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(スレ113より) 209 名前:名無しの心子知らず[sage] 投稿日:2007/11/15(木) 16 39 27 ID SQP4N3G7 本当にせこい話でおかしな話だけどさっきの出来事。 ()は読み飛ばして大丈夫な蛇足部分です。 長いけど許してくだしぃ。 たまたま発見した公園で子供と遊んで、帰る時手を洗おうとすると水道がない。 珍しいなーと思いつつウェットティシューで子供と自分の手を拭き、 ゴミ箱を探すが設置されていなかったのでビニールに入れて ベビーカーにしまっていると知らないママさんに話かけられた。 手拭き忘れたから分けてくれないー?と言われ、 渡そうとウェットティシューを出したら残り一枚位しか入ってない感触。 多分一枚しかないですがどうぞと包装ごと渡すと え!?一枚じゃ足りないよ!新しいのないの!?と言われ、若干ムカつきながらも ないです、と笑顔で返して子供をベビーカーに載せていた。 (ベビーカーの真ん前で進行方向を塞ぎながらそのママさんは自分の手を念入りに拭き、 薄汚れたウェットティシューで子供の手をちゃちゃっと拭いた。 普通逆だろ、と思いながら二人が移動するのを待った。) ママさんは使用済みのウェットティシューを私に差し出し、 元はあなたのだからあなたが持ち帰ってねとにっこり。ありがとうの一言もない。 関わりたくないタイプの人だな( A`)と思いつつ、さっさと離れたかったので そのママさんが使ったウェットティシューをビニールに入れて公園を出た。 211 名前:名無しの心子知らず[sage] 投稿日:2007/11/15(木) 16 44 01 ID SQP4N3G7 用事を済ませ帰宅途中に買い忘れを思い出し、コンビニへ寄った。 (明日の夕方から遊びに来る夫の姪っ子二人と私の姪っ子二人の為に少女漫画誌を2種類×4冊を買う為。 ボロボロに読み込んで尚、雑誌を捨てるのを嫌がり、 毎月の雑誌は買って貰えなくなってしまい、単行本のみ購入となった姪っ子ズ。 付録が欲しいのに!と泣いた姪っ子ズへ我が家に来た時のお楽しみとして 少女漫画雑誌をプレゼントする事が恒例になっている。) 少女漫画誌をカゴ1に積みベビーカーに引っ掛け、 入りきらなかった分をカゴ2に入れて手で持ちながら食玩を選んでいると カゴにいきなりバサバサっとお菓子を入れられた。 驚いて振り返ると公園のママさんと子供1号、公園にはいなかった子供2号が。 今の行動を咎めると、ママさんは意外そうな顔をしながら ウェットティシュー足りなかった事のお詫びとしてお菓子を買えと正当な要求の様に言ってきた。 つい切れてしまい、バカ言ってんなババァと一言言って 山の様に突っ込まれた駄菓子をそれぞれ棚に戻した。 212 名前:名無しの心子知らず[sage] 投稿日:2007/11/15(木) 16 45 01 ID SQP4N3G7 近くの店員さんも手伝ってくれた。 (わざわざ新しいカゴを持ってきて、欲しい物はここに入れて 自分のママに買って貰いなーと言ってくれた。 けど、お構いなくーこちらの人が買ってくれる約束なんでー、とスルーして私のカゴに入れまくるママさんと子供2号。) 棚に戻しまくる私と親切な店員さん、しかし私のカゴに戻す子供2号とそのママさん。 何度も繰り返され面倒になったので突っ込まれた商品もそのまま会計に行った。 (親切な店員のお兄さんが商品後で戻すからハネて下さいと言ってくれたけど申し訳なくて全部買った) 会計を済ませベビーカーに商品の入った袋を(引っ掛けるのではなく)くくりつけ、 ムービーモードにした携帯片手にコンビニを出た。(ママさん親子は外に居た) 案の定強奪しようとするママさん、抵抗する私、録画が終わると110番に電話。 110番に電話しても慌てる素振りもなく、警察にどっちが悪いか判断して貰うと言っていた。 213 名前:名無しの心子知らず[sage] 投稿日:2007/11/15(木) 16 47 01 ID SQP4N3G7 警察が来ても堂々と自分の主張をして、 (昼間のママへの無礼の詫びとしてママさんが私に菓子購入を提案した、 漫画を何冊も買っているんだから(雑誌も貰うつもりだったらしい) ママさんの提案を受け入れたと思った、 なのに渡さないのはおかしい、詐欺にあたる!と言っていた。) まだママさんの話しか聞いていない警察の人は既に呆れ顔。 (ママさんが警察来た途端まくし立てた) 私が話そうにもママさんが騒ぐので、ママさん親子はパトカーの中へ入れられた。 私は事情を話し、ムービーを見せた。 様子を見にきてくれた先程の店員さんがわざわざ説明してくれ、 その話を受けて、店長さん?が防犯ビデオを提出してくれた。 このママさん、結局パトカーで連れ去られたけど何の罪になるんですかね? 子供が泣き出したので切り上げて帰らせて貰ったのですが…なんか気味が悪いです。 ちなみに公園の話は11時台の話、コンビニは16時位の話です。 217 名前:名無しの心子知らず[sage] 投稿日:2007/11/15(木) 16 48 39 ID u1bDzOwa 恐喝未遂…かな? 218 名前:名無しの心子知らず[sage] 投稿日:2007/11/15(木) 16 49 23 ID RwEPfi9b うわぁ・・・・呆れてものがいえない・・・ 真性の基地外ってそこら中にいるんだね。 209さん乙でした。 もうそこの公園行かない方がいいよ。 219 名前:名無しの心子知らず[sage] 投稿日:2007/11/15(木) 16 52 36 ID SQP4N3G7 支援?ありがとうございます。 規制はされなかったですが人大杉で時間かかってしまいました。 買った理由は店員さんにさらに手間をかけさせるのが申し訳なくて。 警察呼ぶと言えばどーせ逃げ出すだろうとたかをくくっていました… こんな下らない事で呼んでしまった警察の方にも申し訳ないです。 警察に証言なんて大事になるんだったらハネてもらうべきでした。 すみません。 227 名前:名無しの心子知らず[sage] 投稿日:2007/11/15(木) 17 21 39 ID 76kgfckA ざらっと読んだけど刑法罪にはならんね… せいぜい迷惑条例に基づいてkの説教くらいかと。 相手の旦那が真っ当な人なら詫びるだろうけど こんな基地外の旦那がマトモとは悪いけど思い難い。 これから注意して暮らしてね。 229 名前:名無しの心子知らず[sage] 投稿日:2007/11/15(木) 17 40 57 ID lx9NA2yA 227 えー 恐喝に該当しないか? 確か未遂もあるっしょ 230 名前:名無しの心子知らず[sage] 投稿日:2007/11/15(木) 17 42 00 ID 0X6CV3BX 227 「強奪しようとした」とあるから、強盗未遂か恐喝にはなるんじゃないかな? 231 名前:名無しの心子知らず[sage] 投稿日:2007/11/15(木) 17 42 24 ID PbtXBMkH 227 やってる事はたかりか強盗に相当しそうですな 強盗かな多分 強盗(ごうとう)とは、脅迫や実力行使などによって他人の物を無理矢理奪う犯罪。 あるいはその者をさす。刑法上処罰の対象となることがある。 とあるので無理やり奪う行為してるので犯罪ですかね 232 名前:名無しの心子知らず[sage] 投稿日:2007/11/15(木) 17 43 59 ID 1yDo0lHF 公園からつけてきたのかガクブル マジで基地外だよこれ 234 名前:名無しの心子知らず[sage] 投稿日:2007/11/15(木) 17 46 34 ID lx9NA2yA スマソ「YO☆KO☆SE!!」じゃなくて 強奪しようとしてたのね KOEEEEEEEEE 235 名前:名無しの心子知らず[sage] 投稿日:2007/11/15(木) 17 49 18 ID D0aRDptz まぁ、念のためにその公園付近とコンビニ付近は一人では歩かないことだね。 逆恨みされたらイヤん。
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前ページ次ページ村企画 村名 錯覚の村 季節外れに咲いたアネモネの花。 花言葉は、「 真実 」 本当の自分、本物の愛を、あなたは見つけられますか? 目次 村名 錯覚の村 [#tda60165] 目次 [#l3737e0e] 概要 [#d993ec1c] あらすじ [#c2ecf126] 村の目的 [#of636516] テーマ [#s4721bd9] 世界観 [#fc233139] 編成・役職説明 [#pa5efda8] 処刑襲撃設定および指針 [#z1a43f75] 発言ルール [#t1ac3431] 禁止事項 [#r519225f] 推奨事項 [#pbaabc96] 進行 [#yb9a1adc] プロローグ [#l9c56684] 一日目 [#y3a4e374] 二日目 [#j8a1dfb4] 墓下 [#s5b8a06a] エピローグ [#n59df82e] 備考 [#z8e47469] 参加者・観戦者 [#ef643599] コメント [#x3da654d] 概要 村名 【身内】錯覚の村 村建て人 むぎちょろ 開催国 三日月国 種別 RP村 更新間隔 24h 投票方法 無記名・自由投票 発言制限 - キャラセット 少し大きな霧雨降る街 募集人数 17(募集終了いたしました) 編成 思い込み・恋系役職入り特殊編成 更新時刻 0:00(立会不要) 開催時期 9/18(水)村建て 9/20(金)0 00(9/19 24 00)開始 役職希望 無効 あらすじ 百年に一度、季節外れの秋に咲くというアネモネの花。 村では、その不思議な花が咲いたことをお祝いするお祭が開かれています。 「この花を見た者は、真の自分に生まれ変われるだろう」 はたして、その伝説は本当なのでしょうか……。 村の目的 村を滅ぼさんとする狼や狐を殲滅することが村の目的です。 基本的には自陣営勝利を目指していただきますが、?あなた自身がどうしたいか″を優先してください。 自陣営が不利になろうとも、信念のもとに選んだあなたの道を、誰も咎めることはできません。 (PC目線で考えた行動をとってください) 思い込み系の役職盛りだくさんですので、思い込んでもらわなければおもしろくない! ということで役職希望は無効とさせていただきます。 各々、与えられた役職の通りに行動してください。 テーマ 「錯覚」「本当の自分」「愛のかたち」「信じること」 思い込み系の役職がメインです。 自分は村人だと思い込む狼 自分は狐だと思い込む村人 相手と運命の絆で結ばれていると思い込む村人…… そんな人たちとの物語です。 恋陣営には恋窓がありません。相手を信じることしかできません。 思い込みが解けたあと、あなたがどう行動するかも自由です。 世界観 西洋にある、都会から離れた小さな田舎の村 アネモネ。 過ごしやすい気候と、豊かな緑に囲まれた、のんびりとした村です。 春にはその名の通り、たくさんのアネモネの花が咲き乱れる美しい風景が見られます。 一輪だけ、百年に一度しか咲かないと言われる例の花は、村の中央にある小さな花壇で咲きます。 目立ったもののない村ですが、この花とそれにまつわる伝説だけは、村の外でも噂になる程度には有名です。 毎年秋には収穫祭が行われていますが、今年はその花が咲く記念の年ということで、いつもより盛大にお祭が開かれるようです。 編成・役職説明 ダ鳴鳴占霊狩村村狐好狼狼忘囁求遊片愛妄 ※参加人数によっては一部役職に変更があります 【好】狐好き 自身を狐だと思い込んでしまったただの村人。 占われる、もしくは襲撃されると思い込みが解除される。 【忘】忘狼 自身が狼であることを忘れてしまい、ただの村人だと思い込んでいる。 占われる、もしくは襲撃されると思い込みが解除される。 【囁】囁き狂人 人狼同士にしか聞こえない会話が可能な狂人。 終了条件では人間扱いで集計されるため、場合によっては敢えて死ぬ必要がある。 