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前ページ次ページ暗の使い魔 夜空に煌々と双月が輝く頃。ルイズは自室のベッドで夢を見ていた。 それは、幼い自分が懐かしきヴァリエールの領地にいる夢。 「ルイズ、ルイズ、どこに行ったの?まだお説教は終わっていませんよ!」 ルイズの母が、そんな事を言いながら彼女を探し回る。姉たちと比べて出来の悪い自分を叱る為だ。 夢の中でルイズは、そんな自分を叱る母から逃げまわっていた。 召使達が、ルイズの事をひそひそと噂しながら通り過ぎる。 「ルイズお嬢様は難儀だねぇ。上のお姉さま方はあんなに魔法がおできになるっていうのに」 庭園の中庭で茂みに隠れながら、ルイズはそんな噂話を悲しい思いで聞いていた。 だれも自分の事を分かってくれない。そう思うと居ても立ってもいられなくなって、ルイズは彼女が『秘密の場所』と呼ぶある場所へと行くのだ。 そこは、ルイズが唯一安心できる場所。人の寄り付かない、うらぶれた中庭の池。 季節の花々が咲き乱れ、池のほとりには小さな白い石で作られたあずまやが建っている。 見るものが息をつくようなのどかな風景である。そして池には小さなボートが一艘。 ルイズは何かあると、決まってそのボートの中に逃げ込むのだ。 ルイズは用意していた毛布に包まりながら、ぐすぐすと泣き出した。 と、そんな時、霧の中からマントを羽織った立派な貴族が現れるのをルイズは見た。 年の程は十六歳ほどであろう。つばの広い羽根突きの帽子をかぶり、その顔は窺えない。 しかし、ルイズにはそれが誰であるかわかった。 幼い夢の中のルイズは、その白い小さな頬を染める。 そして、身を起こしその立派な貴族を恥ずかしそうに見つめるのだ。 「ルイズ、泣いているのかい?」 「子爵さま……。いらしてたの?」 ルイズは泣き顔を見られまいとふと顔を背ける。しかし、彼女の胸の高ぶりはおさまらない。 憧れの人に、自分の恥ずかしいところを見られた。それにも関わらず、彼女の顔は熱をもったままだった。 「今日は君のお父上に呼ばれたのさ。あのお話のことでね」 ルイズはさらに頬を染めて俯いた。 「いけない人ですわ。子爵さまは……」 「ルイズ。僕の小さなルイズ。君は僕の事が嫌いかい?」 子爵がおどけた調子で言う。それに対してルイズは一生懸命首を横に振りながら言う。 「いえ、そんなことはありませんわ。でも……わたし、まだ小さいし、よくわかりませんわ」 ルイズははにかんで言った。帽子の下で、優しげな顔がにっこりと微笑み。 「ミ・レィディ。手を貸してあげよう。ほら、つかまって。もうじき晩餐会が始まるよ」 そういって手が差し伸べられた。 「子爵さま……」 ルイズは小さく頷くと、立ち上がりその大きな手をとろうとした。しかしその時、彼女はあることに気がついた。 「あれ?何これ」 みるとそれは子爵の手ではなかった。煤に汚れた逞しい腕に、枷が嵌っている。その手が伸びる腕は筋骨隆々である。 バッと見上げるとそこにあったのは。 「さっさと行くぞお前さん」 使い魔の官兵衛の顔であった。 「な、なによあんた!」 官兵衛がぐいとルイズの腕を掴む。 「ちょ、ちょっと何するのよ!」 見ると夢の中のルイズは十六歳の彼女に戻っている。官兵衛の強引な態度にルイズは思わず声をあげる。 「何って、これから晩餐会だろう?エスコートしてやるからさっさと来い」 「な、なによその言い方。レディに対して!」 あまりの言い草にルイズは抗議した。しかしそんなルイズの態度に官兵衛は。 「ああもう、まどろっこしい!」 そういってルイズを軽々と抱き上げた。 「きゃっ!ちょ、ちょっと!」 いきなりの事にルイズは顔を赤らめた、そして。 「ルイズ。お前さんは小生のものだ。一緒に天下を取ろう」 「なっ!」 ルイズの顔から火が出そうな台詞を、官兵衛は平然と口にした。 いつになく真剣な表情の官兵衛。精悍な顔立ちが、その雰囲気をより一層際立たせる。 そんな官兵衛に、魚のように口をぱくぱくさせながらルイズは。 「い、いいいやよ……。ばっかじゃない?なんであんたなんかと」 声を震わせ、顔を俯かせながらそう呟いた。 「ルイズ」 官兵衛が今度は優しげにルイズに言う。「なによ」とルイズが顔を上げると。 息の掛かりそうな程近くに、官兵衛の顔があった。知的な瞳にルイズの表情が写る。その中のルイズの顔は―― 「やや、やだそんな……」 まるで幼子のようにしおらしい表情をしていた。そのまま官兵衛の瞳が閉じられ、顔が近づいてくる。 ルイズはハッと息をのみ、固く目を閉じた。ルイズの唇に官兵衛のそれが重なろうとした、その瞬間。 「なあぁぁぁぁぁぜじゃあああああっ!!」 「きゃあ!」 ルイズは現実にたたき起こされた。夜中にも関わらず、響き渡るみっともない叫び声に。 暗の使い魔 第十三話 『異国の男』 「よう相棒!随分と騒がしい目覚めだなっ」 壁に立てかけられたデルフリンガーが、カチャカチャと喧しく喋る。 「ハッ!ゆ、夢か……!ちくしょう刑部め!」 官兵衛は、藁のベッドから飛び起きるなり、そう呟いた。 忌々しそうに枷を振りかざしながら、官兵衛は悔しげに歯を食いしばった。 「一体全体どうしたってんだ?ニワトリだってもう少し遅起きだぜ」 「ああ、不快な夢を見た」 いつもに比べ落ち着かない様子で、官兵衛はその場に足を投げ出した。 しばしの間、沈黙していた官兵衛も、やがて落ち着くと。ゆっくり口を開いた。 「……もう大丈夫だ。気にするな」 「気にするな、じゃあないでしょうが!」 その時、ポカンと、官兵衛の頭に調度品が飛んできた。 見事にクリーンヒットしたそれがガランガランと床に転がり、官兵衛は頭を抑えた。 「毎回毎回、よくも人が気持ちよく寝ている所を起こしてくれたわね!」 見ると腰に両手を当て、ルイズが険しい形相でそこに立っていた。 ルイズ自身まだ眠いらしく、眼を時折手で擦りながらも官兵衛を睨みつける。 「いてて!何しやがる!」 ぶつけた箇所を擦りながら官兵衛が言う。それに対してルイズは。 「だって何度目かしら?こうして起こされるのは。この前は地震のオマケ付きだったわね!」 ルイズが近くにあった乗馬用の鞭を手に持った。そして官兵衛にツカツカと近づくと。 「ばかばか!ばか!」 頬を真っ赤にしながら彼を叩きだした。 「痛っ!何だ急に?」 「うるさい!いつでもどこでも!ご主人様を何だと思ってるの!」 ルイズの止まらない癇癪を身に受けながら、官兵衛はげんなりした。 起こしてしまっただけで、なぜこうも怒られにゃあならんのか。年頃の娘の扱い、というのはどうにも苦手な官兵衛だ。 まったく自分なんて久々に目覚めの悪い夢を見たというのに、この娘っ子は。 そこまで考えた時、官兵衛はピーンと閃いた。 「(ははあん。さてはこの娘っ子!)」 官兵衛は、真っ赤な顔で怒るルイズを見て何かに気がついたようだ。 「おい……」 「あによ!」 官兵衛が、嵐の如く唸るルイズの腕を、ガシッと掴む。鞭が彼の顔寸前で止まった。 そのまま壁際に押しやる官兵衛。 「はなして!はなしなさい!この大型犬!」 「もういいルイズ。安心しろ」 官兵衛が珍しく、静かな声色でルイズに語りかける。その普段ない官兵衛の様に、おもわずルイズはドキッとした。 「(な、なによコイツ……)」 先程夢で見た官兵衛の様子と、目の前の彼が不意に重なる。それを感じて、ルイズはさらに頬を赤らめた。 官兵衛は満足げに頷くと、こういった。 「見たんだろう?(怖い)夢を……」 「は、はあ!?」 ルイズは、先程自分が見た内容の夢を反芻する。 そうだ、自分は夢を見た。自分の使い魔が生意気にも私に想いを告げ、あろうことか口付けを。くくく口付けを……。 そこまで考えて、羞恥で顔が沸騰しそうになる。 「な、なによ!私がどんな夢をみようと勝手でしょう!?」 そんな様子を見て官兵衛は、ルイズが悪夢にうなされ、それを看破されて恥ずかしがっている、と踏んだ。 口調を変えず官兵衛が言う。 「小生も見たんだ、夢を……。いまだに鼓動がおさまらん(恐ろしくて)」 「はえ!?」 思わず口が開きっぱなしになるルイズ。 「(官兵衛も見ていた?同じような夢を?そそそそれに、ドキドキしている!?)」 その言葉に、甘ったるいものを感じ、脳内が麻痺する。 官兵衛の足りない言葉が誤解を生んでいるのだが、そんなことは露知らず。 「小生だってそうなる事くらいあるんだぞ?恥ずかしいが、仕方無い」 官兵衛はポリポリと頭を掻きながら、笑みを浮かべた。満更でもなさそうな表情であった。 ルイズの胸が早鐘のように鳴る。 「(ななな何ときめいてるのよ、こんな大男に!だいたいコイツは使い魔じゃない! なによ!ご主人さまの夢見てドキドキするなんて!身の程知らず!生意気!ばかうつけ!)」 心の中で、そんな言葉を繰り返しながらも、ルイズは官兵衛と目をあわせられなかった。 官兵衛が顔を覗き込んでくる。まるでこちらの感情を窺うかのように。 「ルイズ」 夢の中と同じように、官兵衛が真剣な声色で名前を呼んだ。 その言葉に俯いていた顔を上げ、彼の瞳を見やるとそこには。 「(やだ……!)」 夢の中とまるっきり同じ、幼子のようなしおらしい表情のルイズが写りこんだ。 ぎゅうっと目を瞑る。きっとこれから夢の中と同じように……。そう思うと身構えずにはいられなかった。 「(なによ、舞踏会で踊っただけじゃない。 そりゃあ私も少し、すこ~しだけ!頼もしいとか思ったり、守られて嬉しいとか思ったりしたわ! でもそれだけでこんな、ああこんな!どうしよう!こんな使い魔に!)」 ルイズは熱く熱せられた頭で、その瞬間をいまかいまかと待った。 時間にして数秒にも数分にも感じられた。長いのか短いのかわからない。 その時間が、沈黙が、何よりも心地よかった。ある一言でブチ壊されるまでは。 「漏らしてないな?」 「………………は?」 ピキーンと空気が固まる。 甘ったるかったルイズの桃色の空気が、風に吹かれてすっ飛んだ。 場違いな、肌寒い風に。 「……なんですって?」 「だから漏らしてないか聞いたんだ。怖い夢を見たんだろう?」 その言葉が耳から入り、神経に伝わり、大脳に入って情報に変換され、理解に至るのに、ルイズは果てしなく長い時間を費やした。 理解した途端、彼女の幸せな想像が、繊細なガラス細工の様な心情が、無造作に打ち砕かれたのだ。 ルイズの全身が小刻みに震えだす。 そんな様子を気にもとめず、官兵衛は続けた。 「小生もな。ガキの頃は悪夢でよく漏らしたもんだ。その度に父上に呆れられたもんだが――」 得意げに言いながら、官兵衛はルイズの震える肩をポンポンと叩いた。ルイズの拳が固く握られる。 そして官兵衛は、まずは深呼吸!気を落ち着けるのが一番だ!などとのたまいながら胸を張ったのだった。 それを聞いてか聞かずか、ルイズは深呼吸を始める。すうはあと、目を瞑り呼吸を整えた。 そして次の瞬間であった。ルイズの怒りのオーラを纏った鋼の拳が、官兵衛の鼻っ面に叩き込まれたのは。 「ぶべらっ!!」 圧倒的運動量を秘めた物体が、顔面に激突する。 情けない声とともに、官兵衛の巨体が部屋の端から端まで吹き飛んだ。 そのまま、反対の壁際に置かれた高価なアンティークの机に頭を叩きつける。 衝撃で机上に飾られた花瓶が落ちてきて、官兵衛の頭にヒットしかち割れた。 三連コンボを喰らった官兵衛は、鼻から一筋の血を垂らし、ふらつく頭を押さえながら目前を見やった。 見るとそこにいたのは、桃色の頭髪を逆立たせながら屹立する一匹のオーク鬼。 それが、手にした杖先から赤黒いオーラをたぎらせ、徐々にこちらに近づいてくる。 「……ゲホッ!ちょ、ちょっと、待て、お前さん。」 そのあまりの圧力に咳き込みながら、官兵衛は口を開いた。 近づいたルイズがこちらを見下ろす。 「ねえ?デカ犬?」 「デ、刑事?」 官兵衛は、花瓶から降りかかった水を払うように首を振る。視界が良好になり彼女の表情が窺える。 その顔は無表情だったが、目は伝説のオロチのように血走り、爛々と輝いていた。マグマのような怒りをたたえて。 「な、なんでそんなに怒るんだ?一応、いちおう、小生は心配して――」 「黙れい」 ルイズが低い声色でうなる。 「今度と言う今度は許さないわ。ご主人さまを前にして、始祖ブリミルをも恐れぬ不敬の数々……」 ルイズが杖を掲げる。 その先端に光が収束していく。 その失敗爆発の前兆に顔を照らされ、ルイズは言い放った。 「死をもって償うがいいわ……!」 杖が振り下ろされた。 目前に集中するエネルギーを感じながら、官兵衛は思った。また眠れない日々がやってきた、と。 そんな頃、トリステイン城下町の一角に聳え立つ、チェルノボーグの監獄内。 