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BACK INDEX NEXT 611 名前: 妖杜伝奇譚『‡』 ◆NN1orQGDus [sage] 投稿日: 2008/09/22(月) 22 45 27 ID aTaAF3kl 第2話 『路地裏の交錯』 ◆ 「変なのに付き合ったから遅くなったじゃんかー」 深都姫は頬を膨らませる。 折角倭斗と二人っきり――デートらしき物が出来たというのに、二人の闖入者のせいでグダグダになってしまったのでご機嫌ナナメなのだ。 「言うな。俺だって後悔してる」 倭斗は特殊な嗜好の人間が持つ特有の毒気に当てられた頭を振り、ある種の妄想を抱く輩は度し難い、と内心で呟く。 「お前は、あんな風になるなよ」 膨らんだままの深都姫の頬をつついた刹那、大気の鳴動を感じた。 魔の波動が大気を揺るがしたのだ。 それもこれ見よがしに誇示しているのか、隠そうとはしていない。否、隠そうとしていても隠し切れないのか。 深都姫もそれに気づいたのか、眉をひそめている。 「どうするの?」 「此処まで露骨だと……釣りだな。しかも釣り針が見えてやがる」 波動の先を手繰ると、そこは“彼女”を祓ったあの路地裏だ。 「するっとスルーする訳には……行かないよね」 「ああ。アレを放っておいたらまずいな」 倭斗は嘆息し、深都姫を見る。深都姫もまた、倭斗を見る。 二人の視線は絡み合い、お互いの意思を確認して頷いた。 二人は雑踏の人混みを縫うように駆け出す。行き交う人々は闇に紛れた悪の存在を知らずにいる。 倭斗はそれが気にくわないが、それも仕方のないことだとも思う。 人は自分の手の届かない場所については無関心なのだ。 自分は人よりも手が届く場所が広い。放っておければ良いのだが、それが出来ない自分は相当な貧乏性だな、と一人ごちる。 いつの間にやら深都姫が先行している。彼女は仕方なく退魔師をやっている自分よりも正義心が強い。 それは立派なのだが、年相応の幸せを掴んで欲しいと倭斗は思っている。 そんなもどかしい心を持ちつつ深都姫に並ぶと、件の路地裏に勢い良く飛び込んだ。 ◆ 「がぁぁぁーーーーーっ!!」 路地裏には大小二つの人影があった。双方とも、魔の波動……妖気を発散している。それも、強く濃密に。 つまり、夜の住人である。 小さい影が唸り声を挙げつつ、地を踏みつけている。 その振動は大したことはないのだが、地団駄を踏むたびに熱気を帯びた濃厚な魔の波動を発散している。 「いい加減にしないと呼びもしないお客さんが……って、もう来てるな」 大きい影が溜め息を吐きつつ諦め顔で倭斗と深都姫を一瞥する。 「アンタたち……何者!?」 深都姫の鋭い声が路地裏に広がる。 「ふん……自分の名を名乗らずに他人に強要する、か。なかなかのアティテュードだ」 嘲笑にて返されると、深都姫は気色ばむが倭斗に制止される。 「汚ない油をぶちまけられたら放っておけないタチでね。……つか、煽ってんの、オマエラ」 倭斗は冷笑で応じ、鋭利な刃物のような視線で二人を射る。 「うだうだ五月蝿い! 私は……九蓮宝燈の一人! 世界の果てでこの世を呪う……」 「そんな珍妙な名前を勝手につけるんじゃない! それに仲間は九人もいない! ……連れが失礼したな。俺はジン。こっちはメストだ」 ジンは名乗りながらも地団駄を踏み続けるメストをさえぎり、倭斗と深都姫を圧するように、静かに告げる。 「へえ、そいつは結構。生憎と俺達はお前らみたいな夜の住人に名乗る名を持ち合わせてないんだ……悪いね」 倭斗はそう言い放つと、メストを見て目を丸くする。 「おい、深都姫。向こうにお前と同じスケールのがいるぞ」 「倭斗のバカァッ! 私の方が大きいもん!」 倭斗の軽口に深都姫が反応し、ポカポカと叩き始める。 「ちょい待ち。私が、この私が……そんな毛も生えてなさそうなちびすけと同サイズ? ……訂正を要求する」 「へん! 私はまだ成長途中だもんね!」 「はっ! 夢を見たって無駄よ? 絶壁は絶壁のままが運命なのさ」 「そっちこそえぐれてるくせにっ!」 鬼気を揺らめかせながら、深都姫とメストは対峙する。互いに胸を張り、互いに相手を威嚇するように体を大きく見せようとしている。 ジンは小さな二人のやり取りに苦味の交じった笑みを浮かべると肩を竦める。 「どうする? お互いの連れがこんな風だが……殺り合うかね?」 「残念だけど、殺り合う空気じゃないな。」 倭斗は唇を歪ませると、深都姫の襟首を引く。ジンも同様にメストをたしなめる。 「放せ、ジン! このメストさんは小娘に粉かけられて黙ってるようなチンケな根性してないんだ!」 「なにおぅっ! 私だって!」 未だに言い合う二人を無視し、ジンと倭斗は互いに相好を崩す。 「名前を聞いておこうか。俺は菅原倭斗。……覚えておけ、お前ら夜の住人を狩る者だ」 「顔に似合わず鼻息が荒いな。俺は夜の住人のジン。四暗刻単騎って組織のの一人だ」 ◆ 倭斗は未だに怒りが収まらない深都姫の手を引き往来の雑踏に紛れる。 「なんで逃げるのよ! あんなヤツらやっつけちゃえばいいのに!」 「彼処で戦ったら被害がでかいだろ。それにアイツらは……特にあのジンって奴は相当やりそうだ」 倭斗の唇が歪に歪むと、深都姫はそれを見咎める。 「倭斗、笑ってるけど……楽しいの?」 「笑ってる? 俺が? 気のせいだろ」 でも、と言いかけて深都姫は慄然とした。倭斗は確かに笑っていた。陰惨な笑みを浮かべ、その瞳は渇望にも似た光を湛えている。 「ねえ、大丈夫だよね? 倭斗、別人みたい……」 「平気さ。俺は……俺のままさ」 倭斗はぼんやりと輝く蒼い月を見上げ、深都姫の手を軽く握った。 ◆ 路地裏に残る夜の住人は寂寞の闇に紛れている。 「メスト、少しは頭が冷えたか」 「まあね。それにしてもあのちびすけ……」 メストが収まらない怒りの握り拳に力を込めると、青白い炎に似た燐気が立ち上る。 「お前の悪い癖だな。頭に血が昇ると猪突猛進になる」 ジンは溜め息混じりにメストの肩に手を置いた。 「……わかってる。私が怒ってるのはちびっこのせいじゃない」 「じゃあ、なんで怒ってる」 「夜の住人の存在を忘れた人間は腐りきってる。恐れる事を忘れて増長する人間は……嫌い」 「だったら思い出させてやれば良いだけだ。人を喰らう夜の住人の恐ろしさをな」 ジンの乾いた声が路地裏に静かに木霊すると陽炎の様に揺らめくメストの殺気は揺らいで薄くなっていく。 「俺達四暗刻単騎はこの世を呪うために集った。そうだろ」 力強いジンの言葉に、メストは目を閉じて満天の星屑を仰ぐ。 「そうだったね。……憎悪の炎で焼き尽くす為に、ね」 夜の住人達は不穏な妖気の残滓を残しつつ黒檀の闇に溶けるように消えて行った。 ――To be continued on the next time. BACK INDEX NEXT
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大学生活も二年目。 HTTの活動もライヴハウスが主戦場になり。 ライヴの打ち上げでの呑みの機会も増えた。 やっとこさ、土曜の夜のライヴに出演出来るようになった頃。 私は、律と一緒に酔いつつ。一緒に住むアパートへ帰った。 「ただいまー!」 「おかえり」 玄関のドアを開けて誰もいない室内に向かって声を掛ける律。 その律に私はおかえり、と声を掛けた。 律はライヴの高揚感と、演奏の出来と、アルコールで結構上機嫌だった。 打ち上げ会場では私にすんごくベタベタしてきて。 自重させるのが大変だった。 ・・・私も我慢するのに大変苦心したけど。 「今日も楽しかったなー♪」 声を弾ませてリビングへ入る律。 荷物をぽんっ、とテーブルの傍らに置き。カチューシャを景気よく外すとソファに仰向けに倒れこんだ。 「あーあ…」 笑顔から漏れた溜め息から、律の心地良い疲労感を感じた。 「楽しかったからって、飲み過ぎだぞ?」 私は、コンビニで買ったミネラルウォーターをテーブルに置いた。 「んー」 律は返事とも取れるような曖昧な声を出し ぐいっ テーブルの側に立っていた私の腕を引っ張った。 「わぁっ!」 どさっ 私は、律を押し倒すような体勢で律の上に倒れこんだ。 「何するんだよっ…んっ」 律は、私の顔を掴み強引に自分の顔に引き寄せ、手を私の後頭部に回して 「…っ」 くちづけてきた。 くちづけた、と言うよりは私の唇を、食べた。 だらしなく、滑らかに舌を滑り込ませてきた。 「…」 私は、アルコールが回っていた事もあり、目を閉じて素直に応じた。 律の唇は、アルコールと唾液が混じり合って、甘かった。 私のも混じってたから、私の唇も甘かっただろう。 私と律は、愚直に、なすがままに。 互いの唇を味わった。 ……………。 律と私は、互いの唇を味わい尽くし。 ソファの上で重なって。 仰向けの律の上に、私がうつ伏せで乗っかって。 ぼーっ、としていた。 私は律の胸に顔を埋めていた。 居酒屋に居たから、服に付いた煙草と酒の匂いと、律の匂いが一緒に感じられた。 律は、私の髪越しに背中に手を乗せていた。 それだけで気持ち良くて。そのまま寝ちゃいそうだった。 「…律」 「‥何?」 「ちょっと、暑い」 部屋にはぬるいアルコールの匂いが、少し湿って漂っていた。 ピッ 律はエアコンのリモコンに手を伸ばし、電源を入れた。 「‥ドライじゃない?」 私はエアコンの設定を思い出した。 「…ホントだ」 律はリモコンを見て呟いた。 「肌、乾燥しちゃう‥」 私がぼそっ、と呟くと 「もう一汗、掻く?」 律は私の耳を撫でてきた。 私は思わず肩をすくめて 「……………バカ」 律を、睨んだ。 律は、へへっ、と。少し笑った。 「澪ー」 「‥なに?」 「シャワー、浴びよっか」 「‥うん」 私は答えて、律の頬に手を伸ばした。 名前 コメント
