約 109,480 件
https://w.atwiki.jp/bsr_e/pages/2762.html
「どういう意味でござろうか?」 「一人で入るのが好きなんじゃないかしら。」 なるほどと幸村は納得した。そういう人もあるであろう。 「わあ……。」 「すごうござるな。」 大浴場は広く外の絶景が見られるようにと趣向を凝らしている。 これならば露天風呂とまではいかなくとも十分堪能できるだろう。 軽く体を流し一番見晴らしの良さそうな所に行くと先客がいた。 女は湯船の縁に腰をかけ穏やかな表情で外を眺めていた。 半兵衛とは違う健康的な白をした肌。 しなる様な細い体に不釣り合いなほど宝満な胸がついている。 市とはまた違う妖艶な姿に幸村は思わず釘付けになった。 女はちらりと幸村を見るとほほ、と笑った。 「虎の若子と浅井の妖婦か、苦しゅうない。ちこう寄れ。間もなく日が沈むでの。絶景でおじゃるよ。」 聞き覚えのある声だ。知り合いだろうかと幸村が考えていると。 「あら、あなた……ふふ。相変わらずなのね。」 と市が笑った。 やはり知り合いなのだろうか。 済まないと思いつつ問おうとすると女は 「ほれ、竹千代。もう良い頃合いぞ。早う来い。」 と奥に呼び掛けた。 「はい!義元様!」 ざぶざぶと見慣れた少女が走ってくる。 「家康殿!」 「おう!幸村にお市殿か!おめえらも来てたのか!」 愛らしい、気持の良い笑顔で家康はにこっと笑った。 それに釣られて幸村もニコリと笑う。 「戦国最強殿もこられているのか?」 「おうよ!って言っても流石に部屋で留守番だけどな。」 錆びちゃ堪んねえからな。と言いながら家康は美女の方にザブザブと進んで行く。 そういえばさっき義元様と呼んで……。 「義元様、良い湯でございますなあ。」 「ふふ、ほんにのう。良い湯じゃ。」 「なななななんとお!」 微笑み合う二人の横で幸村は奇声をあげた。 「なんと、今川殿でござったか。」 「なんじゃ。今気付いたと申すか。」 「いや、申し訳ない。……その、顔が……。」 ごにょごにょと言い澱んで居ると家康が笑った。 「相変わらず鈍いみてぇだな。」 「余りいじめてやるな。竹千代。この者は化粧を落とした顔を初めて見たのじゃからの。」 と言いながら義元はほほと笑った。 何と、このような美女であったとは……。 幸村はまだまだ世の中には分からぬことがあるのだと胸に刻んだ。 「美しいのう。」 空が赤く染まり、景色も紅く染め上げていく。 幸村が溜め息をついて沈み行く夕日を見ていると、隣の市がばしゃりと立ち上がった。 「市、先に上がるわ。長政様に教えなくちゃ。」 慰安旅行・幸村編3
https://w.atwiki.jp/jojoxixipage/pages/117.html
部屋の中に1人の男が座っている 年齢は50前後、ロマンスグレーの髪 一目見てそれと分かる上等なスーツを着こなしている 男は自分の前に設置されたカメラに向かって語り出した 『これは独白だ。 誰かに聞かせる為に記録を取っているわけでは無いが… まぁ私が『研究員』だった頃の名残りというヤツか… 私は十と余年前、スピードワゴン財団の研究室長を務めていた。 研究内容は『人工スタンド使い』 スタンド使いを作りだす事自体は決して難しくはない。 適正な者に矢による傷を与えれば良い。 しかし我々が求めたのは意図したスタンドを作り出す事だ。 スタンドは個人の意思が具現化したもの、よって当人の個性によってスタンドの能力が決まる。 研究は困難を究めたがある時、その難題は私自身に発現したスタンドによって解決された 私の能力、『記憶を捏造する』スタンドによって。 記憶を改竄する事により被験者の性格、思想をコントロールして望み通りのスタンド使いを作り出したのだ。」 男はテーブルの酒瓶を手に取り琥珀色の液体をグラスに注いで独白を続けた。 「そして私にとって最高傑作ともいえるスタンド使いが誕生した。 鉄男とホワイトだ。 二人の能力を使えば私が望む世界、『楽園』に手が届く その事に気付いた私は一計を案じた 鉄男のニルヴァーナで研究員を全て始末させ、私は近しい人間に『私が死んだ記憶』を植え付けて地下に潜りこみ死んだ人間に成り済ましのだ。 そして鉄男とホワイトに『楽園』を求める記憶を与えた。 後は待っていれば楽園の扉は開かれる筈…だった。 ジョエルという探偵風情の邪魔さえ入らなければ」 男はグラスに注がれたスコッチを煽り溜め息をついた。 「だが、私の計画は終わったわけでは無い。 私にはまだ沢山の忠実なる実験体、いや『可愛い子供達』がいるのだから… 子供達はきっと私を楽園に導くだろう。 その時、人類は新たなる地平を迎えるのだ。 私はただ、待てば良い。 この部屋で。 ただ1人。」 本体名 グリーン キャサリンの養父、一部の人間にとって『あのお方』と呼ばれる男 性格は冷静沈着、几帳面 自分以外の全ての存在を見下している スタンド名 パラノイヤワールド 目を合わせたスタンドの記憶を捏造して支配下に置く。 ただし、スタンドの使えない一般の人間にはまったく通用しない。 目的 楽園の扉を開く事。 楽園が開かれた時全ての人類はスタンド使いになる (スタンドを持つに耐えられない人間は死滅する) 全人類がスタンド使いになりさえすれば自分の能力で神の如き存在になれると盲信している。
https://w.atwiki.jp/vipgijin/pages/20.html