【求】求愛者 1日目に好きな相手を選び、運命の絆を結ぶ。互いに生き残れば勝利。 【遊】遊び人 1日目に、一人目に選択した人物を本命の恋人として運命の絆を結びつけ、二人目は絆を結ぶふりをして手玉にとる。 運命の絆を結んだ人は、片方が死亡すると後を追って死亡する。本命と自身が生き延びれば勝利。 【片】片想い 1日目に好きな相手に一方的に運命の絆を結ぶ。 選んだ人と自身が生き延びれば勝利。 相手が死亡したときは後を追うが、自身が死亡したときは後追いは発生しない。 【愛】狂愛者 自身を求愛者だと思い込み、好きな相手に一方的に運命の絆を結ぶ。 絆を結んだ相手が死亡すると狂愛者は後追いをするが、狂愛者が死亡しても相手は後追いをしない。 自身が処刑や襲撃により死亡すると、思い込みが解除される。 また、狂愛者は狼の襲撃とは別に毎晩無意識(無差別)に襲撃を繰り返す。 狼や狐も襲撃できるが、狩人の護衛があれば襲撃は失敗する。 【妄】妄想家 自身を求愛者だと思い込んでいるただの村人。 自身が処刑や襲撃により死亡すると、思い込みが解除される。 運命の絆は発生しないので、どちらが死亡しても後追いは発生しない。 処刑襲撃設定および指針 【処刑】 無記名・自由投票です。 各自が処刑したい人に投票してください。 「私は○○に投票する!」などの発言も構いませんが、狂愛者や妄想家が自身の役職に気づいてしまう可能性もあるのでおすすめはしません。 自殺票もありです。 【襲撃】 特に襲撃方法に指定などはありません。 勝ちを目指した噛みでもいいですし、エンターテイメント性重視でも構いません。 発言ルール 禁止事項 【中の人透けを理由とした処刑】 例 「この人はむぎちょろかな。どうせタラシだから吊ろう」 【恋愛系役職のCO】 求愛者、狂愛者、妄想家は全員が自分のことを「求愛者」だと思い込んでいます。 実際に求愛に成功するのは1人だけです。 求愛者COしてしまうと、求愛された人目線の偽者が確定してしまい、ゲームバランスが崩れかねないので禁止といたします。 遊び人、片想いも同様です。 ただし、妄想家や遊び人に遊ばれた人は、相手が墓落ちし自身の思い込みが完全に解けた場合のみ、地上でもCOを可とします。 【票ブレによるPP】 自由投票のため、序盤から露出役職に票を集めPPをすることも可能ですが、これを禁止といたします。 推奨事項 RP重視のネタ村ですので、ガチ成分は少なめでお願いします。 PCとしての感情で誰かを疑い、処刑していってください。 進行 プロローグ お祭当日。村民のあなたも、外から来たあなたも、お祭を楽しんでください。 一日目 夜明けとともに、一部の人は本来の自分の姿を知るでしょう。 言い伝えとして残されている「人狼」「妖狐」の存在を、一人の村人が口にします。 この中の誰かが人間ではないのかもしれない…。そんな不安に襲われながらも、恋に落ちてしまう人もいるかもしれません。 【初日のCOは必須ではありません】 個人にお任せしますが、自由投票となりますので、狩人以外の村役職は2dにはCOすることをおすすめします。 二日目 とうとう犠牲者が出てしまいます。人狼は本当に目覚めてしまったのです。 占い、霊能、狩人の力、共鳴という絆で結ばれた相方の存在を知ったあなたは、村の中に潜む狼や狐をその力をもって退治してください。 狼の姿を取り戻したあなたは、いまだ目覚めぬ忘狼を探しながら、仲間とともに村を滅ぼしてください。 墓下 命を落としてしまったあなた。自分の本当の姿について誰かに話してもかまいません。 恋人と共に墓落ちしてしまったあなたは、地上ではできなかったぶん、堂々と愛を囁き合うといいかもしれませんね。 特に制限は設けませんので、ご自由にお過ごしください。 エピローグ 備考 アネモネの花言葉 「真実」 「儚い恋」「恋の苦しみ」「薄れゆく希望」「辛抱」「待望」「期待」 「清純」「無垢」「無邪気」「可能性」「真心」 「君を愛す」「あなたを信じて待つ」 参加者・観戦者 参加者 むぎちょろ ととせ ゆら ねこ缶 ゆず缶 白桃缶 ここあ 蒼 蓮 あき ころん 雪梅 konchinto 流星 ナギ シャンピー 氷 塩酸 観戦者 蜜☆柑 嘘つき 藍雅 3月のヒツジ とろろ ますこ コメント こんばんはー!ごめんなさい、遅くなりました! -- アリエル 名前 コメント 前ページ次ページ村企画
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「はぁ……」 夕暮れ時、他に人気の見えない公園のベンチに座って、岩崎みなみは一人悩んでいた。 みなみとて高校一年生という年頃の女の子、人には言えぬ悩み事も一つや二つは持っている。 だが、今彼女が抱えている悩みとは、彼女自身とは少し離れた場所にあった。 「聞いてみなみちゃん!今度の日曜日ね、シンお兄ちゃんと遊園地まで遊びに行くんだ! えへへ…今から楽しみだなあ。これってさ、私とお兄ちゃんのデートってことになるんだよね?」 「実は最近、アスカさんに私に日本史の勉強を教えてくれって頼まれているんです。 そ、それも私の家で…二人きりでして…ちょっと恥ずかしいけれど、でもやっぱり嬉しいです…」 「ゆたかと、みゆきさん……二人とも同じ人が好き。二人は、私にとっても大切な人…」 片や、近所に住む幼馴染であり、今までずっと姉のように慕って来た人。 片や、友達の少ない自分にとって、高校に入ることでようやく出来た仲良しの親友。 どちらもみなみにとっては掛け替えのない人達だった。 二人に好きな人が出来たと言うなら、みなみは出来る限りに彼女達のことを応援してあげたかった。 その二人が同時に、同じ男性を好きになったという事実さえ無ければ。 「シン……アスカ先輩」 みなみ自身も知らぬ仲では無い、その男性の顔が頭の中に浮かんで来る。 何処か遠い国からやって来た所をゆたかの親戚の家に引き取られ、今は皆と同じ陵桜学園に通っている少年。 陵桜学園に通う為に、その親戚の家に引っ越して来たゆたかとは同居人という関係でもあった。 その事実はみゆきにとっても内心穏やかでは無い状況であるらしく、普段は気にしない素振りを見せていても、時折みゆきが誰ともなくぼやいている姿をみなみは何度か目撃したことがあった。 そんなみゆきの気持ちは、みなみにもわからないでも無い。 みなみ自身、問題のシン・アスカという少年に対して、多少なりとも憧れの感情を抱いている人間の一人なのだから。 しかし、みなみまでシンに今以上の想いを抱いてしまえば、彼に好意を寄せるゆたかとみゆき、両方の気持ちを踏み躙ることになってしまう。 何よりもこの二人が同じ人を好きになってしまった以上、どんな結末を迎えるにしても、いつか誰かが傷付くことは避けようが無いのだ。 みなみの大切な人が、彼女達の憧れているあの人のせいで。 それを思うと、みなみの胸は締め付けられるような痛みを覚えて仕方が無かった。 「……はぁーっ…」 「何を溜息なんて吐いてるんだ?」 「!?」 突然掛けられた声によって、みなみは驚いて顔を見上げる。 この年頃の少年にしては少し長めの黒髪。空に広がる夕焼けよりも深い色をした、燃えるような赤い瞳。 整った顔立ちではある物の、どこか冷たさすら感じる印象を受ける容貌の、良く見知った男性。 先程までみなみが想いを馳せていたシン・アスカその人が、今、みなみの前に立っていた。 「あ、アスカ先輩…!」 「よう、みなみ。一体何をやってるんだ?もうこんな時間だし、こんな場所で女の子が一人でいたら危ない だろ」 「え…あ、ご、ごめんなさい…」 「…みなみ。お前、何か悩み事でもあるのか?もし良かったら、俺も相談に乗るけど…」 「……っ…!」 何気ない気持ちで言ったのだろうシンの一言に、一瞬みなみは言葉に詰まった。 シンの、自分を心配してくれる気持ちは素直に嬉しい。 だが、今ここでみなみが抱えている悩みとは、他ならぬ彼自身の存在に端を発する物だった。 果たして自分は、言うべきなのだろうか。 ゆたかとみゆきが彼に寄せている想いのことを。シン自身が、二人の存在をどのように意識しているのかという問い掛けを。 二人とシンの間に横たわっている問題について――自分はただの部外者であり、傍観者に過ぎない。 だが、それでもみなみは答えを知りたかった。 ゆたかとみゆきの友人として、そして目の前の少年に対して少なからぬ想いを抱く少女として。 「……先輩は」 「ん?」 「その…もしもの話なんですが」 彼の口から答えを聞くのは恐い。だが、それでもここで止まる訳にはいかない。 なけなしの勇気を振り絞って、みなみはシンの顔を見ながら口を開いた。 「もし…目の前に困っている人が二人いて、どちらか一人しか助けられないとしたら… 選ばれなかった人は深く傷付いてしまうとしたら……先輩は、どうしますか…?」 「みなみ…?お前、何を言って…」 「答えて下さい。お願いします、アスカ先輩」 真剣な表情で訴えるみなみの顔を見つめた後で、やがてシンは迷いの無い口調で答える。 「両方とも助ける方法を考える。…って、昔の俺だったら答えていただろうな」 「え……」 「みなみが言うような時、誰も傷付かない方法が必ずある筈だって、昔の俺は思っていたよ。 だけど、そんな物は無かったんだ。皆が幸せになれる世界なんてただの幻だって、俺は思い知らされた。 どんな力を手に入れても、俺は大切な人を誰一人として守ることが出来なかったんだ…」 「……アスカ先輩」 「みなみ。お前の質問に答えるんだったら、俺は今でもその二人を一緒に助けようとするだろうな。 例え無理だとわかっていても、きっとそうすると思う。 そして…また同じことを繰り返すんだ。 皆を助けようとして…だけど結局は、皆が一番傷付く道を…俺は選んじまうんだろうな…」 「…それが、わかってるなら」 みなみは立ち上がり、シンの言葉を遮るように言った。 震える拳を握り締めて、咎めるような視線で彼の顔を睨み付けながら、みなみは言葉を続ける。 「わかっているなら…そのどちらか一人を選んであげて下さい。 選ばれなかった人がどれだけ傷付いても…悲しい思いをしても…答えを出さないなんて卑怯です。 ……ゆたかと、みゆきさんは…先輩の答えを待ってるのに……そんなの、残酷です」 「みなみ…」 「…失礼します」 これ以上、シンの言葉を聞いていたくなかった。 シンが伸ばそうとした手を振り払って、みなみは逃げるようにその場から駆け出して行った。 ――世界は歌のように優しくはない。 それは確か、離れ離れになった友人が口にしていた言葉だったとシンは以前言っていた。 今のみなみには、その人物が何を思ってその言葉を口にしたのか、少しだけわかった気がした。 先程、シンの言葉を聞いていた時、みなみは不意に気付いてしまった。 どこか遠くを見ながら訥々と語る彼の目には、今みなみ達がいるこの場所を映し出してはいない。 彼が転校する前に暮らしていたというその時の世界に、未だにシンは囚われたままなのだということに。 今のシンには、ゆたかやみゆきの姿が見えていない。 例え二人の気持ちに気付いたとしても、シンは決して彼女達の想いを受け入れようとはしないだろう。 かつて大切な人を守れなかったと言う十字架の重さが、それを許さないとでも言う風に。 今こうしてシンが過去に縛られている限り、誰もシンの心に入ることは出来ないのだと、みなみにはわかってしまったのだ。 シンの抱えている思い出は、きっと自分が考えているよりも遥かに重い物なのだろうとは思う。 しかし、それでもシンにはゆたかとみゆきの気持ちを知っていて欲しかった。 そして彼自身の意思をはっきりと二人に伝えて欲しい。 例えどれほど辛い過去であったとしても、シンは今こうして、みなみ達の前に立っているのだから。 みなみにとって、ゆたかとみゆきは本当に大切な人だから、例えどのような答えであったとしても、せめて二人が納得出来るように、シン自身の嘘偽りのない気持ちを二人に示してあげて欲しかった。 そうでなければ――シンが二人の気持ちに応えてくれなければ。 みなみ自身が抱いているこの憧れの気持ちに、決着をつけることだって出来はしないだろうから。 「――残酷です。本当に…先輩は、残酷な人です……」 ただひたすらに走る中で、涙が一筋、みなみの頬を伝って流れた。 前 戻る 次