その人物は静かに、鉄格子入りの窓から覗く双月を眺めていた。 「全く、とんだ災難だったよ」 土くれのフーケは杖を取り上げられ、ここチェルノボーグの狭い独房内に身柄を拘束されていた。 逃亡の際、天海からつけられた傷は、水のメイジの手によって綺麗に元通りになっている。 しかし傷はなくなったが、フーケはあの長髪の男を未だ苦々しく思っていた。 自分が杖を持たない人間に遅れを取った事、容易く裏切られ捕まってしまった事。 彼女のプライドを傷つけるには十分であった。 だがそれに加えて、自分を捕まえたあの黒田官兵衛という男。 「大したもんじゃないの!あいつらは!」 彼女は、彼らには素直に賞賛の意を示していた。 あの時彼らが破壊の杖に細工をしていなかったら。あそこに駆けつけていなかったら。 自分はあの天海に始末されていただろう。 結果として捕まってしまったが、自分の命を救ってくれた彼らには感謝していた。 「クロダカンベエ……。妙な名前だけど中々面白い奴だったね」 フーケは独房の天井を見上げながら、向かいの独房の男に向かってそんな話をしていた。 「そうかい……」 男は少し考える素振りを見せた後、静かにそう呟いた。歳若い男の声だった。 「と、こんな所かね。私を捕まえた連中の話は」 「おお、ありがとうよ。」 語り終えたフーケに静かに礼を述べる男。そしてしばらくの後に、そっと呟いた。 「こっちに来てる奴が、俺以外にもいやがるとはな」 男の言葉にフーケは首を傾げた。フーケが思わず聞き返す。 「……?どういうことだい」 「いいや、こっちの話だ」 フーケは男の答えに興味を惹かれた。「へぇ」と短く呟きながら、彼女は男に言った。 「じゃあさ、あんたのことを教えておくれよ」 「何?」 今度は男が怪訝な様子でフーケに聞き返す。フーケは構わずに続けた。 「いいだろう?私はあんたの聞きたいことを話したんだ。あんたも色々と教えてくれても罰は当たらないんじゃない?」 「そりゃそうか?まあいいぜ、ここで会ったのも何かの縁だしな」 男の答えに表情を明るくしながら、フーケは鉄格子越しに身を乗り出した。と、その時であった。 「待ちな。だれか来る」 男が低い声でフーケを制した。聞けば、拍車の音の混じった足音が、コツコツと階段を下りてくるのが聞こえた。 看守ではない。看守であれば足音に拍車の音が混じろう筈はなかった。 「気いつけな」 「ああ」 男の言葉にフーケが身構える。すると、鉄格子の向こうに白い仮面をつけたマントの男が姿を現した。 マントの影から長い杖が覗いている。どうやらメイジであるらしかった。 「おや!こんな夜更けにお客さんなんて珍しいわね」 フーケはおどけた調子で目の前の男に言う。仮面の男は答えず、さっと杖を引き抜いた。フーケは思わず後ずさる。 しかし、仮面の男はくるりと反対側の独房に杖を向けると、杖を中の男に向けた。そして短く呪文を呟き杖を振るった、瞬間。 ばちんと周囲の空気が弾けて、仮面の周囲から、電流が牢の男に一直線に伸びた。 「ぐあっ!」 電流が胴体に命中し、男は力なく床に崩れ落ちる。バチバチと男の体中を強力な電気がほとばしった。 「野郎ッ……!」 男は力を振り絞り立ち上がろうとしたが、ガクリと倒れ伏す。 ぴくりとも動かなくなる男を、フーケは青ざめた顔でじっと見ていた。 牢の男を邪魔そうに見やった仮面の男は、くるりとフーケに向き直り、口を開いた。 「そう怯えるな土くれ。話をしに来ただけだ」 「話?」 牢の奥でフーケは油断無く身構えながら、仮面を睨みつけた。 「随分と物騒な挨拶だけど、私にどんな話があるっていうんだい?」 「まあ聞け土くれ。それともこちらで呼んだほうがいいか?マチルダ・オブ・サウスゴータ」 フーケの顔が強張る。それは自分が捨てる事を強いられた過去の名前だった。なぜそれをこの男は知っているのか。 ますます警戒を強めるフーケ。 「あんた、一体何者?」 震える声を隠す事もできずに、フーケは男に問うた。しかしそれに答える素振りも見せず、男は笑いながら言う。 「単刀直入に言おう。我々と一緒に来い。マチルダ」 「何だって?」 「我々は一人でも優秀なメイジが必要だ。聖地奪還の為にな。」 男の言葉にフーケは、フンと鼻を鳴らした。男は静かな口調で続ける。 「まずはアルビオンだ。アルビオンの王朝は近いうちに倒れる。我々貴族派の手によってな。 そして無能な王族に代わり我々が政を行った暁には、ハルケギニア全土を統一する。 我らの手で聖地を奪還するのだ。」 「ちょっと待ちな、聖地を取り戻すだって?あの屈強なエルフ共から?夢幻もいいところだよ」 フーケが呆れたように男の言葉を遮った。かつてハルケギニア中の王達が幾度と無く兵を送り、失敗してきた聖地奪還。 強力な先住魔法を扱うエルフの恐ろしさは彼らも良く知っているはずだ。それをあろう事か目的の一つとして掲げているのだ。 馬鹿馬鹿しい。フーケは心底そう思った。 「生憎だけど、そんな絵空事に付き合うつもりはさらさら無いね。」 「ほう、たとえ死んでもか?」 杖の切っ先が静かに、しかし無駄の無い動きでフーケを捉える。 それを見て、フーケは観念したかのように構えていた腕を下ろした。仮面の男が続ける。 「お前は選択する事が出来る。我々『レコン・キスタ』の同志となるか、或いは――」 「ここで死ぬか。でしょ?」 「そういう事だ。先程の男のようになりたくなければな」 男は満足げに頷いた。と、その時であった。仮面の男のマントが突如としてごう!と燃え上がった。 「何!?」 フーケも仮面も目を疑った。見ると仮面の足元に、赤々と燃え盛る一本のナイフが突き立てられているではないか。 咄嗟にマントを脱ぎさる仮面の男。そして目を向けた先には。 「あ、あんた!」 フーケは向かいの独房をみて叫んだ。 「やってくれるじゃねぇか」 燃え盛る炎に照らされ、その男は何事も無かったかのようにそこに佇んでいた。 男の鍛え上げられた上半身が、赤々と輝く。仮面の男が短く舌打ちし、再び杖を構えた。 「仕損じたか」 再び呪文を唱えようとする仮面。しかしその詠唱は、檻の中から投下された一本のナイフで遮られた。 まるで矢のような速度で迫る飛来物を、サーベルのような杖で叩き落す仮面。 しかしどこに仕込んでいたのか、無数のナイフが檻の中から次々と飛んでくる。 そして次の瞬間、何とそれら全ての物が赤熱し炎を発したではないか。 「ぐおおっ!」 その内の一本を捌ききれずに、再び仮面の衣服に火が燃え移った。 狭い通路内で逃げ場も無く、仮面の男は炎に包まれる。そして次の瞬間、男は燃え盛るマントを残して霞のように姿を消した。 チャリンと、金属音が廊下に響き渡る。みるとそれは独房の鍵の束であった。 仮面が消え去るのを見ると、独房の男はフゥと息を吐いた。 そして向かいの独房で唖然と一部始終を見ていたフーケを見ると。 「大丈夫かよ?」 そういって歯を覗かせ笑った。フーケがハッと我に帰り、手を伸ばし鍵を拾う。 そしてガチャリと独房の扉を開け外にでると、鉄格子越しに男に近寄った。 「あんた、なんで生きてるんだい?」 「あぁ?随分じゃあねぇか」 男が眉をひそめながら言う。 「さっき喰らったやつならよ、この通りだ」 男が自分の胸を指差す。そこには先程の電撃で出来たであろう火傷の跡が出来ていた。しかし程度は見た目程に酷くはない。 あれほどの魔法を受けておいて、軽い火傷で済むとはどんな身体だろう。フーケは呆れてため息をついた。 「全く、でもありがとう。助かったよ」 フーケは廊下に残されたマントの燃えカスを見ながら、男に言った。 「いいってことよ。俺もいきなり訳分からんもん喰らって、頭にきた所だしよ。それよりも――」 「ああ」 フーケは男の独房に鍵を差し込んだ。ガチャリと鍵が開き、重い音と共に鍵が開かれる。 中から長身の男が、背負った上着をたなびかせながら悠々と歩き出てきた。 「いいのかい?そんな簡単に逃がしちまって。俺が極悪人だったらどうするつもりだい」 「極悪人は見ず知らずの私を助けたりしないだろう?それに――」 フーケはニヤリと笑い、男の目を見据えた。 「目を見ればあんたがどんな人間かわかるよ。長年盗賊やってないからね」 フーケの言葉に一瞬戸惑いの表情を見せた男だったが、すぐに口を空けると。 「ハハッ!アンタおもしれえな!気に入ったぜ」 そういって、声をあげて笑い出した。 トリスタニアで最も堅牢な筈のチェルノボーグの最下層に、豪快な笑い声が響き渡る。 そして、騒がしく牢獄を駆け抜けるのは二人の賊。 一人は、貴族の金銀財宝を根こそぎ奪い、トリステイン中を掻き乱した世紀の大盗賊、土くれのフーケ。 そしてもう一人―― 「あったぜ!やっぱりこいつがなきゃあ締まらねえ!」 囚人の持ち物を保管する倉庫から出てきた男は、手にした得物を得意げに振り回した。 風を払い、地面に突き立て、鋼の音を響かせる。その豪快な様におお、とフーケは感嘆の声を漏らす。 それは長さ三メイル以上はあろう豪槍。荒々しく鎖が巻かれたそれの穂先には、さらに巨大な白銀の碇。 それを男は、軽々と片手で取り回して見せた。 「いくぜぇ!こんなしみったれた場所からはおさらばだぜ!ハッハ!」 瞬間、男の手にした豪槍が赤熱して炎を吹き出した。 炎の槍が、男の頭上で旋回する。 振りかぶられた槍が男の手を離れ、吸い込まれるように塀に激突した。 どおん!と地響きが鳴り響く。 その瞬間、生じたのは閃光と爆音。 厚さ数メイルにも及ぶ石壁が弾け飛び、さらに業火に焼き尽くされて消滅した。 それを見て、彼女は声ひとつ出なかった。あらゆる砲撃もかなわぬ堅牢の防壁を、いとも容易く砕いた目の前の男に。 フーケは目を見張って、男を見つめた。 そこに立つのは異国の男。 逆立つ銀髪、紫色《しいろ》の眼帯。 同じ紫色の衣を纏い、大海制すは七の海。 男がいた乱世では、彼を指してこう呼ぶ。 四国の主。 海賊の長。 西海の鬼神。その名は―― 天衣無縫 長曾我部元親 進撃 暗の使い魔 第二章 『繚乱!乱世より吹き荒れる風』 前ページ次ページ暗の使い魔
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Mathieu まてゅー 委員長の魔女の手下。その役割はクラスメイト。 足に履いたスケート靴で糸の上を優雅に滑走するが それぞれは魔女が糸で操ってるだけであり意思を持たない。 概要 委員長の魔女・Patriciaの使い魔。 Patriciaの縮小版のような使い魔で、ひざまくらという商品を彷彿とさせる。 プリーツスカートを穿いた下半身のみの姿をしており、空から大量に降ってきたり、Patriciaのスカートから発射されたりする。一応外敵を邪魔しているようだが、落ちてきて糸の上をスケートするだけで、攻撃らしい攻撃はしてこない。 親の魔女と違いスカートの中身が見放題だが、ちょうちんブルマを穿いているので視聴者のご期待には添えない。 劇団イヌカレーによれば「魔女といえどもパンツチラリは許しません」とのこと。 その上、Mathieuは男性名である。女装が疑われるが、姓に使われることもあるので断定はできない。 ポータブルでのドロップアイテム MathieuはAGI強化ポイントをドロップしティーチャーはDEX強化ポイントを落とす。 ティーチャーについては詳細はないのでまとめて表記する。 名前 コメント
