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第六章-第一幕- マクスフェル王国の残り火 第五章-第三幕- 第六章-第二幕- 一路、レイクリッター・タウンへの道を目指した 勇者軍主力部隊は、デス・ボルガノンを抜け、 特に名も無き林道へと差し掛かった。 「……何の気配だ? 敵かな?」 一際勘の鋭いライナスが急に立ち止まり、辺りを見渡す。 視力にもかなり自信があるのだろう。 ライナスが見つめた先に一人の男がいた、 敵兵――にしてもひどく軽装だ。 まして偉そうな幹部になどとても見えない。良くて偵察兵、 せいぜいが索敵レベルの行動としか思えなかった。 「面倒だな……木の上にいるよ。ソニアさん、行く?」 と、ライナス。 「わわわ、私はいいわ。あんな高い木の上なんて登れないもの」 と、噛みまくるソニアに、周囲が苦笑いした。 「いいよ、あたしが追い払うから」 ずだんッ! レイリアが威嚇射撃を行った。すると怯みまくった偵察兵は 凄まじい勢いで逃げていった。やはりただの雑魚である。 しかし、それにリゼルが疑問を抱いた。 「でも、偵察兵にしても弱すぎますよね…… 隊長、今までもああやって 敵が索敵行動を行った事があるんでしょうか?」 (そういえば無いね?) と、意識して首をふるふると振ってやるジルベルト。 「ひょっとしたら見られたくないものがあるのかもしれません。 攻撃するなら索敵の必要はどっちみちありませんから。 戦力とか面も大体割れてるでしょうし」 的確な見解である。リゼルは良くも悪くも常識人のようであった。 「じゃあ、私とチトセが行きます。ジル君、黒ごまを貸してね?」 「にゃーう」 と、黒ごまを抱き上げて連れて行くユイナ姫。 イザという時の連絡係にしようというのだろう。 (気を付けてねー) と、手をひらひらさせるジルベルト。実に気楽である。 騎兵なので逃げる手段に事欠かないのは事実ではあるのだが―― しばらく進んでから、ユイナ姫は愛馬チトセの足を止めて、 望遠鏡で遠くを見やった。どうやら行軍途中の部隊のようである。 大量の物資らしきものが乗ったコンテナ車があるところを見ると、 恐らくは補給部隊であろう。阻止しなくてはならない。 その旨を実にレトロな事に紙に書いて黒ごまの首輪に付けてやる。 イザという時は黒ごまに持たせて戻さなくてはならない。 自分は、このまま密かに中身が何なのかを確かめたかった。 そうして近付く事五分―― 「誰だ!?」 敵にも勘のいい者がいたらしい。気付かれてしまった。 「しまった……黒ごま、行って!」 抱いていた黒ごまを降ろしてやると、よく分かっているようで、 一目散にジルベルト達のいるであろう方向へと走っていった。 あとは到着まで補給部隊の足を遅らせなければならない。 騎兵の本領発揮である。 「チトセ、行きましょう、敵の頭を押さえます!」 「ひひん!!」 高らかに叫ぶと、チトセが駆け出し、 コンテナ車の眼前へと踊り出る。 「はぁッ!!」 ばきんッ!! 微妙な手加減を加えて、槍でコンテナ車の フロントガラスにひびを入れる。 これでまともな走行などは望むべくもなくなったはずだ。 「おのれ、敵襲――勇者軍か! 迎撃だ、急げーッ!」 ウィルスユーザーズの制服を着た敵一般兵が弓を、銃を手に取って 一心不乱にユイナ姫一人めがけて、射撃を開始する。 しかし、愛馬チトセもさすがのもので、 回避に徹してそのことごとくをかわす。 「やるな、曲者め!」 茶色い髪にパーマを当てただけのような髪形の男が激昂する。 どうやら茶髪の男が指揮官のようであった。 「曲者だなどと、無礼な物言いはおやめ下さい! 私はザン共和王国王政部次期筆頭にして、勇者軍メインメンバー、 アーム王家のユイナ=カザミネ=ザン=アームです!」 あくまで柔和ながらも堂々たる振る舞いを崩さないユイナ姫。 「うるさい! 人が仕事をしている時に乱入して好き勝手暴れれば、 それがいつ、何時、誰であろうと曲者に決まっているだろうが!! この<レッグホース>の補給部隊に 手を出して、ただで済むと思うな!」 レッグホース。初めて聞く幹部である。この調子で増えていくなら、 少なくともあと一名か二名ぐらいは 出てきそうだとユイナ姫は内心思った。 が、そんな事を考えている間にレッグホースとやらはすぐ指示を出す。 「運転手! フロントガラス一枚の損害ぐらい構わん! ぶち抜け!」 「はっ!」 ばりぃん! 高い音と共にコンテナ車の フロントガラスが砕け、視界が良好になった。 そしてすぐにエンジンをかけ直し、発車した。 よく統制が取れている。レッグホース本人の指揮能力故だろう。 「よし、コンテナ車を行かせる! それまで奴を牽制しろ! 無茶をする必要は無い、負けなければ勝ちなのだ!」 その言葉に答え、一般兵集団が再度、ユイナ姫に射撃を加える。 さすがに回避は出来ても、それ以上の接近は厳しいものがある。 「チトセ、大丈夫!?」 「ひひぃん!」 被弾こそしていないものの、物量作戦にかなり怯んでいるチトセ。 「よし、いい牽制だ、続けろ!」 「このままじゃ……!」 ユイナ姫も大きく怯み、森の中へ身を隠そうとする。 「森の中へ逃げるぞ! 大火力火器を用意しろ!!」 「くっ……!」 ユイナ姫は森に逃げる事も出来ず、また回避に徹するしかなかった。 ばん! 「あうッ!?」 一発の銃弾が、ユイナ姫に命中する。 何とか持ち直すが、痛みがかなり厳しいレベルだ。 相当に大口径の銃弾を叩き込まれたらしい。 「見ろ、当たったぞ、このまま押し込め!!」 レッグホースの指示が飛ぶ。 「進退窮まったの……!?」 ユイナ姫が苦悶の表情でそう呟く。 しかし、そこで終わらないのが勇者軍である。 「建造物破砕砲、発射!!」 ぼんッ!! レイリアの狙撃型の対建造物用破砕銃砲が火を吹いた。 コンテナ車の後輪に命中し、たちまちコンテナ車が停止した。 「何だ、今のは!?」 状況が読めていないのか、レッグホースが露骨にうろたえる。 「後輪破損! スペアタイヤに切り替え準備!!」 兵士の怒号が飛ぶ。 「急げ!」 レッグホースが対応を取ろうとした時、更に呪文が連打で飛ぶ。 「フレイムキャノン! フリーズキャノン! プラズマキャノン!」 各種多彩な攻撃呪文が前輪、後輪問わず、破損させる。 ちゃっかり行きがけにウィザードナイトとなっていた リゼルによる呪文の猛連射である。遠距離戦になった時は、 魔術師の魔法も立派な攻撃手段となり得る。 「スペアタイヤへの切り替え不能、完全に動けません!」 もはや運転手の悲鳴としか言いようのない声が聞こえてくる。 「みんな!? 間に合ったんですね!?」 ユイナ姫の歓喜の表情も輝かしく、まず出てきたのはシエル。 「ヒールキャノン!」 治癒の魔法でたちまち、ユイナ姫の痛みが消える。 次いでライナス、ソニア、ジルベルト、 コンラッド、ジークの順に現れ、 兵士の群れへ突入し、たちまちその戦闘能力を奪っていく。 ユイナ姫単騎ならいざ知らず、所詮は補給部隊であった。 主力部隊の総員を相手にした時、その結果などたかが知れている。 最後に愛猫四匹を連れたエイリアが現れ、速やかに索敵しながら 未だに息の上がっているユイナ姫へと近寄る。 「大丈夫? よくもたせてくれたわ。作戦は成功よ」 「この子にも感謝しないといけませんね」 と、無事に役割を果たした黒ごまを撫でてやる。 「どうする? もう休んでおく?」 とのエイリアの問いに、ユイナ姫は首を振る。 「言い出したのは私です。故に、本作戦の幕引きも私が行います」 「よし、じゃあ行ってらっしゃい!」 「はい! チトセ、行きましょう!」 見れば、主力部隊のほとんどがレッグホースに当たっていた。 「ここまで足の速い騎兵を擁しているとはな。我が補給部隊の作戦を 失敗に陥れたこと、一応素直に誉めておいてやろう」 と、レッグホース。 