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涼宮ハルヒの中秋 第1章 涼宮ハルヒの中秋 第2章 涼宮ハルヒの中秋 第3章 涼宮ハルヒの中秋 第4章
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涼宮ハルヒの遡及Ⅱ …… …… …… ああ、なんだ集合時間より一時間は早く着いたぞ。 いつもは二十分近くかかる駅前までだが、空から一直線に来ればこんなに早いんだな。なんせ五分とかからなかった。 と言うかアクリルさんの飛ぶスピードが速いんだろう。 などと諦観している俺がいる。 「ふうん。あの時計で短針が九、長針が十二になるまでにハルヒって子が来るのね」 「ええまあ……」 「とりあえず待ちましょう」 「それはいいんですけど、『さくら』さん……」 「何?」 「俺たち、注目を集めてるんですが……」 そう。うんざりしている俺とあくまであっけらかんとしているアクリルさんの周りには得体の知れないものを見る目をした人だかりができているのである。 「何で?」 「……ここはさくらさんが本来住む世界じゃありませんからね……『魔法』は認知されていないんです……」 「あ、そう言えばそうだったわね。でも安心して。それじゃ――」 ん? 何だ? アクリルさん、左手を開いて翳しているし……って! その手から強烈な光が発せられる! うぉい! ただでさえパニック寸前の雰囲気満々なざわめきが沸き起こっているのに追い打ちかけますか!? 「心配いらないわよ。この魔法はメモリーリウィンド、簡単に言えば記憶を除去する魔法……じゃないか、記憶を巻き戻す魔法、の方が適切かな?」 アクリルさんが説明を終えると同時に光が止む。 刹那、人だかりは、「あれ? 何してたんだっけ?」「わたしは……」と呟きながら、まるで何事もなかったかのように四散していった。 って、これは……? 「んまあ、さすがに人の記憶を操作する、なんて真似はそうそうできるもんじゃないからね。一応、そういう魔法がないわけでもないけどそれは催眠術や傀儡術に近いものがあって『覚める』と何の意味もなさないのよ。だから今のは記憶を前の記憶まで戻す魔法だったの。とりあえず、あたしたちが現れた時間前まで、ね」 な、なるほど……あれ? でも、同じ光を見ていた俺はどうして記憶がなくならなかったんです? 「ふふっ。今の人たちはあたしだけを見たのかしら?」 あ、そうですね。俺も見てますよね。 「そういうこと。記憶巻き戻し対象はあくまで『あたしとキョンくんを見た人』。なら、キョンくんが影響を受けないのは当然でしょ」 相変わらず魔法ってのは凄い力だ。できることとできないことがあるのは仕方ないとしても通常、普通の人が持つ能力からすれば格段にできることが多いんだからな。 はてさて、そんなちょっとした異常事態も文字通り、何事もなかったことにしたアクリルさんと俺は、ただただ待ちぼうけである。 そりゃまあ仕方ないことで集合時間よりも一時間早く着けば当然の成り行きとしか言いようがない。 「ん~~~まだ二十分はあるわね」 背伸びしながらアクリルさんが呟いております。 ううむ……やっぱ背伸びをするとさらにその豊満な丸みを帯びたものが強調されますな…… しかも山吹色のノースリーブシャツの脇からなかなか素晴らしい光景が垣間見えて目のやり場に困りますがな。うぉ? ひょっとしてノーブラってやつか? あ、臍も見えている。なるほど、胸が大きいと下に生地が収まり切らないってことか。 ヘアカラーが黒になっているとまったく違う印象を受けるもんだ。と言うか、あのヘアカラーが異質過ぎるんだろう。 などとアクリルさんは全く気付かないのだが、劣情に浸っていた俺の至福のひとときを吹き飛ばす音響が響いたのはこの時だった。 着信、古泉一樹。 ん? 何だ? どうした? 「もしもし?」 『おはようございます。古泉です』 お前はどこぞのニュースキャスターか? 『いえ、まずは挨拶を、と思ったものですから。それよりもお聞きしたいことがあります』 何だ? 『あなたの隣におられる方はどちら様ですか? 確認したところ、朝比奈さんも長門さんもご存知ない方ですし、佐々木さんでもありませんよね?』 ん? ああ、この人は……って、お前らもう来てるのか? 集合時間までまだ二十分はあるぞ? いつもこんなに早いのか? 『そんなことはどうでもいいです。それよりもあなたの隣の人の方が問題です』 は? 何でだ? 『……涼宮さんももうこちらにいらっしゃってるのですが……』 古泉の声はなんとも触らぬ神に祟りなしっぽい口調だな。 あーてことは…… 俺はこめかみにでっかい困った汗を浮かべて、 ううむ……確かに背後からなんだか無言のプレッシャーに等しいどす黒いオーラを感じているような気がする…… 「えっとだな古泉……ハルヒにこう言ってくれないか……?」 『僕の声が届くと思えないのですが?』 まるっきり暗君の弑逆を決意した冷徹な奸臣のような声だぞ、おい。 『で?』 「分かった分かった。じゃあハルヒに替ってくれ。俺から話す」 『……分かりました』 古泉の返事を聞いて待つことしばし。 『……ふーん……あんたなんかでもナンパが成功するのね……』 第一声が思いっきり嵐の前の静けさなのですが? 五分後に雷付き暴風雨が来るのが解っていながら家に居ればいいのに血迷って雨具を持たずに外出した三分後の心境とはこのことだ。 しかしまあ今回は後ろめたくなる理由はどこにもない。あるはずがない。 って、今回“は”って何だ。俺は一度たりともそんな後ろめたいことをした覚えはない、はずだ。 「あー勘違いするなハルヒ。別にこの人はナンパした人じゃない。それよりも早くこっちに来いよ。この人はお前にも会いたいって言ってるんだ」 『あたしは別に会いたいと思わないわ』 だから違うって。何、勘違いしてやがる。 って、待て待てツッコミを入れるのは後にしておかないと、向こうがぶつ切りするかもしれないんだ。その前に用件を伝えないと。 つーわけで俺は捲し立てるように言った。 「違うって。この人は蒼葉さんの友達だ」 『――!!』 受話器の向こうかでもはっきり分かった。ハルヒの奴、驚嘆に絶句しやがったな。 「そう言えば、あの時はお互いによく顔は見えなかったっけ」 「うん。それに今日は髪の色も違ってたから本当に分からなかったんです」 アクリルさんの涼やかな笑顔の感想にハルヒがはしゃぐ笑顔で相槌をうっている。 場所はいつもの喫茶店、ではなく、駅前にあるカラオケボックスの一室。 なぜこんな場所に居るかと言うと、ハルヒが異世界人とじっくり話をしたい、と言うのが一番の理由だからだ。宇宙人、未来人、超能力者に関して言えば、んなもん、部室でできるし、部室にはよほどのことがない限り、俺たち以外はいない訳だから他人の目を気にする必要はどこにもない。 しかし、異世界人であるアクリルさんはそうはいかないんだ。学校に行く、という手もないこともないがそれではここから到着までの時間が馬鹿にならん。 となれば少しでも早くハルヒの望みを叶えてやろうと思えば、周囲に気遣いのいらない俺たち以外は誰も来ない防音設備の整った場所が必要となる。 それがこのカラオケボックスってことさ。 「あと蒼葉さんとはゆっくり話す機会はありませんでしたし、今回のチャンスは逃すわけにはいきません」 ううむ。ハルヒの丁寧語というものはなんとも新鮮でかつ、どことなく違和感が溢れまくっている。 まあ仕方ないよな。普段のこいつは遠慮という言葉からは一番遠いところに居る奴だ。生徒会長は勿論、軽音楽部の諸先輩方々にさえ無遠慮な言葉遣いなんだからな。 だいたい、先輩の朝比奈さんに対して『みくるちゃん』なんて言ってる時点で常識に照らし合わせて論外としか言いようがない。 「ん~~~別にそんな大したことでもないと思うんだけど……」 「そんなことないです! だって異世界ですよ異世界! あたしたちはどうやったって今現在は異世界に行く手段がないし、来てもらわない限り会えないんですから! それに今回はさくらさんは時間制限がありそうなトラブルでこっちに来たわけじゃないんでしょ? だったら、ゆっくり話したいんです!」 ふむ。異世界に行く手段がない、という常識をわきまえていることはどこかホッとするぞ。 「分かったわ。別に時間制限がないわけでもないけど慌てるほどでもないし。で、あたしに異世界……というか、あたしが住んでる世界の何を聞きたいの?」 アクリルさんが降参を表現した笑みを浮かべてハルヒの提案を受けて入れている。 「ありがとうございます! それじゃ――」 300W増しの輝く笑顔でハルヒは取材を始めた。 涼宮ハルヒの遡及Ⅲ
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俺たちは森さんたちのいる場所へ無事に戻り、帰還の準備を始めていた。 しかし、ここに来てやっかいな事実が露呈する。ハルヒの足が動かないということだ。 何でも朝比奈さん(長門モード)に確認したところによると、2年近く部室に拘束状態にされ、身動き一つ取れなかったらしい。 そのためか、身体の一部――特に全く使えなかった足に支障を着たし、自立歩行が困難な状態に陥っていた。 そんなハルヒの足の状態を、新川さんに調べてもらったわけだが、 「大丈夫でしょう。外傷もありませんし、リハビリをすればすぐに元通りになるレベルかと」 という診断結果を聞いてほっと胸をなで下ろす。ちなみに、拘束状態にだったはずのハルヒが 何で神人に捕まっていたのかというと、朝比奈さん(通常)が説明してくれたんだが、 「ええとですね。突然、部室にキョンくんが現れたんです。そして、涼宮さんの拘束をほどいてくれて――」 「こらみくるちゃん! それは絶対内緒っていったでしょ! それ以上しゃべったら、巫女さんモードで 一週間登下校の刑にするからね!」 「ひえええええ! これ以上はしゃべれませんんん」 で、強制終了だ。まあ大した話じゃなさそうだし、朝比奈さんのためにもこれ以上の追求は止めておくか。 空を見上げると、この辺り一帯はまだ灰色の空に覆われているが、地平線はほどほどに明るくなりつつあった。 古泉に言わせれば、閉鎖空間があまりに巨大化していたので、正常になるのにも少々時間がかかるのだろうとのこと。 ってことは、外に脱出するまでしばらく時間がかかるって事か。面倒だな。その間、奴らも黙って見てはいないだろう。 「とりあえず、この場所にとどまっているのは危険です。できるだけ早く閉鎖空間から脱出できるように、 こちらも徒歩で移動します」 森さんの決定。ハルヒは新川さんが背負っていってくれることになった。ハルヒも自分の身体の状態をよく理解しているらしく、 快く了承している。 と、新川さんに背負われたハルヒが俺の元に寄ってきて、 「ちょっと聞きたいんだけどさ。その――外はどうなっているの? ずっとこんなところに閉じこめられていたから……」 ハルヒの問いかけに、俺はどう答えるか躊躇してしまった。素朴な疑問なのか、全世界の憎しみを背負わされていることに 感づいているのか、どちらかはハルヒの表情からは読み取れなかった。 しばらく考えていたが、俺は無理やり笑顔を取り繕って、 「色々あったが、何とか平常を取り戻しつつあるよ。それから、お前の事は世界中が知っている。 この灰色の世界の拡大を止める鍵であるってな。救世の女神様扱いさ」 「そう……よかったっ!」 ハルヒの100Wの笑み。これを見たのもずいぶん久しぶりだな。 あっさりと納得してくれたのか、ハルヒは元気よく腕を振って、さあ行きましょう!と声を張り上げている。 その様子を見ていたのか、古泉が俺の耳元で、 「いいんですか? いざ外に出たらすぐに嘘だとわかってしまいますが」 「……嘘は言ってねえよ。ハルヒが個人的な理由でこんな大混乱を引き起こしたどころか、死力を尽くして、 被害の拡大を抑えていたんだからな。閉鎖空間だって、奴らを閉じこめる一方で無関係の人を巻き込まないようにするのが 目的だったんだ。自覚があったのかは知らないが。間違っているのは世界中の人々の認識の方さ。 だったらそっちの方を正してやるべきだと思うぞ」 はっきりとした俺の返答に、古泉は驚きを込めた笑みを浮かべ、 「あなたの言うとおりです。修正されるべきは、機関を含めた外野の方ですね。その誤解の解消には及ばずながら僕も全力を 尽くしたいと思います。ええ、機関の決定なんて気にするつもりもありません」 「頼むぜ、副団長殿」 俺がそう肩を叩いてやると、古泉は親指を上げて答えた。何だかんだで、こいつもすっかり副団長の方が似合っているよな。 俺も団員その1の立場になじんでしまっているが。 「では出発しましょう。そろそろ、敵も動いてくるでしょうからね」 古泉の言葉に一同頷き、徒歩での移動を開始した。 ◇◇◇◇ 俺たちは山を下り、市街地へと足を踏み入れる。今のところ、奴らが仕掛けてくる様子はない。 だからといって、和気藹々とピクニック気分で歩くわけにも行かず、張りつめた雰囲気で足を進める。 ……自分の彼女を自慢しまくる谷口と、それに疑惑と悪態で応対し続けるハルヒをのぞいてだが。 ちょうど、俺の隣には朝比奈さん(長門モード)が歩いていたので、この際状況確認を兼ねていろいろと話を聞いている。 「で、結局連中の正体はわかったが、奴らはこれからどうするつもりなんだ?」 「わからない。ただ、彼らの涼宮ハルヒへの執着心は無くなることはないと考えている」 まるでストーカーじゃないか。しかも、面倒な能力を持っている奴らも多いとなると、たちが悪いな。 と、ふと思い出し、 「そういや、連中はハルヒの頭の中を一部だけ乗っ取っていたんだろ? あれはまだ継続しているのか?」 「その状態は、わたしたちという鍵がそろった時点で解消された。意識領域の一部に発生した欠損をあなたの存在が埋めたから。 今ではわたしの介入もなく、彼女は自力で自我を保っている」 なら少なくても何でもできるような力はなくしているって事だな。だが、待てよ? ハルヒの能力を得る前の状態でも お前の親玉にアクセスできるような連中がいたなら、そいつらはまだ得体の知れない力が使えるって事か? 「情報統合思念体への不正アクセスは、彼らからのアクセス要求経路が判明した時点で使用できなくしている。 現状では彼らは情報統合思念体を利用できないと考えてもいい」 なるほどな。もう奴らもすっかり普通の人間の仲間入りってことか。 だが、そんな状態なのに、まだハルヒをどうこうできると思っているのか? 「【彼ら】はもう涼宮ハルヒなしには存在できない。少なくとも彼らはそう考えているはず。 だから能力があろうが無かろうが、彼らは涼宮ハルヒを手に入れることしか考えられない」 「……奴らに無駄だとわからせる方法はないのか?」 「きわめて難しい――不可能と断言できると思う。彼らの自我もまた統一された情報に塗り替えられ、涼宮ハルヒと接触する前の 記憶が残っているかどうかすらわからない。例え脳組織の情報から涼宮ハルヒという存在を抹消しても、人格すら残らないだろう。 それほどまでに彼らは狂ってしまっている」 長門は淡々と説明してくれたが、全身からにじみ出している感情は明らかに負のものだった。 ハルヒに責任はないが、彼らもまた得体の知れない情報爆発とやらの犠牲者なのかも知れない。 ただ、それでもハルヒを「手段」として扱い、あまつさえ俺たちの事なんてどうなってもいいと思っていたんだ。 その点を見るだけでも、同情の余地は少ないと思う。 「ん、そういやハルヒは自分の力について自覚しているのか? これだけの大事になってもまだ気が付かないほど 鈍感でポジティブな思考回路をしているとは思えないが」 「はっきりとは明言していない。涼宮ハルヒ本人も自分が普通ではないと言うことは理解しているが、 完全に把握できていないと推測できる。ただし、自分がやるべき事は理解しているはず。だからこそ、混乱状態にもならず 自分がすべき事を実行している」 なるほどな……理解することよりも、まずこの状況をどうにかすることが先決だと考えているって事か。ハルヒらしいよ。 そんな話をしばらく続けていたが、ふと先頭を歩く森さんが歩みを止めたことに気が付く。俺たちの左側には民家が並び、 右隣には小さな林が広がっていた。民家の方はそれなりに見通しが効いたが、林の方は薄暗い閉鎖空間のため、 夜のようにその中はまっ暗に染まり、林の中がどうなっているのか全く見えない。 ――パキッ。 俺の耳にははっきりと何かが折れる音が聞こえた。閉鎖空間内にいるのは、俺たちをのぞけばあいつらだけだ。 「……全員、身を伏せて物陰に隠れて」 森さんの冷静ながらとぎすまされた声が響く。俺たちは一斉に民家の物陰に身を隠す。新川さんも一旦ハルヒをおろし、 俺のそばに置いた。ハルヒは持ち前の鋭い眼光で林の方を睨み続け、朝比奈さんは長門モードになっているらしく、 平静さを保っている。 俺も銃を構えて、林の方を伺い続ける。野郎……どこにいやがる。とっとと出てこい…… 唐突だった。俺の背後にあった民家の屋根が爆発し、そこら中に残骸が降り注いだ。同時に林の中から、 あの化け物と化した連中の大群が津波の如く押し寄せ始める。 「撃ち返して!」 森さんの合図を起点に、俺たちは化け物の群れにめがけて乱射を始める。耐久力はないようで、一発命中するだけで どんどん倒れ込んでいった。しかし、数が多い! 撃っても撃ってもきりがない。 さらに、少数ながらこっちにも銃弾が飛んでくるようになってきた。向かってくる全員ではないが、 ちょくちょく銃らしきものを撃ちながら、こっちに走ってくる奴もいる。国連軍から奪ったものを使用しているのかもしれない。 押し寄せ続ける敵に対して、特に森さんたち機関組が前に出て、敵を次々と倒していく。ん? 新川さんの姿が見えないが、 どこに行ったんだ? しばらく撃ち合いの応酬が続いたが、突然林の方から新川さんが現れたかと思うと、こっちに向けてダッシュしてくる。 