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続く2週間は静かに、静かすぎるほどに過ぎ去っていった。まるで、更なる驚異がその先に待ちかまえているかのように。Johnnyの出来ものは完全に消え去ったが、彼は未だ不安を抱えていた。彼に巻かれた包帯の重みが、あるいはそうさせていたのかもしれなかった。5月4日、Johnnyは言った。 「Mount医師に、Putnam医師と同じくらいの量の液体を取り出せたのか、尋ねてみなくてはならない。」 彼は、見舞いに来た人に言った。 「出来ものは本当に消えてくれたんだろうか。とてもそうは思えない。」 Francesは、数日の間休みを取りに出かけていた。その後、私も一週間ほど家を離れ、その間は私の姉にJohnnyの世話を頼んでおいた。 私が家を出る直前、Johnnyは激しく怒り出した。彼は、喚いた。 「はっきりと考えられない!去年も学校ではっきりと考えることができなかったが、誰もそれを知らなかった!誰もが僕を笑い、とても不愉快だった。誰かに笑われるのは嫌だったし、今も嫌だ!」 Mount医師がJohnnyを診察しに来たが、Johnnyは彼に対しても当たり散らした。 「木曜日の朝までにここから出して下さい、さもなければ僕は自分で出ていきます!」 しかし、Johnnyはそうしばしばこのように怒りを露わにしたというわけではなかった。彼にとって幸せな瞬間もまた、多くあったのだ。 5月25日、Boyden先生から電話がかかってきた。 「Johnnyの書類と試験に目を通させてもらっています。」 彼は、言った。 「JohnnyはDeerfieldでの学業を完遂しました。来週学校に来れば、彼のクラスの他の生徒と一緒に、卒業式に参加できます。」 Johnnyは14ヶ月も学校に行っていなかったにもかかわらず、それでもなお、卒業を認可されたのである。 Johnnyは大したことはない、という風を装おうとしたが、私とFrancesは喚起の声を上げた。 私たちは5月27日から6月4日までの間、Deerfieldに滞在した。私は、この数日は、Johnnyの人生の中でもっとも幸せな時間だったのではないかと思う。Johnnyは、何事もなかったかのように、彼のクラスに溶け込んでいた。彼は友人たちと夕食を共にし、Francesは彼らに、必要であればJohnnyの肉を切ってやるように頼んだ。少年たちは、まるで不審者でも見るかのように、目を丸くしてJohnnyを見た。Johnnyの髪は手術を受けた後まだ完全に生えそろっておらず、加えて彼は頭に白い包帯を巻いていたからだ。しかし、少年たちは、取り立てて質問をぶつけることもなくJohnnyの外見を受け入れた。 この週の間、夕食の後、Boyden先生と少年たちは集まって談話をした。少年たちは床に座り、それぞれの名前が呼ばれた。床に座れない人のためには椅子が置かれていて、Johnnyはそこに座った。その後、Johnnyはゆっくりと、誇らしげに、彼がこの1年間に渡って住むはずだった建物に歩いていった。しばらくの間、悲しそうに、彼は自分の部屋になるはずだった空間を見つめていた。その夜は、最善の策として、Johnnyは学校の病室で寝ることになっていた。彼が、よく知って、知りすぎてしまった場所で。 翌日の朝、私たちがJohnnyを迎えに行くと、彼は既にいなくなっていた。Johnnyは朝8時前に一人で建物を出て、最後の化学の試験を受けていたのだ。 その日の昼、私は偶然に、日の当たる広場で、Johnnyが木陰から歩いて出て来るところを見た。彼の左肩は、右肩に比べ低く下がっていた。彼の腕は、ほとんど使い物にならないのではないかと思えるほど、だらりとしていた。彼の目は、どこか遠くを見つめているようだった。しかし彼はまた、幸せそうであった。 「ああ、すみません。」 Johnnyは私にぶつかりそうになった時、言った。私を知らない先生と間違えるほど、Johnnyは考え事に集中し、心ここにあらずの状態だったのだ。 誰もが、Johnnyのやり過ぎを止めようとした。しかし、彼は言った。 「こういう風に歩き回るのは、僕の頭のために良いんだ。」 翌日も素敵な日で、Johnnyは屋外で友人と共に座り、数学の問題に取り組んでいた。FrancesがJohnnyにやり過ぎを咎めると、彼は答えた。 「座っているだけでは、未来は得られないんだ。」 翌日、Deerfieldでの時間は慌ただしく流れた。昼には生徒たちの家族が参加したパーティが開かれ、その後、球技が行われた。Johnnyはこの球技を、とても面白そうに観戦した。Boyden先生が45年間に渡ってDeerfieldに勤めたことなど、いくつかのことを祝う夕食会は、3時間続いた。Johnnyは一瞬の間を惜しんで、会を楽しんだ。 夕食の後、Johnnyは彼の友人たちと共に、Boyden先生の生徒たちへの話を聞くため、広場を横切って歩いた。今や気温の下がった夜空を頭上に、生徒たちは木の下に集まってBoyden夫妻のために歌を歌った。生徒たちの後ろの方に立っていたJohnnyは急に弱り込んでしまったように見え、そこで私は静かに席を離れて彼の真後ろに移動した。Johnnyは普段、学校で誰かに近づかれるのを嫌がったのだが、この時は気にしていないようだった。私は、彼が倒れてしまうのではないかと心配した。しかし、しばらくすると、Johnnyの澄んだ声が周りからの歌声の中に聴こえて来た。 最後の日、そしてDeerfieldでの最も重要な日、生徒たちは朝早くに集まり、白い木造の教会への短い距離を歩き始めた。Johnnyがこの距離を歩くのは無理だろう、と私は思った。しかし彼は私たちの側を離れ、他の生徒に混じって行ってしまった。教会に着くと、生徒たちはこちらに背を向け、列を作って並んだ。名前が呼ばれると、生徒は一人ずつ教会の前方に進み出て、左手で、学業を完遂したことを証明する書類を受け取ることになっていた。私たちは、Johnnyが書類を左手で持つのは不可能だということを説明し、右手で受け取ることできないか、と尋ねた。 生徒たちはゆっくりと行進を始めた。目立つはずのJohnnyの白い包帯が見えなかったことから、私は何か起こったのではないかと心配した。しかしBoyden先生からはJohnnyが見えていたらしく、心配いりませんよ、というようにFrancesに微笑みかけてきた。全て、上手くいっていた。 一人、また一人と名前が読み上げられると、呼ばれた生徒は席を立ち、前に歩いて行った。名前の頭文字がAである生徒がまず呼ばれ、B、C、と続いた。頭文字がGの名前が呼ばれ始めるに至って、私とFrancesは軽く恐慌状態に陥った。私たちにしてみれば、Johnnyが教会にたどり着いたかどうかすら怪しかったからだ。ある生徒が前へ歩いて行く時は特に喝采はなく、また別の生徒の時には少し拍手が起こった。中には、もう少し多くの喝采を受ける生徒もいた。 とうとう、Johnnyの名前が呼ばれた。John Guntherの名前が。 ゆっくりと、とてもゆっくりと、Johnnyは少年たちの中から歩み出た。彼は、私とFrancesの前を通り過ぎて行った。その目は脇目も振らず、ただ前だけを見つめていた。高い窓から明るい太陽の光が差し込み、Johnnyの白い包帯は一層目立った。頭を高く、一歩一歩、Johnnyは教会の奥に向け、中央の通路を歩いていった。彼の歩みは、とても、とても遅かった。教会にいる誰もがJohnnyを見守り、彼は、いったい、歩き続けることができるのか、と固唾を呑んだ。拍手は、ますます大きくなっていった。教会の奥、Flynt先生のもとにJohnnyがたどり着いた時、拍手は割れんばかりになり、木造の教会は音の奔流に満たされた。 Flynt先生は、当初の予定通り、Johnnyの右手に慎重に書類を渡した。しっかりとJohnnyは書類を握り、これも予定通り、左手へと移した。大きさを増す喝采に包まれながら、Johnnyは教会の壁の方に行き、そして彼の友人達が待つ後ろへ戻ってきた。 その夜、私たちはハーバード大学の話をした。何人かの生徒たちは、既に、大学に受け入れられたことを知らせる手紙を受け取っていた。Johnnyは、彼にも手紙が来るか、気を揉んでいた。彼は、落ち着かない様子であった。一瞬一瞬が過ぎ去るのを、彼は、感じていたのだろう。 これまでJohnnyを苛んできた苦しみの全ては、教会で奥まで歩いたあの数分によって報われた。彼自身の勇気がもたらした、彼にとっては喜ばしい、成功を噛みしめる瞬間だった。Johnnyの意思と人格の精悍さを、その日の教会で目にした人は、誰もそれを忘れない、いや、忘れられないだろう。
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時々PKとしても出現する。 ケツバットといいつつ得物は大剣。 遭遇場所 闘争都市 ルミナ・クロス トレード 気魂香 解毒ソーダ 死のタロット 大剣・舌震 「最近の若者はたるんでおる! まったくなげかわしい! めるるのケツバットで根性叩きなおすべきである!」
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双大将再会 ◆gry038wOvE 血祭ドウコクの目の前には、巨大な嘆きのエネルギーの集合体が光っていた。 位置はF-5(衛府之五)の山頂。不穏な光を見つけてやって来てみれば、そこにあったのは巨大な不可思議である。人々の嘆きや恐怖が集合し、それが集合する場所。 青い光を発し、その中央に、どこかで見たような真っ赤な光を発するその施設。 その名は、忘却の海レーテ──。 「こいつぁ一体……」 然るドウコクでさえ、先ほどまでなかったはずのその物体に、不穏な気配を感じずにはいらなれなかった。このレーテには、人々がビーストを恐怖する負の記憶が封印されている。 そんな場所だが、ドウコクがそんな物を知る由もない。 ただ、その膨大な嘆きの力だけは彼も感じていた。 「……わからねえが、ただのデカブツってわけじゃなさそうだな」 ともかく、他の参加者に比べれば、彼は動じない部類だっただろう。 嘆き──そこから感じるマイナスエネルギーに不安を感じる事はなかった。 血祭ドウコクの場合は、突如としてこれが現れた理由に不穏な気配を感じずにはおれなかった。 これが今後、この殺し合いでどういう意味を持つのだろう。その疑問に答える者は何もない。 『──ドウコク殿』 ふと聞こえたのは、ドウコクを呼ぶ声だ。 血祭ドウコクを呼ぶ、何者か。──ドウコクは、瞬時に後方のその人物に向けて剣を振るった。 何故、こんな行動に出たのか。 それは簡単だ。相手は利用価値とは程遠く、また、ドウコクの知る人物──参加者外の存在であると、認識できたからだ。 「久しぶりだな……マンプク。いつぞやにテメエがくたばって以来じゃねえか」 脂目マンプク。かつて、夏の陣にてシンケンジャーに敗北し、死亡したはずのクサレ外道衆の大将である。ドウコクが三途の川から掬いだしてやってみれば、ドウコクを家臣などと扱う傲慢さだ。 まあ、ドウコクはそこを咎めるつもりはないし、何故彼がここにいるのかなど今更疑問に思う理由もない。 彼が主催側からの使者である事は明白だ。 昇竜抜山刀は、マンプクの喉元で止まっていたが、マンプクが動じる様子はなかった。 『ご挨拶ですな、ドウコク殿。拙者は目的を果たしに参上仕った次第。今ここに現れている私の体そのものは幻影でござる』 そう言って、マンプクはドウコクの刃に指を通した。 どこから、血を撒き散らすわけでもなく、指がちぎれるわけでもなく、まるで刀か指かのどちらかが存在しないようにすり抜けていった。 なるほど、今ここでマンプクに余計な力を使う必要はなさそうだ。要件だけ話すべきだと思い、ドウコクは刀を下げる。 「で、テメエの目的ってのは何だ? この殺し合い、それにこのデカブツの話も聞きてえな……」 『手短に』 そう、前置きしたうえで、マンプクは語る。 