約 839,578 件
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/41.html
■ パートⅠ 使い魔は静かに暮らしたい ├ 使い魔は静かに暮らしたい-1 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-2 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-3 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-4 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-5 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-6 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-7 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-8 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-9 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-10 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-11 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-12 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-13 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-14 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-15 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-16 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-17 ├ 使い魔は静かに暮らしたい-18 └ 使い魔は静かに暮らしたい-19 ■ パートⅡ 使い魔は今すぐ逃げ出したい ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-1 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-2 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-3 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-4 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-5 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-6 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-7 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-8 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-9 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-10 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-11 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-12 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-13 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-14 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-15 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-16 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-17 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-18 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-19 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-20 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-21 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-22 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-23 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-24 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-25 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-26 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-27 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-28 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-29 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-30 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-31 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-32 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-33 ├ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-34 └ 使い魔は今すぐ逃げ出したい-35 ■ 使い魔は今すぐ逃げ出したい外伝 『ラ・ロシェールにて』 ├ ラ・ロシェールにて-1 ├ ラ・ロシェールにて-2 ├ ラ・ロシェールにて-3 ├ ラ・ロシェールにて-4 ├ ラ・ロシェールにて-5 └ ラ・ロシェールにて-6 ■ パートⅢ 使い魔は手に入れたい ├ 使い魔は手に入れたい-1 ├ 使い魔は手に入れたい-2 ├ 使い魔は手に入れたい-3 ├ 使い魔は手に入れたい-4 ├ 使い魔は手に入れたい-5 ├ 使い魔は手に入れたい Until It Sleeps ├ 使い魔は手に入れたい-6 ├ 使い魔は手に入れたい-7 ├ 使い魔は手に入れたい-8 ├ 使い魔は手に入れたい-9 ├ 使い魔は手に入れたい-10 ├ 使い魔は手に入れたい-11 ├ 使い魔は手に入れたい-12 ├ 使い魔は手に入れたい-13 ├ 使い魔は手に入れたい-14 ├ 使い魔は手に入れたい U.N.Owen ├ 使い魔は手に入れたい-15 ├ 使い魔は手に入れたい-16 ├ 使い魔は手に入れたい-17 ├ 使い魔は手に入れたい-18 ├ 使い魔は手に入れたい-19 ├ 使い魔は手に入れたい-20 ├ 使い魔は手に入れたい-21 ├ 使い魔は手に入れたい-22 ├ 使い魔は手に入れたい-23 ├ 使い魔は手に入れたい-24 ├ 使い魔は手に入れたい-25 ├ 使い魔は手に入れたい Love ├ 使い魔は手に入れたい-26 ├ 使い魔は手に入れたい-27 ├ 使い魔は手に入れたい-28 ├ 使い魔は手に入れたい-29 ├ 使い魔は手に入れたい-30 ├ 使い魔は手に入れたい-31 ├ 使い魔は手に入れたい-32 ├ 使い魔は手に入れたい-33 ├ 使い魔は手に入れたい-34 ├ 使い魔は手に入れたい-35 ├ 使い魔は手に入れたい-36 ├ 使い魔は手に入れたい Can't Stop? ├ 使い魔は手に入れたい-37 ├ 使い魔は手に入れたい-38 ├ 使い魔は手に入れたい-39 ├ 使い魔は手に入れたい-40 ├ 使い魔は手に入れたい-41 ├ 使い魔は手に入れたい-42 ├ 使い魔は手に入れたい-43 ├ 使い魔は手に入れたい-44 ├ 使い魔は手に入れたい 21st Century Schizoid Man ├ 使い魔は手に入れたい Le Theatre du Grand Guignol ├ 使い魔は手に入れたい 21st Century Schizoid Man-2 ├ 使い魔は手に入れたい Le Theatre du Grand Guignol-2 ├ 使い魔は手に入れたい 21st Century Schizoid Man-3 ├ 使い魔は手に入れたい Le Theatre du Grand Guignol-3 ├ 使い魔は手に入れたい 21st Century Schizoid Man-4 ├ 使い魔は手に入れたい Le Theatre du Grand Guignol-4 ├ 使い魔は手に入れたい 21st Century Schizoid Man-5 ├ 使い魔は手に入れたい Le Theatre du Grand Guignol-5 ├ 使い魔は手に入れたい Sad But True ├ 使い魔は手に入れたい No Remorse ├ 使い魔は手に入れたい Dive in the sky ├ 使い魔は手に入れたい-45 ├ 使い魔は手に入れたい-46 ├ 使い魔は手に入れたい-47 ├ 使い魔は手に入れたい-48 ├ 使い魔は手に入れたい-49 ├ 使い魔は手に入れたい-50 ├ 使い魔は手に入れたい-51 ├ 使い魔は手に入れたい-52 ├ 使い魔は手に入れたい-53 └ 使い魔は手に入れたい-54 ■ パートⅣ 使い魔は穏やかに過ごしたい ├ 使い魔は穏やかに過ごしたい-1 ├ 使い魔は穏やかに過ごしたい-2 ├ 使い魔は穏やかに過ごしたい-3 ├ 使い魔は穏やかに過ごしたい-4 ├ 使い魔は穏やかに過ごしたい-5 ├ 使い魔は穏やかに過ごしたい-6 ├ 使い魔は穏やかに過ごしたい外伝『バッカスの歌』 ├ 使い魔は穏やかに過ごしたい-7 └ 使い魔は穏やかに過ごしたい-8 ■ Shine On You Crazy Diamond ├ Shine On You Crazy Diamond-1 ├ Shine On You Crazy Diamond-2 ├ Shine On You Crazy Diamond-3 ├ Shine On You Crazy Diamond-4 ├ Shine On You Crazy Diamond-5 ├ Shine On You Crazy Diamond-6 ├ Shine On You Crazy Diamond-7 ├ Shine On You Crazy Diamond-8 ├ Shine On You Crazy Diamond-9 ├ Shine On You Crazy Diamond-10 ├ Shine On You Crazy Diamond-11 ├ Shine On You Crazy Diamond-12 ├ Shine On You Crazy Diamond-13 ├ Shine On You Crazy Diamond-14 └ Shine On You Crazy Diamond-15
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7396.html
前ページ次ページ赤目の使い魔 雲ひとつ無い空、まさしく晴天の天気の下で、おおよそ似つかわしくない爆発音が響く 音源は、荘厳な造りの、西洋の王城を思わせる建築物。 しかし、それは城ではなくれっきとした『学校』であった。 名を、トリステイン魔法学院。その名の通り、魔術の教育を行う場である 今も、その建物の中では授業が行われている。それも、今後の成績、学校生活、ひいては人生さえも大きく左右する内容のものが。 そこに再び響く爆発音。 生徒が一人、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの、通算12回目の「サモン・サーヴァント」失敗であった。 ● ● ● 「………ぅぅぅぅぅうううううううっ!」 もうもうと立ち込める煙の中、桃色の髪を振り乱し、童顔の美少女ルイズは、その容貌に不似合いな癇癪を起こし、人目もはばからず歯噛みし、地団太を踏む。 彼女の視線の先、いち早く煙が晴れた爆発の中心には、前後で変わらず何も無い。それは、「サモン・サーヴァント」の失敗を如実に表していた。 その様子を見て、担当教師であるジャン・コルベールはかぶりを振る。 「ミス・ヴァリエール。残念だが、今日はここまでとしよう」 口調は諭すように優しいものであったが、それを聞いたルイズはびくりと体を震わせて、必死に食い下がる。 「そんな!お、お願いですミスタ・コルベール!どうか、続けさせてください!」 その必死な様子に周りの生徒から失笑が漏れるが、気にしている余裕は無い。 ほかの生徒が皆使い魔を連れている中、たった一人でいる自分へ向けられるだろう嘲り、侮蔑を思えば、何倍もマシだった。 「時間も押している。それに、他の方達のことも考えるんだ」 彼の言うとおり、最初こそ生徒たちもルイズが失敗をするたびに、馬鹿にした笑い声を上げていたが、 五回目を超えたあたりからそれらも成りを潜め、顔に浮かんでいた嘲笑も、十回目を越える頃には単調な場景に対する辟易としたものへと変わっていた。 しかし、ルイズも引くわけにはいかない。 「お願いです……、どうか、後一回だけ…」 懇願するような彼女の様子を見て、コルベールは困ったように唸る。 彼とて、このまま彼女だけを未遂のまま終わらせるのは忍びない。 しかし、教師としての責務も軽々しく無視するわけにはいかない。 しばらく、彼は俯いて考えていたが、 「……これで最後だよ。必ず成功させなさい」 結局、天秤は生徒への情の方に傾いたらしい。 「は、はい!」 顔を輝かせて返事をするや否や、ルイズは直ぐに真剣な面持ちで魔方陣へと向き直る。 