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5/10発売 6/8 絶版回収発表
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「彼と彼女の外道な日常。」 月夜の綺麗な夜のこと。人里から遠い、湖に囲まれた豪邸。 カツン、カツン 鋭いヒールの音が静まりかえった邸内に響き渡る。 紫色の髪に猫耳、赤いドレスを着た女。彼女の名はキルキル。 他人の不幸から甘い蜜を作り出すことのできる能力者。 その能力を使い、様々な人間を貶めて蜜集めをしている。 「あの人はどこへ行ったのかしら…」 邸内に人の気配はなく静まり返っている。 周りを見渡しながら顔をしかめる。 「汚いわね…嫌になるわ。」 床に横たわる死体、血がついた壁。 そう、生きている人間の気配は…ない。 グサッ ある一室で鈍い音が聞こえてきた。 部屋に入ると月光に照らされた白髪の長髪の男の姿がそこにあった。 窓は割れ、壊れた家具が散らばる荒れ果てた部屋に佇む一人の男。 「終わったかしら?」 「えぇ、今終わらせたところです。」 クックックと不気味に笑う青白い顔の男。彼の名前はネスリミッジ。 人を裏切り、他人の不幸を見て楽しむのが趣味。 キルキルとは数ヶ月ほど前に出会い、利益が同じの仕事仲間として手を組んでいる。 しかし、お互い相手は信用していない。利用できるかできないか、それだけの相手。 「殺すのに手間がかかったのかしら?随分遅かったわね。 どうせ貴方のことだから遊んでいたのでしょうけど。」 ネスリミッジが今しがた殺した相手を見ると、一突きで殺されたとは思えない傷の数だった。 また甘い言葉で囁き希望をちらつかせ、絶望に突き落としたのだろう。彼がよく使う手段だ。 まぁ、そのほうが蜜も甘く美味しくなるから好都合なのだけど。 胸元から小瓶を出し、溜まった蜜を確認する。 「ククッ…蜜は程よい甘さになったようですねぇ。」 それでは行きましょうか、とネスリミッジは部屋を出ようとしたが、キルキルは動かなかった。 部屋の隅に置かれた古びた鏡台に何か惹かれ目を離すことができなかった。 …なんなの、この鏡。私は古ぼけて曇ったこの鏡のどこに惹かれたのかしら。 「キルキルさん?その鏡がどうかしましたか?」 「なんでもないわ。ただ少し気になっただけよ。行きましょ…」 突然鏡から眩しい光が放たれ、2人は目が眩みしばらく動くことができなかった。 徐々に目に色が戻り、警戒しながらゆっくりと目を開ける。 そこには先程の荒れ果てた部屋とは思えない整えられた部屋の光景があった。 部屋の作りは先ほどの荒れ果てた部屋と変わらないところを見ると、同じ部屋だろう。 突然の出来事に少し言葉を詰まらせていると、ネスリミッジが言った。 「ここは先程の部屋ですね。しかし私達がいた時代より何年も前の、ですが。」 カウンターの上の小さな卓上カレンダーを手に取りながら冷静に景色を見ている。 部屋の中央に置かれたベッドはシーツにしわひとつなく綺麗に敷かれている。 机の上には飲みかけのグラス。先程まで人が使っていたかのような。 だが、人の気配はしない。開け放たれた窓から鳥の鳴き声だけがやけに聞こえてきた。 「つまらない場所ね。戻りましょ。また鏡を見ていたら戻れるかもしれないわ。」 キルキルは冷めた様子で後ろ振り返った。が、そこに鏡台はなかった。 数年前はこの場所にあの鏡台はなかったのだろうか。 「これはこれは。すぐに戻ることは困難のようですね。」 「本当、つまらない場所ね。」 キルキルはもう一度、吐き捨てるように言った。 しばらく邸内を歩き回ったが、人の姿はおろか、動物一匹見かけなかった。 外から鳥の声は聞こえるが、姿は見えない。まるで音だけがしているかのようだった。 部屋を一つ一つ調べ、鏡台を探す。そして次の部屋へ。繰り返しの作業が続いた。 「本当にこの屋敷に置いてあるのかしら。」 うんざりした様子でガチャッとドアを開けると、そこには小さな女の子が泣いていた。 少女の前に胸から血を流し横たわる女性。少女と髪色が似ているところを見ると母親だろう。 銃で胸部を数発撃たれて死んだようだ。まだ死んでから時間は経っていない。 少女が2人に気づき顔を泣きながら見上げる。 「お姉さんたち…ぐすっ…さっきの人のなかま…?」 「さっきの?さぁ、私達をそこら辺の人達と一緒にしないで頂戴。」 「ひぐっ…お母さん殺されちゃったよぉ!お母さんを返してよぉ!」 少女は泣きながら母親だったものにしがみついた。 すると、ネスリミッジが少女の前に行き、怪しげに言った。 「貴女は、お母さんに会いたいですか?」 「会いたい!お母さん生き返―――」 希望の表情を見せた少女の言葉は最後まで続かなかった。 なぜならその時にはすでに首と体は別々になっていたから。 少女の首は絨毯の上を転がり、部屋の隅で止まった。 「これで母親に会えますねぇ…めでたしめでたし、です。」 「ちょっと、血が飛んできたらどうするのよ。」 「ククッ…すみません…。私の好きな悲鳴ではなかったので少々耳障りでしたので…。 それに、大切な物を失った絶望は死で癒すしかないでしょう?」 「…そうね。」 ふと、首の転がった先を見ると、そこには先程の鏡台があった。 手入れが施されピカピカの新品同様だったが、間違いなくあの鏡台だ。 「少女がお礼に教えてくれたのでしょうかねぇ…クックック。」 「そうかしら。どうでもいいわ。さっさと行きましょう。」 2人は鏡台の前に立ち、鏡を見つめた。先程と同じ光が放たれ、あたりは白に包まれる。 目を開けるとそこは廃墟と化した一室だった。 「戻って来れたようね。一体なんだったのかしら。」 「先程の少女の思念、だったのかもしれませんねぇ…。」 部屋には白骨化した大人の骨と子供の骨。さっきの親子のものだ。 きっと少女はあのまま母親から離れず餓死したのだろう。 少女の母親への想いがあの鏡を通し、2人を過去に連れていった。 今もきっと成仏できずにこの屋敷をさまよっている。 「貴方の顔って本当に青白いわね。」 「クックック…何を今さら。」 「さっき鏡を見て思っただけよ。本当に気持ちが悪いわ。」 「では、行きましょうか。次の予定もありますから。」 2人はいつもと変わらぬ様子で屋敷を後にした。 この後の予定はディナーを食べながら鑑賞会。 幸福だった者が絶望の底に落ちる様子を鑑賞しながらの食事。 彼らは今日も蜜を集める。甘い不幸の蜜を。 ~お借りしました~ キルキルちゃん (ぽて宅) なんだかグダグダになってしまった感がYABEEEEE!!!w とりあえず、あれ、完全に仕事の2人を書きたかった! まぁ、例の場所ではどうなっていることやら…///フフリ キルキルちゃん大好きすぎて!(*^ω^*) ネスリミッジは一体いくつなのか!そこが問題だ! きっともう█████████ぐらいはいってるんじゃないかな← またお借りしたい!ヾ(*・ω・)ノってか借りるに決まってる!(笑)
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あいかぎ 〜ひだまりと彼女の部屋着〜 登場人物 コメント 2002年8月30日にF C FC02より発売された恋愛アドベンチャーゲーム。 PCとDCは18禁だが、同年9月25日にはプレイステーション2版が発売された。 登場人物 未定:村瀬孝司 ダイノーズ:葉月彩音 使い手のツツジは教師繋がり マーシャドー:村瀬孝司 引っ込み思案なので バシャーモ:室井祐希 某ライバルの名前から 技:ブレイズキック コメント 名前 コメント すべてのコメントを見る 草案 ドサイドン:葉月彩音 教師 -- (名無しさん) 2019-08-14 08 51 03
