約 811,898 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8102.html
「何…コレ…?」 その日、トリステイン魔法学院において進級を賭けた使い魔召喚の儀式において少女… ルイズ・フランソワーズ・ル・ブランド・ラ・ヴァリエールは幾度かの失敗の後、ついに初成功ともいえる魔法で使い魔を召喚するに至った。 その際に彼女はこう求めた。 --この宇宙のどこかにいる神聖で強力な使い魔よ-- と… しかしどうだ…目の前にいるのは幻獣とも人とも言い難い形状。 いや、そもそも生物であるかどうかすらも怪しい物体であった。 大きさはおよそ4メイルほど…目や口、鼻や耳どころか手足すらないただの巨大な白い球体がそこに鎮座していたのである。 「おい、ゼロのルイズがワケのわからないもんを召喚したぞ!」 「本当だ!なんだよあれ、流石ゼロのルイズだな!」 「……ッ!!」 こんなはずではなかった…。 本当なら赤髪の同級生が呼び出した火蜥蜴よりも、青髪の同級生が呼び出した風流よりも強力な使い魔を召還し、周りを見返す筈だったのに…! 遠くから聞こえてくる野次を背に受けながらルイズは屈辱にぎりりと血が滲みそうになるほどの力で己の杖を握りしめた。 「ミ…ミス・ヴァリエール、早くコントラクト・サーヴァントを…。」 頭の薄い教師・コルベールがルイズに促すが、正直口も何もあったもんではないこの物体にどうやって契約させるべきかコルベール本人もわからずにいた。 …しかし次の瞬間、轟音が周囲を包み込む。 その轟音を放ったのはつい今使い魔(?)を召喚してみせたルイズ本人であった。 あろうことかルイズは召喚した物体に向けて何度も爆発を起こすしかない魔力を込めた杖を振り下ろしていたのである。 「ミス・ヴァリエール!一体何を!?」 「止めないでくださいミスタ・コルベール! これは何かの間違いなんです! 私ならもっと美しく強力な使い魔を呼び出せます!だから、だからこんなものは間違いなんです!!」 半ば錯乱したルイズは静止するコルベールの声など気にするでもなくソレに向かい爆発の失敗魔法をぶつけてゆく。 ……それが後に恐ろしい事態を引き起こすとも知らずに。 「はぁ…はぁ…」 ひととおりの精神力を使い尽くし、肩で息をするルイズ。 眼前の物体は爆発による粉塵に包まれ今や見る影もない。 いや、ゼロの名を持つこの少女は系統魔法に関する成功率は皆無にしても、失敗魔法における破壊力だけは軽く教室ひとつを吹き飛ばすほどのものである。 そんなものを連続で受けたのだ。 誰もが召喚されたばかりのソレは跡形もなく消し飛んでいると感じた。 ……しかし! --ドクン… もうもうと立ち上る砂塵の中、粉々に砕け散った筈のソレはついに恐るべき脈動を始めたのである。 それに最初に気付いたのはつい先程同じく使い魔召喚の儀式で風竜を呼び出した青髪の少女であった。 彼女の名はタバサ。本名シャルロット・エレーヌ・オルレアン。 大国ガリアの王族にして国の危険な汚れ仕事を請け負う北花壇騎士7号。 これまで彼女は幾度となく命懸けの危険な任務をこなし、その小さな体に百戦錬磨ともいえる危機管理能力を宿していた。 その彼女の第六感が今まさにこの場における危険性を電流の如く伝え、全身を駆け回っていた。 『アレは危険だ…! オーク鬼やエルフなんて生易しいもんじゃない!! 危険……キケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケンキケン!!!!!!』 タバサは生まれて初めて経験するともいえるその圧倒的な気配に蛇に睨まれた蛙のように立ち尽くすしかなった。 「どうしたの、タバサ?」 突然かけられた声にタバサは、はっと我を取り戻し声のした方向を見る。 するとそこには頭ひとつ分は身長の高い赤髪の親友キュルケが心配そうに自分を見下ろしていた。 「…………逃げて。」 キュルケの瞳をまっすぐ見つめながら、蚊の泣くような声でタバサが言葉を紡ぐ。 「…え?」 何のことだ?とキュルケが訪ねようとしたその瞬間、普段寡黙なはずのタバサが喉も裂けんばかりの声を張り上げた。 「早く逃げて!!みんな、みんな死んでしまうッッ!!」 その言葉に周囲にいた誰もが『何を馬鹿なことを』という表情を浮かべる。 だがその僅か数分後、彼らは彼女の言葉の意味をその身を持って思い知らされることとなる…。 そして“滅び”が幕を開けた。 --グルルル… どこからか聴こえてきた不気味な音。 いや、音ではなくそれは声…。それも高位の獣が有する獰猛な唸り声であった。 獣であれば周りにはつい今しがた召喚されたばかりの使い魔たちがいる。 しかし今聴こえてきた声の質はまるで地獄の底から響くかのような音量と威圧感を孕んでいた。 「な…なんだ今の…?」 「さ、さぁ。でも確か音がした方って……」 生徒のひとりがゆっくりと指をさす。 そこは未だ砂塵が巻き上がるルイズが作った爆心地。 まさかそんな場所に大きな獣などいるわけがない。いるわけがないのだが…。 --ルル…グルルルルル… 「!?」 聴こえた、今度こそ確かに聴こえた。 誰も目配せをし、一斉に煙の向こうにいるであろう何かに目を凝らす。 彼らはタバサの必死の警告などすっかり忘れていた。 …それがいかに愚かなことであったかも知らずに。 その時、一陣の風がふわりと砂煙を吹いた。 それを合図にしたかのように徐々に濃さを失ってゆく砂塵。 その向こうでうっすらと視界に飛び込んできたものを見た誰もが、驚愕に目を見開いた。 「な…何なの…あれ…」 その中でも一番驚いていたのは他の誰でもないルイズだ。 そこにあったのは先程の白い球体などではなく長い棘を無数に生やし、5倍近くの大きさに成長した黒く巨大な物体であった。 もしかしてさっきのものは幻獣の卵か何かだったのだろうか? そんなことを思いながらルイズがそれに近付こうとした瞬間、突如として轟音とともに中庭の一角が吹き飛んだ。 「…え?」 ルイズにはそれが何であったかがすぐに理解できた。 それもそうだ、何もない空間を爆発できるのはゼロと蔑まれてきた自分の特技ともいえる失敗魔法だけなのだから。 「ルイズ!何すんだよ、危ないじゃないか!!」 「そうだ!もうちょっとで大怪我するとこだったんだぞ!」 周辺にいた生徒たちから罵声が飛ぶ。 「違うわよ!今のは私じゃない!私じゃないの!!」 「じゃあお前以外に誰があんな爆発起こせるっていうんだよ!?」 「そ…それは……でも、本当に違うんだってば!!」 ルイズが身の潔白を晴らそうと大声を張り上げたそのとき、再び巨大な爆発が発生した。 それも一発や二発ではない。 打ち上げ花火の如く巻き起こる無数の爆発は地面を、木々を、 更には厳重に固定化の魔法がかけられたはずの学院の外壁や校舎すら破壊し始めたのである。 突然の出来事に一瞬にして魔法学院は蜂の巣をつつくどころではない大騒ぎとなり、崩壊してゆく教室から逃げようと無数の学生たちが我先にと外へと駆け出してきた。 「くそっ、一体何が起きてるというのだ!!」 魔法で防御壁を作り、生徒たちを守りながらコルベールは呟く。 この学院の防護壁はスクウェアクラスのメイジでさえ破壊するのは難しいというのに目の前ではそれがいとも簡単に砕け散ってゆく。 だがコルベールは脳内で瞬時に状況を整理し、そしてあることに気付く。 (あの物体の周囲には爆発が起きていない!…つまり!!) 「みんな!伏せなさい!!」 防御を解除したコルベールは皆にそう指示し、詠唱を始める。 (出来ることなら、もうこの力を破壊に使いたくなかったが…やむを得ん!!) そして魔力を極限にまで高めたコルベールは、杖から高温を示す青色をした灼熱の炎を走らせた。 炎は大蛇のように黒い物体に絡みつくと、一瞬にしてそれを業火で覆い尽くす。 すると、あれほど激しかった爆発がぴたりと止んだではないか。 「…やったか。」 その様子にコルベールはふぅと息を吐く。 「おぉ!ミスタ・コルベールがなんとかしてくれたようだぞ!!」 「すごい。見直しましたよコルベール先生!!」 学院の危機を収拾してみせたコルベールに生徒や他の教師たちが歓声を上げながら続々と集まってくる。 「はは、なんとか上手くいったようですな。 しかしミス・ヴァリエール、申し訳ありません。せっかく召喚した貴女の使い魔を殺してしまいました。」 「い…いいんです!元はといえば召還した私が悪いんですからどうか頭をお上げになってください。」 自分の召喚した使い魔が引き起こした事態にも関わらず それを鎮めてくれた恩人にすまないと頭を下げられ、ルイズは慌ててフォローを入れる。 「でも、あれは一体何だったんでしょうか?いえ、もう終わったことですが…。」 何とか話題を逸らすためそう口にしたルイズ。 しかしそのすぐ近く、青い髪の少女だけが髪と同じように顔色を真っ青にしながらぽつりと呟いた。 「………まだ。」 「…え?タバサ。何か言っ……」 ルイズがそう聞いた瞬間-- 『グルル……ギィイイィィイィジャァアアァアアァアアアアアアァアァアッッッッ!!!!』 燃え盛る火炎を払いのけた悪魔が天を揺るがすばかりの雄叫びを上げながら姿を現した。 その姿は先程と違い、鋭い3本の爪を生やした2つの腕を持ち 血のように真っ赤な双眼を爛々と光らせ、無数の牙の覗く口からは粘液の糸を引かせている。 一見すると蜘蛛のようにも見えるが、その姿は蜘蛛と呼ぶにはあまりに禍々しく、邪悪であった。 「うわぁあああああっ!!」 突然現れた怪物に各所から一斉に悲鳴が上がる。 真っ先に逃げ出す者が多数であったが、中には少数だが震える手で杖を向ける者もあった。 そして怪物に向かい攻撃呪文の詠唱に入ったそのとき、怪物は2本の腕で地を這いながら凄まじい勢いで前進を始めたのだ。 なんという醜悪さ。 なんという威圧感。 そのあまりにもおぞましい光景に大半の温室育ちの貴族たちはひっとスペルを紡ぐことを止めてしまう。 そこへ向かい怪物はひと鳴きすると全身の無数の棘から一斉に青い灼熱の火炎を迸らせた。 あまりにも一瞬の出来事に、最前列にいた貴族たちは悲鳴を上げる間もなくその業火に焼かれ崩れ落ちてゆく。 「ば、馬鹿な…!あの炎は…私の…」 それを見ていたコルベールは驚愕した。 それもそうだ、その炎は今しがた自分が目の前の怪物に向けて放った炎と同様のものだったのだから。 「うぉおおおおおおおおお!!」 刹那、炎を放ち続ける怪物に向かい四方から暴風、雷、氷の槍、火球に濁流、大地の礫が放たれた。 それを皮切りにして更に他の生徒や教師たちも、ありとあらゆる属性の攻撃魔法を放ち始める。 この魔法学院にいる数百にも及ぶメイジたちからの一斉攻撃。 これならばいかに強力な幻獣といえど塵ひとつ残さず消滅できるであろう。 誰もがそう思った。 …そう思っていた。 「はぁ、はぁ…どうだ化け物め。」 肩で息をしながら呟いたのは学院屈指の風の使い手、疾風のギトー。 その高慢な態度から生徒たちからの人気は皆無に等しいが、実力は学院でも数少ないスクウェアクラスの教師である。 彼は風の上級魔法『偏在』で分身を作り出し、その全員でもってドラゴンすら一撃で落とすといわれる強力な攻撃魔法、『ライトニング・クラウド』を怪物の頭上から無数に放っていた。 普通ならばそれだけでどんな相手でも即死は免れないはずである。 それに加えてあれだけの量の魔法を叩きこまれたのだ。まず生存は有り得ないであろう。 ギトーは偏在を解除し、あの怪物の死を確認するべく巻き上がる砂塵を風魔法で吹き飛ばそうとした。 だがそのとき、砂塵の向こうから一条の閃光が走る。 それがギトーがこの世で見た最後の光景であった。 「……え?」 多くの者が目の前の光景に間抜けな言葉を漏らす。 それもそうだ。 何故、何も残っているはずのない場所から 閃光が走る? 何故、一瞬でギトーが黒こげになっている? そしてその疑問は最悪の形で彼らに答えを示した…。 『ジィィィィイイイイャァアアアアアアアアアアッッッ!!!!!』 巻き上がる煙を払いのけた怪物が悪魔の叫びを上げながら再びその姿を現したのである。 なんとその姿は以前より更には多くの棘を全身に生やし、体格はこれまでの倍近くにまで成長しているではないか。 その姿に誰もが悲鳴を上げ、杖すら放り出して逃げ始める。 腰が抜けて無様に這い蹲る者・恐怖の余り失禁する者・全てを諦め呆然と座り込む者。 そこにはもう貴族の誇りなどというものは存在していなかった。 それでも悪魔は容赦なく逃げ惑うアリ達に向け、全身の棘から破壊と絶望を振り撒き始めたのである。 「嘘…だろ…」 生徒のひとりは眼前に広がる惨劇を目にした直後、飛んできた巨大な岩石の槍に体を貫かれた。 ほんの刹那…残った意識の中で彼はこう思いながら息絶えた。 (……何であいつは僕たちの魔法を使えるんだよ?) そう、今怪物が放っているもの…それは先程自らが受けたはずの4系統からなる様々な攻撃魔法なのである。 それも、杖も詠唱もなく…全身から同時に火炎・突風・濁流・岩石・雷に氷の槍まで放っている。 おまけにその威力は一発一発がスクゥエアのそれを遥かに上回ると言ってよいほどの破壊力があり もう誰にもこの怪物を止めることなどできなかった…。 そして召喚から僅か30分弱。 阿鼻叫喚の地獄絵図とともに、かつてトリステイン魔法学院があった場所はたった一匹の怪物により数百の死者を出しながら瓦礫の山と化した。 怪物は破壊の限りを尽くした後、その歩みを首都であるトリスタニアに向け前進を開始。 後に大陸全土を震撼させることとなる。 ………… …… … 遥か遠い世界、ハルケギニアとは別の宇宙に存在する青い惑星ではこのような記録がある。 --決してその者に触れてはならない。 さすれば世界は滅びへと向かうであろう。 その者を目覚めさせてはならない。 それは開けてはならないパンドラの箱なのだから。 力を以てその者を倒すことは不可能。 力は同じく力によって滅ぼされるであろう。 その者、完全にして究極の生命。 その者、破壊の化身にして他者の愚かさを映す鏡。 その者の名は、『完全生命体 イフ』--
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5051.html