「うぁー」 VIPは不思議な声を出しながら左肩を右手で揉む 初めて肩がつった事に驚きつつ運動不足かな?と首を傾げる 「肩凝り?」 ラウンジが横に来て不思議そうな顔をする 肩凝りってどんなもんなんだろうなと想像しながらVIPは苦笑いをする 「肩がつった」 「えー?」 それを聞いてラウンジはVIPの左肩をいきなり叩く 「うぉ!?いっ・・・てぇ・・・なラウンコ!!」 「なに?もっと叩かれたい?うぉら!」 「ぁぁぁ!!やめて下さいお願いします」 シベリアは変なものを見るような目で二人を見るとやれやれと溜め息をついた ラウンジはVIPの左肩をグイグイ揉んでる 「お前、ほんとに仲良いよな」 どこがだよ!とVIPは心の中で叫んでいた 「炭酸コーヒー?」 「うん、すげぇまずかった」 VIPはソフトドリンクにその詳細について話した あの恐怖の味を二度と忘れることは出来ない まるでコーヒーを出して残ったカスに炭酸を混ぜてガムシロップを突っ込みましたみたいな味だった 思い出すだけでも胸がムカムカする 「そんなのあるの?」 「駅に売ってた、あれは無いな」 「今度飲んでみよっと♪」 ソフトドリンクは嬉しそうにそう言って微笑む まだ口の中に味が残っていて気持ち悪い 「あれは、全部飲めたらお前すげぇよ」 「頑張る!」 いつになく真剣な顔のソフトドリンクにVIPは言わない方が良かったかもしれないと思いつつ VIPは気がついてしまった ソフトドリンクって制服じゃ胸無いと思ってたのに結構でかかったな・・・と VIPやシベリアは削除人とやり合った後から体力を付ける事や護身術の本を読み漁った シベリアは素振り500回が目標なのだが、50回でギブアップしてしまった いきなりそんなのを始めても最初から体が付いて行くわけがない 「お前ら、よく頑張るなぁ」 「お、モナーだ」 「なんだそれ、人を珍獣みたいにいうなよ」 モナーは欠伸をしながらVIPとシベリアを見る 「おいすー」 「VIPもなんか雰囲気変わったな」 モナーの言葉にVIPは照れ臭そうに苦笑いをした モナーは隣りのクラスの奴で、のんびりとした雰囲気を持った男だ 「急にどうしたんだ?」 「ダイエットだよ」 VIPは苦笑いをしてそう言っておいた その言葉にモナーはゲラゲラと笑う 「お前等これ以上痩せるのかよ」 「やっぱり腹筋は割れて無いとな」 シベリアがそういうとモナーはシベリアの腹を触る 「やわらけぇwwwww」 モナーの言葉にシベリアはムキになって腹筋に力を入れる 「ま、頑張れよ」 笑いながら歩いて行くモナーにシベリアとVIPは顔を見合わせて苦笑いを零した
https://w.atwiki.jp/kyotaross/pages/9019.html
インターハイ、それは高校麻雀最強を決める場であり以降の栄達を約束する場であるとともに、あるジンクスがあった 久「須賀くん、私と付き合って」 咲「京ちゃん、私だよね?」 優希「京太郎、一生私のタコスを作ってくれ!」 和「須賀くん、私の胸をよく見てましたよね? 良ければ……」 京太郎「な、なにこれぇ!? なんかの罰ゲーム!?」 おろおろと周囲にドッキリのプラカードを探す男子高校生と、一人溜め息をつく眼鏡の先輩がいた まこ「インターハイの決勝にはの、活躍した選手は高校在学中に異性と結ばれんと一生干物女の法則があるんじゃ」 京太郎「なにその理不尽な呪い!?」 咲「部長には生徒会とかで他に男子いるでしょう!? 私には京ちゃんだけなの!」 優希「のどちゃんだってその胸で引く手あまた、京太郎に固執する必要はないはずだじぇ!」 久「私だって初めて付き合うなら意中の人の方がいいわよ! なんでロリコンとか相手にしなきゃいけないの!」 和「体目当ての人は嫌です! 私にとって信頼できて仲のいい人は須賀くんしかいません!」 京太郎「何だろう、嬉しいことを言われているはずなのになぜか嬉しくないぞぅ」 まこ「そりゃここまで敵意むき出しの仲違いしてたらのぉ。あと、お前さん携帯震えとるぞ」 京太郎「くっ、あえてスルーしてたのに……うわ、照さん、菫さん、大星、高鴨、新子、玄さん、あと臨海も全員から」 まこ「阿知賀は実家業やっとるし、そもそも決勝の他の高校は全部女子校じゃからな。特に三年は必死じゃろ」 久「貴方たちはまだ2年以上あるでしょ!? 私に譲ってよ!」 和「そんなこと言って卒業しても須賀くんと付き合い続けるつもりでしょう!?」 久「当たり前じゃない! こんないい子普通いないわよ!」 優希「あー、認めた! 部長ずっこいじぇ!」 咲「京ちゃんは一人ぼっちの私に手を差し伸べてくれた王子様なの! ずっと前から好きなんだもん!」 京太郎「染谷先輩、この惨状を何とかするグットアイデアとかありません?」 まこ「お前さん、分身の術とかできんか?」 京太郎「できるわけないでしょ!? 人間ですよ俺は!」 まこ「じゃあ十五、いや十六?股するゲス男になるしかわしには思いつかん。もしくは他の高校には友人を売るしかないの」 京太郎「なんて闇が深いんだ、麻雀業界……うかつに足を踏み入れるんじゃなかった」 全員「「須賀くん(京ちゃん)(京太郎)! 誰にするの!?」」 京太郎「神様助けて!」 残念ながら助けてくれそうな神様は鹿児島でのんびりと麻雀を打っていたので当然助けはなかった。 カン
https://w.atwiki.jp/2chgijin/pages/25.html
「うぁー」 VIPは不思議な声を出しながら左肩を右手で揉む 初めて肩がつった事に驚きつつ運動不足かな?と首を傾げる 「肩凝り?」 ラウンジが横に来て不思議そうな顔をする 肩凝りってどんなもんなんだろうなと想像しながらVIPは苦笑いをする 「肩がつった」 「えー?」 それを聞いてラウンジはVIPの左肩をいきなり叩く 「うぉ!?いっ・・・てぇ・・・なラウンコ!!」 「なに?もっと叩かれたい?うぉら!」 「ぁぁぁ!!やめて下さいお願いします」 シベリアは変なものを見るような目で二人を見るとやれやれと溜め息をついた ラウンジはVIPの左肩をグイグイ揉んでる 「お前、ほんとに仲良いよな」 どこがだよ!とVIPは心の中で叫んでいた 「炭酸コーヒー?」 「うん、すげぇまずかった」 VIPはソフトドリンクにその詳細について話した あの恐怖の味を二度と忘れることは出来ない まるでコーヒーを出して残ったカスに炭酸を混ぜてガムシロップを突っ込みましたみたいな味だった 思い出すだけでも胸がムカムカする 「そんなのあるの?」 「駅に売ってた、あれは無いな」 「今度飲んでみよっと♪」 ソフトドリンクは嬉しそうにそう言って微笑む まだ口の中に味が残っていて気持ち悪い 「あれは、全部飲めたらお前すげぇよ」 「頑張る!」 