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第二十三章-第一幕- 第二の戦略目標 第二十二章-第三幕- 第二十三章-第二幕- 人工衛星を打ち上げ、惑星アース全域規模で イグジスターの分布図を把握できるようになった 勇者軍一同は、そのメリットを全人類に伝え、 そしてアーム城へと堂々凱旋するに至ったが、 問題はまだ山積みだった。 それで、今後の事を話し合うため、 緊急に民政部と合同で会議が開かれた。 「まず第一義にイグジスターの殲滅です。ですがこれは イグジスターの数が多すぎる事と、また発生源も定かでない事から、 とりあえず一時保留とせざるを得ないでしょう」 民政部の大臣の一人が説明口調で丁寧に状況を話す。 「また、現状で取り得る最上の手段として、イグジスターの分布図を 人工衛星により全惑星アースに配信し、数量的に勝てそうであれば その都度戦力を集め、報告された最寄の地点で対抗手段を打ち、 寡兵敵せず、という状況であれば速やかにその場から退避、 もしくは隠密行動を取って全世界でゲリラ戦を展開します。 これに必要なイグジスター識別装置のマスターハードを搭載した 人工衛星は、先日、王子達の奮闘によって打ち上げに成功しました」 おおお、と周りから歓声があがる。 「戦闘員はこのまま地上に残って先述通りゲリラ戦を続行。 特に勇者軍には肝心要たる戦力として一番働いてもらいますよ?」 「ああ、分かってる」 一方的に当てにされる事にいくらか不満げではあるものの、 つべこべ言っている場合でもなく、ロバートは否応無く応じた。 「問題は生産力やら銃後の守りとして機能せねばならない民間人が 常に危険に晒され、また既に多くが被害に遭っている事実です。 数は少ないでしょうが、ここは民間人の避難を第二戦略目標とします」 ここで、ウォルフ王子がすっ、と立った。 「では各自、スクリーンをご覧下さい」 ウォルフ王子は、端末から接続した計画書をスクリーンに投影する。 「これは……?」 ローザがいつもよりはいくらか空気を読んで、ひっそりと声をあげる。 「アーム城を敷地もろとも天空に飛ばし、そこを退避場所とします。 私達が遭遇したミズチ・イグジスターのような例外を除けば、 イグジスターは根本的に飛翔出来ないと思われますので、 乗せられる人数はそう多くありませんが、これだけでも 対策のモデルケースとしては有意義だと言えましょう。 無論、大国ダイギン共和国にも既に同様の準備が出来ています。 アーム城の敷地は広大ですし、それなりに人も入れるかと」 「消極策か……だが、やむを得まい。 我々のような人を統治する立場の者など、 乗れようが乗れまいがどうでもいいが、 民の命は一人でも多く残る方が良い」 大臣達は国を、民を各々に想い、とにかく使える手は使おうと考えた。 それは勇者軍も同様で、特に反対する者はいなかった。 「問題は人選だ……城下街から選定するのはやむなしとしても、 果たしてそのうちの何パーセントの人間が乗り込める?」 「推定、九パーセントほどかと」 「九パーセントだと……!? くっ、だが、それでも断行せざるを得んか。 平等にやるなら、志願者の中から更に抽選するほかあるまい」 苦虫を噛み潰したように苦渋の決断を強いられている。 重苦しい空気が周囲に漂う。 「だが下手を打つと暴動が起きるぞ、どうするつもりだ、王子?」 ヴァジェスもナインサークルロードという立場から、 ここに参加していた。 「先程言った通り、ゲリラ戦を展開し、 なるだけ守り切るしかありません。 最悪の場合は市民全員を一時疎開させて凌がせる事も考えます」 「……だが、人間は集落を離れて生きていけるほど強くもないぞ? それを実行した時、都市を取り戻すために どれほどの命が失われるか……」 「分かってはいるんです。なじっていただいて結構。 私は傀儡とはいえ君主。その責任は必ず、どこかに生じます。 そのひずみによる致命的損失も覚悟はしています…… それでも、私達は人類絶滅のシナリオだけは選べません」 「……その歳で大した君主だ、お前は」 ヴァジェスはどうにもならない苛立ちを感じながらも、 ウォルフ王子を賞賛し、また自分の気を引き締め直した。 「で、問題のイグジスターの出現元の捜索はどうなっていますか? こればかりは民政部主導なので、そちらからの回答を待たなければ、 王政部及び勇者軍としても、対抗策が打ち出せませんが」 「……銀河規模で探索を行うための偵察機を 恒星サンシャイン系全域に五万機ほど射出済みだ。 全てオート移動で各地を探し回っている。 これだけ雑に数を寄越しているのだ。 流石に外宇宙や他星系から出没しているわけではあるまい。 何かあれば、すぐに連絡が来るようになっている。 発生源情報が確定するまで、何とか粘っていただきたい」 「それだけの技術と資源と数を投入してそれなら、 こちらとしては仕方が無い、という他無いでしょうね……」 エナも消極的に同意した。 「次に、他の惑星宙域における各スペースコロニーの戦局は? 誰か、連絡を受けているのではありませんか?」 「はい」 スペースポートの管制塔職員だった人間が出向してきている。 他の星と、最もやり取りを多く交わしているのは、恐らく彼だろう。 「正直、戦況は膠着状態、というところでしょうか…… 惑星アースに敵も注力しているせいか、イグジスターの数も それほど多く送られていないと思われます。 それでも最初はイグジスターの生態や行動に不慣れな軍人が 多数の被害に遭っていますが、 彼等もそれなりにコツが分かってきて、 最近は片っ端からイグジスターを撃破している、と聞いています。 ただし、その都度増援がどこからかやってきて、 あの真っ黒な見た目のせいで視認迎撃も出来ず、 一方的に防御を強いられている状況はどこも同じのようです」 「そうか……対抗出来ているだけでも、不幸中の幸いだな。 一番大きな負担がこの惑星に来るのは厳しくはあるが……」 「例外は地表に人類が居住可能である惑星マーズです。 他よりも若干多い数が投入されており、多少の苦戦をしている模様。 ……もっともこの惑星アースへの投入数と比べると雲泥の差ですが」 「ふむ……」 大臣は皆、一様に納得した。 既に相当の数を殲滅しているにも関わらず、まだまだイグジスターが ブラック・レインにより大量投入され、 いくつもの市町村を壊滅させている。 まるで脅威度の高い勇者軍がいるから、 重点的に攻めているかの如く。 「最後に……まああまり意味が無いとは思うが、 現在の惑星アース上のイグジスターの総数は、どのぐらいだ?」 「……まあ本当に意味がありませんが、推定二千万ほどかと。 ただし随時追加され、まだまだ増加傾向にあります。 では私からの報告は以上……」 管制官はそこで話を締めくくろうとした。 ズドーン! 「うわーっ!」 「なんだなんだ、お前達、止まれ! ここをどこだと……」 「ぎゃああ! こいつら強いぞ、逃げろーッ!」 急に城の外から爆音と悲鳴があがり始めた。 「何だ!? イグジスターか!?」 ローザが真っ先に、それに続いて他の者が武器を手に立ち上がる。 「敵は……敵はイグジスターより遥かに強敵です! 人間です! 識別装置にも反応しませんでした。擬態じゃありません!」 「何だと!?」 ヴァジェスが驚くが、ロバートは意にも介さない。 「この状況で人類への反逆のつもりか!? 上等だ! その反逆、俺が買ったぁぁぁぁッ!!」 タングステンソードを抜き、真っ先に駆け抜けて行くロバート。 極限状態の中、新たな人類の革新と切磋の一ページが、 今、ここに幕を開けようとしていた―― <第二十三章-第二幕- へ続く>
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第十四章-第二幕- 見せ場泥棒再び 第十四章-第一幕- 第十四章-第三幕- 高速戦闘戦艦、レッド・ワイズマンMk-Ⅱの船上にある 勇者軍主力部隊は穏やかな状態を維持していた。 疲労状態にあった者達も、ようやく回復を見せ始め、 コンディションも好調に近付いてきたのであった。 「ふぁ~」 バスクが甲板上でのんびり欠伸をしていると、コンラッドが嗜める。 「気を抜くんじゃねぇぞ。こういう時が一番危ねぇんだ」 「分かってるよ、コンラッド。気を付ける」 「分かってねぇよ。俺が敵ならこういう時を狙うぞ」 ずどん! 「どわっ!?」 砲弾らしきものが船体の近くに着弾する。 運良く直撃はしなかったようだ。 だが振動でコンラッドがよろけて倒れる。 馬上のバスクはなんとか持ち堪えた。 「ほら見ろ! お前がそういう事言うから敵が来たんだ!」 「って俺のせいかよっ!? ええい、全員起きろ起きろ! 敵襲だ!」 コンラッドが抗議しながらも、即座に応戦態勢を取らせる。 『そこの高速戦闘艦、止まれ! 我々はネイチャー・ファンダメンタル! 速やかに降伏しなければ問答無用に撃沈させるぞ!!』 強気な物言いのネイチャー・ファンダメンタル艦の艦長。 通信からもその威勢の良さは充分に伝わった。 キョウカ王妃が通信室から応答する。 「一体誰に向かってものを言っているのですか? 勇者軍と知っての行いであれば、無謀なのは否定出来ませんわ」 『知った事か! 応じる気が無いなら沈める!』 その相手の態度が腹に据えかねたのか、 キョウカ王妃から通信機を奪い取ってコンラッドが叫ぶ。 「やれるモンならやってみやがれ! 最終的に沈没するのが 手前ェ等だって事を身をもって教えてやるぜ!」 『ひっ!』 何故か引きつる相手の指揮官らしき声。艦長とは違う人物だ。 「これしきの宣戦布告程度に 怯えるぐらいなら戦場に出てくんじゃねぇ! とっとと帰ってメシ食って寝てやがれ!!」 『駄目だ……怖い、怖いよ、艦長! 僕は戦いたくない!』 『しっかりしなされ、キートン指揮官殿! あなたが指揮官なのですぞ!』 何故か向こうで謎の内輪揉めが始まっている。 「敵の様子がおかしい。みんな、攻撃するのはちょっと待て!」 