約 109,481 件
https://w.atwiki.jp/hmiku/pages/57111.html
【検索用 こくはく 登録タグ VOCALOID うみくま こ 初音ミク 曲 曲か】 + 目次 目次 曲紹介 歌詞 コメント 作詞:うみくま 作曲:うみくま 編曲:うみくま 唄:初音ミク 曲紹介 彼の猶霊へ捧ぐ唄。 曲名:『告拍』(こくはく) うみくま氏の7作目。 歌詞 (piaproより転載) またあの夢の続きには どうやっても辿り着けず 物語を超えた殺生を 悼んだ為躰だ 他人、無縁事もどれも 浅はかで愚かな僕も 呵い合って過ごすはずなのに 君だけが空虚 泣いて仕舞えば樂になるし 廃を注げれりゃ綻ぶし IでMYで曖昧なその心の胸中 唯一唯一願いが叶うなら 望むのは僕が君を 護り救えた未來 数多の遍く風景も 君となら綺麗な情景さ あの恋に臆さずに 愚直に抱えた想い たった一つのこの請いも 限界だって感じない だってほら僕らは この世に生を受け出逢った 愛想や愛憎もどれも 疎かで戯けた僕だけが 溜め息を殺すはずだけど それに意味はあるの? 愛を捨てれりゃ樂になるさ でも君とのナイショのハナシ 頭ん中で掻き乱された心の拮抗 唯一唯一脅威が解けるなら 臨むのは僕や君が 忘れ去られぬ世界 数多に重ねた風流も 君となら綺麗な悠久さ あの頃視た以来の 素朴に抱えた慈愛 たった一つの杞憂彪も 限界すらも感じない だってほら君はもう ずっと此処には居られない 思い出が褪せて風刺画 焼き付けたフィルムの愛情 そっとそっと瞳を閉じた 君の頬に触れたくて どうすれば今会えるのだろう この躰が向かう先にきっと あと1センチの距離に君が―― 数多の遍く風景も 君となら綺麗な情景さ あの刻に臆さずに 素直に伝えたい想い たった一つのこの請いも 限界なんて壊すんだ だってほら僕らもう 数多に重ねた風流も 君となら綺麗な悠久さ あの頃視た以来の 素朴に抱えた慈愛 たった一つの杞憂彪も 限界すらも感じない だって君がいなくても ずっと僕の中で生きるよ コメント 名前 コメント コメントを書き込む際の注意 コメント欄は匿名で使用できる性質上、荒れやすいので、 以下の条件に該当するようなコメントは削除されることがあります。 コメントする際は、絶対に目を通してください。 暴力的、または卑猥な表現・差別用語(Wiki利用者に著しく不快感を与えるような表現) 特定の個人・団体の宣伝または批判 (曲紹介ページにおいて)歌詞の独自解釈を展開するコメント、いわゆる“解釈コメ” 長すぎるコメント 『歌ってみた』系動画や、歌い手に関する話題 「カラオケで歌えた」「学校で流れた」などの曲に直接関係しない、本来日記に書くようなコメント カラオケ化、カラオケ配信等の話題 同一人物によると判断される連続・大量コメント Wikiの保守管理は有志によって行われています。 Wikiを気持ちよく利用するためにも、上記の注意事項は守って頂くようにお願いします。
https://w.atwiki.jp/narikiriitatrpg/pages/465.html
「肥溜め」とは「TRPG系雑談所」のこと。 現在は雑談所としての機能を浄化槽に譲り、肥溜めは難民板へと移転している。 主にコテハンの一挙一動を話題として取り扱う場所となっており、スレの内容やレス技術を論じる浄化槽とは対極の位置づけにある。 なおコテ間の不文律として『コテは肥溜めを見ない』とされており、これを侵犯した者は厳しく非難されることとなる。(→触角事件) 雑談所の呼称は年々変化しており、確認できるだけでも「TRPG系雑談所Ⅱ~悪霊の神々~」から始まってドラクエのサブタイトルを推移し、 「TRPG系雑談所~幻の大地~」から転じて「マボダイ」と呼ばれるようになったのが1年ほど前。 マボダイ時代に名無しの一人が「ここはなな板の中で最も底辺、肥溜めのようなところだ」的なニュアンスの発言をしたことから、 雑談所の通称は「肥溜め」になった。 肥溜め民は三割のエスパーと2割のキャラ萌え、3割の考察好きと、残りの2割はコテの潜伏である コテのスキャンダルが死ぬほど好きで、いつも根拠のない憶測でコテを叩いては満足している ◆留意◆ 浄化槽と肥溜め住民は多くが重複していると見られる。 そのためコンセプトと建前は違えど、両スレの内容はほぼ同質であり 現在のところ両者の違いは形骸化している。 浄化槽がよく肥溜め化するように、肥溜めでも技術論などが語られる時もある。 あなたが肥溜めから得るものは殆ど何もない。文字列に置き換えられたプライドだけだ。 失うものは実にいっぱいある。大凡の楽しみに対して素直に感動できる心と、取り返すことのできぬ貴重な時間だ。 あなたがディスプレイの前で孤独な消耗をつづけているあいだに、ある者は『遊撃左遷小隊レギオン』に参加し続けているかもしれない。 またある者はJOYSOUNDのカラオケ店で同志の友人達と『 ゆりゆらららゆるゆり大事件』を歌いながらカップリング議論に励んでいるかもしれない。 そして彼らは世代を代表するプレイヤーとなり、あるいは幸せな同僚となるかもしれない。 しかし、肥溜めはあなたを何処にも連れて行きはしない。三浦と従士を叩くだけだ。三浦、従士、師匠……、 まるで肥溜めそのもがある永劫性を目指しているようにさえ思えてくる。 永劫性については我々は多くを知らぬ。しかしその影を推し測ることはできる。 肥溜めの目的は自己表現にあるのではなく、自己変革にある。エゴの拡大にではなく、縮小にある。分析にではなく、包括にある。 もしあなたが自己表現やエゴの拡大や分析を目指せば、あなたは肥溜め名無しによって容赦なき報復を受けるだろう。 HAVE A NICE TRPG ! 肥溜めの糞共がコテに対し唯一勝る能力とは、意味を与える力だ 例えば本スレでコテが一つミスをした、このミスもすぐフォローされたのならただの横道に過ぎない そのミスをあげつらって、叩きの応酬で意味を伝えた 、これこそ肥溜めの力である 同様に、たくさんのPLがいるとする そのたくさんのPLは全て同列のプレイヤーで、コテである点も変わりない しかし、お前らが従士、三浦、ガチムチなどと名付ける者はそれぞれただ一人なのである このようにして、肥溜めには【無意味に意味を持たせ印象を縛る能力】が備わっている これは恋愛でも同様だ、人間などいくらでもいる、女も星の数ほどいる しかし恋人はただ一人の特別な存在であるし、結婚すれば同様だ では糞コテはどうだろうか コテはただのコテだ、キャラクターの性格もどこにでもいるプレイヤーキャラと変わらないかも知れない しかしお前が嫌いになったコテは、ただ一人の特別な存在であるし そいつがいつか別のキャラクターを創作したとしても、その時の感情も思い出も現実と同様にお前の心に残るのだ なぜなら、それら全て、なんでもない記憶、データ、人格、全て 【肥溜め自身が無意味に意味を持たせ印象を縛る能力によって創りだした感情】だからだ 匿名だから禊げるなどという考えは通らない ある人間はフィオナを愛するかも知れない、ある人間は触角を嫌うかも知れない 愛憎は自由だ、そのように対応する能力を我々人間は持っている ならば、ネット上に業腹な相手がいるなら、素直になるのも幸せの形ではなかろうか 関連項目 雑談所テンプレ 491ガイドライン
https://w.atwiki.jp/ankoss/pages/4504.html
『びゃくれんと大学にいってきた』 12KB 愛で 日常模様 希少種 現代 よろしくお願いします 本作は以下二作の続き物となっております。 anko4299 ゆっくりは幸せな夢を見るか? anko4309 野良ゆっくりを飼うということ 拙作が少しでも読者の皆様にお楽しみいただけたなら幸いです。 とあるマンションの一室。 日当たりのいいその部屋に、お兄さんとびゃくれんは住んでいる。 その部屋の主であるお兄さんは座椅子に腰掛けながらゆっくりとした時間を過ごしていたが、置いてあった時計の時間を見て溜め息を吐いた。 「あー、もう出ないといけねぇなぁ」 「どうしたんですか、おにいさん?」 溜め息と共に漏れ出た呟きに、机の上に乗せられていた同居人のゆっくりびゃくれんが反応する。 お兄さんは一人暮らしが長いと独り言が増えるって本当だなと思いつつ、びゃくれんに溜め息の原因を教えてやった。 そしてその原因が、びゃくれんも嘆息する理由になるのはわかっている……が、伝えねばなるまい。 「学校だよ、学校」 「がっこうさん、ですか。ですよね、おにいさんはがっこうさんにいかないとゆっくりできないんですよね……」 ゆっくりは首しかない不思議饅頭ではあるが、その分身体全体を使ってその喜怒哀楽を示してくれる。 びゃくれんは今、明らかに顔を伏せてその寂しさを身体で表現していた。 お兄さんがびゃくれんを飼い始めてから一週間ほど、その間にお兄さんはもう何度も学校に行っているのだが、未だにびゃくれんは慣れないらしい。 「そうだなぁ。そろそろかなぁ……」 「ゆ? あの、どうしたんですか?」 「うん? いやな」 そういってお兄さんは考え込む。 びゃくれんの大きさは子ゆっくりと呼ばれるサイズだ。 大きさ的にはテニスボール位と言ったところか、もしかしたら丁度いい頃合いかもしれない。 いやいや、びゃくれんにはまだ早いか、いやいやと考えて結局はまぁいいだろうとお兄さんは結論を出した。 決して目を離さないようにすればいいし、そんな荒れた学校でもない。 むしろ“飼いゆっくり”にとっては理想の学校なのだ。 大丈夫であろう。 「よし、じゃあびゃくれん、行くか」 「え? いくって、どこにです?」 「学校にだよ、学校」 「え、ええっ!?」 びゃくれんの驚きをもって、この外出は始まるのだった。 「ゆわぁ、そとってすごいんですねぇ」 「まぁなー」 子ゆっくり用のバスケットを片手に、背中にショルダーバッグを背負ったお兄さんはのんびりと坂道を登っていた。 公園とお兄さんの部屋の中しか知らないびゃくれんにとっては目に映るものすべてが真新しいようで、その度に歓声をあげている。 お兄さんはそのびゃくれんの歓声に適当に相槌を入れつつ、まだまだ坂道の先は長いなぁと心の中で愚痴っていたのだった。 「おいっす」 「しろっ! おはようございますっ!」 先の長い坂道を恨めし気に睨んでいると、後ろから声を掛けられた。 振り向くと知り合いとその飼いゆっくりであるゆっくりえいきであった。 えいきは座布団が敷き詰められた自転車のカゴに入れられているのだが、どうにも檻の中に入れられているような感じもする。 「おっす」 「お、おはようございます!」 「ん? なんだ、お前もようやくゆっくりを飼い始めたのか? ほ~、びゃくれんか。また変わったゆっくりにしたんだなぁ」 「ま、いろいろとあってな。それは道すがら話すよ」 「お、おはようございます、え……えいきさん」 「しろっ! おはようだぞびゃくれん!」 挨拶を交わし、二人と二ゆんは学校に向かって坂を上りはじめるのであった。 自転車を置きに行く知り合いとえいきと別れ、お兄さんは学校の正門に至っていた。 「おはようめーりん」 「じゃおぉぉぉん」 「おっ、おはようございます。めーりんさん」 「じゃおん!」 正門で門番ゆっくりをしているゆっくりめーりんに話しかけながら頭を撫でてやるお兄さん。 