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32インチワイドのモニターに映し出されているのは、随分と横に膨れた少年の顔。2036年現在では中型の部類に入る液晶ディスプレイを一杯に占領したそれは、お世辞にも見栄えが良いとは言えなかった。 「ガブリエルの調整がてらに繋いでみりゃ、随分と情けないザマじゃねえか。ゲン?」 スピーカーを兼ねた液晶パネルがビリビリと揺れ。少年の奇妙に甲高い声を、5.1chサラウンドも裸足で逃げ出すほどの高音質で再生する。 「すいません、大紀サン」 科学技術の無駄遣いとしか言いようのない滑稽な光景だったが、そんな事を思う余裕も自信もなく、ゲンと呼ばれた少年はディスプレイに向かって頭を下げるだけだ。 「今日はメンバーが足りなかったんスよ。サードの連中ばっかで、仕方なく数揃えたんですが……やっぱサード程度じゃダメッスね」 通信相手の名は、鶴畑大紀。 このビル……ひいては神姫バトルミュージアムのオーナーにして、秋葉原店に所属するランカー達のスポンサーでもある、鶴畑家の御曹司だ。ついでに、このバトルミュージアム所属ランカー達の監督役も兼任している。 「サードの雑魚が負けても、お前が勝ってりゃ、問題なかったはずだよなぁ?」 もっとも彼は秋葉原に常にいるわけではなく、自宅に設置された専用の業務用筐体と専用の通信回線を介して、対戦や指示をするだけなのだが……。 それでも、ゲン少年の秋葉原店所属ランカーとしての選手生命は、彼に握られていると言っても過言ではない。 「そ、それはっ!」 醜く歪んだ大紀の瞳に、ゲンは血の気の引くざあっという音が聞こえた気がした。 「……まあいいや。どっちにしても、俺様のガブリエルの敵じゃなかったゴミだしな。機嫌がいいから、今日の失態は許してやるよ」 分厚いピザをくちゃくちゃと喰らいながら、鶴畑大紀は退屈そうに明後日の方向を眺めている。 「ありがとうございますっ!」 「じゃあな。ひひっ」 再び頭を下げるゲンに見向きもせず、鶴畑大紀はその通信を一方的に切断した。 32インチのメインモニターには、戦闘終了の文字とコンテニューのサインが踊っている。 けど、そんなものはどうでもいい。 バーチャルポッドから飛び出した私が確かめたのは、静香の姿。 「静香! 静香っ!」 メインテーブルに顔を伏せ、シートにうずくまっている。浅い息を矢継ぎ早にする静香は、私の声に反応する気配すらない。 医療系のソフトでも入っていれば、静香の症状も把握できるのだろうけれど、そんな便利なツールが入っていようはずもなく。 「どうしよう……静香ぁ!」 私一人で静香を運ぶのは当然不可能。いつものセンターやエルゴなら、十貴や近くでプレイしている人に頼ればいいけど、個室になっているここではそれも難しい。 武装神姫なんて大層な名を持ちながら、こんな時には呆れるほどに無力で……。 「……そうだ」 辺りのものを踏み台にしてパーティションに登れば、人を呼びに行けるじゃないか。狭いブースの中、パーティションまでは一メートルもない。神姫の跳躍力をもってすれば……。 こんな簡単な考えも思いつかないなんて、よっぽど慌てていたらしい。 「静香。すぐに人を呼んできますからね……」 その時だった。 「大丈夫ですか?」 扉の向こうから、こちらに呼び掛ける声が聞こえたのは。 「……すいません、助けて下さいっ!」 魔女っ子神姫ドキドキハウリン その17 「はい……事務所で休ませてもらってます。お願いします、十貴」 終話ボタンを押して通話終了。半分まで開いていた折りたたみタイプの携帯を、ぱたんと閉じる。 ひと抱えある携帯をトートバッグに放り込んで、私は彼に頭を下げた。 「ありがとうございます、興紀さん」 彼の名は、鶴畑興紀さん。あの有名なファーストランカー・ルシフェルのマスターにして、鶴畑コンツェルンの御曹司。 この辺りどころじゃない。多分、全国区レベルの有名人だろう。 ブースの前を通りかかったところで私の声を聞いて、声を掛けてくれたらしい。 「礼には及びませんよ。この店の所属ランカーと大紀が、随分と失礼したようで」 さっき最後に戦った鶴畑大紀のお兄さんだけど、とてもそうは見えない、感じのいい人だ。本人もそれを気にしているのか、鶴畑さんと呼ぶと「興紀で構いませんよ」と苦笑していたっけ。 「それにしても、戸田さんは一体どうしたんですか?」 静香は目を覚ます気配もなく、ソファーで横になったまま浅い寝息を立てている。興紀さんの話では、普通に眠っているだけで、特に気になる症状は出ていないとのことだけれど……。 「さあ……私にも」 私が静香に出会って二年になるけど、静香に持病があるなんて話は聞いたこともない。ここ最近は徹夜していた様子もないし、寝不足の線も薄いはずだ。 「そういえば静香、最後に『花姫』って……」 それも、分からないことの一つ。 最後に戦った大紀の神姫は『ガブリエル』と呼ばれていた。花型のジルダリアの事かとも思ったけど、だとしてもあのタイミングで混乱するのはおかしな話になる。 「……そうですか」 首を傾げる私に、興紀さんは視線をわずかに逸らす。 あれ? 「そういえば、興紀さん。どうして静香の名前を?」 静香と呼ぶなら分かるけど、名字の戸田は私は一度も呼んでいない。対戦も終了していたから、モニターでその名を読み取ることも出来ないはずだ。 いくらドキドキハウリンが目立っていると言っても、それはあくまでも地方大会レベルの話。ファーストリーグ屈指の有名人にまで名前が伝わっているなんて、とても思えない。 「昔、僕が負けた相手ですからね。ライバルの名前は忘れやしませんよ」 ……え? 「そんな! 私、ルシフェルと戦った事なんか……」 慌てる私の言葉に、興紀さんは穏やかに笑う。 「あなたじゃありませんよ。あなたの前の、彼女の神姫……『花姫』の話です」 花姫? それって……。 「不幸な事故でしたけどね。いずれにせよ、戸田さんがプレイヤーとして再起出来て良かった」 静香は眠ったまま。 「興紀さん」 「はい?」 起きている気配は、ない。 「良かったらその話……詳しく聞かせてもらえませんか?」 静香が目を覚ましたのは、興紀さんが姿を消して三十分ほどしてからのことだった。 「ここ……は?」 ソファーの上で半身を起こし、不思議そうに辺りを見回している。 「ミュージアムの事務所です。静香、気を失ったところを運んでもらったんですよ?」 興紀さんは去り際に、飲み物の準備をしてくれていた。ジュースの入ったコップを渡しながら、静香が倒れてからの簡単な経緯を説明する。 「あぁ……何だか心配かけたわね」 ひと眠りして落ち着いたのか、ジュースのコップを私に戻す静香の顔色はいつもと同じ。 「大丈夫ですか? 静香」 「多分ね。寝不足かなぁ?」 軽く乱れた髪を整えながら。最近はちゃんと寝てたんだけど……と呟く静香は、普段の調子を取り戻しているように見えた。 トートバッグに手を伸ばし、そのまますっと立ち上がろうとして……。 「その前に、ちょっといいですか?」 私の言葉に、膝の力を緩め直す。 静香の細い体が、ぽす、とソファーに沈み込んだ。 「なぁに?」 トートバッグから手を離し、テーブルの上に立つ私の顔を覗き込む。 「静香。花姫って……誰ですか?」 「……花姫?」 私の問いに、静香は首を傾げるだけ。 「ジルダリアなら……」 「とぼけないでください! 興紀さんから全部聞いてるんですよ!」 花姫は静香の初めての神姫。リアルリーグしかなかった当時の神姫バトル中、不慮の事故で存在をロストしたのだという。 「……そっか。あの人が介抱してくれたんだ」 どうやら、私のひと言で全てを悟ったらしい。何だかバツの悪そうな表情で、軽くため息をつく。 「何で黙ってたんですか? それに、静香が昔、ファーストランカーだったって……」 花姫がいたのは神姫のプレイヤー数が今ほど多くない頃、今の三リーグ制に分かれる前のことらしい。 けど、三リーグ制しか知らない私の基準に当てはめれば、全国百位以内なんてファーストランカー以外の何者でもなかった。 「何? そんな事まで話したの?」 静香は驚くどころか、むしろ呆れ顔。テーブルからコップを取り、ジュースをひと口流し込む。 「静香、前に言ってくれたじゃないですか。私が初めての神姫だって……」 「そうね」 忘れるはずもない。私が起動し、静香をマスターと呼んだあの日のことだ。 静香は間違いなく、神姫は初めてと言っていたはず。 「あれは、嘘だったんですか……?」 「まあ……そういうことになるわね」 震える私の問い掛けを、静香はあっさりと肯定した。 私の中の何かが、ぴしりと鳴る。 「そうだ。あかねさんは? にゃー子は? 十貴とジルは、私が静香の二人目の神姫だって知ってるんですか?」 私が静香と会う前から、彼女の周りにずっといた人達だ。その誰からも、静香の神姫の話なんか聞いたことがない。 ジルは私のお姉ちゃんみたいな神姫で……十貴は初めて会った時、「よろしくね」って優しく笑ってくれて。あかねさんもにゃー子も、みんな私に良くしてくれて、たまにエッチな目にもあったけど、大切な……。 「姫はジルの妹分だったのよ。当たり前でしょ」 みんな……。 静香の否定に、私の大切なものが音を立てて崩れていく。 みん……な。 「じ、じゃあ……エルゴのみんなは? 店長さんは? ねここちゃんや、リンさんは? 花姫のこと、知ってるん……ですか?」 みんな……。 「ねここちゃんやリンさんは知らないだろうけど…………店長さんや岡島さんは知ってるでしょうね」 視界が揺らぐ。 私の過ごした全ての世界には、私じゃない、もう一人の神姫がいて……。 私の居場所にいるべきは、彼女であるはずで……。 否定の言葉の連なりに、私の見ていた全ての世界が、嘘で作られているように見えて。 「静香……」 崩れていく世界の中。 私が伸ばし、掴めたものは、たった一つ残された、小さな小さな手掛かりだった。 「私は、花姫の代わり……なんですか?」 私も花姫も同じ神姫。 そして神姫はモノだ。 