約 40,749 件
https://w.atwiki.jp/survivalcrafter/pages/21.html
Cowは群れで行動し、群れのリーダーがBullです。 攻撃すると敵対せずに逃げていきます。 しかし近くのBullが攻撃をしてきます。 bucket?を使うことでbucket of milk?を入手できます。
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/3336.html
『思いあがりの代償』 11KB 自業自得 飾り 追放 家族崩壊 群れ 飼いゆ 赤ゆ ゲス 現代 どうも代償あきです。時間のある時にどうぞ 代償あきです。この作品を読む上で以下の注意点があります。 誤字脱字、文的に変なところがあります。 展開に疑問を持たれるかもしれません。 納得いかない終わり方かも知れませんので覚悟の上でご覧下さい 設定に納得いかない点があるかも知れませんがご了承下さい。 以上の注意点を踏まえた上でお楽しみ下さい。 むーかーし、むーかーし 人里近い所にあるゆっくりの群れにゆっくりまりさがいた。 まりさは優秀だった。 狩りの腕前が良かった。 容姿も周りが絶賛する程の良さを持っていた。 ちぇんより早く、みょんよりも枝の扱いが長けていた。 そんなまりさは群れでは人気者であった。 他のゆっくり達からは絶対の信頼をされていた。 子ゆっくり達からも尊敬の眼差しで見られた。 そして、美ゆっくりで気立ての良いありすを伴侶としていた。 その伴侶との子どももいる。 子どもも周りから人目置かれており、子ども達のリーダーを務めるほどであった。 まりさはゆっくりとして最高のゆっくりを兼ね揃えていた だが、まりさの幸せは崩壊した・・・ まりさは人間の畑にいた。 理由はお野菜を取り返し、ゆっくりプレイスを手入れ、群れの皆に自分を更に大きく見せる為であった。 まりさは自身の容姿や力に絶対の自信を持っていた。 まりさは全ゆっくり・・・いや、全生物の中でも最高位の存在であると信じて疑わなかった。 ゆっくり出来ないカマキリやムカデを沢山倒してきた。 脅威であるれみりゃも意図も簡単に退けて来た。 自分は神に選ばれたのだ。 いや、神なのだ!と本気で思っていた。 まりさは神としてゆっくりに真のゆっくりを与える使命がある。 このまりさは過剰にも程がある自惚れていた・・・。 そして、畑に着いた。 そこには人間がいた。 だが、まりさは怖くなかった。 それよりもゆっくり達の輝かしい未来で一杯だった。 他のゲスの様におうち宣言などしない。 この世界全てが神であるまりさの物なのだ。 人間は勝手にそこに住み着いてるに過ぎない。 だから、まりさは出ていけというだけで良い まりさが口を開こうとした時、腹に強烈な痛みと目の前には爽快な青空が広がっていた。 三分もしない内にまりさは生きたボロ雑巾と化した。 まりさの自慢だったお帽子はズタズタにされた。 まりさの自慢だった金髪は所々引き抜かれ中途半端なハゲ頭となった。 まりさの自慢だったおさげは引き抜かれた。 まりさの自慢だった目は片目を潰され、かけられたオレンジジュースによって不気味に塞がった。 そして、無敗だったというまりさの誇りが粉々に砕かれた。 そして、人間はまりさから吐かせた群れへと向かった。 人間は群れに着いた時、まりさがした事を説明した。 更に他の農家にもゆっくりが降りて来たのを知り、駆除の話が出ている事実を伝えた。 群れに戦慄が走った。 一斉駆除と聞いて平気で居られるゆっくりの方が可笑しい。 長であるぱちゅりーが躊躇わず土下座をした。 その姿にまりさは幻滅したが、群れのゆっくりは長を心配する声が飛び交った まりさには心配の声はなく、幻滅と殺意の眼差しが突き刺さった。 何故、そんな眼で見られるか訳が分からないまりさ。 ここの長ぱちゅりーは少し変わった経歴を持っている。 長ぱちゅりーは、かつてドスまりさがいる群れにいた。 ゆっくりとした生活を送っていたが、それはドスまりさによって壊された。 ドスまりさが人間を奴隷にしようと人里に向かったのだ。 長ぱちゅりーは人間に見つかり難い場所から様子を伺った。 目にしたのは意図も簡単に潰される大人のゆっくり達や自分だけは助けてといって泣き叫ぶドスまりさの姿だった。 人間は容赦せず、ドスまりさを駆除した。 そして、群れのゆっくりも駆除された。 そんな中で長ぱちゅりーだけが生き残った。 長ぱちゅりーは人間を怒らせてはいけないと学んだ。 人間は長ぱちゅりーの姿勢を認め、駆除だけはしないことを約束した。 だが、ゆっくりが人里に降りて来てしまった以上この場所には住まない方がいいと言われた。 こうして、群れは餌にも恵まれ、脅威となる存在が少ないゆっくりプレイスを手放すこととなった。 それからがまりさの転落ゆん生だった。 あれから周りのまりさに対する態度が激変した。 当然だ、折角住みやすい場所を離れなければならなくなったのだから・・・。 餌には困らないが、代りに捕食種であるれみりゃの危険に晒される様になった。 移り住んで一週間と経たずに何匹かのゆっくりが餌食になった。 更にその惨めな姿がより拍車を掛けた。 美ゆっくりだった面影は一切無く、人間にされた仕置きの傷しかない。 皆がまりさを冷たい目で見た。 もう誰一人尊敬の眼差しで送るものは居なかった。 さらにお帽子が傷つき、おさげが引き抜かれている為狩りの腕前も落ちた。 今ではヒソヒソとまりさを馬鹿にした会話やあんなゆっくりに絶対になるなと子に教える親ゆっくりの言葉が聞こえてくる だが、悲劇は止まらなかった。 まりさの目に入れても痛くないほど可愛いおちびちゃんが自ら尖った枝に突き刺さったのだ。 じっさつ!である。 本来、ゆっくりがおたべなさい!以外で自ら命を断つことはしない。 どうしようもなく追い込まれない限りはじっさつ!はしない。 だが、まりさのおちびは極度に追い込まれたのだ。 おちびの方にもゆっくり出来ない視線が注がれたのだ。 友ゆんは離れていき、周りから虐められるようになった。 子ゆっくりのリーダーだった面影は一切。 この環境の激変がおちびを死に追いやったのだ。 おちびちゃんを死に追いやった子ゆっくり達は長から厳重なお叱りを受けた。 群れの皆もおちびの死に涙を流した。 許すことは出来ないまりさは子ゆっくり達をせいさい!しようとした。 当然、大人ゆっくりに止められボコボコにされた。 そして、これだけでは終わらなかった。 美ゆっくりで最愛の伴侶であるありすが壊れたのだ。 おちびのお飾りに狂ったようにすりすりを繰り返した。 風に飛ばされ、うんうんについた時も躊躇うことなくすりすりした。 まりさはありすを元に戻すべく形見のお飾りを破った。 だが、それがいけなかった・・・ 発狂したありすの体当たりを喰らい、まりさは気を失った ありすは風に飛ばされたお飾りの残骸を追っかけて行った・・・。 もう夕方、捕食種の時間だというのに躊躇うことなく外に出て行ってしまったのだ。 気を失っていたまりさが目覚めたのは朝のことだった。 ありすを探しに行こうと外に出た だが、直に見つかった。 捕食種によってズタズタにされ、美ゆっくりの面影の無い残骸と化していた姿で・・・。 伴侶のありすが死に泣いていたまりさに長ぱちゅりー達が訪ねて来た。 まりさは慰めてくれると期待していた。 だが、慰めの言葉はなかった。 それどころか群れからの追放を宣言された。 もう少しで冬だというのに今追放されることは「死」を意味すると言ってもいい 流石に抗議するまりさが長ぱちゅりーや他のゆっくりは聞く耳を持たなかった。 等々まりさは泣き出した どうして自分がこんなに酷い目に遭わなければならないのか・・・ 子どもの様に泣き叫ぶまりさに長ぱちゅりーは口を開いた 全てまりさが人間さんに迷惑をかけようとしたからだと 人間さんに迷惑をかければ、群れは簡単に駆除されてしまう。 それだけ人間さんは凄い存在なのだ。 そして、まりさの不幸は全て自分が招いた おちびちゃんを虐めていた子ゆっくり達の身内は捕食種に食い殺された。 残った子ゆっくりは引越しの原因を作ったまりさのおちびちゃんに向けられた。 ありすが壊れたのも信じていた夫であるまりさの行動に精神が滅入ってしまった為だ。 さらにそこにおちびちゃんの死が重なった為壊れてしまったのだ。 周りの態度が激変したのも信じていたまりさの行動に幻滅したからだ つまり、まりさが人間さんに喧嘩を売らなければこんな事にはならなかった さらにその内群れの長になって貰おうと思っていたと告げた。 まりさは唯呆然としていた・・・。 動かなくなったまりさを群れの大人達は外へと追い出した。 まりさが意識を取り戻した時そこは群れの離れた場所であった・・・。 そして、まりさはある場所へと走った 人間の所だった まりさの降りかかった不幸は全て人間の所為だと思い、復讐をしようとしたのだ。 そして、人間の畑に着いたまりさは帽子から鋭利な枝を取り出した。 いざ、復讐に行こうとしたその時だった・・・ ぐちゃあ 通り掛かった自動車にまりさは轢かれた。 しかし、まりさは幸運だった。 轢かれたのは後頭部だけだったのだ。 まりさは悲鳴を上げようにも出来ない。 何故なら鋭利な枝が轢かれた拍子で喉に突き刺さったのだ。 当然、自動車を運転していた人間は気づく筈もなくそのまま何処かに行ってしまった。 まりさの中には復讐よりも痛みから逃げることしか残っていなかった しかし、動けば動くほどその痛みが余計に響く。 まりさは一切ゆっくり出来ない最後を遂げた。 まりさの魂はあの世にいる。 あの世ではゆっくりもその魂を裁かれる。 まりさの番が来た。 まりさはゆんごくに行き、最愛のありすとおちびちゃんと一緒にゆっくりしようと思った ゆっくりえいきがまりさの判決を下す まりさに下されたのはゆっくり地獄百巡りだった 当然抗議するまりさ。 だが、理由は簡単だった。 人間を傷つけようとしたゆっくりは地獄行き・・・ただそれだけだった。 それを聞いたまりさは深い深い穴に落ちていった。 それからはまりさにとって文字通り地獄であった。 捕食種に何度も食べられた・・・。 虐待鬼に考えもつかない方法で虐待された・・・。 炎に焼かれ、針に突き刺された・・・。 そして、まりさが一番苦しんだのはある映像だった。 それはまりさが人間に喧嘩を売らなければ得られたゆん生だった。 その映像にはあの群れの長になって皆からも慕われ続け、沢山の孫ゆっくりに囲まれている幸せな光景だった。 最後には群れや家族に看取られながらその映像は終わりました。 まりさはやっと知りました。 自分がどれだけ馬鹿なことをしたのかを・・・ 人間に喧嘩を売らなければ幸せなゆん生を送れたという事実を突き付けられた。 自分でその幸せなゆん生を壊したまりさ・・・。 だが、後悔してもまだまだ地獄巡りは続く・・・。 「・・・こうしてゆっくりまりさはとっっってもゆっくり出来ないゆん生とその後を送りました めでたし、めでたし・・・!」 「どごがめでだいの!!!!!????ぜんぜんゆっくりでぎないでじょううううう!!!!!!????」 「いやいや、めでたいでしょ?調子乗ったバカが酷い目に合うんだから・・・」 「いいからまりさをここからだせ!!!じじいいい!!!!!!!」 「あん!?もっと殴ってやろうか!!!」 「ゆひぃいいいいい!!!!???うそです!!!もうなぐらないでください!!!!!!!!!!」 このまりさは男の家に入った挙句、奴隷扱いした・・・テンプレ展開をしたゆっくりだ。 死なない程度にボコボコにして、男はゆっくりの童謡『調子になったまりさの末路』を読んでやった。 そして、男ははオレンジジュースを掛け、出掛ける身支度をした。 「さて、行こうかまりさ」 「ど、どこにいくんだぜ・・・?」 「お前の居た群れにだよ。おまえのしたこと全部話すんだ」 「ゆひ!!?そ、それはだめなんだぜ!!!」 「ついでに群れが住んでる公園にも住めなくしようかな」 「は、はなしを「そんな事になったらまりさはどうなるかな?」ゆ?」 「このご本のまりさみたいになるだろうね、絶対」 「ゆひ!!?」 「どれいになるのかな、それともゴミの様に扱われるのかな、それよりももっと酷いかも・・・!」 「ゆわわわ・・・!!!」 「さて、まりさ!お前はどんなお話を見せてくれるかな・・・?」 男がまりさをただ痛め付けただけで生かしているのはこの後のお楽しみの為だ。 男は馴れた手付きで額を切りあるものを入れ、オレンジジュースをかけ塞いだ。 「これでまりさはお兄さんから逃げられなくなりました・・・!」 まりさの中に埋め込んだもの、それは発信器だった。 「それじゃ、きめぇ丸。いつも通りお願いね」 「おお、心得ていますとも」 男は、まりさ種だけは大嫌いでした。 そして、まりさ種の悲惨な末路を見るのが大好きという変わった趣味を持っていた・・・ 男の家に侵入したまりさ種にあの童謡を聞かせ、出てきたまりさと同じ様にみすぼらしい姿にさせた上で住んでた場所に返す。 そして、飼っているきめぇ丸にその後の撮影をお願いする。 何故こんなことをするのか・・・ 「さあ・・・まりさ。君の転落ゆん生を僕に見せてくれ」 大嫌いなまりさの悲惨な結末を見るのがこの上ない楽しみなのだから・・・ 「ゆ、ゆぎゃああああああああ!!!」 まりさは本のまりさと同じ様に後悔した、 人間になんて簡単に勝てると思った事を・・・ こうして、まりさのゆん生はゆっくり出来ないものと確定した END・・・ どうも代償あきです 色々とありまして作品作るペースがガタ落ちしました・・・ 前に言ったストックもまだ完成してませんが浮かび上がったモノを投稿させて貰いました。 今度は何時になるか分かりませんがその時はまた見て頂ければ幸いです それでは今回はこの辺で・・・。 過去作品 1856「条件」 1907「嫌われた代償と招く幸福(前編)」 1914「嫌われた代償と招く幸福(中編)」 1957「嫌われた代償と招く幸福(後編)」 2063「家出の代償」 2167「愛の努力」 2296「脅しの代償」 2409「愛を選んだ代償」 2563「代償は誇りと」 2779「勝手なすっきり!OK?OUT?」 2825「つむりとまりさ、それぞれのゆん生とその終わり」 3005「ドススパークがドスしか使えない訳」 挿絵:
https://w.atwiki.jp/joboneyard/pages/241.html
別名;クロテナガザル 分布 インドシナ半島、中国南部 形態 体長43cm~68cm、体重5kg~10kg。 オスの体毛は黒く頬が白い、メスの体毛は白。 生態 殆どの時間を木の上で過ごして木の葉や果実を食べる。 一夫多妻で1頭のオスに最大で4頭のメスとその子供たちによる家族群で暮らしている。 主に朝方10分~30分間群れ全体で大きな声で鳴き声を上げ続けることがある、これは群れの結束力を高めたり 繁殖は2年~3年間隔で行う、7ヵ月~8ヵ月の妊娠期間を経て1頭の子供を産む、子供は7歳~8歳で群れを離れていく。 寿命は最長で25年。 状況 森林伐採による棲息地の縮小が最大の脅威となっている、法律で保護されているが珍味とされる肉を求めて人間に密猟される事もある。 個体数は2008年のIUCNの発表では1300頭~2000頭で減少傾向にある。
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/1505.html
※独自設定垂れ流し あるところに、とてもとてもゆっくりとした群があった。 それは人里離れた山の中、谷の奥にあった。 「ゆっくりしていってね!」 朝になれば穏やかなゆっくりたちの声が響く。 れいむはのどかに歌い、まりさは狩りにいそしみ、ありすはおうちをとかいはにコーディ ネートし、ぱちゅりーはその知識でみんなを導いた。 自分勝手にひとりじめしようとするゆっくりはいない。人間に無謀な挑戦を試みるゆっく りもいない。 みんなみんな、ひとりだけゆっくりするのだけなく、みんながゆっくりすることを望み、 願い、励んでいた。 そんな群れに転機が訪れる。 ある時、ぱちゅりーが気がついた画期的なごはんの入手方法。 「むきゅ! にがいくさも、むーしゃむーしゃしてからはきだせば、おちびちゃんもおい しくたべられるわ!」 ゆっくりは食べたものを餡子に変えることができる。むーしゃむーしゃして呑み込む手前 でうまく吐き出せば、まずい草も少しだけ甘みを含んだ「おいしいごはん」へと変わるの だ。 群の食糧事情は劇的に改善された。山の草花、ほとんどあらゆるものがおいしく食べられ るようになったのだ。つらい冬ごもりも生存率が飛躍的にあがった。 群はどんどん大きくなり、みんなの笑顔も広がった。 しあわせで、ゆっくりとした時間。それがいつまでも続く。そう、誰もが信じていた。 そんなある日のことだった。 「むきゅ……ぱちゅはとってもゆっくりできたわ……」 群で一番長生きしていたぱちゅりーが、永遠にゆっくりした。野生には珍しい、寿命を迎 えての大往生だった。 それを皮切りに、一匹、また一匹と群のゆっくり達は永遠にゆっくりしてしまった。 そして。 気づけば、あれだけ大きかった群れはなくなっていた。 たた一匹生き残ったのは、ゆっくりれいむ。 れいむは絶望していた。あれだけゆっくりした群れ。その多くの死を看取り、墓を作り続 けて磨耗したれいむはすっかり荒んでしまっていた。 「みんないなくなっちゃったよ……だからもう、れいむはどうなってもいいよ……」 そう言って、れいむは群れについての話を締めくくった。 「……ゆっくりしにしては、ずいぶんと潔く達観したものだね」 加工場工場長はつぶやいた。 ここは加工場の工場長室。透明な箱に収められ、群れ最後のれいむは抵抗する様子もその 気さえも見せず、ただただ絶望していた。 ラストれいむロストホープ 「さて。どうだい、我が加工場は?」 れいむは答えない。反応すらしない。 工場長はため息を吐く。普通のゆっくりならおびえてもいいはずの状況なのだ。 れいむは今、透明の箱に入れられたまま工場長に運ばれている。 一人と一匹がいるのは、加工場の生産セクションだ。 「んほおおおおおおお!」 「やべでええええ! もうあがぢゃんうみだぐないいいいい!」 れいぱーありすの嬌声とれいむの悲鳴。ぬちゃぬちゃという卑猥でおぞましい交尾の音色。 茎に生る赤ゆっくりは誕生の挨拶をする間もなく、ベルトコンベアの上に落ち加工施設へ と運ばれていく。れいぱーとれいむにはそれぞれオレンジジュース注入用のチューブが刺 さっており、力つきることはない。 あたりを占める光景も騒音も、加工場ではありふれたものだ。 そしてそれを見て、恐怖しないゆっくりなどまずいない。 防音加工も施されていない透明な箱の中、周囲の狂騒をれいむは目と耳で存分に味わって いるはずだ。それなのに、虚ろな瞳は何も写していないかのよう。その身をぴくりと動か しもしない。 だが、 「君の群れの滅んだ理由を当ててみせようか?」 工場長のその言葉には反応した。 透明な箱の中、れいむはゆっくりと向きを変え、工場長の目を見る。 なにも写していないかに見える漆黒の瞳に、今は疑問の光が揺れている。 工場長は満足げにうなずくと、あたりをぐるりと見回してから答えた。 「君の群れでは新しいゆっくりが産まれなくなった。だからゆっくりと衰退した。そうだ ね?」 「そ、そうだよ! あかちゃんがうまれなくなっちゃったんだよ……」 れいむはうなだれる。 ゆっくりした群れだった。通常なら大量のゆっくりが死滅する冬ごもりでもその数を減ら さず、食料の不安もまるでない。争いもなければ人間の領域を侵すような無謀なゆっくり もいない。 穏やかな群れだった。 そんな群れの中、積極的にすっきりーしようとするものが減っていった。そして、すっき りーしても赤ちゃんが生らないことが相次いだ。その原因は不明だった。それゆえにどう しようもなかった。 完璧に思える群れを滅ぼしたのは、新しい命が産まれないことだったのだ。 「どうして群れには赤ゆっくりが産まれなくなったかわかるかい?」 「ゆうう……わからないよ……」 「まわりを見てごらん」 辺りではあいかわらず、無数のれいぱーありすが無数のれいむを犯し続けている。 次から次へ絶えることなく赤ゆっくりが産まれ続けている。 れいむの群れにはもたらされなかった命。それが無造作に、機械的に、しかし大量に発生 し続けている。 だが、そんな光景を見てゆっくりの抱く想いは同じ。 「ぜんぜんゆっくりしてないよ……」 れいむは当然の答えを返した。 工場長は笑みで答えた。 「そう。君の群れと違ってこいつらはぜんぜんゆっくりしていないね!」 「そうだよ……ゆっくりしていないのに、どうしてあかちゃんがうまれるの……?」 「れいむ。そこが勘違いの元だ。ゆっくりしてないからこそ、たくさん赤ゆっくりが産ま れるるんだよ!」 「ゆううっ!?」 れいむは混乱した。 ゆっくりというナマモノにとって、ゆっくりすることこそ至上にして最優先の命題。それ を果たせない方が「ゆっくりできることの象徴」とも言える赤ゆっくりをたくさん授かる などあり得ない。 それが、ゆっくりにとっての常識。 だが、加工場での常識は違った。 「君たちゆっくりはよく言うね。『赤ちゃんはゆっくりできる』、と」 「そ、そうだよ! あかちゃんはとってもゆっくりできるんだよ!」 「こいつらはゆっくりしていないね?」 「ぜんぜんゆっくりしていないよ!」 「その通り。したがって、こいつらはゆっくりしたがっている。ゆっくりできる赤ゆっく りを強烈に望んでいる。だからこんなに産まれるんだ」 「ゆううううっ!?」 ゆっくりできないからたくさん赤ゆっくりが生まれる。 それはゆっくりには全くなかった発想だった。 「で、でもみんな! あかちゃんほしくないっていってるよ!」 れいむの指摘通り、れいぱーにおそわれているれいむはいずれもあかちゃんを産みたくな いと言っている。 「やべでえええ! もううみだぐないいいい!」 「すっきりはもういやああああああ!」 「あがぢゃん……ゆっぐ……あがぢゃんとおわかれするの、もうやだよおおおお!」 大嫌いなれいぱーに無理矢理生まされるのだから当然だ。しかも生まれた赤ゆっくりは産 まれたそばからベルトコンベアで運ばれ、ろくに顔を見ることすらできない。赤ゆっくり 達が生き残ることなどないことは、さすがの餡子脳でも想像しているしている。 「君は恵まれた群れにいたからわからないかもしれないけどね。ゆっくりっていうのは、 本来わがままなんだよ。苦しい。つらい。ゆっくりしたい。口では赤ちゃんは生みたくな いと思っていても、産まれた子がどんな運命をたどるか知っていても……自分がゆっくり したいと願いの方を優先する。だから産む。赤ちゃんはゆっくりできるものだからね」 れいむは見た。 どの母れいむも、にんっしんした瞬間だけほんの少しゆっくりした顔をするのだ。 そして直後、赤ゆっくりが生まれ落ちた瞬間に絶望する。 そんな愚かな繰り返しがまわりでずっと起きている。 「そんな……みんなゆっくりしていたから、あかちゃんうまれなかったの……そんなのっ て、ないよ……」 れいむはうなだれた。滅んだ群れへの絶望をさらに深くしたようだ。 「君の群れが滅んだ理由はそれだけじゃないよ」 れいむの顔にさらに深く影が差す。そんなれいむを、工場長はにっこり笑って眺めていた。 * * * 「ゆわあ……」 次に運ばれた施設で、れいむは感嘆の声を上げた。 先ほどの生産セクションとは打って変わって静かな部屋だった。 幅は人間二人が余裕をもってすれ違えるほどの細長い作りだ。長い壁の片面はガラス張り になっており、ガラスの向こうは格子状に仕切られている。そして格子のマス目ひとつひ とつに、穏やかな笑みを浮かべて眠る赤ゆっくりがいるのだ。 「どうだい、れいむ。この赤ゆっくりたちは?」 「とってもゆっくりしてるよ! でも……ちょっといたそうだよ」 赤ゆっくりの頭にはビニール性のチューブが突き刺さっているのだ。れいむが見咎めたの はそれだった。 「ああ、それは痛くないんだ。そこから栄養と高濃度の『ゆんどるふぃん』がそそぎ込ま れている」 「ゆんどるふぃん?」 「ゆっくりがしあわせを感じたときに検出される餡子脳内物質。それを科学的に合成して 作り出したものだ」 「ゆ? ゆゆ?」 「れいむにもわかるように言えば……とてもゆっくりできるものがあの管から出てるんだ。 つまりあれは親ゆっくりの茎のようなものだよ」 れいむは納得がいかないようだったが、赤ゆっくりの穏やかな笑顔を見ているうちに気に ならなくなってきたようだ。 「ゆゆ~ん……この子たち、いつうまれるの?」 「いや、産まれない」 「ゆゆ?」 「『ゆんどるふぃん』を一定期間赤ゆっくりに注ぐと、赤ゆっくりは『さあ、おたべなさ い』をしたゆっくりにきわめて近い味になる。その状態になった時点で真空パックして出 荷だ。加工場の新製品『ゆんどるふぃん赤ゆ』として、ね」 「む、むずかしくてわからないよ!」 「あの赤ゆっくりは、あとでむーしゃむーしゃされるんだ」 工場長は口を大きく開いて閉じて、食べるまねをした。 れいむは震えた。 「どぼじでぞんなごどずるのおおおお!?」 「ここが加工場だからだよ」 簡潔かつ明快すぎる答えにれいむは絶句した。 「さて、さきほどの話の続きだ。ゆっくりはゆっくりを求める。親ゆっくりはゆっくりを 求める。だから赤ゆっくりを産む。だが、赤ゆっくりの方はどうだろう? どこに産まれ たがると思う?」 