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??? ――― 「凄いわね…」 フェイトとランサー。 シグナムとライダー。 山道地帯を舞台とした四者が集う戦場、その戦いを遥かな高みから観測するナンバーズ達。 「一回戦に比べて地味、ですわねぇ…」 「いえ、確かに火力では先の戦いに劣りますが繰り出す技の冴えは微塵も劣るものではありません。 特にこの槍の戦士が素晴らしい」 「ランサーのサーヴァント……セッテがそこまで言うなんて、よっぽどね」 「まだ六課陣も本気を出していませんが上手い事ばらけてくれたおかげでしょう。 総当りの様相を呈し、万遍の無いデータが取れます。 あとは双方の全開出力さえ出せれば」 「はいはい……流石はセッテちゃん、マジメでちゅねー♪ 戦闘タイプでないクアットロには影を追う事すら出来ないバトルだ。 むくれる四女である。 「ふふ、腐っている暇は無いわよクアットロ。 私たちだってやる事は山積みなのだから。 ところで……トーレとチンクの姿が見えないのだけれど?」 「トーレ姉さまは調整室ですわ。 チンクちゃんはブリッジ。 またあの神父にイジメられてるんでしょうねぇ」 両手を挙げておどけて見せるクアットロ。 モニターで繰り広げられている戦い、ひとまずは自分らが心配する必要はないだろう。 機器ををオートにしてくつろぐ四女を尻目に――― (…………トーレ姉さま) 七番目の機人ナンバーズ・セッテ。 もっとも喜怒哀楽に乏しいと言われた彼女が、調整室――姉の消えた方向を見て表情に陰を落とすのであった。 ―――――― 調整室に一陣の風が巻き起こり、次いで遅れるように来た衝撃波が周囲を切り裂く。 キュギ、!という鼓膜を引き裂く音波は、音を置き去りにした事によって起こるソニックブームの残滓に他ならない。 IS・ライドインパルス――― ナンバーズ3・トーレの身に宿る驚速の牙。 視認外から、視認出来ぬ速度にて、視認を許さぬままに対象に必殺の刃を浴びせるという単純にして強力な武装兵器だ。 その後姿、両の足から異常加熱に対する冷却装置がフル稼働し 廃熱の煙が蒸気のように彼女の全身を包み込み、機械の身体を通常シフトへと戻す。 奇襲に特化したこのISは一撃必殺を旨とし、理論上、回避も防御も不能の最強の技―――で、ある筈だった。 「くそ……!」 ダン、と彼女の壁を叩く音が部屋に響く。 十二分な絶技を繰り出したにも関わらず彼女の表情はありありと苦悩に染まっていた。 その沈んだ瞳の理由は間違いなく、周囲のモニターが映し出す機動6課とサーヴァントの戦いの様相によるものだろう。 「全然駄目だ……これでは…」 鋼の身体に似つかわしくない弱々しい呟きが漏れる。 かつてJS事件においてフェイトテスタロッサハラオウンに完全敗北を喫し、この遊戯盤においても魔法使いに惨敗。 戦闘機人の誇り。 博士の作り上げた最高傑作たるこの身の証明。 今にして思えば滑稽な話だが、以前は自分達が最強だと信じて疑っていなかった。 魔導士など所詮はただの人間、決して我らに勝てるはずがないと。 姉妹たちも自信に満ち溢れていた。 管理局の戦力を前にしても負けないと疑っていなかった。 (地に堕ちたな……) そんな自信も誇りも、何もかも………自身の敗北の数々と共に、腐って堕ちて見る影も無くなってしまった。 (ドゥーエ……) 虚空に視線を泳がせて、彼女は遠く離れた戦地にて散った既にこの世のどこにも居ない姉の名を呼ぶ。 不甲斐無きこの身では姉の無念を、共に抱いた悲願を成就する事は出来ないのか? 彼女はこの世に生まれ出て初めて戦闘部隊の長たる責任と重圧に悩み、苦悩する。 「トーレ姉さま」 その時、何時の間に部屋に入って来たのか背中越しに7女セッテの姿を認めるトーレ。 不意にかけられた声に葛んだ視線を向ける。 「セッテ。 私の調整中は部屋に入るなと言ったはずだ」 「ウーノ姉さまの決定を伝えに来ました。 ランサーとライダー。 あの二人を迎えに行くのは我々になりそうです」 「………そうか」 妹に情けない姿を見せるわけにはいかない。 先ほどまでの消沈した姿をひた隠し、表面上はいつもの毅然とした物腰で七女に接する姉。 だが、それは傍から見ても虚勢以外の何物でもなくて――― 「戻るぞ」 「はい」 内に悲壮な想いを抱いたままにトーレは調整室を後にした。 (どうにか……どうにかしなければ) 秘めた想いは強さへの渇望と、失った誇りを取り戻す事。 「…………」 その後ろに追従するセッテ。 姉のこんな姿を見るのは初めてだった。 こんな時に何を言えば良いのか色々考えようとして……自分にはそんな機能は付いてない事。 結局は当たり前の事しか言えない己に、歯痒さと共に気づく。 機「人」として目覚めた感情が、この戦いを経て彼女達をどこへ導くのか。 答えの分からぬままに――――刻の秒針は無情にも針を進めていくのだった。 ―――――― ―――――― 四つの光が弾けて集い、金髪の魔導士が悲鳴という名の絶叫を上げる。 眼前に広がる光景に目を背け耳を塞ぎたい気持ちに駆られながらも、その一部始終を見逃す事は断じて許されない。 その、戦友の最期になるかも知れない光景をフェイトは砲撃のトリガーに指をかけながらに見据えていた。 故にその始終は――――凄まじいながらも、誰にとっても予想外の結果。 蒼い疾風と紫紺の怪異が紅蓮の炎を挟み込み、穿ち抜く。 三者が交錯し、歪な擬音諸共に激突したフェイトの眼下――― 「「「………」」」 三つの膨大な力がぶつかり、金属が、魔力が、凌ぎを削り、切り裂かれる甲高い音が鳴り響き 槍兵と女怪の直撃をまともに受けて双方から貫かれる形になったシグナム。 一見、それはサーヴァント二体の獲物に串刺しにされた情景に写って見える。 「ああ………」 フェイトのデバイスを持つ指が震え、唇がわななく。 Wait...Sir 「…………え!?」 だがデバイスの声にすぐに目を見開き、驚く魔導士。 ――― ギチギチ、ギチ、 ――― それは…………闘神の所業か? 高度に位置し、雲に覆われたフェイトの視界が粉塵を掻き分けて三者の様子を見据えると 中央の女騎士が二刀を以って双方のサーヴァントの槍を、短剣を寸でのところで仁王のように受け切っているではないか! 「ぬ、ううっ!!! はぁっ!!!!」 ヴォルケンリッター烈火の将シグナムが吼える! 左右から迫った凶刃を何するものぞと裁き、巻き込み、今、苛烈に打ち返す! いかにサーヴァントといえど宙に浮いたままではどうしようもない。 トドメを刺しに行ったランサーとライダーの体制が崩れ、弾き返された。 「撃てぇッ!!!」 「はいっ! トライデントッ………スマッシャァァーーーッ!!」 将の怒号を受けて力強い仕草で指にかかったトリガーを引き放つフェイト。 中距離狙撃砲が漆黒のデバイスからぶっ放された! 「ぐお、あッ!!」 「うう………!」 バルディッシュに叩き込まれたカートリッジは三発。 練りに練られた純正の魔力がフェイトの体内で凝縮され、デバイスを通して増幅される。 そして今、砲撃魔法が雷神の怒りの鉄槌となって吼え狂い、敵に襲い掛かったのだ! 左手の甲にデバイスの柄を添えて掌から放たれた極太の砲撃は、あの高町なのはのエクセリオンバスターと比べて些かの見劣りも無い。 翳した手首から方円方に広がる魔法陣の中央からぶっ放されたそれが左右に一本ずつ枝分かれし 一本はシグナムを掠めて通り過ぎ、一本がランサーを、また一本がライダーを滝のように飲み、そのまま地面に突き刺さる。 フィールド全体に落雷独特の重低音が、次いで鼓膜を裂きかねない凄まじい爆音が鳴り響く。 フェイトの全開砲撃。 Sランク魔導士の全力―――トライデントスマッシャー。 身の毛がよだつ光景とはまさにこの事だ。 天災の中央、巨大なクレーターを作り出した落雷の中心地点にて二つのヒト型が地表に叩きつけられ 10回ほどバウンドしながらそれぞれ地面を滑り、ゴミのように投げ捨てられて場に落着していた。 雷帝の怒りに触れた者の末路である。 「…………ふ」 それを見て苦笑とも取れる溜息を静かに漏らす女剣士。 魔導士の卓越したコントロールによって自身の体スレスレを通り過ぎた砲撃だが 本来ならアレを自分も食らっていたのだ。 ゾッとしない。 「シグナム……! よく無事で……!」 稲妻の主が上空から降りて来る。 血相を変えて飛び込んでくる騎士の戦友、フェイトだ。 「凄い……あの二人の攻撃を同時に裁くなんて……流石です!」 友の惜しみない賞賛の声だったが、対して釈然としないのはシグナムだった。 (何だ……? 今の腑抜けた攻撃は…) そう、それは受けた将が怪訝な思いを隠せないほどにお粗末な一撃だったのだ。 あのタイミングで止めとなる一打を放られてはいかに烈火の将とてただでは済まなかっただろう。 だのに無傷? 敵の不手際としか思えないが…… 些かの疑問に苛まれる将だったが、二人の眼下―――地上にてのそりと起き上がる影が二つ。 何とか現世にカタチを残せたのも高い対魔力と得物を盾にした受身が間に合った故か。 しかしそのダメージは計り知れない。 ふらつく二体の怪人を前に―――フェイトとシグナムが新たな攻勢をかけるのだった。 ―――――― LANCER,s view ――― うむ……体が痺れて動かねえ。 「ったく……いいザマだぜ」 舌の根まで焼き尽くされたかのような雷の衝撃。 粗末極まりない結果に愚痴るのも億劫だ。 「まったくです。 これでは埒が明かない」 隣の奴が頼んでもいねえのに相槌などを打ってくる。 ……………………… 「槍術を極めたにしては幼稚な誤爆ですね。 アイルランドの光の御子―――早くもヤキが回りましたか」 「てめえこそ邪魔しやがって……何のつもりだライダー」 「貴方が先に間合いに入って来たのでしょう? あそこで互いに宝具を打ち合えば上空のフェイトに狙い打たれていた」 「そんな事よりも、ライダー……一つ聞いていいか?」 ところで当たり前のように俺の側にいるこいつ。 今更だが……どうして俺はこんな奴と共闘してたりするんだ? 「さっきのアレは俺も巻き込む気だったのか?」 連携など上手くいく筈がねえ。 信頼関係など成り立つわけがねえ。 何せこいつとは元々―――― 「アレとは?」 「とぼけるんじゃねえ 一度目に森からすっ飛んで来た時の事だ」 「とぼけるとは心外な………敵を討つために宝具を展開しようとしただけですが? たまたま進路上に何かが転がっていようと私の与り知るところではない」 「………そうかい―――――――――そりゃそうだ」 敵が上方より迫る。 一刻も早く迎え撃たなくちゃいけねえ。 だがこの状況――――――ちいと頂けねえなぁ…… 敵と味方の線引き……こればかりは今のうちにはっきりしとかねえと――― ―――――― FATE,s view ――― 「……………シグナム」 戦いが始まってより抱いてきた微かな違和感。 従来ならば見逃してしまうような幾つもの些細な要素。 それらが脳内で散りばめられたパズルのように組みあがっていく。 まだ断言するには早いかも知れない。 かも知れないけど………もしかするとあの二人は――― 「ばらけての各個撃破よりも2on2のコンビネーションで攻めましょう。 私の勘が正しければ、それで圧倒出来るかも知れない……」 「何?」 シグナムが怪訝な顔をする。 相手にダメージがある以上、速攻をかけて一気に鎮圧するのがセオリーのこの場面。 今にも接敵しようという、その出足を止められた不満も手伝い、不満げな表情を見せている。 「根拠はあるのか? 一対一が二対二になるだけだぞ。 数の有利が働くわけでもあるまい?」 「初めから気になっていたんです……彼らは本当に味方同士なんでしょうか?」 「? どういう事だ?」 「いえ、初めは双方の雰囲気から感じた事なんですが…」 轡を並べて現れた怪人……彼らは初めからどこかおかしかった 険悪な空気というのは黙っていても滲み出てくるもの。 目も合わさずに、短い会話からすら滲み出てくるそれに対してずっと不思議に思っていた。 「共にこちらに攻撃を仕掛けてきたのだぞ? それが味方同士でないなら何だ?」 「利害の一致か状況によって仕方なく手を組んでいるか…… そういう成り行きで組まされてしまう事は珍しい事ではありません」 突飛な理論と言われるのは理解しているけど……でも、どこか壁を作っているように見受けられる両者。 そして戦闘開始直後、すぐにこちらを分断して一騎打ちに持ち込んできたあの手合い。 当然、自分達の戦闘力に自信があっての行動なのだろう。 けれど、それだけでないとしたら? 単騎の戦闘に自信があるのではなく単独で行動したい理由が他にあるのだとしたら? 二人が轡を並べて戦う事に何らかの抵抗を感じているのだとしたら? 先ほどの攻防でも彼らは、互いをフォローしようとする動きさえなかったのだ。 「長考の時間も無いな………いいだろう。 ライトニング2、隊長の指示に従う」 「シグナム……ありがとうございます」 「何、執務官として培ったお前の観察眼を信じるだけの事だ」 念輪で、時間にして僅かなやり取りを終えて私とシグナムは頭上から敵を挟み込む。 ライダーと槍の男を中心に弧を描くように旋回しつつ、私は射撃用スフィアを展開して攻勢に備える。 そして間を置かずに相手に仕掛けようと思い立ったその矢先に―――――― ――――――――――――――――――それは起こった。 「なっ!?」 息を呑む私。 対面のシグナムも驚愕の表情を浮かべている。 迎えた眼下………男の槍が―――――― ライダーに向かって翻ったのだ。 ―――――― 高速で左右に分かれる敵が徐々にその輪を狭めてくる。 今にも飛び掛って来ようと構える猛禽ニ匹。 もはや秒の暇もなく戦闘は再開される。 それに対して彼らは雷撃のダメージを負っていて、しかも――――当たり前だった「事実」を再確認させられた後だ。 これでは戦えない。 宝具すらまともに繰り出せない。 真名開放は発動後に隙が出来る……その横っ腹を、隣の「サーヴァント」に突かれかねないのだ。 ―――――――――故に男は意を決し、動いた。 「っ、ぐ――!?」 山なりに緩急をつけて距離を測るライトニング隊に対し、迎え撃とうと鎖剣を構えるライダー。 その彼女の腕に突然、衝撃が走った。 予想だにしないところから来た攻撃は隣の男の紅い槍の穂先。 それがライダーの二の腕に思いっきり叩きつけられていたのだ。 後ずさりする騎兵。 効いたというより驚いて、その場につんのめる。 「―――何のつもりですランサー?」 「てめえはもういい………引っ込んでな。 信頼の置けぬ相手に背中を預ける気はない。」 肩を並べる味方(味方ではないのだが)の突然の申し出に暫くポカンとなった後、嘲りの視線を返す女怪。 「彼女達を一人で相手にすると? 音に聞こえしその槍とて荷が勝ちすぎると思いますが」 「お前の知ったこっちゃねえよ。 邪魔だから消えろと言っている。 あまり俺に近づくと一緒に刺し殺しちまうかも知れないぜ」 「近づくなとはご挨拶ですね。 私の背中にべったりと張り付いていた者の言葉とは思えない」 「おかげで安物のハブ酒みてえな匂いが染み付いて取れねえ。 どうしてくれる?」 「――――安心するといい。 洗っていない犬の匂いしかしませんから、貴方は」 包囲の陣形を取りつつも唖然とするフェイトとシグナムを頭上に、彼らは思い出したかのように氷の殺気をぶつけ合う。 まるであの冬木の地で遭遇した時のように。 やはり彼らはサーヴァント……敵同士に他ならない。 「いいでしょう……私は私で好きに動かせてもらう。 死ぬのは構いませんが、せいぜいその御名に泥を塗らないように」 「名だぁ? 英雄みてえな口利いてんじゃねえよ化け物が―――さっさと行きな」 「ふん……」 槍兵と騎兵、まさかの決別。 短い会話がほどなく終わるのと戦況が動き出すのが―――同時だった! 「おおおおあぁぁあっっ!!!」 吼え狂う烈火が円を描く軌道から一転、高速で上空より飛来する。 「ハッハァ!!!」 瞬時に男が槍を翻して答える。 再び待ち望んだ瞬間に、歓喜に震える騎士と槍兵。 空を舞う猛禽と地を駆ける猛獣が再び相対し殺しあう。 そして騎兵は爆ぜるように後方へと飛び荒び―――― 再び、森の中へと消えていったのだった ―――――― 既に第二局は始まっていた。 滑空するシグナムが地上を駆けるランサーと再び邂逅する。 双方、決して浅くない傷を負っているのだが、手負いの獣は恐ろしいという格言通りか。 牙を剥き出しにして互いの喉笛を食い千切ろうと翻る肉体は見るものの心胆を凍えさせる。 だがそこに介入する魔導師一人。 金色の細い短剣のような形状を取る射撃魔法が将に先行するように飛来し、ランサーの身に降り注ぐ。 フェイトのプラズマランサーだ。 女剣士の周囲を守るように、いくつもの雷の矢が浮かんでいる。 将の周りに顕現し、並行して飛ぶ矢はまるで一糸乱れずシグナムの援護に回っている。 前衛の騎士を守る最強のオプションだ。 徐々に追い詰められる槍兵。 流石にこんな正確な狙撃を受けながら烈火の将と切り結ぶのは自殺行為。 打ち出される矢を叩き落しながら剣士の猛襲に合わせるように併走する男。 「……あの女はどうした?」 「さあな。 その辺でカエルでも丸呑みしてるんじゃねえか? まあ気にするこっちゃねえやな」 「ぬかせ! 伏兵のつもりか?」 「俺を前にして他に気を取られる余裕があるのかねっとッ!!」 その槍は淀みなく、その戦意に聊かの陰りも無い。 本当に……本当に単機でライトニングの隊長と副隊長を相手にするつもりなのか? 将の顔が侮蔑と屈辱に歪む。 「シグナム! 冷静に!」 「分かっている……奴がそうしたいなら、好きにさせておけば良い。」 シグナム個人の心情はともかく……管理局員として、ここで敵に付き合って一騎打ちを挑むなどという行為が出来る筈が無い。 個人の誇りよりも部隊の安全。 敵が一人になったならば好都合。 包囲殲滅するだけだ。 森に消えた女怪への警戒も新たに、地駆ける魔犬の掃討にかかるフェイトとシグナム。 紅と金色の閃光が今、堰を切ったように――― 蒼い男を挟み込むように切りかかった! ―――――― SIGNUM,s view ――― 「ぬううっ!!」 「らぁッッ!!」 曇天に私と奴の怒号が響き、レヴァンティンの灼熱の一撃を真っ向から打ち返すランサー。 一太刀ごとに大地を炎上させるほどの空襲をかけているのだが、対して奴は微塵の遅れも見せない。 「そこっ!」 そして私に一寸遅れ、影を重ねるように追随したテスタロッサの黄金のサイスが奴を襲う。 巨大なザンバーは連携には不向きゆえのサイスモード。 あいつの愛用の多種機能デバイスが術者の思考に応じて縦横無尽に振るわれる。 その炎と雷の刃を一身に受ける槍の男。 紅と金の魔力光にサンドイッチにされる形になっているにも関わらず 大人しくパンの具になるほど、この男は大人しくはなかった。 「くっ…!」 二人分の膂力を同時に受けながら、地に食んだ両足はまるで大木だ。 ビクともしない。 真紅の刃先で剣を、柄部分で鎌を受け止め、双方の接地部分からギャリギャリ、と歪な音が漏れている。 「むうっ!! りゃあ!!!」 すかさずランサー。 右足を軸に一回転し、横合いに薙いで二つの刃を受け流し、コマのように私達を弾き飛ばす。 バランスを崩したテスタロッサに先んじて踏み込み、叩きつける我が剛剣。 奴の額を真っ二つにする筈の刀身を、槍兵は刃先1ミリの域で後方に下がり、かわす。 一瞬遅れて対面、アッパースイングで振り上げられる相方の高速の鎌からの金の刃も最小限の軸移動で受け流す。 威力も太刀筋も速度も、属性すらも違う同時攻撃をここまで往なし受けるなど……教導隊の怪物並だな。 「さあ、もっとだ! 続けて来やがれッ!!」 乱舞する蒼い肢体。 駒のように絶え間なく回転し、穿ち来る槍。 時にはこちらを踏み台にして飛び退り、打ち合う衝撃すらも移動の推進力にして男は翻る。 爛々と光る魔獣の眼差しは何かを求め渇望し、駆け巡る姿は暴虐にして華麗の一言だった。 「ぐふっ!?」 いかん……一瞬の思考すら命取りだ。 奴の飛び蹴りが私の胸部に突き刺さる。 甲冑を抜くには至らないが、不意の事ゆえ踏ん張りが効かない。 6mほど後退させられる。 離れ際に合わせるべく蛇腹に変形したレヴァンティンを前方に放ち、敵を串刺しにしようと振り被るが…… 「なにっ!?」 もはや穿つ相手は正面にいない。 男は既に蹴りの反動で空に上がり、空中のテスタロッサを猛襲。 残像すら斬らせて貰えんか……! 蒼き閃光となって金髪の戦友に肉薄する真紅の魔槍。 「貰ったぜぇぇぇえぁぁッ!!!!!」 そのまま上空に向けて突きの弾幕を繰り出すランサー! 「こ、のぉ…ッッ!!!!!」 フル出力によるシールドを前面に展開し、黄金の盾が紅い五月雨を弾き返そうとする。 だが盾に突き立つ刺突は容赦なく容赦なく魔力壁を削り、掘り進み――― 「あっ!? くううう!!!」 バリアブレイク。 大きく後方に弾け飛ぶテスタロッサ。 一つ二つの突きならば受け止められただろうが、50の乱撃を同時に貰ってはいかなバリアとて崩壊せざるを得ない。 「シィィィ―――」 両側に押し返された我らを脇に見据え、静かに息吹。 美しい軌道で槍をバトンのように回し、ゆっくりと後方の腰元に回してその場に佇む男。 「つ、強い………手がつけられない! あの守りの固さは異常です!」 「異常というのは同意だ。 普通ではない相手という事は分かっている。」 分かってはいたのだが……しかし、これほどとはな…… こちらとて互いにSランクの称号を持つ機動6課ライトニングの隊長と副隊長だ。 それをたった一人でこうまで虚仮にする存在などあって良いものなのか? 動きが目に見えてよくなっていく。 まるで水を得た魚だ。 先にテスタロッサが言ったが、特筆すべきは鉄壁の防御。 後に知る――――槍のサーヴァントの真名。 生き残る事にかけては右に出るもののいないと言われた御業の片鱗を今、我々は垣間見ているわけか。 「ううっ!?」 対面にてかち合う槍と鎌。 テスタロッサの滑空にランサーが先回りして飛び掛る。 眉間を皮切りに、正中線に次々と穿たれる槍、実に五閃。 何とか身を捻り、体に穴を開けられるのを防いだ相棒だったが、その体の横を五つのレーザー光線のようなモノが通り過ぎる。 九死に一生、ぶわっと全身の毛穴が開く感覚だろう。 あいつの強張った顔が、その心情を物語る。 「油断するな! まだだっ!!!」 「は…! うぐっ!?」 短い悲鳴をあげるテスタロッサ。 突きから移行した薙ぎ払いが胴体に叩きつけられていたのだ。 「うおおおおりゃあああああああっ!!!」 獅子奮迅の怒号と共に長物を振り切り、テスタロッサを弾き飛ばす。 腰から不時着し、地面を滑るように転がって何とか体勢を立て直す戦友。 こほ、と嗚咽にむせび前方を見据える先で、今度は私と男が鍔迫り合い。 