『……拙者はドウコク殿に、この殺し合いにおける縛りの解除──即ち、貴殿の死後、二の目が発動する事と、近々筋殻アクマロの二の目が解放される旨を申しに参ったのでござる』 「……何?」 アクマロの二の目は、この殺し合いで発動していない。 それらしい様子もなかったので、てっきりアクマロはこの殺し合いの会場では二の目になる事もできずに死亡したと思っていたが、どうやら何らかの縛りがかけられてアクマロが二の目を解放できずにいたのみだという話だ。 『言葉通りでござる。これは全て、アクマロ殿自身は知らない話。もしまみえる事があったら、アクマロ殿にはドウコク殿の口から説明していただきたい』 「フン……。まあいい。だが、とっととテメエも俺のもう一つの質問に答えろ」 この殺し合いは何なのか、その問いにはマンプクはまだ答えていない。 ドウコクに関心があるのは、アクマロがどうという話ではないのだ。あんな奴の話はもうどうでもいい。 『ドウコク殿、拙者はただ、この殺し合いの縛りを無くす事だけ教えに来た身でござる。ここでそれ以外の事を口にする義理はござらんのだ。この嘆きの海もまた、別の者には説明する事はあっても、ドウコク殿に話す義理はない』 「何だと……?」 明確な叛逆だと受け取って良いのだろうか。──マンプクは何食わぬ顔で、説明を続けた。 『貴殿は、偶然この殺し合いに巻き込まれ、拙者は、偶然こちら側になれた。……それだけの事。残念な話だが、次に会って話す事があるとすれば、それは貴殿がこの殺し合いで二の目を使わずに勝ち残るができた時でござる。それまで、貴殿は命ではなく、駒。死んだシンケンジャーやはぐれ外道、アクマロ殿もまた同じ……壊れた駒でござる。何も知らぬまま、この殺し合いで好きに動けばいい……』 言葉の節々から、マンプクのかつてのような傲慢さが漂っていた。ドウコクにさえ、それは明確な叛逆であると認識させた。 これは戯れではない。現に、ドウコクの身を危険に晒している。マンプクは恩を仇で返そうとしているのである。本来ドウコクに奉公すべきであるマンプクは、一かけらの情も──外道衆にとって、この言葉は変かもしれないが──見せる様子がなかった。 「オイ、テメエ、今言った事、俺にはもう二度と撤回させる余裕がねえとわかってるだろうな……? 戯言として受け取る気はねえぜ。たとえ冗談だとしても、本気の言葉として受け取っておく」 『無論でござる。……しかし、変な話でござるな』 「なんだと……?」 マンプクは不敵に勝ち誇ったような笑みを見せる。一見すると表情は変わらないようだが、ドウコクはそれを感じ取った。 『いつから、世は、家臣が主に口答えできるようになったのでござろうか……』 それだけ言い残し、マンプクの幻影は消え去った。 どうやら、マンプクは本気でドウコクを家臣程度にしか思っていないらしい。 腐れ外道、と呼ぶに相応しい外道っぷりであった。 「……あの野郎。すぐにブッ殺してやる。……だが、その前に」 そうだ、筋殻アクマロ──彼もドウコクを殺しに来るに違いない。奴に全てを説明する義理はないが、いずれにせよ倒さなければならない。 このサイズであれ、ドウコクは外道衆を縛る力は持っているし、アクマロの二の目を撃退するくらいの実力は持っている。 早い話が、アクマロなど敵としては倒し甲斐がないほどであった。この刀は、やがてアクマロに会う事があれば、その体を二つに引き裂くだろう。 ドウコクは、自身が二の目となる気はない。ゆえに、彼から得た情報では、アクマロが二の目となって襲い掛かってくる以上の、意味はない。 アクマロがどこかに現れるまでに、ドウコクはともかく志葉の屋敷に向かう方針であった。 この珍妙な光──嘆きの海、と呼ばれていた──に誘われてやって来てみれば、次に得たデータはアクマロの出現の話だ。 アクマロと共通してよく知っている場所といえば、志葉の屋敷だろうか。やはり、行動方針としてそこに向かうのは変わらない。 ──状態表のあと、(ry 【1日目 夜中】 【F-5/山頂・忘却の海レーテ前】 【血祭ドウコク@侍戦隊シンケンジャー】 [状態]:ダメージ(極大)、疲労(大)、苛立ち、凄まじい殺意、胴体に刺し傷 [装備]:昇竜抜山刀@侍戦隊シンケンジャー、降竜蓋世刀@侍戦隊シンケンジャー [道具]:なし [思考] 基本:その時の気分で皆殺し 0:志葉の屋敷に向かう。アクマロを見つけたら殺す。 1:首輪を解除できる人間を捜す 2:加頭、マンプクを殺す 3:杏子や翔太郎なども後で殺す 4:嘆きの海(忘却の海レーテ)に対する疑問 [備考] ※第四十八幕以降からの参戦です。よって、水切れを起こしません。 ※第三回放送後の制限解放によって、アクマロと自身の二の目の解放について聞きました。ただし、死ぬ気はないので特に気にしていませ 時系列順で読む Back 壊れゆく常識Next X、解放の刻/楽園からの追放者 投下順で読む Back 壊れゆく常識Next 愛 Back 覚醒(後編) 血祭ドウコク Next The Gears of Destiny - 託される思い、激昂の闘姫 - Back 第三回放送X 脂目マンプク Next 第五回放送Z
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黒白灰色、三原色と程遠い無色透明。 それでいて、チューリップ畑のように立ち並ぶそれらはどこまでも執拗な陰鬱さと纏わり付く不快感、そして決別。 手の届かないものを忘れないように、そして捕われないようにと、それらは造られる。 どこまでも無数の色彩を失くした色が土の下に眠る塔。 その塔に今、罰当たりとも言うべき場所を弁えない闖入者達が存在していた。 ……あるいは珍入者というべきか。 黒ずくめの服に真っ赤なRのロゴが刻まれたその姿が、墓の立ち並ぶたった一つの通路で階段を睨んで目を細くしながら、今か今かと時を待っていた。 それはある意味で悲壮な決意ではあったけれど。 彼は階段の奥の塗込められた灰色を見据えながら、たった十分前のやりとりを思い出していた。 ――いいか兄弟、我々は五人が連続で戦う戦法で敵に臨む。 ――クロバットを持つイサキが大将、副将と中堅を地道な戦闘力を持つ二人で固める。 ――お前は次峰である私の前に立つ。 ――お前の役目が一番牽制として大切だ。 ――覚悟して戦え。 「どう見ても捨て駒です本当にありがとうございました」 事実上の敗北決定。 組織のネームバリューを使って首尾よくフジ老人を半ば監禁する事に成功したのも束の間。 謎の少年がべらぼうな強さで階下の幽霊達や幽霊に操られたトレーナーを撃破して、その現場へと刻一刻と近づいていた。 そもそも下っ端である彼らにそれほどの戦闘力があるわけでもなく。 どうやら状況は芳しくない。 彼らにとっては、老人から早目早目に全てを引き出せなかった時点で既に終わっていたのかもしれない。 「別に泣かんでも」 ふあ、と大きく欠伸をしてから、彼の傍に佇んでいたそれが、気だるげに声を掛けた。 罰当たりにも墓石に座り込んで、二本の小さな足をこつこつと、刻み付けられたその人間の呼称にあてこする。 髪の毛も服も全身が毒々しい紫、ドクロマークまで付けられたその服の端々からは、今も腐臭を撒き散らしながら得体の知れない空気が零れ出ている。 「うっせえよ、泣いてねえよ! ちょっと目から汗が流れただけだよ!」 「はいはい、わかりましたわかりました」 ドガースがそっぽを向きながら、彼自身のそれを押し留めるように両手のひらをその場で上下させる。 彼が黙って目尻を拭くと何かをすするような音は消えたが、代わりに小さく低い唸り声が出てくることになった。 楽な仕事だったはずなのにと。 半ば階下から向かってくるはずの少年に対して、理不尽にも苛立ちながら。 その矛先を、近くに向けた。 「大体、お前が強ければ問題ないんだよ。ちょっとは働けよお前!」 「えーちょっとぉ、人のせいにしないでよマスター。戦闘中に裏目指示ばっかり出すくせにさぁ」 もう毒になってるのに毒ガスとか、相性を無視したり、そもそも相性自体知らなかったり。 咎めるように彼女が文句を言うと、彼も続けようとした言葉を飲み込まざるを得なくなった。 その様子を見て嘆息しながら、彼女は右手で髪をかき上げる。 「大体あたし、戦いなんて好きじゃないしー」 「この前は、にたにた笑いながらやたら楽しそうに戦ってなかったか……?」 確かに彼女はつい一週間ほど前、その様子をコラッタ相手にでも披露したところだった。 そのやる気が無い顔を、何かに陶酔するように捻じ曲げながら。 もっともその時は、彼女の持ち手である彼自身も似たような顔をしているわけだったが。 しかし彼女はそう尋ねる彼に対して、両手を水平に持ち上げながら、一つため息をついて肩を竦める。 「弱いものイジメは好きなの」 そして、一切の遠慮も呵責もなくそう言ってみせた。 「……それって、どーよ? お前ひねくれものだっけ?」 「何よぉ、マスター達だって同じじゃない。あたしはただ、素直なだけー」 ぶすっ、と彼女が開いた口から、紫煙が吐き出される。 トレーナーではない彼等にとっては公平公正な戦いなどというものはもっての外で、自分の優位性が確かめられさえすればいい。 公正公平を求めるのは、それ自身が自分の正当化になる場合のみ。 へらと笑いながら呟くその言葉は、だからこそ彼らを逆撫でするものだったけれど。 「そういうところがひねくれてるってんだよ、全く」 苛立つような言葉を受け流して、ドガースは両手を腰の横である墓の上に戻した。 それでもなお収まらずに、彼女の主は天井を仰ぐ。 「あーもう……何でもっと素直で強いもえもんじゃなかったんだろ」 手の届かない天井に向かって、手を伸ばす。 それは墓石に立って跳びでもすれば、簡単に手が届くものであったけど。 彼がそれに気付くことは、恐らくずっとないのだろう。 「ちょっとー、勝手なことばっかり言わないでよね。あたしだって現状に不満ぐらいあるんだからさー」 「俺が不満だってのか。じゃあ、どんなヤツがいいってんだよ?」 かつかつと爪先が床を踏む音が塔の中で響き出す。 「マスターと同じき・ぼ・う」 彼女はわざわざ語句を強調すると、ようやくその石の上から腰を上げた。 不規則な足音を響かせながら、彼の視界の横を通り過ぎて階段側へと向かう。 「……生意気なヤツ」 自然と視線を切られることになった彼は、彼女を追うようにして階段へと視線を移した。 塔の中には、先ほどから音が響き止まない。 複数の大小様々な足音が、刻々と迫る彼らへの宣告を示すように、階下から大きくなりながら近づいてくる。 「どーでもいいよー。それより来るよ、どーすんの?」 「……このままで終わってたまるか。俺にも意地がある」 帽子のつばを掴んで、ぐっと目深に被り直す。 吹けば飛ぶような意地で、どちらかといえば悪あがきに近い見苦しいものだったが意地は意地。 「えー、面倒だな。適当にやればいいじゃん、適当にさぁ」 両手を組みながら階段の向こうをぼうっと見つめる彼女の、気だるげな声は直らない。 それに気を使うこともなく、彼はほぼ一方的な憎しみを、来るべき階段の向こうへとぶつけていた。 「いや、絶対にやる。せめて主力の一匹でも毒にしてやらなきゃ気が済まない」 「ちっさいねぇ」 「うっせ、お前もちゃんとやれよ! 戦うのはお前なんだからな!」 やれやれ、と彼女は今日何回目かの溜息をついた。 そもそも普段からしていい加減なのだから、偶然やる気を出した時にそれに人を巻き込まないで欲しいと。 そんな事は口に出さずに組んだ両手を解いた彼女をどう見たか。 同時に階下から現れる影を捉えると、彼は吼えた。 そして―― 「周囲のもえもんにモテモテで幸せしてるようなヤツなんかに、負けてたまるかァ!!」 「別に泣かんでも」 「泣いてねぇっつってんだろ!」 「はいはい、わかりましたわかりました」 ――突撃する。 ◇ ◇ ◇ 戦いは決した。 そこは(わりと一方的に)死力を尽くした戦いが行われた跡とは思えないほど、ただ静かに変わらずに。 通路をうつ伏せの状態で這いつくばって、がんがんと拳で床を打ち付ける人間が一人。 「ううっ、ちくしょー……」 無数の靴跡と足型が収まった背中が、色々な意味で痛々しい。 