約 109,465 件
https://w.atwiki.jp/oreqsw/pages/1773.html
青年「はい終わり」 女性「長い」 青年「ですよねー」 女性「まあ、楽しかったがね。――ウォーロックといい情景といい、まるで見て来たかのようだ」 青年「そいつは結構。ゴシップだのなんだの混ぜた即興にしちゃ上出来だ」 いっそ物書きにでもなろうかね、などと軽口を叩きつつ、青年は作業を続ける。 女性「それで?」 青年「あ?」 女性「その後、彼はどうなったんだい?」 青年は少しばかり作業の手を止め、 青年「いや、死んだだろ。常識的に考えて」 女性「そうか?」 青年「そうさ」 また作業を始める。 だがまぁ、と青年は先置きして、 青年「案外しぶとく生き残ってたりするとお話的には『面白い』かもな」 青年「――よし、終わりっと」 □ 車に乗り込んだ女性が、青年へと話し掛ける。 女性「良い話が出来た、感謝するよ。紅茶も美味しかったしね」 青年「即興でも楽しんでもらえたなら重畳。あの茶葉は街で売っているから、気に入ったなら買っていくといいさ」 青年はメモ用紙に簡単な地図と店名を書き、女性に渡す。 青年「……実を言うとあれはオレ謹製のブレンド茶でな」 青年「バイト先がそこの店なんだが、店主に飲ませたら好評でな。今じゃ一番の売れ筋さ」 女性「へぇ……。『posto al sole』、いい名前だ、是非寄らせてもらおう」 女性はメモを胸ポケットにしまうと、少し溜め息を付く。 女性「それにしても少々残念だ。最後の最後まで気付いてくれなかったんだからね」 青年「は?」 女性はバッグの中から小銃用と思われる照準器を取り出し、自身の首に掛ける。 女性「まあ、ヒスパニアでは直接顔を合わせる事は無かったし、仕方ないか」 青年「あ゛!アンタまさかあの時の……!」 ガランド「ああそうそう、件の第501統合戦闘航空団だけどね、アレ、再編される事に決まったから」 青年「ハァ!?」 驚く青年をよそに、女性は車のエンジンを始動させる。 ガランド「任務はロマーニャの防衛。……もしかしたら、彼女とまた会えるかもね」 ガランド「君の『作り話』、楽しませてもらったよ。――それじゃあ、また縁があったら。『猛犬』クン?」 女性の車が砂利を飛ばしつつ、発進する。 後には立ち尽くす青年が残され――、 青年「……」 俺「…………マジで?」 俺「…………ま、まあ会うことなんて無いだろ。うん。この広いロマーニャで特定人物に会うなんてどんな確率だっての、ハハハ」 ~数週間後~ シャーリー「店員さん!これ2つ、……いや3つ!」 俺「はいはい、3つね。ついでにお茶のお代わりは――」 シャーリー「…………え?」 俺「………………あ゛」 ――これ以降は、また別のお話。
https://w.atwiki.jp/runner7novel/pages/91.html
放課後を迎え、鵡川とお勉強タイム… にはならず、俺は廊下を歩いていた。 鵡川から逃げたに近い。理由を話せば長くなる。 帰りのホームルームも終わり、鵡川が来て、勉強会が始まった。 今日の科目は英語。英語は、数学以上に苦手の俺。 でも、数学を分かりやすく教えてくれた鵡川の事だ。きっと今回も分かりやすく教えてくれるはず…だった。 しかし、俺は分からなかった。 どれくらい分からないかと聞かれたら、宇宙の先にある物並に分からない。 頭が混乱した俺は「俺には無理だあああああああ!!!」と叫びながら、教室から出て行った。 やはり英語だけは、俺の肌には合わない。 これじゃあ将来、メジャーリーガーになったら苦労するな。 なんて事を考えていると、廊下に教科書らしき物が落ちていた。 これが、美少女との運命の出会いになるんですね。分かります。 俺はそんなピンクな妄想を浮かべながら、教科書らしき物を拾う。 拾ってから気付いたが、教科書ではなく、スケッチブックのようだ。 名前を確認する。「山口沙希」と丁寧な字で書かれていた。 反射的に溜め息を吐いていた。 脳みその中で出来上がっていた、美少女のイメージ画が、いとも容易く粉々になっていく。 …しかし沙希の野郎。美術部の部長の癖に、なにスケッチブックを落としてるんだよ! けしからん! どんな中身か、俺が確認してくれる! スケッチブックを開く。 「あっ?」 思わず言葉が漏れた。そのスケッチブックに書かれている人物画の顔に、見覚えがあるからだ。