「ゆ、ゆっくりできるところだよ!」 「そうだね。だから加工場でたくさん産まれる」 「か、かこうじょうはゆっくりできないよ!」 「その通りだ。でもね、見てごらん? この部屋の赤ゆっくり達は実にゆっくりしている だろう?」 れいむは言葉に詰まってしまう。 赤ゆっくりの穏やかな笑顔は、ゆっくりしていることのなによりの証明。 理屈ではなく本能が工場長の言葉を肯定していた。 「人間には、『子供は親を選べない』なんて言葉がある。だが、思いこみのナマモノであ るゆっくりは違う。赤ゆっくりは産まれる場所を選ぶことができる。よりゆっくりできる 場所に産まれ落ちようとするんだ」 れいむはうなだれている。工場長の笑みは深くなった。 「『ゆんどるふぃん赤ゆ』を生産しはじめてから、加工場全体の生産効率は飛躍的に上が ったよ」 そして、工場長はれいむをつれて次の部屋へ向かった。 * * * 次に訪れたのは殺風景な部屋だった。 コンクリートで打ちっぱなしの無機質な壁と天井。 床もまたコンクリートだったが、こちらはにぎやかだ。キリ、ハンマー、包丁にナイフに アルコールランプ。様々な虐待道具が並べられている。 工場長はれいむを透明な箱から取り出すと、部屋の床へと落とした。 「ゆっ……!」 落とされた衝撃にうめきはしたものの、動こうとはしなかった。加工場で見てきたもの、 知ったことのショックが大きく、自失しているのだ だが、 「さて、れいむ。それじゃあ最後に君の群れが滅んだ本当の理由を教えてあげよう」 工場長の言葉にれいむの瞳は輝きを取り戻した。 「ゆ、ゆゆ!? どうしてなの!? しってるの!?」 「知っているさ。もっとも、仮説に過ぎないけどね」 工場長は指を立て、得意げに語り出す。 「今まで見せてきたように、ゆっくりは親の『ゆっくりしたいという願い』と、赤ゆっく りの『ゆっくりしたいという願い』、二つによって生まれる」 「れいむのむれだって、とってもゆっくりしていたし、みんなあかちゃんをほしがってた よ!」 「そうだね。でも、親ゆっくりと赤ゆっくり、どちらの願いも加工場のゆっくりほど強く ない」 「ゆ、ゆゆ! そ、それは……!」 れいむは反論できない。 群れはとてもゆっくりしていた。十分過ぎるほどゆっくりしていたのだから、加工場のゆ っくりほどゆっくりを求めていない。 だから、加工場の親ゆっくりの願いが勝つ。 群れはゆっくりとしていた。だが、加工場のあの部屋で赤ゆっくりが見せた笑顔。あれほ どゆっくりした笑顔は、群れでもなかなか見ることができなかった。 だから、赤ゆっくりは加工場に産まれることの方を望んでしまう。 「仮説に過ぎないが、一日あたりにゆっくりが産まれる総量は制限があるらしい。だから、 加工場でたくさん産まれる分、君の群れでは産まれなくなるわけだ」 「そんな……そんな……!」 「つまり、一言で言えば、だ。君の群れは、加工場に負けたんだよ」 「ゆわあああああああああ!!」 はれいむにとって到底受け入れらないことだった。 加工場。餡子脳の奥に刻まれた場所。ゆっくりにとってもっともゆっくりできない地獄。 そんなところにゆっくりできる赤ちゃんを、産まれる前から奪われてしまい、そのせいで 群れを失ったなんて。 「どぼじでぞんなごどずるのおおおお!? れいむたち、なんにもわるいことしてないの にいいいいい!?」 あまりにも理不尽だった。不条理だった。不公平だった。 れいむの餡子の奥からの、魂の慟哭だった。 「悪いことをしていない? とんでもない。おまえ達みたいなゆっくりが一番迷惑なんだ よ」 れいむの魂の叫びを、工場長は一笑に付した。 「おまえ等みたいに善良な面して増えるゆっくりが一番やっかいだ。ゲスはまだましだ。 人間に挑んでくるから場所の把握ができる。駆除もしやすい。勝手に自滅することだって ある。だが善良な群れは別だ。人間に見つからず、ひっそりと暮らし、そのくせやたらと 増える。普通のゆっくりが食えないものまでどうにかして食べやがる。人間がその存在に 気がついた時には、大抵山の自然は取り返しもつかないくらい壊されている。数が多すぎ て駆除も困難だ」 「ゆ、ゆぐぐ……れいむたちは、わるくない……わるくないのにぃ……!」 「難しい言葉が多くてよくわかってないみたいだな。わかるように言ってやる。おまえら は存在しているだけで迷惑だ。善良かゲスかの区別なく邪魔だ。おまえらはこの加工場で 食べ物として存在する以外、居場所なんてないんだよ!」 れいむは人間の言うことがほとんど理解できなかった。 だが、その意図だけは伝わった。 「いらない」 そう言われたのだ。 それが悔しくて、悲しくて、でも言い返す言葉が思いつかない。 れいむは泣きながら工場長をにらむだけだった。 「その中でもおまえは特に許しがたい」 「れ、れいむはなにも……」 「ゆっくりってやつは絶滅しない。どれだけ駆除しても、半年もあれば前以上の数に戻り やがる。その理由は最近になってようやくわかった」 突然、工場長はれいむを蹴りとばした。 「ゆぐううっ!?」 ものすごい勢いでれいむは飛び、コンクリートの壁に叩きつけられた。 普通のゆっくりなら間違いなく皮が破れ餡子が漏れだし、「永遠にゆっくり」してしまう こと間違いない、容赦のない蹴りだった。 だが、れいむは、 「ゆぐうう……いだい……いだいよぉ……」 蹴られた場所とコンクリートの壁に激突した部分が内出餡で黒ずみはしたものの、その命 に別状は無かった。 「群れで最後に生き残ったゆっくりは、とても死ににくくなる。普通のゆっくりなら死ぬ ようなダメージでも平気で回復しやがる」 「へいきじゃ……ないよお……ぐげえっ!?」 答える間もなくハンマーでたたきつぶされた。 今度こそ体が破れ、餡子が漏れ出す。目玉も飛び出した だが、それなのに、 「いだい……いだい……いだいよお……」 れいむはゆっくりと回復していった。 漏れ出た餡子はひとりでに体内に戻り、小麦粉もオレンジジュースなしで皮もふさがって いく。飛び出した目玉すらも戻っていく。れみりゃも及ばないほどの超回復だった。 「死なない。死なないなあ、お前は」 「やべぢぇ……やべぢぇええ……」 れいむはずりずりと治りきらない体を引きずり、工場長から離れようとする。 しかし閉ざされた部屋の中、逃げ場などない。 無様だった。 滅んだ群れに絶望して達観したゆっくりは、もはやどこにもいない。 工場長はそんな哀れなれいむを追いもせず眺めていた。 「さてれいむ、今お前はゆっくりしたいと思ってるな?」 「ゆっぐじ……ゆっぐじじだいよお……ゆっぐじざぜでよおおお……!」 「さっき言ったことは覚えているか? 赤ゆっくりは、親のゆっくりしたいという願いと 子のゆっくりしたいという願いで産まれる。お前はゆっくりしたいと願い、ここはゆっく りできる加工場だ。そして、お前は群れ最後のれいむだ。そうすると、おもしろいことが 起こる」 れいむは工場長の言葉など餡子脳に入ってこないでいた。 ただ、ひどくゆっくりできない予感にさいなまれていた。 そして、それは現実化した。 「ゆ、ゆゆううう!?」 突然、れいむの頭からにょきにょきと茎が生え、ぽんぽんが膨らんだ。 「どぼじであがぢゃんでぎぢゃうのおおおお!?」 れいむは植物型にんっしんと胎生型にんっしんを同時にしたのだ。 「最後に残ったゆっくりは限りなく不死になり、ゆっくりしたいと強烈に願うだけで赤ゆ っくりを大量に生み出す。それがゆっくりが絶滅しない理由だ」 「あ、あかちゃん……ゆっくり、ゆっくりしていってね!」 産まれたばかりの新しい命に、れいむは自らの状況も忘れ心奪われる。 赤ゆっくりとは、ゆっくりにとって理屈抜きでゆっくりできるものなのだ。 だから、次に目に入った出来事は受け入れられなかった。 想像もできなかった。 赤ゆっくりの生った茎が、突然燃え出すなんて。 「ゆううう!? ひさん、ゆっくりしないできえてね! あかちゃんが! あかちゃんが ああああ!!」 火を消そうとれいむはごろごろと転げ回る。 工場長はたった今れいむの茎を燃え上がらせたライターを捨てると、再びハンマーを持ち 上げた。 そして、じっくりとねらいを定め、れいむの膨らんだぽんぽんへと叩きつけた。 「ゆっぶぶぶぶうう!」 れいむのあにゃるから液状のあんこが吹き出した。うんうんだけではない。髪の毛とお飾 りが混じっている。砕かれた胎生型にんっしんの赤ゆっくりだ。 「れいむ。群れの最後の一匹の、特別なれいむ。残念ながら、加工場にとってお前は邪魔 者だ」 「ゆああ……あがぢゃん……あがぢゃん……」 「放っておけば野良や野生のゆっくりが増えてゆっくりの食品イメージが悪くなる。常識 を越えてゆっくりを生み出すが、生まれるのは生命力が強いだけで食品としての価値が低 いクズばかり。加工場では使いものにならない」 「はじめでの……ゆっぐじじああがぢゃんだっだのにぃ……!」 「だからお前の利用価値は、虐待されることだけ。お前のその特別な状態は、過去の例で は約一ヶ月間続く。その間、楽しませてもらう。この愉悦は加工場の工場長だけの特権だ。 お前みたいのは稀少ではないが、見つけられるのは稀だからな」 「ゆぐあああ……」 泣きぬれるれいむを前に、工場長はあらたな虐待道具を手にする。 「絶望したな? ゆっくりすることを強烈に願ったな? また、生まれるぞ」 「ゆぶうっ!?」 再び、れいむのぽんぽんが膨らみ、頭から茎が生えて鈴なりに赤ゆっくりが生った。 間髪いれず、工場長はれいむのまむまむにロケット花火数本を突っ込むと火をつけた。 れいむが反応する間もなく、ロケット花火は炸裂した。 「ゆっ……ぶええええ!?」 今度は口からお飾り混じりの餡子が吐き出された。 普通のゆっくりなら間違いなく致命傷。だが、死なない。このれいむは決して死ぬことが ない。そして子を宿す能力も失わない。その特殊性こそが、ゆっくりが滅びない理由。種 としてのしぶとさの証。 「どんどん絶望し、ゆっくりを望んで子を宿せ。そのためにわざわざ加工場を案内してや ったんだからな」 工場長の笑みが深くなった。普段は厳密な製品管理のために思った通りの虐待など許され ない。そもそも、こんなに死ににくいゆっくりなど他にいない。普通では不可能な虐待が 一ヶ月の間好きなだけ楽しめるのだ。 「ゆっくりしていってね!」 工場長はれいむの頭から茎をむしり取ると、赤ゆっくりごとれいむに叩きつけた。 「あがぢゃん! あがぢゃあああん!」 れいむの悲痛な叫びに酔いしれる。滅多に手に入らない、群れ最後のれいむ。 これから一ヶ月間の夢のように楽しい日々を想像し、工場長はゆっくりと微笑んだ。 了 by触発あき ・過去作品 ふたば系ゆっくりいじめ 163 バトルゆ虐! ふたば系ゆっくりいじめ 172 とてもゆっくりした蛇口 ふたば系ゆっくりいじめ 180 ゆっくりばけてでるよ! ふたば系ゆっくりいじめ 181 ゆっくりばけてでるよ!後日談 ふたば系ゆっくりいじめ 199 ゆっくりたねをまいてね! ふたば系ゆっくりいじめ 201 ゆっくりはじけてね! ふたば系ゆっくりいじめ 204 餡小話の感想れいむ・その後 ふたば系ゆっくりいじめ 211 むかしなつかしゆーどろ遊び ふたば系ゆっくりいじめ 213 制裁は誰がために ふたば系ゆっくりいじめ 233 どすらりー ふたば系ゆっくりいじめ 465 おぼうしをおいかけて ふたば系ゆっくりいじめ 469 おぼうしをぶん投げて ふたば系ゆっくりいじめ 478 おぼうしのなかにあったもの ふたば系ゆっくりいじめ 513 ネリアン 上記以前の過去作品一覧は下記作品に収録 ふたば系ゆっくりいじめ 151 ゆっくりみわけてね!
https://w.atwiki.jp/steam_fantasy/pages/103.html
名前:ウルフェン 脅威度:Ⅲ 希少度:Ⅲ 知名度:Ⅱ 公開設定 森林地帯に多く生息する、狼型の魔物。通常の狼より一回り大きい体躯を持つ。 運動能力や感知能力はそのままに凶暴性が増幅しており、森のハンターとして君臨する。 多数の群体でコミュニティを形成しており、一匹に見付かったら最後、その個体の仲間達を殲滅するまで四方八方から襲い来るウルフェンの相手を強いられる。 PL設定 森における最大の脅威、捕食者筆頭。 爪や牙による個々の戦闘能力もそこそこある上、それが徒党を組んでいると言う厄介な性質を備える。 会敵し遠吠えをされたら最後、その群れ全てを相手する事になってしまう。 また、通常の狼同様にはぐれ個体の俗に言う一匹狼が稀に存在するが、此方は個としての戦闘能力が若干高い。 技能 「獣系」獣系に分類される魔物、戦闘能力が高い一方で魔法を使う種類は少なく、炎や矢に弱い傾向がある。 「俊敏Ⅲ」高い身体能力の中でもその俊敏性は特筆すべきものである、回避能力は勿論だが森の悪路にも強く、普通に逃げようとしてもすぐに追いつかれるだろう。 「遠吠えⅣ」自らの存在を誇示、及び獲物の存在を伝える合図であり群れを呼び寄せる。 「連携Ⅲ」群れによる狩りの技術、脅威度はあくまで個体の強さでありこの技能を持つ魔物は群れとしての脅威度は一つ上となる。 「追跡Ⅳ」嗅覚、聴力共に優れ仮に逃げたとしても単純な身体能力の差ですぐに追いつかれ、隠れてもこれらの感知能力により見つかるだろう。 「弱点(炎/矢)Ⅲ」炎属性の攻撃や弓やボウガンを使った攻撃に弱いことを示し、炎属性ならば大きなダメージと隙を、矢による攻撃ならば回避能力が大きく低下するだろう。
https://w.atwiki.jp/foresanc/pages/1865.html
オータムベリエ 概要 分類 魔獣・花羊系(アースガルド基準)現世種・魔獣(ステルディア基準) 主な生息地 冷涼な山野・平原・荒野 知能 グラスベリエと同じ 属性 地 危険度 D++ 備考 グラスベリエの近縁種肉が美味いもふもふ 魔獣の一種。 ステルディア大陸の魔物グラスベリエが何らかの理由でアースガルド大陸など海外に定着し、世代を経て独自の進化を遂げることで生まれた種。 そのためグラスベリエは極めて近縁な種にあたる。 秋の葉のような茶色の身体と白い体毛を持ち、体色以外はグラスベリエとほぼ同じ体格と外見。 ぬいぐるみのように愛らしい見た目をしており、ころころしている。勿論NOT淫獣。 生態もグラスベリエに近く、知能が高く温厚で人懐っこい。 群れを成す性質があり、特に力の強い雄の個体がリーダーとなって群れを率いている。 ただし元々穏やかな性質なので群れの秩序はあまり厳格なものではない。 また、群れ同士が出会った場合はリーダー同士が打ち解け、そのまま統合して一つの群れになることも珍しくない。 この場合、リーダー同士に力の優劣があれば弱い方のリーダーがサブリーダーとして強いリーダーを支え、力にあまり差がなければどちらもリーダーに留まり両者の知恵を合わせて群れを率いるようになる。 また、グラスベリエを始めとした他のベリエ種のことも自分たちに極めて近い種だと知っており、仲間として友好的に接する。 肉食であり天敵のルピナスベリエに対しても警戒はするものの相手方に害意が無いと分かれば同様に友好的に接し、用心棒として群れに加えようとすることも。 耳の近くの花も健在だが臭いを発する能力は失っており、力や異性に対するアピール要素に留まっている。 より美しい花を持つ者ほど優れた個体とされ、特に繁殖期になると雄の花はより一層色鮮やかに咲く。 もこもこの羊毛は物理的な衝撃に強く、自分の意志で膨らませることが可能で防御や威嚇にも用いられる。 また膨らませた際は羊毛同士の間に穴が増えるため熱が逃げ易くなり、体温調整にも役立つ。 食性も草食性だが脚から大地の力を汲み上げるという能力を獲得しており、足りない栄養を補うことも可能。 このためグラスベリエと違い、ある程度温暖な場所や荒野など乾燥した環境にも適応している。 グラスベリエと違って炎が弱点ではないが炎を本能的に恐れる性質は健在。 グラスベリエが木属性(ステルディア大陸では地属性の範疇)を得意とするのに対しオータムベリエは地属性の魔術を得意としている。 人懐っこく、知能が高い性質から飼育もし易い部類で特に女性の魔物使いからの人気も中々。 鳴き声 「ぷぅぷぅ」 「ぷぅー」 「ぷっ……!!」 「ぷきゅ?」 「ぷぎゅううううう(´;ω;`)」 技・魔法 主に各地の地属性の魔法に適正を持つ。 「ロックフォール」 岩を落下させて攻撃する。 「サンドストーム」 小規模な砂嵐を起こして攻撃する。 「ストーンチェンジ」 石化の光を放って攻撃する。 「綿毛ガード」 もふもふの綿毛をふくらませて身を守る。物理攻撃に強い。 ふるもっふ。 他にも個体によってさまざまな技を使う。 経歴 2013年2月3日訓練なりチャ ジェイソン、こぎつねらと共にスケルトン教の兄弟が登場。 ジェイソンに飲み物を届けたりもふられたりしていた。 2013年7月14日山地討伐なりチャ 山に生息する魔物としてホップビーと共に子連れで登場。 縄張りに踏み込んだセクオル達を威嚇していたがホップビーに狙われ子供と共に逃走した。 2014年1月5日天空闘技場 観客としてスケルトン教の兄弟の兄がリード、こぎつねと共に登場。 リードらと共に、ローマの応援をしていた。 2014年8月1日訓練なりチャ スケルトン教の兄弟の兄がローマ、ルダらと共に登場。 リードに飲み物を持ってきたり、こぎつねをコローナ・ギーヴルから守ろうとダッシュしたりしていた。 由来 「Autumn(秋)」 + 「グラスベリエ」 余談 元ネタは言わずもがなグラスベリエ。 設定を貸してくださった珀路さんに大感謝。 登録タグ もふもふ アースガルド グラスベリエ ステルディア ベリエ マスコット 地 羊 近縁種 魔物 魔獣
https://w.atwiki.jp/terra_romance/pages/204.html
特徴 二つに分けられる蟲族のタイプ中、その名の通り群れをなして行動する蟲族の総称。 社会性昆虫を祖先とする蟲族であり、戦闘時には雑兵級の個体は一対一では蟲族の中でも最弱といっても良いが、群れで戦略的に動く習性からある意味特殊訓練を受けた蟲族よりも敵に回すのは厄介であり、蟲族の中でも約半数がこれらのタイプで占める。 だが滅多に蟲族以外の種族には干渉せず、群独自に社会を形成し多くのグループの群は平和に暮らす。 能力:「群性蟲種感応能力」〈スウォームセクトパシー〉 その共通の特徴的な能力は蟲種感応能力が発達した半共有の意識と記憶の並列化であり、ほぼ遠隔でのコミュニケーション能力を有する。 また同血統の祖とする昆虫の群れをも呼び寄せることも可能とし、それらの昆虫を介して独自の情報ネットワークを形成し、故に情報伝達能力という点で優れ、まるで一匹の大型生物の如く働く。
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/550.html
【 chapter 4 「裏切り」 】 まだ陽が昇らないうちから草むらの中を掻き分けながら進む二匹のゆっくり。 まりさとぱちゅりーだ。 夜が明ける前に川を渡った二匹は、“お城”から最も遠い場所を選んであんよを進めていた。 そこは既に“れいむ”のテリトリーである。 どこに“兵隊”が潜んでいるかわからない。 まりさは記憶を頼りに森の中を隠れながら群れの外れへと向かっている。 まりさが向かおうとしている場所は、皮肉にも親まりさを含めた成体ゆっくりたちが会議を行っていた場所だ。 懐かしい土の匂い。 木々のざわめき。 頬をくすぐる風。 この森の中にいると両親のことを思い出す。 親まりさの隣を跳ね回って狩りに励んだこと。 親ありすに寄り添い日向ぼっこをしたこと。 この風景がまりさの過去の記憶を呼び覚まして行く。 思わず泣いてしまいそうになる。 しかし、涙を流している暇はない。 ここは、まりさの故郷でもあり敵地でもあるのだ。 感傷に浸っている暇などない。 「まりさ。 ゆっくりしていってね」 「ゆん……。 ゆっくりしていってね」 ぱちゅりーもなんとなくまりさが何を考えているのかが分かるのか、しきりに声をかけている。 沈黙に耐えられないのもそうだが、何よりもまりさが考え込みすぎて冷静な判断ができなくなってしまうことが怖い。 東の空が白々と明るくなっていく。 風に乗って微かに小鳥の囀りが聞こえてきた。 朝が近い。 群れのゆっくりたちもそうだが、“れいむ”や“兵隊”たちも動きだすことだろう。 そうなってくると、ますます動きが取りづらくなる。 それまでに群れのゆっくりたちとコンタクトを取り、自分たちは安全に過ごす場所を確保しなければならない。 ずりずりとあんよを這わせながら木々の間を進んで行く。 徐々にまりさの進むペースが速くなっているのに、まりさ自身は気づいていないのだろう。 ぱちゅりーは少しだけ息を切らしながらその後ろをついて行った。 不意にまりさが立ち止まる。 (むきゅ……?) ぱちゅりーはまりさとの距離を少しでも詰めるべく、あんよを速めた。 そのとき。 草むらの中からガサガサと草がこすれ合う音が聞こえてきた。 ぱちゅりーの顔が青ざめて行く。 まりさは、ぱちゅりーの元まで引き返すとその前に立ちはだかるように位置取り、音の聞こえる方向を睨みつけていた。 (ふしぎだわ……) ぱちゅりーの目の前に在る金髪と黒い帽子。 それは何故だかぱちゅりーを安心させた。 さっきまで生き急いでいるようにも見えたまりさが、途端に冷静になってぱちゅりーを守ろうとしている。 ぱちゅりーも極端に運動が苦手なわけではない。 いざとなったら、自分もまりさの加勢をするつもりでいた。 音が近づいてくる。 生唾を飲み込む二匹。 頬を一筋汗が垂れた。 「ゆゆっ! まってね! ちょうちょさん! ゆっくりれいむにたべられてねっ!!」 突如聞こえてきた声に身を強張らせる。 間抜けなセリフと声はともかく、群れのゆっくりか“兵隊”かまでは判別できない。 不用意に動くこともできなかった。 相手は一匹だとは限らない。 「ゆゆーっ!!」 ジャンプ一番飛び出してきたのは、なんともみすぼらしい姿をしたれいむ種のゆっくり。 体の大きさからして成体ゆっくりだろう。 そのれいむは優雅に舞う蝶々に向かってしきりにジャンプを繰り返していた。 しかし、届かない。 れいむは蝶々に向かって威嚇を始めた。 やがて、こちらに気がついたのか。 「ゆ……ゆひぃぃぃぃっ!!! や……やめてねっ! やめてねっ!! れいむにひどいことしないでねっ!!! れいむはわ るいゆっくりじゃないよっ!! ほんとうだよっ!!! もう、いたいのはいやぁぁぁぁ!!!!!」 錯乱したように言葉を喚き散らすれいむに思わず呆然とする二匹。 いつまでたっても攻撃されないれいむが「ゆ?」と一言呟いた後に、まりさとぱちゅりーを交互に見始める。 「ゆ……ゆっくり……」 「ゆっくりしていってね!!!」 「ゆ! ゆっくりしていってね!!!」 れいむが涙目のまま、笑顔を取り戻す。 まりさとぱちゅりーはずりずりとれいむの元へとあんよを這わせた。 帽子の中に入っていた芋虫を渡すと、れいむはそれを美味しそうに食べ始める。 「むーしゃ、むーしゃ、しあわせー!!」 「ゆゆぅ!! れいむ! しずかにしてね!!! まりさたちは、そろーりそろーり、ここまできたんだよ」 「ゆっくりごめんなさい……」 「むきゅきゅ。 いいのよ。 それよりも、まりさ……」 「ゆ……。 そうだね……」 「ゆゆっ?」 まりさがこれまでの経緯を話して聞かせる。 要所要所でぱちゅりーが分かりやすく解説をしてくれたせいか、お世辞にも利口とは言えないれいむ種でも事情は飲み込めても らえたようだ。 れいむは、れいむにしては神妙な顔つきで二匹の立てた計画の事を繰り返し尋ねてきた。 「でも……そんなことをしてもだいじょうぶなの? “おしろ”のなかには、みんなのちびちゃんたちがいるよ……?」 「むきゅ。 しんぱいらないわ。 あなたたちは“おしろ”のまえでさわぎをおこしてくれればいいのよ。 それで、“へいた い”と“れいむ”をなんとしてでも“おしろ”のそとにだしてもらいたいの。 そして、まりさとぱちゅのふたりで、“おしろ” のなかにはいって、ちびちゃんたちをたすける。 ……そうすれば、あなたをふくめて、むれのゆっくりたちも、えんりょなく “へいたい”や“れいむ”をやっつけることができるでしょう?」 「そ、それは……そうだけれど……」 しどろもどろに受け答えをするれいむ。 まりさもぱちゅりーも互いの顔を見合わせていた。 れいむが二匹に質問をぶつける。 「でも……“れいむ”はどうやってやっつけるの……? たしかに、みんなでたたかえば“へいたい”はやっつけられるかもし れないよ。 でも、“れいむ”は……」 「だいじょうぶよ」 「ぱちゅりー……?」 「まりさと、ぱちゅりーのふたりで、“れいむ”のちびちゃんをつかまえて、みんなのまえにもってくるわ。 そうすれば、 “れいむ”はみんなにてをだせなくなるわ」 今度はまりさとれいむが顔を見合わせた。 思わず顔がほころぶ。 “お城”の外からは群れのゆっくりが。 “お城”の中からは、まりさとぱちゅりーによって解放された子ゆっくりたちが、“れいむ”を襲う。 しかも、“れいむ”は子供を人質に取られて群れのゆっくりたちに手が出せない。 「……かてる、かも」 「むきゅ。 まりさ、ちがうわ。 ぱちゅたちは、かつのよ」 「ゆ……ゆゆゆ! すごいよ! ふたりとも!! すごくゆっくりしているよ!!!」 れいむが本当に嬉しそうに笑う。 このれいむも群れの中で暮らすに当たり辛い日々を送ってきたはずだ。 “れいむ”を倒せない群れのゆっくりたちは、れいむに対して厳しく当たっていた。 迫害を受けているのである。 ボロボロのリボンや泥だらけの顔がそれらを如実に物語っていた。 “れいむ”が群れにやってきた事で最も被害を被っていたのは、れいむ種なのは間違いない。 他のゆっくりたちと同じように食糧難に晒された上に、差別を受け共に暮らしていたゆっくりもれいむ種からは離れ、大量のし んぐるまざーが誕生した。 過酷な条件の中で赤ゆたちを満足に育てることができずに死なせてしまうれいむたちは、群れ中から蔑みの対象とされている。 まりさも、小さな頃から同じくらいの大きさの子れいむを見たことがない。 ……“お城”の中では大量に見かけたが。 ぱちゅりーは、このれいむに作戦の伝達役を頼んだ。 具体的な作戦を話すために、夜になってから本格的な会議を開きたい。 れいむは嬉しそうにぴょんぴょんと群れへと戻って行った。 「あのれいむ……だいじょうぶかな」 「むきゅ。 まりさは、むれのゆっくりをしんようしていないのかしら? そんなことじゃあ、いいリーダーにはなれないわよ?」 「そうじゃないよ……。 れいむは……みんなに、きらわれているから……。 いじめられたりしないかとおもって……」 「まりさは、やさしいゆっくりなのね……」 「……そんなの、わかんないよ」 まりさが恥ずかしそうにあんよを動かした。 ぱちゅりーがそのあとをずりずりとついていく。 ひょこひょこと揺れる黒い帽子を眺めながら、ぱちゅりーが思いを馳せる。 (まりさ。 ……やさしいことは、とてもいいことだとはおもうけれど……。 やさしすぎると……“れいむ”にはかてないか もしれないわ……) それから一呼吸置いて、浅い溜め息を吐く。 (でも。 ぱちゅは、そんなまりさのことが……すきよ) ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 集まったゆっくりはまりさ、ぱちゅりー、れいむを含めて六匹。 真夜中の密会である。 それぞれが成体のありす、ちぇん、みょん。 皆、密かに“れいむ”打倒に闘志を燃やしている群れの若ゆたちだ。 「“れいむ”はつよいうえに、あたまもいいみょん。 ぱちゅりーの“さくっせんっ!”はすごいとおもうけど……そんなかん たんにうまくいくとはおもえないみょん」 「でも、いつまでも“れいむ”のいいなりになっているわけにはいかないわ。 まださきだけれど……このままじゃ、えっとう するためのごはんさんをあつめられなくなってしまうもの……」 「わかるよー。 どっちのかんがえもただしいんだねー……。 でも、ちぇんは“れいむ”とたたかいたいよー」 ちぇんの言葉にありすとみょんが口を揃えて抗議の声を上げた。 「それはありすもいっしょよ!!!」 「それはみょんもおなじだみょん!!!」 「わ……わからないよー……」 「むきゅ。 いいあらそいはやめてちょうだい。 こんなおそくにみんなにあつまってもらったのは、そんなはなしをするため じゃないわ」 冷静、かつ押し殺したような声でぱちゅりーが呟く。 ジト目のまま睨みつける紫色の瞳は群れのぱちゅりー種のどれもが持っていない威厳と迫力を備えていた。 三匹が口を揃えて頭を垂れる。 「「「ごめんなさい……」」」 「みんな。 ゆっくりまりさにおしえてほしいよ。 あれから……ここでいったいどんなことがあったのかを」 「……ゆっくりはなすよ」 ありす、ちぇん、みょんの三匹はまりさとの再会に涙を流して歓喜の声を上げた。 歴代リーダーまりさの餡を継ぐまりさが群れに帰ってきたことが余程嬉しかったのだろう。 そして、誰もがあの忌まわしい事件の起きた日に、まりさは死んでしまったと思っていたのだ。 まりさが“お城”を脱出した翌朝、“れいむ”が群れ中のゆっくりを集めて叫んだらしい。 「ゆっくりできないゲスのちびちゃんである、まりさは“れいむ”がせいっさいっ!してやったよ!!!」 その言葉を聞いて群れのゆっくりたちは静まり返って涙を流したと言う。 恐らくその背景には、リーダーまりさと親まりさへの想いも含まれていたことだろう。 “れいむ”にはその意味を理解することができなかった。 群れに突然現れた“れいむ”は、まりさ親子の餡統を理解していない。 “れいむ”は追っ手に差し向けた“兵隊”の言葉を信じ、まりさは川に沈んで死んだとも告げたそうだ。 しょぼくれる群れのゆっくりたちを見て“れいむ”は終始、笑みを浮かべていたらしい。 理由は分からないが、群れの覇気は完全に消えてしまった。 “れいむ”はそれが気になったのか群れのゆっくりを捕まえてはまりさ親子について質問をしたが、どのゆっくりも黙して語ら ず。 「……みんな、だいすきなのよ。 まりさのことも。 まりさのおかあさんのことも。 まりさのおかあさんの、おかあさんの ことも」 「…………っ」 四匹が泣き出す。 突然の事に戸惑うまりさとぱちゅりー。 群れのゆっくりたちはリーダーまりさのことが大好きだった。 リーダーと一緒に戦うことができなかった自分たち。 後悔の念だけが毎日湧水のように絶え間なく溢れてくる。 せめて、親まりさと共に戦い散ることができればと望んで一度は捨てたはずの命。 しかし、目の前で泣き叫ぶ無実の赤ちゃんゆっくりを目の当たりにしてしまい、もはや自分の命だけの問題ではないと諭される。 その結果、あんよを止めてしまった。 “れいむ”に口汚く罵りの言葉を浴びせられながら、執拗に踏みつけられる親まりさを前に何もできなかったのだ。 親まりさが、リーダーまりさと共に戦うことができなかった事を嘆いて巣穴に籠っているときも、何度も何度も励ましに行った らしい。 塞ぎこんだ親まりさを半ば無理矢理に外に連れ出したのが親ありす。 おてんばを絵に描いたような親ありすは、同種から見ても決して都会派であるとは言えなかったが、その底抜けの明るさと優し さがまりさを奈落の底から救い出すことになる。 同時期、“れいむ”は成体ゆっくりを集めて“お城”の建築を始めていた。 親まりさと親ありすは何度も二匹だけで監視の目を盗んでは広い草原に遊びに行っていたらしい。 その草原にはまりさも親まりさと何度か遊びに行ったことがある。 二匹は本当に仲の良いゆっくりだった。 初めて聞く最愛の両親の昔話に思わずまりさの頬を涙が伝う。 まりさにとって、親まりさと親ありすは神格化された存在だった。 最愛の両親であり、偉大な両親であり、尊敬する両親。 まりさの世界を統べる、神のような存在。 だが伝え聞いた昔話に、絶句するようなエピソードは一つとしてなかった。 親まりさは、ごく普通のゆっくりだった。 できなかった事を後悔して嘆き、沈み、泣きながら過ごした日々。 今の自分と同じではないか。 まりさは、今でもたった一匹で“れいむ”に挑んだ親まりさを尊敬している。 その隣にずっと在り続けた親ありす。 何も変わらない。 ゆっくりとしてこの世に生を受け、ゆっくりと生きていただけ。 ただそれだけの両親を死に追いやった“れいむ”。 昔話を終えて泣き続ける四匹のゆっくりに向かってまりさが言葉を紡ぐ。 「みんな」 その一言に、ぱちゅりーも含めてその場にいた全員がまりさの方へと視線を向けた。 「まりさとぱちゅりーに、きょうりょくしてほしいよ。 みんなといっしょにたたかえば、ぜったいに“れいむ”もたおすこと ができるよ」 「「「「ゆっくりりかいしたよ!!!」」」」 れいむ、ありす、ちぇん、みょんがキリッとした表情でまりさの声に応える。 ぱちゅりーは嬉しそうに小さく笑った。 意見の割れていた四匹のゆっくりたちを一瞬で一つに纏めてしまった。 代々のリーダーの餡を受け継ぐということを抜きにしても、まりさの言葉には不思議な説得力を感じる。 作戦の決行は、次の新月の夜。 今日集まったれいむ以下三匹のゆっくりを中心に群れ中の成体ゆっくりを中心とした反乱軍を編成する。 反乱軍は“お城”の正面から攻撃を仕掛ける。 このとき、なるだけ“兵隊”を引きつけること。 “れいむ”をおびき出せれば尚良い。 その隙をついて、まりさとぱちゅりーがかつて脱出に利用した岩の隙間へと回る。 “お城”内部への急襲。 捕えられた子ゆっくりたちの解放。 同時に反乱軍による総攻撃。 混乱に乗じて“れいむ”の子供たちを制圧。 それを人質にして“れいむ”を全員がかりで倒す。 「みんな……ゆっくりおねがいするよ!」 「まかせてね!!!」 元気よく返事を返すゆっくりたち。 まりさもぱちゅりーも満足そうに互いの顔を見合わせた。 決戦の日は近い。 それぞれの思いを乗せて、運命の歯車が少しずつ回り始める。 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 真っ暗な森の中を生温かい風が抜けた。 それぞれの巣穴の中では緊張した面持ちを見せる成体ゆっくりの姿が見える。 皆、この日のために体力を温存させてきた。 まりさとぱちゅりーが“お城”の裏手に回り、そびえたつ牙城を見上げて生唾を飲み込んだ。 自然が作り上げた岩肌の塔とも言えるそれは、難攻不落の要塞を思わせる。 この中に“れいむ”がいるのだ。 まりさは歯を食いしばり“お城”を睨みつけていた。 ぱちゅりーがまりさの頬にすーりすーりをする。 言葉はかけられなくともその意味を理解したまりさが恥ずかしそうに舌を出した。 まりさはすぐに周りが見えなくなってしまう。 若さのせいでもあり、両親の仇を目の前にしているせいでもあるのだろうが。 刹那。 夜の風に乗ってゆっくりの叫び声が二匹に届く。 「な……なんだみょん!!! こんなことしてただですむとおも……ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」 (――――はじまった……!!) まりさとぱちゅりーが顔を見合わせる。 “お城”の入り口付近が騒然となり始めた。 両陣営のゆっくりたちが怒号を上げるのが聞こえてくる。 「ありすたちはもう、げんっかいっ!よっ!! “れいむ”をだしなさい!! むれのみんなで、せいっさいっ!してやるわ!」 「わかるよー!! もう“れいむ”のいうことはきかないんだねーー!!!」 約百匹の“兵隊”ゆっくりたちと、約四百匹の群れのゆっくりたちが対峙していた。 その圧倒的な数の差に次第に怯え出す“兵隊”たち。 しかし、個々の能力は“兵隊”ゆっくりのほうが高い。 喧嘩の訓練などを毎日行っているし、何より群れのゆっくりたちと違ってしっかりとした食事を摂れている。 数は勝れど戦いが長引けば反乱軍が不利な状況になっていくのは明白だった。 両陣営。 先頭の集団同士が激しくぶつかり合う。 「「「「ゆあああああ!!!!」」」」 互いの顔に体当たりを放つ。 皮や髪の毛に噛みついて攻撃するゆっくりもいた。 俯瞰で見ると両者の攻防は互角のようにも思える。 戦いというものは、守る側が圧倒的に有利なのだ。 “お城”の周りにはかつて親まりさが殺された処刑台のように地面から露出した岩が無数に存在する。 それらは天然の城壁となり、反乱軍の進路を限定してしまう。 一斉に攻撃をしかけ、一押しで“兵隊”を飲み込むことはできないのだ。 それでも、群れのゆっくりたちはひたすら前へ前へと進み続けた。 「ありすたちは……もう、ぜったいににげたりしないわっ!!!」 「そうだみょん!!! このもりは、みんなのもりだみょん!! “れいむ”だけのものじゃないみょん!!!!」 自らを奮い立たせるかのように叫び声を上げるゆっくりたちの気迫に押されたのか、“兵隊”たちが思わずたじろぐ。 地形的に不利な立場にあるにも関わらず、突っ込んでくる群れのゆっくりたちに命を失う恐怖はないのだろうか。 凄まじい形相で押し寄せる群れのゆっくりたちに対して“兵隊”たちは後退を余儀なくされた。 群れのゆっくりたちの心の中にはまりさがいる。 まりさだけではない。 リーダーまりさも、親まりさもいる。 命を賭してでも“れいむ”を中心に据えた負の螺旋に終止符を打とうと戦い続けるのには理由があるのだ。 共に戦うことができずに、ただ見ていることしかできなかった自分たちとの決別。 たとえ、ここで永遠にゆっくりしてしまったとしても、まりさと共に戦った結果だとすれば悔いはない。 この反乱軍の中にいるゆっくりはまだ帰ってきたまりさの顔を見ていない者がほとんだ。 それにも関らず、ほぼ群れ中の成体ゆっくりたちが、まりさとと共に戦うために集まった。 そして、まりさに命を預けた。 まりさは気づいていないだろう。 既に、まりさはこの群れのリーダーなのだ。 「“れいむ”さまだ……!! “れいむ”さまがきたよっ!!!」 “兵隊”まりさが叫ぶ。 もちろん、“兵隊”たちの士気を高めるための作戦だ。 “お城”の入り口に、凍りついたような目つきで戦いを見下ろす“れいむ”の姿があった。 月の光が届かないため、その姿はおぼろげにしか見ることができない。 しかし、群れのゆっくりのどれもが“れいむ”の存在を感じていた。 空気が張り詰めて行く。 “お城”の周囲が“れいむ”の雰囲気に呑まれていく。 それは畏怖の念。 恐怖の象徴。 群れのゆっくりたちの動きが思わず鈍ってしまう。 “れいむ”の与える影響は、まりさとは対極に位置する。 「このさわぎはなんなの? ばかなの? ……しぬの?」 たったそれだけの言葉。 それだけの言葉なのに、群れのゆっくりたちは氷の刃で突き刺されたような感覚を覚えた。 だから、思わずまりさとぱちゅりーに言われたことを忘れるところだった。 叫び声を上げる。 「“れいむ”だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!」 夜の乾いた空気に乗って叫び声が“お城”の裏側にまで届く。 “れいむ”が“お城”から出てきたら、大声で叫んで教えてほしい。 それはぱちゅりーの案である。 まりさとぱちゅりーが同時にあんよを蹴った。 目指すは“お城”の側面上部。 かつてまりさが脱出した岩の隙間。 固い岩の上を跳ねるたびにあんよが悲鳴を上げるのは昔と同じだ。 「ゆ゛ぎゃああああ!!!!」 「いだい゛よぉぉぉぉぉ!!!!」 「や゛べでぇぇぇ!!!!!」 全速力で駆け抜けるまりさとぱちゅりーの元まで、群れのゆっくりたちの悲鳴は届いて来ない。 “れいむ”は突如として、群れのゆっくりたちの懐に飛び込んだ。 “れいむ”のぶちかましは、二、三匹の成体ゆっくりを一度に弾き飛ばす。 高い跳躍を活かしたジャンプから繰り出される踏みつけは、皮を一瞬で押し潰し周囲に勢いよく餡子を飛び散らせる。 反乱軍のゆっくりの髪の毛を咥えて、鉄球のように振り回しながら攻撃を繰り返すその姿は一騎当千の名に相応しい。 「なんなの……? どうして……? どうして……?」 疑問を抱く暇もなく、次々と物言わぬ饅頭にその姿を変貌させていく群れのゆっくりたち。 あまりにも圧倒的な力の差だった。 これほど激しい攻撃を繰り返しているにも関わらず、“れいむ”は常に周囲の状況を把握し、最善に近い選択を選び続けている。 街で野良として生きてきた経験がそうさせるのかは分からないが、未だに“れいむ”は無傷だ。 巧みに露出した岩を利用し、攻め立てる。 岩に叩きつけられて絶命するゆっくり。 岩の壁を利用し追い詰めたところを一網打尽にされるゆっくりたち。 反乱軍に焦燥感が漂い始める。 (……かてない……) “れいむ”の参戦は反乱軍の戦意を根こそぎ奪い去ってしまった。 圧倒的なまでの暴力。 「みんな!! がんばるんだねー!! ちぇんたちはもう……ぜったいににげたりしな――――」 「じゃあ、ゆっくりしね」 「え゛ぎゅぅ゛ッ??!!!」 踏み潰される。 絶望に支配されていく心の奥の奥に、まりさの姿がちらつく。 まだ諦めるわけにはいかない。 自分たちはまりさに頼まれたのだ。 群れのリーダーから、大事な事を頼まれているのだ。 “れいむ”を。 “兵隊”を。 引きつけてほしいという頼みを……いや、願いを。 何を恐れることがあろうか。 今、自分たちは過去にできなかった事を十分にやれている。 恐れず、逃げ出さず、大好きな群れのリーダーと共に、必死になって戦っているのだ。 逃げられない。 逃げ出さない。 ここで諦めたら必ず後悔する。 そんな気持ちを抱えたまま日々を過ごしても、ゆっくりなどはできない。 「「「「うわあああああ!!!!!」」」」 複数のゆっくりたちが一斉に四方から“れいむ”に体当たりをしかけた。 囲みの一方を蹴散らし、それをかわす“れいむ”を激しい衝撃が襲う。 「ゆ゛ぐッ!!」 休みなく撃ち込まれた第二派の体当たりがこの時、ようやく“れいむ”を捉えた。 与えたダメージは微々たるものだろう。 群れのゆっくりたちの意識を鼓舞させるにはそれで十分だった。 しかし。 「ゆ゛があ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!!」 “れいむ”が咆哮を上げた。 そして次々に周りのゆっくりを餡子の塊に変えていく。 “れいむ”が本気になった。 いや、群れのゆっくりたちの強い思いが“れいむ”を本気にさせたのだ。 お互い、一歩も引くこともない死闘が展開される。 (おねがい……っ!! まりさ……っ!!! はやく……っ!!!!!) ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― “お城”の最上部付近。 岩肌の城壁の隙間に身を滑らせその内部へと潜入する二匹のゆっくり。 暗がりの中、あんよを踏み外さないように慎重に進んで行く。 外からは凄まじい怒号が聞こえてくる。 “お城”の中の子ゆっくりたちも目覚めているのだろう。 凄まじい数のゆっくりの気配がまりさたちにも伝わってきた。 捕らわれの子ゆっくりたちも、子れいむたちも泣きじゃくっているようだ。 まりさとぱちゅりーがついに広間にまで降り立つ。 そのままの勢いで叫ぶ。 「みんな!!! まりさは、まりさだよっ!!!! ゆっくりみんなをたすけにきたよっ!!!!!」 まりさの声が“お城”内部の岩壁に反響して響き渡る。 突然の出来事に固まってしまったのか、もぞもぞと動くような無数の気配は一瞬で消えてしまった。 「まり……しゃ?」 声のする方向から群れのゆっくりたちがどこに隔離されているかをいち早く察知するぱちゅりーがそちらに駆け出す。 「ほんとうに……まりしゃなの?」 「ありしゅたちが……“おしろ”からにがしちゃ……あにょときの……まりしゃ?」 “お城”の中がざわつき始める。 反対に静まり返るのは子れいむたちだ。 「みんな!! まりさたちにちからをかしてほしいよっ!!! いま、“おしろ”のそとで、ちびちゃんたちのおかあさんたち がいっしょうけんめい“れいむ”とたたかっているよっ!!! だから、ちびちゃんたちは、ちびちゃんたちでゆっくりたたか ってね!!! “れいむ”のちびちゃんたちをやっつけるよっ!!!!」 「ゆっくちりきゃいしちゃよっ!!!!」×60 「どぼじちぇそんにゃごちょい゛う゛にょお゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ッ??!!!」×107 子れいむたちは弱い。 “れいむ”によって際限なく甘やかされて育っているからだ。 毎日、暴行を受けていた子ゆっくりたちのほうが、よっぽど丈夫に育っている。 子ゆっくりたちが、子れいむに全滅させられる危険性はない。 「ゆっくちできにゃいゲスは、せいっしゃいっ!してやるよ!!!」 一斉に飛びかかる子ゆっくりたち。 今日まで受けた仕打ちの恨みを晴らさんとばかりに勢いよく攻撃を仕掛ける。 ぬるま湯の中に浸かり、日々を何不自由なく過ごしてきた子れいむたちに抗う術はなかった。 「やべちぇぇぇぇ!!!!」 「いちゃいよぉぉぉ!!!!」 虫のいい話だ。 今まで子ゆっくりたちを散々痛めつけておいて、自分たちが痛い思いをしたらそれを非難する。 子ゆっくりたちが、子れいむたちの言葉を聞き入れる道理はなかった。 子ゆっくり同士の戦いであるため、決着はすぐにはつかない。 お互いに致命傷を与えることはできないようだ。 「ゆっ、ゆっ、ゆっ、ゆっ……」 それでも切れ切れに呼吸をする子れいむが出始める。 子ゆっくりたちの反撃は凄まじいものがあった。 生まれてからずっと“お城”に閉じ込められ、誰にも優しくしてもらえず、子れいむに虐められるだけの毎日。 その陰鬱な日々が今日、ようやく終わりを告げたのだ。 全てから解放された子ゆっくりたちの勢いは留まるところを知らない。 まりさがぱちゅりーに目配せをする。 ぱちゅりーが静かに頷いた。 ここはぱちゅりーに任せる。 まりさはぴょんぴょんと飛び跳ねて一匹の子れいむを咥えた。 「ゆんやあああ!!! はなしちぇねっ!!! おろしちぇねっ!!! きょわいよぉぉぉぉ!!!!」 滅茶苦茶に暴れまわる子れいむの訴えを無視して“お城”の外に向かってあんよを蹴る。 入り口に近づくたびに外から聞こえてくる音の衝撃が顔にぶつかってくる。 (みんな……っ!!! まっててね……っ!!!!) 視界が開ける。 目の前で行われている戦いは凄惨なものだった。 “れいむ”、“兵隊”、“反乱軍”。 両陣営入り乱れての大決戦。 その中に置いて、“れいむ”はまさに台風の目のような存在として異彩の光を放っていた。 “れいむ”を中心に群れのゆっくりたちが薙ぎ倒されていく。 常識外れな戦闘能力と言える。 まりさは、子れいむを咥えたたまま、大きな声で叫んだ。 「“れいむ”ううううぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!」 突如として“お城”から聞こえてきた声にゆっくりたちが一斉に振り返る。 瞬間。 群れのゆっくりたちから歓喜の声が上がった。 まりさの口に咥えられているのは忌々しい“れいむ”の子ゆっくりである。 それが何を意味するか群れのゆっくりたちは理解したのだ。 まりさとぱちゅりーが“お城”を制圧したこと。 そして、自分たちの子ゆっくりが人質から解放されたということ。 「“おしろ”のなかのちびちゃんたちは、まりさたちがたすけたよっ!!!!!」 「わかるよーーーー!!!!」 「とかいはだわぁぁぁ!!!!」 「やったみょおおぉぉぉん!!!!!」 「それから“れいむ”!!!!!」 まるで時間が止まったかのようにぴくりとも動かないゆっくりたちの中にある“れいむ”が恐ろしい形相で振り返った。 低い声でまりさに向かって語り出す“れいむ”。 「まりさは……あのときのちびちゃんだね」 「ゆっ! そうだよっ!!! “れいむ”にえいえんにゆっくりさせられた、おかあさんたちのこどもだよっ!!!!」 「……ゆふふ。 ……ゆゆっ……。 げらげらげらげら!!!!!」 突如、大声で笑い出す“れいむ”を両陣営のゆっくりが怯えた様子で眺めている。 まりさだけはそんな“れいむ”を“お城”の入り口からずっと見下ろし、睨みつけていた。 見上げる“れいむ”。 見下ろすまりさ。 二匹の視線が再び空中でぶつかる。 「やっぱり、ちびちゃんもあのときに、むのうなまりさやありすといっしょに、えいえんにゆっくりさせてあげるべきだったね」 “れいむ”のもの言いに激昂するのは群れのゆっくりたちである。 思いつく限りの呪いの言葉を“れいむ”に浴びせる。 “れいむ”は雑兵の言葉など気にも留めない様子でまりさを睨みつけていた。 (……ちょうはつには、のらないみたいだね) 「“れいむ”」 「……さま、をつけてね。 たかだか、まりさごときがなまいきだよ」 「“れいむ”。 “れいむ”のちびちゃんたちを、えいえんにゆっくりさせられたくなかったら、そこをうごかないでね。 お となしく、むれのみんなから……せいっさいっ!されてね」 「おきゃあしゃあああん!!! たしゅけちぇにぇっ!!! きゃわいいきゃわいい、れーみゅをたしゅけちぇにぇっ!!!!」 “兵隊”たちが青ざめる。 “れいむ”は群れのゆっくりたちの子ゆっくりを人質に取ることで絶対的な支配体制を作り上げていた。 しかし。 逆に“れいむ”の子ゆっくりを人質に取られてしまった。 こうなってしまっては“れいむ”はもはや動けないだろう。 誰もが、そう思っていた。 「ゆ゛ぎゅぶっ!!!!!」 一匹のみょんが踏み潰されて中身のホワイトチョコをぶちまけた。 「――――ッ?!!」 まりさ、子れいむ、群れのゆっくりたち、“兵隊”までもが驚愕の表情を浮かべ“れいむ”に視線を向けた。 「お゛ぎゃあ゛しゃああぁんッ?! や゛べちぇよぉぉ!! れーみゅが……」 「……“れいむ”のちびちゃんをつかまえたからって、なんなの?」 「ゆ……? ゆゆっ……?」 「それでかったつもりになってるの? ばかなの? しぬの? ちびちゃんなんていつでも、いくらでもつくれるのに。 そん なものをつかまえたくらいで、“れいむ”がうごけなくなるとでもおもってたの?」 「“れいむ”はちびちゃんたちがだいじじゃないのっ?! “おしろ”のなかでちびちゃんをまりさにつぶされたときは、あん なにおこってたくせに!!!」 「ゆぅ……あれはね。 まりさみたいな“ごみくず”にはんこうされたのが、かんにさわっただけだよ」 その場に居合わせたゆっくりたちに戦慄が走る。 群れのゆっくりたちはもちろん、“兵隊”たちも“れいむ”の言葉に凍りついたように動けなくなってしまった。 まりさも“信じられない”というような表情で“れいむ”を見つめている。 騒ぎ出すのはまりさの口に咥えられた子れいむだ。 