槍兵の横っ腹めがけて剣を叩きつける私をニィ、と歪な笑みと共に迎え撃つランサー…… こいつは私達を侮っているわけではない―――――― また現時点、自身の戦力がこちらに対し劣っている事も承知している。 それでいてこの戦いを、その身全体で楽しんでいるのだ………窮地さえも。 バトルマニアどころの騒ぎではない。 バトルジャンキーだな。 そんな男と心行くまで打ち合いたい……一人の騎士として一対一で。 そのような衝動に駆られつつ、私は任務を至上として剣を振るう。 ほとほと手を焼かされている事ばかりを述べているが、当然こちらが優勢である事に変わりは無い。 敵とて徐々にだが確実にこちらの刃を受けて傷ついている。 ほどなく決着はつくだろう。 このままいけば我らの勝ちは揺るがない。 ランサーよ……どうするつもりだ? ――――――――本当にこのまま意味も無く負けて終わるつもりか? ―――――― ―――――― サーヴァント・ランサーは歓喜する。 英霊の真名はクーフーリン。 クランの猛犬の異名を持つアイルランドの大英雄。 現代の世界史においてアーサー王やアレクサンダーのような世界に名を響かせるような威名はないものの 生涯を戦に生きた純一戦士である彼は軍神として、一地方においてまさに神の如き崇拝を集めていた。 祖国においてはあのアーサー王すら凌ぐ威名を誇るこの男もまた―――冬木の奇跡・聖杯戦争に召還されたサーヴァントの一人。 場所、時代を超えて一同に集い、最強の御名の下に戦う。 武と誇りを抱いて世界に名を刻んだ英霊にとって、それは祭……まさに夢のような舞台であった事だろう。 第五次聖杯戦争に招聘され、まだ見ぬ最強を相手に槍を震える喜びに胸躍っていたランサー。 ――― だがしかし、彼を待っていた運命は過酷極まりないものだった ――― 「――――パゼット……ッ!」 「間抜けなサーヴァントの到着か。 遅かったな……もはやお前は私の飼い犬だ」 黒衣の神父が光の灯さぬ双眸を向け、腕に宿った令呪を彼に見せて言う。 薄気味の悪い相手なのは理解していたのに、マスターの気の許した相手だと油断したのが悪かった。 口煩いのが玉に傷だが、心通わせられるパートナーに巡りあえた事を感謝した矢先…… そのドブのような目をした男にマスター、パゼットフラガマクレミッツは倒された。 令呪を剥ぎ取られ、男は主を護れないままに自身を奪われる事となったのだ。 その後の彼の聖杯戦争は語るも惨々、見るも無残の一言。 ろくに全力で戦うことも適わず、主の仇を討つ事も役目を果たす事も出来ずに 彼の戦いは、光り輝く生涯の名にそぐわぬ幕を引く結果に終わったのである。 「ついてねえなぁ………パゼット―――仇くらいは討ってやりたかったが…」 果てる寸前、眉をしかめて小言を飛ばす女マスターの顔が浮かぶ。 生前、死す時までついには己の信条を全うしてきた英霊にとって 何も為せずに終わった此度の戦争の無念はいかばかりのものか。 常に戦の先頭を駆け抜け、満ち足りた生涯を送ってきた男は、何も残せずに―――その戦いは終焉を迎えた もし次があるなら……その時は全力で戦りてえものだぜ――― ―――――既に叶う事のない、ただ一つの未練を遺して ―――――― LANCER,s view ――― 「記憶」が所々、断片的に残っている違和感がある。 その鬱陶しい違和感は何故か霞がかっていて、深く考えようとすると思考が強制的に閉じちまいそうになる。 だから今は考えるのを止めた。 何せ勿体ねえ。 これほどの戦。これほどの敵。 楽しまなきゃ損ってもんだ。 やはり足手纏いがいないと体が軽い。 戦況はちいとばかし不利な方がノリも良い。 いつもの俺……紛う事なく、いつもの戦だ。 それにあのクソ神父に処された楔の制約が薄く感じられる。 震える魂、力が止め処なく溢れてくる。 確か一度目に見えた敵とは全力で戦えないのではなかったか? ええい、どうでもいい……何もかんも、どうでもいい! 今はただ戦え、闘え、と! 前回の分まで闘えと! 俺の中の獣性がその肉体を突き動かすのだ!! 「ち、ぃ!」 奴らは強え。 二対一とはいえ、もう少し何とかなるかと思ったが…… 攻、防、機動力全てにおいて抜かりがねえ。 連携の精度も、付け焼刃のそれとは一線を隔す。 強引に捻じ込み、宝具で一人減らす―――まずはそれをしなけりゃ始まらないんだが、その行程の見込みすらつかねえ状態だ。 両脇に打ち込まれる雷の矢に軸移動を封じられ、剣士の渾身の一振りをまともに受ける羽目になる。 両足が膝下まで地面にめり込む。 その両の足を、これまた執拗に狙う金髪のお嬢ちゃん。 息も付かせねえとはこの事か! 「よいしょっとぉ!!」 全身のバネで埋まった両足を引っこ抜き、アスファルトを撒き散らしながら豪快に跳躍する俺。 だが、そこに打ち落とされる嬢ちゃんの斬戟も先ほどまでとは明らかに勢いが違う。 今まで俺は、俗に言う「多人数故の隙」を巧みに突いて相手に拮抗させてきた。 連携であるが故に、意思の疎通が遅れる「群」だからこそ生じる隙。 それは「個」が大兵力を相手に戦う際に有利に働くほぼ唯一の利点だ。 偏に、他者と自分の思考のズレ、タイムラグ―――意思疎通の困難さに起因する。 一瞬の目配せ。 一方が崩された時に生ずるもう一方の焦燥。 フォローしようとする時の理想のラインから外れた余分な動き。 それらのノイズが個々を100%の挙動から遠ざけ、そこを的確に突いていくのが単騎駆けの基本だ。 まあ簡単に言っちまえば、1+1を2にさせないという事なんだが…… だが、それに対して心の通じ合ったベストパートナーは1+1を5にも10にもしてくる。 黄金の連携は互いの覚悟と信頼がそれを完璧なものへと近づけ、子供騙しなど通用しない域へとその精度を誘っていく。 良いコンビだぜ……一年二年やそこらの付き合いじゃねえな、あれは。 「おぉりゃっ!!!」 頭上を通り過ぎた金髪の背中に今一度、跳躍して襲い掛かる俺。 飛ぶ鳥を堕とさんと繰り出された渾身の一刺しが、嬢ちゃんの脊椎を貫き通そうと迫るが、瞬間――― 「ソニックムーブ!」 背中を隠す白いマントまでが、一瞬でこの視界から掻き消えやがった! しかも野郎…………こりゃ、誘いだ! 間抜けにも二対の猛禽相手に宙に浮かび上がった俺の体は、さぞかし手頃な獲物に見えただろう。 左右から同時に迫る羽持つ者ども。 やべえ! 不安定な空中で受身を取る俺。 「ぐ、ぬうっ!!!!」 中空へと舞い踊る肢体。 エアハイクが終わるまで数秒。 しかしてそれはコンマの位を奪い合う戦場においては気の遠くなるほどに長い時間だ。 餌に釣られた魚が無様に晒した横っ腹。 飛来する猛禽の爪を、牙をただ黙って貰い続けるサービスタイムの始まり始まりってか。 「「ブレイクッッ!!」」 共に吼え来る炎と稲妻。 中心に位置する俺に対し、刻み込むようなクロスラインを描く。 何度も何度も、獲物……即ち俺が地に落ちるまで、何度も描く。 ギィン、! ギィン、!という炸裂音が間断なく響き渡り、その度に槍の防御で殺しきれぬ衝撃で肉体が弾け 飛び、のけぞり、中空できりもみしながら地面に向かって堕ちていく体。 「はおっ……ッ!」 そのまま受身も取れずにコンクリの地面に盛大に落下したとさ。 くそ………みっともねえ……… 何かが潰れるような鈍い音と共に叩きつけられた肉体は、瞬く間にボロ雑巾の如し。 「こりゃ、次からは迂闊に跳べねえな……」 負傷した側頭部からどろりと流れる赤い液体をペロリと舐め、大地に突き立つ槍を抜き放ち憤然と構える。 「降伏する気はないか」 「当たり前だろうが」 「貴女に勝機は無い! 無駄な抵抗は……」 「せっかく掴んだ好機をお喋りでフイにする気かい? 良いところなんだ……さっさとかかって来な」 「…………っ!」 唇を噛んで憤慨する金髪の嬢ちゃん。 相変わらず、無為な流血は好まんか? お優しいこった……確かに言う通り、まともにやってたら俺の勝機はほぼゼロだ。 故にそろそろ――――――勝負に出る時。 もう少しだ………もう少しで全部、読める。 こっちだって、ただやられるために出て来たわけじゃねえんだ。 身を斬られるも、骨を削られるのも全て勝利のために。 切り札は―――未だこの手の内にある。 一糸乱れぬが故に規則正しい奴らの軌道。 それは弛まぬ修練の賜物だろう。 だが、だからこそ、乱れぬからこそ読める。 二人が重なる軌道………必ず訪れるコンマ一秒以下の必勝の機会は――――確かに存在した。 ―――――――――そこに「こいつ」をブチ込んでやる。 右手に構えた槍を片手に携え、投擲の体勢に入る。 打ち込まれた刃の痛みを燃料に変え、いよいよ持って覚悟を決める。 乗るか反るかの一発勝負。 肌がチリチリしてきやがった。 こういう空気は良い……実に良い。 これぞ戦の醍醐味だぜ! 左手を前方に、指を立てて添える。 それは現代の狙撃手が相手に定める照準のようなもの。 狙いはただ一つ。 相手の空中での軌道、炎と雷が交わり重なる瞬間――― 「狙い撃ちだ………心躍るじゃねえか。 久しぶりに熱くなってきたぜぇ!」 我が意思を受けて、真紅の槍が再び吼える。 二敵を射抜く確率は針の穴を通すが如く。 だからこそ、それを為すのが無双の英霊の証明に他ならない。 猛犬の切り札を、再び轟の一文字を以って起動させる。 ―――空気がざわつく。 打ち合いを避けて距離を計る俺と、高速で旋回し虎視眈々と止めを刺そうと迫る相手。 共に激しい動きにて相手を牽制し、その機会を待つ。 地を蹴る音、空を裂く音だけが場に響き、静寂とは程遠い戦場の、場の空気だけが静まり返っていく。 それはどちらが先に必殺の牙を叩き込むかに息を呑む場の空気の緊張の高まりだろう。 共に止めの図式の見えたこの勝負……あとは幕を引くだけか。 名残惜しいが、双方がその思考に達した今―――決着の刻を遅らせるクロノスの神などもはや無力の長物。 「行くぜ…………」 上空にて炎熱と春雷が同時に飛来し、目も眩むような速度で飛び交い、的を散らしながらに迫り来る。 その軌道の―――刹那とすら言い難い接点を今…… ――― 突き穿つ ・・・ ――― ゲ イ ・ ―――――― 戦場が終局を迎えようとする。 後はどちらかの躯が場に横たわるのみ。 そんな未来の光景を幻視させる、今まさに決着がつくその時―――― ―――――――異変は起きた。 三者が予想だにせぬ、世界を覆う鮮血の帳――――― 「あ………ッ、ううっ!!??」 紅い呪縛に先ず犯されたのがフェイト。 流星の尾のような金色の魔力を引きながらランサーに突っ込んだ、その勢いのままに 彼女は空中で急激に姿勢を崩し、つんのめって地面に墜落した。 「な、なにっ…!?」 彼女の後方、シグナムが声を詰まらせる。 しかしてその異変はすぐに女剣士の身体をも侵食。 突如、足に重りを付けられた鳥のようにゆっくりと空より堕ちゆく。 ――― 血の様な一面の赤に彩られたセカイ ――― 重くヤスリのように絡み付いてくる毒々しい空気。 それに触れているだけで、まるで肌を焼かれるような感覚に襲われる。 AMF……魔導士殺し―――アンチ・マギリンク・フィールドの発動を初めは疑った二人。 だが、だが、この禍々しい瘴気に満ちた空間は魔力を減退させるとかそんなレベルの話ではない。 まるで魔力はおろか本体すらも溶かし尽くす炉心の中に放り込まれたかのよう―――― フェイトが寒さに震えるように両肩を抱きしめて地に倒れ付す。 シグナムが焼けるような熱さに喉を焼かれて苦悶の呻きを上げる。 そんな中―――― 「あの野郎……………」 「コレ」の正体にいち早く気づいたランサーが獰猛な唸り声を上げ、自身の頭上にある木々の闇を見据えて叫ぶ。 「ライダーッ!!!!」 視線の先――― 木々の間に、腰まで伸びる長髪をなびかせて立つ彼女に向かって――― 前 目次 次
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RIDER,s view ――― 獲物が罠にかかった、その愉悦を体いっぱいに感じつつ―――私は悠々と木々の枝から地に降り伏す。 「恐れ入ったぜ……俺ごとかよ」 「おや? ランサー。 いたのですか?」 「空気の読めねえ馬鹿女が………舐めた真似をしてくれる!」 心外な。 好きにしろと言ったから好きにさせて貰っただけですが何を怒っているのやら。 しかしながら片方が残って敵の気を引き、片方が囲う。 相手のお株を奪う連携、期せずして見事なコンビプレイと相成りました。 彼の同意を得られるかは甚だ疑問ですが、案外良いコンビなのかも知れませんね、私たちは。 ともあれ、これぞ我が切り札―――― 他者封印・鮮血神殿ブラッドフォート・アンドロメダ。 かつてギリシャ神話において人々を震え上がらせた我が住処にして、現世に蘇る結界型宝具。 耐性のない並の人間がここへ落とし込まれた場合、ものの数十分と持たずに衰弱し、体を溶解させられてしまう。 生物の生息出来ぬ毒の沼、酸の海、いわば邪悪なる人喰いの封絶結界。 「下品な棲家だ……お前にゃ相応しいがな、ライダー。 しかし10分やそこらでポンと出せる代物だったか? コレ」 ランサーがうんざりしながら問うた質問は、むしろ私自身が一番意外の念を抱いている事に他なりません。 現在のヒトが住まう土地の基盤は、我らが存在していた頃に比べて魔的な要素が見る影もないほどに薄い。 今を生きる人々が神秘を忘れ、営みを起こして久しく穢された大地たち。 精霊、地霊、幻想種―――あらゆる神秘的な要因を排他し遠ざけてしまった現代という荒んだ時代。 だから冬木の地で私がこの結界を張るには大掛かりな下準備が必要でした。 ですが信じられない事に、この一帯は並外れた霊脈を内包させた霊地だったのです。 それこそ神代のそれに匹敵するほどの。 先ほどまで周囲を疾走していたが故に気づいた事実。 もはや「地盤」を作り直す必要もない。 まるで私にあつらえたかのような一等地………容易く宝具の発動に踏み切れた。 「貴様……俺の戦の邪魔をしたな? 笑えねえぜ―――――そんなに死にてえかライダー」 ランサーが真紅の魔槍を携え、その切っ先を私に向けてくる。 「下賎な歩兵に気を使ってやる義理など私にはありません」 「――――――ほう……よく言った。 ならば貴様が先に死ね」 「神殿の中で私に勝てるとでも? お望みならば貴方を先に引き裂いてしまっても良いのですよ?」 「たわけ……この程度の結界でサーヴァントを縛れるとでも思っているのか」 ギィ、と口元を吊り上げて嗤う狂犬。 流石と言っておきましょうか。 人を食らう赤熱の大気など何するものぞと気勢を放つ蒼き肢体。 「なるほど………さすがは三騎士。 他人の家に招かれて行儀の悪い事この上ない。 ならば私もそれなりの持て成しをせねばなりません。」 「………? な、貴様っ!?」 ランサーが血相を変える。 ふふ……カンの良い男です。 もはや貴方は用済み……暫く退場していて貰いましょう。 「―――――ブレイカー」 さあ、ここからが真の地獄の始まり。 子を安らかな眠りへと誘うが如き声で謳い上げるはその真名。 決して急く事なく、優雅な仕草で、私は目に装着した眼帯を外す。 「――― ゴルゴーン ―――」 そして全てが―――――――――――凍 り つ く 、、、 ―――――― 止まる―――トマル―――全てが静止する――― 三者の声にもならぬ声が場に揃い、しかしそれが世界にカタチになる事はなく 沸き立つ力の解放に喜び勇む騎兵のサーヴァントを前に、もはや犠牲者達の運命は決定された。 その相貌―――美しき魔性の全貌を現した女怪の笑み以外に場の空気を震わせるモノは残っていなかった。 後ろで成り行きを見守りつつ、いつでも動けるように身構えていたフェイトとシグナムの四肢が 心臓が、呼吸が、止まって動かず―――カチカチで、莫迦みたい――― 「ほ、本気だな……てめえッ!」 「邪魔です」 「か……ぐほおっ!?」 至近で彼女の魔眼を受け、女の短いスカートから伸びる強靭な横蹴りを棒立ちで受けてしまうランサー。 鳩尾に炸裂したそれが深々と男の体にめり込み、衝撃を流すも往なすも出来ぬままに 凄まじい脚力の洗礼を受けた肢体が樹木立つ森の奥にまで吹き飛ばされる。 「ご、あッ!!?」 男の体が木々をなぎ倒し、それでも止まらずに森の奥へと消えていく。 自己封印解放と他者封印の顕現たる二重の結界の中ではあのランサーとて、ライダーには適わない。 女怪の二つの宝具の同時併用―――条件こそ厳しいが、成り立ってしまえば無敵。 この中で彼女と互角に戦える者など、あらゆる魔術的要因を無効化するセイバーを含めて数名といったところだろう。 ましてやその原理も知らぬまま、食人の檻へ放り込まれたシグナムとフェイトの二人は……… 「――――フェイト」 静止した紅いセカイで一人、行動の自由を許された化生が誘うような声で囁く。 「森での続きをしましょう…………何、苦しいのは最初だけ―――もう決して逃がさない……」 静かでそれでいてぞっとするような声はこの瞬間、全ての生殺与奪を握る絶対者の響きを以って場にいる者の耳に響く。 「魔力を通せッッッッ!!!」 女の目の奥にたゆたう長方形の瞳に射抜かれながらにシグナムが叫ぶ。 全てが終わってしまう前に放った将の怒号を受け、意識すら止まりかけたフェイトがハッと正気に戻る。 何がなにやら分からずに全ての機関に魔力を供給。 内蔵された防護機能の全てをマックスにして、その身を佇ませる。 「………………は、」 そして一呼吸遅れて――― 「か、はっ……!? ぁッ…!?? げほっ!? はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、!?」 気管支が蠕動し、激しく咳き込む魔導士。 背中を震わせて涙に咽ぶその表情。 体の急激な異変に耐え切れず、悲鳴を上げる各種機関。 「ほう……魔眼、呪法に対する最低限のレジストは心得ているようですね」 間違いない――――烈火の将は臍を噛んで敵を睨み据える。 先ほどシグナムがライダーにトドメを刺そうとした際、その身を襲った原因不明の壊死現象。 それと同様の事が今ここに起こっている。 しかも今度は謎の毒々しい結界のおまけ付き。 「そろそろ始めても良いですか? 次は私と遊びましょう。 例によって二人掛かりでも構いません」 神話の時代、人々を震え上がらせたライダーの主力武装がついにそのベールを脱ぎ 獲物を前にしてもはや待ちきれないといったところか……微笑すら称え、ライダーがゆっくりと歩を進めてくる。 「く、来るぞっ…!」 掠れたような声を精一杯ひり出して相棒を叱咤するシグナム。 フェイトも言葉を返そうとするが、舌が回らない。 バルディッシュを地面に突いて体を起こし、下を向いた視線を前方に向けようとするが、それすら至難。 これでは到底、打ち合えない……二人が敵の襲来を前に空へと飛び立とうとする。 「遅い」 だが、ライダーの手から投じられた鎖が両者の足首に絡みつく。 「あ……ッ!!」 短い悲鳴と共に無様に地面に引きずり落とされる魔導士と騎士。 嘲り笑う騎兵の声だけが耳障りなほどに彼女らの鼓膜を震わせる。 「き、さまぁ!!」 鉛のような体を推して地を蹴り、敵に切りかかる烈火の将。 その火山の噴火を思わせた太刀筋は――― 「――――ふ…」 今や子供や老人の素振りの如き速度と威力しか引き出せず、業火を思わせた剣技はもはや見る影も無い。 緩慢とすら言える刃をかわすでも受けるでもない。 紫の女は右手で、剣の腹を無造作に払うだけ。 それだけで将の剣は力なく跳ね飛ばされ、彼女もバランスを崩してしまう。 (っ…! 何てことだ……!?) 今や力差は大人と子供以上……絶望を通り越して冗談としか思えない。 ――― 全滅必至の絶望的状況 ――― 紅き世界は、そんな凄惨な現実のみを――――― ――――――――情け容赦なく二人に突きつけるのだった。 ―――――― 「下がれっ! テスタロッサ!!」 「シ、シグナム……!?」 邪悪な気配を撒き散らし、ゆっくりとフェイトに向かって歩を進めるライダー。 隊長を庇おうと一歩前に出る不退転の守護騎士が、その瞳に確固たる決意を灯す。 「あいつには指一本触れさせん! ライトニング2、これより敵と交せ、―――がっ!!?」 気合諸共ライダーに踏み込み、体を張って相手を止めようとした将の眉間に衝撃。 騎兵がの無造作に放った飛び膝蹴りが炸裂した。 意識の大半が飛びかけるが、踏み止まり裂帛の咆哮と共にライダーを薙ぎ払う紅蓮の胴打ち。 だが騎兵は既に地に伏せ、横に薙いだ剣を掻い潜ってシグナムの懐に――! 先ほどランサーを吹き飛ばした懇親のサイドキックを将の胸骨に叩き込む! 血反吐を吐いて後方に吹き飛ばされる将。 信じられない……騎士甲冑の恩恵すらほとんど殺されてしまっている。 こちらが一歩踏み込むごとに相手は10歩の距離を詰めてくる。 こちらが剣を一振りするごとに相手は20の挙動を以ってこちらの体を犯し続ける。 勝負になるわけがない。 それは既に蹂躙だった。 幾度となく打ち込まれ、弾け飛ぶシグナムの上体。 しかし何と歪な光景か―――肉体の蹂躙に、打たれて苦痛に咽ぶ反応すらが遅れてしまうデタラメ。 その現象が、終焉を迎えようとする獲物を更なる恐怖と絶望に落とし込む。 「うああああぁぁあッ!!」 フェイトが悲痛な絶叫を張り上げてライダーに斬りかかるが、駄目。 軽量の筈の短剣の払いに紙屑のように吹き飛ばされ、たたらを踏んで尻餅をつくフェイト。 曇天の空を支配する雷帝が、まるで酒浸りの泥酔者のような有様ではないか。 「シグナム…! シグナム!!」 そして嗚呼、地を這いながらそれでも向かおうとする先……目の前で尊敬する騎士に加えられる一方的な暴力をまざまざと見せ付けられるのだ。 マルチタスクが20の戦術を錬って実行に移そうとしても、それの1,2しか行動に移せない。 それはまるで海中深くに沈んだ鳥が、巨大なタコやイカの化け物に捕獲され、なぶられる様に似ていた。 地上を求めて浮き上がろうとするのを嘲笑うかのように引きずり込んで、徐々に弱らせていく。 もう戦術も何もなく必死に斬りかかるフェイト。 それを事も無げに払うライダー。 温厚な人格をして精一杯の罵声を浴びせて何とか騎兵の意識をこちらへ向けさせようとするが、そんなもの仲間が朽ちていくのを遅らせる事も出来ない。 フェイトを後ろ手に、烈火の将はその場にてただ、ただ防戦。 一斬も返さず、急所を最低限庇うのみで攻撃を受け続ける。誇り高きベルカの騎士が何という屈辱……… だが他に術がない。いくら耐えても待っても自分のターンが来ないのだ……受けも攻めももう意味が無い。 それでもここで倒れるわけにはいかない……自分が倒れれば後ろの戦友が敵に嬲り殺しにされる。 だからその凄惨な結果を少しでも遅らせるべく、彼女は意識ある限り決して膝をつかないのだ。 まるで崩れぬ事が最後の抵抗とでも言わんばかりに! 