約 109,465 件
https://w.atwiki.jp/runner7novel/pages/231.html
カーテンの隙間から漏れる朝の日差しに目を覚ました。 時刻はまだ6時前。まだ寝たいと訴える上体を無理やり起こして、あくびを一つした。 「…ねみぃ…」 重いまぶたを一度閉じながら、後頭部を掻きむしる。 そして辺りを見ると、ほとんどが寝ているが、哲也と大輔は居なかった。 眠気覚ましに、水道へと向かい、顔を洗った。 少しさっぱりしたが、まだ眠い。少し外を歩くか。 外に出て、最初に聞いた音はスイング音。 そこには汗を流しながら、一心不乱にスイングをする大輔だった。 「おぅ英雄か」 ここで大輔は、俺に気付き、素振りをする手を止めた。 「おはよ。朝っぱらから張り切ってんなぁ」 「無性に素振りをしたくなっただけだ」 そう大輔は言うと、再び素振りを始める。 俺は縁石に座り、その大輔の素振りを見つめる。 斎京学館の良ちんのスイングには、美しさが感じられる。来た球を弾き返すイメージだ。 対して大輔のスイングには、荒々しさが感じられる。来た球を破壊するイメージ。 両方とも超高校級の4番だが、スイングは正反対だ。 なるほど、スイング1つも奥が深いものだ。 そういえば良ちんで思い出したが、昨日の斎京学館の試合は、3対0で斎京学館が勝利した。 相手の丘山南は、毎年ベスト8に顔を出すような、県内強豪校で、今年のエースの野中はプロ注目投手。そんな投手から3点を取った斎京学館。 守ってはエース川端が、相手打線を寄せ付けない、散発4安打の完封勝利だった。 まぁ次の相手も、県内では強豪の分類に入る丘山二宮なのだが…。 「あれ? 英雄じゃん。おはよう」 ふと哲也が笑顔で俺に挨拶した。 少し額に汗掻いてるから、軽く走ってたのかもしれないな。 んで哲也の手にはバット。こいつも素振りをするようだ。 「おぅ哲也。おはよ。今から素振りか?」 「うん、この前の試合で英雄に続けなかったからね」 などと言いながら、素振りを始めようとする哲也。 こいつに最初から打撃を求めていない。 「素振りじゃなくて、俺の球を少し捕ってくれないか? 指先の感覚が正常か確かめておきたい」 「えっ? うん分かった! じゃあミット取ってくるね。英雄の分も持ってくるよ」 「おぅ、んじゃちょっと準備運動してるよ」 などと会話をしてから、俺はブルペンへと向かい、準備運動をする。 筋肉痛は無いし、体は軽い。疲れは無いな。 「はい、英雄!」 哲也がミットを渡してくる。ちょうど準備運動も終えたので、俺達はブルペンへと入った。 最初の10球は、哲也を立たせての、フォームの確認をしながら、ゆっくりと投げる。 乾いたミット音が、朝の校舎に鳴り響く。 「じゃあ英雄。そろそろ座るよ」 「おぅ」 ここで哲也が座る。 この後、全ての球種を1球1球、確認しながら投げる。 15球投げて、朝の投球練習から上がった。 その後、6時半に全員が起床。 朝飯を食べてから、7時半から30分間、アップし、キャッチボール、トスバッティングまでする。 その後8時15分から軽いミーティング後、バスに乗って丘山スタジアムへ。 到着したのは9時半。すでに第一試合が始まっている。 丘山東商業 対 佐々岡工業の試合のあと、我が校が試合をする。 とりあえず球場近くでアップや柔軟をして、試合を待ち望む。 「トイレ行ってくる」 試合を待っている間に、俺はひと言言ってトイレへと向かった。 「ふぅ~」 トイレから出て、手を洗った際についた水をユニフォームの尻の部分で拭く。 いやぁ~試合前のしょんべんは良いものだね。いやまったく。 「あれ? 沙希じゃん」 「えっ? あっ英雄」 偶然トイレの前の道を歩いていた沙希を呼び止める。 まぁ偶然会ったし、会話でもするか。 「今日も応援かぁ~こんな暑い中、ご苦労さんです」 「英雄たちのほうが暑いでしょう? 試合するんだから」 などと沙希は言って、溜め息を吐いた。 正直な話、試合をしている方が集中して、暑さを忘れられると思う。観戦のほうがよっぽど暑い気がするけど…。 「佐倉と、山口さんじゃねぇか」 沙希と話していると、目の前に久遠が現れた。 中学の頃とは、顔付きが変わったが、あのうぜぇ笑い顔は変わっていないようだ。 「おぅ久遠! 久しぶりだなぁ。龍獄でエースやってんだろう? 今日はよろしくな!」 とりあえず久しぶりの戦友に挨拶する。 今日戦う相手だが、フレンドリーに接する俺、優しすぎる。 「あぁよろしくなぁ佐倉」 目を見開き、うぜぇ笑みを浮かべる久遠。 …うん、他はうざく無いのに、あの笑い顔だけはうざいな。 「そうだ佐倉、お前に言いたい事があるんだ?」 「あぁん?」 自分のチームに戻ろうと思ったところで、久遠に呼び止められる。 「今日の試合で、俺が勝ったらさぁ山口さんと付き合っていいか?」 「…はぁ?」 なに言ってんのこいつ? 「ちょっと加瀬君! ふざけた事言わないで! 英雄、行こう!」 沙希が俺の腕を引っ張り、この場から立ち去りたがっている。まぁそらそうだ。正直キモいもん。 だが、俺を馬鹿にするような笑みを浮かべる久遠を見て、なんか無性に腹が立った。 俺はその沙希の手を振りほどき、久遠と向き合った。 「どうだい佐倉? その方が、お前も余計にやる気になるだろう?」 「あぁ良いぜ」 「ちょっと英雄!」 俺の言葉に、沙希が戸惑う。久遠の顔はさらにうざったい笑顔になる。 「そうこなくちゃ! お手並み拝見と行こうか!」 「お前、お手並み拝見の意味知ってて使ってんのか? 中学の頃、お前より馬鹿だった俺でも知ってんだぜ? もうちょい使い方も学習しろよ」 お手並み拝見とは、格上が格下相手に言う言葉だ。 なので、こいつが使うと意味が違ってくる。 久遠の顔から笑顔が消えた。 「久遠、てめぇと沙希を付き合せねぇよ。お前らはここで負けんだからな」 ジッと俺は久遠の顔を睨みつける。 舌打ちを漏らす久遠。 「っち! 見てろ佐倉! 中学の頃の俺と一緒だと思ったら間違いだからな!」 そう捨て台詞を吐いて立ち去る久遠。 それ、どう聞いても負け犬のセリフじゃねぇか。 「馬鹿英雄! なんであんな約束すんのさ!」 どうやら沙希は、俺の勝手の行動にお怒りのようだ。 「別に俺らが勝つんだから、あんな約束しても別に平気だろう?」 俺は歩きながら、そう言って溜め息を吐いた。 「任せとけ沙希。俺が、久遠なんかに負けるわけがねぇよ」 そうひと言、こっちを向いた沙希に言った。 沙希は「…うん」と言いながら小さく頷いた。 余計に負けられない試合になったなぁ。まっいっか。ついでだついで。 ≪前 HOME 次≫
https://w.atwiki.jp/macrossf-eparo/pages/191.html
