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アグニ・ラグナ~ オイルスモウ五番勝負 第二話『双鉄糸棍』 著 冷やし狸のマサ サッデラ元上級曹長の遺体は、バリングが呼んだ帝国警察の手に引き渡された。 バリングは一体何が起きているのか、自分でも判断が付かぬままに署についていき、事の次第を説明した。 しかし、事情をある程度聞いただけでバリングはすぐ帰って良いと言われ、署を後にすることになった。 大戦が終結し二年経つが、帝都の治安はアーキル程では無いが悪化している状態にあり、食い詰め軍人の追い剥ぎや強盗等は日常茶飯事で、仮にその追い剥ぎが勝手に死んだとしても一々訴えを起こすような暇など彼等には無かった。 そんな途方に暮れるような調子でバリングが署から出て来たときには、騒ぎを聞きつけたロラバが駆けつけ合流したが、彼はバリングから一部始終を聞くと逆に署の方へと単身乗り込んでいって、精々乗り込む際に彼女に明日は事務所の方へ顔を出せと言ったぐらいであった。 「よぉ。しっかり、眠れたか?」 翌日にロラバの経営している人工食肉業の事務室が入る産業塔の一室に、沈痛そうな面持ちで顔を出したバリングを、暢気にシーバを啜りながらロラバは声を掛けた。 「・・・随分な挨拶ですね、少尉」 バリングは質素なコートを羽織った装いで、事務室の入り口で彼を少々睨んだ。 成り行きとはいえ、戦時の上官が自分の目の前で死んだばかりと言うのに、この男は何を言うのだろうと眉を顰めたが、不満なのは顔だけにして、彼に促されるままに事務椅子の一つに腰を下ろした。 室内はバリングとロラバの二人だけで、経理や事務を担当する職員は居ない。 それなりに広い空間ではあるが、産業塔独特の構造に沿うために多くの円状机や椅子が壁際から備えられており、大柄なバリングに取っては少々窮屈であった。 机の上にはよく整理された書類や冊子が並び、あまりに整然とした空間の中に入り込んでいる野暮ったい二人は異様な存在だ。 「挨拶なんて問題じゃない。ま、命を狙われたんだ。ぐっすり眠られても困るが」 ロラバは黒い泥の様な色をしたシーバを、カップに注いでバリングに差し出しながら、彼女の向かいの椅子に腰を掛けた。 「命を?止してください。曹長殿はきっと何か悪酒でもし過ぎて、あんな凶行と結末になったに違いないですよ」 シーバを受け取りながら、出来る限り平静を保つようにソレをバリングは静かに啜ったが、色と同様にロラバの煎れたシーバは泥水よりも苦く、表情が歪んでしまう。 「まぁ、そういう考えも悪くないだろう。現に警察の方もその線で片付けるそうだ。連中も暇じゃ無いからな。事務的にさっさとなんでも終わらせたいだろう」 「何故、警察の考えが判るのです?」 「そりゃ聞いてきたからさ。ついでにサッデラの遺品も頂戴してきた」 表情を歪めたまま訝しげにロラバを眺めるバリングの鼻先へ、彼は事務机の下から少し大きめの紙袋を拾い上げて、中身を二人が挟んでいる机の上に広げて見せた。 「・・・?何故、そんな・・・それに、遺品などはせめて身内の方に回るのでは?」 「奴に身内はいやしない。奴は生まれは貴族だが、戦時中のドサクサで皆死んじまってるって口だ。まさか、ここでまだ生きてるとは知らなかったよ。それに仮にも知り合いだからな、処分される前に貰ってきたのさ」 ロラバの口振りは聞きようによってはマトモに聞こえないでも無いが、出任せと袖の下で聞いたり貰ってきたのであろうことは長年の部下はよく知っていた。 「何も俺だってサッデラの奴が金持ちだとは思っちゃいないし、別に形見が欲しくてやったわけじゃない。『手掛かり』を見つけたいだけだ」 広げた品々を食い入るようにロラバは見下ろしていた。 その様子を不思議そうにバリングがその上から更に見下ろしながら、答えがわからぬ生徒のような口振りで彼に聞く。 「手掛かりとは・・・?まさか、本当に私の命が狙われてるのだとお思いで?」 彼女の疑問に対して、彼は顔を上げて彼女の顔を見た。 そこには真剣そうな表情が張り付いていて、何処か戦時に作戦図を見下ろす過去の彼の姿と重なった。 「なにしろ『大国間親善試合』を控えている帝国代表選手を・・・それもお前みたいな、化け物みたいな奴に、あの冷静なサッデラが悪酔いして、お前に襲いかかって勝手に死ぬもんか。それにあれは酒で死んだんじゃない。毒か何かを煽ってから、お前に挑んだと俺は見た。・・・過去に反乱農民の扇動者格が同じ様な事をした前例がある」 彼はそう熱っぽくバリングに語り、言葉の最中に随分と失礼な事も言われた気がしたが、それよりもバリングは昨晩の襲撃が故意的な、しかも、自殺的なものであったというロラバの推理に衝撃を受けた。 「そんな・・・。しかし・・・私を殺してどうなると言うのですか?」 「まず、考えられるのは俺に対する脅しだろう。お前はうちの会社の代表選手でもあるんだからな。何せ、親善試合の方は様々な利権が絡んで儲かるが、それだけに目の色変えて蜜を吸おうとスルク蝶の様に無様に群がってくるのさ」 狼狽するバリングに、ロラバは自分の考えを話し始めた。 「それなら俺を真っ先に殺せば、会社の方も無くなって参入しやすくなるだろうと考えるかもしれないが、そう現実は甘くない。今回の親善試合はあくまで政府公認とお墨付きを受けたような由緒正しい企業しか契約は交わせないものだからだ」 果たしてこの男がいつ、由緒正しい契約等交わしたのだろうとバリングは聞きながら思ったが、とりあえず口を挟まず話が終わるまで待つことにした。 「それに、俺を殺せば軍と政府との関係が絶たれる。簡単に言えば宝石の卵を吐き出すクルカを殺すようなものだ。なら、どうするか?まだ代わりの利く、うちの選手を殺して、俺の首元に綱を締め付ける様にして、脅して操る方が賢いと言うわけだ」 ロラバは満足げに話し終えると、糊の利いたシャツの胸ポケットから煙草を取り出して、一本バリングにも勧めた。 「・・・では、この遺品から、曹長の雇い主の手掛かりを探そうとのことで?」 煙草を指で挟んで受け取って、口に咥えながらバリングは彼を見やった。 その彼女の言葉に、彼は満足げに頷きながら卓上にあった燐寸で煙草に火を点けた。 彼は満足そうに紫煙を吐き出しているが、それを見てバリングは確かこの事務室内は禁煙だと事務員の『フラガナル』が言っていなかったかと思い出した。 しかし、その事を言って彼の機嫌を損ねるのも不味いと思い、喫煙と話を続けさせた。 「まぁ、さっきは手掛かりと言ったが要は『証拠』が欲しい。実のところ雇い主の方はある程度、目星が付いてるんだ・・・。南区で表向きはうちと同じ様な会社を装ってるが、中身はトーロックみたいな阿漕な連中だ。代表の名は『シュデェロ』と言って、出は名誉帝民だそうだが、何処まで本当か・・・、何度か利権で争った事があるが、俺の強い友人達の御陰で今まで事なきを得てきた訳だ」 彼は事務室内に漂う紫煙を目で追いながら話し、バリングはこの紫煙の代償は高く付くだろうと朧気に思った。 「だが、シュデェロの奴もこれ以上は好きにさせないと、別件で脅しを掛けてきた。別にそっちの方は、思春期の学生が送ってくるラブレター並に他愛ない物だったが、最近シュデェロの会社に元軍人の出入りがあったと、グノッゲの知り合いから昨日聞いた」 「・・・また、グノッゲですか」 漂う紫煙を振り払うようにバリングは少し腕を振って、彼を見据えた。 グノッゲとは俗称であり、正式な名称は『耳目省』と呼ばれる、皇女陛下直属の諜報機関だと以前に仲間から聞いたことがある。 戦時は敵地工作も内政にも多分に関わった経緯のある省庁であり、大戦が終結した今では国内の内政に関わる部分が増えたと言うが、後ろめたい仕事をするにはもってこいの連中だという認識がバリングにあった。 「胡散臭い連中には違いないが、少なくとも俺達の味方だ。色々と有益な情報をくれるのさ。・・・さぁ、お喋りはここまでにして、遺品整理をしようじゃないか」 そう言いながら、ロラバは煙草を床に捨てて踏み消した。 これでフラナガルの激昂から逃れられなくなったと、バリングは思った。 サッデラの遺品を整理すると言っても品の数は少なかった。 精々、彼女が着込んでいた黒いコートと衣服や、その衣類のポケットに入っていた物を全て並べても事務机の上に軽く収まるほどだった。 その品々には戦時を思わせる懐かしい物があった。 古く汚れた軍隊手帳に、頑丈な炭筆が紐で縛り付けられている。 財布には数枚の戦時際に用いられた軍幣が数枚入っていて、それはまだ裏路地に行けば取引に使える効果がまだある物だった。 その他には、これと言って何も無く、サッデラ曹長の人となりを表している。 「ロクな物がないな」 そうロラバは財布を眺めながら毒突いた。 まるで追い剥ぎのような口振りにバリングは顔を顰めたが、しかし、思い起こせばサッデラ上級曹長は随分と影の薄い人物であったように思えた。 どのような時でも無口無表情で、これと言って会話らしい会話を交わした記憶は無いし、上官らしい命令や叱責を受けた記憶も無い。 それでも、何故、彼女の顔を昨晩にすぐ思い出す事が出来たかと言えば、それは彼女がバリングに格闘術を教え込んだ者の一人であったからだった。 彼女は音も気配も気取られずに相手に忍び寄り、若しくは正面からでも相手に手を悟られること無く拳を打ち込む術をバリングへ教えていた。 しかし、それは教えたと言うよりはバリングの体に刻み込むようなやり方であり、簡単に言えばバリング自身が彼女の練習相手に何度もされたという事だった。 そこら辺の兵士達では誰もサッデラの拳や技に耐えられず、一撃で気を失うか若しくは負傷をする程であったが、そこへきて大柄で頑丈なバリングなら相当な攻撃には耐えられた為、彼女の良い的になっていた経緯があった。 苦々しい記憶も、時が経てば甘美な思い出に変わる事もある。 「参ったな。こりゃ、しけてる」 そんな回想に浸るバリングの思いをぶち壊すかのように、またロラバは毒突いた。 「少尉。一体、何を探しているんですか?まさか、あれだけ言って財布が目当てなだけなんて・・・」 少しムっとした彼女がそう口を立てると、ロラバはそんな事気にも留めない様子で並んだ品々を眺める。 「馬鹿を言え。なんで俺がサッデラの小銭をわざわざ、漁る必要がある?俺が探してるのはもっと別の物だ」 「・・・それなら、馬鹿でない曹長なら、とっくに破棄したのでは?」 「何もご丁寧に報酬の額が書かれた小切手や、依頼のメモとかそんなわかりやすい物を探してる訳じゃねぇよ。さっき言った俺の論が正しいなら、アイツは毒を煽っていた。なら、せめて遺書の一つでもあっても良いだろう。そもそも、何故、毒を煽ってからお前を殺しに来るんだ?おかしいじゃないか、毒を持ってるならお前の飯か何かに混ぜれば、それで単純なお前を殺せる。・・・俺が思うに、アイツは相当、思い詰めていたに違いない。それか、生き残れない状況に追い込まれていたに違いない。なら、せめて遺書の一つぐらいは残すに違いない。それが正しければ、遺書に一言ぐらいは雇い主を指す物があるだろ」 彼はそう熱っぽく捲し立てながら、品々を睨み、ふと気付いたように軍隊手帳を取り上げると、縛っていた紐を解いて頁を捲り始めた。 その様子を上からバリングも覗いて、気付けば二人で手帳の頁を目で追い始めた。 しかし、そこにはこれと言った文章は見当たらなかった。 と言うより、文章自体が無かった。 サッデラ曹長が文盲であった訳ではないだろうが、何も書かれていない。 「あの野郎め、死んでも俺達に何も語らないつもりか」 ロラバは再び毒突きながら、手帳を閉じて卓上に置き、万策尽きたとばかりに腕を組んで唸った。 バリングも困ったように彼と同じ仕草で、卓上を見ていたが品々の内に欠品があることに気付いた。 「・・・ナイフは?ナイフは凶器として警察で押収されたので?」 思えば昨晩のサッデラの得物であるナイフが品々の内に見当たらない。 だが、それは凶器として警察に押収されているのだろう、と口にした後でそんな当たり前な事を言う奴があるかと彼にどやされるとバリングは思った。 しかし、意外な事に彼は呆気にとられた顔でバリングを見返した。 「ナイフだと?アイツは得物なんて使わないさ、全身凶器みてぇな奴だった。お前もよく知ってるだろ?」 「しかし、昨晩は確かにナイフで襲われました。遺体と一緒に橋から抜かれて運ばれるところも確認しましたが・・・」 バリングの言葉に彼は唖然とした。 一体何か気でも触ったかと、バリングは少し戦いた。 「・・・待てよ。俺はナイフとは聞いていないし、そんな物見てない。連中にはお前が取っ組み合って、その途中でサッデラが急に死んだとしか聞いちゃいない。少なくとも連中は出す物さえ出せば嘘は言わない筈だ。・・・今後の付き合いもあるからな」 ロラバの口から出た言葉は奇妙であった。 幾ら面倒嫌いな警察でも、素手で行われた取っ組み合いと、刃物が持ち出された場合は様相が多少は変わるもので、一緒くたに説明は出来ない筈に思われた。 その説明のためにおそらくロラバは袖の下を出したが、それも今に始まったことでも無いため、この時に限っていい加減な事を言うとも思えない。 「もう一度、警察へ行くことになるな。・・・よし、フラナガルを呼ぶか。アイツは警察に顔が利く」 彼は椅子から立ち上がると、壁に備えてあった四角い『喋伝網(しゃでんもう)』へ手を掛けた。 その装置から出ている樹脂に覆われた生体神経が、戸外へ伸びており、それが帝都中枢の交換施設へと繋がっている。 大まかに言えば範囲の広い伝声管であり、それと大きく違う点は、変換された音声が文章となって、相手先の受信装置上部にある文字盤に表示される事であろう。 暫くして、彼の呼び掛けに答えたフラナガルは事務室へ、上司であるロラバに命じられるまま大人しく顔を見せた。 が、その顔は室内に立ちこめる紫煙と香りに強く歪められ、逆に上司を強く叱責した。 フラナガルの叱責は警察署に向かう飛靴の中でも続き、警察署へ到着し飛靴から降りる際には、あれだけ威勢の良かったロラバもまるでどちらが上司で部下かわからぬ程に悄気返ってしまっていた。 「二度と事務室内で吸わないでください」 そうフラナガルは警察署の前でも、死体に鞭打つような調子にロラバを再三叱った。 このフラナガルと言う男は、身の丈はバリングと同じほど高いが、体格は枯れ木のように細く頼りなく、それに加えて見栄えが悪いまでに猫背であった。 事務員らしく紺のシャツを上に、下は線が映えるズボンを履き、心労が多いのかその頭部に毛は無い。 ロラバへの説教を漸く終わらせると、神経質そうに目元の丸眼鏡の位置を直して見せた。 「わかった、もうしない。……なんで、俺が吸う前に気付かなかったんだ?」 彼と対比してあまりに小柄に見えるロラバは、叱りつけられた子供のように肩を竦めたが、八つ当たりにも近い調子でバリングを睨む。 「気付きはしましたが、上官を咎める事は私には…」 「んな事あるか、部下は上官を育てなくちゃいけねぇんだ」 いよいよ子供じみた言い訳を口にしながら、ロラバは三人の先頭になって警察署に入った。 警察署の外観は戦前からある巨大な産業塔の様なソレであるが、戦時からの長いゴタゴタによってまるで質の悪い生け花の様に、様々な区画が拡張され、塔というよりはそれはまるで枝分かれした巨木のようにすら見える。 その為、役所と揉めることも度々あるそうだが、連中がそんな事に構っている暇などありはしない。 大戦終結から二年経つが、連中の忙しさは更に輪を掛けて酷いものになっている。 皇女殿下の政策により、今の今まで見過ごされ、汚職の坩堝と化していた帝都の大改革の為に発破を掛けられているのだ。 連日、名のある貴族達が連行される事も少なくない。 現にロラバ達が署内に立ち入った際も、内部は蜂の巣を突いたような騒ぎだった。 連行された貴族に雇われた弁護士達と署員達が喧々囂々と騒ぎ立て、半ば乱闘状態になりかねない状況になっている。 しかし、そんな事などお構いなしに三人は慣れた足取りで、内部中央の螺旋階段を登り、二階の部署へと立ち寄った。 ここでも同様に騒がしかったが、部署の窓口にフラナガルが顔を出すと、喧騒の中から一人が気がついたのか、此方へ走り寄ってきた。 「どうしたんですか?」 走り寄ってきた署員は中年の男性で、内部勤めが長いのか浅白い肌をしていた。 しかし、どうしたのかとは此方の台詞で、彼の署員制服はつい先程までカノッサ前線にでもいたのかという程にまで痛んで破れていたし、おまけに顔には多少の青痣も見受けられる。 「護身拳銃の所持許可申請にきたんですが・・・、それよりその傷は?」 男性署員に対しフラガナルは長い背を曲げてお辞儀をしながら、小脇に挟んでいた手提げ袋から書類を何枚か見せつつ、彼に問いかけた。 「なに、大した物じゃないですよ。一階の騒ぎのとばっちりを受けましてね。・・・そんなことより、ロラバさんまで連れてどうしたのですか?」 署員はフラガナルと気さくに会話を交わすところから、それなりの仲であることが窺え、彼の長い背の背後にいたロラバとバリングに気付くと彼へ聞いた。 「・・・本当のところは、私よりも彼の方に用事があってね。どうか、少し時間を割いて欲しいんだ」 フラナガルはそう静かに署員に言うと、彼は少々狼狽したような表情を一瞬見せた。 だが、それをすぐに笑顔で打ち消し、三人を案内した。 署員に通された部屋は塔の下層に設けられた取調室の一室であった。 本来なら先に上の貴族がここに入る予定であったのだが、それを拒否した為にあんな騒ぎに発展したのだと署員は3人に説明してくれた。 「ここなら話も漏れませんから」 署員は部屋に入ると、3人をそれぞれの椅子に座るように促した。 フラガナルは書記の座る席へ、バリングは座るのを拒否して壁に背を預け、ロラバは取り調べを『する』方へ座った。 「それで、何の話ですか?・・・いえ、聞きたいことは判ってます。昨晩の事でしょう?」 署員は逆に取り調べを受ける方の席に座りながら、前から訪問理由を知っていたかのように少し溜息を吐いた。 「あぁ、別にアンタ等が仕事をどうこなそうと俺の知ったことじゃないが、しかし、此方はそれなりの物を出して質問をしているんだから、それに答えるのが筋ってもんだろう?」 ロラバはそう署員を見据えながら言った。 これ以上の隠し立てをするなら、横の奴が黙ってはいないとばかりにバリングの方を流し目に見て見せたが、その程度の脅しに屈する程度では帝都警察は勤まらないのか、署員はいたって平静な面持ちであった。 「えぇ、ロラバさんには良くして貰ってますから、それは当然なんですが、昨晩の件についてはお忘れになった方が宜しいと思いまして」 「それは、どういう意味だ?」 「意味なんて物はありません。ただ、私は貴方方との付き合い方を今後も無事に続けたいとだけ・・・」 署員は冷静な面持ちでロラバの質問に対してそう答えた。 含みのある彼の言葉にロラバは顔を顰めた。 この手の口調と内容は随分と経験している。 明らかに何か裏があることが窺える。 「判った。忘れよう。・・・この街じゃよくある事だ。だが、俺は忘れるが、この横の奴が昨日の件では被害者なんだからな。奴は加害者である元上官の遺留品を一つ形見にしておきたいと言っているんだ。それだけ貰えたら、すぐに忘れてやる」 しかし、ロラバは一歩も退くつもりは無いようだった。 今回はバリングが狙われたが、そんな事をいちいち忘れていては、命が幾つあっても足りない。 ロラバの返事に困った署員は暫くの間、黙り込んでいた。 時折、フラガナルに対し助け船を求めるような視線すら向けたが、彼はそれを冷たく黙殺していた。 「・・・判りました。では、ここで暫くお待ちを」 暫くして項垂れながら、署員はそう力無く言ってから部屋を後にした。 その頼りない姿を見送りながら、ロラバはフラガナルへ目を向け 「おい、出口は上に行く階段だけか?」 そう静かに聞くと、彼はゆっくりと頷いた。 その頷きを見ながら、ロラバは上層から聞こえてくる喧騒に、暫く耳を澄ますように見上げながら、何かに気付いた様にゆっくりと席を立った。 「アイツは俺の仕送りを断って、自立するかもしれんぞ」 と、精一杯の皮肉を口にするような調子に言い放った。 その言葉にハっとしたように、バリングは部屋の外へ出ようとしたが、鍵が掛かっていた。 「俺を罠に掛けるほど、度胸は無いと思っていたが、暫く見ないうちに成長したらしい」 「若しくは、背伸びでもしたくなってのでは?」 バリングがドアノブに対し苦闘している後ろで、バリングとフラガナルはそう言葉を交わしながら、各々に拳銃を引き抜いては弾倉を確認している。 「バリング、破っちまえ」 ロラバがそう拳銃を握り、彼女に命令を下した。 警察署の備品を破壊することにある程度の躊躇が無いわけではなかったが、彼の表情には戦時の強い色が浮かんでおり、バリングはそれを瞬時に判断すると左肩をドアへ向け、渾身の力を込めて体当たりを行った。 一度目は跳ね返されたが、長い間、放置されていたドアは僅かに軋む音を立て、確かな手応えを彼女は感じた。 続けて二度三度と体当たりを繰り返すと、帝国警察の威信にも近いドアは簡単に弾き飛んだ。 そして、そのまま転がるようにして廊下へ飛び出たバリングの体を不意に嫌な気配が襲った。今の今まで命を預けてきて頼りになった本能的なそれに、彼女は間髪を入れずに反応し、途端に頭上で空気を切り裂くような音が響いた。 咄嗟に身を屈めるような姿勢で何かを躱したバリングの前に、先程の警察署員が立っていた。 「・・・この関係を続ける気は、もう其方にはないようですね」 署員の男はそう悲しげな表情を浮かべ、バリングの数歩前に立っている。 手には肘から手首程度の長さをした何か警棒の様な物がそれぞれに握られていた。 「俺は続けるつもりだった。関係を壊したのはお前等の方だぜ」 廊下の署員の声に取調室からロラバが応えた。 彼の前にはフラガナルが長い背を更に屈めて、彼を護衛するように腰辺りに拳銃を構えている。 「ドアを破壊した件については此方で処理をします。どうせ、上の貴族を入れれば、遅かれ早かれ壊されたでしょうから。・・・しかし、其方の欲しがっている物はお渡しできませんよ、ロラバさん」 署員はそう声を掛けながら、警棒の様な物を構えたまま二歩退いて構えた。 警告のつもりであろうか、しかし、今の咄嗟に自分に向けて放たれた物は何であるか、ゆっくりと起き上がりながらバリングは確認するが、すぐにはわかりそうになかった。 何かの飛び道具を用いられたのかと思ったが、署員が手にしている警棒が投げつけられた等では無いようだし、相手は腰に拳銃の様な物を差していなかった。 相手は警棒を上下に開いて構える動きを見せ、その姿は帝国人と言うよりも辺境の戦士の様にすら見える。 「・・・しかし、欲しがっているのは俺じゃない。そこの大女だ。俺じゃなくてソイツと話しを付けてくれよ」 そうロラバは投げやりな言葉を室内から送るが、署員はそれを鼻で笑って返した。 「わかりきった事を言わないでください。何のためにあれを欲しているかは此方はよくわかっています」 「だったらどうするって言うんだ?俺達を消すのか?」 ロラバの皮肉じみた言葉に対し、署員は何の返事もしなかった。 それが答えに違いなかった。 彼の言葉から少し間を置いて、バリングが僅かに下がって身構えると、署員の腕が素早く動き、それに伴い一気に間合いを詰めてきた。 警察が用いる受動的な捕縛術の動きではない。 先手を取って相手を仕留めに掛かる戦闘格闘術だ。 相手は下段にしていた警棒を横に振りかぶり、バリングの脇腹目掛けて振り払ってきた。 しかし、この動きはもう片手の警棒での一撃を攪乱する為のフェイントだと瞬時に受け取ったバリングは、右腕で脇腹を護りつつ、次に繰り出されるであろう、片手の動きに左腕で備える。 案の定、脇腹を狙った一撃の次に此方の頭部を狙った一撃が続けざまにきた。 脇腹への一撃を右腕で防ぎはしたが、相手の得物が警棒であるのかと疑うほどの強い衝撃が襲い、痛みよりも痛覚の麻痺したかのような痺れが生じる。 同じように頭部への攻撃も防ごうと左腕を突き出して払おうとしたが、予想外の事にバリングの頭部へと動いた警棒は相手の手を離れ宙を舞った。 一瞬何が起きたのかバリングは戸惑ったが、相手の腕を離れた警棒は彼女の頭上にあった生体照明灯を叩き割り、照明を被っていた硝子状の皮膜を割り、破片を彼女の体へと降らせたのだ。 鋭い切っ先を持った破片は彼女に降りかかり、痛みよりも熱さの様な感覚と共に彼女の首筋や髪の合間へと突き刺さる。 彼女は咄嗟の痛みで一瞬混乱したように腕を振り回し、懐に飛び込んだ相手から離れようとした。流石に乱暴に振り回される彼女の豪腕に相手も警戒したか、署員は素早く身を退いて再び彼女から距離を取った。 バリングは僅かに血が滴る頭を払って相手を睨んだが、これもまた予想外な事に、署員の片腕には今ほど投げつけてきたはずの警棒がしっかりと握られている。 「・・・バリングさん!下がって!」 不意に脇の取り調べ口からフラガナルの声が聞こえ、示し合わせたかのような動きでバリングが素早くその場から飛び退くと、取調室のドアからフラガナルが拳銃を突きだして、身を躍らせた。 長い身の丈に反してドアから軽快に飛び出したフラガナルは、拳銃をバリングと対峙している署員へと向けたが、彼が引き金を引くよりも先に署員の動きが早かった。 フラガナルが射撃を行おうとするよりも早く、署員が身を屈めるような姿勢で片手の警棒を彼の握り手目掛けて投げつけたのだ。 その命中した衝撃に思わずフラガナルは拳銃をその場に取り落とし、署員はその投げつけた警棒を、まるで重力法則を無視するかのように空中から素早く手許に引き戻した。 「『双鉄糸棍(そうしてっこん)』か」 その様子を見て苦しげに呟いたバリングは、漸く署員の扱う得物とその術について理解した。 二本の棍棒の持ち手内部には小さい空洞が設けられており、その中に巻き尺の様な要領で細くも丈夫な糸が収納され、二本を結びつけている代物だ。 投擲武器の様に片方の棍を目標へ投げ付け、しかも、それを手許にすぐに引き戻せるように出来ている、異様な武具である。 勿論、帝都警察が身につける護身術や捕縛術には含まれない物で、バセン隷区にて発達した武術であると過去に学んだ経験がバリングにはあった。 「・・・フラガナルさん。まさか、貴方にハジキを向けられるとは思っていませんでした。残念です」 署員は静かに言いながら、手に走る激痛にその場で蹲るフラガナルを見下ろし、すぐにバリングの方へと視線を戻した。 蹲るフラガナルはすぐにその場を退くことが出来ずにおり、彼を挟んで署員と対峙するバリングには圧倒的に不利な間合いにあった。 相手はフラガナルを通り越して、双鉄糸棍を自由に投げつける事が出来るのだ。 フラガナルがドアの前で蹲っていることによって、ロラバが助けに出ることは無理であったし、仮に出られたとしても、負傷者が一人増えるに過ぎないであろう。 バリングは相手の顔を睨みながら、僅かに身を屈めて両腕を腰ほどに構えた。 それはオイルスモウのタックルを繰り出す為の姿勢に違いなかったが、相手との間に障害物があっては、これは上手くいくようには見えない。 相手もそれを瞬時に悟り、片方の棍棒をバリング目掛け、投擲しようと振りかぶった。 その瞬間、振りかぶられた棍棒をバリングは鋭く見た。 命中すれば、此方が蹌踉めき、その隙に相手が距離を詰め殴り掛かりにくるだろう。 一度でも此方の体勢が崩されれば、立て直すことは出来ず、如何に頑丈な体躯をしたバリングとはいえ、殴り殺される事は必定であり、現に蹲るフラガナルの指は投擲された棍棒によって骨ごと砕かれている様だった。 全ては一瞬の出来事であった。 相手の些細な指の動きをバリングは見逃さなかった。 指の角度から此方の狙われている部位が頭部であることを、素早く推測すると投げつけられる棍棒を目で追っては間に合わないと判断し、さっと掌を顔の前に開いて突きだし、空を切る音を立てて飛来した棍を素早く握り込んだ。 相手はそのバリングの動きを見て僅かにたじろいだ様子で、此方はそれを好機と捉え棍棒を握り込んで強く引き込んだ。 こうなれば相手との純粋な力比べであり、体格に勝るバリングが有利であった。 相手も彼女が棍棒を掴んだ瞬間に得物を離せば良かったが、術に対する自信が一瞬の判断を妨げたようだった。 バリングは強く棍を引き込みながら、フラガナルを飛び越えるようにして相手との間合いを詰める。 棍棒を封じ込められては、相手も手も足も出ず、バリングが懐に入ってきた瞬間になって漸く棍を手放したが既に遅すぎた。 大柄な彼女の体が相手に覆い被さり、一気に床に押し倒した。 オイルスモウで表すのであれば、既にそれは詰みである。 相手を押さえ込んでマウントを取ったバリングは、これ以上の抵抗の意思を挫くために、相手の顔面を強かに殴った。 署員の男の顔はすぐに赤く腫れ上がり、男はすぐに大人しくなった。 「片付いたな」 取り調べ室のドアから顔を覗かせたロラバがそう言った。 彼はバリングに押し倒されたままの男へ歩み寄ると、見下ろしながらしゃがみ込んだ。 「最初からこっちの言うことを聞いとけば、こういう事にならないで済んだんだ」 ロラバは男へ話しかけ、尻目に痛みをなんとか堪えて立ち上がるフラガナルを見た。 「大丈夫か?」 「大丈夫なもんですか、小指と中指がグシャグシャですよ」 フラガナルはあらぬ方向に曲がった指を此方に見せながら、やせ我慢に低く笑っていた。 「うちの事務員を負傷させた罪は重いぜ?・・・まぁ、良い。それだけ、この女に殴られりゃ歯も何本か抜けただろう?それでお相子にしてやる。いいから、例のナイフを出しな」 ロラバはフラガナルの笑い声を打ち消すように愉快そうに笑いながら、バリングを退かせて大人しくなった署員の手を引いて立ち上がらせた。 辛うじて立ち上がった署員は目を伏せたまま、バツが悪そうに制服の内から包みを取り出した。 それは紙に包まれた物で、証拠品として適切に保存する処置であるようには思えなかったが、兎に角3人はもう一度取調室に戻って、署員が包みを開くのを待った。 「・・・本来なら、早々に廃棄処分しろとの、上からのお達しだったんですが、中々珍しい物だったんで、質屋に売ろうと思って取っておいたんです」 「酷い奴だ。それでも警察か。それを俺達が貰ったら上にバレると思ったのか?それで殺そうと?」 ロラバの追求に署員が慌てて顔を上げた。 その顔には先程までバリングとフラガナルに対し棍棒を鋭く投げつけてきた戦士の色は無く、極々一般的な公務員と言った調子に戻っていた。 「そんな…殺すだなんて、ロラバさんがよく用いる方法を真似ようとしただけです。・・・ただ、相手が悪かった」 署員は弁解がましく叫び、言葉の最期にはチラリとバリングの方を僅かに見た。 その署員の言葉にロラバは満足げに小さく笑った。 「あぁ、確かに相手が悪かっただろうな。何せ、国家間親善試合に出場予定の選手だからな、コイツは」 ロラバは誇らしげにバリングの肩を叩いたが、先程の出血で衣服から僅かに血が染み出ており、それが掌に付いたので、慌ててズボンでそれを拭った。 「・・・兎に角、さっきの件は水に流しますから、サッデラ上級曹長のナイフを見せてください」 バリングは持っていたハンカチで頭部の傷を抑え、まだ頭部から僅かに血を流すまで興奮した様子で署員に迫った。 その鬼気とした勢いに署員は気圧されつつ、包みを取り払って中身を机の上に置いた。 それを見て3人は当惑したように顔を見合わせ、バリングがその中身を手にとって口を開いた。 「・・・これが昨晩に、サッデラ曹長が手にしていたナイフですか?」 改めて彼女はそう署員に聞いた。 それに対し署員は深々と頷いたが、バリングは少々納得しかねたように口を開いた。 「しかし・・・、これは私の知る限り『アーキル』の軍用ナイフですが・・・」 当惑した調子で言ったバリングが握っているソレは紛う事なき『アーキル軍』が戦時中に用いたナイフに違いなかった。 だが、確かにそのナイフの刀身からは、昨晩にサッデラ上級曹長が自分に襲いかかった際に妖しく煌めかせた輝きが宿っているように見えた。
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【 第一回戦第二試合・六谷純子VS蛇蝎兇次郎 】 「生きる」ということは、戦いと勝利の繰り返しである。 決して大げさな話ではない。食事ひとつをとっても、それを受容出来る自分は特別な存在であるのだ。 しかしそれは生物としての優位を奢るエゴではなく、他の命を糧に生き延びることの責任感を示す。 他者の命それを取り込んだ瞬間から、己の命は自分だけ物ではなくなる。 食してしまった、如いては殺めてしまった命がその後に辿った筈であろう時間と役割とを、食した者は背負う義務があるのだ。 それを果たさずして、身勝手に己の生き死にを決めようなどそれこそエゴというものであろう。 食するとは――すなわち「生きる」ということは本来それほどまでに特別で、かつ荘厳なことであるのだ。 そう考えるからこそ、六谷純子は双葉学園生徒の身を憂あわずにはいられない。 学園生徒とあっては常に、ラルヴァとの戦いの中に身を置く。言うなればラルヴァの命を狩る者である。 その使命、時としてはその義務に対する生徒の心の在り様はどのようなものなのか? ――純子は考える。 他者の命を奪う行為に苦悩するものだろうか、はたまた生殺与奪を決定できることへの錯覚に心を歪ませはしないものか――不安定な10代の歪みを、学園OBであり元・風紀委員であるところの純子は心配せずにはいられないのだ。 かくいう己とて、学生の時分には大いに迷ったものである。そして同期の生徒には、他の命を奪うことに快楽を見出し……いつしか外道へと落ちていった者とていた。 だからこそそんな生徒の苦悩に自分が向き合えるのならば、もしくは知らずに歪み始めているその心へ警鐘を鳴らせることが出来るならば、と純子は常日頃憂いていた。 そんな折に耳に入ったのが、かの双葉学園・大料理会の開催それである。 食を通じてそれら、生徒たちの生きる意味とラルヴァと立ち合うことの意味を教えられるのではないかと純子はその参加を決意した。 OBという己の在り方が、後の生徒達の『未来の規範』となることが出来るのならばと、純粋な想いから純子はこの一大イベントに望むのであった。 かくして彼女は今、その想いをかなえるべくここ双葉学園グラウンドに設けられた大料理闘技場にその身を預けている。 純子の登場に会場からは大歓声が上がる。学園OBの登場と言うことも然ることながら、何よりも彼女のその、一見冷徹とまで思えるほどの美貌に会場の生徒達(主に男子学生)は惜しみない声援を送っているのであった。 「ふふ、いつの時代もやかましい場所だなココは」 そんな会場の空気に身をさらして微笑む純子。しかしながらそんな言葉とは裏腹に嫌な気分はしない。さながら、学生の時に戻ったような気分でいた。 心はどこまでも若く、そして弾むようでさえあった。 そんな時である――。 うなじに憶えた痛痒感それに、純子は首をすくませる。 勘違い、などという曖昧なものではない。それこそは明らかな外意を感じたがゆえに憶える感触それであった。 それこそは――殺気。学生時代、ラルヴァと立ち合った時に感じたものと変わらないピリピリとした剥き出しの敵意それであった。 そしてそれが飛ばされたであろう彼方を確認し、純子は眼を見開かせる。 そこには――黒衣の生徒が一人いた。 その身を包む学生服自体は学園支給の物であろうが、それでも純子の眼に映るそれはひどく禍々しいものに思えた。 竹の如き痩躯と後ろへ流すよう纏められた黒髪、己の体を抱くように腕組みしたその生徒は、蛇のような切れ長の三白眼で、上目に対岸の純子を見据えているのであった。 ――確かこいつは、蛇蝎兇次郎……高等部の3年生であったはずだが 改めて目の前の蛇蝎が今日の対戦相手であったことを思い出す。しかしながら純子の眼にはその一瞬、その蛇蝎がラルヴァにも思えていた。 否――その一瞬、目の前の生徒からはラルヴァ以上に禍々しくそして黒く重たい何かが感じられたのだ。 学園生時代には風紀委員として、そして長じて社会人となった今では鉄道員として鍛えた純子の眼は、そんな蛇蝎の異常性を敏感に感じ取ったのであった。 それをさらに確かめるべく蛇蝎の眼に己の視線も定めたその時である。 『お待たせいたしましたァ!! それでは第二回戦! 蛇蝎兇次郎選手と六谷純子選手によります一戦を執り行います!!』 実況・赤穂の声に純子は我に返る。気付けば勝負の刻が迫っていた。結局、蛇蝎の正体を見極めるには至らなかった。 ――気のせいかもしれない、な。あの手のタイプはいつの時代にもいたもんだ ともあれ気持ちを入れ替えると、純子は今の勝負に意識を集中させる。 『それでは二回戦ンンンッ!! 始めェ!!』 改めて開始の声が響き渡るや否や、純子はキッチンから食材広場へとダッシュをする。 先に執り行われたアシュラマンレディと龍河弾の一戦からも察せられるよう、開始直後の食材選びは、勝負の明暗を大きく分ける。 いかに早く、そしていかに相手よりも新鮮な素材を集められるかということもまた、この戦いの重要なファクターであるのだ。 しかし――食材調達の最中、純子はその異変に気付く。 ――蛇蝎……あいつ、何をしている? それこそは誰でもない、対戦相手である蛇蝎の挙動であった。 食材選びに余念がない純子とは裏腹に――蛇蝎は動かない。 開始前と変わらぬ腕組みの姿勢のまま、蛇蝎は自キッチンに佇み続けるのみであった。 ――出遅れた、という感じでもない。何か考えがあるのか? その動向に注意を払いつつも、純子は己の食材選択を終えるとキッチンに戻る。 ――ともあれ、私は私で全力を尽くさせてもらうまでだ。 今はあいつのことなんてどうでもいい かくして腕まくりに、そして髪を纏めて身支度をすると、純子は烈火のごとく調理に取り掛かった。 調達してきた食材は、ジャガイモ・人参・たんねぎの野菜三種に、肉と白滝。そしてさらには白菜キムチが一缶。 手早く皮をむいて下準備をした野菜と肉を炒めていくとともに、同時進行で白滝のアク抜きを始める。 肉に火が通りその色合いが褐色に変わる頃、純子はアク抜きの完了した白滝もまた投入し、調味料を加えていく。 割り下となる調味料は醤油とみりんをメインに、さらには酒・ごく少量のしょうがとニンニク、そして砂糖を一さじ加えた。 立ちこめる甘い匂いのそれは肉じゃがのそれである。しかしながら「肉じゃが」だけで留まらないのが純子流だ。具材全体に味が染みわたり始めた頃合いを見計ると、純子はそこへキムチも投入した。 言うなればこれは、「豚キムチ」と「肉じゃが」の折衷と言うべき料理である。醤油と同量のみりんで充分に甘くなった割り下をさらに砂糖で甘く整えたのには、後に投入されるキムチの辛みと中和させる目的があるからだった。 「――よし。あとはこのまま煮込んで煮締めればいい」 もはや九割方料理を完成させて純子は鼻を鳴らす。 そしてその時になって、再び純子は蛇蝎を見る。 そこには――開始前と全く変わらぬ姿勢の蛇蝎がいた。 変化のないキッチン上と微動だにしない蛇蝎。調理が行われた形跡は全く見られない。 ――何を考えてるんだ、アイツは? 持ち時間だってもう10分を切った。 今からじゃ調理したって間に合わない そんな蛇蝎の思惑が全く読めない純子は、ただ彼の人のエキセントリックさに首をひねるばかりであった。 そして純子の料理が仕上がろうとしたその時―― 「……そろそろ、か」 蛇蝎が呟く――事件は、起こった。 『もはや六谷選手の独走状態です!! このまま勝負は――え? ……あ、はい……はい……ッこ、ここで緊急報道いたします!!』 立て板に水とばかりに二人の勝負を実況していた赤穂の声が、明らかに緊張を含んだ別のものへと変わった。 『えー、先ほどラルヴァと思わしき巨大生物が双葉学園前駅を襲撃したとのことです!』 「な、なんだとッ!?」 その赤穂の声に眼を剥いたのは誰でもない純子であった。 そんな赤穂の速報と並列して、同会場に設置された大型ビジョンには現在の駅周辺の状況が映し出される。 目の前の光景に誰もが息を飲んだ。映し出されるそこにはジェットコースターのレールのよう逆さに丸く湾曲させられた線路軌条が映し出されたからであった。 『幸いにも怪我人や脱線事故はなかった模様です。しかしながら鉄道交通は完全に機能を停止しており、駅周辺では混乱が生じているようです!』 次いで報告される赤穂の報道に続いて映し出されたものは、イモ洗いに込み合う学園前駅ホームの様子と、そして詰め寄る乗客に対応しかねている鉄道員・小松ゆうなの姿であった。 「小松ァ! 何やってんだ!! 本社に連絡を取って臨時バスの用意とその案内をしろ!」 すでに混乱の極みから泣きが入り始めている後輩同僚の様子につい熱くなる純子。 そんな純子を前に、 「……そういうあんたは、ここで料理大会などに興じている場合か?」 開始から初めて――蛇蝎が純子へと声をかけた。 