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『僕と彼女の記念塔』 第二章~ニャンタと佐織地元で育む愛の回 前~ 佐織 ▶ 今度記念塔デートしようね^^ 黒川にゃん太 ▶ うわぁw 佐織 ▶ 近いんでしょ?w 猫コ ▶ ww 黒川にゃん太 ▶ 記念塔wwwwwwwww 黒川にゃん太 ▶ ちょwww 黒川にゃん太 ▶ トレーニングコースw 佐織 ▶ 家から見えるって言ってたもんね☆ 黒川にゃん太 ▶ うわぁw 黒川にゃん太 ▶ 記念塔w ೡルナೡ ▶ デートしてらぁ~ 黒川にゃん太 ▶ なんで知ってんだw 猫コ ▶ にゃんたトレーニングしてんの?何のために?・・ぶくく 黒川にゃん太 ▶ 言ってたっけかw ೡルナೡ ▶ ちゃんと手ぇつなげよw 黒川にゃん太 ▶ 記念塔の話なんてしたんだなw 猫コ ▶ 恋人つなぎw 黒川にゃん太 ▶ テラ地元w 黒川にゃん太 ▶ しねーよきめーなw 猫コ ▶ wwwwwwwwww 黒川にゃん太 ▶ 同姓w 猫コ ▶ 同性愛者1万8千人いるからだいじょぶb 佐織 ▶ 〇階の展望室行こうね^^ ೡルナೡ ▶ 佐織ちゃん色白でかわいいよ~ お肌もきれいでww 黒川にゃん太 ▶ ww 黒川にゃん太 ▶ うわw 猫コ ▶ ぴちぴちw 黒川にゃん太 ▶ 佐織マジ自重w 黒川にゃん太 ▶ 記念塔ネタ自重w 黒川にゃん太 ▶ すげぇこと言ってるなw 猫コ ▶ 「自重」を自重w 黒川にゃん太 ▶ www 黒川にゃん太 ▶ いやぁw すげぇw 佐織 ▶ 〇成高校の近くだよね?w 黒川にゃん太 ▶ うわわああああああw 猫コ ▶ wwwwwwwwwww 黒川にゃん太 ▶ 待てwwwww ೡルナೡ ▶ wwwww 猫コ ▶ 詳しいw ೡルナೡ ▶ リアルだwww 黒川にゃん太 ▶ 佐織の口からそれはやべぇw 佐織 ▶ 駅は確か〇〇公園駅の近くw 黒川にゃん太 ▶ わあああwww 猫コ ▶ 佐織ちゃんが迎えにきてくれるってw 黒川にゃん太 ▶ アワワワワw 黒川にゃん太 ▶ そこw ೡルナೡ ▶ そこまで教えてたんだw 黒川にゃん太 ▶ いつも乗るところw 黒川にゃん太 ▶ ちょい待てやw ೡルナೡ ▶ 会う気満々だったのねw 黒川にゃん太 ▶ すげぇぞw 佐織 ▶ 車だと〇号込むかな? 黒川にゃん太 ▶ うわあwwww 黒川にゃん太 ▶ 〇号線wwww 黒川にゃん太 ▶ 佐織wwまてw 佐織 ▶ なぁに? 黒川にゃん太 ▶ あまりにもこんなになんかw 黒川にゃん太 ▶ 話題が近いと焦るw 猫コ ▶ すげぃwww 黒川にゃん太 ▶ 変な汗かいてきたw 猫コ ▶ まだいけると思います^^ 黒川にゃん太 ▶ ちょっともうアレだw ೡルナೡ ▶ うんうん ೡルナೡ ▶ o(-`д´- 。)ヵ゛ンハ゛レ 猫コ ▶ だんだん近づいてくるよ^^ 黒川にゃん太 ▶ もうギブw 猫コ ▶ 家に^^ ೡルナೡ ▶ はえーよw 黒川にゃん太 ▶ うわぁw 黒川にゃん太 ▶ 地元ネタ自重www 黒川にゃん太 ▶ そこまじ地域だから自重w 猫コ ▶ メリーさん佐織ver. 黒川にゃん太 ▶ リアル自重w 猫コ ▶ 自重自重ーw 黒川にゃん太 ▶ マジワラタw 佐織 ▶ マックス〇〇〇で晩御飯の買い物しようね^^ 黒川にゃん太 ▶ わぁw ೡルナೡ ▶ wwwww 猫コ ▶ wwwwwwwwwwwwwwwwwwwww 黒川にゃん太 ▶ もうやめてw 黒川にゃん太 ▶ こりゃひでーw 佐織 ▶ 何食べようか? 猫コ ▶ なに食べる?カレー?w 黒川にゃん太 ▶ なんも食わんわw 佐織 ▶ カレーがいい? 黒川にゃん太 ▶ カレー顔にぶっかけるw 佐織 ▶ 食べた後は歯磨きしなきゃだめだぞ☆ 黒川にゃん太 ▶ どっか行けやw ೡルナೡ ▶ 佐織の手作りカレー食べなよw 猫コ ▶ そーいうプレイなのねー 黒川にゃん太 ▶ プレイとかモウナイw 黒川にゃん太 ▶ 高校名ワラッタw 猫コ ▶ 佐織ちゃん超かわゆw 佐織 ▶ 頑張っちゃうよ^^ 黒川にゃん太 ▶ 朝餉からこんな言葉出てくるとはなぁw 佐織 ▶ あ、でもそろそろしまっちゃうか・・・ 黒川にゃん太 ▶ ?w 猫コ ▶ wwwwwww 黒川にゃん太 ▶ www 佐織 ▶ 記念塔w ೡルナೡ ▶ wwww 猫コ ▶ 閉店時間wwwwwwwww 黒川にゃん太 ▶ やめろやw 佐織 ▶ 11月までだよね^^ 猫コ ▶ 閉鎖かw 黒川にゃん太 ▶ 雪ふるからねw 黒川にゃん太 ▶ でも歩いていけるしダイジョウブだよw 佐織 ▶ 時計台も行こうね^^ ೡルナೡ ▶ 歩いて行くんだ?寄り添ってwww 黒川にゃん太 ▶ スケボーしに行ってたわw 佐織 ▶ あと〇〇神宮^^ 黒川にゃん太 ▶ うわw 黒川にゃん太 ▶ いかねーよ一人でいけやw 猫コ ▶ wwwwwwww 黒川にゃん太 ▶ ぜってーいかねーぞw 佐織 ▶ 〇〇公園温泉入ろうか^^ 黒川にゃん太 ▶ wwwwww 佐織 ▶ 近いし^^ 黒川にゃん太 ▶ うわぁwwwwww 黒川にゃん太 ▶ ちょっと待てw 黒川にゃん太 ▶ もうダメだw 黒川にゃん太 ▶ ギブwwww 黒川にゃん太 ▶ 悪かった沙織ちゃんw 猫コ ▶ 名前違う 黒川にゃん太 ▶ もうゴメンネw 猫コ ▶ 佐織 黒川にゃん太 ▶ あぁゴメンw ೡルナೡ ▶ www 黒川にゃん太 ▶ もう全部ゴメンw 黒川にゃん太 ▶ 許して悪かった全部悪かったw ೡルナೡ ▶ 全部ゴメンって省略しすぎww 猫コ ▶ wwwwwwwwww 黒川にゃん太 ▶ w 佐織 ▶ タオルとか有料だから持ってくねw 猫コ ▶ すごすぎるwwwww 黒川にゃん太 ▶ なんで見てんだよwww ೡルナೡ ▶ こんな優しいのに 黒川にゃん太 ▶ 持ってくなw 黒川にゃん太 ▶ もうくんなw ೡルナೡ ▶ 温泉男女別なの? 黒川にゃん太 ▶ そこらへんみんあよw 黒川にゃん太 ▶ 別じゃw ೡルナೡ ▶ 残念だね~ 黒川にゃん太 ▶ もうそこらへん見るなよw 黒川にゃん太 ▶ そこらへん見るなよw 猫コ ▶ 2回目w ೡルナೡ ▶ 佐織ちゃんと一緒に入れなくてww 黒川にゃん太 ▶ w 黒川にゃん太 ▶ 見るなよw 黒川にゃん太 ▶ 戻って来いw 黒川にゃん太 ▶ オイw 黒川にゃん太 ▶ そこらへんもういいいよw ೡルナೡ ▶ wwww 黒川にゃん太 ▶ さー話そうかw ೡルナೡ ▶ 必死だなww 黒川にゃん太 ▶ 別の話しよーかw 黒川にゃん太 ▶ 地元ネタはきついw
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088話 彼と彼女の不運 余計なことは考えないよう努めながら、歩き続けた。 手掛かりは、彼女の痕跡だけ。 生命の失われた体から、ヒロコは血を流していた。今では、もう流れる血もなくなってしまったろうけれど。 血の滴った後を辿って、彼女が元来た方向へ歩く。 アスファルトの上には点々と黒ずんだ血の跡が、そして時々ガラスの小さな破片があった。 ザ・ヒーロー達に出会う前、ガラスが割れる音を聞いたことを思い出す。 恐らくヒロコはどこかで彼らと争い、ガラスに突っ込んだのだろう。 そういえば、伽耶と呼ばれていた少女が彼女を鉄パイプで刺したと言っていた。 大量の血が流れ出ていたあの傷は、その時のものだろうか。 だとしたら、血の跡を辿っても判るのは格闘の現場までだ。ヒロコがどこで殺されたかは判らない。 (……待てよ) そこまで考えが行き着いたところで、ふと気付く。 ヒロコの体には、鉄パイプで刺された痕とガラスが刺さっていた以外、目立った外傷はなかった。 つまり――彼女は少なくとも、血の出るような殺され方をしたのではないのだ。 銃や刃物ではない。鈍器だとしても、命を奪うほどの一撃なら傷は残りそうなものだ。 火傷や凍傷の痕もなかったから、炎や氷結の魔法でもないだろう。 