266 :胡桃に酒?1アルラン :2009/01/15(木) 15 04 51 ID /YLybNhY 初めましてです。いきなりランカ片思い風味の、アルランです。 思いっきり俺主観のランカなので、広い心でよろしくお願いします。 美星学園の履修方法が分からんので、俺都合です。 ※エロありません、すんません。 アルトを探して食堂に行ったランカは、見つけると「アルトくん!」と弾んだ声で駆け寄った。 「アルトくん、履修票もう出した?」 今日、美星学園の生徒たちは、後期の履修届けを出すためだけに登校している。 「いや、まだだ」 もう決めたけど、とアルトは登録カードをひらひらさせた。 「ほんと。どれにしたの?見せてっ」 ランカは覗き込んだ。選択科目は出来るだけアルトと同じ授業を取りたいと思っている。 「パイロットコースは履修科目があらかた決まってるからな。 お前はもう決めたのかよ?」 ううん、まだ、と答えながらランカはアルトの履修予定科目に眼を走らせる。 「航空宇宙制御工学・・・飛行力学・・・宇宙電波工学、どれも難しそう」 「必修なんだよ。ま、お前には縁のない科目だ」 「・・・これ、あたしも取ろうかな」 はあ?とアルトが聞き返す。 「選択科目。アルトくんと同じにしたいし」 いそいそと登録票に書き込むランカに、アルトは「ばか」と言った。 「応用科目もあるんだぞ、今更取ったってお前が付いていけるもんか」 「大丈夫、頑張るもん」 「あのな、他の頑張れ。芸能コースの映像学とか、芸術学とか、色々あるだろ」 「それはそれで取ってるよ。選択科目は自由でしょ、アルトくんと一緒の受ける」 鼻を膨らませて言うランカを、アルトは困惑して見返した。 「それに、パイロットコースのシェリルさんもアルトくんと同じ履修科目なんだよね・・・? ずるいよ、シェリルさんばっかり。あたしだって、アルトくんと同じ勉強がしたい」 真剣に言い募るランカを見下ろしながら、アルトは理解に苦しんだ。 「ずるい?お前の言ってることが分からん。俺と同じ授業取って何か変わるのか」 「変わるよ!全然違うよ」 どう違うのかを言葉にすれば、逆にアルトを怒らせることになりそうだと ランカにも分かったので、口にはしなかった。片思いの女の子が披露できる恋の利点なんて、 かなしくて話せたものじゃなかった。 「お前は学校に何しに来ているんだ」 「それは・・・、ア、アルトくんに会うために、来てるよ」 スカートの裾をいじりながら、もじもじと言うランカを、奇妙なものでも見るようにアルトは眺めた。 一世一代の告白をやってのけた気分のランカは、誇らしげに上気した顔で前方を見ている。 「じゃあ、もう目的は達成したな」 「それだけじゃないよ、もっと一緒にいる時間を増やしたい。だから、同じ科目を・・・」 それ以上恥ずかしい台詞がランカの口から出てくる前に、アルトは急いでさえぎった。 「いや、分からん。なんでそんな無駄な時間を過ごせるんだ? 自分に必要な知識や経験を積む時間が、目の前に用意されてるんだ。それをお前は・・・」 俺と一緒にいたいが為に、という言葉は自分で言うのもナニなのでアルトは省いた。 「・・・棒に振るんだな」 真っ当なことを言われて、ランカは返答に詰まった。 理屈じゃないのだ。例えば、今こうしてアルトと喋っているこの時間は、 ランカの人生を構築する上で必要不可欠な、あらゆる経験値と引き換えにしても、 お釣りがくるくらいだった。それがアルトには分からない。こういうランカの行動理念は、 いつも「バカ」とか「変」とかいう言葉で片付けられた。 「だって、アルトくんが好きなんだもん」 そう囁かれて、アルトはカッと顔に血が上った。こんなこと、よく恥ずかしげもなく言えるなこいつ、 と動悸がするやら照れくさいやらで、それを隠そうとしたため余計に眉間のしわを刻むことになり、 ランカにはそれが怒った表情に見え、おののいた。 恋愛で極端に視野が狭くなっている状態のランカの価値観を、 アルトにはとうてい分かるはずもなかった。また、ランカもただただ必死な面持ちで アルトを見つめることしか出来ず、お互いの間に妙な空気が流れた。 「・・・バカバカらしい、勝手にしろ」 アルトが溜め息と共につぶやいて、「はい・・・」とランカがうなだれた。 「くだらん」と続けて言われて、くだらなくなんかないよ、と口をとがらせた。 今度のことだって、何も勢いで決めたことでは無かった。 留年の危険性と、アルトと一緒にいる時間を天秤にかけ、一昼夜悩んでランカが出した答えだ。 それを、想い人は「くだらない」の一言で一蹴出来る。 片思いって辛いなあ、とランカは思うのだった。 「言っておくが、単位落としてもしらんからな」 少々冷たいアルトの言い方に、ランカは虚勢を張る。 「大丈夫だよ、ちゃんとついていくから」 「ノートみせろ、とか言うなよ。俺は助けないぞ」 「う・・・、いいもん」 「おまえ、当てにしてただろ」 アルトに白い眼で見られて、慌てて言い返した。 「しっ、してないよ!」 本当は、ノートの見せ合いっこや、勉強教えてもらったりの甘い時間をちょっぴり期待していた。 ともあれ、アルトの授業カリキュラムに合わせることは、成功したのだ。 ランカの気分は、浮上した。浮上した拍子に「シェリルさんに負けたくないもんね」 と鼻息と共に独り言も洩らしてしまった。 シェリルにねぇ、と聴くつもりもなかった独り言まで聴いてしまったアルトは首を振った。 シェリルに負けたくないんなら、他にもっと別のやりかたがあるだろうと思う。 張り合う方法を間違えている。 アルトの疑問符はもっともだった。ランカの愛情表現は、相手にどうすれば好いてもらえるかと いうことより、自分がどうしたいか、を常として行動された。 それが、吉と出る時もあれば、凶と出る時もある。 「お前はさ、お前にしか出来ねーことで、輝いてりゃいいのにな」 立ち上がりざま、アルトが頭にぽん、と手を置いた。 頭に手を置いてもらったので、思わぬラッキーイベントにランカはびっくりしてアルトを見上げる。 「履修するからには、ちゃんとやれよ。シェリルはああ見えて頭がいいし、 たまにしか来ねーけど、やることはやってるぜ。真剣に取り組んでる。 不純な動機で受けて、後で後悔するようじゃあいつには勝てないぞ」 言ってからはっとしたアルトは、変な意味に気取られなかったかとランカを見た。 「そうだよね・・・」と、ランカは再び、単純にしょぼくれている。 アルトは急いで咳払いして、取り成すように付け加えておいた。 「別に、お前が勝とうが負けようが、俺は知ったこっちゃないがな」 そうだよね・・・、と両手で頬杖をしたランカは窓の外を見ながら、はぁ~と溜め息をついた。 終 ※続きは5-359
https://w.atwiki.jp/bo-dorowa2/pages/61.html