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すいりくりょうようMSれでぃー【登録タグ bibuko す 初音ミク 曲】 作詞:bibuko 作曲:bibuko 編曲:bibuko 唄:初音ミク 曲紹介 bibuko氏 の12作目。 今回はロック成分、ピロピロ成分、おふざけ成分大幅増量です。(作者コメより) 随所随所にガンダムネタがちりばめられている。 歌詞 会社の飲み会で 僕のとなりに座った女の人 こちらを見るなり 溜め息をついて 言った 「なんか根暗っぽいwww」 「わたし結構正直に 色々言っちゃう人だから」 正直と自己中は違うんじゃないかと 思う 今日この頃です 訊いてもいない彼氏の自慢ばかり 延々と話すきみに 僕が素敵なニックネームを つけてあげるよ これはピッタリ! きみはズゴックさん 水陸両用のモビルスーツさ ズゴックさん ずんぐりむっくりの体格がキュートだ ズゴックさん 実は乙女チックなジオン系女子 ズゴックさん きみを愛せる彼氏は きっとニュータイプ いろんな意味で 体中からかもし出す 「わたしって可愛いでしょでしょ?」 なオーラ ひとつだけ勉強になりました 自己暗示の力ってすごいな 「わたし結構"見えない"とこに お肉ついちゃってるから」 あえて突っ込まないけど ひとつ言わせて ウーロン茶返して下さい 恋の駆け引きについて語る きみは やたらと上から目線 でもまぁ仕方ない モビルスーツって 20mくらいあるからね きみはズゴックさん 今日は赤の上着でテンションが3倍 ズゴックさん そのド派手なバッグは どこで狩ったのかな? ズゴックさん ゴテゴテのネイルで敵を一掃だ ズゴックさん あまり近寄らないで 香水がキツいから 「わたし結構泳ぐの得意」 なんて真顔で言うもんだから 腹筋がもう崩壊寸前 水陸両用はダテじゃない? きみはズゴックさん ひじきみたいなまつ毛が何か怖いよ ズゴックさん よく見ると友達もドムに似てるね ズゴックさん 豊満と肥満の境界はいずこ? ズゴックさん 今日も暴走モード きみはMSレディー コメント いや、いやいやいやいやいや。コレはヤバい。評価が低い理由がわからない。いやコレはナイ。ありとあらゆる意味で。 -- 七名無し奈々史 (2011-04-04 00 30 30) ズゴッグとかwwwwwwひでえwwww -- アッシマーが!? (2011-04-04 21 09 06) ちょwwwwwウーロン茶wwww -- 名無しさん (2011-04-04 21 18 31) いろいろと吹いたwww -- 名無しさん (2011-09-19 13 53 11) 歌詞うけるwwww ぬるぽ -- おっお (2011-10-05 23 31 40) 素 晴 ら し い -- 名無しさん (2012-02-08 16 03 00) 狩ったのかなクソ吹いたwwww -- 名無しさん (2012-02-14 21 35 13) ガソダムネタに全力で吹きましたww 赤の上着でテンション三倍とかwwww -- ↑×3ガッ (2012-02-14 21 45 17) まぁ……ゾックよりはマシか…?(笑)。 -- 名無しさん (2013-04-02 12 54 42) まさかと思ってみたらほんとにガンダムねただった(笑) -- 前神 (2015-11-07 07 45 17) 名前 コメント
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『びゃくれんと大学にいってきた』 12KB 愛で 日常模様 希少種 現代 よろしくお願いします 本作は以下二作の続き物となっております。 anko4299 ゆっくりは幸せな夢を見るか? anko4309 野良ゆっくりを飼うということ 拙作が少しでも読者の皆様にお楽しみいただけたなら幸いです。 とあるマンションの一室。 日当たりのいいその部屋に、お兄さんとびゃくれんは住んでいる。 その部屋の主であるお兄さんは座椅子に腰掛けながらゆっくりとした時間を過ごしていたが、置いてあった時計の時間を見て溜め息を吐いた。 「あー、もう出ないといけねぇなぁ」 「どうしたんですか、おにいさん?」 溜め息と共に漏れ出た呟きに、机の上に乗せられていた同居人のゆっくりびゃくれんが反応する。 お兄さんは一人暮らしが長いと独り言が増えるって本当だなと思いつつ、びゃくれんに溜め息の原因を教えてやった。 そしてその原因が、びゃくれんも嘆息する理由になるのはわかっている……が、伝えねばなるまい。 「学校だよ、学校」 「がっこうさん、ですか。ですよね、おにいさんはがっこうさんにいかないとゆっくりできないんですよね……」 ゆっくりは首しかない不思議饅頭ではあるが、その分身体全体を使ってその喜怒哀楽を示してくれる。 びゃくれんは今、明らかに顔を伏せてその寂しさを身体で表現していた。 お兄さんがびゃくれんを飼い始めてから一週間ほど、その間にお兄さんはもう何度も学校に行っているのだが、未だにびゃくれんは慣れないらしい。 「そうだなぁ。そろそろかなぁ……」 「ゆ? あの、どうしたんですか?」 「うん? いやな」 そういってお兄さんは考え込む。 びゃくれんの大きさは子ゆっくりと呼ばれるサイズだ。 大きさ的にはテニスボール位と言ったところか、もしかしたら丁度いい頃合いかもしれない。 いやいや、びゃくれんにはまだ早いか、いやいやと考えて結局はまぁいいだろうとお兄さんは結論を出した。 決して目を離さないようにすればいいし、そんな荒れた学校でもない。 むしろ“飼いゆっくり”にとっては理想の学校なのだ。 大丈夫であろう。 「よし、じゃあびゃくれん、行くか」 「え? いくって、どこにです?」 「学校にだよ、学校」 「え、ええっ!?」 びゃくれんの驚きをもって、この外出は始まるのだった。 「ゆわぁ、そとってすごいんですねぇ」 「まぁなー」 子ゆっくり用のバスケットを片手に、背中にショルダーバッグを背負ったお兄さんはのんびりと坂道を登っていた。 公園とお兄さんの部屋の中しか知らないびゃくれんにとっては目に映るものすべてが真新しいようで、その度に歓声をあげている。 お兄さんはそのびゃくれんの歓声に適当に相槌を入れつつ、まだまだ坂道の先は長いなぁと心の中で愚痴っていたのだった。 「おいっす」 「しろっ! おはようございますっ!」 先の長い坂道を恨めし気に睨んでいると、後ろから声を掛けられた。 振り向くと知り合いとその飼いゆっくりであるゆっくりえいきであった。 えいきは座布団が敷き詰められた自転車のカゴに入れられているのだが、どうにも檻の中に入れられているような感じもする。 「おっす」 「お、おはようございます!」 「ん? なんだ、お前もようやくゆっくりを飼い始めたのか? ほ~、びゃくれんか。また変わったゆっくりにしたんだなぁ」 「ま、いろいろとあってな。それは道すがら話すよ」 「お、おはようございます、え……えいきさん」 「しろっ! おはようだぞびゃくれん!」 挨拶を交わし、二人と二ゆんは学校に向かって坂を上りはじめるのであった。 自転車を置きに行く知り合いとえいきと別れ、お兄さんは学校の正門に至っていた。 「おはようめーりん」 「じゃおぉぉぉん」 「おっ、おはようございます。めーりんさん」 「じゃおん!」 正門で門番ゆっくりをしているゆっくりめーりんに話しかけながら頭を撫でてやるお兄さん。 びゃくれんも同じように挨拶をする。 このめーりんは野良ゆっくりではなく飼いゆっくり、それも学校の飼いゆっくりである。 その証拠に、めーりんのお飾りである帽子には金バッジが付けられていた。 この学校では人間とゆっくりの共存共栄をめざし、その一環としてゆっくりに学内の仕事をいくつか割り振っており、例えばこのめーりんは門番としての仕事を与えられている。 力が強くそれでいて気が優しい、守るものを持つとそれを守る為に全力を尽くすというめーりんにはぴったりな仕事だ。 「うー、おにいさん」 「おう、ふらんか。どうした?」 「おにいさんがもってるびゃくれん、みせてくれるか?」 今度は金バッジを付けたゆっくりふらんが舞い降りてきた。 このふらんも学校の飼いゆっくりである。 意思疎通ができる言葉を話せないめーりんではできない仕事は、このふらんが担当しているのだ。 その仕事とは、生徒が連れてくるゆっくりに問題がないか見る為である。 「おう、ほれ」 「お、おはようございます、ふらんさん……」 「うー、おはようびゃくれん。ん、どうばっじか。びゃくれんだからいいな。ごめんなさいおにいさん、じかんとらせた」 「仕事だろ、手間取らせて悪かったな」 「うー、だいじょうぶ」 ゆっくりに問題がないか、と言っても要はバッジの有る無しを見る為だ。 この学校では持ち込まれたゆっくりが何か問題を起こした場合、その責任を飼い主にとらせるということでバッジ付以外のゆっくりの持ち込みを禁止しているのだ。 特にゲスの割合が多いと言われるれいむやまりさの様な通常種は銀バッジ以上がなければ基本的には学校の敷地内には入らせてすらもらえないのである。 もっとも、銀バッジを持っていようがいまいがめーりんとふらんに相対すればだいたいその性質がわかるのであるが。 