その様子に、流石に不審に思ってか、 今にも敵艦に乗り込もうとしていた フローベール達を制止する指示を出させるコンラッド。 「おかしいって、何が!?」 慌ててソニアを筆頭に、 警戒要員にと立ったゼクウを除いて大勢が入ってくる。 「通信を聞けば分かる。こっちは何も手を出していないのに 勝手に敵が内輪揉めを始めているんだ。ワケ分からん」 「はぁ?」 ほぼ全員が同音異口に疑問を口にしたところで 通信機を通して聞こえてきた。通信を切る余裕も無いらしい。 片方はキートンと呼ばれた指揮官、 もう一人はさっき艦長と呼ばれた人物だ。 『僕は怖い、僕は怖い。 こんな……こんな武器を持ってるから攻撃されるんだ。 そうやって酷い時には暴発して 僕は死んでいくしかないんだ……』 『何を仰られる! 攻撃を仕掛けているのは我々の側ですぞ!』 『そうだ! 弾を全て撃ち尽くしてしまおう! そうすれば敵も沈んで、暴発の心配も無くなる。 僕等は安全だ、きっとそうに決まってる……!』 『し、指揮官殿!?』 『撃ってくれ! 弾丸全てを撃ち尽くしてしまえばいい! そうだ、そうに決まってる! ふふふ、はははは……!』 『りょ、了解しました、撃て、撃てーッ!!』 ずどんずどんずどん!! 凄まじい勢いで砲弾が着弾し始めた。 一発ほど船尾をかすめた模様だ。 「何よ、結局攻撃してくるんじゃない!」 またも慌ててソニアが飛び出し、次いで他の者も飛び出していく。 しかしコンラッドは慌てず騒がず、むしろ冷静に推論する。 「あれは被害妄想の類か。説得は通じなさそうだ。厄介だな」 「攻撃してこなければ、こちらも何もしませんのに……」 どこか哀しげにキョウカ王妃が呟く。 「だが、王妃。現実問題として向こうが撃ってきた以上は応戦だ。 でなければ、アーム城に向かうことさえ出来なくなる。 それでは困るんだ。俺も、みんなも。あんたもだ」 「はい……」 しかし、コンラッドが悠長に構えている間に事態は深刻化していた。 なんと敵の高速戦闘艦は6隻も存在しているのだ。 戦艦同士で1対6では常識から言って勝ち目は無い。 キートン指揮官なる人物の乗っている旗艦が真っ向から猛攻撃を 仕掛けたのにつられて、他の艦まで一斉に撃ってきた。 「うーわー!」 バスクが思い切り逃げ回るが、逃げ場などどこにも無い。 闇雲に撃っているためコントロールがでたらめで、 ほとんどの砲弾はレッド・ワイズマンMk-Ⅱの船体を かすめもしないのだが、何発か、稀に直撃コースのものもあった。 しかし、ここからが勇者軍の力の見せ所でもあった。 「せいッ!」 ソニアが放物線を描いて飛んでくる砲弾を強引にレシーブする。 それも並みのレシーブではない。 砲弾にヒビが入るような力の入れようだ。 砲弾は更にもう一度放物線を描き、どこへともなく落ちていった。 更にソニアはこれを繰り返し、直撃コースへ飛んでくる砲弾を ことごとく叩き落としてみせる。 「バスク、ルシア、手伝いなさい!」 ドルカスはこの間にデリバリー・ランチャーの 準備に入るのであった。 「よし、今のうちに行くぞ!」 ヴァジェスがまず両翼に近付きつつあったうちの 左翼の1艦目に向かって飛翔する。 次いでメイベルが左翼の2艦目、フローベールが3艦目に突貫した。 残るは右翼3艦。先程通信を飛ばしてきた旗艦もこちら側だ。 「デリバリー・ランチャー、射出!」 ゼクウとジルベルトを搭載した砲弾が曲線を描く。 ゼクウの意図に応じ、ジルベルトはゼクウに掴まっている。 そのゼクウは途中で手を放し、 ムササビの術と呼ばれる飛行術を披露。 上手く風に乗ったゼクウは、 右翼の3艦目上空を通過しざまにジルベルトを投下。 次いでゼクウは敵の旗艦である 2艦目を勢い余って通過してしまったため、 1艦目に何とか不時着する事に成功する。 だが、敵1艦につき1名。これが限界だ。人手が足りない。 戻って来れない事を承知の上で 残りの人数を飛ばすわけにもいかなかったし、 いくら勇者軍メンバーとはいえ、 数秒そこいらで敵艦を轟沈させられはしない。 手詰まりになったルシア、ソニア、ドルカス、バスクは 飛んでくる砲弾を何とか捌く事で精一杯になってしまった。 その状況を遠くから見ていた 各艦の制圧要員は歯痒い思いをしながらも、 とりあえず目の前の敵を制圧するために奮闘するしかなかった。 一方で敵旗艦の火力は凄まじく、全員の防衛力をもってしても、 レッド・ワイズマンMk-Ⅱ側の砲門がかなりの数破壊されていた。 「まずいわね……打つ手無しなの!?」 「お姉ちゃん、まだ早い! 敵の弾丸がそれこそ無くなるまで、 徹底的に叩き落してやればいいだけじゃない!」 ルシアをソニアが叱咤する。 「だが、いつまで保ってくれるかは分からん、急げ……みんな!」 すると、ジルベルトの乗り込んだ艦から煙が出始めた。 機関部に致命的な損傷を加えた模様である。 もはや動けないようだった。 「やった、流石はジルベルト君、やるぅ!」 にこやかにサムズ・アップを行うソニアだったが、 事態は更に緊迫化した。なんと沈没し始めたのだ。 敵船員達がさっさと脱出艇で脱出していく中、 非常にドン臭い事にジルベルトは置いてけぼりを食らったのだ。 (あんな長距離、泳げるかな……) ジルベルトとて泳げないわけではなかったが、高速で動く船に 追いつけるはずもないのは先刻承知だった。 「困っているようですね、ジルベルト」 と、突如海の方から声。しかも嫌というほど聞き慣れた声。 (この声――まさか!?) 慌ててジルベルトが甲板から見下ろすと、そこには―― 「勇者軍総帥エリシャ=ストレンジャーの夫にして 現筆頭ジルベルトの父、ノエル=ラネージュ! 今ここに激参つかまつります!!」 なんと、父親ではないか。 暢気に手を振るジルベルトを引っ張り出し、 乗ってきたイルカに同乗させるノエル。 「父上、なんでここにいるのー?」 「エリシャの付き添いです。 ですが主力部隊が海上移動と聞いて気になって 様子を見に来てみればこれです。 アレは敵で間違いないのですね?」 こくり、とジルベルトは頷く。 「苦節二十年! まさか海洋戦力としての能力を発揮できる日が 来ようなどとは望外の喜び! 今ここに我が真の力が試されます。 ジルベルト! 父の雄姿を見ているのですよ!?」 そう言うとノエルのイルカは更に加速し、 一気に敵の旗艦へ追いつく。 「帰りもお願いしますね」 と、イルカの頭を撫で、自らはジルベルトをおぶったまま跳躍。 一気に甲板へと取り付いた。 「うおおおおおおおおおおおおおッ!」 息子の見ている前だからなのか、 凄まじくテンションの上がっているノエルが、 槍の一閃だけで、敵の砲台をあっさり二門も叩き斬る。 それにつられて、慌ててジルベルトも攻撃を開始し、 敵艦の副砲を根元からすっぱりと叩き割る。 「ぎ、ぎぇぇぇぇえぇええ!」 さっき通信から聞こえたのとまったく同じ声の悲鳴が聞こえた。 ジルベルトは黙って指を指してやる。 「ジルベルト……あれが指揮官だと言うのですか?」 ジルベルトはただ黙ってこくりと頷くのみ。 「臆病な指揮官もいたものですね。戦場で恥を晒すおつもりか?」 「ててて敵だよ、敵! みんな攻撃して!」 しかし敵兵は大混乱に陥り、結構な数の人員が 戦いもせずに脱出を始めた。 「ここ、これだから僕以外の人間なんて信用ならないんだ! もう怖いよ、助けてよ、ジモンさーん!!」 そう言いながらキートンと呼ばれた指揮官は銃を乱射する。 何発かは直撃コースを取っているが、 ノエルの盾にあっさり阻まれる。 「凄い大きな音、凄い反動、怖いよ、銃は怖い。 信用出来ないよこんなの! 弾が無くなれば安全なんだ! だから撃てばいい、撃てば!!」 しつこく乱射するが、またもノエルの盾がそれを阻む。 「へへ……弾が無くなった……あんぜ……ん……じゃない! 敵が、敵が敵が来るよ! リロード、リロード!!」 またも無様に対応を始めるキートン。 そんな悠長な事をしている間に、主砲がジルベルトを狙うが、 ジルベルトは慌てず騒がず、 主砲の弾を身体一つで強引にキャッチすると、 身体をそのまま時計回りに一回転させ、 撃たれた砲弾を主砲へ投げ返す。 ずどがん! かなり致命的な損傷を受けたらしく、大いに船が傾く。 「わわわ! もう怖いよ、やだよぉ!!」 情けない事をのたまうキートンだったが、 その恐怖が力を与えるのか、次第にその射撃が 凄まじく精密性をを帯びてジルベルトを襲う。 「むー」 かろうじてかわしたが、明らかに不機嫌になるジルベルト。 ごすっ! いきなりキートンに向けて方向転換し、 乱暴にその銃を蹴り飛ばす。 「うわぁぁぁん! もう駄目だぁ! 撤退するよ! ジモンさん、許してぇ~!!」 最後まで情けない事に、キートンはとっとと脱出していった。 間もなく船はエンジンが停止し、 自力での航行能力を失ったようだ。 「ジルベルト、乗りなさい」 ノエルに言われるまま、 ジルベルトはイルカへと再度同乗し、帰還する。 その途中で、水蜘蛛の術で ゆっくりと帰ってくるゼクウも同乗させた。 イルカは大変だが、まあ何とかなるレベルらしい。 「ふぃー、危なかったぁぁ。しかし、これだけの 大規模海上戦闘やらかしたんだ。 もう敵に海上戦力はろくすっぽ残ってないだろ。 ありがとうな、えーと……?」 礼を言うコンラッド。 「ノエル。ノエル=ラネージュです。ジルベルトの父親ですよ」 「見せ場泥棒のノエルは相変わらずか」 と、ヴァジェスが前に出る。ジルベルトとキョウカを除いて、 この場でノエルと面識があるのは彼だけだ。 それに、ソニアも前に出る。 「あ、あの。ジルベルト君のお父様ですか。 私、ソニア=メーベルヴァーゲンです。 ジルベルト君と日頃から仲良くさせてもらってます、 よろしくお願いします!」 「息子から聞いていますよ。父親としてこの子をお願いしますね。 では、私は再度エリシャと合流しなければなりませんので」 「ジルベルト君のお母様……総帥も惑星アースに?」 「ええ、これほどの大規模な敵組織だと知っていれば、 この子も最初からストレンジャーソードを 持ってきていたでしょうが、これは仕方有りません。 なのでエリシャの手で、ジルベルトの元に ストレンジャーソードを運びます。その日が来るまで、 上手く持ちこたえるのですよ、ジルベルト」 『分かったの。シエルとか見かけたらよろしく言って欲しいの』 「分かっていますよ。では、これにて!!」 ノエルはまたしてもイルカに乗ると、 凄まじい勢いで水平線の向こうへ去っていった。 ジルベルトは彼が見えなくなるまで手を振っていたようだった。 「ノエルと知り合って20年来の仲になるが、 あいつがドルフィンナイトとして戦うの、 俺……初めて見たぞ……」 と、ぽつりとヴァジェスが呟いているが、 それは他人は聞かぬが華であろうか。 ともあれ、海上戦力の脅威は当面の間除かれた。 壊された砲門の修理はワイズマン・ファミリーに任せるとして、 とりあえず勇者軍主力部隊は、ザン共和王国の大離島にある 離島都市、雪の降るチルド・シティへと到着するに至った。 なお、ここからはコンラッドも本格的に同行する事になり、 更に戦力を結集した勇者軍主力部隊は、 一つの節目を迎えようとしていた。 <第十四章-第三幕-へと続く>
