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深夜、ビルの隙間から大通りを覗く。楽器と、それを演奏する為にだけ作られたような異形のパレードとそれに惹き付けられる人々が見える。 彼らは私が最近注目している『楽団』の怪異。 青空町の大通りでクラシックを演奏しながら人を寄せつけ、どこかに攫ってしまうオーケストラの化け物達。 音楽は私の好みだけど、見た目と所業はいただけないわね。 踏み出そうとした瞬間、 「待った!」 と女の子の声がかかる。 多分前方、ビルか茂み辺りに声の主がいる。 彼女も『楽団』を待ち構えているのかしらね。 《おい!変身前だぞ!正体が…》 訂正。彼女達、ね。男性が小声で喋っているけれど耳がいいので少し聞こえてしまう。 人影は1人しかいないように見えるけれど。 女の子Xと男性Yは何やら一悶着したと思うと 「ダイノフォーゼ!」 という女の子の掛け声と共に音楽百鬼夜行の前に躍り出る。 《暴虐不尽!ティラノカラー!》 『 日曜朝のヒーローって本当にいるのね!』 と言った容姿の斧を持った女の子が月明かりに照らされてハッキリ見える。 彼女は早速コントラバスの一団に向かって斧を振り回し、4体全てを両断する。 こっちも負けてられないわね! 「『ナルカミ』!」 右手と左手で作った雷の槍を投げる。 着弾して破裂、第2バイオリンの全てと第1バイオリンの2体を消滅させることが出来た。 さすがに楽団員全員の意識がこちらに向いてしまったけれど… 「誰!?」 と女の子が振り返る。それはそうよね。 ここは1つヒーロー物っぽくかっこつけさせてもらうことにする。 「天に代わってエフィ・ヴィンド、怪異を斬る!…っていうのは…うーん…」 「こんな状況で変なことで悩んでる…!」 《おい嬢ちゃん、戻ってきな!》 男性Yの声で我に返る。決め台詞は後でちゃんと決めておくことにしましょう。 「私はエフィ。エフィ・ヴィンドよ!この状況ではあなた達の味方だと思う」 「私は……魔龍少女!よろしくね」 女の子Xのヒーローとしての名前なんでしょうね。ヒーローは本名は隠すものだもの。 私達を楽団から振り払うようにヴィオラとチェロが楽器を振る。 私は氷の槍斧で、魔龍少女さんは斧で受けることでそれをへし折ることに成功した。 「カノープス!こいつらはどんなシードゥスなの!?」 《見たこと無い連中だ。この前みたいに封印していた奴を解放したのかもな》 「シードゥスっていうのはよくわかんないけど彼等の攻撃は単純よ。楽器を振り回す物理攻撃と音符を飛ばして洗脳する攻撃。後者をあまり食らわないように気をつけて!」 指揮者以外は鈍重で知能も耐久力も高くないため、互いを意識しながら戦うことも出来る。 指揮者はそんなものを操りながらこちらの攻撃をひょいひょい躱すだけ。 面倒なので放っておいて私は雷雨霰で、魔龍少女さんは斧や槌で楽器を破壊していく。 「後はあなただけだよ!」 「演奏者も楽器も無いのに指揮者だけ生きてるなんて滑稽だわ。直ぐにみんなの所に送ってあげる」 指揮者は顔はないけれど怯えた様子が明らかに分かる。 そしてせっかく集めた観客を放ったらかして逆方向に逃げていく。 「逃がさないわよ!『春ハヤテ』!」 《縦横走破!ヴェロキカラー!》 水色に変化した魔龍少女さんはなんと『春ハヤテ』でスピードを強化した私に追いついてくる。 「なかなかやるわね。その勢いであいつにトドメをさしちゃいましょ!私が合わせるから!」 「うん!」 私の提案に快く応じた彼女は高く飛び上がる。 …正直予想していなかった。スピードを活かしてなにかする技だと思ってた。 ええいままよと氷で剣を作り更に速度を上げて突貫する。 「『トキツカゼ』!!」 「ライジングレイド!!」 横と上から甚大なダメージを受けた指揮者は無惨にも倒れ込み爆散する。 「なんか締まらないけど一件落着ね」 「ありがとうエフィさん。その…良かったら私と一緒に来てくれないかな?」 「組織への勧誘ってこと?うーん…折角で悪いんだけどやめておくわ。こう見えて私はフリーが好きなの」 《目に見えてフリーって印象だがな》 「まぁ失礼ね!…こうしてお互い異形の存在を倒すことを生業にしてるならまた会うこともあるでしょう。その時までのお別れよ」 彼女たちに背を向けて『春ハヤテ』で飛び上がる。 着地のことを全く考えていないけれど、なんとかなるでしょう。 「昨日も化け物オーケストラが出たんだけど謎の2人組があっという間に片付けちゃったんだって!」 翌日。昼休みに屋上菜園に向かう途中、一際声の大きい一団に出会った。 その中の1人、桃井かおりさんは噂好きなのかどこから情報を仕入れてきて彼女の友達に話しているのをよく聞く。 昨日のことがもう噂になっているのかと微笑して通り過ぎようとすると、彼女の話を聞いていた紫のポニーテールの女の子と目が合った。というより、なにかじっと見ているのを私が認識した。その姿はどこか覚えがあるけれど、明確には思い出せない 「もし…何か御用かしら」 「え…あ、いいえ!白い髪が綺麗だなって」 「?…そう。ありがとう」 友達同士の噂話を断ち切っては悪いので彼女にお礼を言ってそそくさと立ち去る。 「結局どこで会ったんだっけ?」という悩みも五分後には屋上菜園のお世話で上書きされた。
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コトノハ 第7話『殺されたがり』 みっちゃんを闇に取り込み、ゲラゲラと笑い転げるもう一人の初。私は湧き出す殺意を抑えきれず、怒りに身を任せて決意した。 「お前だけは.......此処で殺すッ!!!!」 「出来るものならやってみなよ、アハハハッ!」 「うあぁああああああああ!!!」 瞳を赤く染め、殺意と怒りを込めた右手の拳を振り上げながら叫ぶ。 「消え失せろぉおおおおおおおおおッ!!!」 ギュンッ、と空を斬るような音を立てながら、私は初目掛けて勢いよく拳を振り下ろした。しかし、初は微動だにせずそれを片手で受け止める。 「なッ.....!?」 「...甘いんだよ。」 二タッ、と笑ったかと思うと、初は私の拳を掴んだまま思い切り力を込め始めた。 「うっ!?ぐ、あぁあッ!?」 「ハハハ.....折れろ!!」 初の指が私の拳にめり込み、バキバキと骨を砕いていく。赤い血が滴り落ち、やがてべキィッ!という音と共に手首ごとへし折られた。 「があぁああぁああぁあッ!!??!?」 「アハハハッ.....!痛そ〜!」 激痛に耐えきれず、私は地面に倒れ伏す。必死に手首を押さえるが、血は止まらなかった。 「初ちゃん!!」 「行こう、皆!初を助けるんだ!」 そんな私を見て、とうとう耐えかねた皆が一斉に教室を飛び出しグラウンドに集結する。 「来ちゃ、駄目.....だっ.......皆............!」 私は痛みに抗いながら叫んだけど、皆は止まろうとしなかった。 「初ちゃんを.....みっちゃんをよくも!!」 「あたしが行く.....!《女児符号・暁天-ガールズコード・ライジング-》!!」 旭の身体から、眩い光が放出される。その光は徐々に旭の両手に集まっていき、まるで太陽のように巨大な光球が出来上がった。 「はーーーーーーーーーッ!!」 旭はその光球を初目掛けて勢いよく撃ち放つ。地面を、そして空気をも焼き焦がす程の熱と光が、初の放つ闇を掻き消した。 「チッ.........!」 初は咄嗟に攻撃を避け、私達の手が届かない高い所へと移動した。 「また邪魔者が入った.....めんどくさいから殺すのは今度にしてあげるよ!」 そう言い残し、初は姿を消した。私は追いかけようとしたけど、既に身体が限界を迎えていて立ち上がる余力すらも残っていなかった。 「初ちゃん!大変、手が.....!」 「誰か包帯持ってきて!消毒液も!」 「大丈夫、私に任せて。」 群がる皆の間に分け入り、玲亜がやってきた。 「玲亜.....」 「無理しちゃって........《女児符号・慈愛空間-ガールズコード・Affection Space》。」 玲亜がそう唱えると、ドーム状の光が私の身体を包み込んだ。ぐちゃぐちゃになった傷口を光が包み込み、手首から指先までゆっくりと修復していく。 「.........!」 しばらくして、私の手は完全に元通りになった。手首や指を何度か動かしてみても、全く痛みはない。 「どう?大丈夫そう?」 「......うん、大丈夫..........ありがとう........」 玲亜が生み出した空間の中に居ると、さっきまで殺意に満ちていた心もだんだん穏やかになっていく。私が完全に落ち着くまで、玲亜はずっと見守ってくれていた。 ................................. ............... 静まり返る教室。みっちゃんが居なくなり、クラスの雰囲気はかなり寂しくなった。 「........私のせいで.............」 私は机に顔を伏せ、必死に涙を堪えていた。あの時、もっと早くにみっちゃんを助けていたら.....私の力不足のせいで、みっちゃんは...... 「初ちゃん。」 耳元で声がして、ゆっくりと顔を上げる。隣の席に、玲亜が座っていた。 「.......玲亜.............」 私をじっと見つめ、優しく微笑む玲亜。堪えきれなくなった私は、ついにボロボロと泣き出してしまった。 「.....ごめん....っ......ごめんなさい.......!ごめんなさい.........!!」 「大丈夫......怒ってなんかないよ。」 玲亜はハンカチで私の目元を拭き、ポンポンと頭を撫でてくれた。 「初ちゃんは一生懸命みっちゃんを助けようとしたんでしょ?私はちゃんと見てたよ。」 「でも.......私、結局..........」 「あいつも言ってたでしょ?アタシは最強だ、って。ずっと一緒に居たから分かる、そう簡単にはくたばらないよ。あの筋肉バカは。」 玲亜はいつにも増して冷静だった。親友のみっちゃんがやられて誰よりも辛い筈なのに、決して取り乱さなかった。......私とは、大違いだ。 「旭ちゃん、これからどうする?私は、やっぱりちゃんと作戦を考えなきゃいけないと思うんだけど。」 「そうだね、次は絶対負けないように作戦会議しよう。皆、まだ諦めちゃ駄目だよ!あたし達が全滅しない限り、絶対に勝てるんだから!」 旭がそう言うと、さっきまで沈んだ顔をしていた皆も顔を上げて頷いた。 「皆..............」 「初ちゃんはどうする?」 再び私に向き直り、玲亜が問いかけてくる。 「.............私は」 力への恐れ、あいつへの憎しみ。また暴走してしまうかもしれない。正直、怖い。それでも、皆が希望を捨てずに戦い続けるのなら。 私の答えは、たった一つだ。 「......戦うよ、最後まで。私はもう、絶対に諦めない。」 「あいつの力は初ちゃんと同じ、言ったことを現実に引き起こす力.....それを打ち消せすには、初ちゃんの力が一番有効だよね。」 「あたし達の技で対処しきれない技を撃ってくる可能性もあるからね.....そういう時は、技を無効化しろーって初ちゃんが言えばどうにかなるんじゃないかな?」 確かに、私が「初の技を無効化しろ」と言えばそれで解決するだろう。しかし、何度も通じるわけではない。一度防がれても、次は必ず何かしらの対策をしてくるはずだ。 「相手への攻撃はどうする?さっきの戦い、ほとんどあいつにダメージ入らなかった.....防戦一方でも勝ち目はないよ。」 「何であんなに強いんだろうね、もう一人の初ちゃん.....」 「......あいつ....もう1人の私には、“恐れ”がない。だから『言刃』の効果も大きいんだ。『言刃』は自分の精神状態に影響される.....自分の力への恐れを捨てきれてない私と、完全に恐れを捨て切ったあいつでは、力の効果が全然違う。」 「初ちゃんは、自分の力が怖いの?」 「怖いよ.....この力を使って起きたことは、後から修正が効かないんだ。もし相手を殺してしまったら、『言刃』を使っても生き返ることはないんだよ。」 丸菜の問いにそう答えながら、また思い出してしまう。あの日、私がしてしまった事を。 「なるほどね....それは確かに怖くなるのも当たり前だよ。」 「あいつは、私が『言刃』の真価を発揮するのを待ってるんだ。皆を傷つけることで、私を焚きつけて.....そして..........」 私はもう一人の初が言っていたことを思い出した。 「本気で私を殺そうとする相手と戦いたい」 あの子は、自分を殺せる程強い相手と戦いたいのか。 それとも.....誰かに殺されたがっているのか。 そう考えると、あの子には何か事情があるのかもしれないと私は思った。 「..........ごめん。私、ちょっと行ってくる。」 「行くって、何処に?」 「もう一人の私を探しに。戦いに行くんじゃない、少し話がしたいんだ。」 「だったら私も行く。」 玲亜が立ち上がってそう言った。 「玲亜.....」 「多分、話し合いだけで済むとは思えないし。また初が怪我したら大変だから、念の為の付き添いだよ。」 私の肩に手を置いて、玲亜は力強く頷いた。私も頷き返し、玲亜と一緒に教室を後にする。 「待って!」 すると、旭が私達を呼び止めた。 「旭?」 「もし......もし、危ないと思ったらすぐに逃げてね!二人ともだよ!」 「.......分かった、危ない真似はしないよ。ね、初ちゃん。」 「うん、出来るだけ.....ね。旭、引き続き皆をよろしく。」 「うん.....待ってるからね、無事に帰ってくるのを.....」 私達は同時に頷き、もう一人の私を探しに向かった。 ................................... ................. 「はぁ......はぁ..........」 流石に、力を使いすぎた。一人潰すだけなのに、かなり無駄な労力を使った気がする。 「手こずらせるなぁ.....思ったよりも.......」 私の名は、音羽 初。 .......向こうからすれば、もう一人の自分に見えているだろうけど、それは違う。私も、あいつも、同じ“音羽 初”という一人の人間だ。 でも、私とあいつでは違うところが三つある。 髪の色、瞳の色。そして、『言刃』に対する恐れがあるか否か。 私は“否”の方だ。『言刃』の力は無限大、この力さえあれば何だって出来る。抵抗を抱く理由なんて何処にもない。 それなのに、あいつは恐れている。自分の力を......だから私を殺せない。不完全で中途半端な力でしか戦うことが出来ない。 「あいつが恐れさえ克服出来れば.....あいつは私を殺せるのに..........」 あいつの友達を傷つけるだけじゃ、足りないのかもしれない。それなら、もっとあいつを怒らせる方法があるはずだ。何か別の方法が。 考えろ。あいつが、恐れを捨てて私を殺しに来る方法を。 .................................. .................... ........... 「............そうだ。」 思いついた。あいつを本気にさせる方法を。 これならあいつは、絶対に.......... 「ハハッ....ッハハハハハハ........!これで私は..........やっと...........!!」 私は笑った。呼吸が出来なくなるくらいに。 当然だ。私はやっと............あいつに殺してもらえるかもしれなんだから。 続く
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カタカタ。 カタカタカタ。 カタカタカタカタ。 ッターン!! 「───行ったか。 装置は問題なく作動しているな。 これであの子達は無事に新しい世界に行く事ができたはずだ。……良かった……!」 安心した途端に身体の力が抜け、 ガクリと膝から崩れ落ちる。 「……力を使い果たしてしまったか。 いよいよ、最期の時が近いな……」 「オイオイどうした、へばってンのか? それならアチキも、ちょいとここで 休ましとくれヨ」 誰もいないと思っていた真っ暗な研究室に、突然誰かの影が見えた。 聞き慣れた声と口調。 そんな、まさか……。 「御滴っ!?お前、何をしてる!? 皆と一緒に行ったんじゃなかったのか!?」 「へへ、流石の純蔵もアチキの時間停止にゃ 気付かなかったか。こりゃ気分がいいや」 「冗談を言っている場合か!! すぐに向こうに飛ばしてやるから準備を……」 「あンな、何のためにアチキがあの場から離れたと 思ってるんでィ。アチキもお前さんと同じ、 やりたい事をやったのサ。 だからもう、向こうに行く必要はねェ」 「…………そうか、お前……符号を使って、 はもはもちゃんを……!」 「そういうこった。……流石に時間を巻き戻すのは 骨が折れるねェ。残った命をぜーんぶ使っちまった」 御滴もまた、私の隣にへたりと座り込んだ。 ……お互い、死にかけか。 夢の世界ともども消滅するのを待つだけの 時間だが……1人ぼっちじゃないというのは、 案外悪くない。 「……なぁ、御滴。 お前は私よりも先に、青空学園にいたよな。 どうだった?あの子達との学園生活は」 「ハ、なんでィ、任務遂行こそが至上命題だとかなんとか言ってたヤツが、そんな事に興味あんのかィ?」 「茶化すなよ。もう残り少ない命だ、 本音も隠さずに話そうじゃないか」 「……そうさなァ。アチキもお前さんと同じで、最初は あの子供達にさほど興味なんてなかった。 ただDr.に言われた事をこなすために学園に潜入して、 あいつらの……はも蔵の作戦をサポートするって お役目を果たすだけだと思ってたサ。でもヨ、 あんな状況でも誰かを責めたり自棄になったりせずに 真っ直ぐに生きてるあいつらを見て、いつの間にか 自分もあいつらの本当の仲間になりたい……って 思っちまった。何もかもニセモノのアチキの話にも、 楽しそうに耳を傾けてくれるあいつらの事を、 守りたいって本気で思うようになってたのサ」 かつてここに居た頃には見せた事のない優しい目をして、 御滴はゆっくりと思い出を慈しむように語る。 「そしたらお前さんがやって来て…… こんなアチキの姿を見たら怒るだろうなァって 思ってたら、いつの間にかお前さんまで 優しい目になっちまってるんだもんナァ。 