びゃくれんも同じように挨拶をする。 このめーりんは野良ゆっくりではなく飼いゆっくり、それも学校の飼いゆっくりである。 その証拠に、めーりんのお飾りである帽子には金バッジが付けられていた。 この学校では人間とゆっくりの共存共栄をめざし、その一環としてゆっくりに学内の仕事をいくつか割り振っており、例えばこのめーりんは門番としての仕事を与えられている。 力が強くそれでいて気が優しい、守るものを持つとそれを守る為に全力を尽くすというめーりんにはぴったりな仕事だ。 「うー、おにいさん」 「おう、ふらんか。どうした?」 「おにいさんがもってるびゃくれん、みせてくれるか?」 今度は金バッジを付けたゆっくりふらんが舞い降りてきた。 このふらんも学校の飼いゆっくりである。 意思疎通ができる言葉を話せないめーりんではできない仕事は、このふらんが担当しているのだ。 その仕事とは、生徒が連れてくるゆっくりに問題がないか見る為である。 「おう、ほれ」 「お、おはようございます、ふらんさん……」 「うー、おはようびゃくれん。ん、どうばっじか。びゃくれんだからいいな。ごめんなさいおにいさん、じかんとらせた」 「仕事だろ、手間取らせて悪かったな」 「うー、だいじょうぶ」 ゆっくりに問題がないか、と言っても要はバッジの有る無しを見る為だ。 この学校では持ち込まれたゆっくりが何か問題を起こした場合、その責任を飼い主にとらせるということでバッジ付以外のゆっくりの持ち込みを禁止しているのだ。 特にゲスの割合が多いと言われるれいむやまりさの様な通常種は銀バッジ以上がなければ基本的には学校の敷地内には入らせてすらもらえないのである。 もっとも、銀バッジを持っていようがいまいがめーりんとふらんに相対すればだいたいその性質がわかるのであるが。 「おはよう、めーりん」 「ゆぷぷぷぷ、なんでゆっくりできないめーりんがこんなところにいないの。れいむのめざわりだからさっさとしんでね! すぐでいいよ!」 「お前なに言ってんだれいむ!」 「ゆ? なに、れいむはぎんばっじさんなんだよ! めーりんがきんばっじなんてうそだよ! あんなゆっくりしてないゆっくりがきんばっじなんて、にせものなんかおかざりにつけて、おおおろかおろか」 「じゃぉぉぉん……」 「なにいってるかわからないよ! ゆふんっ、これだからゆっくりできないゆっくりは……」 「うー、めーりんをいじめるな!」 と、言ってる側からこれである。 あのれいむのその後は想像に難くないだろう。 「行こうか、びゃくれん」 「は、はい!」 「たすけろどれいいいいいい! れいぶをゆっぐじざぜろぉぉぉぉぉ!」 「うー、おにいさん、ざんねんだけどこのれいむは……」 「あぁ、いいよいいよ。折角銀バッジまで育てたのになぁ、結局ゲスだったかぁ」 「おいぐぞどれぃぃぃぃ! なんでれいぶをだずげないんだぁぁぁぁ!」 ちなみにこれは一種の恒例行事ともなっており、中には自分の飼いゆっくりの性質を確かめるために飼いゆっくりを持ち込む飼い主もいるそうである。 「…………」 「どうした、びゃくれん?」 「い、いえ! なんでもないですよ!」 「そうか?」 びゃくれんは時々、正門の方を振り返りつつも、諦めたように溜め息を吐いた。 後ろの方では泣き叫ぶれいむが、飼い主の手によって加工所の人間に渡されようとしていた。 ……加工所の職員がいつどこから現れたのはまったくの謎のままで。 「あー、ラムネを買い忘れたな」 「? らむ、ね? ですか?」 「おう。まぁびゃくれんはいい子だから静かにできるよな」 「は、はい!」 ゆっくりと授業を受けることもできる、というのは飼い主にとっては嬉しいかもしれないが、講師からすればたまったものではない。 静かにしてくれさえすればいいのだが、ゆっくりとはその名前に反して自分勝手に動いたり騒ぐのが好きなナマモノだ。 その根底にあるのは自分さえよければという思考なのだが、それはともかく。 静かに授業を受けられないのであるならば眠っていてもらおう、その手段としてラムネは多くの飼い主が必需品として携帯しているのだ。 どうやらそのラムネの実践が、大教室の前の方で行われそうである。 「どうしてまりさがしずかにしないといけないんだぜ!」 「あー、もう、これでも食ってろ」 「さいしょからだせば……ゆわぁ、なんだかまりさ、ねむくなって……」 「まったく、もう少し大人しくなってくれればいいんだが」 とまぁこんな具合である。 もっともこれは騒ぐゆっくりに対してだけであり、例えば後ろの方ではてるよを連れてきている男性の飼い主が居るが。 「めどい……ねる」 「おう、授業が終わったら起こすから」 「おねがい」 このようにゆっくりの種類と性質よりけりである。 もちろん、授業は退屈と知っているゆっくりなどは自分からラムネを貰おうとするものもいたり、講義が始める前は何かと騒がしい。 まぁゆっくりが居ようが居まいが、学生が騒がしいのに変わりはないのだが。 そうこうしているうちにチャイムが鳴り、講師が教室に入ってくる。 確か次の授業は仏教についてだったか。 「よーし、静かにしろー。静かにせんゆっくりはさっさと眠らせろー」 講師のそんな言葉で授業が始まるのは最早皆慣れっこだ。 慣れたようにレジュメが配られ、寝る態勢に入る者、携帯を弄る者、ゲームをする者、筆箱を取り出す者様々だ。 「おし、んじゃ早速平安時代に作られた仏像を見て行こうか」 そう言って講師がプロジェクターの準備を始めていく。 さっさと授業終わらないかなとお兄さんがぼうっとしていると、なにやらびゃくれんが震えているのに気が付いた。 「どうかしたのか、びゃくれん?」 「あの、おにいさん……」 ゆっくりにしては控えめな、小さい声でびゃくれんは尋ねてくるのだが、その声はどこか震えている。 なにかあったのだろうか、と慎重に問うてみると。 「ほ、ほんとうにほとけさまがみられるのですか?」 と、興奮を胸の内から漏れないよう、必死に堪えている風にそう聞かれたのだ。 ああそういえば、とお兄さんは思い出す。 びゃくれんは仏教系の物を好む種類だ、お寺とか仏像とか、そういうものを見るともの凄くゆっくりできるらしい。 実際、プロジェクターによって仏像が投影されると 「な、なむさんっ!」 と、びゃくれんが叫んだかと思うとポンッという軽い音と共にびゃくれんが巻物の芯ようなものと虹色の文字を浮かべていた。 これが話に聞く“えあまきもの”かと思っていると、どうやらびゃくれんはここ以外にも居るらしく、ちらほらと“えあまきもの”が浮かんでいるのがわかる。 暗い部屋では虹色に光る文字は目立つのだ。 「はぁぁぁ、かっこいいです」 心底ゆっくりした表情を浮かべているびゃくれんはうっとりとした表情で、投影された仏像を眺めていた。 連れて来たかいがあったなぁと思いながら、お兄さんはびゃくれんの姿を観察していた。 「なんだ、びゃくれんを連れてるやつが居るのか? 寝てる生徒よりはよっぽどやりがいがあるな。じゃあ次は如来像を見てみようか」 「な、なむさんっ!」 あちこちから聞こえるなむさんっ!の声。 その度に“えあまきもの”が咲き誇る様子はなかなかに綺麗だ。 「はぁぁぁ。かっこよかったです」 「そうか。そいつは良かったな」 「はい。これもおにいさんのおかげです。ほんとうにありがとうございます!」 そう言われると悪い気はしない、今度寺にでも連れて行ってやろうか。 と密かに思うお兄さんなのであった。 気だるい授業を終えたお兄さんは食堂へと来ていた。 たくさんの人間と抱えられたゆっくりでごった返す中、お兄さんはきょろきょろと人を探しているようだった。 「おう、こっちだこっち」 「おにいさん、こっちだぞう!」 「おー、席取りサンキューな」 「ありがとうございます、おにいさん、えいきさん!」 確保しておいた席にお兄さんが座ると、その机の上にえいきと同じようにびゃくれんも乗せてやる。 並べてみると成ゆっくりと子ゆっくり、バスケットボールとテニスボールが並んでいるようなものだ。 「お、おおきいですね、えいきさん……」 「すぐにびゃくれんもこのくらいおおきくなれるんだぞ!」 「んじゃ、飯買って来るけど、お前は?」 「俺はパンだ。びゃくれんは見といてやるからさっさと買ってこい」 「おう、頼む」 そうしてお兄さんは食堂の列へと並ぶのだが、お兄さんが居なくなったことに不安になったのか急にそわそわしだすびゃくれん。 なぜそんなにそわそわするのだろうか。 「おいどうしたびゃくれん? 何かあったのか?」 「いえ、あの、おにいさんはどこへいかれたのでしょう? すこしふあんで」 ふむ、とお兄さんは考え込む。 確かにびゃくれんにとっては知らない土地に置き去りにされるようなものだろう。 さてどうしたものかと思っていると、飼いゆっくりであるえいきがびゃくれんに寄り添っていた。 「だいじょうぶだぞ。びゃくれんのおにいさんはすぐにかえってくるからな!」 「そ、そうですよね」 「しんぱいしなくてもだいじょうぶなんだぞ!えいきがついてるんだぞ!」 「あ……ありがとうございます、えいきさん」 すーりすりと頬をこすりあわせる二ゆんになんだか和むお兄さん。 と、そこへお盆をもったお兄さんが帰って来た。 「お、なんだか仲良しになってるなぁ、どうしたんだ?」 「くろっ! だめなんだぞおにいさん! びゃくれんをさびしがらせちゃいけないんだぞ!」 「あ、あの、そんなことはないですから!」 「そうだぞー! びゃくれんを寂しがらせるお前は悪い奴なんだー!」 「も、もう! おにいさんまで!」 「……つまり、どういうことなんだよ?」 呆気にとられるお兄さんであった。 授業を終えて帰宅する頃には、お兄さんはすっかり怠そうに身体を動かしていた。 一方のびゃくれんは、やはりその授業の中でも見る物全てか新しいことの発見で興奮しきりだったが。 「おにいさん、がっこうさんってすごいところなんですね」 「ああ? ああ、そうかもなぁ。俺は疲れるけど」 「あの……おねがいがあるのですが、いいでしょうか、おにいさん?」 「なんだ?」 我が儘も言わないし、躾も良く聞くびゃくれんだ。 そんなびゃくれんの頼みを無下に断れるはずがあろうか、いや、ない。 「ぶしつけなもうしでだとはおもうのですが、またがっこうさんにいっしょにつれていってくださいませんか?」 学校がそんなに良かったのだろうか、それとも授業が楽しかったのか。 やはり見る物全てが新しいとそれだけ学ぶことも多いのかもしれない。 それにだ、昼食の時にも言われたが、あまりびゃくれんを一人にさせておくのも良くないのかもしれない。 折角ゆっくりを連れて入れる環境にあるのだから、それを利用しない手はないだろう。 「おう、いいぞー」 「あ、ありがとうございますっ! おにいさん!」 「……ん? 頼みってのはそれだけか?」 「はいっ! ああ、もうわたしうれしくて……なむさんっ!」 嬉しさのあまり“えあまきもの”を出してその喜びを表現するびゃくれんに、お兄さんはそんな大したことをしていないのになと苦笑するのであった。 今日はいつものゆっくりフードに甘い果物、びゃくれんの好物である枇杷でもつけようかと心の中で思いつつ。 ―了― 書いたもの anko4299 ゆっくりは幸せな夢を見るか? anko4309 野良ゆっくりを飼うということ anko4358 まりさはかりのてんっさい!!