「何が素直にだ! 素直にと言うなら、負けを認めて降伏しろ!」 ジークがレッグホースに反論する。 「自分達より戦力の劣る相手に何故降伏せねばならん! 同様にマクスフェル王国が降伏する道理など、何も無かった! お前達は一体、どうやってファリウス王を誑かしたのだ!?」 マクスフェル王国。ジルベルトより一世代前の 勇者軍が相手にした国家だが、幸か不幸か、 この場にそれを直接見聞きした者は誰もいなかった。 あるいはこの男、その関係者なのかもしれない。 「そんなモン、私達の知った事じゃないわよ!」 ソニアが拳で殴りかかるが、レッグホースはたやすくそれを避ける。 「逃げ足だけは超一流だな、くそッ!」 コンラッドも悪態をつく。 「避けて下さい!!」 後方から声。ジルベルト達はユイナ姫の意志と分かると、 すぐに散開する。直後、チトセによる突進が展開された。 「はああッ!!」 「うおッ!?」 がッ! 思い切りチトセに跳ね飛ばされた レッグホースは大きく転倒し、地を滑る。 類稀なる防御姿勢により、危うく難を逃れていたが、 何の処置も取らなければ良くて 病院送りだっただろう事は想像に難くない。 「ぐっ……これ以上の戦闘は……無益! 遺憾ながら我が補給部隊は補給物資を放棄し、 速やかに総員、戦闘区域から離脱せよ!!」 決断も早く、レッグホースと、その部下達は 負傷者もろともすばやく撤退したのだった。 足自慢が揃っているようである。 こうして補給阻止作戦はかろうじて成功したのだった。 「騎兵の面目躍如、出来たでしょうか?」 「充分よ……流石だわ」 と、素直にユイナ姫を誉めるソニア。 「おい、このコンテナ、馬鹿デカいと 思ったら、生け捕りの幼生体だぜ!」 コンラッドが叫ぶ。ジルベルトも驚いていた。 (本当だ……生け捕りにしてある。止められて良かった) 安堵した表情でジルベルトはユイナ姫の頭など撫でてやる。 (えらいえらい) そんな何気ないやり取りに、ユイナ姫は充足を感じるのであった。 しっかりと頬まで染めている辺り、やはり彼女も恋する乙女である。 「じゃ、ビーム・カーテン改が入るスペースを作りますので、 ライナスさん、ジークさん、周囲の木の伐採をお願いできます?」 「分かったよ」 「了解した!」 リゼルの提案に、ライナスとジークが従い、 そしてコンテナごと、生け捕りの死にかけスプレッダー幼生体は、 ビーム・カーテン改によって綺麗さっぱり除去された。 これで作戦は終了となった。 「思わぬ激戦でしたけど、何とかなりましたね」 と、今のところ日和見的に淡々と仕事を片付けるリゼル。 「いやはや、君もやってくれるよ。かなり助かったからね」 と、ライナスが誉めてやる。 「じゃあ、進路はレイクリッター・タウンのまま、行軍再開。 いいわね、お兄ちゃん?」 シエルが言うと、ジルベルトは頷いた。 再出発の緒戦は、やや無茶ではあるが、前途の見える勝利であった。 しかし、敵組織ウィルスユーザーズの全貌は未だ見えていない。 その事に、リゼルは一抹の不安を感じるのであった。 (いいなあ) そんな道中、ふとジルベルトはレイリアの銃を見つめた。 どうやら瞬間火力の高い、銃による攻撃が羨ましかったらしい。 「ん? 使ってみたいの?」 と、レイリア。 こくん、とジルベルトが頷くと、ソニアが笑って銃を差し出した。 口径こそ大きいが、単発のマグナム銃である。 「じゃあこれを使ってみるといいと思うよ。 お父さんの遺品なんだけど」 (いい。そんな大事なの、もらえない) と、首をふるふる。 「遠慮しないでいいの。お父さんも私に使って、 ってくれたんだけど、私は興味無かったから。 だから興味のある人に使ってみて欲しいな」 それは本心からだった。 (ありがとう) そしてジルベルトは丁寧に受け取り、早速試射してみる。 どんッ!! ちょっと遠くにあるものの、かなり大きい岩を 的に見立てて撃ってみた。 それはレイリアにもすぐ分かったが、狙いは大きく外れた。 と言うより、かなり酷い。的から6メートルも 下に着弾しているからだ。 どんどんどんどんどん! 五連射ほどしてみるが、一発としてまともに着弾していない。 「よ……よくそれで銃が持ちたいなんて 思ったね? 才能……無いよ?」 と、レイリア。 (頑張る) 珍しく強情にジルベルトが首を振る。 「頑張る、ってさ」 と、シエルによる翻訳も入った。 「が、頑張ってね……」 と、ソニアも冷や汗かいて言うしかなかったのであった。 ちょっと渡す相手を間違ったかもしれない、とは思ったが、 良いのか悪いのか、それがジルベルトの テレパスに読まれる事は無かった。 まあ、それはそれとして、そんなしょうもない事態が起こりつつも、 勇者軍は順調に行軍を続けていくのだった。 引き続き、目標はカレン家筆頭のいるであろう、 レイクリッター・タウンである。 <第六章-第二幕- へと続く>
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六花の勇者 色 出演者 備考 黄色 アドレット(声:斉藤壮馬) 水色 ナッシェタニア(声:日笠陽子) 緑色 フレミー(声:悠木碧)
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第十章-第四幕- 贖罪 第十章-第三幕- 第十章-第五幕- 勇者軍主力部隊は未だ戦闘中の外を放置し、 巣の中へと足を踏み入れる段階へ入ろうとしていた。 各々の救援に感謝しながら―― ごがぁぁぁぁぁぁぁぁん!! しかし、足を踏み入れようとした矢先、巣自体が大きく破壊された。 女王体が活発に活動を開始したのである。 巣の破片が飛び散り、いくらかの破片が 巣の土台の下へと落ちていく。 「うおおおッ!?」 もろに破片の直撃を受けたコンラッドが 大きくよろけるが、すぐに持ち直す。 「……っと、何だってんだ!」 いくらか不機嫌に破片を蹴飛ばすコンラッド。 しかし、目前にいた女王体の大きさに愕然とする。 成体と比較しても一回り以上巨大だった。 それが羽ばたき、空を飛んでいるのだ。 即座にリゼルは端末の解析機能で全長と重量を推測する。 「全長百二十メートル、八百トンクラス……!?」 しかもこんな巨大な生物が多脚の他に、羽根で飛行するというのだ。 まさに化け物という他無い異形である。 また、シルエットはどこか曲線的であり、滑らかさを感じさせた。 顔も十字口はともかくにしても、 禍々しさは成体よりもむしろ下回る。 しかしこれだけの巨体が飛行するのはそれだけで凶悪ではあった。 素早いとはいえ、あくまで陸上移動しか出来ない メカ・スプレッダーにあれほどの苦戦を強いられた事から、 空戦能力に致命的に欠ける勇者軍にとって、 大きな障害となるであろうことは想像に難くないのである。 ましてや素早く動かれる事においては 何をか云わんや、というべきか。 「スプレッダー女王体……!!」 ソニアが恐れを抱いて、呟いた。 あれだけの高所となると、気力でカバーするのも難しい。 高所恐怖症のソニアにはどだい、無理な話である。 「レイリア、叩き落とせ!!」 エイリアが素早く指示を出す。 「どこまで通じるか分からないけど、やってみるね!」 先程も使っていたビーム砲を持ち出したレイリア。 しかし、スプレッダーの女王体は意にも介さない。 「照準合わせ……照射!!」 じゅばっ! ビームが射出され、直撃するが、スプレッダー女王体は あまりダメージを受けていない様子であった。 が、痛いのは痛いらしく、癇に障った様子で、スプレッダー女王体は 初めて勇者軍主力部隊の方向を見るに至った。 今までは全体の戦況を見渡して 超音波で指揮を執っていたのだろう。 今になって致命的な距離まで 接近されたことに気付いたようだった。 怒り出し、尾殻の部分から酸を噴射し始めた。 「ひゃッ!?」 大慌てで勇者軍主力部隊全員が、 特にメイベルなど真っ先に退避する。 