ワンチャンス。そう自分に言い聞かせ、彼女は大きく深呼吸をする。 「宇宙の果てのどこかにいる私の僕よ! 神聖で美しく、そして強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴える! 我が導きに、応えなさい!!」 唱えるというよりは、叫ぶに近い彼女の呪文。 その後、暫しの沈黙が流れた。 成功か、とルイズは顔を輝く。 しかし、そんな彼女の目前で通産13回目にして本日最大級の爆発が起きた。 爆風を身に受けながら、ルイズは膝をついた。 自分への情けなさ、恥ずかしさ。そのすべてがこみ上げてきて、その双眸に涙が浮かぶ。 「うぅ…」 思わず両手で顔を覆う。 おそらく、あと少しもすれば周りから貶され、罵倒され、蔑まれるのだろう。彼女は身をこわばらせた。 しかし、何時まで経っても周りから言葉らしい言葉はかけられない。 ざわ、ざわ、と聞こえるのはどよめきのみ。 流石におかしい、彼女はそう思って、恐る恐る顔を上げる。 そして見た。煙の中で揺らめく、確実に先程までなかったモノの姿を。 「あっ!」 ルイズの表情が歓喜にあふれた。 さっきまで浮かんでいた絶望の色は、最早顔面のどこにも見受けられない。 視界が晴れるのに比例して、彼女の期待も右肩上がりで上昇する。 知識の象徴であるグリフォンだろうか。はたまた力溢れるドラゴンだろうか。前置きの長さの分、上昇の比率も倍加する。 そして、煙が完全に消えた先にいたのは、 「…………………人間?」 それは、うつ伏せに倒れた人間であった。 体系から見るに男だろうか。茶色でセミロングの髪を紐でくくり、貴重となる上着、ズボンはどこと無く赤黒く、襟元は真紅となっている。見る人によると中世の貴族のような印象を与えるが、そう判断できる人物は少なくとも『この場』にはいなかった。 彼らにとって一番重要だったのは、それが魔獣でもなんでもなく、ただの人間であったこと。 そして二番目に重要だったのは、その者が貴族の象徴であるマントを身につけていなかったこと。 即ち、 「平民?」 遠めに見守っていた生徒の間で聞こえたこの一言。 まるで、それが起爆剤になったかのように、彼らの間で先程までの爆発にも劣らない大きさの笑い声が起こる。 「おいおい、何かと思ったら平民かよ!」 「少し期待しちゃったじゃない!」 ……あんまりだ。 罵声を受けながら、ルイズは肩を落とした。 散々焦らしておいて、召還されたのは只の平民。これならば、延期してでも万全の調子で臨んだほうが良かった。 恨みますよ、始祖ブリミル。 「ミスタ・コルベール、儀式のやり直しを…」 「出来ない。残念だが」 最後まで言えずに否定された。 往生際が悪いと彼女自身も感じる。が、しかし、平民を使い魔にするなんてものも彼女にはありえない選択肢だ。 「お願いです!明日でも明後日でも幾らでも延期してかまいませんから!」 「伝統なんだ。ミス・ヴァリエール」 にべもなくコルベールは続ける。 「召喚された以上、平民だろうがなんだろうがあの人間には君の使い魔になってもらうしかない。これは絶対の掟だ。」 万事休す。八方塞。ルイズは方と共に頭も垂らした。 のろのろふらふらとした足取りで、魔方陣の中心へと向かう。 男は相変わらずうつ伏せのまま動いていなかった。 ルイズは溜息をつくと、男の体を揺り動かす。 「ほら、起きなさい」 それでも、男はピクリとも動かない。 しばらく手を止めなかったが、数分経ったところで我慢の限界が来た。 「いい加減に…」 しなさい、と言う言葉と共に、男の腹に手をまわして無理やり仰向けにしようとする。 しかし、 どろり。 手の広に不愉快なぬめりと暖かさを感じた。 「えっ?」 生理的な嫌悪からか、ルイズは素早く手を引っ込める。 見ると、手は袖口まで真っ赤に染まっていた。 「あ」 そこで、気付いた。 男の服の一部が切り裂かれており、服の赤黒さはそこから広がっているという事。 男の体の下から少しずつ赤い領域が広がっている事。 男が少しずつ、しかし確実に死へと向かっている事。 「あ、あ、あぁぁぁあああっ!」 取り乱したルイズを見て、コルベールが慌てて駆け寄る。 「どうした!ミス・ヴァ…!」 そして、目の前の惨状に気付いた。 驚愕して目を見開くが、年長者というだけあって状況の判断も早かった。直ぐに大声で周りの生徒に呼びかける。 「水系統のメイジを!他の者は救護室に向かえ!」 何事かと覗き込んでいた彼らも、状況に気付くと血相を変えた。ある物は魔方陣のもとに走り、またある物は校舎へと戻っていく。 「あ……あ…」 見ると、ルイズはまだ冷静を取り戻していなかった。 コルベールは落ち着かせんと彼女に駆け寄る。 「ミス・ヴァリエール、冷静になれ。出血は酷いが、まだ生きている」 彼の言うとおりその男の首筋はまだかすかに赤みが差している。 それを見て、ルイズもいくらか落ち着きを取り戻し、呼吸も落ち着いた。 そこに、 「う…ぁ………」 男の口元から、くぐもった呻き声が漏れた。 「だ、大丈夫!?」 いち早く反応したのはルイズだった。 男に顔を寄せ、大声で呼びかける。 男が顔を上げ、その目がゆっくりと開いていく。 そして、彼女と目が合った。 「…え……?」 当惑の声を発したのは、ルイズ。 男の顔は、どちらかと言えば端正なほうだ。まだ若く、青年と呼ぶのがちょうど良い。 服の調子と相まって、どこか高貴な雰囲気を感じさせる。 混乱の原因は、男の目にあった。 本来白いはずの部分は、すべてが真紅に染められており、瞳は逆に淀みのない純白。 色相を反転したような眼球の中心に、すべてを飲み込むような漆黒の瞳孔。 明らかに、異常。 しばらく視線を交わしていたが、やがて男が静かに口を開く。 そこに見えたものによって、ルイズの頭は強制的に驚愕から恐怖へと変換された。 男の歯は、その全てが鋭く研ぎ揃えられた八重歯であった。 普通ならば切歯や臼歯が存在する場所にも、等しく槍のような犬歯が生えている。 その青年がいた場所では、その外見からしばしば「吸血鬼のようだ」と言われていたが、『この場』の吸血鬼はまた違う外見をしているため、そのような言葉を発するものはいない。 しかし、それ故にその容貌は周囲の人間を理解不能な恐怖へと叩き落す。 口を開いた青年は暫しひゅうひゅうと呼吸をしていたが、 やがて、笑った。 笑うと、生えそろった八重歯がうまく噛み合わさり、その不気味さがさらに増す。 しかし、青年の顔に浮かんでいるそれは、まさしく微笑みといっていいほどに穏やか。 異常なコントラスト。周囲にいた人間はみなそう思った。 そして、青年は言葉を紡ぐ。 「やぁ…………」 あくまでも、優しく、朗らかに。 「友達に…ならないか?」 前ページ次ページ赤目の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9166.html
前ページ次ページ暗の使い魔 藁の感触が背中をくすぐる。 がさごそと音を立てながら、官兵衛は敷き詰められた藁のベットで目を覚ました。 ぼんやりと頭を掻きながら、上半身を起こす。 相も変わらず足元に転がる、黒金の相棒によう、と挨拶をすると、官兵衛はのそのそ立ち上がり。 「おい、起きろ」 ベットの上で眠ったままのルイズに声を掛けた。しかし。 「う~ん……」 「オイッ」 官兵衛が声をより一層大きくするも、ルイズは未だ夢の中。 シーツを引っぺがし、肩を揺するも―― 「あと5分だけ……」 起き上がる気配は一切ない。 「いいんだな?このまま起きなくて本当にいいんだな?」 官兵衛の唇の端が怪しく持ち上がる。のしのしと部屋の中央に移動し、鉄球にむかって枷を構えると官兵衛は。 「おりゃああああっ!」 ガシンガシン、と枷を鉄球に叩き付けた。 鉄球を通じて振動が屋内に伝わり、まるで地震でも発生したかのごとく部屋が揺れ動く。 『厄当たり』。官兵衛が得意とする技の一つである。 ただ単に鉄球に八つ当たりしているだけであるが、その時生じる凄まじい振動は、十分な威力を周囲に発揮する。 敵味方問わず辺りに影響を及ぼす、何ともはた迷惑な技である。 「ひゃわあっ!何!何なの!」 突如、ベッドごと激しい揺れがルイズを襲い、突然の視界の揺れと騒音にルイズが飛び起きた。 「目が覚めたか?」 「何やってるのよあんたはぁ!」 あまりに強引な起こし方にルイズが怒鳴った。 そんなルイズを見て、官兵衛が満足そうにニヤリと笑った。 「ニヤリじゃないわよ!私の部屋を壊す気!?もう少し穏やかな起こし方があるでしょうが!」 「穏やかに起こして、遅刻したのがこの間だろう」 髪をぐしゃぐしゃに乱したままのルイズに、官兵衛がそう返した。 暗の使い魔 第六話 『微熱のキュルケ』 官兵衛とド・ロレーヌの決闘から、おおよそ一週間が過ぎようとしていた。 官兵衛は相も変わらず、この我侭でプライドの高いお嬢様に、嫌々付き従う日々を送っていた。 あの日から、官兵衛はルイズの身の回りの世話を押し付けられていたのだ。 朝起きてルイズを起こし、着替えを手伝い、掃除、洗濯。 それらをこなすのが官兵衛の日課になっていた。 日ノ本での過去の出来事から、最初はこき使われるのを嫌う官兵衛ではあった。 しかし、やはり日本に帰る手がかりと、彼の衣食住を握られている弱みは大きい。 彼はルイズに渋々従った。 「畜生っ!こんな事なら、穴倉の方が数百倍マシだ!」 本日5枚目のルイズの下着をダメにしながら、官兵衛はひとりごちた。 ただでさえ枷で動きを制限されているのに、この仕打ち。加えて少女の下着を手洗いするという屈辱。 そんな屈辱を味わうたび、官兵衛は朝のような仕返しをルイズに敢行した。 その度に官兵衛は、飯抜きを言い渡されるのだが。 「ところがどっこい。小生には秘密の居場所があるんだな」 官兵衛がそんな事を言いながら鼻歌まじりに向かった先。そこは。 「カンベエさん!」 厨房に入るなり、黒髪の可愛らしいメイドが官兵衛を席へと案内する。 周りで働いてるコック達が手を止め、官兵衛に向き直る。そして。 「来たか!『我らの鉄槌』!」 割腹のいい四十半ばのオヤジが、官兵衛を出迎えた。 トリステイン魔法学院の厨房全てを取り仕切る、コック長のマルトーである。 官兵衛の秘密の場所、それは魔法学院の厨房であった。 「マルトー殿!」 椅子に座った官兵衛が、顔を綻ばせ立ち上がる。 「よせよせ!殿なんてむずがゆい!マルトーでいい!」 「そうもいかない。これほど美味い飯を作れる腕前を持つ人間に、敬称抜きなぞ恐れ多い!」 「何言ってんだ!メイジをコテンパンにのしちまうお前さんが!」 マルトーが官兵衛の肩に腕を回しながら、ガッハッハと笑った。 あれから、官兵衛は平民達の間で英雄となっていた。 恐ろしい力を持つメイジを立て続けに、それも枷をつけたまま打ち倒したのだ。 特に、尊大な態度で有名な、風の名門のメイジ、ド・ロレーヌに怒りの鉄槌を食らわした。 その事実からついた名が、『我らの鉄槌』である。その名を主に呼ぶのはマルトーだったが、平民達の間ではそれで通っていた。 因みに、官兵衛の起こしたあの竜巻は、風のマジックアイテムということで済ますようにルイズに言いくるめられていた。 魔法が使えるだの、先住魔法だの言うと周囲がおおいに混乱するからである。 最悪、王宮からお迎えが来て拘束されかねない。官兵衛もそれを聞くと納得し従っていた。 「さあさあまずは一杯!」 「うおおっ!かたじけない!」 マルトー手ずからワインをグラスに注ぐ。それを飲み干す官兵衛。 その見事な飲みっぷりに、周りから歓声が上がる。 「おいおい何て飲みっぷりだ!ますます気に入ったぞ!」 マルトーが笑う。シエスタがニコニコしながらそれを眺める。 こちらに来て以来初めて過ごす、何よりも楽しいひと時であった。 そんな官兵衛たちの様子を、そっと物陰から赤い影が覗いていた。 この日マルトーの開いた宴は、暗くなるまで続いた。 厨房のコックやらメイドやらがわいわいがやがやと、酒とご馳走を楽しむ。 「貴族だ~れだっ!あ、俺だ!それじゃ二番のおっさんと三番が熱いキス!」 「え!?野郎同士!?」 「古今東西!すかした貴族共の名前!」 「えーっと、ギーシュ、ギトー、ヴィリエ」 「おいおい!魔法が飛んでくるぞ!」 「おっさん達、いつまで飲むのよ……」 絡む酔っ払いに呆れるメイド。思い思いの喧騒が際限なく続く。 そんな中、酒の入ったマルトーが、顔を赤くしながら官兵衛に絡む。 「まったくお前さんには驚かされてばっかだな! この枷と鉄球を付けたままであいつらに勝っちまうんだからな!」 「本当です!でも前から気になっていたんですけど……官兵衛さんはなぜ手枷を?」 「それは、まあ。元いた所で色々あってな」 シエスタの指摘に、官兵衛は表情を曇らせる。 シエスタが変な事を聞いてしまいましたと、謝る。そんな様子を見て、マルトーは言った。 「わかる!わかるぞ『我らの鉄槌』!俺にはお前が悪いやつなんかにゃ見えねぇ! 大方、タチの悪い貴族に捕まって酷い目にあったんだろうさ!ゆるせねえ!なあ!」 「マルトーさん、飲みすぎですよ」 シエスタが宥めるも、マルトーは止まらない。 「よっしゃ俺も男だ!今度は俺がお前さんの為に、その貴族野郎をコテンパンに叩きのめしてやるよ! どこのどいつだ?言ってみろ!」 「マルトー殿、確かに飲みすぎだな」 酔っ払ったマルトーの勢いに若干引きながら、官兵衛は言った。 「カンベエさんはお酒お強いですねぇ」 「そうかもな」 シエスタの言葉に官兵衛は頷いた。 確かに、日ノ本の武将達は皆うわばみのごとき酒豪ばかりである。 戦場において、何十とお神酒をたらふく飲んでも、酔うどころかバリバリ戦闘可能である。 それ所か、その内容物をエネルギーに変え、技としてぶっ放す始末。まさに超人である。 そんな武将の一人である官兵衛に付き合った男達の結果はいわずもなが。 「はぁ~もう呑めないよぅ……」 厨房の片隅には、酔いつぶれた男達が死屍累々と倒れていた。 「まいった、ハメを外しすぎたな」 「どうしましょう……」 困ったように酔っ払い達を見るシエスタ。因みにシエスタは最後まで給仕であったため、お酒は飲んでいない。 「とりあえず運ぶか」 官兵衛とシエスタが男達をよいしょと運ぶ。適当な場所に寝かせ、風邪を引かないよう毛布をかける。 そして、全ての作業が終わった時、もうすかり夜は更けていた。 「今日は、大変でしたね。でも楽しかったです」 「ああ、小生もだ。こんなにいい気分なのは久しぶりだった」 シエスタの言葉に、嬉しそうに官兵衛は答えた。二人は、並びながら学院の廊下を歩く。 シエスタは使用人たちが使う部屋へ。官兵衛はルイズの部屋へ向かう途中だった。 窓の外には二つの月が出ており、静かに廊下を照らしていた。 先程までとは打って変わって、静かな時間が二人の間に流れる。と、その時。 「カンベエさん」 向かう道が分かれるあたりで、不意にシエスタが立ち止まった。 なんだ、と振り返りながら官兵衛はシエスタに尋ねる。 「先程は、ごめんなさい。私変な事を聞いてしまって」 恐らくは、先程の枷のことについてだろう。シエスタが申し訳無さそうに、静かに頭を下げた。 「私、どうしても気になって。官兵衛さんみたいな人がどうして……」 シエスタが口を濁した。そんな彼女に、官兵衛は。 「なに、気になることの一つや二つ幾らでも聞いてくれ。お前さん、気を使いすぎだぞ?」 