彼女はこの状況で見知らぬ相手を簡単に信頼するほど愚かではないから、食品類に毒を混ぜられた線も薄い。 毒ガスのような物を使われたのだとすると、相手は自分が毒を受けない方法を確保していることになる。 が、武器として毒ガスを支給された人物に、毒消しやガスマスクが運良く支給されるとは考え難い。 そんな幸運が絶対ないとは言えないし、先に別の誰かを殺して奪ったのかも知れないが、高い可能性ではないだろう。 だとすると、考えられるのは解毒の魔法だ。 或いは、武器が毒ガスでないとすれば、ヒロコの命を奪ったのはそれこそ呪殺の魔法。 どちらにしても、敵が魔法の使い手である可能性は高いと考えておいていいだろう。 魔法が使えない自分がそれに対抗するには、何が必要か―― 「……ここ、か」 考えながら歩く内、戦闘の現場は見付かった。 向かい合わせになった二つの店のショーウィンドウが割れて、辺りに血が飛び散っている。 ガラスが割れる音はここから聞こえていたのだろう。光景を見ただけで、戦闘の激しさは想像できた。 しかしここには恐らく、もう誰もいない。こんな場所に長居したいと思う者はそういないだろう。 そして、ヒロコが最初に血を流したのはここだ。手掛かりは途切れてしまった。 あとは、勘を頼りにこの通りを進んでゆくしかない。 そういえばザ・ヒーローは双眼鏡を二つ持っていた。 ザ・ヒーローと伽耶、二人の支給品が同じだったとは考え難い。どこからか調達したのだろう。 だとすれば、双眼鏡がありそうな店を探せば手掛かりになるだろうか? そう考えて、また行き詰まる。この時代では双眼鏡がどんな店に売っているのか、想像もつかない。 ヴァルハラでなら、コロシアムの試合を後ろの安い席で見る客を当て込んでジャンク屋が売っていたものだが。 ここが異邦の地であることを、改めて思い知らされる。 (それこそケルベロスでもいれば、匂いを辿ってもらえるのにな) マダムから借り受けたケルベロスを伴って、スラム街に行った時のことを思い出す。 慣れない、治安も悪い場所だったけれど、あの時は今のようには心細くなかった。 ケルベロスも、仲魔もいたし、隣にはヒロコがいてくれたから。 けれど、今は側には誰もいない。記憶を失ってただ独りヴァルハラを彷徨っていた頃に戻ってしまったような気分だ。 そしてヴァルハラのような喧騒も、ここにはない。 栄えていた街であったろうに、この街並みには自分の足音の他には物音ひとつ聞こえない。 足を止めたら、誰かの声が聞こえはしないだろうか? ふとそんなことを思い付き、立ち止まる。足音が止み、辺りは完全な静寂に包まれた。 ――いや。 (……あれは?) 遠くから、ふと何かが聞こえた気がした。 最初は赤ん坊の泣き声のように聞こえた。が、赤ん坊などいるはずもない。 耳を澄まし、神経を集中する。聞こえる声は複数。言葉ではない、ただの声――鳴き声だ。 (カラス……か?) 鳥の名前はほとんど知らなかったが、カラスくらいは知っている。ヴァルハラに住み着いている数少ない鳥だったからだ。 カラスが漁るものといえば、ゴミと――死体。 それに思い至り、はっとして歩みを再開する。声の聞こえた方向はおぼろげにだが判った。 今まで歩いてきた道の中でも一際華やかな看板の並ぶストリート。繁華街と呼ばれる場所だったのだろう。 そこに人の気配がないのが、却って不自然で、不気味だった。 カラスの声の源はすぐに判った。道の片隅の何かに何羽ものカラスが群がっている。 不吉な黒い羽に覆い尽くされてはいても、それが何であるかの予想は付いた。 無言で近付く。カラスが気付いて威嚇の声を上げたが、構わず歩み寄る。 本来の住人の消えた街に、生き物はまだ取り残されていたのだろうか。 人間の出す残飯もなくなり、カラスも餓えているのかも知れない。人が近付いても飛び立とうとはしなかった。 「……どけよ」 距離が近くなり、黒い羽の隙間からちらほらと「それ」が垣間見え始める。 カラスに罪はない。彼らには人間の持つ倫理という概念はなく、「それ」もただの食料なのだ。 しかし人間の感覚は、この光景を惨たらしいものと感じる。 「どけって言ってるだろ!」 恐怖を紛らわしたかったのかも知れない。言葉が通じるはずもないのに声を荒げて、腰の拳銃を抜いた。 追い散らすには当てる必要もない。地面に向かって一発撃つと、銃声に驚いたカラス達は慌てて飛び立ち、逃げ出した。 残されていたのは、案の定――人間だったもの。 その服も長い金髪も血と泥に汚れ、体も食い荒らされて無残な姿になっているが、恐らくは女性だったのだろう。 白い肌に、カラスの爪や嘴の跡が痛々しく残っている。 首はあらぬ方向に捻じ曲がり――これはカラスの仕業ではなさそうだ――ところどころ欠損してはいるが、人の形は保っていた。 目を逸らしたくなるような惨状。しかし、逃げてはいけない。 「……ごめんな」 名前も知らない、骸となった女性に向けて、ただ一言を呟いた。 「全く……ついてないわね」 ここまで来ればもう安全だろう。ビルの壁に寄り掛かり、溜息をついた。 参加者は市内のどこかに転送される、とスピーカーから聞こえた声は言っていた。 しかし、自分ほど運の悪い転送先を引き当ててしまった者はそういないだろう。何しろ、悪魔の住処の真ん中だ。 どういう訳かは知らないが、このスマル市という街は多くの場所が異界化している。 街にある普通の施設にも、悪魔に占拠されている場所は少なくないようだ。 幸い、道路にまで悪魔が闊歩している状態ではないらしい。 かなりの時間を浪費してしまったが、外に出ることができた今なら、少なくとも悪魔に襲われる心配はなさそうだ。 「悪魔にだけ用心すればいい、って訳でもなさそうだけど……こんな状態だし、ね」 また溜息をつく。悪魔の生息地を脱出するのに手間取ってしまったのには理由があった。 魔法が使えれば下級の悪魔など敵ではない。少しは消耗するだろうが、悪魔を蹴散らして出てくることは簡単だったはずだ。 ――ただし、魔法を使えればの話だ。 不運が重なったと言うべきか、不覚を取ったと言うべきか、悪魔からマカジャマの魔法を受けてしまったのである。 女神の力も、魔法を封じられてしまえば無力だった。 武術の心得もあるにはあるが、人間としては強いという程度。それだけで多数の悪魔の相手ができるほどではない。 支給された武器は柄だけの剣。この短さでは棍の代わりにもならない。 この状態で戦闘という危険を冒したくはなかった。 不運続きの中で唯一幸運だったのは、その悪魔の足が遅かったことだ。どうにか逃げ延び、身を隠しながら出口を探した。 壁の陰から悪魔が通り過ぎるのを根気良く待つようなことをしなくて済めば、もっと早く出て来られたのだが。 外に出て、初めて地図と名簿を確認した。どうやら現在地は夢崎区という区域らしい。 今は人影はないが、物の溢れる繁華街。ここを目指してくる参加者は多いだろう。 そして名簿。目を引く名前が幾つかあった。相棒に、何度も戦った敵に、新米サマナーの少年に―― 「……ナオミ」 名簿のその部分を指でなぞって、呟いた。 よく知っている名前だ。どこにでもいそうな名前だが、別人でないことは明らかだった。 この死のゲームの参加者が一所に集められた時、確かに彼女の姿を見たのだ。 そして、彼女もこちらを見た。互いの存在をはっきりと認識した。 再会すればこうなることは解っていたが――彼女がこちらに向けた視線には、殺意が込められていた。 殺し合いに乗った者がいるかどうか、どれだけいるかは判らない。 しかし間違いなく言えるのは、ナオミと出会ったら戦いは避けられないということだ。 今の状態で出会ったら、勝ち目はない。 突然の銃声が、思考を中断させた。 誰かが発砲した。それも、音が聞こえる距離で。警戒して周囲を見回すと、街の一角からカラスの群れが飛び立つのが見えた。 銃声は一発きりで止み、再び静寂が訪れる。 (あの場所に、誰かいる……) カラスが飛び立った場所はそう遠くはない。