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二枚のチケットを前に、私はまたしても考え込むことになった。 ”他に誰か行ってくれそうな人は・・・・・・” 中学からの友人は全滅だ。皆充実した学生生活を送っているらしい。 ”本当はキョンと行きたっかったんだけどな” Xperia Zにもう一度、彼の名前を呼び出してみる。そして、私はため息を付いた。 すぐに電話に出てくれた彼と少し無駄話をしたあと、本題に入ったのだけど、結果は残念なものだった。 『あ~、悪いかな。その日は先約があるんだ。せっかく誘ってくれたのに、すまない。』 キョンが、電話の向こうで頭を下げている姿が目に浮かぶ。 「いや、気にしなくていいよ。突然誘ってごめんよ。ただ、機会があれば、また君と話をしたいのだけど、構わないかい?」 『ああ。是非』 「それじゃ、また」 勇気を振り絞って彼に電話したものの、ちょうどその日に出かける用事があるらしい。私にとって、男の子と映画を見に行く なんて、初めてのことになるはずだったが、どうやらお預けのようだ。 「あれ、佐々木さん、どうしたの?」 突然声を掛けてきたのは、涼宮さんだった。 「うん?これ、映画の試写会の招待券じゃないの。これを見に行くの?」 「そうなの。友達からもらったんだけど、これ、ペア招待券なのよね。私の友達に一緒に行ってくれないか、誘って見たんだけど、 みんな用事があるって言われたの」 二度目のため息が私の口から出る。 涼宮さんは、チケットを手に取り、それを眺めている。 「ねえ、佐々木さん。あたしと一緒に行かない?」 涼宮さんの意外な言葉に私は少し驚く。 「ちょうどこの日、用事ないし、それにこの映画ちょっと気になっていたのよね。あたしじゃ駄目?」 「ううん。そんなことないわよ。それじゃ、涼宮さん、お願いしていいかしら」 「OK。それじゃ、土曜日の2時からね」 「よろしくね。それとありがとう、涼宮さん」 「お礼はいいわよ。じゃあ、そういうことで」 涼宮さんはそう言って、私に手を振りながら、教室を出て行った。 ちょっと意外な人が一緒に行ってくれることになったけど、どうやらチケットは無駄にしなくて済みそうだ。 ------------------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 試写会の会場は、シネマフレックス8、そのシネコンの一角だった。招待客はペア100組。時間は午後2時から。 待ち合わせの場所にした、シネマカフェ「モリコ-ネ」には、約束の時間より少し早く来たのだけど、涼宮さんもほぼ同時に来てくれた。 「少し早いわね。飲み物でも買っておく?」 シネマフレックスは飲食物の持ち込みが可能で、私は涼宮さんの提案に乗ることにした。 お昼ご飯は二人とも食べてきたので、とりあえず、飲み物とお菓子を買うことにした。 結構な量を買い込んで、シネマフレックス8の試写会会場の入口に並ぶ。 「あれ、佐々木じゃないか。それにハルヒも。どうしたんだ?」 私達二人を呼ぶ声に、私と涼宮さんは同時に振り向いた。 そこには、私たちと同じように、飲み物とお菓子が入った袋を持ったキョンと、その隣には、メガネを掛けた、小柄な女の子の姿があった。 「ひょっとして・・・・・・佐々木が誘ってくれた映画は、このことだったのか?」 そういえば、キョンに電話したとき、私は映画の題名と時間を言わなかった。キョンに電話をかけることだけに頭が いっぱいになって、肝心なことを言っていなかった。 「ああ。君の先約てのは、これのことだったのかい?」 とんだ偶然に思わず笑ってしまう。 「長門が、あ、そういえば紹介していなかったな。こちらが長門有希。北高の、俺の頼りになる友人だ」 キョンが紹介した女の子は頭を下げる。地味な感じだが、整った顔つきの、なかなか綺麗な女性だ。 「長門、こちらは佐々木、そして涼宮ハルヒ。光陽の生徒だ。この前知り合ったんだ」 「初めまして、長門さん、佐々木です」 「よろしく、あたしはハルヒ。あなたのこと、有希、て呼んでいい?」 長門さんは微笑みながら大きく頷いた。 キョンから聞いた話によると、長門さんの従姉妹がこの映画の試写会に応募したところ、チケットが当選したらしい。 案外この手のチケットは当たる確率が高いらしい。 その従姉妹は長門さんとこれを観るつもりだったそうだが、用事が出来て行けなくなったらしい。それで、その従姉 妹はキョンに代役を頼んだそうだ。 ”だけど、その従姉妹の子、本当に用事があったのかな?” 何となくだけど、キョンと長門さんの様子を見ていると、そう思えてくる。 キョンは長門さんをかなり信頼しているようで、長門さんもキョンと話しているとき、安心したような表情をしている。 少し長門さんを羨ましく思った。 映画の席は、スクリ-ン正面から少しずれた後ろの方の席だったが、何と私達とキョン達の席は続きの並び席だった。 順番的にいえば、涼宮さん、私、キョン、長門さんで座ることになった。 映画は僕等と同じ高校生が書いて、新人賞をとって、話題になった小説が原作の恋愛と青春もの。 「For you~あなたへ届ける想い」 安ぽっくなく、現実にもがきながらも正面から物事に向かっていく、高校生たちの物語。上下二冊の、結構分厚い物語 だけど、心境とか行動とかが、本当にリアルに描かれていて、一気に読み終えた。(涼宮さんもこの本を読んでいたらしい) ある女の子と一人の男の子、彼らを取り巻く仲間たち、ライバル。その彼らの入学から卒業までの物語。 それをどうやって、映像化したのだろうか。 楽しみでもあり、同時に不安もある。自分の好きな作品なら、誰だってそういう気持ちになるだろう。 「あれ、開かない、このジュ-ス」 長門さんがジュ-スのキャップに苦戦していた。珍しい、ガラス瓶の金属製キャップで、「伊予柑」とラベルが貼ってある。 「珍しいもの買ったな・・・・・・長門、借してみろ、開けてやるよ」 キョンはそう言って長門さんから瓶を受け取り、力を入れて、キャップを開けた。 「ありがとう、キョン君」 長門さんの顔は、本当に嬉しそうな表情をしていた。 「キョン、私のも開けてよ!」 涼宮さんがペットボトルをキョンに放りやる。 簡単にキャップを開けると、キョンは涼宮さんに「ほれ」と言いながら、ペットボトルを手渡した。 この前、鶴屋さんとキョンの友人の国木田君とのお出かけの時、涼宮さんとキョンが一緒についていったそうだが、その時 以来、涼宮さんはキョンを気に入ったようだ。 ペットボトルを受け取った涼宮さんはご機嫌だった。 映画を見終わった私達は、シネマカフェ「モリコ-ネ」にいた。 「正直、微妙ね。感想として」 上映時間、二時間十分。その中にうまく納められるか、原作愛読者として心配したのだが、感想は述べた通りで ある。 「基本は抑えていたのだけど、いくつか省略しすぎよね。主人公の二人が最終的にお互いを選ぶ過程も、省かれ ていたし、あれじゃご都合主義よね」 涼宮さんも少し不満顔だ。 「なかなか原作の雰囲気を、二時間の映画にするのは難しいかも。原作が上下二冊で、結構分厚いし」 どうやら長門さんも原作を読んでいたようだ。 「ドラマにしたほうが良かったかもね」 「まあ、でも流れ的には納得いったな。原作は俺はまだ読んでないけど、結局、主人公は女友達を選んだのは、 そうなるだろうな、と思ったよ。女の子のライバル達は主人公にも魅力的だったろうけど、それまでの積み重ねと 信頼関係が、二人を結びつけた、と受け取ったけどね。俺も原作読んでみようかな」 「キョン、よかったら、僕の本を貸してあげようか?」 キョンの言葉を聞いて、私は反射的にそう言った。 「え、いいのか?」 「遠慮はいらないよ。僕は読み終えているし。読者が増えてくれるのは、ファンとして嬉しいし」 我ながら素早い行動だったと思う。 横目で見ると、涼宮さんが何か言いたそうな顔をしている。おそらく涼宮さんも私と同じことを言おうとして いたのだろう。かなり涼宮さんはキョンのことを気に入っているようだ。 こういう場合は先手必勝が大事。 モリコ-ネを出て、私達は買い物に出かけることにした。 涼宮さんが、夕食を皆で食べようと提案してきて、皆乗り気になり、それまでまだ時間があったので、買い物を することにしたのだ。 どこのお店も既に夏物商戦真っ最中。急に最近暑くなり、季節が変わりつつあることを示していた。 その途中で気づいたのだけど、キョンはこういうことに慣れている様子だった。長門さんや涼宮さんに、試着後 の感想を求められていたけど、かなり的確なのだ。 「キョン、君は女性の服を選ぶのは慣れているようだね」 そう聞いたら、キョンの妹さんがいつも服を買いに行くときは、キョンに連れていってもらい、選ぶのも手伝っ てもらうそうで、また、長門さんとは彼女の従姉妹を交えた三人で買い物をしたことがあるので、こういうことに なれているとのことだった。 女性と付き合うのが苦手だと言っていたが、キョンは基本的には女性を大事に扱うタイプの人間のようだ。 私も、一枚、これjからの季節に必要な洋服を一着、キョンに選んでもらうことにした。 「いい感じじゃないの。佐々木さんの雰囲気にあっている気がするわ」 試着室から出てきた私を見て、涼宮さんは褒めてくれた。 キョンが選んでくれたこの服は私も大いに気に入った一枚だ。 「これ、ちょっと代金を払ってくるわね」 これから先、この服を着る機会が増えてくる――そんな予感がした。 夕食に涼宮さんが選んだ店は、有機自然食品で作ったバイキング料理の店で、しかもそこは料理学校の生徒達が 実習の場として作っているために、お得であるという店だった。 営業時間が短いため、早めに行かないと席が埋まるということで、少し早めにその店に入店する。 窓側の、奥の席に私達は腰掛けた。 キョンの隣に長門さんが座り、彼の正面は私。私の隣に涼宮さんが座った。 「飲み物を選ぶか」 メニュ-を見ながら、全員で選んでみる。 「俺が持ってくるよ。みんなは料理を取りに行ってくれ」 そういってキョンはテ-ブルを離れる。 ちなみに、皆が頼んだものは、私がジャスミン茶、涼宮さんがウーロン茶、長門さんが清美オレンジ、キョンが水 出し冷緑茶だった。 しかし、涼宮さんにしろ長門さんにしろ、よく食べる。キョンより食べているような気がする。 「長門、サラダとってくるけど、ついでに飲み物追加で持ってこようか?」 「あ、それじゃ、キョン君が飲んでいたものとおなじ物をお願いしていい?」 「キョン!あたしにはりんごジュ-スを持ってきて!」 涼宮さんの言葉に、少し苦笑しながらもキョンはサラダと飲み物を取りに行った。 「それにしても、長門さん。キョンはあなたに随分優しいようね」 「え、あ、でも、キョン君は誰にでも親切だよ。面倒見もいいし」 「そうね。