そういって笑った。 「そ、そうですか?ありがとう、ございます」 シエスタが頬を赤らめ、目をそらす。 しばらく俯いていたシエスタであったが、意を決するように顔を上げると、官兵衛を見つめ。 「あの、よかったらいつでも厨房にいらして下さいね。わたし――」 待ってます、と小さく付け加えると、シエスタはそのまま夜の闇の中へと消えていった。 官兵衛がルイズの部屋につく頃、あたりはしんと静まり返っていた。 廊下に並んだ扉からは、人の活動の気配は感じられない。 さすがに遅くなりすぎた、ルイズにどう言い訳するかと官兵衛が考えていたそのとき。 どかんっ!と弾かれるようにルイズの部屋の扉が開いた。 あまりの勢いにびくりと肩をすくませる官兵衛。開きっぱなしの扉がギイィ、と不気味な音を立てている。 ごくり、と唾を飲み込みながら、官兵衛は扉の中を見やった。するとそこには。 「こんばんは、このバカ使い魔」 全身から禍々しいオーラを放ちながら、屹立する桃色の悪魔がいた。 「こんな遅くまで、どこでなにしてたのかしら?」 ニコリと笑いながらこちらを見つめるルイズ。だがどう見ても目は笑っていなかった。 「あんたが居ない間、洗濯も着替えを手伝う従者もいない。部屋も散らかったまま。授業は私一人だけ。どういうことかしら?」 「お、落ち着けお嬢さん。こいつには深い訳が……」 のしりのしりと、こちらに歩みを進めてくるルイズに合わせ、一歩一歩と後ずさりながら官兵衛は答える。 「へぇ~どんな深い深い言い訳があるのかしら?言って御覧なさい」 「ちゅ、厨房で……いや、何でもない」 迫力に圧されつい、厨房で皆とご飯食べてました、などと口走りそうになる官兵衛。しかし彼は思いとどまった。 それを喋れば、彼の生命線ともいうべき厨房への出入りが絶たれるからである。 だらだら汗を流しながら、別の言い訳を考えようとした官兵衛であった。しかしそれは間に合わなかった。 突如、部屋の奥へと引っ込むルイズ。なにやらガサゴソと音が鳴っているのが聞こえた。 何だろう、と官兵衛が恐る恐る近づく。すると、つかつかと戻ってきたルイズがドサリと官兵衛の両腕に何かを乗けてきた。 みるとそれは、官兵衛が寝床にしている藁の束と毛布であった。 「それじゃあおやすみ」 ルイズはそういうと部屋に引っ込み、ばんっと勢いよく扉を閉めた。ガチャリと鍵の掛かる音で、官兵衛は我に返る。 「お、おい!お前さん!」 扉に詰め寄るがもう遅い。 「待て!小生どこで寝たらいいんじゃあ!」 「廊下があるじゃない。そんなにご主人様といるのが嫌ならそうさせてあげるわ」 扉の向こうからそんな声が聞こえてくる。官兵衛は、その場でへなへなと座り込むと、深く深く、ため息をついた。 「うう寒い。畜生あの娘っ子!」 藁の上で毛布に包まりながら、官兵衛は仕方なく一夜を過ごしていた。それと同時に己のうかつさを呪っていた。 マルトーとシエスタ達との宴のことである。 「こんな事なら、断っておくんだったか?いやいやしかし!」 あんなに大っぴらに飲んでくれば、ルイズの雷が落ちるのは目に見えていた。 しかし、他人の好意を無駄にするわけにもいかないではないか。それが、自分を平民の仲間として迎えてくれるなら尚更だ。 「ん!小生は悪くない。悪いのはこの全部この枷だ」 どう考えても官兵衛に非があるが、全てを枷の所為にする。そんな事を呟きながら、彼は一人寂しい時間を過ごしていた。 と、その時である。 「なんだ?」 ギイィと、今度はルイズの部屋とは別の扉が、ひとりでに開いた。 そして中からひょこりと、巨大なサラマンダーが顔を出した。 「お前さんは確か、あの赤毛女の使い魔……フレイムだったか?」 官兵衛の言葉に、きゅるきゅると嬉しそうに喉を鳴らしながら、フレイムは近づいて来た。そして、官兵衛の鎖をくわえると。 「うおおっ!待て引っ張るな!何だ何だ?」 ずりずりと物凄い力で、官兵衛を開いた扉の中に引きずり込んでいった。 部屋の中に入ってみると、そこには真っ暗な空間が広がっていた。ここは確か、あのキュルケの部屋であった筈。 使い魔を遣わせ、自分を(強引に)この部屋に招きいれたのは間違いなくキュルケであろう。一体どういった意図だろうか。 「おい、そこにいるんだろう?どういうつもりだ」 官兵衛は、暗闇の奥に感じる気配に問いかけた。 「フフ、分かるのね。流石だわ」 闇の中から、静かな声色で返答があった。キュルケの声である。 「穴倉でコウモリに教わったからな。気配なら感じていたよ」 「そう。やっぱり面白い人ね、貴方は」 キュルケが楽しそうに笑った。暗闇の中で、そんなキュルケの声を官兵衛は警戒しながら聞いていた。 「扉を閉めて」 声色を変えず、キュルケが言う。言われるがままに、官兵衛が扉を閉める。 すると官兵衛のすぐ横で、蝋燭にふっと火が灯った。次々と室内の蝋燭に火が灯り、街頭のように道を作り出す。 その光の道が照らす奥にキュルケは居た、それも。 「な、何だお前さんその格好は」 何とも悩ましい、ベビードールの姿であった。 ベビードール姿のキュルケが、ベッドに腰掛け、熱い眼差しで官兵衛を見つめていた。予想外の出来事に動揺する官兵衛。 「そんな所に立っていないで、こっちへいらっしゃいな」 色っぽい声色でキュルケが誘う。が、官兵衛は動かない、いや動けないでいた。 「ちょ、ちょっとまて。何企んでるんだ?小生の目はごまかせないぞ」 声を震わせながら、一歩後ずさる。官兵衛は、目の前の光景が夢か罠であるとふんでいた。 なぜなら、彼にとってこんなオイシイ状況はそうそう巡ってこないからである。 あるとすれば、その後にとんでもないしっぺ返しが彼を待っている。彼は確信した、だから。 「ちょっと、どこへ行くの?」 一目散にこの場から逃げようとしていた。くるりとキュルケに背を向け扉へ突っ走る。しかし 「どこでもいいだろう!小生は……ってあれ?開かん!」 ガチャガチャとドアノブを引っ張るも、いつの間にかドアには鍵が掛かっていた。 力いっぱい扉を引くもびくともしない。 「お、おい冗談じゃない!出せ!出してくれ!」 「つれないのね……」 キュルケがゆっくりと立ち上がった。そのまま色っぽい仕草で官兵衛に近づく。 壁際に追い詰められる官兵衛。息も掛かりそうな程近くに寄ると、彼女はそっと官兵衛の手をとった。 ビクリと、官兵衛の背がのけぞる。そのまま官兵衛の手の甲をなぜながら、キュルケは官兵衛の耳元で呟いた。 「あなたは、私をはしたない女だと思うでしょうね」 キュルケの言葉に、ぞくぞくと、足元から感覚が走る。 「でもそう思われてもしかたないわ。私の二つ名は『微熱』。松明みたいに燃え上がりやすいの。 だから貴方をこんな風にお呼びだてしてしまった。いけないことよ。わかってる」 「わかってるなら小生を、ここから出してくれ……」 「それでも貴方は私を許して下さると思うわ」 官兵衛の言葉を聞かずに、言葉を紡ぐキュルケ。もはや彼のペースは完全にキュルケに封じ込まれていた。 「わたし、貴方に恋してるの。恋は全く突然ね」 そういいながら官兵衛の指一本一本をとりながらなでるキュルケ。 カチコチになりながら、官兵衛は後悔していた。不用意に扉を閉めた自分の愚かさを。 大した事は無いだろうと、美人の部屋にホイホイ入り込んだ浅はかさを。 「こりゃマズイ状況だな」 「なにが?」 こうなればはっきり言うしかない。自分はお前のような女と関わる気は無いと。 「しょ、小生は――」 官兵衛がキュルケに対して答えようとした、その時。 「キュルケ!待ち合わせの時間に君がいないから来てみれば」 若い男の声が二人の耳に届いた。 キュルケがバッと振り返る。みるとそこには、窓から恨めしげに部屋を覗く、一人の青年の姿があった。 「ペリッソン!ええと、二時間後に」 「話が違う!」 キュルケが五月蝿そうに杖を振るうと、蝋燭の炎が伸び、窓の男を吹き飛ばす。 炎にあぶられ落ちていく男を唖然と見ながら、官兵衛は静かに口を開いた。 「……おい」 「何かしら?」 「今の男はお友達か?」 官兵衛が窓の外を見ながら言う。 「ええそうよ!全くこんな夜中に無粋な梟ね。で、カンベエ続けて」 「いやいや小生はだな――」 「キュルケ!その男は誰だ!今夜は僕と過ごすんじゃなかったのか!」 別の声に再び二人は振り向く。見ると今度はさっきとは違う青年が窓の外に浮いているではないか。 「スティックス!ええと、四時間後に」 「そいつは誰だ!」 またもめんどくさそうに杖を振るうキュルケ。 先程の青年と同じ末路を辿る彼を見ながら、官兵衛はやっぱりか、と小さく呟いた。 そして今度は、窓の外でひしめきあうこれまた別の青年たち三人。 そんな彼らをフレイムに命じて一掃させると、キュルケは再び官兵衛に向き合い、ひしっとその手を取った。 「何か言いたい事はあるか?」 呆れながら官兵衛が言う。しかし。 「ああ!全く恋は突然ね!フレイムを遣わせて、あなたの様子を窺わせてたのも!全て貴方の所為なのよカンベエ!」 「聞かんかい!」 官兵衛が声を荒げるも、何事もなかったかのように話を続けるキュルケ。何が何でも自分のペースを保ちたいらしい。 まくし立てるように、キュルケは言葉を続けた。 「あなたのその逞しい肩!素敵だわ!お顔も渋いし!」 「そ、そうか?そんなにも小生――って違う違う!」 一瞬気を許しそうになるも、頭を振り打ち払う。 「いいか!小生は!美人とは係わり合いになりたくな――」 「あー!あなたがド・ロレーヌを倒した時のあの勇士!まるで伝説の勇者イーヴァルディみたいで!痺れたわ! わかってくれる?この気持ち!」 「わからん!わからんから離してくれ!」 ますますヒートアップするキュルケを振り払おうとする官兵衛。しかしがっちり手を掴れ、それも適わない。 もうここまでくればヤケクソである。キュルケは官兵衛の顔を両手で掴んでロックすると。 「カンベエ!とにかく愛してる!」 無理やりにその唇を奪おうとした、そして―― 「きゃっ!」 「うおっ!」 どおん!という爆発とともに吹き飛ばされた。 官兵衛とキュルケは、突如起こった謎の爆発で床に投げ出される。 床に倒れたままの姿勢で、官兵衛は振り返った。するとそこには。 「ル、ルイズ……」 片手に杖を握り締め、バチバチと電気を杖先からほとばしらせながら、ルイズがいた。 先程まで扉があった場所には豪快に穴が開いており、そこに彼女は仁王立ちしていた。 周囲には焦げた扉の残骸が転がっている。鍵が掛かった扉を、爆発で吹き飛ばしたようだ。 非常にまずい状況であった。見ると、官兵衛はキュルケを下にして、折り重なるように床に倒れている。 キュルケはといえば危険な露出のベビードール姿。十人がみれば十人が、そういう状況だと思うだろう。 「お前さん!違うぞ小生――むぐっ!」 弁明しようとした官兵衛の唇が何かにふさがれる。キュルケが官兵衛に抱きつき、とうとう強引にその唇を奪ったのだ。 ぐいぐいと唇を押し付けてくるキュルケ。情熱的なキスの味が官兵衛を襲った。 官兵衛は目を見開きながら、されるがままのこの状況をどうやり過ごすか考えていた。 と、突如、官兵衛の横にガランと蝋燭のついたてが転がった。 見ると、ルイズが肩を怒らせ、足で蝋燭を蹴飛ばしながら、こちらに近づいて来ていた。 キュルケが官兵衛を離し、やれやれとルイズを見た。 「取り込み中よ、ヴァリエール」 「ツェルプストー!誰の使い魔に手を出してるのよ!」 キュルケの言葉にルイズが怒鳴った。官兵衛は、助かったと即座に身を起こそうとするも、脚が絡まりその場に倒れ伏した。 床に突っ伏した間抜けな体勢で、官兵衛は二人の少女のやりとりを恐る恐る聞いていた。 「あら、恋と炎はフォン・ツェルプストーの宿命よ。恋の業火に身を焼かれるなら、あたしの家系は本望なの。 あなたが一番ご存知でしょう?」 悪びれた様子もなくキュルケは手を広げてみせた。 「カンベエ!来なさい!」 のそのそと立ち上がった官兵衛を睨むと、ルイズは踵を返した。 官兵衛はこれ幸い、とルイズについていく。しかし、ルイズの背中から尋常でない怒りが感じ取れたので、若干の距離を開けた。 「あら。お戻りになるの?」 キュルケが悲しそうな目でこちらを見る。しかし官兵衛はそれに目もくれなかった。 「お前さんには悪いが、美人と関わると碌な事が無いんでね。さっきも言ったがな」 実際キュルケに関わった男達は、先程の通りであった。 そんな彼らを目の当たりにして、官兵衛はこの場にいる気にはなれなかった。それだけである。 扉だった穴を通り抜けながら、彼はルイズの魔法の威力に身震いした。この先ルイズの怒りは確実に自分に向くであろう。 その時の事を考えてのことである。 「(やっぱりツイていなかったか……)」 官兵衛はここに来て、自分の不運さを酷く実感していた。 官兵衛がルイズの折檻をその身で受けようとしていたその頃であった。 魔法学園からそう遠くない場所に建つ屋敷。そこは、王宮の勅使ジュール・ド・モット伯爵の屋敷である。 屋敷の主モットは、自分の執務室の机で肘をつきながら、魔法学院関連の書類に目を通していた。 先日、トリステイン魔法学園に立ち寄った際の視察の書類である。 「ふむ、こんな所か」 一通り目を通し終え、ため息をつく。と、彼の執務室の扉が静かにノックされた。 モットが許可すると、執事と思わしき初老の男性が入ってきた。 「何かね?」 「旦那様、又しても平民の娘を雇い入れたとか」 「それがどうした?」 表情を変えず、モット伯が言う。 「近頃は各方面への視察も多く、ご多忙であることは承知しております。 その慰労のためにメイドを雇い入れ、身の回りのお世話をさせる事自体は良いでしょう。しかしながら……」 「ふむ」 「流石に近頃の雇い入れの多さは見過ごすわけには参りませぬ。 視察に赴かれては、好き勝手に平民の娘らを自らのお傍に置かれて。 加えてあのような怪しげな品々まで屋敷に持ち込む。私としましてはいかがなものかと。」 初老の執事は口調を強くした。 「そして更に、近頃あたりを賑わすあの盗賊!」 「土くれのフーケか」 「そうです。このような事に現を抜かしていては、いつ狙われるかわかりませぬぞ!」 モットはフンと鼻を鳴らした。 「土くれだか何だか知らぬが。盗賊ひとりに引っ掻き回されるとは、貴族の質も落ちた物よ」 不機嫌そうに執事を睨みつける。 「どの道私には関係あるまい。まさかこの『波濤』のモットの屋敷を狙おうなどあるはずもない。ああそれと――」 モット伯はおぞましい笑みを浮かべ、言葉を続けた。 「平民の雇用は止めぬ。いくらお前とは言え、これ以上私の趣味に口出しするのなら、ただでは済まさん」 そういうと、モット伯は執事の男を下がらせた。男が執務室を後にしたのを確認すると、モット伯は杖を振るった。 すると、傍にあったキセルが、ひゅうと飛んできてモット伯の手に収まった。 煙をふかせながら、一人つぶやく。 「そうだな、そろそろ次の娘を雇い入れる頃合か。全く、魔法学院も良い娘がそろっておる」 先日の視察の際学院内で見かけたメイドを、モット伯は思い出した。 その鮮やかに揺れる黒髪を頭に浮かべながら、彼はより一層邪悪な笑みを強めた。 前ページ次ページ暗の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5055.html