なら、花姫を失った静香が、その悲しみを埋めるため、代替品として私を買った可能性は極めて高い。 そいつの代わりでも何でもいい。 静香に望まれてさえ、いるのなら……。 この世界の全てが、嘘で作られていたとしても……。 その一言で、私は……。 「まさか」 私の最後の問い掛けを、静香は笑って否定した。 「じゃあ……!」 じゃあ! 私は花姫の代わりじゃない。 私は私。 ココという、静香のたった一つの神姫で。 花姫の代わりなんかじゃなくて……。 「あなたなんかが、姫の代わりになれるはずないじゃない」 吐き捨てられた静香の言葉に、私の掴んだ最後の手掛かりは、あっけなく崩れ落ちた。 「え……あ……」 「だって、花姫を殺したのはハウリンなのよ。そんな相手を好きになんて、なれると思う?」 静香の表情はいつもと同じ。 「なら、何で私なんか……! 代用品にもなれない私を……大嫌いなハウリンなんかを、どうして!」 穏やかな、淡い笑みを湛えた……。 「決まってるでしょ」 深い怒りと、嫌悪を隠した……。 「花姫を殺したのが、アナタだからよ」 その敵意の矛が私に向けられた時。 「!」 私は、その場から逃げ出していた。 「静姉、大丈夫かな?」 仕事から帰ってきたばかりの父さんに無理を言って車を出してもらい。ボクとジルが秋葉原に着いたのは、日が暮れてからのことだった。 「大丈夫だろ。ココも付いてるんだし」 ドアの向こうは小雨模様。ボクは大きめの傘を広げると、ジルを肩に乗せ、伝えられたセンターへと駆け込んだ。 受付で確認してもらって、奥へ通してもらえば……。 「……どうしたの? 二人とも」 静姉はまだ調子が良くないのか、ソファーに横になったままだった。 いつもの徹夜続きで貧血にでもなったんだろうか。まったく、無理ばっかりするんだから……。 「ココから電話があったんだよ。静姉が倒れたから、迎えに来てって」 その電話を掛けてきた本人の姿が見当たらない。お店の人に、水でももらいにいったのかな……? 「ココは?」 「ああ。どこかに行っちゃった」 さらりと答えた静姉の言葉に、ボクは言葉を失った。 「……え?」 あのココが体調不良の静姉を放ってどこかに行くなんてありえない。ジルならともかく……と思った瞬間、肩に座っていた当人が口を開く。 「……話したのかい。静香」 ジルの口ぶりは重い。 「ええ。全部ね」 あ……。 「話したって……まさか!」 頷く静姉に、ため息を一つ。 そりゃ、あの話をいきなり出されればショックだろうけど……何でまた、このタイミングで。 「もうすぐあのコが起動して二年目だったしね。……ちょうど良かったのよ」 そっか。もう、ココが来て二年になるんだ。花姫と過ごした時間と、同じだけの時間が……。 って、そんな感慨に浸るのは後でも十分出来る! 「帰るわよ、十貴。起こして」 静姉はゆっくりと身を起こし、脇に置いてあったいつものバッグを取り上げた。 その中にココはいない。彼女をこの街に置き去りにしたまま、静姉は家に帰るつもりなんだ。 「静姉……。ココを探しに行って」 静姉の両手をそっと取って、立ち上がらせながらそう言ってみる。 「だから、もういいんだってば」 もう、強情なんだから。 「なら……何で泣いてるんだよ……」 「な、泣いてなんか……っ!」 潤んだ目元を拭おうとしてももう遅い。静姉の両手は、ボクが封じてるんだから。 潤んだ瞳が泣いた後なのは、バレバレだ。 「本当は静姉だって、分かってるんだろ?」 どうせ、ホントに全部を話してる……ってわけでもないんだろうし。込み入った話の詳細をこっちの想像に押し付けるのは、静姉の悪いクセだ。 「……付き合いが長すぎるってのも、考え物ね。まったく」 良かったこともあるけどね。 面倒なことも多いけど。 「余計なコトした?」 「まったくだわ」 ぷぅと頬を膨らませて、静姉は視線を逸らす。 「こんな奴を呼びつけたお節介にもひと言文句言わないと、治まらないわ」 やれやれ。とりあえず、ひと段落か。 次は、ココをどうやって探すか考えないと……。 「それで……さ」 「なに?」 立ち上がり、ボクを見下ろす静姉に、ボクは首を傾げた。静姉は、どう間違ってもここでお礼を言うようなタイプじゃないんだけど。 いや。 この意地の悪い表情は……。 「急いで来た割には、しっかり女の子の格好なのねぇ」 っ! 「だ、だって! この格好じゃないと周りに通じないし!」 受付で見せた登録カードには、鋼月十貴子と書いてある。男の格好でいきなりそう名乗っても、誰も信じてはくれないだろう。 ……いや、信じられたら、それはそれで切ないんだけどさ。 「っていうか、さっさとココ探しに行きなよー!」 ああもう! 「そりゃあ行くけど、どこから探そうかな……と」 その時だった。 マナーモードの静姉の携帯が、着信を示す規則正しい振動を放ち始めたのは。 戻る/トップ/続く
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触手と美咲さん こんにちは。フブキタイプの美咲です。主である先生の神姫をさせていただいています。 今日も今日とて、広大なテーブルの上を手磨きで磨いております。このテーブルは本当に広く、バトルフィールドとして使用できそうなほどです。バトルフィールド・テーブル。……響きがもう不人気確定ですね。 このテーブル、実はそれほど汚れていませんし、毎日磨くほど汚れもしないのです。それでも私が磨くのは、私が起動したての時に先生に『私にお手伝いできることはありますか?』と聞くと『いいえ、何も。あなたは何もしなくても大丈夫ですよ、美咲さん』と言われたのです。その時、私は、主である先生のお役に立つことのできない不甲斐ない駄目神姫なのだと絶望すると、『そ、そんなに落ち込まないでください! ……そ、そうだ、このテーブル、このテーブルを磨いてください! それはもう、顔が写るが如くピカピカに!』といった具合で、先生から初めて仰せ付けられたご命令なんです。 あの時は、先生が私に求めるものが何なのかまだ理解しておらず、とにかく役に立たなくてはと必死だったのです。今では『何もしなくていい』と言われたらお言い付け通りきちんと何もせず待機できます。 ……何もしないのに、きちんと、というのはおかしいですね。 「みっさっきっさぁーん♪」 どうやら、先生がご帰宅なされたようです。 「はい、何のご用でしょうか」 「本日もまた、美咲さんの為に仕事時間を削って新たなる装備を開発いたしました!」 仕事時間は削らないでください。いや、先生のなさるお仕事に特定の拘束時間がないのは重々承知なのですが、少しは会社側の事も慮ってあげてください。 「それは、どんな装備なのですか?」 ちょっとドキドキしながら、先生に尋ねます。私のため、という言葉に胸が高鳴ります。 「はい。この装備、その名は『怪しい触手EX』!」 私の胸の高鳴りを返してください。 先生の手の中には、うねうねと怪しくうねる物体。あれを装備と呼んでいいのでしょうか。装着されてないのにあんなに動いています。おかしいです。 というか、触手って……やらしいイメージしかないじゃないですか! 「それをまさか、私に装備しろと?」 「はい、そうですが」 「慎んでお断り申し上げます」 いくら先生の頼みとはいえ、あんな怪しさ満載っぽい装備を着けるなんて、無理です。あ、名前に既に怪しいってついてました。 すると、先生は私の手を取り、真摯な表情をしました。 「この装備は、美咲さんの戦闘データや行動パターン等を参照して、美咲さんの動きにこと細やかに対応します。ですから、逆にいえば美咲さんにしかフィットしない、美咲さん専用装備なのです。扱いは少々難しいかも知れませんが、美咲さんなら使いこなせると信じていますよ……」 「先生……」 で、結局装備してしまう私を、誰が責められましょうか。だって、『信じていますよ』なんて囁かれるように言われたら、是も非もないじゃないですか。それとも、私が軽い女なだけなのですか? まあ、装備するだけなら、まだいいと言えましょう。ですが状況はさらに悪いです。先生に言われるまま流されるまま、気が付けば行き付けの神姫センター。先生はこの神姫センターではかなりの有名人なので、自然と視線が集まります。 「おいみろよあのフブキ。触手リアルwwwキモwww」「さすが先生wwwやる事パネェwww」「うわぁ、動いてる……」「触手フブキハァハァ……」「あの触手でセルフ触手プレイですねわかります」 ……先生、帰りましょう。 「さて、対戦相手を探しましょう」 「やるんですか! この装備で!」 「もちろんです。でなければわざわざ神姫センターに足を運ぶこともありませんよ、美咲さん」 確かに、新装備といえばイコールで対戦というのが今までの流れでしたが、まさかこんな武装とはとても呼びたくないイロモノな代物でもバトルすることになるとは思いませんでした。 「触手ですと!? そう聞いては黙っていられませんですね!」 シュバッ! と、私たちのいる待ち合い席に神姫が一体やってきました。その子はマリーセレスタイプです。 「この地区一の触手使い、マリーセレスのステルヴィアがお相手致すですの!」 ババーン、といった感じで、ステルヴィアさんは高らかに宣言します。その腰には、恐らくカスタム品と思われる、通常のマリーセレスタイプのよりも長い触手がうねうねしてます。正直怖いです。 「というわけで、お相手お願いします先生。あ、僕はカシワギ・ケイゴと申します。どうも初めまして」 「おや、これはこれはどうもご丁寧に」 先生とケイゴさん(ぽっちゃり系)が固く握手をし、私たちはポットへ運び込まれていきます。 「では、いつもの如く、試合開始直前になってからの装備説明をさせていただきます」 「もう少し事前に、できれば自宅にいる時点でしていただきたいです」 しれっと言い放つ先生に、私もしれっと返します。ですが無視された模様。 「今回の装備であるこの『怪しい触手EX』ですが、なんと美咲さんの意志にあわせて動いてくれるという、画期的な装備なのです」 「……画期的? 