起こったことを確かめに行くべきか、逡巡する。 戦いが起こったのか。銃声が一発きりだったということは、それで勝負が決まったのだろうか。 それとも、銃声の主はこの状況を悲観して自ら命を絶ったのか。 確実なのは、その場所に少なくとも一人の人間がいること。生きているにせよ、死んでいるにせよ。 その正体も意図も近付いてみなければ判らない。最悪、そこにいるのはナオミかも知れない。 しかし、人に出会うのを避け続けている訳にはいかないこともまた確かだ。 この街から脱出する方法を探すとすれば仲間は必要だ。キョウジとも合流したい。 魔法を使えない状態をどうにかする必要もある。つまり、回復魔法の使い手を探すということになる。 (行くしか、ないわね) 心を決めた。できるだけ足音を立てないように、その方向へ歩き出す。 気配を殺すのは得意だ。見付からないように様子を窺って、安全そうな相手なら近付けばいい。 しかし、もし戦いになりそうならば逃げるしかない。魔法が使えないままでは、銃を持った相手と戦うのは自殺行為だ。 話の解る相手であることを、守護神に祈る。 幾つかの道を曲がり、大通りに差し掛かったところでその光景は目に飛び込んできた。 人間の体を切断するというのは、思っていた以上に重労働だった。 血が付着すれば刃物の切れ味は落ちるし、脂で手が滑る。当然ながら、骨を断つには相当の力が必要だ。 道具も悪かった。今持っている刃物といえば、ベスに支給されていたチャクラムだけだ。 刃を当てた反対側から押さえようとすれば、自分の手も切れる。 かと言って真ん中の穴に指を入れて使うとなると、指一本分の力しか懸けられない。目的にはあまりに不充分だ。 何度も手を滑らせて指を傷付けながら、切断したい部分の肉を刃で切り離し、残った骨は両手で力を懸けて無理矢理に折る。 手を血塗れにして、重労働の疲労と罪深い行為を行っているという緊張感に息を荒げて、作業を続ける。 他のことは何も考えないように、一心不乱に。 五体が動く状態で放置されたら、この女性もゾンビとして甦らせられる危険性があるのだ。 それは他の全ての参加者にとって脅威だし、彼女を知る人の悲しみとショックは増すだろう。 そんな事態を避けるため、誰かが手を汚す必要がある。ネクロマ使いがいることを知っている誰かが。 (俺がこんなことしてるの、ベスが見てたら悲しむかな) 考えないようにしても、雑念は入り込む。 (ザインが知ったら軽蔑するかな) 考えずになど、いられるはずがない。 (ヒロコさんは、何て言うだろう) ベスの仇を討ちたくて、ヒロコを解放したくて、それから街のどこかにいるザインを助けたくて、今の自分は動いているのだ。 彼らのことを忘れられるはずがない。ただの一時も。 (ごめん、みんな。許してくれないかも知れないけど、俺にはこれしかできない) あの天使のように炎の魔法でも使えたら、こんな惨いことをする必要もないのに。 救世主と言っても、結局、殺すことと壊すことしかできないただの人間なのだ。 骨が砕ける嫌な音と感触がする。女性の白い腕が、体から切り離された。 これで両足の脛から先と、右手の肘から少し下以降を落とした。残るは左手だ。 屈んでいた体を伸ばし、深く息をついた――その時だった。 「あ……」 ふと気付いた気配の意味を、消耗した精神はすぐには察せなかった。 誰かがいる。その事実だけを飲み込んで視線を向けると、そこには見知らぬ女性の姿があった。 彼女の表情が恐怖と嫌悪に凍り付いている、というのを認識したのは一瞬後。 咄嗟に言葉が出てこない。反応に迷っている内に、女性は踵を返して走り出す。 「ま……待ってよ!」 追い掛けようとして気付いた。血塗れの手、足元に転がる切断された死体。 この光景を見た女性が、その意味をどう認識したか。 自分の手に視線を落とし、呆然とした。女性の姿はもう見えなくなっている。 「違うよ……」 届く訳がないと知りながら、絞り出すように呟いた。 「違う。俺じゃないんだ。……俺は、殺してなんてないのに」 泣きたい気分だった。あの女性は、戦いを挑んではこなかった。 こんな状況で出会ったのでなければ、理解者になってくれたかも知れなかったのに。 ――ああ、けれど。 (『まだ』殺してないだけじゃ、同じなのかな……) ネクロマの使い手を見付けたら殺すつもりなのだ。まだ手を下してはいないとは言え、人殺しには変わりない。 彼女の誤解を責める権利は、自分にはないのかも知れない。 もう戻れない所まで、来てしまったのだ。 天を仰いだ。空はもう明るい。その光が心に差した影を濃くするようで、痛いほど眩しく感じられた。 <時刻:午前8時> 【アレフ(真・女神転生2)】 状態:左腕にガラスの破片で抉られた傷、精神的落ち込み 武器:ドミネーター(弾丸1発消費)、チャクラム 道具:ベスのザック(食料・水2人分+ベスの支給品)、バンダナ 現在地:夢崎区、繁華街 行動方針:ネクロマの術者を倒し、ヒロコを解放する 【レイ・レイホウ(デビルサマナー)】 状態:CLOSE 武器:プラズマソード 道具:不明 現在地:夢崎区繁華街より逃走 行動方針:CLOSE状態の回復、キョウジとの合流 Back 087 Next 089
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722 :キモオタと彼女 6話:2012/07/24(火) 01 17 11 ID OV9LLRP [1/3] 激動の日曜日が終わり、憂鬱な月曜日でござる。 2つの意味で。 昨日の今日で朝比奈さんと顔を合わすのは、気まずいでござる。 ヌゥフォ 流石に会社内で昨日の事を朝比奈さんから切り出してくるとは思えないし、もしかしたら昨日の出来事は白昼夢という可能性もあるでござる。ヌホホ デイドリーム こういう時は、普段通りに振る舞うのが一番でござるな。 オゥフ 今日は何事もありませんように! どうやら、拙者の心配事は杞憂に終わったでござるな。 ヌホホ 朝比奈さんは、いつも通り凛としているし拙者に対する態度はいつも通りでござる。 やっぱり、リアルは「昨日は助けてくれてありがとう。 抱いて!」等とエロゲー展開はないでござるよな。 オゥフ これで、落ち着いて便所飯に行けるでござる。 朝、コンビニで買った菓子パンを数個持ち、部署を出て男子トイレに入ろうとした時に肩を軽く叩かれたでござる。 …まさかね。 まさか後ろを振り向いたら、朝比奈さんだというそんな十週打ち切りラブコメ漫画みたいな展開には…。 「あっ、あのねっ! 昨日のお礼も兼ねてお弁当作ってきたの! だっ、だから…あの…その…一緒にお弁当とかどうかな~?なんてっ、ねっ? どうかな?」 …まさかの予想が当たったでござる…。 さっきまでの朝比奈さんは、どこへいったのやら。 昨日の喫茶店の時と同じように顔を赤らめながら、目線はどこか忙しなくまるで好きな男に手作り弁当を作ってきたかのような態度でござるが…。 まぁ、それはないな。 朝比奈さんは拙者みたいなのと一緒に居るのが恥ずかしくてしょうがないんだけど、昨日一応助けてもらったのもあるからお礼はしておこうって感じでござろう。 この現場を他の社員に見られると、色々とマズい気が…。 この場はさっさとお弁当だけ貰ってまた他の男子トイレに行くでござる。 「あっ、あのっ、はい、ありがとうっぅ、ございます、はい。」 「ううん、気にしなくて大丈夫! じゃあ、どこで食べよっか?」 …えっ? …いやいや、それは駄目でしょ。 723 :キモオタと彼女 6話:2012/07/24(火) 01 18 41 ID OV9LLRP. [2/3] 只でさえ、日頃から朝比奈さんに残業を手伝ってもらい、他の社員達から「なんで朝比奈とあのキモデブが一緒にいるんだよ。 あり得ねよなぁ~。」 便所飯をしている時に聞いちゃったんだよなぁ…。 