重く抑えられてはいながらも高く通るその声。さながらコントラバスの弦を一本、引き弾いたかのよう重みを持った蛇蝎の声が純子を捕らえる。 「あの小松なる鉄道員では、この状況を乗り越えることは叶うまい。それをあんたは見過ごすというのかな?」 「くッ……!」 「あんたの職務における責任と誇りとは、この程度のものなのか?」 語りかけてくる蛇蝎と視線が合う。 顎をかしげ、捻らせた視軸を見上げるように向けてくるその様はさながら、蛇が獲物に狙いをつけんと鎌首をひねる姿まさにそのものであった。 そしてこの時になって、純子は悟る。 純子の眼は――全てを見抜いた。 風紀委員時代にはタバコを隠し持つ生徒を見抜き、そして鉄道員となってからはキセル乗車の乗客を漏れなく見抜いた純子の眼(ほんのう)は――一連の事件の犯人が誰でもないこの、目の前の蛇蝎(おとこ)であることを告げていた。 「お前、か……ッ!」 こみ上げる怒りに身を震わせる。一方ではそんな視線を受けながらも、蛇蝎は止水のごとく動じない。 やがてはそんな蛇蝎を見据えていた視線を振り切ると、 「……このままで済むと思うなよ。いつか、落とし前は付けさせるッ」 純子は怒りに震える声でそれだけを振り絞ると――後は放たれた矢のごとく会場を後にするのであった。 『あ、あぁ!? ど、どうしました六谷選手ッ? まだ試合が終わっていませんよ!!』 一方、そんな純子の行動に慌てふためいたのは実況・赤穂である。その言葉の通り、試合途中での純子の退場に対応しかねてなんとも狼狽した声を上げる。 そんな赤穂に応えたのは、 「どうもこうもない。向こうは棄権退場、勝負は決したのだ」 誰でもない蛇蝎であった。 『し、勝負あり……ですか? あ。そ、それでは蛇蝎選手の料理だけでも審査員席へお願いします』 そうして蛇蝎の応えに何とか対応しようとする赤穂であるが、 「私の勝利が決まった以上、もはや私の料理などは必要あるまい」 冷静に答えながら蛇蝎は純子のキッチンへと歩を進める。 さらには依然として火にかかったままである鍋に目を落とすと、蛇蝎はその中で良い頃合いに煮転がったジャガイモを一摘み取り上げる。 そしてそれを口に放り、咀嚼後に飲み込んで鼻を一つ鳴らしたかと思うと、 「終了だ」 さも退屈げに呟き――コンロのスイッチを消すのであった。 【 一回戦第二試合 】 ○ 蛇蝎兇次郎 [20分20秒・棄権退場] 六谷純子 × 【 第一回戦第三試合・拍手敬VS笑乃坂導花 】 大料理闘技場にて六谷純子と蛇蝎兇次郎との一戦が行われていたその頃――会場から遠く離れた、学園校舎最果ての女子トイレに笑乃坂導花は、居た。 洗面化粧台を前に何やら黙々と作業をこなす彼女――正面の化粧鏡に映るその表情はどこまでも無表情で、端麗な目鼻立ちゆえにそんな表情の欠落は、なんとも彼女の面立ちを造り物めいた冷たさに満たしている。 そんな導花が先ほどより執り行っている行為――それこそはハッピータンをセラフィン紙から取り出し、その粉・ハッピーパウダーを油紙の上に集める作業それであった。 慎重に、まるで爆薬でも扱うかのよう彼女の白い指先は丁寧にその粉を集めていく。やがては二袋分・40個分のハッピーパウダーを集め終わると導花は次なる作業に移る。 取り出したるは500mlサイズのビーカーとチョコレート各種。今度はビーカーの中にそれらチョコレートをばらしていく。 マーブルチョコ・チョコボール・ごえんチョコ・チロルチョコ・タカオカいちごむぎ……それらをビーカーの口きりいっぱいまで満たし、導花は次なる作業に移る。 続いては1000mlサイズの三角フラスコ。そこへファンタグレープを注ぐ。その後もドクターペッパー・カルピス・なっちゃん(りんご)・マミー・野菜生活・牛乳、を次々と投入し――見るも毒々しい液体をそこに造り出した。 それら三種を前にしてようやく手の動きを止める導花。それを見下ろす表情はこれらを取り分ける作業をしていた時と微塵も変わらない。 やがてはそんな面持ちのまま――導花は最初に解したハッピーパウダーの油紙を慎重に持ち上げ、それを開いた口中に流し込んだ。 おそらく口内には、過度の塩分とそして糖質による過剰反応で大量の唾液が分泌されていることであろう。それでも導花は眉ひとつ動かすことなくそれを口中に留めると、続いてはチョコの満載されたビーカーを手に取る。 そして水でも煽るかのようその淵に口をつけたかと思うと、今度はそのチョコを一気に流し込んでいく。 時折咀嚼しながらそれを食していく導花。それら全て完食すると、最後にジュース各種がミックスされた三角フラスコを取り、まだチョコとハッピーパウダーの残る口内へと流し込んで――全てを飲み下していく。 一口ごとに口中から逃げた気泡がフラスコ内の液体をごぼりごぼりと泡立てる。そうしてそれすらもすべて飲み干すと、導花は俯けていた顔を上げ、正面の鏡に映った己を確認する。 無表情に見守り続ける導花のこめかみに、目視できるほどに大きく血管が浮き上がる。数種にわたる駄菓子の過剰摂取により、導花の体内では今、想像を絶する化学反応が起こっていた。 血流は速まり、瞳孔は闇に蠢く猫科動物のごとく大きく肥大して広がる。額やこめかみ、さらには前頭全体に浮き上がった血管は一本に留まらず、さながらメロンの筋のよう導花の頭皮顔面を歪めて膨らむ。 傍から見るその様相はもはや、人間の物ではなくなっていた。 それでもしかし――それを見つめる導花の眼は、笑っていた。 その瞳が見据えるものは己が今の姿か、それともそれを超越したさらなる美をそこに見出しているのか……。 全ては闇の中にある。 全ての答えは、導花という闇の中に深く沈み、そして存在している。 ★ ★ ★ 第一回戦も第三試合となる頃には、会場のボルテージも最高潮に達していた。 そんな興奮の坩堝の中、 「へへ、すげーなオイ」 大料理闘技場の中央にて、拍手敬はまんざらでもない様子で鼻を鳴らすのであった。 本来乗りやすく、また祭り好きな柏手である。今日のような大会とあっては、緊張に委縮するどころか、ますます以て自身も発奮し、そして発散させてしまう男なのだ。 「柏木さん! またロクでもないこと考えてるでしょ? 勝負に集中してくださいよッ」 と、そんな悦に入っている拍手を窘めたのは、キッチン後方にてセコンドを務める神楽二礼その人であった。 「馬鹿なこというんじゃねーよ、俺は俺なりに感慨深くなってんだぜ。この晴れ舞台に立てるっつーことに何も感じねーのか、お前は?」 「私は別に出場選手じゃないっすからねー。それよりも、柏手さんにはしっかり優勝してもらって賞金を獲得してもらわないと困りますから」 「んがくっく」 神楽の言葉に途端に柏手は現実に戻されて息を飲む。 柏手は学校に通うその傍らで己が学費を自分で捻出しなければならないほどの苦学生でもあった。働かなければならないその身分ゆえ、柏手には一般の同級生達のような青春時代を過ごすことは許されなかった。 もっとも柏手自体ざっくばらんとした性格であるからそんな己の身の上に嘆くようなことは無かったが、それでも今回の大会の賞金が10億ドルと聞いた時には、胸の奥深くにくすぶる野心に身を震わせた。 10億ドル――日本円にして約1150億円。それだけあれば今までの学費と一生分の生活費はもとより、実家の神社の立て直しだって思いのままだ。さらには世界中の女の子とだって仲良くなれる! あのオッパイこのオッパイ、日本人をはじめとしたアジア人はもとより、ネグロイド・コーカソイド・オーストラロイド・牛、よりどりみどりのオッパイが―― 「――屋台のチャーハンだったら、2億5555万5555杯っすよ」 突如として横から入れられる神楽の茶々に、柏手の中で溢れていたオッパイは途端にチャーハンに姿を変えて四散する。 「このやろ! 急につまんねーこと言うんじゃねー! それにどうやって俺の心の中を覗きこみやがった?」 「覗くも何もオッパイオッパイ漏らしてましたよ。それよりもホラ、対戦相手が来ましたって」 儚い夢からの眼覚めに柏手は大きくため息をつく。そして神楽の指差す対戦側キッチンを望み――そこにて柏手は再び眼を剥いた。 その目に飛び込んできたのは巨大なおっぱいが二つ――今日の対戦相手である笑乃坂導花の姿であった。 うなじから肩甲骨をなぞり、その胸元までが大きく見えるよう艶やかに制服とワイシャツの着肌蹴た胸元には、見るも眩しい乳房が大きくその谷間を覗かせていている。 さらには濡れるような黒髪の前髪をしだらせて、その奥から微笑みを浮かべるとあっては、その怪しいまでの美貌にたちどころに柏手などは魅了されてしまうのであった。 「初めまして、柏手さん。今日はよろしくお願いします」 「お~願いしちゃう、お願いしちゃう♪ おーれ、今日はがんばっちゃうよ~」 柏手と視線を絡ませ、そう柔らかく挨拶をしてくる導花に、一方の柏手はというと猿のよう鼻の下を伸ばしてベロベロ舌舐めずりをするのであった。 「ほらほら、油断しない! 相手は対戦者なんっすから。手とか緩めちゃダメっすよ」 「んいでででででッ、そらないぜー!」 そんな、今にも着ている衣服を脱いで導花にダイブしそうな柏手を神楽はその頬をつねって窘める。 「おっしゃー! テンション上がってきた! あのカワイコちゃんのハート(オッパイ)、しっかりゲットするぜ~」 「勝利ゲットを最優先してくださいっす」 ともあれ、選手双方の準備が整うのを見定めると実況・赤穂により開始の合図が告げられる。 かくして始まる第一回戦第三回戦ではあったがしかし――柏手達はまだ気付かない。 「ふふふふ……お前には二回戦進出どころか、活躍の場すらないよ」 かの妖女・導花の姦計が企まれていることを。 開始とともに柏手・導花の双方は食材広場へと走る。 一足先にたどり着いた柏手がいの一番に手にしたものは――玉ねぎ。それから卵、豚肉、冷や飯の順でチョイスしていく、言わずもがなこの第一回戦において柏木が作ろうとしているものはチャーハンそれである。 もし対戦者である導花が柏手の研究をしてきているというのであるならば、間違いなく彼の『チャーハン潰し』に対して何らかの対処を考えてきているであろう。斯様に手の内を読まれてしまうということは、不利以外の何物でもない。 しかしながらそれでも柏手はチャーハンを選択した。 絶対の自信を持つ料理であるからこそ、そしてこの料理こそが今の己が生き様であるからこそ、柏手はあえて逃げることなくこの料理を選択したのだ。 戦うべき相手は導花だけではない――自分自身も然りだ。 ちゃらんぽらんとした今風の若者ではあるがしかし、そんな柏手の根には確固たる自己を主張する強さが眠っている。 食材広場において各種具材を選択し、キッチンに戻るのもまた同時であった。 ――食材選びは同時……ならば、調理にて挽回する! 中華鍋を火にかけ即座に卵6個を右掌ひとつの中に収めると、指々に挟み込んだそれを瞬く間に割って撹拌していく。 さらには高橋秀樹の剣客劇のよう鮮やかな手並みで包丁を駆ると、大きさも均等に揃えられた玉ねぎのみじん切りが白い山となってまな板の上に作り上げられていくのであった。 ――良いペースだ、さすが俺! このまま、調理記録更新しちまうか? わずかな緊張感が身の動きをいつも以上にシャープにしていた。そんな己の絶好調に我ながら頷いたその時である。 『おぉーっと! 笑乃坂選手が動いたァ―!! 今回先に審査員席へと料理を運んだのは笑乃坂選手だー!!』 「ッ!? な、何だと!」 突如として響き渡る赤穂の実況に思わず柏手は顔を上げる。そうして巡らせる視線の中に導花を捜せば――すでに何らかの料理を盆に載せ、審査員席へと赴いている彼女の姿が視界に入った。 ――開始から5分も経ってねーぞ? 何作りがった? 思わず導花の手にされた料理に凝視し、柏手は審査の様子を見守る。 「お待たせいたしました審査員の皆様方。この勝負、先手はこの私が勤めさせていただきます」 慇懃に審査員席の3人へと頭を垂れて差し出されたものは――雅に盛りつけられた、ハクサイの漬物であった。 「これが……おぬしの料理か?」 そのあまりのシンプルさに審査員長であるところの醒徒会会長・藤神門御鈴などは、それを見下ろして呆気にとられるばかり。 「もちろんこればかりはありませんわ。ここで、最後の仕上げをさせていただきます」 予想通りの反応に微笑みながら、導花は何やら白い粉をそのハクサイの上に振りまぶす。そしてさらにそこへ花カツオをあえて醤油をかけると、それを一同の前へ差し出した。 いかに最後で手が加わったとはいえ、それでも所詮はハクサイの漬物である。やはり、導花の思惑を計り損ねて首をかしげる一同は、半信半疑にその料理を口に運んだ。 そしてその一口目を噛み締めた瞬間―― 「おぉ!」 「これは、すごい」 口中に広がるのその味わいに先の御鈴はもとより、審査員の一人である成宮金太郎もまた思わず声を上げた。 奥歯にてそれを噛み締めた瞬間、わずかに苦みを含んだハクサイの果汁が弾けると同時、口の中には得も言えぬ深い味わいが広がった。 それこそは単純な甘みでありそして複雑な辛みであり、さらには鰹節の風味が加わってとあっては、見た目以上の味のインパクトを金太郎達に覚えさせるのであった。 そんな審査員達の反応に内心でほくそ笑む導花。さらに攻める手を緩めない。 「今回は二品用意してございます。続いては、こちらをお試しくださいな」 さらに出されたものは、四辺に切り分けられ盛りつけられたゆで卵。それを進めながら、やはり導花は先ほど同様の『白い粉』を振りかけ、その上に紅ショウガを添えた。 それを同じくに実食し、 「これまた何と鮮烈な!」 「こんなにも卵って甘いもんだったのか?」 またも御鈴と金太郎は驚きに目を剥いた。 紅ショウガの酸味と辛みとが、卵の黄身の甘味を引き立て、さらにはしょうがの繊維質の食感を加えさせるより印象的に白身の食感も演出している。 「こちらのお兄さんには私がお世話させていただきますわ」 一方で導花はというと、前回からロープで踏ん縛られている審査員・早瀬速人の前に立ち己の巨乳の谷間に挟み込んだゆで卵を彼の顔に近づける。 「たんと……おあがりなさいな」 「うはー、これこれ―!! ようやく俺にも無敵の未来が見えてきたよーッ♪」 卵と言うよりはむしろ、彼女の胸に食いつく速人を胸に――導花は完全なる勝利を確信してほくそ笑む。 「なにアレ? まさか色仕掛けで勝とうって気なの? あんなの料理の味には反映されないっすよ。柏手さん、とっとと引導渡してやりましょ?」 それをセコンド席から見守っていた神楽などは、その導花のあまりのあざとさに、あからさまな嫌悪を表しているようであった。 そして気にせず調理の続行を柏手に促す神楽は―― 「か、柏手さんッ?」 そこにて何時になく真剣に、そして強く眉元をこわばらせる柏手の表情に息を飲んだ。 「アイツ……やりやがった」 「え? やりやがったって――ただの漬物とゆで卵っすよ?」 神楽には柏手の表情の意味が判らない。そしてそんな柏手の表情を、一方の審査員席から確認した導花は――これ以上になく勝利を確信した笑みを浮かべた。 漬物とゆで卵。そんな料理とも言えないような品目で勝負を挑んできた導花の思惑とはすなわち―― 「あの女、審査員の味覚を壊しやがった」 柏手のつぶやき、まさにそれであった。 「味覚を壊すぅ? ハクサイと卵がなんでそんな?」 「食材に仕掛けはねぇ。問題はその直前に振りまぶした粉――化学調味料さ」 柏手はそのカラクリを説明していく。 導花の思惑とはハクサイと卵を食べさせることではなく、化学調味料で口中を支配することにより一切の味覚を壊してしまうことにあった。 最初の科学調味料は漬物の果汁に乗ることで口中の隅々にまで行きわたり、さらには二品目となる卵の黄身と合わさることで、さらに頬の内側や歯間に定着する。そうとなってはもはや何を食べようとも、まともな味覚などは審査員の脳に伝わらないのだ。 「人間のベロにゃ『舌苔(ぜったい)』っつー、味を確かめる器官がある。それは無数に並んだ味覚の穴に物質が触れることで味を確認させる訳だが……今の審査員の口の中のそれは、あいつの化学調味料のせいで塞がれちまってまともに機能しなくなっちまってるんだよ」 「なら、食べる前に口とかゆすいでもらえばいいじゃないですか」 「ゆすいだ程度で取れるようなもんじゃねぇよ」 「だ、だったら柏手さんも化学調味料で対抗すればいいんですよ! あの女以上に濃く味付けしてやればきっと――」 「同じ種類の物質じゃどんなんに量増やしたって意味ねーよ。この作戦は先手を取られた時点で負けなんだ。それに――そんな化学調味料まみれの料理なんか、俺は人間に対して食わせようとは思わねぇ」 もはや絶望的と思われた状況――誰しもが敗北を疑わない状況ではあるがしかし、 「今から間に合うか……? まさか、『コレ』をこんな形で使う羽目になろうとはな」 しかし、柏手は諦めない。 塩チャーハンを作る傍ら、今回自分で持ち込んだ『ある食材』を詰めん込んだタッパを取り出すと、そこから取り出したそれにて新たな料理を作りだす。 ――ふふふ、せいぜい足掻くことだねぇ。もはや、どんな料理を作ろうと、 こいつらの味覚はまともに反応しやしないさ。お前はその哀れさで、 私を喜ばせるだけなのさ。 最後の最後まで希望を捨てぬそんな柏手を審査員席から見下ろしながら、導花は胸に抱いた速人を猫のようあやしながらほくそ笑む。 かくして柏手の料理も完成を果たす。 そして導花に遅れること実に七分――柏手は自身の作ったそれを審査員達の前に並べた。 と――その後の試合内容を、当時アナウンサーとしてにて実況していた赤穂永矩(高等部一年生)は後にこう述懐している。 「まぁ普通ならね、笑乃坂選手のあの料理が出された時点で『勝負あり』ですよ。柏手選手も言ってましたけど、化学調味料による味覚破壊って想像以上に恐ろしいもんなんです。『チャイナレストラン・シンドローム』って知ってますか? 中華料理を食べた後に体調を崩してしまう現象のことをいうものなんですがね、それこそ化学調味料の過剰摂取によって引き起こされる現象なんです」 ならばもう導花の勝利は揺るがなかった訳か、とインタビュアーはその時の赤穂に同調する。この話を聞くに至ってはもう、ここからの柏手の逆転など予想もつかなかったからだ。 しかし、 「えぇ? 『柏木で選手が負ける』ですって?」 そんなインタビュアーの声に、赤穂はさも驚いたよう眼を丸く聞き返した。そして乗り出させていた体をソファーに沈め、どこか困ったよう唸ったかと思うと、 「いやいや、あなた。あなたは『柏手敬』と言う男のことを何も判っちゃいない」 頭を掻きながら、そんな言葉を返してくるのであった。 「最初に言ったでしょ? 『普通なら』って。あの柏木選手に関しては、『普通』なんて言葉や概念なんか当てはまらないんですよ」 次から次へと話の内容が変わる展開にインタビュアーは混乱を隠しきれない。 ならば勝利の行方はどうなったというのだ? まさか―― 「そうです。あの一戦、見事に柏木選手が勝ちを納めているんですよ」 そんなインタビュアーの困惑を楽しむかのよう、赤穂はあの結末の詳細を語りだした。 「柏木選手は結局、あの一戦において『麻婆豆腐チャーハン』で勝負を挑んできたんです。しかもその麻婆豆腐っていうのがですね――ふふふ、『杏仁豆腐』を豆腐に使用した奴だったんです」 赤穂から語られるその料理の正体にインタビュアーは驚きを隠しえない。 なぜならば『杏仁豆腐』と言えば、デザートとして使用される食材であるはずなのだ。それを調理に、ましてや『麻婆豆腐』のそれに使用してくるなど想像すら及ばない。 「まぁ、確かに普通ならばこれほどの邪道料理も無い訳ですよ。しかしですね、審査員の『味覚障害』が起きているこの一戦に限っては、これがとんでもない料理に化けた訳です」 遂に赤穂は全ての核心に至る、柏手の料理の真相について語っていく。 「杏仁豆腐に使われている『杏仁(きょうにん)』っていうのはあんずの種のことで、元は歴とした漢方薬なんです。効能は鎮咳作用と去痰作用ってことで、喉や舌に作用する薬効を持ってる訳ですよ」 得意げに語る赤穂の説明に、インタビュアーもまた真相の片鱗を掴みかける。そしてそれに気付いた赤穂もまた、 「気付いたようですね♪ そうなんです――柏手選手の麻婆豆腐は、審査員の味覚障害を治す効果があった訳です」 遂にはその真相を語り、赤穂は満足げに頷いた。 「しかもね、あの料理の効果はそれだけじゃなかったんですよ。味覚が洗い流されることによって、より柏木選手の料理の味が鮮烈に審査員に届いたんです。皮肉にも笑乃坂選手の料理は、とんだ柏木選手の引き立て役になっちゃったわけです。――もちろんその判定は言うまでもありません。2―1で柏木選手の勝利です。ちなみに笑乃坂選手に一票を入れたのは早瀬審査員だった訳ですが」 事の真相の全てを聞き終えて思わずインタビュアーはため息をつく。なんとも壮絶な戦いだった訳である。 しかしながら疑問はまだあった。 それこそは残された導花のことである。果たして彼女はその勝利を受け入れられたものなのだろうか? そんな疑問を投げかけると、遂には赤穂は笑い出してしまうのだった。 「すいませんスイマセン。いや、ついあの時のことを思い出してしまって♪ ――確かにね、笑乃坂選手は納得しませんでしたよ。それどころか凄い剣幕で怒りだしましてねぇ」 あの導花が? と、インタビュアーは尋ね返す。かねてよりその美貌を知る彼にとって、赤穂の言う『凄い剣幕の導花』など想像できなかったのだ。 「そりゃあもう凄いもんでしたよ。あの石楠花のような端正な顔つきが般若に一変したかと思うと、審査員達を前にして『このウジ虫野郎!』って怒鳴りつけたんですから」 呵々と笑う赤穂とは対称的に、話を聞くインタビュアーはその時の鉄火場を想像して思わず血の気が引く。 「もう、すごい暴れようでね。今まで胸に抱いていた早瀬審査員の顔に爪を立てて八つ裂きにしたかと思うと、今度は御鈴会長に躍りかかったんです。――その時、そんな笑乃坂選手の前に立ったのが、これまた対戦相手であった柏手選手だった訳です」 いったい柏手は、どのようにこの状況に対処したのだろう? 双葉学園に通う以上、彼とて何らかしらの異能者ではあるはずだが、それでも彼が女性に対して暴力をふるう姿は想像できなかった。 「もっとも、柏手選手も暴力で対抗した訳じゃないんです。荒ぶる笑乃坂選手の前にね、自分の作ったあのチャーハンを差し出したんですよ。『自分の舌でたしかみてみろ』って」 『たしかみてみろ』ですか? 「公衆面前の前でしたから緊張してたんでしょうね。噛んじゃったみたいです。――ともあれ、笑乃坂選手もそれを口に含んだんです。そしたらその瞬間――彼女、気絶しちゃったんですよ」 赤穂の説明する展開についていけずに首をかしげるインタビュアー。なぜチャーハンを食べた程度でそうなるのかが判らない。 「さっきも言ったでしょ? 柏木選手のあの料理は味覚破壊が進んでいるほど効果がある訳です。そしてかくいう笑乃坂選手は自他共に認める『ハッピータンユーザー』……すなわちはこの大会において誰よりも『化学調味料に犯された人物』だった訳です」 その瞬間、インタビュアーは全ての真相を知るにいたった。 皮肉にも柏手の料理が一番効果をもたらせたのは、誰も無い対戦相手の導花であったという訳であった。結局のところ、最後の最後において導花は自分自身に敗れてしまったのだ。 かくして第一回戦第三試合は、柏手敬の勝利により幕を納めた訳である。 しかしながらその後、柏木と導花はどうなったのであろう? そんなことを問うインタビュアーに、赤穂はこの日一番の興奮を以て応えたのであった。 「その後なんですけどね、失神した笑乃坂選手を柏木選手が背負って退場したんです。もちろんその光景に会場からは拍手万雷ですよ。でもね、なぜ彼女をおぶったかっていうと柏木選手――笑乃坂選手のオッパイを背中で感じたかったからって言うんですから笑わせてくれるじゃないですか♪ チョット憧れちゃいますね、男として」 【 一回戦第三試合 】 ○ 拍手敬 [10分41秒・麻婆炒飯] 笑乃坂導花 × NEXT BATTLE!! 【第一回戦・第二試合】 山口・デリンジャー・慧海 VS アダムス 【セミファイナル・第一試合】 龍河弾 VS 蛇蝎兇次郎 トップに戻る 作品保管庫に戻る
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パンドラを抱きし者 ◆5iKodMGu52 常識と思っている事柄に、何故?と聞かれて即座に答えられる人間は少ない。 「なんでそらはあおいの?」 「なんではなはうつくしいの?」 「なんで1+1は2なの?」 「なんでひとは、いきているの?」 平沢唯にとって、伊達政宗の質問はそういった類の事柄だった。 なんで、と言われても彼女には「知っているから」、としか答えられない。 あえて理由を言うならば、と平沢唯は恥ずかしそうに、夢の中で中野梓と会った次第を話した。 福路美穂子はそれをあっさり信じたが、伊達政宗はしかめ面をするのみだった。 ヴァンに至っては「死んだ人間は生き返らねぇ」と吐き捨てるほどだ。 結局、埒があかないと判断した伊達政宗は、 片倉小十郎の亡骸にシーツを掛けてやってくれと伝えると、 自らの足で闘技場へ向かった。 乗らないのか、とヴァンは伊達軍の馬に乗りながらのうのうと尋ねたが、 それじゃそっちの歩調が合わないだろう、と政宗は固辞して走り去った。 ◆ バーサーカーは僅かに得た魔力を元手に彷徨っていた。 途中なにやら放送が入ったようだが、彼にそれを理解することは出来無い。 マスターからの指示もなく、周辺に強者も闘争もない。 暴力を持って蹂躙すべき対象も遠く地平にまで見当たらぬし、 そもそも動くものすら見あたらない。 行動指針を全く奪われた状態と言って、差し支え無い。 だが、バーサーカーは休むことなく歩み続ける。 破壊することしか知らない狂戦士に、敵を求めて彷徨する以外に何ができると言うのか。 何故戦いを求めるのか、と問われれば、 語ることが出来るのならば、彼はこう答えるであろう。 戦士は闘ってこそ、その存在価値を認められる。 ならば闘争を求めて動き続けなければ、彼の存在する意味はないからだ。 瓦礫で覆われた、かつて工業地帯であったエリアを、踏み砕きながら彼は歩く。 ただ彼の日常、戦いを求めて。 ◆ 「馬より断然速いじゃねぇか」 あっという間に豆粒のようになった政宗の姿を見てヴァンは呟く。 「それじゃ、私達も行きましょう」 小十郎の痛々しい遺体に支給品の中から毛布を取り出して被せ、黙祷した後 福路美穂子は平沢唯を後ろに乗せて、そろそろと馬を橋に向かわせる。 単独戦力として完成されている政宗と違い、 福路美穂子もヴァンも多少腕に覚えがあるものの、 この島で戦い、生き残るには多少不安があったのだろう。 悪意のある目標に発見された場合、対処に苦しむ事になりかねない。 目立つ行動を避けるために、馬を全力で走らせることは出来無い。 走りたける馬蹄の音は、想像以上に遠くにまで響く。 ましてや全くの一般人である、平沢唯を連れての行動である。 先程伊達軍の馬が見せた超機動を発揮するわけにも行かない。 あれは改造人間であるヴァンにすら、少々手にあまる暴れ馬だった。 平沢唯を乗せて、あのスピードを出したら、あっという間に振り落とされてしまう。 落馬のダメージは深刻だ。命の危険すらある。 先程のあの凄まじいスピードから落馬した場合、受身すら取れずに五体バラバラになるだろう。 ここに居る男、ヴァンはあの超スピードから振り落とされたにも関わらず、ピンピンしているが。 道中、福路美穂子は自分に起こったこと全てを、平沢唯に伝えていた。 自分は既に死んでいること。 自分がおそらくは"左腕"に宿る悪魔によって復活したこと。 そして、自分の全てを掛けて、平沢唯を護ると決意していること。 第二回放送を聞いての考察を含めて、 いつ自分が活動を停止するか分からない以上、後事を託す意味で。 福路美穂子にとって意外だったのは平沢唯が、 目の前で死んだはずの自分の生存をすんなり受け入れ、 さらに異形の"左腕"に、なんら恐れも不信感も疑問も持たなかったこと。 「やっぱり唯ちゃんはすごいんですね」 福路美穂子はぽろぽろと涙を流しながら、そんな平沢唯をなんの疑問も持たず受け入れた。 ■ ヴァンにとって平沢唯という存在は「うざい」、の一言だった 馴れ馴れしく語りかける、妙な抑揚ととろいリズムで弾き出される言葉。 内容も実に脈絡もなく、取っ散らかっていて訳が分からない。そして実に嬉しそうに話し続ける。 アイスが食べたいだの、暑いだの、馬が可愛いだの、ダンってなに?だの。 (確かいま、殺し合いのゲームの最中だったよな?) 常にTPOをわきまえないヴァンをして、突っ込まざるをえない平沢唯の現状。 福路美穂子は既に慣れているのか、心の底から幸せそうに、にこやかにうんうんと まるで子供をあやす母親のように応対している。 付き合っていられないぜ、とばかりにテンガロンハットを目深に被ると、 ヴァンは平沢唯の話を、とりあえずはスルーすることに決めた。 ■ 「そう言えばわたしたち、結構近いところに居たのね」 「うん、もっと早くに出会えてたらよかったのにね~」 橋を越えて『神様に祈る場所』に向かう途中、未だ平沢唯と福路美穂子は語らっていた。 平沢唯はG-6展示場内に転送され、福路美穂子はその目と鼻の先、F-6にいた。 そして、どちらもヴァンが目指す宇宙開発局エリアだ。 福路美穂子は平沢唯との運命を、そんな些細なところにすら感じていた。 丁度三年前にたった一局、竹井―当時は上埜であったが―久と対局した、 あの時のような運命を、である。 上埜久の事を思うと既に鼓動を停止したはずの心臓が、胸が高鳴るような感覚に陥る。 これを、おそらくは憧れであろうと福路美穂子は思っていたが、 平沢唯のことを思うときも同じような感覚になることに、彼女は違和感を感じていた。 上埜久と平沢唯。 どう考えても似ない両者。なにか共通点があっただろうか。 もしかしたら、それが平沢唯を独占しようとした、先程の暴走につながったのかも知れない。 果たして、と福路美穂子が思考を巡らせていたところで、ヴァンが尋ねてきた。 「お前ら、そこでなんか見なかったか?ヨロイとか」 福路美穂子は展示場内に転送され、F-5駅をひたすら目指して歩いた。 精神的にもギリギリだった彼女に、周りの風景など眼に入るはずも無い。 平沢唯は、といえば展示場内で目に入った全てを語り始め、またもやヴァンをうんざりさせた。 ロケットだの、ひこーきだの、でっかい筒だの、本当に脈絡も無い、要領を得ない話。 果ては悪の秘密基地があった、だの荒唐無稽なことまで言い出した。 (こいつにホイホイ見つかるような秘密基地なんて、あるはずねぇだろ…) ヴァンは少しでも期待した自分が悪かった、と馬の背にだらりと身を任せる。 ただ、福路美穂子はその会話に違和感を感じていた。 「唯ちゃん、展示場には行ってなかったんじゃないの?」 ☆ 福路美穂子はそれまで平沢唯が辿った軌跡について、詳細に聞いている。 その道程に、展示場に立ち寄ったなどと言う事実は無かった。 「え?でもわたし見たよ?ロケットとか。あ、地下におっきい船があってね」 話があっちこっちに行って、またもやワケが分からなくなる。 福路美穂子は平沢唯の中で起きたことに、必死で思考をめぐらす。 行ったことがない場所について、何故平沢唯はコレほどまで詳細に知っているのか。 一方、ヴァンは既に平沢唯の話には興味を失ったようにそっぽを向き、 これから向かうギャンブル船について、おそらくは考えていた。 正確に言うと、そこで景品としてさらし者にされている、ダンについてだろう。 無論、確定情報ではない。 ヴァンの愛機、いやそれ以上の存在であるダン・オブ・サーズデイは、 こちらの情報によれば、いまだギャンブル船の景品リストには無い。 これから追加されるやもしれないが、だが、ヴァンはそのことを知らない。 エレナの形見であり、己の半身であり、命そのものであるダン。 常はサテライトベースにあり、呼ばれればすぐさま駆けつける憎い奴。 その自由を奪われ、事もあろうに売り物にされている、という福路美穂子の冗談交じりの推測は、 ヴァンの復讐者としての血を騒がせるのに十分だった。 エレナ、カギ爪の男、そしてダン。 次々と自分の中の中心を奪われ続けるこの男に、心の平穏は訪れるのか。 それはいまだ闇の中だ。 自分の中の中心を奪われ続けいると言えば、福路美穂子も同様。 池田華菜、竹井久、片倉小十郎、そして彼女はいまだ知らぬがトレーズ・クシュリナーダも。 このゲームにより全てを奪われたといっても差し支えない状況。 だが、ヴァンに比べるとまだマシなのかもしれない。 今は平沢唯が傍らに居るから、だ。 おそらく自らの復活に関与しているであろう平沢唯は、今や福路美穂子の全てだ。 今は船井の提案に従ってエスポワール号を目指してはいるが、 なるべくならば平沢唯の意向通りにしてあげたい。 そう願っていたと思われる。 平沢唯もまた大切な仲間である田井中律、琴吹紬、中野梓を失った。 また、琴吹紬、秋山澪に至っては自らを殺そうとまでしている。 普通の人間ならば人間不信と狂気に襲われていても不思議ではない。 実際、福路美穂子は精神の平衡を失い、ヴァンは復讐のみに心を囚われた。 だが、平沢唯は何故か平然としていた。ただひとつの心残り以外は日常然としていた。 平沢唯自身が言うには、死んだ三人に慰められたから、だそうだが。 そして気絶し、外界からの情報を遮断されていたはずの彼女が、 何故あの事を知っているのか。 さて。 ☆ そろそろ着く頃だと三人がきょろきょろと辺りを見回していると、平沢唯が教会の姿を認めた。 「あ、教会が見えた。あれが"神様に祈る場所"だよ、みほみほ」 途中何度も後ろから固く抱きしめられて、赤面しっぱなしの福路美穂子は、 平沢唯の言葉に、はっと我を取り戻した。 「そうね、きっとあれがそうだわ。…?」 平沢唯の言い回しに若干の違和感を感じつつ、福路美穂子は教会に向けて進路を取った。 その時。 三人の耳に程遠くから流れるライブ音が響いた。 ■ 三人は馬の歩みを止め、 福路美穂子はキョロキョロと辺りを見回し、 ヴァンはテンガロンハットを深く被り直し、 平沢唯はある一点を見つめる。 目を閉ざし、耳を澄まし、音源に集中する。 平沢唯はやがてポツリと「澪ちゃん…」と呟く。 「え、澪って秋山澪なの、唯ちゃん?」 黒髪ロングのスゴク綺麗な子で、スタイルもよくて気っ風が良くて人気者で、 左利きで専用ベースが滅多に売ってなくて文句を言って、 怖がりで恥ずかしがり屋で強情っ張りで真っ直ぐで、 ベースが凄く上手くて歌がとてもキレイで。 音楽がとても好きで、部のみんなをとても好きな、田井中律の無二の親友。 それが平沢唯の語る、秋山澪。 平沢唯の向く方向と地図とコンパスを見合わせる。 「そっちの方角って…闘技場?まさか、まだそこに明智光秀がいるというの?!」 福路美穂子は平沢唯を連れて逃走する際、秋山澪を闘技場控え室に残していった。 それが心残りで、伊達政宗に秋山澪をお願いしますとは言った。 だが伊達政宗の憶測では、 平沢唯・福路美穂子の両名が闘技場から脱出してから既に二時間以上経っている為、 明智光秀・秋山澪の二人が闘技場に残っている可能性は低いはずではなかったのか。 ■ 「伊達政宗、だったか。遂にぶつかっちまったって事だな」 その声に福路美穂子はヴァンの方を振り向く。 「知っていたんですか?!」 「知ってて送り出したんじゃなかったのかよ?!」 エ…、と福路美穂子が一瞬固まったのを見て、めんどくせぇな、と溜息をついてヴァンは続ける。 「あいつがこれからピクニック行くような様子に見えたか? あからさまに腹決めた男の顔だっただろうが。 それにアッチの方から絶えず漂ってくる、隠そうともしないアブねェ気配。 あいつは口じゃああは言っていたが、お前らに『来るな』って訴えていただろ」 短慮を責められたことで冷静さを失っていたのか、 福路美穂子は常なら察していたであろう伊達政宗の機微を、見失っていた。 付いてくるな、という意思表示は、ヴァンが来る前に既に為されていた。 そして福路美穂子が闘技場へ単独で攻め込むという案に対して、 それを辞めさせる為に、わざわざ嘘をついたというわけだ。 「伊達さんは、わたしを完全に足手まといとしてしか認識してなかった、ということですね」 "左腕"を得ても、結局は片倉小十郎を見殺しにせざるを得なかったあの時と、全く変わらない。 そう福路美穂子が自嘲すると、ヴァンはその背中で耳を澄ます平沢唯を向いて言う。 「守る者がすぐ傍にいるって言う奴を、連れて行きたくなかったんだろ。 お前の補助に、わざわざ俺をお目付け役だかなんだかに付けてまでな」 ヴァンが二人について来たのは、エスポワールに向かうためも勿論あるが、 伊達政宗の意図を汲んだ為でもある。 でなければ、さっさと一人で船に向かっていただろう。 伊達政宗ほどではないが、彼もまた一人で完結した戦士だ。 単独行動はむしろお手の物だろう。 問題は方向感覚が極端にないと言う点だが、 これは彼自身が自覚してないことなので、ここでは関係ない。 だとするならば、伊達政宗の意志を汲んでこのままエスポワールを目指すべきなのか。 福路美穂子がそう決断しかけたとき、それまで一心不乱に耳を澄ましていた平沢唯が口を開いた。 「闘技場に行こう!ヴァンさん、みほみほ!」 ◆ かつて手にした斧を拾い上げたバーサーカーは同時に遂に闘争の芳香を嗅ぎつけた。 二箇所。 左か右か。 どちらも自分の相手としては申し分ないほどの強さを秘めた人間たち。 だがバーサーカーは左を選んだ。 理由は明白。 より近いから、である。 戦いを求めて彷徨し続けた狂戦士は、喜びの咆哮も僅かに、北へ、北へと歩を進める。 嗅ぎつけた獲物を逃さぬよう、音を殺してそろりそろりと。 ◇ 白髪の人が、澪ちゃんがりっちゃんを殺したって言って、 わたしは信じられなくて澪ちゃんに聞いて。 頭がこんがらがって、気がついたらわたしは倒れて意識を失っていた。 あぁこのまま死んじゃうのかなぁって思った。 だって意識を失っているわたしに、澪ちゃんが変な銃を向けているんだもん。 ちっちゃい針がわたしに向かって飛んできたけど、身体が動かない。 なんで?なんでムギちゃんも澪ちゃんも、わたしを殺そうとするの? もうその後は光で全部見えなくなっていた。 ■ 気が付くとわたしは緑色の光で満ちた、なんかパルテノン神殿みたいな場所に居た。 そこには14人と11人が集まっていて。 わたしを見つけると、みんな驚いた顔をして、寄ってきた。 その中にはあずにゃんもりっちゃんもムギちゃんも居た。 あ、それと船井さんも。 あれ、そうか。わたしあのまま死んじゃったんだ。 そう思っていたら、ムギちゃんが 「違うよ、福路さんが助けてくれたから、唯ちゃんは生きてるよ」 って言ってくれた。 「澪がわたし達を殺すはずないだろ」 りっちゃんが言う。いつも通りの頼りになる笑顔で。 「そっか。じゃあみんな死んで無かったんだね!」 っていうとりっちゃんもムギちゃんもあずにゃんも、他のみんなも下を向いちゃった。 あれ? ■ りっちゃんが説明したところによると、みんなが死んでいるのは確かなことなんだって。 じゃあなんでわたしはここにいるのって聞くと、りっちゃんも分からないみたい。 ムギちゃんが、殺そうとしてゴメンねって、 澪ちゃんもわたしを殺そうとしていたけど許してあげてね、って言ってる。 そんな、言われなくてもわたしたち友達だもん。 なにかの間違いだって分かってるよって言うと、ムギちゃんも、りっちゃんも、あずにゃんも泣いちゃった。 泣いてるけど、みんな笑ってるから、んー、大丈夫かな? そしたらみんなが、けいおん部のみんなだけじゃなくて、みんながわたしに話しかけてきた。 みんな一斉に話すもんだから聞きとるのが大変だったけど、 わたしも一生懸命全部聞き取ったよ。 聞いた内容を地図に書き込んだら、地図が真っ黒になっちゃった。 その黒がわたしを取り込んで行く。黒いのになんか妙に明るい。 あれ、もう帰る時なんだ。みんなが悲しそうな顔をしている。 あずにゃんが「伊達さんにありがとうって言っておいて下さい」って言ってる。 「綺麗な宝石と着物をありがとうって伝えて下さい」って言ってる。 わたしは片手を上げて「大丈夫だよ、伝えるよ」って言うとあずにゃんはとっても嬉しそうだった。 わたしも嬉しかった。 ■ 目が覚めて、伊達さんにあずにゃんの伝言を伝えると伊達さんはビックリした顔をしていた。 あれ?なんでわたしこの人が伊達さんだって知ってるんだろ。 あぁそうだ、みんなから聞いたんだっけ。 あ、みほみほだ。左腕がお猿さんになってる。みんなから聞いた通りだ。 わたしを助けるために、死んでたのに生き返ったんだよね。ありがとう、みほみほ。 そうだ、りっちゃんが、 「唯はワガママ言ったら駄目だぞ。