全く大した奴らだヨ、あいつらは」 「ふふ、同感だ。仮初の命と与えられた力を除けば 何も残らないような私達に、こんなに暖かい心を 芽生えさせたんだからな。 あの子達は符号とは関係なくすごい力を持っている。 彼女らならきっとどんな世界でも明るくやっていけるさ」 ───あぁ、こんなに晴れやかな気持ちになったのは 生まれて初めてだ。……僅か数年の命だったが、 こうして誰かの役に立てたのなら、悪くない人生だったと 言えるんじゃなかろうか。 「ふ、ふふっ、ふふふ、良いねぇ。 女子トーク。仲良きことは美しき哉、だ。 もう女子なんて齢じゃあないかも知れないが、 私も混ぜてくれないかな」 ………………え。 …………この、声は。 そんな、まさか…………。 「ど…………Dr.…………?」 「……どういう事でィ。 オタク、死んだんじゃなかったのか?」 目の前にいたのは、確かに死んだはずの 私達の創造主、Dr.マッドだった。 服は血まみれ、身体は震え、 立っているのがやっとの様子だが…… 間違いなく、生きている。 「くく……私の禁忌符号をナメてもらっちゃ困るな。 御滴ちゃん、キミはさっき、 はもはもちゃんを蘇らせてくれただろう? だから私もまた、こうして蘇ることができたのさ。 ……ま、とはいえ、この夢の世界は 流石にもう保たない。 例え私が生きていても、もう間もなく世界が消えるのは 止めようもないけれどね」 計画は失敗し、自らも間もなく世界ごと 消えるというのに……Dr.の表情はどこか晴れやかだ。 話す言葉にも、嘘はないように聞こえる。 「なんだか、嬉しそうだな?Dr.」 「ん?あぁ、もちろんさ。今の私にとって 最悪の結末は『女児達がこの世界ごと消えてしまう事』だ。それが回避できたのなら、文句はないさ。 計画はものの見事に失敗したがね。 なに、それもまた一興という物だよ」 揺れがまた一段と大きくなる。 そろそろ、本当に終わりか。 私にとってはまさしく、儚い夢だった。 「……名残惜しいが、そろそろか。 さぁーて、最後のひと仕事をするとしよう」 ……ひと仕事? 一体何を…………と思っていると、Dr.は 時空転移装置をカタカタと弄り始めた。 「Dr.?今更何を……」 「ん?決まってるじゃないか。 君たちを、はもはもちゃん達と同じ世界に送り届けるのさ。 君たちには辛い思いばかりさせてしまった。 最後くらい、親らしい事をしないとね」 「なっ、私たちを、向こうに……!? 何をバカな!私たちはそもそももう死にかけだ、 そんな事をしたって無駄だ! それに、仮定符号を持った私たちが別世界に行けば、 世界のバランスが崩れて……」 「そんな事はもう全部分かっているとも。 私を誰だと思ってるんだい? 狂気の天才マッドサイエンティスト、Dr.マッドだよ? ……君たちの符号はね、そもそもこの世界でしか 使えないんだよ。だから向こう側に行けば自然と消滅する。 君たちは、『ただの女の子』になるんだ。 そして、身体の不調も符号の使い過ぎから来ている。 符号が消滅すれば、そのうち体調も元に戻るさ。 ───さぁ、準備完了だ。 行っておいで、私の可愛い子供たち」 グォン、グォン、 グォングォングォン……! 装置が再び起動し、私達は光に包まれる。 身体が宙に浮き、周りの景色が見えなく なっていく。 「まっ、待て!!私は、貴女を置き去りにして 自分だけ助かるなんてできない!! 叛旗は翻したが、それでも貴女は私の創造主なんだ!!」 「……ふふ。嬉しい事を言ってくれる じゃないか。でもね、純乃ちゃん。 君なら私の気持ちが分かるだろう? 何しろ君はついさっき、 私と同じ事をしたばかりじゃないか」 「………………!!」 光の隙間から、 Dr.の晴れやかな笑顔が見えた。 …………あぁ。きっと。 私もあの時、あんな顔をしていたんだろう。 Dr.のあんな笑顔は、生まれて初めて見た。 「───さようなら。Dr.」 「……オタクの事は、 ぜってェに忘れねェヨ」 バシュウウゥン!!!! …………………… ……………………………… ………………………………………… ──────────── 私には、何もなかった。 平行世界への移動を繰り返し、 辿り着いた、この夢の世界。 そこは強い願いが本物になる、 まさに夢のような場所だった。 ここならきっと、私が思い描いた 理想の世界を実現できる。 そう思っていた。 ……だけど、蓋を開いてみれば。 上手くいかない事ばかりだった。 邪魔者として排除しようとした のじゃロリ猫は死を偽装して難を逃れ。 子供達を助け、永遠の理想郷に導く役割を 与えた純乃や御滴は子供達の側に付き。 ……そして、たった1人。 何があっても絶対に生きていて欲しいと 願っていた少女は。 私を拒絶し、自殺した。 これのどこが夢の世界なのだ!!と、 私の運命を憎んだ事もあった。 …………だけど、今になって考えてみれば。 巡り巡って、私の願いは…… 最後には、叶ったのだ。 子供達は、力を合わせて 私というラスボスを倒し、 見事、平和な世界へと脱出する事ができた。 はもはもちゃんも、 純乃ちゃんも、 御滴ちゃんも。 誰一人死ぬ事なく、 無事に大団円を迎えた。 そう。 私はようやく気付いたのだ。 『人を別世界へと移動させる能力』 『時間の流れを操作する能力』 私の願いが実体化した子供達の能力は、 最初から、この時のためにあったのだ! ……私の願いは、 最初から叶っていたのだ。 それに気付かずに、 道化のように踊っていた 自分自身が恥ずかしい。 しかし、私自身の存在もまた、 この大団円のための舞台装置だった、 というわけだ。 ふふ、 それも、ひとつのありようだってわけだね。 全く、よく出来た『夢の世界』だとも! 「さぁ、皆の元に戻るんだ。 ───今度こそ、道を間違えちゃ いけないよ。 わ た し アリアちゃん」 それは、ひとつのありようで EX 完
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アーカイブ @wikiのwikiモードでは #archive_log() と入力することで、特定のウェブページを保存しておくことができます。 詳しくはこちらをご覧ください。 =>http //atwiki.jp/guide/25_171_ja.html たとえば、#archive_log()と入力すると以下のように表示されます。 保存したいURLとサイト名を入力して"アーカイブログ"をクリックしてみよう サイト名 URL
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ここに作品タイトル等を記入 更新日:2023/09/30 Sat 19 58 25NEW! タグ一覧 セブンスカラー 「はぁっ、はぁっ」 暗い夜の路地裏を一人の少年が走る。息も絶え絶えになりながらもひたすらに前へ前へと走る彼の後方からドタドタと複数の人間の足音がする。 「逃すなッ!この事が上にバレたら“コト”だぞ!」 「草の根分けてでも探し出せ!」 男の怒号が響く。追跡者のその声を聞いた彼の心臓は更に早鐘のように高鳴り、最早疲れ果て、感覚が鈍くなった脚を無理矢理動かす。 だがずっと走り続けた無茶が祟ったのか、突然ガクン、と少年の脚から力が抜けて、前にあったゴミ箱を巻き込んで派手に音を立てて倒れ込む。 「向こうから音がしたぞ!」 後方から追跡者達の声がする。早く立ち上がらなければ彼らに捕まってしまう。 しかし、いくら力を込めても、彼の脚は震えるだけで、立ち上がる余力は残っていなかった。 さらに運の悪い事に最早顔を上げることすら億劫になった彼の前に誰かが現れる。 もう終わりか、と彼が顔を上げる。しかしそこにいたのは心配そうな瞳でこちらを見下ろす灰色の前髪を額が見えるように上げ、長い黒髪を後ろで纏めている中性的な顔立ちの人物だった。 その人物はこちらを見つめながら、屈んで彼の手を取る。 「大丈夫ですか?その。傷だらけですが。」 その人物が優しく語り掛けてくる。雰囲気からして恐らくこの人は偶然ここを通りがかった一般人だろう。 「──あっ」 巻き込むべきではない。一般人にどうこう出来るような事でもない。 「見つけたぞ!」 「……おいっ、一般人がいるぞ。」 「面倒だな……」 彼を追いかけてきた男達が、二人を見つけ、囲むように陣取る。 どう言う事かと困惑する黒髪の人に彼の口から思わず言葉が漏れる。 「……助け、て。」 その言葉を聞いた黒髪の人の目が見開かれる。そして目の前の少年と、周りの人間を見てスッと目を細めると。 「……この子と、貴方達はどう言う関係ですか。」 「オマエが知る必要は無い。痛い思いをしない内にさっさと渡した方が身の為だぞ。」 一般人なら思わず怯むような強烈な圧を男達にかけられながらも、その人物は全く怯む事なく逆に睨みつけるように彼らを見ると、口に手を添える。 「……成る程。分かりました。」 そしてその人物が手を下ろすと、いつの間にかその口元は鳥の嘴のようなマスクに覆われていた。 「この子を、貴方達に渡す訳にはいかない。」 次の瞬間、彼らの視界が黒に染まる。それと同時に一陣の風が吹く。 その風のあまりの強さに皆が腕を構えて耐える。そして、それが止む頃にはその人物と少年の姿は影も形もなかった。 だが、男達はまるで狐に摘まれたかのように目をパチクリさせながら、互いを見合う。 そう。直接目視したとは言え、それ程までに今目の前で起きた事が信じられなかったのだ。 「な、にが?」 「起きた?」 “目の前の人物から黒い翼が生えたと同時に、羽ばたいて少年を連れて行ってしまった”、など。 道場にて、防具に身を包んだ二人が向かい合う。相手に竹刀を突きつけ向かい合う二人からピンッと張り詰めた空気が漂い、周りの人間は固唾を呑んでそれを見守る。 互いに仕掛けるタイミングを測り、緊張が走る。そしてその緊張の中で一瞬、相手の構えに隙が出来る。 それを見つけた瞬間、一気に踏み込む。 「籠手ェッ!」 叫びと共に電光石火の勢いで放たれる一撃。だが、それは罠。まんまと誘いに乗って仕掛けられた籠手を弾こうと竹刀を振るおうとする。 しかし、籠手へと伸びる一撃は急激にグンッ、と伸びて弾くより速く間合いに侵略する。 その瞬間理解する。相手は誘いに乗ったのではない。乗ったと見せかけた一撃、だが本命は二撃目。その狙いは──。 「面ッ!!」 バチィッンッという音と共に頭の防具を竹刀が叩く乾いた音が道場に響く。 「面あり!勝負アリ!」 その言葉と共に一斉に上がった赤色の旗と審査員の声が響くと、周りからワッと歓声が上がる。 当の一撃を決めた本人は互いに向かい直し、礼をして舞台から出る。 そして面の防具を外し、頭に巻いた手拭いを取ると赤いメッシュの入った長い黒髪が解放され、軽く首を振る少女に皆が駆け寄る。 「嵩原さん。やったね!」 「強豪の松島学園相手に勝つなんて!」 部員達に手放しで褒められる少女、嵩原赤羽はニコリともせず、ふぅと一息つきながら答える。 「…たまたまよ。運が良かっただけ。」 赤羽がそう答えると、部員達の後ろから大柄な一人の筋肉質の男性……剣道部の顧問が何故か目を潤ませながら赤羽に言う。 「いや、良くやったぞ嵩原!これで俺の首が繋がった!お前のお陰で我が部の存続は確定だ!お前は我が部のエースだ!」 「いえ…そんな、勿体無い…。少し疲れたので、ちょっと外の空気を吸ってきます。」 「おう!表彰式までには戻ってくるんだぞ!」 「橋田センセー、めっちゃご機嫌だね。」 「そりゃあ。今の今まで泣かず飛ばずのウチが全国で優勝したのが嬉しいんでしょ。」 「でも、嵩原さんも凄いですね。勝ったのも全然自慢しないですし。」 「あーいうのをクールビューティーって言うんだろうなぁ。」 皆の羨望の眼差しを背で受けながら赤羽は外に出ると、少し小走りで観客席へと向かう。そして、彼女は観客席に座る一人の男性の元へと向かう。彼女に気づいた男性はぱちぱちと拍手をして、赤羽に柔和な笑みを見せる。 「優勝おめでとう赤羽。」 「ありがとう。お父さん。」 男性……父の嵩原から褒められた赤羽は、先程までの部員達の前とは打って変わってニコリと笑うと隣に座る。嵩原は微笑みながら赤羽に言う。 「それにしても、赤羽がこんなに剣道強かったなんて。親バカかもしれないけど赤羽はすごいな。」 「お父さんの指導のおかげだよ。」 赤羽もそう言って微笑みながら返す。 (まぁ、“前の世界”で戦ったアイツらに比べたら、ね。) 内心そう独りごちる彼女の脳内に数々の怪物達が思い浮かぶ。 そう。先日あった大きな戦いで彼女は前の世界の記憶と力を取り戻していた。 勿論その力は一般人相手に使うことはしないが、それでも前の世界で怪物達と戦った記憶と経験を取り戻した彼女には目の前の対戦相手達の動きがかなりスローに見えてしまう。 そんな彼女に一般人達が勝てるハズもない。ちょっとズルなような気がしなくもないが、世界の為に文字通り命を張ったのだ。これくらい許されるだろう。 (……でも、お父さんは前の世界の事を知らないのよね。) 目の前にいる父、嵩原も前の世界では戦士として怪物と戦っていた。しかし、彼は怪物に破れ、無念の内に死んでしまった。 彼女と違い、父には前の世界の記憶はない。しかし、心底嫌だが龍姫に頼めば父も記憶を取り戻せるかもしれない。 (……けど、忘れたままの方が幸せかもしれない。) 自分が死んだ記憶など思い出したくもないだろう。そう赤羽が色々と想いを巡らせていると、嵩原が赤羽に尋ねる。 「赤羽?考え事かい?」 「ううん。なんでもないわ。」 「そうかい?なら、良いんだけど。」 少し怪訝そうな彼を誤魔化すように赤羽は立ち上がると。 「ごめん。もうすぐ表彰式があるから。」 「そうか。行っておいで。」 父の言葉を背に、その場を離れる赤羽。そして彼女が会場へと戻ろうとすると、ピロピロと着信音が鳴る。 「誰かしら?」 懐から携帯を取り出して通知画面を確認する。その通知画面の名前にはかつての戦友“黒鳥飛鳥”の名前があった。 「何かしら?」 赤羽が携帯を操作し、黒鳥からのメッセージを開く。 「……“困った事になった。今すぐ来てほしい”…?」 そこに書いてあったのは短いが、なんとも妙なメッセージだった。 和風の部屋の一室で、黒髪の人物、黒鳥は携帯を片手にメッセージを打ち込み、メッセージの送信を確認すると、ふぅと一息つく。 「……さて。後一応結衣さんにも相談するとして……」 黒鳥はチラリと部屋の隅で蹲り、こちらを睨むように見つめる少年に目を向ける。 薄橙色の短い髪に、どこか猫のように釣り上がった瞳。幼さも相まって少女と言われれば信じてしまいそうな顔立ち。しかし栄養が足りていないのか、痩せこけ、少し骨張った頼りない体つきをしている。 怯えながらも、警戒している彼の不安を解きほぐすために、黒鳥はしゃがみ込むと彼と目線を合わせる。 「まずは、自己紹介からしようか。私の名前は黒鳥。黒鳥飛鳥。そしてここは私の祖母の旅館。……と言っても半ば趣味でやってるようなものだから、あんまりお客さんはいないけど。君の名前は?」 黒鳥が尋ねると、少年は少し躊躇うが、黒鳥を見つめるとか細い声で。 「……尾白。尾白豹一(おしろ ひょういち)。」 「尾白君ね。よろしく。……ところで、君はなんであの人達に追われてたのかな?」 名前を聞き出し、尾白に黒鳥が更なる質問を続ける。しかし、尾白はジッと黒鳥を見つめると、おずおずと尋ねる。 「…あの、黒鳥さんは。……天使、なん、ですか?」 「……え?」 思ってもみない質問に黒鳥は思わず面食らう。 「…なんで、そう思ったのかな?」 黒鳥が尋ねると、尾白は。 「だ、だって……黒鳥さん、背中から翼を出して、空を、飛んだから……」 「あぁ……。」 尾白の言葉に合点がいったのか、黒鳥は少し苦笑する。 まぁ、新月に所属していたせいで感覚が麻痺していたが、普通は翼を生やして飛ぶ人間は普通ではない。 あまりに初々しい反応に何となく黒鳥の中に悪戯心が芽生える。黒鳥はスッと口元にマスクをつけると、背中からバサっと漆黒の翼を展開させる。 「わっ、あ。」 「……良く分かったね。実は私。天使なんだ。……だから、君の事、教えて欲しいな。」 黒鳥はそう言いながら、彼の顎に指をやり、翼で彼の背を軽く撫でる。 黒鳥としては、少し揶揄うつもりでやったのだが、彼に黒鳥の翼に触れると、ポロポロと涙が溢れ出す。 「うぅ、ぐすっ」 「ええっ!?ど、どうしたの?何処か痛いの?」 突然泣き出した彼にまたもや黒鳥は面食らい、慌てて尋ねる。もしかしたら無意識のうちに翼を硬化させてたかも…なんて考えていると、辿々しく、彼は話し出す。 「ち、違うんです。……お母さんが、よく言っていたんです。いつでも神様は私達を見ていて、信じる人が本当に辛い時は天使様を通して助けて、下さるって。天使様って、 ホントにいたんだ…って。」 彼の言葉に黒鳥は黙って聞く。子供を躾ける際に親が使う良くある話だ。 「……僕、二年前まで普通に暮らしてたんだけど、いきなり変な人達に連れ去られて。その後その施設にずっといて……昨日、たまたま外に出る機会があって、周りの人は移送のため、とか言ってたけど。僕はこれが最後のチャンスだ、と思って。一瞬の隙をついて逃げ出して、追いつかれそうになった時に。あなたが……」 そこまで言うと、彼の目に涙が浮かび、言葉に詰まる。そんな彼を、黒鳥はそっと抱き寄せる。 「そう。…君は、勇気を振り絞って……頑張ったんだね。」 黒鳥は彼の背を軽くトントンと叩いて落ち着かせる。そのお陰で落ち着いたのか、少年はすぅすぅと寝息を立てて意識を手放していた。 「……とんでもない拾い物しちゃったな。」 黒鳥はそう呟くと、布団を敷いて彼を横にさせる。 「取り敢えず、起きるまでに何かご飯、作っておこうかな。」 そう言って立ち上がると、黒鳥はトトトと台所へと向かった。 「貴様ら!!どう責任を取るつもりだバカどもが!!」 室内に小太りの男、貝塚の怒号が響く。目の前にいる筋骨隆々の兵士達がその怒号を浴びせられるのを、貝塚の横にいる無気力そうなウェーブをかけた長い茶髪の女性、塩田が欠伸混じりに眺めている。 「はっ、面目しだいもございません。」 「あのガキにどれ程の価値があったと思っている!仮に警察にでも保護されてみろ!面倒なことになるぞ!」 「申し訳ございません。」 「謝罪する暇があったらさっさと探しに行け!馬鹿どもが!」 