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彼と彼女の事情 ◆.WX8NmkbZ6 雪代縁は一人荒野に立っていた。 全身傷だらけだが、足はしっかりと地面を踏み締めてその体を支えている。 「……」 無言のまま足元の刀のような形状をした銃と、一目で業物と分かる日本刀を拾い上げた。 日本刀を鞘から抜いて振って感触を確かめる。 逆刃刀よりは扱い易い。 そちらを一度地面に置くと、今度は銃を何発か試し撃ちする。 十メートルほど離れた場所にある小石を狙うと過たず命中し、その精度の高さに驚いた。 縁は中国マフィアの頭であり、西欧諸国の兵器も取り扱っている――だがそれと比較しても、次元が違う。 「なるほど……」 一人納得して思考する。 戦闘が終わってから縁は体を休め、これまでに起きた事を思い起こしていた。 そして考えが纏まった結果ここに立っていたのだが、こうして新たに加わった情報も交えて整理する。 V.V.が主催する殺し合い。 遠隔操作型の首輪によって参加者を管理する高度な技術。 際限なく物を出し入れ出来る鞄。 高い機動力を見せた四輪駆動の車。 勝手に対象を束縛する縄。 記憶を流し込む能力。 奇妙な格好に変身する為の支給品。 高い命中精度の銃。 一つ二つなら「少し進んだ技術」「催眠術」と切り捨てられたかも知れない。 だがこうも重なれば、どれも夢物語のようだ。 それでも縁は目撃したものを一つ一つ吟味し、これが現実なのだと再認識する。 つまりこれは姉にとっても想定外の不足の事態だったのだ。 「……殺す」 人誅を目前に控えた時期の縁をこの場に連行し、人誅を阻んだ存在。 その為に緋村剣心は命を落とし、縁は彼を地獄の底へ叩き落とす事が出来なくなった。 縁の十五年を否定するような真似をした者を、生かしておく理由はない。 口ぶりから考えれば他の参加者を皆殺しにする事で再会出来るようだ。 言葉の真偽は定かでないが、別の手段を考えるのはそれで会えなかった時でいいだろう。 差し当っては鞄を手に入れる必要がある。 日本刀二本と銃があれば得物は充分だが、持ち運ぶには少々かさ張る。 ついでに食料が入っていれば尚望ましい。 他の参加者から奪う事を念頭に置きながら、縁は道路沿いに東へ向かった。 ゆっくりとした移動で体力を徐々に回復させ、その上で市街地にいるであろう参加者に接触する為だ。 途中で後方から爆発音が聞こえ、戦闘が起きている事に気付いた。 ここで場に乱入して参加者減らしに掛かるのも良いが、長い目で見れば今は休息と移動に努めるべき。 付近で殺し合っている者達を他所に、縁は足を止めずに後回しにしていた案件について考え始める。 ――願いを叶えてあげるよ。 夢物語のような数々の技術。 縁の常識では測れないようなその力があれば、不可能と思えるような願いも叶うかも知れない。 そう――例えば死者蘇生のような。 雪代巴と緋村抜刀斎を生き返らせる。 緋村抜刀斎に改めて人誅を下し、姉との幸せな生活を今度こそ取り戻す。 そんな、文字通り夢でしかなかった幻想も……? 降って湧いた希望に、縁は子供のような笑みを浮かべた。 「……」 けれどそこで縁は表情を消す。 思い出すのは先程垣間見た景色――目の前に横たわる花嫁の姿。 ▽ 杉下右京は車を走らせながら周囲に目を光らせていた。 隣の助手席に座るのは高崎みなみ。 後ろの荷台にいるのは合流を果たしたばかりの城戸真司と翠星石――右京以外は全員眠っている。 まだ若い彼らに対し、殺し合いという環境はただそこにあるだけで体力を奪っていく。 真司と翠星石に至っては強力にして凶悪なシャドームーンと戦い、仲間を一人失ったばかりだ。 右京と協力して見張りをしていたみなみも、深夜に殺し合いに放り込まれた為に睡眠が足りていなかったらしい。 警察署に向かい、Lや光太郎と合流する。 またそれまでの道中で他の参加者と接触し、可能ならそちらとも警察署まで同行する。 それが右京の受け持った役割だ。 殺し合いを止める為ならば、何日でも寝ずにいる程度の覚悟はある。 亀山薫の分まで戦わなければならないのだから。 やがて遠くにホテルの姿が見えてきた頃、正面に一台のバイクが見えた。 黒いテンガロンハットとタキシードの男が運転手らしい。 胸元を見ると肌色の腕が絡んでいる――どうやら後ろにもう一人乗せているようだ。 右京は車を止めて降り、道に立ち塞がるようにして立った。 「そこのお二方――」 泉新一という少年とミギーというパラサイトの命が潰えて間もない今、右京は最大限に警戒していた。 銃を構えながらバイクの男に声を掛けるが、バイクは速度を緩めない。 まさか殺し合いに乗っている? 他の参加者を問答無用で挽こうとしている? 右京は警戒を強め、声を大きくする。 「止まりなさい!!」 バイクは速度を緩めずにグングンと右京との距離を縮めた。 もしもの時の為に引き金に指を掛ける右京の緊張が一層高まる。 そして二人乗りのバイクは、右京の横を通り過ぎて行った。 「…………は?」 放心する右京の耳に、後方から女性の声が響く。 「おいヴァン、他の参加者を無視するとはどういう事だ!」 「北に行くんじゃないのか?」 「参加者がいて、しかも声を掛けられているんだぞ!? レナの時から成長していないのかお前は!!」 右京がバイクの方へ振り返ると、バイクはブレーキを掛けて停止していた。 後ろに乗っている女が運転手の男の背をポカスカと叩いている。 どうやら今の通過は右京を無視をしようとして無視したというより、二人の間で意志疎通が上手く行っていなかった故に起きたようだ。 「もしもし」 改めて声を掛けると、緑髪の女がギッと右京の方に顔を向けた。 その特徴的な姿は、最初の会場でルルーシュと名乗った少年と会話していた女性と相違ない。 虫の居所は悪そうだが、殺し合いに乗っているようには見えなかった。 「僕は警視庁特命係、杉下右京と申します」 ▽ 砂浜に転がって数十分、傷の再生を済ませたC.C.は動き出した。 傷付いて動けなくなったヴァンに肩を貸してやり、遠くに望んだホテルを目指す。 こんな所で寝ていて襲われたのでは笑い話にもならない。 到着し、襲撃される可能性を考慮してロビーからかなり離れた部屋を占拠。 最初にした事はヴァンの傷の手当て。 それからC.C.は塩水でドロドロになった衣服を脱いでシャワーを浴びた。 殺し合いの最中にする事ではないが、不死たるC.C.の優先順位としては間違っていない。 濡れた髪、玉のような雫が浮いた少女らしい細く白い肢体をそのままに、クローゼットに備え付けられたバスローブを纏う。 海水に浸かった服にも洗面所で洗い、その後ドライヤーを使って強引に乾かした。 本来ならばこのような事はC.C.本人がやらずに他人を行使するのだが、ヴァンにこういった事は期待出来ないのだ。 乾いた服を着てシャワールームからベッドルームに戻ると、ヴァンは二つあるベッドのうちの一つを占領して寝転がっている。 「私はピザを食べるが、お前はどうだ?」 「あ゛ー」 だらけた態度と同じくだらけた返事がある。 先の戦闘での鬼気迫る様にはC.C.も気圧されたものだが、見間違いだったかと疑いたくなるところだ。 C.C.はそんなヴァンの様子を余所にピザをテーブルに置いた。 辺りに広がるチーズの香りに気を良くしていると、彼も匂いにつられたように起き上がる。 横着な態度に閉口してピザを引っ込める事も考えたが、戦闘に際してだけは活躍出来るだけに無碍には扱えない。 「ほら」と、嫌々ながら彼に箱ごとピザを差し出した。 C.C.は切り分けられたピザを一つ取り、垂れそうになるチーズを落とさないように口に運ぶ。 歯を立てて生地を千切り、伸びるチーズを引っ張りながら咀嚼する。 「……」 支給されたピザは無制限にデイパックから出て来る。 味見は既に済んでおり、味はどれも同じはずだ。 しかし、その味がほとんど感じられなかった。 C.C.は溜め息を吐いて一口だけかじったピザを置く。 「……こんなに不味いピザは初めてだよ」 本当にここから脱出出来るのかと、不安や心配はある。 一時行動を共にしていた竜宮レナについても気掛かりだ。 しっかり者の彼女なら上手くやっているとは思うが海を渡る手段はなく、連絡も取れない。 だがそれ以上に、こうして安全地帯に留まってゆっくり休息を取っていると思い出してしまう。 ――ルルーシュ・ランペルージ。 最初の放送で呼ばれた共犯者の名。 (……悪い女だ、私は) 今更めいた事を考え、自嘲する。 C.C.は多くを知っていた。 ルルーシュは母であるマリアンヌ・ヴィ・ブリタニアの死の真相を暴く事を目的としていたが、C.C.は初めから知っていた。 それどころか、未だ死んでいない事さえ知っていた。 度々苦悩するルルーシュを見ていながら、C.C.は黙し、口にする事はなかった。 (お前を殺したのは、私なのかも知れないな) 何もかも全て最初に教えていれば、ルルーシュの辿る道は別の物になっていただろう。 そうなれば――彼がこの場に呼ばれる事はなかったかも知れない。 或いはこの場に呼ばれても死ななかったかも知れない。 全ては可能性に過ぎないが、C.C.は一際大きく溜め息を吐くのだった。 「だったらよ」 そこへ、ヴァンが突然口を開いた。 C.C.は何の事かと一瞬狼狽えるが、「ピザが不味い」という言葉を受けてのものだと思い当たった。 彼の両手には見覚えのある、毒々しいまでに色とりどりの調味料。 「ば、馬鹿よせ!!」 食欲がさほどなかったC.C.はピザを一枚しか出していなかった。 箱から切って直接取る形で、一枚を二人で分けようとしていたのだ。 それが今、災いする。 ヴァンは二人分のピザ全体に容赦なく調味料をぶちまけた。 衝撃的な映像を目にしながらC.C.は頭を抱える。 この一枚は責任をもってヴァンに処理させて、新たにもう一枚ピザを出すべきだろうか。 しかし元々薄かった食欲は、彼が創り出したカラフルなピザのせいで一層衰えている。 もう食事は諦めようかと思った時、彼は言う。 「食えよ。今回だけ特別だからな」 人のピザの上で勝手に惨劇を起こしておきながら、どの口で。 悪態を吐こうとするが、ヴァンはグイとC.C.の方へピザを一切れ差し出して来た。 いつの間に用意したのか彼の手にはフォークがあり、それをピザに突き立ててC.C.へ向けているのだ。 今更ながら品性を疑わざるを得ない。 こうしている間にもそこから調味料の余剰分がボタボタとテーブルに落ち、惨状を悪化させる。 C.C.は目前に広がる光景に嫌気がさした。 「一口だけ食ってやる……有り難く思うんだな」 そうしてC.C.はヴァンのフォークから乱暴にピザを取り、マーブル模様のそれを口にした。 「……辛い……」 マスタードとタバスコが鼻に抜けて涙が出そうになる。 しかし同時にC.C.は驚愕の事実に気付いた。 「旨い……だと……」 「だろ。ったく、どいつもこいつも食う前から文句ばっか言いやがって」 ぶっきらぼうに言いながら、ヴァンも箱から取ったピザを口に運ぶ。 「辛ぁぁぁぁぁぁあああああああああい!!!!!!」 「……馬鹿だ」 もう一口、C.C.は調味料に染まったピザを齧る。 「……しかし、確かにいける」 C.C.の味覚は目玉焼きにマンゴーソースを掛けて食べる程度に、ヴァンのそれといい勝負をしているのだ。 何より、多分。 「……おいヴァン、やはり辛すぎるぞ。 水を持って来い」 「ミルクはないのか?」 「ない。いいからとっとと水を二人分持って来い!」 今の心境には、辛過ぎるぐらいが丁度いい。 テーブルの上の惨状はそのまま。 ヴァンと共に一つずつベッドを独占して寝転がりながら、いびきをかく彼を余所にC.C.は物思いに耽る。 思い巡らすのはこの殺し合いとV.V.に関しての事だ。 まず考えるのは、この会場に集められた者達の人選について。 C.C.が元から知っていた面々に加えてヴァン、レナ、ミハエルと東條、白髪の男、シャドームーン、蒼嶋、千草。 (……濃いな) 身体能力か、精神力か、特殊能力か、或いはそれら全てか。 誰も彼も、普通の人間から大なり小なり逸脱していると言っていい。 アトランダムに選んだとしては明らかに不自然で、何らかの意図があってのものだろう。 また不死であり殺し『合う』事が出来ないC.C.をわざわざ殺し合いの場に連れて来ている時点でおかしい。 V.V.の目的は殺し合いそのものではない。 そもそもV.V.は人々が殺し合うのを見て喜ぶような快楽主義者ではない。 恐らく殺し合いは手段であり、目的は別にある。 心当たりがあるとすれば『ラグナレクの接続』。 C.C.も一時は関わっていた計画。 二つのコードを用いて集合無意識に働き掛け、生死を問わず全ての人間の意識を統合するというものだ。 V.V.とその弟のシャルル・ジ・ブリタニアはC.C.が嚮団から離脱した後も、恐らく諦めていない。 シャドームーンのような嚮団の手にも余りかねない者まで集めたこの殺し合いは、随分手が掛かっている。 そう考えればこの殺し合いは『神殺しの計画』に関わっていると考えた方が自然だ。 しかしどう関わるのはという所まで踏み込むと、これはV.V.に直接聞かなければ分からない。 敢えて仮定するなら、と考えたところでC.C.の背筋に悪寒が走る。 C.C.はそこで思考を停止させた。 時計をチラと見、放送が近付いているのに気付いてC.C.は立ち上がる。 バスローブを脱ぎ捨てて元の服に着替え、ヴァンと自分のデイパックを整理しながら彼に声を掛ける。 「行くぞヴァン。 お前もこんな殺し合いはさっさと終わらせて、やる事があるんだろう?」 そう言うとヴァンは気だるそうにしながらも素直に起き上がった。 だらけた男だが、本来の目的に対しては並々ならぬ執着があるらしい。 ヴァンと共に部屋を出、移動手段を求めて駐車場を検分する。 そして見付かったのが、バイク――バトルホッパーだった。 