約 1,241 件
https://w.atwiki.jp/sakurahiromu2/pages/17.html
学徒出陣の片腕であった金宰陽が韓遂らと反乱を起こします。反乱軍に立ち向かう越帝・学徒出陣、斉王・張春華。そして未だに領土を得ない日和見。彼らにはどのような運命が待ち受けているのでしょうか? 第四十一話・学徒出陣の帰還 学徒らは新たに大越帝国の帝都となった襄陽に久しぶりに帰還していた。 学徒「渦中の司馬懿からの報告を読んだが、ひょーりみは全然駄目みたいだな。」 こおろぎ「わしの見込み違いであったようですな。所詮、星占いと人相占い ですからな。」 学徒「ボケッ!たかが占いでひょーりみを苛めたのか。そもそもどう考えても、 梁山泊のボスは張春華であったぞ。斉王は無能のひょーりみに任せたほうが はるかに安全であった。」 こおろぎ「左様ですな。しかし…北部に封じた王どもはいずれは除かねば なりません。とりあえず、学徒殿の天下を形にし諸侯を納得させるために やむおえず王にしたに過ぎません。これから王たちの力を削減し、完全な る統一体制を築くのです。古の項羽の失敗を繰り返さないよう慎重かつ 大胆に諸王を処分していかなければならないのです。」 学徒「まったく…先生の話は長すぎるぞ。それにしても越の版図は実質、荊、楊の 2州に過ぎん。それにテロリストどもも暴れているみたいだしな」 こおろぎ「袁紹の子らを担ぎ上げる審配、新鋭のテロ首領、劉備などですな。 あやつらは劉焉の援助を受けているとも言われますし、始末には今しばらく 時間がかかりそうですな。」 そのとき、情熱的がすごい勢いで駆け込んできた。 学徒「ノックくらいしろ!ボケッ!!」 情熱的「それどころじゃありません!涼王韓遂めが謀反でございます!」 学徒「はやっ!早すぎるだろ!まだ一ヶ月もたっとらんぞ。」 こおろぎ「韓遂は元々そういう男です。好都合ではありませんか、涼州を接収し 直轄領としましょう。」 だがこおろぎは反乱の規模を大いに勘違いしていた。野心家たちによる新たな大乱が 始まろうとしていた。 第四十二話・中野区の最期の巻 涼王韓遂率いる反乱軍の秦の王都、長安に迫った。それを迎え撃つため秦王 中野区は渭水に陣を敷き迎え討った。 涼軍の先方は馬超という若武者であった。 その蛮勇により秦王中野区民憲章の軍勢は次々に討ち減らされた。 馬超「馬休、馬鉄!」 馬鉄「ジェットストリームアタックですね!兄上!」 馬超「気味の悪い台詞を吐くんじゃない、普通に突撃しろ」 秦軍将校「秦王さま!馬超の軍が迫ってきておりまする!」 「後は、お前等に任す!俺は逃げるぞ!!」そういうと中野区は部下を見捨て 長安城に逃げ込もうとしたが、秦の兵士たちも狭い城門に殺到したため、大混乱 となった。この混乱の中、秦王は仲間の兵馬に押しつぶされ絶命した。 この後、韓遂らは悠々と長安に入城したのである。 これまでのあらすじ 後漢末期、会稽の名門に学徒出陣というどうしょもないどら息子がいた。 そんな息子を心配した母親は、学徒を無理やり洛陽の蔡ヨウ先生のところ へ勉強へ行かせたのだが、旅の途中で甘寧という賊と決闘したが、コテンパに やられ、学徒は甘寧の舎弟となってしまった。 もともと兄貴肌の学徒は甘寧党のなかで有力な人物となり、一大派閥を形成した。 甘寧党は討伐にし来た官軍の顔良、文醜を返り討ちにしその勢力を大きく拡大した。 しかし甘寧はパシリの孫権に殺され、その後を学徒が継ぐこととなった。 一大勢力を手に入れた学徒は荊州を平定。その力を恐れた朝廷は学徒を州牧に 任命し懐柔を図ったが、何を思ったのか学徒は朝廷の使者を追い返し、漢朝打倒を 宣言するのだった。 学徒出陣は全土の反朝廷軍を糾合し盟主として、戦いを推し進めるめついに漢朝の 巨星、袁紹を討ち破る。 さらに皇帝から禅譲され大越皇帝に即位する。しかしその実態は軍閥たちの盟主的 な存在であり、実質的な版図は長江以南に限られていた。そんな中、はやくも反乱 勃発、天下の趨勢は未だ定まらず。 第四十三話・ぷらっと捕らわれる 「中野区どのが討ち死にじゃと!」秦王死す。の一報が襄陽に届いたのは ちょうど、学徒による親征軍が出陣式を終えたところであった。 こおろぎ「中野区殿はわれ等、学徒一門にとって命の恩人でありました。」 学徒「韓遂め、生かしてはおけん。先発隊のぷらっとにもよく伝えておけ。」 そのころ、先発隊のぷらっとは揚州より北上して豫州を通るところであった。 ぷらっとは学徒一門が会稽にいた頃から仕え、袁紹との戦いで活躍した越きっての 猛将である。そんなぷらっとは親友でもある、韓王金宰陽の軍と合流し、韓の 王宮で金と再開した。 ぷらっと「俺の精鋭五万と金の韓軍を合わせれば、反乱軍を討ち破るのもそう 難しいことではあるまい。」 金「そうだな。ところで、ぷらっと大事な話があるんだが。」 ぷらっと「なんだ?戦の話か?」 すると金はとんでもないことを言い出した「このままずっと越王に仕えている つもりか?」ぷらっとは唖然として言葉が出ない。 金「俺と天下を狙わないか?俺が正帝、おぬしが副帝。その逆でも俺は一向に かまわん。韓遂を討つよりいい話だろう?」 ぷらっと「何を言い出すんだ?つまらん冗談だな。」 すると金は手を上げ合図らしきことをした。すると韓の将兵が踏む込んできた。 金宰陽「今回の乱の首謀者は俺だ。越王方につく諸王も始末する手はずになっている。 そして、越の先方である、おまえをここで引き止める手はずもな。」 ぷらっとは金が冗談を言っているわけではないことを悟り、顔色が変わった。 ぷらっと「お前酔っているな。」 金「いや、俺はしらふだ」 ぷらっと「いや、酒じゃない血の匂いにだ。冷徹な知略を持つお前らしくもないな。 親友だと思っていたのだが残念だ。これから戦わねばならんとはな」 金「それは無理だな。お前の兵はとっくに武装解除している。越王の名を使ってな。 とにかくお前を傷つけるつもりはない。俺が天下を取るまでそう時間はかからん、 それまで軟禁させてもらうが悪く思うな。俺たちの栄華はすぐそこまで来ている。」 こうしてぷらっとは金に捕らえられ、さらに越の先方隊はここで解体されてしまった。 第四十四話・損権反乱を企む 越の先方は消滅したため、韓遂らはやりたい放題暴れることができた。 さらに学徒の甘寧党時代以来の仲間である金の裏切りは大きな動揺を生んだ。 当初は韓遂の単独の反乱であると思われていたのが、どれほどの裏切り者が 潜伏しているかわからなくなったからである。 そんな中、越帝はひょーりみに涼州攻撃を命じた。また越の監視も緩くなった。 ザビエル「逆賊、韓遂が留守である涼州制圧を命じる。これに成功した場合、 涼王の位を授けるか・・・。」 紫玉「なんか、越も切羽詰っているみたいだね。あたしらのことなんてもう 眼中に無いみたいね。」 ザビエル「ん~。まあ涼州はここと違って、越帝の強さはよくわかっている だろうし、結構簡単に手に入るかもね。」 そのときである「動くな!」と損権が叫んだ。見ると剣を抜いた兵士たちを つれている。 損権「皆の者!よく聞け!これから俺たちは、金宰陽殿に味方する!文句のある 奴は前に出ろ!」 ザビエル「ちょっと待て、なんでそうなるんだ!?」 損権「俺は、春華殿に言われて仕方なくついてきただけだ。ここにいる兵の 大半も同じだ。春華殿の命令でなくちゃ聞けんな。」 「まったくだ」と孔明も出てきた。 ひょーりみ「孔明さん、生きてたの・・・」 孔明「金殿の書状だ。ここで一手柄たてれば2州が与えられる。ここにいる 兵たちにも十分すぎるほどの恩賞が与えられるぞ。」 「おおっ~!」と兵士たちから歓声が上がる。そもそも荒くれ者にうける、カリスマ性 では損権、孔明はかなりのものである。春華という強力な押さえがなくてはこの集団を 抑えること用意ではない。 だがここでひょーりみらは越帝の名を出し、春華、呂布、勇魚の名を出しまくった。 他人の名を借りて説得しまくったのである。越帝の強さは第二次黄巾の乱に参加した 者であれば誰でも知っているし、春華の強さもよく知る兵士たちは恐怖に凍りついた。 ザビエル「あの越帝、斉王(春華のこと)に勝てると思うのか?はっきりいって死ぬよ。絶対。」 越帝らの威を借りて、ひょーりみらは兵士たちの説得に成功。ただちに反逆者として損権、孔明 を捕らえた。 第四十五話・ひょーりみ、反逆者を処罰し涼州へ向かう ひょーりみ「両名は法によって厳正に裁かれねばならない。ザビエル、両名は どのような刑罰に服すべきか?」 ザビエル「法によれば、反逆扇動者は100叩きの刑であります。」 ひょーりみ「よし!すぐとりかかれ!」 こうして、両名は100叩きの刑となった。「1!2!3!・・・」 渦中の司馬懿「あの~普通、こういう場合は極刑では?刑罰が軽すぎるのでは?」 ひょーりみ「法を厳格に執行することが大事だからね。できもしない刑罰を定めて 後々、困るようなことは止めようと思ってね。」 ザビエル「わが隊では、極刑はめったなことでは用いられませんから。もっとも 甘いわけではありませんよ。情状酌量などは一切認めない方針ですから。」 渦中の司馬懿「左様ですか」 こうして、損権らは100叩きの後、放逐された。そして改めて、ひょーりみ軍は 益州を出て、漢中を抜け、涼州へ向かったのである。 第四十六話・日和見、涼王となる。 さて、ひょーりみはそのまま北上して行き、涼州へたどり着いた。涼州を 守る馬玩らと激戦が続いたが、戦いの合間にザビエルらが越帝の恐ろしさを 説いて県令らを説得した。 まず、越帝への反逆を無謀と知る県令が降り、次に取るべき姿勢に迷う県令 が降り、やがてドミノのようにひょーりみ方になびいていった。 こうして涼州は意外にあっけなく平定されたのである。 ここにひょーりみは正式に涼王日和見を名乗り、紫玉を涼王妃、小銀玉を 涼公玉。ザビエルを涼国丞相、果物キラーを上将軍とした。 こうして日和見は地盤を得たのであるが、すでに戦いの前線は長安、洛陽 方面に移っており、それほど戦いを左右するものでもなかった(反乱軍主力 にとっては、日和見軍など恐れるほどのものでもなかった。)のだが、本国を 占領された精神的なダメージは大いに与えた。 第四十七話・果物キラーの活躍・その1 さて、果物キラーの名が史書に頻繁に登場するようになるのは、涼王(日和見)が 涼州入りしてからのことである。果物キラーは、幽州の北外れで生を受けた。 父は宦官に媚を売り、財を成した人物で評判は悪かったといわれる。 果物キラーは父の財産を元手に、鮮卑と取引をし貴重な汗血馬を仕入れ その商いは大いに繁盛し財産を倍にした。彼はよく史書を読み、それなりに 習得していた。またそろばんの名人であったとも言われ梁山泊時代には 物資の管理などをしていたという。 その果物キラーが上将軍に抜擢されたのは、単に日和見にとって信用で来る 人材が少なかったからである。特に果物キラーが軍事的才能を期待された わけではなく、ただ裏切る危険がないという理由だけで選ばれたのである。 日和見は涼王に即位したものの涼州には今だに馬玩ら韓遂の配下たちの軍が おり、また長安を占拠していた反乱軍本隊からも救援部隊が放たれていた。 果物キラーはとりあえず、馬玩隊を足止めするためにわずかな兵力で出撃した。 彼の役目は、日和見が兵力を整えるまでただ、耐えることであった。 第四十八話・果物キラーの活躍・その2 「明日、果物キラーの陣に夜襲をかける!」と馬玩は意気込んだ。 李堪「確かに今日は新月、必ずうまくいくだろうな」 その頃、果物キラーの本陣では・・・ 果物キラー「とてもじゃないが、涼王が来るまで守るなど不可能だ!敵は こちらの倍はいるんだぞ。」 将校「仕方ありませんな。ここは思い切って引きましょうか?わが国の軍法 ではたとえ敵前逃亡とみなされても、解任程度ですみますしね。」 果物キラー「逃亡ではない。戦略的後退だ。とにかく後退するぞ。」 こうして果物キラーらは陣を捨てて新月にまぎれて撤退したのである。しかし その途中で、渦中の司馬懿にばったり出くわしたのであった。 渦中の司馬懿「果物キラー殿。こんなところで何をしております?」 果物キラー「渦中の司馬懿こそ、こんなところに何用か?」 渦中の司馬懿「わたしは涼王の書状を持ってきたのござるが。」 果物キラー「涼王の書状・・・?え~と、死んでも陣を死守せよ・・・」 渦中の司馬懿「お分かりいただけましたか?今すぐ陣へお戻りなされ(ニッコリ)」 果物キラー「はぁ・・・まったく、わかった、わかった。何とかやってみるよ。 それから渦中の司馬懿は一刻も早く戻って殿の救援軍を催促してくれ。そんなに 長くもたないから。」 こうして果物キラーはとぼとぼと放棄した自陣へ戻るのであった。その頃、馬玩軍は 大混乱に陥っていた。 馬玩「なんだ!?敵陣に誰もおらん!おのれ!空城の計か!!」 そのとき闇夜から雨のような矢が降ってきた、どこに敵がいるのかも分からず、 うろたえるばかりの馬玩軍は壊滅した。 果物キラー「ふー怖かった。いきなり陣地に敵がびっしりいるんだもんな。 あれ?これって馬玩じゃん。何で死んでるの??」 こうして果物キラーは馬玩軍を大敗させたのである。 第四十九話・果物キラーの活躍・その3 李堪「何!?馬玩が討ち取られただと?おのれ果物キラーめやってくれる!」 武官「しかし、敵の本陣はめちゃくちゃですぞ。空城の計に十分に警戒しながら もう一度、夜襲をかけるべきでございます。」 李堪「おう、馬玩の敵は必ずとるぞ。」 その頃、果物キラーの陣では、大急ぎで防衛設備の柵、矢倉、石垣などが 築かれていた。しかしあまりの突貫工事で施設はあまりにもぼろぼろであった。 工作兵長「上将軍!工事を急ぎすぎです!このような柵は役に立ちませんぞ! それにこの石垣などひとりでに崩れてしまいます。矢倉も大風ひとつで倒れますぞ!」 果物キラー「時間がないんだからしょうがないだろ!とにかく急げ、それから 穴だらけだろうが!地形をぼろぼろにするな!」 工作兵長「むちゃくちゃだ・・・これじゃ夜襲をかけられたらひとたまりもない・・・」 そしてその真夜中、李堪らは果物キラーの陣に夜襲をかけたのである。 李堪「よし・・・音を立てるなよ、一気に陣を制圧する・・・」 「よし突撃!!」李堪の掛け声と共に時の声が響き渡り、将兵は突撃した。 「うわわわわ!なんだこの穴は!?」地形がめちゃくちゃなので次々に 穴に落ちる将兵、ひとりでに崩れる石垣に李堪の兵は恐慌をおこした。 李堪「馬鹿者!慌てるな!」 そのとき風が吹き、たちまち矢倉は倒れた。 「うわわわ!!!」李堪は矢倉の下敷きになり即死。 李堪軍は壊滅し、ことごとく果物キラーに降ったのである。 第五十話・果物キラーの活躍・その4 李堪、馬玩軍が壊滅した後。救援軍の梁興が到着した。 果物キラーは、二連勝で天狗となっていた。 果物キラー「梁興は疲れきっている!夜に夜襲をかけるのだ!」 将校「また夜襲ですか?梁興は名将ですぞ。そんな策にはかかりますまい。」 果物キラー「とにかく夜襲だ!俺を信じろ!」 果物キラーは夜襲の準備を進めたが、所詮は素人である詰めが甘い。飯炊きの 煙を大量に出してしまったのである。 韓遂軍将校「梁興さま、飯炊きの煙です。夜か明日の朝に仕掛けてくるに違い ありません。」 梁興「馬鹿者!果物キラーは馬玩、李堪を赤子の手を捻るがごとく葬った名将 だぞ!そのようなミスを犯すはずがない!あれはわざとだ!到着したばかりで 疲れのたまっている我が軍をさらに緊張状態に置き消耗させるための策略である。 そんな手に乗っては成らん。果物キラーほどの将になると孫子の常識など通用せんのじゃ!!」 韓遂軍将校「さすがは梁興殿!」 しかし梁興の読みに反して、果物キラーは夜襲をかけてきたのである。 梁興「むう!さすがは果物キラー!裏の裏を読んで夜襲とは!まさに軍神・・・ グフ・・・」 こうして果物キラーは梁興も討ち取った。彼はその後、国士無双と呼ばれ その名は全国に響き渡るのである。 第五十一話・馬超と馬休 痔痴元年12月(西暦191年) 国士無双果物キラーの活躍により日和見の涼州支配は確実なものとなった。 その頃、馬超らは優秀な一族を引き連れ、破竹の勢いで潼関を突破。 さらに洛陽を攻略しその雄姿は錦馬超と称えられるまでとなった。 馬休「さすがは兄上の武勇!涼州から洛陽まで、まさに敵なしですね」 馬超「だが、虎牢関の向こうには、天下にその名が轟き竜兵を恐れられる 張春華がいる。」 馬休「えっ?上島竜兵?」 馬超「(無視)ほかにも斉王は飛将軍呂布をはじめ、各地の英傑を従え西進 してきている。俺に・・・勝てるだろうか?」 馬休「兄上にしては、弱気ですね。って震えているんですか!?兄上!?」 春華、呂布・・・まさに絶対的強者による一方的な殺戮。馬超は自分の力量を よくわかっている。勝てるはずがない・・・!齢25の若武者の震えはその夜、 泥酔しても止まることはなかったという。 その頃、越の親征軍は20万の大軍で襄陽を出て、韓の王都、南陽を包囲していた。 朝倉渦中「さすがは、金宰陽。南陽を落とすのは並大抵なことではありませんな。」 学徒「だが、確実に戦局はこちらに傾き始めている。金に呼応した勢力は思ったほど ではなかったからな。」 朝倉渦中「各地からもたらされる情報を総合しますと。韓王の計画は8割がた成功して いたようです。あきらかなミスは日和見殿の軍を奪い、馬玩らの部隊と共に漢中を制圧 する策が不発に終わった点、その後の日和見殿の破竹の勢いを予測できなった点ですな。」 学徒「ふむ。すると金のミスは日和見関係だけなのか?」 朝倉渦中「はい。そのとうりでしょう。このミスがなければ、今頃反乱軍は漢中、西涼、 洛陽、長安、南陽を抑えており、元々、陛下への忠誠に乏しく野心多き、呂布、張燕らも 容易に引き入れられたとおもいまする。そうなれば、益州の劉焉もここぞとばかりに我らに 牙を剥いていたことでしょう。」 学徒「そうか、随分と危うい情勢であったのだな。さすがは金。天下の策士ということか。 それにしても日和見に救われるとは・・・あの時、八戸を犠牲に助けたかいがあったというものだな。」 朝倉渦中「おおっ。八戸といえばいくつか目撃情報がありまして、どうも生きている可能性が濃厚だ そうで」 学徒「くくくっ、まったく八戸のしぶといな。」 朝倉渦中「陛下、なんだか嬉しそうですな。」 学徒「それはそうと、今後はどのように賊を平らげればよい?」 朝倉渦中「そうですな。賊は長安、洛陽、南陽の比較的狭い区画に(といっても 結構広い)閉じ込めて、圧殺してしまうのが良策でしょう。」 学徒「長安の韓遂、洛陽の馬超、南陽の金宰陽か・・・。どれも難敵だのう。」 朝倉渦中「すでに我ら帝国軍は南から、斉王と諸王の軍は東から賊を攻め立てて おります、これに涼王が西から攻撃を加えれば、韓遂、馬超、金宰陽の三角形を より巨大な三角形で方位するととなりましょう。もっとも涼王にそれだけの大役 が勤まるかどうかは少々、不安ではありますが。」 学徒「そうか、よくわかった。情熱的を涼王への使者に出せ、すぐに韓遂を討つように 命じるのだ。」 こうして、情熱的は涼へむかったのである。 第五十二話・渦中の司馬懿と情熱的 情熱的が涼の都、武威へ入ったのは、ちょうど痔痴2年の元旦であった。 従者「情熱的様。つい最近まで戦場であったというのに、ずいぶん安定して していますな。」 情熱的「うむ。よく統治されているようだ。それに兵備もかなり整っているようだ。 涼王もなかなかの者であるようだ。」 情熱的は武威の王宮で涼王らと面会した。 涼王「越帝の御使者ですか。遠路はるばるご苦労様です。あっ、別に皮肉とかじゃ ないよ。」 聖天使ザビエル「それで越帝はなんと?」 情熱的「帝は涼王自ら軍を率いて、西から韓遂を攻めよとのことです。」 涼王「よくわかりました。準備は整っております。すぐに出発しましょう。 御使者殿はお休みになられてはどうでしょうか?元旦ですしね。渦中の司馬懿殿、 使者殿をご案内して差し上げて。」 渦中の司馬懿「御意。」 情熱的は、渦中の司馬懿につれられて個室に案内された。 情熱的「ところで渦中の司馬懿殿。涼王はこの地を治めてまだ日は浅いというのに ずいぶんと人心を得ておられるようだな。」 渦中の司馬懿「まあそれも、涼王のお人柄ゆえでしょうな。」 情熱的「軍は随分と装備は充実しているようだが、どこからそんな予算が出て おるのだ?」 渦中の司馬懿「はははは、実はのう、豪族たちがたんまりと富を蓄えておってのう。」 情熱的「なるほど、豪族が不当に蓄えた富を没収したのだな。」 渦中の司馬懿「逆でございます。涼王は豪族の資産をよく保護しております。豪族たちは 漢や韓遂らの時代には、突然の挑発などに悩まされていましたが、涼王は一切の挑発は しないと宣言されました。また、市政を縛る法の数が多すぎると、不要であると思われる ものは、学者の意見を参考にして廃されておりまする。その一方で、酷吏を用い、厳格な 法家思想のもと、一切の容赦のない刑の執行が行われており間する。これに関しては異論も ありますが、すでに極刑、肉刑はめったな事では執行されませんし、財産没収も法からは 削除され・・・」 情熱的「もうよい!」 渦中の司馬懿「は?」 情熱的「もうよいといったのだ。」 渦中の司馬懿「何か気に触りましたか?」 情熱的「渦中殿・・・しばらく見ない間、随分涼王の肩を持つように成りまたな。 ちゃんと涼王の監視はしておられるのか・・・?」 渦中の司馬懿「はぁ・・・・そうでしょうか?」 情熱的「渦中殿は越帝と涼王はどちらが優れていると思われますかな?」 渦中の司馬懿「はぁ・・・・そうですな・・・」 情熱的「何故即答できぬ!渦中殿は越帝に対する忠誠心が薄らいできているようだな。 このことは帝に報告しておく、渦中殿はこのまま涼王に仕えなされ!」 そう言うと、情熱的はさっさと涼王宮を後にした。 第五十三話・涼軍、長安へ向かう 涼王「それにしても豪族のほうから資金を出してくれるとは思わなかったのう。」 ザビエル「それだけ韓遂ら粗暴な軍閥の統治が復活を恐れているのです。さて、 長安に向かいますか。」 こうして、涼軍は5万の軍勢と共に、長安へ向かった。 その頃、陳留には斉王春華らの大軍が集結。いよいよ虎牢関にこもる馬超ら との戦いに挑もうとしていた。 第五十四話・斉王、張春華・その1 張春華は并州の生まれで、漢人ではないと言われる。その生涯は任侠的な 伝説に包まれている。すでに10歳にして人を斬り、17歳のときには荒くら者たちの 巣窟である梁山泊の女首領として君臨していたと言う。 正史にその名が現れるのは、ひょーりみが霊帝に監禁されたとに、その救出に現れた ときからであるが、すでにその頃には全国的にかなりの知名度得ていたことが判明 している。 痔痴2年1月27日、張春華は陳留の地に大軍勢を集結させていた。 当時、その様子を見ていた、向こうの888という名の地元の長者は 当時の日記にこう記している。 「まるでアイドルの集会のようだった。斉王が一言、言葉を発するたびに 将兵から大歓声が上がり、興奮の坩堝であった。斉王は見事に諸王を統率 し遼東王、代王、晋王、趙王も、自らの地位が王位であることを忘れ、 当然のように斉王に従った。彼等の主人は斉王であり、越帝など眼中に無いように 見えた。」 陳留、斉、遼東、代、晋、趙連合軍集結地点 「マジ、馬鹿だろm9(*^ヮ^)キャハハ 」 「うおおおお!春華さま~!春華さま~!春華さま~!」 越帝の使いとして様子を見に来ていた迅義は唖然とした。 迅義「なんだこれは…まるで斉王が盟主のようではないか…。」 迅義の部下「はっ、斉王はすでに連合諸侯軍の絶大な支持を得ております。 全軍が斉王の手足のごとく動く出ありましょう。」 迅義「代王劉壁、趙王勇魚はともかく、プライドが高く、野心家の遼東王、 晋王まで斉王の言いなりとは信じられんな。越帝陛下ですら手なずけるのに 苦労なされている虎狼だぞ。」 迅義の部下「はっ、それが遼東王呂布は斉王にすっかり見せられてしまって いるようで…。」 迅義「呂布が!?あんな筋肉女を好むとはな。どうかしているぞ。」 迅義の部下「晋王はただ、斉王の力を恐れてしたがっているに過ぎないようです」 迅義「そうか、だかそれだけではあるまい。これが任侠的な人徳と言うものなの だろう。虎狼たちを猫のように手なずけてしまっている。もし斉王に野心が芽生えれば、 我が越帝陛下といえども、窮地に追い込まれるに違いない。」 第五十五話・斉王、張春華・その2 「は~い!進軍!進軍~!キャハハハハハ(*^ヮ^*)」 春華率いる5ヶ国連合の大軍勢は一路、虎牢関へ向かった。 馬休「兄上!斉王です!斉王が来ました!!!」 馬超「ついに来たか!!」 虎牢関からは斉王率いる見渡す限りの大軍勢が整然と並んでいた。5ヶ国の 旗がはためき、戦意はこれ以上はないというほど高まっているのが離れてい ても感じられた。すると… 「ばちょ~くんいる?一騎討ちしない~?」 馬超「はぁ!?」 虎牢関の将兵は呆気にとられた。連合軍の総大将が黒王に乗ってのこのこと 現れたのである。 馬休「兄上、斉王に一斉射撃を加えれば討ち取れますが、いかがなさいますか?」 馬超「わざわざ了解を求めるとは…馬休、撃つ気は無いのだろう。ここで勝負に 応じねば、武士の恥であろう行って来る。」 馬超は虎牢関から単騎で出て、春華と対面した。春華は鎧を着ているが馬超には その無駄なく極限にまで鍛えられた武人の直感で肉体が感じられた。 春華「それじゃ~いくよ」 馬超「応!」 勝負は一瞬にしてついた。馬超の槍はあっという間に吹き飛ばされ、次の 瞬間には馬から叩き落されていた。 馬超「なんという強さだ。まさに竜の化身。」 春華「降伏する??」 馬超「相手が人間であれば、敗北を恥辱とし死を選びますが、神仏であれば別です。 決して勝てる相手ではないと悟りました。」 春華「あ~よかった。虎牢関の守兵さんも降ってね~」 こうして春華は一滴の血も流さず、天下の要害、虎牢関を攻略したのだった。 このときばかりは趙王、晋王、遼東王、代王までもが春華を人ではないと感じたと言う。 第五十六話・韓遂の破滅・その1 その頃、長安の韓遂は涼王の軍勢を迎え撃つため。3万の兵で出陣した。 ところが 侯選「韓遂さま大変です!兵が脱走しております」 韓遂「なんだと!?我が精鋭がどうして?」 侯選「ひょーりみの間者が潜入しこんな物をばら撒いているようです」 韓遂「なんだ?父母の手紙??暴君韓遂から解放され、涼王の元で楽しく 暮らしています…って典型的なプロパガンダだろうが!大体、兵どもは字が 読めないはずだろうが。」 侯選「はあ、しかし村の長のサインや大体の内容くらいはわかるようで、 十分に効果はあるようです」 韓遂「おのれ~!こんな古典的な策をつかいをおって!!!反逆者はどこだ!? 俺自ら尋問してしょっ引いてくれる!!」 侯選「……」 第五十七話・韓遂の破滅・その2 小銀玉「侯選うまくいっているようだな。」 侯選「ははっ。韓遂めは父母の手紙の話を本気にして、兵士たちを疑っておりまする。 また無実の将が拷問を加えられ、自白を迫られておりまする。」 小銀玉「まったく、韓遂ほどの男がこんな手にかかるとは…それにしてもうちの軍師も 本当にやることが汚いな」 侯選「このままいけば、いずれ本当に脱走兵が現れるでしょうな」 その後もザビエルは韓遂方の将兵を買収し、あらゆる謀略をかけ続けた。 やがて、韓遂軍は自壊してゆき最期に韓遂は味方の兵に殺されて果てた。 涼軍もまた、悠々と長安に入場したのである。 第五十八話・ぷらっと救出 越軍の大軍が南陽を包囲してから、2ヶ月が経とうとしていた。 こおろぎ「陛下、ぷらっと将軍救出計画ですが…むむっ!なんと酒臭い。」 越帝のテントに入ると、学徒は女たちや宦官の中山幸盛らと戯れていた。 こおろぎは顔を真っ赤にしてどなった。 こおろぎ「中山幸盛!また貴様か!陛下に駄目人間にするつもりか!斬り捨てるぞ!」 学徒「ボケッ!うるさいぞ、こおろぎ。たかが宦官、見逃してやれ。とりあえず 今日は下がってよいぞ。中山幸盛。」 中山幸盛「御意(こおろぎめ、いつか覚えていろ…)」 こおろぎ「そんなことより、例の計画ですが…」 学徒「ああ、くノ一を使う計画だったな。うまくいくのか?」 こおろぎ「ぷらっと将軍は我が軍の宝。必ず成功させまする」 さて、南陽に軟禁されているぷらっとであったが、その真夜中。 「もしもし、ぷらっと将軍ですね。」と女の声が聞こえた。 「私、貂蝉と申します。将軍の救出に参りました。」 ぷらっと「なんだと?お前が??ところでそのシャカシャカはなんだ?」 貂蝉「シャカシャカ??ああこれですか。これはマラカスではございません」 そのとき、「貂蝉さま準備はできました。」と忍びが現れた。 貂蝉「城内の兵糧などはすべて焼き払います。洛陽、長安を失い反乱軍は、 士気が落ちております。警備も随分散漫となっておりますので安心して ついて来てください。」 ぷらっと「そうか…」 第五十九話・ぷらっと、旧友を逃がす 孤立し、城内の兵糧を失った南陽軍はみるみる衰えていった。 朝倉渦中「そろそろじゃ。そろそろ金宰陽は根を上げ、場外へ脱出するはずじゃ。 主な脱出経路は二つある、宇喜多将軍、ぷらっと将軍はそれぞれの出口を固め かならずや金を討ち取るのじゃ!」 「ははっ!」 それから数日後、ついに金は少数の兵を連れて場外への脱出をはかった。その途上、 ぷらっとの大軍とばったり遭遇した。 金宰陽「さすがだな。ぷらっと手抜かりはないな。俺の悪運もここまでか。」 するとぷらっとは兵に合図を送った。すると、ぷらっとの軍は二手に別れ、 道を明けたのである。 金「まさか、逃がしてくれるのか?…恩に着るぞぷらっと…」 こうして韓王金宰陽は少数の兵士たちと共に闇夜に消え去ったのである。 第六十話・軍法会議 翌日、ぷらっとは軍法会議にかけられた。 朝倉渦中「ぷらっと将軍。今回の大乱の首謀者である金宰陽を故意に逃がしたこと は最大級の罪である。理解しておるな」 ぷらっと「はい。」 朝倉渦中「ならば軍法により死罪を申し渡す。」 学徒「待て!ぷらっとは俺が一介の会稽の住人に過ぎなかった頃から仕えている。 それを処断などできるわけがなかろう。」 朝倉渦中「法は法です。身内だからと言って例外を認めれば、法の意味がありません」 学徒「それならば、何が何でもぷらっとを処断すると言うのだな。」 朝倉渦中「御意。」 学徒「おぬし何様のつもりだ。」 「なな!?」学徒の思いがけない台詞に場内はざわめいた。 学徒「朝倉渦中よ。そちは余に仕えて2年足らずであろう。それにひきかえ、 ぷらっとは10年以上も学徒家に仕えているのだぞ!そちには、学徒家の人情 はわからぬまい」 朝倉渦中「……陛下がそうおっしゃるのであれば、したがいまする。」 こうして、ぷらっとは一命を取り留めたのである。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/9000.html
前ページ次ページ使い魔は妖魔か或いは人間か ──ルイズの魔法による爆発で壊れた教会。 もうまもなくアルビオンへの一斉攻撃が始まる頃だと、ワルドは目算する。 対峙するワルドとアセルス。 構えるワルドに対して、アセルスは悠然と歩み寄る。 妖魔相手に真っ向勝負では勝ち目はない。 だからこそワルドは、相手が仕掛けてくる前に先手を打つ。 「妖魔の癖に、人間の主人が気にかかるのかい?」 ワルドが、ルイズの容態へ目を向けるよう誘導する。 彼女の痛ましい姿を見て、一瞬気を取られたアセルスの背後から影が襲いかかる。 『相棒……!』 デルフが警告するより早くアセルスは動いていた。 アセルスは敵を一瞥する事すらなく、2本の剣を引き抜く。 影──即ち偏在は斬られたとすら自覚できぬまま倒された。 偏在がいとも容易く打ち破られたワルドだが、内心ほくそ笑んでいた。 ──獲物が罠にかかったと。 アセルスが二刀流を使うのは決闘で承知していた。 本来メイジならば、接近戦を選ぶ必要はない。 接近させたのは、遍在のマントで視界を遮る為。 撹乱した今、潜ませた遍在との挟撃が可能になる。 「ライトニング・クラウド!」 風の魔法でも最大級の威力を誇る雷の呪文。 二重の攻撃に対処する手段はないと言うのがワルドの打算。 『相棒!俺をかざすんだ!!』 デルフの叫びにアセルスは剣で雷を防ぐように構える。 雷はデルフに吸い込まれるように消え去ってしまった。 「何!?」 ワルドは確かに見た。 雷が当たる前に剣に吸い込まれてしまったのを。 デルフの錆びた刀身がひび割れ、中から新品同様の剣が姿を表す。 『思い出したぜ、デルフリンガー様の本当の姿をよ!』 魔法を吸収できる剣。 アセルスはその特性を理解しつつあった。 一方窮地に立たされたのはワルド。 メイジにとって、魔法が奪われるというのは最大の切り札を失うに等しい。 しかし、人間が他の動物より優れているのは知力。 経験を重ねた技術や計略はより精錬され、より狡猾になる。 「保険をかけて置いて良かった」 二重三重に張り巡らされた罠。 歪な笑みを浮かべ、アセルスもデルフも予期せぬ方向から襲撃を試みる。 気配を感じたアセルスが天井に目を向けると、そこにもう一人のワルドの姿があった。 「カッター・トルネード!」 「もらったぞ、ガンダールヴ!」 天井から降りた遍在と地にいるワルドの魔法による多重攻撃。 だが、遍在の突き出したレイピアも風の刃も空しく宙を斬った。 「なんだと!?」 ワルドは何が起きたのか理解できぬまま、うろたえる。 遍在も同様で周囲を見回す相手に、アセルスは上空から剣を振り下ろした。 自らの遍在が縦横に引き裂かれる。 剣どころか相手の動きにすら着いていけない事実をワルドの遍在は最期に理解した。 人間の優位が知略なら、妖魔が持つのは純然な力。 身体能力、耐久力、魔力、そして妖力。 人間では決して及ばぬ力を知覚して振るう。 アセルスは半妖である。 妖魔の力を使うのに時間がかかるのが彼女の難点。 ワルドがマントの小細工を弄した隙に、アセルスは妖魔化を終える。 普段は抑えている妖魔の力を解放、反撃に転じた。 「遍在、だと……?」 傷一つ負わせれなかった以上にワルドが衝撃を受ける。 アセルスが最後の遍在を倒した時、彼女の姿が4人に分かれていた。 無論、アセルスの放った技は遍在などではなく剣技。 高速で四方から、十字架状に切り裂くロザリオインペール。 そんな技術を知らないワルドには魔法を使ったようにしか見えないだろう。 アセルスの力を上回る手段や策略がワルドには存在しない。 魔法は吸収され、更に自らが切り札とした遍在に似た技を使われる。 (逃げなければ……だがどうやって……) 冷や汗を流し、追い詰められる。 勝ち目がないのは、ワルド自身が誰よりもよく悟っていた。 追い詰められた彼が思いついたのは、見栄も体裁も無い悪魔の所業。 「ウィンド・ブレイク!」 残った魔力を搾り出すように、魔法を放つ。 アセルスは気付く。 ワルドの視線が自分を向いていないと。 彼が放ったのは風で吹き飛ばすだけの呪文に過ぎない。 ──ただし狙ったのはアセルスにではなく、倒れていたルイズだった。 意識の無いルイズの身体が上空に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。 アセルスは落下先に駆け寄ると、落ちてきたルイズの身体を片腕で受け止めた。 「イル・フル・デラ・ソル・ウィンデ!」 ワルドは爆発した教会の裂け目から、フライの詠唱を唱えて飛翔する。 「ガンダールヴ!この借りは必ず返すぞ!」 捨て台詞と共に、ワルドは空高くへと逃げ延びた。 『あの野郎、嬢ちゃんを囮に使いやがった!』 非道な行為にデルフが怒鳴る。 しかし、アセルスはワルドを追いかけようともしない。 『おい、相……棒……』 追いかけない理由はデルフにもすぐに察する。 アセルスはルイズの脈を取るように、首に手を当てている。 「ルイズ……」 名前を呼びかけるも返事は無い、。 脈はあるものの、反応がどんどん小さくなっていく。 「ルイズ……ルイズ……!」 必死に回復の術を試みるが、傷が深く焼け石に水だった。 アセルスは回復の術は白薔薇に依存していた。 自身の傷を治す事は出来ても、他者を癒す術が苦手なのだ。 「……アセルス……?」 僅かながら効果があったのか、ルイズの瞼が開く。 彼女には何故ここにアセルスがいるのか分からない。 「ルイズ!」 自分の名前を呼ぶアセルスの姿は幻覚か。 夢や幻でも構わないと、ルイズは自分が伝えたかった言葉を口にする。 「……ごめんなさ……い……」 ルイズが喋ったのはたったの一言。 それだけで再び意識を失って、身体から力が抜け落ちる。 「ルイ……ズ……!」 何故謝るんだ、謝らなければいけないのは私のほうなのに! 君を守ると言いながら、守れなかった。 自分の運命に巻き込みたくないと言いながら、また逃げようとしていた。 その結果、ルイズは傷つき倒れた。 可憐な顔は、煤に汚れてしまっていた。 白雪のような肌は擦り傷や血に塗れてしまっている。 腕は切り落とされ、傷を塞ごうとしても血が止まらない。 「うぁぁ………」 血を流す程強く、唇を噛み締める。 ルイズの身体を強く抱きしめるも、彼女は何の反応も示さない。 「ああああああああああああ──────っ!!!!」 アセルスの慟哭。 叫ばなければ、自分の心が壊れてしまいそうだった。 『相棒、よせ!それ以上感情を昂ぶらせたら壊れちまうぞ!!』 ワルドとの交戦から、デルフは握られたままだ。 だから察した使い手のガンダールヴの昂った感情。 ガンダールヴの力は使い手の感情により真価を発揮する。 しかし、今は力をぶつけるべき相手がいない。 結果として、溜まりに溜まった力は発散されず、アセルスの身体を蝕む。 常人であれば気が狂いそうな程の力の逆流。 アセルスに流れる妖魔の血がガンダールヴの力を取り込もうとする。 人間の激情。 ガンダールヴのルーン。 妖魔の支配者、オルロワージュの血。 本来ならば重なるはずのない力は、彼女の身体にも影響を及ぼした。 アセルスが妖魔化する時、頭髪は青色が混じり襟足が僅かに伸びる特徴がある。 だが、今までの変化とは比べ物にならないほど、アセルスの髪が長く伸びていた。 彼女が嫌った妖魔の君オルロワージュのように長く…… ──教会を抜け出したワルドは戦線をフライで離れている最中だった。 ルイズを手に入れる目的と、手紙を受け取る任務は失敗した。 最重要なのはウェールズの暗殺だった為に、この二つの失態は問題ではないと考える。 妖魔の情報を教えておけば、弁明には十分だろうと胸中で打算する。 ワルドは自分が逃げ切った気でいた。 教会は点景となる程に遠ざかっていた。 己の邪心が、悍ましい化物を生み出してしまったと気付くはずもない。 この日、アルビオンに存在する7万以上の人間。 たった一人の行動の代償として、貴族派も王族派も全て等しく姿を消す事となる。 ──時はアセルスとワルドの交戦から半日後のアルビオンに進む。 空の大陸に近づく一匹の風竜。 背に3人の人影を乗せており、闇夜に生じて岸に降り立つ。 「さてと…」 最初に降り立った少女。 キュルケが赤い長髪をかきあげたながら、呟く。 「向かうならニューカッスルでしょうけど、正面から行けるかしら?」 「無理」 キュルケの提案に、タバサは正論を返す。 ルイズの身を案じて、3人で追ってきていた。 昼に近づけば流石に気づかれるだろうと、夜まで待つ事となったが。 もう一人の人影、侍女のエルザは先ほどから辺りを世話しなく見回していた。 エルザは吸血鬼だ。 妖魔としての真価は夜に発揮される。 人間より遙かに優れた五感が、周囲の異変を察知していた。 「どうしたのよ?」 「人影がまるで見あたらないの」 キュルケの問いかけにエルザが答えた。 戦場近くだと言うのに、静寂に包まれている。 