意志に合わせて動くというなら、プチマスィーンズもそうなのではないでしょうか」 私が言うと、先生は指を左右に振ります。 「いいえ、あれらとは一線を画します。美咲さんの意識、無意識、思考パターン、防衛本能等々、とにかく美咲さんの脳内を忠実に反映致します」 「え゛」 はっ、と振り返ると、ホウキを持って掃き掃除する触手、雑巾で拭き掃除をする触手、神姫センターの出口に向おうとする触手、先生にハートを飛ばす触手等、確かに私の頭の中をトレースしている。 「犬の尻尾の触手バージョンですね」 「タチが悪すぎます! 私の思考がダダ漏れじゃないですか!」 先生にハートを飛ばす触手を恥ずかしさから必死に絞り上げますが、一向に堪える様子がありません。く、所詮パーツと言うわけですか。 「でもそれなら、私じゃなくても操作可能じゃないですか?」 ハートを飛ばす触手を玉結びにしますが、自動的にシュルシュル解けていきます。忌々しい! 「いえいえ。普通の神姫であれば、自分の意識、無意識を制御できずに暴走してしまいますよ。この装備は、自我を、アイデンティティーというものを確率した神姫でなければ制御できません」 「……つまり、どういうことですか?」 先生の言ってることはいまいち要領を得ません。自我やアイデンティティーなら、私だけでなく、どんな神姫も持っているはずです。 「では、簡単に一つ聞きましょう。“あなたは何ですか?”」 先生の質問に、思わず小首を傾げてしまいます。私に追随して二本の触手もくいっと曲がります。 「それは……難しい質問ですね」 自分が何なのか。どの観点から答えればよいのか。武装神姫の中での何かであるなら、私はフブキタイプであると答えられます。私単体としての何なのかであるなら、主である先生の神姫、美咲と名乗れます。ですが、そういう限定的な条件無しの、そう、この世界に存在する存在としての何なのか、と問われているとしたら……私は、どう答えればよいのか。 ……自分でも何を言ってるのか、わからなくなってきました。 「まあ、そういう事なのです」 先生のお言葉に、意識が現実に引き戻されます。と同時に、触手も再び活動を始めました。触手達もどうやら私と一緒に深い思考に陥っていたらしく、一切の動きを停止していたようです。 「……やはり、わかりません。どういうことですか?」 「ま、小難しい話は後にしましょう。今はレッツバトルです!」 誤魔化すように先生は笑い、私をポットに収めます。 「フッフッフ、いよいよ来ましたですの。私とあなた、どちらがより優れた触手使いであるか、今ここで決着をつけるですの」 「いや、私は別に優れてなくていいです」 ステルヴィアさんの言葉に即否定の返事を返します。 「フフフ、とても謙虚なのですの。ですが、私には見えますの。あなたの中に眠る、触手への限りなき欲求が、潤うことのない渇望が!」 「どこにそんなものが見えてるんですか……」 私の触手も……いえ、私のなんかでは決してないですが仕方なく装備している触手も、私に同調してうんざり気味に左右に揺れました。 危ない……危うく触手を自分のものとして認めてしまうところでした……。 「ウフフ……わかっていますの。あなたも早く戦いたいのですね。長々と失礼いたしましたですの」 「何も分かってないじゃないですか!」 「まいりますの!」 こちらの意志や発言を完全無視して、ステルヴィアさんは動き始めた。通常より長い触手パーツはどうやら足の役目もあるらしく。物凄い複雑な動きで素早い移動をこなします。よく絡みませんね。そこはやはり、地区一という実績の裏付けなのでしょう。 「って呑気にしてる場合じゃない!」 私は取り敢えず、手近な障害物に身を隠します。地区一の使い手相手に真正面から挑むほど、私は自信家ではありません。 あ、失礼いたしました。今バトルしているフィールドは、遺跡〔砂漠〕です。砂漠の中に、朽ちた遺跡が建っているだけのフィールドです。 「隠れても、無駄ですの!」 ステルヴィアさんは物凄い早さで平行移動。すぐに障害物の裏に周り込んできました。が、予測済みです。私の触手が、ステルヴィアさんの足下から迫ります。 ……ハッ、私の“仕方なく嫌々装備している腰パーツにくっついている触手”が、です。決して、決っっっして私のではありません! 「フフ、無駄ですの」 なんと、下から迫る触手が、ステルヴィアさんの触手に踏みつけられて阻止されました。このままでは釘付けにされてしまうのは確実なので、すぐさま踏まれた触手を本体から分離し、迫るステルヴィアさんから距離をとります。 「逃がしませんですの!」 シュルシュル、と、こちらの触手とは違う、機械的シルエットの触手が全て伸びてきます。私も対抗して触手を伸ばし、絡め取ります。奇しくも、触手対触手の真っ向勝負となりました。 「く、や、やりますの……」 「あのー、なんだか凄い接戦に見える最中に申し訳ないんですが……」 「な、なんですの!」 全ての触手を伸ばしきり、凄い形相で力勝負をしているステルヴィアさんに一言。 「私、まだ触手余ってます」 シュルシュル、と、ステルヴィアさんの触手を絡めている触手とは別の触手をステルヴィアさんに見せます。あ、青ざめた。 「な、なんてことですの! 数の差で勝負が決してしまうなんて……やはり、戦争は数だったですの……」 というわけで、全ての触手を絡め取られて抵抗できないステルヴィアさんを、私の触手で絡め取ります。 ……否! 私が“仕方なく嫌々装備している腰パーツにくっついている触手”が、です! 決して、断じて、私自身の触手ではありませんし、私が望んで装備した触手でもありません! 「くっ……ですの」 「勝負は決しました。大人しく降伏してください」 「……何をおっしゃるですの? なぜ、私が降伏しなければならないですの?」 「へ?」 な、何なんですかこのステルヴィアさんの余裕発言。まさか、まだ隠しダマが!? ゆ、油断できない相手です! 「触手勝負に置いての敗北とは、相手の触手によって高ぶらされてオーガズムに達した瞬間と、古より伝えられているですの」 「……は?」 ……言ってる意味を理解できない。いや、個人的意志で理解したくないです。 なんか、筐体を囲む人々から「触手・プレイ! 触手・プレイ!」なんてコールすら聞こえてきます。ケイゴさんに至っては、高性能そうなカメラを構えて鼻息を荒げています。 ……先生! 助け船を是非! 「美咲さん、あなたの超絶テクの見せ所です! さあ、皆さんのご期待に沿えてみせましょうぞ!」 先生!? 「さ、さぁ、はやく、めくるめく快楽と官能の世界へ、私を連れていってですの!」 ステルヴィアさんもなんでそんな艶っぽい表情と潤んだ瞳でこっちを見てるんですか!? ……な、なんなんですかこの異様な雰囲気は。まるで常識的な私が非常識のような、イレギュラーのような、そんな雰囲気は。もしかして、周りの皆さんのほうが正常で、私が異端なのでしょうか。 ……そうですか、私が異端なのですか。ならば、正常化を計らなければ……ふ、ふふ……あはは。アハハハ。アハハハハハハ! アハハハノ\ノ\ノ\ノ\!! 「あ、そんな、いきなり激しっ! だめ、そんなとこ、深い、深いですのぉぉぉ♪」 私が次に正常に戻ったときには、身体中をあらゆる液体やグリスで濡らしたステルヴィアさんと、勝者を告げるジャッジが私の名を宣告していました。ギャラリーの興奮も最高潮のようです。私が正気を失っている間になにが起きたのか……考えたくもありません。 まあ、前後の記憶と状況からナニがあったというのは想像できますが……。 「お見事です、美咲さん。あなたの触手使い、実に見事でした」 「こんなにも誉め言葉が嬉しくないという状況も珍しいですね」 ああ、もう嫌だこんなの……。 ポットから出て開口一番、先生は私をお褒めくださいましたが、ちぃっとも嬉しくありませんでした。何故でしょう。触手の所為です。 「……参りましたですの。今回は私の完敗ですの」 私たちのいるブースに、ステルヴィアさん達がやってきました。ステルヴィアさんは触手を器用に使い、私の目の前に降り立ち、ひしっと私の手を握ってきました。 「美咲さん……あなたこそ、この地区一の触手使いに相応しいですの! 私が認めるですの!」 「いや、いりませんそんなお墨付き」 迷惑極まりありません。 「そうですの……なら、仕方ありません」 そう言って、ステルヴィアさんは私から離れます。どうやら、やっと私の気持ちに気付いてくれたようです。 「地区一では足りないと言うわけですのね! では、そう、あなたは今日から触手使いの中の触手使い、『触手マイスター』を名乗るといいですの! それだけの実力を、あなたは私に示したですの!」 ……訂正、気付いていませんでした。 「いりません!」 「まあまあ美咲さん、せっかくくれると言うのですよ。貰っておきましょう」 「断じていりません!」 「タダですよタダ」 「いくらタダでも、後から高くつくようなものはいりませんから!」 そして先生、なぜそんな二つ名をプッシュするんですか! イヤですよ触手マイスターなんて! 『触手マイスター』美咲。イヤすぎます!! なんか、私の名前まで卑猥に見えてくるじゃないですか! 「触手マイスター殿、気に入っていただけたようですの」 「まったく真逆の感情をこれでもかと表に出しているのに、なぜそんな答えがでたんですか!?」 「いいではありませんか、『触手マイスター』美咲さん」 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」 結局、私の自害寸前の説得(「触手マイスターと呼ばれるくらいなら死にます」「すみませんでした美咲さん! ですからその刃をお納めください!」なやり取り)によって、何とか変な二つ名は付きませんでしたが、ステルヴィアさんからは「触手マイスター殿」と呼ばれるようになってしまいました。 あ、触手ならその場で焼却処分いたしました。 「ところで先生、結局、バトル前に言っていた、神姫の自我とは何なのですか?」 「ん、ああ、そういえばそんな話をしてましたね」 忘れていたようです。