ヴンヴンヴン、と音を立てながらライトを明滅させる様は、ヴァンとC.C.に何かを訴え掛けているようにも見えた。 その様子に、C.C.は念の為確認を取る。 「ヴァン、こいつが何か言っているように見えるか?」 「車が喋るわけないだろ」 「お前の言葉にしては正論だ」 ヴンヴンヴン、とエンジン音を立てながら、首を振るようにヘッドを左右に動かすバトルホッパー。 勝手に動いた事にヴァンとC.C.は驚きを見せるも、気のせいという事で片付けた。 他者とのコミュニケーション能力に著しく問題のあるこの二人に、バトルホッパーの必死の訴えが通じるはずはなく。 バトルホッパーはそのまま普通のバイクとして扱われたのだった。 「北か南。どちらに向かう?」 レナ達と合流したいところだったが、今は海を渡る手段がない――よって進路は二択だ。 レナは南の小病院付近で蒼嶋達と出会ったと言っていた。 それまでに誰とも出会わなかった、つまり南には他に参加者がいないのだ。 順当に考えれば北上すべきだろうが、懸念すべきはシャドームーンの動向。 南北どちらに向かっていてもおかしくはない。 まずはシャドームーンから逃げるように動くべきか、シャドームーンを倒すべく動くべきかを考える必要がある。 C.C.とて殺し合いの打破を目論んではいるものの、わざわざその為にあの化物ともう一度戦闘をする程の義理堅さはない。 かと言ってC.C.自身には確固たる目的はなく、結局ヴァン次第という事になる。 なるのだが。 「めんどくせぇ」 ヴァンはシャドームーンの相手をするのが面倒なのではなく、そもそもどちらに向かうべきか考えるのが面倒なのだ。 そんな彼の取った行動に、C.C.は目を見張る。 「倒れた方に行く。いいな?」 「……正気なのか?」 どこからか拾って来た木の枝を地面に突き立て、C.C.の目を見据えるヴァン。 この男は手を離して、枝が倒れた方向によってこれからの進路を決めようとしている。 もしルルーシュならああでもないこうでもないと考察を並べ立て、あらゆる可能性を吟味してから行動している場面だ。 それなのに小枝に判断を委ねる――ここでの選択が生死を分けるかも知れないというのに、偶然に頼る。 C.C.の想定の斜め上を行く発想だった。 もしホテルを指したらホテルに戻って寝直すつもりか? やりかねない。 「やるぞ」 「……もう好きにしてくれ」 C.C.が投げやりに言い、それを受けてヴァンが枝から手を離す。 倒れた方角は、北だった。 不本意ながらも進路が決まり、二人は移動を始める。 C.C.がバイクの後ろに乗ってヴァンの腰に手を回すと彼は無言のまま発進させた。 眼鏡を掛けた初老の男とすれ違うのは、それから程なくしての事だった。 ▽ 「コード保持者のC.C.さんと、無職のヴァンさん……申し訳ありませんが、これだけでは良く分かりませんねぇ」 「……まぁ、そうだろうな」 C.C.とヴァンが名乗ると、右京は詳細名簿の存在を明かした。 一方的に情報を知られているのはC.C.としては不快だったが、詳細と言っても大した情報は入っていないらしい。 現にこうして『コード』の説明はなく、ヴァンに至ってはこれでは何も分からない。 V.V.は参加者に喧嘩を売っているらしいと、今更ながらに呆れざるを得なかった。 しかしC.C.には、完全に信用した訳ではない相手にギアスやコードの説明をする義務はない。 よって一先ずは元いた環境について触れる事にした。 レナやヴァンとの話から考えれば、それはこの殺し合いの根底にも関わる問題だからだ。 レナがいた世界は昭和58年――西暦1983年。 西暦と皇歴が一致するとすれば、C.C.がいた皇歴2018年の世界よりも三十年以上過去の世界である。 そして右京の時代は、レナの時代とC.C.の時代の中頃だという。 これだけならそれぞれが異なる時間から呼び出されたのかと考えるところだが、彼らの常識の中にブリタニアという国はない。 参加者それぞれが異なる世界から連れて来られたのだという右京の意見は、やはり正しいのだろう。 常識から考えれば「周囲の人間が全員嘘を吐いているか脳に異常を来している」と結論付けるべきだが、相手はV.V.だ。 常識で計るべきではない。 放心したように明後日の方向を見ていたヴァンにも無理矢理説明させると、右京も自身の考えに改めて納得したようだった。 しかし一つ得心したというだけで、右京は追求をやめない。 「あなた方の世界については分かりましたが、よろしければ『コード』についても教えて戴けますか? 僕の想像では最初の会場でルルーシュ少年が見せた、あの奇妙な仕草に関係があるものだと思うのですが」 C.C.は内心で舌打ちする。 あの場でルルーシュは自身の名乗りを上げてギアスを発動させようとした。 更にそれを諫めようとしたC.C.まで、参加者全員に顔を見られてしまった。 わざわざC.C.の職業欄に書かれた『コード』を、ギアスと結び付けられても文句は言えない。 むしろ文句を言うべき相手はルルーシュの方だろう。 それでもC.C.が躊躇っていると、意外な事にヴァンが口を開いた。 「話せよ。何か、あの……何だ、ギアスとか」 「おい、ヴァン!」 「そのおっさん、頭いいんだろ。 だったらあのガキの考えだって分かるかも知れねぇ」 「……」 ヴァンにとっては、元の世界に戻ってやるべき事をやる、それ以外の関心事は基本的にない。 楽に帰還出来るならそれに越した事はなく、C.C.が周囲に積極的に情報開示をした方がいいと考えているのだろう。 「……仕方ないな。今度はお前もちゃんと聞いておけ」 レナにしたのと同様の説明を右京にも行う。 不死性について信じ難いと言う右京の前でC.C.は掌を切り、再生する様を見せてやると信じさせる事が出来た。 互いに真剣ではあるが、敵意はなく警戒心も薄い場で話し合いは進む。 しかしC.C.がギアスについて話し終えた後、その空気が変わった。 切っ掛けは、右京が放った一言だった。 ▽ 「私は殺人という行為を決して許しません。 ……私だけでなく、どうか皆さんにもこの決意をして頂きたいのです」 情報交換を終えた右京は真司達にも告げた事を、C.C.とヴァンにも説く。 しかしC.C.はキョトンとした表情を浮かべ、それまで話を聞いている様子すら薄かったヴァンの目付きが鋭くなった。 「私は殺し合いを止め、V.V.を逮捕します。 その為に――」 「知った事か」 切り捨てるようにヴァンが右京の言葉を遮った。 どこかボンヤリとした印象のあった彼がこうして強い感情を見せた事に、右京は僅かに戸惑う。 「あんたの理屈は分かった、だが俺は俺の理屈を通す」 「それは……殺し合いをするという事ですか?」 「違う。だが俺は俺が殺したいと思った奴は殺すし、それを邪魔する奴も殺す。 あんたに指図される筋合いはない」 それだけ言うとヴァンは右京に背を向けた。 これ以上話を聞く気はないという意思表示だろう。 それでも右京が話を続けようとすると、今度はC.C.がそれを止めた。 「やめておけ、そいつは話を聞かないぞ」 「ですが――」 「ついでに私からも言わせてもらう」 有無を言わせないC.C.と向かい合う。 少女のような容姿でありながら相手を深く見透かすような視線は、不死たる者の証明のように思えた。 「『そもそも住む世界が違う』……お前も分かっている事だろう。 ヴァンも私も、V.V.もだ」 エリア11――強国ブリタニアに占領され、尊厳を奪われ、テロリストが日々国を取り戻す為に活動している。 エンドレスイリュージョン――ほとんど雨の降らない乾いた厳しい土地で、無法者達が闊歩する。 生きてきた世界が違えば価値観も違う。 同じ世界の者同士ですら、完全に分かり合うのは難しい。 「その通りですが、人の命の価値と尊厳は普遍です」 しかし価値観の違いは右京とて承知していた事で、その上で理解を求めていたのだ。 故に右京は揺るがない――そしてC.C.もまた引かなかった。 「それはお前がゴミのように殺されていく人々を見た事がないから言えるんだ。 国に、社会に、法律に守られているのが当たり前の世界なんだろう? ……まぁ、理想としては正しいが」 C.C.の声に怒りはない。 むしろ憐れみさえ含んでいるように聞こえた。 「お前は正しいよ右京。 どんなに多くの世界があっても殺人を推奨する世界はそうそうないだろう。 好き好んで人を殺す人間は少数派だ」 淡々とした調子のまま、C.C.は溜息を吐いてから続ける。 「だが、お前はこの殺し合いを掻き回す事は出来ても止める事は出来ない」 その言葉は人外の存在であるミギーによる忠告と重なり、右京は静かに息を飲んだ。 「……それは、何故ですか」 「お前にとっての正義は私達にとっての正義ではないし、参加者全員でその考えを共有するのは無理だ。 その上でお前の平和な国の常識や法律を、この会場全体に当て嵌めようと考えているなら。 お前が自分で自分にとっての常識や法律に従うだけでなく、それを他人にまで強制するなら――」 C.C.はそこで一度言葉を切った。 射抜くような視線に、数々の危険をくぐり抜けてきた右京ですら背筋に冷たいものが伝う。 シャドームーンとはまた別の威圧感を伴って、その一言は紡がれる。 「お前は、傲慢だ」 人の何倍も生き、誰よりも傲慢である事を許されたC.C.が端的に示したその一言は強く、重かった。 荒野の中を自分の力だけで生き抜いて来た男。 彼は右京の正義を否定しなかった。 あんたの理屈は分かった、と。 数百年、人の生き死にや戦争を見届けて来た存在。 彼女も右京の正義を否定しなかった。 お前は正しい、と。 だが彼らは共感せず、感化されず、右京の正義を拒んだ。 「行こうヴァン。これ以上の話は無駄だ」 C.C.は背を向けていたヴァンの手を引き、駐車していたバイクの方へ促す。 右京は彼らに言いたい事が幾らでもあったのだが、ここまでの話し合いで顕著だったように彼らは人の話を聞かない。 その上で「話は無駄」と断言した以上、もう右京の声に耳を傾ける事はないだろう。 「本当によろしいので? 北にはシャドームーンが――」 「俺は北に行くんだよ」 思った通り取り付く島もない返事があった。 俺の理屈を通すという、その言葉の通りの姿だった。 言いたい事を言いたいだけ言い、相手に反論させずにさっさと立ち去る。 その態度は彼ららしいと言えば彼ららしい。 バイクは走り出し、彼らは一度も右京の方を振り返る事なく景色の中に溶けていった。 ――君の正義はいつか暴走する、そして周りの人間たちを滅ぼすだろう。 C.C.の言葉の奥にあるものは、ミギーに言われた事と同じだ。 右京の思考は危険であり、周囲を振り回すのだと。 それでも、万人に同じ考えを共有させる事がどんなに困難だろうと右京は考えを曲げない。 ここで曲がる正義なら、ここに至るまでのどこかで既に曲がっていただろう。 しかし車の方へ振り返った事で、右京の思考は一旦途切れる事になる。 みなみ、真司、翠星石が眠る車――しかしみなみだけが目を覚ましていた。 そしてその手は荷台で眠る真司のデイパックへ伸びている。 「みなみさん!!!」 右京の声に、みなみはビクリと肩を震わせて手を引っ込めた。 目的は恐らく真司のカードデッキ。 彼女は力を求めている。 「わ、私、私は、……」 人の物を盗もうとした。 その事実にみなみ自身が動揺しているようで、彼女は顔を両手で覆って嗚咽を漏らす。 「落ち着いて下さい、みなみさん……」 シャドームーンと真司の激しい戦いの空気に当てられたのだろう。 それに真司のその力がデッキによるものであると、みなみは知ってしまっている。 真司だけの特別な力ではない、誰でも手にする事が出来る力――それは恐らく彼女が最も欲しているもの。 右京は短い時間であれ彼女から目を離した事を反省し、警戒をより強くした。 亀山を失った悲しみは、未だ右京の中にある。 この喪失はそうそう埋められそうにない。 それはみなみもきっと同じはずだ。 そして右京には正義という喪失の悲しみよりも優先すべきものがあるが、みなみにはない。 だからこそみなみにも理解して欲しいと思う。 人を殺す事は罪なのだと、どんな悲しみがあろうと許されない事なのだと。 ――お前は傲慢だ、右京。 例え独り善がりの正義だとしても、構わない。 ――お前は殺し合いを掻き回す事は出来ても止める事は出来ない。 玲子もシャナも止められなかった。 シャドームーンへの恐怖も未だ消せずにいる。 ヴァンもC.C.も説得出来なかった。 それでも殺し合いを止め、犯罪者を法によって裁くという決意は鈍らない。 それぞれの価値観が異なろうと、弱者が虐げられていい理由にはならないのだから。 命の尊厳と信じた正義の為に、右京は道をひた走る。 【一日目昼/H-2 道】 【翠星石@ローゼンメイデン(アニメ)】 [装備]真紅のステッキ@ローゼンメイデン、真紅のローザミスティカ@ローゼンメイデン [支給品]支給品一式(朝食分を消費)、確認済支給品(0~1) [状態]疲労(大) [思考・行動] 0:睡眠中。 1:殺し合いから脱出。 2:蒼星石、クーガー、かなみと合流する。 3:真紅が最後に護り抜いた人間に会い、彼女の遺志を聞く。 4:水銀燈を含む危険人物を警戒。 [備考] ※スイドリームが居ない事を疑問に思っています。 ※真紅のローザミスティカを取り込んだことで、薔薇の花弁を繰り出す能力を会得しました。 【城戸真司@仮面ライダー龍騎(実写)】 [装備]無し [所持品]支給品一式×3(朝食分を消費)、龍騎のデッキ@仮面ライダー龍騎(二時間変身不可)、確認済み支給品(1~4) 、劉鳳の不明支給品(1~3) [状態]気絶中、ダメージ(大)、疲労(極大) [思考・行動] 0:気絶中。 1:右京の言葉に強い共感。 2:やっぱり戦いを止めたい。 3:劉鳳を殺してしまったことに対する深い罪悪感。 4:翠星石のことは守り抜きたい。 5:シャナを倒し、彼女の罪をわからせる。 ※絶影を会得しました、使用条件などは後の書き手の方にお任せします。 【杉下右京@相棒(実写)】 [装備]君島の車@スクライド [支給品]支給品一式×2(水と食事を一つずつ消費)、S&W M10(6/6)、S&W M10の弾薬(24/24)@バトル・ロワイアル、ゼロの剣@コードギアス、 首輪(魅音)、拡声器@現実、イングラムM10(0/32)@バトルロワイアル、傷薬×1@真・女神転生if... [状態]疲労(小)、強い決意 [思考・行動] 0:誰も殺さない、誰も殺させない。 1:協力者を集めてこの殺し合いを止め、V.V.を逮捕する。 2:亀山を殺害した人間とシャナ、玲子を逮捕する。 3:みなみに注意しながら同行する。 4:仲間を集い、参加者を警察署へ集める。 5:シャドームーンに対する恐怖。 ※ギアスやコードについて一定の理解を得ました。 【岩崎みなみ@らき☆すた(漫画)】 [装備]無し [支給品]支給品一式 [状態]健康、深い悲しみ、動揺 [思考・行動] 1:右京や翠星石たちと共に行動。 2:ゆたかとみゆきの仇を取りたい、その為の力が欲しい。 3:Lに対する強い嫉妬。 4:他の知り合いが心配。 5:カズマと光太郎にもう一度会いたい。 6:V.V.の言葉も頭の片隅に留めておく。 [全体の備考] ※翠星石・新一・真司で情報交換を行ったため、三者は互いの事情についてある程度は理解しました。 ※真司、翠星石の二人は浅倉威、水銀燈、後藤、田村玲子、シャナ、和服の青年(宗次郎)、メイド服の女(咲世子)を危険人物と認識しています。 ▽ 右京と別れて数分。 バイクの後部で風を切りながら、そろそろ放送だろうかとC.C.は時計を見やる。 しかし同時に嫌な想像をして額に冷や汗を浮かべた。 『異なる世界』。 右京と話す前から分かっていた事だが、それがこの殺し合いの根幹に関わっている。 ただ参加者を集めて記憶を操作する程度ならともかく、そこまで行けば嚮団の技術から逸脱する。 V.V.の近くにいる、それこそ『異なる世界』からの協力者の存在を考えた方がいいだろう。 殺し合いに繋がっているであろう『ラグナレクの接続』。 そこに『異なる世界』との関係性を見るとしたら、それは―― 「おいあんた」 ヴァンが呼ぶと、後ろに座っている緑髪の女の方からハッと息を飲むような気配があった。 続いたのは普段通りのつっけんどんな切り返しだ。 「……まだ覚えていないのか? 私はC.C.だ」 「すみません。 それであんた、」 「おい、いい加減にしろ!」 緑髪の女はヴァンの受け答えが気に入らなかったようで苛立ちを噴出させたが、ヴァンは構わずに続けた。 「俺は……このくだらねぇ殺し合いの間だけだがよ。 あんたの護衛を、続けてやってもいい」 ヴァンは、一人では出来ない事があると知っている。 一人でカギ爪の男を追っていた頃はともかく、ウェンディを初めとした人々との出会いを経た今は分かっている。 仲間の重要性を理解している。 V.V.と知り合いだとか、不死身と自称するだけあって傷の治りが早いとか、そういった利点だけではなく。 ヴァンが一人で突っ走るだけでは解決しない問題もあるのだと、理屈ではなく感覚で気付いていた。 唐突と言えば唐突なヴァンの申し出に、暫く緑髪の女の反応はなかった。 バイクを運転するヴァンからはその表情は見えない。 「……似合わないな、おまえがそんな事を言うのは」 「あぁ?」 「褒めてやってるんだ」 ヴァンの抗議の声にも動じず、緑髪の女は続けた。 「大体さっきもピザを食べたんだ、これからも護衛を続けるのは当然の労働であり義務だろう? 今更繰り返す事じゃないぞ」 「……へいへい」 多少不満はあったものの、ヴァンは「まぁいいか」と意識を正面の景色の中に移す。 思い出すのは先程垣間見た景色――白い粉が舞い散る場所で惨殺される女の姿。 ▽ 縁に見えたのはほんの一瞬。 絨毯に広がる血痕、逆光の中の仇の姿。 それは縁の記憶ではなく、恐らく先程出会った黒い帽子の男のものだ。 それは、縁が最愛の人を奪われた光景ととても良く似ていた。 「……ふん」 だからと言って、縁の進む道は変わらない。 ただ珍しく姉に関係のない事で感傷的になった、それだけの事だった。 姉は、いつでも縁の傍にいる。 だが返事をしないし、未だ微笑みも戻らない。 縁は知っている。 姉はもういないのだと、目の前にいる姉は幻影に過ぎないのだと。 だから――死者蘇生が夢物語だと言うのなら、それでも構わない。 けれどせめて、一目だけでも。 一瞬触れるだけでもいい。 幻ではない、あの優しかった姉ともう一度だけ会いたい。 それが叶うなら、縁は他人だろうと自分だろうと全てを犠牲にする覚悟がある。 「何で死んじゃったんだよ……」 僅かに見えた光明。 それでも十五年前の喪失の悲しみは、癒える事はなかった。 ヴァンに見えたのはほんの一瞬。 白い粉と共に飛び散る血、赤い髪の仇の姿。 それはヴァンの記憶ではなく、恐らく先程出会った白髪の男のものだ。 それは、ヴァンが最愛の人を奪われた光景ととても良く似ていた。 「……けっ」 だからと言って、ヴァンの進む道は変わらない。 ただ珍しくエレナに関係のない事で感傷的になった、それだけの事だった。 エレナは死んだ。 人は死ぬし、生き返らない。 エンドレスイリュージョンという過酷な環境で生きて来たヴァンは理解している。 エレナと、二度と会う事はないのだと。 だから――会えない事は、嘆かない。 けれどたった一つ譲れないのは、仇であるカギ爪の男を殺す事だ。 許しはしないし、逃がしはしない、忘れはしない、無かった事にもさせない。 エレナを奪われたヴァンは、彼女の死だけは誰にも奪わせない。 それが叶うなら、ヴァンは他の何をも捨てる覚悟がある。 「……待ってろよ」 「何か言ったか?」 「別に、何も」 暗闇の中であろうと、構わない。 光が無くともと自分の手足で、ヴァンは望みを果たす。 【一日目昼/G-1 道】 【ヴァン@ガン×ソード】 [装備]:薄刃乃太刀@るろうに剣心-明治剣客浪漫譚-、バトルホッパー@仮面ライダーBLACK [所持品]:支給品一式、調味料一式@ガン×ソード、ナイトのデッキ@仮面ライダー龍騎 [状態]:疲労(中)、右肩に銃創、右上腕部に刀傷、各部に裂傷、全身打撲 [思考・行動] 0:カギ爪の男に復讐を果たすためさっさと脱出する。 1:レイが気にならない事もない。 2:緑髪の女(C.C.)の護衛をする。 2:北に行く。 [備考] ※ヴァンはまだC.C.、竜宮レナの名前を覚えていません。 【C.C.@コードギアス 反逆のルルーシュ R2】 [装備]:無し [所持品]:支給品一式×4、エアドロップ×2@ヴィオラートのアトリエ、ピザ@コードギアス 反逆のルルーシュ R2、ファサリナの三節棍@ガン×ソード、 カギ爪@ガン×ソード、レイ・ラングレンの中の予備弾倉(60/60)@ガン×ソード、確認済み支給品(0~2) [状態]:疲労(中) [思考・行動] 1:利用出来る者は利用するが、積極的に殺し合いに乗るつもりはない。 2:レナ達と合流したい。 3:後藤、シャドームーン、縁は警戒する。 4:北へ向かう。 [備考] ※不死でなくなっていることに気付いていませんが、回復が遅い事に違和感を覚えています。 ※右京と情報交換をしました。 【F-2 道】 【雪代縁@るろうに剣心】 [装備]:逆刃刀・真打@るろうに剣心 [所持品]:レイ・ラングレンの銃@ガン×ソード、菊一文字則宗@るろうに剣心 [状態]:左肩に刺し傷、両拳に軽症、全身打撲、各部に裂傷、疲労(中) [思考・行動] 1:参加者を皆殺しにし、可能なら姉と抜刀斎を生き返らせる。 2:デイパックを手に入れる。 [備考] ※殺し合いを認識しました。 ※『緋村剣心』以外の死者の名前、及び禁止エリアの放送を聞き逃しました。 【バトルホッパー@仮面ライダーBLACK】 ゴルゴムが世紀王専用マシンとして開発した自我を持つメカ生命体。光太郎の愛車。 世紀王の命令以外は一切聞かないが、このロワ内では自己判断で他の参加者を乗せているらしい。 また世紀王の呼び寄せには応じない。 ▽ 殺人を否定する者。 殺人を肯定する者。 それぞれの思惑に関わらず、放送の時は訪れる。 嘲笑うように。 蔑むように。 哀れむように。 子供のような姿と声の、老獪な主催者による放送が流れる―― 時系列順で読む Back 二心同体(後編) Next 第二回放送 投下順で読む Back 二心同体(後編) Next 第二回放送 120 二心同体(後編) 城戸真司 131 DEAD END(前編) 翠星石 岩崎みなみ 杉下右京 104 Calling ヴァン 128 Blood teller C.C. 雪代縁 136 急転直下
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僕と彼女ノ 作詞/つまだ 溶けた言葉 透けて遠く 向こうに 流れゆく過去になり 広い青に 午後の月が 一つ 浮かんだ今へと 歪な曲線を描いた 重なるその手に僕らなら 今までの軌跡を目にした 忘れかけて ピントがぼやけた いつかの景色の中 濁りのない思いを乗せて 見えなくなる その前には ありがとうと 空に 飛ばすから
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彼女の秘密と彼女の力と◆UcWYlNNFZY 「はぁ……はぁ……頑張ろう伊波さん」 「う、うん……新庄さん」 深い深い森の中、長い黒髪の少女と短い茶髪の少女が懸命に坂道を走っていた。 二人の名は新庄運切と井波まひる。 彼女達はカズマから逃がしてくれたメカポッポの為に休む間も無く唯走っている、ひたすらに。 自分達を信じてくれた唯の機械、でも優しい心持つメカポッポの為に。 そして、メカポッポを信じきる為に、彼の信頼を裏切らない為にも。 二人は何度途中で助けに行こうと思ったか。 でもそれは信頼を裏切る事。 だから、二人をそれを選ばず体力の続く限り走っていた。 (私は……) そんな中、まひるは走りながら一人沈んでいた。 自分の手を引いて走っている新庄の背を見つめながら。 思うのは自身の事。 (私……何が出来るんだろ……) 無力、そう思ってしまって。 この殺し合いにはカズマみたいな不思議な力を持つ様な人達が沢山居る。 そんな中でまひるは何も力を持っていない。 いや、男の子を問答無用で全力で殴るという癖があるが些細なものだ、きっと。 兎も角、まひるはそんな不思議な力を持つ人達が居る中で自身の無力さをかみ締めていた。 (でも……諦めない。だけど……私は生き残る為に何をすればいいんだろう……) それでも、まひるは諦めない。 生きる事を、日常に帰る事を。 それが、最初に出会った中年の小父さんとの約束なのだから。 絶対にまひるは歩みを止めない、とめるわけにはいかない。 だけど自身が生きる為にはこの殺し合いでまひるは何をすればいいか。 幾ら自身に問うも答えは返ってこない。 当然だ。 まひるは普通……ちょっと変だけどそれでも普通の女の子なのだから。 普通に学校に言って。 普通にバイトをして。 普通に恋をして。 普通に男をぶん殴って……普通? ……兎も角そんな代わり映えのしない何時もの日々を送っていたまひる。 そんな彼女が突然に非日常の殺し合いで何かの役割を見つけようとしても……簡単にできる事ではない。 いきなり、自身の役割を見つけろといわれても無理なものだ。 そんな事も露知らずまひるは自身の役割を未だに探し続けていた。 見つかるわけもなく心のモヤモヤは波のように広がっていくだけ。 考えれば考えるほど見つからない。 (あ~~~も~~~~~!!) まひるはクシャクシャと空いている左手で短めの髪を掻く。 有体に言えば焦っていた。 いつまでも見つからない答えに。 あせる必要性など無いのに唯焦っていた。 メカポッポが体を張って頑張ってくれたのに。 何も見つからない自分が恥ずかしくて。 悔しかった。 それだけを考えていたせいかも知れない。 「あっ!?……きゃあ!?」 周りが見えておらず足元にあった大きな木の根にまひるが気付かなかったのかは。 そのまままひるは気づかず木の根に足を取られ前のめりになってしまう。 そして前に居るのは新庄。 「新庄さ……きゃあ!?」 「え?……きゃああ!?」 まひるが注意する間も無く新庄を巻き込んでしまった。 そして新庄達が走っていたのは坂道である。 しかもかなり急な下り道。 つまり 「「きゃああああああああああああ!?」」 そのまま二人は一緒になって転がり下っていく。 それもかなりの速さで。 二人はなす術も無く転がっていき止るのを唯待っていた。 そしてゆっくりと減速していき平らの道で二人は止まった。 しかし未だに二人は目が回って思考が定まらない。 「し、新庄さーん……御免なさーい……」 「ふぇぇ……な、何があったのー?」 新庄は痛む頭を摩ろうと手を動かそうとするが動かない。 何事かと目を明けた先ににあったのは青と白の縞々。 新庄が混乱し始めた時、 「新庄さーん……私、新庄さんの下になってる……」 股間から聞こえてくるまひるの声。 よく考えると体に当たる感触がとても柔らかい。 どうやら転がっている間に何時の間にか新庄がまひるを覆い被さる状態になってしまったらしいのだ。 新庄が上でまひるが下。 そして、体勢は新庄の足の方向にまひるの顔と手があり、またまひるの足の方向に新庄の顔と手が。 ……何だかとてもいやらしい体形になっているようだ。 新庄がそう思いこの縞々の謎に思いつく。 (つまりこれは……縞パ……) そう思い当たり新庄は閉口する。 何だかとっても気まずい。 すごーく気まずい。 そう新庄は思い焦る。 焦る。 とりあえず新庄が今すべき事。 「とりあえず……体を……ど、どけるね……」 「う、うん」 体をどける。 この体勢は凄く不味い。 