そして、見事な運動神経で敵の手をかいくぐりつつ、俺たちの元に戻ってきた。 「首尾は!?」 「全く問題ありませんな。タイミングの指示をお願いします」 「わかりました。合図はわたしが出します!」 そんな森さんと新川さんのやりとり。何だかわからないが、とりあえず任せておくことにしよう。 こっちの攻撃に対して有効だと悟ってきたのか、飛んでくる敵の銃弾の数が増えてきた。俺の周りにも次々と命中し、 壁の破片が全身に降りかかってきた。当たらないだけラッキーだが。 そんな状況が続いたが、突然黒い化け物の群れの数が激増した。津波どころか、黒い壁がこっちに向かってきているように 見えてしまうほどだ。 そこで森さんの指示が飛ぶ。 「全員、身を隠して! 新川、お願い!」 全員が一気に身を伏せるなりすると、同時に林の方で数発の爆発が発生した。 どうやら新川さんが地雷か何かを仕掛けていたらしい。全くとんでもない人たちだよ、本当に。 「本部に連絡が取れるかどうか確認! 可能なら航空支援の要請を!」 さらなる森さんの支持に、谷口が国木田から引き継いでいた無線機で連絡を試み始める。 爆発のショックか、一時的に奴らの動きは止まったが、程なくしてまたこちらへの突撃を再開した。俺はできるだけ弾を無駄に しないように的確に奴らを仕留めていく。 発射!という森さんの次の指示に多丸兄弟が肩に抱えたロケットランチャーを発射した。そういや、プラスチックでできた 重さ数百グラムの携行式のもの持っていたが、ようやく出番になったか。弾頭が林の入り口付近にいた化け物に直撃し、 周りを巻き込んで吹っ飛ぶ。 一方の谷口は無線機で呼びかけを続けていたが、どうやらつながってくれないらしい。ダメだという苦渋の表情に加えて、 首を振っているのですぐわかった。 森さんはそれを確認すると、手榴弾を投げ始めた。釣られて俺たちもそれに続く。ロケットランチャーに続いて、 手榴弾も次々と炸裂していく状況に、奴らの突撃の速度がやや鈍ったのがはっきりとわかった。 すぐにそれを好機と見た森さんは、 「後退します! あなたたちは涼宮さんを連れて先に行って、残りの者はラインを保ちつつ、ゆっくりと後退します!」 そう言って俺と谷口、古泉にハルヒたちを連れて行くように指示を飛ばした。森さんたちを置き去りにするようで気分は悪いが、 ここでまたハルヒをあいつらの手に渡すわけにはいかない。 俺はハルヒを背負って――とすぐに思い直して、ハルヒの身体を肩に抱えるように持ち上げた。 「ちょっと、どうしてこんな不安定な持ち方するのよ! これじゃあんたも動きづらいでしょ!」 「背負ったら、俺に向かって飛んでくる弾がお前にあたっちまうだろうが!」 そう怒鳴りながら住宅街の中めがけて走り出す。隣には朝比奈さん(長門モード)がちょこちょこと付いてきて、 俺の背後を谷口と古泉が守ってくれていた。 100メートルほど進んで、一旦立ち止まり森さんたちの援護を始める。まだ林の前で奴らを食い止めていた機関組だったが、 やがて俺たちの援護に呼応するようにゆっくりと後退を始めた。 だが、奴らもそれを黙ってみているわけがない。こっちが引き始めたとわかるや、また怒濤の突撃を再開してきた。 さらに、どこから持ち出してきたのか知らないが、ロケット弾のようなものまで飛んでくるようになる。 命中率が酷く悪いところを見ると、ろくに使い方もわからずに撃ちまくっているみたいだ。 この後、しばらく同じ動きが続いた。まず俺たちが数百メートル後方まで移動し、その後、俺たちの援護の下森さんたちが 後退する。だが、どんどん連中の数が増えるのに、こっちの残弾は減る一方だ。すでに前方でがんばっている多丸兄弟は 自動小銃の弾を撃ちつくし、今ではオートマチックの短銃で奴らを食い止めている。ただ、幸いなことに外側と ようやく連絡が取れて、すぐにこっちに援護機を出してくれることになった。 だが、下手な鉄砲でも数撃てば当たると言ったものだ。ついに多丸圭一さんに被弾し、地面に倒れ込む。 隣にいた新川さんが手当をしようと試みるが、どんどん激しさを増す銃弾の嵐にそれもままならない。 「助けないと!」 ハルヒの叫びに反応した俺は、すぐさま飛び出そうとするが、古泉に制止された。同時に森さんからの指示が 無線機を通して入ってくる。 『こっちはいいから先に逃げなさい! あとで追いかけます!』 いくら森さんたちでもけが人一人抱えながら後退なんて無理に決まっている。こんな指示には従えねえぞ! 俺はそれを無視して、古泉を振り切ろうとするが、 「ダメです! 指示に従ってください!」 「ふざけるな! 森さんたちを見捨てろって言うのかよ!?」 そうつばを飛ばして抗議するが、古泉は見たことのない怒りの表情を浮かべ、 「バカ言わないでください! 森さんたちがこんな事で死ぬわけがありません! 死んでたまるか!」 あまりの迫力に俺は何も言い返せなくなってしまう。古泉はすっと苦みをかみつぶした顔つきで、森さんたちの方を見ると、 「根拠がないって訳じゃないんです。敵にとっての目的は涼宮さんただ一人。そして、閉鎖空間が崩壊するまで あまり時間がありません。相手にしても価値のない森さんたちは無視してこちらに向かってくるはずです。きっとそうです!」 俺は古泉の言い分に納得するしかなかった。確かに、超人じみた森さんたちの能力を見くびってはならない。 大体、あの人たちがピンチになったからと言って、凡人である俺に救えるのか? 傲慢もほどほどにしろ。 なら俺にできることをやったほうがいい。 二、三度頭を振るうと、俺は古泉に頷いた。ハルヒを連れて行く。今俺ができることはそれで精一杯だ。 「おいキョン! 見てみろ!」 谷口が指している方角をみると、小高い丘の上がゆっくりと明るくなって来ている。閉鎖空間の外側はもうすぐだ。 あの丘の向こう側にそれがある。 俺はまたハルヒを抱えると、丘めがけて走り出した。いい加減、足もふらふら息も限界に近づいているが、 そんなことは気にしている余裕すらない。 丘の前を走っている川を渡ると、背丈ぐらいまである草を払いながら丘を登り始めた。古泉たちも俺に続く。 ふと、背後を振り返ると、森さんが川の前まで走ってきて、自動小銃の弾が尽きたのか短銃を敵めがけて撃っていた。 新川さんと多丸裕さんも姿もなくなっている。くそ、何にもできない自分が腹立たしい。 「森さん! 受け取ってください!」 古泉がそんな森さんに向けて、自分の自動小銃を放り投げた。すぐさま、余っていたマガジンも全て投げる。 ――その時、自動小銃をキャッチした森さんの顔は、距離が離れているためはっきりとは見えなかったが、 優しげに微笑んでいるように見えた。だが、すぐに俺たちに背を向けると、敵めがけて撃ちまくり始める。 その時だった。 「うぐおわっ!」 足に受けた強い衝撃で俺の口から自然と飛び出た情けない悲鳴とともに、ハルヒごと地面に倒れた。 見れば、左足のふくらはぎに銃弾が命中したらしく、ズボンの中からダクダクと血が噴き出している。 「キョン大丈夫!? ちょっと待っててすぐに手当てするから!」 ハルヒは自分のセーラー服の袖を破ると、俺の太ももの部分をそれで締め上げ始めた。傷口を押さえるよりも、 根本で血の流れを止めた方がいいと判断したんだろう。さすがにこういうことには完璧な働きをしてくれる。 そして、出血が少なくなったことを確認すると、再度ハルヒを肩にかけ、朝比奈さん(長門モード)の肩を借りつつ、 丘の上目指して歩き始めた。背後では古泉と谷口が何とか敵の動きを食い止めている。 「もうちょっと……だ!」 「キョン! もう少しで丘の上よ! がんばりなさい!」 ハルヒの励ましに、俺は酸素と血液不足で意識がもうろうとしながらも、丘を登り続ける。 ふと、背後を振り返ってみると、すでに奴らは小川を渡り始めていた。まだ距離はあるが、俺の足がこんな状態だと すぐに追いつかれるぞ。 「行け行けキョン! とっとと行け!」 絶叫に近い谷口の声。あいつ、あれだけへたれだったのに、ずいぶん男らしくなったもんだな。 昔だったら、危なくなったら真っ先に逃げ出していたタイプだったのによ。 そんなことを考えている内に、俺はようやく丘の上に出ることができた。そこからしばらく緩い下り坂が続いていたが、 その途中からまるで雲の切れ目のように光が差し込んできている。あそこが閉鎖空間との境界だ。あそこにたどり着けば…… 朝比奈さん(長門モード)に支えられながら、俺たちはゆっくりと丘を下り始める。 と、ここで谷口が丘の頂上にたどり着き、俺たちへ背を向けつつ撃ちまくり始める。だが、見通しの効く場所だったせいか、 一斉に銃撃が集中され、谷口の身体に数発が命中した。悲鳴を上げることすらできず、谷口は地面に倒れ込んだ。 俺はしばらくそれを見ていたが、迷いを打ち消すように頭を激しく振って、 「朝比奈さん、長門! ハルヒを頼みます!」 そう言ってハルヒの身体を朝比奈さん(長門モード)に預けると、谷口に向かって足を引きずりつつ向かう。 背後からハルヒが何かを叫んでいたが、耳に入れて理解している余裕はなかった。 森さんたちとは違い、谷口も俺ともあまり大差ない一般人だ。このまま見捨てておけば、死んでしまうかも知れない。 それに、谷口の話を聞かされている以上、どうしても置いていける訳がねえ! しつこく銃弾がこちらに飛んでくるので、俺は地面に伏せて匍匐前進で谷口の元に向かう。すぐ近くからも発砲音が 聞こえてくるところを見ると、古泉がまだ応戦しているようだ。 ほどなくして、谷口のところにたどり着く。見れば、腹に数発の銃弾を受けて、出血が酷かった。 首筋に手を当ててみると、脈もかなり弱まっている。 「おい谷口! しっかりしろ! 死ぬな! 死ぬんじゃねえぞ!」 「ははっ……最期の最期で……ドジっちまったな……」 すでに声も力なくなっていた。まずい、このままだと消耗する一方だ! すっと谷口は俺の腕をつかむと、 「すまねえ……伝えておいて欲しいことがある……あの子に……あ!」 「聞こえねえぞ! 絶対に聞くつもりはねえ! いいか! 絶対に死なせねえぞ――お前が死ぬ気になっても俺が許さない!」 奴らの謀略で谷口の死を一度目撃した。あんな気持ちは2度とごめんだ! 遺言なんて糞食らえだ! 絶対に、どんな手を使っても死なせねえ! しかし、俺の言葉は谷口の命を奮い立たせるほどのものでもなく、次第に力がなくなっていくことがはっきりとわかった。 くそ――どうすりゃいい―― 俺ははっと思い出し、谷口のポケットから恋人の写真を撮りだした。そして、それを目の前に差し出し、 「いいか、谷口! おまえ、こんな可愛い子を置いていく気か!? お前みたいなスチャラカ野郎に惚れてくれるなんて 世界中探しても二人もいねえぞ! 当然、天国だか地獄でもだ! こんなことは奇跡と言っていい! ここであっさりと死んじまったら、お前は一生独り身だ! この子がお前のところに行くときには別の男がそばにいるかもな! そんなんでいいのか、谷口!」 とんでもなく酷い言いようだったが、さすがにこれには堪えたらしい。谷口は上半身を上げて俺につかみかかると、 「――嫌だ! 死にたくねー! 助けてくれキョン! 俺は――俺はまだ何も――!」 「ああ、いいぞ。そうやってずっと抗っておけ! 古泉、来てくれ!」 何とか谷口を奮い立たせることに成功したが、このままだと本当に死んでしまうことは確実。何とか、手当てをしてやらないと。 「今行きます!」 古泉はしばらく短銃を撃ちまくっていたが、ほどなくして俺のところへやってきた。 「どんな具合ですか? 手当は?」 「出血が酷くて、脈も弱いんだ。とてもじゃないが、血を止められそうにねえ」 「早く医者に診せないとまずいですね……!」 古泉もお手上げの状態だ。谷口は半べそかきながら、俺に死にたくないと懇願を続けている。 と、ここで谷口が持っていた無線機から、声が漏れていることに気が付いた。同時に、上空を数機の攻撃機が飛び交い始める。 ようやく来てくれたか! まだ閉鎖空間内だったのによくやってくれるよ。 古泉は無線機を取り、連絡を取り始める。数回この辺り上空を旋回後、自分たちのいる位置から北側に向けて 爆撃して欲しい。そんな内容だった。恐らく森さんたちに攻撃開始を悟ってもらうために、すぐには攻撃を仕掛けないのだろう。 古泉らしい冷静な配慮だと思った。 俺は古泉の指示通りに、発煙弾を自分たちのいる場所に置いて、位置を知らせる。 と、あの黒い化け物たちがかなり近くまで来ていることに気が付き、あわてて銃を撃って奴らを食い止めた。 無線機から、こちらの場所を確認したと連絡が入る。俺たち3人はそれぞれ頷き、攻撃を要請した。 その間も次々と奴らが迫ってきていたので、俺と古泉で必死にそれを食い止める。 ふと、脳裏に奴らのことが過ぎった。ハルヒの情報爆発によって何らかの影響をもたらされた人々。 それ自体は別に悪いことでもないし、むしろ巻き込まれたという点から見れば、かわいそうな部類に入るだろう。 だが、ハルヒに手を出そうとしたのは間違いだ。実際にハルヒのことを調査していたなら、あいつが自分の持っている力について 自覚していないことなんてわかっているはずだからな。理由は知らないが、ハルヒの意思を無視してそれを奪おうとした。 しかも、人間として扱わなく、自分の願望を叶えるための道具として扱おうとした。とても許せる話ではない。 何よりも、俺たちSOS団をバラバラにしようとした。そんなに叶えたい願い事があるなら、 こっちに穏便に接触してくればよかったんだ。最初から暴力的手段に訴えた時点で、お前たちは俺の敵だ! 容赦しねえぞ! ……やがて、低空で飛ぶ4機の攻撃機が俺たちの前を過ぎるように飛んできた。 死ぬなよ、森さんたち……! 神でも仏でも何でも良いから祈り続ける俺の目の前を爆弾が投下され、辺り一面大地震のような地鳴りと熱風が吹き荒れる。 丘や民家一帯にいたあの化け物たちは、次々と爆風と炎に呑まれ、倒れていった。 「キョンっ!」 爆撃が一段落した辺りで、ハルヒの声が聞こえた。振り返ってみれば、朝比奈さんに抱えられたハルヒの姿がある。 そして、上空からバタバタと大きな音が響き渡ってきた。ヘリが数機、俺たちの上空をかすめて飛んでいる。 ここでようやく気が付いた。空の色が、あの閉鎖空間の灰色ではなく、雲一つ無い青空であることに。 ――俺たちは閉鎖空間を抜けていた。 ~~エピローグへ~~
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キョン「ただいまー」 ハルヒ「足りたでしょ?」 キョン「あぁ。すき焼き肉1パック498だった。」 ハルヒ「広告に書いてあったでしょ?ちゃんと見なさいよね?」 キョン「いっちょ前に主婦じゃねぇか…ハルヒ。」 ハルヒ「ふふん♪」 キョン「なぁハルヒ、久しぶりに朝比奈さんたちも招待しないか?」 ハルヒ「いいわね~っ!じゃお肉足りないからもっかい買って来て~。はい1000円。」 キョン「…………」 俺はハルヒに渡された1000円を握り締め、近くのスーパーへいわゆるおつかいに来ている。 しかし二度目のご来店となるとさすがに恥ずかしいな。 俺は先程と同じ段取りでカゴにすき焼き肉を二つ放り込む。 「さて、」 お会計を済まそうとさっさとレジへ進もうとしたその時、何やら見たことのある二人がカートお押しながら仲良く並んでショッピングを楽しんでいた。 古泉とみくるさん夫妻だ。 全く…そのままジャスコかなんかのCMに出ればいいってくらいの美男美女だ。 どうせ後で呼ぶのもあれだしな、今声をかけておこう。 買い物カゴを持ったまま不審者の様に古泉たちの後を追い、声をかけた 「おい古泉。」 「なんでs…」 恐る恐る振り向いた二人の顔が俺を見た途端にいつものニヤケハンサム面と天使の微笑みに変わった。 「キョンくん!!」 声をかけた古泉よりも真っ先に返ってきたのはみくるさんのエンジェルボイスだった。 「おやおや、奇遇ですね。ハルヒさんはどうしました?」 「いや、ハルヒに頼まれた使いなんだ。」 このニヤケハンサム面を拝むのも何年ぶりだろう。 いやしかしまさかこいつが俺の中の永遠のアイドル(旧)朝比奈さんをモノにするとはっ!! こいつめっ…!こいつめっ…! などと考えてる場合じゃないな…。 早いとこ伝えておこう。 俺が事の説明を話しているとみくるさんは目を輝かせて 「いいですね~♪」 と言って古泉に同意を求める様な仕草をした。 「では僕たちも材料を買いましょうか。」 快く古泉は頷いた。 「肉はもうこれで十分だからな。あとは適当に野菜とかで良いんじゃないか?」 「そうですか。では、ビールとおつまみを見に行きましょうか。」 「だな。」 「じゃあ私はお野菜見てきますね♪」 そしてみくるさんは頭の上に「♪」でも出てきそうなくらいの足取りで青果コーナーへと向かった。 さすがにビールとおつまみ代を古泉…いやみくるさんに出さす訳にはいかないな。 少々痛いが乏しい俺のポケットマネーで賄うとしよう。 古泉と飲むのも成人して以来か… 酒やつまみを適当にカゴに放り込みながら古泉に話しかけた。 「なぁ古泉…」 「何ですか?」 「お前、成人式以来長門に会ったか?」 「いいえ。しかし毎年年賀状は送ってくれますし、さほど心配もしてなかったのですが…。」 そう、長門は毎年あのパソコンでうった様な文字で年賀状を送っては来るものの…それ以外に長門と連絡を取ることが無かった。 しかし年に一度の生存確認で大概俺とハルヒは安心していた。 何てったってあの長門だ。 今になっては「元」宇宙人だが。 今から約7年前、高校を卒業して1年たち、卒業後もしばらくは行われていたSOS団の活動も治まって、俺とハルヒは社会に程々に順応していた。 ハルヒくらいの頭なら大学へ行ってもおかしくないが… ある日突然「キョンっ、一緒に暮らすわよっ!」な~んて言われた日にゃ俺もびっくりしたね~。 なんせあの不思議大好き野郎と暮らすんだからそりゃもう高校時代より疲れる生活が待っていること請合いなので俺も断ったんだがな…。 俺の安月給じゃ生活できんぞってな。 