今は帰宅途中の車内。助手席から先生を見上げます。 「バトル前、美咲さんに問いかけましたよね。「あなたは何か」と」 「はい」 私は結局、その問いには答えられなかった。今も、だ。 「私はですね、思うんですよ。その問いに答えられなくなった神姫こそが、自己を確率し、人のような自我を、アイデンティティーを手に入れた神姫ではないか、とね」 やはり、先生のおっしゃることはよくわかりません。自分が何かがわからない状態が、なぜ個人として成り立つのでしょうか。 「神姫は人によって製造され、この世に誕生します。それによって、神姫は一定の知性を最初から備えているのです」 「はい」 なんだか違う話を始めたような気がしますが、聞きに徹します。 「であるからにして、目覚めたばかりの神姫に「あなたは何か」と聞いても「武装神姫である」としか返りません」 確かにそうです。自分が何か、と聞かれたら、デフォルトの記憶の中から、自分が武装神姫であるというデータを引き出し、相手に答えます。それが、普通の神姫です。 「ですが今日、美咲さんに同じ質問をしたら、「難しい」と答えました」 「はい、確かに」 そう、普通なら武装神姫ですと答えればよいものを、私は迷いました。確かに武装神姫ではありますが、それだけではありません。先生の神姫であるし、美咲という、私だけの名もあります。ですから、何か、と聞かれても、それがどの答えを求めての問いなのか、わかりません。 また逆も然り。私が何か。それに対しても明確な答えが出せません。武装神姫というのも、先生の神姫であるということも、美咲という名前も、すべて後付けのような気がします。自分というものは何なのか。考えれば考えるほど輪郭がぼやけていき、やがては、自分は本当に武装神姫なのか、という、馬鹿げた考えに至ります。それはつまり、確固たる“個”を無くしているということではないでしょうか。 「……やはり私にはわかりません。なぜ答えられないのが、アイデンティティーの確立なのですか?」 「武装神姫が、自分は武装神姫の何タイプであると言うのは、確かに全と個を分けた考え方でしょう。しかし、明確に個を答えられるのは、それが“個”であると教え込まれているからです。そして、その“個”は“全”に所属する全ての個体に教え込まれています。 “全”に与えられた“個”……これは結局、“全”ではないでしょうか」 ……。やはり、先生のお言葉は、矮小な私では理解できません。 「完全なる“個”、すなわち自我、アイデンティティーとは、“全”から教えられたものではなく、それに対して何らかの懐疑的な思考を行う事、あるいはその過程ではないかと私は思います」 ですが、先生の言わんとしていることはなんとなくですが、わかります。 「つまり、全と個をはっきり隔てることがアイデンティティーではなく、全と個を隔てようと思考する事がアイデンティティーだ、ということですか」 「……さぁ?」 盛大にずっこけました。さぁって……。 「あくまで私の考えがそうである、という話です。もしかすると、起動したての神姫のように、自信をもって自分を語れる者こそがアイデンティティーを持っているのかもしれない。いや、そもそも、アイデンティティーというもの自体……」 途端にブツブツと、私にすら聞き取れない程度の言葉で呟き始める。あれは多分そう、思考のスパイラル。自己を考えた私と同じく、自身の思考をさらに思考し、それすらも思考する。永遠に終わりのない思考の連鎖。今、先生はそこにいる。 「先生っ!」 「……あ、おお、すみません。少し考え事を……いや、あー……」 そう呟いた次の瞬間、先生は伸びをして首を鳴らしました。 「いやー、考えても答えなんて出ませんね。そんな非効率的で時間の浪費以外の何者でもない行為、やめてしまいましょう!」 ニコ、と私に向き笑いかけてくれる。ですが今、私たちはそれどころではないと先生は気付いているのでしょうか。 「それもよろしいですが前、前ぇぇぇぇ!」 「ん? うをぉぉぉ!?」 先生の車は、華麗なドリフトターンを決め、無事ガードレールとの接触を避けました。 今度から運転中には話し掛けないよう、心掛けます……。
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怒れドモン! 恐怖のバトルロワイアル ◆/eRp96XsK. ここは【B-4】のほぼ中央に位置する巨大な図書館。 どこぞの蔵書狂ならば思わずふらふらと入って行ってしまいそうな、そんな建物の中にその男はいた。 しかし彼はわざわざ本を読む為に図書館へ通うような勤勉な人間ではない。 仮に本人がそうだと言っても、赤いハチマキを頭に巻きつけ、同じ色のボロボロのマントを纏ったその姿では信用されないだろう。 彼は、かつて数多の強豪を打ち倒し第十三回ガンダムファイトで優勝したガンダムファイターにして、 人類の歴史を裏から支え続けた武道家集団シャッフル同盟の長、『キング・オブ・ハート』ドモン・カッシュその人である。 「……信じられん」 薄明るい非常灯のみが光源となっている図書館の中でドモンはそう呟いた。 確かにまともな精神状態では自分の置かれている状況が事実である等とは思えないだろう。 しかし、ドモンはそのような意図からその呟きを放ったのではない。 「あの男の変身、この場へのワープ……どれも現在の技術では実現不可能なものばかりの筈だ」 そう、ドモンが信じられぬと呟いた対象はあの部屋で見せ付けられた数々の超現象だ。 何の変哲もない男がクリスタルを掲げ、光に包まれたと思えば全身に鎧を纏ったかのような異形と化し、 圧倒的な破壊力を持つのであろう破壊光線を撃ち放った。それだけでも十分に驚愕に値する事だが、 あの螺旋王と名乗った初老の男はそれを防ぎ、更にドモンを初めとする複数の人間をこの殺し合いの会場までワープさせてみせた。 最早魔法と言っても差し支えの無いほどに高い技術レベルを誇る未来世紀の世ですら、そのような技術は開発されていない。 (……だが) そう、だがひょっとすれば世界の誰も知らない闇の中で、そのような技術を開発した者が居るのかもしれない。 事実、ネオジャパンで彼の父が開発していたアルティメットガンダムもまた、とても信じられぬ超技術の塊だったのだ。 では、もしあの男や螺旋王が秘密裏にそのような技術の開発に成功した人間、或いは組織のメンバーだと考えるなら……。 「……だとするなら、捨て置けん。あのような超技術を操り、 そしてそれを殺し合いのゲームなどという下らんものに使う悪党を野放しにする事は出来ん」 例えそうでなくとも、複数の人間を拉致監禁し、挙句殺し合え等と言う悪党を見逃すつもりは無い。 となれば一刻も早くこの地を抜け出し、螺旋王を打ち倒さなければならない。 そう結論を出し、ひとまずこの図書館から出て行こうとドモンが足を動かした、正にその時。 ドモンの後方の本棚が――正確にはその中の本が――崩れてきた。 「……ッ!」 咄嗟にドモンはそちらを振り返り、身構える。 ……が、次の瞬間ドモンが見たものは本の山の上で寝転がり、「うにゃ~?」等と声を上げる子供の姿であった。 「……?? ここは何処でしょ~?」 その子供がキョロキョロと周囲を見渡しながらそう言い放つ。 しかし、視線の定まらないこの子供の様子を見る限り、それはどうやら目の前のドモンに問いかけているのではなく、 独り言のようなものらしい。その様子に多少呆れながら、ドモンは子供の質問に答えてやる。 「……ここは見ての通り図書館だ。それよりもお前、名は何というんだ?」 「んにゃ? エドはエドだよー」 エドと名乗ったこの子供、ボサボサの髪は赤茶色で、肌は浅黒い。歳は精精十代の前半だろう。 着ている服はよれよれの白いTシャツ一枚と、黒いスパッツのみ。何とも貧相な格好である。 「ふむ、エド……か。しかしお前、何故またこんな所から出てきたんだ?」 御尤もな疑問である。状況から考えるに、エドはあの本棚の中から本を押しのけて飛び出てきたことになる。 仮にそうだとするなら、一体どうやって本棚の中の本を片付けることなく本棚の中に入り込んだのか。 「えぇー…………エドはビバップ号でアインと一緒に寝てたんだけど、起きたらこんなトコに居ましたー」 上に伸ばした右手をぷらぷらさせながら答えるエド。うん、元気でよろしい。 アインやビバップ号というのが何なのかは分からないが、おそらくエドは今の今まで眠り続けていた、という事なのだろう。 つまりあの空間から居眠りしたままの状態でワープさせられ、いきなり本棚の中にすっ飛ばされたというワケだ。 それだけ聞くと、何とも間抜けな話である。しかし、その話を聞いてドモンは沸々と怒りをたぎらせていた。 「エド、ひとつ聞きたい……お前は自分が今、どのような状況に陥ってるか分かっているか?」 「ん? ん~~~~」 首を捻り唸るエドだが、やがて返ってくる答えは「分かんにゃ~い」というもの。 そのエドの答えによって、ドモンの怒りは密かに沸点を超えた。無論、怒りの矛先は眼前の子供へ向いてはいない。 その矛先が向かうのはこのゲームを仕組み、このような何も分からぬ子供までもを巻き込んだ螺旋王、そして……自分自身だ。 (螺旋王とやらがこの世のものとは思えない超技術を持っている……? だからどうしたというんだ! そんな事はどうでもいい! 今確かにある現実は、目の前のエドのように多くの人々がこのゲームに巻き込まれているという事! だというのに俺は奴らの技術に驚き呑まれ、このような場所で時間を空費していた! 今、この時にも無残に殺される罪無き者や、恐怖のあまり外道に堕ちてしまう者が居るかもしれないというのに!!) だとするならば、今自分が成すべき事は何か? ……考えるまでも無い。 (この殺し合いのゲームの中、自衛の為に武器を取る者はいても、望んで殺し合いをするような者はそう居ない筈だ……。 