「現在地はこの辺か……」 地図を眺めながら呟く財宝(トレジャー)ハンターの少年ザック。彼は現在城の中でなく、外にいた。 それと言うのも、彼が持ち歩いている「喋る魔法の剣」ことソーディアン・ディムロスがあまりにも口煩かったからである。 やれ「何時まで引きこもっているつもりだ」だの「外に出て状況を確認すべきだ」だの口出しされたものだから、わーったよ外出りゃいいんだろ全くよー。とザックは城内探索を切り上げて外に出たのだ。 (まるで別々の国みたいに城がある町が二つ。聳え立つ火山に意味ありげな塔。オマケに雪野原?) さっきは流し見程度だった地図を、今度はしっかりと脳に焼き付けて、お得意の思考能力をフルに発揮するザック。 (……おいおい、冗談だろ。まるでミニチュア化した一つの世界みたいじゃねーか) 時折地図の表面を指でなぞりながら、ザックは尚も思考する。 彼の特徴の一つとも言える真っ赤なスカーフの下で、しっかりと彼の首を捕えて離さない首輪。爆発する機能があるらしいそれは、出来ることなら一刻も早く体から離したい。 付けられた覚えの無い、何時の間にか付けられた首輪。見知らぬ大陸。集められた集団。殺し合い。 (ちょっと、お宝とか言ってる場合じゃねえかもな……) 『おい、ザック。何時までここに留まるつもりだ? まさかまだ城に未練が……』 「分かってるっつーの」 ――元の場所に戻れたら売り飛ばしてやろうか。 そんなことを考えながらザックは歩き出した。 * * * 『――そういえば、お前は何故宝を集めるんだ?』 「なんだよ、いきなり」 城下町を探索するザックにディムロスが問いかける。コアクリスタルがちかちかと光るのを見て、ザックは心底うっとおしそうに、溜め息を吐いた。 『知っている奴に、お前と似たような職種の奴がいたのでな。金目の物を集めるという点では同じだろう』 「……なんでそいつは、金目の物を集めてたんだよ」 『自分が住んでいた孤児院を守る為だそうだ』 「はっ」 そうかよ、とザックは言う。 「オレはそんな涙を誘うような理由じゃないぜ。世界一の財宝ハンターになりたいから、宝を集めてるんだよ」 『……そうか』 それだけ言うと、ディムロスのコアクリスタルは輝かなくなった。 もっと聞きたいことはあったが、出会って間もない相手に、しかも年端もゆかぬ少年にあれこれ聞きだすのもいかがなものかと思ったのだ。 それに、なんとなく彼には人に言いづらい事情があるような気がした。 ディムロスの持ち主だったスタン・エルロンよりもずっと年下に見えるこの少年が、財宝ハンターなんてしているのがそもそもディムロスにとっては妙だった。 だが、ディムロスにそれを無理に聞き出す権利は無い。 そもそも、聞いても彼は絶対に答えないだろう。彼は、ザックはそういう性格なのだ。 「……ん?」 『どうした? 何か見つけたのか?』 地面に見つけたのは真っ黒なライン。所謂タイヤ痕という奴なのだが、ザックからすれば「車輪が転がったような妙な痕が続いている」みたいな認識だ。 ――もしかしたら、このラインの先に誰かいるのかもしれない。 ザックはその黒いラインを辿って走り始めた。 多少入り組んではいるものの、狭い道ではないのでラインを追うのはとても簡単だった。 (まあ、確かにこのぐらいの道幅なら、車ぐらい通れそうだな。……しっかし、なんでこんな黒い痕がベッタリついてんだ?) どうでもいいが、このザックの言う“車”はエンジンで動いて黒いゴム製タイヤが転がる方の車でなく、甲虫の力で引っ張る馬車のような形態を指している。 飛行船があるのに、遊園地があるのに、車は虫力(ムシリキ)。科学と中世とファンタジーが微妙な入り混じり方をした世界に住んでいたザックだった。 (車輪に黒ペンキでも塗ってたのか?) 更にラインを追って角を曲がろうとして、ザックは慌てて踏み止まり、隠れた。 人影があった。ザックがこの殺し合いに巻き込まれて、初めて出会う人間。 『……今、人間がいなかったか?』 「パッと見た限り長い髪の奴が一人に、変なガラクタが一つ。あの黒い痕の正体は多分あのガラクタだな」 『どうするつもりだ? 相手が殺し合いに乗っている可能性もあるが』 「そんときゃ、財宝ハンターの交渉術を見せてやるよ」 『交渉が上手くいかなかったら?』 「ここに来るまでの道のりは全部頭に入ってる。お前の晶術とかいうので適当に足止めしてから逃げりゃいいだろ」 何か反論してやろうとしたディムロスだが、ザックはそれを許さないかのように「頼りにしてるぜ?」と言ってニヤリと笑う。 それを聞いたディムロスのコアクリスタルからは、まるで溜め息を吐くような声が聞こえた。 「――そこのあんた」 ザックが声をかけると、長い緑髪の青年がはっとしたように振り向く。 背が高く、しっかりとした体つき。ザックよりも年上なのは一目瞭然だが、相手が年上だからといって怯むザックではない。(寧ろ彼が今まで喧嘩を売ってきた相手の殆どが年上だ) 「オレは殺し合いに乗ってない。あんたさえ良ければ話を――」 ザックはそこまで言いかけて、あることに気づく。 派手な色の“ガラクタ”に、何かが居た。 【場所・時間帯】B1・袋小路・朝 【名前・出展者】ストレイト・クーガー@スクライド 【状態】壁に激突。頭を強打するが特に異常は無し 【装備】車(大破) 【所持品】西瓜・不明所持品1つ 【思考】基本・最速で帰還する 1,どこだよココ… 2,ひとまず車から降りる 3,味方になるヤツを探す 4,敵は最速で撃破 【名前・出展者】ティトレイ・クロウ@テイルズオブリバース 【状態】若干混乱しているが健康。 【装備】小型ボウガン 【所持品】不明所持品2つ 【思考】基本・打倒主催者 1,サンドイッチかよ! 2,2人に何かしらの対応 【名前・出展者】ザック@甲虫王者ムシキング~ザックの冒険編~ 【状態】正常 【装備】ソーディアン・ディムロス@テイルズオブデスティニー 【所持品】基本支給品一式、不明支給品×1~2 【思考】 基本:殺し合いに乗るつもりはない 1:って、2人いたのかよ! 2:とりあえず緑髪の奴(ティトレイ)と話をする。もし殺し合いに乗っていたら逃げる 3:あのガラクタ、高く売れるかな ※ディムロスから晶術の知識を得ています 【名前・出展者】ソーディアン・ディムロス@テイルズオブデスティニー 【思考】 1:上手くいくのか……? 2:出来るだけザックに助言する ※ロワ内では誰でもソーディアンの声を聞くことが出来ます ※また、威力は落ちるものの晶術の使用も可能です 前の話 038 馬鹿と天才は紙一重 次の話 040 殺戮に酔う
https://w.atwiki.jp/sousakujojis/pages/176.html