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第三十章-第一幕- 質の脅威、量の恐怖 第二十九章-第三幕- 第三十章-第二幕- ストレンジャー・タウン近郊のサイレン砂丘にて、 兵器をやたらとばら撒き、一定以上の領域を確保した 生命連合は、勇者軍を筆頭に、魔神軍や他種族の者が出撃、 後詰めの増援として、更に神族、亜人族が控える中、 いよいよ白兵戦を始めようとしていた。 「さあ、攻撃開始ね」 武器を構えて、いくらか敵を蹴散らすイノ。 「隊長に続くぞ! 総員、攻撃!!」 レイビーの指示で、魔神軍全員が各々に攻撃を開始する。 態勢を崩した味方をかばいつつ、極限まで損害を抑える戦法だ。 「おわ、先に手ぇ出しやがった! ちきしょう、負けてられねぇ!」 ロバートも負けじとエネミーイーターの呪縛をマリーの手で解き放ち、 一度力で捻じ伏せて、また強引に屈服させる。 「うっしゃ、行け、エネミーイーター!」 反逆暴牙剣エネミーイーターはイグジスターを取り込んだ剣だ。 なので、その特性を利用し、イグジスターを逆に捕食出来る。 まさにこの作戦にうってつけの剣だと言って良い。 「さて、フォローを開始するとするか」 「ふん、妖精族の同胞を丸呑みした借りは返させてもらう」 怪物王ドラキュラと妖精王ヴァルキリーが指示を出す。 怪物族、精霊族、妖精族も各々に攻撃を開始した。 ただし精霊族のみは直接攻撃をやや不得手とするため、 属性強化などで他の種族の補助にかかっている。 「さあ、晩餐の始まりだ。気が済むまで喰らい尽くせい!」 「いただきます!」 何故か無駄に行儀良く手を合わせてから、 魔王サタンの指示で魔族一同がイグジスターを追い回し、 逃げ惑うのを構いもせずに片端から食いまくる。 「ふん、皆、やはり腹を空かせてから来たようだな。 良い食いっぷりだ。では、我もいただくとしよう」 魔王自身も余程腹を空かしていたらしく、 イグジスターを一番多く貪り食らっていた。 「生け造りに出来ないものかな? 味が単調だ」 「知るか、そんな事!?」 ある魔族のぼやきに、ローザがツッコミを入れていたりする。 まあ『わざわざ』ローザに訊く辺り、確かに始末が悪いが。 ライブチャージャーを小出しにしながらでは、そんな余裕は無い。 「よし、兵器群も順調に稼動しているね。 では、イグジスターの侵入を防ごう。 各艦、帰りのエネルギーを残して再度、任意に全力疾走。 人の少ないところだけ見繕ってイグジスターを轢き潰そう!」 「了解!」 艦体の指揮を任せられたカイトの指示で、ローラー戦艦が また巨大ローラーで疾走し、イグジスターを潰していく。 「ブルー・ワイズマン。聞こえるかい?」 『はっ!』 「手数はいくらあってもいい。例の温存兵器を試そう」 『座標修正は!?』 「僕が任意でやる。アンリ姫も協力を頼むよ」 「分かったのじゃ! ミーム!!」 「みー」 アンリ姫の持つ怪球ミームの力で戦術思考共有が実現する。 これで射撃兵器や布陣、援護の精度は極めて上昇する。 『全弾、スタンバイOK! いつでもいけます!』 「コール・クラスターミサイル!!」 カイトの指揮で、拡散弾頭を搭載した特殊ミサイルが 戦場に叩き込まれる。最終軌道修正はカイト自らが行う。 「インパクト!」 ずばぁぁぁぁぁぁぁぁぁん! 拡散弾頭が該当範囲のイグジスターに降り注ぐ死をもたらす。 「エネルギー残量、あまり余裕がありません!」 オペレータが警告してくる。 「イグジスターの侵入は避けよう……一旦浮上! まだ爆雷ぐらいなら残っているはず。それで支援だ!」 「浮上、開始! 爆雷投下準備!」 多くのイグジスターが群がってくるが、それを無視して浮上する。 「よっし、わらわも行くのじゃ!」 「参りましょう、姫」 アイゼンカグラと共にアンリ姫も浮上中の船から飛び出し、 即座に勇者軍主力部隊に合流する。 「うにゃーっ!」 「きゃん、きゃん!」 唯一愛玩動物として参戦しているポメとクロも大奮闘中だ。 互いをライバル視して奮起しているようにも見える。 「ポメちゃん、クロちゃん、無理しちゃダメですよ!?」 二匹をフォローしつつ、エナはソーサー十五枚を全展開する。 そのエナの背後から数体のイグジスターが迫る。 「隠密忍法・蜘蛛の巣……!」 エナの周囲に張り巡らされたリールが、 擬態イグジスターの行く手を阻み、更に拘束する。 「……消えろ!」 クロカゲの投げる手裏剣が、エナを狙う敵を射抜く。 「すみません、クロカゲさん!」 「礼、無用……猫、犬……共に仲間……! 我……守る!」 「はい!」 エナもソーサーを動かすのを緩めず、答える。 「はああああッ!」 ニノンの翼を展開するエリックの一撃がイグジスターを狙う。 ずささっ! が、イグジスターはいきなり後退し、間合いを外された。 「何ッ!?」 今まで好戦的に攻めてきていたイグジスターが、急に動きを止め、 組織的に間合いを取り始めたのだ。だからと言って、 擬態イグジスター以外には遠距離攻撃の方法も無いはず。 だからこそ、人類は今まで生きてこられたのだから。 「攻撃、止めい! 何かする気なのか……!?」 レイビーの指示に従い、全員攻撃と捕食を止める。 イグジスターはしばらく放置すると、ぷるぷる震え始める。 まるでいいようにされて、屈辱と怒りに打ち震えるように。 まったく何がしたいのかさっぱり分からない。 それが、生命連合の不安を煽る。 「数の脅威に任せて攻めてくるほうが恐ろしいだろうに、 一体何をするつもりなんだろう……!?」 ウォルフ王子も訝る。エリミノイドも一旦止めて、 様子を見たほうがいいのだろうか。判断材料が乏しい。 「……このまま押しきった方がよろしいでござるか? どうせこの区域から駆逐し尽すのが目的でござろう? 動かないのなら、今が好機にござる」 ゲイルの至極もっともな指摘に、 一同待ちきれず、動く準備をする。 「おっと、一体何だYO! 逃げ始めたのかYO!?」 ラケルが指摘するように、後退を知らないはずのイグジスターが 距離を引き剥がしにかかった。どうやら他地区のイグジスターと 合流するつもりなのだろうか。 「深追いするな! 確実に数は減らしている!!」 レイビーの指示に、何とか踏み留まる生命連合一同。 生命連合一同が敢えて追ってこないと分かると、 ひたすら震えながら何かを待つイグジスター達。 やはりそれは、一種の苛立ちのように見えた。 これだけ圧倒的な兵力差を誇っていながら、 未だに人類を滅ぼせない苛立ちであるかのように。 少し様子を見守っていたが、二十分もすると 他地区からイグジスターがまた集まってきた。 「やはり増援を呼んでいたか! 無理は禁物だ、退けい!」 レイビーの指示に従い、いつでも発進出来るよう、 格納庫に入った状態で、全員待機した。 するとイグジスターは更に数を増して集まり、 一気に融合しにかかる。その姿は巨大な化け物となり、 まさにイグジスターのボスという感じの風格になった。 全長は百メートル級という具合だが、とにかく占拠する面積も広い。 密度も異様に高く、その体躯でありながら伸縮自在に変形し、 大陸から大陸への移動すら変形によって可能と思わせた。 「あれが、イグジスターの質の恐怖……!?」 マリーが戦慄する。 更に擬態イグジスターをも取り込み、知性や技能を我が物とする。 数の暴力そのものであるその本質までも犠牲にして、 生命連合を殲滅し、離島へ直接攻撃を仕掛けるつもりなのだ。 カイトとレイビーはそう理解した。分布図を見れば、 更に各地のイグジスターが寄り集まり、同様の個体を編成して、 異様なスピードでこのサイレン砂丘へと迫りつつある。 「出るぞ……!」 ロバートが再び戦艦を飛び出す。 「ロブ、どうしようと言うのです!?」 「アレが本気を出せば離島にだって来るぞ! 数が減ったなら幸いだ! ことごとく叩き潰して、ここで禍根を根こそぎ始末してやるぁ!」 「隊長の言い分は正しい。どうやら退けない戦いのようだね」 カイトも賛成し、状況を理解した勇者軍が再度出撃する。 「どうやら持久戦が決戦になってしまいそうだな。 我々も出るぞ、イノ、ラケル、ノーラ、ゲイル、レオナ」 「分かってる」 魔神軍も飛び出す。 「あれもまたイグジスターの本質……まさに究極形ですか。 イグジステンスサッカーと呼び直した方がいいかもしれませんね」 ウォルフ王子は対応を考えながらも、ぼやく。 巨大化したイグジスター改め、イグジステンスサッカーは じわり、じわりと勇者軍と魔神軍ににじり寄り始める。 それでもなお、周囲に多数の護衛としての通常イグジスターを残して。 質と量を兼ね備えた究極の悪意のロジックが、 今、生命連合を襲う準備を着々と進めているのだった。 決戦が、始まる。サイレン砂丘にて。 他のイグジステンスサッカーも、この地に集まる事により…… <第三十章-第二幕- へ続く>