ならば、そのような者達が道を踏み外させないためにも、弱者を保護し、守り抜かねばならん……! シャッフル同盟のキング・オブ・ハートとして!!) ちなみにドモンが一人黙考していた際、エドは「ところでお名前なーんでーすか~」と聞いてみても返事が無かったので、 周囲を見渡したり、本を摘み上げたり、上半身をぐにゃぐにゃさせる妙な踊りを踊ったりして暇をつぶしていた。 ……が、突然ドモンに首根っこを引っ掴まれ、そのまま担ぎ上げられた事により、その踊りは中断させられる。 「にゃ?」 「兎も角、善は急げだ……エド! 俺の名はドモン・カッシュ! ネオジャパンのガンダムファイターだ!! 今、お前が……いや、俺たちがどのような状況に巻き込まれているかはこれからの道中で説明する! 少々揺れるかもしれんが我慢しろよっ!」 そう叫ぶや否や、ドモンはエドを担いだまま、疾風の如き速さで走り出す。 ほんの数秒で図書館の外へと飛び出し、そのまま道沿いに走り続ける。 「うひゃおぉおぉぉぉぉぉぉぉぉ~~っ!」 「待っていろ螺旋王……! 俺は必ずやこの殺し合いを阻止し、貴様を倒す! キング・オブ・ハートの名にかけてぇっ!!」 『さて皆さん、皆さんはバトルロワイアルというものをご存知でしょうか。 バトルロワイアル。それは即ち、殺し合い、殺し合い、最後の一人となるまで殺し合い抜く、恐怖のゲームです。 そしてそんな殺し合いの場へと我々もよく知る一人の青年が召喚されます――そう、「キング・オブ・ハート」ドモン・カッシュ! 果たしてドモンは、この恐怖のゲームの中、どのような人々と出会い、心を通わせ、拳を重ね合わせるのでしょうか!? そして…………自らのよく知る二人の漢、 今は亡き人となった筈の二人の漢の存在を知った時、ドモンは一体どうするというのでしょうか!? さぁ、それではいよいよ始まります!! ガンダムファイト特別編! アニメキャラ・バトルロワイアル2nd!! レディィィーッ! ゴォーーッ!!』 【C-4/図書館付近/1日目/深夜】 【ドモン・カッシュ@機動武闘伝Gガンダム】 [状態]:健康、疾走中 [装備]:支給品一式(ランダム支給品は後続の書き手さんにお任せ) [道具]:なし [思考] 基本:他の参加者と共にバトルロワイアルを阻止し、螺旋王をヒートエンド 1:他の参加者を探しつつ、エドに現状を説明する。 2:弱者や、望まずゲームに乗っている人間を(場合によっては拳で)説き伏せ、保護する。 3:喜んで自らゲームに乗るような者は容赦なく鉄拳制裁。 ※本編終了後からの参戦。 ※参加者名簿に目を通していません。 【エドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世@カウボーイビバップ】 [状態]:健康、ドモンに担がれている [装備]:支給品一式(ランダム支給品は後続の書き手さんにお任せ) [道具]:なし [思考] 1:ドモンの疾走のスピードに大喜び中。 ※OP中爆睡していたため、自分の置かれた状況を把握していません。 時系列順で読む Back せめて歩ませよ我が外道の道を Next 最凶で最低で最悪の災厄 投下順で読む Back 番外バトルってレベルじゃねーぞ!! Next 最凶で最低で最悪の災厄 ドモン・カッシュ 054 転換 エドワード・ウォン・ハウ・ペペル・チブルスキー4世 054 転換
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「うるさい!! 泥だ、正義だ、なんだのと、私の上でごちゃごちゃ騒ぐな!」 ガッシ! ボカッ! ロイドは死んだ。 君と響きあうRPG(笑) 「僻地だ秘境だのと……挙げ句の果てに群馬だからってズガンし放題! いくら私でももう我慢できない! こんなバトルロワイアル、終わらせてやる!」 とうとう群馬がキレた。 【一日目・4時00分/熊岡県】 【群馬県@テラカオスバトルロワイアル】 【状態】健康、擬人化 【装備】なし 【道具】基本支給品 【思考】基本:テラカオスバトルロワイアルを終わらせる。 1:群馬を馬鹿にする奴は許さない、絶対にだ! ※群馬県の擬人化に伴い群馬県は地図上から消えました。 地図上では群馬県跡地は熊岡県になっています。 【ロイド・アーヴィング@TOS 死亡】
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入手条件 性格 声優 機体解説 性能プラス補正アビリティ マイナス補正アビリティ ライドレシオMAX時の上昇能力 イベント EXカラー 入手条件 ゲーム開始時に強制購入。 性格 真面目な優等生といった感じの性格。 誰にでも丁寧に接するため人当たりは良く、そこらの人間よりもずっとコミュ力が高い。が、冗談が通じない。 何事もそつなくこなすが、微妙にドジな面があるのはお約束。 バトルへの参加も積極的で、現状に満足することなく、あくなき向上心を見せる。 神姫ショップの店員のお勧め神姫であり、曰く「嫁さんにするのにお勧めな神姫」。 声優 阿澄佳奈 機体解説 名称:天使型MMS アーンヴァルMk.2 メーカー 素体:FRONT LINE 武装: FRONT LINE 型番:FL016 FRONT LINE社のベストセラー機種アーンヴァル系列の最新モデル。 初期モデルのアーンヴァルは、改修、追加パーツによるアップデートが限界を迎えていたため、 素体を3rd規格で新造し、武装の機能を統合パッケージ化したもの。 初期モデルが戦闘スタイルによって選択していた単能武装を、個々のパーツに複数の機能を持たせることにより、 一体の神姫が無理なく使えるサイズにまで小型化している。 スペック的には、これまで苦手としていたクロスレンジ戦闘能力が特に強化されマルチロール化した反面、 単純な直線加速力、最高速度などは初期モデルに劣る。 また、アーマーパーツは組み合わせて支援機「ラファール」として運用可能であり、幅広い戦術を選択することが可能となっている。 基本AI設定は初期モデルを踏襲した素直なものとなっており、初心者オーナーでも扱いやすい神姫と言える。 性能 能力値 LP SP ATK DEF DEX SPD BST 補正 B S B B A A B プラス補正アビリティ スピード+1,DEX+1,SP+1 マイナス補正アビリティ ライドレシオMAX時の上昇能力 防御力,武器エネルギー回復速度,スピード イベント +ネタバレ 発生条件 イベント名 備考 初試合後 友達登場 Love3 試合後 どうでしたか? ショップに連れてって Love7 試合後 『目』がわりの神姫 Love9 自宅 お役に立ちたくて Love12 自宅 謎の行動 Love14 ゲーセン・バトル勝利後 気になる情報 『気になる情報』発生後 ショップ バグの存在 上の選択肢を選ぶと、選択やり直し Love16 ゲーセン・バトル勝利後 絶好調です Love18 ゲーセン・バトル勝利後 大丈夫です Love20 ゲーセン・バトル勝利後 彼女の決意 上のイベント後、ゲーセン・バトル勝利後 誓い 上のイベント後、ゲーセン・バトル勝利後 これから、ずっと EXカラー A.金髪(デフォルト) +ネタバレ B.クリーム色(バトルロンドの旧白子) C.紫髪(アルテミス)
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愛と情熱のタッグバトル 後編 数分後、凛花達は地上に下りてヤクト達の様子を見ることにした。しかしその周りには誰の姿もなかった。 「おかしいな、どこにいるんだろう」 「どうやらあの二人、どこかに隠れたみたいですわね」 おそらくさっき使ったあのシートを利用して隠れたのだろう。凛花達はセンサーを駆使してヤクト達を探した。 「なかなか見つからないけど」 「もう少し移動しながら探しましょう。必ずどこかに隠れているはずだから」 凛花が場所を移動しようとした瞬間、すぐ側の砂が盛り上がった。 「これは!」 「凛花姉、危ない!!」 とっさに避ける凛花。しかし飛ぶ瞬間、足元から何者の手が彼女の脚を握った。 「しまった!」 砂から現れたのは巨大なロボットだった。そのロボットが凛花を捕まえたのだ。 「このロボットは一体?」 驚いている來華に、どこからかヤクトの声が聞こえ、その質問に答えた。 「こいつは真鬼王・不動、おいら達の守護神さ」 そして別な場所から軽装備のヤクトが現れた。 「し、真鬼王!?それにしては形が違うような・・」 來華は真鬼王・不動をよく見てみてみた。確かに真鬼王そのものだが、どこか違う事に気付いた。 「神姫が、神姫がコアになってない!!」 普通なら真鬼王は神姫をコアにしないと合体できないはずである。この真鬼王はそのコア無しで動いているのだ。 「そう、そうなんですよ~。不動さんは単独で動けるようにプログラムを変更して、パーツを再構成しました~。ですので、自立して行動する事ができるのです」 不動の後ろからカウベルがひょっこり姿を現して説明した。 「でも、後ろに乗ってるじゃん」 「うるさいな!細かい事はどうでもいいんだよ!!」 來華の言い分にヤクトは怒り出した。 「とりあえず不動、手に持ってる花子をぶん投げてやれ」 ヤクトの命令を受けて、不動は手に持っている凛花をぶんぶん振り回して遠くに投げた。 「ああっ、凛花姉!一体どういうつもり…」 その瞬間、來華の体が宙を舞い、地面にひれ伏した。 「い、いつの間に…」 「油断したな、お前の相手はおいらさ!覚悟するんだな!!」 ヤクトは両腕のクローを出して來華に攻撃を仕掛けてきた。 (まさか凛花姉と引き離される事になるなんて…大丈夫なんだろうか、凛花姉は) ヤクトの攻撃ラッシュに防戦一方の來華は、こんなときでも凛花のことを心配していた。 一方、飛ばされた凛花は何とか岩肌に直撃を避け、体勢を立て直していた。 「私としたことがあんなことで飛ばされるなんて…」 凛花はセンサーで敵の様子を窺った。しかしセンサーに反応はない。 「おかしいですわね、センサーに反応しないなんて…」 だがそこへ真鬼王・不動が近づいてきて、凛花に攻撃を仕掛けてきた。 