原因は分からないまま、城付近へ近づく。 途中で貴族派のキャンプ地と思わしき拠点が見つけた。 仮設の建物のようだが、灯りは点っておらず人の気配は感じられない。 「ちょっと、タバサ?」 キュルケが寄り道を咎めようとするが、止まらない。 タバサは手がかりを求めて、警戒しながら建物に近づく。 「妙」 「撤退したんじゃないの?」 キュルケの推察をタバサは首を振って否定する。 「貴族派は圧倒的優位、撤退する理由がない」 扉を調べ、罠の有無を確認する。 「まるで幽霊船のお話みたいね」 キュルケとしては他意もない独り言だったのだが、タバサは思わず杖を落とす。 「……どんなお話?」 タバサが苦手とする数少ないものが幽霊だ。 本当は聞きたくないのだが状況が似ている以上、気にならないと言えば嘘になる。 「漂流していた船があってね。その船を別の船乗りが見つけたの。 船乗りたちが乗り込むと、奇妙な事に船には誰も乗っていなかった」 キュルケの顔を照らす松明の火が風で揺らめく。 「でも、誰かがいた痕跡は残っている。 スープのカップもまだ温かく、食事もそのまま」 月明かりすらない暗闇は、タバサの想像を悪い方向にかき立てる。 「それで……?」 話の続きを促すタバサ。 「船乗り達が港に戻ると、彼らは船の出来事を貴族に話した。 その貴族が調査隊を向かわせたけど、船はどこにも見つからなかった。 自分達が騙されたんじゃないかと、貴族達は船乗りを呼び出そうとしたの。 でも、それは不可能だった」 キュルケが少し間を置く。 「……何故?」 尋ねるタバサの声が僅かに掠れていたのだが、キュルケは気付かないで先に進める。 「船乗りは全員、原因不明の病で亡くなっていたの。 船乗りだけじゃないわ。貴族や調査隊達も後を追うように病に倒れて……」 キュルケが首を振る。 「それ以来、誰も乗っていない船は幽霊船だと。 幽霊船に近づいたら、亡霊に憑き殺されてしまうって船乗りの間で言い伝えられているそうよ」 キュルケの話を聞き終えてタバサが、扉にアンロックをかける。 内心では少し、いや大分怯えながらタバサが扉を開けた。 表面は冷静を装っているが、先頭に立つんじゃなかったと後悔している。 建物に入ると、タバサは卒倒しそうになる。 幽霊船の話と建物の中が瓜二つだったからだ。 異なるのは些か時間が経っていると予想できる冷めた飲み物程度。 交戦した痕跡等はどこにも見あたらない。 食料や火薬入りの樽など、戦闘の準備が行われていたのは確かだろう。 更に部屋の状況を調べようとすると奥から物音が響いた。 「大丈夫ですか?」 思わずよろけたタバサをエルザが支える。 「誰かいるの!?」 キュルケが大声で問いかけるも、返事がないまま静寂が再び場を支配する。 「調べてみましょう」 キュルケがテーブルに置かれていた携行用のランプを灯して先導する。 置いて行かれるまいと、タバサも足早についていった。 「きゃ!?」 キュルケが通路を曲がった途端、姿勢を崩す。 エルザは暗闇の中、嗅ぎ慣れていた匂いに気づいた。 「何よ……」 転んだ拍子に落とした松明を向けると、絶句する。 彼女が躓いたのは首に剣が突き刺さった兵士と思わしき遺体だった。 「せ、戦死者?」 キュルケの声がうわずる。 吸血鬼であるが故、エルザは死体にも慣れている。 だからこそ、倒れていた死体の違和感にいち早く気がついた。 「……でも、血は?」 血痕は首にこびり付いているが、地面には僅かな量しかない。 過去の『食事』経験から死体は半日程度が経過していると判断。 どこからか死体を運んできた可能性も考えるが、地面に引きずった跡もない。 首を傾げる一同に、再び奥側から物音が響く。 先に進むと、物音がしたと思われる扉が見つかった。 三人は顔を見合わせて同意すると、警戒しながら扉を強引に蹴り開ける。 いたのは部屋の片隅でうずくまる傭兵らしき男。 憔悴しきった表情で灯り一つつけずに震えていた。 「ねえ貴方、ここで何があったの?」 「うぁ……」 キュルケの質問にも男は、何も話そうとしない。 というより、こちらの認識にすらできていないように思われる。 「おそらく無駄」 「どうして?」 「精神が壊れている」 タバサの口調にほんの僅かな苛立ちが混ざる。 傭兵の様子は彼女にとっての心傷にも重なるものだった。 そんな二人を後目に、エルザが無警戒に傭兵に近寄る。 キュルケが何をするのかと聞くより早く、エルザは傭兵の首に牙を突き立てた。 「何を……!?」 キュルケの制止にも構わず、血を吸い続ける。 タバサは気づいた。 吸血鬼の能力、血を奪う事で屍人鬼を生み出す。 エルザは日頃の吸血行為を禁じている。 それは主であるアセルスに命じられているからに過ぎない。 「何があったか話せ」 主の為ならば、いかなる手段とて彼女は使う。 他者の命を奪うのも、自らの命を差し出す事も厭わない。 「ぁ……ぁ……わからない、なにが起きたのか」 屍人鬼となった傭兵がゆっくりと口を開く。 「ただ……次々傭兵が消えていった。 報告に向かったら、いきなり見ず知らずの暗い部屋にいた……」 説明を受けても、何が起きていたのか把握できない。 「暗い部屋って?」 「わからない……ただ階段を下りると出口らしき灯りのある広場を見つけた……」 男の焦点が遙か彼方を見上げる。 「その前に座り込んだ別の傭兵達がいた…… 何で出ないのかと聞くと出口への階段が昇れないとか、おかしな事を言いやがった。 すると、なにを血迷ったのか……一人がいきなり剣を自分の首に突き刺した……」 説明を受けて、三人の脳裏に浮かんだのは先ほどの死体。 「死んだはずの男が地面に倒れると姿を消したんだ…… 訳が分からなくなり、俺は逃げるように出口に向かって…………」 弦の切れた楽器のように、男の説明が唐突に止まる。 「何?続きを……」 「ぁ……ぁぁぁ……あああああああああ!!!!」 エルザが説明を促そうとすると、男は突然キュルケの持っていた松明を奪い取って走り出す。 「何を……止まれ!」 エルザが命じるも、男はそのまま別の部屋へと走り去る。 その部屋が何の役割を持つ物なのか、扉を開けた時に放たれた匂いでタバサが察する。 硫黄──つまり火薬庫。 「駄目!」 タバサが珍しく大きな声で警告するも遅かった。 風の障壁を張ると同時に爆発と熱風が巻き起こる。 軽減はできても完全に打ち消すことは困難で、三人は木製の壁を突き抜けて吹き飛ばされた。 地面を転げながらも、何とかキュルケが体を起こす。 木製の建物は跡形もなく消え去り、炎と煙だけが残されていた。 「何が起きてるのよ……」 痛みを抑えながら立ち上がったキュルケが呟く。 彼女の疑問に答えることができる者は誰もいなかった…… ──舞台はアセルスが教会にいた頃に遡る。 既に交戦が始まったのか、外で砲撃音が聞こえていた。 教会へと姿を見せたのは城の兵士達。 爆発に対して、異変を察知した兵士が武器を手にようやく駆けつけた。 「皇太子様、無事ですか!?」 「殺されているぞ!」 「そこの貴様、貴様が殺したのか!?」 信じられない光景を目撃した兵士達が口々に騒ぐ。 アセルスにとって彼らの声は雑音でしかなく、耳に入っていなかった。 兵の一人がアセルスの口元から流れる紫の血に気付く。 「妖魔め!よくも……!」 兵士が口にした言葉はアセルスの脳裏に響く。 彼女の中に渦巻いていた力を、おぞましい感情に形を変えて。 ──そうだ、私は妖魔の君だ。 歯向かう者、全てに不幸を。支配を。屈服を。 恐怖に怯えさせ、何者であろうと足元にひれ伏させるべき存在。 悪意を与える場合、どのように行われるか? 自身が苦痛に感じるであろう処罰を味わわせようとする。 アセルスも同様だった。 オルロワージュを超えようと確執したアセルスがただ一つだけ使わなかった手段。 否、使えなかったのだ。 自分の大切な者を奪ったオルロワージュの悪意の象徴なのだから。 アセルスは自らが受けた悪意をばら撒こうとする。 目の前の少女、ルイズを傷つけた報いを全ての者に与える為。 「私に逆らう愚か者達よ、『闇の迷宮』で永遠に彷徨い続けるがいい!」 アセルスが告げた、全ての断罪。 これこそがアルビオンを襲った異変の元凶だった。 「何だ!?何が起きたのだ!?」 突然目の前に現れた壁によって、ワルドは身体を叩きつけられた。 「ここは……どこだ?」 理解の及ばない出来事に周囲を警戒する。 周囲は底無しのように暗く、一筋の光も差し込んでいない。 「チッ……」 止むを得ず、ライトの魔法で付近を照らす。 調べて分かったのは、壁に覆われた部屋だという事。 長い階段を下るとようやく広場にたどり着き、出口らしき明かりが見えた。 「こんな所にお客さんとは珍しい」 背後から聞こえた声に杖を構えて、警戒する。 「何だ?貴様。ここがどこか知っているのか?」 「ここは闇の迷宮、抜け出すためには誰かを置き去りにしなければ出れないぞ」 赤いカブのような化け物が口を開く。 「ならばお前が犠牲になれ」 フライを唱え、出口に向かうワルドだったが見えない壁にぶつかる。 「ぐぉ!?」 鼻を強く打ちつけて思わずフライの制御を崩す。 「貴様、よくも出鱈目を!」 ワルドが振り返り、赤カブに怒りをぶつける。 「怒るな。迷宮の掟が変わったんだ」 「掟だと?」 「犠牲が必要なのは前の妖魔の君が作った掟だ。 今の妖魔の君は闇の迷宮に更に歪んだ掟を与えた」 赤カブが言う妖魔の君。 ワルドの心当たりは一つしかない。 「妖魔の君というのは、アセルスとか言う女か?」 「知ってるなら話は早い。 何があったか知らんが、随分怒っている」 本題を切り出そうとしない赤カブに苛立ちを覚えながら、ワルドが叫ぶ。 「そんな事はどうでもいい!ここから出る方法を教えろ!!」 「簡単さ、飛ばずに階段を上がって出口に向かえばいい」 余りに容易な脱出手段。 「ならば貴様は何故出ない?」 「一段昇ってみれば分かる」 疑問に対して答えない相手に、ワルドはやむを得ず試みる。 恐る恐る階段に踏むと、ゆっくりと一段上がる。 ワルドの脳裏に浮かんだのは、母の姿。 自らが故郷を裏切ってでも聖地に向かおうと志した理由。 母の顔が溶けて、のっぺらぼうのように消えてなくなる。 「うおっ!?」 目の前に浮かんだ光景に、思わず仰け反る。 その反動で階段から足を踏み外してしまった。 すると、母の顔は元に戻っていた。 「何だこれは!?」 ただ訳が分からず混乱するワルドに、赤カブが声をかける。 「お前さんは脱出の権利があるらしい」 「どういう意味か説明しろ! 貴様さっき歪んだ掟が追加されたとか言っていたな?」 飄々とした妖魔の口調に、ワルドは詰め寄る。 「そのままの意味さ、新しい妖魔の君が望んだ掟。 『出る為には、その者の最も大切な存在が犠牲』となる」 「大切な存在だと……」 ワルドが尋ね返すと、赤カブは頷いた。 「その大切な存在とやらがない場合は!?」 「簡単さ。俺のように、この迷宮から出られない」 あっけらかんとした絶望の答え。 そして、母親が顔が消えていく感覚にワルドは察しつつあった。 「……大切な存在が既に亡くなっていた場合はどうなる?」 「さぁ?思い出でも消えるんじゃないか?」 軽口を叩く妖魔に、ワルドの表情は青ざめていた。 「ふ……ふざけるな!他に脱出する手段はないのか!?」 「ないね、お前さんは暴君を怒らせてしまったんだ」 暴れ回るように剣を構えて脅迫するが、赤カブは否定する。 「俺は聖地に行かねばならんのだ!母を……母を取り戻すために!!」 ワルドの望みは母の為、聖地へ向かう事。 しかし闇の迷宮から出るためには、母の存在を奪われる。 相反する脱出条件の恐ろしさを、ワルドはようやく理解する。 「だったら、そのまま階段を昇ればいいさ。 最もその頃には、お前さん母親の事は覚えてないだろうけど……」 「黙れぇーーーーー!!!!」 軽口を辞めない赤カブにワルドが怒りの矛先を向ける。 放たれたエア・カッターであっさりと輪切りにされ、地面に崩れ落ちた。 「忘れるなどあり得るものか…… 祖国も婚約者も全て裏切って、俺は母を取り戻す為に聖地へ向かうのだ……忘れるなど……」 呪詛のような独り言を延々と繰り返すワルド。 一段昇るだけですら、蛞蝓のように歩みが遅い。 必死にワルドは登り続けた。 たった1メイルを進むのに、途方もない時間をかけて。 どれほど険しい山道を昇っても、これほど消耗しないだろうと思える汗が額から流れ落ちる。 文字通り心が削られる痛み。 それでも後一歩で、光が届く所までたどり着いていた。 母の記憶が掠れつつあるが、必死に思い出そうとする。 優しい笑み、暖かな手。 その手に触れるようにワルドは手を伸ばす。 「この温もりがあれば俺は何も……」 求めたはずの手は直前で消えた。 同時に、ワルドの視界が暗闇に包まれる。 「母さん……?」 わずかに呟くが、ワルドには何も思い出せない。 母と交わした会話、髪や瞳の色も、声も、どんな人物だったかも。 自分が、何故こんなところにいるのかさえも今のワルドには分からない。 記憶とは、人格を成形する全ての根元だ。 見た絵画に感動して、自身も芸術家を目指した者もいる。 ある殺人鬼は母親に似ていたと言う理由で女性を殺した。 彼に母親の記憶が一切無ければ、凶行に駆られなかっただろう。 そんな記憶を奪われた人間はどうなるか? 答えを知るにはアルビオン陥落から半年後に時を進める── 「母さん、今日はいい天気だね」 海岸沿いを車椅子を押しながら歩く一人の青年。 「潮風が心地よい?それは良かった」 ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドと呼ばれた貴族。 今の彼はかつての風貌など何一つない面影になっていた。 痩せこけた頬。 浮浪者のような薄汚れた服装。 整えられていた髭も無精髭のようにボサボサになっており、 彼が牽引している車椅子も質素な上に部品にガタが来ている。 油の切れた車輪が軋む音も気にせず、ワルドは海岸を歩く。 「親子でじゃなくて恋人と歩きなさいって? いやだなぁ、母さん。僕にはまだそんな人はいないよ」 早朝の海岸は人影もまばらで、散歩を続ける。 「婚約者って……ああ、ルイズかい?彼女はまだ子供だよ」 ワルドの足下はおぼつかない。 しばらく歩くと砂浜に足が取られて、転倒する。 反動で車椅子も倒してしまう。 最も、搭乗者が怪我する事はない。 何故なら──車椅子には誰も乗っていないのだから。 「ごめんよ母さん、すぐ立つから……」 いくら腕に力を込めても立ち上がれる気配すらない。 「待ってよ、母さん。置いていかないでくれ……」 空の車椅子に手を伸ばす。 しかし、その手は何も掴めないまま力無く事切れた。 ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドはこの日を境に歴史から姿を消した。 彼に与えられた評価は祖国の裏切り者、そして発狂した哀れな男。 彼が祖国を裏切った調査と共に、ただちに探索が行われた。 国家への謀反を企んだ罪人として裁くために。 アルビオン近くの国境で発見され捕縛されるも、既に彼は変わり果てていた。 逮捕した憲兵も本当に同一人物なのか確証が持てず、他のグリフォン隊の隊員が確認に向かう。 確認に訪れた隊員すら、彼が隊長と断定できなかった。 焦点の定まらぬ目に半開きの口。 何を呼びかけても一切反応せず、ただ虚空に向かって呻くのみ。 その姿は違法秘薬の中毒者のようであった。 身につけている装飾品や体格から本人と判断されるが、トリスティン王国は彼を裁判にかける事を断念。 代わりに、アルビオンの非道な犠牲者として彼をプロパカンダに利用した。 グリフォン隊から、裏切った者が出たというのはトリスティンの恥を晒す事になる。 恥を差し引いても、他の売国を行う貴族への牽制となると判断したのだ。 つまりアルビオン側についた者の末路を見せしめにして、揺さぶりをかける。 絶大な効果とまではいかなくとも、アルビオン側の動揺が収まるまでの時間稼ぎとはなった。 その後の歴史の動乱を知るものは多くても、ワルドの顛末を気にかける者はいない。 レコン・キスタに寝返るも、禁制の薬物により廃人とされる。 逮捕後、統治能力なしとして貴族階級と領地、グリフォン隊隊長の座の剥奪。 半年後には海岸で倒れているところを漁師に発見されて、共同墓地に埋葬された。 たったそれだけの短い文章がワルドの人生だった。 混乱の坩堝に包まれたアルビオンを抜けたアセルスがたどり着いたのは、見ず知らずの森だった。 アルビオンに残されていたワルドのグリフォン。 妖魔の剣でこれを吸収し、崖から地面に飛び降りた。 着地寸前に羽根を羽ばたかせて、地面への衝撃を和らげる。 降りる際、タバサ達と入れ違いになってしまった事はお互い気づいていない。 「ルイズ……」 アセルスが呼びかけるも、やはり反応はない。 彼女を両腕で抱えながら、アセルスはとある方角に歩き続けた。 『相棒、行く宛があるのかい?』 「この先に妖魔の気配がある、話が通じるならルイズの治療を協力させる」 ふと浮かんだ疑問をデルフが口にする。 『通じなかったら?』 「消すわ」 当然のように即答する。 しばらく歩くと女の人影が木々の隙間から見えた。 後ろ姿である為、顔は見えないが長く伸びた耳が人ではないと確信させる。 『やべぇぞ、相棒。ありゃエルフだ』 距離はまだある為、小声でデルフが警告しておく。 「エルフ?」 『強力な先住魔法の使い手だ。 人間のメイジや相棒の従えてる吸血鬼より遙かに強い魔法を使うから注意を……』 デルフが説明を一通りするが、警戒した様子もない。 それどころかアセルスは武器すら取らず、エルフに近づこうとしている。 『お、おい相棒』 「エルフにも性別はあるの?」 『え?そりゃあったはずだが……あ』 デルフもアセルスが何をしようとしているのか察する。 吸血鬼のエルザと同様に、虜化妖力で従えるつもりなのだと。 『えげつねえなぁ……』 半ば呆れ気味に呟くが、事情がある。 ルイズの命にも関わる事なので、それ以上は口を噤んだ。 大分近くまで寄ったが、相手はまだ気づいていない。 気配を察するのが鈍いのか、アセルスから声をかけた。 「ねえ」 突然後ろから聞こえた声に、驚いたように相手は身体をすくめる。 「だ、誰?」 どうやら水浴びをしようとしていたらしい。 振り返ったエルフと思われる少女が脱ぎかけていた服で胸元を隠す。 金髪の長い髪に白く透明な素肌。 黄金比率のように整った顔立ち。 それより特徴的なのは、服と腕だけでは隠しきれない程大きな胸と先端の尖った耳だった。 「彼女を助けてほしい」 相手に敵意がない為に、アセルスは本題を切り出す。 「酷い怪我……!」 少女はアセルスに視線を奪われていたが、ルイズの様態を見て近寄る。 「怪我を治せる者はいない?」 「わ、私は無理ですけど一人治癒魔法が使える人が」 どもりながらも、正直に答える。 「私はアセルス、貴女は?」 「ティファニア……です」 少女がしどろもどろ答える。 アセルスはそんな彼女の様子に構わず、彼女の瞳を見つめた。 「お願い、ティファニア。その人のいる場所へ案内して」 口調こそ柔らかいが、その眼光は拒絶を許さない。 「は、はい」 人気のない村に住むティファニアにも事情はある。 しかし、怪我している相手を見過ごせるほど、薄情にはなれなかった。 服を急いで着直すと、ティファニアはアセルスを連れて森を案内する。 アセルスはその後ろをついていく。 ルイズを愛おしそうに抱きしめたまま。 「あの人間……じゃないですよね?」 案内する道中、ティファニアが遠慮がちに尋ねる。 「ええ、妖魔よ。どうしてそんな事聞くの?」 アセルスはなぜ気づいたのかと思ったが、すぐに氷解した。 ルイズを抱えたまま口元を手袋で拭う。 白い手袋に紫色の血がこびりつく。 「ごめんなさい!知っている人に雰囲気が似てたものでつい」 謝るティファニアだったが、アセルスは気にしていない。 むしろ、雰囲気が似ているという相手……妖魔が気になった。 気配を探ってみると、確かにティファニアからは妖魔の感覚はない。 アセルスが感じ取った妖魔の気配は別人という事になる。 進行先に気配を感じている為、それが彼女の言う似た雰囲気の者だろう。 「着きました、ちょっと待っててくださいね」 小屋に着くと、ティファニアは急いで連れてこようとする。 扉の中に入っていく彼女を見ながら、アセルスはルイズの身体を木の幹にゆっくりと降ろす。 改めて彼女の傷跡を見る。 切り落とされた腕は治せない可能性もある。 ここに来る間も治癒の術は使い続けたが、アセルスの術では繋ぎ止めるまで至らない。 「……ごめん、ルイズ」 アセルスが術でルイズの傷を治そうとする。 些細な治療かもしれないが、それでも唱え続けた。 腕だけならまだいい、このまま目を覚まさないかもしれない。 人間と妖魔のジレンマ、自分が抱いた苦悩。 そんなものを思い起こした為に、ルイズを守れずに傷つけた。 だからこそ、決心する。 何があっても彼女から離れるものかと。 そんなアセルスの決心を揺らがせる出来事が待ち構えているとも知らずに。 「こっちです!」 アセルスの背後から誰かを呼ぶ声が聞こえてきた。 ティファニアが治癒を行える者を連れてきたのだろう。 「アセルス様……?」 名前を呼ばれ、反射的に振り返る。 聞こえてきた声には聞き覚えがあった。 「白……薔薇…………」 闇の迷宮で別れたはずの白薔薇の姿。 何故彼女がここにいるのかアセルスには理解できなかった。 白薔薇も同様で、持ってきた治療用の道具も落として愕然としている。 久しぶりの再会にも、二人は時が凍り付いたように動けなかった…… 前ページ次ページ使い魔は妖魔か或いは人間か
https://w.atwiki.jp/minnasaba/pages/722.html
あ行 アーチャー(人名/サーヴァント) 209cm・111kg 涜神の王、ニムロド。 『旧約聖書』におけるノアの子孫であり、クシュの息子。 クシュの父はハム、その父はノアである。 万能の狩人。バベルの塔建設の監督者であり 勇敢な狩人、地上で最初の勇士であると同時に、アッシリア全土を支配した暴君、人類最初の君主とされる。 アラビア語ではナムルード。 アラブの伝説では、アブラハムが生まれた頃世界を支配した王とされ、 悪魔イブリースにそそのかされて魔術や偶像崇拝を行っていたとも。 また、父クシュからアダムとイヴがエデンから追放されていた時に身に着けていた魔法の皮を受け取る。 これを身に着けると動物はその姿を認めただけで倒れてしまい、彼と格闘して人間もいなくなったという。 強大な力を手に入れたニムロドはやがて邪心に取り憑かれ 世界を支配したニムロドは今度は神になろうと手下を使ってバビロニアに巨大な塔を建設し始めた。 これが所謂バベルの塔である。 人間を天国に侵入させ、略奪を行い、天を乗っ取ろうとし、順調に塔は高くなり、昇るのに一年もかかるが頂上は天に届いた。 人間は頂上から雲の中へ矢を射て、射られた天使は血を滴らせながら血に落ちる。 これに怒った神は、塔の建設を終わらせる為に当時の唯一の言語であったヘブライ語を多くの言語に分け 意思の疎通の出来なくなった人々はやがて仲たがいを始めた。 これにより、それ以上塔が高くなる事はなかったという。 性格は傲慢で凶暴、そして残酷。 人間としての能力は穴だらけだが、自己の強さは何者をも凌駕している。 苦悩が刻まれた貌と長き時を闘いに費やした強靭な執念と妄執が、対峙した者に嘔吐感に似た重圧を与える。 かつては自らを神にもなぞらえるほどに欲深く、天に侵攻しようとまで考えたが 当時は神への信仰深い人物でもあった(はなはだ身勝手で独善的な思想ではあったが) だが前述の神罰によって、彼は地位も名誉も、全てを失い辱められ絶望する。 当時の記述に詳細な記録は残されていないが、死後は世界との契約により 神という存在を憎み己の手による復讐の道を辿っていく。 宝具はリヴァイアサンの思念が宿った『天に逆巻く海淵の裘(レ・ディヴィヌス・ペラガス)』 と バベルの塔『惑乱の塔は天高く栄える(タワー・オブ・バベル)』 の2つを有する。 アヴェンジャー(人名/サーヴァント) 168cm(偽)・60kg(偽) 真名はアンチキリスト 〈キリストの敵〉の意で、ギリシア語ではAntichristos。 世界終末のキリストの再臨前に出現して教会を迫害したり世を惑わす偽預言者 見目麗しい容姿を持ってキリストの再臨前に世に現れ、 世に出て最初のうちは善行をなし正に英雄として振舞い、 偶像崇拝者を倒し、さまざまな奇跡を行い人々より多くの信頼を得る。 そして、彼が聖人として認知された後、「666」と呼ばれる計画を行使 世界を退廃と堕落の荒野へと変え、そして彼は人々にこう宣言する。 「我は我が与えし印を持たぬものを救わぬ」と。 そうして世界は闇に覆われ全ては彼の手中へと収まったかと思われた時、キリストは再臨し 世界は救済される。 性格・容姿・素性。 全ての詳細が不明の謎に包まれた人物。 その正体は、黙示録で予言された終末の前に現れる反英雄。 実在の人物ではなく、現象のような存在であり、時代・場所など条件によって 形が変わる朧(おぼろ)な架空の事象。 共通しているのは、予言に記された人物像と行動原理、そして敗北主義者であることである。 戦闘能力は英霊にあるまじき低さであるが、人心掌握と処世術は宝具によらぬものとしては最高クラス。 特筆すべきは不完全ではあるが、奇跡の一端を行使できる点だろう。 望むがままに他者の望みを叶える、文字通りの奇跡、仮初めの幻影であり、使用条件も厳しいが それを鑑みても、破格の異能であることは揺るがない。 なお、本物の奇跡を行使できた人物は歴史上10指に満たず、古来から魔法に最も近い異能の一つだといわれている。 第五次聖杯戦争において、ライダーの手引きによって三枝由紀香に召喚される。 彼女の影響を大きく受け、此度は年若い少女の姿で現界し、日常と非日常の狭間で揺れ動く。 ライダー同様に、終末の到来を実現させるため、冬木市市民の煽動、情報操作、武器調達など 短期間で市民の過半数を指揮下において、混沌と絶望の坩堝へと誘う。 だが、キャスターとの水面下でも協約や、由紀香への思慮など前述の行動原理に反する行いもしている。 イレギュラー 聖杯によって実現されようとされる終末において、ニムロデが語っていた 三つの障害となりうる存在。 一つはランサー・アキレスの存在である。 此度の聖杯戦争に呼ばれたサーヴァントは、いずれも聖杯によって意図的に呼ばれた 英霊たちであり、それぞれが意味と役割を持っている。 だが、アキレスは凛が用意した強力な触媒と、彼女自身の優れた手腕による完璧な召喚によって 聖杯の介在を跳ね除けて呼び出したためである。 2つめは、衛宮士郎。 彼がいずれ守護者と成る存在であるため、ニムロドは強く警戒していた。 なお、なぜ彼が士郎の守護者としての適正を見取ることができたのかは不明である。 最後は、間桐桜。 歪められた聖杯戦争の特異点。 全ての始まりにして、全ての終わり。 間桐の翁によって、原罪と死極の矢を取り込んだ聖杯の欠片を埋め込まれ マザーハーロットとの結節点を得る。 大聖杯、龍脈、および間桐桜を通じて冬木市は徐々に汚染を拡大させていった。 原作同様に、聖杯としての機能を有するが、バベルではより不安定で禍々しい仕様となっている。 もし、英霊の魂を取り込んでいった場合、どのような変貌を遂げるのかまったくの未知数だ。 衛宮士郎(人名/魔術師) えみや しろう。 身長167cm。体重58kg。 穂群原学園2年C組。 第五回聖杯戦争におけるキーパーソン。 本作では、資格はあったもののマスターではない。 家事に並々ならぬ才能を持つ。家庭料理(中でも和食)が得意で、おいしい食事を作るには材料をケチらない。 英語が苦手。工作に没頭する性格。 剣製に特化した魔術回路を所持する一点特化の魔術使いであるが、今現在はまだ回路の起動もできない。 ほかに物の構造・設計を把握することに特化している(構造把握の魔術)。 体内に27の魔術回路を持つが、それは作ったものを使わなかったために放棄され、通常の神経が魔術回路になっている。 本人はそれを知らず、鍛錬のときは死の危険を犯して魔術回路を作ることから始めていた。 8年間続けている魔術の鍛錬は自分が楽しいからしているのではなく、 魔術を身に付ければいずれは誰かの為になると思ってのこと。 10年前の大火災から唯一人生還したことで死んでいった人たちへの償いをこめ、 衛宮切嗣の遺志を継いで正義の味方に憧れて人助けに奔走するが、 それは反英雄としての切嗣とは違って自分を犠牲にして他のみんなが幸せになるというひどく歪んだもの。 彼の価値観には『自分を優先する』ということがない、 というよりも大火災から唯一生き残ってしまったために自分を優先する資格がないと思っている。 人助けはその見返りを求めるのではなく『人助け』そのものを報酬としている歪んだ価値観の持ち主。 大切な目標以外には興味を持たない、持てないという頑固というか遊びのない性格。 目に見える範囲の不幸や不平等を正そうと努力するが、かといって無条件で助けるわけではなく、 本人がそれを打破することに意義があると判断した場合は陰ながら見守る。 本当の両親は一般人で、前回の聖杯戦争の折に聖杯戦争の参加者たちが引き起こした大火災によって死亡。 本人もそのときに瀕死の重傷を負うが座礁した前アーチャーの手によって蘇生し、その後、衛宮切嗣に引き渡される。 バベルの塔の一部が崩御した後、言語の乱れ、秩序と理性の混濁化が進む冬木市内で 街の異常事態を察知し、単身で新たに聳え立つバベルの塔へと事態収束のために乗り込む。 その際、言峰神父との邂逅を果たし、聖杯戦争の基本知識を知り、サーヴァント、セイバーと供に 敵地侵入をし、その折に、襲撃してきたライダーとの戦闘を経て、彼女に囚われていた凛との合流を果たす。 か行 神の座(用語) 根源の渦。 あらゆる出来事の発端となる座標。 万物の始まりにして終焉、この世の全てを記録し、この世の全てを作れるという神の座。 世界の外側にあるとされる、次元論の頂点に在るという“力”。 根源の渦に至るという願いは魔術師に特有のものであり、これは世界の外側への逸脱である。 かつて、ニムロドが挑んだ宙の外へと逸脱せんと天を貫く塔を築いて挑んだ。 キャスター(人名/サーヴァント) さ行 終末(用語) 終末論(しゅうまつろん)は、歴史には終わりがあり、それが歴史そのものの目的でもあるという考え方。 目的論という概念の下位概念。 様々な宗教に共通して存在する世界の終わりであるが バベル内で発生した現象はクリスチャンである言峰神父の願いが発端であることから キリスト教の終末論、イエス・キリストの復活と最後の審判への待望という事柄に関わるものであると 推察されるが、詳細は不明である。 このキリスト教における終末論とは 現在の天地万物にみられる事物の体制が終わりを告げ、 新しい体制の中に生まれ変わる時のことを、意味していると考えられている。 神霊(用語) 神と崇められる自然霊。信仰を失うと精霊の位に落ちる。 発生に人間の想念が関わっていながら、人の意思に影響されずに生まれたもの。 なお、ニムロドが恨む神とは別であり、彼が憎んでいるという存在は世界の中枢。 天上の神の座を守護する番人――――すなわち抑止の力そのものである。 聖杯(用語) 冬木市に伝わるものは、神の血を受けたものではなく古来より伝わる願いを叶える『万能の釜』が原型で、 その力は伝説のものに匹敵する第726聖杯。根源へ至る門。 願望機である大聖杯に繋がる孔にして炉心。大聖杯起動の鍵。 万能の釜そのものではなく、始まりの御三家によって造られた願望器のレプリカである。 その中身の本質は“無色の力”だが、第三回聖杯戦争以降はアンリ・マユに汚染されて 悪性の“力の渦”(呪い、第三要素)になっている。 よって精密な計算・相互作用による矛盾の修正などは絶対に不可能であり、 持ち主の願いをあらゆる解釈による破壊のみによって叶える。 また、ひとたび開けてしまえば際限なく溢れ出し、災厄を巻き起こす。 さらに第四次聖杯戦争において、『聖者の嘆き(ロンギヌス)』 の原罪を混入され 言峰の終末到来の祝詞を受諾し、世界根絶のために力を費やす災厄の器と成り果ててしまう。 その際、この世全ての悪(アンリマユ)とは別にマザーハーロットを孕むことになる。 セイバー(人名/サーヴァント) 167cm・56kg 真名はエルキドゥ バビロニア神話。「ギルガメシュ叙事詩」の英雄。もともとは、シュメールの神話、伝説を起源とする。 もとは神に生み出された泥人形であり、人智を超えた力を持ちながらも知性も性別も無く、 ただ森の獣たちと戯れる生活をしていた。 だが聖娼と名高い女と六日七晩過ごすことで人間の姿と知性を手に入れ、黄金の王との死闘の末にその無二の友となる。 その後は、ギルガメシュと怪物フワワ(フンババ)や天の牡牛グアンナを倒すなど行動を共にした。 しかし、天の牡牛を倒した時、女神イシュタルによる嫉妬が彼の運命を決めてしまった。 後日、神々は天牛を殺した償いとして、二人の英雄のうち、より罪深い方の死を望み、 大気神エンリルの意向により、エンキドゥは呪いで衰弱して死んでしまった。 質素な貫頭衣を身に着けた、きわめて中性的な姿をしている。 その容貌は端麗ながら、雰囲気は人間的なものではなくむしろ魔術師が作る『人形』に近い。 武器は己の身体と『創生槍・ティアマト』 。 獣の言葉も使うことができ、気配探知スキルは最高クラス。 本来は英雄というより神が使用した宝具そのもの。 バベル歴代において最強のサーヴァントであり、個人の単純な性能に絞れば英霊最高位。 かの英雄王のこの世全ての財による万有の力に対して、単一で万能の力を有する。 これは、女神アルルが泥から創造し戦争の神ニヌルタが、神々すら畏怖する王に対抗するために 万能の神の力、あらゆる生命の原典の因子を与えられたことによる。 もっとも、彼自身はその出自を快く思っておらず、今を生きる生物に対して強い敬意と羨望を抱いている。 これは彼がこれまでに歩んできた生の中で、厳しい環境下で弱く儚くも精一杯に生きる 強く気高い彼らの心に深い感銘を受けたためであろう。 そう、彼の願いは、模倣によって得た仮初めの心と身体ではなく、一つの生命として地に根を張ることである。 また容姿に対して人形と揶揄されることがとても嫌いでもある。 前アーチャー(人名/サーヴァント) 166cm・64kg 真名はアシュヴァッターマン 『マハーバーラタ』の戦争でシヴァと戦った兵士。 パーンダヴァ五王子とカウラヴァ百王子に武芸を教えた師、ドローナの息子。 2人の王子間による大戦の際、百王子軍に参戦する。 五王子軍の軍師クリシュナの姦計により、 父ドローナはドゥリシュタドゥユムナに殺され、百王子軍もほぼ壊滅。 復讐に燃えるアシュヴァッターマンは、 クリパ,クリタヴァルマンと共にパーンダヴァ陣営に夜襲をかける。 まず自分の父を殺したドゥリシュタドゥユムナのテントに入り首を刎ね、 陣内にいる者を皆殺しにした。 その時、英雄アシュヴァッターマンは自らのヴィマナに断固とどまり、 水面に降り立って神々すら抵抗しがたいアグネアの武器を発射した。 神殿修道騎士団長の息子は全ての敵に狙いを付け、 煙を伴わぬ火を放つ、きらきら輝く光の武器を四方に浴びせ 五王子、クリシュナ、サーティヤキらを除く五王子軍を全滅させる。 それはまさにユガの終わりに一切を焼き尽くすサンヴァルタカの火のようであった。 まるで広島・長崎の原爆を思わせるこのアグネアの内容はまぎれもなく遥か昔、 紀元前に記された内容なのである。 その後、アシュヴァッターマンは遂に敗北を認め、 頭についていた不思議な宝石をビーマに渡して森へ去っていった。 誇り高き戦士。 善悪に囚われず、自らの魂の赴くままに生き、復讐にその身を焦がした炎のように熱い男。 戦場では粗暴で暴力的な性格だが、根は正義の人で人懐こい悪戯好きの好青年。 回りくどい方針と裏切りが嫌い。好き嫌いと敵味方はまったく別物と考えている。 武勇にも優れた戦士ではあるが、彼の真骨頂は頼みとする宝具と、予測不可能なトリッキーな頭脳である。 古代インドの空中機動兵器。 アグニ(サンスクリット語で「火」を意味する。)の名を冠する 『陽光宿す天の双翼(ヴィマーナ)』、額に、生まれた時より付いていた宝石『瑞験の星月(カウラヴァ)』 そして、神々が最も嫌悪したといわれる禁忌とされる一つの矢『獄炎秘めし災厄の矢(アグネア)』 の破格の3つの宝具を所有し、マントラ(真言)の力と相まって、大英雄クラスのサーヴァントとも 互角以上に渡り合えるポテンシャルを有する。 特に、彼が自分好みに魔改造したヴィマーナは、破格の機動性能を有する上に 魂魄フィードバックシステム、――常住永遠なるもの「空」とのアクセスを可能とするシステムによって 統覚機能と認識野を一段階昇華、つまり世界と己を一体化させ、可視領域内に補足できる万物の 魂の様々な構造や仕組みを把握することが可能になる。要約すると、究極の探知レーダー。 前回の聖杯戦争で、聖杯の呪いを浴び受肉(前述の魂魄フィードバックシステムによって、昇華寸前の魂を捕捉させ この世に無理やり呼び戻した) 以後は、言峰と袂を分かち、日がな俗世で2度目の生を謳歌していたが、イリヤスフィールによって 箱庭へと強制拉致され、ぶつぶつ言いながら彼女の束の間のままごとに付き合っている。 た行 天の杯(魔法) ヘブンズフィール。第三法。 現存する魔法のうちの三番目に位置する黄金の杯。 アインツベルンから失われたとされる真の不老不死を構造できる御技、魂の物質化のこと。 過去にあった魂から複製体を作成するのではなく、精神体でありながら単体で物質界に干渉できる高次元の存在を作る業。 魂そのものを生き物にして生命体として次の段階に向かうもの。 遠坂凛(人名/魔術師) 2月3日生まれ。身長159㎝。体重47㎏。B77 W57 H80。血液型O。 遠坂家六代目当主。私立穂群原学園2年A組。朝が弱い。第五次聖杯戦争におけるランサーのマスター。 父である遠坂時臣を師とし、言峰綺礼は兄弟子。属性は『五大元素』。 得意な魔術は魔力の流動・変換だが、戦闘には適していないために戦闘には魔力を込めた宝石を使用する。 優秀だが、ここ一番というところで大ポカをやらかすことがあるのはもはや遺伝的なものであり なにか説明するときにかける黒縁眼鏡は伊達。 桜が間桐にもらわれていくときに髪留めを贈ったが、そのときも対価を要求した。 というのも、凛は大切な人にこそ貸しを多く作って繋がりを持っていたいがため。 ただし借りに関してはきちんとした借用書でもない限り認めようとしない。 幼少の頃から、冬木市の異常事態を察知し、独自の調査活動をする。 だが、龍脈の異常汚染は判明できたが、大聖杯と桜の存在に至ることは叶わなかった。 言峰綺礼から、ある程度の情報は聞き及んでおり、聖杯戦争への参加目的は 原作よりも、遠坂家の悲願だけでなく、管理人としての事態収束のために強い勝利への渇望がある。 その執念の賜物か、触媒と完璧な召喚の儀式によって、自身の望む最速のサーヴァントを呼び込むことができた。 だが、経験不足と事態の予想以上の深刻さに焦りを生み出し、バベルの塔内部にて初戦を敗北。 その後、間桐桜との邂逅の際に違和感を抱いた彼女は、後を追い間桐邸に乗り込み ライダーと遭遇。人身お供として拉致され、再びバベルの塔内部に連れ去られる。 後に、塔内部へと侵入していた衛宮士郎とセイバーに救出され、行動を共にする。 は行 バーサーカー(人名/サーヴァント) 182cm・80kg 真名はカルキ。 ヒンドゥー教に伝わるヴィシュヌの第十番目の化身にして最後のアヴァターラ。 その名は「永遠」、「時間」、あるいは「汚物を破壊するもの」を意味し 白い駿馬に跨った英雄、または白い馬頭の巨人の姿で描かれる。 