https://w.atwiki.jp/niconico2nd/pages/382.html
矛と盾の話――PRIDE―― ◆wgfucd.0Rw 「……少しは回復したな」 文との戦闘後しばらく大の字に寝転がっていたバルバトスがゆっくりと起き上がる。 いつ誰が来るか分からないこの状況この場所で寝こけるつもり等無く、疲労を回復する為の小休止を終え、自分の体調を確かめる。 若干の疲労感は残る物の肉弾戦をする分には支障はない。だが、晶術などの技を放つ度に消費するTPには殆ど回復が見られない。 「調子に乗って使いすぎたか……、晶術を撃てて後数発、ジェノサイドブレイバーで一発といった所か」 晶術が殆ど使えない状況に陥ったバルバトスではあるが、その事に関しては大して気には留めていない。 晶術をばかすか放つバルバトスではあるが、だからといって彼は晶術が無ければ何もできなくなるような相手ではない。 彼の一番の武器、それは異常なまでのタフネスとキーボードですら凶器になりうるその膂力。 晶術が思う存分撃てなくなる程度はバルバトスにとって致命的な事態ではない。ただ、使う機会を見定めればいいだけなのだ。 必要最低限の休憩を終え、塔の中にでも入って休むべきか、戦う相手を探しに歩き回るか思考するバルバトスの視界に人影が映った。 鎧と剣を装備した耳の長い男と、奇妙な帽子を被ったチャイナ服の少女。物々しい装備をした男がバルバトスの目に留まる。 「ククク、休む暇も無しか。まぁ、俺を楽しませてくれるなら文句は言わんがな」 獰猛な笑みを浮かべたバルバトスの脳裏に、タミフルの存在が浮かぶ。 バルバトスの支給品であるキーボードは宝剣と渡り合ったとはいえ、所詮はキーボード、相当なガタが来ている。これで男の持っている剣と渡り合えばどうなるのかはわからない。 TPも残ってない以上、今こそが使い時では無いのかという考えがバルバトスに浮かぶが、それと同時にそれを忌避する考えも浮かぶ。 アイテム嫌いではある彼だが、厳密に言えばアイテムの存在その物を嫌っている訳ではない。戦闘中にアイテムを用いる相手、及びそのアイテムが嫌いなのだ。 命がけの戦闘は彼を昂らせ渇きを癒す。その最中にアイテムで回復するという事は命を賭けて戦う自分に対して水を差す行為である。 同じ理由で、逃げ出す者、守りに徹する者、術でもって仕留めようとする者にも彼は不快感を示す。 そういった相手には容赦なく術を放ち殲滅するのだが、戦闘に突入する前、厳密に言えばバルバトスが戦闘態勢に入る前に、術を使うなり、逃げるなり、アイテムを使うなりしてもバルバトスは気にも留めない。 そして現在、相手らしき物を確認こそしたがアレックスを見つけた瞬間に襲いかかった時とは違い、バルバトスは戦闘態勢に入っていない。 アイテム嫌いの彼でも、現在はアイテムを使用しても問題の無い状況なのだ。 しかし、それでは目の前の相手に勝ち目が無いから事前にタミフルを使うようにバルバトスは思ってしまう。 それはプライドの高い彼にタミフルを使わせる事を躊躇わせるのに充分な理由であった。 (男に後退の二文字はねぇ、弱気な考えも必要ねぇ、必要なのは前進の二文字とどんな相手でも倒す意志だけだ) 不利な状況へと自らを追いやったというのに、バルバトスの戦意は削がれるどころか際限なく昂っていく。 その顔に狂喜に満ちた不敵な笑顔を浮かべ、こちらの存在を確認した二人と対峙した。 「貴様ら、こんな所で何をしている?」 「何いきなり話しかけてきてるわけ?」 互いの視線がぶつかり合う。 殺意を隠しもせずに話しながら一歩一歩距離を詰めて来るバルバトスに対し、渚を庇う様に緋想の剣を構えながらブロントさんが前に出る。 ブロントさん達が民家から出てすぐに、文達を探しにとりあえず塔を目指して歩いていた。 もし彼らが数時間早く向かっていたら文達に会えていただろうが、時既に遅く、この場に残っていたのはバルバトス一人であった。 油断なく構えるブロントさんを見てバルバトスは少しは楽しめそうだと、その笑みを濃くしながら立ち止まった。 「俺の名はバルバトス・ゲーティア。貴様ら殺す者の名前だ……、覚えておけぇぇぇぇぇい!!!!」 咆哮と共に飛びかかるバルバトスは手に持ったキーボードをブロントさんの脳天目がけ振り下ろすが、それをブロントさんは緋想の剣で受け止める。 だが体重と勢いの乗った一撃は予想以上に重く、両手に遅いかかる負担にブロントさんは顔を顰める。 恐らく切り払おうと振り上げていればそのまま押し切られていたであろう、尋常ではない膂力に舌を巻きながらブロントさんはバルバトスを吹き飛ばす。 「ブロントさん!!」 「あnぎさは逃げるべきこいつの力はちょとsYレならんしょ・・ 俺が押さえるからとっとと逃げるべき でないと塔の世界でひっそりと幕を閉じる事になる」 「で、でも……」 「黄金の鉄の塊でできたナイトがキーボード装備のジョブに遅れをとるはずがない 倒したらすぐ行くから安心しろ」 自分の分のデイパックを預け、顔はバルバトスに向けたまま、ブロントさんは渚へと指示を出す。 自分よりも戦闘力のあるブロントさんが厳しい顔を向ける相手、今の自分が足手まといになりかねない状況を理解し、渚は一歩後ろに下がった。 「……約束ですからね」 「hai!」 ブロントさんの返事を聞くと渚は茂みの方向へと駆け出して行く。 バルバトスが渚を狙わない様に渚とバルバトスに対して直線上にブロントさんは立ちはだかるが、当のバルバトスは特に動く事もせずに渚の姿が見えなくなるまで立ち尽くしていた。 「どういうつもりだ?」 「今日の俺は紳士的でな、態々貴様から戦ってくれると言うから、少しだけ待ってやっただけだ。 安心しろ、すぐにあの女も貴様が今から向かう場所に送ってやる」 「……そうか」 場の空気が張りつめる。 楽しそうな笑みを浮かべたバルバトスと、バルバトスを鋭い目で睨みつけるブロントさん。二人は一呼吸置き。 「さあ! 楽しもうぜ、この戦いをよぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」 「バラバラに引き裂いてやろうか!」 声と同時に互いに駆け出し、キーボードと緋想の剣がぶつかり合う。 剣とキーボードが弾かれてはぶつかり、ぶつかっては弾かれ、ぶつかっては鍔迫り合い、鍔迫り合っては弾かれる。 左腕が使えない状態に加えてキーボードを使う相手に決定打を与えられず、自分と拮抗している状況。 ブロントさんは内心で目の前の男が本来の実力でなかった事に感謝した。もしもまっとうな武器を持ち本調子であったのなら、危なかったかもしれない。 「ふははははははは! どうしたブロントサン! その程度で終わりじゃねぇだろうなぁ!!」 「おいィ? サンまで名前と勘違いしてるようだから言っておくが俺はBuront(ブロント)だ 正直なところ殺そうとしてくる相手にさんづけされるのは座りが悪いんでやめてもらえませんかねぇ・・?」 「そうかよ! じゃあ改めて楽しもうぜぇ、ブゥロントォォォォォォゥ!!」 そうしてまた緋想の剣とキーボードがぶつかり合う。その瞬間、キーボードに亀裂が走った。 異常な耐久力を誇ったキーボードとは言え、名剣といわれる部類の剣を相手の二連戦でついに限界が来てしまったのだった。 弾かれると同時に上半分が吹き飛ぶキーボードを尻目にバルバトスは後ろへと飛び退る。 どうするか、武器を持っている分あちらが有利、ふと、右手が掲げているデイパックへと伸びようとしている事に気付き、凍り付いた。 自分は今、何をしようとしていたのか。デイパックには武器は無く、ある物はタミフルというアイテム。 戦闘中にアイテムを使う。それはバルバトスにとって許されない行為。 だが、この状況では仕方ない。死んでしまっては意味が無い。そう考えている自分がいる。 その一方で、例え死んでしまったとしてもアイテムを使いたくない、軟弱者になどなりたくないと考える自分がいる。 生存かプライドか、二つの自分が鬩ぎあう。 何かを取り出そうとするバルバトスに対し、身構えるブロントさん。そしてバルバトスはデイパックからタミフルを取り出し、 「ア イ テ ム な ぞ 使 う 訳 が ね え !」 明後日の方向へと放り投げた。 バルバトスの突然の意味不明な行動を前に動きの止まるブロントさんをよそに、バルバトスは狂喜に染まった笑みを浮かべる。 生存かプライドか、バルバトスの取った行動は後者であった。この場で生き残ったとしても、彼が軟弱者と同じ行動を取った事は消せない。 何より自分はここで死ぬつもりなど毛頭ないのだ。同じ生きるのであればどうして屈辱的な方法を取るであろうか。 より獰猛な笑みを浮かべながらバルバトスはブロントさんを見据えた。 「そんな壊れたキーボードで戦うその浅はかさは愚かしい」 「くく、もう勝ったつもりかぁ? 灼熱のバーンストライク!!」 突如上から降り注ぐ炎を纏った隕石群をバックステッポでカカッと避けた刹那、緋想の剣を持った手に鋭い痛みが走り思わず緋想の剣を取り落とす。 何が起ったのか、視界に壊れたキーボードが映る。 バーンストライクは囮であり、本命はキーボードを投函し緋想の剣を手放させる事にあったと気付くより速く、バルバトスの拳がブロントさんの顔面へと突き刺さった。 「これでぇ、条件は五分と五分だなぁ。オラ、立てよブロントぉ」 緋想の剣を蹴り飛ばし、ヨロヨロと立ち上がるブロントさんをバルバトスは見下ろす。 対するブロントさんは血の混じった唾を地面に吐き捨て、挑戦的な目でバルバトスを睨みながら拳を固めた。 「リアルでの俺はモンクタイプ 俺の雷属性の左がお前を捕らえる事になる おまえ調子ぶっこき過ぎてた結果だよ?」 「面白い。見せてもらうぞ、貴様のもがきとやらを!」 二人の拳が互いの顔に突き刺さる。 パンチングマシーンで100を出し、不良として学校の生徒に一目置かれているブロントさんではあるが、如何せん相手が悪すぎた。 重い一撃によろめくブロントさんの腹部に膝蹴りが入り、くの字に曲がった背中に拳が叩き込まれ地に叩き付けられる。 「いつまで寝てんだぁ!!」 倒れ伏すブロントさんに浴びせられる踏みつけの嵐。ブロントさんの身を包む防具がべこべこに変形していく。 トドメに勢い良く蹴り飛ばされてブロントさんは地を転がった。 全身から痛みにより悲鳴が上がる。しかしそれでも尚、ブロントさんは立ち上がる。 「ほう、あれだけやられてまだ立ち上がるか。その根性だけは認めてやろう」 「ナイトはPTの盾だからこの程度で倒れないのは確定的に明らか しぶとく立ち上がるのがナイトではにい、しぶとく立ち上がってしまうのがナイト」 燃える闘志の両の目に灯しながら拳を構えるブロントさんを見て、バルバトスは今までに屠ってきた英雄達を思い出す。 絶望的な状況でも諦めずに立ち向かって来る英雄達。そしてそういう者達を無慈悲に、残酷に叩き潰す行為は何よりも彼の渇きを癒してくれた。 「ほぉう、盾か。貴様が盾なら俺は貴様の様な盾など容易く突き破る矛だ。行くぜぇ、とっとと貫いてやるよぉぉぉぉぉぉ!!!」 ブロントさんの顔面へと照準を定めたバルバトスのストレートをブロントさんはバックステッポでカカッと回避する。 その瞬間、バルバトスの魔力が迸った。 「男に後退の二文字はねぇ! 絶望のシリングフォールゥ!!!」 ブロントさんの着地と同じタイミングで落下する岩石。逃げようとする弱者を絶望と共に押しつぶす岩石はブロントさんへと落下し、彼の鎧を粉砕しながら後方へと弾き飛ばした。 土煙の晴れた先、そこには鎧の残骸を纏い、土にまみれて転がるブロントさんの姿があった。 