「うかつだったわ、あんなところから現れるなんて…」 どうやら不動にはステルス機能があるようだ。そのため、凛花の行動タイミングが一瞬遅れたのだ。 (このままではこちらがやられてしまう。早く何とかしないと…) 凛花が何とか行動を起こそうとしたとき、賢市から連絡がはいった。 『大丈夫か、凛花』 「ええ、大丈夫です」 『あの真鬼王というロボットはオリジナルじゃない事は分かってるな。お前は何とかして攻撃をかわして來華と合流するんだ』 「でも、こんな状態ではうかつに動く事などできません」 さすがの凛花も不動の激しい攻撃にはなす術がなかった。しかし賢市はそんな凛花に命令をした。 『あのロボットを倒すには來華との連係プレイが必要だ。力を合わせないとこちらに勝ち目はない』 「…分かりました、要は來華と合流すればよい事ですわね」 『ああ、頼んだぞ』 凛花は周りを見渡すと、高速で空中を移動し始めた。 「あ~、どこへ行くんですか~。逃がしませんよ。不動さん、あの子を追いかけて!!」 「ウオォォー!!」 後を追いかけるカウベルと不動。それを後ろ目で見た凛花は、薄ら笑みを浮べた。 (これでいいのね、あとは來華と合流すれば…) 凛花は急上昇してカウベル達を引き離した。 その頃來華は軽装のヤクトに苦戦をしていた。 「どうだ、接近戦においらに右に出るものはいねえんだ。観念するんだな」 大降りの剣を持って攻撃を続けるヤクトに、來華は防戦一方だった。 (このままじゃいつかやられる…。早く攻撃に移らないと) ヤクトの大剣が來華に振り下ろされようとしたそのとき、空の上から何者かが降りてきて大剣を絡みとった。 「な…っ、どうやって振りきったんだ?」 驚いているヤクトの目線には、凛花がいた。彼女は大剣を鞭を使って放りあげた。 「わたくしを…甘く見ないことね!!」 そしてヤクトを一蹴し、吹き飛ばした。 「凛花姉!!」 「お礼は後にして。それより、そろそろここに大物がやってきますわ」 凛花が言い終わった直後、どこからかビームが飛んできた。 「あ、アレは…」 「真鬼王・不動!!」 引き離したはずの不動がようやくここへやってきたのだ。 「よくも私たちをこんな目にあわせましたね~、不動~、ミサイル攻撃をお見舞いしてやりなさ~い!!」 カウベルは不動にミサイル発射の命令をした。不動の各部からハッチが開いてミサイルを発射した。 「またミサイル?」 「來華、わたくしと動きをあわせて!ダブルエレメント攻撃をやりますわよ!!」 凛花の指示に従い、來華は共に背中合わせになってポーズをとり始めた。 「一体何のポーズだ?念仏でも唱える気かよ?!」 呆れるヤクトを尻目に、ミサイルは二人を目標にして突っ込んでいく。しかし…!! 「はあぁぁぁっ!!」 次の瞬間、大きな竜巻が起きてミサイルの方向を変えた。 「行きますわよ來華!」 「よし、念心!」 「合体!」 「「GO、スクラム・オン!!!」」 大きな竜巻と化した二人は、そのまま不動目がけて突進していった。 「こんな竜巻、たいしたことねえ!いいから吹き飛ばしてやれ!!」 カウベル&不動に指示を出すヤクト。すかさずカウベルは不動にキャノンを撃つように命令した。 「ターゲット、ロックオン!五行砲、発射!!」 五行砲から放たれたエネルギー弾が凛花・來華目がけて発射された。 「來華、二方向に分離攻撃!」 「OK!」 二手に分かれてエネルギー弾を避けた二人は、不動を両方向から攻撃を仕掛けた。 「「必殺、双龍風雷撃!!」」 凛花の掌打と來華の蹴りが不動のバランスを崩し、そのまま落下させた。 「いや~ん、いいところなしでやられるなんて~」 砂に埋もれた不動は戦闘不能になった。 「…」 それを見て、あっけにとられるヤクト。まさか不動がこんな目に遭うとは思いもしなかっただろう。 技が決まり、無事地上に降り立った二人は、勝利のサムズアップを掲げた。 「やったー、あたしたちの大勝利だ~!!」 「まあ、何とか決まったわね。これであちらも負けを認めざる終えないでしょうね」 しかしその直後、凛花の膝がガクっと落ち、その場にしゃがみこんでしまった。 「だ、大丈夫、凛花姉!?」 心配する來華。それでも凛花は笑顔で彼女に答える。 「さっきの急降下のダメージが今になって出たのかしら…。でも大丈夫よ」 「早い所ステージアウトして診てもらおうよ」 來華は凛花の肩を貸して、ステージアウトの指示をしようとした。 「おいおい、誰か忘れてないか?!」 そのとき、後ろから聞き覚えがある声が聞こえてきた。 「げっ、まだいたの?もういい加減負けを認めたら?」 「まだおいらが残ってるぜ。ここからは1対1で決着をつけようじゃないか」 しぶとく立ち向かってくるヤクトに、來華は嫌気を感じていた。 (いい加減にしてよ、もう勝負はついてるじゃないか) 「おいら達はどちらか一人が残ってる限り、まだ闘えるんだ!さあ、さっさと決着つけようぜ!!」 そのとき、ヤクトの耳元から和多の声が入ってきた。 『ヤクト、今回はお前たちの負けだ。これ以上闘っても無意味だ』 「でも、おいらはまだ闘えるぜ?!」 『動けないお前のパートナーをひどい目にあわせるつもりか?それに今のお前の装備では勝つ事は出来ない。あくまでもこの試合は模擬だという事を忘れるな』 神姫はオーナーに対しての命令は絶対であり、それに従わなければならない。ヤクトの場合は熱くなりやすいため、誰かがブレーキを掛ける役を担わなければならないのだ。 「…わかった、今日のところはお前達の勝ちにしてやるよ。でもな、本当の試合だったら容赦しねえぞ。分かったな!」 悔しそうに負けを認めたヤクトは、降参のサインを出した。 『ギブアップ確認!WINNER、フレグランス!』 その瞬間、凛花と來華の勝利が決定した。そしてバトルステージが消え、來華達は元の場所へ戻っていった。 「いや、すいません。うちの神姫たちがご迷惑をお掛けしまして」 帰り際、和多が賢市に恥ずかしそうに謝ってきた。 「とんでもない、僕たちもいい経験をさせていただきました。お礼を言いたいくらいだしね」 賢市は和多に対して握手を求めた。 「そうですか、ありがとうございます」 お互いに握手を交わした二人は、再戦を誓った。 「今度は公式のリングでお会いしましょう」 「その時は本当のバトルができるといいですね」 再び会える日を約束した二人は手を振りながら別れていった。しかし、和多の肩に乗っているヤクトは不満そうだった。 「いいか、今度会ったら本当の勝負だからな!分かったな!!」 そして振り向きざまに再戦を約束させた。來華はそれを見て、最後の最後までしつこいなあ、と思った。 帰り際、來華と賢市は試合の事を話していた。 「それにしてもあのヤクトという神姫、結構しつこかったなあ」 「人それぞれさ、あんな神姫も世の中にはいるということだよ。でも、凛花をここまで追い詰めるなんて、かなりの実力なんだろうね」 賢市はメンテナンスカプセルに収納されている凛花を見た。今の凛花は高速飛行のダメージが残っており、カプセル内で休息をとらなければいけない状態だった。 「そういえば來華、お前は何ともないのか?お前もかなりダメージを受けてる状態で一緒に双龍風雷撃を放ったはずだが、もしかして頑丈なのかもしれないな」 たしかにあの時、同じ技を放った來華だったが、本人はそれほどダメージを受けている様子はない。來華本人もそれには気付いていなかった。 「た、たぶん、他の神姫より頑丈にできてるんだよ!ほら、ジュビジータイプって防御力が桁外れに高いって言われてるし」 「そうか、僕もまだ勉強しなくちゃいけないみたいだね…」 すんなり納得する賢市。しかし來華本人はそれを気にかけていた。 (それにしてもビックリしたなあ。あたしもこんなに打たれ強いなんて思ってなかったし) そのことで少し悩んだ來華だったが、それは忘れる事にした。 (そんなことどうでもいいや、今はあたしの目標は主人の役に立つこと、それでいいんだから) そう思いながら來華は賢市たちと一緒に愛車に乗り込んだ。そして車はまっすぐ自宅目指して走っていくのだった。 外伝2 おわり もどる
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No. タイトル 登場人物 000 ハムスターランドバトルロワイアルOP ハムスターマウス、長谷川泰三 No. タイトル 登場人物 001 フェンスの外 マイケル・スコフィールド 002 フルメタルジャケット 松田桃太、ブラッドリー・ベリック
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『モア』と飯島千夏は、取り敢えず落ち着く迄修理センターへ搬送される事になった 『クイントス』のマスターである川原正紀氏がその旨を皆に伝える迄、誰も一言も発しなかった 「この大会はおかしい・・・神姫を大事に思うなら参加するべきじゃない」 川原氏の演説に、皆意気消沈した様に顔を伏せた 「納得出来無い」 だが、異を唱える声が一つ 「そうすればあんたは損はしないかも知れねえが、あんたの神姫への挑戦権を得られない俺達はどうすれば良いんだ?うちの『テスタ』はあんたの『クイントス』に憧れて、それと闘う為に辛い特訓を重ねてきたんだがよォ。川原正紀さん?」 「!?」 藤田隆二・・・『テスタ』のマスターだ 「その通りでござるな・・・自分がチャンピオンだからといって少し調子に乗り過ぎではござらぬか?」 等身大のフブキ・・・ではない、『ホークウインド』のマスター、木原忍だ 胸ポケットで全く同じ顔のフブキが頷いている 「・・・君達は・・・今はそれどころではないのが判らないのか!?」 だが、川原氏の言葉は途中で、意外な者に遮られた 「マサキ、彼らの言う通りだ。神姫が嫌がっているならともかく、戦いを望んでいる神姫が居るのなら、その闘う場を奪うのは貴方の普段の主張を捻じ曲げる事になるのではないか?」 サングラスに蒼いスーツの武装神姫が・・・その眼鏡を外す 「正直、私は別にこの闘いで勝った者だけと闘う・・・等と傲慢な事を言うつもりは無いが・・・」 「この『クイントス』に挑む為にこの一連の闘いを経て君達がさらに強くなってくれるなら・・・私はとても嬉しい。