前ページ次ページ毒の爪の使い魔 暖かな陽光が照らす朝。 朝食をとる為に食堂へと向かい、朝日が差し込む廊下を歩く影が二つ。ルイズとその使い魔=ジャンガだ。 「はぁ…」 「…何度目だよ、そのため息は?」 ルイズのため息にジャンガは顔をしかめる。 「仕方ないでしょ……他の皆は使い魔とのコミュニケーションもとっくに終えて、共に過ごしているっていうのに、 私は召喚から”4日”も経った今日、初めてアンタを連れているのよ?」 ”4日”の部分を強調し、ルイズは振り返らずに答える。彼女が憂鬱なのもまぁ無理も無い事ではある。 ジャンガは召喚から三日三晩経った昨日の時点で目が覚めてはいた。 だが怪我はまだ完治しておらず、念の為にともう一日休息を入れたのである。 その為、召喚から計4日と言う開きが出てしまったのだ。 ただでさえ皆に馬鹿にされている彼女にしてみれば、これは非常に致命的な弱みでもあった。 このまま食堂に行けばどうなるか…考えただけでも更に気持ちが沈む。 「はぁ…」 更に鬱な気分になり、彼女の口から再びため息が漏れた。 学生達が食事をする『アルヴィーズの食堂』は既に大勢の生徒で賑わっていた。 三つ並んだ、やたらと長いテーブルにはロウソクやら花が飾られ、所狭しと豪華な料理が並んでいる。 ちょっと油断をすれば直ぐに腹の虫が鳴き出す香ばしい匂いの中、ルイズはジャンガを引きつれ足を進める。 案の定、周りからは嘲笑が聞こえてきたが、彼女は全力でそれらを無視。 ジャンガに席を引かせると着席する。 「で?」 「”で”……って?」 「俺は何処に座ればいいんだ?」 ルイズの左右の席には既に着席している生徒が居る。 自分の席は何処かと辺りを見回す。ルイズはそんな彼のコートの裾を引く。 振り向いた彼にルイズは床を指差した。 ジャンガが視線を向けると、そこには罅の入った皿が一つあり、豪華な料理とは比べる事などできないほど、 粗末なスープと如何にも硬そうなパンが乗っていた。 「おい…何だこいつは?」 「この席に座っていいのは貴族だけなの。使い魔は本来なら外で待っているのよ? あんたは私が特別に計らってあげたから床。感謝しなさいよ?」 「……」 無言のままジャンガは床に座った。――額にハッキリと青筋を浮かべながら…。 朝食が終わり、午前の授業が始まった。 食堂でもそうだったが教室に入った途端、ルイズは生徒達に嘲笑や罵声を浴びせられた。 それにも彼女はやはり無視を決め込んだ。 そんな彼女と生徒達の様子を見つつ、ジャンガは他の使い魔達と共に教室の後ろの方で壁に凭れ掛かっていた。 暇潰し程度に授業の内容を聞きながら、ただ呆然と時間が過ぎるのを待った。 やがて暇を潰すのにも飽き、船を漕ぎ出した時、生徒達が急に騒ぎ始めた。 「んだぁ…?」 騒がしい声にジャンガは顔を上げる。 見ればルイズが席を離れ、先生(ミセス・シュヴルーズとか言ったか?)の方へと歩いていく。 そんなルイズに周囲の生徒達は一様に鬼気迫る表情を浮かべ、「やめて、ルイズ」などの言葉を投げかける。 食堂や教室に入って来た時などの嘲笑とはまた違うその雰囲気にジャンガは不可解な物を感じた。 「なんだってんだ…一体?」 そうこうしているうちにルイズは教卓の前に立った。 「では、ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を強く思い浮かべるのです」 優しく促す教師=ヴァリエールの言葉にルイズは緊張の面持ちで教卓の上の石ころを見つめる。 その様子を静かに見ていたジャンガだが、ふと一人の生徒が扉を開けて出て行くのに気付いた。 ゆっくりと扉を閉め、タバサは教室を後にする。 ルイズが魔法を使おうとすればどうなるかは誰もが承知の事実。 故に誰もが必死にルイズを止めようとしたのだ。 あの教師は少し気の毒だが、今年就任したばかりで彼女の事を知らないのだから致し方ない。 それにタバサにしてみれば気に留める必要もない。…何せいつもの事なのだから。 教室を離れた後は読書をしつつ、次の授業の事を考えればいい。 タバサは本に目を落としながら、静かに読書できる場所へと歩みを進める。 「授業中に抜け出すたぁ、良くねぇな~?」 唐突に聞こえてきた聞きなれない声にタバサは顔を上げた。 見れば壁に凭れ掛かりながら、こちらに顔を向けている長身の男が立っていた。 左右で色と見開き方の違う月目が自分を見つめている。 「…ジャンガ?」 「キキキ、嬉しいねぇ…俺の名前を知っているたぁな?」 何時の間に先回りしたのだろう?多少気になったが、タバサの興味をさらうほどではない。 タバサは本へと目を戻し、ジャンガの前を通り過ぎようとする。 「おいおい、無愛想だな…?」 「……」 タバサは最早顔も上げず、読書を続けながら歩みを進める。 そんな様子に舌打するジャンガ。 「まだ授業は終わっちゃいねぇぞ…?不味いんじゃないのか?」 「…いいの」 「おいおい…」 「多分…授業続けられない」 「そりゃ、どうい――」 ――その時、ジャンガの声を遮り、学院内を揺るがす爆発音が響き渡った。 「な、なんだぁ?」 突然の事にジャンガは両目を見開き、爆発音の聞こえてきた方向=教室の方を振り返った。 タバサは全く動じずにその場を立ち去ろうとする。その背にジャンガは声を投げかけた。 「お、おいっ!?今の何だ?」 「…彼女の魔法…」 タバサは振り向かずに一言。 「はっ?」 「…行ってみれば分かる…」 そう言い残すと彼女は今度こそ、その場を後にした。 ジャンガはその背を暫く見送っていたが、やがて教室へとその足を向けた。 「……」 教室へと舞い戻ったジャンガは言葉を失った。 あの爆発音からある程度予想はしていたが、目の前の状況は多少それを上回っていた。 教室内は爆発の名残であろう煙が充満し、壁や天井には罅が無数に入り、窓ガラスは残らず割れていた。 床や机には砕けた壁や天井の欠片が散らばっている。 ふと、目を向けた先の床ではシュヴルーズが倒れている。 時折痙攣しているところから目を回しているだけのようだ。 爆発の状況などから考えて、おそらくは爆心地に近い所に居たのだろう。 不幸と言えば不幸だが、これだけの大爆発の爆心地にいて目回している程度で済んでいるのは幸運と言える。 と、シュヴルーズの近くの煙の中から人影が立ち上がった。…ルイズだ。 顔は煤だらけ、服やスカートはボロボロ、路地裏で生活している奴と比べても大差無い…いや寧ろ酷い。 ルイズはこんな状況下でありながら、全く動じる気配を見せず、取り出したハンカチで顔の煤を拭き取る。 「慣れてるな…」 ある意味、感心したジャンガは思わず声を漏らした。 「だから言ったのよ!」 突然、響き渡った声にジャンガは目を向ける。キュルケが怒鳴り散らしているのが見えた。 しかし、やはりルイズは動じる気配を見せずにハンカチを動かす手を止めない。 「ちょっと失敗したみたい」 そんなルイズに生徒が一斉に騒ぎ出す。 「どこがちょっとだよ!」 「今まで成功の確立ゼロじゃないか!?」 「ゼロのルイズ!!」 『成功の確立ゼロ』……その言葉にジャンガは彼女が何故『ゼロのルイズ』と呼ばれるのかを知った。 (なるほどねぇ…) ジャンガは小馬鹿にするような笑みを浮かべ、ルイズを見た。 (ゼロ……つまり”無能”って事か…。キキキ…ピッタリじゃねぇか) 前ページ次ページ毒の爪の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4522.html
前ページ次ページ鮮血の使い魔 武器を失ったガンダールヴなど平民の小娘でしかない。 嗜虐の笑みを浮かべるワルドと、残りひとつとなった遍在。 一方、ウェールズとルイズはまだ杖を持っている。 先に言葉を始末し、遍在と二人がかりでルイズ達を殺すか? 雑魚を適当にあしらい、反撃する能力を持つルイズとウェールズを殺すか? ワルドの選択は、ルイズが決めさせた。 「ワルド!」 チェーンソーを破壊されたため言葉が無力化してしまったと理解しているルイズは、 言葉を守るため、注意を引くべく、ワルドに杖を向け詠唱を始めた。 失敗でも何でもいい、爆発を起こして、起死回生のチャンスを生み出さねば。 そんな動きを見せるルイズを、先に始末しようとワルドは決めた。 「エア・ハンマー!」 空気の塊を叩きつけられ、ルイズは石造りの壁に向かって吹っ飛ばされる。 壁に直撃すれば骨折程度ではすまない、打ち所が悪ければ死の可能性もある。 だからウェールズは、咄嗟にルイズに向けてレビテーションを唱え、ブレーキをかけた。 その隙に遍在がエア・ニードルを唱えながらウェールズに飛びかかる。 ウェールズはルイズの前に立ちふさがり、自らの肉体を盾として守ろうとした。 (さようなら、アンリエッタ――) 死を覚悟した男の背中を、ルイズは頼もしく思うと同時に、悲しくも思った。 自分のせいでウェールズが死ぬ。死んでしまう。 アンリエッタの大切な人を死なせてしまう。 (誰か――!!) 助けて、と思うよりも早く、彼女は来た。 エア・ハンマーで吹っ飛ばされたルイズを見て、言葉に動揺が走った。 裏切ったはずなのに、ああ、どうして自分は、こんなにも。 何とかしなければならない。しかし武器はもう無い。ガンダールヴの力は使えない。 武器を持たず飛び出しても間に合わない、ただの女子高生の力ではどうしようもない。 ウェールズが魔法をかけたのか、ルイズは壁に激突する前に止まったが、 その二人に向かって遍在が飛びかかる。エア・ニードルで杖を凶器として。 手を伸ばしても届かないと理解していながら、言葉は手を伸ばした。 何かを掴もうとして、虚空しか掴めぬ現実に打ちのめされる。 (私は、ルイズさんが殺されるのを、見ているしかできない) 絶望の中、憎しみを、悲しみが上回った。 その瞬間、床から光と共に、剣が飛び出してきた。 正確には生えたと表現すべきだろうか? 石畳を材料に剣が構築され、言葉の前に現れたのだ。 錬金? 土系統の魔法? 誰が? どこから? 何故? 世界を裏切った言葉に味方するものなど、何も無いはずだった。 しかしその女は確かに、言葉のために魔法を行使した。 教会の扉の陰から様子をうかがっていた、フードで顔を隠した女メイジ。 そのメイジの名は、土くれのフーケといった。 虚空を掴むしかなかったはずの手が、魔法で作られた剣を掴む。 左手のルーンが今までにないほど力強く光り輝いた。 感情の昂ぶりに呼応して力を発揮するガンダールヴのルーン。 今、ルーンは言葉の何の感情に呼応しているのか? 憎悪? 悲哀? 激怒? 確かなのは、ワルドへの敵意ではなく、ルイズへの情だという事。 風は烈風。すべてを切り裂く死の刃。 烈風となった言葉は、ウェールズの胸元を今にも貫こうとする遍在を一瞬にして一刀両断した。 かつて居合いを学んでいた言葉にとって、 剣という武器は日本刀ほどでないにしろずっと使いやすい獲物だった。 ノコギリやチェーンソーといった工具に頼っていた自分が馬鹿らしく思えるほどに。 そして、彼女が習得している居合いの真価は初太刀の後にある。 居合い斬り。大道芸として知られるこの技は、素早く抜刀して斬りつけるものだ。 しかし本物の居合いは違う。 抜刀をしての初太刀にすべてを込める一撃必殺の剣というのは間違いだ。 一撃で仕留められなかったら死に体という致命的な隙を作る? そんなもの剣技ではない。 居合いとは抜刀と同時に攻撃する技術であると同時に、 二の太刀、三の太刀を如何に素早く的確に放つかを追求している。 初太刀で相手を倒せなかった場合を想定せず抜刀する居合い術など存在しない。 初太刀でけん制し、二の太刀以降の攻撃で敵を仕留める事が多かったとさえ伝えられる。 刃を止めず、流れるように、様々な体勢から、様々な状況に対応し、臨機応変に敵を斬る。 それがい居合いだ。 だから、言葉は遍在を両断した直後にはもう、本物のワルドに向かって疾駆していた。 「ライトニング――!」 斜めに斬り上げる。向けられた杖を、ワルドの右腕ごと斬り落とす言葉。 悲鳴が上がるよりも早く、身を守ろうとして出された左腕を三の太刀で斬り落とす。 両腕を失ったワルドは、ようやくカエルのような悲鳴を上げてよろめいた。 そのワルドの視界の端で銀光がきらめく。 首筋に鋭い感触。 眼前で酷薄な笑みを浮かべるガンダールヴ。 「死んじゃえ」 ワルドの首筋にあてがわれた剣が、素早く引かれる。 「あ……」 呆けた声を漏らし、一拍置いてから、ワルドの首から噴水のように血が飛び散る。 白目を剥きいて糸の切れた操り人形のように崩れ落ち、鮮血の結末を迎えた。 「こ、コトノハ……」 背後からルイズの声がする。 振り向きたい思いに駆られながら、言葉は眼前の死体に手を伸ばした。 その懐からはみ出ていた手紙、かつてアンリエッタがウェールズに送り、 任務を受けたルイズが回収しにきたそれを、言葉は自らの制服のポケットにしまう。 「コトノハ、大丈夫?」 心配げな、ルイズの声。 世界を、この世界のすべてを裏切ったはずなのに、 ルイズも、そして今手に持つ剣を与えてくれた者も、言葉に手を差し伸べてくれている。 その手を握る資格など無いのに。 「さようなら、ルイズさん」 振り向かずに、別れを告げる。 「裏切ってしまった私は、もう貴女の側にいられません」 そう言って、言葉は誠の入った鞄を取りに行こうとし、教会全体が揺れた。 外が騒がしい。怒声と破壊音が響く。 「始まったか……レコン・キスタとの戦いが!」 ウェールズが言い終わると同時に、教会の天井が崩れる。 ワルドの死は悲しかったが、それよりも言葉とウェールズの無事をルイズは喜んだ。 ようやく話ができる余裕ができたと言葉に声をかけたが、返ってきたのは拒絶だった。 直後、ワルドとの戦いで気づかなかったが、 すでに始まっていたレコン・キスタとの戦いが、教会を襲った。 天井にヒビが入り、破片が落下し出す。小さな石でも、頭に当たれば大怪我をする。 そんな中を言葉はガンダールヴの脚力で椅子を飛び越えて誠の入った鞄を掴むと、 ルイズ達を振り返らず一直線に教会の戸を開け放ち走り去った。 「コトノハ!」 このまま行くつもりだ。レコン・キスタへ、クロムウェルの元へ。 アンドバリの指輪を求めて、独りで。 ルイズを裏切って。 (もう――戻ってこないつもり?) フーケと通じていた、ワルドと通じていた、という裏切りよりも。 これが言葉との別れなのかという予感が、悲しかった。 「ミス・ヴァリエール、ここは危ない」 茫然自失となったルイズの腕を掴んだウェールズは、 教会が本格的に崩れ出すよりも早く脱出する。 そこはすでに戦場となりかけていた。 言葉の姿を探したが見つけられない。 「ミス・ヴァリエール、君のために船を用意してある。 手紙は、ミス・コトノハが持っていってしまったが……君は逃げてくれ」 「ウェールズ殿下……」 「君はアンリエッタが心を許したかけがえのない友人。 僕の代わりに、彼女の支えとなっておくれ」 「……しかし、私は」 ルイズは唇を噛んだ。血がにじみ出るほどに。 任務を果たせず、ワルドは裏切った末に死に、言葉は裏切って手紙を持って逃亡した。 戦いが始まり、足手まといの自分は、やはりアルビオンから脱出するべきなのだろう。 でも。 ――裏切ってしまった私は、もう貴女の側にいられません。 あの声は、今にも泣きそうなのをこらえているように聞こえたから。 振り返らなかった言葉。どんな表情をして、どんな瞳をしていたろうか。 レコン・キスタに行って言葉はどうするのだろうか。 誠が生き返ったらどうするのだろうか。 もう帰ってこないのか。 「私の、所に、もう」 頬が濡れた。 第15話 さようなら、ルイズさん 前ページ次ページ鮮血の使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1756.html