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二つ名:集厄の勇者 名前:ウォーデル 詳細: 本人はまったく望んでいないのに悪霊やら悪魔やら災厄やらの事件に巻き込まれる苦労人。願いを込めて買った厄除けグッズは効果がなく、今日も悪霊に袖を引かれている [基礎情報] 名前:ウォーデル 年齢:22歳 身長:170cm 体重:63kg 一人称 俺 他の勇者 (二つ名or名前)〜さん 魔王 〇〇の魔王、〇〇+さん 主に採集や素材集めでちまちまと小銭を稼いでいる勇者。魔王討伐に対してはまだ準備段階だからと自分に言い訳をしつつ平和に過ごしていたい。いたい…のだが、なぜか事件の渦中に放り込まれていることが多く、平和とは程遠い日々を送っている。どうして…。 いつからなのか何故なのか本人は把握していないが「厄」を引きつける体質であり、悪霊は憑くわ事故には遭うわ泊まった宿は燃えるわ…とにかく散々な目に遭ってきている。自分だけならまだしも周りにも被害が出ていることに心が痛い。もはや自分が厄なのでは。 同じ場所に留まることをしておらず、様々な地域をふらふらとしている。 この体質をなんとかできないかと厄除けグッズを買ったり厄が払えそうな国を訪れたりもしているが根本的な解決には至っていない。 藁にもすがる思いだからか本人の性格からか偽物の厄除けを買わされることもしばしば…というか悪意のある商人によく出会う。俺が何をしたってんだ。 [経歴] (後日追加予定) [女神様の加護] (後日追加予定) [戦術等について] (後日追加予定) [悪霊について] (後日追加予定) [その他] 防衛魔法かけられてる日記(死亡記録) これまで自分が死んだ時の原因、意識が無くなるまでの過程、環境、感想、反省点等細やかに書いている。大体は女神様の力によって復活した後、勇者の休憩室にて書き連ねているが、死ぬ直前に余裕があれば意識が途切れるまでその場で書くことも。 書いている理由はあえて書き起こすことによって死んだ時のことを考えすぎないようにしたい。同じ死因で死ぬ可能性を減らしたい。からである。 大体の死因は事故や不運によるものであり「魔王との戦いによって!」などの勇者らしいものは少ない。 実際この記録のおかげで助かることも多いため、割と大切にしている。 他者に見られると普通に引かれるのであまり人前では出さない。失くすと焦る。
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第十一章-第三幕- メイベルの友達 第十一章-第二幕- 第十二章-第一幕- アイリーン・マフィア本部を包囲した謎の武装勢力は、 キョウカ王妃との交渉を決裂させ、突撃を開始した。 四方から包囲されたこの状況の中、勇者軍の四名は 文字通り四散し、東西南北それぞれの方向へ突撃を開始する。 東へ向かったジルベルトは剣と鋼線で大暴れし、 敵を速やかに無力化し始めていた。だが数が数である。 やはり怪我だけでは済まないような 剣の振り回し方をせざるを得なかった。 「………………」 「こいつ、チビのくせにすかしやがって! 死ねぇ!!」 悪態をつきながら特に乱暴そうな敵兵が 数名ほど突っかかってくる。 そのうち二人に猛烈な足払いをかけて昏倒させ、 剣を一時鞘に収めてから片方の兵士をぶん投げて 残りの敵兵を薙ぎ払った。 更にもう片方の兵士も丁寧にぶん投げて戦場を撹乱する。 これを繰り返して、むしろ剣よりも安全かつ迅速に 敵兵を無力化しつつあるジルベルトだった。 文字通りのちぎっては投げ、ちぎっては投げ、である。 西に向かったソニアは獅子奮迅と言わんばかりの大暴れを開始した。 素早さと技量に定評のある彼女は 常人からは測り知れないほど機敏に動き、 避けては駆けて、駆けては殴り、 殴っては蹴り、蹴ってはまた避ける。 猿や狼でもここまで機敏かつ忙しそうには動かないだろう。 何名か重歩兵も混じっているが一切関係は無い。 敵の初撃をかわしたなら、もう彼女の独壇場だった。 右の拳で敵の鳩尾(みぞおち)部分の装甲にヒビを入れ、 次いで左の拳で鳩尾部分の装甲を叩き割り、 最後にもう一度右の拳で鳩尾に一撃。これで充分だった。 敵がうずくまったなら後は簡単。そのまま蹴り飛ばせば良い。 そんな感じの大暴れを続けるうち、敵兵はみるみる減っていく。 南へ向かったルシアはというと、 矢を束ね撃ちにし、弓を乱射する。 敵が近付けばまたステップを踏んで離れ、次々と弓を射る。 「とにかく奴を捕まえろ! これ以上好き勝手にやらすな!」 ようやく戦術らしき命令を下す敵兵だがもう遅い。 一斉に近寄ってくれば彼女の的だ。 「ウォーターウェイブ!!」 強い水圧を含んだ波が、彼女の周囲一帯の敵をを吹き飛ばす。 「くそ、怯むな、続け!」 敵兵がなおも懲りずに突進するが後はこれを繰り返すだけだ。 正直、場数を踏んだ彼女にはものの数ではなかった。 北へ向かったメイベルは、その自慢のスカーレット・アーマーで、 敵の攻撃をことごとく弾き返していた。 時々思い出したかのように動いては、非常に雑に敵を鎌で殴る。 自分のアーマーに絶対的な自信がある故に為せる所業だ。 「この好戦的でない態度……あの鎧……ひょっとすると、 あの『真紅の雌鹿』ってのはこいつの事か!?」 妙に戦慄する敵兵。どうやら何故かそれなりに名が売れたらしい。 「嬉しくなんかありません……!」 少々ムッとしたのか、メイベルは多少積極的に動き出した。 「あの鎧に勝てる奴なんかいないぞ、逃げろーッ!」 変なネームバリューのおかげで 敵は恐慌状態になったようではあるが、 メイベルはどこか納得がいっていないようではあった。 ジルベルトの横には大福達、五匹の猫が付いていた。 襲われた事で敵意を剥き出しにし、 こちらも尋常でない暴れぶりを示す。 だが、それに驚き、敵兵達が大きく後ずさった。 「その強さ……速さ……そいつら、普通の猫じゃないな! まさか、遺伝子調整動物か!?」 その態度の変わりようにジルベルトは驚いたが、 その通りなので、軽く頷いた。 『遺伝子調整動物』は遺伝子をいじる事によって生まれた動物達だ。 遺伝子の調整によりアレルギーを受ける事無く飼う事が出来る 愛玩用の調整はもとより、調整の仕方や組み込む細胞によっては 戦闘用の動物として誕生させる事も不可能ではない。 現に大福、きなこ、みたらし、黒ごま、あんみつの五匹は それぞれに長所の違う戦闘能力を持たされた動物であり、 知能も尋常ではないほどのレベルを誇っているのだった。 もちろん先代筆頭エリシャの時代にも遺伝子調整動物はいたし、 それを否定する理由は特に無かった。 敵はそれを警戒したのだと思い、退いてくれればと考えて ジルベルトは遺伝子調整動物である事を否定しなかった。 「おのれ、我等が真なる敵は勇者軍、お前達にあらず! その五匹の畜生共こそ、我等が誅滅すべき怨敵なり!! 死力を尽くせ! 他の部隊も合流させろ! 勇者軍などどうでもいい、あの五匹の猫をすぐに殺せーッ!!」 「えっ……!?」 ジルベルトも思わず声を出すほどに驚いた。 まさか人類史上最強の私設軍である勇者軍を放置した上で、 少々強いとはいえ、猫五匹を本気で付け狙うというのだ。 とても正気の所業とは思えなかった。 だが、敵兵はその動揺を隙と見なして、突撃を敢行した。 「大福、きなこ、みたらし、黒ごま、おいで!!」 思わず全力で叫び、四匹を呼び寄せつつ、自らは あんみつを抱き寄せて速やかに後ろへ退きつつ応戦する。 この仔猫達は生まれたときからジルベルトが守ってきた命だ。 あんみつにしてもメイベルが守ってきた命である。 ならば、勇者軍軍規に則り、 そして私情としても守らねばならない。 だが、ルシア、ソニア、メイベルの方面に 向かっていた兵士達までが ジルベルト及び五匹の猫を狙って殺到してくると、 流石にジルベルト一人では荷が重くなってきた。 事態を察して三人が救援に来るまでは それなりの時間がかかるだろう。 それまでに、猫達のうち、誰かが死んでいない保証は無かった。 (僕だけじゃ守り切れない……) 許容は出来なかった。どちらを守るかと言われれば、 猫の……否、家族の命を守る。それがジルベルトの信条だった。 (ならば、僕はこれより、修羅に入る!) 殺害行為の断行を決意しようと決めて、彼は剣を敵に向けた。 だが、その時だった。 「ダークバスター!」 空中から膨大な数の闇の魔法が飛来し、 敵陣のド真ん中へと叩き込まれた。 「そりゃそりゃそりゃそりゃ!!」 次々と乱射されるダークバスターに、次々と敵兵が倒れたり、 大慌てになったり、混乱を引き起こしたりしている。 (味方!?) ジルベルトは魔法が飛んできた空中の方角を仰ぎ見る。 天馬騎士――ペガサスナイトだ。それもかなり貫禄のある、 高い能力のペガサスに乗っているようであった。 「ベアトリス、降下よ!」 「ひひんばー!」 ベアトリスと呼ばれたペガサスの力で急降下し、一気に地上へ降り、 一通り騎乗している少女の手で槍が暴れ回った頃には、 彼女の槍の届く範囲に敵はいなくなっていた。 「ただ一騎だ、討ち取れ!」 兵士の注意が猫から逸れて、少女とペガサスに向く。 「ベアトリス、行って!」 少女の号令と同時に、敵兵をジャンプ台にして一気に急上昇。 再度魔法の雨を降らせ始める。 「弓兵、構えぃ!」 どうやら味方らしい少女とペガサスだが、 それを狙って弓を引く敵兵達。 弓と銃という、二種類の飛び道具はペガサス…… 否、空中戦を主とする者達の天敵と言っていい武器である。 このままでは明らかに危ない。 だが、危険は思ったほどに迫ってはいない。 むしろ、迫っているのは好機だった。 「フローベール、無茶し過ぎだ、下がれ!」 今度は馬に乗った普通のナイトだ。 武器は棒を持っているようだった。 (あれも味方なの!?) 馬上の棒術としては極めて見事な部類の敵の捌き方だった。 