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『彼と彼女の魔法と騎士道』 作者:水無月(ミナヅキ) ステータス:連載中 タグ:ファンタジー、女騎士、魔術師、ヘタレ、異世界、召喚術、コメディ、ほのぼの リンク:(別窓) コメント: 異世界ベルティ・サルーン。ここはベスティア=タイラント連合王国のど田舎、ミゲル村。 王都カーズ・パールから逃げるようにこの村にやって来た高位魔術師アレスの元に、一人の女騎士が訪れる。重大な決意を秘めながら・・・。 こう書くとちょっとシリアスっぽいですが、中身は基本的にほのぼのしてます。 書いてるうちに主人公が思いのほかヘタレになってしまい、ヒロインが想定外に漢らしくなってしまいました・・・。 ノマカプ率高めかもしれない。もし良ければ暇つぶし程度にさくっと読んで頂けると幸いです。 3/6 第四話を投稿しました。
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車から降りた後ののっちの仕事ぶりはいつもと変わらず、いや、いつも以上の集中力を見せていた。 だけど、それは他のスタッフさんがいる前での話。 仕事が終わったあとの、二人きりの楽屋。 いつもより静かなのは、きっと、いちいち独り言の多いあの子がいないから、、だけじゃない。 「のっち、ちょっとええ?」 ぼんやりとテレビの画面を見つめるのっちを呼んだ。 「んー、なにぃ?」 なんて、気の抜けた返事をしながらテレビはつけっぱなしのままで、のそのそとこっちにやって来る。 のんきな声。 だけど、無理しとるんじゃろ? 仕事だからって、スタッフさんの前でずっと気を張っていたこと。 本当は誰よりも自分が、私たちが、周りからどう見られているか気にかけてること。 それが気を許した人にしか心を開かない彼女なりの防御なんだってこと。 全部知っとるよ。 「ゆかちゃんと何かあったん?」 今朝と同じ質問。 のっちの口元が僅かに歪む。 あと少し。 「ゆかちゃんと、何が、あったん?」 のっち、あ〜ちゃん気づいとるんよ。 もう隠さんでええんよ? 「、、、あ〜ちゃん知っとったん・・・?」 「何年一緒におると思っとるん?ふたりを見とれば分かるわ」 「そっか。。そ、だよね。。」 シュンと耳を垂れさせた犬みたい。 「ゆかちゃんのお見舞い、行ってあげんの?」 「・・・・合わす顔ないけぇ、、」 ゆかちゃんとは、のっちよりも少しだけ付き合いが長い。 ゆかちゃんは考えすぎるところがある。 いつも冷静でクールなふりしてるくせに、頭の中ではものすごい勢いでいろんなことを考えてる。 きっと、その考えが多すぎて、処理できなくて、こんがらがって、ぐしゃぐしゃになってしまう。 「まぁ、、あ〜ちゃんは何も言わんよ」 あ、今度は捨てられた子犬になりよる。 今までゆかちゃんの不安を見抜いて、ぐしゃぐしゃにこんがらがったそれを解くのを手伝うのは私の役目みたいなものだった。 黙って見守るタイプののっちとは違って、私は無神経にガツガツ踏み込んでしまうタイプだから。 だけど、今は、、 「けど、ゆかちゃん、、、きっと、のっちのこと待っとるよ」 それは、私の役目じゃない。 彼女が待ってるのは、私じゃないから。 「そんな簡単に諦められる関係なん?」 密かにお気に入りだった、とびっきりの立ち位置を分け渡すみたいで、少し悔しいけど。 「その程度の覚悟しかないん?」 でも、のっちにならいいと思う。 何より彼女がそれを望んでるんだから。 「失ってからじゃ、遅いんよ?」 でもね、のっち? ゆかちゃんの隣にも、のっちも隣にもいられる一番おいしいこのポジションは何があっても、誰にも譲る気はないから。 そこだけは譲れんのよ。
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「ゆかの“今とこれから”を、、もらって下さい」 そう小さな、本当に蚊の鳴くような小さな声で呟いて、ゆかちゃんは隠れるように再び布団を被ってしまった。 抱きしめていた腕からするりと抜け出す瞬間、わずかに見えた頬はリンゴみたいに真っ赤だった。 、、反則じゃろ。。 可愛いにもほどがある。 「そっち行っていい?」 こんもり盛り上がった布団からは返事はない。 だけど、単なる照れ隠しなんてことはもう分かりきってる。 「ってか、行くけど」 無防備な布団の端を持ち上げて、無理矢理入り込む。 後ろからから抱きしめると、わずかな抵抗が感じられた。 「ばかっ、、風邪うつる、、」 「大丈夫だよ、ばかは風邪ひかんから」 さらさらの髪の毛を鼻先でかき分けて、真っ赤な耳に唇を寄せて囁く。 「それとも、うつるようなことする?」 「・・・っ、し、しにゃいっ!!」 「あー、もう可愛すぎ!」 ちゅ ほんのり紅いほっぺたに触れるだけの軽いキス。 「今日はここまで。続きは、また今度、ね?」 「、、、ばかっ」 なんて言いながらも、身体の向きを変えてしがみつくように抱きついてきたゆかちゃん。 もう絶対、離してなんかやらない。 ねぇ、ゆかちゃん? ゆかちゃんは汚れてなんかないよ? 初めて会った時からゆかちゃんはキラキラ輝いていて、あの頃、うまく話せなかったのは、人見知りなせいだけじゃなかったんだ。 こうして、一番近くにいれる今だって、目が眩むくらいキラキラしてる。 そばにいて、ドキドキするのも、ほっと落ち着くのも、ゆかちゃんだけ。 「のっち、、」 「うん?」 「、、こっちにもほしい」 なんて上目遣いでぺろりと自分の唇を舐める彼女に今度はわたしの方が真っ赤になった。 ねぇ、ゆかちゃん。 ずっと、そばにいる。もう迷ったりしない。 何があってもひたすら、ゆかちゃんだけを想い続けるよ。 そっと目を閉じた彼女の唇にキスを落として、もう一度抱きしめる。 ずっと辿り着きたかった場所に、やっと辿り着けた気がした。 end-
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前ページ次ページルイズと彼女と運命の糸 ※フェオの月 ティワズの週 ラーグの曜日 とうとう明日が使い魔召喚の儀式だ。 ついにこの日がやってきてしまった。 明日という日に、私は試されるのだ。この魔法学院に、強いては貴族というものに相応しいかどうかを。 始祖ブリミルよ、お願いします。明日の使い魔召喚の儀だけは、どうにか成功させてください。 もし、儀式を無事終える事が出来たなら、この先どのような苦難が待ち受けていようと、私はそれを受け入れます。 ですから、なにとぞわたくしめの願いを受け入れて下さい。お願いいたします。 ルイズと彼女と運命の糸 = サガ2 秘宝伝説 GODDESS OF DESTINY 異伝 = ※フェオの月ティワズの週イングの曜日 ―― 午前 結果から言うと、儀式は成功した。 そして、私が詠唱した通り神聖で美しく、そして強大(たぶん)な存在が召喚に応えた。 召喚されたのは、私と同い年くらいの少女だった。 肩にかかるほどの金髪が片目を隠し、体の線が良く分かるピッチリとした服を着ている。 よく観察すると、その服はかなり大胆なデザインで、胸の谷間がはっきりと見えてしまっている。 しかも、凄いミニスカートだ。走りでもしたら、容易に中が見えてしまうだろう。 そして、二の腕半ばまであるグローブと、太もも半ばまであるブーツを履いている。 全体的にみれば肌の露出は少ないが、きわどい部分が多々見受けられる。 褐色の肌が色気を振り撒き、男の目を釘付けにしてやまないだろう。 しかし、彼女の姿を直視する者は殆どいなかった。 なぜなら、金の髪から鋭く尖った耳が覗いていたからだ。 つまり、彼女はエルフだった。一人で優れたメイジ数十人分にも相当するとも言われるエルフだ。 かくいう私も、冷静に観察できているわけではなく、恐怖で足が竦みこの場から離れなくなったにすぎない。 彼女は、キョロキョロと周りを見渡し首を傾げている。 一見、何の害意も伺えないが、油断してはいけない。気を緩めれば最後、頭からマルカジリにされるのがオチだ。 永遠に続くかと思われた緊張を絶つ者がいた。 その救世主の名は、ミスタ・コルベール。私たちの先生だ。 心の中で拍手喝采をする。ひそかにコッパゲとか言っててごめんなさい。これからは真面目に講義を聞きます。 多くの者が固唾を飲んで見守る中、ファーストコンタクトは無事果たされた。 どうやら、いきなりこんなところに出てきてビックリしていたらしい。 ミスタ・コルベールとも普通に受け答えしていたし、意外と怖くないのかもしれない。 少しだけホッとした。 「ミス・ヴァリエール、彼女の事で話し合わねばならない事がありますので一緒に来て下さい。 オールド・オスマンの指示を仰ぎます」 まあ、そりゃそうよね。 エルフが使い魔なんて聞いたことがないし、何より私も嫌だ。 近くにいるだけで生きた心地がしない。 ◆ ◇ ◆ ―― 午後 そんなこんなで学院長に会いにいき、事情を話し合った結果、様々な事が判明した。 まず第一に、彼女はエルフではないそうだ。エスパーという種族らしい。 人にはない特殊な能力を使う事が出来るそうだ。 ……エルフと何が違うんだろう? よく分からない。 そして、私たちに最大の衝撃を与えた事がある。 それは、彼女は違う世界から来たというのだ。 最初は眉唾で信じる気など更々なかったのだが、彼女が語った世界を股にかけた冒険は真に迫っており、私はすっかり信じてしまった。 ミスタ・コルベールやオールド・オスマン、そして同席していた学院長秘書のミス・ロングビルも、いくらかは彼女の話を信じているようだ。 これからどうするのかと問うと、天の柱というモノを探すのだそうだ。 世界は天の柱で繋がっているそうで、それさえ見つければ元の世界に戻れると彼女は話した。 だが、ミスタ・コルベールが食い下がる。 聞けば伝統が云々、サモン・サーヴァントで呼び出されたモノは必ず使い魔にしなければいけないとか言っていた。 伝統や慣習も大切だと思いますが、それにこだわり過ぎるのはいかがかと思いますよ。 ていうか、ホント勘弁して下さい。 私が困った顔をしていると、オールド・オスマンが助け船を出してくれた。 曰く、保留にすればいいんじゃね? と。 それから話し合い、コントラクト・サーヴァントをするにしても、再びサモン・サーヴァントを試みるにしても、時間を置いてからという具合に落ち着いた。 そして、とりあえず彼女は、三ヶ月の間は私の使い魔として振舞ってくれると約束してくれた。 その代わりに、彼女の捜索を出来る限り手伝わないといけない。 三ヶ月後、もしも新たに使い魔を召喚する事に決まったら、エルフの不思議パワーで契約を絶ち切られたと言う事にするらしい。 なんか適当だ。 だがその場合、私は使い魔に逃げられたという不名誉な事実を得るわけで、 なんとしてもこの三ヶ月で彼女を籠絡しなくてはならないわけだ。 エルフが使い魔…… よく考えたら凄いメリットがあるのではなかろうか? メイジの、いや、人の天敵ともいえるエルフを使い魔にするなど前代未聞だ。 そしたら、私は『ゼロ』などと蔑まれなくても済むのではないか? それどころか、羨望の的だろう。少しやる気が出てきた。 よし! 彼女を使い魔にする。これが私の目標だ。 そう決意を新たにしていると、彼女がポンと両手を打ち鳴らした。 「ああそうだ。使い魔にはなれないけど、友達にならなれるよ。 よろしくね、ルイズ」 そう言って笑顔で手を差し伸べてきた。 友達…… か、いい響きね。 「よろしく……」 私はちょっとだけ恥ずかしくなって、言葉少なに握手をした。 ◆ ◇ ◆ ―― 夜 彼女にも名前があるのだが、後々に名前を残していいものか判断に迷うので、日記では『彼女』で通そうと思う。 不都合があるとも思えないが、何となく気になってしまったので、そういうルールを自分で敷く。 晴れて使い魔に出来たなら、彼女の名前を日記に記そう。 なんだか、その時が来るのが楽しみになってきたわね。 話し合いが終わり学院長室から出ると、既に日は暮れて夜になっていた。 以外と長時間話し合っていたんだ。 夕食を済ませた後、部屋で彼女と今後の打ち合わせをした。 使い魔のフリをしてくれるのだから、使い魔がなんたるかを話しておかなければならない。 といっても、本当の使い魔じゃないから五感の共有など出来はしないし、秘薬集めも私自身が必要としていないので意味がない。 そういうわけで、彼女に要求するのはただ一つ。 すなわち、私を守る事。これに尽きる。 何が出来るのかと聞くと、彼女は4つの特殊能力を使えると答えた。 「まずはね、炎の能力ね。