早朝、朝靄が漂う魔法学院の玄関先に私とルイズは立っていた。ただ立っているわけではない。王宮からの馬車を待っているのだ。 王女アンリエッタとゲルマニアの皇帝アルブレヒト三世との結婚式はゲルマニアの首府ヴィンドボナという場所で、2日後のニューイの月の1日に行われる。 その結婚式の場でルイズは巫女として『始祖の祈祷書』を手に、式の詔を詠みあげなければならない。 つまり、ルイズはヴィンドボナに行かなければ行かなければいけないのだ。お姫様がヴィンドボナへ行く際、一緒に行くことになっている。 そのためお姫様のいる宮殿から王宮の馬車が迎えに来るというわけだ。学院に帰ってくるのは大体1週間後だろう。 ちなみに私はルイズの使い魔ということで随伴しなければいけないらしい。 ルイズは『始祖の祈祷書』を胸に抱えながら、私はデルフを使って足元にいる猫を地面に押し付けあることを考えながら時間を潰していた。 あることというのは無論最近の生活についてだ。特に生活が苦しいところは無い。『幸福』ではないが前に比べ随分と充実している。 しかし、不満が無いわけではない。今私が大いに不満に思っていることはルイズと同じベッドで眠っているというところだ。 なぜルイズなんかと一緒に寝なくちゃいけないんだ?ルイズがキュルケのようにボンキュボンならむしろ喜んで一緒に眠るがルイズにはそういった魅力が感じられない。 ルイズは13歳か14歳ほどだろうから当然かも知れない。だが、そうなると一緒に寝ているときは邪魔なのだ。何故他人のことに配慮して眠らなくちゃいけないんだ。 一人で好きなときに好きな体勢で眠りたい。つまり自分のベッドがほしい。それが今の切実な願いだった。 剣を売った金で画材を買おうと思っていたが変更してベッドを買ったほうがいいかもしれないと本気で思っている。安物なら買えるだろう。 それと、 「ルイズ」 「なに?あ、ヨシカゲ!あんた何時までいじめてんのよ!」 「ミー!」 そう言ってルイズは猫を助けようとデルフを蹴飛ばそうとしてくる。 だが、デルフに蹴りを当てさせるわけにはいかないので、猫をいじるのを止めデルフをルイズの蹴りの場所へ移動させる。 猫はその隙をつきどこかへ走り去っていった。しかし、これでいい。猫をヴォンドボナへ連れて行く気がなかったので離れてくれて助かった。 「まったく、趣味悪いわ」 「そんなことはどうでもいい。ルイズ、トリステインに帰ってきてからでいいんだが、服を買ってくれないか?」 「服?」 「そうだ。私の服だ」 そう、服。今現在私は衣服の替えを持っていない。それはなかなか由々しきことだ。この先一張羅で生きていくわけにもいかない。 人が寝しまっている間に自分の服を洗濯したり、夜じゃあまり乾かないので生乾きで着たりと面倒くさいしな。 「そういえば、あんたそれしか服持ってなかったわね」 「ああ、さすがにもう色々と限界だ。使い魔に必要なものぐらいは買ってくれるよな?」 「ま、まあ……今までよく働いてくれたからそれぐらいしてあげてもいいわね。それと同じ服を何着か作らせればいいんでしょ」 「ああ、助かる。ついでに手袋と帽子の予備もあればもっと助かる」 よし、衣服の問題は無事解決したな。しかし、こういったことはルイズが私に賃金をくれれば起こらないんだがな。だが、自分の使い魔に金を渡す奴がいるか?いるわけがない。普通使い魔ってのは下等動物(竜やなんかは例外だ)だ。 そんな文明もない奴らに金を渡しても意味がないからな。私は人間だが、使い魔だからルイズは金をくれない。わかりやすい方程式だ。わかりやすくてむかついてくる。 幽霊でも金が要る世の中なのに金が手に入らないなんて。剣を売れば自分の自由な金が手に入るが所詮一回こっきりだしな。どうせならルイズに賃金でもくれるように交渉してみるか? 「あれ?だれかしら?」 「あ?」 交渉するべきか否かを悩んでいる所に、ルイズの声が聞こえてきた。その声に反応しルイズを見るとルイズは玄関外の朝靄を見つめている。 いや、人影を見詰めている。人影はこちらになかなかの勢いで近づいてきている。やがて朝靄が薄れ始め、人影がはっきりし始めた。 「あれは……、王宮の使者だわ」 「王宮の使者?」 王宮の使者は髪を振り乱し必死の形相でこちらへ走りよってきた。尋常と言える様子ではないことは一目瞭然だ。使者は私たちに気がつくと私たちに近寄ってきた。 「ハァハァハァハァ……き、きみたち」 「ど、どうかしたんですか?」 ルイズも使者の様子におどいた様子で少し焦っている。 「オールド・オスマンは今どちらに?と、取り急ぎ伝えねばいけないことが……」 そういえばオスマンは今何をしているのだろうか?オスマンも私たちと一緒に宮殿へ行くことになっていたはずだ。準備に手間取っているのだろうか? 「オールド・オスマンなら学院長室にいるかと」 「ありがとう。では急ぐので」 そう言うと使者は学院長室を目指し走っていった。 「ねえ、いったいなにがあったのかしら」 「さあな。少なくともいいことではなさそうだったけど」 あの使者の眼にあったのは焦りと悲しみだった。そんな感情を抱いている時点でいいことのはずがない。 「なんだか胸騒ぎがするわ。わたしも行ってみる」 「じゃあ私はここで王宮の迎えを待っておこう。迎えが来たときに誰も居なかったじゃあっちもこっちも困るからな」 というか、いくらよくないことが起ころうと、私に害が及ばない限り知ったこっちゃない。 「……わかったわよ!勝手にしなさい!」 ルイズはどこか怒ったような声を出すと使者のあとを追っていった。やれやれ、何を怒っているんだか…… まあ、そんなことはどうでもいい。迎えが来るまで暇だな。何をして時間を潰そうか……。デルフと喋るか?そうだな、そうしよう。 デルフを完全に抜きはなつ必要は無い。喋れる程度に抜けばいいんだ。そうすれば不意に見られたとしても怪しまれる心配は殆んどない……と思いたい。 さて、何を話そうか。いや、そんなの考える必要は無いな。会話の内容は重要じゃあない。真に重要なのは会話をするということなのだ。 デルフを喋れる程度に引き抜く。 「おはよう相棒」 「ああ」 「相棒ってよ。あれか?好きな子ほどいじめたいってやつか?」 は?抜いて早々何を言ってるんだこいつは? 「何で?って顔だな。だってよ。相棒はあのこねこのことが好きなんだぜ。なのにいじめてるじゃねえか。もし好きじゃねえって言うなら相棒が気づいてないだけさね。ってか、これ前にも話したような気もするけどな」 デルフ、お前はあの猫が気にっているのか?なかなか話題に出すことが多いが、まさか気に入っているのか? ちっ!私は別に好きだからいじっているわけではない!猫自体は……まあ、デルフほどではないが愛着を感じ始めていることは確かだ。 だが、勘違いするな!暇だからいじっていただけだ!それだけなんだぞ! なんてことは口が裂けてもいえない。だから私は、 「ふ~ん」 とだけ返しておいた。自分が好感を抱いている者に素直な感情を発露するには多大な勇気が必要だ。私も早くそんな勇気を身につけたいものだ。 そんなとき、不意に何かが私の足に触れた。下を見るとそこには、 「ほら、こいつも相棒のことが好きだとよ」 どこかへ去ったはずの猫が私の足に前足を乗せ私を見上げている。 「……肩、乗るか?」 「ニャー」 ……首輪を買うのもいいかもしれないな。 そんな気持ちを黙殺しようと努力しながら私は猫を抱き寄せた。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5713.html
前ページ次ページお前の使い魔 決闘の日の翌日、わたしは暇な時間を使って図書館に来ていた。 「お前、こんな所で何をするんですか?」 ダネットが露骨に嫌そうな顔をして尋ねる。 どうやら本という物事態に拒絶反応を示しているようだ。 「あんたの住んでた場所を調べに来たのよ。もしかしたら、セプー族っていう種族が住んでる場所の載ってる本があるかもしれないでしょ。」 それを聞いたダネットは嬉しそうな顔をして、その後に寂しそうな顔をした。 「どうしたのよ?住んでた場所が判れば、あんただって帰ったりできるでしょ?」 「それはそうですが……そうなったら、こことも、お前ともお別れだと思って。」 全く、こいつは何を言ってるんだ。 使い魔の契約とは、一生を共に生きるということ。 第一、わたしはダネットの住む場所がわかったとしても、素直に帰すつもりはない。 わたしだってダネットの住んでた場所を見てみたいし、ダネットの知り合いに事情を話して、今後も使い魔として一緒に過ごす許可ぐらい取りたい。 別に寂しいからとかじゃないよの? 単に使い魔に逃げられたとあっては、ヴァリエール家の名折れというか、ほら、まあアレだ。うん。 「言っとくけど、住んでた場所がわかったって、あんたとの使い魔の契約は一生消えないのよ? たまーに帰ることを許すっていうだけよ?」 「え!? 一生って言いましたか今!? わ、私聞いてません!!」 あ、そう言えば言ってなかったっけ。 「諦めなさい。何なら、あんたの友達とかこっちに呼んで暮らせばいいじゃない。土地は……うん、わたしがどうにかするわよ。」 「むー……、でもこっちはホタポタありませんし……」 「そのホタポタって何なのよ? あんたが言うには食べ物みたいだけど?」 「えっとですね、ホタポタっていうのは……」 そこから、ホタポタについての講釈が始まった。 話をまとめると、どうやら、ダネットが住んでる土地特有の果物らしく、凄く美味しいとの事だ。 うーむ。ここまで力説されると一度食べてみたいわねホタポタ。 一通りの説明が終わった後、ダネットはポンと手を叩いて、さも名案が閃いた様に言った。 「そうだ!! お前も私の住んでる所にくればいいのです!! そうすればお前とも一緒だし、私もホタポタが食べられます!!」 「うーん……確かに食べてはみたいけど、わたしはその……」 言いよどむわたしを見て、ダネットは何かに気が付いたかのようにハッとなる。 「そう言えばお前には家族がいましたね……。すいません。」 「べ、別に謝る事じゃないわよ。うん。あ、でも一度は行ってみたいわね。その時は案内してよねダネット?」 「はい!! 案内は任せとくのです。きっとお前も何度も行きたくなるのです。」 満足したのか、ダネットはふらふらと図書館を回り始め、わたしも土地の事が書かれた書物を中心に調べ始めた。 わたしが、適当に目星を付けて何冊かの本を机に持っていった頃、図書室のドアがガラリと開く。 「あら、あんた」 「あー!! お前はちび女!!」 図書室に入ってきたのはタバサだった。 タバサはちらりとわたしとダネットを見ると、興味が無さそうに移動し、自分の持ってきた本を机に置いた後読み始めた。 うーむ……こいつ、何を考えてるかよくわかんないから苦手なのよね。 ダネットはそんなタバサの所にずんずん突き進み、机をバンと叩いた。 「ちび女!! あの時はよくもやってくれましたね!!」 あの時とは決闘の時かしら? 確かダネットの頭を杖でぶん殴ったのよねタバサ。 わたしが止めようと席を立つと、タバサはダネットを見て、眼鏡をくいっと持ち上げ行った。 「タバサ。」 「きゅ、急になんですかちび女!!」 「タバサ。」 「う……」 「タバサ。」 「た…たばさ?」 満足したのか、タバサは頷いた後に目を本に戻し、また読み始める。 わたしはそれを見て驚いていた。 あのダネットに名前をちゃんと呼ばせるつわものがいたなんて……なんか負けた気がする。 ちょっとわたしも実戦してみよう。 「ダネット、ちょっといい?」 「何ですかお前。今は忙しいのです。」 「いいから。ちょっといらっしゃい。」 しぶしぶわたしの所に来たダネットに、すぅっと息を吸い込んで言う。 「ルイズ様。」 「急に何ですかお前。お腹でも痛いんですか?」 「ルイズ様。」 「お前、熱でもあるんですか?」 「る、ルイズ様!」 「大丈夫ですかお前?」 「ルイズ様って言ってんでしょこのダメット!!」 「何で急に怒るんですか!! お前は訳がわかりません!!」 「何!? わたしが悪いの!? ほら言いなさいよ!! ルイズ様!!」 「嫌です!!」 そんな感じで喧嘩を始めだしたわたし達を見て、タバサが笑った気がするのは気のせいだきっと。うん。 結局、その日はろくに調べ物が出来ず、そのまま一日を終えた。 そして虚無の曜日、わたしとダネットは学院の前から動くことが出来なかった。 「あんた、馬に乗ったことが無いならまだしも、馬を見たことが無いってどこの田舎物よ?」 「ば、馬鹿にしないで下さい!! こんな動物ぐらいあっさり乗りこなしてみせます!!」 ダネットは馬に乗れなかったのだ。 そんな訳で、わたし達は予定を少しずらし、乗馬の訓練をしていた。 「お、お前!! こいつ今、私を噛もうとしました!!」 「あんたが顔を触ろうとするからでしょ!!」 結果は、今のところ芳しくない。 わたしが今日の予定を乗馬の訓練で終えてしまうかもしれないと考え始めた頃、学院から見知った顔の二人が出てきた。 「何やってんのあんた達?」 「あ!!乳でかとタバサ!!」 ダネットの言葉を聞いて、目を丸くするキュルケ。 そしてタバサの方を見て、興味深そうに聞く。 「タバサ、どんな魔法使ったのよ?」 「ち、乳でか!! お前は私を馬鹿に……うわあ!! お前!! こいつまた私を噛もうとしました!!」 溜め息をついたわたしを見て、キュルケがニヤリと笑いながら言った。 「もしかして出かけるつもりだったのルイズ?」 「そうよ。でも、今日は一日これかもね。」 キュルケのニヤケ顔にむっとしつつ、後ろで四苦八苦しているダネットを見てまた溜め息をつく。 するとキュルケが、更に顔をニヤつかせて言った。 「だったらさ」 「お前!! 気持ちいいですね!!」 「そうね。だからじっとしてなさいダネット。」 わたし達は今、タバサの風竜に乗ってトリスタニアを目指している。 ダネットは子供のようにはしゃぎ、目を離すと落ちてしまうんじゃないかと気が気ではない。 まあ……竜に乗って空を飛ぶのは気持ちいいから、その気持ちもわからないでもない。 わたしだってちょっと羨まし……いや、何でもない。 気分を変えるために、風竜を始めて見たダネットの反応を思い出す。 「凄く食いでがありそうです!!」 うん。思い出すんじゃなかった。 いつかこいつは、他のメイジの使い魔を食べつくすんじゃないかしら。 