西暦428899年の末世(カリ・ユガ)にシャンバラ村のヴィシュヌヤシャスという バラモンの子として生まれるとされており カリ・ユガ(Kali Yuga)と呼ばれる世界が崩れ行く時代に現れ、 そして世の全ての悪を滅ぼし、新たな世界、黄金期(クリタ・ユガ)を築くとされる。 バベル歴代において最優のサーヴァント。 維持神の化身であり、霊長の存続、すなわち抑止力そのものの分体である。 御神体であるカルキが人間界で存在を確立するために構成された人型の器であり 自我・精神を持たず、彼の乗騎たる機動白馬『System K.A.L.K.I(ハヤグリーヴァ)』 によって 世界から発信される危機信号を受信し、目的を完遂させる。 その力は絶大であり、かつてセイバーのクラスとして参加した第四次聖杯戦争では 前アーチャーを除く、単独で五騎を相手にして勝利を収めた。 完全である神の力、世界からのバックアップを有するカルキはあらゆる障害に対して 有効な手段と方法で対処が可能であり、彼を排するのは世界そのものを破壊するに匹敵するほどの 力か、世界との繋がりを遮断させるしか手段はない。 なお前回では、原罪を取り込んだ聖杯の孔を破壊するために放った前アーチャーの『獄炎秘めし災厄の矢(アグネア)』 の余波から人々を守るために自身を盾にしたためである。 そのため、被害は街の一区画という極小へかなり抑えられ、役目を終えたカルキは次の戦場へと還っていた。 奇しくも、その戦場は10年後の冬木市であり、前回同様アインツベルンの参加者として闘いに身を投じるのであった。 バベル外伝 バベル本編の外伝。 息抜きのために書かれたギャグss。 本編とはうって変わって、セリフ主体のテイストで下ネタが多い。 主人公はアシュヴァッターマン。 ヒロインはイリヤとアンチキリスト。 なお、途中から本編とリンクした裏側の物語、The Tower, La Maison de Dieu backnight が始まる。 副題は花言葉で、それぞれ Taraxacum officinale 「真心の愛」、「思わせぶり」 Helleborus、「私を忘れないで」 である。 バベルZERO 本編の10年前、第四次聖杯戦争の話。 作者の悪い癖で、行き詰ったときに妄想して構想された物語。 コンセプトは昼ドラ。 始まりと終わりは原作と同じで、マスターに割り振られた鯖のクラスも同じ。 登場サーヴァントは以下の通り セイバー カルキ ランサー ベイリン アーチャー アシュヴァッターマン ライダー チンギス・ハーン バーサーカー ピサール キャスター エリザベート・バートリー アサシン キルロイ なお、本編、間章5において、最終決戦カルキVSチンギス・ハーンVSアシュの三つ巴 が描かれている。 また、当初はシグルドとブリュンヒルデが参加予定であった。 バベルの塔の狸 本作、皆鯖WIKIで連載されているss。 前作、FateMINASABA 23th 00ver連載時、登場予定のネブカドネザル2世が製作中であったため それまでの読みきりとして、中篇ssの予定で書かれた。 当初はソロモンVSニムロドVSマザー・ハーロットであった。 だが、書いてるうちに作者が本気で書き始めたため、長編ssとして連載が続くことになる。 コンセプトは鬱サスペンス。バッドエンド症候群に悩まされた作者によって気色の悪いテイストになっている。 主人公はニムロドと士郎。 ヒロインは桜と由紀香、マザーハーロット。・・・・・のつもり。 登場サーヴァントは以下の通り セイバー エルキドゥ ランサー アキレス アーチャー ニムロド ライダー マザーハーロット バーサーカー カルキ キャスター ソロモン アベンジャー アンチキリスト 前アーチャー アシュヴァッターマン ま行 埋葬機関(組織) 聖堂教会の切り札ともいえる吸血鬼専門の異端審問機関。 神への信仰は二の次で、ただ異端を抹殺する力さえあればよいという強面の部署。 メンバーは形式だけでもアデプトで扱いは司祭級、さらに特別権限を持つ異端審問員。 ただし彼らが形式的な異端審問をすることなどないので、単に代行者、または殺し屋とも呼ばれる。 メンバーの証として普段は見えない羽の生えた十字架(剣)の刺青を施す。そこに刻まれている数字が機関でのナンバー。 たとえ大司教でも悪魔憑き、異端ならば処刑する権限と実力を持っているために、教会でも厄介者扱いされている。 この機関こそ教会における異端と囁かれるのも当然だろう。 全吸血鬼の排除と因となる二十七祖の封印を目的とするが、もとは聖遺物の収集をしていた。 完全な実力主義制で、能力があり教会にとって都合の悪いモノを始末するのなら誰でも一員になれる。 ただし年功序列が根強い。 1位から7位の構成員と1名の補欠で構成される。 1位は代々ナルバレックで5位がメレム・ソロモン、6位がミスター・ダウンとその相棒(ミスター・ダウン単独では暫定6位) 7位がシエル。補欠は教会から優れた者をスカウトするが、審問のたびに死亡する為にめまぐるしく交代する。 メンバーには表立っては禁忌とされる魔術を好む者、捕らえてきた異端者を奴隷として扱う者、 近代兵器マニアや殺人快楽性となかなか飽きさせない人材が集まっている。 また、埋葬機関のメンバーはサーヴァントと渡り合うことができる(シエルは防戦レベル)。 今回の聖杯戦争は、聖堂教会において、最も忌むべきものであり、待望となる悲願であった 教義における終末が発生するとの情報を受け、渡航可能な総戦力を冬木市内に送り込む。 埋葬機関も例に漏れず、5位のメレム・ソロモン、6位のミスター・ダウン、7位のシエルが派遣される。 奇しくも同時期に、白翼公トラフィム・オーテンロッゼが何十年とかけて用意してきたアルズベリの儀式が 開始されたため、他の構成員はそちらに行っている。 彼らの冬木への派遣選抜の理由は、単にナルバレックの嫌がらせ。 間桐桜(人名/魔術師) まとう さくら。 3月2日生まれ。身長156㎝。体重46㎏。B85 W56 H87。血液型O。Eカップ。 第五回聖杯戦争におけるライダーのマスター。 穂群原学園1年生。弓道部員で、弓道は衛宮士郎の影響で始めた。 間桐慎二の義妹。今代(最後)の間桐の魔術師(候補)。マキリの聖杯の実験作。 遠坂凛の妹だが、十一年前に後継者がいない間桐に養子に出された。 髪を結んでいるリボンは凛が最初に作ったもの。 本来の属性(起源)は架空元素(虚数)で遠坂の魔術師としてならば大成しただろうが、 間桐の属性である水に変えられたために魔術師としては衛宮士郎なみ。 原作では刻印蟲に魔力を喰われるため、魔術の起動は出来なかったが バベルでは、感情が昂ぶった際に架空元素を起源とした『黒い影』の具現化ができる。 臓硯もその事実を把握していたが、冬木市の治安悪化による万が一の危険に備え、止むを得ず黙認をしている。 目も髪も遠坂の色ではなくなるほど初期(五歳くらい)に身体をいじられており、 その心臓には間桐臓硯の魂の器である本体が寄生している。 10年前に監視用および聖杯の器にするために、第四回聖杯戦争の最後で破壊された聖杯の欠片を触媒として 生み出された刻印虫を体内に植え付けられた。 その際にマザーハーロットとの結節点を取得し、自身の意思とは無関係に 周りの人間の理性を簒奪し、『黒い影』の侵食を続けていく。 また、魔道の伝承のために十一年前から性的虐待を受け、魔道とは関係なしにたびたび間桐慎二に暴行を受け、犯されている。 だが何をされようと隠そうとする。 間桐の魔術師にされたために魔術師の精がないと体が火照っておかしくなってしまう。 原罪など、より純度の高い呪詛を孕んだ聖杯の欠片とマザーハーロットの影響で 原作よりも感情的で不安定であり攻撃的。 彼女自身が、邪悪の呪詛を取り込んでいるため、負の感情に対する高い耐性を得ていたためと考えられる。 だが、絶えず微弱な呪詛を撒き散らすため、彼女の周りには悪辣なトラブルが耐えない。 仲の良い友人で、三枝由紀香、美綴綾子、衛宮士郎がいる。 聖杯戦争直前に、不良グループによる強姦事件の被害にあい、半日もの間輪姦され その後、座礁して海岸で体を休めていたところを間桐臓硯によって、半ば強制的に召喚の儀式を執り行い ライダーを召喚する。 彼女を呼んだことによって、体内の聖杯の欠片が活性化し、ライダー自身の禍々しい魔力と相まって 精神を病む。 そのため、苦肉の策として『溢れる邪淫(ルクスリア・チャリス)』 の力によって意識を混濁化させることによって 汚染侵食の緩和措置を取られた。 間桐慎二(人名) 身長167㎝。体重57㎏。 弓道部副主将。間桐鶴野の息子で間桐桜の義兄。穂群原学園2年C組。 ナルシストで天才肌。極めて自己中心的で自意識過剰な性格で他人を見下す。 弓の腕前はなかなか上手なのだが、本人は暇つぶしと言ってはばからない。 第四次聖杯戦争中は遊学の名目で国外に出されていた。 桜が養子に来たときは多少は苛めながらもかわいがっていた。 しかし間桐の後継者が自分ではなく桜だと知った時、 『生まれを憐れんでいたのは自分ではなく桜の方だった』と思い手酷い暴行を働くようになった。 だが、内心では桜を酷く恐れている。 魔術師としての才能はないが、一般の人間としての才能は多分にある。 それだけに魔術師としての才能がないことを気に病み、鬱屈していき、周囲の人間を見下すようになった。 間桐桜から流布される呪詛によって、徐々に精神を病んでいく。 精神の安定のためか、原作より女遊びなど派手な享楽を繰り返しており、精神科に通院している。 最後は、意識が混濁化した桜の妄言に、ストレスが臨界点を超え暴行する。 その折に、衛宮士郎に彼女の真実を話すと挑発したため、逆上した彼女に殺害された。 ら行 ライダー(人名/サーヴァント) 167cm・53kg 真名は不明。 マザー・ハーロット、「地上の忌むべき者や売春婦達の母たる、大いなる、謎めいたバビロン」。 「グレート・ハーロット(The Great Harlot="大淫婦"の意)」とも呼ばれる。 キリスト教における黙示録に出現し、もろもろの民族、群衆、国民、国語の上に立つ 人々を惑わす悪徳の象徴とされる美女。 『黙示録』によれば“悪魔の住むところ”であり“汚れた霊の巣窟”である。 女性の姿で表されておりきらびやかな装身具を身につけ、手に金杯を持つが、 その杯は姦淫による汚れに穢されているという。 大淫婦は殉教者の血を流すが、神のさばきによって滅ぼされるともいわれる。 新約聖書『ヨハネの黙示録』によると、終末の時、地上に邪悪な獣に跨って姿を現れる。 これ等には明確な名前が付けられておらず、その多くは謎に包まれており その為か多くの文献では黙示録の獣、あるいは666等として紹介されている。 バベル歴代において最悪のサーヴァント。 第四次聖杯戦争において、この世全ての悪(アンリマユ)・聖槍の原罪 そして、言峰による 「見よ。まことにわたし(神)は、新しい天と新しい地とを創造する。 先のことは思い出されず、心に上ることもない。だから、わたしの創造するものを、いついつまでも楽しめ」 という世界の終わりを聖杯に願ったことによる触媒によって、現世に召喚された反英雄である。 もっとも当初は、冬木の街に土着した現象的な形のないものであり 着々と人々の悪意を煽るなどの終末到来のための暗躍を行い、第五次において間桐桜によって召喚され肉体を得る。 正真正銘の邪悪な英霊。 本来は英霊に収まる霊格ではなく、神霊といった方が相応しい。 老若男女問わず誘惑し、堕落させ破滅に追い込む悪徳の華。 笑うと途端に邪気のない聖女のように清らかな表情になる。 宝具は『溢れる邪淫(ルクスリア・チャリス)』 と『黙示録の獣(アポカリプティック・ビースト)』 を有し 特にこの黙示録の獣は、赤き竜より同等の力と権威を戴き、次元違いの力を有する。 呪力の純度は、世界から供給される大源(マナ)と悪意によって大きく上限するが 龍種と同等の力も有しているため、単一でも生半可な英霊では太刀打ちはできず、 審判の日には、天を貫き、大地を腐敗させ、あらゆる生命を死滅させるほどの権威と力を得られるという。 また、彼女自身も「原初」の力を有しているとか。詳細は不明。 ランサー(人名/サーヴァント) 167cm・58kg 真名はアキレス。 イリアス叙事詩の主人公。プティアの王ペレウスと海の女神テティスの息子。 数多くの英雄が激戦を繰り広げたトロイア戦争において、最強の英雄としてその名を讃えられている大英雄。 生まれてから間もなく、母によって冥界を流れるステュクス河の水に全身を浸され不死身となる。 その際に、踵を掴まれていたために唯一の弱点となってしまったアキレス腱の逸話はあまりにも有名だろう。 トロイア戦争の時、アガメムノーン王がアキレウスの妻プリセイスを連れ去ろうとしたことで戦場から去ってしまう。 その後苦戦したアテネ軍からアキレウスに謝罪と参戦を請う使者が来て、 最終的には戦線に復帰し敵側の最強の英雄ヘクトールを倒す。 そして女神エオスの息子メムノンを殺し、トロイア軍を城市まで押し戻しスカイアイ門から入ったところで アポロン神により狙いを定められたパリスのはなった矢に弱点の踵を射られ、さらに次の矢を胸に受けて戦死した。 これにより両軍共に大黒柱を失った形になり、その後の戦局は混迷を極め 死後、アキレスの魂は英雄たちの楽園であるエリュシオンに迎えられたとも、 冥府でオデュッセウスと会見したとも言われる。 容姿は、金髪、碧眼、薄い唇の美男子で、剣、槍、弓矢の腕にも優れ、 さらに素手であっても、どんな敵にも勝てたという。 また、「足の速い」アキレウスとも呼ばれ、父から譲り受けた馬、バリオスとクサントスを除いて、 どんな馬よりも速く走れたといわれる。 バベル歴代で最速のサーヴァント。 名立たる英雄と、神々・幻想種があたりまえのように存在した神代において 無双を誇るまでに到達した無窮の駿足は、地に足を下ろしている限り、慣性の法則に縛られぬあらゆる制動を可能とし その速度は最高で、地球の自転速度に並ぶほど。 彼の願いは、自身の人生に後悔はないが、生前の若さゆえの浅慮な行動を恥じており、次の生を得たときは よく深く思慮し、強く正しい道を進むことを望んでいた。 時に厳しく、時には優しく接する、戦士としてもサーヴァントとしても非常に高潔で優れた人物であり 凛という最高のパートナーを得たことにより、此度の戦場においても輝かしい栄光が得られるはずであった。 だが、この歪んだ聖杯戦争において、彼の力は十二分に発揮することは叶わず 盾にされた凛を庇った隙をつかれ、アーチャーに腱を射られて敗北してしまう。 六道(用語) 六道(りくどう)とは、仏教において迷いあるものが輪廻するという、6種類の迷いある世界のこと。 すべての衆生が生死を繰り返す六つの世界。 迷いのない浄土に対して、まだ迷いのある世界。 地獄道・餓鬼道・畜生道・修羅道・人間道・天道。前の三つを三悪道、あとの三つを三善道という。 仏教では、輪廻を空間的事象、あるいは死後に趣(おもむ)く世界ではなく、心の状態として捉える。 たとえば、天道界に趣けば、心の状態が天道のような状態にあり、地獄界に趣けば、 心の状態が地獄のような状態である、と解釈される。 なお一部には、天狗など、この輪廻の道から外れたものを俗に外道(魔縁)という場合もある (ただし、これは仏教全体の共通概念ではない)。 地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天。などのカルマに支配された六種の衆生が、 生命の輪廻の輪の中に表されている。 アシュヴァッターマンによって放たれた『獄炎秘めし災厄の矢(アグネア)』 ベイリンによって混入された『聖者の嘆き(ロンギヌス)』 の原罪 聖杯に眠るこの世全ての悪(アンリマユ) 第五次聖杯戦争に召喚されたアキレスとカルキを除くサーヴァント、守護者 聖杯降誕の地、冬木市と生命。 神と崇められる自然霊。 位階を別にする六道を揃え、然るべき手順と儀式を行った人間は この輪廻の輪を断ち切ることで解脱が得られるという。 これほどの純度の触媒と、聖杯を持ってすれば、確実に天上の神の座へと届くだろう。 ニムロドと臓硯は、最大の障害となる抑止力(閻魔)の目を逸らすだろう終末の日の中で 儀式を行う腹積もりである。
https://w.atwiki.jp/isekaikouryu/pages/1057.html
「ん?」 「お、おいちょっと待て。あれ……何だ?」 「鳥……?」 遺跡前防衛戦線に勝利の凱歌が上がった頃、ようやく黒煙晴れた空の彼方に黒い影が見えていた。 最初の内は何か分からず、気に留める者も殆ど居なかった。しかしその影は徐々に、しかし確実に戦場に近付いていたのだ。 そしてそこにいる者達の誰もが分かるようになる。破滅の時は過ぎ去ってはいなかったと言う事に。 「違う……あれは鳥じゃない! あれ、全部鳥人だ!」 「ファルコ軍だ……正規部隊が動いたんだ!」 今や空を埋め尽くす程の勢いとなったファルコ軍一千の大軍勢。大してこちらの戦力は、総崩れとなった防衛の陣地と百数名の自警団員だけ。 こんな状態で戦いになれば、その結果は火を見るより明らか。一方的な虐殺だ。 「こ、こんなの勝てる訳ねぇ。なぶり殺しにされるだけだ!」 「四元魔将を斥候に使うだなんて! 本体が後ろに控えてるなんて!」 「殺される、俺達みんな殺されるぞ!」 「いやだー! 死にたくないー!」 自警団陣営は混乱の坩堝と化した。皆が口々に絶望の言葉を吐き、逃げ場の無い戦場で右往左往するだけだった。 そんな中、エルとシエラでさえも希望を失い、これから始まる破滅に打ちひしがれるのみとなっている。 「万事休す、か」 「みんな……お姉ちゃん……ごめんね」 そんな前線の様子を見つめるソラリアは、同様に絶望の淵に沈む後方部隊の中で一つの決意をする。 (タクトさんは私が守ります) 例えこんな一縷の光も見えない闇の中でも、その誓いだけは絶対に捨てない。 ソラリアの中に眠るたった一つの確かな記憶。 ――タクトさんが好き―― その記憶、その想いだけは決して嘘にしてはならないのだ。例え自分の身がどうなろうとも…… 「っ!」 ソラリアが後衛の陣から一人飛び出した。 その手には鍵の剣がしっかりと握られている。 「ソラリア!? 止めろソラリア! ソラリアー!」 タクトはそれに気付いたがソラリアを止める事が出来なかった。何故ならタクトも、他の者達と同様絶望していたのだから。 ソラリアの強い決意を秘めた横顔を見てタクトは自分を恥じた。 あの時、ソラリアを守ると誓ったのは嘘だったのか?自分の心の弱さをタクトは心の底から恥じた。 絶望なんてしている暇は無かったのだ。いや、今だって、この瞬間だって、今すぐ駆け出さなければならないのだ。間に合わなかったとしても。 「皆さんは、タクトさんは傷つけさせません……絶対に!!」 それがソラリアの気持ちに対する、タクトが出来るせめてもの答えなのだから。 「ソラ……リア……」 「すごい……あんな戦い、そんな……」 空に上がったソラリアは鬼神の如き戦いぶりを見せた。 一千の敵の大群に突撃し、炎を放ちながら戦っている。圧倒的不利な状況にも屈せず、たった一人で戦い続けているのだ。 「武器を貸してくれ! 俺も戦う!!」 タクトは駆け出していた。弓と矢を引っつかんでソラリアの舞う戦場へと。 その姿を見て、残った自警団員達の心境に変化が生じ始める。 「な、なぁ。これならひょっとして俺達、勝てるんじゃないか?」 「ありえるぜ。あの娘スゲェよマジで」 「俺達も戦うぞ! まだ武器はあるんだ!」 「最後まで戦って戦って、戦い抜いてやるぜー!」 自警団の男達が再び武器を持ち立ち上がった。タクトに続き蒼穹の戦場に向かって走り始める。 ソラリアの想いが、タクトの誓いが、再び一同に戦う勇気を与えたのだ。 タクトは思う。ソラリアの姿を見て、改めて思う。 (それにしても……ソラリアの、あの強さは普通じゃない。本当に何者なんだ? 君は) たった一人、蒼穹に舞うソラリアは、戦場の女神か死神か…… 「あっ、もう矢が! 俺ちょっと矢を取りに行って来るから!」 そんな折、武器となる矢が尽きたタクトは前線から離れた。 「あぁ、頼む」 「ここは任せて! お兄ちゃん」 「あぁ!」 この時、タクトはみんなより一足先に知る事になる。本当の恐怖はまだ別に居た事に。 「こ、これは――!?」 遺跡内後方にある資材置き場に来たタクトは、そこで信じられない光景を目にした。 「みんな……死んでる……?」 それは後方支援で控えていた団員達。その誰もが、一人残らず頭の穴と言う穴から血を流して倒れている光景だった。 誰一人動く者は居ない。完全に死んでいるようだった。 「何故だ!? 四元魔将は倒した筈なのに、誰がこんな――ぐわっ!」 と、その時突然、タクトは頭部に強い衝撃を感じ地面に叩きつけられた。ガンガンする頭と回る視界の中、必死で何が起こったのか情報を得ようと模索する。 だがその望む情報は、意外な形ですぐにもたらされる事となった。 「来てしまいましたね、タクトさん」 「君は……スワティさん?」 倒れ伏したタクトの前に姿を見せたのは、宿で四人の世話をしてくれていた白い鳥人のスワティだった。 彼女もここで物資の管理や武器の運搬をしていた。だが今、彼女以外の人は全員死んでいる。彼女だけが生き残ったのか?どうやって? いや、そうじゃない。タクトは状況をありのまま、冷静に見る事にした。スワティの手に握られている鉄製の扇、その端から赤い液体が滴っているのだから。 「ずっと待っていたんですよ。遺跡の警護が最も手薄になる、この瞬間を」 「まさかこれは、全部君が?」 「フフッ……」 スワティがタクトの頬を撫でながら微笑を浮かべた。だがそれはタクトへ向けられたものではない。その鉄扇を手にした悦び故だ。 タクトの目の前に鉄扇が広げられた。その鉄扇には見た事のない文様と、流麗な絵が描かれている。意味は分からないが、何となく水を思わせる図柄だった。 「全てはこれを手に入れる為、水神の神器ミズハミノノリトの為なのです」 「神器……だと?」 『神器』地球の神話にもよく登場するそれだが、この異世界においては大きくその意味を変える。 ただの伝説上の存在ではないのだ。古臭いだけの文化財ではないのだ。それはこの世界の神の力を注がれた、確かな力を持った神聖な道具。 精霊の力が込められた魔道具とは比べ物にならない、まさに人が使えば神の如き力を発揮できる脅威のマジックアイテムなのである。 「そうです。これさえあれば神の力を行使できる……もうファルコなど恐くない。私……あたいこそが、ここ新天地の支配者になってやるよぉ!!」 スワティ――いや、水の魔将スワン。彼女が本性を表したのは、自分の勝利に絶対の自信を持った時だった。 「?」 ソラリアが、戦火の中何かを感じ取ったのは、時にして丁度タクトがスワンの前に倒れ伏した時の事であった。 タクトに続き自警団がソラリアの援護に回った時感じた安心感や心強さのような感覚が消えたのだ。 彼女の中にある魂のような物が、最愛の相手に何かが起こった事を感じている。それは何億光年離れていても感じ取る事が出来る人と人との絆の力。 (おかしいです。タクトさんの身に何か……何か妙な――!?) 地球で言う「虫の知らせ」と言う感覚にソラリアが困惑していると、遺跡の中から見た事のない、恐ろしい何かが現れた。 「何だアレは! 水が龍のようになって――人々を食らっている!?」 「こっちに来るぞ! 逃げろー!」 『わぁーーー――』 その水の龍は瞬く間に百人余りの自警団の面々を飲み込み、その水で出来た体内に取り込んでいった。 圧倒的だった。 誰も何も抵抗できないまま、一方的に一瞬で水龍に取り込まれてしまう。中には苦し紛れに矢を放った者も居たが、そんなもの水に射ち込んだ所で何の意味も無い。 ソラリアは味方があっと言う間に負けてしまう様を、ただ眺めているだけしか出来なかった。 「タクトさん! みんな!」 突然の事にファルコ軍の者達も動きを止めている。ザイールの遺跡は遥か昔、水神と崇められた水の大神龍を祭っていた遺跡だ。 その遺跡から水龍が現れたのだから、神の怒りに触れてしまったのかと思い、恐れ戦いたのだ。 だがすぐに、ファルコ軍にとって、その心配は無かった事が判明する事となる。 「動くな!」 遺跡の入り口から出てきたのは、真っ白い鳥人、スワンだった。 ソラリアには訳が分からなかった。何故自分達を世話してくれていたスワティが自分に動くななどと命令するのか。 だが次の彼女の台詞で全てを理解する事となった。 「動くなよ魔神。動けばこいつらを殺す」 スワンは裏切り者だったのだ。いや、最初から裏切るつもりでこの街に潜入していたのだ。そして時が来たから裏切ったのだ。 ソラリアがそう理解した時、自体はもう既に取り返しの付かない状態になっていたのだった。 「ファルコは新天地、いや、世界支配にはお前が必要だと言っていたが、あたいにはどーもそうは思えなくてねぇ」 スワンの言う言葉の意味は分からないソラリアだったが、何となく彼女が望んでいる事は察しが付いた。 そうしてソラリアがスワンの次の言葉を想像するより早く、スワン自らの口から、その残酷な言葉は放たれたのだ。 「あんたにはここで死んでもらう。あんたが大人しく死んでくれるってんなら、こいつ等の事は特別に見逃してやってもいい」 「タクトさん……」 水龍の中で息が出来ずもがき苦しむタクト達。その姿を見て、ソラリアの答えは一つしかなかった。 「……分かりました。私一人の命で、皆さんが助かるのなら……」 「そうそう、いー娘だねぇー――よっと!」 スワンがソラリアの答えに笑顔で答えたのと、水龍の鋭い爪がソラリアの体を裂いたのは、ほぼ同時の事だった。 水圧カッターのような一撃を受けて、ソラリアの胸部は大きく十文字に爆ぜ、鮮血を散らしながら地面へと落ちていったのだ。 その光景を見ながら、やっと水龍の体内から顔だけ開放されたタクトは絶叫する。 「っぷはっぁ!! はぁっ! はぁっ! ソッ、ソラリアーーーーーーーーーーーーーー!!」 巨大な水龍の胴体から下を見下ろすタクト。 ソラリアはどうなったのか?生きていて欲しいと願いながら、落下地点に目を凝らした。やがて落下の衝撃で上がった土煙が晴れると、そこには大きな赤い花が咲いていたのだった。 「ソラリアぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーー!! うわぁぁぁぁぁあああ!」 「あーーーっはっはっはっは! 何が災厄の存在だ! 何が滅びの具現化だ! やっぱり魔神なんか大した事ないじゃないか! 神の力の前にはゴミクズ同然さぁ!!」 守れなかった。 あの可哀想な娘を守れなかった。自分を好いてくれた娘を、頼ってくれていた娘を守れなかった。あまりにあっけなく訪れた結末に、タクトは悔恨と絶望の悲鳴を上げる。 タクトの慟哭とスワンの笑い声だけが、タクト達の敗北終わった戦場にこだました。 (タクトさん……ごめんなさい……) ソラリアの意識は闇の中に沈んでいた。 何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。完全なる闇。 [損壊率45% 戦闘継続不可能 自己修復装置起動 回復予想時間――秒] その闇の中、ソラリアの心の中に直接響く声があった。 (なんだろう……頭の中でおかしな声が聞こえる……何だか……懐かしい) その声にソラリアは覚えが無い。だが知らない声なのに何故か懐かしさを感じるのだ。 [必要元素 鉄……確保 炭素……確保 珪素……確保 マグネシウム……確保――] ルーチンワークをこなすだけの、抑揚の無い声なのに、何故そんな感覚を覚えるのか。 [システム再起動まで残り――秒 頑張ってね、ソラリア] その声はもしかして、もしかしてソラリアの―― ソラリアがその答えを求めようとした時、彼女の意識はそこで途絶えた。 「さて、これであんた達は用済みな訳だけど……どうしてほしい?」 「くっ……」 勝負がつき、自警団とタクト達を縛り上げたスワンは余裕の笑みを見せていた。 「くくく、悔しそうだねぇ、悲しそうだねぇ、恐そうだねぇ、いーよその表情。そうやって楽しませてくれてる内は生かしておいてあげるよ」 スワンは既に自警団の何人かを殺している。 縛られ、動けない相手の頭に水の玉を被せ、窒息する様を眺めて楽しんだのだ。 その残虐性、悪趣味さに、同じファルコ軍の兵士達まで恐れ戦いている。 「お前、神の力と言ったか。その扇が神器なのか?」 エルがスワンに質問した。時間稼ぎとターゲットを絞る為の質問だ。 今エルは縄抜けを試みている。手の関節を外し、手枷を取ろうとしているのだ。手が自由になれば砥いでおいた親指の爪で縄を切る事が出来るかもしれない。 だがスワンはそんなエルの企みを知ってか知らずか、いきなり顔面に蹴りを入れたのだ。 「エル!」 顔を蹴られ頭を遺跡の石柱にぶつけたエルは意識を失った。 そんなエルを心配して這いずってでも近付こうとしたシエラの背中を踏みつけて、スワンは憎憎しげにこう言った。 「生意気にお前とか言ってんじゃないよ! スワン様、だろう? このブス女」 横たわるエルに対し乱暴に唾を吐きかけるスワン。目を背けたくなる暴虐さだ。 だがスワンは怒りつつも上機嫌だった。その理由は長年追い求めてきた神器を手に入れる事が出来たからに他ならない。 「……ふん。ダークエルフはこれだから嫌いだよ、生まれつき目つきの悪い女ばっかりさ」 もはや好き放題といっていい傍若無人ぶりを発揮しつつ、スワンは手に入れた神器『ミズハミノノリト』に頬ずりした。 「だけど今日は気分が良いから教えてやるよ。これはね、かつてこの地に居た水神の力を宿した神器なのさ」 神器である碧い鉄扇を満足げに、何度も開け閉めしながらスワンはうっとりとした表情で語り始める。 もうこれさえあれば他何もいらないと言った様子だ。 「ここ新天地や未踏破地帯には、そうした物がいくつも眠ってる。遺跡や大地の恐れとなってね。あたいは昔からそーゆうのに興味があってね、黒い月の伝承をファルコに教えたのもあたいさ」 ファルコが捜し求める『黒い月』の伝承。 異世界には三つの月――即ち『セレ』『ニア』『コス』が存在する。だがその月とは別に、この世界を小さな黒い月が回っていると言う伝承があるのだ。 その伝承によれば黒い月には悪魔達が封じられていて、誰にも見つからない空の軌跡を通っていると言う。 スワンは古代の伝承を研究する内、この黒い月が実在して、悪魔達がかつて本当に居たと言う確証を得たのだ。 そしてそれをファルコに教える事で、オルニトの大図書館で司書をしていただけの女が、神官と四元魔将の地位を得た。 「おかげであたいは地位を与えられ、自由に遺跡探索出来るだけの資金と力を得た。けど、それも最近はやり辛くなってきてねぇ……アストレス、あいつさえ現れなけりゃ今頃……」 その成果として発見したのがミィレス=アストレス。ソラリアと同じ太古の眠りから目覚めた少女だ。だがその発見が彼女の地位を脅かす事となったのは、スワンにとって皮肉と言う他ない。 「少し喋りすぎたね。ま、とゆー訳だから。あんたらはあたいが神器を手に入れる為の犠牲になりましたって事さ。分かったら処刑を始めるよ」 「そんな! 約束が違――きゃあ!」 「う……シエラ……」 ソラリアとの約束を破り全員処刑すると言い放ったスワン。 その酷さに異を唱えようとしたシエラに、スワンは言い終わらぬ内に蹴りを入れた。 意識を取り戻したエルだが、まだ完全に覚醒していない為に何も出来ない。こんな時にシエラを守ってあげられない自分の不甲斐なさに、エルは唇を噛んだ。 「うるさいねぇ! 気が変わったんだよ! ここはあたいがルールなんだ!」 「くっ、こいつ……」 もう時間稼ぎも出来そうにない。縄抜けも間に合わなかった。 完全に打つ手無しの状態となったエルは、最早限りなく望みは薄いが、残された唯一の可能性に賭けるしかない。そう覚悟した。 「さぁて、どいつから殺してやろうか……やっぱり目つきの悪いあんたか? それともさっきから一番恐がってるあんたかい?」 「私だけやれ」 「あん?」 エルは吐き気を催す邪悪な女、スワンに対してこんな真似をする事だけは嫌だった。嫌だったが最早これしか手は残されていないのだ。 「この娘は何の罪もない、ただ巻き込まれただけの鳥人なんだ。その地球人も何もしてない。二人とも無関係なんだ。だから……あぐっ!」 「エルー!」 命乞いだった。 敗北が決定した時、情けなく敵に助けて下さいと懇願する行為だ。それをエルはシエラとタクトの為に行ったのだ。自分の命はいらないから二人を助けて下さいと。 「だからあたいに指図すんなって言ってんだろうが! 頭の悪いブスだよ全く! お願いする時は……」 「ブッ――ぐ……っ」 だがしかし、そんなエルの切実な気持ちを、文字通り踏みにじるように、スワンがエルの顔を踏みつけた。 いや、踏んだだけではない。何度も何度も、エルの恥辱に歪む顔を楽しむように、踏みにじり続けるのだ。 「こうして、地に頭擦り付けながら懇願するんだろうがぁ、あぁ!?」 「お願いします……どうか……この子達だけは……お助け下さい……」 「あぁん? 声が小さくて聞こえない――よっ!」 そして極め付けにエルの顔面を再び蹴りつける。エルはおびただしい鼻血を噴出しながら、再び意識を失った。 「うぁっ!」 『エルーーー!』 「あーーーっはっはっはっはっは!」 シエラはそんなエルの姿を見て、涙と鼻水で顔をビシャビシャにしながら這いずりながら近付いていった。 自分達の為にあれだけやったエルの為に、シエラは何もしてあげる事が出来ない。そしてそんなエルをゴミのように扱ったスワンに対して、何も出来ない。それがシエラは悔しくて仕方なかったのだ。 だがそんな時―― 「スワン様ー!」 「なんだい! 今良い所だよ!」 「そ、それが! 外の魔神が突然また動き出しまして!」 「なにぃ!?」 「ソラリア!?」 タクトにとって、そしてシエラにとっても喜ばしい、驚くべき知らせが入ったのだ。 こんな時、願うべくもない喜ばしい知らせが。 「うわぁぁぁあ!」 「ぎゃぁあーー!」 スワンは急いで遺跡の外に出た。 魔神は先程、確実に自分の手で仕留めた筈だった。だがそれが何故か復活して、再び自分の邪魔をしているというのだ。 スワンは思った。いや、願った。あれだけのダメージを与えて立てる筈が無い、と。 だが部下の何かのみ間違いだと願いながら、半信半疑のまま表に出たスワンの目に飛び込んできたのは、上空、遺跡の直上で巨大な火の玉を形成し続ける火の悪魔の姿だった。 「ダメだ! 火が強すぎて、近づくと翼が燃えてしまう!」 「スワン様! 奴に近づけません!」 「えぇい!」 既にソラリアを撃墜しようと接近を試みているファルコ軍の兵士達だったが、ソラリアがチャージする集積火粒子砲の余熱だけで近付く事が出来ずに居た。 「もう一度くらいな! 青龍演舞!!」 魔神相手に部下達ではどうにもならない。 それが分かっていたスワンは、一度倒した自信もある為か、すぐさまもう一度、水龍による攻撃を敢行した。 今度は爪ではない。水龍が真正面からぶつかる、大質量の水による破砕攻撃である。山をも削り、砕く力のある水の流れ。その力をソラリアにもろにぶつけたたのだ。 小さな火球程度一瞬で消し去る水の量。スワンは自信があった。 今度こそ倒した。ソラリアの周辺は水蒸気で何も見えなくなっていたが、そう確信していた。だが…… 「っ! な、なにぃ――!?」 だが水蒸気が晴れたそこには、変わらず火球を構え続けるソラリアの姿があった。 ソラリアの火球はただの火ではない。超高温の火は既にプラズマ状態にシフトしていたのだ。 大質量の水龍(水流)は、鼻先が触れた瞬間に蒸発。いわば水蒸気爆発の状態となって残りの水を吹き飛ばしてしまっていた。 「く、くそ! 青龍乱舞! これならどうだぁ!」 その光景にスワンは戦慄した。水は火に対して相性の良い属性ではないのか?その水属性のトップクラスに位置する力を、水神の神器を手にしたのに、魔神の炎に勝てないというのか。 スワンは今度は水龍を同時に五体出現させて、ソラリアに向けて突撃させた。その威力は山をも砕く力を持とう。 だが…… 「そんな……そんなバカな……くそぉ!」 再び起こる水蒸気爆発。その白いモヤが晴れた空には、ボロボロに成りながらも健在の、蒼穹のソラリアがそこに居た。 スワンが遺跡の方に飛ぶ。その手にした扇から放たれた水龍が、遺跡内から誰かを引っ張り出した。 その人物とはソラリアの守るべき、愛する者。 「おい! こいつを見な!」 遺跡から引っ張り出したのは地球人、久我タクトその人だった。 そう、スワンは再び人質作戦に出たのだ。 「今すぐその炎を消して投降しな。こいつらの命が惜しけりゃね」 「ソラリア……」 だが今度はタクトは暴れたりしない。 タクトも誓ったのだ。絶対ソラリアを守り抜くと。それは人質になってソラリアの足枷になるくらいなら、このまま殺されても構わないと言う覚悟。 タクトは静かに目を閉じてソラリアの名を呼んだ。 「どうした! 早くその火を消せ! こいつが死んじまっても良いのかい!?」 人質のそんな態度に、そして今度は無反応なソラリアの態度に、スワンは今までに無い焦り様を見せる。 もう今のソラリアには人質作戦は通じない。そう踏んだスワンは速やかに、次なる手に出た。 「~~~~来い!」 再びタクトを連れて遺跡に戻るスワン。その心にはもう先程までの余裕など微塵も無く、ただただ一つの感情だけが湧き上がっていた。 (くそ! 一体何なんだあいつは!? 正真正銘の悪魔だとでも言うのかい!?) それは恐怖。 敵わないと言う畏れの感情。 だがこのままそれを認めてしまう訳には行かなかった。負けを認めれば死、あるのみだからだ。 ここまでやった自分を許す者など誰も居ないだろう。ここは何としても・・・ 「おい魔神! 一旦勝負はお預けだよ! 今遺跡は水神の結界で守ってある! 絶対に破れない水神の障壁だ!」 そう、勝てないと分かれば逃げの一手しかない。 タクトを人質としたまま遺跡内を通る地下水脈を使って逃げるのだ。勿論、安全圏まで逃げたら途中で人質は捨てて行くつもりだろう。 「次の勝負まで、こいつはあたいが預かっとく! 追って来たら殺すからね!!」 ここで追わなければタクトは殺される。それがソラリアには分かった。 だからこそっこで引くわけにはいかないのだ。ソラリアはタクトに出会う為、タクトを守る為、気が遠くなる程の悠久の時を超え、ここに居るのだから。 「本当に、その水の結界は破れないんですね?」 ソラリアが言った。 静かに、澄んだ声ではっきりと。 今やこの場には誰も口を聞く者はいない。だからこそソラリアの声はスワンにはっきりと届いたのだ。 「絶対に破れないんですね?」 返事が無いスワンにソラリアはもう一度聞く。 この問いが一体何を意味するのか、スワンには何となく分かった。だが彼女の勝気な性格が、逃げると言う戦術的敗北と呼べる手を取る以上、これ以上弱腰になりたくないと言う気持ちからこう答えるしかなかった。 「当たり前だ! 神の力の前に、己の無力さを思い知れ!」 「分かりました」 「っ!?」 その瞬間、最大限までチャージされたソラリアの集積火粒子砲が遺跡に向けて放たれた。 「きゃーーー!」 「うわぁぁぁあ!」 遺跡の中は物凄い爆音と振動に包まれた。 ソラリアが水神の障壁がある事を無視して、全力で集積火粒子砲を放ったのだ。 「な、何をしている! 全員かかれー! さっさとそいつを叩き落せー!」 その一撃で百層の複雑な水流から成る水の障壁は、第七十層まで蒸発してしまっている。 しかしそれだけの大出力で放ったソラリアも無事とはいかない。一撃目の砲撃で、衝撃を吸収する間接部が悲鳴を上げ、熱量のノックバックで全身至る所が焼け始めている。 