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前ページ次ページ鮮血の使い魔 武器を失ったガンダールヴなど平民の小娘でしかない。 嗜虐の笑みを浮かべるワルドと、残りひとつとなった遍在。 一方、ウェールズとルイズはまだ杖を持っている。 先に言葉を始末し、遍在と二人がかりでルイズ達を殺すか? 雑魚を適当にあしらい、反撃する能力を持つルイズとウェールズを殺すか? ワルドの選択は、ルイズが決めさせた。 「ワルド!」 チェーンソーを破壊されたため言葉が無力化してしまったと理解しているルイズは、 言葉を守るため、注意を引くべく、ワルドに杖を向け詠唱を始めた。 失敗でも何でもいい、爆発を起こして、起死回生のチャンスを生み出さねば。 そんな動きを見せるルイズを、先に始末しようとワルドは決めた。 「エア・ハンマー!」 空気の塊を叩きつけられ、ルイズは石造りの壁に向かって吹っ飛ばされる。 壁に直撃すれば骨折程度ではすまない、打ち所が悪ければ死の可能性もある。 だからウェールズは、咄嗟にルイズに向けてレビテーションを唱え、ブレーキをかけた。 その隙に遍在がエア・ニードルを唱えながらウェールズに飛びかかる。 ウェールズはルイズの前に立ちふさがり、自らの肉体を盾として守ろうとした。 (さようなら、アンリエッタ――) 死を覚悟した男の背中を、ルイズは頼もしく思うと同時に、悲しくも思った。 自分のせいでウェールズが死ぬ。死んでしまう。 アンリエッタの大切な人を死なせてしまう。 (誰か――!!) 助けて、と思うよりも早く、彼女は来た。 エア・ハンマーで吹っ飛ばされたルイズを見て、言葉に動揺が走った。 裏切ったはずなのに、ああ、どうして自分は、こんなにも。 何とかしなければならない。しかし武器はもう無い。ガンダールヴの力は使えない。 武器を持たず飛び出しても間に合わない、ただの女子高生の力ではどうしようもない。 ウェールズが魔法をかけたのか、ルイズは壁に激突する前に止まったが、 その二人に向かって遍在が飛びかかる。エア・ニードルで杖を凶器として。 手を伸ばしても届かないと理解していながら、言葉は手を伸ばした。 何かを掴もうとして、虚空しか掴めぬ現実に打ちのめされる。 (私は、ルイズさんが殺されるのを、見ているしかできない) 絶望の中、憎しみを、悲しみが上回った。 その瞬間、床から光と共に、剣が飛び出してきた。 正確には生えたと表現すべきだろうか? 石畳を材料に剣が構築され、言葉の前に現れたのだ。 錬金? 土系統の魔法? 誰が? どこから? 何故? 世界を裏切った言葉に味方するものなど、何も無いはずだった。 しかしその女は確かに、言葉のために魔法を行使した。 教会の扉の陰から様子をうかがっていた、フードで顔を隠した女メイジ。 そのメイジの名は、土くれのフーケといった。 虚空を掴むしかなかったはずの手が、魔法で作られた剣を掴む。 左手のルーンが今までにないほど力強く光り輝いた。 感情の昂ぶりに呼応して力を発揮するガンダールヴのルーン。 今、ルーンは言葉の何の感情に呼応しているのか? 憎悪? 悲哀? 激怒? 確かなのは、ワルドへの敵意ではなく、ルイズへの情だという事。 風は烈風。すべてを切り裂く死の刃。 烈風となった言葉は、ウェールズの胸元を今にも貫こうとする遍在を一瞬にして一刀両断した。 かつて居合いを学んでいた言葉にとって、 剣という武器は日本刀ほどでないにしろずっと使いやすい獲物だった。 ノコギリやチェーンソーといった工具に頼っていた自分が馬鹿らしく思えるほどに。 そして、彼女が習得している居合いの真価は初太刀の後にある。 居合い斬り。大道芸として知られるこの技は、素早く抜刀して斬りつけるものだ。 しかし本物の居合いは違う。 抜刀をしての初太刀にすべてを込める一撃必殺の剣というのは間違いだ。 一撃で仕留められなかったら死に体という致命的な隙を作る? そんなもの剣技ではない。 居合いとは抜刀と同時に攻撃する技術であると同時に、 二の太刀、三の太刀を如何に素早く的確に放つかを追求している。 初太刀で相手を倒せなかった場合を想定せず抜刀する居合い術など存在しない。 初太刀でけん制し、二の太刀以降の攻撃で敵を仕留める事が多かったとさえ伝えられる。 刃を止めず、流れるように、様々な体勢から、様々な状況に対応し、臨機応変に敵を斬る。 それがい居合いだ。 だから、言葉は遍在を両断した直後にはもう、本物のワルドに向かって疾駆していた。 「ライトニング――!」 斜めに斬り上げる。向けられた杖を、ワルドの右腕ごと斬り落とす言葉。 悲鳴が上がるよりも早く、身を守ろうとして出された左腕を三の太刀で斬り落とす。 両腕を失ったワルドは、ようやくカエルのような悲鳴を上げてよろめいた。 そのワルドの視界の端で銀光がきらめく。 首筋に鋭い感触。 眼前で酷薄な笑みを浮かべるガンダールヴ。 「死んじゃえ」 ワルドの首筋にあてがわれた剣が、素早く引かれる。 「あ……」 呆けた声を漏らし、一拍置いてから、ワルドの首から噴水のように血が飛び散る。 白目を剥きいて糸の切れた操り人形のように崩れ落ち、鮮血の結末を迎えた。 「こ、コトノハ……」 背後からルイズの声がする。 振り向きたい思いに駆られながら、言葉は眼前の死体に手を伸ばした。 その懐からはみ出ていた手紙、かつてアンリエッタがウェールズに送り、 任務を受けたルイズが回収しにきたそれを、言葉は自らの制服のポケットにしまう。 「コトノハ、大丈夫?」 心配げな、ルイズの声。 世界を、この世界のすべてを裏切ったはずなのに、 ルイズも、そして今手に持つ剣を与えてくれた者も、言葉に手を差し伸べてくれている。 その手を握る資格など無いのに。 「さようなら、ルイズさん」 振り向かずに、別れを告げる。 「裏切ってしまった私は、もう貴女の側にいられません」 そう言って、言葉は誠の入った鞄を取りに行こうとし、教会全体が揺れた。 外が騒がしい。怒声と破壊音が響く。 「始まったか……レコン・キスタとの戦いが!」 ウェールズが言い終わると同時に、教会の天井が崩れる。 ワルドの死は悲しかったが、それよりも言葉とウェールズの無事をルイズは喜んだ。 ようやく話ができる余裕ができたと言葉に声をかけたが、返ってきたのは拒絶だった。 直後、ワルドとの戦いで気づかなかったが、 すでに始まっていたレコン・キスタとの戦いが、教会を襲った。 天井にヒビが入り、破片が落下し出す。小さな石でも、頭に当たれば大怪我をする。 そんな中を言葉はガンダールヴの脚力で椅子を飛び越えて誠の入った鞄を掴むと、 ルイズ達を振り返らず一直線に教会の戸を開け放ち走り去った。 「コトノハ!」 このまま行くつもりだ。レコン・キスタへ、クロムウェルの元へ。 アンドバリの指輪を求めて、独りで。 ルイズを裏切って。 (もう――戻ってこないつもり?) フーケと通じていた、ワルドと通じていた、という裏切りよりも。 これが言葉との別れなのかという予感が、悲しかった。 「ミス・ヴァリエール、ここは危ない」 茫然自失となったルイズの腕を掴んだウェールズは、 教会が本格的に崩れ出すよりも早く脱出する。 そこはすでに戦場となりかけていた。 言葉の姿を探したが見つけられない。 「ミス・ヴァリエール、君のために船を用意してある。 手紙は、ミス・コトノハが持っていってしまったが……君は逃げてくれ」 「ウェールズ殿下……」 「君はアンリエッタが心を許したかけがえのない友人。 僕の代わりに、彼女の支えとなっておくれ」 「……しかし、私は」 ルイズは唇を噛んだ。血がにじみ出るほどに。 任務を果たせず、ワルドは裏切った末に死に、言葉は裏切って手紙を持って逃亡した。 戦いが始まり、足手まといの自分は、やはりアルビオンから脱出するべきなのだろう。 でも。 ――裏切ってしまった私は、もう貴女の側にいられません。 あの声は、今にも泣きそうなのをこらえているように聞こえたから。 振り返らなかった言葉。どんな表情をして、どんな瞳をしていたろうか。 レコン・キスタに行って言葉はどうするのだろうか。 誠が生き返ったらどうするのだろうか。 もう帰ってこないのか。 「私の、所に、もう」 頬が濡れた。 第15話 さようなら、ルイズさん 前ページ次ページ鮮血の使い魔
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朝早くワルドに起され促されるままついていくと、礼拝堂でわたしの結婚式が 始められようとしていた。 ここに居るのは、わたしとワルド、ウェールズ様とプロシュートだけだった。 何故、今こんなのとになっているのか、わたしには分からなかった。 ワルドは、この旅が終われば僕を好きになると言った。 結婚しようとも言った。 だけど、何故、今?こんな時に?こんな場所で結婚式を? 分からない、分からない。 不安になりプロシュートを見るが、彼は部屋の隅で黙ってグラスを傾けていた。 どうして何も言ってくれないの? 「緊張しているのかい?仕方が無い。初めてのときは、ことがなんであれ 緊張するものだからね」 ウェールズ様は、にっこりと笑って後を続けた。 「まあ、これは儀礼に過ぎぬが、儀礼にはそれをするだけの意味がある。 では繰り返そう。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、 そして夫と…………」 こんな気持ちで結婚なんて出来るワケないじゃない。 わたしはウェールズ様の言葉の途中で首を振った。 「新婦?」 「ルイズ?」 ウェールズ様とワルドが怪訝な顔でわたしの顔を覗き込む。 「どうしたね、ルイズ。気分でも悪いのかい?」 「違うの。ごめんなさい……」 「日が悪いのなら、改めて……」 「そうじゃないの、そうじゃないの。ごめんなさい、ワルド、わたし、 あなたとは結婚できない」 わたしの言葉にウェールズ様は首をかしげた。 「新婦は、この結婚を望まぬか?」 「そのとおりでございます。お二方には、大変失礼をいたすことになりますが、 わたくしはこの結婚を望みません」 ワルドの顔に、さっと朱みがさした。ウェールズ様は困ったように首をかしげ、 残念そうにワルドに告げた。 「子爵、誠にお気の毒だが、花嫁が望まぬ式をこれ以上続けるわけにはいかぬ」 しかし、ワルドはウェールズに見向きもせずに、わたしの手を取った。 「……緊張しているんだ。そうだろルイズ。きみが僕との結婚を拒むわけがない」 「ごめんなさい。ワルド。憧れだったのよ。もしかしたら、恋だったかもしれない。 でも、今は違うわ」 ワルドは、わたしの肩をつかんだ。その目がつりあがる。表情がいつもの 優しいものでなく、どこか冷たい、トカゲか何かを思わせた。 熱っぽい口調でワルドは叫んだ。 「世界だルイズ僕は世界を手に入れる!そのためにきみが必要なんだ!」 豹変したワルドに怯えながら、わたしは首を振った。 「……わたし、世界なんかいらないもの」 ワルドは両手を広げると、わたしに詰め寄った。 「僕にはきみが必要なんだ!きみの能力が!きみの『虚無』が!」 そのワルドの剣幕に、わたしは恐くなった。優しかったワルドがこんな顔をして 叫ぶように話すなんて夢にも思わなかった。 わたしは知らず知らずのうちに、ワルドから身を引いた。 「ルイズ、いつか言ったことを忘れたか!きみは始祖ブリミルに劣らぬ、優秀な メイジに成長するだろう!きみは気づいていないだけだ!その才能に!」 「ワルド、あなた……」 この人は、わたしの知っているワルドじゃない。何が彼を、こんな物言いをする 人物に変えたのだろう? ワルドの剣幕を見たウェールズ様が、間に入ってとりなそうとした。 「子爵……、きみはフラれたのだ。いさぎよく……」 が、ワルドはその手を撥ね除ける。 「黙っておれ!」 ウェールズ様はワルドの言葉に驚き、立ち尽くした。 ワルドは、わたしの手を握った。 「ルイズ!きみの才能が僕には必要なんだ!」 「わたしは、そんな才能のあるメイジじゃないわ」 「だから何度も言っている!自分で気づいていないだけなんだよルイズ!」 痛い。振りほどこうとしたが物凄い力で握られて振りほどくことができない。 「そんな結婚死んでもいやよ。あなた、わたしをちっとも愛してないじゃない。 わかったわ、あなたが愛しているのは、あなたがわたしにあるという、 在りもしない魔法の才能だけ。ひどいわ。そんな理由で結婚しようだなんて。 こんな侮辱はないわ!」 ウェールズ様がワルドの肩に手を置いて、引き離そうとした。 しかし、今度はワルドに突き飛ばされた。 突き飛ばされたウェールズ様の顔に赤みが走る。立ち上がると、杖をぬいた。 「うぬ、なんたる無礼!なんたる侮辱!子爵、今すぐにラ・ヴァリエール嬢から 手を離したまえ!さもなくば、我が魔法の刃がきみを切り裂くぞ!」 ワルドは二つ名の閃光のように素早く杖を引き抜き、呪文の詠唱を完成させた。 そのまま風のように身を翻らせ、ウェールズ様の胸を青白く光る杖で貫いた。 「ウェールズ、貴様ごとき無能なメイジが僕を切り裂くと?笑わせるな! 滅びの道しか残されておらぬ哀れな王族よ、そこで犬の様に這い蹲り、 己の無力さを呪うがいい」 「き、貴様……、レコンキスタか?」 ウェールズ様の口から、どっと鮮血が溢れる。 「よく気が付いたな、偉いぞウェールズ」 ワルドは冷たい感情のない声で言った。 「ウェールズ様!」 わたしはワルドの手を引き剥がしウェールズ様を抱え起こした。 「……ラ・ヴァリエール嬢……アンリエッタに……この指輪を」 ウェールズ様は震える指先で自分の指輪をわたしの手の平にそっと置いた。 「あと……アンリエッタに……」 言い終わらない内にウェールズ様の手がダラリと垂れた。 「しっかりしてください!ウェールズ様!」 ウェールズ様の体から生命の鼓動が消えた。 わたしは、たまらずワルドに怒鳴った。 「貴族派!あなた、アルビオンの貴族派だったのね!裏切り者ッ!」 「裏切り者か……ルイズ、視野を広げて見ると、裏切っているのは実は君達の 方かもしれないよ」 わたしの怒鳴り声にも、どこ吹く風のワルドがとんでもない事を言い出した。 