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前へ 先頭ページへ 人の心というのは、かくも奇妙なモノだ。 それは魂とも精神とも言い換えられ、人は永い間それを解明しようとした。 それを脳の火花だと言う人間もいた。 それを幻想と言い捨てる人間もいた。 それを全ての生物が持つ普遍的なものという人間もいた。 しかし、何千年もの時を経てもその答えは闇の中だ。 荒涼としたフィールドにアルヴォ PDW9の乾いた発射音が木霊する。 弾丸は見えない軌跡を残しつつ、眼前の紅緒に向かい直進する。 しかし、紅緒は為虎添翼で一つ残らず叩き落した。 トロンベはそれに銃火器では太刀打ち出来ないと察し、アルヴォ PDW9を紅緒目掛けて投げつけた。 紅緒はそれを一刀の下に両断し、トロンベとの距離を詰める。 トロンベもそれに応じ、背中から一対のハグタンド・アーミーブレードを抜きつつ肉薄する。 一瞬の静寂の後に甲高い金属音が連鎖した。 熾烈、としか表現できない程の斬り合い。 一撃一撃を大胆に、しかし的確に繰り出す紅緒。 近接戦闘に特化した性質であるその斬撃は脅威的だった。 万能性を重視してあるトロンベは少しづつだが、確かに圧されていた。 「…破ッ!」 紅緒は為虎添翼を横に寝かせ、一息に突き出した。 トロンベは身体を半身にしながらそれを避ける。 避けながら紅緒と同様にハグタンド・アーミーブレードを突き出す。 両者の得物が一瞬錯綜し、火花を散らす。 両者は鍔迫り合いの体勢になった。 禍々しい餓鬼之面頬を付けた紅緒と黒く塗られた頭甲・咆皇をつけたトロンベの視線が見えない火花を散らせた。 「死ねぃ…!」 腹の底から滲み出るような、くぐもった低い声が髑髏の下から発せられる。 それと同時に為虎添翼に更なる力が込められる。 体格的に紅緒に劣るトロンベは圧され思わず膝を付いた。 「とどめだ…!」 ぐっと、更に力が込められる。 トロンベの持つハグタンド・アーミーブレードに細かな罅が入った。 しかし、その圧倒的に不利なその状況に置いて、トロンベは笑った。 「何が可笑しいッ!」 紅緒の怒号が飛ぶ。 それに怯む事無く、トロンベは余裕を含ませた口調で答えた。 「…何故私が接近戦に定評のある貴女とチャンバラをしたか解りますか?」 その口調は、まるで紅緒を嘲る様に発せられた。 「負け惜しみか…見苦しい」 表面上は冷静を取り繕ってはいるが、その声音からは怒りが滲み出ている。 「直ぐに解りますよ」 トロンベは口元を緩ませた。 まるで親しい友人に話しかけるような、温和な表情。 しかし、紅緒の怒りを爆発させるには充分だった。 「黙――――!?」 手に持つ為虎添翼に更なる力を込め、眼前の頭を叩き斬ろうとした、その瞬間。 紅緒の背中にアンクルブレード、デファンス、フォービドブレイド、破邪顕正、四つの得物が突き刺さっていた。 「な……ぜ……?」 表情を窺い知る事は出来ないが、恐らく理解不能という表情である事は容易に理解出来た。 崩れ落ちる紅緒を尻目に、トロンベは両手に持ったハグタンド・アーミーブレードを背中に仕舞った。 「ぷちマスィーンズ、便利でしょう?」 トロンベの周囲には5体のぷちマスィーンズがくるくると飛び回っている。 その内4体は何の装備もしていないが、1体だけ下部に蓬莱・壱式を取り付けている。 「まあ、そういう訳です」 蓬莱・壱式をぷちマスィーンズから受け取り、右手に装着するトロンベ。 「恨まないで下さいね」 トロンベの言葉はマズルフラッシュに掻き消された。 何もない空間に『YOU WIN』の文字が躍る。 紅緒だったモノは既にデータの塵へと還元され、やがてはログアウトするだろう。 「トロンベ、お疲れ様!」 ご丁寧にもヴン、という音と共にアリカの顔が映し出された。 「いや~まるで漫画の主人公ね。斃れ逝く宿敵に対し、トリックを説明する!」 腕を組み、うんうん頷きながら嬉しそうに喋るアリカ。 「……そ、そんな」 先程とは打って変わり、俯きながら恥ずかしそうにぼそぼそ喋るトロンベ。 バトル中の凛々しさは何処へ言ったか、その顔は真っ赤だ。 「照れちゃって~! このこのぉ~」 「……うぅ」 何というか、賑やかなやり取りをする二人である。 「それじゃあ、ぼちぼちログアウトするね」 子犬弄りの気が済んだのか、アリカの調子が何時ものモノに戻った。 「はい、了解です」 トロンベもそれに釣られて何時もの調子に戻る。 画面の向こう側でコンソールを操作し、ログアウトの手続きを取るアリカ。 「ん?」 その作業はサブディスプレイに浮かぶ『challenger!』の文字で中断させられた。 「どうかしましたか、ご主人様?」 「うん、オンラインでの挑戦者みたい。相手は…紅緒だけど、どうする?」 挑戦者、という単語にトロンベの目が光る。 「って聞くまでもないか」 アリカは笑いながらバトル受諾の手続きを取る。 「トロンベ、相手は同じ紅緒だけど油断しないように」 「了解です!」 トロンベが応えた。 それと同時にバトルフィールドがランダムに選択しなおされた。 「……少し気になる事があるから、慎重に」 アリカは普段出さないような指令を与えた。 その視線は挑戦者のデータを示すサブディスプレイに刺さっている。 「……で、負けたのか」 「だってー、あの紅緒こっちの攻撃効かないくせにあっちの攻撃はバンバン当たるんですよ!?」 研究室に来るなり愚痴を溢しに来たアリカに対応していた恵太郎は気の無い相槌を打っていた。 「トリスと同じ様なシステム積んでんじゃないのか」 「それにしては、何ていうか、ちょっとおかしいんですよ」 「おかしいって何が」 「オーナーが表示されなかったんですよ」 「オーナーが?」 今までやる気無く話を聞いていた恵太郎が顔を上げた。 神姫というのは周知の通り、オーナーが居なくては起動も出来ない代物だ。 仮に、起動後捨てられた神姫がバトルをしていたとしても、オーナー登録は抹消されない。 「…孝也、何か知らないか?」 「そんな話聞いた事無いなぁ」 「そうか…」 黙って天井を見つめる恵太郎。 しかし、それは一瞬だった。 「アリカ、それどこのセンターだ?」 「となり町のセカンドセンターです!」 「出てこねーじゃねーか」 恵太郎はセンターに備え付けられたベンチに座って不満を隠そうともせず言った。 「おっかしいですね…」 アリカは頭をぽりぽり掻きながら困った様な顔をしている。 「あの時はバトルが終った直ぐ後に現れたんですけど」 まるで首を捻りながら頭の上に疑問詞を表示するようにアリカは考え込んでいる。 「ご主人様、あの時は紅緒とのバトル直後でした」 トロンベがアリカの肩の上から言った。 「そっか…そうよね!」 ポン、と手を叩き目を輝かせるアリカ。 「……これで出てこなかったら帰るからな」 恵太郎はもの鬱げだ。 オンライン込みで紅緒オーナーを探し当てるのは容易だった。 情報化社会の恩恵に感謝しつつ、ナルは紅緒を軽く打ち倒した。 相手はセカンド上がりたてだった様で、難なく勝利する事が出来たが、恵太郎の良心が少しだけ痛んだとか。 「さて、これで条件は全て満たした訳だが」 誰に言う訳でもなく、恵太郎は呟いた。 「…師匠!」 アリカに言われるまでも無く、恵太郎はそれを見た。 サブディスプレイに挑戦者を告げる『challenger!』の文字。 それに伴い映し出される紅緒の姿。 そして。 「オーナーは不在、と……」 アリカの言うとおりだった。 「ナル、準備は良いか?」 やや緊張した口調で恵太郎は言った。 「…OKです」 それを聞いた恵太郎はコンソールを叩き、バトル受諾の手続きを取る。 「バトル開始と共にセンサー類を稼動させて本体の位置を探索。 本体が居た場合はそれに向かえ。それ以外は随時指示を出す」 手短に作戦を与え、バトル開始を待つ恵太郎。 「了解しました」 ナルの周囲の空間が一瞬で異なるフィールドに変化した。 バトルフィールド『戦場』 空は暗雲が覆い、時折雷鳴が鳴り響く。 見渡す限りの荒野には折れた刀や槍などの武器や打ち壊された小屋の様なモノがごろごろしている。 戦場と言うよりは戦場跡、だ。 そして、そのフィールドに最も似合うのは紅緒だった。 鮮明な赤い鎧。 腰に差した太刀と脇差。 手に持った薙刀。 そして、髑髏の面。 TPOを弁えた、正しい出で立ちだ。 それに大してナルの武装は一応ドレスを模して作られている。 スカートの様な腰アーマー。 リボンの様な背部ブースター。 物々しくてそうは見えないが、見ようと思えばドレスに見れなくも無いそれを纏っているナルはこのフィールドには不釣合いだ。 しかし、それを気にする風でもなく、ナルは頭部ホーンセンサーを稼動させた。 「…反応は目の前の紅緒一機のみです」 短く、小声で恵太郎に報告するナル。 その表情からは如何なる感情も窺い知る事は出来ない。 「接近は避けて銃鋼主体で行こう。くれぐれも警戒を怠らずに」 「了解です」 短い作戦会議の後、バトルのカウントダウンが始まった。 紅緒は微動だもせず、ナルを見据えている。 その表情は髑髏の面のせいか、それとも他の要因の性か窺い知る事は出来ない。 『START!』 バトル開始を告げる文字が仮想現実空間に躍る。 「…で、先輩も負けて、おめおめと逃げ帰ってきたという訳ですか」 研究室に帰ってくるなり愚痴を溢した恵太郎に向かって、茜はその顔も見ずに言った。 「だから言ってんだろーが。アレは迷彩とか分身とかチャチなもんじゃねーって!」 「…私も、正直信じられません」 珍しく喚きたてる恵太郎と同じく、ナルもその表情を曇らせプルプルと震えている。 「あの紅緒、本当にこっちの攻撃が当たらない上、あっちの攻撃は普通に食らう。やっぱチートMMSなんじゃねーか?」 明らかに不機嫌そうな顔で捲くし立てる恵太郎。 「チートMMSは無いと思うんだけどなぁ」 孝也は恵太郎の考えをやんわりと否定した。 「何でだよ」 ずい、と孝也に迫る恵太郎。 「公式のバトルマシーンにチートMMSなんかでログインすればものの数秒でアカウント消去されちゃいますよ」 冷や汗を垂らし愛想笑いをする孝也に代わり、茜が答えた。 しかし、その視線は眼前のPCに注がれている。 「じゃあ、一体あれは何なんでしょうね、師匠」 「知るか」 恵太郎は椅子で踏ん反りかえっている。 