私もそう思うけど、でもあなたにはとても気を使っているように見えるの。少し羨ましいわ」 そう言うと、すこし長門さんは顔を朱色に染め、うつむいた。 「でもさ、キョンて話しやすいよね。あいつは女の子と話すのが苦手だと言っていたけど、そうは思えない」 「相性じゃないかしら。私達と話すときは、自然体で話しているみたい」 「それって、私達三人とキョンが、相性がいいってこと?」 「そうね。話しやすい、変に気負わず話せるということはそういうことじゃないかしら」 「ふうん。でも、佐々木さんの言うとおりかもね」 三人で色々話しているところへ、キョンがサラダと飲み物を持って戻ってきた。 夕食のあと、私達三人を、キョンは家まで送ってくれた。 最初は長門さん、次に涼宮さん、そして最後に私。 「ありがとう、キョン君。また月曜日に」 「それじゃ、キョン。また皆で遊びに行こうね。じゃあね」 長門さんと涼宮さんは性格もまるで違うけど、キョンと別れる時は、二人共名残惜しそうな顔をしていた。 すこし宵闇が濃くなってきた道を、キョンと二人で並んで帰る。 この前、成り行きで塾の帰りに送ってもらって以来だ。 「今日は楽しかったよ」 「ああ、俺も。まさか佐々木たちと一緒になるとは思わなかった」 「僕もあれには少し驚いた。偶然とは恐ろしいものだな」 いろいろなことを話しながら、少しづつ我が家に近づいて行く。 楽しい時間はそろそろ終わりを告げる。シンデレラの鐘の音が聞こえるような気がする。 「今日はありがとう、キョン。また機会があれば、君たちと遊びたいのだが」 私の家の玄関で、キョンお顔を見てそう告げる。 「また時間があるときに、俺でよければ、付き合うよ」 「ありがとう、キョン。君や長門さんとは、なんだかいい友達になれそうな気がするよ」 「佐々木だったら、長門も友達になれるんじゃないかな」 キョンは笑ってそう言った。 私と長門さんと涼宮さん。 私達三人を繋ぐキョンという一本の糸。 これから先、キョンをめぐって面白いことが起こりそうな、そんな気がしてきた。
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今日は12月24日、クリスマス・イヴ。 今までは彼女がいない奴らと傷の舐め合いをする寂しい日だったけど、今年は違う! 今の俺にはつかささんという最愛の彼女がいる!つまり、今年のイヴは最高のイヴになること間違いなし! だったのだが…… 「体温は…38.5度か。はぁ、マジ最悪だよ……ぶぇっくしょんっ!」 そう、見ての通り俺は風邪をひいてしまったのだ。 話は昨日の放課後、つかささんと一緒に帰っていた時まで遡る。 「ねぇつかささん」 「うん?どうしたの、ゆうくん」 「明日ってクリスマスイヴじゃん?よかったら一緒に過ごせないかな~って。予定あいてるかな?」 「うん、全然大丈夫だよ。もし予定あったとしてもあけちゃうもん!それに…私もゆうくんと一緒に過ごせたらな~って思ってたし……えへへ」 そう言うとつかささんは顔を赤くしながら照れ笑いを浮かべた。 ヤバい、超可愛いんですけど!しかもこんな可愛い子が俺の彼女なわけで、しかもクリスマスイヴを一緒に過ごしたいと思っていてくれたわけで! 「…うくん?ゆうくん!」 「ふゎっ!?な、なに?」 危ない危ない。思わず妄想スイッチが入りそうになっちゃったよ。って、最近田村さんの症状がうつってる気がするぞ……。 「そ、それはそうと明日は何しようか?とりあえず、学校終わったら一旦帰って私服に着替えた方がいいよね」 「うん。あっ!そういえばお母さんから聞いたんだけど隣町の駅前、クリスマスイルミネーションがすっごい綺麗なんだって!」 「へぇ~、じゃあ見に行ってみようか。それと後は…クリスマスイヴなんだし、どっかでケーキ食べよっか」 「えっ!?ダ、ダメっ!ケーキ食べるのはダメだよっ!」 「えっ?けどせっかくだし」 「け、けどけど……と、とにかくダメなの!」 「?つかささんがそこまで言うなら…」 「うん、ありがとね。ゆうくん」 その後もあれやこれやと話をしてると、いつの間にかいつもの別れ道についてしまっていた。 俺とつかささんは、名残惜しそうな顔をしながら繋いでいた手を離した。 「それじゃまた明日、だね」 「うん。ってか、楽しみすぎて夜寝れるかちょっと不安かも」 「うぅ、私もだよ~。遠足の時とかも、いっつも明日の事考えて夜寝れなくなっちゃうの」 「あはは、つかささんらしいや。」 「うぅ…ゆうくんも人のこと言えないくせに~っ」 「違いないや。それじゃね、つかささん」 「うん。バイバイ、ゆうくん」 こうして俺とつかささんは互いに家路についたのだった。 それから時間は少し進み…… 「う~ん……」 ベッドの中で、もう何度目か分からない寝返りをうつ。明日の服の用意を終えて、さぁ寝ようとベッドに入ってから既に一時間近くたっていた。 「……眠れない」 俺は最悪の事態に陥っていた。そう、明日が楽しみで全く眠れないのだ。 なんたって、生まれて初めて出来た彼女との初クリスマスイヴなんだよ!?そりゃワクワクして眠れなくもなるさ。 とはいえ、このままでは流石にまずい。 「……軽く体でも動かそうかな。」 俺は、上着を羽織りランニングに出かけることにした。しかし…… 一時間半後…… 「ゼェ…ハァ…た、ただいま……」 軽い運動どころか汗びっしょりになって帰宅するはめになってしまっていた。 因みに何があったのかというと、軽くランニング→ランニング中に明日の事を考え出しニヤニヤ→一時間してようやく我に返る→慌てて来た道を全力で帰宅、というわけだ。 我ながら不審者極まりないと思う。 「あ~…つ、疲れた」 俺は着ているものもそのままにベッドに倒れ込んだ。疲れもあってか、さっきと違い吸い込まれるように意識はなくなっていった。 そして今に至るというわけだ。 「う~、こんな事になるなら汗くらい拭いときゃよか…ぶぁっくしゅっ!……とりあえず着替えなきゃ」 ぼーっとする頭を振って目を覚まし…って余計にフラつくようになってしまったが、制服に着替え下に降りようとすると母親が階段を上がってくるところだった。 「あんた熱あんのにどこ行く気だい?」 「どこって…学校だけど?って何で熱あんの知ってるんだよ…」 「さっきあんたの部屋入ったときに顔赤かったから計っといたのよ。それより、学校だったらさっき休むって連絡入れたわよ」 「なっ!?大丈夫だってこれくらい!」 そう言って母親の横を通り過ぎようとした瞬間、俺の顔に母親の掌が被さった。そして ギリギリギリギリ…… 「っ!?あだだだだっ!」 「病人がナマ言ってんじゃないよっ!」 「な、なら病人にアイアンクローすなっ!いだだだっ!」 そしてアイアンクローのままベッドまで引きずられてしまった。 「いいかい。ちゃんと寝てなさい」 「けど…」 クイクイ←顔の近くでアイアンクローの動作 「わ、分かりました」 「よろしい」 そう言うと母はベッドの上に十秒チャージのあれとペットボトルの水、そして風邪薬を置いて部屋を出ていった。 「とりあえず、つかささんに連絡入れないとな……」 俺は携帯の電話帳を開きつかささんの番号を……押さずにメールにした。つかささんの残念そうな声を聞きたくなかったからだ。 「これでよし。……ごめんね、つかささん」 俺は携帯を置き十秒チャージのあれで朝ご飯を済まし、薬を飲んでから横になった。薬のせいか寝たりなかったのか、睡魔はすぐ訪れた。 俺は心の中でもう一度つかささんに謝り睡魔に身を委ねた。 同時刻、学校にて。 「おはよ~こなちゃん、ゆきちゃん」 「つかさ、おは~」 「おはようございます、つかささん」 私は教室に着いてからすぐ違和感に気づいた。 (あれ?ゆうくんまだ来てないのかな) いつもなら私が来る時間にはいつも来ているはずのゆうくんがいないのだ。 しばらくたっても来る気配がなく、気になった私は連絡をしようと思い携帯に手を伸ばした。すると、 バルサミコ~酢やっぱいらへんね~♪ 携帯が鳴りだした。開くと、まさに今連絡しようとしていたゆうくんからのメールだった。 (わわ、私達息ぴったりかも~っ) そんな些細な偶然に少し嬉しい気分になりながらメールを見てみる。 「え~~っ!」 思わず声を上げてしまった。その様子にびっくりしたのかこなちゃんとゆきちゃんがこっちに近付いてくる 「ど、どしたのつかさ!」 「何かあったのですか?」 「こ、こなちゃんゆきちゃん!ゆ、ゆうくんが風邪ひいちゃったって!わわわ、どうしよう~」 「お、落ち着きなって。つかさ~」 「で、でもでも、ヒドい風邪かも知れないし心配だよ~!」 「つかささん。とりあえず電話をかけてみたらどうですか?」 「う、うん。ゆうくんの番号は……」 プルルルル…プルルルル…留守番電話サービ…ピッ 「ど、どどどどうしよう。繋がんないよ~!?」 「う~ん。トイレに行ったとか?」 「もしくは寝てしまったのかもしれませんね」 「………決めた」 「つかさ?」 「私、ゆうくんの看病に行くっ!」 「ちょっ!?つかさっ!?少し落ち着……」 「ごめん。それじゃあねこなちゃん、ゆきちゃんっ!」 ダダダダッ…… 「………」 「………」 ガラ 「ほら早よ座れ~っ。ん?なんや、柊は休みかいな?」 「休みといいますか早退といいますか……」 「恋する乙女は風邪ひき王子様のところに行きましたよ~」 「…?なんやそりゃ?」 それから時間はたち…… 「ん、ん~…。今何時だろ?」 俺は枕元にある時計に手を伸ばした。時刻は12時半、学校ではお昼休み真っ最中か。 体を起こしてみる。うん、朝よりは具合は良いみたいだ。 俺は携帯を開こうと思い手にとるが…置いてあった場所に戻した。つかささんからのメールがあるかもしれないけど、今は見る気になれない。 「はぁ…悪いことしちゃったな」 つかささんの悲しそうな顔が浮かびまた溜め息を吐く。その直後、コンコンとノックの音の後に部屋のドアが開いた。。 「どうかした、母さ…んっ!?」 「あっ!ゆうくん目が覚めたんだ!よかったよ~」 そこにいたのは母親ではなくつかささんだった。 「へっ?嘘っ!?いや、だって時間……」 今日は通常登校だから午後も授業があるはず。俺が混乱しているとつかささんが答えてくれた。 「……朝メール来てすごく心配だったから、あの後すぐ来ちゃった」 そい言って照れ笑い。うぁ、やっぱ可愛い…じゃなくてっ! 「だからって学校休むことはなかったろうに…」 そう言うと、つかささんは急に泣きそうな顔になってしまった。 「だって…メールが来た後すぐ電話したのに繋がんないし、ゆうくんの家に来る途中も電話もメールも返事なくて……ぐすっ、私すっごく心配したんだよ?」 つかささんは、泣きながらも今までの事を話してくれた。母親に頼んで看病をしてくれてたこと、全然目を覚まさなくて心配だったこと、寝てる間に手を握ってくれていたこと。 