そこにいる人達はみんな、唯のために頑張ってるんだからな」 って言ってたから、みんなが心配しそうなことは言わないでおこう。 みんなから一杯聞いて一杯知ったけど、わたしじゃそれをどうしたらいいか分からないし、 そもそもそれがどういう意味を持つのか分からない。 全部みほみほやヴァンさんに伝えた方がいいのかも知れないけど、 さっき伊達さんに、あずにゃんからの伝言をなんで知っているのかって言われたときに説明したら、 みんなちんぷんかんぷんだって顔してたし、どう伝えたらいいのか分からない。 ● それに覚えた事だって、ずっと覚えているわけじゃないみたいだ。 それが分かったのは教会に着く、ちょっと前。 森の中の小さい小屋を見た時だった。 そしたらなんか、見えないものが見えた。 わたしと同じくらいの身長で、可愛くて優しそうで可愛い子。 あれは忘れもしない。 ういだ! ういー、って言って手を振ろうとしたけど、 あれが幻だってことは、さっきみんなに教えて貰ったんだった。 良く分からないけど、ちょっとした拍子で記憶が表に出てくるんだって。 写真を見たときに、その時のことを思い出す感じみたい。 小屋の中にわたしと同い年くらいの女の子と一緒に入って、 その子はういを後ろから鉄砲でバン!って撃った。 でもういは死ななくて。 駄目だよ、うい。 そんな事しないで。 ういは優しくて可愛くて、胸がわたしより大きくて、気が利いて、 ちょっと練習しただけでギター覚えちゃう凄い子なのに、 殺されそうになったから、ちょっと気が立っただけでしょ? そんな黒いナイフなんて持たないで。 怖い顔しないで。 平沢憂はナイフで池田華菜の腹部を刺し、殺した。 その子は口から血を吐き出しながら、ういを恨めしそうに見つめる。 その子の走馬灯が見える。全部みほみほとの思い出だ。 ● ごめんなさい、みほみほ。 ういが、わたしの妹があなたの大事な人を殺しました。 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。 わたしはぎゅっ、と前にいるみほみほの身体を抱きしめた。 みほみほに謝らなくちゃ。 でもどうやってこんな事伝えればいいんだろう。 わからないよ。 みんなにどうしたらいいのか教えて欲しかったけど、それももう駄目みたいで。 わたしはみほみほの背中に顔を押し付けて、ごめんなさいって言うしか出来なかった。 みほみほはわたしをすっごく心配して、すっごく無理をしているというのに、 わたしはみほみほに心配だけ一杯させて、しかもういがみほみほの大切な人を殺しちゃって。 どうしよう。どうしたらいいんだろう。どうすればよかったんだろう。 どうしたらいいの、みんな。 そう思って辺りを見回す。 すると、教会が見えた。 わたしは気を取り直して、教会を指さし、あそこが神様に祈る場所だよって教える。 そうするとまた幻が見える。 ● 教会にはりっちゃんがいて、他にも二人、男の人と、綺麗な人がいて。 そこに澪ちゃんと白髪の人が入ってきた。 白髪の人はふらふら歩くと、あっさりと綺麗な人と男の人を殺して。 りっちゃんは一杯抵抗していたけど足を斬られて。 首を斬られた。 ● もうイヤだ。 我慢するのはもうイヤだ。 なにも知らないのに、みんなが死ぬのが、もう我慢出来ない。 みんなに迷惑を一杯かけちゃうかも知れない。 でももうこんなのは我慢出来ない。我慢出来ないよ、りっちゃん。 ■ そんな時、遠くから歌声が聞こえてきた。 もう、一声聞いただけで分かる。 綺麗な長音と発音と、凄くうまいベースと相まってすごくうまい。 こんなの聞き間違いようがない。 澪ちゃんだ。 澪ちゃんが凄く悲しい気持ちで歌っている。弾いている。 もうどうにも止まれなかった。 澪ちゃんを助けたい。 そこにいるって分かっているのに、我慢するなんて出来るはずがない。 だからわたしはこう言うんだ。 「闘技場に行こう!ヴァンさん、みほみほ!」 ◇ 平沢唯の真剣なまなざしと口調に、福路美穂子はあっさりと翻意した。 元々平沢唯の意志を尊重すると決めていた彼女にとって、 この真っ直ぐな意志は非常に喜ばしいものだった。 まるで初めて立ち上がった我が子を見るような眩しい目つきで、 福路美穂子は平沢唯に微笑みかけながら「行きましょう!」と息巻いた。 「俺は反対だ」 ヴァンはそう告げた。 「それじゃあいつの意志を無にしちまうだろ。 俺はその為にお前らにわざわざついて来てんだ。 だから、そっちに行くってなら、俺は外させてもらう」 福路美穂子も平沢唯も、それは覚悟の上だった。 平沢唯に至っては一人でも闘技場に行く腹積もりだった。 だからヴァンを引き止めることはしなかった。 「じゃあお別れですね」「ヴァンさんバイバイ」 そう言って二人は西、つまり橋に向かう。 ヴァンも背中を向けて立ち去るつもりだった。 でも少しは引き止めてもらうつもりだった。 (おいおい、お目付け役だぜ、俺。 その俺が別れるって言ってるんだから、もう少しは引き止めてくれたっていいだろ? なんであっさりバイバイとか言ってるんだよ、お前ら!) ヴァンは、なんかイライラしてきていた。 (そもそも南っていうやつは俺が最初に行きたかった方向じゃなかったのか?! なんで俺はわざわざあいつらと別れてまで北って奴に行こうとしてんだよ?! ああああああああああああああああああああああ!!チックショオオオオオオオオ!!) 「おい、お前ら!さっさと南行くぞ、南!」 そういうとヴァンは180度回頭して、真っ直ぐ南を目指す。 控えめに言って疾風のように。見た目ズッパリ言えば単なる暴走。 「ヴぁ、ヴァンさん?!そっちは危険だって、さっき言ったばかりです!」 真っ直ぐ南に向かえば、そこは政庁。 第二回放送を聞いた福路美穂子が、まず近づいては危ないと判断した、 立ち入り禁止エリアと河で挟まれた危険地帯。 それ故、福路美穂子は来た道を引き返して橋を渡り、それから南下するつもりだった。 それが一人のバカの暴走で、おジャンである。 福路美穂子は仕方なく南に進路を取り、何とかヴァンに追いついた。 もう隠密しながらの移動もなにも無くなった。 ドドドドドドと馬蹄の音が辺りを震わせる。 「なんで真っ直ぐ南に行ってるんですか?!」 「だって俺が行きたかった宇宙開発局への通り道だろうが! それにギャンブル船を通る通り道だろうが、こっちは!」 福路美穂子はなんの冗談だろうと首をかしげ、あるバカバカしい仮定に行き着いた。 「まさか地図の下と上がつながってるとか思ったんですか?」 「あぁ?!違うのか?」 「あ、わたし知ってるよ!TRPGの地図とかそういう風になってるよね!」 そんな感じで二つの騎影と三人は一路南を目指す。 その先でなにが待ち受けるているのか、まだ三人は知らない。 【D-5西部川沿い/一日目/午後】 【福路美穂子@咲-Saki-】 [状態]:前向きな狂気、恐怖心の欠如、健康だが心音停止 [服装]:血まみれの黒の騎士団の服@コードギアス、穿いてない [装備]:レイニーデビル(左腕)、大包平@現実 [道具]:支給品一式、童子切安綱@現実、燭台切光忠@現実、中務正宗@現実、雷切@現実、和泉守兼定@現実 [思考] 基本:唯ちゃんを守る 0:闘技場を目指す 1:唯ちゃんの意志を尊重というか優先というか、それを大前提として行動する。 2:主催者を殺す。ゲームに乗った人間も殺す。 3:ひとまず魔法と主催の影を追う。この左腕についても調べたい 4:力を持たない者たちを無事に元の世界に返す方法を探す 5:対主催の同志を集める。その際、信頼できる人物に政宗から受け取った刀を渡す 6:阿良々木暦ともし会ったらどうしようかしら? 7:張五飛と会ったらトレーズからの挨拶を伝える 8:トレーズと再会したら、その部下となる? ?:唯ちゃんを独占したい。 [備考] 登場時期は最終回の合宿の後。 ※ライダーの名前は知りません。 ※トレーズがゼロの仮面を持っている事は知っていますが ゼロの存在とその放送については知りません ※名簿のカタカナ表記名前のみ記載または不可解な名前の参加者を警戒しています ※浅上藤乃の外見情報を得ました ※自分が死亡もしくはそれに準ずる状態だと認識しました ※織田信長の外見情報を得ました ※レイニーデビルを神聖なものではなく、異常なものだと認識しました。 【黒の騎士団の服@コードギアス】 黒の騎士団発足時に井上が着ていたコスチューム 超ミニスカ 【ヴァン@ガン×ソード】 [状態]:健康、ダンを奪われた怒り [服装]:黒のタキシード、テンガロンハット [装備]:ヴァンの蛮刀@ガン×ソード [道具]:基本支給品一式、調味料×大量、徳用弁当×6、1L入り紙パック牛乳×5、伊達軍の馬 [思考] 基本:ダンを取り戻す 0:宇宙開発局に行くついでで、こいつらと一緒に闘技場に行く。 1:その後また宇宙開発局を目指す。 2:その後ギャンブル船に行く。 3:機械に詳しい奴を探す 4:向かってくる相手は倒す 5:上条当麻を探して殴る 6:主催とやらは気にくわない [備考] ※26話「タキシードは明日に舞う」にてカギ爪の男を殺害し、皆と別れた後より参戦。 ※ヴァンは現時点では出会った女性の名前を誰一人として覚えていません。 ※死者が蘇生している可能性があることを確認しましたが、結論は保留にしました。 ※エスポワール号が闘技場と宇宙開発局の延長線上にあると思い込んでいます。 ☆ 積み重なる膨大なる資料と映像に埋もれながら、私は美麗なる顎をつかみながら思案する。 「平沢唯。やはり繋がっていたか」 アカシックレコード。 過去から未来に到るまでの全てを収めた記憶装置。 この世の全てを手にいれることが出来ると言われる存在。 遥かに矮小ではあるが、平沢唯はそれを手に入れた。 記憶装置に封じられた対象はおそらく、この島に存在する全参加者。 もっと言ってしまえばダミーでない首輪を身につけた、この島にいる全参加者といえばいいのか。 平沢唯の会話を分析した結果、死者に関する情報に関しては ひときわ色濃く彼女自身の中に封じ込められていると見られる。 一時はトランザムバーストなる現象により、 周囲の人間全ての深層心理に到るまで把握したのかと思った。 だが、どうやらそれだけに留まらない彼女の知識範囲に、 私は第二回放送直後からずっと、彼女と、その周辺に起きた出来事に取り掛かっていた。 そして導き出された答え。 それが《アーカーシャの剣》、アカシックレコードである。 「まさか神根島に、このようなオカルティズムの極致が隠されていたとは… いやはや、やはりどんな秀逸なフィクションも、現実には勝てないな」 膨大なる記憶媒体が積まれた資料室。 ここには呼び出された参加者の、全ての世界のすべての資料が山と積まれている。 それらの資料をひっくり返して得られた結論が、まさか自分の世界由来の装置とは思わなかった。 ヒトの脳は、想像もつかない事柄を、持ち主に理解させやすい形に変えて伝達させる。 卑小な例だが、ガンダムを見たものがそれを「KMFのようなものか」と判断する、そのようなものだ。 平沢唯は眠りの最中、トランザムバーストにより作動した思考エレベータに接続し、 生も死も関係なく、この島の参加者の思考に干渉することによって膨大な情報を手に入れた。 それを彼女の脳は、死者との対話という形で彼女に理解させたわけだ。 「もしくは本当に、死者達を閉じ込めた空間があるのかも知れないな」 戯れ言だな。私は自分で言ったおとぎ話を、鼻で笑って否定した。 死んだ人間が、何かを語ることなどあろうはずがない。 Cの世界?そんなものはまやかしだ。ラグナレクの接続?狂人の考えだ。 我が皇帝陛下も立派に人の子。子供騙しじみた妄想に振り回された哀れな道化に過ぎなかった。 それにしても疑問なのは、アカシックレコードにこの島の記憶しかなかったことだ。 それがアカシックレコードであるのならば、この世界のすべての記憶が存在して然るべきだ。 ならばこの世界は、このゲームのために生み出されたのだとでも言うのだろうか。 部屋に山と積まれた資料群を見る。ゲームが始まって以降の記録が、ここには残されている。 おそらくはゲームが終了するまでここに蓄積されて行く記録。 つまり創世と黙示の物語がここに綴られるわけだ。 ―まるで一個の魔道書だな。 そう想いを馳せて、平沢唯も一つの魔道書と化したのではないかと想像した。 インデックスという少女は103000冊の魔道書を内封しているらしい。 ならば魔道書一冊をその身に刻まれた少女が居たところで、別におかしい話ではあるまい。 「もうしばらく調べる必要がありそうだな」 さて、この調査結果をどうするべきか。しばらく考えて、これは私の胸の内に秘めておくことにした。 どうせ平沢唯では、この膨大なる記憶情報をどうにか出来るわけもあるまい。 全てを知りながら、それを活用する術を知らない。 いわば『全知無能』、それが彼女だ。エピメテウスと言ってもいいかも知れないな。 もし神のごとき知略の持ち主が平沢唯を手に入れたら…まぁ考えたところで仕方ないだろう。 なにしろ、暴虐の嵐そのものが彼女に迫っているのだから。 全ては無為なのだ。私ディートハルト・リートの為すことも含めて全て。 ☆ 【平沢唯@けいおん!】 [状態]:健康 [服装]:桜が丘高校女子制服(夏服) [装備]: [道具]:武田軍の馬@戦国BASARA [思考] 基本:みんなでこの殺し合いから生還! 0:澪ちゃん待ってて。今行くから! 1:誰かが知らない所で死んだりするのは、もう我慢出来ないよ! 2:憂、なんであんなことしたの…? 3:みんなから聞いた話、だれかに伝えられたらいいなぁ…… 4:魔法かあ……アイスとかいっぱい出せたらいいよね…… [備考] ※東横桃子には気付いていません。 ※ルルーシュとの会話の内容や思考は後の書き手さんにお任せ ※浅上藤乃と眼帯の女(ライダー)の外見情報を得ました ※第二回放送までに命を落とした参加者(死亡前に消滅したアーニャを除く)の記憶を得ました。 ※第二回放送までに島で起きたほぼ全ての事象を、知識として得ました。 ※上記二つに関しては知識としてのみ蓄積されている為、都合よく思い出せない可能性があります ◆ そろりそろりと近づくバーサーカーの耳に歌が聞こえる。 これは戦賦(いくさうた)。 古代において英雄の戦いを綴った、吟遊詩人たちの歌。 誇り高き戦士たちを鼓舞する、戦いの歌。 はるか古代の栄光を、凱旋する自らを讃える戦賦。 硝煙と爆音。 憎悪と闘争心。 戦賦と栄光。 それらすべての坩堝たる円形闘技場。 ここが次の戦場か。 吟遊詩人に戦賦をもって迎え入れられる光栄を、 狂気に縛られたこの身が受けられるとは。 目前に迫った戦いと光栄にバーサーカーは身を震わせ、 またそろそろと誇りと興奮をもって歩を進める。 決戦の時は、近い。 【E-4北部/一日目/午後】 【バーサーカー@Fate/stay night】 [状態]:魔力消費(中)、狂化 [服装]:全裸 [装備]:長曾我部元親の碇槍@戦国BASARA、武田信玄の軍配斧@戦国BASARA [道具]:無し [思考] 基本:イリヤ(少なくとも参加者にはいない)を守る。 0:闘技場に向かう 1:立ち塞がる全ての障害を打ち倒し、その力を示す。 2:キャスターを捜索し、陣地を整えられる前に撃滅する。 [備考] ※“十二の試練(ゴッド・ハンド)”Verアニ3は使い切りました。以降は蘇生不可能です。 ・無効化できるのは一度バーサーカーを殺した攻撃の2回目以降のみ。 現在無効リスト:対ナイトメア戦闘用大型ランス、干将・莫耶オーバーエッジ、偽・螺旋剣(カラドボルグ)、Unlimited Brade Works おもちゃの兵隊、ドラグノフ、大質量の物体、一定以下の威力の刃物、GN粒子を用いた攻撃、輻射波動、ゲフィオンディスターバー ※狂化について 非戦闘時に限り、ある程度の思考能力を有します。 時系列順で読む Back 言葉という無限の刃(後編) Next のどかデジタル 投下順で読む Back 言葉という無限の刃(後編) Next のどかデジタル 181 贈る言葉 平沢唯 208 六爪流(前編) 181 贈る言葉 福路美穂子 208 六爪流(前編) 181 贈る言葉 ヴァン 208 六爪流(前編) 181 贈る言葉 伊達軍の馬 208 六爪流(前編) 162 新たなる旅立ち バーサーカー 208 六爪流(前編) 153 切り札(後編) ディートハルト・リート 228 主催にさえなれば俺だってラスボスになりますよ猿渡さん!
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◆ ◆ 悪意が蛆虫のように、ぐちゃぐちゃと蠢いている。 端正な顔立ちを邪悪な笑顔に歪めて、三日月を象った口元から心を壊す声が放たれる。 意思を曲げて、意思を食い散らかして。 悪人から善人へ変わろうとして、しかし少女の懐いた僅かな希望が叶うことはない。 二人の邪悪が、少女を見てにやにやと笑う。 ――そこにあるのはやはり底知れぬ悪意。 誰かの胤から生まれたことが信じられないような外道が、少女の希望を、思い出をごりごりと削る。 最高の親友の名前すら思い出せないまま、今度は完全にその記憶を抹消される。 唯一無二の友人の面影は記憶の彼方に消え失せた。 思い出そうとしてもノイズが走り、記憶の引き出しを見つけることも「悪意」は許してはくれない。 ただ一人、真の意味で親友と呼べた幼い面影。 それが、水面に溶けるように消えていく。 じくじくと蝕んでくる悪意が、"彼女"を少女の中から少しずつ消していく。 崩壊。 そう呼ぶに相応しい暴力が、小さな少女の中で繰り広げられていた。 彼女は、決して最初から悪人になろうとしていた訳ではない。 飲み物を啜りながら、下品な笑い声をあげている二人の邪悪に―――行き逢ってしまった。 それが少女の運命を大きく変えてしまった。 あんなに愉しそうに笑えるなんて、どんなに面白いことなのだろう。 たとえ世界が認めなくとも、そこに居た彼らの味わう娯楽を自分もまた、賞味してみたいと。 思ってしまったことは、彼女にとって失敗だとか以前に必然だったのだ。 そうして、彼らは少女にありったけの邪悪を叩き込んだ。 生命の虐め方から悪人ならどうあるべきか、悪人の極意と呼べるものを教授された。 異常な吸収力でそれを学び取り、彼女はいざ実行に移した。 最初に出会った四字熟語の少年との邂逅が、彼女の転機だった。 ストッパーを崩壊ギリギリまで弄られていた彼女は、知ってしまった。 悪人にとっては手放すべき悪徳、大切なひとの存在を。 たとえ思い出せなくとも、殺したくないと彼女は思った。 悪人の道を貫き通すならば、大切なものを全て切り捨てるより他に道はない。 しかし――その点においては、少女はまだ半人前もいいところだった。 自分を悪事を働くことだけに特化した極悪非道の外道に、染まりきれてはいなかった。 悪徳の才能保持者と邪悪を生きる四字熟語とは違い、彼女はあまりに早熟過ぎたのだから。 並外れた吸収力――白崎ミュートンをして感嘆せざるを得ないまでの、まさに最高の逸材。 自身の興味に忠実になれば、どこまでも堕ちられる異端児。 それを「利点」と取るか「呪い」と取るかは、解釈が分かれることだろう。 悪人に魅せられ、その涜心を学んだ、間違えてしまった少女(アリス)。 彼女を待つのは不思議の国ではなかった。ただの、現実だった。 そして更に始末の悪いことに、彼女は出会ってはいけない存在と出会ってしまう。 それはまさに少女の対極。善人になりたい一匹の狼が、現れた。 狼は彼女に語った。上手な言葉ではなくとも、それは少女にしっかりと影響を与えた。 狼もまた知らなかった。 悪人を目指す少女をここまで堕とした巨悪は、良いことをするなんて甘さを見逃す筈がないと。 果たしてその在り方を貫いていればどうなっていたのか、今となっては知る術もない。 善人になることにどういった楽しさがあったとしても、全てはもう手遅れだった。 少女らしい、幼い心が導き出した善意を向ける相手を致命的に誤り――そして、正義は滅びる。 漸く導かれた善人への道は二人の悪人によって閉ざされ、心を悪意の蛆虫で蹂躙され、一小学生に過ぎない彼女では、どう足掻こうと悪意の侵食に抗うことは不可能だった。 蠢く怪異(ワンダートリック)――人の気持ちや決意を簡単に掻き乱し、その気になれば人間そのものを壊してしまえるだけの"才能"が、彼女をじわじわと食らってゆく。 振り払うことの出来ない呪いを、男は笑顔で放ち続ける。 だから彼女はここで一度死ぬ。「善人になりたい」理想を懐いた彼女は死に、新たに生まれ変わる。 良いことなど何一つ出来ないまま、再び悪人を目指す。 せめてあとほんの少しでも白崎ミュートンという男に善意が残っていたなら、また事態は違ったろう。 稚拙な理想論であろうと、必死になって諦めずに説明して説得すれば、もしかしたなら見逃してもらえる可能性は微少とはいえ存在しただろう。 しかし、白崎ミュートンにはそんなものはなかった。 生まれながらの魔性として生を受け、一切自らの在り方に苦悩すること生きてきた、生粋の極悪人。 深海の闇をどれだけの蝋燭で照らそうとしても――蝋燭の光が届く前に、火が灯らない。 常に誰かを踏みにじり、その情熱を悪行にばかり傾けてきた悪意の権化。 才能を保管する隔離施設に追いやられても一切病むことのなかった純粋の外道。 白崎は、彼女が一生懸命に説いた善人理論を眉ひとつ動かさずに全否定し、あわゆくば論破した。 ただの少女にも容赦なく、悪人らしく弱い者虐めをしてみせた。 彼に言葉は、断片すら届いてはくれなかった。 どうしてこんなことになったのだろうか。 この悪しき暴君に才能を与えた天上の神は一体、どういう了見なのか。 結局少女は、一度死ぬその時まで白崎ミュートンという男を理解することが出来なかった。 ―――そして、悪意は遂に少女の中枢へと辿り着く。 無意味な躊躇は無用だ、お前はとっくに壊れていると、何かの声が響く。 終わってしまえ、そして悪に塗れた愉しい夢を見ようと、何かの声が誘う。 その声に返答することは許されず、ただ従うことしか彼女には許されない。 あれほど大切だった"××××"が一体どんな愛称だったのか、わからない。 自分がどうして善人になりたいなんてつまらないことを言っていたのかまるでわからない。 悪人こそが人間の真髄である。 悪人は顧みない。己の欲求を忠実に満たしていけば良い、娯楽に満ちている。 他人の不幸は蜜の味。 他人の涙は芳醇な甘味を称えた炭酸ジュース。 他人の慟哭は音楽家の奏でる子守唄。 他人の鮮血はこの世で最も美味な液体。 悪人は素晴らしい。 己の最高の友の存在そのものを忘却し、善への興味は全て虫けら同然にまで成り下がった。 悪いことをどんどんしよう。 希望の光をかつて爛々と称えていた少女の瞳は、またも邪悪の色に染まっていた。 にやり、と笑って彼女に悪意を送り続けていた白崎は問う。 「夢を見てたみたいじゃねえか。どうだった、良い夢だったか?」 そうだ、と少女は自分の見ていた「夢」を思い出す。 自分が善人になりたいなんてとち狂ったことを宣って、悪人になるのを止めようとした「夢」。 可愛らしい面貌が、深い溜め息を吐き出す。 心底落胆した様子で、信じられないという風に少女は答えた。 「さいっあくの夢だった。ったく、ねざめが悪いよ」 カカカ、と四字熟語、酒々楽々は笑う。 白崎ミュートンもまた、楽しそうにその口元を歪めてみせた。 その姿を見て少女は思う。 やはり悪人は愉しいんだ、良いことをしようなんて思っていたあたしがばかだった―――。 自身の身に手を加えたのは目の前の男だと露知らずに、彼女は天使のように笑った。 「やっぱし、悪人はさいこーだな」 まったくだ、その通りだ、と二人の悪人が同意する。 芽生えた小さな善意は消えた。 残ったのは―――ひたすらに淀んだ、穢れきった悪意のみだった。 ◆ ◆ 時を同じくして、デパートに入店した一人の人物があった。 顔つきは精悍だが、纏っている雰囲気がまず普通の人間とは乖離している。 だがそんな違和感がどこか彼方に吹き飛んでしまいそうなほど、彼の見た目は異様だったろう。 正確にはその手が握っている、まともな人間なら絶対に無視できない明らかな異物だ。 それは、誰かの腕だった。 一人の狂乱した青年の屍から切り取った腕――それに宿る力は、あまりにも危険過ぎるもの。 人間の意思を反転させる原理不明のルール能力を、本人が死んだ今もそれは宿し続けている。 一言で呼び表すなら「心機一転」。 胸元に腕が触れた相手を強制的に「心機一転」させ、まったく正反対の人間性を植え付ける。 このバトルロワイアルでも既にいくつかの波乱を引き起こしている、狂乱の引き金となった力だ。 今こうしてこの腕を持ち歩いている彼もまた――その力によって、反転している。 「でけえ建物だな……ま、こんだけでかけりゃ、誰かしら居るだろうよ」 アブノーマル過ぎる光景だったが、この男、大崎年光は殺し合いに乗っている。 心機一転のルール能力によってスタンスを反転させられ、今はこうして獲物を探して徘徊中だ。 これまでに殺したのは自らを反転させた張本人、心機一転。 えげつない殺し方だったと、彼はしっかり自覚している。 だが反省しているかといえば、断じて否。 ここがバトルロワイアルである以上殺し合いに乗ることは正義だと、反転した大崎は思っていた。 死人の腕をもいで利用するなんて鬼畜の所業にも、抵抗は大してなかった。 だってこうするのが、この場では正しいのだから。 正しいことをするのは、褒められるべきでこそあれど貶される道理はない。 故にこれは悪いことじゃない。 反転したことで立派な殺人鬼の思考回路となった大崎は、デパートに入ると周囲をぐるぐる見回す。 他の参加者を捜すという当然の理由もあるが、その他に良さげな物は回収しておこうと思ったからだ。 大崎は銃を支給されていて、他の参加者にアドバンテージを持てている。 が、俗に言う日常品でも使えそうなものはあるだろう。 そういった物を収集する目的もあって、大崎はこのデパートを訪れた。 「おっと、腕はとりあえずしまっとくか」 もしもいきなり参加者とばったり、なんてことになった時のために持っていた腕をしまう。 代わりに取り出したのは銃。 獲物になりそうな奴を見つけたら射殺していくか、厄介そうな相手なら「心機一転」の腕を使う。 人畜無害になった殺人者の無防備な隙を突いて、銃弾を叩き込むという寸法だ。 実験は済んでいる――死体のものであっても、効果があることはとある警察官で実践していた。 つくづく便利なものを手に入れたもんだな、と大崎は野獣のような笑顔を浮かべる。 銃を構えたまま、しかし周囲には用心しながら彼はエレベーターに乗り込んだ。 こうして、デパートにまた一人悪人が増えた。 ◆ ◆ バトルロワイアル開始から数時間が経つが、俺はどうやら相当のツキに恵まれているようだ。 俺こと白崎ミュートンの才能がいくら強力であるとはいえ、所詮言葉でしかない。 手で耳を塞ぐくらいなら貫通できても、さすがに耳栓なんかをつけられたら無力ってもんだからな。 そんな俺が、酒々楽々とコンビを組むことが出来たのは実に幸運だ。 こいつの説明によれば《酒の霧》の他にも落下を操る能力だったか、そんなものがあるらしい。 単純なようにも見えるがアルコールの霧ってのがどれほどのものかは既にこの目で見ている。 我が悪人同盟の戦闘担当はこいつになるだろうなァ。 こいつが行動できなくした奴を俺が「蠢く怪異」で壊す。 トラウマのある奴なら掘り返す。 強さを誇りに思う奴ならその認識を徹底的にへし折る。 善人ならさっきあいつにやったように、己の行動の無意味さを教え込む。 悪人でも俺達に牙を剥くようなら――まあ、どうしようかね。 俺が認めるような悪人だったら殺されても本望だよ。 俺は無様に長生きするより、華々しく散れた方がよっぽど美しいと思うからね。 そして俺が幸運だという話に戻るが、もうひとつ理由がある。 それがこのガキ、愛崎一美だ。 これの利点は異常ともいえるその性質だが、まあ欠点はさっきの一件で明らかになった。 どうもこいつは周りに影響されやす過ぎるきらいがあるらしい……予想外だ。 随分飲み込みの早いガキだとは思ったけどな……そういう訳ありだったとは。やっぱりこの世の中、そんなに上手い話は転がってないってことか。勉強になったぜ。 この歳になってもこうして学ばされることがあるから人生ってのは面白い。 ネットのコピペでも人生は神ゲーだとか見たことがあるが、的を射ていると俺は思うよ。 なかなかどうして飽きない。 この人生っていう巨大なオンラインゲームを作ってる神様も、随分と趣味の悪いお人だ。 俺達がこうしている間にも世界中どこかで、名前も知らないプレイヤーがゲームオーバーになる。 酷い終わりを迎えるプレイヤーもかなり居るだろうよ。 極めつけにこんなバトルロワイアルなんてもんを作るたぁ、流石の俺も呆れ果てる。 いや、感嘆するの間違いかね。 でも調子に乗ってくれたお礼はするつもりだから、このゲームは潰させて貰うけどな。 「しかしよ、白崎」 ひそひそと、酒々楽々が俺に話しかけてくる。 酒臭いのであまり密着して喋りたいとは思えないが、声を潜めるってことはあいつ関係か。 愛崎一美。俺達が期待を寄せるいわば実験体のような存在。 面倒なことも明らかになったことだし、酒々楽々が案じるのも頷ける話だ。 正直な話、俺もこいつの可能性には末恐ろしいものを感じている。 もしも一美が俺達くらいの歳だったら、歴史に残る悪人になっていても何もおかしくないだろう。 それだけの逸材なだけあって、取り扱いには細心の注意が必要となる。 「あれ、やっぱりやべえぞ。ガキだからまだいいが、そうじゃなかったら優勝候補だろ」 「間違いないな。……まあ、俺も正直これほどとは思ってなかったよ」 何処の誰だか知らないが、一美の性質について間接的とはいえ教えてくれた奴には感謝する。 これに気付かないままだったら俺達は寝首を掻かれてたかもしれない。 無邪気だからこそ、何をするか予期することが非常に難しいんだよ。 しっかし、何をどうやったらこういうのが生まれてくるんだか。 おっと、至って普通のご家庭に生まれてこうなったこの俺が言えたことでもねえな。 「とりあえず油断してられないから、"ひとみん"だかについては忘れさせた。完全にな」 「御苦労さんだぜ。ったく、手間かけさせるガキだよなァ」 「全くだ……こいつを一人で歩かせた俺達のミスだな。教訓にしておこう」 うむ。時には間違いを認めることも大事だな。 後ろを振り返って学ぶことは善人悪人以前に全ての基本だ。 こういうこと言ってると自分がまともみたいに見えてくるぜ。そんなつまらん人生御免だが。 何はともあれ、一美を好き勝手させることは暫く控えよう。 俺と酒々楽々の親睦を深めるのはいいとして、それで爆弾に火が点く羽目になったら大変だ。 こいつをより上手く育てるためにも、悪人トークからハブるのもそろそろ止めてやるか。 人の技は盗むものだ、ってスポーツ漫画とかだとよく熱血コーチが言ってるだろ?あれだ。 折角だからとことん悪人の極意を教え込んで―――俺達を殺すなら、完璧な悪人がいい。 後、これはひとつの対策でもある。 俺の蠢く怪異は人間の意志を砕くことは容易いし、再起不能まで追い込むことも朝飯前だが、それでも生まれながらの性格を完璧に改竄するとなれば少しばかり無理があるからな。 それが一美クラスの異端ともなれば、俺の才能でどうにか出来る領域を過ぎてしまっている。 だからせめて、無駄な努力かもしれないが「悪いこと」が「他のことが霞むほど面白い」んだということを植え付けて万が一の危険性を抑圧する。 (ま、どうとでもなるでしょ。その辺は) 何度愛崎一美が違うものに変わったところで所詮は小学生。 手荒な真似に出れば別に運動神経がいいわけでもない俺にだって押さえ込める筈だ。 最悪酒々楽々の力を借りればまさか遅れを取るようなことは……ないと思う。多分な。 何で一瞬言い淀んだかって? えーと、俺をぶっ殺してくれた柳詩織ちゃんのことを思い出して、ちょっと遅れ取るかもと思った。 そういやあの子は今どうしてるんだろうねぇ……パワーアップとかしてないだろうな、あれ以上になられたらチート過ぎて俺裸足で逃げ出すよマジで。 面白い奴に殺されるならそれは凄く良いことだと思えるが、いくら何でも同じ奴に二回殺されるのはちと戴けないだろう。多分三度目の復活は無いだろうし。 そういう意味では俺は結くん達に感謝しないといけないのかね? おっと読者の皆さん忘れないでくれよ? 俺達悪人同盟はれっきとした対主催団体だぜ。 善人を殺して悪人だけでやろうっていうちょっと極端なだけの普通の善良――「悪」良なトリオだ。 その証拠にひとりの子供に道を示しているじゃないか。 人無許すまじと反逆の旗を掲げた戦士たち。くぅー、我ながら惚れ惚れする響きだな。 「さて、じゃあもっかいフードコートに戻って作戦会議といこうか」 俺のあまりに脈絡のない発言に、二人とも奇妙なものを見るような視線を送ってくる。 俺が作戦会議を開くのがそんなにおかしいのかお前ら。 俺だって昔は進んで体育祭の作戦を立ててたんだぞ? えーと、野球で相手のピッチャーを闇討ちして勝つって作戦を大真面目に提案した。 あの時のクラスの空気は忘れられないね。気温が五度くらいは下がったんじゃないか? 「勿論主催をぶっ潰すための、未来を決めるための作戦会議だ」 珍しく形だけ爽やか(自称)な笑顔で言った。 バトルロワイアルは既に随分進行している頃合いだろう。 時計を見る限りでは放送まではまだ時間があるが、それなりの人数は脱落していると見える。 俺達には関係のない話だ―――しかし、悪人が蔓延るには御誂え向きの状況がやってくる。 俺は放送のルールを聞いたとき、心が歓喜と期待に満ち満ちた思いだった。 なんて非道いことを考えやがるんだと、全身が歓喜に震えた。 悪人らしく、高笑いをしてやりたくもなった。 最初の放送が終わったあたりが、良くも悪くも人々の感情の波が最も高まる時間帯だ。 そこを弄べば、悪人に変貌させてやれる最高の好機となり得る。 賢明な読者諸君、もうお解り戴けたかな? ―――俺達の作戦会議は、放送後の『一大イベント』の為のものなのだよ。 カルト教団作戦、とでも呼んでおこうか。 誰かの涙は我が悦び。 誰かの嘆きは我が至福。 裏切られし者よ、貶められし者よ、さあ集うがいい。 俺が司り、俺が導き、俺が貶め、俺が堕落させ、そして最悪の地獄をこの地上に布こう。 諦めることは無い。 悪人であれば、願いも夢も何も抱かず――――。ただ、嗤えばいいのだ。 ◆ ◆ 数分後、白崎一行は始まりの場所に帰ってきていた。 飲んだ後のコップは放置されていて、マナーもへったくれもない。 勿論悪人である彼らがそんなことを憚る訳もなく、無銭飲食にも躊躇いを懐かず、カウンターの奥で適当な飲み物や軽食を見繕う。 白崎はコーヒーで、酒々楽々は相変わらず酒以外を飲む気にはならないらしい。 確かにこの男が優雅に紅茶を嗜んでいたりしたら、白崎と一美は腹を抱えて大爆笑できる自信があった。 ちなみに一美はオレンジジュースである。 子供にコーヒーは似合わん、という白崎のよく分からない拘りで選ばされたものだ。 さっきの座席に再び着くと、まずは各々各自のドリンクを一度啜った。 三人とも違う味わいが口腔を満たし、それが作戦会議開始の合図となった。 「俺達悪人同盟の本領を発揮するのはとりあえず第一回の放送以降だ」 ずずず、とコーヒーを啜った後に白崎はそう言った。 じゅるる、とアルコールを吸いながら、酒々楽々は何故だ、と疑問の問いかけを送る。 一美は話の内容についていくために橙色の液体を流し込みつつ、しっかりと白崎の言葉に耳を傾ける。 悪人同盟の実質的なリーダーである白崎ミュートンの作戦は、どれほど狡いものか、想像も出来なかった。 白崎は待ってました、と言わんばかりに参加者名簿を取り出し、テーブルの上に広げた。 「まあお前等、まずはこれを見ろよ」 そこに記載されている名前の数々。 酒々楽々と白崎ミュートンには見知る名前もあったわけだが、愛崎一美にはそんな存在は『もう』いなかった。 白崎が指差す名前はいくつかあり、中には先程邂逅した「古川正人」の名前もあった。 その他に共通点としては、「青木林」と「青木百合」のように、同じ苗字を持っていることだ。 「……これがどーしたんだ?」 一美が疑問の声をあげる。 どうやら酒々楽々は察したようだが、まだ悪人としては完成していない彼女には直ぐには理解できないものだったろう。 同じ苗字ということが何を意味しているか考えてみろ、と白崎は底意地の悪い笑顔で言った。 同じ苗字。 ――――家族? 古川正人は確か恋人を捜していた、つまり「家族」と「恋人」。 かちり、と歯車が噛み合うような爽快感を感じた一美は、晴れ渡らんばかりの笑顔で白崎の顔を見やる。 家族と恋人、その共通点は―――大切! 訳の分からぬままに呼びつけられた殺人ゲームの会場で、それぞれ大切な人を殺したくないと思っていることだろう。 もしかするとその為だけに殺し合いに乗っているやつも居るかもしれない。 だけど、そんな大切な人が死んで動揺しない「善人」なんて存在するだろうか。 「わかったぞ! 放送が終わった後でぱにっくな奴らを叩くんだな!?」 周囲へ微塵の警戒もせずに、謎が解けた喜びに任せて一美は叫ぶように答える。 しかしそれは残念ながら白崎の求める回答ではない。 平たく言えば不正解だ。 「あのなァ。善人がせっかく壊れかけてるのに、どうしてそんな面白そうな玩具を壊す必要があるんだ?」 「良いやつの壊れる瞬間なんて、最高じゃねえか」 二人の悪人は口を揃えて一美の答えを惜しい惜しいと笑う。 「うー……分かんないぞ」 唇を尖らせて、眉間に皺を寄せて一美はテーブルにべったりと凭れ掛かった。 「そうか、出来ればお前が正解を出すことを期待してたんだが―――まあ、仕方ないか」 「いったいどういうことなんだ、白崎っ」 ブラックコーヒーの苦みが再び白崎の口腔を満たす。 早くも温くなりつつある漆黒の液体の良質な風味を愉しんだ後、彼は名簿を指した。 例えば、と指差したのは一番わかりやすい例で、古川正人の名前だ。 「こいつの大切なものが壊れたら、こいつはどうなると思う?」 嫌らしい笑みを浮かべて、ありありと愉悦の色を浮かべた表情で一美に白崎は問うた。 一美は想像する。 アルコールの酔いの中で、放送で最愛の恋人の名前を聞き、その死を知る。 どう見ても善人にしか見えない彼だったが、自分は誰一人守れず、恋人ひとりすら守れなかったと嘆くだろう。 同行者のナントカって奴(一美はうろ覚えだった)が慰めようとする光景も目に浮かぶ。 しかしそんなちっぽけな慰めでは、大切なものを永久に喪った彼の心にはちっぽけな癒しにすらならない。 精神が崩壊するか、殺人者として覚悟を決めるかのどちらか。 仮に自分の正義を見失わなかったとしても、その心には決定的な綻びが生まれることはまず間違いない筈だ。 ならば、答えはやはりひとつしかない。 「そいつも、こわれると思う」 「ああ、そうだな。間違いなく心のどこかでどれほどちっぽけだとしても何かが壊れるだろう」 「こわれたら、どうなる?」 「……そりゃあお前、考えなくても分かるだろ?」 イメージしてみろ、と白崎は諭すように言う。 例えばゲーム機なら、一個のボタンが取れてもすぐには使えなくならない。 頑張れば長く使うことは出来る筈だ。 「一個の部品だとしても、壊れた部分は本体に何かしらの影響を与えるだろ?」 「確かにそーだな……ボタンが一個なくなったら、ゲームもやりづらいだろうしな」 「おれも仕事の時にパソコンのシフトキーがすっぽ抜けてなァ……めっちゃ苛々したぜ」 どんなに小さな破損でも、それは全体が崩壊する導火線になり得る。 ちょっとしたきっかけで連鎖して、更に大きな破損を生んでくれる。 じわじわと、本人すら気付かないままに致命的な崩壊に到り、最後には直せなくなる。 「じゃあ次は、これを人間に直して考えてみろ」 また、想像する。 善人として生きていた人間の心の何処かが壊れる。 全てを守ろうと思っていたのに、いつしか守るものと殺すものを分けるようになる。 それが更に進行すると、大切なもの以外は殺してもいいという思考になる。 こんなものは間違っている――そんなことを宣えるのは、壊れていない者だけだ。 崩壊の進行した善人は己に起こる異常に気付けない。 己を正しいと誤信したまま、立派な悪行を正当化して行うようになっていく。 まずは殺人を正義だと思い始め、最後まで間違いだと分かれない。 ――己の異常に気付けるのは、帰り道がなくなった時、最終段階まで崩壊してしまった時だ。 とはいえそうなってしまえば、もうどうしようもないだろう。 「すげーことになるな」 如何に未熟とはいえ、一美も薄々白崎の言いたいことが分かってきた。 壊れた玩具ほど面白いものはない――悪人らしく見たなら、その通りじゃないか。 一美は自分の心が躍っていることに気付く。 