前ページ次ページ鋼の使い魔 泣き腫らした瞼が、風に当たってひやりとする。 ルイズがそんな感想を抱きながらも、背中の問答を特に気にもしないシルフィードは悠々と空を飛び、眼下には馴染みの魔法学院が見える。 シルフィードはいつものように、手近な広場に下りようと旋回を始めた瞬間、翼の端に『何か』が当たったと思った。 その『何か』は今度は当たった翼の端から伸びてシルフィードの頭に影を作るように覆いかぶさってくるようだった。 シルフィードは焦った。このあたりで自分と同じ高さを飛べるものはそれほど居ないはず。 動転した幼生竜は背中の主人達を一瞬忘れて、大きく傾斜して旋回し、自分に当たりそうになった『何か』から逃れようとした。 疲れで気が抜けていた背中の四人は、急な動きを見せるシルフィードに驚き、傾いていく竜の背中から落とされないように手近い背びれに捕まる。 キュルケはびっくりしてぎゅっと、目の前のこりこりとした触感のひれを抱きしめ、ギュスターヴは少しざらつくうろことひれの前のこぶを掴んで踏ん張った。 タバサもシルフィードの首根元に抱きつき、急に動き出した使い魔を叱咤しようと考えていた。 そしてルイズは………泣き疲れていたせいか、三人よりも反応が遅かった。 シルフィードの背中の何処にも捕まる事ができなかった。 「あ……」 遠心力に流れるように自分が竜の背中から引き剥がされた時、ルイズは浮遊感の中で一瞬愉しんだ。しかし次の瞬間、落下する感覚と風の音に恐怖した。 「あーーーーーー!!」 「ルイズーー!」 いち早く気付いたギュスターヴが手を伸ばすも、指はルイズに届かない。 どんどんと加速する落下速度がルイズに死の恐怖を与えつつあった次の瞬間、ルイズの体に掛かっていた落下加速が落ち、地面に近づくほどに落下が緩やかになる。 地面に付いた時、ルイズはぺたん、と尻をついただけで傷一つ負わなかったが、流石に腰が抜け、全身から脱力してへたり込んだ。 「は……はぇ……」 へたったルイズに近寄るのは、後退した壮年の男性。 「大丈夫ですかな?ミス・ヴァリエール」 コルベールその人だった。彼は広場に出ており、片手には糸を巻いた棒のようなものを握り、もう一方の手には魔法を使うための杖を持っていた。 落ち着いたシルフィードが広場に下りると、背中の三人は腰が抜けたままのルイズに駆け寄った。 「大丈夫なのルイズ?」 「も…もう落ちるのはいや……」 アルビオンから脱出した時もかなりの高度から落下したため、今のルイズは落下浮遊にかなり敏感になっているようだ。 ギュスターヴに手を引いてもらいどうにかこうにか、小鹿のような足取りで立ち上がったルイズに、コルベールは緩く頭を垂れた。 「いやぁ、申し訳ありませんミス・ヴァリエール。実験中のカイトが風に流れてしまって。ミス・タバサの風竜を驚かせてしまったようですね」 どうやらコルベールは空にカイト(凧)を飛ばしてなにやら実験をしていたらしい。そそくさと糸を巻き取り始めると、鳥のように左右に羽を広げた形のカイトが降りてきて、 器用に地面に落下させる。 「一体何の実験をしていらしたんですの?」 「え?…それは…まだ、ナイショですぞ」 コルベールはばつが悪そうに笑った。 カイトを回収したコルベールは咳払いを一つしてならぶルイズ、キュルケ、タバサを見た。 「しかし、ミス・ツェルプストーとミス・タバサはともかく、ミス・ヴァリエール。貴方は今まで何処へ行っていたのです?」 「え?…それはその…」 ルイズは密命ということで早急ぎ、楽員に休む旨の知らせをせずに学校を起った為、ここ数日は無断欠席の扱いになっていたのである。 もちろん、ここで密命をうけていたことを話すわけにはいかない。 「…い、今からオールド・オスマンへ報告してきますわ!では失礼!…行くわよ、ギュスターヴ」 まだ足腰がはっきりしないルイズがぐいぐいとギュスターヴの腕を引く姿は、遠めに見てもおかしなものだった。 『百貨店 建設』 それより3日後、トリステイン内にアンリエッタ王女殿下と帝政ゲルマニア皇帝アルブレヒト三世との婚約、それにあわせて両国の軍事協約を結んだ事が発表された。 さらにその翌日、アルビオン貴族連合『レコン・キスタ』はアルビオンの『統一』を宣言、国号を『神聖アルビオン共和国』と改名し、その初代皇帝としてレコン・キスタの首魁 オリヴァー・クロムウェルが新設された貴族統一議会の満場一致で就任した。 クロムウェルは皇帝として就任すると、アルビオン新政府は瞬く間にアルビオン国内の騒乱を鎮圧し、最も近いトリステインとゲルマニアに対し『不可侵条約』を打診した。 王政を打破して士気が上がっているはずのアルビオンからの打診に両国はそれを受諾する旨を共同して発表。トリステイン・ゲルマニア軍事協約が発効する翌月 ニューイの5日までには不可侵条約に関する三国共同の文書を作成する確約をとった。 各国の首脳陣はそれらの折衝に追われる日々を過すのだが、国に暮す人々にとっては概ね平和な時間が流れることになった。 勿論それは、トリステイン魔法学院の中も例外ではなかった。 アルビオンから帰還して数日経ったある日の夜のことである。 ギュスターヴは相変わらずルイズの部屋で寝泊りしていた。ルイズ本人も何も言わないから余人がとやかく言うことも出来なかった。 とはいえ、多少の住環境の改善がされているらしく、始めの頃毛布一枚だった寝床が、ルイズのベッドと並べられるようにマットが置かれるようになった。 「なぁルイズ」 「なによ」 ルイズは寝間着で机に向かって本を読んでいた。振り向けばギュスターヴは、見慣れない真新しい帳面を広げている。 「商売を始めたいんだが…」 「そう……?…商売?!」 「ああ」 一瞬聞き流しかけたルイズだが、ぐっと抑える。 「どうしたのよいきなり」 ギュスターヴも佇まいを少し直し、ルイズを見て話した。 「ルイズの使い魔をやり続けるにしても帰る道筋を探すにしても、色々と資金が居るだろうと思ってな」 「……やっぱり、帰りたいんだ…」 ルイズの声色がよろしくない、と思いながらも、ギュスターヴは包み隠さず話した。 「そりゃあ、帰りたくないといえば嘘になる。此処には俺を本当に知っているものは誰も居ないんだから…」 ギュスターヴの言葉にルイズはくしゃ、と顔を崩す。そしておもむろに立ち上がって、ベッドに身を投げた。 「勝手にすればいいんだわ。どうせ私は使い魔も御せないだめなメイジなんだもん。使い魔に相応しいメイジじゃ、ないんだもん…」 綺麗に敷かれたシーツに顔をぐりぐりとしているルイズは稚い。 「そんなことを言うなよ。…少なくとも、こうやってルイズ、お前の隣に居るのは嫌いじゃあないんだ」 ギュスターヴは、そんなルイズの頭を撫でてやった。年の割に発育の悪いルイズは、そうされていると幼児のようにも見えるのだった。 「……じゃあ、どうしてよ。どうして帰るかも知れないなんていうの。ずっと居るって言ってくれないの…」 自分が甘えているという自覚を持ちつつもルイズは聞かずに居られない。 寝物語を聞かせるように、ギュスターヴは優しく話した。 「…俺はサンダイルで、過分にも色々と人の上に立って人生を過してきた。俺が居なくなってもう、一月以上になるだろう。 俺が居なくなった後、サンダイルがどうなったのか興味があるのさ」 ギュスターヴの脳裏に、アルビオンで死地に赴いていったウェールズの姿がよぎる。 あれは俺だ。ルイズに呼ばれなかった時の俺だ…。 ウェールズは自分が死んでも何かが誰かに託されるだろうことを願って、戦場に逝った。 サンダイルの覇王ギュスターヴもまた、あの砦の炎の中で死んだのだ。 ならば、俺が社会に投げ込んだ鉄鋼は、どうなっていくだろう?誰かが引き継いでいってくれるものなのだろうか? 優しく撫でられていたルイズは、まどろみを感じながらぶちぶちしている。 「…皆魔法が使える中で、魔法の使えないあんたがどうして人の上に立てるのよ…嘘ばっかり…本当はこんなところからさっさと逃げ出したいんでしょう……」 重くなっていく瞼に抗えない。 「本当…嫌になっちゃう…商売がしたいんなら……勝手に……やりなさい……よ……」 「ありがとうルイズ。……おやすみ」 寝付いたらしいルイズからギュスターヴが離れる。 「でも……っちゃ……や…ん……」 「ん?」 ルイズが何か言っているかとギュスターヴは振り向くが、既にルイズの意識は落ちて静かな寝息に変わっていた。 ギュスターヴはルイズの許可をもらうと、フーケ捕縛時やモット伯告発で得た資金を元手に、まず最も近場である王都トリスタニアの経済状況を調べた。 しかし、そこで困ったことが判る。トリスタニアを中心とする首都経済圏の規模が、ギュスターヴの予想のそれを下回っていたのだ。 トリスタニア『を含めた』周辺の村や町を含めて23,000人程度の経済圏では個人の起業参入の選択肢がかなり限定される。 (因みにサンダイルのハン・ノヴァは1260年代で40万人弱の人口に膨らんでいた) ギュスターヴは以前トリスタニアを歩いた時に見た光景を思い出した。大小の商店が店を構える中、その軒先を露天商が有料で借り受けて商売をしていた。 露天商とはいえやはり商売人なら立派な店を持ちたいのが人情だろう。 ギュスターヴの発想。それはそのような露天商達を相手に商売をすることだった。 まず、ブリトンネ街等を始めとする商店街の一角に数階建ての建物を用意する。次に露天商を勧誘し、そこで店を開いてもらう。 張れて店もちになった商人達には売り上げの一部を場所代として支払ってもらうのだ。 この案を現実にするにはいくつかの問題があった。まずトリスタニアの商工ギルドの許可がいる。 これについてはコルベールやマルトーといった知己の協力を得て事なきを得た。 次に、露天商が招けるような建物の取得である。これが一番の問題で、結局取得できた物件を大幅に改装して用意する事になった。 後は建物に呼べる露天商と、常在できないギュスターヴの変わりに管理をしてくれる人間の手配である。 この問題ではなんとシエスタから意外な援助をもらうことが出来た。 「王都には親戚の親子がお店を持ってるんですよ。お手伝いになるか判りませんけど、紹介の手紙を書いておきますね」 シエスタの手紙と簡単な地図を手に王都に出かけた折、ギュスターヴは『魅惑の妖精』亭を訪ねた。 「そうね。そのお店でうちの店の宣伝とかもできるし、優先的になにか利用させてくれるなら全然オッケーよ」 『魅惑の妖精』亭オーナー、ミ・マドモワゼルことスカロン氏は独特な風貌であったが悪人ではなさそうだ。 「露天商の誘致と管理が出来る人間ね。ちょうど良い子がいるわよ」 そう言って奥のドアから現れ、紹介されたのはスカロン氏の娘ジェシカ嬢であった。 「この子もそろそろ商売人として独り立ちさせたかったし、人の使い方も巧いわよ。ジェシカ。あんたこの仕事できそう?」 言われて計画を書いた書類をまじまじと見たジェシカはにっと笑って答えた。 「面白そうだね、お父さん。ギュスターヴさん、だったっけ。このお店の開店までの手配、私に任せてみてくれないっかなっ?」 どうにょろ?と言いたげなジェシカの眼を見て、ギュスターヴは応と答えた。 それからの行動は殆どジェシカの独壇場だった。商店街から腕利きの露天商を引っ張り込み、店舗の改装にも着手。あれよあれよという間にブリトンネ街の一角には 地上3階建て、半地下の一階、内3階に計6人の店主が店を構える驚異の新商店が誕生する事になった。 それから後日、或る日のコルベール研究塔にギュスターヴはルイズを訪ねた。 ぼわん、と開けられた出入り口から砂埃を吐き出して、埃にまみれたルイズとギーシュが出てくる。 「げっほ、げっほ…ミスタ・コルベール!持ってきて欲しいものってこれですか?」 ギーシュとルイズは二人がかりで埃塗れの布に包まれた謎の物体を引っ張り出していたのだ。 「ギーシュ、あんた『レビテーション』で持って行きなさいよ」 「こんなかさばるもの一人で『レビテーション』かけても持っていけるわけないじゃないか」 「まったく、なんで私がこんな目に…」 二人に呼ばれていたコルベールは、自分の研究塔の脇に設営した大きな天幕から姿を現す。 「いやいや、ご苦労様でしたミスタ・グラモン、ミス・ヴァリエール。手が離せなかったもので」 「なんなんですかこれは?」 目の前に置かれた物体の布を剥ぐ。それは黒塗りにされ、一方から取っ手の付いた棒が張り出した『箱』だった。 「以前ゲルマニアに行った時に買ったきりで放置してたものです」 一応状態を確かめたコルベールは、二人係りで引っ張り出してきたものを軽々と引き上げる。 「これを取り付ければ…」 そういって大きく開けられた天幕に箱を引き込む。天幕の中にはレンガや土壁で出来た人一人入れるようなドーム状の建物のようなものが作られていた。 コルベールは箱を立て、建物のようなものの脇にくっつけた。 「ふむ。これで完成ですぞ」 「ミスタ・コルベール。これは一体…」 いぶかしむギーシュにコルベールは自慢げに答えた。 「これはですね。ミスタ・ギュスより伝授していただいた製鉄法を用いた溶鉱炉なのです」 「「溶鉱炉?」」 声を揃えるルイズとギーシュ。 「二人に持ってきていただいたのは箱型のふいごですよ。火入れはまだですが、これが使えればトリステイン産の鋼材よりも質の高い錬鉄が作れるようになります」 「しかしなんでまた自前の溶鉱炉なんて作るんですか?」 「今私のやっている実験は色々と複雑な要素が絡んでおりましてな…詳しくはまだ、秘密です」 なんとなく不満気なルイズとギーシュであった。 「でも最初に聞いた時は驚いたね。露天商にわざわざ店自体を貸して営業させるなんて」 天幕の外に簡易なデッキセットが置かれ、そこでギーシュが葡萄水を飲んでいた。 彼はルイズ達が留守にしている間、ちゃっかりコルベールの助手として居座っていた。モンモランシーやケティから逃げるにも体が良いからだ。 シエスタはこまごまと給仕をして回っている。 「店の名前はどうするんだい?」 「ん?…そういえばまだ決めてなかったな…」 手の手紙を弄びながら答えるギュスターヴ。 手紙には店舗の準備、商人の手配が出来たこと、4日後に控えた開店には顔を出して欲しい旨が書かれていた。 「開店直前まで店の名前が決まってないって、どういうことよ」 「でもこういうお店って何屋さんっていうべきなんでしょう?」 手紙には誘致した商人が主に扱っている商品についても書かれていた。日用品、食料、アクセサリー、などなど。変わったところでは 床屋と香水の計り売りなんてものも名前の中に入っていた。 「ギュスターヴ、ちゃっちゃと決めなさいよ」 「そうだなぁ……『百貨店』、なんていうのはどうだろう」 「「「ひゃっかてん?」」」 コルベールを除く三人が聞き直す。 「いろいろな物を置いているって感じがするだろう?」 「ま、いいんじゃない?」 「いいですね」 「うーん、僕なら『七色の薔薇園、五色の敷石、三色の川の流れる場所』とか名づけるなぁ」 まるで『明日の天気は晴かな』くらいの気軽さで言ったギーシュの言葉に、シエスタとルイズは冷たい声で答えた。 「それはないわ、ギーシュ」 「ないですね」 「えぇ?!ひどいなぁ」 「略すと七五三だな」 「なんだかもっと馬鹿にされている気がする?!」 そう言ったギュスターヴも特に他意のあるコメントではなかったりする。 そんな風に談笑がされるコルベール塔前に、風鳴りをして一体の竜が降りてくる。青い鱗のその竜に、蒼紅の二色の髪が風にはためいていた。 「ハァイ?お元気」 「ミス・ツェルプストー!」 シエスタはキュルケを認めると、サッと輪の中から一歩下がってみせたが、キュルケは手を振って制止した。 「あら、大丈夫よ?今日は談笑したいところだけど、ちょっと用事が違うの」 「用事?」 「私の用というか、タバサがね…」 キュルケが振り返ると、タバサはシルフィードから降りて談笑の輪に近づいていった。その手にはいつも持っている、身の丈を越える長い杖が、ない。 「貴方に」 「僕?」 声をかけたのはルイズでもギュスターヴでもなく、ギーシュだった。 「貴方に決闘を申し込む」 悠長にグラスに葡萄水をかっくらっていたギーシュは、貴族の息子らしくなく含んでいたものを盛大に噴出した。 前ページ次ページ鋼の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4522.html