「お、おいィ……」 「どぉしたぁ? もう動けないのか? ん?」 鎧が守ったとはいえ大質量の岩石の直撃を受け、まともに動けないブロントさんへとトドメを刺す為に歩み寄るバルバトス。 ホーリーを唱えようとするが吹き飛ばされたショックで脳震盪を起こし、うまく頭が回らない。 万事休す。バルバトスは更に一歩前に進もうとし、視界の片隅に眩い光を捉えた。 何事かと視線を向けた先には逃げ出した筈の小娘、渚が光源であろう何かを掲げた姿。 そしてその掲げた何かから、オレンジ色の軌跡を描きかながら影が飛び出した。 まずい。そう思い後ろへと下がった瞬間、先程までバルバトスの顔があった場所に刃が閃く。 中央部煌煌と光るモノアイの付いた仮面を纏い、刀を携えた筋肉質の人間とよべるかどうかも怪しい人形の物体。 「俺に生きる実感をくれ!!」 改めて刀を構え、人間大のサイズとなったサイボーグ忍者のフィギュアが咆哮と共にバルバトスへと斬り掛かる。 (まったく、何が遅れをとる筈がないよ。遅れっぱなしじゃない) 心の中で悪態をつきながら渚は転がっていた緋想の剣を片手にブロントさんへと駆け寄っていた ブロントさんに逃げる様促された渚であったが、彼女は逃走せずに、二人の戦いを見ていた。 理由の一つはブロントさんをここで失う事が彼女にとって痛手だった事。 ブロントさんを置いて一人で逃げた先で文や文に情報を聞いた者達と遭遇したとして、殺し合いに乗ってないと言っても信用される確率は限りなく低い。 文達に遭遇した時に彼女が乗っていない事えお証明してくれる相手が現状ブロントさんしかおらず、また、それなりの実力者である。彼の有用性はまだまだあるのだ。 もう一つの理由はいざという時に彼を助けるための支給品、サイボーグ忍者のアシストフィギュアを手に入れていた事。 それが無ければ苦渋の選択であったがブロントさんを見捨てて逃げるしかなかっただろう。 そして、ブロントさんがシリングフォールにより吹き飛ばされた時、説明書に書いてある使用方通りにアシストフィギュアを掲げたのであった。 「ブロントさん!」 「お、おいィ? 下がっていろと言っているサル! 何勝手に戻って来てるわけ? やめてくれませんかねぇ・・?」 「そんな事言ってる場合じゃないでしょ! やられそうになってるのに何言ってるのよ!」 「それは……」 「私の事守ってくれるんでしょ!? ならこんなとこで倒れてないでしっかり守りなさいよ!」 「すいまえんでした;;」 説教を受けよろよろと立ち上がるブロントさんを見て、渚はとりあえず安堵の溜め息をつく。 しかし、その後ろで轟音が響き音の発信源を見て渚は言葉を失った。 吹き飛ばされたサイボーグ忍者が塔の壁にめり込みただのフィギュアへと姿を戻る、そして怒気の籠った目で渚を睨むバルバトスの姿。 渚は知らなかった、バルバトスが戦闘の最中にアイテムを使われる事を極端に嫌う事、そしてアイテムを使う相手には容赦しない事を。 サイボーグ忍者召還の一部始終を見ていたバルバトスは、渚がアイテムを使ったとみなし、獣の様に歯をむき出しながら最後の魔力を体から迸らせた。 「軟弱者は消え失せろぉぉぉぉぉ!!! 断罪のエグゼキューション!!」 渚の前方に魔力が収束する。渚は逃げようとするがそれよりも早く、収束した魔力が解き放たれた。 誰かの絶叫を耳にしながら渚の目前で極光が瞬き、衝撃が彼女を襲い吹き飛ばされた 「……あれ?」 吹き飛ばされただけで襲ってこない痛みを不思議に思い渚は目を開けた。 「ほう、まだそんな力を隠していたのか」 驚きと歓喜の表情が混じった顔でバルバトスが声を向けた先。 そこにいたのは先程とどこか雰囲気の異なるブロントさんの姿だった。 必死だった。 我武者らだった。 夢中だった。 ただ、これ以上仲間を失いたくなかった。一縷の望みをかけて痛む体を無理にでも引きずり魔力をこめる。 彼は憤った。盾と言っておきながら助けられ、仲間を危機に晒した無力な自分を。 仲間を守る。ナイトとしてのプライドか無意識のうちに怒声があがる。 その怒りは限界を越え、有頂天へと達した。 咄嗟に放ったホーリーは何とか相手の魔法を相殺し、渚を助ける事には成功した。 仲間を守る事に成功し、安堵の溜め息をついたブロントさんは、バルバトスを睨みながら口を開いた。 「一級廃人のおれに対してPTを攻撃するというナメタ行為をする事でおれの怒りは有頂天になった この怒りはしばらくおさまる事を知らない」 「ならどうする? 俺にいい様にされていた貴様に何ができる」 「さっきとかわらにい お前みたいな危険な奴はバラバラに引き裂くだけ」 緋想の剣を構えたブロントさんに対し、強く拳を握りるバルバトス。 互いが感じ取った。これが最後の一撃になると。 「テメェみたいな貧弱な盾なんぞ、微塵に砕いてやるよぉぉぉぉ!!!」 先に飛びかかったのはバルバトス、頭を砕けといわんばかりの渾身の一撃を叩き込む。 矢の様な速さで放たれる必殺の一撃は、正確にブロントさんの頭部を捉え、血の華が咲く。 というバルバトスの予想はブロントさんが左手を使い拳をいなした事により覆った。バルバトスの顔が驚愕に歪む。 ブロントさんとバルバトス、魔法も肉弾戦もこなすこの二人の戦闘スタイルの一番の相違点。それはバルバトスが相手を倒す事に特化し、ブロントさんは守る事に特化しているという事。 ただ相手を倒すだけのバルバトスとは違い、ブロントさんの仕事は相手の攻撃を一身に受ける事であり、自然と攻撃のいなし方も身に付いてくる。 互いに攻撃を放つのであれば攻めを主体とするバルバトスに軍杯が上がる。だが、攻撃を耐える、又はいなすのであればブロントさんにも勝機は充分にあるのだ。 有頂天状態により身体能力が若干上昇していた事も功を奏し、バルバトスの一撃を避ける事に成功したブロントさんはそのまま緋想の剣をバルバトスの胸へと突き刺した。 バルバトスの胸と口から鮮血が迸り、ブロントさんの頬を濡らす。 「最初にも言ったが黄金の鉄の塊でできたナイトがキーボ-ド装備のジョブに遅れをとる筈がない お前調子ぶっこき過ぎてた結果だよ?」 ブロントさんは剣を引き抜くと、即座にその剣を一閃させ、バルバトスの首を跳ね飛ばした。 宙を舞うバルバトスの首は血を吹きながら地面に転がる。彼の渇きは癒える事ができたのか、それはもう永久に解らない。 バルバトスの死亡を確認したブロントさんは一息つき渚へと声をかけようとする。 その瞬間、極度の疲労感と激痛が彼に襲いかかった。 「ブロントさん!?」 駆け寄る渚を視界に収めながらブロントさんは倒れ込む。 バルバトスの戦闘による傷、そして有頂天状態になった事による疲労のせいで今にも意識が途絶えようとしていた。 (ちょと……これsYレならん……しょ) それを最後にブロントさんの意識は闇に沈んだ。 「結局ここで足止めか」 塔の中で気絶しているブロントさんを見て渚は溜め息を吐いた。 引きずりながらもブロントさんを塔の中まで運んだせいで体力を消耗した渚は地べたに座り込む。 一瞬、渚の脳裏にブロントさんを殺害し先に進む考えも浮かんだが、それは彼女にとってリスクが大きいので即座に却下した。 放送後、名簿を見た時は彼女の兄らしき人物はいなかった。最初は覚えてないから誰か分からないだけだと思っていたが、野々原の名字がない以上自分しかいないのだろう。 これは彼女にとって喜ばしい事実であった、どちらか一方が生き残るかの選択肢を迫られもせず、しかも兄に自らの悪評が広まる事もない。 後はどうやってこの殺し合いから抜け出すかだ。 優勝にしろ主催者をどうにかするにしろ積極的に殺して回るのが愚策な以上、彼女が今頼れるのは、彼女としては不本意な事にブロントさんしかいないのだ。 動くとすれば殺し合いの終盤。それまではブロントさんを利用し続けるしかない。信用されているブロントさんのそばにいるのが彼女にとって一番都合がいいのだ。 「まあ使えそうなアイテムが手に入ったのは良かったけど」 そう言って彼女は塔の近くに転がっていたタミフルを思い出す。 バルバトスのデイパックに入っていた説明書を読み、何にせよいずれ役に立つだろうと渚は考えていた。 「はぁ、お兄ちゃんに会うのはもう少し先になりそう。それまでに変な虫がついてなきゃいいけど」 本日何度目かの溜め息を着きながら、渚はペットボトルの水を流し込んだ。 【バルバトス・ゲーティア@テイルズシリーズ 死亡】 【C-2 塔内部/1日目 午前】 【ブロントさん@ネ実】 [状態] 全身強打、左頬に痣、極度の疲労、気絶、鎧大破、左篭手が大破 [装備] 緋想の剣@東方project [道具] 支給品一式×2 [思考・状況]基本思考:右上と左上を倒し真のエンディングを迎えひっそりとリアルより充実したヴァナ生活を送る。 1:……。 2:渚と渚の兄を守る。 3:あの二人を見つけ渚を謝らせる。 4:出会ったやつに話しかけ出来れば仲間にして敵対するようならばカカッと対処する。 【備考】 ※メタ知識に関しては不明だがそんなものはなくてもブロントさんはうろたえない ※ナイトの防具一式はもはやブロントさんの普段着であるので奪われるわけがない ※流石に人が死んだので自分の行動に関してどちらかというと大反省したようです。 【野々原渚@ヤンデレの妹に愛されて夜も眠れないCDシリーズ】 [状態]:ヤンデレ、全身に軽い切り傷、腹部にダメージ(小)、 軽い精神的ダメージ、小程度の疲労 [装備]:チャイナ服@現実 ピョン太君@私立東方学園 アシストフィギュア(サイボーグ忍者)@大乱闘スマッシュブラザーズX [道具]:支給品一式×3、タバコ一箱@メタルギアシリーズ、タミフル@現実、北条鉄平の首、北条鉄平の首輪、不明支給品0~4 [思考・状況] 1:ブロントさんが起きるまで休憩。 2:ブロントさんを利用して自分を守ってもらう。 3:あの二人を見つけて、自分の風評が流れるのを防ぐ。 4:表立っての殺しはしない。 5:最終的に意地汚い虫はみんな殺すが強い奴は潰し合わせる。 6:料理の材料を調達する? 【共通備考】 ※塔の外に首を切断されたバルバトスの死体が放置されています。 「あーあ、やられちゃったよ」 一人しかいないモニター室の中。 バルバトスの首輪の反応が消えた事を確認し、右上はつまらなそう溜め息を吐いた。 「折角アイテムに対する忌避感を和らげてやったってーのに、そんなにプライドなんてのが大事かねぇ?」 「なるほど、やはり貴方が犯人でしたか」 扉が開く音と共に後ろから響く左上の声。 犯人と言われてなお、右上はへらへらとした笑顔を左上に向けた。 「盗み聞きとは趣味が悪いね」 「北斗の拳から呼び出したトキが積極的に戦う姿勢を見せた時からおかしいと思っていましたが、どういうつもりです?」 「単なるてこ入れだよ」 「てこ入れ?」 「そ、だって殺し合いの割にはそれに適した支給品とか少ないしさ。二人、三人くらいならいいかなって思うじゃない? 基から大幅な剥離をしない程度に思考をちょちょいとね。 マーダーは多けりゃ多い程いいしさ。ま、どっちも失敗したけど」 怪訝な表情を浮かべる左上に説明した後、右上は大袈裟に方をすくめる。 「……上の方々の中にはいい顔をしない者もいました。今後余計な事はしないように」 「へいへい」 手をひらひらと振る右上を見て、溜め息を着きながら左上は席に着く。 (ま、そりゃ無理な相談だけどね。だってほら、無駄な事するのが俺の仕事だし) 右上は心の中で舌を出して笑う。 無駄という存在意義を持つ男はモニターを見ながら、次はどう動くかを考え始める。 sm130 Chain of Memories 時系列順 sm145 『キャーブロントサーン』 sm137 極みスイーツ(笑)~フジキ!スタンド!マッハキャリバー! 投下順 sm139 The last wolf strategy ~志々雄真実の策略~ sm90 塩くれてやる! -若本製塩編-(後編) バルバトス・ゲーティア 死亡 sm91 このままでは私の寿命がストレスでマッハなんだが・・ ブロントさん sm145 『キャーブロントサーン』 sm91 このままでは私の寿命がストレスでマッハなんだが・・ 野々原渚 sm145 『キャーブロントサーン』 sm86 第一回定時放送 右上 sm140 違う自分 -ADVENT- sm86 第一回定時放送 左上 sm146 第二回定時放送