「はぁ、はぁ………はぁ、…………はぁ、」 「――――なまじ打たれ強いと地獄ですね。 あまり貴方に時間をかけるつもりは無いのですが」 既に息も絶え絶えの将の懐に、ため息混じりにライダーが踏み込む。 ザクリ、と下腹部に釘剣を叩き込み、そのまま抉るように上方に切り上げる! すると華麗だった彼女の白い戦装束―――重厚不貫のパンツァガイストがまるでダンボールでも裂くかのように撤去され 紅い魔力の残滓が場に飛び散り、下腹から胸元にかけての彼女の守りの要が無残にも破砕される。 「ぐ、はっ………!」 BJが完全に抜かれ、胸元まで露になったシグナムの体。 今、攻撃を受ければ彼女の肉体は間違いなく破壊されてしまうだろう。 (せめて……一太刀…ッ!!) 刺し違えてでも敵を止めようと足掻く体は、ブルブルと力無く震えるばかりで本当にどうしようもないくらい動かない。 屈辱と悔恨に塗れ、噛んだ唇から血を滲ませながら――― 将はまるでスローのように自分に迫り来る、敵の止めの一撃をただ垣間見ていた。 (こ……これまで、なのか……?) もはや術無し―――――― (テスタ、ロッサ………逃げろ……) 積み重なったダメージで壊れたマネキンのような肢体。 光を灯さぬ目で彼女は友に己が意思を投げかける。 もはや思考が正しく働いているかも怪しい。 逃げられるような状況でもないだろうに、それでもただ一言。 魔導士にそれだけを告げようと、将は友に向き直り―――― ――――その横を―――――――無迅の雷光が駆け抜けていったのだ…………… ―――――― 心優しい彼女をして抑え切れないほどの怒り―――― 敵に対するものもあっただろう。 だがそれよりも尽きぬ憤怒の源は、大事な大事な仲間を自分のせいで犠牲にしている己の不甲斐なさだ。 ―――「それ」は自分が何より求めた力だった ―――「それ」は小器用に一通りの分野に精通できる自分が持ち得る、唯一の取り柄だった。 仲間に比べて力強さも頑健さも持ち合わせていなかった自分。 でも、だからこそ、それだけは誰にも負けたくなかった。 真っ先に誰よりも「速く」救いを求める人の下に行き、その手を掴みたい―――その思いだけは誰にも負けたくなかったのだ。 そんな一途な思いが―――――― 「……バルディッシュ」 Yes Sir...stand by―― 彼女に至らせたのだ。 「最速」 という境地に―――― 「オール・パージ……ソニックフォーム」 ―――――― RIDER,s view ――― 「――――――は」 「障害物」を排除し、今、愛しい獲物に牙を付き立てようと翻るこの肢体に―――― ―――――――― 一条の斬駈が走った。 「…………………」 暫くはそれが何か理解できずに立ち尽くす私でしたが……誰もが動けぬはずの紅い世界。 我が魔眼の呪縛に犯された大地に爆ぜた雷光の正体に思い至った瞬間――― 「く、はぁ……ッッ!???」 脇腹から吹き出す大量の鮮血と焼け付くような激痛に苛まれ、私は悶絶して膝を付く。 「う………うぅ……ま、まさか…!?」 馬鹿な……私が視認出来ないほどの一撃を今ここに打ち放ったとでも? あの邪魔な騎士を排除してから存分に相手をしてやろうと思っていた金色の雀…… その華奢な体が今―――私の遥か後方にて、斬り抜けた体を再びこちらに向けた。 「よ、よせ………! テスタロッサッ!!!」 倒れ伏しながら、悲鳴じみた絶叫をあげる女剣士……? その身を捨て置き、我が獲物――フェイトを見据える私。 彼女の瞳と目が合って、冷気すら感じさせる殺気を灯したその目に背筋がざわつく。 そして―――――またも瞬雷! 「なっ………そんなッ!??」 今度は正面に見据えていたにも関わらず、反応するのがやっとだった……! この私が無様に飛び退り、地面を転がってようやく回避した――― 「つ、う………ッ」 ―――にも関わらず、大腿を大きく裂かれ、またも自身の鮮血を見るに至る! そんな……そんな……有り得ない!? 彼女は今、この結界内において私よりも速く………!? 「はぁぁあああっっ!!」 「ぐっ!??」 信じられない。 圧倒的優勢による余裕の表情を歪ませ、私は全霊にて場から飛び荒ぶ。 負った傷は取りあえずは心配ない。 この「神殿」内にて獲物から吸い上げた魔力が我が体内に流れ込んでくる以上、私の無敵は揺るがない。 裂けた傷は二箇所ともみるみるうちに塞がっていき、ほどなく消えてなくなるでしょう。 しかし、そんな事は問題ではない……この場にて私がそのような傷をつけられる事が問題なのです。 ――――もはや「闘い」になどなる筈がないのに…… 10閃―――20閃―――! 一瞬のうちに刃を切り交わし並走する私とフェイト。 先ほどの森の中を思い出させるかのような疾走戦闘。 しかしながら、体も手足も既にクモの巣に絡まっているというのに何故貴方はそこまで動けるのです!? その身から放電するプラズマのような魔力は凄みと共にどこか危うささえも感じさせる。 私が驚愕と混乱の極みにあるという事を差し引いても、今の彼女は私よりも幾分速い! 「ええいっ!!!」 形勢逆転……? 金の尾を引く稲妻に、打たれ、振り回され、拮抗させるのも精一杯の私。 これほどの機動力を叩き出せるのに、何故今まで彼女はそれをしなかったのか……? 不可解な敵の攻勢が私の脳内に疑問を投げ掛ける。 その間にもこの身に刻まれる大小様々な斬傷。 致命のそれを避けるので今は精一杯。 「こ、小癪なッ!!」 よもやペガサスを呼ぶ羽目に――――― いや………ここで騎英の手綱に手をかけるのは流石にまずい。 いくらこの身に魔力が充実しているとはいえ、それでも三つの宝具を重ねるのは自殺行為。 ここは何としても自らの足で――――フェイト!! ―――――― SIGNUM,s view ――― 「駄目だ……テスタロッサ……それは…」 血のように真っ赤に染まった世界の中―――どろりとした大気を切り裂いて、金の閃光と紫の長髪が乱れ飛ぶ。 驚きと動揺を隠せない敵に対し、攻勢をかける戦友。 だが、間違いなくそれは一時凌ぎにしかならない。 八の字を描いて交錯し、ガチン、ガチンとぶつかり合う二対の光。 直撃こそ許さないまでも、抜ける度に女怪の皮膚が切り裂かれていく。 だが、この時点で奴の……テスタロッサの負けは決まっている…! 「それ」をするからには一撃必殺でなければいけないのだ。 曲がりなりにもその速度に付いてこれる相手を向こうに回して使う術ではない……! ソニックモード――― 奴の姿は先ほどまでと違い、半身を覆う白いマントもタイトなスカートも纏ってはいない。 肌にジャストフィットしたスパッツのようなもので最低限の箇所を覆っただけのその姿。 かつて私と雌雄を決する際に編み出した、アーマーパージによる超速戦闘形態。 攻撃に使う出力すらカットして、その手に握られるはバルディッシュ待機モードである戦斧のみ。 ありとあらゆる兵装を極限まで削ぎ落とした状態が、今のあいつの全容だ。 普通の……いや、マトモな奴ならばこんな事は誰もやらない。 それは何故か? 簡単だ。 ――― デメリットの方が遥かに大きいからだ ――― 魔導士がBJを捨てるという事は、敵の攻撃を食らえば一撃でゲームオーバーという事と同義。 あくまで彼らは生身の人間。 その身体は鉄でもなければコーディネイトされた人工皮膚でもない。 砲撃を受ければ熱で皮膚が焼け焦げ、刃の直撃を受ければ容易くその身は両断され、障害物や壁に接触するだけで五体はあっさり砕け散る。 こんな状態で制御ギリギリの速度で飛び、あまつさえドッグファイトを敢行するなど誰がやる? 自殺行為以外の何物でもない愚行、誰もがそう認める所業。 だからこそ―――この魔導士が皆から天才と言われるのだ。 高町なのはの空間把握能力は感覚的な才能であるが、それと対を成す高速戦闘において自身を完璧に制御できるセンス。 それを有するからこそ可能にした超々高速飛行戦闘モードの完全解放。 今のテスタロッサは……迫り来る敵の刃、打ち合う衝撃、体に生ずる負荷に対し、丸裸でその身を晒しているに等しい状態なのだ……! 敵の体に次々と打ち込まれる戦斧。 明らかにスピードで競り勝ち始めている。 奴はすれ違い様に首を飛ばされないよう防御するのが精一杯だ。 金色の流星は紫紺の女怪と切り結ぶ瞬間、更に、更にシャープにソリッドに加速して斬り抜け始めていた。 テスタロッサが駆け抜けた後にカラン、と空薬莢が落ちる。 カートリッジシステム―――ソニックモード中に更にカートリッジを叩き込む事によって 一瞬ではあるが限界を更に二桁は超えた魔速を叩きだしているのか!? 馬鹿な……やり過ぎだ! 「ぐ………」 早く……早く、何とかしなければ…… あいつが自らの速さという名の刃に肉体を裂かれ、自身の身を砕くその前に!! ―――――― ―――――― 「く、くぅ……フェイトッッ!!!」 「はあああぁぁぁあああッ!!!」 もはや最速の騎兵のプライドはズタズタだった。 明らかに走りで負けている現状、英霊らしい尊大な態度など見せられるはずが無い。 金の光と交錯する度に自身の肌に刻まれる屈辱の証。 自分の住処にあってこんな狼藉を許すなど恥辱の極みだ。 「シァァッッ!!」 蛇が発する威嚇音のような声と共にがむしゃらに金の稲妻にぶち当たる。 奢りも余力も無い渾身で、体全体でブチ当たる。 接触の度に頬に、脇腹に、肩口に熱い感触が残り、そこからじわ、と血が滲む。 無傷の勝利など望むべくもない。 手に持つ杭剣で黒い鉄隗を全力で打ち返す。 体勢など知った事ではない。 蹴りと呼ぶのもおこがましいフォームで、しなやかな脚を本能の赴くままに振り回す。 視えぬ相手にそれでも反応し、敵の刃に最低限の受身を取り、宙空で前後不覚同然の体勢からそれでも反撃に移行する。 しかして角度を問わぬ女描の烈脚――当たらない。 柔軟な股関節がしなるような鞭の如き蹴撃を繰り出すが――当たらない! こちらは被弾し、向こうには傷一つつけられない。 こんな体験は彼女は初めてだった。 「く、――ッ、!?」 ブシュン、と鎖骨の辺りが裂けて血飛沫が飛ぶ。 またも一方的に打ち込まれたアクスの柄に顔を歪ませて後ろによろめく。 ギリ、ギリ、と食い縛る歯からは屈辱の血が滲んで落ちる。 だが、その時――― (!?) 偶然にも相手の魔導士の表情が見えた。 「うあ……ぁぁッ……!」 彼女の悲鳴のような、搾り出す声が聞こえたのだ! 「―――、?」 驚いて振り向くライダー。 その対面、体をくの字に曲げて嗚咽を漏らす彼女の姿があった。 ―――耐え難い苦痛に目を見開いたその表情はこちらと目が合った瞬間に消え去り、彼女は再び視認不可の稲妻となる。 だが、だが………… (こちらの攻撃が効いた? ほとんど当たり損ないだった筈……?) ダメージを与えるほどのクリーンヒットは未だ望めず――― にも関わらず、競り合いの際の衝撃や当たり損ないの攻撃などで彼女はダメージを被っていたというのか? ライダーは知らない。 今やフェイトがBJもフィールドもその身に纏っていない事を。 だが、この英霊の嗅覚が獲物の弱点を敏感に嗅ぎ当てるに然したる時間を要さなかった。 「ならば―――――」 スタイルには反するが、やりようはいくらでもある。 要は聖杯戦争におけるセイバーと自分。 速度で勝っても防御と膂力を生かして敵を削るあの手法をそのまま使ってやれば良い。 「シァッ!!」 幾度目の邂逅か。 300合はゆうに超えた激突の果てに、フェイトのバトルアックスが一瞬速くライダーの体を捉えるが 今、それ以上の衝撃がフェイトの体を貫いた! 「ッッッ、きゃううッッ!!!」 同時に交錯し、互いに後方に抜けた両者。 だが、フェイトの飛行の軌道が明らかに変化する。 蜂のようにシャープだったそれがグラグラと揺れるような乱れを見せたのだ。 「そうですか……やはり―――」 ライダーも打たれた右の腕を抑えている。 だが、魔導士の様相から確信を得た騎兵が抱くのは痛みを超えた歓喜。 騎兵の目が再び得物を前にした光を灯し始める。 ――― 打てば弾ける生身の身体 ――― 決して当たり負けしない相手ならば最悪、相打ちでも十分に勝ちうる。 その答えをライダーが導き出した今、ここにフェイトの勝ち目はなくなった。 共に被弾覚悟の殴り合いを仕掛ければ、多少の速度の優越など何の意味も無い。 打たれ弱い方が負ける―――哀れなほど一方的に…… 「うああっっ、あああッ!!」 先の当たり損ないで痛めた肋骨の痛みを、フェイトは鋼鉄の精神で抑えて飛び荒ぶ。 既に敵は気づいてしまった。 怒りと覚悟の元に踏み込んだ領域ですら、この絶対空間を打破するには至らなかったのだ。 三度、四度と交錯する二つの影。 だが先ほどまでとは明らかに違う結果。 紫紺と金色がすれ違った後の光景はまるでミツバチとスズメバチのぶつかり合いのようだった。 金の光が紫の光に明らかに力負けし、交錯ごとにフラフラと乱れた挙動を見せる。 ライダーがいつもの小さく素早くを身上とした戦闘スタイルからは考えられない、体を開いた大きな構えで敵と相対する。 相手を決して逃がさず、確実に仕留めるために。 その全身で激突し、身体のどこかとどこかが接触さえすれば良い。 こちらは致命傷を避けつつ、受け止め、当たり、激突を繰り返すだけで―――フェイトは勝手に削られ、自滅する。 「う、うう……」 all right...? 「はぁ、はぁ……ッ、平、気…」 一合一合がフェイトの体力を根こそぎ削る。 肩から強引にチャージするようなライダーの突撃に弾かれるフェイト。 嗚咽に咽ぶその身体。 一合一合ごと、内臓に、除夜の鐘を聞くかのような衝撃が伝う。 彼女を確実にコワしていく無謀な攻防を、今はもう止める事すら適わない。 込み上げる胃液が口の中に充満し、鼓膜がガンガンと警鐘を鳴らす。 止まったら終わり――――止まれば一撃の元に殺されてしまう。 「ぁ………」 だが、幾度目かの激突を経て限界は唐突に訪れる―――― 魔導士の身体がついに失速し、スケートの演舞のように空中でくるくる、と力なく回転し、地面に落着して―――止まる。 ライダーも対面に着地した。 こちらも激しく息を切らし、体中傷だらけだ。 露になった肌が、頬が赤く蒸気して精一杯の様相を呈してはいる。 だがフェイトの消耗とは比べようも無い。 四肢を地に付き、気管支から搾り出すような呼吸音をひり出す魔導士はもはや虫の息だった。 「――――捕まえた……」 そのフェイトの足首に――――――魔の鎖が巻き付いたのだった。 ―――――― RIDER,s view ――― チェックメイト………今、ようやく獲物を縛鎖に捕らえ、拘束する事に成功。 鎖を力任せに引き付けて彼女の黒衣をこちらへ手繰り寄せる。 じゃらじゃらと鉄の擦れる鈍い音は破滅の調べとするには些か無骨ですが…… 何とか空に飛ぼうと足掻く彼女ですが、もうほとんど体力が残っていないのでしょう。 その姿は、柱に縛り付けられてなお羽ばたいて飛ぼうとする小鳥のように滑稽で、嗜虐心をそそられます。 私の捕縛に抗おうと両手で地面を食み、爪を立てて留まろうとするが無駄な事。 ずりずりと為す術も無く引き寄せられるフェイトの身体。 やがて逃れる事を諦めたのか……右足を引かれた不自然な体勢で床に尻餅をつきながら 彼女はこちらを見据えて、未だ戦意を失わぬ瞳を向けてくる。 捕まれば終局だという事も重々承知しているでしょうに、気丈な娘です。 今の状態で私の攻撃を受ければ、彼女の体など容易く折り曲がってしまうというのに。 もはや私とフェイトの間の距離は10歩半…… 一息で詰まる間合いしか残されてはいない。 貴女の進退は、ここに窮まった―――――― ――― テスタロッサッッ!!!! ――― ―――――筈の戦場に今、最後の悪足掻きたる咆哮が響く。 それは私の側面からかけられた無粋で耳障りな怒声…… 死に損ない―――あの女剣士のものに他ならない。 まだ邪魔をすると言うのですか…… そして戦場に響き渡る声が鼓膜に届いた瞬間、反射的に爆ぜるフェイトの体。 無駄な足掻きを……逃がさない! 我が手は鎖を握り締め、決して離さない! 獲物の最後の抵抗を膂力で抑え付けるのに四苦八苦する私でしたが―――― 遙か側方にて―――――火山の噴火の如き火柱が天を突く――― 「どこを見ている………」 アスファルトを溶解させ、マグマと化した地にしかと両の足を沈ませて私の前に姿を現す炎熱の剣士。 「そ、それは……!?」 「………理解したか? どちらが狩られる側かという事を」 地の底から響くような声。 私を驚愕させた、彼女の手に持つソレ。 まずい……! よもや剣士と見止めた彼女があんなモノを! 手に握られるは、それは一対の弓矢。 炎の中から蘇った不死鳥が、真紅の翼を翻したような魔力を背にこちらに狙いをつけている。 我が痩身を襲う戦慄はいかほどのものか……! あの手に握られるモノの脅威くらいは肌で分かる。 あれはいわば邪神の心臓を穿ち得る勇者の弓――― ――― 宝具の一撃に他ならない! ――― 「翔けよ、隼ッッッ……」 魔眼にて心臓を、皮膚を、指先の神経までを侵されているというのに…… 滾りに滾った血潮を凝固させられるものならさせてみよ、とばかりに猛る彼女の瞳。 限界まで引き絞った弦に装填された灼熱の矢が吼え狂い、ボルケイノの如き激しい火の粉を撒き散らす。 「シュツルム………ファルケンッッッッ!!!!」 これは絶対に受けてはいけない攻撃―――! 私がこの身に秘めたあらゆる性能を回避と防御に回して身構えたのと 爆雷音と地響きを伴い、彼女最強の直射型兵装が火を噴いたのがほぼ同時! 放たれた矢は音速の壁を軽々と突破して飛翔! サーヴァントを射抜くに十分な速度と威力を秘め、至近距離で放たれた矢が爆炎と衝撃波を撒き散らしながら我が身に迫る! しかしこの身もまた最速の英霊! 真正面から放たれた投擲を受けて散るほどの不甲斐無さは持ち合わせていない。 我が肉体の真芯に到達しようとする業火の矢を死に物狂いで回避する。 形振り構ってなどいられない。 体の半身に到達する前に、体を捻って寸ででかわす私。 「ん、うっ!!!??」 かわしてなお、我が半身に致命の衝撃が走る! 掠っただけでもごっそりと「持って」いかれるであろう宝具級の一投。 衝撃波だけでナカを潰していくのもむしろ容易な事か――― 「あ、ぐっっっっっっッ!!!」 瞬間、ビキャ!!!、という鈍い音が鼓膜を揺らし―――私は宙を舞った。 弾け飛び、コマのように回転し、7m弱の高さまで直情に跳ね上がった。 そのまま空を舞いきりもみしながら―――――地に堕ちる。 堕ちてなお、地面に叩きつけられた体は止まらず、アスファルトに身を擦られながら跳ね続ける。 その肉体が慣性の法則によりようやっと静止したと同時に……自身の口からの大量の吐血が地面を朱に染め上げるのだった。 炎に包まれた半身。 だらりと下がった肩は間違いなく脱臼。 肘から歪に曲がったその腕は見るまでもなく骨折し、地面にだらしなく投げ出した無残な肢体は見る影も無い。 「は、―――ぁ……何とか……」 しかしながら………そう、一瞬で満身創痍に叩き込まれながらも宝具を前にこの程度で済めば軽いもの。 その犠牲と引き換えに、敵の切り札の回避を成功させた私。 勝った…………勝利の美酒はやはり我が手に。 追撃は―――やはり来ない。 案の定、追撃どころではない。 再び地に膝をついてうな垂れる女剣士。 残った体力の全てを注ぎ込んだ本当に最後の切り札だったのでしょう。 残念ですが…………もはや何をしようと貴方達の負けは揺るがない――― 「お前の負けだ……化け物」 「…………………」 ―――――――な、…………なに? 無様に地に伏しながら……… 血染めの剣士は、こちらを――― 否、私の遥か後方を指差して………自身の勝ちを宣言した? ―――――― ―――――― 瞬間―――――紅いセカイが鳴動した。 「あ―――――――――あああああ、あぁぁあッッ!!!???」 ライダーが肉体に走った更なる衝撃に咽び吼える。 凄まじい地鳴りが周囲を震わせ心底の驚愕に身を震わせ、異変に目を見開く。 「ま、まさか……まさかっ!?」 この紅き胎内は、いわば自身の体内にリンクしているようなものだ。 だから内で起こった出来事は全て把握出来る。 ああ、故に……衝撃の発生地点――――凄まじい轟音のした方を見やるライダーの口から苦悶と怨嗟の声が漏れるのだ。 「ぐう………こ、のッ―――」 シグナムが指差した先―――かわした筈の弓矢が「本来」の標的に的中し、穿ち狂う。 それはセカイそのもの。 結界宝具の閉鎖された空間の膜に将の牙が突き刺さっていたのだ! 「わ、私の結界を内から破るなど……貴女如きに出来る筈が!?」 苦しげに呻くライダーと、鮮血に染まった世界。 血の赤で囲われた結界が悶え、苦しみ、震える。 B+~Aランクに匹敵し、結界破壊の付加効果を持つシュツルムファルケン。 イキモノを閉じ込め、喰らわんとするクローズド・サークル―――野卑で貪欲な胎内に今、逆襲の矢が翻るのだ! (まさか……私の……私の神殿が――――――お、おのれッ!!!) その呪怨の声が最後まで場に響く事は無く――― 穿たれた炎熱の隼が求めたその出口! 今、炎の矢が世界の内と外の境界に接触し、抜くか弾くかの鬩ぎ合いの果てに勝利の風穴を開ける! 終焉を思わせる地響きと轟音が苛烈に響き、紅蓮の閃光が怪物の胃袋を内部から突き破る! 滅び行く世界の中心で邪神の断末魔が木霊する! 神殿は彼女の住処であり、先に記した通り彼女自身の胎内でもあった。 故にそれを犯される苦しみは想像を絶し、身を内から破られる激痛に身を捩じらせながら、彼女は剣士に憎しみの声をあげ続ける。 それは鮮血神殿―――ブラッドフォート・アンドロメダの断末魔の叫びと呼応し、勇者を飲み込んできた人食い結界の最後の刻を禍々しく彩る事となる。 ガッシャーーーーーン、!!!という巨大な音が世界に響き――――― 空が割れ、砕けた空間が中空に飛散して宙に溶ける。 やがて血の赤に支配されていた空が蒼天を取り戻した時 その蒼を切り裂くように――― 炎熱の矢は、なお勢いを止めずに雲を突き抜け、どこまでも上空へと飛び去ったのだった。 まるで二つの命が無事、現世に生還を果たしたのを祝福するかのように――― 前 目次 次