拙者はまだしも朝比奈さんに迷惑がかかるのは避けたいから、ここは丁重にお断りをしようそうしよう。 「っぅふ、あっ、あのですね…。」 「それじゃ行こっか! 良い場所知ってるんだ~♪」 オゥフ 聞く耳を持ち合わせてござらんか。 それにしても、同年代の女性になすがままに引っ張られる拙者の情けなさに泣けてくるでござるよ。 ヌゥフ そして、朝比奈さんに連れてきてもらった場所が…。 「資料室…ですか…?」 「うん! ここなら誰も来ないし、ゆっくり出来るしねー。」 まぁ、確かに資料室なら薄暗く少し埃っぽいし、昼休み時間わざわざ人が来ることはないだろう。 というか、朝比奈さんがここで昼食をとっているというのが信じられないでござる…。 朝比奈さんは他の同僚と一緒にオサレなカフェーで昼食をとっているイメージがあったんでござるが…。 まさか、こんな所で朝比奈さんが1人寂しく昼食を食べているとは思いもよらなかったでござる。 というか、朝比奈さん昨日の日曜日から何かキャラが変わっている気がするでござるが、気にしたら負けだよな、うん。 「じゃあ、食べよっか!」 「あっ、はい。」 弁当を開けてみると、拙者の好物だけが入っていて驚きでござる。 こんな偶然あるもんだなぁ。 よし、この豚肉の生姜焼きを一口…。 うん、肉らしい肉で美味しいでござる。 某五郎ちゃんのようなコメントしか出てこないでござるが、本当に美味しい。 今まで食べてきた豚肉とは違うような味がするでござるよ。 「その豚肉はね、イベリコ豚を使ったんだよ! 美味しい?」 イベッ、イベリコ豚? 拙者には一体どういう肉なのかさっぱりわからんでござるよ。 ヌホホ その後も、朝比奈さんの手作り弁当に舌鼓を打ちつつ、会話もぽつりぽつりしていたら昼食時間があっという間に終わったでござる。 「きょ、今日はわざわざありがとうございました! ウップ」 「いえいえ、お粗末様でした~♪」 …本当にどうしたんだろうか。 724 :キモオタと彼女 6話:2012/07/24(火) 01 21 26 ID OV9LLRP.[3/3] キャラが全然違う…。 もしかして、拙者が日曜日の件を他の同僚に言いふらすと思っているから、ここまで拙者に対して無理に拙者に接してきてくれているんではないでござろうか…。 だとしたら、朝比奈さんは心配性でござるな。 ヌフ そんな気は毛頭ないし、日曜日の事は墓まで持っていくつもりでござるよ。 ヌゥフホホ まぁ、こんな日はきっと今日だけだと思うし、あんま気にせず…。 「あっ、あのさっ! もし、貴方が良ければなんだけどさ…これから毎日貴方の為にお弁当作ってきてもいいかな…?」 今日は、拙者の予想を裏切る展開が多いでござるな…。 「い、ぃやっ、あの、さすがにそれは申し訳ないといいますか、はいっ…」 「迷惑…かな…?」 なっ、何故そこで涙目になるんでござるかぁぁぁぁ!? あんなに美味しい弁当なら毎日食べたいでござるが、朝比奈さんの負担になるし、何より他の人達から朝比奈さんが拙者に弁当を作ってきているという噂が流れたら色々とあばばばばば……。 ここは、男らしく断ろう! そうした方がお互いの為でござるしな。 ヌホホ 「オッ、お気持ちはウッ! 嬉しいんですが、やはり遠り…」 「………」 はわわわわっ、なっ、泣かしてしもうた…。 えーいっ! こうなりゃヤケだ! 「あのっ! あさ、朝比奈さんの負担にならないなら、たまに作って欲しいです! ハイッ」 「……ほんと?」 「…あいっ! 何なら毎日食べたいですよ! えぇ!」 「じゃあ、これから毎日作ってくるね!」 …明日からどうやって昼食時間を乗りきろうかと考えると胃が痛くなってきたでござる…。 本当に…どうしてこうなった。
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今日 - 合計 - あいかぎ ~ひだまりと彼女の部屋着~の攻略ページ 目次 基本情報 [部分編集] ストーリー [部分編集] 攻略情報 [部分編集] Tips [部分編集] プチ情報 [部分編集] 関連動画 [部分編集] 参考文献、参考サイト [部分編集] 感想・レビュー 基本情報 [部分編集] ストーリー [部分編集] 攻略情報 [部分編集] Tips [部分編集] プチ情報 [部分編集] 関連動画 [部分編集] 参考文献、参考サイト [部分編集] 感想・レビュー 名前 コメント 選択肢 投票 役に立った (0) 2012年10月09日 (火) 14時56分58秒 [部分編集] ページごとのメニューの編集はこちらの部分編集から行ってください [部分編集] 編集に関して
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セツコを抱き枕代わりにして眠っていたという事実を認識したシンは、即座に自室に取って返し、ベッドにうつ伏せに倒れ込んだ。同室のレイが不在である事は不幸中の幸いといえた。 明かりもつけず、軍靴だけを脱ぎ捨てて清潔な枕に思い切り顔面を押しつけた。ぎりぎり、ぎりぎりと枕が悲鳴を上げそうなほど力を込めて枕を抱きしめて顔面に押しつける。 意味はない。理屈をつけて説明できる行動が可能なほど、シンの思考は冷静さを取り戻してはいなかった。 息が続かなくなった所で枕から顔を挙げて上半身を反らし、不足していた酸素を盛大に補給する。肺いっぱいに酸素が満たされたのを感じ、今度は力無く、翼の折れた小鳥みたいによろよろと反らした上半身を戻して、ぽす、と軽い音を立てて枕に頬を預ける。 「なにやってんだ、おれ……」 知らなかったとはいえ摂取したアルコールの成分はすでに消え果て、素面に戻ったシンは、つい先ほど自分がセツコに対してやらかした行為を鮮明に脳裏に描き直していた。 目の前で少し悪戯をするように微笑むセツコの笑顔に、シンの心は瞬時に沸騰した。羞恥と、困惑と、射抜かれたように高鳴った心臓の鼓動に。 かすかに鼻孔をくすぐるどこか甘い匂い。シンがこれまで嗅いだ事のある匂いの中で最も強く穏やかに心を安らぎで満たし、いつまでもこの匂いの中にいたいと思わせるほどに甘く優しい。 とくん、とくん、と頼りなげに、それでも確かに自分の胸越し伝わってくる命の鼓動。それが自分の高鳴った心臓とリズムを合わせて鼓動を刻むたびに、自分と一つになってゆくような感覚に、我知らずシンの心は恍惚の色に染まっていた。 自分の腕が抱きしめる確かな肉体の感触。自分と彼女とので、二着分の布越しにも確かに伝わる体のぬくもりと、確かにそこにいるのだという実感を与えてくれる感触。 抱きしめ合って生まれてきた様に強く抱きしめるシンの腕に、かすかな反抗を試みる体は自分とは比べ物にならない柔らかさと、例え布越しにでもいつまでも触れ合っていたいという欲求を抱かせるぬくもりに満ちていた。 見つめ合う瞳と瞳。鼻がくっついてしまいそうなほど近い距離にあるその瞳の中に、ぽかんと小さく口を開けた自分の顔が映っている事が、ひどく現実離れして見えた。 誰もが絶望に打ちひしがれるような悲しみを背負って尚、それを感じさせない穏やかさと、悲しみを乗り越え様とする強く純粋な意思が凛とした輝きとなって宿る瞳を通して見る世界は、翡翠の色に濡れているのだろうか、いつだったかシンはそう思った事がある。 それ位に、シンはセツコの瞳をきれいだと思っていた。その瞳の中に自分が映っている。どうして? 彼女が自分を見つめているから。それも、自分しか映らないくらいの近い距離で。 心臓から流れる熱い血流が音を立てて頬を昇ってゆくのをシンは感じた。 鼻をくすぐる仄かに甘い匂いも、自分の鼓動と一つになって溶け合っている心臓の脈動も、腕の中に感じる存在を感じ取れる肉体も、相手の瞳の中に自分の顔しか映らぬほどに近い距離で見つめ合っている瞳も、すべてが、セツコさんのものだ。 「おはよう、シン君。目は醒めた?」 柔らかなセツコの声。