それを見て白崎と酒々楽々は、漸く気付いたか、と呆れ果てるような苦笑を見せた。 「――そういう訳だ。善人が壊れれば悪人になる」 まるで反転するように、悪人に変わる。 白崎ミュートンの作戦とは即ち、悪人同盟の拡大であった。 三人だけで主催を打倒することが叶うか? ――――否。 才能とルール能力が如何に強力といえど、人無を王座から引き摺り下ろすのはいくら何でも無茶だ。 何より数が足りない。 たった三人では役割の分担もままならないし、首輪解除の手掛かりも未だ皆無である。 「――――だからこそ、悪人同盟は哀れな子羊共を掌握することにする」 哀れな子羊共――即ち、積み重なる屍に嘆く壊れたドール。 倫理が崩れた者。 殺人行為に忌避感を懐けなくなった者。 そして自らの在り方に苦悩する者。 そいつらを引き入れるんだ――と、白崎ミュートンはこのバトルロワイアル開幕以来最高の上機嫌で宣言した。愛崎一美が知っているかは分からないが、彼の造ろうとしている団体はもはや悪人「同盟」などではない。 ――悪のカルト教団。 現実から逃避する者達を糧として勢力を増してゆく危険極まりないひとつの軍隊だ。 とびっきりの悪意を全身から放つ白崎ミュートンの姿は圧倒的なまでの存在感として君臨している。 フードコートの一角は、もはや常人なら立ち入る気も起きないような悪意の坩堝と化していた。 「ぷっは! お前はつくづく面白い奴だぜ、おれ達で宗教を作るってか! こいつぁいいな!!」 愉快な様子を隠そうともせず、酒々楽々はもはや爆笑に近い笑い声をあげる。 そこに侮蔑の色は無かったが、代わりに白崎に負けず劣らずの悪意が凝縮されていた。 一聴すると馬鹿馬鹿しいことこの上ない妄言だが、それを可能にしてしまうのが白崎と酒々楽々の力である。 酒は敵意を堕落させ、言葉は心を無慈悲に食い散らかす。 そして善は在り方を変え、悪になる。 それは自然に「同盟」の拡大を促し、悪の軍隊は勢力を増していく。 壊れずに善を保つなら用はない。 力無き者、壊れてしまった者を更に終わらせ、そうやって力をつけていけばいい。 邪魔をするなら――殺せ。 白崎ミュートンは悪人と精神虚弱者の味方だ。 そういうものこそ面白い、だからこそ壊し甲斐があり、弄り甲斐もあるというものだ。 内乱が起きようと白崎は一向に構わない。 自分の作ったものによって命を落とせるなら、それも僥倖ではないか。 人無結は、力を保有している。 超能力――白崎でいう才能のようなものを持っている。 その力を自分たちの為に使わねばならない状況を作ってやればいい。 使用限度があるなんてことは言っていなかったのだ、自分たちの好きなだけ願いを叶えさせてやる。 奇跡を汚して、何が目的かは知らないが壊してやる。 彼奴の大切なものを壊して、あざ笑って踏み躙る。 最後に笑うのは、悪だ。 「入団条件はまずひとつ、「壊れた要素を含んでいる者」、そして「心を病み、恐怖もしくは復讐に狂った者」だ。 危険だとかは考えるな。俺達には武器がある。……まぁ、どうしても無理そうなら諦めるけれども」 言葉と酒、後は漲らんばかりの悪意がある。 悪人同盟の三つの武器は、だからこそこの場において最強無敵だ。 その力をあえて主催打倒に使う、一見無益なようだがこれでこそ真の悪。 自分達を貶めた首謀者を屈辱の果てに殺し、邪悪の海で嗤ってこそ、悪党というものだ。 迷うことは無い。 信じる者は救われる、そんなことはないが、より愉しい人生ならくれてやれる。 ――理想は捨てろ。現実を持て。そうやって善を駆逐する。 マインドコントロールと言われても反論は出来ないし、むしろその通りだと思う。 だがそれがどうした。 信じている間救われているなら、それでいいだろう? 破損した箇所を埋め合わせるように悪のパーツを填めることで、見事救って見せようではないか。 たとえば――この、愛崎一美のように、悪の道を志すことで救いの道を示そう。 「良いじゃねえか。乗ったぜ、白崎」 「やはりお前は話が分かるな、酒々楽々。お堅い信仰だとかは言わないから、気楽にやるとしよう」 「ああ」 二人の視線はやがて、傍らの小さな少女に向かう。 何を言っているのか分かっているのか、白崎にも酒々楽々にも分からない。 ただ確実なことはひとつ。 「なんだかよく分かんないけど、すげー愉しそーだな!」 ――愛崎一美が、悪人らしいことに反対する筈がないということだ。 芽生えかけた善意は摘み取られ、今の彼女は悪を目指す悪人の卵でしかない。 悪への欲求は、人一倍高い筈だ。 「――ああ。きっと愉しいぜ」 白崎の言葉に、一美はニッ、と子供らしく笑う。 一見すると微笑ましい光景。 親子か年の離れた兄妹にも見える。 だからこそ、溢れる邪悪さがひどく異様だった。 無邪気な笑顔なのに、邪気はしっかりと放たれている――矛盾。 作戦会議によってこれからの指針は決まった……訳ではない。 決まったのは第一回目の放送終了後の予定のみで、あくまで数時間後からの話だ。 それまでの時間をどう過ごすかは決まっていない。 それにいち早く気付いたのは、意外にも愛崎一美だった。 「なぁ、じゃあ「これから」はどーするんだ?」 ん、と白崎が声を漏らす。 これまで出会った人物の数はそう多くはない。 最初に出会った二人の善人と、一美が出会ったというこれまた二人の善人。 狼とか言っていたが、それに関してはこの目で見て確認するまでは断定を急がないことにした。 面倒な相手であることは間違いない。 野生動物の身体能力ともなれば、簡単にどうこう出来るものではないだろう。 聴力があるなら白崎の言葉は通じるだろうが、≪酒の霧≫はどうだかわからない。 どういった存在なのかが分かってから策を講じる。 少なくとも、白崎の作戦を脅かすようなことはないと思われた。 で、結局後の数時間はどうやって過ごそうか。 はっきり言うと、実は全く考えていなかった。 「……今まで通りぶらぶらしていればいいんじゃね?」 「何だァおいおい、いつになく適当じゃねえか」 「いやー、教団作りがあまりにも楽しそうでそれまでの事とかぶっちゃけ考えてなかった」 足元をくりぬかれた気分だ、とよく分からないことをぶつぶつと呟く白崎。 この様子を見るに本当に何も考えていなかったようだと、一美と酒々楽々は同時に思った。 だが確かに、目立ってやることが存在しないのも事実。 予定の刻限より前に悪評をばら撒き過ぎてもあれだし、目立つのは得策ではない。 なら、こうやって適当に過ごしているより他にないのかもしれない。 「……暇だな。怖い話でもするか?」 「こいつがそっちにハマってホラー少女になったらどうする。もうどうしようもねえぞそれ」 「いつの間にか後ろに立ってるんだな」 「な、なんだか怖いぞっ!?」 張りつめていた邪悪が少しだけ薄れた。 この三人、同じ道を志しているだけあり、意外と馬は合う。 こんな風に雑談していても、それなりに話は弾むようだった。 ついさっきまで悪人のみの教団を作ろうと話していたとは思えない、和やかな空気。 一美も順調に彼らの側へ踏み入りつつある。 その証拠に、今の彼女はすんなりと二人の会話に交れている。 悪人たちの時に常軌を逸した会話に交ざれるのは、同じ悪の心を持つ者でなければならない。 しかし、白崎達から言わせればまだまだ一美は未熟だ。 身体だけではなく、悪意の塊と呼べるモノになるにはまだ時間がかかりそうだ。 とはいえ彼女の成長速度は目を見張るものがある、少なくともあと十時間もあれば完成するだろう。 尤も、あまりに濃すぎる悪の密度だからこそそれだけの時間を要するのだが。 狂気は彼女に悟られないままに、直に一美を満たす。 その頃には、悪人の悪人による悪人の為の教団も出来ている。 バトルロワイアルにもっと巨大な悪が現れることは、最早必然の確定事項だった。 善意を取り込んで成長する軍隊。 形は対主催団体だが、その本質はある意味殺人者よりも数段性質が悪い。 危険すぎる冒涜の教義を掲げる、冒涜こそ美徳とするカルト教団。 遠くない未来その主軸メンバーとなるだろう三人が、こうやって談笑している。 ―――それは、何ともアブノーマルな光景だった。 時系列順で読む Back Alice Magic/明日は天気になれ Next Alice Magic/サイコロジカル 投下順で読む Back Alice Magic/明日は天気になれ Next Alice Magic/サイコロジカル 062 Alice Magic/明日は天気になれ 大崎年光 062 Alice Magic/サイコロジカル 062 Alice Magic/明日は天気になれ 古川正人 062 Alice Magic/サイコロジカル 062 Alice Magic/明日は天気になれ カインツ・アルフォード 062 Alice Magic/サイコロジカル 062 Alice Magic/明日は天気になれ 白崎ミュートン 062 Alice Magic/サイコロジカル 062 Alice Magic/明日は天気になれ 酒々楽々 062 Alice Magic/サイコロジカル 062 Alice Magic/明日は天気になれ 愛崎一美 062 Alice Magic/サイコロジカル 062 Alice Magic/明日は天気になれ 香坂幹葦 062 Alice Magic/サイコロジカル 062 Alice Magic/明日は天気になれ 紆余曲折 062 Alice Magic/サイコロジカル
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リクが思いっきり泣き続けていたその時、両軍に対して攻撃を仕掛けて殺戮を繰り返していた機体に重力場の衝撃が届いていた。 『強力な重力場が接近、衝撃に注意を』 左手に装着されていたシールドで防御態勢をとるその機体は、周囲の機体がひしゃげていく中でただ1機生き残っている。 「これは間違いないな」 『粒子照合、間違いありません。Typeαおよびβです』 周囲のマイアートを収納、そのまま衝撃の中央へと飛び立つ。 「見つけたぞ……白い魔弾(ホワイトバレット)……お前を殺す事が2人への手向けになる」 その機体のパイロットの虚ろな目に光が戻る。 『マスターマスター、お楽しみ中の所申し訳ないんですが敵機接近です』 時間も場所も忘れて宇宙の中心で愛を囁いていたリクとミキに、本当に申し訳なさそうにイザナミが言う。 「はぁ……もう少し空気を読んで欲しいよな、敵も」 [私は誰かに見られる前に気がつけたからよかったわ……] 心の底からそう思っているリクと、夢中になって周りが見えていなかったミキはそれぞれコックピットに戻る。 『そんなミキさんに朗報です。さっきのシーンの一部を記録してあります。スタークにて後ほど放送しますよ』 [消してぇぇ!] リクはその会話に笑い、そして気を引き締める。 「ミキ、ここからじゃ通信が届かない。スタークに連絡が取れる距離まで飛んでくれ」 [わかった、気をつけてね] Typeαは最高速度で接近する機影に近づく。 Typeβは逆に最高速度でスタークに向かう。 「これどうすんだよ!直せねぇぞ!?」 ジョージは長く整備士をやってきて初めての苦難、握りつぶされた戦艦の操縦桿修理を行っている。 「まさかブリッジでこんだけ苦労する事になるとは思ってなかったぞ………」 基礎部分から操縦桿の亡骸を取り外し、配線を確認していく。 「ラウル!換えのパーツは出来たか?」 [一応試作品をいくつか……今運んでもらってるっす] 「はい操縦桿お待ちぃ!」 ジョージはすぐにそれを受け取ると配線を繋げていき、基礎部分に取り付けようとする。 「あれ……入らねぇ……サイズが……」 [まじっすか……もうちょい細かい寸法分かります?] 「肝心の部分がボロボロだ。潰れてる」 スタークの設計者もまさか操縦桿のみがピンポイントで潰れるとは思っていなかったに違いない。 まったく手掛かりの無い状況から作る事はかなり難しい。 「重力場感知!この方向と規模……多分ミキちゃんが間にあったんだと思う!」 「ふう……これでひとまず安心ですね……リキさん、2機の回収をお願いできますか?」 [了解っと……あれ、向こうも戻ってきてるっぽいぜ?] リキが捕えたのはブースターの光、Typeβの機影がだんだんと見えてくる。 [こちらミキ・レンストル、リクの説得に成功しました。現在は重力場に耐えきった敵機の反応を捉えたため彼は迎撃にでました] 「了解しました。ありがとうございます、ミキさん」 リクの無事に全員が安心した中、リリだけが聞く。 「それはつまり、お前がリクの支えになれたってことだよな?」 その質問でクルーの全員がミキに注目する。 [………うん] その答えにどよめきが走り、そして気まずい雰囲気が流れる。 気まずさの中心たるリリはその答えに俯いて、すぐに笑いだした。 「あっはっはっは!そりゃよかった!」 事情を知らないクルーが戸惑い、事情を覗き見して制裁をくらった3人はますます気まずくなる。 「多分きついぜ?あいつのパートナーは」 [知ってるよ。それでも大事だから……] 「知ってるさ。立場が逆ならアタシもそう答えてる」 そう言ってリリは頷き、それを見たミキも頷き、そしてTypeβはリクの元に戻って行く。 「いいんですか?」 「これがケジメってやつだしな。大丈夫」 リリはそう言って既に不毛な作業になっている操縦桿修理の様子を見に行くと言って出て行った。 「……リキ君、君も援護に向かって下さい。少しでも助けを彼らに」 [わかってるさ。いってくる] そのまま通信は切れて守護狂神もリクとミキを追った。 リクは既に敵機の姿を確認している。 『あと20秒で接触します』 おぼろげにしか見えていない機体の姿は宇宙用にしても少し大きいバックパックを背負った青い機体だった。 右手にブレード、左手にシールドと一体化したレーザーを装備している。 「あの機体、嫌な予感がするんだが……ッ!」 次の瞬間、ほんの少しの感覚に従って機体を捻るように大きく動く。 装甲の上を弾丸が掠って行く。 「攻撃?どこから……またッ!?」 立体的にこちらの機体に見えない敵からの攻撃が飛ぶ。 反射でマズルフラッシュを感じるたびに回避運動を取り続ける。 ブーストの光すら見えない敵でもリクは見切る。 そうしながら徐々に敵の姿を掴んでいく。 「これは……浮遊砲台か?」 普段ならこの程度の攻撃はフィールドで防いで本体であると思われる敵機に攻撃する。 しかしこの攻撃もまた、重力場フィールドが効かない。 そうでなければ最初の一撃が装甲をかすめる筈がない。 「なるほど、新たに開発された武装か!」 仕組みさえ分かってしまえば対応は簡単だ。 当たらない様にして砲台を破壊してしまえばいい。 だが砲台の大きさはHB基準では小さく、攻撃をかわしながら進むグレネードを撃ち落とせと言っている様なものだ。 それでも、手がない訳ではない。 「本体さえ墜とせば!」 遠くに見える青い機体にクラビティキャノンを放つ。 敵機は身じろぎ一つせず、その姿は重力の坩堝に覆われた。 しかしその中から無傷の敵機の姿を確認した。 「こいつにもやっぱり効いて無い……そういう事か……」 至近距離で仕掛けるために一気に接近、その過程で右肩のグラビティキャノンに弾丸が直撃した。 機体が強化されてから久しぶりの衝撃にリクは歯を食いしばり、そして敵機に体当たりを仕掛ける。 敵機も近接専用のブレードを右手に構えてこちらに振り下ろす。 ブレードに纏わりつく鈍い輝きを確認した瞬間、リクは機体を急停止させて右肩のグラビティキャノンをパージする。 大量の重力場粒子をチャージされたグラビティキャノンは一撃で切り裂かれて爆発、リクはその爆煙を引き裂いて再び体当たりを行う。 シールドにブレードが当たり、火花を散らす。 恐らく重力場粒子がまき散らされていなければここで左手はシールドごと切り落とされている。 目の前の機体は予想通りの姿をしている。 青いグラビレイト。 その機体の肩には見覚えのあるモチーフ。 「やはりあなたか!」 [殺す……殺す……殺す……] たった1人、リクが勝利を収める事が出来なかった相手。 徐々に粒子が薄れてきてシールドに刃が通り始めている。 青いグラビレイト―――恐らくTypeγと呼ばれているであろう機体を蹴りつけて距離を稼ぐ。 その直後、母機に対する誤射の危険が無くなった子機達が射撃を再開する。 「三機目は予想していたが……ここであなたが出てくるのは予想外だ」 [お前を殺さなければ……二人が報われない……] 彼から伝わってくる物はただ1つ、憎悪。 それが心の表面に浮かびあがり、そして内側は空虚な悲しみに彩られている。 彼の人格を、彼の人生を壊すだけ事をリクはしてきたのだ。 その罪が目の前に立ちはだかる。 「誰の事を言っているのか理解しかねるが……そこまで言うのなら俺が殺したんだろうな。でも、俺はもう死ぬわけにはいかない。それが俺に 求められた唯一で全ての事だからな!」 [お前が死ななければ……殺さなければ……] 振り回されるブレードをかわし、レーザーをかわし、機関銃をかわす。 がむしゃらに振り回される攻撃の1つ1つは、全ての攻撃と合わさってリクを追いつめる。 「くっそ、腐ってもエースって訳か!」 『それに特化型AIの補助もありますね。さすが自立型特化式AIといった所でしょうか』 「どういう意味だ?がッ!?」 攻撃が少しづつ命中してTypeαはだんだんと満身創痍になっていく。 『聴こえているんでしょう、スサノオ。挨拶もなしですか、あなたらしくもない』 『イザナミ、か……旧式が何の用だ』 『その言い草は無いでしょう?立ち位置的にはあなた達の母なんですから』 『指向性も付けられていない試験型がぬかすな』 通信から聞こえてきたのは男性の声。 これがAIスサノオの声なのだろう。 『彼が自立型特化式AI戦闘型、スサノオです。開発順で言えば5番目、HBでの戦闘補助のためにそれ専用の成長の指向性を持たせたAIです。特化 式AIには3番目のアマテラス、4番目のツクヨミがいますが2人とも別の能力を持っています』 「厄介そうだな、クソ!」 リクは毒づきながらも機体を旋回させる。 後ろを弾丸が通り過ぎていくのを感じながら敵機の特徴を整理する。 武装はバラバラ、近接戦にブレード、中距離にレーザー、全距離に砲台。 どこに居ても攻撃は迫ってくるうえ、こちらの動きを確実に狭めている。 さらにAI、イザナミよりも戦闘に特化していると言うのは多少厄介だ。 そして粒子、全ての原因はここにある。 推測でしかないが、この粒子の特性は重力を消し去る。 それどころか0にするだけではなくマイナスにする。 重力を相殺されてこちらの武装は意味をなさず、装甲の重力をマイナスにされて防御力を極端に下げている。 いわば反重力場粒子といった所か。 「だが……1つだけなら差を埋められる」 『さすがマスター、その秘策でなんとかがんばって下さいよ。機体損傷率18%超えました』 「いや、がんばるのはお前だ」 『………がんばれマスター!』 「逃避すんな。一旦システムダウンさせて戦闘用OSの書き換え、俺の戦闘データ記録してあるだろ?」 イザナミの補助を切断、その間でOSを書き換えてもらう。 もちろんこちらの戦闘能力は下がるが、そこは自分の腕を信じるしかない。 「本当はこんな急にやるつもりはなかったんだけどな……仕方ないか」 たった1人、それでも死ぬつもりはない。 一向に進まない修理作業にリリは呟く。 「なぁ、やっぱり直らねぇの?」 「無理っす。この戦闘中は無理っす。1週間あればなんとかなると思うっすけど」 ラウルはぐったりとしながら答える。 いまだに戦闘は終了していない。 生き残った機体の数は知らないが、リク達が戻ってこないと言う事はかなり切迫した状況なのだろうか? 「やっぱ援護いけたら楽だよな……」 「その選択肢をあんたがブチ壊したんじゃないっすか!?」 「いや、ここからでも出来る事あるんじゃないか?」 ラウルは思いっきり素人の意見に溜息をつく。 「通信が届かない位置で戦闘してるリクに、出来る事なんてないない」 「狙撃とかは?」 「とどくかッ!」 リリは少しでも出来る事を探そうとムキになる。 「滅茶苦茶強化すれば届くかもしれないだろ!」 「それこそミョルニル級のレーザーが必要だって!そこまでの発電装置もレーザー砲もこの艦には無い!」 「じゃあ重力場粒子とかの武装ならどうよ?あれならいけないか?」 「一応、理論値ではいけるけど問題が3つ」 リリは首をかしげるがラウルは何を当たり前な事をと溜息をつく。 「1つ目、粒子炉がない。2つ目、そこまでの高密度の粒子に耐えられる機体がない。3つ目、そもそも見えない!」 1つ目と2つ目はグラビレイトが戻って来なければ解決せず、そして3つ目は機械の限界がある。 「そっか……無理か……無理か?見えないか?」 そう、人ならば越えられるかもしれないという盲点があるが。 レーダーよりも遠くを見る事が出来る彼女なら、出来るかもしれない。 Typeαは次々と傷ついていく。 すでに左のグラビティキャノンのハッチは潰れ、左手のシールドは穴だらけでショットマグナムも使えなくなっている。 右手のシールドは半分切り落とされていて既に防御が難しい。 背中の4基のブースターも1基が破壊されている。 それでもまだイザナミの再起動は行われない。 息も荒く、玉のような汗が浮かび、目は霞む。 今までにない程リクは消耗していた。 必死に操縦桿を動かして機体を小刻みに動かすがどうしてもかわせない攻撃が次々と命中する。 「はぁ…はぁ……くそっ!クソ!」 生き残ったショットマグナムで攻撃を繰り返すが重量を奪われた弾丸に効果は望めない。 出力が低下しているグラビティキャノンも重力を中和されてしまう。 決定打を与えられるプラズマはまだ排気レベルまで精製できていない。 右側から飛んでくる銃弾を左手のシールドの生きている部分で受け流し、下から迫る銃弾は機体をバックさせてかわす。 胸部装甲が軽く削れて姿勢を崩される。 掠っただけでこの効果なのだから、リクは良く持った方だと言える。 「だけど……いくら過程が良くても……生き延びなきゃ駄目なんだよ!」 迫るブレードを無理矢理機体を動かして遠ざける。 可動部分が悲鳴を上げるが気にしてなんていられない。 近づいてきた砲台に蹴りを入れる。 いくらこちらの重量を操れてもサイズの違いで砲台は破壊される。 「あと……3つ!」 半分の砲台を撃破したリクはヘルメットを脱ぎ去って汗を拭う。 情報は全て脳内に表示する。 右足のブースターが射撃を何度も掠めてしまったせいで出力が低下している。 敵機は接近戦を仕掛けるためにレーザーを乱射しながら迫ってくる。 残ったグラビティキャノンをパージして爆破、再び接近状態で均衡を保つ。 両肩の粒子散布用ダクトが露出して重力場粒子の密度を保つだけの粒子を空間に放出可能になった。 右手のシールドでかろうじて保たれた微妙なバランスの中で息をつく。 跳ね上がるTypeγの左足を機体の位置を変える事でかわして再び離れる。 顔の周りに浮かぶ汗で水分を無理矢理補給して次の攻撃に備える。 その時だった。 [リク!大丈夫か!?] 「ミキ……助かった……」 一瞬気が緩んで意識が飛びそうになるが首を振って目の前の敵を見据える。 「厄介なエースが来てる。悪いが手伝ってくれ!」 [分かったけど……何者?] 「青い知将(ブルーリソース)だ!」 リクとミキの間には実は互いに気付いていない事がある。 この場合では、リクは青い知将が金若王(トップガン)と道化死(クレイジーピエロ)の死亡した戦場で爆発に巻き込まれた事を知らない。 そして青い知将がミキの義兄のギルバート・レンストルである事も知らない。 前者は自分が人を殺した感情のせめぎ合いに気を捕らわれて気付かず、後者はミキが言っていない為知らない。 逆にミキはギルバートが爆発に巻き込まれた後、無事救出された事を知らない。 そしてそしてミキが白い魔弾と相討ちになった直後から戦場に復帰するまで死亡したとされてた事を知らない。 また、ギルバートも救出された直後からキセノ・アサギに協力するため同盟から離れていたせいでミキが裏切ったことを知らない。 その為起こった勘違いは、リクに家族を殺されたとギルバートに勘違いさせるだけの意味を持ち、ギルバートをただの厄介なエースだとしかリ クに思わせないだけの効力を持ち、そしてミキに死んだはずの義兄の生存に戸惑い混乱させる効果を持った。 [義兄、さん?] 「え?」 その声は味方同士の通信ではなく、オープンチャンネルで聴こえている。 ミキの声と同時にTypeγの動きが止まってその頭部のカメラアイがTypeβを捉える。 [ミキ……生きて、いたのか?] [義兄さんこそ!生きていたんですね!] その状況が1㎜も理解できていないリクは完全に思考が停止している。 [あぁ……よかった……生きて……] ミキの声はだんだん泣き声になってくる。 [何故、ミキが、親父の仇と同じ勢力にいる?] だが青い知将、ギルバートの声は止まらない。 「親父……道化死の事か?」 リクは1人思考の渦にはまって行く。 [義兄さん……私はいきてまず……ぐす……] ミキは号泣していて周りが見えていない。 [何故だ、なんで……親父の敵を取らない!?] ギルバートの声が大きくなっていく。 まるで自分が信じていた物が崩れていくのを見たくないとでも言うように。 「そして、青い知将がミキの兄?」 [お前は親父の死を知っていないのか!?] [うぅ……にいざん、本当によかっだ……] 全員が全員真剣な事態に陥っているにもかかわらず誰1人他人の話を聞いていない。 一番最初にキレたのはもちろんギルバートだった。 [答えろ!ミキ!お前は何でそちら側に居る!] [ひゅあい!?……あ……] ミキはその怒声で質問の意図を理解した。 [私は……彼に――] 「待ってくれ、ミキ。俺から説明したい」 自力で思考の泥沼から脱したリクがミキを遮る。 [お前になんて聞いていない!答えろ、ミキ!] 「いや、俺から言わなければならない事です!」 リクは滅多に出さないような大声でギルバートを遮る。 「青い知将、いや、ミキのお兄さん!」 纏わりつくような殺気を受けながらもリクは眼をそらさずに叫ぶ。 「妹さんを俺に下さい!」 しばしの沈黙が戦場に走る。 つまりどういう事かと言うとリクは思考の泥沼で謎の結論に達した。 その結論は時代錯誤的ともいえるリクの知識の中から引っ張り出された「恋人がその家族に会った時の反応」というカテゴリの「結婚の挨拶」 に飛んだ。 理由としてはこの挨拶のあと恋人の父親との殴り合いに発展するという微妙に間違った知識を戦場に当て嵌めてしまったからである。 [り、リク?] 「俺は、完成孤児で、人の死の意味を知らずに生きて、その生もきっと人の半分しか生きられない事が決まっている。でもミキはそんな俺を受 け入れてくれたんです!俺にはもう彼女の支え無しで生きていく事は出来ない!だからお兄さん、妹さんを俺に下さい!」 [……ざけるな] ギルバートとしてはたまったものではない。 一応の事情の理解はしたが、こんな状況を許容できるほど心は広くない。 [ふざけるな!] ギルバートの内側には怒りが溢れている。 ミキはこの声を聞いて戦慄すると共に内心ホッとする。 この異常な方に転がってしまった状況もギルバートがとりあえずは戻してくれると思ったからだ。 [お前みたいなどこの馬の骨とも分からない男に!義妹をやれるかぁぁぁ!] こんな事になるとは予想できる訳がない。 [あ、あの……義兄さん?] [お前は黙ってろ!] [は、はぁ……] 妙な方向性に変質した殺気の籠った声がミキを黙らせる。 Typeαとγは同時に動いて戦闘を再開する。 「俺は真剣に妹さんを、ミキを愛しているんです!」 [俺は親父からお前のような輩の処理を遺言同然の形で託されているんだ!ゆ、ず、れ、る、かぁぁぁ!] 「それこそ、こっちだって譲れない!俺にはもう安らげる場所がミキの前しかないんだ!」 [男だろ!甘ったれるんじゃない!] 「俺は男とか人である前に、ミキを愛しているんだぁぁぁ!」 恐らく2人とも今までの人生で一番の叫びをぶつけ合っている。 それがひしひしと理解できる音声が……オープンチャンネルで垂れ流しになっている。 無関係の人間が聞けばシスコンの兄と依存している男が古き良き日本の伝統を再現しているようにしか聞こえない筈だ。 [あの、2人とも?] その瞬間、2機の動きが止まる。 「大丈夫だ、絶対にお兄さんに俺達の仲を認めさせて見せる」 [う、うん、ありがとう……て、そうじゃなくて] リクはわざわざTypeαにサムズアップさせながら言う。 [駄目だミキ。こんなお前より先に死ぬ男にお前は嫁にはやらない] [いや、義兄さん?話を――] ギルバートは既にブレードを構えている。 「意地でも認めて貰います、お兄さん!」 [お前にお兄さんと呼ばれる筋合いはない!] [ちょっと!?リクも義兄さんも恥ずかしいからやめてぇぇ!] そんなミキの叫びも聞かずに2機は互いに接近する。 Typeαの胸部を銃弾が穿つ。 その影響でグラビティジェネレーターが異常を示した。 「パージ!」 胸部装甲を機体から離して手で払う。 その隙を残った全ての砲台が狙うが、その瞬間Typeαは胸部装甲を蹴り飛ばして後ろに飛ぶ。 重力の収束を止められなくなったグラビティジェネレーターが小規模なブラックホールを発生させて3基の砲台が全滅する。 そのブラックホールに右足が巻き込まれて消し飛び、その影響でTypeαの動きが一瞬止まる。 [隙ありぃぃぃ!] 自機に向けて真っ直ぐにブレードを突き出すTypeγ。 その攻撃をみてリクはデジャヴュに襲われる。 限りなく停止した時間の中でその光景を思い出す。 1回目はミキとの初戦闘。 レーザーブレードでリフレクションを突き破ったミキの姿勢。 この時リクは粒子による力押しで勝利を収めた。 2回目はTypeβとの初戦闘。 刺突刀を持って突っ込んでくるミキを受け流しながら連携を避けていた。 そしてこれが3回目。 粒子による誤魔化しは効かない。 避ける選択肢を取るにはもう機動力が足りない。 真っ向から挑むしかない。 自分が一番不得手とする真剣勝負だ。 「う、ぉぉぉぉぉ!」 ならば、この一瞬だけでも得意になってやろうじゃないか。 リクは左手を前に突き出す。 左前腕を貫くようにブレードが突き刺さるが致命傷じゃない。 膝を突き上げて相手のマニュピレーターを緩ませる。 奪い取ったブレードを鞘から抜くように左手から抜き放ち、一気に振り下ろす。 重力場粒子を纏った刃がTypeγの左肩を切り落とす。 「まだだ!」 ブレードを放棄して相手に取り付く。 腕の断面から右手を突っ込んで引き抜く。 マニュピレーターがボロボロになるのを気にせず2度3度と続けて、遂に本命を引き抜く。 その手には引きちぎられたケーブルをたなびかせる粒子炉があった。 粒子炉が1つ無くなるだけでグラビレイトの性能は極端に下がる。 勝負ありだ。 後ろに粒子炉を放り投げて機体を向き直らせる。 「どうします、お兄さん?」 [………] 声は聞こえない。 気絶した訳でも死んだ訳でもなく、ただ言葉を発しないだけの沈黙。 [義兄さん] そこにミキの声が割り込む。 [お願い、彼を認めて。これは私が望んだ事でもあるから] [………] 流れてくる粒子炉を手に取りながら、ミキは説得を続ける。 [私が望んで、私が行動して、私が掴んだ、そんな結果がこれだから。お願い、認めて] [……認めなければどうする?] 沈黙を破るギルバートにミキの態度は敵対的になる。 [無論、行動で認めさせるだけ] リクは驚きを隠せない。 家族を失って死を選ぼうとした、そんなミキが自ら家族と敵対する道を選ぼうとしている。 「いいのか、ミキ?」 [当たり前よ。今の私にとってはあなたの方が大事] その言葉にリクは少し涙ぐみ、ギルバートからは驚愕の気配が伝わってくる。 その時、無差別に放たれた通信を受信した。 [えー、地球の皆さんおよび宇宙に戦争をしに来てる皆さんごきげんよう。宇宙開発同盟で特別技術顧問、そしてジャパン・テクノロジー・コー ポレーションで取締役をやっているキセノ・アサギと申します] 流れてきたのはキセノの声。 世界各国に同時に流されているらしい通信をリクはいぶかしむ。 キセノは基本的に目立つ事、そして無駄な事を嫌う。 なぜこんな演説を世界中に流すのか、リクは理解できない。 [今日は皆様に、地球滅亡をお知らせするべくこのような演説を行わせていただきます] キセノは完成した要塞、天駆龍(テンガリュウ)の中から世界に宣言を行っていた。 「これは私個人から世界に対する宣戦布告です。これより宇宙からの攻撃で地球を、生命を奪うのではなく地球を崩壊させるという意味で滅亡 させていただきます」 この為に11年間生きてきた。 全ては彼女の、片葉菜穂の為。 たった1人の女性のために、仇を取るために。 「なお、勘違いされない様に言っておきますがこれはJTCの総意とは一切関係ありません」 コツコツと理論を集め、フォトングラビティを完成させる。 その粒子の能力のデータを取るためにHBで稼働させる。 そしてキセノ自身の動きから目をそらさせるためにそのHBを両軍に散らせる。 「この戦争の意味は全て第三次世界大戦に起因しています。日本が起こしたとあなた方が信じ込んでいるあの戦争、その真実を知っている全て の罪を償うべき者の、HBという戦争の道具を手に入れるために日本を取り囲んだ奴らの、全てを暴くためです」 何もかもが上手くいかない。 戦争を止められたかもしれない位置に居たのに何も出来ず、菜穂が追いつめられているのを黙って見ている事しかできず、完成孤児の生産を断 る事も出来ず、そして全てを負の感情として世界に矛先を向ける事しかできない。 「日本が戦争を仕掛ける理由なんてどこにもない。世界は理由をでっち上げて民衆に発表して、日本があたかも戦争を望んでいるように見せか けた。この戦争に巻き込まれた当時一介の学生で、戦時中は日本軍技術部副長でもあった私はあの戦争で大切なものの全てを失った!] だからこそ、見せつける。 自分が感じた全てを世界に叩きこむために。 「もし恨むのなら私、それでも足りないなら当時の国連、そして戦争を行った全ての国の首脳を恨むといい。2分後にはこの宇宙要塞、天駆龍よ り攻撃を開始する。一撃で世界の全てが終わる」 そして終わらせる。 理不尽な世界の全てを壊す。 「最後に、この戦いは世界に敵とみなされ、そして殺された彼女、片葉菜穂の為の戦争です。それ以上でも以下でもありません。私にとって彼 女にはそれだけの意味があった」 それこそが生きてきた、復讐と言う理由。 「では皆様、地獄で会いましょう」 演説を終了、それと同時にアマテラスに合図を出して天駆龍の全システムを起動する。 光学迷彩を解除、メインの砲撃の為に製造した巨大粒子炉を稼働させてコンデンサーに粒子をチャージしていく。 『全システム起動完了、異常ありません』 「御苦労、後2分で世界が終るか……」 アマテラスの報告にもキセノの表情は緩まない。 きっと上手くなんていかない。 リク・ゼノラスは、いや陸羽(リクウ)はまだ死んでいない。 3人の視線の先には離れていても確認できる大きさの要塞がある。 巨大な主砲は恐らく地球を壊すためにある。 [そんな……そんな事……] ミキの声が耳に響く。 リクはそんなミキを気遣う事も出来なかった。 キセノの口から出てきた名前、片葉菜穂。 それが自分にとってなじみ深いものだったからだ。 「あの人が、彼女が理由?」 片葉菜穂、日本軍技術部長だった女性。 HBの開発者にして日本の軍備の全てを担当し、日本を支えた人。 そんな戦争の中心人物でありながら誰よりも日常的だった人物。 自分に名前をつけた人。 [世界を破壊?出来るのか?] 「多分、フォトングラビティを使えば出来る筈。それが出来るだけの施設が、多分あの要塞だと……」 動揺の収まらないリクは自分がどうするべきかを決められずにいた。 [ミキ、これから俺がやる事を止めるなよ?] その時ギルバートが言った言葉、その意味を理解するよりも速くTypeγが加速する。 [義兄さん!?] 「あんた、何を!?クソッ!」 真っ直ぐに要塞に向かうTypeγを呆然と見ているミキ。 リクはミキより早くその行動の意味を理解して後を追う。 「おい!止まれ!そんな機体の状況じゃどうなるか分かってるだろ!?」 リクは叫ぶ。 もし想像と同じ事を彼がしようとしているなら止めなければならない。 「答えろよ!ふざけるな!アンタが死んだらまたミキがきっと泣くんだ!アンタと父親の死はミキに死を選ばせかけたんだよ!死んだりしたら 駄目だ!」 [それは、あいつが弱かったせいだ。今は強くなっている。それなら問題は無いだろ?] 加速に差が付き始める。 重量を0に出来るTypeγの加速力はTypeαを越えている。 「問題無い訳ないだろ!あいつが泣くのを見たくないって言ってんだよッ!だから止まれよ!」 [世界が無ければどちらにしろ終わりだ。大丈夫、お前がいればミキは笑ってられる。先に死ぬ事が不安なら早く子供でもつくるんだな] 「そう言う問題じゃ――」 叫びは届かない。 警告音と同時にコックピットの明かりが消える。 「何で……まさか……」 意識的に機体のバッテリー残量を見る。 既に残量は0に近くなっていた。 グラビティジェネレーターが破壊された事の意味を今更ながらに思い出す。 この機体は、グラビティジェネレーターが無ければ15秒しか起動できない。 「こんな時に……ふざけんな!」 モニターを殴りつけても何も変わらない。 かろうじて生きている望遠機能が要塞主砲の射線に到達するTypeγを捉える。 「やめろ、自分から死にに行くな!」 主砲からはすでに光が溢れている。 目の前に粒子が迫る。 それは重力を操り、そして地球を破壊する粒子だ。 高密度の重力はちっぽけな機体など消し飛ばしてしまうだろう。 「それでも、この機体なら出来る」 切り落とされた左腕の関節から大量の反重力場粒子が吹き出る。 粒子の経路を破壊されている為、この位置から溢れる粒子が一番高密度になっている。 『止まれ、ギルバート・レンストル。この行動はプランを邪魔している』 スサノオの声が聞こえるが無視する。 『止まれと言った筈だ』 「人には、絶対に止まっちゃいけない時がある、今がその時だ」 『……オートパイロット起動』 機体がギルバートの意志を無視して移動しようとする。 ギルバートは懐から取り出した端子を差し込む。 スサノオが三度警告を出そうとするがその声が止まる。 「この知将が、復讐の邪魔を防ぐためにAIをフリーズさせる手段を講じなかったと思っているのか?」 すでにウイルスによって沈黙しているスサノオにそう声を掛けると、ギルバートは機体の位置を修正した。 向かってくる粒子と正面からぶつかり、光を捻じ曲げる闇を中和する。 [――いさん――義兄さん!] 追いついてきたらしいミキが通信の範囲に入ってきた。 [義兄さん!なんでそんな所にいるんですか!?] 「こいつを止めなければならない。そうしなきゃお前の未来も無いだろ?」 ギルバートは軋む空間に歯を食いしばりながら耐える。 [こんな事をすれば義兄さんの未来も無くなってしまう!やめてよ!] 「……ミキ、きっとお前は幸せになれる。それだけは保障するよ。白い魔弾によろしく」 通信を遮断して迷いを断ち切る。 「俺の未来は、お前達に託すよ」 その眼には涙が溢れている。 それは死への恐怖ではなく、家族の元から羽ばたいて行く義妹への、一抹の寂しさからだった。 「大丈夫だ、お前たちは幸せにやれる。何があってもお互いに信じ合えば―――」 その瞬間、Typeγの粒子炉が暴走を起こして粒子をまき散らしながら爆発する。 最期の瞬間、ギルバートが脳裏に見たのは2人の男女の姿。 女性は黒く長い髪の見慣れた女性、白いドレスに身を包む姿はとても輝いている。 男性は見た事の無い東洋人、目つきは少し悪いが着なれない礼服に少し表情は硬い。 いつの間にかその周りを歓迎するように人々が囲む。 馬鹿騒ぎをする人々に苦笑しながらも幸福そうな笑みをかわしあう2人は、きっと未来の――― 「やっぱり失敗か」 『まるで知っていて穴を埋めなかったみたいな言い草ですね』 アマテラスが報告した内容、Typeγによる砲撃阻止。 それは予想の範疇だった。 「正確には埋められなかった、といった所だな。人の感情はどうにもできない」 『薬物でどうにかできるでしょう?』 アマテラスは素でそう言う。 恐らくマスターであるキセノに似ているからだろう。 「それじゃあ意味が無い。戦う理由まで消してしまうじゃないか。さて、次の発射まであと何時間だ?」 『各部の冷却、破損部分の点検、粒子炉の再起動、粒子のチャージ、全て含めると15時間ですね』 「速攻で進めろ。奴らは絶対に来るぞ」 そう、この失敗も奴がいたからありえた。 「お前だけに俺は止められる。さて、どう動く?」 陸羽、お前は世界を救うのか? 「これは酷い……」 戻ってきたグラビレイトを見てラウルが開口一番にこう言った。 Typeβは右手を失っているだけだが、Typeαは左手、右足が使いものにならない。 右手と左足、胸部に頭部も機能に不備が出ている。 ここまで完膚なきまでに叩きのめされているグラビレイトを誰も見た事が無い。 [すぐにでも修理しろよ。今、世界はその機体に運命を委ねてる] そう通信で言うのはオーディルだ。 キセノの演説後、すぐに3勢力が会談を行い現在の宇宙の戦力を確認した。 その結果まともに動けるのはスタークだけ、つまりキセノを止められるかどうかはたった一隻の戦艦に掛かっている。 その為宇宙開発同盟の保有する通信衛星経由で地球と宇宙の通信を行っている。 「分かってるっすよ!チクショー、さっきから働きづめじゃないっすか……」 「そう落ち込むな、整備班全員で作業するんだから楽だぞ?」 ジョージがラウルの背を叩き、そして整備班の全員がグラビレイトの前に並ぶ。 「全員!今からやる作業には一切の妥協も許されねェ!整備屋の根性と魂を懸けて最高の仕上げにするんだ!」 返事は視線で、すぐに整備が開始される。 リクはミキに頭を下げる。 「すまなかった、ミキ」 その言葉には自己嫌悪が詰め込まれている。 いつだって予想できた初歩的なミス、バッテリー切れのせいでギルバートを死なせてしまった事に対する謝罪だった。 「謝る必要はないと思うよ?私は少なくとも、リクを責める気は無いもの」 ミキはそう言うがリクが自分を許せていない。 それをミキは理解できている、だからこそミキはリクを許す。 「義兄さんはああするしかなかったの。それはリクがもし間にあっても変わらない。私としてはこうしてリクが自分を責める方が辛いのだけど ?」 「……ミキは、強いな」 リクは自分の弱さを改めて実感する。 だがミキは強い訳ではない。 「そうじゃないよ、私だって辛いもの。それでもリクがいるから強がれるの」 顔を上げたリクの胸にミキは飛びこむ。 それを支えたリクの耳にはミキのすすり泣く声が届く。 リクはそれを聞いて、ぎこちなくミキの頭をなでる。 「ごめん、本当にごめん」 「いいの……しばらくこうしてくれれば」 泣きたい時に誰かによりかかれる。 2人で歩ける事は、とても力強い。 それを求めた弱い者同士は支え合えるから、きっとこの先も強くあれる。 ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます) +... 名前