前ページ次ページ鮮血の使い魔 武器を失ったガンダールヴなど平民の小娘でしかない。 嗜虐の笑みを浮かべるワルドと、残りひとつとなった遍在。 一方、ウェールズとルイズはまだ杖を持っている。 先に言葉を始末し、遍在と二人がかりでルイズ達を殺すか? 雑魚を適当にあしらい、反撃する能力を持つルイズとウェールズを殺すか? ワルドの選択は、ルイズが決めさせた。 「ワルド!」 チェーンソーを破壊されたため言葉が無力化してしまったと理解しているルイズは、 言葉を守るため、注意を引くべく、ワルドに杖を向け詠唱を始めた。 失敗でも何でもいい、爆発を起こして、起死回生のチャンスを生み出さねば。 そんな動きを見せるルイズを、先に始末しようとワルドは決めた。 「エア・ハンマー!」 空気の塊を叩きつけられ、ルイズは石造りの壁に向かって吹っ飛ばされる。 壁に直撃すれば骨折程度ではすまない、打ち所が悪ければ死の可能性もある。 だからウェールズは、咄嗟にルイズに向けてレビテーションを唱え、ブレーキをかけた。 その隙に遍在がエア・ニードルを唱えながらウェールズに飛びかかる。 ウェールズはルイズの前に立ちふさがり、自らの肉体を盾として守ろうとした。 (さようなら、アンリエッタ――) 死を覚悟した男の背中を、ルイズは頼もしく思うと同時に、悲しくも思った。 自分のせいでウェールズが死ぬ。死んでしまう。 アンリエッタの大切な人を死なせてしまう。 (誰か――!!) 助けて、と思うよりも早く、彼女は来た。 エア・ハンマーで吹っ飛ばされたルイズを見て、言葉に動揺が走った。 裏切ったはずなのに、ああ、どうして自分は、こんなにも。 何とかしなければならない。しかし武器はもう無い。ガンダールヴの力は使えない。 武器を持たず飛び出しても間に合わない、ただの女子高生の力ではどうしようもない。 ウェールズが魔法をかけたのか、ルイズは壁に激突する前に止まったが、 その二人に向かって遍在が飛びかかる。エア・ニードルで杖を凶器として。 手を伸ばしても届かないと理解していながら、言葉は手を伸ばした。 何かを掴もうとして、虚空しか掴めぬ現実に打ちのめされる。 (私は、ルイズさんが殺されるのを、見ているしかできない) 絶望の中、憎しみを、悲しみが上回った。 その瞬間、床から光と共に、剣が飛び出してきた。 正確には生えたと表現すべきだろうか? 石畳を材料に剣が構築され、言葉の前に現れたのだ。 錬金? 土系統の魔法? 誰が? どこから? 何故? 世界を裏切った言葉に味方するものなど、何も無いはずだった。 しかしその女は確かに、言葉のために魔法を行使した。 教会の扉の陰から様子をうかがっていた、フードで顔を隠した女メイジ。 そのメイジの名は、土くれのフーケといった。 虚空を掴むしかなかったはずの手が、魔法で作られた剣を掴む。 左手のルーンが今までにないほど力強く光り輝いた。 感情の昂ぶりに呼応して力を発揮するガンダールヴのルーン。 今、ルーンは言葉の何の感情に呼応しているのか? 憎悪? 悲哀? 激怒? 確かなのは、ワルドへの敵意ではなく、ルイズへの情だという事。 風は烈風。すべてを切り裂く死の刃。 烈風となった言葉は、ウェールズの胸元を今にも貫こうとする遍在を一瞬にして一刀両断した。 かつて居合いを学んでいた言葉にとって、 剣という武器は日本刀ほどでないにしろずっと使いやすい獲物だった。 ノコギリやチェーンソーといった工具に頼っていた自分が馬鹿らしく思えるほどに。 そして、彼女が習得している居合いの真価は初太刀の後にある。 居合い斬り。大道芸として知られるこの技は、素早く抜刀して斬りつけるものだ。 しかし本物の居合いは違う。 抜刀をしての初太刀にすべてを込める一撃必殺の剣というのは間違いだ。 一撃で仕留められなかったら死に体という致命的な隙を作る? そんなもの剣技ではない。 居合いとは抜刀と同時に攻撃する技術であると同時に、 二の太刀、三の太刀を如何に素早く的確に放つかを追求している。 初太刀で相手を倒せなかった場合を想定せず抜刀する居合い術など存在しない。 初太刀でけん制し、二の太刀以降の攻撃で敵を仕留める事が多かったとさえ伝えられる。 刃を止めず、流れるように、様々な体勢から、様々な状況に対応し、臨機応変に敵を斬る。 それがい居合いだ。 だから、言葉は遍在を両断した直後にはもう、本物のワルドに向かって疾駆していた。 「ライトニング――!」 斜めに斬り上げる。向けられた杖を、ワルドの右腕ごと斬り落とす言葉。 悲鳴が上がるよりも早く、身を守ろうとして出された左腕を三の太刀で斬り落とす。 両腕を失ったワルドは、ようやくカエルのような悲鳴を上げてよろめいた。 そのワルドの視界の端で銀光がきらめく。 首筋に鋭い感触。 眼前で酷薄な笑みを浮かべるガンダールヴ。 「死んじゃえ」 ワルドの首筋にあてがわれた剣が、素早く引かれる。 「あ……」 呆けた声を漏らし、一拍置いてから、ワルドの首から噴水のように血が飛び散る。 白目を剥きいて糸の切れた操り人形のように崩れ落ち、鮮血の結末を迎えた。 「こ、コトノハ……」 背後からルイズの声がする。 振り向きたい思いに駆られながら、言葉は眼前の死体に手を伸ばした。 その懐からはみ出ていた手紙、かつてアンリエッタがウェールズに送り、 任務を受けたルイズが回収しにきたそれを、言葉は自らの制服のポケットにしまう。 「コトノハ、大丈夫?」 心配げな、ルイズの声。 世界を、この世界のすべてを裏切ったはずなのに、 ルイズも、そして今手に持つ剣を与えてくれた者も、言葉に手を差し伸べてくれている。 その手を握る資格など無いのに。 「さようなら、ルイズさん」 振り向かずに、別れを告げる。 「裏切ってしまった私は、もう貴女の側にいられません」 そう言って、言葉は誠の入った鞄を取りに行こうとし、教会全体が揺れた。 外が騒がしい。怒声と破壊音が響く。 「始まったか……レコン・キスタとの戦いが!」 ウェールズが言い終わると同時に、教会の天井が崩れる。 ワルドの死は悲しかったが、それよりも言葉とウェールズの無事をルイズは喜んだ。 ようやく話ができる余裕ができたと言葉に声をかけたが、返ってきたのは拒絶だった。 直後、ワルドとの戦いで気づかなかったが、 すでに始まっていたレコン・キスタとの戦いが、教会を襲った。 天井にヒビが入り、破片が落下し出す。小さな石でも、頭に当たれば大怪我をする。 そんな中を言葉はガンダールヴの脚力で椅子を飛び越えて誠の入った鞄を掴むと、 ルイズ達を振り返らず一直線に教会の戸を開け放ち走り去った。 「コトノハ!」 このまま行くつもりだ。レコン・キスタへ、クロムウェルの元へ。 アンドバリの指輪を求めて、独りで。 ルイズを裏切って。 (もう――戻ってこないつもり?) フーケと通じていた、ワルドと通じていた、という裏切りよりも。 これが言葉との別れなのかという予感が、悲しかった。 「ミス・ヴァリエール、ここは危ない」 茫然自失となったルイズの腕を掴んだウェールズは、 教会が本格的に崩れ出すよりも早く脱出する。 そこはすでに戦場となりかけていた。 言葉の姿を探したが見つけられない。 「ミス・ヴァリエール、君のために船を用意してある。 手紙は、ミス・コトノハが持っていってしまったが……君は逃げてくれ」 「ウェールズ殿下……」 「君はアンリエッタが心を許したかけがえのない友人。 僕の代わりに、彼女の支えとなっておくれ」 「……しかし、私は」 ルイズは唇を噛んだ。血がにじみ出るほどに。 任務を果たせず、ワルドは裏切った末に死に、言葉は裏切って手紙を持って逃亡した。 戦いが始まり、足手まといの自分は、やはりアルビオンから脱出するべきなのだろう。 でも。 ――裏切ってしまった私は、もう貴女の側にいられません。 あの声は、今にも泣きそうなのをこらえているように聞こえたから。 振り返らなかった言葉。どんな表情をして、どんな瞳をしていたろうか。 レコン・キスタに行って言葉はどうするのだろうか。 誠が生き返ったらどうするのだろうか。 もう帰ってこないのか。 「私の、所に、もう」 頬が濡れた。 第15話 さようなら、ルイズさん 前ページ次ページ鮮血の使い魔
https://w.atwiki.jp/madomagi/pages/61.html
Michaela みひゃえら 芸術家の魔女の手下。その役割は作品。 魔女によって命を奪われた人間は その体の一部分を盗まれ、この中に組み込まれてしまう。 概要 芸術家の魔女・Isabelの使い魔。 鉛筆のクロッキー画のような姿をしているが、顔はでたらめな線で描写されている。 戦闘時はゾンビのような動きで襲いかかる。 第10話で登場し、1周目の鹿目まどか・巴マミと戦闘。マミのリボンに拘束され、まどかの矢で一掃される。 出自が魔女に襲われた人間であることが明かされている数少ない例である。 魔女Isabelの作品は「どこかで見たようなものばかり」だということだが、使い魔すらどこかから「盗ま」なければ創り出せないということなのだろうか。 魔法少女まどか☆マギカポータブルにも登場。 通常の人型の他にムンクの叫びをモチーフにした個体が存在し、人型は相手のHPを吸収し、ムンクの叫びは遠距離から相手にダメージだけでなく幻覚にさせる雄叫びを発する。 ポータブルでのドロップアイテム アニメ版にも登場した代表作はVIT強化ポイントを、意欲作は万能薬をドロップする。 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9206.html
前ページ次ページ暗の使い魔 夜空に煌々と双月が輝く頃。ルイズは自室のベッドで夢を見ていた。 それは、幼い自分が懐かしきヴァリエールの領地にいる夢。 「ルイズ、ルイズ、どこに行ったの?まだお説教は終わっていませんよ!」 ルイズの母が、そんな事を言いながら彼女を探し回る。姉たちと比べて出来の悪い自分を叱る為だ。 夢の中でルイズは、そんな自分を叱る母から逃げまわっていた。 召使達が、ルイズの事をひそひそと噂しながら通り過ぎる。 「ルイズお嬢様は難儀だねぇ。上のお姉さま方はあんなに魔法がおできになるっていうのに」 庭園の中庭で茂みに隠れながら、ルイズはそんな噂話を悲しい思いで聞いていた。 だれも自分の事を分かってくれない。そう思うと居ても立ってもいられなくなって、ルイズは彼女が『秘密の場所』と呼ぶある場所へと行くのだ。 そこは、ルイズが唯一安心できる場所。人の寄り付かない、うらぶれた中庭の池。 季節の花々が咲き乱れ、池のほとりには小さな白い石で作られたあずまやが建っている。 見るものが息をつくようなのどかな風景である。そして池には小さなボートが一艘。 ルイズは何かあると、決まってそのボートの中に逃げ込むのだ。 ルイズは用意していた毛布に包まりながら、ぐすぐすと泣き出した。 と、そんな時、霧の中からマントを羽織った立派な貴族が現れるのをルイズは見た。 年の程は十六歳ほどであろう。つばの広い羽根突きの帽子をかぶり、その顔は窺えない。 しかし、ルイズにはそれが誰であるかわかった。 幼い夢の中のルイズは、その白い小さな頬を染める。 そして、身を起こしその立派な貴族を恥ずかしそうに見つめるのだ。 「ルイズ、泣いているのかい?」 「子爵さま……。いらしてたの?」 ルイズは泣き顔を見られまいとふと顔を背ける。しかし、彼女の胸の高ぶりはおさまらない。 憧れの人に、自分の恥ずかしいところを見られた。それにも関わらず、彼女の顔は熱をもったままだった。 「今日は君のお父上に呼ばれたのさ。あのお話のことでね」 ルイズはさらに頬を染めて俯いた。 「いけない人ですわ。子爵さまは……」 「ルイズ。僕の小さなルイズ。君は僕の事が嫌いかい?」 子爵がおどけた調子で言う。それに対してルイズは一生懸命首を横に振りながら言う。 「いえ、そんなことはありませんわ。でも……わたし、まだ小さいし、よくわかりませんわ」 ルイズははにかんで言った。帽子の下で、優しげな顔がにっこりと微笑み。 「ミ・レィディ。手を貸してあげよう。ほら、つかまって。もうじき晩餐会が始まるよ」 そういって手が差し伸べられた。 「子爵さま……」 ルイズは小さく頷くと、立ち上がりその大きな手をとろうとした。しかしその時、彼女はあることに気がついた。 「あれ?何これ」 みるとそれは子爵の手ではなかった。煤に汚れた逞しい腕に、枷が嵌っている。その手が伸びる腕は筋骨隆々である。 バッと見上げるとそこにあったのは。 「さっさと行くぞお前さん」 使い魔の官兵衛の顔であった。 「な、なによあんた!」 官兵衛がぐいとルイズの腕を掴む。 「ちょ、ちょっと何するのよ!」 見ると夢の中のルイズは十六歳の彼女に戻っている。官兵衛の強引な態度にルイズは思わず声をあげる。 「何って、これから晩餐会だろう?エスコートしてやるからさっさと来い」 「な、なによその言い方。レディに対して!」 あまりの言い草にルイズは抗議した。しかしそんなルイズの態度に官兵衛は。 「ああもう、まどろっこしい!」 そういってルイズを軽々と抱き上げた。 「きゃっ!ちょ、ちょっと!」 いきなりの事にルイズは顔を赤らめた、そして。 「ルイズ。お前さんは小生のものだ。一緒に天下を取ろう」 「なっ!」 ルイズの顔から火が出そうな台詞を、官兵衛は平然と口にした。 いつになく真剣な表情の官兵衛。精悍な顔立ちが、その雰囲気をより一層際立たせる。 そんな官兵衛に、魚のように口をぱくぱくさせながらルイズは。 「い、いいいやよ……。ばっかじゃない?なんであんたなんかと」 声を震わせ、顔を俯かせながらそう呟いた。 「ルイズ」 官兵衛が今度は優しげにルイズに言う。「なによ」とルイズが顔を上げると。 息の掛かりそうな程近くに、官兵衛の顔があった。知的な瞳にルイズの表情が写る。その中のルイズの顔は―― 「やや、やだそんな……」 まるで幼子のようにしおらしい表情をしていた。そのまま官兵衛の瞳が閉じられ、顔が近づいてくる。 ルイズはハッと息をのみ、固く目を閉じた。ルイズの唇に官兵衛のそれが重なろうとした、その瞬間。 「なあぁぁぁぁぁぜじゃあああああっ!!」 「きゃあ!」 ルイズは現実にたたき起こされた。夜中にも関わらず、響き渡るみっともない叫び声に。 暗の使い魔 第十三話 『異国の男』 「よう相棒!