うららかな陽光の中を吹く春風よりも心地よくシンの耳朶を打つ。しかし、シンの喉はへばりついた様に動かず、かろうじて出せた言葉は短かった。せめて、目の前の女性の名前を呼べただけましだろうか。 「…………え、う、あ。……セツコさん?」 「うん」 どうして、そんな笑顔を浮かべるんだろう? こんな、好きでもない――自分で言っていてなぜか胸の中でどす黒いものが鎌首をもたげた――男に抱きすくめられているというのに。 どうして、そんな小さな子供みたいに何の邪気も無い、きれいな笑顔を浮かべる事が出来るんだろう? その笑顔がとても大切な宝物のように思えて、その笑顔が自分に向けられているという事に気付いて、シンの心はどうしようもない喜びと驚きが渦を巻いていた。その混ざり合った感情のままに思わずセツコの体を強く抱きしめる。 より一層融け合うシンとセツコの鼓動。体の中から伝わるリズムがセツコのそれと重なり合い、時に乱れ、時に調和し、二つの命がこれほど近くにある事を教えてくれる。 セツコさんの心臓の音だ。セツコさんの体だ。セツコさんの匂いだ。セツコさんの瞳だ。セツコさんを、こんなに近くに感じている。 それしか知らぬ子供のように、ただただセツコの事を考えた。時間にすれば一秒にも満たぬ短い時間の間に、言葉で語る事は生涯を賭けても不可能なほどの想いが心の中で生まれ続ける。 誰かに自分の存在を伝える術をこれしか知らないと言い訳をするように、無意識に抱き寄せたセツコの体を、意識してさらに強く抱きしめる。このままこの人と一つになれたら、と心のどこかで囁いた自分の声に、シンは心から同意した。 「ん、シン君。ちょっと痛いかな」 「え? ……うああああ、ごごごご、ごめんなさい!!!」 無意識と意識とが強く結託して抱き締めたセツコが、ちょっと困ったかな、という様に笑いながら、すぐ目の前に、互いの瞳に自分達しか映らない距離にあるシンに呟く。 甘い吐息が頬に当たり、シンの頬に朱が差したのをセツコは気付いていただろうか。 ――馬鹿野郎! 何をしているんだ、おれは!? ようやく理性が眠りから目覚め、セツコをこれまで抱きしめたまま眠っていたという事実と、目が覚めてもなお、いや目が覚めたからこそセツコを強く抱きしめてしまったという事実を糾弾する。 本能的に、というレベルでセツコを求めた感情は理性の弾劾に背を縮めて萎縮していたが、理屈より何よりセツコを求めたという行動が、シンにとってセツコがいかなる存在であるか物語っている事に、シン自身気付いてはいない。 「ふふ、気にしないで。私は気にしてないから。あ、レイ君の口癖が移ったのかな」 「あ、や、その、とととととにかく、ごめんなさい!!」 からかうように笑うセツコの様子に心から安堵の息を吐く。よかった、怒っていないみたいだ。そう思う気持ちが、セツコの笑顔を見たとき一番最初に浮かんだ想いを誤魔化した。 セツコが怒っていない事に安堵したのではない。セツコに嫌われたわけではなさそうだ、そう感じた事で、『セツコに嫌われる』という、忍び寄っていた恐怖を追い払えた事に安堵したのだ。 シンの親友の口調を真似ておどけた様に笑うセツコの笑みに、驚くほど自分の胸が高鳴り、暖かくなるのを、シンは年上の女性に対して失礼な事をしてしまった事に対する恥ずかしさだと思っていた。本当は恥ずかしさとは違う、もっと、ずっと、強い想いなのに。 それを意識してしまう事が恐ろしかったのか、シンは腰の骨よ折れよ、とばかりの勢いで頭を下げてその場から全速力で逃げだしたのだ。 情けなくも逃げ出す自分の背を見つめるセツコの顔を見るのがどこか怖くて――失望や、怒りや、嫌悪が浮かんでいたら、どうしよう? ――シンが背後を振り返る事はなかった。 だから知らなかった。セツコが自分自身を支える様に、シンの残していったぬくもりに縋るように自分を抱きしめて、泣きながら笑っていた事に。 そしてシンは今こうして自室で一人悶々と苦悩している。だが悩んだ所で名案が浮かぶわけではないのは、誰よりもシン自身が知っている。 こう言うとき頼りになるのはいつもクールで、黙って自分の悩みを聞いてくれる金髪の親友なのだが、もうしばらく部屋に戻ってくることはなさそうだ。 第一どうやって打ち明ければ良いというのだ? 素直に言うか? 気づいたらセツコさんを抱きしめたまま眠っていた――あり得ない。 ZEUTHの誰かの話だと誤魔化して話すか? お世辞にも作り話や嘘が上手とは言えない自分が、洞察力や観察力の鋭いレイに対してそんな話をするのは、自殺行為だろう。 それでもレイは黙って話を聞いてはくれるだろう。そう言う奴だと、アカデミー時代からの付き合いという年月が、レイに対する信頼と評価をシンの心の中に抱かせていた。 結局は、悩んでいても仕方がないという結論に至る他なかった。そもそも自分は一度悩むと迷路に迷い込んだ様にぐじぐじする期間が長いのだと、シンは経験上ある程度は自覚していた。 それに今回の事は全面的に自分に非がある。その事は素直に納得できるし、セツコさんには本当に悪い事をしたと思っている。なら、すべきことは一つだろう。 「よし、直接謝りに行くか。悪いのはおれなんだし」 そう決意し、やるべき事を決めればそれまで悩んでいたのが馬鹿らしくなるほど、頭の中のもやもやがきれいに消えていた。我ながら、なんと単純な事か。自分で自分に呆れながら、シンはなんと言って謝ろうかと考え始めた。 誰かに謝罪しに行くというよりは、会いたくて会いたくてたまらない大切な人に会う口実ができたのを喜んでいるように、シンの瞳は輝いていた。 ――暗い。それに寒い所だな。 最初に意識したのは周りの暗闇だった。光や色という存在も概念も忘れてしまいそうなほど、ひたすら黒一色に塗り潰された空間だった。 目の前に持ち上げた筈の自分の腕さえ輪郭も認める事が出来ない。確かに瞼を開いているはずなのに、目に何も映らない状態は既に何度か経験していた。だが、それとはまた違う『何か』だと、心の何所かで囁く声が聞こえた。 眼が映すものはひたすらに闇ばかりであったが首を回し、周囲を見渡す。何かを探す行為というよりは反射的な行動といった所だろうか。しっかりと繋いでいた筈の手を離してしまい、親を求めて彷徨う幼子の様に。 暗闇の中にそれ以外の何もないと悟ると、自分が立っている足元の感覚もあやふやになっている事に気付いた。 いや、そもそも自分は今立っているのか? 膝を屈しているのか? 座っているのか? それさえも分からない事に気づき、身体の内から熱が引いてゆくのを感じる。細胞一つ一つの中に氷を含まされたような、体の全てを犯す冷気。 だが、それもまだ幸福とさえ呼べた。不意に、体を蝕む冷たさが無くなっている事に気付く。 『無くなった』? いいや違う、『感じなくなった』だけだ。今も体の中を、城塞を噛み崩す蟻のように、密やかに犯し、壊し、蝕む冷気を感じる事さえできなくなっている。 何の痛痒も感じぬまま、決定的に体が壊れるその時まで気付く事もなく、自分が崩壊してゆくのだ。いや、いや、自分の体が壊れた事さえ気づけるかどうか。それを悟り、 今度は体よりも心が恐怖に震えた。 それを忘れる様に、紛らわすように眼には見えない自分の腕で自分自身を抱きしめる。確かに自分の意志の通りに動いた腕が、確かな実感を持って体を抱きしめる感触に安 堵し、気を緩めた途端に、今度はその感覚さえ無くなっていた。 『いや』、そう叫ぼうとし、凍りついた様に動かない喉に気付く。意思ははっきり恐怖に震え拒絶を叫ぼうとしている。だが、肉体は意識に対して明確な無視を決め込んでいた。 拒絶では無い。いや、無視でもない。肉体はすでに機能を失い、意思に応える事さえ出来なくなっていたのだ。 元より音の無い静謐な場所なのだろうと思っていた認識が、大きな音を立てて罅割れる音を、心の内側から聞いた。 何も音が無いのではなく――何も聞こえていないだけ? 