「おはよう、めーりん」 「ゆぷぷぷぷ、なんでゆっくりできないめーりんがこんなところにいないの。れいむのめざわりだからさっさとしんでね! すぐでいいよ!」 「お前なに言ってんだれいむ!」 「ゆ? なに、れいむはぎんばっじさんなんだよ! めーりんがきんばっじなんてうそだよ! あんなゆっくりしてないゆっくりがきんばっじなんて、にせものなんかおかざりにつけて、おおおろかおろか」 「じゃぉぉぉん……」 「なにいってるかわからないよ! ゆふんっ、これだからゆっくりできないゆっくりは……」 「うー、めーりんをいじめるな!」 と、言ってる側からこれである。 あのれいむのその後は想像に難くないだろう。 「行こうか、びゃくれん」 「は、はい!」 「たすけろどれいいいいいい! れいぶをゆっぐじざぜろぉぉぉぉぉ!」 「うー、おにいさん、ざんねんだけどこのれいむは……」 「あぁ、いいよいいよ。折角銀バッジまで育てたのになぁ、結局ゲスだったかぁ」 「おいぐぞどれぃぃぃぃ! なんでれいぶをだずげないんだぁぁぁぁ!」 ちなみにこれは一種の恒例行事ともなっており、中には自分の飼いゆっくりの性質を確かめるために飼いゆっくりを持ち込む飼い主もいるそうである。 「…………」 「どうした、びゃくれん?」 「い、いえ! なんでもないですよ!」 「そうか?」 びゃくれんは時々、正門の方を振り返りつつも、諦めたように溜め息を吐いた。 後ろの方では泣き叫ぶれいむが、飼い主の手によって加工所の人間に渡されようとしていた。 ……加工所の職員がいつどこから現れたのはまったくの謎のままで。 「あー、ラムネを買い忘れたな」 「? らむ、ね? ですか?」 「おう。まぁびゃくれんはいい子だから静かにできるよな」 「は、はい!」 ゆっくりと授業を受けることもできる、というのは飼い主にとっては嬉しいかもしれないが、講師からすればたまったものではない。 静かにしてくれさえすればいいのだが、ゆっくりとはその名前に反して自分勝手に動いたり騒ぐのが好きなナマモノだ。 その根底にあるのは自分さえよければという思考なのだが、それはともかく。 静かに授業を受けられないのであるならば眠っていてもらおう、その手段としてラムネは多くの飼い主が必需品として携帯しているのだ。 どうやらそのラムネの実践が、大教室の前の方で行われそうである。 「どうしてまりさがしずかにしないといけないんだぜ!」 「あー、もう、これでも食ってろ」 「さいしょからだせば……ゆわぁ、なんだかまりさ、ねむくなって……」 「まったく、もう少し大人しくなってくれればいいんだが」 とまぁこんな具合である。 もっともこれは騒ぐゆっくりに対してだけであり、例えば後ろの方ではてるよを連れてきている男性の飼い主が居るが。 「めどい……ねる」 「おう、授業が終わったら起こすから」 「おねがい」 このようにゆっくりの種類と性質よりけりである。 もちろん、授業は退屈と知っているゆっくりなどは自分からラムネを貰おうとするものもいたり、講義が始める前は何かと騒がしい。 まぁゆっくりが居ようが居まいが、学生が騒がしいのに変わりはないのだが。 そうこうしているうちにチャイムが鳴り、講師が教室に入ってくる。 確か次の授業は仏教についてだったか。 「よーし、静かにしろー。静かにせんゆっくりはさっさと眠らせろー」 講師のそんな言葉で授業が始まるのは最早皆慣れっこだ。 慣れたようにレジュメが配られ、寝る態勢に入る者、携帯を弄る者、ゲームをする者、筆箱を取り出す者様々だ。 「おし、んじゃ早速平安時代に作られた仏像を見て行こうか」 そう言って講師がプロジェクターの準備を始めていく。 さっさと授業終わらないかなとお兄さんがぼうっとしていると、なにやらびゃくれんが震えているのに気が付いた。 「どうかしたのか、びゃくれん?」 「あの、おにいさん……」 ゆっくりにしては控えめな、小さい声でびゃくれんは尋ねてくるのだが、その声はどこか震えている。 なにかあったのだろうか、と慎重に問うてみると。 「ほ、ほんとうにほとけさまがみられるのですか?」 と、興奮を胸の内から漏れないよう、必死に堪えている風にそう聞かれたのだ。 ああそういえば、とお兄さんは思い出す。 びゃくれんは仏教系の物を好む種類だ、お寺とか仏像とか、そういうものを見るともの凄くゆっくりできるらしい。 実際、プロジェクターによって仏像が投影されると 「な、なむさんっ!」 と、びゃくれんが叫んだかと思うとポンッという軽い音と共にびゃくれんが巻物の芯ようなものと虹色の文字を浮かべていた。 これが話に聞く“えあまきもの”かと思っていると、どうやらびゃくれんはここ以外にも居るらしく、ちらほらと“えあまきもの”が浮かんでいるのがわかる。 暗い部屋では虹色に光る文字は目立つのだ。 「はぁぁぁ、かっこいいです」 心底ゆっくりした表情を浮かべているびゃくれんはうっとりとした表情で、投影された仏像を眺めていた。 連れて来たかいがあったなぁと思いながら、お兄さんはびゃくれんの姿を観察していた。 「なんだ、びゃくれんを連れてるやつが居るのか? 寝てる生徒よりはよっぽどやりがいがあるな。じゃあ次は如来像を見てみようか」 「な、なむさんっ!」 あちこちから聞こえるなむさんっ!の声。 その度に“えあまきもの”が咲き誇る様子はなかなかに綺麗だ。 「はぁぁぁ。かっこよかったです」 「そうか。そいつは良かったな」 「はい。これもおにいさんのおかげです。ほんとうにありがとうございます!」 そう言われると悪い気はしない、今度寺にでも連れて行ってやろうか。 と密かに思うお兄さんなのであった。 気だるい授業を終えたお兄さんは食堂へと来ていた。 たくさんの人間と抱えられたゆっくりでごった返す中、お兄さんはきょろきょろと人を探しているようだった。 「おう、こっちだこっち」 「おにいさん、こっちだぞう!」 「おー、席取りサンキューな」 「ありがとうございます、おにいさん、えいきさん!」 確保しておいた席にお兄さんが座ると、その机の上にえいきと同じようにびゃくれんも乗せてやる。 並べてみると成ゆっくりと子ゆっくり、バスケットボールとテニスボールが並んでいるようなものだ。 「お、おおきいですね、えいきさん……」 「すぐにびゃくれんもこのくらいおおきくなれるんだぞ!」 「んじゃ、飯買って来るけど、お前は?」 「俺はパンだ。びゃくれんは見といてやるからさっさと買ってこい」 「おう、頼む」 そうしてお兄さんは食堂の列へと並ぶのだが、お兄さんが居なくなったことに不安になったのか急にそわそわしだすびゃくれん。 なぜそんなにそわそわするのだろうか。 「おいどうしたびゃくれん? 何かあったのか?」 「いえ、あの、おにいさんはどこへいかれたのでしょう? すこしふあんで」 ふむ、とお兄さんは考え込む。 確かにびゃくれんにとっては知らない土地に置き去りにされるようなものだろう。 さてどうしたものかと思っていると、飼いゆっくりであるえいきがびゃくれんに寄り添っていた。 「だいじょうぶだぞ。びゃくれんのおにいさんはすぐにかえってくるからな!」 「そ、そうですよね」 「しんぱいしなくてもだいじょうぶなんだぞ!えいきがついてるんだぞ!」 「あ……ありがとうございます、えいきさん」 すーりすりと頬をこすりあわせる二ゆんになんだか和むお兄さん。 と、そこへお盆をもったお兄さんが帰って来た。 「お、なんだか仲良しになってるなぁ、どうしたんだ?」 「くろっ! だめなんだぞおにいさん! びゃくれんをさびしがらせちゃいけないんだぞ!」 「あ、あの、そんなことはないですから!」 「そうだぞー! びゃくれんを寂しがらせるお前は悪い奴なんだー!」 「も、もう! おにいさんまで!」 「……つまり、どういうことなんだよ?」 呆気にとられるお兄さんであった。 授業を終えて帰宅する頃には、お兄さんはすっかり怠そうに身体を動かしていた。 一方のびゃくれんは、やはりその授業の中でも見る物全てか新しいことの発見で興奮しきりだったが。 「おにいさん、がっこうさんってすごいところなんですね」 「ああ? ああ、そうかもなぁ。俺は疲れるけど」 「あの……おねがいがあるのですが、いいでしょうか、おにいさん?」 「なんだ?」 我が儘も言わないし、躾も良く聞くびゃくれんだ。 そんなびゃくれんの頼みを無下に断れるはずがあろうか、いや、ない。 「ぶしつけなもうしでだとはおもうのですが、またがっこうさんにいっしょにつれていってくださいませんか?」 学校がそんなに良かったのだろうか、それとも授業が楽しかったのか。 やはり見る物全てが新しいとそれだけ学ぶことも多いのかもしれない。 それにだ、昼食の時にも言われたが、あまりびゃくれんを一人にさせておくのも良くないのかもしれない。 折角ゆっくりを連れて入れる環境にあるのだから、それを利用しない手はないだろう。 「おう、いいぞー」 「あ、ありがとうございますっ! おにいさん!」 「……ん? 頼みってのはそれだけか?」 「はいっ! ああ、もうわたしうれしくて……なむさんっ!」 嬉しさのあまり“えあまきもの”を出してその喜びを表現するびゃくれんに、お兄さんはそんな大したことをしていないのになと苦笑するのであった。 今日はいつものゆっくりフードに甘い果物、びゃくれんの好物である枇杷でもつけようかと心の中で思いつつ。 ―了― 書いたもの anko4299 ゆっくりは幸せな夢を見るか? anko4309 野良ゆっくりを飼うということ anko4358 まりさはかりのてんっさい!!