https://w.atwiki.jp/ifrozenteacherss/pages/402.html
薔「出席をとります・・・」 出席簿を広げ名前を呼ぶ。だが返事は返って来ず、代わりに笑い声が響く。 生徒たちは薔薇水晶の呼びかけに反応することなくそれぞれの世間話に夢中になっている。 薔薇水晶が軽く溜め息をつく。それとほぼ同時に、教室のドアが開く。 銀「こらぁ、静かになさぁい!」 廊下を通っていた副担任の水銀燈がいつまでたっても静かにならない生徒たちを注意する。 そこで教室はようやく静かになる。それを確認した水銀燈が、薔薇水晶にウィンクをして去って行く。 薔「出席をとります・・・。A君…」 去って行く水銀燈を見送り、何事も無かったかのように出席確認を再開する。 心の中で、さっきよりも大きな溜め息をつく。 ここ最近、ずっとこのような調子が続いている。自分がいくら注意しても静かにならない教室を水銀燈がたった一言で鎮める。 水銀燈に申し訳ないと思うのと同時に、自分の無力さが情けなくなった。 自分は教師には向いていないのだろうか?そんな考えが一瞬頭をよぎったが、すぐさま振り払った。 しかし、その疑問はまるでしがみつくか虫のように薔薇水晶から離れることは無かった。 そして、真紅や水銀燈といった他の教師を見る度に、その疑問は不安となり、水に垂らした絵の具のように急速に薔薇水晶の心に広がっていった。急に学校が息苦しくなった。 自分に話しかけてくれるクラスの生徒はたくさんいる。だが、彼らは心の中で自分をどう見ているのだろうか? もしかしたら、自分よりも水銀燈のほうが担任に向いていると思っているのだろうか? そんなどうしようもない考えが、徐々に薔薇水晶の心を蝕んでいった。 叫び出してしまいたくなった。叫んで、心にあるもやもやを吐き出してしまいたかった。 薔薇水晶は思わずトイレの個室に駆け込み、静かに涙を流した。しかし心の中にあるもやもやは一緒に流れてくれなかった。 それどころか、さらに重さを増して薔薇水晶に圧し掛かった。その重さに耐えられず、薔薇水晶は座り込んでしまった。 薔「私は…私は…」 トイレに、薔薇水晶の嗚咽が響く。 自宅に帰った薔薇水晶は、鞄を放り投げるとベッドに倒れこんだ。服を着替える気力すら湧かなかった。 帰りのホームルームが終わった瞬間、薔薇水晶は逃げるように学校を飛び出した。 何人かの生徒がさようならと声をかけてくれたが、返事を返すことができなかった。 そんな薔薇水晶の背中に、生徒はきっと舌打ちをしただろう。薔薇水晶はそんな考えをしてしまう自分自身に嫌気が差した。 とにかく眠ってしまおうと思った。しかしこのままの服装で眠ってしまうのはよくないと思い、気力を振り絞って寝巻きに着替えた。 食欲など、とてもじゃないが湧かなかった。薔薇水晶は、何も口にせず静かに目を閉じた。 心地良い空腹感と、疲労が薔薇水晶を眠りへと誘う。 夢を見た。薔薇水晶の目の前で、数人の生徒が談笑をしている。 談笑をしているのは薔薇水晶のクラスの生徒たちだった。彼らは薔薇水晶の存在には気付いていない様子だった。 「薔薇水晶先生ってどうよ?」 一人の生徒が、急に薔薇水晶の話題を振った。薔薇水晶の鼓動が急速に速まる。 「俺は水銀燈先生が担任のほうが良いなぁ」 生徒の一言が、薔薇水晶の心を切り裂いた。自分でそう思うのと、生徒に言われるのでは別次元の痛みだった。 耳を塞ぎたかった。逃げ出したかった。だが、体は全く動いてくれなかった。 声も全く出せなかった。薔薇水晶はただ、生徒たちの話を聞くしかできなかった。 「なんで水銀燈先生が副坦で、薔薇水晶先生が担任なんだろうね?」 「普通逆じゃね?」 次々と薔薇水晶への不満を口にする生徒たち。 薔(やめて…!!お願い…!!) どんなに強く願っても、彼らに届くことは無かった。夢の中で、呼吸が荒くなる。 生徒たちの声が、まるでエコーがかかったかのように響く。 薔(いや…いや…!!) いつの間にか薔薇水晶は生徒たちに囲まれていた。周りの生徒たちが、中心にいる薔薇水晶に向かって、口を揃えて言い放つ。 一番聞きたくなかった言葉を。 「薔薇水晶先生って、教師に向いてないんじゃない?」 薔「いやぁーーーーーーー!!」 薔薇水晶の悲鳴が深夜の部屋に響いた。 帰って来た時には茜色に染まっていた部屋は、目を覚ました時には真っ暗になっていた。 全身にびっしょりと汗をかいていた。喉が乾きすぎて痛かった。 水道の蛇口をひねり、コップに水を注いだ。 喉から流れ込んだ水が、体全体に行き渡るのを感じた。水を吸収するスポンジになったような気分だった。 服を脱ぎ、シャワーを浴びた。嫌な汗を丹念に洗い落とした。まるで体中を這われているようで気持ちが悪かった。 シャワーを止める。髪の毛を伝って滴り落ちる水の音が、不規則なリズムを刻む。 薔薇水晶は、裸のままその場に膝をついた。 薔「私は…」 先程飲んだばかりの水が涙となって流れ落ちた。薔薇水晶はこれを止める術を持っていなかった。 毎朝5時半にセットしてある目覚まし時計を鳴る前に止めた。結局あの後は寝れなかった。 いや、寝るのが怖かった。寝たらまたあの夢を見てしまうかもしれない。それぐらいなら、起きていたほうがずっと楽だった。 いつもだったら朝食を準備し、着替え、軽く化粧をして身支度を整えるのだが、そんな気が起きなかった。 学校へ行かなくてはならない。授業をしなければならない。だが、体が動かなかった。 時計の針が、もう出掛けなくてはいけない時間を指している。だが、準備は何一つできていなかった。 携帯電話を取り出し、学校へ電話をかけた。2回ほど呼び出し音が鳴った後に向こうへ繋がった。 雛「はい、こちら有栖学園なの!!」 向こうで受話器を取ったのは雛苺だった。薔薇水晶は少し安心した。 薔「あ、雛苺先生ですか…?薔薇水晶です…」 雛「あ、おはようなの!!んと、水銀燈先生に代わったほうがいいかしら?」 薔「あ・・・!!そのままでいいです・・!!」 水銀燈に代わろうとした雛苺を慌てて呼び止める。水銀燈に直接言う勇気は無かった。 薔「あの…今日ちょっと風邪をひいてしまって…」 雛「えぇー!?薔薇水晶先生大丈夫!?」 受話器の向こうで雛苺が悲鳴をあげる。もちろん風邪などひいていない。薔薇水晶は少し罪悪感を覚えた。 薔「だから、その、今日は…お休みします…」 雛「うん!分かったの。水銀燈先生にも伝えておくわ!」 薔「はい…お願いします…。すいません…」 雛「うぅん、いいの!お大事にね!」 電話を切り、ベッドに横になる。学生時代以来のズル休みだった。 教師ともあろう者がズル休みなどしていいはずは無い。いや、教師でなくても同じである。 だが、このまま学校へいってもまともな授業をする自信がなかった。 普段なら学校で授業をしているはずの時間に家にいる。なんとも不思議な感覚だった。 薔「皆、ちゃんと授業してるのかな…?」 いつの間にか生徒たちのことを考えていた。途端に気になってしょうがなくなった。 こんなことなら、学校へ行っておけばよかったと思ったが、もう遅い。 時を刻む時計の音に身を委ね、静かに目を閉じた。 部屋の呼び鈴の音で目を覚ました。時計を見ると、既に学校が終わった時間だった。 自分の眠りっぷりに少し驚いた。 寝ぼけ眼のままドアを開けると、そこには水銀燈が立っていた。 銀「薔薇水晶先生、大丈夫ぅ?」 どうやら風邪で休んだ薔薇水晶を心配して、わざわざ来てくれたらしい。 ますます申し訳なくなった。 銀「寒ぅい…。私まで風邪ひいちゃうわぁ。お邪魔しまぁす」 突然の来訪に驚いて突っ立っている薔薇水晶の脇を通って、水銀燈は勝手に部屋に上がり込んだ。 銀「ふぅ、もう疲れたぁ。あ、これ今日の会議で使った資料ね。テキトーに読んどいてぇ」 上着を脱ぎ、鞄から大きい封筒を取り出すと、それを机の上に置いた。 薔「ありがとうございます…」 お礼を言って、封筒の中身に一通り目を通す。特に重要そうなものは無い。 いつの間にかベッドに座っている水銀燈の横に腰を下ろす。2人分の重みに、ベッドが微かに軋んだ。 銀「風邪はもう大丈夫なの?」 薔「あ・・・はい・・・もう大丈夫です…」 あれは嘘ですだとはとてもじゃないが言えない。薔薇水晶は適当に取り繕った。 銀「ふぅん、良かった。それにしても、あなたが休んで大変だったのよぉ?」 水銀燈が大袈裟に溜め息をついた。 銀「出席をとったのなんて久しぶりなんだもん。何度も噛んじゃったぁ」 薔「でも、私よりも水銀燈先生が出席を取ったほうが生徒が喜びます…」 銀「え・・・?」 水銀燈が驚きの声をあげる。だが、それ以上に驚いたのは薔薇水晶自身であった。 今まで溜め込んでいた感情が口から溢れ出して来た。 薔「私よりも、水銀燈先生が担任のほうが良いんです…」 銀「ちょ、ちょっとあなた何言ってるの?」 決壊した水門からあふれ出す水を止めることはできない。薔薇水晶はあふれ出す感情を止めることができなかった。 薔「生徒は、私なんか望んでいないんです…!!私は、教師に向いていないんです…!!」 次の瞬間、薔薇水晶の首がものすごい勢いで傾いだ。 銀「あなた…。自分で何を言ってるのか分かってるの…?」 一瞬何が起こったか分からなかった。だが、右頬に伝う熱い痛みで水銀燈に張り手をされたということが分かった。 ゆっくりと水銀燈のほうへ視線を向けると、凄まじい勢いで睨み付ける水銀燈がそこにいた。 銀「あなた・・・本当に自分は生徒に望まれてない存在だと思ってるの…?自分が教師に向いていないなんて思ってるの!?」 今まで言葉として溢れ出して来た感情が、続けて涙となって頬を滴った。 薔「あ・・・あ・・・」 言葉が出なかった。だが、水銀燈の問いへの答えは、涙が全て語っていた。 銀「あーぁ、本当にお馬鹿さぁん」 やれやれと息を吐き、肩を落とす水銀燈。そしてやや強引に薔薇水晶の肩を抱き寄せると、よしよしと頭を撫でた。 そうされることで、心の中のもやもやが少しづつ溶けてゆくような気がした。 銀「今日の朝、私が教室へ入ったら、生徒たちなんて言ったと思う?」 薔薇水晶の頭を撫でながら、囁くように言った。 銀「『あれ?薔薇水晶先生は?』よ?第一声がこれだもの。私、ちょっとあなたに妬いちゃったわぁ」 薔「え・・・?」 銀「あなたがどう思ってるのか知らないけれど、あなたはあの子達にとって立派な教師なのよ」 薔「私が・・・?」 銀「そうよぉ。自信持ちなさぁい」 心の中の重しが消え去ったのが分かった。その弾みで、先程とは比べ物にならない量の涙が両方の目から溢れ出してきた。 薔薇水晶は、水銀燈の胸で思い切り泣いた。 銀「本当に、しょうがない子ねぇ」 水銀燈は苦笑しながらポンポンと頭を撫でた。 本はと言えば全てのはじまりは薔薇水晶の思い込みからである。薔薇水晶は、己の弱さを痛感した。 しかし今回の件で少しだけ強くなれた気がした。ほんの少しだけ。けれど、それは薔薇水晶にとってはとても大きな一歩だった。 薔「出席をとります・・・」 いつものように出席をとる薔薇水晶。だがそこに水銀燈が来ることはもうなかった。