本当は今も食堂やブリーフィングルームの中で交わされる会話や、戦闘の最中の通信が飛びかい、誰かが自分に声を掛けているのかもしれない。 暗闇に閉ざされているのではなく――何も見えていないだけ? 本当はここは艦の廊下や格納庫の一隅で、行き交う人々や目の前に迫った壁、立ち並ぶ機動兵器やコンテナの類が目の前にあり、灯されている照明の明かりや、穏やかな陽光や紗幕の様な月光が辺りに降り注いで、夜闇を照らしているのかもしれない。 手に触れる感触や自分の体が無くなってしまったのではなく――触れている事を感じられないだけ? 本当はここはバルゴラのコックピットの中で、指は操縦桿を握りしめて引鉄に添えていて、足はフットペダルを踏み込んでいるのかもしれない。あるいは自室で横になっているのかもしれないし、休憩室で椅子か何かに腰かけているのかもしれない。 だが、それを確かめる術など無い。誰かの声を聞く事も、誰かを見る事も、誰かに訴える事も、誰かに触れられている事も認識する事が出来ないのだ。 もしかしたら今誰かが自分を抱きしめて、精一杯に声を張り上げているのかもしれない。でもその声は自分には届いてない。抱きしめてくれたその人がどんな表情を浮かべているのかも見る事が出来ない。 目が見えず、耳が聞こえず、触れているかどうかさえ分からず。完全に孤立した世界に、今、自分がいる事に気付く。誰の顔も見えない。誰の声も聞こえない。誰かを感じる事も出来ない。 ダレモイナイ、ワタシハヒトリキリダ。 ――いや、いやぁ、誰か、誰か―― 泣く事しか知らぬ幼子の様に泣いた。助けを求めた。誰でもよい。何でも良い。ここから自分を助けだして欲しい。ここではないどこかへ連れ去って欲しい。ここは、一人でいるには、寒すぎる。 ――いやだいやだいやだ。一人は嫌、怖い怖い怖い、誰か誰か誰か、私の手を掴んで、私の声を聞いて、私に声を掛けて、私を抱きしめて、私を、私を、私を、一人にしないで……。 だれか、助けて、だれか、私を、私に、私の……声を聞いて。一人は怖いの、寂しいの、心が、こんなに冷たいよぅ。お願いだから、誰か―――ダレカ、タスケテ――自分の心が少しずつ壊れて行く音を聞きながら、助けを求める気持ちさえも無くなってゆく。 誰も居はしないのだ。誰も自分を救いになど来るものか。誰も自分を求めてはくれないのだ。誰も自分に居場所をくれはしないのだ。誰も自分を思ってくれなど―― だが、暗闇と冷たさだけが支配する世界に、たった一つの異分子が産声を挙げた。夜の森の中に捨てられた小さな赤子の悲鳴に、天空に瞬く月が慈悲を注いだように穏やかな、しかし確かなぬくもりがそこにあった。 暖かい。自分の右肩の辺りから、心も体も暖めてくれる優しいぬくもりが、恐怖に閉ざした目を、絶望に塞いだ耳を、喪失に閉ざした口を、悲しみに塞いだ心をゆっくりと解きほぐしてゆく。 自分の体を固く抱きしめる自分の両腕が見えた。呼吸する感覚が、冷たさとぬくもりを感じる体に気づいた。 太陽が落ちてきてもそのまま暗黒の中に飲み込んでしまいそうなほどに暗いこの場所で、自分の右肩のあたりで小さく瞬くちっぽけな、でもとても大切なものだとわかる光があった。 暗闇の中に一人置き去りにされた自分を慰め、励まし、少しでも寂しさと悲しみと苦しさを和らげようと、その光は一生懸命に輝いていた。その光を眺めていると、自分でも気付かぬほど淡い笑みが浮かんでいた。 暖かくて優しくて、悲しみも苦しみも忘れさせてくれる光。それを見つめ続け、不意に脳裏に浮かぶ光景があった。 突然変化した視界。自分の体を固く抱きしめる少年の両腕。耳に届くかすかな嗚咽。少年の瞳から滴り、自分の頬と肩を濡らした涙は、焼けるように熱く、いっぱいに悲しみを孕んでいた。 誰の為の悲しみ? 彼は私の為に泣いてくれた。それが彼の優しさがさせたことだとしても。その涙が、抱きしめてくれた力強さが、ぬくもりが、どれほど自分の心を救ってくれたのか、きっと彼は知らない。 少年の名前が浮かび上がる。そっと心の奥にしまっていた、幼い子供の頃の宝物のように輝きながら、どこまでも優しい思いと共に。 「シン君」 それはまるで魔法の言葉の様に、心の中で広がった。シン君。三つ年下の、少し不愛想な所もあるけど、それはただ不器用なだけで、本当はとてもとても優しくて、ちょっと危なっかしくて、目が離せない子。 一緒にたくさんの戦いをくぐり抜けて、肩を並べて多くの苦難を乗り越えてきた仲間。そう、仲間だ。でも……仲間ならもっとたくさんいる。心から信頼し背中を預けられる仲間は、シンだけではないはずだ。 なのに、どうしてシンの顔が浮かび上がったのか? 先程まで感じていた恐怖も何もかもを霧消させて、悪夢に囚われていたセツコ・オハラは、不思議な気持ちになっていた。 きっと、シン君が普段は見せない、とても弱々しくて、脆い所を見てしまったから。 ――それだけ? 本当に? きっと、シン君が私の為に泣いてくれたから。私を励ます為に、みんなが私の事を心配してくれているって、私が一人じゃないって、泣きながら教えてくれたから。 ――じゃあ、どうしてシン君の事だけを思い出したの? 他の皆は? どうして彼だけ特別なの。彼が私の為に涙を流してくれた。その事がどうしようもなく嬉しかったからじゃないの? だから、きっと、境遇は似ていても自分と違ってどんどん強くなって、逞しくなっていた彼が流した涙に、押し殺していた弱さに同情してしまったから ――嘘。嘘。違う。本当はそんな事が理由じゃない。同情よりももっと性質が悪いもの。自分の前でだけそんな弱々しい所を見せてくれた事を喜んでいたからじゃないの? そんな事無い。そんな、事。彼はちゃんと自分の力でどんどん強くなって、私とはまるで違うのに、あんな、今にも消えてしまいそうな姿を見てしまったのが意外だったから、だから。 ――そう、普段彼はそんな所を見せない。必死に押し隠して、それでも堪え切れなくて許しを請うように泣いた事もあるけど、誰か一人の前でだけ泣いた事はないんじゃないかしら? その彼が、私の前で涙を見せた。誰にも見せまいと、自分には決して許していない弱さを見せたのがどうしようもなく嬉しかったの。自分が彼にとって特別なのだと、他とは違う、線引きされた存在だと感じられたのが。 そんな、そんな風に私は! ――思ってないって、言えるのかしら? 彼が流した涙も、彼の口から出た言葉も、彼が抱きしめてくれた事も、すべては私の事を思ってしてくれた事。それが嬉しくないなんて、どうして言えるの? そう思う事が醜いと思うから? 彼が私の事を心配してくれた気持ちに対する裏切りの様に感じるから? でももう遅い。そう感じる時点で、彼が私にとってほかのみんなとは違う特別だって事を、誰より何より理解しているという事だから。 私はシン君の特別になりたい。彼に名前を呼んで欲しい。彼にもっと触れて欲しい。彼にもっと知って欲しい。私が彼をどう思っているのか。どれほど胸を焦がしているのか。どれほど求めているのか。 そして、知りたい。もっとずっとたくさんの思いを込めて彼の名前を呼びたい。彼の頬に、唇に、体に触れたい。彼をもっと知りたい。彼をもっと理解したい。喜びを分かち合い、苦しみや悲しみは全て自分が引き受けて、彼を守りたい。 私は、どうしようもなくシン君の事が…… 囁いてくる自分の声に抗う術を、セツコは持っていなかった。それは、もう自分が二度と誰かに抱いてはいけない想いだと思っていたから。大地に白化粧を施した淡い雪の様な思いを寄せたあの人は、それ故に漆黒の魔風に命を奪われた。 この心に強い悲しみを抱かせる為に、あの災厄の如き黒い魔人はトビーの命を奪い、チーフの命を奪い、私の心を弄び嘲笑していった。私だけなら良い。その悲しみに打ち勝つ――少なくとも抗える程度には強くなればいいだけだ。 けれど、あの男の魔手は自分以外の者にも伸ばされる。私の居場所、私の仲間、私の想い。私が失う事で傷つき、悲しみを覚えるもの全てにあの男は災いとなって降りかかるだろう。 