「何言ってるの?」 「始祖ブリミルの悲願、聖地の奪還を疎かにし、ブリミルの恩恵である魔法の 力を貴族同士で領土を奪い合うためだけに使う事こそが、始祖ブリミルに 対する裏切りだとは思わないか?ルイズ」 「なら、その考えを陛下に言えばいいじゃない!」 「言ってどうする、ハルケギニア全土のメイジの意志を一つにまとめる事に 何年かかると思っている。いや、不可能といってもいい。そのために革命が 必要なのだよ」 「昔は、そんな風じゃなかったわ。何があなたを変えたの?ワルド!」 「月日と、数奇な運命のめぐり合わせだ。今ここで語る気にはならぬ 話せば長くなるからな」 もはや目の前の男は、わたしの知ってるワルドじゃない! 「助けて……助けてプロシュート!」 ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ザッ ピタリ プロシュートはわたしの隣に来ると手に持ってたグラスの氷水を わたしの頭にぶっかけた! 「冷たッ!なにすんのよ!」 「頭を冷やせルイズ。要するにワルドは敵だってワケだ。後はワルドを 倒し手紙を持って帰る。それだけだろ?」 「えらく簡単に言ってくれるわね。ワルドはスクエアのメイジなのよ」 「知ったことか、お前は自分の身を守る事だけを考えてろ」 いつの間にか出現したグレイトフル・デッドがワルドに向かって大きな手を 繰り出した。しかし、その大きな手はワルドの杖で防がれてしまった! 「見えているの!?」 わたしの疑問にワルドは余裕の態度で解説した。 「見えている訳ではない、風の動きを読んだのさ。土くれの情報『見えない力』 と言ったな。動きが速過ぎる為見えないと思っていたのだが、そのままの意味 で『見えない力』であったか」 今までプロシュートが圧倒的だったのは、他のメイジにはグレイトフル・デッドが 見えていなかったからだ。 「ど、どうするのよプロシュート」 しかし、プロシュートに全く焦った様子は無かった。 「慌てるなルイズ。俺は見えて当たり前のヤツ等と殺し合ってきたんだぜ。 見えて対等であって、決して不利じゃねえ!」 グレイトフル・デッドの拳をワルドは飛びながらかわした。 それから杖を振り、呪文を発した。プロシュートはグレイトフル・デッドで防ごうと するがウィンド・ブレイクは脇をすり抜け彼だけを襲う。プロシュートは剣を素早く 構え受け止めようとするが壁にぶち当たり、プロシュートは呻き声をあげる。 怪我した左腕が痛むのか、プロシュートの動きにいつものキレが感じられない。 「どうした?お前のお前の力を見せてみろ、偉大なる使い魔ガンダールヴ」 残忍な笑みを浮かべて、ワルドが嘯く。 そんなとき、デルフリンガーが叫んだ。 「思い出した!」 プロシュートも突然のデルフリンガーの言葉にとまどってる様だ。 「なんだよてめえ、こんなときに!」 「そうか……ガンダールヴか!」 「なんのことだ!」 「いやぁ、俺は昔、お前に握られてたぜ。ガンダールヴ。でも忘れてた。 なにせ、今から六千年も昔の話だ」 「寝言、言ってんじゃねえ!」 デルフリンガーに返答しながらプロシュートはワルドの魔法をかわしていく。 「嬉しいねえ!そうこなくっちゃいけねえ俺もこんな格好してる場合じゃねえ」 叫ぶなり、デルフリンガーの刀身が光り出す。 プロシュートは呆気に取られてデルフリンガーを見つめていた。 「デルフ?」 再びワルドはウィンド・ブレイクを唱えた。 光に気を取られていたプロシュートは避けずにデルフリンガーを構えた。 「無駄だ!剣では避けられないと、わかっただろうが!」 ワルドが叫んだ。が、しかし、プロシュートを吹き飛ばす風が、デルフリンガーの 刀身に吸い込まれていく。 そして……。 デルフリンガーは今まさに砥がれたかのように、光り輝いていた。 「デルフ?お前……」 「これが、ほんとの俺の姿さ!相棒!いやぁ、てんで忘れてた!そういや 飽き飽きしてたときに、テメエの体を変えたんだった!なにせ、面白いことは ありゃしねえし、つまらん連中ばっかりだったからな」 「早く言いやがれ!」 「しかたねえだろ。忘れてたんだから。でも安心しな相棒。ちゃちな魔法は 全部、俺が吸い込んでやるよ!この『ガンダールヴ』の左腕、 デルフリンガーさまがな!」 興味深そうに、ワルドはプロシュートの握った剣を見つめた。 「なるほど……。やはりただの剣ではなかったようだ。この私の『ライトニング・ クラウド』を軽減させたときに、気づくべきだったな」 それでも、ワルドは余裕の態度を失わない。 杖を構えると、薄く笑った。 「さて、ではこちらも本気を出そう。何故、風の魔法が最強と呼ばれるのか、 その所以を教育いたそう」 プロシュートは剣とスタンドで襲うが、ワルドは軽業師のように剣戟を かわしながら、呪文を唱える。 「ユビキタス・デル・ウィンデ……」 呪文が完成すると、ワルドの体はいきなり分身した。 四体の分身、本体と合わせて、五体のワルドがプロシュートを取り囲んだ。 「分身か……ギトーはコレを見せようとしてたのか」 「ただの『分身』ではない。風のユビキタス(偏在)……。風は偏在する。風の 吹くところ、何処となくさ迷い現れ、その距離は意思の力に比例する」 ワルド達は懐から真っ白な仮面を取り出すと、顔につけた。 あの、桟橋で襲ってきた仮面のメイジはワルドだったの! 「まるでスタンドだな。最強の所以は分かった……だとしたら、どうして『虚無』に 拘るんだ、『風』が最強なんだろ?」 プロシュートの問に、フッとワルドは自嘲的な笑いを浮かべた。 「確かに系統魔法で『風』は最強だ……だが視野を広げて見ると、認めたくは 無いがエルフの使う先住魔法は我らの力を遥かに凌駕する。その強力なエル フ共を打ち破る為にルイズの『虚無』が必要なのだよ!」 ワルドの目に以前、宿で見た妖しい光が灯る、ワルドの本当の目的が判った。 ワルドが在るという、わたしの虚無の力がエルフを倒す為に必要だったのね。 「自分じゃエルフを倒せない、だからルイズの力に頼ろうってのか。恥ずかしく 無いのかテメーはよぉ」 「目的のためには、手段を選んでおれぬのでね」 言い終わると、ワルドは呪文を唱え、杖を青白く光らせた。 『エア・ニードル』、さきほど、ウェールズ様の胸を貫いた呪文だ。 「杖自体が魔法の渦の中心だ。その剣で吸い込むことはできぬ!」 五体のワルドがプロシュートを襲う。 その攻撃をプロシュート自身とグレイト・フルデッドが防ぐが、五対二……はっきり 言って分が悪い。反撃できずに防戦一方だ。 ワルドは楽しそうに笑った。 「平民にしてはやるではないか。さあ見せてみろ、お前の力はこんなものでは ないのだろう?」 じりじりとワルド達はプロシュートににじり寄った。 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ 「もう、スデに『見せている!』、気づいてないのか?」 まさかっ!まさか……プロシュートは!…… 「なに!?こっ、これは……」 ワルドの仮面に隠されていない口元に深い皺が刻まれていた。 あの長い髪にも分かりづらいが白髪が見え隠れしている。 グレイトフル・デッドの無差別老化攻撃! わたしは慌てて自分の髪を手ですき、観察してみる。 艶のある桃色のブロンド……指先も皺が無かった。 顔は鏡がなかったので確認できなかったが、手触りでは違和感が無かった。 こいつら!早くも気づいていやがったんですよ!兄貴の『グレイトフル・デッド』は 体を冷やせば老化が遅れるっって事をよォーッ。 !!突然聞こえた男の声。だから、プロシュートはわたしに氷水をかけたのね。 わたしの体を冷やすために。 「こ、これはっ!?この疲労感は!」 ワルドの言葉に始めて焦りが出てきた。 「どうしたワルド、任務の疲れで肩コリでも出て来たか?」 プロシュートはデルフリンガーとグレイトフル・デッドでワルドに攻撃した。 ワルドにも先ほどの動きが見られなかった。 「うおおおおおおおぉ、そんな馬鹿な!神の左手ガンダールヴ、その『能力』は あらゆる武器を使いこなす事と超人的な運動能力の二つのはず……… この力は一体……!?」 「この力は俺自身のスタンド能力だ」 プロシュートがグレイトフル・デッドの拳をワルドに振るう。 「『スタンド』?先住魔法か!?」 「おいおいワルドさんよー、俺が何から何まで親切に教えると思うのか?」 「おのれ土くれ!なにか隠しているとは思ったが、この事だったとは!!」 フーケ……ワルドに老化現象は話さなかったのね。いや、思い出したくも 話したくもなかったのか。 このままだとプロシュート押し勝つだろう…… なんだか心のモヤモヤが晴れない、わたしは何をやっているんだろう。 フーケの時も、今の戦いもプロシュートに任せっきりにしている。 たしかに使い魔は主人の身を守る。だけど主人は何もしないって事じゃない。 わたしは、この任務で成長すると誓った。だけど今わたしは何もしていない…… これじゃ何も変わらないわ。 わたしは杖を掲げ呪文を詠唱する。 「なにやってる!ルイズ」 プロシュートの叱責が飛ぶが、わたしは止めない。 ファイアーボールを唱え杖を振る。一体のワルドが表面で爆発する。 ぼこん!と激しい音がして、そのワルドは消滅した。 「え?消えた?わたしの魔法で?」 残った四体のワルドが一斉にグルリとわたしの方を向いた。 こっ恐い……。 「ファイアーボールの一発で僕の偏在が消し飛ぶ訳が無い。君は土くれの ゴーレムの腕を吹き飛ばしたそうじゃないか、しかも再生するはずの腕を そのままにして」 ワルドの言葉に熱がこもる。 「追い詰められ、命を懸けると本当の力がわかる。なるほど、そこの使い魔の 言うとおりだ。まだ自分の系統に目覚めてもいないのに、この威力! 覚醒すればどれ程の力になるのか楽しみだ、実に楽しみだぞ僕のルイズ!」 ワルドが目を輝かせ、わたしに杖を向ける。 「逃げろ!」 プロシュートが叫ぶがワルドの風で、わたしは壁に叩き付けられた。 「「カ八ッ」」 わたしは衝撃でしばらく体が動かなかったがワルドは何もせず、ただプロ シュートの様子を眺めていた。 おもむろにワルドが口を開いた。 「今、僕の魔法が、かすりでもしたか?」 何を言ってるのワルド? プロシュートの方を見ると険しい表情で汗をダラダラとかいていた!? プロシュートが叫ぶ。 「逃げろッ!ルイズ!」 わたしには何が何やらさっぱり分からなかった。 「主人の危機を知らせる能力か?ルイズのダメージが使い魔に伝わったのか」 ワルドの攻撃の質が変わった!プロシュートだけを狙う攻撃から、わたしにも風 を当てようと杖をこちらに向けてきた。 ズドドドドドドド 「うおっ、うおぉおおおおお」 プロシュートはわたしを庇う様にワルドの前に立ちはだかる。 「プッ、プロシュート!!」 「オレにかまうなッ!逃げろッ!」 「え!!え!?」 「早くにげろーッ!」 わたしのダメージがプロシュートのダメージになるですって? 思い出した!!そういえば召喚した時にプロシュートが言っていた。 それを今の今まで忘れていたわ!何てこと、何てことなの。 まさか、こんな事になるなんて! 一体のワルドがエア・ハンマーを、わたしにぶつける。 「「カハッ」」 攻撃を受けていないプロシュートも息をもらす。 「隙だらけだぞガンダールヴ」 三対のワルドの杖がプロシュートを引き裂いた。 「プロシュート!!」 プロシュートが床に倒れる、その体はピクリとも動かない。 出血がみるみる内に床に広がっていく。 わたしは立派なメイジになるとか、認められたいとか……空回りして。 プロシュートの足を引っ張って、最低のマヌケだわ。 ワルドの顔から皺が消えた…… 余裕を取り戻したワルドが、にこやかな口元で声を高らかにあげた。 「さてルイズ、今一度問おう。僕と一緒に来てくれるかい?」 「絶対に嫌よ!」 YESと答えると思ってんの、この男は? 「さて、どうしたものか。かけがえのない『虚無』を殺してしまう訳にもいかぬ。 無理矢理に連れて帰っても協力を得られない……薬でも使うか?いや…… 魔法の使えぬ人形にしては意味が無い……そうか、その手があったか。」 ワルドは、ニタァと笑うと舐める様な視線をわたしに向けた。 「君に惚れ薬を使う」 「ワルド、あなた何を考えているの。惚れ薬の売買、所持、使用は重罪よ!」 「革命を考えている者に、その様な忠告は無意味だとは思わないのかい?」 「あなた最低ね!」 「最後に自分の考えで話せる言葉は、それでいいのかい僕のルイズ?」 いいわけないでしょ。なにが惚れ薬よ!冗談じゃないわ! 「フフフ、いいぞ『聖地』が見えてきた!