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正式名称 コマンド 通称 判定 LP RP ワンツー 上上 LP RP LP 123 上上中 LP 2RP ジャクレン 上中 LP 2RP WP ジャクレン出し切り 上中中 1LP カスイ 中 2LP ウリュウ 中中中 3LP ジョウホ 中 4LP さばき 中 66LP LK ビャクレン 中上 66LP RP ふげつ 中中 8LP 中 立ち途中LP 左アッパー 中 簡易解説 雀連手(雀連架推掌) LP RP (LP RP LP) 基本となるワンツー、およびスリー けん制、反撃など、様々な場面で用いられるが、上段であるためにしゃがまれて手痛い反撃をもらうリスクもある。そのためにスリーまで出し切ることも見せておかなければならない。 壁コンボとしてもいいが、バウンドを考えると大きなダメージは期待できない 雀連砲(雀連転身激壁掌) LP 2RP (LP 2RP WP) ワンツーの2発目が中段となり、2発止めでのレバー入力を短くすると背向けに以降できる。初心者はこの2発目のレバー入力での背向けor正面選択が自在にできるように、まずは練習してほしい。 さらにはディレイが使えるので、最大ディレイと最速で使い分けることも重要。 白連戟放・白連斧月 66LP LK (66LP RK) 2発目をRKにするかLKにするかで全く性能が変わり、1発止め時にレバー↓入力で鳳凰の構えに移行できる。 前入力という特性から、射程と左右ホーミングに若干優れる。 ~戟放は左手ヒットで蹴りまで繋がる。 ~斧月は戟放の上段蹴りを読んでしゃがんだりする相手に狙っていき、ヒットした場合は断空で追撃が可能である。 1発目バウンド効果のために空中コンボに多用される。 上歩掌拳 射程、潜り性能、技後のスキが小さい、背向けに移行するか選択できる、中段技である…と優秀だらけな技。これを振り回しているだけで初級者は自分のリズムで立ち回れるであろう。 開幕や、あと1発まで追い詰めたときに頼りにされることが多いが、性能があまりにも有名なために中級~上級での乱用は危険。 烏龍盤打 しゃがみ、もしくは鳳凰の構えに移行する特殊技とも言える不思議なモーションの技。 技後に上段ワンツーなどを狙ってくる相手には蕩肩や蒼空砲、鳳凰の構えからの技などで釣ることができる。 発生はそんなに早くないが、当たり判定が生じている時間が長いので、中距離で振っていく使い方が安全。 架推掌 シャオの1発ドカン技。 連携や立ち回りのワンポイントに。壁際だと壁やられ強を誘発し、大ダメージを与える起点となる。 左さばき ものすごい短いリーチと、ものすごい速い発生が特徴である。 レバー入力の長さで、ヒット後に背向けに移行するか選べる。 妃背掌 え? …というくらい奇妙な技。しかし背向けに移行できる技であり、技全体のモーションが速いのでフェイントとして使える。 レバー入力の長さで、ヒット後に背向けに移行するか選べる。 あまり見かけない技だからこそ、相手を戸惑わせることもあるかもしれない。 左アッパー シャオでショートアッパー系を打ちたいならこれしかない。 技名は持たないが、アクセントにはなる。 蕩肩~正面のほうが性能いいが、コマンドがラク。
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「! バルディッシュッッ!!!!」 その……安寧を一蹴するかの如くフェイトは自らを叱咤した。 止まらない! 疾走は止まらない! フェイトが絶叫を上げて全域展開のラウンドバリアの指示を飛ばす。 それよりもなお速く眼前、立ち込める雷の硝煙から灰色の煙を突き破るように飛来する紫! 打ち出された雷光の機関銃を身に浴びながら、それでも勢いを微塵も殺さずに間を詰めてきたライダーの姿! (そんな……耐えた!?) 直撃だったはずだ。なのはのような高密度のBJを纏っているならともかく、生身の肉体が耐え切れる衝撃じゃない。 悪くすれば致命傷……良くて全身麻痺。 確実に相手を戦闘不能に陥らせるほどのダメージはあったはずだ。 だが現実に目の前には敵の姿がある。 こちらの魔法を踏み越え、飛び荒び、眼前にしなやかで力強い大腿を晒した騎兵の姿があった。 「う、うっ!!?」 次弾装填もデバイスによる迎撃も間に合わなかったフェイトの上半身の、特に首に巻き付くライダーの両足。 完全に両の太股がガッチリと魔導士の頚動脈の辺りを挟みこんでいる。 「―――大した魔術です」 それはライダー本心からの賛美。 対魔力Bを誇る彼女の肉体に、それは確実に損傷を与えていた。 全身を襲う痺れ、体内を貫かれた感覚はサーヴァントをして深刻なダメージと認識させるに十分なもの。 捨て身の特攻など彼女の流儀ではないが、だが―――― 「これではいよいよ埒が明かない。 こちらこそ少し手荒に行きます」 「あ、く……ッ!」 カモシカのような細い足は同時にプレス機の如き暴力的な剛性を以ってフェイトの頚動脈と上半身を締め上げる。 そして―――そのまま身を捻って回転。 「うあっ!!」 首があさっての方向へと捻れる感覚に襲われる魔導士。 卓越した反射神経で彼女もそれに合わせて飛ぶ。 でないと、頚椎をヘシ折られる…! 相手の体を極めながらに宙を舞うライダーと、常人には到底理解し得ない反射速度でライダーの動きに合わせるフェイト。 両者の身が速度を保ったまま宙を彷徨い、眼前に迫る大木の前方へと躍らせた。 絡みついた足がフェイトの頭部を強引に引き回し、そのまま木の幹に向けさせる。 このまま頭部をあの障害物に叩きつける気だ! 「ソニックムーブッ!!」 半身の自由を奪われ、為すがままに頭から追突するかに思われたフェイトが紡ぐは得意の移動補助魔法。 ただでさえもつれ合っての高速並走に加え、サーヴァントライダーをして有り得ないほどの超急加速に二人の体勢が、軌道が歪にブレる。 「この―――暴れ過ぎです、貴方は!」 Gに翻弄された二人が絡み合い、組み合いながら些かの減速も無しに正面の大木に激突! ベキバキボキ、という嫌な、鈍い音が辺りに鳴り響く。 それは間違いなくイキモノの全身の骨が砕けた音――― ――――――――いや、違う! 砕けたのは大木の方だった! フェイト一人が突き刺さる筈だった軌道を渾身のソニックムーブでズラされ、両者激突必至の軌道にて迎えた絶死の瞬間 ライダーの渾身の力を込めた蹴りとフェイトの斬撃が同時に大木の幹に叩き込まれる。 折れる、いや、根元から吹き飛ぶ大木。 薄い黄土色の繊維を撒き散らしてその天命を強制的に終わらせられる木々。 破片を撒き散らしながら相手の両足の呪縛から抜けたフェイト、そして振りほどかれるライダー。 互いに突き放し、3間の間にて再び疾走する両者。 「ハァ、ハァ……ハァッ……」 「―――――ふん」 縦横無尽に動き回る彼女らの姿はそれ自体が複雑怪奇な幾何学的文様の如し。 フェイトの金の髪が振り乱れ、デバイスが黒い装束で覆われた相手の胴を薙ぐ。 ライダーの紫の髪が翻り、杭が相手の白くて細い首の中心を穿つ。 それを同時にかわし、眼前に迫る岩を同時に攻撃して粉砕し、また距離を取って並走する二人。 二対の暴風が通り過ぎた余波で物静かにその身をたゆたわせていた森林達の悲惨さは凄絶を極めていた。 風圧で幹が飛び、剣圧で枝が裂け、足場にされた木々が軒並み倒されていく。 もはやこの森にとって歓迎されぬ客と化した二人の美しい闘姫の舞踏。 今やトップスピードに乗ったフェイトとライダー。 これこそ、不可視の戦いと呼ぶに相応しい戦場。 静寂な森のみがこの芸術を鑑賞する権利を持っていた。 但し、その閃光に踏み拉かれる対価を引き換えにという――― 理不尽な代償を支払わされての権利なのは言うまでもなかったが。 ―――――― flame Lancer3 ――― 「おら降りて来いや!! そんなとこにいちゃ俺を斬れねえぜ!!」 ――――衝突する剣圧 「舐めるなッ!!!!」 ――――吹き荒ぶ剣風 なのはやフェイト、それにティアナランスターに代表される魔導士。 それにアーチャーやライダーなどのように、真価は他にあろうとも卓越した近接技法を持つ輩は数多くいる。 だが、そこはやはり近接のスペシャリスト同士というべきか。 ソードマスターとして生まれ出た生粋の騎士であるシグナムと生来のグラディエイターであるランサー。 その血肉を賭した打ち合いは、近接が「出来る」といったレベルのそれとは確実に一線を画していた。 金属同士がぶつかり合う音は爆音となって鼓膜を震わせ 大地に、木々に刻まれた踏み込みの跡、刀傷はもはや何かの災害が通り過ぎたとしか思えない。 戦場は烈火と疾風渦巻く天災地へ―――― 「てぇぇぇあああああッッ!!!!!」 「どうだい! ウダウダと何も考えずにやりあった方が楽しいだろうが!」 踏み込みの鋭さや限界領域での見切りもさる事ながら両者の抱いた覚悟が違う。 戦場において決して引くものか!押されてなるものか!という意地がまるで違う。 それが前線を任され、先陣にて敵の先鋒を押し留め、鬨の声を上げながら相手を切り裂く役目を担う「騎士」という人種であったのだ。 「少し黙っていろッ!」 「は、つれないねぇ!!」 降りかかる五月雨のような猛撃を凌ぎ、払い、後ろで縛った長髪を振り乱しながら躍動する女剣士は 先ほどとは違い、存分に空を使っている。 飛んでいるのだ。 そして自分の極意である空からの襲撃を思うがままに相手に叩きつけている。 (何も考えずにだと……ふざけるな!) 騎士の脳裏に浮かぶ金髪の魔導士の顔。 (こんな……こんな所で……私がついていながら、あいつの命を散らせてなるものかッ!) その思いの元に騎士は飛ぶ。 目の前の槍持つ魔人を斬り伏せ、一刻も早く友の下に駆けつけるために。 超攻撃的シフトへと移行した事により、全身を貫く槍の穂先が身体を抉る率は倍以上に増えている。 だが、構わない。 ヴォルケンリッターはそんなにヤワではない。 並の人間ならば動けなくなる傷、出血を伴おうと彼女達は止まらない。 そのプログラムに重大な支障を来たす程の損傷を受けない限り動き続け、剣を振るい続ける不沈の騎士なのだ。 この槍兵はどだい無傷で勝とうと思う事事態がおこがましい相手。 そう認めたからこそ将はもはや躊躇わない。 己が腹を食い破りたいならそうしろ……だがその肢体に食いついた瞬間、がら空きになった間抜けな脊椎に我が刃を叩き込んでやる! その覚悟の下に舞い上がり、飛び荒ぶ将の姿はまさに捨て身の炎纏う荒鷲だった。 (良い女だ――――) それに対して何の躊躇いもなく、牙を剥き出しにしてどこまでもどこまでも追い縋り 食らい付き、喉笛を噛み千切ろうとするは猛り狂った魔犬であった。 突き突き突き払い突き払い突き突き突き突き払い―――― ツキツキハライツキツキツキツキハライツキハライツキ―――― (良いねぇ……こりゃあ良い! 強え女ってのはホント、いる所にはいるもんだ!) 強者であり愛でるべき女を前にして戦士の感慨は今、最高潮に達した。 その不可避の連携が今、間違いなく神域へと移行する。 男の刺突による攻撃パターンは至極単純で、基本九種の太刀筋を持つ剣技に比べると些か単調と言わざるを得ない。 にも関わらず――― (到底、裁き切れん……だがっ!) 今、押されているのは変わらず剣士の方だった。 それもそのはずだ。 単調が故に明快―――― 槍術は「突き」 「払い」の二つの技を極限まで鋭く、速く磨くことによって 他の技など要を為さぬと言わんばかりの鉄壁無双の術技と相成るのだから。 ならばこそ槍を極めしこの英霊の繰り出す連戟に一分の隙もあろうはずがない。 こちらが一振りする毎に五つ、大振りする毎に十以上の刺突を捻じ込まれ、確実にジリ貧へと追い込まれていく。 空へのエスケープポイントがあるが故に要所要所で相手の勢いを断ち切れる彼女であったが ここに来て槍兵はサーヴァントの、その恐るべき跳躍力をも解禁。 対空砲の如き鋭さを以て上空に打ち出される槍を前に、もはや空でさえ完全なセーフティゾーンにはなり得ない。 宙に浮いたからといって少しでも油断をすれば打ち上げられたロケット弾のような槍の一撃に串刺しにされる。 かといって、完全に相手の一撃の届かぬ上空へ退避するなど論外。 それこそ卓越した砲撃魔道士でもない自分が、この埒外の速度を持つ相手から遠距離でクリーンヒットを奪う事など出来る筈もない。 何より近接主体のベルカの騎士が打ち合いを避ける、それ即ち己が負けを認める事と同じだ。 騎士としての自分、その有り様が相手の猛撃からシグナムを踏み止まらせている。 (決める……一撃で) 凄まじい乱撃に全身を晒されながら、剣士の戦意は衰えるどころかより激しく燃え盛るばかり。 歯を食い縛り肉を裂かれながら、三倍以上の運動量を以ってこちらを圧倒してくる相手の、その衰えを待つ。 戦法は変えない。 今まで幾多の敵を打ち倒してきた己が剣を信じる。 ―――ガツン、と、再び頭と頭。 そして右肩同士がぶつかる音が戦場に鳴り響いた。 体ごとぶつかって突き崩さんとする槍兵に対し、体ごとぶつかってそれを受け止める烈火の将。 この内側に入れた時こそ彼女の剣が槍兵を両断するチャンス、にも関わらず…… 「………ッ、は、ぁ………!」 彼女のその瞳。 鷹のように鋭い切れ長の眼光はそのままに敵をまっすぐに見据えていながら――― (く、そっ……! 続かんッ!!) 身体が全く動かない! ここまで身体を持って来るのが精一杯! 余力が無い。その先が続かない。 限界を圧して相手の旋風を搔い潜り、辿りつくこと数回。 この槍兵相手にそれが出来る騎士など果たして全次元を探してどれくらいいるか。 将の卓越した力と決して引かない勇気がいかに凄まじいものであるかの証明だったが、彼女をしてそれまで。 懐に飛び込むまでにシグナムは全ての力、全ての助走を使い果たし、とても無双の一撃を放てる姿勢を維持できない。 槍の柄を諸刃が走り、互いの肉体が勢い良く接触する。 戦闘機と装甲車の正面衝突。 内臓からひり出た息の詰まるような声を発したのはどちらか? 軋む肉体。 力比べに震える筋肉。 少しでも優位な位置を取らんとガツ、ガツとぶつかる肩と肩。 大量の汗を滲ませた額が相手の額とこすれあい、荒い息がかかる。 すぐ傍に敵の表情が見てとれる位置だ。 一歩も譲らぬ猛禽と魔獣の睨み合い―――その膠着も時にして一瞬。 (崩す…もはやそう何度も機会は無い……) 全身から滲む出血と体力、魔力の衰えに悲鳴を上げる肉体に鞭打って男と相対するシグナム。 このままでは結局、剣が男の身を捉える前に何も出来ないまま自分は力尽きて負ける。 この接触で勝負だ! 体力、気力共に最強の一撃を打てる、その余力の残っているうちに! 「解放ッッ!!」 Ya ! explosion !!! シグナムの命を受けてデバイスが紡ぐは「爆発」の意を込めた言霊。 それを受けた瞬間―――シグナムの全身が爆ぜた! 「ぬぅ――!」 それはアーマーブレイクとでもいうべきか。 ベルカの騎士の纏う分厚い甲冑。 そこに内在する魔力の塊を臨界を越えて放出しながら装甲をパージ。 密着した相手を、その魔力の奔流で吹き飛ばす。 鍔迫り合いにて彼女の至近距離にいたランサーが炎に巻き上げられ、その体ごと後方に弾かれる。 「おおおぉぉぉおおッッッッ!!」 甲冑を脱いでまで作った僅かな隙! 炎に巻かれ、魔力の爆発に巻き込まれて構えを保てる人間などいる筈がない! ならば、これこそが勝機! 行動不可になっている相手に向かって容赦なく剣を薙ぎ払おうと踏み込むシグナム。 「なに……!」 だが騎士の前方―――炎に巻かれて吹っ飛んだ筈のランサーが二間ほど離れた地に着地したと同時。 「おりゃあぁぁッ!!!」 その場で槍……否、全身を横に薙ぎ払うようにして一回転。 周囲に小型の竜巻が発生したのかと錯覚するかの如き回転は彼の体に纏わりついていた炎を瞬く間に吹き飛ばす。 その目は些かも前後不覚になど陥ってはおらず、自らの敵――女剣士を両の瞳に称えたまま。 またも爆発的な踏み込みで彼女に突撃を敢行するランサー。 「しゃあああぁぁぁああッッ!!」 猛烈な槍撃が再び始まる! 繰り出す手を休めない男! そして相手にも微塵の休みも与えない! 「ぐっ! 再装着ッ!!」 ya ! Panzergeist 再び甲冑を纏い、周囲にフィールドを張るシグナム。 何という事……起死回生のアーマーブレイクがまるで功を奏さない。 鎧を形成するための膨大な魔力を一回分、無駄使いしただけだ。 再び剣と槍が両者の間を飛び交うが、押される……このままでは押し潰される! 状況を打破しようとしても相手を崩せない―――何をやっても通用しない――― (衰えを知らんのか……この男!?) まるで息継ぎすら許さぬ深海の攻防だった。 一瞬の息継ぎも、思案に耽る時間をも許してはくれない。 (焦るな……相手も、苦しい筈だ… こちらも変わらず圧力をかけて相手が崩れるのを待つしか無い!) 焦燥にかられていても苦しくても、しかし彼女はベルカ最強の騎士だった。 ここで我慢出来なくて何が最強か? 焦って出て行って、相手の槍に狙い打ちされるような未熟な騎士ならば、当の昔にこの戦いは終わりを告げている。 だがしかし終局はゆっくりと――確実に迫ってきている。 シグナムが敵の隙を待って狙っているようにランサーもまた剣士の防御のリズムを読み始めていた。 一息に打ち込まれる穂先は全て急所に打ち込まれてくるものだ。 少しでもアーマーを抜け、肉体に届いたら……抉られたらそれで致命傷。 後の先を取ろうという女剣士に対し、更に後を取り、全てを刺し貫く瞬間を虎視眈々と狙っているのだ。 一寸の切っ先の乱れも決して見逃さず、そこに無双の一撃を叩き込む―― どちらが先に必殺を突きつけられるのかまるで予測が付かない。 付かないが、この攻防……ここで先に動かねばやられると思い立ったのは やはり敵の攻めを許し続け、心身ともに苦しかったシグナムの方であった。 100を数える紅い線が巻き起こすソニックブームで既に彼女の耳の鼓膜からは血が滲んでいる。 だがそれでも目を逸らさない。 その中……一つで良い! 牽制でもなく、陽動でもない、こちらの防壁をぶち抜き、決めにくる一撃。 「シィッッ!!」 その、ようやく本命――――― 自身の心臓に向けられた一撃と今、自分の剣の呼吸がパズルのピースのようにピッタリと合う! (勝機!!) 相手の獰猛な牙が迫る! 紅い槍が変わらぬ速度でこちらを貫こうと翻る! 「っ!!!」 それに大使、何とこのタイミングで防壁をカットする蛮行に出るシグナム! 男の槍は自身の張った防壁によって辛うじて一瞬止まるからこそ、速度に劣る彼女が今まで受けてこられたのだ。 故に彼女の今の行動は自殺行為以外の何物でもない。 だが、その蛮行の先にある勝因をこそ騎士は欲する! 防壁でなく体捌きによって相手の攻撃を透かす―――どちらが相手を崩せるかは言うまでもない。 一撃だ。 高望みはしない。 ただ一撃のために、相手の一突きを見切れればそれでいい。 決死の蛮行によって曝け出された彼女の心臓に今、紅い閃光が放たれた。 間一髪――――魔槍が脇の下を抜けていく! 不可避の刺突。 到底、目で見て反応できるものでは無かったその一撃。 感覚が、騎士として生きてきた本能が、ただひたすらに体を動かしていた。 暴風の中に身を預け続け、今の今まで耐え忍んできたその肉体が男のリズムを完全に自分のものにしたのだ! 脇を通り抜けた朱槍が衝撃波だけで彼女の肉を巻き込み、裂いていく。 ゴリゴリと肋骨を削っていく感触に苦悶の表情を浮かべるシグナムであったが、それは同時に勝ちに繋がる痛みであろう。 ―――読み勝った……確実に透かした! 元々「突き」という技は外した時の隙のデカさでは全ての技の中で随一。 いくら男といえど崩れる! 「取ったッ! 私の勝ちだランサー!!!」 痛みに顔をしかめている暇などない! 突かれた穂先が戻ってくるその前に―――静かなる闘将が今、猛る! 敵の懐、決して槍の先端が届かぬ間合いにて待ちに待った一撃を相手の肩口に叩き込まんと、その剣が唸りを上げた。 大気が震え、将の心象を模したかのような愛剣の業炎が槍兵に叩き落される。 これはいくら何でも無事には済まない。 その一薙ぎは男の体を両断……否、爆散させて余りあるものだった。 戦場が、決着へと集束していく―――― そんな中――― 「―――悪いな、誘いだ―――」 渦中の男は静かに告げる 時がキチリ、と―――音を立てて凍った ―――――― 「が、ぁッッ!??」 止めの一撃が振るわれ断末魔の叫びが木霊する。 英雄を今、将の剣が薙ぎ払った――――― ―――否、 もはや勿体つけるまでもない…… 男は言ったのだ。 全ての勝負が決まる瞬間。 ――― それは誘いだ、と ――― ならば、そう。 シグナムが決死の思いで見つけた隙は、読み勝ったと確信したそれはしかし全てが男の作った更なる罠―――― 即ち、先ほどの声は、どれだけの猛攻を受けても声一つあげなかった女剣士が始めて上げた、悲鳴。 あれほどの連携の中、硬い防御に閉じ篭った相手を崩そうと「あえて」出した大振りの突き。 それに釣られて踏み込んできた剣士に対して槍兵が狙うはズバリ、彼女の全体重の乗った軸足―――ヒザの皿だった。 槍の柄が回転するかのように翻り、男の渾身の力をもって彼女の膝上に叩きつけられていたのだ。 「…………く、ぉッ、!!」 膝の半月盤は人体において痛覚の集中している箇所の一つ。 そこを打たれた衝撃は相当のものだ。 失神するほどの激痛が全身に響くように伝わり、肉体は嫌が応にも硬直する。 槍や薙刀が正面に敵を置いての白兵戦にて無敵と言われる要因の一つとして、剣では有り得ないリーチから来る足元への強襲がある。 剣で相手の足を払う場合と槍でそれをやる場合の有用性、もはや語るまでも無い。 自分は全く体勢を崩さずに相手の軸足を刈れるという圧倒的な利点。 それによって相手の踏み込みや、その他の攻防を大幅に牽制出来る―――それが長物の恐ろしさ。 これまで全弾急所狙いだった事も手伝って、槍兵の始めて行った末端部位への攻撃に全く反応できなかった彼女。 男と競り合っていた距離で一瞬だがガクンと、完全に動きを止めてしまう。 そしてこの槍兵を前にして、それが絶対的敗北である事は言うまでもない。 「――――飛べ」 麻痺したように動かない大腿に歯噛みし、声もなく唇を噛む騎士。 体勢を崩され、僅かに前傾姿勢でつんのめった形になっていた剣士に対し 近距離で放たれた槍兵の蹴りが、下からシグナムを打ち上げた。 「ご、ふッッ!!」 衝撃に嗚咽を漏らすシグナム。 その威力で足が浮き上がり、後方に飛ばされる。 甲冑のほとんど機能していない状態で食らった打撃二連。 さしもの将もたまらず、遥か後方に吹っ飛ばされてほどなくヨロリとぐらついてしまう。 (く、そ……私が、崩されてどうするッ………) 打突を貰った箇所が酸素と血液を求めて吼え狂い、脳への血液供給が滞り、意識を飛ばしそうになる。 ―――空へ! そんな彼女が無意識のうちに選択した行動。 敵の隙を誘うはずが一転、自身の最大の危機を迎えた今、思考が無意識に上空へのエスケープを選ぶのも無理からぬ事。 「行かせねえよっ!!!!」 だが飛翔したシグナムに猛追するは蒼の流星。 まるで打ち上げられた迫撃砲のように彼女に迫り、遥か上空で騎士を捕縛したのは他ならぬ槍兵。 勇に上空5mと浮かび上がれずに捕まってしまう。 宙空にて絡み合う剣士と槍兵。 だが半失神状態の女剣士と今まさに止めを刺そうという戦場の英雄。 どちらの膂力が相手を組み伏せたかなど言うまでも無い。 