ところがあのハルヒは、「あたしも出すわよ、生活費くらい。」 最初自分の耳を疑ったがその後にまた俺の心の朝日新聞の一面を飾る様な一言がハルヒの口から言い放たれた。 「好きなのよ…あんたのことっ!!」 なんて強引な告白の仕方があるだろうか? それからと言うものハルヒは気が強い普通な女の子となってしまったのである。 その時の古泉曰く、徐々にハルヒの世界を変える力は失われていっているらしかった。 「そうなれば僕の能力も無くなり、朝比奈さんや長門さんたちそれぞれの役目も終わります。」 両手を拡げそう言った後、俺は気付いた。 ハルヒを見守る必要が無いなら古泉を除いた二人はどうなるんだ? 古泉は元は普通の人間、まぁ朝比奈さんもそうだが、そうなると朝比奈さんは未来に帰り、長門は消えてしまうんじゃ… 「鋭いですね…」 ニヤケた面が真顔になった。 古泉と意見が合ったりするのは年に数えるくらいだが… 珍しい事もあるもんだな。 「おや、僕はただハードな青春を共にした仲間と離れたくないだけですよ。」 「あとどれくらいで無くなるんだ…?」 「保って2日といったところでしょうか?」 「行くか…!急いだ方がいいだろう?」 「わかりました。」 「僕は朝比奈さんに話をつけてきます。長門さんを頼みました…!」 「わかった!!」 急いで走って着いたあのマンション… 卒業した後も長門宅には行ってたからな、自宅はここで間いない! 急いでベルをならした。 ……………………… 出ない!?まさか…! 「長門!」 珍しく長門がエントランスから直接鍵を開けにきた。 少し目が潤んだ様に見えるのは気のせいか。 そしてゆっくりとエントランスのドアが開けられた。 「長門っ!話がある!!」 「………(コクン)」 「あのな、長門…」 「私もあなた達に話があったところ。」 「涼宮ハルヒの能力があと26時間42分8秒で失われる。だからお別れを言おうとした。」 「その事なんだがなぁ長門、俺はそうはさせないぞ…。」 「……。」 「いつだったか俺言ったよな?お前がもし情報なんとかに消される様なことがあったらハルヒに全部話して何としてでも見つけ出すって!」 「以前は私のバグが原因。でも今は任務が終わった。だから情報統合思念体は」 「長門っ!!」 俺が叫んだせいで長門が少し驚いた顔をした。 くそっ写メ撮っとくんだったぜ… 「結局はその親玉に消されるんだろ?そんなの俺は認めないぞ!!」 熱くなり過ぎたか、俺は長門の腕をつかんでいた。 その時、長門の頬をわずかな水分が滴った。 「だからな、長門。今からハルヒに全部話そうと思うんだ…。」 「…そう。」 俺は長門の腕を掴んだままハルヒの待つ自宅へと走った。 そしてマンションの前に着くと先に古泉と朝比奈さんが居た。 あとから聞いた話しによると、朝比奈さんは判りやすく荷物をまとめて準備していたという。 なるほど、この時すでに……っ!!! 「キョンくん、……ぅぇっありがとう~…!!グスン…。」 古泉の隣りの朝比奈さんの顔は涙でぐしゃぐしゃだった。 「では、行きましょうか。」 「おう。」 「ハルヒ!」 「なっ…何!?みんな揃って…!?」 いやぁ~あの時のハルヒの顔も見物だったね。 なんせみんな血相変えて走り込んで来たんだからな。 「いいですか涼宮さん、これから僕らが話す事は全て事実です。」 それから小一時間今まであった出来事を洗いざらい吐いてやった。 長門が宇宙人、朝比奈さんが未来人、古泉が超能力者でお前はとんでもない力を持っているという話。3人の役割、そして役目を終えた長門や朝比奈さんがいなくなると言う事を。 「有希を消しちゃうなんて許しがたいことだわっ。それにみくるちゃんも!団長の許可無しに未来へ帰っちゃうなんて駄目じゃない?!」 ハルヒの言葉を聞いた朝比奈さんはさらに涙の量を増やし 「涼宮さぁ~ん……」 声を荒げて泣き出した。 そしてハルヒから 「で、有希やみくるちゃんはほんとにそれでいいのね?」 と確認されると長門と朝比奈さんは頷いた。 やっぱり団長は頼りになるなと実感させられたときであった。 「有希、その能力はどうやって使うの??」 「心の中で、今まであなたが思っていた通りの私達を想像すればいい。私も協力する。」 そう言ってハルヒと長門は目を瞑り、念じ始めた。 しばらく瞑想していたハルヒと長門に割って入る様で悪いが俺は万能宇宙人である長門に最後の疑問を聞いてみた。 「すまんが長門、この後の歴史はどうなるんだ?」 「情報の操作は得意。今はそれも含め涼宮ハルヒに協力している。」 「そうか。そうだったな。」 「そう。」 それからややあって、長門は一言だけ俺に告げた。 「終わった。」 その場にいる全員の肩の荷が降り、朝比奈さん達はペタンと腰を下ろし、また泣き出した。 ハルヒは笑顔で俺に言った。 「こんな面白いこと黙ってたなんて信じられないわ!!今夜はみんなでキョンに説教よ!!」 その後俺とハルヒが住むマンションで「すき焼きを大いにた盛り上げるための涼宮ハルヒのキョンを説教する会」が行われた。 ハルヒが消えちまった後の鍋もうまかったがあの時のすき焼きも申し分ないくらいうまかったな。 前置きが長くなったがその後普通の女の子になった長門を成人式の日以来見ていない。 出るか不安だったが長門の携帯に何年ぶりかに電話をかけてみる。 ……………… 「…もしもし。」 「長門か?」 「…。」 恐らく受話器の向こうで頷いたのだろう。 「久しぶりだな。」 「…。」 あの、長門さん?受話器の向こうの頷きは俺には見えないから少しはしゃべってくれよな。 「…わかった。」 「変わらないな。」 「…そう。」 「今日俺んちにみんなを呼んでまたすき焼きでもしようと思うんだが。」 「くるか?」 「……行く。」 「そうか。ならもう古泉と朝比…みくるさんは来てるからな、待ってるぞ。」 「わかった。」 そう言って長門は電話を切った。 長門の家からここまでは電車で一駅、さほど来るのに時間はかからないだろう。 ハルヒとみくるさんも仲良くすき焼きの準備を…… 「みくるちゃぁん!折角だから裸にエプロンやってみない!?」 「ふぇ~~!!」 ハルヒ!人妻バージョンのみくるさんも見てみたいのは山々だが夫の前だ!!自重せい! おい、古泉、ニヤけてないでお前もなんか言え! 「変わらないのはあなたもハルヒさんも一緒ですね。」 とチラシのモデルから雑誌のファッションモデルに進化したスマイルで俺に言った。 しかたないな…。 「やめろ!ハルヒ!!一昔流行ったしゃぶしゃぶじゃ無いんだぞ!」 懐かしいな…まさか今になってこのやりとりをするとは。 「しゃぶしゃぶ?今はすき焼きを作ってるのよ??」 「わかってる!これ以上言わせるな!!」 古泉夫妻がそれをみて笑っていた。 古泉、後で覚えておけ。 「それは恐ろしいですね。」 こいついつの間にビール一本空けやがったっ! 「一樹くんは酔ったら手強いですよ?」 みくるさん、それはどう手強いんですか? 「ふふ♪禁則事項です♪」 人妻最高!……っ!? 「キョン?何鼻の穴膨らましてんの!?」 油断した…ハルヒを止めていた途中だった… ―ピンポーン― するとチャイムが鳴った。 きっと長門だろう。 インターホンのモニターを覗き込む。 ……………誰だ? モニターの向こうには髪は肩まであり、 背は高くないもののスラッとしてて清楚な感じの女性が立っていた。 「なぁハルヒ、知り合いか?」 「有希じゃないの―??」 準備していたハルヒはエプロンで手を拭き、いそいそとモニターに目を向けた。 「すいませんどなたですか―?」 「…長門有希………………です。」 『ぇえ―っ?!!!!』 一同は驚きの声をあげ、俺を挟み込むかの様にモニターを我先にと覗いた。 みくるさん、肉の塊が…そして古泉、顔近いぞ。 「今開けるわね!!」 鍵を開け、進化した長門をリビングに招待する。 しかしこうも変わっちまうとちょっと畏まってしまうな。 「変わったな、長門。」 「そう?」 「背も少し高くなったんじゃないか?」 「あれから…少し伸びた…わ。」 伸びた…わ って…。 少し無理してるな、ここでは普通の長門でいいんだぞ? 「そう。」 「人ってのはこうも変わっちゃうもんなのね―。」 ハルヒは長門を珍しいものを見る様な目で長門を見つめる。 無理も無いがな…。 あの時は制服しか着てなかったし、今はan〇nにでも乗ってそうなくらいの美人だ。 「あれから何か変わった事はあったか?」 「特には。強いて言えば制服が入らなくなった。」 今のは長門なりのジョークだろう。古泉も相当ウケている。 「フフフ………ケラケラケラwwwwww」 ウケすぎだろ!いかん、こいつ完全に逝っちまってる。 「しかし突然そんなに変わられるとさすがの俺も驚いたな。」 「対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイズに基本的な身体の成長は無かった。 あの時の情報改竄によりあなた達と同じ有機生命体になったことにより、今までの反動が訪れた。」 「よくわからんが人間になって遅れた分一気に成長したってことか?」 「そう。」 久々に長門の顔を見たが前の幼かった長門とは一転、ハルヒやみくるさんが居なければ確実に心魅かれていただろうね。 「ところで長門…前みたいに金に自由は利かないだろう?仕事とかしてるのか?」 元宇宙人に超現実的な質問をしてみる。 古泉は元機関とやらの誼で何かの研究をしているらしい。 かという俺はハルヒの紹介で夫婦揃ってA〇ショップの店員だ。 携帯ショップの何が悪い! 言っとくがハルヒのユニフォームの似合いようははんそk…話が脱線したな。 「ファッションデザイナー。」 !? 「有希―!すごいじゃない!?」 「長門さん昔から多才でしたもんね~♪」 「マッガーレ」 「こら古泉!スプーンを力ずくで曲げるな!! しかし長門、専門学校とか行ってたっけ?」 今日日学生のバイト代で行ける学校なんてどっかのお笑い芸人養成所くらいだ。 「親玉から仕送りみたいなのがあったのか?」 「定期的に。その一部を蓄えていた。」 「そんなとこまでしっかりしてたんだな。」 そんな話をしながらビールをちびちびやっていた。 すると長門はハルヒ達のいるキッチンへと向かって行き 「手伝う。」 と一言言い、下準備を始めた。 あの時からようやく人並みの生活をできる様になったのか。 そういや表情に乏しく、この俺の眼力でようやく変化したのが伺えたあの長門だが、今は誰が見ても分かるだろう。 楽しそうだった。 笑いながら作業する美女3人を見ていると心から幸せだと思うね、うん。 「はたしていつまで続きますかね、永遠にこの状態だといいのですが…。」 いきなりマジに戻るな!空気読め!顔を近付けるな!酒臭い!! 「……。今我々はその長門さんの元親玉、情報統合思念体について研究しています。みくるさんにも手伝ってもらってね。」 「何?!完全に情報を操作したわけじゃ無かったのか?!しかもみくるさんまでそのいかがわしい仕事を…」 「えぇ。いくら前の長門さんでも何億年前の情報から操作するのは無理だったと思われます。」 「で、何かまずい事でもあったか?」 「もしあなたが大事にしていた息子をさらわれて、もうあなたのもとに戻らないと分かった時、あなたならどうします?」 「一生さらった奴をゆるさねぇな。」 「そうです。」 まさか…………。 情報なんとかがそんな子供思いのお父さんだったとはな。 「ということは、結果長門は情報思念体から千切られて無理やり人間にされちまったようなもんか…。」 「本人の意思もありましたし、無理やりという表現は正しくないですが。まぁそんなところです。」 そうだな、俺が長門の親ならあんな可愛い娘をさらった奴に制裁をくわえる。 「しかし今のところ、何の動きもありません。安心してもいいでしょう。」 「そうかい。ま、長門の親以上に怖いのがうちのハルヒなわけだが。」 なんだがまた俺だけ2Gくらいの圧力がかかったくらい体が重くなった。 飲み直すぞ、古泉。 「はいw」 「できたわっ♪」 そうこうしてるうちにすき焼きが出来上がったみたいだな。 ん~いい匂いだ。 さっきのことは一旦忘れて、今日はみんなの再会を祝してSOS団すき焼きパーティーだ。 そうだ、今度また不思議探ししないか? 駅前とかじゃなくどっかの温泉とかな…。 ん、うまい!!! 涼宮ハルヒのすき焼 ―完―
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涼宮ハルヒの遡及Ⅶ 「でっかぁぁぁ!」 「す、涼宮さんなんたってこんなぁ……!」 俺の驚嘆の声と朝比奈さんの怯えきって震えた声を聞いて、 「うんうん。やっぱ、ボスたるもの、これだけの迫力がなくっちゃ!」 などと、ハルヒは腕を組み、勝ち誇った笑顔でうんうん頷いている。 そう、俺たちの目の前に現れたのは、マジで山かと錯覚してしまうくらいの大きさなんだが、実質的にはさっきの怪獣より倍は大きい程度で、漆黒の鱗に紅蓮に輝く瞳、その口からぬめり輝く牙はゆうに俺たちの身長以上は楽にある。んでもって、やっぱり漆黒の翼を纏い、しかしその体重が飛ぶのをどこか邪魔しているのか、がっつり大地に足を下しているんだ。これを長門、古泉、朝比奈さんが協力して倒すストーリーなのか? いったいどうやって倒すつもりだったんだろう? んで、奴が歩みを進める度に震度3以上で大地を震わすのである。 ……ボス、ねぇ…… 「で、あれがラスボス?」 問いかけてきたのは振り向くことはできないようだがアクリルさんだ。 「アレがラスボスなら、アレをやっつけちゃえばこの世界から脱出よ。だって、ラスボスを倒せば『ストーリー』が終わるから。その先がない以上、世界は崩壊し、あたしたちは元の世界に戻ることができる」 なるほど。それは確かに納得できる理由だ。 まあもっとも、ハルヒのことだから、 「あ、違います。さっきの大群のボスだけど、こいつがこの世界のラスボスって訳じゃないんです」 だろうな。こんなあっさりラスボスが登場するとは思えん。 「あっそ。んじゃまあ、とりあえずあたしたちの身の安全のためにこいつを葬るとしましょうか!」 ハルヒの答えを聞いて、アクリルさんが宙を駆けるように舞い上がる! それを追って長門と古泉も飛び上がった! 「ブレイズトルネード!」 先手はアクリルさん! 舞い上がると同時に、猛スピードで漆黒の怪獣の目線に到達した瞬間、灼熱の炎の竜巻を奴にぶつける! 当然、奴は恐れ慄き、むやみにそのぶっとい腕を振り回すが当然、そこにアクリルさんの姿はない! どうやらあれは目くらましだったようだ。さらに上昇して行くもんな! だが、いったい何のために? そんなアクリルさんの上昇を尻目に、古泉と長門も攻撃を開始した! 古泉は勿論、例の赤いエネルギー球をぶつけ、長門はスターリングインフェルノを振るい、主に爆裂魔法をしかけているようだ。 ただ如何せん、あの巨体だ。そんなにダメージはなさそうである。 派手な爆撃音が響く割には怪物の動きはまったく鈍っていない。 目くらましから目が慣れてきたのか、だんだんと攻撃が正確になっていく。 奴の繰り出すかぎ爪攻撃が古泉や長門をかすってやがるからな。 しかし、古泉と長門の動きもそんなにのんびりしちゃいない。 かする以上のダメージを受けることなく、散発的な攻撃を継続している。 ――!! と言うことは牽制攻撃ってことか!? なら本命は――! 俺の予想を裏付けるが如く、はるか上空から、しかし、それでもここまで声が届いたんだ! 「グラビデジョンプレッシャー!」 と、同時に怪物の動きが、そうだな、同じくらいの大きさの錘を背負わせたんじゃないかというくらい、俺にもはっきり分かる! 奴の表情が苦痛に歪み、腰が前折れになって、足が大地にめり込みやがったからな! これは……重力を増大させる魔法か!? つまり奴の動きを封じるために……! 「セカンドレイド!」「……」 奴の動きが止まった瞬間、古泉と長門がさっきの攻撃以上の力を込めていることが一目瞭然で理解できるエネルギー球を、奴めがけて、それぞれ右腕と左腕に投げつけて、当然、その両腕は破壊された! 奴の空気を震わせる絶叫が響く! 「これでもうかぎ爪の攻撃はできなくなりましたね」 などと言う古泉の勝ち誇った声が聞こえてきて、 「えっ!?」 しかし、その声を捉えた怪物は紅蓮の瞳で古泉を睨みつけたと思った瞬間! 「くっ!?」 古泉には両手でブロックする時間しか残されていなかった。 しかし、奴の巨体からすればブロックの上からでも楽に古泉を吹き飛ばせることができる! 猛スピードで地面に墜落する古泉! 「古泉くん!」 ハルヒの悲痛の叫びが届く! そう……確かに吹き飛ばしたはずの右腕が瞬時に復活しやがったんだ…… どういうことだ……? 「超回復」 って、長門!? いつの間に!? 「あの怪物は肉体の一部が破損されたとき、瞬時にその部位を回復させる特殊能力がある模様」 なんだって!? 俺は愕然とするしかできなかった。 が、 「さて、それはどうかしら?」 長門の意見を否定する人物が現れた。いや否定と言うより疑問視だな。 もちろんそれは俺と長門の前に降り立ったアクリルさんだ。 「で、もう大丈夫よね?」 「はい、ありがとうございます」 その隣にはさっき、かなりの勢いで地面に激突した古泉が、ブレザーの袖と背中が派手に破れさせながら、全身は誇りまみれになっているんだけど、ほとんど無傷の状態で佇んでいるのである。 って、いつの間に!? 「僕が地面に叩きつけられたとほぼ同時に、さくらさんが来てくれて回復させてくれたんですよ。おかげで助かりました。テレポテーションという能力は便利なものですね」 「よかった……」 にこやかな苦笑を浮かべる古泉に俺とハルヒは安堵の表情を浮かべるが、 「あなたに問う。わたしの見解に対する疑問は?」 なんとなく憮然と問いかけてきたような気がするぞ長門。注文が付いたことがそんなに気に入らなかったのか? で、どうやらアクリルさんも長門の心境に気づいたのだろうか、 「あ、誤解しないで。