貝塚の怒号を受けた兵士達は頭を下げると、すぐさま回れ右して部屋を後にする。 全員がいなくなったのを見送ると、どっかりと革張りの椅子に沈み込むように貝塚が座る。 「全く…!!雑な仕事をしおってからに…!」 未だ怒りが鎮まらないのか、貝塚はグチグチと文句を溢す。 「困りましたね。彼という実験材料を失うのもそうですが、彼を確保した手段が警察に知られるのは不味いです。」 塩田の言葉に貝塚が眼をクワッと見開くと。 「そんなの分かっておるわいっ!!そもそもあの親供がワシの提示した条件に素直に従っておればこんな事せずに済んだと言うのに…!」 「まぁ、今更言っても仕方ありません。まずは彼を確保するのが最優先かと。」 「えぇい。あの無能軍人崩れ共、これで確保出来なかったら一人残らず契約破棄してくれるわ…!」 貝塚がそう独りごちたその時。 「やぁやぁ、お困りのようね。」 そう言いながら、目元に涙ホクロ、野心に溢れた吊り目に黒縁の眼鏡をかけ、白衣に身を包んだ一人の女性が入ってくる。少し跳ねた長い青白い髪を掻きながら、こちらを見つめる女性に貝塚は少し嫌そうな顔をしながら。 「……何だね氷室君。今、我々は手が離せない状況なのだが?」 「見れば分かるわ。スポンサーが困ってそうだから、お手伝いしてあげようかと思ってね。」 彼女、氷室がそう言うと、その背後に二人の人物が並び立つ。一人は赤のシャツに黒のスーツを見に纏った銀髪に青のメッシュが入った前髪で右目を隠した女性、もう一人は赤色のマスクにゴーグルをつけ、これまた赤色のローブとコートを羽織り、丁寧にグローブまでしている素肌一つ見せない、男か女かも分からない長身の人物だ。 「……なんだね、その二人は。」 貝塚が尋ねると、氷室はフフッと笑い。 「良くぞ聞いてくれました。こっちの白髪の子が“灰被姫(アッシュグレイ)”、そしてこっちが“赤ずきん(ブラッドローブ)”よ。」 「ご紹介に預かりました“灰被姫”です。以後、お見知り置きを。」 「………“赤ずきん”です。」 “灰被姫”の方は朗らかに笑いながら、頭を下げる。“赤ずきん”は小声で答えると、フイッと他所を向く。 二人を品定めするように貝塚は見つめながら、塩田に尋ねる。 「…氷室君が連れて来たと言うことはあれかね。この二人が……。」 「はい。先日抜けてしまった“白雪姫”と同じ“グリムワール”計画のバイオソルジャー達です。」 塩田がサラッと答える。 「そうかね。普段なら諸手をあげて喜ぶところだが、今はそんな余裕はなくてね。あのガキを捕まえなくては、組織の存続すら……」 「その少年の居場所が既に私は掴んでいる、と仰れば、どうです?」 氷室の言葉に、貝塚が眼を見開く。 「なんだと?」 「現代社会と言うのは監視社会です。そこに“灰被姫”の力が加われば、子供の一人見つける事は造作もない。」 氷室の言葉に、“灰被姫”がニヤリと笑う。 探していた子供の居場所が掴めていたのは朗報だが、氷室と長い付き合いの貝塚は彼女の魂胆を何となく察してしまう。 「……分かった。何が望みだね?」 「あら、察しが良くて助かるわ。……その子供奪還に二人を派遣させて欲しいのよ。」 「何?」 予想外の氷室の言葉に、貝塚がまたもや眼を丸くする。 「ただの一般人が保護したなら、私も二人を派遣しないわ。どうせ碌なデータ取れないでしょうし。」 氷室はそう言いながら、取り出したタブレットを操作すると、一枚の写真を見せる。 それを見た貝塚が、忌々しげに顔を歪める。 「…もしかして、あの傭兵どもが言ってた事を真に受けたのかね?」 「私だって最初は幼稚な嘘かと思ったけど……この映像を見たらね。それに、二人の試験運用には丁度いいじゃない。」 氷室が見せたタブレットの写真。そこには黒い翼を翻し、月夜を背中に飛翔する人影があった。 「正体不明の鳥人間なんて。ゾクゾクしちゃう。」 「……ん。」 ぱっちりと眼を覚ました尾白の鼻腔を香ばしい香りがくすぐる。 いつの間にかかけられていた上布団を退けて、立ち上がると、匂いの元へと向かう。 その匂いの元と思しき部屋に入ると、そこにはエプロン姿で台所に立っている黒鳥の姿があった。 「……あの、黒鳥さん。」 「ん。起きたのね。テーブルに座って。もうちょっとで出来るから。」 黒鳥に言われるがままに、尾白はおずおずと席に座る。そして、しばらくすると黒鳥がお盆を持って彼の元に現れる。 「お腹、空いたでしょ。簡単なものだけど、どうぞ。」 そう言って黒鳥が持って来たお盆には、美味しそうに、温かな湯気をあげるおにぎりと、味噌汁、そして卵焼きが並んでいた。 尾白は並べられた食事と黒鳥を交互に見つめる。黒鳥はそんな彼に微笑みかけると。 「良いのよ。遠慮せず、食べて。」 黒鳥がそう言うと、尾白はしばらく逡巡した後。 「…い、いただきます。」 そう言うと、ぱくっとおにぎりに口をつける。その瞬間、彼の脳裏に思い出が過ぎる。 研究所の何もない白い空間で毎日決まった時間に出される味気ない、パサパサとした食事。……そして、最早忘れかけていた、二年前まで自分が当たり前に食べる事が出来ていた、家族と食卓を囲んで食べた温かい食事を。 「………たい。」 目頭にと胸に熱いものが込み上げてくる。止めようと思っても止まらない。頬を温かい液体が伝う。 「家に……帰り……たい……。」 ボロボロと泣いて、嗚咽を漏らしながらも、食事を続ける彼を見て、黒鳥も酷く胸を痛める。 黒鳥はそんな彼の頬に手を添える。 「……任せて。私が、必ず貴方をお家へ返してあげる。」 「……天使、様……」 彼はもう、堪えきれなくなったのか、黒鳥の胸に飛び込むと、大声で泣き始める。 黒鳥はそんな彼の頭を撫でながら、それを受け入れる。 「……よしよし…。」 黒鳥がそう言って彼が泣き止むまで、抱きしめようとしたその時。 ドサッ、と何かが落ちる音がする。音がした方に眼を向けると、そこには眼を見開いて、呆然とこちらを見つめる黒髪の少女……赤羽の姿があった。 「あ…。」 「……あ、アンタ。ま、マジでやってたのね……」 「へ?」 「そ、その。趣味嗜好は人の自由だし、別に、私は、それを否定するつもりはないけど……犯罪は、よくないと思うわ……。」 泣いている少年を抱きしめている黒鳥、という絵面を見てどうやら何か勘違いしているのか、ドン引きした様子の赤羽に、黒鳥が慌てて弁明する。 「ち、違う!!赤羽!貴方は今とてつもない勘違いをしてる!」 「いやアンタ、その状態からどうやって言い訳するつもりよ。」 赤羽が黒鳥を訝しげに見つめていると、赤羽に気づいた尾白が声を上げる。 「お姉さん。天使様を信じてあげて。」 「……天使様?」 尾白の言葉に赤羽の黒鳥を見る眼がさらにジトッと鋭くなり、黒鳥の背筋を冷や汗がダラダラと流れ出す。 「……アンタ、まさかそこまでマニアックな……」 「いや、違っ!これには色々事情があって…!」 黒鳥が赤羽に弁明しようとしたその時。二人の直感がピクリ、と反応する。 常人では分かるはずもない微かな気配。だが、過去の世界において過酷な戦いを繰り広げた二人は気づく。 「赤羽。」 「えぇ。一旦この話の追求はしないでおいてあげる。」 「だから違うんだって…。」 そう言いながらも赤羽の右目に三つの瞳が一体化したような仮面“サダルメリクの瞳”を装着し、それと同時に身体の左半身と手足を覆うように翠色の装甲“雨四光”が装備される。 同じく黒鳥も蜘蛛を模したマスクを装着すると同時に腕に蜘蛛の牙を模した手甲が装着される。 そして黒鳥が手甲を床につけると、透明で細い糸が床に沿うように射出され、建物の隅々まで張り巡らされていく。 黒鳥は眼を閉じ、張り巡らせた糸に神経を集中させる。 「……相手は一回の勝手口から入ってこっちに向かって来てる。」 「そう。便利ね、それ。」 「中々使う機会は無かったけどね。」 張り巡らせた糸の振動によって敵の位置を把握した黒鳥の情報を元に赤羽が動く。 黒鳥は不安そうにこちらを見つめる尾白に微笑みかけると。 「部屋に隠れてて。すぐに終わらせるから。」 そう言うと尾白はコクコクと頷くと、部屋に戻る。だが、その部屋に入る直前。彼は黒鳥に。 「あの……お気をつけて。」 そう言って部屋に入りこちらを不安げに見つめる彼に、黒鳥は力強く頷いて返した。 「任せて。」 扉を開け、静かに、そして機械のように正確な動きで部屋をクリアリングしていく黒ずくめの集団が旅館の中を進む。 大の大人が二人並ぶのがやっとな細い通路を綺麗な縦一列で素早く進む彼らを見つけた赤羽は舌打ちする。 「…ただの泥棒、って訳じゃなさそうね。」 赤羽がそう言うと“サダルメリクの瞳”がキラリと輝く。 「……人様の家に土足で上がり込んだんだから、痛い目に会っても文句はナシよ。」 旅館を進む彼らの前に一人の少女が躍り出る。三つの瞳を模した仮面を右目につけ、日本刀を持った黒髪の少女と言う現実離れした姿を見た先頭の隊員は虚を突かれ、動きが止まる。 「何をしている!?」 反応が遅れた彼を守るために、隊長と思しき男が先頭の彼を後ろへと引っ張り、腰から警棒を引き抜いて、応戦しようとする。 今にも振り下ろされんとする刀を警棒で受け止めようとしたその瞬間。スッと。 まるで霞のように振り下ろされた刀は警棒をすり抜け、隊長の身体へと差し込まれる。 「ッ……!?斬られ……?」 しかし、その刀はスッと、警棒と同じように隊長の身体をすり抜け、それどころか少女自体が彼の身体をすり抜ける。 「こ、れは……!?」 謎の現象に隊長を含め、全員が目の前で起こった出来事に困惑したその時。 横から風の如く現れた“本物の赤羽”が逆刃に構えた刀で隊長の男の首を激しく打ち据える。 「おごっ…!?」 死角からの強烈な不意打ちにより、隊長の意識は一瞬で刈り取らられる。 「なっ」 突然の襲撃者に驚く隊員達の内、一番目の前にいた隊員の顎を赤羽がハイキックで蹴り抜く。 顎に衝撃を受け、脳を揺らされた隊員が倒れると、混乱していた他の隊員達もすぐに状況を理解し、反撃の構えを取る。 「このガキッ」 隊員の一人が消音器の着いた拳銃を赤羽に向けた、その次の瞬間。 何処からともなく飛んできた糸の塊が隊員達を吹き飛ばすと同時に壁に叩きつけて、そのままベッタリと隊員を拘束するように壁に張り付く。 糸が飛んで来た方を赤羽が振り向くと、そこにへ黒鳥の姿があった。 「邪魔だった?」 そう聞く彼女に赤羽はフンッと鼻を鳴らすと。 「別に。それよりも、他にもまだいるかしら?」 「いや。糸の感知に反応は無いから、多分今のところこれで全部。」 黒鳥がそう言うと、赤羽はそう、とだけ答え、壁に貼り付けられ、呻く隊員の首筋に刀を突き付ける。 「さて。んじゃあ吐いてもらおうかしら。“なんのためにこの家に侵入したのか”。」 刀を突きつけられ、青ざめる隊員に赤羽が尋問しようとしたその時。 ドゴォンッという音と共に壁が破壊され、粉塵と破片がその場にいた全員を襲う。 「きゃっ」 「!」 咄嗟に赤羽を守るべく、黒鳥は翼を出現させ、その身の丈程もある大きなそれで瓦礫から自分と彼女を守る。 「……ありがと、助かったわ。」 「礼には及ばない。それよりも、一体何が……」 パラパラと破片は落ちる音が響く中、ザッと、誰かが爆発で開いた穴から入ってくる音がする。 「おーおー。通信繋いどいて良かったなぁオタクら。」 入り口から剽軽そうにせせら笑う声が聞こえる。二人が目をやると、そこには黒のスーツに身を包み、青のメッシュの入った銀髪の女性がいた。 だが、何よりも異様なのはその手には彼女の背丈に届かんと思う程長身の刀を握っている事だ。 「“灰被姫”様が助けに来てやったぜぇ?」 女性はそう言いながらキョロキョロと辺りを見回し、黒鳥と赤羽を視界に捉える。 すると一瞬目を丸くしたかと思うと、二人に尋ねる。 「……アンタらがやったのか?」 「ええ。だとしたら何?」 赤羽が得体の知れない乱入者に敵意を剥き出しにしながらそう答えると、彼女はククッと醜悪な笑みを浮かべる。 「はーっ。なっさけねぇっ!大の大人がガキ二人に負けたってことか!情けねぇ情けねぇなぁ。だが安心しな嬢ちゃん。」 “灰被姫”の目が一瞬細くなったかと思った次の瞬間、彼女は迅雷の如き踏み込みで、一瞬にして距離をゼロにすると同時に刀を振りかぶっていた。 「そこの奴らと違って私は退屈させねぇからよ。」 「……ッ!!」 振り抜かれた刀を黒鳥と赤羽は屈みながら回避する。屈んだ彼女達のそのすぐ真上からガリガリ!!と壁を削る音がする。 二人が冷や汗を流す中、“灰被姫”は楽しそうに口角を釣り上げたまま、二人へと刀を構える。 「ほう。今のに反応するたぁっ、少なくとも嬢ちゃん達、パンピーじゃねぇなっ。」 「そう言うアンタはマトモじゃなさそうねっ!」 反撃と言わんばかりに赤羽が突き出した刀を、“灰被姫”はヒュゥと口笛を吹きながら、バックステップで回避する。 「殺気に飲まれず反撃まで!面白れぇなぁ、面白れぇなぁっ!こりゃ久々に楽しめそうだ!」 楽しそうに笑う彼女に、赤羽が刀を構えて対峙していたその時。 さらにドォンッという音が上の階から響き、それに混じって尾白の悲鳴が聞こえて来る。 「尾白君ッ!?」 「おっ、“赤ずきん”の奴かな?」 どうやらもう一人刺客がいたらしい。それにいち早く反応した黒鳥が上の階へと向かおうとする。 「行かせるか、っての。」 上の階へと向かおうとする黒鳥に、“灰被姫”が妨害のため投げナイフを取り出そうとしたその瞬間。 「させるかっ!」 赤羽が大腿部のホルスターから針のような武器、投擲貫通炸裂弾“椿”を彼女目掛けて投げる。 「おおっと。」 投げられた針を、“灰被姫”は身を反らして、回避する。だが、当たりこそしなかったが、その隙に黒鳥を上の階へと向かわせる事には成功する。 「へぇ。やるじゃない。」 「アンタの相手は私よ。」 赤羽はそう言って、刀の切先を彼女に突き付ける。 「ボコボコにして、警察に突き出してやるから覚悟しなさいクソ野郎。」 黒鳥は階段を駆け上がると、すぐさま尾白がいる部屋の襖を勢いよく開ける。 パァンッと襖を開けるけたたましい音が響く。 果たして、そこには今にも赤いローブを被り、全身を、顔までもマスクで覆った一人の人物が、意識を失っているであろう彼を抱えていた。 「尾白君!」 黒鳥がそう叫ぶと、ローブの人物、“赤ずきん”も黒鳥に気づき、窓へと向かう。 「逃すかっ!」 その人物を追いかけ、黒鳥が走り出そうとした瞬間、“赤ずきん”はポイッと何か黒色の球体を地面に転がせる。 その球体はコロコロと地面を転がりながら、黒鳥に向かっていき、彼女に近づいたその次の瞬間。 ドォンッと音を立てて激しい爆発起こる。爆発よりもいち早く開けた穴から飛び出ていた“赤ずきん”は腕からワイヤーを射出すると、それを使って旅館から素早く離れる。 「……こちら“赤ずきん”目標は確保した。今より帰投する。」 “赤ずきん”が通信機にそう言った瞬間。ゾクリ、とその背に突き刺すような視線を感じる。 「…!」 “赤ずきん”はすぐさま視線が飛んで来た方に振り返る。すると未だ爆煙に包まれた部屋で、何かが一瞬動いたように見えた次の瞬間。 爆煙を切り裂き、巨大な四枚の黒翼と、蜘蛛の顔のような形状の爪、蛇のような尻尾を生やした怪物と化した黒鳥が飛び出して来る。黒鳥は一直線に高速で、“赤ずきん”目掛けて突っ込んでくる。 「なんだと!?」 見たこともない怪物の出現に“赤ずきん”から思わず声が漏れる。 黒鳥はそのまま“赤ずきん”に掴みかかると、そのまま地面へと急降下する。 「まずいっ…!」 黒鳥の意図に気づいた“赤ずきん”は咄嗟に腰のホルスターから拳銃を引き抜くと、怪物へと向ける。 「!」 拳銃の引き金が引かれるよる先に黒鳥は“赤ずきん”を掴んでいる腕を離し、放たれた弾丸を避ける。 「チィッ……!」 拘束から逃れた“赤ずきん”は受け身を取ろうとする。しかし、黒鳥は彼女に向けて両手から糸を射出する。粘性のある糸はべちゃりと、尾白にくっつく。 「彼は返してもらう!」 黒鳥はそう言うと、糸を引っ張り、“赤ずきん”から尾白を取り戻す。 「しまった…!」 “赤ずきん”はマスク越しに顔を歪めると、地面に着地する寸前に身体を丸め、受け身を取ることで落下の衝撃を最低限度のダメージで済ませる。 「化け物がッ!」 “赤ずきん”はそう叫ぶと黒鳥に向けて発砲する。放たれた銃弾は黒鳥の手甲に弾かれる。 彼を腕の中に抱えた黒鳥はすぐに彼が怪我をしていないか確認する。 見たところ、彼に外傷はない。 「良かった……」 そう言って彼女がホッと胸を撫で下ろした瞬間。いきなりドスンッ!と彼女の身体に衝撃が走る。 「がっ……!?」 突然の衝撃に彼女は呻き、体勢を崩し、尾白を手放してしまう。 見れば彼女の身体に銀色の鳥のような機械がめり込んでいた。機械はそのまま加速し、黒鳥を連れて行くと、近くの空きビルの外壁と彼女を叩きつけた。 落ちて行く尾白の身体にワイヤーが巻きつけられ、“赤ずきん”がその身柄を確保する。 「チッ……まさか使わんと思ってた“ハンター”を使う羽目になるとは。」 “赤ずきん”は確保した彼を、合流した別部隊の傭兵の一人に渡す。 「この子を連れて行きなさい。くれぐれも丁重に。」 「は。」 「さて…あれでくたばってくれていれば良いんだけど…。」 “赤ずきん”がそう呟いた瞬間。衝突で穴の空いた空きビルの外壁から金属を潰すような凄まじい音が響いたかと思うと、そこからぐしゃぐしゃにひしゃげたドローン兵器“ハンター”が無造作に投げ捨てられ、それと同時にこちらを睨みつけながら黒鳥がその姿を表す。 「アレでくたばってはくれないか。」 そう言うと“赤ずきん”は傭兵に先に行くよう指示を出すと、拳銃を黒鳥に向けて構え直す。 「さて、怪物退治といきましょうか。」 「はははっ!ははははははっ!」 「うるさいわねぇっ!」 “灰被姫”の振るう長身の刀を避けながら、赤羽は悪態を突く。 目の前にいる女の驚嘆すべき所は自分の背丈ほどもある刀を、自在に振り回すその膂力だ。振るわれる巨大な刀を見る度、赤羽の脳裏には、この一撃を受けてはならない、と警告が飛ぶ。 (まともに受けたら、こっちの刀が折れる!受け流すか、かわすしかないっ!) (ほほぅ。この嬢ちゃん、よく見てやがる。度胸だけじゃない。斬り合いの経験までアリ、か。) “灰被姫”は懐に手を突っ込むとそこから取り出した何かを赤羽に向けて、バッ!と振り撒く。 それは黒い粉状の何か、だった。 (……粉?) 「コイツは見たことあるかい!?」 “灰被姫”はさらに何か銀色の物を取り出す。