「おぎゃあ゛じゃあ゛あ゛ん゛ッ?!! どぼじちぇしょんにゃごちょい゛う゛にょぉぉぉぉおッ!? れーみゅは、おきゃー しゃんの、ぎゃわいいきゃわ゛いい゛……ちびちゃん゛でじょおぉぉぉ゛!!!????」 バケツをひっくり返したかのように涙を流す子れいむを見て、“れいむ”がそれを嘲笑った。 「……まりさみたいな“ごみくず”につかまるような、むのうなちびちゃんはいらないよ」 「「「「――――――??!!!」」」」 驚愕の表情が“れいむ”を包む。 その渦中において“れいむ”はなおも不敵な笑みを浮かべていた。 まりさの頬を冷汗が垂れる。 「まりさ」 「……?」 「“れいむ”はね。 つよいんだよ? えらいんだよ? ちびちゃんなんて、ほかのゆっくりたちとすっきりー!すれば、なん にんだってつくれるんだよ? そんなこともわからないの? ばかなの? ばかでしょ?」 “れいむ”がニヤニヤと笑いながら言葉を吐く。 元来、ゆっくりという生き物はゆっくり同士であれば……家族であればなおさら絆を重んじる生き物のはずだ。 それがこの“れいむ”には根幹から欠如している。 少なくとも、山や森の中で自然と共存して生きる野生ゆっくりたちの常識の範疇からは大きく外れていた。 よりにもよって、家族を。 その中でも最もゆっくりできる存在として大切に大切に育てられて然るべきのちびちゃんを。 “れいむ”は本当に群れを支配するために必要な道具としてしか扱っていなかったのだろうか。 考え方の次元が違い過ぎた。 都会で、野良として生き抜いてきた価値観がそうさせるのか推し量ることはできない。 「みんな。 なにをだまってるの? はやく、むれのみんなをえいえんにゆっくりさせてね。 れいむ、すごくいーらいーらし てるからね。 はやくしてね。 すぐでいいよ」 “兵隊”たちはびくん、と体を震わせた後、我先にと群れのゆっくりたちに飛びかかった。 まりさと“れいむ”の視線が交錯するその後ろで群れのゆっくりたちが悲鳴を上がる。 まりさはわななくように震えていた。 こんな奴に。 大好きな親まりさと親ありすを永遠にゆっくりさせられてしまったのか。 怒りを通り越して悲しくなってきた。 ぽろぽろと涙が溢れる。 親まりさも、親ありすも、まりさに注いでも注ぎ切れないくらいの愛情を注いでくれた。 “れいむ”は、子れいむのことをどう思っていたのだろう。 「“れいむ”!! “れいむ”にとって、ちびちゃんたちはかわいくないの?! “れいむ”のちびちゃんなんでしょっ?! ちびちゃんといっしょにゆっくりしたくて……むれのみんなをむりやり、すっきりー!させてちびちゃんをつくったんじゃない のっ??!!!」 我ながら憎むべき敵に向かって何を言っているのか理解できない。 “れいむ”が高笑いを上げた。 「げらげらげらげらげら!!!! “れいむ”は、むれのみんなが“れいむ”にさからえないようにたくさんちびちゃんをつく っただけだよ!!!! “れいむ”ににてるちびちゃんなんて、なんどでもつくれるよ。 りかいできる?!」 「ゆんやあああああ!!!!!」 子れいむが狂ったように泣き叫ぶ。 信じていた母親である“れいむ”の裏切りに絶え間なく涙と悲鳴が溢れ出した。 子れいむが“れいむ”を見下ろす。 “れいむ”と目が合った。 しかし、そこから「助けて」という声を出すことはできない。 “れいむ”の視線は冷たく子れいむの小さな体を射抜いていた。 子れいむが力なく両の揉み上げを垂らす。 「……ゆっくち……。 ゆっくち……」 うわ言のように繰り返す「ゆっくり」は必死に自分に言い聞かせているのだろうか。 人質に取っているはずのまりさ自身が居た堪れない気分になってくる。 瞬間、まりさの脳裏に警鐘が鳴らされた。 “れいむ”のことだ。 口からでまかせを言っているだけかも知れない。 「ゆっくりりかいしたよ……っ!! じゃあ、“れいむ”のちびちゃんは、まりさが……えいえんにゆっくりさせるよ!!!」 そう言って勢いよく口を振り上げる。 “れいむ”は冷めた目つきでその様子を見つめていた。 「おきゃあああしゃああああああああん!!!!!!!!!!!」 「……お、おねがい!!!!!!! ちびちゃんに……ッ!!! ちびちゃんにひどいことしないでええぇぇぇ!!!!!!」 「――――ッ?!」 叫んだのは群れのゆっくりのうちの一匹であるありす。 突然上がった味方の叫びにまりさがぴたりと動きを止める。 死を覚悟していた子れいむは白目を剥いてちょろちょろとしーしーを垂らしていた。 困惑するまりさ。 涙ながらにまりさを見上げるありす。 “れいむ”の口元が歪む。 (……まさか……っ!!!) まりさが“れいむ”を見つめる。 “れいむ”は小さく笑いながら、ゆっくりとまりさに尋ねた。 「どうしたの? ちびちゃんをえいえんにゆっくりさせるんでしょ? はやくしたらどうなの……? できないなら、れいむが てつだってあげるよ……?」 「おでがいじばずぅぅ!!! やべでぐだざいぃぃ!!!!」 「まりさっ!!!! “おしろ”のなかにいるちびちゃんたちなら、なんにんでもえいえんにゆっくりさせていいよ!!!!! ……なんだったら、れいむがてつだってあげてもいいよっ!!!! げらげらげらげらげらげら!!!!!」 その言葉を聞いた途端、群れのゆっくりたちが騒ぎ始めた。 理由は明白だ。 子れいむは“れいむ”が一匹で生んだわけではない。 “れいむ”とすっきりー!したゆっくりがいなければ生まれることはできないのだ。 つまり。 子れいむは、“れいむ”だけの子供ではない。 群れのゆっくりたちの子供でもあるのだ。 まりさが咥えていた子れいむを地面にそっと置いて一呼吸。 “れいむ”がニヤリと笑った。 「……まりさ……!! ごめんねっ!!! ごめんねっ!!!」 数匹のゆっくりたちがまりさに泣きながら額を地面にこすりつける。 “れいむ”にすっきりー!されていないゆっくりたちは、子れいむの母親でもあるゆっくりたちの気持ちがわかるのか、下手に 動くようなことはしない。 八方塞がりである。 まりさ率いる“反乱軍”は、その動きを完全に沈黙させてしまった。 家族の絆を重んじるゆっくりだからこそ、それ以上戦うことができない。 まりさが意を決する。 「……みんな!!! まりさが“れいむ”をやっつけるよ!!! だから、みんなは“へいたい”をおさえておいてね!!!」 互いの顔を見合わせた群れのゆっくりたちがまりさの言葉の意味を理解し、“兵隊”ゆっくりに戦いを挑む。 全員がかりで“れいむ”に集中攻撃をすることはできない。 制圧した“お城”を取り戻されてしまえば、ここまでの苦労が水の泡だ。 子れいむもまた、群れのゆっくりの子供であることに変わりない。 まりさはそれに気付けなかった。 群れのゆっくりたちがこの作戦を承諾したのは、“れいむ”が子れいむを人質に取られれば自分たちと同じように身動きが取れ なくなってしまうからと踏んだからである。 まりさは最初から重大なミスを犯していたのだ。 両者の叫び声の中心。 まりさと“れいむ”が対峙する。 力強く“れいむ”を睨みつけるまりさ。 不敵な笑みでまりさを見つめる“れいむ”。 「……ざんねんだったね。 せっかく、れいむをやっつけるためのけいかくをたてたのにね。 むれのみんなにうらぎられてむ だになっちゃったね」 「……うるさいよ。 むれのみんなはだれもまりさをうらぎってなんかいないよ。 みんな、いっしょうけんめいたたかってく れてるよ」 まりさの言葉がかろうじて届くゆっくりたちが一様に涙を浮かべる。 群れのゆっくりたちはまりさの足枷になってしまった。 リーダーまりさが“れいむ”と戦ったときは、自分たちの無力さを嘆いた。 親まりさが“れいむ”と戦ったときは、子供を盾にされ加勢することができなかった。 その過去を振り払うためにこの戦いに参加したのだ。 それなのに。 今、自分たちはまりさの足を引っ張ってしまっている。 思えば、まりさ親子は三代に渡って“れいむ”に戦いを挑み続けた。 群れのゆっくりたちの士気が下がっていく。 (……だめなんだ……。 これまでも……これからも……リーダーをたすけてあげることは……できないんだ……) 諦め。 その言葉が群れのゆっくりたちに重くのしかかる。 まりさは、“れいむ”によって徹底的に痛めつけられていた。 その姿が視界に入るたびに、力を失っていくのがわかる。 (まただ……。 また、リーダーをまもってあげられなかった……。 ……もうやだ、おうちかえる……っ!!) 群れのゆっくりたちの数匹が撤退を始めた。 これに乗じて“兵隊”たちが総攻撃をかける。 「みん……なっ!!! ゆっくりがんばろうねっ!!! あとちょっとで……“へいたい”をやっつけられるよ!!!!」 振り絞るまりさの声に群れのゆっくりたちがあんよを止める。 群れのゆっくりたちの涙に濡れた視界に映し出されるまりさの姿はひどいものだった。 思わず目を背けてしまう。 それにも関らず、まりさは自分たちに向かって「がんばれ、がんばれ」と叫び続けた。 もう、逃げないのではなかったのか。 まりさと一緒に最後まで戦うのではなかったのか。 ぽたぽたと涙が地面に落ちる。 泣きながら反撃を開始する群れのゆっくりたち。 それを見て安心したまりさはにっこりと笑って、“れいむ”に向き直った。 切れ切れの呼吸のまま、“れいむ”を睨みつける。 無傷の“れいむ”はまりさを馬鹿にしたような笑みを浮かべ語りかけるように口を開いた。 「まりさ。 もう、あきらめたほうがいいよ。 まりさはいまから、えいえんにゆっくりさせられるからね。 それから、むこ うでたたかってる、なまいきな“ごみくず”たちもえいえんにゆっくりさせてあげるよ」 「……みんなは……“ごみくず”なんかじゃないよ……っ!!!!」 戦いも終局へと向かいつつあるこの局面において、両者は互いの将を見つめその動きを止めた。 苦しそうに呼吸をするまりさの言葉が、群れのゆっくりたちの心を揺さぶる。 「みんな……。 すごく……やさしくて、ゆうかんな……。 まりさの……だいじな、だいじな、なかまだよっ!!! “ごみ くず”なんかじゃないよっ!!!! みんなのことをわるくいったら、まりさはぜったいにゆるさないよっ!!!!!」 「……ッ!! ゆるさないから、ってなんなのおぉぉぉぉッ??!!!! なにもできない“ごみくず”を“ごみくず”ってい うのはあたりまえでしょおおおぉぉぉ!!????」 “れいむ”が助走をつける。 その表情は鬼気迫るものがあった。 いつまで経っても諦めず、倒しきれず、瀕死の重傷を負っているくせに他者を想うまりさの姿が癇に障ったのか、“れいむ”は 感情を剥き出しにしてまりさに向かって襲いかかった。 まりさが体勢を立て直そうとする。 しかし、あんよが思うように動かない。 目の前に迫るは仇敵“れいむ”。 もはや、抗う術もなし。 まりさは静かに目を閉じた。 瞼の裏に焼きついた両親の笑顔が浮かぶ。 (まりさおかあさん……ありすおかあさん……。 まりさ、もう……つかれちゃったよ……。 もう、いいよね? ずっと…… ずっとゆっくりしても……いいよね……?) 一瞬だけ。 記憶の中の両親が悲しそうな表情を浮かべたような気がした。 刹那。 「――――そこまでよっ!!!!」 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― “お城”の入り口。 その場に居合わせた全てのゆっくりから見える位置に一匹のゆっくり。 ぱちゅりーだ。 “れいむ”が冷笑を浮かべる。 まりさは苦悶の表情でぱちゅりーを見上げていた。 ぱちゅりーのまりさを見下ろす視線は冷たい。 何故だか寒気がした。 「“れいむ”。 みごとだわ。 たったひとりでよくこれほどのむれをつくりあげたわね」 「……?」 ぱちゅりーの言葉に訝しげな顔に変化する“れいむ”。 「まりさ」 「ぱちゅ……りー……?」 「まりさにはがっかりしたわ」 「ゆゆっ?」 驚いたのはまりさだけではない。 まりさたちが群れに帰ってきて最初に行った会議に参加していたゆっくりたちも目を丸くしている。 冷たい夜風がゆっくりたちの頬を不気味に撫でた。 「まりさからおはなしはきいていたわ。 すごくつよくて、あたまのいい“れいむ”がいるということ」 「…………」 “れいむ”は警戒を解かない。 まりさに向けていた顔をぱちゅりーの方に向ける。 悠然と岩の段差を一段ずつ下りてくるぱちゅりー。 固まる群れのゆっくりとは裏腹に、まりさはぱちゅりーが演技か何かをしているのだと思っていた。 事実、絶体絶命の危機に晒されていたまりさは、ぱちゅりーによってなんとかその余命を伸ばしている。 今のうちに考えなければならない。 これはぱちゅりーのくれたチャンスだ。 しかし、考えようにも頭が回らない。 餡子を失っているわけではないが、体中のあちらこちらが痛くてとても集中などできそうになかった。 「……“れいむ”。 ぱちゅは……あなたのやくにたてないかしら?」 演技を続けるぱちゅりー。 “れいむ”も半信半疑でぱちゅりーの言葉を聞いている。 まりさはぱちゅりーに感謝をしていた。 少しでも時間を稼いでほしい。 その間に、何か策が思いつくかも知れないのだ。 群れのゆっくりたちは固唾を飲んで二匹のやり取りを眺めている。 “兵隊”たちも同じだ。 今、ここにいるゆっくりたちは全てぱちゅりーに意識を向けていた。 何とかするならここしかない。 「むきゅ。 はじめからこうなることはわかっていたわ」 「……どういうことなの?」 ぱちゅりーと“れいむ”が会話を始める。 「まりさからあなたのことはいろいろときいていたから。 むれのみんなにとっては、たいせつなちびちゃんでも……あなたに とってはたいせつなはずがない……。 だって、ちびちゃんはいつでもつくることができるから」 「そうだよ。 ぱちゅりーはあたまがいいもんね。 “れいむ”をやっつけるために“ごみくず”どもをうごかしたのはぱちゅ りーなのかな?」 「むきゅ。 そうよ。 ぱちゅは、“れいむ”とまりさ。 どちらのみかたをするべきか、このたたかいできめようとおもって いたの」 (……え……?) まりさの表情が変化していく。 何を言っているのだろう。 話が見えない。 “れいむ”は笑いながらぱちゅりーに問いかけた。 「ゆふふ。 ……で、どうだったの?」 「“れいむ”。 どうかんがえても、あなたのかちね。 まりさにしても、むれのみんなにしてもそうだわ。 ぱちゅがここま で“れいむ”をたおすほうほうをかんがえてあげたのに……」 「で、でもぱちゅりー!! あなた……はじめからこうなることはわかっていた、って……!!! ありすたちを……だまして いたのっ?!」 ありすが叫び声を上げる。 「むきゅ。 ちびちゃんたちは、みすてるべきだったのよ」 一同が凍りついた。 群れのゆっくりたちはもちろん、“兵隊”も。 それはまりさも同じだ。 「なにを……いってるの……?」 震えながら尋ねるのはまりさだ。 群れのゆっくりたちも反論を始める。 ぱちゅりーの言葉に戸惑いを隠せないゆっくりたち。 なおも、ぱちゅりーは続けた。 「ちびちゃんたちをみすてなければ……。 さいしょから、いないものだとかんがえてたたかわなければ、“れいむ”にはかて なかった」 「あ……あんまりだわっ!! ちびちゃんたちをぎせいにして、“れいむ”をたおせばよかったとでもいうのっ?!」 「むきゅ。 そうよ。 そうしなければ、“れいむ”をたおすことは、ふかのうだわ」 群れのゆっくりたちが静まり返る。 “れいむ”は次々と言葉を紡ぐぱちゅりーを見つめていた。 まりさが愕然とした表情を浮かべている。 まりさは震えながらぱちゅりーに質問をした。 「ぱちゅりー……。 ぱちゅりーは、ちびちゃんたちをたすけるつもりはなかったの……?」 「…………。 たすけられればいいな、とはおもっていたわよ。 でも“れいむ”をたおして、ちびちゃんもたすけるなんてい うのはとてもむずかしいことだわ」 「でも……そんなの……っ!!!!」 「おかしいかしら? みんな、“れいむ”がいるからこまっているんでしょう? つらいおもいをしているんでしょう? それ なら、まずはなんとしてでも“れいむ”をやっつけるべきだわ。 それこそ、ちびちゃんをみすててでも、もりのそとににげれ ばいいだけのことじゃない」 群れのゆっくりたちがぱちゅりーを睨みつける。 静かに、淡々と語るぱちゅりーに対して歯を食いしばり全身を震わせている群れのゆっくりたち。 静寂が辺りを包む。 “れいむ”はぱちゅりーから視線を外さない。 そんな“れいむ”を見て、ぱちゅりーはクスリと笑みを浮かべた。 「ぱちゅをしんようできないかしら……? できないわよね。 だからこそ、あなたはひとりでいきてこれたのだもの」 「……ぱちゅりーは、“れいむ”とおなじくらいゲスなゆっくりだね」 「ゲス? ひどいいいかたをしないでほしいわね。 ぱちゅは、“かしこい”ゆっくりなのよ。 ……あなたとおなじでね」 「ぱちゅりー!! ぱちゅりー!!! うそをついたの?! いっしょに“れいむ”をやっつける、っていったのに……!!」 まりさが二匹の会話を遮るように叫び声を上げる。 ぱちゅりーは無表情のまま、まりさを見下ろしていた。 「まりさ。 ぱちゅは、うそをついてなんかいないわ。 とちゅうで、あきらめただけよ。 “れいむ”にはかてない」 「ふざげる゛な゛あ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」 「おまえが……!!! “れいむ”をやっつげる、っでいったんでじょおお゛があ゛ぁ゛!!!!」 冷徹な言葉を紡ぐぱちゅりーに対して群れのゆっくりたちが絶叫する。 何百もの呪詛がぱちゅりーを責め立てた。 呪いの言葉は終わらない。 まりさが悲しそうな目でぱちゅりーを見つめる。 「ぱちゅりー。 れいむはね、ぱちゅりーのいっていること、すこしもしんようしていないよ」 「むきゅきゅ。 じゃあ、どうすればしんようしてくれるのかしら?」 “れいむ”がチラリとまりさを見た。 まりさが“れいむ”の意図を読み取り、ぱちゅりーに向き直る。 しばらく考え込んだ後、“れいむ”は一匹の“兵隊”ちぇんを呼び寄せた。 小さな声で何か呟く。 直後、“お城”の中へと飛び込む“兵隊”ちぇん。 金縛りにあったようにその場を動くことができない一同の元に、“兵隊”ちぇんが戻ってきた。 その口には赤トウガラシが咥えられている。 群れのゆっくりたちはもちろん、まりさまでもが表情を凍りつかせる。 親ありすを死に至らしめた赤トウガラシ。 それを再び……、親ありすを失った場所で見ることになろうとは。 まりさの脳裏にあの日の出来事が蘇る。 「ぱちゅりー、これはね……。 うそをついているゆっくりがたべると、すごく、すごく、くるしんでえいえんにゆっくりして しまうたべものなんだよ。 ゲスなゆっくりや、“ごみくず”みたいなゆっくりがたべても、いけないんだよ。 だから、ぱち ゅりーはいまからこれをたべてね。 もし、ぱちゅりーがうそをついていなかったり、ゲスなゆっくりじゃなかったら、たべて もへいきなはずだよ」 もちろん“れいむ”の虚言だ。 赤トウガラシを丸々一個食べれば、ゆっくりは確実に死に至る。 “れいむ”は時々こうやって何の罪もないゆっくりを呼びつけては赤トウガラシを食べさせて殺した。 群れのゆっくりがガタガタと震え始める。 まりさはと言うと、親ありすのことをゲスやゴミクズ呼ばわりされて歯を食いしばり“れいむ”に睨みつけていた。 ぱちゅりーがのそのそと赤トウガラシの前にやってくる。 固唾を飲んで見守る一同。 ぱちゅりーは、あまりにも自然にその赤トウガラシを口に入れた。 まりさに戦慄が走る。 ぱちゅりーが赤トウガラシの事を知らないはずがない。 もしそうなら、ぱちゅりーは全てを理解した上で赤トウガラシを食べたのか。 表情を破壊させながら朽ち果てた親ありすの最期を思い出す。 「むーしゃ、むーしゃ……」 「ぱ……ぱちゅりー…………っ!!!」 “れいむ”がニヤニヤと笑う。 群れのゆっくりたちは表情を固定させたまま動かない。 まりさは必死になってぱちゅりーに呼びかける。 「しあわせー!!!」 ぱちゅりーの幸せ宣言。 今度は逆に“れいむ”が目を丸くする。 赤トウガラシだ。 食べて死なないはずがない。 「ど……どうして……」 「むきゅ。 ぱちゅがうそをついていない、ということがわかったかしら?」 「……ゆっくり……りかいしたよ」 「“れいむ”。 きっと、ぱちゅはあなたよりも、かしこいわ。 ……どうするの? ぱちゅのちからは、いらない?」 「……ぱちゅりーを、“おしろ”にすませてあげるよ」 「むきゅきゅ。 それでこそ、“れいむ”だわ」 呆然とその場に立ち尽くすゆっくりたちに向けてぱちゅりーが凛とした表情で言葉を放つ。 「さぁ! “ちゃばん”はおしまいよっ!! さっさとおうちにかえりなさい!!」 「ぱちゅりー。 むれのみんなは、せいっさいっ!を……」 「もうすぐ、ふゆさんがくるわ。 せいっさいっ!するのは、そのあとでもかまわないでしょう? むれのみんなには、“れい む”にごはんさんをとってこさせなきゃいけないわ」 「ゆゆっ……それもそうだね」 “れいむ”は“兵隊”に命じ群れのゆっくりたちを“お城”の周辺から追い出した。 まりさは、ぱちゅりーの提案で“お城”の中に幽閉されることになる。 群れのゆっくりたちにまりさの姿をちらつかせることで、支配をより円滑に行おうと言うのだ。 今回の一件で、群れのゆっくりたちはますます、まりさに負い目を感じるようになっただろう。 そのまりさを置いて、群れから逃げ出すことはできないはずだ。 “お城”の中の子ゆっくりたちが人質として機能を十分に果たせなくなった今、新たな人質が必要なのである。 その人質としてまりさが選ばれた。 “お城”の中でも入り組んだ岩が連なる場所に、まりさは閉じ込められた。 まりさは“兵隊”が三匹がかりで監視を行うことに決まった。 放心状態で岩にもたれかかるまりさの目の前にぱちゅりーがいる。 空虚な視線を向けられたぱちゅりーが更に顔を寄せてきた。 「……ぱちゅりー……。 ぜったいに……ゆるさないよ……」 「…………。 ……かんじゃ、だめよ?」 まりさの言葉に相槌は打たず、ぱちゅりーは自身の唇をまりさの唇と重ねた。 舌を使い、まりさの閉じられた唇を押し広げる。 まりさが抵抗を試みるが、思うように力が入らない。 「……ゆんぐっ……。 ゆぐ……」 「…………っ」 「――――!?」 頬を真っ赤に染めたぱちゅりーがまりさから唇を離した。 それから、ぱちゅりーは何も言わずにその場を去っていく。 まりさの口の中。 ぱちゅりーから、口移しで渡されたもの。 それは赤トウガラシだった。 ぱちゅりーは、赤トウガラシを食べてはいなかったのだ。 食べたフリをしてずっと口の中に入れていたのだろう。 今にして思えば、“れいむ”はぱちゅりーの口の中まで確認しようとしなかった。 それほど想定外の展開だったのか。 真偽のほどは分からない。 まりさは未だ残るぱちゅりーの唇の感触を思い出しながら、意識を失うように眠りについてしまった。 【 chapter 5 「永遠の墓標」 】 “れいむ”とぱちゅりーによる新たな支配が始まった。 群れのゆっくりたちにとっての一世一代の大決戦は敗北に終わってしまったのだ。 “お城”の奥に“れいむ”が佇んでいる。 その傍らにはぱちゅりーがいた。 力に者を言わせて群れを支配する暴君に、豊富な知識でそれを支える賢者。 森で暮らすゆっくりたちにとってはこの上ない最悪の状況と言えるだろう。 季節は秋を迎えようとしている。 “れいむ”、ぱちゅりー、“兵隊”によって完全に支配下に置かれた群れのゆっくりたちは片時も休むことなく食料集めに奔走 させられた。 元々の家族の分に加え、“お城”にも食料を持って行かなければならない。 “お城”で暮らすゆっくりたちの数を考えると、凄まじい量の食料を確保しなければならないのだ。 これまで、午前と午後の二回に分けて一家族分のみが食料を持って来れば良かったのだが、ぱちゅりーの提案によって毎日群れ 中のゆっくりたちが食料を届けさせられる羽目になってしまった。 それにも関らず群れのゆっくりたちは何とか日々を生き抜くだけの食料は確保できている。 ぱちゅりーがかつてまりさにそうしたように、食べ物の知識を群れに与えたのだ。 ぱちゅりーは言った。 支配者たるもの、民草は生かさず殺さず。 もちろんそのままの台詞を言ったわけではないが、それと同じニュアンスのことを“れいむ”に進言したのだ。 「むきゅ。 まだごはんさんがたりないわ。 ふゆさんがくるまでにどんどんごはんさんをあつめてきなさい」 冬まではまだ時間があったが、早い段階から越冬に向けた食料集めを開始する。 群れ中のゆっくりに毎日食料を献上させるのには別の意味もあった。 “お城”の中に入るたびに子ゆっくりと再会をするように仕向けたのだ。 泣き叫ぶ子供の姿を見せられては、意を決して群れを離れるようなことはできない。 さすがの“れいむ”も、ぱちゅりーの計算高さには感心していた。 まりさと子ゆっくり。 二つの盾を手にした“れいむ”にもはや恐れるものなどない。 恐らく、自分が寿命で永遠にゆっくりする日が来るまで、群れのゆっくりたちの頂点に立ち続けることができるだろう。 “れいむ”はニヤケ顔が止まらない。 望むものは全て手に入れたと言える。 「ぱちゅりー。 れいむは、ゆっくりしてる?」 「じぶんで、どうおもっているかだとおもうわ。 あなたは、ゆっくりしてるのかしら?」 「ゆふふ。 ゆっくりしているよ」 「じゃあ、あなたはゆっくりしているゆっくりなのよ。 ……ほかのゆっくりたちよりも、すごく」 “お城”の入り口から見下ろす群れのゆっくりたちの表情は険しい。 毎日、必死になって食料を探し回っている。 その姿はどう考えてもゆっくりしているとは言い難い。 あの反乱以降、“れいむ”が“兵隊”を増員するようなことはなかった。 群れのゆっくりたちはあくまで奴隷として扱う。 奴隷が“兵隊”になれる道理はない。 「ぱちゅりーは、すごくかしこいゆっくりだけど、やっぱりばかだね」 「むきゅう? どうしたのかしら、とつぜん」 「ぱちゅりーはまだまだながくいきれるよ。 れいむよりはながくいきるだろうね。 きっと、れいむがえいえんにゆっくりし てしまったら、ぱちゅりーはむれのゆっくりたちに、せいっさいっ!されるよ」 「そうかもしれないわね。 でも、ぱちゅはそんなことどうだっていいわ」 「……どうして?」 「あなたも、ぱちゅも……ほかのゆっくりとはちがうのよ。 それは、むれのみんなをみていてもわかるでしょう? ぱちゅた ちは“とくべつなゆっくり”なのよ。 ただ、ゆっくりしているだけの……ゆっくりとおなじようないきかたができるなんて、 さいしょからおもっていないわ」 「“とくべつなゆっくり”……。 ゆふふ。 いいことばだね」 “お城”の中で会話を続ける“れいむ”とぱちゅりー。 “れいむ”は少しだけ遠くを見つめるような仕草を取った。 「ぱちゅりー」 「……なにかしら?」 「なんとかして、“れいむ”の“いだいさ”をのこしたいよ。 ……なにか、ほうほうがないかな?」 「……“おしろ”や、“ちびちゃん”たちだけじゃ、だめなのかしら?」 「“おしろ”も、“れいむ”やぱちゅりーがいなくなったら、おうちせんげんされてだれかにとられちゃうよ。 ちびちゃんな んていつでもつくれるし、いつかはえいえんにゆっくりしてしまうから、いみがないよ」 「……そうね」 「あきれた?」 「ちがうわ。 かんがえているのよ。 だれにもうばわれず、こわされず、ずっとかたちにのこるような、あなたの“いだいさ” をわすれさせないようにするための、なにかを」 しばらく考え込んだ後、ぱちゅりーは必死に食料収集で走り回る群れのゆっくりたちを見ながら言った。 「……“おはか”をつくりましょう」 「……ゆ?」 “お墓”。 ぱちゅりーの説明は大体こんなところだ。 ゆっくりは死後、その体から放たれる死臭を忌み嫌う。 よって、“お墓”には縁のあるゆっくり以外はなかなか近寄らない。 だから、“れいむ”が寿命で永遠にゆっくりしてしまった後に入る巨大な“お墓”を造ろうと言うのだ。 群れのゆっくりたちにも家族単位で“お墓”を造らせる。 その大きさを比較することで、“れいむ”がいかに強大な支配力を持った群れのリーダーだったかを誇示しようとのことだ。 分かり易く言えば、ゆっくりたちで「古墳」のようなものを造ろうと言うのである。 “れいむ”はすぐに賛成した。 畏怖の念を持ってゆっくりたちが手を出せないのであれば、永劫この地に“れいむ”の“お墓”は残されるだろう。 問題はどのように建設を行うかである。 この疑問にもぱちゅりーはすぐに意見を出すことができた。 群れのゆっくりたちは食料集めで手が離せない。 “兵隊”たちは群れのゆっくりたちの監視や、子ゆっくりたちの監禁などで忙しい。 「……ちびちゃんたちに、“おはか”をつくらせるの?」 「むきゅ。 そうよ。 ちびちゃんたちは“たくさん”いるわ。 みんなで“おはか”をつくれば、すぐにかんせいするはずよ」 「ゆぅぅ……。 やっぱり、ぱちゅりーはかしこいゆっくりだね。 ちびちゃんたちにこんなつかいかたがあるなんて、おもい つきしなかったよ」 「むきゅきゅ。 たりなくなったら……また、すっきりー!してふやせばいいわ」 冷たい笑みを浮かべるぱちゅりーを見て、“れいむ”は一瞬だけその雰囲気に呑まれてしまいそうになった。 このような感覚を覚えさせられるのは、あのまりさ以外にいない。 “れいむ”は、まりさとぱちゅりーに対して、自分と対等な力を秘めているような……そんな畏れを感じていたのだ。 それでも、もはや“れいむ”にとってぱちゅりーは不可欠な存在である。 「むきゅぅ……かぜさんがつめたくなってきたわ。 ぱちゅはもう、“おしろ”のなかにもどるわね」 「ゆっくりりかいしたよ」 “お城”の中。 その奥の奥。 まりさが捕らわれている場所へとあんよを這わせる。 周りの子ゆっくりたちは、ぱちゅりーの姿を見るたびに震え上がっていた。 あの反乱の夜以降、子れいむたちは子ゆっくりに対して危害を加えるようなことはしていない。 子れいむたちは、どんな事があっても“れいむ”が自分たちを守ってくれると信じていた。 だからこそ、やりたい放題やることができたのだ。 しかしそれが甘い幻想でしかなかったという事に気付かされ、自儘に振舞うことは自粛せざるを得ない状況にある。 加えて子れいむたちは子ゆっくりたちの大喧嘩で負けているのだ。 今はお互い、障らぬ神に祟りなしと言わんばかりに大人しくしている。 「ゆゆ。 ぱちゅりーさま。 まりさにあいにきたのかなー?」 「むきゅ。 そうよ。 とおしてちょうだい」 「わかったよー。 でも、なるだけはやくようじをすませてねー」 ぱちゅりーは時々こうしてまりさの様子を見にくる。 大切な人質だ。 群れのゆっくりの大半は、“お城”に捕らわれているまりさのために過酷な労働をこなしていると言っていい。 「まりさ」 「…………」 「むきゅー。 げんきがないわね」 「…………」 何も答えないまりさの元に持っていたキノコや芋虫を放り投げる。 まりさは、ぱちゅりーに与えられた食料を見つめながらつぶやいた。 「ぱちゅりー。 ……どういう、つもりなの……?」 「…………」 今度はぱちゅりーが答えない。 無言のまま元来た道を引き返そうとするぱちゅりーにまりさが声をかけた。 「……ぱちゅりー!!」 ぱちゅりーがあんよを止める。 そして、ぽつりと一言。 「……そろそろ、はじめようとおもうの」 「……なにを?」 「“れいむ”をやっつけるための……たたかいを」 「――――――ッ?!!」 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― まだまだソフトボールほどの大きさぐらいしかない子ゆっくりたちが“お城”の前の広場を蠢いている。 それぞれが今にも泣き出しそうな顔で木の枝や、小石を口に咥えていた。 ぱちゅりーの動きは素早かった。 まるで“最初から計画していたかのように”子れいむと他の種の子ゆっくりを分けると、穴の掘り方や道具の使い方を教え、朝 一番から作業に取り掛からせる。 “お城”の中でしか過ごしたことのない子ゆっくりたちにとって、外での労働は過酷なものであった。 作業を行っている子ゆっくりたちの周囲には、“兵隊”たちが厳しい目を見張らせている。 逃げ出す子ゆっくりが出てくるのを防ぐためだ。 “お城”に食料を届けに来た群れの成体ゆっくりたちが、自分の子供を見つけては叫び声を上げる。 走って母親の元へと駆け寄ろうとする子ゆっくりは“兵隊”によって容赦なく叩かれた。 こんなに近い場所にいるのに、すーりすーりをしてあげることも、ぺーろぺーろをしてあげることもできない。 母親のゆっくりは己の無力さに、子ゆっくりたちは置かれた境遇の悲惨さに、涙した。 「ゆっくち……。 ゆっくち……」 朦朧とする意識の中、必死になって咥えた木の枝を土に刺していく子ゆっくりたち。 ぱちゅりーからの指示を忠実に守って作業を繰り返す。 手前から奥に向けて少しずつ深くなるように掘っていく。 それがぱちゅりーの指示だ。 一か所を深く掘り続けてしまえば子ゆっくりたちが穴の底から脱出できなくなってしまう。 それを考慮した掘り方である。 しかし、体の小さな子ゆっくりたちにとっては永遠とも言える重労働だ。 悲壮感漂う表情でひたすらに土を掘らされている子ゆっくりを見ては、その母親たちが指示を出したぱちゅりーに陰で文句を言 い合っていた。 “れいむ”の墓である巨大な穴を掘らされているのは子れいむ百七匹だ。 単純に数が多いという理由だけでその役を回された。 残りの子ゆっくりたちは一家族分程度の穴を二匹一組で掘っている。 「ゆふふ……!! ちびちゃんたち!! はやくれいむのりっぱなおはかさんをつくってね!!! すぐでいいよ!!!!」 「ゆぴぃ……、ゆひぃ……」 満身創痍の子ゆっくりたちが息を切らしながら“れいむ”の声に怯え、疲れた体を無理矢理動かす。 それでも、朝、昼、晩としっかりした食事を与えられたため、それが原因で死に絶えるような者はいなかった。 “お墓”の建設は太陽が昇ると同時に始まり、山の向こうに沈むまで続けられる。 それを見ていた群れのゆっくりたちは、我が子のためにと食料収集に精を出した。 やがて“お城”の中には食料庫とも言えるような場所が作られ、大量のキノコや芋虫が備蓄されるようになる。 順風満帆だった。 “れいむ”がニヤニヤと笑っている。 順風満帆だ。 ぱちゅりーが静かに微笑んでいる。 子れいむ以外の子ゆっくりたちは何とか一家族分のゆっくりが埋葬できる程度の穴を掘り上げた。 同じ頃、数で勝る子れいむたちもようやく“れいむ”専用の巨大な穴を掘り上げた。 子れいむたちは一番深くなっている場所以外の勾配を埋め戻す作業が残っている。 これを全て埋め終えれば、長軸三メートル弱、短軸一メートル弱の長方形の墓穴の完成だ。 ちなみに、深さは二メートル近くもある。 「むきゅ。 よくがんばったわね。 ちびちゃん」 「もう……やじゃ……あにゃほりしゃんは……いやぁ……」 「つぎはそこにある、つちをつかってすこしずつ、うめていきましょう」 「ゆ……ゆんやぁぁぁぁぁ!!!!!!」 泣き叫ぶ子れいむたちに対して、“れいむ”が激昂して作業を再開させる。 辛い作業とは言っても重たい土を掘り起こして運ぶわけではない。 むしろ、先の作業に比べれば体力的にはだいぶ楽ができる。 「ゆっくちしちゃい……しちゃいよぉぉ……」 泣きながら作業を進める子れいむたち。 それを見ていた一匹の子ありすがずりずりとあんよを這わせて、埋め戻しの作業を手伝い始めた。 「ゆぇ……?」 「……ありしゅが、てつだっちぇあげりゅわ。 ……こんな、いにゃかものなおしごとしゃんは、はやくおわらしぇて、みんな といっしょに、ゆっくちしましょう」 「……?」 子ありすはそれ以上何も言わずに頬を少しだけ染めながら黙々と作業に従事した。 感化されたのか、目の前で行われている作業が辛い事だということを理解していたからなのか、何匹かの子ゆっくりたちも子れ いむの加勢を始める。 「……みんにゃ……」 涙を流しながら、呆けながら、その様子を見つめているのは子れいむたちだ。 子れいむたちは戸惑いを隠せなかった。 “お城”の中で自分たちがやってきたことを思えば、今目の前で起こっている出来事は信じ難い光景のはずだ。 「どうしちぇ……れーみゅたちは……“おしろ”でひじょいことを……」 「……ちぇんたちは……れーみゅたちがうらやましかっちゃんだよー……。 だっちぇ……“れーみゅおきゃーしゃん”にやさ しくしちぇもらえちぇ……。 ちぇんたちは、いちゅも……いじめられちぇばっかりで……」 「ゆぅ……」 「でもにぇ……ありしゅたちは、ちゃんといきちぇるもの。 しょれに……」 「……しょれに?」 「れーみゅは……ありしゅの、たいせちゅな……いもうちょだから……」 「ありしゅ……おにぇ……ちゃん……」 子れいむと子ありすは姉妹だった。 同じ母親ありすの茎に実り、共に生まれ落ちたかけがえのない姉妹。 “れいむ”によって差別をされてはいたものの、“お城”で暮らす子ゆっくりたちは……ほとんどが姉妹なのである。 子れいむたちは泣きながら、姉に、妹に、感謝した。 言葉で言い表すことはできなかったが、それは子ゆっくりたちに確かに伝わってくる。 あの反乱の夜。 “れいむ”が子れいむの事さえも消耗品としてしか扱っていなかった事を知った日から……。 子ゆっくりたちは、子れいむたちの事を憐みの目で見ていた。 自分たちは最初から蔑まれて、苛められて、一度も優しくされることなく育ってきたのだ。 それを当たり前と思うことができる。 しかし。 子れいむたちにとっては、耐え難い衝撃だっただろう。 ずっと優しくしてくれていると思っていた母親からの突然の裏切りに、世界が音を立てて崩れて行くのを感じたはずだ。 真っ暗な“お城”の中で悲しみに暮れる子れいむたちの顔を見ていると、居た堪れない気分になっていた。 そのとき、思い出したのである。 自分たちが本当は姉妹だったはずということを。 視点が変われば物の見方は激変する。 憎らしくてたまらなかったはずの子れいむたちが、突然、守るべき大切な存在のように思えてならなかった。 同じなのだ。 “れいむ”の道具として無理矢理、この世に生を受けた。 正しく望んで生まれてきた命ではない。 「むきゅー。 さぁ、ちびちゃんたち。 そのおしごとがおわったら、つぎのおしごとがまっているわよ」 「…………」 子ゆっくりたちが一斉にぱちゅりーを睨みつけた。 ぱちゅりーは飄々とした態度で、次の指示を出す。 その背後には、“れいむ”と“兵隊”の姿があった。 ぱちゅりーから出された次の指示はこうだ。 掘った穴の周囲に大き目の石を並べて固定する。 子ゆっくりたちが必死の形相で岩の欠片や石を運び始めた。 既に太陽は西に傾いている。 この日の作業はここで中止された。 “兵隊”たちに促され、とぼとぼと“お城”の中に戻っていく子ゆっくりたち。 それらが掘り上げた墓穴は“れいむ”を満足させるに十分な大きさを誇っていた。 ぱちゅりーの計画によれば、周囲に石を整列させこの穴を塞ぐのにも大きな石を使うらしい。 一般的なゆっくりのお墓は土を盛ったものくらいである。 そもそも、お墓も作ってもらえずに死体を動物に啄まれる例も珍しくない。 群れのどのゆっくりが考えても、立派すぎると言っていいくらいの“お墓”が完成しつつあった。 「ぱちゅりー。 いよいよだね。 もうすぐ、かんっせいっ!するよ……」 「むきゅ。 あしたにはかんっせいっ!するはずよ。 そうしたら、むれのみんなをあつめて、あなたの“いだいさ”をおもい しらせてあげましょう」 「ゆふふ……ゆはは……げらげらげらげらげらげら!!!!! あしたは、さいっこうっ!にゆっくりしたひになりそうだよっ !!!! げらげら……げーらげらげらげらげら!!!!!!!!」 “れいむ”が笑う。 ぱちゅりーは“れいむ”に気付かれないように眉をひそめた。 森の中が少しずつ薄暗くなっていく。 一日中、重労働を強いられているせいか“お城”の中の子ゆっくりたちは既に寝息を立てていた。 それを起こさないようにぱちゅりーが静かに“お城”の中を這って進む。 “れいむ”も“お城”の奥で眠りについていた。 月明かりにうっすらと照らされたその寝顔を遠くから見つめる。 「……“れいむ”。 ……あしたは、さいっこうっ!にゆっくりしたひになるはずよ……」 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 翌朝。 “兵隊”たちが“お城”の中から子ゆっくりたちを連れて広場へと現れた。 昨日の作業の続きである。 “兵隊”たちの指示で子ゆっくりたちが配置についていく。 群れのあちらこちらでも巣穴から這い出てきたゆっくりたちが食料を集めるために森へと向かう。 いつもどおりの朝だ。 “お城”の中に監禁されているまりさの元にも小鳥のさえずりが届いた。 まりさの目の前には二匹の“兵隊”ゆっくりがいる。 みょん種にちぇん種。 まりさの動きを封じるために、“兵隊”の中でも能力の高いゆっくりが選ばれているようだ。 “そろそろ始めようと思うの。 れいむをやっつけるための戦いを” ぱちゅりーの言葉を思い出す。 あれは一体どういう意味だったのだろうか。 言葉通りの意味だとしたら、何故ぱちゅりーは群れのゆっくりたちに対して苛烈な仕事を要求するのだろう。 ぱちゅりーは何かを企んでいる。 一度、群れのゆっくりは“れいむ”の前に完全に敗北したのだ。 その状態からどうやって“れいむ”を倒そうと言うのだろうか。 そっと目を閉じた。 閉じた目を開ける。 かすかに、ゆっくりの叫び声が聞こえたような気がした。 まりさが外に向かって神経を尖らせる。 それは聞き間違いではなかった。 「……なにが、おこっているの……?」 “お城”の外。 そこでは“兵隊”と子ゆっくりたちによる戦いが始まっていた。 子ゆっくりたちは口に尖った枝や石を咥えて“兵隊”たちを睨みつけている。 作業中、一匹の子ゆっくりが“兵隊”のあんよに枝を突き刺した事が発端だった。 そこから、まるで打ち合わせていたかのように、自身の近くにいた“兵隊”たちに攻撃を仕掛ける子ゆっくりたち。 「この……くそちびどもっ!! なんてことをしやがるのぜ!!!!」 「いだいんだね゛ぇぇぇ!! わがら゛ない゛よぉぉ!!!!」 先制攻撃を受けた“兵隊”ちぇんの顔のあちこちから中身のチョコレートが漏れ出している。 “兵隊”たちはあっという間に子ゆっくりたちを包囲した。 「ち……ちびちゃんたちッ?! なにをやっているの……っ!!???」 通りがかる群れのゆっくりたち。 それを見た子ゆっくりたちは、一斉にキリッとした表情を浮かべ“兵隊”たちに飛びかかった。 子ゆっくりたちは決めていたのだ。 人質として群れの仲間の足枷になるくらいなら、自分たちで“れいむ”を倒そうと。 死を覚悟した決意である。 「みんにゃっ!! じぇったいに、“れーみゅ”をやっちゅけりゅよっ!!!!」 「ゆっくちできにゃい“おきゃーしゃん”は、ありしゅたちが、せいっしゃいっ!すりゅよっ!!!!」 子ゆっくりたちの敵は、母親である“れいむ”だ。 昨夜、遅くまで話しあって決めた。 あの残虐非道な暴君“れいむ”を。 実の母親を、討つと。 おそらく、いや、絶対に勝てない。 それは十分に理解できている。 だがもう耐えることはできなかった。 自分たちのせいで群れのゆっくりたちが受けた被害は言葉で表すことはできない。 何度も群れの成体ゆっくりたちが“れいむ”を倒そうとした。 「ゆ゛ぎゅぇッ!!」 一匹の子みょんが潰されて死んだ。 ガタガタと震え始める子ゆっくりたち。 動揺を隠せないのは“兵隊”たちも同じだった。 迂闊に子ゆっくりたちを倒すことはできない。 大切な人質だ。 “れいむ”がどう思っているかはともかく、群れのゆっくりたちの抑止力になっていることだけは間違いない。 「ゆ……ゆ゛ぎぃぃぃ!!!!」 歯を食いしばり子ゆっくりたちの攻撃に耐える“兵隊”たち。 一匹の“兵隊”ゆっくりが“お城”の中に駆けこんだ。 “れいむ”に報告をしに行ったのだろう。 騒ぎを聞きつけた群れのゆっくりたちも広場に集まってくる。 視界に飛び込んできたのは果敢に成体ゆっくりである“兵隊”たちに戦いを挑む子ゆっくりたちの姿。 どの子ゆっくりもが、必死になって“兵隊”と戦っている。 集まってきた成体ゆっくりたちに向けて、子ゆっくりたちが自らを奮い立たせるかのように声を上げた。 「おきゃああしゃああああん!!!! みんにゃああぁぁぁ!!!!」 「――――!!」 「れーみゅもっ! まりしゃもっ! ありしゅもっ! ぱちゅもっ! ちぇんもっ! みょんもっ! いっちょに――――」 群れのゆっくりたちがその言葉に想いを寄せる。 自分たちのなんと情けないことか。 子ゆっくりたちが諦めていないのに、もう自分たちは負けたつもりになっていた。 あの反乱の夜。 自分たちは戦いに敗れ、二度と“れいむ”に逆らうことはできないだろうと思っていた。 しかし。 そんなものは思い込みに過ぎない。 戦いは、あの夜からずっと続いていたのだ。 なぜか。 自分たちは生き残っている。 生き残っていることこそが、敗れたわけではないという証にはならないだろうか。 「――――いっちょにたたきゃうよっ!!!! だから、おきゃあしゃんたちも……いっちょにたたかっちぇにぇッ!!!!」 数匹の成体ゆっくりたちが“兵隊”に渾身の力を込めて体当たりをする。 それに続く無数のゆっくりたち。 目をキラキラと輝かせて子ゆっくりたちが歓声を上げた。 「やっぱり、おきゃあしゃんたちは、つよいんだにぇっ!!!!」 「……ちびちゃんたちは、あぶないから……“おかあさんたち”のうしろにいてね!!!!」 「ゆっくちりきゃいしちゃよっ!!!!」×160 「こ……こんなことして、ただですむとおもってるのかみょ……ッ!! みょおおぉぉぉぉぉぉん!!!!!!」 “兵隊”みょんの台詞を遮るように数匹がかりで叩き潰す群れのゆっくりたち。 “兵隊”たちと群れのゆっくりたちが再び激突する。 人質はいない。 全て、“お城”の外に出てきている。 思う存分に戦える。 群れ中のゆっくりたちが総出で“お城”に集結してきた。 “兵隊”たちが徐々に後退していく。 群れのゆっくりたちの勢いは止まらない。 前へ、前へ、ひたすら前へ。 「ゆ゛ぎゃあ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」 「い゛だい゛よ゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!!!!」 何匹もの“兵隊”ゆっくりたちが永遠にゆっくりしていく。 “兵隊”たちの数は確実に減ってきていた。 瞬間。 まるで暴風のような衝撃が数匹のゆっくりをなぎ倒した。 跳ね飛ばされた成体ゆっくりたちが、中身を吐きながら痙攣を起こしている。 “れいむ”だ。 血走った目つきで歯をガチガチと震わせながら、最悪の暴君が“お城”から飛び出してきた。 それでも、群れのゆっくりたちの気迫は衰えない。 「ぜったいにゆるさないよっ!!! おまえらみたいな……ッ!!! “ごみくず”が……“ごみくず”ごときが……ッ!!!」 全力で攻撃を仕掛けてくる“れいむ”。 その勢いは凄まじい。 “れいむ”のぶちかましを数匹がかりで受ける。 そこにまた数匹がかりで体当たりを仕掛けた。 “れいむ”が飛び上がり、ゆっくりたちを踏み潰しながら暴れまわる。 「なまいきだよっ!!!! “ごみくず”は“ごみくず”らしく……ゆっくりしねええぇぇぇぇ!!!!!」 下がっているように言われていた子ゆっくりたちも戦いの渦中に飛び込んだ。 「ゆ゛びゅっ??!!!」 「ぴゅぎゅえッ!!!」 瞬間的に踏み潰されてしまう子ゆっくりもいたが、もはやどのゆっくりもそれを気にしてなどいない。 ただ、全力で“れいむ”にぶつかるのみだ。 「ゆ゛はっ……、ゆ゛はっ……!!!」 “れいむ”の呼吸が乱れ始めた。 いくらなんでも数が多すぎるのだろう。 戦いの中で“兵隊”たちも多くが討たれてしまった。 “れいむ”が唇を噛み締める。 それでも。 それでも、“れいむ”に決定打を与えることはできなかった。 戦いは、長期戦へともつれ込んでいく。 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― “お城”の中。 外から聞こえてくる怒号にまりさを見張っている“兵隊”のみょんとちぇんが落ち着かない様子を見せている。 まりさも外で何が起こっているのか気になって仕方がなかった。 そこへぴょんぴょんと飛び跳ねながらぱちゅりーがやってきた。 「ぱちゅりーさま!!! いったい、そとでなにがおこっているんだみょん?!」 「わからないよーーー!!!」 「むきゅ! むれのゆっくりたちが、“れいむ”をやっつけにきたわ!!!」 「「ゆ゛げえ゛ぇ゛ッ?!」」 「まりさ!! ぱちゅたちもいきましょうっ!!!」 「……ゆっ?」 ぱちゅりーの言葉に動きを止める“兵隊”みょんとちぇん。 その一瞬の隙を見逃さなかった。 背後から力の限りに体当たりを撃ち込むまりさ。 勢いよく飛ばされた“兵隊”みょんが岩に顔面を強打し、そのまま永遠にゆっくりした。 それを見た“兵隊”ちぇんが一目散に“お城”の外へ向かって逃げ出す。 「ぱちゅりー……」 「まりさ。 ぱちゅの“けいかく”はすこしだけくるってしまったわ。 だから、はやくあなたも!!!」 「しんじても……いいんだよね?」 「むきゅ!! もちろんよっ!!!!」 「……いくよっ!!! ぱちゅ!!!!」 まりさとぱちゅりーが先ほど逃げ出した“兵隊”ちぇんを追いかけるかのように駆け出す。 息を切らしながら、ぴょんぴょん、ぴょんぴょん跳ね続ける。 横を駆けるぱちゅりー。 まりさとぱちゅりーが“お城”の外に飛び出す。 その姿を視界に入れた群れのゆっくりたちが、あの夜と同じように歓声を上げた。 ただ、あの時と違っているのは皆の顔がはっきりと見えること。 誰もが必死になって目の前の“れいむ”と戦っていた。 その中には子ゆっくりたちの姿も見える。 “兵隊”たちは壊滅状態に陥っていた。 残るは“れいむ”一匹だけと言ってもいい。 “お城”の入り口からぱちゅりーが叫んだ。 「ちびちゃんたちっ!!!! “おはか”に“れいむ”をおとしなさいっ!!!!!!!」 突如上がった協力者の声に、“れいむ”が恐ろしい形相で振り返った。 ぱちゅりーは毅然とした態度で“れいむ”を見下ろしている。 「どういう……ことだああああああああああああ!!!!!!!!!!」 「“れいむ”!! それは、あなたの“おはか”よっ!!! だから、そこで……えいえんにゆっくりしてなさいっ!!!!!」 「ばぢゅ゛り゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!!!!!!!!!!」 激昂する“れいむ”へ一斉に体当たりを仕掛ける十に近い数を誇るゆっくりたち。 