美味しそうにバグベアーを食べるダネットを想像し、溜め息を付いた後、心に引っかかっていた事をキュルケに尋ねる。 「それでキュルケ、交換条件は何?」 この風竜はタバサの使い魔ではあるのだが、キュルケが許可を貰ってわたしとダネットが乗せてもらっている。 どうも二人もトリスタニアまで行く用事があったらしいから、ついでと言えばついでなのだけれど、交換条件も無しに、あのキュルケがわざわざわたし達まで乗せるようにとタバサに頼むわけが無い。 だからこそのあのニヤケ顔だ。 「あら失礼ねルイズ。あたしは親切心からタバサに頼んだのよー? 別に、最近美味しいって評判のクックベリーパイのお店がトリスタニアに出来たとか全くこれっぽっちも関係ないのよ?」 「あーそーですか。」 そういう事かコノヤロウ。 でもまあ、クックベリーパイぐらいなら別にいいか。わたしも好きだから一緒に食べようかしら。 「美味しい!? 私もそのクックなんとか食べたいです!!」 「わかった!! わかったから暴れないで!! お、落ちる!! 落ちちゃう!!」 「ちょっとルイズ!! 危ないわよ!!」 そんな、空の上でまで騒がしいわたし達をチラっと見て、タバサが一言呟いたのが聞こえた。 「騒々しい。」 風竜のお陰で予想以上に早くトリスタニアに到着したわたし達一行は、別に行くところがあるというキュルケとタバサに集合場所を言った後、別行動となった。 取り合えず、わたしとダネットは、最初の目的である服屋へと行くことにする。 「本当は財布を持たせようかと思ったけど、ダネットに持たせるのは自殺行為よね……」 「ん? お前、何か言いましたか?」 「何でもないわよ。それより早く行きましょう。寝具も注文しないといけないんだから。」 てくてく歩いている間、ダネットはキョロキョロと周りを見ていた。 危なっかしいことこの上ない。 いい加減わたしが注意しようと後ろを振り向くと。 「ダネット!! あまり余所見してると……っていないし!!」 ちょっと目を離した隙に、ダネットはどこかに消えていた。 あのダメット、一回痛い目見ないとわからないらしいわね。 わたしがそんな事を考えていると、わたしを呼ぶダネットの声が聞こえた。 「お前、はいこれ。」 「あんたどこに……って、これ何?」 「これ美味しいです。さっき食べた私が言うんだから保証付きです。」 手渡されたのは、平民が好みそうな串焼きだった。 いい香りがして、確かに美味しそうだ。しかし。しかしだ。 「あんた……これ、どこから持ってきたのよ?」 「あそこのオッサンからですよ? 『お嬢ちゃん、食ってきな!!』って言って渡してくれました。」 「それは売りつけられたって言うのよこの馬鹿!! ダメット!!」 串焼き代を店主に払い、本日何度目かの溜め息を付く。 今更だけど、ダネットは大きな子供みたいなものだ。 興味を引けば、それが何であろうと手にとってみたり、騒いだりする。 貴族に対しての恐れすらなく、誰彼構わず感情だけで物を言う。 学院だから許されるようなものの、本来なら貴族に対して『お前』なんて言おうものなら、場合によっては侮辱したと罪にすら取られる。 でも不思議なことに、わたしはダネットから『お前』と呼ばれる事に、最初よりも不快感を抱いていなかった。 今更『ルイズ様』何て呼ばれたら、逆にむず痒くなりそうだ。 今はとても楽しい。それでいいじゃないか。 そんな事を考え、何となくダネットに声を掛けてみる。 「ねえ、ダネット。あんたって本当に……って、またいないし!!」 「お前ー!! これ!! これ美味しいです!!」 前言撤回。 あのダメットには、一回きっちり常識っていうものを教えなきゃいけない。と、わたしは誓うのだった。 「やっと付いた……何かいつもの数倍疲れた気がするわ。」 「お前、運動不足ですね。」 「誰のせいよ!!」 ようやく服屋に着いたわたし達は、早速選び始める。 とは言っても、ダネットは服に無頓着なのか、どれが良くてどれが変というのがわからないらしい。 「お前、これ!! これがいいです!!」 「それ男物でしょうが!! いいから適当に見てなさい。わたしが選ぶから。」 手に持っていたタキシードをしぶしぶ戻し、またふらふらと店内を見回り始めるダネット。 「うん。これなんかどうかしら。ダネット、試着してみなさいよ。」 「これですか……? ヒラヒラしてて動きづらそうです。」 「試しよ試し。ほら、着てみなさい。」 「わかりました……うー。」 ぶつくさ文句を言いながらも、ダネットはわたしが選んだワンピースを持ち、試着室で着替えた後、ひょこっと顔だけ出して恥ずかしそうにわたしに聞いてきた。 「お前、これはやっぱりやめましょう。スースーします。」 「いいから出てきなさい。」 「うー……」 「あら、結構いいじゃない。」 ダネットに派手な物は似合わないだろうと考え、薄い桃色のワンピースを渡したのだが、なかなかどうして似合っている。 まあ、長い耳や角や、足の毛や蹄があるので、よーく見ると亜人だとわかってしまうのだが、パッと見では年頃の女性に見える。 「じゃあ今度はこっち着てみなさい。」 「またヒラヒラ……お前、なんか楽しんでませんか?」 「気のせいよ。ほら、早くしなさい。」 「うー……」 その後も何着か試着してみたのだが、結局ダネットが選んだのは、シンプルな藍色のシャツとズボンだった。 本人曰く、スカートは動きづらいから嫌だそうな。 他にも、何着か下着を買って店を出た後、寝具の発注をしに行く。 こちらはあっさりと決まり(最初、ダネットは寝袋を選ぼうとしたのだが、わたしが止めた。)集合場所の広場へと向かう。 「遅いわよルイズ。」 「文句ならダネットに言ってよね。」 「わ、私が悪いって言うんですか!? お前の足が遅いのが悪いんです!」 「どう考えてもあんたが原因でしょうが!」 そのまま四人でクックベリーパイを食べに、新しく出来たお店とやらに向かった。 「これがクックなんとかですか!! 気に入りました!!」 「はいはい。わかったから、もっとゆっくり食べなさい。クックベリーパイは逃げないわよ……って、あんた!! それわたしのパイよ!」 「賑やかねえ。」 「騒々しい。」 その後、パイを平らげ、紅茶をすすりながら今後の予定を話し合う。 「それで、この後は何か予定あるのルイズ?」 「特に無いわね。あんた達はどうなのよキュルケ?」 「あたし達も欲しかった物は買ったし、パイも食べられたから、特に予定は無いわよ。」 どうしたものかと考えるわたしとキュルケに、タバサが割って入ってきた。 「これを読みたい。」 「お前、本ばかり読んでますね。いつか本になっちゃいますよ?」 タバサの言葉に、ダネットが反応する。 ん?どこかで笑い声が聞こえたような……気のせいか。 「じゃあ、ちょっと早いけど帰りましょうか。キュルケもそれでいい?」 「そうね。じゃあタバサ、お願いできる?」 キュルケの問いにタバサは頷き、わたし達はトリスタニアを後にしたのだった。 そして、その日から一週間が過ぎた時、事件は起きた。 わたしとダネットにとって、とても大きな事件が。 前ページ次ページお前の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/861.html
前ページ次ページ糸色望の使い魔 「と言うことは何かな、この中に犯人がおると?」 学院長であるオールド・オスマンはそう言った。 ここ、学院長室にはオールド・オスマン、ミス・ロングビル、その他数名の先生と生徒、兵士が集まっていた。 「そんな、ここに居るのはみな家柄のしっかりし……てない人も居ますが」 と先生の一人が私の隣に居るイトシキを見て言った。 「あら、家柄で怪しむなら私も怪しいと言うことになりますわね」 そうロングビルが続ける。その一言でその先生は次の句が告げられずに黙り込んだ。 そもそも何故こんな状況になったのか。 それは数刻前に遡る。 ゴーレムを発見した私はとっさに駆け出していた。 杖を振りかざすとゴーレムの胴体を爆発させた。ゴーレムの身長は三階をゆうに超える巨体。命中精度が低い私の魔法でも十分に当たる。 何を目的にしているのかは分からないが、学院に向かって拳を振り下ろしている時点で攻撃を迷う必要は無い。 だけど私が魔法で破壊した穴は小さく、すぐさま塞がってしまう。 ゴーレムはこちらの存在など無いものと無視して壁を殴るのをやめない。 続けてファイアーボール(失敗しているが)を唱え続けた。 そうこうしている間に先生や一部の兵士が駆けつけてきた。 ゴーレムを取り囲むように展開すると、四方から魔法を浴びせかける。 多数の魔法を浴び、爆発と烈風によりゴーレムは横倒しにされた。 だが、ゴーレムは特に抵抗を見せないまま、そのまま土に還ったのである。 まだ暴れることができたはずなのにあっさりと引いてしまった。 その事に不信を覚えたオールド・オスマン学院長は殴られていた場所が宝物庫であることに気づいた。 すぐさま宝物庫に走る、ついていく先生や兵士に混ざって私も宝物庫へと走った。 螺旋階段を駆け上がると、そこには重厚な鉄の扉。学院の宝物庫には貴重で価値の高いものが保管されている。よってスクウェアクラスのメイジ数名によって封印がされている。 その扉のには張り紙がしてあった。紙には 『お宝はたしかに頂戴しました。土くれのフーケ』 と書いてあった。 これに驚いた学院長はとっさに呪文を唱えて鍵を開けた。 そのまま宝物庫になだれ込む私たち、一見宝物庫の中は変わった様子は無い。 そもそも入ったことが無かったので元の風景をしらないのだけれども。 フーケが隠れていないかと警戒しながら私たちは宝物庫を見回った。 この宝物庫は意外と広く、死角になる場所が多い。 全員で散って探したのだが怪しい人影はまったく見えない。 これはもう逃げたものと思い入り口に戻った。そうするとオールド・オスマンが全員を集めて話した。 大きな円筒状の杖を知らないかと。 これがゴーレム出現から破壊の杖が盗まれるまでの経緯であった。 ここから導き出された犯人の行動予定は、まずゴーレムで騒ぎを起こす。 そして偽の張り紙で学院長に鍵を開けさせて目当ての宝を盗み出す。といった所だったのだろう。 犯人にとっての予定外は、予想以上に人が宝物庫に駆け込んできたため、入り口はずっと兵士が見張っていたこと。 学院長が真っ先に無事を確認した破壊の杖が目的で、学院長が無事を確認したあとに盗み出してしまったこと。 そのため、犯人はあの時宝物庫に居た人間の誰かと言うことになった。 当然その場に居た人間全員の身体検査を行ったが何も出てこない。 さらにオールドオスマンと他一名が宝物庫を徹底的に探したのだが出てくることは無かった。 品評会は急遽中止、他の生徒は寮からの外出を禁止、姫様には速やかに王宮にお引取り願った。 そして怪しまれている私たちは学院長室に集められたわけである。 「そもそも、本物のフーケかどうかはともかく、ゴーレムを使っていたんでしょう? 私は関係ありませんわよ」 と赤い髪を揺らし、キュルケが言った。今回ばかりは同意する。彼女は火のメイジ、ゴーレムは作れない。 私も残念ながらあんなゴーレムは作れないし、キュルケの隣に居るタバサは確か風と水のメイジだったはずだから同様だろう。イトシキなんか魔法自体使えない。生徒とその使い魔は全員シロということだ。 「そうは思っておるが、事件があった時に同じ部屋にいたのじゃ。何か犯人を捕まえる手がかりを知っておるかもしれんじゃろ?」 「そうねぇ、私はゴーレムと戦ってる時からずっとタバサと一緒に居ました。杖についてはまず気にもしませんでしたわ」 タバサもコクリと頷いた。 「ヴァリエール嬢はどうかな?」 「私も特には……気がついたら杖が無くなったと聞かされただけで。杖がどこに保管されてたかも知りません。イトシキ、あんたは何か気づかなかった?」 と横に立って無関係を装ってた彼に話しかけた。 彼は青い顔をこちらに向けた。その顔は「何故話しかけたんですか」と言っている。 どうやら自分が濡れ衣を着せられるのではないかと怯えているようだ。何もしてないのだったら堂々としていれば良いのに。 その様子は周りからも不信に見えたらしく。 「顔が青いな、まさか貴様が……?」 と兵士がイトシキに問いかける。 「べ、弁護士を呼んでください!!」 と、またよく分からない事を叫んだ。 「またあなたたち軍隊は怪しいというだけで市民を引っ立てて無実の罪をなすりつけるつもりなんですね!」 「は? そんな事は一言も……」 「いいえ、口でそう言いながら心の中では私が犯人だと思い込んでるに決まってるんです。そうやって歴史はウソで塗り固められていくんです! もしかしたら●ットラーやス●ーリンは善人だったかもしれないじゃないですか。何故そう断言できるんです!」 「落ち着きなさい、バカ!!」 ロープを首にかけると思いっきり引っ張って締め落とした。そのまま簀巻きにする。 「お騒がせしました」 「ルイズ」 「なによ、キュルケ」 「なんでロープなんか持ってるの?」 「品評会の直前にイトシキから没収したからよ」 そのままでは埒が開かないので、学院長が一人ずつ尋問することになった。 待ってる間は別室で待機となった。 学院長室の真下の客間に私を含めて生徒三人、兵士が二人、先生が二人、そして各々の使い魔が詰めていた。 タバサの使い魔は窓の外を飛んでいるが。 今はコルベール先生が学院長室でオールド・オスマンと話している。 「本当にこの中に犯人なんか居るのかしら?」 あまりに手持ちぶたさのため単純な疑問が口から漏れた。 「人間、裏で何を考えているかは分かりませんからね。最近は温和な人ほど怖いということもあります」 イトシキの『最近』はあてにならないが、確かにそういうものなんだろうか。 「なに? タバサが怪しいって言いたいのかしら」 その発言にキュルケが噛み付いた。 「違います、私は私以外の全員を疑ってます!」 それはそれでどうなんだろうか。 「そもそも、学院長が取調べを行うのもどうかと思いますよ。彼が犯人だったらどうするつもりです。私なら虚偽の証言で誰か適当な人間を……そうですね、学院として傷が付かない兵士の方二人のどちらかを犯人に仕立て上げます!」 「そうかもしれん、だが『破壊の杖』は学院長個人の持ち物であると聞く。それじゃあ自分のものを事件を起こして盗み出したと言うことになるぞ」 イトシキの疑惑に先生が反論を立てる。 それもそうだ、学院長が犯人ならなんのためにこんな事をしたというのだろうか。 「保険金詐欺、が考えられますがこの世界にはありませんでしたね。でしたら破壊の杖を行方不明、盗賊の手に渡ったことにする。その後その杖を使って何か事件を起こせば盗賊に罪が降りかかります。十分メリットはあるでしょう」 「あんたの中で学院長はどんな極悪人になってるのよ」 「年を取った人はいつも悪いことを考えてるものです!」 