彼女がそれのネジの部分を擦ると火花が散る。 そしてそれを粉に向かって投擲した次の瞬間。 一瞬にして粉に火花の火が燃え移り、凄まじい破裂音と共に爆発が起こる。 「!!?」 突然目の前で起きた爆発に赤羽は大きく吹き飛ばされて床に叩きつけられる。 「がっ……!?」 床に叩きつけられ、肺から空気が漏れ、背中に痛みが走る。 爆発のダメージを受けた赤羽を見ながら、“灰被姫”は嗤う。 「はははっ。どうだコイツは?結構効くだろう?粉塵爆発って奴だ。」 「ぐっ……」 「その様子じゃ、結構気に入って貰えたみたいだなぁ!」 壁に持たれながら立ち上がる赤羽を見て、“灰被姫”は再び懐から黒い粉をばら撒く。 「させるか!」 だが、赤羽は彼女が火種を撒くより先に“椿”を投擲して、牽制する。 「おっと。対応が若いねぇ。」 赤羽の牽制に“灰被姫”の動きが一拍遅れる。そしてその隙に彼女は駆け出していた。 赤羽は刀を構えて、爆発的な加速で“灰被姫”に一気に近づく。だが彼女はニヤリと笑うと、今度は後ろのベルトポーチに手を突っ込む。 「気分転換にコイツはどうだい!?」 そう言うと彼女は今度はポーチから灰色の粉をばら撒く。ばら撒かれた粉を、赤羽は“サダルメリクの瞳”を通して見て、気づく。 (これは、石灰──!!) そう、“灰被姫”がばら撒いたのは石灰……目に入れば失明の危機がある、危険な代物だ。 旅館の狭い廊下では左右に避けてかわすことは出来ず、石灰を被るまいと赤羽の脚が止まる。 それを見た“灰被姫”はニヤリと笑うと。 「おいおい。立ち止まっていいのかい?」 そう言うといつの間にか持っていた火種を赤羽に向けて投げつける。 ──いや、正しくは赤羽の周りに漂う引火する粉に、だ。 「しまっ」 赤羽が防御するより速く、粉に引火し、暴力的な炎が赤羽に襲いかかる、爆煙が一瞬にして彼女を包み込む。 もくもくと煙が充満する中、“灰被姫”が笑う。 「ま、ガキにしちゃ、中々やるようだったけど……これで終わり、だねぇ。」 確実に彼女を始末したと確信した“灰被姫”が刀を納めようとしたその時。 「まだ終わってないわよ。」 三つの瞳を輝かせ、爆煙を切り裂いて赤羽が躍り出る。その身に多少の傷や、服に焦げがあるものの健在の彼女を見た“灰被姫”の目が驚愕のあまり大きく見開かれる。 「──なっ」 確実に仕留めたハズ。あの距離の爆発で少し服が焦げた程度などありえない。 その動揺は致命的な隙を生む。赤羽の刀が唸りをあげて振るわれ、“灰被姫”を酷く打ち据える。 「ごっ……!?」 勢いそのまま彼女は吹っ飛んで壁に叩きつけられる。だが、赤羽の目はまだ警戒を解いていない。 (チッ。今の一瞬で右手を間に挟んだ!) 動揺しても、本能が彼女を動かしたのか、赤羽が意識を刈り取るつもりで放った首筋に向けての逆刃の一撃を、“灰被姫”は寸前に右腕で防御するように差し込んだ事で、致命の一撃をギリギリで回避したのだ。 逆刃とはいえ、下手をすれば腕を失うような、思い切った防御のお陰で彼女は意識を失わず、ギロリと赤羽を睨みつける。 「うおぅらぁああっ!」 追撃を仕掛けようとする赤羽を無理矢理追い払うように“灰被姫”は刀を振るう。 「チッ。」 狭い通路では左右にかわすことは出来ないため、赤羽はバックステップで回避する。 「何でテメェ、生きてんだ……!?」 「あの程度の火遊びで私を仕留められると思ったら大間違いよ。」 忌々しそうにこちら睨む“灰被姫”に赤羽は飄々とした態度で言うが。 (……まさか、人間相手に奥の手を使わされるなんてね。) そう。爆発の瞬間、赤羽は奥の手──数秒だけ自身を幻とする事であらゆる攻撃をすり抜ける“酔生夢死”を使用し、直撃を避けたのだ。 勿論、奥の手に見合うだけの体力を消耗する、おいそれと使えない技ではある。 現に、冷静こそ装っているが、赤羽の息は上がり、長期戦は厳しい状態だ。 “灰被姫”は刀を赤羽に突きつけたまま、呻きながら体勢を立て直す。 彼女も彼女で、先程赤羽の一撃を受け止めた右腕が痛みでジンジンと痺れる。 (チッ……こりゃ骨にヒビが入ったか…?白兵戦はキツイ。粉で仕留めるか…?) じり……と二人が睨み合ったまま間合いを測っていたその時。何処からともなくサイレンの音が聞こえ、それはどうやらこちらへと向かってくるようだ。 「タイムオーバーか。ま、派手に暴れ過ぎたしな。」 爆発音を聞きつけた誰かが通報したのだろう。迫るサイレンを聞いた“灰被姫”は撤退しようとする。 「人の家荒らしといて何帰ろうとしてんのよ。」 赤羽が逃げようとした“灰被姫”に追撃しようとするが、それを遮るように彼女は腰のホルダーから黒い塊……爆弾を取り出すと床に投擲する。 「ッ!」 「悪いが、俺は残業しない主義でね!」 ボォンッと音を立てて、閃光と煙が一面に広がる。あまりに強い光に赤羽が怯んで立ち止まったその隙に、“灰被姫”はその場を後にする。 「ははは!あばよ!」 「待て…ッ!」 赤羽の視界が開けた頃には、彼女の姿は影も形もなかった。 「逃げたか……。」 ひとまず脅威が去った事を確認すると、赤羽は刀を納める。 そして赤羽は携帯を取り出すと、ある人物に電話をかける。 「もしもし。ちょっとアンタに頼みたい事があるんだけど。」 横槍を入れてきたドローンを握りつぶした黒鳥が顔を出すと、こちらを見る“赤ずきん”と、尾白を抱えてこの場から離脱しようとする傭兵姿があった。 「!逃がさない……!!」 黒鳥が翼を翻し、傭兵を追おうとしたその時。 パァンと破裂音がし、黒鳥が咄嗟に防御の姿勢を取ると、構えた手甲に当たり、弾丸が弾かれる。 見れば彼女に向けて拳銃を構えて発砲する“赤ずきん”の姿があった。 「あの子の所へは行かせないッ!」 黒鳥は放たれる弾丸を手甲で防ぎながら、飛び立つと“赤ずきん”の目の前に降り立ち、怪物形態から手甲のみを残して翼と尻尾を引っ込める。 (人間相手に“キメラ”は強すぎる…“スパイダー”で無力化する!) 「このっ!」 黒鳥が手甲を突き出し、放たれた糸が“赤ずきん”へと向かう。 しかし、“赤ずきん”はその攻撃を身を翻して回避する。だがそれも黒鳥も織り込み済みのようで、避けた隙をついて距離を詰める。 「チィッ」 “赤ずきん”が向かってくる黒鳥に対して銃を撃つが、彼女は手甲でガッチリと防御を固めると放たれた銃弾を全て防ぎながら足を止める事なく前進する。 「…!」 「せいっ!」 完全に距離を詰めた黒鳥の繰り出すハイキックが“赤ずきん”の拳銃を蹴り上げる。 「くっ」 得物を失った“赤ずきん”に黒鳥が手甲を振るう。しかし彼女もすぐさま反応し、身を屈めてその攻撃をかわす。 さらに反撃と言わんばかりにポケットから取り出したナイフを黒鳥へと向ける。 「!」 黒鳥は向けられた腕を掴み、その凶刃を止める。しかし“赤ずきん”が柄のスイッチを押し込むカチリ、という音が響く。 次の瞬間ナイフから彼女目掛けて刃が射出される。 「!!?」 仕込みナイフ“スペツナズナイフ”に度肝を抜かれた黒鳥の反応が一瞬遅れる。 その一瞬が致命的だった。放たれた刃は黒鳥の目の上を切り裂き、傷口から大量の血が溢れ、流れた血で黒鳥の右眼の視界が塞がる。 「うあっ…!?」 「油断したな!」 “赤ずきん”の鋭い蹴りが黒鳥の腹部を捉える。ブーツに鉄でも仕込んでいるのか、普通の蹴りでは鳴るはずのない硬いものがぶつかる鈍い音が黒鳥から響く。 「ぐっ……!!」 予想外の衝撃に黒鳥が体勢を崩れる。その隙に“赤ずきん”はさらに縄の先に刃物がついた“縄ヒョウ”を取り出すと、それを蹴り上げて彼女へと放つ。 「!」 彼女がすぐさま反応し、身を翻して避けようとする。 「……!?」 だが次の瞬間ガクッと、黒鳥の足から力が抜け、全身が痺れるような感覚が走る。 そのせいで満足な回避が出来ず、黒鳥は咄嗟に手甲で急所を隠し、防御を固める。 「──シッ!」 だがそれを見た“赤ずきん”が縄に指を這わせ、動かすと縄は黒鳥の防御をすり抜け、下に落ちて太ももに突き刺さる。 「うぅっ!!」 「どうだ。ナイフに塗ってあった筋肉弛緩剤のお味は。」 “赤ずきん”がそう言って“縄ヒョウ”を引き抜こうと力を込める。だが黒鳥は痛みで呻きながらも縄を掴んで回収を防ぐと同時にもう片方の腕の手甲から糸を射出する。 「!」 “赤ずきん”はすぐさま“縄ヒョウ”を手放し、糸の攻撃を避けつつ脚のホルスターからナイフを引き抜き、逆手に構える。 「くっ……いった……!」 黒鳥は刺さった“縄ヒョウ”を抜き取り、相手を睨む。毒で上手く力が入らず、震えながらも黒鳥はマスクに触れる。 すると、蜘蛛を模したマスクが蛇の顔を模した物に変わり、その腰から大蛇のような尾が生える。 それを見た“赤ずきん”はナイフを構えながら少し呆れたように言う。 「おいおい。なんなんだその手品は…」 「貴方程芸達者じゃないけどね…!」 黒鳥はそう返すとジッと睨み返す。だが“赤ずきん”はナイフを持っていないもう片方の手で懐から苦無を取り出す。 「悪いがさっさとケリをつけさせてもらう!」 彼はそう叫ぶと苦無を黒鳥に向けて投擲する。 「!」 投げつけられた苦無を黒鳥は尻尾を振るって弾く。だが投げたと同時に駆け出した“赤ずきん”はその隙に彼女をナイフの射程圏内に入れる。 (毒でまともに動けんコイツを狩る事など…!) 筋肉弛緩剤の影響で満足に動けない目の前の獲物を狩る事など容易い…これで決着が着く……“そのハズだった。” だが“赤ずきん”が突き出したナイフを持つ腕を黒鳥は横から素早く叩く事で華麗に受け流す。 「なッ」 「フッ!」 黒鳥はさらに“赤ずきん”に組み付くとその腹部に膝蹴りを叩き込む。 よろめいた彼にさらに素早く尻尾による痛烈な殴打を浴びせかける。 「うごっ…!」 “赤ずきん”が地面を転がる。だが“赤ずきん”はすぐさま立ち上がり、黒鳥と対峙する。 (……手応えを感じなかった。当たる寸前で後ろへ跳んで勢いを相殺した…!) “赤ずきん”は黒鳥の睨み合いながら思考を巡らせる。 (…馬鹿な。毒は効いていたハズ。こんな短時間で治るハズがない。どんな絡繰を使った…!?) “赤ずきん”が見る限り、彼女は今、毒を喰らう前の様に動けている。少量でも入れれば大の大人でも半日は痺れが取れない代物であるのに、だ。 一方の黒鳥も目の前の相手に思考を巡らせる。 (……この“蛇”で解毒出来たのは良いけど……“蜘蛛”の様に簡単に無力化は出来ない。) 黒鳥の力は全力を出せば、簡単に人を殺せてしまう。だが人殺しは黒鳥の望む所ではない。 出来る事であれば無力化が望ましいのだが、目の前の相手はそれが出来る様な相手ではない。 だが、目の前の相手に黒鳥はどうしても言いたい事があった。 「…貴方達、なんであの子に執着するの?親元から引き剥がして!酷い事をしているって思わないの!?」 黒鳥が叫ぶ。それは黒鳥がずっと思っている事だった。彼は泣いていた。親元に帰りたいと。それを引き剥がし、望まない実験に付き合せていた事に黒鳥は憤りを抑える事が出来なかった。 だが、それを聞いた“赤ずきん”は少し顔を俯かせると、絞り出す様に言う。 「……貴方には分からない。あの子は、普通の社会で生きていけない。」 「……え。」 “赤ずきん”の言葉に黒鳥が一瞬戸惑う。その隙を“赤ずきん”は見逃さなかった。 「表層しか見ていない貴方が首を突っ込む問題ではない!」 そう叫ぶと“赤ずきん”は筒状の何かを黒鳥に投げつける。 「しまっ」 黒鳥の反応が一拍遅れる。彼女が何か行動を起こすより先に筒状の何かは空中で強烈な光と猛烈な音を撒き散らす。 「ぐっ──!」 黒鳥の視界がホワイトアウトし、鼓膜と共に脳が揺さぶられ、平衡感覚が曖昧になり、立っていられなくなる。 大半の感覚器官をやられた黒鳥は咄嗟の勘で、マスクに触れる。 「トドメだ!」 黒鳥に向けて放った“赤ずきん”の爆弾が黒鳥に炸裂する。爆発が起き、黒鳥は爆炎に呑まれ、空に黒煙が昇っていく。 「……馬鹿な奴め。」 辺りに拡がる爆煙を眺めながら“赤ずきん”はそう呟くと、その場を後にする。 もうもうと煙が立ち込めていたが、煙が晴れると黒い塊があった。 “それ”が身震いするように動くと、バサっ!と大きな音と共に閉じていた翼を拡げて、突風と共に煙を切り裂き、黒鳥が姿を現す。 多少服が焦げ、擦り傷があちらこちらに見受けられるが、咄嗟に“烏”のマスクに触れ、背から生やした硬質化させた翼で防御した黒鳥は健在だった。 閃光弾によって乱された感覚にふらつきながらも、黒鳥は先程まで“赤ずきん”がいた場所を睨む。 「……このままじゃ、終わらせない。」 黒鳥のその言葉に呼応するように、一羽の烏が空へと飛び立った。 To be continued…
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無藤 来夢 タグ一覧 天使と悪魔は同じ空を見上げられるか 符号保持者 創作注意事項 ネタやパロディOK、 各種創作に自由に使ってOK カラーや服装のアレンジ可 うちの子に声がついたよ ムムの声優 柚春マツリ様のTwitter イラスト提供 奇桜八重様のTwitter 概要 プロフィール 愛称 ムム 本名 無藤来夢 年齢 9歳 誕生日 6/6 身長 124センチ 体重 18.2キロ 一人称 私(あたし) 二人称 あんた 好きなもの 犬 柔らかい布団 嫌いなもの 親 騒音 幸せそうな人 趣味 ごみ捨て場探索 犬を撫でること 人物像 無愛想で無表情。人間を恨んでいる。ネガティブで臆病な面もあり、そんな自分も恨んでいる。 親に暴力を振るわれているため、大人が怖い。 またとても貧乏であり、自分と真逆な優木リリの事が大嫌いなようだ。 リリと仲良くなってからはよく笑うようになった。明るく何も考えていないリリに、呆れたような顔をすることもある。 容貌・服装 基本的に季節感の無い服装をしている。 白いシャツや青い吊りスカートは何日も洗っていない。 長くボサボサな髪を後ろで無造作に縛っている。 女児符号 設定練り直しのため一次的に閉鎖 +コトノハバース・クロスオーバー注意 8年後ムム。 相棒の覚声機はランクB『レプラコーン』 ムムが覚声機と呼ばれる不思議な機械を入手した事により発現した覚声符号。 ランクBだけあって対した能力は無く、使える物は一つだけ。 金を産み出すことだけである。 ただし、『所有者に不幸をもたらす金』だ。 例えばムムから貰った金で株を買うと、必ず暴落して破産する。 例えばムムから貰った金で車を買うと、必ず死亡事故が起こる。 たったそれだけの能力である。 表では葬儀屋をしており、裏でもSirius(シリウス)所属のESP(執行者)の一人。 捕縛されたノイジャーに金を渡し、その者の破滅を見届けるのが生き甲斐である歪んだ性格。 相棒のリリと共に活動しているが、そこまで重要なポジションではない。 『Sirius』であることを誇りにし、ノイジャーを裁く事を生き甲斐としている。 当然リリも同じ気持ちだと思っていたが……… 登場作品名 天使と悪魔は同じ空を見上げられるか 関連人物 リリ 『ママ』の正体?→?? 関連イラスト 頂いたイラスト 鮎先生作 鮎先生のTwitter ラト先生作 まるい。先生作 奇桜八重先生作 あかね先生作 そこんとこタマモーシャ先生作 KMD先生作 テュモ先生作 テュモ先生のTwitter トリカブト全般の花言葉 「騎士道」「栄光」「人嫌い」「厭世家」「復讐」
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ここに作品タイトル等を記入 更新日:2022/07/14 Thu 23 46 02NEW! タグ一覧 セブンスカラー 「ぐっ、おおおおお?」 殴られた衝撃で怯む龍姫に龍香はさらに拳を振るいながら叫ぶ。 「皆を見下すなっ!皆を蔑むなっ!皆を、バカにするな──ッ!!」 龍香は突然の猛攻に呆気に取られる龍姫に自分の額を叩きつけて頭突きを見舞いする。 「皆ッ!皆必死に生きていたのに!“新月”の皆も!シードゥス達だって!皆自分の信じるもののために一生懸命戦って!必死だった!!それなのにっ、貴方は!!」 「ぐっ、このッ!!それが、どうしたって言うんだッ!」 殴られながらも、杖を構えると龍姫はそれを振るう。 《龍香!後ろだ!》 「ッ!」 龍香はカノープスの声に従い、後ろに落ちていた“タイラントブレイド”を拾い上げると、杖の一撃を受け止める。 さらに龍香は一撃を受け止めながら反撃のために“タイラントブレイド”を振るう。 (な、に?) “ティラノカラー”であるにも関わらず互角に打ち合う龍香を見て、龍姫は驚きの色を隠せない。 (な、なんで!?何でこいつはこの形態なのに私と互角以上に渡り合えている!?おかしい!こいつがこんな短期間で……!いや、待て?) 龍姫の脳裏にある事が過ぎる。 (もしかして、逆か?奴が強くなったんじゃない。“私が弱くなった”のか?) 五分に打ち合う二人をカノープスは見つめる。 (そうだ。こっちも限界が近いが、龍姫の奴だって無限に強いって訳じゃない。赤羽、ピーコック、トゥバンが命を賭して与えたダメージも完全には癒えていない。それに、さっき雪花とアンタレスの毒のダメージがアイツをここまで弱らせている!!) 龍香は剣で杖を受け止めると、片手を剣から手放して龍姫を殴りつける。 「うぐ、お?この、私が押されている?こんな、もう力もほとんどないガキに!?」 龍姫はギリっと歯軋りをすると龍香の振るう一撃を弾いて蹴り飛ばし、跳躍して眼下の龍香に左手を翳す。 「潰れろッ!」 龍姫から巨大な氷塊が龍香に向けて放たれる。 《やばい避けろ龍香!》 「ッ!」 龍香は持てる力を使って地面を蹴ってその氷塊の一撃を避ける。しかし円盤に氷塊が炸裂した事で足場が崩落し、龍香はそれに巻き込まれてしまう。 「きゃあああああ!?」 崩落に巻き込まれた龍香は全身を強く打ちながら落下していく。そして気がつけば龍香はかなり深いところまで落ちたようで、穴が遥か上の方に見える。 《大丈夫か龍香?》 「うん…なんとか。…早く、上がらないと。」 龍香は何処か登れる所はないかと辺りを見回す。そして気づく。玉座のような椅子の背後にある妖しく胎動する不気味な光を放つ球の存在に。 「なに……これ?」 「チッ、厄介なとこに落ちたわね。」 龍香がその光球を見ていると、同じく降りてきた龍姫が降り立つ。 「冥土の土産に教えてあげるわ。これこそが世界を変える鍵にしてエネルギーを貯める壺。