もしかしたらあたしの思う『超回復』とあなたの考える『超回復』で意味が違うかもしれないってだけだから」 と、なんとも気を使って語りかけてくるのである。 「あ……!」 おや? 長門は悟ったようではあるのだが? 「んじゃまあ、とりあえず試してみましょうか!」 そんな長門の声は耳に入らなかったのか、アクリルさんは巨人竜へと向きなおる。 少し足を開き気味に立ち、両手を腰のあたりに添え、と同時にマントと頭髪をなびかせながら、俺には理解不能の呟きが聞こえてくる。 言うまでもないと思うが呪文を唱えているってことだぞ。 んで、アクリルさんを中心に気流が渦巻き始めているんだ。しかもどんどん勢いを増してゆく! 「ウィングソードストーム!」 アクリルさんが術を開放すると同時に周囲を渦巻いていた気流が――そうだ、あたかも気流が刃の嵐となって巨人竜へと放たれたんだ! どこかで聞いたような変化を示した魔法ではあるが気にしないでくれ! どうやらアクリルさんが使う魔法にはとある星座をモチーフにしたバトルマンガのフィルタがかかっているようなんでな! そしてその刃が再び巨人竜の右手を砕く! 再び響く巨人竜の絶叫! しかし! 「あ、復活した」 なんてどこか呑気な声を発したのはハルヒだ。 「……ここは一度、戦略的撤退よ!」 「はい」 「了解」 は? 巨人竜の右腕が復活したのを見て取れて、アクリルさんがいきなり撤退宣言。それに古泉と長門があっさり了承。 って、ちょっと待て! アレをほったらかしにするのはいいのか? 「そんな悠長なことは言っていられない、ということですよ」 俺の問いには答えず、しかし古泉が俺の手を取り、赤球をスパークさせる。 ふと隣を見てみれば、アクリルさんがハルヒを抱えて、長門が朝比奈さんを背負って同じように猛スピードで飛行していた。 「で、どういうことなんだ?」 「見ての通りです。あの巨竜は長門さんのおっしゃられた通りで破損された部位を即座に修復させる治癒能力を持っています。つまり、どれだけダメージを与えようが、並みの攻撃では太刀打ちできません。ですから作戦を練るために一度、奴と距離を取るのです。もっとも幸いなことに回復された個所が強化されることは無いようです。長門さんが言った『超回復』は回復スピードを指し、さくらさんの言った『超回復』は通常僕たちでも負傷した時に、その箇所がより強固となって回復する『超回復』を指すようです。これが『超回復』に対する二人の見解の違いと言うことですね」 「……どっちにしろ、俺には回復スピード以上の破壊エネルギーをぶつける以外の対抗策がない、という風にしか聞こえんのだが?」 「そうとも言えるかもしれませんね」 って、笑ってる場合か! あんなデカブツ相手にどうやったら回復する前に倒せるような力が存在するんだよ!? 「ですから、それを考えるということです。幸い、あの巨竜の動きは僕、長門さん、さくらさんと比較するなら相当鈍いようですし、撤退して距離を取ればある程度の時間を稼ぐのは可能ですから」 ああ、そうかい。 などと嘆息する俺なのだが、一つ、失念していた感は否めない。 なぜなら、奴の手下である五十匹ほどの空飛ぶ怪獣たちは爪と牙と体重以外に口から発射される武器を持っていたから。 なら、当然、その親玉であるあの巨人竜も持っている訳で、 「って、ハルヒ! さくらさん!?」 そう、二人の背後から猛スピードで迫る漆黒の渦巻きが二人を追っているんだ! 古泉や長門と比較するならやはり、アクリルさんの飛行速度の方がはるかに速いので、今では俺たちの先頭を飛行しているしているのである。 だから俺はその漆黒の渦巻きを横目に捉えてしまったんだ! どうやらあの巨人竜は誰が一番脅威なのかを本能的に分かっているらしい! ただ、それが強大無比な戦闘力を誇るアクリルさんなのか、それとも、この世界の創造主であるハルヒなのかまでは分からんのだが、とにかく二人が固まっているわけだから、奴にとっても攻撃しやすいのだろう。 さすがのアクリルさんの飛行速度も背後から迫りくる漆黒の渦巻きには勝てないらしい。 どんどん差が縮まっていくもんな! 「くっ!」 「さくらさん!」 肩越しに振り返るアクリルさんの表情には焦燥感が色濃く表れている! しかももう避けられるほどの範囲にない! 「ハルヒぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」 俺の絶叫が響いたのは、その漆黒のうねりが二人を飲み込んだところを目撃してしまった後のことだった。 「ハルヒぃ! ハルヒっ! ハルヒぃぃぃ!」 俺は錯乱したように叫ぶしかできない。 なぜなら漆黒の火柱が過ぎ去ったあと、そこには何もなかったから。 今は俺と古泉のはるか背後になってしまっているのだが、飛行中、横目に確実に誰もいない現実を捉えてしまったんだ。 そう――呑みこまれるまでには確実にいたハルヒの姿がそこに無かったから―― 「ちょっと! 落ち着くてください!」 「馬鹿野郎! これが落ち着いていられるか! ハルヒが! ハルヒが! と言うか戻れ! もしかしたら墜ちただけかもしれないじゃないか!」 「冷静に状況分析をしてください! 今、先ほどの場所に戻ることはできません! 僕たちがやられてしまいます!」 「古泉てめえ! ハルヒがやられたってのに何、落ち着き払ってやがる! お前はハルヒが心配じゃないのか!」 「ですから……!」 「一応、あたしも巻き込まれたと思うんだけど、あたしの心配はなし?」 え? 俺の動きを止めたのは、俺たちの背後から聞こえてきた妙にからかっている感のある声だった。 恐る恐る振り返る。 そこには、 「あの……涼宮さんを心配されるお気持ちは判りますけど、僕が落ち着いていた意味をもう少し考えてほしかったのですが……」 と、呟く苦笑を浮かべて呟く古泉のさらにその背後に、 「ば、馬鹿キョン……あんた、何、取り乱してるのよ……こっちが恥ずかしくなるじゃない……」 「それだけハルヒさんが大切ってことじゃない?」 顔を真っ赤にしているハルヒと、ハルヒを抱えてなんとも宥める笑顔を浮かべるアクリルさんが居るのである。 「いったい何が……」 「説明は後よ。とにかくいったんあいつから離れる」 「了解しました」 俺の茫然とした呟きを今は聞き流して、アクリルさんと古泉が飛行速度を加速させる! 「あのエネルギー波はちょっと厄介ね。あたしの結界以上のパワーがあったわ。だから避けるしかなかったんだけど。でもまあ、これだけ離せば射程距離外にはあるみたい」 「そのようです。追撃の一撃が来ません」 アクリルさんと古泉が肩越しに振り返る。 さっきはとてつもなく大きく見えた巨人竜が、今は遠い所為もあり、せいぜい近くにある山と同化しているようにしか見えん。 つっても色が漆黒で形がいびつだから区別はつくがな。 「では降下して森の中に身を隠し、対策を練ることを推奨する」 って、長門いつの間に!? などと俺が口に出す前に、三人は眼下の森へと降下を始め、どうやら俺の頭も冷えたようだ。 しかしだな。同時に暗澹たる気持ちが支配する。 ――あの怪物をどうやって退治する?―― 誰も口にはしないがおそらくは、みんな同じことを考えただろうぜ。 涼宮ハルヒの遡及Ⅷ
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1 後ろの席の奴が、俺の背中をシャーペンでつついている。 こう書けば、下手人が誰かなど説明する必要はまったくないと言っていい。 なぜなら、俺の真後ろの席に座る人物は、この1年と3ヶ月余りの間に幾度席替えがあろうと、いつも同じだからである。 「あのなぁハルヒ。」 「何よ」 「そろそろシャツが赤色に染まってきそうなんだが」 「それがどうかしたの」 クエスチョンマークすら付かない。涼宮ハルヒは今、果てしなく不機嫌である。 去年も同じ日はこいつはメランコリー状態だったなぁと追想にふけることにして、俺は教室の前方より発せられる古典の授業と、後方より発せられるハルヒのシャーペン攻撃をしのぐ。思えばこの日は俺の今までの人生の中で最も長い時間を過ごしている日で、それは俺がタイムスリップなど無茶なことを2回もしているからに他ならない。 俺の、そして恐らくはハルヒの人生でも印象深い日。今日は七夕である。 去年と違うのは、こいつの憂鬱の原因を知っていることだが、かといってまさか「俺はジョン・スミスだ」などと言う訳にもいくまい。切り札はとっておかねば。というわけで、やはり俺はハルヒに小突かれ続けなきゃいかんらしい。今日は早めに学校を出て俺の家でSOS団七夕パーティーをやることになっているんだが、この機嫌で大丈夫なのかねぇ。ともかく、早く朝比奈さんのお茶が飲みたいね。俺にとっちゃ「かいふくのくすり」以上の効き目があるからな。あれは。 そんなこんなで終業のベルが鳴り、俺はさっさと部室へ退避する。 「はぁーい。」 ノックに応えてくれた朝比奈さんはすでにメイド服に着替えていて、いつものごとく俺に熱いお茶を淹れてくれた。俺は団長机に腰掛けてパソコンの電源を入れ、SOS団公式(学校的には非公式)サイトを開く。 「内容がない」というサイトのカウンタが回らない根本的な原因にようやくハルヒは気づいたようで、数週間前から活動日誌を団員持ち回りで更新するという面倒な行為を始めたのだが、長門が更新した回は数秒で読み終わるか、読み終えるまでに数時間はかかるとてつもなく長ったらしいコンピュータの話になるかの両極端だし、朝比奈さんが書いた文章はハルヒによって却下され代わりに写真をアップロードされているし(俺が気づいて削除したのはつい3日前だ)、古泉は古泉で長々しいミステリ論ばかりだし、ハルヒに至っては言いだしっぺのくせにサボるか、意味わかんない方程式だのを書くかなので、まともに日誌と呼べるのは俺が更新した分だけなんじゃないか? 「カウンタの回りが数倍にアップしたんですし、いいじゃないですか」 「そうは言うがな。古泉。」 「涼宮さんも満足げですし、問題ないですよ。彼女の精神の安定に寄与していることは間違いありません。精神自体はここのところ不安定ですがね。ま、今日はさらに安定しないでしょう」 まさにその通りだよ。痛む背中をさすりながら、今日のハルヒの様子を説明してやる。テーブルに座って本を読んでいる長門にお茶を渡すと俺の隣に来た朝比奈さんは、 「七夕は色々ありましたもんね」 と話しかけてきた。 「そりゃそうですね。タイムスリップしたり、世界を再改変したり――」 俺の回想はドアがノックなしに勢いよく開く音で中断された。一瞬の間。 「やぁ、ごめんごめん。遅れちゃった」 おい待てお前。さっきまでの不機嫌はどこいったんだ。去年と同じように竹を担いだハルヒが、にんまりと笑いながら入ってきた。全く、谷口によく似た人間をアシスタントにしている某番組のナビゲーターよりも態度がコロコロ変わる女だ。 「今年もみんなで願い事を書くのよ。毎年メッセージを送り続けなきゃ織姫と彦星だって忘れちゃうわ。」 今年もってことは、その竹もまた私有地の裏林からパクってきたのか。 「バレなきゃいいのよバレなきゃ。」 ハルヒは窓際に竹を置くと、俺を押しのけて団長席につき、中をゴソゴソと引っ掻き回し、短冊を取り出す。 「ちゃっちゃと書いて、早めにキョンの家に行きましょ」 実を言うと、俺の違和感は、この時からすでに始まっていた。 さて、何を書こうか。ヒントを得ようとハルヒのをみると、「彦星とさっさとくっついちゃいなさい」「織姫とさっさとくっついちゃいなさい」と書いてあった。 こいつにしてはなかなかロマンチックじゃないか。 「ちょっとキョン!なに見てんのよ。馬鹿なことしてないでさっさと書きなさいよ」 見えるように置いとくのが悪い。大体なに照れてんだよ。 「べっ、別に。」 ちなみに他の3人はというと、駄目だ、去年と似たり寄ったりで参考にならない。悩んだ挙句俺は、「毎日楽しい日々を過ごせますように」「無事に天寿を全うできますように」と書いたのだが、 「ふーん」 俺の短冊を見たハルヒは、なぜか複雑そうな顔をしている。 恐らく、この短冊が最終的な引き金だったんだろうな。 2 この後俺たちは全員そろって俺の家に移動して、何かの記念日を建前にかなりの頻度で開催されるSOS団的パーティーを楽しんだ。いつもそうだが、ドンチャン騒ぎである。途中で妹が乱入してきたのでなおさらだ。ハルヒがいつかの孤島の反省から酒をNGにしていなかったらと思うとゾッとするね。ツイスターやら2台つなげたノートパソコンやらありとあらゆる物が部屋の中に展開され、これを見て楽しくなさそうという感想を抱くものは一人もいないだろうな。 だが、なんだろう。この違和感は。 みんな楽しそうだったにもかかわらず、俺は漠然とした違和感を持ち続けていた。その正体をつかんだのは、すでにパーティーが始まってかなり経ってからだった。 それはほんの些細な違い。だが俺には、ハルヒのが無理をしてハイテンションを装っているように感じられたのだ。これはハルヒの精神分析医になれそうな古泉も同意見なようで、階下に飲み物を取りに部屋を出た俺は、古泉の「トイレに行ってきます」という声を聞いた。 「涼宮さんの様子がおかしいのはあなたもお解りでしょう。いやな予感がします」 廊下での会話だ。 「一体何が原因なんだ?」 「先ほど部室で言いそびれましたが、涼宮さんの憂鬱の原因は単なる七夕の思い出ではないのでしょう。彼女ははあなたを疑っているんですよ。」 「どういうことだ?」 「あなたにはお解りのはずですよ。とにかく、気をつけてください」 それだけ言うと、古泉は戻って行ってしまった。分かるような分からないような。どうすりゃいいんだ? 結局、その後しばらくして、パーティーはお開きとなった。帰っていくときのハルヒにも、無理している感じは残っていた。 自分の家でこういう行事をやることにはメリットとデメリットがあり、メリットは家に帰る手間が省けること、デメリットは騒ぎで部屋が見事にカオス状態と化すことである。いつもお嬢さまと少年執事に散かされた部屋を片付けるメイドさんの気持ちが良く分かる。しかし、帰るのと片付けるのではどっちが手間がかかるんだろうね。そんな事を考えながら部屋を片付けていると、くそっ、ノートパソコンの電源が付きっぱなしじゃねぇか。「キョン、あんたが明日持ってきて」と命令し、俺の反論は都合よく聞かずに放置してってんだから、電源ぐらい切って帰れてーの。 電源を切ろうと本体を開くと、テキストエディタが起動していた。 YUKI.N あなたはあなたの思う通りの行動をとればいい。 実に長門らしい、簡潔な文章である。だが長門がこういうメッセージを残すということは、何かが待ち構えていることと同義なのだ。 風呂に入り、俺は床に就いた。異様なプロフィールを持つ3人からの追加連絡はなかったからな。 3 うん、「また」なんだ。済まない。また俺はここに来ちまったようだ。 もう今度はレム睡眠談義は不要だろう。 ――キョン、起きて―― 予想通りというべきか、俺の夢にハルヒの声が乱入してきた。あまりいい夢ではなかったから惜しくはないけどな。 また首を絞められるのは嫌だと思いつつ、そんな思念だけで起きられるものなら俺は毎朝学校に行くときに苦労しない。結局、めでたく俺はまたしてもハルヒに首を絞められる運びと相成った。 さすがに目を開く。やはりというか―― 記憶そのままの奇妙な光に照らされた学校であった。 セーラー服を着たハルヒが俺の顔を覗き込む。ということはと思い、自分の体を確認してみると、やはり着ているものはスエットではなく制服だった。 「何なのかしら、ここ。去年と同じよね?」 「どうやらそうみたいだな」 さすがに2回目ともなると、ハルヒも驚いていない。 「キョン、とりあえず部室に行かない?」 その意見に否やはなかった。どうせそこ以外に行くところはないしな。パソコンを起動したらまた何かあるかもしれん。 荒々しくも手っ取り早い方法で職員室から「ぶしつのカギ」を手に入れ、部室棟へと向かう。 「あんたと話したいことがあるの。」 部室に着くなり、ハルヒはこう切り出した。普段は見せることのない、寂しそうな、不安げな、弱気な表情である。 「あんた、あたしに何か隠してない?」 さて、何のことだろう。心当たりがないのではなく、ありすぎて何のことだか分からないのである。 「この間、あんたが休みの日にみくるちゃんや有希や古泉君と一緒にいるところを見たのよ。それと、」 そう言いながら、ハルヒはそれ取り出した。 それは、 1年前のこの日、長門から受け取り、4年の時を過ごした、ハルヒの考えた宇宙人語が書かれた短冊だった――。 「あたし、昨日あんたの家に勉強教えに行ったでしょ?あのとき、あんたがトイレに行ってる間に、何気なく箪笥の引き出しを開けてみたら、これが出てきたの」 なるほど、疑うというのはこのことだったのか、古泉。しかし、自分の迂闊さのせいでまたしても世界崩壊の危機に直面することになるとは。 どうする?俺。だが、答えはすでに俺の胸にあった。 「この短冊に書かれている記号はね――」 「今から4年前にお前が東中の校庭に書いた、馬鹿でかいミステリーサークルのと同じ記号で、意味は『私は、ここにいる』だろ?」 このとき俺には、全てをブチ撒ける覚悟ができていた。世界がどうなろうともうどうだっていい、と思っていたわけではない。全てを曝しても、こいつは世界を変えることはないという自信がなぜかあったからだ。 「4年前の今日、東中に侵入したのはお前一人じゃない。女の子を担いだ高校生が一人いて、お前の線引きを手伝った」 ハルヒの表情が、不安から確信へと変わってゆく。 「俺は、ジョン・スミスだ」 4 「やっぱりね」 それから俺は、ほとんどの真実をハルヒに話した。ただ、こいつが神だとか進化の可能性だとか時間の歪みだとかというところは、改変された世界のこいつに対してもそうだったように、世界を変化させる力があるらしいことだけにとどめておく。俺にだってどれが本当なのかわからないしな。 