(お正月!もちもちパニック!和スイーツ!) 更新日:2020/04/16 Thu 10 35 56 タグ一覧 お正月・・・大人は何かと忙しいこの年始に、アンコはのんびりとぜんざいを作っていた。 何せアンコは子供。今はお正月休み中なのだ。 グツグツと甘い匂いを漂わせる鍋を見て、アンコの口許は思わず緩んだ。 黒い鍋から見える小豆、小豆の海から浮島のようにも見える真っ白な餅。 あんこの海で溺れているこの餅をお玉で掬い上げ、お椀に写す。再度溺れる餅。掬い上げる箸。口に消えていく餅。 刹那に広がる食感。咀嚼する度にぐにぐにと歯にくっつく餅。飲み込んだ後の余韻。お腹に広がる汁の温かみと満足感。 アンコは満足して溜め息をついた。 そのすぐ後、コンコンと部屋の扉がなり、誰だろうかと開けてみると、一匹の猫が飛び込んできた。 猫はアンコの足にスリスリと頬を寄せると、咥えていた手紙を床に落とした。 『アンコへ、明日うちで餅つき大会をやります。良かったら来てね! プラム』 手紙を見たアンコは、ぱぁっと顔を明るくし、明日に備えて直ぐ寝ようとベッドに潜り込むのだった。 「あ~!お姉ちゃん、アンコ来たよ!」 オウマがトキに、六人目の娘の声が響いた。 「あらあら明けましておめでとうアンコちゃん♪」 出迎えてくれたプラムやメローナに挨拶しながら、アンコは店に入った。店内は正に正月モードと言うか、テーブルやイスが全て片付けられ、まるで広間のようになっている。 「あ、他の方もいらっしゃるんですね」 アンコが辺りを見渡すと、自分と同じアルバイトの人が来ていた。 「ええ、ヤスカタさんもジュジィさんも淡雪さんも、呼んだら直ぐに来たわよ」 几帳面な性格のフロートがそう答える。 「お餅つくとき、この子を使っていいから」 話題に出されたのに気づいたのか、ヤスカタが側に寄って言う。彼女の横には、猫耳と尻尾を生やした男の子が立っている。 「ラビオだ。きまぐれでヤスの手伝いしてる」 その男の子はそう言って握手を求めてきた。 「私はアンコです」 「よろしくな、アンコ」 「ええ」 そんなやり取りをした後、餅つき大会は開始された。 餅をつく係りはラビオ。合いの手はのじゃロリ猫が担当し、トッピングや調味料を用意する係りはシトロンとマーマレード。 「シトロンはやらなくていいよ。転んだりしたら大変だから」 「ご、ごめんなさい。マーマレード」 アンコは自分もなにか手伝えないかとメローナに聞いたのだが、 「アンコちゃんはいいのよ~♪普段たくさん料理してくれてるんだから、今日くらい休んで♪」 と言われてしまった。 「おいのじゃ猫!合いの手間際につまみ食いすんなよ!」 「のほほほほほ!良いではないか良いではないか♪」 「こらぁぁぁぁぁ!のじゃロリィィィ!」 ラビオとのじゃロリ猫、そしてそれを注意しに秒で来たフロートのやり取りが辺りに響く。 「あらあら♪こんなこともあろうかと、たくさん買っててよかったわ~♪」 メローナはそう言って、皿に乗せてあるたくさんの餅米を見たのだった。 「こ、これは流石に・・・」 「あらあら、買いすぎたかしらね~」 頭を押さえて唸るフロートに、朗らかに告げるメローナ。 その目の前には山のように盛られた餅があった。単純に皿に山のように盛られている訳ではなく、本当に山のような餅なのだ。分かりやすく言うとオウマがトキの店内の4/1が餅で埋め尽くされた。 これだけの餅をついたラビオは床に倒れ、合いの手をしつつ摘まみ食いをしていたのじゃロリ猫は、もう餅は食べ飽きたと言わんばかりに座り込んで目を固く閉じて押し黙っていた。 フロートは今年最初の大きな溜め息をつき、アンコの方へ顔を向けた。 「アンコさん。休み期間に悪いんだけど、この餅を調理してくれない?」 フロートは申し訳ないというような感じだったが、これはアンコの大得意な分野だ。 だからアンコは満面の笑みで返事した。 「はい喜んで!」 材料を取りに一旦家に戻り、色々な道具や食材を抱えてオウマがトキに舞い戻った。 厨房を借りて二つの鍋を火にかけ、小豆と醤油を入れる。 「先ずはぜんざいと雑煮を作ります」 アンコは手際よく菜っぱを切りながら言う。 「あのあの、わ、私も手伝います」 「わたしもやります」 声をかけたのはシトロンと逆吊様だ。 「ありがとうございます!それでは沸騰したお湯から小豆を取り出して選別してください」 逆吊様とシトロン(そして姉にくっついてきたマーマレード)が鍋の方に行く。 「あたいも何か手伝えることないかな」 「アイベリーちゃんは私と一緒にお皿を出しましょう♪」 「あ、私もやるよ~♪アイベリーお姉ちゃん!メローナお姉ちゃん!ピオーネとヤスカタも一緒にやろ~♪」 「ええ、あなたは正月から元気ね。プラム」 「………がんばる…」 それを見て自発的に動くもの。 「おうおう、やっとるの~!」 「あ、また眠く・・・zzz」 「コラコラ!二人も手伝いなさい!」 のんびりしたいものとそれに発破をかけるもの。 「うっ、これほどの餅をつくことになるとは・・・」 早くも筋肉痛に苛まれているもの。 オウマがトキは、正月休みでも賑やかであった。 「はい、お待たせいたしました!」 アンコが元気にそういうと、周りから歓声が上がった。 テーブルに置かれた二つの鍋にはぜんざいと雑煮が、皿には沢山の焼き餅と調味料。きな粉、よもぎ、あんこに醤油。 「ねえ、こっちのは何?」 フロートが指したのは餅の塊のようなものが入っている皿だった。 「お餅の中に色んなフルーツをいれてみたんです。苺やメロン。あとオレンジとか。さあ皆さん。どうぞ食べてみてください」 アンコは腕を広げ、心底嬉しそうに言うのだった。 「うわぁ~!凄く美味しいよぉ!」 「プラムお姉ちゃん…ほっぺについてるよ…」 「あはは!ありがとうピオーネ!」 自分の作ったスイーツを食べて笑顔になる人を見ると、アンコの心はいつも暖かくなった。さっきから配膳に徹しているが、全くお腹が空かない。 「メローナさん、ヤスカタ先輩、おかわりありますよ」 アンコの声に、メローナはキラキラした瞳を向けた。 「アンコちゃん、和菓子作りが得意なのね♪おぜんざいも焼き餅もクリームあんみつも、とってもおいしいわ~♪」 「和スイーツってあんまり食べた事無かったけど、凄く美味しい・・・また作って」 メローナは見計らったように提案した。 「あのね、実は新メニューを出さないか考えていた所なんだけど、このあんみつ、出してみない?」 「はい喜んで!」 アンコの嬉々とした声が、オウマがトキに響き渡ったのであった。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2931.html