そしてこの溜まり具合からして、もうエネルギーは充分溜まったようだわ。」 嗜虐的な笑みを浮かべる彼女を龍香は睨みつける。 「いや?寧ろちょっと溜めすぎたかもしれないわ。貴方に倒されたシードゥス達と貴方のお友達の命まで吸わせているから。」 龍姫は杖を構えて龍香に向ける。 「後はカノープス。アンタを生贄にして、私は世界を変えるわ。」 「……そうは、させない。これ以上何も奪わせない。」 龍香は龍姫に剣を向ける。しかし龍姫はニヤリと笑うと、光となってその場から消える。 「!」 そして後ろへと瞬時に回り込んだ龍姫の一撃が龍香を捉える。咄嗟に防御し、剣を振るうが、またもや龍姫はその場から消える。 「くっ」 今度は右から蹴られて龍香は床へと転がる 《クソッ、アイツ急に速く…!》 「普段は疲れるからこれはやらないんだけど…あと少しで目的が達せられる以上…。」 龍姫は光となって龍香の上を取ると柄頭を倒れている龍香に打ち込む。 「う、あっ!?」 「手段は選ばないわ。」 「うああああ!」 杖で突かれた鈍い痛みに耐えながら龍香は剣を振るうが、龍姫はまたもや消える。 龍香は龍姫を目で追いかけようと目を忙しなく動かすが、文字通り光速で動く彼女に龍香は翻弄される。 「はぁっ……はぁっ……!」 《落ち着け、龍香。》 「でも……!このままじゃ…!」 《だからだ。冷静になれ。いたずらに体力を消耗するな。一見奴は更なる手札を見せたように見えるが、その実奴は追い込まれている。》 「え?」 カノープスの言葉に龍香は頭に疑問符を浮かべるが、彼は続ける。 《奴は今激しく消耗している。現に三つの光の刃も障壁も奴は出していない。今の奴は光速移動でこちらを撹乱するのが精一杯なんだ。》 「で、でもこっちだって攻撃出来ないよ!」 現に何とか“ティラノカラー”の変身は維持できているものの、最早二人に他の色に変わることも、強化形態になることも叶わない。 あちらが追い詰められていても、こちらからも手出しが出来ないのでは意味がない。 《……俺に考えがある。龍香。“タイラントブレイド”の効果を覚えているか?》 「えっ、確か斬ったものの能力を無効化して自分のものにするんだよね。」 《そうだ。そして一か八かだが、丁度良さげなものがあるな。》 カノープスの言葉に龍香も彼の狙いを理解する。 「カノープス……もう、私達には。」 《あぁ。もう。俺達が奴に勝つには、これしかない。》 「……うん!行こう!!」 そう言うと彼女はダッと走り出す。その向かう先には光球があった。 剣を構えて走り出す龍香を見て、龍姫は龍香の狙いに気づく。 「まさか、勝てないと見て、せめて光球を破壊しようって魂胆か!」 龍姫は龍香の狙いを察すると光速で龍香の前に立ち塞がるように現れる。 「!」 「そうはさせるか!」 龍姫は龍香の向けて杖を振るう。龍香は振るわれた杖に対して姿勢を低くし、スライディングのように滑り込む事でその攻撃を回避しながら光球へと向かう。 「うおおおおお!」 さらに龍香は地面を蹴って剣を突き出す。しかし、スライディングからすぐに立ち上がって振るったと言うこともあり、その刃は光球の端を掠めるだけで破壊するには至らなかった。 健在の光球を見て、龍姫は龍香を嘲笑う。 「は、はははっ。焦らせて……けど最後の作戦も無駄だったようね。」 《……そいつはどうかな。》 「何?」 《俺達の目的はこの光球を破壊する事じゃない。》 龍香が立ち上がって振り返ると、そこには強く輝く“タイラントブレイド”があった。 それを見た龍姫は彼女達の狙いに気づく。 「まさか、アンタ達のホントの狙いは……!」 「……貴方が見下した皆の力で。私は勝つよ。」 龍香は深呼吸して、一旦心を落ち着けると叫ぶ。 「これが私達の最後の手だっ!!」 《行くぞ龍香!!》 龍香が剣を構え、“タイラントリフレクト”に普段収納している方とは逆方向に突き刺す。すると剣と盾はより一層輝き、龍香の体も光を放ち始める。 装甲とドレスに光のラインが走り、龍香の左眼が晴れ渡る空の如き蒼に染まる。そして背中からも光が放たれ、それは徐々に形を変化させ、まるで翼のように龍香の背に固定される。 そして剣の柄が伸び、盾も展開して両刃の戦斧槍(ハルバード)となり、龍香はそれを構える。 《魂飛魄散!!ティラノカラー・ドミネイト!!》 「何……ッ!?まさか、光球の力の一部をモノにしたと言うのか!?お前がっ…!?」 龍香の変貌した姿を見て、龍姫は後ずさる。 「勝負だぁ──ッ!!」 新たな姿へと変わった龍香は龍姫に向けて一気に飛翔する。龍姫は咄嗟に杖を振るい、光の刃を放つが、龍香の左眼が輝く。 「赤羽さんっ!」 放たれた光の刃が龍香の身体を貫いたかに見えたが、龍香の身体に傷ひとつ無い。そう、まるで龍香の身体は幻かのように光の刃をすり抜けたのだ。 「ぐっ、この技は!?」 「龍斗お兄ちゃん!」 次の瞬間またもや左眼が輝き、龍姫の目前まで迫った龍香は水を纏った戦斧槍を振るう。 龍姫がそれを杖で受け止めるが、戦斧槍と杖がぶつかった瞬間水が弾けて凄まじい衝撃と共に龍姫をぶっ飛ばす。 「ぐっ、お、おぉおお!?この技は龍斗の……!」 「お兄ちゃん!トゥバン!」 龍香は龍姫に戦斧槍を投げつける。慌てて龍姫はそれを杖で防御するが、当たった瞬間赤黒い雷撃が弾けて龍姫の動きを制限する。 「雷激貫爪脚!!」 龍香がそのまま柄を押し込むように繰り出した蹴りは龍姫をさらに吹き飛ばす。 「ふざけるなっ…!龍香が、他の奴の能力を使える!?ふざけるな…!そんな事が、そんな事が許されてたまるかぁ──ッ!!」 龍姫はそう吼えながら龍香に向けて巨大な光の刃を放つ。 「月乃助さんっ!ピーコックさんっ!」 龍香は両手で生成した光の球を刃に向けて投げつける。それは刃に当たると爆発し、攻撃を相殺する。 煙が巻き上がる中、それを切り裂いて飛んできた糸が龍姫を雁字搦めに拘束する。 「ぐおっ!?」 「黒鳥さんっ!そして!」 龍香の背から蠍のような尻尾が生え、それが彼女の右腕に巻き付くと、青白い光を放つ。 「これが雪花ちゃんとアンタレスの力!デッドリー•ポイゾネス•ピアシング!!」 龍香が突き出した右腕が拘束されて動けない龍姫に炸裂し、彼女はそれをまともに受けて地面に背をつける。 《どうだ龍姫!これが!ここまで龍香と俺を立ち上がらせ続けて来た結束の力だ!!》 カノープスの言葉に龍姫は顔を起こしながら、忌々しげに彼女を睨み付ける。 「……だからぁ。それがなんだって言うのよ!!信じる人のために戦える?仲間と一緒なら乗り越えられる?馬鹿の一つ覚えみたいに…!」 龍姫はまるで幽鬼のようにゆらりと立ち上がり、龍香へと自分の中の全ての怨みを吐き出すように叫ぶ。 「だったら教えなさいよ。その信じた奴に裏切られてさぁ、一生消えない傷を負わされた私はどうすれば良かったの!?ただ黙って嘲笑われていれば良かったの!?ずっと泣き寝入りしていればよかったの!?誰も答えを教えてくれなかった!!パパもママも龍斗も!アンタみたいに誰も彼もが周りに恵まれている訳じゃないのよ!」 怨嗟を喚き散らす龍姫を龍香はジッと見つめる。 (あぁ、きっと。) きっと。目の前の彼女はもしかしたら。何処かで諦めてしまい、他人を信じる事が出来ない自分自身なのかもしれないと龍香は思えた。 だが、だからこそ。龍香は戦斧槍を下ろす。 「……それはそうだよ。だってその答えはきっとお姉ちゃん自身が時間をかけて自分の気持ちに整理をつけて答えを出すべき事なんだから。」 「……何ですって?」 「……確かにお姉ちゃんが受けた痛みや悔しさもかなり辛かったとは思うよ。けど。だからってそれを他人にして良いはずがない。貴方がやった事は自分がされたことを他人にして、“同じ立場”の人間を産み出しているだけ!どうして、こんな酷いことが出来るの!?突然何かを奪われる辛さはお姉ちゃんが一番良く知っているハズなのに!」 「うるさいっ!!うるさいうるさいっ!いいじゃない!どうせ世界が変われば生き返るんだから!信じられる人だって私がそういう風に世界を変えれば……!!」 龍香に武器を突きつけられながらも、龍姫は叫び返す。そんな彼女に龍香は。 「お姉ちゃん!逃げないで!前を向いて!」 龍香の言葉に龍姫が黙る。 《…そんなやり方をしたってお前はずっと一人ぼっちだぞ。……そんなの、悲しいだけだ。》 「…お姉ちゃん。確かにね。裏切られるのは辛い。私だってどうしたらいいかすぐには分からない。…けど、ひとりぼっちはもっと辛いよ。」 龍香はそう言うと、龍姫に手を差し出す。 「……お姉ちゃんがしたことは決して許されることじゃないし、償っていかなきゃいけない事だと思う。けどもし、お姉ちゃんが一人じゃ向き合えないなら。私達が側にいてあげる。お兄ちゃんだって、きっと……」 「ふざけるな……」 「お姉ちゃん…?」 龍姫は杖を構えると、光となって消える。 「今更!やめられないわ!もう、私は引き返せないのよっ!」 龍姫は一瞬にして龍香を杖の間合いに捉える。龍香もすぐに戦斧槍で振るわれる一撃を止めるが、彼女はそれでも尚杖を振るい続ける。 「そんなに止めたければ!力づくで止めなさい!!」 「……分かった。」 龍姫にそう返すと龍香は戦斧槍に渾身の力を込める。そして次の瞬間互いに振るった一撃が、互いの武器を破壊する。 「なっ」 龍姫が呆気に取られている間に龍香は飛翔し、右手で召喚した“タイラントアックス”を掴むと急降下しながらそれを振るう。振るわれた斧からは七色の光の軌跡が溢れる。 「タイラントトラッシュ!!」 「“征服王の侵略聖光刃”!!」 龍姫は右手を翳し、巨大な光の剣を纏った光輪を放つ。二つはぶつかり合い、凄まじい衝撃を生み出す。 「はぁぁぁぁぁっ!!」 《うおおおおおおお!》 龍香とカノープスの叫ぶ。しかし龍姫の技の威力は凄まじく、龍香の全力を持ってしても押し込む事が出来ない。 「ぐっ、ううううう!!」 「どうしたの?結束の力があれば!私を倒せるんでしょう?早くやってみせなさいよ!!」 龍姫の技の勢いがさらに増す。この技に全力を注いでいるのだろう。 「負、ける、かぁ……ッ!」 思わず龍香が苦悶の声を漏らしたその瞬間。そっと、龍香の手に誰かが手を添える。 「えっ……」 龍香に手を添えていたのは、桃色の長い髪を靡かせる物腰柔らかそうな女性と赤茶の髪の快活そうな男性……母の龍那と父の鯉昇の姿だった。 「お母さ……」 《お前……》 言いかけて、龍香とカノープスはふとあることに気づく。自分自身を支えてくれる多くの人たちが後ろにいる事を。 「皆……。」 《お前ら……っ》 皆言葉は発さない。だが表情だけで彼らの気持ちは理解出来た。皆、自分達の勝利を願っている。 次の瞬間には龍香の勢いが盛り返し、徐々に刃を押し返していく。 「ば、か、な。龍香の後ろに、人が……?」 龍姫も負けじと力を高めるが、先程とは違い、龍香の勢いを上回る事が出来ない。 「ふざ、けるなっ……!これが結束の力…なんて……!認めるか…っ!」 龍姫は汗を流しながら呻く。この力を龍姫は認める訳にはいかなかった。 (人は裏切る…ッ!信頼なんて絵空事ッ!所詮人間最後は一人なんだから…ッ!そうよ…そういうものなのっ!だから私は世界を変えるのッ!だって、そうじゃなくちゃおかしいじゃない!そうじゃなきゃ、私の、私のしてきたことは…!?) 「私は、私はァッ……!!」 龍姫が苦悶の声を上げたその瞬間。そっと、その手に誰かが手を添える。 「なっ……」 龍姫がその手の先を見ると、そこには龍斗と父と母がいた。三人は彼女の腕を軽く握ると微笑む。龍斗は彼女の腕を掴みながら首を振る。 「…なんでっ、龍斗、達が。」 《!龍香!今だッ!》 龍姫の勢いが一瞬弱まる。二人はその隙を逃さず、最後の力を振り絞る。 次の瞬間ピシッとヒビ割れるような音がする。その直後ヒビはドンドンと拡がっていき、とうとう龍姫の技を粉々に打ち砕く。 「──あ」 「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」 最早声にもならない絶叫と共に七色の光の軌跡を描きながら龍姫に斧が振り下ろされる。 龍姫は防御することも無く、その一撃を喰らう。鮮血が飛び散り、自身から溢れる血を何処か他人事のように見ながら龍姫が膝を着くと、変身が解除される。 一方の龍香も着地すると同時に変身が解けて、元の姿に戻る。 《はぁっ…はぁっ……!やったな、龍香…。》 「う、うん。」 龍香は振り返ると、自分の血の海に沈む龍姫を見下ろす。 「お姉ちゃん……」 苦渋の表情を浮かべる龍香に、龍姫は力なく笑う。 「……なんて、顔をしているのよ。アンタは私に勝った…勝ったのよ……。」 「……。」 龍香は膝をつくと龍姫の手を取る。龍姫は自分の傷口の深さから最早永くないと察したのか。 「は、ははは……なんて、ザマよ。見なさい龍香。これが向けられた愛に、誰かを信じる事から逃げた……馬鹿な女の末路よ。」 「…お姉ちゃん。」 龍姫は力なく笑っていたが、徐々に笑い声は鎮まり、彼女の瞳から涙が溢れる。 「笑いなさいよ。こんな……惨めな…わ、た……し、を」 懇願するように龍姫はそう言いかけると、彼女の手から力が抜け、糸が切れたように脱力する。 龍香は彼女の顔に手をやると、その眼を閉じさせる。 「……笑わないよ、お姉ちゃん。」 龍香はそう言って立ち上がると、ついに光球に向き直る。 「…カノープス。これが……」 《あぁ。こいつが、世界を作り変える鍵だ。》 次の瞬間龍香の頭に着いていたカノープスが強烈な光を発する。 あまりの眩しさに目を閉じた龍香が、再び目を開けると、そこには筋骨隆々の恐竜の骨のような装甲を纏った怪物がその場にいた。 龍香は一瞬驚くが。 「……カノープス、だよね?」 「あぁ。どうやらあの時奪った力の一部で肉体を再生出来たみたいだ。」 本来の肉体を取り戻したカノープスは2m以上ある巨躯を誇っており、掌サイズからの急成長に龍香はほぉ〜と感心したように彼を見上げる。 「…なんか、そうマジマジと見られると気恥ずかしいんだが。」 「えっー、だって珍しくて。」 二人が話をしていると、龍香の通信機から連絡が入る。 『り……か…りゅ……か…龍香!』 「お兄ちゃん?」 兄からの連絡に龍香は通信機をオンにする。 『龍香!無事か!』 「あ、お兄ちゃん…。」 『今、そっちはどうなっている!?』 何処か切羽詰まったような龍賢の口調に戸惑いながらも龍香は答える。 「その…勝ったよ。…お姉ちゃんに。」 『……そうか。勝ったか。』 龍香の報告に龍賢は少し悲しそうな声音でそう言う。龍香が話を続けようとすると、月乃助が割り込んでくる。 『あ!繋がったか!龍香君!今の状況を率直に言おう!』 「月乃助さん?」 『今、君達がいる円盤は急速に高度を落としている!恐らく後四十分で地表に激突する!!』 「えぇ!?」 「何ッ!?」 『恐らく君達が龍姫を倒したからだろう!早くその場から離脱したまえ!安心しろ!君達の…ば……ザザっ』 「月乃助さん?」 『ぐっ……ザザっ……こんな、…時に!電波障害か!』 焦る“新月”メンバー達に龍香は通信機で言う。 「……安心して。皆。」 『な……に?』 「私が、何とかする。」 『は?何を……』 龍香はそう言うと通信を切る。そしてカノープスへと向き直ると。 「…カノープス。やろう。」 「……あぁ。元より、そのつもりだ。」 二人は頷くと、光球に触れる。すると、二人の脳内に様々な情報が流れ込んでいる。あまりに暴力的なまでの膨大な情報量に龍香達は気圧される。が、龍香達は何とか耐えると。 「……っ、」 「…成る程。これが世界を……」 そう言うとカノープスは龍香と共に光球にアクセスし、世界を作り変えるための操作をし始める。 操作を進める中、龍香はカノープスに語り掛ける。 「…ねぇ、カノープス。」 「なんだ?龍香。」 「初めてあった時のこと、覚えてる?」 「あぁ。覚えているとも。」 「もう、あの時が懐かしいや。私、カノープスのこと、最初おもちゃだと思っちゃってさ。」 「あぁ。まぁ、無理もない見た目ではあったが。」 龍香は懐かしむように思い出を語り出す。 「かおりのために初めて変身して、雪花ちゃんや黒鳥さん“新月”の皆と出会って、トゥバンと戦って、お兄ちゃんが帰ってきて、赤羽さん、シオンちゃん、月乃助さんとピーコックと出会って。…龍斗お兄ちゃんと仲直りして、お母さんに励まされて、プロウフと、お姉ちゃんを、倒して…」 そう語る龍香の口調がドンドンと尻すぼみしていき、声が震えていく。 「……私達が、作り直す世界だったら皆幸せになれるかなぁ…。また、仲良くなれるかな……?」 ポロポロと涙を流す龍香を見て、カノープスはしばし黙った後龍香に言う。 「龍香。……今だから言うよ。俺はお前達と関係を持たなければよかったと思う。」 「えっ……。」 カノープスの言葉に龍香が驚く中、彼は続ける。 「俺がいなければ、お前達家族は幸せの中にいられた。父と母の愛を受けて、兄と仲良く暮らせていたハズだ。そもそもシードゥスさえいなければ、他の奴らも……こんな不幸な事にはならなかった。友を、恋人を、家族を……失うことも無かった。」 「カノープス…。」 「正直お前に戦わせるのは嫌だった。本当はこんな事なんて一切知らず、家族と過ごし、友と笑い、誰かを愛し、幸せになって欲しかった。」 カノープスは光球から手を離すと、龍香の頭に手を置く。 「すまなかったな龍香。俺は、お前から大切なモノを…時間を、友を、家族を……何よりお前自身の純粋な心を、奪っちまった。だからよ。……せめて償わせて欲しい。」 次の瞬間、カノープスは龍香の襟首を掴むと思い切り後ろへと放り投げる。 「きゃっ!?」 さらにカノープスが地面に手を置くと、龍香を覆うように骨で出来た壁が二人を隔てる。 「なっ、カノープス!?何をするの!?」 龍香は骨の壁を押すが、壁はビクともしない。カノープスは龍香に背を向けて、光球を再び弄り出す。 「…悪いが、ここからは俺が世界を作り変える。お前は、“シードゥスなんてものが存在しない”世界で、友と、家族と幸せに暮らすんだ。」 「何、言ってるの?カノープス?」 カノープスは龍香に背を向けながら言う。 「……お別れってことだ龍香。お前と過ごした時間は悪くなかったよ。」 「カノープスッ!勝手な事言わないでッ!こんな、騙し討ちみたいなやり方で別れるなんて嫌だッ!何で消えるの?何で、こんなっ!償いたいなら、一緒にいてよ!私達は、相棒なんでしょ!?」 