よほど、先程スカーレット・アーマーを 溶解させられたのがこたえたらしい。 その場に置いてこざるを得なかった ビーム砲は即座に溶解させられる。 「ひぇえ、危なかったー!」 もちろんビーム砲の間近にいたレイリアが一番怖い思いをした。 「くっ、どうする!?」 ライナスも手が届かない距離だ。直接攻撃出来る人員は限られた。 「せめて羽根……片方さえ破壊出来れば落ちてくるのに!」 リゼルも解析機とにらめっこを続けている。 「俺のマグマロックストライクも届きはしないか……」 テディの遠距離攻撃も通用しなさそうであった。 いきなり策が尽きかけていた。スプレッダー女王体は第二撃が 来ないのを見て、無視して指揮を続けるようであった。 しかし―― 「そんな事で諦めてる場合じゃないでしょう!?」 声がした。そちらの方を振り返ると、ドルカスが来ていた。 必死にスプレッダーの群れをかいくぐって来たのだろう、 ズタボロになっている。 「ドルカス! どうしてこんな所に来た!?」 テディが叱責する。怪我を見るに見かねたのだろう。 「スプレッダーがもたらす技術を 認めないのが惑星アースの総意なら、 私は商売に関わる人間として、それに対して必ず 贖罪する義務を負っているわ。だから来たのよ!」 すると、ドルカスは不自然に長い銃弾が 搭載されている狙撃砲を取り出した。 人間が持つには極端にバランスが悪い。 しかも砲弾は砲身からはみ出ている。 その上、砲弾自体に取っ手が付いているという不可解な代物だった。 「さあ、取っ手を掴むのよ!」 「何だ、これ?」 と、テディ。 「支援兵器のデリバリーランチャーよ。フックに腕を固定してから 人を運ぶ為に射出する狙撃砲。 通常は避難用とかに使う予定の新商品ね。 砲弾には通常パラシュートを付けて軟着陸させるんだけど、 勇者軍なら大丈夫だろうし、固定も不要でしょ? これであなた達を奴等の所へ運んであげる。羽根を折りなさい!」 「分かった! 任せる!」 と、テディが真っ先にフックを掴んだ。 「あ、待って! この狙撃砲はバランスが悪いから 誰か一人か二人ぐらい残って欲しいわ。お願い!」 「じゃああたしが残る!」 「私も!!」 狙撃自慢のレイリアと、高所恐怖症のソニアが立候補した。 (行ってきます!) ジルベルトとテディが第一陣として デリバリーランチャーの砲弾を掴む。 「行ってらっしゃい、ジルベルト君、テディ!!」 ソニアの声と共に、第一射。見事に着弾し、 わずかながら女王体が怯む。 上手く取り付いたようであった。 「さあ、ガンガン続けて行くわよ!」 と、意気込むドルカス。しかし―― 「私……先に行きます…… スカーレット・アーマーの仇……取ります」 メイベルはそれを無視し、コンラッドを連れて先に飛翔した。 「よし、じゃあ残りも行くわよ!」 仕切り直して下は盛り上がりを見せていた。 何故かきっちり付いてきていた四匹の愛猫達も騒いでいる。 一方上では、真っ先に到着した ジルベルト、テディ、メイベル、コンラッドの 四名が羽根を目指して移動を開始していた。 「ここは、奴のどの辺だ?」 コンラッドが位置関係を掴みかねていた。 「たぶん、背中の辺り。右か、左に行けば羽根に行くはず……」 と、メイベルが静かながらも覇気に満ちた声で答える。 「そか。なら急がないとな」 ずどん!! またデリバリーランチャーが近くに着弾した。 次にやってきたのはライナス、ラティシアの両名だった。 「うわわッ!?」 その際の振動で、危うくテディが落下しそうになる。 「危ないな……着弾に気を付けよう。全員で来る必要があるのか?」 ずどん!! テディが疑問を抱く間にも、また着弾。 更にエイリアとシルヴィアが到着した。 着弾するたびに揺れるので、下手に動くと落とされそうだった。 「……全員来るまで移動しない方がいいんじゃないか?」 と、到着したてのラティシアが言う。 その彼女自身は爪を立ててなんとか落ちずに済んでいた。 着弾箇所があまり良くなかったようである。 次いで器用な事に、ユイナ姫と愛馬チトセが到着した。 重量の問題で一組が限界のようである。 「って、馬で来るなよ!! 器用だなアンタは!」 即座にコンラッドがツッコむ。 「ええ? でもほら、ジークさんも」 続いてジークと愛馬エンテが到着した。 「ジーク=ルーンヴィッツァー、推参!!」 「ほら?」 「分かった、もういい……」 コンラッドはツッコむのを諦めた。 最後にシエルとリゼルが到着し、これで一通り揃った。 下ではソニア、レイリア、ドルカスが待機している状態となった。 「よし、いっそのこと両の羽根を破壊しようか。 下手な方向に不時着なんかされてもつまらないからな」 と、ジークが提案したのでそれに従う事にした。 右の羽根をジルベルト、エイリア、ジーク、 シエル、ラティシア、リゼルが、 左の羽根をユイナ姫、ライナス、テディ、 シルヴィア、コンラッド、メイベルが狙う。 右の羽根に到着したジルベルト率いるチームは、 素早く羽ばたく羽根を確認した。しかし厄介なのはここからだ。 これだけ巨大となると、破壊は容易ではないだろう。 「しゃーッ!!」 しかし考えるのが面倒だったのか、 ラティシアが先陣を切って突撃する。 びしッ! 「ひゃぁぁぁッ!?」 猛烈な回数の羽ばたきにより、 体重の軽いラティシアは傷を付けることさえままならず、 あっさりと弾かれて、なんとか爪を立てて落下を防いだ。 「一秒間に五百回以上は確実に羽ばたいてますね」 と、冷静に分析するリゼル。 「あれだけの質量を飛ばす羽根が、あれだけのスピードで動くんです。 直接攻撃はもとより、銃器による攻撃も恐らく不可能でしょう。 もっとも現実的なのは付け根を破壊する方法かと思います」 (リゼル君の魔法じゃ駄目?) ジルベルトが首をかしげて疑問を身体で表現する。 「おそらく、魔法も弾かれるかと思います」 (そうなのか……) ジルベルトがしょんぼりする。ストレンジバスターの終撃砲も 今は冷却中で使用が出来ない。 「今は終撃砲が使えなくても、通常砲撃は出来ないの?」 と、エイリア。 「それだ!!」 ジークも手を叩く。灯台下暗しとはこの事だ。 「行ってみよう、隊長! 砲撃をブチかまして来い!」 (うん) ジルベルトは付け根らしき箇所を確認し、そこに無造作に ストレンジバスターで斬りつけた。そのまま砲撃。 ばごん!! 一気に羽根の部分が焼け焦げ、 あっという間にその大半が崩れ落ちる。 まことにこの武器の暴力的さ加減たるや、 常識では測り知れなかった。 ばごん!! もう一射。もはや羽根の体裁は維持できていなかった。 一方、時を遡り、ユイナ姫のチームも、羽根の付け根を目視した。 「わ!?」 ちゅん、ばきゅん、ちゅぃん!! どうやら下からの援護射撃らしいが、 かなり無差別で乱暴なものだった。 メイベルが慌てて防御態勢に入ってしまう。 恐らくはレイリアとドルカスによるものだろう。 「これが付け根だね」 と、ライナス。 「さて、これだけ早く羽ばたかれると、わずかに俺の方が遅いかな」 ライナスは困り果てているようだった。自慢の疾風剣で スピードに任せて叩き斬るつもりだったのだろう。 「そりゃ!」 コンラッドの弓も、リールもまたたく間に弾かれ、無駄となった。 「メガブースター!!」 すると、シルヴィアの呪文がライナスを大きく強化した。 「おおっ、こりゃ有りがたい。やっぱりヒーラーがいると違うね」 と、少し余裕が出てきたのか、すぐ剣を抜いた。 「これならあの羽根を正確に狙えそうだ。行って来る!」 ぐらり! 「っと、大きく揺れたね。爆音もしたよ」 行こうとしたところで、ストレンジバスターの砲撃らしき音が聞こえて 大きく女王体の身体が一度揺れた。 「こりゃもたもたしてられないかな」 急いでライナスも付け根に接近し、自慢の剣を繰り出す。 「疾風剣!!」 ざしゅッ!! 