頭部の後ろに縛られた長い髪を掴まれ、苦悶の声を漏らす女剣士。 「逢引の続きは地上でやろうじゃねェかぁ!!!!」 鬼気が灯る表情。 投擲自慢の右腕がギシギシと軋む。 筋肉で膨張した利き腕が獲物である女剣士の髪と頭部を容赦なく掴み上げ、存分に振りかぶったと思ったら―― 彼女をそのまま地上に向かい、叩きつけるように投げ抜いたのだ。 「ぅあッッッッ!!!???」 風を切る音が将の鼓膜を劈く。 ジェットコースターなど問題にならないような急降下によって人体に催される、下半身が裏返るような感覚。 それを感じている己の体は今現在、地面に突き刺さり木っ端微塵に砕ける寸前! 「ぐ、ぬううううっ………!!!!」 デバイスによる補助の全てを半強制的に復帰させ、受身を取って地面に落着。 ドゥン!!!、という土煙。 アスファルトの削れる甲高い音。 潰れる筈の肉体はすんでの所で制動を取り戻し、地に四肢をつけてザザザザ、と地面を滑りながらに10m。 まるでスノーボードに乗せられているような距離を以って地面に不時着するシグナム。 コンマに満たぬその思考、未だ体勢の整わぬ肢体の、その思考だけがめまぐるしく動く。 ………どこだ? ………どこから? 衝撃で咳き込みながらも立ち上がり、強襲に備えようとするベルカの騎士。 蒼い甲冑の姿を探す彼女の両目。 ふらつく体、朦朧とする意識。 それでもあの死神の槍から一刻でも目を離す事の危険性――それが分からぬ彼女ではない。 ああ―――― だが自分が落着した事によって立ち昇った土煙の、晴れた視界のその先に映るのは…… 何という事だろう―――― もはや目と鼻の先………… 十分な余裕を以って前肢に体重を置き、槍の先端に自分を見据え……… 遅すぎる――― 腰を大きく落として構える……蒼き槍兵の姿!!! この男の前ではホントウに何もかもが――― 取り巻くセカイそのものが遅すぎるのだ――― 「ッレヴァ……!!!」 今度こそ、今度こそ、シグナムの顔が戦慄と死の予感に歪んだ。 己が相棒である剣を構え直し、目の前の敵に備え――― 行為の全てが男の前では手遅れである事を悟るまで、目に見える槍が待ってくれる筈もなく――― 無数の槍が再びボッ、ボッ、と分裂に次ぐ分裂を重ねる。 それは本当に幾百の槍の束。 百人の前線兵士に槍を持たせて突っ込ませたかのような――― 「うおらああああああああああああ!!!」 咆哮と共に繰り出された突きの連打は10、100、200と数え切れぬ刺突の紅き嵐。 これぞ恐らくはランサーの最大出力。 何人の生存も許さぬ嵐の只中に―――― シグナムが飲み込まれていくのであった――― ―――――― Lightning Rider3 ――― 自身の速度すらが己に牙を剥き、障害物を回避しながらの飛行を余儀なくされるフェイト。 対して多くの足場を得たライダーの変則的な動きが生きるのはこうした戦場。 場は確実に騎兵のペースにはまりつつあった。 獲物を自らの神殿に取り込み、弱らせ、朽ちさせて食らうこのサーヴァントのいつものやり方。 これは決して磨き抜かれた技術や訓練されたそれから派生する物ではない。 この騎兵には所謂 「戦技」 という概念は存在せず、あくまでも持って生まれた性(サガ)。 生前の業―――天性の狩りの才能。 かつて己が領域に土足で踏み込んできた数多の英雄を追い詰め、操作し、撹乱して、そして縛鎖に絡めて朽ち果てさせてきた。 そんな女怪の経験をただ垣間見せてきた結果であるというだけのことなのだ。 (きつい……でも、このまま行けばあと2分弱で抜け出せる筈!) だがそう、フェイトにとってまず初めの急務は兎にも角にもこの森を抜ける事。 もはや周知の事実。 敵は飛行能力を持っていない。 先ほどのように上空にいればほとんど一方的に戦いを進める事が可能。 つまり、森を無事に抜ければフェイトの勝ちは確定するのだ。 高速飛行しながら、並走する騎兵に対し己が得意の雷光の槍を次々と投擲する執務官。 紫の影に容赦なく雷の弾丸、そして志向性のある槍を打ち放つフェイト。 「セット……ファイアッッ!」 木々の合い間を飛翔する長髪に狙いをつけて投擲された金色の矢が、立ち並ぶ樹木を抜けてそこに身を躍らせる女怪へと迫る。 この四次元の戦場では従来の安定した軌道はもはや期待出来ない。 そんな中での射撃は当てる事は困難でも、直撃とはいかずとも相手の行動の抑止と牽制にはなる。 とにかくこの森を抜けるまで、攻め込ませない事が重要だ。 相手の土俵においてすら戦場を支配せんと翻る天才魔導士が、絶えずデバイスに策敵・誘導を示唆しながらに高速飛行を続けるも――― 「!!!?」 その視界が―――――グラリと、霞んだ……… (あ、ッ!??) 歪む景色に一瞬だが彼女の体がぶれ、飛行姿勢が横に傾いてしまう。 何という事………極限の疲労から来るものか? 張り詰めた神経、緊張に緊張を重ねた心身は唐突にその限界を、彼女の体の不調という形で報せる。 こんなにも消耗していたなんて……たかだか十分弱の戦闘で…… サーヴァントとヒトとの戦い、その地力の差がついに出始めたのだ! そしてついに見せたフェイトの一瞬の隙。 それを見逃すライダーではない。 一息もつかぬうちに枝を蹴り、一足で間合いを詰め、一瞬のうちに、あっという間にフェイトの斜め下方にその身を躍らせる。 紫の髪がついに獲物に牙を突き立てられるという歓喜に揺れる。 歯を食い縛り、頭を振って、意識を強引に揺り戻すフェイト。 フォトンランサーのつるべ打ちで薙ぎ払うように相手を追い払おうとするが、到来した一瞬をものに出来なくてはサーヴァントとは呼べない。 マシンガンのような魔弾を更なる跳躍で避け、ライダーが上空へ舞い上がる。 自由の効かぬ空で狙い打ちにされるという危惧――そんなものは知らない。 被弾を許そうとここで一息に決めるという、それは彼女の意思表示の現れだ。 跳躍に跳躍を重ねるライダー。 一瞬のうちに高い木々を踏み台にしてフェイトの視界から消えるほどの高さにまで駆け上がる。 もはや語るのも馬鹿馬鹿しいほどの身体能力にいちいち驚いている暇など無い。 空戦において上を取られる事の危険。 それを分からぬフェイトではないからだ。 (来る………!) 障害物を避けながら、頭上に生い茂る枝と葉から時々見せる紫紺の長髪を見据えるフェイト。 自分の頭上にて疾走しているであろう騎兵を迎え撃とうと、見開かれた瞳が頭上をキッと睨み据える。 「もう少しなんだ……頑張ろう、バルディッシュ!」 そして紫の髪を振り乱しながら――――ついに駆け下りてきたのだ! あの化け物じみた女怪が! 「お覚悟をッ!」 圧倒的な脚力が叩き出すスピード。 重力の楔から外れているかのような身のこなし。 そして人間の間接駆動域をまるで無視した変則的な動きでそれは駆け下りる。 一本の木を駆け下りてくるのではなく複数の木々を踏み台に多角的な、さながら忍者の影分身。 残像が見えてしまうほどの壮絶なフットワークにてフェイトの頭上から飛来してきたのだ! そして最後の木を蹴り付けたライダーがついにフェイトの頭上に牙を落とす! 唇から一息、鋭い息吹を吐くと同時に魔導士に、渾身の一撃を叩きつける! (し、しまっ!?) 蛇の群れのようにたなびく髪を持つ女怪が上方から迫り来る。 回避―――間に合わない! 迎え撃とうとバルディッシュを構える魔導士! 森に響き渡る、ガォォォン!!!!―――――という轟音! 構えたデバイスごとフェイトのフィールドを貫通……否、力任せにぶち抜かれた音。 その鉄槌のような一撃は、空中で数十回転、ロータリーのような前方宙返りにより 凄まじい遠心力を内包したライダーの―――カカト落とし! 「ああぁっっ!!!?」 悲鳴を上げるフェイト! 鎖骨に降り注ぐ埒外の衝撃! テニスのスマッシュのように叩き落とされ、地面に刺さるように激突する! 亀裂が走り、抉れる地面にズシャア、ザザザ、と叩きつけられ、その身が滑って行く。 勢いを全く殺せずバウンドして転がり続け、後方にある巨大な樹木に激突する彼女の肢体。 そして衝撃でグラリと揺れた大木から木の葉が数百枚と舞い落ちる中――― 風に揺らぐ木の葉ほどの体重も感じさせずに、その紫は地に降り立った。 フェイトに負けず劣らずの細い両手、スラリと伸びたモデルのような両足は言うまでもなくヒトのそれとは一線を隔し 腕はコンクリートを容易く握り潰し、両足は小型の什器くらい軽く蹴り飛ばす。 「残念でしたね―――森を抜けたかったのでしょう?」 「う…………か、はッ……!?」 咳き込み、地に這うフェイトに哀れむような声をかける女怪。 二人は森の出口間近だと思われたその地点で―――――止まっていた。 「私を引き摺ってでも外へ向かうべきでした……貴方は。 致命的なミスです。 やはり貴方はここから生きては出られない」 苦痛に歯を食い縛る魔導士を前に ゾッとするほどに優しい声色で ゾッとするような響きを持たせて ソレは相手に―――――死刑宣告をした。 深い深い森で並走を止め、向かい合う両者。 相手の陣地ではあっても先の高速戦闘ならばまだフェイトにも勝機はあった。 だが相手の絶対有利のフィールドにおいて足を止めてしまった現状、もはやこの魔導士に一片のアドバンテージすら…… 「フ、―――」 すかさず大地に四つんばいになって腰をくねらせるように蠢く騎兵の独特の佇まい。 頭を地面スレスレにつけ、腰を上方にピンと突き出す姿勢はどこか艶かしいながらも機能美に溢れた神々しさすらある。 同時にそれは何の予備動作無しでこちらに飛びかかってくる豹の化身の戦闘態勢。 彼女の四肢、いや全身に伝わる緊張が妖艶な腰付きに卑猥な視線を向ける事を一切許さない。 「――――――」 未だ反撃の体勢の整わぬフェイトを前に今にも打ち出されようとする紫紺のミサイル。 その様相に必殺、必滅、必惨を込めて――― 「貴女はよく頑張りました――――――ご褒美です!!!!!」 ドゥン!!!!!!!!!!と、地が揺れんばかりに大地を蹴り付け開放された騎兵の体! 神速にて不可避の紫色の弾丸! ライダーがフェイトに向かい、トドメを刺すべく飛びかかったのだ! 呼吸一つ許さぬ速度でフェイトの間合いを犯すライダー。 人体に発生する予備動作の類など一切ない。 セオリーなどまるで無視した相手の挙動。 「う……ああぁぁッッ!!!」 不安定な姿勢からも気合一閃。ブリッツアクションにて加速した横薙ぎの刃をライダーに向かって振り切る。 当然のように容易く掻い潜られる。ダメージに加え、左肩の負傷が尾を引いていた。 こんな状態でサーヴァントを迎撃など出来る筈が無い! そしてフェイトの背筋を襲う寒気のような感覚。明確な死の気配。 それは彼女の意識の……否、身体の下部から跳ね上がってくるナニカ。 即ち、魔導士の更に下方に潜り込んだライダーの、刃のように鋭いつま先だった。 フェイトの顎を砕かんと繰り出されたのは、回避と攻撃が一体となった、全身のバネを利用した後方バク転蹴り。 彼女の脚力はすでに周知。 当たれば人間の顎など粉々に粉砕する。 「は、ああぁぁっっ!!!」 だが、何とフェイトはそれに反応。 カミソリのようなライダーの蹴上げに逆らう事なく、自身も後方に回転! 翻る黒衣と純白のマント。 フェイトの顎の先端、その1cm先を跳ね上げる日本刀のような蹴撃。 両者の動き――その残光により、紫の半月と金色の満月が交差するかのような幻想的な光景を場に描く。 ブリッツアクションとアクセラレーションの連続稼働にて、もともとが瞬速を誇る彼女がその術技を総動員しての移動補助の魔法の重ね掛け。 ぶり返すように反発する出力に翻弄される体が大きくバランスを崩しながら、3mほど後方に着地する。 「ハ、ハァッ……!」 ガクガクと揺れる膝。 跳ね上がる心臓に再び酸素を叩き込むべく息を大きく吸い込むフェイト。 このまま空へと上昇できればどれほど楽か。妨害している相手が相手だ。 どうやっても上空へ抜ける前に追いつかれ、叩き落とされる。 蓄積した疲労が噴き出すように彼女の身体に纏わりつき、緻密を誇るフェイトの思考を鈍らせていく。 そんな姿を晒す魔導士に対し、迫撃砲は間髪入れずに打ち鳴らされる。 相変わらずの地面が破裂したかと思わせる踏み込みと共に一片の情け容赦なく前方から飛来する騎兵。 放つはサイドキック気味の足刀………フェイトは――反応出来ない! 「あ、グッッッッッッ!??」 BJの反動に紛れて、肉を打つ鈍い音が―――辺りに響いた……!!! 槍のような鋭さと鈍器のような重さを持った一撃が魔導士の胸部に突き刺さる! 柔らかい胸の中央に埋まるライダーの右足。 そして大木にめり込むフェイトの体。 ついにクリーンヒットを許してしまったのだ! 苦悶の表情を浮かべ……ゴホ、と咳き込み、叩きつけられた巨木にしなだれかかる黒衣の体。 歯の間から漏れ出る真紅の液体。 視界がフラッシュバックし、背骨が軋み、息が止まり、声も出ない。 BJの恩恵がなければ胸骨は粉砕されその肉体ごと潰れていただろう。 だが軽装のフェイトには、衝撃を全て弾き返せる術がない。 体に供給される筈の酸素がシャットアウトされ、チカチカと光った視界が暗転し、その意識を遠のかせていく。 Sir! 切迫した低い男の声は相棒の声。 ズルズルと腰から木の幹に崩れ落ち、為す術もなく叩き潰されるを待つしかない執務官に力を与えようと、それは必死に叫ぶ。 まずい、まずい、という彼女の脳内アラームは先ほどから五月蠅いくらいに鳴り響いている。 分かっている……この状況を抜け出さなければ―――もはや一分を超えないうちに自分はこの人に殺される! 魔導士の耳を揺らす、じゃらり、という金属の擦れる音は短剣を騎兵が握り直したものだろう。 霞む視界が相手の姿――その手に再び、極細の凶器を手に構えたのを捉える。 何とか応戦し、相手を退けたいフェイトだったが、体が思うように動かない。 障害物を背にしてしまったその姿はさながらコーナーを背負い 何とかそこから逃げようともがく、ダウン間近のボクサーのようだった…… ほどなくして、それはやってきた。 こちらの回復を待ってくれる気など微塵も無い。 ズガガガガガ、!!という炸裂音が辺りに鳴り響く。 間合いを詰めたライダーの不可避の連打がグロッキーのフェイトを襲う。 閃きと反射神経と、それに数分違わず付いて来る身体能力の為せる蹂躙連撃。 人間の骨格をまるで無視したかのような、全身のバネを総動員し、受け、避け、踏み込み、叩きつける。 回転が違う。 膂力が違う。 残り体力が違いすぎる。 もはや彼女の口から紡がれる声は気合でなく悲鳴でしかない。 一方的な打ち合い。 手を出す事すらままならないフェイトに対して、終わらない打突音と共に強弱をつけた連打を次第に纏めていくライダー。 元より足を止めての攻防ではフェイトに勝ち目はない。 地をかける獣に地上で相対して組み勝てる鷲などいないのだ。 「……ああァァッ!!」 もはやシールドを張る事すら叶わない。 側面に横っ飛びしてサイドに抜けようとフラフラの足を総動員して何とか空間を稼ごうとするフェイト。 だが木蔭から脱出しようと悪戦苦闘する姿は、騎兵の目には止まって見える。 それを先回りするかのように放たれたミドルキックが強烈な爆音と共にフェイトの脇腹を捉えた。 「っ~~~~………!!」 彼女の内からこみ上げてくる胃液が、その口の端から漏れる。 くの字に曲がる肢体が再び木蔭に蹴り戻され、逃れられぬ連撃の渦中に再び放り込まれる体。 鞭のようなしなやかさと丸太のような強壮さを併せ持つライダーの蹴り。 鋭利な刃物で一思いにスパッと斬り殺されるのと切れ味の鈍い鈍器のようなものでジワジワと削られていくのでは果たしてどちらがマシと言えるのか? ギュオオ、ギュオオ、という甲高い音が辺りに響き続ける。 それはミッド式魔術師の肉体を守る最後の砦――BJが物体と衝突し、反発する音。 黒衣が、白いマントが、裂かれ、抉られ、削られていく。 「は……ぁ、」 片手でデバイス―――相棒バルディッシュを振るうフェイト。 その杖の先端がガクガクと震えている。雷光の面影など微塵も無い。 今、それが相手の短剣を受けて弾き返された。 ガラ空きの体に打ち込まれる連打。 ダメージは既に深刻どころの騒ぎではない。 杭のような短剣の鋭い襲撃に加え、まるで自身の元使い魔アルフの剛力を思わせる徒手の一撃。 とても耐え切れるものではなかった。 最後の最後まで彼女は手に握られた愛杖を振い続けたが その抵抗はついには実らず―――いっそう甲高い炸裂弾じみた音が木霊する。 渾身の一撃をまともに受けたフェイトの表情から力が抜ける。 その眼光から光が消え、脱力した体が木の根元に尻餅を付き―――― 雷光と呼ばれた管理局地上最速の魔道士が……ついに木の根元に、力無く崩れ落ちるのだった。 前 目次 次
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第97管理外世界 『地球』―――その遥か上空。 青く美しいかの星の、大気圏を隔てた宙空。 それを見下ろす形で待機していた現機動6課の旗艦。巡洋艦クラウディア。 「トレース出来ないって………どういう事ですかっ!?」 そのブリッジ内に、まだ少女といっても良い女性の声が響き渡る。 「反応がないの……」 それを受けて答えたのは、前のに比べれば幾分落ち着きの見て取れる声。 眼鏡をかけた理知的な女性から発せられた言葉だった。 しかし、その彼女もまた口調の裏にある微かな震えを抑えられてはいない。 内心の動揺を隠しきれない様相。目の下には深い隈が刻まれている。 見ればその周囲。 コンソロールに向かうオペレーター諸々がハチの巣を突付いたような大騒ぎになっていた。 騒然と動き回る局員達の表情。何かとてつもない不測の事態が起こった事を容易に想像させる。 「あの星はおろか、この宙域全般に、なのはさん達の生体反応を認められない……」 そして一言一言紡ぐように……眼鏡の女性、シャリオ=フェニーノから告げられた言葉。 それは現任務を一通り終え、後発組として到着した元機動6課フォワード陣。 スバルナカジマ。ティアナランスター。エリオモンディアル。キャロルルシエ。 彼らを絶望のどん底に突き落とすに余りあるものだった。 入隊当初は甘さの抜けない新人であったこの四人も幾多の任務、経験を経て今や一人前の局員として成長していた。 だがその彼らをしてこの動揺。高町なのはを初めとした6課中核を担う隊長陣の行方不明というこの事態。 それは物的な危機以上に心情的なそれを以って四人の胸を苛み抉る。 隊が解散する事が決まって後の最後の模擬戦―――己の全てをぶつけ、全部を受け止めてくれた、強くて偉大な先輩たち。 可憐に咲き誇った桜の下で、いつかまたこのメンバーが集える日が来ますようにと頬を伝う涙の元に誓った。 そして今回、期せずして早く訪れた再開の機会は、スカリエッティの脱走という緊迫した状況ではあるにせよ そこに嬉々とした感情を抱いたとしても不思議では無いだろう。 自分の成長した姿を見て貰いたい……そんな思いを抱いて出向したその先でまさかこんな事になっているなんて…… 「ちょっと落ち着きなさい、スバル。」 興奮気味の相棒を嗜めたのはツインテールの髪を束ねた少女、ティアナランスター。 「状況を聞かせて貰えますか? 通信や交信記録とか今、分かっている事だけで良いんです。」 「何も無いの……何も……異常を感じてから二週間、あらゆる空間、次元軸をサーチしたけど痕跡、足跡を全く見つけられない。 まるでこの世界そのものから存在ごと消えてしまったとしか思えないのよ……」 返ってきたのは絶望的な答え。ブリッジに重苦しい雰囲気が流れる。 これは事実上の遭難だ。 あの不沈のトップエース達が、機動6課の主力部隊が任務着手を前にして忽然と姿を消してしまったのだ。 「6課の柱にしてニアSランク魔導士がこぞって行方不明。これはもう私たちだけでどうにかなる問題じゃない…… 今、クロノ艦長やカリム理事官、アコーズ査察官や無限書庫のユーノ司書長も動いてくれてる。」 「私達に出来る事はありますか?」 重苦しい空気の中、真っ先に前向きな姿勢を見せたのはフォワード陣の中で最も幼いキャロルルシエ。 「まずは休んで体力を温存しておいて頂戴……そんな気分じゃないのは分かるけど。 イザという時、真っ先になのはさん達の下に駆けつけられるようにね。」 だが、言うまでもない。 出動部隊である自分達に、事態に対処する術などある筈もなく、ここはオペレーター、そしてその道のエキスパートである者たちに任せるより他に無い。 暗雲立ち込める艦橋の中―――ある者は唇を噛み締め、ある者は虚空に目を泳がせて呆然と立ち尽くすしか術を持たなかったのである。 ―――――― 6課の隊長陣が行方不明になって二週間――― 既に月の半分を浪費しようとしているこの昨今、生え抜きのナビゲーターやエキスパート達が昼夜問わずに動いてそれでもまるで手がかりなし。 はやての副官であるグリフィスや、ヴァイス陸曹長を初めとした生え抜きの隊員達も奔走している中――― 割り振られた部屋でただ時間を潰すなど、消息を絶った隊長達と特に強い絆で結ばれたフォワード陣が我慢出来るはずもなかった。 「スバル。アンタは部屋に戻ってなさい」 「……ティアはどうするの?」 「少し手伝ってくる。ヒヨッコとはいっても執務官補佐だからね……少しはコネや使える情報筋もあるのよ」 「私にも何かやらせてよ!」 「いいから休んでなさい。災害救助のエキスパートでしょアンタは? 出動に備えて万全の体制を整えておくのも仕事のうちよ。」 身を乗り出すスバルに対して上手に手綱を握る彼女の構図。 やはり四人の中ではこのティアナがリーダー格となって場を仕切る雰囲気となる。 彼らにとってもなつかしい空気であった。 「ほら、アンタ達も。」 未だ引っ込みのつかないスバルを諭しながら、ライトニングの二人にも休息を促すティアナ。 「分かりました……行こ、エリオ君。」 今は少しでも体力を温存し、各々が次に繋がる行動を取るしかない。 理屈で割り切れない部分を多々抱えながらも、四人はそこで別れ――沈んだ思いを胸に抱きながら各々の部屋へと帰っていく。 「エリオ君…?」 「あ、うん……ごめん、キャロ。」 不安に沈む少年の顔を覗き見、心配そうな声をあげる白いローブの少女。 6課解散後、僅か一年を隔てぬ期間ではあったが―――少年が、少女が成長するのはとても早い。 当時、子供であった二人もエリオの方は立派な体躯を持った竜騎士見習い。 キャロも僅かながらに女性の魅力を纏う大人の階段を登りつつあった。 しかしながら、それでも家族の安否を気遣う心に年齢は関係がない。 自分を気遣うキャロの視線に力なくも微笑みを返すエリオ。 スターズの二人と別れ、自分達の部屋に戻る二人はその境遇から、互いに兄妹同然の絆で結ばれている。 そしてこの少年、少女を繋げたのは言うまでもなく―――フェイトテスタロッサハラオウン。 