あなたが言うな。 最近、このネガティブを矯正するのは無理なんじゃないかと思いはじめている。 「そう考えると辻褄が合います。まず学院長は品評会の前に宝物庫に行って偽の盗賊の書置きを残す。そしてゴーレムを遠隔操作で操り、倒された後はさも当然のように数人を伴って宝物庫に行く。そして盗まれたフリをして騒ぎを起こし、その間に破壊の杖を外に運び出すのです」 「面白い考えだけど、穴だらけよねぇ」 とキュルケが冷静に言った。 「そもそも学院長が犯人ならば、機会はいくらでもある」 とタバサが補足した。 それもそうだ、犯人にとってこれだけの人数が宝物庫に集まったのは予想外のはず。学院長が犯人ならこんな無理な条件でさらに計画を進める事は無い。 「まあ、面白い推理だったけどね。確かに盗んだフリをして実はまだ宝物庫にあるってのは……」 全員がはっと顔を上げる。 「ちょっとまって、宝物庫を点検したのは学院長よね?」 「いや、確かもう一人誰かが一緒に点検したはずだ」 と私の疑問に先生の一人が返す。 「ミス・ロングビル」 タバサがぽつりと言った。 客室に居た私たちは大慌てで学院長室になだれ込んだ。 中に居るのは、驚いた顔をしたコルベール先生と、片眉を上げているオスマン学院長。 ミス・ロングビルの姿は見えない。 「学院長、ミス・ロングビルはどうしました?!」 「どうしたんです、血相変えて」 「彼女なら、ちょい前にトイレに行ったぞい……そう言えば遅いの」 遅かったようだ。 その後、イトシキの推理を学院長に話し、先生を総出でミス・ロングビルを探した。 だが彼女は完全に学院から姿を消していた。 私たちを笑うように宝物庫には『今度こそ間違いなく、破壊の杖を頂戴しました。土くれのフーケ』と書置きだけが見つかった。 再び学院長室には男の先生と容疑者だった私を含める生徒三人と何故かギーシュ、それと使い魔が集まった。 兵士はもう居ない、城へ戻って彼女を指名手配するとの事だ。 「騎士団がフーケを追うと連絡があった……じゃが」 いつもとは違った厳しい表情を見せる学院長。 ここまで良いように盗賊にコケにされたのである。さすがに怒り心頭といったところであろうか。 「これは学院はじまって以来の事件、我々が解決すべきことじゃ。誰かフーケを追おうという者は居らぬか?」 私は迷い無く杖を上げようとした、が隣から伸びてきた手に妨害された。 「何のつもりかしら、イトシキ」 「手を上げるつもりでしょう」 「当たり前じゃない」 「ダメです!」 「何? 珍しく心配でもしてくれてるの」 「心配も何もあなた、私を当然のように連れて行くつもりでしょう。絶対にイヤです!」 「当たり前でしょう、主人に付き従わない使い魔がどこにいるのよ」 力づくで手を上げようとし、それをイトシキが押さえつける。 力が拮抗してるあたり男の癖に本当にひ弱である。 「ミス・ヴァリエール。保護者から預かってる、学生である君を盗賊退治に向かわせるわけにはいかんよ」 「ぉお、さすが学院長。PTAの事をよく考えられている」 イトシキを手を振り払うと、前に進み出る。 「では、先生方の中で名乗りを挙げる人は居るのですか?!」 全員が顔を背けた。土くれのフーケはトライアングルメイジと聴く。しかもあのゴーレムを操るのだ。 今度は昼のように戦いになれた兵士たちは居ない。怪我どころか命をかける仕事になるかもしれないのだ。しかもただの盗賊退治、名誉も何も無い。 だけど私たちは貴族だ。イトシキでは無いけれど、その物騒な名称の杖を使っていつ盗賊が国家に仇名すか分からない。早急にやれることをやるべきだ。 「だから私が行きます」 と、杖を上げると隣でもう三本の杖が上がった。 「私もいきますわ、ヴァリエールばかりに格好つけさせるわけにはいきませんもの」 「……心配」 「女性ばかりでは心配だ、僕もいこうじゃないか」 キュルケとタバサ、ギーシュだった。 だが学院長もこれには眉をひそめた。それもそうだろう、学生だけでいかせるにはいかない。 他の先生もそう考えているようでザワザワと騒ぐ。だが誰も杖をあげようとはしない。 「それでは、私が志願するよ」 とコルベール先生が杖を上げた。 それに続いてイトシキが手を上げた。 「はい、私はいきません!」 「行くに決まってるでしょ!」 前ページ次ページ糸色望の使い魔
https://w.atwiki.jp/gurpsvh/pages/144.html
★使い魔 ▼使い魔 CP様々 基本的にGURPSマジックの記述に準じますが、レギュレーションにより「疲労点が生命力基準」になったことに伴って、変更点があります。 「魔術師は使い魔の体力を使用できる」の特殊能力を取得した場合、「使い魔の生命力-1」×3を2分の1にしたCPを支払う必要があるものとします(状況が限定された追加疲労点と同じ扱いです)。使い魔の疲労点をすべて使い切ってしまうと、使い魔は気絶し、契約が切れ使い魔は失われます。特に特殊能力を持たない使い魔なら、条件さえ満たしていればCPを支払わずに取得できます。使い魔が死亡しても、特に獲得CPにペナルティはありません。 使い魔を手に入れる際には、GURPSマジックの記載を注意深く読んでください。使い魔は異次元から召喚された魔法の生物です。餌は基本的に必要ありませんし、獲得にお金を支払う必要もありません。その代わり、次のセッション開始時には同じ能力を持った使い魔を再度召喚していることになります。「動物共感」の特徴があれば、失った使い魔と同じ霊魂が呼び出されるでしょう。 使い魔には様々な特殊能力がありますが、これらは成長によって獲得することが可能です。 使い魔はレベル2以上の魔法の素質か「武器の達人(銃の達人・戦闘用工具の達人は除く)」「マナの祝福」「動物共感」があれば獲得することが可能です。 また原則として、必要CPを軽減する使い魔の特徴については、制限をかけることができません。 ▼小さな使い魔と大きな使い魔 小さな使い魔(1ヘクス未満)に攻撃を命中させるのは、普通の動物より困難です。命中判定へのペナルティを決めるには、HPを基準にしてください。生命力をヒットポイント(魔術動作による増加分を含まない)で割った数値(端数切捨)が命中判定へのペナルティとなります。 他にも「小さい」ことによる特典は多くあるでしょう。狩猟を行う動物などは静かに獲物に忍びよるのが基本的な行動ですから、〈忍び〉技能を少なくとも敏捷力と同値で持っているのが普通です。 逆に大きな使い魔(2ヘクス以上)には攻撃が当たりやすくなります。攻撃の命中判定にヘクス数と同値のボーナスを与えます。他にも〈忍び〉判定など、状況によりペナルティを受けるケースはあるでしょう。 ▼魔術師は使い魔の体力を使える 「マジック」P127の記述から内容を変更します。 使い魔から借り受けることができる疲労点は、最大で「使い魔の(「体力」+「生命力」)÷2(端数切上)」までです。2CP/Lvにつき1点分、使い魔の疲労点を使用することができます。 使い魔から疲労点を借り受けた結果、使い魔の疲労点が0になった場合、魔術師と使い魔の絆は断ち切られます。 ▼使い魔はオーラを見ることができる 使い魔の特殊能力の一つです。使い魔はオーラを見ることができます。5CP支払えばレベル2相当のオーラ感知、10CP支払えばレベル3相当のオーラ感知です。知覚を共有していても、オーラは使い魔にしか見えません。使い魔が「見た」ものを周囲の人々に伝えるには、相応の特殊能力が必要でしょう。漠然としたことであれば特に判定なしでも伝えることができますが、詳細に伝える場合には使い魔の知力による判定が必要です。相手が「動物共感」の持ち主なのであれば、判定に+4のボーナスです。〈動物使役〉のレベルが15以上のキャラクターがいるのであればさらに+1、20レベル以上であれば+2のボーナスを得ます。 ▼使い魔は危険を察知できる 使い魔は「危険察知」の特徴を獲得します。5CP支払うことでこの能力を獲得できます。察知した「危険」を周囲に伝えるには、また別の特殊能力が必要でしょう。危険を察知する際の判定の基準値は14となります。 ▼使い魔は器用である この使い魔は「器用」の特徴をLv5で所持しています。この影響により、人間と同様に道具を扱うことができるようになります。この影響によりかなりできることの幅が広がります。プレイヤーとGMは想像力を働かせてください。この能力を取得するには10CP必要です。この特殊能力は制限をかけて必要CPを軽減することができません。 ▼使い魔は相手の感情を察知できる 使い魔は「感情察知」の特徴を獲得します。5CP支払うことでこの能力を獲得できます。察知した「印象」を周囲に伝えるには、また別の特殊能力が必要でしょう。相手の印象や気分を察知する際の判定の基準値は14となります。この能力は、あまり当てになりません。使い魔が相手から受けた「印象」を適切に周囲に伝えるには、知力による判定が必要になります。相手が「動物共感」の持ち主なのであれば、判定に+4のボーナスです。〈動物使役〉のレベルが15以上のキャラクターがいるのであればさらに+1、20レベル以上であれば+2のボーナスを得ます。 ▼使い魔は意志が強い 2CPを支払うごとに、使い魔は「意思の強さ」を1レベル獲得することができます。意志の強さは5レベルまで獲得することができます。 ▼使い魔は感覚が鋭い 動物の知覚判定は通常14を基準としますが、2CPを支払うごとにこの数値を上げることができます。これは「鋭敏感覚」と同様に扱い、最大5レベルまで取得できます。使い魔が察知した内容を回りに伝えるには、また別の能力が必要でしょう。漠然としたことであれば特に判定なしでも伝えることができますが、詳細に伝える場合には使い魔の知力による判定が必要です。相手が「動物共感」の持ち主なのであれば、判定に+4のボーナスです。〈動物使役〉のレベルが15以上のキャラクターがいるのであればさらに+1、20レベル以上であれば+2のボーナスを得ます。 ▼使い魔は死ににくい 2CPを支払うごとに、使い魔は「死ににくさ」を1レベル獲得することができます。「死ににくさ」は、最大5レベルまで取得できます。 ▼使い魔は幸運をもたらす 使い魔は「幸運」の特徴を得ます。魔術師と接触していれば、魔術師もこの「幸運」の効果を得ることができます。魔術師が使用した場合も、使い魔の「幸運」を使用したものとして扱います。魔術師に幸運の効果を貸し出すと、使い魔は3点疲労します。この能力は10CPで獲得することができます。この特殊能力は制限をかけて必要CPを軽減することができません。 ▼使い魔は魔法が使える 使い魔は魔法の呪文によくにた特殊能力を使うことができます。呪文の技能レベルは必ず15レベルとなります。呪文の前提条件は無視し、必要CPは4点となります。疲労点は、使い魔の疲労点を消費します。この特殊能力のエネルギー消費により使い魔の疲労点が0になっても、使い魔との絆が切れることはありません。この特殊能力は制限をかけて必要CPを軽減することができません。 ▼使い魔は未来を予知する 使い魔は眠っている間予知夢を見ます。ですがこれはあまり当てにならない能力です。これは「夢占い」の神託として扱いますが、エネルギーは消費しませんし、能動的に使うこともできません。判定の基準値自体は14です。夢の内容を周囲に伝えるには別の特殊能力が必要です。加えて、使い魔が夢の内容を適切に周囲に伝えるには、知力による判定が必要になります。知覚に「動物共感」の持ち主がいるのであれば、判定に+4のボーナスです。〈動物使役〉のレベルが15以上のキャラクターがいるのであればさらに+1、20レベル以上であれば+2のボーナスを得ます。この特殊能力は制限をかけて必要CPを軽減することができません。 ▼使い魔は技能を持っている 使い魔は呪文を使うことこそできませんが、人間と同等以上(知力7以上)であれば、人間と同じように技能を取得することができます。使い魔に「仕込む」ことができる技能は、〈動物使役〉技能レベルの5分の1個までです。技能を習得・成長させるのに必要なCPは、通常の半分になります。動物の種別によっては、技能を持っている場合があります(犬の〈追跡〉、GMの判断にもよりますが、動物として最低限できること――例えば猫であれば〈忍び〉〈跳躍〉〈軽業〉などは持っていて然るべきでしょう)。これはこの特殊能力による技能の数の制限に含みません。また、技能に前提条件がある場合、使い魔はそれを無視して技能を習得することが可能です。この特殊能力は制限をかけて必要CPを軽減することができません。 使い魔の技能は後から成長させることが可能です。 ▼使い魔は神聖な生き物である この使い魔はある特定の信仰上、神の使いあるいはそのものとされているなど「神聖」な動物として扱われています。この使い魔の攻撃は常に『神聖』であるものとして扱われます。またヴァンパイアやその眷属からの攻撃によるダメージを2点軽減することが可能です。 またこの使い魔は《祝福》《小祈願》《祈願》《大祈願》の恩恵を受けることができます。 「神聖な」使い魔を獲得するには5CPが必要です。この特殊能力は制限をかけて必要CPを軽減することができません。 ▼使い魔は食事が必要 使い魔には食事が必要です。セッションごとの生活費が3万円増加します。これにより使い魔の獲得に必要なCPが-5点軽減されます。「大飯食らい」の使い魔なら、セッションごとの生活費が10万円増加します。この場合使い魔の獲得に必要なCPが-15点軽減されます。この不利な能力に制限をかけることはできません。 ▼優秀な使い魔 使い魔の能力値を、標準的な動物のものから向上させることができます。知力は「GURPSマジック」の記述に従ってください。敏捷力と生命力は、能力値を+1するごとに10CPです。体力を増やす場合は5CPです。知力を7にする(5CP)には制限をかけられませんが、これらの能力には制限をかけることができます。 ▼暴走する使い魔 「動物」としての習性が色濃く残った使い魔です。「悪魔」と異なり命令を曲解したり主人を罠に嵌めるようなことはありませんが、その動物としての本能的な衝動を優先してしまいます。使い魔は意志(知力が7以上であればこの判定に限り最低12)判定に成功しないと命令を無視して自分の欲望、あるいは動物としての衝動を優先した行動をとってしまいます。 主人はこうした行動を〈動物使役〉と使い魔の意志(知力を問わずこの判定に限り最低12)の即決勝負を行うことで制御することができます。ただし使い魔が離れて行動している場合、「使い魔は喋ることができる(精神感応)」の特殊能力がない限り〈動物使役〉による即決勝負を行うことができません。使い魔が離れて行動している場合、この〈動物使役〉の判定には-3のペナルティを受けます。「暴走する使い魔」を獲得するのに必要なCPは半分(端数切上)になります。 ▼「クセ」のある使い魔 知力7以上の使い魔であれば、人間と同様の「精神的不利な特徴」を取得することができます。こうして取得した肉体的・精神的不利な特徴によって、使い魔の獲得に必要なCPを軽減することができます。軽減できるCPは、通常不利な特徴によって獲得できるCPと同等です。 精神的不利な特徴を持った使い魔は、その特徴に応じて主人の行動にも干渉してきます。「好色」なオス犬の使い魔は、美しいメス犬や美女の元へ主人をどうにかして連れ出そうとするでしょう! 生活費に影響するような特徴を持つ使い魔を保有している場合、魔術師自身がその特徴を取得したのと同じように生活費が上昇します。「慈善家」の使い魔を持っている場合、生活費は10%上昇します。魔術師もまた「慈善家」なのであれば20%上昇します。 こうした使い魔の「不利な特徴」に従った行動を宥めるには〈動物使役〉の判定に成功する必要があります。使い魔との意思疎通ができないのであればー2のペナルティを受けます。精神感応などができる状態で離れた場所にいるのであればー3のペナルティです。離れた場所にいて意思疎通ができないなら、使い魔の意志の強さに任せるしかありません! これは意志判定と同様に扱い、14以上は自動失敗です。これにより軽減できるCPは40CPまでです。 これらの不利な特徴は後から「買い戻す」ことが可能です。 ▼「ファンタジー世界」の使い魔 5CPを支払うことで「ファンタジー世界の」動物を使い魔にすることが可能です。望むならドラゴンを使い魔にすることすら可能です! もちろんあなたがうまく凶暴で巨大なドラゴンを取り扱えるのであれば、の話ですが。 この使い魔は、目撃されれば大変な騒ぎになるでしょう。取り扱いには十分な注意が必要です。この能力に制限をかけてCPを軽減することはできません。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1668.html