https://w.atwiki.jp/millionbr/pages/67.html
アイドル活動をしてるんだが、もうアタシは限界かもしれない アタシの名前は舞浜歩。 ナンバーワン目指して、得意のダンスを武器にして日々頑張ってるアイドルさ。 まだまだ苦手な事も多いけど、頑張って乗り越えて、いつかは皆が憧れる存在に! 「はぁ……」 ……って、思ってたんだけどなぁ。 誰もいない街中で1人、アタシは溜め息をついた。 溜め息をつくと幸せが逃げる、ってよく聞くけど、正直今だけは勘弁してほしい。 実際、今のアタシに逃げるような幸せもないんじゃないかな……とさえ思っちゃったりして。 「殺し合い、かぁ……」 ぼそりと呟いた、物騒な言葉。それこそが、アタシを悩ませているものの正体だった。 アタシもまだ実感しきれてはないんだけど、今、その言葉通りのヤバい事態に巻き込まれてる、らしい。 たった1人になるまで、他の皆と殺しあわなくちゃいけない。何かの比喩とか冗談でもなんでもない、本気の。 ありえない? うん、アタシもそう思いたいんだけどね……。 「………うぇ」 思い出しちゃって、思わず口を押える。 あの時目の前で流れた、その……社長の首輪が、爆発した映像。 首の上が無くなって、グロテスクな姿になって。高木社長は、死んでしまった。 あんな映像をみちゃったら、とてもドッキリと思う事はできない。 だから、これも現実だと認識するしかなかった。嫌だけど。絶対に嫌だったけど。 「あー……まぁ百歩、いや一万歩譲っても、さぁ」 一度、気を取り直す。 口ではそう言っても、正直な話一歩も譲りたくない。理解はできても、納得なんて到底できないし。 ただ、今のアタシにはそれ以上に深刻な当面の問題があったわけで。だから、一旦置いとく。 背負っていたバッグを下ろし、開ける。 「ヂュッ」 と同時に聞こえてきた、可愛らしい(?)鳴き声。 アタシのバッグの中にいたのは、一匹のハムスター。その姿には、馴染みがあった。 確か、同じアイドル仲間の我那覇響がいつも連れてたハム蔵……だっけ。そんな感じの名前のペット。 その子が、このバッグに入ってた。これにも色々言いたいことはあるけど……まぁ、それもひとまずスルー。 「ヂュッ?」 中にいたハム蔵をそっと外に出して、他の中身を確認する。 水の入ったペットボトルに、缶詰。うんうん、必需品だね。 懐中電灯と、方位磁石。道に迷ったら困るし、夜には確かにいる。 この赤い十字架が書かれてるのは救急箱かな。少しくらいのケガなら、なんとかなるかな。 で、あとは携帯みたいなの。電話とかはつながらないみたいだけど、色々と大事な機能が入ってそう。 そして……うん、それだけ。何度見ても、それだけ。 「………」 黙りこくるアタシを、ハム蔵は怪訝な表情で見つめてる……ような、気がする。 仕方ないのかもしれない。ここに鏡はないから分からないけど、多分今のアタシは怪訝な顔をしてると思うし。 現状を冷静に理解し、率直に言わせてもらうと……今のアタシには武器がなかった。 あの時、武器類が支給されるって言っていたのにもかかわらず、だ。 強いて言うのなら、ハム蔵がいわゆる『武器等』に該当する支給品、って事になるのかな、うん。 「………………」 すっと、立ち上がり。 周りに誰もいないことを確認して、アタシは大きく息を吸って。 「こんなんでどうしろっていうんだよーッ!?」 思いの丈を、思い切り叫んだ。 「ほとんど手ぶらじゃんか! オーマイガー!!」 怒りを声に出しても、誰も返してはくれない。むなしい。 そんな静けさが、よりアタシの怒りを増幅させてるような気がした。 本当に、わけがわからない。殺し合いさせるなら、せめてそれなりのもの用意するべきだと思う。 こんなところでも、アタシはいじられ役なのか? ああ、誰かの嘲笑が聞こえる……。 「くそー……なんでアタシだけ……」 未だに収まらない微妙な感情で、ぶつくさと呟くアタシ。 傍からみたら、きっと今のアタシはとてもみじめに見えてるんだろうな……。 あぁ、ダメだダメだ! 卑屈になるな、アタシ! 大体、アタシだけじゃないだろ。他の皆も多分、苦しんでて、一生懸命に頑張ってるはずなんだ。 情けない考えはやめて、前を向かないと。 「ホント、どうして……」 そう考えて、なんとか冷静を取り戻せてきた。ただ、その代わりに別の感情があふれてくる。 情けない話だけど……哀しい、というか。悔しいというか。 だって仕方ないじゃん、いきなり投げ出されて、殺し合いをしろ、だよ? ――ほかでもない、一番信頼していた人の手で。 「どうして、なんだよ……プロデューサー……っ」 口に出た疑問に、答えは返ってこない。 いつも一緒に頑張ってきたと思ってた、アタシ達のプロデューサー。 失敗も多かったアタシの事も、気にかけてくれたし、勇気づけてくれた。 だから、ずっと味方だと思っていたのに……この場所に突き落としたのが、その人だった。 結局、アタシの思い違いだったのだろうか。アタシの思っていた程に、絆は築けていなかったのか。 どんどん広がるマイナスな感情を、全く否定できずにいた。 「……真は、どう思ってんのかな」 ふと思い浮かんだのは、いつもダンスの練習をしたりして意気投合してた、仲間の事。 そういえば、真も結構プロデューサーの事を好意的に思ってたような気がする。 今、どう思ってるんだろう。さすがに、ショックを感じてるとは思うけど。 ……それでも、しっかりと反抗するんだろうなぁ。真は、芯が強いし。 きっと、どこまでもまっすぐに想い続けるんだろう。アタシは、それが少しうらやましく感じた。 「………はぁ」 それに比べて……と、また溜め息をつく。 アタシは、どうしたいんだろう。 武器がないのもそうだけど、仮にあったとしても『よし殺そう』なんて決断もできなかっただろう。 今だって『どうしたいか』すら分からない。今から、何をすればいいのか、何ができるのか。 悩んでも悩んでも、答えは出そうにない。アタシは、ますます参ってしまって。 「ジュッ!」 そんなアタシの肩に、ハム蔵が駆け上ってきた。 耳元で、せわしなく鳴いている。 そのしぐさは、なんだかアタシに話しかけてるようにも思えた。 「……慰めて、くれてるのか?」 その疑問に返ってくる言葉も、やっぱり鳴き声。 当たり前だよな……と、そんな反応にアタシは苦笑する。 ちょっとでも動物と話そうとしてた自分が、おかしく感じて。 暗い気持ちも、ほんのちょっとだけマシになったような気がした。 「はは……いや、落ち込んでても始まらないよな」 何を言ったのなんてわからないし、実際大した事は言ってないのかもしれない。 でもまぁ、とりあえずアタシは好意的に受け取っとく事にした。 落ち込んでたって、何も始まらない。なんにせよ、ここで終わるわけにはいかないんだから。 「ハム蔵だって、ご主人がいなくて不安だと思うし……早く、会わせてやんないと」 まさか、響も自分のペットがこんな場所に巻き込まれてるとは思ってもないだろうし。 今どこにいるのかはわからないけど、さっさと会わせてあげたいよね。 殺し合いの場……なんて言っても、あの響が殺し回るとは思えない。 どちらかといえば、混乱して「うぎゃーっ!」とか言ってた方がらしいんじゃないかな、なーんて。 「……プロデューサーには悪いけど、やっぱりアタシには無理そうだよ、殺し合い」 そんな、悪く言ったら日和った事ばっかり考えてる自分がいて。自分の想いもなんとなくまとまってきた。 前提として、アタシは死にたくない。こればっかりは仕方ない。 でも、かといって生き残るために誰かを殺す……のも、多分無理だ。 一緒に頑張ってきた大切な仲間を、裏切ることなんてできそうにない。 じゃあどうする、なんて具体的な方針はまだないんだけど。 だから、だからアタシは――― 「暫くは様子見かなぁ……うん」 肩に乗ってたハム蔵がずっこけた……ように、見えた。 いや、仕方ないじゃんか。考えても答えがでないんだから。 というわけで、とりあえず先送りにすることにした。こんな状況でパッと決められる方がすごいんだって。 そもそも、他の皆だって乗ると決まったわけじゃない。もしかしたら、誰かが脱出の糸口をつかんでたりするのかも。 まだ焦る時間じゃない。うんうん、暫くは流れに身を任せてみよう。 ……うん、情けないのは分かってるよ。ちゃんと少しは考えるから……。 アタシは誰に宛てたものでもなく、心の中で言い訳をしていた。 「でも、せめて身を守るものぐらいは欲しいよなぁ……」 そんな事を考えていたって、現状が変わるわけでもなく。 今のアタシに武器がないのは、揺るがない事実だった。 仲間を信じたくはあるけど、それはそれとして襲われた時に抵抗できるようなものがほしい。 さて、どうしたものか……と思ったところで、ハム蔵がまた鳴き始めた。 「ヂュッ、ヂュッ!」 「ん、どうしたハム蔵?」 その姿は、何かを伝えようとしてるのかな。 もしかしたら、エサの催促だろうか。ハムスターが何食べるかなんて、知らないんだけどなぁ。とか考えてるアタシをよそに。 なんとなく、どこかを指差してるように見える。その方向に視点を移してみると……大きな建物があった。 「ショッピングモール? ……あ、そっか!」 その建物を見上げて、アタシは気づいた。 「ないんだったら、ここで調達すればいいんだよな!」 そういえば、この島には街があるんだから、店ぐらいあるのは当たり前だよね。 結構そのまんまになってるっぽいし、こういうところを覗いてみれば、案外役に立つものが手に入るかも! 「よし、そうと決まれば早速探索だ!」 善は急げ。やることを決まったならささっとやってしまおう。 まずは現地で武器を調達。そのあとは……まぁ、その時に考えよう。 少しばかり元気の入った足で、アタシはショッピングモールへ入っていった。 * * * 「………ヂュッ」 そんな歩の事を、『やれやれ、大丈夫かな』という目でハム蔵は見ていた……かも、しれない。 【一日目/朝/H-3】 【舞浜歩】 [状態]健康 [装備]なし [所持品]基本支給品一式 [思考・行動] 基本:死にたくない。でも、殺し合いにものれない。どうするかなぁ 1:とりあえず、ショッピングセンターで武器になるようなものを探す 【ハム蔵】 [状態]健康 [装備]なし [思考・行動] 基本: ??? 【ハム蔵】 舞浜歩に支給。 我那覇響が飼っている数多くのペットのうちの一匹。その名の通り、ハムスター。 人間のようなリアクションを取ったり、響に対し的確なアドバイスを送っていたり、 他のアイドルの演技指導なんかもこなしたりと、とても普通のハムスターとは思えないほど多才。 Getaway 時系列順に読む ラフ・メイカー Getaway 投下順に読む ラフ・メイカー GAME START! 舞浜歩 最近、同僚のようすがちょっとおかしいんだが。 ▲上へ戻る
https://w.atwiki.jp/14sure74/pages/216.html
