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京太郎(高三の秋の頃…俺は宮永 咲に告白をした……) 京太郎(最初は…いや、告白する直前までは…ただの女友達だと思っていた) 京太郎(そして卒業後にプロ入りが決まったと聞いた瞬間、彼女が手の届かない遠くに往ってしまうと思った瞬間――――) 京太郎(俺は彼女の事が好きなんだ……と、初めて自覚した――――) 京太郎(インターハイ個人戦優勝。そして東京のプロチームに既に入団が決まっていると言う、華やかなプロフィール) 京太郎(そんな彼女が本当は物静かで読書好きの、優しく大人しい文学少女である事を俺は知っていた) 京太郎(そしてそんな彼女を俺は、何時からだろう…好きになっていた――――) 京太郎(告白した時、彼女は少し照れ臭そうに、そして少し寂しそうな顔をして―――) 京太郎(『今はそう言う事は考えられないから、もう少し待ってほしい』と返事をした) 京太郎(完全…ではないが、俺は振られたと思った) 京太郎(そりゃそうだプロ入りが決まっての大事な時期に、俺になんて構ってなんかいられない事なんて、考えなくても分かる事だ) 京太郎(それからの俺と咲は高校卒業まで普段通りに過ごした) 京太郎(そして卒業後。咲は予定通り東京のプロチームに入団) 京太郎(そして俺も彼女を追う様にいや…彼女を追って東京の大学に進学した) 京太郎(それから直接逢う事は無かったけど、それでも電話で話したり、メールのやり取りも結構交わしていた) 京太郎(だが、梅雨に入った頃の雨降りの日…に届いたメール) ――――今のままじゃ何もかも中途半端になっちゃう だから来年の四月に答えを出すから それまで考えさせて下さい だからそれまでの間、お互いに連絡しないで 見詰め直したいと思うんだ ゴメンね京ちゃん、本当にごめんなさい だからもしその間に京ちゃんに彼女さんが出来たとしても 私はそれでも構わないから ―――― 京太郎(今度こそ完全に振られたと思った。登り掛けた崖から、突き落とされる様な絶望感にも打ちのめされた) 京太郎(でも、その時の俺にはそれでも四月まで待つという選択肢しか考えられなかった) ――――それでも…それでも俺は彼女の事が……咲の事が好きだったから……。 九月。 大学の休憩広場。 京太郎(今日のマスコミ論の課題は真面目にやらんとな――――) ?「あのー済みません。もしかして清澄高校麻雀部だった須賀さんじゃないですか?原村和と同じチームだった?」 京太郎「え!?」びくっ ?「ああ済みません。驚かせちゃいました?」 京太郎「ん?いや…大丈夫だけど…確かに俺は須賀だけど、君は――――」 ?「やっぱり!私、和の友達で阿知賀女子の麻雀部だった新子 憧です。流石に覚えてないですよね……?」 京太郎「いや…覚えてると言うか、新子さんウチの麻雀部だろ?俺も一応そうなんだけど」 憧「えっ!?そうなんですか?全然気付かなかった……」 京太郎「まぁそうだろうな……俺は新聞部も掛け持ちしてて、そっちがメインだから麻雀部は殆んど幽霊だし……」 京太郎「それに…新子さんの事を知ったのも、俺は編集しただけの新聞部の女子麻雀部特集からだったし……」 憧「そうだったんですか……」 京太郎「でもよく俺だって分かったな…というか俺の事覚えてたな……清澄じゃモブみたいな感じだったんだけど」はは… 憧「そっ…そんなことないですよ!?それに女子の麻雀部で男の子って珍しかったですし……」 憧(それに…ちょっとカッコいいと思って…和にそれとなく聞いてたし……/////) 京太郎「それで俺に何か用なの?」 憧「え…!?////いや…あの…その……あっそうだ!ちょっと待ってて下さいね」たた… 京太郎「え?ああ…」 三分後。 憧「はいこれコーヒー。久し振りの再会ですし…私の奢りです」すっ… 京太郎「ああ…いいの?ありがとう……」すっ 憧「そうだっ…須賀さん。これから講義とかあります?」 京太郎「ああ…今日はもうないけど……」 憧「良かった。じゃあちょっと話しませんか?」にこ ―――――。 憧「――――こんな事があったんです」 京太郎「へぇそうなんだ。そんな事が有ったんだ……はは。新子さんの話してると時間忘れちゃうな」 憧「…………えへへ…そうですか?あっ!そうだ須賀さん。あの…それでちょっと、お願いがあるんですけど?」 京太郎「お願い?」ずず… 憧「あの須賀さん。いきなりなんですけど…今度の土・日どっちか空いてますか?」 京太郎「えっ?ああ…日曜の午後なら何とか……」 京太郎(あっ反射的に答えちまった……)はっ 憧「それでしたら…再会の記念に二人でちょっと出掛けちゃいませんか?」 京太郎「えっ!?いや……」 憧「ダメですか?」じ… 京太郎(うっ!?上目使いに見上げる仕草がかわいい……) 京太郎「ああ……いいよ」にこ 憧「ホントですか!?よかったぁ。じゃあ13時に新宿駅の西口で良いですか?」 京太郎「ああ。わかった」 憧「決まりですね。じゃあ私これから講義がありますからこれで……」すくっ すたすた…くる。 憧「あっそうだ!くれぐれもドタキャンはダメですからねー!!」たたっ…ふりふり 京太郎「はは…」ふりふり 京太郎(何か勢いに押された感じだけど。久し振りに女の子と話せて楽しかったな……) 京太郎(咲…言っとくけど、これは決して浮気なんかじゃないからな……って…別に彼女でも何でも無いか……)はぁ… 日曜日。 新宿駅西口。 京太郎(待たすのも何だから、15分前に来たけれど……ってもういる!?) 京太郎「あれ?もう来てたんだ…悪いちょっと待たせちゃったか?」 憧「今日は須賀君とデートだと思ったら…妙にそわそわしちゃって、30分も前に来ちゃった////」てへ 京太郎「えっ!?デ…デートって……」 憧「もう!」ぎゅう 京太郎(俺の腕に絡める様に抱きついて来た!?///////) 憧「男の子と女の子が、二人っきりでお出掛けするのをデートと言わずして、何をデートって言うの?/////」 京太郎「それは…確かに……」 憧「それに女の子同士でだって、デートって言うんだからね!!」 京太郎「そ…そうなのか……?」うーむ 憧「そうだよ。宥姉…って分かるよね?同じ大学の先輩だし…その宥姉も今頃は弘世さんとデートしてるんだから」 京太郎「松実先輩の事だろ?あのおもち姉妹のお姉さんの……」 京太郎「あの世代から、急に女子は強くなったからな。そりゃ知ってるよ」 憧「そうだよ。私も入ったし…これからウチの女子は黄金期に突入するからね!」 京太郎「そうだな……ま、男子は相変わらず弱いけどな……へーでもそうなのか…あの人が弘世さんとねぇ……」ふむ 憧「あっ。だからって記事にしちゃ駄目だかんね?」 京太郎「いやいや…プロって訳じゃないだろうし、流石に記事にする様な事でもないだろ」 憧「それもそうね…って、こんな事でダラダラ話しててもしょうがないから、早く行こっ!時間が勿体無いよっ!!」ぐいっ 京太郎「わわっ。分かったからそんなに引っ張んなって――――」 京太郎(案外マイペースな子だな……って、そういや咲もマイペースちゃあマイペースかな?ベクトルは違うけど……) ―――。 京太郎「で…取り敢えずどこに行くんだ?」 憧「えっ!?もしかして、女の子とデートだって言うのにノープランなの?」 京太郎「いや…だって……」 憧「そんなだから、京太郎君…そこそこイケメンなのに、女の子にモテないんだよ?」はぁ 京太郎「うるへい。じゃあ新子はもう決めてあるのかよ?」 憧「もっ勿論よっ!この新子の憧さんにおまかせあれ!!」ふんす 映画館前。 憧「初デートって言ったらやっぱり映画館だよねっ!ねっ!」 京太郎「……あれだけ大見栄切って、結局…映画って……流石にベタ過ぎないか?」 憧「そ…その辺はお互い様でしょっ!!」 京太郎「お互い様って……」 憧「しょ…しょうがないじゃない……私だって男の子とデートなんて…その…初めてなんだから……」ごにょごにょ 京太郎「ん?何か言ったか?」ふりふり 憧「何でもなーい。何でもなーい////////」 京太郎「?」 憧「とっ…取り敢えず何か観ようよ!!」 京太郎「ん…この『遠くの恋人(ヒト)より、近くの彼女(コ)!』って恋愛ものか?」 憧「ま…取り敢えず、これで良いんじゃない?そうと決まったら早く観るわよ!!」 京太郎「あ…ああ……分かった……」 ―――――。 再び映画館前。 京太郎(うーん…思ったより面白かったけど、何かもやもやするな……) 憧「その場で決めたのにしては、面白かったね」にこ 京太郎「う…ん。まーな……」 憧「ん?あんまり面白くなかった?」 京太郎「いや…そんな事は無いけど……何か引っかかるんだよ。よく分からんけど……」 憧「ふーん。私は特にそんな事は無かったけど……」 憧「遠距離恋愛に限界を感じた主人公が、近くに居る自分を慕ってくれる女の子の良さに気付くとことか……」 憧「その子の色んな処を知っていく内に、段々その子に惹かれていく過程が、特にリアルな感じで良かったと思う……」 京太郎「…………」 憧「最後に、主人公がその女の子と結ばれるシーンで、ちょっとうるってきちゃったし……」 京太郎「そうか…まぁとにかく新子が喜んでくれたのなら、俺も嬉しいよ」にこ 憧「――――!?//////」かぁぁ 京太郎「ん?どうしたんだ?顔が真っ赤だぞ。急な熱でも出たか?」 憧「なっ///何でもないわよっ!/////」あせあせ 京太郎「あっそれに。俺としては、ちょっとエッチな所があったのもよかったよな」 憧「――――//////!!」かぁぁ 京太郎「?」きょとん 憧「な…何よ?/////」どきどき 京太郎「もしかして新子って案外と純情可憐な乙女って感じなのか?」 憧「!?――――そ――――そんな事!!な――――/////」かぁ 京太郎「はは…意外だな…寧ろ何か援交とかでもしてそうなイメージ――――」はっ! 憧「!!?……………」ぷるぷる 京太郎「……あっ…い…今のは冗談だから!その…言葉のあやっていうか……」あせっ 憧「……ふーん。そーんなんだ…私って京太郎君に、そー思われてたんだ……」じとー 京太郎「あーごめん!つい冗談で適当な事を口走っただけだから!」 憧「……………知らないっ」ぷいっ 京太郎「うー……分かった。何でも言う事聞くから赦してくれ!」ぱんっ 憧「…………今…何でも言う事聞くって言ったよね?」ニヤリ 京太郎「うっ……い…言ったよ。俺に出来る事なら何だってしてやるよ!」 憧「ホントに?」 京太郎「おっ男に二言は無い!!」 京太郎(とは言ったものの…頼むから無茶な事は言わんでくれよ……)どきどき 憧「そっかぁ…どーしようっかなぁ……」 京太郎「い…今じゃなくてもいいからな、いつか思い付いたらd―――――」 憧「うんっ決めた」こく 京太郎「えっ?」 憧「まず…今から私の事を名前で呼ぶ事」 京太郎「名前ってあたらs――――」 憧「あ・こ」じっ… 京太郎「あこ……で良いのか?」 憧「うん」にこ 憧「後…もう一つ――――」 京太郎「一つじゃないのかよ!」 憧「とーぜんでしょ?あんな…デリカシーの欠片もない事を言ったんだから?」きっ 京太郎「……分かったよ…で、憧。あと一つって何だよ?」 憧「うん…じゃあ言うね」にこ 京太郎「…………」ごくり 憧「これから…私を飲みに連れてって――――――」にこ とある居酒屋。 憧「では。二人の再会を祝しまして」 憧・京太郎「「かんぱーい」」カチャン 京太郎「まぁインターハイの時にお互い見知った程度だし、再会って言う程、会ってはいない気もするけどな」はは… 憧「そうだね。でも私は一目見た時から、京太郎君の事が気になっていたんだけどな……」 京太郎「そうなのか?」 憧「うん////」にこ 京太郎「そっか…そう言われると悪い感じはしないな」へへ… 憧「ふふ…」 京太郎「まぁそれはいいとして、さっきはどんな無茶を言われるかと思ったけど、こんなんで本当に良かったのか?」 憧「もうっ。京太郎君は、私をどんな女の子だと思ってるのよ?」むぅ 憧「まぁ一度、男の子と…ううん…京太郎君とお酒を飲んでみたいって思っただけ」 憧「……『何でも』…てのは、ホントはただの理由付けでしかないよ」 京太郎「…………」ふむ… 憧「ん?どうしたの?」 京太郎「いや…何でもない!」どきっ 憧「あーその顔…またヘンな事考えてたんでしょ?もうっ私は君が思っている程、遊んでる訳じゃないんだからね?」ぷぅ 京太郎「いや…そんなんじゃないって。ただ…憧って俺の知ってる奴に、どことなく似てる様な気がしただけだよ」 憧「知り合いに、私に似てる人がいるの?」 京太郎「いや…何となくだけどな。でもソイツは、お前と違って結構…俺に無茶を言うような奴だったよ」はは… 憧「ふーん。そうなの……その子ってもしかして彼女とか?」じー 京太郎「えっ!?いやいや違うって。それはありえねーから」きっぱり 憧「ほんとーに?」 京太郎「ああ。胸張って言えるぜ……って…胸張る様な事でもないけどな……」はぁ 憧「そう……」ほっ 京太郎「でもソイツと比べてって訳じゃないけど、憧って俺が思ってたよりも、ずっと可愛い処があるんだな」にこ 憧「――――!!////私がその…か――カワイイって……な、ナニ当たり前の事を改めて言ってんのよっ!!//////」かぁぁ 京太郎「おいおい。当たり前って…やっぱちょっと似てんな」くい 憧「しょうがないでしょ?ホントの事なんだから」 京太郎「はいはい。そーですか」くい 憧「もうって……ん?京太郎君…日本酒なんて飲んでるの?」 京太郎「ん?ああ…それ程でもないんだけd――――」 店員「お待たせしましたー」コト 京太郎「おっきたきた」 憧「えっ?これって、もしかしていなり寿司?」 京太郎「そうだよ」 憧「へーこんなの居酒屋にあるんだ」 京太郎「まーはっきり言ってそんなには無いんだけどな。だからここにしたんだよ」 憧「そんなに好きなんだ?」 京太郎「まーそうだな……こうお猪口でくいってやって、一緒にいなり寿司を食べるのが好きなんだよ」 憧「へーそうなんだ。じゃあ――――」すっ 京太郎「あっ!?それ俺のお猪口……」 憧「…………/////」くい 憧「ふむ…あと――――」すっ 京太郎「あっ!?それは俺のおいなりさんだぞ!」 憧(こ…これが…京太郎君のおいなりさん……/////)ゴクリ… 憧「…………//////」ちゅっ…ぱく 憧「…………//////」はむはむころころ 京太郎(…………なんか…喰い方がいやらしーなオイっ///////)かぁ 憧「…………」ごっくん 憧「ン…オイシ……////」ニコ… 京太郎「――――――――///////」どきっ 憧「ん?どうしたの京太郎君?」 京太郎「なっなんでもねーよ!!」かぁ 京太郎(やべー…一瞬コイツのコトがちょっとエロ可愛く見えちまった……)どきどき 憧「ん?どうしたの?私の顔に何か付いてる?」 京太郎「いや…別に……そんな事より、憧はあんまり飲んだりはしないのか?」 憧「そんな事無いよ。大学の麻雀部の子とか、あと…しずとかかな?」 京太郎「しず?」 憧「高鴨 穏乃。私の同じ阿知賀出身の。覚えてるでしょ?和の友達だし」 京太郎「ああ。あのジャージの子だろ?」 憧「うん。あの子…私達と学校は違うけど、東京(こっち)に来てるから、よく女子会とかしてるよ」 憧「で、そう言う京太郎君はどうなの?」 京太郎「俺か?俺は専ら新聞部の奴等と男子会だよ。麻雀部じゃないのは申し訳ないけどな」 憧「ホントだよね」じとー 京太郎「はは……」あせっ ♪ピロピロリ―――― 憧「ん?電話?しずからだ…ってごめんね。マナーモードにし忘れてた」 京太郎「いいってそんな事。俺は気にしないから早く出てやれよ」 憧「ありがと」ピッ 憧「もしもし……しず?どうしたの?」 憧「…………えっ!?今、優希と家飲みしてるから来ないかって?」 京太郎(優希!?)びくっ 憧「ゴメンねしず。私…今デート中なんだ」どやっ 憧「えっ!?どの娘って…女の子とじゃないよ、男の子とデートしてるの///////」てれてれっ 京太郎「……………」くいっ 憧「誰とって?ふふん。和の清澄高校の麻雀部の部員だった、須賀 京太郎君だよ」 憧「しずも覚えてるでしょ?あの学ランの。そうその…今、その彼と居酒屋デート中なんだ」ふふん ?『なにー!!京太郎だと!?ちょっとしずちゃん電話を替わってくれだじぇ』がぁ! 憧(電話越しからでも声が聞こえる……) ?『憧ちゃん、久し振りだじぇ』 憧「優希?お久だね。えっ何言って……?わ、判ったわよ。兎に角、替わればいいんでしょ?」 憧(……そう言えば、優希は元清澄で、今はしずと同じ大学だったかな……) 憧「はいはい。今替わるから……はい、京太郎君。あなたの飼い主さんとやらが電話替わってくれって……」 京太郎「はぁ…やっぱりそうなるのか……はい。もしもs――――」 優希『こらー犬!お前、咲ちゃんというものがありながら、憧ちゃんとデートたぁどういうこった!!』がぁ!! 京太郎「声がでかい!もっと小さい声で喋れよ。あとデートって…あk…新子さんとは、たまたま同じ大学だったんだ」 京太郎「それで、再会した記念って事で、飲んでるだけだよ。それ以上の事は断じてない」きっぱり 憧(えっ……!?)ズキッ 京太郎「……はぁ?どういう事だって?だからそー言う事だよ」 京太郎「咲?……残念ながらアイツとは付き合えてはないよ」はぁ 京太郎「告白したけど保留っつーか…殆んど振られた状態だから……」がっくり 京太郎「―――ってンな事なんか聞くなよ!言ってるこっちが哀しくなるだろうが?」はぁ 優希『…………私は…京太郎の気持ちも、咲ちゃんの気持ちも知ってたから……身を引いたのに……』ぼそ… 京太郎「ん?何か言ったか?」 優希「――――!!/////なっなんでもないじぇ!/////もういいじょ。シズちゃんと替わるじぇ!」 穏乃『もしもし須賀さん。お久し振り…って言うか、二人でこうやってお話するのって、もしかして初めてかな?』 京太郎「ああ…そう言えばそうかな?」 優希『――――…・・――――…・・…――』ぎゃーぎゃー 京太郎「ん?今、そっちのタコス娘が、後ろで何か言ってないか?」 穏乃『……その…全く躾のなってない犬だじぇ…って喚きボヤいてる……』はは… 京太郎「まぁそんなこったろうと思った。まったく自称飼い主さんが、そう言ってりゃ世話ないぜ……」はぁ 穏乃『あはは…そうだね』 京太郎「それじゃ。新子さんと替わるから」 穏乃『うん――――あっ…あのっちょっと待って!』 京太郎「えっ!?何?」 穏乃『あの…須賀さん……憧の事、宜しくお願いします。あぁ見えてとっても優しくて、純粋な子ですから』ぺこり 京太郎「……………………あ、ああ……じゃあ替わるから……」すっ 憧「………………もしもし、しず。今日はゴメンね、今度必ず埋め合わせするから』 穏乃『うん。その時は玄さんも宥さんも呼んで、久し振りに皆で集まろうよ』 憧「うん。いいねそれ。あと灼も呼んじゃおうか?」 穏乃『はは…灼さんは吉野(じもと)だから、流石に無理だよ』 憧「まー確かにね……」 穏乃『じゃあ…お邪魔になっちゃうから、そろそろ切るね』 憧「うん」 穏乃『じゃあ…あっ!あと一つ』 憧「ん?何よ?」 穏乃『憧…これから大変だと思うけど…私はどんな事になっても憧の事、応援してるからね』 憧「…………うん。しず…ありがと……」 穏乃『うん…じゃあまたね。憧』 憧「またね。しず」ピッ 憧(………………………そうだよね…よしっ!!)ぐっ 憧「京太郎君!!」 京太郎「はい!!」びくっ 憧「今日は、めいっぱい飲むわよっ!!」 憧「うふふ…おしゃけオイシーね……////」くいっ 京太郎「はは…憧さんは御機嫌だな……」 憧「えへへ…憧ちゃんはごきげんだよー。ねえ…きょーろーは、わたひと飲んでて楽しい?」じ… 京太郎「お…おう……」 憧「あーその顔!そっか…京太郎は私と飲んでても、楽しくないのか……」しゅん 京太郎「そっそんなことねーから。楽しいから。俺もゴキゲンだぜっ!!」 憧「えへへ…ありがと……わたひもたのひーよ」にこ 京太郎(うーん。でも…こりゃ正直言って、かなり飲み過ぎてるな……) 京太郎(って…いつの間にか、カクテルから日本酒にシフトチェンジしてるし……)ぐび… 憧「だっ…だったりゃ、きょーたろーも…もっと飲みなひゃい!」ずいっ 京太郎「飲んでるよ。それより、お前は飲み過ぎなんj――――!!」 京太郎(……って…いつの間にか、呼び捨てにされてるし……) 憧「もーきょーたろー飲まないんなら!!」ばっ 京太郎「あっ!?俺のジョッキ!!」 憧「えへへ…いただきまーす/////」ごくごくごく 憧「えへへ…きょーたろーのナマすっごくオイシー//////」ぷはー 京太郎(うっ……!まずいな…こりゃ何とかしないと……取り敢えず店を出るか……) ――――――。 近くの公園。 京太郎「ほい。これお茶」すっ 憧「ありがとー」こくこく 京太郎「少しは落ち着いたか?」 憧「うんっ京太郎く―…きょーたろーは優ひーね/////」にこっ 京太郎「そっそんな事はねーよ」 京太郎(しかっし、まいったな…まだかなり酔ってるみたいだし……) 京太郎(送ってくっていっても、コイツの家、知らないしな…当たり前だけど……) 京太郎(俺の家って訳にはいかないし…最悪…優希の所……ってのは避けたいな。何言われるか判らんし……) 京太郎(さて…どうしたものか……)うーん 憧「ねぇ…きょうたろ…京太郎君……」 京太郎「ん?何?」 憧「京太郎君と宮永さんって…どんな関係なの?」 京太郎「えっ!?」どきっ 憧「さっきの電話…優希と話している時に聞こえた『咲』って…宮永さんの事なんでしょ?」 京太郎「それは……咲は俺と同じ清澄高校の時の同級生だったやつで…同じ麻雀部で―――――」 憧「そんな事聞いてるんじゃないの!!ねぇ宮永さんはアナタにとってどんな女性(ひと)なの?」じ… 京太郎(うっ……なんて思い詰めた目で俺を見るんだ……)たじ… 京太郎(――――って急に酔いが醒めたのか?いや…もしかして最初からそんなに酔って無かったのか?) 京太郎(いや…そんな事より……流石にこの場面で、ヘンにはぐらかす訳にはいかんわな……)すぅ… 京太郎「そうだな……俺と咲は―――――――」 憧「ふーん。そーなんだ……」 京太郎「ああ…そう言う事だ。だかr――――」 憧「京太郎君が苦労してウチの大学に入ったのも、新聞部に所属しているのも、全て宮永さんの所為なんだ」 京太郎「所為って…俺が勝手に決めた事だよ」 京太郎其れなりの大学に入って、新聞部で取材や編集の勉強をしているのも、いつか麻雀関係の記者になれば」 京太郎「プロで活躍してるアイツに形はどうあれ、少しでも近くに居られるかも知れないって思っただけだ」 憧「でも…その彼女は京太郎君を振る訳でも、付き合うでもなく放置して、自分はやりたい事をやっていると」ふん 京太郎「そんな言い方すんなよ。プロの世界ってやっぱ厳しいだろうし、中途半端な覚悟じゃと務まらないんだろ」 憧「だから努力すれば、頑張ればそんな彼女に近づいた気分になれるって思ったんだ?」 京太郎「―――――そんな言い方はないだろ」カチン 憧「ねぇ京太郎君。どうしてあの時、私が君に声をかけ、デートに誘ったか分かる?」 京太郎「…………」 憧「初めて…三年前のインハイで君を見た時から、ずっと気になってた」 憧「インハイが終わってからも…密かに和から君の事を、それとなしに聞いてもしてた……」 憧「……でも冷静に考えて、住んでる所も離れてるし、逢える機会も殆んど無いからって諦めてた……」 憧「でも…和から京太郎が同じ大学だって聞いた時に、これは運命だって本気で思ったんだ」 憧「だから、男子麻雀部を覗いたりして探してたけど…何時もいなくて、ずっと見付けられなかった」 京太郎「そこに関しては申し訳無いとは思ってる」 憧「だから初めて見つけた時は、本当に嬉しかった。でも、どきどきしてなかなか声を掛けられなかったけど……」 憧「でもあの時…それでも緊張を抑えて、意を決して…やっと話し掛ける事が出来た時は嬉しかったな……/////」にこ 京太郎「憧……」 京太郎(正直…ナニを言ったらいいのか分からない…それにこの流れ…ヤバい――――) 憧「……ねぇ京太郎君。私あなたの事がその…好きみたいなの……だから……私とつきあっt―――――」 京太郎「あっ憧っ!ちょっとまて!!」 京太郎(あ…あぶねぇ……今の憧…すっげえ可愛いし、このまま告白されたら受けちまいそうだった……)どきどき 憧「……やっぱりダメか……なら友達だったらいいよね?今は…それで良いから……」 京太郎「…………ああ…それなら……」 京太郎(……流石に断れんって言うか…憧、やっぱ凄く可愛いよな。普段も酔ってる時も、そして今も……) 京太郎(でも俺は…咲の事が好きなんだ……) 京太郎(たとえ今…逢えなくても、殆んど振られた状態でも…それでも、あいつの事を忘れるなんてこと出来ない……) 憧「でもね…京太郎君……」もごもご 京太郎「何だよ?言いたい事があるなら言ってくれよ」 憧「分かった。言うね……京太郎君は…本当にそれでいいの?」 京太郎「えっ!?」どきっ 憧「告白しても…まともな返事も貰えなくて……」 憧「その上、仕事に集中する為に他の事を考えたくないから、一年の間、返事を待っててくれなんて、どれだけ身勝手な子なの」 京太郎「憧!」 憧「ねえ…京太郎君…………もう…いいんじゃないかな……」 京太郎「!?」 憧「京太郎君は充分に待ったし、たくさん努力もしてる。でも、そこまで想われてる宮永さんは、自分の事ばっかり……」 憧「挙句の果てには、その女に振られるのかもしれない。だったら…もういいんじゃないかな?」 京太郎「いいって…何がだよ……」 京太郎(くっ…何だ…?俺の心が、だんだん不穏になっていく様な感じがする……) 憧「はっきり言うよ。もう…宮永さんの事は諦めた方がいいと思う」 京太郎「!!?」 憧「宮永さんと京太郎君がどんな関係を築いて来たのかは分からない。私とは一緒に居る時間が違い過ぎるから……」 憧「でも…その彼女はもう君と同じ場所に居ないんだよ。ううん。もう同じ場所に立つ事なんて出来ない」 京太郎「そっそんな事は――――」 憧「ううん。京太郎君は…宮永 咲という人に……心を縛り付けられている」 京太郎「…………」 憧「ごめんね…凄く意地悪な事を言っているのは…自分でも判ってる」 憧「でも、京太郎君がいくら望んでも、手を伸ばしても、今の彼女には届かない伝わらない」 憧「……でも」すっ ぎゅっ 京太郎「!?/////」 京太郎(俺の右掌を憧の両掌がぎゅっと包んで……) 憧「でも私なら…触れられる所に居る。温もりを感じられる……私は京太郎君のすぐ傍に居る……」 京太郎「憧……」 憧「今はまだ無理かもしれない。でもいつか…君を縛り付ける物を、私が取り払ってあげるからね」にこ 京太郎(あったかい…憧から伝わってくる温もりが心地いい……) 京太郎(本当に何かを解きほぐされていく様な…心地よく溶かされていく様な…そんな感じがする……) 京太郎「あ…憧……」どきどき 憧「京太郎君……」どきどき 京太郎「………………きょ……今日はもう遅いし、そろそろ帰ろう……」 憧「…………うん…そうだね」にこ 地下鉄駅前。 憧「うん。ここまでで良いよ。今日は付き合ってくれて本当にありがと。すっごく楽しかったよ」にこ 憧「また付きあってね。京太郎くn――――ううん。京太郎。じゃあまたね―――――」ふりふり たたっ 京太郎「…………言いたい事言って、行っちまったな……」はぁ 京太郎(でも……助かった…………)ほっ 京太郎(あのまま押し切られていたら、本当に危なかった。それ位に可愛いくて、そして…真摯だった……) 京太郎(何より…俺が今一番欲しいものをくれた気がした……) 京太郎(くっそ…また逢いたくなっちまったじゃねーか) 京太郎「遠くのヒトより近くのカノジョ」 京太郎「……………か……」 その頃。 とあるホテル。 先輩プロ「宮永。今日の対局は中々よかったぞ」 咲「ありがとうございます。先輩」ぺこり 先輩プロ「春頃まではどこか中途半端な感じだったが、最近は集中して打てているみたいだし、この調子で明日も頼むぞ」 咲「はい。これも先輩のアドバイスのおかげです」 先輩プロ「そうか。じゃあ今夜はゆっくり休めよ。おやすみ」 咲「お休みなさい」ぺこり ガチャ ばふっ 咲「疲れた……」ふー 咲(デビュー当時…私はプラマイゼロどころか、勝つ事すら全くできなかった……) 咲(勿論。プロの人達のレベルが高いのは判っていたし、プロになった気負いもあったと思う) 咲(でも…一番はやっぱり……) 咲(京ちゃんの事―――――) 咲(あの時…京ちゃんに告白された時……嬉しかった…私も京ちゃんの事が好きだったから……) 咲(でも……それ以上に戸惑いがあった。京ちゃんがまさか私に告白してくれるなんて、思いも寄らなかった……) 咲(でも私は……その時既にプロ入りが決まっていたから) 咲(もし…先に京ちゃんが告白してくれていたら、私はプロにはならなかったのかもしれない) 咲(でも…プロになるって決めて、チームと契約した以上、今更辞めるわけにはいかなかった……) 咲(それに。この時の私自身、プロの世界で自分の力を試したい。と言う想いも芽生え始めていたから――――) 咲(だから…素直に告白を受け入れる事は、あの時の私には…どうしても出来なかった……) 咲(でも…プロ入りして京ちゃんと離れ離れになって、気持ちがぐらぐらして…どうしていいか分からなくなって……) 咲(そこを先輩に見透かされて、先輩にこう言われて、私はそれを受け入れた) ――――中途半端な気持ちじゃプロは務まらない。少なくても一年は麻雀だけに集中した方が良いって……。 咲(本当に…本当に勝手だと思う…でも私は一方的に京ちゃんと、距離を置く事を選択した……) 咲(それから私は麻雀だけに集中する事になって、少しずつだけど勝てる様になった……) 咲(チームの一員としてとしてチームに必要とされるようになった。でもやっぱり――――) 咲「…………寂しいよ…京ちゃん……」じわ… 咲(……いくら勝っても活躍しても…忘れた頃にこみ上げて来る…寂しさと恋しさ……) 咲(私はやっぱり……京ちゃんの事が好きなんだ……) 咲「早く逢いたいよ…京ちゃん……」ぐすぐす… 咲(京ちゃん…もう彼女さんとか出来ちゃてるのかな……もう私の事なんて忘れちゃっているのかな……) 咲(…………だとしても…私に文句を言う資格は無い……) 咲(ホントは今すぐにでも、京ちゃんの元へ飛んで行きたい……) 咲(でも私が決意し、其れを勝手に京ちゃんに押し付けたんだから、それを自分から破る事なんて絶対に出来ない) 咲(プロの雀士として…一人の女としてそれだけは絶対に許されない。それに京ちゃんにだって当然…選ぶ権利はある) 咲(いくら優しい京ちゃんだって…こんな自分勝手な子の事なんて、とっくに愛想尽かしているに決まってるよね……) ――――でもそれでも私は……一縷の望みを信じて………… その時が来たら…きっと―――――。 京太郎(あれから俺は…憧と二人で遊びに行ったりする事が多くなった) 京太郎(どこに行くかとかは専ら憧が決めていたのだが、彼女はああ見えて、凄く気使いの出来る子なんだと思う) 京太郎(何だかんだで、どこに行くにも俺が愉しめて、尚且つ自分も愉しめる処を上手に選んでいた様に思うしな……) 京太郎(しっかりというか、ちゃっかりしているとでも言うのだろうか……?) 京太郎(でも。そんな所も可愛くて、健気で…そして俺の事を引っ張り上げてくれる様な感じで……) 京太郎(俺自身、そんな彼女に次第に惹かれて行くのを、否定する事が出来なくなっていた) 京太郎(そして…彼女によって俺の心の中の何かが、次第に解きほぐされていく心地よさと……) 京太郎(それと同時に何かを…少しづつ、忘れてしまっていく様な気持ちも感じていた……) 京太郎(そして。そんな日々を過ごしながら、桜の花咲く頃……俺は次第に現実問題になって突き詰められる事があった) 京太郎(言わずもがな…咲の事だ―――――) 京太郎(もうすぐ四月…咲との約束の月……) 京太郎(俺は……どうすりゃいいんだろうな……) 京太郎(憧は俺にちょっと不器用だけど…はっきりと分かる好意を俺に寄せてくれる……) 京太郎(容姿も言っては何だが、咲よりも良いと思うし、オシャレにも気を使っている) 京太郎(何よりも勝気なんだけど、時折見せる純情で照れ屋な処が堪らなく可愛い) 京太郎(頭も良くて、さり気なく俺に話も、行動も合わせてくれる……そんな女の子……) 京太郎(でも俺は……それでも…………) 京太郎(俺は悩みに悩んだ…こんなに悩み、二人を天秤に掛けている自分にこんなにも自己嫌悪もしたのも初めてだった) 京太郎(咲の返事が来るまでに、それまでに絶対に決めなければならない) 京太郎(返事待って決めるなんてのは、男として格好悪いし、何より二人に対して失礼極まりない話だろう) ――――そして俺は…考え悩み抜いた末。結論に達し覚悟を決める。 もう迷わない。どうなったとしても後悔しない。俺は――――――。 四月の初め頃。 学内のとある喫茶店。 京太郎「雨…か……」 京太郎(そう言えば咲からあのメールが送られてきたのも、こんな雨の日だったな……) 京太郎(しっかし…もう四月で桜も咲いてるってのに、未だ全然肌寒いな……)ぶる 京太郎「コーヒーを買ってと……ええっと…どこに……あそこか」たたっ 京太郎「お待たせ。自分から呼び出しておいて、俺の方が遅くなってしまってゴメンな」 憧「ううん…いいよそんな事」にこ 京太郎「はい。コーヒー…ってもう注文してたのか……しかも全然飲んでないみたいだし、要らなかったかな?」 憧「ううん。ありがとう。せっかく京太郎が、私の為に持って来てくれたんだもん。有り難く頂きます」こくこく… 京太郎「そんな大層なモノじゃないんだけどな」 憧「京太郎のくれたコーヒー……おいしい」にこ 京太郎「そっか…それならいいんだけどさ……」 憧「えへへ…でも京太郎から誘ってくれるなんて…珍しいね。でも…嬉しい」にこ… 京太郎(…………心なしか憧の表情が、何処か曇っている様な感じがする……) 京太郎「憧…いきなり呼び出して悪かったな。でも…どうしても今日言わなければならない事があるんだ……」 京太郎(そう…今日じゃないとダメなんだ『結果』が出てからじゃ遅いんだ)ぐっ 憧「……大事な…話なの?」 京太郎「ああ」こく 憧「…………そう。それだったら外に出ない?そこで話して……」 京太郎「外って…まだ雨が降ってるぞ。それにまだ肌寒いし……」 憧「どうしても…外で話したい気分なんだ。だめ…かな……?」 京太郎「……わかった…外に出よう」 憧「うん…ありがと」 京太郎「あっカップは俺が持ってくから……ん?」 ――――片付ける為に手に持った三つのカップ。その中で一つのカップだけが空になっていた……。 学内の広場。 京太郎(雨が降ってるのと講義棟から離れている所為か、殆んど人が居ないな……) 憧「…………」ふるふる 京太郎(……俺はここで今から目の前の、微かに震えながら傘を差している女の子に言わないといけないのか……)すぅ…はー 憧「それで……話って何なの……?」 京太郎(……くっ…やっぱりいざとなると言い辛いな…駄目だ!逃げるな!男ならはっきり言え!!)ぐぐっ 京太郎「…………憧……ゴメン。俺はやっぱり咲からの返事を待つ事にする。だからお前とは付き合えない」 憧「………………」 京太郎「お前が俺なんかに好意を寄せてくれるのは、ホントに嬉しいし、振るなんて罰当たりな事だって百も承知してる……」 京太郎「でも俺は…やっぱり咲の事が好きなんだ。例え振られる事になったとしても、それでも俺は―――――」 憧「…………わかってた……京太郎が宮永さんを択ぶ事くらい……わかってたんだ……」 憧「ほんのたまにだけど…宮永さんの事を話す時の京太郎の顔……とってもいい顔をしていたから……」 憧「…………私に向けては…一度も見せてくれなかった顔……」 京太郎「……憧…俺は――――」 憧「でも――――私は……それでも私は…京太郎の事が好きなの……」ぐっ 憧「初めて京太郎を見た時…カッコよくて…優しいそうな人だって思った。一目見た瞬間から、ずっと気になってた」 憧「初めてデートした時に…私はやっぱりこの人の事が好きなんだって、はっきりと分かった」 憧「それからデートする度にどんどん好きになっていくのも……抑え切れない位に実感していた」 憧「だけど…もしかしたら私は…宮永さんの代わりでしか無いのかもしれない。そう思う事もあった……」 憧「でも!そうだったとしても、京太郎は私を大事に思ってくれているって事は判っていたから……」 京太郎「憧……」 憧「ねえ…京太郎……どうしても私じゃ駄目なの?宮永さんじゃないとダメなの?」 京太郎「…………」 憧「……こんな事言っても、困らせるだけだってのは分かってる……」 憧「……でもお願い!お願いだから宮永さんなんかじゃなくて私を選んでよ!!!お願い…だから……」ふるふる 京太郎「憧…俺は憧みたいな可愛くて素敵な子に好きって言われて、本当に嬉しい」 京太郎(声に出しては言えないけど…もし咲が居なかったら。俺は手放しで喜んで憧と付き合っていたと思う) 憧「それなら!――――――」 京太郎「でも俺は…俺には咲しかいないって決めたんだ……」 京太郎「たとえ俺が咲に振られる事になったとしても…それでも今の俺には、咲以外考えられないんだ」 京太郎(俺は馬鹿だ…大馬鹿だ……憧の優しさと好意に甘えて、ずるずるとしてしまった結果がこれだ) 京太郎(そうだ。俺は結局…憧の想いに応えられずに、傷付ける事しか出来なかった……) 憧「でも!!宮永さんはここにはいないんだよ…彼女がいるのは私達と違う世界……」 憧「でも私はここにいる!二人で一緒に触れ合える。寄り添えられる。感じ合える……」 憧「私は…何時も京太郎の見える処にいるから!!だから―――――」 憧「見えない人の事なんて見ようとしないで、もっともっと目の前で見える私の事を見てよっ!!」 京太郎「憧……」 憧「だから……お願い…………」ふりふり… 京太郎(憧が…あの勝気な女の子が……外聞も無くいやいやして……) 京太郎(まるで…玩具を欲しがってせがむ子どもの様に……それも俺が…この子をそうさせちまったんだな……)くっ… 京太郎「ごめんな憧……もう俺は中途半端にしたくは無いんだ。だから―――――」 憧「どうしても…駄目なの…………?」 京太郎「ああ……」こく… 憧「分かった!!いい…もういいよ……ごめんね京太郎…我儘言ってホントにゴメンね……」ぽろ… 憧「分かっていたのに……本当に…分かっていたのに……」ぽろぽろ ばっ… 京太郎「!?」 京太郎(えっ!?傘を投げて…空を見上げてる……?) 京太郎「って!おいっそんな事してたら濡れちまうぞ!!」だっ 憧「来ないでっ!!いいから来ないでよ!!」 京太郎「憧…何を言っt―――――」 憧「…………う…うう…ああ…わぁぁん……うわぁぁぁぁぁ――――ん!」 京太郎「憧!!」 憧「泣いてなんてない!これは雨だから…泣いてなんてないんだからね!!」 憧「大丈夫だから。ただちょっと大声出したくなっただけだから!」 憧「だから…お願い…早く行って…早くどっか行ってよ!!」 京太郎(……憧…………そうか………) 憧(泪なんて見せたくない…心配なんかさせたくない。して貰いたくもない。コレは私のできる精一杯の矜持――――) 京太郎(……そうだな…情けないけど…俺がコイツにしてやれる事なんて、もう何一つも無いんだ)ふりふり 憧「うぁぁぁぁん……うわぁああああああ―――――ん!!」 京太郎「……分かったもう行くよ」ぺこり 京太郎(くそっ!俺に出来るのは……彼女の意を汲んで、とっとと立ち去る事しかねーのかよ!!)たたっ 京太郎(ごめんな…憧……) 憧「うわぁぁぁぁ―――――――あぁ…・・ぁ…・・……――――」 ――――俺は…走りながら彼女から離れる程に、彼女の嗚咽が雨音で掻き消されていくのを感じていた……。 憧「……ひっく…ひっく……」ぐすぐす 憧(……雨にぬれて寒い…でも…こんなびしょびしょじゃウチに帰れないよ……)ぶるぶる 憧(……振られちゃった……そうなる事は分かってたのに…それでもこんなに胸が苦しいなんて……)ぐすぐす 憧(初恋は実らないってよく聞くけど…ホントだったんだ……)ぐす… 憧(このタイミングで振ったって事は…もし宮永さんに振られても、私とは付き合ってはくれないんだろうな……) 憧(そんな事したら私に失礼なんて…いらない気遣いなんてして……) 憧(京太郎のバカ!京太郎なんて役満直撃されて跳んじまえっ!!) 憧(でも…それでもやっぱり……大好きだよぉ…胸が切ないよぉ苦しいよぉ…………)ひっくひっく ♪ヴヴヴ…ヴヴヴヴヴ…… 憧(でんわ?……しずからだ……) 憧(こんな時に電話なんて…………でも…しずの声が聞きたい……) ―――――こんな状態で話したくない…でもそんなプライド以上に、今の私は温もりが…より掛かれるものを欲しかった……。 ピッ 憧(………………もし…もし―――――) その日の夜。 京太郎「ただいまーって誰に言ってんだか……」 ぼふっ ごろん 京太郎「もういつ着てもおかしくは無いよな……」どきどき 京太郎(俺に出来る事は全てやった……と思う) 京太郎(……とは言っても、咲の返事とは何の関係も無い自己満足だけど……) 京太郎(それでも頑張った分だけ、アイツに少しでも近づける気がしたんだ……) 京太郎(何より…憧には悪い事したな……俺がこんなブレてなかったら、あんな思いはさせなかったのに……) 京太郎(もう…ああしてしまった以上、もし咲に振られたとしても、もう憧付き合うなんて事は出来ねーよな……)はぁ 京太郎(って…何女々し過ぎる事を考えてんだ!!全く恥ずかしくて申し訳なさ過ぎて、ンな事出来ねーに決まってるだろうが!!) 京太郎(…………くそっ!後は野となれ山となれってんだ。俺に出来る事なんてもうねーんだから!!) ♪ヴィヴィヴィヴィ…… 京太郎「メール!!」がばっ 京太郎「さ…咲からだ……」ゴクリ… ――――――――。 京太郎「………………もう見るのが怖くて一時間も見れてない……」どきどき 京太郎「これじゃただのヘタレだよ!!ええい見るぞ!!見てやるぞ!!!もうどうにでもなりやがれ!!!」 ドキドキドキドキドキドキ――――― ピッ… 京太郎「………………」じ……… 京太郎「………………うお――――」 京太郎「――――――――――――うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ―――――」ばばっ!! ――――――――メールを見た瞬間。俺は無意識に高々と両手を突き上げていた。 おしまい。 おまけ。 四月中頃。 大学のキャンパス内。 咲「へぇ。コレが京ちゃんの通ってる学校のキャンパスなんだぁ」 京太郎「結構広いだろ?もう少し早かったら、桜もまだ咲いてたんだけどな」 京太郎「前の雨で殆んど散っちゃったんだけど。ここの桜、満開の時は結構キレイなんだぜ」 咲「そうなんだ。じゃあ来年はお花見デートしようね////」にこ 京太郎「ああ。そうだな」にこ 京太郎「でも…正直…OKしてくれるとは思わなかったよ、ずっと待たされっぱなしだったしな」はは 咲「ごめんね…京ちゃん。私が勝手ばっかり言ってた所為で…私…ずっと京ちゃんの優しさに甘えてた……」しゅん 京太郎「確かに随分待たされたけど…まぁプロの世界は厳しいって事位は判るし、お前も色々考えての事だろうしな」 咲「京ちゃんは…ホント優しいね……」 京太郎「んなことねーよ」へへ… 咲(……ううんそんな事ない。京ちゃんはホントに優しいよ…こんな私をずっと待っててくれたんだもん……)じ… 京太郎「ん?どうしたじっと人の顔見て。何か付いてるか?」 咲「ううん。何でも無い。何でも無いよ」にこ 京太郎「そうか……」 咲「ねえ京ちゃん……私…今まで京ちゃんに何にもして上げられなかった分、これからは出来る限り一緒に居るからね」 京太郎「ソレは嬉しいんだけど…いいのか?試合とかで大変なんじゃ?」 咲「……私…この一年で分かった事があるんだ……」 咲「確かに京ちゃんと離れてた一年の間。麻雀だけに打ち込んで、ある程度の結果を出す事を出来た」 咲「でも…それだけじゃ駄目。ずっとずっと寂しかった…胸に穴がぽっかり空いた様な喪失感があった」 咲「だからこれからの私は、欲しい物は我慢しないで手に入れるって決めたの。勿論…全力でね」にこ 京太郎「うおっここに来ての欲張り屋さん発言。お前…この一年で随分変わったな……」 咲「うん。これが一年…プロの雀士としてやってきて、辿り着いた結論」 咲「麻雀も恋愛も手を抜かず、全力で頑張るって決めたんだ。だから覚悟してね京ちゃん」にこ 京太郎「…………草食系文学少女とは思えない発言だな……」 咲「ううん。私は根っこの部分は何にも変わってないよ……」 咲「ただ…京ちゃんも麻雀も大好きだって事を我慢しなくなっただけ」にこ 京太郎「そうか…じゃあこれからお付き合いよろしくお願いします。お手柔らかにお願いします。咲さん」ぺこり 咲「こちらこそよろしくお願いします。京太郎君」ぺこり 京太郎「あはは」 咲「えへへ…」 京太郎・咲「「あははははは」」 咲「でも…ホントに良かった……京ちゃんもう他の女の子とくっ付いちゃってるって思ってたから……」 京太郎「そんな事ねーよ。俺はこんなチャラチャラした見た目だけど、中身は一途な純情ボーイ何だからな?」 咲「ふふ…そうだね」にこにこ 京太郎「だから安心s――――」 京太郎「――――――!!!」ドキィッ!!! 咲「……ん?どうしたの?京ちゃn――――」 京太郎「……い…いや何でも……そっそうだ咲。あっちのキャンパスに行こうぜ!!」どきどき 咲「う…うん」 京太郎(こっここはすぐにでも離れt――――――) 憧「――――――あれ須賀君?偶然だね……それに宮永さん?」 京太郎「!!!?」びくぅ!! 穏乃「お久し振り須賀さん。それに宮永さんも」ぺこり 咲「…………京ちゃんこの人達、阿知賀女子だった人達だよね?和ちゃんの友達の」 京太郎「ああ。あk…新子はここの学生なんだ。だけど…新子はいいとして、どうして高鴨もいるんだ?」 穏乃「はは…それはね。実は…憧とはたまに、お互いの学校を案内し合ったりしてるんだ」 憧「それより…宮永さん…ううん宮永プロはどうして学校に?」 咲「私も…京ちゃんに学校を案内して貰ってたの。私…この人とお付き合いしてるんだ」じっ 憧「!?」 憧(今…こっちを見て……流石インハイチャンプのプロ雀士…鋭いわね……でもそれなら――――) 穏乃「へーそんなんですか……これはお邪魔でしたね。じゃあ憧…行k――――」 憧「そうだったんですか。でも私も須賀…ううん京太郎君とは随分仲良くさせて貰ってるんですよ」にこっ 咲・京太郎・穏乃「「「!?」」」 憧(言ってやった!言ってやった!!でもこれだけじゃ―――――) 憧「……でも宮永さん…いいえ宮永プロ」 咲「何ですか?」 憧「いえ…プロリーグで新人賞を獲った有名人が、こんな処で堂々と彼氏とデートなんてしていて大丈夫なんですか?」 京太郎「いや…それは……」 咲「私は仮に有名人だとしても、それは麻雀のプロであって、アイドルとかじゃないから、全然問題ないよ」 京太郎(いや…そんな事は……もし当事者が俺じゃなかったら、新聞部としては、とんでもなく美味しいネタなんだけどな) 京太郎(……って、もしかしてもうアイツらに撮られてんじゃねーだろうな……)きょろきょろ 咲「それに…撮られたとしても、別に私は困りませんから」ぎゅっ 憧「!!」ムッ 京太郎「おっおい咲!…そんなくっ付くと……」 憧「それは大層な事で…でも将来を嘱望されているプロとただの大学生では、住んでる世界が随分違うと思いますけど?」 咲「どういう事?」 憧「お互いの目線が違い過ぎると、釣り合いが取れてくなって、ずっとすれ違って―――――」 憧「いつか破綻するんじゃないか……って事ですよ?」ニヤリ 穏乃「あっ憧!?」おろおろ 京太郎「おっおい憧!何言って―――――」 咲「大丈夫だよ。新子さんが望む(おもう)様な事には、決してならないですから」きっぱり 憧「そう…だといいですね?じゃあ。行こっか?しず」ファサ……… 穏乃「う…うん!それじゃあまた。大変失礼しました!!」ぺこり 憧「あっそうだ―――――」ずいっ 京太郎(!?おっおい!顔が近い!!///////)どきっ 憧「またね。京太郎君……ううん京太郎――――」すっ… ちゅっ 京太郎「!!!??」 咲・穏乃「「!!?」」 憧「えへへ…今まで色々シテくれたお礼に、私のファーストキスあげる!!じゃあまたねー!!////////」たたっ 穏乃「ちょっ憧!!すっ済みませんでしたー!!」ふかぶかとおじぎ たたたっ―――― 咲「…………京ちゃん…唇にチュウ(これ)って、一体どういう事なのカナ?カナ?」ゴゴゴゴゴゴ―――― 京太郎「いっ…いや……これはその―――――///////」あたふた 咲「…………いいよ…今の私がとやかく言う資格なんて無いのは判ってるから……」ギリィ… 京太郎(言っている事と…お貌の表情(ようす)が全く違うのですけど……)おどおど 京太郎(いや…ここは男として、寧ろおどおどするんじゃなくて、こいつを安心させてやらないとな!!)ぐっ 京太郎「…………確かに、あれから色々あったけど。咲…これだけは、はっきりと言える」キリッ 京太郎「これまでも、これからも……たとえ、どんな事があったとしても、俺はお前だけだから」だきっ… 咲「……!!うん…私も京ちゃんだけだからね……」ぎゅっ… 咲「……でも。もしあの子…ううん…誰であろうと、私と京ちゃんの仲を邪魔する様な子がいたら…その時は―――――」 咲「全部纏めて私が――――――」 咲「ゴッ倒す!!!!」ゴッ!! 京太郎(…………誰もゴッ倒されない様に…誠心誠意、気を付けさせて頂きます……) 穏乃「もうっ憧ってば、彼女さんの前であんな事して、私、知らないよ?」 憧「こっ…これ位の事はさせて貰わないと。わ…私の気が済まないんだもん!!//////」まっかっか 穏乃「まったく…そんな真っ赤になってる癖に…良く言うよ」はぁ 憧「そっそんなことないわよっ//////!!それに…その内に、ホントに私が言ったみたいになるかもしれないじゃない?」 穏乃「まったく…立ち直りが早いと言うか…懲りないね、憧は……」はぁ 憧「あのねぇ…そうさせたのは、しず…アンタの所為なんだからね」 穏乃「私の所為?」きょとん 憧「そうだよ…あの時…私が京太郎に振られた時…あの時…直ぐに駆け付けてくれたじゃない」 穏乃「うん。あの時…何か胸騒ぎがして、憧に電話したら…あんな聞いた事もない声で出るんだもん。吃驚したよ」 憧「そしてら…ホントにすぐ来てくれて…それに着替えと、あったかい飲み物まで持って来てくれて……」 穏乃「いや…雨音はするのに、傘を差してる感じじゃなかったし……」 穏乃「それに…声も寒さに震えてる感じだったから、もしかしたら、ずぶ濡れ何じゃないかなって思って」 憧「あの時は本当に凄く嬉しかった。しずが…私の親友で居てくれて本当に良かったと思った」 穏乃「はは…そう面と向かって言われると照れちゃうな/////」てれっ 憧「それにあの時…私の話を聞いて、しずも一緒に泣いてくれて……」 穏乃「そっ…そうだったかな…はは……//////」 憧「あの時のしず…私にこう言ってくれたじゃない―――――」 憧「『悪い事があったとしても、その内いい事もあるから大丈夫』って……」 穏乃「確かに言ったけど……さっきみたいな事を言った訳じゃ―――――」 憧「ううんっ!京太郎の事だって、まだまだ勝負は下駄を履くまで分からないんだから!!」 穏乃「いや…もう履いてる様な……」 憧「前に京太郎と観た『遠くの恋人(ヒト)より、近くの彼女(コ)!』って映画みたいな結末にしてやるんだからね!!」 穏乃「人の話聞いてないし……」はぁ 憧「見ててよ…しず。いつか必ず捲土重来してやるんだから――――――」 憧「…………そう…まだまだ――――――」 憧「私の戦いは始まったばかり――――――」 憧「―――――なんだからね!!」にこっ 穏乃「…………うーん…正直に言って、憧にとっては不毛な戦いになると思うんだけどなー」はは… 穏乃(まっ…それでも私はいつでも憧の味方なんだけどね……) おまけのおしまい。
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http //ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1358161445/ 2 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします saga 2013年01月14日 (月) 20 04 42 ID fW74j9Sz0 インターハイが終わった。 我らが清澄高校麻雀部は団体戦で優勝。個人戦でも咲と和が好成績を収めた。 それまで俺達に見せていた姿からは想像もつかないほど嬉し涙を流していた部長も引退し、 清澄高校麻雀部は新たに5人で活動を再開することとなる。 ……ま、それで俺がどうこうなるわけじゃないだろうけどさ。 拗ねたようにそう呟いてみた。 その考えが大間違いであることを俺こと須賀京太郎が知るのは、わりとすぐ先のことである。 そんなある日の昼休み。 俺は携帯電話のアプリでコンピュータ相手に麻雀を打っている。 咲たちにはなんだか気恥ずかしくて言っていないが、それが麻雀部に入部して以来の俺の日課だ。 コンピュータ相手にメンタンピンを上がって小さくガッツポーズを取ったのを見計らったように、友人が話しかけてきた。 「よう、須賀」 おう。どうした? 「いやな、ここんとこよく、麻雀部について嫌な噂ばっか聞くもんでさ」 ……は? ウチに? 「ああ。『男子部員は麻雀をする気なんてなくて、女子にセクハラしてる』とか」 んなっ!? 有り得ねえよ! 「わかってら。あと、逆に『女子部員が唯一の男子部員を奴隷扱いしてこき使ってる』とかな」 奴隷扱いって……ものは言いようってやつか? 「お前に限ってそんなことないとは思うけど、全国レベルの部活で女子5人に男子1人となればそういう噂とかも出てきて当然だろ」 そっか。そうだよな。気を付けないとな。 咲たちが変わらないもんだから深く考えたことはなかったけど、全国優勝した部に男子が1人だけ混じってるって結構スキャンダラスだよな。 ……俺、今のまま麻雀部にいていいのかな? 芽生えた疑問に答えを出してくれる人などいるわけもなく、午後の授業の予鈴が鳴った。 3 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします saga 2013年01月14日 (月) 20 05 33 ID fW74j9Sz0 放課後。 大会が終わったばかりということでしばらくは部活も自由参加ということになるらしい。 だからといって今も部内最弱の名を欲しいままにしている俺が部活に参加しなくていい道理はないんだけど、 部長が引退してなお女子部員は4名、つまり麻雀を打つのに十分な人数が揃っている。 俺が行ってもあぶれるだけだし、欠員が出てたとしても俺じゃ弱すぎて練習相手にもならないだろう。 そんなわけでここのところ、部活には顔を出していない。 今日も一人寂しく帰ろうかと思ったが、咲につかまった。 「ねえ、京ちゃん」 どうした、咲……俺もう帰ろうと思ってたんだけど。 「京ちゃん、最近部活に来ないじゃない。一緒に行こうよ」 あー……分かったよ、うん。 咲も和も優希もあんまり噂の類に明るいとは思えないし、そういう噂が流れてるってことは伝えとくべきだよな。 「はあ? なんですかその根も葉もない噂は……馬鹿馬鹿しい」 そりゃ、俺だってそう思うけどな。有名税みたいなもんだろ。 「言いたい奴には言わせとけばいいんだじぇ」 そうもいかないだろ……俺だけならともかく、お前らまで悪者扱いされてるんだぞ。 「うむ。そういう噂が流れておるのは知っとったが、そこまで尾ひれがついとったとはな」 流石に、何かしらの対策を取らなきゃいけないと思うんですよ。新部長。 「新部長はやめいと言っておるじゃろう」 すいません、染谷先輩。 ともあれ、このまま放置してはおけないのも事実でしょう。 かといって下手に弁明しても却って逆効果な気もするし……どうすればいいんだろうな。 「……言いにくいのですが、一番手っ取り早いのは須賀君が麻雀部をやめることでしょうね」 「の、和ちゃん!」 「流石にそれは酷いじぇ!」 「分かってます。須賀君だって麻雀部の大切な一員なんです……最悪の場合、と考えてください」 大切……か。和にそう言ってもらえると嬉しいぜ。でも実際、どうするんだよ。 「シカトしておけばええんじゃ。根も葉もない噂なんかすぐに飽きられるじゃろ」 そういうもんなんですかねえ。 4 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします saga 2013年01月14日 (月) 20 06 42 ID fW74j9Sz0 しかし、染谷先輩の考えは甘すぎたと言わざるを得ないようだ。 全国大会が終わってから一ヶ月、俺たち麻雀部に対する風当たりは最悪と言っていいレベルに達していた。 どう考えてもそれは有り得ないだろうというような噂が飛び交っていて、俺や染谷先輩は時折嫌がらせを受ける羽目になっている。 こないだ下駄箱を開けたら、まあ、およそ「咲に近づくな」というような内容の手紙がごっそりと入っていた。 染谷先輩にも、だいたい同じようなことが起きているらしい。 咲たち1年生組はそういった悪意ある噂に対して無視を貫き通しているが、みんな最近元気がなくなってきたように感じる。 嫌がらせを受けている染谷先輩もなんだか疲れが溜まっているみたいだし、本当にどうにかしないと……。 そう思っていた矢先の、出来事だった。 俺が友人とともに学食へ向かおうとしていたときのこと。 「――そういえば、ウチの麻雀部さぁ」 「あー、聞いてる聞いてる。確か……」 ……まただ。 はいはい、噂噂。気にしちゃいけない。 「片岡さんが……宮永さんとか……」 「染谷さんが……で、あー、あと部長の竹井さんは……」 「……あ、原村さんが実はレズで、邪魔な男子部員を虐めてるなんて話も――」 俺が我慢できたのはそこまでだった。 もはや何を考えることも出来ずにその女子生徒に殴りかかり、友人に制止され、騒ぎを聞きつけた先生が駆け寄ってきて―― その後のことは、よく覚えていない。 「てめぇら好き勝手言ってんじゃねぇぞ! 和が、咲が、皆がどれだけ真剣に麻雀に取り組んでるかもわかってねぇくせに!」 「放せ、放せよっ! くそっ、てめぇら……ふざけんなよっ! 俺は……俺はなぁ!!」 ただ、玩具を奪われた幼児のように、ずっと喚き散らしていたような気がする。 5 VIPにかわりましてNIPPERがお送りします saga 2013年01月14日 (月) 20 07 34 ID fW74j9Sz0 ……結果として、俺は一週間の謹慎ということになった。 それなりに体格のいい俺が女子生徒を殴り倒したにしては処分が軽い気もするが、 麻雀部に関するよくない噂が流れている現状は先生側も憂いていたようで、情状酌量の余地あり、ということになったらしい。 13 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/15(火) 21 26 35.04 ID 9weSZbI80 須賀君が謹慎処分を受けた、らしい。 なんでも麻雀部の噂をしていた女子に、逆上して殴りかかったとか。 私達のために怒ってくれたその気持ちは素直に嬉しいですけれど、それで謹慎になっていては世話がない、と思います。 ……だいいち、須賀君は私達のことを気にする前に、もっと麻雀の勉強をするべきでしょう。 部活のときだって私の、その、胸にばかり視線が来ているような気がしますし……。 「あ、和ちゃん!」 あら、咲さん。どうかしましたか? 「えっと、京ちゃんしばらく学校来れないから……ノートとか届けてあげようと思ったんだけど、用が出来ちゃって」 それくらいなら私が届けておきますよ。 「ごめんね、和ちゃん。今度一緒に喫茶店にでも行こうね!」 楽しみにしておきますね。 ……さて、それでは行きますか……って、私、須賀君の家知らないですね。 待ってください、咲さーん。 さて、咲さんに須賀君の家の住所は聞きましたし、気を取り直して出発です。 授業のノートや配布されたプリントを届けるとのことですが、そういえば須賀君って成績のほうはどうなんでしょう。 というか、よく考えてみると私、須賀君のこと全く知りませんね。 まあ、構いませんけれど。 よしなしごとに思いを馳せながら歩を進め、咲さんに聞いた通りの住所を目指す。 着いた先はごく普通の一軒家。呼び鈴を鳴らすと、目的の須賀君が姿を現した。 「あれっ、和? どうしたんだ?」 こんにちは、須賀君。咲さんが授業のノートを取ってくれていたそうですよ。 咲さんは都合が悪かったそうなので、私が届けに来ました。 「お、そうなのか。また咲には礼を言っとかないとな」 そうですね。それでは、失礼します。 「いやいや、女の子が物届けてくれたのをただで返したら母さんに怒鳴られちまう。茶菓子とかあったはずだから、寄ってってくれよ」 はあ。まあ、構いませんが……。 15 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/15(火) 21 27 19.37 ID 9weSZbI80 そんなわけで、須賀君の家にお邪魔することになったわけですが。 正直、よく話をする関係だとかそういうわけでもないし、なんというか、気まずいですね。 手持無沙汰に須賀君の家のリビングのソファに腰かけていると、少し遠くからピロリンと電子音。 須賀君? 何か鳴ってますけど、大丈夫なんですか? 「ん? あ、ネト麻やってたんだ! しまった、放っといたから……」 ネト麻、ですか。丁度いいですし、よかったらアドバイスしましょうか? 「マジで? なんか悪いな……」 いえ。こちらこそ、春から夏にかけては麻雀初心者の部員に対して不親切だったかな、と思いまして。 「そうかな? そんなことないと思うけど……」 お気になさらず。 ……そう、実際、不親切だったのでしょう。 高校生の部活なのだから、そこは初心者が麻雀を好きになれるような環境であるべきなのに、 須賀君はほとんど雑用としてしか麻雀部にいられなかった。そのことは素直に申し訳なく思っていますし、 真面目に麻雀を強くなりたいと思っている人には、私だって相応の態度で臨みたいですからね。 「っと、じゃあここは……これを捨てりゃいいわけか」 そうですね。そのほうが、有効牌が多くなりますから。 「お、そう言ってたら本当に来たぜ! リーチだ!」 ……あれれ。 部では全く麻雀の練習をする暇もないようでしたからもっと基礎から教えることになるのかと思っていましたが、 案外、そこそこ出来ているじゃありませんか。今までずっと、我流で頑張ってきたんでしょうか? よく見ると本棚に麻雀の教本がありますし……むう、なんだか本当に今までのことが申し訳なくなってきました。 「……ん? どこか間違っちまってたか?」 いえ、大丈夫ですよ。思ったよりもよく出来てると思います。 この調子なら、来年はいい所まで勝ち上がれるんじゃないですか? 「へへ、そうだったら嬉しいな。いやでも、和に教えてもらったらなんかすげー調子いいや。これなら毎日教えてもらいたいくらいだ」 ふむ……それなら、ネト麻で出来ますよ。牌譜の確認もネト麻のほうが楽ですし、今晩から始めましょうか? 「いいのか? なんかホント悪いなぁ」 構いませんよ。人に教えるには自分がそれ以上に理解している必要がありますから……復習は、大事ですからね。 どんな基本だって、学んで学びすぎるということはないんです。 「ほー。そんなもんなんだなー」 16 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/15(火) 21 28 04.40 ID 9weSZbI80 と、まあそんなわけでネト麻で須賀君への麻雀指導を始めたわけですが。 いやいや本当に、飲み込みが早くて驚きです。これなら、ちゃんと教えてあげていればインターハイでもいい成績を残せたでしょうに。 『そうかな? 褒めてもらえるのは嬉しいけど』 というより、こちらの想定ラインが低すぎたのかもしれません。 雑用ばかりさせられていたから、もっと出来ていないものだと思っていたのですが。 『龍門渕のとこの執事さんにちょこちょこ教えてもらってたからなー。あの人すげーよ』 はあ。まあ、謹慎明けを楽しみにしていますよ。 『おー、ありがとな!』 チャットが切れたのを確認し、パソコンの電源を落とす。 ……和が、こんな親身になって麻雀を教えてくれるなんてな。 案外、謹慎も悪くないのかもしれないぜ。なんて言ったら和に怒られるかな? ともあれやっぱり、麻雀は楽しい。上達の具合が自分で感じられれば、尚更だ。 ……ほんと、来年は勝ちてえな。 そう、俺が強ければ。 俺が、周りに揶揄されるほど弱くなければ。 麻雀部の皆が疎まれることもなかったはずなんだ。 雑用をさせられていたことなんて言い訳になるはずがない。 ハギヨシさんに指導は受けていた。 ネト麻でも、携帯のアプリでも、自分なりに経験は積んでいた。 それで負けたんだから、それは俺の責任なんだ。 つまり、麻雀部の皆が受けている僻みや妬みは、俺のせいということだ。 ……あー、もう、嫌になる。絶対見返してやるからな。 何を見返すんだという話だが、うん。 ぜってー強くなってやる! とりあえず、せめて、優希の奴から直撃取れるくらいにはな! 25 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/16(水) 20 45 50.71 ID DPlNvRxn0 そんなわけで、謹慎期間終了。 原因が原因ということで友人たちの反応が随分アレだったがめげない。 めげないもん。 「京ちゃん、久しぶりー」 おー、咲か。謹慎の間、ノートありがとな。 「届けてくれたのは和ちゃんだけどね。ちゃんと和ちゃんにもお礼言った?」 おうよ。しかもなんか麻雀まで教えてくれることになってな。 いやぁラッキーラッキー。せっかくだから久しぶりに部活にも顔出そうかな。 「む。まあ部活に出てくれるのは嬉しいけどさ」 ははは、まあとりあえず昼飯食いに行こうぜ。 学食に新メニュー入ったって聞いたんだけどマジ? 「あーうん、またレディースランチだね」 おー。咲さんまた今回もお願いします! 「分かってるよ、もう」 うおお、ほんと美味いじゃんこの新メニュー! いやあ、咲様々ですな。 「もう、調子いいんだから……」 ふー。食った食った、午後の授業も頑張りますかー。 「全く京ちゃんったら。ふふっ」 美味いものを食ったおかげで午後の授業もそこそこ快調。 人の噂もなんとやらということで友人との仲もそれなりに回復したところで部室へ。 「おう、久しぶりじゃのう京太郎」 ういっす、この度はご迷惑おかけしましたっす。 「全くじゃ。お前さんの謹慎が決まったときは、それはもう酷いものじゃったからなあ」 うっ……。 「ま、お前さんがあれだけ怒るからには、結局噂は噂でしかなかったんじゃろうということになったらしいが」 そ、そうですか……まあ、怪我の功名ってことで……。 「良くないじぇ! お前、まかり間違って退学にでもなってたらどうするつもりだったんだじぇ!」 それを聞かないでくれ優希。そもそもそんなこと考える余裕があったら女子に殴りかかったりしない。 もう俺のことはいいだろ、いいってことにしてください。お願いだから。そんなことより麻雀やろうぜ。 「……ま、いいじゃろ。和と特訓したそうじゃな、成果を見せてみろ」 うっす! 26 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/16(水) 20 46 48.28 ID DPlNvRxn0 というわけで俺は席に着く。 ……あれ、俺がこうして部室で対局に混じるのっていつぶりだっけ……? ええい、気にするな気にするな。気にしたら負けだ。 相手は上家に和、対面に咲、下家に優希。成果を見るということで染谷先輩は俺の後ろに。 さあて、頑張るか! 「……ふむ。リーチ」 う、和に先行されたか……おっ、でも俺もこのツモで聴牌だな。 幸い、不要牌も現物で待ちもいい。となれば……とおらばリーチッ! 「カン、もいっこ――」 待ったっ、ロン! それ槍槓だ! 「むむ……東場が終わっちゃったから力が出ないじぇ……」 優希、それロンだっ! ……とまあ、格好良かったところだけ抜き出してみたけど。結果はいつも通り最下位でしたとさ。 だけど、三位の優希と1500点差と、今までにない程詰め寄れたのも確かだ。 「ふむ。なかなか頑張ったみたいじゃけど……まだまだじゃな、京太郎」 ぐぬぅ。分かってますよ、染谷先輩……。 「でも、確かに進歩はしちょる。こりゃ来年が楽しみじゃのう?」 お、マジっすか。和も褒めてくれましたし、こりゃやる気が出るってもんだなあ。 よーしもう半荘打つぞー! 相手頼むぜ! 「かかってくるじぇ!」 「頑張りましょう」 「今度も負けないよ!」 27 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/16(水) 20 47 29.48 ID DPlNvRxn0 とまあ、相手を変えつつ時には見る側に回りつつ、何度か打ってはみたものの。 結局、めぼしい結果といえばたまたま裏が乗った跳満を優希にぶち当てて三位になったのが一回だけだった。 まだまだ、全国で活躍する皆には程遠いということだろうな。悔しい。 「よし、今日はそろそろ終わりにするけえ、帰る準備始めんさい」 だーっ、悔しいなあ。いっぺんくらい一位になってみたいもんだぜ。 「十分進歩はしてますよ。次の大会は頑張ってくださいね」 お、和。ほんとありがとな、色々教えてくれてさ。 そーだ、謹慎で迷惑もかけたことだし、お礼も兼ねてなんか食いにいかないか? 「タコスがいいじぇ!」 お前には言ってない。いや、別に咲たちもってんなら構わないけど、タコスは却下。 「いいの?」 迷惑かけたのは事実だからなー。 日頃のお礼も兼ねてってことで。 「礼を言うべきは、雑用を押しつけとったこっちなんじゃがのう」 気にしない気にしない。 ラーメンでいいっすよね? んじゃ、行きますかー。 「んー、たまにはタコス以外もいいじぇ~」 そーだろそーだろ。今度俺が麻雀で勝ったら奢れ。 「ふん、一回順位で上に立ったからって調子に乗るんじゃないじぇ!」 手厳しいこった。 咲はどうだ、美味いか? 「うん。こうして皆で食べるもの楽しいね」 そだなー。今度は部長、じゃなかった竹井先輩も都合のいい日に皆で出かけるか。 にしてもどうよ、俺ちょっとはマシになってたろ、麻雀。 「うん、びっくりしたよ。でもなんだか違和感があった、かな?」 違和感? なんか間違ってたか? 「うむ、それはわしも感じたな。なんちゅうか、既に持っとる力を使い切れちょらんような……」 なんだそりゃ。俺にもオカルト的なアレがあるとでも言うのかよ。 だとしたらまあラッキーってなもんだけどさ。 「オカルトなんて有り得ません。せっかく順調に伸びてるんですから、須賀君はそんなこと気にせず勉強してればいいんです」 はい、和先生。 36 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/18(金) 19 22 20.14 ID vsqImmSg0 そんなこんなで色々問題を起こした俺もどうにかこうにか麻雀部に復帰し、 ようやくのこと心機一転、清澄高校麻雀部は再始動した。 幸いと言うかなんと言うか近いうちに大きな大会はないため(というよりそもそも、ウチは部員不足だ)、 部活動では俺の指導にそれなりの時間が割かれることになる。 とは言っても咲や優希が人に麻雀を教えられるわけもなく、染谷先輩は現部長かつ雀荘バイトということで色々忙しいらしく、 結局俺に麻雀を教えてくれるのは和であることが多い。 「須賀君、そこはこちらを選んだほうが……」 「須賀君、この場合は対面から仕掛けが入っているので……」 「須賀君……」 まあそりゃ超高校生級のデジタル雀士である和の指導は厳しくて軽くめげそうになるわけだが、 デジタルであるがゆえに指導の根拠は理解しやすく、自分でも成長を感じやすいのは嬉しい。 ハギヨシさんに教えてもらった時よりも伸びはよく、ネト麻での成績も目に見えて上がっている。 そして――だからこそ、咲たちを今までより遠くに感じてしまう。 麻雀を知ったからこそ。それなりに見れる実力を身につけたからこそ。 ……咲たちには到底追いつけないと、思っちまうんだよなー。 「ふむ。でも須賀君、弱かったころは追いつけると思っていたんですか?」 うん? いや……全然。和にこうして教えてもらい始めるまでは追いつける追いつけないの話じゃなくて、 俺と皆の間にどんだけ差があるかも分からなずにただ憧れてたような気がするよ。 「だったらそれも成長なんです。彼我の実力差を知ることは、大事ですから」 んー……理屈としては、分かるけどさ。 「追いつけないわけがないんです。卓上に存在する情報を見切れば、最善手は確実に存在するんですから」 「それに……こうして真剣に努力を積んでいる須賀君が今後もずっと弱いままだなんて、そんなの絶対有り得ません」 そう言って和が優しく微笑んでくれたから、なんだか俺は救われたような気がして。 ガラにもなく心臓がバクバク鳴り止まず、顔は真っ赤になってしまった。 「……須賀君?」 ……なんでもないっ。頑張って頑張って頑張りまくって、いつか和にだって追いついてやるって決心してただけだよっ。 「ふふ、頑張ってくださいね」 ああ、もう……どうしてそんなに、俺に期待してくれるかなあ。 泣きそうになる。叫びそうになる。体が震える。――和とこうして一緒に麻雀を出来るというだけで、俺はいくらでも喜べてしまう。 「さて、今日はこれで切り上げましょうか」 うぃっす。 あ、そうだ和。帰り、ちょっと付き合ってくんね? 37 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/18(金) 19 22 54.12 ID vsqImmSg0 心臓をバクバク言わせながらやっとの思いで和を誘って街に繰り出す。 こうして二人で並んで歩いてるだけでえも言われぬ幸せを感じてしまうあたり、俺ももう駄目かも分からんね。 「須賀君、どこに向かってるんですか?」 ん? いやぁ、ここんとこ和には世話になりっぱなしだからな。 俺なりの日頃のお礼ってヤツ、かな? 「わぁ、エトペン……!」 和に何か少しでもお返しがしたくて、暇なときに街を練り歩いていて見つけた街の片隅のファンシーショップ。 そこには和が大好きなエトペンのキーホルダーやストラップが所狭しと並べられていた。 プレゼントとして和にこの中から一つ買ってあげて、んで自分も同じのを買ってプチお揃いにしよう、 なんて思春期のオトコノコらしい痩せた考えをしてる次第です、はい。 財布事情があるから何個もとは言えねーけど、好きなの一個選んでくれよ。 さっきも言ったけど、日頃のお礼ってことでさ。 「わあ、わあ……! あ、ありがとうございます須賀君……!」 ……なんだよもう! この和、超可愛いんですけど! よ、よーしじゃあ俺も同じの買うぞー。 「同じのですか?」 お、おー。和のエトペンパワーにあやかりたいってなもんさ。 ほら、和って試合にエトペン持ってくだろ? 「ふふっ、試合にキーホルダー持っていくんですか?」 ポケットの中にでも忍ばせておくさ。 ……よし! 怪しまれずに買えたぞ、お揃いのエトペン! 我ながら女々しいことをやってる気がするけど……思春期のオトコノコは難しいんだよ。 38 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/18(金) 19 23 57.05 ID vsqImmSg0 そんなこんなで、和に麻雀を教わっては時たま勇気を振り絞って色々遊びに誘ってみる日々が続く。 こないだは一緒にファーストフードを食べたな。ハンバーガーの剥き方が分からない和が可愛かった。 その前はゲーセンに連れてってみた。エトペンのぬいぐるみをクレーンゲームで取ってあげたときの喜びっぷりが可愛かった。 そんなことを繰り返してるうちに――気付けば、俺は。 俺は―― 「もうすぐ私達も進級ですねえ」 ……はっ。そ、そうだな。 遂に俺にも後輩が出来るのかー。どうせなら、男子も団体戦に出られる人数を揃えたいな。 「そうですね。そうなったら、須賀君が大将になるんでしょうか」 どうだろうな。俺が大将なんてお飾りもいいところになりそうだけど。 それでも大将・須賀京太郎って響きには憧れるなー。 「お飾りなんて、そんなことありませんよ。ちゃんと須賀君は成長してます」 成長はしてるんだろうけどなー。 練習の相手が全国区のエースどもだからいまいち成果も出ないし、実感が湧かないなぁ。 でも、だからこそ、次のインターハイ予選は楽しみだよ。 「そうですね。私達も、頑張らないと」 ああ、頑張ろうぜ。 「あ、そういえば、須賀君」 ん、どーかしたか? 「はいこれ、誕生日プレゼントです」 お……おう。ありがとう。 「須賀君ったら、いつもシャツで汗や手を拭いたりしてるから……ちゃんとハンカチ使ってください、ね?」 うん、絶対大切に使う……。 ……うわぁ、やばい、幸せ。和が俺にプレゼントとか……何これこんな幸せあっていいのか? 夢だったりしないよな? 現実なんだよな? 「ふふっ。それでは、二年生になってもよろしくお願いします」 おう、こちらこそな。 そんな喜びと共に決意を新たに、俺が麻雀を知って遂に一年。 俺達は、二年生になった。 45 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/19(土) 19 21 58.66 ID YNUxZxmV0 ――お。咲も和も優希も同じクラスじゃねえか。 こんな偶然あるものなんだな。これから一年よろしくな、三人とも。 「ええ、よろしくお願いします」 「今日はどうせ午前あがりだから、早く部室に行くじぇ!」 「一年生、何人入ってくれるかなぁ?」 どうだろうなあ。俺が久しぶりに雑用根性発揮して学校中に宣伝チラシ貼り付けてきたから、 それなりの人数は来てくれると思うんだけど……あ、染谷先輩。新入部員、来てましたか? 「おう、丁度ええところにおったわ……すまん、今から外せん用が出来てな。一年生の相手を頼めるか?」 「女子は六人、男子は四人。期待以上の人数が来たからの。逃がすなよ?」 まあ、そんなわけで期待に胸を膨らませつつ俺達は部室に向かった――のだが。 「新入部員の皆、おはようさん。部長は用があって学生議会のほうに顔を出してるそうなので、俺が仕切らせてもらうよ」 ……なんで俺が仕切ることになってるんだよ。 いや、分かるけど。咲と優希に仕切りなんて出来るわけないし、和がやるとちょっと堅過ぎて新入りはビビるだろうけどさ。 でも緊張するだろ、そりゃ。 「知ってのとおりウチの女子は去年、団体戦で日本一になりました。しかし男子は俺だけ、女子部員も数が少ない」 「勿論女子部員は連覇を目指していますが、決して君達に厳しい居残り練習や朝練なんかを強要するつもりはありません」 「あくまで麻雀を楽しみ、そのうえで勝利を目指す。それがウチの目標です。あと個人的に男子が四人入ってくれて嬉しいです」 「それでは長話もアレなので、実際に打ってみましょう」 ……はー。緊張した。 よし、男子部員集まってくれ。悪いけど自動卓は一つしかないんで、男子はとりあえず手積みな。 「なんか須賀先輩って威厳ないっつーか、アレっすね」 「現時点で既に尻に敷かれてそうな感じしますね」 「こら、先輩に失礼だろっ。すみません先輩」 あー。いいよいいよ、俺が麻雀部の中で一番弱いのは事実だしね。 まあ入部祝いってことで、俺に勝てたら学食の新メニュー奢ってやるよ。 「うっひょー、先輩太っ腹!」 おうおう敬え敬え。 意地でも負けてやんねーけどな。 46 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/19(土) 19 22 32.22 ID YNUxZxmV0 それポン。――お、ツモだな。ラッキー。 「ぐぬっ・・・…」 「須賀先輩、これで先輩方の中では一番弱いんすか……? リーチ」 まあな。他が化け物すぎるだけとも言えるが。 通らばリーチ。……あ、それロンだ。一発ついたな。 「うえっ! 先輩マジで普通に強いじゃないすか……話が違いますよ」 まあそりゃ、しっかり基礎を覚えてそれに徹すればこれくらいは出来るもんだろ。お前らも和に教えてもらえばいいさ。 ……なんて、軽く言っちまったけどそれはそれでなんか妬けるから嫌だな、なんて考える俺がいて。 「あー、そういえば先輩、俺らが入るまで男子一人だったんすよね? 羨ましいなー」 もうそーゆーからかいには慣れたぜ。 んでもってお前らも薄々感づいてるだろーけど、そーゆー羨ましいイベントは一切なかったよ。 あ、それロンな。 「ぐぬぬ……いやでも、あの四人の中で誰が好きとかはあるんじゃないっすか?」 あるよ。あるけどぜってー言わん。 つか言うわけないだろ。 「おもんねー」 「だから先輩に失礼だろがっ。すみませんほんと……」 いやいや、気にすんなって。 あ、それロンな。 「ぐぬぬ」 47 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/19(土) 19 23 08.88 ID YNUxZxmV0 ……と、まあこんな調子でつい新入部員をいびり倒す嫌な先輩になってしまった(学食の新メニューは奢ってやったけど)。 ちょっとは反省するとして、とりあえず一年生は早めに帰宅させて二・三年生だけで再び練習を再開する。 というのも、今日は部長……じゃなくて、竹井先輩が久々に練習に顔を出してくれるというからだ。 流石に今日来たばかりの一年生をOGと会わせて練習もさせてでは可哀相だしね。 「ひっさしぶり~。聞いてるわよ須賀君、最近和とラブラブなんですって?」 ぶはっ!? どうしてそうなった!? 和も固まってるし、あぁもう何言ってるんですか部長! ……じゃなくて、竹井先輩。お久しぶりです。 俺も少しは麻雀部員らしくなれたかなって思ってるんで、せっかくですし対局しません? 「それもいいけど、まずは新入部員ねー。どうだったの? 期待できそうな子はいる?」 「うむ。流石に名の知れとるのは風越やらに流れたようじゃが……ま、今後に期待ってとこかの」 しばらく女子の談義が続く。 その最中、采配の話には入れない咲が話しかけてきた。 「京ちゃん、男子のほうの一年生はどうだった?」 ん? あーまぁ、中学では無名公立校(大会では一回戦負け)のレギュラーでした程度の奴らばっかりかな。 やる気は十分あるみたいだし、初期値でも成長率でも、俺よりもよっぽど上だと思う。 流石に俺じゃ荷が重いから、和と染谷先輩に指導を頼むつもりだよ。 ま、それはそうとして、今年も女子の活躍には期待してるぞ。 そこまで言ったところで、話を終えた竹井先輩と染谷先輩が顔を出してきた。 「今年こそはお前さんにも頑張ってほしいんじゃがのう? 京太郎よ」 「まあまあ、小難しい話はもういいでしょ。須賀君、対局よ!」 うわっ、この先輩いきなり髪結んでおさげにしてやがる。大人げないですよ……。 でもまあ、勿論。和にあれだけ鍛えてもらって一回戦負けじゃ、申し訳なくて部室に入れませんよ。 今年こそは勝ち抜いてみせます! 「ふふ、期待してますからね、須賀君」 おうよ。そいじゃ今日もよろしくお願いします! 今日こそ一位取ってやるから覚悟しとけよっ。 56 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/20(日) 16 22 41.85 ID OaNq0ZHB0 今日こそ一位取ってやる! からの数十分後。 ……やっぱり皆には勝てなかったよ……。 いやぁ、惜しいところまで行ったと思うんだけどなー。 流石に和と先輩二人相手じゃどうにもならねーな。 「むしろよく飛ばなかったもんだじぇ」 「うん。よく粘ってたと思うよ?」 慰めてくれてありがとな、二人とも。うん。 だーっ、でも悔しいなぁ。結局未だに一回も一位になったことねーもんなぁ。 「うーん。須賀君、南場まで集中力が続いてないみたいね」 うん? そんな優希みたいなことがあるわけ……いや、あるのかも。 集中っていうか、対局終わったとき異様に疲れてる気がするし。 「普通に考えて、ド初心者だった須賀君が和の麻雀を半荘ずっと実行し続けられるわけがないわよね」 ぬう。場全体を確認し続けるのは確かにしんどいとは思ってましたけど。 でも、せっかく教えてもらったのにそれを実行できないってのは悔しいっす。 「んー。そうね、須賀君。何かスイッチになるものはない?」 スイッチィ? どーゆー意味っすか? 「要するに気分を切り替えるための何かしら、ね。私が髪を結ぶこととか」 あー、和のエトペンやら染谷先輩の眼鏡やらみたいなもんですか。 咲の靴下とか優希のタコスもそうなのかな? 「そうそう、そんな感じ。ここぞって時に集中力を一段引き上げるための何かがあることは、決してマイナスにはならないわ」 ふむ……。 あ、和とお揃いのエトペンとかいいな。恥ずかしくてとても口には出せねーけど。 よし、もう半荘お願いします。今度こそ勝ってみせます! ――南二局、親は竹井先輩。 今のところ京ちゃんは染谷先輩とほぼ並んで三位。 ここまではさっきとそんなに変わらないけど……。 「……これ、かな?」 「ロン。裏は……乗らず、3900ですね」 ああ、やっぱり。 言われるまで気付かなかったけど、注意深く見ると東場と比べて集中力が落ちてるのが分かる。 打牌にかける時間が全体的に短くなってるし、今の放銃だって、壁が効いてるから準安牌と言える牌が別にあったもん。 「……ふーっ」 点棒を払った後、京ちゃんは一度伸びをして、その後制服の胸のあたりに触れた。 ……あれが京ちゃんのスイッチ、なんだろうか。 57 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/20(日) 16 23 40.61 ID OaNq0ZHB0 ――制服の内ポケットに、あの時買った和とお揃いのエトペンキーホルダーが入れてある。 ――和。和。和。 ――ありがとう。 ――俺に麻雀を教えてくれて、本当にありがとう。 ――俺は馬鹿だから、それしか言う言葉が見つからないけど。 ――俺も、皆と肩を並べて堂々と麻雀部員を名乗れるようになりたいから。 ――ここで、勝ってみせる……! ――きゅ、と軽く制服の上からキーホルダーを握り締める。 ――集中力がなにかの一線を越えたのが、自分で理解できた。 58 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/20(日) 16 25 28.07 ID OaNq0ZHB0 『……っ』 見て分かるほどに京ちゃんの雰囲気が変わった。 それによってどんな変化が起こるのかは分からないけど……。 とにかく、凄まじく集中していることは伝わってくる。 「すーっ……ふーっ……」 皆の息遣いが聞こえる程静かに、対局は進んでいく。 今のところ京ちゃんに動きはないけど、集中力は東場の時よりも増しているように見える。 「……リーチ」 早い。上達してからも手作りが早いほうではなかった京ちゃんにしては、凄く。 しかもなんだか既視感があるような……。 「……竹井先輩。それロンです」 瞬間。 私は、悪魔のような装束を着て巨大な突撃槍を構えた京ちゃんの姿を見た。 文学少女らしく、それっぽい言葉にするなら……まさに、地獄の番犬。 彼が投げ放った突撃槍は部長の頬を掠め――大地へと突き刺さる。 「リーピン一発三色……裏は乗らず。満貫です」 「……ひゅぅ」 竹井先輩が口笛を吹く。 部室に来たのも久しぶりだから、京ちゃんの上達ぶりに驚いているんだろう。 そしてたぶん、それ以上に、嬉しいんだ。京ちゃんが自分を唸らせるほどの雀士になったことが。 「……続けましょう」 「もっちろん。もう直撃なんて取らせないわよ」 「……流局か。聴牌です」 「同じく、聴牌よ……あーもう、まさか須賀君に完敗しちゃうとはねー」 むしろ久よ、お前さんがやたらと調子を崩しとったように感じたがのう。 京太郎がスイッチ入れてからだいぶ連荘されちょったし、久が一番直撃食らっとったぞ。 「んー、あそこからいつもの悪待ちが全く当たらなくなってねー」 ま、そういうこともあるじゃろ。いつもいつも悪待ちで和了られちゃあたまらんわい。 ……で、京太郎? 大丈夫か、死にかけとるが。 「だっはぁああ――……疲れた……」 一気に強うなったのは事実じゃが、そのザマじゃあ試合では使えそうにないのう。 ま、こっちは要練習と。インターハイまでひたすら場数を踏んでもらうからそのつもりで居れよ。 「……うぃす……」 ……まあ流石に今日のところは休んでいいぞ。ネト麻するなりわしらの対局を見学するなりしときんさい。 和もとりあえず抜けて、咲と優希が入れ。お前さんらは未だに基礎が出来とらんからのう。 「ええっ!? のどちゃんはともかく今明らかに犬と比べても出来てないって意味を感じたじぇ!?」 「どういうことですかっ!?」 ……流石に京太郎が可哀相だとは思わんのか、お前さんらは。 簡単な話じゃ、優希は南場入った途端振り込み過ぎ。現状だと半荘合計すると京太郎に負けとることが多いぞ。 咲は……まあ優希と違って状況に左右されんとはいえ、カンに頼り過ぎじゃ。カンをするために手が遅れとることさえある。 反対に京太郎はここ数ヶ月ほど、基礎一本に絞って練習を積んできとるからのう。和には遠く及ばんとは言え、 今の京太郎はそこらの無名校のレギュラーとは比べものにはならん程度には強いデジタル雀士だと言えるじゃろうな。 たぶん二人とも、ネト麻だと京太郎に負けるぞ。 『ぐぬぬ』 ほれ、練習再開じゃ。 65 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/21(月) 23 08 08.37 ID BfiqD70k0 皆が練習を再開する。 いやぁ、格好良く宣言してはみたが、本当に一位を取れるとは……。 やばい嬉しい。超嬉しい。物凄く脳が疲れてる実感があるけどそれを補って余りある嬉しさだ。 どうしたってにやけちまうぜ。 「ふふっ、頑張りましたね須賀君」 おー。ようやっとスタートラインに立てたような気分だよ。 ものっそいしんどいけど、でもそれ以上に達成感とか充実感とかそういうのが凄い。 「そうですね。その場限りの運ではなく、自分の知恵を絞って得た勝利にはそれだけの価値がありますから」 うん、今ならよく分かるよそれ。 ……ぃよっし、休憩終わりっ! ネト麻やるかー。 「じゃあ、私はそれを見ていましょう」 お、頼むぜ和先生! よーし和が後ろで見てるとなったら情けない対局は出来ないなー。 もういっちょ頑張ってみるか。 ……ふー、なんとか一位か。でも流石に調子が上がんねーな。 もうしばらく休憩していようかな……。 「そうですね。まあ、今後はさっきの打ち筋をいつでも実現できるように頑張ってくださいね」 うぃっす。結局集中力の問題なのかなぁ。 流石に集中するだけでここまで疲労困憊するとは思えないんだけど……。 だからといって俺がオカルトとかそんな摩訶不思議を持ってるとは思えないし。 うーん。 66 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/21(月) 23 08 45.71 ID BfiqD70k0 うーん。 「どうしたんじゃ、久よ」 いやね、さっきの須賀君。 凄かったのは凄かったんだけど、なーんか違和感があってねー。 「……ほう。何がじゃ?」 いや、須賀君が集中モード入ってから、私だけダダ崩れだったじゃない? あれだけ須賀君の打ち筋が急変したのに、三人のうち私だけが崩れるってなんでだろうなー、と。 「そりゃ、あんたの戦法が悪待ちで相手に依存しとるからじゃろ。わしも和も、結局は自分がいい手を打つってだけじゃし」 あー、そうかもねー。確かに一回目の対局では須賀君、私に振り込みまくってたし。 だとすると、大明槓からの嶺上とかやらかしちゃう咲も、須賀君とは相性悪かったりするのかしら? 「どうじゃろな。暗槓からでも嶺上はできるけえ、久ほどは影響が出んと思うぞ」 なんか納得がいかないわ。でもこれは私達の予想にすぎないし……。 よし、これは一度打って試すしかないわね! 須賀君、もう一回打つ気なーい? 「……あんた、実は打ちたいだけじゃろ?」 「マジっすか……まあ、東風戦くらいなら」 「東風戦なら私の出番だじぇ!」 あと、須賀君の能力を確かめたいから咲も入って頂戴。 これで面子は私・咲・優希・須賀君ね。東風戦だから順当に行けば須賀君はラスか、いいとこ三位ってとこだろうけど。 もし、私の読みが正しければ―― ……おかしい。 嶺上牌が……カン材が、見えない……!? いや、見えないわけじゃないけど……霞んでて、とても判別出来ない……! 「うー……おかしいじぇ、東場なのに……」 優希ちゃんもなんだか様子がおかしいし。 一体どうなってるの、もう……! 「――ツモだ。2000オールは2200オール」 うぅ、また京ちゃんに和了られちゃった。 おかしいよ、京ちゃんが上手くなってからもここまで極端に京ちゃんの一人浮きはなかったし、 まともにカンが出来ないなんてこともなかったのに。 染谷先輩の言ってた通り、カンに頼らない打ち方もちゃんと出来なきゃ駄目なのかも……。 「咲、それロンだ。3900は4800」 はうっ……うぅ、今回は散々だよ。 67 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/21(月) 23 09 38.76 ID BfiqD70k0 だぁぁああああぁぁぁぁああぁぁぁぁ-。 もう駄目。頭働かねえ。うぇっぷヤバい気分悪っ、死にそう……。 「……須賀君、大丈夫ですか?」 無理。アレだ、こりゃ用法容量を守ってご使用ください的なアレだな。マジでしんどい。 ごめん、ちょっと休む……ベッド使わせてもらうぞ……。 「うっはぁ、まさかここまでとはね」 先程の対局の結果は須賀君が5万点近くを稼いで断トツの一位。 竹井先輩は比較的粘ったもののいつもの悪待ちは見せず、咲さんとゆーきはなんと焼き鳥。 ……二人とも、オカルトじみたことばかり言っているからこうなるんですっ。 でも竹井先輩の言うように、まさか須賀君がここまで成長しているとは思いませんでした。 「でもこれではっきりしたわね、須賀君の能力……いや、いっそのこと、オカルトって言ってもいいかしら」 ……だーかーらー。 オカルトなんてありえません。 せっかく須賀君は真面目に麻雀をしているんですから、変なことを吹き込まないでくださいよ? ここまで基礎をみっちり教えて来て、最近やっと私も納得できる打ち筋を見せてくれるようになってきたのに……。 「ふむふむ、つまり和は須賀君を自分色に染め上げたいと」 なっ、ななななっ、何をっ、何を言ってるんですかもうっ! や、やめてください! 真面目な話をしてるんですよ! 「安心なさい、和。須賀君の能力は恐らく――」 68 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/21(月) 23 10 04.78 ID BfiqD70k0 「――オカルト能力の遮断よ」 80 ◆NZD.UFKqaQTc saga 2013年01月22日 (火) 23 02 31 ID urwxM6xa0 オカルト能力の、遮断? ……この際オカルトなんて無いとかそういう話は抜きにするにしても、どういうことですか? 「そのままの意味よ。須賀君が集中状態に入ったとき、咲は嶺上開花どころかカンすらまともにできていなかった」 「優希も、東風戦にも関わらず焼き鳥。デジタル打ちの和や自分の記憶を当てにしてるまこに影響が出てないのもそれを裏付けるわね」 ……はぁ。オカルトは認めがたいですが……。 ま、まあそういうことなら須賀君自身の打ち筋がオカルトどうこうで乱れることはないし、気にしなくて大丈夫そうですね。 「そーゆーことね。そういえば、和の集中モードはのどっちだから……須賀君の集中モードは京ちゃんになるのかしら?」 ……竹井先輩、それこそどうでもいいです。 「京ちゃんモードかぁ。集中してるときはびっくりするくらい冷静になってるのに名前は可愛いんだね」 咲さんも! 「のどちゃんとお揃いとは、京太郎のくせに生意気だじぇ」 ゆーきまでー!! 「和が発熱してるみたいに真っ赤になるのとは逆で京太郎は凄まじく冷静になるがの」 うう、染谷先輩まで……。 もういいです、須賀君なんて知らないです。 練習しましょう、練習! 「それもそうじゃな。よし、現役組、卓につけー」 81 ◆NZD.UFKqaQTc saga 2013年01月22日 (火) 23 03 08 ID urwxM6xa0 ……ふ、ぁああぁぁ……。 ん、頭楽になった……。 あー、でもマジでしんどい。こりゃ実戦で使うにはまだまだ時間がかかりそうだな。 打ってる間は頭冴えるどころの話じゃないから、すっげえ気分いいんだけど。 自分が自分じゃなくなるというかなんというか……自分でも怖いくらい、冷静に打ち回せる。 ほんの半年前までは何も出来なかった、俺ごときが。 どうしてもテンション上がっちまうし、咲や優希を相手に俺が完全に勝ったなんて今でも信じられない。 これなら。これなら、もしかしたら、俺だってインターハイで活躍できるんじゃないか。 皆と一緒に、俺も晴れ舞台に立てるんじゃないか。皆にも褒めてもらえるんじゃないか。 もう皆の足を引っ張ることなんて無いんじゃないか――そんな、期待をしてしまう。 「あ、須賀君。目が覚めました?」 ん、和か。うん、ばっちりだよ。部活もそろそろ終わりか? ――その期待を実現させるために、明日からも頑張ろう。 そう思いながら俺は和の声に応え、皆に合流するのであった。 82 ◆NZD.UFKqaQTc saga 2013年01月22日 (火) 23 03 57 ID urwxM6xa0 「……お、もうこんな時間か。そろそろ帰らんとな」 ん? 本当だ、もうすぐ下校時間じゃねえか。 せっかく竹井先輩もいるんだから、今日も皆で帰りましょうか。 「ああ、須賀君。ちょっと話があるわ」 竹井先輩? どうかしましたか? 「ええ、あなたの打ち筋の話」 はあ。 まあ自分でもよく分かってないんで、色々話は聞きたいですけど。 「ええ、単刀直入に言うわよ――」 はぁ……オカルト能力の遮断、ねえ。 実感が湧かないっつーかよく分からんっつーか、そもそもオカルト能力ってなんなの、って話なんですが。 皆と違って俺はそういう能力持った奴との対局経験が多いわけでもないし……。 「咲のカンを完全に封殺したんだから、相手の打ち筋を妨害するような能力なのは確定でしょ」 あー、まあ確かにそりゃそうなんですけど……。 正直そんなオカルト信じられませんって感じですね。 「SOAならぬSOSだじぇ」 「ゆーき……もうっ」 でもまあ、それなら俺がヘンに打ち筋を変えたりする必要はない……ってことですよね? 咲の槓とか優希の東場とかそういう特別な打ち方が掻き消せるんなら、後には普通の麻雀しか残らないですし。 「いーや、むしろ逆なのよね。そういうオカルトな打ち手は、須賀君が集中モードに入るだけで調子を崩すでしょうけど」 「……和のような格上のデジタル雀士に対して、今の須賀君は無力。それが唯一にして、致命的な弱点よ」 ……確かに、それは否定できない。 今日は和も抑えて一位を取れたけど、それは竹井先輩への満貫直撃が大きかったし。 「つまり、デジタル雀士を相手にしたときに須賀君の武器になる『+α』を見つけること……それが今後の課題ね」 α、ねえ。 全く、デジタルな打ち方を覚えるだけでも頭が痛くなるってのに……どう考えてもそれを見つけるのはしんどいって分かるのに…… あー、なんでこんなに楽しみなんでしょうねえ。分かります? そう聞くと、竹井先輩は満面の笑みを浮かべながらこう答えてくれた。 「そりゃもう、須賀君が雀士として一人前になった証拠よ」 93 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/23(水) 20 35 09.63 ID slXTqmiv0 「さて一年生、集合。悪いけど、一年生には買い出しなんかの雑用もやってもらうことになる。勿論全投げするつもりはないけどな」 一年生の正式入部からしばらく経った。 技術的な指導は私と染谷先輩が、そして雑用の面での指示は須賀君に一任されている。 まあ、去年は夏までずっと一人で雑用をこなしていたのだから、その引継ぎが彼にしか出来ないのは仕方のない事でしょう。 ……手際も良くて、ちょっと格好いいな……なんて、思ったりして。 ……はっ!? な、何を考えているんですか私! 練習です、練習! 下級生に雑用をさせておいて上級生がこの様では……! 「咲ちゃん咲ちゃん、のどちゃんが見てて面白いじぇ」 「うん、そうだね」 「よっし。買い出しはお得意さんとか安いとことかも教えたいから、今日はとりあえず男子と女子一人ずつ、俺についてきてくれ」 「了解っす京太郎さん」 「わかりました、須賀先輩」 「そいじゃ行ってくる。染谷先輩、和、後よろしくなー」 あ、はい。わかりました。 では染谷先輩、こちらも練習を始めましょうか。 ……咲さんもゆーきも、ブーたれてないで。二人が仕切るのに向いてないのは事実でしょう? 「先輩がたは皆仲がいいんですね」 「見てて飽きないっす」 「こら、先輩に失礼だろ!」 ……ああもう、恥ずかしい。 先輩やるのも楽じゃないんですね。 94 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/23(水) 20 36 08.93 ID slXTqmiv0 「そういえば一年前って、男子の部員は須賀先輩しかいなかったんですよね」 「やっぱり、この中の誰かは京太郎さんのこと好きだったりするんすか?」 対局後、おかしかった点の指摘や指導を一通り終え休憩していると、後輩たちが声をかけてきた。 ……やっぱり、そういうのって気になるものなんでしょうか。 「私はほら、幼馴染だから今更そういうのは無いかなー」 咲さんも、律儀に答えなくても……。 「そ、そりゃ私は――って、あれ、答えなくていい感じだじぇ?」 いや、それはそうでしょう。 実際のところがどうであるにせよプライベートのことですし。 「ははっ、そんなに秘密主義だとかえって怪しいぞ、和」 そっ、染谷先輩!? 何言ってるんですか、もう……。 ほらそこ、咲さんもゆーきもニヤニヤしない! 一年生も! 「だって、須賀先輩に麻雀教えたのって原村先輩なんですよね?」 「そりゃフラグ的な何かを期待しますって!」 全くもう……彼が真剣に麻雀を上手くなりたがっているからこちらも真剣に教えているだけで、 彼はあくまで部活仲間でクラスメイト、恋愛的な意味での感情は持ってません! これでいいですか? 「顔真っ赤にしてそれを言われても説得力がないのう」 「……いやー、京太郎さん。入り辛いですね」 あははは……いやぁ、全然事実だし期待してたわけでもないけど、改めて聞くと凹むなあこれ。 ま、買ってきたものまとめなきゃいけないし、勿論練習だってしなきゃいけないからとっとと入ろうぜ。 (……須賀先輩、今の言い方だと原村先輩のこと好きって言ってるようなものだけどいいのかな……?) 買い出し終わりましたー。 後輩ズは今日買い出しに行った二人から、どの店で何を買えばいいか聞いておくようにー。 んでもって男子集合! とりあえず俺が打ちたいから卓に入ってくれー。 「あ、自動卓使っていいですよ須賀君。こっちはしばらく牌譜見たりしてるので」 了解。+αがどうこうもあるけど、兎にも角にも俺は集中モードを長時間使えるようにならなきゃいけないからな。 ……本気で行かせてもらうぜ、後輩ども。 「うわっ、京太郎さん大人げねえ!」 「勘弁してくださいよ、こっちの練習にならないじゃないですか!」 安心しろ、なるなる。集中モードの俺は基本的に最善手を打ってるはずだから、 オリるべきところでオリ、押すところで判断を間違えなければそうそう振り込むことはないはずだからな。勝ち目は十分あるさ。 知識面は和と染谷先輩にお願いするとして、お前らはとりあえず俺を相手に実戦経験を積んでもらうぜ。 「ぐぬぬ」 95 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/23(水) 20 36 40.41 ID slXTqmiv0 ――ツモ。裏乗って満貫。 ――ロン。4800は5100。 ――ロン。3900は4500。 ――ツモ。2600オールは2900オール。 ――ロン。11600は12800。 ……だああぁぁぁぁあああああー……終わりか。ありがとうございましたー。 「京太郎さんマジで大人げねえ!」 「イジメだ! これはれっきとしたイジメだ!」 「ツモはどうしようもないし、お前らは結構振り込まなくていいところで振り込んでるだろ」 「ファッキュー真面目君。何気にお前一度も振り込んでないじゃねえか」 こいつは俺の言った通り、きっちりオリてたからな。うん、上出来だぞ。 ……それに俺のほうも、打った後の疲労感はこの前よりマシになってる気がするな。 よし、もう半荘打つか。 「うわっ、京太郎さんいい笑顔!」 「むしろゲス顔!」 ……お前ら、飛ばす。 ――ツモ、1600、3200。 「うわーっ!」 須賀君、絶好調でしたね。 ……代償にというかなんというか、また死にそうになってますけど。 大丈夫ですか? 「おう、和……いやまあ全然大丈夫ではないんだけど、だいぶ長く続けられるようになったぞ」 そうですね。これなら個人戦でも十分戦えるんじゃないでしょうか。 あとは男子の一年生ですけど……流石にインターハイまでに皆が皆強くなる、というのは難しいでしょうね。 「だなー。俺としては出たいけど、団体戦には出ないのも一つの手かもしれない」 去年の須賀君みたいに、自信を失うだけで終わってしまうかもしれませんからね。 難しい事ですが……あ、そうだ。須賀君は聞いてます? 今年も合宿やるらしいですよ。 「お、やるのかー。今年はデカい部屋に一人なんて孤独を味わわずに済むと思うと感慨深いなぁ」 「……ま、男子団体に出るかどうかは合宿での成果次第ってのが妥当なところなのかな?」 それがいいんじゃないでしょうか。 男子の主将は須賀君なんですから、頑張って皆を引っ張ってあげてくださいね。 「うげ、やっぱそうなるか……そうなるよなぁ。頑張るよ、うん」 103 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/24(木) 22 40 15.90 ID +jcl6oAx0 「今日から二泊三日の麻雀合宿じゃ。皆、インハイ予選に向けてここでみっちり鍛えていきんさい」 染谷先輩が手短に話を済ませ、俺達は早速練習に入る。 後輩たちには負担をかけることになるが、俺はやっぱり団体戦に出たい。 去年の咲達とはまるで訳が違う……俺は竹井先輩みたいにあいつらを率いることは出来ない。 あいつらも、咲や優希みたいなオカルト的な超能力は持ってないごく普通の打ち手でしかない。 条件は限りなく悪いけれど、それでも―― 「大会出ないとか、そりゃないっすよ京太郎さん!」 「俺達、足引っ張らないように頑張りますから!」 ――こうして、愛すべき後輩どもはついてきてくれるから。 まあ、俺達は俺たちなりに精いっぱい、全力で頑張ってみようと思う。 ぃよっし、頑張るぞ! 麻雀部男子、ファイトーッ!! 「……えっ、そういうノリっすか」 そこはノれよッ!! ノってくれよぉ!! とりあえずノリの悪い後輩どもを京ちゃんモード(命名:竹井先輩。咲の強い推しにより採用)で蹴散らし、 次に後輩同士が打つのを見て回る。四人が四人、それぞれ特徴はあるもののオカルト的な能力はないあくまでごく普通の高校生雀士。 けれど、俺がオーダーを決めるんだから四人の特徴はちゃんと把握しておかないとな。 「……リーチ!」 真面目なこいつは、多分四人の中では一番上手いだろう。責任感も相当強い。 けれど、他三人に比べると若干気負い過ぎなところがあるのが少し不安だ。 出来れば先鋒や大将には置きたくないな。 「流局か……聴牌です」 こいつは地味ながらも安定した実力を持っていて、振り込みの数が他三人に比べて少ないのが長所。 逆に言うと打ち筋が消極的なところがあり、あまり点数を稼げるタイプではないのが短所といえば短所。 ……まあ、強いて言うなら大将は避けたほうがいいかな。 「うげっ、ノーテン……」 「俺もだー。二鳴きでノーテンは辛いわー」 双子のお調子者は、兄が面前型で弟が鳴き型。二人とも調子がいい時はとことんいいのだが、 調子が悪い時はとことん駄目で、しかも一度振り込んだりすると大崩れしてしまうことが多い。 ……この二人は、先鋒に置くには心もとないか。となると―― 104 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/24(木) 22 40 47.44 ID +jcl6oAx0 「っつーわけで、ちょっと気が早いっすけど団体戦のオーダー決めました。出来れば練習試合とか組んでほしいっす」 お、京太郎。気合入っとるのう……どれどれ。 ふんふん、まあ無難というかなんというか、問題があるようには思わんが。 強いて言うなら、どうしてお前さんが先鋒なんか、かの? 「そこは消去法っすね。あいつらにいきなり先鋒やらすのは酷かなぁと」 まあ、今のお前さんならどこに置いても問題はないじゃろうな。 和もそうじゃがデジタル打ちが大崩れすることはそうそうないし、後輩にリードで渡してやるほうが良かろうて。 「そういうことっす」 そういえば京太郎よ、久の言っとった+αはどうにかなりそうか? 力になれんのは残念じゃが、こればっかりはお前さん自身が見つけるしかないからのう。 「いやぁ、それがまだ全然……そもそもデジタル打ちを実践するので精一杯で」 ……ま、一朝一夕で武器を身につけられても困るからのう。 応援はいくらでもしちゃるけえ、地道に頑張りんさい。 「うぃっす、そいじゃ打ってきますね。……さーて後輩どもー。もう一回俺と打つかー」 「うわぁ、魔王が来た!」 「大松「魔王は咲だろ」」 「ファッキューマッツ」 「ちょっと京ちゃん、それどういう――」 ……なんちゅうか、ウチも騒がしくなったもんじゃのう。 ま、勿論……悪い気はせんけどな。 さて。俺にとっての最善の打ち方って、結局なんなんだろう。 去年の夏までは軽くハギヨシさんからレクチャーを受けてたくらいでほとんど我流。今の俺にとってはまるでアテにはならない。 秋からこっち、今もずっと和にレクチャーを受けてるのがデジタル打ち。おかげで実力はついたが、それでは足りない。 今年の春。竹井先輩のアドバイスでオカルトっぽい能力に目覚めたはいいけど。 流石に、『格上のデジタル雀士』じゃあ弱点の範囲として広すぎる。 俺より上手いデジタル派の雀士なんてごまんといるだろうからな。 「んー……ポンで」 「うげ、そんなとこ鳴くのかよ」 ……鳴き、か。 案外、着眼点としてはいいのかもしれない。 相手のツモ順をズラしたり、妨害というかなんというか、そういう打ち方。確か龍門渕にそんな人がいた気がする。 例えば和は俺より上手いけど、それでも一切ツモらずに勝つのは無理だもんな。 一度試してみるか。相手……特に上家、対面の妨害を考えよう。 チーならともかくポンなら符も付く。無論デジタル的に有り得ない手は打たないよう気を付けて……。 ……っし、それポン。さてどう出るか……。 「須賀先輩、それロンです」 ……ぐぬぬ、難しいな。 鳴くってことは当然手牌の選択肢が少なくなるわけで……。 ま、一回打っただけで上手く行くわけがないよな。気長に行くか。 幸いにも、時間はたっぷりあるんだ。数打ちゃ当たるじゃないけれど、みっちり数をこなすしかない。 ……よし、それポンだ! 128 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/26(土) 21 09 52.39 ID gGd+khcM0 とまあ、そんな調子で初日の練習は終了。 鳴きメインの打ち回しはまだまだ要練習だが、方向性としては間違っていない……と思いたい。 ひとまず麻雀のことは忘れて、後輩どもと一緒に温泉へ向かう。練習は勿論、身体を休めることも大事なのである。 京ちゃんモードとかいうクッソ燃費悪い打ち方をする俺にとっては、尚更のこと。 「京太郎さん、結局部の4人の中で誰が好きなんすか-」 しつけぇなおい、そんなに知りたいかよ。 なんかもう呆れを通り越して感心するぞ。 「いやぁ、いつの時代もコイバナからのエロい話は鉄板かなぁと」 「だから! お前らはいつも先輩に対して礼がなってないぞ!」 「いや、わりと真面目な話。見ててバレバレなのに、なんで告白もしねーのかなぁと」 ……バレバレ? はっは、俺に話させたいからってカマかけようったってそうはいかないぞ。 1年間皆にも隠し通してきたんだ、まだ会って3ヶ月も経ってないお前らに看過されててたまるか。 「多分それ、先輩がたにもバレてるんじゃないですかね?」 「気付いてないとしたらそれこそ本人だけっすよ。気付かれてたら何かアクションあるでしょーし」 い、いいいいいやそれはあくまでお前らの予想だろ。 きき気付かれてるわけないじゃないか、そんな、なあ? 「なあじゃねーっすよ。なんなら今から女湯に聞こえる音量で京太郎さんの好きな人の名前を叫んでもいいわけですが」 や、やれるもんならやってみ……おい、マジでやろうとする奴があるか。 息思いっきり吸ってんじゃねえよ、ガチじゃねえかおい、馬鹿、やめろ! やめろください! 「じゃあとっとと吐けください。きっかけとか馴れ初めとかそーゆーやつを」 「全くお前らは……でも、俺も興味はありますねー」 ぐぬぬ。遂に真面目君まで裏切りやがった。 いやまぁ、隠すようなことでもないんだけどさ……。 そうだな。ま、出血大サービスだ。明日の練習では覚悟しとけよ。 「うげっ、地雷踏んだ!」 ははっ、もう遅い。 129 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/26(土) 21 10 34.74 ID gGd+khcM0 ……うん。一目惚れだった。 入学式の後探検か何かのつもりで校内をうろついてて、いつの間にか旧校舎まで来ててさ。 そしたら、見つけちまったんだよ。麻雀部の扉を開けて、中に入っていくあいつを。 でもそれを追っかける度胸なんてなくて、探検なんてその場でやめて全速力で家に帰って、 真っ先に携帯に無料の麻雀アプリをダウンロードしたよ。麻雀部に入る動機が欲しかったんだろうな。 「うはー……京太郎さん、熱いっすねー」 はっはっは、こんな不純な動機で麻雀始めた奴もそうそういないだろーなぁ。 でも実際始めてみたらこれがまた楽しくて楽しくて、全然勝てないくせにいつまでも携帯とにらめっこして、 次の日寝坊しそうになってさ。必死で眠気と戦って、放課後すぐに麻雀部に走った。 そんなザマだから役すらまともに覚えてなくてな……ほんと、よく麻雀部入ったもんだよ。 実は去年の夏くらいまで、カンしたら好きな牌をツモってくると思ってたくらいだ。 「あー、宮永先輩の影響ですか」 そうそう、マジであいつ反則だよな。あんなもん止めようがねーっつの。 今では京ちゃんモードで完封だけど、それ以外じゃどうしようもねーからなぁ。 ……ま、それはいいとして。そんな程度の気持ちで始めたもんだから全然上達もしねーし、 雑用ばっかりやってるもんだからクラスの奴にも馬鹿にされたりして、そのせいで皆に迷惑かけたりして、 おかげでちょっと嫌になりかけてた時に麻雀教えてもらえることになって。 教えてくれるお礼だとか言ってデートに誘ってみたりして。 ……あー、もう。話せばキリがねーや。 好きなもんは好きだ、じゃ駄目なのか? 「いや、いいですけど。結局それが誰なのかには言及してないですよね」 うわあゲス顔。 お前ら予想はついてんだろ? だったらもういいだろ……あー、もう、分かった、分かったって。 俺が好きなのは―― 130 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/26(土) 21 11 19.58 ID gGd+khcM0 「ねーねー、先輩がたの恋愛事情ってどーなってるんですかー?」 「やっぱ全国優勝とかしちゃったらモテるんじゃないですか?」 「ははっ、少なくともわしにはそんな機会はなかったのう」 「私もだよー」 今時の高校生は、隙あらば恋愛の話をするものなのでしょうか……まあ、皆楽しそうなのでいいですけど。 ええ、私に話が向いてこないならいくらでもしていただいて結構なんですけれど。 「原村先輩はどうなんですか? いつも須賀先輩と一緒にいますけど」 「麻雀教えてるだけっていうけど、その割にいつも一緒にいる気がするじぇ」 ……この前も言ったでしょう。須賀君にはただ麻雀を教えているだけだし、 放課後彼と行動することが多いのは彼がそのお礼に何か奢らせてくれ、と言うからです。 流石にそれを断るのは憚られますし、断る理由もありませんので。 「ここまで来ると潔いというかなんというか……本当に何もないんですかぁ?」 ないですって。 そりゃあ、去年は雑用ばかりさせてしまって申し訳なかったなあとは思っていますが、だからこそ麻雀を教えているわけですし。 お礼と言って色々連れ回されるのも、まあ、楽しいですけれど……父には小言を言われてしまいますし。 でも、まあ……真剣に頑張っている彼には素直に好感が持てますし、いい友人、だとは思います。 「……堅い。堅過ぎるじぇのどちゃん……」 「あはは……和ちゃんらしいと言えばらしいんだけどね」 ふふ。でもまあ、さっきも言いましたが頑張って強くなろうとしているのはいいことだと思いますし、 真剣に打っているときの彼はとても格好いいと思いますよ。 「おぉー、のどちゃんがデレた」 「でも、集中してる時の須賀先輩って本当に格好いいよねー」 「あ、それわかる。普段の軽い感じがなくなって、イケメン度三割増しって感じだよね」 ……む。 ……むう。 「そういえば原村先輩。ある人のことを好きなのかどうか判断する方法、教えてあげましょーか」 「え、何それ気になるー」 別にいいです。……ああ、分かりました。聞きます、聞きますから。 皆してそんな顔しないでください、もう。 「ふっふーん、そう来なくっちゃ! あのですね、原村先輩!」 「……気になる男の人の、下の名前。本人の前でも何でもいいですけど口に出してみるんです」 「そうすれば、ちゃーんと自分の気持ちが分かる。人間ってそーゆー風に出来てるんですって。こないだ雑誌で見ました!」 ……はぁ。要領を得ないというかなんというか……。 ああ、分かりました分かりました。参考にさせてもらいます。 私がそう言うと、みんな満足げにそれぞれ談笑を再開した。 現金というかなんというか、遊ばれた気がします。 ……名前で呼ぶ、か。せっかくだから試してみましょうか。 幸いもうみんな私のことは気にしていない風ですし、気付かれることもないでしょう。 ……いえ、気になるとかではなく、せっかく教えてもらったのだから一度くらい試すのが礼儀というかなんというか、 ああもうっ、とにかく、万が一にもみんなが気付くことのないよう、ごくごく小さな声で―― 131 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/26(土) 21 11 54.26 ID gGd+khcM0 ――原村和、さ。 ――京太郎、君……。 148 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/27(日) 21 51 34.21 ID mhwcopYz0 そんなこんなで合宿中後輩をボコりつつ鳴きメインの打ち筋というものを研究してみたが、これがまた難しい。 和がわりと面前派であることもあるけど、今の俺にはまるで鳴きのノウハウというものがないからな。 勿論最低限、役牌や鳴いて聴牌取れる牌で鳴くことはするけど……逆に言えばそれだけだ。 龍門渕の井上さんあたりの牌譜を参考にネト麻でも部活でも数をこなしてはみるが、 付け焼刃の鳴きで手を短くしてしまい、普段なら相手にならない後輩にまで振り込む始末。 本当に、難しい。 「調子はどうですか、須賀君」 お、和かー。あまりいいとは言えねえなぁ。 勿論普通にやってれば普通の結果が出るんだけど、+αとか考え出すとてんで駄目だ。 正直、インハイ予選に間に合うかと言われると相当厳しいと思う。 「まあ、現時点でも須賀君を上回るデジタル雀士はそうそういるものではないと思いますが……」 そうかな? だとしても、上に行くためには必要なことだからな。二度とあんな思いはごめんだ。 麻雀部の男子部員が女子の足を引っ張るようなことが、二度とあっちゃいけねえ。 そうじゃない、男子だって立派な麻雀部員なんだと、そう示すためには――勝つしかないんだから。 「……私が言っていいことなのかどうか分かりませんが、須賀君。あまり思い詰め過ぎないでくださいね?」 ……あ、あぁ、そうだな。 俺がいらいらしてちゃ後輩だって萎縮しちまうよな。 先輩は辛いぜ。 「それもですが、咲さんもゆーきも須賀君が無茶をすれば絶対に心配しますよ」 あー、それもそうだなー。 咲はこうして友達もいっぱい出来たのに未だに危なっかしいというかなんというか見てられない感じだし、 優希の奴だって、自分で言うのもなんだけど俺はもう立派に麻雀部の戦力なのにタコス作らせるのやめないし……。 「……そういう意味ではないんですが。勿論私だって心配です」 ……ん、ありがとな。 でも頑張らねーとなぁ……。 ま、体調崩さない程度に気張ってみるさ。 「是非とも、そうしてください」 そうは言ったものの、どうしても俺は鳴きメインの打ち方をマスターできず……正確に言えば、 鳴きを使った『何か』を自分の売りだと言えるレベル、つまり固有の打ち筋にまで昇華することは出来ないまま…… インハイ予選の日を迎えてしまった。 149 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/27(日) 21 52 18.35 ID mhwcopYz0 早朝。日が昇るより早くに眼が覚めてしまったため、とりあえずシャワーを浴びることにする。 熱めの湯で寝惚けた身体を無理矢理叩き起こす。身体を拭いて、整髪料を持って鏡の前へ。 知らない内にすっかり伸びていた髪を後ろへかき上げ、前髪は軽く横に払う。最後に制服に着替えて身支度終わり。 流石に母さんもまだ起きていないようなので適当にあるものを口の中へ放り込み、俺は早々と家を出ることにした。 集合場所に着いたが、まだ誰もいない。仕方なく携帯の麻雀アプリを起動して時間を潰していると、 10分ほど経って俺がトップ終了を決めたところで人影が現れた。 「あら、須賀君。おはようございます……早いんですね」 ……おはよう、和。 いやなに、目が覚めちまってな。 「どうですか、自信のほどは」 正直、ヤバい。動悸が激しいどころの話じゃねえんだけど。 とりあえず最初の相手は皆先鋒にオカルト打ちのエースを揃えて来てるっぽいから、 なんとか俺が稼ぎきらないといけないなってところかな。 ……まあ、それだけ考えれば楽な話っちゃあ楽な話なんだけどね。 「オカルト……むう」 ま、俺がしっかり稼いで後輩どもに繋いでやるだけのことさ。 日程では確か男子のほうが先なんだっけ? 「そうですね。皆で応援しますよ」 ありがてえ。 「京太郎さーん、おはざーす」 「早いですね、須賀先輩」 お、話をすれば何とやらだ。 お前ら調子はどうだ。緊張して打てないとか言わねえだろうな? 「ぜ、ぜぜ全然大丈夫っすよ」 「……正直、ヤバいです……」 ま、俺がなんとか稼いでくるから安心しろ。 先輩が格好いいところ見せてやるからな。 156 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/28(月) 20 09 42.14 ID UdNBlfFW0 さて、出陣だ。 後輩や染谷先輩がぞろぞろと集まる中堂々と遅刻寸前で駆け込んできた咲と優希に呆れつつ、俺達は会場へ向かった。 今日は団体戦の1、2回戦……勿論、1回戦を勝てなければ今日はそこで終わりだけれど。 「男子団体の一回戦。本日は解説として藤田プロにお越しいただいております」 「まあ、よろしく頼む」 「さて、清澄男子は初出場ということですが、今大会のダークホースとなるでしょうか!」 「有り得ないことはないだろうけど……やはり女子よりも競技人口が多く、地力の高い選手が多い男子戦。勝ち抜くのは難しいだろうな」 おうおう、言ってくれやがる。さて後輩ども、俺達の強さを見せてやろうぜ! 五人で円陣を組み声を張り上げ、俺は控室を出た。 ここに来るのは一年振りだ。あの時の、何も出来ずに蹂躙されるしかなかった俺とは違う。 十分な練習を積み、十分な力を得てきた――しかし、それでも恐怖は消し切れない。 けれど、咲たちや後輩どもの期待に応えなきゃいけないからな。 軽く頬をはたいて、俺は席に着いた。 『よろしくお願いします』 ネットやら公式戦の牌譜やらのあらゆる手段で調べ上げたが、先鋒で俺と当たる3人は揃いも揃ってオカルト打ち。 ……ぶっちゃけた話、今の俺にとってはカモだ。 篠ノ井西の先鋒は――三色手を揃える能力。順子・刻子は問わない。 北天神の先鋒は――オタ風を鳴くことで、その後三局の間、役牌・自風牌を呼び寄せる能力。 寿台の先鋒は――配牌時点で最も少ない種類の牌を集める能力。 皆格好いいというかなんというか、便利な能力を持っててホント尊敬するけど。 俺はそういう都合のいい能力なんて持ってないからさ―― 「ま、せっかくだし……『平等に』楽しもうぜ」 「……?」 俺の発言に首を傾げる対戦相手を尻目に、制服の内ポケットにしまってあるエトペンを握り締める。 ……さあ、勝負だ。 157 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/28(月) 20 10 29.66 ID UdNBlfFW0 (お、おかしい……こんなことがあるもんか! 普段なら最低でも面子一つに搭子二つくらいは配牌で揃ってるんだぞ) (……西、北と鳴いても全く来ない、か……こりゃ清澄が何かしてるのかね) (篠ノ井西と北天神の様子がおかしいが……問題はそっちじゃない!) (清澄の須賀……速い! そしてあまりに正確……これじゃ止めようがない!) 前半戦の東一局。相手の三校は京ちゃんモードによるオカルト封じを前に完全に身動きを封じられる。 それを尻目に京太郎は面前で悠々と手を進めるが、精彩を欠いた三校とも、スピードで京太郎に敵わない。 結果……京太郎はあっさりと多面張の手を作り、和了ってみせた。 「――ツモ……満貫で2000・4000」 「そ、それチーだ!」 (……こりゃオリだな) (クソッ、しっかり安牌抱えてやがるのかよ……! 清澄に当てたいのに!) それに対抗して鳴きで強引に手を進め聴牌しても、完璧なオリで逃げられてしまい誰も京太郎を捉えられない。 風牌を抱えたがる北天神から篠ノ井西がなんとか作り上げた安手で和了ったものの、打点は微々たるもの。 そしてこの和了りによって親が回り……遂に京太郎の親番となった。 (さあ……稼ぐぞ) 「……ロン。5800」 「ツモ。3900オールは4000オール」 「……ツモ。2600オールは2800オール」 正に圧倒。しかしこれはあくまでオカルト封じにより他校が調子を崩しているからであり、 相手が冷静さを取り戻して普通の打ち回しをして来ればここまでの快進撃は不可能。 つまり、相手が普段の打ち方を捨てる覚悟を決めるまで――それが京太郎にとっての残り時間。 (頼むからオカルト捨てて普通に打つとかやめてくれよ……自慢のオカルトを信じていてくれよ?) 「……ロン。4800は5700」 158 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/28(月) 20 11 25.05 ID UdNBlfFW0 (まずい、とにかく流さないと……!) 清澄を除いた三校は、遂に無言のまま協力体制に入ろうとしていた。 勿論、京太郎を止めるためだ。 自分たちの力が機能していないことは分かっても、それがどういう能力によって行われているかが分からないのだ。 ゆえに今できることは、逆転手を待つことでもなく、京太郎を狙い撃つことでもなく、せめて前半戦を早々に切り上げることである。 卓に着いている全員が、それを理解していた。 (なら――こっちはこっちで、ひたすら早和了りに徹させてもらう) 「ツモ。1000オールは1400オール」 それは勿論京太郎も例外ではない。だからこそ相手に止められないように、安手に切り替えた。 しかし京太郎は元々手作りが早いほうではなく、鳴きも得意ではない――よって、遂に。 「来たっ、ツモだ! 1000・2000は1500・2500!」 この状況を切り開いたのは――篠ノ井西。三色を集めるとはいえ実際のところは三色同順で和了ることのほうが多く、 自然と両面待ちなどの和了り易い手が多いがゆえに、なんとか京太郎の妨害にも短時間で対応できたのだろう。 運よくドラを雀頭に出来たため打点もそこそことなり、篠ノ井西にとっては理想的な親流しとなった。 (皆に先鋒任されてんだ! 稼ぎ勝てなくとも……このまま清澄の一人浮きになんてさせねえ!) (篠ノ井西か……ま、現状最下位だったんだから妥当なとこか。こっちもそろそろ和了らないと……) 「ツモ。300・500」 続いて北天神。能力は発動しないもののどうにか役牌の發を鳴き、そのまま和了りきった。 逆転には程遠い安手であるものの、これでようやく東場が終了。 前半戦が終わるまで……あと4局。 「――ロン。2600」 「ほい来た、ツモ! 500・1000だ!」 「ロン。5200」 「……ようやく、ようやく焼き鳥脱出だ……ツモ。2600オール!」 しかし、あっけなく南場は終わりを告げた。 京太郎を警戒する三校は完全に早和了り狙いで、京太郎もそれに対抗するため早和了りを狙わざるを得なくなったからだ。 結果として全員が速攻で一度ずつ和了って、前半戦が終わったのだった。 176 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/29(火) 22 12 13.72 ID diSRvnVC0 ……ふうっ。 警戒されてからは流石にキツかったけど、十分だろ。親番でかなり連荘出来たのが大きいな。 ま、一旦控室戻るか。長続きするようになったとはいえ、しんどい。水分補給くらいはさせてもらおう。 「せっ、先輩っ!」 「すげーっす、マジすげーっすよ!」 褒めるのはまだ早いさ。あと半分なんとか稼ぎきってくるから、緊張ほぐして待っとけよな。 「これは大波乱! 清澄高校、なんと前半戦のみで4万点を稼ぎましたーっ!」 「ほう……一見ただのデジタル打ちのようだが、須賀選手が何かやったようだな」 「後半戦が楽しみですね。藤田プロ、清澄以外の三校はどう出るべきでしょうか」 「んー。前半戦を見る限り、普通に打ったら清澄の一人浮きは避けられない。なりふり構わず場を流すべきだろうな」 「逆に清澄は、今活躍している須賀選手以外は全員一年生。ここは須賀選手がなんとしてでも稼ぎ切りたいところだろう」 「そう考えると、実は須賀選手が一番追い込まれているとも言える。一点でも多く稼ぎたいが、例え安手でも和了らざるを得ないからな」 「ジレンマってやつですね……後の選手まで考えるとそうなりますか。さて、後半戦はどうなるのでしょう!」 「くそっ! 俺、藤田プロのファンだけど、ここまで言われるとムカつく!」 落ち着け。悔しいけど、事実だ。 相手は三校とも二年生以上でオーダーを組んで、先鋒にエースを置いてる。 そうなると須賀先輩が先鋒で出るしかないし、俺達は何の変哲もないただの一年生。 ……経験豊富な二年・三年を相手にプラス収支で半荘二回戦い抜くのは難しいだろ。 「そんなこと言ってもよぅ!」 だから、落ち着けって! ……俺だって納得はできないけど……勝つには、それしかない。 須賀先輩は既に十分すぎる程点を稼いでくれてる。 あとは俺達が、如何に落ち着いて失点を抑えられるかだ。そうだろ? 「ぐぅ……で、でも、やっぱり緊張する……よな」 ……ああ。で、出来れば言わないでほしかった……。 うぅ、トイレ行ってくる。 「……ごめん」 さて、今頃後輩どもは緊張で吐きそうになってるだろうから、なんとしてでもこの後半戦でリードを広げたい。 けどまあ実際のところ、こうまでマークされてるとそれは厳しいだろうなぁ。 染谷先輩の進言で練習試合の類は組まないでおいて本当に良かった。 そんなことして俺の手の内がバレてたら本気でどうしようもなかっただろうしね。 ……正直、この俺が他校にマークされてるという状況に軽く興奮を覚えてたりするのは内緒だ。 だって俺だぜ、一年前の個人戦では見るも無残に飛ばされて終わった俺がだぜ? 嫌が応にも燃えてしまうところだけど、それでも気分を落ち着けて、頭を冷やして打ち回す。 それが俺の取り柄だからな。 177 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/29(火) 22 12 42.39 ID diSRvnVC0 そして後半戦が開始された。 「――ツモだ。2000・4000」 「――ロン。3900」 京太郎があっさりと二度和了り、早くも自分に親番を回すことに成功する。 しかし他の三校もただそれを見ているだけではない。意地でも連荘はさせまいと徹底的に京太郎をマークし、 役牌を鳴くことすら許さず、京太郎が手をこまねいている隙に篠ノ井西が自風のみの安手ながらツモ。 この先鋒戦を早々に流し、以降の一年生を潰すという策を隠そうともせず場を流しにかかってきた。 (させるかよ……これ以上差を広げられてたまるか!) (まさか次鋒以降の一年生も不可思議な力を持ってるってことはないでしょ……) (可哀相だけど、そっちを潰せば結果としてはこっちの勝ちだからな) 「ツモ。裏が……2。2000・4000」 しかし。 それでも普段の打ち筋を封じられて精神的にも揺れている状態では最善の打ち回しなど出来るはずもなく、 続く東4局は京太郎が圧倒的なスピードで和了り、雀頭に裏ドラが乗るラッキーもあり満貫。 「いいのか? そんな安手で場を流してたら……取り返しのつかない点差がつくかもしれないぜ?」 『――ッ』 勿論そんなことは有り得ない。 初出場の部の、インターミドルで活躍したわけでもない何の変哲もない一年生に、 一年、あるいは二年間練習を積んできた自分達の仲間が稼ぎ負けるはずがない。 しかし5人中3人が一年生でありながら昨年の女子団体戦で頂点に立った清澄のネームバリューと、 今実際に自分たちを圧倒している京太郎の存在が彼らの思考を鈍らせた。 (そうだ……こんなとこで逃げる麻雀を打ったことなんて一度もねえ!) (……篠ノ井西、挑発に乗りやがった。まーアレは清澄の対面だしまだマシか) (でも、実際そうだ……皆が先鋒を任せてくれたのに、既に6万点も稼がれてる。これじゃ皆に顔向けできない) (流すんじゃない……ここから一点でも差を詰める!) 178 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/29(火) 22 13 11.46 ID diSRvnVC0 「ロン! 7700!」 京太郎以外の三人も、とにかく自分がよりよい手で和了ろうとし始めた。 オカルトをかなぐり捨てて。早和了りで場を流すのではなく、今からでも京太郎に追いつこうという気概で。 「……ロン。8000」 集中状態の京太郎は和から教わった知識や技術の全てを最適化して打ち回しに適用することが出来る。ゆえに振り込むことはそうそうない。 そうすると三人が挑発に乗ったことは間違いであるように思われるが、実はそうとも言い切れない。 「ツモだ! 1300・2600!」 京太郎の集中状態はあくまで「自分の打ち回しの最適化」と「オカルト封じ」、この二つの効果しか持っていない。 今この場のようにオカルトを排して打ち合った場合、集中状態を続ける利点は振り込む確率の低下のみ。 「ツモ。2000・3900」 オカルトのように場の流れを決めてしまう何かがない以上、勝負を決するのはツモ運だ。 その天運に……京太郎は、あまり恵まれているとは言えない。 (けど……このまま早和了りで流されて終わるよりは――) 「……っし! ツモ。リーチ一発タンピンツモ赤2……3000・6000だ……!」 そう。大きな手を和了るチャンスは増える。 小さな手の積み重ねではあったが、最後に跳満を上がって京太郎は先鋒戦を終えた。 結果として京太郎の挑発は大成功。安心できる点差で後輩たちに繋いだ。 これで清澄の勝利は堅いだろう。いきなりの番狂わせが起きた。 ……少なくとも、会場にいてこの先鋒戦を見ていた者のほとんどが、そう思った。 191 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/30(水) 20 27 01.66 ID TJMwLTvN0 先鋒戦が終わって、四校の得点は以下のようになった。 篠ノ井西 66400点 北天神 78400点 清澄 175000点 寿台 80300点 一見清澄が圧倒的な優位に立ったかに見えるが、それは違う。 清澄はここから実戦経験の少ない一年生だけで戦い抜かなければならないのだ。 しかも――京太郎がこうして大量得点したことによって、他三校にきつくマークされた状態で。 長野の県大会では少ないながらも一回戦から観客が来る。勿論その客も京太郎の大活躍に注目した。 一年生たちも自分の実力を完全に出し切ることが出来ればまた結果は変わったかもしれない。 内からの重圧。相手からの重圧。外からの重圧。会場中に広がる異様な空気。 それらを相手に普段通りに打ち続けることは、彼らにはあまりにも荷が重すぎた。 その結果。 192 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/30(水) 20 27 30.65 ID TJMwLTvN0 「試合終了ーっ! この試合は特によく点数が動きましたね」 「三校での叩き合いになったが、篠ノ井西が上手く潜り抜けた。これは今後も期待できるかな」 ……まあ、しょうがないか。 とりあえず、後輩どもを慰めてやらねーとな。 よしお前ら、撤収だー。個人戦もあるんだからしょげてんじゃねーぞ。 「……すみません、須賀先輩……」 だー、もう。お前ら一年、俺二年。これで引退ってわけじゃねーんだから、な? お前らがここでどれだけ悔しがってもしゃーないの。ほれ撤収。 長野県大会男子団体予選。 最終的なスコアは以下のようになった。 篠ノ井西 110200点 北天神 108000点 清澄 74500点 寿台 107300点 清澄高校麻雀部男子、初の公式戦は――見るも無残な敗北で終わりを告げた。 193 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/30(水) 20 28 17.65 ID TJMwLTvN0 団体戦は一回戦負け……か。ま、仕方ないよな。 後輩どもには悪いけど最初っから勝てるとは思ってなかったし。 思ったより俺が稼げたぶん、思ったよりあいつらは緊張しちまってたらしい。 俺がもっと竹井先輩や染谷先輩みたいに、後輩にいい影響を与えられればよかったんだけどなぁ。 「残念でしたね、須賀君」 ん、和。そりゃ残念っちゃあ残念だけど……ま、後輩たちがこれで奮起してくれれば安いもんだろ。 去年は半日で大会終わりだった俺が言うのもなんだけど、こういう経験って大事だと思うし。 あとは個人戦だなー。それまでにちょっとくらい元気になっておいてほしいもんだ。 あいつらガチ凹みしてるから、このままだと個人戦もボロボロだぞ……。 「須賀君はどうですか? 自信のほどは」 俺は逆に、さっきの団体戦で自信ついたな。あれだけ稼げるとは思ってなかったよ。 でもデジタル打ちの強い奴に勝ったわけじゃないし、個人戦でも勝てるかというと、うーん。 なんか不安になってきたぞ。 「ふふ、そうですねー。じゃあ今まで頑張ってきた須賀君には、私がご褒美をあげましょう」 ほう。和らしからぬというかなんというか。 でもご褒美か、嬉しいなぁ。何してくれるの? 「須賀君が個人戦も頑張ったら、下の名前で呼んであげます」 オーケー、絶対勝ってくる。 205 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/31(木) 23 04 08.12 ID MUVoigJy0 和の名前呼びという餌に釣られて息巻いたはいいものの。翌日の個人戦。 団体戦であれだけ稼いでしまったおかげで、俺は完全にマークされてしまっていた。 おかげで目立つ活躍も出来ないまま個人戦は実にあっさりと終了。 それでも半年近くの練習の成果は出たと言えるのか、結果は総合六位。 ……ちなみに、女子より出場者数の多い男子個人の全国出場枠は五人。漫画かと疑うような見事な落ちっぷりである。 ちくしょう! せっかく和が名前で呼んでくれるところだったのに! 「犬、うるさいじぇ」 おぉう、優希か。どうだったよ、そっちは。 「あーもう、駄目駄目。今年も咲ちゃんは行けそうな感じだけど、私は多分いいとこ五、六位ってとこだじぇ」 ほー。そりゃまたご愁傷様で。 「団体戦も結局負けちゃうし……散々だじぇー」 あー、まぁ龍門渕の天江さんは仕方ねーわ。あんなもん、俺でも止められる気がしねえよ。 それに龍門渕は去年のメンバーが全員残ってるわけだしな。 「しかも今年は個人戦にまで天江衣が出てくるし! もう嫌になるじょ」 そりゃ確かに手がつけられねーな。 ……それより、どうだ? 染谷先輩の様子は。 「……今は、そっとしといてあげるほうがいいと思うじぇ」 そっか。ん、分かった。 206 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/31(木) 23 05 15.38 ID MUVoigJy0 ……そう、分かっとった。 わしには久のようなカリスマ性はないし、咲たちのような圧倒的な力もない。 じゃから、部長の座に就いた時から、わしの役目は咲たちにこの部をいい状態で引き継ぐことだと決めとったのに。 他ならぬ自分で、そう決めとったはずなのに。 ……なーんで、こんなに悔しいんかのう。 個人戦も、全力を出し切ってはみたが結果は出なかった。結局の、わしの器ではそんなところということじゃろうな。 団体戦にしたって優希は先鋒としての仕事を十二分に果たしてくれたし、和はしっかり相手を抑えてくれた。 一年生だって頑張ってくれた。咲でなければ、天江衣を相手にあそこまで競ることは出来んかったじゃろう。 それでも負けた。なら……しょうがないじゃないか。だから―― 「ごめんなさい染谷先輩……ぐすっ」 ――あー、人がセンチになっとるときくらい泣き止まんか! オーダーを決めたのはわしなんじゃ、お前さんが気にすることはなんもないんじゃから、な? 全くもう、一年生がこの調子じゃ咲たちも苦労するじゃろうなあ。 ……ま、頑張ってくれよな。場所くらいならいつでも貸しちゃるけえ。 207 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/01/31(木) 23 06 22.05 ID MUVoigJy0 結局、清澄高校は咲が個人戦で全国大会出場を決めたのみに終わった。 これによって実質の二代目部長である染谷先輩の引退が決まってしまう。 そして……新たな部長の座には、俺こと須賀京太郎が就くことになった。 ……いや、おかしくね? なんで女子部員のほうも俺が仕切ることになってんの? 「まあ、竹井先輩や染谷先輩と違って一年生は四人いるんですから、誰が部長だろうと変わりはないでしょうし」 「だったらいっそ黒一点の京ちゃんでいいかなと」 要するに面倒臭いポジションの押しつけですね、分かりました。 ちくしょうめ。 「ま、精々頑張るんだじぇ」 ……いまいちしまらないが、麻雀部員はみんな元気だ。 今のところその元気の八割くらいは空元気だけど、それでも。 みんな「来年こそ見てろ」と強がるだけの余力は残ってるみたいだ。 「頑張ってくださいね、京太郎君」 ……和っ!? 「結果は出ませんでしたけど。京太郎君が頑張ったのは私が一番知ってますから」 和マジ天使。 分かった、分かりました。不肖ながらこの須賀京太郎、部長職に就かせていただきますよ。 ……こら、咲と優希。そんな目で俺を見るんじゃない。 222 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/01(金) 20 14 06.05 ID UWx1vmuh0 ……で、今年も合同合宿、ですか。龍門渕、風越、鶴賀と。 はあ、まあ、いってらっしゃいとしか言えないんですけど。 女子の一年生はどうするんです? 合宿中は男子と一緒に俺が面倒見たほうがいいんでしょうか。 「いや、今回は京太郎。お前さんにも指名がかかっとるぞ」 ……はぁ!? 俺がっすか!? いやいやそれは駄目でしょう。こんなんでも俺一応男っすよ。 「相性的な問題で、お前さんくらいしか天江衣の特訓相手にはならんからのう。直々の指名じゃ、喜びんさい」 無理っすよ! 大勢の女子の中に放り込まれるうえ魔物の相手をしろってどんな拷問ですか! 「今年は、龍門渕と鶴賀も男子部員を連れてくるそうじゃぞ?」 ぐぅ。でもなんで俺が天江衣の相手なんか……。 「全国クラスの男子には天江衣を上回るような打ち手もおるじゃろうなあ」 うっ。 「天江衣との対局なんて望んでもそうそう体験できるもんじゃないじゃろうなあ」 ぐぬぬ。 分かった、分かりましたよ。 俺の力でどこまであの人の支配を抑えられるもんか分かりませんけど。 「一年も参加させる予定じゃから、あんまり格好悪いとこ見せるなよ?」 ……まあ、あのレベルの対局を間近で見るのは確かにあいつらにとってもプラスでしょうからね。 いいでしょう、分かりました。やれるだけやってみますよ。 223 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/01(金) 20 15 33.74 ID UWx1vmuh0 というわけで、断り切れずに結局来ちゃいました。合同合宿。 「きょうたろー、と言うそうだなっ」 「衣ともども、お相手よろしくお願いいたしますわ」 はい。女子はともかく、清澄の男子は未だ実績らしい実績もないですから、 強豪の胸を借りるつもりで全力でお相手させていただきますよ。 ――さ、始めますか。 勿論、しょっぱなから集中モード全開で行く。 でなければこの二人は決して抑えられないだろう。 俺の様子の変化に二人は一瞬だけ驚いたが、すぐににやりと笑った。 ……俺の全力など、彼女らにとっては一笑に付されるようなもの、ということかもしれない。 ま、いい。何度も言ってるけど、やれるだけやってみるさ。 後ろで見てる後輩どもに、あんまり情けない姿は見せられないしね。 俺から見て上家に天江さん、対面に龍門渕さん、下家には和が入って対局が始まった。 (……衣の支配が正しく機能しない。やはり、聞いていた通りのチカラを持っているようだな……きょうたろー!) (……はっ。なんか意識が飛んでたような……うぅ、調子が出ませんわ) (流石に消耗が早い。オカルト封じも長くは続きそうにねーな……) (……三人ともあまり手が進んでいないようですね。チャンスでしょうか) 東一局。いきなり一向聴地獄を発動させて支配を仕掛けてきた衣をどうにか京太郎が抑える。 更に魔物・衣、そしてライバルである和と同じ卓に入ったことによって透華が「冷え」そうになるがこれも同じく京太郎が阻止。 結果、最初に和了ったのは和だった。 (……こんだけドギツい思いして和了れねーのか。こりゃしんどいぞ) 続く東二局は、衣が跳満手を聴牌するも京太郎がそれを察して役牌のみの安手で場を流した。 既にこの時点で、京太郎は疲労困憊。どうやら集中状態による疲労度は相手のオカルトの強度に依存するらしい。 (あー……くそ、やってらんねぇ!) 東三局。遂に衣が地力を見せつけて満貫で和了。 その流れに乗るように東四局では透華が和了って東場が終了した。 224 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/01(金) 20 17 36.18 ID UWx1vmuh0 ……ぐっはぁ。 もう駄目……南場もあるとか考えたくない……。 「だ、大丈夫かきょうたろー?」 大丈夫じゃな……あ、はい大丈夫です、大丈夫ですから。そんな顔しないでください。 後ろの後輩ども、お前ら笑い堪えてんじゃねーぞ。人が死ぬ思いで打ってるんだからしっかり見とけよ。 さて南一局――行きますか。 と、自分を奮い立たせてなんとか集中モードを続けては見たけど、結果はさっぱり。 そもそも天江さんも龍門渕さんもオカルトに頼らない地力が十分あるわけで、そこに俺が入っても意味がねーだろっていうね。 「そんなことはないぞ! 支配を抜け出されるのではなく逆に支配されるというのは中々ない体験だった」 「ええ、全国に向けた練習としてはこれ以上ないと思いますわ」 あ、ありがとうございます。でもそんな褒めても何も出ないっすよ? ちょうど半荘終わったところだし、俺はハギヨシさんと飯や風呂の準備に行かせてもらおうかなーなんて……。 「え? もっかい打たないのか?」 ぐうっ。 「無理はなさらないでいただきたいですが、よろしければ是非もう半荘お願いしますわ」 ぐぐうっ。 これ絶対あと半荘じゃ終わらないやつ……あ、はい分かりました。やりますやります。 元々そのために来てるわけですし。体力がもつ限りはいくらでもお相手しますよ。 ……その後三時間以上に渡って、俺は天江さんの蹂躙をなんとか食い止め続けたのであった。 260 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/03(日) 18 34 03.70 ID LgSq6NXG0 非常に疲れた。マジで疲れた。ヤバいくらい疲れた。集中モード継続三時間は無理があった。 どれくらい疲れたかというと対局が終わって皆が温泉に行く中、俺だけトイレに行って吐いたくらい疲れた。 けれどこの合宿、悪い事ばかりではない。これだけ打てば龍門渕さんのほうにも義理は果たせただろう。 残りの数日は俺の実力の向上にいくらかの時間を割かせてもらっても罰は当たらないはずだ。 つまり。 井上さん! 麻雀教えてください! 「……え、オレ?」 「ほう。鳴きのノウハウ、ねえ」 はい。今のままじゃ、どうにも手堅いデジタル打ちに対して打つ手がなくて。 まさか俺もこんな機会が得られるとは思ってませんでした。是非俺に麻雀教えてください! 「んー。まぁ、男子ならオレ達と戦うわけじゃないしいいけどさ。あんまり分かり易くは教えられないと思うぜ?」 構いません! ってかむしろ聞いてすぐ分かるようなデジタル的な話なら、和にいくらでも聞けるんで。 そういう感覚的な話こそ俺が今求めてるものなんすよ。 「ハッキリ言うねー。うん、気に入ったぜ」 ! ありがとうございますっ! 蹂躙されると分かっていても来た甲斐がありましたよ! 「あー、衣や透華と打たされてたんだっけ。ご愁傷様」 261 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/03(日) 18 34 58.10 ID LgSq6NXG0 「いい流れなら基本鳴かない。悪い流れなら鳴く。ぶっちゃけオレが考えてるのはその程度なんだけど」 ……要するに、ツモが悪いとかそういうことですよね? 流れとか、まあ和に言わせりゃそんなオカルト有り得ませんなんだろうけど。 でも実際やたら牌が偏ることってありますもんね。 「んー。そりゃ自分のツモもそうだけど、明らかに相手が仕掛けてくるの分かることあるだろ。染め手とか」 あー、分かります。悪い流れイコール対戦相手にとってのいい流れとも言い換えられるわけだ。 「そうそう。お前んとこのタコス娘とか、そーゆーの完全に顔に出るから分かり易いだろ」 ほうほう。なんとなく分かってきた、ような。 自分に流れを呼び込む。自分の不ヅキを断ち切る。相手の流れを切り離す。 発想はオカルトめいているとはいえ、劣勢に対して精神的なリセットをかける意味合いもあるだろうし。 「流れに限らず、特定の牌をガンガン呼び込むタイプのオカルト打ちもいるからな。鳴きが役立つ場面ってのは案外多いんだぜ」 あー、呼び込まれるはずだった牌の行き先がズレるわけですか。 確か去年の全国で、咲の相手にそんな感じの能力を持った人がいたような気がする。 まぁ言いたいことは分かるような気もしますけど、なかなか実際やるのは難しそうですね。 やっぱ実戦こなすしかないかなぁ。 「そだなー。ま、オレの真似だけしてても仕方ねーぞ。オレのを基に、お前なりの鳴き方を見つけるんだな」 ういっす! それじゃ、迷惑ついでに一局打っていただけないでしょうか。 せっかくの機会なんで、魔物以外とも打ちたいんですよね。 「お、いいね。打とう打とう。一応ウチの強化合宿だし、残りの二人は国広君と智紀でいいだろ?」 ええ、全然問題ないですよ。三人ともオカルト打ちとはまた違うから、こっちの特訓にもなりますし。 こういうところじゃ相手には困らないし、普段と違って色々な相手と打てるからいいですねー。 「おう。泊りがけってのもテンション上がるしな」 へへ、気が合いますねー。 そいじゃ打ちますか! 手加減しませんよー。 「言うねー。マジで気に入ったぜ、こっちこそ手加減しないぞ!」 「純くん機嫌いいねー」 「……男同士気が合う……?」 「オレは男じゃねえっ」 龍門渕の皆さんの家族漫才的なものを楽しみつつも対局はしばらく続いた。 その後も相手を変えて時には風越の選手と、時には鶴賀の男子と卓を囲んだ。 結局個人戦でもいいところなくボコボコにされていたウチの後輩どもにとっては、いい経験になっただろう。 俺としてもすごく有意義で得るものは多かったし、龍門渕の皆さんにも満足してもらえたと思う。 262 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/03(日) 18 36 04.61 ID LgSq6NXG0 合宿が終わった後、個人戦で見事全国出場を決めた咲の応援に俺達も東京へ行くことになった。 俺の部長としての初仕事は皆の引率。まあ仕事というほどのものでもないし、個人戦の結果もあえて言う必要もないだろう。 強いて言うなら、今年も咲はえぐかった。 その後の部活動でも特に皆を仕切るとかそういうわけではなく(技術や知識の指導はもっぱら和に任せている)、 むしろ俺の基本的な仕事は学生議会との予算やら日程やらの摺り合わせなんかの事務だ。 あとは時折、 「京太郎さーん、打ちましょうよー」 「よー」 こんな感じで後輩(挑んでくるのは主に双子。だいたい、和に教わったあれこれを試してみたい時だ)を、 俺の練習がてら半荘ほど相手してやるくらいのことである。 で、なってみて初めて分かることだが部長になると自分が練習する時間は案外取れなくなるものだ。 改めて竹井先輩と染谷先輩の凄さを知った気分だが、俺はあの二人と違って要領も良くないし麻雀経験も足りない。 全く、同級生四人のうちなら俺が一番練習が必要なはずだってのに酷い扱いだぜ。 『いいじゃないですか。だからこうして未だに個人レッスンを続けてるんですし』 『そりゃそうだけどさ。どうよ、和から見て今の俺は』 『及第点って感じですね』 『おおう、手厳しいっ。井上さんに鳴き方も教わったし上達はしてると思うんだけどなー』 『ええ、一年前ならいざ知らず、今の京太郎君には凄く期待してますから。期待値の高さ込みで、及第点です』 ぐぬぅ。 なんかもう本当に和に手綱を握られてる感が凄いんだけど。 逆らえる気とか全然しないんだけど。 『では、また明日』 『ういっす。おやすみ、和』 『おやすみなさい』 ……何がヤバいって、それでもいいやとか思っちゃう俺の単純さが一番ヤバい。 286 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/05(火) 23 00 52.31 ID DSJi3H1a0 「冬合宿?」 そ。皆で小旅行を兼ねて、冬休みにさ。 俺にしてはなかなかの発案だと思うんだけど、どうかな。 「いいんじゃないかな。楽しそうだよ」 「雪景色の中でタコス食べるのも悪くなさそうだじぇ」 いや流石に今回行く予定の宿にタコスは売ってないはず……。 あ、俺が作れと。へーへー分かりましたよっと。 「まあ長期休暇中の練習というのは得てしてダレがちですし、それならいっそ合宿というのはアリだと思います」 「いい案だと思いますよ、須賀先輩」 だろ? まぁ金はかかるけど、部費がそれなりに残ってるからそんなに大きな出費にはならないだろうしな。 せっかくの冬休みだし、さっきも言ったけど皆で遊ぶのも兼ねてぱーっと行こうかと。 「おー、さっすが京太郎さん!」 「話が分かるー!」 お前らは合宿の間に三回は飛ばしてやるから覚悟しとけ。 「ひどい!」 ってなわけで、俺達はスキー場のあるそこそこの大きさの宿へと向かった。 基本的には運動部が夏の合宿で使ったりするような(長野は涼しいからね)人気の場所なのだが、 逆に言うと、同じ長期休暇でも冬ならわりと利用しやすいのだ。 自動卓を持ち込んで(勿論許可は取った)、ひたすら特打ち。 合宿テンションもあり、かなり密度の濃い練習が出来たと思う。思いたい。 一応必死こいて打ったし、有名どころの高校の牌譜研究やらも皆でやった。 少なくとも自分たちに出来るベストの練習をした、とは思うんだけど。 今になってブレインとしての竹井先輩と染谷先輩がいないのが辛いんだ、これ。 だって俺達の代、馬鹿ばっかりなんだもん。和は馬鹿ではないけどそういうのには向いてないし。 とにかく不安だらけではあったけれど、とりあえず初日の練習終了。 287 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/05(火) 23 02 16.73 ID DSJi3H1a0 練習が終わった後は皆で民宿らしい質素ながらも旨い飯に舌鼓を打ち、その後自由時間となる。 真面目な奴は持参したらしい麻雀教本を読んでいたり、そうでもない奴は鞄からお菓子を取り出していたり。 俺はそんな賑やかな部屋からベランダに出る。 少し肌寒いが、まあ後でゆっくり風呂に浸かれば大丈夫だろう。 「……もうすぐ、引退……なんだよな」 ぽつりと呟きが漏れた。 それは目を逸らしたくなるような事実。 俺のようなうだつの上がらない一選手が今後も麻雀に専念できるかと言われれば、そうじゃないだろう。 既に全国で名を上げている女子の皆はともかく、俺は高校で麻雀と別れることになる可能性が高い……と思う。 もとはといえば、和が目当てで始めた麻雀だったけれど。 「……やめたくねーなぁ」 「だったらいっそ、プロ雀士でも目指してみたらどうだじぇ?」 ついつい漏れてしまう独り言に返事をよこしたのは……優希、か。 ははは、そりゃまた魅力的な案だけどさ、流石に無理だろ。 「そうでもないと思うけどな。正直、京太郎の成長っぷりには皆驚いてるんだじぇ?」 そりゃどーも。 でもさ、女目当てに麻雀始めたようなチャラ男がここまでこれたんだ、もう満足すべきじゃないかな。 これ以上を望んだら流石にバチが当たるんじゃないかと思うぜ、俺は。 「……雑用ばっかりしてた犬が、ようやく掴んだチャンスなんだじぇ? 掴みきらなきゃそれこそバチが当たるじょ」 ……あー言えばこー言う。 ほんと勘弁してくれよ。俺だってちょっとセンチになることくらいあるんだ。 たまには思春期の男の子らしく月明かりに照らされながら厨二妄想したってバチは当たらねえだろ? 「そう言ってかっこつけて、自分の思いからも逃げるつもりなのか? だったら私はお前を許さないじょ、京太郎」 ……なんだよ、突然つっかかってきて。。 なんか格好いいことでも言いたくなったのか? 296 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/06(水) 19 55 30.08 ID e+OtwNrr0 「好きなんだろ、のどちゃんのこと」 297 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/06(水) 19 56 14.84 ID e+OtwNrr0 突き刺さる、優希の言葉。 それはまさに真実で、偽りようもない俺の想いそのもので。 だから。 ……だから、どうしろってんだよ。 せっかく雀士としての俺を見てくれてる和に、「あんたの生徒はあんたの身体目当てで近づいてたゲスいチャラ男でした」、 なんて暴露しろってのか? ふざけんなよ、やめてくれよ。俺が何をしたってんだよ、なあ。 自分で分かってんだよ、こんなの卑怯だってことくらい。 でも仕方ねえだろ? 好きになっちまったんだから。 何をしてでも一緒にいたいって思っちまったんだから。 それで俺がお前らに迷惑をかけたりしたかよ―― 「違うッ! そっちを責めてるんじゃないじょ!」 ――ッ。優希、五月蝿い五月蝿い……今は夜、ここベランダ。オーケー? 「……あぁもうっ、じれったいじょ! なんでそんな捻くれてるかなぁ!」 「好きなら好きってとっとと伝えちゃえばいいんだじょ! それを悪いことだなんて誰も言わないっ」 「つーか、京太郎がのどちゃんのことを好きなのなんて一年生の頃からバッレバレだったじょ!」 ぐぬぅ!? う、嘘だろおい……いや、それはこの際いい。だったらこれも分かってんだろ? 俺が和を目当てに部活決めて、和を目当てに今までこの部に居座ってきたようなクズだって―― 「ち・が・う! 話は最後まで聞かんか! だから京太郎はいつまで経っても犬のまんまなんだじぇっ」 「――京太郎がいつの間にか本気で麻雀に惚れ込んでることだって、私はとっくのとうにお見通しだじょっ!」 「麻雀も全力で好き、のどちゃんも全力で好き、それでいいだろ!? なんで両方諦めちゃうんだじょ!」 「今の京太郎は見てて苛々するじぇ。自分で自分を騙してるのが丸分かり、裸単騎みたいなもんだじょ!」 ……いや、その例えは別に上手くないけど。 「うー、今はそういうことを言ってるんじゃなくてだな……!」 あーもう分かってる分かってる、ありがとなわざわざ。 似合わない説教役までさせちまって悪かったよ。 ほんと、俺らしくなかったわな。 部長の重責に押し潰されでもしてたのかね? 「どうでもいーじょそんなの。いい加減告白しろ」 それが出来れば苦労しねーっての。 お前らが思ってる以上に俺はびびりだぞ。 「全くこれだから犬は――」 「どうしたんですか二人とも。やけに外が騒がしいと思ったら……」 和ァァァァッ!? い、いやなんでも……ちょっと話が盛り上がったというか、なあ優……逃げやがったあいつ! あの、ほら、その、なんだ、あははは……一緒に月見でもしない? 298 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/06(水) 19 57 14.93 ID e+OtwNrr0 ……はぁ。 早いもんだよな、気が付いたらもうすぐ三年生だ。 あと半年もしない内に引退するとか、考えたくもないよ。 「そうですね。一年生の時の全国優勝で一応認めてもらっていますが、未だ父は私が麻雀をするのを良く思っていませんし」 そっか。麻雀を続けられるかどうかわからないのは俺だけじゃないんだな。 勝手に和は麻雀を続けるもんだと思い込んでたけど。 「いえ、続けるつもりですよ。父が何と言おうが、プロになってしまえばこっちのものです」 おぉ。和にしてはというかなんというか、大胆な発言だな。 格好いいけど、それはそれでどうなんだって気もするぜ。 「いいんですよ。認めてくれないのなら、結果を出して認めさせるまでです」 ……かっけぇ。ホント格好いいよ、和。 俺には……とても、真似できない。 「京太郎君は、どうなんですか? 卒業後のこととか考えてます?」 まさについさっき優希とその辺のことについて話してたよ。 麻雀は続けたいけど、現実的には難しいだろうなぁ。 俺には咲や優希ほどの強さもなけりゃ、和ほどの賢さもない。 結局俺は、お前らに憧れてほいほいついてきてるだけの、ただの凡人に過ぎないんじゃないかな。 「……はぁ。ゆーきが怒るわけです」 「あなたがそうやって自分を卑下することは、あなたの先生である私を侮辱することに他ならないんですよ?」 「あなたを信じてついてくる後輩の皆や、あなたの努力を認めている私達を、あなたはそうやって切り捨てるんですか?」 ……え? 俺から見た皆と俺が考える俺の差を見つめて落ち込むことは幾度もあった。 けれど――皆から見た俺を、皆が考える俺を、一度でも考えたことがあっただろうか。 そんな俺のことを、一度でも考えてやったことがあっただろうか。 「京太郎君が今までずっと頑張ってきたのを、私は知っています。私が一番知っています」 「だって私は、京太郎君の先生なんですからっ」 慣れないことを言うからか少し顔を赤くながらも胸を張る和。 彼女の全てが俺を燃え上がらせる。 優希がくれた火種が、大きく燃え上がる。 「そんな頑張っている京太郎君のことが、皆大好きなんです」 「……だから、そうやって自分を悪く言うのだけは、やめてください」 ……ん、わかった。ごめんな、変なこと言っちまって。 優希に説教されたばっかりだってのに、格好悪い。 ははは、本当似合わないけどちょっと弱気になり過ぎてたのかね。 「ふふ、大丈夫ですよ京太郎君。あなたに勝るデジタル雀士はもはや全国レベルで見てもそうそういません。私が保証します」 ネト麻最強雀士のお前に言われると本当にそんな気がしてくるから怖いわな。 でも、まあ……うん。和がそう言ってくれるなら、俺はいくらでも頑張れるよ。 「……そう言ってくれると、嬉しいですね。先生冥利に尽きます」 そう言ってはにかむ和。……ああ、もう。いちいち可愛いんだよなぁ。 もういっそ、優希の言うとおりにここで玉砕してしまおうかという考えが頭をよぎる。 「……頑張りましょうね、最後のインターハイ」 「……おう」 けれど、どうしても――その一歩を踏み出すことは、出来なかった。 328 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/08(金) 19 49 13.05 ID UFmbGQTx0 合宿二日目。……さて。 軽く三ヶ月は取り組んでる課題なんだ、いい加減ここいらでモノにしたい。 場の流れを読み切り、自分の鳴きでそれをコントロールする。 さあ、気張るかっ。 「……チー、かな」 純さんレベルになると流れが完全に『見えて』いるらしい(ということは、俺の集中モードで防げるのかもしれない)けど、 そこまでの精度は求めていない。俺の十八番はあくまでデジタル打ち。それを補助するための流れ読みだ。 「……チ」 「ポンッ」 (ぐ、欲しいところだったのに……!) 場を読み切れ。場を見切れ。 相手の一挙手一投足を見逃すな。 そして得た情報を自分の手牌と照合しろ。 「……カンッ」 「リーチにカン!?」 (俺の当たり牌を暗槓かよ……!) そして――流れを断ち切れ! 「……ツモ。嶺上開花役牌ドラ1……2000・3900」 329 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/08(金) 19 50 01.84 ID UFmbGQTx0 「うっげー。宮永先輩みたいなことすんのやめてくださいよー」 ははは、ここまで上手くいくとは思ってなかったよ。 でもまあ方向性は掴めたかな。……なんとなくだけど。 流石に公式戦でリーチにカン仕掛ける度胸は俺にはねえって。 「じゃあなんで今回はしてくれやがったんですか、ちくしょー」 お前が分っかりやすい染め手で仕掛けてくるからだよバーカ。 国士の可能性が残ってたらしなかっただろうし、まさか当たり牌ピンポイントだとは思わなかったけどな。 「……まあ、考えがあっての行動ならよしとしましょう」 ああっ、和!? ごめん俺が悪かった! 流石に調子に乗り過ぎた! お願いだからそんな目で俺を見るのはやめてくれ! 確かにあそこはオリるべきところだったよ! 分かってはいたんだ、純さんに教わったことを試したかっただけなんだ! ……くそっ、ジト目の和も可愛いなんて言えやしないっ。 (……とか思ってるんだろな、京太郎さん) (須賀先輩って普通に分かり易いよな) (むしろ気付かない原村先輩が異常) くそっ、お前らもそんな目で俺を見るんじゃない! 今にもドンマイと言い出しそうなその顔をやめろ! ああもうくそっ、一応俺部長なんだぞ……。 「ま、京太郎はそういう扱いが似合ってるじょ」 「どんまい京ちゃん……」 ……まあ、酷い扱いを嘆いてる場合じゃない程度には大きな進歩だ。 鳴きによる攪乱戦法。亜空間殺法とか言うんだっけか? まだまだモノにしたとはとても言えないけれど、これで目途はたった。 「……まあ、そうですね。多少やりすぎのきらいはありますが、十分アリの範囲内でしょう」 そう言ってくれると嬉しいよ、和。 後は完全にマスターするために数をこなすだけだな。 「京太郎さん、基本的に数をこなすの好きっすね」 ……ま、どこの世界でもそれが基本だろ。 俺は凡人だから、適当こいて技を会得できるほど器用じゃねーのさ。 338 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/09(土) 20 16 52.93 ID rqOz9gbq0 その後も俺たちは練習を続けた。 後輩たちばかりを相手にしていても仕方ないということで咲に挑んでみたが、 チーをしようとしたらその牌をカン、更にカンもいっこカンからの嶺上開花である。 流石に腹が立ったので京ちゃんモードで毟ってやった。 「いや、おかしいでしょ京ちゃん! 練習の趣旨が変わってる!」 ごめん、つい。 続いて優希と。 リーチをかけてきたので一発消しを兼ねて一鳴き。 ……したはいいが、結局優希は次の手番でツモ。確認したら鳴かなくてもツモられてた。 腹が立ったので京ちゃんモードで毟ってやった。 「いやだからおかしいじょ! いい加減にするじぇ!」 ……ごめん、つい……。 「では、次は私が相手になりましょう」 まあ、よく考えたらデジタル対策に練習してる戦法なんだから和相手に試すのが普通だよな。 ……う、悪かったって。咲も優希もそんな目で俺を見るんじゃない! さぁて気を取り直していきますか。後輩二人はともかく和を相手に、どこまでやれるかね。 「サイコロ回しますよー」 339 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/09(土) 20 17 35.68 ID rqOz9gbq0 ……ま、配牌は悪くない。純さん理論で言えば、現状のところ流れは悪くねえ。 だがしかし、こりゃ駄目だ……見た感じ、和の配牌はもっといい。 純さんの指導のおかげか大まかな状況の良し悪し程度なら見て分かるようになった。 ま、それならそれで鳴いて流れを変えるのみ。 それが俺の、プラスアルファだ。 ……ポンッ! 「そんなとこ鳴きますかー」 おうよ……あ、それもポン。 今のところ喰いタンが本線、上手いことやれば三色同刻もってところかな。 全然悪くはないんだが……和が更に先を行ってるっぽい。 やっぱり和本人から鳴かないと和の流れは変えられないか……? 「リーチ」 ……っ、ポンッ! 「須賀先輩、それは流石に無理鳴きでしょ……?」 まぁな。 これで三色同刻は確定とはいえ雀頭候補がなくなった。 ただし……和から鳴くことには成功した。 ここからが純さん直伝亜空間殺法の本領だろ! 和のツモ番を引き継いでから一発目のツモで早々に雀頭を確保して聴牌。 更に俺のツモを引き継いだ後輩から……ロンッ! 「うげっ、ここかよっ!」 まぁ嵌張待ちの筋引っ掛けになってたからな。 諦めて支払いよろ。 「くそぅ、最近の京太郎さんなんか余裕ぶっててムカつくっ」 はっはっは、悔しかったら早いとこ俺に追いついてくれよ。 ちなみに俺に追いついたらその先には和と咲と優希がいるわけだがな。 「なんというクソゲー」 ははは、無理ゲーと言え。 ちなみに俺は今その無理ゲーに挑んでるところなんだけどどう思う? 「……早く続けません?」 ごめん和っ! 340 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/09(土) 20 18 03.15 ID rqOz9gbq0 ……さて、気を取り直して。何回取り直せば気が済むんだって話だが。 さっき無茶苦茶な鳴きで強引に和了ったせいか、今度は配牌が酷過ぎて話にならん。 八種十一牌とか確実に運の神様とかに喧嘩売られてるだろ。 「むぅ。リーチで」 あ、真面目君それポンな。 ちょっとずつでも流れを取り返していかないと、でかいのを和了られかねない。 ……あ、チー。 「お。ツモッ」 ……ふぅ、ナイス双子兄。上手い事真面目君のリーチは躱せたみたいだな。 あの程度の安手ならいくらでも取り返せるし……さて、頑張るかっ。 「……はぁ、流局ですね。聴牌です」 俺はノーテン。でもどうにかこうにかトップは死守してやったぜ。これはこれで物凄い神経使ったけど……。 まあ、やっとこさこれも俺の戦法として取り入れられるくらいにはなったんじゃないかな。 「いいんじゃないですか? さっきも言いましたがデジタルの観点で完全にアウトという手は打っていないですし」 「京太郎さんが鳴くと悉く手が止まるんすよねー」 いやまぁそういう鳴き方を教えてもらったわけだから、ちゃんと機能してくれなきゃ困るよ。 けど、これで俺の打ち筋はほぼ完成と言ってもいいかな。あとは精度を高めていくだけだ。 「やったね、京ちゃんっ」 「ま、褒めてやるじぇ」 ……うん、ありがとう。でも和の目が怖いからそこまでにしてくれ。 大丈夫だって和、俺だって流れとか眉唾ものだと思ってるから! な? 「怖い目なんてしてませんっ」 あ、はい……。 341 : ◆NZD.UFKqaQTc [saga]:2013/02/09(土) 20 18 58.90 ID rqOz9gbq0 そんなこんなで冬合宿は終了。 俺個人としてはこの上ない収穫があったが、後輩たちはどうだったのだろうか。 思い返してみると、俺や咲あたりに蹂躙されてばかりだったような気もする。 「宮永先輩はともかく須賀先輩相手なら十分練習になってますから大丈夫ですよ」 「むしろ宮永先輩と比べると京太郎さん(笑)って感じっすから大丈夫っすよ」 「今年こそは足手まといにはなりませんからねっ」 そうか。そういうことなら、気が早いけど団体戦のオーダーでも考えるかね。 あと双子は帰ったらまた飛ばす。 よし、じゃあ出るぞー。お前ら忘れ物とか大丈夫か? そいじゃ、出発ー。 ……はぁ、やっと着いたか。合宿は楽しいけど帰りがしんどいよなぁ。 母さん、ただいまー。 「おかえり。合宿はどうだったの?」 ま、上手くいったんじゃないかな? 俺としては大満足だよ。 これなら夏の大会にも期待できそうだ。 「はぁ。あんた最近麻雀麻雀って……もうすぐ受験なのよ?」 う、うん。 でも、まあ、授業はちゃんと受けてるし課題も出してるし、そっちに専念するのは引退してからでも遅くないだろ? 「いいんだけどね。とにかく後悔することがないようにしなさいよ」 わかってるって……はーぁ。言えねーよなぁ。 プロ雀士目指したいとか。 正直何言ってんだこのアホはって話だもんなぁ。 我ながらとても馬鹿なことを考えていると思う。 それでも、諦めたくないから。俺の努力でどうこう出来る範囲内にその位置があるなら……。 俺はいつまでも、和の近くで麻雀を打っていたいから。 |後編へ
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京太郎「和の胸囲98cm…!? 嘘だろっ!?」 京太郎「俺の方が胸囲あるじゃん……」 京太郎「91……92……93……」 咲「こんにちは~…って、京ちゃんだけ?」 京太郎「ん……94…俺だけだぞ……95……」 咲「……なんで部室で腕立て伏せしてるの……」 京太郎「96……やっぱ唯一の男子……97……部員だし……98……力仕事とか……99……出来た方がいい…だろ……っと、100」 咲「100回もしてたの!? もう…どんな体力してるの……」 京太郎「1…2…3…」 咲「今度はスクワットし始めた……もしかして、それも一日100回するつもり?」 京太郎「100回っていうか……20……一日500回だな……25……………30……」 咲「500回!? それ五セットもするの!?」 京太郎「そうだね……40……まぁ毎日してるわけじゃないしな………45……」 咲「…中学の時以上に筋肉バカになってる……」 久「ちょっと買い出し行ってくるから、皆で打っといてね?」 京太郎「あ、買い出しなら俺が行きますよ?」 久「え? そりゃ行ってくれるのなら任せちゃいたいけど……いいの? そんな自分の練習時間を削ってまで……」 京太郎「えぇ。お気遣いなく……ただ」 京太郎「出来るだけ重い荷物だと嬉しいです」 久「あ…荷物が持ちたいだけね」 久「クラスマッチの内容……マンネリを打破するのも勿論だけど、公平な内容にするのも大事よね!」 彩乃「そうですね。確か去年は、2年のサッカー部が一つのクラスにまとまってたというのも苦情で来てましたし」 一太「身長にバラつきがないと、バレーボールやバスケも不公平になりますね」 久「そうねぇ……公平……公平ね……」 久「一年男子はダンスとかにしない?」 菜月「ダンス……ですか? まぁうちはダンス部ないですし、公平っちゃ公平ですが……」 久「ダンスなら接触プレイで相手にケガ『させる』こともないしね」 彩乃「?」 京太郎「頼まれてた荷物取ってきましたー」ガチャ 和「お疲れ様です」 まこ「ロン」 京太郎「あぁ……」 久「須賀君……流石に今の振り込みは集中力が足りてないわね。親リーなのに現物切らないなんて……今、何か別のこと考えてなかった?」 咲(和ちゃんのおっぱいのこととか) 優希(のどちゃんのおっぱいのこととか) 京太郎「別のこと……いえ、特に考えてませんよ? しいて言うなら」 京太郎「腹筋から力を抜かないようにはしてましたけど……」 京太郎「??? つまりどういうことだ?」 和「ですから、例えば手の中に①③と牌が並んでたとして、④を引いたら①を切りますよね? その場合、③④となって待ちは②⑤…つまり、②と⑤を警戒しないといけな……」 京太郎「ごめん。筋肉で説明してくれ」 久(無茶言うなぁ…) 和「えっと……須賀君の前にボクサーがいます。このボクサーの持ち技は右ストレートと左フックです。右ストレートが①、左フックが③だと思ってください」 筋肉「ふんふん」 和「ここで、相手は左の広背筋を後方に引き、左の上腕二頭筋が後ろに下がったのが須賀君には見えました。これが左フックの攻撃体制に入った…つまり、④を引いてテンパイし、右ストレートである①を捨てたということですね」 京太郎「なるほどな」 和「右ストレートを捨て、左フックがくると分かった須賀君は、顎かボディーにその左フックが刺さることを警戒しなければいけません。つまり、顎である②や、右脇腹の⑤を守る必要があるということです」 久(頑張るなぁ、和) 和「これが裏スジといって、危険牌を読むのに便利ですよ。また、逆に安全牌を読むための表スジというのもあって…」 京太郎「ふんふん……」 咲「うっ…体重がまた少し増えてる……」 京太郎「よしっ! 体重がまた少し増えたぜ!」 咲「ちょっと運動してお肉減らさないと……」 京太郎「もっと運動して肉増やしまくらねえと!」 咲「ごめん京ちゃん、少し黙ってて」 まこ「んじゃ、今週末よろしくな」 京太郎「はい。こちらこそよろしくおねがいします」 久「?」 久「まこ。須賀君と何の話してたの?」 まこ「んにゃ。うちの店の雀卓が一つ壊れての。新しいのが来週の頭に来るから、それまでに片づけなっちゅう話をしとったんじゃ。そしたらな…」 京太郎『じゃあその雀卓、俺が運んでもいいですかっ!?』 まこ「って」 久「…雀卓って50kgくらいあるんじゃなかったかしら」 まこ「そう言ったら大喜びしとったわ。カピバラよりも重いもんが持ちたかったんじゃと」 久「…カピバラで45kgくらいだものね」 優希「こんちゃかわ~っ!!! ……って、二人とも何してるんだじぇ?」 京太郎「腕立て伏せ」 咲「読書」 優希「それは見れば分かるけど………咲ちゃんは揺れて読みにくくないのか?」 咲「もう慣れちゃった」 優希「…京太郎は重くないのか?」 京太郎「乗ってるのが咲だからなぁ……全然負荷になんねぇ」 まこ「……久よ。いくらなんでもあの荷物は多すぎゃせんか? 京太郎の背負ってるリュック、ものすごい大きさじゃったぞ?」 久「え? 私、そんなに買い出し頼んでないけど……」 まこ「……? ……じゃあ…あのリュックの中に入ってるのはいったい……」 京太郎「……はぁ……はぁ……さすがにこれはミスったなぁ……」 京太郎「……土嚢はやっぱり重すぎたか………」 京太郎「……リュックが破れそうだ……」 京太郎「やっぱトレイルランニングは楽しいな~。自分の体が悲鳴をあげてるのがよく分かる」 京太郎「ただ、トレイルランナーは登山者からはあまりよく思われてないらしいから……ちょっとでもイメージを払拭できるよう、誰かとあった時には紳士な態度でいないとな」 京太郎「あ、こんにちわ~」 穏乃「お、こんにちわっ! ……今から向かうところですか?」 京太郎「はい。……そちらは帰りですか?」 穏乃「はい! 山登り、頑張ってください!」 京太郎「ありがとうございます。そちらも、お気をつけて」 穏乃「はいっ、ありがとうございます!」 京太郎(クロスカントリーか。あんな軽装備で山に挑むなんて、すごい女の子だな) 穏乃(トレイルランニングか。あんな重装備で山を走るなんて、すごい男の子だな) 久「オーストラリアには、サメがいるゴルフ場があるらしいわよ?」 京太郎「そうなんですか。すごいですね」 久「織田信長の身長って、私よりも低かったみたいね」 京太郎「そうなんですか。想像もできませんね」 久「握力の鍛え方ってね…」 京太郎「ちょと待ってください。メモの用意を……」 優希「やっぱり今一番熱いプロは三尋木プロだじぇ!! ドドーンと構えてババーンと和了っ!! かっこよすぎだじぇ!!」 和「私はやはり瑞原プロの打ち方が好きですね。理に適っていて、手の速さをいかに重視しているのかがよくわかります」 久「身内としては靖子こと藤田プロを推したいわね。なんやかんや言って、あのまくりは芸術的よ?」 まこ「わしも、プロと言って最初に思いつくのはやっぱ藤田プロじゃのう。咲は?」 咲「え……私はその…あんまプロとか詳しくないので……」 久「じゃあ直接負けてるわけだし、咲も靖子派にしときなさい。これで3対1対1で優勝(?)は靖子ね」 優希「ま、まだ京太郎がいるじぇ!!」 和「そうです! きっと須賀君なら瑞原プロを推してくれるはずです!」 京太郎「遅れましたー」 優希「お、いいところに!!」 久「ねぇ須賀君。プロと聞いて、最初に思い浮かぶのは?」 京太郎「え…? プロと聞いて最初に思い浮かぶもの………?」 京太郎「……プロテイン……ですか?」 泉「…あれ? 江口先輩、それなんの動画ですか? 麻雀ちゃいますよね?」 セーラ「ん…筋トレ動画やな」 泉「なんでそんなもん見て……うわ、背筋ごっつ…」 セーラ「やっぱ憧れるわぁ…この筋肉。俺もこれくらいなりたいもんや」 泉「いや、こんな女いたら引きますよ? ………うわ、腹筋も割れとるし」 セーラ「ん? 腹筋くらいやったら俺も割れとんで?」 泉「………マジすか?」 京太郎「……お、コメントついてる。何々……『脚力鍛えとるとことかも見てみたいな~。頼むで京やん!』………脚力なら……最近対局中にやってるレッグエクステンションとかにするか」 京太郎「またお会いしましたね」 穏乃「ですね」 京太郎「前回は奈良。今回は長野……ということは?」 穏乃「今回は私がここまで遠征してきた形ですね」 京太郎「今日はどういったコースを?」 穏乃「今日はこの、迂回路の方をいくつもりです。そちらは?」 京太郎「こっちの長い階段を上っていくコースです。それに合わせて、今日は軽装にしてるので」 穏乃「ホントですね。それじゃあ、頂上で」 京太郎「えぇ、お気をつけて」 久「ねぇねぇ、須賀君。あの、アニメとかマンガでやってる、一気に力を入れて服を破裂させるやつは出来ないの?」 京太郎「なに言ってるんですか、部長。そんなこと出来るわけないでしょ」 和「そうですよ。あんなのはアニメの誇張表現……」 京太郎「そんなことしたら服が勿体ないじゃないっすか」 和「……………え?」 玄「ちなみに…和ちゃんがジャージで同じようなことをしかけたこと、私は知っていますのだ」 和「こんにちわ……って、何してるんですか? 三人で」 京太郎「腕立て伏せ」 咲「読書」 優希「タコス食べてる」 和「いやまぁそれは見たらわかりますけど……そこ、揺れないんですか?」 咲「もう慣れちゃった」 優希「広いし、以外と快適だじぇ?」 和「…須賀君は、重くないんですか?」 京太郎「乗ってるのが咲と優希だしなぁ……まだまだ負荷になんねぇや」 京太郎「ついにインターハイの舞台…東京にきたわけだが……」 シロ「ダルい……」 京太郎「……すいません。こんなところで寝てると風邪ひきますよ…」 シロ「歩くのダルい……控え室まで運んで」 京太郎「よしきたっ!!」 シロ(………よしきた?) シロ「……ただいま~」 塞「あ、シロ! どこ行って……ってその人だれ?」 京太郎「こんにちは」 シロ「筋肉。それより、ちょっと豊音にお願いが……」 豊音「え…? 何かな……?」 京太郎「う~ん……まだ軽いですねぇ」 豊音「うぅ…お役に立てず、申し訳ないよ~」 京太郎「……あ、久しぶり。まさか東京でも会うとはな」 穏乃「おぉ、京太郎じゃん! やっぱここに来たかぁ」 京太郎「そりゃなぁ。でも、穏乃は大会出場するんだろ? こんなとこ来ていいのかよ」 穏乃「本来のポテンシャルを引き出すためには、普段と同じことをするのがいいのっ! それは筋トレも麻雀も一緒だよ!」 京太郎「なるほど…一理ある。それでここに来たわけだ」 穏乃「ずっと楽しみにしてたんだよね! やっぱ東京といえばここが有名だし……ここも元は修験道らしいしね」 京太郎「そうだったのか。んじゃ、登りますか」 「「高尾山に!!」」 特にオチもなく、おしまい。 穏乃「やっほ~、遊びに来たよ~……って、何してるの?」 京太郎「腕立て伏せ」 咲「読書」 優希「タコス食べてる」 和「エトペン抱いてます」 穏乃「揺れないの?」 咲「もう慣れちゃった」 優希「広いし、以外と快適だじぇ」 和「流石に3人にもなると狭いですけどね」 穏乃「京太郎は重くないの?」 京太郎「まぁ、ちょうどいい感じかな。三人も乗ってるとはいえ、咲と優希と和だからな」 穏乃「…なんか疎外感…………私だけ仲間はずれじゃん」 和「……乗りたいなら、私がどきましょうか?」 穏乃「和」 和「はい?」 穏乃「私の背中に乗ってよ! 私も腕立てする!!」 和「そっちで来ましたか……」 シロ「この背筋のフィット感……いい……」 京太郎「はいはい。宮守の控え室に帰りますよ~」 京太郎「お邪魔します」 シロ「ただいま」 塞「あ、また須賀君におんぶで連れてこられて……毎度ごめんね? 須賀君」 京太郎「別にかまいませんよ。広背筋とか三角筋とか鍛えられますし。あと大腿筋も」 シロ「そゆこと。ギブアンドテイク」 胡桃「コラ」 京太郎「それでは、失礼します」 シロ「胡桃」 胡桃「え? 何?」 シロ「……いいね。充電」 胡桃「…つまり須賀君の電力が私にそのまま供給されてるってこと?」
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http //hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1358686653/ ハギヨシ「まぁ立ち話もなんですから私の部屋に行きましょう」 京太郎「はい」 ハギヨシ「しかし嬉しいものです」 京太郎「何が…ですか?」 ハギヨシ「頼られることが、ですよ。貴方の周りには素敵な友人が沢山いる……ですが貴方は私を選んだ」 京太郎「こんなこと…ハギヨシさんくらいにしか頼めなくて」 ハギヨシ「んっふ」 京太郎「お邪魔しまーす」 ハギヨシ「適当に座ってください」 京太郎「しかしスゲーっすね。整頓され尽くしててこれぞ大人の部屋、って感じです」 ハギヨシ「ただ殺風景なだけですよ。っと、アイスコーヒーくらいしかありませんがよろしければ」 京太郎「あ、おかまいなく」 京太郎「はい、実は……」 京太郎「オレ、最近部のみんなから認識されてないみたいで」 ハギヨシ「少し…分かりかねますね」 京太郎「意図的に無視されてるわけじゃあないんです。けど、何故かオレの声がみんなに届かなくって」 京太郎「なんつーのかな…みんなとの繋がりが希薄になった、とかですかね?」 ハギヨシ「ふむ……」 京太郎「自分でも影が薄くなってきてるって分かるんです。このままじゃ……」 京太郎「オレという存在を誰にも認識されなくなるような気がして……」 京太郎「夜も眠れないんです…寝て起きたら消えちゃうんじゃないかって……」 ハギヨシ「……分かりました。私が何とかして差し上げます」 京太郎「ハギヨシ…さん」 ハギヨシ「まずは休みましょう。今の貴方は肉体的にも精神的にも相当参ってる」 京太郎「で、でも……寝たら」 ハギヨシ「ではこうしましょう」ギュッ ハギヨシ「貴方が寝ている間、私が手を握っています。これで安心です」ニコッ 京太郎「ありがとう…ありがとうございます……」 ハギヨシ「よい夢を……」 京太郎「スースー」 ハギヨシ「んふ、よく眠ってらっしゃる。余程疲れていたのでしょう」 ハギヨシ「さて、どうしたものですかね」 ハギヨシ「繋がり、ですか……」 京太郎「んん……」 ハギヨシ「良く眠れましたか?」 京太郎「あ、はい」 ハギヨシ「貴方は此処にいます」 京太郎「……?」 ハギヨシ「私がずっと見てましたから」 ハギヨシ「私がずっと触れてましたから」 ハギヨシ「貴方は消えてません」 ハギヨシ「私が消させません」 京太郎「ハギヨシさん……」 ハギヨシ「貴方が寝ている間に答えを見つけておきました」 京太郎「……?」 ハギヨシ「貴方は人との繋がりを求めている」 ハギヨシ「当然です、人とは独りでは生きていけない生物なのですから」 ハギヨシ「ですが、今の貴方は周囲の人間と限りなく繋がりが希薄になっているようです」 ハギヨシ「貴方が寝ている間、この部屋にメイドが一人入ってきたのですが不思議と貴方の存在に気付かなかった」 京太郎「え……?」 ハギヨシ「つまり貴方は私以外の人間に認識されてない可能性もあるのです」 京太郎「嘘…だろ……?」 ハギヨシ「残念ながら……」 京太郎「そんな…これからオレはどうすれば……」 ハギヨシ「安心なさい、私がいます」 ハギヨシ「私が傍にいます」 ハギヨシ「私が貴方を救ってみせます。必ず……」 ハギヨシ「それでは不安ですか?」 京太郎「い、いえ……不思議と心があったかいです」 ハギヨシ「んっふ。ではまずお尻を出して下さい」 京太郎「……は?」 京太郎「言ってる意味が……」 ハギヨシ「人と人との繋がりは大別すると2種類になります」 ハギヨシ「精神的な繋がりと肉体的な繋がり」 ハギヨシ「精神的な繋がりとは長い時間をかけての積み重ねが必要です」 ハギヨシ「ですが肉体的な繋がりは入れるだけで済みます」 京太郎「じゃ、じゃあ精神的な方で……」 ハギヨシ「貴方には時間がない!さぁ、早くなさいっ!」 京太郎「は、はいっ!」 京太郎「これでいいでしょうか……?」 ハギヨシ「んっふ、もっと華奢か思っていたのですが…と脱ぐと意外と凄いんですね」 京太郎「は、恥ずかしいこと言わないでください!」 京太郎「でもオレ…こーゆーの初めてで……」 ハギヨシ「安心なさい。私が全部やりますから」 ハギヨシ「貴方は私に身体を預けているだけでいいのです」 京太郎「ハギヨシさん……」キュンッ 京太郎「これって何か準備とかいるんでしょう?」 ハギヨシ「ご安心を。貴方が寝ている間に全部済ませておきました」 京太郎「そういえばお尻になにか違和感が……」 ハギヨシ「少々広がってるだけですよ」 京太郎「ひ、広がっ!?」 ハギヨシ「当然です、そのままでは入りませんから」 京太郎(い、一体何が始まるっていうんだ……)キュンッ ハギヨシ「では私の方も……」ヌギヌギ 京太郎(すごく引き締まった身体だ…無駄なとこなんて一つもない完成された肉体)キュンキュンッ 京太郎(オレ、初めては和や風越の人みたいなキレイな人がいいって思っていたけど……) 京太郎(なんんだろう……興奮してるのかオレは)ムクムク ハギヨシ「お待たせしました」 京太郎「……っ!?」 ハギヨシ「どうか…されましたか?」ギンギンッ 京太郎「こ、これが…入っちゃうんですか?」 ハギヨシ「ええ」 京太郎「無理無理っ!絶対無理です!こんな大きいの入るわけがありません!」 ハギヨシ「例え無理でも捻じ込みます。貴方の為ですから」 京太郎「ハギヨシさん・・・・・・・」キュンッ ハギヨシ「ではいきますよ……心の準備はよろしいですね?」 京太郎(昔、幼馴染にホモビを見せてもらったことがある) 京太郎(その時は気持ち悪ぃって思ってた。そんなの変態がすることだと思ってた) 京太郎(でも今は……) 京太郎(案外捨てたもんじゃねぇって思っちまった…それほど悪いものじゃないって思っちまった) 京太郎(不思議と怖くない…ハギヨシさんだからかな?) 京太郎(ハギヨシさんを傍に感じる……悪くねぇ…悪くねぇよこの感じ) ズブブッ 京太郎「んあああーーーーーーっ!!!」 ハギヨシ「痛くはありませんか?」 京太郎「痛いです。とっても」 京太郎「でも、誰かと繋がれたんだなって実感できる…心地いい痛みです」 ハギヨシ「んっふ、それは何よりです」ニコッ 京太郎「ハギヨシさん……ありがとうございます」 ハギヨシ「いいってことですよ」 ハギヨシ「これも執事の嗜みですから」 ハギヨシ「これで貴方は私と繋がったことにより他の人にも認識できるはずです」 京太郎「嬉しい……これが人と繋がるっていうことなのか」ポロポロ ハギヨシ「泣かないでください…貰い泣きしてしまいそうです」 京太郎「ハギヨシさん」 ハギヨシ「ですが私一人の力では少々役不足のようです」 京太郎「どういうことですか?」 ハギヨシ「前だけの快楽だけではこの状態は保てそうもない」 ハギヨシ「つまり、いずれは萎れ貴方との繋がりがなくなる」 京太郎「なんだって……!?」 ハギヨシ「くっ……今にも萎れてしまいそうです」 京太郎「ハギヨシさんっ!しっかりしてください!」 ハギヨシ「不甲斐ない私をお許しください」 京太郎「何言ってるんですか!つまりハギヨシさんに繋がる人がいればいいことっすよね?」 ハギヨシ「え、ええ……」 京太郎「あ、あの人なんかどうですか?龍門渕の背の高い人」 ハギヨシ「井上さんですか……」 ハギヨシ「あまり迷惑かけたくないのですが、そうも言ってられませんね」 ハギヨシ「分かりました。彼女の部屋へ案内しましょう」 京太郎「おいっちにっ!おいっちにっ!」ノタノタ ハギヨシ「ここです」 ハギヨシ「井上さん?起きてますか?」コンコン 純「萩原さん!?珍しいなオレの部屋に来るなんて……」ガチャ 京太郎「……んっ」ビビクンッ ハギヨシ「ふんっ…ふんっ……」ズッポズッポ 純(疲れてるのかな?オレ……) 純「テメェは確か清澄の……」 京太郎「井上さん…にっ……ん・・・折り入って話が……あります!」 純「ってかなんだよ!汚ぇもん見せやがって!」 京太郎「汚くなんかねェッ!」 ハギヨシ「んっふ」 京太郎「これはな…ハギヨシさんとオレとの繋がりなんだよッ!」 京太郎「誰にも認識してもらえないオレの為にハギヨシさんが差し伸べてくれた繋がりなんだよッ!」 京太郎「これを馬鹿になんてさせねェ…貶させやしねェ……ああ、させてたまるかよッ!」 純「……」 純「その……悪かったな」 純「その…よく知りもしねぇで汚いなんて言って……すまん」 京太郎「分かってくれたらいいんだ」 純「で?オレに話って」 ハギヨシ「私の後ろの穴に差し込んでもらえませんか?」 純「……は?」 ハギヨシ「ですから貴方のips棒を私の穴に……」 京太郎「ハギヨシさんが一大事なんだよっ!早くしろっ!」 純「」 純「これで……いいのか?」ズブブ ハギヨシ「んっふ」 京太郎「流石ips細棒!人類の英知!」 純「ってか、萩原さん締め付けすぎ…これじゃあそう保ちそうにねぇよ」プルプル ハギヨシ「それは困りましたね」 京太郎「だったら簡単じゃねぇか。次の人を探せばいいだけの話だろ?」 ハギヨシ「ふふ、それもそうですね」 純「すまねぇ……オレが不甲斐ないばっかりに」 京太郎「謝ることなんか一つもねぇよ!オレたちは一度は繋がった仲、だろ?」 純「須賀君……」 純「じゃあここでお別れだ……旅の無事を祈ってるぜ」 京太郎「井上さんもお元気で」 純「ってあれ?抜けねぇ…抜けねぇよこれ」 ハギヨシ「んっふ。申し訳ない尻圧を鍛えるのも執事の勤めですので」 ハギヨシ「そう簡単には抜けませんよ?」 京太郎「旅は道ずれって奴だな」 ハギヨシ「ですね。ふふ……」 純「そういやお前……」 京太郎「ん?どうしたんですか?」 純「さっきより影が濃くなってねぇか?」 ハギヨシ「言われてみれば……元が消えてしまいそうなくらい薄かったので分かりにくいですが」 京太郎「つまりこれって……」 ハギヨシ「繋がる人数が増えれば元に戻るかもしれないということですよ」 ハギヨシ「もっとも可能性があるというだけですが」 京太郎「いや、1%でも可能性があるならオレはそれに縋りたい……」 純「……決まりだな」 ハギヨシ「まだ見ぬ仲間を求めて」 京太郎「行こう!みんなっ!!」 純「となるとまずは足が必要だな。オレたちを運ぶための」ズンズン ハギヨシ「ですね」ジュポジュポ 京太郎「んっ……」 ハギヨシ「ですがこの状態で私が車を運転するのは些か無茶ですね」 純「心配ねぇよ…オレたちには仲間がいるんだ。県大会で戦った友がな」 京太郎「んんっ…つまり次の目的地はっ……」 純「そう、鶴賀学園だ――」 京太郎「夏とはいえ夜に下半身すっぽんぽんは流石に冷えますね」 ハギヨシ「もう少し動きましょうか?」ジュッジュッジュッ 京太郎「んあーーーっ!」 ハギヨシ「ところで夜も深まってきましたが、この時間に鶴賀学園に行っても誰もいないのでは?」 純「実はさっき連絡入れてな……鶴賀は夏の合宿をしているらしい」 京太郎「はぁ…はぁ……でもあんまり待たせるのも悪いっすね」 純「だな、とっとと行くか」 純「ここだな」 京太郎「ここが鶴賀の麻雀部か」 ハギヨシ「ここに私たちを為の運ぶ足が……」 京太郎「ノックしてもしもお~~~し」コンコン ゆみ「どちら様でっ……」 桃子「せんぱ~い、どうしたっすか?」 純「ほっ…はっ……」ジュプジュプ ハギヨシ「ふんっ……ふんっ……」ズプッズプッ 京太郎「」ギンギン ゆみ「」 桃子「」 ゆみ「なっ…な、な、な……何をしてるんだお前らはッ!」 ハギヨシ「んっふ、もちろんナニですが」ジュプジュプ 桃子「痴漢っすか?痴漢なんすか!?」 京太郎「痴漢じゃねェよッ!!」 桃子「ひっ……」ビクッ 京太郎「痴れた漢なんかじゃ断じてねェ!オレたちは……」 京太郎「今を生きる漢なんだよッ!!!」 ゆみ「お前の言い分は分かった。で、何の用だ?」 純「蒲原さんを借りたくてな。龍門渕から歩いてきた」 ゆみ「蒲原を……?」 智美「ワハハー話は聞かせてもらったぞー」 ハギヨシ「私たちを運んでいただけませんか?」 京太郎「まだ見ぬ仲間のところへっ!」 智美「いいぞー」 ゆみ「いいのかよ!?」 智美「ワハハー人の役に立つのがなによりの幸せだからなー」 純「これで足は確保できたな」 ハギヨシ「ええ、これなら全国どこでも」 京太郎「行けるッ!!」 京太郎「で、お前はどうするんだ?」 桃子「え…私っすか!?」 桃子「というか見つからないように消えてたのに……」 桃子「どうして……」 京太郎「オレも色々あって影が薄くなっちまってな」 京太郎「ハギヨシさん以外には見えなかったらしい」 京太郎「だからか知らんがはっきり見える!お前の姿が」 桃子「私は……」 京太郎「お前も加治木さんと部の仲間以外には見えないんだろ?分かるよ」 京太郎「でもオレは仲間を見つけて、繋がって、通じ合って…オレをオレだと皆に認識してもらいたい」 京太郎「お前はどうする?一緒に行くか?」 桃子「私は……先輩がいてくれればそれでいいっすから…それだけで十分っすから……」 京太郎「うるせェ!行こうッ!!」 桃子「……はいっす!」 桃子「先輩…私、行ってくるっす」 ゆみ「桃……そうか」 桃子「お別れは寂しいっすけど先輩に誇れる私になるために旅に出るっす」 ゆみ「ふっ、まったく…手のかかる後輩を持ったものだな私は」 桃子「先輩……?」 ゆみ「よっこいしょ」ズブブ 桃子「んんっ……」 ゆみ「私も行くよ。私が桃のことを手放すわけがないだろ?」ジュプジュプ 桃子「先輩……いいんすか?」 ゆみ「私が言ったこと忘れたのか?」 桃子「忘れるわけ…ないっす」 ゆみ「私は桃が欲しいと言ったんだ…だからこの手を離したりはしない」 桃子「私もこの手を離さないっす」 ゆみ「桃…私たちはいついかなる時でも一緒だよ」 桃子「はいっす」 ゆみ「蒲原!車をっ!」 智美「ワハハーおまかせあれー」 桃子「しかしなかなか厳しい体勢っすね」 純「そりゃ車は1列に繋がった人間が乗る想定で作られてないからな」 ハギヨシ「ですが旅に困難は付き物というものです」 京太郎「でも、こうしてると皆を傍に感じることができる」 ゆみ「ふっ、そうだな」 智美「ワハハ―それで行き先はどうするんだー?」 京太郎「そうですね……ちょっと暑くなってきたから北へ¥の方に行きたいですね」 智美「ワハハ―了解ー」 こうして一行はまだ見ぬ仲間を求め、北へ向かうのだった―― 胡桃「塞!何見てんの?」 塞「胡桃……」 胡桃「傘」 塞「ありがと」 塞「ほら、隣の県で不審な集団がいたって話」 胡桃「え、初耳」 塞「その人たちたぶんさっきの電車に乗ってた」 胡桃「いやいや…気のせいでしょ」 塞「だとしても、悪い気のせいじゃないと思うんだ」 宮守女子麻雀部 トシ「まぁ長野から?遠いところからよく来たねぇ」 京太郎「はは、偶然近くまで来たものですから」 トシ「何もないとこだけどゆっくりしていっておくれよ」 トシ「精力ドリンクは?」 京太郎「あ、頂きます」 純「しかし、偶然来たところがまさか清澄が全国2回戦で戦った高校だったとはな」 桃子「世の中狭いっすねー」 ハギヨシ「これも何かの縁なんでしょう」 ゆみ「そうだな……そろそろお尻が寒くなってきたから人員の補給が必要だしな」 トシ「あの子らもそろそろ来ると思うんだけどねぇ」 白望「こんにちは……」 トシ「噂をすれば」 京太郎「こんにちは」 ハギヨシ「んっふ」 桃子「お邪魔してるっすよー」 白望「……」(ダルいから目を合わせない) トシ「あらあら」 エイスリン「シロ!トシサン!」 トシ「あらエイスリン…こんにちは」 エイスリン「コンニチハ!」ペッコリン 京太郎「こんにちは」ギンギン ゆみ「桃っ……!桃っ……!膣で出すぞっ!」パンパン 桃子「先輩っ…クるっす……何かキちゃうっす!」 エイスリン「What?」 ハギヨシ「オージャパニーズケツマンコトレイン!」 エイスリン「オーケツマンコトレイン!ケツマンコトレイン!」 トシ「エイスリンは興味持ったようだね」 白望「ダルい……」 エイスリン「ナルト、ナルト、ラセンガン」 エイスリン「ナルトトサスケ、ハダカ!?」 エイスリン「やっぱりハギヨシ鬼畜攻めがいいと思う京太郎は最初のうちは 『や、止めろ!俺には咲が!』とか言ってるけど後半にはもうアヘって 完堕ちヘブン状態とかが最高でも京太郎が執事見習いとして雇われての純愛√も捨てがたいよね」 ハギヨシ「イェア!」 塞「こんにちは」 胡桃「こんにちはっ!」 トシ「塞、胡桃…遅かったね」 京太郎「こんにちは」ギンギン 塞「トシさん、何なの?この人たち」 胡桃「変態?」 京太郎「変態じゃあねェッ!」 胡桃「うるさいそこ!」 京太郎「いいか?これは変態だ、と切り捨てるだけなら簡単だ!でもそうじゃねェッ!」 京太郎「確かに外面はアレかもしれねェッ!けどなッ!オレたちは繋がってるんだよッ!」 京太郎「肉体でッ!絆でッ!魂でだッ!!」 京太郎「だからよく知りもしないで馬鹿にされるのが我慢ならねェッ!」 京太郎「いいぜ、お前がこれを変態だって言うならまずはそのふざけた(ry」 ゆみ「臼沢さんに頼みがあるっ!」 ゆみ「私のお尻を塞いでくれ」 塞「」 塞「ふ、塞ぐって……?」 ゆみ「そのips細棒で私のお尻を塞げと言ったんだ。私は君も欲しいッ!」 桃子「ちょっ、先輩!?」 ゆみ「桃の桃尻は気持ちいいなぁ」パンパン 桃子「んんっ…あっ…先輩……」 塞「私はちょっとそういうことは……」 京太郎「何迷ってんだよッ!」 塞「……っ!?」ビクッ 京太郎「目の前に穴があるんだッ!だったらやることは一つッ!そうだろ?」 京太郎「そろそろ始めようぜ……アンタの物語をッ!!」 塞「言ってることは意味不明だが……」 塞「何か胸を打つモノがあったよ……」 塞「仕方ない…塞ぐか……」ズブブ ゆみ「んんっ……」ビビクンッ 塞「ふーっ」 豊音「遅れてごめんなさいだよー」 トシ「遅かったね…豊音」 豊音「なにこのちょー摩訶不思議な物体」 エイスリン「ケツマンコトレイン!」 豊音「ケツ…なに?」 ハギヨシ「んっふ、人と人を繋ぐ奇跡とでも言っておきましょうか」 豊音「人と人を繋ぐ……」 トシ「興味があるようだね、豊音」 豊音「でもでも私なんかが皆さんのお仲間にとか……ありえないかなー…とかとか」 京太郎「ありえないわけねェだろッ!」 京太郎「こっちの穴はいつでも大歓迎なんだよッ!なぁ?」 塞「うん」 エイスリン「トヨネ!イッショニ!」 豊音「で、でも……」 京太郎「でもじゃねェ!オレはアンタと繋がりたいんだよッ!他の誰でもねェ!アンタとだ!!」 豊音「ちょーうれしいよー」 エイスリン「どっこらせっと……」ズブブ 豊音「おっかけるけどー」ズブブ トシ「塞、エイスリン、豊音…いってらっしゃい」 白望「胡桃は……?」 胡桃「わ、私も……」 胡桃(届かないっ!) 京太郎「残念だなぁ……身長制限があんだよ」 胡桃(いつか潰すっ!) ゆみ「お尻も温まってきたことだし、そろそろ蒲原のところへ戻るか」 純「けっこう待たせちまったもんな」 京太郎「それじゃあトシさん、お世話になりました」 トシ「達者でね。あ、精力ドリンクは?」 京太郎「はい、頂きます」 こうして一行は宮守女子を後にした―― 智美「ワハハ―また人数増えたなー」 ハギヨシ「そろそろキツくなってきましたね」 豊音「でもこうやってくっついてるとちょー温かいよー」 桃子「それで次はどこ行くんすか?」 ゆみ「下がすっぽんぽんじゃ寒いからな」 京太郎「じゃあ南に行きましょう」 智美「ワハハー了解ー」 智美「ワハハ―奈良に来たぞー」 京太郎「そういや、ここって阿知賀女子がありましたよね」 純「決勝で清澄と戦ったとこだっけか」 京太郎「ええ」 ハギヨシ「これも何かの縁ですかね」 ゆみ「不思議なものだな」 塞「豊音がそろそろ限界なの!早く塞がないと」 豊音「ちょー限界だよー」 エイスリン「トヨネ、ガンバッテ!モウスコシダカラ」 阿知賀女子―― 京太郎「ノックしてもしもお~~~し」コンコン 灼「何…?誰……?」 京太郎「こんにちは」ギンギン ハギヨシ「んっふ」パンパン 灼「何これキモ……」 京太郎「気持ち悪くねェッ!」 灼「……っ!」ビクッ 宥「灼ちゃん、どうしたの?お客様?」 灼「不審者だと思……」 京太郎「不審者でもねェッ!」 京太郎「オレたちはな……肉体で、精神で、魂で繋がった家族なんだよッ!」 京太郎「オレを気持ち悪いだとか言うのは構わねェ……」 京太郎「でもなっ!オレの家族を貶すのは絶対ェ許さねー!」 宥「肉体で、精神で、魂で繋がる……あったかそう」 灼「宥さん!?」 京太郎「あぁ、温けぇよ…とびっきりに温けぇ」 京太郎「人と人との繋がりはなぁ…とんでもなく温けぇもんなんだよッ!」 宥「おこたよりも……?」 京太郎「もちろんだ!床暖よりも温けぇぜ!」 宥「本当にあったかいの?下すっぽんぽんだけど……」 京太郎「オレ言ったぞ!!何回も言った!!あったけぇって!!何回言わせんだ!!!」 宥「私をあたためてもらってもいいかな?」 京太郎「あたためる?お互いあったかくなんだよッ!そんな甘ったれた考え2秒で切り返してオレの背中に勝手に乗れ!!」 宥「はいっ!」 宥「んっしょ」ズブブ 宥「あったかーい」 豊音「宥さんのips細棒もちょーあったかいよー」 憧「おわっ、宥姉・…なにやってんの?」 穏乃「なにこれすげー」 宥「あ、憧ちゃん、穏乃ちゃん……これすっごくあったかいの」 穏乃「なんか…面白そう!」 憧「ちょ、シズ!?」 京太郎「お前も一緒に来るか?」 穏乃「はいっ!お願いします!」 京太郎「おいおい…敬語はいらねぇよ」 京太郎「オレたちは家族になるんだ。そうだろ?」 穏乃「じゃあ失礼して……」ズブブ 宥「あったかーい」 憧「あたしも次入れるー」 京太郎「よしっ、来い!」 憧「シズー…ようやく一つになれたね」ズブブ 京太郎「さて、体もあったまってきたことだし」 ハギヨシ「次に行きましょうか」 純「そうだな」 エイスリン「モットツナゲル!」 京太郎「もちろんだッ!