蒼いドールと翠のドールが深い闇へと落ちていく。 その先には、突然現れた光る鏡のようなもの。 鏡の中の鏡。それに蒼いドールは飲み込まれていく。 ゼロの使い魔~緑と蒼の使い魔~ [第一章 ゼロの使い魔] 第一話 召喚 その日、ルイズは召喚の儀を行い、毎度お馴染みの爆発が起こった。 爆発したのでルイズは失敗したのだと思い即座にもう一度行う。他の誰にも気付かれないように素早くもう一度。そしてもう一度爆発する。 こうなると周りの生徒達は、ルイズが失敗したと確信し、誰だってそうするようにからかっていた。 …しかし、煙の中には人影みたいなものがあったのだ。 ルイズは喜んで煙の中に駆け込んでいった。 「やった!成功したわ!」 生徒達は各々ざわめきだす。 「ば、馬鹿なッ!ルイズが成功した。そんなはずはッ!」「落ち着け。メイジはうろたえなィィィィ!!」「素数を数えて落ち着くんだ。」 ルイズが魔法を成功させるということは、普段失敗を目の当たりにしている生徒達にとって、とてつもない衝撃なのである。 そんな生徒達を無視し、ルイズは己が召喚したものに近づき呪文を唱える。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ……」 と。 そして接吻をしようとした。 だが、よく見ると二体いるのだ。もちろん召喚されたものが。 一方、召喚された蒼いドール、ショートカットでいやらしい帽子を被っているボーイッシュ、つまるところは蒼星石である…は、召喚された際に通常の状態に戻っていたのである。 ローザミスティカは失っているのに動いている。ルイズに召喚されるにあたっての効能であろうか。まさにファンタジーやメルヘンの世界なのだ。 そして煙の中で、自分が抱きついている緑色がぼんやりと見える。 此処が異世界であると気付いてはいないのだが、緑色、翠星石が一緒であると言うことに、正常に戻った蒼星石はギュッと強く抱きなおす。 (なんだか硬いなぁ…。) そう思い、よく見てみると大きい。男性一人分の大きさだ。しかも何だか飛蝗みたいだ。 蒼星石は驚いて離れようとするが、石に躓いて尻餅をついてしまう。 「あの…抱きついたりして、ごめんなさい。」 少しばかり恥じながら、申し訳なさそうに蒼星石は謝った。 ルイズはその光景を見ていた。 口付けをしようとしたら、二体いたのだ。暫し戸惑っていると蒼色の方が飛びのいて、尻餅をつき、謝っている。 蒼いほうはどう見ても小さい子である。しかし、緑色のほうは何だか強そうな亜人だ。 ルイズは心の中でガッツポーズをした。 その頃には煙も晴れて、無事成功したかと心配して、コルベールがやってきた。 コルベールは二体召喚されたという前例のない事態に驚き、とりあえず両方とも契約させるべきかな…と思い、ルイズに契約を二体ともするように促した。 言われたことに従ってルイズは契約を済ませようとする。 まずは練習がてらに蒼い小さい方に口付けをした。蒼い方は何だか戸惑っているようだった。 (こっちはあんまり役にたたなそうね。身の回りの世話でもやってもらおうかしら。) 「あぁぁぁぁ…あうぅぅ…うぅぅ…」 蒼いほうがルーンを刻まれるにあたって起こる熱に、悲鳴をあげていた。勿論我慢しようと心がけているのだが。 次は緑色の亜人だ。蒼星石を相手にせず、ルイズは緑色に近づく。その緑色と契約するのが楽しみで、蒼星石はアウトオブ眼中である。 ここで少しばかり時間は前後する。 緑色の亜人、ご存知我らの矢車の兄貴は、影山の亡骸と供に白夜の世界に向かおうとしていた。 その途中、目の前に謎の鏡のようなものが現れる。 ワームの類かと思い、矢車はゼクターを装着し、変身する。 …CHANGE KICK HOPPER!! 電子音が響く。白夜の世界に向かうのを邪魔するヤツは倒す。 その勢いで蹴りを繰り出すキックホッパー。しかし輝きに飲み込まれてしまった。 そして辿りついたこの世界。気付いたら小さい子に抱きつかれてて、そんでもって謝られる。 次にピンク髪の女の子が小さい子に急にキスをするという光景に。そこで害はないと思ったのか、変身を解く。 驚いたのはルイズだった。さっきまで緑色の亜人だったのが、黒いロングコートを着たただの平民に変わってしまったからだ。 暫し考え、きっと風の先住魔法か何かだろうと思い、ルイズは更に喜び、最高にハイってヤツになる。 そうしてその流れに乗ったまま接吻をする。ルイズはルンルンである。 (さっきは子供、今度は亜人だからファースト・キスにはカウントされないわ!) ズキュゥゥゥゥゥゥン!! (遂にやったわよ!本当に凄い当たりくじ、これで少しは見返してやれるわ。) 当然ルーンが刻まれることによって起きる熱に苦しむ。 「それはルーンが刻まれているだけよ。すぐに終わるわ。」 蒼星石のときにはかけなかった言葉をかける。 痛みが納まり、ルイズのほうを一体何なんだと見る矢車。それに対してなんともないという風に見返して尋ねる。 「あなたの名前は?」 矢車は流れがよくわからなく、面倒だったがとりあえず答えておいた。これぞルーンの洗脳効果である! 「………矢車、矢車想だ。…どうせ俺なんて……。」 to be continued…
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4720.html
前ページ次ページ鋼の使い魔 せっかくの虚無の曜日が暮れてとっぷり。 トリステイン魔法学院内にある大会議室はオールド・オスマンを首座に座らせて教師という教師が集まり、非常に重たい空気を作っていた。 陽も落ちかけた頃に突如として現れたゴーレムが宝物庫を破壊し、収蔵されていた無二のマジックアイテム『破壊の杖』が 盗賊『土くれのフーケ』によって盗み出されてしまった。 その慎重にして大胆な犯行に学院の管理者たる教師たち一同は責任の所在と今後の対策について、 議論とは名ばかりの自己保身や責難に明け暮れた。 「当直のものは何をしていたのだ!」 「衛兵など当てにならぬ!今後はこのようなことが無いよう国軍に警護をまかせるべきではないか」 「当直を行っていなかったミセス・シュヴルーズには損失の弁償を…」 「そんな!私だけじゃなく他の方々も満足に当直なんてなさっていなかったでしょう!」 「国軍を安易に学院内に留まらせるのは学院の自主性の放棄じゃないか?!」 まさに議会踊って進まず。このような状態が3時間は続いていた。 好々爺の姿勢を崩さずそのやり取りを見守っていたオールド・オスマンであったが、さしもの業を煮やし取り乱す教師たちを一喝する。 「静まらぬか。皆の者」 半ば立ち上がりながらも喧々と口角泡を吹いて立ち回っていた教師達は、齢300とも称されるこの老メイジの放った覇気に当てられて 喉を詰まらせた。 「ここにおるほぼ全員が学院に賊が入り込むとは考えていなかった。無論、宝物庫の壁には強固に固定化を仕込んでおったが、所詮人の技。 事実盗賊めにまんまと破られて『破壊の杖』を持っていかれた。 詰まる所、今回の責任は学院の管理者たる我々全員にあると、わしは思うが如何かねミスタ・ギトー」 「お、おっしゃるとおりに……」 一際激しく責任者を探すべくなじっていたギトーは名指しされて鼻白んだ。 オスマンは咳払い一つ、いくつか空いた席が置かれて座っているコルベールに聞く。 「で、賊を直接目撃したものはおるのかね」 「はい。こちらに集まってもらってます」 コルベールは平素と変わらぬ態度で――ただし、その顔は幾分か険しい――会議室の隣に繋がるドアを叩き、中の者を呼び寄せた。 開けられたドアから入ってくるルイズ、ギュス、キュルケ、タバサ。 本来はギーシュも広場に居たため目撃していたはずなのだが、ゴーレム倒壊による負傷のため現在は医療室へ運ばれている。 ただし、勤務医の報告によると、ギーシュ・ド・グラモンは土砂崩落に巻き込まれた負傷に付随して、一種の欠乏症からくる 健康障害も患っていたことをここに記しておく。 閑話休題。オスマンは立ち並ぶ四人に対して暖かい目で迎えた。 「ふむ。詳しく話してくれるかの?」 一礼して一歩進み出るルイズ。他方ギュスターヴにも教師達の視線が集まってくるが、それは学院の会議室という厳かな場所に許可を与えたとはいえ平民が入り込んできている、という事への不快さを露にしたものだった。 「私はあの時、広場で魔法の練習をしていました。偶然広場に居たギーシュが塔の上に人影が見えたと言って、その後地鳴りが起こって 壁の向こうから大きな土のゴーレムが入ってきました。私はそれを撃退できないものかと遠くから魔法を打ちましたが、何度目かに命中して ゴーレムが崩れました。落ちてくる土から逃げる為に建物の中に一度はいり、土煙が収まってから外に出た時には、土の山だけで 賊が居なくなっていました」 「賊の特徴は覚えておるかの」 「黒いローブを身に着けていましたが、顔はおろか男か女かも分かりません……」 杖を振って賊を追い払うことに夢中で賊の顔形が頭から無かった事を心深くからわびるルイズに、あくまでも教師として 優しさと厳かさの混じった声で語りかけるオスマン。 「よいよい。生徒でありながら勇敢に杖振るったことを褒めてやろう。しかし一歩間違えば命の危険もあったのじゃ。そのことを忘れぬように」 はい、とルイズ。オスマンは教師達へ向きなおし、彼らに問う。 「さて。手がかりらしいものが何も残されておらぬ。どうするべきかのぅ」 「王宮に報告するべきではないでしょうか」 当直であったために最も非難を浴びていたミセス・シュヴルーズが積極的に手を上げる。 「ならぬ。先ほど言ったように今回の責任は我々全員にあるのじゃ。この件で王宮の官吏どもから非難と処罰があれば、我々は 責任を取らされて職を辞し、学院の管理運営は最悪アカデミーの傘下に吸収される、という事もありうるじゃろう。 そのような事があってはならぬ。ゆえに我々だけでフーケを捕縛、ないし『破壊の杖』を奪還せねばならぬのじゃ」 アカデミーとは学院と同じく国が置いた王立の機関の一つであるが、その目的は学術的な意味での魔法に関する研究である。 ただし学院とは違い、積極的な宮廷や地方貴族らからの寄付や義捐などを募り、内部の党派閥の激しい機関であることが知られている。 そのような連中に次代の貴族を育てる学院の運営を任せられない、ましてや不祥事をきっかけにしてなど。 オスマンの言葉に色を無くす、シュヴルーズ始め教師達。ことは己の職の安否にすら繋がるものと恐々とし始める。 ただなお、首座のオスマンは冷静にこの大事な会議の場に欠席する秘書の存在を気に掛けた。 「そういえば、ミス・ロングビルの姿がおらぬのう」 「どこに行ったのでしょうか。自室にはご在宅ではありませんでした」 明確に答えることが出来ないコルベールはそう言うしかない。 そこに勢い良く会議室の両開きの扉をと開け放って飛び込んできた人影があった。そこに室内の全員が視線を集める。 「遅れました!申し訳ありません皆さん」 「ミス・ロングビル!大変ですぞ!賊が侵入して宝物庫を荒らしていきましたぞ!」 「存じておりますわ。私、真っ先に宝物庫を確認して賊の後をつけるべく調査して参りましたの」 息を切らせ汗ばみ、額に髪が張り付いていたミス・ロングビルは、コルベールの言葉に答えながらたたずまいを直してオスマンの元に寄った。 「仕事が速くて助かるのぅ……」 「で、結果は?」 ミス・ロングビルは懐からなにやらメモ書きのようなものを取り出してそれを読み上げる。 「近在の農家などに聞き込みをしてみましたところ、ここから馬で4時間ほどの場所にある廃屋に、近頃見知らぬ人の出入りがあるとのこと。 ゴーレムの侵入した方角とも合わせて、おそらくそこがフーケと名乗る賊の棲家ではないかと思われます」 「上出来じゃ、ミス・ロングビル」 報告に満足したオスマンは再度教師陣に目を移し立ち上がった。 「さて諸君。再度言うがこの件は我らだけで解決せねばならぬ。故に今からフーケ捜索の有志を募る。我こそはと思うものは杖を上げよ」 オスマンの言の後、無言の時間が流れた。オスマンは大きく咳払いをしてもう一度教師達をみたが、教師達は互いに見合わせるだけで 何もする事が無い。そうして四半刻がゆっくりと流れた。 流石のオスマンも苛立ってくる。 「ええい、この中にフーケを捕らえようというものはおらんのか?貴族の威信にかけて汚名を雪ごうというものは」 ぐ…と杖を握る腕を震わせる教師一同。相手は巨大なゴーレムを作り出せるほどの優秀なメイジあることは明白。 しかも今から賊の住処を荒らしに行くというのだ。よっぽど自分に自信のあるものでなければ杖を上げることは出来ない。 オスマンはコルベールを見た。目を伏せ、ただじっとしている。