辺り一面を火の海にしたり、一定範囲内のモノを消し炭に出来るわ」 「なんだか物騒ね…… 他には?」 「傷の治療かな。致命傷じゃなきゃ、ある程度までは治せるよ」 「便利ね―。水の秘薬いらずじゃない」 「あとは、指からビームを発射できるよ」 「ビーム? 何ソレ? まあいいわ。戦闘力は申し分ないみたいね。 今日は色々あって疲れたわ。もう寝ましょう」 「私のベッドは?」 「ソファでいいでしょ。じゃ、お休み~」 「……お休みなさい」 彼女は不満顔だったけど、気にしない気にしない。 それにしても、今日の日記は長いわね。十日分は書いたんじゃないかしら? さ、寝よ寝よ。お休みなさ~い。 ◆ ◇ ◆ ※フェオの月 ティワズの週 オセルの曜日 ―― 午前 今日は朝からキュルケに出会った。最悪だ。 アイツはこれ見よがしに、自分が召喚した火蜥蜴を自慢してきた。うんざりする。 そして彼女にも目をつけて、色々と話していた。 彼女がエルフ(エスパーだけど、キュルケは知らない)だという事は昨日のことで知っているはずなのに、物怖じしていない。 まあ、厚かましいだけよね。 ちなみに彼女の耳は、ヘッドバンドで抑えて目立たないようにしてある。 少しは騒がれずに済むはずだ。 午前の講義はミセス・シュヴルーズのものだった。 ミセス・シュヴルーズは講義室内を見まわしてから、使い魔の話を切り出した。 召喚された使い魔を見る事が毎年の楽しみだとか。 そして、ミセス・シュヴルーズは彼女を見ると僅かに顔をひきつらせたが、なにも言わずに授業を開始した。 たぶん、オールド・オスマンから聞かされていたのだろう。 騒がれないのに越したことはない。クラスの連中も、彼女の事を遠巻きにちらちらと観察しているようだ。 その視線がうっとおしいが無視することにする。 そして講義中に彼女と少し話しをした。 どうやら彼女も学校に行っていたことがあるようで、この空気が懐かしいらしい。 そう言えば、エルフは人間と比べて非常に長命だと聞く。 もしかしたら、彼女もこう見えて私よりもかなり年上なのかもしれない。 「失礼ね。まだ十六歳よ」 どうやら声に出てしまっていたようだ。彼女がムッとした顔になる。 しかし、同い年じゃないか。少し身近に思えた気がする。 そうして彼女とお喋りに夢中になっていると、ミセス・シュヴルーズに指名されてしまった。 錬金で石コロを望む金属に変えろというのだ。 よし、やってやろうじゃないか。 サモン・サーヴァントは成功したのだ。錬金もきっと成功する。 ―― 昼 結局、錬金は失敗した。 失敗の爆発は講義室内をしっちゃかめっちゃかにして、ミセス・シュヴルーズを吹っ飛ばしてしまった。 そのおかげで、午前の授業は潰れたが、私は講義室の片づけを命じられてしまった。 彼女が手伝ってくれたのでそれなりに早く終わり、昼食には間に合いそうだ。 そして、アルヴィーズの食堂に行く道中、彼女はこんなことを言ってきた。 「それにしても、凄いねルイズ。 あんな爆発が使えるなんて。私には真似できないよ」 皮肉だろうか? 彼女はニコニコ笑っているので、本気なのかからかっているのか良く分からない。 「私も頑張れば使えるようになるかな? アレ。 どうやったのか教えてくれる?」 ああ分かった、コイツ天然だ。悪気はないんだろうけど、それが殊更私の神経を逆撫でる。 ムカついたので昼食は抜きにしてやった。 彼女は不平不満を言っていたが、知ったことか。 これに懲りたら、不用意な言動は慎んでほしい。 ● ● ● 用意された食事に舌鼓を打っていると、彼女がデザートを配っていた。 なんでそんな事をしているのかと聞くと、お礼だそうだ。 どうやら、メイドが彼女に食事を用意したらしい。 その事に不満を感じるが、彼女はまだ正式には使い魔ではないのだ。 威張り散らして愛想を尽かされたのではたまらない。彼女を使い魔にすると決めたのだから。 そんな事を考えていると、騒ぎが起こった。 振り返るとギーシュが何かを喚き立てている。 その対象は彼女だった。 事情はよく分からなかったが、どうにも八つ当たりらしい。 周りのクラスメイトはギーシュを何とか諌めようとしているが、事情を知らない者は囃したてている。 マズイ、なんとかして止めないと。でも、野次馬の所為でうまく近づけない。 にしても、ギーシュは何を考えてるのかしら? 彼女がエルフだという事は、アイツも知っているはずなのに。 だけど、仲裁に入る間もなく、ギーシュは一方的に決闘宣言をして食堂から出て行ってしまった。 彼女に話しかけると、かなり怒っていた。 もう止めるのは無理そうだが、一応注意だけはしておく 「くれぐれもギーシュを殺さないでね?」 「善処するわ」 大丈夫かしら? すごく不安だ。 ―― 午後 午後の講義はもう始まっているというのに、ヴェストリの広場には多くの人間でごった返していた 人垣はギーシュを中心に円となっている。彼女と対峙している。 ギーシュが気障ったらしく前口上を述べていたが、私の耳にはほとんど入ってこなかった。 ただただ、彼女が人殺しをしないように祈っていたから。 杖さえ取り上げれば決闘は終わりだと教えたけれど、上手くやってくれるだろうか? そして、ギーシュが杖を振ると七体の青銅製のゴーレムが生まれた。 彼女はビックリしていたようだけど、慌ててはいない。余裕が見える。 それにしても、決闘の前に魔法を使うのはルール違反じゃないかしら? おもむろに、ギーシュは自分の魔法の特性を教え始めた。なるほど腐っても貴族、決闘は公平にという事か。 それに倣って、彼女も自分の魔法をギーシュに教えるため指を上に向けた。 そして…… 「貫通光線!」 その叫びと共に一条の光が空を貫き、上空の雲にポッカリと穴が開けた。 予想外の光景に、辺りが水を打ったように静かになる。ギーシュを見ると、顔が青ざめ明らかに腰が引けていた。 あらかじめ聞かされていたとはいえ、これには私もビックリだ。 自然と彼女の対面からは、野次馬が潮が引くようにいなくなる。巻き添えを喰らわないためだろう。 あんなもので手加減なんて出来る筈がない。 辞めさせようと決心するのと同時にギーシュが吠えた。 「くぅ…… 中々やるようだな! しかし、貴族は退かぬ媚びぬ、顧みぬぅ! 我が名はギーシュ・ド・グラモン! 推して参る!」 「その意気やよし!」 アンタ男だよギーシュ。そう、退かぬものを貴族と呼ぶのよ! 玉砕して来なさい、骨は拾ってあげるわ! 「行けっ! ワルキューレ!」 ギーシュが七体のゴーレムに合図を送った瞬間、彼女は指を突き付けた。 その瞬間、光が瞬き、全てのゴーレムは蒸発してギーシュは黒焦げになった。 ―― 夕方 「杖だけをふっ飛ばすつもりだったんだけど、失敗しちゃったわね」 彼女は肩を竦めながらこんな事をのたまいやがった。 あんなもの、直撃しなくても近くを通っただけで大火傷するに決まっている。 その事を告げると、『ああそういえば……』とか言っていた。気づいていなかったようね。 幸いギーシュは、火傷はヒドイものの命に別条はないそうだ。 でも、私には止められなかったという罪悪感があり、彼女にはやり過ぎたという罪悪感があるので、 お見舞いに行く事になった。 手土産として、フルーツの盛り合わせを持っていく。 医務室に入ると、クラスメイトのモンモンシーと栗色の髪の一年生がいた。 私たちが入室すると、二人とも涙目で睨んでくる。 ギーシュの浮気が原因で自業自得だというのに、放って措けないみたいだ。 これが惚れた弱みというヤツか。 長居するのも何なので、フルーツをモンモランシーに押し付けると、私たちはそそくさと医務室を後にした。 ギーシュとはいうと、一年生の膝の上で幸せそうに眠っていたので問題ないだろう。 ◆ ◇ ◆ ※ウルの月フレイヤの週ダエグの曜日 アレから1週間が過ぎた。 学院長室に呼ばれて決闘の件を注意されたが、それ以外は特に何事もなく過ぎていった。 この1週間でそれなりに彼女の事を知ることが出来た。 聞く所によると、彼女は秘宝というモノを探しているらしい。 秘宝というのは、持っているだけで力を与えてくれるもので、今では存在しない古い神々が残した遺産なのだそうだ。 彼女も幾つかの秘宝を持っているようで、その中の1つの鏡を見せてくれた。 鏡には『0』と数字が浮かんでおり、これはこの世界に秘宝が存在しないという事を示しているらしい。 彼女が秘宝を集める切欠となったのが、父親の存在らしい。 その父親は、秘宝を悪用させないため、彼女と母親を残して世界中を飛び回っていたそうだ。 そんな父親を彼女は尊敬し、父に追い付くために秘宝を集めていたそうだが、その過程で現地妻の存在を知ることになった。 それを知って彼女は激怒し、今では父親を見返すために秘宝を集めているらしい。 酷い父親もあったものだ。彼女の感情には大いに賛同する。 あと、自由時間に学院の外に出て周囲を探索していたらしいが、天の柱というものは見つからなかったそうだ。 そりゃそうよね、そんなに高い塔なんて見たことがないもの。 少し落ち込んでいたので、町に行ってみないかと誘った。幸い明日は虚無の曜日だ。 そうすると、彼女は喜んでくれた。 ならば話は早い、明日に備えて早く寝よう。 ◆ ◇ ◆ ※ウルの月 フレイヤの週 虚無の曜日 ―― 日中 久しぶりの城下町だ。相変わらず大勢の人が居て活気がある。 この光景には、彼女も目を見開いている。連れてきた甲斐があった。 今日は楽しもう。 観光名所を梯子して、彼女にこの国を紹介して回った。 彼女は私の説明にしきりに頷き、感心していた。トリステインがいい国だと分からせるのも大切だと思う。 だが、観光もいいがそれだけでは息が詰まる。 年頃の女の子らしく、午後はショッピングだ。 服や身の回りの小物を見て回り、気がつくと秘薬を取り扱っている店にいた。 『ピエモンの秘薬屋』は、路地裏にあって大して大きくない店だが、中々どうして掘り出し物が多い。 出来合いの秘薬も質が良く、知る人ぞ知る隠れ家的な良店なのだ。 冷やかし程度で秘薬屋を出ると、向かいの店が武器屋だという事に気がついた。入る前は気がつかなかった。 彼女は興味を持ったらしく、私は手を引かれて武器屋に入った。 店内は薄暗くて黴臭くて埃臭くて辛気臭くて、すぐにでも出て行きたかった。 でも、彼女が並べられている武器を眺めていたので、私も仕方なく横に並んで見物する。 店主が色々と話しかけてきたが、吹っかけてきているのが見え見えだった。まあ、少しは為になる話も聞く事は出来たけど。 どうやら、巷では従者に武器を持たせるのが流行っているらしい。 というのも、『土くれフーケ』なる怪盗が猛威を奮っているらだそうだ。 怪盗なんてどうでもいいが、彼女も建前上は私の使い魔なのだから武器の一つくらい持っていた方がいいだろう。 毎回あのビームを打たれたのでは、たまったものではないというのも理由の一つだけどね。 そういうわけで、扱いやすそうな細剣をプレゼントした。彼女も喜んでくれたようでなによりだ。 あと、彼女自身も短剣を買っていた。 店主が言うにはナマクラらしいが、彼女はそんなことは気にしていないようだ。 持たせてもらったが、刃に指を立てても全然切れそうにない。これなら、ペーパーナイフの方がマシだ。 何故こんなモノを買ったのかを聞くと、どうやらこの短剣、彼女の世界の物らしい。 魔力を込めることで切れ味を発揮する武器なのだそうだ。 なるほど、それなら平民にはそれが分かる筈がない。私も言われなければ気付かなかっただろう。 試しに魔法を使う要領で集中しながら短剣を振るうと、バターを切るように石壁に裂傷が走った。 急いでその場から走って逃げた。切れ味が良すぎる。 そうそう、どうして彼女がお金を持っているのか不思議に思ったけれど、偶々持っていた金塊をオールド・オスマンに売り払ったからだそうだ。 なるほど、だから結構な額を持っていたのか。 でも、金塊って偶々持ってるようなものだっけ? ◆ ◇ ◆ ―― 夜 何故かキュルケが私の部屋に来た。(何故か蒼髪の少女を連れて。クラスメイトだけど、名前を知らない) どういうわけか、彼女にプレゼントを持ってきたようだ。 プレゼントは剣だった。しかもただの剣じゃない、インテリジェンスソードだ。 たしか、あの武器屋にあったものではなかったか? 話しかけられた記憶がある。 でも、どうでもよすぎるので、今の今まで忘却の彼方に追いやっていた。 剣は身売りされたとシクシクと情けない声で泣いていた。気持ち悪い。 事情を聴くと、相場の倍の値段で買い取ったらしい。そりゃ剣も泣くわ。 彼女はこの剣が気にいったようだった。たぶん、同情もあるのだろう。 だがしかし、そうは問屋がおろさない。 ツェルプストーから施しを受けるなど、ヴァリエール末代までの恥。 