今生のあらゆる彼を体現するものを踏み潰された格好で、何にあたればいいかもわからないまま、とりあえず床に八つ当たりした。 「いやー、攻撃の暇もなかったねえ」 くぐもった声は、また遠くから。 通路の横の壁に、絵画か何かのように磔にされているのはその毒紫。 ぴくぴくと手足を僅かに動かしながら、けぷりと口から煙を吹いた。 「フーディンって何だよっ……?! サイコキネシスってお前ッ!」 「いや、マスター。あれ念力」 「っせえよ!」 どちらにしても、手も足も出なかったことには違いがなく。 障害どころか、まるで軽い段差でも踏み越えるかのような気軽さで軽く踏み潰されてしまった。 「おまけに、何だッ……?! 『弱いヤツは群れる』って何だ! 知ったような口利きやがって!」 「いや、マスターに関しちゃそれ事実だし」 うー頭ががんがんする、と彼女はその場で頭を左右に振りながら、床に八つ当たりする彼の姿を見つめた。 煤けた負け犬。 「っせえよ!」 「別に泣かんでも」 「泣いてねえっつってんだろ! ちょっと踏みまくられて痛かっただけだ!」 「はいはい、わかりましたわかりました」 けぷ、と紫煙を吐き出して、彼女はそれきり目を背けて黙り込んだ。 てっきり自分への罵倒が来ると思っていたから、彼女自身としては少々拍子抜けですらある。 「ちくしょー……覚えてろ……絶対に見返してやる、何か絶対にやってやるっ!」 「……目標が明確じゃない辺りが泣けるねー」 いつまでもちぐはぐな関係の中、彼は八つ当たりの方向を違うものに定めていた。 少し考えて出来もしないこと、大きな事はそれだけで人を惹きつける。 例えそれが出来なかったとしても、魅力的な事には変わりない。 出来なかったとしても、それを責められることもない――もちろん、自分に。 (どーせ出来ないのに、やめよーよ。そーゆーのさぁ) けぷり、と煙を吐き出した。 数年後、彼らはやる事は小さくて弱々しい上にそれほど大きくもない犯罪をするくせに、、危険な場数を数え切れないほど踏みながら、 何故か追い立てる警察にも捕らえられずにしぶとく生き残り続けている変わった犯罪者としてその方面で多少、名が知れる事になるのだが。 それはまた、別のお話。
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闇。 底の見えぬ闇。 頭上から照らすは冥き太陽。進む道は見えず、帰る道も見えず そして永劫とも思える逃走。殺戮。孤独。 だが銀の瞳は揺るがない。 銀の甲冑はただ冷たく、銀の残光を追う者達は銀の力により皆潰えた。 銀の私はかの者の残滓。 イグザゼン それは世界の力。脅威。憎悪。あるいはそれその物。 「破壊」のロストフェノメオン。 私が託されたモノ。届けるべきモノ。私の使命。 私の、私の ――「存在意義」 「――!?」 光? 遠く瞬き、近く輝く ――誰かがいる。 おぼろげなそれ。だが確かにそこには誰かがいる。 今にも消え行きそうなそれ。だがその姿に私は妙な既視感を感じた。 遠い遠いどこかに置き忘れた、かけがえの無い大切な何か。その姿に光は―― 届く事のない思考。遠く、遠く、あまりにも遠い光。 少女がその境地に至るには、まだ足りないものがあまりにも多すぎた。 故に知らぬ。故に識らぬ。その果てに、その向こうに、セカイの果てにある真実を。 eXar-Xen――セカイの果てより来るモノ―― Act.2 「ん、ん……」 彼女が意識を取り戻し、最初に見たものは少し汚れた白い天井。 次に、私の顔を覗く4つの影だった。 「お、気がついた?」 彼女の身体に障ると思ってか小声で言うディー。酷く疲れているような顔をしているが触れてあげない方が彼の為である。 「ここは……?」 「おっとっと、焦らんでもええ……ここはリングダム・メカニズム。ジャンクヤード012「スチームヒル」の郊外で機械整備工を商っておる。」 いきなり起き上がろうとする少女をなだめ、寝かせるバール。 「しかし驚いたのぉ……空がいきなりピカッ!と光ったと思ったら上の階からベルの怒声とディーの悲鳴が聞こえてくるんじゃもの。何事かと駆けつけてみればベルに サブミッション極められとるディーとベッドに見た事もない可愛い子がいると言う有様……事態のワケの分からなさでは70年生きてきた中でも最上位かも知れんのぉ。」 「だからバール!いらない事まで言わなくてもいいってばぁ!」 いつも通りふぉっふぉっふぉっと蓄えた白髭を撫でつつ愉快愉快と笑うバールと顔を赤くして文句を言うベル。 「ベル姉ちゃんもディー兄ちゃんの言い分もっと聞いてあげたらよかったのに……」 「だってあれでこうであんな状況だったらそれしか思いつかないでしょうが!……ま、まぁ問答無用で極めにかかったのは悪かったわ……ご・め・ん・ね☆」 (……今度の食事当番の時、泣くほどピーマンベルの所にぶち込んでやる。) ぶりっ子ぶってもあまりにも似合わないベルと、密かな(かつちゃっちい)復讐心を抱くディーをよそにただ黙ってベッドの向こうに見える夜景を見つめる少女。 その視線の先は工場群ではなく分厚い雲に覆われた空の向こうに向けられていた。 「………………」 「何が起きたのかはディーから聞いた。が、別にわしらは深くお前さんの事についてとやかく問い質すつもりは無いよ。ただ今は身体を治して、疲れを取って、気を休めるといい。全てはそれからじゃ。」 返事は無く、バール達のほうを向く事も無くただ闇夜の向こうを見つめる少女。 だがバールは別に何も咎める事は無く言葉を続ける。 「……今晩はこの部屋を使うとええ。トイレは廊下を右に出てまっすぐ行った所にあるからの。ディー、お前はウェルの部屋で寝るといい。確か余ってる毛布があったじゃろ?」 「はぁい……」 「何その返事?ひょっとしてここで寝るつもりだったんじゃ……!」 「あ、ちょっと欠伸が一緒に出ただけだからおま骨いたたたたたたた!」 「ちょっと姉ちゃんやり過ぎやり過ぎ!変な方向曲がっちゃうよそれ!」 「それってなんだそれって!お前のとこにも今度の当番の時ピーマいたたたたたた!!」 「ほれほれ疲れてる人がいるところで騒いじゃいかん。出て行った出て行った。」 賑やかなままバールに促されるままに追い出されていく3人と、少し遅れてではお休みと出て行くバール。 誰もいなくなった部屋にて少女はその不思議な光沢を放つ銀の髪をほんの少し揺らして、いつまでも淀み濁った空を見上げていた…… リングダム・メカニズムの朝は早い。 実はスチームヒル一との呼び声もあったりする腕の立つ修理工にして整備工であるバールを頼って今日も様々な依頼が舞い込んでいるからだ。 お陰でバールは歳相応も無くいつも忙しそうに働いている。最近はベルとウェルという有能なアシスタントを2人も得たが、 やはり大事なところは自分でしたいらしく、仕事量では2人を差し置いて一番となっているのだとか。 「ふむ、やはり今日の一面は昨日の謎の発光現象で持ちきりじゃな。」 と、広げた新聞を目にしつつ呟くバール。仕事柄か歳の割には目がよく、新聞でも老眼鏡付きなものの一番細かい字まで読めるらしい。 「まぁ、ならない方がおかしいよね。」 「どのチャンネルのニュースもあの怪現象で持ちきり。もっと他にやるべき事ないのかなぁ~?」 そう愛用の白いマグカップ片手に返すベルと、部屋の隅に置かれた古ぼけたテレビに齧り付いてチャンネルダイヤルを回しつつグチるウェル。 2人とも既に作業着に着替えており、仕事に対してはやる気満々と言った様子。 ちなみにその新聞によると、ここを中心とした少なくとも半径100キロ圏内では何処でもその怪現象が目撃されたのだとか。 テレビの報道でも原因について様々な憶測が飛び交っており、ネタに飢えたマスコミを賑わせている。 正直こんなモノで大騒ぎになるのもどうかと思うが、それだけ世の中が平和って事なのだろう。最近はバリードによる被害もあまり聞かないし。 ……世を騒がす怪事件と言っても、こういう誰も困らない類のならたまにならいいかもしれないと思うが (ウチにとっては怪事件だけで済まないかもしれないけどな。) 突然目の前に現れた彼女の事を思い返す。 どっかの漫画で見たようなありきたりの展開だが、実際に起こったとなれば話は別。 色々と思うところはあるが、バールの提案で彼女が何か言い出すまではこちらからは特に触れない事にした。まぁ色々問い質した所であの子が何か言うかと思うと…… 「……なーに考えてんの?」 柄に無く押し黙ってそんな事を考えていた俺の顔を、横から覗き込んでニヤニヤしているベル。 怒らせると(肉体言語的な意味でも)怖いが、いつもはあっけらかんとした明るい性格でお客さんからの人気もあって最近じゃウチの看板娘ともなっている。 これは余談だが買出しや何かでベルがいないと聞くとしょんぼりして修理も頼まず帰っていく人もいたり……あれ?ウチ、何屋だったっけ? 「あの子の事だよ。」 「やっぱり。そうだと思った。」 「さっき覗いてみたら俺達が出て行ったときとまったく同じ姿勢で空を見上げてたし……何と言うか、不思議な子だなぁホント。」 「あたしも覗いてみたけど普通じゃないオーラもびんびん出してるよねー。バールはああ言ってたけどあの子の身の上はすっごい気になったり……」 俺の返事にうんうんと頷くベル。 コーヒーの入った白いマグカップをテーブルから取り上げ、軽く口を付ける。 「俺もまぁ、気にならないと言ったら嘘になるけど実際聞いてみて何か言ってくれるかと思ったら全然そうは思えないんだよなぁ……」 「同感。やっぱりあの子が何か言ってくれるまで待ってたほうがいいかもしれないね。」 ただいくら待っていても向こうから何か言ってくれるかと思うと凄い疑問なんだが……それはこちからのスキンシップ次第か。多分。きっと。願わくは。 「……さて、と。今日も一日頑張ろうかしらね。ディーもちゃんと働きなさいよ?」 「へいへい。」 それじゃ行こうとベル。うんとウェル。2人仲良く工場へと通じる扉を潜っていった。 この部屋に残ったのは酷く落ち着いた面持ちで茶をすするバールと俺のみ。いつも面と合わせるのだが何故か緊張する。 「……何か聞きたいことがあるようじゃな?」 そわそわした俺の様子を見てか先に話しかけてきてくれたバール。これは助かる。 「そう。あの子の事なんだけど……」 「ん?」 「あんな人が突然現れるような現象、バールは聞いたこと無い?」 多分無いのだろうなぁ……と思いつつも聞いてみる。 いくらバールでもあんな超常現象の類の事について知っているはずが無いだろう。 「んむ。聞いた事は無い……聞いた事は無いが、ほんの少しだが心当たりも無くもない。」 「え!?」 ただ返ってきた返事は予想外のもの。俺の驚きを他所にバールは話を続ける。 「わしの古い友人にそういったオカルティックで奇妙な事について研究しておった奴がおる……そいつなら何か知っているかもしれんが、 もう10年以上会ってない上、元住んでいた場所にもおらず、連絡も途絶え、今頃元気にしているのかどうなのか、それすらも分からん。」 「へぇー……ちなみになんて言うの?その人の名前。」 別に参考にもならないだろう。ただ興味があって聞いた事。 「「ロン・クーロン」といったかな……これといって力になれずにすまんの。」 「いやいやありがとう。じゃ、行ってくる。」 「んむ、気をつけてな。」 ロン・クーロン。 その時は特に気にせず聞き流した名。だがそれは後々まで続く、決してその姿を見る事のない彼との初遭遇でもあった…… ↓ 感想をどうぞ(クリックすると開きます) +... 名前