生い立ちから辛い仕打ちを受けて心が砕ける寸前だった自分を、持って生まれた力から部族から追放された自分を優しく包み込み 自分の子供のように育ててくれた心優しき金髪の魔導士。 「大丈夫………ティアナさん達の言うとおり、その時が来たら自分達に出来る事を精一杯しよう。」 「………うん」 そして自分達に揺るがぬ力を与えてくれた教導官。 言うなればフェイトとなのはは二人にとって本当の母親であり、父親だった。 大空を翔る白と金の閃光。 常に自分たちを見守り、時には後押ししてくれた二人。 平時は仲睦まじく寄り添う彼女達を少年少女は幻視する――― ―――――― 二人は思う―――― 高町なのはが太陽のような人だとしたらフェイトテスタロッサハラオウンは月だと。 ひっそりと、決してその存在を過度には主張せず しかし確実に優しい光を以って地面を照らし、地上に住まう人達を見守ってくれる。 二人は思う―――― そして信じている。 どんな困難に陥っていようとも……あの二人が一緒にいる限り大丈夫だと。 きっとすぐに帰ってくる。白と黒の法衣を纏ったその肩を並べて。優しい笑顔を称えて。 ただいま……心配かけたね、と。 そんな場面をひたすらに――――少年少女は幻視する。 ―――――― 現実と虚実の狭間にて全てが織り交ざるセカイ――― 高町なのはという太陽はその名に恥じぬ力を見せた。 異世界の英霊を向こうに回し、傷つき地に付しながらも一歩も引かずに戦った。 そして今、今度は月が戦う時が来る。 ただしそれは太陽のそれとは違い、誰にも知られず誰にも主張せず 誰にも称えられない、まるで夜の帳にて皆が寝静まった空を一人、煌々と照らし出すかのように それは誰知る事のない彼女だけの戦いになるだろう。 月の精霊セレーネのように、未だ陰を落とすフェイトの心。 その亀裂との闘い。 幕開けは今、全てが閉鎖された空間にて 自分を慕ってくれる愛しい少年少女の思い届かぬ、無限の欲望の手の平の上にて―――静かに始まるのだった ―――――― Chaser ――― 暗い山道を走るダークメタリックのボディから空気を震わせる排気音が勢い良く響き渡る。 日本の峠道を走らせるには幅広のボディは、しかしこの無人の世界においては些かも不自由を感じさせる事はない。 「どうですか?」 「………ダメだな」 車内においてステアリングを握る金の長髪の見目麗しき女性が何かを尋ね、 それに対して赤みがかったポニーテイルの凛々しい顔立ちの女性が耳に手を当て、かぶりを振って答える。 機動6課の片翼を担うライトニング隊。その隊長のフェイトテスタロッサハラオウンと副隊長のシグナムである。 「もう少しで県境だと思います。通信の状態も少しはよくなるかも……」 小さな声で「ここが海鳴市ならばの話ですが」と付け加えた。 重い空気に支配される車内にて通信手段の途絶に四苦八苦する二人。 沈黙の中、規則正しいスキール音だけがその音を世界に刻む。 「しかし、また偉く安全運転だな。」 「執務官が法廷速度を守らないわけには行きませんからね。」 「それはそうだが、この速度はあまりにもやきもきしないか? 何といっても運転手はお前だ。」 横目で揺れる金髪の奥にある顔を見やるシグナム。 すると少し苦笑した感のある戦友の表情が見て取れた。 「やきもきはしないのですが免許を取る際、何回か注意されました。 その、スピードを出しすぎだと……」 「そうか……やはりな」 クク、と笑いを漏らすシグナムに照れくさそうな表情を作る執務官。 何せ6課最速のオールレンジアタッカーの異名を持つフェイトである。 トップスピードは最新鋭の戦闘機をも凌駕するだろう彼女にとっては時速20~30kmなど止まって見える世界であろう。 かたつむり以下の体感速度で走る乗用車に業を煮やして、ついアクセルを踏み過ぎて怒られる金髪少女の姿が思い浮かんでしょうがない。 「まったく、相変わらずシグナムはフェイトを弄るのが好きだなぁ。」 その騎士の肩上から、フェイトでもシグナムでもない第三者の声が響く。 見ると二人より……否、人間の寸法よりも遥かに小さい、まるで小人のような――― 悪魔が背に背負っているかの如き黒い翼を元気にはためかせる女の子がいた。 剣精アギト。 古代ベルカより残っている純粋な融合機にして、騎士の戦闘力を飛躍的にアップさせる融合型デバイスの少女である。 「も、弄ばれてるんですか…? 私は」 「ただのコミュニケーションだ。気にするな」 「ひっでー! ゴマカしたよ! あはははっ!!」 暗く沈みがちな状況でも、こうした陽気な性格の持ち主がいると随分と違うものだ。 少ない言葉を交わしながら探索を続ける二人+一体。 光の届かぬ山道を走り続ける車は県境と思われる場所を抜け、上り坂続きだった道も勾配のある下りへと変わっていく。 重心が傾き、下腹を持ち上げられる感覚はシートベルトによって肩と胸を締め付けられる感覚によって相殺される。 小高い山道を折り返し、あとは道なりに進むだけで恐らくは10分と掛からぬうちに視界は開け、隣の県の入り口に差し掛かるだろう。 ――――――――そんな時だった 「「……………!」」 車内の空気。 否、中の二人の纏う空気が一変する。 「………? シグナム? フェイト?」 アギトが、おずおずと言葉をかけるが二人は答えない。 答えないままに――その鋭敏な感覚を研ぎ澄ませて今、確かに感じた違和感に意識を傾ける。 ただでさえ無人の空間。人の営む様々な音も喧騒も無いこの世界にて、しかも空気の澄んだ一本道の山道だ。 その空気が震えて音となり、二人の耳に届くのにさして時間はかからなかった。 「後ろからですね…」 「念のためだ。少し速度を上げた方がいいな」 フェイトの車のエンジンボックスから紡ぎ出す排気音とは異なる音。 それは言うなれば、よく真夜中の峠やサーキットで聞くようなタイヤの軋む音。 ギャリギャリ、という耳障りな騒音であった。 まだ自分らを追走してきたのだとは限らない……限らないが…… 「普通の乗用車ですか? それともボックスタイプ…」 「いや、まだよく見えん」 現在、速度は40km弱をキープ。 こんな峠道、それも下りを走るには些か速度超過気味であり、きついヘアピンを抜ける度にギシギシと車体が揺れる。 そして―――その異なる音は、明らかにこちらの速度を上回るスピードで追随してきているのだ。 襲撃という可能性は十二分にある。 ギャリギャリ、ギャリギャリ――― タイヤの擦れる音がだんだんと大きくなっていく。 「車? バイク?」 「いや……」 だがフェイトはここに来てまたも違和感―― (………静か過ぎる) その車輪が道路の接地面を滑る激しい音に反して「それに付随するもの」が全くない事に対する、えもいわれぬ違和感を抱いていた。 そう、モーターとガソリンによって動く自動車。その醸し出すエキゾースト。 激しく回転し、排気ガスを吐き出すエンジンの咆哮が全く聞こえないのだ。 「………!?」 そして隣に座る騎士の様子が一変した事――― シグナムの顔がはっきりと強張り、その目が見張られるのが分かった。 「シグナム…?」 相棒の、密かに息を呑む様子を見逃す執務官ではない。 様相の変化に声をかけるフェイト。それを受けて、騎士はゆっくりと息を吐くように――― 「…………自転車だ」 自分達を猛追してきた影の正体―― 「……………は?」 「追走してきているのは自転車だと言った」 まるでモトクロスよろしく、バンプした峠道の段差をゆうゆうと飛び越えて宙に舞いながら 貧弱な車輪と人力のペダルを伴った乗り物で猛追する姿を今――――騎士の双眸がはっきりと認めたのだ! ―――――― 「ええっ!???」 フェイトが素っ頓狂な声を上げる。 シグナムの顔と速度計を交互に見やりながらステアリングに悪戦苦闘する執務官。 メーターを繰り返し凝視するフェイトの目に映る数値はどう見積もっても40~50kmは軽く出ていた。 「マジかよ……おい!」 アギトも驚きの声をあげる。 「気をつけろ。どうやらまともな通行人ではないようだ」 「そ、それはもう……ええ!」 些か動揺の残る戦友を嗜め、後部に目をやる騎士。 黒い鉄の箱と後方から迫る軽装の二輪がなだらかなS字を抜け、直線に突入した途端 影はまるでジェット噴射でもついているかのように加速を開始し、みるみるうちに接近してきたのだ! 「!! ちっ!?」 舌打ちするシグナムだったが、遅い。 ついにその影とフェイトのクルマが並んだ。 助手席側に並走してくる人力の二輪 。 それを狩る謎の怪人と今、初めて至近で目が合い――― 「えっ!?」 その、二重に意外な事実に驚きの声を上げる二人。 「な、何で……!?」 否、それに小さな少女の吐き出すような声が重なる。 三者の驚愕の理由。 まずはこんな有り得ない速度で追走してくる自転車の操車が競輪選手のような筋骨隆々とした男性――ではなく 美しい髪とスラリと伸びた華奢な手足を車体に絡ませ、その魅力を存分に感じさせる腰をサドルに任せている女性であった事。 (ルー、テシア…?) そして―――その容貌が、かつてJS事件で出会った一人の少女。 ジェイルスカリエッティにその身を利用され、アギトと一緒に行動を共にしていた一人の召喚師の面影を持った女性だったからだ。 紫の髪をはためかせ、両のサドルを蹴りつけて舞うモトクロスライダーの姿は異様としか言いようが無く そしてそんな事よりも遥かに異様で、ルーテシアやその母親とは違う決定的な点。 それは彼女の顔の大半を覆い、表情を隠している眼帯の存在だった。 あれでは完全に視界が閉ざされてしまうだろうに、一体どうやってこの山道を全力疾走で抜けてきたというのか? そして、後部に付かれている時は死角になっていて分からなかった新たなる事実。 疾走する自転車の助手席にもう一つ、人影があったのだ。 そう、風を切り弾丸のように疾走する華奢な女性の狩る自転車は、一定速を出した車に難なく追いついてきたその二輪は―――あろう事か二人乗り。 後部席の人影は男だった。 全身を蒼で統一したスーツに身を包んだ、一見素朴で粗野な出で立ちは しかし精悍で猛々しい相貌。その身に纏う空気が装飾品となり全く貧相さを感じさせない。 そして右肩に担いだ細い棒のようなナニカ―― 物干し竿のような長物が、この場にて得も知れぬ存在感を誇示し異彩を放っていたのだ。 「よう」 だが緊迫した場にあげられた男の声は、取り巻く空気に全く似つかわしくない陽気な響きさえ含んだものだった。 歴戦の勇者であるライトニング隊の二人がどう答えてよいか分からぬほどに、それは開けっぴろげで馴れ馴れしい まるで見知った友人に話しかけるかのような初顔合わせの挨拶。 「さっそくで悪いが――」 だが、そんな事はどうでもよかった。 男にとっては恐らく、初めましての挨拶が陽気なものであろうが険悪な響きを持たせようが何でもよかったのだろう。 何故なら彼が駆け抜けてきたその生涯は――――剣舞い、槍踊る戦場。 「死んでくれや」 言葉など、何の意味も持たないセカイだったのだから。 「!! 貴様ッッッ!!」 ハンドルを握る手が強張るフェイト。 助手席のシグナムが怒号を上げる。 サイドバイサイドで並び疾走する大型のクーペと二輪。 紫の女の後部にて、宙舞う矢の様な激走に全くバランスを崩すことなく男は構えた。 その肩に担がれた細い棒……否、血の様な光沢を放つ真紅の槍を! シグナムとフェイトが行動に移すそれよりも遥かに速く、まるで紅き春雷を思わせる閃光の如く放たれた槍。 その凶つ刃がポニーテイルの騎士の座す助手席のウィンドガラスに深々と叩き込まれていたのだった。 ―――――― 並走するは3Lを勇に超える排気量を叩き出す黒いボディと、自転車。 まるで馬と戦車を並べたような不釣合いな電撃戦。 ともあれ二者は出会い、今まさにその刃を晒して戦闘の火蓋を切った。 先に仕掛けたのは貧弱な馬に身を預けるカウボーイ&ガール。 手に持つ得物で巨大な猛牛を連想させる黒きボディの横っ腹に鋭敏な刃を突き入れたのだ! クルマが車体を大きく揺らし、四つのタイヤが軋みを上げて横滑りする。 濁走するメタリックボディの車内にて、真っ赤な鮮血が飛び散った。 「シグナムぅッッ!」 アギトが悲鳴に近い声を上げる。 このデバイスのロードである騎士の肩口から下げたシートベルトが切断され、はらりと騎士の腿部分に落ちる。 その肩から下―――鎖骨の辺りから噴き出す赤い液体を認め、フェイトの顔も青ざめる。 「………大丈夫だ」 だが、ややもして何事もなかったかのような声を返すベルカの騎士。 懐から抜かれているのは彼女の愛剣レヴァンティン。 狭い車内、しかもシートベルトに身を拘束されていながら、横から突き入れられた稲妻のような槍の軌道を見事、剣先によって逸らしていたのだ。 「………少しへコますぞ」 「え?」 ボソっと呟いた騎士の言葉。 その後、間髪を入れずに轟くボコン!!という大きな鈍い音。 フェイトが息を呑む。 それはサイドドアに刺さった槍を持つ男と、二輪を繰る女をそのままドア越しに蹴り飛ばし、引き剥がした音だった。 「うおっ!?」 声を上げる男諸共に大きく弾き飛ばされた女の乗る自転車が、みるみるうちに後方へと置き去りにされていく。 「すまんな。手荒に扱った」 「い、いえ……」 騎士の伸ばした腕がドアの取っ手を引き付け、助手席のドアは間を置かずに閉められた。 短い謝罪の言葉に、受け答えするフェイトの声は些か固い。 不自然に上ずった声は動揺の現れであろう。 (…………!) だが、シグナムは実はそれどころではない。 容易く斬り払ったように見えたあの一撃の、その全身に寒い汗をかかずにはいられない凄まじい一突きに戦慄を感じずにはいられなかった。 人体において、胸骨と胸筋に守られている正面からよりも、わきの下から縫い入れられるように突いた方が効率よく貫けるもの。 それは―――心臓。 あの敵は間違いなく側面から数分違わず「それ」を狙ってきた。 それも自分だけではなく、隣にいるパートナーをも一度に串刺しにする軌道でだ。 反応が少しでも遅れていれば自分とフェイト、二人まとめて仕留められていただろう。 「そのままガードレール沿いに走れ」 「え? でも……」 「いいから言うとおりにしろ!絶対にそちら側を空けるなよ!」 もし先ほど運転席側に回られて一撃を繰り出されていたら、ステアリングで両手が塞がってるフェイトは為す術もなかったはずだ。 この狭くて小回りの効かない車内であの凄まじい一撃をもう一度防げる保障もまたどこにもない。 何とか助手席から飛び出し、戦闘体勢を整えたいシグナムだったのだが――― (駄目か…) 後方に追随する謎の敵は先ほど思いっきり蹴り剥がしたにも関わらず転倒もせずに追随してくる。 今飛び出すのはよろしくない。 顔を出した途端、あの槍で狙い撃ちにされるのは確実だ。 空戦の基本―― 空を主戦場にする者は、離陸時が一番危ない事を肝に命じるべし。 速度も乗らず、戦闘態勢も整わぬ柔らかい腹を敵に無様に晒すことなかれ、である。 「先に出る。どうにかしてあれを引き離せないか?」 「……やってみます」 フェイトの右足が愛車のアクセルを思いっきり踏み込む。 緊急事態において今更、法廷速度がどうのだの言ってる場合ではない。 アクセルを全開にした事によって加速度的に上がるエンジンの回転数。 それによって叩き出される馬力は凄まじく、例え相手が競輪選手並の脚力を持っていようとみるみるうちにその差が開いていくのは当然の事だ。 だがフェイトらにとっての不幸は、ここが峠の下りだという事。 つるべのように続くヘアピンやS字カーブが続くコーナーの坩堝において、3000cc以上の大排気量を最大限に発揮出来る地点など無いに等しく すぐ間近に迫るヘアピンカーブに減速を余儀なくされる黒い鉄の塊。 その背後に迫る女の隠された両の瞳には、今やはっきりと相手のクルマの減速を表す点灯したブレーキランプが見てとれた。 ここが相手を刺す絶好のポイントである事は自明の理。 この紫紺の女怪が「騎兵」の名を持つ英霊であるが故に、走りにおいて勝負所を見誤るわけもない。 相手の減速にまるで示し合わせたかのように黒いスカートで覆われた腰がサドルから浮き、身を乗り出して重心をぐんと前に倒す。 その時、非力な二輪車は―――峠を駆け下りる流星となった。 「な、なに…!?」 サイドミラーを見ながら飛び出すタイミングを見計らっていたシグナムが歯を食い縛って唸る。 一旦は突き放したかに見えた相手が、恐るべき速さで追い上げてくるのだ! 自転車は人力でありエンジンに当たる部分がその両足であるのなら、女の両足に潜む力はもはや地球上に現存するあらゆる生物を凌駕しかねない。 もっともこんな漕ぎ方を女性が、しかもタイトなミニスカートでぎりぎり腰上を覆ったような格好の女性が間違ってもするべきではない。 何故ならば―― 「おい。中が見えてんぞ中が」 「発情ましたか? 流石、野犬の二つ名は伊達ではないという事ですか」 「抜かせ。誰が貴様の尻など好んで見るか」 ―――倫理的に男性にとって、目のやり場に困る光景が展開される事になるからである。 馬上にてこんなやり取りをかます男女。 もっともこの女性の正体を知れば、そんな恐ろしいモノに劣情を催せる男など数えるほどもいないであろうが。 「こんの野郎……!!!」 穴の開いたクルマのボディから上半身を覗かせたのは小人の少女、アギト。 融合デバイスでありながら自身も炎系の魔法の使い手である彼女の手に得意の炎弾が具現化。 眼前に迫る怪人に火の玉の雨あられをぶち撒ける! まるで数百発のロケット花火を同時に打ち込んだかのような凄まじい弾幕が二輪を駆るライダーを襲う。 だが、まるで炎弾の間と間を縫うように――頼りない車体が右へ左へとあり得ない挙動をアスファルトに刻んで炎熱の道を掻い潜ってくる。 「サ、サーカス野郎がっ! 来るんじゃねぇ! 止まれぇぇぇ!!!」 剣の精が絶叫交じりに手を振りかぶり、その狭い道一杯に広がる炎の壁を生じさせる。 真紅のカーテンを思わせる灼熱の防壁が後方より猛追する化け物ライダーの進行を阻もうとする。 が、アギト渾身の燃え盛る壁は、まるで障子を突き破るかの如く炎の中に何の躊躇いもなく直進したライダーによって突き破られ 何事もなかったように追走を続ける彼女の姿を場に写すのみ。 「信じられねえ……チャリじゃねえよ……あれ」 「実は高性能デバイスというオチかも…… もしそうならシャーリーに持って帰ってあげれば喜びそうですね」 「やめろ。何とかにハサミだ」 U字の形をしたきついコーナーにさしかかり、フルブレーキをかけるフェイトの車体がグリップの限界を超えて横に傾く。 「くっ!?」 限界を超えてしまった車体を制御しようと逆ハンドルを切るフェイト。 空戦の姿勢制御のようにはいかない重いボディに四苦八苦する彼女を嘲笑うかのような横Gの洗礼。 黒い車体が身の毛もよだつスキール音と共にボディを泳がせるコーナー。 そこに後方、何とノーブレーキで突っ込んでくる、もはや火の玉と化した二輪車。 ギャリギャリ、とチェーンが軋む音が場に響き、細いタイヤからはレーシングカーのように火花が飛び散っている。 「―――往きますよ、参号」 それは眼帯の女から、己が手綱を任せる貧弱な機体に向けての言葉。 静かながらも騎兵としての誇りを乗せた言葉と共に―――二輪の操車、サーヴァント=ライダーは 黒い車体に体当たりするかの如き速度でコーナーに突っ込んだのだ! ―――――― 腰下までかかる紫紺の髪が凄まじい向かい風に煽られて、それ自体が独立した生き物であるかのように空に踊る。 ネコ科の獣が全身のバネを総動員する時に取る猫背の姿勢に酷似した姿で 眼帯の女は両手のグリップを捻じ切らんばかりに握り締め、足下のペダルを蹴りつける。 光差さぬ林道を弾丸のように駆け抜けるその姿はまるで一匹の神獣が疾走するかのような桁違いの迫力を以ってライトニングの二人に迫り来ていた。 自由度の高い二輪ならではの、ライダー自身の体重すら利用した荷重移動――ハングオンを駆使し あろう事か明らかに二つのタイヤのグリップを超えるスピード……というか、全くの減速無しでコーナーに突っ込む! 横滑りする二つのタイヤは制御を失い、吹き飛ばんとするその車体を 彼女は地面に押さえつけるかのように車体を倒して凌ぎ、凄まじい角度でのコーナリングを敢行。 ほとんど地面と平行になる体。アスファルトスレスレに傾くほどのハングオン。 その剥き出しの肘と膝を地面に擦り付けてのライディングは道路に黒と赤のベルトのような軌跡を刻んでいく。 黒はタイヤの削れた跡。赤はライダーの右半身の、削られたヒジとヒザから付着した血肉そのもの。 この速度だ。彼女の肉体は公式のスポーツのように分厚いパッドの保護など受けてはいない。 地面に擦り付けられる白い肘、膝が大根おろしのように肉や皮をこそぎ取られ、程なくして骨にまで達するような重症となるのは明白だった。 でありながら、それでも女の繰る自転車は確実に先に侵入した相手の車に迫っていく。 そう、彼女は騎兵。 あらゆる騎馬を使役し、誰よりも早く世界を駆け抜けるもの。 相手が何人であろうとも、自分の前を走る存在など認められる筈が無い。 「ふッ!――――」 目隠しで隠された双眸に今、確実に力が篭る。 女の口元がギリっと歪み、牙を含んだその歯を食い縛る音は車体が風を切る音に寸断されて消える。 地に擦り付けられている右の手足とは逆の足を自在に使いこなし 左足のみのペダルワークで、まるで電車や機関車の車輪を回す骨格の如き速度でホイールを回転させていく姿はもはや曲乗りの域。 超高速で回転するチェーンによってぐんぐんと前に押し出されていく車体。 人間の常識では有り得ないライディングによって、尾を引いた流星の如き暴力的な速さでコーナーを駆け抜ける自転車がついにフェイトの繰るクーペに並ぶ! 「こ、これ以上は……!」 フェイトが歯噛みし、シグナムが舌打ちしながら今一度、剣を構える。 コーナリング最中にてサイドバイサイドで並ぶ両者。自転車の後部席に座す男が再び槍を構えていた! 車体が地面とほぼ平行に傾いている最中でありながら、両の手に槍を構えて振り落とされる素振りさえ見せぬ彼。 未舗装の峠の道路の中、跳ねる車体の上で、しかもコーナリング最中でありながら、真紅の魔槍を手に持ち、右中段に構えて見せたのだ。 赤い光沢を称える槍よりもなお紅い男の双眸がギラリと光る。 そして、カーブに手間取るフェイトの車を完全に抜き去るライダーの「参号」 その追い抜き様に―――ランサーが、構えた槍を車の後輪に渾身の力でブチ込んだのだ! 「う、あっ!?」 自らの愛車に起きた異変―――それが取り返しのつかないものである事をステアリングを握るフェイトが分からぬ筈はない。 右下半身が一瞬浮き上がり、そして地に叩きつける感触に顔を青くする魔導士。 車の右後輪はあえなくバースト。 黒いボディが大きく傾く。 