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あ行 アーチャー(人名/サーヴァント) 209cm・111kg 涜神の王、ニムロド。 『旧約聖書』におけるノアの子孫であり、クシュの息子。 クシュの父はハム、その父はノアである。 万能の狩人。バベルの塔建設の監督者であり 勇敢な狩人、地上で最初の勇士であると同時に、アッシリア全土を支配した暴君、人類最初の君主とされる。 アラビア語ではナムルード。 アラブの伝説では、アブラハムが生まれた頃世界を支配した王とされ、 悪魔イブリースにそそのかされて魔術や偶像崇拝を行っていたとも。 また、父クシュからアダムとイヴがエデンから追放されていた時に身に着けていた魔法の皮を受け取る。 これを身に着けると動物はその姿を認めただけで倒れてしまい、彼と格闘して人間もいなくなったという。 強大な力を手に入れたニムロドはやがて邪心に取り憑かれ 世界を支配したニムロドは今度は神になろうと手下を使ってバビロニアに巨大な塔を建設し始めた。 これが所謂バベルの塔である。 人間を天国に侵入させ、略奪を行い、天を乗っ取ろうとし、順調に塔は高くなり、昇るのに一年もかかるが頂上は天に届いた。 人間は頂上から雲の中へ矢を射て、射られた天使は血を滴らせながら血に落ちる。 これに怒った神は、塔の建設を終わらせる為に当時の唯一の言語であったヘブライ語を多くの言語に分け 意思の疎通の出来なくなった人々はやがて仲たがいを始めた。 これにより、それ以上塔が高くなる事はなかったという。 性格は傲慢で凶暴、そして残酷。 人間としての能力は穴だらけだが、自己の強さは何者をも凌駕している。 苦悩が刻まれた貌と長き時を闘いに費やした強靭な執念と妄執が、対峙した者に嘔吐感に似た重圧を与える。 かつては自らを神にもなぞらえるほどに欲深く、天に侵攻しようとまで考えたが 当時は神への信仰深い人物でもあった(はなはだ身勝手で独善的な思想ではあったが) だが前述の神罰によって、彼は地位も名誉も、全てを失い辱められ絶望する。 当時の記述に詳細な記録は残されていないが、死後は世界との契約により 神という存在を憎み己の手による復讐の道を辿っていく。 宝具はリヴァイアサンの思念が宿った『天に逆巻く海淵の裘(レ・ディヴィヌス・ペラガス)』 と バベルの塔『惑乱の塔は天高く栄える(タワー・オブ・バベル)』 の2つを有する。 アヴェンジャー(人名/サーヴァント) 168cm(偽)・60kg(偽) 真名はアンチキリスト 〈キリストの敵〉の意で、ギリシア語ではAntichristos。 世界終末のキリストの再臨前に出現して教会を迫害したり世を惑わす偽預言者 見目麗しい容姿を持ってキリストの再臨前に世に現れ、 世に出て最初のうちは善行をなし正に英雄として振舞い、 偶像崇拝者を倒し、さまざまな奇跡を行い人々より多くの信頼を得る。 そして、彼が聖人として認知された後、「666」と呼ばれる計画を行使 世界を退廃と堕落の荒野へと変え、そして彼は人々にこう宣言する。 「我は我が与えし印を持たぬものを救わぬ」と。 そうして世界は闇に覆われ全ては彼の手中へと収まったかと思われた時、キリストは再臨し 世界は救済される。 性格・容姿・素性。 全ての詳細が不明の謎に包まれた人物。 その正体は、黙示録で予言された終末の前に現れる反英雄。 実在の人物ではなく、現象のような存在であり、時代・場所など条件によって 形が変わる朧(おぼろ)な架空の事象。 共通しているのは、予言に記された人物像と行動原理、そして敗北主義者であることである。 戦闘能力は英霊にあるまじき低さであるが、人心掌握と処世術は宝具によらぬものとしては最高クラス。 特筆すべきは不完全ではあるが、奇跡の一端を行使できる点だろう。 望むがままに他者の望みを叶える、文字通りの奇跡、仮初めの幻影であり、使用条件も厳しいが それを鑑みても、破格の異能であることは揺るがない。 なお、本物の奇跡を行使できた人物は歴史上10指に満たず、古来から魔法に最も近い異能の一つだといわれている。 第五次聖杯戦争において、ライダーの手引きによって三枝由紀香に召喚される。 彼女の影響を大きく受け、此度は年若い少女の姿で現界し、日常と非日常の狭間で揺れ動く。 ライダー同様に、終末の到来を実現させるため、冬木市市民の煽動、情報操作、武器調達など 短期間で市民の過半数を指揮下において、混沌と絶望の坩堝へと誘う。 だが、キャスターとの水面下でも協約や、由紀香への思慮など前述の行動原理に反する行いもしている。 イレギュラー 聖杯によって実現されようとされる終末において、ニムロデが語っていた 三つの障害となりうる存在。 一つはランサー・アキレスの存在である。 此度の聖杯戦争に呼ばれたサーヴァントは、いずれも聖杯によって意図的に呼ばれた 英霊たちであり、それぞれが意味と役割を持っている。 だが、アキレスは凛が用意した強力な触媒と、彼女自身の優れた手腕による完璧な召喚によって 聖杯の介在を跳ね除けて呼び出したためである。 2つめは、衛宮士郎。 彼がいずれ守護者と成る存在であるため、ニムロドは強く警戒していた。 なお、なぜ彼が士郎の守護者としての適正を見取ることができたのかは不明である。 最後は、間桐桜。 歪められた聖杯戦争の特異点。 全ての始まりにして、全ての終わり。 間桐の翁によって、原罪と死極の矢を取り込んだ聖杯の欠片を埋め込まれ マザーハーロットとの結節点を得る。 大聖杯、龍脈、および間桐桜を通じて冬木市は徐々に汚染を拡大させていった。 原作同様に、聖杯としての機能を有するが、バベルではより不安定で禍々しい仕様となっている。 もし、英霊の魂を取り込んでいった場合、どのような変貌を遂げるのかまったくの未知数だ。 衛宮士郎(人名/魔術師) えみや しろう。 身長167cm。体重58kg。 穂群原学園2年C組。 第五回聖杯戦争におけるキーパーソン。 本作では、資格はあったもののマスターではない。 家事に並々ならぬ才能を持つ。家庭料理(中でも和食)が得意で、おいしい食事を作るには材料をケチらない。 英語が苦手。工作に没頭する性格。 剣製に特化した魔術回路を所持する一点特化の魔術使いであるが、今現在はまだ回路の起動もできない。 ほかに物の構造・設計を把握することに特化している(構造把握の魔術)。 体内に27の魔術回路を持つが、それは作ったものを使わなかったために放棄され、通常の神経が魔術回路になっている。 本人はそれを知らず、鍛錬のときは死の危険を犯して魔術回路を作ることから始めていた。 8年間続けている魔術の鍛錬は自分が楽しいからしているのではなく、 魔術を身に付ければいずれは誰かの為になると思ってのこと。 10年前の大火災から唯一人生還したことで死んでいった人たちへの償いをこめ、 衛宮切嗣の遺志を継いで正義の味方に憧れて人助けに奔走するが、 それは反英雄としての切嗣とは違って自分を犠牲にして他のみんなが幸せになるというひどく歪んだもの。 彼の価値観には『自分を優先する』ということがない、 というよりも大火災から唯一生き残ってしまったために自分を優先する資格がないと思っている。 人助けはその見返りを求めるのではなく『人助け』そのものを報酬としている歪んだ価値観の持ち主。 大切な目標以外には興味を持たない、持てないという頑固というか遊びのない性格。 目に見える範囲の不幸や不平等を正そうと努力するが、かといって無条件で助けるわけではなく、 本人がそれを打破することに意義があると判断した場合は陰ながら見守る。 本当の両親は一般人で、前回の聖杯戦争の折に聖杯戦争の参加者たちが引き起こした大火災によって死亡。 本人もそのときに瀕死の重傷を負うが座礁した前アーチャーの手によって蘇生し、その後、衛宮切嗣に引き渡される。 バベルの塔の一部が崩御した後、言語の乱れ、秩序と理性の混濁化が進む冬木市内で 街の異常事態を察知し、単身で新たに聳え立つバベルの塔へと事態収束のために乗り込む。 その際、言峰神父との邂逅を果たし、聖杯戦争の基本知識を知り、サーヴァント、セイバーと供に 敵地侵入をし、その折に、襲撃してきたライダーとの戦闘を経て、彼女に囚われていた凛との合流を果たす。 か行 神の座(用語) 根源の渦。 あらゆる出来事の発端となる座標。 万物の始まりにして終焉、この世の全てを記録し、この世の全てを作れるという神の座。 世界の外側にあるとされる、次元論の頂点に在るという“力”。 根源の渦に至るという願いは魔術師に特有のものであり、これは世界の外側への逸脱である。 かつて、ニムロドが挑んだ宙の外へと逸脱せんと天を貫く塔を築いて挑んだ。 キャスター(人名/サーヴァント) さ行 終末(用語) 終末論(しゅうまつろん)は、歴史には終わりがあり、それが歴史そのものの目的でもあるという考え方。 目的論という概念の下位概念。 様々な宗教に共通して存在する世界の終わりであるが バベル内で発生した現象はクリスチャンである言峰神父の願いが発端であることから キリスト教の終末論、イエス・キリストの復活と最後の審判への待望という事柄に関わるものであると 推察されるが、詳細は不明である。 このキリスト教における終末論とは 現在の天地万物にみられる事物の体制が終わりを告げ、 新しい体制の中に生まれ変わる時のことを、意味していると考えられている。 神霊(用語) 神と崇められる自然霊。信仰を失うと精霊の位に落ちる。 発生に人間の想念が関わっていながら、人の意思に影響されずに生まれたもの。 なお、ニムロドが恨む神とは別であり、彼が憎んでいるという存在は世界の中枢。 天上の神の座を守護する番人――――すなわち抑止の力そのものである。 聖杯(用語) 冬木市に伝わるものは、神の血を受けたものではなく古来より伝わる願いを叶える『万能の釜』が原型で、 その力は伝説のものに匹敵する第726聖杯。根源へ至る門。 願望機である大聖杯に繋がる孔にして炉心。大聖杯起動の鍵。 万能の釜そのものではなく、始まりの御三家によって造られた願望器のレプリカである。 その中身の本質は“無色の力”だが、第三回聖杯戦争以降はアンリ・マユに汚染されて 悪性の“力の渦”(呪い、第三要素)になっている。 よって精密な計算・相互作用による矛盾の修正などは絶対に不可能であり、 持ち主の願いをあらゆる解釈による破壊のみによって叶える。 また、ひとたび開けてしまえば際限なく溢れ出し、災厄を巻き起こす。 さらに第四次聖杯戦争において、『聖者の嘆き(ロンギヌス)』 の原罪を混入され 言峰の終末到来の祝詞を受諾し、世界根絶のために力を費やす災厄の器と成り果ててしまう。 その際、この世全ての悪(アンリマユ)とは別にマザーハーロットを孕むことになる。 セイバー(人名/サーヴァント) 167cm・56kg 真名はエルキドゥ バビロニア神話。「ギルガメシュ叙事詩」の英雄。もともとは、シュメールの神話、伝説を起源とする。 もとは神に生み出された泥人形であり、人智を超えた力を持ちながらも知性も性別も無く、 ただ森の獣たちと戯れる生活をしていた。 だが聖娼と名高い女と六日七晩過ごすことで人間の姿と知性を手に入れ、黄金の王との死闘の末にその無二の友となる。 その後は、ギルガメシュと怪物フワワ(フンババ)や天の牡牛グアンナを倒すなど行動を共にした。 しかし、天の牡牛を倒した時、女神イシュタルによる嫉妬が彼の運命を決めてしまった。 後日、神々は天牛を殺した償いとして、二人の英雄のうち、より罪深い方の死を望み、 大気神エンリルの意向により、エンキドゥは呪いで衰弱して死んでしまった。 質素な貫頭衣を身に着けた、きわめて中性的な姿をしている。 その容貌は端麗ながら、雰囲気は人間的なものではなくむしろ魔術師が作る『人形』に近い。 武器は己の身体と『創生槍・ティアマト』 。 獣の言葉も使うことができ、気配探知スキルは最高クラス。 本来は英雄というより神が使用した宝具そのもの。 バベル歴代において最強のサーヴァントであり、個人の単純な性能に絞れば英霊最高位。 かの英雄王のこの世全ての財による万有の力に対して、単一で万能の力を有する。 これは、女神アルルが泥から創造し戦争の神ニヌルタが、神々すら畏怖する王に対抗するために 万能の神の力、あらゆる生命の原典の因子を与えられたことによる。 もっとも、彼自身はその出自を快く思っておらず、今を生きる生物に対して強い敬意と羨望を抱いている。 これは彼がこれまでに歩んできた生の中で、厳しい環境下で弱く儚くも精一杯に生きる 強く気高い彼らの心に深い感銘を受けたためであろう。 そう、彼の願いは、模倣によって得た仮初めの心と身体ではなく、一つの生命として地に根を張ることである。 また容姿に対して人形と揶揄されることがとても嫌いでもある。 前アーチャー(人名/サーヴァント) 166cm・64kg 真名はアシュヴァッターマン 『マハーバーラタ』の戦争でシヴァと戦った兵士。 パーンダヴァ五王子とカウラヴァ百王子に武芸を教えた師、ドローナの息子。 2人の王子間による大戦の際、百王子軍に参戦する。 五王子軍の軍師クリシュナの姦計により、 父ドローナはドゥリシュタドゥユムナに殺され、百王子軍もほぼ壊滅。 復讐に燃えるアシュヴァッターマンは、 クリパ,クリタヴァルマンと共にパーンダヴァ陣営に夜襲をかける。 まず自分の父を殺したドゥリシュタドゥユムナのテントに入り首を刎ね、 陣内にいる者を皆殺しにした。 その時、英雄アシュヴァッターマンは自らのヴィマナに断固とどまり、 水面に降り立って神々すら抵抗しがたいアグネアの武器を発射した。 神殿修道騎士団長の息子は全ての敵に狙いを付け、 煙を伴わぬ火を放つ、きらきら輝く光の武器を四方に浴びせ 五王子、クリシュナ、サーティヤキらを除く五王子軍を全滅させる。 それはまさにユガの終わりに一切を焼き尽くすサンヴァルタカの火のようであった。 まるで広島・長崎の原爆を思わせるこのアグネアの内容はまぎれもなく遥か昔、 紀元前に記された内容なのである。 その後、アシュヴァッターマンは遂に敗北を認め、 頭についていた不思議な宝石をビーマに渡して森へ去っていった。 誇り高き戦士。 善悪に囚われず、自らの魂の赴くままに生き、復讐にその身を焦がした炎のように熱い男。 戦場では粗暴で暴力的な性格だが、根は正義の人で人懐こい悪戯好きの好青年。 回りくどい方針と裏切りが嫌い。好き嫌いと敵味方はまったく別物と考えている。 武勇にも優れた戦士ではあるが、彼の真骨頂は頼みとする宝具と、予測不可能なトリッキーな頭脳である。 古代インドの空中機動兵器。 アグニ(サンスクリット語で「火」を意味する。)の名を冠する 『陽光宿す天の双翼(ヴィマーナ)』、額に、生まれた時より付いていた宝石『瑞験の星月(カウラヴァ)』 そして、神々が最も嫌悪したといわれる禁忌とされる一つの矢『獄炎秘めし災厄の矢(アグネア)』 の破格の3つの宝具を所有し、マントラ(真言)の力と相まって、大英雄クラスのサーヴァントとも 互角以上に渡り合えるポテンシャルを有する。 特に、彼が自分好みに魔改造したヴィマーナは、破格の機動性能を有する上に 魂魄フィードバックシステム、――常住永遠なるもの「空」とのアクセスを可能とするシステムによって 統覚機能と認識野を一段階昇華、つまり世界と己を一体化させ、可視領域内に補足できる万物の 魂の様々な構造や仕組みを把握することが可能になる。要約すると、究極の探知レーダー。 前回の聖杯戦争で、聖杯の呪いを浴び受肉(前述の魂魄フィードバックシステムによって、昇華寸前の魂を捕捉させ この世に無理やり呼び戻した) 以後は、言峰と袂を分かち、日がな俗世で2度目の生を謳歌していたが、イリヤスフィールによって 箱庭へと強制拉致され、ぶつぶつ言いながら彼女の束の間のままごとに付き合っている。 た行 天の杯(魔法) ヘブンズフィール。第三法。 現存する魔法のうちの三番目に位置する黄金の杯。 アインツベルンから失われたとされる真の不老不死を構造できる御技、魂の物質化のこと。 過去にあった魂から複製体を作成するのではなく、精神体でありながら単体で物質界に干渉できる高次元の存在を作る業。 魂そのものを生き物にして生命体として次の段階に向かうもの。 遠坂凛(人名/魔術師) 2月3日生まれ。身長159㎝。体重47㎏。B77 W57 H80。血液型O。 遠坂家六代目当主。私立穂群原学園2年A組。朝が弱い。第五次聖杯戦争におけるランサーのマスター。 父である遠坂時臣を師とし、言峰綺礼は兄弟子。属性は『五大元素』。 得意な魔術は魔力の流動・変換だが、戦闘には適していないために戦闘には魔力を込めた宝石を使用する。 優秀だが、ここ一番というところで大ポカをやらかすことがあるのはもはや遺伝的なものであり なにか説明するときにかける黒縁眼鏡は伊達。 桜が間桐にもらわれていくときに髪留めを贈ったが、そのときも対価を要求した。 というのも、凛は大切な人にこそ貸しを多く作って繋がりを持っていたいがため。 ただし借りに関してはきちんとした借用書でもない限り認めようとしない。 幼少の頃から、冬木市の異常事態を察知し、独自の調査活動をする。 だが、龍脈の異常汚染は判明できたが、大聖杯と桜の存在に至ることは叶わなかった。 言峰綺礼から、ある程度の情報は聞き及んでおり、聖杯戦争への参加目的は 原作よりも、遠坂家の悲願だけでなく、管理人としての事態収束のために強い勝利への渇望がある。 その執念の賜物か、触媒と完璧な召喚の儀式によって、自身の望む最速のサーヴァントを呼び込むことができた。 だが、経験不足と事態の予想以上の深刻さに焦りを生み出し、バベルの塔内部にて初戦を敗北。 その後、間桐桜との邂逅の際に違和感を抱いた彼女は、後を追い間桐邸に乗り込み ライダーと遭遇。人身お供として拉致され、再びバベルの塔内部に連れ去られる。 後に、塔内部へと侵入していた衛宮士郎とセイバーに救出され、行動を共にする。 は行 バーサーカー(人名/サーヴァント) 182cm・80kg 真名はカルキ。 ヒンドゥー教に伝わるヴィシュヌの第十番目の化身にして最後のアヴァターラ。 その名は「永遠」、「時間」、あるいは「汚物を破壊するもの」を意味し 白い駿馬に跨った英雄、または白い馬頭の巨人の姿で描かれる。 西暦428899年の末世(カリ・ユガ)にシャンバラ村のヴィシュヌヤシャスという バラモンの子として生まれるとされており カリ・ユガ(Kali Yuga)と呼ばれる世界が崩れ行く時代に現れ、 そして世の全ての悪を滅ぼし、新たな世界、黄金期(クリタ・ユガ)を築くとされる。 バベル歴代において最優のサーヴァント。 維持神の化身であり、霊長の存続、すなわち抑止力そのものの分体である。 御神体であるカルキが人間界で存在を確立するために構成された人型の器であり 自我・精神を持たず、彼の乗騎たる機動白馬『System K.A.L.K.I(ハヤグリーヴァ)』 によって 世界から発信される危機信号を受信し、目的を完遂させる。 その力は絶大であり、かつてセイバーのクラスとして参加した第四次聖杯戦争では 前アーチャーを除く、単独で五騎を相手にして勝利を収めた。 完全である神の力、世界からのバックアップを有するカルキはあらゆる障害に対して 有効な手段と方法で対処が可能であり、彼を排するのは世界そのものを破壊するに匹敵するほどの 力か、世界との繋がりを遮断させるしか手段はない。 なお前回では、原罪を取り込んだ聖杯の孔を破壊するために放った前アーチャーの『獄炎秘めし災厄の矢(アグネア)』 の余波から人々を守るために自身を盾にしたためである。 そのため、被害は街の一区画という極小へかなり抑えられ、役目を終えたカルキは次の戦場へと還っていた。 奇しくも、その戦場は10年後の冬木市であり、前回同様アインツベルンの参加者として闘いに身を投じるのであった。 バベル外伝 バベル本編の外伝。 息抜きのために書かれたギャグss。 本編とはうって変わって、セリフ主体のテイストで下ネタが多い。 主人公はアシュヴァッターマン。 ヒロインはイリヤとアンチキリスト。 なお、途中から本編とリンクした裏側の物語、The Tower, La Maison de Dieu backnight が始まる。 副題は花言葉で、それぞれ Taraxacum officinale 「真心の愛」、「思わせぶり」 Helleborus、「私を忘れないで」 である。 バベルZERO 本編の10年前、第四次聖杯戦争の話。 作者の悪い癖で、行き詰ったときに妄想して構想された物語。 コンセプトは昼ドラ。 始まりと終わりは原作と同じで、マスターに割り振られた鯖のクラスも同じ。 登場サーヴァントは以下の通り セイバー カルキ ランサー ベイリン アーチャー アシュヴァッターマン ライダー チンギス・ハーン バーサーカー ピサール キャスター エリザベート・バートリー アサシン キルロイ なお、本編、間章5において、最終決戦カルキVSチンギス・ハーンVSアシュの三つ巴 が描かれている。 また、当初はシグルドとブリュンヒルデが参加予定であった。 バベルの塔の狸 本作、皆鯖WIKIで連載されているss。 前作、FateMINASABA 23th 00ver連載時、登場予定のネブカドネザル2世が製作中であったため それまでの読みきりとして、中篇ssの予定で書かれた。 当初はソロモンVSニムロドVSマザー・ハーロットであった。 だが、書いてるうちに作者が本気で書き始めたため、長編ssとして連載が続くことになる。 コンセプトは鬱サスペンス。バッドエンド症候群に悩まされた作者によって気色の悪いテイストになっている。 主人公はニムロドと士郎。 ヒロインは桜と由紀香、マザーハーロット。・・・・・のつもり。 登場サーヴァントは以下の通り セイバー エルキドゥ ランサー アキレス アーチャー ニムロド ライダー マザーハーロット バーサーカー カルキ キャスター ソロモン アベンジャー アンチキリスト 前アーチャー アシュヴァッターマン ま行 埋葬機関(組織) 聖堂教会の切り札ともいえる吸血鬼専門の異端審問機関。 神への信仰は二の次で、ただ異端を抹殺する力さえあればよいという強面の部署。 メンバーは形式だけでもアデプトで扱いは司祭級、さらに特別権限を持つ異端審問員。 ただし彼らが形式的な異端審問をすることなどないので、単に代行者、または殺し屋とも呼ばれる。 メンバーの証として普段は見えない羽の生えた十字架(剣)の刺青を施す。そこに刻まれている数字が機関でのナンバー。 たとえ大司教でも悪魔憑き、異端ならば処刑する権限と実力を持っているために、教会でも厄介者扱いされている。 この機関こそ教会における異端と囁かれるのも当然だろう。 全吸血鬼の排除と因となる二十七祖の封印を目的とするが、もとは聖遺物の収集をしていた。 完全な実力主義制で、能力があり教会にとって都合の悪いモノを始末するのなら誰でも一員になれる。 ただし年功序列が根強い。 1位から7位の構成員と1名の補欠で構成される。 1位は代々ナルバレックで5位がメレム・ソロモン、6位がミスター・ダウンとその相棒(ミスター・ダウン単独では暫定6位) 7位がシエル。補欠は教会から優れた者をスカウトするが、審問のたびに死亡する為にめまぐるしく交代する。 メンバーには表立っては禁忌とされる魔術を好む者、捕らえてきた異端者を奴隷として扱う者、 近代兵器マニアや殺人快楽性となかなか飽きさせない人材が集まっている。 また、埋葬機関のメンバーはサーヴァントと渡り合うことができる(シエルは防戦レベル)。 今回の聖杯戦争は、聖堂教会において、最も忌むべきものであり、待望となる悲願であった 教義における終末が発生するとの情報を受け、渡航可能な総戦力を冬木市内に送り込む。 埋葬機関も例に漏れず、5位のメレム・ソロモン、6位のミスター・ダウン、7位のシエルが派遣される。 奇しくも同時期に、白翼公トラフィム・オーテンロッゼが何十年とかけて用意してきたアルズベリの儀式が 開始されたため、他の構成員はそちらに行っている。 彼らの冬木への派遣選抜の理由は、単にナルバレックの嫌がらせ。 間桐桜(人名/魔術師) まとう さくら。 3月2日生まれ。身長156㎝。体重46㎏。B85 W56 H87。血液型O。Eカップ。 第五回聖杯戦争におけるライダーのマスター。 穂群原学園1年生。弓道部員で、弓道は衛宮士郎の影響で始めた。 間桐慎二の義妹。今代(最後)の間桐の魔術師(候補)。マキリの聖杯の実験作。 遠坂凛の妹だが、十一年前に後継者がいない間桐に養子に出された。 髪を結んでいるリボンは凛が最初に作ったもの。 本来の属性(起源)は架空元素(虚数)で遠坂の魔術師としてならば大成しただろうが、 間桐の属性である水に変えられたために魔術師としては衛宮士郎なみ。 原作では刻印蟲に魔力を喰われるため、魔術の起動は出来なかったが バベルでは、感情が昂ぶった際に架空元素を起源とした『黒い影』の具現化ができる。 臓硯もその事実を把握していたが、冬木市の治安悪化による万が一の危険に備え、止むを得ず黙認をしている。 目も髪も遠坂の色ではなくなるほど初期(五歳くらい)に身体をいじられており、 その心臓には間桐臓硯の魂の器である本体が寄生している。 10年前に監視用および聖杯の器にするために、第四回聖杯戦争の最後で破壊された聖杯の欠片を触媒として 生み出された刻印虫を体内に植え付けられた。 その際にマザーハーロットとの結節点を取得し、自身の意思とは無関係に 周りの人間の理性を簒奪し、『黒い影』の侵食を続けていく。 また、魔道の伝承のために十一年前から性的虐待を受け、魔道とは関係なしにたびたび間桐慎二に暴行を受け、犯されている。 だが何をされようと隠そうとする。 間桐の魔術師にされたために魔術師の精がないと体が火照っておかしくなってしまう。 原罪など、より純度の高い呪詛を孕んだ聖杯の欠片とマザーハーロットの影響で 原作よりも感情的で不安定であり攻撃的。 彼女自身が、邪悪の呪詛を取り込んでいるため、負の感情に対する高い耐性を得ていたためと考えられる。 だが、絶えず微弱な呪詛を撒き散らすため、彼女の周りには悪辣なトラブルが耐えない。 仲の良い友人で、三枝由紀香、美綴綾子、衛宮士郎がいる。 聖杯戦争直前に、不良グループによる強姦事件の被害にあい、半日もの間輪姦され その後、座礁して海岸で体を休めていたところを間桐臓硯によって、半ば強制的に召喚の儀式を執り行い ライダーを召喚する。 彼女を呼んだことによって、体内の聖杯の欠片が活性化し、ライダー自身の禍々しい魔力と相まって 精神を病む。 そのため、苦肉の策として『溢れる邪淫(ルクスリア・チャリス)』 の力によって意識を混濁化させることによって 汚染侵食の緩和措置を取られた。 間桐慎二(人名) 身長167㎝。体重57㎏。 弓道部副主将。間桐鶴野の息子で間桐桜の義兄。穂群原学園2年C組。 ナルシストで天才肌。極めて自己中心的で自意識過剰な性格で他人を見下す。 弓の腕前はなかなか上手なのだが、本人は暇つぶしと言ってはばからない。 第四次聖杯戦争中は遊学の名目で国外に出されていた。 桜が養子に来たときは多少は苛めながらもかわいがっていた。 しかし間桐の後継者が自分ではなく桜だと知った時、 『生まれを憐れんでいたのは自分ではなく桜の方だった』と思い手酷い暴行を働くようになった。 だが、内心では桜を酷く恐れている。 魔術師としての才能はないが、一般の人間としての才能は多分にある。 それだけに魔術師としての才能がないことを気に病み、鬱屈していき、周囲の人間を見下すようになった。 間桐桜から流布される呪詛によって、徐々に精神を病んでいく。 精神の安定のためか、原作より女遊びなど派手な享楽を繰り返しており、精神科に通院している。 最後は、意識が混濁化した桜の妄言に、ストレスが臨界点を超え暴行する。 その折に、衛宮士郎に彼女の真実を話すと挑発したため、逆上した彼女に殺害された。 ら行 ライダー(人名/サーヴァント) 167cm・53kg 真名は不明。 マザー・ハーロット、「地上の忌むべき者や売春婦達の母たる、大いなる、謎めいたバビロン」。 「グレート・ハーロット(The Great Harlot="大淫婦"の意)」とも呼ばれる。 キリスト教における黙示録に出現し、もろもろの民族、群衆、国民、国語の上に立つ 人々を惑わす悪徳の象徴とされる美女。 『黙示録』によれば“悪魔の住むところ”であり“汚れた霊の巣窟”である。 女性の姿で表されておりきらびやかな装身具を身につけ、手に金杯を持つが、 その杯は姦淫による汚れに穢されているという。 大淫婦は殉教者の血を流すが、神のさばきによって滅ぼされるともいわれる。 新約聖書『ヨハネの黙示録』によると、終末の時、地上に邪悪な獣に跨って姿を現れる。 これ等には明確な名前が付けられておらず、その多くは謎に包まれており その為か多くの文献では黙示録の獣、あるいは666等として紹介されている。 バベル歴代において最悪のサーヴァント。 第四次聖杯戦争において、この世全ての悪(アンリマユ)・聖槍の原罪 そして、言峰による 「見よ。まことにわたし(神)は、新しい天と新しい地とを創造する。 先のことは思い出されず、心に上ることもない。だから、わたしの創造するものを、いついつまでも楽しめ」 という世界の終わりを聖杯に願ったことによる触媒によって、現世に召喚された反英雄である。 もっとも当初は、冬木の街に土着した現象的な形のないものであり 着々と人々の悪意を煽るなどの終末到来のための暗躍を行い、第五次において間桐桜によって召喚され肉体を得る。 正真正銘の邪悪な英霊。 本来は英霊に収まる霊格ではなく、神霊といった方が相応しい。 老若男女問わず誘惑し、堕落させ破滅に追い込む悪徳の華。 笑うと途端に邪気のない聖女のように清らかな表情になる。 宝具は『溢れる邪淫(ルクスリア・チャリス)』 と『黙示録の獣(アポカリプティック・ビースト)』 を有し 特にこの黙示録の獣は、赤き竜より同等の力と権威を戴き、次元違いの力を有する。 呪力の純度は、世界から供給される大源(マナ)と悪意によって大きく上限するが 龍種と同等の力も有しているため、単一でも生半可な英霊では太刀打ちはできず、 審判の日には、天を貫き、大地を腐敗させ、あらゆる生命を死滅させるほどの権威と力を得られるという。 また、彼女自身も「原初」の力を有しているとか。詳細は不明。 ランサー(人名/サーヴァント) 167cm・58kg 真名はアキレス。 イリアス叙事詩の主人公。プティアの王ペレウスと海の女神テティスの息子。 数多くの英雄が激戦を繰り広げたトロイア戦争において、最強の英雄としてその名を讃えられている大英雄。 生まれてから間もなく、母によって冥界を流れるステュクス河の水に全身を浸され不死身となる。 その際に、踵を掴まれていたために唯一の弱点となってしまったアキレス腱の逸話はあまりにも有名だろう。 トロイア戦争の時、アガメムノーン王がアキレウスの妻プリセイスを連れ去ろうとしたことで戦場から去ってしまう。 その後苦戦したアテネ軍からアキレウスに謝罪と参戦を請う使者が来て、 最終的には戦線に復帰し敵側の最強の英雄ヘクトールを倒す。 そして女神エオスの息子メムノンを殺し、トロイア軍を城市まで押し戻しスカイアイ門から入ったところで アポロン神により狙いを定められたパリスのはなった矢に弱点の踵を射られ、さらに次の矢を胸に受けて戦死した。 これにより両軍共に大黒柱を失った形になり、その後の戦局は混迷を極め 死後、アキレスの魂は英雄たちの楽園であるエリュシオンに迎えられたとも、 冥府でオデュッセウスと会見したとも言われる。 容姿は、金髪、碧眼、薄い唇の美男子で、剣、槍、弓矢の腕にも優れ、 さらに素手であっても、どんな敵にも勝てたという。 また、「足の速い」アキレウスとも呼ばれ、父から譲り受けた馬、バリオスとクサントスを除いて、 どんな馬よりも速く走れたといわれる。 バベル歴代で最速のサーヴァント。 名立たる英雄と、神々・幻想種があたりまえのように存在した神代において 無双を誇るまでに到達した無窮の駿足は、地に足を下ろしている限り、慣性の法則に縛られぬあらゆる制動を可能とし その速度は最高で、地球の自転速度に並ぶほど。 彼の願いは、自身の人生に後悔はないが、生前の若さゆえの浅慮な行動を恥じており、次の生を得たときは よく深く思慮し、強く正しい道を進むことを望んでいた。 時に厳しく、時には優しく接する、戦士としてもサーヴァントとしても非常に高潔で優れた人物であり 凛という最高のパートナーを得たことにより、此度の戦場においても輝かしい栄光が得られるはずであった。 だが、この歪んだ聖杯戦争において、彼の力は十二分に発揮することは叶わず 盾にされた凛を庇った隙をつかれ、アーチャーに腱を射られて敗北してしまう。 六道(用語) 六道(りくどう)とは、仏教において迷いあるものが輪廻するという、6種類の迷いある世界のこと。 すべての衆生が生死を繰り返す六つの世界。 迷いのない浄土に対して、まだ迷いのある世界。 地獄道・餓鬼道・畜生道・修羅道・人間道・天道。前の三つを三悪道、あとの三つを三善道という。 仏教では、輪廻を空間的事象、あるいは死後に趣(おもむ)く世界ではなく、心の状態として捉える。 たとえば、天道界に趣けば、心の状態が天道のような状態にあり、地獄界に趣けば、 心の状態が地獄のような状態である、と解釈される。 なお一部には、天狗など、この輪廻の道から外れたものを俗に外道(魔縁)という場合もある (ただし、これは仏教全体の共通概念ではない)。 地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天。などのカルマに支配された六種の衆生が、 生命の輪廻の輪の中に表されている。 アシュヴァッターマンによって放たれた『獄炎秘めし災厄の矢(アグネア)』 ベイリンによって混入された『聖者の嘆き(ロンギヌス)』 の原罪 聖杯に眠るこの世全ての悪(アンリマユ) 第五次聖杯戦争に召喚されたアキレスとカルキを除くサーヴァント、守護者 聖杯降誕の地、冬木市と生命。 神と崇められる自然霊。 位階を別にする六道を揃え、然るべき手順と儀式を行った人間は この輪廻の輪を断ち切ることで解脱が得られるという。 これほどの純度の触媒と、聖杯を持ってすれば、確実に天上の神の座へと届くだろう。 ニムロドと臓硯は、最大の障害となる抑止力(閻魔)の目を逸らすだろう終末の日の中で 儀式を行う腹積もりである。