「あんた誰?」 ルイズは愕然としていた。聖獣や幻獣を呼び出すはずのサモン・サーヴァントで、よりにもよって人間の男を召喚してしまったのだ。身長は自分よりも少し高いだろうか。少し長めの茶色の髪と、不思議な眼をした少年だった。 周りでは、事態を分かり始めた生徒達から笑い声が聞こえ始めていた。 「おい!ルイズ!人間の使い魔なんて聞いた事ないぞ!」 「さすがはゼロのルイズね!アハハッ!」 「しかも見たところ平民ときたもんだ!笑うしかないだろう?」 笑い声が増えていく。ルイズは顔を真っ赤にしながらコルベールに怒鳴った。 「ミスタ・コルベール!もう一度召喚させてください!」 コルベールと呼ばれた、頭の禿げが妙に目立つ男が表れた。 「それは無理だ。ミス ヴァリエール。伝統であるとともにこれは神聖な儀式だ。二度は許可できない。彼を使い魔にしたまえ。」 「そんな…」 ルイズは落胆し、がっくりと肩を落とし溜め息をついた。 早瀬浩一は混乱していた。 わけが分からない。ここはどこだ!? 俺はさっき、JUDA本社の屋上で城崎を護るためにラインバレルを呼んだはずだ…。なのになぜ!?つか、こいつら誰だよ!? 浩一の前には女の子がいた。桃色がかかったブロンドの髪と、鳶色の瞳が特徴的な背の低い可愛い女の子だった。 彼女は禿げたおっさんと口論をしていた。 「そんな…」 肩を落とし溜め息をつきながら彼女が近付いてきた。 「あんた、名前は?」 「は、早瀬浩一…、つかどうなってんの?城崎は?アルマ達はどこにいったんだよ!」 「…ハァ?ワケ分からない事言わないで頂戴。」 「それはこっちの台詞だ!!一体俺はどうなってんだ!?」 「うっさいわね!ちょっと黙って!!………あと感謝してよね、貴族にこんなことされるなんて、平民のアンタじゃ一生ありえないんだから」 「(…は?)」 彼女は顔を真っ赤にしながら自分に杖を向け、 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ!」 と唱えた後、ゆっくりと唇を近付けた。 「ちょっ、えっ、」 抵抗する間も無く、ソレは自分の唇と重なった。 「(ン――――――!?)」 あまりの出来事に唖然としていると少女は禿げさんに終了の旨を伝えた。 「コントラクト・サーヴァントはできたようだね。」「はい…」 「それは相手が平民だったから成功できたんだろ!」「そうそう。じゃなきゃ契約できるわけないよ」 契約?コントラクトなんとか?こいつらは何を言っているんだ?それゆりどうなってんだ? などと一人状況を認識しようとしていた浩一の腕に痛みが走る 「っぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!熱い!!」 すると左手の甲に不思議な痣ができる。 「うっさいわね。使い魔のルーンが刻まれてるだけよ!おとなしくして。」 「おや?珍しい形のルーンですね。メモをとらせてもらうよ。」 禿げたおっさんが呑気にメモをとっている内に、浩一はルーン顕現の痛みに耐えられずにあっさりと意識を投げ出した。 鉄の使い魔法 第二話 契約 「俺は――」 俺はルイズに説明した。 俺は多分この世界の人間じゃないこと。 俺は元の世界で、マキナという巨大な力で加藤機関という悪と戦っていたこと。仲間の事、地球はこちらの世界とは全然色んな事が違うって事。 「…マジ?」 「大マジだよ!だから早く元の世界に戻してくれ!」「無理よ」 「なんで!?勝手に呼んどいてそれはないだろ!責任とれよ!」 浩一は怒鳴った。今のJUDAでまともに戦えるマキナはラインバレルだけだ。俺がいなくちゃ城崎や森次さんに迷惑がかかる。 「じゃあアンタ死ぬ?」 「は?」 「主と使い魔の関係は、どちらかが死ななきゃ解消されないの。だから諦めて。」 「そんな…」 「仕方ないじゃない。わたしだって人間の使い魔なんて欲しくなかったわよ。それと、早くベッドからどいて。わたしが寝れないでしょ。」 浩一がベッドから降りたのを確認するやいなや、ルイズは何を思ったのか服を脱ぎ始めた。 「え…ちょ…ルイズ何やってんだよ!」 「何って着替えよ。別に使い魔に見に見られたぐらいどうって事ないでしょ。」 彼女からブラウスとスカートがふわりとはずれる。ほっそりとした肢体は今下着しかつけていない。 たまらず浩一は顔を真っ赤にしながら部屋から飛び出してしまった。基本的にウブなのだ彼は 「なんなのよ…まったく」 彼女は、明日の朝自分を起こす事と、衣服の洗濯をするようにという指示を書いた置き手紙をドアに張り付け、ベッドに潜り込んだ。 鉄の使い魔 第三話 自らの世界 部屋を飛び出した浩一は庭に出ていた。 「ラインバレルを呼べば通信が使えるかもしれないしね…」 ニヤリと笑みが溢れる。こんな変な世界には居たくない。早く地球に帰りたい。 彼は昂ぶる気持ちを抑えながら叫んだ。 「っ来い!ラインバレル!」 その言葉に応じ、白い巨躯がその場に顕現する!…………はずだった。 「っあれ?来い!ラインバレル!」 繰り返される言葉に反応は無い。浩一は焦った。 「来い!っ来いよ!迎えに来いよ!ラインバレルッ!!」 浩一の虚しい叫びが夜空に広がる。 その叫びに応えるモノは無かった。 「別世界には来れないってのかよ……、俺はここにいるしかないのか……。」 元の世界に戻るための鍵を失った浩一は絶望した。 外の寒さが体を舐めていく。 部屋に帰ろう。明日になればルイズよりすごい魔法使いなら俺を帰してくれるかもしれない。 そんな有り得ない希望にすがりながら彼はその場を後にした。 部屋のドアに貼られた手紙により、さらにその絶望が深くなる事も知らずに 鉄の使い魔 第四話 軽い絶望 番外編 浩一が先程から口にしているマキナと呼ばれる兵器の説明をしよう。 浩一達の住む世界に突如として表れた12体の巨大兵器、それがマキナ。 マキナと呼ばれる巨大な人型兵器は、単体では人間に危害を加える事ができない。 兵器として、いや人を殺すためにマキナは要因《ファクター》を必要とする。 言うなればファクターはマキナにとっての引き金だ。ラインバレルのファクターに選ばれたのが早瀬浩一だった。 今浩一が行おうとしていたのはラインバレルの召喚だ。 マキナとファクターの間には特殊なフィールドが存在している。 そのフィールドを経由することによりマキナはファクターの召喚に応じ、ファクターの下に瞬時に転移することが可能になる。 だがそれは元の世界でのは話。 ハルキゲニアでの召喚に足りないモノを少年はまだ気付いていない 鉄の使い魔 第4,5話 力の実態
https://w.atwiki.jp/dgrpss/pages/678.html