予備に保存しておいた剣も持ち出して二刀流での疾風剣である。 これで付け根をボロボロに破壊されたメカ・スプレッダー。 ずどん!! その瞬間、さらにもう一撃、爆音が響いた。 見れば反対側の羽根もボロボロに崩れ落ちているのが見えた。 「落下するよ! 全員、防御姿勢!!」 ライナスの指示で、着陸姿勢を整えるべく、全員が女王体から離れた。 ずずぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!! 「きぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」 豪快な地響きと共に、両の羽根を 完全破壊されたスプレッダー女王体は けたたましい鳴き声と共に落下し、着陸した。 下にいたレイリア達は慌てはしたものの、避難するのに成功した。 しかし、スプレッダー女王体は その巨体に似合わず、即座に起き上がった。 そこへ主力部隊全員が着陸した。 スプレッダー女王体は指揮をやめて、怒りの矛先を探し始めた。 ドルカスの持っているデリバリーランチャーを認識し、 まずは怒りの矛先をそこに向けたようだった。 「ききゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」 デリバリーランチャーを捨てきれなかったドルカスに、 怒りの酸の嵐が吹きつけられようとしたその時―― 「マスター・ブレインフォックス!!」 聞き覚えのある電子合成音声が聞こえたと思った瞬間だった。 ごがん!! 原型をかろうじて留めているだけのはずだったメカ・スプレッダーが 突如として突入し、女王体に対して体当たりを行った。 「メカ・スプレッダー!」 ドルカスが驚愕の声をあげる。 「本機体の最優先行動目標はウィルスユーザーズ幹部の防衛、 本機体の最優先行動目標はウィルスユーザーズ幹部の防衛、 本機体の最優先行動目標はウィルスユーザーズ幹部の防衛……」 どうやら人工知能が創造主を守ろうとしたようである。 「もういいの! あなたは充分私のために戦ったじゃない! もう動かないでいいの! これ以上無茶しないで!!」 創造主故の愛情が、メカ・スプレッダーに向けられた。 これには勇者軍主力部隊も驚いた。 「ぎきゃぁぁぁあぁあぁああぁあぁああ!!」 女王体は怒りに任せて多脚で殴りつけ、酸を吹き付ける。 装甲がたちまち溶解していくが、 それでもメカ・スプレッダーは押し続ける。 「自爆カウント、十秒……九……八……七……六……」 「ドルカス、人工知能だとしても、奴はあんたが生み出した! その思いを無駄にしたくないなら、下がるんだ!!」 「メカ・スプレッダー!!」 テディが強引にドルカスを引っ張って下がらせる。 「五……四……三……二……一……ゼロ」 カッ!! ずどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんん!! 「メカ・スプレッダァァァァァァッ!!」 ドルカスの目から涙が零れるも、それは爆発によって見えなかった。 終撃砲の爆風にも勝る一撃が 残っていた巣の壁を容易く吹き飛ばした。 大きく離れていたため、主力部隊にはそれほどの被害は無かったが、 それでも巣の土台から落ちないように耐えるのが限界であった。 「あんなに苦労して作り出したのに……ッ! あの可能性と技術があれば、人類の未来さえ 変わると信じて、一緒にやって来たのに…… これが、私の贖罪だというのかしら……!!」 ドルカスが怒りと悲しみに身を震わせる。 「最初から間違っていたんだ。やはり今確信した。 だが、あんたの技術があんたを守ろうとした―― それまで間違いだったなんて、俺は思いたくない」 テディが泣き崩れるドルカスの方を振り向かずに言う。 「テディ……」 「俺も苦しんだし、あんたも苦しんだ。 他の勇者軍メンバーや一般市民だって、 ウィルスユーザーズの幹部達もみんな同じだ。 だからもう、誰も苦しまなくていい! こんなふざけた敵、俺達が潰してやる……!!」 「見て下さい、あれを!!」 リゼルが指差す先には、スプレッダー女王体のコアが見えた。 先程のメカ・スプレッダーの自爆によって肉体の一部が崩れ、 ようやく露出するに至ったものだ。これだけ巨大ならば、 勇者軍主力部隊の攻撃だけでは露出させるだけでも相当の危険を 伴ったであろう。全てはメカ・スプレッダーのおかげだった。 (いける……やれる……!!) ジルベルトの目が、不安から確信へと変わった。 がしゃこん! 遅れながらも、ようやく砲弾のリロードをする事が出来た。 ほぼ同時に、ストレンジバスターの安全装置が青く光る。 冷却が終了した証拠だった。 「最後の一撃をあのコアに叩き込みに行きましょう、ジル君!」 ユイナ姫が提案してきたので、即座に頷く。 スプレッダー女王体がダメージからいくらか立ち直り、 ようやく本格的な戦闘態勢に移ろうとしていた。 最終決戦は、終幕を迎えようとしていた―― <第十章-第五幕- へと続く>
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【参戦時の名前】脚本上の勇者 【参戦メンバー】補正が強い勇者 【説明】 【まず、ここで書かれる強さとは 「最強妄想キャラクター議論スレ上のランキングにおいて、上位に入ることができるか」を表している。 上位に入ったキャラほど強く、下位に入ったキャラほど弱い。】 あるキャラにおける強さを表現・記述する際、その強さによっては詳細を省く場合がある。 例えば「勝利する為に必要なあらゆる全てが書いてある」、という記述。 本来は勝利する為の攻撃力、防御力、素早さ、特殊能力…といった情報が事細かく書かれる筈だが、 それら全てを書くと人間には読み切れない程の膨大な量になってしまうのでこの様な書き方になっている。 圧倒的な強さを表現・記述するには曖昧に書かざるを得ないが、逆に言えば曖昧ながらも記述・表現することは可能、ということである。 一方、それをも上回る圧倒的な強さ故にあらゆる質・量の表現・記述 (表現できないほど強い、記述できないほど強い、表現・記述を超越している、なども含む) を持っても強さを表すのが不可能、というキャラもいる。 これに当てはまるキャラを仮に「記述不可能級」と呼ぶ。 記述不可能級のキャラは強さの表現・記述が可能なキャラより強く、 いかなる状況においても(別の記述不可能級キャラが介入しない限り)記述不可能級のキャラが勝利する。 では記述不可能級のキャラが複数いた場合、どうやってその強さに差異を付けるのか。 そもそも、妄想スレではキャラの強さを記述する必要がある。 記述不可能級キャラが参戦できるのは、そのキャラが記述不可能級である、ということを記述しているからである。 記述不可能な強さを、無理矢理記述している。逆に言うと参戦できる程度には記述が可能であり、「記述不可能性が低い」ということになる。 「記述不可能性が低い」キャラは「記述不可能性が高い」キャラには何をしても勝てないし、引き分けにすら持ち込めない。 ここで重要なのは、記述不可能性が低い者同士で優劣を付けても、記述不可能性は低いことには変わりない、ということ。 だが、記述不可能性が高いキャラは記述が完全に不可能であり、参戦する条件を満たせない。 以上に書かれた情報は、記述可能なあらゆるキャラ、もしくは記述不可能級のキャラでも変えることができない。 【名前】補正が強い勇者 【説明】 本人自体は記述不可能性が低い程度の強さであり、参戦可能である。が、以下の能力を持つ。 記述不可能性が同等の相手には、記述不可能性がより上回り勝利する。 記述不可能性が低い、もしくは強さが記述可能な相手には当然勝利する。 補正が強い勇者よりも記述不可能性が高い相手でも記述不可能性がより上回り勝利する。 