断固拒否。絶対にノゥだ。 「そんなムキにならなくていいのに……」 そうは言うけどね、人には譲れないものがあるのよ。 喧々諤々と口喧嘩をした結果、決闘で決着をつける事になった。 決闘方法はロープでつるされたデルフリンガー(インテリジェンスソードの名前)を魔法で地上に落とすというものだ。 デルフは喚いていたが、鞘に納めると静かになった。鞘に納められると喋れなくなるらしい。 決闘は私が先行で有利に思えたが、結果はキュルケの勝ち。 私は無意味に学院の壁を爆破しただけだった。 悔しがっていると、三十メイルはあろうかというゴーレムが現れた。 そのゴーレムは、あっという間に学院の壁を破壊し、その穴に何者かの人影が飛び込むのが見えた。 私たちは逃げるのに精いっぱいで、何もすることが出来なかった。 ◆ ◇ ◆ ※ウルの月 フレイヤの週 ユルの曜日 ―― 朝 早朝、私たち4人は学院長室に呼び出された。 昨晩の事情聴取の為だ。 一通り事情を説明し終えると、オールド・オスマンが昨晩の犯行は『土くれフーケ』の仕業だと切り出した。 犯行声明が残っていたらしい。 それからは大変で、先生方がお互いに責任を擦り付け合って、見るに堪えない光景が展開された。 そんな騒ぎも、オールド・オスマンの怒声でピタリと止む。 オールド・オスマンが言うには、宝物庫が破られたとはいえ、盗まれたものは何もなかったらしい。 なら、一体何のためにフーケは宝物庫を破ったのだろうか? 皆もそれが疑問らしく、一様に首を捻っている。 その答えは、宝物庫にあった。 宝物庫の壁には、こう記されていたとミスタ・コルベールが説明する。 『誰にも破れぬ宝物庫の信用を確かに領収いたしました。土くれフーケ』 なるほど、確かに信用は丸つぶれだ。 しかし、フーケも変な事をするものだ。宝物の一つも取らないとは。 オールド・オスマンは苦笑しながら、自身の予想を語ってくれた。 それによると、フーケは目当ての物を盗み出せなかったので、そんな機転を利かせたのだろうと。 そして、フーケは『破壊の杖』を盗もうとしていたのだろうと、オールド・オスマンは言う。 フーケが盗み出せなかったという『破壊の杖』とは、一体何なのだろう? それを尋ねると、説明するよりも実物を見る方が早いと宝物庫に案内された。 『破壊の杖』を見て、なるほどと誰もが納得した。 『破壊の杖』は大き過ぎたのだ。一人で持ち出せるわけがない。 オールド・オスマンによると、この『破壊の杖』は数十人がかりで『レビテーション』を使わないと移動させる事が出来ないらしい。 「フーケも『破壊の杖』がこんなモノだとは思わなかったのでしょうね……」 そう言ったのは、学院長秘書のミス・ロングビルだ。その言葉に私も頷く。 そもそも、どうしてこれが杖なのか? 鉄で出来た箱から、これまた鉄で出来た管が突き出しているようにしか見えない。 これに杖などという名が付いているのは、詐欺でしかないと思う。 「これって、『レオパルド2』?」 キョトンとした顔で彼女が呟くのが聞こえた。 どうやら、彼女はこれが何なのかを知っているみたいだ。 なんでも最新鋭の搭乗兵器らしく、戦車という物らしい。 オールド・オスマンはコレを手に入れた経緯も話してくれたが、長ったらしいので割愛する。 要約すると、命の恩人から譲り受けたものらしい。髭がダンディなおじさんだとか。 さて、フーケについてはこれぐらいにしよう。 今夜は『フリッグの舞踏祭』だ。彼女にもドレスを見繕ってあげないとね。 夜が楽しみだ。 ―― 夜 気合を入れて着飾ると、普段は私の事を馬鹿にしている奴らがワラワラと寄ってきた。 でも全員振ってやった。わたくし、そんなに安くなくってよ。 そして、彼女と踊った。女同士で踊るのはどうかと思ったが、ロクでもない奴らと踊るよりはましだ。 彼女は踊った事がないらしく、たどたどしいステップだったので私がリードした。 双月が綺麗な夜だった。 前ページ次ページルイズと彼女と運命の糸
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人を見た目で判断するなとはよく言ったものだが、天津の観点からしたらそれは当て嵌まらない。 ビジネスの世界において、仕事ができる人間は身だしなみにも気を遣う。 見た目に無頓着でも実はとんでもなく優秀、そういった輩はフィクションの世界だけ。 服装を整え清潔感を大事にしない人間が与えられた仕事をこなせるものか。 少し前までは人格面で大いに問題があれど、ZAIAエンタープライズの日本支部代表を務めただけの能力は本物。 ビジネスマンが相手から信用を得るには、見た目の第一印象も重要であると天津は自負する。 尤も見た目云々が当て嵌まらないのが今の状況。 ゲームと称された、悪趣味を通り越して残酷非道な催し。 殺し合いにおいては外見のみで相手のスタンスを決めつけられない。 空条承太郎が良い例だ。 彼は外見こそガラの悪い不良といった風貌だが、その実熱い正義感を内に秘めた信頼の置ける少年。 美醜感覚でこいつは安全、あいつは危険と判断するのはナンセンス。 言葉を交わし、相手の本質を見極めねばならない。 現在、天津の目の前には二人の参加者がいる。 片方は少女。 桜色の髪を結び、どこかの学校指定制服を着た彼女は地に足を着けていない。 同行者であるもう一人に抱き上げられ縮こまっていた。 何故そのうような状態かを考えるより早く、天津の意識を掻っ攫うのはもう一人の存在。 時代錯誤な着物を身に纏った男はしかし、服装などよりもっと目を引く特徴があった。 顔、である。 額と顎に焼き付いた、火炎にも似た痣。 何よりも人間では有り得ぬ、三対六つの眼。 未だ日が昇らぬ夜闇の中であっても鮮明に浮かび上がる、おぞましい鮮血の色。 「何者ですか?」 見た目のみで判断すべきでないと理解してはいるものの、全身の強張りは抑えられない。 レイダーとは違う異形を前に、天津の内から湧き出るは本能的な恐怖。 人類滅亡を掲げたアークと対峙した時にも似た、根本的に人ならざる存在を目にしたが故の反応。 体を苛む痛みは健在、疲労は容赦なく体力を削り取る。 されど戦意までは奪わせない。 己を共に戦う仲間と受け入れてくれた少年が傍にいる。 彼の命を守れるのが自分しかいないなら、サウザーの力の使い道はただ一つ。 必要とあれば即座にプログライズキーを叩き込む準備は出来ていた。 「待ってください!」 一触即発の空気を壊す声。 警戒されている、そちらがその気ならば容赦はしない。 殺伐とした相手の視線を受け止めた上で、こちらに戦闘の意思は無いと伝えるべくいろはは動く。 自分は元より、共にいる彼もまた誰彼見境なく傷付ける意図は無い。 白い衣服の男とて、警戒こそしてはいてもいきなり攻撃はしてこなかった。 ならば言葉で警戒を解く余地は十分にある、戦闘で互いを傷付け合う必要はないのである。 粉砕された床の上に足を着け、天津の鋭い視線に真っ向から向き合う。 「わたし達に殺し合いをする気はありません。だから…!?」 ぐらりと崩れる体勢。 体中が異様に重く、両脚もふらふらと力が入らない。 引き摺られたかのように体が倒れ込む。 戦闘を、それも一筋縄ではいかない強敵との激戦を終えたばかりの身。 傷は全て塞がってはいても、短時間で霧散する程度の疲労には非ず。 だからここまで他者の手で運ばれたというのに。 床との距離が急速に近付く。 あわや横転し強打、数秒後に訪れるだろう未来。 「あっ……」 痛みが降り掛かる未来は変えられた。 ぽすりと、倒れ込んだ先に床の硬さは皆無。 伸ばされた腕の中に抱き止められ、見上げれば彼と目が合う。 『壱』『上弦』の瞳がいろはを射抜く、またしても彼に助けられたと瞬時に理解。 「あ、ありがとうございます。まだふらふらしちゃって…」 「……」 「でも、もう大丈夫ですから」 何をしているのかと、視線だけで呆れを伝える。 数時間程度の付き合いだがそれでも分かった事が一つ。 「お前が……それを口に出す時は……大概万全とは言い難い……」 「そ、そんなことはない、と思いますよ…?」 短い時間ですっかり見慣れてしまった、困ったような笑い顔。 図星を突かれた部分もあると自覚しているのか、恥ずかし気に目が泳ぐ。 黒死牟の記憶に刻まれたどの笑みとも違うソレに、何かを思うより早く男の声が鼓膜へ届いた。 「んんっ…。良ろしいですか?」 わざとらしく咳払いし二人の意識を強引に向けさせる。 放って置いたら長々と会話を続けそうで、流石に控えてもらいたい。 ハッと慌てる少女とは対照的に、男は変わらぬ仏頂面。 纏う人外故の威圧感も健在。 しかし最初に姿を捉えた時よりは、幾分近寄りがたい雰囲気は霧散したようにも感じられる。 少女の影響だとすると、見方も大分変ってくるというもの。 「確認させてもらいたい。先ほど言った殺し合いをする気は無いとの発言。それは君と隣の彼、共通だと受け散って構わないかな?」 「は、はい。あの黎斗っていう人の言う通りにする気はありません」 迷い無く言い切るいろはだが黒死牟は無言。 勝手にこちらの方針を決めるなと思いつつ、まともな方針一つ決められていないのは紛れも無い事実。 屠り合いに賛同はしていないが、理由に正義感やら暑苦しいものは含まれない。 ただどうするばいいか分からないから。 主の為に殺すには無気力で、弟と会ったところで何をすべきかの答えを出せない。 馬鹿正直に己の胸中を口には出さず沈黙を貫く。 「…成程」 いろははともかく、黒死牟はまだ信用し切れない部分がある。 だが少なくとも軍服の男のような敵意は感じず、いろはへ悪意を向ける様子も今のところ見られない。 一先ずは様子見で良いと判断を下し、サウザンドライバーを仕舞う。 「申し訳ないが自己紹介は後回しにさせてもらう。今は彼の治療が先決だ」 本来ならば腰を落ち着け情報交換を行いたいところである。 が、重症の承太郎を放置してそれは出来ない。 気を失っただけで息はあっても、適切な処置を施さなければ状態は悪化するのみ。 幸い自分達がいるのは病院、必要な道具には困らない。 「あっ!それならわたしが…」 傷だらけで倒れる承太郎にいろはも気付いたのだろう。 顔色を変えて黒死牟の腕の中から抜け出し、よたよたと近付く。 デイパックに救急箱でも入っているのかという天津の予想は、次の瞬間覆された。 「なっ…」 赤いチェックのスカートも黒のハイソックスも瞬く間に消失。 素肌へぴったりと貼りつくシースルー、グローブと編み上げサイハイブーツ。 何より特徴的な純白のフードを被り、いろはにとっての『変身』が完了。 天津の知る仮面ライダーの変身とは明らかに別物。 呆気に取られる彼を尻目に膝を付き、承太郎へと両手を向ける。 淡い光に照らされる中、全身に刻まれた傷が見る見るうちに塞がっていくではないか。 「これは……」 ライダーシステムとは違う、天津の知識には存在しない未知の能力。 このような力を行使する少女は何者なのか。 承太郎が見せた奇妙な人形を操る力と関係はあるのか。 檀黎斗は一体どれだけ、自分の知らない力の持ち主を参加させたのか。 尽きぬ疑問を解消したい欲求に駆られはすれど、承太郎の回復を喜ぼうとし、 「そこまでにしておけ……」 治療行為へ待ったを掛ける声が一つ。 「黒死牟さん…?」 中断を命じる彼へ振り向き、つい魔法の発動も止める。 どうして急に止めたのだろう。 幾らか治ったと言っても傷はまだ複数残っているのに。 こういう時こそ回復魔法を使える自分の出番ではないのか。 困惑と疑問が混じり合ったいろはの視線、傍では天津もまた訝し気な顔を作る。 「お前が誰を治療しようと勝手だが……己の状態も見極めずに力を行使し……自らの首を絞める醜態を晒す気か……?」 淡々と告げられた内容に、天津もいろはの様子へやっと気付いた。 フードの下、頬には汗が流れ息が上がっているようにも見える。 そうだ、深く考えずとも分かる事ではないか。 病院内で顔を合わせた時点で、いろはは同行者に抱きかかえられるくらいには疲弊していただろう。 体力消耗が激しいままで能力を使い、ただでさえ疲れ切った身に追い打ちが掛かるのは当前だ。 「で、でもまだ大丈夫ですし…!」 「問題無いと口にするなら……力の核の穢れにも……少しは気を払え……」 指摘に胸元を見ると、煌めく真紅に若干の濁り。 魔力を消費した証、ソウルジェムに穢れが溜まった。 黒死牟は魔法少女の詳細な情報を知らない、しかし曲がりなりにもいろはの戦闘をすぐ隣で見たのだ。 原理は不明なれどいろはが何らかの力を行使する度に、胸元の宝石が黒く染まる。 そう気付くのに時間は掛からない。 ソウルジェムの穢れには注意すること。 