いつになく真剣な顔のソフトドリンクにVIPは言わない方が良かったかもしれないと思いつつ VIPは気がついてしまった ソフトドリンクって制服じゃ胸無いと思ってたのに結構でかかったな・・・と VIPやシベリアは削除人とやり合った後から体力を付ける事や護身術の本を読み漁った シベリアは素振り500回が目標なのだが、50回でギブアップしてしまった いきなりそんなのを始めても最初から体が付いて行くわけがない 「お前ら、よく頑張るなぁ」 「お、モナーだ」 「なんだそれ、人を珍獣みたいにいうなよ」 モナーは欠伸をしながらVIPとシベリアを見る 「おいすー」 「VIPもなんか雰囲気変わったな」 モナーの言葉にVIPは照れ臭そうに苦笑いをした モナーは隣りのクラスの奴で、のんびりとした雰囲気を持った男だ 「急にどうしたんだ?」 「ダイエットだよ」 VIPは苦笑いをしてそう言っておいた その言葉にモナーはゲラゲラと笑う 「お前等これ以上痩せるのかよ」 「やっぱり腹筋は割れて無いとな」 シベリアがそういうとモナーはシベリアの腹を触る 「やわらけぇwwwww」 モナーの言葉にシベリアはムキになって腹筋に力を入れる 「ま、頑張れよ」 笑いながら歩いて行くモナーにシベリアとVIPは顔を見合わせて苦笑いを零した
https://w.atwiki.jp/rozen-yuri/pages/250.html
『紅い嫉妬』 「水銀燈、ご本読んでほしいの」 水銀燈のドレスの裾を、ちょっぴり遠慮がちに引っ張って、雛苺は言った。その表情を一言で言えば無邪気、だった。 「はいはい。分かったわぁ」 水銀燈の表情は、普段と変わらずツン、としたものだが、決して雛苺を邪魔とは思っていない。そんな表情だった。 このような状態が始まったのは、今から一週間くらい前の事。巴の家に行こうとした雛苺が迷子になっていた時、水銀燈が桜田家まで無傷で運んでくれたのだ。しかも、雛苺が泣いている時にあやしてくれていたらしい。普段の彼女からは、想像も出来なかった。 それから、雛苺はすっかり水銀燈になついたのだった。 「何が良いのぉ?」 「んとねー…これが良い!」 こんな光景、誰が想像しただろうか。それほど、珍しい事だった。 最初は、水銀燈の作戦なのでは、と疑う者もいたが、今では誰一人疑う者もなく、その光景を見守っていた。 ――約一名を除いて。 「…………」 二人から、少し離れたソファに座る、紅いドレスに身を包んだ人形。手には分厚い本を持ち、その本に目を通しているのだろうと誰もが思う。だが、人形――真紅の視線は、和やかな雛苺と水銀燈に向けられていた。 「……………」 とんでもない不機嫌な表情で。 「……雛苺」 「なーに?真紅」 「紅茶を煎れて来なさい。…今すぐ」 「ふぇ?でも、今水銀燈にご本を……」 「いいから煎れて来なさいっ!!」 真紅自身さえも驚く、大きな声が響いた。 「…!!は、はいなのー!」 雛苺もかなり驚いていたようで、ビクリと体を震わせ、風の如く台所に向かった。 「……雛苺と喧嘩でもしたぁ?」 「……別に」 「……でも、貴方絶対怒ってるでしょぉ」 「……気のせいよ」 気のせい。その一言で切り捨てた。けれど、異常なのは自身も気付いていた。 何故か、雛苺が他の子と仲良くしているのが許せなかった。しかも、最近は水銀燈になついているので、怒りは増幅されていた。 「い、煎れてきたの!」 雛苺の本能が早く行かなければ、と告げているらしく、いつもより早くお茶は出された。 「……あの、真紅?」 恐る恐る、真紅の顔色を伺う雛苺。 何処か怯えている雛苺の考えとは裏腹に、真紅は優しい笑みと言葉を溢した。 「……ありがとう」 「……ふぇ?」 一瞬戸惑う雛苺だが、すぐに笑顔になり、えへへと笑った。 「水銀燈!ご本の続き読んでー!」 「え、えぇ」 水銀燈は心の中で溜め息を吐いた。この先、暫く耐えなければと思う。雛苺に嫉妬、水銀燈に敵意を向ける紅い人形の視線に。 end
https://w.atwiki.jp/orimoe801/pages/156.html
Top 創作物投下スレまとめ 1 1-091 「夜のひとコマ」 「夜のひとコマ」 作者:本スレ1-612様 91 :夜のひとコマ:2012/04/26(木) 04 10 28 投下します。 本スレ1-612(設定スレ1-011)の桃ノ瀬×アキトで エロ寸前gdgd短めネタ。攻め視点。 92 :夜のひとコマ:2012/04/26(木) 04 12 42 横の男が吸う煙草で、部屋が濁る。 照明を少し落とした部屋で四角いTVモニターだけが、ひとり気を吐いていた。 モニターの中では、くだらないTVショウの真っ最中で 司会ががなればそれに合わせた周りの馬鹿もゲラゲラ笑う。 ブハッと横の馬鹿も吹き出した。一段と部屋が濁った。 「全く、何が面白いんだか」 「そうっすか?」 灰皿の縁にあて灰を落とした煙草をくわえ直す。軽薄を絵に描いたような笑顔。あぁ、馬鹿がいる。 僕はもう一度指の腹で奴の手の甲を撫でた。 安物の眼鏡は振り向きもしない。…奴の象並であろう神経に恐れ入る。 こっちの気も知らずいい気なもんだ。 ベッドに腰掛けたまま、奴が悠々と吸う煙草の一本を待つのがどれほど辛いか。 ほんの数分間が嫌に長い。40手前の欲の溢れ方じゃないな。と、溜め息も出る。 されど数日間、会社に缶詰で溜まりに溜まったアレやソレが僕の下腹部でマグマの如く燃えているのだ。 覚悟しろ馬鹿。 憎き煙草が灰皿の中で小さく最後の声をあげた。 「アキ」呼ぶが早いか、相手の両肩に置いた手に力を入れ押し倒す。 「ちょっ…!もうですか?」 「何が?」 マウントポジションはとった。首筋を撫でながら、出来る限りすっとぼける。 「何って…。もっと、ムードを大事にする…とか?あるじゃないっすか」 馬鹿らしい、弱い反撃。 「いまさら?」 「ですよねー」 間の抜けたやり取りに、二人一緒に笑う。 「もういいだろ」 「そうですね」 眼鏡のフレーム同士がかちあわない様に、少しだけ注意しながらキスをした。 「ふへへっ」 奴はいつもこのタイミングで、照れたように変な声で笑う。 「…何が面白いんだか」 奴の長い髪を手遊びしながら耳元で囁いた。 すぐに「いや違うんですよー」から入り「キスが可愛い」だの「モモさんの優しさがくすぐったい」だの 聞く価値も無いような言い訳をしゃべり出す。 「ばーか」 面倒臭くなったので奴の弱点である耳たぶに歯を立て、黙らせる。 「ふあぁっ…!」 不意打ちに驚くかわいい声と、空気の読めないTVの馬鹿笑い。 自室のベッドで二人きりの時間だ。 画になる必要は無いだろう。 僕は眼鏡を外して、もう一度奴の唇に貪りついた。 【了】 ※続きは、創作物スレ 1-119へ ページ最上部へ