「ゆ゛ぼぉ゛ッ?!」 “れいむ”が飛ばされ体勢を崩す。 そこへ、第二陣、三陣と攻撃が繰り返される。 「ゆ゛ぎゃあ゛あ゛あ゛!!! どぼじでごんな゛ごどずる゛の゛お゛ぉ゛ぉ゛!!!!!」 言葉とは裏腹に、暴れ続ける“れいむ”を長い間押さえることはできない。 あっという間に包囲網から脱出する“れいむ”。 ――――に、数匹の子ゆっくりたちが噛みついてその動きを制しようとした。 次の瞬間、中身を飛び散らせ絶命する子ゆっくりたち。 その一瞬の間隙。 再び成体ゆっくりたちのスクラムを組んだような状態からの体当たりが炸裂する。 投げ出される“れいむ”は子ゆっくりたちが連日掘らされてきた“お墓”のすぐそこにまで到達していた。 既に直接戦闘に参加していないゆっくりたちはその周囲を囲むように陣取っている。 「どげぇぇぇぇ!!!!!」 それでもなお、“れいむ”は群れのゆっくりを薙ぎ倒す。 一撃で致命傷を与えることはできなくなっているが、暴君としての圧倒的なまでの攻撃力は健在だ。 「ゆっ?!」 刹那。 群れのゆっくりたちの隙間から飛び出した、黒い弾丸。 まりさの頭突きが“れいむ”の側面に直撃した。 死角からの攻撃に防御態勢が整っていなかったのか、初めて“れいむ”が中身の餡子を吐き出した。 歓声が上がる。 「ゆあああああ!!!!」 間髪入れずに二発目。 「ゆげぇ゛ッ?!」 今度は“れいむ”の顔の中心を思い切りへこませた。 「がはぁっ!! ま……までぃざ、ごどきが……ッ!!!!」 “れいむ”のぶちかまし。 それが攻撃後で体勢が満足に整っていなかったまりさを捉える。 「ゆ゛ぐうぅッ!!!」 勢いよく後方に吹き飛ばされるまりさ。 それを群れのゆっくりたちが数匹がかりで食い止める。 “れいむ”が驚愕の表情を浮かべた。 「うわあああああああああああ!!!!!!」 何十匹もの成体ゆっくりたちが“れいむ”の体中に噛みついた。 「ぐっ、この……はなぜッ!!! はなぜえぇぇぇぇ!!!!!!」 そのまま“れいむ”を引きずりながら“お墓”の穴へと少しずつ移動していく。 「や゛べろ゛お゛お゛お゛お゛!!!!!!!!!!!」 “れいむ”が墓穴へと転落した。 【 chapter 6 「まりさ」 】 「だせえええええええええええええ!!!!!!!!!」 “れいむ”の凄まじい絶叫が地の底から聞こえてくる。 群れのゆっくりたちは歓声を上げることもせず、その場にぐったりと倒れ込んでいた。 よほど、疲れたのだろう。 こんなにも長い時間、全力で活動していれば中身の餡子の消費も早い。 まりさとぱちゅりーが、墓穴の底を見下ろす。 ぱちゅりーの姿を見た“れいむ”は“お墓”の中で狂ったように暴れ始めた。 もう、“れいむ”自身の中身もほとんど残っていないだろうに。 「おばえは……!!! れいむを……だまじでだの゛があ゛ぁ゛ぁ゛!!!!」 「むきゅ。 そうよ」 平然と言ってのけるぱちゅりーに“れいむ”がもはや言葉とも言えないような呪詛を浴びせかけた。 ぱちゅりーが静かに口を開いた。 最初の反乱には二つの目的があった。 一つは、“お城”の中に捕らわれてる子ゆっくりたちが人質の機能など果たしていないということを周知すること。 もう一つは、“れいむ”の参謀として群れを操るため、“れいむ”に自分の知識を認めさせること。 初めから戦いに勝つつもりはなかったのだ。 そこから始まる計画の第二段階。 “れいむ”と共に群れを支配し、“れいむ”を倒すためのギミックを完成させる。 子ゆっくりたちが自主的に反乱を起こすように仕向ける。 群れ中のゆっくりたちに食料を集めさせ、“お城”へ届けさせていたのは一匹でも多くのゆっくりが、子ゆっくりたちの起こす 反乱に気付くようにだ。 あの反乱の夜以降、子ゆっくりたちは完全に“れいむ”への信頼を絶った。 ぱちゅりーはずっとこの戦いの鍵を握るのは“子ゆっくり”だと考えていたのだ。 “れいむ”にとって子ゆっくりたちは、盾などではない。 諸刃の剣だったのである。 「ゆ゛ぎい゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!!!!」 苦虫を噛み潰したような表情で歯を食いしばる“れいむ”。 反対に、群れのゆっくりたちはぱちゅりーの事を無言で見つめていた。 それでも信用できないのか、一匹のみょんがぱちゅりーに疑問を投げかける。 「ほんとみょん……?」 「むきゅ。 ぱちゅは、うそはいってないわ」 「みょんたちは……」 「……る……て、やる……」 「「「???」」」 墓穴の底から“れいむ”の声が聞こえてくる。 「ころしてやる……。 ころしてやる……」 群れのゆっくりたちが目を丸くした。 慌てて墓穴の底を見る。 そこに“れいむ”いない。 「そ……そんな……ッ?!」 ぱちゅりーが思わず声を上げる。 まりさも、墓穴の中を確認するが確かに“れいむ”の姿が見えない。 確かにこの穴の中に落としたはずなのに。 群れのゆっくりたちの全員が寒気を覚えた。 「ぜったいに……ころしてやるよ……っ!!!!」 「――――まりさっ?!」 「ゆ?」 まりさのあんよのすぐ下。 そこに“れいむ”の顔があった。 群れ中のゆっくりちが悲鳴を上げる。 まりさもその場を動くことができなかった。 “れいむ”は穴を掘って脱出してきたのだろう。 最後の力を振り絞って。 “お墓”の壁の一部は元々緩い勾配になっていた箇所を子ゆっくりたちが埋め戻して作っていたものだ。 それもつい昨日の事である。 “れいむ”は柔らかい土を掘り進んで地の底から脱出してきたのだ。 群れのゆっくりたちの震えが止まらない。 “れいむ”は限界を超えてでも、群れ中のゆっくりを殲滅させようとしていた。 疲れと恐怖のせいで一歩も動くことができない。 まりさが、“れいむ”の目の前に立ちはだかる。 「ぱちゅは……さがっててね」 「ま、まりさ……」 子供の頃。 反乱の夜。 そして今。 まりさと“れいむ”は三度も対峙してきた。 風が両者の頬を撫でる。 先に口を開いたのは“れいむ”だ。 「まりさ。 れいむは……れいむのことをかしこいゆっくりだとおもっていたよ」 「……まりさよりは、かしこいゆっくりだとはおもうよ」 「でも、ぱちゅりーよりはかしこくないみたいだね……っ!!!」 「ゆ。 そうだね」 「でもね」 「?」 「“れいむ”は、ちからだったら、ぜったいにまけないよ……っ!! ぱちゅりーにも、“おまえ”にも……ッ!!!!」 睨みつける形相は凄まじい。 まりさを潰したくて潰したくて仕方がないようだ。 “れいむ”があんよに角度をつけ始める。 ぶちかましの体勢だ。 まりさも、あんよに力をこめた。 両雄、一騎打ちを望む。 「ゆ゛があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!!」 咆哮を上げる“れいむ”。 (まりさおかあさん……ッ!! ありすおかあさん……ッ!!! まりさに……ちからをかしてほしいよっ!!!!) 互いに飛び込む二匹。 その様子はまるでスローモーションのように、群れのゆっくりたちには映った。 ――――まりさ。 まりさとありすのかわいいちびちゃん……。 ゆっくりがんばってね。 遠くから声が聞こえたような、そんな気がした。 「ゆ゛ああああああ!!!!!!」 一呼吸遅れて、まりさの上げる咆哮。 まりさと“れいむ”が激しく体をぶつけ合う。 「ゆ゛が……ッ??!!!」 まりさの勢いに負けた“れいむ”が後方に弾き飛ばされる。 まるで時が止まったかのようだ。 そこにいたゆっくりのどれもが、まりさの事を泣きながら見つめている。 群れのゆっくりたちには、確かに見えた。 ……ような気がした。 まだ、あどけなさの残るまりさの凛々しい横顔。 そこに確かに面影を感じさせている。 リーダーまりさと、親まりさ。 在りし日の姿が、はっきりと映し出されていたのだ。 ゆっくりたちの心の、奥の奥に。 親子三代に渡る因縁。 今、その悲劇の螺旋が終わりを告げようとしている。 「どぼじで……どぼじで……ッ?!」 “れいむ”の知恵は、ぱちゅりーに及ばなかった。 “れいむ”の力は、まりさに及ばなかった。 それは、“れいむ”にとっての完全なる敗北を意味する。 まるで憑き物が落ちたかのように涙を浮かべながら、再び“お墓”の底へと落ちて行く。 「ゆ゛べしっ!!!」 後頭部から叩きつけられた“れいむ”の顔の一部が衝撃で裂ける。 そこから中身の餡子が漏れ出した。 流れ出て行く自身の中身を見て、それが何を意味するか“それなりに賢い”せいで理解できてしまう。 下手に動くことはもうできない。 つまり、この“お墓”から這い上がることはできない。 “れいむ”が歯をカチカチと鳴らし始めた。 「“へいたい”どもっ!! はやく……れいむをたすけてねっ!!! すぐでいいよ……っ!!!!」 「“れいむ”。 ……もう、“へいたい”はひとりもいないよ」 「ゆ゛ぐぅっ……!!! ち、ちびちゃんっ!!! おかあさんがこまってるよっ!!! たすけてねっ!!! すぐで……」 「“れいむ”。 “れいむ”をたすけるような“ちびちゃん”はひとりもいないよ」 「う……あぁ……」 冷たく言い放つまりさの言葉に“れいむ”がガタガタと震えだす。 “れいむ”が周囲を見回す。 土の壁がその四方を囲んでいる。 そこには誰もいない。 何もない。 湿り気を帯びた地下の冷たい空気が“れいむ”にまとわりつく。 まるで、地の底から暴君の犠牲になったゆっくりたちが、“れいむ”を引き摺りこむかのような錯覚を覚える。 「た……だずげで……」 涙で顔を歪めながら懇願する“れいむ”の表情にかつての暴君の面影はない。 しかし、その願いに応えるゆっくりは一匹たりともいなかった。 疲れ切っている上に中身を少しずつ流出させている“れいむ”は虚脱感と極度の空腹を感じ始めた。 “お城”の中には群れのゆっくりたちに集めさせた大量の食料があるだろう。 「れ……れいむにごはんさんを……ちょうだいねっ!! すぐでいいよ!!!」 反応はない。 “れいむ”が更に震え出す。 「……“れいむ”。 いままで、みんな……おなかがぺーこぺーこでくるしいときに、“れいむ”のためにごはんさんをあつめ させられたんだよ。 すごく、たいへんだったんだよ」 「ゆ……ゆ゛ぐぅ……。 れいむは……むれのリーダーなんだよっ! やさしくしないといけないんだよっ!!」 「“れいむ”。 “れいむ”のことをリーダーなんておもっているゆっくりは、ひとりもいないよ」 「どぼじでぞんな゛ごどい゛うの゛ぉ゛ぉ゛??!!!」 「“れいむ”。 もう、さよーならーするよ。 そこで、えいえんにゆっくりしていってね……」 「ゆ……ゆゆゆゆゆゆ……ッ!!!!」 まりさとぱちゅりーの指示で群れのゆっくりたちが墓穴に土をかぶせ始めた。 頭上から降り注ぐ土の雨が“れいむ”を覆うように溜まっていく。 「ゆげぇっ!! ぺっ! ぺっ! やめてねっ!! ゆっくりできないよっ!!」 「みんな、ずっと、ゆっくりできなかったんだよ。 “れいむ”のわがままのせいで」 生き埋めにされていく恐怖。 “れいむ”の周囲が土で埋められていく。 数多のゆっくりを葬ってきた、強靭なあんよが土に埋まる。 「ご……ごめんなさいっ!! あやまります!! だから……だずげでぐだざいぃぃぃ!!!!!」 全てを失った“れいむ”は、どこにでもいる一匹のれいむ種に過ぎなかった。 「“れいむ”。 さようなら」 「ゆ゛あ゛あ゛あ゛!!! ごべんなざいっ!!! ごべん゛なざい゛っ!!!! ごべんなざ――――――」 “れいむ”の姿が土の下に消える。 その上から次々に土を落として行くゆっくりたち。 色々なことを思い出しているのだろう。 “れいむ”が群れに現れてから、一瞬たりともゆっくりできた日はなかったように思う。 家族を、友を、恋人を殺され、子供を奪われ、食料を奪われた。 毎日が、失うだけの日々。 その日々がようやく終わりを告げる。 最後に見せた“れいむ”の素顔。 “れいむ”は普通のゆっくりだった。 それなのに、何が“れいむ”をあそこまで変貌させたのかわからない。 “お墓”が完全に土で埋まったのを確認すると、ぱちゅりーがまりさの元にあんよを這わせた。 その動きを群れのゆっくりたちが見つめている。 「まりさ。 おつかれさま。 ……“れいむ”は、えいえんにゆっくりしたわ」 「ぱちゅ……」 「むきゅきゅ。 まわりをみてごらんなさい」 言われたとおりに周囲を見渡すまりさ。 そこには、お世辞にもゆっくりしているとは言い難いボロボロのゆっくりたちがいた。 一、二、たくさん……いた。 皆、一様にまりさを見つめている。 まるで、何かを待っているかのようだった。 成体ゆっくりも、子ゆっくりも。 れいむ種も、まりさ種も、ありす種も、ぱちゅりー種も、ちぇん種も、みょん種も。 そこに確かに燦然と輝く命。 ぱちゅりーがそっと呟く。 「あなたが……みんなをまもったのよ。 そして、みんなも……あなたをまもったの。 ……ずっと、まもっていたのよ」 まりさが、深呼吸をする。 天に向けて叫び声を上げるかのように声を張り上げた。 「ゆっくりしていってね!!!!!」 「ゆっくりしていってね!!!!!!!!」×たくさん 何百ものゆっくりたちがまりさの元に押し寄せる。 疲れ切ったまりさの目に映るのは無数の笑顔、笑顔、笑顔。 それを見たまりさがうっすらと笑みを浮かべる。 そうだ。 まりさは、これが見たかったのだ。 ゆっくりとして生まれたのならば、せめてゆっくりと生きていたい。 親子三代の因縁。 親まりさの仇。 それはもやは、関係のないことだったのかも知れない。 「まりさ!! まりさ!! まりさ!! まりさ!! まりさ!! まりさ!! まりさ!!」 割れんばかりの喝采。 その中心にまりさがいた。 数匹のゆっくりがまりさのあんよに頭を潜り込ませて跳ね上げる。 ゆっくりたちの絨毯の上にまりさが乗せられ、何百匹がかりでまりさを宙に向けて押し上げる。 その光景は胴上げそのものだ。 あんよが地から……ゆっくりたちの頭から離れたまりさの視点が高くなる。 (まりさおかあさん……っ!! ありすおかあさん……っ!!) 跳ね上げられた衝撃で脱げてしまったまりさの黒い帽子が済み渡る青に溶け込んでいく。 (まりさ……!! まりさはね……っ!!!!) 真っ青なキャンパスにまりさの満面の笑みが描かれる。 大空を羽ばたく鳥のように。 吹きつける風をその身に受けて。 「まりさ……っ!! おそらをとんでるみたいっ!!!!」 【 ~epilogue 】 草原を風が吹き抜けた。 一匹の赤ちゃんまりさが泣きながらぴょんぴょんと飛び跳ねている。 「おぼうししゃん!! ゆっくちまりしゃにいじわりゅしにゃいでにぇっ!!! ゆぇぇぇぇん!!!!」 小さな黒い帽子が風に乗って飛ばされていく。 「おきゃあしゃあああああん!!! ゆぅ~ん、ゆぅ~ん……っ!!!!」 赤まりさが泣きながら頬をすり寄せる成体ゆっくりのまりさ。 「まりしゃおきゃあしゃん……ぱちゅのいもうちょがきゃわいしょうだよ……ゆっくちたしゅけちゅえあげちぇほしいわ……」 赤ちゃんぱちゅりーが下から見上げるようにお願いをしてくる。 まりさは、宙で踊り続ける黒い帽子を見上げたまま微動だにしない。 そんな母親の様子を見て、赤まりさと赤ぱちゅりーが不安そうな表情を浮かべた。 「むきゅー。 まりさ、きょうはかぜさんがつよいわ……。 はやくおうちにかえりましょう……?」 「ゆゆっ?! まっちぇにぇっ!!! まりしゃのだいじなおぼうししゃんが……っ!!!」 やがて、風が吹き止むと同時にふわふわと赤まりさの小さな帽子が下りてきた。 「ゆっくち~~~!!」 帽子が落ちた先に駆け出す赤まりさ。 嬉しそうに帽子を頭に乗せる赤まりさを見て、まりさは微笑みを浮かべた。 まりさは、ゆっくりと理解している。 この世界に“吹き止まない風などない”ということを。 まりさだけではない。 ぱちゅりーも、群れのゆっくりたちもそれを理解している。 かつて、森で暮らすゆっくりたちは常に暴風の中に晒されていた。 時に吹き荒れる風に疲れ、諦めようとしてしまったこともあっただろう。 風に全てを奪われ涙した日もあっただろう。 縦横無尽に叩きつける風の中、それでもゆっくりたちは少しずつ、少しずつ前へと進んでいった。 向かう先に何があるのか、果たして道筋は正しいのか。 それさえも分からずに闇の中を進んでいくしかない日々。 たどり着いた先は、輝かしい世界と言えただろうか。 それはきっと、当人たちにしかわからない。 ――願わくば。 貴方が勇気を持って自分の進みべき道を歩もうとする時、貴方に優しい追い風が吹きますように。 fin
https://w.atwiki.jp/futabayukkuriss/pages/80.html
ドスまりさがぶっ殺される話 5KB 村の入り口と森の入り口の中間点で座っている私。 「まだか?遅ぇなぁ……」 今日の朝から早起きして待っているのだが… 時刻はもう昼を過ぎる頃、長い間座りっぱなしで正直ケツが痛い。 早起きした直後はワクワクしていたが、今はもう待ち疲れてウンザリしている。 「はぁぁ~~~~、ん?」 凝りをほぐそうと背伸びしようとした瞬間、地面が規則的に震動をしている事に気付いた。 その震動が徐々に大きくなってきて―― 「ゆっ!ゆっ!」 森の入り口から、高さ5mはある巨大な物体が飛び出して来た。 にやけた下膨れの顔と辺りに響き渡る声で何か言っている。 「ゆゆっ!!にんげんさんだね!!まりさがおねがいするよ!!あの村でいちばんえらい人をよんできてね!!」 この物体が何なのか、読者の方にはもう分かっていると思われるが。 まあ一応言っておくと、この巨大な物体は……ドスまりさ。 まりさ種が異常進化して生まれるドでか饅頭である。 「私が村長です」 「ゆゆっ?そんちょうって何のこと?」 どうやら、このドスまりさはあんまり頭がよろしくない固体のようである。 バカがそのまま大きくなった固体や、人間に負けず劣らずの知能を持った固体など。 千差万別で、世の中に色々確認されているドスまりさの中でも、下の上?その程度の知能だろうか。 まあ、相当なバカではあるが、救い様の無い大バカでは無い。 救い様の無い大バカだったら、第一声は――― 「リーダーになって大変なまりさの為に、やさいさんを村からいっぱい持ってきてね!!」 ―――微妙な差異はあるだろうが、これに準ずる言葉を吐くだろう。 「一番偉い人って事だよ」 「ゆっくりわかったよ!!それで村長さんにおねがいが「条約結びたいんだろ?」ゆゆっ!?なんで分かったの!?」 「ドスが村に来る理由なんてそれぐらいしか無いからねー」 条約――大層な名前が付いているが。 要は、ゆっくり達と人間達の口約束である。 悪く言えば……ドスと村の間での『ごっこ遊び』 相互に干渉しないなどと人間風に文書で認めたとしても…… 条約を理解できない若いゆっくり。 群れを管理できない無能なドス。 これにゆっくりを良く思ってない村側の人間が加われば、むしろ条約は破られる為に存在していると言っても過言ではない。 (押すなよ!絶対に押すなよ!と同じネタ振りの類) 過去にも他のドスと他の村で結構な数の条約結びがあったようだが。 上手くいった例が0に近いのが笑えてくる所である。 現在で数えるほどしか起こっていないのは、ゆっくり種全体が学習しているからだとか…… 目の前のバカを見る限りそうとは思えないが。 「で、結びたい条約ってのはどんな内容なんだ?」 「それはね、群れがこまったときに――」 同じ事を何度も繰り返すなど、話し方が下手糞なドスの説明をまとめると。 人間とゆっくりは助け合う 人間はゆっくりをゆっくりは人間を傷つけない 条約違反が起こったら、違反した側が相手に謝罪と賠償をする。 である。 「条約の内容はつまりこう言う事だよな?」 「そのとおりだよ!!そんちょうさんは頭がいいね!!」 (ゆっくり基準で誉められても嬉しくないなぁ) 「さっそくで悪いんだけど、群れのみんなをむらの中にすまわせてほしいんだよ!!」 「……森で暮らせば良いじゃん」 「まりさの群れはしょくりょうのびちくに失敗したんだよ!!もうすぐ冬だからまりさの群れをはるまで助けてほしいんだよ!!」 群れの不始末のツケを人間に払わせる気満々かこいつ。 それを許すと際限無く付け上がっていくゆっくりの群れの未来が詳細に予知できる。 春までが、夏までになり、夏までが、秋までになり…… 目を閉じると、でいぶとばりざが村の中に大量発生している絵が浮かんで来た。 「……森に帰って食料の備蓄を全力で頑張れば?」 「なにい゛っでる゛のぉぉぉ!!まりさとじょうやぐむすんだでしょぉぉぉ!!」 「まだ冬じゃないからさ、頑張ればどうにかな『ズガアアァァァァアン!!!』 強烈な轟音。反射的に目を開くと前の木々が吹っ飛んでいた。 原因は一瞬で分かる、ドスまりさが放ったドススパークだろう。 「じょうやくを違反したらしゃざいとばいしょうだよ!!それを分かってね!!」 力で無理矢理押し通す気だろうが、その事のデメリットを何も分かってない。 「へーへー分かりました分かりました。取り敢えず村に付いて来てくれないか?」 「ゆ?何のために?」 「群れのゆっくりの為に広場に小屋を作ってやるからさ。まりさにはそれを手伝ってもらいたいんだよ」 「ゆ~ん、分かったよそんちょうさん!!」 今の怪し過ぎる申し出に了承しホイホイ付いて来る。 自分は、このドスまりさの知能をかなり高く見積もり過ぎていたようだ。 そして私とまりさは、人の数が奇妙な程に少ない村を歩き、中心部に到着した。 「ゆ~ん、これだけ大きければまりさの群れもよゆうでくらせるよ!!」 「まりさの群れの数は幾つ?」 「たくさんだよ!!」 「あー、うん、そう……」 「群れのみんなは、きれいでいいこばかりだから村長さんたちも気に入ってくれるよ!!」 「そーだねー」 「まりさはあの家にすまわせてほしいな!!」 「そーだねー」 適当に相槌を打ちながら、渦巻きを描くように広場を回って行く。 そして、人間でも気付かないぐらいに小さく付いた地面の印を見ると、足をドスまりさに気付かれないように止める。 付き従っていた人間が足を止めた事に気付かず、跳ねたドスまりさが着地しようとした次の瞬間――― ズボッ ――――――――― 「どうもお疲れ様です」「ありがとうございました」 「いやそんなに危険なモノでも無いっすから、ちょろいもんすよ」 「あのお化け饅頭が森に現れたと聞いて……数週間前から気が気じゃなくて……」 今、自分は本当の村長と話しをしていた。 側にはピクピクと震える奇妙なデカ饅頭が顔面を下にして土に埋まっている。 ……あの時、ドスまりさは落とし穴に足の前半分を入れてしまったのだ。 そうすると物理的に、顔を下にして落下する事になり、結果がこの様だ。 この落とし穴は一週間以上前から村の住人が総出で掘ったもので、何と、直径、深さ共にドスまりさより大きいのである。 底には「かえし」の付いた竹槍が無数に設置してあり、人糞が塗り付けてあるおまけ付き。 確実に殺す事を意識して作られており、これに顔面から突っ込んだドスまりさの今の心境はあまり想像をしたくはない。 「正直な話、楽な仕事だったっすよ。頭が良いゲスだったら大変な事になってましたけど。」 あそこで村の中にご招待が効かなかったとしても。 帰るドスまりさを尾行して、男衆の夜襲がかかるので……結局、ドスまりさは死ぬ事が確定してたようなものだったのであった。 「これから村長さん達は群れの駆除を?」 「ええ、リーダーを失った群れが混乱して暴走する危険性があるのでね」 「このドスまりさは?」 「変な虫が湧くといけないので、焼却した後に完全に土に埋めます」 聞きたい事も聞き終えてもう心残りは無い。 村長からの心ばかりのお礼を家で開ける事を楽しみにしながら町に帰る事にしよう。 宿で荷物を整えた後、村から出る時に、地面から響き渡るようなドスまりさの断末魔が聞こえた気がしたが。 後ろは振り返らなかった。 トップページに戻る このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね! 感想 すべてのコメントを見る まだ条約結んでないのに「条約違反」とはこれ如何に。(お兄さんは承諾してないし、人間サイドの条約結んでない) 結局ドゲスじゃないかww -- 2018-01-24 13 16 33 ドスかぁ…某氏のSSに出てくるスタンドゆっくり使ったら虐待の幅が広がるなぁ〜 -- 2016-09-12 18 34 25 ↓偽善者発見。 -- 2014-10-08 21 22 45 村長さんなんてことを -- 2014-09-15 21 16 59 C4使うとおもしろそうWWW -- 2013-07-13 15 20 41 ドスとかわさびを食わせれば死ぬんじゃね?おい誰かワサビパイブ爆弾もってこい -- 2013-06-26 09 07 32 最後はテンプレにつき、省略したんですね。わかります。 そして罠にかからなかったら糞つきの竹槍、 どう処分すんのかが気になります。 -- 2012-05-02 21 14 12 ↓で、「私が村長です」って、鬼意山、勇気有るよね~。 -- 2011-12-22 15 01 11 しかし高さ5mて…ちょっとした小屋くらいのサイズじゃないか。すげぇなドス… いくらゆっくりとは言えそのサイズのが歩いてたら恐怖を感じるわw -- 2010-09-06 00 43 16 あっさり風味で良い話だった 出来れば群れの駆除風景も見たかったかも -- 2010-09-04 23 35 25 もっと清潔な罠にしてあげて。 そのための焼却処分でしょおおおおお! -- 2010-09-04 17 50 09 >竹槍が無数に設置してあり、人糞が塗り付けてあるおまけ付き。 後始末する人が気の毒だから、もっと清潔な罠にしてあげて。 -- 2010-08-06 21 39 46 「わたしが村長です」 この時点でこの人間はアウトだろw -- 2010-07-07 13 05 29 良いねぇ、自分の不始末を他者へ擦り付けるクソドゲスの末路には相応しい最後w 群れのゆっくりも例外無くゲスなのは確定、無残に惨めにこの世の苦痛と言う苦痛を味わわせて虐待してやってくださいなw ヒャッハー!! -- 2010-07-07 02 50 25