いや…見覚えって言うか…。 どう見ても100%俺の顔です。本当にありがとうございました。 しかし沙希も暇だな。スケッチブックの大半が、俺の人物画だぞ。 笑っている俺の顔や、絶望している俺の顔…どれもこれも、俺にそっくりだ。 …沙希って、絵が上手いんだな。 とりあえず届けないとな。 美術室に行けばいるだろうか? ずっと前、沙希から聞いた話だが、美術部にとっての美術室は、ほとんど無意味に近いらしい。 俺は「美術部だし、美術室でやるんだろう」なんて思っていたが、実際はそうではない。 美術部に、野球部やサッカー部など、チームプレイなんて無い。 まぁ当然の事だが、自分の書きたいものを書くわけである。 なので、自分の気に入った景色などを書くため、様々な場所に散らばっている。 なので美術部員が、美術室に居るのは稀である。 沙希も居るか、心配でござる…。 もしかすると、俺はこのスケッチブックと、一夜を明かす事になるのか!? 美術室の前に来ると、室内からすすり泣く音が聞こえた。 俺は気付かれないように、美術室に忍び込んだ。 ≪前 HOME 次≫
https://w.atwiki.jp/souhatsu_youkai/pages/16.html
何も変わらない奴ら 東京ボルテクス、そう呼ばれた弱肉強食の世界に彼らはいた。 いつからそこにいたのか、それは彼らにはわからないし、わかる必要はない。 何故なら彼らにあるのは食欲だけであり、他の事はどうでもいいからだ。 彼らは外道ガキと呼ばれていた。紫色の腹だけが異様に膨らんだ姿をした彼らは常に飢えている。 故にこの場においても彼らのとる行動はボルテクス界となんら変わらない。つまるところ、捕食行動である。 今まで彼らが食べてきたのは野良猫や鼠などであった、が、今回は違う。 深夜、人の気配のしない裏道で、彼らは一人の男を取り囲んでいた。 胴の部分が人の顔を模している、血のように赤い鎧を着込んだ侍は、微動だにせず佇んでいる。 見るものが見れば、その一見無防備な体勢のどこにも隙が無いのが見て取れただろう。しかし、獲物を目の前にしたガキ達がそれに気づいている様子は無い。 「ウルィィィアァァァ!」 何体かのガキが獲物を八つ裂きにしようと飛びかかる。だが、それは叶う事は無かった。 一閃、何かが煌めいたと思った刹那、飛びかかったガキ達は上下に綺麗に両断されていた。 そして侍の手に先ほどの正体が、ゾクリとするような怪しい光を放つ日本刀が握られていた。 「うぬらは命がいらぬようだな、餓鬼共」 凄惨な笑顔を浮かべる侍と呼応するかの様に鎧の顔がゲタゲタと笑い声を上げた。 ここになって危機を感じた生き残りガキ達がその口を開けると、その口から白い霧が噴出した。 フォッグブレス。ボルテクス界で一部の魔物が吐ける霧を生み出す息。実力の違いを感じたガキ達は霧に紛れて逃げようとした。 だが、彼らの目論見は容易く崩れた。 「ウルァッ!?」 驚愕に満ちた声の後、ゴキリと鈍い音が響く、何かが斬られる音がする。霧の中、一体一体ガキが確実に葬られていく。 そして、最後に残った一匹の眼前から、巨大な腕が飛び出し、ガキを捕らえた。 「うぬで最後か……」 霧が晴れる、正面には侍、そしてガキを掴んでいる物は鎧の口から飛び出した巨大な腕。 「まるで手応えのない戦いであった。まったくつまらない時間を過ごした物だ」 不満そうに呟いた次の瞬間、ガキを握る手に力が込められ、ガキの体から握りつぶされた果物から溢れ出した果汁の様に血が噴出した。 物言わぬなくなった死骸を一別した後、それを投げ捨てて侍は溜め息をつく。 「次こそは斬り甲斐のある獲物がいればよいが」 彼の名はビシャモン、魔性の鎧ハンニャに憑かれた亡霊である。 目に付いた物全てを切り払う亡霊にとって場所がかわった事など些細な事に過ぎない。 ただ斬る為に、亡霊は今日もさまよい歩く。
https://w.atwiki.jp/kuriari/pages/455.html