「ところで」 茜の声が研究室に響いた。 「ネットでもその噂で持ち切りですよ」 そういってキーボードをカタカタと叩いた。 次の瞬間、研究室の明りが落ち、真っ白い壁に茜が見ている画面と同様のモノが映し出された。 「何、これ?」 アリカがキョトンとしながら言った。 「世界最大の電子掲示板『2.5ちゃんねる』」 茜はそう言いながらマウスを動かした。 「これは2.5ちゃんねるの武装神姫スレッド。ここを見てください」 茜がある一部分をドラッグした。 404 :ぼくらはトイ名無しキッズ:2036/02/09(土) 22 33 05 武士子の亡霊って知ってるか? 405 :ぼくらはトイ名無しキッズ:2036/02/09(土) 22 34 23 404 バトルで武士子倒すと出てくるってヤツか どうせ都市伝説だろwww 406 :ぼくらはトイ名無しキッズ:2036/02/09(土) 22 36 01 あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ! 『バトルで乱入してきた武士子に 全く攻撃が効かなかった』 催眠術だとか超スピードだとか そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ… 407 :ぼくらはトイ名無しキッズ:2036/02/09(土) 22 38 49 406 マジ? 詳細キボン 406 :ぼくらはトイ名無しキッズ:2036/02/09(土) 22 40 30 407 406じゃないが、俺も会ったぜ フル装備型の紅緒で、バトル後に乱入してくる その時サブディスプレイに情報出るじゃん? そこにオーナー不在って出てるから一発でわかるぜ 「これはほんの一部ですが、ほぼ全てのセンターで同じ現象が確認されています。おまけに、それら全てが同一IDで」 研究室の明りが元に戻る。 「……どう言う事だ、一体」 苦虫を噛み潰したような表情で恵太郎は呟いた。 「まさに、亡霊。といったところで御座るな」 今まで何処に居たのか、トリスが恵太郎の頭上に突如として現れた。 「IDを持っているという時点で公式の神姫という事は間違い御座らん。しかし、それがまるで亡霊のように攻撃を擦り抜けるカラクリは皆目見当もつかないで御座る」 トリスの言葉に皆は考え込む様に黙り込む。 「……もう一度行ってみよう」 何か思いついたように言った孝也に、皆の視線が集まる。 「何か考えがあんの?」 アリカが訝しげな声で疑問を口にする。 「一つだけ、思い当たる節があるんだ」 しかし、孝也はニコニコと笑うだけだ。 紅緒の亡霊に遭遇するのはアリカは三回目、恵太郎は二回目だ。 「現れましたね、亡霊さん」 仮想空間の中で対峙するナル、そしてトロンベもそれは同様だ。 薄暗い戦場の中に佇む紅緒のその姿はまさに亡霊だ。 静かに、しかし激しく睨みあう三人。 先に動いたのは紅緒だった。 破邪顕正を両手に構え、動いた。 カチャカチャという鎧と鎧が擦れ合う音と共にナルとトロンベへとゆっくりと迫る。 「行きますよ、トロンベ」 「はいッ!」 しかも、紅緒は飛び道具の類は一切装備していない。 ナルの銃鋼とトロンベのアルヴォ PDW9とSTR6ミニガンが火を拭いた。 爆音とマズルフラッシュの嵐がバトルフィールドを文字通り戦場へと化した。 普通の神姫であらば欠片一つ残らなさそうな弾幕。 しかし、紅緒の身体にそれは一つとして当たらない。 否。 確かにそれは当たっている。 ただ、その全てが紅緒の身体をすり抜けているのだ。 「やはり効きませんか……」 銃鋼を稼動させつつナルは呟いた。 「どうしますか?」 トロンベもアルヴォ PDW9とSTR6ミニガンで弾幕を作りながら口を開く。 その間にも紅緒は一歩一歩距離を詰めてくる。 「ナル、トロンベ、接近戦を仕掛けてくれ」 このままでは埒が明かない、そう判断したのか恵太郎が口を開いた。 「トロンベ、そう言う事だから頑張って!」 アリカも良く分からない応援を送っている。 「そういうことです。私はサポートに回ります」 ナルが銃鋼を下ろし、刃鋼で試す様に空を斬った。 「了解です!」 トロンベはアルヴォ PDW9とSTR6ミニガンを投げ捨て、背中のハグタンド・アーミーブレードを抜き、駆けた。 歩み寄る紅緒は一瞬動きを止め、そして駆けた。 紅緒は地面を削りながら止まり、駆けた勢いを破邪顕正に乗せて鋭く突いた。 左手のハグタンド・アーミーブレードで軌道を逸らし、一気に接近するトロンベ。 ここぞとばかりに右手のハグタンド・アーミーブレードで紅緒の腹部目掛けて突き出した。 紅緒の腹に何の抵抗も無く滑り込むハグタンド・アーミーブレード。 「…不気味ですね」 そう呟きながら、バックステップで紅緒から離れるトロンベ。 紅緒に損傷は無い。 無言で再び距離を詰めようとする紅緒。 が、その瞬間紅緒の胴体を刃鋼が両断した。 「…本当に不気味ですね」 しかし、紅緒は何事も無かったように距離を詰めてくる。 ナルは内心、軽く舌打しながら駆けた。 紅緒の破邪顕正の射程外ギリギリの所まで駆け寄り、そして止まる。 その勢いを殺さずに刃鋼に乗せて振り回す。 時折地面を削りながら紅緒の身体を何度も切り裂く刃鋼。 トロンベは小回りの良さを活かし、刃鋼の斬撃の隙間を掻い潜りつつ紅緒に攻撃を加える。 しかし、紅緒はそれを意に介す様子は無い。 紅緒は両手に構えた破邪顕正をゆったりとした動作で構え、力を込めるように静止した。 「…このっ!」 一向に有効打が与えられないこの情況に痺れを切らしたトロンベの攻撃が大振りになった。 それを見計らった様な空気ごと貫くような鋭い突きがトロンベ目掛けて繰り出される。 トロンベの首筋を正確に狙い澄ました一撃。 思わずトロンベが目を瞑る。 甲高い金属音と空気を裂く音。 「らしくないですね、トロンベ」 しかし、刃がトロンベの喉を突き破る事は無かった。 トロンベが目を開けると、破邪顕正に纏わり付いた刃鋼が切っ先を捻り折るその瞬間が飛び込んできた。 「…武器は壊せるようですね」 ナルが間合いを離しつつ呟いた。 トロンベも大きく跳び退りつつ口を開く。 「武器だけは攻撃が効く?」 「恐らく武器も彼女の身体と同じでしょう。ただ、攻撃しようと思えば実体を持つ、そんなところでしょう」 紅緒は切っ先の折れた破邪顕正を投げ捨て、腰の為虎天翼と怨徹骨髄を抜いた。 「時間稼ぎはどうにか出来そうですね」 トロンベが小さく笑った。 「その前にやられないよう注意してくださいね」 ナルは少し皮肉っぽく言った。 「まだかよ孝也!?」 恵太郎は苛立ちを隠そうともしないで怒鳴った。 「あと少し……あと少しなんだ」 孝也は恵太郎の顔見ずに膝の上に置いたノートPCを弄っている。 「糞、そうそう長く持たねぇぞ!」 恵太郎は眼前のディスプレイを睨んだ。 そのバトルは一見、ひどく味気無いものだった。 ナルとトロンベは余り踏み込まずに牽制より少し強い程度の攻撃を繰り返し、紅緒はただゆったりと両者に歩み寄り、静かに一撃を加える。 一進一退の攻防というよりは膠着状態といった方が正しいだろう。 フィールドに充満するのは鋼と鋼が打ち合う甲高い音ではなく、虚しく空を切る間の抜けた音だった。 しかし、その攻防は少しずつではあるが、確実にナルとトロンベの集中力と体力を奪っていた。 紅緒はまるで亡霊の様に攻撃が透き通ってしまう。 それなのに紅緒の攻撃はナルとトロンベにしっかりと当たる。 ナルとトロンベに今のところ目だった外傷は無いが、それでもそう長くは持たないことは明白だった。 「…得物の方は持ちそうですか?」 やや憔悴した面持ちでナルは言った。 そのボディは所々に擦り傷が目立つ。 「まだ二本残っています」 いつも使っているハグタンド・アーミーブレードではなく、ポラーシュテルン・FATEシールドに取り付けてある四つのフルストゥ・グフロートゥの内、二本を両手に持ちながらトロンベは答えた。 トロンベもナル同様、全身の装甲に細かな切り傷が見える。 まさに満身創痍、といった様子である二人に対して紅緒の身体には傷一つ見えない。 もっとも、両手に持つ為虎天翼と怨徹骨髄には刃毀れが目立つ。 「さて、もう一働きしますか」 静かにそう呟くと、ナルは動いた。 大地を踏み締めて紅緒に向かい一直線に駆けた。 その速度は恐るべきもので、ものの一瞬で紅緒との距離を0にした。 「…破ッ」 小さく息を吐き出しながら刃鋼を振るう。 鞭の様に柔軟に紅緒に襲い掛かるそれは、彼女を確かに捕らえた。 顔面を、腹を、腕を、脚を。 何度も何度も捕らえたが、その全てが彼女の身体をすり抜けてしまう。 それでもナルは攻撃を止めない。 背部に搭載された第三腕・鉤鋼で紅緒の身体を鷲掴みにしようと伸ばす。 しかし、紅緒の身体はまるで水が指の隙間から飛び出るように擦り抜けた。 まるで何事も無かったかのようにゆったりとした動作で歩を進める紅緒。 それに薄ら寒いものを感じつつもナルは左足を振り上げた。 かなりの質量を持つGA2“サバーカ”レッグパーツの一撃は、本来ならば神姫の身体を容易く粉砕出来る。 しかし、この紅緒に対してはそれすらも何の効果もなさない。 ナルはニヤリ、と紅緒が笑ったような錯覚を覚えた。 次の瞬間、ナルは考えるよりも先に大きく横に跳んでいた。 「大丈夫ですか、ナルさん!?」 紅緒に接近しながらトロンベが叫んだ。 「…問題無い、と言いたい所ですね」 ナルは刃鋼を杖のようにして身体を支えながら憎憎しげに呟いた。 その視線の先には自身の左足だった部分に向けられている。 ナルの左腿から先は、何も無い。 ただ空虚な空間が広がっているだけだ。 「トリス、私はもう持ちませんよ」 明後日の方向に向かいナルは口を開いた。 「心配御座らん。お膳立ては丁度終ったところで御座る」 何も無かった筈の空間から、ノイズと共にナ・アシブを纏ったトリスが現れた。 「良し、準備出来たよ、けーくん!」 孝也が顔を上げて言った。 「ならとっととやれ!」 恵太郎は怒鳴った。 「OK!」 孝也はノートPCに視線を移し、キーボードの上で指を躍らせた。 カタカタという音と共に、ノートPCの真っ暗な画面に大量の白い文字や記号が流れ出す。 「トリス、準備は良いかい?」 張り上げるような声で孝也は言った。 「何時でも大丈夫で御座るよ!」 