やちよにも口を酸っぱくして言われており、バツの悪さを感じる。 傍から見ていた天津も、無制限に使える力では無いと察した。 「詳しい事情は分からないが無理をするは必要ない。君まで倒れてしまったら元も子もないだろう?」 「それは…その…」 「承太郎君も大分顔色は良くなったんだ。後はこちらで手当てして寝かせておこう」 「…すみません」 完治まではいかないが天津の言う通り、先程よりも顔色は悪くない。 二人の大人から正論を言われては、いろはも引き下がるしかない。 頷き一歩下がると、天津が承太郎の肩に腕を回して運んで行く。 手頃な病室のベッドに寝かせ、そこで包帯を巻くなど処置を行う。 変身を解き後に続こうとしまたもやふらついたいろはだが、目の位置がふっと変わる。 三度目となるこの目線と自分の体勢。 見上げた先の六眼はいろはへ視線を落とさず、進行方向に目をやるのみ。 「あ、あの!えっと…」 大丈夫だと口にするには流石に疲れが大きい。 ふらつきながら亀の歩みで進むより、彼に運ばれた方が手っ取り早い。 分かってはいるのだが抱っこされるのは三回目だ。 今更ながら異性にこうも密着されている体勢に、何となく動揺してしまう。 それを伝えた所で、黙っていろと言わんばかりに睨まれるのだろうけれど。 「ありがとうございます」 だけどこれは伝えておきたい。 こうして運んでくれることも、自分の無茶を諫めてくれたことも。 礼を口にしたら一瞬、本当に一瞬だけ動きを止めた。 けれどそんなのは気のせいだったんじゃないかという程に、あっという間に再び彼は歩き出す。 じっと六眼を見つめても、今何を考えているかまでは分からなかった。 ○ 一仕事終え軽く体を解す。 美容には相当気を遣っており、永遠の24歳を自称するだけの若々しい外見。 しかし実年齢45歳ともなれば体力的にも色々と辛さが目立つ時期。 年は取りたくないものだとの愚痴は内心のみに留めておく。 清潔なシーツが敷かれたベッドが四つある部屋。 元は入院患者用の病室にて承太郎の手当てを終え、天津は一息ついた。 いろはのお陰で当初予想していたよりも、処置する箇所は大幅に減ったのは有難い。 後はこのまま安静にさせ、目覚めるのを待つだけ。 何にしても仲間が死の危機を回避できたのは嬉しい事だ。 振り返り、別のベッドに腰掛ける少女へ礼を告げる。 「環君のお陰で大分良くなったよ、ありがとう」 「い、いえそんな!」 頭を下げられ慌てた様子を見せる。 もう少し素直に受け取っても良いとは思うが、その謙虚さは人として悪いものではない。 チラと、入口付近に佇む男へ視線をズラす。 幽鬼を思わせる不気味さで壁に寄り掛かる黒死牟は、案の定沈黙を貫いたまま。 どう接するべきかは天津にも判断し兼ねる相手。 「あの、天津さん達に何があったか聞いてもいいですか?」 承太郎の手当てを優先した為、まだ軽く自己紹介しかしていない。 いろは達が病院内に入る前に戦闘があったとは、外からの様子で知っている。 だが具体的にどのような相手と戦ったかは不明。 一段落着いたこのタイミングなら聞いても問題はない筈だ。 天津としても聞きたい事はあったので、情報交換に反対はしない。 「そうだな…まずは彼らとの出会いから説明しておこう」 黎斗が大々的に存在をアピールし、複数の死者を出した放送の後。 承太郎と一海に出会い、互いに殺し合いの打破を目的にしていると確認。 直後に起こったNPCの怪人との戦闘、各個撃破した三人はここ聖都大学附属病院にて合流。 情報交換を行う中、襲撃して来た参加者との死闘を繰り広げた。 襲撃者は名乗らず、というより一言も発さ無かったので名前は分からない。 しかし天津が言う男の特徴にはいろはと黒死牟も覚えがある。 ゲーム開始直後にいろはを襲った軍服の参加者だ。 「あの男の人がここにも…」 「奴を仕留めたのか…?お前達が……」 「いや、残念ながら確実に倒したとは言い切れない。それに、一人が犠牲となった」 二体のライダーと共に軍服の男を蹴り飛ばしたのは天津。 必殺の威力を籠めた蹴りこそ命中したが、男の異様な生命力を考えればまだ生きていても不思議はない。 黒死牟は軍服の男との一度交戦しているが、あの程度は男の本領には程遠かったということか。 斬り落とした左腕も完治していたらしく、鬼にも引けを取らない再生能力も持つ。 そのような化け物を三人掛かりな上に死者を出したとはいえ、撃退にまで追い込むとは。 肉体の完成度は鬼狩りに及ばずとも、柱並の力を発揮できる道具や能力を保持しているらしい。 一方でいろはは一海という男性が殺されたのに悔やむ。 もう少し早くに病院へ到着していたら、その人を死なせずに済んだかもしれないのに。 所詮はたらればの話、言った所で無意味と理解しても気持ちは沈んでしまう。 「後は病院に君達が現れて、知っての通りだ。今度はそちらの経緯を聞いても?」 「あ、はい。えっと、実はわたしも天津さん達が戦った男の人に襲われて…」 黎斗の放送が始まる前、本田なる少年が殺された惨劇の直後。 いろはもまた軍服の男に襲われ、あわや呆気なく命を散らすとなった絶体絶命のタイミングで黒死牟が介入。 放送後も行動を共にし病院に到着した時、二人も天津達同様に殺し合いの賛同者と戦った。 真紅の騎士を思わせる怪人。 直接の面識はない天津にも怪人の特徴は知っている。 承太郎と一海が放送前に戦った相手だ。 「ふむ…その怪人を君達が倒したと?」 「屍を己が目で見るまで……断定する気はない……」 真紅の騎士を遥か彼方へ斬り飛ばしたのは黒死牟だが、本人はあれで仕留められたとは思っていない。 アレは人間とは違う、自分の剣であっても切り裂くのに少々梃子摺るくらいには硬い。 自分の目で死体を見るか、確実に頸を落とすまでは生きていると考えるべきだろう。 戦闘を終えた後どうなったかは言うまでもない。 ここまでの経緯はどちらも知れた。 或人と滅、やちよ達魔法少女といった仲間の情報が無かったのは残念であるが。 「もう少し聞きたいことはあるが…承太郎君が起きてからで良いだろう」 傷を治したいろはの力、明らかに人間ではない黒死牟の正体。 そして承太郎が出現させた拳闘士のような人形。 それらに関しても説明は欲しいし、いろは達にもこちらの持つ黎斗の情報を明かしておきたい。 とはいえ承太郎は眠りに落ちたまま、先の戦闘での消耗を考えれば無理やり起こすよりは自然に起きるのを待つ方が良い。 加えていろはも疲労が大きい、なら承太郎が目覚めてから改めて話し合おう。 「君達も今は休むといい。私はロビーに残した荷物を回収してから、もう少し病院内を調べておく」 「はい、ありがとうございます」 礼儀正しいいろはに対して、もう片方は無言のままに視線を寄越すだけ。 少し前の自分なら嫌味の二つや三つはぶつけただろうなと苦笑いし、天津は病室を後にした。 「ふぅ…」 廊下を歩く足音が遠ざかり、いろははため息を吐く。 話をしている最中は顔に出さないよう気を付けたが、正直横になりたいくらいには疲れている。 休んで良いと気を遣ってもらい申し訳ない半面、有難くもあった。 (ドッペルを出したからかな…) 神浜市で無いのに、更に言うとエンブリオ・イヴはもう存在しないのに。 ドッペルが使えた理由は不明。 奇妙なのはドッペルの制御が一時的に出来なくなった事もだ。 水名神社の時や、いろはが望む世界を創りやちよと黒江を巻き込んだ時のように、ドッペルの暴走を許してしまった。 黎斗に細工でもされたのだろうか。 もっと深く考える必要があるのだろうけれど、今は頭がしゃんと働かない。 いろはの様子を察したのか否か、黒死牟も背を向け入口の取っ手を掴む。 「黒死牟さん?」 名前を呼んでも反応は無い。 素っ気無い態度は会ったばかりのやちよを思い起こす。 慣れていると言えば慣れているが、寂しいなと思わないでもない。 「あの、何処に…?」 行き先を尋ねる声に不安が宿る。 まさか、という嫌な予感がチクリと針のように刺す。 黒死牟は振り向かない。 背を向けたまま、長髪を僅かに揺らしボソリと言う。 「部屋一つに……群れる必要も無かろう……私は外を見張る……人の体は脆い……使い物になるようにしておけ……」 淡々とした、熱の籠らない言葉の羅列。 思いやりとか優しさとか、そういうのとは無縁。 「…はい!それじゃあお言葉に甘えて……」 それでもいろはには十分だった。 だって彼は、ここにいると言ってくれたから。 病院を出て一人でどこかに行くとは言わなかったから。 だからいろはには、それだけで嬉しかった。 扉が閉まり病室に残ったのは眠る少年と、今正に眠りに就こうとする少女。 靴を脱いでベッドに横になった途端に襲い来る睡魔の誘惑。 抵抗せず素直に誘いに乗り、夢の世界へと足を踏み入れる。 (皆は大丈夫かな……) やちよ達は今どこで何をしているのだろうか。 殺し合いを止めようとして、無茶し過ぎてないといいのだけれど。 なんて自分が言って良い台詞じゃ無いが。 灯花とねむは、あの時と同じ事を繰り返するつもりではないだろうか。 魔法少女を、いろはを救う為にと自分達だけで全ての罪を被る気でいるなら、止めなくてはいけない。 いろは自身も、ういだって決して望んではいないのだから。 (うい…約束破ってばっかりのダメなお姉ちゃんでごめんね…でも…今度は絶対…灯花ちゃんとねむちゃんを……) 音もなく瞼が閉じる。 聞こえてくるのはもう、小さな寝息だけだった。 ○ 病院に留まると決めたのに特別深い理由はない。 日の出がそう遠くない時間にほっつき歩き、万が一手遅れになっては笑い話にもならない。 ならこのまま日の当たらない屋内で身を潜めた方がマシと、そう思っただけのこと。 屠り合いに積極的でなくとも、自ら死を選ぶつもりは無し。 鬼の体質を考えたが故の、極めて当たり前の理由。 ただそれだけ。 他に理由などない、あるはずもない。 だからそう ――『黒死牟さんが一人でいなくなったら嫌ですし……』 あの娘の言葉など理由に入っていない。 環いろはの存在が自身の方針に影響を与えたなど、有り得ない。 病室から離れ、小奇麗な廊下を一人歩く。 大正時代ではお目にかかれない設備と内装も、黒死牟の興味・関心を引きはしない。 耳に残って木霊し続ける少女の声。 背を向けたままでも、いろはが先程どんな顔をしていたかは声色で分かった。 何が嬉しい。 何に安堵している。 何故お前は、そんな風に笑う。 何故、何故、何故。 馬鹿の一つ覚えのように繰り返される疑問。 そのような己の在り方もまた、理解とは程遠い位置にある。 アレは頭がおかしい娘である。 口から出るのは全て狂人の戯言に過ぎない。 やること為すこと、まともに考える必要は無い。 そう結論付ければ楽だ。 気狂いの餓鬼だからと思考を止めれば済む話だ。 なのに自分はそれをやらない。 主の為に剣を振るわず。 弟との再会には思考を割かず。 だというのにいろはの行動一つ、言動一つの度に何故と問いかけをぶつける。 小娘一人に思考を重ね続ける。 これは何だ、この有様は一体何だ。 まるで、まるでこれでは、 環いろはという娘を、理解したがっているようではないか。 「……」 低い唸り声が漏れ出す。 これが今の己だと言うのか。 人を捨て、侍の姿も捨て、その果てが小娘一人に振り回される腑抜けた軟弱者なのか。 己が酷く憎たらしい、余りの情けなさに悪態一つ出て来ない。 何よりこれでもまだ屠り合いに乗る気が微塵も起きなかった。 死者の蘇生すらも可能なら、願いを叶えると豪語するのは分かる。 強者との死合を経て勝ち残り、何者にも負けない力を得る。 考えてみれば悪い話では無いだろう。 相手が軍服の男や真紅の魔剣士のような者達ならば、相手にとって不足なし。 しかし勝ち残ったとして、願いを叶えてくれるのはあの男。 自らを神と名乗る不遜な人間。 勝利して力を得るとは即ち、あの男からの施しを受けるということ。 縁壱を傀儡へと変えた黎斗から、神の恵みと称して力を与えられるのに他ならない。 「……っ」 無意識の内に奥歯が噛み締められる。 湧き出したのは猛烈な不快感。 臓腑の底から煮え滾る怒り。 力を得る為に躊躇など自分には無かった筈だ。 鬼狩りに加わったのとて、高潔な精神が故の使命感ではない。 弟の持つ力を我が物にしたかったが為、どこまで行っても我欲を満たす為である。 己には時間が無いと知った時に現れた無惨は救世主に思えた。 組織を裏切り、当主の首を見返りに提供したのを恥にすら思わなかった。 何もかもが今更。 だが黎斗から力を与えられるのは、弟を傀儡にした男に首を垂れるのだけはどうしても受け入れられない。 そもそもの現実的な話として、自分が勝ち残れるのも土台無理な話だ。 たとえ傀儡と化していようと縁壱に勝機を見出せるとは思えない。 