ヤル気がムンムンと湧いてくるじゃ ないか!ええ、おい!」 ワルド、自分の世界に酔ってる? 四対のワルドがゆっくりと、わたしを囲もうと動き出す。 「フフ、すぐ済むよ」 にっこりと笑うワルドはもう、ただ気持ちが悪いとしか言い様がない。 「近づかないで!」 ファイアーボールを唱える。 しかし、ワルドにぶつからず、全く別の場所が爆発するだけだ。 続けてもう一度唱えるが、これも当たらずワルドの歩みは止まらない。 「威力は申し分ないがコントロールは、まだまだの様だな」 歩み寄って来るワルドの足が急に止まった。 「ば……ばかな!こ……この疲労感……ま……また始まったぞ!」 「終わってないぞ!!まさか……まさか!あいつ!」 ワルドが苦しんでる?でも……プロシュートはもう…… わたしはプロシュートに視線を向ける。 「グレイト……フル・デッド……」 プロシュートの血溜の中にグレイトフル・デッドが立っていた。 その表面が古い土壁の様にボロボロと崩れていく………… まるでプロシュートの傷を表わすかのように…… 「プロシュートォォォォォ」 「本当に……あなた……ううっ……そのとおりだったのね。 腕や脚の一本や二本、失おうとも、わたしを守ると言った事は!! プ……プロシュート、あんなボロボロの重症じゃあ………… も……もう……あなたは助からないッ! 息をひきとるのも時間の問題ね。 だのに、あなたは自分のグレイトフル・デッドを解除しない。 わかったわプロシュート!! あなたの覚悟が『言葉』でなく『心』で理解できたわ!」 ワルドがプロシュートに息の根を止めようと襲い掛かる。 「この死にぞこないが!」 そうはさせない!! 「ファイアーボール」 プロシュートに迫ったワルドが吹き飛んだ。 「むっ!!ルイズのコントロールが良くなった!?」 残った三対のワルドが、わたしを取り囲もうと動き出す。 わたしは急いでプロシュートを守るように立った。 「嬢ちゃん、俺を使え!」 足元から、デルフリンガーが声をあげる。 わたしは、言われるままデルフリンガーを両手で構える……重い。 杖と剣を纏めて持っているので、振るいにくい! 剣を構えたとたんにウィンドブレイクが迫ってきた。 だがそれはデルフリンガーによって吸収されていく。 「くっ、インテリジェンスソードか!直接ルイズを気絶させねばならぬようだな」 目の前のワルドが、わたしに杖を構える。 「ファイアーボール」 ワルドが音を立てて消し飛んだ。これも偏在か……だが、あと二体!! 消し飛んだワルドから、二体のワルドが間合いを取る。 「せ……正確すぎる、僕の動きが正確に読まれてしまっている。 しかも一撃で偏在を吹き飛ばされる『パワー』もすごい! 老化の使い魔さえ倒せば、もう僕の勝利かと思ってた…… だが甘くみていた、この戦いの中で本当にやっかいなのは 『老化させる能力』の使い魔の方ではなかった 真に恐ろしいのは……!!この『虚無』のルイズの方だった!」 今まで、外していたのが嘘のように、狙い通りに魔法が当たる。 不思議な感覚、これがリズムが生まれるってやつなの? 「栄光は…………おまえに……ある……ぞ………… ……やれ やるんだ…… ルイズ オレは…… おまえを 見守って…… いるぜ…… やれ…… 」 「ルイズ、君の『面がまえ』……今まで、こんな『目』をしているメイジではなかった まるで『十年』も修羅場を、くぐり抜けて来たような……スゴ味と…… 冷静さを感じる目だ……たったの数分で、こんなにも変わるものか…… 君に小細工は通用しない!!」 二体のワルドがわたしに突っ込んできた。 「ファイアーボール」 わたしは前を走るワルドに魔法をぶつけた。 ワルドが爆発し消し飛ぶが、後ろのワルドは構わずに突っ込んでくる。 偏在を盾にしたのか。これで残るのは本体のみ! 「もらったよ、僕のルイズ」 呪文が間に合わない!単純な力押しできたか!! ワルドが杖を構える。やっぱり、わたしじゃ勝てないというの? 憎憎しげにワルドを睨む。その後ろには、いつの間にかグレイトフル・デッドが その大きな腕を振り下ろしていた。 ワルドの左腕が飛んだ。 「なにー!?」 「グレイト……フル・デッド……」 激昂したワルドが杖を振り上げた。 「この使い魔がッ!!」 ありがとうプロシュート。このチャンス、無駄にはしないわ。 「隙だらけよ!ワルドッ」 プロシュートに一撃を加えた屈辱の台詞をそのまま言い返す。 「しまっ……」 「ファイアーボール」 「ぐはッ!!」 ワルドの表面で爆発が起こり、煤だらけで倒れた。 倒した……わたしが『スクエア』のワルドに勝った!!
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「何…コレ…?」 その日、トリステイン魔法学院において進級を賭けた使い魔召喚の儀式において少女… ルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエールは幾度かの失敗の後、ついに初成功ともいえる魔法で使い魔を召喚するに至った。 その際に彼女はこう求めた。 --この宇宙のどこかにいる神聖で強力な使い魔よ-- と… しかしどうだ…目の前にいるのは幻獣とも人とも言い難い形状。 いや、そもそも生物であるかどうかすらも怪しい物体であった。 大きさはおよそ4メイルほど…目や口、鼻や耳どころか手足すらないただの巨大な白い球体がそこに鎮座していたのである。 「おい、ゼロのルイズがワケのわからないもんを召喚したぞ!」 「本当だ!なんだよあれ、流石ゼロのルイズだな!」 「……ッ!!」 こんなはずではなかった…。 本当なら赤髪の同級生が呼び出した火蜥蜴よりも、青髪の同級生が呼び出した風流よりも強力な使い魔を召還し、周りを見返す筈だったのに…! 遠くから聞こえてくる野次を背に受けながらルイズは屈辱にぎりりと血が滲みそうになるほどの力で己の杖を握りしめた。 「ミ…ミス・ヴァリエール、早くコントラクト・サーヴァントを…。」 頭の薄い教師・コルベールがルイズに促すが、正直口も何もあったもんではないこの物体にどうやって契約させるべきかコルベール本人もわからずにいた。 …しかし次の瞬間、轟音が周囲を包み込む。 その轟音を放ったのはつい今使い魔(?)を召喚してみせたルイズ本人であった。 あろうことかルイズは召喚した物体に向けて何度も爆発を起こすしかない魔力を込めた杖を振り下ろしていたのである。 「ミス・ヴァリエール!一体何を!?」 「止めないでくださいミスタ・コルベール! これは何かの間違いなんです! 私ならもっと美しく強力な使い魔を呼び出せます!だから、だからこんなものは間違いなんです!!」 半ば錯乱したルイズは静止するコルベールの声など気にするでもなくソレに向かい爆発の失敗魔法をぶつけてゆく。 ……それが後に恐ろしい事態を引き起こすとも知らずに。 「はぁ…はぁ…」 ひととおりの精神力を使い尽くし、肩で息をするルイズ。 眼前の物体は爆発による粉塵に包まれ今や見る影もない。 いや、ゼロの名を持つこの少女は系統魔法に関する成功率は皆無にしても、失敗魔法における破壊力だけは軽く教室ひとつを吹き飛ばすほどのものである。 そんなものを連続で受けたのだ。 誰もが召喚されたばかりのソレは跡形もなく消し飛んでいると感じた。 ……しかし! --ドクン… もうもうと立ち上る砂塵の中、粉々に砕け散った筈のソレはついに恐るべき脈動を始めたのである。 それに最初に気付いたのはつい先程同じく使い魔召喚の儀式で風竜を呼び出した青髪の少女であった。 彼女の名はタバサ。本名シャルロット・エレーヌ・オルレアン。 大国ガリアの王族にして国の危険な汚れ仕事を請け負う北花壇騎士7号。 これまで彼女は幾度となく命懸けの危険な任務をこなし、その小さな体に百戦錬磨ともいえる危機管理能力を宿していた。 その彼女の第六感が今まさにこの場における危険性を電流の如く伝え、全身を駆け回っていた。 『アレは危険だ…! オーク鬼やエルフなんて生易しいもんじゃない!! 危険……キケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケン!!!!!!』 タバサは生まれて初めて経験するともいえるその圧倒的な気配に蛇に睨まれた蛙のように立ち尽くすしかなった。 「どうしたの、タバサ?」 突然かけられた声にタバサは、はっと我を取り戻し声のした方向を見る。 するとそこには頭ひとつ分は身長の高い赤髪の親友キュルケが心配そうに自分を見下ろしていた。 「…………逃げて。」 キュルケの瞳をまっすぐ見つめながら、蚊の泣くような声でタバサが言葉を紡ぐ。 「…え?」 何のことだ?とキュルケが訪ねようとしたその瞬間、普段寡黙なはずのタバサが喉も裂けんばかりの声を張り上げた。 「早く逃げて!!みんな、みんな死んでしまうッッ!!」 その言葉に周囲にいた誰もが『何を馬鹿なことを』という表情を浮かべる。 だがその僅か数分後、彼らは彼女の言葉の意味をその身を持って思い知らされることとなる…。 そして“滅び”が幕を開けた。 --グルルル… どこからか聴こえてきた不気味な音。 いや、音ではなくそれは声…。それも高位の獣が有する獰猛な唸り声であった。 獣であれば周りにはつい今しがた召喚されたばかりの使い魔たちがいる。 しかし今聴こえてきた声の質はまるで地獄の底から響くかのような音量と威圧感を孕んでいた。 「な…なんだ今の…?」 「さ、さぁ。でも確か音がした方って……」 生徒のひとりがゆっくりと指をさす。 そこは未だ砂塵が巻き上がるルイズが作った爆心地。 まさかそんな場所に大きな獣などいるわけがない。いるわけがないのだが…。 --ルル…グルルルルル… 「!?」 聴こえた、今度こそ確かに聴こえた。 誰も目配せをし、一斉に煙の向こうにいるであろう何かに目を凝らす。 彼らはタバサの必死の警告などすっかり忘れていた。 …それがいかに愚かなことであったかも知らずに。 その時、一陣の風がふわりと砂煙を吹いた。 それを合図にしたかのように徐々に濃さを失ってゆく砂塵。 その向こうでうっすらと視界に飛び込んできたものを見た誰もが、驚愕に目を見開いた。 「な…何なの…あれ…」 その中でも一番驚いていたのは他の誰でもないルイズだ。 そこにあったのは先程の白い球体などではなく長い棘を無数に生やし、5倍近くの大きさに成長した黒く巨大な物体であった。 もしかしてさっきのものは幻獣の卵か何かだったのだろうか? そんなことを思いながらルイズがそれに近付こうとした瞬間、突如として轟音とともに中庭の一角が吹き飛んだ。 「…え?」 ルイズにはそれが何であったかがすぐに理解できた。 それもそうだ、何もない空間を爆発できるのはゼロと蔑まれてきた自分の特技ともいえる失敗魔法だけなのだから。 「ルイズ!何すんだよ、危ないじゃないか!!」 「そうだ!もうちょっとで大怪我するとこだったんだぞ!」 周辺にいた生徒たちから罵声が飛ぶ。 「違うわよ!今のは私じゃない!私じゃないの!!」 「じゃあお前以外に誰があんな爆発起こせるっていうんだよ!?」 「そ…それは……でも、本当に違うんだってば!!」 ルイズが身の潔白を晴らそうと大声を張り上げたそのとき、再び巨大な爆発が発生した。 それも一発や二発ではない。 打ち上げ花火の如く巻き起こる無数の爆発は地面を、木々を、 更には厳重に固定化の魔法がかけられたはずの学院の外壁や校舎すら破壊し始めたのである。 突然の出来事に一瞬にして魔法学院は蜂の巣をつつくどころではない大騒ぎとなり、崩壊してゆく教室から逃げようと無数の学生たちが我先にと外へと駆け出してきた。 「くそっ、一体何が起きてるというのだ!!」 魔法で防御壁を作り、生徒たちを守りながらコルベールは呟く。 この学院の防護壁はスクウェアクラスのメイジでさえ破壊するのは難しいというのに目の前ではそれがいとも簡単に砕け散ってゆく。 だがコルベールは脳内で瞬時に状況を整理し、そしてあることに気付く。 (あの物体の周囲には爆発が起きていない!…つまり!!) 「みんな!伏せなさい!!」 防御を解除したコルベールは皆にそう指示し、詠唱を始める。 (出来ることなら、もうこの力を破壊に使いたくなかったが…やむを得ん!!) そして魔力を極限にまで高めたコルベールは、杖から高温を示す青色をした灼熱の炎を走らせた。 炎は大蛇のように黒い物体に絡みつくと、一瞬にしてそれを業火で覆い尽くす。 すると、あれほど激しかった爆発がぴたりと止んだではないか。 「…やったか。」 その様子にコルベールはふぅと息を吐く。 「おぉ!ミスタ・コルベールがなんとかしてくれたようだぞ!!」 「すごい。見直しましたよコルベール先生!!」 