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掃除機 俺は困っていた。途方もなく困っていた。 趣味のゆっくり虐待に興じすぎて、餡子の処理を忘れていたのだ。 このままでは愛すべき我が家がゴミ屋敷ならぬ餡子屋敷になってしまう。 それだけは避けなければならない。虐待お兄さんの称号が餡子おじさんになっては 先祖のお兄さんたちが悲しむではないか。 途方もない餡の山を目にしながら俺は溜め息をついた。 ゆっくりに処理させるという手もあるが、あいつらの食べ方は汚い。 どのくらい汚いかというと、辺りにコーヒーをぶちまいたうえに吐くぐらい汚い。さながら肥溜めだ。 そしてなにより、虐待お兄さんの名にかけて、ゆっくりどもに「しあわせ~」と言われるのは避けたかった。 もうね、アホかと。あいつら脳がないのかと。いや、脳はないか。 だが俺は思い出した。 ゆっくりでありながら、食い物を跡形も残さず捕食する存在を。 俺は早速必要な素材を集めるため香霖堂へと向かった。 「・・・まったく君も物好きだね。そんな物どうする気だい?・・まあ深入りはしないが・・・」 素材を集めた俺は、この計画の要となるゆっくりを探しに森へと向かった。 「こぼね~」 あっさりと見つかった。 そう、この計画において最も重要な役割のゆっくり、ゆっくりゆゆこである。 腹も空かせているようだし丁度いい。 「ゆゆこ~おいしい物やるからお兄さんのお家にこないかいハアハア」 「こーぼね!!」 それにしても単純な奴だな。ある意味他のゆっくりより扱いやすいかもしれない。 俺はゆゆこを捕まえると麻酔を打ち込んだ。八意先生特製ブレンド、税込み6,500円。おかげで今月の生活費が足りないのは内緒だ。 俺は家に戻り早速制作を始めた。家に戻るとゆっくりが入り込んでいたのはお約束。 今回は虐待ではなく実験体になってもらうとしよう。 ゆゆこが目を覚ますと、そこは夢のような世界だった。 目の前に大量の餡子があるのだ。ゆゆこも満腹になるような量の。 目を輝かせて、ゆゆこは飛びつこうとした。だが、動けない。 本当に動けないのだ。涙目になってくるゆゆこ。 「おお、目が覚めたか。」 気がつくと目の前には昨日のお兄さんがいた。 「こ~ぼね!!」 抗議の声をあげるゆゆこを尻目にお兄さんはそこにあったとってを掴んだ。 すると、あれほど動かなかった体が動くようになった。喜びに顔を緩めるゆゆこ。だが、その表情は一瞬で苦悶の表情へと変わった。 「ピッ」 何の音かと思うまもなく、大量の餡子がゆゆこの口に入ってくる。 「ゆぶっゆ”ぶお”お”お”お”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”ぉ”ぉぉぉぉぉぉ」 さながら山彦の様に、ゆゆこの声が響く。 大量の餡子は10秒とたたぬうちに消え失せた。 ゆゆこは何が起こったのか分からなかった。 なぜだろう、おいしいはずなのに気持ち悪い。 ななになになにないなになになになになになになになになになになになに その内ゆゆこは考えるのをやめた。 後の大ヒット商品、ゆゆこほーるの誕生である。 後書き 2本目、正直すまんかった。スレのダイソンネタで書いてしまった。 ちょっと使ってみたい・・やっぱいいや ~白い人 このSSに感想を付ける
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薔「出席をとります・・・」 出席簿を広げ名前を呼ぶ。だが返事は返って来ず、代わりに笑い声が響く。 生徒たちは薔薇水晶の呼びかけに反応することなくそれぞれの世間話に夢中になっている。 薔薇水晶が軽く溜め息をつく。それとほぼ同時に、教室のドアが開く。 銀「こらぁ、静かになさぁい!」 廊下を通っていた副担任の水銀燈がいつまでたっても静かにならない生徒たちを注意する。 そこで教室はようやく静かになる。それを確認した水銀燈が、薔薇水晶にウィンクをして去って行く。 薔「出席をとります・・・。A君…」 去って行く水銀燈を見送り、何事も無かったかのように出席確認を再開する。 心の中で、さっきよりも大きな溜め息をつく。 ここ最近、ずっとこのような調子が続いている。自分がいくら注意しても静かにならない教室を水銀燈がたった一言で鎮める。 水銀燈に申し訳ないと思うのと同時に、自分の無力さが情けなくなった。 自分は教師には向いていないのだろうか?そんな考えが一瞬頭をよぎったが、すぐさま振り払った。 しかし、その疑問はまるでしがみつくか虫のように薔薇水晶から離れることは無かった。 そして、真紅や水銀燈といった他の教師を見る度に、その疑問は不安となり、水に垂らした絵の具のように急速に薔薇水晶の心に広がっていった。急に学校が息苦しくなった。 自分に話しかけてくれるクラスの生徒はたくさんいる。だが、彼らは心の中で自分をどう見ているのだろうか? もしかしたら、自分よりも水銀燈のほうが担任に向いていると思っているのだろうか? そんなどうしようもない考えが、徐々に薔薇水晶の心を蝕んでいった。 叫び出してしまいたくなった。叫んで、心にあるもやもやを吐き出してしまいたかった。 薔薇水晶は思わずトイレの個室に駆け込み、静かに涙を流した。しかし心の中にあるもやもやは一緒に流れてくれなかった。 それどころか、さらに重さを増して薔薇水晶に圧し掛かった。その重さに耐えられず、薔薇水晶は座り込んでしまった。 薔「私は…私は…」 トイレに、薔薇水晶の嗚咽が響く。 自宅に帰った薔薇水晶は、鞄を放り投げるとベッドに倒れこんだ。服を着替える気力すら湧かなかった。 帰りのホームルームが終わった瞬間、薔薇水晶は逃げるように学校を飛び出した。 何人かの生徒がさようならと声をかけてくれたが、返事を返すことができなかった。 そんな薔薇水晶の背中に、生徒はきっと舌打ちをしただろう。薔薇水晶はそんな考えをしてしまう自分自身に嫌気が差した。 とにかく眠ってしまおうと思った。しかしこのままの服装で眠ってしまうのはよくないと思い、気力を振り絞って寝巻きに着替えた。 食欲など、とてもじゃないが湧かなかった。薔薇水晶は、何も口にせず静かに目を閉じた。 心地良い空腹感と、疲労が薔薇水晶を眠りへと誘う。 夢を見た。薔薇水晶の目の前で、数人の生徒が談笑をしている。 談笑をしているのは薔薇水晶のクラスの生徒たちだった。彼らは薔薇水晶の存在には気付いていない様子だった。 「薔薇水晶先生ってどうよ?」 一人の生徒が、急に薔薇水晶の話題を振った。薔薇水晶の鼓動が急速に速まる。 「俺は水銀燈先生が担任のほうが良いなぁ」 生徒の一言が、薔薇水晶の心を切り裂いた。自分でそう思うのと、生徒に言われるのでは別次元の痛みだった。 耳を塞ぎたかった。逃げ出したかった。だが、体は全く動いてくれなかった。 声も全く出せなかった。薔薇水晶はただ、生徒たちの話を聞くしかできなかった。 「なんで水銀燈先生が副坦で、薔薇水晶先生が担任なんだろうね?」 「普通逆じゃね?」 次々と薔薇水晶への不満を口にする生徒たち。 薔(やめて…!!お願い…!!) どんなに強く願っても、彼らに届くことは無かった。夢の中で、呼吸が荒くなる。 生徒たちの声が、まるでエコーがかかったかのように響く。 薔(いや…いや…!!) いつの間にか薔薇水晶は生徒たちに囲まれていた。周りの生徒たちが、中心にいる薔薇水晶に向かって、口を揃えて言い放つ。 一番聞きたくなかった言葉を。 「薔薇水晶先生って、教師に向いてないんじゃない?」 薔「いやぁーーーーーーー!!」 薔薇水晶の悲鳴が深夜の部屋に響いた。 帰って来た時には茜色に染まっていた部屋は、目を覚ました時には真っ暗になっていた。 全身にびっしょりと汗をかいていた。喉が乾きすぎて痛かった。 水道の蛇口をひねり、コップに水を注いだ。 喉から流れ込んだ水が、体全体に行き渡るのを感じた。水を吸収するスポンジになったような気分だった。 服を脱ぎ、シャワーを浴びた。嫌な汗を丹念に洗い落とした。まるで体中を這われているようで気持ちが悪かった。 シャワーを止める。髪の毛を伝って滴り落ちる水の音が、不規則なリズムを刻む。 薔薇水晶は、裸のままその場に膝をついた。 薔「私は…」 先程飲んだばかりの水が涙となって流れ落ちた。薔薇水晶はこれを止める術を持っていなかった。 