トリスも負けじと声を張り上げる。 それを聞いた孝也は二コリと笑い、タイピングの速度を上げた。 「ナルちゃん、トロンベちゃんは紅緒の動きを止めて!」 その声はバーチャル空間にいるナルとトロンベにもしっかりと聞こえた。 鉤鋼を左足代わりに立ち上がったナルは溜息を吐きながら言った。 「人使い…いえ、神姫使いが荒いですね」 紅緒と刃を交えながらトロンベは言った。 「キツイのならそこで休憩していても良いんですよ!」 「ふふ、言うようになりましたね」 ナルは軽く笑うと駆け出した。 その背後では三つ折のアルゴス・ランチャーを展開させた。 トリスの身の丈を遥かに凌ぐそれをナ・アシブの大きな腕で構える。 「…ふぅ」 小さく息を吸い、意識を集中させる。 見ることは出来ないナノマシンの大群が、アルゴス・ランチャーの先端に集まる。 それは複雑に絡み合い、混じり合い、一つの法則に従い形を変える。 ナノマシンは凄まじい密度で集結し、一つのプログラムへと昇華する。 それは、仮想現実を構成する1と0との信号を強引に書き換える形へと変貌した。 やがて、それはアルゴス・ランチャーの先端で実体化した。 神姫の握りこぶし程度の大きさしかない、塊。 黒く光るそれは声ならぬ声で唸りを上げた。 「むぅ…これほどとは」 トリスが思わず声を上げた。 その頬には冷や汗が垂れている。 小刻みに震えるアルゴス・ランチャーをしっかりと抱えなおし、深く深呼吸するトリス。 「……ナル殿、トロンベ殿! 今すぐ其処から逃げるで御座る!」 そして、力の限り叫んだ。 声と共に一瞬で大きく跳び退るナルとトロンベ。 トリスはそれを確認すると、アルゴス・ランチャーの引鉄を引いた。 「……くぅ!」 アルゴス・ランチャーの先端から黒い塊が紅緒目掛けて跳んだ。 それと同時に、凄まじい衝撃がトリスを襲った。 トリスは全身に力を込め、歯を食いしばり耐えた。 黒い塊は避ける間もないほどの一瞬で紅緒に到達した。 今までどおり、自身の身体を透過すると考えていた紅緒から初めて声が漏れた。 「……gaaaaaaaaaa!!」 それは神姫の声ではなく、もっと機械的で酷く音割れした声だった。 黒い塊は瞬時に膨張し、紅緒の周囲を取り囲んだ。 半径2smはあろうかという真っ黒い球状のそれの表面には白く発光する文字列が幾重にも浮かび回っている。 それは急速に集束して、元の小さな黒い塊に戻っていく。 その過程で、大きな球が占めていた空間には何も残っていなかった。 場所を切り取ったとしか言い用が無い真っ白い空間。 その中に、小さな黒い塊は浮いていた。 「展開!」 トリスはアルゴス・ランチャーを傍らに突き立てて両手を突き出した。 ナ・アシブの巨大な両腕がそれに追従し、同じく前方に突き出される。 次の瞬間、ナ・アシブの腕を中心に黒い花びらが咲いた。 そして、それに吸い込まれるように黒い塊が時間を巻き戻すようにトリスの元へと迫った。 「……ッ!」 それがナ・アシブの腕と触れた瞬間、周囲に凄まじい衝撃が奔った。 それは空気を媒介に伝わるものではなく、プログラムを媒介に伝わる衝撃だった。 激しいノイズの中、黒い塊から細長い糸のようなものが溶け出し、黒い花びらに吸い込まれていく。 やがて、黒い塊の全てが黒い花びらに吸い込まれた。 「収納!」 そう言いながらトリスは両腕を胸の前で突き合わせた。 それと同時に、腕の周りに展開していた黒い花びらは消えた。 「……やった、んですか?」 未だ残るノイズのなか、トロンベが呟いた。 「…さあ、どうでしょう」 ナルは地面にへたり込んでいる。 肝心のトリスはというと、苦しそうな表情で目の前を睨むだけだ。 「けーくん、アリカちゃん、ログアウト急いで!」 先程とは打って変わって緊迫した表情で孝也が叫んだ。 『へ?』 恵太郎とアリカは揃って間抜けな声を出した。 「あれ見て、あれ!」 そういって孝也はバトルマシーンを統括するメインサーバーの方を指した。 一個ウン百万するサーバーがプスプスと黒い煙を吐き出していた。 「結論から言います。あの紅緒は正真正銘の亡霊です」 研究室の一角に備え付けられている巨大な機械の前。 そこで茜が一同を見回しながら言った。 「どういうこと?」 アリカは理解しきれていないようで、困惑の表情を見せる。 しかし、それは隣に居る恵太郎やナル・トロンベも同じ様だ。 「ま、順を追って説明しましょう」 茜は機械の前で何やら作業を始めた。 それを見計らって、孝也が一歩前に出た。 「それじゃあ、センターでトリスが何をしたか説明するね」 「手短にな」 恵太郎の言葉に苦笑しつつ、孝也は続けた。 「トリスの武装にナノマシンが応用されてるのは知ってるよね? ナノマシンというのはリアルでは超微小機械として動く。そして、それを一箇所に集中させて光を操作する。 けど、バーチャルでは実際に光は無いし、ナノマシンを放出する訳ではないんだ。その代わり、バーチャルではナノマシン・プログラムを散布する。 リアルでのナノマシンは光を屈折させる。それは光、という実際にある物理現象一つを変化させるだけ。 けど、バーチャルでの光というのはプログラムの一端でしかない訳で、それを操作するにはプログラムを操作する必要がある」 「…つまり、どう言う事?」 アリカの質問に、孝也は小さく頷き続けた。 「簡単に言えば、ハッキング能力があるって事かな」 「ハッキング……データ操作か」 恵太郎が思いついた様に呟いた。 「けど、ナノマシン・プログラムのデータ要領はそんなに多くない。精々フィールドの画像を操作するのが関の山なんだけど……塵も積もれば山となる、って言葉がある」 「もっと解りやすく説明しなさいよ!」 アリカがブーイングをするが、孝也は困ったように笑うだけだ。 「…思いっきり掻い摘んで言うと、ナノマシン・プログラムを一箇所に高密度で集束させると、それなりに高位のハッキングが可能になるんだ。例えると、小さなコップをたくさん集めて大量の水を汲み上げるようなイメージかな」 孝也の説明にそれなりに納得したのか、アリカは少し大人しくなった。 「通常、ナノマシン・プログラムは視覚出来ない。純粋に要領が低くて神姫のAIに引っ掛からないんだ。 けど、高密度に集束した場合、視覚出来るケースがある。」 「それが、アレか」 恵太郎は低く呟いた。 「そう、あの真っ黒い球体。あれがナノマシン・プログラムの集合体。あれくらいになると神姫数体くらいのデータならを吸収出来る」 孝也はニヤリと笑った。 「じゃあ、あれは紅緒を捕まえた…?」 バトルの光景を思い出しながらアリカが言った。 「対象のデータを強制的に圧縮させ、ナノマシン・プログラム内に保存する。 ”データドレイン”、僕の研究している技術の集大成だよ。」 「へぇ、完成してたのか」 恵太郎は驚いたように言った。 しかし、孝也は肩を竦めた。 「まだ実用には程遠いね……現に、トリスに負荷が大きすぎて一回使えば軽いフリーズを起こしちゃう」 そういって、茜が作業している機械を見た。 それは特殊なクレイドルで、外からは見えないが中にはトリスが眠っている。 ナルやトロンベはそれを心配そうに見上げている。 「…とにかく、紅緒のデータを確保する事は出来たんだ。後は茜ちゃんの解析待ちさ」 孝也は椅子に腰掛けた。 代わりに茜が恵太郎達の前に進み出た。 「では、私の方からも説明しますね」 手に持ったレポートを見ながら言った。 「まずは神姫のAIについて説明します。 神姫のAIというのはご存知の通り、人間と同等の精神活動を可能にするほど高性能です。 人間の精神、というのは人類が探求する永遠のテーマの一つです。そして、それは未だに解明されてません。 そこで問題です。解明出来ていない人間の心理、それをどうやって神姫に搭載したか?」 悪戯っぽい笑みが茜の口から漏れた。 「…師匠、知ってます?」 「聞いた事はあるな」 アリカは頼るように恵太郎に聞くが、恵太郎はそれを言う気は無いようだ。 「降参?」 茜が楽しそうに言った。 「待て!ちょっと待ちなさい……」 そういうと、アリカは腕を組み虚空を睨んだ。 頭をフル回転させているのは明白だった。 「……人の魂をコピーした!」 数分間考えに考え抜いたアリカは大きな声で言った。 「ん~、まあ正解って所かしら」 茜は心底楽しそうだ。 「人間の脳というのは、大雑把に言えばコンピューターを大差ありません。コンピューターと脳の器官を合わせ見ると解ります。 それはともかく、一番大事なのは、人間の脳から身体に命令を出すのは電気信号。コンピューターが使うのも、電気信号です。 AIの研究者達は、人間の脳を丸々プログラムに置き換えた。もっとも噂話の域を出ませんが」 噂話、と言うが茜の表情はそうは言っていない。 「まあ、これでAIの基盤は完成したわけです。これを元に神姫のAIは完成したのです。一点の問題を残して」 「問題?」 アリカが首を捻った。 「先にも言った様に、AIは人の脳を丸々コピーしました。 さて、ここで問題です。人間は自身の事を知り尽くしているかどうか?」 アリカはまたも押し黙った。 しかし、今回はそれを聞く気は無さそうだ。 「答えは、Noです。人間は自身の脳の事を半分も理解していません」 茜は自分のこめかみを指先で叩きながら言った。 「当然、AIにはその理解出来ていない部分も多く含まれます。現に神姫のAIにも含まれているでしょう」 「そんなの取っちゃえば良いのに」 アリカがさも当然といわんばかりに言った。 「そうね、当時の研究者達もそう考えたでしょうね。そして、多分実践した。結果は失敗だったでしょうけど」 茜は少し冷めた口調で言った。 「何で?」 「…原因不明のバグが多発したの。これはよく知られてる事だけど、神姫のAIにも人間と同じ内蔵器官を司るプログラムは存在しているの。神姫には内蔵が無いのにも関わらず。」 頭上に?マークを浮かべるアリカに恵太郎が説明した。 「内蔵器官のプログラムが無いAIにも原因不明のバグが多発した。結構有名だぞ」 「纏めると、神姫のAIにはブラックボックスが沢山あるって事です」 一通りの説明を終えた茜はレポートから視線を上げた。 「それとこれと、あの紅緒とどういう関係があるわけ?」 アリカの疑問はまだ解決していないようだ。 それはナルとトロンベも一緒の様だが。 「ねえ、アリカ。幽霊って信じる?」 