随分と騒がしい目覚めだなっ」 壁に立てかけられたデルフリンガーが、カチャカチャと喧しく喋る。 「ハッ!ゆ、夢か……!ちくしょう刑部め!」 官兵衛は、藁のベッドから飛び起きるなり、そう呟いた。 忌々しそうに枷を振りかざしながら、官兵衛は悔しげに歯を食いしばった。 「一体全体どうしたってんだ?ニワトリだってもう少し遅起きだぜ」 「ああ、不快な夢を見た」 いつもに比べ落ち着かない様子で、官兵衛はその場に足を投げ出した。 しばしの間、沈黙していた官兵衛も、やがて落ち着くと。ゆっくり口を開いた。 「……もう大丈夫だ。気にするな」 「気にするな、じゃあないでしょうが!」 その時、ポカンと、官兵衛の頭に調度品が飛んできた。 見事にクリーンヒットしたそれがガランガランと床に転がり、官兵衛は頭を抑えた。 「毎回毎回、よくも人が気持ちよく寝ている所を起こしてくれたわね!」 見ると腰に両手を当て、ルイズが険しい形相でそこに立っていた。 ルイズ自身まだ眠いらしく、眼を時折手で擦りながらも官兵衛を睨みつける。 「いてて!何しやがる!」 ぶつけた箇所を擦りながら官兵衛が言う。それに対してルイズは。 「だって何度目かしら?こうして起こされるのは。この前は地震のオマケ付きだったわね!」 ルイズが近くにあった乗馬用の鞭を手に持った。そして官兵衛にツカツカと近づくと。 「ばかばか!ばか!」 頬を真っ赤にしながら彼を叩きだした。 「痛っ!何だ急に?」 「うるさい!いつでもどこでも!ご主人様を何だと思ってるの!」 ルイズの止まらない癇癪を身に受けながら、官兵衛はげんなりした。 起こしてしまっただけで、なぜこうも怒られにゃあならんのか。年頃の娘の扱い、というのはどうにも苦手な官兵衛だ。 まったく自分なんて久々に目覚めの悪い夢を見たというのに、この娘っ子は。 そこまで考えた時、官兵衛はピーンと閃いた。 「(ははあん。さてはこの娘っ子!)」 官兵衛は、真っ赤な顔で怒るルイズを見て何かに気がついたようだ。 「おい……」 「あによ!」 官兵衛が、嵐の如く唸るルイズの腕を、ガシッと掴む。鞭が彼の顔寸前で止まった。 そのまま壁際に押しやる官兵衛。 「はなして!はなしなさい!この大型犬!」 「もういいルイズ。安心しろ」 官兵衛が珍しく、静かな声色でルイズに語りかける。その普段ない官兵衛の様に、おもわずルイズはドキッとした。 「(な、なによコイツ……)」 先程夢で見た官兵衛の様子と、目の前の彼が不意に重なる。それを感じて、ルイズはさらに頬を赤らめた。 官兵衛は満足げに頷くと、こういった。 「見たんだろう?(怖い)夢を……」 「は、はあ!?」 ルイズは、先程自分が見た内容の夢を反芻する。 そうだ、自分は夢を見た。自分の使い魔が生意気にも私に想いを告げ、あろうことか口付けを。くくく口付けを……。 そこまで考えて、羞恥で顔が沸騰しそうになる。 「な、なによ!私がどんな夢をみようと勝手でしょう!?」 そんな様子を見て官兵衛は、ルイズが悪夢にうなされ、それを看破されて恥ずかしがっている、と踏んだ。 口調を変えず官兵衛が言う。 「小生も見たんだ、夢を……。いまだに鼓動がおさまらん(恐ろしくて)」 「はえ!?」 思わず口が開きっぱなしになるルイズ。 「(官兵衛も見ていた?同じような夢を?そそそそれに、ドキドキしている!?)」 その言葉に、甘ったるいものを感じ、脳内が麻痺する。 官兵衛の足りない言葉が誤解を生んでいるのだが、そんなことは露知らず。 「小生だってそうなる事くらいあるんだぞ?恥ずかしいが、仕方無い」 官兵衛はポリポリと頭を掻きながら、笑みを浮かべた。満更でもなさそうな表情であった。 ルイズの胸が早鐘のように鳴る。 「(ななな何ときめいてるのよ、こんな大男に!だいたいコイツは使い魔じゃない! なによ!ご主人さまの夢見てドキドキするなんて!身の程知らず!生意気!ばかうつけ!)」 心の中で、そんな言葉を繰り返しながらも、ルイズは官兵衛と目をあわせられなかった。 官兵衛が顔を覗き込んでくる。まるでこちらの感情を窺うかのように。 「ルイズ」 夢の中と同じように、官兵衛が真剣な声色で名前を呼んだ。 その言葉に俯いていた顔を上げ、彼の瞳を見やるとそこには。 「(やだ……!)」 夢の中とまるっきり同じ、幼子のようなしおらしい表情のルイズが写りこんだ。 ぎゅうっと目を瞑る。きっとこれから夢の中と同じように……。そう思うと身構えずにはいられなかった。 「(なによ、舞踏会で踊っただけじゃない。 そりゃあ私も少し、すこ~しだけ!頼もしいとか思ったり、守られて嬉しいとか思ったりしたわ! でもそれだけでこんな、ああこんな!どうしよう!こんな使い魔に!)」 ルイズは熱く熱せられた頭で、その瞬間をいまかいまかと待った。 時間にして数秒にも数分にも感じられた。長いのか短いのかわからない。 その時間が、沈黙が、何よりも心地よかった。ある一言でブチ壊されるまでは。 「漏らしてないな?」 「………………は?」 ピキーンと空気が固まる。 甘ったるかったルイズの桃色の空気が、風に吹かれてすっ飛んだ。 場違いな、肌寒い風に。 「……なんですって?」 「だから漏らしてないか聞いたんだ。怖い夢を見たんだろう?」 その言葉が耳から入り、神経に伝わり、大脳に入って情報に変換され、理解に至るのに、ルイズは果てしなく長い時間を費やした。 理解した途端、彼女の幸せな想像が、繊細なガラス細工の様な心情が、無造作に打ち砕かれたのだ。 ルイズの全身が小刻みに震えだす。 そんな様子を気にもとめず、官兵衛は続けた。 「小生もな。ガキの頃は悪夢でよく漏らしたもんだ。その度に父上に呆れられたもんだが――」 得意げに言いながら、官兵衛はルイズの震える肩をポンポンと叩いた。ルイズの拳が固く握られる。 そして官兵衛は、まずは深呼吸!気を落ち着けるのが一番だ!などとのたまいながら胸を張ったのだった。 それを聞いてか聞かずか、ルイズは深呼吸を始める。すうはあと、目を瞑り呼吸を整えた。 そして次の瞬間であった。ルイズの怒りのオーラを纏った鋼の拳が、官兵衛の鼻っ面に叩き込まれたのは。 「ぶべらっ!!」 圧倒的運動量を秘めた物体が、顔面に激突する。 情けない声とともに、官兵衛の巨体が部屋の端から端まで吹き飛んだ。 そのまま、反対の壁際に置かれた高価なアンティークの机に頭を叩きつける。 衝撃で机上に飾られた花瓶が落ちてきて、官兵衛の頭にヒットしかち割れた。 三連コンボを喰らった官兵衛は、鼻から一筋の血を垂らし、ふらつく頭を押さえながら目前を見やった。 見るとそこにいたのは、桃色の頭髪を逆立たせながら屹立する一匹のオーク鬼。 それが、手にした杖先から赤黒いオーラをたぎらせ、徐々にこちらに近づいてくる。 「……ゲホッ!ちょ、ちょっと、待て、お前さん。」 そのあまりの圧力に咳き込みながら、官兵衛は口を開いた。 近づいたルイズがこちらを見下ろす。 「ねえ?デカ犬?」 「デ、刑事?」 官兵衛は、花瓶から降りかかった水を払うように首を振る。視界が良好になり彼女の表情が窺える。 その顔は無表情だったが、目は伝説のオロチのように血走り、爛々と輝いていた。マグマのような怒りをたたえて。 「な、なんでそんなに怒るんだ?一応、いちおう、小生は心配して――」 「黙れい」 ルイズが低い声色でうなる。 「今度と言う今度は許さないわ。ご主人さまを前にして、始祖ブリミルをも恐れぬ不敬の数々……」 ルイズが杖を掲げる。 その先端に光が収束していく。 その失敗爆発の前兆に顔を照らされ、ルイズは言い放った。 「死をもって償うがいいわ……!」 杖が振り下ろされた。 目前に集中するエネルギーを感じながら、官兵衛は思った。また眠れない日々がやってきた、と。 そんな頃、トリステイン城下町の一角に聳え立つ、チェルノボーグの監獄内。 その人物は静かに、鉄格子入りの窓から覗く双月を眺めていた。 「全く、とんだ災難だったよ」 土くれのフーケは杖を取り上げられ、ここチェルノボーグの狭い独房内に身柄を拘束されていた。 逃亡の際、天海からつけられた傷は、水のメイジの手によって綺麗に元通りになっている。 しかし傷はなくなったが、フーケはあの長髪の男を未だ苦々しく思っていた。 自分が杖を持たない人間に遅れを取った事、容易く裏切られ捕まってしまった事。 彼女のプライドを傷つけるには十分であった。 だがそれに加えて、自分を捕まえたあの黒田官兵衛という男。 「大したもんじゃないの!あいつらは!」 彼女は、彼らには素直に賞賛の意を示していた。 あの時彼らが破壊の杖に細工をしていなかったら。あそこに駆けつけていなかったら。 自分はあの天海に始末されていただろう。 結果として捕まってしまったが、自分の命を救ってくれた彼らには感謝していた。 「クロダカンベエ……。妙な名前だけど中々面白い奴だったね」 フーケは独房の天井を見上げながら、向かいの独房の男に向かってそんな話をしていた。 「そうかい……」 男は少し考える素振りを見せた後、静かにそう呟いた。歳若い男の声だった。 「と、こんな所かね。私を捕まえた連中の話は」 「おお、ありがとうよ。」 語り終えたフーケに静かに礼を述べる男。そしてしばらくの後に、そっと呟いた。 「こっちに来てる奴が、俺以外にもいやがるとはな」 男の言葉にフーケは首を傾げた。フーケが思わず聞き返す。 「……?どういうことだい」 「いいや、こっちの話だ」 フーケは男の答えに興味を惹かれた。「へぇ」と短く呟きながら、彼女は男に言った。 「じゃあさ、あんたのことを教えておくれよ」 「何?」 今度は男が怪訝な様子でフーケに聞き返す。フーケは構わずに続けた。 「いいだろう?私はあんたの聞きたいことを話したんだ。あんたも色々と教えてくれても罰は当たらないんじゃない?」 「そりゃそうか?まあいいぜ、ここで会ったのも何かの縁だしな」 男の答えに表情を明るくしながら、フーケは鉄格子越しに身を乗り出した。と、その時であった。 「待ちな。だれか来る」 男が低い声でフーケを制した。聞けば、拍車の音の混じった足音が、コツコツと階段を下りてくるのが聞こえた。 看守ではない。看守であれば足音に拍車の音が混じろう筈はなかった。 「気いつけな」 「ああ」 男の言葉にフーケが身構える。すると、鉄格子の向こうに白い仮面をつけたマントの男が姿を現した。 マントの影から長い杖が覗いている。どうやらメイジであるらしかった。 「おや!こんな夜更けにお客さんなんて珍しいわね」 フーケはおどけた調子で目の前の男に言う。仮面の男は答えず、さっと杖を引き抜いた。フーケは思わず後ずさる。 しかし、仮面の男はくるりと反対側の独房に杖を向けると、杖を中の男に向けた。そして短く呪文を呟き杖を振るった、瞬間。 ばちんと周囲の空気が弾けて、仮面の周囲から、電流が牢の男に一直線に伸びた。 「ぐあっ!」 電流が胴体に命中し、男は力なく床に崩れ落ちる。バチバチと男の体中を強力な電気がほとばしった。 「野郎ッ……!」 男は力を振り絞り立ち上がろうとしたが、ガクリと倒れ伏す。 ぴくりとも動かなくなる男を、フーケは青ざめた顔でじっと見ていた。 牢の男を邪魔そうに見やった仮面の男は、くるりとフーケに向き直り、口を開いた。 「そう怯えるな土くれ。話をしに来ただけだ」 「話?」 牢の奥でフーケは油断無く身構えながら、仮面を睨みつけた。 「随分と物騒な挨拶だけど、私にどんな話があるっていうんだい?」 「まあ聞け土くれ。それともこちらで呼んだほうがいいか?マチルダ・オブ・サウスゴータ」 フーケの顔が強張る。それは自分が捨てる事を強いられた過去の名前だった。なぜそれをこの男は知っているのか。 ますます警戒を強めるフーケ。 「あんた、一体何者?」 震える声を隠す事もできずに、フーケは男に問うた。しかしそれに答える素振りも見せず、男は笑いながら言う。 「単刀直入に言おう。我々と一緒に来い。マチルダ」 「何だって?」 「我々は一人でも優秀なメイジが必要だ。聖地奪還の為にな。」 男の言葉にフーケは、フンと鼻を鳴らした。男は静かな口調で続ける。 「まずはアルビオンだ。アルビオンの王朝は近いうちに倒れる。我々貴族派の手によってな。 そして無能な王族に代わり我々が政を行った暁には、ハルケギニア全土を統一する。 我らの手で聖地を奪還するのだ。」 「ちょっと待ちな、聖地を取り戻すだって?あの屈強なエルフ共から?夢幻もいいところだよ」 フーケが呆れたように男の言葉を遮った。かつてハルケギニア中の王達が幾度と無く兵を送り、失敗してきた聖地奪還。 強力な先住魔法を扱うエルフの恐ろしさは彼らも良く知っているはずだ。それをあろう事か目的の一つとして掲げているのだ。 馬鹿馬鹿しい。フーケは心底そう思った。 「生憎だけど、そんな絵空事に付き合うつもりはさらさら無いね。」 「ほう、たとえ死んでもか?」 杖の切っ先が静かに、しかし無駄の無い動きでフーケを捉える。 それを見て、フーケは観念したかのように構えていた腕を下ろした。仮面の男が続ける。 「お前は選択する事が出来る。我々『レコン・キスタ』の同志となるか、或いは――」 「ここで死ぬか。でしょ?」 「そういう事だ。先程の男のようになりたくなければな」 男は満足げに頷いた。と、その時であった。仮面の男のマントが突如としてごう!と燃え上がった。 「何!?」 フーケも仮面も目を疑った。見ると仮面の足元に、赤々と燃え盛る一本のナイフが突き立てられているではないか。 咄嗟にマントを脱ぎさる仮面の男。そして目を向けた先には。 「あ、あんた!」 フーケは向かいの独房をみて叫んだ。 「やってくれるじゃねぇか」 燃え盛る炎に照らされ、その男は何事も無かったかのようにそこに佇んでいた。 男の鍛え上げられた上半身が、赤々と輝く。仮面の男が短く舌打ちし、再び杖を構えた。 「仕損じたか」 再び呪文を唱えようとする仮面。しかしその詠唱は、檻の中から投下された一本のナイフで遮られた。 まるで矢のような速度で迫る飛来物を、サーベルのような杖で叩き落す仮面。 しかしどこに仕込んでいたのか、無数のナイフが檻の中から次々と飛んでくる。 そして次の瞬間、何とそれら全ての物が赤熱し炎を発したではないか。 「ぐおおっ!」 その内の一本を捌ききれずに、再び仮面の衣服に火が燃え移った。 狭い通路内で逃げ場も無く、仮面の男は炎に包まれる。そして次の瞬間、男は燃え盛るマントを残して霞のように姿を消した。 チャリンと、金属音が廊下に響き渡る。みるとそれは独房の鍵の束であった。 仮面が消え去るのを見ると、独房の男はフゥと息を吐いた。 そして向かいの独房で唖然と一部始終を見ていたフーケを見ると。 「大丈夫かよ?」 そういって歯を覗かせ笑った。フーケがハッと我に帰り、手を伸ばし鍵を拾う。 そしてガチャリと独房の扉を開け外にでると、鉄格子越しに男に近寄った。 「あんた、なんで生きてるんだい?」 「あぁ?随分じゃあねぇか」 男が眉をひそめながら言う。 「さっき喰らったやつならよ、この通りだ」 男が自分の胸を指差す。そこには先程の電撃で出来たであろう火傷の跡が出来ていた。しかし程度は見た目程に酷くはない。 あれほどの魔法を受けておいて、軽い火傷で済むとはどんな身体だろう。フーケは呆れてため息をついた。 「全く、でもありがとう。助かったよ」 フーケは廊下に残されたマントの燃えカスを見ながら、男に言った。 「いいってことよ。