浴室用洗剤の泡と共に浴槽の水垢をシャワーの水で簡単に濯いでパネルの"湯はり"ボタンを押したらお風呂の準備は完了した。 後はお風呂が沸くまで待つだけとネクタイを緩めながらリビングに戻ると、響子さんが二人掛けのソファを独占するように横になっていた。 「あっ、ごめんなさい……。こんな行儀の悪い格好で」 「いいよ、そのまま足伸ばしてて。お仕事お疲れさま」 「あなたの方もお疲れ様」 申し訳なさそうに肘掛の部分に乗せていた足をどかそうとしたので、やんわりと止めておく。 長時間の運転で足が張っているのだろう。 少しでも早くその痛みから解放できるようにするのが支えるパートナーの務め。 お風呂が沸くまでのしばしの間、フローリングの床に座って待つくらい何のそのだ。 ~ キリキス vol.1 ~ 「響子さんの運転、隣で見ていたけどカッコよかったよ?」 「どういたしまして。久しぶりの運転に加え、左ハンドルではなかったから緊張したわ」 「けれどさ、いつ運転免許なんて取っていたの?」 「それは……日本に来日する前にハワイで取得したのよ」 「えっ、ハワイで?」 「当時ハワイ州は市民権を持てば短期間で自動車免許を取得できたの。筆記試験に合格すればすぐに仮免許が、一般道路での試験をクリアすれば直ちに発行してくれるわ」 「へぇ、そうなんだ……」 "自動車での尾行・追跡・逃走は探偵業には欠かせないじゃない――?"という理由に納得する。 ふと、目の前にある響子さんの脚に目が行く。 ほぼ一日中ペダル操作を行っていたことでいつもと違う足回りになっていることに気づく。 「ねぇ、響子さん……。ちょっと揉んでいいかな?」 「えっ……? い、いきなり何を言い出すの誠君?」 「あっ、ごめん。言い方が悪かったね、脚のことを言っているの」 「私の脚……?」 「うん。脚が張ってて何だか辛そうだから、揉んで少しでも疲れを取ってあげようと思ってさ。……ダメ、かな?」 「もう……。そんな顔で頼まれたら私が断れないじゃない……。いいわ、あなたの好きにして」 「ありがとう」 そう言って響子さんは両足をソファの肘掛け部分から僕の近くに下ろした。 まずは左右のふくらはぎの硬さを触って確かめてみる。 ――うん、右の方が左より若干硬いな。 次は左足の膝裏に両手を添え、親指でゆっくりと3回圧してみる。 「……っ」 「ごめん、痛かった?」 「……大丈夫。平気よ」 同じように右足の膝裏に手を這わせて、親指で3回圧す。 左足に比べて若干硬いので圧す時間は気持ち長めに。 今度は足首を圧す。足首の内側に出っ張っている骨とアキレス腱の間を3回。 それを左右2セットずつ行ったら両手で足首を掴んだまま、膝下まで引上げる。 最後に両足のふくらはぎの硬さを比較するため、もう一度触って確かめる。 ――うんうん。 クニクニと揉んで弾力具合を確かめてみると、マッサージする前と比べたら幾分か柔らかくなった感じがする。 「それで、整体師さん……。あなたの診療はこれで終わりかしら?」 「うん。後はお風呂に入って体全体の血の巡りを良くしよう」 「……ありがとう、誠君」 「どういたしまして」 そう言ってクスクス笑うと僕の息が脚にかかってくすぐったかったのか、彼女の足がピクリと震えた。 そんなリアクションを見て、僕の中に芽生えるイジワル精神がムクムクと湧き上がった。 彼女の右太股の内側を添えるように触れ、太股の外側にそっと唇を寄せてみる。 そして羽で撫でるかのようにそっとキスをしてみる――。 「……誠君?」 訝しげな呼び声に下から窺うように彼女と視線を合わせる。 「ダメ、かな……?」 「もう……」 先程と同じような確認を行うと、諦めにも似たような響きの溜め息が響子さんの口から漏れた。 それを僕は許可と受け取り、彼女の太股にキスの雨を降らせる行為に没頭した――。 舌でチロチロとゆっくりと丁寧に舐め、太股から脛へと降りていく。 時折ワザと音を立てるようにキスもしてみる。 ただの口づけ。 接吻。 キス。 幾度となく彼女と重ねた行為だというのに――。 普段触れたことのない箇所に唇が触れただけでこんなにも愛しくてたまらなくなってしまう。 僕の頭は既に霞がかって熱くなってしまう。 でも、やめられない――! 「……今度は私の番ね」 「えっ? ……うわっ!」 足の甲へのキスに没頭していたら、頭の上から響子さんの声が聞こえる。 "私の番――?"なんて疑問に思っていたら僕の体は素早くひっくり返された。 "パカー"と恥ずかしい姿の僕に響子さんが覆いかぶさる。 「ちょっと、響子さん?」 「あなたも甘んじて受けて……。いいわね?」 そう言って僕の右足の靴下をスルスルと脱がす。 そして僕の裸足に響子さんは顔を寄せてきて――。 「……っ、ぁぁあっ!」 「……フフッ」 僕のリアクションがご満悦のようで、彼女の目尻が緩む。 そして一指し指、中指と順番にキスをしてくる。 「ん、あっ、んくぅ、きょ、きょうこさ……ふぁっ!?」 あまりの恥ずかしさに目を瞑るのが拙かった。 今度は指と指の間を這うように舌先でなぞられる。 猫が皿のミルクを舐めるようにチロチロと――! 「や、やめてよ、響子さんってば!」 僕の悲鳴に似た叫びでピタリと止まる足の愛撫。 安堵の溜め息と同時に目を開けると、どこか不満そうな瞳で響子さんは僕を見つめている。 「あー、その、なんていうか、ほら……僕の足って汚いでしょ? 靴下の臭いとかも残ってさ」 「……あなたにされた行為をそのままお返ししただけじゃない。そもそも私達はそれ以上恥ずかしい箇所に触れた後もキスをするでしょう?」 「いや、確かにエッチの時にお互いのを舐めっこした後にキスはするけどさ……。あれは気持ちが昂ぶってたまらなくなるっていう「そもそも、この行為が汚いって言うならば……」 僕の反論を遮るように響子さんが二の句を告げようとした時、お湯が沸いたことを告げるアラーム音がリビングに響く。 「綺麗に洗い流せばいいじゃない?」 僕の手を取って起き上がらせてくる。 そして響子さんはその手を離さず浴室へと歩くのだった。 その行動でようやく気づいた。 僕だけじゃなく、響子さんも蕩けていたんだって――。 お互いスイッチが入っているだけに、これが只の入浴だけでは済まないことはわかっていた。 「ねぇ、響子さん。晩御飯はこの際だから手っ取り早くカップ麺でいいよね……?」
https://w.atwiki.jp/dora-eroparo/pages/122.html