突然方向性の違う話題にアリカは驚いた。 「何よ、いきなり…」 「私はね、幽霊っていると思うの。だって人間の精神は2036年になった今でも解明されてないのよ?その中に幽霊がいたって不思議じゃないわ」 茜は視線を宙に泳がせながら言った。 「それとこれとどういう関係が…」 そこまで言って、アリカははっとした。 「……まさか」 その様子に、茜は嬉しそうに微笑んだ。 「そう、そのまさかよ」 茜は身を翻し、巨大なクレイドルを操作した。 それと同時に研究室の明りが落ち、壁にあるものが映し出された。 「これは…」 恵太郎の口から言葉が漏れた。 そこにあるのは大量の画像だった。 ノイズが混じり、所々欠損しているデータの残骸だった。 見づらいことこの上ないが、辛うじてそれが文だという事は解る。 そして、それが罵倒の言葉だと言う事も。 「ひどい…」 アリカが拳を握り締めた。 「……MMS第三弾、紅緒をサイフォスが発売された当初のものです。 第一弾、第二弾とフェイスの出来が良かったのに比べ、第三弾のフェイス部分は粗悪な物でした。 とりたて、紅緒に対する風当たりは酷かった様ですね」 淡々とした口調で語る茜。 「サイフォスは近接武装の面でそれなりの人気はありました。しかし、紅緒は武装面でも余り人気が無かった。 その結果、大量の在庫の山と……全ての神姫オーナーが、という訳ではないですが一部の心無い物たちによって紅緒への虐待といった行為が頻発しました」 孝也が説明を代わった。 「その後、メーカーの方で交換作業があったらしいけど、後の祭りだね。表沙汰には成らなかったけどそれなりに問題になった…いや、今でも燻ってるね」 「じゃあ、あの紅緒の亡霊は……」 「そういうことで御座るよ」 アリカの言葉に応えたのはクレイドルの中から飛び出てきたトリスだった。 「あの紅緒の亡霊は、虐げられた紅緒の怨念がネットワークを介し集合した物で御座る」 心配そうに見つめるナルとトロンベに軽く微笑みながらトリスは言った。 「そんな事が起こり得るとはな…」 恵太郎は低く呟いた。 「あのデータを拙者なりに解析してみた結果で御座るが、攻撃をすり抜けるのはどうやらバグの一種で御座った。 ID自体のほうも他の紅緒のものをランダムに選択するものであった。 しかし…それ以外、AIなどは正常で御座る」 AIが正常、と言う事は即ち、心が残っているという意味だ。 皆はそれを理解している。 だからこそ、研究室の明りが元に戻った今でもその雰囲気は重苦しいままだ。 「…その紅緒」 恵太郎が重々しく口を開いた。 「その紅緒、どうするつもりだ?」 一瞬の沈黙の後、茜が口を開いた。 「AIだけ、という時点で選択肢はそう多くないです。ネットワークに解放すればまた同じ事態を引き起こすでしょうし、それに遅かれ速かれBMAに見つかって削除されると思います…」 「素体に移し変える、ってのは?」 アリカが神妙な面持ちで言った。 「無理よ。あの紅緒のAIの要領は普通の神姫の比べて3倍近いわ。移し変えた所で素体が持たない」 「そんな…」 嫌な雰囲気が皆を包んだ。 「僕に考えがある」 孝也がその場にそぐわない陽気な声で言った。 ガッチャガッチャと研究室のテーブルの上を走り回る機影が一つ。 「待つで御座る!」 それをトリスがピョンピョン跳ねながら追いかける。 「…gigigigi」 それ―――ナ・アシブは機械的な音声を上げて逃げ回る。 まるで小さな子供が逃げ回るように、楽しそうに。 しかし、強化骨格であるナ・アシブが走り回る様は内蔵が挿げ落ちた骨格標本のようである。 つまりはシュールな光景なのだ。 「おのれ…こうなったら、ニトクリス強制発動!」 左腕を胸の前に構えたトリスが叫んだ。 それと同時に、ナ・アシブの動きが止まり、その身体から霧のようなものが染み出してきた。 「ニトクリス、何度言ったら解るで御座るか!」 それはやがて人の形になった。 慎重15cm程度。 鮮明な赤い鎧。 腰に差した太刀と脇差。 背中に括りつけた薙刀。 そして、髑髏の面。 「勝手にナ・アシブを動かすなと…て、コラ!」 やや半透明な紅緒はトリスの事などほったらかしで走り去った。 「待つで御座る、ニトクリス!」 それをやや離れてみていた恵太郎がげんなりと呟いた。 「…ナノマシンってあんなことも出来るのか」 「いや~元気になって良かったよ」 孝也はにこにこしながらそれを見守っている。 紅緒の亡霊と言われた彼女は、今ナ・アシブの中に居る。 神姫の素体に入りきらないならば、ナ・アシブの中に入れてしまえば良いと孝也は言い、そして実践した。 今の彼女の名はニトクリス。 彼女は実態を持たないが、ナノマシンを用いて身体を作る事は出来る。 ものに触る事は出来ないが、ナ・アシブで走ることは出来る。 「…また賑やかになるな」 恵太郎の視線の先には追いかけっこをするトリスとニトクリスの姿があった。 先頭ページへ 次へ
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私と彼女、小さな小さな“幸せ”を 対戦相手に名刺を渡して意気揚々と帰る、私・槇野晶と神姫・ロッテ。 とは言えそろそろ、夕食の時間であるな……。買い物を手早く済ませ、 外食へ赴く事にしようか。たった2人のささやかな祝宴だが、十分だ。 「マイスターっ、わたしチキンのサンドが食べたいですの♪ねっ?」 「む?遠出になるが……よし、今日は頑張ったからな!いいだろう」 「やった!マイスター、マイスター、大好きですの。えへへ~……」 「わぷ、こらっ。すりすりするなっ!?うぅ、しょうがない娘だッ」 我々が帰りの足で向かったのは、神田神保町にあるサブウェイである。 少し秋葉原からは離れているが、ロッテの好物なのだ。仕方あるまい? 何、「神姫の食事って電気じゃないか」だと?……その筈、なのだが。 「いっただ~きま~すの~、マイスターっ!!チキン、チキンっ」 「冷めはしても逃げはせん、落ち着いて食べろ……って、もうッ」 「はむ、はむ、はむっ……もっきゅ、もっきゅ、もっきゅ……♪」 「相変わらずおいしそうに食べるなぁ、ロッテ。可愛い“妹”だ」 「はみゅう?ふぁいすふぁ~、んぎゅっ……どうかしましたの?」 「う゛ぁ……そ、そのな。ほら、ドレッシングを零すんじゃない」 この通り、ロッテは平然と“人間用の”チキンサンドを食べている。 飲んですぐに「嫌いですの」と言い放った、炭酸飲料や辛い物以外は 食料ならなんでも食べてしまう。無論、15cmの体格に見合った量しか 食べられぬ故、自然と私と半分ずつシェアする事になるのだが……。 「そう言えば、ロッテや。お前がその様に食事するようになったのは」 「えっと……確か、以前定期メンテナンスにお出かけしてからですの」 「む、そうか……あの時頼んだ先は、確か“ちっちゃい物研”だな?」 「はい♪あれからなんだか、とても快調ですの。お腹は空きますけど」 東杜田技研。そう大きな会社ではないが、マイクロマシン分野に強い。 そこの一部署が“ちっちゃい物研”と自らを名乗っている。そして以前 メンテを依頼する際、知人を頼って同部署を指名した覚えがあるのだ。 あれは研究員……“Dr.CTa”の技術論文を読み、感銘を受けたからか? 実際同社の手際は見事な物だ、私に解決できない不調は全て解消した。 特に補助バッテリーの持続性が、30%程伸びているのは驚きだった。 「だが、ううむ……その時の事は、まだ思い出せないのかロッテ?」 「えと、あ。そう言えば……白衣のお姉さんが嬉しそうに手を……」 「ふむなるほど、そういう事か。感謝せねばならんな、ある意味で」 なんとなく掴めた。が、追求はするだけ無意味であるとも理解が及ぶ。 “Dr.CTa”か仲間の誰かが、実験の為ロッテに改造を施したのだろう。 となればロッテからそれを取り外すのは、かなりの大手術になる筈だ。 そもそも、だな?こんな可愛く物を食べるのに……外すなどとはな?! せっかくの“妹”から、食を取り上げるという冷酷な行為はなッ!?! 「……マイスター?なんだか顔が紅いですの、どうしました~?」 「な、なんでもないっ!……そう言えば、こんなビラがあるぞッ」 「武装神姫・第五弾?セイレーンにマーメイドに、イルカ……?」 「うむ。今度は海シリーズらしい……水着も開発せねばならんか」 と私が水着のデザインを思案し始めた横で、何やらロッテが唸り出す。 あからさまに縦線が入る程の、負のオーラさえ背負っている様だった。 何事?と顔を近づけ、ロッテの様子を伺ってみる。そして出た言葉は。 「……マイスター。なんだかこの妹達、胸がおっきいですの」 ホットティーを噴いた。見ればなるほど、確かにキャンペーンガール…… 正確にはキャンペーン神姫か。彼女らの胸部は、至上類を見ない豊かさ。 成長期なのに躯が小さい私も、アーンヴァルタイプのロッテも心は同じ。 どちらから切り出そうかと悩んでいたが、先行したのはやはりロッテだ。 「マイスターも、わたしの胸大きい方がやっぱり……いいですの?」 「ぐ!?……いいんだ。ロッテは今のロッテが一番可愛いからな!」 「てへ……マイスターも、今のマイスターが一番大好きですの~♪」 そう言って肩に飛び乗ったロッテに、私は頬を寄せ頭を預けさせてやる。 嫉妬心が無いわけではないし、今後は豊満な躯用の服も作らねばならん。 我々としてもいろいろネガティブな物は感じるが、それはそれであるッ! 別に胸の善し悪しで全ての価値が決まるわけではない、気楽に構えよう。 彼女は大切なパートナーであり、彼女にとって私もそうであるのだから。 「あ。マイスター、紅茶が付いてますの。んっ……♪」 「わ゛!?こ、こらっ、頬にとはいえキスするなっ!」 「えへへ~、大好きって言ってくれたご褒美ですのッ」 ──────この笑顔があればね、別にいいじゃないの。 次に進む/メインメニューへ戻る
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ラギス・ベイルロンド R 光 コスト3 クリーチャー:バグ・ティターニア 1000 ■自分のクリーチャーを召喚するコストを、自分のシールドゾーンで表向きになっているカード1枚につき1少なくしてもよい。ただし、コストは1より少なくならない。 (F)相手の手の内を知るだけではなく、自分の手持ちを最大限に活かすことも重要である。 作者:ペケ 小型のエルレヴァイン 収録 群奏編第一楽章~臣群の戦士達(レギオン・ウォリアーズ)~ 評価 名前 コメント -