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最近発見された、新しい『創作カード』と呼ばれる、それまで公式扱いされなかった カードも、大会で使用可能となった。 元々複雑なルールが、更に煩雑になってしまった。 そして準決勝戦で、「『金髪のやつら』を全員」と言う内容の、何だか品のない創作 カードを使った男がいた。 ――――その3日後、本当に元世界チャンピオンが家にやってきた。 「うわあ」 「おじいちゃん、うそじゃなかったんだねー」 「―――……だから言ったじゃないか」 幼い孫達は驚きと嬉しさに子供特有の間抜けで声高な歓声を上げ、両親達は意外にも 喜びつつ落ち着き払った様子で対応し――――祖父は、涙ぐんでいた。 こんな田舎町、外国人が来ること自体が稀な事だし、それが著名人であるなら、最早 異変のレベルである。 近所の連中も変な声を上げたりしていないかと、一家は軽く不安になったが、嬉しさ が勝った。 ひとしきり、本人にはおさだまりであろう他愛ないパーソナルな質問を続け、祖父が それを逐一翻訳し、サインを快く引き受けてくれ、振る舞われたお茶と菓子をいかにも 遠慮がちに取り、一息つくと―――――改めて、チャンピオンは、悲しそうな顔をして いた。 そして、祖父に向けて何かを言った。 「ちょっと 二人きりになりたいそうだ」 これには、祖父も気まずそうだったが、特に臆する事も躊躇う事も無く、2階の部屋へ 二人は向かった。 「怒ってるのかな?」 「おしえてくれなかったけど、おじいちゃんとチャンピオン、なんでともだちなの?」 「小学校の同級生だって」 「えっ………」 単純すぎる理由というより、あの二人が同い年だという事自体信じられなかった。 親子と言っても信じる者はいるだろう。 そう――――二人の人生は、あまりにも対照的だ。 エネルギッシュに、最近まで王座を渡すことなく勝ち続け、その時流に合わせた戦法 も老獪などとは形容されな進化を続ける世界チャンピオン。 聞けば元々裕福な家庭だったそうだし、かなり幼いころからその才能を目覚めさせ、 本業の傍ら興した企業もずっと安定した軌道を描き続け、十分な財を築いてる。 ずっと王者の花道を走り続けた来た男だ。 片や、祖父ほど苦労した男もいない事を、家族の誰もが解っていた。 戦火の中、国境をまたぎ、転々とする生活。 貧困。 差別。 誰にも知られる事なく、財を築いたわけでもない。 だが、チャンピオンが世界中のライバル達と戦い続けたように、祖父も戦い続けた。 割かし平和になったと言われる今だが、こうして、5人が家族としていられるのも、 祖父の想像を絶する苦労の賜物だと、父親から孫達は聞かされていたし、まだ学校で 詳しく歴史を学んでは いないけれど、彼女達なりに理解していた。 偉大なる苦労人の祖父。 されど、世界から見れば結局只者である祖父。 「よくともだちになれたねえ」 「チャンピオン、やさしいからだよきっと」 見た目には、チャンピオンは下手をすれば30代、どう見ても40代にしか見えないが、 祖父に至っては近所でも80代と思い込んでいた人もいる。 案外容易に、それまでの軌跡は顔に表れてしまうもの。 チャンピオンに、打ちのめされてきた祖父は何をやらかしたものか―――――と、結局 権威主義な幼児達は不安げに天井を見つめて、二人が戻るのを待った。 それはそれとして――――能天気に、二人は自分達の「デッキ」を鑑定してもらおうと、 いそいそと棚を開けて用意し始めた。 そうこうしている内に、二人戻ってきた。 実にいい顔で。 チャンピオンは初めて笑っていた。祖父も笑っていたが、ちょっと卑屈そうな顔だった。 まあこれはいつものこと。 あんまりいい顔なので、両親も孫達もかける言葉が思いつかなかった。 その内、「HAHAHA! ソウダッタノー」とでも言いそうだった。 「ははは! そうだったのー」 実際に言った。しかも流暢にこちらの言葉で。 「まったく、私が売る訳ないじゃないデスカ」 祖父は何故か少しなまっていた。二人はドッカと腰を下ろして、打って変わって太平楽 に話し始めた。母国語なので何を言っているのか解るはずなのに、皆てんで解らなかった。 孫達は心配が消し飛び、とりあえず「デッキ」の鑑定だけしてもらおうと待ち構えて、 少しだけチャンピオンの傍に寄った。 元々視野の広い人なのだろうか、ちゃんとチャンピオンはそれに気づいてくれた。 「――――ほほう、お孫さん達もやってるのかい」 「そりゃ、儂の孫ですダデ」 ちなみに、お父さんは全くやらない。 若い頃に散々な目にあったとか、才能の無さを痛感したとかで最初は孫達が興味を示し 始めた頃は止めさせようと焦っていたものだ。 しかし、祖父とお母さんは薦めてくれた。そう、祖父の影響だ。 妹の方は、気になって直接聞いた。 「さっきから、なにをおはなしてたの?」 「いや何、私の早とちりだよ。実家で今年の大会を見ていてね」 ああ、あのTVでの。 やはり引退後も気になるか。 「準決勝戦で――――そのなんだ、君のおじいちゃんしか使えないはずの一手を放った ――と思ったんだ」 「――――ナンですって?」 気まずそうにチャンピオンは続けた。 「彼がね。 私らの宝物を売り飛ばしてしまったんじゃないかと」 「まったく、そんな事する訳ないでしょう」 でも、実際は会いに来る機会をうかがっていたという。 これは嘘ではなく、本当に多忙だったためで―――そこを衝動的に足を運ばせたものが、 怒りと疑惑と悲しみなんて感情だったことを、素直に詫びたい、とチャンピオンは改めて 言った。 「実際は単なる早とちりだった――――私も齢だね」 「新しく導入されたもんは多いですから……………」 「すると―――――私達の切り札は………」 「大丈夫。未だに、あれは、2枚とも、切り札デスヨ」 にっこり笑って、祖父は、孫達の「デッキ」を入れている棚の最奥から、自分の古びた 箱を持ち出し、何重にも丁寧に綺麗な布で放送された封を解いた。 これは家族もめったに見る事がない。 お父さんもお母さんも、興味津々に見つめている。 「説明しましょう」 ――――シンプルな様で、緻密な戦略と大胆さが要求される、今や世界で最も競技人口が 多いとされるカードゲームの一つ 「ゆっくりハードラー」の元世界チャンピオンは、ほんのりと目元をギリギリ零れない程潤ませて、 語り始めた。 **************************************** 子供の立場で言わせてもらうと、とにかく「イライラした時代」だった。 とりわけ「『向こう側』の文化は精神を堕落させる享楽主義の象徴」とか言ってたレベル だ。 精神論・根性論なことこの上無い。 戦争に負けるちょっと前の話だよ。 後の敗戦国だろうと、世の中的に見れば、ただでさえ余所者は結局マイノリティーだ。 当然その鬱憤は、流れ着いて身近に生活している連中に向けられた。よくある話さ。 まあ、そんな訳で、ゴンザも――――君らのおじいちゃんがどんな目にあってたかは、 聞いてるし想像できるだろう。 ――よくある事なんて言うのも確かに酷いが、実際戦時下でありがちな事をありがちに やってしまう凡庸すぎる連中が多かった。 私もイライラしてた。 だが、苛めで発散しようとは思わんかったよ。 これは言い切る。 いいだろ、それは。 ゴンザが証明してくれてるんだから。 余裕あるのは、そこそこ金持ってる奴の特権だなんて陰口も知っておったが、イライラ はしてた。 で、その日、いつもどおり泣きじゃくってるゴンザを、学校の帰りに見かけたんだ。 相手は―――そうさな、中学生かもしれんし、もう高校くらいの齢だったかもしれんな。 いかにも頭悪そうな不良が数人、痩せぎすの移民の子を吊し上げて、何かを取り上げて るんだから、もう見てるこっちが恥ずかしくてね 「おう、糞虫野郎がいっちょ前にレアなもん持ってるじゃねえか」 「どこで盗んだか知らねえが、こっちに返してもらうぜ糞虫野郎」 「ったく糞虫野郎の相手してやんのは疲れるぜ。くせえくせえ汚ねえ汚ねえ」 最後のやつの台詞は恥ずかしいを通り越して怒りが沸いてしまった。3者3様に糞虫野 郎というバリエーションの少なさもイライラさせてくれたが、自分からカツアゲして 「相手してやる」は頭が悪すぎだろう とな。 「やめろお前ら! そいつが何をしたって言うんだー!」 「馬鹿かお前。見ろこのカードの束を」 「そこら辺の店で盗んだもんに決まってるんじゃねえか」 実際、ゴンザ達は買い物に行っても、店員が高確率で「売ってくれない」という手段に 出る事があるので、それは嘘だと言い張るつもりだった。 「君は、同じクラスのウェクスラー君…信じておくんなまし。オイラはそんな盗みなん て働く様な真似は……」 「てめえら全員盗人みたいなもんじゃねえか。だからここに住んでだろうが」 「何言われてもいいでがすから、カードを返しておくんなせえ そりゃ、ぼくの……」 「喋るな、臭い」 「おお、返してくださえ返してくだせえ」 まあ………いや、本当に言ったんだよ。 君達のおじいちゃん、こういうこんな感じの喋り方で。今でも覚えてるんだ。 何となくわかるだろ 「本当に自前かもしれないだろ!」 「仮に自前でも、こいつら泥棒一族じゃねえかよ」 「俺たちゃこいつらに毎日搾取されてんだ。それを取り返しただけだと思わねえかい?」 「最初から、こいつらが何か所有できる権利なんて与えちまったのがそもそもの間違い なんだよ馬鹿」 私は―――――その時、初めて、そのカードを見た。 とても洗練されたシンプルな外枠のデザインのカードだった。 一瞬で釘付けになった。 その表面には、様々などこか遠い国の、まるで文字通りこの世の者とは思えない文化を もった、いずれも少女達の緻密な絵と、数値と、いくつかの記号が記されていた。 実に不思議な魅力があって、手に取って、一枚一枚眺めながら楽しみたいと思った。 「ああ、これが噂の」 「『ゆっくりハードラー』だ」 そう。 時代はまさに、「ゆっくりハードラー」の黎明期。 運命の出会いだったさ。 「おいおい、『娯楽は敵』だし、『精神を堕落させる享楽主義の象徴』じゃないのか?」 「だから、この糞虫野郎が国外から持ち込んだ糞文化を回収してるんじゃないか」 「うう……『ゆっくりハードラー』は糞文化なんかじゃ……」 「黙れこの母親強姦野郎」 よく解らない罵倒のバリエーションを増やして、奴等の一人は吊し上げたゴンザを、 今度は地面に叩きつけようとした! その時 「そこまでよ」 一閃! 信じがたい事に、それを激突する直前に受け止めた第三者が現れた。誰もそれまで近くを 通りかかった事も気が付かなかった。しかも女性だった。 身の丈、2メートルは軽く超えた、今まで見たどんな屈強な男よりも鍛え抜かれた、 鋼の様な筋肉の塊でもあった――――― と思ったら、瞬きをしてもう一度見ると、パジャマみたいな服を着た、不健康そうな 紫色した髪のもやしみたいな女性だった。 未だになんの見間違えだったのか解らん。 「大の男が、往来で昼間から母親だのって」 「誰だあんた?」 「話は、全て盗み聞きさせてもらったわ けれど……」 彼女は私と連中を交互に見つめて言った。 「本当に『ゆっくりハードラー』を手にしたいんなら、『ゆっくりハードラー』で戦って 手に入れればいいでしょう」 と、いつの間にかその紫色のもやし女の横に、赤い髪のなんだかバーテンダーみたいな ――― こう、何というか邪悪と言うか人を堕落させることに躊躇がなさそうな印象の―――― 小柄な女性が立って説明してくれた。 「角の店で売ってる、もっとも熱い、知的なトレーディングカードゲーム。その勝負で決めれば あらゆる意味で合法ですね」 「これからセンセーションを巻き起こすぜ」 「だから、あんたら誰なんだよ」 二人は堪えてくれなかった。 「もう、解ったよ。それじゃ、そのルールで戦って勝てば、お前らから、ゴンザのカードを 返してもらえるんだな!」 「誰が乗ると思ってんだ、んな話に」 「いや、クレアンガ先輩……」 一番細めの奴が、リーダーと思われる奴に耳打ちしたが、こちらには丸聞こえだった。 馬鹿だ。 「あいつ、ウェクスラー家のボンボンですぜ。きっとこの後金に物言わせてさぞレアな もんを揃えるでしょうからそこを……」 「悪くないな」 まあ、そこまで言われるほどうちは金持ちでは無かったし、私も自由にできる金などは なかったが、そこら辺の店に行き、カードを最低限そろえる事はできると思っていた。 「あ、じゃあ私の店で買いなさい」 「これ、地図です」 「あ、どうも」 販促活動の一環だったのか、二人の女はチラシだけ渡してそそくさと帰ってしまった。 「この、泣く子も黙るクレアンガ先輩相手に二百年早いってんだよ」 「そんなあ、ウェクスラー君、オイラなんかのために……!」 「勘違いすんなゴンザ。本来なら俺達は弱い者いじめをほっとけない民族なのさ」 そういう訳で、その足でゴンザと二人、かの店へと向かった。 住宅街の中、何故かぽっかりとこじ開けたような深い池があって、そのあまり舗装され ていないほとりに、その店はあった。 外装は真っ赤で窓が少なく、もう見るからに入りたくなかったが、泣きじゃくるゴンザ にあれだけ威勢の良い事を言い続けた手前、他の店に、という訳にいかない。 踏み込もうとした時、池の向こう岸の方で酷く大きな水音がした。 見ると、緑色の髪をした、異様に小柄な女の子が立っていて、その足元で中年男性が 溺れている。 どう見ても、彼女が突き落としたようにしか見えなかった。 助けを呼ぼうとしたら、中年は自力で這い上がってたがその時は既に女の子はいなく なっておった。 「怖いね」 「うん」 中に入ると、すぐ横のレジは、恐らくフィリピンか韓国の女性が眠そうに番をしていた。 まあ気立ての良さそうな人で、すぐに気持ちよく挨拶してくれたがね。 奥には、 ┌──────────────────────────┐│ _ _ ___ ..││ __ ,'´ ^⌒ヽ .....││ _| \ ,''" ヽ. .││ / \ ││ \ ノ_,.-‐ァーr~ー~ー-~ー-~-x ヽ, ....││ \ ,{rf~冖^⌒^7ー~ーー~ーー~`ヽ人 ' , ││ / ,' ,'! /! ! ; /! `'个し-} `ト、| ...││ r'_,! / ! /| /| /! / ! /ハ! \}N} \ ││ ! / ∨ .| / | / | ノノ/ | .| ヽ_丿 ││ i,/| r' ̄ヽ レ' r' ̄ヽ .| | | ││ / i .! | | ......││ / i /// !―――! /// ! | i l .││ | l \ _ノ /ヽ / !. l l ││ / ハ / | ! | ヽ ││ ヽ / ヽ / i | ! / ││ レ "、 \ | ! | / ...││ " 、____ イ´| /レ'ヽハヘ .││ ...│└──────────────────────────┘ ちょっと狂気じみた肖像画があった。 店主がはまっている宗教の本尊かもしれないし、店主自身だったらそれはそれで怖い。 雑貨屋だったよ。 暑い日だったので、アイスでも買おうとボックスを開けたら、火傷しそうな程、冷たか った。 尋常じゃなかったな。白い冷気の中に、何か青っぽい小さな人影見えたみたいで、ぞっ としたのをよく覚えとるよ。 悪魔とかそういう類じゃなく、ああいうのを妖精とかいう奴の気持ちは解るが、油断す るとグッサリやられるタイプだとか何かそんな風に感じたよ。 レジのフィリピン人だか韓国人だかの女性に、「ゆっくりハードラー」初心者だって事を 伝えたら、快く簡易カタログを持ってきてくれた。 「おお、気前の良い店ッスね! 普通はここまではしてくれませんぜ」 「どれどれ、どう揃えようか……」 基本的なルールはそこに書いてあったし、ゴンザが丁寧に説明してくれた。 カード自体の種類が全部網羅されている訳では無いが、約20種類以上の「属性」「系統」 と、それぞれのカードの持つ数値の組み合わせ―――と、まあ説明するまでも無いな。 小一時間ほどで、何とか私はルールだけは飲み込めた。後は実戦あるのみだったが―― ――1つ気づいたんだ。 「なあ、ゴンザ」 「何だす?」 「この左端に書かれてる文字は何だい?」 ガイドブックのルールには載っていないし、別段何も意味はなさそうだけど、各カード の絵柄の左上には、一文字ずつ、恐らく東洋の「KANJI」が記されていた。 大体は一文字だが、いくつかは二文字あった。 カタログは最初適当に配置されとるんじゃないかと思ってたんだが、よく見るとその 文字である程度分類されとる様子だった。 これはルールにも記されておらんし、特に覚える必要も無い事だったのかもしれないが、 変に気になった。 更に目を凝らすと、その「KANJI」の横にはうっすらと数字がふってあった。中には 代わりに、こう―――長方形の真ん中に一本線を入れただけの「KANJI」が代入されてる もんもあったが、それはあらかたサポートカードだった。 その時だけだったんだ。 ずっと「ゆっくりハードラー」を続けているが、その「KANJI」も横の数字も、何故か その時しか見えなかった。 あれから勉強して、大体どんな意味かは解るし、どれがどれだったかが書けるようにな ったのはずっと後の事だが、書いてみよう。 「妖」 「永」 「風」 「地」 「星」 「神」 数字が特に振られていないものでは、「花」とか「夢」なんてのもあった気がする。 あと、その横に「緋」と書かれている場合もあった。 数字は1~6までで、その後は「EX」と何故か英字だった(たしか『妖』だけ、『PH』と 書かれたものもあった) ゴンザももちろん知らなかった。 これに気づくのはちょっと時間がかかってしまってね。 完全じゃなかったんだ、そのカタログは。 実は「紅」というのが最初に載ってたんだが、サポートカード以外、全部横に「緋」が あった上に―――――――「1」と「EX」が欠けておったんだよ。 「何か中途半端だなあ」 「その通り」 気が付くと、横にはメエドさんみたいな気取った格好をした女の店員が立っていた。 本当に何の気配も無く、突然そこにいた。 座った位置から見上げる形で見た訳だから、角度がおかしかったのかもしれないが、 何だか不自然な顔の向きだったな。 最近、東洋のタイヤ会社の―――タイヤの中央に人間の顔がはめ込まれた―――― マスコットを見かけたが、それにそっくりの不気味な笑顔だったんで驚いたよ。 メエドさんはニヤニヤしながら、教えてくれた 「実は、まだ逆輸入してないんですよ。その2枚だけ」 「ぎゃく……逆輸入?」 「ウェクスラー君、このゲーム、実際は外国のだってことはご存知でがすよね?」 そう、別に法に触れとる訳じゃないが、このゲームが流行った背景には、そうした大人 から口先では禁じられている背徳感とかもあったのだろう。 「『逆輸入』って……上手く言えないけど、元々『こっち』のもんだった物が、『他』で 加工されてまた帰って来るとかそういう………」 「それにしても驚きました」 レジにいたフィリピン人だか韓国人だかも、興味津々でこちらを見ている。 「この文字が見えるなんて………」 「えっ?」 「大人には、このカード自体が見えない人が随分いますし、子供でも欲で脂ぎって しまった眼球にはカードが見えても大切なことまでは映らない……」 「はあ……」 「本当に時代を切り開くのは、いつだって曇りの無い目をした少年少女達ですわ」 それは多分、子供にだけ見える妖精とか精霊とか――――何か所謂その、なんていうか まあ、そんな感じの事を言いたかったんだろう。多分 「久しぶりですねえ、子供でもこの文字が見える子も」 「本当にこの――――ええと何だったかしら?このカード」 メエドさんは、首を更に不気味な角度に傾げながらカードをしげしげと見つめた 全く同じポーズをフィリピン人だか韓国人だかもとっていた。 「ええと……あら何描いてるのこれ?」 「――――っていうか、これカード?」 「カードじゃない?多分」 「カードではあるわね。何も描いてないけど」 「……………………」 「……………………」 「……………………」 「……………………」 ――――「あんたは、カードの絵が見えないのかよ!」って言ってほしかったんだろう 「………カードの絵が、見えないでごんすか…?」 「お姉さん達は、絵自体見えないの?」 一瞬、店の中が何だか真っ赤になった様な不安な気分になり、沈黙が続いたが、二人は 幾分満足そうだった。 「ありがとう」 「本当ありがとう」 やっぱり言ってほしかったんだな 「純粋さと優しさを兼ねたあなた達には、特別にこれをあげましょう」 「頑なに輸入が拒否されていたけれど、あなた達なら使いこなせるでしょう」 そう言って取り出してくれたのは、2枚のカード 思えば、それが全ての始まりだったんだろう それが、ほれ、このカードさ 両方とも、それぞれ金髪の女の子だが―――何か見てもどこか禍々しい空気だな。 まるで何かを訴えるみたいに、両腕を左右に広げた、「紅いリボンのおかっぱのやつ」。 もう片方に、とにかく狂気じみてるね――――明るくない事は無いが、尋常な精神状態 ではない事だけがうかがい知れる笑顔の「ちょっと凶暴そうなやつ」だ。 どちらも無邪気そうではあるし、見た目も案外似ていたが、リボンの子は、何だか自由 な気質を感じたし、片方は何だかとんでもない孤独さが滲み出てるようだった。 背景が月夜なのと、どこかの地下室だって事の違いかもしれないな。 「紅いリボンのおかっぱの奴」は、「紅」-1 「ちょっと凶暴そうなやつ」は、「紅」-EX と書かれてあった。 他の「紅」のカードと違って「緋」とは書かれていなかった。 ともあれこれで、「紅」は全部そろった事になる。 出だしからとんでもなく得をした気分になって戸惑ったが、店員二人は、そのカードを 二つ同時にデッキにまだ入れてはいけない、―――というか、このカード自体使ってはい けない、と頑なに注意した。 「なんでよ?」 「少年少女が、切り札を簡単に若いうちに使うもんじゃありません」 「どうしようもなく追い詰められて続けようも無いとか、もう一度初めからやり直そう とか思った時、ようやく使うといいでしょう」 私は、そこで、「ちょっと凶暴そうなやつ」を譲り受けた。 そして折角だから、「紅」の 「何か頭悪そうな触ると冷たそうなやつ」 ―2 「割と気の良さそうな中国人っぽいやつ」 ―3 「本ばかり読んでそうなパジャマっぽいやつ」 ―4 「仕事のできそうなメエドっぽいやつ」 ―5 「うーうーってやつ」 ―6 を中心に購入し、 「割と真面目そうなそうじゃないようなちょっと頭一つ上行く妖精っぽいやつ」 と 「下働きしてる悪魔っぽいやつ」 をサポートカードに選んだ。 ゴンザは、「紅いリボンのおかっぱのやつ」を譲り受けたが、元々持っていたデッキは、 「体型が少し妊婦っぽいやつ」 ―1 「何だか問題ありそうな鼠っぽいやつ」 ―1 「蟲っぽいやつ」 ―1 しか無かったんだが、あの店員は、「これは追求すればとんでもないデッキになる可能性 がある」と大いに褒めていたな。 そんな訳で、本当に何かのっぴきならない事態になった時は、ゴンザが私に「紅いリボ ンのおかっぱのやつ」を貸して、「紅」デッキを完成させて挑もう 代わりに貸せるもん はいつでも私が貸そう、と約束して、その日は帰った。 ただ、「紅」の文字も、その横の数字もそれ以来何故か見る事ができなかったんだ。 二人で見えたんだから間違えは無いんだがね 本当に何だったのか……… 中学生達との戦いはどうしたのかって? 勿論圧勝したさ。 **************************************** 「ウェクスラーさん、あれから一回も『何かのっぴきならない事態に』になんてなりま せんでしたね」 元チャンピオンの昔話が終わると、遠い目で、ゴンザ爺さんはポツリと言った。 「いつも、ゆっくり ゆっくりとして勝っていた」 「いや、そんな事はないさ。本当は非常事態の連続で、ゆっくりとなんかしていられ なかった ただ、表向きゆっくりと取り繕っていただけさ」 元チャンピオンは取り繕うように焦っていた。 「それでも、『自分には、本当にダメになった時には切り札がある』『何かをやり直そう とする時には力を貸してくれるはずの友達がいる』―――そう自分に言い聞かせると、 どんな戦局も慌てる状況では無いって事が確信できて、自然とゆっくり次の一手が思い ついたのさ」 そう―――― そこから先は、「ゆっくりハードラー」を嗜む者なら誰でも知る、正に覇道一本道を驀進 の歴史である。 「仕事のできそうなメエドっぽいやつ」 と 「うーうーってやつ」を中心に揃えた チャンピンのデッキは、基本カード5枚とサポートカード2枚という本当に最低限の組み 合わせで、公式ではついに黒星をつけられる事が無いままだった。 勿論、その裏には地ににじむような研鑽と苦悩がある事は誰もが想像できたし、世界中 のライバルたちに研究される対象となり続けながらも、頑なに持ち札を変えないこだわり には、こうした思い出があったのか。 その場の全員が、胸と目頭が熱くなることをこらえきれなかった。 そして、それが二人の友情の歴史であった事も間違いなかろう。 時折家族に話していたゴンザ御爺さんの昔話は、本当に嘘ではなかったのだ。 「まあ―――――あれ以来だったな。カードを取り返してから、ゴンザはどんな試合に も都合をつけて、応援をしに来てくれた。本当に来てくれるだけでも――――私は それだけで勝てる気がした。 『紅いリボンのおかっぱのやつ』を持ってるからって訳じゃなくてね」 しかし、それも長くは続かなかった事も知っている。 大人達に隠れて、少年少女が「ゆっくりハードラー」に昂じている間に、やがてチャン ピオンの国と、ゴンザ御爺さんの実家―――つまりいまいるこの国との戦争が始まり、 世界は阿鼻叫喚の坩堝に巻き込まれていくことになる。 戦中も、地味に「ゆっくりハードラー」は続けられ、競技人口を増やし、戦後はついに 国境を越えた世界大会が開催されるに至るが、その頃には、二人は本当に交わる事のでき ない道をそれぞれ歩んでいた。 「本当にすまない…… 探そうと思えば、君をいつでも探せたのに、日々にかまけて いて……」 度重なる戦争 国境で引き裂かれた友情 「………結局人間は馬鹿だねえ」 「―――戦争するなら、『ゆっくりハードラー』みたいにカードでケリでもつければいい のに……」 更に――――「何故か5月ごろまで降り積もる雪」 「ずっと明けない夜(一説には月にまで異常があったとか)」 「全世界中に突如常軌を逸して流行した新興宗教」 「地下から隠蔽が発見された謎の大量破壊兵器」 「各地で目撃された未確認飛行物体」 「大量発生した『エクトプラズム(?)』」 ―――解決できていない天変地異は数多くあり、世界は荒れに荒れた 「しかし私は、結局具体的にはウェクスラーさんに、何にも役に立てませんでしたしね」 「そんな事は無いさ。大体ウェクスラーさん、なんて言い方はよしてくれ。昔みたいに、 アンドレアと、名前の方で呼んでくれ」 「ゴンザ」 「アンドレアさん」 ――――ったく爺さん同士で…… と、これには流石の孫達も渋い顔。 両親も交えて、昔話に花が咲いた所で、二人は件の2枚―――――― 「紅いリボンのおかっぱの奴」 「ちょっと凶暴そうなやつ」の2枚をしげしげ と見つめた。 「「あれ?」」 そこには、無いはずの――――先程話していた、「紅」の文字がそれぞれに。そして、 横には「1」と「EX」の文字が確かにうっすらと見えた。 「「あれあれー?」」 姉が、慌て自分のカードを見ると、「何か頭悪そうな触ると冷たそうなやつ」に「紅ー2」 、 「蟲っぽいやつ」には、「永―1」、「雀っぽくて歌が上手そうなやつ」には「永―2」等と 振られてある。 今まで、こんな文字書かれていなかったのに。 妹もお気に入りを確認すると、「正体不明っぽいエイリアンっぽいやつ」に、「星―EX」 「無意識に何かやりそうなやつ」には「地ーEX」の文字が。 首を傾げていると、老人二人と両親はそれに気づき、驚いていたが大層喜んでいた。 「この文字が見えるなんて………」 「えっ?」 「大人には、このカード自体が見えなくない人が随分おるし、子供でも欲で脂ぎって しまった眼球にはカードが見えても大切なことまでは映らないのじゃよ……」 「はあ……」 「本当に時代を切り開くのは、いつだって曇りの無い目をした少年少女達って言うで ごんすからねえ」 それは多分、子供にだけ見える妖精とか精霊とか――――何か所謂その、なんていうか まあ、そんな感じの事を言いたかったのだろう。多分。 「よし――――それじゃ、お姉ちゃんには、儂から『紅いリボンのおかっぱの奴』を やろう」 「引退した私がいつまでも持っていても仕方がないからな。妹さんには、 『ちょっと凶暴そうなやつ』を」 こうして――――― 一度も使われる事も無かった、長らく欠番だった(という事にすら 気づかれなかった)幻の2枚は、新世代の幼女二人に受け継がれた。 老人二人はニヤニヤと笑いながら、かの変な角度に顔を傾けたメエドさんと、フィリピ ン人だか韓国人だかのレジ係が渡すときにつけたとされる条件を、二人にも課した。 あんな話を聞いた後なので二人は素直にそれに従う事にしたし、後年もそれは守られた。 ボソリと、ゴンザ御爺さんは言った。 「今だから言えますし――――まあ、知ってても言及する人はいないんでヤンスガネ」 「うむ」 「『ゆっくりハードラー』って、元々アジアのどっかであった、ゲームが元ネタなんデス」 「………聞いたことあるな」 まあ、よくある話。 「実際は、魔法使いだか牧師さんだかが、悪魔退治に勤しむ話らしくて――――――― 『ゆっくりハードラー』の絵に 描かれているのは、皆そこに登場する悪魔なんだ そうですよ」 「ほぼ全員女の子じゃないか」 実際、ゴンザ爺さんは元チャンピオンと知り合う前、その原作を見る機会があったそう だが、特徴こそ忠実にとらえているものの、その絵柄とは似ても似つかぬ容貌なのだと言う。 「大体、『ゆっくりハードラー』の絵って、基本皆顔同じだもんな」 「凄い間抜けデスヨね」 「大抵笑ってるけど、いらっとくるな」 技術も進んで、大会ではその絵が立体映像として、本物さながらに試合会場の上空に映 し出され、まるで神話に出てくる幻獣同士の決闘の様な、神秘的な戦いが視覚的に繰り広げ られるのだが、基本人をなめきった少女の生首同士の戦いなので、緊張感に欠ける事この上ない。 そんな中で真面目に勝負を続けられる自制心を持つ者だけが、「ゆっくりハードラー」 を極められるのだ。 「それに、カード一つ一つにだって、『KISUME KUROTANI』とか、『TERUYO HOURAIZAN』 とか『DIE』とかちゃんとした固有名詞があるんだそうで」 「ずっと、『~しそうな、〇〇っぽいやつ』って、まともな呼び方しないよな」 「これ、実況中継者も苦労してましたね」 あれは、本当に覚えるのも一々言うのも疲れるのだ。 「何なんだろうな、『ゆっくりハードラー』って」 「どこの会社が最初に作ったのかさえ今じゃ不明ですし」 そういえば、あの日出会った、池に中年を突き落した少女も、冷凍庫の中にいた何かも、 レジ係も販促したもやし女もの部下も、メエドさんも、肖像画も、皆同じ顔をしていた― ――――ような気がする。 老人二人は、何だか飲まずにはいられない気分になった。 その後、孫二人は5年後にうっかり切り札を早々と使ってしまい、のみならず、新たに 始まった「ダブルス戦」で、真の「紅」デッキを完成されてしまい―――――まあ、 新進気鋭のコンビとして、勝ちに勝ち続けた。 しばらくして、再び紛争が起こったが、「ゆっくりハードラー」の世界大会だけはずっと 開催され続けた。 更に、謎の有害だか無害だかもわからない、紅い霧が世界各地で発生するという大異変が 起き、更なる争いの火種となりかけた。 が、その頃には、腕に装着する事で、いついかなる場所でも「ゆっくりハードラー」が できるデッキ装置が開発され、大半の揉め事は、「ゆっくりハードラー」の勝負で解決される 世界になっていった。 立体映像は更に迫力を増し、まるっこい正体不明の生首のイライラぶりも目を見張るも のがあった。 平和になったんだか、却って剣呑になったんだかよく解らない世の中だ。 彼女達二人は、その後学校で「ゆっくりハードラー」を取り締まろうとする生徒会長や、 いけ好かない金持ちの美少女ライバルや、もっと悲惨な生い立ちを持つライバルや、 黒獣士13人衆と呼ばれる団体と衝突を繰り返し、研究所の協力を経て、本格的な軍事 利用を狙う謎の組織と戦い、地球に迫る隕石を破壊し、催眠術で暴徒と化した全人類の 洗脳を解き、世界を救う事になるのだが、それはまた別の話なのだった。 了 世界観が独特で読むのが少ししんどい また世界観から作っていく物語にしては序盤で引き付けられるモノが 少ないような印象を受けました -- 名無しさん (2013-03-19 02 26 33) 名前 コメント
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第153話 閉じられた蓋 1484年(1944年)6月28日 午後1時50分 ヘルベスタン領ヴィクスム ヘルベスタン領北西部にあたる北端の地域、ヴィクスムには、一本の河が流れている。 この河はヴィクスム河と呼ばれ、古来から地域住民に親しまれてきた。 そんなヴィクスム河の上に、とある日、一本の橋が立てられた。 1479年10月12日に完成したその橋は、河の名前を取ってヴィクスム橋と呼ばれ、ヘルベスタン・・・・ もとい、マオンド共和国では初めての鉄橋であった。 この橋は、シホールアンル帝国から派遣された技術者の協力を得ながら造られたもので、丸2年を掛けた工事の末、 全長50グレルの鉄橋が完成した。以来、この鉄橋は交通の要衝として広く使われている。 それから5年以上が経ったこの日。ヴィクスム橋には、幾多ものマオンド兵が、疲労を滲ませた表情を浮かべながら渡っていた。 ヴィクスム橋の周辺の防空部隊を指揮しているグリモ・トットウム中佐は、橋の東側にある小高い山から、森の木々に上手く 隠れた橋を見つめていた。 トットウム中佐は、対空魔動銃を大事そうに手入れしている兵に話しかけた。 「今日は、昨日と比べるとどこか静かだな。」 「ええ、今の所、アメリカ軍機は1機も飛んできませんね。」 兵はハンカチを取り替えつつ、トットウム中佐に答えた。 「昨日は本当にヒヤヒヤしたな。まさか、アメリカ人共があんなに飛空挺を差し向けてくるとは思わなかったよ。」 昨日、ヴィクスム橋は、100機を越すアメリカ軍機に襲われた。 アメリカ軍機は4波に別れて襲来して来た。 ヴィクスム橋の周辺には、橋を守るために配備されたトットウム中佐指揮下の対空部隊がおり、部隊は必死に反撃した。 アメリカ軍機はインベーダー、あるいはミッチェルが中心であったが、対空部隊の反撃と、ヴィクスム橋が上手い具合に森に覆われていたため、 爆撃はほぼ失敗した。 ヴィクスム橋は3発の直撃弾と10発以上の至近弾を浴び、橋を通行中の部隊に少なからぬ損害が出たが、頑丈な作りが幸いして 倒壊には至らず、空襲後も部隊の撤退は続けられた。 マオンド側は、翌日もアメリカ軍機の空襲はあり得るだろうと確信していた。 アメリカ軍は、目標の爆撃に一度失敗すると、その後も執拗に空襲部隊を差し向けていた。 そのため、マオンド軍では爆撃によって甚大な損害を被る部隊が少なからずいる。 このヴィクスム橋に対しても、明日は200機以上の大編隊でもって攻撃を仕掛けてくるであろうと思われていた。 だが、今日は昨日の喧噪がまるで嘘のように、いつも通りの平凡な一日となっている。 「アメリカさん、今日はお休みなんですかね。」 兵士はおどけたような口ぶりでトッウムに言った。 「お休みで結構だ。欲を言うなら、永遠に休んで貰いたい物だね。そうすりゃ、俺達は面倒な仕事から解放される。」 トットウム中佐の言葉を聞いていた兵達が、一斉に爆笑した。 「言えてますよ、それ。」 「だろう?まぁ、現実はそんなにも甘くはないんだがな。」 トットウム中佐は笑みを消してから、空を見上げる。 昨日は100機以上の爆撃機を押し立ててきたアメリカ軍だが、今日に至っては、まだ姿を見せていない。 そのため、今日はいつもよりものんびりと過ごせている。 だが、今のような、気を緩めているときに、突如として現れる事もあり得る。 「相手はアメリカさんだ。こうしている間にも、敵は近くにやって来ているかも知れない。お前達、対空警戒は怠るなよ。」 トットウム中佐は、改まった口調で部下達にそう告げる。 彼の言葉を耳にした部下達も、顔に張り付かせていた笑みを消して、それぞれの任務に集中し始めた。 それから20分が経った。 「隊長!北方監視所より魔法通信!敵機らしきもの1機、橋に接近しつつあり。」 トットウム中佐は、側に駆け寄ってきた魔導士からそう報告を伝えられるや、怪訝な表情を浮かべた。 「1機だと?もしや、偵察機かな。北方監視所はここから3ゼルド離れているから、こっちからでももうすぐ見えるな。」 彼がそう言ってからすぐに、北の方角から飛空挺特有の音が聞こえ始めた。 音が聞こえ始めてからさほど時間がかからずに、敵機の姿が見えた。 「単発機・・・・あの形はアベンジャーだな。」 トットウム中佐は、望遠鏡越しにその敵機の姿を確認する。 太い胴体と、その上に付けられた枠突きの風防。 単発機にしては大型でごつい印象があるその敵機は、アメリカ海軍の主力艦載機の1つとして知られているTBFアベンジャーである。 「空母艦載機が偵察、と言うことは、この近くに空母がいるのか・・・・」 トットウム中佐は渋い表情を顔に張り付かせる。 「くそ、味方のワイバーン隊がいれば、アベンジャーなぞはすぐに叩き落とせたんだろうが。」 陸軍のワイバーン隊は、連日の戦闘で大きくすり減らされていた。 アメリカ軍がモンメロに上陸した当初は、ワイバーン隊も頻繁に出撃して敵機と激戦を繰り広げていた。 だが、続々と押し寄せるアメリカ軍機に対してワイバーン隊の戦力はみるみるうちに減り、ここ最近に至っては、 ヘルベスタン領西部上空で味方のワイバーンを見かける事は、殆ど無くなっている。 トットウム中佐は、アメリカ側の予想を上回る猛攻によって、ワイバーン隊の戦力は壊滅したのであろうと確信している。 そうでなければ、今頃はこの戦略上の要衝ともいえる橋の上空に、常時護衛のワイバーンが旋回を行っていたであろう。 「隊長、撃ちますか?」 兵士がトットウムに聞くが、彼は首を横に振った。 「やめとけ。飛行高度を見る限り、ありゃ偵察機だ。爆弾を落とすんなら、もっと高度を落としているよ。 橋は森に覆われて、高空ではなかなか視認できんからな。それに、もう弾は残り少なくなっているんだ。 補給がもう来ない以上、弾は出来るだけ節約しないといかん。」 「・・・・はっ。」 兵士は不承不承と言った様子で、ゆっくりと頷いた。 アベンジャーはやがて、橋の上空を通り過ぎた。その後はゆっくりと時計回りに旋回を始めた。 トットウム中佐は、我が物顔で飛行を続けるアベンジャーを忌々しげな目付きで睨み付けた。 (くそ、弾がありゃ、あんな太り蝿ごときはさっさと叩き落としてやるのに・・・・畜生!) 内心で罵声を漏らした直後、何かの飛翔音が響いた。 「?」 トットウム中佐は、側にいた兵士と目があった。 「この音は」 言葉を最後まで発する事を許さぬとばかりに、唐突にドーン!という轟音が鳴り響いた。 その爆発音は強烈であり、強い振動が100グレル離れた彼の指揮所まで伝わった。 「!?」 彼は、橋の南側200グレルの森に上がった噴煙が目に入った。 「空襲・・・・いや、違う。」 トットウム中佐はすぐ後ろ・・・・北側に顔を向ける。ヴィクスム橋は、ヘルベスタン領北西部の一番北側にある橋だ。 その橋から6ゼルドも行けば、そこは海の上である。 「空襲では難しいから、戦艦の大砲で吹っ飛ばそうと言う事か。全く、アメリカ人という奴らは、やる事がいちいち派手だな!」 午後2時10分 ヘルベスタン領ヴィクスム沖北10マイル地点 その日、巡洋戦艦コンスティチューションは、機動部隊から分離し、ヘルベスタン領ヴィクスム沖5マイル(8キロ)の 海域にまで進出していた。 3基の55口径14インチ3連装砲が右舷側に向けられている。唐突に、2番砲が大音響を上げて砲弾を放った。 コンスティチューションの艦長であるエリック・ドルスマン大佐は、艦内電話の受話器を取り、通信室を呼び出した。 「通信室、敵さんの状況はどうだ?」 「こちら通信室。敵の魔法通信を傍受中。狂ったように魔法通信を乱発しています。」 受話器の向こうから和やかな口調が聞こえた。 声からして、ミスリアルからやって来た派遣将校であるフェルスト・スラウス少尉のようだ。 「そうか。例のポンコツさんは調子がいいようだな。」 ドルスマン艦長は悪戯じみた笑みを浮かべながらスラウス少尉に言った。 「艦長、あんまいじめないでくださいよ。この傍受機はまだ初期型なんですから。」 スラウス少尉はややうんざりした口ぶりで、艦長に言い返した。 コンスティチューションに積まれていた魔法通信傍受機は、モンメロ沖海戦勃発と同時に原因不明の故障を起こし、 海戦が終わるまで使えなかった。 それ以前にも傍受機は何度か故障を起こしており、乗員からはポンコツの渾名をつけられてしまった。 故障が直ったのはつい昨日の事である。 スラウス少尉の口ぶりからして、魔法通信傍受機の調子はいいようだ。 「連中が何か言っているかわかるか?」 「ええ。傍受した魔法通信の中には、アメリカ人は戦艦を投入してきた、という的を射た内容もあれば、B-29が 飛んできたのか?と問い質す内容も混じっています。」 「B-29は飛んできておらんよ。それに、飛んでくるんなら地上に爆音が響いている。とにもかくも、敵さんが 混乱している事は間違いないんだな?」 「はい。魔法通信が活発な事からして、連中は泡食ってますよ。」 「そうか。引き続き、傍受を続けてくれ。」 ドルスマン艦長は受話器を置いた。その直後、第3射が放たれる。 コンスティチューションがヴィクスム橋を砲撃するように命じられたのは、今から7時間前の事である。 コンスティチューションは、TF72の護衛艦としてヘルベスタン領西海岸沖に進出していたが、陸軍からの要請で急遽、 ヴィクスム橋を砲撃する事になった。 陸軍航空隊は、昨日の午前から4波に渡って爆撃機を差し向け、橋を爆撃したのだが、当の目標は森にほぼ覆われて周囲の風景と 同化している他、橋の周辺部には強力な対空部隊が配置されていたため、爆撃は失敗に終わった。 失敗の原因は、橋が周囲に同化していた事と、対空部隊の迎撃が熾烈であった事であるが、何よりも、A-26インベーダーや B-25ミッチェルといった軽爆隊のみで爆撃を行った事も、失敗要因の1つであった。 元々、ヴィクスム橋の爆撃は重爆隊が行う予定であった。しかし、それは、この世界特有の理由で不可能となった。 ヴィクスムの森には、現在も妖精や精霊の類が居ると言われており、現に北上中であったアメリカ第14軍の部隊も、実際に それらの妖精や精霊と言った森の住人達の姿を目撃し、一部の部隊は熱狂的な歓迎すら受けていた。 最低でも40機以上の重爆隊で絨毯爆撃を行えば、橋は落とせるかも知れない。 しかし、大量の爆弾は橋を中心とした広大な土地に落下する。 そうなれば、外れ弾によって命を失う妖精や森の精霊が大量に出る事になり、アメリカ軍は厄介な問題を抱え込んでしまう。 それを避けるために、27日の爆撃はインベーダーやミッチェルといった軽爆隊のみで行われたのだが、結果は失敗に終わっている。 しかし、27日のような爆撃を幾度も行えば、いずれ橋は落ちる。だが、それでは納得しない男が居た。 その男とは、レーフェイル派遣軍総司令官ダグラス・マッカーサー大将である。 「確かに爆撃を継続すれば、最低でも2、3日内には橋は落ちるだろう。しかし、その間にマオンド軍部隊は撤退を続ける。 橋が落ちるまでに、東に逃れるマオンド軍の数はわからぬが、それでも少なからぬ数の将兵が、包囲の輪から逃れるのは確実だ。 マオンド軍に大打撃を与えるためには、一にも二にも、まずはこのヴィクスム橋という退路を断つ必要がある。それも、出来うる限り早く。」 マッカーサーはすぐに、第7艦隊司令長官のオーブリー・フィッチ大将に電報を送り、戦艦の火砲によるヴィクスム橋の砲撃を要請した。 この電報を受け取ったフィッチ提督は、最初は難色を示した。 TF72は、モンメロ沖海戦で6隻あった機動部隊随伴戦艦のうち、実に5隻までもがドック送りとなっている。 