毎朝5時半にセットしてある目覚まし時計を鳴る前に止めた。結局あの後は寝れなかった。 いや、寝るのが怖かった。寝たらまたあの夢を見てしまうかもしれない。それぐらいなら、起きていたほうがずっと楽だった。 いつもだったら朝食を準備し、着替え、軽く化粧をして身支度を整えるのだが、そんな気が起きなかった。 学校へ行かなくてはならない。授業をしなければならない。だが、体が動かなかった。 時計の針が、もう出掛けなくてはいけない時間を指している。だが、準備は何一つできていなかった。 携帯電話を取り出し、学校へ電話をかけた。2回ほど呼び出し音が鳴った後に向こうへ繋がった。 雛「はい、こちら有栖学園なの!!」 向こうで受話器を取ったのは雛苺だった。薔薇水晶は少し安心した。 薔「あ、雛苺先生ですか…?薔薇水晶です…」 雛「あ、おはようなの!!んと、水銀燈先生に代わったほうがいいかしら?」 薔「あ・・・!!そのままでいいです・・!!」 水銀燈に代わろうとした雛苺を慌てて呼び止める。水銀燈に直接言う勇気は無かった。 薔「あの…今日ちょっと風邪をひいてしまって…」 雛「えぇー!?薔薇水晶先生大丈夫!?」 受話器の向こうで雛苺が悲鳴をあげる。もちろん風邪などひいていない。薔薇水晶は少し罪悪感を覚えた。 薔「だから、その、今日は…お休みします…」 雛「うん!分かったの。水銀燈先生にも伝えておくわ!」 薔「はい…お願いします…。すいません…」 雛「うぅん、いいの!お大事にね!」 電話を切り、ベッドに横になる。学生時代以来のズル休みだった。 教師ともあろう者がズル休みなどしていいはずは無い。いや、教師でなくても同じである。 だが、このまま学校へいってもまともな授業をする自信がなかった。 普段なら学校で授業をしているはずの時間に家にいる。なんとも不思議な感覚だった。 薔「皆、ちゃんと授業してるのかな…?」 いつの間にか生徒たちのことを考えていた。途端に気になってしょうがなくなった。 こんなことなら、学校へ行っておけばよかったと思ったが、もう遅い。 時を刻む時計の音に身を委ね、静かに目を閉じた。 部屋の呼び鈴の音で目を覚ました。時計を見ると、既に学校が終わった時間だった。 自分の眠りっぷりに少し驚いた。 寝ぼけ眼のままドアを開けると、そこには水銀燈が立っていた。 銀「薔薇水晶先生、大丈夫ぅ?」 どうやら風邪で休んだ薔薇水晶を心配して、わざわざ来てくれたらしい。 ますます申し訳なくなった。 銀「寒ぅい…。私まで風邪ひいちゃうわぁ。お邪魔しまぁす」 突然の来訪に驚いて突っ立っている薔薇水晶の脇を通って、水銀燈は勝手に部屋に上がり込んだ。 銀「ふぅ、もう疲れたぁ。あ、これ今日の会議で使った資料ね。テキトーに読んどいてぇ」 上着を脱ぎ、鞄から大きい封筒を取り出すと、それを机の上に置いた。 薔「ありがとうございます…」 お礼を言って、封筒の中身に一通り目を通す。特に重要そうなものは無い。 いつの間にかベッドに座っている水銀燈の横に腰を下ろす。2人分の重みに、ベッドが微かに軋んだ。 銀「風邪はもう大丈夫なの?」 薔「あ・・・はい・・・もう大丈夫です…」 あれは嘘ですだとはとてもじゃないが言えない。薔薇水晶は適当に取り繕った。 銀「ふぅん、良かった。それにしても、あなたが休んで大変だったのよぉ?」 水銀燈が大袈裟に溜め息をついた。 銀「出席をとったのなんて久しぶりなんだもん。何度も噛んじゃったぁ」 薔「でも、私よりも水銀燈先生が出席を取ったほうが生徒が喜びます…」 銀「え・・・?」 水銀燈が驚きの声をあげる。だが、それ以上に驚いたのは薔薇水晶自身であった。 今まで溜め込んでいた感情が口から溢れ出して来た。 薔「私よりも、水銀燈先生が担任のほうが良いんです…」 銀「ちょ、ちょっとあなた何言ってるの?」 決壊した水門からあふれ出す水を止めることはできない。薔薇水晶はあふれ出す感情を止めることができなかった。 薔「生徒は、私なんか望んでいないんです…!!私は、教師に向いていないんです…!!」 次の瞬間、薔薇水晶の首がものすごい勢いで傾いだ。 銀「あなた…。自分で何を言ってるのか分かってるの…?」 一瞬何が起こったか分からなかった。だが、右頬に伝う熱い痛みで水銀燈に張り手をされたということが分かった。 ゆっくりと水銀燈のほうへ視線を向けると、凄まじい勢いで睨み付ける水銀燈がそこにいた。 銀「あなた・・・本当に自分は生徒に望まれてない存在だと思ってるの…?自分が教師に向いていないなんて思ってるの!?」 今まで言葉として溢れ出して来た感情が、続けて涙となって頬を滴った。 薔「あ・・・あ・・・」 言葉が出なかった。だが、水銀燈の問いへの答えは、涙が全て語っていた。 銀「あーぁ、本当にお馬鹿さぁん」 やれやれと息を吐き、肩を落とす水銀燈。そしてやや強引に薔薇水晶の肩を抱き寄せると、よしよしと頭を撫でた。 そうされることで、心の中のもやもやが少しづつ溶けてゆくような気がした。 銀「今日の朝、私が教室へ入ったら、生徒たちなんて言ったと思う?」 薔薇水晶の頭を撫でながら、囁くように言った。 銀「『あれ?薔薇水晶先生は?』よ?第一声がこれだもの。私、ちょっとあなたに妬いちゃったわぁ」 薔「え・・・?」 銀「あなたがどう思ってるのか知らないけれど、あなたはあの子達にとって立派な教師なのよ」 薔「私が・・・?」 銀「そうよぉ。自信持ちなさぁい」 心の中の重しが消え去ったのが分かった。その弾みで、先程とは比べ物にならない量の涙が両方の目から溢れ出してきた。 薔薇水晶は、水銀燈の胸で思い切り泣いた。 銀「本当に、しょうがない子ねぇ」 水銀燈は苦笑しながらポンポンと頭を撫でた。 本はと言えば全てのはじまりは薔薇水晶の思い込みからである。薔薇水晶は、己の弱さを痛感した。 しかし今回の件で少しだけ強くなれた気がした。ほんの少しだけ。けれど、それは薔薇水晶にとってはとても大きな一歩だった。 薔「出席をとります・・・」 いつものように出席をとる薔薇水晶。だがそこに水銀燈が来ることはもうなかった。
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「屋敷でクリスマスパーティーをするんだ!」 モルテがそう騒ぎ出したのが12月の20日 「わくわくして起きたのに雪が降ってないじゃないか!?」 モルテが寝起きで騒ぎ出したのが12月の24日 「おかしい…ホワイトクリスマスってのを楽しもうと根回ししたはずなのに一粒も雪が降っていないなんて!」 と言っても飾りや食事や何だのを用意したのは屋敷の召使達で、モルテは実現し辛い指示を出していただけである。 「どうしたのですかモルテ。日付が変わった頃に起きたと思ったら大騒ぎして」 「サミュラ!雪が降ってないんだよ!クリスマスがホワイトじゃないんだよ!」 「雪にも都合があるのでしょう?」 「空にも【冬】の気配はありませんな。時期通り今頃は新天地辺りを飛んでいるのでしょう」 モルテの晩餐の招待を受けた中でも真っ先に到着していた審議侯が相槌を打つ。 確かに今の時期に寒波降雪を促す精霊団【冬】はスラヴィア上空にはいない。 「私はサミュラ様がいらっしゃるというだけで満足至極でございます。ところでモルテ様の根回しというのは精霊に願いなどをして回ったなどでしょうか?」 平時より一層荘厳華麗なそれでいて邪魔にならないまとまりという絶妙なバランスは組み合わせと装飾に半日をかけたというレシエ卿。 異世界では天気予約というほど大層なものではないが、それなりに多くの大きな精霊と約束を交わせば臨む天候がやってくるのだが。 「三か四カ月前に湖の水精霊に言ったっけなー。12月24日から雪ドバーって降らせるんだぞ!って」 「全くモルテはもぅ…」 「相変わらずですな」 「本当に言っただけで終わっているのですね。降るはずもないでしょう」 三連続の溜め息に流石のモルテも少しばかり狼狽える。そもそも己の願いを精霊が聞き入れたことがあっただろうか?と思い起こす。無い。全くありません。 「がっでむ!」 悪戯大王禍々邪神と恐れ煙たがれるモルテの本気で地に落ち込む姿は貴重である。 「ふぅ…今からでも間に合いますでしょうか?雪となると水、闇、あと風精霊にも協力を取り付けなければいけませんが」 「都周囲の湖にいた多くの水精霊は先日南の商業港に風精霊と出掛けたと聞きましたな。