【クリアリ】クリフトとアリーナの想いは Part13【アリクリ】 332 名前 名前が無い@ただの名無しのようだ Mail sage 投稿日 2013/08/13(火) 00 17 45.70 ID Vx4e/Dh6O ――私、一体何をしているんだろう? いつもの私らしくない、 扉の陰で、身体を縮こまらせ、息を潜めて。 …こっそりクリフトの横顔を見ているなんて。 いつものようにクリフトを探しに教会に来て。 いつものようにクリフトの横顔を見つけて。 そしていつものように「何してるの、クリフト」 って声をかけるつもりだったのに。 だけど仕方がないと思う、だってクリフトの横顔がいつものようじゃなかったんだから。 教会の奥の部屋で見つけたクリフトは、本を読んでいるようだった。 でもページをめくる指は動かずただ一つのページだけを開いていて。 クリフトはそのページに真っ直ぐ視線を注いでいた。 その顔を目にした瞬間、何故だか私は息を呑み込んで、 ついでにかけるはずの声も呑み込んで、気づけば扉の陰に潜り込んでしまっていた。 癒しの呪文を唱えている時のように真剣で、 でもミーちゃんを撫でている時のように優しげで、 優勝おめでとうございます、って私に言ってくれた時の嬉しそうな顔に近いのに、 お城のみんなが居なくなった時の悲しそうな顔を少し思い出す、 そんな不思議で、複雑なクリフトの顔。 そしてそれはシンシアの事を話す時のソロの顔や お母様の事を語る時のお父様の顔にもとてもよく似ていた。 どうしてそんな顔をしているの? 一体その本の何があなたにそんな顔をさせているの? 問いかけの言葉はぐるぐると頭の中を回るのに、 私は扉の陰で一歩も動けないでいた。 一言でも声を出したり一歩でも歩いたりしたら心臓が破れてしまうような気がしていたから。 もっとも、クリフトがページを見つめていた時間はあまり長くはなかった。 遠くでクリフトを呼ぶ声が響いたから。 「早く姫様を探すんじゃ、クリフト」って。 ブライがまた私が抜け出した事に気づいたんだろう。 クリフトは返事を返しながら慌てて本を書架に戻すと、そのまま早足で部屋から出て行った。 はあ、と思わず漏れた溜め息は、きっと鈍いクリフトに呆れたからだ。 「……私の気配も感じ取れないんじゃ戦士として失格だわ!」 ――だから、そうよ、これは、お仕置き。 ちょっとプライバシーを覗かれる位、優しいものよね。 そんな理由を作ってから、私は書架からそっとクリフトの戻した本を抜き出した。 「ええと、確か、この辺りのページを見てたはずよね…」 ―――そしてページをめくる私の指が止まった。
https://w.atwiki.jp/vip_witches/pages/1960.html
青年「はい終わり」 女性「長い」 青年「ですよねー」 女性「まあ、楽しかったがね。――ウォーロックといい情景といい、まるで見て来たかのようだ」 青年「そいつは結構。ゴシップだのなんだの混ぜた即興にしちゃ上出来だ」 いっそ物書きにでもなろうかね、などと軽口を叩きつつ、青年は作業を続ける。 女性「それで?」 青年「あ?」 女性「その後、彼はどうなったんだい?」 青年は少しばかり作業の手を止め、 青年「いや、死んだだろ。常識的に考えて」 女性「そうか?」 青年「そうさ」 また作業を始める。 だがまぁ、と青年は先置きして、 青年「案外しぶとく生き残ってたりするとお話的には『面白い』かもな」 青年「――よし、終わりっと」 □ 車に乗り込んだ女性が、青年へと話し掛ける。 女性「良い話が出来た、感謝するよ。紅茶も美味しかったしね」 青年「即興でも楽しんでもらえたなら重畳。あの茶葉は街で売っているから、気に入ったなら買っていくといいさ」 青年はメモ用紙に簡単な地図と店名を書き、女性に渡す。 青年「……実を言うとあれはオレ謹製のブレンド茶でな」 青年「バイト先がそこの店なんだが、店主に飲ませたら好評でな。今じゃ一番の売れ筋さ」 女性「へぇ……。『posto al sole』、いい名前だ、是非寄らせてもらおう」 女性はメモを胸ポケットにしまうと、少し溜め息を付く。 女性「それにしても少々残念だ。最後の最後まで気付いてくれなかったんだからね」 青年「は?」 女性はバッグの中から小銃用と思われる照準器を取り出し、自身の首に掛ける。 女性「まあ、ヒスパニアでは直接顔を合わせる事は無かったし、仕方ないか」 青年「あ゛!アンタまさかあの時の……!」 ガランド「ああそうそう、件の第501統合戦闘航空団だけどね、アレ、再編される事に決まったから」 青年「ハァ!?」 驚く青年をよそに、女性は車のエンジンを始動させる。 ガランド「任務はロマーニャの防衛。……もしかしたら、彼女とまた会えるかもね」 ガランド「君の『作り話』、楽しませてもらったよ。――それじゃあ、また縁があったら。『猛犬』クン?」 女性の車が砂利を飛ばしつつ、発進する。 後には立ち尽くす青年が残され――、 青年「……」 俺「…………マジで?」 俺「…………ま、まあ会うことなんて無いだろ。うん。この広いロマーニャで特定人物に会うなんてどんな確率だっての、ハハハ」 ~数週間後~ シャーリー「店員さん!これ2つ、……いや3つ!」 俺「はいはい、3つね。ついでにお茶のお代わりは――」 シャーリー「…………え?」 俺「………………あ゛」 ――これ以降は、また別のお話。