殺風景な部屋で長門の電波話を聞かされたことから始まり、マッドな朝倉の襲撃、大人版朝比奈さん、閉鎖空間と神人、七夕の時間遡行、カマドウマ、15498回も繰り返された夏、映画撮影、改変された世界、それらにまつわる未来人・宇宙人・超能力者の組織・・・ 話していると、それぞれの光景が脳裏によみがえってくるようだった。俺の大切な思い出たち。それを今まで、目の前にいるこいつは知らなかったのだ。 そういえば、この閉鎖空間に神人は出現していないな。前回ここに来たときはもっと早く現れていたが、つまり、ハルヒの精神状態はイライラではなく、2人でここに来た理由もイライラではないのだろう。 言うべきことを全て言い終え、さてどうしたものかと考えていると、 「今度はあたしからも伝えることがあるの。」 って、まさかハルヒにも、俺に隠していたことがあるのか? 「そうよ。でも、あなたがジョンだって分かってない限りは伝えられない話なんだけどね。」 一呼吸おいて、 「あんたが去年の夏と冬から来たっていう4年前の七夕、なんであたしはあんな大きな図形を書こうとしたかわかる?」 あたしは宇宙人とか、未来人とか、超能力者が目の前にフラッと出てきてくれることを誰よりも望んでた。中学に入って、いろんな、そのときのあたしが考えられる限りの全ての方法で、何とかして特別な存在を見つけようとしていたの。 でも、何も出てこなかった。それに、周りの人たちが私を避けるようになった。そりゃそうよね。小学生のときのあたしがあれを見てもきっと避けてたと思うわ。だから、野球観戦に行ってから色あせたように感じてたあたしの日常は、限りなく無味無色になってしまったの。誰も自分のちっぽけさに気づいてない。誰もあたしのことを解っちゃくれない。だからね、あたし、決めてたの。 ――あの七夕の日、あの校庭にメッセージを書いて、そこに屋上から飛び降りて、全宇宙にメッセージを発信してやろうと。 家の自分の部屋には遺書をちゃんと残したし、もう図形を書いて飛び降りる以外にすることはなかったはずだった。 でも、校門をよじ登ってるとき、予想外のできごとにあった。あんたと出逢ったわけね。あのときのあんたほど、私の印象に残った人間はあんた本人以外ないわよ。「やれやれ」とかいいながらも、あたしを手伝ってくれて、宇宙人も未来人も超能力者もきっといると言ってくれた。 だから、あたしは、死ねなかった。やることが残ってしまったの。やるなら最後まで徹底的に不可思議な存在を探してやろうと思った。高校に入って、高校生になったあんたに出会うまで、ジョン――キョンはあたしの唯一の心の支えだったの。だからSOS団を作れたのも、今こんなに楽しい毎日を過ごせてるのも、ぜんぶキョンのおかげ。 このときの俺がどんな表情をしていたか、キャプチャー職人がいたらアップロードしてほしいぐらいだね。しばらくの沈黙の後、ハルヒは再び口を開いた。 5 「それからね、あんたの話を聞いて一つ不思議なことがあるのよ。あんたが前に会ってた佐々木って子、あの子もここみたいな、閉鎖空間って言うんだっけ?を持ってるのよね?」 「それはまず間違いないな。なんせ俺が実際に入ったんだからな。」 「実はね、あたし、あの子の顔を見たことがある気がするのよ。」 「確かに4月の頭に駅でお前と佐々木が出会ったときも、初対面にしては2人とも変だとは思ったが。でも、お前は佐々木のことを何も知らないんだろ?」 「そうよ。でも、・・・ううん、説明すれば分かると思うわ。あんたはあたしに変な能力が発生したのは今から4年前だって言ったわよね?あれは忘れもしないわ。」 中学に入って、あたしが世界に訴えようとする行動を始めて周りから避けられ始めて少しした日の夜、変な夢を見たの。 なんか自分がワープしてるような感じがする、変な空間を猛スピードで移動してる夢だったんだけど、自分が進む先に女の子が一人いたの。その子が移動するスピードはあたしより遅くて、しばらくして追いついたのね。そしたら、その子があたしの方を向いて、 『全てを君に託すことにしたよ。君ならうまくできると思うよ。よろしくね』 って言ったの。あたしは意味がわかんなくて、とりあえず『うん』って言って、もう少しまともな答えをしようと考えたの。でも、気が付いたら、その子はあたしよりずっと後ろの方にいた。 彼女は一回うなずくと、全身から、白い、まばゆい光を発したの。その光はあたしの方に向かってきて、次の瞬間、あたしは光に包まれた。その光が自分の中に入ってくる感覚が気持ち悪くて、そこで目を覚ましたの。 「その女の子が佐々木じゃないか、ってことか。」 「そう。今でもその夢は鮮明に記憶に残ってるの。去年あんたとここに来たのが夢じゃないって解ったから、あたしが覚えてる夢で一番はっきりしてるものに昇格したわ。もしかして夢じゃなかったのかしら。」 「その可能性もあると思うぞ。」 口ではそう言ったが、俺はその記憶が夢であるとは微塵も思っていなかった。ハルヒもそうなのだろうが。そうなると、ハルヒの能力がどこから来たのか、説明がつくことになる。そしてその能力がどういう形態をしているのかもな。 「いや、俺は夢じゃないと確信している」 何故だかは解らない。ただ、自分の心中に反することを言ったことに心が疼いたのだ。もう、こいつに対して隠すべきことはほとんどないのだ。俺の部屋のベッドの下のようなものを除いてはな。いや、それすらも隠すべきではないのかもしれない。って、なに考えてんだ、俺。 6 「あんたがジョンだって可能性は、入学したときからずっと考えてたのに、いざ本当となると結構混乱するのね。てことは、SOS団の名前の由来も知ってるわけよね。」 「世界を大いに盛り上げるためのジョン・スミスをよろしく、だろ?」 「そう。でも、本当はもう一つ意味をかけていたの。SOSそのままの意味よ。この団なら、色のないあたしの日常を救助してくれるんじゃないかってね。」 「・・・」 俺は、しばらくの間、言葉を返せなかった。毎日が限りなく退屈に感じられる日常とは、どのような心地がするものなのだろうか。今、こいつは幸せなのだろうか。いや、何かあるからこそここに俺を連れてきたんだ。それは何だろうか。それはずっと俺が感じているモヤモヤと同じなのかもしれない。 「あたし、バカよね。」 「いきなり何を言い出すんだ」 「だって、去年この世界から帰ってきたあとの喫茶店で、あんた真相を言ってくれたじゃない」 ああ、軽く一蹴された挙句、財布持ってないからと奢らされたあの喫茶店での会話か。 「しょうがねえよ。あんな話を突然されて信じるような奴がいたとしたら、そいつはオレオレ詐欺に何回も引っかかるだろうよ」 「自分で望んでたくせして、目の前の真実をむざむざ見逃すとはね。でも、今なら例えあんたがどんな突飛な話をしても、信じる自信があるわ。」 俺が感じているモヤモヤは、今までにない速さで輪郭を形成しつつあった。 「そんな事を言うなら、俺もカマドウマ並みの阿呆だな。」 「コンピ研の部長の家に出たっていうあれ?」 「はは、それに違いない。真実をブチ撒けたのに、まだお前に話せていない大事なことが2つもあるからな。」 「一つ目。俺もかつてはお前が望んでいたような世界を望んでいたんだ。だが、俺はそれを早々に諦めてしまった。だから、高校に入ってお前を見たとき、正直お前の生き方が羨ましくなった。かつて望んでいたような世界が現実になって、やれやれと不平をたらしながらも、俺はこの日常が楽しくてしょうがないんだ。」 「心配しなくても、そんなこと解ってるわよ。あんたを見てれば解るの。」 しばしの沈黙。 なぜここで沈黙かって?モヤモヤが完全にはっきりした俺にとって、二つ目の『大事なこと』を告げるのには勇気が要ったからだ。ハルヒはハルヒで何かをしようかしまいか迷っている表情をしている。 俺が少ししかない勇気をかき集めて口を開こうとしたまさにそのとき、ハルヒが言葉を発した。 「そんなこと、言うなら、あたしにも言うべきことがあるわ。・・・あたしね、あん――」 「おっと、俺の二つ目がまだ言い終わってないぜ。 ハルヒ、好きだ。」 「ちょっとキョン!先に言わないでよ!あたしだって、・・・あんたのことが、・・・好きなんだから・・・」 こんなに赤くなったお互いを見たことはないと断言できる。だが、そんなことは、今の俺たちには関係ないね。 「キョン。」 「ハルヒ。」 ごく自然と、真っ赤なハルヒの顔が接近してくる。ハルヒが接近してきたか、俺が接近したかなんて、もう、俺にはわからない。 俺たちは、唇を重ね合わせた。 さまざまな思念が、奔流となって、俺の頭の中を駆け抜ける。やがて、その全ての思いが、一点へと収束していく。すなわち、こいつ、涼宮ハルヒを愛しむ想いへと。こいつとずっと一緒にいたい、そう思った。 永遠とも思える時間のあと、不意に俺は重力の消失を感じた。そういえば今いた場所は閉鎖空間だったか。 ってことは、次に気が付くのは、自分の部屋の、自分のベッドの上か。 この予想は間違っていなかった。予想通り、次の瞬間にいた場所は、俺の部屋の、俺のベッドの上だったが、二つの点で、前回閉鎖空間から戻ってきたときと異なっていた。 つまり、一つ目は俺「たち」が制服を着たままだったことで、もう一つは今の表現からお解りの通り、俺とハルヒは抱き合い、唇を合わせたままだった。 さて、ここから翌朝までは、記述を差し控えさせてもらおうか。 7 翌朝、俺がハルヒを家族に見つからないように外に出すのに、負傷した女スパイを導く某ダンボール使いの潜入のエキスパート並みの細心の注意と行動を要したのは、言うまでもないだろう。 鞄を取りにハルヒの家に立ち寄った後から学校に到着するまで、俺らが手を繋いだままで登校したせいか、「俺とハルヒがくっついた」という噂は、ハルヒと朝比奈さんがバニーガールの衣装でビラ配りしたあの伝説の事件の噂よりも早く広まった。授業中も俺のほうを向いてはニヤニヤしていた谷口は、 「キョンにはお似合いだと前から思ってたぜ。てかお前にはあいつ以外に合う奴がいねえだろ。」 などと言っていた。つーかお前も早く彼女つくれよ。 その日の古泉との会話である。 「僕にとって、一番興味深かったのは、涼宮さんが言っていたという佐々木さんの話ですね。」 「あれは俺も俺なりに考えてみたんだが、佐々木がハルヒにあの能力を渡したってことなのか?」 「簡単に言えば、そうなるでしょう」 「だが、それなら橘京子たちの組織はもっと昔からあってもいいようなもんだが」 「そこですよ。ちょっと推測してみましょう。佐々木さんのような人が、自分のイライラを制御する組織を必要とするでしょうか?答えはノーです。僕たちの『機関』も、彼女たちの組織も両方とも涼宮さんが創り出したと考えるのが妥当でしょう。」 「よく意味がわからん」 「涼宮さんがあの能力を得たときのことを考えてみましょう。突然能力を得たと知った、彼女の無意識下の理性は、どう考えるでしょうか?ここで二つのパターンが予想されます。一つは、自分を制御してくれる存在があれば大丈夫だろうという、どちらかという楽観論的な思考です。そしてもう一つの思考パターンは、自分がこの能力を持つことは危険だ、だから元の持ち主に戻すべきだという、若干悲観論的な考え方です。」 「ってことは、」 「僕たち『機関』は、涼宮さんの前者の理性を反映し、橘さんの組織は後者の理性を反映しているのですよ。だから、涼宮さんの理性がせめぎ合っていたように、僕たちも敵対していたのでしょう。」 古泉は続けて、 「ですが、これからは、橘さんのほうの組織は衰退していくでしょう。涼宮さんの中で、自分は『能力』を持っているべきだ、という考えが強くなるからです。彼女が能力を持っていたからこそ、僕たちはここに一同に会することができたのですから」 「まだ解らんことがある」 「どうぞ」 「なぜ佐々木は『能力』をハルヒに渡したんだ?」 「これも僕の推論ですが、佐々木さんは世界が自分の思い通りになって欲しくなかったんでしょう。そして、4年前、何かで世界が自分の思うように変わってしまうのを見てしまう。彼女はこの能力は自分には必要ない、もっとこの能力にふさわしい人のものであるべきだと考えたのでしょう。」 「それがハルヒか。」 「そうです。涼宮さんは不可思議な現象を誰よりも望んでいました。だから彼女に『能力』が授けられたのでしょう。ともかく、そのように考えた佐々木さんは新しい世界を創造し、そこに1日前の時点の全てをそっくりそのまま移動した、このように考えると辻褄が合います。」 「ハルヒが言ってた移動する感覚はこのことか。待てよ、すると、未来人が4年前より前に遡れないのも・・・」 「その通り。世界が存在しないのなら、遡りようがありませんからね。」 その後のことを、少し話そう。 それからも、ハルヒが事の真相を知っていること、俺とハルヒが一緒にいる時間が増えたことをを除いては、以前と同じSOS団的な日々が続いた。相変わらず違う時空の未来人やら天蓋領域やらとドタバタも続いたが、今度は本当に5人全員で切り抜けてきた。夏休みの合宿第2弾やら、映画やら、バンドやら、相変わらずである。 以前、長門や古泉や朝比奈さんが心配していた「ハルヒが真相を知ることによる弊害」は起こらずに済んだ。その理由を一番端的に表しているのは、ハルヒの 「こんなすごいこと、他の人に知らせたらもったいないじゃないの。これはあたしたちSOS団だけの秘密なんだからね!」 という科白だろう。 ――時は変わって7年後、今日は7月7日、いわずと知れた七夕デーだ。 今日は、7年前と同じく、SOS団パーティーが開催される。 今年の七夕パーティーは、SOS団のパーティーでは史上2番目に壮大なパーティーになるはずである。 ここまで言ってしまえば分かる人は解ると思うが、史上最大は去年の今日である。 スペックの異様さを除けばほぼ普通の人間になっている長門や、以前のように偽りではなく、屈託なく笑うようになった古泉とはしょっちゅう会っているが、朝比奈さんには去年の今日、久しぶりに会った。記憶そのままの朝比奈さん(大)の姿で。彼女によると、自分がこのパーティーに参加するのは「既定事項」であったそうな。 以前は七夕になると、決まってブルーになっていたハルヒだが、今はそんなことは全くない。 何でかって?決まっている。 ――今日は、俺とハルヒの、結婚一周年の記念日だからだ。 P.S おっと、書き忘れたことがある。実は今日のパーティーは、ハルヒの妊娠祝いも兼ねているんだ。しかし、名前を考えるってのは、妙に気恥ずかしいな。 完
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俺が朝目覚めると、目の前にハルヒの寝顔があった。 一瞬戸惑ったが、昨日のことを思い出す。 ちなみに俺達は付き合っていたのだが、こういうことをしたのは今回が初めてだ。 俺もまぁしたくないわけではなかったのだが、ハルヒに拒否されるかと思うと怖くて出来なかったんだ。しかし、昨日ハルヒが俺のことを挑発してきて、ついに俺の理性がぶちぎれてしまったわけだ。 そう、俺とハルヒはその何と言うかまぁそういうことをしてしまったわけだ。 ハルヒは中学時代に付き合いまくってたにも関わらず初めてだった様だ。まぁ、俺もそうだったがな。 そんなことを思いながらハルヒの寝顔を見る。 やっぱりきれいだ。俺の自慢の彼女だもんな。 時計を確認すると、そろそろおきたほうが良い時間のようだ。今日は学校もあるしな。さぼろうかと思ったが、ハルヒと二人でさぼったら古泉たちに何を言われるか分からん。 さて、ハルヒを起こすか。 俺が起こすと、ハルヒは比較的寝起きが良いようで、スッと起きた。 「おはよう」 あぁ、おはよう。体、大丈夫か? 「あ、うん///大丈夫そう。ちょっとスースーするけど…」 学校行けそうか? 「大丈夫」 そうか、じゃ早く準備して行くぞ。 「キョン、おはようのキスして。」 あぁあぁ、わかりましたよ。 チュッと軽いキスを落とす。 「ねぇ、もっとやってよぉ」 仕方ねぇな・・・学校前だぞ? 俺たちはさっきより濃厚なキスをした。 「ぷはぁ・・・キョン、朝から激しすぎよ。」 すまん、お前が可愛すぎだからだ。 「もう///」 すると、俺はあるいたずらを思いついた。 おいハルヒ、お前今日俺のいう事聞いてくれるか? ちなみにこういうとき、ハルヒは大抵俺のいう事を聞いてくれる。付き合う以前はともかく、こいつから告白してきたし、ハルヒは俺と二人っきりの時は比較的素直だ。 「何?キョン」 これ挿れて学校行ってくれないか? 「え、これって…」 俺達は昨日、初夜だとは思えないほど激しいプレイをし、道具なども使ったわけだ。 俺の手に握られていたのは、昨日ハルヒの前戯に使ったバイブだった。 「でも…」 いいだろ? 「ばれちゃわないかな?」 大丈夫だよ、お前もスリルは大好きだろ? ほら入れるぞ。 「あ・・・ん」 ハルヒの中にバイブを入れる。 「ん・・・あぁん・・・」 おいハルヒ、もう感じてるのか?一日持たないぞ? 俺の中で何かのサディズムが目覚めてしまったようだ。 まぁ、付き合う以前は散々尻に敷かれていたし大丈夫だろう。 何やかんやあったが、俺達は無事に学校に時間通りについた。何とか一緒に来たこともばれなかったようだ。 そして ハルヒの膣には今バイブが挿入されている。 授業は始まったが、ハルヒは真っ赤な顔をしたままずっと下を向いたままだ。 かくいう俺はチラチラと後ろを確認している。 すると、ハルヒが俺をつついて小さな声で言ってきた。 「キ、キョンー…あ・・・はぁ・・・もう無理っぽいよぉ・・・」 確かに、もうハルヒの秘部から出たと思わしき匂いが充満し始めている。このままじゃばれてしまうかもしれない。 じゃぁ、この授業が終わるまで我慢できるか? 「が、頑張ってみるわ・・・」 休み時間になった瞬間、ハルヒが話しかけてきた。 「キョンー・・・早く抜いてぇ・・・もう無理だよぉ」 そうかそうか、よく我慢したな。 ほら、立て。保健室行くぞ。 ハルヒは立とうとしたが、その瞬間にしゃがみこんでしまった。 「キョン、立てないよぉ、足に力が入らない・・・」 仕方がない、俺はハルヒをお姫様抱っこして保健室に行った。 すると、ちょうど良いことに保健の先生は居なかった。 ほら、ハルヒ、寝転がれ。抜いてやるから。 「ありがと・・・キョン。」 ハルヒは顔を真っ赤にしていて、相当感じているようだ。 俺はハルヒをベッドに寝かせ、先生が来てもばれないようにベッドの周りのカーテンを閉める。 ハルヒ、足を開けろ。 グチョ、ヌチャ いやらしい音を立てながら、ハルヒが股を開く。 俺はパンツの上から、軽くハルヒの秘部を撫でる。 「あ・・・」 ビチョビチョじゃないか、むしろ洪水だ。感じてるのか?ハルヒ。 「ん・・・もう、キョンのせいなんだから。」 俺はハルヒのパンツをずらし、バイブを抜いた。 抜いたあとにハルヒのハルヒの穴を見ていると、何かを求めているようにヒクヒクしている。 「キョン、そんな見ないで・・・」 そうか。 俺はそういうとハルヒのパンツを元に戻した。 正直俺も今すぐにでも押し倒したかったし、俺の息子もかなり大きくなって居た。それにハルヒも感じていて、もっとして欲しいようだ。だが、あえて裏切ってみる。 「え・・・?キョン、もっとしてくれないの?」 何言ってるんだ、ここは学校だぞ?家まで我慢できたらやってやるよ。 「えー・・・」 やれやれ、これからあと学校が終わるまで、俺もハルヒも耐えられるかな・・・ っていうか初めてなのに二人ともやりすぎだろw