「でも目を覚ましてくれてホント安心し……」 ギュッ 「えっ?ふぇぇ~!?ど、どうしたのゆうくん」 俺はつかささんの事を抱きしめた。 「ありがとう。つかささんの気持ち、ホントに嬉しいよ」 「あ、当たり前だよ。だって私、ゆうくんの…か、彼女さんなんだから…」 「うん。こんな素敵な彼女さんがいてくれて俺、すっげぇ幸せだよ」 「ゆうくん……」 顔を真っ赤にしたつかささんと見つめ合う。どちらともなくお互いの距離が詰まりそして、俺はつかささんの唇に自分の唇を…… ガチャ 「………母さん邪魔だったかねぇ」 バタン 「………ふぁ」 「………くぁ」 「「~~~っ!」」 重ねる寸前で妨害されてしまったのであった。 それから数時間後…… 「じゃあ私はお夕飯の材料買ってくるね~」 「うん。気をつけてな」 母親の妨害から立ち直った俺達は、いつものようにまったりと過ごしていた。 体も大分楽になったので、元々の予定だったクリスマスイルミネーションを見に行こうと誘ったんだけど、 「風邪は治りかけが一番危ないんだから今日はゆっくりしなきゃダメだよっ」 と言われてしまった。 一人ですることもないのでぼーっとしてると玄関のドアの開く音と「ただいま~。じゃなかったや、おじゃましまーす」と、つかささんの声が聞こえた。 二階に上がってくる音はしない。多分台所で夕飯を作ってるんだろう。 暫く待っていると夕飯が出来たようで、つかささんが部屋に入ってきた。手には小さな鍋がある 「お待たせ~」 作ってきてくれたのは雑炊のようだ。 「ありがとう。それじゃ、いただきますっ!」 早速食べようと思いスプーンをとろうとしたが、それは既につかささんの手に握られていた。 「えっと…つかささん?それないと食べられないんだけど……」 「え、えと……わ、私が食べさせてあげるね」 「えっ!?い、いやけど悪いって!それに恥ずかしいし…」 「い、いいのっ!ゆうくんは病人なんだから言うこと聞くのっ。…もしかして嫌かな?」 「そ、そんなことないよっ!」 「ならほら。あ、あ~ん」 「いやでも…」 「あ~~ん」 「………ぱく」 恥ずかしさと嬉しさで味が分かんなかったのは言うまでもない。 夕飯を食べ終え、 「食器片付けてくるね」 と下に降りたつかささんが戻ってきた。手には2つのケーキと紙袋があった。 「ケーキ買ってきてくれたんだ?」 「ううん、私の手作りだよ。昨日から用意してたのを買い物帰りに取ってきたの」 「そっか。だから昨日ケーキ食べにいくのダメって言ってたんだ……。ありがとね、つかささん。でもそうなら言ってくれれば良かったのに」 「だってびっくりさせたかったんだもん。それとこっちはクリスマスプレゼントだよ」 そう言って紙袋を渡してくれるつかささん。中身を見てみるとマフラーだった。 「ごめんね。私ぶきっちょさんだから綺麗に出来なくて…」「そんなことないって、凄い嬉しいよ。それに…」 マフラーを巻いてみる。首もとだけじゃない、体も心も全部がつかささんの優しさに包まれた感じがする。 「つかささんの俺への気持ちがこもってて、心もぽかぽかしてくるよ」 「そ、そうかな…。えへへ、ありがとゆうくん。さ、ケーキ食べよ?」 「うん。…あ、ちょっと待って」 「んく…。どうしたの?」 一口食べてしまったケーキを飲み込みながらつかささんがたずねる。 「俺からもつかささんにプレゼントがあるんだ」 俺は机の引き出しに入れていた小箱を取り出してつかささんに渡した。 「嬉しいな~。ね、開けていい?」 「もちろん」 箱を開けるつかささん。中を見た瞬間、いつもの可愛い笑顔を俺に見せてくれた。 「わぁっ!綺麗なペンダント~。あ、この花ロケットになってるんだ~。ねぇゆうくん、これって何て花なの?」 「その花はね、睡蓮って言うんだ」 「スイレン?」 「うん。つかささん誕生日7月7日だったよね、その日の誕生花なんだ。睡蓮って」 「誕生日、覚えててくれたんだ…」 「そりゃ大切な彼女さんですから。ちなみに花言葉は優しさ、清純な心、純情だって。つかささんに似合いすぎてビックリだったよ。」 「ふぇぇっ!?そ、そんなことないよ~」 「ううん、ぴったりだよ。だってつかささんの優しいところと、今日みたいな相手のことを大事に想ってあげられるところを俺は好きになったんだから」 「ゆうくん……」 俺は顔を赤らめたつかささんを抱きしめた。 「大好きだよ、つかささん。これからもずっとそばにいてね」 「うん。私も…私もゆうくんの事大好きだよ……」 どちらともなく俺達は唇を重ねた。互いの想いを全部伝えれるように、互いの想いを全部受け止めるように長く………。 FIN
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発売日 2019年10月25日 ブランド CLOCKUP タグ 2019年10月ゲーム 2019年ゲーム CLOCKUP キャスト 綾音まこ(山戸紗季),葵時緒(岸元麻里奈),杉原茉莉(木場菖蒲) スタッフ 原画:八樹ひより 原案:TASK シナリオ・プロット:三家原優人(Team・Birth-tale) グラフィックチーフ:PONSUKE グラフィック:あつお,うきひと,カツヨシ,神代ゆうき,河合克己,神瀬あから,篠田まめ,せんや,花笠ミヅキ,パピヨン@榎 タイトルロゴデザイン:花笠ミヅキ インターフェースデザイン:PONSUKE スクリプトエンジン:YU-RIS スクリプト:すぱな,善蔵 音声収録:ぴら 制作担当:いそこ 音声制作:Junkers 営業:宇佐美荘一 広報:全身タイツマン金,いけだかなめ。 WEB広報:善蔵,針山迅侑 パブリシティデザイン:全身タイツマン金 ディレクター:いけだかなめ。 アシスタントディレクター:RYU☆JI プロデューサー:ZaR 企画・開発・制作:CLOCKUP
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「よう、お疲れ」 「・・・とりあえず死んで? このド変態。マジ最低」 「といいつつちゃっかり用意してくれる辺り、さすがと言わざるを得ないわけだが」 「言っておくけど、次はないからね? 土下座しようと五体倒地しようと絶対にないから」 「といいつつ実は内心頼まれたら拒めない性分を隠せないリカちゃんであttぶべら!?」 「変なナレーション入れるな馬鹿ァ!! 変態!!」 先ほどまでの熱気もすっかり冷めた某武道館の裏手、関係者通用門。 グーパンチを顔面に受ける翠とグーパンチをぶちこむ摩璃華が恋人同士なのはご存知の通り。 恋人同士の二人、待ち合わせて帰宅するなど極当たり前の光景である。 二人が向ったのは、勝手知ったる何とやら、というやつである。 「というわけで付いたな」 「・・・うう、今すぐ追い返したいんだけど」 「いやー、ここ来るのも、もう何度目かねぇ。なんつーかアレだな。タンス漁るぞとか言ってたのが 遙か昔の事のようだ・・・」 「何この人がお茶用意してる間にタンス全段にクローゼットまで漁ったド変態。もうやだ堪忍して」 「中学時代の制服とか仕事で貰った服とか律儀にとってあるくせに、しまはなかったんだよな・・・うぬ、残念」 「やかましい!」 すぱこーんと縁石で頭がかち割れる音が、初峰崎家周辺のご近所中に景気良く響き渡る。 ちなみに、ご希望に応えてしましまは調達済みだったりする。 アイドルは彼氏相手では特に抜かりはないのである。 「はぁ・・・もういい。はいどうぞ。いらっしゃいませ」 というわけで、無人の初峰崎家に灯が燈る。 「おう、お邪魔するぜ・・・っと、今日もいないのな、おかん」 「居たら呼ばないわよ。今日は帰ってこないから、気にしなくていいわよ」 「だろうな。流石に海の向こうに出向くのを見送ったその日に帰ってこられたら困る」 「経理の仕事で海外に、ってそんなことあるのか知らないけど・・・まぁ助かるからいいんだけど」 実際は海の向こうで行われる闇業界の行事に出るためなのだが、娘は母の本当の仕事を知らない。 翠が闇社会の組織でバイトをしていて母もそこと少なからず関係あることは聞いているが、 詳細には聞かされていない。いずれ話してくれるだろう、と思うばかりである。 「というわけで着替えてくるけど・・・いいって言う前に入ってきたら、今度の今度こそ絶交だかんね! 馬鹿に無理矢理お嫁に行けない身体にされたってお母さんに言いつけるから!」 「いやまぁお嫁に行けない身体にしたのは事実だが、流石に絶交は御免被りたいので仕方がない。我慢しよう」 摩璃華の自室前で繰り広げられる、毎度の光景。 彼女にしてみれば、着替え中に覗かれる⇒置時計の一つも投げつけてやろうと腕を伸ばす⇒ 足を引っ掛けて転ぶ⇒派手に音をさせてしまったものだから彼氏がドアを蹴破って入ってくる⇒ 彼曰く「エロい格好で半裸で倒れてるオマエが悪い。あんな姿の彼女が目の前に居たら、ベットに運んで ありがたく堪能させてもらわないのは神罰モノだ」という、みっともないけど気持ちよかった初体験は ある意味では恥辱でしかない。 おんなのこはムードを大切にする生き物なのである。一方馬鹿は肉欲第一なのである。 「おーいまりかー、まだかー? そろそろのぞくぞー」 「うっさい! 近所迷惑! あとちょっと我慢したら好きなだけ来て見て触って構わないから我慢する!」 まったくもう・・・どうせもうちょっとしたら脱がされるが分かってるのに、なんでまた律儀に 今回もステージ衣装をギャラと引き換えに貰ってきてしまったのだろうか・・・。 ま、翠くんが喜んでくれるから、いっか。 もうちょっとだけ待っててくれたら、世界で一番かわいいアタシを、好きにしていいから、ね。 暇だ。暇なときは冷やかすに限るな。 「・・・えるおーぶいいーらぶりーりかちゃー(棒読み)」 「うっさいわこのバカ! つかそれ何十年前からあるのか本気で疑問なんだけど」 「とりあえずマメに返してくれる辺り律儀だなぁ。さすが俺の嫁」 「嫁言うな! ・・・まったくもう。はいお待たせ。はいっていいよ」 あ~ぅ、やっぱ緊張するぅ・・・正直、ステージ立つときより緊張するよぉ・・・ 別の意味でもドキドキしてきた・・・。はうぅ、なんか私、感化されてきてる? 「そんじゃま、ごかいちょ~・・・うむ、さすが俺の嫁。まさにマーヴェラスってやつだ」 「・・・うう、褒めてくれるのは嬉しいんだけど、そんな嘗め回すように見られるとハズい・・・」 「いいじゃんか、減るもんでもなし。さっきまで俺以外の男からも汚い視線を一身に受けていたくせに」 ああ言えばこう言う、いっつもそうなんだから・・・アタシとしては、今こうして翠くんのために この変に露出高くてハデハデな衣装を着てる瞬間のほうが、ステージの上よりよっぽど大事な時間なんだけど。 あんな肉の塊どもなんかにどう見られたって気にしないもん。 