龍香は涙を滲ませながら叫ぶ。その叫びを受けながら、カノープスも肩を震わせて。 「ありがとう龍香。ここまで俺に着いてきてくれて。お前達に会えて──俺は幸せだった。」 カノープスがそう言うと、光の球はこれまで以上に強烈な光を放つ。 「カノープスッ──!!」 龍香の叫び声が遠くに聞こえる。カノープスは目を閉じながら、フッと笑う。 (これで良いんだ。龍香。) カノープスは流れ込んできた情報…世界を作り変える方法の中である事に気づいていた。 そう、世界を変えるには誰かを人柱にしなければならない。それがこの光球を作動させる方法だったのだ。 (これで良いんだ。これで……) そもそもこうなってしまだたのは自分達シードゥスがいたからだ。まさしく因果応報。元に戻るだけなのだ。 「これで、世界は元に戻──」 そう言おうとした瞬間光が全てを包み込む。 そして世界は──白に染まった。 「カノープスッ!!」 彼女は目を大きく見開いて叫ぶ。心臓がバクバクと高鳴り、呼吸が荒くなる。胸が苦しくなり、一旦落ち着こうと深呼吸をして気づく。自分がベッドで寝ている事に。 「……あれ?」 身体を起こして彼女は辺りを見回す。そして自分の部屋のベッドで寝ていたことに気づく。 カーテンの隙間から朝日が差し込む自分の部屋を見回して唖然となる彼女の耳にリビングから物音がする事に気づく。 何事かと龍香がリビングに近づくと、三人の人影がドアの曇りガラス越しに見え、話し声も聴こえてくる。 「……誰?」 龍香が誰がいるのか確認するためにドアを開けてリビングに入る。 入ると焼けたトーストの香ばしい匂いが鼻につく。そしてリビングの机を見れば、そこにはトーストを齧る龍賢と、珈琲を啜りながら新聞を眺める鯉昇と、龍香の分の食事を用意する龍那の姿があった。 「……え。」 目の前で起きているあり得ない現象に龍香が呆然としていると、彼女に気づいた三人が龍香に声をかける。 「おっ、龍香。起きたんだな。」 「ご飯、出来たわよ。」 「龍香、おはよう。」 三人に話しかけられた彼女は呆然としたまま思わず呟く。 「お父さん……お母さん……なんで、生きてるの?」 次の瞬間ガッシャァンと音がして鯉昇がコーヒーの入ったコップを落とす。 「あっちゃっちゃっちゃっ!!?」 「と、父さん!」 熱々のコーヒーを溢して熱がる鯉昇に龍賢が慌てて近寄る。一方の龍那は顔を青ざめさせて手で口を覆うと。 「し、鯉昇さん……!」 「あ、あぁ。いつかは来ると思っていたが……いざ目の当たりにすると、想像以上だ。」 二人は顔を見合わせたまま、神妙な面持ちで言う。 「「これが反抗期……!!」」 「うるせぇババァとか言われちゃうんだわ…!」 「僕も父さん臭い、とか言われたら立ち直れないかも…」 龍香の発言を勘違いして何故か戦々恐々とする二人を苦笑しながら見つめる龍賢に、龍香は話しかける。 「お兄ちゃん…!その、さ。お兄ちゃんは覚えてる?」 「何をだ?」 「あの、そのシードゥスとか、トゥバンとか!」 龍香が尋ねると、龍賢は?と頭に疑問符を浮かべながら小首を傾げる。 「しーどぅす?トゥバン?……何の話だ?」 「え、何言って…」 本当に何も覚えていない様子の龍賢を見て、龍香が呆然としていると、龍賢は何かを察したのか。 「ははぁ。成る程……寝ぼけているのか?」 「えっ、いや……。」 龍香が言葉に詰まる中、龍賢は両親に説明する。 「そんな取り乱さないでくれ二人とも。龍香は多分寝ぼけているんだよ。」 龍賢がそう言うと、二人はまた顔を見合わせた後。 「な、なーんだ。心配しちゃったワ!」 「そ、そっかぁ。そうだよなぁ。龍香がなぁ!」 そう言うと二人は龍香をぎゅーっと抱き締める。その温かさ、感触は龍香にこれは夢ではないと否が応でも教えてくれる。 「私達が死んじゃう夢でも見たの?」 「安心しろ龍香!父さんはな、龍香の嫁入り姿を見るまでは死なない!」 二人が龍香に頬擦りをしていると、龍香の呆然としていた頭がハッキリしてくる。 今目の前の出来事が夢ではなく現実だとすれば…。 「ご、ごめん。ちょっと出かけてくる!!」 「龍香?」 龍香はそう言うと両親を振り解き、外に出て片っ端から電話をかける。 「朝早くから何龍香?“新月”?へぇー、なんかそう言うアニメでもやってんの?あっ、それよりさ、嵩原先生の宿題なんだけど…」 「あ、朝早くからなんだよ、龍香……。もしかして俺の声を聞きたかったの……あ、別にどうでもいい?ま、まぁそうだよな。…シードゥス?なんじゃそりゃ?」 かおりと藤正に電話で確認するが、二人とも何も覚えていない。龍香は今までの思い出の場所を歩いて回る。 だが、全ての場所が龍香との記憶とは違った光景になっていた。 「違う……!」 黒鳥と赤羽の通う学校も知っていたので、放課後に待ち構えて話かけてみたが。 「うん?多分私達……初対面、だよね?」 「あら……どなたですか?」 二人とも龍香の事を覚えていなかった。龍香は認められなくて、とうとう“新月”の基地があった場所に足を運ぶ。 そして、そこには以前雪花に教えて貰った基地へと通じる井戸があった。 「……あった!」 龍香が目を輝かせて、走り出す。そして井戸の前まで来て彼女は気づいた。 そう、その井戸はコンクリートで固く固められており、蓋を開けることすら出来なかった。 「……本当に、何も、ないの?」 龍香はコンクリートで固められた井戸を見ながら呆然と呟いた。 「……結局何も無かったなぁ。」 日が沈みかけ、夕陽に染まる赤い空を見上げながら、龍香は一人河川敷で座り込んでいた。 一日中歩き回って色んな場所を探したが、痕跡のような物は全く無かった。 歩き回って疲れた龍香が導かれるようにふらりと来たのが、河川敷だったのだ。 「……ここで、カノープスと出会ったんだっけ。」 龍香はぼんやりと河川敷を眺める。ある意味龍香にとって始まりの場所であるここで彼女は思い出に浸る。 (確かに、家族とは一緒にいられるけど……) 確かに家族とは一緒にいられる。だが、それでも辛くても共に過ごした時間を共有する友達が一切合切消えてしまうのは、歯車がズレたような、妙な寂しさを覚える。 (……寂しいなぁ。誰もあの戦いの事を覚えてなくて、私だけが覚えている。) 龍香は立ち上がって、河原の石を拾い上げる。そして心の中のつっかえを吐き出すように龍香は。 「カノープスの、バカーッ!!」 龍香はそう叫んで思い切り石を川へと投げ飛ばす。龍香は肩で息をしながら水柱を立てて、波紋で水面が揺らぐ様を見ながらへたり込むように座る。 「カノープスのばかっ!バカバカばかっ…!!誰も覚えてないんじゃ……意味ないよ…!」 龍香が蹲って、やるせなさと虚しさと寂しさで目から涙が溢れ出しそうになったその時だった。 「なーにメソメソしてんのよ。龍香。」 後ろからそう声をかけられ、龍香はその聞き覚えのある声に思わず振り返る。 そこにいたのは白のパーカーに青の半ズボンと言った服装に青と黒のリボンで髪をツインテールに纏めた勝ち気そうな表情の少女だった。 その少女を見た龍香は驚きのあまり固まってしまう。そんな彼女に雪花はクスクスと笑いかける。 「なんて酷い顔してんの。涙と鼻水でぐしゃぐしゃじゃない。」 「雪花……ちゃん?」 「そうよ。雪花藍。忘れた?」 雪花がそう答えると、龍香は思い切り彼女に抱きつく。 「うわっと。」 「雪花ちゃん!!良かった……良かったぁ…!!夢じゃ、ないよね…!」 ポロポロと号泣しながら雪花に抱きついて顔を埋める。 「ちょっと、喜び過ぎ……って言うかちょいっ!汚い!鼻水と涙が!」 「その酷い言い方、ホントに雪花ちゃんだよぉ…!」 「流石に一発殴るわよ?」 なんてやり取りをしつつも、雪花は龍香が落ち着くまでそのままにする。 そして落ち着いた龍香は雪花に問い掛ける。 「でも、なんで雪花ちゃんだけ記憶が…」 「うん。それは私にも分からないけど、びっくりしたわ。起きたら姉さんがいたし。山形や風見達は私の事覚えてないし。」 雪花はそう言いながら原因を考え、んーと唸ると。 「多分、世界が変わる前に円盤にいたからじゃない?私とアンタ。」 「え?」 龍香は雪花の言葉に疑問符を浮かべる。 「でも、雪花ちゃん、あの時円盤から落ちて……死ん」 「死んでないわよ。」 「え?」 「助けられたのよ。アンタレスの奴に。」 龍香に雪花はことの真相を語り出す。 龍姫に貫かれ、血を流しながら真っ逆さまに落下していく中、雪花は死を感じていた。 《やってくれたわね。お陰で私の横取りする計画が台無しだわ。》 そんな彼女にアンタレスが恨み言を言ってくる。雪花はそれに対してフッと笑うと。 「あら、そう。そりゃ良かったわ。アンタの望みが叶う前に、道連れに出来たんだから。」 そう言って憎まれ口を雪花は叩く。そして今度は雪花がアンタレスに尋ねる。 「ねぇ…死ぬ前に一つ聞きたいんだけど。何でアンタ私達に協力したの。こう言っちゃなんだけど、アンタが切り捨てられる可能性だって全然ある訳じゃない?そんな可能性が大きいのにアンタが……」 雪花の問いに、アンタレスはしばし沈黙の後、ぼそりと言う。 《……今は亡き同胞達のため、と言ったらアンタは笑うかしら?》 アンタレスの答えに雪花は。 「笑わないわよ。仲間のために頑張る奴を私が笑う訳がない。」 そう答えると、アンタレスはプッと噴き出す。 「な、なによ。」 《あははは。いや私にアンタがそう言うだなんて思ってなかったからおかしくてさ。あははは。》 アンタレスは一頻り笑うと、雪花に言う。 《やっぱ私、アンタのこと嫌いだわクソガキ。》 「そっくりそのまま返すわよクソ蠍野郎。」 雪花がそう返すと、ジジッと音がして通信機から声が聴こえてくる。 『ゆ……!ユッキー!貴方今落ちてるの!?返事をしなさい!』 「風見……。」 『ユッキー!今から貴方を回収するから!待ってて!』 見れば上空からピーコックを模した量産型が雪花へと向かってくる。 しかし、雪花は自身から流れる血と傷はもうどう足掻いても助からない傷であると自覚していた。 「も、う……。ダメ…なのに。」 雪花が諦め半分に手を伸ばした瞬間、何かに掴まれてぶん投げられる感覚がした。 「!?」 投げられた彼女はピーコックにぶつかるが、それと同時にピーコックが彼女を固定したため、もう落ちる事は無かった。だが、雪花に目を落とすと、そこには血を流し、全身が徐々に崩壊していくアンタレスの姿があった。 「なっ、アンタ…!」 《ふ、ふふ。悪いけど。アンタと一緒に死ぬなんざまっぴらごめんよ。》 雪花はすぐに自分の身体を確認すると傷が無かった。刺された痕すらない。 《ふふっ、どう?大サービスでダメージは全部私が受け持ってあげたわ。》 そう言いながら笑うアンタレスに雪花は困惑の声を上げる。 「なんで、お前っ……」 雪花の問いに対し、アンタレスは。 《悪いけどねぇ、私アンタの事が嫌いだから、道連れしようとするアンタの邪魔をしてやったのよ。》 そう笑ってはいるが、身体が限界を迎えたのか、カッとアンタレスが輝く。 《じゃあね、クソガキ。短かったけど悪くなかったわ。》 次の瞬間爆発に身を焦がす中、アンタレスはふと思う。 (あーあ、何言ってんだろ私。) 姉の仇である自分が何を言ったところで彼女に何が残るだろうか。それに道連れに出来たのに、変な言い訳をして雪花を彼女は生き残らせた。 (ま、でも。これで、良かったのよね?) 最初から自分達は負ける運命だったのだ。そりゃそうだ。上があんな思考じゃ勝てるものも勝てるハズがない。 アンタレスが目を閉じ、そして再び目を開けると、そこにはかつての同胞達がいた。 そして同胞の一人であるトゥバンが座り込んでいるアンタレスに手を差し出す。 アンタレスは一瞬驚くが、すぐにハッと笑ってその手を取る。 「トゥバン…ねぇ、聞いてよ。プロウフの馬鹿がさぁ。」 アンタレスはそう言って立ち上がると、光の中に同胞達と共に消えていった。 「アンタレス……」 眼下で起こる爆発を見下ろしながら雪花は呟く。姉の仇であり、協力関係にあったとは言え、敵同士だった彼女が何故自分を助けたのか。 それは今となっては雪花に分かる術はない。しかし、雪花にはその死を悼み、彼女の事を考える時間は残されていない。 「風見!私を円盤に!」 『ユッキー!?』 「まだ私には“ネメシス”が、姉さんとの力がある!」 『無理だ。足手まといになるだけだ。』 龍賢がそう忠告をするが、それでも雪花は円盤を見上げる。 「それでも!アイツを一人にしておけないでしょ!?」 雪花がそう叫ぶと、皆がどよめく中山形が言う。 『行かせてあげて。風見。』 「山形!」 『……いいのか?』 月乃助の問いに山形は。 『えぇ。構わないわ。…けど、援護に徹する事。そして、必ず帰ってくることよ。』 山形の言葉に雪花はうんと返事をすると、円盤へと飛翔する。 「待ってなさいよ!龍香!」 「…って訳。」 「い、生きてたんだ。ホント、ホントに死んじゃったかと思って…!」 「だぁっ、また泣くな!」 潤む龍香に雪花は尋ねる。 「あれ、そう言えば龍香、カノープスは?」 雪花の問いに龍香は少し目を伏せると、どこか拗ねたように答える。 「……勝手に消えちゃった。シードゥスがいない世界にするから、自分は消えるべきだ、とか言って。」 そう答えると雪花はそう、と短く返して夕暮れの方を見る。 「多分だけどさ。カノープスはずっと、龍香に謝りたかったんじゃない?」 「……。」 「意外とアイツ義理堅かったし。きっと消えたのも龍香のためを思ってよ。」 雪花の言葉に龍香は顔を俯けて、小さな声で呟く。 「……分かってる。分かってるよ。カノープスが私のことを思ってあんな事をしたんだってことくらい。でも、急になんの前触れもなく消えるなんて、卑怯だよ。私、カノープスとずっと一緒にいたかったのに。」 龍香の恨み言を聞いていた雪花だったが、聞き終わると龍香の肩に手を置いて言う。 「ま、なら今度会った時に言ってやればいいじゃない。この卑怯者!勝手にどっか行くな!って。」 雪花の言葉に龍香はキョトンとする。 「えっ、だってカノープスは消え……」 「アタシが記憶を持ったまま生きてんのよ。本当にカノープスが消えたかアンタだって分からないでしょ?つまり、カノープスだって存外その辺でピンピンしてるかもよ?」 雪花はそう言って、少し悪戯っぽく笑う。 「カノープスが……」 龍香は雪花の言葉を受けて、ハッとしたような気持ちになる。もしかしたら雪花なりの慰めの言葉かもしれない。確かに消えたと言う確証はないが、逆に消えていないという確証もない。所謂悪魔の証明だ。 だが龍香は涙を拭うと、沈みゆく夕陽に向かって叫ぶ。 「カノープスー!!今度会ったらー!絶対文句言ってやるんだからぁー!首を洗ってまっててよー!!」 龍香はそう叫ぶと、満足げに微笑む。 「さて、暗くなってきたからそろそろ帰るわ。また明日ね。」 「えー、せっかくだからご飯食べにいこーよー。」 「いーやーよ。どうせ辛いもの食べに行こうとか言うんでしょ。」 「そうだけど。」 「私、お姉ちゃんとご飯食べるから。アンタも家族と一緒に食べなさいよせっかくなんだし。」 「いいじゃんー。私達、親友でしょ?」 「アンタホント図々しくなったわね!?」 雪花とぎゃーぎゃー騒ぎながら、龍香は空へと想いを馳せる。 (カノープス。貴方が生きていても、消えてしまっていたとしても。私は貴方が作った世界で明日を一生懸命生きてみるよ。だからさ、見ててよね。カノープス。) 龍香は笑いながら星が輝き出す夜空の下で親友と共に帰路につくのだった。 波が砂浜に打ちつけられる音が響く。にゃあにゃあとウミネコが鳴く声が耳に響く。 散々と眩しい日光が地面を照らす中、砂浜を歩く一人の少女がその上に何かが落ちていることに気づく。 「ママー!何か落ちてた!」 少女は“それ”を拾うと、自身の母親に見せる。母親は少女が拾って来たのを物珍しそうに眺めるが。 「もしかしたら、誰かの落とし物かもしれないから、元の場所に返して来なさい。」 「はーい。」 少女は母にそう言われ、少女はぽいっと“それ”を元の砂浜に投げる。 そしてそれは“恐竜の頭蓋骨を模したヘアアクセ”のような外見をしていた。 《………あれ?》 The End……? 関連作品 (続編や派生作品が有れば、なければ項目ごと削除でもおk)
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チュートリアル wikiを作ったはいいけれど内容がないようなら意味はありません。 自分でページを作れれば多くの人に見てもらえるだけでなく自身にとっての備忘録にもなります。 頑張って覚えていきましょう! 以下のコンテンツはスマートフォン(iPhone)端末におけるものでありますが多分他と変わらないっしょ、うん ページの作り方作ったページのリンク付け 画像の載っけ方 テストページ ページの作り方 1-a 1-b 1-c 1.「編集用のメニュー」から「@メニュー」を開き「新規ページ作成」を選択する。 2-a 2-b 2-c 2-d 2.「新規ページ作成」と「すでにあるページをコピーして作成」の項目がありますが今回はテンプレートを用いるため「すでにあるページをコピーして作成をします。 検索箇所で「キャラテンプレート」と入力すると、コピー元のページを選択する確認画面がでて決定を選択する。 するとページ名を選択する画面が出るので各自任意のページ名を設定する。 なお、テンプレートは「ロボット用テンプレート」「シナリオ用テンプレート」もあります。 3-a 3-b 3.3-a左側部分に各項目があり右側部分に編集した結果をプレビューとして見ることができます。 あくまでこれはテンプレートですのでいらない項目は削除、足りない項目は追加するなどをしてみてください。 項目を入力後、編集ページ下部に「ページ保存」をすれば完了です。 4-a 4-b 4.編集し終えたページを再度編集したい場合は編集タブから「編集」を選択し「ページ編集」を選択すれば3.の時に出てきた編集用のページに入れますので追加等が可能となります。 作ったページのリンク付け 新しく作ったページに飛ぶための方法として「 [] 」の「」内にある大括弧二つで囲むとそのページに飛ぶことができます。 画像の載っけ方 1-a 1-b 1.編集タブから「編集」を選択し「このページにファイルをアップロード」を選択する。 2-a 2-b 2.画像アップロード用のページに入ったら載っけたい画像を注意事項に照らし合わせながらアップロードする。 アップロードされたファイルのURLをコピーする。 ※一度アップロードした画像はメンバーでなければ削除できません、要注意です。またメンバーはライジングに申請していただければ承認いたします。 3-a 3-b 3.ページ編集にて画像のアイコンを選択するとカーソル部分に画像のURLを要求するものが現れてカッコ内に先ほどコピーしたURLを入力することで画像を表示することができその様子もプレビューで確認できます。 OKであればページを保存して完了です。おつかれさまでした。 テストページ 練習用テストページ こちらのページは試してみたいことがあったときに自由に編集していただいて構いません。 枠組みや構成を考えるために一度練習してみるといいでしょう。