https://w.atwiki.jp/kyotaross/pages/1361.html
良子「京太郎…暑いです…正直倒れそうです…何とかして下さい…」フラフラ と良子は息も絶え絶えに話す。 だが俺はどうしてもこう考えてしまう。 京太郎「いやそれ自業自得ですよね!?」 ちなみに服装 かいのーさん 黒スーツ 童帝ガースー 半袖ラフシャツ&七分丈 ふらふらになるのも当然だろう。真夏炎天下に黒スーツて。熱こもるわ。 京太郎「なんでそれで来たんですかもー!」 正にそれに尽きる。 良子「だって…久々のデートですし…気合いを入れてメイクアップしたくなるじゃないですか…」ユラユラ 京太郎「がんばる方向性違うでしょお!?」 とりあえずそのままでいるわけにも行かないので日陰にゴー。 ドナドナドーナードーナー。 しばらくのち、ようやく良子は落ち着いた。 良子「ふう…助かりました京太郎。私の彼氏は相変わらずグッドですね」 ありがとうよ。こんな所で褒められても嬉しくないけどな! 京太郎「しかし本当にどうしたんです?今日は遊園地に行くからラフな格好で来てくださいって言っといたのに…」 俺と良子の恋人期間は割と長い。これまで何度もお互いの家を行ったり来たりしているほどだ。その時にパジャマ以外で黒スーツしか服がなかったことは人生トップクラスに驚いたことである。 こういうときのために何枚か夏用の薄手の服を見繕っておいたのだがなぜ着てこなかったのかが分からない。 良子「だって……じゃないですか…」ボソボソ 京太郎「え?」 良子「だってそれを着たら京太郎以外の人に肌を見せてしまうじゃないですか…」 そう言った良子の顔真っ赤。俺の顔も真っ赤。 俺愛されすぎじゃなぁい? 良子「家でなら着ます。でも外ではあまり着たくありません…それでは駄目ですか…?」 俺の出した結論は。 京太郎「わかった。今日は帰ろう」 良子「え…?」 悲しそうな顔しないでくれ。まだ続きがあるんだから。 京太郎「今日は自宅デートにしよう。たまには良いだろ?そういうのも」 このまま涼しいところでゆったり過ごすのも乙ではあるがやはり良子の楽しんでいる、リラックスしている表情が見たいから。 そんな恥ずかしい理由でデートの内容を変えた。 良子「京太郎がそう言うなら…」 納得はしてくれたようだが何故か顔が赤い。 何でだろう? そんな顔をしていると。 良子「まさか気付いていないのですか?」ジトー その目はヤメテ。ツライデス。そして俺は 京太郎「ごめんなさいわかりません」 正直に謝った。どういうことなの。 そののち溜め息混じりに良子は説明してくれた。 その後、俺が赤面したのか良子が赤面したのかは秘密だ。 ただその時から俺たちの仲はさらに良くなったとだけ言っておく。 よしこちゃんは殉情乙女 これにてカンッ
https://w.atwiki.jp/vice2rain/pages/219.html
【仄暗い夜道の片隅で】 「殺してやる」 地を這うような声で、女は言った。 別段、何の変哲もない女だった。可もなく不可もなく、とりわけ美しくも醜くも無かった。暗い表情が濃い霧のようにのっぺりと顔の上に広がり、それが女の特徴をことごとく覆い隠しているのかも知れない――――ただ、眼だけが重く鈍く光って。 「殺してやる」 呟かれた言葉に、男は落胆した。 興が逸れたように、男の眼は急速に色を失った。醒めた瞳がいくら女を映し出しても、最早それは女を見てはいなかった。 チカ、チカリと青白い光が瞬いた。それに呼応して、夜も1度ゆらりと揺らぐ。 もし、本当にそれを望んでいるのなら。 決して口に出していいものではない。 この国には、古くから『言霊』という文化がある。遥か昔の人々は言葉にする事でその通りになる、と信じてきて、今でもその思想はひっそりと息づいている。 