これは相性による勝利ではなく、絶対的な強さ・能力差による勝利である。 この能力により以下の魔王を倒した。また、魔王よりどれだけ記述不可能性が高い相手でも勝利する。 この能力を使っても、あくまで「一時的に記述不可能性が高くなった」だけであり参戦できないということにはならず、 また参戦してることで能力が制限されることもない。 【長所】圧倒的に強い 【短所】脚本に文句が入る 【参考】 【名前】補正が弱い魔王 【説明】その強さ故に強さを記述することが不可能。記述不可能性が非常に高く、それ故に参戦する条件を満たせない。 【長所】圧倒的に強い 【短所】勇者より強かったはずなのに 85 : ◆rrvPPkQ0sA :2016/10/15(土) 00 13 35.27 ID n+2CDdEX 脚本上の勇者考察案 基本的には神と天使たちの上位互換に見えるが、上位狙いのキャラこそかなり厳しく考察する。 vs神と天使たち 脚本上の勇者サイドのテンプレにある「記述不可能性が低い」状態を、記述不可能性1とすると 絶対的な強さ=記述不可能性1。 記述不可能性が1より大きいキャラは参戦不能とみなす。 記述不可能性が低い者同士で優劣を付けても、記述不可能性は低いことには変わりない ので、第絶対数の天使も記述不可能性1。 絶対神クラウンは絶対的な強さが必要ない程度の強さであるが、参戦可能な時点で記述不可能性1。 補正が強い勇者は記述不可能性1だが、記述不可能性∞までの相手なら自らの記述不可能性を上昇させることで倒せる能力を持つ。おそらく任意発動。 記述不可能性1同士の対決を考えると、初期状態では能力未発動なので、 第1の天使=補正が強い勇者<第2の天使<第3の天使……<第絶対数の天使<絶対神クラウンという強さ序列。 天使たちでさえ、クラウンの勝利を妨害する事は出来ない。 クラウンに攻撃することは無効化されるが、自らの記述不可能性を高める能力は無効化されないだろう。 能力発動、自分の記述不可能性を高めて勝利する。 ……勝利したあと、参戦するために記述不可能性を1に戻す必要があるのでは? そして1に戻したらまた絶対神クラウンに敗北するように思える。 記述不可能性が上がってる状態で勝敗の固定か対戦相手の破壊でもしてたらまた別だったんだが…… 或いは記述不可能性を上げる以外の行動パターンがあれば…… 神と天使たち○ー×脚本上の勇者 86 : ◆rrvPPkQ0sA :2016/10/15(土) 00 14 08.31 ID n+2CDdEX vs赤き稲妻 「記述できてしまう程度の強さ」⊇「(真の意味での)考察人に認めてもらわなければいけない程度の強さ」の理論により問題なく勝てるはずの相手。 そもそも、妄想スレではキャラの強さを記述する必要がある。 これにより、再び脚本上の勇者は参戦できる程度に記述が必要なキャラということになる。 だが記述不可能級のキャラには記述可能級のキャラでは勝利できないことが記述不可能級を越える強度で書かれているので、 補正が弱い魔王を倒すことができない赤き稲妻ではこの事実を覆せない。 脚本上の勇者○ー×赤き稲妻 vs最強スレ原器 脚本上の勇者のテンプレでは記述が必要ない強さについての記述がない。 その気になれば記述できるかもわからない以上、最強スレ原器も記述不可能性Iとみなしてよいのではないか。 するとvs神と天使たちの時と同じ理屈で対戦することになる。素のスペックは同レベルとみなして 脚本上の勇者△ー△最強スレ原器 vsサイキョー サイキョーの考察はどうも記述の優先度で対決するようなので、記述不可能級でも覆せない優先度を持つ脚本上の勇者の勝ち 脚本上の勇者○ー×サイキョー FEUD OVER THE WALL OF MULTIPLE TOP CLASS以下は記述可能なレベルの強さなので勝てる。 87 : ◆rrvPPkQ0sA :2016/10/15(土) 00 22 58.47 ID n+2CDdEX 脚本上の勇者の新規性は、参戦不可能な魔王を噛ませ犬にしたところにあるといえる。 一方でテンプレ超越の壁以上が記述の超越性を競うだけでなくいろんなキャラが出てくるようにまたキャラを投下しようと思う。 神と天使たち>脚本上の勇者>赤き稲妻、だと思うんだが他の人の承認を得てから正式な考察としたい。 88 : ◆JQVmYGE23Y :2016/10/15(土) 09 55 29.47 ID HLDRRKVP 特に異議なし 問題ないと思われる
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第二十四章-第三幕- フレキシブル・セレクト 第二十四章-第二幕- 第二十五章-第一幕- 勇者軍はエリック=ルストの合流を待ちつつ、 市街地の外である妖精の森内部にて 魔神軍を迎撃する構えを整えていた。 途中何か折衝でもしていたのだろうか、 随分と遅れてやってきた彼等ではあるが、 その分、万全の態勢を整えて、勇者軍に指揮権委譲を迫ってきた。 「貴様等! 今がどういう時か分かっているのか! イグジスターと戦うべきだろうが!」 ロバートが珍しく、至極もっともな正論を吐くと、 苦々しげな顔でレイビーは吐き捨てる。 「至極もっとも! だがなまじ自衛組織面した諸君等が 中途半端に味方を操ってるようでは、かえって危うい! 我等魔神軍の下に、人類の士気を一つに纏めさせてもらう!」 「軍というものはそれが私設であろうが国有であろうが、 シビリアンコントロールの枠から外れてちゃいけねぇんだ! 貴様等は、俺等が知っている事に気付いちゃいねぇぞ! 勇者軍も魔神軍も、最大のエゴイスト集団だということをな!」 「そうだというなら強権の一つも発動して反対意見をねじ伏せろ! そうでもせねば、イグジスターに対しての勝利などあり得ん!」 レイビーとロバートの口論と攻撃が交わる。 他の者は予備役兵卒を薙ぎ散らしているが、 やはりそこらの国の兵士などものともしない個人能力に さすがの勇者軍も手こずらざるを得ない。 「まずはウォルフ王子、君の資質を見せてもらうとしよう!」 レイビーは距離を置いて、魔法を展開し始めた。 「……なまじの魔法など、君達には通じないかもしれん。 ならば、一手、策を練らせてもらう事とする!」 そう言って、今思いつきで始めたように、魔法の構成を練り直す。 「ぶっつけだ。アトランダムチェイサー!!」 そこそこの威力はあると見込まれる魔力弾がたくさん放出された。 てんでんばらばらの速度と属性の魔力弾が野放図に動き回る。 軌道が出鱈目過ぎて、まったく読めるものではない。 「うわわッ!」 慌ててガードするも、直撃は免れない。 ウォルフ王子は結構なダメージを受けている。 だがランダムに放たれた魔力弾はその無軌道さ故に、 味方や、自分にも当たりまくっており、戦場は混乱を極めた。 「確かに命中したか……だが、味方への被害も出たようだな」 レイビーは一人、呟く。 「ほう、面白い技を使う。だが、そこへ俺が出れば、どうなる!?」 「おっさん!?」 エリック=ルストの登場にロバートが驚く。 「ちょうどいいぜ!」 「まあそうだろう。だが、来たのは俺だけではないようだ。 出て来い! 見えているぞ、イグジスター!!」 「きーっ!」 甲高い声をあげ、通常のイグジスターと、妖精族が一匹姿を見せる。 妖精族に擬態したイグジスターなのだろう。希少生物カーバンクルに 擬態した、イグジスター五滅将とやらなのだと、即座に理解した。 「戦術変更! これより我々は勇者軍と共闘し、 この場のイグジスターを悉く殲滅する!」 レイビーは即座に戦術判断を下し、他の者も応ずる! 「いいね、その柔軟さ! フレキシブルだ!」 「ふ、これこそがこのレイビー=ショルダーズの持ち味でな。 乗ってもらうぞ、ストレンジャー!!」 静かに笑うと、ロバートの背中を叩くレイビー。 