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閃光の真実と深淵の影 ◆Z9iNYeY9a2 「ねえほむら、何で今遊園地に寄る必要があるの?」 「さっきはあの村上の不意打ちで逃げるのが精一杯だったから、一度落ち着ける場所でこれの状態を確認しておきたいのよ」 遊園地。 C-4に位置する広めの土地を占領した施設。 6時間ほど前だったかに一度は来たことがある場所だったがまたここに寄ることになるとは思わなかった。 ほむらの探す鹿目まどかの捜索を優先すべきなのではないかと思っていたが、ほむら自身がここに寄りたいと申し出たことから付き合うことにしていた。 確かに先の村上の触手を受けたほむらには何かしら身体的な影響は与えられていそうではあった。休憩も必要だろう。 ちなみにほむらが確かめておきたい、と言ったのは村上から貰った銃器だ。 あの男の自信からして手を加えているとは思えないが念には念を入れる必要はある、とはほむら談だ。 「どうせ暇でしょ、その辺ぶらついてきてていいわよ」 「何勝手に人を暇って決めつけてるのよ?」 「あなた私が銃を整備するのにそんなに興味あるの?」 「いや、別に」 「正直言うとね、この作業って割と慎重にやらなきゃいけないのよね。 だから気を散らせたくはないの。その子と一緒に少し出ててくれないかしら」 「なら最初からそういえばいいのに」 「30分もかからないわ。すぐ戻ってくるから」 そう言って建物の中の一室に入っていったほむら。 アリスはポッチャマと黒猫を連れて周囲を回ろうと2匹に声をかける。 「ポチャ!」 「…あれ?」 しかしポッチャマの返事はあったものの、黒猫の気配が消えていた。 周囲を見回すが、猫の姿はどこにも見えない。 ポッチャマならばある程度のコミュニケーションも可能で言うことも認識してくれているようだが、猫にそこまでの知恵があるとは思えない。 早く探しておかないといざ出発する時に見つからないということになれば置いていくことになってしまう。 「あーもう、結局仕事できてるじゃないの。 ポッチャマ、向こう側を見てきて。私はあっちを探すから」 「ポチャ!」 ビシッとポーズを決めて走りだすポッチャマ。 それを見送った後、アリスも遊園地の中を走り始めた。 遊園地自体はそう広くはない。回るのもそう時間はかからないはず。 しかし動く猫を見つけられるかとはまた別だろう。 ほむらの休憩が終わるまでにはどうにか見つけなければ。 若干焦りつつもアリスは猫を探して走り始めた。 ◇ その頃。 遊園地内の一室。 関係者以外立ち入り禁止、と書かれた場所。 このような場所にあったら逆に怪しい場所だろうが、ここが遊園地であることを考えれば自然に見えるようになっている。 一般的に考えれば、そこにあるのは遊園地の設備に関わるものだろう。 無論そこには鍵がかかっているはずであり、注意書きの有無に関わらず入れはしないはず。 その場所の扉が静かに開き。 何者かが室内に入っていく。 暗い闇の中、機械音のみが規則的に音を刻む空間の中で。 「…これは……」 その者は何かに気付いたかのように呟き、そして静かに室内を後にした。 ◇ 「はぁ…はぁ…、ねえ、猫は見つかった?」 「ポチャ…」 息を若干切らせながらも聞くアリスと、座り込みながら首を横に振るポッチャマ。 あれから数十分。園内を探して駆け回ったものの、結局猫は見つけることができなかった。 そこまで広い場所ではない。入り組んだような場所もないと思うしあっても入るとは思えない。 では、どこに行ったというのか。 このまま見つけることができずに出発するようでは、ほむらに煽られてしまう。 「『たった数十分程度の間に猫1匹の面倒を見ることもできないのかしら』とか、絶対言ってきそうなのが…」 まあそう言われてもならアンタはしっかり目を離さずに見ていることができるのかと言い返して泥沼になりそうだが。 ……いや、ほむらのことだ。沼にはならず短期決戦の泥合戦で終わりだろうが。 それもほむらが負けそうになって強引に打ち切り、しばらく不機嫌なままの状態が続くとか。 「…まあ考えても仕方ないか」 ほむらが鹿目まどか探しを優先するか、それともそっちを置いてまで猫を探すか。 どっちにしろ迷惑をかけてしまうことには変わりない。 僅かに後ろめたい思いを持ったまま、ほむらが出てくるのを待つアリス。 「おまたせ」 と、アリスの待っていた背後の扉から現れたほむら。 猫の件をどう説明したものか、と考えながら振り返ったアリス。 「………」 「どうかしたのかしら?」 その手に抱きかかえられたのは件の黒猫。 いなくなって探し回ったこっちのことは素知らぬ顔で、ほむらに連れられている。 「…………」 「ちゃんと面倒くらい見ておきなさい」 「……ねえ、その猫こっちに貸して」 「はい」 ほむらは猫を地面へと下ろす。 猫はこちらへとトテトテと歩いて迫ってくる。 足元に擦り寄ってきた猫を抱きかかえたアリスは、その額に小さくデコピンを放った。 「ニャン!」 悲鳴のような鳴き声を上げる猫。 そんなアリスを、ほむらは咎めるでもなく静かに見つめていた。 「まあ、ともあれ見つかって良かったわ。 体の調子は大丈夫なの?」 「ええ。銃には何の問題も無かったわ。 あのオルフェノクもそこまで卑劣ではなかった、ということね」 「…ああ、そう。 ところでこの猫、ずっとほむらと一緒にいたの?」 「銃の整備が一通り終わって少し試し撃ちしようと思ったところで入ってきたわ。 手綱くらいつけておいてくれないと困るわよ」 「…はいはい」 ◇ そうしてサイドバッシャーに乗ったほむら。 しかし彼女はアリスに対して嘘をついていることがあった。 この遊園地に寄ったことには理由があったこと。 そして、この猫はアリスの元を離れてどこに行ったのかを知っているということ。 (インキュベーターは私の入ったあの建物の、さらに奥からやってきた。 気になってそこの様子を見に行ったけど、そこには何もなかった) 銃の整備を終えたほむらの前に現れた、インキュベーターの擬態した猫。 その向かってきた方向にあったのは遊園地の管制室と思わしき部屋。 多くの機材が並んだその空間には、しかし何の変哲があるようにも見えなかった。 そして周囲を探る自分の姿を、あいつは咎めることもなく静かに眺めていた。 絶対にそこにあるはずの何かを見つけることはできないという自信の現れか、それとも本当に何もないというのか。 いや、何もないということはまずないだろう。 (…例え何かあったのだとしても、今の私にはどうすることもできない) 最終的に数分粘ってみた後、アリスの元に出てきたのだ。 (今考えるのは止めましょう。その前に、この胸を焼き尽くすような不快な感情の元を絶たないと) 銃器の整備などというのは建前だ。本来なら一刻も早く美国織莉子の元に向かいたかった。 それを妨げたのがキュゥべえだ。 移動を開始した彼女の詳細な場所が知りたいなら、少しの時間遊園地に立ち寄ってくれなどと言ってきた。 苛立つ心を抑えつけながら、逆にあいつの手の内を知るためにも、と取引に応じた。 時間を無駄にした感は否めないが、それでも全く無駄になったというわけではない。 あの遊園地には何かがある。そして、それには自分達には気付けない何かしらの細工が施されている。 収穫としては低いが、この先どこかで役立つかもしれない。 (そんなすました顔でいられるのも今のうちだけよ、インキュベーター。 美国織莉子を殺したら、覚悟していなさい) 無表情の奥に激情を隠したまま、ほむらはサイドバッシャーを走らせた。 【C-5/遊園地付近/一日目 午後】 【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】 [状態]:ソウルジェムの濁り(5%) 、疲労(中) 、不快感 [服装]:見滝原中学の制服 [装備]:盾(砂時計の砂残量:中)、グロック19(14発)@現実、(盾内に収納)、ニューナンブM60@DEATH NOTE(盾内に収納)、 グロスフスMG42@魔法少女まどか☆マギカ(盾内に収納)、サイドバッシャー(サイドカー半壊、魔力で補強)@仮面ライダー555 [道具]:共通支給品一式、双眼鏡、あなぬけのヒモ×2@ポケットモンスター(ゲーム)、ドライアイス(残り50%)、 グリーフシード(残り30%使用可)@魔法少女まどか☆マギカ モンスターボール(サカキのサイドンwith進化の輝石・全快)@ポケットモンスター(ゲーム)、まどかのリボン@魔法少女まどか☆マギカ、はっきんだま@ポケットモンスター(ゲーム) [思考・状況] 基本:アカギに関する情報収集とその力を奪う手段の模索、見つからなければ優勝狙いに。 1:鹿目邸へと向かい、おそらくいるであろう美国織莉子を抹殺する 2:全てを欺き、情報を集める(特にアカギに関する情報を優先) 3:協力者が得られるなら一人でも多く得たい。ただし、自身が「信用できない」と判断した者は除く 4:ポッチャマを警戒(?)。ミュウツーは保留。ただし利用できるなら利用する 5:サカキ、バーサーカー(仮)は警戒。 6:あるならグリーフシードをもっと探しておきたい 最終目的:“奇跡”を手に入れた上で『自身の世界(これまで辿った全ての時間軸)』に帰還(手段は問わない)し、まどかを救う。 [備考] ※参戦時期は第9話・杏子死亡後、ラストに自宅でキュゥべえと会話する前 ※『時間停止』で止められる時間は最長でも5秒程度までに制限されています ※ソウルジェムはギアスユーザーのギアスにも反応します ※サイドバッシャーの破損部は魔力によって補強されましたが、物理的には壊れています ※アリスは”友達”として信用できる存在と認識しました 【アリス@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】 [状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、ネモと一体化 [服装]:アッシュフォード学園中等部の女子制服、銃は内ポケット [装備]:グロック19(9+1発)@現実、ポッチャマ@ポケットモンスター(アニメ)、黒猫@??? [道具]:共通支給品一式、 [思考・状況] 基本:脱出手段と仲間を捜す。 1:ナナリーの騎士としてあり続ける 2:情報を集める(特にアカギに関する情報を優先) 3:脱出のための協力者が得られるなら一人でも多く得たい 4:ほむらが若干気になっている 最終目的:『儀式』からの脱出、その後可能であるならアカギから願いを叶えるという力を奪ってナナリーを生き返らせる [備考] ※参戦時期はCODE14・スザクと知り合った後、ナリタ戦前 ※アリスのギアスにかかった制限はネモと同化したことである程度緩和されています。 魔導器『コードギアス』が呼び出せるかどうかは現状不明です。 ◇ そうしてほむら達が遊園地を出発した頃。 彼らのいる会場とは違う、どこでもない空間。 一人の男がひたすらに手を動かし機械音を規則的に響かせる空間に、1匹の白い獣が入り込んだ。 「アクロマ」 「おや、キュゥべえくんですか。どうかしましたか?」 「どうして伝えてくれなかったんだい?」 「?何のことでしょう?」 「遊園地に置かれた装置を見てきたんだ。近くに立ち寄ったついでにね」 遊園地に配置された装置。殺し合いにおける観測機の役割を果たすもの。 会場においては幾つかの施設に潜まされたものの一つ。殺し合いの目的である、エントロピーの発生を観測するためのもの。 それを調べていた時、一つの異常があったことにキュゥべえは気付いた。 「殺し合いの中で、平行世界へと繋がる”穴”がほんの一時だけど観測されていた。 その時刻と会場内での出来事を照らし合わせると、最も近いのはシロナのガブリアスが進化した時だ」 穴。物理的なものではなく、あくまで概念的な現象としてのもの、ワームホールとでも言うべきものだろうか。 どこに繋がるかも明確には分からぬそれ。ただ分かるのは、それが並行世界へと繋がるものだということ。 現に、観測されたその穴もまたどこかへの並行世界に通じていたらしい。 「ふむふむ。それで?」 「ポケモンのことに関して、僕たちの中では最も詳しいのは君だ。現にメガストーンを会場に撒いたのも君だって言っていたね。 その君がこの件を知らなかったとは思えない」 「ええ、知っていました」 悪びれる様子も無くキュゥべえに、メガネを押し上げながらそう返すアクロマ。 「どうして教えてくれなかったんだい?」 「聞かれませんでしたから」 「まさかあの件がそこまでのことを起こすものだなんて想定できるわけないじゃないか」 あの現象自体は道具が揃わねば起こし得ないものであり、そうでない状況で発生したという事実そのものは興味深いものがあった。 