だから、私はもう二度と誰かを『 』になってはいけない。いけないのだ。いけないのに、なのに 「シン君」 夢の目覚めはシンの名前と共に訪れた。見つめる先に見慣れた天井。自室である事を認識するよりも早く、瞳から零れて頬を濡らす涙に気付く。流したばかりなのか、指で掬った涙は暖かかった。 横たわっていたベッドから上半身を起こし、自分の指先に付着した涙滴を見つめる。ガナリー・カーバーのコアとなっているスフィアが見せた夢か、それとも自分自身が押し殺している、やがて訪れる恐怖が夢の形を持って現れたのか。 そのどちらであってもおかしくはなかった。固く閉ざした唇は、彫刻の様にきつく引き締められたままだった。シンの名前を、もう二度と口にしてはならないと誓うように。 それからそっと、左手で、昨日シンが枕にしていた自分の右肩に触れる。今はもうシンのぬくもりはないが、確かに感じたその暖かさは、今も鮮明に思い出せる。 きっと、夢の中の様に人間として何もかもを失っても、記憶さえも失っても、シンが与えてくれたぬくもりは、ここに残り続けるだろう。 暖かかったシンの涙。自分の流した涙も暖かい。まだ、暖かいと感じる事が出来る。それが、無性に悲しく、無性に嬉しかった。いずれこの暖かさを失う事実が悲しく、シンと同じようにまだ暖かさを持っているという事実が嬉しかった。 ――ダメだ、これ以上彼の事を考えるのはやめよう。 シンの事を名前ではなく『彼』と置き換えて、セツコはベッドから降りた。そう意識する事自体がすでに手遅れなのだと、夢の中で悟ってなお、セツコにはそうする事しかできなかった。 グローリー・スターの制服に袖を通し、俯いたまま自室のドアをくぐる。薄い薄い影が、纏う者の膝を折る重量を伴って覆い被さっているような姿だった。自らの罪の重さに、命を贖罪として捧げる罪人であっても、このような影を帯びる事はあるまい。 ドアをくぐり、今ではもう半ば苦行と変わり果てた食事を取る為に食堂へ足を向け、わずかに数歩動いただけで止まった。時間が凍りついたように唐突に。しかし、必然の成り行きで。 どくん、と昨日感じたシンの心臓の鼓動よりも大きく、強く、自分の心臓が音を立てて脈打ち、一層熱を帯びた血流を全身に巡らすのが分かった。血流と共に流れる熱には、『驚き』と『歓喜』という名があった。 セツコはベッドから降りる時に決めた誓約を、早々と破らねばならぬ運命の様であった。歩く事を忘れたように止まったセツコの足。悲しみ、困惑、疑問、いくつもの感情に揺れる中で、抑えきれない歓喜に潤む瞳の先に、一人の少年がいた。 朝日の中でなら一層映えるであろう黒髪に、血の海の底に沈めてもその輝きを鈍らせる事はない赤の瞳。黒と赤とを何よりも際立たせる肌は、少年のものにしてはやや深雪の様な白が強い。 無駄な肉が付いていないと軍服越しにも分かる体つきは、十代半ばほどのこの少年が苛烈な日常を生きている事を暗に告げていた。 けれど、好意を抱いた相手にはどこまでも柔和になり、嫌悪を抱く相手には研ぎ澄まされた刃のように鋭さを帯びる正直すぎる瞳は、この少年には似つかわしくない躊躇と羞恥の成分が色濃く渦巻いていた。 どうして? そう思う気持ちと、今の自分の心を彼に知られたくないという思いがセツコの体の中を席巻していた。 ――笑おう。 昨日の事は気にしていないよ、今日もいつもどおりだよ、と彼にそう思ってもらえるように。精一杯、いつも彼に向けているのと同じ笑顔を浮かべよう。 頬の筋肉が意思に応じて動く。自分でもわかるほど硬く、鈍い動き。石の罅割れる音を幻聴してしまうほど、唇はセツコの意思に対して反抗していた。 ――ダメだよ。そんなんじゃあ、笑顔にならないよ。シン君が心配してしまうよ? 心のどこかで、そうして欲しいと囁く声に、セツコはちくりと針で刺されたような痛みを胸に覚える。それは恋い焦がれる女の情念に満ちた声ではなかった。 繊細な硝子細工の様に透き通り、壊れてしまった硝子細工の様にあまりにも儚い、諦めを孕んだ声。 シン君にそうされる資格など自分にありはしない。たとえあったとしても、そうされてはいけないのだ。自分には誰かに好かれる資格も、愛される権利も無い。私も、誰かに対してそんな想いを抱いてはいけない。 ちくり、とまた胸が痛む。ちくり、ちくりと、痛い。胸が、心が。 頬と唇がかろうじて動き、セツコは笑顔を浮かべるという行為が思うよりもはるかに難しいものだと、感じていた。 セツコは夢の終わりと現実の始まりを告げた名前を、もう一度囁いた。愛しい者の名を呼ぶにはあまりに儚く、悲しみと共に呟くにはあまりに情に溢れ、ただの仲間として紡ぐにはあまりにも……柔らかで暖かな声で、喜びと悲しみを織り交ぜながら。 「シン君」 セツコの部屋まであと少しという所で、なんと声をかければ良いのか、まだ眠っているのではないだろうかと、二の足を踏むシンの目の前でセツコの部屋の扉が開き、部屋の主が姿を見せた。 いつもと変わらぬ黒を基調とした軍服。足先から腰回り、肩から首回りまでを隠す黒。まるで大事な宝物を誰にも奪われないようにと、暗闇の中に閉じ込めているようだ。 足を止めたセツコは、俯いていた顔を上げて、努めて驚きを隠そうとし、何とかそれを成功させてどこかぎこちなく笑った。歯車の回る音やバネの軋む音がかすかに聞こえてきそうな、硬質の笑みだった。 一日の始まりに、セツコに自分の名前を呼ばれた事に対する、自分では理解できない喜びは、しかしセツコの笑顔を見た瞬間に消え失せた。手を伸ばせば触れられる距離なのに、どこまで手を伸ばしても届かないような、そんな曖昧な距離が二人の間にあった。 どうして、昨日みたいに笑ってくれないのだろう。どうして、セツコさんはこんな笑顔を浮かべているのだろう。例える言葉は見つからぬが、シンにとって今のセツコの笑顔は、セツコに浮かべて欲しくない表情の最たるものの一つだ。 心も感情もこもらぬ偽りの笑み。笑顔とは突き詰めれば生きとし生けるもののモノだ。だが、これでは、まるで命の無い人形が笑って見せたようではないか。形だけの笑みの虚ろさに、シンは身を切り裂くような悲しみと切なさを抱く。 でも、それを口にできるわけはなくて、セツコの笑顔ではない笑顔の理由を聞く資格が、自分にあるとは思えなくて、シンはセツコに対して、同じようにぎこちなく笑い返した。 自分の声がひどく乾いているような気がした。こんな声で、この人の名前を呼ぶつもりはなかったのに。 「おはようございます、セツコさん」 一睡も出来ずに、セツコに掛けようと考えていた言葉の中でもっとも平凡な言葉は、しかし、考えもしなかったぎこちなさに縛られていた。シンが夢想していた自分の言葉も、セツコの笑みも。 わけも無く胸の中を満たす悲しみに、シンは目の奥が熱くなるのを感じたが、どうしてそんな風になるのか分からなかった。碌にあいさつも交わせぬ自分の不甲斐なさが憎いのか。もっと気の利いた言葉の一つも掛けられぬ自分の情けなさが腹立たしいのか。 それとも、目の前の女性の浮かべる笑顔のからっぽさが、どうしようもなく悲しいからか。その笑顔を本当の笑顔に変えられぬ自分の無力さが呪わしいからか。 シンには分からなかった。セツコの心が。セツコに対する自分の想いも。自分自身の心さえも。 前へ戻る 次へ進む
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絶体絶命都市3 -壊れ行く街と彼女の歌- アイレムソフトウェアエンジニアリング 2009年4月23日 PSP(UMD.DL) サバイバル・アクションアドベンチャー絶体絶命都市のシリーズ3作目 大地震によって崩壊した、海に浮かぶ大都市「セントラルアイランド」から脱出を目指しましょう シリーズ 絶体絶命都市2 -凍てついた記憶たち- 震災の関係で、絶体絶命都市4は発売中止になった 外部リンク 公式