荷重の抜けた車体後部があえなく空転し、その狭いカーブで時計回りに一回転。 盛大にスピンした車体を立て直す術はもはや無く、フェイトとシグナムを乗せた黒いボディがガードレールに激突し 静寂の支配する森に凄まじいクラッシュ音が鳴り響く! 「ああっっ!!?」 車内に走る衝撃と振動は凄まじく、二人と一体の身体を上下左右へと叩きつける。 もはやシートベルトなど何の役にも立たない。 短い悲鳴を上げるフェイトを嘲笑いながら、その手を拱くは死神か―― 3トンを超える鉄の塊はガードレールを巻き込み、それを容易く突き破って漆黒の渓谷へとダイブ。 遥か崖下へと転落していったのだった。 ―――――― アスファルトに帯のように刻み込まれた焦げ臭い跡。 黒い飛沫、そして内溶液が飛び散り、オイルの独特の匂いを場に充満させる。 長いガードレールは無残にひしゃげ、真ん中から捻り千切れている。 後続の玉突きが起こらないのは不幸中の幸いか―――そう、後続の車など来る筈がない。 何故ならここは彼らが踊るための彼らだけの舞台。 セカイはその他一切の生物の存在を認めてはいないのだから。 一体誰が、何のために用意した演出なのか、渦中の者達にそれを理解する術はない。 ともあれ時間にして実に数分弱……電光石火のカーチェイスはこうして幕を閉じる。 奈落に落ちていったダークメタリックのクーペ。 そのボディはグシャグシャに潰れ、立派なフォルムを誇る大排気量のスポーツカーは見る影もない有様となっているだろう。 最もバトルを制した方も無事ではなかった。 操車である紫の女性の乗っていた自転車は今、サドルも、ベダルも、ハンドルも、チェーンも、一所には無い。 最後のコーナリングで相手のクルマを崖に叩き落してほどなく、限界を超えたライディングに耐えられなった二万円弱の汎用自転車は まず前輪、後輪共にバーストし、宙に吹き飛んだ車体がフレームを残し、焼き切れ、捻じ切れ、ひしゃげ 文字通りの空中分解を起こして乗車していた二人を上空へと投げ出していたのだ。 当然、そのような速度で空へと飛ばされた人間が無事で済む筈が無いのだが…… ―――ズシャリ、 だからこそ、このような陰惨な大事故の渦中にあって何事もなかったように地面に佇む二人こそ 正真正銘の人間を超えた存在と呼ばれるものであろう。 とある儀式によって現世に呼び出された一つの奇跡の体現。 地上に形を成した英霊―――サーヴァントと呼ばれる人外の存在。 騎兵のクラスに召還されたサーヴァントライダー。 槍兵のクラスにその身を置くサーヴァントランサー。 いずれも地球の伝承にその名を連ねる伝説上の存在、具現した神秘そのものである。 「ところで、ランサー」 その片方、紫紺の女サーヴァントが些か怪訝な表情で隣の槍兵に問いかける。 「我々は自らの足で走って強襲をかけた方が確実だったのでは…?」 「分かってねえな……戦にも様式美ってもんがあるんだよ。 良い戦車戦だった。久しぶりに堪能したぜ。」 核心を冷静についた騎兵の言葉など聞いちゃいない。 古アイルランドの大地を豪壮な戦車で走り回った過去を思い出し、目を細めるグラディエイターである。 「戦車、ですか? あれは私の新車の参号君ですが」 「うるせえんだよお前は。細かい事をグチグチと…… まあどの道、初顔合わせの挨拶としちゃこんなもんだろ。」 思い出に浸るのを邪魔されて口を尖らせる男が意味深な言葉を吐き、そして―――後方へ向き直った。 その横、ライダーもまた同様に、先ほどのコーナリングで傷ついた肘から滲み出す血をペロリと舐めながらに振り返る。 それは視線の先に二つの気配、佇む影を認めての事だった。 怒気と戦意を含んだ猛々しい気を放つ影を後ろに控えたサーヴァント二体。 男は飄々とした笑みを、女は無表情を崩すことなく、十分な余裕を以って振り返り相対する。 その相手とは言うまでも無く―――― 「貴様ら……」 先ほど谷底へと消えていった筈のライトニングの面々に相違ない。 明確な殺気を放って対峙するシグナムが怒りの声を上げる。 あれだけの事をしておきながら余裕満々で立つ二人を前に少なからず苛立ちを覚える将。 既に二人は、相手がどう出てこようと対処できるようBJを纏った完全武装体勢である。 (む……?) だがそこで騎士が、横にいる友の様子に気づいて訝しげに見やる。 謎の怪人相手に武装し、得意武器のサイスを以って相対している彼女であったが――― 何かこう心ここにあらずというか、精彩を欠いている感が見て取れたからだ。 どこか目が呆然としている節がある。 「テスタロッサ?」 この友人は極めて優秀な執務官にして武装隊の一員だ。 敵を前にしてこのような呆けた態度を取るなど有り得ない。 声をかけるシグナムであったが、 (…………、) その理由に程なくして気づく騎士。 フェイトの意識は今、自分らが落ちていった谷底に向けられていた。 否、自分らではなく――為す術なく落ちていった己の愛車に…… 「集中しろテスタロッサ。敵の前だ」 ああそうか……と思い至り、その傷心が痛いほどよく分かるだけに叱責を飛ばすシグナムの声にも今一張りがない。 元々がほとんど物欲を示さないフェイトが初めて大きな買い物をしたのが―――あの車だった。 今回のように仕事で使う事が大半であったが、忙しい中のたまの休日などに 子供のように可愛がっているエリオやキャロを乗せてハイキングにいったり、なのはを助手席に乗せてドライブしたりと そんなささやかな幸せを謳歌するために購入した彼女唯一の慎ましやかな贅沢。幸せの詰まった黒い箱。 ソレが今、暴漢の手によって無残な鉄屑と化し、谷底へと消えていったのだ。 その失望と悲しみは想像するに余りあるものであろう。 「……テスタロッサ!」 シグナムが再び強い口調で戦友の名を呼ぶ。 「大丈夫です」 乾いた声で答えるフェイト。 「ただ、まだ少し支払いが残っていたので……どうしようかな、と」 はは、と形だけの笑みを作る執務官。 痛々しくて見ていられない。 「保険で払って貰え…」 「いや、そいつは無理じゃねえかな?」 不器用なフォローを入れるシグナムだったが、相槌の声は意外なところからかけられた。 そのフェイトを悲しませている原因を作った目の前の男が、肩に槍をトントンと担ぎながらに飄々と口を挟んできたのだ。 「保険ってのは確か対象の具合によって金額が決まるって話だろ? 半損か全損か?部位は?状況は?と、五月蝿いくらいに状況を鑑みて初めて支払われるわけだが――あれじゃ、なぁ…」 チラリと谷底を見やり、まるで他人事のように口ずさむ男。 「確かにあれでは査定のしようがありませんね。 事故の状況を説明するにも、この状況では――」 そして隣の女性がしれっと続く。 「自転車に乗った二人組の男女に車ごと突き落とされました―― このような説明では冗談としか受け取って貰えません。 それにこの奈落の深さでは物品の回収も絶望的でしょう。」 つらつらと並べ立てる言葉には何故か凄まじい説得力がある。 まるで色々なアルバイトに従事してやけに世俗に詳しいフリーターであり まるで古書や骨董品のバイトで査定というものに精通するパートさんのような口ぶりである。 「かまいません」 だが、やがて(この執務官には珍しく)強い口調で言い放つフェイト。 「あなた方を捕らえて弁償してもらいますから」 本来ならここで犯罪者に対しての勧告、警告をしなければいけないのだが、そんな基本もすっかり頭から吹っ飛んでいる。 この心優しい雷神はかなり怒っていた。 「そいつは困ったな……俺、カネねえんだよ。」 「私は居候の身ですから。まあ、私の愛車もあの通り木っ端微塵なのでそれで痛み分けという事に……」 「……ふざけるな!」 怒りの口調を叩きつけるシグナム。 「そうだな………まあ、アレだ。俺に良い考えがあるんだが」 後ろ手に頭をポリポリと掻きながら、男が相手の怒りをなだめるように割って入る。 親近感の沸く表情は、こんな事態でなければ気風の良い青年にしか見えない。 まるで心底悪いと思ってるかのような男の様相に邪悪なものは感じない。 そんな男が――― 「死ねば―――残りの支払いからは解放されるぜ?」 ――――不意打ちのように、獰猛な殺気を解放した 前 目次 次
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正式名称 コマンド 通称 判定 LK カツメン 上 6LK RP カリ 中上 66LK リゴウ 中 3LK RK レンキャク 下中 1LK アンキャク 特殊 4LK ハイホウ 上 7or8or9LK ライトゥ 中 ジャンプ着地際LK 下 横移動LK フクホウ 下 立ち途中LK テイフ 中 しゃがみ中LK RP LP RK 下段背身 下上上中 活面脚 当たると痛い。宙転の追撃でなお痛い。しかしモーションも大きいし、射程も短い。 確定反撃として使えなくもないが、射程が問題。 空中コンボに組み込むとおしゃれ。 当たると相手が右に吹っ飛ぶのも特徴の一。壁などを考慮して。 火離双翼 6からの新技三段四連撃。 初段ヒットで全段ヒット。2発止めで背向けに強制移行。 初段が中段である、出し切りガードされてもさほどスキは大きくない。 なかなか優秀である…が、新技である上に、空中コンボによく組み込まれるということで目立つ。立ち合いで2発止めするには注意されたし。 里合腿 歴史に名高い優秀技。 …であった。 しかしあまりにも多用するために、確定反撃も研究されている。乱用注意。カウンターヒットで相手が横向き、それを目視確認してからの虎尾脚が確定という、振り回しとけ技だった。6では距離などの条件によって虎尾脚が確定しない。 技後に背向け強制移行する。 掃腿連脚 シャオの数少ない下段からの連段技。しかし2段目の射程が短く、使いづらい。 2段目がヒットすると、火離2段などで拾って空中コンボに行くことができるために狙ってもいい。 最後の1撃を下段で読ませておいて2段目を当てるのも狙える。 暗脚 ダメージゼロという珍技。 しかしガードしていようが強制的によろけ後退させる。CPU戦で連続暗脚をしてみるとよく性能が理解できるであろう。 とにかく「崩し」に特化した技で、壁際で暗脚後に手を出す相手に架推掌という連携も有効。 使用途が難しい技である。 背抱提就 5から追加された技で、そのモーションからは信じられない当たり判定がある。意外に前方に伸びる。 技後は背向けに強制移行。 月下兎軽 6からの新技であり、シャオユウ待望のライトゥ。 しかしスキが大きすぎるために乱用は厳禁。 ジャンプ着地際下段蹴り 全キャラ共通の技であるが、それゆえに読まれやすい。 しかし間合いを詰めつつ下段攻撃し、シャオにとってはしゃがみ移行できることが大きい。 たまにジャンプ右蹴りと使い分けよう。 右はしゃがみに移行しないので注意。 伏鳳烈倒 技名を間違えやすい。フクホウレットウ。 当たると様々な空中コンボが狙えるし、なにより気持ちいい。 しかしひとたびガードされると大変。よろけてしばらくは立ち直れない。 横移動から出せる技がどちらも下段なために、とてもガードされやすい。 レバー後ろ入力で技をキャンセルし、しゃがみ背向けに移行することもできる。伏鳳キャンセル~虎尾脚など。 提斧脚 斧刃脚と技名を間違えやすい。テイフとフジン。 カウンターでうつぶせダウン。浮いてる相手ならばバウンド。 しかしモーションがかなり大きいので使いづらい。 そのかわり技後のスキは小さい。 掃腿背身撃 シャオ唯一の4段技。 4段目は虎尾脚なので、当たればコンボ。 3段止めで正面立ち。 2段止めで背向け。 判定は下、上、上、中。至近相手ダウンからは後転などを拾ってコンボにいける便利な技。 4段目に大きめのディレイをかけられるので、たまには4段出し切って見せておきたい。
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木の幹に力なく寄りかかり倒れ付すフェイトテスタロッサハラオウン。 その綺麗な顔が、凛々しいインパルスフォームの出で立ちが、今や見る影もないほどに裂かれ打ち抜かれ 半開きになった口からゴボ、と血泡が漏れる。 (ようやく静かになりましたか) 長い狩りの時間がやっと終了した事で騎兵―――ライダーが静かに息を吐く。 勝負はついた……見るまでもなく自分の勝ちだ。 相手はまだ辛うじて意識を残しているようで、その瞳は未だ闘志を失わず騎兵に向かっている。 だが肝心の身体が動かない。 止めを遮る術などありはしまい。 (しかし彼女は一体――?) 勿論、ライダーとて無傷ではない。 苦しい戦いだったのは言うまでもない。 表情を決して表に出す事無く心中で沸いた疑問を思慮する。 ――― 魔術師 ――― 彼女を見てそう疑っていなかった自分であるが、この身とここまで戦える人間の魔術師などは知らない。 初めは何らかの技術で「飛べて」「固い」だけの相手だと思っていたが、とんでもない。 自陣に引き摺り下ろしてしまえばどうとでも料理できる相手の筈が、追い込まれても追い詰められても食いついてきた。 その人間離れした戦闘力が既に常軌を逸しており目を見張るものが多々あった。 そう、間違いなく目の前で倒れている彼女の戦闘力はサーヴァントのそれに比肩するものだったのだ。 ――― サーヴァント? ――― いや、それはあり得ない。 サーヴァントはサーヴァントの気配を察知する事が出来る。 目の前の女はどう見ても生身の人間だ。 では――――人間に過ぎない目の前の魔術師は何故、ここまで強い? 「何者だったのでしょうね―――貴方は」 「…………」 もはや虫の息なのだろう。 こちらの問いに答える声は無い。 苦しげな吐息を漏らす彼女はピクリとも動かず、もはや自身の運命に抗う力を欠片も残してはいなかった。 刈り取る生贄に過ぎない相手とはいえ流石にこれ以上苦しめるのは忍びない。 「そろそろ楽にしてあげましょう」 抵抗の意思すら感じられない相手に一歩踏み込む騎兵。 獲物を前に舌なめずりするほど彼女は愚かではない。 無抵抗な肢体に容赦なく杭を叩き落す動作をこの騎兵は難なくやってのける。 歩を進めるライダー。 ――彼女の傷から、むせ返るような血の匂いが充満する。 女にとってそれは芳香な香りだった。「とある衝動」を刺激し駆り立てるその香り。 彼女の手が魔導士の金髪に伸びていく。 最後は急所を一突き……終わった事も感じさせぬよう、眠るような最後を与えてやろうと短剣を翳した――― その手が―――――止まる? 「この、匂い――?」 彼女の眉間に微かに皺が寄る。 その違和感―― 目の前の相手から感じる従来のモノとは違うナニカに―― もはやこの状況で今、ライダーの動きを一瞬だが完全に止めたモノこそ――― 「………ライトニングバインド……ッ」 そこへ――詠唱が紡がれた。 ―――――― 「―――、!?」 ライダーの気色が変わる。 尻餅をつき、木の幹に寄りかかるように倒れ伏すフェイト。 その口から出たのは普段の彼女からは想像も出来ない皺枯れた声。 ―― 空間が歪み、プラズマが生じる ―― だがそれでも彼女は魔導士だ。 その意思に乗っ取って行使された世界に干渉するプログラム―――魔法。 工程は声の大小に左右されず、確かに彼女の意思に従って世界に具現し対象に働きかける。 「これは―――!?」 即ち任意発動型捕縛魔法ライトニングバインドが彼女に止めをさそうとしていたライダーを拘束したのだ。 「馬鹿な………早過ぎる―――」 完全に昏倒していたはずだ。 あれだけの連撃を叩き込んだのだ。 意識はあっても身体は動かない筈。 一瞬、ほんの一瞬「違和感」から手を止めただけのその時間で――― あれだけのダメージから反撃を行えるまで回復したなどヒトの身では有り得ない! 「デバイスのオートヒーリング………それと予め詠唱しておいたバインド……… 何より、貴女の一瞬の躊躇に助けられた……」 「―――く、!」 フェイトのおぼつかない、震える右手がバルディッシュを握り締める。 そしてまるで爆ぜたように跳ね起きる黒衣の体! 「は、ぁぁッッッ!!!!!」 両足に力を込めて飛び起き、右斜め下から掬い上げるようなサイスの輝きが今―― 「か、―――!?」 バインドに捕われた無抵抗の刺客を下袈裟にて両断する! 女怪の息を飲むような声と共にライトニングバインドが弾け飛び 後方に飛ばされる騎兵。 その紫の肢体が背中から叩きつけられ地に倒れ付す。 ――――――いや………! 「―――、!!!!」 踏み止まった! 背中を泥で汚すなど有り得ないとばかりに彼女はその身を地に付けず 片手をついて中腰の姿勢にて断固、不倒の意思を貫いていたのだ! 己が肢体。 完璧な美を誇っていたソレに生じたブスブスと焦げ臭い匂いを放すソレ。 脇腹から胸の上までシミ一つない肌に刻み込まれた――――傷を呆然と見やるライダー。 対して天に向かって振り上げたサイス。 それを支えきれずによろめくフェイトの体。 最高の間合いで敵を一刀の元に仕留められないほどに彼女は消耗していた。 ガクガクと笑う膝では対象を切り伏せるには圧倒的に踏み込みが足りず、泳ぐ体はその構えすらもグラつかせている。 回復魔法が効いているとはいえ、やはりノックアウトのダメージは深刻。 起死回生のチャンスを前に、体が全く動いてくれなかったのだ。 普段ならばこれで終わりだっただけに悔しげな表情を作るフェイト。 「……体はまだ痛いけど、頭の方はだいぶ軽くなったよ」 しかし、それでもフェイトは不敵に言い放つ。 体をゆらりと起こし、今ゆっくりと鎌を後ろ手に構える魔導士。 「貴方は―――」 その対面………それは地の底から響くような声だった。 「そんなに惨たらしい死がお望みですか、――――?」 それは止まぬ抵抗に対する怒りの声。 窮鼠に牙を突きたてられた猫の唸り声。 静かで詩人のようだった声色の女性が、その喉から搾り出す―――殺意の塊のようなコトバ 「死を望む者なんていない…!」 ビリビリと震える空気。 森の木々が恐れをなすように枝を震わせる中 傷だらけの体に強い意志を灯してフェイトは敢然と言い放った。 戦いはまだ終わらない。 深い森の奥の奥。雷光と騎兵。 再び絡み合う金色の雷光と紫紺の蛇の闘いが、今――――佳境へと向かっていく。 ―――――― その視界は赤く染まり、体中の至る所に叩き込まれた衝撃が自身の肉体を苛む。 ふらつく身体を確固たる意思で支え、敵と相対するフェイト。 装甲が薄いとはいえ、BJの恩恵を受けているのにこの惨状だ。 杭剣はともかく素足による打撃にすら相当の痛手を被っていた。 まるでベルカ式の拳闘士のそれにも負けない重打撃。 一糸纏わぬ姿となったフェイトの肢体には所々に痛々しい内出血や痣が刻まれている事だろう。 あのラッシュ……二度食らうわけにはいかない 「どうしました………止めを刺さないのですか?」 対する紫紺。 執務官のデバイスにより薙ぎ払われた下腹部から胸に至る斬傷を押さえ それでも噴き出す鮮血が太股からふくらはぎにかけてを濡らす。 夥しい出血を覗かせながら呻くように、しかし不敵に挑発するライダー。 だが、やせ我慢だ。 効いているのは間違いない。 「――テスタロッサ」 「え?」 唐突に紡がれたのは自分の性。 騎兵がフェイトの耳ににやっと聞こえるくらいの小さな声で彼女の姓名を呟いたのだ。 「片方の騎士がそう呼んでいました」 そうだった……うやむやのうちに戦闘になってしまい、魔導士は彼女に自身の名前すら告げていなかったのだ。 「フェイトテスタロッサハラオウン……時空管理局所属の執務官だ」 故に改めてゆっくりと自身の名を告げるフェイト。 喋るだけでも切った口の中がジクジクと痛む。 「――――フェイト……運命、業。 フフ………大層な名ですね。」 今の今まで無口だった彼女が途端に発揮した饒舌さ。 それは怒りか憎悪か口惜しさによるものか。 ともあれ、その口上からは突き刺すような殺気と重圧が滲み出ている。 相対するだけでギチリと背筋に凍てついた棒を差し込まれたような感覚。 禍々しい、毒々しい霊気……否、妖気とも言うべきモノが女怪の周囲に充満し 歪にゆがみ、裂けたような口で作られた笑み―――その鬼貌がフェイトの両の瞳にしかと写る。 今、魔導士の目の前にあるソレこそはまさしくあの数多の英雄を食い尽くしてきた悪鬼以外の何者でもない。 「フェイト……良い名です。 愛しさすら感じます。 フェイト………フェイト―――」 とても対話など出来ない。 相手はそんなモノを望んではいない。 火照る身体を一瞬で冷却してくれた冷たい汗を全身に滲ませて、魔導士は自身の名を連呼する女から決して目を離さない。 名を紡ぐ度に声は粘つくような残響を伴って場の空気を震わす。 場にひりつく空気……否、妖気はもはやヒトが醸しだすそれとは一線を隔し、この森は真の意味でのバケモノの巣となりつつある。 (恐い…………恐ろしい、敵だ…) もはや誤魔化しても仕方が無い。 自分は今、彼女に対して本能的な恐怖を抱いている。 相手の尋常でない様子に。 今や比べ物にならない殺気に満ちた敵の形相に。 膨れ上がっていく禍々しい妖気に。 「さあ………何をしているのです? 私に止めを刺すのは肉体に損傷を受けている今しかありませんよ?」 汗で濡れた両の手でバルディッシュの柄をきつく握り締めるフェイト。 どうする……彼女の言う通り敢えて敵の言葉に乗ってこのまま捻じ込むか? それとも――― (、イト………フェイトぉ!!) 「!!」 焦燥に揺れる思考の只中に割り込むように―――その時、彼女ははっきりと聞いた。 突然に頭に響き渡ったその念話を。 (応答してくれよフェイトぉ!) 脳に直接響いた声は他ならぬ融合デバイスの少女、剣精アギトの声。 今にも泣きそうな様子。 痛みと疲労で朦朧とする意識が――― (シグナムが……シグナムがッ!) ―――途端にクリアになる。 (アギト!? アギト!!!) 咄嗟に返信を返そうとする彼女だったが、ダメだ……精神リンクが不安定過ぎる。 加えて被ったダメージで念も安定しない。 とにかくこの状況を何とかしなければ悠長に念話など行ってはいられない。 (近い……間違いない!) だが流転に流転を重ねる戦況の中、あの小さな妖精の大まかな位置は感じ取れた。 思考に電流を走らせるフェイト。 下手をすれば、いや上手くすれば――― この状況を打破し、同時にシグナムのフォローに回れるかも知れない! ―――――― 状況――――――― 自身の損傷拡大。 戦闘不能という訳ではないがノックダウンのダメージにより大幅な戦力低下。 次いでこちらの反撃によって敵の怒りに火を注いでしまった。 与えたダメージも相当のもののようで、敵は未だにこちらに猛撃を仕掛ける素振りは無い。 こちらの空戦能力を知りながら、である。 相手もまたあの場から動けないと予想。 でありながら、こちらを挑発してくる真意は―――? (………どうする?) 相手が弱っているのは明らかなのだ。 この膨大な殺気は、裏を返せば手負いの獣の威嚇と取れなくも無い。 