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ここに作品タイトル等を記入 更新日:2022/03/28 Mon 07 52 43NEW! タグ一覧 セブンスカラー 今回のあらすじを担当するトゥバン様だ!前回は何か色々あったな〜。黒鳥の奴が大恋愛の末にフラれて……ククッ、傑作だったなありゃ…。 だが、龍香とシオンの間に暗雲が……? 気になるぞ!どうなる第二十五話! 蝋燭の灯りが部屋を照らす書斎でプロウフが読書をしていると、コンコンと部屋がノックされる。 「どうぞ。」 プロウフがそう言うとガチャリとドアが開き、赤黒髪の少女プロキオンが入ってくる。 だが今のプロキオンは見るからにいつもの元気はなく、落ち込んでいる様子だった。 「おや、プロキオン。どうしました?」 そんなプロキオンを見たプロウフは本を閉じて尋ねる。 「その、プロウフに相談があって。」 「おや。昨日のアルレシャとカストルの事ですか?彼らのことは残念でしたが…」 プロウフの言葉にプロキオンは一瞬口籠ったがプロウフに悩みを打ち明けることにした。 「その。龍香のことなんだけど。」 「?彼女がどうかしましたか?」 「あの、龍香が、実はあの敵で…多分“新月”で。」 「なんと。」 プロウフはそう言って立ち上がる。そんなプロウフにプロキオンはおずおずと言った様子で尋ねる。 「プロウフ?」 「アルタイル、デネブ、ベガ。」 プロウフが名を呼ぶと、何処からともなく疾風と共に三体の荒々しい猛禽類のような、麗しき琴をあしらった意匠のような、美しい滑らかな曲線の鳥獣のような怪物達がその姿を現す。 「プロウフ様の懐刀!」 「疾風の三衛士!」 「エスティーヴォ、参上致しました!何なりとご命令を。」 三体の怪物達は恭しく片膝をついてプロウフに首を垂れる。それを見たプロウフは一枚の薄紫色の髪の少女、龍香の写真を取り出すと三人に。 「この少女と、カノープスを粛清を命じます。」 「「「はっ!」」」 プロウフの指令に怪物達は応、と答える。それを見たプロキオンはギョッとすると、慌てて。 「ま、待って!り、龍香は友達なの!」 「えぇ。ですが我々の同胞を葬ってきたのも事実です。」 「そ、それは……。」 迷うプロキオンにプロウフは尋ねる。 「まさかと思いますが、我々を裏切り向こうに着く…と言う訳ではないですよね?」 プロウフがそう言うと三人が殺気立つ。プロキオンは慌てて手を振って、言う。 「そ、そんなことはしないよ!けど」 尚も迷う彼女にプロウフは肩をすくめると、彼女に耳打ちする。 「いいでしょう。彼女は見逃します。しかしカノープスだけは粛清させて貰います。それが終われば彼女のことは好きにしてもいいですよ。」 「ほ、ホント?」 不安げに尋ねるプロキオンにプロウフはコクリと頷いて肯定の意を示す。 「えぇ。エスティーヴォの皆さんも分かりましたね。」 「「「はっ!」」」 「龍香……。」 俯きながらプロキオンが呟く。その様子をドア越しに聞き耳を立てていた白龍香はニヤリと笑う。 「へぇ……面白くなってきた。」 「あれ、黒鳥は?」 トレーニング室に入った雪花がランニングマシンで走っている赤羽に尋ねると彼女は少しため息をついて。 「寝込んでるわ。よっぽどあのシードゥスに入れ込んでたみたいよ。」 「アイツ意外と感情的なのよね…。」 雪花も今回は事情が事情なだけに一息つくと同じようにランニングマシンに上がって設定をいじる。 そして走り出すと、少しして赤羽が話し出す。 「そう言えば、アンタが前に龍香と黒鳥と女の子とその祖父に奢って貰ったって言ってたじゃない。」 「ん?あぁ。シオン…だったっけな。それがどうかしたの?」 「その子、シードゥスかもしれないわ。」 「……は。」 驚く雪花に赤羽は続ける。 「その子、例のシードゥスと一緒にいたの。何だったらソイツと親しげに話してたわ。」 「いや、ほら。あのど変態に狙われてたのかも。」 「まぁ、その可能性もない訳じゃないけど。取り敢えず用心するに越したことはないわ。」 「そう、ね。」 雪花は赤羽にそうは言ったが、内心は穏やかではなかった。別にその子がどうと言うわけではない。ただ好意を向けられ、それを受け入れている龍香のことがどうにも気にかかった。 「……龍香に話すべきかしら。」 兄の見舞いの帰り道を龍香が一人で歩いていると、後ろから声をかけられる。 「おーい、龍香ー!」 「あ、かおり、藤正君。」 龍香が振り返るとそこにはかおりと藤正がいた。二人は近づくなりマジマジと龍香の顔を見る。 じっと見つめられて気恥ずかしくなった龍香は少し頬を紅くしながら二人に尋ねる。 「な、何?なんか付いてる?」 「いや、結局カラコンやめたんだ、って思って。」 「へ?」 「まぁ、学校でやったら怒られちゃうしね。まぁちょっと冒険したい気持ちも分かるケド。」 「え…何のこと?」 《カラコン?》 龍香とカノープスがキョトンとすると、二人も話の食い違いを感じて。 「あれ?昨日お前してたじゃん赤いカラコン。」 「そうそう。兎みたいに赤い目の。」 「え?え?」 二人の言葉に余計混乱する龍香。すると、事情を察したカノープスは納得したようにあぁ、と言う。 《多分、お前らが会ったのは龍香をコピーした人形だ。》 「龍香を、コピーした人形?」 「それは本当なの?」 カノープスの言葉に二人の目の色が変わり、龍香を問い詰める。 「う、うん。多分目つきとか言葉使いとか悪かったでしょ?」 「そう?目つきはどうだか知らないけど、急に抱きついて来たり、茶目っ気があってそんな気にならなかったわ。」 「抱きついたの!?」 「あぁ、何か普段の龍香とは違う面を見れてちょっとドキドキしたわ。」 「ちょっと?」 「ちょっと!!」 揶揄うかおりに藤正が言い返すのを見ながら龍香はカノープスに尋ねる。 「ど、どういうこと?」 《分からんが…もしかしたら二人をお前と偽って騙そうとしたんじゃないか。取り敢えず二人に注意をしておけ。》 カノープスにそう言われ、龍香が注意しようとしたその時だった。 「龍香!」 またもや名前を呼ばれて龍香が声がした方に目を向けると、そこには何故か引き攣ったような、不自然な笑顔を浮かべながらこちらに歩いてくるシオンの姿があった。 「し、シオンちゃん?」 「どうしたのその顔?」 「えっ、そ、そうかなー?」 シオンはハハッと笑う。その表情は何かを誤魔化そうと無理をしているように見えた。 そんな彼女に龍香が心配そうに声をかけようとすると、藤正が口を開く。 「なぁ、四人いるし今から遊ばねぇか?」 「お、いいねー?何する?」 藤正の提案にかおりが乗る。それに対して少したじろぐシオンに藤正が 「何悩んでいるか知らねーけど、今だけは忘れて楽しもうぜ。な?」 「う…ん。」 「行こうシオンちゃん。」 龍香が差し出した手を見て、シオンは一瞬戸惑うが恐る恐る手を伸ばし、その手を取った。 (何やってんだろ、アタシ。) 木の影に隠れて俯きながら、シオンはぼんやりとそんなことを思案する。 「もーいいーかーい!?」 龍香の叫ぶ声が聞こえ、そしてかおりと藤正のまーだだよ、と返事が返っていく。 (龍香は敵。カストルやアルレシャ達を倒した敵。) 他にも数々の仲間達を倒してきた魔龍少女である彼女は憎むべき敵だ。 仕返しをしたいと思う反面、それを躊躇い、戦いたくないと言う思いもある。 相入れるはずもない相反の気持ちの揺らぎにシオンの感情は頭の中がグチャグチャになる。 「何してんの?」 「え?」 声をかけられ、顔をあげるとそこには藤正の姿があった。 「声出すと見つかっちまうぞ?」 「えっ、声出てた?」 「うん。めっちゃ唸ってた。」 そう言われ、またも俯くシオンに藤正が言う。 「なぁ。何を悩んでんだ?」 「………。」 言えるハズもない。お前の友達を殺そうか殺さないか悩んでいるだなんて。 口をつぐんで何も言おうとしないシオンを見て、藤正は。 「まぁ、いいよ。言いたくないことだってあるもんな。」 それ以上の追求をやめた。しかし何かを思い出したように藤正は言う。 「あ、でもこう言う時はな、一つ一つ物事を並べるのが大事なんだぜ。」 「一つ一つ?」 「最初に悩み事を置いて、それから何でそれを悩んでいるか、を順番に考えていくだ。物事は綺麗に並べると意外と答えが見つかる……らしい。」 「らしい?」 何故か断言しない藤正にシオンが聞き返すと、藤正は少し恥ずかしそうに頬を掻いて。 「…その、アレだ。これ父さんから聞いたから。」 「何それ。」 なんとなくおかしくて、シオンが笑う。 「ちょ、笑うなよ。」 「ふふっ、ごめんね?」 シオンはそう返しながら、藤正の言ってた通り一つ一つ整理して考えてみる事にした。 (龍香は仲間の仇。絶対に倒さないといけない。でも、戦いたくない。何故?何故私は龍香と戦いたくないの?恩人だから?仲良くしてくれる知り合いだから?) 龍香と何故戦いたくないか、思いつく限りの理由をあげつらねるが、どれもしっくりこない。思考の坩堝に落ちていく感覚。 そして答えが出せぬまままた無意識に唸っている時だった。 「シオンちゃん、見つけた!」 目の前に龍香がいた。龍香はニッコリと笑うとシオンに手を伸ばす。 (あぁ。なんだ。そんなことか。) シオンはその笑顔を見て、今まで悩んでいたのが馬鹿らしく成る程単純で、そして明確な答えが思い浮かんだ。 (アタシ、龍香のことが好きなんだ。) その心を自覚した瞬間。自身の何かに火がついて、それと同時に頭が冷えていく感覚を覚えると同時にぼんやりと新たな想いが湧き出る。 (龍香が他のシードゥスに倒されるのを見るのは、嫌だなぁ。) そう。例え仲間でも、プロウフでも。龍香がその前に倒れることにプロキオンは激しく嫌悪感を抱く。 (だったら。私がしたいことは。するべきは。) シオンは龍香の手を取り、立ち上がるとその手を持って歩き出す。 「し、シオンちゃん?」 怪訝な声を出す龍香に、シオンは微笑んでしーっと人差し指を唇にあてて、言った。 「龍香。案内したいところがあるの。着いてきて。」 「調子はどう?龍賢君。」 「左腕が動かないこと以外はそれなりですよ。」 見舞いに来た山形に龍賢は少し笑って返す。 「それにしても派手にやったね。お医者さんに何やったらこうなるんだ、ってスゴイ怒られちゃったもんねボクら。」 「すみません。俺が不甲斐ないばかりに。」 「全然そんな事ないですよ!林張さん?」 「ご、ごめんって。」 火元に睨まれて林張が慌てて謝る。その様子を龍賢は別に気にしていないのに、と思いながら見ていると。 「ケンケン、お客さんよー。」 そう言って風見は龍賢の秘書、雲原を病室に入れる。 「社長、頼まれていたものをお持ちしました。」 「ありがとう雲原さん。」 雲原が手に持っていたのは一台のノートパソコン。龍賢はそれを手に取ると早速立ち上げ、右手でカタカタと何かを打ち込み始める。 「何してるの?」 林張が尋ねると、龍賢は。 「いえ、私事で2日も業務を止めてしまったので。」 そう言って彼が続けようとすると、凄い勢いで雲原に龍賢のPCは没収されてしまった。 「…雲原さん?」 「社長。そんな事だろうとは思いましたが、怪我をしているんですから今は治療に専念してください。」 「いや、しかし……」 龍賢がションボリと捨てられた子犬のような目で、雲原を見上げる。その瞳に雲原は大いに何かをくすぐられ、唸るが首を振って己を保つと。 「ダメです!」 雲原にそう言われ、龍賢はそうか。と言って枕に頭を沈める。 「あらあら。完全に尻に敷かれちゃってるわね。ケンケン。」 「雲原さん、彼をよろしくね。すぐ無茶をする子だから。」 風見と山形が茶化す。 「龍賢さんは兄妹揃って純粋ですからねー。」 火元の言葉に龍賢は尋ねる。 「龍香はともかく俺、そんなに純粋ですか?」 「うん。二人とも誰かの為に頑張れる純粋な方じゃないですか。でも、気をつけてくださいね。」 火元は龍賢の目を見ながら続ける。 「純粋って、何かに影響されて染まりやすいって事でもありますから。」 「し、シオンちゃん。何処に行くの?」 「もうすぐだよ。龍香。」 さろそろ日も傾いて辺りが黄昏て行く中、シオンに誘われるまま、龍香はちょっとした小山を登っていた。 そしてそのまま木々を抜け、広い所に出ると。 「うわぁ……」 小山の頂上は少し開けた広場になっており。そこから見下ろす街全体を見渡せる景色は、自分が住んでいる場所なのに、視点が違うだけで特別で綺麗に見えた。 「綺麗だね。シオンちゃん。」 「うん。ここお気に入りの場所なんだ。龍香に見せたかったの。」 「私に?」 「うん。だって私龍香のこと好きだから。」 シオンの言葉に龍香は一瞬固まった後、少し頬を紅潮させる。 「あ、ありがとう。」 照れながらもお礼を言う龍香にシオンは微笑みながら。 「うん。だからね。龍香に隠し事をするのはもうやめたの。」 「隠し事?」 「それはね。」 「龍香!ソイツから離れなさい!」 シオンの言葉を遮って叫び声が響く。後ろを振り返れば、そこにはぜぇぜぇと息を切らす雪花がいた。 「雪花ちゃん?」 「どうしてここが。」 「藤正とかおりに聞いて、黒鳥に手伝って貰ったのよ。」 近くにカァと鳴いて烏が降り立つ。しかし、それよりも気になるのは。 「ど、どうしたの雪花ちゃん。いきなりシオンちゃんから離れろだなんて。いくらなんでも失礼じゃ」 「良いから離れなさい!」 叫ぶ雪花に困惑する龍香。横槍を入れてきた雪花に対してシオンが呟く。 「邪魔だなぁ…」 そう言った瞬間シオンの後ろに三体の怪物が降り立つ。その様子を見た龍香達が驚いてギョッとした顔になる。 《シードゥス!》 「シオンちゃん危ない!」 龍香が叫ぶが、三体は特にシオンに攻撃を加えるような姿勢は見せない。 龍香達がどうするか考えあぐねていると、シオンは三体の怪物達に言う。 「私が一対一でやる。手出し無用だからね。」 「了解。」 「え。」 シオンの言葉に龍香が耳を疑う。だがシオンがそう言った瞬間三体の怪物……アルタイル、デネブ、ベガが雪花に迫る。 「クソッやっぱりこうなるの!?」 雪花はすぐさま変身すると三体と応戦しながら山中へと消える。 そして再び龍香はシオンと二人きりとなる。だが、龍香は信じられないようなものを見る目でシオンを見て、そして震える声で違うと言って欲しいと懇願するように尋ねた。 「し、シオンちゃん?さ、さっきのは。嘘だよね…?」 「ううん。ホント。龍香も見たでしょう?」 しかし、その儚い願望は他ならぬシオンの言葉で完全に否定される。 「あと、私はホントはシオンって名前じゃない。」 そして次の瞬間、シオンの身体がさざめくように揺らいだかと思うと。その場には赤紫色で、犬のような、小柄な身体が特徴的な怪物がいた。 「アタシの本当の名前はプロキオン。貴方の敵、シードゥスのプロキオンよ。」 その事実に龍香は目の前がまっくらになったかのような衝撃を受ける。 「そんな……。私を、私達を騙してたの?私のことを好きって、言ったのも嘘?」 その言葉にプロキオンは一瞬俯く。だが、すぐに顔をあげると。 「うん。全部嘘。私の仲間を殺してきた貴方なんて大嫌い。」 《マズイ!》 次の瞬間プロキオンが地面を蹴ると同時に、攻撃を察知したカノープスが龍香を強制的に変身させる。 そして振るわれた刃を龍香は反射的に“タイラントアックス”で防ぐが、不意の一撃ということも相まって龍香はジリジリと圧される。そして龍香に顔を近づけながらプロキオンが言う。 「だから貴方を討つの。今、この場所で!」 プロキオンはそう叫ぶと龍香に蹴りを入れる。衝撃に思わず呻くがプロキオンが振るった刃を見て咄嗟に避ける。 「シオンちゃん!やめて!」 「私はプロキオンだ!」 振るわれた刃が龍香の頬を掠める。振るわれた攻撃を龍香が受け止める。まさしく防戦一方という展開。 そんな龍香をカノープスが叱咤する。 《何やってんだ龍香!?このままだとやられるぞ!》 「で、でも。」 「はあああ!」 攻撃をためらう龍香に対して、プロキオンは容赦なく攻撃を加えていく。そしてとうとうプロキオンの一撃が龍香の胸元に直撃し、胸部装甲から火花が飛び散り、強い衝撃が龍香を襲う。 「きゃっ!?」 強い衝撃を受けて地面を転がる龍香。倒れる龍香にプロキオンが迫る。 《龍香!》 カノープスが叫ぶ。龍香の頭の中はぐちゃぐちゃだった。いきなり親友だと思っていた、好意を見せてくれた友人はシードゥスで。そして仲間のために自分を倒す。そのために演技をしていたと言う。 戦え。戦え。彼女はシードゥスで、敵なんだといくら自分に言い聞かせても身体は動かないし思考が纏まらない。 「どう、したら」 《龍香!取り敢えずここを凌げ!一旦引くぞ!》 「させない!」 プロキオンが肉薄する。龍香は思考の纏まらない頭で身体を無理矢理動かす。 「…!!」 龍香は繰り出された刃をかわしながらカノープスに触れ、オレンジ色の形態、プレシオカラーになると鞭型の武器“プレシオウィップ”を取り出しそれを勢いよくしならせる。 「はァッ!」 龍香が鞭を振るう。プロキオンはそれを跳躍して避けるが、龍香は巧みに鞭を操作してプロキオンを狙い続ける。 そしてとうとう鞭がプロキオンを捉え、その身体をがんじがらめて締め上げ拘束する。 「うぅ!」 拘束され、もがくプロキオンを龍香は見下ろして。 「……もう、やめよう。私、シオンちゃんとは戦えない…」 「……で」 小声で呟いたかと思うとプロキオンは叫ぶ。 「何で真面目に戦ってくれないの!?私は貴方のこと嫌いだって嘘をついたのに!!本気で戦ってよ!“新月”何でしょ!?私の仲間を沢山殺したのに私とは戦えないって…!