まさかあれが平行世界へのワームホールを開くほどのエントロピーを発生させるものであるとは想定していなかった。 「…まあいいさ。それが繋がることそれ自体は僕たちとしても望むべきことだ。 ただ、それが起こったということは報告しておいて欲しいね」 「おや、てっきり私はあなた達なら既に知っていることだと思ってました」 「それが可能ならわざわざ僕は自ら会場に潜り込んだりなんてしないよ」 アクロマはポケモン関係の施設、支給品、機材に関するほとんどを取り仕切っている。 さすがにアカギの管理するアレまでは任されていないものの、この殺し合いでのポケモンについての詳細な情報は彼以上に知ってる者はいないだろう。 一方でそれ以外、魔法少女に課した枷や新たなオルフェノク誕生の封印などといった制約に関してはからっきしではあるが。 そしてそれはキュゥべえにも当てはまる。 ポケモンに関することはアクロマにほとんど任せっきりであったためあまり多くの情報を持ってはいなかったのだ。 「ただ僕は僕で改めて調べさせてはもらったけどね。ポケモンという生命体のことについて。 特にあの時起こしたメガシンカ、というものについては」 「ほう」 「確か君から聞いたそれは人間とポケモンの絆がキーストーン、メガストーンを通じさせることで発動するポケモンの新たな形態変化、と言ってたね」 「ええ、大雑把にはそう説明しました」 「ポケモンと人間の生体エネルギーを掛けあわせて発生するエネルギーが、メガシンカを引き起こす。 それに必要な要因というのが『ポケモン』と『力を持った石』、そして『人間』が結びつくこと。 これらが合わさることで、超絶なエネルギーを生み出すと共にメガシンカが発動する。これが僕なりに調べた結果だね」 「なかなか高い情報収集能力を持っていますね、別に私が教えなくても問題なかったのではないですか?」 「それはさすがに手間になっちゃうけどね。 そしてもしそれが事実なら、あそこでキーストーンの無い状態でのガブリアスがメガシンカを発動させたことにも納得がいく」 あの時メガストーンを輝かせたものはクロエ・フォン・アインツベルンの投影したエクスカリバー。 それが投影したハリボテとはいえ、あの剣は人々の祈りを込めた神造兵器の模倣品だ。 キーストーンとしての役割を果たすには十分だったということなのだろう。 加えて、彼女はガブリアスの主、シロナから魔力供給を受けている。それがほんの僅かながらパスとして繋がる要因でもあったのかもしれない。 「そしてもう一つあった疑問も調べていくうちに解けていったよ。 メガシンカのメカニズムで発生するエネルギー、それを応用することで空間転移が可能らしいね」 「ええ。しかしそれには接続先を安定させるための通信ケーブルが必要となりますが。 なければどこに転移するかも分からない以上、無闇に使えるものではありませんよ」 「そうだね。だけど一つだけ。クロエ・フォン・アインツベルンが聖杯、万能の願望機としての機能を持った存在であったこと。 これが、さっき言った、メガシンカの影響で空いた穴にある役割を与えたんだ] 人とポケモンの繋がりが与えた、膨大なエントロピーによる奇跡。 そこに理論をすっ飛ばして結果を持ってくることが可能な願望機が関わった。 ではあの場で彼女が願ったことは何だったか。 決まっている。バーサーカーを打倒することだ。 そのために望んだことは、残りの命の数も分からぬあの巨人を倒し得る最大の攻撃。 すなわち、約束された勝利の剣による攻撃。 「だけど彼女にはそれが可能な魔力は持っていない。あの時の彼女は魔力を枯渇させているに近い状態だったんだから。 しかし、現実に聖剣は光を放った。 もしかして開いた穴は、その不足を埋めるだけの魔力を彼女に送り込んだんじゃないかな?その願望機の願いを叶えるように」 ただ開いただけのはずの穴、そこに聖杯の願いが合わさったことで役割を持ち。 結果、約束された勝利の剣にもガブリアスのドラゴンダイブにも耐性を持っていたはずの肉体から3つの命を削り取った。 もしそのどちらかにでも耐性を持っていなければ、一体バーサーカーはどれほどの命を消滅させられていただろう。 「アクロマ、アカギはこのメガシンカのことを知ってるのかな?」 「さあ?知っているかもしれませんし知らないかもしれません。どちらにしても私には興味がありません。 アカギには、私のやりたいようにやれとしかいわれていませんので」 「ずいぶんと信用されたものだね」 「まさか。私が多少アカギに不都合になることを仕出かしたとしても些細な事としか見ていないのですよ、彼は。 想定外のことが発生したとしても怒ることも驚くこともないのでしょう」 「なるほど。確かに放送の時以外は滅多に出てくることもないしね、アカギは」 その点シャルルは何と思っているのだろうか。 彼の場合自分より早く、こちらの言った穴を把握していることも有り得る。 適当なところでタイミングを見計らって聞きに行ってみるとしよう。 「そういえば、今回の件を通して一つ疑問が生まれたんだけどさ」 「何でしょう?」 「メガストーンやポケモンが人間との繋がりでもたらすエントロピーが膨大なものであることは分かった。 そしてそれ自体は君の求めているものともまた大きく繋がるものだ。つまり、そこには僕たちとの間にも大きな利害が存在している。 なのに、あの場に配られたポケモンの数に対してあの進化が可能なものはあまりに少ない。 そこに理由はあるのかい?」 あの場に配られたポケモンは退場済みの者を含めて10匹弱。それは参加者達の所持していたポケモンから選別された者ばかりだ。 しかしその中でその進化が可能な者がどれほどいるか。 中にはピカチュウやポッチャマ、テッシードやピンプクといった未進化のポケモンも存在している。 それよりももっとメガシンカの可能なポケモンを入れた方が儀式の目的達成も効率的に果たせたのではないか。 例えばヘラクロスやルカリオ、オニゴーリやジュカイン、同じ進化前であるならミミロルなどの方がよかったのではないか? 「ああ、そんなことですか。簡単な話ですよ。 面白くないじゃないですか。ポケモンと人間の絆が、メガシンカという形のみで収まってしまうというのは。 メガシンカ自体は私にとっても大きな研究対象です。しかしそこで留まってしまうことは望んでいないのです」 「…やっぱり理解できないな、人間の価値観ってものは」 そんな言葉を最後に、キュゥべえはアクロマの作業部屋から退出していった。 その後部屋に響き渡ったのは、キュゥべえの存在などなかったかのように己の役割に没頭するアクロマが響かせる作業音のみ。 ※会場の施設にはエントロピー観測装置の配置された場所があります。しかし参加者には入ることのできない仕掛けが施されているようです。 123 永遠フレンズ 投下順に読む 125 Nobody to watch over me 時系列順に読む 118 私であるために 暁美ほむら 126 憎悪-Badblood mind アリス 107 第二回定時放送 キュゥべえ 128 Not Yet アクロマ
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続・虎の威 01 雨が降る。 人と物の溢れかえった街角に、ほこりっぽい雨が降る。 トラ国港町――カーハ。 この国はいい国だ。豊かな自然と穏やかな気候が人々の暮らしを豊かにし、豊かな暮らしは暖かな心を生む。 トラは歌と踊りを愛し、戦いを好み、誰もが笑いながら殴り合い、喧嘩の相手と酒を飲む。 馬鹿なんだよ、と誰かは言った。あいつらは考える頭を持ってるのに、そいつを使おうとしないんだ。楽しけりゃいい連中なんだよ。向上心て物がない。 ここにいると、まったくその通りだと今更ながら頷きたくなった。だが、それでいいのだとおもう。向上心は争いを生む。変化は淘汰を生む。変わらずにいられるならば、それほど幸福なことはない。 ハンスは雨から逃れるように路地裏に座り込み、深くフードを被ってぼんやりと過ごしていた。 もう少し目立つ所でうずくまり、行き倒れのふりをしていれば、誰かが施しをくれることは分かっていた。 トラは強い種族だ。だから平気で行き倒れた他国の者を家に上げ、食べ物とベッドを与えてくれる。イヌの国から逃げてきたハンスにはそれが信じられなくて、初めてハンスを救ってくれたトラの家族を警戒して怯えきり、夜のうちに金品を奪って逃げ出した。 それから何度も同じような事を繰り返すうちに、自分の心がいかに貧しく歪んでいるかを思い知った。今では、向けられる慈悲や好意がひどく痛い。 豊かな心の人間に触れるのは辛かった。 ハンスはイヌ国の脱走兵だった。 忠誠を重んじるイヌ国では、国を裏切る行為は大罪だ。それでも、国境付近を守る兵卒は、ふらりと姿を消すような事がたまにある。 自分がその立場に置かれるまでは、どうしてそんな馬鹿なことをするのかハンスには理解できなかった。 だが、ハンスは豊かなネコの国を見てしまった。 自由奔放で、なににも縛られず、気ままに暮らすネコたちを知ってしまった。 国境市の活気を知ってしまった。満たされた笑顔を見てしまった。 ハンスには両親がいない。だがそれでも、人並みに幸福だと思っていた。頭は悪くとも体格には恵まれていたから、傭兵の真似事をして小金を稼ぐ事だって出来た。 イヌ国の基準から考えれば、それは十分に幸福だったのだろう。だが、幸福の基準は相対的に変動する。 ハンスは自分が不幸だった事を知った。イヌ国に生まれたこと自体が、他国から見れば不幸なのだと知ってしまった。 だから、囁きかけてきたネコの甘言に、忠誠心はあっけなく崩れた。 夜中に兵舎を抜け出し、ネコの商人に命じられるままに仕事をした。他国から国境市へやってくる商人の馬車を襲ったのだ。 今まで恵まれていなかった分、恵まれた人間から少し幸福をいただくくらい当然の権利だとネコは言った。その通りだとハンスは思った。だから奪った。ひたすらに奪った。 だがある日、ネコの商人が詐欺で捕まり、ハンスは一人になった。一人でも、ハンスは奪うことを続けた。奪うしか生きて行く方法がなかった。やがて追われる身になり、ネコの国からトラの国へ逃げ延びた。 そして、今に至る。変化を望んだ結果が、これなのだ。 幸福の基準は相対的に変化する。 今に比べれば、イヌ国での日々は幸福そのものだった。友人がいた。家があった。忠誠を誓う国があった。 だが、今は何も無い。 早いところどこぞかで野垂れ死にしてしまえば楽なのにと思いはしても、生憎とハンスはネズミではない。豊かな国では残飯も豊富にあり、種族柄旺盛な生命力がハンスに死を許さなかった。 生きている。ただ生きている。この国の雨は暖かい。ひどく眠かった。 「ねー。あれって一種の行き倒れ?」 妙にあっけらかんとした、若い女の声がした。 自分のことだと瞬時に察して、思わずそちらに視線を投げる。 「一種のどころか普通に行き倒れじゃねぇか! おおい、ブルック!」 屈強なトラの男が、路地を抜けた先で大声を張り上げた。 その側に立つフードの女が、ひょこひょこと軽い足取りで歩み寄ってくる。 「あ」 つい、とフードの前をあげ、女が驚いたように声を上げた。 黒い瞳。黒い髪。――雨のせいで鼻が利かない。妙に臭いの薄い女だ。 「カブラー! イヌだよ! イヌ! 雨に濡れた捨てイヌ!」 なぜか妙にはしゃいだ声で女が叫んだ。 だが、そういう女だってずぶ濡れだ。突然ふり出したのだから無理もない。 「大丈夫? 立てる? 待ってね、今デカいのが二人来るから――」 「ほっといてくれ」 気遣う言葉を遮って、ハンスは眠気を振り払ってのっそりと立ち上がった。 「俺はただの浮浪者だ……助けても得にはならんぞ」 水溜りに足を突っ込み、だらだらと歩き出す。靴は随分前にダメになっていて、ただぼろぼろの布を巻いてあるような状態だった。古い布地はよく水を吸い、その下の毛皮にまでたっぷりと水を含ませてくれる。 「ははぁ……なるほどね」 女としては、恐らく独り言だったのだろう。 だが、喧しい雨音の中、ハンスは女の低く押し殺した声をはっきりと聞き取れた。 「ねぇ、ワンちゃん」 パサリと、おもむろに女がフードを脱いだ。 振り返るつもりなど無かったのに、なぜか妙に気になって振り向いてしまう。 