槍と同様に振り回しては突き、 また振り回しては突き、そして突撃。 一直線に敵を蹴散らしては方向転換し、また再度突撃、 空中と地上からのダブルヒット&アウェイを繰り返され、 敵陣はもはや陣としての効果を為さなくなっていた。 せっかくの味方だ。便乗しない手はなかった。 念のため持ってきていた広範囲攻撃用の 魔道書を開いて読み上げる。 残り1回しか使えない状態でもらったため、 リゼルからどうせ役に立つ状況は無いだろうと 言われていた余り物だが、なかなかどうして、 状況によっては助かるではないかと得心しつつも叫ぶ。 「プラズマブラスター!!」 二人の騎士が離れたタイミングで術をぶっ放した。 多くの敵兵が感電し、更に戦局はこちらに有利に傾いた。 「大丈夫!? ジルベルト君!」 「こういう手で敵が来るとはね……!」 「フォローします、兄様!」 ソニア、ルシア、メイベルの順に合流してきた。 これで勇者軍の敗北は無くなった。 先程交渉した指揮官らしき人物は、二百名以上を引き連れて、 たった六名に勝てない事実に愕然とし、そして激昂しかけていた。 「お、おのれええッ!!」 すると、フローベールと呼ばれた少女がジルベルトの元に来て、 先程ジルベルトが使って、術の効力が無くなった プラズマブラスターの書をさっと取り上げた。 「フローベール!」 驚くメイベルだが、彼女は一顧だにしなかった。 「ちょっと借りますね!」 敵の指揮官は激昂したまま剣を構え、 もう一人の騎士に狙いを定めた。 フローベールはペガサスを急上昇させ、次いで急降下。 「ペンは!」 がごッ! 凄まじい勢いで本の角が敵指揮官の脳天に叩き込まれた。 未だ戦闘中の騎士はその異音に振り向いた。 自分が敵指揮官から狙われているのにようやく気付いたようだ。 「剣より!」 フローベールの手から空の魔道書が放り投げられた。 どうやら少年騎士は、フローベールの意図を察したらしい。 馬の腹を蹴り、思わず怯む敵指揮官に向かって疾走する。 「強し!!」 そのまま少年は叫びと共に本の表紙を ダイレクトに敵指揮官の顔面へ叩き込む。 「ナイスなコンビネーションだったわ。即席な割に」 「だから無茶し過ぎだって。俺じゃなきゃ 対応しきれないぞ。あんな無茶振り」 フローベールと少年はそう言いながらもハイタッチをする。 戦闘は終了した。敵兵の大半が撤退し、 残ったり気を失ったりした者達も アイリーン・マフィアの兵達によってあっさりと捕縛された。 「兄様、紹介します。私の友達、情報部所属のフローベールです」 と、メイベルが遅まきながら紹介する。 「フローベール=エルデナント伍長です。今のが初陣ですが、 何とか上手くいったようで何よりです。 で、こちらが愛馬のベアトリス」 「ひひんばー」 「?」 ジルベルトがテレパスで何かを読み取ったようである。 (この子があの総帥エリシャのお子なのね……分かるわ。この感じ。 人を惹き付ける才、戦の才、そして人業さえも呑み込む異才。 いや、あるいは鬼才なのかもしれないわ。どこまでも異質にして、 究極の自然体のまま戦えるという本質なのかもしれないわね) という考えである。その真意は読めなかったが、 総帥であり、母であるエリシャを知っているという事で、 ジルベルトはなんとなく親しみを覚えるのであった。 「で、自分はその双子の弟、バスク=ランドルフ軍曹です。 なんかエリート扱いされて、フローベールより階級高いですけど、 まあ立場は同じようなモンなんで扱いも同じでいいッス。 あと、所属は研究部になりますので、よろしくです」 (うちの子達を守ってくれてありがとうなのー) ジルベルトはニコニコと笑って二人と握手する。 戦闘終了を確認して、キョウカ王妃も中から出てきた。 「無事に二人が加わったようですね……」 「キョウカ王妃、この二人が フローベールとバスクです。双子なんですよ」 メイベルが紹介すると、キョウカは 二人よりむしろベアトリスを見た。 「まあ、ベアトリス……という事はあなた達は ユーフェミアさんとエルウィンさんのお子なのですね」 「あ、はい!」 「そうです!」 ガッチガチに緊張して二人が答える。 (ソニアさん、ソニアさん) 重要だからなのか、いきなりジルベルトが ソニアの腕をくいくいと引っ張る。 「ん? どしたの? 怪我でもした?」 「ううん、そうじゃないの。 けど、敵の様子が途中からおかしかった。 僕達じゃなくて、大福達、猫だけを執拗に狙い始めたの」 「なっ!? なんで!?」 ジルベルトが発言した事もそうだが、内容にも驚いた。 「分からないの。けど僕一人だけじゃ、この子達が危なかったの。 だから、フローベールとバスクが来てくれて本当に助かったの」 「……ふぅ、どうやらまた謎ばっかり増えちゃうみたいね」 と、内容を察してルシアが嘆息。 「敵の本命がクォーターエルフと猫じゃあ接点が無さ過ぎるわ。 もうちょっと接点が無いものかしらね」 ジルベルトは熟考しているが、まだ結論には至らないようだった。 ともあれ、ここでモタモタしているわけにもいかないので、 フローベール、ベアトリス、バスクを加えた勇者軍主力部隊は 更なる戦力増強を考え、勇者軍を支援する重要拠点の一つである、 バイオレット・ヴィレッジへと急行する意見をまとめたのであった。 「よっし、行くぞー!」 一人猛烈に張り切って走り出すバスクだったが、 慌てすぎたのが災いして、馬のコントロールを失いかけた。 そして落馬しようかとした瞬間、 横からフローベールが首をひっ掴まえてそれを止めた。 「バスク、慌てないの。みんなに合わせなきゃ」 「わ、分かってるよ。フローベールはいちいちうるさいな!」 と、改めて座り直すバスク。 「弟が粗忽者で済みません」 「フローベールこそおせっかいなんだよ」 「はいはい、言い合いはそこまで」 と、言い合う二人にルシアが割って入る。 流石に年長の貫禄であった。 「ゆっくり、けれど確実に進みましょう。 どうやら敵は、私達が思っている以上に巨大で、 しかも老獪な戦術がお好きなようだからね」 「はっ、はい!」 「了解です」 「じゃ、行くわよ。号令を、ジルベルト君?」 と、ルシアはジルベルトに振る。 ジルベルトはただ黙って剣を掲げて、前方へと向ける。 それに従い、前よりはいくらか緊張して、 一行は歩き出したのだった。 目標は――バイオレット・ヴィレッジ。 ジャパニーズ・チルドレンと呼ばれる者達の住処である。 <第十二章へと続く>
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第十六章-第三幕- ただあの人の下に(後編) 第十六章-第二幕- 第十七章-第一幕- ソニアを救出し、新たにギースとリュミエルを迎えた 勇者軍主力部隊は、いよいよ近付いてきたアーム城への 移動を試みようとしていたのだった。 「バスク、そろそろ向こうに連絡入れてみたらどうなの? 通信網の再構築がある程度出来てるんじゃないかしら」 と、ドルカスが言うので、バスクは端末をいじってみた。 「通信機能、オン……と」 通信機能をオンにした。まだ設置したての通信網なので、 端末が即座に対応し、最適化作業を始めた。 「……うーん、これはもう少し時間が要るな。 もう少し早く最適化作業を始めておけば良かったかな」 「そう時間も要らないでしょ。端末の電源はオンのままにして、 さっさと進軍した方がいいかもしれないわね」 ドルカスの助言に従い、バスクは電源をオンにしたまま、 愛馬ヴィッセルを歩かせる。 その後を、残りの全軍が続く。 ある程度歩けば到着はするが、更なる襲撃が アーム城に無いとも限らないのであった。 連絡は早ければ早いほどいい。 ……だが、もちろん事はそう穏便にいくはずもなかった。 「ふみゃーっ!!」 「ふーっ!!」 突如として猫達同士の喧嘩が始まったのだ。 今にも飛びかかりそうな剣幕である。 「えっ、ちょっと! 何なの!?」 「押さえて、押さえて!!」 レイリアとエイリアが慌てて喧嘩を始めた 大福ときなこを引き剥がす。双方共、 とんでもない実力があるので喧嘩になるとシャレにならない。 「ちょっと、こっちもよ!」 こちらも慌ててソニアとジルベルトが みたらし、黒ごまを引き剥がす。 割って入ろうとしたあんみつも、メイベルが何とか取り押さえた。 「一体どうしたってのよ!? ジルベルト君、原因分かる!?」 ジルベルトはテレパス能力で、何とか興奮状態の 五匹の猫達の心理状態を読む。 どうやらお互いを敵だと認識している。 当然同じ親から生まれた兄弟姉妹同士 (ただし、あんみつは親戚になる)なので、 普段は仲良くしているのだが、 何故こうなったのかが分からない。 「何者だ、手前ェ!!」 と、いきなりコンラッドがライナスへ弓で攻撃を開始する。 「……何をする……!? 敵か!!?」 あろうことか、ライナスまでコンラッドに攻撃を開始した。 二人だけではない。フローベールとバスクが、 サイモンとヴァジェスが、テディとリュミエルが、 ギースとドルカスが、次々と仲間割れを始めた。 おかしくなっていないのは、事態に動揺しないよう、 意図的に精神状態を沈静化させた ジルベルト、ソニア、ルシア、メイベル、 そしてナノ・マシンを自己防衛に費やしたレイリアと、 絶対耐性の技能を持つエイリア、 元から闘争の術を持たないキョウカ王妃。 以上のメンバーとなっている。 事態を飲み込みかねて、メイベルはただ混乱するばかりだ。 「これは、どういう事なの……?」 ソニアが訝る。 (分からない。一体何が起こっているのか……) その時、フローベールを振り落としてきたベアトリスが近付く。 彼女は魔族だからなのか、影響下にあるわけではないらしい。 「ひひんばー」 そのベアトリスの意図をジルベルトが テレパスで読み、メールで伝える。 『呪術かもしれないって言ってるのー。 幻を見せ、音を歪めて味方を敵の得体の知れない相手に 認識させてる可能性があるらしいのー』 「敵の足止めの作戦…… あわよくば同士討ち作戦ってトコかしら」 「対処法はありませんか?」 