「争う宿命強いられて! それを望まぬ時あらば! 肝心要を見極めて! 共に決めるぜ共同戦!! 合力反逆ストレンジャー! ここで負けはあり得ねぇだろ!」 息が合ってきたのか、見事にノッてみせるロバート。 「さて、では妖精族の端くれとして、貴様の相手は俺がする!」 「きーっ!」 雑魚のイグジスターを他に任せて、エリックは一人、 カーバンクル・イグジスターに向かって駆ける。 擬態イグジスターもいくらかいるが、 合力した勇者軍と魔神軍の前では いかほどという程度でもない数しかおらず、勝機ばかりが見えた。 「きーっ!」 カーバンクル・イグジスターは 額に嵌まっている宝石のような発振体から 高出力のレーザーで正確に狙撃してくるが、エリックもまた本気だ。 「ニノンの翼! その真の力を顕現しろ!」 遂に解放された八枚翼モードが、エリックに飛行を可能とさせる。 ひらりと回避すると、凄まじいスピードで敵に迫る。 「ダークバスター!」 魔法で牽制しつつ、更に急接近。 「ふん!」 杖で猛打撃を加え、一気に急速離脱。 いかに通常のイグジスターとはかけ離れた存在とはいえ、 所詮大元にした素材がカーバンクルでは、 今のエリックには赤子同然の敵でしかなかった。 惜しむらくは積極的な攻撃性能を持っていないクラスのせいで、 どことなく決め手に欠けている事だが。 「きーっ! きーっ!」 杖で打ち据えられ、腹を立てたのか、 カーバンクル・イグジスターはレーザーを更に撃つ。 「ぬっ!?」 今度はショット・レーザーだ。 拡散した光線がランダムにばら撒かれる。 「いくら拡散しても、そう狙いが雑ではな!」 エリックは急上昇し、一気に狙いから逃れる。 「ローザ、とどめだけでも頼むぞ!」 「おう! 分かった、おっさん!」 ローザがハンマーを抱え、エリックの支援に回る。 その後方から少数のイグジスターが迫っている。 「後ろを見ろ、ローザ、危ないぞ!」 ヴァジェスの声も聞いておらず、ローザはひたすら前進、 エリック一人に気を取られている カーバンクル・イグジスターに接近した。 「ひっさぁぁぁぁぁつ!」 ローザがハンマーを振りかぶる。 「メトロノームスタンプ!!」 ずがん! 景気の良い音を立て、 カーバンクル・イグジスターにハンマーがめり込む。 「っつぇぇぇぇぇい!!」 ローザはハンマーを持ち上げ、振り上げてそのまま後ろへ叩き込む。 ごごん! また景気の良い音を立て、後方のイグジスターにヒットした。 「二往復目だ!」 ずごん! どごん! カーバンクル・イグジスターに再度直撃し、 その後後ろの雑魚にも当てる。前後両方を完全フォロー。 見た目に反して合理的な技であった。 もっとも、ローザのパワーがあって初めて可能でもあるのだが。 「三往復目! テンポ上げてくぞオラぁ!」 乱暴な振り下ろしと振り上げを前後に繰り返し、 ローザは迫るイグジスターと、カーバンクル・イグジスターを ひたすら交互に叩きまくった。はっきり言ってやり過ぎである。 十五往復分も叩いた頃には、彼女の周辺には何も残っていなかった。 それだけ叩けば当たり前である。ついでに地面も陥没している。 「ふぅ。杭打ちするバイトとか無ぇかな? おっさん」 「……杭が割れるぞ」 ハイタッチしながら、すべからく間抜けなやり取りをする。 その後、レイビー達魔神軍の活躍もあって撃退はすぐに終わったが、 擬態イグジスターの攻撃で何名かが負傷を負っているようだった。 「さあ、どうする、レイビーさんよ」 「そっちは戦力増、こっちは手負い付きだ。言うまでもない。 まずは退かせてもらう。次に会う時までに、状況か、 あるいは諸君等の意見か、どちらかが変わるのを望んでいるぞ…… 全軍、撤退! 一度、ノーラにも合流するように通達するぞ!」 「はっ!」 凄まじい手際の良さで一時撤退していく魔神軍。 「行っちゃいましたねー」 エナがぼんやりと呟く。 「で、俺が合流出来たわけだが、これからどうするつもりだ?」 ロバートに今後の方針を問うエリック。 「そうだな。まずはグラード・シティ行きだろうぜ。 あそこはかなり厄介なレベルで追い詰められてるって聞いてる。 前も一度制圧されたはずだし、あそこは防備がいまいちだろ。 兵器群の製造まで時間もかかるし、いっちょ雑魚潰しといくか」 「運良くイグジスター五滅将とかいうのに出会えれば、 潰して敵の指揮系統も乱せるかもしれないし、だな?」 ヴァジェスがきっちり真意を読んでくる。 「まあそういうところだ。そう都合良くいくとも限らねぇが、 仮にイグジスターが魔神軍か何かに撃退されてたとしたところで、 エナの力が怪我人の治療にぐらいは役に立つだろ?」 「はい、私、頑張ります!」 ニコニコ笑って、上機嫌にエナが答える。 よっぽど服を修繕してもらったのが嬉しかったのか、 もしくはあの過激な服を着なくていいのが嬉しかったのか、と 勝手にロバートは解釈して、黙って歩み始めた。 だが、本当の苦戦はここから始まる事を、 勇者軍も、魔神軍も、誰も知らない。 <第二十五章-第一幕- へ続く>
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勇者の剣 HP:http //members.jcom.home.ne.jp/wajutushi/ +スクリーンショット ゲーム内容の説明 関連作品 作品名 登録タグ 2D格闘ツクール2nd(フリーウェア) 最終更新日時 2011-08-16 22 54 17 (Tue)
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必殺勇者ファイア レア 火 3 1000 ヒューマノイド ■パワースラッガー+3000(このクリーチャーがアタックするとき、次の自分のターンのはじめまでこのクリーチャーのパワーは+3000される) (F)ホノオ!俺も行くぜ!−必殺勇者ファイア 作者:アポロヌス 代理作成:まじまん 新能力パワースラッガー。ターンの初めまでパワーアップ。パワーアタッカーと比べて、殴り返しを受けづらい、複数回殴ればその分パワーが上がるなど利点は多いですが、パワー上昇値が2000くらい低くなっています。 評価
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当番:ユキ やる気と言うものが見られない勇者一行と呆れ果てる魔王のやり取り、さあどうなるのでしょうか? ヴォル:気を取り直して…悪の化身魔王!俺はお前を… アル:お前に倒されに来たんだ!(腹話術的に) 魔漆:俺はただ観察しに来たんだZE ミド:じゃ…俺と勝負だww 勇者を放置し暴走しだす仲間達、呆れた魔王が呪文を唱えて攻撃します セプ:馬鹿が…そこで寝てろよ ヴォル:ぎゃああ!?盾にするなよっ! 魔漆:よっと♪ アル:痛くないよw ミド:甘いな! 勇者を盾にした二人と術に強い白魔術師はけろりと平気でした 友人の剣士はすかさず切り掛かります セプ:くっ ミド:これぐらいじゃまだ駄目かw 振り翳した剣は魔王に少し掠った程度でした それを見た勇者はすかさず飛び出して行きました。 ヴォル:必殺!連ww セプ:甘いわ! 繰り出される連撃を軽々躱し、魔王は月光を叩き込んだのです ヴォル:ちょ…! セプ:俺を倒そうなんて百年早いな! ミド:忘れてもらっちゃ困るなw 倒れ伏す勇者を放置し、背後からミドが魔王に攻撃を仕掛けたのです。 残りの二人はそんな中シートを広げティータイムを楽しんでいました ヴォル:回復しろよっww アル:仕方ないなぁ~、ほいw(リザレクション) ヴォル:ありが…ぎゃああ!? セプ:… アル:ほいw ヴォル:あり…ぎゃああ!? セプ:♪ アル:ほいw ヴォル:せめて泥盾ぐらい…ぎゃあ!? こんな調子で魔王を倒せるのか!?魔王を倒すのはミドなのか!ダークホース魔漆なのか!勇者は果たして倒す事出来るのか!