2隻のアイオワ級戦艦は、判定では小破止まりであるが、対空火器の半数以上を失っているため、ドック入りは避けられなかった。 唯一無傷であったアラスカ級巡戦コンスティチューションが、機動部隊の守りの要となっていた。 その貴重な戦艦を、一時的とはいえ、別の任務に取られるのはあまり喜ばしい物ではなかった。 しかし、任務の重要性を理解したフィッチは、幕僚やTG72.2任務群(コンスティチューションはTG72.2に配備されている)司令である リーブス少将と協議した末に、コンスティチューションを貸す事に決めた。 戦艦の艦砲射撃の威力は、既にスィンク諸島上陸作戦や、モンメロ上陸作戦で実証済みである。 威力も凄いではあるが、同時に精密性では絨毯爆撃よりも上回るため、絨毯爆撃で危惧されていた森林地帯に対する不必要な破壊もやらなくて済む。 マッカーサーの判断は、傍目から見ればただの思いつきとも感じられたが、威力と精度の面では確かに、戦艦の砲撃は実用的であるため、彼の判断は 現地点では最善な物と言えた。 ここにして、コンスティチューションは、軽巡フレモント、ダラスと駆逐艦8隻を護衛に付けられ、マッカーサーの要請に応えるために、 橋への艦砲射撃を敢行する事となった。 「弾着観測機より通信。第2射着弾、効果なし。」 「効果なし、要するに外れという訳だな。」 ドルスマン艦長は自嘲気味に呟いた。 「アベンジャーは確かに、橋があると思われる場所を飛んでいるんだな?」 「はい。今の所、A地点を砲撃中ですが、問題の橋はA地点には無いのかも知れませんね。」 ドルスマン艦長の側に立っていた副長が、ボードに止められた地図を見ながら言う。 この地図は、今日未明に慌ただしく飛んできた陸軍機が、コンスティチューションに投下した通信筒に入っていた偵察写真を下に、 大急ぎで作成した物である。 地図には森の左右に1本ずつ道が伝わっており、その真ん中の辺り、東西500メートル、南北1000メートルに南から A、B、Cと分割されている。 コンスティチューションはこのA、B、Cと決められた区画を徹底的に砲撃するのが任務である。 この地図の元となった偵察写真は、昨日の爆撃中に撮られた物である。 攻撃に参加した陸軍航空隊の中には、占領したばかりのヘルベスタン領西南部の急造飛行場から発進した航空隊も含まれており、 偵察写真はその航空隊が撮影した物だ。 写真には森しか写っていないように見えるが、森の中から左右に道が出ているのがわかる。 道は途中で森に覆われて見えなくなっているが、その真ん中辺りで至近弾と思しき水柱や、明らかに命中後の爆煙に包まれている部分がある。 この写真を下に大急ぎで地図が作られ、今朝方になって軽巡ダラスに複製品が送られ、ダラスの艦載機がこの複製図を70マイル北方にいる 機動部隊へ届けに行った。 地図は、大急ぎで作られたために正確とは言い難い物であり、偵察写真には高い山らしき物があるのに、地図上の山は明らかに土手程度の 大きさしかほどのなかったり、河があるはずなのに地図では綺麗さっぱり消えていたり等、一流の技術者が見れば零点どころか、大幅にマイナス点を 付けそうな酷い代物であった。 だが、アベンジャーの搭乗員は、このお粗末な地図を頼りになんとか目標付近までたどり着けたようだ。 後に出版される巡戦コンスティチューションでは、 「乗員達、特に地図の作製者は、艦砲射撃が出来た事よりも、アベンジャーが目標を見つけた(正確には見つけていないが)事が、 何よりも一番嬉しいと言っていた。」 と述べられているほどである。 「第3射着弾。効果なし。」 CICから、アベンジャーから送られた報告が伝えられる。これに引き続いて、第4射から第6射までの結果が伝わる。 砲弾はどれも外れていた。 「副長、第7射から斉射で行って見るか?」 「斉射ですか。まだ、橋らしき物は見つけていないですが。」 「君はあの写真を見ただろう?橋らしき場所も含めて、一面にどでかい森が広がっている。こんな所にちまちまと撃っても弾は当たらん。 それに、撃てる区画には妖精さん達は居ないと聞いている。ここはまず、派手にやってみよう。」 ドルスマン艦長はそう言うなり、砲術科に命令変更を伝えた。 最初は交互撃ち方のみで砲撃を行う予定であったのだが、効果が上がらない事に苛立った艦長は、思い切って斉射を行う事に決めた。 第6射が放たれてからしばらくの間、コンスティチューションの主砲が沈黙する。 40秒ほど間を置いて、9門の14インチ砲が一斉に火を噴いた。 聞こえてきた砲弾の飛翔音は、今までのよりも格段に大きかった。 「こりゃあ、でかいぞ!」 心臓をかきむしるような音を聞いたトットウム中佐は、不快な表情を露わにする。 直後、大音響と共に水柱や火柱が吹き上がった。 砲弾の内1発は、トットウム中佐が陣取っている山の近くに命中した。 砲弾が着弾した瞬間、ダァーン!という爆裂音が響き、対空陣地が猛烈に揺れた。 トットウム中佐らは、この強烈な衝撃で地面から飛び上がっていた。 振動が収まるのを待たずに、トットウム中佐は橋に目を向けた。 昨日の空襲で、橋を覆っていた木の枝が一部吹き飛び、橋の外観が少しだけ見える。 砲弾は橋を飛び越して、南側に落下していた。 一番近い砲弾は、橋から40グレルの位置に落下していたが、橋自体には損傷は及ばず、無事であった。 「ふぅ、良かった。」 トットウム中佐はひとまず安堵のため息を吐く。その次に、脳裏にとある心配が浮かんだ。 (部下達の中に、あのアベンジャーを撃ち落とそうと考えている奴が居るかもしれんな。発砲すれば、対空陣地ばかりか、 橋の大まかな位置も割れてしまう。はやる奴を押さえ付けるためにも、改めて注意をしなければ・・・・) トットウム中佐は、伏せていた魔導士の背中を叩いた。 「はっ、なんでしょうか?」 「他の陣地の連中に、決して撃つなと命じろ。敵の観測機は、完全に橋の位置を掴んでいない。」 言葉を遮るかのように、新たな飛翔音が響く。直後、砲弾の爆裂音が辺りに木霊した。 トットウム中佐は爆発音に首を竦めたが、やや間を置いてから顔を上げた。 橋の北側70グレルの位置に水柱と火柱が吹き上がっている。 米戦艦の主砲弾は鬱蒼と茂る木々を根こそぎ吹き飛ばし、水柱が水面の上を覆っていた木の枝を水圧で押し上げていた。 「見ろ、観測機が居るにも関わらず、ほとんどメクラ撃ちになっている。対空部隊が反撃すれば、その発砲炎で橋の位置が 暴露される。いいか、すぐに各陣地の魔導士に伝えるんだ。」 「分りました、すぐに伝えます。」 魔導士が頷いたその刹那、対岸の対空陣地が発砲を開始した。 その音を聞いたトットウムは、表情を凍り付かせた。 アベンジャーの周辺に高射砲弾が炸裂する。しかし、射手はろくに狙いを定めていなかったのか、砲弾は見当外れの場所で炸裂している。 それが切っ掛けとなったのか、橋の周囲に配置されているトットウムが居る以外の対空陣地が一斉に撃ち始めた。 「あの馬鹿野郎共め!!!」 トットウム中佐は額に青筋を浮かべながら怒鳴った。 「魔導士!すぐに発砲を禁ずると伝えろ!30秒以内に射撃を止めなければ殺してやるともな!!」 トットウム中佐は悪鬼もかくやと思えるほどの剣幕で魔導士に命じた。 そのもの凄い剣幕に、魔導士を始め、陣地の将兵は縮み上がってしまった。 命令に従ったのであろう。20秒ほどで射撃は終わった。 その間、上空のアベンジャーには1発の砲弾も命中しなかった。 「あれだけ撃ちまくって撃墜できんとは。どうせなら叩き落とせ。」 彼は、どこか自棄気味な口ぶりで呟いた。 10秒後、砲弾の飛翔音が聞こえてきた。 「また来たぞ!」 誰かがそう叫んだ瞬間、橋のすぐ目の前に砲弾が落下した。 橋の面前で濁った色の水柱が立ち上がり、大量の水が通行中のマオンド軍将兵を濡れさせ、少なくとも数人が 水圧によって橋からはたき落とされた。 「いかん。奴ら、橋の位置を掴んだぞ!」 トットウム中佐は背筋が凍り付いた。 部下達の独断専行の結果、あのアベンジャーは戦艦に対して、橋のおおまかな位置を知らせる事が出来たのだ。 敵戦艦の主砲弾がまたもや飛来してきた。今度の斉射弾は、橋を取り囲むようにして弾着した。 ちょうど、橋を出ようとしていたウムク・レットム2等兵は、橋の両脇でもの凄い水柱が吹き上がるのを見た。 ドォーン!という轟音と共に橋がガタガタと揺れ、通行中の将兵が衝撃に揺さぶられる。 「おい、早く進め!このままじゃやられるぞ!!」 人混みの中で誰かが叫んだ。 それまで、整然と後退していたマオンド兵達は、それが切っ掛けとなったのか、我先にと橋を渡り始めた。 そのため、橋の上はたちまちのうちに混乱の坩堝と化していた。 レットム2等兵はいきなり、後ろからやって来た軍曹に突き飛ばされた。 「ボサッと立つな、この間抜け!」 軍曹は去り際にそう吐き捨てた。後から後から、味方の将兵が足早に橋を渡ろうとする。 そんな中、アメリカ戦艦の主砲弾は尚も落下してくる。 またもやドーン!という音と共に敵戦艦の砲弾が落下する。その衝撃で、鉄橋の繋ぎ目の部分がミシミシと、不気味な軋みを響かせた。 (敵戦艦の砲弾が命中したら、こんな橋なんぞすぐに吹っ飛ぶ。俺も早く渡らなければ!) レットム2等兵はそう思うなり、足を速めた。 何故か置き去りにされた負傷兵が、通り過ぎる仲間に助けを呼んでいる。その負傷兵は空襲で片足を失って歩行不能になっている。 レットムはその声を聞いて、一緒に連れて行こうと思った。 しかし、その負傷兵にまで辿り着くには、我先に前進する人混みを突っ切るしかない。 だが、人混みを掻き分けるのは、疲労した今の体力では不可能だし、今の状況でそれをやれば、罵声は勿論、殴られる事すらあり得る。 「クソ、何もできん!」 レットム2等兵は悔しさに顔を歪めた。その瞬間、砲弾が落下した。 衝撃は強烈で、今までに聞いたことの無いけたたましい破壊音が耳に飛び込んできた。 (命中した!!) レットム2等兵はすぐに確信した。 コンスティチューションの主砲弾は、2発がヴィクスム橋に命中していた。 1発目は橋の西側入り口に命中し、骨組みを貫通して水面に落下した。 2発目は橋の真ん中に命中し、砲弾は貫通した瞬間に信管を作動させ、水面に突き刺さる前に爆発した。 とてつもない爆風が鉄製の橋をたやすくへし折り、大急ぎで渡ろうとしていたマオンド兵多数がこの時点で即死した。 レットム2等兵は、人混みに混じりながら必死に出口に向かった。真ん中からへし折られた橋が傾き始める。 レットム2等兵の後ろにいた別の兵士達が、急激に傾く橋に足を取られ、悲鳴を上げながらずり落ちていく。 とある兵は、レットム2等兵のすぐ隣を歩いていた兵の足を掴んだ。その兵は、足に絡まった手をどける暇もなく、 そのまま斜面と化した道をずり落ちていった。 文字通りの道連れがすぐ近くで起こったにも関わらず、レットム2等兵は無我夢中で橋を渡りきった。 彼は恐怖の余り、橋を渡りきってもしばらくは道を走っていた。 彼のみならず、幸運にも橋を渡れた生き残り達は、誰1人例外なく、地獄と化した橋から逃げるべく、必死に足を動かしていた。 レットム2等兵橋を渡りきって10秒後に、再び敵戦艦の主砲弾が落下した。 鼓膜を破らんばかりの轟音が鳴り、先よりも大きな破壊音が耳に聞こえた。 トットウム中佐は、橋が敵戦艦の砲弾によって粉砕される光景を、戦慄の眼差しで見つめていた。 「・・・・・最悪だ。」 彼の口から、小さな呟きが漏れた。 橋のあった位置は、今や吹き上がる白煙に覆われている。 先ほどまで、森の木々に覆われていたヴィクスム橋は、飛来した大口径砲弾によって原型を留めぬまでに破壊されていた。 「昨日まで、レーフェイル派遣軍は3万名のい将兵を東側に逃がす事が出来た。だが、残り40万以上の部隊は、 橋の対岸に取り残されたままだ。橋が無くても、適当な船を徴発すれば、河は渡れる。しかし・・・・その速さは、 橋が健在であった頃と比べて格段に落ちる。こんな時に、南方10ゼルドまで迫っているアメリカ軍が進撃速度を速めれば、 もう目も当てられん状態になる。」 「隊長・・・・・」 魔導士が、力のない声音でトットウム中佐を尋ねた。トットウム中佐は振り返り、魔導士の顔を見つめる。 部下の顔は、血の気が引いて真っ青に染まっていた。 6月29日 午前7時 ヘルベスタン領モンメロ アルトルート・ソルトは、モンメロ海岸の近くに設けられた司令部の一室で仮眠を取っていた所をマッカーサーの従兵に起こされた。 それから2分後、彼はマッカーサーの執務室の前に足を運んでいた。 ドアは既に開かれており、質素な机にマッカーサーが座っていた。 「どうぞ。」 マッカーサーはいつものサングラスをかけ、コーンパイプをふかしながら、アルトルートに対して室内に入るよう促す。 無言で頷いたソルトは、室内に入った。執務室内には、マッカーサーの司令部幕僚がいた。 「殿下、我々はついに、ヘルベスタン領を縦断いたしました。」 マッカーサーは右手に持っていた書類をアルトルートに渡した。 「10分前、北進中の第14軍から伝えられた報告文です。」 「凄い。上陸してから2週間足らずで、決して小さいとは言えないヘルベスタン半島を縦断するとは・・・・・」 アルトルートは心の底から驚いていた。 ヘルベスタン領を北進していた第14軍は、28日の午後5時にヴィクスム橋に繋がる道に陣取っていた敵部隊を蹴散らし、 橋の西側周辺部を占領した。 敵部隊は、これまで戦った敵と比べて装備が優れていたが、士気は低下していたため、3時間の戦闘の末に大半が降伏してきた。 日付が変わって午前6時50分、第14軍はマオンド軍の抵抗をはね除けながらも、ヴィクスム橋から11マイル離れたヴィクスム岬に到達した。 この結果、マオンド軍はヘルベスタン領西側の約3分の1をアメリカ軍によって分断された事になり、これによって、西側に集中配備されていた マオンド軍レーフェイル派遣軍の主力は、大半がアメリカ軍によって包囲された。 その包囲されたレーフェイル派遣軍も、相次ぐ空襲や、西側に向けて進撃を開始した第15軍と第22軍の猛攻の前にじりじりと西に 後退しつつあり、マオンド側の戦況は最悪な状態に陥っている。 「第14軍からの報告では、マオンド軍はヴィクスム橋から撤退しつつあったようです。しかし、そのヴィクスム橋は陸軍部隊が 到達する前に、戦艦の艦砲射撃によって破壊された。その結果、多くの敵兵が脱出の機会を失った。撤退中の敵部隊の将兵は、 北上してきた第14軍によって、大半が戦死するか、捕虜となり、残りの敵は来た道を辿って、慌てて逃げ戻っていったようです。 殿下、ヘルベスタン領のマオンド軍はもはや袋の鼠。壊滅も時間の問題です。」 「それに、捕虜の証言によれば、マオンド側のヘルベスタン派遣部隊は、包囲内にいる部隊が戦力の9割を占めるようです。 包囲内の敵部隊が壊滅すれば、マオンド側はヘルベスタン領を維持する事すら、満足に出来なくなるでしょう。」 幕僚の1人が付け加えた。だが、アルトルートの顔はやや浮かない。 「殿下はもしや、自棄になったマオンド軍・・・・特に包囲外にいる敵部隊が民に対して、暴虐の限りを尽くすのではないかと、 心配されていますな?」 「はい。」 アルトルートは即答した。 「目を背けるような残虐な行動を平気でするマオンド軍の事です。住民達の統制を強化するために、より苛烈な方法に出るかも知れません。」 アルトルートは、目を伏せながらマッカーサーに言う。 マオンドによって、彼は愛する家族を殺された。そして、アルトルートと同様な目に会った民は、少なからず居るだろう。 戦況が不利になり、頭に血が上ったマオンド軍が、スパイ摘発と称して村を遅い、無実な民を鬱憤晴らしに処刑する事は容易に想像出来た。 「マオンド軍が占領地の住民に対して、不快な行動を取ることは我々も知っています。」 マッカーサーは頷きながら言った。 「ですが、我々アメリカ軍は、これまでは包囲内の敵部隊の攻撃を強化してきましたが、これからは包囲外の敵に対しても空襲、 あるいは艦砲射撃等の方法で敵戦力の漸減に当たります。不定期に空爆や砲撃を行えば、マオンド側もやんちゃをする元気は 無くなるでしょう。ようは、敵を徹底的に疲弊させれば良いのです。」 マッカーサーは立ち上がると、壁に掛けられたヘルベスタン領の地図を指さした。 「現在、我々はヘルベスタン領西部の3分の1をほぼ手中に収めつつあります。この中には、今も数十万のマオンド軍がおり、 激しい抵抗を続けていますが、最低でも1ヶ月から1ヶ月半で抵抗は尻すぼみになるでしょう。その間、包囲外にいる敵は、 少なくなった戦力を掻き集めて、来るべき我々の東進に備えようとするでしょう。」 彼は一旦口を止め、置いてあった指示棒を手に取り、それでとある一点・・・・上陸地点のモンメロからやや西側に離れた位置を叩いた。 「現在、モンメロから西に30マイル離れた町、レスベウクの急造飛行場には、2日前から海兵隊航空隊と陸軍航空隊が駐留を開始し、 一部の航空隊は既に作戦行動を開始しています。先も言ったように、マオンド軍は我々が西部を攻撃している間に、態勢を立て 直そうとするでしょう。しかし、この敵に我々は安息を与える積もりはありません。我が合衆国軍は、東進に入る前にレスベウクの 航空基地から航空機を発進させ、ヘルベスタン領に残った敵部隊を徹底的に叩きます。来月中旬にはB-29が進出できるまでに 飛行場を拡張しますから、遅くても来月末には、マオンド本土の深部にまで戦略爆撃を行えるでしょう。」 「もしB-29が配備された場合、行動半径はどれぐらいまで広がりますか?」 アルトルートの質問に、マッカーサーは少しお待ち下さいと言いながら、大きめの分度器を拾った。 「レスベウクを中心とすると、行動半径はこのようになります。」 彼は分度器の長さを調整した後、レーフェイル大陸の地図上にやや大雑把な円を描いた。 「まぁ、あまり当てにはなりませんでしょうが、大体このような感じですな。」 アルトルートは、円が描かれた地図を見て、思わず溜飲を下げた。 B-29がスィンク諸島から発進したとき、マオンド共和国の本土は、ほんの一部しか行動半径内に入っていなかった。 しかし、レスベウクを中心にすると、B-29の行動半径は一気に前進し、北はレンベルリカ領の中央部から南はマオンド共和国 中南部までもがその円の中に入っている。 特にマオンド共和国は、国土の半数以上がB-29の行動半径内に収まっており、首都クリンジェまでもが白銀の要塞の射程内に捉えられている。 (マオンド共和国の首脳部がこの地図を見れば、たちまちのうちに狂ってしまうだろうな。相手が悪いとは、まさにこの事だ。) アルトルートは内心で呟きながら、仇敵であるマオンドに幾ばくかの同情の念を抱いていた。 マオンド軍レーフェイル派遣部隊の命運は、28日のコンスティチューションが行った橋の艦砲射撃によって強引に決められた。 行き場を無くしたマオンド軍は、無意味とは分りつつも、元居た場所に戻っていった。 時に1944年6月28日。 レーフェイル大陸戦線の流れは、マオンドにとってより一層不利・・・・悪く言えば、最悪な物となった。 ここにして、マオンドの終わりの始まりは、盛大に幕を開けたのである。
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(GK註) 本稿は第5試合:採石場 試合SSその1の第一稿です。 最終的に提出された試合SSでは、大幅な文字数削減が行われました。 * * * 「早く大人になれたら良いのに」 「大人になんかなりたくないと思っちゃうけれど」 幼馴染の少女は女主人の否定的な発言に目を丸くした。なぜ大人になりたくないのかと華奢な身体から伸びる腕を二度三度と振り回し、小さな握り拳を突きつけ親友の顔を睨み据える。きつく結ばれた唇は綺麗な「への字」を描き、僅か膨らむ頬は血色の良い朱色に染まっている。仕草から表情に至るまで実に子供らしいことだと、女主人は目を細めた。 「だって、やりたいことも出来なくてつまらないじゃない」 「でも格好良いでしょ」 小首を傾げた少女のなだらかな首筋、項(うなじ)がチラと目を惹く。女主人は少女の肩に手を伸ばし、幼子をあやすよう折り返った制服の襟を直してやる。継いで胸のリボンを整えようと伸ばされた腕は少女によって押し留められた。またそうやって子供扱いをしてと幼気(いたいけ)な少女は頬を一層に膨らませた。 「どうすれば早く大人になれるかなぁ」 「盛華は大人になっても子供っぽいまま変わらなそうだけれどね」 「あっ! 酷い!」 「そうね。少なくともタネのある西瓜を食べられるようになったら大人じゃないかしら」 「もう! またそうやってからかうんだから!」 幼馴染の名を呼び、からかい、その度に跳ね返る軽快な反応に、堪え切れず女主人は腹を抱えて空を仰いだ。目尻に溜まった涙で滲む視界に映るのは白一色の空。焦点も合わせられぬ無地のカンバスであった。大口を開け喉から吐き出された笑声は一面の「白」に向けて放たれ、残響も無く消えた。 空も地面も、地平に並ぶ山々も周囲に建ち並ぶ街並みも無く、床も天井も壁も無い、白色に埋め尽くされた世界。二人が居るそこは時の流れすらも曖昧な空間であった。虚無の中心から広がる女主人の声は、舞台に誤り置かれた書割の如く異質で明るい。 「御免なさい。御免なさいね。あんまり可笑しくって。でもね、本当に大人なんて良いものでもないのよ」 涙を指先で拭い、口元を手で隠し再び笑う。釣られ幼馴染も笑い出す。それはいつまでも続く二輪の花競べであった。女主人はまた思った――ああ、自分は夢を見ている、と。この白い世界は女主人にとって慣れ親しき寝床。日々折々、夜闇に童心を遊ばせる場所――変哲もない夢であった。 今や創作料理店の女店主がかつて一人の女学生であった当時、睦まじき親友と未来を語り合った記憶。その残滓が大人となった女主人の胸で煮詰め濾され、そこに少量の願望が浸され出来た透明なスープ。ここは飽きもせず女主人が啜る甘露に満ちた食卓であった。だが、こと今日に限っては、女主人はここに長く座す訳にいかなかった。 「大人って何なんだろう」 溜息と頬杖を同時についた幼馴染が掌で片頬を押し潰し、決まり文句を口にした。曖昧で半端な夢であれ、この可憐な花の隣を離れるのは、女主人にとって日常における全ての労苦と比してなお難事であった。だが、この日ばかりは夢幻に耽溺する以上の重大事が女主人にあった。 「そうね。私が思う大人って何か、帰ってきたら教えてあげるわ」 ここは夢の戦いに赴く前の、ただ儚い泡沫の夢。泡沫の慰みを永遠の歓びに、いつか明ける夜を醒めぬ瑞夢に変えるため女主人は歩き出さねばならなかった。 「御免なさいね。ちょっと用事を思い出しちゃって。すぐに帰ってくるから」 「ええ? いつも急なんだからぁ」 「ね。待っていてね」 「仕方ないなぁ。うん。それじゃいってらっしゃーい!」 世界から音が消える。目眩を起こしそうな「白」を背に浮かぶ幼馴染が手を振る。女主人は残像を引き摺り遠ざかる幼馴染へ小指を軽く差し伸ばし、虚空で指切りをした。そして微笑みを返す。それを最後に女主人の意識は夢の中からもう一つの夢の中へと沈んでいった。 * * * 何故ならそれは、社会――『地獄』を耳触り良く表した場所――の隷属者なのだから 濃緑色の山々が遠く近く重なり、山肌に並ぶ常緑樹に空を渡る雲が影を落とす。一幅の日本画を思わせる景観は、橙に燃える夕日が膨らみ揺らぎ急き立てられるように西の山へ姿を隠し一変した。白く煙る山並みは濃紺と黒の影絵へ。刻々と色彩を移ろわせていた空は今や一面の墨化粧となり、満月だけが温度の無い青白い光を山中に抉り出された採石場に差し落としていた。 月明かりを弾き煌めく黒の岩陰と濃紺の岩肌が、墨の乾き切っていない二色版画さながらの舞台。そこに睨み合う四人の人影が屹立していた。石切り場の角ばり巨大な花崗岩を背に立つ男が二人。森を背に立つ女が一人。その二点と併せ結び三角形を描く位置、森の中に立つ最後の一人の男。それは今、正に夢の戦いの最終幕が上がった瞬間であった。 「寂尊(じゃくそん)ッ! まず警官を殺れッ!」 開幕の音頭、第一声をあげたのは茂木箍一郎であった。彼は両手から勢い良く「焦燥」「悔恨」「疑念」といった感情を煙として吐き出し、血を溢れさせる左腿の痛みに耐えた。油断していたのか。伏兵も考慮していたつもりだった。そういった後悔も反省も後回しに、茂木は第一に為すべきこと、敵の打倒に頭を切り替えていた。 ここから先、夢の戦いの決着まで時間にして一分足らず。三発の銃弾と三振りの豪腕豪脚で終わりを迎えた。 「夢の戦い」。夢の中で命懸けの殺し合いを演じる、避けようの無い悪夢のようなそれは、勝者に「見たい夢を見る権利」を、敗者に「恐ろしい悪夢」を与えるという、都市伝説じみたものであった。実在を怪しまれていたそれに茂木が巻き込まれたのは、やはり何の因果も無い偶然でしかなかった。 「私達のデビューには丁度良い舞台だ。そう思わないか? 空海。いや――」 だが茂木は夢の戦いに巻き込まれた後、その災難に動じること無く、隣に立つ男へ声を掛けた。 「寂尊!」 「Aaow(ポーウ)!」 そこに立つ僧形の男こそは茂木の実験の産物。彼が比叡山延暦寺に赴き行った「脳死状態の男に感情を吹き込み再び蘇らせる」倫理の禁忌たる所業の忌み子。歌唱とダンスで80年代日本の仏教シーンを塗り替え続けた男、"三代目 J soul 空海"――またの法名(本名)を寂尊。 茂木と寂尊。彼ら二人は信念を引き継ぐ実験の果て、今や80年代日本を沸かせた伝説のアイドルグループ、ローラースケートを使い踊りと歌を同時に見せるパフォーマンスで一世を風靡したかの伝説的歌唱舞踏集団「EXILE」の魂をその身に宿す存在となり、二十一世紀を席巻する新たなムーヴメント、脳科学とダンスの融合を以って茶の間に家族団欒の一時を提供しようと企み、捨て身のドサ回りに日々を費やしていた。 言葉も思い出したように時々しか喋ること無く、古風なホラー映画に登場する怪人のようにツギハギだらけの血色悪い禿頭の老爺――寂尊のその外見が仇となり、二人の芸能活動は暗礁に乗り上げていた。それでも二人は「EXILE」である。諦めを知らず、信念に燃えて一日を暮らしていた。 その二人の志とは何ら関係の無い夢の戦いである。茂木にとって夢の戦いの褒賞はどうでも良い物であった。しかしながら、「寂尊と二人なら何でも出来る」を合言葉に芸能界へ科学のメスを走らせよう身として、科学者として、「実証」は重大事であった。 「二人なら夢の戦いにも勝てる――証明しましょう」 「Aaow(ポーウ)!」 斯くして茂木は夢の戦いに赴いた。足に履くは当然「EXILE」の正装たるローラースケート。寂尊もまた「EXILE」の初代猊下"J soul 空海"こと空海から引き継いだ一足を履いた。新たなシーンを切り拓く決意を込め過去の肩書を捨て、"三代目 J soul 空海"ならぬ一個人となった寂尊ではあったが、そのスタイル、意志、想い、信念、魂は確かに「EXILE」を継ぐ者であった。 「寂尊は前衛。私は後衛でブレーン役をする」 「Aaow(ポーウ)!」 「私が死にそうになったら人命最優先で」 「Aaow(ポーウ)!」 「イザとなったら寂尊は肉壁役を宜しく」 「ちょっと待っとくれ。ワシゃ齢じゃから肉体労働キツくて」 「黙れジジイ! ゾンビ化してりゃ痛みもないでしょ!」 およそ仄暗い月夜に血塗れの僧衣を纏いツギハギだらけの禿頭を光らせる皺だらけの老人が眼前に現れたらば腰を抜かさぬ者がどれだけ居ようか。両腕で胸を抱き、不安からか青ざめた顔で足取りも危うく採石場を歩いていた女主人は、フランケンシュタインの怪物との出会い頭に悲鳴をあげ腰砕けになっていた。 運動能力――並。左手を庇う動きが不自然――刃物を隠している。武器を所持しているからには破壊力のある魔人能力所持者の可能性――低。寂尊を攻撃する素振りは無かったので遠距離攻撃手段――恐らく無し。或いは敵対の意思が無いか。夢の世界で対戦相手との初対面時、岩場にへたり込む女主人を見て茂木はそう考えていた。 普段は破天荒な言動でお茶の間はおろかTV番組の共演者すら混乱と混沌の坩堝に追い落とす脳科学者、茂木であるが、そこは流石に脳科学者。巫山戯ていなければその頭脳は明晰であった。夢の戦いにおいても、脳が発する感情、身体に表れる脳からの命令を見逃さず情報分析し、初邂逅にして相手の戦闘能力を精確に把握していた。 ――もしも彼が戦場である採石場の洞窟に目を奪われ、 「まったく、洞窟といえば地底世界! 鍾乳洞! トロッコ! ドワーフのギルド! コレ必須事項でしょう?」 「Aaow(ポーウ)!」 ――地下神殿や地底世界を夢想し、 「わくわくドキドキ、ポロリもあるよ! の夢体験を期待して潜ってみれば無人とは! 嗚呼なんてこったい!」 「Aaow(ポーウ)!」 ――脳を活性化させる最高の要素、新体験を求めていなかったならば、 「伝説の聖剣も手に入らないですしアハ折り損のくたびれ儲けですよ! アーハン?」 「Aaow(ポーウ)!」 この夢の戦いも、日が暮れる前に決着がついていたかもしれない。 だが、その徒労も夢の戦いには無影響であった。少なくとも、茂木はそう判断した。何故ならば、茂木は女主人の傍へと姿を現し、間近で見る弱々しいその女には戦闘能力が無いことを既に確信していたからであった。これならば我々二人が負けることは無い。横に控える寂尊はこれで身体能力は高いのだ。 「貴女が女主人さん。どこかの店主さん? ゴメンねぇ、驚かせてしまいましたか」 「……あ、脳科学の……茂木先生? 道理で相手のお名前が……」 「イエス・アイ・アム!」 まして、相手が敵対行動の意思を持たないならば尚更である――茂木はそう判断していた。対戦相手が自分を知る人間であり、言葉遣いやこちらを見上げる所作から好意的な感情を脳が発していることも見て取れた。故にこの時までは穏便な形で夢の戦いを収める方向も視野に入れていた。だが―― 「あの、手を貸して頂いても? そちらの方に驚いてしまって」 「いいですともマドモアゼル――なんて言うと思ったかッ! アハッ! 茂木汁ブシャーッ!」 茂木は優秀な脳科学者であった。だから気付いてしまった。目の前の女主人が右手を差し出した時、脳科学者でなければ見逃す程度の僅かな差異だが、所作に攻撃の意思を含ませたことを。こちらに敵意を持って触れようとした以上、相手は接触型の魔人能力者である。 即座に茂木は差し出した右手から「疑心」を噴出した。そのまま車輪の力と煙の推進力で女主人から距離を取り、煙に咳き込む女主人に荒事を為すと即決した。 「……茂木先生! 何をいきなり」 「この世に格言あり! 『脳は全ての心の母』! ンンー良い響きだ。今考えたとは思えない出来の良さ!」 「Aaow(ポーウ)!」 「待ってください、私、争いごとは駄目なんです」 「なんと白々しい! アハッ!」 相手が勝ちを目指す意思を示す以上、きっちりと殺ることをやる。ついでに夢の世界などと珍しい事態なので面白そうな実験も併せて行う。 「夢の解明は脳科学の発展! 実験しよう! 夢を見ている脳を夢の中から観察だ!」 「Aaow(ポーウ)!」 「丁寧に開頭しましょう! いけっ! 寂尊!」 「Aaow(ポーウ)!」 こうして会話のドッジボールを終え、ここに茂木と寂尊と女主人、三人の夢の戦いの火蓋が切って落とされた。 開戦と同時――聴こえる音といえば三人の声しか無かった山奥の採石場に、乾いた破裂音が鳴り響いた。 「アハッ!?」 「Aaow(ポーウ)!?」 女主人から距離を取り、数瞬の間その動きを止めた茂木の隙を突いた一撃。それは避けられよう筈も無い。何せ、茂木にとって直前まで予想だに出来ぬ方角――夢の戦いの戦闘領域外である森からそれは放たれていた。茂木の左腿から夥しい血が滴り落ちていた。 「婦女暴行の未遂で現行犯逮捕だな」 ざわめく茂木陣営を尻目に、その男は大樹の陰から姿を現した。手には年代物の細長い狙撃銃。銃口から黒い煙が薄く立ち昇っていた。 「店主さん! 大丈夫ですか?」 「ええ。ええ。ありがとう! 川口さん!」 「お安い御用です!」 それは15年来、女主人の店の常連客となっていた男。ガンマニアが昂じて警察官になったという、川口と呼ばれたその男は奇しくも魔人警察官であり、昼間に女主人から夢の戦いの相談を受け、市民を護るのは警察の勤めと銃を引っ提げてこの戦いに飛び入り参加した最後の――第四の男であった。 そして、夢の戦いのルールには「同伴者の場外負けに関するペナルティが無い」事実に目をつけた女主人の案により、開戦から数時間、森に潜み場外からの狙撃作戦を展開していたのであった。 「痛いの痛いのトンデケーッ! そんでもって――」 茂木は両手から勢い良く「焦燥」「悔恨」「疑念」といった感情を煙として吐き出し、血を溢れさせる左腿の痛みに耐えた。油断していたのか。伏兵も考慮していたつもりだった。そういった後悔も反省も後回しに、茂木は第一に為すべきこと、敵の打倒に頭を切り替えていた。 ダメージを負った状況は芳しくない。だが女主人には接近しなければ良い以上、実質二対一。二人なら勝てる。 「寂尊ッ! まず警官を殺れッ!」 「Aaow(ポーウ)!」 森の陰から姿を見せた敵の脅威を認識した茂木は、寂尊に素早く指示を下した。森の狙撃手、川口も狙撃用の銃を放り投げ、ホルスターから拳銃を引き抜き迎撃姿勢を整える。 「来てみろ馬鹿野郎共! 俺の見せ場を作れよ!」 ここから先、夢の戦いの決着まで時間にして一分足らず。三発の銃弾と三振りの豪腕豪脚で終わりを迎えた。 互いの出方を伺う一瞬の静寂を破り、男達の影は同時に動いた。 「Aaow(ポーウ)!」 川口の拳銃が火を噴き、鋼鉄の牙が夜風を致死の螺旋に変え突き進む。だが牙は空を噛む。寂尊は掛け声も勇ましく、重力を感じさせぬ、かつ淀みなき、然して弾丸にも劣らぬ鋭さで背面へ向かって水平移動し、回避動作を終えていた。これこそ彼が世界を震撼させた驚異のローラースケート術――その名も「月面歩行」。 「Aaow(ポーウ)!」 第二の銃弾が間髪入れず放たれる。青白き月明かりの舞台に赤々と燃える火の槍が扱かれる。だが槍の穂先は届かない。月面歩行は予備動作も無い縮地術。血塗れの法衣が闇にはためき金糸が光を飛ばす。寂尊は禿頭を両手で一撫で。片膝を妖艶に折り曲げ、一糸乱れぬ直立姿勢で背面へと星の海を泳ぐ。それは正に往時のスターたる彼の姿。 「Aaow(ポーウ)!」 第三の銃弾が発射される。マズルフラッシュの照り返しで浮き上がった川口の表情に確かな焦りの影が彫り込まれていた。その一矢もまた夜の陰影に呑まれた。花崗岩の銀盤を踊る寂尊は地を蹴っていた。天高くへと。空を泳ぐが如く。月面宙返り――空海の名を継ぐ者が必修とする J soul ダンスの基本にして極意。既に距離を詰めていた寂尊は格闘技を修める者の弱点、頭上からの猛撃を放った。 ――坊主と警官。勝敗を分けたのは彼らの選んだ道の違いであった。川口は寂尊が跳んだと同時、即座に腰から警棒を引き抜いていた。空を舞い蹴る寂尊の脚を潜り抜け、刹那の後、伸び切った胴体を横薙ぎに切り払った。密着した状態ならば回避も不能。宙に浮かぶ影絵が二つに切り離され、黒い血飛沫を散らし冷えた大地へ転がった。 「そしてスターたる者――人の目を惹きつけてナンボじゃからな」 「アハッ! 寂尊サイコー! ナイス・デコイ!」 坊主の仕事は人死の後が本番とは誰が言ったであろう。川口は前方に転がる老爺の首が発した嗄れ声と、背後からの陽気な声を同時に聞いていた。 「アハッ! 寂尊サイコー! 茂木サイコー!」 その時既に川口の腹部には砲弾を受けたような風穴が開いていた。川口の瞳から生気が抜け落ち、膝から崩折れ倒れた。二人の物言わぬ死体を見下ろし、仁王立ちするは天然フラクタルパーマの巨影。全身を筋肉で膨張させ、ギリシャ彫刻も平伏す肉体美となった茂木箍一郎であった。 もし川口が寂尊の姿に気を取られていなければ、強烈なアハ体験ブーストを経て徐々に細身の科学者からゴリラの如き巨漢へと移り変わる茂木の姿に気付いていただろう。片足を痛めようと両手からジェット噴射させた憤怒の煙で急加速し、拳を打ち込んできた茂木の襲撃に対応出来たかもしれない。だが、どう仮定を重ねようとも起きた現実は変わらない。例えそこが夢の中だとしても。 「さて店主さん! 貴女の秘策も終わりですね! 勝負アリです。一分程遅くなりましたが実験の開始ですよ」 フラクタル頭の金剛力士像があらゆる感情を捨て去ったアルカイックスマイルを浮かべ月夜に立つ。その足元は羅生門。余りの光景に女主人は青ざめた顔を更に蒼白へと染めながら――覚束ない脚を震わせ、それでも冷や汗に濡れた喉でその言葉を放った。 「ええ。私には戦う術はありませんから。何も出来ません。ですが勝負ありです。……私の勝ちです」 「……アハッ?」 「ありがとう川口さん。痛かったでしょうけど。お陰で……私は勝てました」 「……えっ? ホントだ負けてる!? ワタクシ敗けちゃってる!? ウッソー!? ナンデ!?」 女主人と茂木はその時、明確に認識していた。女主人は自分が夢の戦いの勝者である事実を。茂木は己が敗者となった現実を。脳内で姿無き声が高らかに宣言したのだ。 採石場、夢の戦い。勝者、女主人――と。 茂木は変わらず混乱したままであったが、女主人の目から見れば至極単純であり当然の帰結であった。茂木が今、立っている場所は――川口が潜み銃口を構えていた場所は、採石場の外。夢の戦いの戦闘領域外であったのだから。 「それでは触りますね」 「アアーッ! 妙齢の女性が太腿を誘うように焦らすように撫でるッ! 貴女の想いが私の肌を粟立たせるッ!」 「あの……」 「あっ気にせず続けてどーぞドーゾ?」 疑問を残したままでは科学者としておちおち昼寝からも目覚められないと主張する茂木に、それではと女主人が胸を抱き続けていた両腕を初めて解いた。左手には果物包丁が握られ、白刃が鮮血で濡れ輝いていた。その血は他でも無い、女主人自身のもの。彼女の左手小指は第一関節から先、切り落とされ無くなっていた。指の付け根を紐で縛られた小指は赤紫に染まり、女主人が夢の戦いの始めから酷い顔色であった理由を雄弁に物語っている。 「これで思い出したでしょうか。茂木先生の脚を撃ったのは、私の指だったんですのよ」 女主人の右手が、指先が茂木の脈動する筋肉繊維に触れた。直後、茂木は目玉を抜け落とさんばかりに見開き肩を震わせた。女主人の能力が条件を満たし、茂木は全てを理解した。 「………………アハッ」 前装式の銃(マズルローダー)は、銃口に入るものであれば何であれ銃弾に変えると言われる。事実、過去の実験によりタバコの吸殻さえ射程内ならば充分な殺傷能力を得られることが証明されている。女主人は予め自らの小指の先を切り落とし、銃弾として川口に渡していた。その弾丸は狙い通り茂木の脚を撃ち抜き、その瞬間、夢の戦いに欠くべからざる必須要素を一つ茂木の記憶野から打ち砕いていた。 「ア、アハハハーー! アハ! アハァ! 分かりましたァーー! これは凄い! ナイス・アハ!」 「ええ。ええ。……私の能力で、『場外負け』のルールを忘れてもらいました」 薔薇は手折られたとて薔薇の名を失わない。余人ならばいざ知らず、花を愛で日々生きる女主人には――何事も花を優先する価値観の下に生きてきた彼女には、切り離された自分の指先もまた、変わらず己の指であった。 「こんなずるい勝ち方で御免なさい。茂木先生みたいにTVで活躍して、社会を自ら牽引する強い人には分からないでしょうけど、私みたいに弱い人間が四十も生きているとルールの穴ばかりが視えてしまって。そこを突いてしか生きられないものだから。私も茂木先生みたいに強い大人になれれば良かったのだけれど」 同伴者の場外判定の穴だけではない。今、女主人が指を切り落としたまま長時間意識を保てているのも自ら育てた植物から得た脱法ハーブの興奮作用のお陰であった。そのハーブの服用を管轄外だからと苦笑いで目を瞑った川口の行動も、彼が夢の戦いに積極的だったのは憚らず銃で人を撃てるためだからという理由も、女主人の勝利を築いたあらゆるものが大人の欺瞞により成り立っていた。 「何をおっしゃる! ナイス・アハ・アンド・ビクトリー! これできれいサッパリ! 思い残しナシ!」 それら全ては茂木にとって些末事であった。重度のアハ体験中毒者である茂木にとって、女主人に強烈なアハ体験をさせられた、それだけで万事が許せた。故に、彼が夢の戦いの感想戦で選んだ最後の行動は彼がTVで茶の間に届けるお約束。迷える者への激励であった。彼は両手でピストルのポーズを作り、女主人の未来を指した。 「店主さん、もっと自信を持って! 貴女は世界に一つだけのアハを咲かせられる! ご安心なさい。貴女の脳力は素晴らしい。そんでもって、たかが見たい夢のために指を切るだなんて、貴女の行動力に茂木、ビックリ! ナイス・アハ体験! 根拠のない自信を持て! それを裏付ける努力を貴女は出来る! アハッ! チャオ!」 脳内麻薬が最高にキマッたスマイルはプライス・レス。