学院の危機を収拾してみせたコルベールに生徒や他の教師たちが歓声を上げながら続々と集まってくる。 「はは、なんとか上手くいったようですな。 しかしミス・ヴァリエール、申し訳ありません。せっかく召喚した貴女の使い魔を殺してしまいました。」 「い…いいんです!元はといえば召還した私が悪いんですからどうか頭をお上げになってください。」 自分の召喚した使い魔が引き起こした事態にも関わらず それを鎮めてくれた恩人にすまないと頭を下げられ、ルイズは慌ててフォローを入れる。 「でも、あれは一体何だったんでしょうか?いえ、もう終わったことですが…。」 何とか話題を逸らすためそう口にしたルイズ。 しかしそのすぐ近く、青い髪の少女だけが髪と同じように顔色を真っ青にしながらぽつりと呟いた。 「………まだ。」 「…え?タバサ。何か言っ……」 ルイズがそう聞いた瞬間-- 『グルル……ギィイイィィイィジャァアアァアアァアアアアアアァアァアッッッッ!!!!』 燃え盛る火炎を払いのけた悪魔が天を揺るがすばかりの雄叫びを上げながら姿を現した。 その姿は先程と違い、鋭い3本の爪を生やした2つの腕を持ち 血のように真っ赤な双眼を爛々と光らせ、無数の牙の覗く口からは粘液の糸を引かせている。 一見すると蜘蛛のようにも見えるが、その姿は蜘蛛と呼ぶにはあまりに禍々しく、邪悪であった。 「うわぁあああああっ!!」 突然現れた怪物に各所から一斉に悲鳴が上がる。 真っ先に逃げ出す者が多数であったが、中には少数だが震える手で杖を向ける者もあった。 そして怪物に向かい攻撃呪文の詠唱に入ったそのとき、怪物は2本の腕で地を這いながら凄まじい勢いで前進を始めたのだ。 なんという醜悪さ。 なんという威圧感。 そのあまりにもおぞましい光景に大半の温室育ちの貴族たちはひっとスペルを紡ぐことを止めてしまう。 そこへ向かい怪物はひと鳴きすると全身の無数の棘から一斉に青い灼熱の火炎を迸らせた。 あまりにも一瞬の出来事に、最前列にいた貴族たちは悲鳴を上げる間もなくその業火に焼かれ崩れ落ちてゆく。 「ば、馬鹿な…!あの炎は…私の…」 それを見ていたコルベールは驚愕した。 それもそうだ、その炎は今しがた自分が目の前の怪物に向けて放った炎と同様のものだったのだから。 「うぉおおおおおおおおお!!」 刹那、炎を放ち続ける怪物に向かい四方から暴風、雷、氷の槍、火球に濁流、大地の礫が放たれた。 それを皮切りにして更に他の生徒や教師たちも、ありとあらゆる属性の攻撃魔法を放ち始める。 この魔法学院にいる数百にも及ぶメイジたちからの一斉攻撃。 これならばいかに強力な幻獣といえど塵ひとつ残さず消滅できるであろう。 誰もがそう思った。 …そう思っていた。 「はぁ、はぁ…どうだ化け物め。」 肩で息をしながら呟いたのは学院屈指の風の使い手、疾風のギトー。 その高慢な態度から生徒たちからの人気は皆無に等しいが、実力は学院でも数少ないスクウェアクラスの教師である。 彼は風の上級魔法『偏在』で分身を作り出し、その全員でもってドラゴンすら一撃で落とすといわれる強力な攻撃魔法、『ライトニング・クラウド』を怪物の頭上から無数に放っていた。 普通ならばそれだけでどんな相手でも即死は免れないはずである。 それに加えてあれだけの量の魔法を叩きこまれたのだ。まず生存は有り得ないであろう。 ギトーは偏在を解除し、あの怪物の死を確認するべく巻き上がる砂塵を風魔法で吹き飛ばそうとした。 だがそのとき、砂塵の向こうから一条の閃光が走る。 それがギトーがこの世で見た最後の光景であった。 「……え?」 多くの者が目の前の光景に間抜けな言葉を漏らす。 それもそうだ。 何故、何も残っているはずのない場所から 閃光が走る? 何故、一瞬でギトーが黒こげになっている? そしてその疑問は最悪の形で彼らに答えを示した…。 『ジィィィィイイイイャァアアアアアアアアアアッッッ!!!!!』 巻き上がる煙を払いのけた怪物が悪魔の叫びを上げながら再びその姿を現したのである。 なんとその姿は以前より更には多くの棘を全身に生やし、体格はこれまでの倍近くにまで成長しているではないか。 その姿に誰もが悲鳴を上げ、杖すら放り出して逃げ始める。 腰が抜けて無様に這い蹲る者・恐怖の余り失禁する者・全てを諦め呆然と座り込む者。 そこにはもう貴族の誇りなどというものは存在していなかった。 それでも悪魔は容赦なく逃げ惑うアリ達に向け、全身の棘から破壊と絶望を振り撒き始めたのである。 「嘘…だろ…」 生徒のひとりは眼前に広がる惨劇を目にした直後、飛んできた巨大な岩石の槍に体を貫かれた。 ほんの刹那…残った意識の中で彼はこう思いながら息絶えた。 (……何であいつは僕たちの魔法を使えるんだよ?) そう、今怪物が放っているもの…それは先程自らが受けたはずの4系統からなる様々な攻撃魔法なのである。 それも、杖も詠唱もなく…全身から同時に火炎・突風・濁流・岩石・雷に氷の槍まで放っている。 おまけにその威力は一発一発がスクゥエアのそれを遥かに上回ると言ってよいほどの破壊力があり もう誰にもこの怪物を止めることなどできなかった…。 そして召喚から僅か30分弱。 阿鼻叫喚の地獄絵図とともに、かつてトリステイン魔法学院があった場所はたった一匹の怪物により数百の死者を出しながら瓦礫の山と化した。 怪物は破壊の限りを尽くした後、その歩みを首都であるトリスタニアに向け前進を開始。 後に大陸全土を震撼させることとなる。 ………… …… … 遥か遠い世界、ハルケギニアとは別の宇宙に存在する青い惑星ではこのような記録がある。 --決してその者に触れてはならない。 さすれば世界は滅びへと向かうであろう。 その者を目覚めさせてはならない。 それは開けてはならないパンドラの箱なのだから。 力を以てその者を倒すことは不可能。 力は同じく力によって滅ぼされるであろう。 その者、完全にして究極の生命。 その者、破壊の化身にして他者の愚かさを映す鏡。 その者の名は、『完全生命体 イフ』--
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蒼いドールと翠のドールが深い闇へと落ちていく。 その先には、突然現れた光る鏡のようなもの。 鏡の中の鏡。それに蒼いドールは飲み込まれていく。 ゼロの使い魔~緑と蒼の使い魔~ [第一章 ゼロの使い魔] 第一話 召喚 その日、ルイズは召喚の儀を行い、毎度お馴染みの爆発が起こった。 爆発したのでルイズは失敗したのだと思い即座にもう一度行う。他の誰にも気付かれないように素早くもう一度。そしてもう一度爆発する。 こうなると周りの生徒達は、ルイズが失敗したと確信し、誰だってそうするようにからかっていた。 …しかし、煙の中には人影みたいなものがあったのだ。 ルイズは喜んで煙の中に駆け込んでいった。 「やった!成功したわ!」 生徒達は各々ざわめきだす。 「ば、馬鹿なッ!ルイズが成功した。そんなはずはッ!」「落ち着け。メイジはうろたえなィィィィ!!」「素数を数えて落ち着くんだ。」 ルイズが魔法を成功させるということは、普段失敗を目の当たりにしている生徒達にとって、とてつもない衝撃なのである。 そんな生徒達を無視し、ルイズは己が召喚したものに近づき呪文を唱える。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ……」 と。 そして接吻をしようとした。 だが、よく見ると二体いるのだ。もちろん召喚されたものが。 一方、召喚された蒼いドール、ショートカットでいやらしい帽子を被っているボーイッシュ、つまるところは蒼星石である…は、召喚された際に通常の状態に戻っていたのである。 ローザミスティカは失っているのに動いている。ルイズに召喚されるにあたっての効能であろうか。まさにファンタジーやメルヘンの世界なのだ。 そして煙の中で、自分が抱きついている緑色がぼんやりと見える。 此処が異世界であると気付いてはいないのだが、緑色、翠星石が一緒であると言うことに、正常に戻った蒼星石はギュッと強く抱きなおす。 (なんだか硬いなぁ…。) そう思い、よく見てみると大きい。男性一人分の大きさだ。しかも何だか飛蝗みたいだ。 蒼星石は驚いて離れようとするが、石に躓いて尻餅をついてしまう。 「あの…抱きついたりして、ごめんなさい。」 少しばかり恥じながら、申し訳なさそうに蒼星石は謝った。 ルイズはその光景を見ていた。 口付けをしようとしたら、二体いたのだ。暫し戸惑っていると蒼色の方が飛びのいて、尻餅をつき、謝っている。 蒼いほうはどう見ても小さい子である。しかし、緑色のほうは何だか強そうな亜人だ。 ルイズは心の中でガッツポーズをした。 その頃には煙も晴れて、無事成功したかと心配して、コルベールがやってきた。 コルベールは二体召喚されたという前例のない事態に驚き、とりあえず両方とも契約させるべきかな…と思い、ルイズに契約を二体ともするように促した。 言われたことに従ってルイズは契約を済ませようとする。 まずは練習がてらに蒼い小さい方に口付けをした。蒼い方は何だか戸惑っているようだった。 (こっちはあんまり役にたたなそうね。身の回りの世話でもやってもらおうかしら。) 「あぁぁぁぁ…あうぅぅ…うぅぅ…」 蒼いほうがルーンを刻まれるにあたって起こる熱に、悲鳴をあげていた。勿論我慢しようと心がけているのだが。 次は緑色の亜人だ。蒼星石を相手にせず、ルイズは緑色に近づく。その緑色と契約するのが楽しみで、蒼星石はアウトオブ眼中である。 ここで少しばかり時間は前後する。 緑色の亜人、ご存知我らの矢車の兄貴は、影山の亡骸と供に白夜の世界に向かおうとしていた。 その途中、目の前に謎の鏡のようなものが現れる。 ワームの類かと思い、矢車はゼクターを装着し、変身する。 …CHANGE KICK HOPPER!! 電子音が響く。白夜の世界に向かうのを邪魔するヤツは倒す。 その勢いで蹴りを繰り出すキックホッパー。しかし輝きに飲み込まれてしまった。 そして辿りついたこの世界。気付いたら小さい子に抱きつかれてて、そんでもって謝られる。 次にピンク髪の女の子が小さい子に急にキスをするという光景に。そこで害はないと思ったのか、変身を解く。 驚いたのはルイズだった。さっきまで緑色の亜人だったのが、黒いロングコートを着たただの平民に変わってしまったからだ。 暫し考え、きっと風の先住魔法か何かだろうと思い、ルイズは更に喜び、最高にハイってヤツになる。 そうしてその流れに乗ったまま接吻をする。ルイズはルンルンである。 (さっきは子供、今度は亜人だからファースト・キスにはカウントされないわ!) ズキュゥゥゥゥゥゥン!! (遂にやったわよ!本当に凄い当たりくじ、これで少しは見返してやれるわ。) 当然ルーンが刻まれることによって起きる熱に苦しむ。 「それはルーンが刻まれているだけよ。すぐに終わるわ。」 蒼星石のときにはかけなかった言葉をかける。 痛みが納まり、ルイズのほうを一体何なんだと見る矢車。それに対してなんともないという風に見返して尋ねる。 「あなたの名前は?」 矢車は流れがよくわからなく、面倒だったがとりあえず答えておいた。これぞルーンの洗脳効果である! 「………矢車、矢車想だ。…どうせ俺なんて……。」 to be continued…
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No.013 フリードニアの使い魔 使いやすい2マナ再行動1マナ魔道師の内の一枚。 主にアルージアの修道女は一致Fでの回避、女エルフの狂魔道師とは堅牢さで差別化されている。 F維持力に欠けるクリーチャーの多い火であることも重要で 脇さえ押さえれば狂魔道師と同じ堅さを発揮できる。 もちろん機巧偏重型のデッキに対する強撃も強力で 相手にとってみれば放置できないが一撃で落とせない嫌味なクリーチャーとなりうる。 コメント 名前