それでもソラリアは間髪入れず、次の砲撃準備を進めているのだ。 再び鍵の剣の先に収束されていく火の粒子に、突撃を命じられたファルコ軍の兵士達は次々と翼を焼かれ落ちて行く。 だがそれでも突撃を止めないのは、命令されたからと言うだけではない。ソラリアに対する恐怖が、それを誤魔化す為の蛮勇とも言える攻撃を行わせているのだ。 そして、第二撃目の火粒子砲が放たれた。 『うわぁーーー!!』 凄まじい炎の奔流に群がっていた兵士達がまとめて蒸発する。集積火粒子砲はその発生原理から、砲撃の射線上周辺にプラズマ過流が発生する。それによって大半の兵士が燃え果てた。 そして放たれた第二撃目によって起こった水蒸気爆発も、まだ地表周辺にいた兵士達を薙ぎ払った。 今ソラリアの体は、鍵の剣を両手で支える事も出来ない程ボロボロになっている。撃てば撃つ程自分をも壊していっているのだ。 最初にスワンから受けたダメージが完全に直る前に動き出したツケが出ているのだ。 だがそれでもソラリアは止まらない。 機械の如き正確な砲撃は、水の障壁を一撃目と全く同じ箇所を砲撃する事で、残り三十五層にまで消滅させている。 「み、惨めな女だよ! そんな事をしても、無意味だってのに!」 「恐いのか? スワン」 「く!」 もしもう一度砲撃されれば障壁は持たない。 スワンはまさか神の防御壁が突破されるなど、いや、中に仲間がいるまま砲撃してくるなどと思いもしなかった。 ソラリアの第三砲撃目のチャージは始まっている。このままではスワンが地下水脈に逃げる暇はない。 「や……止めろーーー! ここにはお前の仲間が居るんだぞー!」 スワンが祈るような気持ちで叫ぶ。 だがソラリアは止まらなかった。 「ソラリアーーー!!」 タクトの叫びと共に、ソラリアの最終砲撃が放たれた。 「へ、へへ……バカや奴だよ。神の力に逆らうから……そうなるのさ」 障壁は破れ、遺跡は殆ど跡形も無く吹き飛んだ。 その瓦礫の中、いち早く這い出してきたスワンは、瓦礫の上に転がるソラリアを見下しながらそう言った。 ソラリアは今、瓦礫の上に片手片足を失った状態で転がっている。もうピクリとも動く事が出来ない。 「勝負はあたいの勝ちだ。死ね、悪魔め!」 そんな無抵抗のソラリアに止めを刺そうとスワンが鉄線を振り上げる。その手に纏われる水龍は、小さいながら今の状態のソラリアを殺すには十分な威力を持っている。 その水龍鉄扇を振り下ろそうとしたその瞬間、何かがスワンの手を射抜いた。 「な!?――がっ!」 スワンの手を射抜いたのは矢だった。続けて放たれた矢がスワンの喉に命中する。 「カハッ! ……ガフッ、て……めぇ……」 スワンは鉄扇を取り落とし、喉を貫通した矢を抑える。そしてそのまま喉に溢れる地を我慢出来ず吐血しながら倒れこんだ。 完全に致命傷だ。スワンを射抜いたのは、まだ瓦礫から半分抜け出せていないエルの愛弓だった。 「ソラリン!」 「ソラリア!」 そのエルの後ろからシエラとタクトが駆け出す。目指すはソラリアの所だ。傷ついたソラリアの元に一直線に向かって行く。 「タクト……さん……みん……な……」 タクトに助け起こされたソラリアは、今にも意識を失いそうな弱弱しい調子で辛うじてそう答えた。 「あぁ……ああぁ……こんな、こんな大怪我……」 「ソラリン! しっかりして! 死んじゃ嫌だよぉ!」 タクトもシエラもソラリアのあまりにも酷い惨状に涙が止まらなかった。 あちこちの皮が火傷でめくれ上がり、左手と左足は根元から失われている。残った右足も着地の際ににやられたのか、膝から下があらぬ方向に曲がっていた。 「大丈夫……です。私……何となく分かるんです……自分が……大丈夫だって……」 そんな状態でもソラリアは、気丈に二人に笑って見せた。 「落ちた手と……足を拾って下さい……一週間ほどで……回復しますから……」 そんなソラリアを二人は生きていて嬉しい気持ちと同時に、何故こんな状態で生きていられるのか、一週間で回復するなんて本当なのか、あんな真似が出来るなんて一体何者なのかと言う疑問に思う気持ちで一杯だった。 もしかしたら、自分達はとんでもない事と関わり始めているのかもしれないと言う不安が、二人の胸に去来した。 「ソラ……リン……」 「ソラリア……君は……一体……」 ソラリアが笑顔の中に悲しい表情を見せる。 本当は分かっているのだ。こんな状態でも痛くない、自分はタクト達とは違う”何か”だと言う事が。 「私……一体何なんでしょうね……自分で……自分の事が分かりません」 ソラリアは正直に今の気持ちを伝えた。 目覚めた時、過去の事を何も覚えていなかった。ただ一つ、タクトの事だけは覚えていた。タクトを好きと言う気持ちだけを。 だが一緒に旅をする程にソラリアは思うのだ。自分はタクト達とは違う存在なのだと言う事を。そしてそれがとても悲しいのだ。寂しいのだ。 「でも……お願いです……」 そして実はその事をタクトも薄々考えていた。 意識的に考えないようにしてきたが、今回の件でその事が、もう目を背けられない事実だと言う事を突きつけられた。 それでもタクトは信じたかったのだ。 ソラリアが、自分達と同じ『心』を持っている事を。 「私のこと……嫌いに……ならない……で……」 「ソラリア!? おい! ソラリア! ソラリアぁーーー!!」 ソラリアはその一言を残すと眠りに付いた。 その後三日間、彼女が目を覚ます事はなかった。彼女の傷は宣言通り見る見る回復していった。 だがもうタクトはソラリアを疑ったりはしない。何故ならあの時、「嫌いにならないで」と言ったソラリアの目には、人と同じ涙が浮かんでいたのだから。 ※異世界冒険譚-蒼穹のソラリア- ③ へ行く 前後編読んでみてやはり映画のようなと楽しめた。今度は以前の話も読んでみます -- (とっしー) 2013-01-12 18 39 11 ソラリアならではの要素が多分に登場しますがイレヴンズゲートを基盤に演出されているので違和感なく読んでいけます。序盤から怒涛の展開の切っ掛けになり牽引するスワンのブレなさと存在感は悪役として存分に輝き散りました。かなり痛手を負いましたが分かり合えた面々の次の一歩を次回に期待します -- (名無しさん) 2015-09-27 19 52 22 名前 コメント すべてのコメントを見る -
https://w.atwiki.jp/kotye/pages/397.html
2013年総評案8 大賞 明日もこの部室(へや)で会いましょう ゲー無とネタゲーの頂上決戦。それが2012年のKOTYeの最終局面だった。アーベル・seal・スワンアイと次々と世代交代が進む中、挑戦者は王者となり、また新しい挑戦者を迎え撃つ。それに即してスレとクソゲーの在り方もまた変遷していくという流転する時代、2013年のKOTYeはその真っ只中で始まった。そしてその流れは住人達に休息を許さない。当時のスレはまだ総評審議の真っ最中、後に大賞となる『SEX戦争』で熾烈な争いをしていたスワンアイが『リア充爆発しろ! ~変身能力手に入れたんだけど質問ある?~』で新年早々先陣を切ってきたのである。本作はコミュ障の主人公が変身能力を手に入れ、リア充への逆恨みからヒロイン達を寝取っていくという抜きゲーである。バカ設定は前作『SEX戦争』と同様だが、それらの説明が一切無かった前作に対し今回はちゃんと「ブログで変身エステを紹介されて変身能力を手に入れた」という事を11クリックで説明してくれる。……ここまで開き直られるといっそ清々しくはあるが、それで納得しろと言われても無理がある。シナリオも酷いもので、主人公を見下しているヒロインの彼氏に変身して処女を奪ったら「私の初めてを奪ったんだから責任とってよね」と唐突にデれ、元カレに「私の彼になる人は体だけ求めたりしないの!」と言い放つ。どう見てもちんこに負けただけとしか思えないのだが。また、別のヒロインを教室で辱めたら男子生徒達に輪姦される…と思いきや、先生に見つかって廊下でオナっとれという展開になり、挙句女生徒達はオカズになって和気藹々と射精大会となる。念のために言っておくが、今作は普通の学園なのにこれである。個別ルートも「リア充撲滅計画は進められた」と言った1クリック後には本番に突入し、20クリック程度のHシーンをわんこそばの如く連続で見せられる。EDも一切のオチはなく、リア充撲滅計画については一言も語られないという投げやりっぷりは流石といったところか。肝心のHシーンも先述の通りひとつひとつが非常に短いにも関わらず、その大半が使い回しにしか見えない。ライターのお気に入りなのか「ずっぷ!ずっぷ!ずっぷ!ずっぷ!」「ああ……もう出そう」というテキストが非常に多く、Hシーンの構成は大体喘ぎ声5:主人公のセリフ2:地の分2:ずっぷ1。これで抜けと言われてもどうしろというのだろうか。これらに加えて「セフレをとっかえひっかえしている真性ビッチがなぜか処女」という処女厨への余計な配慮、処女から「処女を奪った責任を取って」と迫られるといったフラグ破綻等も『SEX戦争』から健在である。この通り全方面において低クオリティ少ボリュームを維持しつつ、問題点を改善するどころか更に磨き上げてきた本作は年明け早々から住人達のハートを鷲掴みにした。「ずっぷ!ずっぷ!」「ああ……もう出そう」といった使い勝手の良い名言のインパクトと相まって、本作はウォール・スワンとでも呼ぶべき巨大な壁として後続達の前に立ち塞がった。奇しくも2013年は前年と同じく「前年王者が最強の門番として立ちはだかる」という展開となり、修羅場ゲーのはずなのに修羅場らず「ある意味プレイヤーが翻弄された5人目なのかもしれない」と言わしめた『モテすぎて修羅場なオレ』、同級生ルートの出来が極端に悪く、それが「ディレクターが書いた内容を勝手にライター名義で発表していた」というyatagarasuの『星彩のレゾナンス』等を返り討ちにしていく。だがそこで一昨年の覇者ソフトハウスsealが黙っているはずもなく、『エルフと淫辱の森』で王位を簒奪せんと挑んでいった。本作は2012年において最後まで大賞を争った『くのいち』と同様のFLASHによる横スクロールアクションである。『くのいち』はゲーム性とエロの両面での無価値が問題視され、流石に『エルフ』では改善しようとした跡は見えるが、駄目な子はやはり駄目だった。まずゲームバランスを崩壊させていたジャンプ中完全無敵は廃止されたが、今回は攻撃の薄さの割に無敵時間がやたらと長くボスでも無敵中に余裕でボコれるため達成感のカケラも無いという点では相変わらずである。ミニアニメも任意射精はできるようになったが、着衣エロが廃止されたためエルフものの魅力が殺されておりまた手前側に背景が追加されたせいで時々エロアニメが完全に隠れてしまったりと、せっかくの修正が本末転倒なことになってしまった。流石に通常のHシーンはあるので『くのいち』程商品として致命的ではないが、反省はした事を全く活かせておらず三歩進んで二歩下がるsealはやはりクソゲー界の一番星だなぁということを再認識させた。しかし、僅かなれど内容を改善してきた『エルフ』では更なる退化を遂げた『ずっぷ』を止められるはずもなく、TPSとしての下地はありながら、バルーン風船じみた関節や服も人体も貫通するポリゴン、脱ぎきる前に体力が尽きる脱衣システム等細かいクソ要素がうず高く積み上がることで昨今貴重な笑えて遊べるクソゲーとなっているFULLTIMEの『UNDEROID』前半は延々と続く観光案内、後半は無駄に読み難い駆け足超展開で「とりあえず殺しあってどちらかが生き残って死にました」以上の事が伝わらず、「人の死を取り扱う事の大切さを教えてくれる」と皮肉られたLassの『少女神域∽少女天獄』共々蹴散らされていった。そしてスレにも夏が来る。前作『ひよこストライク!』でそれなりに高評価を得たはずのEx-itが、『逃避行GAME』で『ずっぷ』に追い縋っていった。本作はソフマップの特典ディスクにバグがあったという珍しい理由で延期しているが、事もあろうにその特典ディスクがプレイ不可である。「特典のために延期したのにそれがただのフリスビー」というのはかなり悪質と言わざるを得ず、、解決に二ヶ月もかかっている。本編のバグも多く、例えば初期verでは前作では普通にあったはずの各種鑑賞モードが実装されていない。進行中は背景の暗転やボイスの設定ミスが多く、一部ルートに入れないという深刻なバグもあり、未完成と言われても否定できない代物である。だが、このバグはひとつの奇跡を生んだ。初期verは「名前が???のキャラの音声が『イラッシャイマセー』という女性ボイスになる」というバグがあるが、組織の暗殺者が襲撃してくるというシーンにおいて、自宅のドアを破って侵入してきた身長2m強のむくつけき大男が、 ___銃を向けるヒロインと相対しながら、 |・∀・ |_ イラッシャイマセ-場違いな営業ボイスで『イラッシャイマセー』と延々と連呼するという、 ノ|___| ヽKOTYe史上最高にシュールな寸劇が出来上がってしまった。 / └「互いに互いの言葉を押し付けているだけ。これは会話ではなかった」という地の文もハマりすぎており、当時のスレが爆笑の渦に包まれたことは言うまでもない。生憎とこのバグはパッチで修正されてしまい、その他のバグも順次解決されてはいる。また、肝心のシナリオは尺の短さや伏線の投げっぱなしが目立つものの、メーカー代表が全て執筆したというノルムルートだけは明らかに出来が良かったため、大賞争いからは一歩後退した。だがこのシーンは『イラッシャイマセー』のセリフと共に住人達の心に強く刻み込まれ、2013年を代表するシーンとして語り草となりスレのお客様に対するおもてなしとしてAAと共に定着した。『イラッシャイマセー』がその名の通り熱い夏を招いたか。アニメ以外の全てが古臭い手抜き仕様で、個別ルートでは売春だ発狂だ新興宗教だと不意鬱してくるShelfの『Qualiaffordance-クオリアフォーダンス-』を挟み、スレに現れたのがMBS Truth -Cherish Pink-の『クラス全員マヂでゆり?!~私達のレズおっぱいは貴女のモノ・女子全員潮吹き計画~』である。公式曰く「ユリ好き、レズ好きの方は勿論、男の子が主人公の作品が好きな方にもお楽しみいただける事を目指して製作」した抜きゲーである本作。そもそも精神性を重視する百合と抜きゲーは本来水と油なのだが、本作は困ったことに抜きゲーとしても問題だらけである。まず本作は女性主人公でありながらボイスがないのに、テキストの大半が主人公の妄想独白なのだ。ヒロインのボイスは平均20~30クリックに1回程度とされ、Hシーンでも「首を横に振った」「戸惑った表情を見せた」等の表現を多用。最大62クリックもの間ヒロインのセリフが表示されないのには、製作者側の「とにかくボイス代を削減しよう」という強い意志が感じられる。せめてその妄想が耽美系や甘酸っぱいものならまだ雰囲気も出ようものだが、いかんせんその内容は脳内にちんこが生えているとしか思えないものである。特に幾度となく目にする「ボクの中の雌ライオンが」という表現にはプレイヤーは度々脱力させれることになり、「雌ライオン」は本作を象徴する単語として「ずっぷ」や「イラッシャイマセー」と共に住人達の間に浸透した。これはHシーンで流れる異様に爽やかなBGMが「妄想の大地を翔ける雌ライオンのテーマに相応しい壮大さ」などと評された事からも伺える。本作は他にも下着好きのヒロインが毎回同じパンツ等お飾りにしかなってない設定、百合ゲーとしては余計なお世話でしかない白濁液ぶっかけシステム、セーブデータに依存するため永遠に埋まらない立ち絵鑑賞やゲーム終了以外止める方法が無い高速スキップ等、とにかく調理の仕方を片っ端から間違えた点が目立つ。恐らく昨今の百合のプチブームへの便乗を狙ったと思われる本作だが、お楽しみいただけたのは雌ライオンに魂を惹かれたクソゲーマニア達だけだったようだ。名言といえば『はつゆきさくら』で2012年ベストエロゲー1位を獲得したSAGA PLANETSの『カルマルカ*サークル』を忘れてはならない。本作のあらすじは七つの大罪をモチーフとした「魔可」と呼ばれる特殊能力を持つ若者達が歴史を改編する力を持つという「カルマルカ」を求めるというもの。こう書くと各々が自らの魔可を使って様々な問題に立ち向かう、という内容を想像するだろうが、本作では大半の魔可はシナリオに絡んでこないのである。例えば「大食いになる」という暴食の魔可を持つヒロインは個別ルートに入ると「父親が不祥事を起こしたせいで人殺しの娘と呼ばれている」という設定が追加され、魔可は数クリック程度しか話に上らなくなる。また、「いらないものを買い漁る」という強欲の魔可を持つヒロインも魔可の話はルート突入前に片付き、主人公は「喧嘩はできない」と言いつつ「噛み付きや絞め技なしで殴り合って起き上がれなくなったほうが負け」という勝負を受けて立つ。このように本作の個別ルートは摩可とカルマルカをまともに取り扱わず、説明不足と超展開が付きまとう突っ込み所満載のシナリオが展開されるのだ。そして更に問題なのが、これらの設定がトゥルーシナリオでは完全に食い違っていることである。個別ルートで「カルマルカとかどうでもよくね?」と言っていたヒロインは自らの魔可にやたらと執着するようになり、父親に敷かれたレールに従ってきただけというヒロインは逆に金だけ渡されて無視されてきたという設定に摩り替わる。激怒した時しか魔可が発動しないはずの主人公は素で小石を握り潰し、箱の中から出てきた重要な手紙は跡形も無く消えうせる。このシナリオ間の整合性の無さこそが『カルマルカ』の真骨頂であり、個別ルートに耐えてきたプレイヤーを嘲笑うかのごとくカオスの坩堝に突き落とした。その出来は選評者をして「笑い所のないチャージマン研を見ているようだった」とまで言わしめた程で、いかに本作のシナリオが破綻しているかがわかるだろう。こんな内容で公式ジャンルは「ハッピー&スマイルADV」という空気読めないものなのだからプレイヤーが憤怒の魔可に目覚めるのも致し方ない。 Sノこのような経緯で本作は皮肉交じりに『ハッピー&スマイル』の異名で呼ばれ、 (&) ハッピー&スマイル! 2013年を代表する名言のひとつとして住人達に一時の癒しを与えたのだった。 H ~ だが、その日にはそれ以上の問題作が世に放たれていた。 それが大豊作と呼ばれた2009年ベストエロゲーで1・2位を飾った大傑作『バルドスカイ』の続編にて前日譚、『バルドスカイゼロ』である。 本年は他にも言動に問題がありすぎるヒロインや素人丸出しの経済知識など爆弾になりうる要素を多数抱えたensembleの『お嬢様はご機嫌ナナメ』 いくらニトロプラスといえど捻くれているにも程がある内容で賛否真っ二つの「純愛」ゲーの問題作『君と彼女と彼女の恋。』等 物議を醸す作品の選評も多かったが、それらと比較しても本作のマイナス面は飛びぬけていた。 本作はエロゲ屈指の名作ACTと名高いバルドシリーズの最新作だが、原画とライターが本編とは別人であり、そもそもメイン開発がTEAM BALDRHEADではなく外注である。 長年かけて築き上げた看板タイトルを平然と投売りするだけでも正気を疑うが、その中身は眼を疑うようなものだった。 本シリーズの売りは多彩な武装によるコンボの組み立てにあるのだが、 本作では武装の数を大幅削減された上に適当に連打すればラスボスも5秒で沈むため、コンボゲーとしての魅力が決定的に失われている。 難易度調整も自爆ザコの大量配置で済ませる等作りこみが極めて甘く、名作ACTが見る影も無い。 シナリオは輪をかけて酷い。『マテリアルブレイブ』が限界まで薄めたジュースなら、こちらはドヤ顔で出されるドリンクバーのブレンドとでも言おうか。 恐らく皮肉でハードボイルドなテキストを目指したのだろうが、その内容は無駄話を延々と続けてから取ってつけたように辻褄を合わせる冗長な展開が非常に多い。 一方で選択肢が「誰のルートに分岐しますか?」という身も蓋もないものだったりと、随所に書きたいものしか書かないというライターの独りよがりが見て取れるのだ。 キャラクターの扱いも「見た目は大和撫子、中身はハートマン軍曹のメインヒロイン」などはまだマシな部類であり、 悪ぶった皮肉屋のつもりで書いたであろう主人公は暴言とセクハラしか口にしない不快な人物になってしまっている。 そして最大の問題が、前作主人公・甲をモヤシや馬鹿扱いしたり「市民を大量虐殺した」という後付け設定を加えるなど事ある毎にディスることだ。 中でも最悪なのが、あえて怒らせるためとはいえ今作主人公が甲の最大のトラウマである「恋人が目の前でドロドロに溶けて死んだ」事を 「今なら動画もあるぞ?見てヌいちまうのが怖いのか?ああ、やっぱ駄目だ。溶けて混ざって白い恋人になっちまうもんなあ」と嘲るシーンである。 外道に定評のある歴代ヒールですら裸足で逃げ出すような下劣な暴言に前作プレイヤー達が絶句したのは言うまでもない。 以上のように本作はゲーム面は外注任せの劣化品、シナリオ面はライターの傲慢さと自己顕示欲が鼻に付き、 遊べないことはないものの製作側がファンも作品も愛していないということがひしひしと伝わってくる出来だったのである。 極め付けに発売前から「分割するほどのボリュームではない」と公言しながら本編に多数の謎を残し、発売1ヶ月後には『バルドスカイゼロ2』を発表。 そのあまりにも不誠実な横紙破りにファン達の怒りは爆発し、本家本元の戯画マインの威力を住人達に知らしめたのだった。 季節は移りクリスマスの夜、住人達へのプレゼントに2本の選評が届けられた。 一本目はALcotハニカムの「奇数作は良作の法則」を打ち破ってしまった『赤さんと吸血鬼。』である。 捨てられていた赤ちゃんを仲間達と育てていく、という素材は魅力的でCG等の質も高い本作だが、これは肝心のシナリオ面が駄目すぎた。 一に心理描写がとにかく薄く、キャラクター達は場面を盛り上げることも内面を掘り下げることもない。 二に構成が素人が編集したダイジェストのように下手で、何の前触れもなく場面が飛ぶせいで状況が掴めなくなる事が多々ある。 この二点が噛み合った結果生まれたのは、ポルナレフが発狂するレベルで頻発する「どうしてこうなった」の極みである。 中でも、寮が停電→昼の屋上→マンコくぱぁがわずか3クリックで展開されるシーンの意味不明さはゲームか頭ののバグを疑うレベルである。 肝心の赤さんは本筋には殆ど絡まず、ラストバトルは後付設定のみで進行する等、折角の設定もまるで機能しておらず、 選評では「得られるものは赤ちゃんの育て方とスウェーデンの豆知識とエロシーン20枠のみ」と言われる有様だった。 二本目は7月の発売から遅れて届けられたスワン系列ブランド黒鳥の『雨音スイッチ~やまない雨と病んだ彼女そして俺~』である。 本作はKOTYeでは珍しくCG面が「悪い意味でメリハリが効いている」と評されているが、当然それだけでKOTYeの門を潜れるはずもない。 問題は折角のアニメ回想がリストカットや首を絞められるシーン等で8割も使用されており、直接的なエロには全く使用されていないということであり エロゲーとしてそこはどう考えても力の入れ所を間違っているだろとツッコまざるを得ない。 また本作は愛に狂ったヤンデレではなくお薬必須のメンヘラの話であり、そこを履き違えると手痛い目に合う。 特に「主人公の母親の葬式にウェディングドレスで現れて遺影に向かってブーケトス」というシーンには、さしもの百戦錬磨の住人達も動揺を隠せなかった。 このようなセンスに先述の誰得アニメや不安定な絵柄が加わることで、本作は他に類を見ない独特の気持ち悪さを醸し出しており 副題にやまない雨~とあるがそれはプレイヤーの疑問の雨がやまないという意味か、と思わせる代物だった。 このタイプの違う2本のクソゲーの後、スレはいよいよ魔物の潜む年末を迎えることとなる。 年も暮れの12月27日、滑り込みでその殻を破って襲来したのがEx-itの本年2本目となる『雛といっしょ』だった。 本作は『ひよこストライク!』のヒロインである神楽鳥雛にスポットを当てたファンディスクであり、 発表から発売まで約2年、マスターアップは発売日一週間前、更にその数日後に発売延期している。 もっともマスターアップ後の延期は『ひよこストライク!』『逃避行GAME』に次いで3回目だったためその程度で驚く信者達ではなかった。 だが、購入した現物がどう見ても開封済みのクタクタのシュリンクだったとしたら話は別である。 これは梱包後にお詫び状を手作業で封入した為であり、その内容は「ゲームが進められないから後でパッチ出します」というものだった。 インストール前にこれだけ畳み掛けてくる作品も前代未聞だが、インストール後はプロローグ終了後100%強制終了するのだから洒落にならない。 もはやこれはゲー無ですらない「 − 」だ、とまで恐れられた本作だが、ここから一週間の間のメーカー対応で更に拍車をかけることとなる。 まず修正パッチの配布予定を「28日は電気街祭りがあるから29日にがんばって30日に出します」と発表。 あの『学園迷宮』ですら進行不能バグは発売当日に修正されたというのにである。 企業倫理や社会常識の欠片もない対応に呆れ返る住人達だが、Ex-itはその日程すらも守れなかった。 29日にはバグの原因が突き止められません。 30日にはやっぱり31日の20時にさせてください。 31日にはミラーサイトの担当者と連絡がつかないので1月1日の15時にさせてください。 ……期限をダラダラと先延ばし、その度に見苦しい言い訳をする有様は「宿題やってきたけど家に忘れてきました」という小学生そのものである。 1日には一応修正パッチ1.10を出したものの特定ルートは相変わらず進行不能で、 2日には本日夜から翌日の早朝にver.1.20を出すと宣言し、同時に1.10の公開を停止。 3日の18時にようやく修正パッチ1.20が公開されたが、一連の流れとパッチ解析の結果から未完成品であることを隠蔽しようとしていた可能性が浮上した。 ……この予定の時刻が迫る度に「次は何を言い出すのか?」とライブ感覚でワクワクし続けた年末年始の一週間は、2013年度の本スレが最も沸いた一週間であった。 ゲームの内容自体はボリュームが少ないだけのファンディスクに落ち着いたものの、 その対応の酷さから本作は『雛遺書』と称され、『イラッシャイマセー』と相まってEx-itは2013年スレを最も騒がせたメーカーとして認知された。 「Ex-iTから「-」を投げ捨てた結果、遺書を残して業界からEXITしリアル逃避行Gameしないか」とはうまいこと言ったと膝を打つばかりである。 かくして雛遺書騒動は幕を閉じ、年末の魔物は去っていった。 ……だから、『雛遺書』が開けたその孔から名状しがたいクソゲーが這い出てきていた事など、この時は誰も気付くはずも無かったのだ。 7月にひっそりと発売され、ネット上にひとつの感想も見つからなかった、遅れてきたバイオハザード。 それこそがミルクプリンの『明日もこの部室(へや)で会いましょう』であった。 本作のあらすじは「廃部寸前の写真部を立て直すため主人公が奔走する」というよくある部活ものである。 だが本作は全体の9割が共通イベントでありながら、その内容は無味乾燥なカメラ談義等に終始し、ヒロインとの親交やキャラの掘り下げが行われない。 主人公も「女性が苦手」のはずが煩悩全開という某鷹棒のような人物であり、 その設定の乖離っぷりは公式サイトの紹介文と本編の間に齟齬のある箇所を塗りつぶすとヤバい機密書類のようになる程だった。 また、本作には極めて意地の悪い罠が仕込まれている。ヒロインを選択した時点でバッドエンドが確定するイベントがあり、それが完全なノーヒントなのだ。 その内容はヒロインが男に絡まれているのを目撃するというものだが、目撃したからといってその男がシナリオに絡んでくるようなことは一切無い。 特に先輩の許婚らしき男はそのシーン以外では話の端にも上がらないため、主人公が観測したときのみ存在が確定するシュレディンガーの許婚ではないかと推察された。 バッドエンドの内容も「写真部は存続したけど主人公は居場所がなくなり卒業式の日に身を投げる」というもので、 なにも男見ただけで身投げせんでもと思ってしまうのも無理はなかろう。 そんな苦行めいたシナリオを超えて辿り着ける、感動のエンディングをここに紹介しよう。 結ばれた二人は昼も夜も無く愛し合いながら写真を撮り続け、気付けば数年が経過していた。 二人はヒロインの親類の持ち物だった洋館に居を移しており、プレッパーだった彼等の住居には5年分の食料等が用意されていたのだ。 その生活の中二人は一年中全裸で暮らすようになり、人が来たら服を着なけりゃなんて心配をしていた彼らの元に学園祭の招待状が届く。 だが町では今、細菌テロが発生して地獄絵図となっており、部室に行くのは大変そうだ。 ヒロインが2年前の服のサイズが合うかを気にする傍ら、主人公は持ち物に弓矢は必須だとワクワクしていた。 果たして、無事に明日、部室で会えるかどうかは、誰にもわからない。 ……何を言っているかわからないと思うが、筆者も未だにわけがわからない。だが、これが起こった事ありのままの、本作の正規エンドなのである。 なぜ全裸なのか、なぜそんな都合の良い親類がいたのか、なぜバイオハザードが発生しているのか。 なぜそんな状況で学園祭が行われるのか、なぜ今になって部室に行こうとするのか。 なぜそこで2年前の服が着られるかなどと心配しているのか、なぜ今更タイトル回収に走るのか。 それらに関する説明は一切無く、我々は確かに自らの正気が削られていく音を聞いたのである。 他のエンディングも「あえて脱ぐことで、知性を証明しようよ」と裸族生活に走る等意味不明であり、 そもそもバッドエンド以外では部が存続した事が明言されない。 後に開発元のミルクプリンはプレイヤーの意表を突く事だけに本気を出すような会社であると判明するのだが、 それを知らなかった当時の住人達にこのエンディングはいささか冒涜的すぎたと言えよう。 もうひとつ外せない話がある。本作の主人公の名前は公式サイトでは「樫尾 光」とあるが、ゲーム内のデフォルト名は「勇次郎」である。 これは主人公の名前が変更できる為に起こったミスだと思われるが、その名前はある操作により255バイトまで入力できるのだ。 この事が判明するや否や本作は瞬く間に住人達のおもちゃとなり、スレにはずっぷだのイラッシャイマセーだのが詰め込まれたSSが多数投下され、大きな笑いを提供してくれた。 以上の通り本作にはコンプまで約6時間という小さな躯の中に想像を絶する渾沌が詰め込まれており、 雛遺書騒動で幕を閉じたと思われていた2013年がまだ始まってすらいなかったということを知らしめたのである。 深淵の扉を潜ったのは『部室』だけではない。年の瀬も押し迫る12月30日、2年間の眠りから目覚めたクソゲー界の巨人・アーベルが ウォール・スワンを突破せんと姉妹ブランドRed Labelより『JK辱処女〜純粋な心の持ち主ほど処女を好むという法則〜』で進撃してきた。 本作は三十路ニートの童貞主人公が女子校生に偶然落とした教科書を拾ってもらった事から仲良くなり様々なプレイに興ずるという抜きゲーである。 なぜ三十路ニートが教科書を持ち歩いていたのか気になるが、本作の序盤は場面ジャンプが多発するためその程度は些細なことなのだろう。 Hシーンでは一連のシーンでずっと同じイベントCGが表示されるためテキストとの齟齬が頻繁に起こり、 中でも初体験のシーンでは胸だけはだけたCGが実に111クリックもの間表示される。 これは当該シーンの約3分の2にも及び、プレイヤーはちんこ出したまま微動だにしない画像を眺めつつ延々とクリックするという羽目になってしまった。 また、画像面では決して欠かすことの出来ない問題がある。 ヒロインのクリトリスを愛撫して興奮していく様が、妙にクオリティの高いエダマメのCGが赤く変色していくことで表現されるのである。 この他にも腕に媚薬を注射するときにはエダマメに注射、主人公が勃起したときはエダマメが剥けて露出など 性的描写を事ある毎にエダマメで表現するというド謎極まるセンスは住人達に凄まじい笑撃を与えた。 これは経血で血まみれになりながらセックス、主人公がペニバンで掘られる等のどこを狙ったのか理解に苦しむプレイがあることにも見てとれる。 ラストシーンではヒロイン出産の際に「この子が幸せになれるためにも俺が最初の男になるべきなんじゃないか」などと言いだし 「どこが純粋だタイトル否定か」「いや純粋だろう純粋な悪だが」と物議を醸すという一幕もあり、その迷走ぶりをいかんなく発揮した。 ただ、本作はアーベルお得意の差分水増しや「ダウンロードランキング第一位獲得!」という誇大宣伝等はあるものの かつて猛威を奮ったストレスフルなシステムやアペンド商法は影を潜めている。 むしろ間違った方向に全力を注いだ事でスレを熱狂させた愛すべきクソゲーとして生まれ変わっており、 新生アーベルの門出を祝うに相応しい一本として住人たちに受け入れられた。 『雛遺書』が呼び寄せた魔物はこの2本だけに留まらず、 同系列の『マジゆり』同様、「……」「!!」等のセリフを多用しボイス削減の限界に挑戦した結果、会話が殆ど成り立っていない One-upの『聖ブリュンヒルデ学園少女騎士団と純白のパンティ ~甲冑お嬢様の絶頂おもらし~』 退屈で冗長な展開とライター間の整合性が取れていない内容に加え、同ライターの別ブランド作から設定を引っ張ってきた GLaceの『Timepiece Ensemble』 公式サイトの「主人公の部室」「いい肉な妹日」等の誤字が強烈で、内容は妹のいない妹ゲーとでも言うべきものである fleur-softの『妹*シスター -My sister-』が立て続けてに登場。 更にはフリーモードに面倒な設定が必須の割に作りが荒く、雑な喘ぎループによる空耳から「タノシイネー、タノシイネー」と揶揄された ILLUSIONの『プレミアムプレイ ~ダークネス~』 前作の財産であるMODの互換性がなく、「バイキング形式だと思ったら皿だけ配られた調理スペースだった」と例えられた Bulletの『3D少女カスタムエボリューション』 痴漢ゲーのはずなのに無人の車内や授業中の教室で堂々とセックスを始める REALの『いたずら学園』 の3Dゲー三羽烏が舞い降り、最終的にわずか一月の間に合計8本、受付締め切りの3時間前まで選評が届き続けた。 この過去最大の選評ラッシュにより、2013年は最後の最後まで大盛況のままその幕を下ろしたのである。 それでは、全ての作品の紹介を終えたところで本年の大賞を発表する。 次点は 『リア充爆発しろ! 〜変身能力手に入れたんだけど質問ある?〜』 『バルドスカイゼロ』 『雛といっしょ』 『JK辱処女〜純粋な心の持ち主ほど処女を好むという法則〜』 そして大賞は 『明日もこの部室(へや)で会いましょう』 とする。 2013年は当初こそ名言は多いが静かな年といわれていたが、終わってみれば1月から12月まで全ての月にエントリー作が現れ、 その多くが他に替えがたい強烈な個性を持つという非常に見ごたえのある年だった。 故に次点は基本に立ち返り、過去のKOTYeにおいて大賞を決定付けた要素を極めたものから選出した。 前作スタッフを全員外してどうしてこんなものを作ろうと思ったのか問い詰めたい『バルゼロ』は怒りと不快の頂点を。 進行不能バグと見苦しいスタッフ対応を両立しスレを多いに盛り上げた『雛遺書』はゲー無以下の無価値と最強の盤外戦を。 エダマメでの性表現等努力をあさっての方向に向けて全力でコースアウトした『エダマメ』は愛すべき笑いの真髄を。 そしてそれらと比較しても、手抜き・超展開・ネタ性などクソゲーとして必要とされる数々の要素を併せ持ち、かつその内容が 「そして……俺は超能力を手に入れたのだった。」 「ずっぷ!ずっぷ!」 「ああ……もう出そう」 の3行だけで説明できてしまう完成度を持ち、一年通して住人達を楽しませ続けた『ずっぷ』は抜きん出でていた。 しかし、そんな最強の門番を『部室』は易々と飛び越えてしまったのである。 本年は『ずっぷ』を始めシナリオ面での問題作が多く、それらはいわば「説得力の欠如」に集約されるもので、何をしたかったのかという意図自体は予測できる。 だが『ずっぷ』がソードマスターヤマトなら『部室』はドグラ・マグラ。 本作はそもそも伏線や整合性といったものを端から投げ捨てており、不快や苦痛といった枠を超えて住人達のSUN値を直接削りに来ている点が決定的に異なる。 また、KOTYeの本質たるネタスレという側面から見ても、本作は申し分ない格を備えている。 裸族やバイオハザードといった大技はもちろん、シュレディンガーの許婚のような小技や名前バグのような盤外技まで備えており、 総合的な低品質を維持しながらどこを突いてもネタが飛び出るという内容はこれまた『ずっぷ』にも劣らない。 この通り、全く新しい衝撃をスレに持ち込みながらも歴代作品に劣らない風格を備えていた本作は、 実に『アイ惨』以来となる有効総評の全てが満場一致という結果を以って、堂々と大賞の栄冠に輝いた。 2013年は伝説級のタイトルこそ無いが、バグや未完成商法に頼らない各々の武器を持つクソゲー達が鎬を削るという KOTYeにとってはひとつの理想と言える恵まれた年だった。 長らく大きなヒット作が現れず、不作と言われ縮小を続けるエロゲー業界ではあるが、名作とクソゲーはいわばコインの裏表。 数多のクソゲーが生まれるとき、名作もまた生まれることを信じて、2014年もまた個性的なクソゲー達に出会えることを祈ろうと思う。 最後に、『部室』を始めとするスレを賑わせた作品達とそれに関わった全ての人々に次の言葉を送ることで 2013年クソゲーオブザイヤーinエロゲー板を締めたいと思う。 『ああ……明日もハッピー&スマイルが出そうなこの部室(スレ)にイラッシャイマセー!』
https://w.atwiki.jp/shinmanga/pages/56.html