こげ茶色のショートヘア。外側にはねている髪が、地面に足をつくたびにふるふるとゆれる。 洞沢希美香は足取りも軽く、笹本邸に向かっていた。 陽の光を受けると、わずかに青みが見える純黒色の髪。長い髪が風を受け、優雅にふわりと流れる。 綾城藍はいつものようにのんびりと、笹本邸に向かっていた。 「あ、藍さん!おはようございますですっ!」 「あ、希美香さん。おはようございます」 偶然藍と出会い、満面の笑顔でぶんっと頭を下げる希美香。 お辞儀で風を切る人間を初めて見た藍は、驚きながら自分も斜め45度で頭を下げた。 「今日は楽しそうですね、希美香さん」 「わかりますですか?えへへ、夕貴センパイのおかげですよー」 藍の表情にも微笑が出る。ああ、うまく行ったんだ、と。 「でも……ちょっと、センパイには……迷惑かけちゃいましたですけど」 でも希美香は力なく、苦い微笑みを浮かべる。 「いえ、大丈夫ですよ」 「?」 不思議に思い、明るく言った藍を見つめ返す希美香。 「夕貴さんは、どんな苦労をしてもどんな目に遭っても、迷惑とは思ってないはずですよ?」 藍はしっかりと確信を持って言った。 「……そういう人ですから」 「ああー、なんだか、わかる気がします……でも、甘えちゃいそうで怖いですね」 フフ、と笑いながら、藍は希美香と共に笹本家の門を開けた。 夕貴の両隣に藍と希美香3人並んでの、華やかな空気が周りにまでふりまかれそうな登校風景。 「あの、センパイ。お怪我の具合、どうですか?」 心配そうに希美香が訊ねてくる。 「怪我?」 藍は初耳だ。 夕貴は笑いながら手の平の巨大絆創膏を2人に見せた。 「ほら、包帯巻くまでもない軽い怪我だよ。心配いらないから、希美香ちゃん笑って笑って」 ぷにぷにと希美香のほっぺたをつつくと、照れながらとびきりの笑顔を見せてくれる。 「まさか……もしかして……」 藍が夕貴に視線を送ると、夕貴は気まずそうに頬をかいた。 「えーっと……あ、あはは。またやっちゃった。カッターナイフをね」 「……まさかとは思いましたけど、本当にそうだったんですか」 「?」 頭の上にクエスチョンマークを浮かべる希美香。 その希美香には藍が答えた。盛大に溜め息をつきつつ。 「夕貴さんは前にも刃物を素手で掴んだ事があるんです」 「ええっ!?」 深い溜め息をつきながら、藍は夕貴にだけ聞こえるように囁く。 「『がん錠』とか使おうとは思わなかったんですか?」 「あ、あはは。そこまで考える余裕なかったよ」 ……まったく、この人は……まあ、そんな所が好きなんですけどね。 藍は頬を染めて夕貴の袖をつまんだ。 学校では特に面白い事も起こらなかった。 夕貴がまた『モーテン星』やら『スケスケ望遠鏡』やらを使って女の子に悪戯した以外は。 そして放課後。 3人揃って下校し、今夜の夕食もまた綾城家に集まる約束をして別れた。 希美香はバイトがあるし、藍は藍で何か……ひみつ道具を使った事を企んでいるらしい。 「ふぃー、ただいまっと」 誰もいない家の玄関に鞄を放り投げ、靴も脱ぎっぱなしで自分の部屋に行く夕貴。 どうせまた鞄も靴も使うんだし。 ぼふっとベッドに倒れこんで、夕貴はうつ伏せのまましばらくじっとしていた。 今夜も、父も母もいない。 社会的に考えて、誰か世話しに来る人間がいてもいいのに。 父方の祖父母も母方の祖父母も健在らしいのに、あたしは顔すら思い出せない。 何か、子供にはわからない事があったのかも知れない。 今はもう、ずいぶん大人の事情も理解できるけど……何があったかなんて、調べる気もしない。 うちの親とその親の間に何があろうと、今のあたしには関係ない。 別に、寂しくもないし。 藍がいるし綾城兄……彼方がいる。 うちの親だって、何かあった時には頼れる親だ。正直、恵まれてると思うよ。 「何やってんだかな、あたし」 どうでもいい事を考えた。何か道具でも出して気分変えよう。 ポケットの中に適当に手をつっこんでみる。何が出るかは運任せ。 「……絨毯?」 グルメテーブルかけとかかな? 夕貴はその布状のものを引っ張り出した。 床に広がったそれの中央には魔方陣が描かれており、夕貴は怪訝な顔をする。 こんな道具、あったか?魔界大冒険じゃあるまいし…… と、周りがいきなり暗くなる。 「あ」 思い出した。 確かこれは『デビルカード』の…… ぽむ。 やたらと軽快な、と言うか間抜けな音を立てて、それは現れた。 「やあやあこんにちは、キミが新しい契約主かな?」 煙の中の悪魔を凝視する夕貴。 …………。 ………………可愛い。 明るい紫色のツインテールっ!スク水かと見間違うような薄地の黒レオタードっ! 14歳くらいの顔立ちにロリータボディっ!黒のロンググローブにハイニーソっ! 吊り目垂れ眉ってのもあたしの好みにストライクだし、 「おまけに無い胸を強調するように巻かれた革バンドが背徳的であたしの情欲を煽るっ!」 「ど、どこ見てんのー!」 悪魔っ娘は両手で胸を隠した。 「んで、早速だけどコレいらない?」 「いらない」 即答0.2秒。悪魔っ娘がデビルカードを取り出す間もない早業。 多少気勢を削がれたが、それでも交渉を続ける健気な娘。 「……せ、せめて説明だけでも……」 「ひとふり300円、使うごとに1㍉身長が縮むんでしょ。必要ないもん」 「それなら!」 ニヤリと笑みを浮かべながらカードをひとふりする。500円玉が3枚出た。 「ひとふり1500円!1万5千円出してもたった1㎝しか」 「いらないってば」 即答マイナス1.0秒。 「そこをなんとか……悪魔企業も不況で、ボクもこの仕事精一杯頑張ってるんだよ~」 夕貴の目の前でその悪魔っ娘はカーペットに額をすりつけんばかりに頭を下げた。 「置いとくだけでもいいから、どーかお願いっ!」 魔方陣の中から洗剤だのゴミ袋だのトイレットペーパーだのを引っ張り出してくる。 さすがに多少哀れだが、セールスを何度も断ってきた夕貴の心は揺らがない。 「もーボクにできる事ならなんでもするから!しっかりサービスするからさあ!」 「ほう」 キラリ。 そのセリフを聞いた夕貴の目が光った。 ……揺らいだとも言う。 まあ……物騒な道具も、人権のない女の子1人と引き換えなら悪くない契約かもしれない。 次話に続く 戻る 小説保管庫へ戻る
https://w.atwiki.jp/oreqsw/pages/1773.html
青年「はい終わり」 女性「長い」 青年「ですよねー」 女性「まあ、楽しかったがね。――ウォーロックといい情景といい、まるで見て来たかのようだ」 青年「そいつは結構。ゴシップだのなんだの混ぜた即興にしちゃ上出来だ」 いっそ物書きにでもなろうかね、などと軽口を叩きつつ、青年は作業を続ける。 女性「それで?」 青年「あ?」 女性「その後、彼はどうなったんだい?」 青年は少しばかり作業の手を止め、 青年「いや、死んだだろ。常識的に考えて」 女性「そうか?」 青年「そうさ」 また作業を始める。 だがまぁ、と青年は先置きして、 青年「案外しぶとく生き残ってたりするとお話的には『面白い』かもな」 青年「――よし、終わりっと」 □ 車に乗り込んだ女性が、青年へと話し掛ける。 女性「良い話が出来た、感謝するよ。紅茶も美味しかったしね」 青年「即興でも楽しんでもらえたなら重畳。あの茶葉は街で売っているから、気に入ったなら買っていくといいさ」 青年はメモ用紙に簡単な地図と店名を書き、女性に渡す。 青年「……実を言うとあれはオレ謹製のブレンド茶でな」 青年「バイト先がそこの店なんだが、店主に飲ませたら好評でな。今じゃ一番の売れ筋さ」 女性「へぇ……。『posto al sole』、いい名前だ、是非寄らせてもらおう」 女性はメモを胸ポケットにしまうと、少し溜め息を付く。 