そう思い起き上がろうとするも 「あれ……なんか体が絡まって……?……あれれ?」 何か足や手がまひるの体が絡まっている様で上手くいかない。 「ひゃぅ!? 新庄さん……そこは……あぅ」 「え!?……あ、御免!?」 「あっ……ひゃ」 「えぇえぇえ?!……なんで嬌声?!」 新庄が体を動かす度に何故か嬌声を上げるまひるに焦りが増していく。 何としても早く退けようそう考えるだけで頭が一杯になっていた新庄はある事に気付かなかった。 ほんの数時間前まで神経をすり減らすまで考えていた事。 それを今、何故か広がっている桃色空間を何とかする事だけに思考をめぐらせたが故に。 その瞬間まで新庄は気づかなかった。 そう 「ど、どうしよう…………あっ」 性別が入れ替わる瞬間を。 女の子から男の子の体に変ることを。 忘れていたのだ。 体が霧のようなものに包まれてそして変わる。 (ああっ!?……ど、ど、どうしよう!?!?) 男の子に。 あっという間に新庄は男に代わってしまった。 その瞬間、まひるは何をしていたかというと。 (な、なんでこんなことに……ひゃん……) 唯、何か不思議な感覚にビックリし目を瞑っていた。 局部には何か新庄の息が吹きかかってくるし。 新庄の豊満の胸が体に当たってくるし。 新庄の手は何処か敏感な所に当たってくるしでまひるはただ驚いていた。 なんか顔が真っ赤になっていた時。 まひるの体にあたる新庄の体の感触が変わり始めていた。 羨ましいぐらいの豊満の胸の感触は無く。 そして顔の近くにあった新庄の局部からなんとも言い表しがたい感触が。 「………………………………え?」 まひるは思わず声を出してしまう。 何か存在してはいけない何かが新庄についている。 女の子には無いもの。 まひるは見たこともないが……何となく解ってしまった。 それは男の子に分類される者が持っているもの。 でもまひるは新庄が女の子だとさっきまで思っていた。 羨ましいぐらいの胸と先ほどまでこの感触は無かったのだから。 なのに唐突にこの男の子っぽいものを感じた。 まひるは考えて……そして思いついた言葉を言う。 何も無い本心から、思ったことを。 「えっと、新庄さんって」 「……う、うん」 なんともいえない静かな時間が流れて。 そして。 「………………………………………………両性類?」 「………………………………漢字はそれっぽいけど意味は全然違うよ…………」 余りにも素直なまひるの感想。 新庄は大きな溜め息をつきながらそれを否定する。 両方の性別を持っていることは確かなのだが『両性類』とは流石に言われたくなかった。 心の、心の底から。 しかも、もともとの両生類の意味と全然違うのだから。 しかし、つまりそれは…… 「じゃあ………………………………………………男の子?」 新庄が男の子であることの証明でもあり。 それに新庄はごまかすことが出来ずにいた。 何故なら新庄の局部のアレがまひるの顔に当たっていたのだから。 「………………………………………………う、うん…………今は…………そう」 肯定。 続くのは妙な間。 静かに時は流れて。 聞こえるのは葉っぱが擦れる音だけ。 そして 「きゃあああ!!」 まひるの悲鳴。 上に乗っていた新庄を凄まじい力で突き飛ばす。 沸き上がる嫌悪感から。 新庄はなす術も無くまひるの上から跳ね飛ばされた。 新庄はそして 「……え、えーと…………………………………………やっぱり……………………殴るんですか?」 その時一迅の風が吹いて。 「ええ、御免なさいっ! やっぱり殴るわ!!」 ストレート一閃。 「ひゃん!?」 綺麗に新庄の顎にヒットして。 「はぅ!?」 続いてアッパー。 「あぅ!?」 ジャブ。 最後に 「いやーーーーーー!! 男ーーーーーーー!!!!!」 「うぐぅ!?」 右ストレートが顔面に。 その鮮烈で強烈な一撃を食らった新庄は 「御免ね……伊波さん……ボク……隠していて」 静かに地に伏せた。 予想以上の威力に驚きながら。 言わなかったことに後悔しながら。 やすらかに倒れたのだった。 その様子にまひるは我に返り 「あ……私……そんなつもりじゃ……御免……御免なさい!」 ジワッと涙を溜めて居た堪れなくなり走り去り近くの茂みに身を隠した。 殴ってしまった後悔に苛まれながら。 新庄はそれを見送ることしかできずその背を見ていただけ。 動こうにもダメージ大きく中々立ち上がることが出来ない。 その時、女の子を泣かすなど新庄君も中々悪いとあの声が。 (いや……それ今ボクにかける言葉……?) 何故か聞こえてきた佐山の声に突っ込みを入れつつ思う。 隠していた事。 もし、もっと早く話しておけばまひるを悲しませることは無かったんだろうかと。。 苦しませることが無かったんだろうか。 そう、自問するも答えは一向に返ってこない。 間違ったのだろうかと新庄は一人後悔し。 そして。 静かに。 静かに。 目を閉じた。 【新庄・運切@終わりのクロニクル 死亡確認】 「…………いや、死んでないから」 あ、生きてた。 【新庄・運切@終わりのクロニクル 生存確認】 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「私……何やってるんだろう……」 まひるは深い茂みの中、体育座りしながら落ち込んでいた。 原因は新庄を殴ってしまったこと。 何故、新庄が男になったかは解らない。 でも、何も言わず殴ってしまった。 癖とはいっても何発も。 しかも何も言わず逃げ出してしまった。 もっとしっかり謝らないといけないのに。 (あぁ……もう……私……駄目駄目だ……) 生き残ろうと何が出来るかを考え始めた途端この騒ぎだ。 結局、自分は何もできはしない。 そう思いまひるはどんどん自己嫌悪に陥っていく。 頭をポカポカと叩きどんどん落ち込んでいく。 負の連鎖が広がりどんどん哀しくなっていく。 思うのは (小鳥遊君……あいたい) 想っている人の事。 唯、会いたかった。 会って何もする訳ではないけど会えばきっと落ち着く。 そう思って。 哀しみだけが広がることは無いと思って。 唯、そう想い続けていた。 そんな時 「伊波さん!」 茂みの向こう側から新庄の声が。 殴られたダメージから回復し急いでまひるの元にやってきたのだ。 このまま何も知らないままなんて新庄は絶対いやだったから。 「あの……ボクの話聞いてもらえる?……隠していてそんな事言う立場じゃないけど……」 「うん、聞くよ」 新庄の問いに即答するまひる。 まひるもこのままなんて絶対嫌だったから。 だから茂み越しに話を聞く準備をした。 「えっと信じてもらえないかもだけど……ボクは性別が入れ替わるんだ」 「……え?」 「午前5時半から6時までに男に、また午後5時半から6時まで女に代わる……そんな性質なんだ」 「……そうなんだ……」 「でも精神、人格は『ボク』固有のもの。変わるのは体だけ。精神自身の性別は……答えられないけど」 「そう……」 新庄が体の秘密を明かす。 真実を教える度にまひるの応答の声が弱くなっていく。 当然かもしれない。 そんな事いっても急に信じられる訳ないから。 元々男の子でしたと想われるのが関の山だ。 ある意味常識外れた事、まひるが信じられるわけが無い。 そう結論付けて、でもそれでもこれだけは言いたかった。 「これが隠してた秘密……隠してて御免ね。信じてもらえる訳無いけど……御免ね」 唯、秘密を隠していた事。 これだけは謝りたかった。 その時だった。 「信じるよ、私」 信じるという力強い言葉が返ってきたのは。 それがまひるが下した結論。 凛とした意志の篭った言葉。 「凄い不思議な感じだけど……でも私は新庄さんがいったことを信じる」 「伊波さん……」 「触っちゃったしね……し、新庄さんのあ、あれ」 「う、うん……」 直接感じただけはではない。 まひるは見つけ、決めたのだ。 「ううん……新庄さんの秘密だけじゃない……私はどんな時でも信じる」 『信じる』という事を。 どんな時でも信じ、信頼をする事。 それがまひるがこの殺し合いの場所で出来る事。 何の力も持たないまひるが出来る役割。 仲間を信じる事。 希望を信じる事。 未来を信じる事。 最後まで絶対に諦めずに信じ抜く事。 それを助けって貰った中年の小父さん、メカポッポから教えてもらったたった一つのこと。 でもそれはとても大きく大切なもの。 それがまひるの持つ力。 それをまひるは貫こう。 そう、思ったから。 だから、まひるはあきらめない。 最後まで。 「信じるから……新庄さんの事」 「伊波さん……ありがとう」 「ううん……こっちこそ殴って御免ね」 「ううん……仲直りしよっか」 「うん、そうしよう。新庄さん……これからもよろしく」 「うん、伊波さん……こちらこそよろしく」 そして笑い始める。 もう二人は大丈夫。 そう感じながら。 「あ、でも伊波さん男性恐怖症は……」 「そんなに近づかなきゃ大丈夫。新庄さん男の子に見えないし……多分」 「多分……!?」 「う、うん。大丈夫だよ。大丈夫」 あははーと乾いた笑いを出しながらまひるは思案し始める。 そこまで近づかなきゃ大丈夫だと思っているが不安が頭をよぎっている。 何か無いかとデイバックをあけた時、それをまひるは見つけた。 「こ、これは……!?」 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 日がもう高い所まで昇り朝を告げている中、二人は手を繋いで歩いていた。 「……伊波さん。いつもこのように小鳥遊君と歩いていたんだ?」 「……ええ」 いや、新庄のが握っているのは機械の手。 別名マジックハンド。 通販で3980円である。 今ならキャンペーンでもう一本ついてきます。 (なんで都合よく入ってるのだろう……) まひるは溜め息をつきながらマジックハンドの先っぽを握っている。 いいじゃないですか、凶暴な伊波さんの為に主催者が用意したんですよと聞こえてきた小鳥遊の声を無視して。 兎も角、今あるお陰で新庄と無事歩けている。 これも小鳥遊君のお陰だろうかまひるは笑うも。 「伊波さんと小鳥遊君って面白くて不思議な関係だね」 「……ええ」 ガクッと落ち込む。 恋愛関係に発展することは有るのだろうかとまひるは思うも答えは返ってこない。 はぁと溜め息をついた瞬間、 「あっ!?」 木の根にまた足が取られてしまい目の前の新庄にぶつかる。 ちなみに新庄は今男の子である。 つまり 「きゃーーーーーー!?!?」 「あぐぅ!?」 綺麗に決まったストレート。 まひるの恋も男嫌いを治すのも。 殺し合いの場ではあっても。 未だ 前途多難であった。 【A-2/北西部/早朝(放送直前)】 【新庄・運切@終りのクロニクル】 [状態]:健康 、顔面打撲 [装備]:尊秋多学園の制服、運命のスプーン@ポケットモンスターSPECIAL 、ヴァッシュ・ザ・スタンピードの銃 6/6 @トライガン・マキシマム [道具]:支給品一式 予備弾丸36発分 [思考・状況 ] 1:メカポッポの到着を待つ。 2:小鳥遊、もしくは仲介役の女性を捜す。 3:まひると行動する。 4:佐山と合流しここから脱出する 5:ブレンヒルトについてはまだ判断できない。 6:人殺しはしない。 ※まひるを信用しています。 ※小鳥遊宗太については、彼の性癖とかは聞いています。家庭環境は聞いていません ※新庄の肉体は5:30~6:00の間にランダムのタイミングで変化します。 変化はほぼ一瞬、霧のような物に包まれ、変化を終えます。 午前では女性から男性へ、午後は男性から女性へ変化します。 ※本当に引き金を引けたかどうかは不明です ※カズマを危険人物だと認識しています ※何処へ行くかは次の方にお任せします。 ※まひるに秘密を話しました 【伊波まひる@WORKING!!】 [状態]:疲労(中)、足に擦り傷・切り傷 [装備]:学校の制服 [道具]:支給品一式、ARMSのコア(中身は不明)@ARMS マジックハンド×2 @WORKING!! [思考・状況] 1:メカポッポの到着を待つ。 2:新庄と行動する。 3:諦めない。常に信じ抜く。 4:佐山、小鳥遊と合流する。 ※新庄を信用しています。また、彼女の特異体質を知りました ※佐山・御言に関しては変な人ということを聞いています。ブレンヒルトについては、知り合いということだけ聞いています。 ※運命のスプーンのことは知りません。 ※ARMSのコアの事は一応目を通しましたが、何の事かよくわかってません。 ※メカポッポ :参加者のある程度詳細な情報を持っています。 ※何処へ行くかは次の方にお任せします。 支給品紹介 マジックハンド @WORKING!! 小鳥遊がまひるに触れるように通販で買ったマジックハンド。 3980円。 一度まひるに破壊されるも買いなおした。 その時キャンペーンでもう一本ついてきた代物である。 時系列順で読む Back 吉良吉影は挫けない Next 炸裂―エクスプロード― 投下順で読む Back 吉良吉影は挫けない Next 炸裂―エクスプロード― Believe 新庄・運切 合言葉はラブアンドピース(前編) Believe 伊波まひる 合言葉はラブアンドピース(前編)