私も一人の武装神姫であるからには、より良い闘いを経験したいという欲求があるからだ。ここでのチャンピオンになる事の賞品がそれだというなら、私は喜んでそれを受け取りたい」 あれが・・・ 女王『クイントス』か・・・! 迫力が違う 実力が違う 器が・・・違う! 残りの全てのマスターと神姫の相談が纏まる迄に、そう時間は掛からなかった 第拾参幕 「かすみ」 次は第六試合・・・つまり、私と『ホークウインド』のバトルだった・・・が 「マスター・・・迷いがあるのか?」 問いに、マスターは首を横に振った 「いや・・・仮に俺が止めても、お前は行くつもりなんだろ?華墨」 ・・・確かに、あれだけ悲惨な『モア』の有様を見た後だというのに、私の心の奥底に熱い火が燃えているのが判る 仮にマスターから撤退を進言されたとしても、『オーナー権限』とかでなければ抗ってしまう気がしていた 「じゃぁ・・・何故だ?いつもならバトル前はもっと喋っている気がするのだが・・・?」 「・・・うん、少し、考えていたんだ」 何を?と首だけでジェスチャ 「仮にこの事故が仕組まれた事態だとして、こんな田舎の大会でこんな手の込んだ真似して、一体誰が得するのかな・・・ってな」 言われてみれば、最初から不自然な部分は多々あったが・・・ 「筺体に細工があったとすりゃ、出来るのは店のもんだけだ。でも、これが原因で店に客が来なくなったら意味が無い・・・厳し過ぎるこの対戦方式は方式で、『クイントス』の望んだものじゃ無さそうなのがさっき判った」 「なんか、誰も得してない感じがしないか・・・?」 得体の知れない超能力を発揮する武装神姫達、田舎の大会にしては陰謀めいた気配がする現状・・・だが 「らしくないな、マスター?仮にこれが誰かの陰謀だったとして、それに対する私達のスタンスは決まっているんじゃないのか?」 最近、私は自らの考えに一人で埋没する癖から少しずつ抜け出しつつある・・・が、代わりに今度はマスターか 「仮に誰かの陰謀だったとしても、神ならぬ私達に出来る事は、目の前の事態から順番に解決していく事だけじゃないのか?大局的な見方も良いかもしれないが、それで結局動かないなら、罠に嵌って見る方が色々見えてくるんじゃないのか?」 危険な考え方だと、自分でも理解はしている。が、今は恐怖と疑心暗鬼に縮こまって身動きが取れなくなる方が何倍も怖かった 何よりも、『クイントス』の演説が利いていた 『私も一人の武装神姫であるからには、より良い闘いを経験したいという欲求があるからだ』 それは、今迄漠然としていた目標に、確たる実体が与えられた瞬間でもあった 私は、あの女王に接近したい その為ならば、多少のリスクは、覚悟しなければならない・・・!! 「私は征くぞ、マスター!今私達には、前にしか道は無い!!」 強引だったか・・・だが、マスターは顔を上げて、私を見て笑ってくれた 「闘わねえとは言ってないだろ?ちょっと考え込んでただけさ・・・」 「そろそろ準備して、さっさとあのニンジャと闘おう。今は少しでも多くの闘争を経験したい!」 「あぁ、判ったよ・・・このバトルフリークめ」 マスターはようやく重い腰を上げ、オーナーブースへ向かった 今回の舞台は和風の城郭内部だった・・・忍者型のフブキと、侍型の紅緒が闘う舞台としてはこれ程の良ロケーションもあるまい・・・少し確認したが、その気になれば屋根瓦の上で闘う事も出来そうだ、御丁寧に空に三日月までかかっていた (さて・・・忍者型で素手主体か。流石に『G』の様な馬鹿げた攻撃力は無いだろうから奇襲で来ると思うが・・・?) 『華墨、気を付けろ!今相手の反応がそっちに真っ直ぐ向かってる!!』 何?真っ直ぐ来たか・・・否、きっと忍者だからデコイか何かに違いない。狭い通路では不利かな? そう思っていた私の予想は、真正面から廊下をまっすぐに走って来た『ホークウインド』を見て完全に覆された。ちょっと待て!幾らなんでもまとも過ぎるだろうそれは!? 見れば『ホークウインド』は全くの素体のまま、ナイフはおろか、『G』の様に補助的な甲冑やマントすら身に付けていなかった (正気なのか・・・ッ!?) 反応は完全に遅れた。首めがけて飛び込んで来た鋭い蹴りを、無様に太刀で受け止めて、衝撃を殺し切れずに真後ろに向かって廊下を滑る 「ぐはっ!!」 しこたま壁に背中を打ち付けて、格好良くない声が漏れる・・・こんな所迄人間の真似をしなくて良い!! 対する『ホークウインド』は・・・ラッシュを仕掛けてくると思ったが、まるで体重が無いかの様に私から5スケールメートル程向こうに着地、突っ立ってこちらを見ている 「『貧弱でござるな」』 多分、今こいつオーナーと完全にハモってた 「貧弱・・・だと?」 「新人で、マスターに戦術勘がない割には元気が良くて根性がある武装神姫と聞いていたから楽しみにしていたのでござるが・・・」 『これならホークウインドが素手でやる迄もないでござるな』 「舐めるなよッ・・・このエセ忍者がっ!!」 今回は腰に懸架していたマシンピストルを抜き放ち、フルオートで7発、ホークウインドめがけてぶっ放す ・・・が 「な・・・っ!?」 残像を残して・・・消えた? 『真横だ華墨ィ!!』 「えっ?」 いつの間にか、私の右手に持った銃はホークウインドの手に握られていた 「『残念でござる」』 爆音、必死になって右の肩当で防ぐ、が、がりがりと削られ、瞬く間に装甲としての体を成さないまでになってしまう 「がァあっ!!」 強引に太刀を振るって距離を置くと同時にリボルバー銃を引き抜いてばしばし三発叩き込む 「ふ・・・っ!はぁっ!!」 今度は、はっきり見えた ホークウインドは数歩助走を付けると、ダッシュの勢いのまま軽く跳躍し、そのまま「壁を走って」私の側面に回りこんでいるのだ (こんな動きが・・・出来る物なのか!?) 途轍もない運動能力の賜物だろう・・・運動能力? 時速100キロ近いだろう拳が私を襲う・・・!考えている暇は無い『G』程の威力は無い分この攻撃は的確に死角を縫って迫る 私は・・・右肩の装甲を切り離した 私の肩という「芯」を失って、あっさりへしゃげる装甲、かがみこむのが遅れていたら今のは相当やばかったかもしれない。現に、兜の角飾りが折れ飛んでいた 左隣に・・・窓がある!跳躍だ・・・跳躍しろ!華墨!! 「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 三度、ホークウインドの拳脚が私を襲う・・・大丈夫だ、装甲がある、一撃では、やられない 今度は被っていた筈の兜が弾け飛ぶ・・・だが、もう私の体も頭もそこには無い 「『広い所なら勝てるとでも!?」』 追い、矢の様に飛び出してくるホークウインド。リボルバーの残り3発を叩き込む・・・が、どうやったのか判らないがかわされてしまった様だ 「ハァッ!ハァ、ハァ・・・」 屋根の上によじ登り、兎に角数瞬時間を稼ぐ 『華墨!ヤツのサイドボードが判った。鉤付きのワイヤーを張り巡らして、「正面に飛びながら横に避ける」とかが可能なんだ』 成る程・・・飛行用のごちゃごちゃした装備を使わずに空中機動が可能なのか。とんでもないヤツだ 少し遅れて、ホークウインドが登って来る 「観念したでござるか?」 片手の手刀で首を掻き切るジェスチャーをしながらホークウインドが呟く 「それとも何か策でも?一応言っておくが、障害物を使わないガチの白兵戦でも今のお主に勝ち目は薄いでござるよ?」 「・・・策・・・か」 バーチャルの空を見上げる 無い訳では・・・無いと思う ただこれは果たして「策」と言えるのだろうか? 『クイントス』の演説が思い起こされる (『より良い闘い』・・・か) 「貴女に尋ねたい事が一つある・・・聞いてくれるか?」 「聞くだけなら」 両手を組み、片目を閉じてこちらを見る・・・背に掛かる月が、絵になる立ち姿だった 「何で素手でやろうと思ったんだ?」 「はっ」と、軽くホークウインドは笑った 「決まっているでござる。この『武器』を拙者達は最強だと考えたからでござる・・・それに」 悪戯っぽく微笑む・・・眼鏡とか似合いそうだと、脈絡無く思った 「それに?」 「折角だから誰もやってなさそうな事がしたかったからでもあるでござる」 不覚にも吹き出してしまった 「笑うのでござるか?」 言いつつ彼女も笑っている 「判った・・・私ももう少し自信を持ってみるよ・・・貴女の様な神姫と堂々と渡り合える様に!」 覚悟は、決まった 「貴女のからだと私の剣と、どちらが強いか、試してみよう」 太刀を、上段に構える・・・この構えで一気にトップスピード迄加速して走れるかどうかは未知数だ、が (自信と・・・誇りか・・・) それは『クイントス』にあり、『ホークウインド』にあり、私にまだ、完全な形では無いものだ 全ての鎧を脱ぎ捨て、走る・・・! 獣の様に 風の様に 光の様に 振り下ろした剣閃は、ホークウインドにとって決してかわす事が不可能な攻撃ではなかっただろう 私の、ある種異常なダッシュ力は、彼女の様な上位ランカーにはもう知る所だろうからだ だが、私は確信していた 彼女なら、必ず私のこの攻撃をその腕で受けに来るだろう事を 侍の精神を持つ忍者型神姫と、忍者の身体能力を持つ侍型神姫 この闘いは 後の私にとって とても重要な闘いになるだろう 惜しむらくは その闘いの結末を、私の本当の実力ではなく ホークウインドの誇りを悪用した 私の薄汚い奸知で告げてしまう事だった 月夜を貫く、硬質な打撃音 案の定、私の唐竹割りは彼女の鋼鉄の腕に防がれ 私はその腕と太刀の接触点を支点に、 月夜に向かって跳躍していた 「マスタァァァァァァァァ!!!」 