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/1108.html
緑溢れる山を飛び回るゆっくり達。 狩りに向かう大黒柱のお目当ては、近くに生えた美味しい木の実。 豊富な栄養を蓄えた木の実をツガイと赤ゆに与えてゆっくりとした日々を生きる。 その群れの長は、紫髪のぱちゅりー。 月のお飾りが帽子に煌く、頭脳明晰なゆっくりだ。 「れいむのあかちゃんっかわいいでしょっ!?」 「まりさのあかちゃんも、かわいいんだぜっ!」 「ありすのとかいはなあかちゃん、とってもすてきだわっ!」 「……むきゅ~っ」 長が住む巣穴の近辺では出産ラッシュを迎えていた。 何処を見ても、赤ゆ自慢の家族で溢れかえっている。 とても幸せそうな表情を浮かべた群れのゆっくり達。 この出産ラッシュの原因は美味しい木の実が関連していると思われる。 豊富な栄養を定期的に摂取できる環境になると、安心して繁殖行動をとる固体は多い。 「…こまったわ。どうしたらいいのかしら?」 賑やかな喧騒の中で、ぱちゅりーは頭を伏せて小さく唸る。 今、この群れに起きている重大な危機の訪れを嘆いていた。 「むーしゃむーしゃ! しあわせ~っ!」 「れいむっ! それは、まりさのだよっ!? かってにとらないでねっ!」 「れいむは、にんっしんっ! しているんだよっ!? たべないとしんじゃうでしよぉおぉおっ゛!? まりさはばかなのっ? しぬのっ!?」 「まりさだって、おなかぐーぐーなんだぜっ!? あかちゃんが、たべたいってささやいているんだぜっ!!」 頭に生えた茎を左右に揺らしながら喧嘩を始めたれいむとまりさ。 小さな木の実を奪い合っているようだ。 どちらも必死の形相で互いに一歩も譲らない。 小規模な争いが、群れの各地で勃発していた。 先発で誕生した食欲旺盛な赤ゆ達が木の実を欲望のままに食らい尽くした結果、 必然的に山の食料は枯渇していき、親の口に入る栄養は日に日に少なくなっていったのだ。 お腹を空かせたゆっくり達は森に溢れ、いーらいーらを溜めて争いを繰り広げる群れの一部。 それを解決させる手段となる食べ物を狩るのは現状では難しい。 ぱちゅりーが納める群れは、壊滅を仄めかす食糧不足の初期段階に立たされていた。 この森に住む群れの一派、元は全てが街野良だった。 長であるぱちゅりーも例外では無い。 つい最近の出来事、ぱちゅりーは飼い主の家で粗相をして捨てられた。 ダンボールに入れられて、寒い風が吹き付ける路地裏に投棄された。 飼いゆ用に育てられたぱちゅは、多少丈夫な体の構造をしている。 そして、生きてゆっくりしたい!と、言う未練を断ち切れず、街を徘徊して糧を得る日々。 這いずり回って生きて行く事に疲れきったぱちゅりーは、ある噂を耳にする。 『ゆっくりぷれいすにいこうっ!』 その言葉を発するゆっくり達に着いていけば幸せが訪れる。 疲れていたぱちゅりーは、藁にも縋る気持ちで声を上げるゆっくりを探し始める。 それは、意外と早く見つかった。 体を黒くしたゆっくりの集団。 大きさは成体から赤ゆまで満遍なく揃った街野良の集まり。 希望に胸を膨らませながら、大移動をしているゆっくり達。 集団が辿り着いた場所は、都会から少し離れた山の奥。 美味しい木の実が成り茂る理想卿。 ここには、自分達を脅かす人間も存在しない。 「「「 ここをゆっくりぷれいすにするよっ! 」」」 大勢の発した声が、上空の広い空に吸い込まれていく。 ビルなどは無い。視界に飛び込むのは穏やかな緑。 排ガスの臭いなどはしない。感じるのは地面から香る土の匂いだけ。 それぞれ、意気揚揚と森に散らばった。 久しぶりにお腹いっぱいに食べたゆっくり達は、大きな群れを形成していく。 長を決める際、紫色の髪を地面に広げたぱちゅりーに白羽の矢が立つ。 決め手は、木の実を数えるときに、三以上数える頭の良さを見せ付けた事だろう。 群れの中に、ぱちゅりー種は一体しか居ないのも、高評価だったのかもしれない。 任命されたぱちゅは、少し照れながら長の役職に付いた。 それが、つい数週間前の出来事。 無尽蔵にあるかと思われた美味しい木の実は、数えられる位にしか残されていない。 子を優先して木の実を与えていた親達は、日が経つごとに痩せ細っていた。 「ゆっくりたべてねっ? たべないとしんじゃうよっ!」 早い時期に食べる物が無くなったと認識した親達の一部は、 巣穴近辺に生えていた雑草を刈り取って赤ゆ達に与える。 むちゃむちゃと噛んで柔らかくする事もなく、雑草を無造作に床に広げた。 唾液を混ぜて甘く感じさせる努力も行わないお粗末な昼ご飯。 雑草は何時も与えて貰っている黒い木の実とは外観は違っていたのだが、 世の中にある物は、全て甘い物だと誤認していた赤ゆ達は、一切迷い無く頬張ってしまった。 雑草を口に含んだ赤ゆは、強い苦味と噛み切れない繊維の硬さを鮮明に感じ取る。 「「「…ぐぎゅっ、にぎゃいよぉおっ゛!? ゆげぇえっ゛!」」」 「うわぁああっ!? しっかりしてぇえぇええっ゛おちびちゃあぁああんっ゛!」 げろりと吐き出した赤ゆ。 その吐射総量は、明らかに摂取した雑草の大きさを簡単に上回る。 不味さにビックリして体の内部に入れてしまったのだろう。 体を形成する餡子が、ゆっくり出来ない成分に犯されて外部に排出を要求している。 それは全く留まることを知らず、赤ゆの小さな体から餡子を搾り出していく。 「「「…ゆっ…もっぢょ…ゆっぐぢ……ゆげぇえぇっ゛」」」 「おちびちゃぁああぁあああああああああんっ゛!?」 また、赤ゆが数体天に召された。 完全なる親の過失。 しかし、親は解らない。 与えてはいけない毒物を理解していないのだ。 今までの街野良環境とは全く違った森の中。 過酷な野良生活を辿ってきた親ならば、苦い草も我慢すれば多少は食べられ事を知っている。 しかし、黒い木の実しか食べていない新生児のゆっくりは苦味に耐えられない。 直ぐに弱って死んでしまう。 しかし、甘い食べ物を探そうにも、美味しそうな果物は頭の遥か上方に実っている。 これまで容易に狩れる黒い木の実を主食にして来た元野良ゆっくり達の群れ。 野良で会得した狩りはゴミ漁りが中心だったので、果物を落とす方法は思いつかない群れの面々。 群れのゆっくり達の狩れる物、食べれる物は、黒い木の実だけ。 今まで完全に偏った食生活を送って来たのだ。 「…むきゅ~っ」 遠くで聞こえた親の悲鳴を聞きながら、長のぱちゅりーは考えている。 「ぱっくーんっ! しっ…しあわせ――っ!?」 「ゆああぁあああっ゛!? まじざとあかちゃんのぉあまあまさんがぁああぁあっ゛!」 緑色の茎を頭に実らせたゆっくり達は争いを終えた。 勝者となったれいむは、お口に木の実を含んで飲み込んだ。 れいむは黒い木の実を食べて元気いっぱい。 それを見たまりさは大号泣。 ありすは虚ろな目をしながら奥で倒れていた。 ピクリともしない危険な状況。 これらは、第三世代の認可を受けたゆっくり達だ。 先程の苦い草で昇天した赤ゆは第一世代に入る。 長の了承を取らなければ、親は新しい赤ゆを作ることは許されない。 群れの長であるぱちゅりーは、申請に認可を与える役割を担っていた。 しかし、ぱちゅは強く頼まれると嫌とは言えない性格をしている。 それに加えて森の現状など把握していなかった。 元街野良なのだ。 物は数える事は出来ても、森の無害食材などサッパリわからない。 理想郷としていた山が、牙を剥いて群れに襲い掛かってきた。 「ゆっくりそだってねっ! れいむのかわいいあかちゃん、げんきにそだってねっ」 「ゆわぁあぁあああんっ゛! おながずいだぁあぁああああっ゛!? れいむのばかああああっ゛!」 まりさは泣きながられいむに突進する。 小さく跳ね飛ばされたれいむは、負けじと応戦した。 巣の内部は醜い修羅場と化す。 これが、群れの現状だ。 一刻の猶予も残されていない。 「…むきゅっ、けつっだんっ! するときなのね…」 ぱちゅりーは決意を込めた眼差しで地面に開かれた手紙を見下ろす。 奥歯を噛み締めながら、苦々しい顔で全身を軽く縦に振った。 山に移り住んだ群れは人間達を受け入れない。 自分達を捨てた人間などは、神聖なるゆっくりぷれいすに踏み入れる事を許さない。 長のぱちゅりーは、この提案を即決で容認する。 群れを集め、特訓した攻撃方法は、華麗なるぷくーっ!。 空気をいっぱい吸い込み、丸々と膨らんだ体で威嚇を行う方法だ。 『これ以上何かすると、群れで痛い目をあわせるよっ!?』 ぷくーには、そう言う最終警告も含まれている。 今まで領域に進入した人間達は、" ぷくーっ! " と、威嚇すると情けなく逃げていった。 撃退した群れは愉快に笑いながら互いに健闘を称えあう。 自分達を苦しめてきた人間は、こんなに弱いものだったのかと語り出す。 捨てた飼い主に復讐をするべきだの意見も群れの中で飛び交った。 しかし、野良を捨てて野生を選んだ群れのゆっくりは、寛大な心を持って元飼い主を許す。 それに、この場所を移動している隙をついて、他の野良に取られてしまう可能性も危惧された。 主に後者の問題を考慮して群れは復讐を断念する。 せめて、復讐の代わりに得たこの理想郷は死守せねばならない。 群れのゆっくり達は、その思いを強めて進入者を全て排除してきた。 「ゆっくりかんしゃしてねっ!? おさが、じきじきにおはなしをしてあげるよっ!」 「こうえいにおもってねっ!? あまあまもくれてもいいよっ!」 「とかいはなありすについてきなさいっ! れつをみだしてはだめよっ!?」 「ほっほっほ。元気じゃのう」 れいむ達の後方に年老いたお爺さんが続く。 お爺さんの側には、黒服を着た青年と、家政婦の衣装を身に纏った女性が寄添っていた。 一団が進む山道には、ぷくっと膨れたゆっくり達の列が並び、歩いて来た人間達を威嚇している。 「むきゅっ! よくきたわね。わたしがおさのぱちゅりーよっ」 この群れの状況を打破するために、人間と交渉の場を設けたぱちゅりー。 頭に深く被っていた帽子の隙間から覗くお手紙。 手紙には、" おはなしをしませんか? " との文面が達筆で描かれていた。 本音は人間を森に入れたくは無かった。 だが、長は致し方ない事だと思っているのだろう。 群れのとの問題を照らし合わせての苦渋の決断。 全滅は、なんとしても避けたい事柄だったのだから。 会議をする場所に選ばれたのは、長が住む巣穴外の大きな野外広場。 広場上空に覆う緑色の葉で編まれた屋根は、とてもゆっくり出来ると評判だった。 長が中央の石に座る。 お爺さんは近くの大きな石に腰掛けた。 寡黙な青年は後方で待機。 これから群れの食糧供給を中心とした、重要な会議が行われる。 「むきゅっ! これは、とってもゆっくりできる、ていっあんっなのよっ!」 ぱちゅりーは、息を荒げながらお爺さんに迫る。 ある程度の譲著は行ったと言わんばかりの表情だ。 それを聞いていたお爺さんは笑顔を崩さない。 「ほっほっほ。面白い事を言うもんじゃのう」 お爺さんの側に寄添う青年の指先は、滑らかに動き続けていた。 ぱちゅりーの提案事項を手帳に記録しているようだ。 書き終えた手帳の中身を見たお爺さんは、細く開けた瞳を長に向けて再度確認を行う。 「まずは…、山の管理について。じゃったかの?」 「そうよっ! ぱちゅりーたちのゆうしゅうなむれが、やまをきれいにしてあげるわっ!」 「それの見返りとして、美味しい木の実を寄越せと?」 「むきゅっ! おなかをすかしては、うごけないわっ! とうぜんのけんりねっ!」 「更に、赤ゆ達の保護もして欲しいと?」 「とうぜんねっ! ゆうっしゅうっ! で、すてきなむれのあかちゃんたちなのよっ? ほごするのは、あたりまえのことだと、ゆっくりにんしきしてほしいわっ!」 黒服の青年は手帳を閉じてから、一歩後方へと下がる。 お爺さんは大きな石に腰掛けたまま、両目を瞑り考え込む。 長のぱちゅりーは、自信に満ち溢れた表情を崩さない。 提案を飲むのは当然の流れだと盲信していた。 「却下じゃな」 「むきゅっ!?」 目を開いたお爺さんは、開口一番で拒否を進言。 それを受けた長の両眼は驚きで見開かれる。 周辺に寄添う親衛隊も同様の表情を浮かべて固まった。 「どうしてっ!? こんなにゆっくりできる、ていっあんっさんでしょっ!」 「ほっほっほ。どう考えてもおかしいのは明白。受ける理由は無いのぉ」 強めの口調で畳み掛ける群れの長。 それを受け流すような、淡々とした人間の行動が気に入らないらしい。 長と親衛隊の面々は、お爺さんを囲むように陣形を展開していく。 「ようきゅうを、ゆっくりのみなさいっ! いたいめにあいたくはないでしょっ!?」 「脅しをするのかい? それは、ゆっくり出来ないのぉ」 ニヤリと笑ったお爺さん。 黒服の青年は、何時の間にかお爺さんの側に寄添っていた。 「ゆっくりできないにんげんさんは、むれの " いだいさ " を、りかいしてねっ!?」 ぱちゅりーを含む数体のゆっくりは、口を大きく開けて空気を吸い込んでいく。 大気を内部へと充填し、思いっきり膨れ上がった群れのゆっくり達。 「「「 ぷく――っ!! 」」」 最終警告を伴なう威嚇行動。 今、群れはゆん生で最高のぷくーを人間に炸裂させた。 「ほっほっほ。……それで?」 「ぷっ!?」 冷たい言葉を口にするお爺さん。 群れの長と親衛隊は、膨れたまま固まった。 「交渉決裂、じゃな」 お爺さんは、軽く手を上に移動させた。 それを確認した青年は、速やかに通信機器を取り出して連絡を取り始める。 電話向こうで会話していた女性の了承の声を最後に通信は途絶えた。 「「「 ――ゆんやぁああああっ゛!? 」」」 「「「 やめてぇえぇえええっ゛!? 」」」 その直後、山道で甲高い悲鳴が湧き上がる。 群れのゆっくり達は、膨れた姿のままあっさりと捕まって、麻袋の中に収納されていく。 「「「 ここは、せまくてゆっくりできないっ! 」」」 「「「 もう、おうちかえるぅうううぅっ゛!? 」」」 狭い袋の中で暴れるゆっくり達。 圧殺をなるべく防ぐ対処法として、大きさごとに分けて袋詰。 それを実行しているのは、黒服を着た数人の男達。 家政婦の衣装を着た女性が指揮をして迅速な作業を行っている。 「「「 ゆーゆーっ!? 」」」 赤ゆ達は透明な箱へと纏めて収納された後、丁重に運ばれていく。 その魔の手は、長であるぱちゅりーの巣穴まで伸びていた。 長を守るために駆け出した親衛隊達。 「「「 うわぁあああああっ゛!? 」」」 あっさりと御用。 麻袋の中にみっちりと詰まった親衛隊達は泣きながら退場。 他の群れゆっくり同様に乱暴な扱いを受けながら運ばれていく。 「むきゅっ!? ふしゅるるる~っ!」 空気を吐き出して威嚇行動を辞めようとしたその時、 体から完全に空気を抜ききる前に、口に湿布状の物体を貼られて排気を止められてしまう。 長の周辺には、濃厚なオレンジの香りが漂い始めた。 これは、オレンジエキスがたっぷり含まれている医療用シート。 瀕死のゆっくりでも、瞬時に息を吹き返す栄養分を蓄えている。 「むぎゅっ!? むぎゅぅうぅうっ゛!」 暴れる長を持ち上げた黒服の青年。 音も無く忍び寄って、黄色いシートを長のお口に張り付けたのは、この寡黙な青年だ。 目線にまで持ち上げられたぱちゅりーを見たお爺さんは、 満足そうに首を縦に振った後、年寄り臭いかけ声を放ちながら重い腰を上げる。 「ほっほっほ。さて、いきますかのぉ」 捕らえた群れの長と一緒に山道を下る。 シートを貼られて栄養過多になった元気漲る群れの長。 脱出しようと暴れるが、青年の掴む手は決して緩まない。 そのまま、大きな出来事も無く、奇妙な御一行は山道を進んでいった 山の麓に聳え立つ建物。 ここは、町外れにある敷地を贅沢に使った広大な研究施設。 素晴らしい総面積を誇る建造物は、遠くからでも良く目立つ。 (ぱちゅりーはおさなのよっ! あやまっても、ぜったいゆるさないわっ!) 長い廊下を進むぱちゅりー。 その口元には黄色いシートが貼られて、言葉を発することは出来ない。 ぱちゅは、むーむーと唸る声しか外部に漏れない、静音仕様に生まれ変わった。 あんよに食い込む青年の両手。 どれだけ暴れても逃れることは出来ない。 それでいて、食い込みすぎて肌を突き破ることは決して無い。 この技術は当然のスキルと言わんばかりに、冷静な顔を崩すことはしなかった。 (ゆっくりさせなさいっ! どうして、いうことがわからないのっ!?) 涙を流しながら訴えているぱちゅりー。 その声は届かない。 しかし、笑顔を浮かべたお爺さんは優しく語り掛ける。 「ゆっくりさせなさい。じゃろ? ほっほっほ。ゆっくりはそれしか言えないからのぉ」 ぱちゅりーは首を縦に振る。 冷静になったぱちゅりーは、アレだけ空いていたお腹が満たされているのを感じていた。 貼られたシートは鬱陶しいの一言に限る。 しかし、このシートから湧き出る元気成分が体に吸収されていくことは明白。 これを群れ全体に提供をしてくれるのならば、維持など楽勝と考えているぱちゅりー。 その後、腹を見せるように仰け反った。 泣き顔から一転して良い笑顔を見せる群れの長。 浮かべた笑顔は、打算的な希望の現れだったのだ。 「ほっほっほ。ここを見てみなさい」 お爺さんはガラスの扉を指し示す。 ぱちゅりーに拒否権などは無い。 強制的に運ばれて内部を見ることになるだろう。 しかし、未来の希望に満ち溢れたぱちゅりーは、疑いの欠片も見せずにガラスの向こう側を眺めてしまう。 向こう側には、見知った群れの仲間達。 その全てが泣き顔以外の顔を浮かべていない混沌たる世界。 地面に敷き詰められた土を齧って掘り下げる群れの面々。 必死な形相をしながら上目使いで見つめる先には、透明ケースに入れられた我が子の姿。 「「「 いま、ゆっくりたすけてあげるからねっ!? 」」」 群れのゆっくり達は、叫びながら深い穴を掘っていく。 その一部始終を見ていた長のぱちゅりー。 思い描いていた未来と現実の差が大きすぎる為にフリーズ中。 両目を極限まで開き、食い入るように見入っていた。 「これが、お前のお仲間さんじゃ」 ぱちゅりーは、その声に釣られるように視線をお爺さんへと移す。 お爺さんの表情は微笑から変わらない。 (どういうごどなのおおぉおおぉっ゛!?) 状況を理解した長は、くぐもった声を漏らしながら暴れ始めた。 目の前の人間を少しでも信じた自分を悔いているに違いない。 群れと同じ熱い涙を頬に流しながら、仲間の開放を訴えるぱちゅりー。 「素晴らしいじゃろ? ゆっくりの有効活用じゃ。コスト削減とも言えるかのぉ」 お爺さんは黒い木の実を取り出す。 それを群れの長に見せ付けた後、ガラス向こうのゆっくり達を指差す。 「あいつらが材料じゃ」 事も無げに言うお爺さん。 群れの長は信じない。 そんな共食い行為など、簡単に認められる訳は無いのだ。 元は飼いゆだった経歴を持つゆっくり程、その思考は根強く残っている。 教育過程での必須科目にされているためだ。 共食いと合わせて他のゆっくりを噛む行為はいけない事だと教え込まれてきた。 この教育が災いして、先発野良に遅れをとる固体も多い。 今、生き残っている野良達は、ある種の強運を持った固体と言えなくも無い。 「信用していない顔をしているのぉ? まあ良い、まあ良い」 小さな木の実を懐にしまうお爺さん。 ガラス向こうで繰り広げられている、地獄の鑑賞会はまだまだ続く。 群れの長はここから逃げられそうも無い。 広い室内で一心不乱に掘り進むゆっくり達。 土は柔らかいのだが、石交じりで歯にはとっても優しくない。 「いだいぃいぃいっ゛!? まじざのおくばさんが、ばっきんしちゃったぁあああっ゛!」 「れいむのまえばさんっ、どこいったのっ゛! ゆっくりかくれないで、おかおをだしてねっ!?」 ボロボロと口から歯の欠片を零すまりさ。 その横では、前歯を欠いた間抜けな表情をしているれいむが、顔を地面に擦りつけながら探索中。 前歯の発見はとても困難だろう。 今から、掘った穴を直ぐに埋めなければいけないのだから。 「おらぁあああっ゛! 掘ったら、さっさと埋めろぉおおっ゛!?」 野太い声をした監守はゆっくり達に激を飛ばす。 手に持った鞭を地面で打ち鳴らし、群れの内部に一瞬で緊張感を植え付ける。 それでも躊躇するゆっくり達に対しての脅しは簡単だ。 「おらおらぁあぁぁっ゛! 赤ゆ達が死んじまうぞっ? それでも、ゆっくり出来るのかぁあっ!?」 「「「 ゆっくりできないいいいいっ゛!? 」」」 涙を流しながら掘った穴を即座に埋める群れのゆっくり達。 全ては赤ゆを助けるための行動だ。 かわいそうに泣き喚く赤ゆ達の声は、母性本能をダイレクトに刺激していた。 ここに収納されてから掘ったり埋めたりを繰り返してきた群れの集団。 赤ゆを取り戻すために、一生懸命土木作業を頑張るゆっくり達。 メインで使うのは頑丈な前歯。 しかし、焦りながら掘り進めていく過程で、大きな石を口中の奥に取り入れてしまうミスを連発。 勢い余って噛み締めた際に、真っ白奥歯を誤って砕くゆっくり達が続出したのだ。 「「「 ゆぐぁあぁあっ゛!? いだいぃいぃいっ゛! 」」」 歯の砕けた箇所目掛けて、大きな土砂が飛び込む。 これは、歯が完全に抜けた方がマシとも思える、耐えがたい苦痛をゆっくり達に与えた。 舌を奥歯に乗せて土砂を取ろうとするのだが、食い込んだ石は動く気配を見せない。 逆に押し込む形になって、自爆による激痛をその身で受ける羽目になった。 「痛いなら俺が抜いてやるよっ!」 痛みで身をよじるまりさに近づく監守。 その手には巨大なペンチが握られていた。 「だだだだっ! だいじょうぶだよっ!? まりさは、へいきだよっ!」 「遠慮するなよっ? 俺は名医なんだぜっ! 心配には及ばねぇっ!」 ガッシリと頭をホールドアップ。 まりさは逃げ出すことが出来ない。 「なおったよっ! まりさのおくばさんは、へいわになったとつうたつをうけたんだよっ!?」 「意味わかんねよっ!? どれどれ…? ヒャッハーッ!? 大穴奥歯たまんねぇーっ!」 鼻息を荒くした監守の顔がまりさに接近する。 まりさは、生温い風を受けて気持ち悪くなる感情を打ち払うかのように、 目線の下から見える大きなペンチ。それが口中へと侵入した時、全身の感覚は恐怖のみに支配されていくのを自覚した。 「我慢できねぇっ!? ヒャッハーッ!」 「おげべぶえぇっ゛!?」 奥歯をペンチで挟んで強引に抜き取られたまりさ。 詰まった土砂の痛みは確かに無くなった。 しかし、今度は抜歯の激痛がまりさを襲う。 「ゆぎゃぁあぁあああっ゛! いだいぃいいぃいっ゛!?」 土の上を転がるまりさ。 痛みに耐えるその姿を見ている赤ゆ達は、ストレスを感じて吐き出した。 吐いた赤ゆを心配した群れのゆっくり達は騒ぎ出す。 赤ちゃんが死んでしまうと、口々に喚き始める。 「さっさと埋めろやぁあっ!? お前等の歯も抜いてやろうかあっ!」 恐怖を感じたゆっくり達は、埋める作業へと戻る。 まりさと同様に、身をよじらすゆっくりに飛んで行って抜歯を行う。 それを見た赤ゆが吐き出す。 また、激を飛ばして~、の繰り返し。 「早くしないと赤ゆ達はしんじまうぞぉっ!? あと、三回掘って埋めろぉっ!」 「「「 ゆっくりできないいいいいいいっ゛!? 」」」 赤ゆ達の足元には黄色いシートが敷かれてあって死ぬことは無い。 いや、死ぬことは許されない。 赤ゆ達は、大事な生餌なのだから。 いっぱい焦らして濃厚な甘味を内部に蓄えていくゆっくり達。 親子の再会は、大きな箱の中で確定済みだった。 互いに餡子の塊となって混じり合うその日まではお預けだ。 赤ゆ達を返してくれると信じながら、親達は穴を掘って埋め続ける。 全く報われることの無い希望を目標に変えて。 ただ、ひたすらに地面を穿る群れの姿。 「赤ゆを盾にすると、大概の願いは聞き届けてくれるのじゃ」 見放した赤ゆ達には、トコトン厳しく卑劣な選択も辞さないゆっくり達。 それが、奪われた悲劇の赤ちゃんになると、親は取り返すために全力を尽くす行動を見せる。 自分が決めた判断以外で不慮に居なくなる選択は、気にいらないと思っているのだろうか? それとも、可愛い赤ちゃんを目の前で奪われると、母性本能が極限まで増幅される為なのだろうか? 詳しくは解らない。 でも、この状態のゆっくり達はとても扱いやすい。 命令通りに動いてくれる。 「どうじゃな? 理解は出来たかのぉ? ゆっくりの長よ」 ぱちゅりーは、嗚咽を漏らしながら泣いていた。 シートに含まれた豊富な栄養が、ぱちゅりーの生クリームを絶え間なく刺激する。 お爺さんの緩やかな説明を少しだけ理解した。 赤ゆを粗末に扱っていると言う部分だけは理解したのだ。 群れの長は、赤ゆに非道な行いをする人間を強く睨む。 その視線を軽く受け流したお爺さんは、黒服の青年に目配せをする。 