https://w.atwiki.jp/14sure74/pages/169.html
「――っしゃぁっ! ハデに暴れてやろうぜぇっ!!」 国立資料館の入口が遠くに見える大きな通りの真ん中で、頭に赤いバンダナを巻いている男が声高に叫んだ。 周りに居た男達がその声に応えハンドボムを周りの施設に打ち込む。 結果、次々と施設は倒壊し、至る所で火の手があがりだした。 「ハハハッ! 後は国立資料館をぶっ飛ばすだけだなっ! 治安部隊の連中は今頃この付近に居ねぇはずだし、楽勝だぜっ!」 赤いバンダナを巻いた男が国立資料館の方を向き、周りの男達と高笑いをしていた時である。 「――あれ? その前に、中央資料室から資料を持ち出さねぇといけねぇんじゃなかったけ?」 突然背後から聞えてきた女性の声に促され、男は今回の仕事内容について思い返してみた。 そして、仕事内容に資料の持ち出しがあったことを思い出して手を打った。 「おっと、いけねぇ、忘れてた! ったく、面倒なことを頼まれちまったぜっ・・・。」 「大変そぉーだなぁー・・・。前金分くらいはもうやったし、この辺でやめて帰っちまってもいいんじゃねぇー?」 「うーむ・・・それもそうだが、追加報酬は欲しいしなぁー・・・。」 女性の誘いの言葉に、男の心の中でこの仕事を完遂するか中断するかの葛藤が始まった。 男は首を傾げ悩む素振りをしながら、声の主に相談を持ちかけようと振り返る。 「どう・・・す・・・・・・っ!?」 男は驚愕の表情で立ち尽くした。 目の前、少し手を伸ばせば届くような至近距離に、赤いアンダーテイルの女性が立っていたからだ。 「よっ♪」 右目に大きな刀傷を携えた彼女は、笑顔で左手を軽くあげて挨拶をする。 彼女の言葉で我に返った男はすぐさま飛び退いて叫ぶ。 「だっ! 誰だテメェッ!!」 (マジ、誰だコイツ!? つか、よく考えれば・・・今回の仕事仲間に、女なんて居なかったじゃねーかっ!!) 周りの男達も彼女の存在に全く気付いていなかったらしい。 男の叫び声に周りに居た男達が一斉に彼女の方へ振り向き、驚愕していた。 彼女は呆れたように肩を落とし溜め息混じりに答える。 「おいおい、勘弁してくれよ・・・。今の今まで誰一人、私に気付いてなかったとか、やる気無くなってくるぜ・・・。」 「誰だって聞いてんだろっ、このアマッ!!」 「わーた、わーた、教えてやっからそう喚くなって。」 男の怒声に、彼女は呆れ顔で応える。 「アンタらをぶっ飛ばしにきた、協会の犬とでも言っておくぜ。・・・やる気ねぇけど。」 彼女の言葉に、今まで呆然と二人の会話を聞いていた周りの男達が慌てて扇状に広がり戦闘準備を整えた。 赤いバンダナの男も飛び退いて距離を離しつつ、背中に背負った大鎚を抜いた。 彼女は男達の様子を口元に笑みを浮かべて見回すと、背中に背負った剣の柄に手を掛ける。 「・・・やめた。」 突然、彼女は呟く。 そして、彼女は剣の柄に手を掛けた所で手を離すと、軽く背筋を伸ばして生欠伸をした。 その様子を見た男達が口々に怒声を上げるが、彼女はまるで気にしていない様子で首を鳴らす。 大槌を構えた赤いバンダナの男が周りの男達の気持ちを代弁するかのように叫びかける。 「テ、テメェッ!! ナメてんのかっ!! ぶっ殺すぞゴラァッ!!」 「ほほぉー、やれるもんならやってみてくれよっ? ほらっ、ほらっ♪」 彼女は両手を軽く広げて挑発してみせる。 彼女の挑発に男は怒りを爆発させた。 「このアマ、覚悟しやがれっ!! ぶっ殺してやるっっ!!」 その直後、アサルトガンを構えた数人の男が一斉に彼女へ銃弾を浴びせかけた。 彼女は余裕の笑顔で飛び退いてそれをかわす。 彼女と男達の距離が少し離れた頃、ハンドカノンを構えた数人の男が彼女に向けて続けざまに砲撃した。 彼女の姿があっと言う間に爆発の閃光の中に消えていく。 男達は勝利を確信し、大声で笑いだした。 「――やったなっ♪ コレで間違いなく消し飛んだぜっ♪」 アサルトガンを構えて勝利の高笑いをしていた男の背後から、女性の声が聞える。 「ああ、そうだなっ! ザマーミロだぜっ! ハハハハッ!!」 「うん、ホント、間違いなく消し飛んでたよなっ♪ ・・・私じゃなかったら。」 「――ハッ?」 男は慌てて振り返って声の正体を探り、驚愕の表情で立ち尽くした。 声の正体は今し方消し飛んだはずの、赤いアンダーテイルの女性だったからだ。 彼女は少しだけすす汚れた笑顔で飛び、男へ回し蹴りを放った。 男は驚愕のあまり避けることも忘れ、彼女の蹴りをまともに食らってしまう。 「そ・・・な・・・バカ・・・な・・・・・・。」 男は頭から地面に叩き付けられ意識を失った。 男が地面に叩き付けれた音で、周りで勝利の喜びに浸っていた男達は現実へと引き戻され立ち竦んだ。 彼女は驚愕のあまりにロクな行動も取れない男達を次々と一撃で沈めていく。 瞬く間にこの場で立っている男は、大槌を構えた赤いバンダナの男だけとなってしまった。 「こ・・・この・・・・・・クソがぁぁぁっっ!!」 男は大槌を振りあげ飛び上がると、彼女に向けて渾身の力で振り下ろした。 彼女は口元に不敵な笑みを浮かべ、振り下ろされる大槌に向かって徐【おもむろ】に左手を翳【かざ】す。 「・・・・・・な・・・ん・・・だと・・・!?」 彼女は振り下ろされた大槌を左手だけで受け止めていた。 