そして、ハンスは言葉を失った。 耳が――本来あるべき場所に、ない。 「ヒト――抱いてみたくない?」 見計らったように、雨が激しさを増した。 大通りから、二人の大柄なトラがかけてくる。 女は再びフードを被り、トラの男たちに振り向いた。 「行こう。カアシュが待ちくたびれてるよ」 *** 「そいつを護衛に雇うだぁ?」 ほこりっぽく薄汚い宿屋の一室で、三人のトラと一人のヒトがベッドの辺りに集い、一人のイヌが輪をはずれてぼんやりと窓辺に立っていた。 ずぶ濡れで冷えた体を風呂で温め、汚れたぼろきれを全て脱ぎ去り、酒と食事をたらふく与えてもらったほんの十分後のことである。 素っ頓狂な声を上げたトラの男に振り返り、ハンスはあからさまに快く思っていない様子の男と数秒間視線を交差させた。 恐ろしい悪人面だが、瞳だけは美しく透明で、吸い込まれるように青い。 「だめだ! 賛成できねぇな。いくらなんでもそりゃだめだ!」 鼻の頭に盛大に皺を寄せ、唸るように断言する。 ベッドに深く腰を下ろし、だらしなく足をぶらぶらさせていたヒトの少女は、そうくると思った、とでもいうように眠たげに天井を仰いだ。 その頭には、路地裏では確かに無かったトラの耳が付いている。 「だって、カブラ達は狩をするために街を出てきたわけでしょ? って事は、三人そろって仕事に出かけるわけだ。その危険な狩にさ、あたしみたいなか弱い女の子を連れて行くつもり? 無理でしょ? だったら、あたしは留守番になるわけだ。その間あたし一人にしとくの? 危険じゃない? 危険でしょ? 危険だよね? 絶対護衛は必要だと思わない?」 「そりゃ、その時んなったら、誰か信頼できる奴を護衛として雇う。少なくとも、港町で行き倒れてた素性不明のイヌよりゃましだ」 「あのねぇカブラ! あたしお金を稼ぎにきてるんだよ? 独自に勝手に一人で動き回りたい時だってそりゃあるわけよ。それなのに、目玉が飛び出るような護衛料を請求する正規の護衛なんて雇えると思う? だったら、素性不明で職もなくて浮浪者するしか道が無かったイヌを拾って、格安でこき使った方が経済的じゃない!」 「おまえの安全を守る護衛が一番危険な存在じゃ何の意味もねぇだろうが!」 「わあすごい。あたしを強姦しようとした男が言うと凄く説得力がある」 うぐ、とカブラと呼ばれた男が言葉につまり、他の二人も苦い表情で呻き声を上げた。カブラがぎりぎりと歯を食いしばり、平然としている少女へと身を乗り出す。 「今はそれは関係ねぇだろう」 「関係大有りだよ。あたしは、あたしを強姦しようとしたあんたたちを信頼してる。で、あたしを強姦しようとしたことがないイヌの人も信頼する」 「そんな馬鹿な話が――!」 「お願いカブラ。あんたたちは強いんでしょ? だったらチャンスをちょうだい。アカブがあんたたちにそうしたみたいに」 カブラが青い目を一杯に見開き、苦しげに唸り声を上げながらばりばりと耳の後ろをかいた。それから、じろりとハンスを睨み据える。 ハンスは無言で視線をそらした。 「……少しでも変なまねしたら。いいかイヌの兄さんよ。全力で殺すぞ」 無意識に嘲弄するような笑いがこぼれた。自嘲のつもりだったのだが、当然カブラはそうは受け取らなかったらしく、いきり立って立ち上がった。 「できてねぇと思ってんのか? すかしやがって! 試すか駄犬が!」 「いや……ぜひそうしてくれ。俺は喜んで死ぬ」 本心からの言葉だったが、やはりカブラはそれを挑発と受け取って激昂した。飛びかかろうとするカブラの足に千宏がしがみ付き、その号令で他の二人のトラがカブラの巨体を押さえつける。 すかさず、千宏がドアに向かって駆け出し、ハンスを呼んだ。声の限りにカブラが憎悪の叫びを上げている。 大人しく千宏に従い、ハンスはそそさくと部屋を出た。 「あんまりからかわないでよね。傷つきやすいんだから」 気難しげに顔を顰め、千宏が咎めるように言った。 「からかったつもりはない」 「あっそう。まあ、仲良くしろとは言わないけどさ。いいやつなんだよ。馬鹿だけど。あんた名前は?」 「ハンス」 へぇ、と千宏が面白そうに眉を上げた。 「アメリカ人みたい。そういう名前もあるんだね。あたしは千宏」 「――あのトラの言うとおりだ」 低く言うと、千宏は不思議そうに首をかしげた。 「道で拾った浮浪者のイヌを護衛にやとうなんて、どうかしてる。俺があいつでも、全力であんたを止めるだろうな」 「で、同じように押し切られると」 からかうような笑顔を見せて、千宏は今しがた出てきた部屋の正面から三つ隣の部屋のドアを開けて、ハンスを中へと促した。 中に入り、ドアを閉める。全てのカーテンを閉めて念入りに鍵を確認し、千宏はローブとフードを脱ぎ捨てた。 「適当に座って。何か飲む?」 「いや、いい」 「そう? じゃ、契約の話に移ろうか」 乱暴にベッドに腰を下ろして、千宏は出来のいい付け耳を外しながら切り出した。 極度の眠気から夢でも見たのかと思っていたが――どうやら違った。間違いなく、千宏はヒトだ。 ハンスはヒト奴隷を見た事があった。だが、檻に入れられ、売られていたヒト達は、誰一人としてこんなふうに堂々とはしていなかった。 それに先ほどのトラたちとのやり取りは、まるで千宏の方が主人のようだった。ペットを甘やかしすぎて主従が逆転するのはよくある話だが、どうもそれとも違いそうだ。 「まず一つ。あんたがあたしをヒトだって知ってる事は、カブラたちには絶対に内緒。少なくとも、カブラ達があんたを信頼するまでは絶対に言わないで」 「……理解できないな。あんたはヒトで、俺は金に困ってる浮浪者だ。そういう状況にいる奴は、普通はあんたを奴隷商に売り飛ばしてとんずらしようと考えるだろう。それなのに、俺があんたをヒトだと知ってる事を隠すなんて、どうかしてる」 「ほんとに? そんなこと全然考えなかった。教えてくれてありがとう。じゃあ二つ目ね。給料は食事代と宿代。現金支給は歩合制ね」 「歩合?」 「そう。あたしとあんたで、週にいくら稼げたかで決まる」 ハンスは顔を顰めた。 護衛に歩合など存在しない。理解できずに混乱していると、千宏が唇だけで微笑んだ。 「仕事の内容は二つ。護衛と、客引き」 「――客引き?」 「そう。夜の街でね、お金持ってそうな人に声をかけるの。お客さん、遊んでかない? 若くて可愛いヒトのメスがいるんだけど――ってね」 言って、千宏はふらりとベッドに仰向けに倒れこんだ。 「体を売るんだ――あたしにはその価値がある。値段はスマタで三十セパタ。口だけだったら十五セパタ。つっこむんだったら五十セパタ。アナルは無しで延長も無し」 「馬鹿な……どうして、飼い主に隠れてそんな――」 「飼い主?」 咎めるように顔を顰め、千宏がむくりと起き上がった。 ふと、ハンスはありえない事実に気が付いた。千宏は――首輪をしていない。 「カブラ達は友達だよ。飼い主じゃない。あいつらは狩をしにいくんだ。あたしは、無理を言ってそれに引っ付いてきた。やりたい事があるんだ。そのためにお金がいる。だから自分の意思で体を売るの。他のどんな方法よりも、これが一番稼げるから」 愕然として、ハンスは千宏を凝視した。 まだ、少女だ。細く折れそうな体は、トラや、イヌや、そういった屈強な男を相手にしたら、あっけなく壊れてしまう。 どうして、そこまでして――。 「カブラ達には、とてもじゃないけど頼めない。それに、カブラ達が用意してくれた護衛にも頼めない。だから、あんたを雇ったんだ。何かわけありなんでしょ? 犯罪者? 最初からね、そういうのが適任だって思ってたんだ。だから丁度良かった」 「どうしてそんなに金が要る。あのトラ達は、奴隷のあんたをまるで対等に扱ってた。あいつらといればすむだろう。危険をおかしてまで自力で金を稼ぐ必要が何処にある」 変化は淘汰と破滅を生む。 このヒトは、明らかに変化を望んでいた。今ある幸福を捨て去ってでも、何かを手に入れようとしている。 「生きた証が欲し」 呟き、千宏は眠たげな眼差しで再びベッドに倒れこんだ。 「ただ、それだけ」 生きている。 ただ、生きている。 このヒトは。この少女は――。 「どうする? ハンス」 初めて、千宏がハンスの意思を確認した。 引き受けるか? という意味だろうか。選択肢が与えられると思っていなかったので、ハンスは内心驚いた。 窓の外では、激しく雨が降っていた。明日、海は荒れるだろうか。出港できなかった水夫たちが、港でヒマを持て余しているはずだ。 長い航海中金を使えない彼らは、いつも港で一気に散財する。 「……どうして、俺があんたを金持ちに売り飛ばすと思わないんだ」 千宏は首輪をつけていないし、ハンスは元々軍人で、その後は盗賊として生きてきた。 カブラ達に隠れてうまく千宏を売り払い、そのまま雲隠れできる自信はある。 「捨てイヌだったから」 ぼんやりと天井を眺めたまま、千宏が眠そうに断言した。 「路地裏で、人目に付かないように丸くなって、手を伸ばすと逃げてくの。あんたは野良イヌじゃなくて捨てイヌだった。だから拾ったんだ」 全く意味が分からなかった。ヒトの世界の概念だろうか。 「信頼と愛情さえなくさなければ、イヌは絶対に裏切らない。――そういう生き物なんでしょ? あんたはさ」 一度裏切った者は、何度でも裏切る。 ハンスは国を裏切った。だからもう、誰からも信頼など得られないと思っていた。利用されるのが関の山だと思っていた。 「それにさ」 ふと、声の調子が変わった。 ベッドに肘を付いて半身を起こし、千宏が悪戯っぽく笑ってみせる。 「うっぱらっちゃったら、もうヒトのメスなんて永遠に抱けないかもしれないんだよ?」 ヒト――抱いてみたくない? その言葉を思い出し、ハンスは呆けた。その時は、何を言われているのかよくわからなかった。むしろ、何を馬鹿なことを言っているんだと、そう思った。 だが今は――今は、どうなのだろう。 ヒトを抱いてみたい気持ちは、たぶんある。だが、こんなにも小さくて、こんなにも細い生き物を、いったいどう扱えばいい。 ハンスは沈黙し、立ち尽くした。 「月に二回だけ、好きな時に抱かせてあげる。これって凄い贅沢だと思わない?」 「怖くないのか……?」 「なにが?」 「ヒトは、だって……弱いだろう」 あはは、と、千宏が声を上げて笑った。 「怖くないよ」 どこか噛み締めるように、千宏はきっぱりと言い放った。 「大丈夫。怖くない」 この少女は――千宏はもう、この世界の男を知っているのか。でなければ、こんなふうには振舞えまい。あのトラの男たちだろうか。トラは性的に奔放だ。あるいは全員と関係があるのかもしれない。 「……まず」 呟き、ハンスはいったん言葉を切った。 魅力的な話だ。 まとも――とはいえないかもしれないが、とにかく犯罪ではない仕事がもらえ、宿と食事は心配せずに済む。うまくすれば給料ももらえ、女だって手に入る。 「なにをすればいい?」 嬉しそうに、千宏が表情を輝かせた。 「引き受けてくれるんだね? よかった、助かる! 全部カブラ達には内緒ね。絶対に! ばれたらぐるぐるに縛られて即刻送り返されちゃう」 「ああ。約束する」 「それじゃあ、今夜は疲れたからもう寝よう。鋼の理性に自信があるなら、同じベッドで寝てくれても構わないけど……」 「護衛が主人と同じベッドに入るわけにはいかない」 きょとんとして、千宏はハンスを見つめ返して困ったように吹き出した。 「尻尾」 「うん?」 「すっごい勢いで振ってるよ」 はっとしてハンスは慌ててフサフサの尻尾を掴んで太腿に押し付けた。こんなこと、もう何年も無かった気がする。尻尾が感情に反応する事も忘れていた。 「おいで。構わないから」 ぽんぽんと、千宏がベッドを叩いてハンスを呼んだ。 ごくりと息を呑み、じりじりとベッドに歩み寄る。恐る恐る千宏と並んでベッドに腰掛けると、千宏が手を伸ばしてハンスの耳の後ろをかいた。 「うわ、ごわっごわ……まずはブラッシングだな。あとリンス」 嫌そうに顔を顰めて、千宏はそそくさと毛布に包まって横たわってしまった。どうやらハンスに毛布をわけてくれる気は無いらしい。 仕方なく、そのまま千宏の隣に横たわり、ハンスは久々に感じにベッドの柔らかさをしばし堪能し――しかしどうにも眠れず、結局硬い床の上に丸くなって眠りについた。