極力冷静に、キョウカ王妃が訊いてくるので、 ベアトリスが策を提示する。 「ひひんばー」 『リュミエルだけでも元に戻せれば 対処の仕様があるかもしれないのー』 「リュミエルか……」 エイリアが唸る。スレインメイデンである彼女なら、 呪術に対するカウンター的な技能を 持っているかもしれないからだ。 「人間を敵に見立てる幻術は使えても、 機械まではそうはいくまい。 ルシア、隙を作ってはくれないか? そのわずかな隙でメールを送る」 「分かったわ。テディを牽制すればいいのね」 「メールの文面はキョウカ王妃、頼めるか?」 「今、入力中です。百二十秒下さい」 「分かった!」 エイリアの指示で各員が動き出す。 と言っても大半は猫を押さえる役だ。 勇者軍の仲間割れは実力が拮抗している事が幸いして、 短時間なら放置しても大丈夫だった。 「入力完了です。送信します」 キョウカ王妃の送信と同時に、 ルシアは弓の連射でテディを牽制する。 「何だ!? 奇襲か!?」 同時にリュミエルへメールが届く。その着信を確認すると、 敵(と思っているテディ)が、結果的にとはいえ、 攻撃の手を止めた事もあり、文面を確認する。 『敵の呪術で仲間割れさせられています。 対抗手段をお持ちであれば、 即座に実行に移していただけると、 助かります。 ――キョウカより』 馬鹿丁寧な文面を見て、リュミエルは急いで精神を落ち着けた。 呪術の効果が薄れ、自分が敵だと思って戦っていたテディの姿が うっすらとだが見えるようになったのである。 「そういうわけね。小賢しい手だこと」 鼻で笑うと、リュミエルは御札を大量に取り出し、展開する。 「術式展開! 防御結界!!」 ぱんっ!! 軽い音を立てて、勇者軍の周囲に御札が散っていく。 周囲に結界が張られ、敵の呪術の力場を完全に遮断する。 「……お? リュミエル?」 その中心地であるリュミエルに 一番近かったテディから、正常な視覚と聴覚を取り戻し、 その後近い順から残りのメンバーも、感覚を取り戻していく。 「本当に私も合流しといて正解だったみたいね。 まさかこんな技能が役に立つとも思わなかったけど」 と、自信満々にどや顔をするリュミエルに 助けられたと分かるや、精神を落ち着ける各員であった。 無論猫達もなんとなく事態を察して、 一番落ち着く所……要するに ジルベルトの傍に自ら寄っていくのだった。 「闘争心や警戒心を刺激して幻覚を見せる呪術だったみたいね。 だから、戸惑っていただけのメンツや、 戦えないキョウカ王妃は術にはかからなかった、か」 さもありなん、という感じでエイリアも頷いた。 「でも、呪術なら呪術師がいないと駄目だよ。 一体……どこにいるのかな?」 キョロキョロと辺りを見回すレイリア。 「そう簡単に見える所にはいないだろう。探すぞ」 「駄目! 術式結界自体が動けるわけじゃないのよ! 外に出たら結果は同じなんだから!」 サイモンが外に出て呪術師をさっさと見つけようとしたが、 リュミエルがそれを慌てて止める。 「また仲間割れしたくなかったら動かないまま、 敵を見つけないと……任せるわよ」 「くっ……厄介な」 苦虫を噛み潰したような顔をするサイモン。 「ならば私が行こう。こういう搦め手には私が一番強い」 と、エイリアが前に出る。絶対耐性を当てにしているのだ。 「大丈夫なの?」 「任せろ」 エイリアが外に出るが、呪術にかかったような様子も無く、 平然としたままで周囲を探す。 敵の焦る気配が周囲に滲み、それがより一層発見を容易にする。 「そこだっ!!」 しげみに鞭を叩き込むと、慌てて呪術師が出てきた。 そして素人目にも呪術が途切れたのが分かった。 怪しい気配が一切消え去ったのだ。 呪術師は呪術があっさり破られたのを見ると、 悪態をつきながら逃げ出した。 「くそっ、何なんだ! 我が呪術を意にも介さないだと!? これだから遺伝子調整を受けたバケモノはッ!!」 「逃がすか!」 エイリア、次いで残りの連中が追い始めるが意外に足が速い。 こういう時に限って、頼みのフローベールも、 ベアトリスから降りていた事が災いして、対応が遅れた。 「逃がすかよッ!!」 だが、そこでバスクがそのまま突撃を敢行する。 「ヴィッセル!」 「ぶるひひひぃぃぃん!!」 愛馬ヴィッセルによるキックが呪術師のどてっ腹に叩き込まれる。 「のげっ!?」 ごろごろと転がりつつ吹っ飛び、呪術師は気を失った。 勝利は確定である。 「バスク、初手柄ね!」 「ああ。やったぜ!!」 バスクは馬上でガッツポーズを決めてみせた。 しかしこのネイチャー・ファンダメンタルの呪術師を この後どうするかで若干意見が割れた。 近くの市街地に連行したのだが、まさか市街地で 無抵抗の人間を殺害するなどという 凶行に及ぶわけにもいかず、 かといって警察に引き渡せば 呪術であっさり脱獄してくるだろう。 ならば今効果的な手は勇者軍伝統(?)の方法だろう、 という結論で約一名の反対を除き、サイモンの案で決定となった。 すなわち―― 「これで良しっと」 テディの手によって、呪術師は丁寧に縛られ、 猿轡まで噛まされて見事にダンボールの中に梱包されたのだった。 丁寧にエアキャップまで下に敷かれている始末だ。 「おい、空気穴も忘れるなよ。流石に死ぬから」 と言いつつも、コンラッドがダンボールに 穴を開けて空気穴を大量に作る。 「送り先どうするの? 姉さん」 「そうねぇ……」 ソニアに問われたルシアが、とりあえずお届け先を 遥か遠く、惑星アースの裏側、クルーズ・シティ方面に指定した。 勿論お届け先はネイチャー・ファンダメンタルが不法占拠した 惑星アース国際平和機構様宛てである。 しかも着払いで。あまつさえわざわざ時間がかからないように しっかりと速達便にしてやる有り様である。 「あの……それはちょっと可哀想では……」 流石にキョウカ王妃が難色を示したものの、 それをどうにかこうにか言いくるめるリュミエルとギース。 「いやいや、処刑とかされないだけ ありがたく思ってもらわないと」 「丁寧に送還してやるだけ温情的かと思われます。王妃殿」 「……はあ……」 あまり納得はしていないようであったが、 やむなく了承するしかないキョウカ王妃であった。 そしてその荷物(イン敵)を宅配業者になすりつけた。 「あ、割れ物とかじゃないんで、 衝撃は大丈夫ですけど、 ナマモノなんで生きたままでお願いできますか? 哺乳類ですけど。あと着払いで」 「あ、はい。承りましたー、っと、重いな」 中に何が入っているかも知らず、 業者の人は荷物(イン敵)を受け取った。 「これで良し、っと」 「二度と来るなよー」 何やら暢気に荷物に向かって手を振る二人。 何やらダンボール(の中の敵)が抗議しているようにも見えたが、 それはまあどうでもいい事であった。 「……お?」 気が付くと最適化処理が終了し、 端末は通信機能を取り戻していた。 「こちらバスク=ランドルフ。アーム城、聞こえるか?」 「はい、こちらアーム城のユイナです。 主力部隊は大丈夫ですか?」 と、ユイナ王女の声が聞こえる。映像もすぐに映った。 「……っ!」 その愛嬌ある顔立ちに、一瞬バスクは言葉を失った。 「……もしもし? 聞こえてますか?」 「……あっ、ああ! 全員無事だ。 キョウカ王妃もこっちにいるんだ! 今からそっちに届けに行くから、待っててくれよ!」 「ありがとうございます! わざわざ知らせてくれるなんて…… あなたは優しいのね。よろしくお願いね、バスクさん」 「あっ、うん!」 そこで、イスティーム王がユイナと交代する。 「キョウカ。そこにいるんだね?」 「元帥閣下!」 キョウカ王妃も慌ててバスクの端末を借りる。 「よく頑張ったね。ここに来たらもう安心していいですよ。 無理をしないでゆっくり来て下さいね、キョウカ」 「はい……はい!!」 キョウカ王妃の瞳にみるみる力が宿る。 「必ずあなたの下に……ただひたすらあなたの下に、 キョウカ=カザミネ=ザン=アーム、参りますわ!」 決意の漲る表情でキョウカ王妃はそれだけ告げて通信を切る。 「チトセ、皆さん、行きましょう!」 あれだけ気の弱かったキョウカ王妃が、 今や喜色に満ちた表情でチトセを堂々と乗りこなしている。 ある意味では王者の風格に近いものがあった。 『元気になって良かったのー』 ジルベルトも大喜びだ。ソニアを奪還した喜びも重なり、 今や勇者軍の士気は高まるばかりであった。 階級上の関係から、今この場で事実上最高位の指揮権を持つ キョウカ王妃の号令で、また勇者軍は歩みを進めるのだった。 ただ、あの人の下へ行くために。 ソニアを迎えに行くジルベルトがそうであったように。 ジルベルトのために懸命に脱獄した ソニアがそうであったように。 今、キョウカ王妃は、真に勇者軍の一員に 相応しい心根を抱くのであった。 <第十七章-第一幕-へと続く>
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No シナリオ名 内容 177 勇者の特権? 勇者に、入ると勇者が民家でアイテムを拾ったらしい。英雄妖精も同じく民家に入り、アイテムを拾ったが…… ▼噂話 「民家に誰もいないと思っていたら、大間違いだよ」 「高い物を少しでも安く買いたい、っていう女の気持ち、わかるかしら?」 「家計の事を考えて、外で食事なんてぜい沢なこと、止めなきゃいけないのにねぇ。ここの料理、私が作るより美味しいのよ」 「民家には時々、とんでもない代物が眠っていたりするんだ」 ▼イベント発生 発生エリア:III 発生レベル:11 町の中に入ると発生 ▼イベント詳細 1.町の中に入ると勇者が民家でホーリーランサーを手に入れた事を自慢している。 2.民家に入ると『ラッキーソード+1』が落ちていた。 拾う→商人に発見され、『ラッキーソード+1』を取り上げられ、更に所持金が半分没収されてしまう。(イベント終了) 無視する→イベント終了