私の手の中にあった太刀が分解され、消える 殆ど同時に、私の指は引き金を引く動作をこなしていた 爆音は一度だけ、つくりものの月夜に大きく響いた 「ひどい事をして・・・済まなかった・・・今の私では、こうするしか貴女に勝つ方法が、無かった」 月夜の元、私の膝の上で額から擬似血液を流すホークウインドに話しかける 涙を流せるなら、流していただろう・・・否、案外気付いていないだけで、流していたかも知れない 「ふ・・・良いでござるよ・・・あんな見え透いた挑発に乗った拙者の不覚でござる・・・」 それでも微笑むホークウインド、既に、足元から少しずつ、白化して消え始めている 「でも・・・っ!私は貴女の誇りを悪用してッ・・・!!」 「強く・・・なるでござる・・・そうしたら・・・許してあげるで・・・ござるよ」 もう殆ど胸まで消えて、残った片腕で私の顔を撫でる・・・微笑みが・・・堪らなく綺麗だった 「ああ・・・!貴女の魂は受け取った!!私はきっとなってみせる・・・こんな真似しなくても、きちんと真正面から貴女みたいなひとと闘える戦士に!!」 消えゆく彼女の手を握り、私は月夜に吼えた 「見返してみるとおっそろしくクサい光景でござるな」 「なんかのバトル漫画みたいでござるな」 「単にバーチャルで倒しただけだってのに。大げさな奴だなお前・・・そんなキャラだったっけ?」 勝利のコールの後、アクセスポッドから黄昏た表情で出て来た私を迎えたのは、三者三様の凹ましい台詞だった あぁ馬鹿だったさ!でもあの瞬間は何か空気に呑まれてやっちゃったんだよ!あーゆー事を!! その空気を作り出してしまった原因の殆どがまた私にある事実に結局激しい羞恥心を覚える訳だが・・・ 「まぁいいや。見てた連中も外でコールしてるからよ。出て行ってやれよな。『感動的なバトルの立役者さん』?」 意地の悪い笑みを浮かべるマスターの顔はしかし・・・優しかった。何も言わなくても、私の意図を判ってくれた人の、顔だった 「くそっ!!もうどうにでもなれぇぇい!!」 思い切ってこの時ブースから出た私は、やっぱり勇者だったと思う その闘いの勝利の美酒は、恥じらいと照れと、少しの罪悪感で、なかなか本当の味を味わう事は出来なかった でも、何かまた一つ、大事な物を得たのは確かな様だった 剣は紅い花の誇り 前へ 次へ
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16人のバトルロワイアルー因縁の再会ー
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私、ニビルは無事だった あれだけ悲劇風味の展開を重ねておいてそれかい!とか突っ込まないで欲しい 認めたくない事だが、結局機械の体である以上、破損した箇所は取り替えてしまえば良いのもまた事実だった 特に、私のオーバーロードは、「オーバーロードの使用」それ自体には何のペナルティも無い 単に、ストラーフの主力武装の殆ど、武装神姫の素体直付けパーツの使用に制限があるだけである 無論、もしかしたら他にも何か見えないペナルティがあるのかも知れないが 顕現しないものの事まで考えていても仕方が無いというのが私の結論だった ズタズタになった神経系を修復し、新しい四肢に慣れるのに数日を要したが、あとはいつも通り。決勝リーグに向けての調整を重ねるのだった 「Somewhere Nowhere」 「・・・じゃぁ、姉さまが今迄強化パーツを使わなかったのは?」 「そうだよ、ニビルの体に宿ったオーバーロードが拡張端子の使用を困難にしてるのさ」 逆さまにひっくり返った状態で、ヌルはキャロの話を聞いていた 場所は槙縞玩具店の地下にあつらえられたリアルバトル用演習場である・・・本来はここも、槙縞ランキングの主要舞台の一つとして使用される予定だったらしいが、何故か皆川はバーチャルバトルに拘りを持っていた 愛玩派オーナーの参入も促しやすい事と、別にバーチャルバトルだからといって不平不満を述べる神姫も特に居なかったので、この演習場は放置され、時折ヌルやクイントス等が練習に使っているだけの施設に成り下がっていた 本来なら電動薬動の様々なギミックが盛り込まれていたのだが、天井の照明すら入っておらず、手入れも全くされていない様子であり、その種のギミックも全くの稼動不能状態である 「何で今迄言ってくれなかったんだろう・・・」 体を起こし、明確に不満を顔中に表すヌル 「あんたに話す必要がないと考えた理由ってんなら判らないでもないがね」 ヌルの肩にタオルをかけつつ、呟くキャロ 「拡張装備を使わずに・・・つまり普通に考えたら圧倒的に不利な状態で勝つ。そういう格好良い所をあんたに見せたかったんだよ。多分ね」 「いっつもそうだ・・・姉さまは・・・私は別に、姉さまの欠点だって含めて姉さまの事を愛せる自信があるのに・・・」 タオルで顔まで隠して蹲る 「惚気は良いけどさ・・・あんただってあるだろ?そういうの」 「どだいからして、準決勝でニビルと互角以上に戦う為に秘密特訓ってのも充分過ぎる程格好付けだと思うけどね、あたしゃ」 「・・・・・・」 確かに、並み居る強豪を押しのけて、準決勝でニビルとヌルが当たるというのは、両者の実力から考えて相当無理がある事を、ヌルはやはり知覚していた ニビルはまだオーバーロードがあるから良いが、ヌルは実戦経験という観点に於いて華墨とほぼ同等の新人であり、コネによる恵まれたトレーニング環境と、華墨のものほどまだ明白ではないが、ゆらぎ由来の密着格闘戦における天性のカンの良さで、幸運の女神に拾われたに過ぎない いざ戦闘になったら、どう考えても『ズィータ』や『ウインダム』には勝てないし、『ストリクス』『タスラム』相手では戦闘と呼べるものになるかすら怪しく、『仁竜』には得意距離における戦闘経験値に差がありすぎた (結局私は・・・あいつに勝つので精一杯なのか・・・) 『ジルベノウ』に勝った事実を、実感として明確に受け入れる事が彼女には出来ていなかった と、いうよりも、あの瞬間のヌルの戦力というのは実は相当な強運に恵まれた上での物に過ぎない事に、彼女自身が何よりも気付いていた (姉さまへの愛で私の心が満たされていたって、空を飛んでいる相手は降りてきてくれないし、長距離砲撃が出来る相手は近づいてはくれないよなぁ) 結局それまでの戦闘プランそのものが脆弱過ぎるのだ・・・だからここ数日、ヌルは新しいスタイルの模索を始めていた 憧れた銃撃戦のみでの戦闘スタイルを諦め、重装甲と白兵戦闘能力をより重視したスタイルへの転換・・・ 徐々に自分が嫌っている「あいつ」・・・つまりは華墨のスタイルに近付いていくのが厭だった 「体のほうは、もう良いのか?」 トレーニングを再開したニビルに話しかけるクイントス 「ええ、大丈夫よ・・・それにしても流石は、『私に挑む為にこの一連の闘いを経て君達がさらに強くなってくれるなら』なんて真顔で言うだけの事はあって余裕ね。別に貴女に心配される謂れは無いわ」 「・・・自分を偽っても仕方あるまい。どんなに繕おうと、自分は自分以外の誰かになどなれはしないのだからな・・・」 「・・・・・・っ!説教がましく言わないで・・・遅れを取り戻すのにこっちは必死なのよ」 「・・・済まない、邪魔をしたな・・・」 クイントスにとっては自分自身を含めて、あらゆる武装神姫の価値基準はただひとつ、「どれくらい強いか」なのであろう 自分自身もそう思われ、そういう風に値踏みされているであろう そういう考えは半ば被害妄想的ですらあったが、「どれだけ頑張っても武装神姫は武装神姫」という強固なクイントスの信念が、彼女の立ち振る舞いに現れ、貫かれるべき根幹を成しているのもまた事実であった そして、その点がまさしくクイントスを嫌う最大の理由なのではないかと、最近ニビルは気付き始めていた 彼女の誇る「完璧さ」は自分の目指そうとしている世界の扉を閉じてしまう・・・そういう厭な予感 彼女のあり方が武装神姫のあるべき姿なのではないかと思ってしまう強迫観念 本人にとっては全く謂れ無き嫌悪であったが、クイントスはニビルにとって、打ち破るべき磐石な、頭の固い常識の象徴であった 『自分の目指すものを否定する存在を嫌悪する』 そう書けば普通かも知れないが、だからといってクイントスの一言一句に食って掛かり、同じ部屋に居る事すら避けようとするニビルの態度はヌルならずとも相当鼻に付いただろう 「・・・やはり、相当嫌われてるのだな・・・」 自分の強さを妬まれ、憎悪される分には却って戦士を自称するクイントスにとって賞賛であったかも知れない だが、ニビルがそういう人格でない事を彼女は知っていた・・・だからこそ余計に、嫌われる理由に思い当たらないあたり、このふたりの関係はやはり良好と言えないものだろう 「やっぱり問題になるのは空中戦だって!装備をもちっと充実させて備えるべきだろ」 「何いってんのよ!むしろ今更慣れない戦術の練習をするよりは長所を伸ばすべきに決まってんじゃない!ばっかじゃないの!?」 「・・・仲良いというか・・・なんだかとても分かり合っているのだな、エルギール、マスター・・・」 「お前の為だろうが!!」(←同時→)「べ・・・っ別にアンタの為じゃないんだからね!!」 「・・・・・・」 エルギールが来た事によって、華墨は決勝リーグ開催迄の間練習相手に困る事は無かった ここで初めて、華墨はエルギールの『まだ誰にも見せていない』公式武装形態を見た訳だが、何故彼女が其処までしてくれたのかについて思いを馳せる事はついぞ無かったあたり、エルギールもかなり報われない神姫である 因みに、琥珀は普通の料理に関してはチョコレート程危険な腕前では無かった事が武士にとって幸運であった事もここに併記しておく 「何にせよ、僕らがここまでしてあげたんだ、そこそこ善戦してくれないと怒るよ」 「わ・・・判りました琥珀嬢!この華墨、この・・・」 丁度太刀を持っていなかったので、手近にあったフィギュアの剣を胸前に構える 「このまどろみの剣(注1)にかけて!無様な闘いはいたしません!!」 「うむ、頑張って来るが良い」 「勝手に俺のフィギュアの剣をかけてんじゃねえ」 決勝リーグは、もうすぐ始まろうとしていた 剣は紅い花の誇り 前へ 次へ 注1 2030年発売の、「ドラゴンクエストⅩⅤアクションフィギュア」No.12「遊び人ポルメ」の付属品