「またか・・・っ!」 そう言って、私は舌打ちをした。 漂っているという言葉が似合うような、不愉快な感覚が私の全身を支配していた。 「ちっ! この、音が・・・っ!」 小さな金属が回転して擦れ合うような甲高い音が、頭の中に響く。 脳内を掻き回されているような、頭痛と吐き気を伴う不快感に襲われ、私は耳を塞ごうとする。 しかし、身体は依然としてあの不愉快な浮遊感に支配されていて、動く気配を見せなかった。 私にそもそも身体と呼べる物があったのかさえ疑わしくなるほどに、動かなかった。 「くそ・・・っ! くそ・・・っ! くそぉ・・・っ!」 私は全ての不快感を吐き棄てるように悪態をついた。 現状、唯一私が自由に出来るのは意識だけだったからだ。 「くそ・・・っ! どうして・・・っ! いつも・・・っ!」 自分の身体が全く思い通りにならない、それが何故か悔しくて堪らなかった。 「――っ!!」 唐突に視界が開けた。 「また・・・かっ!」 開けた視界に広がっていたのは、沢山の『人間』という生き物が居て『家』という木造の物体が立ち並ぶ、『町』という光景だった。 「っ!?」 その光景に私の意識が一瞬だけ集中した隙に、『人間』の一人が視界に大きく映し出される。 「しま・・・っ!!」 私が全てを言い切るよりも先に、あの嫌な高音が響き出した。 「やめっ・・・うぁぁ・・・っ!!」 その直後、私の意識の中に、目の前に広がる光景とは別の光景が広がり出す。 そこでは、目の前の『人間』が映し出されていた。 「ぅぐっ・・・や・・・やめ・・・ろっ!」 激しい頭痛と吐き気に見舞われながら、私は叫ぶ。 しかし、今まで唯一に出来ていたはずの意識は、まるで言う事を聞かなかった。 途轍もない喪失感に打ちひしがれながらも、私は叫び続ける。 「やめ・・・ろっ・・・! やめ・・・ろぉ・・・っ! みせ・・・るな・・・っ!」 叫び続けている間も、私の意識は『人間』を映し続けていた。 意識に映っている『人間』は、視界に映った『人間』と同じ服装、同じ顔つき、同じ体付きをしていた。 違うのは、意識の中に映っている『人間』は、切り立った崖を歩いているという所だけだった。 「やめろ・・・もう・・・映す・・・な・・・っ!」 私は必死に叫び続けた。 このままでは、更なる不快感に見舞われると直感していたからだった。 しかし、意識はずっと『人間』を映し続ける。 「やめ・・・ろっ・・・や・・・めろぉっ! ・・・行く・・・なっ・・・! やめ・・・ろっ・・・もう・・・行く・・・なっ!」 気付けば私は、意識の中の『人間』に叫びかけていた。 更なる不快感に見舞われると直感した直後、何故か崖を行く『人間』が気になって仕方なくなったからだった。 私の叫びなど、聞えるはずがないだろう。 それでも何故か私は叫びかけずには居られなかった。 「やめ・・・っ! その・・・先はっ・・・!」 意識の中の映像が滲み出していく。 視界も滲み出していく。 「イヤ・・・・だ・・・っ! 行く・・・なぁぁっ!!」 意識の中に映る『人間』に声が届かない。 それが無性に悔しくて、悲しくて。 私が今込められる全てを賭けて叫んだ時だった。 「――っっ!!?」 意識の中の『人間』が、消えた。 岩が剥がれ落ちるような乾いた音と共に消えた。 直後、私が私足りうる全てを抉り取られたような喪失感に見舞われた。 「っぅああああああああああああああああああぁぁぁっっ!!」 喪失感に耐え切れず、私は叫んだ。 大型巨獣の雄叫びかと自らも錯覚するほどに、大きな声で叫んだ。 「――ぅぶっ!?」 不快感が目が回るような吐き気となって私を襲った。 「げほっ! がっ! う゛ぇっ! う゛ぇぇぇっ!」 吐き気に身を任せるように、私は吐いた。 なにを吐いたのかは、何故かよく分からなかったが、酷く悲しく、悔しく、やるせない感じがした。 「・・・何故・・・だ・・・っ!」 激しく澱み、ぐらついた意識と視界の中、私は呟くように問い掛けた。 「何故・・・こんな・・・物を・・・見せるっ!」 この感覚の、最後に決まって姿を現す『人間』に向かって私は問い掛けた。 「何故・・・私に・・・っ! 私に・・・どうしろと・・・っ! 私を・・・どうしたい・・・っ!」 その『人間』が、何故決まって最後に姿を現すのかは分からない。 そもそも、この事態がその『人間』の仕業である確証もない。 だがしかし、私にはその『人間』の仕業である気がしてならなかった。 「お前さえ・・・居なければっ! 私は・・・こんな・・・こんなっ!」 決まって最後に姿を現す『人間』は、やはり今回も姿を現した。 そして、やはり今回もただ黙って見ているだけで、答えようとしなかった。 私はそれが何故か悔しく、憎たらしく、悲しく感じていた。 「答えろっ! お前は・・・お前は・・・お前はぁっ!」 少しずつ姿を消していくその『人間』に、私は叫ぶ。 その『人間』の名前を、私は叫ぶ。 「――答えろっ!!」 その『人間』の名前は・・・。 ~~~~ 「――――っっ!!」 叫ぶと同時に、視界が暗転して不愉快な感覚が身体から消えていく。 変わりに熱っぽく重たい感覚が私を襲う。 私はその感覚が自らの身体から発せられている物であることを悟り、試しに右手に力を込めてみた。 すると私の右手がゆっくりと、握り締められていく感覚を感じることができた。 小さく安堵の溜め息をつきながら、私は作った右拳で額を軽く拭う。 じっとりとした不快な汗が拭った甲に広がったのを感じ、私は軽く舌打ちをした。 それから、私は意識の中に僅かに残っているあの不快感を払拭すべく、直前の自分の行動を思い出すことにした。 (・・・この横穴で眠りについた。 ・・・だな。) 私は、眠りについてからどれぐらいの時が経ったかを推測してみることにした。 (・・・1時間と言った所か。) 休息というには流石に短すぎるだろう。 しかし、元々長くこの場にいるつもりもなかった私は、この場を発つことにした。 (眠りにつく気にもなれないしな・・・。) ゆっくりと立ち上がると、汗で濡れていたのか服がべったりと身体に張り付いてきた。 (ええいっ、鬱陶しいっ。) まとわりつくようなおぞましさと肌寒さに悪態をつきながら、軽く柔軟体操をして身体をほぐす。 それから素早く身支度を整えて、私は歩き出した。 そして外へ出た瞬間、サングラスの隙間からわずかに差し込む光が、いつもより強く感じられた。 「・・・満月、だったな。」 満月の日は普段よりも周囲が明るく照らされるため、この星に生きる物、とりわけ『人間』の多くは満月の光を有難がった。 視界が少しでも利いた方が、事前に危険を察知しやすいことがその理由だ。 だがしかし、本当の所は違う。 この星に『人間』の多くは、色彩のある光景に異常とも思えるほど固執していた。 そんな物達にとって、色彩の元とも言える灯りのない状況はとても耐えられる物ではないのだ。 (・・・くだらんな。 灯りのある状況など、厄介なだけだ。) 私は大きく溜め息をつく。 私にとって満月の光は在り難い所か、はた迷惑な物でしかなかった。 視界が利きやすくなろうが、私には関係がない。 なぜなら、私の視界は常に瞼の裏にある光景を映しているからだ。 記憶している限り、私の視界は殆ど黒一色の、色彩のない光景が広がっていた。 たまに色彩のある光景が映る時は、決まってあの激しい頭痛と吐き気に見舞われていた。 (誰かに見つかると面倒だ、さっさと・・・!?) 出発しようと思った時だった。 私は遠くの方に『荷馬車』が地を駆ける音を聞いた気がした。 私は咄嗟にしゃがみ込み、地面に耳を近づける。 すると風の音に混じり3、4台の『荷馬車』が、此方へ近づいてくる音が聞き取れた。 どうやら、かなりの速さで移動しているようで、このままではすぐにでも接触することになるだろう。 (くっ! 迂闊だった!) 今私が居る場所は、絶壁が両脇を塞ぐ長い渓谷の中腹だ。 しかも、この場所は南北に真直ぐ伸びた、光の差し込みやすい長い直線であり、身を隠せるような場所は殆ど存在しない。 従って、このままでは必ず発見されてしまうだろう。 (ちぃっ・・・! せめて、満月でなければっ!) 視界の利かない普段の夜ならば、急いで横穴へ飛び込み入口を塞いでやり過ごすこともできただろう。 しかし、満月の光で明るく照らされている今では、万が一という可能性がある。 もしそんなことになれば、自ら墓穴を掘ってしまいかねない。 (私としたことが、無警戒に飛び出してしまったばかりにっ! くそっ! これも全て、あのっ!) 横穴を出る時に警戒を怠った自身が悪いことは百も承知だが、私はあの現象のせいにしたくて仕方がなかった。 悪態を付いた後、私は気持ちを切り替えるため大きな溜め息をついた。 (やり過ごせないのなら、見極めなくては。) もう間もなく接触するであろう『荷馬車』の集団に向けて、私は全ての注意を集中させる。 アレらが私に害なすことができるかどうか、それを見極めるためだ。 もし、私にとって障害となりえるものならば先手を打っておきたい。 さっさとケリをつけるに越したことはないし、長引けば面倒なことになるからだ。 (・・・来るっ。) 車輪が回る音の高まりからそう推測し、私は身構える。 その直後、2台分の『荷馬車』の音が私の両脇を横切り、背後で地面を削る音を出す。 次いで、1台分の『荷馬車』が私の前で同じように地面を削る音を出した。 (止まったか。 ・・・停車音から考えると荷台は小さいが、中身は入ってそうだな。) かなりの速度を出していた所から見ると、荷台の中にはなにか重要な物が入っているのかもしれない。 いくら満月の夜とはいえ、普通はあれほどの速度で走ることはない。 もし、予想通りに重要な物が入っているとして、そんな物を運んでいるにも関わらず止まったということは・・・。 (ちっ・・・。 コイツら、人目に触れると厄介な代物を運んでいたのか。) 単なる貴重品ならば、目的地まで急ぐ方が優先されるはずだから、私など構わずに走り抜けるか、止まるとしても直前で止まるはずだ。 それなのに、この集団は私を取り囲むように止まった。 輸送の現場を目撃した者を始末しなくては、後々面倒なことになりかねないと判断したに違いない。 停車してすぐに松明に灯を燈す音が全方位から聞こえてきたことも併せると、まず間違いないだろう。 (数は、12人か。 ・・・面倒だ、まとめて叩き斬ってしまえ。) 人目に触れられたくない物など、まとめて始末してしまっても問題はないし、もし問題があったとしても私には関係のないことだ。 それになにより、アイツらの視線が何故か私の胸元や下腹部に集中していて、全身をなめずり回されているような感じがして気持ちが悪い。 私は一応の警戒をしつつ、武器に手を伸ばした。 その時――。 #02へ ACT-02へ
https://w.atwiki.jp/tsvip/pages/277.html