女主人を残し、茂木の姿は夢の世界から掻き消えた。 夢の戦いは終わり、採石場の姿も朧気に歪み闇に溶ける。消え行く世界で、残すは勝利の褒賞を求めるだけとなった女主人であったが――ことここに来て、彼女は強い思いで臨んだ筈の、夢の戦いの勝者への望みを口に出せずに立ち尽くしていた。 「ああ……でもどうしましょう?」 勝者の瑞夢は見たいだけ。望むならばいつまでも見続けられるという。女主人には自分というものが分かっていた。もし己が望む世界を夢見られたならば、恐らく二度と目覚めることは無いであろうと。 「私が目を醒まさなければ、店の花(あの子たち)は誰が世話するのかしら。お店も綺麗にしないと駄目になっちゃうし。私の情けない姿を警察の人達にも見せちゃうわね。寝たきりの私はどうなるのかしら。お客様もがっかりしちゃうかしら……」 現実を捨てるつもりであった。望む夢にいつまでも溺れられるならば本望と、夢の戦いを乗り越えた。 「駄目。駄目ね。本当に。大人って嫌だわ」 だが、茂木が女主人に残した言葉は今一度、彼女に現実というものの存在感を覚えさせてしまった。――或いは茂木の「疑心」が為した技か。 「折角、夢が叶う時なのに。今が夢を叶える時なのに。こんな痛い思いをしてまでやっと掴んだチャンスなのに。そんな時にまであれこれと考えちゃって。しがらみに縛られて。世間体なんか気にして。夢が叶うその時にまで、夢を叶えない為の言い訳ばかり考えちゃってるわ。ああ、本当に嫌。どうして私、こんな大人になっちゃったのかしら」 失血が酷くなったか、ハーブの幻覚作用がピークに達したか、女主人はこめかみを抑え膝を折った。口をだらしなく開き、舌を垂らし、うずくまったまま唸り声をあげ続けた。 「ああ……困るわ。困ったわ。どうしましょう……私は……」 不意に、糸が切れたように女主人の全身から力が抜け、顔面が消えかけの地面にぶつかる。岩と砂利と、口の中から滲み出た血の味を舌でねぶり、そこで彼女の身体はピタリと震えを止めた。 「――せいか」 譫言めいた不明瞭な言葉を何か一つ、彼女は呟いた。 「決めたわ。妖精さん」 女主人は身を起こし、膝を払い、立ち上がった。顔を丁寧に拭うと脳内に語りかける声に向かい、決然と宣言した。 「私の見たい夢は『大好きな花と好きなだけお喋りできる世界』よ」 それは夢の戦いに臨む前から抱えていた彼女の変わらぬ願い。 「私はもう、嘘は吐かないわ。もう二度と、あの日を繰り返さない。世間なんて知ったことじゃないわ。社会なんて知らないわ。私は私の夢を見るのよ。夢だってこと、忘れてやるわ。もう二度と私がやりそうにないことと一緒に、もう二度と思い出さないように忘れてやるわ。何も残さず、夢の中で幸せに暮らすの」 女主人が幻視する景色は15年以上前のあの日の記憶。全ての歯車が狂い、どうしようもなく彼女自身を社会構造から弾き出したパンドラの箱が開いた日。女主人は身を震わせ、決別する現実へ別れの弔問を叫んだ。 「幾千の針を呑む日を送ろうと、幾万の殴打を浴びせられる日を暮らそうと、分別があれば、自省が、自律があれば、社会を生きよう者ならそれが正しい解答だったのよ! 彼女を祝福し、あの人を言祝ぐ私は、あの日、確かに正しいことをしたわ! けれども、けれどもね! 私は彼女の頬へ祝福のキスを落とした時にあの人の事を忘れさせなかった! あの人を言祝ぎ握手を交わした時に彼女の事を忘れさせなかった! それが正しいことだから! だから私は……あの日に……嘘つきな大人に成り果てたのよ」 女主人の左手小指からは――嘘つきの証たる切り落とされた小指の断面からは、未だどれだけ抑えようと悔恨の涙が零れ、彼女の両手を真紅に染め上げていた。胸奥の鍵をかけた小部屋に隠し続けた醜さの塊、己が本音を余さず吐き出した惨めな女は顔を上げた。逆手に持った包丁を握る左手に力を込め、柄尻を右手で包む。 景色が溶け落ちる世界が一瞬、全ての時の流れを止めた。荒い筆致の油彩画の、中心に描かれた女主人はその時確かに蒼白の相貌に一際紅く艶めく唇をふわりと緩めていた。その唇から発せられた声音は童女のように柔らかく穏やかであった。 「ゆーびきーりげーんまーんうーそつーいたーらはーりせーんぼーんのーます――」 刃は過たず女主人の喉笛を刺し貫いた。 * * * 「ほらぁ! 起きてー起きてー!」 「……盛華?」 耳をくすぐる聞き慣れた声が女主人を夢の世界から掬い上げた。机に突っ伏し寝ていた女主人は驚いて上体を起こし、机の天板の凹凸を律儀に複写してしまった腕の痛みに一瞬顔をしかめ、しかし自分を覗き込む幼馴染の顔を間近に捉えるとすぐに眼尻を下げた。 「御免なさい。寝ちゃってたのかしら」 女主人は腕をさすりながら周囲を見渡した。都心から少し離れた山間のベッドタウン。そこに造られた新興住宅街の野趣溢れる緑地公園。その広場の一角に設えられたこの休憩所は、女主人と幼馴染と、二人の胸に秘す秘密基地であった。小手をかざし、日除けが作る日陰から外を眺める。真昼の明るさに瞳孔が収縮する音を耳奥に、白い世界が徐々に色を結ぶ。 綺麗に刈り揃えられた芝生は陽光を浴び暖かな大地の匂いを湧き立たせ、緩やかに波打つ緑の草原を仕切る木立を遠目に見やれば桜が葉の繁った枝を張り、光の粒が枝の隙間から幾筋も伸びている。天然のスポットライトに照らされ、幾何学模様に植え込まれたサツキやツツジが黄緑と深緑のグラデーションを作り、その迷路の陰を子供達の黒い短髪と伸ばされた白い腕が走り抜けていった。突然の小さな嵐に驚いた蝶が舞い上がり、木陰に隠れた。 このベンチは、長閑の概念を世界中の玩具箱から収集し整然と並べて魅せる精巧精緻のジオラマ鑑賞の特等席であった。特に、幼馴染と二人で並び座す時においては。幼馴染もまた隣で同様の思いを抱いていたのであろう。間延びした声で感嘆を言葉にした。 「いいお天気だねぇ」 「本当にね。これじゃあ眠くなっちゃっても仕方ないわよね」 「そうだけどー。今日はお店に入れた新しいお花を見せてくれるって約束でしょ?」 「ええ。そうね。そうだったわね」 女主人は立ち上がり、うんと声をあげて伸びをした。共に立ち上がり、身長差から斜めに親友を見上げる形となった幼馴染がその声につられ白い喉を晒して欠伸をし、慌てて口元を手で抑えた。顔を見合わせた二人は暫く黙り、やがて互いに笑い合った。 「それじゃあ、行きましょう」 「うん! よーし! しゅっぱーつ!」 肩は並ばずとも歩調を合わせ、二人は芝生を踏み分け並び歩きだした。段ボールをソリにして遊ぶ子供の突進を幼馴染が慌てて避け、傾いだ肩を女主人が支え、また互いに笑い合い小高い緑の丘の向こう側へ歩を進める。 「そうそう。約束といえば。大人って何だって話の途中だったわね」 「あれ? うーん、そうだったっけ?」 最後に、大切なことを思い出したと女主人は足を止め、小指を差し伸ばし指切りの仕草をしてみせる。眉根を寄せる幼馴染へ、女主人は花咲く笑顔を返した。幼馴染から大輪の白薔薇と賞賛されたその笑顔は、他の誰も知ること無い、常に唯一人の為に向けられるものであった。 「私にとって大人っていうのは――そうね。よく言うでしょう? アレよ」 「アレ?」 「――子供らしさが死んだ時、残された死体を大人と呼ぶのよ」 「何それぇ! 聞いたことないよー?」 「盛華はそれでいいのよ。ええ。ええ。やっぱり、貴女は大学を卒業しても変わらなかったわね」 「ちょっとぉ! よく分からないけど私を馬鹿にしてるでしょー!」 「そんなことないわよ。本当。本当よ」 肌を撫でるように吹く初夏の微風が幽かな音を立て草木を揺らす。緑の芝に銀色の彩が流れる。風に乗り、二人の姦しい声は丘の上から長く梢の葉を震わせ続け、やがて子供達の遊ぶ喧騒に紛れ消えた。人影の無くなった丘の上。葉陰に隠れていた一匹の白い蝶がひらひらと舞い降り、二人の残した花と土の薫りに誘われ丘の向こうへと姿を消した。 この後、女主人は夢の中でどう暮らしたか。花と戯れ過ごす世界で幸福を得られたか。いつか、夢の舞台裏で死に続ける己が死体の夢を見るか。きっと幸せに暮らしたと、或いはいつか目を醒ましたと信じてみたいかもしれない。だが、彼女の未来を追い続けるに、ここは余りに紙幅が足りない。
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前100|トップ|次100 51 :初代1◆zhFdGsjV7M:2006/01/01(日) 00 06 40 ID dZmjLdbH あけまして、おめでとうございます。 旧年中は、皆様のお力により、ここまでこれたことを深く感謝しております。 本年も、いろいろなことが、あるでしょうが、私、初代1の お遊びに、お付き合いいただければ、大変うれしく思います。 どうか今年も、旧年中と変わらぬお付き合いをお願いいたします。 2006年元旦 初代1より 52 :オーバーテクナナシー:2006/01/01(日)02 15 41 ID mKldEqoW 【聞こえる声】 さてさて、技術的に意味がある訳ではないですが「お正月」について教えておきましょう。 ネ申の世界では一年の最初の数日を「正月」と呼びます。 特に最初の日を「元日」。その朝を「元旦」と言い、これらをめでたい時期として祝う習慣があります。 また、これらの習慣や祝い事を総称しても「正月、お正月」と言います。 (なお、元々は「正『月』」と言うように一年の最初の月の事でした) こうした習慣の理由は人により、地方により色々言われて居ますが、おおまかには ・一年を区切りとして、前の年を無事乗り切れた事を感謝し、また次の年に向けて気持ちを改める。 ・冬至と重なる時期であるため、これから日が長くなり、暖かくなっていく事を祝う。 の二点が主です。 ま、祝い事ばかりやっている訳にもいきませんし、ネ申の世界の習慣を持ち込むのが良いのかどうか分かりませんが、 これからしばらくネ申々が浮かれていたり妙な挨拶をしたりすると思いますので、参考までに。 53 :オーバーテクナナシー:2006/01/01(日)03 04 21 ID 0HP8uBqP 原始人さん、ネ申のみなさん、明けましておめでとございます!ヽ(*´∀`)ノ 54 :ウズメ@中の人:2006/01/01(日) 09 30 19ID bkrS09dc あけましておめでとーヽ(‘ ∇‘ )ノ 55 :録霊60◆CcpqMQdg0A:2006/01/01(日) 11 50 53 ID 70JapCcs ▼・ェ・▼あけましておめでとうございます。▼・ェ・▼ 早速、教え初めいくだよ。 飛距離と威力からいっていまいち使い勝手の悪い弓を使って火をおこす方法、『弓ぎり式』を教えます。 ○用意するもの ・弓 ・長さ12寸程度の硬い木でできた棒 ・掌に収まるぐらいの大きさの木、もしくは石 ・柔らかい木で作った薄い板(厚さ1寸以下、幅7寸長さ1キュービット) ・麻の繊維 まず、薄い板の真中に硬い木を押しつけてまわして浅いへこみをつけます。 このへこみは、『火きりウス』といって、触れば分かる程度の浅さでかまいません。 そして、火切りウスから、板の縁まで溝を彫ってください。 このように加工した板を『火きり板』といいます。 次に硬い木でできた棒、『火きり棒』を弓の弦に二回巻きつけます。 火きり板を左足で踏みつけて固定し、火切りウスの上に火きり棒と弓が組み合わさった ものを乗せます。 平らな木片か石を火きり棒の上に乗せ、左手で押さえつけてください。 そして、右手で弓を前後にすばやく引くと、火おこし器と同じように棒が回転して 溝から熱い木炭の粉が吹き出てきます。 この熱い木炭の粉の上に麻の繊維を落とすと火をつけることができます。 (あらかじめ小枝や薪を用意しないとすぐ消えてしまいます。) 56 :あぼーん:あぼーん あぼーん 57 :オーバーテクナナシー:2006/01/02(月)06 47 29 ID vrZJE/KB あけましておめでとうございます 【原始人さんへ】 44 ロクロというのは円盤の回転を利用した、陶器を作る道具です 円盤の中心に軟らかくした粘土を置いて、円盤を回転させると粘土も回転します 回転している粘土に手指を当てたり、摘み上げたりして陶器の形を作ります。 ロクロを使うと綺麗な円形、薄くしかも均質な厚みを持った陶器を作る事ができます 58 :オーバーテクナナシー:2006/01/02(月)06 54 16 ID iaE5K080 ◇計算できない物質的財産の破壊 「日本の侵略戦争が中国に与えた財産上の損失も、莫大で驚くべきものだ」、 戦争中、日本軍はいたるところで、狂気のように公共や個人の財産を略奪し、 文化遺産を破壊し、鉱物・森林資源を採掘、伐採し、偽札を発行し、 軍事・民生施設を焼き払い、爆破し、中華民族の物質的精華は日本侵略者 によってほとんど全部奪い去られた、卞博士はこう指摘した。 この数年、抗戦時代の損失問題を研究し続けてきた卞博士は、当時、 直接戦禍にみまわれなかったチベット、新疆の両省クラス行政区を除き、 残りの省は全部または部分的に陥落するか、一部が戦場になり、多くの都市、 郷・鎮が日本軍の盲爆にさらされたとみている。 卞博士は、近年の研究結果で、全戦争期間中、中国が受けた直接の財産 損失は1000億ドル、間接的損失は5000億ドルに達することが明らか になったと語った。 「むろん、戦争状態という制約から、抗戦の損害調査は、時間的完全性 からも、空間のカバーという点からも、極めて不完全なものである」、 「日本の侵略戦争が中国に与えた巨大な物質的財産の破壊と壊滅ぶりに ついて、正確な回答をみつけるのは不可能に近い」、卞博士はこう語った。 そして日本の侵略戦争がもたらした大きな傷が、中国の近代化プロセスの 重大な障害になったことは、学術界で突っ込んで研究する必要があると強調した。 http //www.china-embassy.or.jp/jpn/zt/qqq115/t202631.htm 日本の侵略戦争は中国にどれだけの損害を与えたか 新華社解説 59 :録霊60◆CcpqMQdg0A:2006/01/04(水) 18 21 35 ID YQuume3g 鼠害対策に大きな高床式倉庫が作れないのなら、小さいものから作ってみましょう。 板などを渡して、物が置けるようにした道具を『棚』といいます。 今まで紹介した三角食卓、四角食卓、立ちかまど、食卓に机構造を 何個も作れば、棚になります。(立ちかまどの枠はすでに棚に近いですが。) 食卓から棚を作るときは、地面から立ち上がる棒の長さを伸ばせば、 大きい棚ができるかと思います。 四角く組まれている部分は木を添えて、斜めに渡して縛り強化してください。 あと、下の段ほど重いものを乗せたほうが倒れにくいです。 食べ物の保存についてですが、人の住んでいる家もしくは洞窟におくと腐りやすいので、 人の住んでいないところに保管しましょう。 また、地面から高いところほど湿気や土煙や鼠の害が少なくなります。 横木を棚の外側に組むようにすれば、鼠が上りにくくなります。 60 :47:2006/01/05(木) 04 37 33ID k6a5hg/6 直しておきますね。 |TTTTTTTTTT| | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| |~~~~~~~~~~~~~~| | ゚ 。゜ | | ゚、、、、゚ | | ミ・д・ミ | | |  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 暇人さん わたしも調べてみました。 バンテン牛って絶滅危惧種(とゆうか一旦絶滅したあと、クローンで復活?)みたいですね。 小型でおとなしいのは扱いやすいと言う点で利点かもしれません。 力が不足している点は和牛の体型が農耕・運搬用に使われているうちに変化していったように 人が関与することによる改良が期待できるかもしれませんね。(微々たる物かもしれませんが。) 61 :オーバーテクナナシー:2006/01/05(木)04 41 45 ID k6a5hg/6 直らなかった・・・。 長老ゴメンなさい(つд`;) 62 :オーバーテクナナシー:2006/01/05(木)11 55 35 ID trc+56yT 【聞こえない声】 農耕に不向きとはいえ、牛が確保できたのは大きいですね。 上手く繁殖できれば乳製品、牛肉、牛皮、骨の安定供給が可能ですし。 そういえば動物の靭帯って弓の弦に使えた気がします。 63 :ウズメ@原始人:2006/01/05(木) 13 16 16ID nBGvP726 4_627-633 海でも怪我する事があるから、あたいも覚えておくだよ 『低体温症』のとことかためになっただよ 4_636 温度を100等分とか、ちょっとピンとこないだね・・・『温度計』ってのの作り方を教えてほしいだ 4_638 応急処置の基本の4つはわかっただ・・・けど、やっぱり傷を縫うんだか?・・・(((((((゜Д゜;)))))) (原始人の持っている針は、現代の釘くらい太いらしい) 4_639 なるほどー、言われてみればその通りだね・・・そっちで作ってみるだ 血がいっぱい出ると死ぬのは経験上知ってるだ・・・体重の1/10だね 分数覚えただよ 4_640 な・・・なんかえれーむずかしー話だな~、長老の昔話くらい訳わかんないだ~~ 4_642 空気の中の酸素を吸ってるってことだね 何で人間は魚みたいに水の中で息が出来ないんだろーな~~・・・ 4_643、 4_648 『気体』『固体』『液体』はわかっただ で、結局煙は気体じゃないって事でいいんだか?・・・ 4_658-660 ~ちゃんっていうのは、小さな子供に言う事だよ 暇人ネ申さんもイスズみたいにあたいを子ども扱いするだね(つд`) ネ申さんの話を聞いてたら、あたいも子供欲しくなっただ・・・ 64 :ウズメ@原始人:2006/01/05(木) 15 45 36ID nBGvP726 7 萌えを感じるってなに? さすがネ申さんだけあって、きっとすごい感覚持ってるだね~尊敬するだ 『キャンプ織機』はなかなか良さそうだね 麻布を織っている女達に教えてみるだ 11-15 医学の基本ネ申さんと暇人ネ申さんはおんなじネ申さんだか? 窒息とか溺れた時の助け方とかすごくためになっただ 18-19 『弥生機』はけっこう複雑で難しいもんだなー・・・ 部品の数が多いけども、それぞれはそんな難しい形はしていないみたいだ ただ、『綜絖』というもんの説明がちょっと分かり難いだ 二本の棒の間にある糸を細い棒の糸で一本ずつ輪を作るように挟んで端を細い棒 ってとこ 細い棒の糸ってなんだろー?ナナッシならわかるかな? これはぜったい作ってみたいので、ナナッシに相談してみるだよ 23 声は聞こえないけど、ネ申さんの悲しみを感じただよ・・・ あたいネ申さんの事大好きだから機嫌を治して欲しいだ 至らない所は言って欲しいだ治すように気を付けるだよ・・・。゚(Pд`q゚)゚。 24 『床縛り』覚えておくだ 28-29 30女ネ申さん、おひさしぶりですだ 30女ネ申さんもあたい等からみたらりっぱに安産の神様ですだ 65 :暇人:2006/01/05(木) 17 35 38ID ryWwpHaS 60 62 バンテンの数を増やしつつ、数に余裕が出てきたら鋤を引かせて、 ついでに大型化を狙う感じが良さそうですねえ。 バンテンを大型化させるために、オーロックスとかけあわせるという手もあるっぽいです。 現在の乳牛の直接の祖先であるオーロックスは、いったん絶滅した後に、 オーロックスの遺伝子を持つ牛ばかりをかけあわせて、ほぼ復活させているようです。 これもバンテンと同じく、家畜に向いているようですが、めちゃめちゃでかい。 http //big_game.at.infoseek.co.jp/othermam/aurochs.html 鋤なんて余裕で引けそう。 原始人さん ・牛飼いについて 牛は青草をたくさん食べます。 だから毎日、草のある場所に放してやらなければなりません。 その場所の草が少なくなったら、次の日には別の場所に放してやる。 こういった作業をする人物が必要です。 作業自体は簡単な事ですから、子供にもできます。 これをする子供を『牧童』といいます。 http //www.shokoku-ji.or.jp/jotenkaku/treasure/index_02zenshukaiga/jyugyuzu/jyugyuzu_06kigyuukika.html 神の世界にはこういった絵がたくさんあります。 なんというか、「いいかんじの光景」の見本みたいなモンです。 66 :暇人:2006/01/05(木) 17 37 32ID ryWwpHaS ・『牧牛犬』について 牛の肉は美味しいので、ケモノに狙われやすいです。 今のように、力の弱いメスの牛と、子牛一匹しかいなければ、余計に狙われやすいです。 ですから牧童は、犬を連れて行くと良いです。 犬がいるだけでも、その匂いをケモノは嫌がります。 神の世界の有名な牧牛犬は、こんなんです。 http //www.healthyfood.co.jp/book/dog20.html 原始人さんの世界の犬とは、ぜんぜん違うと思います。 牧牛犬には、背が低くて、あまり大きくなくて、しっぽが短いものが良いのです。 牛に踏まれたり、蹴られたりしないようにです。 性格は元気で、走るのが好きで、よく吠えて、噛みあいっこの好きな犬が良いです。 ウロウロ迷ったり、言う事を聞かない牛に、噛みつきに走っていってくれるからです。 そういう犬ばかりを交尾させていくと、そういった犬が生まれやすくなります。 ・飼料について 牛二匹程度なら、基本は、村の外の青草で間に合うと思います。 だけど牛を丈夫にして、長生きさせたいなら、牛が毎日帰ってきた後に、次のものを食べさせましょう。 1.ひとつかみの塩 2.貝殻や骨を、細かく砕いたもの、ひとつかみ 塩はどんな生き物にも必要なものですが、牛は森や草原で生きているので、なかなか食べられないのです。 きっと舐めさせると喜ぶと思います。 貝殻や骨の粉は、牛の骨を丈夫にしたり、良い乳を出させるために必要なものです。 ただし、牛に対して、牛の骨の粉を与えるのは良くありません。 67 :暇人:2006/01/05(木) 17 38 05ID ryWwpHaS ・牛の手入れについて 牛は清潔に、きれいにしてあげましょう。病気を防ぐためです。 毎日、ブラシをかけてあげましょう。 血の流れが良くなりますし、皮膚が丈夫になるし、牛も気持ち良いから喜びます。 ブラシは人間の女性が使っているものよりも、固いものが良いです。 (数が増えてきたら、角を切ることも必要なのですが、これは今のところ道具が無いような気がします) 牛はとにかく何にでも利用できる生き物です。乳も肉も毛皮も骨も内臓も、糞さえも、捨てるところがありません。 神の世界では、今でも「牛をたくさん持っている人」がモテる国もあります。 大切にしてあげてくださいね。 68 :録霊60◆CcpqMQdg0A:2006/01/05(木) 21 44 07 ID 73sJaUYH 49 猫関連 この村の社会は、 ・母親に従う。 ・男の中で一番偉い者がいても、他の者たちは犬のように誰が誰より偉いというような明確な順位がなく、 ほぼ対等な関係(個々の力の差はもちろんある。) というように猫の社会に近いかもしれません。 ゆえに、猫がこの村の象徴の地位を得る可能性が高そうです。 (よく考えるとこの村の人々の名前の由来は、電子掲示板に生息する猫の名前が多いですね。) 貝 足を挟むような貝は、『二枚貝』(二枚の貝殻を持つ貝)の類かと思います。 ほら貝は、大きい『巻貝』(渦を巻いた先がとがった貝殻を持つ貝)から作るようです。 巻貝の身を取り除いて洗ったあと、貝殻の先のとがったところに小さな穴を開けてそこから息を吹き込むらしいです。 http //upload.wikimedia.org/wikipedia/en/thumb/7/7d/Horagai-conchtrumpet.jpg/220px-Horagai-conchtrumpet.jpg 69 :録霊60◆CcpqMQdg0A:2006/01/05(木) 22 01 13 ID 73sJaUYH イスズとワタツミとサンレイ イスズとワタツミのことわかっただよ。 ウズメさんと中の人ありがとうございます。 サンレイ殿とは、名前が似ていて他人のような気がしない。 ここで、未来技術村のネ申々の名前を海の民風に読んでみるtests。 聖女→ヒジリメ ANIOTASAN→ウゴキエメヅルカミ 30女→ミソメ 録霊60→フミビムソ 死者の代弁者→シビトノカワリワケノミコト レグルス→モモツケモノノオオキミノホシボシノミコ 暇人→ヒマビトノミコト 字面だけみると日本神話チックで偉そうに見えるかも。 70 :オーバーテクナナシー:2006/01/05(木) 23 15 24ID pFcuJwq2 266 名前:オーバーテクナナシー 投稿日:04/11/12 08 32 07ID 4ol/xPB/ 石油以上に活用範囲が広い植物があります。 それは大麻です。大麻。 http //www.taimado.com/sukuu.html 石油産業の陰謀により大麻取締法ができたぐらいだからな。 これで石油なくなっても安心。 みゃちぎゃいにゃい! 71 :オーバーテクナナシー:2006/01/06(金) 00 24 15ID peUSF45h 【聞こえない声】 70 大麻にそれほど多岐に渡る活用法があるとは…こりゃモラーラがひょっとするとひょっとするかもな 72 :オーバーテクナナシー:2006/01/06(金)01 20 06 ID eW8H5Y5K ウズメさん 魚が水中でも呼吸できるのは『エラ』という器官があるからです。 人間にはこれがないので水中で呼吸はできません。 (その代わり魚には肺がないので空気中で呼吸できません) エラはこんなやつ↓ ttp //www.kaikyokan.com/jyoho/03_01_29/03_01_29.html (この魚は『サンマ』です。上から3番目の絵の赤いのがエラ) 73 :オーバーテクナナシー:2006/01/06(金)01 31 50 ID Cn9xft7h 砂糖黍の絞り粕からラム酒がつくれるんだっけ? 74 :オーバーテクナナシー:2006/01/06(金)02 11 23 ID eW8H5Y5K 【聞こえない声】 ざっと調べたところによると世界最古の温度計って 17世紀にガリレオが作ったやつらしい。 いわゆる原始的な温度計って歴史上、存在しないようです。 ガラスも水銀もない現状で作れそうなのを考えてみました。 天秤を使って片方に重さ一定の何か、 もう片方に筒状の土器を吊るして釣り合うように水を入れます。 沸点に近い温度の水の水位と凝固点に近い温度の水の水位に印をつけて、 その間をいくつかに区切れば温度計になりそうな気がするのですが。 専門外で自信がないので嘘を教えないように内緒にしています。 (水の熱膨張率とか何とかを考慮してどの程度使える代物なのか わかる人いませんか?) 実際作るとしたら、 不純物の少ない水(というか常に得られる同じ成分の液体、蒸留水は教えればもう作れるはず) 歪みのすくないコップ状の土器(ろくろ待ち?) 正確な天秤 線分を等分するための技術 熱膨張の概念が必要になってくると思います。 労力のわりにわかるのは0℃から100℃までの気温と水温だけ……。 教えていいものかどうか迷いますね。 【ここまで全部聞こえない声】 75 :30女:2006/01/06(金)02 30 28 ID 7QDZcBhZ ウズメさん、こんばんは。 安産のネ申ですか。嬉しいです。 足をはさまれる貝というのはシャコ貝かもしれませんね。 貝の場合、2本ある筋肉の柱が殻を閉じる力を出しています。 足をはさまれたとき、石ナイフでこの柱を切ることができれば、殻が開いて逃げられるかもしれません。 録霊60さん ミソメですか。なんかかっこいい名前ですね。 ありがとうです。 74さん 温度計はその方法では難しいかもしれませんね。 天秤を使うのは、一定量のお水をいれるためかしら。 お水の場合は4度が一番体積が小さいので、うまく0度から100度までのメモリをつけることが難しいかもしれません。 次に水の温度による膨張は小さいから、観測しづらいですね。 現代の温度計みたいに水をためてそれを細い筒に導いてやれば、体積変化を大きく観測できるのですが・・・。 コイル状に金属を丸めて、それに針をつける手もありますが、金属自体がありません。 76 :aniotasan◆RtFjHNfLK6:2006/01/06(金) 14 57 34 ID F5HKmIo0 た・・・たたら・・・蟹・・・。 77 :レグルス◆e6c/lfGFwg:2006/01/06(金) 22 41 22 ID VC+Gm1LG 【聞こえない声】 69 私の名前だけややこしくてよくわからない…(笑) 78 :オーバーテクナナシー:2006/01/06(金)23 59 03 ID eW8H5Y5K 【聞こえない】 75 今は密閉容器が作れないので、重さを一定にしようと思って天秤にしました。 もともとこの温度計の精度に期待していないので メモリは10℃ごとくらい(12.5℃とか)でつけられれば上出来かなと。 それでも底辺をできるだけ小さくして、そのうえ内側にメモリをつけるとなると かなり高度な技術が要求されそうですね。 79 :オーバーテクナナシー:2006/01/07(土)00 27 44 ID FKSJuquN 【聞こえない呟き】 湿度なら毛髪湿度計ってのがあるんだがな…… 80 :オーバーテクナナシー:2006/01/07(土)03 45 46 ID 1/+AUFM6 45 ナナッシが沢山の品物と交換するというので これって、牛の母子の代金(?)をナナッシ個人が支払ったということ? ナナッシってひょっとしてかなりの富豪なんだろか? それと、公共事業って考え方はまだないんかな?牛の代金ならまだしも、 高床式倉庫の建設費用なんかはナナッシ個人じゃちょっとむりぽ。 81 :ろくろっくび:2006/01/07(土) 05 11 51 ID n2DXzO6L お絵かきしてみた。 画像サイズでかすぎ。 本当に使えるか、作れるかはわからない。ごめん。 82 :原始人@初代1◆zhFdGsjV7M:2006/01/07(土) 06 18 29 ID TdVMdkHQ 578 木の上で火を使っても、もえないだか? ふしぎかねー 580 ドーナツ型ってどんなかたちだかね? それと焼けた銅を手でつかむと、火傷すると思うだよ。 あと、つかむための道具の作り方もおしえてほしいだよ。 585 おにぎりとお弁当はわかっただよー。 遠くに狩りに行く連中は、干した肉やら、燻製やらをもっていくみたいだね。 筍とかプリミティヴライフとか、よくわからねぇことばもあるだけど だいたいわかっただよ。 シソは、このまえ山のほうでみたようなきもするだね。 586 熱くねぇと、だめなんでねぇか? 588 モラーラは、なかなかしっかりしたヤツだぞ。 すごく遠くに、いくときは、現地調達がきほんになるだよ。 水なんかは、朝早くに、葉っぱの裏をなめたりするだね。 83 :原始人@初代1◆zhFdGsjV7M:2006/01/07(土) 06 25 21 ID TdVMdkHQ 604-605 鋤とか、地面においておくと、けっこうふんずけたりするだからねー これはべんりかもしれないだよ。 それに、地面から離して物を置くと、泥がつかなくていいだね。 (中の人より:釘も組み木も使わずに、ここまで作れるとは思っていませんでした) 612 車輪と軸の間でがくがくいってるだねー 以上、前スレのはなしだよー 84 :オーバーテクナナシー:2006/01/07(土)09 47 10 ID yhB5suhF 82 ドーナツというのは丸の真ん中に穴の開いた輪っかの形をしたお菓子の事 プリミティヴライフってのは自然の中で生活する原始人さんのような生活のことじゃないかな 筍はがいしゅつ たけのこ=竹の子=筍 ですね、どれも読みは一緒 っていうか原始人は漢字読めるのか?読めてないはずだよね だったらおかしな質問だな 前にも橇は既出なのにソリが分からなかった事有ったけど、中の人もっと気をつけよーw 85 :オーバーテクナナシー:2006/01/07(土)13 44 48 ID 2ynDyaYV 【聞こえない】 そういえば何となく思い出したので書いてみる。 鉄腕ダッシュでやってたやつだけど。 井戸を掘るポイントの探し方。 鶏の羽を何本かと、土器を用意。 適当な地面に羽を挿して土器を被せる。 一晩放置。翌日羽が濡れていたら下に水脈の可能性あり。 86 :オーバーテクナナシー:2006/01/07(土) 20 15 23ID zl/da2j4 82 580 ドーナツ型ってどんなかたちだかね? それと焼けた銅を手でつかむと、火傷すると思うだよ。 あと、つかむための道具の作り方もおしえてほしいだよ。 なぜ焼けた銅を手で掴もうとしているのですか? 586 熱くねぇと、だめなんでねぇか? なぜ熱くないとだめだと思うのですか? 【聞こえない】 金属加工への第一歩に、鋳造と冷鍛で銅プライアを提案しようと しているのだけど、これって回りくどいステップなんだろうか? 87 :初代1◆zhFdGsjV7M:2006/01/09(月) 17 47 18 ID +oCz6Oez いま、陶器があつい!! 「そりゃ、カマドのなかだからなぁ」 っと、いうわけで、原始人的陶器の焼き方を見てみることにしよう。 1、まずは粘土つくり 村の赤土を一度水によく溶かし、適当に掘った穴の中にいれ、しばらく待つ。 水がひあがったら、上のきめ細かな部分だけを取り出す。 2、よくこねる 出来上がった粘土に少量の水を加えながら、よくこねます。 押し込むようにして、空気を追い出すのが、ネ申からのアドバイスでした。 3、形を作る ロクロなんてものは無いので粘土の塊を削ったり あるいは、ひも状にした粘土を積み重ねたり 最後に、取っ手をつけたり、藁縄で縄目をつけてみたりします。 4、乾燥 物置用の洞窟で、たっぷり4日乾燥させます。 雨が降ったら、やり直しです。 構造上の欠陥があったりすると、この時点で割れます。 5、焼く カマドで素焼きです。 つづく 88 :初代1◆zhFdGsjV7M:2006/01/09(月) 17 58 15 ID +oCz6Oez 焼いてる様子をみてみましょうか・・・ レンガつくりのかまどの中に、陶器が並べれれていいます。 もちろん床に、じかにおきます。 大小様々なものが20個ほどでしょうか? カマドの奥のほうに、隙間を惜しむように並べれれています。 並べおわったら、レンガを積んで、入り口を小さく絞ります。 外側に、土を盛るのも忘れません。 薪を足すための、顔の大きさ程度の穴だけのこして、閉じてしまいます。 まずは、乾燥した小枝を沢山入れます。そこに、火のついた松明を放り込みます。 火に勢いがついてきたら、腕の太さ程度の丸太をくべます。 こうして、まる2日、寝ないで火をたき続けます。 これで、素焼きが完了。 まだつづく 89 :オーバーテクナナシー:2006/01/09(月) 17 59 30ID WMA30Jtj ウホウホフホ? ウウホウホホホウウワアアウホオ 90 :初代1◆zhFdGsjV7M:2006/01/09(月) 18 07 20 ID +oCz6Oez 6、釉薬をぬる。 あらかじめ、水晶なんかで、地道に削っておいた 長石・珪石・石灰なんかを粘土と混ぜ、水を多めにした泥のようなもの 素焼きの陶器にぬりつけます。 素手で泥をつかんで、塗りこむだけです。 7、乾燥 再び、4日乾燥させます。 8、焼く 再び、素焼きと同じ手順で焼きます。 こうして、出来上がる陶器は全体の約5割 1度目の焼きで7割が残り 2度目の焼きで6割が残りますが 釉薬が綺麗につかないことがあったりします。 いろいろ、改善しなきゃならないことが多そうな気がしますねぇ 91 :オーバーテクナナシー:2006/01/09(月)23 01 55 ID rLxNH1eL 【聞こえない声】 釉薬は筆で塗るといいんじゃないでしょうか。 それと、乾燥の方法ですが 窯の中に入れて200度前後で強制乾燥させるという方法もあるそうです。 * どちらも「黒楽」というものを焼くときの方法です 92 :オーバーテクナナシー:2006/01/10(火)08 56 27 ID 070fA96V 陶器に熱心な所申し訳ないんですが、皆それほど陶器にばかり関心無いんじゃないかな? 意図的に金属開発を止めてまで拘る必要有る物なのでしょうか? たしかに金属はブレイクスルーになっていて一気に技術が発展してしまうかもしれない いつまでも原始時代を楽しみたい初代1さんにとっては止めておきたい所だろうけど こっち側からするとちょっと飽き始めたっていうか 意図的に止めてるのを知って離れていった人も何人か居るんじゃないでしょうか レス数が極端に減ったのを見ても明らかだと思います ここらで新展開とかでちょっとテコ入れが必要な時かもしれませんね 93 :オーバーテクナナシー:2006/01/10(火) 09 48 35ID Rk95yWC2 でも、陶器がロクにできない状態で金属加工っていうのもなんだか・・・ 94 :オーバーテクナナシー:2006/01/10(火)09 58 42 ID 070fA96V 93 坩堝の問題の事を言っているんですよね? しかし銅は陶器のまだ無い弥生時代以前に既に作られているし 鉄に至っては陶器の技術は必要有りませんよ 95 :オーバーテクナナシー:2006/01/10(火)20 50 10 ID 7hPw4Rve というか 陶器は供給が追いつかないので 成功率を上げたい との命題が前スレにあったような 他にも 丘の畑に水を運ぶ方法とか 初代1から 提示された命題には 解決されていないものが多い 96 :オーバーテクナナシー:2006/01/11(水)09 50 30 ID yJF/lDwx 陶器に関してはこちらのアドバイス不足のような言われ方をしているが 今の炉の改良案とか穴釜や耐火煉瓦を使った高温炉の建造案 釉薬不足に関しては入手しやすい材料の提案などされているのにどれもやっていない どちらかといえば原始人側の行動待ちで停滞していると言える そんな状況で「改善しなきゃならないことが多そうな気がしますねぇ」なんて言われても… 丘の畑に水を運ぶ方法だって水路延長とか井戸を掘るとか色々提案されているよ それに水利の悪い丘の上に畑を作るのが間違いで水路の下流側に作った方が良いと言われていたはず 土が悪いのなら土質改良の話もずいぶん前にあったはず そもそも水利の悪い場所に一気に水を運べる画期的な方法が有るのだったら現代の発展途上国の人間だって困ってない これだって解決していないと言うよりも原始人の行動と報告待ちで停滞しているだけでしょ 97 :オーバーテクナナシー:2006/01/11(水)21 38 33 ID x84+C/e4 96 >釉薬 植物の灰を使う方法は1300℃ぐらい出す必要があるので 1000℃ぐらいで十分なアルカリ釉薬でてこずっている環境では ちょいとむずかしいかも。 銅粉や亜鉛粉をつかったほうが、まだ現実的。 >井戸 聞こえない声で話している内容のことを 原始人に言っても無駄なんでは? 98 :オーバーテクナナシー:2006/01/12(木)05 17 12 ID ebL1y72R 92今更な話だけど 良いナイフって本当に凄く高いんだね… http //www.munemasa.co.jp/cgis/goodslist.cgi?genre_id=00000010 99 :92:2006/01/12(木) 09 07 36ID wpymnwVJ なんかずれたツッコミにいちいち答えてゆくうちにどんどん論点がずれて行くんだけど (こういうのディベートのテクニックか何か?まんまと引っかかってる自分もアレなんだけど) 要は 提案しても無視されている物がある 金属開発は故意に止められている 今までは発展がゆっくりなだけで(順番待ちみたいな感じで)近いうちに取り上げてくれるんじゃないかと 期待して待っていた人達も 故意に止められている事がはっきりした(明言された)事でがっかりして去って行ったりしてるんじゃないかと 思うんだけどそのあたりどうお考えでしょうか?ということ 100 :オーバーテクナナシー:2006/01/12(木) 09 57 14ID eoUvVxrP 故意に止めているのか? オレは1の検証ができてないだけだと読んだんたが 前100|トップ|次100