今の自分ならば勝てるなどという自惚れが、どうして抱けようか。 たかが柱三人と鬼喰い一人に討たれるような男が勝利を手にするなど、馬鹿馬鹿しいにも程がある。 それで勝てる程度の相手なら、縁壱がそんな力しか持たないなら。 継国巌勝は黒死牟にならなかっただろう。 「何の意味がある……」 嘗て、無限城にて塵と化した己は問い掛けた。 自分の生まれた意味を。 弟への問い掛けを、此度は誰に向けてか分からず問う。 自分がここにいる意味を、蘇生させた理由を。 何を期待して現世に引き戻した、何を為すと思って再び刀を握らせた。 答える者は現れず、己自身で答えを出すなど以ての外。 疑問だけは死体に群がる蛆のように湧いて出る癖に、解答には未だ一つも至らない。 存在理由は分からない、自分がすべき事も分からない。 だけど確かな事があるとすれば、彼は一人の少女を助けた。 数多の血を浴び命を喰らった鬼は、魔法少女の命を救った。 それだけは神であっても覆せない事実だった。 【D-6(島・聖都大学付属病院)/一日目/早朝】 【環いろは@マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝(アニメ版)】 [状態]:疲労(極大)、魔力消費(小)、睡眠中 [装備]:なし [道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×1~3 [思考・状況] 基本方針:殺し合いを止める。 0:…。 1:黒死牟さんを放って置けない、助けになりたい。 2:やちよさん達を探す。 3:もし灯花ちゃんとねむちゃんがまた間違いを起こすのなら、絶対に止める。 4:軍服の男(大尉)、真紅の騎士(デェムシュ)を警戒。 5:どうしてドッペルが使えたんだろう? [備考] ※参戦時期はファイナルシーズン終了後。 ※ドッペルは使用可能なようです。 【黒死牟@鬼滅の刃】 [状態]:精神的疲労、縁壱への形容し難い感情、黎斗への怒り、いろはへの…? [装備]:虚哭神去@鬼滅の刃、木彫りの笛@鬼滅の刃 [道具]:基本支給品一式、ランダム支給品×0~2 【思考・状況】 基本方針:分からない。 1:この娘は本当に何なのだろうか……。 2:もし縁壱と会ったら……? 3:無惨様もおられるようだが……。 [備考] ※参戦時期は死亡後。 ※無惨の呪いが切れていると考えています。 【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険】 [状態]:疲労(極大)、ダメージ(中・処置済み)、全身に斬傷(処置済み)、気絶 [装備]:スクラッシュドライバー+ロボットスクラッシュゼリー@仮面ライダービルド [道具]:基本支給品一式、クリボー@遊戯王デュエルモンスターズ(アニメ版)、オレンジロックシード@仮面ライダー鎧武 [思考・状況] 基本方針:打倒主催者。どんなに敵が強くても必ず倒す 0:… 1:天津と行動。天津の過去に自分から言うべき事は特にない。 2:しばらくはこの病院に留まるべきか…それとも一海の仲間を探すべきか? 3:DIOを警戒、どうやって蘇ったのか、それとも時を超えてきたのかも知らないが必ず倒す。 4:仮面ライダーの力…大切にしなくちゃいけねぇようだ 5:悪党がもし仮面ライダーの力を悪用するならば変身前に時間停止で奪い返す 6:軍服の男(大尉)はあれで倒せたのか…? 7:この遊戯王カード、大して強くはないのか? [備考] ※参戦時期は第三部終了後。 ◆◆◆ 運が良いと言うべきだろうか。 病院内を一人歩く天津はふと思う。 軍服の男の襲撃はあったものの、直後に出会ったのは黎斗に反抗する者達。 加えていろはのお陰で承太郎の傷もマシになった。 自分一人での連戦も可能性として考えていただけに、現実の光景とならなかったのは運が良かったと言うのもあながち間違ってはいない。 「いや、どうなのだろうな…」 新たな協力者との出会いは歓迎するも、大手を振って喜ぶ気にはなれない。 もういない仲間、猿渡一海の死を思えば。 過ごした時間は非常に短い、しかし一海は天津の罪を知っても仲間として受け入れてくれた男だ。 人間もヒューマギアも利用か廃棄の二択でしか考えなかった頃には不要と断じた、今では何よりも得難いもの。 信頼の置ける仲間を失う痛みの治し方を天津は知らない。 今でも時たま考える。 どうして不破諫や滅亡迅雷.netのヒューマギア達が死に、自分は生きているのだろうと。 別に己の人生を悲観し自死を選びたくなったとかじゃない。 生きて償う道を投げ出したくなった訳でもない。 ただふとした時に頭をよぎるのだ。 夢を追いかけ奮闘する不破や、悪意の監視者として新たなスタートを切った滅達。 この先の未来にも必要だった彼らが死に、数多の悲劇を生み出した元凶の自分が生きている理由は何なのかを。 明確な答えは未だに出せない。 これから先に出せるかも不明なまま。 けれどもし、自分が生きてここにいる事に意味があるとすれば、それはきっと 「この馬鹿げたゲームを終わらせる為、か」 死者は帰って来ない。 生還しても自分いた世界で不破達とは二度と会えない。 ただそれでも、黎斗を倒し巻き込まれた人々の命を守れるのなら。 最後まで仮面ライダーだった不破や一海に報いる道だと、そう確信した。 「……む、いかんな」 考え事をしながら歩いていたせいだろう。 調べるつもりのルートを外れ、奥の方へと辿り着いてしまった。 院内は電灯で照らされているも、天津がいる通路は酷く薄暗い。 来た道を戻り、そろそろ自分の怪我の処置もしておきたい。 長居は無用と引き返そうとし、 おかしなものが目に入った。 薄暗い廊下よりも更に暗い、細い通路。 灯りが少ないこの場所では見落としかねない、奇妙な造り。 眉を顰め通路を進むと、奥にはポツンとエレベーターの扉。 何かおかしい。 スタッフ専用のエレベーターとて、こうも分かりにくい場所に設置するだろうか。 まるで一般の目からは遠ざけるような構造。 ボタンを押し中に入って分かったが、このエレベーターは地下にしかいけない。 何かある、むしろ何かなければ湿地の方が不自然だろう。 扉が閉まり、ほんの僅かな振動が天津の足元から伝わる。 やがて目的地へ到着、エレベーターを降り慎重に進む。 「ここは……」 扉の先にあったのは明るい空間。 床も壁も清潔感溢れる白。 部屋の中央に置かれたテーブルと椅子にこそ不審点は無い。 だがそれらを囲うように設置された複数の機材は、ここが単なる地下倉庫の類で無い事を知らせて来る。 モニターに表示された二文字のアルファベット、「CR」が何を意味するのか天津は知らない。 奇妙な空間で最も異彩を放つ存在があった。 ソレがどういったものかは天津とて知っている。 というか日本国民のほぼ全員が知っているだろう存在。 おかしいのは、ソレが病院の地下深くにあること。 ゴテゴテと彩られた箱状の物体。 硬貨を投入すれば誰でも遊べるゲームの筐体があった。 間違ってもこの場所はゲームセンターでなければ、ショッピングモールのゲームコーナーでもない。 設置場所を完全に間違えたとしか思えないソレに恐る恐る近付く。 見た感じ不審な点は見当たらなかった。 病院の地下に置いてある時点で十分と言っていい程不自然だが。 (奴は何を考えている…?) ゲーム制作に異常な情熱を注ぐ余り、ミスマッチな設置を行ったのか 首を傾げ、何となしに適当なボタンを押してみた。 硬貨も入れずに押したとて反応はない。 その筈だった。 『おっはよー永夢~!今朝は随分早いけど、やっぱりこの前遅刻して飛彩に絞られたのが効いて…って誰あなた!?』 「なっ……」 何と言えば良いのだろうか。 カラフルな衣装を纏い、スカートには音符が縫い付けてある。 ボブカットの髪の毛はいろはのよりも濃いピンク色。 安直な喩えだがゲーム内のキャラクターがそのまま現実に現れた。 そう表現するのがしっくり来る女が、画面に映っている。 「君は…」 『ちょ、何でここにいるの!?CRは部外者立ち入り禁止だよ!?灰馬ったらしっかりしてよもぉ~!!』 一挙一動が随分とオーバーリアクションだ。 キャピキャピした甲高い声で、ここにはいない誰かへの不満を口にしている。 どうやら向こうにとっても天津の存在は驚きの対象らしい。 だが困惑してるのはこっちも同じだ。 この場所は一体何で、彼女は誰なのかを一から説明してもらいたい。 「とうとうこの場所を見付ける者が現れたようだなァ…」 天津の困惑はより大きな驚愕に塗り潰された。 聞き覚えのある声がした。 傲慢不遜をこれでもかと表した声色。 自らの絶対性を微塵も疑っていないこの腹立たしい声に該当する者は一人しかいない。 「檀黎斗…!」 ゲームマスターにして神。 檀黎斗が放送の時と変わらぬ姿で天津の前に現れたのだ。 耳にはヒューマギアモジュールが存在しない。 やはり目の前にいるのは自分が知るヒューマギアの黎斗とは別の黎斗なのか。 天津の疑問を余所に黎斗は尊大な口調で続ける。 「まずはおめでとうと言ってやろう。CRを発見し、彼女と接触したプレイヤーは君が最初だ」 口振りからして黎斗はこの場所について当然知っているようだ。 ゲームの筐体の中にいる彼女についても同様に。 『ちょっと黎斗!どういうこと?永夢たちはどこ?何をする気なの!?』 当の彼女もまた黎斗とは顔見知りなのが反応から窺える。 但しこの状況に関しては予想外らしく、これ見よがしに狼狽しているが。 訳が分からないと表情に浮かべるのも束の間、キッと黎斗を睨みつけた。 画面越しなせいで若干迫力には欠けているものの、黎斗の悪行への怒りは本物。 『どういうつもりか知らないけど、調子に乗るならこっちも――って、あ、あれ?』 威勢の良さはどこへやら、あっという間に困惑へと逆戻り。 服の中を漁る彼女は徐々に青褪め、事情を知らない天津にもアクシデントが発生したと分かった。 『な、無い…ドライバーとガシャットがどこにも…!っていうか何で外に出られないの~!?』 「ヴェーハッハッハッハッハッ!ポッピーピポパポォ!残念だが君は正規のプレイヤーではない!よって必要以上に出しゃばれないよう設定させてもらった。君にはお助けキャラとしての役割を果たしてもらおう」 勝ち誇りこれまた非常に五月蠅く笑う。 傍から見るとコントのようなやり取りだが、単なるコメディアンならどれだけマシなことか。 「お助けキャラ…?つまり彼女は我々参加者のサポートをする為にいると言うのか?」 「察しが良いな。その通り。既に説明はしたがゲームのクリア条件は優勝のみではない。ゲームマスターである私を見事倒してもクリア達成となる。となればゲームへ反抗する者にもそれなりの救済措置は必要ということだ」 成程と内心で納得する。 二人のやり取りを見ても、このポッピーなる存在が黎斗と前々からの知り合いなのは確か。 殺し合いを始めた元凶に関する情報を持つならば、打倒主催者を目的とする自分達への助けになる。 尤もポッピー本人はそもそもこれが殺し合いであると全く知らない様子。 「…今ここで貴様を倒す方が手っ取り早いと思うが?」 「無理だな」 言うや否や近くの椅子に黎斗が手を置く。 すると手は椅子をすり抜けた。 「ホログラムか」 「その通り。これはあくまで映像に過ぎない。神との直接対決が許されるのは首輪を解除し、私の元へと辿り着いたプレイヤーのみ。そのどちらも達成していない分際で私に挑もうなど身の程を知れィッ!!」 半ば予想していたが本人の口から断言されると中々に苛立たしい。 悔しを表情に滲ませる天津へ気を良くしたのか、黎斗は勝ち誇ったように告げる。 「ポッピーから得た情報は上にいる連中とも共有しておくことだ。基本を疎かにしたプレイヤー程、呆気なく足元を掬われる」 ジョースターの血統にして最強のスタンド使い。 神浜市の戦いの中心となった魔法少女。 正史から外れた道を往き、本来では有り得ぬ行動に出た上弦の鬼。 三人共、本選のプレイヤーに相応しい人材だ。 今後もゲームを盛り上げるのに期待している。 「ではこれにて失礼しよう。この私と直接対峙したくば、今以上に励むことだ!ハハハハハハッ!!!」 最後まで余裕たっぷりの態度を崩さず、神は姿を消した。 後に残るはより一層の戦意を燃やす男。そして 『なにがどういうことなの~!?ピプペポパニックだよ~~~~~~!!!!??!』 画面の中から絶叫するバグスターだけだった。 