自身の渾身の一撃は彼女の立つ足場を僅かに減り込ませただけという現実に、男はその場で凍りついた。 彼女は受け止めた大槌を軽く横に払うと呆れた顔で溜め息混じりに口を開く。 「はぁー・・・だから、言ったじゃねーか・・・。前金分はやったんだから、もうやめとけばってよ・・・。」 彼女の血の様に赤い瞳の中に自らの姿を見つけ、男は思わず固唾を飲んだ。 男は素早く飛び退いて距離を離すと、震える両手で大槌を構えなおし叫ぶ。 「こ・・・この・・・ばば・・・化物がぁ・・・!!」 男の震えた声に彼女は不敵な笑みを浮かべ、左手の親指で自らを指差して応える。 「おうよっ♪ ”化物人間”【ヒューマノイドモンスター】ったぁ私のことだっ♪」 「な・・・んだ・・・と・・・!?」 彼女は瞬時にして男との距離を詰め、拳を突き入れた。 男は大槌を地面に落とし、呻き声をあげ前のめりに崩れ落ちた。 「覚えとけば、少しは長生きできるかもしれないぜっ? ・・・って、聞えてねーか。」 彼女は大きな溜め息をつくと、倒した男達を手早く通りの脇へと重ねていく。 そして、ゆっくりと後ろを振り返って叫んだ。 「ったく、よーやくの登場か。てっきり、尻尾を巻いて逃げ出したのかと思ってたぜっ?・・・オルグ!」 彼女の視線の先には自分と同じ真っ赤な眼を持った怨敵が立っていた。 彼、オルグは不敵な笑みを浮かべて応える。 「私が逃げる? ふふふっ・・・安心したまえ。私には君から逃げる必要はないからな。ネール君。」 「ほぉー、私にはお前が意図的に私を避けているように見えてたが?」 ネスは腕を組んで嘲笑した。 オルグはやれやれといった感じに両手をあげながら首を振って応える。 「ふっ、私は君と違って忙しいからな。君に毎度付き合ってあげられるヒマがないだけさ。」 「そーかい、それはすまねぇな・・・。」 ネスはゆっくり剣の柄に手を伸ばし、腰を少し落として飛び掛かる体勢を整える。 「まっ、今回で終わりにしてやっから安心しろ・・・よ・・・!?」 ネスは飛び掛かる体勢のまま、動きを止める。 オルグの後ろからやってきた、彼の仲間と思しき黒ずくめの男の肩に見覚えのある人物の姿を見たからだ。 「・・・堕ちたもんだな。”殺人機械”【キリングマシーン】ッ!!」 ネスはオルグを睨みつけて叫んだ。 オルグはネスの視線に構う様子を見せず、後ろからやってきた男に手で合図をする。 男はオルグの傍らで担いでいた人物を下ろすと、気付けの一撃を放った。 「・・・ん・・・ぅ・・・・・・っ・・・・・・。」 「生きてるか? ラス!」 「――っ!?」 ネスの呼びかけにラスはまだ重い頭を激しく振って無理矢理覚醒させる。 「ネスさんっ!! 無事でしっ・・・ぐっ!!」 兎に角ネスの元へ駆け寄ろうと勢いよく立ち上がったラスを、後ろに控えていた黒ずくめの男はすかさず羽交い絞めにした。 (そうでした・・・! 僕は、彼らに捕まって・・・!!) ラスは自分の置かれた状況を思い出すと、ネスに向かって叫んだ。 「構わず彼を討ってください!! ネスさんっ!!」 「・・・だ、そうだが。どうする? ネール君?」 オルグの嘲笑混じりの問い掛けに、ネスはそのままの体勢で睨むだけだった。 「ほほぉー・・・。もしかして、迷っているのか? 君にとって、彼は単なる相棒なのだろう?」 ネスはなにも答えようとはしない。 「ん? さては、彼は相棒ではなくて・・・。彼の・・・」 「相棒だっ!! それ以外のなんでもねぇっ!!」 オルグの言葉を無理矢理遮ってネスは叫んだ。 オルグは少しだけ驚いた表情を見せるが、すぐにまた不敵な笑みを浮かべて問い掛ける。 「単なる相棒なら、迷うことはあるまい? 気にせず私を討てばいい。そうだろう?」 「・・・そうだな。お前のいう・・・通りだ・・・!」 ネスは深く腰を落とし、飛び掛る直前の体勢を取る。 にも拘らず、オルグは不敵な笑みを浮かべながら両手を広げ挑発してみせた。 二人は暫しその体勢で対峙する。 (そうだ・・・。この状況なら・・・討てる!) この間合いからならば、確実にあの男を捉えられる。 ネスにはその自信があった。 (ただ、ラスが・・・アイツが死ぬことになるが・・・。) あの男のことだ、このまま大人しく死ぬような人物ではない。 既に自分が死ぬことになった時のことを考え、ラスの命を絶つなんらかの手段を講じているに違いない。 ネスはそう考え、それとなくオルグの周囲やその傍らの男の様子を観察する。 (黒ずくめの男に、またなんか妙な輝石を仕組ませてるか? 或いは、まったく別の手段か?) しかし、オルグや傍らの男が特になにかを仕組んでいる様子はなく、それが返ってネスを迷わせた。 (・・・って、だいたい! どうして、私は迷っている!? どうして、アイツを助けようと考えている!?) ネスは心の中で叫び思考を強制的に中断した。 確かに、マッチやハルからはラスを命懸けで守れとは言われている。 しかし、だからと言ってそれを忠実に遂行する気はない。 あの男を討てるまたとない機会であるならば尚更だ。 (なにを迷う必要があるっ!? アイツは・・・ただの相棒だっ!! こんな時にまで、守る必要などっ!!) ネスは周りに悟られないよう、静かに奥歯を噛み締める。 柄を握る手に、ゆっくり力を入れる。 (守る必要など・・・っ!! 私が・・・私が・・・守りたかった人は――っ!!) 「・・・やめた。」 ネスは一言、呟く。 (・・・こうなりゃ、なるようになれってんだ・・・クソ・・・。) ネスはゆっくりと構えを解いて両手を高くあげた。 オルグは態とらしく驚いた表情を見せて問い掛ける。 「ほぉー、どういう風の吹き回しだね?」 「・・・なに、私はお前と違って忙しいんでな。ソイツに代わる新しい相棒を探してるヒマがないだけさ・・・。」 ラスはネスの行動に心底驚き、叫んだ。 「ど、どうしてですかっ!? ネスさんっ!! 僕のことなど――」 彼女にとって自分は単なる仕事上の相棒であり、目的のためならば犠牲にしてしまったとしても致し方ないと思っている。 ラスはそう考えていた。 「なんも言うな・・・。」 