを叫んだ。しかしなんだったが、思い出せない。カーグの怒りが俺を満たしていた。 ちびが盾を差し出して邪魔をした。どうでもいい。まだ中くらいの混沌は動く。棍を振り下ろし、噛みつく。別のちびが噛みつきから中くらいを逃がす。ちびの腕を噛みちぎった。中くらいはまだ動く。ちびに足を傷つけられた。だが闇の大いなる盾が俺を守っている。まだ俺は動く。 この混沌どもをすべて平らげ、偉大なる母へと捧げよう。それこそがカーグたる俺の役目。 中くらいは腹を叩くと怯んだ。そこに後ろから槍を突き入れてくるものがいた。ああ、後ろにもいたか。 棍をふるい、左足を折る、別の右手を潰す。 ちびの槍が腹を傷つけた。どうでもいい。次はあれを叩くか。 べつのちびが足を傷つける。どうでもいい。カーグの怒りが俺を動かす。しかし、怒りとは別に、体からは力が抜けた。倒れる。すべてを捧げることは叶わぬか。偉大なる母の御元へゆくのだろう。 目が覚めると、そこは地上のようだった。光があり、人間のちび3人と角付一人がこちらを見ている。どうやら助けられたらしい。人間に助けられるとは、意外なこともあるものだ。しかし助けられたのは事実。命の借りは命で返さねばなるまい。 名前を聞かれたが、はて、思い出せぬ。ガドーという音が記憶にあるが、これが名前だろうか?ガドーと答えておいた。 そうして、目が覚めた。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 別のある日。 群れの女祭と戦の長の仲が良くないようだ。 戦の長が相談してきた。人間のことはよくわからん。トロウルの流儀について話した。 「メスに従え。群れのことは女祭が決める。」 女祭と思しきちびちゃんと、他にちびのメスがいる。戦の長はみんなに相談している。あくまで食客のような立場である俺としては特に言うことがなかったが、どうも群れを分けるという話になったようだ。 俺の命を助けたのは女祭らしいので、女祭についていくと主張しておいた。 あくる日。 女祭の機嫌が治ったようだと、戦の長が話していた。どうやら群れを分ける話はなくなったようだ。良きかな。 ログ https //docs.google.com/spreadsheets/d/1b-c0J9H6NPUErb3LQXk1jnyFGbBsJNpCSqySGhQgons/edit#gid=2080118367 名前 コメント すべてのコメントを見る