人が言葉を発する事でその言葉に力が宿り、その声により大気が震え、震えた分だけ確実に、外界に影響を及ぼす。言霊とはそういうものだ。 些細な事で、世界は変わる。 それはもう、呆気無いほどに。 それを男は経験で知っていた。 しかし一方でこうも思う。それは飽く迄受動態である時の話であって、能動態であった場合ではない。 つまり自らが起こすべき行動だとすれば、言葉を発する事によって、それはどんどん己から遠のいてしまうのではないか、と。 口にすれば口にする程、その想いは心から離れていく。 ならば、ただひたすらに内に秘め、一欠けらの想いも取り溢してはならないと。 そう、思うのだ。 ―――――殺してやる。殺してやる殺してやる殺してやる・・・・・・ 言葉を溢せば溢す程、その顔は悲哀に満ちていく。 そこで初めて、男の眼は再び女を捕えた。 「貴女には、無理だ」 男がそっと女の耳元で囁くと、女はいっそうその顔を悲愴に歪め、目尻から頬へと一筋の雫がつたった。 愛して、いたのに。 「・・・・・・そういう事は本人に言ってくれよな」 チカ、チカリと青白い光が瞬いた。雨も降っていないのに、一滴の水滴がその光に照らされて、コンクリートの上で微かに光る。 コンビニ袋を片手にぶら下げたまま、街灯の前にただ1人突っ立っていた男は、やがて小さく溜め息を吐いて闇の中へと消えていった。 了 以下どうでもいい話 読み手の事を一切考えずに、完全に自分の楽しみだけに書いた話。いや、そんな事言ったら私の小説なんか全部そうなのだけれど。 数年前に書き出してそのまま放置していたものを、今回唐突に思い出したので書きあげてみました。
https://w.atwiki.jp/jojoxixipage/pages/117.html
部屋の中に1人の男が座っている 年齢は50前後、ロマンスグレーの髪 一目見てそれと分かる上等なスーツを着こなしている 男は自分の前に設置されたカメラに向かって語り出した 『これは独白だ。 誰かに聞かせる為に記録を取っているわけでは無いが… まぁ私が『研究員』だった頃の名残りというヤツか… 私は十と余年前、スピードワゴン財団の研究室長を務めていた。 研究内容は『人工スタンド使い』 スタンド使いを作りだす事自体は決して難しくはない。 適正な者に矢による傷を与えれば良い。 しかし我々が求めたのは意図したスタンドを作り出す事だ。 スタンドは個人の意思が具現化したもの、よって当人の個性によってスタンドの能力が決まる。 研究は困難を究めたがある時、その難題は私自身に発現したスタンドによって解決された 私の能力、『記憶を捏造する』スタンドによって。 記憶を改竄する事により被験者の性格、思想をコントロールして望み通りのスタンド使いを作り出したのだ。」 男はテーブルの酒瓶を手に取り琥珀色の液体をグラスに注いで独白を続けた。 「そして私にとって最高傑作ともいえるスタンド使いが誕生した。 鉄男とホワイトだ。 二人の能力を使えば私が望む世界、『楽園』に手が届く その事に気付いた私は一計を案じた 鉄男のニルヴァーナで研究員を全て始末させ、私は近しい人間に『私が死んだ記憶』を植え付けて地下に潜りこみ死んだ人間に成り済ましのだ。 そして鉄男とホワイトに『楽園』を求める記憶を与えた。 後は待っていれば楽園の扉は開かれる筈…だった。 ジョエルという探偵風情の邪魔さえ入らなければ」 男はグラスに注がれたスコッチを煽り溜め息をついた。 「だが、私の計画は終わったわけでは無い。 私にはまだ沢山の忠実なる実験体、いや『可愛い子供達』がいるのだから… 子供達はきっと私を楽園に導くだろう。 その時、人類は新たなる地平を迎えるのだ。 私はただ、待てば良い。 この部屋で。 ただ1人。」 本体名 グリーン キャサリンの養父、一部の人間にとって『あのお方』と呼ばれる男 性格は冷静沈着、几帳面 自分以外の全ての存在を見下している スタンド名 パラノイヤワールド 目を合わせたスタンドの記憶を捏造して支配下に置く。 ただし、スタンドの使えない一般の人間にはまったく通用しない。 目的 楽園の扉を開く事。 楽園が開かれた時全ての人類はスタンド使いになる (スタンドを持つに耐えられない人間は死滅する) 全人類がスタンド使いになりさえすれば自分の能力で神の如き存在になれると盲信している。
https://w.atwiki.jp/easter630/pages/41.html