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ズルイよ。 ずるい。 ねぇ、なんで、、 「ダメだよ。。」 なんで、そんな優しいの? なんで、こんな私に優しくしてくれるの? 「きっと、ゆか、のっちを壊しちゃう」 「いいよ」 ギュッと抱きしめられた。 あったかいのっちの腕の中。 「壊れないから」 やさしいけど、力強くはっきりと響いた言葉。 のっちの指が私の髪をゆっくり梳いていく。 こんな風に髪を撫でてくれる人は初めて。 いつもそうやって、ぐしゃぐしゃにこんがらがった心も不安も、やさしく解いてくれたね。 「ゆか、泣き虫だよ?」 「うん。だから、のっちの前で泣いてよ。一人でとか、ましてや他の誰かの前で泣かれたら困るんよ」 ——いつだって、そばにいてくれなきゃ、嫌なの。 「本当は寂しがり屋なんも知っとるし、」 ——ワガママだって呆れない? 「もっとワガママ言って、」 ——重荷にならない? 「もっと甘えてよ?」 口にしなくても、見透かされてる。 不安も強がりも、全部。 ——だけど、やっぱり、、 「・・・素直、、じゃないし」 「んー?大丈夫。のっち、ツンデレ研究会だから」 「・・・なんよ、それ。。意味分からんし。。」 彼女の背中に手を回して、ギュッと抱きしめ返した。 もう自分から触れることに、後ろめたさは感じなかった。 「だから、、さ、、あんま、何回も言わせんでよ。。」 本当は、素直に、この腕の中に帰りたかった。 「ゆかちゃんの全部を愛してる、、」 あぁ、、バカだな。 この温もりを知ったあとで、どうして離れようなんて思えたんだろう。 今更、彼女を失えるわけがない、、のに。 「ゆかちゃん、、、ねぇ、愛して」 不安だったのは、のっちも一緒だったんだね。 ねぇ、のっち? 後悔したって知らないよ? ゆかは欲張りだから、一度手に入れたものを手放すつもりなんてないんだから。 一度あげたものを返してなんて言わないけど、ちゃんと大事に扱ってね? 「のっち、、」 ねぇ、のっち。 のっちがそばにいてくれるなら、もう迷ったりしない。 何があってもひたすら、のっちだけを想い続けるよ。 「ゆかの“今とこれから”を、、もらって下さい」
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324 :キモオタと彼女 3話:2010/05/20(木) 19 35 17 ID XJ/aH5+N 今日は、日曜日・・・。 会社からの束縛もない自由な日・・・。 テンション上がってきたでござる。 ウヒフフフウッフ。 オゥフ、拙者としたことが取り乱してしまったでござる。 さぁてと、出掛けるでござるか。 ふぅ、秋葉に着いたでござる。 とりあえず、1週間分の秀吉の新作同人誌(保存用、鑑賞用、実用、消費用)を買いに行くでござる。 秀吉はめんこいでござるからなぁ。 ・・・拙者もう辛抱たまらんでござる!! 早く、店に行かなければ! ヌゥフ。 ふぅ、良かった。 ちょうど、四冊残っていたでござる。 拙者と同じく戦利品を手に入れた紳士の方々は、ご満悦の様子…。 ンフ、近くのメイド喫茶で拝見するでござる。 紳士御用達の書店を出たいでござるが…。 何故か、入り口に人が集まっているでござるな。 一体、何でござろう? しかし、拙者が店の入り口に行くと走って行く音が聞こえ、外に出た時は誰もいなく人だかりも消えていった。 …? 一体何でござったのか。 詳細は存じ挙げぬが、今の拙者には関係ないでござるな! 早く、ひっでっよしーにメイドっさんーでござるー。 うぅ、何回来ても慣れないなぁ。 この秋葉原って所…。 私の何が珍しいのか、 通行人の人達が、驚いたような顔で私を見てくる。 この視線には毎回耐えれなかった。 そのおかげで、彼を尾行するたびに途中で見失っちゃうんだよなぁ。 でも、その日彼を一目見たらその日はとても満たされたような気持ちになる。 でも、今日の目標は彼と仲良くなること! それが、第一目標だ。 なので、今日はいつもより100メートルの距離を保ち、彼の様子を見てみよう。 あ、やっぱりいつもの本屋さんに入っていった。 彼の好きなジャンルはいわゆる萌系っていうのかな。 可愛い女の子達が出てくるジャンルが多かった。 私は、彼の家に入った事が無く(当たり前だが)彼の趣味を知る事が出来たのは、この尾行の賜物といってもいいだろう。 一度、買って自宅で見て見たが…。 破り捨ててしまった。 彼を誘惑するな彼に色目を使うな私の彼を奪うな私の大切な人を汚すな…… 気付いた時には、その本は燃やしていた。 彼は、こういった女の子が好きなのだろうか…。 325 :キモオタと彼女 3話:2010/05/20(木) 19 39 02 ID XJ/aH5+N なら、わ、私なんて彼に無理な仕事を押し付けたり、残業をさせ毎日彼の事を怒っている…。 私なんて嫌われて当然なのかな? そんなの、嫌…。 彼にだけは、嫌われたくない。 絶対嫌絶対嫌絶対嫌絶対嫌絶対嫌絶対嫌絶対嫌絶対嫌絶対嫌絶対嫌絶対嫌絶対嫌絶対嫌絶対嫌絶対嫌絶対嫌絶対嫌絶対嫌……。 頭が痛い…。 やはり、彼が私以外の女を好きになっているのは、辛いし苦しい。 どうすれば、彼は私に振り向いてくれるのだろうか。 とにかく、今は尾行あるのみ! 彼はいつも同じ店に入って現実には、いない女の子を求めている…。 そんな奴らより私を見てよ…。 私だけを見つめて欲しい…。 はぁ…。 …ボソボソ。 ? 男の人達が私の方を見て囁いている。 一体何だろう? そう思っているうちに男の集団が私の所にやってきた。 ちょ、ちょっと入り口にこんな大勢で集まらないでよ。 彼に気付かれちゃうでしょ。 「あ、あ、あのですね…。」 「何でしょうか?」 彼以外の男の人に話掛けられるのは、あいかわず気分が悪くなる。 「しゃ、し、写真をと、とらせ…、とらせて貰ってもよろしいでしょうか?」 「嫌です。」 さてと、彼にどうやって声をかけようか…。 「ま、ま待ってくださぃ。 貴女ほど寧々さん似て…ブッホッ!!」 あんまり、五月蝿いもんだからハイキックをかましてやった。 周りにいた男達が騒ぎ立てると、店内にいた彼も外の異変に気付いたのか、出口にやってくるじゃないの。 あぁ、もう! 彼の姿を3時間23分42秒しか見つめていないじゃないの! はぁ、後で彼を見つけるしかなぁ。 …また、後で会いましょうね…。 数十分後…。 「お待たせ致しました、ご主人様。 お紅茶でございます。」 「オッフ、あああありがとうございますで御座る。」 拙者が今来ているメイドカフェ「クロスウェア」は、拙者の行き着けでござる。 特に、拙者のお勧めのメイドさん、藍那(あいな)ちゃんは拙者の理想とも言える方でござる。 身長は、小柄で目はパッチリしていて鼻筋は綺麗で唇は少し厚く、なかなかそそられるものがあるでござる。 声も、拙者の大好きな声優の方に似ていて声を聞くだけで癒やされでござる。 グゥフフ 326 :キモオタと彼女 3話:2010/05/20(木) 19 42 58 ID XJ/aH5+N それに、彼女の良いところは顔だけではなく、性格がとてもいいという事でござる。 最近のメイドさん達は、イケメンなオタクが増えてきた事によって、そちらの方を優先するようになってきたでござる。 拙者みたいなのは蔑ろにされがちになってきているでござる。 しかし、彼女は分け隔てなく拙者みたいな者にも、他のメイドさんみたくいい加減な接客ではなく、丁寧で上品な接客をしてくれるでござる。 正に、メイドさんの鏡とも言えるような方でござる。 「? どうかされました?」 オゥフ、如何でござるな。 目線がずっと彼女の方に向いていてしまったでござる。 彼女も、表面には出さないだけで内心は嫌がっているかもしれないでござるな。 よし、女の人と二言も話せて満足でござる。 さて、秀吉の同人誌の続きでも読むでござる。 「…あ、あの、お客様がご迷惑でなければ、お話しませんか?」 「い、いや、そんな毎回毎回自分の所にい、いつもらのも、わ、悪いです。」 ちなみにこの会話は、拙者がお店に来る度に話す内容でござる。 メイドカフェに来ておきながら、メイドさんと話さないというのは矛盾していると思うでござるが、拙者は可愛い子を見れれば充分でござるからなぁ。 「せ、…じ、自分にわ、わざわざ気を使わなくてもいいですよ? ま、漫画もありますから…。」 上手く、言葉に出来ないでござるなぁ。 やはり、女の人とは恥ずかしいでござる。 「そ、そうですか…。」 先ほどの元気は無くなり、一気に彼女は落ち込んでしまったでござる。 や、やはり彼女の悲しんでいる顔をみるのは辛いでござる。 彼女には、悲しんでは欲しくないので結局会話をする。 これも、いつも通りでござる。 「じ、じゃあ迷惑でなければ、今季のアニメについてでも話しませんか?」 それを聞いた彼女は、また打って変わって元気になったでござる。 「ほ、本当ですか。 私、ご主人様とお話出来て嬉しいです。」 …すごく、恥ずかしいでござるが、彼女の喜ぶ顔をみていると拙者も嬉しくなってくるでござる。 そして、彼女と3時間近く、アニメの事について話していたでござる。 帰り際にも、彼女は悲しそうな顔をしていたでござる。 327 :キモオタと彼女 3話:2010/05/20(木) 19 44 03 ID XJ/aH5+N 本当にメイドの鏡みたいだなと思いつつ、帰ろうとしたら、これもいつも通りの彼女の言葉。 「…写真、一緒に撮りませんか?」 帰り際には、拙者も開き直ってすぐにOKを出し、千円を払って写真を撮ったでござる。 ち、ち、近いでござる!! 彼女の匂いやら、右腕に伝わる彼女の感触…。 これだけは、耐えられないでござる。 写真を撮り終わると、挨拶もそこそこに急いで出口に早歩きで帰った。 後ろからは、藍那ちゃんの「また、来て下さいね~。……。」と聞こえたでござる。 後の言葉は、聞こえなかったでござるが、まぁ気にしても仕方ないでござるな。 さてと、まだ時間あるでござるし、どうするでござるか…。 A まだ、秋葉に残る。 B 家に残る。
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前ページルイズと彼女と運命の糸 ※ウルの月 エオローの週 ラーグの曜日 ―― 午前 今日は特別な日だ。 なんと、姫殿下が学院に視察に訪れるというのだ。 気合を入れて盛大にお迎えしなくては。 そうそう、彼女はというと、天の柱を探すため学院の馬を借りて遠出をしている。今夜あたり帰ってくるはずだ。 戻ってこないかもしれないとも思ったが、一度結んだ約束を反故にしたりはしないだろう。 この数週間で大体の人柄は掴んでいる。 どうせ、私の使い魔にするのだから、今の内に自由を満喫しているといいわ。 姫殿下を歓迎しているのに、最初に馬車から降りてきたのは鳥の骨だった。空気を読んでほしい。 ユニコーンに牽かれた純白の馬車から姫殿下が姿を現すと、割れんばかりの歓声が巻き起こった。 勿論、私も声の限り姫殿下を讃え歓迎した。 だが、キュルケとタバサはあまり関心がないようだ。外国からの留学生だから仕方がないか。 キュルケは不遜にも自らの容姿を姫殿下と比べていたので、鼻で笑ってやった。 キュルケと口喧嘩をしていると、視界の端に見覚えのある人物が映った気がした。 ―― 夜 昼間の出来事をボーっと思い出していると、部屋にノックの音が響いた。 聞き覚えのあるノックの音だ。長く間を置いて2回と短く3回、もしかして…… 覗き窓から誰かも確認せずに私は弾かれる様にして扉を開けた。 来訪者は、思った通りの人だった。姫殿下だ。 姫殿下は、昔を懐かしみ私に会いに来たのだという。こんなにも嬉しい事はない。 昔話に花を咲かせていると、不意に姫殿下の顔が陰った。 理由を聞き出してみると、結婚が決まったのだという。相手はゲルマニアの皇帝、アルブレヒト三世だそうだ。 結婚が決まり憂鬱になっているのだと思ったが、そうではないようだ。 詳しくは書けないが、婚姻を妨げるモノがあるらしい。 そして、それを見つけようと血眼になっている奴らがいるそうだ。 名を『レコン・キスタ』、アルビオンの貴族が中心になって出来た組織で、王党派を相手取って主権争いを繰り広げている。 しかも、その婚姻を妨げる物証を持っているのがよりにもよってウェールズ皇太子殿下ときたものだ。 すわ、王家の危機! 今こそ王家への忠義を示す時。 お任せ下さい姫殿下。見事わたくしめが、その生涯を取り払ってみせましょう。 「ただいま、ルイズ。 あれ、お客さん?」 いいタイミングで彼女が帰ってきた。 さあ、使い魔として最初の仕事をしてもらうわよ! ◆ ◇ ◆ ※ウルの月 エオローの週 イングの曜日 ―― 早朝 私たちは学院の裏門にいた。 人目を避けて出発するためだ。 旅の道連れは私と彼女、そしてギーシュだ。 なんでギーシュがいるのかというと、盗み聞きしていたのだコイツは。 それにより、昨晩私の部屋に乱入してきたのである。姫殿下もグラモン元帥の息子だと聞き、同行することを許された。 まあ、盾ぐらいにはなるか。 ギーシュの使い魔はジャイアントモールなのだが、これは最悪だ。 何故最悪かというと、私を押し倒したからだ。 しかも、姫殿下より賜った『水のルビー』にその汚らしい鼻を擦りつけやがった。 本当に最低だ。姫殿下の信頼の証ともいえる『水のルビー』に鼻を擦りつけるなど、許されるはずもない。 なのに、だ。 ギーシュは馬鹿みたいに笑って、一向に止めさせようとはしない。自分の使い魔の躾ぐらいしろ! その不逞モグラに制裁を加えたのは、突如現れたワルドだった。 そして、尻餅をついていた私に、ワルドは優しく手を差し伸べてくれた。凄くドキドキした。 10年近く会っていなかったのに、私の事を未だに婚約者と呼んでくれたのは素直に嬉しかった。 今も昔も、ワルドは私の憧れだったのだから。 ワルドとグリフォンに乗って空を往く。 彼女とギーシュは遥か下だ。栗毛の馬に跨り駆けている。 だが、グリフォンと馬では速度が違いすぎる。グリフォンはまだ余力がありそうだが、彼女たちとは距離が開いてきている。 ワルドは二人を置き去りにしてでも急ぎたいようだったが、ラ・ロシェールまでは馬では二日もかかるのだ。 私の説得で速度を緩めてもらう。 そりゃあ、手紙の回収なんてワルド一人でも余裕だとは思うが、姫殿下から命を受けたのは私たちだ。 出来る限り、置き去りになんてしたくない。 ―― 夕方 街道に沿って半日ほど進むと、渓谷に入った。彼女たちは何度も馬を変え、辛うじてついてきている。 