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第二十八章-第一幕- 轟然たる竜騎士 第二十七章-第三幕- 第二十八章-第二幕- 勇者軍主力部隊は、ギース、ゼクウの二人を迎え、 更にマクスフェル・シティ防衛線の最中に イシュタリア=リヴァイアサンを招き入れて、 そのままアイリーン・マフィア直行へのルートを取った。 「おーす! メイベル、いるか!?」 豪快にコンラッドがアイリーン・マフィア本部施設のドアを 開け放って、メイベルを呼ぶ。 がちゃん、がちゃん。 相変わらずの重装鎧、スカーレット・アーマーに 身を包んだメイベルが、頭に猫のあんみつを乗せてやってきた。 「お、すっかり戦闘態勢だな?」 「うん、コンラッド君……エルリック君は元気?」 かなり長い説得の末に、ようやく事情を了承したメイベルは、 一応コンラッドの養子であるエルリックをも気遣ってやる。 「おう。立つにはもうちょい時間がいるがな、まあ元気だ。 それより、これまでの経緯はちゃんと聞いているか?」 「うん……ヴェール・シティの壊滅……FSノア49の蹂躙…… ジルベルト兄様の成長……そしてザン共和王国民政部の妨害…… どれもこれも、ちゃんと報告で聞いてる……」 メイベルは鎌を持って、気合を入れる。 「だから、今は戦う……負けるわけにはいかないもの」 「よし、行くぞ!」 メイベルを連れて、コンラッドはマフィア本部施設を出た。 そして、外で待っていた主力部隊に合流する。 「あの……先程手紙を預かりました」 メイベルは、シルヴィアに手紙を渡した。 「私にですか? たぶん母さんからだと思いますけど」 手紙の送り主を当てられ、メイベルはびっくりする。 「なんで分かったんですか?」 「なんとなくです」 「はあ……」 話があんまり噛み合っていないが、納得する他無かった。 『ミームがもうすぐ調整終了しますので、出来たら送ります』 とだけ書いてあったが、それは最重要事項と呼べるものだった。 それを確認次第、出立する勇者軍だったが、 一通りの戦力が揃った以上、当座の作戦目標が無くなったことになる。 「どうする?」 ソニアとシエルがジルベルトに訊くと、ジルベルトは考え込む。 そして、彼なりに一つの結論を出した。 (一旦、船に戻ってFSノア49が出てくるのを待つのー。 どこの大陸に出てきても、即時対応出来るのー) 「となると、近くの陸地に接岸させる必要があるな。呼ぶか」 コンラッドが慌てて、レッド・ワイズマンMk-Ⅱを呼ぶ。 その後ろで船酔いに弱いユイナ姫がひとりため息をついていた。 前の戦役の最終決戦場であった アルヘイ島の近くに接岸するというので、 とりあえずはそこを目指して移動することにしたのであった。 だが、百歩も歩かないうちに、事態は急変した。 リゼルの端末が突然、警報をあげ始めたのだ。 「生命反応、二つ! 直上です、回避を!!」 リゼルの警告を聞くまでもなく、 警報の時点で全員回避行動に移っていた。 「ぐぎゃぁおぉぉぉぉぉぉ!」 竜の咆哮だ。ブレスとは違う、ただの絶叫である。 そのあまりの声量に、思わず全員が耳を塞いだ。 「な、何なのだ……?」 立ち直ったジークが見ると、そこには見慣れない竜に乗った 仁王立ちの男がいた。どうやら風変わりなドラゴンナイトらしい。 「悪いが、もう一、二手ほど妨害工作を打たせてもらうぞ、 勇者軍主力部隊の諸君。私が何者か、もう分かるだろう……? そう、私がヴェルファイア=ブレッドである」 ザン共和王国民政部の筆頭にして首相のお出ましだった。 「頼りの無い部下に愛想が尽きて自らご出陣か? ご苦労な事だな、ヴェルファイア!!」 ヴァジェスが凄んでみせるが、いささかも動じていない。 「ふ、戦い慣れない異能者相手は興味深かったろう? 威勢の割には、随分と苦戦してきたと見える」 「何だと!?」 テディが怒鳴るが、ライナスが制止する。 「事実だ。随分と厄介だったよ。痛い目も見させてもらった。 おかげさまで自分達の慢心が消え失せたさ」 「だろうな。だがまだだ。我が孫娘程度に苦戦しておいて、 なお、その慢心が残っているなら、それを砕かせてもらおう」 ヴェルファイアは仁王立ちのまま、 目だけで主力部隊を睨み据えた。 それを合図と感じたのか、乗っているドラゴンが戦闘態勢に入った。 「レックスドラゴンの『コモド』が諸君等の相手をしよう。 手加減は必要無い。思うようにやれ、コモド」 レックスドラゴン―― 四足歩行に特化した竜で、豪快な俊足と、 猛烈なジャンプ力を糧に移動する、ほぼ飛行は不可能な竜である。 だが、それだけに四肢のパワーは強大で、 下手に飛行可能なドラゴンより厄介な場合がある。 そのレックスドラゴンの『コモド』が突進を開始する。 「うわわッ!!」 流石にまともに組み付かれてはたまらない。 メイベルとジルベルト以外の全員が回避に移った。 回避しなかったメイベルは真っ向から受け止める。 「ひゃっ!」 大きく跳ね飛ばされこそしたものの、転倒することなく、 かろうじて受け流す事が可能であった。 コモドが走った後の地面には生々しい足跡と爪跡が 刻み込まれており、そのパワーを感じさせた。 「なんてパワーなの……! まともに受けたら 私等ごときじゃ、無事じゃあいられないわね……!」 最初から空中に退避していたセシリアが呟く。 「うにゃぁぁぁ!」 流石に明確な不利を悟ってか、猫達は大きく退避する。 「騎兵も不利だ! 逃げとけ!!」 コンラッドの指示で、騎兵も全員退却する。 この状況では、空中戦が出来るか、 あるいは小回りの利く者でなければ 相手の仕様が無いほどの脅威であった。 「避けろ、ヴァジェスーっ!」 突然、テディが凄い声量で叫んだ。 手を出しあぐねていたヴァジェスに向かって、 コモドは土塊を掬って投げつけてきた。 「うおッ!?」 飛行していないドラグーン形態のヴァジェスだったが、 その襟首をイシターが引っつかんで、どうにか回避した。 「すまん、イシター! 今のは割と本気で助かった!」 「遠近問わず凶暴ですね……無事で何よりです」 「負傷を恐れるな! 俺達にはこれがある! 聖杯ライブチャージャーの力を支えにしろ!!」 テディが聖杯ライブチャージャーの存在を示す。 「おう!」 ゼクウやギース、ライナスやソニアが真っ向から勝負に入る。 敵の攻撃はある程度メイベルが受け流してくれるので、 多少は損害も抑える事が出来た。 だが、他の竜族とは一線を画する陸上用に特化した 凶暴さや強力さが、次々と勇者軍にダメージを与える。 素早く、実にタフで、しかもパワーがあり、隙も少ない。 トータルバランスに優れた非常に厄介な相手だった。 しかも、上のヴェルファイアはただ立っているだけなのだ。 彼まで攻撃に加わったら勝てる保証は無い。 いい加減ザン共和王国民政部との決着を付けたい勇者軍にとっては、 この戦いは退けない戦になりつつあった―― <第二十八章-第二幕-へ続く>
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第二十五章-第三幕- 特攻と退却戦 第二十五章-第二幕- 第二十六章-第一幕- 勇者軍は引き続きグラード・シティでノーラから 魔神軍についての情報を聞き出し、あらかた必要な要素は揃った。 対策はおいおい立てるつもりでいたが、 そんな折、三十万ものイグジスターの大軍が、 超強力は反応を見せる一体の水中型イグジスターと共に迫る。 「反応は三十万か……不利とかそんな次元じゃないな。 いくら勇者軍が少数精鋭とはいえ、この小勢じゃ 守れるものも守れやしねぇかもしれねぇな」 ロバートは意外に、戦況を冷静に見て呟く。 「あのぅ、いいですかね?」 ノーラが申し訳無さそうに申し出てくる。 「なんだ?」 「ロバート=ストレンジャー隊長ですよね? 私から、作戦のプランを具申したいんですけど」 「プランを?」 「はい。ロバートさんが言った通り、 三十万相手に真っ向するような戦力は、勇者軍にも 私にも、もちろんこの都市にもありませんね。 なので、非戦闘員をさっさと逃がして、 粘れるだけ粘りつつ、指揮官と思われる 特殊イグジスターだけを徹底的に狙い討ちます。 そうすれば敵の指揮系統が乱れると思いますので、 私達も何とかその間に脱出したいと思うんですけど」 「四の五の言ってる場合じゃ無さそうだしな。手伝えよ?」 「はい。とにかくまずは非戦闘員を逃がしましょう」 ノーラから直接、官庁に連絡が行き、警報を聞いていた市民も、 改めて誘導されるまでもなく、さっさと逃げていく。 凄まじい手際の良さである。 余程この脅威に慣れてしまっているのだろう。 それはそれで、非常に哀れでもあった。 「来るぞ!」 ヴァジェスが呼びかけると同時に、 イグジスターの大軍が突っ込んでくる。 「多少市街地を破壊しても構わん! とにかく近付けるな!」 ロバートの指示が飛ぶや否や、 ヴァジェスやエナが広域攻撃を開始する。 しかし兎に角数が多すぎる。広域攻撃の手数が足りない。 「ちいいッ! 指揮官はどこだ!」 エリックがうろちょろと空中から指揮官を探す。 「しゃあああッ!!」 すると、突然背後から人魚のようなイグジスターが姿を見せ、 なんと空中を飛来してきた。エリックに突撃する。 「うごっ!」 腹に頭突きを当てられたエリックは無様に落下するが、 態勢を整えて何とか着地する。 「マー……メイド!?」 エリックは回避しつつ姿を確認するが、マーメイドではない。 同じ亜人族だが、セイレーンと呼ばれる種だ。 頭に翼のようなものがついており、それで飛行している。 地上での動きは不自由なのか、着地しようとしない。 「イグジスター五滅将、セイレーン・イグジスターよ。 残念だけど、ここで終わりにさせてもらう。 三十万ものイグジスターに対抗する術は、あなた達には、無い」 いきなり本気モードなのか、 セイレーン・イグジスターが魔力を高める。 「葬送曲・氷山の中の沈没船」 いきなり歌を歌い出す。 「ぬおおッ!? 何だ、この気持ち悪さは……気分が沈む!」 「怖い……怖い!」 早速ウォルフ王子とエナが呻き出す。 どうやら過剰な沈静効果をもたらす歌のようだ。 この歌で動きを止めて、他のイグジスターに 食わせようというのだろう。 「うおおおおッ! イシターッ! 俺は……!」 トラウマを刺激されているのか、 妻イシターに無意識にすがるヴァジェス。 「なんだってんだよ……クソが!」 「ぬうう……ロフ……俺は負けんぞ!」 必死に虚勢を張るローザとエリック。 部外者の戦闘要員も似たり寄ったりの状況となり、 実力の低い者から、さっそく捕食されたりしている。 だが、二人だけ例外がいた。 ロバートと、ノーラである。 「俺のトラウマ抉った程度で 勝てると思ってんのか……馬鹿にすんな!」 ロバートの逆鱗に触れてしまったのだ。 ノーラもまた、その決定的な楽天的性格によって難を逃れていた。 「ロバートさん、まずは一手打ちます、その間に!」 ノーラは魔法を構成し、即座に放つ。 「極大魔法! ザ・レッドカーペットぉ!!」 ノーラの手により、炎の絨毯が一直線に敷かれる。 彼女オリジナルの最大奥義である。 その熱量は飛んでいるセイレーン・イグジスターにも届き、 敵は大打撃を受けて落下する。 落下に気付いた時にはもう遅い、ロバートは眼前だ。 「封神封魔流最終究極奥義!!」 ロバートの目が光る。どうせこいつだけ倒せば後は逃げるだけだ。 魔力の温存など考える必要は無い、と考えたのである。 「惑星! 両断けぇぇぇん!!」 ズバン!! 千以上ものイグジスターを巻き添えにし、たった一撃で セイレーン・イグジスターは海の藻屑でなく、 陸の生ゴミ以下の何かと化した。 「ひああ!」 その衝撃だけでゴロゴロ転がるノーラ。 慌てて立ち上がると、すぐに呪文詠唱に入った。 「マスターレジスト!」 一気に混乱から友軍を引き戻す。 「ロバートさんがやりました! すぐに逃げましょう!」 指揮系統を失い、正気に戻る友軍とは裏腹に、 イグジスター達は一気に混乱し始める。 逃げるなら今しかない。敵が我を戻せば勝ち目は薄い。 「すみません、混乱して……お叱りは後で! 総員、撤退! 任意にこの地点から撤退せよ! 既に大勢が捕食されている! これ以上の犠牲は避けよ!」 ウォルフ王子の指示通り、今の間だけでも、結構な戦闘要員が 捕食されたり、擬態イグジスターから 攻撃されて負傷したりしている。 それでも逃げなければもれなく全滅だ。 それは避けるべき愚答である。 うろちょろするイグジスターを 斬り散らしつつ、勇者軍は敗走する。 話が通じる相手なら、指揮官を潰して 和平交渉も可能であろうが、 相手はイグジスター。そんな余地はどこにもない。 「あれ? ノーラどうした!?」 ローザがキョロキョロしてローザの姿を探す。 「さっき、あっち方向に逃げていったみたいだぞ!」 エリックがフォローする。勇者軍が逃げる方向とはだいぶ違う。 共闘する意思はあっても、 出向する気まではない、というところだろうか。 「どうせ無事だ、構うな! それより自分達の安全確保だ!」 ヴァジェスの指示に従い、一斉にグラード・シティより脱出。 完全制圧されたグラード・シティに人は残っていないにも関わらず、 イグジスター達はそれでも貪りつくすために街の中を捜索し続けた。 「おい、ウォルフ! とりあえずこれからどうするよ!」 「とにかく集められる戦力を集めましょう! 現在地上での最大の兵器建造拠点があるヴェール・シティ! そこへ向かって、更に非人道兵器の投入を要請しないと! たとえば、エリミノイドのような!」 「喋りながら逃げるのは器用ですけど、後にして下さい! 余計なことに体力を使うと、追いつかれちゃいますよ……!」 息を荒げながら、エナが珍しくツッコミに回る。 よほど追いかけられるプレッシャーに弱いのかもしれない。 「分かっとるわ! 急ぐぞ!」 ロバートはぼやきながらも、とにかく走った。 混乱から解けた後のイグジスターに察知されれば、本当に後が無い。 今は、ひたすら走るのみの勇者軍であった。 <第二十六章-第一幕- へ続く>