【D-6(島・聖都大学付属病院地下・電脳救命センター)/一日目/早朝】 【天津垓@仮面ライダーゼロワン】 [状態]:疲労(大)、ダメージ(大) [装備]:ザイアサウザンドライバー&アウェイキングアルシノゼツメライズキー&アメイジングコーカサスプログライズキー@仮面ライダーゼロワン [道具]:基本支給品×2、滅亡迅雷フォースライザー&プログライズキーホルダー×8@仮面ライダーゼロワン、ゲネシスドライバー(破損)+チェリーエナジーロックシード@仮面ライダー鎧武、みーたんの抱き枕(破損)@仮面ライダービルド、パンドラパネル@仮面ライダービルド)、ランダム支給品0~1、一海の首輪 [思考・状況]基本方針:檀黎斗とその部下を倒し、罪を償う 1:ポッピーから詳しい話を聞く 2:檀黎斗に挑む為の方法とこの殺し合いについて承太郎君や協力可能な参加者と共に考える 3:承太郎君が起きたら環君達も交えて持っている情報、力も詳しく知っておきたい。私の知らない何かは多いようだ 4:出来る限り多くの人を病院に連れて来て治療したい、後、この病院について知っている参加者と話したい 5:飛電或人、滅と合流したい。もしアークに捉われていた時にこの場に来ていたのならば必ず止める 6:これ等のプログライズキーに映っている仮面ライダー達は誰なんだ?知っている人に会えたらいいが… 7:猿渡一海の仲間達を探し彼の最期を伝える [備考] ※参戦時期は仮面ライダーゲンムズ スマートブレインと1000%のクライシス終了後 『NPC紹介』 【ポッピーピポパポ@仮面ライダーエグゼイド】 ドレミファビートから誕生した良性のバグスターでCRの協力者。 表向きには衛生省のエージェント兼CRの看護師、仮野明日那として振舞っている。 バグスターとしての高い戦闘能力の他、バグルドライバーⅡとときめきクライシスガシャットを用いて仮面ライダーポッピーに変身が可能。 ※ドレミファビートの筐体から出られないよう細工されています。今後出られるかどうかは不明です。 ※バグルドライバーⅡとときめきクライシスガシャットは主催者に没収されています。 ※少なくとも本編31話までの記憶はあります。それ以降(Vシネマや小説版も含め)の事件を知っているかは後続の書き手に任せます。 ※彼女が殺し合いの為に造り出された個体なのか、エグゼイド本編のポッピー本人かは現在不明です。 046 マスターピース 投下順 048 グレイブ・スクワーマー 045 RIDE OR DIE(前編) 時系列順 049 咲き誇れ、枯れ落ちるまで(前編) 019 ロゴスなきワールド ─戦争の夜に─ 空条承太郎 天津垓 環いろは 黒死牟
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むかし僕は子どもで、猫のことを不思議に思っていた。ふと気が付くとそこにいて、また気が付くとどこかへいなくなっている。彼らはどこからやって来て、そしてどこへ行くのだろうか。住んでいたのがマンションで、見るのは外の猫ばかりだったから、そういったことが余計に気になったのかも知れない。 小学5年生になったころ、僕は好奇心をもって学校帰りなどによく猫の後を追いかけるようになった。猫は警戒心が強くて大抵のやつはすぐに逃げてしまう。けれども中にはのんびりとした性格のやつもいて、ついて行っても逃げないこともある。そういう猫に出会えた時はわくわくしながら、なるべくおどかさないように気をつけて、5メートルくらい後ろをそろりそろりとついて行った。 僕が住んでいたマンションの辺りは、郊外の、住宅がたくさん立ち並ぶ土地だった。公園や空き地が幾つもあった。似たような細い道が何本もあった。溝川があった。線路があった。少し足を運べば林や山もあった。猫はとても物知りで、複雑な道を迷うこと無く歩き続ける。そして時々気に入った場所で休憩をする。 けっきょく時間が遅くなったり猫にしか進めない場所に来たりで最後までついて行けることはないのだけど、僕はこの遊びを楽しいと思った。何だか猫は僕をどこかへつれていってくれそうな気がした。どこか、特別な場所に。それがどこだか分からないけど、きっと猫は気持ち良さそうにしているだろうと思った。きっと嫌な場所ではないはずだ。僕は大人や友達には頼らないことにした。どうしても自分の力でたどり着きたかったし、何よりそんな場所はないと言われるのが嫌だったからだ。僕は一人で密かに猫を追いかけた。 同じころに、僕は初めての恋をしていた。新しいクラスで一緒になった、宮沢さんという、優しい、静かな女の子だった。彼女の前にいると胸が苦しくて、それでいて温かいような変な心地がした。話しをしたいのに恥ずかしくて言葉が出てこなかった。頭の中では面白いことを言って彼女を笑わせているのだけど、実際に面と向かうと何を言えばいいのか分からなくなってしまう。かえって意地悪なことを言って泣かしてしまうこともあった。僕は次に会う時までひどく悔やんだ。しかも彼女はとても泣き虫だった。 僕はやっぱり猫を追いかけていた。猫は本当に色々な道を歩く。背の高い草が茂る空き地だったり、民家の塀と塀との狭い隙間だったり、神社の境内だったり。猫たちは静かな道の方が好きみたいだった。そして草の茂る空き地もアスファルトの道も彼らにとっては同じようなものだった。僕は色々な道を通ったけれど、猫の行き先はまだ見つからなかった。きっと宮沢さんと一緒に歩いたらもっと楽しいだろうと思った。 季節は飛ぶように過ぎ、やがて1学期も終わりに近くなった。僕は少し宮沢さんと話せるようになり、少し猫を追いかけるのに飽きていた。猫の行き先なんてないのだろう、やっぱり。3ヶ月ほどが経ち、そう思うようになっていた。 そのころ運よく宮沢さんと日直で一緒になった。日直には帰りの会が終わった後に日誌と窓閉めの仕事があった。僕が窓閉めをすると言うと、彼女は分かったと言った。僕は窓を開けたり閉めたりしながら、聞いてみたかったことを聞いてみた。 「なあ、宮沢って、猫のこと好き?」 なるべく自然に、しかもぶっきらぼうになるように気をつけて。彼女は日誌を書きながら、うん、何で、と答えた。僕は少し迷ったあと、別に、と言った。 窓からはグラウンドが見え、友達が大勢で野球をしていた。打たれたカラーボールが大きな放物線を描き、喚声が教室までよく届いた。いつもならすぐに参加したいところだったけど、その時は教室に残っているほうがよかった。もう教室には2人だけしかいなかった。彼女が日誌を書き終えなければいいと思った。邪魔をしようかと考えたけどやっぱり止めておいた。 その内に彼女は日誌張を閉じた。僕は「なあ」ともう一度言った。 「猫の行き先って知ってる?」 と聞いた。 「え?」 「だから猫ってさあ……いや、何でもない」 僕はすぐに後悔した。やっぱり聞くべきじゃなかったと思った。僕はもう小学5年生で、男だった。話そうとして突然、一人で猫を追いかけるのなんてダサいことだという気がしたのだ。それで、他のことを話そうとしたけど思い付かなかった。実際はもっと本当に聞きたいことがあったのだけど、それも当然聞くことはできなかった。尻すぼみになってしまったのが悔しくて、僕はむすっとしながら窓を閉めた。 そうして僕は猫を追いかけるのを止めた。別にどうってことはなかった。猫を追いかける時間が野球やサッカーやカードゲームやテレビゲームに変わっただけだった。それらの遊びは十分面白かった。止めてすぐは道にいる猫が気になったりしたけど、そういうのも段々となくなっていった。まあけっこう楽しかったな、というくらいの気持ちだった。それでも僕は猫について誰かに聞こうとはしなかった。どこか特別な場所があってほしいという思いがやはり心の奥にはあった。 やがて一学期は終業して、夏休みに入った。 それは夏休みの初め頃のことだった。その日はプール教室があって僕は学校へ行った。宮沢さんは来るかなと期待していたけど、その日は欠席だった。 クロールと平泳ぎを3往復ずつ泳ぎ終えた後に自由時間があった。僕はぷかぷかと水に浮かびながら空を見ていた。空には幾つかの雲があった。雲は大きくて真っ白で、低いところから高いところまで何段にも重なっているようだった。僕は初めソフトクリームを想像し、次にランプの魔人やアニメに出てくるロボットなんかを想像した。それからアイスクリームを食べる魔人やロボットを想像してみた。それはけっこう楽しい様子だったけど、ぼーっと見ている内にいつか雲は姿を変えていって、気付いたら自分と宮沢さんと猫とになっていた。青い空の中で僕と宮沢さんは猫を追い掛けていた。宮沢さんは笑っていた。僕も笑っていた。何故か猫まで笑っているようだった。幼稚だと思ったけど、水の上の僕も少し笑った。猫を追いかけなくなってからまだ何週間か過ぎただけだったけど、それは大分むかしの懐かしいことのような感じがした。太陽が眩しくてくしゃみが出そうになった。
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40度近くの熱を出したのなんて子供の時以来で。 その時は体中の節々が痛んで、辛くて、苦しくて仕方なかったことを 覚えている。 熱にうなされる私の手をお母さんが握っていてくれた。 だけど、仕事に行かなくちゃと、その手が離れていくのが寂しくて、 だだを捏ねてお母さんを困らせた。 行かないでよ。 私を一人にしないでよ。 痛いの。 辛いの。 苦しいの。 あの時みたいにお母さんはいない。 だけど、、今の私が欲しい手はお母さんのじゃなくて。 私が欲しいのは、、、 誰かに右手を握られている、ような気がした。 熱がありすぎるのかな。 のっちがいる、なんて。 のっちに会いたい、なんて。 きっと幻想。 夢、なんよ。 夢の中なら、貴女に触れてもいいですか? 夢の中なら、貴女を愛してもいいですか? ああ、、やっぱり、すき。 ねぇ、のっち、、 のっちのことを想うと心があったかくなるんよ。 だけど、同時に、 痛いよ。 辛いよ。 苦しいよ。 大切にしたいのに、傷つけたくなる。 失いたくないのに、逃げたくなる。 笑っていて欲しいのに、涙でぐしゃぐしゃにしたくなる。 でもね、のっち、、 それでも、、どうしようもないくらい、、 すき、、なの。。 「ゆかちゃん」 そんなキレイな瞳で見つめないで。 「泣いていいよ」 そんなキレイな声で優しくしないで。 「ゆかちゃん」 頬に感じる体温。 夢、、じゃない? 「のっちはここにおるから」 ぼんやりとしていた視界がクリアになっていく。 目の前には、眉を八の字にしたあの子。 本当は会いたくて、会いたくて仕方なかった愛しい彼女。
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『僕と彼女の記念塔』 第一章~再開~ 朝餉さんがニックネームを佐織に変えました。 黒川にゃん太 ▶ ちょっと五目やってくるw 佐織 ▶ こん^^ ೡルナೡ ▶ 猫!沙織ちゃんきたよw ೡルナೡ ▶ 【こんばんわ】(*´∀`)ノシ 佐織 ▶ にゃん太? 黒川にゃん太 ▶ ん?w 猫コ ▶ wwwwwwwwww 黒川にゃん太 ▶ なんだよ朝餉w 佐織 ▶ 久し振り^^ 佐織 ▶ 佐織だよw 猫コ ▶ かわいいw 黒川にゃん太 ▶ 佐織じゃねーw 佐織 ▶ 元気してた? 黒川にゃん太 ▶ ハァ佐織w 佐織 ▶ なぁに? 黒川にゃん太 ▶ あん時マジなぁw 黒川にゃん太 ▶ おめーかよw 佐織 ▶ あん時?? 猫コ ▶ wwwwwwwwwwwwwww 黒川にゃん太 ▶ 佐織は朝餉だよw 佐織 ▶ 違うよ~><。 黒川にゃん太 ▶ 違わないでしょw 猫コ ▶ 小技が光るwさすが朝餉w ೡルナೡ ▶ 沙織ちゃんいぢめないでよw 佐織 ▶ 佐織は佐織だよ? 黒川にゃん太 ▶ 佐織ちゃんじゃないでしょw 黒川にゃん太 ▶ いじめてないんだよルナw ೡルナೡ ▶ わかった! ೡルナೡ ▶ 照れてるのねww 黒川にゃん太 ▶ 優しく教える君は朝餉だよw 黒川にゃん太 ▶ 佐織ちゃんもうだまされないんだよw 猫コ ▶ wwwwwwwwwwwwwwwwやば。笑いが 佐織 ▶ どうしてそういうこというの・・・? 猫コ ▶ にゃんた・・ 下種 佐織 ▶ 最初は優しかったのに・・・ 黒川にゃん太 ▶ 今も優しいよw 佐織 ▶ この流れで行くと佐織がい〇ゅっぽくなる件 猫コ ▶ wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww 猫コ ▶ やばすwwwwwwwwwwwwwwwwwwww 猫コ ▶ まじだwwwww ೡルナೡ ▶ wwwwwwww 黒川にゃん太 ▶ いじゅw 黒川にゃん太 ▶ もういいよあの子はw 佐織 ▶ にゃん太 黒川にゃん太 ▶ 結局あーきゅん狙いっしょw 猫コ ▶ いぢゅちゃはデリケートゃからw扱いが難しいw 黒川にゃん太 ▶ ん?