女性「それにしても少々残念だ。最後の最後まで気付いてくれなかったんだからね」 青年「は?」 女性はバッグの中から小銃用と思われる照準器を取り出し、自身の首に掛ける。 女性「まあ、ヒスパニアでは直接顔を合わせる事は無かったし、仕方ないか」 青年「あ゛!アンタまさかあの時の……!」 ガランド「ああそうそう、件の第501統合戦闘航空団だけどね、アレ、再編される事に決まったから」 青年「ハァ!?」 驚く青年をよそに、女性は車のエンジンを始動させる。 ガランド「任務はロマーニャの防衛。……もしかしたら、彼女とまた会えるかもね」 ガランド「君の『作り話』、楽しませてもらったよ。――それじゃあ、また縁があったら。『猛犬』クン?」 女性の車が砂利を飛ばしつつ、発進する。 後には立ち尽くす青年が残され――、 青年「……」 俺「…………マジで?」 俺「…………ま、まあ会うことなんて無いだろ。うん。この広いロマーニャで特定人物に会うなんてどんな確率だっての、ハハハ」 ~数週間後~ シャーリー「店員さん!これ2つ、……いや3つ!」 俺「はいはい、3つね。ついでにお茶のお代わりは――」 シャーリー「…………え?」 俺「………………あ゛」 ――これ以降は、また別のお話。
https://w.atwiki.jp/runner7novel/pages/91.html
放課後を迎え、鵡川とお勉強タイム… にはならず、俺は廊下を歩いていた。 鵡川から逃げたに近い。理由を話せば長くなる。 帰りのホームルームも終わり、鵡川が来て、勉強会が始まった。 今日の科目は英語。英語は、数学以上に苦手の俺。 でも、数学を分かりやすく教えてくれた鵡川の事だ。きっと今回も分かりやすく教えてくれるはず…だった。 しかし、俺は分からなかった。 どれくらい分からないかと聞かれたら、宇宙の先にある物並に分からない。 頭が混乱した俺は「俺には無理だあああああああ!!!」と叫びながら、教室から出て行った。 やはり英語だけは、俺の肌には合わない。 これじゃあ将来、メジャーリーガーになったら苦労するな。 なんて事を考えていると、廊下に教科書らしき物が落ちていた。 これが、美少女との運命の出会いになるんですね。分かります。 俺はそんなピンクな妄想を浮かべながら、教科書らしき物を拾う。 拾ってから気付いたが、教科書ではなく、スケッチブックのようだ。 名前を確認する。「山口沙希」と丁寧な字で書かれていた。 反射的に溜め息を吐いていた。 脳みその中で出来上がっていた、美少女のイメージ画が、いとも容易く粉々になっていく。 …しかし沙希の野郎。美術部の部長の癖に、なにスケッチブックを落としてるんだよ! けしからん! どんな中身か、俺が確認してくれる! スケッチブックを開く。 「あっ?」 思わず言葉が漏れた。そのスケッチブックに書かれている人物画の顔に、見覚えがあるからだ。いや…見覚えって言うか…。 どう見ても100%俺の顔です。本当にありがとうございました。 しかし沙希も暇だな。スケッチブックの大半が、俺の人物画だぞ。 笑っている俺の顔や、絶望している俺の顔…どれもこれも、俺にそっくりだ。 …沙希って、絵が上手いんだな。 とりあえず届けないとな。 美術室に行けばいるだろうか? ずっと前、沙希から聞いた話だが、美術部にとっての美術室は、ほとんど無意味に近いらしい。 俺は「美術部だし、美術室でやるんだろう」なんて思っていたが、実際はそうではない。 美術部に、野球部やサッカー部など、チームプレイなんて無い。 まぁ当然の事だが、自分の書きたいものを書くわけである。 なので、自分の気に入った景色などを書くため、様々な場所に散らばっている。 なので美術部員が、美術室に居るのは稀である。 沙希も居るか、心配でござる…。 もしかすると、俺はこのスケッチブックと、一夜を明かす事になるのか!? 美術室の前に来ると、室内からすすり泣く音が聞こえた。 俺は気付かれないように、美術室に忍び込んだ。 ≪前 HOME 次≫
https://w.atwiki.jp/souhatsu_youkai/pages/16.html
何も変わらない奴ら 東京ボルテクス、そう呼ばれた弱肉強食の世界に彼らはいた。 いつからそこにいたのか、それは彼らにはわからないし、わかる必要はない。 何故なら彼らにあるのは食欲だけであり、他の事はどうでもいいからだ。 彼らは外道ガキと呼ばれていた。紫色の腹だけが異様に膨らんだ姿をした彼らは常に飢えている。 故にこの場においても彼らのとる行動はボルテクス界となんら変わらない。つまるところ、捕食行動である。 今まで彼らが食べてきたのは野良猫や鼠などであった、が、今回は違う。 深夜、人の気配のしない裏道で、彼らは一人の男を取り囲んでいた。 胴の部分が人の顔を模している、血のように赤い鎧を着込んだ侍は、微動だにせず佇んでいる。 見るものが見れば、その一見無防備な体勢のどこにも隙が無いのが見て取れただろう。しかし、獲物を目の前にしたガキ達がそれに気づいている様子は無い。 「ウルィィィアァァァ!」 何体かのガキが獲物を八つ裂きにしようと飛びかかる。だが、それは叶う事は無かった。 一閃、何かが煌めいたと思った刹那、飛びかかったガキ達は上下に綺麗に両断されていた。 そして侍の手に先ほどの正体が、ゾクリとするような怪しい光を放つ日本刀が握られていた。 「うぬらは命がいらぬようだな、餓鬼共」 凄惨な笑顔を浮かべる侍と呼応するかの様に鎧の顔がゲタゲタと笑い声を上げた。 ここになって危機を感じた生き残りガキ達がその口を開けると、その口から白い霧が噴出した。 フォッグブレス。ボルテクス界で一部の魔物が吐ける霧を生み出す息。実力の違いを感じたガキ達は霧に紛れて逃げようとした。 だが、彼らの目論見は容易く崩れた。 「ウルァッ!?」 驚愕に満ちた声の後、ゴキリと鈍い音が響く、何かが斬られる音がする。霧の中、一体一体ガキが確実に葬られていく。 そして、最後に残った一匹の眼前から、巨大な腕が飛び出し、ガキを捕らえた。 「うぬで最後か……」 霧が晴れる、正面には侍、そしてガキを掴んでいる物は鎧の口から飛び出した巨大な腕。 「まるで手応えのない戦いであった。まったくつまらない時間を過ごした物だ」 不満そうに呟いた次の瞬間、ガキを握る手に力が込められ、ガキの体から握りつぶされた果物から溢れ出した果汁の様に血が噴出した。 物言わぬなくなった死骸を一別した後、それを投げ捨てて侍は溜め息をつく。 「次こそは斬り甲斐のある獲物がいればよいが」 彼の名はビシャモン、魔性の鎧ハンニャに憑かれた亡霊である。 目に付いた物全てを切り払う亡霊にとって場所がかわった事など些細な事に過ぎない。 ただ斬る為に、亡霊は今日もさまよい歩く。