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伝説の騎士エルロンド 機種:FC 作曲者:David Wise 開発元:Rare 発売元:アクイレム,ジャレコ(日本) 発売年:1987,1988(日本) 概要 レア社開発の横スクロールアクションゲーム。原題は『Wizards Warriors』。 日本版ではNMKが移植を担当。海外では続編が発売されている。 音楽はデビッド・ワイス氏によるもの。タイトル画面の曲は短いが美しく耳に残る。 収録曲(仮曲名) 曲名 補足 順位 Title タイトル画面/エンディング Forest of Elrond Level 1 Inside Tree Theme 木の中のエリア Boss ボス戦 Ice Caves Level 2 Fire Caverns Level 3/Level 4 Inside the Big Tree Level 5 Outside the Castle Level 6(城壁) Castle Ironspire Level 6(城内)/Level 7 Low Health 体力減少時 Invincibility Potion 無敵(赤い水薬使用)時 Level Clear ステージクリア時 Register Your Initials ネームエントリー
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第二十話:道行姫 「僕はイリーガルマインドに苦しむアーンヴァルの声と施設の事を聞いて迷っていたよ。施設がどうなるのか、この先の武装神姫もどうなるかと」 結に支えられながら輝は俺に自らの迷いを語り始める。その顔は施設の真実を晒される事を恐れていない覚悟の決まった顔だった。 ついさっきとはまるで違っている。 「でも、こうも考えられたんだ。もしかしたら神姫も施設も両方救えるんじゃないかって」 「何をする気だ?」 「僕は証人に加わる。その代わり、施設の何も知らない人々は無関係だって事を証明して、施設が存続できるようにする」 「……一番困難な道だぞ? しかもすぐに解決できる事じゃねぇ。施設を存続させたとしても後の偏見の目だって消さなけりゃならん」 輝の選択は最も難しいものだった。 施設からイリーガル技術流出の汚名を拭い去る、言葉にすればそれだけの意味だが、実際にやるなら様々な問題が発生する。それは俺にだって列挙し切れるものじゃない様々な難題、他者の思惑が絡んでくる。 まさに茨の道、輝も思い切ったものである。 「わかってる。これは僕の戦いだ。君の手出しは無用だよ。君はイリーガルにだけ集中していればいい」 「やれるのか? 一人で」 「一人じゃないよ。僕には結がいる。石火に早夏もいる。施設のためなら何だってやってみせるよ」 その言葉を迷いなく言ってみせる。結も、石火に早夏もそれについていこうという顔をして、輝の語る姿を見届けていた。どうやらその言葉は四人で考えた真実のようだ。 俺が止められるようなものじゃない。 「ははっ。なるほどなぁ。初代チャンピオンって名がさらにサマになってきた気がするぜ」 彼らの覚悟に負けた俺は少し笑って、それを認めた。そこまで言うなら進んでもらおう。俺はその覚悟を見届けてやる。 「わかったよ。俺はイリーガルを叩いて、目の前の小さな奴らを助ける。お前は施設って大きなものを助けてやんな。足下は俺に任せろ」 「ああ」 俺は輝に敬意を表して、彼の手を取り、握手した。輝はその感触を感じ取って握り返し、それを交わした。 「いいね。男の友情っていうのは熱い! 僕も及ばずながら力になるよ。まぁ、ただというわけにはいかないけど、代金を割引サービスしてあげちゃおう」 話のキリのいい所で日暮が拍手で話を持ちかけた。ちゃっかりしているのか、本気で感動しているからそうしているのかといえば……おそらく後者だ。 その辺はしっかり『正義の味方』といった性格をしていた。 「今の声の人は?」 「正義の味方の日暮さんだ。彼に手を借りれば結構やれると思うぞ。『ハイスピードバニー』の風俗神姫騒動も解決にも貢献したからな」 「あの大事件を!? それは凄いな……」 「どうだい? 僕に君の手伝いをさせてくれないか?」 「お願いします。対価なら払います。どんな事をしてでも施設を救いたいんです」 「わかった。代金はそうだな。尊君。君に払ってもらおう」 「え?」 話が進む中、唐突に代金の話が俺の方に向いて驚いた。何をどうすればそういう話になるというのだろうか。 「そう難しい事じゃないさ。代金は君がイリーガルマインドなどの装備を押収して、それを僕に渡す事を約束してくれ。つまり、君が今やろうとしている事さ」 「なるほど。それならいいでしょう。僕がやる事は輝と違って自己満足だ。それに価値がつくなら喜んで」 「商談成立だね。じゃあ、輝君に結ちゃんだっけ? 二人で奥まで来てくれ。これからの事を話そう」 「はい」 長期戦となるであろう施設の話について打ち合わせがかなり時間がかかるのか、日暮は輝にそう言って店の奥へといなくなる。確かに他言無用な話になるのだからそうなるのも当然と俺は納得した。 その輝は入り口から結に導かれながら歩みを進めていく。その足取りは目が見えないため、周りを探るような歩き方をしているが、進むことには一切のためらいがない。 その中で俺の近くまでたどり着くとそこで輝は足を止め、気配でそうしているのか、俺の方を向いた。 「尊。ありがとう。この一歩を踏み出せたのは君のおかげだ」 「尾上辰巳だ」 「え?」 「お前等の頑張ってんのに変なプライドで本名を名乗らないわけにはいかんなと思ったんでな。改めて自己紹介さ」 「そうか。僕は天野輝だ。改めてよろしく。辰巳」 「ああ。……一歩を踏んだ後は輝次第だ。俺は俺の道、お前はお前の道をそれぞれ行こう。目が見えなくたって、もう見えてるだろ?」 「うん。行ってくる」 「おう」 短い会話が終わると輝は再び歩き出し、店の奥へと消えていった。そして代わりの店番として神姫のコアを飾るための胸像ディスプレイにヴァッフェバニータイプのコアがくっついたもの……うさ大明神様がレジの隣に現れた。 それを見届けた俺はここでの用事が終わって彼らとの約束を果たすために蒼貴と紫貴と一緒に店を出て行った。 一週間後、日暮から視覚データによる結果と輝からの連絡が来た。 あれから日暮は輝を伴って、決定的な証拠を施設の研究者に突きつけ、彼らを一網打尽にしたのだという。 これによってリミッター解放装置の販売ラインを、根元を断ち切った事になる。リミッター解放装置はこれ以上、増えることはない。後は日暮が既に流通したものを回収し、俺が既に使ってしまった、或いは買わされてしまったオーナー達から押収すれば、何とかなるはずだ。 使った後でも杉原のワクチンプログラムで何とか助けられるだろう。 施設に関しては義肢を開発していた研究所の独断として施設と研究所で切り離され、研究所のみが罪に問われる形となった。しかし、そこの神姫は改造前のは何とか解放したものの、手を付けられてしまった神姫に関しては証拠品として警察に押収されてしまったらしい。 これを聞くと神姫はまだまだ物として扱われているという事の様だ。 俺達は神姫オーナーにとっては、神姫は物ではなくパートナーだが、この日本での法では神姫は個人として認めてもらえていないのだ。所詮はロボット。物であるという訳だ。 昔の本や物語で繰り広げられているロボットの存在意義の上での答えがこれだとするなら少々悲しいものを感じる。 しかし、可能性はある。そう。輝だ。 日暮経由の彼の連絡に施設の神姫が押収された現場に居合わせたらしく、何とか説得を試みて失敗に終わり、自らの力の未熟さを痛感させられた事が書かれてあった。 後悔の思いがあったが、それには続きがある。輝はその神姫達や施設を助けるためには自分自身がそれを制するだけの力が必要と考え、弁護士として猛勉強することを決心したらしい。結と彼らの神姫もまた輝の決意についていくことにしている。 神姫で何とかするというだけではなく、大人としての力を得る事で両方を救う。どうやら、これが輝なりの答えという事の様だ。 これはすぐに解決することではないし、俺が足掻いた所で変わりはしない。せいぜい輝の相談に乗ったり、宣言したとおりに、バーグラーを狩ったりするのが関の山だ。 だが、こうして未来に続いていると感じることができるのは悪い気がしない。輝を信じる。それだけで今回の自分のやったことが無駄ではないと思えた。 「解決はしたわけじゃねぇが、いい風には終われた……か」 連絡を受けた事を思い出しながら俺は神姫センターに入っていく。今回来たのは真那と会ってしまういつもの場所ではない。そこからさらに四駅ほど進んだ先にある別の神姫センターである。 今回の事件によってばら撒かれたイリーガルマインドの流通も広範囲に渡るものになってしまっており、警察や日暮も捜索しているものの、発見するのが難しい。 俺個人でどれだけ発見できるかはわからないが、様々な場所を回って多くのオーナーや神姫を見てみたいという気持ちもあったため、こうしてイリーガルマインド回収も兼ねたセンター巡りをしてみる事にしたのだ。 秋葉原を中心とするその周辺には多くの神姫センターがある。探そうと思えば、ゲームセンターや公認ショップ含めていくらでもあるため、自分の縄張りだけでは飽き足らないオーナーと神姫達は様々な場所で修行する際には秋葉原を中心とするこの激戦区を回るのが通例だという噂を聞いたことがある。 俺は……『異邦人(エトランゼ)』の真似事をするのだからその噂通りのことになるかもしれない。素性を明かす気はない点では異なるがな。 「ミコちゃん、本当にここにイリマイあるの? イリマイがある割にはここの噂が小さい気がするんだけど……」 「……日暮さんの教えてくれた噂じゃ、ここにイリーガルみたいな神姫が破竹の勢いで勝ちまくっているってことらしい。あの人の情報網は信頼できる」 神姫センターの奥へと進む俺に紫貴が話しかけてきた。今回は日暮の情報からここに来ている。