何でも年末巡業で地球からプロレス団体がやってきているを見学に、と」 「私の領内のイベントですわ。ミズハミシマの闘士【潮流・力】などを交えて大々的に開催されるとか何とか」 「そうですか…なら無理に引き返してもらうのも悪いですね。もう夜まで間に合わせるのは難しいですね、どうしましょう」 夜までもう半日もなく、大気中の水分を上空にて雪に精製するだけの精霊を集めるにはかなり難しい。 それでも珍しく哀れな子羊の様にぷるぷる震えるモルテに何かしてあげたいと思うサミュラは悩まし気な面持ち。 「強き力を持つスラヴィアンは精霊との関りが他種より薄い面がありますからなぁ。こういう時はその力が逆に恨めしいですな」 一同溜め息と思案にふけるがどうにも良い案が浮かばず八方塞がりである。 「モルテ、今年は諦めて来年から頑張って ─── 古代ミイラの如くうずく丸くなるモルテに手を伸ばそうとしたサミュラ。そのスカートの下が突如蠢き出す。 蝋燭の光が作る影へサミュラのスカートの中から大量の【黒】が流れ込むのだ。 とめどなく流れる黒はやがて盛り上がり大きな体躯を形成する。サミュラの影と繋がったままに巨大な丸岩が出来上がった。 それはさざめく毛並み溢れる球体に四対八本の腕と太く短い脚の生えた漆黒のムークの影。影故に目も口も何もないシルエット。 「あら、闇さんがムークになってしまいました」 「むぅ…只ならぬ雰囲気を感じますな。これも闇がかつて影ごと取り込んだ者なのでしょうか」 「しかし何故ムークなのでしょう?」 どすんどすん。本来質量などないはずの影だが窓際へ進む足の動きには確かに重量を感じる。 屋敷の大窓までたどり着いたムークの影はおもむろにそれを開き夕闇訪れようとする赤い空へ向かって全ての腕を伸ばす。 ボォオエェエアァアアーーーーーーーーーーー 大気どころか屋敷全体が震える咆哮。しかしそれは耳を劈くことなく通りの良い風の音の様に体を透き通り空へと舞い上がっていく。 一しきり吼え終えたのか、ムークの影は腕を下す。するとたちまち空模様が灰色へと変化するのだ。 灰色の空は凍える大気で蓋をしたかの如くあっという間に零下へと冷え込み吐息を結晶と化す。 「信じられませんが、【冬】がやってきましたな?!」 スラヴィアの空を激しくうねり飛ぶ水と闇と風の精霊団。季節をもたらす彼らの不意の登場にスラヴィア全土にどよめきが起こった。 程なくして空よりひらひらと雪が舞い落ちだす。それはすぐに吹雪となり一面を白へと変えたのだ。 かつて異世界に人もまばらで国もなかった頃、それは己の多腕で波を掻き分け崖を登りありとあらゆる場所を巡った 高き山の頂にてそれが吼えると何処からともなく精霊が集まり雪を降らせ白い傘をかぶせた 遠き海の孤島でそれが吼えると立ちどころに雪が海に凍土を生み出した それは異世界の白き場所を決めた者 ともすれば神よりも古き存在 命尽きるまで異世界に白の色どりを与えたそれは最後を迎えた後に影に飲み込まれたという 「何か知らないけどホワイトなクリスマスだ!やった!」 「良かったですね。闇さんに感謝しないといけませんね」 「ふ、ふんっ!中々やるじゃないか!」 精一杯のモルテの謝辞に小さくなった不定形はサミュラのスカートの下でふんぞり返ってみせる。 「しかしこれは些か過度ではありませんかな?既に窓の下まで雪が積もってますな」 「何やら面白いことになっておる」 「サミュラ様、お招きいただきありがとうございます!急に雪が降ってきて地下迷宮の入り口が埋まって大変でした驚きました」 「…」 髑髏王に続き監獄姫、岩窟王と到着する。三人ともその身にたっぷり雪を積もらせていた。 「よーし人数も集まってきたことだし雪合戦といこうじゃないか!石入れるんじゃないぞ?入れるなよ?」 吹雪く庭に躍り出たモルテは上機嫌でマッハに雪玉を作り出していた。 「一件落着、ということでいいのでしょうか?ところでクリスマスに雪合戦というのはどうなのでしょうか」 危うく負の情念を暴走しかけたモルテであったがスカートの闇のおかげで事なきを得る。 スラヴィアの若干おかしげなクリスマスは賑やかに過ぎていくのだった。 時季外れのクリスマスinスラヴィア モルテって嫌われてるって分かっても次の日になったら忘れてるタイプだよね -- (名無しさん) 2017-01-22 15 38 56 異世界創生からいる神って少ない?異世界の大地を創った存在は面白そう -- (名無しさん) 2017-01-22 18 17 48 気象に関しては異世界の方地球より便利というか融通が利くのね -- (名無しさん) 2017-01-23 18 09 49 夜限定かはわからないけどサミュラに対してはとても便利な闇精霊だ -- (名無しさん) 2017-01-26 08 15 26 名前 コメント すべてのコメントを見る
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日曜の午前中、私は街中を散歩をしていた。 昨日の大雨が嘘のような青空、私の心とは反対に雲ひとつ見えない。 普段なら家でネトゲでもしていただろう。でも、家にいてもかがみのことばかり考えて、辛くなるから。 気分が少しは晴れるかなと思ったけど、私の予想とは360°違った。 ……って、一周してるや。180°ね。 時間が経てば、季節が変われば、いずれ忘れられると思っていたけど、胸に刺さったトゲは、未だに抜けないまま。 歩いていくうちに、町外れの公園に着いていた。 誰もいないのが逆に嬉しかった。誰にも干渉されず、一人でゆっくりできるから。 「ふう……」 家からこの公園までは結構キョリがあり、疲れ切った足を癒すためにブランコに座った。 それからしばらく、ずっと空を眺めていた。かがみへの気持ちは、収まらない。 「……大好き」 ついに我慢できず、空に向かってそう呟いた。誰もいなくて、本当に良かったと思う。 「……私は……かがみのことが……大好き」 でも、呟いたからといって、何かが変わるワケもなく。私の心を虚しさが通り抜けていった。 ――少しくらい、私達に相談してもいいのよ? 私達は―― その後、かがみが何を言おうとしていたのかは、なんとなくわかる。 言われなくて、よかった。『親友』なんて言葉を聞いていたら、確実に暴走していただろうから。 だけど……なんで、言わなかったんだろう? 本当に恥ずかしかったのか、それとも…… どのくらい時間が経っただろう、チャプンという音と足の冷たい感触で我に帰った。 「あ……」 ブランコの下の窪みにあった、昨日の大雨でできたのであろう水溜まりに、私は足を突っ込んでいた。 靴を履いてはいるものの、隙間や足首から水がしみ込んでくる。 靴の中がグショグショで気持ち悪かったが、不意に笑みが零れた。それは、自虐の笑い。 晴れ渡った町で、私の靴だけびしょ濡れ。それが私を表しているようで、なんだかおかしかった。 〈Love is the mirage... ~せつない恋に気づいて~〉 このままここにいてもしょうがない、私はグショグショな靴のまま家に帰った。 ゆーちゃんが元気よく「お帰りなさい」と言ってきたけど、私は靴下を洗濯機に放り込み、無言のまま部屋へと戻った。とにかく一人になりたかったから。 「ふう……」 ベッドに仰向けに寝、思わず溜め息がこぼれる。疲れもあったのだろうが、原因はそれだけではなく…… 「やっぱり、諦めきれないんだな……」 諦めようと思えば思うほど、余計に心が痛む。 本当は、諦めたくない。かがみと付き合いたい。でも……諦めるしか、出来ないじゃない。 私の思いは、絶対に届かないんだから…… 「こなたお姉ちゃん、入ってもいい?」 ドアをノックする音とゆーちゃんの声。 「いいよ。何の用?」 身体を起こして返事をすると、ゆーちゃんが不安そうな顔で入ってきた。 「こなたお姉ちゃん、何かあったの? 元気がないみたいだけど……」 「……なんでも、ないよ……なんでも……」 「嘘。こなたお姉ちゃん、何か悩んでるんでしょ? 前から溜め息ばっかりだし」 ゆーちゃんはかがみ並みに……いや、それ以上に、私をよく見ている。 これが普通の悩みなら、相談するんだけど…… 「言っても、ゆーちゃんにはわからないよ」 「……」 帰って、と言わんばかりに横になる。実際、早く出ていって欲しかった。 