青年は携帯を使わず、無線で内部に居る監守へ連絡を早急に伝えた。 ガラス向こうの監守は頷いて、赤ゆ達が満載に詰められている透明ケースへと足を運ぶ。 その中から、一体の赤ゆを摘んで持ち上げた。 『おら~っ! この赤ゆを返して欲しいかーっ!?』 『ゆっ!? それは、れいむのあかちゃんだよっ! かわいすぎてごめんねっ!?』 見せびらかすように頭上に振り上げた赤れいむ。 それに素早く反応したのは、少し遠く居た親れいむだった。 『かえしてねっ! れいむのあかちゃんかえしてねっ!?』 持ち場を離れて勝手に接近して来た親れいむ。 監守の足元で、世話しなく跳ね続ける。 『そうだ、まりさの赤ちゃんも返してやってもいいぞ?』 『ゆっ!? ほんとにっ!』 側に居た無関係なまりさに声を掛けるお兄さん。 まりさは、降って湧いたような幸運に、嬉しそうな表情を顔に浮かべた。 お兄さんは、手に持った赤れいむをまりさが掘っていた穴の中に投入する。 土色に体を染めていく赤れいむ。 穴の中で苦しそうにもがくが、土の壁は脆く這い上がることは出来ない。 よじ登っては、仰向けに転がる事を繰り返していた。 『そいつを埋めろ。完全に穴を埋めたとき、まりさの赤ちゃんは返してやる』 『ゆゆゆっ゛!?』 過酷な条件を突きつけられたまりさは固まる。 視線の先で蠢くのは、他ゆっくりの赤子。 しかし、" これを埋めれば……" との考えが、まりさを惑わせる。 静かに足を穴の縁に移動させるまりさ。 掘って積まれた土山を、少しずつ穴の内部へと流し込む。 『まりさのあかちゃんは、いきるけんりがあるんだよ! しらないあかちゃんは、ゆっくりしんでねっ!?』 『ゆっくちーっ! ゆえぇえ~んっ゛!?』 見知らぬ赤ゆの代償を持って、自分の赤ゆを救う。 まりさは、この赤れいむを生贄に選んだのだ。 虚ろな瞳でお得意の責任転化を実行中。 これは、非道な役割を行う際に、自分へのストレスを軽減させるテクニックの一つ。 赤れいむの体に土砂が降り注ぐ。 全身は埋まってしまった。 『しらないあかゆを、せいっさいっしたよっ! まりさにのあかちゃんは……』 『れいむの、かわいすぎるあかちゃんをうめたまりさはっ! ゆっくりぜずにしねぇええぇええっ゛!?』 最高の笑顔を浮かべて振り向いたまりさの体に、肌色の物体が突貫を行う。 大きな口でまりさの頬を噛み締めた親れいむ。 赤れいむを目の前で埋められた状況を見せ付けられて、怒り心頭のご様子。 ガッシリと食い込んだ前歯の力を緩める気は無いとの気迫が漲っている。 『いだいいいっ゛!? まじざの、やわらかほっぺさんがぁあっ゛!』 まりさは号泣しながらお尻をバタつかせる。 お尻をビチビチと世話しなく振る度に、れいむの前歯は頬の内部へ食い込んでいく。 『れいむっ゛ゆっくりゆるしてねっ!? あれは、できごころだったんだぜっ!』 『ゆっくり……』 『だがら、おくちをあけてねっ!? まりさのほっぺださんが、ちぎれじゃうよぉおおっ゛!』 『ゆっくりせずに……まりさはしんでねっ!』 がぶりと音を立てたれいむの前歯。 噛み締めていたまりさのホッペに歪な歯形を残す。 大きな致命傷を与えられたまりさは、ふらふらとおぼつかない足で地面を迷走し始める。 積み上げた土砂に躓いて顔面から転倒したまりさ。 その衝撃で、頬の大穴から内部の餡子が大量に流出して足元に広がる。 体を何度か小さく弾ませた後、一際大きく跳ね上がったのを最後に完全停止。 透明なケース内部で、ガラスに張り付くようにしながら状況を目視していた、まりさ似の赤ちゃんが餡子を吐き出す。 まりさは、可愛い赤ちゃんが見ている前で、……死んだ。 『ごべんねっ! ごべんねっぇええっ゛!? がだぎはどっだよぉおぉぉぉっ゛!』 まりさを噛み殺した親れいむは、赤れいむが埋まった穴を覗き込みながら泣いていた。 赤ちゃんを助けられなかった自分の不甲斐なさに溢れる涙が止まらない。 今は亡き最愛の赤ちゃんに片方の仇を討った事を報告した。 『残念だったなっ! れいむは親としてどうなのよ?』 『じじいが、れいぶをおさえていたから、うごけなかったんでしょおおぉおっ゛!?』 赤れいむが埋められた瞬間に駆け出したれいむ。 しかし、監守の大きな足で踏まれたれいむは、自由に動くことが出来なくなってしまった。 目の前で埋められていく我が子を見ながら悲痛を訴えたれいむ。 拘束を解かれたときには、既に赤れいむは全身を埋められていた。 まりさに制裁を与えて殺すことを瞬時に決める。 不意をついのて完全制覇。 これに調子づいたれいむは、監守に向かって接近していく。 『…つぎは、じじいのばんだよ? こうかいしながら、ゆっくりせずにしんでねっ!』 『おい? そこで何か動かなかったか』 赤れいむが死ぬ原因を作り出した、もう片方の仇を倒すために駆け出したれいむの足が急ブレーキ。 監守は赤れいむが埋まっている穴を指を挿しながら大声を上げていた。 『早くしないと助からないんじゃないか? ほら、早く早くっ!』 『ゆっ! ゆゆゆっ!?』 埋められた赤れいむを助ける為に、大きな口を開けて土砂を頬張る親れいむ。 しかし、先程の堀り埋め作業感覚で乱暴に噛み締める大失態。 直後、親れいむの顔が歪みだす。 舌を口内で動かし何かを確認している。 疑惑が確信に変わる。れいむの顔色も青へと変わる。 悪い夢であって欲しいと願いながら地面に内容物を広げる親れいむ。 その視線は、黒い塊に釘付けとなる。 『…ゆっ、ゆぁあっ゛? ゆ…、あああぁああっ!?』 『噛み殺しやがった! なんて、残酷な仕打ちをするのだろう!?』 監守はまるで悲劇が起きたようなオーバーリアクションをとり始めた。 れいむは黒目を激しく振動させる。 体の震えは増すばかり。 『…あがぢゃん……あがぢゃん、ごべんねぇええぇえっ゛!? ゆっぐぢぃゆるじでねぇええぇえっ゛! 』 『あーあ、赤ちゃん殺しのゆっくりなんて最低だよな。子育て上手とか良く言えるもんだよ』 『ゆわぁあああんっ゛!? ごべんなざいっ! ごべんなざぁああぁあああいいっ゛!?』 『赤ちゃん殺しをしたゲスは、ゆっくりせずに死んでね?』 監守は掘られていた穴にれいむを落とす。 斜め上方を見つめるれいむの瞳には、今は亡き可愛い赤ちゃんの幻覚が映る。 五割増に美化された森の生活が餡子脳で展開されていく。 赤ちゃんを自らの歯で磨り潰したれいむは、薄ら笑いを浮かべながら短く声を呟き始める。 『――ゆげっ゛! ゆげへっ!?』 短く乾いた笑い声を漏らす。 目の前に居た赤ゆを奪い返せず、止めを刺した母親失格の重い烙印は、 れいむの体内にある大切な部分を完全に焼き切ってしまった。 『おらーっ! てめぇらもこうなりたいのかーっ!? さっさと、穴を埋めやがれっ!』 『『 ゆっぐぢりがいじだよっ!? 』』 凄惨な現場を特等席で見ていた他のゆっくり達は、慌てて掘った穴を埋め始めた。 作業効率は以前と比べて格段にあがっている。 これからも掘って埋める作業を繰り返すことだろう。 翁は杖を廊下に打ち付けて、群れの長であるぱちゅりーと向かい合う。 ぱちゅりーは、ガラスの奥で繰り広げられている地獄を垣間見た恐怖で涙が止まらない。 「あのゆっくり達は、赤ゆを返してくれると信じているんじゃのぉ」 (むきゅ……!?) 長い顎鬚を細い指先で触れながら楽しそうに語りだす。 口元を黄色いシートで塞がれいるぱちゅは、もごもごと呟きながら青年の胸元で暴れていた。 「ほっほっほ。あの子らは、" 第二世代 " なんじゃろ? 長が許可すると赤子を成せる群れの約束事。なかなか、面白い仕組みを考えるのぉ」 群れの決まりを人間が知っている訳が無い。 この人間の言っている事は、何かの間違いだ。 迷いを宿したぱちゅりーの抵抗は、段々と緩やかに治まっていく。 「ワシは何でも知っておるぞ? ゆっくりプレイス宣言から長任命。 第三世代には木の実が枯渇して食糧難。そして、ワシらとの会談の場を嫌々ながら設けた事もな。 やっぱり、物の数しか解らないゆっくりには、長は重荷じゃったのかのぉ?」 翁は笑いながら嬉しそうに微笑む。 ぱちゅりーは顔を青くして押し黙っていた。 「あの子らは、じっくりと甘味を増した後で、赤ゆとの感動の再開を果たす。 ほれ、見えるじゃろ? あそこの大きなミキサーの中でな」 今まで見ていたガラス内の施設を、翁達は数段高い所から見下ろしていた。 視線を右へ向けると奥には巨大な機械が口を開けている。 その中に、別のゆっくり集団が放り込まれていた。 (…むきゅーっ! まりさーっ! ありすーっ!?) 投げ込まれるゆっくりを見たぱちゅは、いきなり体をくねらせながら暴れ出す。 群れを結成した際の古い顔馴染が、小さな赤子と一緒に銀色の内部へと消えていく。 「あれは、第一世代のようじゃの。針で全身を貫く物理的な刺激を与えたメンバーじゃ。 とりあえず、すぴーど優先で初期餌を作らないと、計画に支障が出るのからのぉ」 機械は大きな振動音を奏でた後、緩やかに内部が回転していく。 蓋を締められてしまったので、内部の詳しい様子は解らない。 苦しむ声も翁達の所までは聞こえてこなかった。 しかし、透明な確認窓から覗く流れる餡子の塊は、ぱちゅに絶望的な状況を伝えてくる。 (みゅぎゅーっ゛!? おざのめいれいよぉおっ゛! あれをどめなざあぁあいっ゛!?」 泣きながら停止を求める群れの長。 翁に付き添う寡黙な青年、側に佇む家政婦の女性は、その声を聞き流す。 ここは、翁が納める群れの中。 ぱちゅに誰も従うはずは無い。 作業を終えた機械は、小さな塊を横の出口から排出していく。 それは、ぱちゅが良く知っている森の恵み。 美味しくて、とってもゆっくり出来る黒い木の実さんだった。 「ぱちゅりーくん。これで、理解したかね? 黒い木の実は、君達の仲間で作られていたんだよ」 翁は懐から黒いお菓子の塊を取り出しながら楽しそうに語り始める。 ぱちゅりーは、理解したくない事実を、理解してしまった。 廊下を歩く翁達。 ぱちゅりーは、泣き疲れてぐったりしていた。 「先日は、我が子を賭けたゆっくり同士のデスマッチを行ったのじゃよ。 でも、失敗したと報告を受けたのぉ。ぐちゃぐちゃに散らばって回収が大変だったらしいからの」 ほっほっほ。翁は楽しそうに思い出を語り出す。 ぱちゅは相手にせずに黙秘を決め込んだ。 シートからは絶えず栄養が流れ込み、体の状態に異常は見受けられない。 (ちゃんすをまって、……まちへとにげるわっ!) 野心を持ちながら転機を伺う群れの長。 しかし、その機会は永遠に訪れないことを、ぱちゅりーは直ぐに認識する。 絶望の未来はそう遠くない。 「さて、次はここじゃ」 翁御一行は、次の会場へと足を踏み入れる。 この室内も見下ろし式の視察部屋になっていた。 広い作業場の中で、第三世代のゆっくり達が群がっている。 第三世代は、子作りの認可を得たのは最近なので、赤ゆを茎に実らせた状態で収容されてきた。 今か今かと赤ゆが誕生するのを心待ちにしていた幸せいっぱいの親達は……、 「あぁあああっ゛!? あがぢゃん、うばれでごないでねっ!」 「うばれじゃでばだよっ゛! おかあざんおごるよっ゛! あっあっ!? だべぇええっ゛!」 「あんよざんっうごいでねっ!? どぼじで、まじざのいうごど、ぎいでぐれないのおおぉおっ゛!」 「あがぢゃんがぁああっ゛!? ごんなのとかいはじゃないわぁああっ゛!?」 現在、生まれてくる赤ゆ達を必死の形相で睨んでいた。 頭上の茎から生まれ落ちると鉄板に触れて焼け死ぬ運命を回避することは難しい。 ならば、生まれてくるのを拒むしかない。 「ほっほっほ。やっぱり、焼くのは良い。 加減を調節すれば、ゆっくりを即死させることなく、内部と外部に異常を与えて活動を制限させる。 これほど、扱いやすい糖度増しの方法はないのぉ」 第三世代は、床に敷かれた鉄板の上でもがき苦しんでいた。 餌に釣られてまんまと中心に誘き寄せられた第三世代達は、 空に浮かぶ餌目掛けて体を伸ばしながら、舌を絡ませようとしている最中に火を入れられた。 中心に纏まっていた第三世代達は、徐々に襲い来る足下の熱気に耐えられなくなり、急いで脱出を計った。 しかし、四方を壁に囲まれた為、何処にも逃げ場なく焦りだす。 困ったあげく、側に居た他ゆの頭に体を乗せて、熱さから逃れる足場を作り始める非道な輩も少なくは無かった。 だが、そんな輩は悲惨な末路を迎える。 バランスを失って転げた落ちた時に、背中や逆さまになって頭を焼かれる個体が続出した。 翁達が見下ろす第三世代の焼き具合の割合は、足底4割、他所3割、残りは絶命か虫の息と言った所だろう。 (やべでぇええっ゛!? おざに、こんなものみせないでぇええっ゛!) 栄養を多く含んだ涙が流れ落ちる。 新たな地獄を見下ろしながらぱちゅは悲痛に身を捩じらせて抵抗していた。 ぱちゅの両眼は、女性の両手で強制的に開放されている。 拒否を理由に瞳を閉じることは許されない。 見ている最中にも、凄惨な状況は続く。 茎から生まれた赤ゆ達は、熱気立ち込める鉄板の上に垂直落下。 『ゆっくち、うみゃれぇるよっ!?』 などと、叫んでいるお気楽な固体も見受けられた。 生まれる直前までは目を瞑っているので、外界を確認できないからだと予想される。 茎から離れた瞬間に世界を認識する赤ゆ達。 そこは、熱気漂う暖かい季節などではなく、命を瞬時に奪う鉄板地獄。 着地するまでの短い飛翔中だけが悲劇を回避できる唯一の時間帯。 「あじゆっうっ゛!? ゆぎゅうっ゛!」 「ゆっぐぢっ゛! ゆっぐぢいいいぃぃぃっ゛!?」 「ゆぎゃぁあああぁあっ゛!」 なすすべなく落ちて命の危機に瀕する赤ゆ達。 様々な箇所から鉄板に張り付いて、全身を赤く染めた後、墨色に姿を変えていく。 親達は涙を流しながら赤ゆ達に呼ぶかける。 今、第三世代達を口にしたら、とても凶悪な甘さになっているだろう。 「ゆっくりうけとめたよっ! もうはなさないよっ!?」 「ゆーん! ゆーんっ!?」 中には、茎から滞空している赤ゆを舌で包み込んだ兵も存在する。 強い母の愛が成せる技だ。 「ゆっくり……おくちか、あたまにのせるよっ! ゆぎぎぎぎっ!?」 「ゆえーんっ゛! ゆえぇえええんっ゛!?」 舌に力を込めて赤ゆを持ち上げる。 体力は残り少ない。 全身全霊を込めて赤ゆの幸せな未来を掴み取ろうとしていた。 「ゆぇえーんっ゛!? あちゅいよぉぉおっ゛!」 「お、おちびちゃんっおとなしくしててねっ!? ゆっくりしてよぉおおおっ゛!」 鉄板から立ち上る熱気を浴びた赤ゆは暴れ出す。 包まれていた親の舌は、上下に激しく揺れ始めた。 最後の赤ちゃんを守るために、綱渡りのような緊張感で救出作戦を行う親ゆっくり。 しかし、幸福な未来など、針の隙間さえも存在しなかった。 つるりと舌から滑り落ちた赤ゆは、鉄板の上へと落下する。 「「うわぁああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ゛!?」」 予想道理の残酷な結末を迎えた第三世代の親と赤ゆは、絶叫を合わせながら悲痛と不運を訴えた。 目の前で炭と化していく新生児を見ながら、自分を二の次にして助け出そうとする涙ぐましい母の愛。 しかし、既に足は動かず、舌は鉄板に張り付いてしまいどうにもならない。 その無力な母の頭の茎から、体を小刻みに振動させた後、産声を上げながら新たな命がこの世に誕生する。 幸せな未来など影も形も存在しない、鉄板が織り成す灼熱地獄の世界へ赤ゆは落ちていく。 ぱちゅは見ていた。 あの日、巣穴の近所にいた第三世代の親を瞳で捉えていた。 れいむとまりさとありす。 黒い木の実を奪い合っていた新しい母達は、見るも無残な容貌になっていた。 甘い実をたっぷり食べて、色艶が良かったもちもちホッペは真っ黒に焦げている。 ありすに至っては前面が焼かれていて、顔を確認できない。 ドロドロに溶けた金髪は体に絡み付いている。 都会派な赤ゆは既に全滅しているようだった。 「さてと、…頃合じゃのう あーあっ、えー、ゆっくり諸君!」 翁は差し出されたマイクに声を通す。 鉄板に焼かれながらも存命していた第三世代は揃って顔を上げた。 「「「たずげでねっ゛!? ここから、だずげでねっ゛! あぢゅいよぉおおぉおっ゛!?」」」 悲鳴を上げる第三世代。 それぞれの口調は微妙に違ってはいた。 要約すれば、この地獄からの救援依頼。 それを無視して翁は用件を伝えていく。 「ここに居るぱちゅりーくんは解るかね? この度、森の長を辞退して我々の仲間となった事を伝える! 過去を捨てる条件を快く承諾してくれた。君達は砕いて有効活用させてもらおうかのぅ」 ぱちゅりーは固まる。 寝耳に水の言葉だった。 翁の発表した内容は、森の長であるぱちゅりーが、群れを裏切って人間の仲間になったと言う事を意味していた。 鉄板の上に居る第三世代の反応は様々だ。 疑う者、信じない者、罵倒する輩と千差万別な纏まりの無い集団。 その纏まりの無かった集団は、翁が行った作戦の一部であっさりと騙される。 「嘘ではないぞ? ほれ、待遇もバッチリじゃ」 口が塞がれて抱きかかえられたぱちゅりーの横に、銀製のトレイが横付けされる。 女性が差し出したトレイの上には、美味しそうなお菓子が山のように盛られていた。 しかし、これは先程の第一世代を加工して作られた食品。 側に居たぱちゅりーは、盛られた黒い塊に拒否反応を示していた。 だが、遠めで見ている鉄板乗りには解らない。 待遇の違いに腹を立てて、その怒りは天をつく程に膨れ上がっていく。 そして、第三世代の心は一つになる。 群れの長、ぱちゅりー。 我々を人間に売り、自分だけゆっくり出来る楽なゆん生を選択したのだと。 「「「――――――――――――――っ!!!」」」 施設の内部が第三世代の罵倒で揺れる。 口汚い言葉の全てが、長に対する非難の声だった。 鉄板に落ちる赤ゆを放棄して思いの丈をぶちまける第三世代。 (……むぎゅうううっ゛!?) ぱちゅりーは否定したい気持ちでいっぱいだった。 群れを裏切った行為は何一つしていないと。 先程の脱走計画も気の迷いだった。 人間に頼った自分が愚かだったのだ。 そう心で反省しているぱちゅりー。 しかし、思いは群れに届かない。 「ふむふむ。解りましたよ、ぱちゅりーくん」 翁はわざとらしく頷いた後で軽く右手を上げる。 それを確認したスタッフは、鉄板の温度調整レバーを最大にまで切り替えた。 「「「ゆっ゛ぎゃぁあああああああぁぁぁぁぁぁぁっ゛!?」」」 白い煙が立ち昇り、苦悶の表情で焼かれていく第三世代。 外皮が墨色に変わっても、短時間ならば中にある餡子に支障は無い。 最後までゆっくり出来る安らかな気持ちを何一つ与えずに殺しきる。 「ぱちゅりーくんのプレゼントだそうだ。 ありがたく思いながら、ゆっくりと味わいなさい」 「「「 ――は、じねぇえええぇえええええええっ゛!? 」」」 声を揃えての断末魔。 それは、ぱちゅりーの記憶に焼きついた。 恐怖と不甲斐なさで震えが止まらない。 「…処理を」 寡黙な青年が言葉を口にする。 スタッフに向けて残骸に対する今後の指示をしているようだ。 そして、抱えていたぱちゅりーも差し出す。 群れの長は、白服を着た研究員に委ねられた。 「それでは、ぱちゅりーくん。" また、あとで "」 翁から言葉を掛けられたぱちゅは、両開きの頑丈な扉の奥へと姿を消した。 精神的苦痛を与えられた群れの長。 疲労は見えるが、衰弱はしていない。 ぱちゅの命を支えていた口に貼られた湿布のような小さなシートは、 オレンジエキスを濃縮して栄養を与え続けて延命措置をとる医療品だった。 しかし、そのエキスは枯れ切って本来の役割を果たさない。 今からぱちゅりーに致命的な事が行われても、助けてはくれないだろう。 「…んっ! んんんっ!?」 口を塞ぐシートの表面から苦しそうな声が漏れてくる。 ぱちゅりーは手術台の上に寝かされて、体を黒いゴムで縛られていた。 脱出しようと試みるが、体は左右にも振ることは出来ない捕縛状態。 「んぐっちゅ゛!?」 まむまむとあにゃるに異物を挿入された。 その器具は、鋭い返しが付いた特注品。 抜けないことを前提に作られた道具は、体内の壁へと鋭く突き刺さる。 今までのゆん生で受けたことが無い激痛に悶えるぱちゅりー。 『赤ちゃんを作れなくなった!?』 ぱちゅはそんな的外れで暢気なことを考えている。 赤ちゃんを心配している場合ではないのだ。 (むきゅうぅうっ゛!? あんよさんがいだぁああぁああいっ゛!) 研究員は、注射器のような物をぱちゅの足裏へと突き刺した。 ゆっくりの足裏はびちびちと元気に動くのでしっかりと抑えてから針先を注入。 傷が広がってしまうと美しい物は作れない。 (むぎゅうっ゛! ばぢゅのなかみがっ゛! みゅぎゅううっ゛!?) じゅるじゅると音を立てて吸引開始。 ぱちゅりーの中に詰まっている生クリームは、床に置かれた小さなタンク内部へと移動していく。 (ばぢゅのながみっ! がえじでぇええっ゛! がえじでよぉおおぉおっ゛!?) 膨らんでいたお腹の部分が、みるみる内に萎んでいった。 内容物を吸い取られていく苦痛に耐え切れず、ストレス過多で吐いてしまう。 しかし、口に貼られたシートに邪魔されて流出を食い止められてしまい、頬を大きく膨らませた。 (…ゆ……むきゅあっぁ゛) 浮かんでは消えていく走馬灯。 飼いゆから始まって、些細なことで捨てられた不幸なゆん生。 その後訪れた森の生活は、とってもゆっくり出来た。 ずっと続くと思っていた。 でも…、群れは引き裂かれて人間に加工されてしまった。 人間はゆっくり出来ない。 関わってしまうから、こんな目に合ってしまうのだ。 ならば、それを提案したのは誰だったのか? それは群れの長を勤めるぱちゅりーだった。 自ら進んで人間に交渉と言う話し合いの場を作れば円滑に進むと思っていたのだ。 間違った自信をつけて慢心したぱちゅりーは、群れを壊滅に追い込んだ張本人。 (ああああああああああああああああああああああっ!?) その反省も記憶も。 奇麗サッパリに小さな容器に移された。 内容物を全て吸い取られたぱちゅりーは、ぺらぺらの皮になって手術台に横たわる。 少し膨れていたぷくーの面影は完全に無くなった。 一人の研究員が、ぱちゅりーの全てが詰まった容器を持ち上げて搬送準備を行う。 今から、この生クリームも加工されて黒い木の実の一部となる。 もし、ゆっくりの記憶が内容物に情報として蓄積されているのならば、この吸い取られた生クリームにも残っているはず。 機械の内部で再開した群れのゆっくり達に、ぱちゅりーは責めたてられる事だろう。 この原因を作ったのは長のせいだと決め付けて数で威圧を与える。 そんな身勝手な群れの姿が容易に想像できるのだ。 大きな部屋の豪華なソファーに翁が座る。 目の前に森の様子を映すモニターが数台設置されていた。 各ポイントには、水分を乾燥させて特別な加工をした黒い木の実を器具に取り付けている。 これを好んで食べる個体は、周辺の草や虫など見向きもしなくなる。 山の恵みと安定は常に保たれるのだ。 街の野良対策の一環で始めたこのプロジェクトに自分の土地を提供した。 山の一部に収容して、一網打尽にする計画を主とした県の試み。 これは、餓死を見据えた長期的な作戦にすると、共食いによって延命される為に見直された新しい計画。 「翁」 一言呟いた青年が入室した。 大きなトレイを両手で持ち上げている。 その上には、剥製と姿を変えたぱちゅりーが鎮座していた。 「ほっほっほ。ぱちゅりーくん、またあったのぉ」 嬉しそうに笑い出す。 翁は仕事をしながら趣味を満喫していた。 趣味は、群れの頂点に立つ歴代長の剥製集め。 この部屋の特設スペースには、数代に渡る個性豊かな加工済みの長が陳列していた。 青年は、新しいコレクションを台座の上に乗せる。 「ぱちゅりーくん。野生ごっこは、楽しかったかね?」 その問いに群れの長は答えなかった。 でも、少し悲しそうな表情をしたのは気のせいだろうか? 物言わぬぱちゅりーは、前回に群れの長を勤めたゆっくりの隣へと腰を落ち着けて、静かに佇んでいた。 ・翁の役割のお話 県に限らず時々無駄に思える政策を行う ・一部他作者様の設定をお借りしています 過去作 ふたば系ゆっくりいじめ 859 ほりはり ふたば系ゆっくりいじめ 814 ばうんてぃはんたー 希少種狩り ふたば系ゆっくりいじめ 802 我らっ!すっきりーっ!を熱く語る ふたば系ゆっくりいじめ 779 そうだ、駆除しよう ふたば系ゆっくりいじめ 764 たまたま ふたば系ゆっくりいじめ 752 おらべならい ふたば系ゆっくりいじめ 742 お呼び出し ふたば系ゆっくりいじめ 718 完全予約制 ふたば系ゆっくりいじめ 710 基本種 ふんどしれいむの復讐 ふたば系ゆっくりいじめ 683 あんらっき~を乗り越えて ふたば系ゆっくりいじめ 665 基本種 れいむの受難 ふたば系ゆっくりいじめ 638 ばうんてぃはんたー ふたば系ゆっくりいじめ 612 かってにはえてくる ふたば系ゆっくりいじめ 593 迷作劇場 ふたば系ゆっくりいじめ 572 ぎゃんぶらー ふたば系ゆっくりいじめ 507 火の用心 ふたば系ゆっくりいじめ 500 駄目だよ? ふたば系ゆっくりいじめ 458 ドゲスー ふたば系ゆっくりいじめ 449 希少種の価値 2 ふたば系ゆっくりいじめ 448 希少種の価値 1,5 ふたば系ゆっくりいじめ 443 希少種の価値 ふたば系ゆっくりいじめ 398 ゆっくり達を必殺技で葬る物語 ふたば系ゆっくりいじめ 382 穴だらけの計画とその代償 ・他、7点