俺の蒼貴を大破に追い込んだバカ者共と似たようなクチであり、イリーガルマインドの予感しかしない。が、紫貴の言う通り、噂が小さく、それが目立たない。そこがおかしな所である。 「しかし、ここはその噂の人以外の人も強いようですね。だから、大きな騒ぎになることもないという事なのでしょうか。あの試合の人達もすごいです」 蒼貴が指差す先を見ると、大きなスクリーンがあり、それに非常に高いレベルの対戦が映し出されていた。 対峙しているのは黒い外套と身の丈はあろう化け物の様な太刀を力任せに振り回し、叩き潰すような戦い方をするストラーフタイプとスカートアーマーの内側から隠している暗器を取り出して一定の距離を保ったまま、翻弄してみせるアルトアイネスタイプの二機だった。 「You re going down!(くたばれッ!)」 翻弄されていることにプライドを傷つけられているのか、少々怒り気味のストラーフが太刀を力任せに振り回してアルトアイネスに襲い掛かる。 「それは勘弁して~。噂に聞くバラバラ戦術は痛いしさ~」 彼女は軽口を叩きながらサブアームで受け流し、そのままアーマーを展開することで飛んで爆弾による爆撃を仕掛ける。 ストラーフは太刀で着弾する前に弾き飛ばして自らのダメージを減らし、大きく跳躍して、反撃に出る。 銃を連射し、それに続いて一戦しようというオーソドックスな攻め手だ。銃の弾はアルトアイネスの翼を形成するスカートアーマーを弾いて体勢を崩させ、動きを硬直させるとそのまま太刀の一閃を放つ。 「危ない危ない」 いつの間にか取り出した大剣ジークフリートでそれを防御する。ストラーフはそのまま、力を入れて叩ききろうとしたが、いかんせん空中にいるため、力を入れられず、そのまま地面に着地し、次の一手を打つために追撃を仕掛けてこようとしているアルトアイネスに向かって太刀を構えた。 「確かにレベルが高いな。これからこういう奴らと戦うのも悪くない」 拮抗状態の続く戦いに俺は感心した。ここまでのバトルが見られる上に互いに隙を見せずに攻撃を繋ぎ続けているだけ実力を持っていた。あれだけの力があれば万一、イリーガルマインド装備が出ても何とかできるかもしれない。 どういう奴らなのかと対戦の映像の隣の対戦者のデータを見てみる。ストラーフタイプはフランドールという名であり、オーナーは三白眼と長めの黒髪をサイドテール、黒いパンク調の服とシルバーアクセが特徴的なガラの悪そうな咲耶という名の少女だった。 彼女は噂を聞いたことがある。何でも相手が弱いと判断すると、弄んで潰すという戦い方から非難の声が上がるという悪評である。しかし、ランクに反して強いことから有望であるという見方をする人もおり、注目されているらしい。 一方、アルトアイネスタイプはメルという名前だった。オーナーは祥太という気さくな印象のある青年だった。特に噂を聞いていないため、未知数だが、フランドールを翻弄することができるという点では彼らもそれだけの実力をつけ始めていると見ていいだろう。 「ねぇ。ミコちゃん、あれ」 「あ?」 対戦を観戦している時に紫貴が俺に声をかけて指をさす。その先を見ると甘ロリ系な女の子が二人の青年に囲まれているのが見えた。 「おい。梨々香ちゃんよ。遠野のチームメイトだったよな?」 「な、何よ……」 「俺達は最近、三強を倒して調子に乗ってる『ハイスピードバニー』のチームを狩ってるのさ。遠野や『異邦人』を引きずり出すためにまずは弱そうなお前からやろうって話になったんだよ」 どうにも彼らは『ハイスピードバニー』……恐らくは遠野貴樹のチームを潰そうと考えているらしい。事情はよくわからんが女の子を男二人で襲おうとするその現場は見苦しいことこの上ない。 「やめてよ! 二対一なんて……」 「関係ないね。『玉虫色』を倒したのも初心者だ。ここで勝ちまくったが、油断はしねぇ」 「そうそう。やるなら全力ってな。ははは」 「そうだな。やるなら全力……二対二だな」 傍まで近づいた所で俺は男二人の話に割って入る。 「あ? 誰だてめぇは」 「俺はただのオーナーだ。……覚えておかなくていい。どうせお前らが負けるんだからな。トラウマになりそうなものがなくなっていいだろ?」 「ふざけるな! こいつは後回しだ。この野郎をやるぞ!」 「おう! そこのバーチャルバトルに来い!」 「そうこなくっちゃ……」 挑発をするとすぐに釣れた。さすがはチンピラ。単純で助かる。 そう、ほくそ笑むと俺は彼らの言うことに従ってバーチャルバトルなるものに向かう。今回のはエルゴにおいてあったシミュレーションバトルによる戦闘という事になるようだ。 自分のブースに着くと蒼貴と紫貴を二つのアクセスポッドに乗せて接続する。向こうでは俺が一人で二体操ろうとしている事をバカにしているのか、笑いながら各々の神姫をセットした。 それによってバーチャルシステムは起動し、オフィシャルバトルの準備が完了し、ディスプレイの向こう側にそれぞれの神姫が出現する。 相手はヴァローナタイプとガブリーヌタイプだ。それぞれ純正装備だ。ただし、両方が首にイリーガルマインドを装備している。何とかこれを回収しなくてはならない フィールドは草原。遮蔽物もないその場所は純粋な戦闘力が試されるだろう。 『Ready……Fight!!』 ヴァローナが先行し、ガブリーヌが援護射撃しつつ、前進する普通の戦法を取ってきた。 「蒼貴、紫貴。すぐに沈める。まずはヴァローナをやる。蒼貴は苦無で拘束、紫貴は射撃からブレードで斬り捨てろ」 対して俺は速攻の指示を出す。女の子を再び襲うのをためらわせるほど、速やかに倒す必要がある。圧倒的な力の差という恐怖。それがこの戦いのテーマだ。 蒼貴と紫貴はそれを聞き、行動に移す。蒼貴は接近してくるヴァローナの四肢に苦無を、紫貴はアサルトカービンをそれぞれ放つ。飛んでいく苦無は足を止め、弾丸がひるませ、ヴァローナを無防備状態にする。 「はっ!」 そこをすかさず紫貴がエアロヴァジュラで切り裂く。ヴァローナは何がおきたのかもわからずに声を上げることもなく地面へと倒れた。 その直前、蒼貴は首からイリーガルマインドを奪う。これでヴァローナのイリーガル化は防げる。 「この野郎!!」 早くも相方を失ったガブリーヌはイリーガルマインドの力を使った。それにより彼女の額からユニホーンが生え、紫色のオーラを放ち始める。 「これで決まりだ。紫貴、バトルモードで接近して拘束。蒼貴、紫貴に乗って塵の刃の用意」 「はい!」 「了解」 予想通りの展開からの次の指示につなげる。ヴィシュヴァルーパーに変形した紫貴に蒼貴が騎乗し、接近の間に塵の刃を鎌と苦無にまとわせる。 ガブリーヌは重装備に物を言わせて接近してくるまで拳銃を撃ち続け、接近したらいつでも殴れるようにナックルを構える。 銃撃を避けながら、紫貴が接近するとガブリーヌはナックルで紫貴本体を狙った一撃を仕掛ける。 しかしそのとき、違和感に気づいた。そう。蒼貴がいない。 攻撃を紫貴に仕掛けながらも目だけで蒼貴を探していると……上にいた。 「なっ!?」 ガブリーヌは驚きながらも紫貴に攻撃を続けようとするが、彼女は変形解除をして、サブアームで受け止め、拘束する。 「今よ! 蒼貴!」 「せいやっ!」 気づいた時には既に遅く、宙を舞う蒼貴が塵の刃をまとった苦無でユニホーンを切断し、鎌で腹を引き裂く。そしてとどめとしてイリーガルマインドを奪った。 その瞬間、それの効果が失われ、ガブリーヌは効果が切れて砕け散る塵の刃のかけらが舞う中で地面に伏す。 『You Win!!』 ディスプレイに勝利画面が表示される。それが表示されるまでのタイムは一分とかかっていない。一蹴とも言うべき戦果だ。向こう側にいる男二人はイリーガルマインドを使っているのにこうなってしまった事に動揺していた。 それもそうだ。神姫のせいとかそういうレベルではない。実力を発揮する前に終わってしまったのだから。 「ど、どうなってんだよ!? てめぇ! チートでも使ってんじゃねぇのか!?」 「そりゃお前らだろ。そのイリーガルマインド、俺が追っている違法パーツなんだよ。わかってて使ってるのか?」 「なんだと!?」 「すぐにそれを外せ。お前たちの神姫が苦しんでいるぞ」 チートと騒ぐ男二人にイリーガルマインドの副作用について指摘すると彼らは自分たちの神姫を見た。神姫達は例によって副作用で苦しんでいる。バーチャルバトルではどうなるのかと思ったが、どうにも架空も現実も同じであるらしい。 「な……」 「どうなってんだよ!?」 やはりというべきか彼らは知らず、副作用に驚いていた。この装置の副作用は全くと言っていいほど、説明されないケースが多い。このパターンはよく見る。 「それが原因だ。そのまま捨ててしまえ。でもってホビーショップエルゴにいきな。有料で直してもらえるからよ」 「お、覚えてろ!!」 「由愛~~!?」 自分の神姫を持って逃げるように去っていった男二人を見送ると置かれた二つのイリーガルマインドを拾う。見ると本当に本物のイリーガルマインドに見える。これがただの演出で済めばどんなに良いことか。 「こんな下らねぇもん使ったって、強くなんてなれねぇのに何やってんだか……」 ため息を付きながらそう呟く。 こんな調子でイリーガルマインドを狩っているが、それを持っているやつは大抵がその性能に魅入られている馬鹿か、知らないアホ、あるいはその両方の三択だ。 二番目なら救いようがあるが、それ以外なら話にもならない。痛い目を見るまで使い続けてくれるから困る。少しはうまい話なんてないことぐらい考えてほしいし、それで神姫が犠牲になったらどうするのかを考えていただきたいものだ。 これ、あるいはこれに類する違法パーツが横行したらどうなるかを考えると今の武装神姫は危ういラインにいるのだろうか。 「あの……助けてくれてありがとうございます」 「気にすんな。こっちもこいつを回収するのが仕事なんでね」 考え事をしていると瞬く間に倒した俺達に助けた梨々香という甘ロリ系の女の子が話しかけてきた。肩にはポモックタイプの神姫が乗っている。見た感じは特に目立った改造もない純正装備だった。このまま、絡まれていたらまず間違いなく、手痛い目にあわされていただろう。 「あの……オーナー名の尊ってもしかして双姫主の尊さん?」 「いや、俺は……」 「その通りです」 何とか名乗ることを避けようとしたが、蒼貴に肯定されてしまった。 