Night And Daylight ◆L62I.UGyuw その工場はウィンリィの予想よりも遥かに大きかった。 照明が煌々と辺りを照らし、役目を終えようとしていた星々を一足早く追放していた。 内部からは機械特有の微細な振動と微かな重低音が響いてくる。 山林の真っ只中にある工場なんて大した規模ではないだろうと高を括っていたウィンリィは驚く。 この広さだと工具を探すのも一苦労だろう。 「なんかワクワクするなあ」 そんなウィンリィの考えをよそに、開け放たれた入り口から躊躇なく工場の中に入っていくルフィ。 「あっ、ちょ、ちょっと、ルフィ。もう少し慎重に……って、ああもう! 待ちなさいって!」 ルフィの能天気さに呆れながらもウィンリィも後から慌ててついていく。 (罠があるかも、とか考えないのかな) そう思ったが、きっと考えないんだろうな、と勝手に自己完結する。 ウィンリィは工場までの道中でルフィの性格を大まかには掴んでいた。 一言で言えば竹を割ったような性格だ。大まかな方針だけ立てて突き進む、ある意味最もリーダーに向くタイプ。 おそらく罠の存在なんて考えてもいないし、万が一罠にかかったとしても力業で打ち破るつもりだろう。 正直、心労が溜まりそうではあるが、裏切られたり裏切ると疑われたりする心配もあまりない。 それと被っている麦わら帽子は昔恩人に貰ったものらしい。その点だけでも情に厚そうだと思える。 こういう状況では有難い相手なのかもしれない。 それがウィンリィのルフィに対する印象だった。 工場内部は奇妙なほど清潔感に溢れていた。 白を基調とした通路。その天井には規則正しく蛍光灯が点いていて、アクリルの床に歪みなく映りこんでいる。 通路は迷路というほどではないがいくつも枝分かれがあり、たまに大型の機械類や機材が並ぶ広いスペースがあった。 分厚いガラスがはめられた窓から時折見える工場中央部では、不自然なほど綺麗な銀色の機械が幾つも連動して動いている。 機械の間には所々コンベアがあり、それなりの大きさの物体を運んでいるようだが、よくは見えない。 「おー、すげェなあ。なあ、ウィンリィ、見てみろよアレ。カッチョいー!」 ルフィは見たこともない設備に大はしゃぎしている。 「あー、工場見学は後でさせてあげるから。今はちょっと我慢して付いてきてよ」 あからさまに不満そうな顔をするルフィ。ウィンリィはそんなルフィを宥めながら先を急ぐ。 ここを拠点にするにせよ、放棄して他の場所へ向かうにせよ、とりあえず今は工具を手に入れるのが先決だ。 工場を詳しく調べるのはそれからでも遅くはない。 目を離すとすぐにどこかへ行こうとしたり、機械にフラフラと吸い寄せられそうになったりするルフィを半ば無理矢理連れながら、 ウィンリィは工場の外周を通って入口の反対側付近まで来ていた。 いくつ目か分からない分かれ道の片方の先には非常口がある。 そこから少し歩くと、前方に “STAFF ONLY” と書かれたドアが見えた。 「ここ、かな。開いてるとは思えないけど……」 いざとなればルフィに破壊してもらえばいい。 彼の冒険譚が事実なら――嘘を吐いているとは全く思っていないが――こんなドアの一枚や二枚軽々と壊せるだろう。 そう考えながら、取り敢えずウィンリィはノブに手をかけ、捻る。 ガチャリ。 ウィンリィの予想に反してドアはあっけなく開いた。 「あ、あれ?」 「なんかあったのか?」 「あ、うーんと、普通こういうところは簡単には入れないようになってると思うんだけど……。 でもそういえば工場の入口も開いてたし、どうなってるんだろ」 考えてもいても仕方がない。そう思ったウィンリィは中へと進む。 モニターが並ぶ短い通路。その一番奥に作業員用の部屋があった。 ウィンリィはすぐには中に入らずに入り口から室内の確認をする。 左手にロッカーが並び、右手には小さな机や棚、テレビなどが設置されている。 部屋の中央には木製のテーブルがあり、その上には軍手とスパナ、そして花瓶が置かれていた。 ここならちょうどいい工具がありそうだ。そう思ったウィンリィは室内に踏み込む。 「なあなあ、ウィンリィ。ちょっとその辺見てきていいか?」 探検したくてたまらないといった様子のルフィ。この部屋にはあまり興味は無さそうだ。 ウィンリィはテーブルの上のスパナを弄びながら少し考えて答える。 「はぁ……まあいいわよ。でもあんまり遠くへ行かないでよ? 何があるか分かんないし。 あと機械にはむやみに触らないこと。それと……って聞け――――――!!!!」 「おぶッ」 忠告を華麗に受け流しつつ部屋から出て行こうとしているルフィの後頭部に、ウィンリィがブン投げたスパナがクリーンヒットした。 「はぁ……ルフィ、いい人なんだけど何か緊張感が削がれるというか……」 ウィンリィは気を取り直して室内の探索を始める。程なくして一つのロッカーの中に工具箱が入っているのを発見した。 ドライバー、マイクロメータ、はんだごて…………とにかく役に立ちそうな工具を片っ端からデイパックに放り込む。 デイパックには何故かいくらでも物が詰め込めた。 それにしても――と、室内を物色しながらウィンリィは考える。 機械鎧技師だからこそ分かるが、この工場の設備は自分達の技術の遥か先を行っている。 回収した工具一つとっても、規格の精密性の桁が二つは違う。 そして――この首輪はそれらの工具を使いこなす知識と技術をもってしても解除できないのだろう。 デューク東郷の言っていた通り、参加者が首輪を簡単に解除できるようではゲームは成り立たないのだから。 それに、明らかに物理法則に反しているこのデイパック。これはルフィの言っていた悪魔の実の力なのだろうか。 そうだとすると――いや、そうでないとしても、首輪にもこれに類する力が働いている可能性が高い。 例えエドやアル達錬金術師と合流できたとしても、そんな未知の技術を何とか出来るんだろうか――。 「……いやいや、弱気になってどうする!」 そう、『完璧な技術』などあり得ない。ウィンリィは経験でそのことをよく知っている。必ず穴はある筈だ。 一人では無理でも皆で力を合わせれば絶対にここから脱出できる。 そのためにも、やはり一人でも多く仲間が欲しい。そうウィンリィは思う。 それから数十分。ウィンリィは部屋中を探索し終えていた。 デイパックの中には工具一式の他に金属クズも入っている。これらを悠長に加工している暇はないが、錬金術師なら有効活用できるだろう。 「うーん、ま、こんなものかな…………ルフィ?」 物音。 ルフィが戻ってきたのだろうか。 「……ルフィ?」 さっきより少し大きな声で呼ぶ。返事はない。 仕方なく部屋から顔を出す。 しかしそこにいたのは巨大な十字架を持ち長い白髪を蓄えた黒い怪物だった。 「え?」 固まるウィンリィ。 怪物はゆっくりと長い爪を振り上げる。 ウィンリィの頭の中に警報が鳴り響く。しかし体は依然として動かない。 怪物の爪の動きがピタリと止まる。 ウィンリィの脳が発した『逃げろ』という指令に体が反応したその瞬間、無情にも怪物の爪が振り下ろされた。 ***** 「あれ? ここどこだっけ?」 案の定、と言うべきか、ルフィは道に迷っていた。 ただでさえ特徴の無い通路と理解の出来ない設備の組み合わせ。その中を興味の赴くままにうろついていたのだから当たり前ではある。 帰ろうとするものの、来た道など既に覚えてはいない。首を傾げてどうすべきか考えるルフィ。 「……ま、どうにかなるだろ」 もちろん何も思いつかない。 それでも持ち前の楽観思考で適当に歩き回る。 しばらくうろついていると、コンテナがいくつか積み上げられた、少し開けた場所に出た。 「ん?」 ばったりと。そこで人に似た形をした黒い怪物に遭遇する。互いの距離は十メートル程。 怪物は何故か巨大な十字架を抱えていた。 ルフィが黙って怪物の方を見ていると、 「お」 目が合った。 黒い怪物は緩慢な動作で十字架の下部をルフィに向ける。 「?? こんにちは」 ドガガガガガガガガガ 返事の代わりに返ってきたのは鉛玉の雨嵐。 攻撃を予想していなかったルフィはほとんどの弾をまともに食らう。が、 「効くか――――――――――――!!!!」 気合の入った叫びと同時に、ルフィの体にめり込んだ弾が一気に周りに弾け飛ぶ。 「あー、びっくりした。 おいお前、いきなり何すんだコノヤロー!」 答えず、十字架を回転させようとする怪物。 だが、 「“ゴムゴムの銃”!!」 その動作が完了するよりも速くルフィの腕が長く伸び、怪物に襲いかかる。 十字架を盾のように目の前に掲げる怪物。そこにルフィの拳が直撃した。 並の銃器ならば粉々になるところだが、十字架は鈍い音を立てるのみ。 そしてルフィの腕が戻るその一瞬に、怪物は息を吸い込み、炎を吐き出した。 「うわっち!!」 すんでのところで空中に跳んで回避するルフィ。 だが空中では身動きが取れない。そこを狙って怪物が十字架からロケット弾を発射する。 「こんにゃろ」 ルフィも負けじと腕から乾坤圏を放つ。空中で乾坤圏とロケット弾が衝突し、派手な爆発が起こった。 一瞬、辺りが爆炎と轟音に支配され、お互いの姿を見失う。 着地した直後、視界が晴れるのを待たず、ルフィは突撃する。無謀なようで合理的な判断。 「“ゴムゴムの”」 黒煙の中から飛び出してきたルフィを見た怪物は再び十字架を盾にする。しかし、 「“回転弾”!!!!」 ルフィは構わずその上からコークスクリューブローを叩き込む。 ゴムの弾性を十分に利用した一撃は十字架をひしゃげさせ、その衝撃を背後の怪物にまで伝えた。 怪物の体は十メートル以上弾き飛ばされ、壁に叩きつけられた。 ズルズルと床に崩れ落ち、動かなくなる怪物。 「何だったんだ? コイツ。 ……お、これかっこいいなー」 怪物が手放した十字架状の武器を拾い上げるルフィ。変形してはいるものの、盾としてはまだ十分に使える。 「あ、そうだ。早く戻んねェと……」 そのとき、遠くで悲鳴、そして発砲音が上がった。 ***** 「ハァ……ハァ……。何よ、アレ……」 出会い頭の爪による斬撃がコートで受け止められたのは僥倖だった。 しかし無我夢中で逃げ出したものの、後ろから断続的に発砲音が聞こえてくる。後ろからあの怪物が追いかけてきているのは間違いない。 だが、怪物はそれほど俊敏なわけではなかった。射撃だって距離があればそうそう当たるものじゃない。 うまく逃げれば撒ける。ウィンリィはそう信じて必死でアクリルの床の上を走っていく。 「というか……ルフィはどこまで行ったのよ!」 ウィンリィはてっきりルフィが近くにいるものと思い込んでいた。 ルフィをよく知る者なら、ルフィが大人しく付近をうろつくだけで済むはずはないと分かっただろうが――出会って数時間のウィンリィにそこまで分かるはずもない。 機械の並ぶ広めのスペース。 そこに差し掛かったとき、突然、ウィンリィの右斜め前方で爆発が起こった。 爆風の余波を受け、ウィンリィは悲鳴を上げて床に転がる。 その拍子に近くに置いてあった機材に頭をぶつけた。 「う……痛っ……何が……」 ぱたたっ、と血が頭から数滴床に滴り落ちる。 爆発と頭への衝撃の影響で三半規管が麻痺し、思うように立ち上がることが出来ない。 それでも、ここで黙っていては怪物の餌食となることは確実。 ウィンリィは自らの生存本能に従い、尺取虫のようにのろのろと這って進む。だが、 「あうっ!」 突然、背中に鈍痛が走る。首を捻って見ると、ウィンリィの努力を嘲笑うかのように怪物が背中を踏み付けているところだった。 死。そんな単純で絶望的な単語が頭を過ぎる。 そして怪物の長い爪がウィンリィの首筋を捉え―― 「おれの仲間に、何してんだァ――――!!!!」 その横合いからルフィが怪物を思いきり殴り倒した。凄まじい勢いで床に顔面から突っ込む怪物。 たった一撃、それもただの無造作なパンチで怪物は動かなくなった。 ルフィはしばらく倒した怪物を見つめていたが、やがてウィンリィに向き直り手を差し伸べる。 「おい、大丈夫か? ウィンリィ」 「あ……う、うん。ありがと、ルフィ」 ルフィの常識外の強さに呆気に取られていたウィンリィだが、すぐに気を取り直してルフィの手を取った。 「まだちょっと頭がクラクラするけど……とにかく、外に出ましょ」 「ん。分かっ――あぶねェ!!」 ルフィは唐突にウィンリィを突き飛ばし、自らも体を捻る。 「キャ、な、何――」 ウィンリィが抗議の声を上げようとしたその瞬間、彼女の目の前を三本の光の帯が通過した。 その一本がルフィの脇腹を掠め、肉を浅く抉る。 「ウギッ。痛ってー……」 ウィンリィの背後を狙った奇襲。 「こーやって使うのかよ。なかなか面白ぇ玩具だなァ」 帯の発生源を見遣る。 漆黒の巨躯。虎を思わせる風貌。顎を貫く三本の刃。そして何より全身から発せられる凶悪な邪気。 そこには暴力の権化が傲然と立っていた。 (なに、あいつ……。獣が喋ってる? もしかして、ホムンクルス?) しかしよく見ると怪物は体中に火傷らしき傷を負っている。 聞いた話だとホムンクルスならその程度の傷は即座に回復するはず。 だとすると、これはまたホムンクルスとは別の何かなのだろうか。 こちらに向いた怪物の左腕は太った蛇のような物体と同化していて、蛇の先端の円の中には『番天』と刻印されている。 先程の光の帯はその蛇から発射されたのだろうか。 そんなことを考えていたウィンリィだが、怪物の言葉に思考が中断される。 「フン、人間にやられるたァ、やっぱり黒炎はアテに出来ねぇようだな。 面倒臭ぇがこの紅煉が直々に引き裂いてやるよ」 紅煉と名乗る漆黒の怪物は左腕を下ろし、特に警戒することもなく悠々と接近してくる。 「ウィンリィ、ちょっと下がってろ」 立ち上がり、臨戦態勢を取ったルフィが言った。 ウィンリィは素直に頷いて近くにあったコの字型の機械の中央部に隠れる。 交渉の余地などない。それが明らかな以上、彼女は足手まといにしかならない。 「ん? 抵抗するってぇのか? いいぜ。そっちの方が面白ェ」 「ああ、いくぞ」 余裕たっぷりに近付いてくる紅煉に向かって突っ込みながら、ルフィは腕を思いきり背後に伸ばした。 片腕を置き去りにしたまま突進するルフィ。 「“ゴムゴムの”」 「あァ!? 何だァ!!?」 ただの人間だと思っていた相手の異様な身体に紅煉は一瞬戸惑う。 それでもルフィに対して霊刀を縦に振るうが、ルフィは勢いを殺さず最小限の横移動でかわす。 「“銃弾”!!」 そして紅煉の予測を超える速さでルフィの拳が紅煉の顔面に突き刺さった。 海王類ですら一撃で沈むルフィの必殺技。それをまともに受けた紅煉は体を一回転させながら近くの機械の一つに突っ込む。 「“ゴムゴムの銃乱打”!!!」 間髪を入れず、さらにその上から嵐のような連打が機械をスクラップにしつつ紅煉を壁際まで押し込んだ。 もはや原型を留めていない機械がそれでも部分的に駆動し耳障りな金属音と煙を放つ。 どう見ても勝負はついた。そう思い、ウィンリィは物陰から出て行こうとする。 「出てくんな!!」 鋭い静止の声。 それと同時にルフィの目の前に『番天』と記された円がいくつも現れた。 煙の向こうから飛来する無数の光弾。それらが全ての円を正確に貫く。 ルフィは素早く近くの大型機械の陰に隠れて全ての弾を回避する。 「げははははははははははははァ。 こいつも喰らい甲斐のありそうな人間じゃねーかよ。 この紅煉に傷を付けやがるとはなァ」 瓦礫の中から現れた紅煉が地獄の底から響く愉悦の咆哮を上げた。 「さぁて、続きといこうぜェ。 まさかあんなもんで全力ってわけじゃねぇんだろ?」 げたげたと笑いながら再度近付いてくる紅煉。 「ちくしょう。あの光、邪魔だなあ」 ゆっくりとこちらへ来る紅煉を覗き見ながら、ルフィが苛立ちの声を発する。 そのルフィの言葉にウィンリィは違和感を覚えた。 そういえば――あの怪物はそれなりの知能はあるはず。 何故あの光をあまり撃とうとしない? あれを間断無く撃ち続ければ、労せずして勝てることは明らか。 そうしない理由は――。 「ルフィ、聞いて。アイツの光は多分連発できないんだと思う。だから――」 「わかった」 最後まで聞かず、しかし意味を理解したルフィは一瞬の迷いも無く紅煉に向かって駆け出した。 そう、長射程の武器に対しては懐に飛び込むのが最も有効な対策。 そしてその武器が連発できないならば、撃たれた直後、すなわち今が飛び込むチャンス。 「フン、しゃらくせェ!!」 ルフィの意図を察した紅煉が雷を放つ。しかしルフィは難なく回避し紅煉の懐に滑り込んだ。 それでも状況はイーブン。紅煉は接近戦を苦手とするわけではない。 長く鋭い爪が、牙が、霊刀が、ルフィを切り裂かんと嵐の如く襲い掛かる。 対するルフィも格闘技の常識を無視したトリッキーな動きでその全てを捌きつつ、的確に反撃を入れ続ける。 常人には目で追うことすら難しい攻防。 ギィン! 霊刀による横薙ぎの一閃がルフィの右腕の腕輪によって弾かれ、僅かに両者の距離が開く。直後、 「チィ、ちょこまかと」 バチン、と稲妻が紅煉の髪に奔り、 「だがな、こういうのは、どうだアァ!?」 明後日の方向に雷光が放たれた。 雷は天井にあった照明を直撃。ガラスの破片がウィンリィの上に降り注ぐ。 「ウィンリィ!!」 「キャア!?」 咄嗟に前方に身を投げ出し、間一髪回避するウィンリィ。 その目の前に『番天』の文字が浮かんだ。 「あ……」 紅煉はルフィがウィンリィに気を取られた一瞬に、ルフィから距離を取り、左腕をこちらに向けて構えていた。 もう、どうにもならない。 死を覚悟する。 紅煉の左腕から光が放たれる。 世界がスローになり、音が失われる。 その音の無い世界で、ルフィがゆっくりと射線上に立ちはだかるのが見えた。 一瞬とも永遠とも思える時間の中で、全ての光がルフィに吸い込まれた。 「ひゃひゃひゃひゃひゃひゃ。人間ってヤツは単純だよなァ」 我に返ったとき、聞こえたものは勝ち誇った醜悪な嘲笑。 そして見えたものは、絶望を運ぶ漆黒の悪魔と倒れ伏す麦わら帽子の少年だった。 ――あ ――ルフィが ――あたしの ――あたしのせいで ――死 ――死んで 「そっちの女、よく見りゃ美味そうじゃねぇか。 まずはそいつからいただくとするか」 黒々とした獣の眼がウィンリィを捉える。 「あ……う……」 恐怖と、混乱と、様々な感情が入り混じってウィンリィを呪縛する。 一方、紅煉はウィンリィの心情など意に介さない。 血溜りの中に倒れ伏すルフィの脇を横切り、ウィンリィに向かって歩き出す。 舌なめずりをしながら近付いていく紅煉。 しかし紅煉がルフィとウィンリィのちょうど中間を過ぎたとき、 「おい、テメェ……」 唸るような声が紅煉の行動を妨げた。 ゆらりと、ルフィが起き上がる。 いたるところの肉が削げ、穴が開き、腹からは鮮やかなピンク色をした腸が少しはみ出ている。 ぼたぼたと、明らかに致死量の出血で床は赤く染まっている。 もう一押し、小突いただけでも死ぬ。素人目にもそれは明白だった。 「おれの、仲間に、手を、出すんじゃ、ねェよ」 にもかかわらず、紅煉の足はその場に縫い止められる。 不用意に近付いてはならない。紅煉の戦闘経験が警鐘を鳴らす。 「チッ、まだ生きてやがるのかよ。何なんだ? てめえは。大人しくおねんねしてればいいのによォ。 ……まぁいいさ、コレで今度こそ粉々にしてやるよ」 僅かな逡巡の後、紅煉は何が起こっても対応できる距離からルフィを完全に消し飛ばす作戦を選択した。 凄まじいエネルギーを持つ雷が紅煉の周囲に集まっていく。 普通の人間なら動くことすら出来ないプレッシャー。実際、ウィンリィは金縛りにあったように固まっている。 しかしその一瞬の隙を突いて、ルフィは迷うことなく前へと踏み込んだ。 「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」 もはや退くことを欠片も考えていない突進。 ボロボロの状態にも関わらず、これまでの動きと比べても圧倒的に速い。 「な!? あがくんじゃねェ! 死ねええェェェ!!!」 紅煉は面食らいながらも咄嗟にルフィに向かって雷を放った。 ルフィは激しい雷に飲み込まれ―――― 「はははははははははははァ。馬鹿が。丸焦げだぜ――――――え?」 全く影響を受けず、何事も無かったかのように雷の坩堝を打ち破った。 「“ゴムゴムの”」 ありえない事態に硬直する紅煉。 「“バズーカ”!!!!」 その体に、ルフィの全生命を懸けた一撃が直撃した。 「げァハァ!!! て、め、――」 「“と”」 刹那、 「“ロケットバズーカ”!!!!!!!!」 零距離で乾坤圏が炸裂。射出された二つの銅製の腕輪が紅煉を容赦なく吹き飛ばした。 紅煉の体はウィンリィの頭上を抜け壁を突き破って隣の区画に放り出され、大型の機械に直撃してそれを粉砕する。 その上から破壊された機械の残骸が派手な音をたてて降り注いだ。 それを見届けたルフィは糸の切れたマリオネットのように崩れ落ちる。 次の瞬間、巨大な爆炎が瓦礫の山を覆い尽くした。 ***** 「あー……わりィ、おれ、ドジっちまった」 死に瀕してなお、あっけらかんとした態度で話すルフィ。 その口調には非難や後悔の念は欠片も感じられない。 「何で……何で、謝るのよ。謝らなきゃいけないのはあたしの方なのに……」 対照的に、ルフィを覗き込むウィンリィの言葉の端々には後悔が滲んでいた。 白い床にゆっくりと鮮やかな赤が広がっていき、それに伴ってルフィの顔からは生気が失われていく。 「海賊王になるんでしょ!? 私なんか気にしないで戦えばあんな奴――」 「仲間を見捨てるようなやつは海賊王になんかなれねェよ」 ルフィはウィンリィの言葉を遮り、はっきりと告げた。 血塗れの腕を最後の力で動かし、麦わら帽子を取る。 「あぁ、でも、みんなに、会った、ら――」 手の中の麦わら帽子をウィンリィに被せる。その僅かな揺れによって、ウィンリィの目から光るものが零れ落ちる。 「――『ごめん』って、言っ、て――――」 ルフィの腕から急に力が失われ、関節が床にぶつかってコツンと音を立てた。 こうして、大海賊『麦わらのルフィ』は死んだ。 【モンキー・D・ルフィ@ONE PIECE 死亡】 ***** 生い茂る木々にバラバラに切り裂かれた夜明けの光を受けながら、体を引きずって歩く異形の影が一つ。 「あの、クソガキィ……」 影――紅煉は怒りと憎悪に満ちた怨嗟の言葉を吐く。 ルフィの最後の一撃と爆発によって死にはしなかったものの、被った損害は甚大だった。 体表の大部分が炭化し、右足は半分千切れかけている。霊刀も二本は半ばから折れ、残った一本もヒビが入っている。 おまけに左腕は装備していた宝貝、番天印ごと消し飛んでいた。 もはやこれ以上の戦闘は不可能。それは紅煉にも解っている。 だが、だからといって怒りが収まるわけではない。 ――クソがアァ。 まだだ。まだ殺し足りねェ。 ここは退くが……待ってやがれ人間ども。 このオレを本気にさせてただで済むと思うなよ。 殺して殺して殺して殺し――。 「十五雷正法、『四爆』」 突如、紅煉の左脚が付け根から吹き飛んだ。 苦悶の声と共に地に転がる紅煉。その顔は驚愕の色に染まっている。 完璧な不意打ち。 いつの間にか黒尽くめの死神が朝日を背負って紅煉の背後に立っていた。 「て、てめえは……」 「ふ、ふ」 死神――ひょうは底冷えのする笑みを浮かべながら紅煉に一歩、また一歩と近付く。 「ふ、ふふ、はは、ははははははははははははははははははははははははははははははははは。 何があったのかは知らないがいい格好じゃあないか。どうした。紅煉。笑って見せろよォ」 「邪魔だアァァ!!」 叫ぶと同時に紅煉は雷を放つ。しかし、 「おまえの自慢の雷もその程度か。力が尽きかけているのは演技じゃなさそうだな」 左手で構えた一枚の符によってあっさりと無効化される。 ひょうは流れるような動作で更に懐から符を取り出し、今度は右脚を膝から吹き飛ばす。 愕然とする紅煉。 「……クソォ。てめえなんぞに、この紅煉がァ」 そんな紅煉を冷然と見下ろしながら更なる符を懐から取り出す。 「ダルマにしてやるよ、紅煉」 四肢のうち残った一つ、右腕に狙いを定めたそのとき、 「ちょっと待ってよ。やり過ぎだって!」 たまらずパックがひょうのデイパックから飛び出し、ひょうと紅煉の間に割って入った。 パックにしてみれば紅煉は単なる一参加者に過ぎない。それも人間よりも同族に近いと感じている。 ひょうが紅煉にただならぬ感情を抱いていることは察しているが、だからといって黙っていられるわけはない。 「どけ、妖。さもなくばお前も滅する」 抑えた、それでいて強烈な殺気に、パックがじり、と後ずさる。 しかしパックも伊達にガッツにくっついていたわけではない。負けじと言い返す。 「こいつが何やったのかは知らないけどさ。こんな拷問みたいなことは良くないって」 符を構えながら無言で一歩詰め寄るひょう。その表情は帽子と逆光で読めない。 「だ、だからさ、もう少しやり方ってもんが……」 言葉に詰まるパック。 僅かな沈黙。 何か思うところがあったのか、ひょうは構えた符を懐に収めた。 パックがほっとしたその瞬間、 「馬鹿がァァァ!!!!」 いきなり、紅煉は口から強力な炎を吐き出した。 紅煉に残された力を全て振り絞った炎。この至近距離で不意打ちでは回避する方法も防御する方法も無い。 あっという間にひょうとパックは炎に包まれた。 「げはははははははははははははははははは――」 勝利を確信した紅煉の高笑いが響き渡る。だが、 「――――は?」 ひょうとパックは変わらずそこにいた。 ひょうは驚愕で声も出ないパックをデイパックに放り込みながら淡々と告げる。 「キサマのやりそうなことくらい見当はつくさ。 既に地面に結界が張ってあったことにすら気付かなかったのか? 滑稽だなァ。 ――ああ、そうだ。その表情を見たかった。 数々の絶望を与えてきたお前が絶望する、そのカオをなァ」 にィィ、と口の端を大きく歪めるひょう。 ここに至り、捕食者と被捕食者の関係は完全に逆転した。 憎悪と歓喜が程よくブレンドされたひょうの瞳が昏く輝く。 「ク、クソ。おい黒炎。来い! 何してやがる。オレを助けやがれ! 早くしろクソがァ!!」 そう、黒炎はもう一体存在する。うまくいけば黒炎を囮にして逃げおおせるかもしれない。 藁にもすがる思いで叫ぶ紅煉。 「黒炎? ああ、それは『こいつ』のことか?」 ひょうはデイパックから巨大な十字架を取り出し、紅煉の目の前に落とす。 それの意味するところを理解し、紅煉は絶句した。 「あ……グ、ク、クソ、クソォ……」 「はは。あんな木偶に頼るとは、本当に万策尽きたようだな。 さて……もういいだろう。絶望に死ねよ、紅煉」 凍りついた死刑宣告。 次の瞬間、霊力を練り込んだありったけの符が紅煉の体中に突き刺さった。 ひょうの瞳はもはや現を映していない。 「おい、待てよォ。分かった。分かったって。何でもするからよォ」 ――天地より万物に至るまで気をまちて以て生ぜざる者無き也。 「悪かった。もう人は喰わねぇよ。心を入れ替えるって。 なァ、助けてくれよ。お前人間だろ? な、なァ」 ――邪怪禁呪悪業を成す精魅。 「や、やめろ。た、頼む。おい。お、おいって!」 ――天地万物の理をもちて微塵と成す。 「ちくしょオォォォ!!!! 死にたくねェェェ!!!!!!」 ――禁。 【紅煉@うしおととら 死亡】 【E-6/工場/1日目 早朝】 【ウィンリィ・ロックベル@鋼の錬金術師】 [状態]:疲労(中)、右頬に痣、頭に軽い裂傷 [服装]: [装備]:ブラックジャックのコート@ブラックジャック、ブラックジャックのメス(10/20)@ブラックジャック、ルフィの麦わら帽子@ONE PIECE [道具]:支給品一式×2、工具一式、金属クズ、ひしゃげたパニッシャー(機関銃:80% ロケットランチャー1/2)@トライガン・マキシマム、不明支給品0‾1 [思考] 基本:この島から脱出する。 1:エドたちがいるならば探したい。 2:ルフィの仲間を探す。 3:他にもここから脱出するための仲間を探したい。 [備考] ※ルフィ、ゴルゴ13と情報交換をしました。 お互いの仲間や世界の情報について一部把握しました。 ※名簿は白紙ですが、エドとアルもいるだろうと思っています。 ※ゴルゴ13の名前をデューク東郷としか知りません。 ※参戦時期は傷の男と合流後(18巻終了後)以降です。 【D-7/路上/1日目 早朝(放送直前)】 【ひょう@うしおととら】 [状態]:健康 [服装]: [装備]:短刀@ベルセルク [道具]:支給品一式(メモを多少消費)、ガッツの甲冑@ベルセルク、パニッシャー(機関銃:90% ロケットランチャー2/2)@トライガン・マキシマム、不明支給品×1、パック [思考] 基本:??? 1: 符術師として、人に仇なす化け物を殺す。 2: 蒼月潮を探す。場合によっては保護、協力。 3: 子供を襲うなら、人間であっても容赦はしない。 [備考] ※ガッツの甲冑@ベルセルクは現在鞄と短刀がついたベルトのみ装備。甲冑部分はデイバックの中です。 ※時逆に出会い、紅煉を知った直後からの参戦です。 【パック@ベルセルク】 [状態]:健康 [服装]: [装備]: [道具]:支給品一式 不明支給品×2 [思考] 基本:生き残る。 1: ひょうについて行く。 2: ひょうが無茶をしないか気がかり。 3: アイツもいたりして… [備考] ※浄眼や霊感に関係なくパックが見えるかどうかは、後の書き手さんにお任せします。 ※参戦時期は少なくともガッツと知り合った後、ある程度事情を察している時です。 ※デイパックの大きさはパックに合わせてあります。中身は不明。 【番天印@封神演義】 対象に「番天」と書かれた印を付け、その印に向けて誘導ビームを放つ宝貝。マルチロック可能。 本ロワでは仙人でなくても使える代わりに威力減少、チャージ時間有りとなっている。 ※工場の一部が爆発により機能停止しました。 ※爆音が周囲一マス程度に響き渡りました。 ※工場内部のどこかに番天印、乾坤圏が落ちています。 ※ウィンリィの近くのどこかにパニッシャー(機関銃:50% ロケットランチャー1/2)@トライガン・マキシマムが落ちています。 時系列順で読む Back 電気羊の夢 Next 秋山優――続・卑怯番長の女難 投下順で読む Back 指し手二人 Next Men&Girl~ピカレスク~ 005 目指す者、守る者、殺す者 モンキー・D・ルフィ GAME OVER 005 目指す者、守る者、殺す者 ウィンリィ・ロックベル 109 弦がとぶ―圧倒する力― 055 月光条例 紅煉 GAME OVER 055 月光条例 ひょう 111 トラワレビト 055 月光条例 パック 111 トラワレビト
https://w.atwiki.jp/futanari/pages/13.html
人付き合いが上手くないってことが原因でいつの間にか水面下で決定していた慰安旅行を回避する術を私は持たなかった。 「へ? ま、待って、いつ決まったの? え? 私はちょっと・・・・」 「何言ってんの、もう予約してあるんだからキャンセルなんて認めないわよ」 仕事場ではまだ頭の上がらない私の言い分が持つ威力なんて些細なものだ。 眼鏡をかけたお局っぽい雰囲気を暗黙の了解とばかりに醸している彼女の一言で簡単に切り捨てられる。 そうして乗り気ではない、それどころか捨て身で参加することとなった慰安旅行の行き先は定番の温泉で、もはや私の人生は終わったと宣告されたかのようだった。 「どうします? 取り敢えず温泉ですか?」 仕事場で顔を合わしている五人が一つの部屋に入って、まず最悪の選択肢を露呈させたのは新人のミスカちゃんだった。 「いえいえ、まずはゆっくり、ねえ、お茶でも──」 「何を年寄り臭いこと言ってんの。そうね、まずは温泉よね」 「はーい」 おいおい年ならあんたが最上級だよ、という悪意が膨れ上がるほど単純に三人がカタラセさんの言葉に賛同する。 「じゃあ、私は荷物番でも・・・・・・」 荷物を適当にばら撒いて颯爽と部屋を出て行こうとする皆を笑顔で見送ろうとしたが、駄目だった。 「ランさん、ほら、行きますよ」 いつでも落ち着いているセーフティに手首を掴まれ、部屋から引きずり出される。 「いやいやいや、温泉なんて苦手っていうか、ほら、昔から冷え性だし──」 「? あんた、何を言ってんのよ。変な子ね」 うるさい年増、という最終兵器すら粉々にしてしまいそうな怒りを買うに違いない言葉を寸前で呑み込んで苦笑いを見せる。 「いや、ほんとに、どうにも温泉って苦手なんですよ、だから私はお留守番でもしときますから」 「えー、ランさんって温泉が苦手なんですか? 変わってますねー」 先を歩くミスカちゃんが振り返って可愛らしく笑うけど今はもう明るい笑顔なんで殴ってやりたいよ。 「温泉が苦手・・・・初耳です」 セーフティが小首を傾げて、ミスカちゃんの隣を歩いているカタラセさんに意見を仰ぐとばかりの視線を捧ぐ。 私は申し訳なさそうな顔を作って思案するカタラセさんを見つめる。 「嘘でしょ?」 「ですよねー」 「ですよね」 死ねよあんたら! 「ほんとですって! 知りませんよっ? 私が温泉に入ったら酷いですよっ? 阿鼻叫喚ですよっ? 地獄絵図ですよっ?」 「馬鹿なこと言ってないで、ほら、着いたわよ」 わー、着いちゃったよ・・・・。 『女』という表記が恨めしい暖簾を抜ければ広がるは着替え場、温泉自体が大きいちょっとしたアミューズメントパークちっくなものになってて色んな湯が面白おかしく点在するだけあって着替え場は大きくて視界に入った女体の数はびっくりだった。 「うわ、多いわね、やっぱり」 「仕方ないですよー、出来たばっかですもん」 「・・まあ、そうね」 などと安穏とした会話を交わす横でセーフティはさっさと服を脱いでて黒髪に見え隠れする首筋とか標準的な大きさの胸とかくびれた腰とか薄い茂みとか閉じてる割れ目とか長い脚とか淡く白い爪先とかを晒している。 「? どうかしましたか」 「いいえ、ちっとも」 あははと笑いながら即答して再び着替え場に目をやれば目に入る裸体の数々。 「へー、セーフティさんってついてないんですねー」 もうちょっと恥と外聞を知って欲しいミスカちゃんにあそこをじろじろ見られてセーフティは苦笑している。 気付けば今までずっと無言で仕事場での存在感すら危ういハナットちゃんも既に裸体の仲間入りで私の目が行くのは当然ながらあそこで、ハナットちゃんのあそこにはついてるけど普通としか言いよ うがない。 「ランさん、早く着替えましょうよ」 「うおわ」 いきなり腕を絡められて慌てる私をおかしそうに見ているのはミスカちゃんで、こちらも既に上半身は裸体、立派なお胸を晒している。 「いつまで突っ立ってるのよ。早く脱ぎなさい」 年の割りに・・・・といっても私と二つしか違わないけど・・・・スレンダーな体を見せ付けるでもなく見せているカタラセさんのあそこもついてるけど普通、標準、取り立てるところなど微塵もない。 「・・・・・・先に入ってます」 「うん、私もすぐ行くよー」 ハナットちゃんが裸体の群れの中に消えてその向こうの大きな扉を抜けて完全に姿を消した。 「ほらほら、早くしないと置いてかれますよー」 ぶんぶか手を振っていたミスカちゃんが潔くジーンズを脱いでピンク色の下着を脱げば露になるのはこれまた異常なところなど些細もない小さな秘密の場所。 ちくしょうっ、てめーらなんかに私の気苦労が分かるかっ、といっそ叫びたい衝動を堪えて作り笑いを浮かべながら尚且つあははと声を出して笑う。 「ま、まあ、すぐに行きますんで、先に行っててくださいよ。ほらほら、裸だと寒いでしょ? ね?」 「あ、私は行ってきまーす。お先ですー」 元気な声に拍手を送りたい、ミスカちゃんは体にタオルを巻いて小走りで浴場の方に消えていく。 「あはは、ミスカちゃんは元気ですねー」 などと誤魔化し笑いを見せる私をカタラセさんが罪人でも見るようなじとっとした目で見ている。 そう、こういう時に言う言葉は? ──Why。 もはや日本語で表せない領域にまで来ているのか、と焦る私をカタラセさんの瞳が射抜く。 「あんた、逃げる気じゃないでしょうね?」 「ちちち違いますよ、逃げるってなんですか、逃げるって、私に負い目なんてものはない以上、逃げたりなんかしませんよっ」 ぐっさり図星に突き刺さった言葉を否定するとカタラセさんが溜息を吐く。 「高いお金で組んだ旅行なんだから、逃げたりしたら承知しないわよ? セーフティ、悪いけど、この子が逃げたりしないよう見張っててね。私も先に行くから」 「はい、分かりました」 そのような交渉が簡単に行われるあたり私の人権がさり気なく無視されてる気がしないでもないけど、カタラセさんがいなくなるのは好都合だ。 「あはは、どうぞ良い湯を」 手を振り笑顔で送り出す私の胸にあるのは『年だから寒さにも弱いんだな』という一つの確証めいたものだったけど口にすることはない。 カタラセさんが浴場に消えると私は安堵の溜息を吐く。 「んじゃ、私は部屋に戻ってるから」 「え? どうしてですか?」 小首を傾げるセーフティがその表情とは裏腹に意外と強い力で私の腕を掴んだ。 「・・・・どうしてって・・・・あれ?」 演技過剰気味に温泉は嫌だ嫌だと主張していたはずでそれは当然のように皆に伝わっているかと思ってたけどセーフティはそれに気付いてない? 「だ、だから私は温泉が苦手だから、ね? 部屋で待機ってことで」 「駄目ですよ、そんなの」 「・・・・・・えっと・・・・何故に?」 あれ、おとなしくて誰にでも優しい女神もうっとりのセーフティちゃんはどこに行ったのかな? 「カタラセさんがわざわざ用意してくれた慰安旅行なんですから」 「いや、いやいや、私を置いてカタラセさんがわざわざ用意してくれた慰安旅行だから、ね?」 「駄目です。カタラセさん、職場の雰囲気とか意外と気にしてるんですよ? 今回の慰安旅行も、皆の触れ合いが目的なんですから」 涼しい顔に固い意志を浮かべて私を圧倒するセーフティちゃん、しかしセーフティ、皆の触れ合いに私の心労が含まれるのはおかしくなかろうか?~ 「・・・・・・分かった、分かりました、入りますよ」 いつまでも離してくれそうにないセーフティに負けて衣服に手をかける。 「はい、そうしましょう」 やっと笑顔を見せてくれたセーフティの前で上着を脱いでブラを外してズボンに手をかけて溜息を吐く。 「・・ちょっと、後ろ向いてて」 「はい?」 「・・あー、裸とか見られるの、恥ずかしいのよ」 「そうだったんですか」 納得、とばかりに瞬きしたセーフティが後ろを向いて私は素早くズボンを下ろしてパンツを下ろしてバスタオルを体に巻きつけて磐石の姿勢をとる。 「ん、オッケー」 「はい、では行きましょう」 セーフティと並んで裸体の群れを抜けて浴場へと続く扉を抜ければ広がるは靄と開けた視界、すぐ右手に馬鹿でかいサウナがあって側に冷水、左手にはバブル風呂がある。 ずっと先からは天井がなくなっていて足だけ浸かる風呂やら見晴らしのいい露天風呂やら子供用の泳いでもオーケーな風呂、滝に打たれて修行かよって風呂まであるらしいということが見上げる高さの案内板で分かった。 「どこから入りますか?」 「あー、私は・・・・・・うん、ちょっとバブルってくるよ」 左手のバブル風呂を指すとセーフティは「そうですか」と少ししょんぼり感を込めて言って目線をちらりとサウナに向けた。 「あー、ほらほら、私はちゃんと入ってるから、セーフティはサウナにでも入ってきなさい。私は泡と戯れてるから、ね」 「でも」 「安心しなさいって、もうここまで来たら覚悟決めたっていうか死ぬ気でゴーっていうか、ともあれかくあれ逃げたりしないから。ね?」 「そうですか?」 「うんうん、そうそう、誰かがうまいこと言った、信頼が大切」 「じゃあ、窓から覗いてますから、逃げちゃ駄目ですよ?」 うふふと笑ってサウナに向かって行ったセーフティに一言──そこまで信頼ないのか・・・・。 それを証明するみたくセーフティはちらちら振り返りながらサウナに向かっていざ入っても窓に張り付いて私を見て微笑みを浮かべている。 あはは、殴りたい。 「・・ったく」 まあ、もう服まで脱いじゃったからには出るに出れない、バブル風呂なら問題ないし浴びてくか、とバブル風呂に向かってお湯に入る前に体を流して周囲を確認して人の目がないことを確かめてから素早くタオルを払ってバブル風呂の縦長な浴槽の中に体を隠す。 「・・・・ふぁー・・・・・・」 程よく温かくて色んなとこから出てるバブルが疲労の蓄積している肉体を軽やかに癒してくれるような感覚が湯気とともに体を包む。 あー、温泉なんて久しぶりっていうか物心ついて以来だけど気持ちいいー、最高じゃー。 なるほど極楽とはこういうことを言っていたのか、全く温泉なんて害悪しかもたらさない暗黒空間なんて脱税が発覚して閉鎖して皆の記憶からなくなればいいのにとか思ってたけど、間違いだね。 こーんな気持ちいいとこは誰の記憶からも薄れないよ、いやはや。 すっかり和んでふはーとか溜息を吐いてると側でお湯の跳ねる音がして何気なく目をやればハナットちゃんがいた。 「・・・・・・やあ、ハナットちゃん」 ハナットちゃんは軽く会釈して私の隣で私と同じように足を伸ばす。 真っ黒の髪を侍よろしく結っている姿は凛々しいけど小柄で私との身長差は目測で十センチはあるハナットちゃんは無表情に近い顔でずっと前を見ている。 「・・・・・・えっと、ハナットちゃん、どこから?」 確か先に入ったはずなのに何で奥に進まないでバブル風呂なんかに、という意味を含めた問いはハナットちゃんの指差しで解決される。 