ならば行くか? ここでラッシュをかけてフルブーストで一気に勝負を決めてしまうか? ここで相手を倒しておかなければ、それこそ次に出会った時にはどうなるか分からない。 (………いや) そんな思考―――短絡的で馬鹿な立案を彼女は心の中から一蹴する。 考えるまでも無い。 答えは秒を数えぬうちに出た。 ―――――― ザザザ、と―――木々がざわめく。 それはまるで地獄の使いである死神がしゃれこうべの顎を鳴らせてカカと笑う音に似ていて 騎兵の真の姿を垣間見る事になる空間―――そこにある全ての命が恐怖と絶望に凍りついているかのようだ。 フェイトがデバイスを構えて腰を落とす。 手に持つバルディッシュサイスを騎兵に叩き落すために。 (さあ……来なさい――――私に止めを刺しに) その時こそ―――身も心も凍りつかせてあげましょう ブレイカーゴルゴーン――― アイマスクに手をかけるライダー。 彼女の真名、その代名詞たる石化の魔眼を至近距離でくれてやる。 眼下で凍ったその身体……引き裂くも抉るも自在。 この傷に見合うだけの悲痛な絶叫を上げさせてやろう――― その想いの元に女怪は優しく手招きする。 彼女にとっての愛しい愛しい獲物であるフェイトテスタロッサハラオウンへと。 ―――――― 「………………」 その逢瀬は果たして相思相愛となる事は無かった。 黒衣の魔導士は一切の躊躇いもなかった。 まるでロケットの打ち上げの如く、地にプラズマの残滓を残してそのまま後方に向き直ったフェイト。 彼女は出力全開のテイクオフでそのままライダーの頭上に浮かび上がり、木々の間を目にも止まらぬ速さで抜けていった。 「………………」 要するに――――――逃げた。 白いマントが風にたなびき、呆然とする騎兵の視線を一蹴する。 まるで此処に今こそ存在を露にしようという彼女を「眼中なし」と嘲笑うかのように。 「………………は、」 場はその呆気無いほどの幕切れを結果として残すのみ。 森の奥深いフィールドにもはや二つの影はなく、美しき舞踏姫の宴は終わりを告げた。 「……………ま、待ちなさいッッッ!!!」 収まりがつかないのが、珍しく憤怒の声を上げたライダー。 ようやっと本気で相手をしようとした矢先のこれだ。 怜悧な性格の彼女をして悔しすぎる結果だと言わざるを得ない。 「く………」 すぐさま追おうとする紫紺の刺客であったが、蓄積されたダメージからか体がよろめいて再び木によりかかる。 ハスキーで高い声帯が屈辱の唸きを漏らし、金の髪なびく背中を憎憎しげに見つめる。 確かに当然の選択だ。 敵は飛べる。 ならば当初の予定通り、この森を抜けて一刻も早く宙に舞い上がろうとするのは正しい。 だが相手にこれほどのダメージを与えた状態ならば、人間少しは欲を欠こうと言うものだ。 強敵を倒し得る絶好の機会にて必死のチャージを敢行したとして、誰がそれを責めようか。 「この首級はそんなに安かったと? 沈着冷静で何よりです……フェイト」 寄りかかった木の幹に爪を立てる騎兵。 バリバリ、と大木の表面が握りつぶされ、抉られた繊維がむき出しになる。 絶対有利のフィールドから相手を逃がしてしまった……認めなくてはならない。 この邂逅、この初戦は自分の負けだと。 その結果を受けて、解放しかけた自己封印――ゴルゴーンを再び深層へと押し込め、マスクに当てた手を放す。 「ならば良いでしょう。 森を抜けるといい」 謳うような声に先のような余裕は無く、怒気と殺気で溢れている。 前傾姿勢になり走者のクラウチングスタートのように両足が地を食む。 フェイトに遅れる事、数秒……今、追跡者がその森を後にする。 ドゥン!!という、ブースターの点火の如き凄まじい轟音をフィールドに残し、紫紺のサーヴァントがフェイトを追うのだ。 「この森を抜けたその瞬間―――」 相手は自分が助かった事を疑っていない。 騎兵はその口に再び笑みを灯す。 彼女の目が未来に写すところは相も変らぬ、あの相手の無残な終局のみ。 「―――それが貴方の最期です。 フェイト!」 空へと舞い上がった獲物の背中を打ち抜くべく駆ける騎兵。 躯すら残さぬ。 あの黒衣を灰塵と化す瞬間を幻視し――― 再び狩りの高揚に身を任せて、ライダーは流星のように跳ぶ。 ―――――― フェイトもまたその相手の姿を認め、後ろ手に迫る紫の影を引き連れて飛ぶ。 ―――気づかれてはならない。 あくまで自分は敵の凄まじさに恐れ、脱げるように退避していなくてはならない。 狙うは一発逆転のその瞬間。 状況を打破できる一条の望みを信じて、恐ろしき追跡者に背を向けて飛ぶのだ……自らの背中を餌にして。 徐々に開けていく視界。 森の出口 に限りなく近づいていく―――その時を以って! (シグナムッ!!!) 念話のチャンネルを全開にして彼女は叫ぶ!!! 必ず届くと信じて、ありったけの念を込めて叫ぶ!!! 雷光と騎兵の輪舞はここに終わりを告げ、戦場に次に描かれるは新たな局面。 吹き荒ぶ風だけが、四者の紡ぎ出す戦いの流れが今、変わった事を敏感に感じ取っていた。 ―――――― びちゃり、と―――バケツからぶち撒けられたような音を立てて大量の紅い液体が地面に落ち、アスファルトに黒々しい跡を残す。 打ち砕かれ、薙ぎ倒された木々が燦々たる有様を物語っている巨大な震源の中央で 静寂に満ちた山地を戦場へと変えた張本人たち―――二匹の猛るケモノが、互いの喉笛を噛み千切ろうと向かい合う。 二匹の戦いは炎渦巻き旋風舞う凄絶極まりないものであった。 今まさにその快心の猛攻を終えたのが一人の槍持つ男――ケルトの大英雄サーヴァントランサー。 今まさに痛恨の猛攻をその身に刻んだのが一人の剣持つ女――夜天の守護騎士ヴォルケンリッター烈火の将シグナム。 「能ある鷹は何とやらってね……つくづく諺の勉強くらいはしておくもんだ」 だというのに女は未だ槍兵の前に立ち、彼の槍を煩わせ続ける。 それはもう焼き尽くさんほどの勢いで。 決して屈さないという意思の元、豪炎を称えた剣が男の視界にて煌々と燃え盛っていた。 あの平原で、主と交わした決意 それを旨に駆けて来た一人の槍兵 男は今、時代も空間も越えてなお、相変わらずの豪壮な槍を振るっている。 男は何も変わっていなかった。 相立つは変わらずの戦場。 取り巻く世界は血と鋼。 そして眼前に最高の好敵手を迎えながら――― 「行こうぜ……まだ始まったばかりだ」 いつ終わるとも知れぬ剣と槍との邂逅を前に最高の笑みを見せるのだった。 ―――――― ベルカ最強の騎士が―――飛んだ。 男の凄絶な槍撃の前に為す術も無く。 剣術、槍術を問わず「突き」という技は対象に向かい無駄な軌道を一切伴わずに最短の軌道で相手に突き刺さる技だ。 全体重を乗せた決めの一撃として使用されるこれは、古今の武器術において極めて必殺製の高いものとされてきた。 だが一転、円運動の律を乱す直線運動であるが故に、回し打ちや払いに比べて連携に組み込みにくいという性質を持ち それが多くの場合においてこの技を連携の締めに持っていく場合が多いという所以とされている。 全身のバネを総動員して 「突いて」 「引く」 という二動作を攻防の中に織り交ぜねばならないそれ。 だからこそ「突き」を主戦力にする槍術は一閃必殺、外せば地獄というセオリーをなかなか払拭する事叶わない。 ましてや「突き」のみで構成された連撃という馬鹿げた戦技など、根底から否定するものに他ならない。 ならばこそ―――誰が説明出来ると言うのか? たった今、目の前で起きた事は……? 「カァァァァァァァァ――――――」 口から紅い煙のようなものを吐き出し、魔人の形相で打ち込まれたそれは、ヒトの筋力、間接の限界を遥かに超えた所業。 まるで電気仕掛けの機械による高速ピストン運動のように、男は突きを「連打」した。 最も殺傷能力に秀でた突き「のみ」を、である。 その一閃一閃はどれ一つとして手打ちなど無く、全てが魔槍翻る渾身の一撃。 鼓膜が破れかねない不協和音が辺りに響き、男の足が地を削る。 槍が空気を裂き、防壁を壊し、シグナムの体に叩きつけられる。 最速の戦士が行動の全てを絶死の攻撃にのみ注ぎ込んだならば、それは当然相手との「攻防」にはなりえない。 ランサーの「攻撃」独占――敵の反撃を一切許さぬ一方的な殺戮劇。 紅き旋風のみが行動を許される絶対時間である。 100、200を超えた刺突はもはや到底、槍戟などと呼べる代物ではなく 禍々しい宝具の放つ妖気を孕んだ一閃は一つ一つが光学兵器の如き残滓を残し 無造作に放たれるレーザービームのつるべ打ちとしか言いようの無い馬鹿げたモノを連想させた。 そんなモノに今、一人の女剣士が飲み込まれたのだ。 もはや為す術も無いといった風に真紅の暴風の前に晒された肉体。 血潮を撒き散らしながら光線の束に飲まれて、意地でも踏み止まっていた両足が地を離れ、雪崩に飲み込まれたかの如く宙を舞うシグナム。 今や騎士の体は―――ただ、浮いていた。 間断なく放たれる男の刺突の衝撃が、彼女を地に踏み止まる事も足を付けることも許さない。 ゆっくりとゆっくりと浮き上がっていく体。 一撃一撃が騎士装甲の内側に響き、その度に苦痛にのけぞる将の肢体。 「らぁあああああああッ!!!!!」 男の狂声が響く。 極限まで高まった思考は既に理性すら宿しているかも怪しい。 女剣士に存分に打ち込んだランサーが更に追い討ちをかけるべく、目の前の肉塊へと踏み込む。 そして長らく点であった槍が再び線へと変わりて翻り、振るわれた槍の穂先がシグナムを横から薙いだ。 ゴシャッッッという鈍い音―――払われたモノが宙を舞う。 舞って、地面に落着し、打ち捨てられた廃棄物のようにゴロゴロと転がって 勢いを殺せず、更に地面を滑って―――此処に倒れ付す。 ―――――決まった 残像に残像を重ねていた槍が再び一本に戻り、その一振りを後ろ手に構え、残心の姿勢にて構えるサーヴァントランサー。 蒼い装束に包まれた全身からは大気との摩擦によって生じた熱を帯びた湯気が立ち昇る。 所々、赤く発光した部分から、シュゥゥ、というスチームアイロンの如き音が聞こえてくる。 吐く息すらが今は加熱に加熱を重ねた体内を冷やすための冷却ラジエイターの代わり。 全てが終わったこの期において、勝利の余韻に浸っているはずの―――男が呟く。 「―――凌いだか………我が全力を」 ―――――決まった……? 否、心中で舌打ちする男。 あれ程の刺突を叩き込んでおきながら男はなおも構えを崩さない。 その意識は未だ戦場に。 まるで揺るめぬ槍の穂先。 その鋭利な視線の先に剣士の姿を眼光に映し出している。 「…………………ぅ、」 そしてピクン、と――――死体になった筈の剣士シグナムの体が動き、その口から微かに吐息が漏れたのだ。 信じられない事態。 あの連撃を受けて原型を留めているだけでも奇跡だというのに……命を残す事など不可能だ! 「は、―――」 否、その事実を受けてただ哂う男。 そう、これは紛れも無い事実だ。 付した地に朱色の水溜まりをつくり、人間であるならば間違いなく絶命している傷を負い もはや事切れていると誰もが予想し得た光景の中、彼女の目がゆっくりと上を向き―――槍の男を捉えていた。 「………」 右手に握られるレヴァンテイン。 そして左手には――――鞘。 決して放さなかった「二刀」の白銀の輝き。 あの瞬間、全てが決まる絶死の猛攻に飲み込まれた彼女は咄嗟に回避も離脱もままならぬと判断し 瞬時に一刀による前傾の構えから二刀に持ち替え、完全防御姿勢にて男の槍に相対したのだ。 パンツァーガイストと呼ばれる騎士の不可視のバリアにカートリッジを最大限まで叩き込み、槍の強烈な連撃から最低限の急所をカバーする。 そして迎えたレッドクランチ――全身を打ち貫く衝撃に嗚咽を漏らし、込み上げる血反吐を飲み込みながら 誇り高き騎士はただ生き残るため、相手の攻撃を凌ぐためにのみ、その剣を抜いた。 結果、寸でのところで即死を免れ、シグナムは自身の命をギリギリ現世に留めていたのだ。 無言にてゆっくりと立ち上がるシグナム。 地を舐めさせられた屈辱に滾る激情は、その両の目に確かに灯っている。 ただでは済まさない……彼女の双眸が男にそう語っていた。 既に「それ」を構えた男に向かって――――― 下段に向けた槍兵の真紅の槍の切っ先から――― あらゆる呪と死を司る香が……空間を満たしていた。 ―――――― もはや必殺を以ってしなければ剣士を倒せないと踏んだ槍兵。 今更だが、とにかく攻撃が通りにくいのだ。 男の槍をこれだけ浴びて、その肉体に刃が届く寸前、そこで攻撃がズラされ致命傷に至らない。 かつて刃を交えたサーヴァントの一人に不可視の剣を使う騎士がいたが、目の前の相手が纏うは「不可視の鎧」と言ったところか。 ともあれ男の渾身をも耐え抜いた騎士シグナムの総防御力が彼の最大出力を辛うじて凌ぎ切ったいう結果が出た今となっては ランサーは次の手札を切るしかない。 今の人知を超えた連撃を遥かに超えるジョーカーを。 だが―――あり得るのか……? アレ以上の札が? 彼女のBJと障壁を同時に貫き、この頑健な騎士にトドメを刺す、そんな埒外を越えた牙が? 「……………シィィ、」 槍兵が、その押さえ切れない猛りを内にしまい込むように一度―――静かに深呼吸を行う。 ―――――――――ある 必殺は、ある。 それは未だ男の懐に。 激情に身を任せていては「その」発動はままならない。 戦意、殺気はそのままに彼は、己が内にある魔力をどこまでも精錬に透明に、流入するに易いよう研ぎ澄ましていく。 場が…………静かにゆっくりと凍り付き、風が恐れおののく様な唸りを上げた。 其は男の戦意 其は男の殺意を受けてのもの セカイに解き放たれしは尊き幻想 サーヴァントの真の牙 女剣士の防壁……そのレギュレーション違反を遥かに超える 理不尽の塊とも言うべきモノを今―――――槍兵はゆっくりと抜き放つ。 ―――――― 身も蓋もない言い方をすれば英霊の戦いの行き着く先―――その真髄は宝具にある。 どれほどの身体能力も常識外れのスペックもその前には塵芥に等しい。 英霊は自身を英霊たらしてめいる奇跡の具現を現して初めてその真の姿を顕現させるのだ。 故に男は今こそ、その真の姿―――クランの猛犬の牙を初めて見せる。 こと此処に至ってソレを抜き放つという事はただ敵を屠るという以上の意味がある。 それは強敵に対する尊敬の念であり、誇りを傷つけられた事に対する己が示威の鉄槌であり…… ともあれ様々な思いを込めて、数ある誓いと身上が自らに槍を使う事を許可した瞬間、彼はそれを振るうのだ。 ――― 刺し穿つ死棘の槍を ――― (ま、そんだけ勿体つけて切り札残したまま、あっさりぶっ殺される奴もいるがな。 あれは恥ずかしい。 末代までの笑いもんだぜ) 脳裏に浮かぶは 「ク、フハハハ!」 という耳障りな笑い声。 犬猿の仲である、とあるサーヴァントへの皮肉も忘れない。 (さて……) 目の前の女のあの傷。 いくら心振るわせようと、もはや取りうる戦術は多くは無い筈。 ならばこそ間違いなく、このまま弱って嬲り殺しにされるより刺し違える覚悟でこちらの命を狩りに来るだろう。 故に、手向けをくれてやる――――その勇気、その勇猛さに全霊で応えよう。 ヴン、という空気が震える異様な音。 紅き魔槍が担い手の動きに合わせて残像を残し、陽炎のように周囲を溶かしていく。 下段刺突の体勢となった男の肢体が静止画のようにピタリと止まる。 そしてついに因果逆転の牙が彼女、シグナムに標準を向けた。 見事な敵よ……その凄まじさ、炎のように熱く激しい剣に相対するに相応しい一撃を見舞おう。 己が誇りにして最強の槍によって一撃で―――その命運を断ち切るのみだ。 「――――あ"あ"ッッ!!!」 その呪いじみた殺気の残滓が騎士にも届いたのだろうか? 不吉の二文字を身体で感じ取ったのか? させぬ!とばかりに、ケダモノのような声をあげて男の眼下にて彼女の肢体が跳ねた。 バネ仕掛けのカラクリのように。 全身の傷口からブシュウッ、と鮮血を噴き出させる。 壮絶な、壮絶なる血染めの戦女神。 身体を朱に染めながらに彼女は真っ直ぐに男――ランサーに向かい、苛烈なる一歩を踏み出した! ―――――― 猛禽が地を蹴り、男に向かって飛翔する。 本能のままに敵を撃ち滅ぼす戦闘機械のような怪しい輝きを宿す瞳。 そこには純然たる殺意の二文字のみがあった。 対する槍兵が己が手に持つ死の具現、膨大な魔力の塊と化したソレを渾身の力を込めて握り締める。 男の体から際限なく魔力を吸い上げるソレはまるで貪欲な死飢の如し。 「――、」 スウ、と軽く息を吸い、十分な余裕を以って真命を紡ごうと口を開く。 狙うはカウンターの宝具発動。 女がこちらのレンジに入った時こそ、即ち剣士の最期だ。 もはやどのような渾身の一撃も、その槍の前には無意味と化すだろう。 まだ一言も発していないというのに男の手に握られる朱槍のあまりの禍々しさ、あまりの力の具現の濃度に空間が弛み 歪み、担い手から勝手に飛び出して行きかねないほどに暴れ狂う。 紐解かれていく――呪いの魔槍。 「……………レヴァン、ティン!!!!」 「!?」 だが、その時――――!!! もはやトリガーに手がかかり、引き金を止める事など有り得ない状況にて、真名が紡がれる男の口が止まる。 ランサーが再び見た女騎士の双眸に今―――― Jawohl !! Schlangeform!! ――――揺るがぬ必勝の意思を見たからだ! 豪、と!!! 彼女の全身から血飛沫と共に炎が吹き出す! 騎士が振るうは未だ見せていなかった力! ランサーの両目を射抜いた眼光には絶対零度の冷たさと融解寸前の溶岩の如き熱さを同時に内包した光が灯っていた! 「ん、だとッッ!!!?」 0.1秒以下の思考。 咄嗟に宝具発動をカットしたランサー。 男にとっては予想だにせぬ、最悪のタイミングで「それ」がかち合ってしまう。 カウンターで合わせようとした、その返された一撃は肉食獣が獲物を仕留める時の必殺の爪そのものでありながら ソレは槍兵の目の前で光を放ちながら変化し、彼の予想を根底から裏切り、全てを突き破り、薙ぎ払うモノになる。 ――――間合い……言うまでもなく近接格闘における最重要ファクター。 此度までの攻防でシグナムの剣の間合いを確実に見切っていたにも関わらず……否、であるが故なのか? 男をして、確信を以って届かないと断言できるほどの距離から放たれたシグナムの横薙ぎ! その切っ先は彼の視界のそのずっと後方20m以上にまで伸び、槍兵の横合いから顔のすぐ隣にまで迫っていた! 遥か後方まで延びた炎を伴った剣……否、剣ではあり得ないナニカがしなるような軌道を描き 今、凄まじい速度でランサーの頭部を捕らえようとしていたのだ! 「ちぃっ!!」 頬を、髪を、こめかみを、そして鼓膜を焼く熱気。 既に眼前に迫る死の気配。 この戦い始まって初めて焦りを示す男の表情。 今、猛禽の鷹の爪は蛇の毒牙へと変化し――― バチュゥゥゥゥゥンッッ!!!!!―――― 空気の破裂する音と、何かが削り取られる不協和音を場に響かせながら――― 男の頭部に牙を突きたてた! 前 目次 次
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正式名称 コマンド 通称 判定 RP LP 逆ワンツー 66RP LP カオウカスイ 3[RPLP] チョウダ 1RP しゃがパン 4RP RP シチセイ 7or8 RP 右びんた 立ち途中RP トウケン しゃがみ中3RP センポ 雀翼背掌 いわゆる逆ワンツー。2発目は中段であり、2発目を入力するときのレバー加減で、技後の背向けor正面を選択できる。 加横架推掌 前2回入力のために飛び込みで使う中段。初段の加横のみや、2発目をレバー後ろでキャンセルして背向けに以降することもできる。 カウンターでは2段確定ヒット。 挑打連掌 古来から在る、浮かせ技。立ちアッパーのないシャオユウにとっては、このコマンドは重要である。 また、当たり判定がかなり下方から発生するためにダウン中の相手にもあたる。起き蹴りなど狙うものならそのまま浮いてくれる。 ガードされても距離は離れる。が、最速風神拳などは余裕で届いてしまう。気をつけよう。 スカ挑打だけで勝ち進めるが、スカ確したいなら他キャラでもできる。 しゃがみ右ジャブ 技名はないが、正面立ちからしゃがみジャブを出すには右しかない。 シャオユウにとってしゃがみは重要であり、しゃがみ右ジャブを当てたらそのまま、蕩肩カウンターであったり、蒼空であったり、前旋掃腿で鳳凰に移行したり… しかし、乱用するとしゃがみジャブは捌きポイントとなってしまう。 七星穿掌 鉄拳6からの新技。1発止めは背向けに移行。2発目は下段。 新技である故に目立ち、独特のモーションなので2段目が読まれやすい。 右びんた 鉄拳6からの新技。 …と言いたいが、全キャラ共通コマンドである。 空中コンボの〆にもってくると、相手がきりもみで吹っ飛ぶ。 おしゃれ技 蕩肩・蕩肩(強) こちらも古来から在る重要技。カウンターで浮く。タメ蕩肩ではカウンターでなくとも浮く。通常、タメともにレバー入力をすると正面立ちを選択することもできる。 蕩肩~正面はスキも少なく、けん制や置いとけ技としては優秀。 タメ蕩肩はタイミングが大きくずらすことができる。タメを見てからつぶすことは並みの反射神経では不可能であろう。 しゃがみからだけではなく、ステップの合間のしゃがみ状態から打てるようになるとステップの幅が広がる。 挿歩桃拳 使用率は低いが、浮いた相手を拾う用途では優秀。1発止め、2発出し切りともに、レバーをいれると背向けしゃがみに移行する。 前方に移動しながら当たり判定が中段に発生するこの独特のモーションは立ち回りでは使いづらいか
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4f詐欺 画面端付近限定 後ろ投げ>コア>ジャンプ攻撃 2小kでフレーム消費。ジャンプ攻撃が届くとこまでが間合い。0f猶予
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ディメンジョンポリス - エイリアン グレード〈0〉 ノーマルユニット (ブースト) パワー 4000 / シールド 10000 / クリティカル 1 自:先駆 自【R】:[CB(1),このユニットをソウルに置く]このユニットがカード名に「超獣」を含むユニットをブーストしたバトル中、アタックがヴァンガードにヒットした時、コストを払ってよい。払ったら、相手のリアガードを1枚選び、そのターン中、パワー-3000。 フレーバー:終わりの始まり……。 順位 選択肢 得票数 得票率 投票 1 使ってみたいと思う 0 (0%) 2 弱いと思う 0 (0%) 3 強いと思う 0 (0%) 4 面白いと思う 0 (0%) その他 投票総数 0 コメント