「いっつもそんなことばっか言うんだから・・・数回前のステージ衣装で、おんなのことして大事な何かを 失ったことについてはフォローなし?」 「細かいこと気にすんなよ。今更だろ?」 「・・・はぁ。なんかアタシ、こんなのの彼女よくやってるよなぁ、って偶に思うのよね」 「まぁそういうもんだろ。諦めが肝心だぞ」 既に諦めとかそういう次元はとうに通り過ぎて、やっぱり好きで好きで仕方がないから彼女してるんだとは、 決して言わないし、こっぱずかしいので言えるわけがない。 「諦めて残りの生涯アンタの嫁で過ごすのもどうかと思うんだけど・・・はぁ」 「ま、とりあえず今を楽しむが先決な訳で、と」 「ちょ、ま、ん、ん・・・」 もう我慢できない。 貪るようにお互いの唇を吸いあい、口に含めた唾液を、舌を絡めて交換しあう。 そのままベッドに縺れるようにして倒れこみ、なおお互いの想いを唾液に乗せて、まるでそれをどれだけ 飲めるかが相手をどれだけ想っているかを示す証であるかのように、ひたすらに、唯ひたすらに、 それ以外の行為を忘れてしまったかのように、熱いくちづけを交し合う。 「はぁ、はぁ、はぁ・・・もう、いきなり、なんだから・・・」 という摩璃華の恍惚に頬を染めたその表情は、たった一人の愛しい男のためだけに存在する極上の笑み。 胸の高鳴るこの瞬間、この想いのためだけに、今日一日はあったと言っても構わない。 「あのな、健全な青少年の前でドア一枚挟んで生着替え敢行した挙句、出てきたのが煌びやかなステージ衣装の 愛しの彼女だったら、いきり立つなというほうが無理だ。というわけで」 「ちょ、ん、いた、つよいって、もう、は、ん、あん」 翠も、一刻も早く愛しい摩璃華に触れたい、その一心で伸ばした手は、まずは程よく実った 二つのふくらみへ向う。さすがは公称C(実はB)、程よいフィット感がまさに俺の嫁という感じだ。 痛いというのもいつものこと。ちょっと強めにしてやるのが実は一番感じるのは良く分かっている。 世界中の誰よりも摩璃華のことを知っているからこそ出来る。世界中で俺だけが摩璃華にしてやれる。 摩璃華を世界の誰より一番気持ちよくしてやれる。世界で一番至福の時間の始まりなのさ。 「流石はアイドル、何時聞いても、いい声で啼いてくれるなぁ・・・」 「なによ、その、んはぁ、きちく、みたいな、ん、いいかたぁ・・・ん、はぁ、ちゅ、ん」 摩璃華をすっと抱き起こした翠は器用に背に回り、背から両胸を思う存分揉みしだく。 つい先ほどまでは世の中高生の憧れの的であった煌びやかな衣装すら、この場にあってはただひたすらに 劣情を促すものでしかない。 さらにお互い顔を寄せ合い、唇を啄ばみ合う。 見つめあう瞳と、交わす唇、飲みあう唾液、触れ合う肌。それだけあれば、言葉はなくとも想いは通じ合う。 言葉よりも、もっと多く、大きく、強く、想いは繋がりあうことができるのを、二人は知っている。 「この姿のオマエをオカズにする健全な青少年はごまんと居るだろうし、今日会場に居た中にも 居るだろうけど・・・現物が今まさにこうなってるとは、誰も、思っちゃいないだろうな・・・」 「あたりまえ、うん、は、でしょ・・・だれが、あなた、いがいに・・・ゆるす、もんかぁ・・あぁん!?」 あたしは、すいくんだけの、おんなだもん・・・! キスするのも、胸触らせてあげるのも、下を触らせてあげるのも、はずかしくても全部見せてあげるのも、 ひとつになってあげるのも、すいくんだけだもん・・・! 「やっぱりかわいいな、摩璃華・・・」 本当に摩璃華はかわいいと思う。間違いなく世界で一番いい女だ。 どんな女が目の前に居ようとも、自信を持って言える。 そんな摩璃華の、俺だけが触れる、唯一の聖域(デルタゾーン)に手を伸ばす。 スカートを捲り上げて触れた瞬間、しっとりと濡れているのが感触で分かる。 「あー、やっぱ濡れてるねぇ・・・ほれほれ、きもちよかろう」 「はぁう! あん、う、うるさ、いぃ・・・ん、く、ふぅ・・・あぅ、ん、あぅ、ん」 翠は首筋に顔を埋め、匂い立つうなじと髪の感触を堪能する。 「クンクン・・・ん、いいにおいだな・・・香水つけてる?」 「だって、ん、すこし、あせくさいかな、っておもったから・・・ひゃん!?」 こういうところが本当に可愛いわけだ。摩璃華の汗の匂いはもちろん嫌いじゃないが、汗臭いくらい気にしないって いつも言ってるのにこういうことをする、見栄っ張りなところが堪らなくかわいいと思う。 「摩璃華、かわいいよ摩璃華・・・」 「はにゃ、ふぅ、うぅん・・・あ、お、おねがいだから、ふく、よごさないで・・・ひゃん!?」 「そいつは、無理な、相談だ・・・アイドルを衣装ごと、外から中まで汚すのは、彼氏の、特権だからな・・・ ちゃんと洗って返すから、さ・・・」 「ちょ、そ、そういう、もんだいじゃ、はぁう! ないん、だってぇ・・・うぅん」 そうは言ったものの、もう既に胸の周りは零れた唾液と汗で濡れ、下も、もうあふれ出る雫でスカートにも シーツにも染みが出来ている。 わざとらしく下腹部を弄る手の動きを大きくしてくちゅくちゅと聞こえるよう音を立てながら、 摩璃華にささやきかける。こうして夢現の状態で囁きかけられるとより濡れてくるというのは、 間違いなく翠以外の男は知るよしもない秘密である。二人だけの秘密に、存分に、酔い痴れる。 「はっはっは・・・それもこれも全部かわいい摩璃華と煌びやかな衣装が悪い。そうに違いない」 「わたしの、はぅ、せい、なの・・・ふあ、あ、う、ああああ」 「そ、わるいのは、お、ま、え、な、の!」 「ひゃああああああああああ!? あああ!? ひゃああああああああああああああああああ!?」 徹底的に芽を弄られ絶頂に達した摩璃華の目には、もう翠以外の存在は映っていない。 肩で息をしながらも、手は強く繋ぎあい、お互いを確かめ合う。 「はぁ・・・はぁ・・・あう、はぁ、はぁ・・・すい、くん、はぁ、あぁ、うぅん・・・」 「いや~ほんっと、かわいいなぁまりか・・・オマエよりいい女なんて世の中に存在しないな、間違いなく」 「はぁぁぁぁぁあ・・・ありがと、うぅ・・・」 「よし、じゃ、次は、と・・・っしょ、と。はい、ごかいちょ」 「やかまひぃ!・・・うぅ、はずかしぃよぅ・・・」 もはや絶頂に達し弛緩しきった摩璃華に、翠に足を開かれる恥辱に抗うことは出来ない。 再び手前に回るついでと言わんばかりにショーツは脱がされ放られ、愛液に塗れた恥部を隠すものは何もない。 何度見られようと、とっくの昔に純潔を捧げていようとも、こういうのは本当に恥ずかしい。 為すすべなく見られてしまうことも恥ずかしければ、この光景を綺麗だといわれてしまうことも恥ずかしい。 でもちょっぴり嬉しいのはやっぱり秘密。 「すんごく、綺麗だぞ、摩璃華・・・そいじゃ、いくぞ・・・」 「うん、きて、すいくん・・・うう!? あああああああああああああ!?」 既に全力全開で天を突かんばかりの怒張を摩璃華に濡れほぞる秘裂に宛がい、一気に刺し貫く。 翠以外の男を知らない、翠のためだけに存在する蜜壷は、愛しき怒張を受け入れ、歓喜に震える。 「うぅ、さすがはまりか、流石にきっついねぇ・・・っ!」 抗いきれない衝動に駆られる翠は、ただひたすらに怒張を摩璃華の一番深いところに何度も打ち付ける。 ぱんぱん、ぐちゅぐちゅ、卑猥な音が狭い部屋に響き渡り、二人の感情をより淫靡なものにしていく。 「ううぅ!? はぁ!? おね、がい! やさしく、してえええ!? ああああん!?」 「むり、いうなぁ! こんなに、こんなにきもちがいいのに、いまさらとまれるかぁ!」 「ああ!? んう! は、ああ! いい! いいのぉ!?」 「まりか、まりかぁ!」 「あああああああ!! あうん!! あう、あああああああああん!!」 「はぁ! はぁ! やっぱ、さいこうだ、まりかぁあああ!」 「あああああああん! ああ! ああああ!」 精力と若さと熱い想いと快楽と、その全てが二人の律動を早め、想いを加速させていく。 言葉にするよりも確かに感じる想いと、その橋渡しをする快楽だけが、今の二人の全てを支配する。 感極まる摩璃華、とうに焦点も定まりきらない快楽と恍惚に支配されきった表情の中に、僅かに理性を湛えた 宿した目がきらりと怪しく光る。その摩璃華がとった行動はと言えば・・・ 「ちょ、おま、ばか、蟹挟みは、まて、オイいいいいい!」 「あああああ、ああう! せきにん、ああ! とって! くれるんでしょ! あああんんんんん!?」 「いいから、はなせ、この、おい、てめ!」 いつもの翠ならは摩璃華の蟹挟みくらいならいとも容易く振りほどけるのだが、今はセックスの真っ最中、 全身の感覚は全て股間から伝わる快楽を伝えるために回され、躍動する筋肉も今は摩璃華の最奥を貪るべく 腰を律動させることにその全ての力のベクトルを向けている。 こんな軽い拘束ですら、その余りの魅惑的であまりに煽情的な光景、仕草に、抵抗することすらできない。 「おねがいぃ! なかに、なかにきてえええええ!」 「オイこら、マジはなせぇ! つか緩急つけんなオイ!」 「あああ! はぁ、ああああ! んん、あ、は、あああああああああ!?」 「きこえてねええええええええ! 意識半分飛んでやがるううううううう!?」 「はああああ! あううう、ううん! いいのぉ! いいのぉ!」 さっきまで意識があるような気がしたが、気のせいかも知れん! 腹を括るしかないってか! 俺の嫁だと言っている以上、戸籍上でも嫁にしてやらいでか! 「こうなりゃヤケだああああああ! 種付けが怖くて膣内に出せるかああああああああぁ!」 「あああ! ああううううう! んんんん! はあ! すいくん! すきなの! あいしてるのぉ!」 「まりか、あいてる、まりかああああ!」 「はあ! ああ、あああああ!・・・ああ、あ、ああああああああああああああああああああ!? あ、あ・・・」 全身を駆け巡る抗いきれない快楽の電流と、最奥のそのまた奥に愛しい男の魂の欠片をいっぱいに受け止めた 熱い感覚に包まれ、摩璃華の意識はショートを起こし、絶頂と同時に気を失ってしまうのであった・・・。 時はもうすっかり夜。今夜は月すら顔を出すのを躊躇う夜。 痴れ者の星明りだけが、二人の夜を見つめていた。 「・・・とりあえず、だ。もう止められない段階で蟹挟みは、割と本気でマジに勘弁して欲しいんだが」 「いや、そんなこと知らないし。それに、人に断りもなく膣内に出した男の台詞とは思えないんだけど」 「てっめ、なかにきてぇ とか言ったのはそっちだろ・・・」 「さぁ? ぶっちゃけ、気持ちよすぎて覚えてないしねぇ~」 とはいえ、こちらも割と本気で気持ちよすぎて覚えてないのよねぇ・・・。 一方的すぎるのもどうかと思ってここらですこし驚かせてやろうと思って軽く蟹挟みをしようとしたところまでは なんとか覚えてるけど・・・いくらなんでも、ほんのちょっとでも理性があったら膣内射精を要求するなんて 恥ずかしくてたまらないこと、言えるわけがないでしょうに! できても別に構わないんだけどさ。 「まぁいいや。さすがの俺も責任とる位の甲斐性はある」 「その辺はご心配なく。私って知っての通りアレ仕事になんないくらいきっついから、仕事の前後は ピル飲むようにしてるし。だからって、遠慮なく出して言い訳じゃないんだかんね! そこは弁えてね」 「へいへーい。んじゃ、もうこんな時間だし、寝るか」 「そうね・・・でも、そのまえに・・・ちゅ」 おやすみなさいの気持ちと、もうひとつ別のきもち。 ちゃんと伝わるかな? 「・・・・・・・・・・まりかあああああああああああああああ!」 「や~ん♪ おっかされるぅ~♪」 結局4回戦まで行ったとさ。 とある馬鹿と彼女の部屋で 完