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第八章-第二幕- 集結の白虹騎士団 第八章-第一幕- 第八章-第三幕- 空中戦艦メガ・アルバトロスの中へ逃げ込んだアイゼンカグラを 追跡すべく、勇者軍は動き始めるが、艦載機が迎撃の構えを見せた。 急ぐ中、決して無視出来ない状況に陥りつつあった勇者軍であった。 「ならば、こういう時は我が愛機の出番なのじゃ! その名も……」 端末で急遽自分のライディング・フレームを呼び出すアンリ姫。 すぐさま到達するが、あっという間に包囲されて集中砲火を食う。 まず大きすぎて目立ちすぎ、それが原因だった。 炎に包まれていくライディング・フレーム。 「よし、あれがボコられてるうちに急げ!」 「ロブ! わらわの愛機はそういう使い方と違うのじゃ!」 「結果的に囮の役に立ってるだろ、走れ!!」 「まだペットネームも言っておらぬのじゃー!」 きぃきぃ喚きつつも嫌々従うアンリ姫。 確かにその隙に中に一同は入り込む事が出来て、 外からの攻撃は止まった。 さすがに艦載機が艦もろとも攻撃するわけにはいかないのだろう。 ただしそれと同時にアンリ姫の名も知らぬ愛機は爆散しているが。 「わらわの愛機がぁ……お小遣いで作ったのに……」 小遣いレベルで作れる事も異常だが、なかなかに頑丈だった。 それだけのものを作る才覚も尋常ではないだろう。 そして、彼等は駄々広い空間に到着した。 恐らくは格納庫といったところだろうか。部品が散乱している。 「待ちかねていたぞ」 傷の修復も万全でないのか、少し調子の悪そうな 白虹騎士団七名がそこに勢揃いしていた。 ブルーナイトが真っ先に語りかけてくる。 「アイゼンカグラは仕留め損なったか。あの役立たずめ」 アンバーナイトが愚痴のようなものをこぼす。 「君達白虹騎士団は死んでいるはずだ。それが何故ここにいる?」 カイトはそれを無視して語りかける。 「それを貴様が知る必要は無いな」 レッドナイトも随分挑発的な態度を取る。 「いいぜ! そんなに死んだ事が認められないなら、 こんどこそ俺達が冥界まで叩き込んでやらぁ!」 ロバートの宣言と共に、全員一斉に武器を抜く。 「死ぬのは手前ェ等だ、白虹騎士団の恐ろしさを思い知れ!」 グリーンナイトの発言と同時に、彼等も武器を抜く。 パープルナイトは一本の杖を取り出す。 「お前達が使う幻杖レプリアーツとやらのレプリカだ。 この力を自ら受けて震えるがいい……!」 「何ですって!?」 ウォルフ王子も驚いた。 パープルナイトが杖に込められた技を展開する。 「精霊包囲弾!」 封神封魔流『速』の秘剣である。いくらレプリアーツといえど、 そう何発も連打出来るようなコストの技ではない。 「ならば、エリックさん!」 「おうさ! メガブースター!」 すべての能力を引き上げる魔法だ。それを乱発して 各員、耐えたり凌いだりしてのける。 それを見てパープルナイトは驚愕する。 「馬鹿な、貴様等自身の奥技だぞ!?」 「そんな劣化コピー品でどうにかなると思う時点で甘い!」 既にレプリアーツの技のストックは尽きていた。 「だったらこいつだ……アクスコプター!」 斧を構えたパープルナイトは自分を軸にして回転し、 斧を回しながらヘリコプターのように突撃してくる。 当たれば只事ではすまないのは確実だった。 「技が大振り過ぎて無駄が多い! もっと隙無くかかってきなさい!」 鶴の一声を発してから、確実に下半身を打ち据えるウォルフ王子。 転倒したパープルナイトの急所に斧を容赦なく叩き込むと、 ぐったりとパープルナイトは動かなくなった。 「ブレる態度に芯の通らない心……全てが不快です」 それ以上相手にする価値も無いと見て、味方の支援に回る。 イエローナイトは呪鞘カオスリキッドのレプリカを使って、 自らの爪の切れ味を高めていた。 「この武装の恐ろしさはあなたが一番ご存知のはず。お覚悟を」 「またその態度か。もう一度言う。我々は挨拶より、これだ!」 マリーは棒を抜く。威力や切れ味なら明らかに向こうの方が上だ。 まともに爪を受ければ、彼女の棒とて真っ二つだろう。 「そもそも我々のDNAが組み込まれ、登録されたに等しい カオスリキッドなどの武装を何故貴様らが使えるかは知らん。 だが言わせてもらおう。貴様等に戦場の華は務まらぬ!」 「そうですか?」 「このように危険な武装をただの便利道具として使う辺り、 人間……ではないな、生き物としての底が知れる!」 「便利じゃないですか、ほらっ」 爪で斬りかかってくる。かすっただけで彼女が構えていた シールドが易々と切り裂かれてしまった。 「シールドなんて無駄なのに……全てが無意味なのに……」 一瞬、あざ笑うかのように言って、イエローナイトは構える。 「ソウルスピンクラッシャー!」 きりもみ回転状に、とんでもないスピードで突撃してくる。 しかし、マリーは一切の隙なく、あっさりと回避した。 「何と!?」 「剛と柔を制する者こそ、戦場が華! 貴様では温い!」 イエローナイトは技使用後の隙が多すぎて回避も防御も出来ない。 自らの武装の性能に溺れてしまったのだ。 「烈風!」 ずがん! 凄まじい一撃を叩き込む。かなり鎧が砕け散った。 「先程が柔、そして今のが剛だ。貴様はどちらも未熟なようだな」 鼻で笑い、棒をしまうマリーだった。 レッドナイトはサブメンバー達の魔法攻撃を受けていた。 魔法重視の作戦を取ることは前回の戦いから読めており、 こちらもそれ相応の対応を取るだけである。 「ふふ……もっと撃ち込んで来るがいい」 防御と回避に徹して自信満々に振る舞うレッドナイト。 アンリ姫も攻撃魔法を色々と叩き込む。 すると、レッドナイトは怪球ミームのレプリカを取り出す。 「わらわのミームまで真似しおるのか!?」 「ふふ……このミームの力があれば……全てを理解し得る」 レッドナイトは引き続き防御と回避に徹する。 よく見れば自らの致命傷になり得ない魔法しか受けていない。 そういう風に出来るようにミームの力を使っているのだ。 「まずいッス、ああいう時のパターンは……!」 レオナが警告するがもう遅い。 「カウンターフレア!」 吸収した魔法ダメージを魔力に変換して、 火の強力なカウンター攻撃として叩き返して来た。 ターゲットは真っ先に気付いたレオナ自身だ。 「わらわのツレはやらせぬのじゃ!」 だが、アンリ姫は自ら盾になる。すぐれた火耐性を当てにして、だ。 目論み通り、理論値よりダメージが通っていない。 「おのれ……貴様も理解している、というのか! 怪球ミームを使っていないというのに……何故だ!」 「理解しておるのじゃ! 戦い方がパターンなのじゃと!」 アンリ姫は素早く呪文を詠唱する。 「ウィンドシューター!」 距離を一気に詰めての零距離射撃魔法だ。回避は困難である。 「がああああッ!?」 撃ち抜かれたレッドナイトは倒れ伏し、動かなくなった。 「わらわも、頑張れるのじゃ!」 アンリ姫はガッツポーズを可愛らしくとってみせた。 一方のシアンナイトはもちろん聖杯ライブチャージャーを 使い、幾度と無く回復しているが組織だって使わないせいか、 じわじわとローザのハンマーに押されつつあった。 「何故です、ライブチャージャーのレプリカがあるのに、 何故、容易に押し切る事が出来ないのです……!?」 既に怯えている。この時点で勝負にはなっていなかった。 「その弱々しい態度は相手へ食らいつくための演技だろ。 気に入らねぇやり口だ。消えろ、俗物め!」 「ひぃッ! スローイングプレッシャー!」 シアンナイトはハンマーをローザの頭上に放り投げた。 直後、更にアンダースローで鎌を投げ込んでくる。 上下から挟み撃ちのような形にするつもりらしい。 「直線的過ぎだぜ!」 大きく回避すると、ハンマーに鎌が潰されて、 結果的にシアンナイトの戦術の幅が狭まった。 「弱った状態で俺達に勝てるとは身の程知らずが! 後悔しても遅いんだよ、愚図め!!」 どがん! ハンマーによる渾身の一撃が叩き込まれ、 シアンナイトの鎧がひび割れ、行動不能となった。 「ちっ、結局前回ので死に損ないだっただけか。ヤワめ」 吐き捨てると、ローザはシアンナイトを蹴り飛ばす。 既に白虹騎士団七将のうちの四名を打破し、 勇者軍主力部隊の優勢は確定的になりつつあった。 <第八章-第三幕-へ続く>
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二つ名:忠誠の勇者 名前: 詳細: とあるお屋敷のお嬢様の執事をしていたが女神の神託をうける。女神よりお嬢様への忠誠のほうが圧倒的に上回っていて、ぶっちゃけ魔王退治とかどうでもいいけどお嬢様が応援してるから頑張る。 とある館のお嬢様の執事であり、ついでに勇者をしている。 代々館の主に執事として仕える家の生まれで幼い頃から主であるお嬢様の執事として働き、 執事としての教育を受ける。 現在ではお嬢様の執事としてお嬢様を様々な面で支えながら、館で働く使用人のまとめ役もこなす。 お嬢様の為に様々な教育を受け、お嬢様を守る為に剣術を習い幼い頃から「秀才」そして「二刀の名手」として名を馳せる。 何故二刀流なのか? 答えは単純である。片方の剣は主への絶対の忠誠の証であり、もう片方の剣は主から仕える者への絶対の信頼の証である。 その為代々家に伝わるこの二つの剣を使った特殊な二刀流剣術を幼い頃から習っており、家では「稀代の名手」と呼ばれている。 この対の剣は代々折れることなく受け継がれており現在は彼が受け継いでいる。 <特技> いつでもどこでもお嬢様が望むティータイムの用意が出来る。時間は僅か数秒。 英国式から茶道までなんでもすぐに用意できる上に作法も完璧である。 常に執事服と対の剣しか持っていない状態からテーブルからイス、お茶菓子等を用意するため館の七不思議の一つになっている。 どこから用意しているかは素早過ぎてわからないようです。 <強み> ・お嬢様の存在 ・女神から与えられた能力として、お嬢様からの応援、命令等を「気力」に変換できる。(自身の忠誠心から気力は無尽蔵に近い) ・「気力」を使った身体能力や防御力の上昇。気力を使った攻撃。 ・「気力」を得た代償として「魔力」を持たない。その為「魔力」を使った幻術や結界等が効かない。 <弱み> ・お嬢様の存在 ・お嬢様の応援、命令等がない場合、「気力」が著しく低下。(気力がほとんど無い状態になる) ・「魔力」を持たないため「魔力」による直接的な攻撃には耐性が非常に低い。 ・「気力」を使い視力や聴力を上げている場合、光や音に過敏になる。 その為身体能力上昇中等は爆音や閃光等の影響を非常に受けやすい。