「・・体、洗ってました」 なるほど言われてみればロッカーを一回りでかくしたようなものがずらっと並んでいて、どうやらあそこで人目を気にせずシャワーを浴びたり体を洗えたりするらしい。 「・・・・・・あー、なるほどねぇ」 ならば私もあそこに入ってしばらく時間を潰して逃げればよかったのかと思いついたけど時は既に遅し、隣にハナットちゃんがいては出ることも出来ない。 「・・・・おっきいんですね」 ぼそっとハナットちゃんの口からこぼれた言葉が狙いを外さない魔弾のように胸を貫く。 「・・・・・・・・な、なにが、でしょうか?」 だらだらと浮いてくる額の汗が過去のあの日、皆で温泉に入った時のことを思い出させる。 あははわははと皆に笑われて晒し者にされて馬鹿にされて不名誉なあだ名までつけられて数年間もネタにされたあの日のトラウマが──。 「・・・・あそこ」 「ぐはぁ!」 正確にトラウマを突かれて悶絶する私の口から激しい咳がこぼれる。 なんてこった、もう終わりだ、せっかく私のあだ名を知らないとこに就職して人付き合いを抑えてまで隠し通してきた私のすんごい秘密が──。 「・・・・気にしてるんですか?」 私の慌てっぷりに些か不思議そうなハナットちゃんの目が向く。 気にしてるよそりゃ気にするさ! 「・・・・ででで、出来れば、出来ればですが・・黙っててもらえないものでしょうか・・?」 「・・・・・・・・・・・・」 なんだよその沈黙はぁ! とか叫んだりしたら全てが崩壊、私は息を呑んでハナットちゃんの顔を窺いながら微笑を作る。 「あの、ほら、ね? 女の子には誰しも秘密にしておきたいことが一個や二個や三個や四個、果ては百個ぐらいあるものですよね・・?」 ハナットちゃんが私の瞳を覗きこんで無表情のまま小さく頷く。 よし、大丈夫まだ一人に知られてしまったってだけであの日の状況とは圧倒的に違う。 「ででで、では、この事はどうか、胸の中に・・・・」 ここで否定したりした時はハナットちゃんを沈めて私も沈もう、という決意が伝わったのかハナットちゃんはこっくりと頷いてくれた。 よっしゃー、やった、やったよ、あの日のトラウマよ、ぐっばい! 「・・・・・・サウナに入ってきます」 「うんうん、行ってきな、行ってきな、お風呂から上がったらコーヒー牛乳を買ってあげるからね」 ざばっとお湯を揺らして浴槽を出て行くハナットちゃんを笑顔で見送って尚且つ手まで振ってあげる。 ああ、いい子だ、普段から無口で仕事はしますけど馴れ合いはちょっと的な空気なんて嘘みたいだ、あんなにいい子だったなんて。 感動する私の視線の先でサウナから出てきたセーフティがハナットちゃんと鉢合わせて何やら話し込んでセーフティが驚いた顔でこっちをちらちら見てハナットちゃんがサウナに消えていった。 「・・・・・・・・・・・・」 大丈夫、私もいい大人、もう二十代も半ばだよ、そう簡単に人を疑ったりしないって。 ハナットちゃんはきっと温泉という独特の空気に中てられて饒舌になってるだけで話題なんて些細なことで『バブル風呂すごいですよ、すんごい気持ちいいですよ、最高ですよ』とか下らないこと言ってセーフティが『え、まじで?』とか驚いただけだって、そんな簡単に喋る子じゃないよ、あの子は。 そう思いながらも歩み寄ってくるセーフティに心臓が早とちり過剰反応して鼓動を高鳴らせていく。 「・・大丈夫大丈夫、大丈夫大丈夫・・」 私は呟きながらセーフティに背中を見せた状態で浴槽から出てバスタオルを巻きつけて極めて自然な笑顔で振り返る。 「あ、セーフティもバブル? あはは、最高だよ、ここは」 「そうですか」 と軽く受け流されて動揺する私にセーフティは微笑みをくれる。 「それより、体、洗いました?」 そう言ってセーフティが横一列に並んでいるボックスを指す。 「気付かなくて、先にサウナに入っちゃったんですよ。だから今から洗いに行こうかと思いまして」 「あ、あー、そう、そうね、うん、私も同じこと考えてた」 「ほんとですか? じゃあ、行きましょう」 「そ、そうねー」 どことなく会話に綻びがあるような気がしないでもないけど、それは私の考え過ぎが生んでいる錯覚に違いない、セーフティは笑顔のまま私と並んで歩き出しているしその様子に怪しいところはない。 なぁんだ、やっぱ世間話かー、もうハナットちゃんも冷や冷やさせてくれるよー、とか考えながらボックスに到着、後はこの中に入って適当に時間を潰して上がってハナットちゃんにコーヒー牛乳を奢ってあげれば一件落着、世はおしなべて事もなし、ですよね。 「・・・・・・あれ?」 そのはずなのに、何故かボックスINした私の隣にセーフティがいる。 これって二人用なの? いやいや、二人で使えないこともないだろうけど常識と照らし合わせれば一人用ですよね? 焦る私に体を押し付けてセーフティが微笑む。 「ハナットさんから聞きました」 「・・・・・・何を?」 地獄の坩堝にはまり込んでいく予感に震えながら問うてみる。 セーフティは微笑みを浮かべたまま汗に濡れている手を伸ばして私のバスタオルごしに隠しているそこに触れた。 「・・ここ、すごいって・・」 そう言って微かに頬を赤らめるセーフティをどうこうする前にまずハナットをしばくことを心に決めて苦笑いを浮かべる。 「・・・・ええっと、その、セーフティさん・・? ・・気付いてるとは思いますが、女同士ですよ・・?」 これで万事解決、と思いきやセーフティは赤らめた頬を俯けてバスタオルの上からそれを押しながら囁く。 「・・実は私、男っぽい女の人じゃないと駄目なんです・・・・」 「・・・・・・は、あはは」 いやいや、いやいやいやいや、そんなカミングアウトは私の心の中にしまっとくからお願いだから頼むから密やかな動きであそこをさするのはやめてくれ! 「ええっと、ほら、あのね? う、うん、無理、無理だから、私は普通に男が大好きだから」 「・・大丈夫です、私は気にしませんから」 おうい、既に会話として成立しない次元にまで達してるぞ、え、何、セーフティってば本気で言ってるのですか? よもやここでれっつごーですか? いや、無理だよ無理、っていうか無茶。 体温上昇、混乱で脳内が沸騰する私の耳に響くのは程よい騒音で水の弾ける音でシャワーの音で、なるほど、これなら少しぐらいの音なら平気そうだわ、うふ。 「待ってストップ冷静に考えましょう」 ばばっと両手を振って冷静さを演出する私のバスタオルをセーフティがあっさりと取っ払った。 「・・わ、おっきい、ですね」 誰だよこんな世界に私を生んだのはもういっそ世界ぶち壊すぞぉ、とかいう叫び声を上げたいけど涙が出そうで声が出ない。 私の露になったそこは確かに大きくて男とほとんど変わらないぐらいでそれが原因でトラウマを抱えることになった。 そんなネガティブ思考に突っ走ろうとしていた意識がセーフティによって吹っ飛ぶ。 セーフティはまるで感触を確かめるみたいに私のそれをにぎにぎしていた。 「・・・・ええっと、セーフティ・・?」 うろたえる私にセーフティは微笑みをくれるけどその微笑みは私に何ら幸福感も与えてくれない。 「・・あ、すいません、ずっと前に付き合ってた子は性格は男っぽかったんですけど、ここはちっさくて・・」 「・・・・うん、私が聞きたいことはそういうことじゃなくて、今すぐにでも行為を中断してバブル風呂にでも入ろうじゃないか、ってことなんだけど」 「・・・・・・内緒にしときたいんですよね」 えーっと・・・・あれ? なに、この有無を言わせない雰囲気? 「・・・・は、はい」 「・・ハナットさんは、残業を代わってあげるという条件で口を塞いでおきました」 「・・・・・・そ、それはどうも・・・・」 「・・・・私も、黙ってます」 「・・そ、それは嬉しいなぁ・・」 なのに素直に喜べないのは長い人生の果てに人を疑うことばかり覚えたからでしょうか? そう自問するのもセーフティの手が相変わらず動く現状では虚しいばかりです。 「・・・・・・あ」 声を漏らしたのはセーフティで原因は柔らかな刺激に敏感に反応して膨張していく私のあれのせい。 ああ、違う、心とは裏腹に大きくなってしまうんだ、という言葉も空々しいぐらい完全に大きくなってしまったそれをセーフティがやわやわと握る。 「・・すごい、ですね」 「・・左様ですか、うん、そろそろ出ない? ほら、カタラセさんと裸の付き合いでもしとかないと、拗ねるかもしれないし」 あはははと笑う私なんて完全無視でセーフティは私のあれを握ったり離したりして感触を楽しんでいる。セーフティの手が汗に濡れてるのはサウナに入ってたからだろうけどそんな手で触られたら私のあれは更に硬くなってもう準備万端ですよと言いたげに反り返って自己主張する。 「・・・・気持ちいいですか?」 そう言って握るだけだった手を前後に動かして軽く扱きながらセーフティが顔を上げて私の諦観した顔を見つめてくる。 「・・うん、いや、気持ちいいかどうかは問題じゃなくてね、ほら、倫理? 色々と問題があると思うんだけど、どうかな?」 「・・・・ん」 あれ、私の口から声って出てる? とか疑うぐらいセーフティは軽やかに無視して口の中の唾液を扱いている私のあれに落とした。 生温い液体がまとわりついて尚且つ扱かれれば気持ちいいけど、でも違うでしょ? 聞いてますか? 「・・・・えっと、あの・・・・」 まずい、どうにかこの展開を抜け出して逃げ出さねばと悩む私が心労から目を閉じたその瞬間に唇に何か触れる気配があって目を開けば目の前にセーフティの顔があった。 無論というか当然、生まれて初めて同性にキスをされた、らしい。 固まる私の口の中に舌を潜り込ませてくるが上下の歯を合わせた状態で侵入を拒み、すると私のものを握るセーフティの手に力が込められて走った痛みに怯めば、口の中に舌が侵入していた。 「・・・・ん、あ・・」 セーフティはあれを扱きながら私の口の中を舌で掻き回す。 うあー、参った。まさか同じ職場で働いてる子に同性愛者がいるとは予測どころか考えもしなかったー。 ぼけっとなっている私のことなど構わずセーフティは唾液を絡めるように舌と手を動かしている。 最近は仕事ばっかりでそういうこととは無縁だった私の体はもはや相手が同性だろうとお構いなしなのかセーフティの唇と手で気持ちよさが生まれてくる。 なんか生温くて緩い刺激が体のあちこちで弾けてるような感覚が思考能力まで溶かしていく。 いやいや、まずいって、場所を考えなさい、それよりもまず相手を考えなさい、という言葉も口を塞がれてちゃ出てこない。 「・・ぁ、ふ・・・・」 そろそろ呼吸がやばめで昔から鼻が悪くて鼻呼吸が苦手な私としては離れてもらわないと窒息の危険性すら出てくるんだけどセーフティは肌に感じるほど簡単に鼻で息してて口から溢れる声は苦しさよりも甘さや艶めかしさを含んでいる。 わーわーわー、貞操の危機よりも生命の危機がー。 私の危ぶみは寸前のところで回避されて離れたセーフティの唇から唾液の糸が垂れる。 反射的に唇を舐めれば冷たい唾液の糸が切れる感触があって『あー、キスしたんだー』という妙な実感が湧いた。 「・・・・ぜはー」 照れ隠しに変な呼吸をしてみるけどセーフティは無視、私の首の浮き出てる血管を舐めながら尚もあれを扱き続ける。 「・・あーっと・・」 なんかもう完全に抜け出せない感じになってるが私は女同士の行為に同意したわけでは全然ない。 確かにセーフティは同性愛者と宣言しただけあって舌の使い方とか扱き方とか空いてる手での脇腹のさすり具合とか絶妙な上手さがあってちょっとなんか感じて頬が赤くなるけど依然ノー。 だってやっぱそういうのは男と女でやるもんでしょうがー、という常識があるし。 それなのに私が何も言えないで固まってるのはひとえに混乱状態にあるからだ。 その混乱状態を把握しないで愛撫を続けるセーフティの唇が薄っぺらい胸に触れて痺れて舌がそそっと肌を舐めると甘い温もりが広がった。 「・・・・ぁ、ん・・・・・・」 とか喘いでる場合じゃないですよ、ええ。 どうにか抜け出すことを考えるけど既に脅しをかけられた状況を考えると一回ぐらいなら、とか堕落した選択肢が浮かび上がって慌てて首を振る。 駄目駄目、弱味を握られてる場合、一回だけで済むはずがないって今まで色んな映画とか見て学習したでしょ。 「・・ん、ぁ、あぁ・・・・」 でもセーフティが突起を口に含んで舌を器用に動かすと考えなんてあっという間に吹っ飛んでいく。 ──っていうか、セーフティ、上手すぎ。 ぐちゅぐちゅと唾液の鳴るあそこが硬さを増していよいよ頭の中がとろけていく。 セーフティは喘ぐ私をちらっと見てから舌を下ろして微かに浮いているアバラに唇をつける。まるでアバラ骨の一本一本を愛してるみたいに唇をつけて、ひくついているお腹に舌を這わせる。 「・・ぅ、ん・・あ、はぁ・・」 やばい、本格的に気持ちよくなってきた。 声の抑制すらままならないほど昂ぶってきた私を虐めるようにセーフティの舌が移動する。広げた舌で下腹を舐めて尖らせた舌で茂みの付近をなぞる。 それから唾液にまみれて気持ちよさに同調して先端から精液の溢れているそこに舌をつけた。 「く、ぁ・・はぁ・・!」 もう痺れどころじゃない。 危うく出してしまうとこだったけど、腰に力を入れてかろうじて踏み止まった。 柔らかくて生温かい舌が先端を舐めると粘ついた液が垂れて恥ずかしくなる。でもセーフティは気にせず少し開いた唇でそれを挟み、軽く頭を前後に揺すりなが手と舌を動かした。 「・・う、あ、ぁぁ・・あっ、ん・・」 腰が砕けそうになるほど強烈な快楽が体の中を上って頭のてっぺんから抜けていく。 普段から見慣れた顔が私のあれを銜えている、それだけでもうやばいというのにセーフティは加減というものを知らない。 「ちょ、すと・・っぷ・・!」 これ以上はまずいとセーフティの頭を押さえると、彼女は怪訝そうな顔で上目遣いになって私と視線を合わせる。 あー、もう、その上目遣いの顔が既にやばいってことに気付かないらしい。 「ちょ、ちょっとタンマ・・・・えーっと、はい、口を開ける」 セーフティはおとなしく従って口を開けた。その口からだらりと唾液やら何やらがこぼれていく。 「・・・・どうしたんですか?」 立ち上がったセーフティが荒く息する私を見てにっこり微笑む。 「・・あ、イキそうだったんですね。中に出しても良かったんですけど・・・・」 「・・・・うん、もう凄く色々と間違いはあるんだけど、それは一先ず置いて・・」 私は少し震えている足に力を入れて大きく息を吐く。 「・・えーっと、ここらで終わりにしない?」 「嫌です」 「・・・・・・・・・・・・」 即答ですか、そうですか。 あれ、セーフティって確か笑顔の可愛いしっかり者じゃなかったっけ? いつから笑顔で我が道を行く人になったんだろ・・・・。 呆然とする私の唇にセーフティの唇が触れて唾液か何か定かじゃないものが口の中に流れ込んでくる。うわ、と思って押し戻そうとするけどセーフティの舌に私の舌を絡め取られて抵抗も出来ず、もう本当に仕方なしに窒息よりはマシと飲み下す。 うあ、なんか喉に引っかかって飲み込みにくい。 唇が離れると頬の上気したセーフティの顔があって興奮状態のあれが反応して震える。 そんな私を見てセーフティは微笑みを見せる。 「・・本当は正常位がいいんですけど、ここは狭いので、バックの方がいいですよね」 誰かこの子を助けてやってくれ。 違う、私の知ってるセーフティはこんなんじゃない、とか思っている中、セーフティは私に背中を向けて壁に両手をつけて屈んでお尻を突き出してくる。 「あ、もういいですよ、濡れてますから」 「・・・・・・そうですか」 違う、違うよ、そりゃ今まで付き合った男は私のあれの大きさに怯んで逃げてったけど、だからって認めてくれる同性ならオーケーとかじゃないんだよ神様、もう少し聞き分けろよ・・・・・・。 そう思いながら腰を進めると先端がセーフティの肌に触れてその柔らかさにあれが震えて気持ちよさがぶわっと腰に広がる。 ああ、まさか初めての経験が入れる方になろうとは・・・・・・。 セーフティのそこは確かに濡れていて私の先端をあっさりと迎え入れた。生温い感触に包まれて腰が震えるけどその震えに任せて一気に奥まで突き入れる。 「・・・・は、ぁん・・!」 どうやら入れられる刺激も私の感じているものと同様で強烈なものらしく、セーフティの声が小さく響いた。 というか、私の口からも声が漏れた。 なんか生温くて柔らかくて締め付けられる感触が凄くて自然と声が漏れていた。 あー、やばい、なんかやばい。 「・・ん、ん、ぁ、あぁ、はぁっ、あ、あんっ・・!」 セーフティのお尻に手をやって腰を前後に振ればあそこが弾けるような気持ちよさが広がって腰が止まらない。 そして私が腰を振るたびにセーフティの口からは甲高い声が溢れて狭い室内に反響して耳をこそばゆくする。 うあ、本気でやばい。 セーフティの背中に抱きつくみたいな格好でがむしゃらに腰を振って快感を貪る。 私の脳なんてとっくに溶けてて、感じられるのは腰とあそこで弾ける痺れだけで、後は無意識に口から声とも吐息とも分からないものが溢れ出す。 「・・あ、はぁ、はぁっ、あ、う・・!」 肌の触れ合う音が響いてやばいなーとか思うけど腰が止まらない。 セーフティも肌を朱色に染めて声を上げるのに夢中で周りを気にしている様子もない。 腰から寒気が駆け上ってくる感触が走って私はこの瞬間が終わる名残惜しさに思わずセーフティの背中を舐める。 あー、駄目だ、そろそろ──。 「・・ね、ねぇ・・!」 「・・は、あ、はい、どうぞ・・・・!」 声に合わせてセーフティの中が締まりを増して、私のものが痙攣でもするように震えた。 先端から、子供を宿すことのない精液が溢れていくのを感じる。それはセーフティの中を満たして入ったままの私のそれすら包んで、生温い快楽に浸らせた。 「・・・・あー、やっちったー・・・・・・」 ぜーはーと息をしながら倒れるようにして腰を引き、堪らず腰を落とすと、目の前のセーフティが振り返って私に抱きついてくる。 「・・すごく気持ちよかったです」 同じく息を乱したセーフティがキスを求めてきたので私から唇を寄せて舌を絡めあう。 離れた唇は唾液が繋いで、すぐに切れた。 「・・また、しましょうね」 「・・・・・・ん? え、いや、それは・・・・」 まだ抵抗を見せる私にセーフティがにっこりと微笑む。 「ばらしますよ」 「・・・・あー、はい、そうですね・・」 あはは、どうせ男は逃げてくんだし、こうなったら女の子と付き合ってみようかな・・・・あはは・・・・・・。 そんな諦めを噛み締めているといきなり扉が開く。 「・・・・・・っ!」 さすがに心臓は破裂しなかったけど同等ぐらいの衝撃を味わい目を丸くすると、扉の向こうにはハナットが無表情で突っ立っていた。 「・・・・・・・・・・」 何も言わずに閉めた。 「おいっ!」 というか、お前ずっと聞いてたろ! 無口キャラのくせにソッコーでばらしやがって! ちくしょう! 「あ、そういえば・・・・」 怒り心頭の私の頬に唇を摺り寄せながらセーフティが小さな声を出す。 「・・・・女の子には、秘密の一個や二個や三個や四個、いっそ百個ぐらい喋っちゃいたくなる時ってありますよね・・・・って、ハナットさんが伝えてくれって言ってましたよ」 「・・・・・・・・・・・・・・」 あの馬鹿、本気で吊るしてあげようかしら・・・・・・。 私は熱気溢れる個室の中でセーフティと抱き合ったまま、この慰安旅行が間違いなく『慰安』ではなく『地獄』に変わるに違いないと、なんか泣きそうな頭で思った。 終わり。
https://w.atwiki.jp/nijiuradegityou/pages/167.html
裏設定 現在進行中の裏設定ページです。 過去、このページに存在していた各種裏設定は倉庫へ行きました。 こちらから倉庫へとお入りください。 裏設定 【議長スレ・モノの名前シリーズ】人名編 物名編 【戦闘糧食事情】【最後の大隊】 【勇者新党】 【ブレイブミート】 【死後の世界】 【GNシティ】 【議長スレ・モノの名前シリーズ】 議長スレに登場する色々な人・物の名前の意味や元ネタなどを適当に列挙するコーナーだ! 思いつきなので続くのかどうかも不明!実は意味や元ネタが合っているかも不明だ! 気が向いた人がいたら適当に追加更新してね 人名編 【アスラン】-(Athrun)ヘブライ語で「暁」「夜明け」/(Aslan)トルコ語で「ライオン」 【アスラ】-(asura)インド神話・バラモン教・ヒンドゥー教における神族または魔族の総称。アスラが仏教に取り込まれそれが中国に伝わると、漢字を当てて「阿修羅」と表記されるようになった(梵:असुर) 【アマルフィ】-(Amalfi)イタリアの都市名。カンパニア州サレルノ県所在。9世紀から11世紀にかけてヴェネチアやジェノバと地中海の覇権を争い、制定した海洋法は17世紀までその効力を保った。また11世紀前半に同市の商人がエルサレムで巡礼者のための宿泊所兼病院を開いたことが、今日まで続くマルタ騎士団(聖ヨハネ騎士団)の発端となった。 【インフェルノ】-(Inferno)イタリア語で「地獄のような大火」 【ヴィータ】-(Vita)イタリア語で「命」「人生」。自動車メーカー・オペルの同名の車種から 【ヴェステンフルス】-(Westenfluß)独語で「西の川」。声優を務めた西川貴教から 【ガトー】-ソロモン諸島、ガダルカナル島の略称「ガ島」が元ネタ、ケーキではない 【カルラ】-迦楼羅。インド神話に登場する神鳥ガルーダ(梵 गरुड,英翻字 Garuḍa)が仏教に入ってこのように呼ばれる 【ガロード・ラン】-我が道を行く、「我(ガ)が道(ロード)を行く(ラン)」が元ネタ 【カント】-(Kant)高い知能指数から、「三大批判」で有名なドイツの哲学者イマヌエル・カントが元ネタと思われる。またカントとは女性や女性器の隠語だったりもする。 【キラークイーン】-(KILLER QUEEN)ロックバンド「クイーン」のアルバム「Sheer Heart Attack(キラークイーンの第二の爆弾と同名)」に収録の「KILLER QUEEN」から 【グリーヴァス】-(Grievous)英語。酷い、重大な、悲惨な、等の意味の形容詞 【クルーゼ】-(Creuset)フランス語で「坩堝」 【シグナム】-(Signum)ラテン語で「記号」「印」。自動車メーカー・オペルの同名の車種から 【シュレーディンガー】-(Schrödinger)量子力学・分子生物学の生みの親の一人であるドイツの物理学者エルウィン・シュレーディンガーから。「HELLSING」のシュレーディンガー准尉のキャラは、シュレーディンガーが量子力学における確率解釈を批判するために行った思考実験「シュレーディンガーの猫」と、シュレーディンガー自身が児童性愛者(わぁいかどうかは不明)であったことに絡めている? 【シロッコ】-(Scirocco)イタリア語。アフリカから地中海を越えてイタリアに吹く暑い南(あるいは東南)風。転じて自動車メーカー・フォルクスワーゲンの同名の車種から。また第二次大戦時のイタリア海軍に同名の駆逐艦が存在した 【スペランカー】-(Spelunker)英語で「洞窟探検家」。転じて米ブローダーバンド社(日本ではアイレムからリリース)のゲームから 【ダンテ】- (Dante)中世イタリアの詩人ダンテより。『神曲』『新生』はあまりにも有名 【デュランダル】-(Durandal)中世の叙事詩「ローランの歌」の英雄ローランが持つ剣 【バージル】-(Virgil)古代ローマの詩人で、ダンテの『神曲』にも登場するヴェルギリウス(Vergilius)の英語発音が由来。代表作に『アエネイス』 【パプテマス】-キリスト教における洗礼を指す言葉「バプテスマ」(希 βάπτισμα)が変化した語と思われる 【ファルク.U.ログナー】-(Falk U Rogner)ドイツに実在したプログレッシブロックバンド「アモン・デュールⅡ」のキーボード奏者。まんま。 【ボルフォッグ】-ロシア語の狼(волк)と英語の霧(Fog)を組み合わせたもの。 【マイトガイン】-俳優・小林旭の日活時代のニックネームが元ネタ。「マイト」は「ダイナマイト」の略 【モンティナ】-(Montana)ラテン語で「山が多い(土地)」。この語を名とするアメリカの州はドイツ系アメリカ人が州人口の最多を占める 【ユリシーザー】-ギリシャ神話の英雄オデュッセウスのラテン語訛りが変化したユリシーズ(Ulysses)から 【アポロガイスト】-ギリシア神話の太陽神アポロン(Απόλλων)とドイツ語で「霊」の意のgeistを組み合せたもの 【マッハアキレス】-ギリシア神話に登場する駿足の英雄アキレウスに由来。 【ティベリウス】-(Tiberius)ローマ帝国の二代目皇帝ティベリウスに由来。ティベリウスという名前そのものはローマ市内を流れる「テヴェレ川(Tevere)」から。なお、秘密結社ブラックロッジの大幹部『アンチクロス』の構成員の名前は歴代ローマ皇帝にちなんでいる。 【ステラ】-(Stella)ラテン語で「星」を意味する 【イエッタ】-(IETTA)自動車メーカー・フォルクスワーゲンの車種「Jetta」のドイツ語読みからの転化か? 【デッカード】-(Deckard)1982年公開のSF映画『ブレードランナー』(とその原作であるフィリップ・K・ディックの小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』)の主人公リック・デッカードと日本語における刑事の隠語「デカ」を掛けたものと思われる 【ロキ】-(Loki)北欧神話に登場する悪戯好きの神ロキに由来 【ドレッドノート】-(Dreadnought)英語で「恐れ知らず」を意味する。あるいは1905年に竣工したイギリス海軍の戦艦ドレッドノートから 物名編 【アドラステア】-(Adrastea)木星のアマルテア群の衛星の中で内側から2番目の軌道にある衛星 【エンジェル・ハイロゥ】-形状が「天使の頭上にある輪」に似ていることから 【コンティオ】-(Contio)初期ローマ帝国における高名な政治家・軍人の追悼集会。故人の近親男性(息子など)によって追悼演説(Laudatio)が行われた。またイタリア語(俗語)で「男性器」をも指す 【ザンスカール】-(Zanskar)インド北西部カルギル地方(ジャンム・カシミール州の一部)にある高地。その南西部はヒマラヤ山脈 【タングラム】-(Tangram)正方形をいくつかに切りわけたものを使って、問題として提示された形を作るパズル 【パラス・アテネ】-(Pallas Athēnâ)ギリシャ神話の女神アテナ(Αθηνά 英翻字 Athēnâ)の事 【マラサイ】-パプア・ニューギニアの神霊、双頭蛇の狩猟神マサライ(Masarai)が変化したもの…と思われるが、「ドミンゴ」で決まりかけていたネーミングに放送直前にけちがつき、「そんな今更…」というスタッフの呟きから生まれた、という説もある 【メサイア】-(Messiah)メシアの英語発音。「救世主」 【モーターヘッド】-(Motörhead)実在するイギリスのロックバンド。「ファイブスター物語」の作者・永野護が音楽に造詣が深い事から、「FSS」並びに氏が関わった「重戦機エルガイム」には実在のバンドや楽器の名前から取られたメカやキャラが多数存在する 【リムゾ】-(RIMSO)薬の名前。膀胱炎の治療薬で米バクスター・インターナショナル社の商標。化学名はジメチルスルホキシド。(CH3)2SO.原作でも右ERLから発射される機雷がカプセルの形をしているところからも来ていると思われる 【ミッドガル】-北欧神話における人間界の名称「ミズガルズ」(Miðgarðr)。アース神族の住まう世界「アースガルズ」と死者の国「ヘルフレイム」の中間層に位置し、巨大な海洋に囲まれているとされる。北欧神話では世界は階層的に解釈されており、ミッドガルが塔に似た構造を持つ事にも掛かっていると思われる 【イレイザーヘッド】-(Eraser Head)1977年公開の映画。デヴィット・リンチ監督の処女長篇 【ジン】-(JINN)アラビア語で「魔人」を意味する 【ファフナー】-(Fafnir)北欧神話に登場するドワーフ「ファフニール」の英語読み 【グロースター】-(Gloucester)イングランド南西部のグロスターシャー州に由来する 【キュベレイ】-(QUBELEY)アナトリア半島のフリギア王国に端を発し、古代ギリシャや古代ローマでも信仰されていた大地母神の名称。ギリシャ語ではキュベレー(Κυβέλη)と発音される 【ディセプティコン】-(Decepticons)英語において「欺く」「惑わす」といった意味を持つ名詞「Deception」からの転化。この為、小説版TFでは「欺瞞の民」という言い回しも登場した 【オートボット】-(Autobots)英語で「自動車」を意味する「Auto」と「Robots」を組み合わせた造語 【戦闘糧食事情】 「コンバットレーション」「野戦食」とも呼ばれる、軍事行動時の兵士たちに配給される食事。 戦争という究極的に過酷な環境にあって、ひと時の安息を与えるアイテムである。 ここでは各組織の戦闘糧食事情を紹介する。 【最後の大隊】 (銀河帝国を別にすれば)議長スレ世界随一の多文化・多種族社会である大隊においては、食生活においてもきめ細かい配慮がなされている。 大隊のオリジナルメンバーとも言える吸血鬼に対しては弱点とされるニンニクなどネギ科の野菜・香辛料(他にはネギ、ニラ、ラッキョウ、チャイブなど)を用いない糧食が用意されている他、「カタギ」と俗称されるいわゆる「普通の人類」にも宗教(たとえばユダヤ教・イスラム教では豚肉、ヒンドゥー教では牛肉が除かれる)・信条(ベジタリアンなど)・持病(糖尿病、高脂血症)などの理由を抱える者用の糧食が揃えられている。 「自己の意思と生存本能を持つ存在はたとえAIであっても『生命体』とみなす」と考える組織だけに、ガソリンやバッテリー、核物質でも、それを消費する存在が「生命体」であれば「糧食」とし、配給されたり基地のPX(購買部、酒保)で販売されているのもユニークな特徴である。 【勇者新党】 人間用の食事はGアイランド並びにオービットベースの食堂で提供される。 GGG時代から純然たる軍事組織とは一線を画す新党らしく、基本的な献立は国連施設の食堂に準じている。 しかし、故・獅子王凱の好物だった牛丼を始め、新党独自のメニューも数多く存在する。食堂内にはドリンクバーも設けられているが、選べる飲料はメロンソーダ一種類のみである。更に新党員の用いる義体向けにオイルやロボジュース(ロボット用の嗜好飲料)なども提供しており、人間と勇者ロボの交流の場としても機能している。 【ブレイブミート】 勇者新党直営の肉屋さん 食肉の生産から卸売・小売まで一貫して行っている ただし、一般の肉屋のように、売られる肉には豚とか牛とかの種別表示はされていない しかし「これって何の肉ですか」と店員に聞くのはタブーとされている 【死後の世界】 ここでは各キャラクターが死亡した際に行く先を紹介している。 一としあきの独断と偏見によるものなので修正・加筆をお願いしたい。 【賽の河原】 死んだ人間が一番初めに行く所。他の世界の入口と言える。 管理者は地獄と同じくニーサン。彼が大隊に居る今、四季英姫ヤマザナドゥが最高権限を持つ。 三途の川の引渡し人として、死神であるところの小野塚小町も確認されている。 【地獄(現在封鎖中)】 こちらを参照のこと。 【ソウルソサエティ】 スレ中に死神朽木ルキアが存在する事から、BLEACH上の原作にあるソウルソサエティも存在すると思われる。 大罪を犯した虚が封じ込められる「(BLEACH版)地獄」が存在するかは不明。 現世への帰還には護邸十三隊クラスの実力を伴う必要がある。 【霊界(東方シリーズ)】 東方妖々夢で登場した霊界も(異世界ながら)存在すると思われる。 魂魄妖夢とイザーク・ジュールとの相関関係等、原作設定とはある程度の違いがある模様。 管理者は白玉楼の主、西行寺幽々子。 とは言え住民は皆亡霊、各々が気楽に暮している様子である。 霊界と幻想郷は(飛行能力を用いれば)自由に行き来出来るが、議長スレの世界で亡霊が参加できるかは不明。 【GNシティ】 ザナルカンド領内のどこかにある基盤エネルギーを純正太陽炉で確保している街。 街の至る所にGNコンデンサーも完備している様子で、結界を張り粒子を解放することで疑似的な対話空間も発生できる。 また街にはコンビニもあり、イザーク・ジュールが搬入管理をしている様子。 時々怪しい電気屋さんがコジマ商品を売りつけに来たりする。 【隠しコーナー】 ラクシズ士官部屋割 ラクス 艦長室。一番広い。豪華。え?魔乳や虎さんは?いん細 キラ NEET用の個室。以前は私物で足の踏み場も無かった(別名『超NEET電脳要塞』)がGSの襲撃で完全に破壊されリフォーム。「今のところは」片付いている アスラン&ヴィータ&カント 中学生以下の保護者役はアスランに。4人部屋なので少し余裕がある。ヴィータはよく他の部屋に遊びにいく シグナム&トウカ 加入時期諸々の事情で長い付き合い。エミリヤグッズいっぱい。NEET部屋その2 秋葉&シオン お嬢様と居候コンビ。遠野家から色んな調度品が持ち込まれている 凛 咲夜との同室だったが、彼女のラクシズ脱退により現在は凛の個室に ヴィレッタ&ラミア 同時期に入ってきた人は基本的に相部屋なのでは 北岡法律事務所 艦長室に次ぐ大部屋。ゴロちゃんと二人で仕事してるので広いが現在空き部屋 伊達政宗 多分小十郎と一緒。割と拾い畳の部屋で、トウカがよくいる部屋でもある 厨房 琥珀さんやメイド隊がいるがNEET増加により政宗も戦列に、たまに閉鎖されます ※こっそり開設、所詮は1としあきの妄想なのよー。好き勝手に編集しちゃっていいんだぜ 【影の年表】 【有史以前】 時期 出来事 備考 ビッグバン以前 ユニクロンが過去の宇宙を喰らい尽くし眠りにつく 残った宇宙同士が衝突、ビッグバン発生 現在の宇宙誕生直後 ネクロンの神ク・タン誕生 この頃は恒星のエネルギーを食べるだけで無害だった ネクロン誕生 ネクロンティールがク・タンと契約を結び生体金属の肉体を与えられネクロンに生まれ変わる 宇宙が自らを喰らうユニクロンに対抗する為に善神プライマスを創造する 後に両者共に金属惑星に憑依 150億年前 機界昇華により三重連太陽系滅亡 緑の星の生き残りラティオは別次元の地球へと脱出 46億年前 太陽系第三惑星『地球』誕生 太陽系の成立も同時期 2億年前 『光の意思』と『闇の意思』の戦いが終結 『光の意思』によって大甲神カブテリオスと邪甲神クワガタイタンが創造される 約6000万年前 ネクロン冬眠開始 旧きもの(宿敵エルダーの祖先)との再戦は勝敗つかず 1000万年前 セイバートロン星においてサイバトロンとデストロンの間で戦争勃発 50万年前 プロトカルチャー滅亡 統制を失った生体兵器ゼントラーディが宇宙各地で戦闘を拡大 5万年前 先代創世王が誕生 ゴルゴムの成立は更に遡る 【人類誕生以降】 時期 出来事 備考 紀元前 ラピュタ文明の隆盛と滅亡 電気騎士モーターヘッド及び騎士の誕生 4077年前 魔界統一大会においてアングマールの魔王が勝利する 不戦勝で優勝。他の候補者たちは「くだらない」とし棄権していた 地中海におけるミケーネ帝国の興亡 800年前 錬金術師がオーメダルを生み出す 数百年前 新大陸アメリカにおいて神聖ブリタニア帝国成立 後に滅亡、アメリカ合衆国成立 19世紀末 アーチボルト・ウィトウィッキー船長が北極で凍りついたエイリアンを発見 20世紀末 南アタリア島に異星人のものと思われる宇宙戦艦が墜落 後にSDF-1マクロスと命名される 90数年前 宇宙ステーションラプラス爆破事件 数十年前 天使の落日事件 58年前 最初のコーディネーター「ジョージ・グレン」が自らの出生を告白 十数年前 サンク・キングダム滅亡 王子並びに王女は国外逃亡 15年前 『第四次聖杯戦争』開戦 『15年前の戦争』との関連は不明 火星圏独立国家ヴェイガンの滅亡 地球と火星との間で勃発した星間戦争。『15年前の戦争』が要因とされている 連邦内部で内ゲバが発生、抗争に発展 以降ネオジオン戦争~アクシズ・ショックまでの遠因となる 13年前 特務隊の隊長であったアセム・アスノが任務中に消息を絶つ 10年以上前 エクスカイザー、クライン・サンドマンを名乗り人間社会に潜伏開始 サンドマンと地球の一部有志がグラヴィオンを建造 機体は完成後隠匿される 7年前 『渋谷隕石落下』 地球外生命体ワーム侵入 木星探査船ジュピロス・ファイブ通信途絶 4年前 『第五回聖杯戦争』/『ヤキン・ドゥーエ』戦役開戦 『EI-01落下事件』 この際の事故により獅子王凱がサイボーグ化 2年前 『機界文明戦』/『ヤキン・ドゥーエ』戦役終結 最近見かけなくて悲しい方々 後方支援者(先日の反省会によると伝説らしい) 通信兵 ヤザン大尉(先行者に釣られて復帰しました) オメガ レーダー王(某所にて確認) セブ カミュ 人物・メカ・事件その他に関するちょっとした裏設定 (もし使いたい人がいたら参考になるかもという意味で) 【ザフィーラ】 リーダーのシグナムも犬とだけしか覚えていませんでした 一応主の八神はやてに聞いたら「それ誰や?」と酷いボケをかまされたそうです 原作でも人型は切り札と思ったらそうでもなかったぜ! たまに動物帝国付近で自己主張していますが無害です 【大隊の前情報部長】 現情報局長の2代前の大隊情報部のトップ レッドショルダー隊の創設者でもあり、赤肩隊内ではカリスマであった(もっともキリコは胡散臭く感じていたらしい) 少佐とは大隊の方向性を巡って折合いが悪かった 赤肩隊は数多くの特権を有し(当時大隊が有していた32基の人工衛星のうち1基を専用で使用、など)、一般兵からは疎んじられていた 3年前、赤肩隊はクーデターを企図したが事前に露見。懲罰として最前線に送られそこでキリコを残し全滅 全滅直前、司令部と赤肩隊との通信が途絶する事件が起きる 少佐は1ヶ月の期限付きで現情報局長(駐木帝大使館勤務が決まっていたが延期)に調査を命令 調査の過程で、現情報局長は情報部長(当時)が赤肩隊クーデターの黒幕と確信 また赤肩隊全滅の前日、情報部長と数人の司令部付エンジニアが退職していた事実を掴むが、そこで時間切れ 少佐の立腹は相当なもので、この件以後「情報部長」のポストは廃止。また人工衛星も1基(エミリアライブ時に団長が使っていたもの)を残し放棄(うち1基はキリコが事実上私有) その後表舞台から姿を消していたが、その間自身のコネクションをフル稼働して、大隊が放棄した残り30個の人工衛星や、旧地球連合が廃棄しようとしていたAA級(ドミニオン?)を確保。カンボジアに兵器工場兼衛星基地を設け、少佐への報復の機会を待っていた キリコの属するラクシズがAA、エターナルを相次いで失うや行動を起こし、259話でキリコをカンボジアへ招き、基地とAA級を引き渡そうとしたが、潜入していた大隊の川澄舞に察知され、アスラ先生に殺害される。しかしAA級の引き渡しには成功した ラクスとキリコに少佐排除後の大隊を託そうとしていたらしい またラクスに「千年王国の王」を見出していたようだ(ラクスが有するという「アマテラス帝に匹敵する力」〔次項参照〕と関係しているのか?) 30個の人工衛星は大隊が奪回。