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涼宮ハルヒの消失 基礎データ 著:谷川流 口絵・イラスト・表紙:いとうのいぢ 口絵、本文デザイン:中デザイン事務所 初版発行年月日:平成16年(2004年)8月1日 本編247ページ 表紙絵:朝倉涼子 タイトル色:薄黄緑 初出:書き下ろし 初出順第12話 裏表紙のあらすじ紹介 「涼宮ハルヒ?それ誰?」って国木田よ、そう思いたくなる気持ちは分からんでもないが、そんなに真顔で言うことはないだろう。だが、他のやつらもハルヒなんか最初からいなかったような口ぶりだ。混乱する俺に追い討ちをかけるようにニコニコ笑顔で教室に現れた女は、俺を殺そうとし、消失したはずの委員長・朝倉涼子だった!どうやら俺はちっとも笑えない状況におかれてしまったらしいな。大人気シリーズ第4巻、驚愕のスタート! 目次 プロローグ・・・Page5 第一章・・・Page30 第二章・・・Page73 第三章・・・Page103 第四章・・・Page160 第五章・・・Page195 第六章・・・Page223 エピローグ・・・Page246 あとがき・・・Page252 映画 2010年2月6日劇場公開予定 →涼宮ハルヒの消失(映画) 漫画 ツガノガク版(雑誌の発表号などの詳しい情報はツガノ版漫画時系列で) コミックス第7巻に収録第32話『涼宮ハルヒの消失 ~第一章~』 第33話『涼宮ハルヒの消失 ~第二章~』 第34話『涼宮ハルヒの消失 ~第三章~』 コミックス第8巻に収録第35話『涼宮ハルヒの消失 ~第四章~』 第36話『涼宮ハルヒの消失 ~第五章~』 第37話『涼宮ハルヒの消失 ~第六章~』 第38話『涼宮ハルヒの消失 ~第七章~』 コミックス第9巻に収録第39話『涼宮ハルヒの消失 ~第八章~』 第40話『涼宮ハルヒの消失 ~第九章~』 第41話『涼宮ハルヒの消失 ~第十章~』 第42話『涼宮ハルヒの消失 ~最終章~』 番外編『涼宮ハルヒの消失 ~エピローグ~』(漫画オリジナル、鶴屋さんが参加する原作の鍋パーティーはこの後の巻で、雪山症候群で別に描かれるが、この話ではSOS団だけの鍋パーティー) ぷよ版 涼宮ハルヒちゃんの憂鬱コミックス第3巻に収録? 涼宮ハルヒの消失のパロディ少年エース連載第17回、2009年1月号(ピンときました、この展開。(非4コマ)-幕間『みくるちゃんの憂鬱』-幕間『鶴屋さんの憂鬱』-ピンときました、この展開。(非4コマ続き)-幕間『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱-幕間『古泉一樹の消失』-ピンときました、この展開。(非4コマ続き)) 登場キャラクター(原作のみ登場) キョン 涼宮ハルヒ 長門有希 朝比奈みくる 古泉一樹 鶴屋さん シャミセン 朝倉涼子 谷口 国木田 キョンの妹 あらすじ 12月18日、ハルヒはクリスマスパーティを企画し、部室を彩り朝比奈みくるをサンタクロースに着替えさせる。ここまでは日常風景だった。 だが、翌日の12月19日、キョンは信じられない事実を目撃する。朝学校に来てみると、クラスでは風邪が蔓延していた。昨日まではそうではなかったのに。その上、キョンの後ろの席も、なぜかぽっかり空いていた。そしてキョンは、とんでもないものを目撃する。昼休み、女子の歓声の中教室に入ってきたのは、なんと五月に長門が消滅させたはずの朝倉涼子だった!そして、その朝倉の席は、キョンの後ろだという。キョンの後ろとは、ハルヒの特等席ではないか。そう言ったキョンに国木田がとんでもない発言をする。「涼宮ハルヒ?誰だい、それ。」 後に繋がる伏線・謎 事件の約1ヶ月後(1月2日)、長門の暴走を停めにキョンがみくる、長門と共に去年の12月19日に時間遡行(涼宮ハルヒの陰謀にて)。 上述で再消滅させたはずの朝倉が教室に入ってくる。(その上キョンを抹殺しようとした記憶もない(とぼけてるだけ?)) 刊行順 ←第3巻『涼宮ハルヒの退屈(原作)』↑第4巻『涼宮ハルヒの消失』↑第5巻『涼宮ハルヒの暴走』→
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その2 俺とハルヒの前に姿を現したのは佐々木だった ニッコリ微笑みながら、静かに歩いてきた おい佐々木 お前がこの閉鎖空間を作り出したのか? 「僕は閉鎖空間とは呼ばないがね。君がそう呼びたいのなら否定するつもりはない」 お前が作った閉鎖空間の中にどうやって自分が入れるんだ? 「はっはっはっ キョン、君は何でも自分を中心に考えてはだめだよ 僕もあれからいろいろ話を聞いて、それなりに勉強したんだ 君たちの事も、僕の事も、そして橘さんや藤原さん、周防さんの事もな 僕と涼宮さんがあそこから飛ばされたのにもきっと理由があると思う 涼宮さんをあの中に入れない方がいいのなら、それができるのはおそらく僕だけだろうからね」 俺は無意識にハルヒをかばうように立っていたが、俺の腕のすり抜けてハルヒがわめいた 「ちょっとあんた、これはいったい何よ? あんたの仕業だって言うの?」 「涼宮さん、私はあなたに何も恨みはないの でもね、あなたのただ一つの欠点は自分が何も分かってないという事なのよ キョンや他の人たちに守られているだけでは何も生み出せない 何も作り出せない ただ破壊するだけの空間なんて私には理解できない」 「何を言ってんのよあんた いいからあたしとキョンを有希の所に連れていきなさい、今すぐに!」 「そう願うならご自分で行けば?できるものならね」 「ちょっとキョン!説明しなさい!」 だから俺に話を振るなよハルヒ えーっとこんな時、古泉ならどう説明するだろう いや長門でもいいか ダメだ長門の話は電波話にしか聞こえないし朝比奈さんなら・・・禁則事項か 「じゃあ僕から説明しようか?キョン 涼宮さん、あなたは自分の力について何も理解していない 自覚していない所でさまざまな現象を発生させる」 「はぁ???」 「あなたはとても面白い人。才能もあるし、きれいだし でもね、あなたにその力は荷が重すぎる。だから私に白羽の矢が立った」 おい佐々木 それ以上言うな 「だってキョン その通りじゃないか だから君や仲間たちがひどい目に会ってきたんだろ 君だってそう思っているはずだ 涼宮さんが普通の女の子に戻ってくれたらって それで僕が選ばれたんだ 僕も正直迷惑を隠せない気持ちだけど、涼宮さんを見ているとやっぱりそう思うね」 佐々木、もう黙れ ハルヒにそれ以上わけの分からん事を吹き込むんじゃねえ 「涼宮さんには荷が重すぎるから その重い荷物を全て僕たちが引き受けようとしてるんだ 君にとっても悪い取引じゃないと思うのだが」 荷が重い?迷惑だ? いったい誰がそんな事を言ってるんだよ 誰もそんな事は一言も言ってねえぞ いい加減な事を言うんじゃねえよ ハルヒは俺たちのリーダーだ SOS団の団長だ そして俺たちは仲間なんだよ かけがえのない仲間なんだ 俺たちの仲間に傷一つつけてみろ 俺はお前を絶対に許さないぞ 「ほう、キョンがかい 君も変わったものだな ずっと平凡に人生を送りたいって 中学の頃からそうぼやいていたのに ただの思いつきで君たちを引っ張り回す変人が 君にとっての大事な仲間なのかい?」 佐々木 お前は何も知らない 高校に入ってからの俺を知らない SOS団で楽しく遊んでいる俺を知らない そしてお前は ハルヒの事を何も知っていない もうそれ以上言うな 俺がお前をブン殴らないうちに さっさと俺とハルヒを長門の部屋に送り込め 「それは僕にはできない相談だね マンションをシールドしているのは僕の力じゃない 行きたかったら自力で行く事だね そこまでは僕も止めはしないよ」 「キョン、何なのよこの女は 全然意味分からないわ さっきからいったい何言ってんのよあんたたち 私がバカだって言いたいの?」 ハルヒよく聞け お前の力で長門を助けに行こう お前ならそれができる 俺とお前を長門の所まで連れて行ってくれ 頼むハルヒ 「?????」 「ふふふ はたしてあなたにそれができるかしらね 破壊しかできないあなたに 人を助ける事ができるのかしら」 黙れ佐々木、あと5分だけ黙ってろ おいハルヒ この1年で何かに気付いたことはないのか? 「1年で?」 ああ SOS団を作ってからいろんな事があっただろ お前の知らない所で起こったことが多かったけどな お前にも薄々気付いた事ぐらいあるだろ 「え・・・?」 お前は長門が普通の女子だと思っているのか? 古泉はただの転校生だと思ってるのか? 朝比奈さんは・・・ちょっと分かりづらいけど、お前にだって何か気付いたことがあるだろ? 「キョン・・・」 思い出せハルヒ 俺たちの事だ SOS団全員で作ってきた歴史だ 楽しい事や、不思議な事がいっぱいあっただろ それは偶然起こった事だと思うのか? 宇宙人や未来人、超能力者が本当はいないと思ってるのか? 「・・・・・・」 ハルヒの瞳が不思議な輝きを放ってくる ここか? ここでいいのか古泉? 今ここで使ってもいいのか? 「キョン」 何だハルヒ? 「1つだけ教えて」 ああいいとも 「あんたの本当の名前は何?」 名前? 「そう、キョンの他にもあるでしょう? あんたの名前が」 あああるともハルヒ 俺の名前がもう一つな お前が中学生の時に聞いたはずの名前がな 「ある・・・のね・・・やっぱり」 ああそうだよ あの時に名乗った名前だ 「キョン・・・」 もうどうにでもなれと思った このくそったれな状況を脱するために 今ここで使うしかないと思った 言うぞ ついに ハルヒ 俺の名前は・・・・・・ ついにその時が来たのか 俺の持っている切り札 世界がとんでもなくややこしい事態になってしまった時のために 俺がずっと隠してきた切り札をついに使う時が来たのか 分断されているSOS団を救うために 今ここで使ってもいいよな古泉よ ハルヒ 俺の名前はな 「あんたの名前は」 一緒に言うぞ 「いいわよ」 グオオオオオオオオオオと激しい地鳴りが響いた 巻き起こった突風に俺とハルヒは吹き飛ばされそうになるが 必死で足を踏ん張って立った ハルヒの目を見つめたまま、ハルヒも俺を見つめたままで 俺は禁断の6文字を言おうとした 「・・・・・・」 「・・・・・・」 あれ? 何だ? 声が・・・ 出ない・・・・・・ 振り向くと佐々木はまだ立っていた 俺とハルヒのパントマイムを楽しそうに眺めていた すさまじい旋風は収まろうとしない あああとしか声が出ない俺もハルヒも、その風のうなりに飲み込まれそうになっていた 佐々木 声を出なくしちまいやがったのか? 「それは分からない さっき言った通りだよ もう少し時間を稼ぎたい だからこうやっている」 ハルヒ 何とかしてくれ もう分かってるだろ 声に出さなくても 俺の正体を 中学1年の時に東中の校庭にあの奇妙キテレツな地上絵を描いた時の事を あの時にお前を手伝った哀れな高校生を 「・・・・・・」 ハルヒも懸命に口をパクパクさせているが もちろん声は出ていない 俺の顔に恐怖が走る 今まで一度も見た事がなかったハルヒの表情 自己中心で傍若無人な爆弾女 このいつ発火するかも分からないとんでもない時限爆弾が なぜか自己消火しようとしていた ハルヒは今 明らかにおびえた表情をしている 今にも泣き出しそうになり 俺のシャツの袖を掴んでいる こんなハルヒは初めてだ あまりの急速な展開と自分の無力さにおびえているのか 鶴屋さんと森さんにかけられた言葉が再び蘇る ハルヒはこう見えても神経の細い女なんだ ハルヒはいつもみんなに気を使っているんだ この女を知る人間が聞いたら腹を抱えて笑うようなセリフだが 今目の前にいるハルヒは明らかにその通りだった どうするんだよ俺 考えろ、考えろ どうすればハルヒに思い出させることができるのか いやもうとっくに思い出してるはずだ 後は何をすればいい? 何をすればハルヒが怒れる獅子に変身できるんだ? ええい もうこうなればあれしかないのか? 1年前にハルヒに巻き込まれた閉鎖空間を思い出した 大人の朝比奈さんに言われた言葉 パソコンのか細い糸で長門に教わった言葉 もう一度あれをやればいいのか? 「キョン 君はそれでいいのか?」 後ろから佐々木の声が聞こえる 「君はそれで満足するのか? そんな目的のためだけに 自分を犠牲にするつもりなのか?」 犠牲? 犠牲だって? 俺は佐々木を振り返った 面白そうに眺める佐々木の目を 穴が開けとばかりに睨みつけた 佐々木は動じる事もなく話し続けた 「彼女のお守りをして これからもずっと振り回されて 危険が迫るたびにそうするのか? それじゃ君の気持はどうなるんだ? 一生そんな事を続けるつもりなのか?」 佐々木 やっぱりお前は何も分かっちゃいない 俺の事を何も理解していない 自分を犠牲にしてハルヒの面倒をみるって? バカ言ってんじゃねーよ お前は確かに頭のいいヤツだよ よく考えてると思うよ ハルヒの行動パターンも俺の事も よく研究したもんだよ けどな佐々木 お前が1つだけ見落とした事があるぞ 俺も成長してるって事だよ この1年で大きく変わったよ俺は 俺が変わったことはたくさんあるけどな その1つがこれだ 俺はいやいややってるんじゃない 自分がしたいからするんだよ 俺はハルヒと キスしたいからするんだ 口をパクパクさせてもがくハルヒにそっと顔を近づけた ギョッとした目で俺を見上げていたハルヒは 俺の行動を理解したのか そっと目を閉じた 俺は 自分の意志で ハルヒにキスをした 時間が止まった 吹きすさぶ風の音も聞こえなくなった 佐々木が何かを叫んでいたが その声すら耳に入らなくなった ハルヒの体から力が抜け そして・・・・・・ (同じ時間に、別の次元で) 新しい登場人物を見て 古泉と朝比奈さんは腰を抜かしそうに驚いていた 「ごめんなさーい こんなに早く来るつもりはなかったんですけどー あちらの皆さんがちょっとお急ぎだったみたいなんで そろそろ始めさせていただきまーす」 「あなたは・・・・・・?」 「はい先輩、その節はどうも」 「あわわわわ・・・」 「先輩にもお茶をご馳走になって、ありがとうございます 本当はちゃんとSOS団に入って たくさん冒険したかったんですけど・・・」 「ちょっとあんた、こないだの新入生じゃないの」 「はい!涼宮先輩! だけどちょっと待ってて下さいね、場所を変えますから」 その北高の新入生はニッコリ笑って 手にした小さな金属の棒を振った 幾何学模様の入った細い棒がキラリと輝き ハルヒと佐々木の姿がポンと消えた 「何をしたんですか?」 「ご心配なく、後でまた来られると思います でもまだ主役の登場には早いので 先にみんなで行くことにします」 「あなたはいったい?」 古泉の質問には答えず、新入生は再びオーパーツを振った 今度は空間がグニャリとねじれ、全員の姿が消えた 「く・・・・・・・」 ズキズキするこめかみをさすりながら古泉が起き上がった そして周囲の景色を見てギョッとした 周りは一面の宇宙空間で、真っ黒な地面がはるか先まで広がっていた 星空以外に何のディテールも見分けられない ただの真っ黒な平面だった そこには全員がいるようだった ピクリとも動かない長門の側には朝比奈さんが横たわり 少し距離を置いて橘京子、藤原、そして周防九曜がいた 全員が気を失っているのか、黒い地面に突っ伏していた 立っているのはただ1人、まだ名前も覚えていない新入生1人だった 素早く意識を取り戻した古泉が詰問した 「まずはあなたの事を聞かせてもらいましょうか」 「ふふふ先輩、さすがですね こんな時にも理性的です」 「質問に答えて下さい」 「ここは皆さんの地球とは別の世界です そしてご覧の通り、何もありません」 「別の惑星という事ですか?」 「別という表現がふさわしいのかは分かりません でも地球から宇宙船に乗ってもたどり着けない場所です」 古泉は長門をチラリと見た 長門ならもう少し詳しく解析してくれるかもしれないが 長門はまだ気を失ったままだった 「銀河系の1惑星ではないと?」 「たぶんそうです。どう説明したらいいのか分かりませんけど」 「まさか、異世界だとか」 「言葉の意味ではそれが一番近いですね とにかく、普通の手段では行き来する事はできません」 「僕たちをここに引き込んだ理由は?」 「それは皆さんが目を覚まされてからご説明します」 「長門さんと朝比奈さんの様子を見ても構いませんか?」 「もちろんです、早く起こしてあげて下さい」 古泉は素早く移動して朝比奈さんを揺り起こした 朝比奈さんはすぐに目を覚まし、置かれている状況を見て予想通りの悲鳴を上げた 「ひゃぁぁぁこっこここここどこなんですかぁーっ?」 