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菫「ふ…私の彼氏になったからには、一人前の男になって貰わないとな」 京太郎「はいはい。分かりましたよ」 濃紺の髪が風に舞う。シャンプーか、コンディショナーか、柔らかな香りが漂って。 楽しそうに笑う二つ上の先輩を見て、京太郎は思わずため息と、笑みを零す。 菫「まずはそうだな…聖水は掛けるのと掛けられるのと、どっちがいい?」 京太郎「一人前からは程遠い存在だろ!」 気を抜かずとも、少女から漏れ出る言葉の色はいつもと何も変わらない。 菫「聖水は嫌か…参ったな、それだと私にはこの後買い物をしつつ夕方のコンサートに行って、帰りに食事をするくらいのプランしか思いつかないのだが」 京太郎「パーフェクトじゃんか! チケットも用意されてるんですけど!」 菫「そうか…」 京太郎「なんでそんな残念そうなんだよ! その…普通に行けばいいだろ!」 おや、と少女の頬が、唇が吊り上る。悪戯っぽく。可愛らしく。 菫「ふふ、私の彼氏はデートという単語には弱いようだな」 京太郎「う…ま、まあ…初デートですから…これから慣れるんでいいですよ」 菫「やれやれ。頼むぞ京太郎――これでも、本当に好きなんだからな」 赤く染まる顔を見せないように少女の頭を撫でる手の平。 手の温度を感じつつ、少女は笑う。年下の男の子に微笑み、見守るように。
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650 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/10(月) 22 44 00.54 ID InyIoTDR0 ついに未来のベーシストとなるべく、僕はベースを始めた まだ肌寒い、うっすら雪の残る3月のことだった 高校1年だった僕はアルバイトで貯めたお金で通販で購入し、届いたその日からひたすら練習した GLAYやラルクのベーシストに憧れて始めたのだが、ベースマガジンを読み始めてから洋楽なんかも聴くようになったんだ フリーとか、ジャコとかね でも、楽器を始めたホントの理由はクラスの人気者になりたかったからだ 去年の文化祭でステージで演奏していたヤツらがうらやましくてたまらなかった ホント、最初はそんな単純な理由だった だけど普段とても地味だった僕が楽器を手にしたところで誰も関心を示さなかった だけどそんな僕にも大きな人生の転機が訪れた 「なあ、ベースのヤツが抜けちゃってさ、お前ベースやってんだろ?助っ人として入ってくれよ」 それは願ってもいない機会だった その日から僕はついにバンドデビューを果たした やっぱり、楽器は1人よりみんなであわせた方が全然楽しい それまで友達が少なかった僕もバンドメンバーと連むようになってからはだいぶ明るい性格になったと思う 夏休みは文化祭に向けてひたすらバンド練に明け暮れた やる曲はB zとか、ゴイステとかだったけど、正直簡単だった だけど楽しかった そして文化祭本番、僕らは大成功をおさめた 654 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/10(月) 22 46 43.89 ID InyIoTDR0 でもその後すぐに解散してしまったんだ いまでも思うけど、どうしてバンドで驚くほど上手くいかなくなるんだろう あんなに仲良かったのに、いつの間にか口も聞かなくなってしまった そして僕はまた1人で練習をするようになった ジャズにも手を出し始めて、いまじゃあポールチェンバースこそ自分の最もリスペクトするベーシストとなった そんなある日、文化祭が終わって二週間くらい立ってからのことだった 僕はまたしても人生の転機を迎えることとなった 660 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/10(月) 22 50 34.82 ID InyIoTDR0 「ねぇ、××くんベース弾けるんだよね?良かったら教えてくれない?」 それはまさしく僕が夢にまでみていた展開…そう、ついに女の子に教えてくれといわれたのだ しかも可愛い… ギターならよくあることだが、普通ベースを女の子がやりたいから教えてくれというだろうか 信じられなかったけど、もちろん僕はOKした 「…じゃあ、来週の水曜の放課後音楽室でいいかしら?」 僕は水曜日が待ち遠しくてたまらなかった ベースの練習にいつも以上に念入りにやった そして複数の教本を本屋で立ち読みしてどうやって教えるか、100回は脳内シュミレーションをしたのだ そしてついに当日がやってきた 学校に楽器を持っていくのは文化祭以来だが、なんだか周りの目をやたら気にしてしまってしょうがなかった そして運命の放課後、僕は音楽室にガチガチに緊張しながら入っていった 彼女はもうすでにきていて椅子に座って練習していた 664 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/10(月) 22 54 30.48 ID InyIoTDR0 「やぁ」と僕はぎこちない挨拶をしてベースを取り出す …しかしどうやって会話を繋げようか…さすがにそこまでは考えてみなかった 「ねぇ、××君ってジャズとか好きなの?」 突然彼女から聞かれた質問、少し驚きがありながらも僕はよく聴くと答えた そこからの僕らはまるでやたらテンションの高い友達としゃべっているように会話は止まることはなかった 彼女はビル エヴァンスが好きらしい そこで少しはピアノが弾けるのでビルを弾こうとしたが、ジャズピアノの難しさに挫折したんだという そんなときにマーカス ミラーを聴いてベースも悪くないと思い、始めることにしたらしい 僕に教えてくれと頼んだのはバンド練習のときにとても渋い、ジャズっぽいフレーズを弾いていたのでジャズに詳しいのかと思い、話が合いそうだと思ってお願いしたとのことだ そう言われたときはちょっと照れくさかったけど、うちの学校は最近じゃあEXILEだの、ORANGE RANGEだとかを聴いてる人しかいないのでジャズを聴いてる人がいたのは単純に嬉しかった 意気投合した僕らはベースを触っている時間よりもしゃべってる時間の方が長かった 671 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/10(月) 23 01 09.88 ID InyIoTDR0 結局暗くなるまでしゃべって2人で学校を帰った 来週もお願いしたいといわれた時は小さくガッツポーズしてた そんなこんなで僕はほぼ毎週ベースを教えるようになった もちろん、話してばっかりだったが、ほとんど弾けなかった彼女は簡単なスラップができるまでになった 僕より上達が早かったので正直、自分より上手くなりそうで焦った おまけに音楽理論にやたら詳しい ピアノをやっていたからとはいうものの、ソルフェージュまで知っていたのは驚きだ 当然僕だって知らなかったのに… しかし、話を聞いているとどうやら彼女は本格的にジャズをやりたいらしい そのため、毎日のように楽典を読んで勉強しているとのことだ そしてなんだかいつの間にか僕が教わることの方が多くなった気がする… そうなると僕はもう用無しになってしまうじゃないか もし、彼女から来週はもういい、今までありがとうといわれたらどうしよう とそんなことばかり考えていた そう、僕は彼女のことが好きになっていた もう12月…人肌さみしい時期…クリスマスは彼女はどうするんだろう…彼氏はいないって言ってたけど…あと数回で冬休みに入ってしまう そうなったらもう、彼女とは何もなく終わってしまうような、そんな気がした 679 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/10(月) 23 06 11.10 ID InyIoTDR0 だけど、僕は何にも行動をおこさないまま、結局冬休み前の最後の水曜日が来てしまった 皮肉なことに、次の水曜日はクリスマスじゃないか… どうしよう…おもいきって告白しようか…でも傷つくのは怖い…このまま何も言わなければ3学期も一緒に練習してくれるかもしれない だけど…だけど… 「ねぇ、来週も…いいかな…」 688 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/10(月) 23 09 29.18 ID InyIoTDR0 それは突然の、彼女からの言葉だった 「…あ、無理言ってゴメンね…そういえば来週の水曜日ってクリスマスじゃん!!