「彼の言うことを聞いたって、二人とも殺され――」 特にこの状況ならば、仮に降伏した所で二人とも助からないのは明白である。 それならば、彼女は自らの本懐である仇討ちを優先するだろう。 「なんも言うなって言ってんだろっ!! ラスッ!!」 ネスの怒声に、ラスは言葉を詰まらせた。 ラスは歯を食いしばって俯いた。 (ネスさん・・・どうして・・・こんな時にまで約束を・・・。) 今までなんだかんだで命を助けられていたのは、彼女の意思による物ではない。 彼女が自分の知らない所で義姉さんや先生と約束を交わしていて、それを守っていただけに過ぎない。 ラスはそう感付いていた。 あの二人がその気になれば、自分と彼女を引き離すのはたやすいはずである。 それなのに、それをしようとはしていないのがその証拠であると言えるだろう。 (降伏をしてまで、僕を助けるだなんて・・・。) 彼女は隙を見てこの状況を打破するつもりなのだろう。 確かにあの男がどんな罠を仕掛けていようとも、彼女の身体能力を持ってすればそれも可能かもしれない。 しかし、それで傷付くのは彼女であり、なにより怨敵にいいように嬲られるのは屈辱以外の何物でもないだろう。 (でも・・・何故です・・・?) 彼女がそこまでして約束を守ろうとするとは、ラスには考えられなかった。 しかし現実に、彼女は約束を守ろうとしている。 (・・・まさか僕の・・・ことを・・・?) もしかしたら、彼女にとって自分は単なる相棒以上のなにかだったのかもしれない。 だから、守ろうとしている。 ラスの中で、ふとそんな考えが過ぎった。 (・・・そんな、ワケありません! 彼女には・・・彼女にとって・・・僕は・・・単なる相棒なんですから・・・!!) 自分でそう結論付けておきながら、ラスの心には何故か悔しさが広がっていた。 ラスは自己嫌悪で胸が一杯になり、更に強く歯を食いしばった。 「――ラスッ!! おいっ! ラスッ!!」 「――っ!?」 ネスの呼び声にラスは我に返り、素早く顔を上げた。 ネスは自信に満ちた表情で口を開く。 「心配すんなって・・・。お前は殺させねぇし、私も死なねぇ。」 ネスは満面の笑顔を作って言葉を続けた。 「・・・私は、”化物人間”、ネール=A=ファリスだぜ?」 「で・・・ですが・・・!!」 ラスの心配で仕方ないという視線に、ネスは呆れた表情で問い掛ける。 「おいおい、私が人質取るようなヤツに殺されるとか・・・、本気で思ってるのかよ? ・・・最高の相棒よ?」 暫しの沈黙の後、ラスは観念したかのように溜め息を漏らす。 そして、呟くようにゆっくりと答えた。 「・・・了解です。貴女の好きなようにやってください。・・・最低の相棒さん。」
https://w.atwiki.jp/otogeparo/pages/57.html
セシルとケビンが演技を練習し初めて、既に三日目が終わろうとしていた。 だが、お互いがそれぞれ思わぬ部分で引っ掛かり、なかなか良い演技が出来ないままだった。 相変わらずケビンは舞台上の主役と言うプレッシャーに潰されたまま。 セシルは舞台慣れしている為かそれ程緊張は見られないが、台詞に対して身体の表現がどうも曖昧だった。 そして、ケビンのそのシュールな一人寸劇は当然の様に周りに様々な笑いを引き起こす。 「じゃあ、今日の練習はこれまで…だ。後少ししたら本格的に撮影…も、とり、撮り始め……。だっははは! 駄目だ、堪えられん!!」 いい加減本当にどうにかしなければならない筈なのに、その監督は笑いを堪え切れずに総轄時ですら笑いに悶えている。 「おい、それじゃまたケビンが潰れるぞ」 「す、すまん…。やっぱ無理……。あっははは!」 「全く…。じゃあ、笑いに転げているどっかの誰かは無視して俺から話を進める」 一転して、周囲の雰囲気が引き締まるのが分かる。 最近少しずつセシルはこの劇団に所属する人物を理解し始めていた。 取り分け目立つのは、やはり女性にしてはかなりしたたかな一面があり過ぎる監督。 そして、彼女とは対照的に物事を冷静に解釈して適格な指示を促すこの青年。 一見噛み合わないこの二人だが、だからこそ連携が取れているのだろう。 不意にセシルは始めてケビンと出会った日に彼が言っていた言葉を思い出した。 (歯車…か) 本来反りの合わない者同士がこうして噛み合う。 回っている。 「ん? どうしたんだセシル」 「あ…いえ。何でも無いです」 「そうか。じゃあ残りは役員が仕切ってくれ」 「役員?」 素頓狂な声をセシルが呟く。 しかし、それを尻目にしながらもそれぞれ同意したらしい返事が次々と上がる。 「あの、役員って?」 「ん? あぁ…。ちょっとな。それより、お前とケビンは少し残ってくれ。無理だとは思うが覚悟はしておけ」 「う…」 思わず息が詰まる。 自分達が同時に呼ばれる理由なんて一つしか無い。 近い将来に、セシルは溜め息を零さずにはいられなかった。 「お~いセシル。あんたはそこの抜殻君引き摺ってこっちきてくれ」 「たはは…。ケビン、大丈夫?」 「はゃ~?」 監督の言葉通り、取り敢えず何かしらの人種以外の何かと化しているケビンに声を掛け、どうにか正気に引き戻せないものかと摸索する。 今回はまた一段と凄まじいミスをしてしまっているので放心状態が以前より深刻だった。 「あの…車椅子ってあります?」 「取り出すのが面倒だから直接引っ張って来い」 結局、ケビンはもとにもどらないまま二人は例の倉庫に連行される羽目になった。 相変わらず空気だけは良いのだが緊張のせいで酷く重い。 適当な椅子にケビンを座らせると、監督は部屋の鍵を掛けた。 「さて…賢いセシルの事だ。何で“二人が”残されたのか、勿論分かってるだろうね?」 こちらも相変わらずの威圧感を放っている。 更に、セシルは彼女の言う“二人”にケビンには気取られない様に反応した。 黙ってセシルは頷く。 「良いだろう。本当ならセシルだけでも良かったんだけどね、折角だ。ケビンにも一応聞かせておこう」 「どういう事?」 「気を悪くしないでくれよ。見ても分かる通り、今のケビンは愉快な程に不安定だ。それを乗り越える為にも、な。