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ラノで読む 「猫娘に男の娘、ロリコンバンパイア、泣き虫狼女、髑髏仮面の不死身人間……おまけに覗き魔の溶解人間とか、どうしてこのクラスにはゲテモノが多いのかしら……」 二年H組のクラス委員長である鈴木清純《すずきせいじゅん》は、目の前でろくでもない事で馬鹿騒ぎをしているクラスメイトを切れ長の目で見つめながら、小さくため息をついていた。 「ちょっと、千乃《ちの》はゲテモノじゃないわよ」 清純の呟きを耳ざとく聞きつけた、その馬鹿騒ぎの渦中にあるショートカットの少女が即座に否定する。清純に猫娘と揶揄された春部里衣《はるべりい》だった。とりあえず、自分がゲテモノと評されるのはどうでもいいらしい。 「そうじゃぞ、わしは断じてロリコンではない。こう見えても百十七歳、立派な大人じゃ」 そう言って胸を張るのはショコラーデ・ロコ・ロックベルト。見た目は飛び切りの金髪美幼女だが、由緒正しき吸血鬼の名家の末裔である。 「つーかさぁ、それってロリババアってことじゃない。もしくは合法ロリ?」 「法的に問題ないのじゃから一挙両得ではないか? しかし、里衣。お主は相変わらず口が悪いのう。そんなことではチノにいつか嫌われるぞ」 「うるっさいわねー、千乃が私のことを嫌いになるわけないじゃない。ねー?」 里衣はそう言って、自分の膝に座らせていた有葉千乃《あるはちの》を後ろから強く抱きしめる。それは二人の身長差もあって、まるでお気に入りのぬいぐるみを抱えているように見えた。 「く、苦しいよー、春ちゃん」 そんな熱い抱擁に、ショコラーデ同様に高校二年のクラスにいるにはどうにも場違いな一際小柄な少女(?)である千乃が、息苦しそうに答える。ただ、その言葉にとげは無く、相手に優しくお願いするような音色が含まれていた。 「チノが苦しんでいるではないか。やめよ里衣っ」 僅かに声を荒げると、ショコラがその小さな手で千乃を抱きしめる里衣の腕を引き剥がそうとする。 「ふぐぐぐ……」 能力を発揮するために必要な血を吸っていない状態の彼女ではびくともしないはずだったが、彼女の手に促されるように里衣の抱きしめる力が弱まっていった。彼女なりにやり過ぎたと思ったのだろう。 「ありがとうねショコちゃん」 それでもなお里衣に抱かれたまま、満面の笑みで千乃がショコラに答える。 「うむ、チノ。わしは由緒正しきバンパイアの末裔じゃからの。お主の危機を助けることなぞ、造作も無いことじゃ!」 ふふんと鼻を鳴らし、自慢げに語る。その言葉で千乃の顔が更に明るくなる。 「やっぱりショコちゃんはすごいねー。だよね、春ちゃん!?」 振り返り、自分を膝に乗せている里衣をニコニコと見つめる千乃。 「あ、うん……そうね」 だが、それに対しての里衣の反応は微妙だった。色々と複雑な気持ちがそこにあるのだろう。恐らく、それは妬みや嫉みそういったほの暗いネガティブな感情だ。 「ところで、みんなはさっきから何をやっているのかしら?」 このままでは話が一向に進まないであろうことを悟った清純は、今度はわざとらしくその場にいる全員に聞こえるように大きくため息をついてから、彼女たちにそう質問する。 理由は、目の前で繰り広げられている光景が理解できなかったからだ。いや、大体の察しは付いていたけれど、一応確認しておきたかったのだ。 「――ん!? ああ、これね。この覗き魔を真っ二つにしたら、どうなるのかの実験。ほら生物の授業でもやったじゃない?」 先ほどの不安定な表情は何処へやら、里衣がカラカラと笑いながら床にある物体を指差していた。 「俺はプラナリアじゃないんだけど」 彼女が指差した先には、両手足をダクトテープでグルグル巻きにされたロシア人留学生のイワン・カストロビッチが、悲痛な面持ちで薄ら笑いを浮かべていた。 「あらそうなの? みんな、ホドホドにしなさいね。それと、真っ二つにするならやっぱりチェーンソーか斧がいいわね。……それとジョギリもいいけど、あれは東宝東和さんに怒られるから使っちゃ駄目よ」 清純は特にとがめることも無く、切れ長の目を更に細めながら、目の前に広がる光景を楽しそうに見つめる。 「ちょ、ちょっと、これはどう見てもイジメじゃねーか。そういうのはクラス委員長として見過ごしちゃいけないんじゃないか? ほ、ほら、日本には古来から有名な格言だってあるんだろ。『イジメ、かっこわるい』とかなんとかさ」 身動きが取れないながらもジタバタと両手両足を動かし、清純の足元へとにじり寄っていく。この勢いなら、この場から助かるためならば彼女の足さえも舐めるかもしれない。 「でも、覗きはいけないことよね?」 彼女は足元に横たわるイワンの目線に合わせるようにしゃがみこむと、微笑みながらやさしくそう語りかける。声のトーンも柔らかで、顔も笑ってはいたが、その奥の瞳だけはシベリア奥地の凍結大地よりも冷たいとイワンは感じていた。 「いや、あの、ほら……覗きは男の浪漫だから」 「そうね、人生においてエロは大事よねえ」 「だ、だろっ!?」 「でも、往々にして罰が下るものよ。因果応報、自業自得、勧善懲悪。どんな映画でも最後には酷い目にあうものよ。SEXをしてるカップルは必ず殺されるでしょ? まあ、ナムエンジェルズみたいに一番の外道が生き残るってパターンもあるにはあるけど……」 「俺は時々、委員長の言っていることが分からないことがある」 「あらそう? まあ気にしないで」 そう言って、彼女は立ち上がり、イワンから離れていく。イワンが声にならない悲痛な叫びを上げるが、彼女はそれを無視することにした。 何故なら、彼女にはイワンがその気になって能力を使えば、拘束から抜け出すことが可能なのも知っているし、真っ二つにされたところで死ぬことがないというのも分かっていたからだ。彼がそうしないのは、彼なりの反省の姿勢なのだろう。 それと、逃げ出さないもう一つの理由。それは、顔に青痰や赤痰、引っかき傷を作り、よりいっそう不気味な顔になった巨漢の男、雨申蓮次《うもうれんじ》が見張っていたからだ。彼の能力はイワンにとって相性の悪い能力の一つだった。 ちなみに、蓮次の顔が傷だらけなのは彼も共犯者だったからである。天井裏に忍び込むための脚立代わりにされたのだ。なんにせよそれは、半ばイワンに強引に誘われての結果ではあったので『お咎め』はこの程度で済んだのだが、それなりに下心もあったようである。彼は赤子も泣き出す強面であっても、心は純なムッツリスケベだったから。 「さあ? ワンコ、やっちゃいましょう!」 「それじゃあーっ!!」 ワンコと呼ばれたパーカー姿の少女が、嬉しそうに尻尾を振りながら、どこから持ってきたのか大型のチェーンソーを構えると、そのリコイルスターターのノブを力任せに引っ張る。すると、2ストエンジン特有のビリビリとした小気味よい音と白煙を吐き出しながらソーの部分が獲物を求めるように回転し始める。 「ちょっと待て、ちょっと待てって。なんでそんなものが教室にあるのかな!?」 「うーん……。掃除用具のロッカーだったかな?」 小首を傾げ一瞬悩むが、思い出せなかったのか、はたまた考えることが面倒になったのか、彼女は純真無垢な笑顔で、食人家族の末弟よろしくチェーンソーを上段に構える。 「だからね、どーして、そんなものが入ってるのかなぁーっ?」 ゆっくりと唸りを上げて迫ってくるチェーンソーとそれを持った少女、大神壱子《おおがみいちこ》の顔を交互に見ながらイワンは大声で叫ぶ。 「そりゃ、この世界から掃除するためじゃない? あんたみたいなゴミを」 しれっと、悪びれることもなく酷いことを言う里衣。 「あ、そこはほら、男として大事なところだからね、あ、いや……ら、らめえぇぇぇ!!」 「はーい、そこまでよー」 清純は壱子からチェーンソーを取り上げ、手際よく発動機を停止させると、ぎこちない歩き方で教室の後方に並ぶ個人のロッカーの前まで進むと、自分のロッカーへとそれを放り込む。どうやら、彼女の私物のようだった。 「な、なんでそんなの持ってんだよ?」 ダクトテープの拘束からいつの間にか逃れたイワンが、彼女たちの輪から離れ、怯える犬のように蓮次の後ろに隠れて叫んでいる。当の蓮次は、更に厄災が降りかかるのではないかと迷惑そうであった。 「え? なんでって当たり前でしょ」 清純はおかしなものを見るような不思議な表情をイワンに向けると、再びロッカーの方へと向きなおし、ロッカーの中から色々なものを引っ張り出してくる。 「これがハロウィン用のマスクと包丁でしょ? こっちはバレンタイン用のガスマスクとツルハシ……これはチェーンソーとセットのレザーフェイスね。ホッケーマスクにキャッチャーマスク、あとは……」 彼女の目の前に山積みになっていく様々な道具。チェーンソーやナイフの類はもちろん、巨大な植木ばさみや刃の部分ががギザギザになった巨大な牛刀、銀色の球体など、実に多彩で、一般の人からすれば、それらは全く一貫性があるとは思えなかった。少なくともどれもが彼女には共通的な意味があるらしい。なんにせよ明らかに学業に不必要なものばかり持ち込んでいるのに没収されていないことが不明である。 「いやいやいやいや、委員長。言っている意味が分からないのだが……。それ以前にその量がそこに収まってるという事実も良く分からねえぞ!」 「決まってるでしょ」 「なんだよ?」 「女の子には男の子より隠すところが多いからよ」 清純はしなを作りながらお茶目な表情でウインクをする。まあ、それ以前に相当に近寄らないとウインクしたかも分からなかった。 「屈託のない笑顔でそんな下ネタを言うなよぉ……」 酷くガッカリした表情で、肩を落とすイワン。男女問わず(特に召屋正行《めしやまさゆき》を)愛すると公言している博愛主義者の彼でも、それなりに女性には理想があるようだった。 「あら? エロとグロとバイオレンスは映画にはつきものよ。この三つのどれが欠けていても駄目なの。映画の探求者として、私自身もそれを隠すことはないわ」 清純はビシッと右手の指を三本突き出す。 「いや、隠そうよ」 間髪いれず情けない顔のイワンが間髪いれずに突っ込みを入れる。 「日本の映画とはそういうものなのかの、チノ?」 一方、二人のやり取りを不思議そうに見つめるショコラーデが、近くにいた千乃に質問する。 「さあ。どうなの春ちゃん?」 「清純の言っている“映画”は私たちの知っている映画とは違うんでしょ……」 明後日の方向を見ながらうんざりとした表情で、めんどくさいとばかりに里衣はそう適当に答えることにした。 「ところでのう。何故あやつは変な歩き方をするのじゃ?」 先ほどの清純のぎこちない歩き方を不思議に思ったのか、ショコラーデが思いついたように里衣たちに向かって再び問いかける。 「ああ、清純は義足なのよ。一応、能力者が彼女のために設計した特殊な義足なんだけどね。普通に走ったり、跳ねたりするのはちょっと苦手なのよね」 「なるほどのう。あやつも大変なのじゃのう」 「そんなことはないわよ。ロックベルトさん。これでも結構気に入っているのよ」 そう言いながら彼女の言葉を耳ざとく聞きつけた清純はスカートを捲し上げて、ニーソックスとスカートの間に隠れていた義足の部分を彼女にはっきり見せようとする。その行為にクラス中の男子がどよめき、なんとかスカートの奥にあるものを見ようと一斉に姿勢を低くし始めていた。 