墓穴を掘らされていつものこのザマだ。困っている奴らをほっとけないだけにこのパターンは引っかかりすぎる。 「そうよ。ミコちゃんはね。双姫主として雑誌にも載っちゃった超かっこいいオーナーなのよ? すごいでしょ?」 「やっぱりそうなんですか! あの戦いがデュアルオーダーの……遠野さんのやってた通りなんだなぁ……」 紫貴が無茶苦茶脚色を付けた事を言うと梨々香は感激したらしく、紫貴の言葉に頷く。 「おい。こら。何、勝手に晒してんだ。しかも尾ひれを付けすぎだろ」 「雑誌に載った時点でアウトでしょ?」 「うるせぇ! 素性が載ってねぇからまだ何とかなるはずなんだよ!」 「いいじゃない! 減るもんじゃないし!!」 「あんだと!?」 「あの……!」 すっかり正体をバラされて怒る俺とかっこつける紫貴が口喧嘩を始めようとするとなにやら勇気を振り絞ってる様子の梨々香が口を挟んできた。 「どうした?」 「私に戦い方を教えてください! さっきみたいなことになって、チームの皆の足手まといになりたくないんです!」 「遠野さんってのに教えてもらえばいいんじゃねぇか?」 「遠野さんにはもう弟子がいるし……。勝ち負け関係なく楽しんでるけど、こんな事、情けなくって周りに言えないよ……」 話から察するに梨々香は遠野のチームに所属はしているものの、勝ち負け関係なくバトルロンドを純粋に楽しんでいる奴であるらしい。しかし、この一件で自分でも戦えるようになりたいと思ったらしいが、周りにはそういう奴だと思われていて言いにくい。だから、見ず知らずの俺にまずは教えてもらおうと考えているらしい。 ぶっちゃけ、恥をかなぐり捨てて知り合いに教わった方が進歩が早いと思うのだが、どうしたものか……。 「……オーナー、教えてあげてはいかがでしょう?」 「ミコちゃん、そうしようよ。真那にだっていつも教えてるんだし、慣れっこでしょ?」 「……仕方ねぇなぁ。わかった。その代わりといっては何だが、『ハイスピードバニー』の事を知っている範囲でいいから聞かせてくれ。興味があるんでな」 「ありがとうございます!」 「梨々香ってんだったか? 俺は厳しいぞ?」 「はい!」 梨々香の真剣な態度に感心する蒼貴と紫貴にも逃げ場を塞がれた俺は逃げることを諦め、梨々香に俺のバトルの経験を教えることに決めた。デュアルオーダーは無理でも普通の戦い方ぐらいは教えられるだろう。……真剣な気持ちを無碍にできんしな。 まぁ、こうやって動き回れば梨々香のような良い奴にも会える。こういう奴らがいるからこそ、武装神姫という舞台がマシな方向にも向かうことができる。 その可能性を1%でも高めてやるのが俺らにできることなのかもしれない。 それで武装神姫が良くなるなら俺の行動も無駄じゃないし、輝や別の場所で戦っている誰かもまた頑張っていられるだろう。 この手ほどきも何かの役に立つことを願って、やってみるか……。 第三章『深み填りと盲導姫』-終- 戻る トップへ
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14人のバトルロワイアルー因縁の再会ー 本編 登場人物 ネタバレ 死亡者リスト ルール
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適材を誂え、適所に与え(後半) 私・槇野晶は、当初彼女ら“槇野晶の神姫”に戦わせる気がなかった。 より正確に言えば、神姫バトルを無理強いする気は私になかったのだ。 だが、ロッテは戦いを望んだ……自らの存在意義を求めた故だったか? そうして“誇り”を培った彼女に刺激され、アルマとクララも望んだ。 「さて、ロッテが“フェンリル”を気に入ったのならば次は此方か」 「あっ、はいっ!クララちゃんがまだなら、これはあたしの……?」 「そうだ、こっちも拘って作ったぞ……数が少々多いがな、ほれッ」 “客のニーズには全力を以て応える”……それが私のモットーである。 ならば“妹達”の求めにも全力を以て応じるのが、私の役目であろう? という信念の元、アルマに用意したのは……6振りの黒い刃であった。 専用の鞘も2本セットだ。強化セラミックの輝きには、自信があるッ! 「うんと、マイスター。この柄や鞘のあちこちについてるのは……」 「気付いたかアルマや、お前達の躯にあるジョイントと同じ物だよ」 「MMS用汎用ジョイント……これは、形を組み換える剣ですの?」 「その通りだロッテ、これぞ“ヨルムンガルド”。アルマの剣だ!」 「……じゃあボクの武器は“ヘル”で決まりなんだよ、マイスター」 ──────ちょっとそのツッコミは鋭すぎないか、クララや? 北欧神話のロキ神が女巨人と設けし子にして、異形なる怪物達。 即ち“フェンリル”に“ヨルムンガルド”……そして“ヘル”。 そこから銘を持ってきたのだが、博識なクララにはお見通しか。 さておきこの剣は、ギミックが命。使い分けこそが真髄なのだ。 「基本スタイルは幾つかあってな、この分離状態が“スケルトン”だ」 「じゃあ、こうして……ツガルタイプのフォービドブレイドみたいに」 「それが“ウィング”形態、双振り作れる事を前提として設計したよ」 「えっと、なら……今度は大きな四振りでフブキタイプの……んしょ」 「大手裏剣だな、それが“テイル”。小型の双振りで“スケイル”だ」 「あ、ブーメランですか。うんと、じゃあ……両方を混ぜたりっと♪」 がちゃがちゃと弄っている内に、この剣の面白さと性能が分かる様だ。 表面上は笑顔のアルマだが、それでいて真剣に完成した形態を構える。 用途が多ければ、組み換え自体も含め習熟が必要になってくるからな。 双振りの死神鎌である“ファング”、防御を考えた大型剣“ホーン”。 「そしてこれが最大形態であるツインナギナタ、“クロウ”だ」 「“爪”ですか……えっと、マイスター。あたしも試しにっ!」 「そう言うと思って、ウレタンブースに棒を数本用意したぞ?」 「あ……ありがとうございますっ!早速、試し切りしますね!」 そう言ってアルマは、林立する12本の木……その中心へと立った。 鞘から展開した柄を右手で持ち、左手を添えて長槍の様に構える。 ──────静寂の数瞬、その後にアルマの裂帛の一声が響く!! 「やっ……はあっ!せい、たっ!!ふ、やぁあっ!!!」 「凄いですの、木の棒ががあっという間に細切れに……」 「……あの剣は日本刀や小太刀に見えても、実は両刃?」 「有無。だが……ここまで見事に扱いこなすと壮観だな」 空気を震わせる気迫の一声が響く度、棒が細切れになっていく。 爪の様に配置された、片側3つの刃が縦横無尽に振り回される! 数十秒後。昇竜を白く焼き付けた剣が止まり、演舞は終わった。 意外にも踊りを趣味とするアルマの“舞い”は、非常に……ッ! 「綺麗だぞ、アルマっ!初めてでそこまで使いこなすのかッ!!」 「マイスター、喜んでくれてうれしいですっ。でも、まだまだッ」 「その意気だ!……二人とも、今日はもう少し訓練するといいぞ」 「はいですのっ。サイレンサーをつけて射撃の練習しますの~♪」 程なく特訓に没入し始めた二人を見て、私はクララを呼び寄せる。 これらは全形態で扱える共通装備……私は別の装備も作っていた。 それらの仕上げの為には、どうしてもクララの助言が必要なのだ。 「というわけで、これがお前達共通のCQB用装備の図面だ」 「デザインは共通なんだね、マイスター……足先の部品は?」 「移動装置だ。飛行能力は搭載できんからな、やむを得ない」 昨日、エルゴの日暮めからメールが来た。“魔術”用装備の指針だ。 これはクララ専用の“Valkyrja”システムに組み込む、必要な要素。 その当人から“Valkyrja”は大型過ぎると、指摘を受けたのが先日。 打開の為に、ロッテの一言を元にして別の装甲服を作っているのだ。 「“Valkyrja”を折り込む手前重量はかさむが、お前達なら大丈夫だ」 「でもただ装甲を外すだけだと……隙が大きいかも知れないんだよ?」 「そこはしっかり考えてある。それ故に“アレ”を組み込めるのだ!」 「……戦闘にはあまり意味がない。でもボク達のスタイルには、必要」 「そうとも。お前達はこの槇野晶の“妹”なのだからな、重要な事だ」 そこには私達の趣味嗜好が多分に混ざるが、まあそれはよかろう。 最近はアルマも、恥ずかしさを残しながら慣れてきてくれたしな。 戦略的にも、この“法衣”を自由に出し入れできる機能は欲しい。 ゼンテックスマーズ社の研究理論なので少々解析に骨が折れたが、 日暮めが“魔術”のついでに手伝ってくれた、後はクララの力だ! 「というわけで、解析した“アレ”を組み込む装備を今から作る」 「了解だよ……その後で、この“法衣”用に武器を作るんだもん」 「有無、時間短縮を図りたい……クララの力を、少し借りるぞ?」 「喜んで再調整するんだよ、マイスター。ボクも、楽しみだから」 「そう言ってくれるなら、妥協無く作り上げよう。待っていろッ」 ──────腕と誇りを賭けた、私の“戦い”だから……ね? 次に進む/メインメニューへ戻る
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16人のバトルロワイアルー因縁の再会ー