××君、用事あるよね…」 「僕はいつでも暇だよ」 僕は少し震えた声でそう答えた 女の子が、クリスマスを忘れるはずない… これはつまり彼女も僕のことが… 来週こそ、気持ちを伝えよう 693 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/10(月) 23 14 09.75 ID InyIoTDR0 ついにクリスマス当日がやってきた 僕は一足早く学校へ行く 冬休みに入った学校にはほとんど人影がなかった さすがに部活もやっているとこは少なく、何だかこの建物には僕1人しかいないように思えた だいたい彼女が来るかどうかもわからない もしかしたら、突然来れないとか言われるかもしれない …そんな不安もあったが彼女は来てくれた いつものように、まるで今日も普段と変わらぬ学校生活があったかのように… 697 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/10(月) 23 15 09.84 ID InyIoTDR0 音楽室に現れた彼女は何だかいつもより綺麗に見えた 先生に会うわけじゃないから、少し化粧品したんだとはにかみながら彼女は言った それからしばらく2人でベースの練習を始めた もはや僕の教えることは何もなかったが、正確なリズムで弾けているかどうかをお互いにチェックし合ったりした 一通り練習すると普段ならまた雑談を始める だけどこの日ばかりはなかなかしゃべることがなかった お互いに無言のままの状態が続く… 今言わなければ… 「あのさ……」 僕らしかいない音楽室は2人だけの空間だ 当たり前だけど、でもこの日ばかりは周りの景色が少し違って見えた 699 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/10(月) 23 15 50.31 ID InyIoTDR0 その後、僕らは手をつなぎながら、寄り道をしながら帰った そう、今日は僕らにとって記念すべき日となったんだ 嬉しいかった すごく嬉しかった 彼女が泣きながら僕の言ったことに頷いてくれたんだから これからはいつまでも一緒だって、いつまでも2人でベースを弾いていようって、約束をしたんだ いつまでも… いつまでも… あれから数ヶ月、僕は人生の絶頂期にあった 学校は一緒に帰って、休みの日はデートして、だけど毎週水曜日は相変わらずベースを音楽室で弾いた これは彼女が「いつまでもあの時の気持ちを忘れないようにするために音楽室で練習を続けよう」と言ったからだ このころにはエレキベースだけでは満足しなくなった彼女はこっそり音楽準備室からウッドベースを弾くようになった そういえばコントラバスとウッドベースの違いってただ大きさが違うだけなのだろうか? ウッドベースじゃなくてコントラバスじゃないか疑問に思ったんだが… 706 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/10(月) 23 20 37.19 ID InyIoTDR0 4月になった 僕らは高校3年生だ そう、今年からはもう受験生になる 周りの奴らは予備校だとかに通ったり、毎日授業中寝ていたやつが突然勉強に目覚めたり… 遅刻早退を繰り返したり粋がって先生にかくれてタバコをすったりするヤツらが最近じゃあ本当の馬鹿に思える それだけ周りの環境は変わってきた 僕もまた例外ではない 地元の私立大学に入るため、勉強を本格的に始めるようになった そして彼女もまた僕と同じ大学に行きたいと行っている 今の成績なら指定校推薦でいけると先生も言ってたらしい そんなわけで余裕綽々のようだ しかしそれでも彼女は毎日一生懸命に勉強をしていた 最初はただ彼女の性格が真面目だから勉強しているんだと思った でも、僕は気づき始めた それが確信に変わったのは5月…6月…7月…そして夏休みに入ってからのことだった 707 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/10(月) 23 21 39.26 ID InyIoTDR0 このころになるとお互いの家に遊びにいくようになった そして彼女の家に何度か遊びにいくうちにある有名音楽大学のパンフレットが目につくようになった 彼女にわざと何のパンフレットか聞くと「なんでもない」と言って机の引き出しにしまいこんでしまう そしてもう一つ気になったのはパンフレットと一緒においてあった、何も記入されてない進路希望調査のプリントだった ホントは夏休み前に提出しなければいけないはずなのに… 真面目な彼女に限って忘れることなんてないはず っていうよりも今の時期にこのプリントを提出しないなんて、まず普通に有り得ない 僕には一緒の大学へ行こうと言ってたけど、やっぱり彼女にも目指す大学はあったのだ… 直接本人に聞いた方が早いけど、ひょっとしたらそれが彼女を苦しめるかもしれない 考えたあげく、彼女の友人に何となく探りをいれてみることにした たまたま僕と同じクラスの子だったのでメールアドレスは知っていた それにこれまでも彼女のことについていろいろと相談に乗ってもらってたし… メールはすぐに返ってきた どうやら進路については相当悩んでいたらしい 僕と同じ大学か、例の有名音楽大学のジャズ科に行くか… そんなの、自分の好きな大学へ行けばいいのにって思ったけど、音大は東京にある ここから毎日通うには東京は遠すぎた だからもし入るのなら上京して一人暮らしをしなくてはならないのだ そうなると僕になかなか会えなくなってしまう それで悩んでいたのだ 710 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/10(月) 23 22 24.22 ID InyIoTDR0 だけど、いくらなんでも彼氏彼女の事情で自分の夢を諦めてほしくなかった まだ僕らが付き合う前に彼女が自分で言ってたじゃないか… 将来は本格的にジャズをやりたいって…つまり、プロのジャズミュージシャンになるんだと もう夏休みが終わるころに進路にどうしようか迷うわけにはいかない まして、僕の行きたい大学と音大ではあまりに違いすぎる というより、あの倍率の高い学校に今から目指すのは遅すぎるかもしれない でもそれが彼女の夢なら止めるつもりはない それでも諦めるというなら… 714 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/10(月) 23 23 39.29 ID InyIoTDR0 僕は彼女に思い切って言った。 「音大に行きなよ」 彼女はびっくりしてこちらを向いたがみるみる目に涙を浮かべて 「一緒にいたいと思わないの?」 と言った。 僕は返事を躊躇していたら、 「もういい!!」 と言って走り去ってしまった。 それ以来彼女には会っていない‥ 思い返せばセックスはしたけど、あれだけやりたかった 亀甲縛りや放置プレイはできなかった。涙が止まらなかった。 とりあえず今は、当時二股かけていたもう一人の彼女とスカトロまで行ったから悔いはないけど。 反省は、していない 724 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/10(月) 23 29 13.50 ID InyIoTDR0 8月に入った 僕らはこの日、花火大会に出かけた でも僕は花火を別に見に来たわけではない 彼女から本心を聞き出したかったのだ しかし何となく、進路の話しをしようとすると彼女は上手くかわすのだ …結局聞き出せず、帰り道になってしまった 「ねぇ、大学どうするの?」 僕はこの日4回目にしてとうとう直球に質問をした そうでもしなければ無理だと思ったからだ 727 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/10(月) 23 31 07.38 ID InyIoTDR0 「…だから、私はアナタと同じだって言ったでしょ?心配しなくて平気よ」 さすがに少しイライラしたような口調だった 「…でも、本当にそれでいいのかな…もし僕が違う大学に行くって言っても、君は迷わず地元の大学に行くのかな?」 彼女は無言だった 「行きたいんでしょ?…音大に…」 彼女はやっぱり気づかれていたかという顔をしてため息をついた 「でも入るのは簡単じゃないし、楽器や音楽理論も今のままじゃ実技試験で確実に落とされるわ」 「だからこれからでも勉強すればいいじゃないか」 僕は強くそう言った だって、絶対に彼女の夢を壊したくなかった 彼女の音楽に対する想いはだれよりも僕が一番知っていたんだから… 730 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/10(月) 23 31 52.51 ID InyIoTDR0 僕はもし音大に行くとなるとしばらく会えなくなることも知っているということも彼女に伝えた それでも彼女が縦に首をふろうとはしない 長い沈黙が流れた そりゃあ音大に行くかどうかを悩んでいるのは僕のことだけじゃないと思う 親元を離れて暮らすわけだし、お金もかかるし、難しい問題はいろいろあると思う… でも僕のことで一番の障害になるのなら、僕は身を引くつもりだ 遠距離恋愛だって構わないと思ってる 732 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/10(月) 23 32 32.48 ID InyIoTDR0 この日はここで会話は止まってしまった 僕は悩んだ 彼女が今まさに悩んでいるように、僕も必死で考えて、考えて、そして僕なりの答えを彼女に伝えることにした 次の日、僕は音楽室でまた練習しようと言った この日はここで会話は止まってしまった夏休み中の学校は冬休みのときより周りはにぎやかだった 部活、補修など結構たくさんの人が来ていた そして僕らは音楽室で相変わらずいつものように練習を始める 一通り練習したあと、またいつもの雑談を始める だけどこの日は違っていた あのクリスマスのときの2人みたいな沈黙が続く でもあの頃とはまた少し違った そう思ってたのは僕だけかもしれないけど 735 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/10(月) 23 34 06.18 ID InyIoTDR0 「…あのさあ、」 この時の自分が一瞬クリスマスと重なった でも、違うんだ 「…僕達、別れよう」 738 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[sage] 投稿日:2007/12/10(月) 23 34 56.59 ID InyIoTDR0 ホントは別れたくない 今でも彼女が好きだ だから彼女の目指す夢の支障になりたくないと思ったんだ 「…なんで……」 彼女はそう言って泣き出す そして僕は何も答えなかった 今にして思えば言葉が足らなさすぎた 僕のことで夢を諦めてほしくないとか、嫌いだから別れるわけじゃないとか、言うことはたくさんあった でもこれ以上しゃべると自分が泣きそうになるので何も言えなかった ホントに情けない… 15分くらいたったくらいだろうか… 突然彼女は音楽室を飛び出して行った 1人残された僕は今まで我慢していた涙が溢れだした そしてそのまま1人で日が暮れるまでベースを弾き続けた なんでこんな極論に至ったかといえば、やっぱりこうするのが一番だと思ったからだ 742 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/10(月) 23 36 11.88 ID InyIoTDR0 このまま続けても中途半端になるだけだし、勉強にだってお互い身が入らないだろうし… 僕の勝手な思いこみだろうか…? 