しかしのちにバルマー帝国によって勇者新党のオービットベースもろとも破壊された 大隊が接収した彼の手記にはラクス・キラ・アスランに関わる重大な事項が記されているといわれ、現在も情報局や技術開発局によって精査が進められている〔「ダブルイプシロン・ヒューマン」の項参照〕 ビジュアルモデルは「地獄の黙示録」のカーツ大佐 【アマテラス帝】 そもそもこいつが創造した宇宙とこの世界は別 なので全知全能の神としてのアマテラスは存在しない ログナー、イエッタや盗s…ミラージュ騎士団(おそらくはゴッズ騎士団やデコーズ、クローソー、バランシェ)もアマテラス帝やAKDに関する一切の記憶が抜け落ちている ついでに言えばヤクトミラージュはアマテラス帝ではなく同志が作ったことになっている KOGやオージェを作った流れMHマイスターのレディオス・ソープならいるかも…って同一人物じゃん 反省会によるとラクスがアマテラス帝に匹敵する力を秘めているらしいが…? 【サイ・アーガイル】 無印種に登場したキラの友達の一人 途中で婚約者のフレイを寝取られ、「やめてよね」の犠牲者になったのは余りに有名 特技はストライク土下座 無印ではそれなりに出番があったが種死では台詞どころか登場シーンすら無し 恐らくキラですら存在を忘れ去っているであろう人物No.1 AAに紛れ込んでますがツッコミするたびにキラに捻られシグナムに殴られ大変な目に AAのピンチのたびにトールとともに魔乳艦長の号令一つでカタパルト射出 【カズイ・バスカーク】 無印種に登場したキラの友達の一人 キラやラクスを化け物扱いするという後々考えると恐ろしい真似をした男 中盤でAAがオーブに寄港した際に艦を降りてそのまま永遠にフェードアウト 恐らくキラですら存在を忘れ去っているであろう人物No.2 ちゃっかり今でもAAに乗艦しており、たまにムカつくコメントを吐く 【大隊司令部の各部長(参謀)〔第461話での機構改革以前〕】 作戦部長、情報部長代理、総務部長、兵站部長、外国部長、技術本部長、医務本部長のポストが存在していた 作戦部長は前任者が第7次オーブ侵攻戦でMIAになった後、月代彩が就任 情報部長職は3年前のレッドショルダー隊のクーデターに当時の部長が関与していたとして廃止 以後部長代理がトップとなる 現情報局長(機構改革時の部長代理)によれば、前情報部長代理はナイジェル・パワーズという人物だったそうだ 兵站部長、総務部長、外国部長も同戦でMIAとなり機構改革まで空席 人事、財務関係は総務部長の所轄 アインをスカウトしたのは総務部人事課の佐藤大輔課長 佐藤課長の部下には、某ハリウッドスターに髭を生やしたような怪しい雰囲気のヘッドハンターがいて、GSのティベさんに声かけてました 水木班長、プルシェンコ班長らオペレーター陣は作戦部長の指揮下 外国部長は各国における外務大臣と思ってつかぁさい 【カントブレン】 核ミサイルの直撃を受けて大破 嫁のカントきゅんはさっさと新機体を見つけて、半壊のまま見捨てられた と思われたが、小型化して複製、手乗りのサイズのカントブレンとして個性を保存 戦闘時はカントきゅんの肩に乗っている きゅうと鳴く 【裏組織インフェルノ】 最後の大隊のアイン・ファントム、ドライ・ファントムが本来所属する秘密結社 アインとドライを「作り上げた」男、サイスマスターは、大隊のドクと交友があるらしい 同じ大隊の情報部長代理、佐藤大輔人事課長ともコネクションを持つ 北米に本拠があると言われるが、その全容には謎が多く、三人の暗殺者を現在手駒として使っているとの噂 その内の二名がアインとドライであるが、残る「ツヴァイ」のデータは一切不明 大隊以外の、他の組織との関連性についても囁かれているが、詳細は掴めず 当然アリさんとは何の関係もありません 【勇者シリーズのわぁ(ryもとい少年たち】 勇者とは離れて一般人として生活している ぶっちゃけあんな所に子供を置いたら悪影響もええとこじゃい! それ以前に放送年度から時間経過しているので今では成長しているとか つまりもうわぁいじゃな(ry この法則でいくとダグオンチームはダブりのオジンじゃ(ry 【津上君の家庭菜園(という名の魔境)】 仮面ライダーアギトこと津上翔一が作った家庭菜園の事 中には津上君の心を込めて育てた植物が茂っている。 怪獣であるアストロモンス、グリーモンスなんてものまでいる。 津上君にどうやら飼いならされているようで、「津上の兄さん」と慕っているとかいないとか 津上君以外が不法侵入すると食べられます(食物的な意味で) だから、野菜を取る場合は、津上翔一本人が収穫しに行く 津上君はいろんなものを植えてるみたいだから、まだ増えるかもわからんね 【スペースナイツ】 原作でテッカマンブレードが所属していた組織 外宇宙開発機構(通称・スペースナイツ) 技術力では地球連合軍も引けを取らぬ組織でもある Ⅱではスペースナイツ独自に素体テッカマンの武装フォーマットも行われるほどに 原作は地球連合軍からの依頼で動く事もあったが、議長スレでは影も形も確認出来ない 【アスラ先生のひ・み・ちゅ】 戦闘で勝つと技を教えてもらえたりする(これは裏設定じゃない? 体育座り7段の免許を持ってる 趣味はお掃除で、好物はチェリーパイ 童貞で処女だから、吸血鬼にもなれるよ! 魔王様とは、実は親戚 【アイリーン・カナーバ】 アスランパパと議長の間のプラント臨時最高評議会議長 原作ではクライン派の支援でクーデターを起こしアスランパパ体制を打倒、議長に就任 その後ユニウス条約を締結するが、条約によって起きた問題の責任を取って辞職 今はどうしてるんでしょうね ラクス寄りなので少なくともプラント首脳部にはいないはず 【子安ネットワーク】 “子安”の声を持つ者により構成される超空間的情報ネットワーク ネットワークに接続すると、子安キャラ同士で思考・情報の共有が行えるらしい 一部のウワサではゼクスもこのネットワークにより五虎将まで上り詰めたとか ちなみに子安ネットワークは子安キャラが増える度、広がるのだ! 子安といえば子安が原作アニメ、ヴァイスシリーズは黒歴史・・皆知ってるね 一説によれば塩沢ネットワークにも繋がっている者がいるらしく、そこを介して大霊ry 【もう一人の「ファルク・ユーゲン(ユーゲントリッヒ)・ログナー」】 西暦2100年代(22世紀)後半の地球連邦(地球連合以前の「旧連邦」)に在籍していたと伝えられる人物 当時世界を統治していたヒューマンコンピューター『DOUGHTER(ドウター)』が、自らを制御する為に遺伝子を選別し生み出したマシンチャイルド ドウターを補佐する唯一の人間として絶対的な権力を持つ一方、自ら警察組織『メトロポール』を指揮し、反体制的な要素を含むあらゆる芸術活動(特にロック音楽)に峻烈な弾圧を加えていた しかし、実は彼自身も密かに音楽活動を支持しており、後に自ら生みの親とも言える『DOUGHTER』を破壊、圧政下で封印されていた芸術の解放を後押ししている 彼が在籍していた旧連邦や芸術解放運動に関しては、資料の殆どが散逸しており、今となってはその名前も忘れ去られている 現在のらんどに属するファルク・ユーゲン・ログナーとは名前及び容姿が完全に同一(「ユーゲン」は「ユーゲントリッヒ」の略)だが、両者の関係性を示唆するのは「ファルク・ユーゲントリッヒ・ログナーは父親のクローン人間」であるという事実のみである 【旅人と王ドロボウ】 キノ(旅人)とジン(王ドロボウ)は数多の世界を渡り歩く異邦人(ストレンジャー) 議長スレ世界以外で、何度か出合っているようである。 そこに、どんなドラマやいきさつがあったのかは、二人とその相棒しか知らない 相棒同士の仲は最悪のようで、「バカカラス」「アホバイク」と罵り合ってry 【ルクレチア事件】 数年前、世界からルクレチアという国が消えた この国は独自の騎士団を有しており、さらには勇者とよばれる人間もいた だが、この国は滅亡した。動植物に大した被害はなく、ただ、人が消えた 学会ではこの事件は有名であり、今でも原因に対する様々な仮説がなされている 【<セクター7>】 アメリカ合衆国政府直属の秘密組織 外部からは徹底的に秘匿され、規模や活動内容の一切が謎に包まれている 政府内部でもその存在を知る者は歴代大統領と極一部の関係者のみである 過去にはアポロ計画と並行して宇宙船の打ち上げなどを行っていたが、その時に地球を立った宇宙船は今日に至るまで未帰還である フーバーダムの地下に南極で発見された凍りついたエイリアン『アイスマン』を隠している アイスマンから得られたデータはMS開発に流用されるなど、組織の活動範囲は幅広い 俗に言うメン・イン・ブラック(黒ずくめの男達) 【ザビ家】 デギン・ソド・ザビ公王を長とするジオン公国の事実上の支配者一族 長男ギレン、長女キシリア、三男ドズル、四男ガルマは、それぞれが公国の要職に就いている(次男サスロは一年戦争勃発時点で故人) このスレではジオン公国は既に滅亡したとされているため、原作とは異なり権力の座にはいない 原作では一年戦争を通じてドズルの娘ミネバ・ラオを除き全滅したが、本スレではしばしば端役として登場するなど生存している可能性が高い また、彼らの生存がこの世界の歴史でアクシズ及びネオジオンが一度も成立していない理由(※)になっているとも考えられる ※ザビ家の唯一の正統後継者としてミネバを担ぎ上げる事が出来ないため。原作においてハマーン・カーンらアクシズの首脳部はミネバをジオン再興の礎として認識しており、シャア・アズナブルの離反を招いた。 【シックスショット】 デストロンに在籍する同名のシックスチェンジャーと別人とは言い切れない 『トランスフォーマー スーパーリンク』に登場したレーザーウェーブの弟 外見はレーザーウェーブの色違いで声も同じだが、凶暴な兄と違って計算高く腹黒い 原作では兄弟揃ってセイバートロン星の牢獄に繋がれていた このスレでは兄がG1設定準拠のため、弟も投獄されたりはしていないと思われる ピコッ☆ 【不死と亡霊】 完全の生により永遠に生き続ける不死者と死後何らかの要因で顕現した亡霊。 互いに死を超越した存在でありながらその存在は完全に相反するものである。 「仲間」を増やす事を生業とする多くの亡霊は、存在の対極であり自らの力が効かない不死者を畏怖している。 不死側からすれば相手の生死がどうあろうが自分を殺せはしない為大して気にしない場合が多い。 ちなみに不死、およびそれに近しい存在は以下。 名称 原因 所属 蓬莱山輝夜(シホ・ハーネンフース) 蓬莱の薬 動物帝国 シグマ シグマウィルス 動物帝国 八意永琳 蓬莱の薬 動物帝国 ジェナス・ディラ 蓬莱の薬(※1) 議長軍 アルクェイド・ブリュンスタッド 真祖(最高位吸血鬼) 最後の大隊 シエル ロア転生の後遺症 喫茶ピアース 藤原妹紅 蓬莱の薬 喫茶ピアース ステラ・ルーシェ DG細胞 らんど イエッタ ファティマ(人工生命体 ※2) らんど ネクロン・ロード 種族的特長? 銀河帝国(騎士団ネクロン派) (ニコル・アマルフィ、ファルク・ユーゲントリッヒ・ログナーはクローン体と解釈し該当外扱い) ※1)死後に与えられた為不老不死の効果が発現しているかは不明。 ※2)ファティマの寿命は理論上無限。加えてイエッタの場合はヘッドコンデンサにもログナーのドウターと同じシステムが内蔵されていると思われる。 亡霊と呼ばれる存在は以下。 名称 原因 所属 西行寺幽々子 死を操る能力 フリー 魂魄妖夢、イザーク・ジュール(ただし半分のみ) 半人半霊 動物帝国 (英霊〔セイバー、キャスター、佐々木小次郎(旧騎士団)、英雄王ギルガメッシュら〕は霊と銘打たれているが精霊に近い存在であると解釈し該当外扱い) 余談ではあるが、不死や伝承生物の肉を食べた者は不死になるという伝説が残されている。(人魚伝説など) それを亡霊が食べた場合不死の亡霊になると言われるが、真実は定かではない。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/5449.html
前ページ次ページIDOLA have the immortal servant 「できたわー! あー……やたら苦労したわねー!」 椅子にどかっと腰掛けて、モンモランシーは溜息をついた。テーブルの上の坩堝には調合したばかりの解除薬が入っている。 魔法学院に取って返した一行は早速モンモランシーに調合をしてもらい、解除薬が完成し次第フーケに処方することとなった。 「もう効果は出るのか?」 「ええ。飲ませればすぐ元に戻るわ」 「では、ミス・ロングビル」 と、フーケに突きつける。 フーケはその異臭に眉を顰めたが、フロウウェンが促すとそれを一息に呷った。 「あ。言い忘れてたけど、薬の効果は切れるけど、記憶はなくなるわけじゃないから」 「……そういうこともあるかと思っていたが……そうか……」 心底疲れたようなフロウウェンの声。 ふるふると頭を振ってフーケが目を開けた時、そこにあるのは、いつものミス・ロングビルの理知的な顔だった。 「ミス・モンモランシ……」 フーケの冷たい視線がモンモランシーに突き刺さる。 「は、はいぃっ!」 「次はありません」 フーケはにこり、と上品に笑う。満面の笑みが逆に怖かった。 「ごごごごごめんなさい!」 フーケにしてみても最大限の譲歩といえた。一応フロウウェンとの約束もあり、秘書を続ける以上、生徒であるモンモランシーを痛めつけるわけにも行かない。 「ミスタ・フロウウェン」 くるり、とフーケが振り返る。実ににこやかな表情だった。 「一緒に来てください」 有無を言わさずに手を取ると、フーケはフロウウェンを引っ張っていった。 「ハァァァァァ……最悪だ」 人気の無い場所までフロウウェンを引っ張ってくると、フーケは脱力したようにうなだれた。 「忘れろ。オレも忘れる」 「あー。そうしたいね。今日は浴びるほど酒をかっくらって寝る。その前にあのセクハラジジイへの言い訳考えなくっちゃなぁ」 「オールド・オスマンのことなら、出発前にミス・ロングビルは風邪を引いて寝込んだとルイズが連絡していた。捜索隊のよしみで仲が良くなったのだとでも、適当に口裏を合わせておくといい」 「あーそうかい。そりゃ手回しのいい事で」 忌々しげに頭をかいてフーケは投げやりに言った。 「ったく……まあ……あんたは余計な事を聞こうとしなかったから勘弁してやる。詮索もしないこった」 「ああ。分かっている」 フロウウェンは小さく笑った。 フロウウェンが部屋に戻ると、ルイズが難しい顔で唸っていた。 「どうした?」 「ちょっと考え事をしてたの。やっぱり、おかしいわ。うん」 言って、立ち上がる。 「水の精霊の話を覚えている?」 「ああ」 「あっさりアルビオン王家を裏切った貴族派の人達を恥知らずだと思ってたけど……『アンドバリ』の指輪の話を聞いてしまうと、誰も彼も本心からのものなのか、怪しく思えてくるわ」 「……そうだな」 それについてはフロウウェンも考えていた。ルイズなら当然気付くと思っていたが、やはり思い至っていたらしい。 「わたし、この事を王宮に報告して公表してもらおうかと思うの。ヒースはどう思う?」 「どう思う、とは?」 「この事を明らかにすれば、トリステインを戦火から守ることにも繋がるわ。アルビオンの王族も救えるかもしれないし」 ルイズは自分の考えを身振り手振りを交えながらフロウウェンに開帳していく。大発見をしたと少々興奮気味で、顔が紅潮していた。 「……確かにクロムウェルの求心力は落ちるだろうな。だが、王党派をそれだけで救えるとは思えない」 「どうして?」 「情報の確度の問題と、指輪の性質の問題だ。周囲の状況に流されている者もいる。『アンドバリ』の指輪の力に思い当たることがある者は貴族派の中にもいるだろう。 だが、それを口にしてクロムウェルを誹謗するには勇気がいる。殺されれば意のままに操られるならば尚更だ。『アンドバリ』の指輪は、人の命を著しく軽くする」 「そんな!」 ルイズのように言行一致を貫こうとする者の方が稀なのだ。 だが、貴族の誇りを信じているルイズにはそれが理解できない。許せない。 「この状況下なら指輪の力を知って、なお肯定する者も現れるに違いない。それから……軍人には粛々と命令に従うのが己の責務と思う者が多い。 指輪の事がトリステイン王家から公に誹謗されようと、しばらくは勢いに乗った貴族派の流れは変わらないだろうな」 「じゃあ、何もできないっていうの?」 「いや。トリステイン王家に知らせることは意味のあることだ。指輪の存在を知っているだけで、対策の立て方は随分と変わってくる。 ただ……『アンドバリ』の指輪の特性を考えるなら、それをどうやって、誰に知らせるかもまた考えておく必要がある。 貴族派がアルビオンの次に望んでいるのが、トリステインだということを忘れるな」 アルビオン王党派が既に死に体である以上、貴族派は当然その先を見据えて動いている。トリステインに間者や内通者を紛れさせている可能性は、非常に高いということだ。或いは既に『アンドバリ』の指輪で動いている死者が混じっているかも知れない。 「そう……」 その事を言い含めると、ルイズは暫し黙考した後、口を開いた。 「姫殿下に直接……というのが良いと思うわ。姫殿下がゲルマニアからお戻り次第、王宮に行くことにする」 姫殿下というのは、トリステイン王家の先代の王の残した娘、王女アンリエッタのことだ。 トリステインの先王が亡くなり、トリステインの王族は二人。まずアンリエッタの母である大后マリアンヌ。それから王女アンリエッタだ。大后マリアンヌは女王に即位するでもなく、夫の喪に伏しているということで、政治に口を挟んでいない。 実質的にはアンリエッタの腹心である枢機卿マザリーニがトリステインの政治を動かしているということになる。この話を持ち込むのなら、アンリエッタかマザリーニのどちらか。或いは両方、というのが妥当な線だろう。 だが、両者とも今はトリステイン国内を留守にしている。ゲルマニアを訪問しているらしい。アルビオン貴族派の脅威を受け、トリステインとゲルマニアの利害は一致している。同盟の確約を取り付ける為の訪問だろう。 「では、オールド・オスマンに書状を認めてもらうのがよかろうな」 「そうね。ちょっと行ってくる」 言うなり、ルイズは早足で部屋を出て行った。 行動力があるのは良いことだと、フロウウェンは静かに微笑んで、ルイズの背中を見送った。 それから数日は何事もなく平穏な日々が過ぎた。 授業の合間でも『アンドバリ』の指輪のことが頭にあって気が急くのか、ルイズはあまり集中できていない様子だった。 放課後の座学でも、タバサへの指導の折を見てルイズに視線を移しても、物思いに耽っていることが多い。 生真面目であるが故に思考の切り替えが早くないというのは……まあルイズの年齢を考えれば致し方ないことだろう。 因みに、タバサの方はというと、フロウウェンに『フライ』と『レビテーション』を必要としない回避運動。つまりは純粋な体術を求めてきた。 魔法と体術を組み合わせた回避運動は重力や慣性に縛られず、かなりの機動力と対応力を持っている。これはタバサに目の前で実演してもらった。 その機動力にはフロウウェンも舌を巻いたほどだ。しかもそれを、ほとんど独学で研鑽したというから驚きである。 体格に恵まれない彼女は筋力で劣る。それ故、瞬発力も不足する。しかし、彼女は得た知識を以って、経験と実力を補える応用力を持っている。 それは驚くべき天賦の才と言えた。ただ、タバサの確立した戦術には一つだけ欠点があった。 事前の詠唱と精神力の消耗だ。 回避に専念することを念頭に置いて呪文を唱えなければならず、飛行中も他の呪文が唱えられない。その分攻撃にも回避にもラグが生まれるし、精神力の余力は減ることになる。 だからフロウウェンが見せた、魔法にも筋力にも頼らない体裁きの技術は攻撃と防御の両面を強化するという意味で、タバサのニーズに合ったのである。 裏を返せば、タバサは今の彼女でもまだ届かない目標を持っている、ということだ。紙一重の戦いに対応せんが為の向上心である。 年端もいかないタバサが、それほどまでして何を目指しているのか。それを想像すると、どうにも暗鬱な答えばかりが見えてきそうだった。 「病気や毒を治癒するテクニック」についても熱心な質問を受けたのだが、アンティは戦地における間に合わせという側面が強い。事実、フーケが誤飲した惚れ薬は中和できなかった。 それを聞かせると、タバサは表情にこそ出さねど、落胆した様子であった。 ルイズにもカトレアという生まれつき身体の弱い姉がいるらしく、レスタやアンティやリバーサーについて根掘り葉掘り聞かれていたのだが、そうなるとタバサの身内にも病弱な者がいるのかもしれない。 或いは、それこそが動機に直結しているのだろう。フロウウェンは、講義に耳を傾けるタバサの後ろ姿を見やって溜息をついた。 「最強の系統は知っているかね? ミス・ツェルプストー」 教壇に立った教師が不遜な態度を隠さずに言った。 『疾風』のギトー。コルベールやシュヴルーズといった、比較的温和な教師が多いトリステイン魔法学院にあっては、かなり気難しい性格の教師といえた。 厳格という言葉は時に尊敬の意味を孕むものだが、ギトーの場合は多分に他者を見下す所がある。その為に生徒達には煙たがられているのである。 そんなギトーから指名されたキュルケは、臆することなく答える。 「『虚無』じゃないんですか?」 「伝説の話をしているわけではない。現実的な答えを聞いているんだ」 その受け答えに、キュルケは気分を害したようだった。恐らくギトーは『風』だと言わせたいのだろう。 だがキュルケはここで引くような性格をしていない。己が『火』の属性であることに誇りを持っているのだ。加えて、自信も実力も充分にある。 「『火』に決まってますわ。ミスタ・ギトー」 「ほほう。どうしてそう思うのかね?」 「すべてを燃やしつくせるのは炎と情熱。そうじゃございませんこと?」 「残念ながらそうではない。ためしにこの私に、『火』の魔法をぶつけてみたまえ」 腰に差した杖を手に、ギトーは言い放つ。キュルケは少し驚いた様子だったが、不敵な笑みを浮かべた。 「火傷じゃすみませんわよ?」 「かまわん。本気できたまえ。その有名なツェルプストーの赤毛に恥じぬようにね」 家名を出されたことでキュルケの顔から笑みが消える。 胸の谷間に差していた杖を抜き、口の中で魔法を詠唱する。 天に掲げた掌の上に真紅の球体が生まれる。そのまま詠唱を続ければ、火球は一メイルほどの大きさに膨れ上がった。 巻き込まれればただでは済まないと思ったのか、周囲の生徒達が慌てて机の下に隠れる。 手首のスナップを利かせてそれをギトーに向かって放る。その軌道に残光を残しながら、猛火は唸りを上げてギトーへと迫った。 対するギトーはそれにたじろぐ様子もなく、高らかに詠唱して杖を振るう。 瞬間、地面から巻き上がった旋風が火球を巻き上げ。一瞬にしてそれを吹き散らした後に、軌道上にいたキュルケも吹き飛ばした。 ふわり、とキュルケの体が宙に浮く。タバサの『レビテーション』であった。 「諸君、『風』が最強たる所以を教えよう。簡単だ。『風』はすべてを薙ぎ払う。『火』も『水』も『土』も、『風』の前では立つことすらかなわぬだろう」 ルイズの隣で一連の顛末を目にしていたフロウウェンだったが、その言葉を額面通りに肯定していいものか、と首を捻る。 確かに『風』は『火』を防御するのにはすこぶる相性がいい。火は酸素無しには存在し得ないからだ。 だが、フーケのような『土』が相手ならば、これは余程術者同士の力量が離れていなければ、『風』で打倒するのは難しいと思えた。 事実、フーケと同格のトライアングルであるタバサは、フーケのゴーレムに対して決定的な対抗手段を持たなかった。 対して、フロウウェンがギーシュやフーケのような土メイジを打ち破れたのは、互いの思惑と戦術が噛み合った事と、何より相性によるところが大きい。 剣の専門家たるフロウウェンに、近接戦や白兵戦で打ち勝つのは至難の技だ。人間がゴーレムになったところでそれは同じなのである。 ギーシュは術者が武術に秀でていなかったというのもあるし、フーケの巨大ゴーレムは動き自体が鈍く、これも攻撃を見切る事は容易かった。 特にフーケの場合はマグの力を見たいがばかりに、ゴーレムによる力押ししかしてこなかったというのも大きい。 もし、あの場で立ち会っていたのがキュルケやタバサだったら、或いは、初めからこちらを殺すつもりのフーケと対峙していたなら、もっと厳しい戦いを強いられただろう。 近接戦では相手の反射行動を逆手に取ってフェイントを仕掛けたり、自分の望むように相手の動きを誘導したりするのだが、距離を置かれて視界内に全身を補足されていると、それらの技術も効力を半減させてしまう。 いくらフロウウェンの身のこなしや瞬発力が尋常ではなくとも、人間の反射神経を凌駕するような速度で動いているわけではないのだ。 であるから、フーケのゴーレムとの戦いでは瞬発力に加えて、経験からくる予測でゴーレムの攻撃を凌いでいた。 無論、フロウウェンもテクニックを使っての遠距離戦は行える。 しかし、今のキュルケの火球が彼女の本気のものであるというなら、トライアングルにして既に一端のフォースが使う火のテクニック、フォイエに匹敵する火力を秘めているようだ。 正面から堂々と、使う魔法も放つタイミングも明白という、実戦とは程遠い約束事の中での流れとは言え、ギトーはあっさりとそれを防御し、あまつ反撃してみせた。 であるならテクニック主体の戦法でメイジを相手にするのは、これも中々厳しいものがある……と、結論するしかない。 『火』や『風』のメイジを相手に剣で渡り合おうとするならば、正面には立たぬようにすること。また離れた距離から戦闘に突入するような状況を作らないようにする必要があるだろう。 或いは被弾覚悟で防御を固めて戦闘に望む、という発想もあるのだが。 フロウウェンの文明には、瞬間的に発生する雷のテクニックや、空間の一点を指定して大爆発を起こさせる炎の上級テクニック、ラフォイエなどがある。これらは、回避すること自体が困難と言えた。 それに対抗する手段としては絶縁処理や耐熱処理などで「受ける被害を減らす」ことを前提とした装備で固めることが多い。 たが、このハルケギニアではそれら次善の策は望むべくも無い。だから、これは現実的な考えとは言えなかった。 教壇の上では尚もギトーが『風』の有用性を切々と語っている。何か実演してみせるつもりなのか、杖を立てて詠唱を始めたが、教室に飛び込んできた闖入者がいた為にその魔法は完成しなかった。 教室に入ってきたのはミスタ・コルベールだ。ロールした金髪のカツラを被り、ローブもマントも礼装用のなりだった。 「ミスタ?」 コルベールの装いを目にしたギトーが毒気をぬかれたような顔をする。 「あややや、ミスタ・ギトー。失礼しますぞ!」 「授業中です。ミスタ」 すぐに真顔に戻ってコルベールを睨むギトー。対するコルベールは咳払いを一つすると、重々しい口調で告げた。 「今日の授業はすべて中止であります!」 その言葉に生徒達から歓声があがる。それを押さえるかのように両手を広げ、もったいぶった様子でコルベールは口を開く。 「えー、皆さんにお知らせですぞ」 コルベールが仰け反った拍子に、金髪のカツラがずれて床に落ちた。生徒達の間からくすくすと笑い声が漏れる。 タバサがそれを指差してぽつりと呟く。 「滑りやすい」 教室中が爆笑の渦に包まれた。見ればギトーまでもが口元に手をやって肩を震わせている。 「ええい! 黙りなさいこわっぱどもが! 大口を開けて下品に笑うとは貴族にあるまじき行い! 貴族はおかしいときは下を向いてこっそりと笑うものです! これでは王室に教育の成果が疑われる!」 コルベールが怒鳴ると、それでどうにか教室が落ち着きを取り戻す。 再度咳払いをして、コルベールは言葉を続けた。 「今日はトリステイン魔法学院にとってよき日であります。始祖ブリミルの降臨祭に並ぶ、めでたき日であります。 恐れ多くも先の陛下の忘れ形見、我らがトリステインがハルケギニアに誇る可憐なる一輪の花、アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、この魔法学院に行幸なされます」 その報せに教室中にざわめきが広がる。ルイズは思わずフロウウェンの顔を見やっていた。 魔法学院へ続く街道を馬車が静かに進んでいた。 馬車の窓はレースのカーテンが引かれており、中の様子は伺えない。 車体には金と銀、白金で作られた緻密な細工のレリーフが施されている。水晶の杖と、角を持つ馬―――聖獣ユニコーンを模ったものだ。その馬車が王女のものであるということを示すものであった。 車体を引くのもまた、ユニコーンである。清らかな乙女のみに心を許すとされるその聖獣ならば、なるほど王女の馬車馬に相応しかろう。 その王女の馬車の後ろに続くのは、マザリーニ枢機卿の馬車である。王女のそれに負けず劣らずの風格と威容を見せ付け、トリステインの内政と外交を一手に引き受け、実権を握る彼に相応しいものであった。 周囲を固めるのは王室直属の近衛隊である魔法衛士隊だ。 名門貴族の子弟、しかもいずれも劣らぬ実力を備えたエリート中のエリートである。彼らの代名詞ともいえる漆黒のマントを身に纏い、幻獣に跨って、堂々たる威風を漂わせている。 街道には色とりどりの花々が咲き誇り、王女の行進をいっそう華やかに飾っていた。 そんな幻想的でありながらも荘厳な光景に当てられたのか、王女を一目見ようと街道に並んだ平民達が歓喜の声を上げる。 「トリステイン万歳! アンリエッタ姫殿下万歳!」 そんな平民の歓声に応えるように、馬車の窓のカーテンが開いて、そこに見目麗しい美貌が覗く。肩ほどまで伸ばした、艶やかな栗色の髪が小さく揺れた。 薄い青の双眸。定規で引いたように真っ直ぐで高い鼻。桜色に濡れた質感の唇。新雪のように透き通る白い肌の上に、奇跡的な均衡を保ってそれらが配置されていた。 その、美貌が―――優雅な笑みを投げかける。 花が零れるような笑みだった。喚声が一際高くなる。 そんな美貌を窺い見ることができた者は幸運だったに違いない。ほんの数分で、馬車のカーテンはまた閉じられてしまったからだ。 そうして、その馬車の主であるアンリエッタは小さく、ほう……とため息をついた。高級で繊細な美術品にも似た指先が、落ち着きなく水晶のついた杖を弄んでいる。 その表情は……それでも見るものを魅了してやまない魅力と気品に溢れていたが、どうにも浮かないものだった。王女は深い悩みの中にあったのである。 だが仕えるべき主がそんな調子では困るのが隣に座ったマザリーニ枢機卿である。 政治の話をする為に王女の馬車で移っていたのだが、どうもアンリエッタは他のことで頭がいっぱいで、自分の話にしかと耳を傾けているようには見えない。 「これで十三回目ですぞ。殿下」 「何がですの?」 「ため息です。王族たるもの、臣下の前で弱みなどお見せになさらぬように」 「王族ですって! まあ!」 アンリエッタは大仰に驚いて見せた。 「このトリステインの王さまはあなたでしょう? 枢機卿。今、街で流行っている小唄はご存知かしら?」 「存じませんな」 マザリーニは興味無さげに嘯いた。本当は知っているのだが、面白いものでもないからとぼけてみせたのだ。 「それなら聞かせてさしあげますわ。トリステインの王家には美貌はあっても杖が無い。杖を握るは枢機卿。灰色帽子の鳥の骨……」 王女の機嫌はかなり悪いようだ。自分の献じた策がどうにも気に入らないらしかった。理屈の上では納得していても、それに感情が追いついていない、というところか。 「街女が歌うような小唄など口にしてはなりませぬ」 自分がその不満の矢面に立つ程度で辛抱してくれるのなら安いものかとマザリーニは思ったものの、やはりそれはそれ。主の無作法を嗜めることにしたらしい。 「いいじゃないの。小唄ぐらい。わたくしはあなたの言いつけ通り、ゲルマニアの皇帝に嫁ぐのですから」 ゲルマニアはトリステインに比して歴史の新しい国だ。金と能力があれば平民でも貴族となれるその在り方は、他国の貴族からはしばしば野蛮だと揶揄される。 その国の皇帝アルブレヒト三世は四十代の男である。政敵をかなり乱暴なやり口で退けて王座に座ったという経緯もあり、アンリエッタの隣に並べるには如何にも不釣合いだろうと思えた。 だが、そんなゲルマニアの皇帝にアンリエッタが嫁がなければトリステインは立ち行かない。 そんな現実が、アンリエッタの自尊心と、彼女の持つトリステインという国そのものに対する矜持。その双方に浅からぬ傷をつけている。 だがそれらのことは今のアンリエッタにとっては二の次であった。 マザリーニも知らぬことではあるが、彼女には密かに恋焦がれる相手がいる。 彼の身の安否と、彼が所有する恋文がアンリエッタを最も思い悩ませている事案である。それを知ればマザリーニも己の献策が水泡に帰すかも知れぬと顔色を変えただろう。 が、知らない内はアンリエッタの苦悩に対しても、年頃の娘の我侭程度にしか思ってはいない。 「しかたがありませぬ。目下、ゲルマニアとの同盟こそトリステインにとっての急務なのですから」 マザリーニの言葉に、アンリエッタは柳眉を逆立てた。 アルビオン王家に反旗を翻した貴族派は、自らをレコン・キスタと名乗り、ハルケギニアの統一と、エルフ達からの聖地の奪還を謳っている。 飛ぶ鳥を落とす勢いの貴族派に対して、小国トリステインが独力で当たるのは得策ではない。例え退けられたとしてもどれだけ国を疲弊させるか分かったものではないのだ。 だからこそ、侵攻を事前に抑止し、更に言うならばアルビオン貴族派を打倒する為に、ゲルマニアやガリアとの軍事的な連携が必要だった。 だが、大国ガリアは利害は一致しているはずなのに、こちらの打診に対して腰を上げる気配を見せない。であるなら、アルビオン、トリステインの次に貴族派が矛を向けるであろうゲルマニアと結ぶ他は無いのである。 それらのことをマザリーニがアンリエッタに言い含めるが、それでも彼女はため息をつくばかりであった。 マザリーニは馬車のカーテンを開く。それを目ざとく見止めた精悍な顔つきの男が、自らの騎乗するグリフォンを馬車へと近付ける。 「お呼びでございますか。猊下」 ―――ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵。『閃光』の二つ名を持つ『風』のスクウェアメイジだ。 栄えある魔法衛士隊の一翼を担うグリフォン隊の隊長でもあり、マザリーニも一目置いている。機知に富み、武勇に優れ、行く行くはトリステインを支えていってくれるであろう、将来有望な若者である。 「ワルド君。陛下のご機嫌がうるわしゅうない。何かお気晴らしになるものを見つけてきてくれないかね?」 「かしこまりました」 ワルドはすぐに目当てのものを見つけてきた。街道に咲いていた花がつむじ風で舞い上げられ、彼の手元に運ばれてくる。 それを枢機卿の手に渡そうとしたが、マザリーニは言う。 「おん手ずから殿下が受け取ってくださるそうだ」 「光栄でございます」 ワルドが馬車の反対側に回ると、するするとカーテンが開いて、アンリエッタが手を伸ばした。花を手渡すと、今度は左手が差し出される。 彼は感激した面持ちを浮かべるとその手を取って、口付けた。 アンリエッタが物憂げな声で問う。 「お名前は?」 「殿下をお守りする魔法衛士隊、グリフォン隊隊長ワルド子爵でございます」 恭しく頭を下げてワルドは答えた。 「あなたは貴族の鑑のように立派でございますわね」 「殿下のいやしきしもべに過ぎませぬ」 「最近はそのような物言いをする貴族も減りました。祖父が生きていた頃は……ああ! あの偉大なるフィリップ三世の治下には、貴族は押しなべてそのような態度を示したものですわ!」 「悲しい時代になったものです。殿下」 「あなたの忠誠には期待してよろしいのでしょうか? もしわたくしが困った時には……」 「そのような際には、戦の最中であろうが、空の上だろうが、何をおいても駆けつける所存でございます」 実に理想的な受け答えであった。それに満足したアンリエッタが頷くと、ワルドは馬車から離れていく。 「あの貴族は、使えるのですか?」 「ワルド子爵。二つ名は『閃光』。かのものに匹敵する者は、『白の国』アルビオンにもそうそうおりますまい」 「ワルド……聞いた事のある地名ですわ」 「確か、ラ・ヴァリエール公爵家の近くだったと存じます」 「ラ・ヴァリエール?」 ヴァリエール公爵家なら、アンリエッタも良く知っていた。ラ・ヴァリエールの領地に逗留したこともある。そうだ。トリステイン魔法学院にはその三女であるルイズが在籍していたはずだ。 彼女はアンリエッタが幼少の頃、自分の遊び相手を務めたこともある。 暫く会っていないがルイズはどんな淑女に育ったのだろうか。 「そうそう。申し遅れておりました。ヴァリエール家といえば、魔法学院に通う公爵家の令嬢が殿下へのお目通りを願っていると、先だって報告がありましたぞ」 「ルイズがわたくしに? 一体何の用で?」 「用件までは存じておりませぬ。オスマン師の書状が送られてきているとしか」 何だろう。ただ会って旧交を温めようというわけではあるまい。揺籃の友の用件とやらにアンリエッタはあれこれと思いを巡らせたが、皆目見当も付かなかった。 ただ……向こうが面会を望むというのなら、断る理由はあるまい。自分は、心許せる友が欲しかった。最近は思い悩むことや疲れることばかりだ。 魔法学院の門をくぐって王女の一行が現れると、整列した生徒達が一斉に杖を掲げる。示し合わせたかのような見事なタイミングで、衣擦れの音と、杖を掲げる小気味良い音が重なった。 普段の学院での彼らの様子はフロウウェンの目から見ても歳相応の子供らしさも目立つのだが、こういう時はさすがは名門貴族の子弟と思わせる。 正門をくぐった先の本塔で王女を迎えるのは学院長のオールド・オスマンだ。 馬車が止まると召使達がてきぱきと駆け寄ってきて、馬車の扉の前に絨毯を敷き詰める。 呼び出しの衛士の声も幾分か上擦っている。衛士の緊張の様子が手に取るようだ。 「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなーーーーーりーーーーーーーーーー!」 しかし、扉が開いて現れたのは痩せぎすの白髪、白髭の男だった。 生徒達の間から小さく落胆の声が上がる。その中に、「何だ。鳥の骨かよ」というぼやきをフロウウェンは耳にした。 (では、あれが枢機卿マザリーニか) まだ四十代という話だが、随分と磨耗している。そんな印象をフロウウェンに与えた。 鳥の骨という表現は正鵠を射ているとは思うが、あのやつれ方は長期に渡る激務と心労によるものだろう。ロマリア出身とあってトリステインでの評判はあまり芳しくないようだが、ああいった人物は経験上、信用していい者が多い。 彼を中傷する小唄が庶民の間で流行っている。それを許す程度には広い度量も持っていて、民の自由を許容していることになろう。 やつれるというのは、実質的にトリステインの最高権力者でありながら、私腹を肥やすでもなく真摯にまつりごとを行っているということの証明だ。 事実、トリステインは可もなく不可もなくといった調子で、国内の情勢は安定している。マザリーニが誠実かつ堅実な男だということだ。見上げた男ではないか、とフロウウェンは感心した。 そんな男が謗りを受けるというのは、半分以上は嫉みや妬みというものだ。余所者が王女や大后を差し置いて政治を動かすとは分を弁えておらぬ、と考える者もいるのだろう。 枢機卿に手を引かれて、王女がその姿を現すと、一際歓声が高くなる。年の頃は十六、七というところか。 確かに、評判通り見目麗しい王女であった。 その貴族達の上げる歓声からも、彼女のトリステイン貴族からの人気が高いことが伺い知れる。 フロウウェンの弟子のリコ・タイレルもトップクラスの実力を持つハンターでありながら、美貌を兼ね備えた少女であった。軍の英雄ヒースクリフ・フロウウェンの愛弟子ということも手伝って、レッドリング・リコなどと呼ばれて大層な人気があったものだ。 象徴的存在に容姿というものが伴っていれば、それはカリスマとなり得る。