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前ページ日本一の使い魔 「ダーリーン。」 ルイズにとって忌々しい声が聞こえる。早川に飛びつくキュルケ。キレるルイズ。我関せずで読書のタバサ。 「なによツェルプストー。何してるのアンタ?」 「あらヴァリエール、いたの?私はダーリンに会いたくて来たの」 早川は苦笑いを浮かべキュルケを見ると、背中に見事な見た目の剣を背負っている。 女性が持つにはかなり不釣合いな為、早川は尋ねた。 「この剣はどうしたんだい?」 「これは何処かのケチな貴族が、ケンにみすぼらしい剣を贈ったって言うじゃない? 私はケンにはこの剣がふさわしいって思ったから。この剣は差し上げますわ」 ケンは贈り物を受け取り礼を言うと、これから起こる事を考えそっと移動する。 「だ、誰がケチな貴族でっすって?何で人の使い魔に許可無く渡してるの?」 早川は両手を広げ肩をすくめる。 すると、タバサが早川の隣にやって来て何かを渡す。 「なんだい?くれるってのかい?」 コクリと頷き呟く。 「シルフィードがお世話になった」 二人の様子にルイズとキュルケは言い争う事を忘れる。 「ほぉー、きれいなペンダントだ。ありがとう。」 タバサの手をとり、軽くしゃがみ手の甲にキスをする早川。頬を染めるタバサ。 「「えぇぇぇーっ」」 「そろそろ帰りましょうかツェルプストー」 「そ、そうねヴァリエール」 二組はそれぞれ学院に帰るのだが、キュルケは思った。 「(私にはキスしなかったはね。ケンはタバサみたいなのが好みなのかしら、でも私がダーリンを)」 そしてルイズは考えるのをやめた。 そしてデルフリンガーは鞘に入れられたまま忘れられていた。 学院についた早川は二本の剣を交互に握り、自分の体の変調を確かめるように振るっている。 「なぁ相棒よ」 「なんだデルフリンガー」 「俺の事はデルフって呼んでくれ、それよりもよ相棒だって気が付いてるんだろ?その剣がナマクラだって」 「まぁな、でも言ったらレディが可哀想だろ?」 「相棒はキザだねー」 遠くから徐々に争う声が聞こえ肩をすくめる。 「お客さんだ」 「大変だな相棒」 ルイズとキュルケの二人が杖を相手に向け、叫ぶ。タバサは早川の横で興味無さそうに立っている。 「「決闘よ!」」 なぜこうなったかと言えば、早川には二本も剣は要らない。どちらの剣を使うのが相応しいのか 言い争い、それが拗れて決闘騒ぎになったのだ。 キュルケは『ファイヤーボール』を唱え、 ルイズは火球をかわし、『ファイヤーボール』を唱えるが火球は現れず見当違いの場所に爆発が起こる。 自分のファイヤーボールが避けられた事にムキになったキュルケは、もう一度火球をルイズ目掛け撃つ。 キュルケは後悔していた。このままだと自分がムキになって放ったファイヤーボールがルイズの顔に命中してしまう。 しかし、何かが目にも留まらぬ速さで火球を掻き消した。 早川はこのままではと思い、煌びやかな大剣を投げる。左手のルーンが光り、 想像していた勢いを上回る速さで飛んでいく。 投げた大剣が火球を掻き消し勢い衰える事なく学院の壁に亀裂を作り大剣が砕ける。 その様子に四人は 「(やりすぎたか、それにしてもこの力)」 「(ダーリン凄いわ!)」 「(あそこは宝物庫……)」 「(えぇー100%変身いらないじゃん)」 その様子を陰から見ていたロングビルは驚愕した。 「なんなんだい、あの使い魔。まぁ、せっかくのチャンスだし、利用させて貰うよ。出ておいでゴーレム!」 ロングビルが杖を振ると巨大な土人形が現れ、宝物庫の壁を殴る。 「な、何なのよアレ?」 「私に聞かれたって知る訳ないでしょ?タバサは何か知ってる?」 「おそらく『土くれのフーケ』のゴーレム。そして狙いは宝物庫」 「止めなくちゃ!」 ルイズが杖を振るうと、壁を殴るゴーレムの右腕に爆発が起きる。それに続けとばかりに、 タバサが『ウィンディ・アイシクル』、キュルケは『フレイム・ボール』を唱える。 しかしゴーレムの一部を吹き飛ばすが、すぐに修復してしまう。 邪魔者に気付いたゴーレムは三人を踏み潰そうと足を上げる。 タバサとキュルケは状況を冷静に判断し、退却という選択をする。 しかし、手柄を立てようと躍起になっていたルイズは判断を誤り退却が遅れた。 「ルイズのバカ!何やってんの!」 無常にもゴーレムは虫けらを踏み潰すかのように踏みつける。 顔をしかめるキュルケとタバサ。しかし、この男が黙って見ているはずが無い! 「チッチッチ、無茶はいけませんぜ。」 ルイズが目を開けると、ゴーレムが踏み潰した場所から数歩離れた所で早川に抱きかかえられている。 早川がデルフリンガーを片手に構え、テンガロンハットのつばを上げ 「デルフ、デビュー戦だ」 「おうよ!相棒!」 フーケは早川の処分が先決と考え、早川を始末するようゴーレムに命じる。 振り下ろされる巨大な拳、踏みつける足。なぎ払う掌。 その全てを後方宙返り、バックステップ、前方宙返りなどと華麗にかわしながら切りつける。 しかし、剣で切りつけただけでは再生するゴーレムには焼け石に水であった。 その様子を後方で見ていたルイズは、前に出てゴーレムに向かって杖を振る。 丁度、ゴーレムが早川を払おうと振り回した腕がルイズのいる場所に、ルイズの目線に土の塊が迫ってくる。 土の塊が徐々に大きくなり、もうダメだと目をつぶると横から衝撃を感じる。ふと目を開けると早川が放物線を 描き飛んでいく様が見えた、地面に叩きつけられ転がっていく自分の使い魔。 とっさに早川の元へと走る。キュルケもそれに続く。 「「ケーーーーン!」」 邪魔者がいなくなったゴーレムは壁を数発殴り穴を空ける。ぽっかりと空いた穴に黒いフードを被った 人物が入り、何かを抱えてゴーレムの肩に乗る。三人への攻撃を警戒していたタバサは、シルフィードを呼び ゴーレムを追いかける。しかしゴーレムが学院の壁を越えるとゴーレムはただの土くれに姿を変えた。 ゴーレムの主は森の木々に隠れ姿を消していた。 ─────ボツネタ───── ゴーレムに吹き飛ばされ、意識が飛びながらも立ち上がる早川。 敵を正面に保ったまま、両手を右側へ水平にピンと伸ばす。 そして、伸ばした腕を左斜め上までゆっくりと回し、静止させる。 そこから右腕のみを引き拳を握り元の場所へと突き出しなだら左腕を腰に構える。 高らかに叫ぶ 「変ー身!V3ァーーーー!」 ルイズ「絶対ダメーーーー!あんた(作者)!絶対叩かれるわよ!反応良かったら 使って見ようかなとか思ってるんでしょ!ダメだからね!!」 前ページ日本一の使い魔
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前ページ次ページ滅殺の使い魔 ――森の一角。 「ティファ、薪割りが終わったが」 金髪の壮齢の男が少女に話しかける。 赤いタキシードを着こなす所にダンディズムが感じられる。 「あ、ありがとうルガールさん。 もういいですよ、休んでいて下さい」 ティファと呼ばれた少女は、料理をしながらルガールに言う。 「そういうわけにもいかんだろう、君のような少女が一人で働いていると言うのに」 ルガールは困り顔で肩を竦める。 そんなルガールに、ティファはクスッと笑うと、遊んでいる子供達を見る。 「なら、子供達の相手をしていて下さい」 「ふむ、わかったよ」 ルガールはそう言うと、子供達の中へ向かった。 「あー! ルガールおじちゃん!」 「ああ、何をしているのかな? 私も混ぜてもらいたいんだが」 そういって子供達に混ざっていく。 ルガールは考える。 何故、自分はこんなにも穏やかに日々を送っている? いや、それ以前に、何故自分は生きているのか? あの時、自分は死んだ……、いや『オロチの力』に体を乗っ取られた筈だ。 豪鬼との死闘の末、その殺意の波動を奪い、しかし、その力を使いこなせずに……。 その他にも疑問はあった。 果たして自分は、こんなにも穏やかな性格だっただろうか? 否。 断じて否だ。 『悪』こそが自分の全てだ。 では、なんの影響だ? オロチ? 否。 殺意の波動? これも違うだろう。 二つの力の反応? 否定は出来ないが、可能性は薄い。 ではやはり……。 このルーンの仕業か。 朝―― 朝早くに豪鬼は目覚める。 ルイズを起こす為では無い。 修行の為だ。 まだ日は昇りきっては居ない。 修行しよう、と考えた後に豪鬼は気付いた。 道知らねぇ。 つまり、洗濯にはかなりの時間がかかる。 道に迷うことも視野に入れなければならないのではないか。 結局、豪鬼は今日のところは何もしないことにした。 と、言うわけで、もう少しボーッとしていた訳だが。 しばらくして、日がかなり昇ってきたので、豪鬼はルイズを起こすことにした。 「ルイズ、朝だ」 ……反応を示さない。 「ルイズ、朝だぞ」 ……反応を示さない。 ルイズがあまりに起きないので、豪鬼は毛布を引っぺがした。 「な、何!? 何事!?」 「朝だ、ルイズ」 「はえ? そ、そう……。 って、誰よあんた!」 「豪鬼」 「あ、そうだ、昨日召喚したんだ」 ルイズは起き上がり、部屋を見渡す。 豪鬼は何も用意していないようだ。 そして豪鬼に命じた。 「服」 そう言うと、いつの間にか椅子にかかっていた服が豪鬼の手に握られていた。 「ま、魔法!?」 「いや、普通に取ってきただけだ」 いつもならかなり気にするところだが、そこは寝起きの頭である。 「下着」 「どこだ」 「そこのクローゼットの一番下」 場所を言うと、またいつの間にか豪鬼の手に 下着が握られていた。 豪鬼には基本恥じらいなど無い。 「服」 「渡したぞ」 「着せて」 豪鬼は、なるべく力加減を覚えるように着せた。 問題は無かった。 ルイズとともに部屋を出る。 すると、すでに一人の女子生徒が廊下に出ていた。 豊満な胸に、それを強調するような服の着方をしている。 普通の男であれば、否応無しに胸に目が行く所だが、そこは豪鬼である。 巨乳の女は他に見たこともあるし、全員鍛えぬいた体をしていた。 そんな訳で、豪鬼には目の前の少女の胸はただ肥え太った不摂生の賜物にしか見えなかった 彼女はルイズににやりと笑いかける。 「おはよう、ルイズ」 それに対して、ルイズはあからさまに嫌そうな表情になった。 「おはよう、キュルケ」 「あなたの使い魔って、それ?」 「そうよ」 「あっはっは! ほんとに人間なのね! すごいじゃない!」 豪鬼は密かに、それには感謝している、と心の中で呟いた。 「『サモン・サーヴァント』で、平民を呼んじゃうなんて、さすがはゼロのルイズね」 ルイズは頬を染めながら、キュルケを睨む。 「五月蝿いわね」 「あたしも昨日、使い魔を召喚したのよ。 勿論、一発で成功したわ」 「知ってるわよ」 「どうせ使い魔にするなら、こういうのが良いわよね~。 フレイムー」 キュルケが勝ち誇ったような声で使い魔の名前を呼ぶ。 すると、キュルケの部屋から虎ほどの大きさの赤いトカゲが現れた。 辺りを熱気が包み込む。 ルイズは息苦しそうな表情になる。 豪鬼は動じない。 「あら? 怖がらないの? 度胸あるのね」 豪鬼がそのトカゲを見る。 よく見ると、その尻尾には炎がついているではないか。 豪鬼は少し驚き、兄の弟子の金髪を思い出した。 更に、学生服の男も思い出した。 インド人も思い出した。 「これってサラマンダー?」 ルイズはかなり悔しそうだ。 「そうよー。 火トカゲよー。 見て? この尻尾。 ここまで鮮やかで大きい炎の尻尾は、間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ? ブランド物よー。 好事家に見せたら値段なんてつかないわよ? あたしの二つ名は『微熱』。 相応しいと思わない?」 未だに二人は何やら競っているが、それを尻目に豪鬼はフレイムを見つめていた。 こいつと死合いたい。 かなり好奇心が刺激されていた。 そうして豪鬼が必死で自分と死合っていると、キュルケが豪鬼に話しかけてきた。 「あなた、お名前は?」 「……豪鬼」 「ゴウキ? 変な名前」 「……ふん」 すると、キュルケは豪鬼の体をまじまじと見つめながら言った。 「うーん、でも、かなりいい体してるじゃない。 逞しい殿方は好きよ?」 キュルケは豪鬼を誘惑した。 豪鬼はそれでも揺るがなかった。 「それじゃあ、お先に失礼」 キュルケは、フレイムと共に去っていった。 キュルケが居なくなると、ルイズは悔しそうに拳を握り締め、呟いた。 「くやしー! 何であんなのがサラマンダーを召喚できて、わたしはこんななのよ! メイジの実力をはかるには使い魔を見ろって言われてるぐらいなのに~!」 そう言いながら拳を豪鬼に向かって振った。 勿論そんなものが豪鬼に当たるはずも無く。 「かわすな!」 「当てて見せい」 そんなやり取りをしながら、豪鬼はふと思った。 そういえば、まだルイズの魔法を見たことが無い。 あの火トカゲと『微熱』という二つ名を見る限り、あのキュルケとか言う女は火を使うのだろう。 モグラを召喚している小僧も居たが、あれは土か? では、ルイズは? まさか『殺意』などと言う属性は無いだろうが、では何だ? 自分が使う属性に似たものは……。 『灼熱波動拳』しかない。 とすると『火』か? では『ゼロ』とはなんだ? まさか、あの光の剣を使う者という意味ではあるまい。 少し気になるが、まあ良い。 