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第二十六章-第二幕- エネミーイーター 第二十六章-第一幕- 第二十六章-第三幕- カイト=ワイズマンとの会議の結果、水中と水上、 及びそれらに囲まれた離島に 人類の生き延びる場がある事に気付いた勇者軍は、 その実践検証のため、カイトの潜水艦 『ブルー・ワイズマンMk-Ⅰ』に 乗り込むために、リプトール・タウンへと移動していた。 「現状では余り騒ぎを大きくしたくはない。 ステルスが得意なクロカゲがいれば偵察に便利だったが……」 エリックがぼやきながら、 イグジスターの視界が勇者軍全体に行かないよう、 空中威力偵察を行いつつ、囮としても動いていた。 ぶっちゃけて言うなら、魔力がもつ限り、飛びまくって 一方的に攻撃する方が、対イグジスター戦術としては 優秀だったりするのだが、 魔力には限界がある上に、飛べるのが彼とヴァジェスだけなので、 この戦術は思うように使えないだけだったりする。 単独で行動するとなれば、滅法有効だった。 いざという時は強行離脱も可能だからである。 「さあ、ヴァジェスも上手くやってくれているだろう。 誰にも気付かれる事無く、リプトール・タウンに入ってくれよ……」 エリックの懇願叶って、ロバート達の主力部隊は 一気にリプトール・タウンに接近していた。 「ウォルフ、周囲にイグジスター反応は?」 「かなり積極的に動いていますが、 どちらも囮に引き付けられています。 時々、ヴァジェスさんもエリックさんも、 急旋回や急反転などでイグジスターの視界から外れて、 更に撹乱を続けていますね。 この分なら、秘密裏に入り、騒ぎを起こす可能性は低いかと」 「だといいがな……奴等は視界より嗅覚の方が侮れねぇ。 もっとも、目も耳も鼻も無い奴等に 五感を問うのがどうかと思うがよ」 「それに不特定要素の存在が無い、とは断言出来ませんしね。 どこからか、民間人が逃げてきた場合は それに巻き込まれるでしょうし、 救出を拒否する理由は何もありませんので……」 「だな」 「急ぐぜ、ロブ。せっかくヴァジェス達が苦労してるんだ。 俺等が無駄にするわけにゃいかねぇだろ」 ローザも大事な事を念押ししてくる。 「……?」 すると、エナが急に足を止める。 「どうした、エナ。急ぐぞ?」 「いえ、ちょっと待って下さい。 レーダーに勇者軍端末の反応……です」 「エリックのおっさんか、ヴァジェスじゃなくてか?」 ロバートも足を止める。 「……違います。両名は未だイグジスターを撹乱中みたいです。 それとは別の反応が一つ、 イグジスターから逃げているみたいです」 エナは慌てて通信をONにして、呼びかけてみる。 「こちら勇者軍サブメンバー、エナ=ギャラガー伍長。 誰か分かりませんが、応答して下さい。誰ですか?」 すると、聞き慣れた声が応じてくる。 「こちら、マリー=ジーニアス! グラード・シティへ援護すると聞いて一足遅れて行ったが、 既にあそこはイグジスター共の巣になっていた……! 不運にも察知されて、結構な数のイグジスターと、 やたらと強力な擬態イグジスターに追われている。 合流を求める! こちらも抵抗したが、 既に魔力も物資も枯渇している! 繰り返す、救援と合流を求める!」 「マリー! そのままリプトール・タウンに向かいなさい! そこからほど近いはずです! そこで待機及び援護します! 合流後、速やかにブルー・ワイズマンに乗りますよ!?」 ウォルフ王子も呼びかけると、 マリーは安堵したように一息つく。 「了解した! 市民はシェルターに 避難するよう指示しておいてくれ! 誰もいないと分かれば、私達が逃げ切る分には問題ないはずだ!」 「分かりました!」 ウォルフ王子は馬に乗り、一足先に庁舎へ向かう。 避難指示を即座に出すためである。 「よし、一足先にリプトール・タウンでマリーを待つぜ! ローザ、おっさんとヴァジェスにも囮作戦を中断させろ!」 ロバートの指示に頷き、ローザは二人に連絡を取った。 「おっさん、ヴァジェス! 囮はそこまででいい! すぐ合流を頼む! マリーの奴がここに来て、イグジスターに追われてるってんだ!」 「何、マリーが!? 無事なようで何よりだ。了解した!」 「そういう事態ならしょうがねぇだろうな。すぐ行くぜ、ローザ!」 二人とも即答し、すぐに反転してリプトール・タウンへ向かう。 それからの行動は迅速だった。リプトール・タウンの民間人を シェルターに退避させる。万が一中に進入して来る可能性が 無いでもなかったが、四の五の言っていられる状況ではない。 到着後、まずは折衝を終えたウォルフ王子が戻ってきた。 その直後にヴァジェス、そしてエリックが戻ってきた。 「来るぞ!」 ざばぁぁぁん!! 豪快な音を立てて(これでも静かに浮上しているつもりだが)、 ブルー・ワイズマンが姿を見せる。 ハッチを開けてカイトが呼びかける。 「民間人もろとも、全員無事か……すぐに避難を!」 「すまん、カイト! マリーの奴が今追われてるらしい! それを保護してから、乗る! ハッチはまだ閉めておけ!」 「分かった……待つよ」 ロバートの言葉に納得したカイト。 彼はハッチを閉めて、イグジスターの侵入阻止に専念した。 「来るぞ、敵とマリーだ!」 だが、イグジスターの戦闘には何故か鎧付きが混じっている。 「あれか! イグジスター五滅将! えーと何体目だ!?」 「四体目ですよ、覚えておいて下さい……!」 ローザにツッコミを入れるエナ。 「さしずめ、リビングメイル・イグジスターってトコか」 「亡霊……の憑いた鎧ですか? そんなの、呑めるんですね」 「亡霊単体なら無理だろうが、鎧を媒介しているからだろう」 ヴァジェスが冷静に持論を述べるも、 追われているマリーはそれどころではない。 「くぅ、しつこい……! はぁ、はぁ……ロブ、援護をしろ!」 「助けて下さいとエナみたいに素直に言えんのか貴様はっ!」 「そんな事をほざいている場合か、お前は!」 「いいから解けよ、封印をよ!」 ロバートは、諸事情により今まで使う事が出来なかった、 家宝ストレンジャーソードを取り出し、 その鞘付きの刀身を高く掲げた。 マリーとイグジスターまでの距離はまだそこそこに開いている。 封印を解くなら、今のタイミングしかなかった。 「今こそ封印を解き、我が手に戻れ、呪鞘カオスリキッド!!」 じゅばっ! 意思を持つリキッドメタルである カオスリキッドが鞘としての役割を止め、 一枚のコインに戻って、本来の持ち主、マリーの手に戻った。 それと同時に力を解放された ストレンジャーソードが遂にその力を顕現させる。 刀身を黒いゲル状の何か、そう、イグジスターと同じ物質が包み込む。 その力は聖なる何かとか、優しい何かとかでは決してなく、 強いて言うなら邪悪とか、魍魎とか そういう得体の知れない何かである。 その異様な反応に驚き、リビングメイル・イグジスターを含めた 数万からのイグジスターの大部隊は、揃って足を止める。 自らの同族が、人間側の力となっているに 等しい様を見た、いや見せられたのだ。 それは彼等にとってまさしく悪夢同然であり、 信じられない出来事だった。 「何だ、あれは……! 我等に近く、しかし何かが違う異物か……!」 リビングメイル・イグジスターが呟く。 が、その剣は持ち主にとって安全装置にはなり得ない。 「がぁああああああ!」 普通のイグジスター同様に、 持ち主であるはずのロバートを食らおうと 丸呑みの捕食行動をかけてきたのである。 「っ!?」 すぐに回避し、危うく難を逃れつつ、異物となった剣は放さない。 「所有物が持ち主に逆らうんじゃねぇぞコラぁぁぁぁぁっ!」 どがすっ! ぼごすっ! がごっ!! 剣のイグジスター化した部分を殴りつけるロバート。 自らの武器と格闘する異様な光景を見せつけられ、 イグジスターどころか、勇者軍までもが呆気に取られる。 やがて一方的に殴りつけ、 抵抗する気力をイグジスター部分が失うと、 あらためて、ストレンジャーソードを抱え直すロバート。 「ようし、このクズが、大人しくなりやがったな」 そのいびつな剣をイグジスターに向けてロバートはいつもの如く、 巨大なびきマントを広げて、紋切り型の台詞を口走る。 「殲滅させるが上等と! ほざきのたまう愚物の群れを! 同族同類押し付けて! 共食いさせての生者必滅! 魍魎反逆ストレンジャー! 一方的捕食の因果を貴様等も味わいやがれ! この『反逆暴牙剣エネミーイーター』の暴虐によってなぁ!」 ぐったりとしたエネミーイーターをごりごり足で踏み躙りながら、 強引に言うことを聞かせるロバート。 「我が同族へのその仕打ち……許せぬ……!」 初めてまともな事を言いながら、 迫るリビングメイル・イグジスター。 それに他のイグジスターが続く。屈服させられる同族の姿が、 よほど衝撃的だったのだと理解すると、 ロバートは口から湯気を吐き、目を光らせ、 今にも熊か何かを食い殺しそうに感じられるような、 恐ろしく陰惨な笑みを浮かべる。完全に狂人の視線である。 だが、その顔が、何故か勇者軍に不思議と勇気を与えるのだった。 「ロブ……それでこそ、貴様という奴なのだな」 先程まで切羽詰っていたマリーも、ようやくふてぶてしく笑う。 改めて鞭を抜き放ち、戦闘の意思を示した。 リプトール・タウンに駐留するブルー・ワイズマンと マリーの生存をめぐる戦いが今、幕を開ける。 <第二十六章-第三幕- へ続く>