王族として得をしているとも言えるが、一方で諸刃の剣でもあるのだ。 リコの場合は一介のハンター稼業でありながら分不相応な扱いを受けることに、矜持を傷つけられるようであった。 また、総督府の高官コリン・タイレルの娘が民衆やハンターズ達の間でアイドル的扱いをされているということで、自分の意思とは無関係に、行動が政治的な利用をされてしまうということにも常々悩んでいた。 アンリエッタとて、若い身空で政治という舞台に投げ込まれている。あの華やかな笑顔の裏には生半ではない苦労もあるのだろう。 自分で選んだ道ならばそれでも良い。だが貴族、王族というのは否応も是非も無い。 それは幸か、不幸か。決められるのは本人だけだ。生きる事に不自由はしないのに、そう生まれついたというだけで、その道は他の誰よりも雁字搦めであることは確かだ。 ままならないものだなと、フロウウェンはマザリーニとアンリエッタを見ながら目を細めた。 王女は今晩、魔法学院に逗留するとのことだ。 ルイズにしてみれば願っても無い好機到来である。オスマンに話を付けてもらえば今日明日中にでもアンリエッタとの面会が叶うかもしれない。 自室でそんなことをフロウウェンと話していると、ドアがノックされた。長い間隔を空けて二回。短く三回。 ルイズが扉を開くと、真っ黒な頭巾を目深に被った人物が立っていた。 身体もすっぽりと漆黒のマントで覆っていて、その出で立ちは魔法学院襲撃の折のフーケを連想させるが、目の前の人物はフーケよりも一回り小柄で、そこから判断すればマントの中身は細身の少年か、或いは華奢な少女の体格だ。 「……あなたは?」 虚を突かれたような表情で、ルイズは首を傾げた。 口元に指を立てルイズに沈黙を促すと、辺りを窺いながら部屋の中へ身体を滑り込ませる。マントの隙間から杖を取り出し、短くルーンを唱えた。 「……ディティクトマジック?」 部屋に舞った光の粉を見て、ルイズが訝しむ。黒ローブは小さく頷いた。 「どこに、誰の耳や目が光っているか分かりませんからね」 それは涼やかな女の声だった。 ルイズの部屋に何ら魔法的な仕掛けがないことを確かめると、黒ローブはその頭巾を取った。 「姫殿下!?」 それは果たして昼間見たアンリエッタ王女、その人であった。ルイズが慌てて膝を付き、フロウウェンがそれに倣う。 「お久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ」 オスマンの手引きだろうか、とルイズは逡巡するも、すぐに畏まった声で言った。 「姫殿下、いけません。このような下賎な場所へお越しになられるなんて」 「そんな堅苦しい行儀は止めてちょうだい。あなたとわたくしはおともだちじゃないの」 アンリエッタは跪いたルイズの肩をそっと抱く。 「もったいないお言葉でございます。姫殿下」 「ルイズ。ここには枢機卿も宮廷貴族もいないのですよ。昔馴染みのあなたにまでよそよそしい態度を取られたら、もうわたくしが心許せる者はいなくなってしまうわ」 「……姫殿下」 「幼い頃、一緒になって宮廷の中庭で蝶を追いかけたじゃないの。泥だらけになって」 その言葉にルイズははにかんだような笑みを浮かべる。記憶の底に沈んでいた思い出の数々が蘇ってくる。 あの頃はただ無邪気で、今にして思えば有り得ない、幼子でなければ許されない振る舞いをしていたものだ。 アンリエッタはもっとくだけて欲しいというが、一足飛びにあの頃と同じように、というわけにもいかない。 二人は暫し過ぎ去った日々の思い出話に花を咲かせ、それから、声を揃えて笑い合った。 公爵というのは王家にごく近しい親戚筋にのみ与えられる爵位だ。どうもルイズはその繋がりから、幼少の頃のアンリエッタ王女の遊び相手であったらしい。 ついでに……フロウウェンが思っていたよりも、二人ともお転婆だったようだ。 「感激です。姫さまがそんな昔のことを覚えてくださってるなんて……。わたしのことなど、とっくにお忘れになったかと思いました」 「忘れるわけないじゃない。あの頃は毎日が楽しかったわ。なんにも悩みがなくって」 アンリエッタはベッドに腰掛けると、小さくため息をつく。 「姫さま?」 「あなたが羨ましいわ。自由って素敵ね」 「何をおっしゃいます。あなたはお姫様じゃない」 「王国に生まれた姫なんて、籠の鳥同然。飼い主の機嫌一つであっちへ行ったり、こっちへ行ったり……」 悲しげな笑みを浮かべる。 「結婚するのよ、わたくし」 「それは……おめでとうございます」 ルイズは言葉とは裏腹に、沈んだ声で答えた。 大貴族の娘として生まれたルイズはすぐに察することができた。政略結婚という奴だ。 別段珍しい話ではない。自分とて、どこまで父や相手が本気かは判らないがれっきとした婚約者がいる。 ルイズの場合は、政略結婚などというような類のものではないし、婚約を露骨に嫌がるような相手ではない。 恋心を抱いているというわけではないが、幼さ故に物語の中の王子に憧れるような目で婚約者を見た時期が、確かにあった。 昼間の魔法衛士隊の中に件の婚約者の姿を認めたが、それはもう威風堂々とした出で立ちであった。ヴァリエールの婚約者として、申し分のない相手であろう。 ただ、長女のエレオノールがおらず、ヴァリエール家の力に翳りがあれば、家の為に見ず知らずの貴族に嫁がされる可能性もあったかもしれない。 そういう意味では、アンリエッタの悲しみは容易に想像がつくのだ。 ……因みに、姉の結婚に暗雲が立ち込めているという事実を、現時点でのルイズが知る由もない。 アンリエッタは、ルイズの背後に控えるフロウウェンを一瞥する。 立派な白い口髭をたくわえた、威厳のある顔つきの老人だ。 使用人だろうか、とアンリエッタは思ったが、どうも見慣れない服装をしていた。貫禄のある姿は一角の人物にも見える。 「ルイズ。その方は?」 「彼はわたしの使い魔です」 「使い魔? 人にしか見えませんが」 「人です。姫さま」 「お初にお目にかかります。姫殿下。ヒースクリフ・フロウウェンと申します」 老人は名乗り一礼する。落ち着いた声であった。 「あなたって、昔から変わっていたけど、相変わらずね」 アンリエッタは小さく笑った。少し気恥ずかしそうに、ルイズは頬を赤らめる。 「ああ、懐かしさにかまけて忘れるところでした。聞けば、ルイズはわたくしとの面会を望んでいたとか」 「そうでした、姫さま。アルビオンの貴族派のことで、どうしても姫さまのお耳に入れたいことが」 「アルビオン……」 アンリエッタの表情が暗く沈む。道すがらの馬車の中で、散々アンリエッタの頭を悩ませてきた事案だった。 「姫さま。『アンドバリ』の指輪というマジックアイテムをご存知でしょうか?」 前ページ次ページIDOLA have the immortal servant
https://w.atwiki.jp/compels/pages/304.html
燃え尽きた大地に、土を掘り起こして何かを埋めた跡がある。 その上に、簡素ながらに削り積み上げた石が二つ。 それは、正しく墓石だった。 それは、野比のび太がこのまま放置しておくには可哀想だと思い。 皆の協力の下、残骸だけでも土に埋めて作ったもので。 その残骸は触れた途端に崩れ落ちてしまうほどに脆く、原型を留めることすら出来ず。 それ故に、ロキシー・ミグルディアとベッキー・ブラックベルの首輪が回収された後。 正しく塵と化したその残骸を、二人が生きていた証を土に埋め、丁重に弔った。 この殺し合いにおいて、死体の尊厳は存在しないに等しく。 利用されるか、破壊されるかのほぼ二択で。 そのような地獄の中で、人並みの善性を保つ彼は。 せめて誰にも利用されないようにと、安らかに眠れるようにと。 雨は止んだ。元々ロキシー・ミグルディアの魔法による雨雲は長くは続くこと無く。 術者の死亡から時が経って降り終わり。雲の隙間より差す黎明の輝きが大地を照らしていた。 雨は止んだ。少年少女たちの悲しみを一先ずは流れ落として。 この理不尽な状況、惨酷な殺し合いに抗おうと一歩踏み出した、その始まりのように。 ☆ ☆ ☆ エリアD-7、産屋敷邸。 鬼殺隊最高責任者、産屋敷耀哉が住まう邸宅にして鬼殺隊の本部。 百畳敷の大広間から見える庭園は、見るものに安らぎを与えてくれる場所でもある。 そんな大広間に、野比のび太とニンフ、イリヤスフィールと雪華綺晶の4人がそこにいた。 あの後、休息も兼ねて4人が訪れたのがこの産屋敷邸。 先の魔女との戦闘や、ロキシーとベッキーの埋葬の事もあって禄にお互いの話も出来ず。 落ち着ける場所として手軽かつ近場にあったこの邸宅にて改めて自己紹介やお互いの情報の共有を行ったに至る。 「……それで、大体の事は共有できた訳だけど。」 そう口を開いたのはエンジェロイド、ニンフ。 この情報共有会議においての実質的な取りまとめ役の立ち位置に収まった、翼を失った天使。 自分を含めた4人とそれぞれ所有している情報を交換、そして伝達・共有。 野比のび太からは未来世界、及びこの殺し合いに関与している可能性がある未来人の事を。 イリヤスフィール・フォン・アインツベルンからはリップという少年の存在、及び別の世界に飛ばされた際の経験、そしてマジカルサファイアを通しての魔術世界の知識を。 雪華綺晶からは薔薇乙女(ローゼンメイデン)を中心にアリスゲームの知識、及び精神世界の事を。 そしてニンフからはエンジェロイド、そのマスターらがシナプスという浮遊大陸、世界崩壊の危機。そして何より、自らの翼を毟った少女のカタチをした怪物の事を。 4人共、改めて世界の広さを理解する形となった対談。歴史の流れも在り方も何もかもが違う4つの世界。 「僕だって色々経験したことはあるけれどさ……そんな簡単に世界が危機だとか、いくら僕だって驚くよ。」 「いや、平行世界に飛ばされた事には余り驚かないんですね……。」 妙に緊張感の無さそうなのび太の発言。野比のび太としても今までいろんな冒険や繰り広げてきた身である。恐竜蔓延る原始時代、天空の理想郷、遥か彼方の惑星、未来の博物館、兎が住む異説の月、ジャングルの奥地に深海、宝島に南極。 それもあってかそこまで驚いているような表情ではない。つまる所超常慣れである。 イリヤもまたカレイドステッキを手に入れ魔法少女として色々経験している内に荒事には慣れたものの、それでも自分以上に修羅場を潜っているのび太のあっさりした反応には突っ込まざる得なかった。 「まあ、ね。でもイリヤちゃんだって凄いよ。箒無しに空を飛べるだなんてさ。」 「え、ええと……それは、何というかその……魔法少女って何か普通に飛んでるじゃない?」 『いいえ、イリヤ様が特別なだけで、魔術師でも普通はそう簡単に飛べません』と突っ込むようにマジカルサファイアが呆れまじりの発言。ただしのび太は大分あっさりと魔術で空中飛行が出来るイリヤに目を輝かせている。 「……普通に、飛ぶ? いや魔法少女だから……?」 「マスター……魔法少女というだけで人が普通に空を飛ぶ認識は少し……」 「あれぇ!? 私がなんかおかしいの!?」 天然とも言うべきイリヤの発言にニンフも雪華綺晶も生暖かい目。 憧れの眼差しと珍しいものを見る瞳に囲まれさしものイリヤも慌てて言葉を返す。 「大丈夫だよ、僕はイリヤの事は凄い魔法少女だって思ってるからさ。」 『ということらしいので、イリヤ様。一先ず話を本筋に戻しましょう。』 「ねぇ!? なんか私がおかしい人みたいな扱いされたままなんだけど!?」 閑話休題。何か勝手に被害者になった魔法少女(イリヤ)は置いといて、サファイアの一言で議題は本題へと戻る。 のび太が若干フォローっぽい発言をつぶやくも、「今褒められてもちょっと嬉しくないかな!?」と赤面状態。実際魔法がてんでダメなのび太としては、カレイドステッキありきとはいえ魔法で色々やれているイリヤに対しちょっと憧れを抱いてしまってるのは素直な感情であるが。 『……まず、この殺し合いに関わる海馬乃亜。そして仮想的であるその協力者に関してです。』 第一に、主催・海馬乃亜。そしてその協力者。 人を玩具としか思わぬ言葉。第0回放送で流れた、アニメやゲームを楽しむような無邪気で期待を寄せるような発言。だが、海馬乃亜にそういう力がある前提とは言え、全てをたった一人で準備できるなど思いづらい。特に、世界崩壊の危機に真っ只中だったニンフがいつの間にかここにいた、というのも不可解。 「あの乃亜ってやつ。対主催とかマーダーとかって言葉って使ってたけど。私達の事をアニメの役者だとかそういうもの扱いなわけ?」 乃亜の発言の一つ。殺し合いに抗う者たち『対主催』。殺し合いを肯定する者たち『マーダー』 まるでドラマの役者が当てはめられる役割のような認識をしている事に、多少は憤りは感じていた。 「……海馬乃亜にとって、私達は善と悪の役割で動いて観客を楽しませる、人形の役割なのでしょうか?」 そう告げたのは雪華綺晶。まるで自分たちを人形に見立てた善悪の人形遊び。 違いはその参加者(にんぎょう)にちゃんとした自我と人生があるぐらいで。その人生すら、乃亜という子供にとって、人形に付加された着せ替え人形の服程度の価値なのか。 「それとも、ただ……。」 孤独を満たしたかったのか。そう言いかけようとしたが、その言葉すら出なかった。 ある意味他人を利用して、奪って、そして愛が欲しかった雪華綺晶という、本来ならば肉体のない第七ドールは。海馬乃亜を見て、自分の過去を眺めているような、そんな感覚に陥りそうになった。 あの眼は、殺し合いという人形劇を愉しんでいるように見えたあの瞳、まるで―――。 「……雪華綺晶?」 「……いえ、少し考え事をしていたえだけです、マスター。」 考え込みてたのを見かね、イリヤが心配して雪華綺晶の顔を覗きんだ。 それに反応し、何か誤魔化すかのように、雪華綺晶は口を開く。 「ですが、あの海馬乃亜と言う人物は、もしかすれば……。」 心当たりがあると、おもむろに言葉を紡ぐ 鳥海皆人、第七ドール雪華綺晶の『マスター』だった人物。 いや、その実態は雪華綺晶がマスターの代わり、「自分だけのお父様」を得たいが為に自ら創った幻影。 自らを実像だと思い込んだ虚像。雪華綺晶は、海馬乃亜が彼みたいなものだと、そう予想した。 勿論の事だが、雪華綺晶は情報共有の際に自分のことを話している。自分の孤独、そして罪と罰、救済された今の事も含めて。 「……自分が創造物だって知らないで、ってこと?」 「例えそうでなくとも、彼自身が本当に彼自身であるという保証はない、ということです。」 殺し合いを楽しむ子供という創造物。体の良い繰り人形。勿論そうである保証はなく、あくまで考察でしか過ぎないが。 『……のび太様の言っていた事も含めれば、その可能性も低くはないかと。』 「実際そうよね。あいつの言ってたギガゾンビってやつか、それとも別のやつかはわからないけれど。」 ここで出てくるのがのび太が言っていた『ギガゾンビ』の存在だ。 23世紀出身の時空犯罪者。原始時代を時空乱入で隔離し、自分だけの帝国を作り上げようとした極悪人。 未来には適切な材料さえあれば精巧な人間を作ることだって出来る。ギガゾンビかそれに類する人物もそうしたのだろうか? 「でも、僕の思う中でそういうのが出来そうなのはギガゾンビかなって。恐竜ハンターに協力していたドルマンスタインも未来人だけど、あいつはあくまで面白半分で恐竜狩りしていたし。」 未来人と言っても多種多様。特に時間移動をする時間犯罪者となれば限られてくる。 幾らのび太が多様な冒険を辿ってきたとしても、思い当たる節というのはそう簡単に出てくるものではない。 「他だとそういうの出来そうなのが大魔王デマオンぐらいだけど、みんなで倒したからその線はありえないかなって。」 他の該当例といえば、魔法で死んだ魂を魔族として転生させていた実績のある大魔王デマオンであるが。 彼の場合はまだ生存しているギガゾンビと違い、魔界星と共に消滅した。なので乃亜が何かの間違いで死者を蘇らせる手段がない限りそれはありえない。 そもそも、人間の下に付くという状態を、あのデマオンが受け入れるはずがないだろう。 少なくとも、野比のび太が思い当たる節はそれが限度であった。 「……もしかして……でも、あの状況で……」 「ニンフ?」 「……いや、確証はないんだけれど、他にも出来そうなやつだったら私にも心当たりあるわ。」 だが、その停滞を打つ破ったのはニンフ。 未来に匹敵するであろう、現代を凌駕する高度な超技術を所有する文明。 それを支配する唯一無二の王にして、エンジェロイド開発者の一人。 「新大陸シナプスの王。……私たちエンジェロイドの、元マスターよ。」 苦虫を噛むように、ニンフはその名を告げた。 エンジェロイド開発者であるダイタロスと同じ天才科学者。 最後まで誇りを捨て去ることが出来なかった孤独なる王にして。 退屈を紛らわせ、享楽と未知を望む悪逆の王。 「あいつなら、時間は掛かるとしても四次元ランドセルやこの妙な首輪も作れるはず。それに殺し合いを愉しんだっておかしくない奴だし。」 仮にもあれでシナプスの王であり、優秀な科学者。 乃亜の望み通りのものを拵えることだって可能。彼が素直に乃亜に協力するかと言われると別の話になるが、少なくとも殺し合いを楽しむというのなら彼も同じ趣向を拵えても違和感はない。 「でもニンフさん、確かニンフさんのいた世界って……」 「そうね。世界崩壊真っ只中で、あいつがいつ乃亜と接触していた、っていう疑問点はあるわ。」 その場合、ネックとなるのは石板による世界崩壊の最中で、どうやって空のマスターが海馬乃亜と秘密裏に接触していたのか、ということになる。 その上でこの殺し合いの準備やその為の道具作成、一体いつから仕込んでいたのか。 「それもあるけど、もしかしたらこの会場がシナプスみたいに浮遊大陸だなんてのも有り得るわね。」 第二・この会場は一体何なのか、と言う疑問。 その切り口の一つとして、ニンフが予想したのはシナプス同様の浮遊大陸。もしくはここがシナプスそのものであるという可能性。 「確かにそれも可能性として高そうかもしれない。シナプスがどんな所かっていうのはよく分かってないけど、パラダピアみたいな空中都市の事あるからさ。もしかしたら、別の惑星とかってのも……」 「……精神世界。」 「へ?」 ニンフに続くように発したのび太の言葉を遮るように雪華綺晶が発言する。 「もしかしたら、この世界は海馬乃亜の心の世界かもしれません。」 「……心の世界?」 精神、心の世界。「無意識(ディラック)の海」を通じて繋がる個人の領域(フィールド)。 かつての雪華綺晶の場合ならその内部に箱庭を模した水晶の城、雛苺の場合ならマスターである柏葉巴の部屋を模したメルヘンな空間。その当人の精神が形作ったフィールドが、その者の心の世界となる。 雪華綺晶がnのフィールドへの行き来が制限されている事も含めて、ある意味納得出来る内容ではある。 特に、元来なら有機の身体を持たず、精神のみの存在だった彼女だからこそ予想できた事だ。 『つまり、この舞台は海馬乃亜の心象風景そのもの――固有結界のようなものかと?』 「ええ、ここが精神の世界であることを前提として、心象風景というのは些かあっている表現かもしれません。」 精神世界、もとい海馬乃亜の心から生み出された世界なら、バランスよく都合が良くて不都合な、配置されてた建物に一貫性のない舞台。 それがもし、海馬乃亜の殺し合いを望む願いと、彼の中の心象風景が合わさって生まれた産物というのなら、それは正しくマジカルサファイアが言い示した通り『固有結界』。世界を塗り潰すであろう大業だ。 「合否は兎も角として、参考になる話は集まったわね。……どれが答えでも厄介極まりないだろうけれど。」 おおよその意見が集まり、ニンフも一息つく。 考察が合ってようが間違ってようが、少なくとも参考意見としての価値はあった。選択肢が増えすぎるのも良くないと言えば良くないが、こうして違う視点での意見は間違いなく今後の糧となる。 「……じゃあ最後。今後私達はこれから何処へ向かうかって事。」 そして第三。これからの方針、次の目的地について。 方針と言ってもここにいる4人は共通して殺し合いへの反抗という点では共通している。多少の誤差はあれど致命的な誤差にはなり得ない程度。 「首輪の方は並行して調べてるんだけれど、今の私じゃ調べきれないのがね。」 そして、回収した二つの首輪。情報戦に長けたニンフでも把握しきれるものではない。 言ってしまえば翼が無く出力が落ちている今の状態では細部までの解析は不可能。最も万全であろうと未知の技術に包まれたこの首輪は一筋縄では行かないのは道理。 「元々僕はロキシーさんと一緒に図書館かホグワーツの方に行く予定だったんだけど、あっちに戻るにしてもまだあのリーゼロッテって人がいるかも知れないし……。」 首輪の調査を更に進めるには図書館でその手に関わる資料を調べれば、という話にはなるが。 そもそも元々のび太がロキシーの提案でそこに向かおうとして結果あの魔女との遭遇。まだ彼女が周辺でたむろっている可能性も否めない。 「一先ずの目的地としては南にある海馬コーポレーションもしくは聖ルチアーノ学園、後はここから一番近い港かしら?」 『あと、彼女との遭遇を避け図書館に向かう前提なら、北方面から教会を経由してのルートもありけれど……』 提示された次の目的地への選択肢は4つ。二つは南にある海馬コーポレーション、或いは聖ルチアーノ学園。 海馬コーポレーションという名前から海馬乃亜との関連性があるかもしれないという意味での調査対象。聖ルチアーノで他の参加者を探すというのも案の一つ。 3つ目に港。産屋敷邸から一番近く、かつ別エリアへの移動手段がある可能性。その為の移動手段の船がどういうものかは不明瞭であるが、他にも二つ港があることを考えるとそこへの移動手段としての船舶が用意されているとの予測。なんなら図書館の近くにも港があるから図書館行きにはそれもありだろう。 そして最後に、マジカルサファイアが提案した、図書館への別ルート。もし仮に港からのルートが使えない時の、北方面から教会を経由しての迂回を前提とした道筋だが。 「……あの子が、リップくんがまだいるかも。」 そうイリヤが零した通り、懸念はリップ=トリスタンの事だ。 明確に殺し合いに乗っているが、殺し合いの走狗とは言いづらい、信念を秘めた少年。 北へから教会を経由するルートの場合、イリヤが最初に居た場所も含め、彼と道中で遭遇するかもしれない。 「……不治の事は頭に叩き込んでるわ。一度でも傷をつけられたら倒す事すら治療行為と見なされて、ってどういうチートしてんのよ。」 『いくら数で上回っていたとしても、はっきり言って全く油断のならない相手です。』 リップの不治の能力に感しては他の三人も共有している。傷の治療行為に対する否定。 間接的に「リップを倒す」という行為すら、治療行為と見なされ、無力化(ひてい)されるのだ。 魔女とはまた別の、別世界の異能力者の厄介極まりない能力。 攻撃を受けた瞬間、不死者でない限り、その時点でほぼ確実に『詰まされる』。何ならリップが誰かと手を組んでいる可能性も無きにしもあらず。 その点で言えば、不治(アンリペア)の能力者リップの事を事前にしれたのは幸運かもしれない。そして逆を言えば、不治を理解してしまったが故に、『「リップの攻撃は食らってはダメ」というのを念頭に置かなければならない』という条件が付き纏う。 「……そうなったら、まず港に向かって、船舶が利用可能かの確認。利用できるのならそのまま海路で図書館まで向かう。使えないなら海馬コーポレーションへ向かって、て事になるわね。」 意見を纏め、おおよその方針が決まる。 港に向かい、船舶の類があるかどうか、かつそれが利用可能かどうかの確認。可能なら海路を経由して図書館、不可能なら海馬コーポレーションへ調査へ向かう。 「特に反対はない?」 ニンフのその言葉に、反対するものは誰もおらず。 短い沈黙と肯定の証明となる頷きだけで、それ以上に語ることはなかった。 □ □ □ 目的地は決まって、準備を兼ねての小休止。 各々が支給品の確認などの準備をする中で、一人事前に準備を終えたニンフは空を眺めていた。 止んだ雨雲が散らばって消えて、朝の輝きがこの世界に差す光景が妙に神秘的に思えた。 (……なーんか、こういう事になっちゃったわね。) 場の流れにつられてか、それとも智樹を思い浮かべるような少年、のび太に影響されてか。 ニンフもまた悪くない気分なのは確か。……いや、というよりも。 ……ごめんね、ニンフさん。―――これしか、思いつかなかったから。 今でも、残響する。彼女の言葉が。 どうして、あいつも彼女も、自分なんか顧みず他人(だれか)のために。 こんな羽無しの欠陥品なんか、見捨てても良かったはずなのに。 そう自嘲めいた、自虐的な感傷に浸りながら、隣で静かに泣いているであろう少年を見つめた。 「……ドラえもん。」 あの時に比べて、やけに弱々しい姿だ。 いや、仕方のないことだ。外見中身揃って子供なのが多い。 あの巨大な女のように倫理観がぶち抜いて壊れていたり、魔女のように中身が大人らしかったりと違って。 野比のび太もまた、端的に言ってしまえばまだ子供なのだ。孤独に震え、恐怖に怯え。――終焉を恐れる、等身大の。 精神構造の差異はあれど、その点においてはのび太もまだ他の強者や狂人、人外と比較しれみれば、ただの子供である。経験だけでは拭いきれない心なのだ。 「ったく、何泣いてんのよのび太……って、私もあんたの事言えた立場じゃないか。」 「……うわっ!? あれ、ニンフさん?」 唐突なニンフの声にのび太は慌ててひっくり返る。 夜と朝の間の輝きに照らされる天使の姿が、不思議と美しく輝いて、翼を失ったというには余りにも凛々しく見えた。 「……その、何というか……」 「情けない所ごめんなさいってでも言いたいの? そういうのは別にいいのよ。私だって弱音の一つぐらい吐きたい時ぐらいはあるわ。」 のび太のそんな申し訳無さそうな言葉を一蹴。何なら弱音ならこっちも吐きたいぐらい。 世界崩壊が迫る中、こんな所に呼び出され、智樹を導くための翼は化け物のような女に引きちぎられて。 本当なら、今でも泣きたい程に。 「けどね。あんたが助けてくれたのよ。あんたの言葉で、ほんの少しだけ、燻ってなんていられないって思えたのよ。……あいつと、トモキと似ていそうな、あんたのお陰で。」 そんな自分に手を差し伸べたのは、あいつと全く違って、似ているような、そんな少年だ。 なんて、思わず小さな笑みを浮かべていたニンフに対し、のび太が何かを思い出したかのように口を開いた。 「……何だかさ、ニンフの事見てるとさ、リルルの事思い出すんだ。」 「リルル? 誰のこと?」 のび太がニンフを見て思い出し話したのは、リルルという一人の、天使のように綺麗なロボット。 ロボットが霊長の頂点に立つメカトピアという惑星で、人類を奴隷にしようと鉄人兵団より送り込まれた少女。敵だったけれど、最後には自分たちと地球を守るために歴史を変えた代償にその存在ごと消え去った、羽ばたく天使。 「……クールでミステリアスで怖かったけど、本当は優しくて、僕たちを守るために、過去に遡って……。」 「何よそれ、本当にエンジェロイドみたいじゃない、それ。」 その話を聞いて、ニンフはそう思った。 ロボット兵団に良いように扱われる女性型ロボット。玩具同然でこき使われたのはエンジェロイドにそっくりで。でもリルルは性格的には感情が芽生えたイカロスみたいなものでは? と多少は思ったりして。 その上で、原点を変えた彼女の行為には素直に驚嘆に値するものだ。 やった事が、自分が智樹を石板の元へ送り込もうとしたのと同じことだ。もっともこっちは石板の書き込みさえ出来れば阻止できる世界崩壊だが。リルルの場合は自分という存在を消えることを厭わず、それを為した事だ。 幾ら生まれ変わる可能性があったとして、それがのび太の知っている『リルル』という個と同じものとして生まれるとは限らない。 それは、太陽に近づきすぎたが為に翼を失い海に落ちた神話のイカロスのように。 理想を手にするため、己の身すら顧みなかったのだ。 「最後は自分の意志でってのは、ある意味……」 私達もそうかも知れない。と口ずさむ。 智樹は望まないだろうが、智樹の為になら命令に逆らってまで彼を守ってしまいそうではある。 誰かからの命令を求めてしまう自分は兎も角、もしもの時のイカロスとアストレアは間違いなくそうすると、という根拠のない自信はあった。 「でも、リルルは多分。生まれ変われたんだと思う。侵略者の為の尖兵なんかじゃなくて、とても綺麗な天使に……さ。」 「……夢のある話ね。良いじゃないの、そういうの。」 私みたいに第1世代のエンジェロイドは基本夢は見れないんだけれど、付け加えながら。 そんなロマンの有りそうなのび太の話を心地いい気分で聞いてていた。 「だからさ。イリヤにも、雪華綺晶さんにも、ニンフにも。死なないで欲しいし、無理をしないで欲しいって思ってる。……誰も死なないなんて夢物語だってわかってるけれど。」 「いや、真っ先に無理しそうなあんたがそれ言うの?」 「それは、何というか身体が勝手に動いちゃうと言うか……。ロボットだからってそんな事で差別したくないし、そもそも僕はロボットだからそんなの関係なく友だちになりたいって思ってるからさ。」 そんなのび太の発言に、呆れそうで、やはり彼はトモキと似ていると。 人もロボットも、そして人外すらもそうだからと区別しない。自分の善性に忠実で、真摯で。 それでいて、誰とでも仲良くなってしまいそうなそんなありふれた青年だと。 多分、彼に「もしもの時は命令して」って言っても、素直に受け入れてくれ無さそう性格していそうで。 「多分、この先は地獄よ。私達にとっても、あんたにとっても。」 ここは善性を持つ者にとっての地獄絵図、善意以上に悪意や欲望が渦巻く舞台。 数多の怪物が存在する蠱毒の壺の中だ。 曰く、幼稚な善性を以て蹂躙する生まれながらの破壊者。 曰く、数百年もの間積もった憎悪と愛に塗れた復讐の魔女。 玩具箱の如き混沌の坩堝の中、機械天使に地獄と評される世界の中で、少年は。 「今まで挫けそうな事なんて、何度もあったよ。でも、何度でも起き上がるよ。僕は"だるま"だからさ。」 その簡潔な言葉こそが、答えであった。 何度転んでも、転んでも起き上がるのが、彼の得意なことだから。 それだけで、十分な返答だった。 「それじゃ、根っこごと壊されそうな時はあたしが何とかしてあげるわよ。ま、その時は命令してくれると嬉しいわね。」 「命令だなんて……そんな道具扱いみたいな事は気が引けるなぁ……。」 「ドラえもんに頼ってばっかのあなたがそれいうの?」 「そ、それとこれとは……!ええと……」 悪戯混じりの言葉を投げかければこれである。別に他人を弄る趣味はないが。 少なくとも「命令するのは道具扱いみたいで気が引ける」というのは何とも底抜けのお人好しなのやら、と。 彼がエンジェロイドを手に入れたら良いマスターになれると思う、特にアストレアとは気が合いそうとかニンフはそう思いながら。 「でも、命令っていうかお願いになるけど……「死なないで」。ぐらいかな? あはは。」 そんな恥ずかしさ混じりののび太の返答で。本当に甘いというか抜けていると言うか、何というか。 この調子だと肝心な所で失言やらやらかしやしそうだなと多少不安になりながらも。 「本当にそれお願いの部類じゃないの。……ああでも、そういうのもある意味命令よね。」 「……え?」 「そう言われなくとも、こんな所で死んでたまるかってやつ。――私だってね。」 ――守りたい人がいるのよ。とのび太には聞こえない声でそう小さく。 少なくとも、何かしらの意図が関わっている可能性がある以上、この殺し合いから脱出する、というだけでは解決しない可能性も出てきた。 何なら、『何でも願いを叶える』と言う根拠に、『石板』が関与している可能性だって。 「あんたはこの中だと一番非力なんだから。無茶だけはしないでよね。……あたしだって、眼の前で奪われるのはもう懲り懲りなんだからさ。」 「僕だって、死なないよ。こんな殺し合いなんて終わらせて、みんなの所へ帰るんだから!」 そんな少年の、だるまの如き転んでは起き上がることが野比のび太の言葉。 4人の中だと一番非力で、心許ない少年だが、そんなポジティブ思考は多分必要なものだと。 ポジティブ寄りというより諦めの悪さならイリヤも大概というのは置いておいて。 「大丈夫。僕もロキシーさんみたいには行かないけれど魔法は使えるんだから、チンカラホイ!」 「あっ」 調子に乗ってか、おもむろにのび太がチンカラホイと唱えてしまった。 「あれ、この流れ……」とニンフが悪寒がよぎった時には時既に遅く。 ふわぁとニンフの下半身の風通しが良くなった感覚がよぎったと思えば。 「……あれ?」 のび太の目の前には、ニンフのパンツらしき物体が宙を浮いている。 「まさか、ちょっとしたものを浮かび上がらせるぐらいしか出来なかったのに……!」 知ってか知らずか、のび太は大はしゃぎ。 指揮者のように、ゆっくりながらもパンツを空中で右往左往出来ている。 ロキシーが遺したものの結果なのか、魔法の扱いという点ではのび太は一歩だけ前進した、のかもしれない。ただし――。 「見てよニンフ! 僕の魔法が、ちょっとだけパワーアップして……あれ?」 そして、当のニンフ本人と言えば。 スカートを抑えて、プルプルと体を震わせながら。顔を赤らめたまま。 「この……バカぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」 「ごふぅっ!?」 見事にのび太に鉄拳を炸裂させ、天井に突き刺さる結果となった。 「何々!? 敵襲ってのび太さぁぁぁん!? なんかパンツが空飛んでるぅ?」 その後、敵襲だと勘違いしたイリヤが駆けつけて、妙ちくりんな光景に頭が混乱する事になったのはまた別の話。 ※C-7とD-7の間にロキシーとベッキーの墓があります。 ※ロキシーとベッキーの四次元ランドセルが回収されたかどうかは後続の書き手におまかせします 【一日目/黎明/D-7 産屋敷邸内】 【野比のび太@ドラえもん 】 [状態]:健康、強い決意、天井に刺さった状態 [装備]:なし [道具]:基本支給品、量子変換器@そらのおとしもの、ラヴMAXグレード@ToLOVEる-ダークネス- [思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。生きて帰る 1:もしかしてこの殺し合い、ギガゾンビが関わってる? 2:みんなには死んでほしくない 3:魔法がちょっとパワーアップした、やった! [備考] ※いくつかの劇場版を経験しています。 ※チンカラホイと唱えると、スカート程度の重さを浮かせることができます。 「やったぜ!!」BYドラえもん ※四次元ランドセルの存在から、この殺し合いに未来人(おそらくギガゾンビ)が関わってると考察しています ※ニンフ、イリヤ、雪華綺晶との情報交換で、【そらのおとしもの、Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ローゼンメイデン、ドラえもん】の世界観について大まかな情報を共有しました ※魔法がちょっとだけ進化しました(パンツ程度の重さのものなら自由に動かせる)。 【ニンフ@そらのおとしもの】 [状態]:全身にダメージ(中)、羽なし(再生中)、羽がないことによる能力低下、ノーパン [装備]:万里飛翔「マスティマ」@アカメが斬る [道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3、ベッキー・ブラックベルの首輪、ロキシー・ミグルディアの首輪 [思考・状況]基本方針:殺し合いをぶっ壊して、元の世界に帰る 1:リンリン(名前は知らない)はぐちゃぐちゃにしてやりたい 2:準備と休息が終わり次第に港へ向かう。船舶での移動手段がついた場合は図書館へ。無かった場合は海馬コーポレーションか聖ルチアーノ学園に向かう。 3:元の世界のトモキ達が心配、生きててほしいけど……。 4:この殺し合いにもしあいつ(元マスター)関わってるとしたら厄介かも。 5:のび太のそれ、ほとんどお願いじゃないの……。でも、言われなくてもその「命令」は果たす。 6:首輪の解析も進めたいけど、今の状態じゃ調べようにも調べきれないわね。 [備考] ※原作19巻「虚無!!」にて、守形が死亡した直後からの参戦です。 ※SPY×FAMILY世界を、ベッキー視点から聞き出しました。ベッキーを別世界の人間ではと推測しています。 ※制限とは別に、羽がなくなった事で能力が低下しています。ただし「デストラクト・ポーション」の影響で時間は掛かるも徐々に回復しつつあります ※この殺し合いの背後に空のマスターが関わってるかもしれないと、及びこの会場はシナプスのような浮遊大陸なのでは?と考察しています ※のび太、イリヤ、雪華綺晶との情報交換で、【そらのおとしもの、Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ローゼンメイデン、ドラえもん】の世界観について大まかな情報を共有しました 【雪華綺晶@ローゼンメイデン】 [状態]:健康、イリヤと契約。 [装備]:なし [道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~1 [思考・状況] 基本方針:真紅お姉様の意志を継ぎ。殺し合いに反抗する。 1:殺し合いに反抗する。 2:イリヤを守る。 3:彼(乃亜)は、皆人と同じ……? [備考] ※YJ版原作最終話にて、目覚める直前から参戦です。 ※イリヤと媒介(ミーディアム)としての契約を交わしました。 ※Nのフィールドへの立ち入りは制限されています。 ※真紅のボディを使用しており、既にアストラル体でないため、原作よりもパワーダウンしています。 ※乃亜の正体が鳥海皆人のように、誰かに産み落とされた幻像であるかもしれないと予想しています。 ※この会場は乃亜の精神世界であると考察しています。 のび太、ニンフ、イリヤとの情報交換で、【そらのおとしもの、Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ローゼンメイデン、ドラえもん】の世界観について大まかな情報を共有しました 【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】 [状態]:健康、雪華綺晶と契約。 [装備]:カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ [道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3、クラスカード『アサシン』Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ [思考・状況] 基本方針:殺し合いから脱出して、美遊を助けに行く。 1:殺し合いを止める。 2:雪華綺晶ちゃんとサファイアを守る。 3:リップ君は止めたい。 4:みんなと協力する [備考] ※ドライ!!!四巻以降から参戦です。 ※雪華綺晶と媒介(ミーディアム)としての契約を交わしました。 ※クラスカードは一度使用すると二時間使用不能となります。 のび太、ニンフ、雪華綺晶との情報交換で、【そらのおとしもの、Fate/Kaleid liner プリズマ☆イリヤ、ローゼンメイデン、ドラえもん】の世界観について大まかな情報を共有しました 031 夜の館で 投下順に読む 033 i m a dreamer 時系列順に読む 018 思い描くは、ひとつの未来 野比のび太 036 かけ違えた世界で ニンフ 雪華綺晶 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン