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551 名前:名無しさん@お腹いっぱい。:2012/10/03(水) 13 44 22.59 ID J4TTTUWEP きりりんの京介の起こし方は妹婚してもやはり馬乗りなのだろうか? 「おはよ。京介」 「・・・おはよう桐乃。てかさ、いい加減この起こし方やめね?」 「なんで?」 「いや、なんつーか、こう、男は朝は色々大変でしてね?」 「ふーん・・・それって、これ?」グリグリ 「はう!?ちょ、やめろって!」 こんな感じで朝からいちゃいちゃしてればいいと思います 593 名前:551:2012/10/04(木) 00 14 22.87 ID lMvZfLwvP 551の続きとしてはこんなのを想像してたわけですがw 桐乃「うりうりw」グリグリ 京介「ひぃ!?だからへそをいじくるのはやめろ! 毎度毎度子供の頃みたいな悪戯しやがって!」 桐乃「へそ出したまま寝坊してるあんたが悪い。 せっかく作ったご飯が冷めちゃうでしょ!」コチョコチョ 京介「ひいいい!くすぐったい!悪かった!悪かったからやめてくれ!!腹がよじれる!」 桐乃「もう寝坊しない?」 京介「しないしない!」 桐乃「本当?」 京介「本当だって!」 桐乃「・・・しかたないなあ」スッ 京介「はー、はー、朝から余計な体力使っちまったぜ・・・(グッタリ) ・・・・・・あのぅ、桐乃さん?何でまだ降りてくれないので?」 桐乃「・・・ちゅー」 京介「は?」 桐乃「もう絶対に寝坊しないって誓いのちゅーしてくれたら、降りたげる」 京介「・・・しかたねえな。寝坊しちまった俺が悪いんだしな」 桐乃「そう。あんたが悪いんだから――」 京・桐(チュッ) 京介「――ほら、朝飯にしようぜ。俺腹減っちまった」 桐乃「だめ。もう一回」 京介「・・・・・・飯、冷めちまうぞ」 桐乃「もう冷めちゃったし。ちょっと遅くなったって一緒でしょ」 京介「・・・・・・それもそうか」 ・・・・・・もう一日中ちゅっちゅしてればいいんじゃないかなって書きながら思ってしまったw ----------
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大好きな人を想って ◆XUXOJJW/Zg 「うぇ……うぇぇ……あぁ……あぁあぁあああ!!」 暗い暗い夜の街の中で、一人の少女が肩を抱きながら、泣いていた。 執事服を完璧に着こなし、一見男の子に見えそうな少女は目を虚ろにさせながら。 耐えようとしても、耐え切れない身体中からわいて来るどうしようもない嫌悪感に、身体をただ振るさせて。 「どうして……ボクは……ボクは……ジロー……ぅ」 ただ、恋して、大好きになった人の名前を少女――――近衛スバルは呼んでいた。 どうしてこんな事になったのだろうと自問しても、答えなんて帰ってくる訳が無い。 訳も解からないまま、混乱していく中で、頭に響き続けるのは怨嗟の叫び声。 まるで見せしめのように死んでいった牧師達の苦痛に耐え切れないような絶叫がずっとリフレインしている。 耳の奥まで残り続けているあの声が、スバルには耐えられなくて、吐き気すらわいて来ていた。 地獄と、あの女の人は言っていた。 スバルはどんなものだろうと想像しようとして、出来る訳が無かった。 だって、こんな事は今まで経験した事が無いし、身に覚えが無い。 「嫌だ……嫌だ……帰りたい」 そうだ、帰りたい。 自分が過ごしていたあの日常に。 決まりで、男の子として高校に通っていた日々。 執事として勤めながら、その中で出会った少年。 スバルの秘密を知っていて、それでも仲良くしてくれていた少年。 困った時、助けて欲しい時に助けてくれた少年の顔が浮かんでくる。 とてもとても、頼りになって……本当に大好きでたまらない少年だった。 今は、ただ逢いたくて逢いたくて、とても恋しくて。 「ジローぅ……ジローぅ」 近衛スバルは、大好きな人の名前をずっと呼んでいた。 ただ、怖くて、怖くて。 どうしようもない哀しみと恐怖に身を振るわせ続けていて。 「…………バル、スバル! スバル!」 スバルの隣から呼びかけてくる声にも、反応する事が出来ない。 黒髪の美少女といってもいい、少女がスバルの名前を呼び続けているのに。 スバルは怖くてで、ずっと立ち竦んだままで。 「スバル! スバル!…………しっかりしなさい!」 どうしようもないまま、恐怖に心が支配されて。 ガタガタと身体から崩れ落ちそうになる、その時。 「しっかりしなさい!――――私の執事でしょう! スバル!」 その一言で、スバルはハッとした。 振り向くと自分の仕えるべきお嬢様が憮然と立っていた。 護るべき主人で、そしてなによりも大切な親友が。 「涼月の家の執事なのだから冷静になってもらわないと困るわ。ね? スバル」 親友――涼月奏が困った風にウィンクしていた。 そして、スバルはその言葉に落ち着き、思い出して行く。 あの女の人は主従で殺しあえと。 そして、自分の主人は奏だ。 ずっと前から約束していたのだ、彼女と。 彼女の傍にいて護ると。 そうだ、今、自分は一人じゃない。 一人では恐怖に震えるしかないけど、今は二人だ。 二人なら、奏となら、怖くない、頑張れる。 だから、スバルは 「申し訳ないです……お嬢様」 佇まいをただし、奏に言葉をかける。 もう、怖さで身を震わせることなど、なかった。 今は護るべき人の為に。 「いいえ、そこはありがとうよ?」 奏は謝罪の言葉に困った風に笑い。 お茶目に、スバルの言葉を正す。 スバルも、困った風に笑い。 「それは、失礼しました……カナちゃんありがとう」 大好きな親友の名前を呼んだ。 そして、その親友は今度は満面の笑みを浮かべて 「よろしい」 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「それでは、お嬢様……とりあえずは人が集まりそうな所に行くという事でよろしいですね?」 「ええ……危険はあるけど、私達二人じゃ正直な話、なす術もなく殺されるだけよ」 スバルが落ち着いた後、二人は現状確認をしていた。 どうやら、知り合いは他に呼ばれて無いらしい。 その事にほっとしながら、とりあえず誰かを探そうという事になった。 殺し合いに乗る……というのは、スバルの性格を考えて奏は言わなかったし、何より無理だろう。 自分達は弱い少女でしかないだろう。 あの会場で、死んだ牧師のような実力者が参加者で居る事は容易に考えられる。 スバルも鍛えてるとはいえ、叶うレベルではないだろう。 だから、奏は、とりあえず、誰か同じ志を持つ人に助けてもらうと考えた。 それに、スバルも同調し、とりあえずの方針が定まった。 スバルの腰には支給された拳銃がささっているが、役に立つかは非常に疑わしかった。 自分達が住んでいた日本では拳銃を使うなんて事は無かったのだから。 まあ、無いよりはましかとスバルが持つことになったのだ。 「じゃあ、行きましょうか……そして、帰りましょう……待ってるでしょうしね」 「待ってる?」 「ジロー君よ、きっと寂しさに怯えてに違いないわ」 そして、二人はもとの場所に帰ることを誓う。 彼女達が好きな少年の元に。 「ええ、そうですね……帰りたいな……」 スバルが、そう呟いて。 二人は夜の街を歩き出したのだった。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ボクは帰りたいなと呟いて。 それはきっと叶わないと思っていた。 だって、ボクは執事だから。 カナちゃんの事が大好きだから。 考えた見たことで、結局絶望しかない。 あんなデモストレーションみたいに、人が派手に死んで。 ボク達二人が揃って、生還できるなんて、思える訳が無い。 だから、ボクは考え、そして思い出した。 主従を入れ替えられる事を。 ボクが死ねば、カナちゃんは新たな従者をつけられる。 ボクより強い人が。あの牧師の様な人が。 ボクは執事で、カナちゃんには生きて帰って欲しい。 だから、ボクは決めた。 カナちゃんを護ってくれる従者を見つける。 それが、ボクがやるべき事。 カナちゃんは帰らなきゃならない。 だって、カナちゃんはジローの事が好きだから。 ボクの為に身を引こうとしたけど、そんな事させない。 僕の代わりにジローと幸せになってほしい。 だから、ボクは死んでも構わない。 だって、だって。 カナちゃんに幸せになってほしいから。 【B-6/街/1日目-深夜】 【従:近衛スバル@まよチキ!】 [主従]:涼月奏 [状態]:健康 [装備]:トンプソン・コンテンダー@Fate/Zero、起源弾×10、通常弾×10、背負い袋(基本支給品)不明支給品x3 [方針/目的] 基本方針:お嬢様を帰還させる 1:とりあえず人を探す。 2:奏に腕の立つ従者をつける。自分の命は捨てる覚悟 ※登場時期は七巻以降からです ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ そう、スバル。 貴方はジロー君の下に帰らなきゃならない。 だって、貴方は堪らないほど彼の事が好きだから。 そして、私は貴方の事が大好きだから。 考えた見たことで、結局絶望しかなかった。 一見しただけでも力を持つ牧師がいて、そんな強い人が派手に死んで。 私達二人が揃って、生還できるなんて、思える訳が無い。 だから、私は考え、そして思い出した。 主従を入れ替えられる事を。 私が死ねば、スバルは新たな主人をつけられる。 私より強い人が。あの牧師の様な人が。 私は彼女の親友で、スバルにはどうしても生きて帰って欲しい。 だから、私は決めた。 スバルを護ってくれる従者を見つける。 それが、私がやるべき事。 スバルは帰らなきゃならない。 だって、カナちゃんはスバルーの事が好きだから。 親友がやっとつかめそうな親友なのだから。 私の代わりにジロー君と幸せになってほしい。 だから、私は死んでも構わない。 その為に私の想いを誤魔化して、そして捨ててみせる。 だって、だって。 スバルには幸せになってほしいから。 【B-6/街/1日目-深夜】 【主:涼月奏@まよチキ!】 [主従]:近衛スバル [状態]:健康 [装備]:無し [方針/目的] 基本方針:スバルを生還させて見せる 1:とりあえず人を探す。 2:スバルに腕の立つ主人をつける。自分の命は捨てる覚悟 ※登場時期は、6巻以降からです。 前:運命の星夜 投下順に読む 次:そして1人しかいなくなった 前:運命の星夜 時系列順に読む 次:そして1人しかいなくなった 涼月奏 次:ある女の受難 近衛スバル ▲上へ戻る
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声 - 竹達彩奈 身長165cm、体重45kg、スリーサイズB82/W54/H81。 京介の実妹で、物語を引っ張る人物。中学2年生。ライトブラウンのロングヘアで、ピンク色のヘアピンをつけている。ハンドルネームは「きりりん」。兄と違って人目を惹き付ける美貌に恵まれ、ファッション誌の専属モデルとしてかなり高額の報酬を手にしている。また学力は県内でも指折りの優等生にして、陸上部のエースと非の打ち所がない。 本人も何が契機かはよく覚えていないながらも萌えアニメや男性向けの美少女ゲーム、特に「妹もの」を、成人向けか否かを問わずこよなく愛し、ニュースサイトを巡回して気に入った物を見つけてはモデルの報酬を使って衝動買いをしている。しかし世間の目が気になり趣味を分かち合う相手を得られず悶々としていたところ、兄に秘密を知られてしまい、不本意ながらも兄に相談を持ちかけることになり、その後京介をオタク趣味の世界へと引き込んでいく。表向きの生活と裏のオタク趣味の間は、どちらも不可分な自分の一部であるとして真剣に思い詰めており、作中では幾度かその板挟みに直面しつつも、決して一方を切り捨てないことを決意し、京介からその背中を押されることになる。かつては京介に対してほとんど無視に近い対応をとっており、その後も刺々しい言葉を浴びせ、腹立たしい時にはつい本心とは異なる言動を取ることもあるが、徐々に心を開いていく。京介のことを兄と呼ぶことは滅多になく、基本的には「あんた」だが、改まった時には「兄貴」、また最近では「京介」と呼び捨てながらも心情に変化が見られる。中学3年次のクリスマスで京介に告白されたが、もし告白されなかった場合は、自分から告白する予定だった。麻奈実とは小学生低学年の頃は京介を通して付き合いがあったようで櫻井の件があって以降は強く敵視していた。 卒業式の日に殴り合いの喧嘩にまで発展し、麻奈実からは「気持ち悪い」と罵倒された。 小学生のころはお兄ちゃん子であり、京介の幼少期の写真を集めて自身の収納スペースのアルバムにすべて保存していた。また、その時に未来の自分が京介みたいなヒーローになれずに落ち込んでいた時のために、励ましのメッセージをiPodに録音していた。 何事も一生懸命で、一度決めたことには全力で取り組むという努力家でもあり、小学生低学年時代は運動が苦手だったのを奮起して躍進したという経緯がある。その一方で想定外のトラブルに対しては非常に脆く、しばしば年相応の弱さを露呈してしまうという弱点があり、窮地に追い込まれてしまうことがある。また、父親似で口が堅く一度やるといった事はやる。現実とフィクションはきっちり区別する主義。食事の際は、話しかけられるとちゃんと答えるがそれ以外では基本黙って食べる。 俺の妹がこんなに可愛いわけがない
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一 夢みたこと 朝日が差し込んでいる。その眩しさで真紅は目を覚ました。随分と眠っていたような気がするけれど、よく思い出せなかった。 頭が酷くぼうっとしている。そもそもなぜ自分は座りながら眠っていたのか。 真紅の席と向かい側には大きな空の食器。何かが乗っていた様子も無い。 真紅は見た事も無い場所だった。 「なんなのここは…?」 狐につままれたような気持ちで真紅は席から降りた。椅子は足がつかないほど大きく、飛び降りるような形になる。服の揺れる衣擦れの音が大きい。 真紅は自分の服を確かめた。 人形展の時にも着ていった紅いドレスだ。いつの間に着替えたのか。 自分の指が関節ごとに丸く膨らんでいた。まるで球体関節人形のように。いや、球体関節人形そのものだ。 真紅は人形になっていた。 椅子も食器も大きいのではなくて、自分が縮んでいたのだ。 慌てて真紅は鏡を探した。ちょうど部屋の隅に薔薇の彫刻に縁取られた姿見があった。 駆け寄り、自分の姿を写しだす。考え通りそこには気品にあふれる紅い人形が一体立っていた。 その姿はまさに。 「…ローゼンメイデン…」 震えた声で呟く。自分の頬に触れる。そのまま自分を抱きしめる。 この異常な事態に真紅はなんの疑問も持たなかった。 「やっと、やっと…ここまで」 ただただ真紅の胸は感動で打ち震えていた。無意識に流れ出た喜びの涙が真紅の頬をつたう。 そうだ、これこそが正しい。やっと収まるべき場所に収まったという気すらする。 いままでの人としての生活のほうが間違いだったのだ。この姿こそが正しい。 真紅の赤熱した頭脳は次の考えを紡ぎだす。 自分が人形ならば、この場所はなんなのか。そんなもの、決まっている。 (お父様の家だわ) その考えは天啓のように真紅の脳裏に閃いた。 「お父様!お父様!どこにいらっしゃるのですか!」 真紅の声に答えるように微かにコーヒーとふんわりとしたパンの焼ける香りがし始めた。 ここがお父様の家ならば、食器を用意したのはお父様だろう。 待っているべきかしら。真紅は一瞬そう考えたが、けれど近くにお父様が居るとわかっただけで、もう真紅は走るような勢いで歩き出していた。 早くお父様に会いたかった。話を聞いてほしかった。この姿を見てもらって抱き上げてもらいたかった。 香りに誘導されて真紅は扉を開けた。ドアノブは真紅にも手の届く場所にも着いていた。やはりこの家はローゼンメイデンのためにある。 けれど扉の開いた先は、まだお父様のいる部屋ではなかった。 通路のような場所。小さな丸い天窓が3つはまっていて、柔らかい朝日はここにもある。 右手側に真紅の背より高い棚が作られていて、たくさんお人形が陳列されている。みんな腰を下ろし壁に背を預け、朝日を浴びて眠っていた。 一番手前に白い人形。それから桃、蒼、翠、黄、黒そこで人形は途切れて、扉があった。 ちらりと桃の人形の笑顔を見る。けれど他の人形に興味はなかった。真紅は小走りに次の扉に向かい、ドアノブを捻る。 がちゃり。 扉は開かない。扉には鍵がかかっていた。何度も扉をあけようとする。開かない。 「なんで…!」 真紅は呻いた。心の中の喜びと期待がそのまま焦りと失意に塗り替えられて行く。 真紅は絶叫した。 「お父様、どうか開けて下さい。貴方の娘の真紅です、会いに来たんです!お父様!」 ドアを叩く。分厚い一枚板でできたドアはびくともしない。 真紅はさらに激しくドアを叩き続けた。 「お父様!私はここにいます!気づいて!」 ドアの向こうから返事は無い。 「お願いです、お父様、おとうさま…」 だんだんとドアを叩く力が弱まっていく。力なく腕が垂れる。 「どうか…」 もう言葉にもならなかった。涙がぼろぼろと足の間に落ちていく。 「当たり前じゃなぁい」 右を振り向くと、眠っていたはずの黒い人形が笑っていた。 チェシャ猫のような三日月の笑み。嘲る笑いで真紅を見下ろしている。 「お父様が貴女みたいなブサイクを愛するわけないじゃない。お父様が愛しているのは私、一番最初に作られたこの私よ」 真紅は一目でこの黒い人形が自分の天敵である事に気がついた。 それにさっきの姿を見られていたのだとしたら最悪だ。 「順番なんてたいした問題じゃないでしょ」 「そうかしらぁ?」 黒い人形は音も無く羽ばたき、真紅の上空をゆらゆらと漂い始めた。 「私達って随分似てないわよねぇ。つまり一つ前の作品を発展させる形で作られた訳じゃないのよ。おわかり?」 黒い人形はにやにや笑っている。真紅は黒い人形をにらみながら慎重に答える。 「それが?」 「つまりお父様は私たちを同時期に構想されていたのよ。なら、制作順番はお父様が少しでも早く世に生み出したかった順と言えるでしょ」 「くだらない妄想よ。根拠がないわ」 もっと他に言い返した方がよかったが、うまく頭が回らない。 「じゃあ、なんで貴女のためにお父様は扉を開けて下さらないの」 「…」 真紅は答えられなかった。 「かわいそうな五番目ちゃん。貴方は誰にも愛されてない」 黒い人形は歌うように言って、手を広げた。空に浮かび、朝日を受けて優雅に手を広げる黒い人形は、美しかった。真紅でも認めざるを得ないほどに。こんなに憎らしいのに。 「そしてお父様に最も愛されるのはこの私。お父様に最も近しいのは私。お父様の棺に蓋をするのもこの私なの」 黒い人形は優しく真紅の頭に手を置いた。そして女王の高圧さで告げる。 「さ、五番目ちゃん貴女の席はあそこよ」 蒼の人形と桃の人形の間を指差す。 真紅は黒い人形の手を払いのけた。 真紅の胸の内に溜まった黒い油のような感情に火がついた。激怒だった。 「うるさいのよ!こんな連中と私は違う!」 叫んでから、真紅ははっと息をのんだ。 「あらあら、お姉ちゃん悲しいわぁ」 黒い人形は蔑んだ目で、こちらを見ていた。 「…ただの事実なのだわ」 「結局のところ、貴女にとって姉妹は邪魔物にすぎないのよ」 「違う!」 「私の人形を壊したくせに」 「壊したくて壊したんじゃないわ、私だって貴女の人形展が成功するように力を貸していたのだわ」 「嘘。貴女にとって、私の人形展は自分の名前を高めるための踏み台に過ぎなかった。だから私の人形を壊したんでしょう?だって貴女以外に輝く物があっては困るものね」 なじる声は降り注ぎ続ける。 「人形展が私にとってどんな価値があったか、貴女は気づいていたはずよ。けれど、貴女はそんなこと気にもしなかった。いいえ、気づいて、そして見下していたんでしょう。私の気持ち、私の行為全てを」 「私は貴女が人形師として成功すればいいと思っていたわ」 「それが見下しているというのよ!貴女に与えられる必要なんて私には無かった」 みしみしと音を立てて、水銀燈の翼が広がり続けていた。 「答えなさい真紅。貴女は私の造った金糸雀に何を見たのか」 「貴女が自分の優位を確信していたのなら、あの時ああも取り乱す必要は無かったでしょう」 「…」 「答えられないのなら、言ってあげる。貴女はあの時アリスを見ていたのよ。もはやアリスに近づくはずも無いと思っていた私から、ああいう物が飛び出して来たから、貴女はあんなに取り乱し、私を否定せずにはいられなかった。違う?」 真紅は黙り続けた。水銀燈の唇はつぃっ、と悪意ある形に吊り上がる。 「まぁ、どうでもいいわ。お返しよ。受け取りなさい」 真紅は自分の右腕に黒い羽根がまとわりついている事に気がついた。そして気がついた時にはもう遅い。真紅の右腕に激痛が走り、そのまま右腕はちぎれ飛び、ぼたりと床に落ちた。 震える左手で、右腕の袖を掴んだ。真紅は膝をつく。全身が瘧のように小刻みに震えていた。 上から黒い人形の笑い声が降ってくる。 「これではっきりしたわ。壊れたお人形がお父様のお気に入りな訳ないでしょう」 そして黒い人形は笑い続けていた。体をのけぞらせるほどの大笑いだった。 「あはは、なんて不格好なの真紅ぅ!」 二 夢の顛末 有栖川病院の飾り気の無いベッドの上で真紅は跳ね起きた。 「あぁあっ…」 右腕が、もはや無い腕が痛くて痛くてたまらなかった。 また血が流れ出したのかと思った。出血を止めようとする左腕が空中を掴む。 「いっ…た」 呻く。脂汗が止めどなく流れた。 痛みに朦朧となりながら真紅は思う。 (ああそうか。無くした腕はあの人形を砕いた腕だった) 人形展の金糸雀人形。どこか遠くを見るような眼差しをしていた。あの目は遠くにいるお父様を見ようとしているように思えたっけ。そこが気に入らなかった。 真紅自身何を考えているのかよくわかっていない。ただの痛みからの現実逃避だった。 どれだけそうしていただろうか。やがて痛みの波は小さくなってきた。 真紅は荒い息を吐いた。 思い出されるのは、夢に見た黒い人形の吊り上がった笑み。 「水銀燈…」 左腕にさらに力が入る。 その瞬間、控えめなノックの音が響いた。 「誰?」 「真紅、入ってもいいかしら?カナかしら」 おずおずとした金糸雀の声。 最悪のタイミングだったと言っていい。 けれども。 「ちょっと待って頂戴」 鉄の自制心で、真紅はいつもの平然とした声を出した。 手早くハンカチで汗を拭き、髪を整えた。 痛みが引いて来たとはいえ、酷く体が熱っぽいのを我慢して平気な顔を取り繕う。 「いいわよ」 「こんにちわ、真紅」 声音の通り、おずおずとした調子で金糸雀が入って来た。右手に不死屋の紙箱、左手にヴァイオリンケースを持っている。 真紅はただ無関心な一瞥をくれた。 「貴女が来るとは意外ね」 「そうかしら」 「何しにきたの?」 金糸雀は不意にぶたれたような、少し驚いた顔をした。 「その…体の調子はどうかしら?」 「おかげさまで調子がいいわ」 「…あぅ」 気まずい沈黙。 (ど、どうしたらいいのかしら…) 金糸雀は人に邪険にされるのは、これが初めてだった。少なくとも自覚している限りでは。 自分が嫌がられているのはわかるが、目の前の真紅はなんだかいつもと様子が違うし、ジュンとお見舞いに行ったときよりも調子が悪そうなので、さっさと帰る事もしたくない。 「えっと、その…」 金糸雀の心配そうな表情に真紅は内心苛ついた。 (この前、ジュンと一緒に来て、義理は果たしたと思うけれど) 金糸雀にわからないようにそっとため息をつく。別に相手を気遣っての事ではなく、金糸雀に感情を乱されていると思われるのが嫌なだけだ。 真紅の視線がさらに冷たく重くなった気がして、金糸雀は内心慌てた。 そこで気がつくのは手に持った不死屋のケーキの紙箱の重みである。 今日買ってきた紅茶と苺のロールケーキはかなり場を和ませてくれる気がする。紅茶のスポンジに包まれた生クリームの中で苺が半分に分かれていて、まるでリスザルの目みたいにくりっとしているのだ。 いきなりこんなに気まずくなるとは思っていなかったが、そういう和み効果を期待して金糸雀が一生懸命選んだ一品だった。 (ととと、とりあえず不死屋のケーキで場を繋ぐかしら!?) 「と、とりあ」 「金糸雀」 「へ?」 不死屋の紅茶のロールケーキを取り出そうとし始めた金糸雀はきょとんとした。 「貴女が心配するような事は何もないわ」 改めて、真紅はそう切り出した。 「貴女は私が打ちのめされて、酷く落ち込んでいると思ったんでしょうけれど、そんなことはないわ」 真紅は襟の第一ボタンを止めてみせた。 「ほらこのとおり。腕が一本なくなったくらい私にはどうってことないのだわ。少なくとも貴女が責任を感じるような事じゃなかったのよ、あの事は」 真紅の右腕が飛んだ時、目の前にいたのは金糸雀だった。 「そうかもだけど…」 金糸雀は申し訳なさそうにしている。 (勘違いされたらたまらないわね) 素っ気ない態度を気丈な態度だと勘違いされてしまうと。金糸雀が頻繁にお見舞いに来るようになりそうだ。それは正直うんざりするので、ごめん被りたかった。だから駄目押しをしておく。 「だからわたしは貴女の哀れみなんていらないのよ」 金糸雀は病室に立っているが、あごを引き、上目遣い気味に言った。 「カナは哀れんだりなんてしてないかしら」 「筋合いのない心配は哀れみと同じだわ」 「カナと真紅は姉妹かしら」 真紅は今度こそ大きくため息をついた。話が面倒くさい方向に転がりだしているし、腕の痛みもぶり返し気味だ。ちくり、じわりと痛みが増していく。腕の切断面に一本づつ針を刺していくような痛み。 ほうっておいてほしかった。『貴女の顔なんて見たくもないからさっさと出て行って頂戴!』と叫べたらどれだけいいだろう。 けれど、そんな人前で取り乱すなどという振る舞いは真紅の美意識が許さない。 あくまで落ち着いて金糸雀を追い出しにかかる。刃物のような冷たい表情が真紅の顔に浮かび始めていた。 「姉妹ね…私たちにとって、姉妹という関係はどれほどの物なの?」 「…」 金糸雀は言葉に詰まった。真紅の予想通り、金糸雀はそのことについて深く考えた事はなかったようだった。 水銀燈が他の姉妹は全員敵だと吹き込んでいるかと思っていたが、その様子もなさそうだ。 「私はそもそも貴女に興味がなかったわよ。貴女が桜田さんの家に押し掛けてこなければ関わりあう事もなかったでしょうし」 「でもその前に夏にみんなと知り合うって決めたのは真紅かしら。真紅は欠席だってできたでしょ」 「あの時は少しは意味があるかもと思っていたわ。けれど貴女達と知り合ったこの数ヶ月間はなんの収穫もなかったわね。貴女達はローゼンの娘としての自覚があまりにも足りないのだもの」 既に真紅は常人なら涙を流してもおかしくない痛みを感じていたが、それに加えて今までの針で刺される痛みではなく、突然斧を肩口に叩き込まれるような発作的な痛みが真紅の腕の中で跳ねた。 さすがの真紅も一瞬視線を右腕の付け根に視線を走らせた。当然異常はない。 そして真紅は他の事に気がついた。 さっき止めて見せた服のボタンが外れている。半端に穴に通す事しかできなかったため、簡単に外れたらしい。一瞬痛みを忘れるほどの感情が真紅の胸の内に吹き荒れた。 それは自分への激怒であり悲鳴であり、なにより失望だった。 「ローゼンの娘としての自覚ってなんのことかしら?」 金糸雀が不思議そうに問うてくる。 激痛は止まない。むしろ斧を二度、三度と傷口に繰り返し叩き付けられているかのようだ。そして失望も消えない。でもここで返事がなければ不自然だ。 「アリスを目指すということよ」 「アリスを目指す?」 金糸雀はその答えがあまりに意外で、理解できなかった。 返事がなくても真紅は続ける。真紅の言葉はすでにうわ言のようになっており、それ自体が異常な熱に浮かされていた。 「そうよ。私は違う。愚かな貴女、目をそらす翠星石、卑屈な蒼星石、甘ったれた赤ちゃんの雛苺そのどれとも違う」 真紅はきつく自分の右腕の付け根、もうそこから先はない付け根を左手できつく掴んだ。 「真摯にアリスを目指しているのは私だけだったわ」 「おねえちゃんがいるかしら」 むしろ水銀燈を一番酷く嘲うために、真紅がこういう話し方をしたことに金糸雀は気がつかない。 そして真紅は会話を誘導したために、金糸雀の意図に真紅は気がつかない。 金糸雀が水銀燈の名前を出したのは、真紅に自分は独りだと思って欲しくなかったからだ。 二人はお互いの意図や、いつもと違う態度をとる理由を全く分かっていなかった。それでも会話は続く。 真紅は鼻で笑った。 「ははっ。水銀燈が一番おかしいのよ。壊れているわ」 「壊れ…?」 「そう。ジャンクよ」 真紅の胸にある感情は自分に向けられたものだ。けれど、それを噴出させる方向まで自分に照準を会わせる必要はない。目の前には金糸雀がいる。こいつが一番大事にしてるものが何かはわかってる。 現実逃避であることは薄々分かっていた。でもどうでもよかった。 どうせ現実に大事な物は戻ってこない。なくなった腕。完全な自分。お父様との唯一の絆。 「教えてあげるわ、水銀燈が」 ガゴン! 金糸雀が床にヴァイオリンケースを叩き付ける鈍い音が響いた。微かに内部の弦が振動する音がその後に続く。 「いらない。取り消して」 金糸雀は迷いのない口調で言った。その視線は鋭い。 「おねえちゃんだけじゃない。みんなに言った酷い事全部取り消すかしら!」 「答えはノーよ」 しばらく二人はにらみ合った。が、真紅には限界がある。 「っ…あ」 ついに目覚めた時と同じくらいに膨れ上がった腕の痛みに真紅はおもわず背中を丸め、かがみ込んだ。 金糸雀は自分の怒りを忘れて、真紅に駆け寄った。 金糸雀がにやにやと笑っているような気がする。目線を上に戻せない。 「痛いの!?真紅、真紅!」 金糸雀の手が真紅の背中に触れた。 真紅は背中の手を払いのけようとしたが、それは激しい痛みのせいで加減がきかなかった。 左腕に鈍い感触がして、それから不意に感触がなくなる。振り上げた左腕は勢い良く金糸雀のあごを打っていた。 金糸雀はたたらを踏むように2、3歩後ろに下がった。それから膝が床に落ちる。その姿勢は足を崩した正座のようだったが、すぐに上半身が足を抱え込むようにして前のめりに倒れた。 ごん。頭をそのまま床に打ち付けた音がする。 嫌な予感がする。さすがの真紅の声も震え始めていた。 「金糸雀、腕が当ったみたいね?悪かったわ」 「…」 金糸雀は何も答えない。妙な姿勢もそのままだ。 心臓が激しく打っているのに、真紅は体が冷えるのを感じた。腕の痛みさえも壁を隔てた遠い事のように感じられる。 にじみ出た汗が冷えて気持ち悪い。 「早く起きて頂戴」 言い終わる前に真紅はベッドを滑り降りた。金糸雀の背中を揺らす。 真紅のされるがままに金糸雀は揺れた。自分では指一本も動かさない。 (死んでる) そんな発想が頭に浮かんだ。理性は否定する。人が腕があたったくらいで死ぬ訳がない。そんなわけはない。血だって出てない。 うつぶせの金糸雀をひっくり返せば、すぐに確認できる事だった。 けれど人形展の事が、今の状況に重なる。 あの時も腕に少しの感触を感じただけだった。けれどあの人形は終わってしまった。 生気すら感じた物が全ての意味を失ってしまう、理不尽な終わり。人形の壊れた顔に現れた空洞。まるで操り人形の糸が全て切れてしまったような、突然の終わり。 今、金糸雀がうつぶせたその顔はどうなっているのか。おそらくなんの外傷もない。けれど顔があったところで、もう魂は抜け出てしまっているのではないか。 初めて真紅の頬を痛みのためでない汗が伝った。 恐い。 「なんなの…一体これはなんなの…?」 腕をなくして入院して、目の前で金糸雀が死んでいる。 自分のなす術無くなにもかもが崩れて行く。まるで自分の座っている床すら砂になって落ちて行くようだ。 暗い。 寒い。 生まれて初めて、真紅は気絶した。 ※ さてどうしよう。 メグは真紅の病室に一人立ちながら考える。 病室のお隣さんに挨拶しようと思ったら、先客に金糸雀がいて、しばらく覗いていたらこの有様だった。 いきなり医者を呼ぶのはやめておこう。 この状況をみれば治療だけではすまない。 原因が追及されて、お互いの保護者に連絡がいけばもうアウトだ。 ただでさえ両家の関係はこじれているのだから、もう入院中にお見舞いに行く事も出来ないだろう。 それどころか警察がしゃしゃり出てきて、真紅の腕が失われた事件との関連を追求するかも知れない。 「せぇの…っと」 なんとか真紅を抱え上げる。 片腕になってしまった事を差し引いても、真紅はメグでも持ち上げられるほど軽かった。 とはいえ真紅をベッドに戻すと、メグの両腕は震えていたし、酷くむせたが。 (ちゃんと食べてるのかしら、この娘) ぜぇはぁと息をつきながら、メグは自分の事を棚に上げて考えた。 実は昨日めぐはのりと出会って、少し話をしていた。 その時『真紅ちゃん』のことを口にするのりの顔には見覚えがあった。 一昔前に自分のお見舞いに来た自分の父親の顔だ。 頑に心を閉ざす相手にどう接していいのか分からない、途方に暮れた顔。 (こういうのを同病相哀れむって言うのかしら) 真紅をなんとかしてあげたいと、めぐは思う。 真紅のような子供はほうっておけば自分で築き上げた城壁の中から出てこれなくなるだろう。 自分は水銀燈との出会いによって、そうならずにすんだ。 金糸雀と真紅の関係がそれと同じになってくれればそれが一番良いのだが、それは正直無理だろう。 「どうしたものかしらねー」 次に、侍が切腹してから前のめりに倒れたみたいになっている金糸雀をひっくり返す。 「ぷ」 メグは思わず吹き出した。 倒れた時にケーキの箱を下敷きにしたようで、クリームが髭のように口の周りについていた。 まるで季節外れのサンタクロースだ。 「カナちゃんらしいわ」 ハンカチを取り出しながら、メグはそんなことを呟く。 ぐにぐにと口周りを触られる感触で金糸雀は目が覚めた。 「うー…?」 口の中で消えるごく小さな声を発しながら、金糸雀がうっすらと目を開けると目の前には真紅の顔があった。 金糸雀は脳しんとうの影響で少し記憶を失い、残った記憶も混濁していたため、なぜ真紅に触れられているのかさっぱりわからなかった。 けれど真紅はとても真剣な表情で自分の顔を触っているので、金糸雀はしばらく真紅のさせたいようにさせてあげることにする。 真紅の手つきは盲人が人の顔を確かめるような柔らかさで、金糸雀には心地いい。 (まるで卵になったみたいかしらー) 本当のところビスクドールを触るかのような慎重さで触っていたのだが、金糸雀が知るはずもない。 下まつ毛をくすぐる真紅の指がくすぐったい。 「…よかった」 と、真紅は安心して息をついた。金糸雀は真紅が今にも泣き出しそうな表情をしている事に気がつく。 「だいじょーぶ、かしら」 何が問題なのかも把握しなていないのに生来の能天気さで金糸雀はそう言った。 そのままひょいと手を伸ばして、真紅の目尻に光る涙を拭う。 真紅を元気づけるために金糸雀はにこにこと笑ってみせた。 真紅は二度、目を瞬かせた。金糸雀が起きていることに気がついていなかったため、驚いているらしい。真紅があっけにとられている間も、金糸雀は田舎のひまわりの様なのどかさで笑いかけ続ける。 しばらくの間。 真紅はむにっといきなり頬を引っ張った。 「ふぎっ!?」 それも一瞬で済まさず延々と引っ張り続ける。横にいるメグは全く助けない。というか、金糸雀の頬が人一倍伸びるのをひっそりとおもしろがっていた。 結局、金糸雀が真紅の指を振り払えたのは5秒ほど立った頃で、すっかり金糸雀の方が涙目になっていた。 「なな、なんでこういうことするのかしら!」 怒る金糸雀に対して、真紅はもう一度毒を吐く。 「貴女が面白い顔してるからよ」 「なー!?」 これから口喧嘩が始まりそうな雰囲気になったが、真紅は急にツンと冷たい表情になって言い捨てる。 「これに懲りたら二度と来ないで頂戴」 そして、真紅は言うべき事は言ったとばかりに、金糸雀に背を向けてベッドの中に潜り込んだ。 それからしばらくは怒りの収まらない金糸雀が色々言うが、もはや真紅は無視し続ける。 「あ、貴女みたいなわがままな人は初めて見たかしら!ぶっちゃけカナがとっといたヤクルトを1パック全部飲むおねえちゃんの2.18倍くらいわがままかしらー!?」 「あーカナちゃん家庭の事情をぶっちゃけるのもそのくらいにして、ね?」 錯乱気味の金糸雀にメグは遅まきの仲裁に入った。 「な、なんなのかしら、真紅ったらなんなのかしら!」 涙目で顔を真っ赤にして怒る金糸雀にメグは悲しそうに言ってみせた。 「真紅ちゃんも怪我で大変なのよ」 「う…」 さっきのやり取りを見ていて、メグは少し希望を感じていた。 気絶から回復した真紅は真っ先に金糸雀がどうなったのかを気にしていた。 真紅は冷酷な性格ではないのだ。 (水銀燈を見てればこの家系に色々あるのはわかってたけれど…真紅ちゃんはなんていうか、複雑な娘ね) シュンとして、すでに怒りが去りかけている金糸雀のほうが姉妹の例外なのだろう。 「…今日は来ない方が良かったのかしら」 「うーん、少なくとも今日はもうおしまいね。真紅ちゃん寝ちゃったし」 「かしら…」 「なに。また明日出直せばいいのよ。何があったのかも本人から聞けば良いんだし」 しばらく金糸雀は悩んでいたが、結局の所そうするしかないとわかったらしい。 「そうするかしらー」 金糸雀は千鳥足気味に真紅の部屋から出て行った。 金糸雀が部屋から出てから、ふう。とメグは息をつく。 とにかく真紅を一人にしないで済みそうだとメグは胸を撫で下ろす。 「また明日も来るって。金糸雀を追い払うのに失敗したわね真紅ちゃん」 あいかわらず真紅はこちらに背を向けたままだ。けれど、一瞬怒ったように背中を震わせた。 金糸雀をロビーまで見送ってから、メグは呟く。 「さて、ここからが難しいのよね」 独り言が多いのは、入院生活が長いメグの癖だ。 まずは水銀燈へ電話だ。 三 入院の日々/見舞い客達 その日は一睡も出来なかった。 そのせいで目が赤い。だから、今日は誰にも会いたくないと思った。 真紅はベッドの上で三角座りをしながら、ドアに背を向け続けている。 ノックの音は無視する。ドア越しに声をかけられても「帰って」とだけ返す。 ジュンはそれで引っこんだ。 次に先生が来た。ただただ無視するとドアの前でジュンが先生に謝っていた。 まだジュンはドアの前にいたらしい。ジュンの必死で取り繕う声音は案外のりに似ていた。 のりが来るには時間がある。次に来たのは金糸雀だった。 ジュンと挨拶をかわす高い声、ココンカンココン、変にリズミカルなノックの音。無視する。 「真紅ー寝てるのかし」 「帰って」 ジュンがとりなして謝るような声。金糸雀の物凄くわざとらしいため息。 「はぁー、しかたないかしら。じゃあ帰るわ…と見せかけてえいっ」 「あっ」 ジュンの慌てた声。ガチャリというドアノブを握る音。ノブを回す音はしない。 ここまで無理にドアを開けようと人間はいない。なので、ドアノブに塗り付けた接着剤を握ったのは金糸雀だった。 「本当にひっかかるとはね…」 真紅としては誰にも入ってほしくないという意思表示だったのだけれど。 「ドアの下に接着剤はがしが落ちてるわ。負けを認めて帰るなら使っても良いわよ」 まるで勝負みたいな風に言ったのは、金糸雀と七月に勝負をした事があったからだ。 金糸雀は勝負に関しては潔いので、これですんなり引き下がるだろう。 しばらくドアががちゃがちゃと音を立てる。けれど、やっぱり手がはがれなかったらしい。諦めたような沈黙。 「これがホントの門前払い。って上手くもないかしらー!」 走り去る軽い足音。あきれかえったジュンの声。 「おまえなぁ…涙目だったぞ金糸雀」 不謹慎だけれど、ほんの少し笑えてしまった。 のりは水銀燈と一緒に現れた。 「水銀燈さん」 「こんにちわ、ジュン君」 ジュンがまず真紅の態度を二人に説明していた。 ジュンが水銀燈と話をしているだけでも、胸がざわついた。自分の弱みを水銀燈に見せるなんてありえない。 「真紅ちゃん、あのぅ…」 のりの困り声。 「今は誰にも会いたくないの。のり、わかって頂戴」 ジュンが一時期のりに向けていたのと同じような態度だとは真紅は気がつかない。 そして割り込むような、落ち着いたノックの音。 「真紅、開けてもらえないかしら?」 水銀燈の言葉にも真紅は冷静な声で返事をしようとした。けれど失敗した。 「入ってこないで!」 この日真紅は初めて声を荒げた。声を荒げるつもりなんて無かったのに自分でも驚くほど大声が出た。 金糸雀の時にはいくらでも取り繕う余裕があった真紅が、最初から余裕の無い敵意ばかりの言葉を向けていた。 少しの沈黙。 ジュンとのりが面食らったような顔をしているのは簡単に想像できた。けれど、水銀燈はどんな顔をしているのか。 静かな水銀燈の声がした。その感情は真紅には読み取れなかった。 「そう…しかたないわね。扉越しで悪いけれど、あの日の事は謝るわ。ごめんなさいね」 それでも真紅は無言でい続ける。何が何でも、水銀燈とだけは話さないつもりだった。 扉の前では水銀燈はのりとジュンにも謝り、のりとジュンが何度も水銀燈に謝っていた。 水銀燈がいなくなってから、真紅は枕を思い切り殴りつけた。何に怒っているのかなんて自分でも分からない。 ただ苛立ちと怒りと屈辱感で真紅の胸は一杯だった。荒々しく涙を拭う。 結局ジュンは面会時間が終わるまで、ドアの前にいた。 ※ 腕を無くしてしまったにしても、真紅は全くいつも通りに見えた。 昨日は面会拒否状態だったと翠星石がジュンに聞いていたのに、顔色も良さそうだ。 「廊下で君の同級生達に会ったよ」 「ふうん、そう」 「また、気のない返事ですねぇ」 「まぁね」 翠星石のあきれた声。真紅と苦笑いを向け合う。 真紅の冷たい言い方に蒼星石は『おやおや』とでも言いたげに眉を上げた。 まぁでも、真紅の反応も仕方ないかなと蒼星石は思う。 さっき話した同級生達は、真紅の事を『お姫様』というあだ名で呼んでいた。おそらく真紅の知らないところで。 陰口ではないのだろうけれど、面白がっているような調子。 翠星石と真紅の話が盛り上がり始めるのを横目に蒼星石はお見舞いの品を取り出し始めた。 真紅の部屋を出た後、翠星石はほんの少し俯き加減で、早足に歩いた。押し殺していた怒りが込み上げて来たのだろう。この情の濃さが翠星石の良さだと蒼星石は思っている。蒼星石にそこまでの熱さは無い。 「おかしいですよ真紅も、あの同級生達も」 「そうだね。でも、僕たちもあの同級生達と同じだよ」 「翠星石が真紅を面白がってたっていうんですか!?」 「そうじゃなくって、ただのお見舞いしか出来なかったところ」 小さく、あぁ。と翠星石は呟く。 「そうですね」 結局翠星石も蒼星石も普通の見舞いしかできなかった。 真紅の心は開かなかった。翠星石のはげましは上滑りし、そのうち会話は他愛のない方向に逸れて行った。 「結局さ、真紅が僕たちに傷ついた姿を見せたくはないみたいだから」 表面上は翠星石の気持ちに同調してる風を装いながら、蒼星石は言った。 「私たちにはどうしようもない、ですか。でも…」 翠星石は簡単には割り切れないようだった。 「うん」 翠星石の気持ちに同調するように蒼星石は深く頷いた。 (翠星石と真紅って、本当は気が合うんだろうな) なんてったって、好きな人が同じ人になるくらいだ。 翠星石と真紅の間には桜田ジュンという対立点がある。 もしも翠星石がジュンに恋する前に真紅と合っていれば仲良くなっていたのだろうが、現実はそうはならなかった。 今となっては、翠星石は真紅への思い入れを深めるべきじゃない。 翠星石が真紅を気遣ってジュンを遠慮してしまう可能性の枝は断ち切るべきだ。 表面化していないだけで、二人は恋敵なのだから。 「僕たちは真紅の誇りを尊重するべきなんだよ」 言いながら、蒼星石はとある映像を思い出した。 祖父一葉のツテを使って、真紅が主演する予定だった映画『未来のイヴ』の資料を見せてもらったことがある。まだその映像はイメージショットでしかなかったが、すでに真紅は恐ろしいほど美しかった。 翠星石がアリスに最もふさわしいと考える蒼星石ですら、美しいと認めざるを得ないほどに。 だから。 この墜落は幸運だ。 真紅は傷ついたときほど一人になりたがる。それは誇り高さなのだろうけれど、そればかりでは気遣う方もやがて疲れて諦める。 (このまま、真紅が失意のうちに頑なになってくれれば、ジュン君が翠星石の物になる可能性は上がるよね…) 「そっとしてあげるのが一番だよ。僕たちが騒ぎ立てることが真紅にとっても一番辛いんじゃないかな」 「そう、ですよね」 悲しそうな翠星石に蒼星石は手を出す。翠星石と指を絡めて手を握る。 しばらく、無言のまま歩いた。 真紅よりも翠星石の幸せが優先する。 これでいいはずだ。 なによりもジュン君の心を射止めることが翠星石の幸せのはずだ。 翠星石がぽつりと言う。 「蒼星石と翠星石だけはいつだって一緒ですよ」 蒼星石もそれに続く。 「うん。翠星石と僕はいつまでも一緒だよ」 お父様が亡くなった時に二人で泣きながら交わした約束を二人はもう一度繰り返した。 病院の駐車場から送迎の車が発進するころ、蒼星石の視界に緑色の髪の毛が入り込んだ。 あの髪の色をしているのはこの街では金糸雀一人しかいない。用件はやっぱり真紅だろう。 (金糸雀は僕を軽蔑するかな?) ふと、心にそんな言葉が湧いた。言い訳気味に付け加える。 (僕が真紅を傷つける訳じゃない) ※ なにも、金糸雀は毎日門前払いを食らっている訳ではない。 真紅はこの入院生活の中でも平然と落ち着いている姿を見せたいのだから、誰でも丁重に扱うのは当然と言えば当然だけれども。 たいていの日ではちゃんと部屋まで通してあげたし、淹れた紅茶も飲んであげた。 世間話だって少しはするし、チェスで負かしてやる時もあるし、くんくん探偵の凄さを教えて上げないでも無い。 それでも眠れない夜を過ごした後は、目が赤いから誰にも顔を見せたくないだけだ。 ただ、部屋に入れてもらえないときの方が、金糸雀がはりきっているのは気のせいではないと思う。 扉越しに金糸雀が声をかけてくる。 「急に部屋に入れてくれないとか…あなたって本当に気まぐれな猫みたいかしら」 もちろん金糸雀は真紅が扉を開けない理由など知らない。 ついでに自分が真紅を猫扱いするという地雷を踏んだ事にも気づいていない。 最初の接着剤をドアノブにつけた時に勝ち負けを持ち出した事から、単純に真紅がちょっとした勝負を仕掛けて来たのだと思っているようだった。 「三度目の挑戦、受けてもらうかしら真紅。『序曲』!」 今回はヴァイオリンの音色で真紅に自分から扉を開けさせる作戦らしい。 一曲目の時の拍手は二つ。ジュンと、よく金糸雀にくっついてくる小さな薔薇水晶。 「ほら、真紅も見に来てみろよ、指の動きとか凄いぞ。参考になる」 ジュンが本当に感心したような声を上げていた。 「なんの参考よ」 そのせいでついつい言い返してしまった。 「野ばらのプレリュード!」 確かに金糸雀の弾くヴァイオリンの音色はすばらしかった。その証拠に、一曲ごとに拍手の数と音が多くなって行く。 自由に歩ける患者がだんだんと集まりだしているらしい。中には小児科の患者だろう子供の声も聞こえる。 「お客さんも集まり始めていよいよ盛り上がって来たかしらー。次、うなだれ兵士のマーチ!」 三曲目が終わる頃には、金糸雀はすっかり上機嫌だった。聴衆の評判がいいと、素直にテンションが上がるらしい。 「くんくん探偵歴代OPEDメドレー!さぁ真紅さくさく出てこないと聞き逃しちゃうかしらー!」 「そこでなにをしているの!」 厳しい中年女性の声。確か佐原とかいう看護師だ。 病院の廊下で人だかりを作れば、何事かと駆けつけた病院関係者にしょっぴかれるのは当然だろうに。 こんこん。 ドアをノックする控えめな音。 「誰?」 聞き取るのも難しい、たどたどしい声。 「か、カナお姉さまの…ヴァイオリン…気に入りません…か?」 「演奏会を開けるくらい上手いわよ」 「…じゃあ…出てきても…」 「ヴァイオリンの音なんて扉越しでもはっきり聞こえるわ」 微かに『あ…』と呟く声が聞こえた気がした。 最後にジュンがぼやいた。 「そりゃそうだよな」 「ほんと…お間抜けね」 その日初めて真紅は笑った。 「ジュン、金糸雀に伝えて頂戴」 ※ ジュンが見つけた時金糸雀は病院内の喫茶店でめぐと薔薇水晶と一緒にいた。 「あ、ジュンかしら」 自分に気がついて笑顔で挨拶してくる金糸雀の目が少し赤いので、ジュンはよけい申し訳ない気持ちになった。 「真紅から伝言なんだけど…」 「貴女なんかが一生かかっても私に勝てる訳無いでしょこのばかばかばかばか。わかったらさっさとあきらめなさいな」 「かしらー!」 喜怒哀楽のあらゆる表現が「かしら」で表現できるのはある意味うらやましいな、とジュンは思った。 激怒する金糸雀は駆け出して行った。行き先は当然真紅の部屋だろう。 あわあわした顔で薔薇水晶がその後ろを追いかけて行く。 「真紅ちゃんって本気でカナちゃんに来てほしくないの?」 「そうですけど」 「だとしたら結構子供っぽいのね」 どう考えても今の言葉は逆効果でしょう。とメグの顔が言っている。 ジュンとしては 「ええまぁ…」 と言葉を濁すしかなかった。 ※ 塞ぎ込み立ち尽くすものにとって、日々はあっというまに過ぎてゆく。 誰に対しても丁寧で気丈に振るまい、そして心を開かない真紅の対応は当然のように見舞客を減らした。 それでも金糸雀は毎日放課後に顔を出し、菓子を持参しては食べながらしゃべった。部屋に入れてもらえない日も無謀な作戦で玉砕を繰り返した。 そしてジュンはその倍、静かに真紅の傍にいた。 毎日来る見舞客は二人だけになった。 ※ 今日は珍しく金糸雀が来なかった。 そしてジュンから微かに漂う程度、翠星石の花のような香りがした。今までもジュンがスコーンを持ってくる事はあったし、別に翠星石がジュンを好きな事くらい知ってるから別にどうという事も無い。 金糸雀には金糸雀のジュンにはジュンの生活があるのだから、当然の事だし、というかなぜ自分がわざわざこんな事を考えないといけないのか。 真紅は病院内の喫茶店の中にいた。喫茶店といっても、簡素で小さいものだけれど。香りの薄い紅茶を一息で飲み干し、ため息をついた。 あまり自分の病室に戻りたくなかった。 最近、あの病室に一人で座っていると、小さい頃に部屋で一人きりだった事を思い出してしまいがちだった。 お父様は生まれたときから家にいなかったが、母親はある日蒸発してしまった。 自分一人がらんとした部屋に居た時の感触が真紅には今だに忘れられない。 もう自分の周りに誰もいないが、それでも母親の「一人で家を出ては行けない」という言いつけを守って、真紅はずっと家にいた。 槐が真紅の元を訪ねて来たのは、母親が蒸発してから数日後。そろそろ食料も尽きかけていたので、槐が来なければそのまま死んでいた可能性が高かった。 お父様の事を知ったのも、閉め切った家を開いた槐に連れ出されてからだ。 そこで垣間見たお父様の栄光は、親の愛情一つ持たない真紅にとって唯一の心の支えだった。だから真紅はアリスを目指して来たのだ。 ローゼンを偲ぶ会に出席した事が桜田の家に貰われるきっかけになった事や、当時の真紅を知る槐さえ、真紅が入院してから一度も見舞いに来ない。それが自分の暗い考えを裏付けているように真紅には感じられていた。 アリスにでもならない限り、自分の周りには誰もいてくれないのだ。 あの独りで居た家が怖くて逃げ出したくて、必死であがいてアリスを目指し、結局あの一人の部屋に戻って来たのではないか。 鬱々とした考えに泣きそうになってしまったが、誇り高い真紅はもちろん、人前で涙を流す事を自分に許さなかった。 ちょうど背後を歩いてくる気配があったので、店員に向かって言う。 「紅茶を」 「ずいぶん不機嫌そうね」 近づいて来ていたのは店員ではなくて、メグだった。 そのまま許可も取らずに真紅の向かいに座る。 「ちょっと」 真紅が抗議の声を上げた時、メグは手を挙げた。 「店員さん紅茶二つ、あとフィナンシェも一つ」 しかめ面でメグを軽くにらむ真紅に対して、メグは平然と 「まぁまぁ、おごるわよ」 と言った。 メグはじっくりと話したそうだったが、真紅にそんな気はない。 「金糸雀の事なら、からかってれば面白いだけよ」 「なんのこと?」 「貴女が金糸雀を気にかけてる事くらいわかるわよ。おそらく水銀燈の頼みでしょうけど」 メグは困ったような表情をしたが、真紅の性急さにつきあう事にしたようだった。 「あの娘に哀れみとか悪意は無かったでしょう」 「たしかにそうだわ」 「怪我人にだろうと怒れるのはあの娘くらいのものよ」 メグはそういうと少し笑った。 紅茶とフィナンシェが届き、真紅はフィナンシェを一口食べる。 「カナちゃんにローゼンの記憶は無いわよ」 「まぁ、あの調子じゃ記憶に残っていないでしょう」 「ひどい言い様ね」 メグは意外そうな顔をした。 「べつに今の事を評したんじゃないわ」 メグも知らないだろう、ローゼンを偲ぶ会に出席した時のこと。 あの時、一日中堂々としていた水銀燈の表情が崩れたのは一度だけ。 会も終わって、出口に向かっている時、金糸雀が不思議そうに言った言葉。 「おとうさまはいつかえってくるの?」 水銀燈の顔が歪むのを見たのはあの時だけだ。 知らない子に見つめられている事に気がついた水銀燈は、すぐに表情を繕い直したけれど。 真紅は紅茶の水面だけを見ていた。 「貴女は仲直りさせたいようだけれど、それは無駄よ。私たちが仲良くすることなんて誰も望んでないもの」 「そんなことはないでしょ。現にカナちゃんだって貴女と仲良くしたいでしょうに」 「じゃあ、なんでお父様は私たちを一つ屋根の下に住まわせなかったの?」 真紅の声は異常なまでに押し殺されていて本当に真紅の声なのか、メグは一瞬耳を疑った。 誰も、ではなく本当のところはお父様。 「私たちは知り合えば知り合うほど戦いは避けられないでしょう。あの一番のん気な金糸雀だって私と相対するときは勝負を持ち出さずにはいられないのだから。今の関係だから、あの程度の遊びで済んでいるのだわ」 真紅がメグを見た。 「関係が深くなればなるほど、思いが強くなればなるほど、私たちの戦いは深さを増して、やがては大事なものを傷つけるのよ。そうじゃなかった時なんて無いもの」 その上目遣いの視線は年上のメグをたじろがせるほど鬼気迫っていた。 メグは自分の肌が火であぶられるような錯覚を感じた。反射的に身が竦む。メグは紅茶のカップに指をかけていたので、皿とぶつかって耳障りな音を立てた。 「…だから貴女と話なんてしたくなかったのよ」 真紅は席を立ったが、吐き捨てたその言葉は投げやりで力が無かった。 「何かあるとは思ってたけど…」 独り言を言って、喉が渇いている事に気がついた。メグはひどく汗をかいていた。 色々と金糸雀が真紅のところに来るように最初の暴力沙汰をごまかしたり、ひそかに金糸雀を応援して来たのは失敗だったかもしれない。 あの目つきの裏にある異様な怒りと絶望。それは元々、真紅が持っていたものだ。学生時代の水銀燈が垣間見せた物によく似ている。ただ、その後の投げやりな様子を考えると、メグは暗澹たる気分になった。 水銀燈の人形作りにあたるものが、アリスを目指すという事だったのだろう。負の感情を転化はけ口を失い、真紅が本格的に心のバランスを崩し始めているように思える。 他人の出る幕ではなかったのかもしれない。そう思えて、メグはため息をついた。 水銀燈は金糸雀が脳しんとうを起こす事になった日に、これ以上見舞いには行かせない様にしたがっており、それを押しとどめたのがメグだ。 金糸雀に見舞いを禁止しないかわりに、メグはこれ以上金糸雀が真紅に何かされないか注意することになっていた。 金糸雀はメグと偶然良く会うと思っているが、そうではない。水銀燈の心配を少しでも減らすために、メグが部屋から出てくるようにしていた。 もっともメグは真紅がそういう事をするとは思えなかった—金糸雀の意識が戻ったときの表情を見れば子供でもわかる—ので、部屋の中までついて行く事はしなかったが。 影に病院と外の人間の間のつじつまを合わせ、日向に金糸雀を励まし真紅を煽る。 金糸雀が真紅のお見舞いに行くことを一番強く後押ししていたのはメグだった。 「…あの塞ぎようをなんとかしたかったけれどね」 もう真紅の入院生活も一月近くなる。退院の日が近づいて来ていた。 四 薔薇乙女の戦い 今朝、園芸用品を運ぶために使ったスポーツバッグは重たいので地面に置き、壁に背もたれるようにして蒼星石は立っていた。 蒼星石は学園の玄関で翠星石を待っていた。普段はジュンが病院に向かってから、翠星石が園芸部に戻ってくるのだが、今日は園芸部自体が珍しく活動日ではなかったので、蒼星石がここで暇をつぶしている。 ジュンに会っているので、最近の翠星石は部活動の時間が少し短い。ただ園芸部はもとより部長の恋路を応援しているから、特に問題はなかった。強いて言うなら翠星石が蒼星石以外の誰にも自分の気持ちがバレていないと思っている事ぐらいか。 今日の翠星石はいつもより遅かった。それ自体はジュンと一緒にいる時間が長いという事なのだから蒼星石には喜ばしい。 やはり真紅の精神は荒れているようで、ジュンの表情も張りつめがちになっていたから、翠星石の手作りお菓子とちょっとした会話はジュンにとってもいい息抜きになっているようだった。 休日に一緒に出かけた事もある。さすがに二人っきりとはいかず、蒼星石も呼ばれたけれど。 当日にちゃっかりジュンの横をキープする翠星石の背中を見て、蒼星石は少し笑ったものだった。 別に何をしたわけでもないけれどほんの少し、覚悟を決めた甲斐があったと思う。 なにもかも順調だった。 コッコッコッ。なんだか気忙し気な、堅い靴音。 蒼星石の前に現れたのは音楽の教師だった。金糸雀にヴァイオリンの指導をしようとしては逃げられているらしい。 彼女が苛ついているのは一目見ただけで分かった。 「科学部の部長を見なかった?」 不機嫌さを押し殺せていない声。 わざわざ名前を呼ばないあたりに彼女の不機嫌さが伺える。元々この音楽教師は神経質で生徒を管理したがる傾向が強い。正直、金糸雀との相性は悪そうだ。 「金糸雀の事なら見ませんでしたけど?」 「ああ、そう」 蒼星石が答えると、そのまま音楽教師は踵を返して校内に戻って行った。 その様子をみながら失礼な人だな。と思う。おかげで少し感じていた優等生的良心の呵責が和らいだ。 スポーツバッグを3分の1ほど開く。 「もう出て来てもいいよ」 「…た、助かったかしら」 ぴょこん、と金糸雀の顔が飛び出して来た。スポーツバッグの気密性が高いせいで金糸雀の顔は真っ赤だ。 玄関で翠星石を待っていたら、いきなり金糸雀が駆け込んで来たのがほんの5分前。 「けれど、バッグに隠れるっていう発想がよく出てくるね」 呆れ半分、感心半分といった調子で蒼星石は言った。 「昔はよくこうやって運ばれたもんかしら」 よくわからない過去にも興味は惹かれたが、蒼星石は質問せずに携帯を取り出す。 「ちょっとそのままでいてね」 キャリーバッグから犬が顔を出しているみたいで少し可愛い。ちなみに蒼星石は犬が好きだ。 蒼星石は金糸雀を携帯で撮った。 「ふう…さて、と」 携帯をしまって、蒼星石はスポーツバッグを全開にして金糸雀に手を貸した。 制服の上から愛用の鋏を触る。人の心も鋏一つで断ち切れればいいのに。 バッグから出て、背伸びしている金糸雀に蒼星石はなにげなく聞く。 「今日も真紅のところへ行くの?」 「うん」 「ほぼ毎日通っているんだよね。僕は金糸雀がこんなに長くお見舞いを続けるなんて思ってなかったよ」 「やー、それほどでもないかしらぁ」 金糸雀は照れたように手を振る。 「凄いよ。なかなか出来る事じゃないし」 合わせて蒼星石も微笑んで、それから表情を少し曇らせる。 「ただ少し心配なんだけれど、その…真紅はそれを喜んでいるのかな?」 「あー、正直一回たりとも嬉しそうには見えないかしら」 金糸雀の表情も情けなさそうな物に変わる。 「そっか…僕たちが言う事じゃないかも知れないけれど、真紅はそっとしておいてほしいのかもね」 「蒼星石にも言われるし、やっぱりそれが一番いいのかしら」 「他の人にも似たような事を言われたんだ?」 「おねえちゃんとか、ばらしーちゃんに槐さん、巴に雛苺、翠星石にも」 金糸雀の目が少し潤んで来たように見える。 「真紅と共通の知人ほぼ全員だね」 「みっちゃんには言われてないもん」 「ごめん、気に障ったなら謝るよ」 むくれる金糸雀を気弱そうに宥める。 (あの子は君の理解者でいたいだろうからね。そりゃあ、反対なんてしないさ) 話が逸れてしまうような、棘のある事は言わないように。 蒼星石は本当のところ、こういうすっきりしないやり方は嫌いだ。でも、今手持ちの武器は言葉しか無い事を理解していた。だから蒼星石はためらわない。 「でも、草笛さんは今の真紅の落ち込みようは知らないから」 細い蜘蛛の糸をひっかけるように、慎重に。 「カナだって、蒼星石の考えが真紅に一番優しいことは知ってるかしら」 「それじゃあ、なにが納得できないんだい?」 「うーん」 考えている時でも金糸雀は賑やかにうなっていた。 チェスで追いつめられた時と同じような悩み方だ。いつもの勝ちパターンが見えて蒼星石は少しほっとした。 金糸雀が考え込んだところで予想外の手を打ってくる事はほとんどない。やがて自分に理が無い事を悟って、こちらの考えを認めるだろう。 (蒼星石の考えが真紅に一番優しい、か) 蒼星石はやはり、金糸雀は甘いと思う。チェスの時から薄々気がついていたが、金糸雀は人の悪意にひどく鈍い。 ある程度合理的に考える頭があるのに異常なまでにチェスに弱いのはそれが理由だ。 あらゆる人の金糸雀への制止が真紅への優しさから出ていると考えているあたり、その癖はチェスだけの物ではなさそうだった。 蒼星石にとって、それぞれが金糸雀を止める理由はだいたい見当がつく。 例えば、水銀燈が金糸雀を真紅の元に行かせたくないのは、自分と真紅の関係が第一容疑者と被害者だからだ。 そうじゃなきゃ、彼女の事だ。ジュン君の引きこもりを治した時みたいに、自分が前に出て来ていないとおかしい。 水銀燈に真紅への優しさなんて一片も無い。人形展の顛末を見ていた蒼星石にはそう断言できる。正直に言えば警察と同じく、真紅の右腕を切断して隠したのは屋敷を熟知した水銀燈以外にあり得ないとすら思っている。 水銀燈はただ、逆恨みした真紅に金糸雀が傷つけられないか心配しているだけで、それを大っぴらにしないのは警察へのポーズと金糸雀に余計な心配をかけたくないからだ。 「あ、そっか」 特に感情がこもっていない平坦な声に、蒼星石は注意を戻した。その声と同じ静かな表情が蒼星石に人形展の人形を思い出させる。 ただあの時と違い、目の前の金糸雀の静かな表情が妙に苦しそうに見える。 蒼星石がこの時思い出せなかったことは、あの人形に対して人はそれぞれ思い思いの物語を見ていた事。 自分は今、鬼のような表情を無理矢理隠していると信じている蒼星石は、苦しそうな表情をしていたのが金糸雀ではなく、自分だったことに最後まで気がつかなかった。 金糸雀はすぐにいつもの元気そうな表情で続ける。 「仲良くなれるのが一番いいけれど、きっとカナは、なにより真紅を知りたいからかしら」 「それは君の我が侭だよ」 蒼星石はたしなめるような調子に切り替える。 「それは、そうかしら…」 「わかっているならなんで、真紅の負担になるような事をするんだい?」 「だって、今ほうっておいたら、真紅と話せなくなるわ」 放っておけば真紅が自分の殻にこもりがちになるだろう事を、金糸雀はなんとなく気がついていたらしい。 金糸雀はいたずらを叱られている子供のように上目遣いで蒼星石を見ていた。 「前にジュンと一緒に真紅の病室に行った事があるんだけれど」 「ジュン君と?」 「その時に二人は喧嘩したわ。でも…その二人を見てカナも姉妹なのに、ジュンの方が真紅とずっと家族だなって思ったの」 「ご家族に任せようと思わないのかい」 「カナだって姉妹かしら」 「…ぁあ」 このまま、金糸雀の行動は我が侭であり、真紅の事を考えるべきだと諭せば、金糸雀の行動をやめさせる事が出来た。 「…その気持ちはわかるよ」 けれど蒼星石はそうする事をやめた。 蒼星石も姉妹だからだ。 その後は他愛も無いチェスの話をしていたような気がする。 「姉妹だから、か」 蒼星石にとって、その言葉が一番胸に突き刺さる。 断ち落とせないばかりか、金糸雀の成功を応援したい気持ちになってしまった。気づかされた事は分かりやすい。 「僕は嘘もなれ合いも好きじゃない。真紅だって傷つけたいわけじゃない」 でも、戦う事をやめていいのか?蒼星石の懊悩は止まらない。そもそも真紅もまた、好戦的だ。 あのまま真紅が咲き誇れば他の姉妹はすべて圧倒されていたのではないのか。 やめるべきなのか、どうか。迷いが生じて蒼星石は今『断ち落とす』ことは保留することにした。 けれど、ジュンの心に二本も薔薇は咲かないだろう。 金糸雀が真紅の閉ざされた心をどうする事も出来ないだろうけれど…。 考えがどうにも支離滅裂で、ただただ気が滅入るので、蒼星石は今考える事をやめることにした。 黄金の鋏を取り出して、そっと撫でる。いつも持ち歩いている愛用の鋏。 それは生まれた時にお父様から贈られた、大切な鋏だ。鞄に入ったドレスと同じ、ただ二つのお父様からの贈り物。 鋏を顔の前に持ち出して、蒼星石は頭を垂れた。鋏が額に当たり、祈っているかのような姿勢になる。 つらい時や苦しい時、蒼星石はいつもこうやって痛みをしのいできた。 静謐な時間が過ぎる。 ふわりと、香水の香りがした。 今日の朝、翠星石がつけていった香水の香りだ。 「おまたせですぅ」 「おかえり、今日はどうだった?」 翠星石はその一言に顔を赤くする。 翠星石がやってくる頃には、蒼星石はいつもの調子を取り戻していた。 それから続くジュンに関するあれこれを蒼星石は微笑みながら聞く。 翠星石とジュンが仲良くなりだした事を蒼星石は好ましく思う。 そしてなによりも恋に胸弾ませる翠星石は美しい。誰よりも。どの薔薇よりも。 満開に咲く翠星石を誰よりも身近に見られる事が蒼星石には嬉しかった。 だからこれが相思相愛になり、咲き誇る二人の愛はさぞかし美しいに違いない。 それを身近に見るために蒼星石はこの恋路を全力で応援して行きたかった。 その嬉しさに嘘偽りの無い事もまた、蒼星石には嬉しかった。 ※ 「メグさん、こんちわかしら」 「あら、今日は特に元気ね」 メグと金糸雀はいつものように病室の前で会った。 金糸雀の頬が赤いのは今日がよく晴れているからという訳ではなさそうだった。 「チェスで、蒼星石がすっごく良い手を教えてくれてたから遂に真紅に勝てそうかしら」 「それは凄いわね。ぜひ勝って欲しいわ」 メグは真紅のためにも、その色々な勝負とやらで一度は金糸雀に勝って欲しかった。 どうみても、真紅にとって金糸雀は他愛も無い相手扱いされているように見えるので、真紅の中で金糸雀の存在感を増して欲しいのだ。そうやって、真紅が自由の身になってからも、この調子で関わり合うくらいの関係になって欲しい 後ろから、鈴の転がるような綺麗な声が割り込む。 「聞き間違い?私に勝つですって」 後ろに真紅が居た。左腕で肩にかかったツインテールを払う仕草が様になっていた。 「上等よ」 「上等かしらー!」 景気よく金糸雀が言い返す。 (頑張ってね) メグは真紅の部屋に入って行く金糸雀の背中に心で声援を送った。 姉妹に勝つ事が真紅の矜持であるから、それがさらに傷つけられた時に真紅がどうなるのか、メグは気がつかなかった。 金糸雀からの又聞きだけで、真紅の打ち筋を把握できる蒼星石のチェスの実力は相当に高いようだった。 「チェックかしら」 金糸雀のワクワクした気持ちを押さえ込めていない声。それは、王と女王を同時に狙う一手。 「っ…やってくれるじゃない」 真紅の打ち筋は蒼星石のように定石を理解した打ち方ではなく、その地頭の良さに頼った打ち方をしている。 だから、まるで蜘蛛の巣の罠のように見えづらいその殺し手に気がつかなかった。 真紅の戦法は常に女王を軸に据えた攻めの姿勢。主要の敵駒のほとんどを女王で刈り取って来た。 だから、突然女王を倒された意味は大きい。真紅は善戦したが、それが限界だった。 「チェックメイト」 「…逃げられないわ…」 「やったーかしらー!」 金糸雀は快哉を上げた。 「私の負けね」 真紅はただ事実を呟いた。悔しいが平静を保っているのではなく、その声に力は無かった。 「そ、そんなにへこむ事も無いかしら。ほら、これでやっとカナの1勝8敗だし」 もちろん、真紅は金糸雀の言葉等気にしていない。 「私はこんなにも弱かったかしら?」 ほんの少し不思議な気持ちになって、真紅は手の中で女王を弄んだ。 「いやほら、女王を倒したあの手筋も蒼星石のまねっこかしら。この手もさっき蒼星石が教えてくれただけだし」 いずれ、こうなるような気がしていた。もはや自分は完璧とはほど遠い何かなのだし。 目の前の負けにすら奮い立つ物を感じない。割れた器のように、ちぎれた腕の先から気力が全て漏れだしているかのようだった。 ほんの少し前には全てに手が届く様な気がしていたのに、今は心に奇妙な脱力感しか湧いてこない。 腕を失った喪失感は日常の中でこんな感情へと進化していた。唯一自分を支えていた、普段通りに振る舞うというささやかな見栄と現実逃避も折れてしまえば、胸の内にある空虚を直視するしか無い。目の前に広がる事実を、真紅は褪めた気持ちで眺めていた。 ここにあるのはただの残骸だった。 もはやアリスにはたどり着けず、奮い立つ心さえ失って、もはやなにもない。なにもかも手に入れるつもりで結局自分はここに戻って来た。 狭い何も無い部屋。母はおらず。父もいない。ここに居るのは何者でもない。 狭い狭い鞄の中、しまわれて誰も気がついてくれない。 「は」 真紅の震える腕が持ち上がり、神経質にこめかみの辺りを掴もうとして、何かにぶつかった。 いつのまにか、金糸雀が真紅の頬を触っていた。真紅の腕は金糸雀の手にぶつかったのだ。 そうして我に返らなければ、真紅はそのまま自分の髪の毛を掻きむしっていただろう。 女王が床に落ちた。 「金糸雀…?」 真紅は悪夢から目が覚めてから、始めて目の前の人間に気がついたように金糸雀の名前を呼んだ。 金糸雀の眼から一筋、涙がこぼれた。 「なんで、貴女が泣くのよ…」 呆れた真紅から、少し枯れた声が出た。 「貴女はもう私に勝ったんだから満足でしょう、さっさと帰りなさいよ」 「いやかしら」 「ほっといてよ」 「泣いてる真紅をほうってなんか行かないかしら」 真紅が泣き止むまで、金糸雀はずっとそこにいた。 西日が射して真っ白な部屋は茜色に染まりきっている。気怠いのはこの時間のせいだと思いたいけれど、そうはいかない。「もう本当に来ないで頂戴」 鼻声で真紅は言った。金糸雀はリンゴを剥いていた。 泣き止んで、真紅はベッドの上に三角座りをしていた。体は金糸雀の方に向けているが、膝に顔を埋めて、赤い目は金糸雀から逸らしている。 「結局、私と貴女の間にあるのは戦いだけよ。私たちは知り合えば知り合うほど戦いは避けられないのよ」 「そうかしら」 「たとえ笑い合う関係になっても、きっと私は心の底で貴女に勝ちたい、負けたくないと思うわ」 金糸雀は不思議そうな顔をした。 「別にそれでいいと思うけれど…?」 「それでいい?」 なにか、金糸雀と自分の間に大きなズレがあることに真紅は気がついた。そう言えば、これまで取り繕う事に夢中で金糸雀の考え、というより、金糸雀自体を全く気にした事がなかった。 「戦う事がカナと真紅を繋ぐ絆なら、戦えばいいかしら」 「今までもこれからも私たちの間にはそれしか無いのよ。それでなにかが生まれるとでも?」 「生まれないかもだけど。それがカナと真紅の絆なら、それでいいかしら」 「どういうこと?」 金糸雀は首を捻った。自分自身はっきりと考えた事は無かったらしい。 「だって、カナと真紅って張り合ってばっかりでしょ?」 「そうね」 ここまでは同じ考えみたいだけど。と真紅は考える 「そしてカナと真紅は家族じゃないかしら」 「きっとカナと真紅は今日から会うのをやめても、お互いにあんまり困らないわ。カナにはおねえちゃんがいて、真紅にはジュンがいるでしょ?」 「そうでしょうね…私たちは友達でもなく、家族でもないもの」 「でもカナは真紅を無視したりなんてできない。家族じゃなくても、姉妹だもの。離ればなれでも意識し合えるなら、きっといい事かしら」 しばらくの間。 「私はきっと凄く嫌なやつなのだわ。だって姉妹の誰よりも成功したいし、誰が失敗しても嬉しいのよ」 「真紅は姉妹の失敗を願うほどねじけてないかしら。だってとても誇り高いもの」 「…」 「どうしたの?」 「なんでもない。そう…金糸雀は勝っても負けても戦い続ければいいと思っているのね」 「あ、そんな感じかしら」 「私は完璧に勝ち続けなければならないと思う」 「よくわからないけれど、疲れないかしら」 「疲れたわよ。ちょっとこっちに来て頂戴」 真紅に手招かれて、金糸雀もベッドの上、真紅の隣に座った。真紅の上半身は傾いで倒れ、そのまま金糸雀の膝の上に収まる。 驚いている金糸雀を、真紅は上目遣いで見た。 「ねぇ、貴女は水銀燈の事をなんて呼んでいるの」 「おねえちゃんかしら」 「ふぅん…」 真紅は心底どうでも良さそうに返事をして。 「たまには私もおねえちゃんに甘えてみてあげるわ」 などと、気のなさそうな振りをして言う。金糸雀は真紅の横顔が真っ赤な事に気がついて、クスクス笑った。 「真紅がお姉さんなのに、これじゃあべこべかしら」 少し意外そうに、真紅の流し目が金糸雀を見た。 「そう、そんなことも知らないのね」 真紅は意味ありげに呟いてみせた。 「私は貴女の妹よ。貴女より年下だもの」 「えぇ!!でも真紅は学年が上かしら?」 「飛び級よ」 「へ?」 「アリスだったらそれぐらいできなきゃダメでしょ」 少しむくれた顔で、真紅は言う。アリスという名前を気軽に出せるような心境の変化に気がついてるのかどうか。金糸雀はしばらくぽかんとしていたが、やがて言った。 「どうりで体もちっちゃいわけかしら」 「貴女よりは高いけどね」 「う」 金糸雀の顔がおもしろかったので、今度は真紅がくすくすと笑った。 頭に金糸雀の温もりを感じながら、真紅は自分の左手を見た。 「そう、本当は貴女に色々と話したい事があったのだわ」 「なにかしら?」 「人形を壊してしまった事とか、ジュンとノリの事とか…」 「全部聞くかしら」 飾り気の無い、金糸雀の返事が降ってきて、ぽつぽつと真紅は話始めた。くんくん探偵の事、人形を壊してしまった事への謝罪、桜田の家の事、自分の事。 ただ話し、聞いてもらう。ずっと姉妹としたくて、やがては諦めてしまった事を真紅はしていた。 ぼうっと眺めるその手のひらに姉の輪郭が思い出された。夕日に照らされた部屋の中で、真紅の手は橙色をしている。 そうやって真紅は自分が人形でない事を知った。 ※ 家に戻ってからくると、もう夕日が落ちる頃だった。着替え等を入れた紙袋を扉の前に一度置いて、ジュンが部屋をノックすると「入っていいかしら」と金糸雀の控えめな声がした。 部屋に入ると金糸雀がベッドの上に座っていて、唇の前で人差し指を立てている。そしてその膝枕で真紅が眠っていた。 「聞いたかしらジュンジュン」 金糸雀は妙に楽しそうだった。とりあえずハイテンションな人物が苦手なジュンはそれだけでちょっとたじろいだ。 「な、なにをさ」 「真紅はカナ達より年下なのね。ということは、ジュンはお兄さんのような気持ちで真紅に接していたのかしら?」 ジュンは頭をかいた。 「こいつはいつも下僕だって言うけどね」 「いいお兄さんかしら」 「そっちこそ、上手くいったみたいじゃないか」 恥ずかしかったので、ジュンは話題を変えた。 「うん、はじめて真紅と話せたかも」 「どんな話?」 「姉妹のないしょ話」 にんまりと笑う金糸雀にあわせて、ジュンはちぇっ、と呟いてみせた。 「こいつ、案外子供っぽいだろ?頭いいくせに意地っ張りで偏屈で、変なところマイペースだし」 ジュンと金糸雀は二人して苦笑した。二人の真紅に注ぐ眼差しはあくまで優しい。 「意固地なところがあるけれど、可愛い妹かしら」 五 食卓 あの病院内喫茶店にのりと見知らぬ中年男性が座っているのが見えた。 「あんな所にいたのね」 そう呟くと、真紅は一人で喫茶店内に入った。すぐにメグは真紅を見つけて、軽く手を振る。 「真紅ちゃんが私を捜すなんて珍しいわね」 「挨拶しようともったら、部屋にいないんですもの。探したわよ」 「ああ、今日が退院日?」 「そうよ」 中年男性はメグと向かい側の席を譲ってくれた。なにか頼もうとするのを、おかまいなくと断る。 向かい合って座るメグはなんだか血色が良かった。 「なんだか、前よりすっきりした顔をしているわね」 「たいした事じゃないけれど」 真紅は左手を伸ばして、その指先を見た。 「ただ、腕を無くして、もう何もかも終わりになった。そんな風に考えていたけれど、そんな事なかったわ」 「心の整理がついたのね」 「こう思えるのは、貴女のおかげでもあると思うの。ありがとう」 「たいしたことはしてないわ」 「でも不思議なのよ。貴女はなんで私と金糸雀の仲を取り持つような事をしたの?」 メグは指をくみ、照れ笑いした。 「たいした理由じゃないわ。ただ、肉親がいがみ合うのは悲しいことでしょ。私も昔パパと仲が悪かったから、そういう娘が放っておけなかっただけよ」 「そちらの方がお父さん?」 「ええそうよ」 真紅に自己紹介する、メグの隣に座った中年男性は不器用そうだが誠実そうだった。 「昔水銀燈君に助けてもらってね、なんとか仲直りできたんですよ」 「そう。水銀燈にもいい所があるのね」 真紅のそっけない物言いにメグの父親は鼻白んだ。メグは苦笑する。 「やっぱりきついわねぇ。まぁ、貴女に水銀燈を疑うなとは言えないけれど」 とはいえメグは一点の曇りも無く、彼女自身は水銀燈の事を疑っていなさそうだった。 「今も疑ってもいるし、嫌いよ。きっとアイツは私の天敵だもの。でも…」 「でも?」 「でも最初に悪い事をしたのは、こっちだって分かってるわ」 「へぇ…ちょっと大人になったわね」 「昔からいろんな人に大人っぽいって言われて来たけれど」 「そりゃまた。随分見る目の無い人達に囲まれて来たのね」 「ははっ、確かにそうかもしれないわ」 ざっくりとしたメグの物言いは以前の真紅ならカチンと来ていたかも知れないが、特に不快に感じなかった。 (そういえば、ジュンとのりは私を大人っぽいと言った事がないわね) ふと、真紅はそんな事を思った。 特に振り返る事もせず、真紅は喫茶店を出た。 「そんな所にいたのかよ」 「あらあらジュン君、真紅ちゃんにも積もる話があるのよぅ」 ジュンの責めるような口調。のりのたしなめるような口調。つまりはいつもの口調だ。 ジュンは真紅の荷物を全て持ってくれているようで、両肩にそれぞれ大きな鞄を掛けていた。空調の効いた病院の中で、うっすらと汗をかいている。 「あら、ごめんなさい。探してくれたの」 「別に、早く帰りたいだけさ」 喫茶店は病院入り口に近く、すぐに三人は病院を出た。のりが病院の扉前に立つ警備員にも会釈をしたりしつつ、待たせてあったタクシーに乗り込む。 「それでね、真紅ちゃん今日のお夕飯なんだけど、退院祝いになにか美味しい物を食べに行こうかと思うんだけれど…」「適当にピザとかでいいじゃん」 「ジュン君そんな事言っちゃ、めっめっよう」 相変わらずジュンは姉にたいして素直じゃなく、軽口を叩いているようだった。 「私はどちらかといえば、家で食べたいわね」 「そう?」 「ええ、のりの手料理が食べたいわ」 真紅が照れくさそうに言うと、のりの顔がぱぁっ、と明るくなった。 「よぉーし、お姉ちゃんはりきっちゃうわよぅ!」 はりきったのりの料理はちょっと凄かった。 花丸ハンバーグは当然の事として、ハート形オムライス、パンプキンスープ、大根や海藻などの三種類のサラダ。パイはくんくんの顔をかたどってあった。他にも様々な 料理が食卓狭しと並べられている。 「本当はケーキも焼きたかったんだけど、時間がなかったから不死屋で買っちゃったわ」 てへへと笑うのりに、もちろんジュンは引き気味だ。 「ねえちゃんて、時々超パワフルだよな…」 「さぁさ、みんな食べましょ。せっかくのご飯が冷めちゃうわ」 三人とも席につくと、それぞれの席に既に注がれたグラスがあった。ジュンがのりに聞く。 「これって乾杯用?」 全員未成年であり、のりが飲酒を許すはずも無いので、グラスにはジュースと紅茶が注がれている。 「うん、せっかくだから」 のりがグラスを持ち、二人もそれに従う。 「真紅ちゃん退院おめでとう!」 「あのね」 乾杯しようとのりがグラスを掲げた瞬間、真紅の堅い声が割りこんだ。珍しく声が小さい。 「一つ聞きたい事があるんだけれど…」 食卓を囲んでいる今だからこそ、聞いておきたいこと。 「私は…」 実は今まで一度も自分から確かめた事の無いこと。本当は昔から確かめてみたく て仕方なかったのに、怖くて聞けなかったこと。 「私はあなた達の家族かしら?」 一瞬の沈黙。ごく短い間に緊張のあまり真紅の心臓の鼓動が一つ跳ね上がった。 「もちろん。これからもずっと、真紅ちゃんは私の可愛い妹よぅ」 何を今更と言わんばかりに、のりは平然と答えた。 「そう…良かった」 控えめな呟き。けれど真紅の目から涙がこぼれた。金糸雀の時とはまた違う、胸 が暖かい物で溢れたからこそ出る涙だった。 のりは真紅に近づくと、そっと真紅を抱きしめた。照れ屋のジュンはその場から動 かなかったが、しかし涙ぐんでいた。 六 目覚めてしたこと 暗いアトリエの作業台に橙色の明かりがぽつんと一つ。これもローゼンがまだ生きて いた時から引き継がれたランプの光だ。 蛍光灯に慣れた目からすると遥かに薄暗い部屋の中で、水銀燈は紙粘土をいじっていた。 天窓から降り注ぐ月光と、火の光だけを頼りに自分の中のイメージを形にして行く。 デッサンを描くよりもさらに前、ローゼン流の構想の練り方だった。 微かに聞こえる音と言えば金糸雀の弾くヴァイオリンの音くらいの物だ。 真紅が午前中には退院する事をうっかり忘れて、もぬけの殻になった病室訪ねたらしく晩御飯時 でも残念そうにしていたが、ヴァイオリンの音は秋の月光に惹かれてか冴え冴えとしていた。 そんな静かなアトリエの中で、不意に携帯の着信音が鳴った。 小さく舌打ちして、水銀燈は携帯を見た。発信は桜田の家からだった。おそらくのりだろうと水銀燈 は見当をつけた。左手を拭き、携帯を取る。右手は紙粘土をいじったままだ。 「もしもし、水銀燈?」 真紅だった。 「あら、久しぶりね」 右手が無意識のうちに紙粘土に爪を立てていた。 真紅と水銀燈の仲は悪い。少なくとも水銀燈は今年の夏に槐の家で初めて会った時から真紅が気に入らなかった。 あの時の槐の執心ぶり。何年かけてもつかめるかどうかわからないインスピレーションを掴んだ熱狂が顔に浮かんでいた。 まだその時は気に入らないだけだったが、あの人形展の一夜を経て、水銀燈ははっきりと真紅を意識していた。 何歳か年下であろうとコイツは私の天敵だと。基本的に食うか食われるかの関係でしかありえないと。 「少し話たいことがあるだけだから」 「話ですって?」 「…人形を壊してしまって悪かったわ。その前にも酷いことを言ってしまったし」 「…え?」 「聞こえなかった?人形を壊してしまってごめんなさい」 「…」 あまりに予想外の事に水銀燈は黙りこんだ。 「…じゃあ…確かに謝ったわよ」 「……どういう風のふきまわし…?」 「言葉の通りよ。また逢いましょう水銀燈…」 通話が終わる。 なぜか、右手は力なく垂れ下がった。 終わり
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きのうのこと【登録タグ き きの(嘆きのP) 曲 重音テト】 作詞:きの(嘆きのP) 作曲:きの(嘆きのP) 編曲:きの(嘆きのP) 唄:重音テト 曲紹介 あなたの日々は、どんな色? 2011年のテトの日に投稿された、ゆったりとしたテト曲。 2023年4月、synthv版発売を祝したカバー版も投稿されている。 歌詞 それは涙です。日記に描いた水たまり 「これは雨なんです。」もう、泣き虫じゃないよ 少し滲んだページ でもね、明日はきっと笑って 重ねてく真っ白な日々に 昨日の夢を描いても ぎこちない笑顔と涙で溢れてく。 なんでかな…。 キミが好きだった花の栞を挟んだまま 少し眠るように色褪せてく昨日 いつか、忘れていくの? ボクの栞はあの日、止まって 欠けていく真っ白な日々に 昨日を描けなくなって どこかに落としてしまった 大切はまだあの日のまま? 真っ白な日々に 褪せていく昨日にどうか色を。 いつかの雨を。 重ねてく真っ白な日々に 昨日の夢を描いてさ あの時みたいに優しく笑えたら いいのにね。 戻れないのなら キミイロの未来を描くから ほんの少し今も寂しいけど 平気だよ。 ずっと、ボクが繋いでいく キミと、きのうのこと。 (ピアプロより転載) コメント 名前 コメント
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「あたし、やっぱりあんたのことが好き」 深夜、俺の上に馬乗りになった桐乃がそう囁く。 シャンプーの匂いだろうか。辺りには女の子特有の甘い匂いが漂っていた。 「お、おま……い、一体何を」 「やっとわかったの、自分の気持ちが」 カーテンの隙間から漏れる月明かりに照らされた桐乃の顔は優しい微笑みを湛えていて、どこか浮世離れした美しさすら感じさせる。 「だからもうあの黒いのにも遠慮しない。変に気を遣うのもやめるし、意地を張るのも今日まで」 こ、こいつは一体何を言っているんだ? ……俺には桐乃の言っていることがよくわからない。 ただ一つ確かなのは、こいつが俺に明確な好意を抱いているらしいということだけだった。 「お、おまえ、俺達は兄妹だぞ!? い、いくらなんでもそれはまずい!!」 「え……あ! な、何勘違いしてんの!? 好きってのはそういう意味じゃない!」 「他にどんな意味があるってんだよ!?」 好きって言ったらそれしかないだろうが! 大体、このシチュエーションからして大好きな兄貴の部屋に夜這いしにきた風にしか見えねえぞ!? 「話は最後まで聞けっての! あたしが言ってんのはあくまで兄貴として好きってこと!!」 あ、兄貴としてだぁ? おまえが? ……俺のことをか!? 「だからそう言ってんじゃん!」 ……まさか桐乃からこんな言葉を聞くことになるなんて思わなかった。 確かに最近は、こいつに感謝されたり感謝したりもしたし、俺達兄妹の間に存在した“溝”もなくなりつつあったと言っていい。 だけど、それが一足飛びに『好き』に発展するのはどういう要件だ? そもそもおまえの俺に対する態度は『好き』とはかけ離れたものだったと思うんだが。 「……にぶちん」 俺が未だ理解できていないと悟ると、唇をとがらせ不満そうな表情になる桐乃。 「あんた、今日のやりとり聞いてて何も思わなかったの?」 「今日? 黒猫と沙織達がいたときの話か?」 桐乃は無言で首を縦に振り、肯定する。 「あのときは精神統一してたからなぁ…無我の境地ってやつだ」 「……あんた、あんな大事な話してた時にいったい何やってんの?」 半眼で呆れるような視線を寄越してくる。 いや、そうは言うがな――――― 時は遡り……昼過ぎ、桐乃の部屋。 「俺達付き合うことになったから」 俺は黒猫と付き合うことになったことを桐乃達に告げた。 こいつらはさぞ驚いてくれることだろうと思ったのだが…… 「むふふ、やっとですか京介氏」 「……ふん」 こんな口ωをしてにんまり笑う沙織。 一方、桐乃は腕を組んで不満そうにこちらを見ているものの驚くといった様子はない。 「あ、あれ? おまえら驚かねえの?」 「黒猫氏が京介氏に好意を持っているのはバレバレでしたからなぁ。後は京介氏の甲斐性次第と思っておりました。まぁ、こんなに遅くなるかという意味では驚きましたが」 「ほっとけ!」 鈍いのは認めるけど、それと甲斐性は関係ないだろ。 沙織はともかく桐乃がこんなに落ち着いてるのはなんでだ? こいつのことだからてっきり黒猫を取られるのが嫌で騒ぎ立てると思ったのに。 「お、おまえは驚かねえの?」 「……この子には私が告白することを前日に告げておいたから」 「なんでそんなことを!?」 なんで俺が驚く側にまわってるんだ…ちくしょうなんか悔しい。 告白の前日っていうと、桐乃が俺んちに御鏡を連れてきた日か? あの時は桐乃と黒猫が喧嘩して黒猫が怒って帰っちまって、その翌日に桐乃が御鏡を連れてきて…… 確かその後桐乃と電話で仲直りしたって言ってたな。ひょっとしてその時か? 「あなた、その様子だとこの子がなんであんなこと言い出したのかもわかっていないようね?」 「う……わ、悪いかよ」 あの時は桐乃が泣いちまって、なだめるのに必死で…… 結局その理由とやらは聞かずじまいだったんだよ。 「呆れたものね…。あのね、あなたの妹は―――」 「ちょ、ちょっと待て! あんた何言おうとしてんの!?」 半ばタックルするようにして黒猫ともどもベッドへとダイブする桐乃。 ちょ、いくら言われたくないからってやりすぎだろ! 「こうでもしないと、あのにぶちんは一生きづかないわよ!?」 「だ、だからってそれをあんたが言うんじゃない! 余計なお世話だっての!」 おまえら! あんまりバタバタするんじゃない! 目のやり場に困るだろうが! 「――――――――――――!」 「――――――――――――!」 くそっ……鎮まれ、鎮まるんだ俺のリヴァイアサン。 さながら修行僧のごとく煩悩と戦う俺には何も見えないし何も聞こえない…… 「お二人ともそこまでです! このままでは京介氏の理性が吹っ飛びますぞ!」 沙織の言葉で自分たちの現状を理解したのか大人しくなる二人。 ふぅ…さすが沙織だ。沙織の仲裁がもう少し遅かったら危なかったぜ。 でもその言い草だと、俺がまるでこいつらのパンツをがん見してたみたいじゃないですか。 俺は必死に煩悩と戦って見ざる聞かざるを貫いていたというのに。 チッこのままじゃ俺という人間が誤解されちまう…… だから俺は胸を張ってこう言ってやったんだ。 「俺は何も見てねえから安心しろ。縞パン同士でお揃いだな、なんて思ってねえからよ」 「このど痴漢がっ!」 「“あちら側”へ行くがいいわ!」 はっはっは、こいつらにKOされるのは2回目だな。 今回は完全に俺が悪いんだけどさ。 「すまん、やっぱり縞パンしか憶えてない」 「この変態!」 ドスという音をたてて俺の脇腹に桐乃の拳が突き刺さる。 なんというマウントポジション! 「ぐぁ…ギ、ギブギブ! お、おまえの気持ちはわかったからこれ以上は勘弁してくれ!」 これ以上は俺の内臓がもたねえよ! 「…あんたほんとにわかったの?」 「お、おう! 要はおまえは俺のことが兄貴として好きだってことだろ!?」 半分眠ってしまっている必死に回転させもっともらしい言葉を考える。 実の所、桐乃のセリフをそのまま返しただけだったのだが、桐乃はどうやら納得してくれたらしい。 「わ、わかったならいいケド。じゃあ明日からはそういうことだから。おやすみ兄貴」 「お、おやすみ」 気が済んだのか桐乃はそそくさと自分の部屋へと戻っていく。 い、一体なんだったんだ? それに『そういうこと』ってどういうことだ? 「もっと仲良くしようってことなのか?」 しばらく考えを巡らせてみるが、いくら考えたところで答えはあいつにしか分からない。 結局、再び襲ってきた睡魔に打ち負け俺は思考を放棄した。 「あ、おはようお兄ちゃん!」 瞬間、我が家の時間が止まった。 「え?」 お袋は目玉焼きが焦げ始めているのにも気づかないし、親父は元々大きくはない眼を限界まで見開いてこちらを見ている。 「ちょ、お母さん目玉焼き焦げてるよ!?」 桐乃の言葉で再び時は動き出す。 「あ、あんたたち一体どうしたの!?」 理由は俺が聞きたいくらいだぜ。 しかしお袋の疑問ももっともだ。 確かに最近は多少仲良くなってはいたがあの桐乃がいきなり『お兄ちゃん』だなんて、疑問を持たない方がおかしい。 「えへへー、今まで意地はって損した分今日からお兄ちゃんにいっぱい甘えようかと思って!」 誰だおまえは!? 甘えるって何する気だ!? 「あら、そうなの? てっきり京介がなにかやらかしたのかと思っちゃったわ」 そしてお袋はなんですんなりと納得してるんだ! どう考えたっておかしいだろ! 昨日言ってた『そういうこと』ってこういうこと!? これからはお兄ちゃん大好きっ娘になるよって意味だったの!? はっ! そうだ、こんな時頼りになるのは親父だ! 親父なんか言ってやってくれ! 「むぅ、そういうことか。家の中では構わんが、外では恥をかかんようほどほどにな」 おやじいいいいいいいいい! 「えへへ、だいじょーぶだって!」 何が大丈夫なのかさっぱりわからん。 あれ? ひょっとしてついていけてない俺がおかしいの? 「そうなんだ~、よかったねぇきょうちゃん」 どうやら俺がおかしかったらしい。 朝一で麻奈実に相談してみたところ、返ってきた返事が先のセリフだ。 「いや、だっておかしいだろ!? あの桐乃がだぞ!?」 「桐乃ちゃんも女の子だったんだよ、やっと素直になれたんだねぇ」 しみじみと遠い目をする麻奈実。 まるで孫の成長を喜ぶおばあちゃんみたいだな。 それはさておき、『女の子だから』と今朝の現状がさっぱり噛み合わねえぞ。 ひょっとしてちょっと前に沙織が言ってた『女の子の態度には他意がある』ってやつか? 桐乃が実は俺のこと大好きで、今までの俺への態度は愛情の裏返しだったってこと? 「ありえねぇ……」 ツンデレなんてレベルじゃねえぞ。 「えへへ、よかったねえお兄ちゃん」 「おまえがその呼び方をするんじゃない!」 俺をそう呼んでいいのは桐乃だ……違う違う! 何を考えてるんだ俺は!? 「そういうのは桐乃だけでお腹いっぱいなんだよ! ……………あれ?」 おわり
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合計: - 今日: - 昨日: - 開設 2009 04 04 こんにちは、当Wiki管理人の豪襲です。 当Wikiは意味不明な我が妹Aがあまりに迷言や珍言を吐くために、なんとかして形に残しておこうと計画され作られたWikiです。 誤解のないよう書かせていただきますが、「妹Aを中傷することが当Wikiの本意」ということではありませんので、ご理解のほうをお願いいたします。 ちなみに「俺の妹がこんなに可愛いわけがない(伏見つかさ著)」とは一切関係ありません。すみません。 以下の条件に当てはまる方は気分を害す恐れがあります。 速やかにブラウザの戻るを押してください。 正義感が人一倍強く、このような趣旨に嫌悪感をお持ちの方 二次だろうが三次だろうが妹が好きで好きで仕方ない方 素人の書く稚拙で寒い文が嫌いな方 他、思いつき次第追加しますが、以上のような方にはお勧めできません。 ご了承ください。 なお、当Wiki内の画像やテキストその他一切のものは無断転載禁止となっております。 お手数をかけますがこちらまでお願いします。
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あたしの名前は来栖加奈子。 ちょー可愛い未来のスーパーアイドル。 いまはその下積みとしてアニメキャラのコスプレをやってる。 加奈子ってばこーゆーセイカクだから、口では「キモオタうぜー」な~んて言ってるけど、心の中ではなんてゆーか上手く言えないんだけど……まあアレだ。 って、言わせんなよ、恥ずかしい。 そんなワケで、いま加奈子は、姉貴の仕事部屋にいる。 姉貴のこと? あー見た目はかわいいし、けっこう加奈子に似てるかな? ムネも無いし。 んでもって漫画家ってゆーの? それやってる。 加奈子がやってるコスプレって「星くず☆うぃっちメルル」の主人公のメルルだったりするんだけど、姉貴がそのメルルのエロいの描いてたのを見た事があるから、姉貴に部屋に呼ばれた時は、やべ、バレた? と思って、ちょっとビビリ入ってたんだよね。 それにしても姉貴の部屋っていつ見てもいろんな意味であっとーされる。 アニメキャラの人形、フィギュアってゆーの? そんなのとか、プラモデルとか、アニメのDVDやブルーレイとか、漫画の本とか、あと本屋では売ってないようなみょーに薄い本とかがたくさんあって、いつも「うわ……」ってゼックしてしまう。 んで、今日姉貴に部屋に呼ばれたのは── 「いまメルルの同人誌作ってるんだけど、ポーズの研究したいからちょっとモデルになって?」 「なんでンなこと加奈子がやらないといけないわけ? 意味わかんないんですケドー」 「そう言わないでさー、お願い」 「加奈子っていちおープロのモデルべ? ジムショに言えよジムショに」 姉貴とこんな言い合いしながらも、加奈子は「メルルのコスプレしてるの、完全にバレてる?」ってドキドキしていた。 ……まあ、バレたらバレたでいいやって思ってたのもジジツだけど。 「──ったくしゃーねー……」 結局、最後は姉貴に言い負かされる加奈子であった。 「ありがとっ。お礼に、この部屋にあるもの、なんでも一つあげるよ?」 「いらねーよ! ……あれ?」 なんか見覚えのある絵が見えて、あたしはイッシュン固まってしまった。 姉貴は加奈子の視線をたどって、その先にあるブツを手に取る。 「ああ、これ? テレビアニメで『maschera~堕天した獣の慟哭~』っていうのがあったんだけどね、一応アニメオリジナルなんだけど、これの原案って実はあたしなんだ! これはその元となったあたしの漫画! ちょっと変更されてる部分もあるけど原作本と言ってもいいよ! プロの漫画家としてマスケラの原作描いて、同人作家として同時刻の別チャンネルでやってるメルルのパロ描いてるなんて、あたしも節操無いよね、あははっ」 あいかわらずしゃべり出したらとまんねーな。正直うぜー。 この後も、マスケラファンやメルルファンに刺されたらいけないからペンネームも絵柄も変えているとか言ってたけど、全く聞いてない加奈子であった。 加奈子が注目してたのは、アニメの話、ではなくそこに描かれていた女の絵だ。 なんだっけ、どっかで見たよーな気がするんだけど─―。 「話は変わるけど加奈子ってメルルにちょっと似てるよね? メルルもどき? なんちゃって」 ──メルルもどき── 『だ、黙りなさいメルルもどき』 「──誰がメルルもどきだこらァ~っ」 「あっ、ゴメン、まさか加奈子がそんなに怒るなんて思わなかったから」 「あ、いや、姉貴じゃなくて」 そう、その姉貴の描いた女はあの頭がイッてしまってる電波女と同じ服装をしていた。 この絵とあの電波女とでは、顔とかスタイルとかがかなり違ってたから気付くのに時間がかかったワケだ。 同じ「メルルもどき」という言葉でも、いま姉貴が言ったのは、妹かわいがりのおちょくりだったし、姉貴自身もメルルというキャラクターが好きみたいだから、別にいい。 けどあの電波女~……。 加奈子だけでなくメルルまでバカにした言い方だったよな~、アレは! あ、いや別にアニメのメルルなんてぶっちゃけどーでもいいんだけど、公式コスプレイヤーとして……な? 「あ・姉貴? そのマスクなんとかってアニメ、ゲンサクシャだから持ってるよな?」 「むっ。マスケラだって。もちろんあるよ」 「それ貸して!」 「! そっか、加奈子もとうとうこっちの世界に足を踏み入れる気になったのね!?」 「ちげーよ! いーから貸して!」 「いいよー。DVDとブルーレイ、どっちがいい?」 桐乃の家ってブルーレイ見えたっけ? 「……どっちも!」 「一期と二期、どっちにする? それとも話数の指定とかある?」 なにそれ。イッキとかニキとかわけわかんねー単語言いやがって。 「……全部!」 どさっ。 「はい!」 げ……。こんなにあるの……? 次の日、ガッコが終わってから加奈子は大荷物をバッグに詰めて桐乃の家の前に来ていた。 チャイムを押して待つ事しばし。 パタパタとドアの向こうからスリッパの音が近付いてきて、そして、ドアが開く。 桐乃だ。 「はーい、どなた……加奈子!? どうしたの? 今日来るって言ってたっけ?」 「んー、ちょっとカクニンしたいことがあってね。京介いる?」 「……いるけど。なに? あいつに何の用があるの?」 急に不機嫌になる桐乃。 こいつもたいがいブラコンなんだよな。 女が会いに来たってだけでこうまであからさまにクラスメートに対してこんな態度を取るんだから。 「京介もだけど、桐乃にも用事があるんだよね」 「あたしはついでね、へ~、そう」 「いーから呼んでヨ」 「どうでもいいケド、人の兄貴を呼び捨てするなんて、加奈子、あんた何様?」 「そりゃ、加奈子ってぇ、京介と付き合ってっからぁ」 「それ、前に聞いた」 そこに京介が階段を下りてやってきた。 「桐乃、お客さんか……。げっ」 「レディに向かってげってなんだヨ、げって!」 「おー悪い、なんだクソガキか。桐乃に何か用か?」 「桐乃もだけど京介にも用事が……痛っ」 「だから人の兄貴を呼び捨てするな!」 「だったら、その兄貴にも親友をクソガキって言ったことにつっこめヨ!」 「おいおい、桐乃、友達を足蹴にするなよ」 「京介まで加奈子の味方するの!?」 「──で、あらためて、何の用?」 リビングで桐乃は聞いてきた。 この場には京介も同席している。 どうでもいいけど桐乃ってばトゲのある言い方だよな。 「これなんだけどさ」 あたしは言いながらバッグの中からマスケラのDVDを取り出した。 「え? こんなのわざわざ持って来なくてもウチにあ……むぐっ」 京介が妙に慌てて桐乃の口を塞いだ。 なんなんだ? 「なんだ、それは。アニメかなにかのDVDか?」 と京介。 「んー、ちょっとコレ見て聞きたいことがあるんだよね」 「今日は木曜だし、親は習い事でいないから、別にいいケド、あまり遅い時間まではだめだよ?」 「なんで?」 「だって、夕方からメルルがあるか……むぐっ」 また京介が桐乃の口を塞いだ。 なんなんだヨ、いったい。 「まー加奈子も長居するつもりは無いけど。今日はメルルがあるから見ないといけないからさー」 がたっ。 桐乃が顔を突き出してきた。 「加奈子、メルルってあの子供向けアニメの?」 「そーだよ、他に何があるんだヨ?」 「加奈子って、……オタクだったの?」 そういう桐乃の目は、なぜからんらんと輝いていた。 「ちげーよ! 加奈子ってメルルの公式コスプレイヤーだべ? キャラ作りの一環ってヤツ? そうでなかったら誰がこんなアニメ見るかってーの!」 「なんだって!? 加奈子、いまの言葉、もう一度言ってみな……むぐっ!!」 ……だからいったいなんなんだヨ、この兄妹は。 「そ・そうだ、加奈子、この前のライブ、加奈子の出番、見れなかったから、良かったらここでちょっと歌ってみてくれよ」 京介が何かを取り繕うような感じで言った。 「えー? でもアニメソングだべ?」 「それはそうだけどさ、アニメとかは関係なく、桐乃も友達がどんなショーをやったか興味あるだろ? な?」 「み、見──み、」 なぜか桐乃は「み」を繰り返し、そしてすーはーすーはーと深呼吸した。 「見てあげてもいいけどぉ……! あくまでクラスメートとしてね!」 「ほらな。頼むよ、加奈子」 「えー、でも、オケとか無いしー」 「加奈子くらいの実力あったらアカペラだって全く問題無いだろ?」 京介のこの言葉で、あたしの中のなにかが切れた。 「しょーがねーなぁ、トクベツだべ?」 「よっ、待ってました!」 「テンポ取るから手拍子頼むヨ」 「おっけー、ほら、桐乃も!」 ぱん、ぱん、ぱん、ぱん。 めーるめるめるめるめるめるめ~ めーるめるめるめるめるめるめ~ 宇宙にきらめ~く流れ星~☆ まじーかるじぇーっとで、てーきを撃つ~ ………… 「さっすが加奈子! 良かったよな、桐乃?」 「よ、良──よ……(すーはーすーはー)ま・まあまあ良かったんじゃない?」 「とゆーワケで、このDVDなんだケド見てみ?」 あたしが出したディスクを桐乃が受け取って、プレイヤーにセットした。 再生スタート。 本編が始まり、しばらくして、夜魔の女王(クイーン・オブ・ナイトメア)が登場した。 「あ、ちょっとストップ!」 「え? う・うん」 桐乃が慌ててリモコンで一時停止した。 「どうしたんだ?」 あたしは画面を指差し、 「この女、誰かに似てね?」 ………… どーしたんだヨ、急に二人とも固まって。 「だ・だだだだ誰に、ににににに似てるって?」 「ほらぁ、あん時のパーティーにいただろ? このアニメの女とおんなじカッコしたやつがさー?」 いまの仕事のほとんどはアニメのコスプレだったりする加奈子だけど、いちおープロのモデルだし、一度見たファッションなんて見間違えるワケがねーべ。 「あ・ああ、黒猫ね」 「そーそーそいつ」 「その黒猫がどうした?」 「そいつとこのアニメの女、おんなじカッコだけどよー、これって偶然? それともコスプレ?」 「さ・さあ、黒いのがマスケラの大ファンで同人誌とかも作ってるって聞いてないしー?」 「おいバカ、桐乃!」 「あっ……」 言質は取れた。 「なるほどー。このアニメのコスプレなんだー?」 なぜか正座になって頷く兄妹。 「ってことはあいつはオタなんだー?」 「ま・まあ……」 「そうとも……言うかな……」 「んで、あのパーティーにあいつがいたって事は桐乃や京介もあいつと友達だってことだべ?」 「……だとしたら……?」 「おまえらにあいつの居場所吐かせて見つけ出してブッ殺す!」 そもそもあいつさえいなければ、あのパーティーで誰が京介の食事の世話をするかなんて騒ぎは起きなかったワケだし、騒ぎが起きなければあやせが京介のアパートに通うことも無かったワケで、全ての元凶はあいつってワケだ! いやいやいやいや、京介がらみで無くっても── 「あいつはメルルをバカにしやがった! ゆるせるワケねーべ!!」 ……思わず声に出してしまった。 慌てて視線を戻すと、桐乃も京介も口をポカンとあけている。 「どーしたべ? バカみたいなツラして?」 「あーいや、その、オタクの友達がいるって事で、あたしたちもオタクだって疑ってたんじゃなくて?」 「き・桐っ!」 なんで今日は桐乃の言葉に京介が慌てるシーンが多いんだ? 「あー? 桐乃みたいなのがオタなわけねーべ? それに、知り合いがたまたまオタだったってだけっしょ?」 がしっ。 いきなり京介が加奈子の手を取って握り締めてきた。 「加奈子……、おまえってマジでいいやつだな!」 「え? え?」 がばっ。 今度は桐乃が抱きしめてきた。 「加奈子と親友で本当に良かったよぉ!」 「あ? あ?」 いーから二人とも離せヨ、暑苦しーじゃん。 「もし、もしもだよ? もしあたしがオタクだったらどうする?」 「えー? 別にどーもしねーヨ」 「じゃあバカにしたりとかしない?」 「するヨ。決まってんべ?」 ………… あら? なんでいきなり二人ともガクッとするの? 「……バカにするって例えばどんな?」 「あー?『桐乃オタなのかよキメェwww』ってからかったり、ライブイベントのチケットを餌にして肩揉ませたりするかなー」 前に京介に言ったまんまのセリフを桐乃にも言った。 「ふーん、そっかあ」 桐乃はうんうんと何度も頷いてから、いきなり立ち上がり、 「加奈子、悪いけど待ってて。京介、ちょっと来て」 「はいよ」 「おう」 リビングから出て行く兄妹。 そしてドアの向こうでごしょごしょと話している。 どうしよう言おうか、とか、取り合えずバレるまでこのままでもいいんじゃないか、とか聞こえてきたけど、いったい何のことだ? しばらくして、二人は帰ってきた。 二人とも気持ち悪いほどニコニコしてて、特に桐乃なんかは今にも踊りだしそうなほどご機嫌だ。 「ゴメンねえ、待たせて。あ、ジュース飲む? お菓子もあるよ?」 ……なんか急にすごいもてなしを受けてるんですケド? いったい何があった? 「そういえば加奈子ってば、ブリジットちゃんと同じ事務所なんだよね? 仲良くなりたいからあたしもメルル見てアニメの勉強しようかな~? とらの……ナントカにも一緒に行ってみたいしぃ」 と言う桐乃に、なぜか吹き出しそうになる京介。 本当にこの兄妹はよく分からん。 そうこうしている内に、五時過ぎになった。 「あ、そろそろ急いで帰らないとメルルが始まっちゃうべ」 プレイヤーからDVDを出してもらってバッグに入れる。 「それじゃー桐乃、また明日ガッコで~」 「ウン、よかったらまた遊びに来てね、いつでもいいから~」 バイバイして高坂家をあたしは後にした。 ってやべー。ダッシュしないとマジで五時半に間に合わねー。 めーるめるめるめるめるめるめ~ めーるめるめるめるめるめるめ~ よかったー。間に合ったー。 それにしても、何か忘れてるような気がするんだよなー? ──あっ! オタ電波女の居場所を突き止めるのを忘れてた! あの時、言おうかとかバレるまでこのままとか言ってたのはオタ電波女の事を加奈子に言おうかどうしようか相談してたんだな!? その後の急な歓迎ムードは、その件を忘れさせるためってワケかー!? ちくしょー、ハメやがったなーっ!? ぜってー今度聞き出してやる! ……っと、今のシーンのメルルのポーズ、今度のイベントのパフォーマンスにも取り入れようっと。 了
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黒猫「貴方にしてはやけにはっきり言うわね」 京介「あぁ。俺とデートして欲しい」 黒猫「そう。……でも、今までだって何度かしてきたじゃない」 京介「え?……いや、前のは別の用事がイロイロあっただろ。そう言うんじゃなくてさ、お前と……、ふたりで……」 黒猫「貴方、もうすぐ三年でしょう?こんな事してていいのかしら」 京介「う……、確かにその通りなんだが 黒猫「良いわよ」」 京介「え?」 黒猫「良いと言ったのよ。それで?何時にするの」 京介「あぁ、…じゃあ、今度の日曜二時に駅の改札で待ち合わせな」 黒猫「わかったわ」 ~デート当日~ 京介「すまん。……遅れた」 黒猫「あと二十秒したら帰るところだったわ」 京介「す、……すまん」 黒猫「うふふ。冗談よ」 京介「おう、……実はさ、コレを買いに行ってたんだ」 黒猫「紅帯十字架(リボンクロス)?ハッ、………まさか、それで私の力を封じようと?ウフフフフ、甘いわね。私ほどにもなればその程度で呪具に抑えられる魔力量ではないのよ」 京介「いや、…単純にお前に似合うかと思って買ってきたんだが」 黒猫「一一ッ!? ///」 黒猫「そ、そ、そう。解らずに買ってきたと言うの………。この男、危険ね…。早いウチに芽を摘んでおかないと」 京介「取り合えず、秋葉原でいいのか?」 黒猫「それであの女は満足するかもしれないけれど、皆がそうと思ってもらっては困るわね」 京介「あの女?って桐乃のことか…?いや、違うぞ‼俺はそういう意味で言ったんじゃなく………」 黒猫「貴方は一つ大きな前提を忘れているわね…………。今日は、…デートなのよ///」 京介「…………。そ、そうだったな///」 京介「よし、それじゃ御台場に行くか」 黒猫「ええ、期待しているわ」 それから俺達はたまたまイベントのあったネットラジオの公開録音を一緒に見て、バカでかいホットドッグを食べたあと、腹ごなしに海浜公園をブラブラすることにした。 京介「もう、日が沈むな……」 黒猫「冬ですもの。フフフ、冬は良いわね。凍てつく空気、夜永く、私達のような闇の眷属に最良の季節だわ」 京介「……そうだな」 黒猫「あら、貴方はしおらしいのね。いけないわ。私の溢れでる魔力に当てられたのかしら」 京介「あぁ、俺はお前に参っちまってるよ」 黒猫「え?」 京介「海をバックにしてお前を見てると、街中で見てたよりもずっと可愛いと思ってさ」 黒猫「な、なにを…」 京介「朝、買ってきたクロス…、着けてくれよ。店員に着け方教わってきたんだ」 黒猫「そ、そうね。貴方が私の邪気に当てられて苦しいようだから、仕方なく付けてあげるのよ。感謝なさい」 京介「あぁ、そうだな」 ……………… ………… …… … 京介「えっと、一周ぐるっと首を回して、十字架の中心を見せるように菱形に結んで、と………。よし、出来たぞ」 黒猫「そう、……ありがとう。しかし、何か褒美をあげなくてはならないわね」 京介「いや良いって、別に……。やりたくてやってんだし」 黒猫「そうもいかないわ。そうね、キス………、しても良いわよ///」 スッ 京介「え? うわっと、…(目を閉じて、顔ちけー)///」 黒猫「どうしたの?はやくなさい///」 京介「あ、…あぁ、い、…いくぞ?」ギュッ 黒猫「ん…、ちゅ、……はぁ、はぁ……はむ、んちゅ。れろ…」 …………… ……… … 黒猫「イ、イキナリ舌を入れるなんて…、何をッ」 京介「え~~~!?キスってそういう事じゃなかったのか!!」 黒猫「あ、貴方ごときが…、舌を、舌を入れるなんて百年はやいわ。取り合えず、この事はあの女にもきつく抗議しておかなくてはならないわね」 京介「バッ、頼むからやめてくれ!殺されちまう」 黒猫「あら、もうすっかり暗くなってしまったわね。そろそろ帰りましょう」 京介「不自然に話を反らすな!」 黒猫「わんわんキャンキャンと落ち着きがないわね」 京介「それ…、俺の所為かよ」 黒猫「違うのかしら?」 京介「違うわ!!」 黒猫「強い言葉を使うと弱く見えるわよ」 京介「何所かで聞いたような言葉を……」 黒猫「それに……」 京介「…?」 黒猫「私はまだ貴方から大事な言葉を聞いてないわ」 京介「あぁ、……悪い」ダキッ 京介「大好きだ」 黒猫「遅いのよ/// 莫迦///」 … …… 黒猫「私も貴方に知ってもらいたいことがあるわ。これから時間あるかしら?」 京介「まだ六時だしな。時間なんていくらでもあるが……」 黒猫「そう、……なら、これからウチに来て頂戴」 京介「いいぜ。でもその前に……」 京介「手、繋いで帰ろうぜ」ギュッ 黒猫「か、勝手になさい!」 黒猫「ここが私の家よ」 京介「ずいぶんとレトロ調だな……」 黒猫「クスッ、そうね。ものは言いようだわ。さ、入って」 京介「お邪魔しまーーっ!?」 黒猫「あら、貴方達……。ただいま。この人はね、お姉さんの高校のお友達で高坂京介さんっていうの。ほら、挨拶なさい」 妹1,2「「こんばんわー」」 京介「あ、あぁ、こんばんわ」スッ 妹1,2「一一一一ッ!?」ビクッ 京介「よろしくな」ナデナデ 黒猫「貴方のおウチみたいにキレイではないけれど、どうぞ上がって頂戴」 京介「あぁ……(二人きりってんでもないんだな)」 黒猫「フフ、どうしたの?残念そうな顔して……」 京介「いやぁ、そんなことないぞ!!」 黒猫「そう、なら夕飯までその子達をあやしてて頂戴」 京介「いいけど、一一夕飯ってお前が作るのか?」 黒猫「そうよ。………安心なさい。毒なんて入れないわ」 京介「いや、疑ってねェけど……」 黒猫「あら、彼女の初手料理がこんなに早く出て来る幸運に泣いて感謝する所よ」 京介「お、……おう」 黒猫「貴方達も……。お姉さんお料理してくるから良い子にしてるのよ」ナデナデ 妹1,2「「ハーイ」」 妹1,2 壁|ω・)・) ジーーー 京介「(すげー見られてんな)」 京介「だ、大丈夫…。怖くない、怖くないぞー」ソー 妹1,2 ビクッ 京介「(な、なんだか厚い壁を感じるな……)」 京介「ほ、ほら。親指が……外れるんだぞーー(流石に子供騙し過ぎるか…?)」 妹1,2 ビクッ ピャーーー 京介「逆効果だったか…」 京介「(アイツがこのくらいの時はどうしてたかなんて覚えてねーな。まぁ、その時は俺もこんなにいかつくなかったろーけど……)」 黒猫「惨敗したの?」 京介「観てたのか?」 黒猫「あの子達が『お兄ちゃん親指が取れた』って私を呼びにきたのよ」 京介「あぁ、それな…。古い手品だよ。ほら」 黒猫「だそうよ。ほら、大丈夫みたいだからちゃんと遊んでもらいなさい」 妹1,2 黒猫|ω・)・)チラッ 京介「ありがとな」ワシワシ 妹1,2「「………///」」 黒猫「もうちょっと掛かるからしっかり面倒みるのよ」 京介「りょーかい……」 妹2「コレ………」 京介「………?」 妹1「ご本読んで…」 京介「あぁ、いいぞ。ほら、だっこしてやるからここ座って」 妹1,2 トテトテ スク 京介「一一一一昔、むかしあるところに…」 ……………… ………… 京介 ガオーーーーー 妹1,2 キャーーーーー 黒猫「フフフ」 …… 黒猫「出来たわ、机を出して頂戴」 京介「お、早いな。よし、片付けするぞー」 妹1,2 ハーーイ 黒猫「少し時間が掛かってしまったわ」 京介「帰ってきて休みなしなんだから、よくやってる方だろ」 黒猫「ふふ、そうね。普段のご飯はどれくらい食べるのかしら」 京介「並程度だと思うぞ…。って、うお!かなり作ったな、大変だったろ」 黒猫「たいしたことないわ…。さ、ご飯にしましょ。お箸もった?」 妹1,2「「ハーイ」」 黒猫「そう、それじゃ」 一同「「「「いただきます」」」」 一同「「「「ご馳走様でした」」」」 黒猫「さて、片付けだけど…、あなた、手伝って頂戴」 京介「あぁ、いいけど。放っておいていいのか?」 黒猫「今からはメルルの放映があるからその子達は忙しいのよ」 京介「ふーん」 黒猫「『アイツも今頃、テレビに噛り付いているのかな』という顔ね」 京介「な、何を言って……」 黒猫「図星のようね。私の前で他の女の事を考えないで…、不愉快だわ」 京介「他の女って妹だぞ!?」 黒猫「なら尚更ね。解った?」グイッ 京介「わ……、わかった」 黒猫「そう。じゃあ、食器を運びなさい」 京介「おぉ」 黒猫「返事は『おぉ』じゃなくて『はい』でしょう?」 京介「はい」 黒猫「よく出来ました」ナデナデ 京介「(なんでこんなドキドキしてんだ、俺は?)」 ………… ……… … ジャー ジャバジャバ パシャパシャ 黒猫「で、どうかしら?」 京介「あぁ、お前達、姉妹って仲良いんだな」 黒猫「じゃなくて!」 京介「ん?」 黒猫「『ん?』じゃないわ…。まさか、本当に分からないのかしら?」 京介「え?あ、いや………。美味かった!あんだけ作れるなんてすげーよ。ホントにびっくりした」 黒猫「まったく、ここまで言わないと分からないなんて……。次からはもっと早く言いなさい」 京介「おぉ…….、じゃなくて!はい!」 黒猫「それと、明日からお昼は一緒に食べることにしましょう」 京介「それはちょっと、あからさますぎるんじゃ?」 黒猫「嫌なの?何か私と食べることで不都合があるのかしら?」 京介「ないです。むしろ、嬉しいです」 黒猫「ふふふ」 黒猫「あら、眠ってしまったのね」 京介「遅くなっちまったな……。迷惑になるだろうしそろそろおいとまするか」 黒猫「その前に、この子達をお布団に運ぶのを手伝って貰えるかしら」 京介「そのぐらいお安い御用だ」 ギュッ ダキッ 黒猫「二人一緒に運べるなんてね」 京介「どこ持ってけば良いんだ?」 黒猫「こっちよ」 一一一一一一一一一一一一一一 黒猫「お布団を敷くからすこし待って頂戴」 京介「しかし、このくらいが可愛い盛りだよな」 黒猫「ふふふ、そうかしらね。そうかも知れないわね」 京介「お前も立派にお姉さんやってるんだな」 黒猫「そうね、あなたと同じ。………さ、敷けたわ」 京介「この者達の身柄は預かった。我が元で育ちいずれ、お前に牙を剥くことになろう」ギュッ 妹1,2 クークーー スースーー 黒猫「なんてこと!油断したわ……。まさか、こんな所にまで天界の手が伸びていたというの!?後悔なさい!私の眷属に手を出した事を!!」 黒猫「しかし、こうなったら私一人の力で立ち向かわなくてはならないという事ね。でも、私の魔力では例え低級魔術を行使してもあの子達を巻き込んでしまう……。先ずはアイツから引き離さないと……」 黒猫「あけびの花は地に堕ち、紅く爛れた酸鼻な血に酔わん。右にみずちを、左に雷を、かの者に死霊の叫びと鉾槌を!」 シーーーーーーン 京介「………………」 黒猫「………………」 妹1,2 スーーースーーー クーークーー 黒猫 トテトテトテ ボフッ 京介「………………や、やられたーー」 黒猫「莫迦……」 京介「じゃあ、今度こそ本当に帰るよ。メシ、美味かったぞ。ありがとうな」 黒猫「いずれまた作ってあげるわよ」ギュウ 京介「ん、……また明日も会えるってのに、やっぱり、お姉ちゃんでも甘えたい時はあるもんか?」ナデナデ 黒猫「違うわ。ただ、今宵の星の巡りが人間には危険だから、加護があるようにと祈ってあげてるのよ。分からないのなら黙っていなさい///」ギューー 京介「そりゃ、ありがとうな///」ギューー ……………… ………… …… … こうして俺たちの初デートは終わり、帰宅した俺は連絡忘れで親父に絞られ、初デートという事でいくらかの恩赦は得られたものの行きがけには上機嫌だったはずの桐乃の八つ当たりとも思しき理不尽な暴力を受けることとなったのだった。 ~黒猫√ 初デート編 了~
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SS4 唯「りっちゃんのおでこってかわいいよねぇ」 律「か…かわっ!?なんだよ、藪から棒に…ってか唯、目がこええ」 唯「いやぁね、そのぴかぴかのおでこを見てたらどうしても触りたくなっちゃってね?どうか触らせていただけないかとですね」 律「そ、その手付きをやめろ!」 唯「まぁまぁ、減るもんじゃなし…ていっ!」ピトッ 律「ぬわー!やめろー!さーわーるーなー!」 唯「ぐふふ、ねーちゃんいいでこしてまんなぁ、つるっつるのすっべすべやで!」 律「だ、だからやめ…うぅ…」 唯「ねぇ…りっちゃん」 律「あ…?」 唯「おでこにちゅーしてもいい?」 律「んなっ…な、なに言って…」 唯「いいよね」 律「ちょ、唯、マジでやめ…」 唯「ちゅー♪」 律「……っ」 やわらかい唯の唇が額に触れたとたん、なにやら胸の奥がむずむずくすぐったくなる。 そしてお互いの体が密着していることにも気がついて…思わず、唯のブレザーの裾を掴んでいた。 律「おい唯…何考えてんだよ」 唯「ん?ただりっちゃんのおでこ、すべすべで気持ちいいから」 律「そ…そんな理由でこういうことすんなよ。…ばか」 唯「…りっちゃん」 律「!?」 唯にぎゅっと抱きつかれて、私の頭はぐらぐらと揺れるような感覚に襲われる。 普段は目立たないけどこうして密着すると確かな弾力を感じる胸。ストッキング越しに熱い熱を感じる太もも。首筋に当たる吐息… 普段は無邪気な唯にこんなにもドキドキするなんて、どうしちまったんだ私… 唯「ねぇりっちゃん…ちゅー、もっとちゃんとしよ?」 律「は!?ちゃんとって…!」 唯「ちゃんと…口で」 律「ばば、ばか、そんなのだめに決まってんだろ!」 唯「なんでだめなの?」 律「なんでって…そういうことは友達同士でするもんじゃないだろ!」 唯「私はりっちゃんのこと好きだよ?りっちゃんは私のこと好きじゃないの?」 律「いや、そういうこと言ってるんじゃなくて…」 唯「私、ホントのホントにりっちゃんのこと好きだよ。本気でキスしたいって思うもん」 律「唯…」 唯「…だから…して?」 …キスって、好きな人同士でするもんだよな。 …唯は、私のことが好き。そんで、私は唯のこと… 律「好き…」 そして私たちはキスをした。友達同士、そして好きな人同士で。