しかし、空を飛ぶグリフォンと山道を進む馬とでは、平坦な街道を進むよりも差が出てしまう。 もうすぐアルビオンとの玄関口である『ラ・ロシェール』だ。 遅れても、上手くすればそこで合流できるかもしれないが、フネが出航するまでに間に合うだろうか? 何か不測の事態が起これば、彼女を置いていってしまう。 そう不安に思った時、事件は起きた。 彼女たち目掛けて崖の上から松明が投げ込まれた。ついで、幾本もの矢が射かけられる。 危ない! と、思った瞬間、矢は小さな竜巻に飲まれて弾かれた。 ワルドだ。ワルドが魔法で助けてくれたのだ。 そして、襲撃者の姿を見ようと崖に視線をやる。 私の目が捉えたのは、赤々と燃え上がる炎と小型の竜巻だった。 ワルドの魔法じゃない。だとすれば誰が……? 襲撃者を蹴散らしたのは、キュルケとタバサだった。 どうやら、出発するところを見られていたらしい。タバサの風竜に乗って追いかけてきたようだ。 お忍びなんだからと告げると、そうならそうと言えと文句を言われた。お忍びなんだから、部外者に言うはずがないでしょ。 あと、タバサはパジャマのまんまだった。きっと、寝ているところを叩き起されたのだろう。 「アンタも大変ね」 「平気。もう慣れた」 どうしてこの二人は友人をやっているのか不思議だ。静と動で正反対なのに。 あと、襲ってきた連中は簀巻きにしておいた。運が良ければ夜を越せる筈だ。 物取りだったらしいが、馬鹿な奴らだ。数を揃えた所で、メイジに敵う筈がないのに。 ―― 夜 「フネは明後日にならないと出航しないらしい」 『女神の杵亭』で寛いでいると、船着き場から戻ってきたワルドにそう告げられた。 何故かと理由を尋ねると、明日の夜は双月が重なる『スヴェルの夜』で、その翌朝にアルビオンが最接近するらしく、船乗りたちは風石の消費を抑えるため、今日明日は絶対に船を出さないのだそうだ。 ワルドはかなり食い下がったようだが、船は出せないと断られたらしい。 その気になれば、魔法衛士隊隊長の権限で無理に出航させることも可能だが、お忍びなので目立つ事は避けたいそうだ。 そういうわけで、予定が狂ってしまった。 本当ならば、明日の朝には出発する筈だったのだが、一日ここで足止めとあいなった。 二人部屋を三つ取り、私と彼女、ワルドとギーシュ、キュルケとタバサという部屋割だ。 ワルドは婚約者だからといって、私と相部屋を望んだが、ギーシュを他の女性陣と一緒にさせるわけにはいかないと言うと 大人しく引き下がってくれた。婚約者とはいえ、まだ学生だしそういう事は早いと思うの。 ◆ ◇ ◆ ※ウルの月 エオローの週 オセルの曜日 ―― 朝 翌朝、何故か彼女とワルドが模擬戦をする事になった。 止めるようワルドに言ったのだけれど、「彼女の実力を知りたい」の一点張りで聞く耳を持ってくれなかった。 婚約者を蒸発させられてはたまらないので、手加減するよう彼女にお願いする。 「分かったわ。能力は使わず剣で勝負するよ」 「よっしゃ! とうとう俺っちの出ば……」 「このレイピアでね」 そういや居たわね、喋るしか能のない駄剣が。 でも、アンタ凄く重いんだから、彼女が振りまわせるわけないでしょ。 結果は、当然ワルドの勝ち。 ウィンドブレイクで吹っ飛ばした彼女に実力不足だとか言っていたが、女の子相手にやり過ぎだと思う。少し幻滅だ。 非難の眼差しを向けると、ワルドはサッと目を逸らす。少し動揺したのか、説教もそこそこに去っていってしまった。 しょうがないので、倒れたままの彼女に手を差し伸ばして立ちあがらせた。 彼女は擦り傷と軽い打撲を負っていたが、やおら淡い光に包まれると、傷一つなくなっていた。 軽い怪我だったとはいえ、あんな一瞬で治るなんて驚きだ。 断然、彼女を使い魔にしたくなった。 ―― 夜 あの後は特に何事もなく、素直に時間は流れ、夜になった。 宿の酒場で夕食を摂りながら歓談に興じる。 そして、彼女がワインを飲んだ事がないという事を知った。 彼女の世界ではどうか知らないが、ワインなんて普通の飲み物だ。 むしろ、綺麗な水の方が下手なワインよりも高級品の場合がある。 試しに一口飲ませてみると、意外といける口だったようで、あっという間にグラスを空けてしまった。 食後も酒場に残って騒いでいる彼女らを残して、私は部屋に戻り夜風に当たっていた。 窓から重なった双月を見上げていると、部屋にワルドが入ってきた。 そして、結婚しようと言われた。 いきなりの言葉に、頭が真っ白になる。他にも色々と言っていたが、憶えていない。 それだけ、その言葉の威力が高かったのだろう。 返事をせずにいると、ワルドは「諦める気はない」と言い残して部屋から出ていった。 婚約者なのだから、いずれはそういう事になるだろうと思っていたが、これは不意打ちだ。 任務の事で精いっぱいだというのに、人生の岐路に立たされてしまった。一体何を考えているのだろう? 熱で上手く働かない頭をフル回転させていると、宿に衝撃が奔った。一体何事!? ● ● ● 一階の酒場に駆け込むと、何故か彼女が仁王立ちをしていた。 酒場を見渡すと、テーブルがひっくり返り酷い有様だ。床には投げ出された料理が散乱している。 入口の扉に至っては、吹き飛ばされて無くなっていた。周囲の壁は黒く焦げている。 そんな惨状なのに、酒場は酷く静まり返っていた。外からは、傭兵みたいなやつらがおっかなびっくり遠巻きにこちらを見ている。 視線を戻すと、彼女の顔は真っ赤だった。目は座っている。 「きしゃまら! いきなりなにをしゅるのよ! このわたしがせいばいしてくれりゅう!」 見事に酔っぱらった声で彼女が叫ぶ。同時に、指からビームを乱射した。 ロクに狙いを定めていないビームだが、それだけで驚異であった。 なにしろ、石壁を簡単に蒸発させるのだから、襲撃者たちは逃げ惑うしかない。 中には果敢に突撃してくるものもあったが、そいつらは炎で焼き払われた。 襲撃者の中にはメイジも混じっていたらしく、三十メイルはあるゴーレムが出現したが、 彼女によってあっという間に穴あきチーズみたいになってしまった。 それにより、襲撃者たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていき、辺りには再び静寂が戻る。 「あはははは! せいぎはかつ!」 彼女は上機嫌に腕を振り上げて勝鬨を上げた。 酔っ払いは勘弁してほしい。今度からは飲みすぎないよう監視していないとね。 それにしても、こんな大掛かりな襲撃があるなんて、私たちを狙う存在がいるという証拠だ。レコン・キスタか? とりあえず一難は払えたが、急いでココから離れないといけない。 私たちはワルドの誘導に従い、船着き場を目指した。 ◆ ◇ ◆ ※ウルの月 エオローの週 ダエグの曜日 ―― 明け方 私たちはフネに乗り込みアルビオンを目指していた。 昨晩の襲撃の後、ワルドの権限を使い商船を徴発しラ・ロシェールを発ったのだった。 船着き場へ向かう途中、仮面を被った白尽くめの男が襲ってきたが、一瞬にして彼女によって蒸発させられた。 アレだけの力を見せられてまだ襲ってくるのは、無謀というかなんというか…… 冥福を祈っておこう。 フネには風石が足りないとのことなので、ワルドがその代わりを務めている。 そして、アルビオンまであと少しというところで空賊船に出くわしてしまった。 アルビオンは今、内乱の所為で治安が乱れに乱れている。なので、こういう無法な連中が野放しになっているのだ。 私は断固抗戦を主張したが、あえなく却下された。 理由としては、こちらの船には武装がなく、非戦闘員を多く抱えているからだそうだ。 それに…… 「う~ん…… 頭がガンガンする……」 彼女は二日酔いだった。万全の状態なら、どんな遠距離からでも蒸発させれたはずなのに。 今は大人しく従う他ないようだ。ワルドはヘロヘロで役に立たないし。 ―― 昼 ありのまま起こったことを話すと、空賊が皇太子殿下で王党派だった。 何を言っているのか分からないと思うけど、私も何が起こったのかすぐには分からなかった。 それこそ、頭がどうにかなりそうだった。 カモフラージュだとかゲリラ戦法だとか、そんなチャチなもんじゃない。もっと恐ろしいご都合主義の展開を味わったわ。 テンパるのはこれくらいにして、状況を整理しようと思う。 私たちは姫殿下の使いで、アルビオンに赴いた。目的はある手紙を回収するため。 道中、襲撃をかわしあと少しでアルビオンというところで空賊船に拿捕された。 私は空賊の頭の前に通され、尋問をされた。あまりにも失礼な輩なので、大いに啖呵を切ると空賊の態度が一変。 空賊の正体は、アルビオンの王党派。まさしく、任務の目標だった。 そして今、秘密の航路を使い王党派の居城『ニューカッスル城』にたどり着き、ウェールズ殿下より手紙を回収したところだ。 手紙の内容は見ていないが、殿下の態度を見てある程度の予想はついた。 /ヽ/W\/Mvヘ/ヽ/ヽ/W\/Mvヘ/ヽ/ヽ/W\/Mvヘ/ヽ/ヽ/W\/Mvヘ/ヽ/ヽ/W\/Mvヘ/ヽ/ヽ/W\/Mvヘ/ヽ/ヽ/ (ここから先のページは破り取られている) ―― 夜 ニューカッスル城のダンスホールにて、最後の晩餐会が行われていた。 既に覚悟が出来ているのか、王党派の人々は底抜けに明るく騒いでいる。 その光景が悲しくて痛々しくて、私は会場から逃げるようにして抜け出した。 暗い廊下の隅でさめざめと泣く。 私には分からない。明日死んでしまうのに、ああやって明るく振舞えるのが。 どうして、自分から死を選ぶのが分からない。逃げれば、愛する人とも一緒にいられるというのに…… そうやって泣いていると、廊下の奥から燭台を持った彼女が現れた。 泣き腫らした目を擦り涙を拭う。どうやら、いなくなった私を心配して探しに来てくれたらしい。 感情を抑えきれずに、彼女に疑問をぶつける。 どうして、あの人たちが死を選ぶのかと。 その質問に彼女は口ごもり、建前通りに誇りとか守るためとかと口にしたが、私が聞きたいのはそんなことじゃない。 でも、誰にも分からないわよね。分かるはずがない。 だけど、残された人は一体どうすればいいの? 早く帰りたい。トリステインに帰りたい。 ● ● ● 彼女が去ると、入れ違いでワルドがやってきた。ワルドなら私の疑問に答えてくれるだろうか? そう期待を込めて見上げる。 「ルイズ、結婚しよう。ウェールズ殿下も祝福してくれている」 どうしてそんな事を言うのだろうか? 私は拒否したが、ワルドは結婚式を挙げると言ってきかない。 いろんな事が起こりすぎてワケが分からない。大声をあげて泣きたい。 バカ。 ◆ ◇ ◆ ※ウルの月 エオローの週 虚無の曜日 ―― 朝 礼拝堂に連れていかれ、半ば強引にウェディングドレスに着替えさせられた。 結局状況に流されてしまった。 どうしてこうなってしまったのだろう? 何度も溜息をつく。 部屋で待機していると、彼女たちがやってきた。 「こんな状況で結婚式なんて、アンタたちは何を考えているのよ?」 「なあルイズ、急すぎやしないかい。いきなり結婚だなんて。 大体まだ学生じゃないか」 「……非常識」 口々にこの結婚式に対して否定的な意見を言う。 だけど、私だってどうしてこうなったのか分からないのだから、答えられるはずもない。 「ねえルイズ、アナタはこれでいいの? この結婚式に納得してるの?」 「それは……」 「だったら言わなきゃ。 じゃないと、どこまでも流されるだけよ。 自分の事なんだから、自分の意見を言ってやらないと」 そうよね。分かったわ、自分の意思をはっきりと伝える。 ワルドには悪いが、結婚なんて私にはまだ考えられない。 そう決心すると同時に、準備が整ったとの連絡が来た。 ● ● ● 一瞬、何が起こったのか分からなかった。 目の前には、胸から大量の血を流して倒れているウェールズ殿下がいる。 ワルドが顔を醜悪に歪めさせて何かを言っている。 情けない話だが、私は腰を抜かしてしまっていた。 誰かが茫然とつぶやいた。 「レコン・キスタ……」 「そうだ、僕はレコン・キスタのスパイだ」 誰かの怒声が聞こえた。 ワルドが立っていた場所に炎と氷刃が奔り、私の周りに七体のブロンズゴーレムが現れる。 キュルケにタバサにギーシュ、そして私の横に立っているのは彼女だ。 「ふん、手紙は貴様らを皆殺しにしてから回収するとしよう」 「スクウェアとはいえ、五対一で勝てるつもり?」 「貴様ら程度を相手取れぬのでは、魔法衛士隊隊長は務まらぬよ。 まあ、その使い魔君の相手は骨が折れそうだが……」 そう言うと、ワルドの姿がぼやけた。虚像が幾重にも重なり、陽炎のように揺れている。 「ユビキタス・デル・ウィンデ。 さあ、これで五対五だ。君らの勝ちはなくなったな」 「風の遍在……」 風の遍在。それは、術者と等しい力を持つ分身を作り出す風のスクウェアスペルだ。 五人のワルドと彼女たちが戦っている。 それなのに、私は見ているだけでいいのか? 泣いているだけでいいのか? いい筈がない。 だから、私は杖を振り上げ呪文を唱える。 成功するなんて思っていない。でも、爆発は起こる。今、私が出来る精一杯だ。 当たるなんて思っていない。でも、意思は示せる。 彼女が言ったのだ。自分の意見を言ってやれと。 だから、私は力の限りぶつけてやる。ワルドに限りない拒絶を。 死んでもお前のモノなんかにはならないのだと。 確かな意思を込めて杖を振る。 「なんだとっ!? ルイズ!」 「え、なに? 当たったの? うそ?」 遍在の一体を一撃で消されワルドは、一瞬動揺する。私だって驚きだ。 その隙を見逃すはずがない。 礼拝堂に氷嵐が吹雪いた。視界を真っ白に埋め尽くす。 しかしそれも一瞬の事、吹雪はすぐにおさまった。だが、その一瞬で十分だった。 動きの止まったワルドに、ギーシュのブロンズゴーレムが肉薄する。 ワルドは巧みな体捌きと杖を剣のように操り、ブロンズゴーレムをいなすが、反撃は小さな火球で邪魔をされた。 