汗一つ、震え一つ見せないその姿をオスマンは無念そうに眺めていた。 やがて上げられた杖がまず一つ。それは教師達からではない。 「ミス・ヴァリエール!」 「行かせてくださいミセス・シュヴルーズ」 会議室の隅に立ったまま待機していたルイズはじめ四人。一歩進み出てルイズは制止しようとするシュヴルーズに応えた。 「貴方は生徒ではないですか。ここは我々教師達に任せておくのです」 「そうは言っても、だれも杖を上げないではないですか」 たじろぐシュヴルーズ。そのとおりだ。現に止めるシュヴルーズ自身、杖を上げなかったのだ。ルイズを止めておける資格が無い。 そのやり取りを見ていた後の二人も杖を掲げた。 「ミス・ツェルプストー!それにミス・タバサも!」 「ヴァリエールには負けていられませんもの。でもタバサ、貴方はいいの?」 キュルケは脇に立つ友人に目を向けた。タバサは一旦掲げた杖を少しおろし、ルイズに、そしてキュルケに向けて一言。 「心配」 言葉少ない友人の気持ちに心を暖めるキュルケだった。 そんなやり取りをじっと見ていたオスマンは、ふむ、と一言言って教師達へ話した。 「では、彼女ら3名を捜索隊として遣わす」 「オールド・オスマン!」 「それとも君がいくかね?ミセス・シュヴルーズ」 「ぃ……いえ、私は…」 「彼女らは一度賊を見ておる。それにミス・タバサはシュバリエの称号を持つ優秀なメイジじゃし、ミス・ツェルプストーもゲルマニアの 高名なメイジの家系として優秀なトライアングルメイジじゃ」 シュバリエとは国が貴族へ与える爵位の一つだが、領地を与えられぬ無領地爵位でありながら、実戦能力等の実力によって 与えられるものであり、優秀なメイジの証でもある。 しかし、とオスマンは言葉切ってルイズを見る。 「ミス・ヴァリエール。本当に捜索隊に志願するかの」 「……はい!」 ルイズの目ははっきりと開かれオスマンを見ている。その態度に満足したオスマンは、 「うむ。では明朝未明より捜索隊として君達に外出許可を出す」 「「「「杖に賭けて」」」 「ミス・ロングビルには道案内をたのむぞ」 声をかけられたミス・ロングビルは心穏やかにそれを了承した。 「了解しました」 誰にも分からぬほどに笑いながら。 明朝、捜索隊として集められた一同は、用意された馬車に乗り込み、朝の澄んだ空気の中、出発した。 道中は森まで街道を行き、途中から徒歩による探索になるという。 「ミス・ロングビル。手綱など御者に持たせればよろしいのに」 案内人のミス・ロングビルは自ら馬車の手綱を取る事を願い出て、二頭引きの馬車を操っている。 「いいのです。私は貴族の名を捨てたものですから」 「よろしければ、事情を教えてもらえます?」 沈黙が二人に流れる。ロングビルは少しだけ、表情を曇らせたが、努めて空気を汚さぬように振舞った。 「……とある事情で廃名されまして。家族を養わなければなりませんので街に出て働いていたのですが、そこをオールドオスマンに 秘書として雇ってもらいましたの」 興味津々に聞いていたキュルケのシャツが何者かに引かれている。キュルケが振り向くと、小柄な友人が首を振って言った。 「野暮」 「それもそうね。ごめんなさいな、ミス」 「いいえ。慣れていますので…」 その言葉にほんの少し憂いを残す。 一方、馬車の別一角。ルイズは無理矢理同行させたギュスターヴの愚痴を叩き伏せるのに夢中だった。 「何も自分から厄介を拾いにいくこともないだろうに」 「何言ってるのよ。学院に賊が入ったのよ。これを放置するのは貴族の名折れよ」 「いつの時代も貴族ってやつぁ、大変だーな嬢ちゃん」 研ぎ終わったデルフがギュスターヴの腰に指されている。短剣とつりあうように左右に指された剣はギュスターヴの心象に 一応の安心感を与えていたのだが、この場においては多方向からの言葉に対応しなければいけない分、不利である。 「しかしだなぁ。何で俺まで引き連れるかね」 「ギュスターヴ。あんたは私の使い魔なんだから。腕に覚えがあるんでしょ?手伝って当然でしょ」 「当然って言われてもなぁ…」 「ま、いいじゃねーか。俺様は賛成だぜ。相棒の腕が早く見てーからな」 「……昨日みたいにでかいゴーレム出されたらあんまり出番もないんじゃないかなぁ……」 「ぶつくさ言わないの!使い魔だと分かってるなら主人の助手くらい承諾しなさい」 「そうだぜ相棒。もう馬車は出てるんだから嫌嫌言ってもしょうがねーぜ」 サラウンドで会話をするのは非常に面倒である。朝早くから馬車に揺られてそんなことをするのは気が削がれていく。 「分かったよ…」 うんざりしながらも渋々と首を縦に振るギュスターヴなのだった。 馬車が進んで3時間半。街道を外れた森の手前で馬車を止め、そこから徒歩で森に入って奥、ほんの少しだけ開かれた場所に あばら家が見える。 「農家からの聞き込みでは、おそらくここと思われます」 森の茂みの中、わずかにうねって身体を隠しておけるところに集まった5人。 「で、中はどうやって確かめるの?中に賊が居れば外におびきだす囮になってもらわなくちゃいけないけど」 キュルケは作戦を立てた。まず一人ないし二人で小屋に近づき、中にいれば陽動して外に出して挟撃する。 居なければ小屋の中で待ち伏せて賊の帰りを待つ、というものだ。 それを聞いたタバサは杖でルイズを指し示す。 「行くべき」 「私?」 そう、と答える。 「一番最初に杖をあげた。私もついて行く」 その言葉にキュルケが不思議そうにタバサを見た。 (自分から他人に近づいていくタバサって珍しいわね) 「引き受けたわ。見てなさい」 ルイズはタバサをつれて茂みを遠回りして廃屋に近づいていく。 残された三人は、周囲に賊が張り付いていないかを探す。 「ミス。つかぬ事をお聞きしますが、属性とクラスをお教えいただけます?」 「土のラインです。……!」 「なにか?」 ロングビルが何かに反応した。 「何か人影のようなものが見えましたわ。ちょっと見てきます」 険しい顔でロングビルが森の奥へ入って行き、木々の陰に見えなくなった。 キュルケはふと、自分がギュスターヴと二人きりになれたのを好機に話しかけて、自分への興味を持ってもらえないだろうか、と思い始めた。 「ミスタ・ギュスは今回の事件どう思われて?」 「…なぜ俺に聞く?」 ギュスターヴは腕を組んで木に寄りかかって聞いている。 「この捜索隊にあまり乗り気じゃなさそうだったみたいだし」 「そうだな…もし、俺が賊だったら。こんな中途半端な距離にある廃屋に潜んだりしない。 夜を通して移動して国境を越える。そうすれば追っ手はひとまずこないからな」 (あら、結構口が辛いわね。でも年の割に若々しい感じで素敵) キュルケは暗に自分の立てた作戦の不備を突かれているのだが、本質的に賊捜索に真剣なわけではないから気にしないことにした。 むしろ、このあばら家を探し出したロングビルの情報元があやしいかも、なんて思い始めた。 「では、この情報はガセ?」 「そうとも言えない。……そうだな。例えば賊が何らかの事情で現場から余り離れることが出来ないとか、或いは……」 「或いは?」 「…何か目的を持ってここに潜み、捜索隊を待ち伏せるとかな」 あばら家に徐々に近づいていくルイズとタバサ。ルイズは足元に罠があるかも、と観察しながら歩いていたが、 よく見ると自分達のほかに、あばら家の周りには真新しい足跡がいくつかついている。 「ボロボロの小屋なのに人の使ったような跡があるわね。賊が使っていたに間違いなさそうね……」 そっとあばら家の外壁に張り付いて窓からそっと中を覗く。中は薄暗いが人の気配はない。 タバサが近づいて、杖先でゆっくりドアを開ける。古い蝶番が軋みを上げて動き、仄かな日光があばら家の中へ入るが、やはり中に人が居ない。 慎重に慎重を重ねて覗き、人が居ない事を再度確認して中に入ったルイズとタバサ。あばら家の中にも新しい足跡は残されていた。 ほかには腐りかけの藁や農具のようなものが置かれていて、その中に比較的綺麗な布で包まれて立てかけられているものがあった。 ルイズはそれを手にとって開いてみる。中には不可思議な装飾の施された、杖。 「これが『破壊の杖』?普通の杖に見えるけど……」 次の瞬間、あばら家の外から轟音が聞こえる。地鳴りのような振動があばら家の弱りきった土台越しに足元を震わせる。 「何?なんなの?!」 「ここは危険。脱出する」 飛び出そうと二人は出入り口に駆け寄ろうとした寸前、出入り口に土の塊がぶつかる。土の塊は砕けて出口を塞いでしまった。 「ゴーレム!」 ルイズの叫びが中に響く。 外で待っていた二人には静かな時間が流れている。ミス・ロングビルは人影を探しに行ったきりで戻ってこない。 もしかしたら迷ってるのかしら、などと考えていたキュルケは、あばら家の更に奥の森からごごご…と音を上げて 持ち上がっていく土の山が見えたとき、緊張に身体をこわばらせた。 やがてそれは草木交じりの身体をした巨大なゴーレムに変形し、小屋を見下ろしている。 ギュスターヴは腰の剣に手をかけ、キュルケも杖を構えた。 「昨日のと同じゴーレム?!」 「多分な。二人を小屋から脱出させるぞ」 小屋に駆け寄る二人、しかしわずかに遅く、ゴーレムの拳があばら家に落ちる。落ちた拳は切り離されて土砂の塊となって あばら家の出口を塞いでしまった。 「タバサ!ルイズ!」 叫ぶキュルケ。ギュスターヴはキュルケの脇に立ちデルフを右手で抜いた。 「ゴーレムをひきつけるぞ!」 鞘から抜かれたデルフリンガーは、握りにも新しい布が巻かれ、丁寧に研ぎ澄まされた刀身が日光を受けてきらりと光る。 「俺様の出番だな。期待してるぜ相棒!」 袈裟斬り気味に振りかぶってゴーレムに飛び掛るギュスターヴ、キュルケも杖をゴーレムに向けて唱える。 「フレイムボール!」 「『かぶと割り』!」 ファイアボールよりも巨大な火球が発射してゴーレムの胸に当たり、露出していた樹木の枝が焼けて落ちる。 ギュスターヴの剣戟が腹に当たって衝撃が土を抉るように削り落とした。二人の攻撃で大きく一歩半、ゴーレムはよろめいた。 その振動は気を抜けば足首を痺れさせて立てなくさせる。 ガッシャン、と小屋から窓の割れる音が二人を振り返させる。背に背負ったあばら家の窓を割って這い出してきたタバサとルイズ。 その手にはしっかりと『破壊の杖』が握られている。 「ふひー」 「ルイズ!」 「『破壊の杖』を見つけたわ!あとはフーケだけよ」 そのやり取りを見逃さない。ゴーレムの拳が降ってくる。ギュスターヴは急いでゴーレムの足元から逃れた。 「ギュスターヴ!」 「ここは危険だ。一度引くぞ」 口笛を吹くタバサ。森の上空に青い軌道を残して飛ぶするシルフィードがゴーレムを中心に何度も旋回し、ゴーレムの動きを阻んだ。 鬱陶しそうに両拳を振り回すが、シルフィードの動きについていけないゴーレム。 「今の内」 「逃げるわよルイズ。『破壊の杖』は回収できたんだから長居する必要は無いわ」 あばら家を背に森の中へ逃げ込もうとするキュルケとタバサ。少なくとも盗まれたものが手元に戻ってきた以上、危険であれば それ以上する必要は無い、というのは正常な判断に思われて、ギュスターヴはそれに倣う。しかし、 「ルイズ?」 「私は引かないわ」 ルイズは逆だった。注意が上に向けられているゴーレムをじっと見る。 「私は貴族よ。賊を恐れて逃げ出すなんて出来ないわ」 「駄目だルイズ。見るんだ。ゴーレムの上に賊が乗っていない。フーケは森に潜んでゴーレムを動かしてるんだろう。 ゴーレムを倒しても賊が見つからないんじゃ意味が無い」 きゅいーっ!と上空のシルフィードが悲鳴を上げる。巡航速度以上のスピードで狭い空間を飛び回るのは飛行に長けた風竜でも限界がある。 「そうよルイズ。第一まともに魔法が使えない貴方じゃゴーレムの足止めも出来ないわよ 「黙りなさい!」」 吼えるルイズ。 「貴族とは、魔法を使えるものを言うんじゃないわ。敵に背中を向けないものを貴族というのよ!」 ルイズの目にはゴーレムしか写っていない。ゴーレムに走り寄りながら杖を向けた。 「ルイズー!」 「見てなさい!フレイムボール!」 キュルケの制止を振り切って詠唱、やはり爆発。ゴーレムの胸が爆発の衝撃で抉れ飛ぶ。 しかしこれがゴーレムの注意をシルフィードから足元へ移させてしまった。 「もう一度!フレイムボール!」 なおも詠唱、爆発。ゴーレムのわき腹が吹き飛ぶが、痛みを感じないゴーレムにとって身体を支える程度の強度があれば問題は無い。 ゆっくりと片足を上げてゴーレムがルイズの頭上に迫る。 「フレイムボール!フレイムボール!フレイムボール!」 遮二無二連発するルイズだが、ゴーレムの体がいくら傷つけられても、落ちてくる足が止まることはない。 「ルーイズ!」 キュルケの悲壮な叫びが森に響く。降ろされたゴーレムの足がルイズの居た場所を踏み潰していた。 「無茶はしてもらいたくないな。ルイズ」 「はぇ…」 ルイズはその時、ギュスターヴの片腕に抱かれて意識を朦朧とさせていた。 ギュスターヴはとっさに駆け出し、ゴーレムの足が落ちる寸前、ルイズを捕まえて脱出したのだ。 抜き身のデルフリンガーが『左手』に握られて、右腕にしっかりとルイズを抱きしめている。 左手の甲に刻まれたルーンが、仄かに光っている。 「おお、思い出したぜ相棒!」 「何?」 「…ちょ、ちょっと、ギュスターヴ!さっさと私を降ろしてよ!」 「ああ、ちょっと待ってろ」 ひとまず抱き上げたルイズを降ろす。 「で、何だって?デルフ」 「思い出したぜ相棒。お前さんは『ガンダールヴ』だ」 「「『ガンダールヴ』?」」 ルイズとギュスターヴ両方の質問の声が重なる。 「あらゆる武器を使うことができる伝説の使い魔ってやつよ。心を奮わせて俺を握りな。体から力を引き出してやれるぜ」 試しにギュスターヴはぐっと強くデルフを握り、呼吸を変えて神経を集中させると、ルーンが一層の輝きを増す。 「ルーンが光ってる……」 「嬢ちゃん、ここは相棒に任せて下がりな。使い魔が賊を倒せたら主人の手柄になるんじゃねーの?……それでいいだろ、相棒」 「仕方が無いな…下がってろ、ルイズ」 「ギュスターヴ……。…ごめんなさい」 再度シルフィードで撹乱されていたゴーレムは、シルフィードがあばら家の前に下りると首らしき部分を下に向ける。こちらを見ているようだった。 「タバサ。皆を乗せて森を出るんだ」 「貴方は?」 「少しばかり時間を稼ぐ」 「ギュスターヴ!……ちゃんと帰ってきなさいよ」 無言で頷くと、シルフィードは飛び上がって馬車を留めた場所に向かって飛んでいった。 「さて相棒。どうするかね?こんなでかいゴーレムを」 ゴーレムは足を落とす、腕を落とす。それを『ガンダールヴ』の力を試すように動き回りかわしていく。 「とりあえずルイズ達が安全な位置まで移動できる時間を稼ぐぞ。タバサの使い魔が飛んで馬車の準備が出来るまでだ。