「落ち着いて下さい朝比奈さん、僕にもまだ分かりません とにかく落ち着きましょう」 「ふわぁぁぁ」 「長門さんはどうですか?」 長門はずっと変わらない姿勢で眠っている 布団はもうなかったが、几帳面に制服姿だった その格好のままで寝ていたのか さすがに靴は履いていないが、靴下はちゃんと履いていた 古泉が揺り動かしても全く動かない その体はまだ熱く、呼吸も浅く小さかった 「長門さん・・・さっきと変わりませんね」 ようやく落ち着き始めた朝比奈さんがつぶやく 「涼宮さんもいなくなってしまいましたし、これは厄介です」 その頃には敵の集団も目を覚ましており、頭を振りながら起き上ってきた 周防九曜は起き上がるなり長門にひたと視線を向けている 何か呪詛でもしているように、人差し指を小さく振っている 古泉がさりげなく長門をかばうように立ち、新入生に目を向けた 「1人を除いて全員目を覚ましました」 「はい、それでは説明させていただきます ここは地球がある銀河系とはまた別の空間にある世界です 詳しい事は分かりません 異次元とか異世界とか、たぶんそういう世界だと思います そしてここは私の生まれた世界です」 「あなたの世界?」 「はいそうです ここには私1人しかいません そしてご覧の通り、ここは死に絶えた世界です 原因は分かりませんが、植物も生えず、何の生命もない世界です 生命どころか、それを誕生させるエネルギーすらない世界なのです 私はここで1人で生まれ、1人で暮らしてきました」 「ちょっと待って下さい 生命のない世界でどうしてあなたが生まれたんですか?」 「それは私にも分かりません ただ、生命をはぐくむエネルギーが枯渇したのは たぶんそんなに昔ではないと思うんです 私は最後の生き残りなんじゃないのかなって」 「それと僕たちが集められた事との関係は?」 「もう少し聞いて下さいね 私が生まれた時に、側にこの棒が転がっていたんです」 「そのオーパーツですか?」 「オーパーツって言うんですかこれ? 名前なんかつけたことなかったんですけど 一人ぼっちで生まれた私にこの棒がいろいろ教えてくれました 成長するのに必要なエネルギーも与えてくれました そして、別の世界には豊富なエネルギーがあるという事も教わりました 皆さんに集まってもらったのは、そのエネルギーを分けてもらいたいからなのです」 「分かりませんね」 「でしょうね先輩 だって私にも何も分かってないんですから この棒に指示されて 私は別世界への旅に出かけました そうするより他に方法はなかったのです ここにいつまでいても一人ぼっちだし そして長い旅の後に、あの地球に到達したんです」 「どうして地球に?」 「それも分かりません この棒の指示通りに進んでいくと地球に着いたのです ただ・・・地球に着くとこの棒は消えていて 私は何も覚えていませんでした 何の記憶もないままに、私はただこの棒を探しました この棒を探す事だけが記憶に残っていたのです」 「北高に入ったのはそれを見つけてから?それとも記憶が戻ったから?」 「棒を見つけたのはつい最近です 北高の近くにあることが分かったので、私は北高に入学しました いろいろ情報を操作するのは大変でしたけど、何とか合格して、腰を据えて探そうと思ったのです そしてSOS団の事を知りました とっても面白いグループだって聞いて、しかも部員を募集するって言うから さっそく入部希望しました 今さらこんなこと言うのも変ですけど、本当に入部したかったんです だけど・・・そちらの皆さんが動くのが早すぎて、遊んでられる状況じゃなくなってきたんで、それで申し訳ないんですけど、大きなお屋敷に忍び込んでこの棒を取り戻し、あのマンションに行ったってわけです」 「あっ・・・あのっ・・・キョンくんと離れちゃったのもあなたの操作ですか?」 「キョン先輩って、あの面白い方ですよね うふふふ、ごめんなさい。そんなつもりじゃなくって キョン先輩の事は私は知りません ここにおられないんであれって思ったんですけど」 「そろそろいいでしょう、ここに連れてきた目的を教えて下さい」 「それはそこの先輩次第です」 新入生が声をかけた瞬間、周防九曜がビクリと動いた 「・・・・・・ここは・・・楽しい空間・・・・・・心が・・・躍る・・・」 周防九曜はそうつぶやいて、長門に歩み寄った 「待って下さい、長門さんは意識不明です 彼女を回復する方法はありませんか?」 「・・・・・・あなたの・・・瞳も・・・きれいね・・・・・・」 周防九曜の指先がぼんやり光り、1本の光の矢が長門に向かって走った 古泉が素早く回り込んでその矢を叩き落とした 「ん・・・これは?」 古泉の体が赤く輝き始め、閉鎖空間にいるような球体に変化した 「ふえぇぇぇー、古泉くぅーん」 「ここでは僕の力が有効に使えるようですね」 赤い光球と化した古泉は、地面からフワリと浮かび上がった 「それでは説明になっていませんね周防さん 挨拶もなしでいきなり攻撃ですか?」 「・・・・・・ここで戦えば・・・この世界は生まれ変わる」 「それはどういう意味なのでしょうか?」 「ごめんなさい古泉先輩 つまり皆さんにここで戦ってもらい、そこで生じる膨大な生命エネルギーを少し分けていただきたいのです もちろんそれによって皆さんの戦いに影響はないと思います 私は余剰エネルギーをいただくだけですから」 「つまり、ここで僕たちを意味なく戦わせて生体エネルギーを放射させ、それをそのオーパーツが吸収してこの世界を再生するとでも?」 「ごめんなさい、私にちゃんと説明できる知識はないんです ただ、佐々木さんのチームが皆さんと戦うという話を聞いたので、それならぜひここを使って下さいと申し上げただけなんです」 「それでははっきり申し上げましょう 我々SOS団は戦いなど望みません こんな事をしても無駄です」 一瞬殺意を盛り上げた古泉だったが、すぐに冷静になり元の姿に戻った 「ケンカはダメですぅ!危ないですぅ それに・・・それに・・・涼宮さんもキョンくんもいないし 長門さんがこんな状況では戦えません」 「朝比奈さんのおっしゃる通りです 我々には戦う意志も戦力もありません あなたには申し訳ないのですが、こんな事を受けるわけにはいきませんね」 「・・・・・・うるさい・・・・・・口が多すぎる・・・」 周防九曜が再び攻撃を仕掛けた 人差し指から数本の小さな矢が飛び出し、長門に命中する寸前に古泉が叩き落とした 「待って下さい、戦うつもりはありません」 「こここ古泉くん、もはや話しても無駄、かもしれませんね」 「朝比奈さん?」 「古泉くんは長門さんを守って下さい 私も・・・・・・戦いますっ」 朝比奈さんの声に反応して、今まで黙っていた2人も前に出てきた 「ふっ、やっと俺の出番か」 そう言ったのは藤原だった 「わ、わ、わ、あんまり近づかないでくださぁい!」 「あんたにどれほどの事ができるのか、見せてもらうとするか」 「朝比奈さん!」 「おっと、あなたの相手はここにもいるのよ」 「橘京子・・・」 「キョンくんだけを別行動させたのは私たちの作戦よ 今ごろ彼は私たちの組織に捕らえられてるわ」 「何ですって?」 「涼宮さんは佐々木さんが抑えているはず まあ抑えるほどの事もないでしょうけどね 長門さんは周防さんが封印しているし、さあどう戦うつもりかしら?」 「ですから僕は戦いませ・・・」 橘京子の全身がぼんやり青く輝き始め、いくつかの光点に分かれて宙に浮いた 古泉も赤い光球に変わり、橘京子とにらみ合った 「ほら、早く攻撃してみろ」 「うわっ、こ、こ、こ、来ないで下さーい!」 「朝比奈さん!」 「・・・・・・・べらべらしゃべる男は・・・美しくない」 周防九曜の攻撃が古泉に集中し、危うくかわしたその横から小さく分裂した橘京子の光球が襲いかかる 藤原はめんどくさそうに朝比奈さんの目の前に立ちはだかっている おびえる朝比奈さんの姿がチカチカと点滅し、やがて空間から消滅した 「朝比奈さん!」 朝比奈さんはしばらく消えていたが、すぐにまた姿を現した 「あれ?」 「どうしましたか?」 「禁則が・・・・・・消えました」 「と言うと?」 「TPDDの使用制限が消えちゃいましたぁ・・・」 「それは、ここが異世界だからでしょう 未来からの干渉がなくなったのではないですか?それと、TPDDはまだ使えますか?」 「はい・・・ちゃんとスイッチは入っています」 「それはよかった。朝比奈さん、あなたのその力で僕たちを守って下さい」 「わ、わ、わ、分かりましたぁっ!」 朝比奈さんはこめかみに指を当てて、小声でボソボソとつぶやいた 周防九曜の攻撃が動かない長門を襲ってくる 古泉が急いで防御するが間に合わない 小さな数本の光の矢が長門に命中する寸前、長門の姿がパッと消え、数秒後にまた姿を現した 光の矢はその間に空間を空しく貫いただけだ 「こここ、これでいいんですか?」 「さすがは朝比奈さんです、素晴らしい作戦です」 「・・・・・・それは何?・・・・・・認められない・・・・・・」 周防九曜は今度は朝比奈さんに向けて矢を放つ 朝比奈さんの姿がパッと消えて、少し離れた場所にまた姿を現した 「すごい・・・TPDDにこんな使い方ができるなんて・・・」 「・・・・・・・気に入らない・・・・・・それは・・・美しくない・・・・・・」 周防九曜は狂ったように矢を発射させ続けた そのたびに古泉が防御に飛び回り、朝比奈さんは姿を消し続けた 「ふっ、面白くなってきたな」 藤原がやおら腰を上げると、手のひらを朝比奈さんに向けた 姿を消そうとしていた朝比奈さんがグラリとバランスを崩し、その胸に数本の矢が突き刺さろうとする その寸前に危うく古泉が飛び込んできた 「大丈夫ですか朝比奈さん?」 「ふえぇぇぇ、大丈夫ですぅ でもこれをずっと続けるんですか?」 「続けるしかないでしょう 長門さんが目覚めるまで、そして・・・・・・」 (またキョンの世界) 硬直するハルヒの唇に俺はキスをした ハルヒの体がぐったりと弛緩し、そしてガタガタと震え出した おいハルヒ 大丈夫か?どうしたんだ? 「ョン・・・・・・」 えっ? 「ジョン・・・・・・」 ああ 「ジョン・スミス」 ああ あれ? 声が出るぞ おいハルヒ!しっかりしろ! 「ジョン・・・・・・あんただったのね」 ああそうだ 俺がジョン・スミスだ 「やっと会えたんだ・・・ やっぱりあんただったのね」 気付いてたのか? 「ううん、何となくそんな気がしてただけ そうだったらいいのになって」 悪かったな こんなに報告が遅くなっちまって 「いいの・・・嬉しいから」 いいかハルヒ、よく聞け 俺は確かにジョン・スミスだ あの時東中に行って校庭にあの絵を描くのを手伝った それから背負ってたのは朝比奈さんだ 朝比奈さんが俺を3、いや4年前に連れてってくれたんだ 「みくるちゃんが?」 そうだ 朝比奈さんは未来から来た TPDDっていう装置を使って時間を自由に行き来できる ついでに言うとあの後『世界を救うためのどうたらこうたら』と言ったのも俺だ 「マジで?」 ああ まだあるぞ 実はあの時ちょっとした手違いがあって未来に帰れなくなった その時に俺たちを助けてくれたのが長門だ 「有希が?」 そうだ 長門の魔法みたいな力で3年間時間を止めてもらって 俺と朝比奈さんは現代に帰って来れたんだ 長門の不思議な力はお前も覚えがあるんじゃないか? あいつは宇宙人が作った俺たちとのコンタクト用インターフェイスだ 「コンタクト用?」 ああ ちょっと説明すると長くなるけどな この銀河系の真ん中で俺たちの事をずっと見ているような存在だ それから去年、お前と一緒に不思議な空間に閉じ込められた事があっただろ あの時に出てきた青い怪人だけどな あれが暴れ出すとこの世界がとんでもない事になっちまうから、退治するって言うか、あれを消すための組織がある 超能力者集団って言うのか、そのメンバーが古泉だ 「・・・・・・」 つまりだ 宇宙人も未来人も超能力者もみんなお前の側にいるってことだよ いつでもお前の側にいて、いつでも一緒に遊んでたじゃないか 呆然としていたハルヒの目がギラギラと輝いて来る もう少しだ 頑張れ俺! 俺はまたあいつらと一緒に遊びたいぞ 全員俺たちの大事な仲間だ だけどなハルヒ、俺が一番心配なのは お前の事だ お前がみんなの事を心配し過ぎてフラフラになってる所なんか見たくないんだよ お前はSOS団の団長だ いつも何でも好きな事をやればいい 後は俺たちがいくらでも後始末してやるから 「キョン・・・」 長門の事も古泉も朝比奈さんももちろん心配だけどな 今俺が見たいのは、お前の元気な姿なんだよ 俺が大好きな 涼宮ハルヒの突拍子もない姿なんだよ 頼む!ハルヒ! 長門を助けてくれ 朝比奈さんも古泉も 今ごろお前がいなくて不安なんだぞ さあ、早く行ってみんなを助けてやろうぜ 「キョン・・・」 目をらんらんと輝かせたハルヒの全身から不思議なオーラが広がりだし たちまちのうちに佐々木が作ったベージュの空間を吹き払った 「行くわよキョン」 ああいつでもいいぞハルヒ 「有希を助けにね!」 (同じ時間、別の世界で) 「古泉くぅーん・・・ちょっと厳しいですぅ」 「朝比奈さん、もう少し頑張りましょう! きっと涼宮さんが助けに来てくれるはずです」 「うぇーん、涼宮さーん・・・」 朝比奈さんは藤原の妨害を乗り越えながら古泉と長門を次々に時間移動で防御し、古泉は襲い来る周防九曜の矢から長門をガードしている そのすきをついて橘京子はひたすらゲリラ攻撃を続け、古泉一人では防げなくなってきていた 朝比奈さんが泣きながらハルヒの名を呼んだ瞬間に、長門の前にまばゆく白い光が輝いた 「あいやーっ!」 朝比奈さんが叫んで長門のもとに駆け寄ろうとしてつまずいて転んでしまうが その白い光の中から現れた人影を見て、朝比奈さんも古泉も驚きに目を丸くした 「うふっ、お久しぶり」 その人物は登場するが早いか、襲ってきた周防九曜の矢を握りつぶし、逆に周防めがけて撃ち返した 「あなたは・・・・・・」 「長門さんが危険だって聞いたから助けに来たの ごめんね遅くなっちゃって」 「朝倉さん・・・・・・」 「覚えててくれたのね、嬉しい!」 「・・・・・・お前は・・・・・・美しくない・・・・・・」 「あら、ご挨拶ね。せっかく1年ぶりに登場したっていうのに」 光の中から現れた朝倉涼子は、次々と襲い来る光の矢を素手で握りつぶしながら 分裂して攻撃してくる橘京子の赤い光をまるでハエでも叩いているかのように楽々と落としている 「朝倉さん、情報統合思念体に戻ったのではなかったのですか?」 「そうよ、向こうにいるのよ でも今のこの私はまたそれとは別の存在 私をここに呼んでくれたのはね、涼宮さんよ」 「涼宮さん?」 「そう、彼女ももうすぐここに来るわ もちろんキョンくんも一緒にね」 「本当ですか?」 「もう少しよ、今ごろはここへの抜け道を探しているはず。だからそれまで頑張るのよ」 「はい!」 古泉は久しぶりの笑顔を見せた かなりやつれた表情だが 朝倉涼子の登場と、ハルヒがもうそこまで来ているという情報に新たな力を得たように 朝比奈さんを助けて明るく輝き出した その光景を少し離れた所から見ている女子高生がいた 北高の制服を着た新入部員は、手に持ったオーパーツが輝きを増すのを嬉々として見つめていた 「うふふふふ やっぱりすごいエネルギーですね 地球を選んで正解だったかな? こんなにたくさんの異人種の戦いが見られるなんて」 (またもやキョンの世界) ついに覚醒した涼宮ハルヒ そのハルヒの目にもう涙はない キッとまっすぐ佐々木を睨みつけて 「もういいでしょうこれで 私は有希の所に行くから あんたも来るんでしょ? それとも何よ 部下を放っとくのがそっちのやり方なの?」 「いいえ。そうじゃないわ。私はあくまで時間稼ぎだから あなたがついに目覚めた以上は私もあちらに合流します では後ほど」 おい佐々木! 向こうでいったい何が起こってるんだよ 「それは自分の目で確かめてね」 チッ 佐々木のやつ、どうなっちまってるんだ まさかあいつらに言いくるめられて 本気で神様になろうなんて思ってるんじゃないだろうな ん?という事は 本気で戦うつもりなのか? 「ちょっとキョン」 あ?何だ 「これからどうやったらいいのよ?」 へ? 「あんたがジョン・スミスであたしに何かの力があるんでしょ? じゃあそれをどう使ったらいいのよ?」 ああそれか 何でもいいんだよ お前が心で思うだけでたいがいの事はかなうからな 映画撮った時の事を思い出せ 朝比奈さんの目からビームが飛び出したり、秋に桜が咲いたり あんまり思い出したくない過去だけどな、全部お前の力でやった事だ 「本当なの?」 ああそうですよ それがお前の力だ 「くっ・・・ 何でそれをもっと早く教えてくれなかったのよ!バカキョン! そんな楽しい事があるのなら、もっとやりたい事がいっぱいあったのに!」 だからお前には教えなかったんだよ お前が自覚して何か始めてしまったら、お釈迦様でもびっくりってもんだからな 「しないわよそんな事!ちゃんと地球の平和を祈ってるわよ!」 まあとにかく終わってから好きなだけ祈ってくれ まずは長門を助けるのが先だ とにかく長門の部屋に入るぞ 「だって、有希のマンションは消えてるじゃないの」 だからそれをお前が何とかするんだよ 「どうするって言うのよバカキョン!」 知らん。お前が考えろ そのバリヤーの向こうに長門の部屋があると思って押してみろ もしかしたらバリヤーがビリッと破れて そこには長門の寝室が 「あったわよキョン!早く入んなさい!」 って本当に押したんかい!マジかよこいつ ハルヒが両手をバリヤーにかけてメリメリと引き裂いたら そこに開いた空間から見慣れた長門の部屋につながっていた おいハルヒ 長門の部屋は7階のはずだぞ なんでこの1階から行けるんだよ 「あんたがそうしろって言ったからじゃないの!」 目を逆三角形に釣り上げるハルヒに引っ張られ、俺は開いた隙間から長門の部屋に侵入した ハルヒはズカズカと居間を通り抜け、和室の扉を開いた 「いないわよキョン!」 