「ほほう、今日のパンツは紺か……」 いつの間にか絶好のポジションを陣取っていたイワンが、興味深い生態を発見をした生物学者のように深く重く意味深げに呟く。一方、蓮次は明後日の方向を見ながら、何事か真剣に思い悩んでいるようだった。 ただ、彼のそれは僧侶の達観した禁欲的な清清しい思考などではない。 (ふう……。斎藤道三×《と》北条早雲はやはり心《こかん》を落ち着かせるものだなあ) などと、海綿体の膨張を防ぐためにワケの分からない妄想に躍起になっていただけであった。 一方、そんな煩悩満載の男子陣をよそに、顔を真っ赤にしながら里衣が必死にスカートを押さえようとする。 「あーっ!? もうだから、そういうの止めなさいって言ってるでしょ?」 だが、清純はその行動を不思議そうに見つめ、スカートを下げようともしない。 「大丈夫よ、下の毛はちゃんと処理してるから」 「そぉーいう問題じゃなないでしょー!?』 珍しく、里衣の怒声が揃って教室に鳴り響く。 そして、そんな馬鹿どもの喧騒から少しだけ離れたところで、ささやかな事件が起こっていた。 「委員長ー! 幸人《ゆきと》くんが、また鼻血を出してる!!」 「また貧血で倒れたの? いつも悪いけど、お願いね」 清純の言葉に従って、一人の女子が大きな血溜まりを作って突っ伏している少年をやさしく抱え上げ、教室から出て行く。その一連の行動は、このクラスでは良くあることなのだろう、運んでいった少女も周りのクラスメイトも特に大きく驚いた様子はなかった。 ただし、一人だけは違った。 「だっっっから、言ったでしょっ!? 清純、あんたってば、どうして軽々しくそういうことをするの? ここにはろくでもない男子も沢山いるのよ。それなのに……」 いつもは皮肉ったり揶揄する立場の春部里衣が注意する側に立って、ねちっこく説教をする。おそらく、二年C組の面々が、中でも毎度毎度イジられてる召屋正行がこの光景をみたらさぞや驚くだろう。 そんなことを思いながら、有葉千乃は満面の笑みでその光景を見守っていた。 「あのー、どうして雨申くんの顔はそんな酷いことになったんですかあ? あっ!? そういうことじゃないんですよ。怪我のことを聞きたかっただけで、顔が酷いという意味では……。いえ、雨申くんの顔が酷いとか言っているわけじゃなくてですね……」 ホームルームでクラスを訪れた担任の練井晶子《ねりいしょうこ》が、いつものように、いつものごとく、勝手に妄想を暴走させて、一人慌て、困っていた。 『これさえなければ生徒思いのいい先生なのに……』 口下手ながらもこれ以上酷いことにならないようにと一所懸命に嘘の説明しようとしている蓮次以外のクラスメイト全員がそう思い、憂鬱な気分になっていた。 そんな長く憂鬱なホームルームが終わった後、クラス委員としての仕事や担任の練井晶子の仕事の手伝いを行っていた鈴木清純の帰宅はすっかり遅くなっていた。 日は完全に落ち、街灯が街並みを薄暗く照らしている。どこにでもよくある夜の街の風景。頬に当たる海風も肌寒い。いつもボディガードと言って憚らず付き従う蓮次もバイトがあるということで彼女の側にはいなかった。 そんな時だ。清純は自分を見つめる僅かな気配を感じ取り、歩みを止める。 だが、彼女の耳には自分の足音はもちろん、他の人どころか猫の子一匹の足音すら聞こえてこない。いや、正確には様々な交通の音や様々な雑音は聞こえてはいたのだが、それ以外の異質な音が存在しない。 彼女はそういった当たり前の音と異質な音が紡ぐ音が区別できないほどに鈍感ではない。 念のためにと振り返ってはみるが、そこにはやはり人影はなく、薄暗い街灯に照らされた不気味な世界が広がっているだけだ。 清純は再び歩き出す。歩みを早めようとするも、右足が義足の彼女では思うようにならない。気持ちばかりが急いて、身体が付いていかない。 そして、再び違和感が彼女を襲う。やはり、もう一人。自分の他にもう一人歩いているのだと清純は理解する。自分の不規則な足音に僅かにずれて、別の規則的な足音が僅かにズレて聞こえてきたからだ。 (ストーカー? 通り魔? 変態? 連続殺人鬼? まあ、なんにせよストーカー以外はドラマチックな展開だわねえ……。変態の殺人鬼に陵辱されて、道端に打ち捨てられた私は半死の状態で助け出されるの。そして、数年の月日を経て、ようやく犯人を追い詰め、それはそれはバイオレンスな復讐を成し遂げ……) 「な、わけはないわよねえ」 そう呟きながら、彼女は突然左足を軸にした後ろ回し蹴りを誰もいないはずの空間に叩き込もうとする。短めのスカートがはためき紺色の下着が露わになる。 もちろん、蹴りは空を切る。だが、蹴りの勢いを使って振り返った彼女の瞳には、飛び退いている猩々のような不気味な生き物が映っていた。 「あら、外れた? 残念」 彼女はクスクスと笑いながらも、自分の蹴りをかわし、絶妙な距離を取っている不気味な生き物の正体を見極めようと、その視線を僅かにも逸らすことはなかった。 「人……と言うにはちょっと醜悪かしら?」 彼女はそう呟く。まさしくその言葉通りで、その生物は猿と人間、どちらとも違っていた。髪の毛どころか体毛は一切なく、血色の悪そうなぬめりのある紫色の皮膚で全身が覆われていた。幼児程度の小さな身体から生えた不釣合いで長さの揃わぬ四肢は異常に長く痩せ細っていたが、不気味な皮膚の下には針金を巻いたような細くても強靭な筋肉がみっしりと詰まっていることが伺えた。異常なまでのアンバランス、怖気をもよおす異形の姿。なにより、その異様さを決定付けているのはその巨大な頭部だ。ジャガイモのような歪な形状にぽっかり穴のあいたような耳らしきもの、更に顔面の三分の一はあろうかという双眸は白く濁り、生気はなく焦点も定まっていない。鼻らしきものは見当たらず、その下には象牙色の汚らしい歯を不規則に並べた口がぽっかりと開いている。 「あらいやだ、随分とゴクリゴクリと鳴きそうな化物《ラルヴア》ねえ」 笑顔でそう言いながら、清純は相手の次の動きを予測し、半歩ほど後退る。義足を前にしながら……。 空気が張り詰め、一気に弛緩する。 「ガァァァァッ!」 叫びながら、化物《ラルヴア》がその四肢に秘めたバネのような跳躍力を使い、一気に間合いを詰め、彼女へと襲い掛かる。 清純は回避するのが間に合わないと見るや、手に持った鞄を力一杯|化物《ラルヴア》に投げつける。 だが、化物《ラルヴア》はその鞄をぽっかりと開いたアギトで噛み潰し、後ろへ吐き捨てものともせずに近づいていく。そして、その間にも両腕が不自然に伸び、彼女の首をへし折ろうとその速度を増す。 (モウ……少シ……デコイツノ首ヲ……) そう化物《ラルヴア》が思った瞬間だった。 『――ミシ』 化物《ラルヴア》の両腕から不気味な音が体内に響き渡っていく。そして、それに僅かに遅れ感覚も伝わる。 激痛。 化物《ラルヴア》は自分の身に起きたことに驚き、異様な方向に曲がった両腕を庇いつつ、苦痛でその場にのたうち回る。恐らく、手頃な相手と侮っていたのだろう。 「手癖の悪い子はお仕置きしないとねえ」 街灯で鈍色に輝く義足である右足を美しく凛と掲げながら、清純は涼しげに微笑んでいた。 そして、彼女はゆっくりと足を下ろすと、その足を使って人在らぬ跳躍力で飛び退くと化物《ラルヴア》との距離を自分の有利な間合いに保持する。 彼女はこの超科学の能力によって作られた義足が使えないのではない、自分の魂源力《アツイルト》を上手くコントロールすることができないだけなのだ。そのため“両足”で走ったり、跳んだりすることができない。ぎこちなく歩くか、能力を全開にして圧倒的な脚力を発揮するかの二択。それが彼女の能力だった。 「ゴメンなさいね。でも、貴方も私の鞄を台無しにしたから引き分けよねえ?」 清純は相手を気遣い、心配そうに声を掛ける。表情もそれらしく慈悲に溢れるものであったが、瞳の奥はそれとは真逆に憐憫の欠片も無い冷徹なものだった。 「オ…前、カタキ…。俺、頃…ス」 「そうなの? それは困ったわ。私も無駄な殺生はしたくはないのだけれど」 困ったような表情で彼女は眉間に皺を寄せる。 そして彼女の周りに弧を描くように埃が舞う――。 清純は化物《ラルヴア》の目の前まで瞬く暇も与えぬ速度で移動すると、まだ空中にある身体を胴回し蹴りの要領で一回転させ、そのまま義足を使って頭部めがけ躊躇無く踵落としを放つ。 化物《ラルヴア》顔面がアスファルトに叩き付けられ、醜くひしゃげる。周囲に飛び散った吐瀉物と血と粘液が異様な模様が描く。 だが、それだけのダメージを受けてもなお、化物《ラルヴア》は立ち上がろうとしようと足を動かそうとしていた。 もちろん、そんな動きを清純が見逃すはずもなく、その頭部を義足で強く踏みつける。 「動いたら、どうなるか分かるわよね?」 「汚・マ・エ、仇……」 僅かに表情を歪める。やはり、彼女自身、仇と言われることに納得いっていないのであろう。 「私は貴方のような化物《ラルヴア》に仇と呼ばれる記憶はないのだけれど。どういうことかしら」 的を射てない答えに、苛つくように彼女の右足の力が強まる。ミシミシという骨が歪む音がする。 「――ガァッ!? オ、前ハアイツノ中マ。相ツナカマ、許サナイ」 その言葉を聞いた瞬間、何かを思い出したのか、清純の瞳が大きく見開かれる。 「なるほどねえ。思い出したわ。“蓮ちゃん”にちょっかいを出した子《ラルヴア》ねえ。それは許せないわよねえ」 彼女は化物《ラルヴア》の言っている意味を理解して、いつも以上に微笑む。 「それで、貴方たちのボスは何処にいるのかしら?」 彼女は化物《ラルヴア》を見下しながら、右足の力を弱めることもなく、慎重に答えが出るのを待った。 だが……。 「オ、オ前ニ話スクライナラ市ンダホウガ増シダ」 「あらそう。じゃあ……おやすみなさい」 化物《ラルヴア》の頭部に圧し掛かった彼女の義足に更に力が加わる。 「ア、ガ…………」 化物《ラルヴア》が苦しそうな声を上げた瞬間、その頭部はスイカを散弾で撃ち抜いたように粉々に四散する。頭蓋骨らしきものの破片と共に脳漿と血が四散し、赤とピンクの不気味な幾何学模様を地面に描いていた。 踏み潰され、思考すべき頭部を無くしたそれだったが、驚くべき生命力で四肢をバタつかせる。それの姿はまるで自分の頭部の欠片を探しているように見える。 清純はその間抜けな姿を冷淡な目でじっと見つめながら、隙なく自分に有利な距離をとる。人型とはいえ、頭部が破壊されて死なない場合も可能性としてはあったからだ。 しばらくするとそれは大きくビクビクと痙攣を起こし、糸の切れた操り人形のように力なく四肢を下ろし完全に動かなくなる。 「参ったわねえ。クラスのみんなは大丈夫かしら……」 双葉学園徒専用の生徒手帳型PADをいじりながら、そう彼女は呟く。今さっき彼女に降りかかったこの事件は、文化祭の前夜から始まって今でも続いているのだ。 清純は、文化祭期間中に雨申蓮次の身に起きた出来事を思い出していた……。 トップに戻る 作品保管庫に戻る
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amazonで探す @楽天で #彼女の恋文 を探す! テレ朝 2006.03.17 Hulu NETFLIX dTV PrimeVide U-NEXT TVer Paravi GYAO youtube検索 / Pandora検索 / dailymotion検索 / bilibili検索