力を振りかざすのは弱者のみ。 あのキュルケとか言うのは弱者だろう。 「ほら、わたし達も行くわよ」 落ち着いたらしいルイズは、すでに前方を歩いていた。 「うむ」 豪鬼達が食堂に着くと、既に多くの生徒達が集まっていた。 ルイズによると、朝昼晩全てここで食事を取るらしい。 全てのテーブルには、豪華な飾りつけがなされていた。 「愚かな……」 無駄に権力を振りかざしているのがありありと分かり、豪鬼は少し失望していた。 これが人の上に立つ者として正しいとでも言うつもりか。 見たところ、相応しそうな人物など数人ではないか。 そんな豪鬼の態度を見て、ルイズは何を勘違いしたのか、得意げに豪鬼に説明した。 「トリステイン魔法学院で教えるのは、魔法だけではないのよ」 「……ほう」 「メイジはほぼ全員がメイジなの。 『貴族は魔法をもってしてその精神となす』のモットーのもと、貴族足るべき教育を、存分に受けるのよ。 だから食堂も、貴族の食卓に相応しいものでなければならないのよ」 豪鬼は、心の中で舌打ちをした。 貴族足るべき教育? これがか? これでは傲慢な人間が増え、格差が広まる一方ではないか。 相応しい食卓? 下らん。 何故こんな贅沢の限りを尽くすものなのだ? 貴様はこの食事に相応しい人間か? 否、断じて否。 色々と腹は立ったものの、腐った人間などそれこそはいて捨てる程見てきた(強者ではあったが)ため、それくらいで済んだ。 「わかった? ほんとならあんたみたいな平民は『アルヴィーズの食堂』には一生は入れないのよ。 感謝してよね」 「……ふん」 「もっと感謝しなさいよ! ……まあいいわ、いいから椅子をひいてちょうだい。 気が利かないわね」 「ああ」 虫唾が走る思いで椅子を引く。 「じゃあ、あんたはそれね」 ルイズが床を指差す。 「特別に、ここで食べさせてあげる。 床だけどね」 皿を見てみる。パンが二切れ、肉が申し訳程度に浮かんだスープが一皿。 格闘家は体が資本である。 故に豪鬼は、断食したことなど無いし、一日として食事を抜いたことは無い。 瞑想や修行で知らないうちに食事を忘れていたことならあるが。 朝はこの程度で十分だろう。 そうおもった豪鬼は、少々野菜が少ないことを不服に思いながら平らげる。 パンを食べ終え、スープに手を付けようとした時、ルイズが鳥の皮を入れてきた。 「ほら、肉は癖になるからだめよ」 「要らん」 豪鬼の言葉を無視し、ルイズは自分の食事に戻った。 鳥皮などという油の固まりは、豪鬼にとって毒でしかない。 入れられてしまったものは仕方が無いと、豪鬼はスープを丸々残した。 豪鬼とルイズは教室の掃除をしていた。 ルイズが魔法を失敗し、教室を滅茶苦茶にしたからである。 事の成り行きはこうだ。 豪鬼とルイズが教室に入ると、一斉に生徒達が二人の方を向き、クスクスと笑った。 キュルケも男子達の中に居た。 多くの男をはべらせている様だ。 下衆が。 豪鬼はそう思ったが、やはり下衆の相手をする気はなく、ルイズの隣に座った。 教室内を見回すと、珍妙不可思議な生物がたくさんいた。 見回す中でルイズに視線を向けると、ルイズが不機嫌そうに豪鬼を見ていた。 豪鬼はそれに構わずに再び教室を見回し始める。 ルイズももう諦めたようで、何も言ってはこなかった。 授業中、ルイズが口論を始めたりはしたが、豪鬼は構わず、時間を瞑想に使っていた。 しかし、興味があるものが耳に入ると、それをやめ、授業に耳を傾けた。 「では、この練金を……、ミス・ヴァリエール、やって御覧なさい」 「え? わたし?」 「先生! やめた方がいいと思います! 危険です!」 キュルケが立ち上がり、叫ぶ。 教室の中の殆どの生徒が頷く。 「やります」 それに反応したのか、ルイズは何か決意したように言う。 つかつかと黒板の前に向かっていくルイズ。 すると、殆どのの生徒が机の中に隠れる。 その中でも、キュルケだけは隠れずにルイズを見つめていた。 さっきまで必死にルイズを止めていたのに、いざとなるとちゃんと向き合うとは、実は少しはやれるのではないか、と豪鬼は思った。 少なくとも、このときキュルケは豪鬼の中での『下衆その一』という位置づけからは脱していた。 ルイズが呪文を唱え、杖を振り下ろす。 刹那、爆発。 目の前の机を吹き飛ばし、破片を飛ばす。 豪鬼はそれに反応した。 丁度いい。 「ぬぅん!」 飛び散る破片や机を全て叩き落す。 「あ……」 キュルケだけがそれを目撃した。 豪鬼のお陰で大きな被害は出なかったものの、生徒達はルイズを睨む。 ルイズは全く悪びれる様子も無く、こう言った。 「ちょっと失敗しちゃったみたいね」 「ちょっとじゃないだろ!ゼロのルイズ!」 「いつも成功の確率、ゼロじゃないか!」 豪鬼は、ルイズが何故『ゼロ』と呼ばれているのか理解した。 今日の「滅殺!」必殺技講座 灼熱波動拳 波動拳に炎を付加(?)し、放つ技。 この波動拳は、多段ヒットする上、威力も高いものとなっている。 その代わり、発射前に大きな隙がある為、使いどころが難しい技となっている。 コマンド「(右向きの時)逆半回転+パンチボタン」 「んんん、ぬぅん!」 「どうやって火付けてるのよ」 「知らん」 「はぁ!?」 前ページ次ページ滅殺の使い魔
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前ページ次ページ毒の爪の使い魔 暖かな陽光が照らす朝。 朝食をとる為に食堂へと向かい、朝日が差し込む廊下を歩く影が二つ。ルイズとその使い魔=ジャンガだ。 「はぁ…」 「…何度目だよ、そのため息は?」 ルイズのため息にジャンガは顔をしかめる。 「仕方ないでしょ……他の皆は使い魔とのコミュニケーションもとっくに終えて、共に過ごしているっていうのに、 私は召喚から”4日”も経った今日、初めてアンタを連れているのよ?」 ”4日”の部分を強調し、ルイズは振り返らずに答える。彼女が憂鬱なのもまぁ無理も無い事ではある。 ジャンガは召喚から三日三晩経った昨日の時点で目が覚めてはいた。 だが怪我はまだ完治しておらず、念の為にともう一日休息を入れたのである。 その為、召喚から計4日と言う開きが出てしまったのだ。 ただでさえ皆に馬鹿にされている彼女にしてみれば、これは非常に致命的な弱みでもあった。 このまま食堂に行けばどうなるか…考えただけでも更に気持ちが沈む。 「はぁ…」 更に鬱な気分になり、彼女の口から再びため息が漏れた。 学生達が食事をする『アルヴィーズの食堂』は既に大勢の生徒で賑わっていた。 三つ並んだ、やたらと長いテーブルにはロウソクやら花が飾られ、所狭しと豪華な料理が並んでいる。 ちょっと油断をすれば直ぐに腹の虫が鳴き出す香ばしい匂いの中、ルイズはジャンガを引きつれ足を進める。 案の定、周りからは嘲笑が聞こえてきたが、彼女は全力でそれらを無視。 ジャンガに席を引かせると着席する。 「で?」 「”で”……って?」 「俺は何処に座ればいいんだ?」 ルイズの左右の席には既に着席している生徒が居る。 自分の席は何処かと辺りを見回す。ルイズはそんな彼のコートの裾を引く。 振り向いた彼にルイズは床を指差した。 ジャンガが視線を向けると、そこには罅の入った皿が一つあり、豪華な料理とは比べる事などできないほど、 粗末なスープと如何にも硬そうなパンが乗っていた。 「おい…何だこいつは?」 「この席に座っていいのは貴族だけなの。使い魔は本来なら外で待っているのよ? あんたは私が特別に計らってあげたから床。感謝しなさいよ?」 「……」 無言のままジャンガは床に座った。――額にハッキリと青筋を浮かべながら…。 朝食が終わり、午前の授業が始まった。 食堂でもそうだったが教室に入った途端、ルイズは生徒達に嘲笑や罵声を浴びせられた。 それにも彼女はやはり無視を決め込んだ。 そんな彼女と生徒達の様子を見つつ、ジャンガは他の使い魔達と共に教室の後ろの方で壁に凭れ掛かっていた。 暇潰し程度に授業の内容を聞きながら、ただ呆然と時間が過ぎるのを待った。 やがて暇を潰すのにも飽き、船を漕ぎ出した時、生徒達が急に騒ぎ始めた。 「んだぁ…?」 騒がしい声にジャンガは顔を上げる。 見ればルイズが席を離れ、先生(ミセス・シュヴルーズとか言ったか?)の方へと歩いていく。 そんなルイズに周囲の生徒達は一様に鬼気迫る表情を浮かべ、「やめて、ルイズ」などの言葉を投げかける。 食堂や教室に入って来た時などの嘲笑とはまた違うその雰囲気にジャンガは不可解な物を感じた。 「なんだってんだ…一体?」 そうこうしているうちにルイズは教卓の前に立った。 「では、ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を強く思い浮かべるのです」 優しく促す教師=ヴァリエールの言葉にルイズは緊張の面持ちで教卓の上の石ころを見つめる。 その様子を静かに見ていたジャンガだが、ふと一人の生徒が扉を開けて出て行くのに気付いた。 ゆっくりと扉を閉め、タバサは教室を後にする。 ルイズが魔法を使おうとすればどうなるかは誰もが承知の事実。 故に誰もが必死にルイズを止めようとしたのだ。 あの教師は少し気の毒だが、今年就任したばかりで彼女の事を知らないのだから致し方ない。 それにタバサにしてみれば気に留める必要もない。…何せいつもの事なのだから。 教室を離れた後は読書をしつつ、次の授業の事を考えればいい。 タバサは本に目を落としながら、静かに読書できる場所へと歩みを進める。 「授業中に抜け出すたぁ、良くねぇな~?」 唐突に聞こえてきた聞きなれない声にタバサは顔を上げた。 見れば壁に凭れ掛かりながら、こちらに顔を向けている長身の男が立っていた。 左右で色と見開き方の違う月目が自分を見つめている。 「…ジャンガ?」 「キキキ、嬉しいねぇ…俺の名前を知っているたぁな?」 何時の間に先回りしたのだろう?多少気になったが、タバサの興味をさらうほどではない。 タバサは本へと目を戻し、ジャンガの前を通り過ぎようとする。 「おいおい、無愛想だな…?」 「……」 タバサは最早顔も上げず、読書を続けながら歩みを進める。 そんな様子に舌打するジャンガ。 「まだ授業は終わっちゃいねぇぞ…?不味いんじゃないのか?」 「…いいの」 「おいおい…」 「多分…授業続けられない」 「そりゃ、どうい――」 ――その時、ジャンガの声を遮り、学院内を揺るがす爆発音が響き渡った。 「な、なんだぁ?」 突然の事にジャンガは両目を見開き、爆発音の聞こえてきた方向=教室の方を振り返った。 タバサは全く動じずにその場を立ち去ろうとする。その背にジャンガは声を投げかけた。 「お、おいっ!?今の何だ?」 「…彼女の魔法…」 タバサは振り向かずに一言。 「はっ?」 「…行ってみれば分かる…」 そう言い残すと彼女は今度こそ、その場を後にした。 ジャンガはその背を暫く見送っていたが、やがて教室へとその足を向けた。 「……」 教室へと舞い戻ったジャンガは言葉を失った。 あの爆発音からある程度予想はしていたが、目の前の状況は多少それを上回っていた。 教室内は爆発の名残であろう煙が充満し、壁や天井には罅が無数に入り、窓ガラスは残らず割れていた。 床や机には砕けた壁や天井の欠片が散らばっている。 ふと、目を向けた先の床ではシュヴルーズが倒れている。 時折痙攣しているところから目を回しているだけのようだ。 爆発の状況などから考えて、おそらくは爆心地に近い所に居たのだろう。 不幸と言えば不幸だが、これだけの大爆発の爆心地にいて目回している程度で済んでいるのは幸運と言える。 と、シュヴルーズの近くの煙の中から人影が立ち上がった。…ルイズだ。 顔は煤だらけ、服やスカートはボロボロ、路地裏で生活している奴と比べても大差無い…いや寧ろ酷い。 ルイズはこんな状況下でありながら、全く動じる気配を見せず、取り出したハンカチで顔の煤を拭き取る。 「慣れてるな…」 ある意味、感心したジャンガは思わず声を漏らした。 「だから言ったのよ!」 突然、響き渡った声にジャンガは目を向ける。キュルケが怒鳴り散らしているのが見えた。 しかし、やはりルイズは動じる気配を見せずにハンカチを動かす手を止めない。 「ちょっと失敗したみたい」 そんなルイズに生徒が一斉に騒ぎ出す。 「どこがちょっとだよ!」 「今まで成功の確立ゼロじゃないか!?」 「ゼロのルイズ!!」 『成功の確立ゼロ』……その言葉にジャンガは彼女が何故『ゼロのルイズ』と呼ばれるのかを知った。 (なるほどねぇ…) ジャンガは小馬鹿にするような笑みを浮かべ、ルイズを見た。 (ゼロ……つまり”無能”って事か…。キキキ…ピッタリじゃねぇか) 前ページ次ページ毒の爪の使い魔