部屋の中央に布団が一組敷かれていたが長門の姿はない もちろん古泉と朝比奈さんもいない そして侵入してきた佐々木の仲間たちもいなかった 「どこに行ったのかしらね?」 さあどこだろう 次にハルヒに何をさせればいいのか 俺はもう一度居間に戻ってみた 北高の通学カバンがいくつか置かれていた おそらくハルヒ達のだろう あれ?そう言えば俺のカバンはどこに置いたっけか? きっと鶴屋さんの家に忘れてきたに違いない 「ちょっとキョン!」 ハルヒに呼ばれて部屋に入ると、ハルヒは1枚の大きな額の前に立っていた 「あんたこんなの見覚えある?」 その額には奇妙な絵が飾られていた 黒い画用紙の真ん中に、グラデーション模様のアメーバのような絵が1枚入っている 長門にこんな趣味があったのか? 「おっかしいわねー、さっき来た時はこんなのなかったような気がする」 おい 本当かハルヒ? 「はっきり覚えてないんだけど こんな気持ち悪い絵があったら絶対記憶してるはずよ」 という事はおいハルヒ 「何よ?」 いつぞやの事件を思い出せ 「事件?」 そうだ 去年の暮れの事件だ 雪山で遭難した時のあのお屋敷だ 「あっ!」 あれと同じだ もしかしたらこれは、長門が作ってくれた入口かもしれない あいつらがいるどこかにつながってるのかもしれないぞ 「そうね!思い出したわ!あのクイズみたいなのね」 そうだ どっかに方程式か何かのヒントが書いてないか? 2人でその額の周りを調べてみたが メッセージのようなものはなかった 長門の布団もひっくり返してみて、何か手紙でも出て来ないかと思ったのだが やはり何も出て来ない 和室を探索しているハルヒを置いて、俺は居間に戻った 何冊か置いてある本をパラパラとめくってみて栞などを探しているうちに ハルヒが大声を上げた 「キョン!キョン!あったわよ!」 急いで和室に戻ると、ハルヒは額の周囲を指差していた 「これよこれ!」 何だこれ? 黒い画用紙のような額の周囲の金属の縁には、小さな数字が無数に並んでいた 0から9までの数字がデタラメに書いてある 虫眼鏡が欲しくなるぐらいの細かい文字だった この数字の羅列に何か意味があるのか長門? しかしお前のヒントはいつもこんなのばっかりだよな オイラーの定理だとか何だとか 俺が数学苦手なのを分かってての事なのか? それとももしかするとこれもまた長門流のジョークなのか 細かい数字を読んでるだけで頭が痛くなってくる 「これはキョン用の問題ね」 何だよハルヒ お前まで俺をいじめるのかよ 「有希に感謝しなさいキョン!簡単な問題にしてくれてありがとうってね」 どこが簡単なんだよお前 俺にはまだ問題の意味すら理解できてないのに 「アホキョン!小学校で習ったでしょ! ゆとり教育でもこれぐらいは習ってるはずよ!」 俺はハルヒに首根っこを捕まえられて額の数字を口に出して読んだ 額には小さな菱形の模様が付けてあり、その一つ一つに数字が書いてある 286208998628034825342117067931415926535897932384626 43383279502884197169399375105820974944592307816406 数字はどんどん続いている 何だこれは ハルヒはニッコリ笑って俺を見ている 「この数字に見覚えあるでしょ?」 何かの乱数表か? 2つか3つ置きに飛ばして読んだらメッセージが浮かび上がるとか 「違うわよ!もっとちゃんと読みなさい!」 ハルヒ、もうダメだ こんな細かい数字をじっと見ていると眠くなってくる お前と算数クイズやってる場合じゃないんだから 「もう!バカねまったくあんたは あと10秒だけ時間をあげるから考えなさい」 うるさいハルヒ こんな数字で人間の一生が決まるわけないんだから 「有希の命がかかってるでしょう!」 それでも分からんものは分からん 俺は何とかの定理などはさっぱり理解できん それともこんなにたくさん数字が並んでいるのは円周率か何かか? 「ピンポーン!大正解っ!」 えっ 本当に正解なのか? 「そうよ、こんなの5秒で気付きなさいよキョンのくせに」 くせには余計だ それでこの円周率がどうしたっていうんだよ 「円周率の最初の数字は?」 3.14だから3だろ 「そう!普通数字はどっちから書く?」 どっからって左上からか? 「そういう事! この額の数字はバラバラだけど この314の所を左上に置き直すと・・・・・・」 ハルヒが額を回転させ、円周率の最初の314が左上に来るようにセットすると ブルンと音がして黒い画用紙が震えた 「ほらねキョン 頭は生きてるうちに使わないと毛が抜けちゃうのよ」 画用紙と思っていた黒い絵は、向きを変えた途端にプルプルと震え出し、まるで羊羹かコーヒーゼリーのような表面に変わっていた 「さあ行くわよキョン!」 ちょい待ちハルヒ! 行くってどこに行くんだ? 「決まってるじゃないの、ここに飛び込むのよ」 ちょ、ちょっと待て 確かにこの感じじゃ向こうに何かがありそうだけど 一応調べてみてからの方がいいんじゃないのか? 「そんな暇があるわけないでしょう! あんたがモタモタしてる間に有希に何かあったらどうすんのよっ! あたしは行くからね あんたは動物実験でも人体実験でも何でもやってから来なさい」 ハルヒは少し後ろに下がり、距離を計って助走しようとしている 待てハルヒさん 分かったよ俺も行きますから プルプルと震える額はかなり大きく、二人同時でも入れそうだった 俺とハルヒは部屋の反対側まで移動し、呼吸を合わせて助走した そして頭から飛び込んだ 「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」 リンク名 その3に続く
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/6532.html
涼宮ハルヒの遡及Ⅸ 「どうやらこれで一段落ね、そう言えば、ラスボスってどこにいるの?」 一息ついたアクリルさんがハルヒににこやかに問いかけておられます。 まあ俺もそう思ってるし、長門、古泉、朝比奈さんも当然抱く疑問だろう。 この世界を消滅させ、俺たちが元の世界に戻るためには、世界の鍵となるラスボスを倒すしかない。なら、どこにいるのかくらいは知っておきたいところだ。最終目標があるのとないのとでは気分が随分違うもんな。たとえ、そこまでがどんなに長くても、だ。 ちなみに今の巨竜がこの世界のラスボスでも問題はないと思ったんだが残念ながらそうじゃないことはハルヒ自身が言っていた。 はてさて、次はどんな敵キャラと遭遇しなきゃならんのか。 などと呑気に憂鬱なことを考えていた俺だったのだがどうやら、やっぱり俺の、つうか、俺たちの考えは相当甘かったらしい。 ハルヒに関しては常に最悪を想定して動き、それでもあいつはさらに斜め上に行くと予想しなければいけなかったことを痛感させられたのである。 「あ、ラスボスはこの地上そのものなのよ」 ハルヒの何かふと思い出したような声が聞こえてきたと思ったら、一瞬、この空間が協調反転して凍りついたと感じたのはおそらく気のせいではないだろう。 ……今、ハルヒの奴、何つった? 「あの……もう一回言ってくれる……? 何がラスボスだって……?」 アクリルさんが表情には如実に『冗談だよね?』と書いてある引きつった苦笑を満面に浮かべて再度確認を求めている。 ああ、はっきり言って俺も思ったさ。聞き違いであってほしいってな。 「ええっと……その……この地上がラスボスと……」 どうやら聞き間違いではなかったらしい。 ハルヒが珍しくバツが悪そうに答えてやがるからな。その態度が余計に真実味を増すってもんだ。 って、この地上がラスボスだと!? 「だ、だってその方が面白いじゃない! 悪役とか敵ってのを世界が生み出すんだから、なら、『世界そのもの』を破壊する展開が本当の正義を守ることになるじゃない! 斬新な発想ってやつよ!」 「にしたって斬新過ぎだ! 敵を生み出すかもしれんが主人公や味方を生み出すのも『世界』なんだ! なのに『世界を崩壊させる』ことを解決にしてしまったら、主人公側の勝利の後に何にも残らんじゃないか!」 「む……それは確かに……」 今、気づいたんか!? 「とにかく、今はそんなこと言ってられないわ。この『世界』が敵だって言うのであればこの地に留まるわけにはいかないわよ!」 言って、アクリルさんが俺とハルヒの手を取り、古泉は朝比奈さんの手を取った。 「レビテーション!」 「むん!」 アクリルさんが術を開放し、古泉が表情に力を込める! アクリルさんと俺とハルヒは浮き上がり、古泉が生み出した赤い球体が朝比奈さんをも包み込み、外側に電流をスパークさせながら宙へと上昇! 長門は、 「わたしの体内に反重力物質を生成。調整することによって空中浮揚可能」 もちろん自力で飛んでいる。そう言えば今、初めて長門が飛んでいる理屈を聞いたな。 「さっすが宇宙人! 重力コントロールもお手の物って訳ね!」 おーいハルヒ? そんな呑気なこと言ってる場合じゃないぞ。この世界はどうやったら崩壊させられるんだ? でないと俺たちはいつまで経ってもここから出られないことになるし、出られないってことはその間、ずっと命を狙われ続けるんだが? いくら長門、古泉、朝比奈さん、アクリルさんでも体力と能力に限界が来ちまうぞ。 そう。なんたって、俺たちが宙に浮いた瞬間から、いきなり地面が崩れ、眼下には俺たちを呑みこまんばかりに荒れ狂う『海』が見えているのである。 しかも、いつの間にか周囲すべてがだ。地平線の彼方までずっと荒波が続いている。 ついでに空には雷雲がたちこめ、雷雨と暴風雨も俺たちを激しく責め立ててやがる。 もっとも、俺とハルヒはアクリルさんの結界術の中にいるし、古泉と朝比奈さんは古泉の赤いエネルギー球によって嵐から身を守っている。長門は勿論、自身で作りだしたシールドを展開済みだ。 それでもお互いの声が聞こえるのはアクリルさんが何かしたのだろうか。と想像するのは考え過ぎか? 「さて、どうしましょうか?」 という古泉の、珍しく笑みが消えた真剣な声が俺の耳に届いているもんな。 「……いつもの閉鎖空間であれば《神人》を倒すことによって『世界の崩壊』を導くことができるでしょうけど、残念ながら今回は閉鎖空間ではなく局地的非侵食性融合異時空間。《神人》が存在しない以上、正直、僕には打つ手なしです」 確かにな。ならお前はとりあえず朝比奈さんを守っていろ。 「了解しました」 俺もまた神妙に返し、古泉は少しだけ笑顔を取り戻して首肯する。 「悪いけど、あたしにも世界を崩壊させる魔法なんてないわよ。むしろ魔法の概念は逆だしね。魔法は世界が持つ『力』を『引き出して』行使する。つまり、『世界』が無ければ魔法は使えない。だから世界を滅ぼす魔法は存在しないってわけ。例外は自分の魔力で創り出す精神魔法、あたしたちの言葉でアストラルマジック。でもこれは精神に作用するものであって物理的攻撃手段にならない」 ううむ……となると……ハルヒがこの世界の消滅を望むしか…… ――残念だけどそれも無理―― って、アクリルさん!? いきなりテレパシーって!? ――今はそんな些細なことはどうでもいいの。で、ハルヒさんが望んでも無理な理由は、この空間が世界としてとまでは言わないけど、エアーポケットワールドとしてもう定着しちゃったからなのよ。エアーポケットだから、これ以上広がることはないけど、ある意味、ここは『異世界』。つまり、世界が違う以上、ハルヒさんの願望現実化の能力下からは外れてしまっている―― ちょっと待ってください。今の説明からすれば、ハルヒが来た時点で古泉の力も朝比奈さんの力も無くなるんじゃないですか? ――ううん。それは話は別。だってハルヒさんが望んだのは元の世界にいたときだし、しかもコイズミさんとアサヒナさんに力を持たせたまま、こちらに転送したから。むしろ心配なのはナガトさん。彼女が貴方の言った通りの存在なら、ジョホートーゴーシネンタイとかいうエネルギー供給源が今、断絶された状態になっているはず。だって、この世界は元の世界からは切り離された存在。世界を越えてまでエネルギー供給が可能だとは思わない。それが可能ならナガトさんがとっくにあたしたちを脱出させているはずよ。その供給源を伝ってね―― なんだって!? アクリルさんの説明を聞いて、俺は弾かれたように長門に視線を向けた。 「長門! お前は……!」 「大丈夫。もしものときは古泉一樹に協力を乞う。それとわたし個体のエネルギーが切れたとしても、『悪の魔法使い』としての力は内臓されたまま。攻撃手段がなくなるわけではない」 そうか。こういうときはハルヒの無茶な思いつきに感謝してしまうな。 「てことでハルヒ。お前はどうやってこのお話のラストを飾るつもりなんだ?」 俺も含めて、長門、古泉、朝比奈さん、アクリルさんのみんなが何もできないとなると、残るはこの物語を創り出したハルヒに委ねるしかない。まさか、主人公格が全滅してBAD ENDなんてことは考えないと思うんだが…… 「……まだ考えてない」 うぉい! 「だってしょうがないじゃない! あたしがこの世界に引きずり込まれた時は、まだプロットが途中だったんだから!」 あ。 「なるほどね」 アクリルさんが自嘲のため息をついていらっしゃいます。 「世界の設定、登場キャラクターの設定は決まってるから『世界』としては成り立つけど、ストーリーがまだ最後まで行ってなかったのね。でもまあ、ハルヒさんが居てくれてよかったわ。でないと、この世界の『ラスボス』が何かはずっと分からなかっただろうし」 まあ確かにその通りなんだが…… …… …… …… やっぱアクリルさんはすげえ場馴れしているな。ここまで冷静に状況を分析するなんざ俺たちには無理だ。 それができるとしたら長門だけではなかろうか。 「方法がないこともない」 って、長門! いつの間に!? 「sleeping beurty」 ――!! なるほどな……確かにあの日のあの世界もハルヒが創り出したとはいえ、ある意味、独立した世界だった。今の状況は酷似していると言ってもいいかもしれん…… 俺はハルヒをちらりと見る。 「ん? 何?」 ハルヒがきょとんとしている。 どうする? 今の長門の提言を素直にハルヒに伝えるか? ハルヒはもう、あの日のことが夢でなかったことを知っているんだ。なら、事情を話せば同意してくれると思うんだが…… 「ねえハルヒさん」 って、俺が話しかける前にアクリルさんがハルヒの声をかけてるし。 「この物語のラストをまだ決めていないことは分かったわ。でも『世界』をラスボスにするなら当然、主人公格の方に何か『世界を倒せる』力を付けたわよね? じゃないと物語は終わらないし。それを教えてくれない?」 そうか。確かにそう言う力は真っ先に決めてあることだろう。でないと話が作れない。通常、物語を作る際には出だしとクライマックスを先に決めておいて、その上でその展開やそこまでの過程、エンディングを決めるものだ。いくらハルヒが行き当たりばったりと言ってもそれを考えていないとは思えない。作成過程で色々な話が付け加えられることは多々あるだろうが大筋が変わることはあり得ないだろう。でなけりゃあの去年の文化祭の自主制作映画も完成しなかったことになるからな。 「……ある」 「は?」「へ?」 ところが、なんと答えたのはハルヒではなく長門である。というか何で長門が気づくんだ? 「以前、ミクルの設定資料を見たことを思い出した。あれにミクルミサイルというものがあり、それは我々は名前を付けていない地球外物質を用いた兵器で、朝比奈みくるの胸部の質量分を爆薬として使用した場合、地表を七回焼き尽くすことが可能な熱量を発生させられるものであった」 「ふ、ふえ!?」 「そう言えばそんなことを仰ってましたね」 朝比奈さんが悲鳴をあげ、古泉が苦笑している。 ……てことは、今の朝比奈さんはそんな物騒な物質を内蔵してるってことか? まあ……目からレーザーを出せるんだ……充分、物騒なものを内蔵されてても不思議はないかもしれんが…… 「ちょっと有希。前も言ったけど、あんなあたしの思いつきの設定を真面目に語らないでよ。聞いてるこっちが恥ずかしくなるわ」 その割には、否定しないんだな? 兵器の威力については。 「そりゃ、そっちの方が面白いじゃない。それに、ミクルビームだけじゃなくてミクルタイフーンもミクルミサイルも映画では使う機会がなかっただけで、別に外したわけじゃないわ」 ……よし 「どうやらこれで何とかなりそうよ」 「同感」 「そのようですね」 お? アクリルさん、長門、古泉も俺と同じ意見か? 「え? え? それはどういう意味ですか……?」 「ちょっとキョン、まさか有希の設定をまともに信じたんじゃないでしょうね?」 どうやら朝比奈さんとハルヒだけが解っていないらしい。 「ただし問題がある」 切り出してきたのは長門だ。 「……発射までのエネルギーチャージにかかる時間のことね……」 「そう。ミクルビームは連射できない。それはチャージのための時間が必要と言うこと。そしてミクルミサイルはミクルビームよりも強大な力。故にチャージにかかる時間も少なからず小さくない」 「どれくらい?」 「時間に直して三十分ほど」 などとアクリルさんと長門が会話を交わしている。まあこういう話になればこの二人の専門分野だ。 ハルヒも古泉も朝比奈さんも黙って聞くしかないだろうぜ。つか、創り出したハルヒが何でその設定を知らんのだろう? まあそれはちっともよくないのだがよしとしよう。 それよりも長門が『問題』と言ったことの方が重要だ。 三十分ならそうは長くないと思うが…… 「なるほど。なら、その間は是が非でもあいつらからアサヒナさんを守らなきゃ、って訳ね」 「そう」 何!? アクリルさんが視線を肩越しに背後に移せばそこには、大きさ的にはさっきの翼竜のだいたい五分の一くらいだが、どこか始祖鳥を連想させるデザインの怪鳥が大群でこちらに向かってくるのである。 涼宮ハルヒの遡及Ⅹ