俺もいきなり訳分からんもん喰らって、頭にきた所だしよ。それよりも――」 「ああ」 フーケは男の独房に鍵を差し込んだ。ガチャリと鍵が開き、重い音と共に鍵が開かれる。 中から長身の男が、背負った上着をたなびかせながら悠々と歩き出てきた。 「いいのかい?そんな簡単に逃がしちまって。俺が極悪人だったらどうするつもりだい」 「極悪人は見ず知らずの私を助けたりしないだろう?それに――」 フーケはニヤリと笑い、男の目を見据えた。 「目を見ればあんたがどんな人間かわかるよ。長年盗賊やってないからね」 フーケの言葉に一瞬戸惑いの表情を見せた男だったが、すぐに口を空けると。 「ハハッ!アンタおもしれえな!気に入ったぜ」 そういって、声をあげて笑い出した。 トリスタニアで最も堅牢な筈のチェルノボーグの最下層に、豪快な笑い声が響き渡る。 そして、騒がしく牢獄を駆け抜けるのは二人の賊。 一人は、貴族の金銀財宝を根こそぎ奪い、トリステイン中を掻き乱した世紀の大盗賊、土くれのフーケ。 そしてもう一人―― 「あったぜ!やっぱりこいつがなきゃあ締まらねえ!」 囚人の持ち物を保管する倉庫から出てきた男は、手にした得物を得意げに振り回した。 風を払い、地面に突き立て、鋼の音を響かせる。その豪快な様におお、とフーケは感嘆の声を漏らす。 それは長さ三メイル以上はあろう豪槍。荒々しく鎖が巻かれたそれの穂先には、さらに巨大な白銀の碇。 それを男は、軽々と片手で取り回して見せた。 「いくぜぇ!こんなしみったれた場所からはおさらばだぜ!ハッハ!」 瞬間、男の手にした豪槍が赤熱して炎を吹き出した。 炎の槍が、男の頭上で旋回する。 振りかぶられた槍が男の手を離れ、吸い込まれるように塀に激突した。 どおん!と地響きが鳴り響く。 その瞬間、生じたのは閃光と爆音。 厚さ数メイルにも及ぶ石壁が弾け飛び、さらに業火に焼き尽くされて消滅した。 それを見て、彼女は声ひとつ出なかった。あらゆる砲撃もかなわぬ堅牢の防壁を、いとも容易く砕いた目の前の男に。 フーケは目を見張って、男を見つめた。 そこに立つのは異国の男。 逆立つ銀髪、紫色《しいろ》の眼帯。 同じ紫色の衣を纏い、大海制すは七の海。 男がいた乱世では、彼を指してこう呼ぶ。 四国の主。 海賊の長。 西海の鬼神。その名は―― 天衣無縫 長曾我部元親 進撃 暗の使い魔 第二章 『繚乱!乱世より吹き荒れる風』 前ページ次ページ暗の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2369.html
「サイト! 助けて!」 ルイズは絶叫した。 呪文が完成し、ワルドがルイズに向かって杖を振り下ろそうとした瞬間……。 礼拝堂の壁が轟音と共に崩れ、外から烈風が飛び込んできた。 「貴様……」 ワルドが呟く。 壁をぶち破り、間一髪飛び込んできた才人らしき人物が、ワルドの杖をはっしとデルフリンガーでうけとめていた。 そしてルイズを横抱きに抱えて、ワルドから距離をとる。 なぜ「らしき人物」かというと、飛び込んできた人物は覆面のようなもので顔の下半分を覆っていたからだ。 「大丈夫かっ!?」 「サ……サイト……助けに来てくれたんだ……」 「ルイズの使い魔め! 邪魔だてするか! この変態めが!」 ワルドは絶叫する。 まあ、無理もあるまい。 そのサイトらしき人物は上半身はランニングシャツ、下半身はトランクス一丁という、有り体に言って下着姿だったのだから。 「ちっ…違う! そ、それがしは才人でも才人に憑いている物でもないっ!! 全くの別人だッ!!」 「どっから見てもサイトそのものじゃないのよっ!!」 「いやっ違うっ!! とてもよく似ているが違うのだあっ!!」 才人(仮)は冷や汗を流しながら叫ぶ。 「それがしは……それがしは……ルイズの使い魔そっくりの人間が大勢住むツカイマ星からやってきた宇宙人、 ツカイマンだああっ!!」 無論神族の一員である韋駄天ツカイマンにワルドごときが敵う筈もなく、ワルドは捕らえられた。 クロムウェルもシェフィールドもフーケも捕まった。 彼らの証言でガリアの「無能王」ジョゼフが裏で糸を引いていることがわかり、アルビオン王党派・トリスティン・ゲルマニアの連合軍がガリアに攻め入り、ジョゼフを討とうとしたが、ジョゼフは「逃げるんだよォォォォォォ!」と叫びつつ走り去っていった。 そしてジョゼフの行方は杳としてわからないという。 いろいろあったけど、ハルケギニアはおおむね平和だった。 完。 -「GS美神極楽大作戦!」から韋駄天八兵衛を召喚
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8102.html
「何…コレ…?」 その日、トリステイン魔法学院において進級を賭けた使い魔召喚の儀式において少女… ルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエールは幾度かの失敗の後、ついに初成功ともいえる魔法で使い魔を召喚するに至った。 その際に彼女はこう求めた。 --この宇宙のどこかにいる神聖で強力な使い魔よ-- と… しかしどうだ…目の前にいるのは幻獣とも人とも言い難い形状。 いや、そもそも生物であるかどうかすらも怪しい物体であった。 大きさはおよそ4メイルほど…目や口、鼻や耳どころか手足すらないただの巨大な白い球体がそこに鎮座していたのである。 「おい、ゼロのルイズがワケのわからないもんを召喚したぞ!」 「本当だ!なんだよあれ、流石ゼロのルイズだな!」 「……ッ!!」 こんなはずではなかった…。 本当なら赤髪の同級生が呼び出した火蜥蜴よりも、青髪の同級生が呼び出した風流よりも強力な使い魔を召還し、周りを見返す筈だったのに…! 遠くから聞こえてくる野次を背に受けながらルイズは屈辱にぎりりと血が滲みそうになるほどの力で己の杖を握りしめた。 「ミ…ミス・ヴァリエール、早くコントラクト・サーヴァントを…。」 頭の薄い教師・コルベールがルイズに促すが、正直口も何もあったもんではないこの物体にどうやって契約させるべきかコルベール本人もわからずにいた。 …しかし次の瞬間、轟音が周囲を包み込む。 その轟音を放ったのはつい今使い魔(?)を召喚してみせたルイズ本人であった。 あろうことかルイズは召喚した物体に向けて何度も爆発を起こすしかない魔力を込めた杖を振り下ろしていたのである。 「ミス・ヴァリエール!一体何を!?」 「止めないでくださいミスタ・コルベール! これは何かの間違いなんです! 私ならもっと美しく強力な使い魔を呼び出せます!だから、だからこんなものは間違いなんです!!」 半ば錯乱したルイズは静止するコルベールの声など気にするでもなくソレに向かい爆発の失敗魔法をぶつけてゆく。 ……それが後に恐ろしい事態を引き起こすとも知らずに。 「はぁ…はぁ…」 ひととおりの精神力を使い尽くし、肩で息をするルイズ。 眼前の物体は爆発による粉塵に包まれ今や見る影もない。 いや、ゼロの名を持つこの少女は系統魔法に関する成功率は皆無にしても、失敗魔法における破壊力だけは軽く教室ひとつを吹き飛ばすほどのものである。 そんなものを連続で受けたのだ。 誰もが召喚されたばかりのソレは跡形もなく消し飛んでいると感じた。 ……しかし! --ドクン… もうもうと立ち上る砂塵の中、粉々に砕け散った筈のソレはついに恐るべき脈動を始めたのである。 それに最初に気付いたのはつい先程同じく使い魔召喚の儀式で風竜を呼び出した青髪の少女であった。 彼女の名はタバサ。本名シャルロット・エレーヌ・オルレアン。 大国ガリアの王族にして国の危険な汚れ仕事を請け負う北花壇騎士7号。 これまで彼女は幾度となく命懸けの危険な任務をこなし、その小さな体に百戦錬磨ともいえる危機管理能力を宿していた。 その彼女の第六感が今まさにこの場における危険性を電流の如く伝え、全身を駆け回っていた。 『アレは危険だ…! オーク鬼やエルフなんて生易しいもんじゃない!! 危険……キケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケン!!!!!!』 タバサは生まれて初めて経験するともいえるその圧倒的な気配に蛇に睨まれた蛙のように立ち尽くすしかなった。 「どうしたの、タバサ?」 突然かけられた声にタバサは、はっと我を取り戻し声のした方向を見る。 するとそこには頭ひとつ分は身長の高い赤髪の親友キュルケが心配そうに自分を見下ろしていた。 「…………逃げて。」 キュルケの瞳をまっすぐ見つめながら、蚊の泣くような声でタバサが言葉を紡ぐ。 「…え?」 何のことだ?とキュルケが訪ねようとしたその瞬間、普段寡黙なはずのタバサが喉も裂けんばかりの声を張り上げた。 「早く逃げて!!みんな、みんな死んでしまうッッ!!」 その言葉に周囲にいた誰もが『何を馬鹿なことを』という表情を浮かべる。 だがその僅か数分後、彼らは彼女の言葉の意味をその身を持って思い知らされることとなる…。 そして“滅び”が幕を開けた。 --グルルル… どこからか聴こえてきた不気味な音。 いや、音ではなくそれは声…。それも高位の獣が有する獰猛な唸り声であった。 獣であれば周りにはつい今しがた召喚されたばかりの使い魔たちがいる。 しかし今聴こえてきた声の質はまるで地獄の底から響くかのような音量と威圧感を孕んでいた。 「な…なんだ今の…?」 「さ、さぁ。でも確か音がした方って……」 生徒のひとりがゆっくりと指をさす。 そこは未だ砂塵が巻き上がるルイズが作った爆心地。 まさかそんな場所に大きな獣などいるわけがない。いるわけがないのだが…。 --ルル…グルルルルル… 「!?」 聴こえた、今度こそ確かに聴こえた。 誰も目配せをし、一斉に煙の向こうにいるであろう何かに目を凝らす。 彼らはタバサの必死の警告などすっかり忘れていた。 …それがいかに愚かなことであったかも知らずに。 その時、一陣の風がふわりと砂煙を吹いた。 それを合図にしたかのように徐々に濃さを失ってゆく砂塵。 その向こうでうっすらと視界に飛び込んできたものを見た誰もが、驚愕に目を見開いた。 「な…何なの…あれ…」 その中でも一番驚いていたのは他の誰でもないルイズだ。 そこにあったのは先程の白い球体などではなく長い棘を無数に生やし、5倍近くの大きさに成長した黒く巨大な物体であった。 もしかしてさっきのものは幻獣の卵か何かだったのだろうか? そんなことを思いながらルイズがそれに近付こうとした瞬間、突如として轟音とともに中庭の一角が吹き飛んだ。 「…え?」 ルイズにはそれが何であったかがすぐに理解できた。 それもそうだ、何もない空間を爆発できるのはゼロと蔑まれてきた自分の特技ともいえる失敗魔法だけなのだから。 「ルイズ!何すんだよ、危ないじゃないか!!」 「そうだ!もうちょっとで大怪我するとこだったんだぞ!」 周辺にいた生徒たちから罵声が飛ぶ。 「違うわよ!今のは私じゃない!私じゃないの!!」 「じゃあお前以外に誰があんな爆発起こせるっていうんだよ!?」 「そ…それは……でも、本当に違うんだってば!!」 ルイズが身の潔白を晴らそうと大声を張り上げたそのとき、再び巨大な爆発が発生した。 それも一発や二発ではない。 打ち上げ花火の如く巻き起こる無数の爆発は地面を、木々を、 更には厳重に固定化の魔法がかけられたはずの学院の外壁や校舎すら破壊し始めたのである。 突然の出来事に一瞬にして魔法学院は蜂の巣をつつくどころではない大騒ぎとなり、崩壊してゆく教室から逃げようと無数の学生たちが我先にと外へと駆け出してきた。 「くそっ、一体何が起きてるというのだ!!」 魔法で防御壁を作り、生徒たちを守りながらコルベールは呟く。 この学院の防護壁はスクウェアクラスのメイジでさえ破壊するのは難しいというのに目の前ではそれがいとも簡単に砕け散ってゆく。 だがコルベールは脳内で瞬時に状況を整理し、そしてあることに気付く。 (あの物体の周囲には爆発が起きていない!…つまり!!) 「みんな!伏せなさい!!」 防御を解除したコルベールは皆にそう指示し、詠唱を始める。 (出来ることなら、もうこの力を破壊に使いたくなかったが…やむを得ん!!) そして魔力を極限にまで高めたコルベールは、杖から高温を示す青色をした灼熱の炎を走らせた。 炎は大蛇のように黒い物体に絡みつくと、一瞬にしてそれを業火で覆い尽くす。 すると、あれほど激しかった爆発がぴたりと止んだではないか。 「…やったか。」 その様子にコルベールはふぅと息を吐く。 「おぉ!ミスタ・コルベールがなんとかしてくれたようだぞ!!」 「すごい。見直しましたよコルベール先生!!」 学院の危機を収拾してみせたコルベールに生徒や他の教師たちが歓声を上げながら続々と集まってくる。 「はは、なんとか上手くいったようですな。 しかしミス・ヴァリエール、申し訳ありません。せっかく召喚した貴女の使い魔を殺してしまいました。」 「い…いいんです!元はといえば召還した私が悪いんですからどうか頭をお上げになってください。」 自分の召喚した使い魔が引き起こした事態にも関わらず それを鎮めてくれた恩人にすまないと頭を下げられ、ルイズは慌ててフォローを入れる。 「でも、あれは一体何だったんでしょうか?いえ、もう終わったことですが…。」 何とか話題を逸らすためそう口にしたルイズ。 しかしそのすぐ近く、青い髪の少女だけが髪と同じように顔色を真っ青にしながらぽつりと呟いた。 「………まだ。」 「…え?タバサ。何か言っ……」 ルイズがそう聞いた瞬間-- 『グルル……ギィイイィィイィジャァアアァアアァアアアアアアァアァアッッッッ!!!!』 燃え盛る火炎を払いのけた悪魔が天を揺るがすばかりの雄叫びを上げながら姿を現した。 その姿は先程と違い、鋭い3本の爪を生やした2つの腕を持ち 血のように真っ赤な双眼を爛々と光らせ、無数の牙の覗く口からは粘液の糸を引かせている。 一見すると蜘蛛のようにも見えるが、その姿は蜘蛛と呼ぶにはあまりに禍々しく、邪悪であった。 「うわぁあああああっ!!」 突然現れた怪物に各所から一斉に悲鳴が上がる。 真っ先に逃げ出す者が多数であったが、中には少数だが震える手で杖を向ける者もあった。 そして怪物に向かい攻撃呪文の詠唱に入ったそのとき、怪物は2本の腕で地を這いながら凄まじい勢いで前進を始めたのだ。 なんという醜悪さ。 なんという威圧感。 そのあまりにもおぞましい光景に大半の温室育ちの貴族たちはひっとスペルを紡ぐことを止めてしまう。 そこへ向かい怪物はひと鳴きすると全身の無数の棘から一斉に青い灼熱の火炎を迸らせた。 あまりにも一瞬の出来事に、最前列にいた貴族たちは悲鳴を上げる間もなくその業火に焼かれ崩れ落ちてゆく。 「ば、馬鹿な…!あの炎は…私の…」 それを見ていたコルベールは驚愕した。 それもそうだ、その炎は今しがた自分が目の前の怪物に向けて放った炎と同様のものだったのだから。 「うぉおおおおおおおおお!!」 刹那、炎を放ち続ける怪物に向かい四方から暴風、雷、氷の槍、火球に濁流、大地の礫が放たれた。 それを皮切りにして更に他の生徒や教師たちも、ありとあらゆる属性の攻撃魔法を放ち始める。 この魔法学院にいる数百にも及ぶメイジたちからの一斉攻撃。 これならばいかに強力な幻獣といえど塵ひとつ残さず消滅できるであろう。 