セシル、あんたに頑張って貰うしか無いんだよ」 「えぇ!? ボク…?」 「そうだ。こいつのプレッシャーの出所は、役の重さもあるだろうがそれだけじゃ無い。間違い無くあんたに対する責任がネックになっている」 「ボクへの…責任?」 「今この話をこいつがちゃんと聞いてるかどうかは分からないけどな、間違い無くこいつはあんたを巻き込んでしまった責任を感じている。あんたの内心は抜きにして、ね」 「そんな…」 意外なケビンの本当の気持ちを突き付けられ、セシルはどう対応して良いものか戸惑う。 それと同時に監督も盛大に溜め息を吐いた。 「セシル。お前は台詞に演技が追いついていない。これは初心者の最初の関門だ。無茶を承知の上だが、ここはどうか頑張って欲しい。こちらからも出来る限り助言はする」 「はい…頑張ります」 心底申し訳無さそうな表情をされてはセシルとしても心苦しい。 それどころか、彼女がこれ程までに下手に出て来た事に驚きを隠せい。 「だが、二人共伸びて来ている事に変わりは無いんだ。ここからは正念場だよ」 「は…はい!」 「まぁ、と言う訳だ。覚悟は良いか? 生ける屍君よぉ」 「はわ!? あれ…ここ、どこ……?」 「…少しだけ前言を撤回しよう。あんたはあんたで精一杯頑張ってくれ」 「は、はい。ボクはボクなりに頑張ってみます…」 「…何で僕いきなり殴られたんだろう。僕、何かしたかな?」 「多分…何もしなかったからだと思うよ」 「へ?」 相当今回は参っていた様だ。 少なくとも廃人状態の間は正気すらも失っているらしい。 見ている分は余りにも愉快なので良いのだが、舞台上でも主演を張るケビンがずっとこの状態なのでは一向に先には進めないだろう。 (何とかならないのかなぁ…) 要はケビンがこの件に感じて並ならぬプレッシャーと責任を感じている訳で、早い話がそれを解消すれば良いと言う事。 言葉の上で表現するのはこんなにも簡単なのに、それを実際に実行するのはかなりの時間を要する上に困難を極めている。 「はぁ…」 広場の噴水に座り、明らかに実年齢にそぐわない溜め息をセシルは零す。 「どうしちゃったのさ。セシル、何だか今凄い『仕事に疲れた大人』って感じがするよ」 「どうしてこう突っ込む所は無駄に適格なのかなぁ…」 「へ?」 この短い間に全く同じリアクションを二回もこなしてしまうその表現力を是非舞台の方でも引き出せないものだろうか。 しかし、ここでセシルはある事に思い当たる。 (そうだ。どうせ周りには誰も居ないんだから、家でも出来る範囲で練習を積んで行けば…) 撮影現場の雰囲気は出せなくても、台本に慣れる上ではかなり効率が良くなる。 極度の緊張でケビンが頭の中から台本が抜け落ち無い限りは。 「ねぇ、ケビン。今日からさ、家でもボク達に出来る限りで良いから練習してみない?」 「練習?」 「うん。ボク達二人が結局皆の足を引っ張ってるからさ。遅れた分を取り戻す勢いで、逆に皆を驚かしてやろうよ」 「…そうだね。明日から休みだし。折角セシルも居てくれてるんだから、僕も頑張らないと」 「うん」 互いにガッツポーズを作り、腕を交差させる。 ケビンは純粋に、セシルの細やかな下心には全く気付かずに頷いてくれた。 (ボク達、もう少しだけでも距離を縮めて良いよね) 「ん? 何か言った?」 「ううん、何でも無いよ」 「…?」 下心も打算も気取られず、期待だけを見事に受け取ってくれた。 もう一つの打算。 これはセシルの言葉に巧妙に隠されていて、恐らく気付けるのはあの監督と青年だけだろう。 (ケビンを心配させたら駄目なんだから―) 単純に遅れを取り戻すとだけ言ってしまうと、ケビンはそこに僅かながらに不安を生む。 皆を驚かしてやると言うプラス思考を暗示的に見せる事で、無理矢理それを取り除く。 皮肉な事になるのだろうか。 その方法は、これまでにケビンが何度もセシルを安心させる為に使った手段。 それをそうと知らず、お互いが同じ手段に嵌る。 それが溝になるか掛け橋になるか。 どちらも起こり得る非常にアンバランスな状態。 それに気付けずにいるから成り立つ関係。 それだけに、脆い。 余りにも儚く脆弱な二人の、淡く切ない親友とも恋人とも呼べる関係。 「さてと、今日は何作ろうか?」 「冷蔵庫にあった作り置も材料もあまり残って無かったから、まずは買い物に行かなきゃ。昨日はボクだったから、今日はケビンに頼んじゃおうかな?」 「うん。そうだね……って、まさか献立まで僕が考えるの!?」 「あれ? そのつもりでうんって言ったんじゃないの?」 「わっそれずるい!!」 夕焼けに染まる煉瓦造りの坂道を二人は駆ける。 心のどこかで「いつまでもこんな日が続きますように」と願いながら。 「いやはや…若いって良いねぇ」 「盗み聞きとは随分と良い根性してるじゃないか?監督さんよ」 「それ程でもあるさ。ただの偶然だよ」 「どっちだよ」 「わざとに決まってるだろう」 「開き直るな」 二人が座っていた噴水の反対側でショートコントを開いている者達が居るとは夢にも思わなかっただろう。 「随分とあの二人を気に掛けているじゃないか?」 「そう見えるか?」 「あぁ。ずっと平等を謳っていた監督さんとは思えないな」 「…あんた以外で気付いた様子は?」 「見掛けない。あの二人が適材適所で主演を持っているのが隠れ蓑になってるな」 「そうか。じゃあ問題は無い」 実に面白そうに彼女は笑う。 青年はもう慣れているので小さな溜め息一つで済んだ。 「相変わらず、お前の考えは分からん」 「何。いつもの私に比べたら随分と単純だ。自分でも、呆れるくらいにな」 「………分からんな」 「ふぅ…。何だか食べ過ぎちゃったかな?」 「ケビンがいっぱい作り過ぎるからだよ」 「だって、粘土遊びみたいで面白かったから…」 「それは…分からない事も無いけど…。おやつの方が多いって駄目じゃないか」 「また明日食べれば良いよ」 随分と歪な形をしたドーナツを目の前に、二人は机に溶ける様に突っ伏する。 沢山作った方が安くて良いからと、二人で食べるにはあり得ない量の材料を持て余した結果がこの様である。 