23 本当は嫌だった。 さゆりちゃんが…って訳じゃなくて、夏祭りが嫌だったんだ。 だって、あそこには美咲の思い出が詰まっているから。 さゆりちゃんに夏祭りを一緒に回ろうって言われた時、伊吹君なら止めてくれるんじゃないかって思った。 伊吹君はさゆりちゃんが好きだから。 自分の好きな人が自分以外の人とデートみたいな事をするなんて、きっと面白くないだろう。 伊吹君としては嫌な筈なんだ、なのにどうして止めてくれなかったの? 僕がさゆりちゃんとデートしても良いのかな…。 僕は伊吹君が止めてくれるのを待ってたんだ。 でも、それは間違ってる。嫌だったなら自分で断れば良かったんだ。 理由なんて幾らでもあるじゃないか。その日は用事があるだとか、やっぱり人混みは嫌いだからとか…。 なのに、断れなかったのは…、伊吹君に見捨てられたような気になったからだ。 伊吹君ならきっと助けてくれるような気がして――それが僕の為じゃなくて、自分の恋の為であったとしても――なのに助けてくれなかったら、何だかどうでも良いような気持ちになった。 何て自分勝手な僕。こんな気持ちじゃ、本当に喜んでるさゆりちゃんに申し訳ない。 でも、やっぱり苦手だ、夏祭りは。 だって、美咲は夏祭りが好きだったんだ。 あの雰囲気と空気と行き交う人の笑い声が好きだ、と美咲は言った。 四年前のあの日、美咲と行った夏祭り。 美咲が作ってくれた浴衣は僕は紫で、美咲は淡い水色だった。 二人で笑いながら出店を回った帰り、僕達は約束を交わした。 『来年も一緒に行こうね、夏祭り』 その約束は永遠に叶えられないものになった、。 だから、もう二度と行かないって決めていたのに…。 あの雰囲気と空気と行き交う人の笑い声は、美咲と共感出来ないなら好きだなんて思えない。 美咲がいなきゃ、楽しい事も嬉しい事も意味がない。心が動かない。 「…どうかしました?」 「え?」 伊吹君に声を掛けられて顔を上げると、店内には数人のお客さんと伊吹君しかいなかった。 さっきまできゃあきゃあと甲高い声を上げていたさゆりちゃんの姿はない。どこに行ったんだろう? 「さゆりちゃんは?」 「出前に行きましたけど…。ちゃんと瀬野さんに声を掛けて行ったでしょう。聞いてなかったんですか?」 全然気が付かなかった…。拙い、僕はちゃんと笑えていたんだろうか。 さゆりちゃんが出前に行った事も分からないほど、考え事をしていたなんて…。さゆりちゃんに変に思われたかもしれない。 …駄目だ、人前で考え事をするなんて。僕は直ぐに周りが見えなくなってしまうから。 笑っていなきゃ、他人に変に思われないように。 ごく自然に笑ってなきゃ駄目なんだ。 「伊吹君」 「はい?」 「どうして…」 どうして止めなかったの?さゆりちゃんと僕がデートしても良いの?――そう尋ねようとして、僕は口を閉ざした。 そんな事を尋ねるのはおかしい気がする。僕がさゆりちゃんとデートするのが嫌みたいだ。 確かに夏祭りだからってだけじゃなくて、他の人とデートするのは美咲に対する裏切りのようで嫌だけど…。 さゆりちゃんがデートって意味で僕を誘ったんじゃないだろうし…。だから、きっと伊吹君も止めなかったんだ。 …そうなんだよね?間違ってないよね? 「瀬野さん?」 「あ、何でもないよ。それより伊吹君は行かないの?お祭り」 「行きません…いや、行きますけど、俺は出店の方なんで。遊んでる暇は多分ないですよ」 「え、出店!?伊吹君、お好み焼きとか売るの?」 「お好み焼きじゃないですけど…。毎年、きくいちは出店を出してるんですよ。売ってるのはラーメンと冷やし中華と焼そばです」 そうなんだ…。商店街主催のお祭りでも、商店街以外のお店も出店を出せるんだ。 お祭りでラーメンって売れるのかな?暑いのに…、作る方はもっと暑いだろうなぁ。 「暑そうだね、僕手伝おうか?」 「…とんかつを『パン粉を付けて油で揚げた物』なんて言う人に、手伝って貰う事なんかありません。気持ちだけ受け取っておきます」 伊吹君は心底嫌そうな顔をして、そう言った。 何で!?まるで僕が料理出来ないみたいにっ。実際あんまりしないけどっ! 出来ないんじゃなくて、面倒だからしないだけだってば! 軽く睨み付けても、伊吹君は笑ってる。…絶対いじめっ子だ、この子。 「そーだよねっ!僕なんかいらないよね!