先生がそろそろ部屋に鍵をかけると行ったときにようやく僕は思い腰をあげた ひょっとしたら、また彼女がここに戻ってくると思ってギリギリまで粘ったが、やっぱり来ない 結局ベースをしまって僕は1人で帰った もう、音楽室であのときのように2人で弾くことはないんだ… いまどきの女子高生なのに、やたら音楽の趣味は渋いし、ベースだって周りじゃあポップスばっかり弾いるのに、ジャコの曲を無理して弾こうとして… ホントに変わった子だった…でも好きだったんだ 744 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/10(月) 23 36 42.32 ID InyIoTDR0 それから彼女と連絡をとることは一切なかった 4月に入った 僕は地元の大学に無事入ることができた そして彼女はどうやら音大を受験してみごと合格したようだ 何だかんだ、やっぱり行きたかったんじゃないか… こうして僕らは別々の道を歩みだした 746 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/10(月) 23 37 18.08 ID InyIoTDR0 月日はさらに流れてその約2年後…つまり、今に至るわけなんだが、僕はというとバンドを組んで、ライブハウスのチケットを売りさばくのに苦労している もちろんロックバンドだが、ジャズをやめたわけじゃない 大学のサークルでジャズをやっている ちなみに僕はベースからギターに持ち替えた 始めたきっかけは、ただベースだけよりギターも弾けたほうがいいからなんだけど、本当はいつかプロになって、他のミュージシャンとセッションしたときに僕はギター、そしてその横で彼女がベースを弾く… そんなひそかな夢を持ってコード理論とスケールに日々悪戦苦闘している 752 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/10(月) 23 38 06.87 ID InyIoTDR0 まあ夢のまた夢だけどね 彼女は僕のことを最低な男って思ってるだろうし… だけど今、幸せでいるならばそれでいいと思ってる 彼女と過ごした音楽室の日々は僕にとってかけがえのない時間だ もちろん、もう高校に行くことはないけど、今でも時々夢を見る あの頃と何も変わらない音楽室に入って行くとそこには彼女があの頃と変わらずベースを弾いている そしてお互いに向かい合って彼女が言う 「じゃあ、始めましょ」 754 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/10(月) 23 38 48.27 ID InyIoTDR0 ちょっとモテたいと思って始めたベース こんな地味な楽器じゃあやってもしょうがないと思ってた時期もあった 彼女と出会ってお互いに助け合うという大切さを知り、痛みも知った ホント、楽器を始めなかった自分は今ごろどうなってたんだろう… 755 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。[] 投稿日:2007/12/10(月) 23 39 25.68 ID InyIoTDR0 それから彼女は今どうしているかといえば、どうやら新しい彼氏が出来たらしい そりゃあ当然といえば当然だ あんな可愛いくていい子をほっとく男がいないはずがない でも、今を必死で生きてる僕にはそんなことにショックをうけてる暇はない 早くノルマの20枚のチケットを売らなければいけないし、とにかく過去を引きずるつもりはない 夢は見るけどね… 終わり
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絶体絶命都市3 -壊れゆく街と彼女の歌- 機種:PSP 作曲者(挿入歌):USP(飯田舞) 編曲者(挿入歌):USP(東大黒、海老原博、南部栄作) 作曲者(BGM):弘田佳孝、甲賀崇 開発元:アイレムソフトウェアエンジニアリング、パオン 発売元:アイレムソフトウェアエンジニアリング 発売年:2009年 概要 災害脱出アドベンチャー「絶体絶命都市」シリーズの第3作目。 シリーズでは初の挿入歌が収録されており、USPのシンガーソングライター、飯田舞氏が歌う主題歌「キミの隣で…」の評価は高い。 また英語版の挿入歌も収録。こちらは『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット』の挿入歌を歌ったNadia Gifford氏がボーカルを担当。 オリジナルサントラは未発売だが飯田氏の歌を収録したアルバムは発売されている。 以降シリーズを引き継いだグランセーラの『巨影都市』や続編の『絶体絶命都市4Plus -Summer Memories-』でも飯田氏の挿入歌が使われている。 収録曲(曲名判明部分のみ) 曲名 作曲者 補足 順位 キミの隣で… 作:飯田舞編:東大黒編:海老原博 主題歌歌:飯田舞 2009年32位ゲームソング201位第2回ゲームソング112位泣き曲179位 Forever エンディングテーマ「キミの隣りで…」の英語版歌:Nadia Gifford 忘れない 作:飯田舞編:南部栄作編:東大黒 挿入歌歌:飯田舞 remenber 挿入歌「忘れない」の英語版歌:Nadia Gifford サウンドトラック アイレムテーマ曲コレクション キミの隣りで… キミの隣りで…
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彼女の箱 自分と彼は幼馴染だ。 いつから一緒だったとか、細かいところは覚えていない。ただ、気づいたときにはもう彼がいて、それが国立学校に通う今でも続いている。 彼は優しい。 自分が何をやっても彼はそれに付き合ってくれる。散々文句は言うけれど、最後は自分を見捨てない。このクラブがいい例だ。 友達との溜まり場を確保するためだけに、入学して即座に作った適当なクラブ。俺は発案だけして、煩雑な書類や手続きを彼に押し付けた。彼は特にクラブ発足を希望していたわけではないので、当然のことながらひどく怒った。しかし結局は折れて、今では部長兼庶務兼会計、もとい雑務担当である。その上三日に一回は部室に顔を出す。一応部長なのだから、と思っているらしい。自分がそんなことされたら確実にユウレイ部員決定だ。全く恐ろしいほど真面目でお人よしである。 そんな彼がもう一週間もクラブに来ない。 違和感を抱くには十分な理由だった。 授業が終わり、四角い空間に賑わいが訪れる。一つ前の席に座り転寝をしていた彼も、その賑わいに少しばかり眉根をよせ覚醒した。 「夢の国からお帰りカズサ、授業中に寝るなんて珍しいじゃん。」 「…ただいま。ノートはとって…るわけないよな、お前は。」 らしくない失敗を揶揄しながら前に立つと、彼は少し苦い顔をしてこっちを見上げる。 「決め付けるとかひっでー! とってないけど。」 「…。」 「そんな怒んなって!でも本当珍しいよなー、カズサが居眠りとか。」 「この頃忙しくて…。」 自分の居眠りは珍しくもなんとないが、彼が寝ているところを見るのは一年に一回あるかないか、いやない。真面目な彼が珍しいと思ったことを口に出すと、予想外の答えが返ってきた。 「最近クラブ来てないのに?」 「まぁいろいろあって…あっ今日もいけないから、クラブ。それじゃ、また後で。」 驚いて問いかけた疑問に煮え切らない返答をして彼は教室を去る。こうして彼は最近毎日どこかに出かけ、晩にはなんだか疲労して寮に戻ってくるのだ。 何度かさりげなく聞き出そうとしたが、いつもはっきりしない答えばかりが返ってくる。 そこで今日は強硬手段に出ることにした。 早足に廊下を歩く彼の後ろをこっそりついて回る。 長年一緒にいたせいか彼は俺の気配にすこぶる鋭い。気づかれないように、さりげなく慎重に道を進む。こうすれば彼がどこに出かけているのかを知ることが出来るはずである。声をかけようとする友達の口を5回目に塞いだとき、彼の足がピタッと停止した。 (図書館…?) 彼が止まった階段の先には落ち着いた佇まいの図書館が見える。 図書館で何か調べ物でもしていたのだろうかと思考を巡らせ目を離した瞬間、彼の姿が見えなくなった。焦って彼がいた場所に駆け寄るがもう人の気配はない。 (や ら れ た) もうすっかり手がかりはなくなってしまったが、諦めきれずに周辺を丹念に捜すと彼の代わりに薄汚れたドアを見つけた。建築上仕方なく出来てしまった何にも使えない小さな空間を無理やり倉庫にでもしたのだろう。ドアはこれでもかというほど見つけにくく、そして開けにくい場所にあった。 もしかしたらここにいるのかもしれない。少しの期待をもって錆びたノブを握り、一気にこじ開けた。 ――ゴミ? 目前に現れたのは期待していた人物ではなく、奇妙な形をした金属片の数々だった。 予想していたよりかなり広い空間には、なかなか立派なソファにちょっとしたテーブル、どこか見覚えのある椅子、大量に積まれた本、そして大小様々な大きさの珍妙な金属片が散乱している。相当汚い。 本の塔にぶつからないよう慎重に部屋の中心まで進むとテーブル上に少しほかと違う金属片があることに気がついた。部屋の中は小さな金属片が散らばっているのにこの金属片は欠片というよりも塊に近く、そして四角い箱のような形をしている。興味をひかれ手にとるとそれには見たこともないような模様の装飾がされていた。 何かの入れ物なのだろうか。そのわりに重く、妙な装飾がされている。その上開ける部分がなく代わりにクローバーを半分に切ったような突起物がついていた。明らかに理解の範疇を超えたものだ。 ひとしきり触って調べてみたが一向にそれが何なのかわからないので、とりあえずその箱のような物体をテーブルに戻そうと動きかけると、大きな足音が聞こえてくる。急いでテーブルの上を元の状態に戻すが、その足音はどんどんとこの部屋に近づく。何か悪いことをしたわけではないが思わず本の影に逃げ込んだ。 飛び込んだのは本の塔と栗色の髪の知らない少女。 「到着!!」 そう叫んだ後軽やかな足取りでずんずんと部屋に入りこみソファに座る彼女は一般課の制服を身にまとっている。見覚えがないはずである。 別に一般課の生徒と特別隔離されているわけではないが、授業が別でしかも異性とくれば当然知らない人間がでてくる。ましてや自分は入学して2年目である。いくら自分が情報通でも知らなくて無理はない。 納得して観察を終えるとやっと彼女の後ろに目をやった。本の塔が動いて部屋に慎重に入ってくる。どうやら人間らしい。その人物はゆっくりと本を周辺に下ろすと体を上げる。 彼だ。 驚きについ声を上げそうになるが、ぐっとこらえ彼の行動を本の隙間から覗き見る。 彼はため息をつきながら今しがた持ってきた塔から一番上の本を手に取ると歩いて近くの椅子に座った。 「さぁパパっとやっちゃってセンパイ。」 