打ち合わせたわけでもないのに、澱みなく流れる連携にワルドは思わず飛び退く。 気がつくと、四人のワルドは一ヶ所に集まっていた。 そして、全員の視線が彼女に集中する。ワルドの表情が凍るのが見えた。 散開しようとするが、遅い。 「くっ……」 「スターライトブラスト!」 その瞬間、光が視界を塗りつぶした。 ● ● ● ―― 午後 私たちは学院へと帰ってきていた。 アレからどうなったのかというと、絶体絶命のピンチに陥っていた。 ワルドは塵も残さず消滅したとはいえ、危機が去ったわけではないのだ。 王党派とレコン・キスタの戦闘が始まり、城は砲撃で激しく揺れている。 ここから逃げるのは至難の業だ。 秘密の航路を使おうにも、ワルドによってリークされている可能性が高く危険である。 どうすれば逃げ出せるか算段を立てていると、彼女がこう言ってきた。 「大丈夫私に任せて」 彼女の提案を聞くと、その内容に笑う事しか出来なかった。 ズルイというか、非常識というか、ご都合すぎる。裏技だ。 その方法とは、テレポートという能力を新しく覚えたのでそれで帰ろうというのだ。 テレポートとは、瞬間移動の事らしい。一度行った事のある場所なら、一瞬で移動できるのだそうだ。 そんなわけで、そのテレポートを使い学院に帰ってきたわけだ。 勿論、タバサとギーシュの使い魔も回収して。 これから姫殿下に報告に行かなくてはいけない。 ◆ ◇ ◆ ※ウルの月 エオローの週 ユルの曜日 「ごめんルイズ、話があるんだけどいい?」 彼女がそう切り出してきた。 彼女が言うには、テレポートを覚えたので天の柱を探す必要はなくなったらしい。 やっぱりそうか。 何となく、そうなのではないかと思っていた。 「三ヶ月っていう約束だったけど、出来るなら早く帰りたいの」 「いいわよ」 頭を下げる彼女を制止して、ぶっきらぼうに告げる。 「いいの?」 「いいのよ。 だって、アンタを使い魔にする気なんてもうないもの」 だってそうでしょう? 友達を使い魔なんかに出来る筈がないもの。 「だから、どこにでも行けばいいわよ。さよなら」 「ありがとう、ルイズ。私の旅が終わったら、また会いにくるから」 「……ふん」 そう言って、彼女は私に糸の束を渡してきた。 不思議な糸だった。オレンジ色の、見ているだけで心が温かくなるような糸。 これが、彼女と交わした最後の会話だった。 ◆ ◇ ◆ 「う~ん…… この彼女ってのはどんな奴だったんだろ? これだけじゃ、よくわかんないな。 なあデルフ、お前は知ってんの?」 「なあ相棒、人の日記を勝手に読むのはどうかと思うね」 「そうは言ってもよ、ルイズにきいても教えてくれねぇんだもん。 だったら、自分で調べるしかないだろ?」 「だからって、この行動はないと思うね俺は」 何処に居るのかと探しにきてみれば、何をしているのだコイツは。 よりにもよって、私の日記を読むなんて。 おしおきね。久しぶりの。 「こっの、バカ犬!」 「キャイン!」 手にした馬上鞭で打ちすえると、サイトは叫び声をあげてのた打ち回った。 久しぶりだけど、相変わらずいい声で鳴く。ゾクゾクきちゃうわ。 両手を腰に当て、倒れこんだサイトを上から睨みつける。 「アンタね、人の日記を勝手に読むなんて何考えてるのよ!」 「相棒はね、アイツの事が知りたいんだってよ」 「アイツ? ああ、彼女の事ね」 彼女が去ってから、一年以上が経つ。 アレから色んな事があった。使い魔としてコイツを呼んだ時はガックリときたが、今では大切なパートナーだ。 暫くは日常を過ごしていたが、程なくして戦争が起きた。 レコン・キスタとの戦争、それが終わった後にはガリア。 でも今は、このハルケギニアで戦争をしている国はない。なぜなら、そんな余裕がないからだ。 ハルケギニア全土を揺るがす大地震によって、各国はことごとく力を減退させ、戦争をしている余裕はなくなった。 瓦礫に埋もれる町を復興させなければならず、エルフとの聖戦に息を巻いていたロマリアも休戦する他なかった。 学院もかなりの部分が破損し、まだ完全には復興仕切っていない。 駄犬と駄剣に説教をしていると、私の後ろの扉が開いた。 何の断りもなしにキュルケが入ってくる。 「ちょっとちょっと、こんな日にも喧嘩なわけ? 仲が良いのも分かるけど、少しは落ち着いたらどう?」 「ふん、アンタとも今日でお別れね。清々するわ」 「あら? 実家に帰っても隣同士なんだから、いつでも会えるわよ。 ふふふ、さびしい?」 「誰が」 世界がどうなっても、私たちの関係は変わらない。 多分十年後も同じことを言っている気がする。なんせ、先祖代々の宿敵なのだから。 さて、そろそろ時間だ。 「ほら、行くわよ犬」 「わ、わぅ~ん……」 まだ寝ころんでいるサイトの頭をふみつけると、犬語で返事をしてきた。 鳩尾を思いっきり踏みつけてから、部屋を出る。 今日は卒業式だ。 この間、竣工したばかりの本塔にて行われる。 本塔は宝物庫の床が抜け落ちていたので、再建が大変だったらしい。 廊下を進む。この寮塔も今日でお別れだ。 「う゛っ、ごほっ…… 待ってくれよ、置いてかないでくれ」 後ろからサイトが咳き込みながら追いついてくる。 軟弱な使い魔だ。しょうがないから、落ち着くまで待ってやろう。 そうしていると、不意に後ろから声をかけられた。 「久しぶり、ルイズ。今日卒業式なんだって? 丁度いい日に来たものね」 ああこの声は、忘れる筈がない。私の友達の声だ。 ゆっくりと振り返ると、変わらぬ彼女の姿があった。 「ええ、本当に久しぶり」 今日は良い日になりそうだ。 = ルイズと彼女と運命の糸 ・ 終わり = 前ページルイズと彼女と運命の糸
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このページはこちらに移転しました 僕と彼女ノ 作詞/つまだ 溶けた言葉 透けて遠く 向こうに 流れゆく過去になり 広い青に 午後の月が 一つ 浮かんだ今へと 歪な曲線を描いた 重なるその手に僕らなら 今までの軌跡を目にした 忘れかけて ピントがぼやけた いつかの景色の中 濁りのない思いを乗せて 見えなくなる その前には ありがとうと 空に 飛ばすから (このページは旧wikiから転載されました)
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「彼と彼女の非日常」 作者 伊南屋 ◆WsILX6i4pM 投下スレ 2スレ-3スレ レス番 864-867 13-17 備考 電波 続きもの 864 伊南屋 ◆WsILX6i4pM sage 2008/03/29(土) 12 08 30 ID /SChxdSF 『彼と彼女の非日常・Ⅵ』 「お姉ちゃん、いるでしょ?」 そう言って切り出したのが光だと分かって、ジュウは確かに自分が安堵するのを感じた。 紫とは関係のない来客だと――そう思った。 「居るんでしょ? お姉ちゃん出して」 「どうしたんだ一体?」 「良いから早くっ!」 鬼気迫る、と言うよりは単純に切羽詰まって狼狽えた様子の光に押され、仕方無く中に居る雨を呼ぼうと振り返る。 だが、そうするより先に雨はジュウの意志に応えたように、玄関へと現れた。 「雨……こいつ」 ジュウが光を指すと、雨は分かっている。と言うように頷いて見せた。 「聞いた声がすると思えば……どうしたの? 光ちゃん」 雨の姿を確認して、光の張り詰めた雰囲気が若干和らいだ。 「……お姉ちゃんに、助けて欲しくて」 「……何があったの?」 縋る瞳の光に、雨が問い返すと光は背後から人を呼び寄せた。 ――現れた女性の、胡乱な表情の中にジュウは既視感を感じた。その表情にではなく、それが醸し出す危うさに。 「どうも……」 ぼそりと零すように挨拶して、彼女は小さくお辞儀をした。 「人を探してるの。昨日からずっと探してて、だけど見つからなくて……」 865 伊南屋 ◆WsILX6i4pM sage 2008/03/29(土) 12 09 45 ID /SChxdSF 「人を探しているというのは、こちらの方が?」 雨が光が連れた女性を指すと、光は頷いて答えた。 「探しているという人はどういった方なのかしら?」 「えと……それが」 次いだ雨の問いに、光は説明を始めた。 まず、彼女とは昨日、街で会ったばかりであるという事。そこで人捜しに手を貸す約束をした事。それが行き詰まった事。 「最初は名前聞いても分からないと思って特徴だけ聞いて捜してたんだけど、行き詰まったから他に手掛かりは無いのって聞いたら――」 そこで光は不意に表情を曇らせ、困惑を浮かべた。 言うか、言うまいか散々悩んだ挙げ句、あくまで連れてきた彼女が言ったことだと前置きをした。 そうして一度深呼吸をしてから、躊躇いがちに口を開いた。 「――九鳳院財閥のお嬢様だって……」 「……っ!」 唐突に、紫へと繋がった。 女性が――光の連れて来た彼女が舞台の外ではなく内側の人物であった。 そして、彼女が自分達にとって敵になり得るのか、味方になり得るのか。 それこそが今この場においてジュウの思考を占める事柄だった。 「そう。それで、どうして探しているのですか?」 雨があくまで平静に尋ねる。 「私も、頼まれただけですから」 「あなたに頼んだ人はどうして?」 「……決着を付けるんだと、そう言ってました」 「決着?」 ジュウが漏らした言葉に、女性は答える。 「いえす。大切な――とても大切な事だと言ってました」 「大切な事……」 それが何であるかをジュウが問おうとして、しかしそれを妨げるように声があった。 「柔沢、どけ!」 常にはない、切迫した声。焦ったような、追い詰められたような余裕のない声――。 「そいつ――殺せないっ!」 ――斬島雪姫が叫んだ。 † † † 飛来するそれは真っ直ぐに、唯真っ直ぐに“彼女”を目掛け虚空を駈ける。 主の意志を――殺意を成す為に。 迅雷の如きそれが目指すのは、眼球。抉り、光を奪うその軌道は冷徹なる一撃。 最短を高速で抜ける刃。それを“彼女”は受け止めた。事も無げに、その指で。 刃は語り掛ける。 ――刺せ。 ――貫け。 ――斬れ。 ――刻め。 自然と浮かぶ陶然とした笑み。躰の芯を熱くする衝動。 彼女は酔う。彼女の深くに響く声に。彼女の深くに流れる血に――。 866 伊南屋 ◆WsILX6i4pM sage 2008/03/29(土) 12 11 44 ID /SChxdSF 。 事態が呑み込めず、故にジュウは動けない。 「雪姫、これはお前が思っている事とは違う」 紫が前に進み出て、雪姫から包丁を奪う。 「お前っ……危ないだろ」 無造作と言える程に乱雑に包丁の刃の側をつまんだ紫を見て、ジュウは冷や汗を流す。 「……本当に優しいのだなジュウは」 場違いな台詞と笑顔で紫が言う。 「とりあえず中に入ろう。少々騒いでしまったから人が来るかも知れん」 早々に紫が部屋に戻る。 ジュウ達は一度、互いの顔を眺め合いながら、何故か有無を言わせぬ紫の言葉に従い中へと入っていった。 † † † 「私を探しに来たのだな?」 「いえす。その通りです」 ふう、と紫は溜め息を漏らす。 「誰から頼まれたかは、まぁ察しがつく」 「……お前を追っているって奴か?」 「まぁそうだろうな。こいつに――切彦に“不殺(ころさず)”を強いる事が出来るのはアイツくらいのものだ」 不殺――逆に言えば、それを強いらなければ殺すというのだろうか、この切彦と言う女性は。 眉根を寄せるジュウが何を考えているのかに気付いたのか、紫は言った。 「ジュウは知らなくても良い――いや、知ってはならない事だ」 「……それは良い。納得は出来ないがな。でも、それよりも雪姫だ。なんであんなに……」 雪姫はもういない。切彦とは一緒には居れないと言って帰ってしまった。 居ないから、だからこそ気になる。あの雪姫があそこまで狼狽える理由を。 「それも含めての話だ。仮にそれを知るとして、私から聞くべきではないしな」 「雪姫に聞けってことか」 「まあ、そうなる」 これ以上話す事はないと言うように紫は言葉を切った。 ジュウはそれ以上聞けない。紫の意志の現れと、雪姫への誠意――無用な干渉をして彼女を傷付ける事を考えれば、そうするより他なかった。 「――さて、切彦」 紫が再び、切彦に視線を向ける。 「お前は私をどうする?」 「……正直どうしようとも」 「ほう?」 「私が見つけなくともあの人はあなたを見つけ出します。というよりはもう見つけ出してるでしょう。だから私はこれ以上なにもしません」 「……なぜ?」 「見つけ出してくれとしか言われてませんし」 契約は完了です――少し不機嫌そうに言って切彦は口を閉じた。 † † † 「なんだったんだ?」 立ち去った切彦を見送り、ジュウは呟いた。 「あいつも……一人の人間と言うことさ」 867 伊南屋 ◆WsILX6i4pM sage 2008/03/29(土) 12 12 35 ID /SChxdSF 紫の言葉の意味を計りかね、ジュウは首を傾げる。 「人と仲良くもなるし、恋だってする。勿論、失恋だって」 ――それを認めたくないとも思うだろうさ。 紫はそう言って、目を伏せた。 「これだからアイツはダメなんだ。鈍感で無神経。何年経っても変わらない」 「――なぁ」 「なんだ?」 「そろそろ教えてくれないか。お前を追っているって奴を」 ジュウの問い掛けに紫は躊躇う。 「……別に構わないが。あらかじめ言っておこう。お前が思う程、事態は深刻ではないぞ?」 それに雨が答える。 「それは、今までの違和感から薄々感じてはいました。貴方は追手とまるで旧知のような言葉を零していましたし」 紫は鼻の頭を掻いて照れくさそうにする。 「――ならば洗いざらい吐こうじゃないか。正直、本当の事を言わないでいるのはこちらも気分が悪い」 そこでちらとジュウを見て、紫は溜め息混じりに続ける。 