おばちゃんと伊吹君とさゆりちゃんがいれば…って、さゆりちゃんと僕が遊びに行ったらやっぱり人が足りないんじゃないの?」 「いえ、一日くらいなら…。それに俺の友人が助っ人で入る事になってるんで」 「友達?」 「高校の時の同級生です」 伊吹君の友達かぁ。どんな人だろう? ていうか、ここの店員さん以外がきくいちのラーメンを作るのって想像が出来ないな…。 とにかく、手伝いをする事にしたら、さゆりちゃんとデートを断る口実になる…なんて考えは通用しないみたい。 ふう、と思わず溜め息が零れた。 「…行きたくないんですか?」 「えぇ?何が?」 「そんな事を言われると、何だかさゆりさんと祭りに行くの、嫌だって思ってるように見えますけど…」 す、鋭いなぁ、伊吹君。どうして分かっちゃうんだろ? 顔に出てるかな?僕、感情はあんまり顔に出ない方だと思うんだけど。 …だけど、本当の事は言えない。他人に知られるのが怖いんだ。 「そんな事ないよ?ただ、人混みがねー…」 「…今更行かないなんて言わないで下さいね。さゆりさん、凄く楽しみにしてるみたいなんで」 そうだよね、今更断るなんて僕には出来ない。だって、あんなに楽しみにしてるんだ、さゆりちゃん。 嫌だったんなら、最初から断れば良かったんだから。 だから、やっぱり行かなくちゃならない。 「うん、勿論行くよ。さゆりちゃんときくいちの出店に遊びに来るね」 「…来なくて良いですよ」 「な、何で!?どうしてそういう事言うの!?」 「たまにはラーメン以外の物を食べて下さい。色んな出店があるんですから」 伊吹君に呆れたように溜め息を吐かれる。 そ、それはそうだけど…。勿論行ったら行ったで、色んな出店を回るつもりだよ? だけど、きくいちの売り上げに貢献しようという僕の気持ちはどうなるんだよ。 伊吹君、冷たいんだから…。いや、僕の身体の事を考えて言ってるなら、温かいけどさ…。 「じゃあ、焼きそばにするよ。ラーメンじゃないし!」 苦肉の策として出した僕の答えに、伊吹君は苦笑いを浮かべた。 その表情から、僕に会うのが嫌な訳じゃないと分かる。 そんな伊吹君を見て、僕はまるで伊吹君に会う為の口実を作ってるみたいだ、って少し恥ずかしい気持ちになった。 僕の中に生まれたこの感情は何だろう? 答えはまだ見つからない。 Pre | Next
https://w.atwiki.jp/jujin/pages/388.html
内助の功 「はぁ……」 昼休み、職員室のデスクの上に、普段よりも小ぶりの弁当箱を置きながら、いのりんは珍しく大きな溜め息を吐いた。 普段は生徒を指導する身として、無闇に人前で弱気になったりはしないのだが、 今回だけは、落ち込んでいる様子を隠さない。 弁当箱の蓋を開けると、中に敷き詰められているのは、肉類を一切省いた、山菜などの低カロリー食品だ。 妻の心遣いは素直に嬉しかったが、この内容の弁当では、テンションが下がるのも当然だった。 箸を進める気にもならずに、ぼんやりとその弁当を眺めていると、職員室の扉がガラリと音を立てながら開く。 ヨハン先生に泊瀬谷先生に帆崎先生、昼前の授業を終わらせて、食事をしに職員室まで来たようだ。 「へぇ、ヨハン先生が昼休みこちらに来るなんて珍しいですね。いつも女生徒たちと昼食を食べてるでしょう」 「たまには教師同士の付き合いもまともにしろと、煩いのが一人いましてね」 不思議そうに問いかけるいのりんに、ヨハンはにこやかな笑顔を浮かべながら答え、帆崎を指差した。 「俺は正論を言ったつもりなんだけどな」 「分かってないな。生徒たちと至福の時間を共有する事が、教師としての本分ではないのかね」 「お前に正論言った俺が馬鹿だった」 帆崎は『やっていられない』とばかりに、気だるそうに首を左右に振り、ヨハンへの問答を終わりにする。 昼休みは長くはないのだ。時間を無駄にするのは良くない。 二人の意見を真剣に考え込んで、少し悩んでいる様子の泊瀬谷先生を尻目に、いのりんの机へと向かう。 「い~のりん、今日もちょっとばかし……」 誰かにお願いする時の、文字通り猫撫で声で帆崎が言う。視線は机の上に乗せられた、弁当箱へと向けられている。 いのりんはいつも重箱いっぱいの、大量の弁当を持ってくる。 しかも専業主婦の作る家庭の味は、間違いなくそこらの総菜屋で売ってる物より上等だ。 そして重要なのは、いのりんの性格だ。別に工夫をする必要はない。 