その後は」 「後は」 「……あれを壊す。覚悟しろデルフ。折れるんじゃないぞ」 「まかせときな」 ギュスターヴは、このとき初めて左手でデルフを構えた。ゴーレムは足元のギュスターヴを認識して拳を落とそうと踏み込むが、 ギュスターヴは自分から踏み込んで、ほぼゴーレムの真下に立つ。 袈裟に構えて腰を落とす。両足から両脚、膝、腰、背筋から腕、そして手首にかけてに神経を集中させる。 「『ベアクラッシュ』!!」 一声。高く飛び上がったギュスターヴの一撃が、ゴーレムの肩に叩きつけられた。炸裂音にも似た衝撃がゴーレムの右肩を走る。 ギュスターヴの剣技の中で一、二を争う剛剣は、『ガンダールヴ』の力も合わさって深々とゴーレムの身体を進み、深く入った亀裂が 右腕を支えきれなくなって折れる。落ちる右腕を確認してからゴーレムの身体に食い込むデルフを抜いて、ゴーレムの体の上を走る。 飛び上がるようにジャンプし、デルフをゴーレムの胴体に振り込んだ。 「『天地二段』!」 削撃音を響かせてゴーレムが切り裂かれていく。地面に達した瞬間にデルフを水平に払うと、ゴーレムの足首が切れ飛んで、 衝撃で仰向けにゴーレムは倒れた。倒れることで森が揺れて、驚いた鳥達が一斉に飛び立っていく。 「まだだぜ相棒。ゴーレムは再生できる。操ってるメイジが居る限りな」 「その通りよ。とはいえ只の平民が私のゴーレムをここまで壊せるなんてね」 背後から声かけられたギュスターヴ。声の主はミス・ロングビルだったが、彼女はギュスターヴの背中にナイフを突きつけている。 「ミス・ロングビル。何を」 「その名前はちょっと違うねぇ。私の名は、『土くれのフーケ』さ」 握っていた剣を降ろすギュスターヴ。振り向くことも出来ず、ただ背中からの声に耳を傾けた。 ギュスターヴは抑揚の無い声で話しかけた。 「近くに居るだろうとは思っていたが、賊の正体が貴方だったとはな」 「主人を逃がすために一人で戦うなんて立派だねぇ。でもここまでさ。アースハンド!」 地面から延びる土の腕がギュスの足を絡め取る。 「何!?」 次に崩されたゴーレムが盛り上がって山になる。そして先ほどより小さいゴーレム――それでも、3メイルはある――が2体、形成されて ギュスターヴの前に立った。 「そこで暫く遊んでな。私はあの嬢ちゃんたちから『破壊の杖』をもらってくるから」 フーケは悠々と森を出て行く。足を止められて追うことが出来ないギュスターヴは、拳を突き出してくる2体のゴーレムをデルフでいなすしかない。 「どうするんだよ相棒。このままじゃやばいぜ」 「少し時間が掛かるが始末は出来る。あとはそれまで、ルイズたちが無茶をしないでくれていれば……」 シルフィードが森を抜けて馬車を止めた場所で降りた時、丁度ミス・ロングビルが森から飛び出してルイズたちの視界に入った。 「ミス・ロングビル!ご無事ですか?」 「はい。ゴーレムが見えたので一度森を脱出しようと思いまして。……その手のものが『破壊の杖』ですね」 「はい」 ルイズは手にしっかりと『破壊の杖』の包みを握っていた。 「改めさせていただきたいので、こちらへ……」 破壊の杖を持ってルイズはロングビルに近寄った。ルイズがロングビルの手に届いた瞬間、羽交い絞めにするように押さえつけられたルイズの首に、ロングビルの手に 握られたナイフの刃が当てられる。 「ミス・ロングビル?!」 「大人しくしな!じゃないとこいつの首が落ちるよ!」 粗野な言葉遣いと目の前に出来事に動くことが出来ない。 「あなたが賊……土くれのフーケだったのね」 「そうさ」 ルイズが苦しげにロングビル……土くれのフーケに言った。フーケはひたひたとナイフを当てながらけらけらと笑って話す。 「頑丈な宝物庫の壁を壊してくれて例を言うよおちびさん。でもね、せっかく手に入れた『破壊の杖』なんだけど、使い方がさっぱり分からなくてね。 どう見てもただの杖なのに振っても何をしても反応が無い。だから人の来ないこの森まで捜索隊をおびき出して襲えば、 『破壊の杖』を使うやつがいるんじゃないかと思ったんだけど…どうやら、無駄だったみたいね」 「わたしをどうするつもり?」 「ひとまず私が馬車で逃げるまで大人しく捕まってな。後で馬車から降ろしてやるよ」 フーケの顔が嗤っている。あの穏やかで美しかったロングビルの豹変にルイズをはじめ三人は戦慄した。 「嘘よ。薄汚い賊が離しなさい。キュルケ、構わないで私ごとフーケを打ちなさい!」 「そんなことできるわけないでしょ!」 「賊に捕まって好きにされる方が屈辱よ。早く打ちなさい」 ルイズが盾になってキュルケの魔法はフーケに届かない。そのことにキュルケは歯噛みしていたが、タバサはなぜか視線が少しずれて森を見ていた。 「麗しい友情ってところかい?まぁいいさ。そこで私が逃げるのを大人しく見守ってておくれよ」 フーケはルイズを引きずりながら馬車に向かって移動する。タバサがじわりと詰め寄ろうとすると、ルイズを引き寄せてナイフを首に当てなおす。 「動くんじゃないよ!本当にこいつを殺すよ」 「タバサ、やめて。ルイズが死んじゃう!」 キュルケは何も出来ずに叫ぶ。しかしタバサの目は冷静だ。静かに声を出す。 「大丈夫。彼がいる」 「彼?」 キュルケの脳裏にいまだ森から出てこない平民の使い魔が浮かぶ。フーケはそれを見越していたのだろう。可笑しくてたまらないとばかりにニヤニヤしている。 「あの平民の使い魔だったら、今頃森の中で私のゴーレムと殴り合いをしているよ。暫くは動けないはずさ」 「それはどうかな?」 背後に背負った森から何度か聞き覚えのある声が聞こえて、不意にフーケは返事をしてしまった。 「え?」 振り返った瞬間に視界に入り込んだものは、突進するギュスターヴ。手にはデルフリンガーではなく手製の短剣を握っている。 ギュスターヴは短剣を立てず、寝かせてフーケに当てて体勢を崩した。 「あうっ!」 それを逃さず倒れたフーケに剣先を突きつける。ルイズがフーケの腕から逃げてギュスターヴの背中に隠れた。 「『追突剣』……もう逃げられないぞ、フーケ」 ギュスターヴの空いた手にはフーケの杖が握られている。『追突剣』の際にフーケの懐から奪い取ったのだ。 フーケは起き上がってナイフを構えたが、背後に杖を構えたキュルケとタバサが間合いを詰めると、やがてナイフを捨てて両手を挙げた。 前ページ次ページ鋼の使い魔
https://w.atwiki.jp/familiar_spirit/pages/1847.html
『――――つの・・・・さ・・・ペン・・・・の・・・・・』 全身を焼き尽くす・・・・否、溶かしつくす熱は急激に全身に回り 視界が崩れ、『オレ』が崩れ、支えを失って地面へと落下する。 受身も取れずに転倒したというのに大した音はしなかった。 地面につく頃にはもう殆ど『オレ』は失われて、石畳に落ちたのはオレの気に入りの厚みのある洋服ばかり。 いつもなら膝だってつかないからめったに汚れる事は無いそれ。 土埃まみれなんて我慢ならない!けど、今はそんな事考える余裕は一切無し。 熱い。熱い。熱い。消えていく、オレは死ぬのか?嘘だろ?オレは強かった。オレたちは! 『祝福を・・・・・・使い魔と成せ・・・・!―――――』 いつだってワンサイドゲームだった。オレたちが殺して、死ぬのは向こう。 膝だってつかなかった。怪我だってしなかった!オレの仕事は『引き込んで』、 訳もわからず困り果てる相手を『殴り倒し』『切り刻む』――――こんなんじゃない! 熱い!熱いッ! 熱はやがて脳味噌を蹂躙して、オレの思考は意味を成さなくなった。 ただ熱いだけの苦痛は頭部で遊びまわるのに飽きたのか、やがて左手に集束した。 なんだよ・・・・左手はさっき、溶けただろ・・・・・もういいじゃないか、やめてくれても・・・・ 「もう!あんた、何時まで寝てるのよ!?起きなさいよッ!」 「ふぐあッ」 何故か顔を赤く染めて怒り狂う少女に、 こめかみを思い切り蹴りぬかれ(トゥキックだ畜生)オレは視界を取り戻した。 本日は晴天なり。石畳なし。ウィルスなし。これはなんだ? 「なんだってこんな平民なのよー!」 わっと沸くガキどもの笑い声は遠い昔に置き忘れてきた『平和』ってヤツそのもので、 オレはますます意味がわからなくなる。 さっきまでギンッギンに痛んでた左腕をひょいととられ、 ほう、ふむ、とか言いながら眺めるオッサンが気持ち悪かったからとりあえずぶん殴った。 何なんだ、はこっちの台詞だ! 此処は何処だろう? ピンク頭の小娘をさんざっぱら笑った(平民がどうとか)ガキどもは、ふわふわと浮いて去っていった。 近くにスタンド使いが居るのか?モノに空を飛ばさせる能力なのか? 相手は何処に居るんだろう・・・・危険かもしれない・・・・状況がわからなさ過ぎる。今は。 「さっきから何をぶつぶつ言ってるのよ。」 「なんだ、まだ居たのかお前。鏡持ってるか?」 「口の利き方がなってないッ!」 痛ッ 痛い・・・・畜生、何だお前、プッツンしてるんじゃないのか。急に引っぱたくなんて 「何か言うならハッキリ言いなさいよ。」 「何も言ってません。すみません。」 五月蝿いな、口に出る癖は直した方が良いってのはわかってるさ。 だけど自分の能力を長々説明したり、攻撃方法を解説したり、皆似たようなもんだろ。 痛いのはもうたくさんだから口に出ないよう慎重に思考する。 周りのガキがふよふよ浮いてるってのに。この小娘、異常に気づかないのか? というか・・・・・・ 「お前は浮かないのか?」 「五月蝿いわね!」 痛ァッ 逆の頬にビンタを食らった。何なんだ。もう嫌だ。ギアッチョみたいなヤツだ! ああ、ガキの、しかも女に二発もビンタを食らうなんて、仲間に知られたら笑われる―――― ――――それどころじゃないだろ。『死んだ』んだ、オレ。笑われるのは間違いないが・・・・・・ 『死んだ』、はずだった・・・・ 少しばかり呆けていたら、いつの間にか屋内に居た。 あの小娘に手を引かれて連れてこられたような記憶が、ぼんやりとある。 ということはアイツの部屋かな。広くって、やたらと豪華だ。 そしてご本人様はオレの前で、椅子に座って、ふんぞり返ってオレを見・・・・・ 「やあーっと正気に返ったみたいね。急に静かになったと思ったら、ぴくりとも動かなくなるし」 「あ、ああ・・・・」 「いい加減名前くらいは教えなさい。呼ぶのに困るし。別に私がつけるんでもいいけど・・・・」 「イルーゾォ。」 「そう。」 小娘はつまらなそうにふんと言う。(名前をつけたかったのか?ごめんだな。 少女趣味なヤツをつけられたらたまらない――――『イルーゾォ』より少女趣味ってのは中々難しい気もするが) 「じゃあイルーゾォ、なんでアンタなのよ。ねえ?なんで平民のアンタが来るの?」 「平、民?」 「貴族なら良いってもんでもないわ!あたしは猫とか梟とか、出来たらドラゴンとかが良かったの! 『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出すなんて聞いた事ないし、どれだけ笑われたか――――」 「『サモン・サーヴァント』ってスタンドなのか。動物を呼び出してどうするんだ?大体何に使うんだ」 「よくわかんないけど、平民よりは動物のがマシよッ!アンタみたいに口答えしないでしょ」 暗殺者を捕まえて猫の方がマシとはよく言ったもんだ。 よっぽどオレの便利なスタンドについて説明してやろうかと思ったが、それより大事な事がある。 「お前の『サモン・サーヴァント』で、オレは此処に来たんだな?間違いないな?」 「ルイズ。それかご主人様って呼びなさい、無礼よ。」 高慢ちきな小娘だ。ご主人様?誰が呼ぶか、意味が分からない。 しかしコレで原因はハッキリした。無差別なスタンド攻撃でつれて来られたんだな。 何故か無傷なのだってスタンドの効果かもしれない。『完全な状態で呼び出す』だとか―――― 「何にせよ、オレは幸運だったし、それはお前の・・・・痛いすみません・・・・ルイズのお陰なんだろう。 ありがとう、だから、帰してくれ。」 オレは無傷だ。スタンドだって(まだ試してはいないが)出せるだろう。まだ『側に居る』感じがある。 実力ではなく『幸運で』だが・・・・戦いを乗り越えたオレには知識がある。 パンナコッタ・フーゴの危険なスタンド、新入りの機転や、『覚悟』!伝える必要がある! あいつ等はやはり危険なんだ。ホルマジオも死んだし、『オレだって死んだようなものだった』 イタリアに帰って、仲間に伝えるんだ! (仲間達はろくなヤツじゃあないが、オレは気に入ってるんだ。もう、ただの一人だって死んで欲しくない) 「場所がわからないなら、イタリアだ。イタリアならこの際何処だって」 オレはがっつくみたいに詰め寄って、小娘はそれに驚いて仰け反る。 申し訳無いけど時間が無いんだ。オレからの連絡が途絶えれば、次の追っ手があいつらの元に向かうだろう。 「・・・・む、無理よ。『サモン・サーヴァント』は召喚するだけで、帰すなんて出来ないわ」 冷水をブッ掛けられたみたいだった。 なあ、なんだって? 「それに出来たってね、帰しやしないわ。あんたは私の使い魔だもの。あたしの――――何処行くのよ。」 「・・・・洗面所なら、鏡はあるよな。」 「何なのよ鏡鏡って。いいけど。帰ってきたら身の回りの世話をしてもらうから!」 「嫌だね」 最悪だ。最悪の気分だ。もう一度死んだみたいに。 ふらふらと洗面所らしき場所を見つけ、「『マン・イン・ザ・ミラー』。オレだけを許可しろ」 鏡の世界へ潜り込む。 左右対称の『向こう側』でオレはルイズの居た辺りに戻り、少し狭いがふかふかのベッドに潜り込んだ。 (正確にはゾンビみたいな顔をしたオレを見て、マン・イン・ザ・ミラーが気を利かせて掛け布団を持ち上げてくれたんだが) ああ、此処はいい。五月蝿いやつの居ない、オレだけの世界だ。 ――――でも、喧騒も懐かしかった。帰りたい・・・・仲間の元へ・・・・ 今日は眠ろう。そして明日、何としても帰る方法を突き止める。 死ぬのは怖かった。泣くほど。(ギリギリで泣かなかったと思う。多分。暗殺者は泣いたりしないだろ) でも仲間達が死ぬのはもっと怖い。ソルベ達が死んだときの2.5倍、ホルマジオが死んだときの5倍は怖いだろう。 だから帰るんだ。 あんな強敵が相手じゃ謀反は失敗するかもしれない(急にネガティブになるのはオレの悪い癖の一つだとリーダーは言う。) でも、最悪そうなっても、『マン・イン・ザ・ミラー』を慎重に使えば仲間を逃がす事が出来るだろう。俺は帰らなくては―――― 「でも、もしも?」 嫌な事ばっかり思い浮かんで目頭が熱くなった。 熱くなっただけだぜ。泣いてない。暗殺者が泣くわけないだろ・・・・・・ 「わ、私の使い魔が消えた!?」 ルイズは鏡の外で大騒ぎしていたが、その声は届かない。 鏡の中のイルーゾォは、当分その姿を表す気は無いようだった。