312 名前:くみちょ! ◆nvmgYjRe.Y [ファンタジー風] 投稿日:2007/09/25(火) 20 22 17.43 ID tfQSCfeZO 「アハハ♪だ・か・らあなた達は愚かだと言うのよ。自分たちが信仰する神の正体すら知らない」 目の前で高らかに笑うのはあらゆる武具を使いこなし、作り出す魔女「戦女(いくさめ)」ことシルバー。 「…あなた達教会は神の名を語り、どれだけ罪の無い人間を殺した?」 我々に休む暇も与えず、次々と繰り出される攻撃。 「教会における神って何?そこのあなた、休ませてあげるから答えなさいな?」 シルバーは私を指名する。 「…神とは人間を始め、万物を作り…絶対的な力を持った我々の守護者だ」 「ぶぶ~、それは違いま~す♪人間の守護者って言うなら私たち「魔女」だって刈らないわよ、「人間」だもの。…あなた達の信仰する神っていうのは…」 シルバーは後ろにいた部下三十名を一瞬で倒すと、私の背後に回りこう言った。 313 名前:くみちょ! ◆nvmgYjRe.Y [ファンタジー風] 投稿日:2007/09/25(火) 20 22 46.07 ID tfQSCfeZO 「他の星から来た人間よ。自分たちの星を滅ぼして行き場を無くし、この星に目を付けた侵略者。…そして、二千年経った今…」 シルバーは俺の首筋を見て驚いた様に言う。 「なぁんだ!あなた、刻印があるじゃない♪」 ふざけるな! 神に仕える騎士の私に刻印? 「お仲間じゃあ優しくしないとねぇ…」 「…私は騎士だ!」 最後に残った力で剣を振るうが、シルバーを捉えることは出来ない。 「あぁん………面倒だから寝てて!」 「…あ」 後頭部に鈍い痛み。 頭がグラグラと揺れて、私は意識を失った。 314 名前:くみちょ! ◆nvmgYjRe.Y [ファンタジー風] 投稿日:2007/09/25(火) 20 24 22.43 ID tfQSCfeZO 「………つぅ」 頭がズキズキ痛む。意識を失ってからどれだけ経った? 「…あらぁ、お目覚めかしら?」 のほほんとした声。 「貴様、シルバー!」 憎らしい声に立ち上がろうとするが、四肢を拘束されていて無駄な足掻きとなる。 「おはよ~。可愛らしい騎士様?うふふ♪」 「可愛らしいだと?…貴様、私を愚弄するか!」 「私は見たまんまを言ってるんだけど?」 「何?」 私は固定されていない首を動かし、自分の肉体を見る。 いつも通りの鍛え抜かれた… 「………」 肉体ではなく柔らかそうな女性の物だった。 「き、貴様!何をした~!」 興奮していて気付かなかったが声も少女のそれとなっている。 「私はなんにも~」 シルバーはフルフルと首を横に振る。 「嘘を吐け!」 「ホントよぉ。あなた、教会の教えは忠実に守ってた?」 「当たり前だ!私はこの身を神に捧げた」 「だからよ。あなた、女の子とエッチしたことないでしょ?」 「それが神の教えだ!」 「良かったわねぇ♪」 何を言っているんだシルバーは? 「だって、あのままだったらあなた………教会に刈られてたもの」 316 名前:くみちょ! ◆nvmgYjRe.Y [ファンタジー風] 投稿日:2007/09/25(火) 20 27 46.84 ID tfQSCfeZO 「ねぇ?何で教会が20歳以下の人間に性交する事を禁じていると思う?」 「それは…」 私はシルバーの問いかけに答えが見つからなかった。 教会の教えは絶対であり、幼い頃から何の疑問も抱きはしなかった。 「私たち「先住民」はね、生まれながらの女っていないのよ」 「それでは子を成せないではないか?」 「…ふぅ。教会に毒されて何も知らない。哀れね…」 やれやれと溜め息。 317 名前:くみちょ! ◆nvmgYjRe.Y [ファンタジー風] 投稿日:2007/09/25(火) 20 28 19.72 ID tfQSCfeZO 「教会内の「魔女」を見つけて刈るために性交を禁じているのよ?私たち「先住民」は15~20歳手前まで純潔を守れば女として生まれ変わるの。二千年前までは当たり前の常識だったのよこんなのは」 シルバーは表情を引き締める。 「それが一般的に忘れ去られ、男と女が明確に分かたれた現代………「侵略者」達は星中に蔓延り、私たち「先住民」は男に化けて世に忍んでいる「魔女」として迫害されてるってわけよ」 困ったものだわ、とまた溜め息を吐いた。 「あなた達の神はね、この星を自分たちの種で満たすため………いいえ、自分たちの星を再現するために魔女刈りをしている殺戮者なのよ」 「殺戮者は魔女の方ではないのか?」 「何言ってるの?私たちは自分や仲間を守る為にしか力を使わない。魔女に殺された人間っている?」 318 名前:くみちょ! ◆nvmgYjRe.Y [ファンタジー風] 投稿日:2007/09/25(火) 20 30 01.00 ID tfQSCfeZO シルバーに言われて気付く。 魔女と戦い重傷を負った騎士は多数いたが、死に至った者を一人も見たことがない事に。 「魔女は星の声を聞くわ。星は人を殺すことを望まれていなかった………たとえ、この星が嘗ての在り方を失うことになろうとも…ね…」 何ということだ………教会に拾われ、育てられたこの12年。 私はその教えを疑ったことなど無かった。 魔女は異端也、滅ぼすべき悪也と叩き込まれてきたというのに。 「…私がやってきたことはただの殺戮だったというのか」 シルバーと話していると、教会の教えがおかしいと気付く。 何をした訳でない少女たちを魔女として一方的に刈った。 ただ、刻印が浮かんだ僧侶、騎士、信者たちを有無を言わさず殺した。 「…悪は私自身か」 319 名前:くみちょ! ◆nvmgYjRe.Y [ファンタジー風] 投稿日:2007/09/25(火) 20 30 52.67 ID tfQSCfeZO 自分を正義と信じ、神の名の下に何の疑いもなく人を殺めてきた自分が哀れだと思った。 「ま、それに気付けたあなたはまだ救いがあるわよ♪」 シルバーに抱きしめられて思う。 (何も違わない。この温もりは同じ人の物ではないか…) 「で、本題。このまま聞いてくれる?」私は頷く。 「1ヶ月位前になるんだけどね………星は初めて人を殺すという決断をしたの。このままじゃこの星に住む命は全て無くなると知ってね…」 「それは…」 「教皇と教会の幹部7人が…」 「…ぐはぁ!」 首筋の刻印が尋常じゃなく痛む。 頭がクラクラする。 「あら、覚醒が始まるのね………。お話はまた今度にしましょう」 「覚醒だと?」 「言ったでしょう?魔女は星の声を聞くと。そのために魔女は星と繋がるの…」 …星と繋がる? 「星と繋がった時、あなたは新しい力を手にする。この星を守るための力を…」 「シルバー…」 沈みゆく意識の中 「おやすみなさい!あなたの目覚めが素晴らしいものであらんことを!」 シルバーの声だけがはっきりと頭に響いていた。
https://w.atwiki.jp/hmiku/pages/48473.html
【検索用 はきためすはいらる 登録タグ 2022年 VOCALOID は めり アオワイファイ 初音ミク 曲 曲は 殿堂入り】 + 目次 目次 曲紹介 歌詞 コメント 作詞:アオワイファイ 作曲:アオワイファイ 編曲:アオワイファイ 唄:初音ミク 曲紹介 反論無いならオレの勝ちだが?... 曲名:『ハキダメスパイラル』 アオワイファイ氏のVOCALOID曲15作目。 イラスト・動画:めり(Twitter) 歌詞 (動画概要欄より転載) アイツは愛嬌振りまいて 何度 ドジっても許される こっちはいっつも尻拭い ただ合わせて笑ってんだ 現実 相槌 口封じ 息苦しくてありゃせんな 勝手に溜まるハキダメは バレないからね ほら投下 外じゃ いい子いい子 家じゃ チートチート 透ける "構って構って" 自撮り ワロタワロタ 流行りのヤツの二番煎じ ウケないよそれ時代遅れ 歌詞が苦手だ 歌が苦手だ 何? お前 音楽は初めてか? ここはダークウェブ! (Dark Web) てめぇの目で確かめてみろよな 気持ちいいぜ いけ好かない アイツも此処じゃ燃料さ は は は はぁ...⤵︎って (ええって) 溜め息ついちゃう様な世の中なんだ 蹴り合おうぜ ハイ、お前は 今後 もう アクセス禁止ね 何故 何故 何故 誰かが恵まれ アタシには何も無いの! 報いは返らないし 願いは叶わない 神様なんていない! どうせ 出来レ 出来レ 結局 オカネ オカネ メシのTweet Tweet 時計 見せびらかせ 負け犬の遠吠えじゃないから 負け犬の遠吠えじゃねぇから!! 今に見てろよ 不幸じゃねえよ 何? お前 論破すら出来ねえじゃん! ここはダークウェブ! (Dark Web) 思いのまま蹴散らしてくれたな 電子Waveを汚してる奴の顔ほど平々凡 くだらねえ、って (ねえって) 毒毒つきたい様なハキダメばっか 止まらないぜ どっちかが折れるまで 書き殴らせろ "何だもう逃げるのか?" "反論無いならオレの勝ちだが?..." コメント 名前 コメント コメントを書き込む際の注意 コメント欄は匿名で使用できる性質上、荒れやすいので、 以下の条件に該当するようなコメントは削除されることがあります。 コメントする際は、絶対に目を通してください。 暴力的、または卑猥な表現・差別用語(Wiki利用者に著しく不快感を与えるような表現) 特定の個人・団体の宣伝または批判 (曲紹介ページにおいて)歌詞の独自解釈を展開するコメント、いわゆる“解釈コメ” 長すぎるコメント 『歌ってみた』系動画や、歌い手に関する話題 「カラオケで歌えた」「学校で流れた」などの曲に直接関係しない、本来日記に書くようなコメント カラオケ化、カラオケ配信等の話題 同一人物によると判断される連続・大量コメント Wikiの保守管理は有志によって行われています。 Wikiを気持ちよく利用するためにも、上記の注意事項は守って頂くようにお願いします。
https://w.atwiki.jp/wiki4_kurenai/pages/74.html
「大体この日の為に勉強そっちのけで剣技頑張ってきたんだぞ? 今更勉強したって身につかねーし、女に戻れって言われてもほぼムリ!」 最初のうちはレイスが女だと気づいた両親は女としてレイスを育てていたのだが、 周りの目があったせいでそれも出来なくなった。 なるべく服は男物でもすこし可愛いデザインの物を着させていたのだが、その服と レイスの幼い頃の『自分は女』という両親から埋め込まれた認識によって同じ歳の子供やその親から 変な目で見られた時には「限界」だと思った。 たとえ童顔だとしても、姿形は男の子だったのだから。 「てか、どんな呪いだよ・・他人には男に見えて、家族には女に見られるってよ・・」 この自分を蝕む呪いは、何を自分にさせたいのだろう? こんなヘンテコな呪いは聞いた事も見た事もない、と両親もお手上げだった。 それをはっきりさせる為と、自分の性別を決定づけるためにレイスは旅にでると宣言したのだ。 最初は反対していたセシウスもその勢いに折れて、最初は遊びとして教えていた剣技も 本格的な実戦方に変えていったのである。 「とにかく、旅立ちはセシウスに勝ってからなんだし、まだ時間はあるわ。 今の内に旅支度しておかないとね」 カナンは食器を片づけ終わると、レイスの服を作りはじめる。 父との剣の勝負はまだついておらず、父を乗り越えて初めて旅にでるという約束だった。 今日の朝の雄たけびは、そんな勝負からきている。 勝負を始めて2ヶ月だが良い線までいって結局の所は踏み出しの甘さで負けていた。 身軽な動きは得意な方だが、時々剣の重さに振り回される。 それのおかげでバランスをくずしてしまったりしていた。 「絶対明日は勝ってやるっ!」 それがここ最近のレイスの口癖である。 一週間後。 「っ・・・」 剣が空に舞った。 「よっしゃーっ!一本!!」 「あーあ・・・、剣折れてる」 同じ所ばかり打ち込んでいたせいか、二人の剣は見事に折れてしまった。 折れた衝撃に驚き、セシウスの動きが一瞬とまり、その隙を突いてレイスは折れた剣先でセシウスの喉元を取ったのだ。 「これも立派な一本だよな?」 「・・・・わかったよ、認める」 大きくガッツポーズを決めた娘に、セシウスは溜め息をついた。 それと同時に、誇らしくも思えた。 「旅立ちは二日後。 剣の事もあるけど、まだ通行証とか発行し終わってないからね。 レイス、後で父さんの部屋に来なさい」 「?うん、わかった」 折れた剣を地面に突き刺すと、セシウスは自室に戻っていった。 後の祭り。 そろそろようやく旅が始まります。 旅と言っても王都で足止めをくらうからあまり長くないけど。 その前に町が一つあるくらいで。 その町が中心かな。