「確かに、私にはわからない悩みかも知れないけど……一人で抱え込むより、少しは楽になると思うな」 「え……」 横になったまま顔を動かして、ゆーちゃんの顔を見る。 その顔は真剣そのもの、いつもの優しいゆーちゃんの顔ではなかった。 「それに私、こなたお姉ちゃんに頼ってばかりだもん。たまには私を頼って欲しいな」 ……負けた、かな。ゆーちゃんの親切心に、私の心が。 そう言われると、頼らなざるをえないじゃん。卑怯だよ。 でも、負けは負け。私は身体を起こしてゆーちゃんの顔を見る。 「ゆーちゃん。今から言うことは、全部本当のことだから、覚悟して聞いてね」 「う、うん……」 私の言葉に、ゆーちゃんが身構える。私は小さく息を吸い込み……覚悟を決めた。 「私、かがみのことが……好きなんだ。友達としてじゃなく、恋愛感情で」 「……え……?」 予想だにしてなかったのだろう、私の言葉を聞いたゆーちゃんが驚きで口をおさえた。 「私はかがみが欲しい。かがみとずっと一緒にいたい。だけど、私もかがみも女の子……」 「……」 スカートの裾をギュッと握り締めたままのゆーちゃんを無視して、私は喋り続ける。 最初は喋るのに抵抗してたけど、一度喋り始めると止まらなくなるから不思議だね。 「私は、かがみに告白したい。でも、かがみは私を友達としか見てくれてない至極まともな女の子。告白したところで、受け入れてくれるはずもない。 断られて、元の生活に戻れるとは思えないし、もしかしたら、私を軽蔑するかもしれない。そうなったら……傍にいることはできない」 小さく溜め息をつき、天井を見る。特に意味はないけれど……なぜだか、ゆーちゃんの顔を見たくなかった。 「いくら思ったって、私の恋は、絶対に叶わないんだ。だから諦めようとしてるんだけど……諦め切れないんだよ……」 瞳から、涙が溢れた。我慢してはいたけれど、涙腺が耐えきれなかったみたい。 「……どうして、諦めなくちゃいけないの? そんなの、会う度に辛くなるだけだよ」 その言葉に驚いた私は、ゆーちゃんの顔を見た。 さっきまでの顔はどこへ行ったのだろう、なんだかイラついているようにも見えた。 「やってもいないのに、なんで諦めてるの? まだわからないじゃない」 「わかるよ。常識的に考えて。同性に恋をするなんて、おかしすぎるじゃない」 「……何を持って常識なんていうの? 同性結婚が認められてる国だってあるんだよ?」 前言を撤回しよう。ゆーちゃんは、本当にイラついているみたい。 こんなゆーちゃん……初めて見る。 「芸能人と一般人との結婚もある。日本人とアメリカ人との結婚だってある。だから不可能なんてないんだよ。やろうと思えばなんだってやれる けど、こなたお姉ちゃんは何かしようとした? 何もしてないでしょ? ただ怯えてるだけなのを『常識』っていう言葉のせいにしてるだけでしょ!?」 ものすごい剣幕で言い寄ってくるゆーちゃんに、私は何も言えなかった。 しかも……ゆーちゃんの言葉は、まさにその通りだったから。 「かがみ先輩だって、告白したくらいじゃ軽蔑しないと思うよ。もしそうだったら、友達にだってなってないよ それに……もし何かあったとしても、私はずーっと、こなたお姉ちゃんの味方だから」 ゆーちゃんの言葉の一つ一つが、私の心の傷を塞いでいく。 気付けば私は、ゆーちゃんに抱きついていた。大粒の涙を流しながら、きっとあざが出来てしまいそうなくらい、強く。 「ひゃわ!?」 「ゆ……ゆーちゃ……あ、あり……が……ああああぁぁ……!」 痛がる素振りも、嫌がる素振りも見せずにゆーちゃんは、ただ私の頭を撫でてくれていた。 「私、頑張るよ。頑張ってかがみに告白して、かがみと付き合う」 あれから数分後、私はゆーちゃんの目の前で誓った。 ゆーちゃんが教えてくれたことは、諦めるよりも、何かを求めて傷つく方が良いということ。 私を励ましてくれたその気持ちを、踏み躙るわけにはいかない。 「じゃあ、約束だね」 ゆーちゃんが左手の小指を出してくる。指切りなんて、何年ぶりだろう。 そう思いながら、私も小指を出してゆーちゃんのと絡ませる。 『ゆ~びき~りげ~んま~ん、う~そつ~いた~ら……』 そこで、二人の声が途切れる。どうやら、同じことを考えていたようで。 「本当に針千本飲ませるわけにはいかないよね、さすがに」 「何か他にないかな……約束を破った場合……」 「あ、じゃあさ……」 ゆーちゃんがほんの少しだけ顔を紅くしてこっちを見てきた。 「私と付き合うっていうの、ダメかな?」 ……………はい? 「え、えと、だから、かがみ先輩と付き合えなかったら、私と、付き合うっていうの……ダメかな……//」 耳まで真っ赤になった顔を見て、やっと私は気付いた。 私がかがみに恋心を抱いているように、ゆーちゃんも、私に恋心を抱いていることに。 でも、ゆーちゃんの言っていることは…… 「いい、の……? だって、もし告白が成功したら……」 「いいの。一番大事なのは、こなたお姉ちゃんの気持ちだから。こなたお姉ちゃんが幸せなら、それでいいから。だって、こなたお姉ちゃんが……好きなんだもん」 ……ああ、なんで私はあんな程度のことで悩んでたんだろうか。 同性の友達に恋をした私なんかよりも、同性の『血縁者』に恋をしたゆーちゃんの方が、よっぽど辛い思いをしてたはずなのに…… それでもゆーちゃんは、私を…… 「ありがとう、ゆーちゃん……」 それだけでは、感謝の思いを伝えきれないけれど、優しく微笑んでくるゆーちゃん。多分、わかってくれてるんだと思う。 「あ……あれ……?」 刹那、瞼が重くなった。さっき泣いたせいだろう、ゆーちゃんの顔がぼやけて見えてきた。 「お姉ちゃん、眠くなっちゃった?」 「う……うん……」 私は睡魔を我慢できず、そのまま床に倒れそうになった。 固い床の衝撃がくると思いきや、柔らかく温かい感触が顔を包み込む。 言うまでもなく、そこはゆーちゃんの胸の中だった。 「いいよ、ここで寝ても」 「ありがと……ゆー……ちゃ……」 意識が遠くなる瞬間に見たゆーちゃんの瞳は、濡れていた。 夢を見た。 私がかがみと出会ってからの出来事を、まるで走馬灯のように。 二人で過ごした幸せな時。辿れば、眩しく光っている。 もう二度と、あの頃には戻れない。だけど、それは悲しいことなんかじゃなかった。 少し前までは絶望の道が広がっていたけれど、ゆーちゃんのおかげで、新しい道が開けた。 それは、決して絶望の道なんかじゃなくて…… 全てを決めるのは、他ならぬ柊かがみ。 私の運命が良い方向に行くか、悪い方向に行くか。それは、かがみの返答次第。 例え二人の距離が離れていったとしても、私はそれを受け入れる。 だってそれが、私が選んだ道なのだから。 ――柊かがみ。私の、最愛の人―― どんな結末が待っていようとも。 私がかがみを愛していたことに変わりはない。 かがみを忘れてしまうほどの恋が胸を焦がすまで。 私はずっと、かがみの幸せを祈り続ける――
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312 名前:くみちょ! ◆nvmgYjRe.Y [ファンタジー風] 投稿日:2007/09/25(火) 20 22 17.43 ID tfQSCfeZO 「アハハ♪だ・か・らあなた達は愚かだと言うのよ。自分たちが信仰する神の正体すら知らない」 目の前で高らかに笑うのはあらゆる武具を使いこなし、作り出す魔女「戦女(いくさめ)」ことシルバー。 「…あなた達教会は神の名を語り、どれだけ罪の無い人間を殺した?」 我々に休む暇も与えず、次々と繰り出される攻撃。 「教会における神って何?そこのあなた、休ませてあげるから答えなさいな?」 シルバーは私を指名する。 「…神とは人間を始め、万物を作り…絶対的な力を持った我々の守護者だ」 「ぶぶ~、それは違いま~す♪人間の守護者って言うなら私たち「魔女」だって刈らないわよ、「人間」だもの。…あなた達の信仰する神っていうのは…」 シルバーは後ろにいた部下三十名を一瞬で倒すと、私の背後に回りこう言った。 313 名前:くみちょ! ◆nvmgYjRe.Y [ファンタジー風] 投稿日:2007/09/25(火) 20 22 46.07 ID tfQSCfeZO 「他の星から来た人間よ。自分たちの星を滅ぼして行き場を無くし、この星に目を付けた侵略者。…そして、二千年経った今…」 シルバーは俺の首筋を見て驚いた様に言う。 