「まだ本開いてもいないんだけど。っていうか全然敬ってもいないのにセンパイとかいうな。」 「でも呼び捨ても嫌でしょ。」 「当然。」 「我侭だねぇ。」 「だから、呼び方にあった待遇をしろって言ってんの!先輩に本運ばせるな!」 「レディファーストだよ、センパイ。」 ニコニコと綺麗に笑う彼女は、わりと可愛い。クラブサボって毎日ここで彼女と二人きりだったのかと思うとなんだか無性に前にうずたかく積まれた本を崩したくなった。 「大体ちゃんと動いているのも見ずに元通りにするなんて、無理に決まってる。」 「だからセンパイを呼んだんだよ。」 彼女はテーブルの上においてあったあの妙な箱を手に取り、愛しげにそれを撫ぜた。 「俺のは物の形を変えるだけ。中身まで再現することは出来ないって何度も言ってるだろ。」 「でも、折れたトコロの形を再現することは出来るでしょう。」 「そりゃあ出来るけど、あんたの記憶がはっきりしてないじゃないか。」 「だから、ホラ本読んで!」 「…毎日このやり取りすんの、飽きたんだけど…。」 何のことを話しているのかまったくわからないが、彼女が何かを再現したくて彼を呼んだことはわかった。彼の魔法は物の形を変えるというものだから。とりあえず彼女と彼がどうこうということではないことがわかり、何故か妙に安心した。 結局のところ、彼は時に彼女とたわいのない会話をしながら、時に本読みながら、箱には触れずに部屋を出て行った。彼女も本を読んだり、箱を眺めたり、彼が形を変えたであろう金属片で遊んだりして時間をつぶしていた。彼女は誰か、彼は何を読んでいるのか。そして何を再現しようとしているのか。 全くわからない。部屋から出て寮に戻った後も、その疑問はずっと頭に残った。 それから毎日、自分はその部屋に通うようになった。 盗み聞きは若干良心が痛むが致し方ない行動だった。というのも彼女のことがまったくわからなかったからである。 調べてわかったことといえば、 魔法がとてつもなく優れているということ でも授業はサボり気味であるということ そして彼女は謎が多いということ ぐらいである。 いつもならここで諦めるのが常だが、今回はどうしても諦め切れなかった。どうしてか、自分でもよくわからない行動だった。 毎日通った成果によると、どうやら彼女はあの珍妙な箱を元通りにしたいらしい。あの箱はもともと、箱に付いた突起物を回すと音がなるという世にも珍しい代物だったようだ。さらにその箱はなんと魔法で動くものではない。小さな金属片が複雑に絡まりあい、お互いに影響を与えながら動く『キカイ』というものらしいのだ。彼が読んでいたのはその『キカイ』というものについて書かれた学術書だったのである。 彼女は箱がまだ動いていた頃の話をとても嬉しそうに話した。 「この棒を回すだけですぐに音が流れてたんだよ。」 大切だったのだろう。『キカイ』について少ししか記述されていない小難しい学術書を集めて、彼を呼び出すほどに本当に。動かなくなった後でも彼女が箱を触るときはいつも優しい表情をしていた。 彼女は彼の手をとる。 「ここは確かこんな形だったと思う。」 人と、記憶やイメージを共有する魔法を、彼女は使えた。人のどこかに触れてその人の思考やイメージを読み取る、自分の記憶やイメージを相手に与える。彼女は自分の魔法で、箱の元の状態を彼に伝えていた。彼はそのイメージを頼りに金属片の形を変える。 「特別課、行けたんじゃないか。こんなことできるんだったら。」 ある日彼は唐突にそう尋ねた。彼女の魔法は確かに戦うには向いていないが、軍にとって有用だろうと自分も薄々感じていた。 「うん、行けたよ。でも断った。」 サラッと答えた言葉に一瞬呆然となる。軍人になって武勲を立てるということは誰もがうらやむエリート街道であり、その候補生が入る特別課は将来を約束されたことと同義である。彼もそのことをまくし立てると、彼女はまたもや軽くこう言った。 「だって、キョーミないし。おもしろくなさそう。」 彼女の興味は箱のみに向いているようだった。 またある日彼はこうも尋ねた。 「一生こんな箱のことだけを考えて過ごすつもりか。将来はどうするんだ。」 真面目な彼らしい台詞に噴出しそうになる。 「将来はきっとセージカとかになるんだろうね、きっと。」 「きっとって…何かなりたいものはないのかよ!」 「だって望んでもしょうがないでしょ。私はおイエのためにここにいるんだから。」 その言葉に納得しきれず、さらに言い募ろうとする彼に苦笑して彼女は言った。 「イロイロな事情があるんだよ、人には。」 どんな言葉にも明答を返してきた彼女が初めて濁した言葉に、彼の顔は複雑そうな表情を乗せた。 今まで彼がこんなに表情を変え、感情的になるのは自分の前だけだった。なんとも言えぬ彼の表情を見て何故か不快な気分に陥る。彼女と話している彼は自分の知る彼とまったくの別人のように感じられた。 彼がクラブに現れなくなってから一ヶ月がすぎた。 ほぼ毎日活動していたクラブは、部長である彼も、副部長である俺もいないのでめっきり活動は減り、久しぶりに廊下で会った後輩にこれじゃあクラブにならないと怒られた。 当初に持った疑問はすべて解決したし、箱の再現も一向に進まない。毎日毎日覗かいても何にもならないとは思うが、それでも足蹴なく通った。もはや部屋に行くのは何かの義務のようだった。 今日もクラブに行くと軽く声をかけて、彼より早く教室を出る。 いつものようにこっそりと部屋に入り、本の影に身を潜めるとちょうど足音が聞こえてきた。大凡彼女だろう。彼女が彼より遅く部屋に訪れたことは一度もない。 ドアが開く。栗色の長髪が見えると半ば信じ込んでいた自分は呆気にとられた。視界に入ったのは見慣れたブラウンの彼のくせ毛だったからだ。 彼自身も驚いたように部屋を見回し、釈然としない顔で椅子に腰掛けた。しばらくは本を読んで過ごしていたが、やはり落ち着かないようで。五分と立たずに席を立ち、何度も廊下を見に行く。彼が廊下を見るためにもう何度目かもわからないドアの開閉をすると、そこには彼が待ち望む彼女がいた。 「遅かったな。」 「…ちょっとね。」 いつも堂々と前を見据える彼女の瞳が微かに頼りない光を放つ。今日の彼女は本格的におかしい。 彼もそのことに気づいたようで少し心配そうにするが、彼女はそれ以上何も言わず彼の横を通り抜けテーブルの上にある『キカイ』を手に取った。 「センパイ、これ預かってくれない?」 思いがけない言葉に彼は呆然としながら言葉を紡ぐ。 「……なんで。」 「帰らなきゃいけないかもしれないの。」 「どこへ!」 「北に、おイエに。」 絶句して口を紡ぐ彼を見て、いつかのように苦笑しながら彼女はゆっくりと語り始めた。 「お爺ちゃんに育てられたんだ、私。 お爺ちゃんはなんでもよく知ってて、私にいろんなものを作ってくれた。これもそう。魔法は使えなかったけど、私の魔法使いはおじいちゃんだったの。 複雑な事情があるらしくて、お母さんにもお父さんにもあったことはなかったけどお爺ちゃんがいるから全然ヘーキだった。毎日が平和で穏やかだったんだ。 でも、死んじゃった。」 言いづらそうに彼は問いかける。 「…お爺さんが?」 小さく首を振って彼女はこう続けた。 「センパイも知らない?ウチの学校の先輩が北方軍部をふっ飛ばしちゃった話。」 「知ってる…確か黒髪の有名な先輩だったよな。」 それなら自分も知っている。漆黒の頭髪だけでかなり目立つが、貴血らしいという噂が実しやかにささやかれる、何かと話題に事欠かない先輩だった。 「そう。ウチは北の小さな一族らしいんだけど、それで死んじゃったんだって。跡継ぎさんたちが、全員。」 「らしいとかだってとか、自分の家じゃないのか?」 「だって今まで知らなかったんだもん。そんなこと。誰に聞いても教えてくれないけど、お母さんとお父さんのことで何かあったみたい。 とにかく私はお爺ちゃんとずっと二人きりで暮らしてきたの。でも、それで跡継ぎが必要になって今のおイエに連れてこられたんだ。もしかしたら女幻かもしれない、ってね。それで入学してきたんだよ、この学校に。 お母さんも魔法使いじゃなかったから、あんまり能力には期待されてなかったみたい。でも特別課蹴ったことがバレちゃって、北に戻って戦線に参加しろだって。まだ決定じゃないらしいけど、カッテだよね。」 日常会話のように普通に話す彼女を、彼のほうが辛そうに見つめる。 「だから、預かっててよセンパイ。あっちに持っていったら壊されちゃうかもしれないし。それに直すの進まないでしょ?」 彼女は彼の手をとり、箱をその上に乗せた。 次の瞬間、それに耐え切れなくなったように彼は彼女を抱きしめた。彼女は少し驚き身を強張らせたが、そのままじっとして小さく言葉を続けた。 「お爺ちゃんからもらったこれが壊れて、途方にくれた私にセンパイは希望をくれたの。全くわけがわからないはずなのに、見捨てないで、ずっと付き合ってくれて。全部を言葉にすることは出来ないけど、本当にありがとう。」 「会うのはこれで最後じゃないんだから、そんなこというな。お前はいつもみたいに傍若無人に振舞えばいいんだよ。」 「酷い、センパイ。私はいつもヒメウズのように生活してるのに。」 「…ヒメウズ?」 「しおらしいってこと。」 「…。」 「でもそうか、そうだよね。」 彼女は彼の背中に手を伸ばした。 「また会える。」 「うん。」 二人はずっと抱き合っていた。ずっと、ずっと。 その日彼らが帰った後、影から出てきた自分は彼女の『キカイ』を持ちだして学校の蓮池に捨てた。彼と彼女のつながり全てを消し去るために。 何故あの部屋に通い続けたのか、今ならわかる。自分は彼が自分の知らないところで変わっていくのが嫌だったのだ。誰よりも近くにいた彼が、自分以外の人によって少しずつ、でも確実に変貌していくのが堪らなく不快だった。彼に彼女と近づいてほしくなかった。それがただの幼馴染には到底抱くはずがない感情であっても。 彼女の大切な箱は濁った池の水に沈んでいく。 彼女と彼の関係もこんな風に消えていけばいい。静けさを取り戻す水面をじっと見つめながらそう思い続けた。 結局のところ彼女が本当に帰ったのか、まだこの学校にいるのか自分は知らない。 しかし彼はまたクラブに来るようになった。昔と変わらない、自分が望んだ日常だ。 だが自分は知っている。 彼が未だにあの本を、『キカイ』の本を持ち歩いていることを。 彼の机の奥底に、奇妙な鉄片が増え続けているということを。
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彼と彼女(かれとかのじょ) 概要 グレイセスに登場したサブイベント。 登場作品 + 目次 グレイセス 関連リンク ネタ グレイセス No. 50 発生場所 地名・地形: 発生条件 入手 ▲ 関連リンク ▲ ネタ ▲