龍香は私のこと嫌いなの!?」 泣き喚く子供のように捲し立てるプロキオン。その様子と言動に龍香は困惑する。 「え、え?」 「龍香のこと嫌いって言ったけど!ホントは好き!大好き!一生側にいてほしい!」 「なら、なんで。私を、襲うの?」 龍香の問いにプロキオンは喚くのをやめて、静かに立ち上がって呆気からんとした様子で。 「好きだから。好きだからこうやって答えを出すの。私は本気の貴方を倒す。そして貴方は本気の私を倒す。そうすればいずれ答えが出る。これが私の見つけた答えを出す方法なの。」 「何を、言って。」 「私はシードゥスで龍香は“新月”。…戦うしかない。運命は私に選べ、って言っている。」 そう言うプロキオンの身体が青く、毒々しい色に染まっていき、そして小柄で華奢な身体がドンドンと逞しく強靭な姿へと変貌していく。 「なっ」 龍香が慌てて締め付けるが、禍々しい姿へと変貌したプロキオンが力を込めると、“プレシオウィップ”は弾けてしまう。 「そんなっ」 最早文字通り怪物と化したプロキオンは龍香を真っ直ぐ見つめながら刃の部分に犬の牙のような刃がビッシリと並んだ長剣を構えながら尋ねる。 「龍香は私のこと、好き?」 「…うん、シオンちゃんのこと、私は好きだよ。だから、こんなことはもう止め」 「だったら本気で戦って。私も本気で龍香と戦うから。」 そう言ってプロキオンは長剣の切っ先を龍香へと向ける。 ポツポツと雨が二人に降り注ぎ始めた。 「コイツら!」 三体一の状況で、雪花はライフルを三体に向けて放つ。鳥のような外見のアルタイルとデネブは跳躍して避けるが、一方のハープのような装飾が特徴的なベガが身体の糸を振るわせると弾丸の軌道が捻れて、明後日の方へと飛んでいく。 「何よっ!」 迫る二体に対応するために雪花は“マタンII”を取り出すとデネブが翼を広げて白い羽根を無数に射出する。 「くっ!」 雪花はそれを横に跳んで避ける。避けながらライフルをデネブに放つ。 しかし放たれた銃弾は割って入ったベガの手によって軌道を歪められ、防がれてしまう。 「こんのっ」 雪花がそれに歯噛みをするが、それと同時にいつの間にやら距離を詰めていたアルタイルが雪花に刃を突き出す。 「なっ」 「そこっ!」 アルタイルが繰り出した剣の一撃を雪花は身体を捻ってかわそうとするが、完璧には避けきれず左肩に刃が命中する。 「うわっ!」 バランスを崩して、雪花が倒れる。すぐさま起き上がって雪花は追撃に備えるが、三体は追撃することなく、陣形を組む。 (コイツら、集団戦に慣れてる!) 今までのシードゥスと違い、連携して戦う三体に雪花は苦戦を予感する。 「我らはプロウフ様の懐刀。」 「疾風の三衛士。」 「エスティーヴォ。プロウフ様の命によりそのお命、頂戴する!」 三体が攻撃の構えを見せる。 「エステサロンだかなんだか知らないけど!私を舐めないでよね…!」 退く訳にもいかず、雪花が迎え撃とうとしたその時。 上空から弾丸が雨霰と三体に降り注ぐ。予想外の攻撃に三体が攻撃の手を止める。 「なんだ!?」 「聞かれては、答えねばなるまい!」 その掛け声と共に上空から機械の鳥、ピーコックと共に月乃助が降り立つ。 「諸君らを倒す女、この天才結衣月乃助の名をな。」 フッと髪をかき上げながらカッコつける月乃助に雪花は一瞬ポカンとするも。 「なんでアンタがここに?」 「君が駆け出したのを心配した赤羽君から連絡があってね。苦戦してるようだから助太刀に来たんだが?」 「なんか鼻につくわねその言い方。」 「新手が来ようとも!行くぞ!」 「あぁ!」 なんてやっていると、三体が連携して二人に襲い掛かってくる。 「!気をつけて!アイツら連携して襲ってくるわ!」 「ほう。」 《それは興味深いな。私達シードゥス同士が協力するなんて。》 「呑気に分析してる場合じゃないわよ!」 雪花がそう言うと、月乃助はチッチッと指を振って。 「こんな場合だからこそ、だ。落ち着いて分析すれば攻略の目が見える。そう。」 襲い掛かってくる三体を見ながら、月乃助が銃を構えると同時にピーコックが月乃助から離れる。 「こんな風に!」 そう言うと月乃助は先頭のデネブに向けて銃撃を放つ。 「させるか!」 またもやベガが間に入り、身体中の糸を震わせて銃弾の軌道を捻じ曲げる。しかし、月乃助はそれを意に介さずベガに撃ち込み続ける。 「無駄だ!お前にこの鉄壁の守りは!」 「ピーコック!」 《あぁ!》 次の瞬間上空から月乃助の指示を受け、ピーコックがベガの後ろに隠れてる二人に銃弾を浴びせる。 「ぬおおおお!?」 「おおお!?」 これには堪らず、二体はそれを避けようとベガの後ろから飛び出す。 「あっ、バカっ」 その結果ベガが捻じ曲げた銃弾の射線に入ってしまい二人の身体から火花が散る。 「どうだい?まさしく天才の戦い方だろう?」 「む、ぐっ……」 雪花が何か納得出来ず、唸っていると月乃助が雪花の肩を叩く。 「君は龍香君の援護に行きたまえ。私の武器では足止めは出来てもあのハープの防御を突破できない。だから、さっさと龍香君をこっち連れてきてくれたまえ。」 「えっ、でも。」 「なぁに、黒鳥君と赤羽君ももう少ししたら来るさ。さ、頼んだよスノーガール?」 「…雪花!戻ってくるまでくたばんじゃないわよ!」 雪花はそう言うと山頂に向けて駆け出す。その様子を見送ると、月乃助は弾切れになった銃を捨て、ピーコックの尾部に仕込まれている奥の手、円形武器、粒子加速砲“サークルソーサラー•フィナーレ”を取り出す。 体勢を立て直し、こちらを睨みつける三体を見てヒュゥと口笛を吹いて軽口を叩いた。 「さて、今回ばかりは本気で行かせて貰おうかな。」 「うあっ!」 雨が降りしきる中、龍香が泥を撥ねながら地面を転がる。 「ふんっ!」 倒れた龍香をプロキオンが思い切り蹴り上げる。 「ぐっ」 またもや地面を転がり、泥だらけになって倒れる龍香にプロキオンが長剣を振り下ろす。 《龍香!》 「!」 振り下ろされた一撃を龍香は間一髪“タイラントアックス”で受け止める。だが馬力が違うのか龍香は徐々に押し込まれる。 《くっ、龍香!迷うのも分かるが今は!》 「う、ぅぅぅ」 この力の込め具合からして、幼いながらに龍香はプロキオンが本気で自分を殺しに来ているのを察する。 しかし、どうしても龍香はシオンと戦う決意が固まらない。迷う龍香に、プロキオンは。 「戦って!戦って龍香!これは本気で戦わないと意味がないの!」 「なんで…!何で、私にそんなことを言うの…!?」 「言ったでしょ!私は龍香が好きなの!」 「何を」 龍香はそこまで言いかけて、ふとプロキオンが苦しそうに見えた。 「私以外に龍香が倒されるのを見たくない!だから、戦うの!例え私が負けたとしても、私龍香になら殺されてもいい!どうせどっちかが死ぬなら、悔いなく覚えておいてほしいから!覚えていたいから!」 そう叫ぶプロキオンは雨に濡れているのも相まって、龍香には無理して泣いているように見えた。 それを見た瞬間、龍香は胸を締め付けられるような思いが溢れ出す。 「う、ううう、ううううううう!!」 龍香は唸ると、“タイラントブレイド”を出現させて手に取り、それをプロキオンに突き出す。 「がっ」 思い切り突かれたプロキオンは地面に倒れる。龍香はその隙に立ち上がると。 「カノープス!」 《おうよ!》 そう叫ぶと龍香は強化形態、アトロシアスへとその姿を変える。そして右手に“タイラントブレイド”、左手に“タイラントアックス”を構えると。 「うわぁぁぁぁぁ!!」 そのままプロキオンに向けて走り出す。 「くっ、」 プロキオンが龍香が振り下ろした“タイラントブレイド”を長剣で受け止めるが、受け止めたと同時に龍香は左手の“タイラントアックス”を振るい、プロキオンの腹部に叩きつける。 「ごっ、はっ…うれしいよ、龍香。ようやく本気に」 「うあああああっ!」 よろめくプロキオンの顔面を“タイラントブレイド”の柄でブン殴る。しかしプロキオンも負けじと拳を振るって龍香の頬を張り飛ばす。 「ぐぅ、うううう!」 龍香が“タイラントアックス”を振るい、プロキオンはそれを後ろへ跳んで避ける。しかし、龍香は地面を蹴って距離を詰めると、勢いそのまま思い切り頭突きをかます。 「ごっ」 「たぁっ!」 プロキオンが怯んだその隙を逃さず、龍香が刃を振るうと火花を散らしながら彼女は地面を転がる。 「はぁっ、はぁっ」 龍香は倒れるプロキオンを見ながら無作法に“タイラントアックス”を投げ捨てると、両手で“タイラントブレイド”を構える。 「……!」 その構えを見て、この一撃で龍香が決着をつけるつもりだと察したプロキオンと長剣を両手で持ち、迎え撃つ構えを見せる。 「プロキオン!!」 「龍香ぁっ!!」 二人が駆け出す。そして互いに手持ちの武器を振るう。お互いが振るった武器がかち合い、鍔迫り合いとなる。 「「うおおおおおお!!」」 龍香とプロキオンが絶叫する。少しでも相手に、自分を刻むために。 永遠のようで刹那の時間。決着の時は訪れた。ピシッ、プロキオンの長剣から割れる音がした。 そしてついには長剣は折れて砕け、龍香の振るう“タイラントブレイド”がプロキオンに迫る。 (負けた。) そう察した瞬間プロキオンはそっと目を閉じる。そして下された運命を受け入れようと、襲ってくるであろう衝撃に身を任せようとする。 だがその衝撃はいつまで経っても訪れなかった。 「……?」 不思議に思い、プロキオンが目を開けると、自分の首筋に刃が突きつけられているのが見えて──震えながらその剣を持つ手を止める龍香がいた。 《龍香!?》 「……龍香。」 「ごめん。シオンちゃん。私には出来ない。」 そう言うと龍香は“タイラントブレイド”を下ろす。それを見たプロキオンはカッと頭に血が昇るの感じた。 「……ふざけないでっ!!」 プロキオンは龍香を思い切り殴る。殴られた龍香はそのまま地面に倒れる。倒れた龍香に馬乗りになってプロキオンは拳を振り下ろしながら絶叫する。 「情けをかけられて、私が納得すると思う!?なんで!なんで戦ってくれないの!?アタシは龍香に殺されても良い位好きなのに!殺したいくらい好きなのに!龍香は私のことが嫌いなの!?」 プロキオンが髪の毛を掴んで地面に叩きつける。呻く龍香の胸ぐらを掴んで怒りで吐息を荒くしながら龍香に詰め寄る。だが、龍香は口から血を流しながらも、顔を上げると。 「……私は、シオンちゃんが好き。シオンちゃんに生きていてほしい。だから殺さない。それが私の答え、本心だから。」 「…っ!龍香っ」 一瞬俯くが、再びプロキオンが龍香に拳を振り下ろそうとした瞬間。 「シオンちゃんこそ嘘をつかないでよ!」 龍香に叫ばれ、プロキオンは動きを止める。 「な、何を言ってるの。私が嘘、なんて。」 「なら、なんで泣いてるの?」 「えっ」 プロキオンは自分の目元に目をやると、冷たい雨に混じって、温かい液体が頬を伝うのを感じる。 「い、いやっ。これは。」 「私はまだ一緒にいたい!また、シオンちゃんと遊びたい!もっと色んな場所に生きたい!シオンちゃんはいいの!?ねぇ、ホントのことを言ってよ!もう、嘘はつかないでっ!」 「わ、私は…。なんでっ。龍香を…!…龍香と…!」 次の瞬間プロキオンは悲鳴を上げながらその拳を振り下ろした。 ──龍香の顔のすぐ横の地面に。 「シオンちゃん……。」 「ぐっ、うぅ……そう、そうよ、そうだよ!ホントは龍香とずっと一緒にいたい!もっと藤正やかおり達と一緒に遊びたい!死んでほしくない!殺したくもない!けど、しょうがないじゃない!私は、私は…!」 「シオンちゃん。」 そう言うと、シオンの姿が見る見る内に元の姿へと戻っていき、いつもの赤黒髪の少女の姿になる。 力無く泣くプロキオンの頬に龍香が手を添える。 「……良かった。シオンちゃんの本音が聞けて。」 「龍香……。」 二人は互いに見つめ合う。 そうしていると森を抜け、頂上にたどり着いた雪花が龍香達を見つけ、ライフルを構えるが様子が何か変だと感じ、トリガーに指をかけたまま止まる。 「どうしたら、良いのかな。私達。」 シオンの問いに龍香は答える。 「……難しいかもしれないけど、シードゥスと“新月”の戦いを、止める。それしかないよ。」 「でも、それは。」 「……出来るよ。だって“新月”の私と、シードゥスのシオンちゃんが分かり合えたんだから。」 「龍香……は、ハハ。凄いね、龍香は。」 シオンは泣きながら微笑んで龍香の手を取ると、それを下ろす。 「やっぱり、龍香と出会ったのは、運め」 シオンがそう言いかけた瞬間。龍香の顔に何か液体が掛かる。雨かと思い龍香がそれを拭うと、拭った手の甲が赤黒く染まっていた。 そしてシオンの身体を剣が刺し貫いているのも。 「え」 剣が引き抜かれると、同時にシオンの身体が糸が切れた人形のように倒れる。 「シオンちゃん!!」 「あ……」 シオンは龍香の握ったままの手に一瞬力を入れるが……すぐに力が抜けて、目を閉じてしまう。 「な、」 その光景を見ていた雪花も絶句する。龍香が剣に目を向けると、そこには。 「くっ、ハハッ、ハハハハッ!!何絆されてんのよ敵に!ハハッ!バッカじゃないの!?」 呆然とする龍香を見下ろしながら血振るいをする白龍香がいた。 《お前……!》 唖然として、力無く横たわるシオンの身体を支えながら、龍香は白龍香に言う。 「な、んで。シオンちゃんはあなた達の仲間なのに…」 「はぁ?敵に絆されて寝返ろうとした奴が仲間ァ?寝ぼけてんのか?」 「違う、シオンちゃんは戦いを…」 「はっ、どっちにしても一緒だっつーの。…にしても下らない奴ね。敵と仲良くなった結果どっちつかずでフラフラフラフラと。その結果ちょっと優しくされたら敵の方に着こうとする。頭の緩いとんだバカ女よ。」 白龍香の言葉に龍香の目が見開かれる。そして俯いて肩を震わせながら、呟く。 「……黙れ。」 「あ?何?バカのことバカって言って何が悪いのよ。死んで当然のバカでしょ。ホンットくだらない人生だったわね。まっ、笑いの種くらいにはな」 「黙れぇぇぇぇ!!」 次の瞬間目を赤く染め、頬が裂け、尻尾を生やした禍々しい姿、ティラノカラー•マーデロゥスになった龍香が白龍香に殴りかかる。 しかしアトロシアスと同等の力をコピーした、ティラノカラー•プリテンダーの形態になった白龍香はその拳を何なく受け止める。 「はっ、バカね。その形態でこの私に敵うとでも」 「うあぁぁぁぁぁぁ!!」 さらにもう片方の拳を振るう龍香。白龍香はそれをまたも受け止めようとすると、片腕に尻尾が巻きついてくる。 「なっ」 その結果尻尾に防御を邪魔された白龍香の顔面に拳が叩き込まれる。 「ごっ」 殴られた白龍香がよろめく。そして次の瞬間、その細い首に龍香が手をかけると、思い切り締めあげる。 「あっ、がっ」 「ふぅーッ!ふぅーッ!」 万力の如き力で締め上げられ、白龍香が喘ぐ。そんな白龍香を、龍香は殺意の篭った目で睨みながらさらに手に力を入れる。 その瞳を見た白龍香は首を締め上げられながらもニヤリと嗤うと。 「ふ、ハハッ!いいっ、いいよっその面!少しは本心が見えてきたんじゃない?」 「黙れ…!」 龍香が脅すが、白龍香は関せずと言ったように龍香に尋ねる。 「…なら一つ聞くけど、あのガキに裏切られた、と思った時怒りを微塵も覚えなかったの?」 「………ッ!」 「あんなに優しくしてきたのにホントはシードゥスで!訳わからない理屈で私を殺しに来て!ホンット鬱陶しいなって思わなかった?」 「もう喋らないで……」 「他の時もそう!貴方は皆に不満があるのを隠してる!どうして約束を破ったの?どうして一人にしたの?どうしてこんなに痛くて辛い思いをしなきゃいけないの?どうして、どうしてどうして」 「喋るなァッ!!」 次の瞬間ボキッという音が辺りに響く。すると、龍香の腕を掴んでいた白龍香の手がだらん、と力無く落ちる。 「龍香……」 その様子を見ていた雪花がなんと声をかけようかと悩んでいると。 「あぁぁああぁあぁぁぁぁぁぁ!!」 龍香は白龍香の身体を持ち上げると思い切り地面に叩きつけた。 「黙れ!壊れろ!潰れろ!この、この、このぉぉぉぉ!」 最早悲鳴に近い絶叫を上げながら、龍香は白龍香の身体に暴行を加える。振るった拳がその顎を砕き、鎧を引っぺがして、生身の部分を潰す。紛い物の赤黒い液体が飛び散り、雨と泥に混ざる。 「龍香!やめなさい!もう、決着は着いたでしょ!」 錯乱した龍香を雪花が慌てて止めに入る。龍香はミチミチと音を立てながら白龍香の腕を引き千切り、乱暴に捨てるが、雪花に肩を掴まれて揺さぶられるとパタッと動きを止める。 だが、振り返った龍香の顔を見て雪花はギョッとする。血まみれの顔も勿論だが、何よりもその左目が赤黒く変色していたのだ。 「どうしよう雪花ちゃん」 「見て、雪花ちゃん」 声が二重に聞こえてくる。一つは絶望し、悲痛に満ちた声。そしてもう一つは、無邪気な子供のような楽しそうな声。 手を擦りながら龍香は雪花に訴えるように、自慢するように言う。 「どれだけ洗っても落ちないの。」 「真っ赤で綺麗でしょ?」 「私、友達を殺しちゃった。」 「私、あのクソ野郎を殺したの。」 「な、あ。」 どう見ても異常な事態に雪花が唖然としていると。 《に、逃げろ、雪花。》 「カノープス?」 苦しそうに呻きながらカノープスが雪花に警告する。 《俺にはもう、止められない……!!》 次の瞬間両目が赤黒く染まり、口角を吊り上げて龍香が嗤う。 「ミンナ、ミンナミンナ、コロス。」 次の瞬間龍香の身体が暴走し、うねりを上げる装甲に全身を包まれる。驚いた雪花が尻餅をつき、唖然としている中、龍香の身体は強靭な逆関節の脚へと、細長く鋭い爪を生やした腕に、尻尾の先端に突起が付き、より強靭に、背中から咆哮する怪物のような翼が生え、おどろおどろしく禍々しい姿へとなる。 そして顔もボロを纏い、包帯でぐるぐる巻きにした怪物のような装甲に包まれる。 「龍、香…?」 そして雨が降りしきる中、凶悪で醜悪な怪物が天を仰ぎ、何かを吐き出すようにその産声を上げた。 To be continued…… 関連作品 セブンスカラー
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2012 10.9 チャットは10月13日ぐらいに導入する予定です。 2012.10.13チャット準備は少し延期させていただきます。 2012.10.20チャットはメンバーが増えた時に導入したいと思っています。