「なぁんだ!あなた、刻印があるじゃない♪」 ふざけるな! 神に仕える騎士の私に刻印? 「お仲間じゃあ優しくしないとねぇ…」 「…私は騎士だ!」 最後に残った力で剣を振るうが、シルバーを捉えることは出来ない。 「あぁん………面倒だから寝てて!」 「…あ」 後頭部に鈍い痛み。 頭がグラグラと揺れて、私は意識を失った。 314 名前:くみちょ! ◆nvmgYjRe.Y [ファンタジー風] 投稿日:2007/09/25(火) 20 24 22.43 ID tfQSCfeZO 「………つぅ」 頭がズキズキ痛む。意識を失ってからどれだけ経った? 「…あらぁ、お目覚めかしら?」 のほほんとした声。 「貴様、シルバー!」 憎らしい声に立ち上がろうとするが、四肢を拘束されていて無駄な足掻きとなる。 「おはよ~。可愛らしい騎士様?うふふ♪」 「可愛らしいだと?…貴様、私を愚弄するか!」 「私は見たまんまを言ってるんだけど?」 「何?」 私は固定されていない首を動かし、自分の肉体を見る。 いつも通りの鍛え抜かれた… 「………」 肉体ではなく柔らかそうな女性の物だった。 「き、貴様!何をした~!」 興奮していて気付かなかったが声も少女のそれとなっている。 「私はなんにも~」 シルバーはフルフルと首を横に振る。 「嘘を吐け!」 「ホントよぉ。あなた、教会の教えは忠実に守ってた?」 「当たり前だ!私はこの身を神に捧げた」 「だからよ。あなた、女の子とエッチしたことないでしょ?」 「それが神の教えだ!」 「良かったわねぇ♪」 何を言っているんだシルバーは? 「だって、あのままだったらあなた………教会に刈られてたもの」 316 名前:くみちょ! ◆nvmgYjRe.Y [ファンタジー風] 投稿日:2007/09/25(火) 20 27 46.84 ID tfQSCfeZO 「ねぇ?何で教会が20歳以下の人間に性交する事を禁じていると思う?」 「それは…」 私はシルバーの問いかけに答えが見つからなかった。 教会の教えは絶対であり、幼い頃から何の疑問も抱きはしなかった。 「私たち「先住民」はね、生まれながらの女っていないのよ」 「それでは子を成せないではないか?」 「…ふぅ。教会に毒されて何も知らない。哀れね…」 やれやれと溜め息。 317 名前:くみちょ! ◆nvmgYjRe.Y [ファンタジー風] 投稿日:2007/09/25(火) 20 28 19.72 ID tfQSCfeZO 「教会内の「魔女」を見つけて刈るために性交を禁じているのよ?私たち「先住民」は15~20歳手前まで純潔を守れば女として生まれ変わるの。二千年前までは当たり前の常識だったのよこんなのは」 シルバーは表情を引き締める。 「それが一般的に忘れ去られ、男と女が明確に分かたれた現代………「侵略者」達は星中に蔓延り、私たち「先住民」は男に化けて世に忍んでいる「魔女」として迫害されてるってわけよ」 困ったものだわ、とまた溜め息を吐いた。 「あなた達の神はね、この星を自分たちの種で満たすため………いいえ、自分たちの星を再現するために魔女刈りをしている殺戮者なのよ」 「殺戮者は魔女の方ではないのか?」 「何言ってるの?私たちは自分や仲間を守る為にしか力を使わない。魔女に殺された人間っている?」 318 名前:くみちょ! ◆nvmgYjRe.Y [ファンタジー風] 投稿日:2007/09/25(火) 20 30 01.00 ID tfQSCfeZO シルバーに言われて気付く。 魔女と戦い重傷を負った騎士は多数いたが、死に至った者を一人も見たことがない事に。 「魔女は星の声を聞くわ。星は人を殺すことを望まれていなかった………たとえ、この星が嘗ての在り方を失うことになろうとも…ね…」 何ということだ………教会に拾われ、育てられたこの12年。 私はその教えを疑ったことなど無かった。 魔女は異端也、滅ぼすべき悪也と叩き込まれてきたというのに。 「…私がやってきたことはただの殺戮だったというのか」 シルバーと話していると、教会の教えがおかしいと気付く。 何をした訳でない少女たちを魔女として一方的に刈った。 ただ、刻印が浮かんだ僧侶、騎士、信者たちを有無を言わさず殺した。 「…悪は私自身か」 319 名前:くみちょ! ◆nvmgYjRe.Y [ファンタジー風] 投稿日:2007/09/25(火) 20 30 52.67 ID tfQSCfeZO 自分を正義と信じ、神の名の下に何の疑いもなく人を殺めてきた自分が哀れだと思った。 「ま、それに気付けたあなたはまだ救いがあるわよ♪」 シルバーに抱きしめられて思う。 (何も違わない。この温もりは同じ人の物ではないか…) 「で、本題。このまま聞いてくれる?」私は頷く。 「1ヶ月位前になるんだけどね………星は初めて人を殺すという決断をしたの。このままじゃこの星に住む命は全て無くなると知ってね…」 「それは…」 「教皇と教会の幹部7人が…」 「…ぐはぁ!」 首筋の刻印が尋常じゃなく痛む。 頭がクラクラする。 「あら、覚醒が始まるのね………。お話はまた今度にしましょう」 「覚醒だと?」 「言ったでしょう?魔女は星の声を聞くと。そのために魔女は星と繋がるの…」 …星と繋がる? 「星と繋がった時、あなたは新しい力を手にする。この星を守るための力を…」 「シルバー…」 沈みゆく意識の中 「おやすみなさい!あなたの目覚めが素晴らしいものであらんことを!」 シルバーの声だけがはっきりと頭に響いていた。
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「おや、今日は長門さんだけですか」 いつもは騒がしいSOS団……もとい文芸部部室は水を打ったように静かであった。 世界を変革出来る力を持つ華麗な団長の声や、 それを止める鍵となる普通の男子生徒の声や、 未来から来た年齢不詳な巨乳なメイドの声も、今日はいっさい声が聞こえない。 居るのは本にかじりつく物静かな宇宙人だけだった。 「お茶、飲みます?」 問掛けに、顔を上げずに頷く長門。 その様子に溜め息を吐いてから古泉は問いを続ける。 「その本、面白いですか?」 首を縦に振る。 「何の本読んでいるんでか?」 黙って表紙を見せる。その言語は古泉の知らないものであった。 「長門さん、緑茶と紅茶どちらになさいますか?」 「……ほうじ茶」 「仰せのままに」 胡散臭い、と団員に言われてしまった笑みを向けるが、長門の興味は相変わらず本にのみ向く。 適切な温度で緑茶を煎れると、香ばしい香りが部室を支配する。 「どうぞ、長門さん」 視線を上げ、一瞬会釈。そして視線はすぐに本に戻る。 見えた本文からはどんな本か伺い知れぬような文字が群れをなしていた。 「長門さんは、」 自分の名前を出されても眉一つ動かさない。 動いているのは彼女の白く細い指のみ。 「キョン君が、お気に入りのようですね」 そこで長門は顔を上げた。そして、硝子玉のような澄んだ瞳で言う。 「私個人の感情としては、彼を気に入っている」 「それでは涼宮さんは?」 「興味深い観察対象だと考えている」 「それでは朝比奈さんは?」 「こちらから歩み寄ろうと考えている」 「じゃあ、僕は?」 そこまで言うと、長門は一度だけ瞬きする。そして淀みの無い声で言う。 「貴方は、涼宮ハルヒによって変わった人間の一人。それ以上でも以下でもない」 「……そうですか」 肩をすくめてそう言う古泉。 「僕は、長門さんを気に入っているんですがね」 「……そう」 パラリ。ページがまた捲られる。 「それでは、僕は帰りますね。戸締まりを……」 「古泉一樹」 長門が、古泉の発言を防ぐ。今度は本を閉じて真っ直ぐに言う。 「私は、確かに貴方を涼宮ハルヒによって変わった人間として捉えている」 「そうですか」 「しかし、貴方のその笑顔には興味がある」 「……」 「私は、感情が乏しいから」 「だから、貴方は興味深い」 そう言い、また視線は本に。詰まることなく、またページは捲られる。 「ありがとうございます、長門さん」 「私は、礼を言われることは言っていない」 「僕が言いたかっただけです」 「……そう」 古泉は穏やかに笑む。そして鞄を抱えてから言った。 「それでは長門さん。また明日お会いしましょう」 返事は無い。しかし古泉は気にせずに歩き出す。 部室には、冷めたほうじ茶が残されていた。