「特に、命でも賭けるんじゃないかってくらい悲壮な表情の奴がいるからな」 ジュウの頭を真っ直ぐ見て、紫は話しだした。 「少し……痴話喧嘩の愚痴に付き合ってくれないか?」 続く 13 伊南屋 ◆WsILX6i4pM sage 2008/04/12(土) 18 15 50 ID GEMnWOlU 『彼と彼女の非日常』 Ⅶ. 「……ここか」 はぁ、と溜め息を吐く。 ここが、あの揉め事処理屋・柔沢紅香の家だとは俄かには信じがたかった。 普通――全くの普通だ。 強固なセキュリティも、頑強なガードマンもない。 暫く観察した限り、特異な住人が居るわけでもない。 不戦の協定は流石に分からないが――本当に普通のアパートだった。 「しかしまぁ……だからこそって事なのかな?」 本人の印象が派手だからこそ、印象が結び付かないからこそ、誰にも気付かれない。 そういった意味では、この上ない意表の突き方だった。事実、こうして見ている自分ですら、まだ疑いは消えていない。 情報源の信頼度を疑う訳ではないが、やはり俄かには信じがたいと、どうしても思ってしまう。 ――まぁ、疑っていても、悩んでいてもしょうがない。 一歩を踏み出す。 皮切りに歩みを進める。 階段を上り、端から順に表札を確かめていく。 「本当にあった……」 立ち止まり、見つけた表札を確かめるように撫でる。 柔沢――間違いなくそう書いてあった。 耳を済まし、意識を集中する。 扉の向こうに人の気配。 複数あるその気配の中に、紅香は居るのだろうか。また、彼女の子供が。 そして――紫が。 深呼吸をする。チャイムを押す。 そうして、呼び掛ける。中にいる人間に。己が到来を告げる。 「ごめん下さい。紅真九朗というものですが」 † † † 軽い音を立てて扉が開いた。 「あぁ、すみませ――」 「紫なら、あんたには会いたくないって言ってる」 バタン。 「…………」 完全な拒否だった。存在を否定されたかのような、関係を断絶されたかのような、そんなショックを真九朗は受けていた。 「え~と」 額に手を当てて考える。 一応、紫はいるらしい。発言から察するにそうだ。 発言――そう、発言だ。 いや、確かに何も言わずに飛び出して行ったし、分からなくもないけど……俺、拒否られたんだよな? 会いたくないって、言われた。 ――思ってた以上にショックだった。 人づてとは言え、紫に会いたくないと言われた事が。 「……いや待て」 人づて、なのだ。 思い出す。対応に出た人間を。 金髪、真九朗より高い身長、鋭い目つき、不機嫌そうに寄せた眉毛。 不良――そんな言葉がしっくりくる少年だった。 紅香の息子なのだろうか。 「いやでも……」 14 伊南屋 ◆WsILX6i4pM sage 2008/04/12(土) 18 16 54 ID GEMnWOlU 子供について決して多くは語らない紅香。そんな彼女が何度か自分の子供を評した言葉。 『弱い奴だよ。いつまでも泣き虫で、餓鬼のままだ』 ――弱い、弱い人間であると紅香は言っていた。 そのイメージからは、かけ離れていた。と言うことは紅香の子供ではないのだろうか? 或いは紅香の子供の友人というラインも考えられるが――。 「――考えても仕方ない……か」 兎に角、紫本人から聞かなくては。真意を――本心を。 「ごめん下さい!」 再びチャイムを鳴らす。いくらか待って、扉が開いた。 再び金髪の少年が現れ、真九朗を睨み付ける。それに怯む事なく、真九朗は言った。 「紫に……会わせてくれ」 「……多分後悔すると思うけどな」 「構わない」 「……良いだろう。上がれ」 誘うように少年が体をどけ、道を開く。 「一つ聞いて良いかな?」 「なんだ?」 「名前は?」 「……柔沢ジュウ」 ――話が違うよ紅香さん。 真九朗の弱いという言葉から描いていたイメージはもっと華奢で繊細そうな少年だった。 ――まぁ、紅香さんからしたら大抵の人間は弱いのかも知れないけどさ。 別段追及する事はせず、部屋に上がる。通されたリビングは、日中なのに何故かカーテンが閉められ薄暗い。 そんな薄闇の中、浮かび上がるように少女の後ろ姿が見えた。 小柄な背に、艶やかな長い黒髪。活動的な、ボーイッシュな服装。 身に纏うのは凛とした気高さ。 「紫……」 少女は――応えない。 「……何か言ってくれよ。そうじゃなきゃ、分からない」 「分からないのか?」 背後からの声は、追い付いた少年――ジュウのもの。 ジュウの問い掛けに、真九朗は考え込み応える。 「……分からない」 やれやれと言った風情で溜め息をついて、ジュウは真九朗の肩を叩く。 「こういう事だ」 言って、ジュウは真九朗を抜いて歩き、少女の傍らへと進む。 そうして、真九朗を正面に――少女と対面になる位置に立った。 そっと肩に腕が回され、少女を抱き寄せる。 「よく見とけ」 ジュウは少女の顔を覗きこんで、それから一度、真九朗に挑発的な視線を寄越すと、そっと少女の唇に自らの唇を――寄せた。 「――っ!?」 言葉もない。ただ途方もない衝撃が、真九朗の心を殴りつけた。 15 伊南屋 ◆WsILX6i4pM sage 2008/04/12(土) 18 18 30 ID GEMnWOlU 「なっ……おま……何してっ!?」 混乱する。今、目の前で何が起きた? 後頭からでは表情は窺えない。はたして、どんな表情で――どんな想いで少年の行いを受け入れているのか。 ――後悔。 後悔、後悔、後悔。 少年の言う通りだった。胸に渦巻くのは激しい後悔。 こんなもの――見たくなかった! 頭に血が昇り何も考えられなくなる。 ただ、真九朗の心を内から染める感情は――怒り。 何故自分が怒っているのかも分からないままに、真九朗は激情のみを糧にジュウに殴りかかろうと――。 「少しは私の気持ちが分かったか?」 呼び掛ける声は再び背後から。但し、今度は少年の声ではなく少女の――とてもよく聞き慣れた声だった。 「あ……え?」 拳を振りかぶったまま振り返る。 そこには、憮然とした、小柄な背の、長い艶やかな黒髪の、ボーイッシュな服装をした、凛とした気高さを纏う少女が――紫がいた。 「いつもの仕返しだ」 ぴんっ、と鼻っ柱をデコピンされた。 「え? え? 紫が二人……?」 二人の少女に向け頭を振りながら真九朗は狼狽える。 「違ぇよ」 少年の声に振り返れば、先まで背を向けていた少女が、面を向けていた。 「――紫じゃ……ない」 「雨と申します。紅さん」 紫とは違う。紫を陽とするなら、陰。それでも美しい事は疑いようもない少女だった。 雨と名乗ったその少女は、紫を見ながら言った。 「ちょっとした仕返しだ。そこの二人を怨むなよ。怨むなら――自分自身だ」 ――日頃の行いが悪いからだ。 そう、紫は言った。 「な……なんで?」 「ここに来れたのは何故だ?」 「……銀子に情報を頼んだ」 「一人で捜したか?」 「切彦さんに頼んだけど……」 「他には?」 「……夕乃さんにも。でも、断られた」 「それが答えだ」 強く言って、紫は真九朗を睨み付ける。 「私がこんなにも想っているのに、真九朗の周りには別な女が居て、その好意に甘えている。私は……それが我慢ならない」 それまで蚊帳の外だったジュウが見た、その言葉を発した紫の顔は、真っ赤に染まっていて、ジュウはその時、初めて紫の年相応の、少女としての表情を見た様な気がした。 その一方、真九朗は呆気に取られていた。 呆気に取られて、顔を赤くしていた。 「その……それは」 「たまには……私を頼ってくれても良いじゃないか」 ――守られるだけは嫌なのだ。紫はそう言って俯いた。 16 伊南屋 ◆WsILX6i4pM sage 2008/04/12(土) 18 20 17 ID GEMnWOlU 「紫……」 真九朗の胸に渦巻くのは、やはり後悔だった。紫との長い関係の中で与え続けてきた不安。 守れば良いと、そう思っていた。しかしそれは違うのだと気付かされた。 紫は望んでいるのだ。対等な関係を。守られてばかりではない、互いの関係を。 それと、不安。 想ってくれているのは知っていた。そして、それに甘えていた。 紫が嫉妬して、居なくなるなんて思いもせずに、周りの好意に甘えていた。 「ごめん……」 自然と漏れた謝罪の言葉だったが、紫が表情を和らげる事はなかった。 「……言葉よりも態度で、態度よりも行動で示せ」 真九朗を見上げる紫の瞳はどこまでも真っ直ぐで、真九朗もそれを見つめ返す。少しだけ躊躇って、真九朗は唇を――。 † † † 「全く、見てらんねえ」 玄関の外、部屋の中から抜け出したジュウは苦笑混じりに呟いた。 「ああいうこそばゆいのは見てて辛くなるな」 傍らの従者に、お前はどうかと問う。 「私は素敵だと思います」 「そうか」 ――悪戯の発案は雨だった。 話を聞いて、少し仕返しをしてやろうという事になり、雨が仕組んだ。 部屋を暗くして、服を変えれば後ろ姿からは雨と紫の見分けは難しい。 そこで雨を紫と思い込ませ、目の前で奪う。そういう悪戯を。 「しかし本当、最後の最後まで蚊帳の外だな」 「そうですね。何をするでもなく巻き込まれただけでした」 巻き込まれて、掻き回された。それだけの事だった。そうジュウは思う。 「ですが、そうとも限りません」 雨は言う。 「ジュウ様が居たから、舞台は整いました。最後の一計もジュウ様が居たから成立しました」 最後の最後まで脇役。しかし脇役が居なくては成り立たない物語もある。 雨はそう締めくくった。 「それに――」 ジュウに聞こえぬ声。少し頬を赤らめて、雨は付け足した。 「フリとは言え、役得もありましたから」 「なんか言ったか?」 「いえ、お気になさらないで下さい」 追求するでもなく、ジュウはそうかと頷いた。 余計な事は話さず、心も全てを晒しているわけではない関係。それが今の二人の距離感。 中の二人とは対照的な、不思議な関係。 それでも中の二人を関係を羨む事も、互いの関係を疎む事もない。 なぜなら、心を晒さなくとも分かり合える事もあると、そう思えるからだ。 もちろん、中の二人のようにぶつかり合う事だって、時には必要だろう。 17 伊南屋 ◆WsILX6i4pM sage 2008/04/12(土) 18 21 20 ID GEMnWOlU その時はその時だ。思う存分ぶつかってやろう。 「ちゃんと、あの二人は仲直りできたんだよな?」 「はい」 「なら、良かった」 心からそう思える。 ぶつかり合う事で分かり合えるその証があの二人だ。だから、ちゃんと笑い合えるようになって貰わなくては困るのだ。 それから――部屋の中から笑い声が聞こえるまでは、そう長くなかった。 終 .
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66 :キモオタと彼女 2、5話:2010/04/10(土) 21 24 55 ID seg8frX5 自分と優羽(ゆう)が出会ったのは、高校1年の時だった。 同じクラスの彼女は、その可愛らしい外見からたちまち、人気者になった。 彼女の容姿は、髪がセミロングで身長は152センチと小柄で、顔の方は大きく綺麗な瞳に小さめな鼻、プルプルとした唇。 そして、何といっても重要なのが胸!!! 制服の上からでもわかる特盛り!! と、容姿もスタイルも恵まれている彼女だが、性格もどんなに外見が悪い奴にも、笑顔で話しかけるという優しさも持っている。 だって、俺なんかにも笑顔で「隣同士よろしくね!」と言ってくれた。 15年間、外見の悪さに(不細工的な意味で)定評がある俺にも話かけてくれたのは、自分には衝撃的だった。 電車では、絶対隣には女子が座らないし、店員が女性の時は必ず手の平から5センチ離してお釣りを渡されるなど・・・。 あ、ヤバい、泣きそう・・・。 まぁ、そんな彼女と同じ美術部になった時も驚いた。 彼女は、運動神経も抜群なので文化部に入るのは、誰もが意外に思ったらしい。 彼女に釣られて入ってきた男共も多かったが、流石に興味のない部活に飽きてしまったのかすぐに辞めていってしまった。 自分は、小さい頃から絵が好きだったし、辞める理由はなかった。 ちなみに、美術部は俺と彼女だけになってしまった。 普通なら、男と女が2人きりになるのを防ぐ輩が出てきそうなものだが・・・。 周りの奴らは、「お前と優羽ちゃんが付き合うのは、ありえねーし。」 とのことだ。 いやね、わかっていたことだけどさ・・・。 一応、自分の事は自分が一番分かっているつもりだ。 俺だって、身の程わきまえているつもりなんで。 彼女とは、友達付き合いが出来たらいいなぁとは思っている。 とはいえ、女子との関わりあいが皆無な俺は、5月の半ばまでは会話は全然なかった。 理由が、恥ずかしいから。 後、俺なんかが彼女に話かけていいのかという劣等感から話しかけることは、出来なかった。 そんなある日、彼女と喋ることが出来た。 67 :キモオタと彼女 2、5話:2010/04/10(土) 21 27 11 ID seg8frX5 「君、絵は好きなの?。」 「ああぁ、う、うん、すすす好きだよ。 うん。」 ・・・どもってしまうのは仕方ないんだ。 自分みたいなのが、美少女に話しかけられて平静でいられるわけがない。 うん、無理。 そんな、みっともなく狼狽える俺に優しく話かけてくれる彼女は女神に見えた・・・。 その後も「いつから、絵は書き続けているの?」とか、「今度、美術館に行かない?」などと、自分に言ってくれた。 社交辞令でも美術館に誘ってくれたのは嬉しかった。 もちろん、丁重にお断りしたが。 その後の彼女の表情がとても残念そうだったが、それも俺に気を使っているんだろう。 そこまで、気にしなくてもいいのに。 本当に彼女はいい子だなぁと思っていた。 でも、彼女の俺に対する優しさは気遣いではなく、好意だとその時に気付けたら俺の人生は変わっていたかもしれない。
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