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愛と情熱のタッグバトル 後編 数分後、凛花達は地上に下りてヤクト達の様子を見ることにした。しかしその周りには誰の姿もなかった。 「おかしいな、どこにいるんだろう」 「どうやらあの二人、どこかに隠れたみたいですわね」 おそらくさっき使ったあのシートを利用して隠れたのだろう。凛花達はセンサーを駆使してヤクト達を探した。 「なかなか見つからないけど」 「もう少し移動しながら探しましょう。必ずどこかに隠れているはずだから」 凛花が場所を移動しようとした瞬間、すぐ側の砂が盛り上がった。 「これは!」 「凛花姉、危ない!!」 とっさに避ける凛花。しかし飛ぶ瞬間、足元から何者の手が彼女の脚を握った。 「しまった!」 砂から現れたのは巨大なロボットだった。そのロボットが凛花を捕まえたのだ。 「このロボットは一体?」 驚いている來華に、どこからかヤクトの声が聞こえ、その質問に答えた。 「こいつは真鬼王・不動、おいら達の守護神さ」 そして別な場所から軽装備のヤクトが現れた。 「し、真鬼王!?それにしては形が違うような・・」 來華は真鬼王・不動をよく見てみてみた。確かに真鬼王そのものだが、どこか違う事に気付いた。 「神姫が、神姫がコアになってない!!」 普通なら真鬼王は神姫をコアにしないと合体できないはずである。この真鬼王はそのコア無しで動いているのだ。 「そう、そうなんですよ~。不動さんは単独で動けるようにプログラムを変更して、パーツを再構成しました~。ですので、自立して行動する事ができるのです」 不動の後ろからカウベルがひょっこり姿を現して説明した。 「でも、後ろに乗ってるじゃん」 「うるさいな!細かい事はどうでもいいんだよ!!」 來華の言い分にヤクトは怒り出した。 「とりあえず不動、手に持ってる花子をぶん投げてやれ」 ヤクトの命令を受けて、不動は手に持っている凛花をぶんぶん振り回して遠くに投げた。 「ああっ、凛花姉!一体どういうつもり…」 その瞬間、來華の体が宙を舞い、地面にひれ伏した。 「い、いつの間に…」 「油断したな、お前の相手はおいらさ!覚悟するんだな!!」 ヤクトは両腕のクローを出して來華に攻撃を仕掛けてきた。 (まさか凛花姉と引き離される事になるなんて…大丈夫なんだろうか、凛花姉は) ヤクトの攻撃ラッシュに防戦一方の來華は、こんなときでも凛花のことを心配していた。 一方、飛ばされた凛花は何とか岩肌に直撃を避け、体勢を立て直していた。 「私としたことがあんなことで飛ばされるなんて…」 凛花はセンサーで敵の様子を窺った。しかしセンサーに反応はない。 「おかしいですわね、センサーに反応しないなんて…」 だがそこへ真鬼王・不動が近づいてきて、凛花に攻撃を仕掛けてきた。 「うかつだったわ、あんなところから現れるなんて…」 どうやら不動にはステルス機能があるようだ。そのため、凛花の行動タイミングが一瞬遅れたのだ。 (このままではこちらがやられてしまう。早く何とかしないと…) 凛花が何とか行動を起こそうとしたとき、賢市から連絡がはいった。 『大丈夫か、凛花』 「ええ、大丈夫です」 『あの真鬼王というロボットはオリジナルじゃない事は分かってるな。お前は何とかして攻撃をかわして來華と合流するんだ』 「でも、こんな状態ではうかつに動く事などできません」 さすがの凛花も不動の激しい攻撃にはなす術がなかった。しかし賢市はそんな凛花に命令をした。 『あのロボットを倒すには來華との連係プレイが必要だ。力を合わせないとこちらに勝ち目はない』 「…分かりました、要は來華と合流すればよい事ですわね」 『ああ、頼んだぞ』 凛花は周りを見渡すと、高速で空中を移動し始めた。 「あ~、どこへ行くんですか~。逃がしませんよ。不動さん、あの子を追いかけて!!」 「ウオォォー!!」 後を追いかけるカウベルと不動。それを後ろ目で見た凛花は、薄ら笑みを浮べた。 (これでいいのね、あとは來華と合流すれば…) 凛花は急上昇してカウベル達を引き離した。 その頃來華は軽装のヤクトに苦戦をしていた。 「どうだ、接近戦においらに右に出るものはいねえんだ。観念するんだな」 大降りの剣を持って攻撃を続けるヤクトに、來華は防戦一方だった。 (このままじゃいつかやられる…。早く攻撃に移らないと) ヤクトの大剣が來華に振り下ろされようとしたそのとき、空の上から何者かが降りてきて大剣を絡みとった。 「な…っ、どうやって振りきったんだ?」 驚いているヤクトの目線には、凛花がいた。彼女は大剣を鞭を使って放りあげた。 「わたくしを…甘く見ないことね!!」 そしてヤクトを一蹴し、吹き飛ばした。 「凛花姉!!」 「お礼は後にして。それより、そろそろここに大物がやってきますわ」 凛花が言い終わった直後、どこからかビームが飛んできた。 「あ、アレは…」 「真鬼王・不動!!」 引き離したはずの不動がようやくここへやってきたのだ。 「よくも私たちをこんな目にあわせましたね~、不動~、ミサイル攻撃をお見舞いしてやりなさ~い!!」 カウベルは不動にミサイル発射の命令をした。不動の各部からハッチが開いてミサイルを発射した。 「またミサイル?」 「來華、わたくしと動きをあわせて!ダブルエレメント攻撃をやりますわよ!!」 凛花の指示に従い、來華は共に背中合わせになってポーズをとり始めた。 「一体何のポーズだ?念仏でも唱える気かよ?!」 呆れるヤクトを尻目に、ミサイルは二人を目標にして突っ込んでいく。しかし…!! 「はあぁぁぁっ!!」 次の瞬間、大きな竜巻が起きてミサイルの方向を変えた。 「行きますわよ來華!」 「よし、念心!」 「合体!」 「「GO、スクラム・オン!!!」」 大きな竜巻と化した二人は、そのまま不動目がけて突進していった。 「こんな竜巻、たいしたことねえ!いいから吹き飛ばしてやれ!!」 カウベル&不動に指示を出すヤクト。すかさずカウベルは不動にキャノンを撃つように命令した。 「ターゲット、ロックオン!五行砲、発射!!」 五行砲から放たれたエネルギー弾が凛花・來華目がけて発射された。 「來華、二方向に分離攻撃!」 「OK!」 二手に分かれてエネルギー弾を避けた二人は、不動を両方向から攻撃を仕掛けた。 「「必殺、双龍風雷撃!!」」 凛花の掌打と來華の蹴りが不動のバランスを崩し、そのまま落下させた。 「いや~ん、いいところなしでやられるなんて~」 砂に埋もれた不動は戦闘不能になった。 「…」 それを見て、あっけにとられるヤクト。まさか不動がこんな目に遭うとは思いもしなかっただろう。 技が決まり、無事地上に降り立った二人は、勝利のサムズアップを掲げた。 「やったー、あたしたちの大勝利だ~!!」 「まあ、何とか決まったわね。これであちらも負けを認めざる終えないでしょうね」 しかしその直後、凛花の膝がガクっと落ち、その場にしゃがみこんでしまった。 「だ、大丈夫、凛花姉!?」 心配する來華。それでも凛花は笑顔で彼女に答える。 「さっきの急降下のダメージが今になって出たのかしら…。でも大丈夫よ」 「早い所ステージアウトして診てもらおうよ」 來華は凛花の肩を貸して、ステージアウトの指示をしようとした。 「おいおい、誰か忘れてないか?!」 そのとき、後ろから聞き覚えがある声が聞こえてきた。 「げっ、まだいたの?もういい加減負けを認めたら?」 「まだおいらが残ってるぜ。ここからは1対1で決着をつけようじゃないか」 しぶとく立ち向かってくるヤクトに、來華は嫌気を感じていた。 (いい加減にしてよ、もう勝負はついてるじゃないか) 「おいら達はどちらか一人が残ってる限り、まだ闘えるんだ!さあ、さっさと決着つけようぜ!!」 そのとき、ヤクトの耳元から和多の声が入ってきた。 『ヤクト、今回はお前たちの負けだ。これ以上闘っても無意味だ』 「でも、おいらはまだ闘えるぜ?!」 『動けないお前のパートナーをひどい目にあわせるつもりか?それに今のお前の装備では勝つ事は出来ない。あくまでもこの試合は模擬だという事を忘れるな』 神姫はオーナーに対しての命令は絶対であり、それに従わなければならない。ヤクトの場合は熱くなりやすいため、誰かがブレーキを掛ける役を担わなければならないのだ。 「…わかった、今日のところはお前達の勝ちにしてやるよ。でもな、本当の試合だったら容赦しねえぞ。分かったな!」 悔しそうに負けを認めたヤクトは、降参のサインを出した。 『ギブアップ確認!WINNER、フレグランス!』 その瞬間、凛花と來華の勝利が決定した。そしてバトルステージが消え、來華達は元の場所へ戻っていった。 「いや、すいません。うちの神姫たちがご迷惑をお掛けしまして」 帰り際、和多が賢市に恥ずかしそうに謝ってきた。 「とんでもない、僕たちもいい経験をさせていただきました。お礼を言いたいくらいだしね」 賢市は和多に対して握手を求めた。 「そうですか、ありがとうございます」 お互いに握手を交わした二人は、再戦を誓った。 「今度は公式のリングでお会いしましょう」 「その時は本当のバトルができるといいですね」 再び会える日を約束した二人は手を振りながら別れていった。しかし、和多の肩に乗っているヤクトは不満そうだった。 「いいか、今度会ったら本当の勝負だからな!分かったな!!」 そして振り向きざまに再戦を約束させた。來華はそれを見て、最後の最後までしつこいなあ、と思った。 帰り際、來華と賢市は試合の事を話していた。 「それにしてもあのヤクトという神姫、結構しつこかったなあ」 「人それぞれさ、あんな神姫も世の中にはいるということだよ。でも、凛花をここまで追い詰めるなんて、かなりの実力なんだろうね」 賢市はメンテナンスカプセルに収納されている凛花を見た。今の凛花は高速飛行のダメージが残っており、カプセル内で休息をとらなければいけない状態だった。 「そういえば來華、お前は何ともないのか?お前もかなりダメージを受けてる状態で一緒に双龍風雷撃を放ったはずだが、もしかして頑丈なのかもしれないな」 たしかにあの時、同じ技を放った來華だったが、本人はそれほどダメージを受けている様子はない。來華本人もそれには気付いていなかった。 「た、たぶん、他の神姫より頑丈にできてるんだよ!ほら、ジュビジータイプって防御力が桁外れに高いって言われてるし」 「そうか、僕もまだ勉強しなくちゃいけないみたいだね…」 すんなり納得する賢市。しかし來華本人はそれを気にかけていた。 (それにしてもビックリしたなあ。あたしもこんなに打たれ強いなんて思ってなかったし) そのことで少し悩んだ來華だったが、それは忘れる事にした。 (そんなことどうでもいいや、今はあたしの目標は主人の役に立つこと、それでいいんだから) そう思いながら來華は賢市たちと一緒に愛車に乗り込んだ。そして車はまっすぐ自宅目指して走っていくのだった。 外伝2 おわり もどる
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No. タイトル 登場人物 000 ハムスターランドバトルロワイアルOP ハムスターマウス、長谷川泰三 No. タイトル 登場人物 001 フェンスの外 マイケル・スコフィールド 002 フルメタルジャケット 松田桃太、ブラッドリー・ベリック