誰もがそう思った。 …そう思っていた。 「はぁ、はぁ…どうだ化け物め。」 肩で息をしながら呟いたのは学院屈指の風の使い手、疾風のギトー。 その高慢な態度から生徒たちからの人気は皆無に等しいが、実力は学院でも数少ないスクウェアクラスの教師である。 彼は風の上級魔法『偏在』で分身を作り出し、その全員でもってドラゴンすら一撃で落とすといわれる強力な攻撃魔法、『ライトニング・クラウド』を怪物の頭上から無数に放っていた。 普通ならばそれだけでどんな相手でも即死は免れないはずである。 それに加えてあれだけの量の魔法を叩きこまれたのだ。まず生存は有り得ないであろう。 ギトーは偏在を解除し、あの怪物の死を確認するべく巻き上がる砂塵を風魔法で吹き飛ばそうとした。 だがそのとき、砂塵の向こうから一条の閃光が走る。 それがギトーがこの世で見た最後の光景であった。 「……え?」 多くの者が目の前の光景に間抜けな言葉を漏らす。 それもそうだ。 何故、何も残っているはずのない場所から 閃光が走る? 何故、一瞬でギトーが黒こげになっている? そしてその疑問は最悪の形で彼らに答えを示した…。 『ジィィィィイイイイャァアアアアアアアアアアッッッ!!!!!』 巻き上がる煙を払いのけた怪物が悪魔の叫びを上げながら再びその姿を現したのである。 なんとその姿は以前より更には多くの棘を全身に生やし、体格はこれまでの倍近くにまで成長しているではないか。 その姿に誰もが悲鳴を上げ、杖すら放り出して逃げ始める。 腰が抜けて無様に這い蹲る者・恐怖の余り失禁する者・全てを諦め呆然と座り込む者。 そこにはもう貴族の誇りなどというものは存在していなかった。 それでも悪魔は容赦なく逃げ惑うアリ達に向け、全身の棘から破壊と絶望を振り撒き始めたのである。 「嘘…だろ…」 生徒のひとりは眼前に広がる惨劇を目にした直後、飛んできた巨大な岩石の槍に体を貫かれた。 ほんの刹那…残った意識の中で彼はこう思いながら息絶えた。 (……何であいつは僕たちの魔法を使えるんだよ?) そう、今怪物が放っているもの…それは先程自らが受けたはずの4系統からなる様々な攻撃魔法なのである。 それも、杖も詠唱もなく…全身から同時に火炎・突風・濁流・岩石・雷に氷の槍まで放っている。 おまけにその威力は一発一発がスクゥエアのそれを遥かに上回ると言ってよいほどの破壊力があり もう誰にもこの怪物を止めることなどできなかった…。 そして召喚から僅か30分弱。 阿鼻叫喚の地獄絵図とともに、かつてトリステイン魔法学院があった場所はたった一匹の怪物により数百の死者を出しながら瓦礫の山と化した。 怪物は破壊の限りを尽くした後、その歩みを首都であるトリスタニアに向け前進を開始。 後に大陸全土を震撼させることとなる。 ………… …… … 遥か遠い世界、ハルケギニアとは別の宇宙に存在する青い惑星ではこのような記録がある。 --決してその者に触れてはならない。 さすれば世界は滅びへと向かうであろう。 その者を目覚めさせてはならない。 それは開けてはならないパンドラの箱なのだから。 力を以てその者を倒すことは不可能。 力は同じく力によって滅ぼされるであろう。 その者、完全にして究極の生命。 その者、破壊の化身にして他者の愚かさを映す鏡。 その者の名は、『完全生命体 イフ』--
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6734.html
前ページ次ページ滅殺の使い魔 ――森の一角。 「ティファ、薪割りが終わったが」 金髪の壮齢の男が少女に話しかける。 赤いタキシードを着こなす所にダンディズムが感じられる。 「あ、ありがとうルガールさん。 もういいですよ、休んでいて下さい」 ティファと呼ばれた少女は、料理をしながらルガールに言う。 「そういうわけにもいかんだろう、君のような少女が一人で働いていると言うのに」 ルガールは困り顔で肩を竦める。 そんなルガールに、ティファはクスッと笑うと、遊んでいる子供達を見る。 「なら、子供達の相手をしていて下さい」 「ふむ、わかったよ」 ルガールはそう言うと、子供達の中へ向かった。 「あー! ルガールおじちゃん!」 「ああ、何をしているのかな? 私も混ぜてもらいたいんだが」 そういって子供達に混ざっていく。 ルガールは考える。 何故、自分はこんなにも穏やかに日々を送っている? いや、それ以前に、何故自分は生きているのか? あの時、自分は死んだ……、いや『オロチの力』に体を乗っ取られた筈だ。 豪鬼との死闘の末、その殺意の波動を奪い、しかし、その力を使いこなせずに……。 その他にも疑問はあった。 果たして自分は、こんなにも穏やかな性格だっただろうか? 否。 断じて否だ。 『悪』こそが自分の全てだ。 では、なんの影響だ? オロチ? 否。 殺意の波動? これも違うだろう。 二つの力の反応? 否定は出来ないが、可能性は薄い。 ではやはり……。 このルーンの仕業か。 朝―― 朝早くに豪鬼は目覚める。 ルイズを起こす為では無い。 修行の為だ。 まだ日は昇りきっては居ない。 修行しよう、と考えた後に豪鬼は気付いた。 道知らねぇ。 つまり、洗濯にはかなりの時間がかかる。 道に迷うことも視野に入れなければならないのではないか。 結局、豪鬼は今日のところは何もしないことにした。 と、言うわけで、もう少しボーッとしていた訳だが。 しばらくして、日がかなり昇ってきたので、豪鬼はルイズを起こすことにした。 「ルイズ、朝だ」 ……反応を示さない。 「ルイズ、朝だぞ」 ……反応を示さない。 ルイズがあまりに起きないので、豪鬼は毛布を引っぺがした。 「な、何!? 何事!?」 「朝だ、ルイズ」 「はえ? そ、そう……。 って、誰よあんた!」 「豪鬼」 「あ、そうだ、昨日召喚したんだ」 ルイズは起き上がり、部屋を見渡す。 豪鬼は何も用意していないようだ。 そして豪鬼に命じた。 「服」 そう言うと、いつの間にか椅子にかかっていた服が豪鬼の手に握られていた。 「ま、魔法!?」 「いや、普通に取ってきただけだ」 いつもならかなり気にするところだが、そこは寝起きの頭である。 「下着」 「どこだ」 「そこのクローゼットの一番下」 場所を言うと、またいつの間にか豪鬼の手に 下着が握られていた。 豪鬼には基本恥じらいなど無い。 「服」 「渡したぞ」 「着せて」 豪鬼は、なるべく力加減を覚えるように着せた。 問題は無かった。 ルイズとともに部屋を出る。 すると、すでに一人の女子生徒が廊下に出ていた。 豊満な胸に、それを強調するような服の着方をしている。 普通の男であれば、否応無しに胸に目が行く所だが、そこは豪鬼である。 巨乳の女は他に見たこともあるし、全員鍛えぬいた体をしていた。 そんな訳で、豪鬼には目の前の少女の胸はただ肥え太った不摂生の賜物にしか見えなかった 彼女はルイズににやりと笑いかける。 「おはよう、ルイズ」 それに対して、ルイズはあからさまに嫌そうな表情になった。 「おはよう、キュルケ」 「あなたの使い魔って、それ?」 「そうよ」 「あっはっは! ほんとに人間なのね! すごいじゃない!」 豪鬼は密かに、それには感謝している、と心の中で呟いた。 「『サモン・サーヴァント』で、平民を呼んじゃうなんて、さすがはゼロのルイズね」 ルイズは頬を染めながら、キュルケを睨む。 「五月蝿いわね」 「あたしも昨日、使い魔を召喚したのよ。 勿論、一発で成功したわ」 「知ってるわよ」 「どうせ使い魔にするなら、こういうのが良いわよね~。 フレイムー」 キュルケが勝ち誇ったような声で使い魔の名前を呼ぶ。 すると、キュルケの部屋から虎ほどの大きさの赤いトカゲが現れた。 辺りを熱気が包み込む。 ルイズは息苦しそうな表情になる。 豪鬼は動じない。 「あら? 怖がらないの? 度胸あるのね」 豪鬼がそのトカゲを見る。 よく見ると、その尻尾には炎がついているではないか。 豪鬼は少し驚き、兄の弟子の金髪を思い出した。 更に、学生服の男も思い出した。 インド人も思い出した。 「これってサラマンダー?」 ルイズはかなり悔しそうだ。 「そうよー。 火トカゲよー。 見て? この尻尾。 ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ? ブランド物よー。 好事家に見せたら値段なんてつかないわよ? あたしの二つ名は『微熱』。 相応しいと思わない?」 未だに二人は何やら競っているが、それを尻目に豪鬼はフレイムを見つめていた。 こいつと死合いたい。 かなり好奇心が刺激されていた。 そうして豪鬼が必死で自分と死合っていると、キュルケが豪鬼に話しかけてきた。 「あなた、お名前は?」 「……豪鬼」 「ゴウキ? 変な名前」 「……ふん」 すると、キュルケは豪鬼の体をまじまじと見つめながら言った。 「うーん、でも、かなりいい体してるじゃない。 逞しい殿方は好きよ?」 キュルケは豪鬼を誘惑した。 豪鬼はそれでも揺るがなかった。 「それじゃあ、お先に失礼」 キュルケは、フレイムと共に去っていった。 キュルケが居なくなると、ルイズは悔しそうに拳を握り締め、呟いた。 「くやしー! 何であんなのがサラマンダーを召喚できて、わたしはこんななのよ! メイジの実力をはかるには使い魔を見ろって言われてるぐらいなのに~!」 そう言いながら拳を豪鬼に向かって振った。 勿論そんなものが豪鬼に当たるはずも無く。 「かわすな!」 「当てて見せい」 そんなやり取りをしながら、豪鬼はふと思った。 そういえば、まだルイズの魔法を見たことが無い。 あの火トカゲと『微熱』という二つ名を見る限り、あのキュルケとか言う女は火を使うのだろう。 モグラを召喚している小僧も居たが、あれは土か? では、ルイズは? まさか『殺意』などと言う属性は無いだろうが、では何だ? 自分が使う属性に似たものは……。 『灼熱波動拳』しかない。 とすると『火』か? では『ゼロ』とはなんだ? まさか、あの光の剣を使う者という意味ではあるまい。 少し気になるが、まあ良い。 力を振りかざすのは弱者のみ。 あのキュルケとか言うのは弱者だろう。 「ほら、わたし達も行くわよ」 落ち着いたらしいルイズは、すでに前方を歩いていた。 「うむ」 豪鬼達が食堂に着くと、既に多くの生徒達が集まっていた。 ルイズによると、朝昼晩全てここで食事を取るらしい。 全てのテーブルには、豪華な飾りつけがなされていた。 「愚かな……」 無駄に権力を振りかざしているのがありありと分かり、豪鬼は少し失望していた。 これが人の上に立つ者として正しいとでも言うつもりか。 見たところ、相応しそうな人物など数人ではないか。 そんな豪鬼の態度を見て、ルイズは何を勘違いしたのか、得意げに豪鬼に説明した。 「トリステイン魔法学院で教えるのは、魔法だけではないのよ」 「……ほう」 「メイジはほぼ全員がメイジなの。 『貴族は魔法をもってしてその精神となす』のモットーのもと、貴族足るべき教育を、存分に受けるのよ。 だから食堂も、貴族の食卓に相応しいものでなければならないのよ」 豪鬼は、心の中で舌打ちをした。 貴族足るべき教育? これがか? これでは傲慢な人間が増え、格差が広まる一方ではないか。 相応しい食卓? 下らん。 何故こんな贅沢の限りを尽くすものなのだ? 貴様はこの食事に相応しい人間か? 否、断じて否。 色々と腹は立ったものの、腐った人間などそれこそはいて捨てる程見てきた(強者ではあったが)ため、それくらいで済んだ。 「わかった? ほんとならあんたみたいな平民は『アルヴィーズの食堂』には一生は入れないのよ。 感謝してよね」 「……ふん」 「もっと感謝しなさいよ! ……まあいいわ、いいから椅子をひいてちょうだい。 気が利かないわね」 「ああ」 虫唾が走る思いで椅子を引く。 「じゃあ、あんたはそれね」 ルイズが床を指差す。 「特別に、ここで食べさせてあげる。 床だけどね」 皿を見てみる。パンが二切れ、肉が申し訳程度に浮かんだスープが一皿。 格闘家は体が資本である。 故に豪鬼は、断食したことなど無いし、一日として食事を抜いたことは無い。 瞑想や修行で知らないうちに食事を忘れていたことならあるが。 朝はこの程度で十分だろう。 そうおもった豪鬼は、少々野菜が少ないことを不服に思いながら平らげる。 パンを食べ終え、スープに手を付けようとした時、ルイズが鳥の皮を入れてきた。 「ほら、肉は癖になるからだめよ」 「要らん」 豪鬼の言葉を無視し、ルイズは自分の食事に戻った。 鳥皮などという油の固まりは、豪鬼にとって毒でしかない。 入れられてしまったものは仕方が無いと、豪鬼はスープを丸々残した。 豪鬼とルイズは教室の掃除をしていた。 ルイズが魔法を失敗し、教室を滅茶苦茶にしたからである。 事の成り行きはこうだ。 豪鬼とルイズが教室に入ると、一斉に生徒達が二人の方を向き、クスクスと笑った。 キュルケも男子達の中に居た。 多くの男をはべらせている様だ。 下衆が。 豪鬼はそう思ったが、やはり下衆の相手をする気はなく、ルイズの隣に座った。 教室内を見回すと、珍妙不可思議な生物がたくさんいた。 見回す中でルイズに視線を向けると、ルイズが不機嫌そうに豪鬼を見ていた。 豪鬼はそれに構わずに再び教室を見回し始める。 ルイズももう諦めたようで、何も言ってはこなかった。 授業中、ルイズが口論を始めたりはしたが、豪鬼は構わず、時間を瞑想に使っていた。 しかし、興味があるものが耳に入ると、それをやめ、授業に耳を傾けた。 「では、この練金を……、ミス・ヴァリエール、やって御覧なさい」 「え? わたし?」 「先生! やめた方がいいと思います! 危険です!」 キュルケが立ち上がり、叫ぶ。 教室の中の殆どの生徒が頷く。 「やります」 それに反応したのか、ルイズは何か決意したように言う。 つかつかと黒板の前に向かっていくルイズ。 すると、殆どのの生徒が机の中に隠れる。 その中でも、キュルケだけは隠れずにルイズを見つめていた。 さっきまで必死にルイズを止めていたのに、いざとなるとちゃんと向き合うとは、実は少しはやれるのではないか、と豪鬼は思った。 少なくとも、このときキュルケは豪鬼の中での『下衆その一』という位置づけからは脱していた。 ルイズが呪文を唱え、杖を振り下ろす。 刹那、爆発。 目の前の机を吹き飛ばし、破片を飛ばす。 豪鬼はそれに反応した。 丁度いい。 「ぬぅん!」 飛び散る破片や机を全て叩き落す。 「あ……」 キュルケだけがそれを目撃した。 豪鬼のお陰で大きな被害は出なかったものの、生徒達はルイズを睨む。 ルイズは全く悪びれる様子も無く、こう言った。 「ちょっと失敗しちゃったみたいね」 「ちょっとじゃないだろ!ゼロのルイズ!」 「いつも成功の確率、ゼロじゃないか!」 豪鬼は、ルイズが何故『ゼロ』と呼ばれているのか理解した。 今日の「滅殺!」必殺技講座 灼熱波動拳 波動拳に炎を付加(?)し、放つ技。 この波動拳は、多段ヒットする上、威力も高いものとなっている。 その代わり、発射前に大きな隙がある為、使いどころが難しい技となっている。 コマンド「(右向きの時)逆半回転+パンチボタン」 「んんん、ぬぅん!」 「どうやって火付けてるのよ」 「知らん」 「はぁ!?」 前ページ次ページ滅殺の使い魔