結局は二人共まだ年端も行かないお子様でしかないのだから。 「もうこういう事は止めようね。材料買うのが勿体ないよ」 「うぅ、ごめんなさい…」 同じ年であるにも拘らず、セシルは少しだけ先輩風を吹かせて優越感に浸る。 ケビンには悪いが、彼の反省している様子はまた違って可愛いと思った。 「それで、明日からどうしようか?」 「そうだね。ケビンは出て来る尺が結構長いから、一つ一つを全部完璧にするのは多分…と言うか無理だから、今日やった所までの復習かな? …多分覚えて無いよね」 「う…」 どうやら聞くまでも無かった様だ。 まずどうにかしなければならないのは、ケビンのこの異様なまでのあがり様だ。 監督の話だと、自分がその原因の一つとなっているらしい。 早い話がケビンにそう思わせない様自分が自信を持てば良いだけの話。 「途中で躓いたらボクも考えるよ。それとも今から…後で台詞の読み合わせだけでもやってみる?」 少なくとも今の胃袋の状態でまともに朗読すら出来るかどうかも危うい。 「うん。お風呂に入った後にでもやってみようか」 「そうだね。どっちから入る?」 「セシルから先に入っちゃってよ。僕は布団の準備しなきゃいけないから」 「分かったよ。じゃあ、そうさせて貰おうかな」 ケビンから既に用意してあった着替え一式を受け取り、セシルは一人風呂場へと歩く。 着ていた衣服を全て脱衣籠へと放り投げ、セシルは冷え切った風呂場の中へと入る。 真冬のこの場所を一糸纏わずに入るのは流石に辛い。 最初に入る者の宿命なので考えてもどうしようも無い事なのだか。 「寒い…」 いつもこの瞬間はケビンと初めて出会った時を思い出す。 正確には、ケビンと出会う少しだけ前の時間。 寒さという化け物に全てを奪われ、生きる意思すらも抜け切った時。 (独りの時って、こんなにも寂しいんだって知らなかった。ケビンは…) 以前監督の言っていた話をもう一度思い出す。 (ケビンを、不安にさせちゃ…駄目なんだ) 身体に打ち付ける熱湯が異様に熱く感じる。 ケビンの知らないケビンの秘密を自分が知っている事がこんなにも心苦しい。 「秘密だらけだな、ボクって」 孤独と隣り合わせにある秘密。 こんなもので繋ぎ止めている二人の絆。 もし秘密を共有する事になったら、二人の関係は崩れてしまうのではないか。 (…まただ。最近こんな事ばかり考えてる) 今の二人の関係が楽しくて、その隣り合わせにある“不安”。 ケビンへの御方度を常に自分は抱き抱えている。 ケビンが愛しくて仕方が無い筈なのに。 振り払う事が出来無い自分がいる。 (こんなにボクはケビンが好きなんだ) あれほど熱かった湯が今は心地よく感じる。 「ケビン…」 「なぁに?」 「へ!?」 セシルが振り向くと、整髪料容器を片手に持ったケビンがそこに居た。 「わぁ!」 「ど…どうしたの?」 「何でケビンがここに居るんだよ!」 「あ、うん。シャンプーの中身が無くなってたから取り替えようと思って」 きょとんとした表情をケビンは浮かべていた。 「いつの間に…」 「あれ、僕入るって言ったよ?でも、セシル何か考え事してるみたいだったからさ」 「そ、そうなんだ…」 びっくりした、と一言で済ませるのが苦しい程にセシルの心臓は跳ね上がっていた。 初めて出会った日以降、ケビンはすっかり緩み切っているのか羞恥心が抜けている様に思える。 出会った当初はそれこそケビンの方が色々と変に意識していた筈なのに、今や状況は反転している。 (あ―) 逆を返せばそれはケビンが自分との距離を縮めてくれたと言う事ではないか。 些かその垣根が低過ぎる気がしないでも無いが。 「よし終わった。じゃあセシル、ゆっくり…」 「待って。布団の準備、もう終わった?」 「あ、うん。でも、僕の事なら気にしなくて良いよ」 「そうじゃなくて。その…。久しぶりにさ、一緒に…入らない?」 「ふぇ!? わ、わぁ!!」 いつも通りのオーバーリアクションが行き過ぎて、ケビンは僅かに零れたシャンプーに足を滑らせ、濡れた床に背中から落ちる。 「だ、大丈夫?」 「痛たた…」 「頭とか打って無い?」 「平気、でも無いかも。背中がべたべたする…」 半分涙目になりながら、ケビンは出来る限り背中の方へと視線を向ける。 真っ白な布地に薄く整髪料の色が滲んでしまっていた。 幸い特に外傷は無い様で、寧ろこの展開はセシルにとって好都合だった。 「ほら、そのままでいたら気持ち悪いし風邪引いちゃうよ。早く脱いだ脱いだ」 「わぁ! 分かったから、ズボン引っ張らないで!!」 結局ケビンを風呂場から取り逃がし、ケビンは脱衣所で服を脱いでもう一度入って来た。 軽く身体に湯を当てると、ケビンも湯船に浸かる。 元々複数名入る様な広さでは無い為、必然的に素肌同士が触れ合ってしまう。 指先が絡まった時、ケビンの熱をより身近に感じた。 単純に熱湯が間にあるからなのか。 それとも― (ボクがケビンの距離に気付いたから?) 「セシル…」 「何?」 「僕、何か今凄くドキドキしてる」 「うん。ボクも」 ケビンの手を取り、自分の胸の中心に当てる。 微かにケビンの指先が震えた。 「ほら、ね?」 「本当だ。僕と同じ」 「あったかい…。ケビンって、こんなに体温高かった?」 「違うよ。だって、それは…」 「ボク達が―」 恋人同士だから 「セシルぅ…」 「うん、分かってる」 恋人同士じゃないと出来無い事 やろうか そして二人は互いに身体を抱き合い、唇を重ねた。
https://w.atwiki.jp/akatonbowiki/pages/7048.html
このページはこちらに移転しました 白いため息 作詞/269スレ49 隠そうとしてた ため息が 白く染められ バレた お前の顔が赤いのは 外が寒すぎるせいだろ 俺にとっては好都合 悟られずに喋れるし お前が後ろからやってくる そんなのわかりきっていたさ そのためにゆっくり歩いて わざと追いつかれたんだ 白いため息はすぐに 見えなくなるけど お前は俺がずっと 見失わずに眺めてる しもやけみたいに むずかゆい この気持ちはなんだろう 水染みた靴より先に 爽やかにしておきたい