昼食中のいのりんに向かって、「今日も美味しそうですね」「それなんですか?」。 それだけで分け前は確実にもらえる。 一人が言えば、周囲の3,4人まで恩恵に預かれる。自前の弁当にもう少し彩を加えたい時、 何となく物足りない時、一部の生徒や教師から、いのりんは密かに頼りにされていた。 だが、今回はいつもと反応が違う。いのりんは少し申し訳なさそうに笑うと、 「今日は無理なんですよ。ごめんね」と言った。 「えー、いのりんの奥さんが作るから揚げ、俺好きなんだけどなー」 「分けてあげたいのも山々なんだけど、肝心の弁当がね」 そう言いながら、いのりんは三人からよく見えるように弁当を持ち上げる。 いつも持ってきていた重箱山盛り弁当とは、似ても似つかない質素な弁当だ。 これは確かに人に分けてやれる余裕もなければ、進んで分けてもらいたいと思うほど、目を引く料理も入っていない。 低カロリー高タンパクを徹底した、味気ない料理が詰め込まれている。 確かに健康には良さそうだ、よさそうなのだが……。 「あの、猪田先生、何かあったんですか……? つい先週まで重箱だったじゃないですか」 明らかに落ち込んでいたいのりんの声色もあって、泊瀬谷が心配そうに訪ねる。 ヨハンと帆崎も、気になっている様子で聞き耳を立てた。 いのりんは小さく頷くと、ぽつりぽつりと語りだす。 「先週の日曜日、子供に予防接種を受けさせるために病院へ行ったんだ。 そのときに、ついでのつもりで夫婦で健康診断も受けたんだよ。 家内の方は、何も問題はなかったんだ。問題は僕の方にあってね。 高カロリーの食品は控えた方が良い、野菜を増やした方が良い、 これ以上揚げ物を食いすぎると、冗談抜きに血管が詰まるって……」 一同の視線が、ワイシャツのボタンを千切ろうかと言うほど出っ張った、いのりんの腹に向かう。 確かに、もう若くもないし、この体系で毎日毎日高カロリーの弁当を大量に食べていれば、 医者にそう言われても仕方があるまい。 「それでね、あの、家内のスイッチが入っちゃったらしくて、ヘルシー料理の本とか買ってきて。 子供たちにはいつも通りの美味しい弁当を作ってるのに、僕だけ特別に低カロリーに徹した薄味の料理を……」 あぁ……、同情すれば良いのか。「素敵な奥さんですね」と羨ましがれば良いのか、反応に悩むところだ。 だが、幸いな事にその場にはヨハンが居た。女性関連の話ならば、周りが黙ろうがいくらでも喋ってくれる人だ。 泊瀬谷と帆崎がいのりんのフォローに回る必要はなかった。 「いい奥さんじゃないですか。夫の体を気遣って新しいレシピ本まで買って頑張って料理なんて。 何回かお会いしましたが、二人も子供が居る割りに見かけも若くて素敵な方でしたし」 学園祭の時、いのりんが忘れ物をした時、忘年会の帰りに泥酔したいのりんを迎えに来たとき、 会った回数は多くないが、他の先生への挨拶もしっかりしていたし、記憶に残っている。 「うん。そこは僕も感謝してますし、そう言ってもらえると嬉しいですよ。 ……ヨハン先生に言われると、どことなく不安な気がしますけど」 「心配しなくたって、こいつにも人として最低限の倫理観ぐらいありますよ」 「失礼な。仮にも教師である僕が、並以下の倫理観しか持ち合わせていないようじゃないか」 「違ったのかよ、おい」 いのりんが苦笑いを浮かべながら言うと、帆崎が面白そうに返した。ヨハン自身の言うとおり、仮にも教職なのだ。 帆崎も彼が本当に最低限ながら倫理観を持ち合わせているのを否定はしない。 「へぇ。ヨハン先生って、女性なら誰にでも声をかけるってイメージがあったんですけど、意外な一面ですね」 「はは。僕もさっきまでそう思ってました」 「泊瀬谷先生に猪田先生まで……。僕の愛は人を傷つけるような事はしないというのに」 「こんだけ説得力なくて白々しい言葉もそう聞かねーよな」 帆崎がそう呟くと、ヨハン以外の3人でクスクス笑いが始まってしまう。 ヨハンは困ったように笑いながら、小さく溜め息を吐いた。 教師陣が相手だと、どうにも場の雰囲気を作ったり、自分のペースを維持したりが出来ない。 珍しく弱気な態度のヨハンを見て、帆崎もしてやったりと言った表情を浮かべている。 その後4人でひとしきり談笑をすると、弁当のおかずを交換しながら、和気藹々と昼食を済ませた。 職員室の中は、いつもどおり明るく笑い声に溢れている。 終 関連:いのりん 帆崎先生 泊瀬谷先生 ヨハン先生