行こうよみんな!!」 灼「……」 玄「ごめんねー、掃除当番が長引いちゃって」 玄「あれ?おねーちゃんたちは?まだ来てないの?」 灼「……」フルフル 灼「宥さんたちは遠いとこへ行った……」 玄「……?」 195 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/21 16 22 41 ID MwTKRPsp0 智美「ワハハ―また人数増えたんだなー」 京太郎「もっと増やしてみせますよ」 憧「せ、狭い……」 桃子「苦しいっす」 宥「あったかーい」 京太郎「さぁ、行きましょう!オレたちに立ち止まってる時間なんてありませんから!」 智美「ワハハ―了解ー」 197 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2013/01/21 16 27 55 ID MwTKRPsp0 いちご「そんなん考慮しとらんよ……」 京太郎「考えんなッ!感じるんだよッ!」 恭子「メゲるわ……」 京太郎「メゲんなッ!入れろよッ!」 セーラ「ナカデダスデー」 京太郎「病気には注意しろよ?」 煌「すばらですっ!」 京太郎「ああ、すばらだ」 霞「得意分野、いかせてもらおうかしら」 京太郎「大歓迎だッ!!」 智美「ワハハ―流石に限界だぞー」 恭子「永水のおっぱいお化けが3人分くらい場所くらい(ry」 霞「あらら~私がどうかしたかしら~?」 恭子「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」 煌「流石にこの狭さはすばらくない」 ハギヨシ「ですね、そろそろ長野に帰りましょうか」 京太郎「蒲原さん、最後に一つ寄りたい場所があるんですけど」 智美「ワハハ―どこだー?」 京太郎「東京の白糸台…そこに会わなくちゃいけない人がいるんです」 白糸台―― 京太郎「ノックしてもしもお~~~し」コンコン 菫「誰だ?ここは関係者以外は……」 京太郎「こんにちは」ギンギン 菫「なっ!?何をしに来たこの変態ッ!!」ドシュ 京太郎「がはっ……」 ハギヨシ「京太郎君、大丈夫ですか?」 純「テメェ、いきなりなにしやがんだッ!」 菫「それはこっちのセリフだっ!」 京太郎「温いな…甘くて温い……」 京太郎「こんなんじゃ倒せねぇ…このオレは倒せねぇな……」 菫「コイツ……」 照「菫、後は私がやる」 菫「照…だがお前は……」 照「菫どいて!そいつ殺せない!」 京太郎「来いよ!今日はアンタに話があってここに来たんだからなっ!」 照「須賀京太郎ぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!」 照「お前はっ!妹をっ!咲をっっ!!」 京太郎「ああ、そのことでここに来た」 照「私は!お前がッ!憎いッッ!!」ドゴォ 京太郎「ゲホッ……」 純「須賀君!」 京太郎「もっとだ…もっと打ってこいよ…全部受け止めてやる……」 照「須賀京太郎ォォオオーーーッ!!!」ドゴォ 照「お前がッ!」ドボォ 照「死ぬまで!」ゴシャァ 照「殴るのをやめないッ!」バキィッ 京太郎「へへ……」 菫「コイツ…照のあれだけの攻撃を受けて……」 照「何故だ…何故倒れん?」 京太郎「倒れるかよ…倒れるとしても前のめりだ!そうだろ?みんな!」 淡「うわーナニコレ?」 霞「ここの穴にips細棒を入れるのよ」クパァ 照「お前は……」ペシ 照「咲を……」ペシ 照「気持ち悪いって……」ペシ 菫「照…もう止めてくれ……」 照「言った……」ペシ 京太郎「はい……」 照「咲の趣味を気持ち悪いって……」ペシ 照「それで咲は…すっごく傷ついた……」ペシ 京太郎「はい……」 照「確かに咲の趣味は憚られるものだ……」ペシ 照「でも…それでも……私はお前を許せない……」ペシ 淡「イイ!イイよこれ!」パンパン 霞「あらあら」 京太郎「お姉さん……」 照「お前にお姉さんとだけは呼ばれたくない」 京太郎「照さん……オレ、咲に謝ってきます」 京太郎「今日ここに来たのはその報告と、ケジメをつけるために」 照「そうか……」 京太郎「本当にすみませんでしたっ!」 照「……」 照「……顔を上げろ」 照「悔しいが咲の心の傷は私でもどうにもできなかった」 照「きっと咲の心の傷を癒せるのは……」 照「不本意だが咲を頼むよ」 京太郎「はいっ!」 智美「ワハハ―酷い顔だなー」 京太郎「照さんの拳、すっごく重かったですから」 煌「家族を想う気持ちはどんなものより重いものですから」 京太郎「すみませんこんなことに突き合わせてしまって」 ゆみ「ぷっ…今更、何言ってるんだ」 穏乃「ここまで来たんだから!」 憧「最後まで突き合せなさいよね?」 いちご「ちゃちゃのんも突き合うよ~」 エイスリン「ズットイッショ!」 豊音「君はぼっちじゃないよー」 純「そうだぜ?オレたちは家族なんだから」 ハギヨシ「一蓮托生ってやつですよ」 京太郎「みんな…ありがとう…ありがとうございます……っ!」 清澄高校―― 智美「ワハハ―ここでいいのかー?」 京太郎「はい。蒲原さん、ありがとうございましたっ!」 智美「ワハハー水臭いぞー私にとって人が幸せなるのが一番の幸せだからなー」 智美「頑張るんだぞ?」 京太郎「はいっ!」 繋がりこそしなかったものの、京太郎と智美の間には確かな繋がりがあった―― 京太郎「ちわーっす!」 久「須賀君!?」 優希「きょーたろー!今までどこ行ってたんだじょ!」 京太郎「ちょっと自分を取り戻すための旅を」 まこ「よく分からんが……アンタが無事でなによりじゃ」 京太郎「ご心配おかけしました」ペッコリン 咲「京…ちゃん……」 京太郎「咲…今日はお前に謝るためにここに来たんだ」 京太郎「昔、オレが咲の趣味を気持ち悪いって言ってしまったことを謝りたい」 京太郎「本当にごめんっ!」 咲「京ちゃん…いいよそんな昔のことなんか……」 京太郎「よくねェッ!」 咲「……っ!?」ビクッ 京太郎「よくなんかねぇよ……」 京太郎「今日、オレは咲のお姉さん…照さんに殴られてきたんだ」 咲「お姉ちゃんに……?」 京太郎「この面をよく見ろッ!これがッ!もういいって…水に流せるってことかよッ!?」 京太郎「照さんはすっごく怒ってたッ!オレを殺す勢いでぶん殴ってきたッ!当の本人じゃねえのにだッ!」 京太郎「咲はどうなんだよッ!?オレは咲にもっとぶん殴られる覚悟でここに来たッ!」 京太郎「例え、許されなくたって…殺されたってオレはお前に謝りたいッ!!」 京太郎「本っ当にごめんなさいっっっ!!!」ドゲザー 咲「……」 咲「京ちゃん……顔を上げて」 京太郎「咲……」 咲「本当にもういいの…本当だよ?」 咲「自分の趣味が人には言えない…憚られるようなことだって自分が一番分かってるから……」 咲「もう…いいの……」 京太郎「違う……」ボソッ 咲「え……?」 京太郎「お前の趣味はなぁ……」 京太郎「オレを救ってくれたんだよッ!!」 咲「……はい?」 京太郎「この世界から消えてしまいそうだったオレを…ハギヨシが繋ぎ止めてくれた……」 京太郎「お前の大好きなアレでだよッ!」 咲「きょ、京ちゃん!?」 京太郎「昔はさっぱり理解出来なかった…でも今は違うッ!」 京太郎「人との繋がりがこんなにもあったけぇなんて知らなかった」 京太郎「悪くねぇって…捨てたもんじゃねぇって思った……」 京太郎「今ならお前に言える……」 京太郎「オレもケツマンコが大好きだああああああっっ!!!」 京太郎「咲…昔、オレに嬉しそうに語ってくれたよな?」 京太郎「お前の夢を、さ……」 京太郎「『ケツマンコ列車で世界中の人々が繋がれば争いなんて起こらないのに』ってさ……」 咲「京ちゃん…覚えててくれたんだぁ」 京太郎「当たり前だろ?」 京太郎「お前の夢、叶えてみせるぜ」 京太郎「今はまだちっちゃいけどさ……」 京太郎「これからもっと大きくする……必ずする!」 京太郎「さぁ、始めようぜ!咲っ!オレとお前の夢の続きをさぁ!!」 咲「はいっ!」 淡「サキ!御託はいいからさっさと入れちゃってよ」クパァ 和「宇宙だ…尻穴の中に宇宙が広がってる……」 咲「じゃあ…いくよ?」 淡「遠慮はいらないよ?」 咲「んっ……」ズブブ 淡「……あはっ」ビビクン 咲「貫!貫!もいっこ貫っ!!」パンパン 淡「イイ!イケてんじゃん、サキッ!」 京太郎「後はオレとお前が繋がれば……」 咲「京ちゃん…きてっ!」クパァ 京太郎「行くぞッ!咲ぃぃぃぃぃいい!!!」 こうして、オレたちは繋がった。一つになった。 そして、世界が繋がった―― 槓!
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http //hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1359381087/ 久「突然、どうしたのよ?」 京太郎「俺、気付いたんです。咲と優希から好かれてる事に」 久「あぁ、そう…。まぁ否定はしないわよ」 京太郎「どっちも悪い子じゃないですよね?」 久「んー、タイプは違うけど。二人ともいい子なんじゃない?」 久「もし私が須賀君なら咲を選ぶわね。まぁ、優希は少しワガママだからね」 京太郎「ですね。優希と付き合ったら、奢らされたりタコス作らされたり…」 久「うわー、めんどくさっ」 京太郎「けど、可愛い所もいっぱいあるんですよ?」 久「そうね。構ってあげたくなる系よね」 京太郎「逆に咲と付き合ったら…」 久「押しに弱そうだから、付き合った初日でエッチ出来るわよ。私なら、その自信がある」 京太郎「料理出来たり、家事も父子家庭だから、何でもやってるみたいです」 久「へぇー、優希より嫁スキルは高いのね。私が欲しいくらい」 京太郎「どっちも渡しませんよ」 久「わかってるつーの。年下好きじゃないから、同い年か年上で見つけて来るから大丈夫よ」 京太郎「咲はまぁ、中身は好きですよ」 久「性格って事かしら?」 京太郎「そうですね。内気で引っ込み思案で守ってあげたくなりますよね」 久「じゃあ、咲と付き合えば?和、発狂すると思うけど」 京太郎「咲と優希には…おもちがないんですよね」 久「あぁ、うん。そうね。須賀君、おもち大好きだからね」 京太郎「咲や優希におもちがあれば…、なんて考えるんですよ」 久「うーん、咲はお姉さんが鉄壁だから成長が…。優希は、わずかだけど可能性が無きにしもあらずみたいな」 久「まぁ、私と同じくらいには育つかもよ。Cでいいの?」 京太郎「…すいません。部長が小さいって言うわけじゃないですけど、もうちょっと大きくないと…」 久「結局、和みたいな役満ボディがいいんでしょ」 京太郎「…そうですね///」 久「じゃあ、和と付き合いなさいよ。まぁ、無理だと思うけど」 京太郎「仮に付き合えても、肉体関係持てるまで何か月かかると思います?」 久「何か月って言うか、年単位じゃない?多分、そこに辿り着くまでに別れると思うけど…」 京太郎「ですよねー。正直、和の外見は好きだけど、あの性格は愛せないっす」 久「わかるわかる。後輩だからいいけど、恋人となるとね…。独占欲とか強そうだし、愛も重そうだし」 京太郎「優希は声が好きですね。あの声、癖になりませんか?」 久「うーん、確かに。いいアニメ声よね」 京太郎「そこで俺は考えました。声は優希、中身は咲、外見は和」 久「一年生トリオのいい所取ね」 京太郎「はい、こんな子が居たら俺の悩みも解決です!そいつと付き合います」 久「…面白そうね」 鹿児島 咲「へぇー、合同合宿だって」トン 和「部長がいつの間にか、永水女子の人達と仲良くなってたみたいです」トン 優希「まぁ、細かい事はどうでもいいじぇ」トン 小蒔「…ぐーぐー」zzZZZ… 久「さて、上手くいくかしらね。融合実験」 京太郎「この学校、おっぱい偏差値高いっすねーーーー。うっひょーーーーー」キョロキョロ 霞「あらあら…、めっ!」 優希「おおっ…、またおっぱいお姫様がヤばげな感じが…」 小蒔「…」ゴゴゴ ピカッー 小蒔「私を蘇らし者よ、願いを言うがいい…。どんな願いもひとつだけかなえてやろう…」 優希「ぎょえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」 久「出た!神龍小蒔」 霞「あらあら、伝承は本物だったのねぇ」 京太郎「中身と雀力は宮永咲、運動神経と声帯は片岡優希、外見は原村和。こんな完璧美少女下さい!」 和「須賀君!?何を言ってるのですか!?」 小蒔「いいだろう、了解した。願いはかなえてやった…ではさらばだ…」 咲「う~ん」ヌクリ 京太郎「おっ、起きた」 久「おーい。咲なのかしら?」 咲「ふぇ…、ここはどこだじぇ?」 小蒔「本当にすいません」ペコペコ 霞「貴方達、清澄の一年生は小蒔ちゃんとの対局中に気を失ったのよ」 久「はい、これ鏡」スッ 咲「えっ…、なんだじぇ!?和ちゃんにそっくりだ!」ボイーン 京太郎「和に宮永ホーンがついたくらいだな」 霞「三人まとめて融合しちゃったのよ」 咲「ゆ、融合だじぇ!?私の中に、和ちゃんと優希ちゃんが入ってるの?」 久「うーん、正確には和の体の中に咲と優希が入ったんじゃない?」 咲「えぇ…、どうしよう…」オロオロ ユサユサ 京太郎(おっ、和がオロオロしてるのは珍しいな。しかもおもちが揺れてるし) 久「一応、名前も考えたけど…。宮永和希ってどうかしら?」 咲「元には戻れないんですか!?」 霞「今、永水女子みんなで、七つのドラゴン牌集めてるから、少し時間かかるわね」 小蒔「ごめんなさいごめんなさい…」ペコペコ 久「まぁ、仕方ないわね。外見は和だから、原村和として生活してもいいわよ」 咲「えぇ…、そんな事言われても困るじぇ」プルルン 霞(ふふふ…、小蒔ちゃんが居れば、どんな願い事だって…) 久(実験成功ね。さて、次は私の願い事ね!) 京太郎「いや~、運命の人に巡り合えました!神代さん、ありがとうございます」 こうして咲は和の家で暮らす事になった 和の家 咲「ってわけです。これからお世話になります」ペコリ 和の父「本当に私の娘ではないのか?少し髪型をイジったようにしか見えないが…」 咲「声もかなり高くなってると思うじぇ」 和の父「た、確かに…。娘はくぎゅボイスではない!あっ、これ読んで下さい」 咲「はいはい」ペラッ 咲「べ、別にお父様のために料理を作ってあげるわけじゃないんだからね!」 和の父「おおっ…、娘にツンデレ力が宿った…」 朝 和の父「では、行って来る。宮永さんも気をつけてな」 咲「あっ、お昼ご飯作ったじぇ。良かったら、食べて下さい」 和の父「は?」ゴシゴシ 咲「迷惑でしたか?」ウルウル 和の父「い、いや…。和が私にお弁当なんて…、初めてだったから…」ジーン 咲「ごめんだじぇ。私はいつもお父さんの分まで作ってたから…」 和の父「いや、迷惑なんかじゃない!職場で自慢するよ!」 咲「お弁当の出来は期待しないで下さいね///大した物じゃないですし」 お昼休み 京太郎「おーい、和。飯だ。飯行こうぜ」 咲「…」 京太郎「のーどーかー。さーきー。ゆーきー」 咲「あっ、ごめん。私か。うん、行こ行こ」トテトテ モブA「おいおい、いつの間に京太郎はうちのクラスのアイドル原村和とランチする仲になったんだ!?」 モブB「原村さん、丸くなって良かったな。前は、咲さん咲さんうるさかったしな」 モブE「…」ジーーー 咲「?」 モブF「…」ジーーー 咲「??」 京太郎「今のお前は和だからな。誰だって、振り返るさ」 咲「あぁ、そう言う事か。確かに…、この体は目立つじぇ」ポヨヨーン 京太郎「…ないすおもち」ボソッ 咲「きゃっ///どこ見てるの!バカ犬!」ポカポカ 京太郎「俺、レディースランチね」 咲「…わかったよ。後で私のお願いも聞いてね?」 京太郎「へいへい」 モブG「おいおい…、京太郎如きが原村さんをパシリ扱いかよ…」 モブH「これはもう…、ヤってしまってますなぁ」 部室 京太郎「で、お願いって?」 咲「うん、この体さぁ…。肩が凝るんだじぇ」ドタプーン 京太郎「だろうな。胸にマスクメロンつけてるからな」 咲「大きな胸って憧れてたけど、実際大変だじぇ。走ると揺れるし。谷間が痒くなったり。あと、肩がやっぱり凝るから」 京太郎「ふむふむ、和も苦労してたんだな」 咲「うん、私や優希ちゃんにはわからない苦労だよ。あれ…、何かタコスが食べたくなって来た」ウズウズ 京太郎「いつも優希は、ご飯食べた後に食後のタコスを食べるからな」 京太郎「こんな事もあろうかと用意して来た」ゴソゴソ 咲「すごい!流石、私の犬だじぇ!」 咲「京ちゃんのタコスは最高だね」モグモグ 京太郎「ははは、だろ?」 咲「あっ、肩揉んで貰えると助かるじぇ」 京太郎「お安い御用で…」モミモミ 咲「はぁ…、極楽極楽」ポワワーン 京太郎「あっ、ところで俺は咲の事が好きなんだ」 咲「ふぇ!?」ポロッ 咲「ととととと、突然そんな事言われても…、こ、困ると言うか…。いや、私個人的には嬉しいんだけど///」キョロキョロ 京太郎「ごめんな。元々今日、告白するつもりだったんだ。和と優希と融合したのはちょっと予想して無かったけど」 咲「う、うん。この体は私だけの物じゃないしね…。和ちゃんの体だし」オドオド 京太郎「体なんて関係ねぇ!俺は咲が好きだ!」 咲「そんなに私の事を…」ジーン 咲「あれ…涙が溢れて来たじぇ…」ポロポロ 咲「これは…優希ちゃんの涙。私の中の優希ちゃんが泣いてるんだ…」ポロポロ 咲「やっぱり元に戻ってから返事を…」 京太郎(外見が和だから、いつ蹴り飛ばされるかヒヤヒヤするぜ…) 京太郎(しかし、中身は小動物系魔王の咲。ここはガンガン行くぜ) 京太郎「駄目だ!待てない!お前が欲しい!咲!」 咲「えぇぇぇぇぇぇぇ!?そんなハッキリ言わなくても///」モジモジ 京太郎「俺の事が嫌いなら、俺を振り解け!」ギュウゥゥゥゥゥゥ 後ろから和の体を抱きしめる京太郎 京太郎「…嫌いじゃないんだな?」 咲「…///」コクン 京太郎「じゃあ…、このままで居ていいか?」 咲「の、和ちゃんには悪いけどね」 京太郎「二人だけの秘密だな」ギュウゥゥゥゥ 咲「あぅぅぅぅぅ///」プシュー 京太郎(さて、さり気なく和のおもちに手を当ててみるか) ふにょん 咲「あっ…」 京太郎「ごめんな。悪気はないんだ、当たってしまった」 咲「う、うん。いいよいいよ。こんなに大きいからね、当たってしまう事もあるじぇ」 京太郎(和なら、問答無用で麻雀牌入りのケースを投げて来るだろうな…) 京太郎「…なぁ、それ触ってもいいか?」 咲「えっ!?だだだだだ、駄目!それは駄目だよぉ、私の胸ならともかく」オロオロ 京太郎「今は咲の胸だろ?」 咲「私のだけど、借り物と言うか何と言うか…。まぁ、感覚は私が感じるわけだけど」 京太郎「俺は咲の胸だから触りたいんだ!」 咲「そ、そうなんだ///」テレテレ 京太郎「あっ、ごめん。やっぱり我慢出来ないわ」ツンツン 咲「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 京太郎「減るもんじゃないしさ」ムニムニ 咲(あっ…ちょっと気持ちいいじぇ…) 咲「…」ハァハァ 京太郎「あーすまん。つい夢中になってしまった」 咲「…次はないよ」ジロッ 京太郎「はいはい」 京太郎(よし、ミッションコンプリート。和のままだったら、睾丸の一つや二つ潰される所だったな) 咲「お、お詫びに買い物手伝うじぇ///」 京太郎「いいぜー。それくらい」 咲「和ちゃんの服、正直恥ずかしいから、違う服を買いたいんだじぇ。私が着るには少し勇気が居るからね」 和の家の前 咲「お、送ってくれてありがとう」 京太郎「いいよ。これくらい紳士の嗜みだからな」 咲「…紳士が胸揉むかじぇ?」ジロッ 京太郎「あー、それね。まぁ…、そんな事もあるさ」ポリポリ 咲「ふん!も、元に戻ったらいくらでも揉ませてあげるから///」 京太郎「我慢出来るかな」 京太郎(咲のおもちなんか揉む所ねー) 京太郎「けど、服ってユニ○ロやシ○ムラで良かったのか?」 咲「うん、安くていいじぇ。私はいつもそこで買ってるよ」 京太郎「へぇ…」 京太郎(パーカーとか黒系の服とか、ホント地味な服好きだな) 咲「ちょっと大きめの服を買った。これだと、胸の部分を隠せるかなって思って。 まぁ、和ちゃんの外見だから何着ても似合うんだじぇ」 京太郎「ふ~ん、あっそうそう。和の家に最新のパソコンがあるらしい」 咲「うん、何かキレイなパソコンあったよ。私は使い方よくわからないけど」 京太郎「和のパソコンのスペックはクソ高いんだ。前に話してたんだが…」 咲「へぇー」 京太郎「そこで、明日和のパソコン使いたいんだけどいいかな?俺のパソコンだと動きが遅くてさ」 咲「へ?そうなんだ」 京太郎「頼むよー。明日、休日だろ?早くゲームクリアーしたいんだよ」 咲「う~ん、まぁ…、ゲームくらいなら…。いいと思う」 京太郎「おおっ助かる!じゃあ、明日ここに来ていいか?」 咲「うん、いいよ。パソコン使うだけでしょ?和ちゃんの部屋にあるから、 それ使わせて貰えばいいと思うじぇ。机とかタンスとかは触らないでね」 京太郎「わかってるわかってる。いやー流石、咲。話がわかる」 咲「じゃあ、また明日ね」フリフリ ・ ・ ・ コンビニ、ウエノマート ウィーン 久「いらっしゃいませー」ペコリ 京太郎「あちゃー、ここも若い女の店員さんかよ…」 久「あら、須賀君じゃない」 京太郎「部長!?ここでバイトしてたんですか?」 久「バイトつーか、実家なんだけど…。で、なによ。エロ本でも欲しいの?」 京太郎「あっ、はい。このおもち倶楽部を一冊ってそうじゃなくて!」 京太郎(部長ならいいか) 京太郎「こ、これ下さい」コトッ 久「へぇ…、なるほどね。もうそこまで進んだか。最近の若い子は…」 久「980円になります」 京太郎「…うっす」 久「ありがとうございましたー」 京太郎「他に知り合いは…」キョロキョロ 久「ふふふ、青いわね」 美穂子「すいません、ウエチキ下さい」 久「あら、今日も来てくれたの?うれしい。おでんも売れ残りそうなの。良かったら…、お・ね・が・い」ウィンク 美穂子「深堀さん、お金は私が出しますよ」 純代「ありがとうございます。じゃあ、これとこれとこれとこれと…」 そして、次の日 京太郎「さて…、ゴムも持ったし、イメトレもしてきた…。須賀京太郎、男になるぜ!」 ピンポーン ?「はい、須賀君ですか?」 京太郎「おぅ、そうだぜ。早く開けてくれよ~」 ?「お待ちしてましたよ…。ふふふ…」 和の部屋 京太郎「ここが和の部屋かー。いい匂いだなぁ…」 京太郎「で?咲はどこに居るんだ?」キョロキョロ 京太郎「おーい、咲。咲。咲やーい」 優希「はーい」ニヤリ 京太郎「ん!?お前は…、優希!?なぜ、和の家に!」 優希「拷問って楽しいよね!…似てますか?」 京太郎「さささささ、咲の声!?って事は…、もしかして…」タラタラ 優希「姿は優希、声は咲さん、そして中身は…」 京太郎「し、失礼しました!」ドヒュー 優希「須賀あぁぁぁぁぁぁぁぁ!逃がすと思うか!」 京太郎「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」 京ちゃんは、大切な玉を一つだけ失ったらしい 終わり
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276 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/06(水) 21 43 00.58 ID zp+WGvdGo [22/32] 【8月16日:夜】 京太郎「はっ、はっ、はっ……!」 俺は走る。 走っている。 そうすることしか出来ないからだ。 視線を後ろに。 見えた。 金色が追ってくる。 淡「待っててばー!!」 京太郎「誰が待つかぁぁぁあ!!」 俺を追う狩人、大星淡。 昼間の一件から何かと俺へとちょっかいかけてくるようになり、そして今は油性ペンを片手に俺を追っている。 畜生め。 あのほっぺの酷使が未だに響いてるのだろうか。 それともそんなに恥ずかしかったのか? 今も真っ赤になって追ってきてるし。 しかし、だ。 仮にも俺は男。 女の子である淡とは体力も、歩幅も違う。 曲がり角を曲がり、返すように俺はレクリエーションルームに。 勢いよく、しかし音なく入ってきたせいか、驚きで咳き込む声が聞こえた。 尭深「けほ、けほっ……す、須賀君……?」 京太郎「すいません渋谷先輩!淡には俺は来てないって言ってください!!」 ロッカーを開き、その中に。 その十数秒後。 バンッと。 勢いよくドアが開く音が聞こえた。 淡「京太郎!!……あれ、たかみー?」 尭深「あ、淡ちゃん……?」 淡「たかみー、京太郎来なかった?」 尭深「須賀君?えっと、来てないけど……」チラッ 淡「そっかー……麻雀強くないくせに逃げ足だけは速いなぁもう……」 京太郎(大きなお世話だよちくしょー!!) 309 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/06(水) 22 55 00.91 ID zp+WGvdGo [25/32] ガチャン、たったった……。 俺は耳を澄まして、音を聞き取る。 フェイントが仕掛けられてるかも知れない。 そう思ったからこそ、俺はまだ待つ。 足音。 かなり体重が軽い。 ふわふわした、優しい足取りだろうか。 その足音が、ロッカーに近づいている。 京太郎「………」 尭深「須賀君、淡ちゃん行ったよ」 京太郎「………っはー!」 渋谷先輩の声。 それに俺は詰めていた息を吐き出し、ロッカーから出る。 ああくそ、ようやくだ。 ようやく逃げ切れた。 息も少し乱れている。 そんな俺を見て少し目元を優しげに緩ませた渋谷先輩が、「ちょっと待ってね」と言って給湯室へと向かっていく。 尭深「あの、これ濡れタオルと水出しの緑茶……良ければ」 京太郎「………」 尭深「あの……須賀君……?」 京太郎「天使じゃぁ……」ウッ 天使だ、天使すぎる。 優しいとか優しくないとかじゃない、もはやそれ自体が癒しだ。 思わず目元が緩む。 それにおろおろと、困ったような顔をする渋谷先輩。 それに何でもない。 何でもないんですと、俺は指で目元を掬う。 お茶、いただきます。 ……ああ、あったけぇなぁ……冷たいんだけど、あったけぇ……。 315 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/06(水) 23 03 37.38 ID zp+WGvdGo [27/32] 【8月17日:朝】 玄「あのー」 京太郎「はい?」 朝。 特にすべきこともなく、自由行動の許可が出ていた俺は財布をポケットに突っ込み、私服を着て街に繰り出していた。 俺が住む白糸台。 そこは西東京、いわゆる都心部から離れた僻地でもある。 その分、家賃もそれなりに安いし、まぁ普通に生活するには十分な場所だった。 だから東東京。 大会会場がある周辺の地理は正直言うと疎い。 ちょっと遠出するとなると、携帯の地図アプリとかのお世話になるのが通例だ。 そんな俺にかかる声が一つ。 女の子の声だ。 聞き覚えない声からして、白糸台の生徒じゃないな。 そこまで考えつつ、振り返る。 見知らぬ制服だ。 少なくとも、初めて見る。 それに俺が思わず首を傾げると、目の前の女の子は困ったような顔をしている。 なんというか、助けを求めている、という感じの顔か? 玄「あの、近くのJR線の駅って何処にあるか分かりますか?」 京太郎「駅ですか、俺も今行こうと思ってたので一緒で良ければ案内しますよ」 玄「わっ、ありがとうございます!」 結構勢いよく頭を下げる女の子。 それに釣られて震えるおもち。 ……まぁ、あれだ。 一瞬とはいえ目を引かれてしまった自分が居るということは正直に言うべきだろう。 実にすばらですよ、こいつァ…。 そんな時。 目の前の女の子、松実玄さんがぴしりと固まる。 それと同時に後ろに気配。 ……なんだ?この威容な威圧感と恐怖は。 手がね、勝手にね、カタカタって震えるんだ。 ぎちり。 視線はゆっくりと、後ろへ。 照「…………ふーん」 これはアカン。 440 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/07(木) 20 19 11.39 ID LbpamgC3o [7/28] 玄「み、みみみみみ宮永照さん……!?」 京太郎「な、何で照さん居るんですかー!?」 玄「え、須賀君知り合いなの!?」 京太郎「というか幼馴染で同じ学校と言いますか……」 照「別に、本を買おうと思って出てきただけ………そっか、京ちゃんはナンパしに行ってたんだね」 京太郎「ファッ!?」 そっかそっか。 そう一人で頷く照さん。 いやいやいや……いやいやいやいや! おかしいでしょう! 俺ってば困ってた人助けただけだよね? それに(おもちに対して視線は行ってたけど)やましい気持ちなんてないぞ! 俺はその主張を視線に込め、照さんを見る。 視線を受けた照さんは自分の胸に手を当てて、俺を見返す。 ……ああ、そうっすか。 俺が視線を向けたってことだけに怒ってるんですか。 玄「えっと……須賀君にナンパ、され……ちゃった?」 余計なこと言わないでください松実さんんん!!!? 447 名前: ◆VB1fdkUTPA[!red_res] 投稿日:2013/02/07(木) 20 26 20.01 ID LbpamgC3o [8/28] マツミクロ アチガ ゼッタイツブス 457 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/07(木) 20 30 19.09 ID LbpamgC3o [9/28] 【8月17日:昼】 京太郎「いやーはっはっは」 玄「あ、あはは、はは……」 照「………」 玄「………」 京太郎「………」 誰か、この空気から助けてくれ。 俺は四人がけのボックス席でそんなことを考えていた。 運よく開いていた席を確保。 行き先が偶然にも同じということもあり、旅は道ずれともいうものだ。 俺、照さん、松実さんはどうせ、ということで一緒に行動していた。 照さんがそうするように仕向けた、と言ってもいい。 まるでじろじろと監視するように、松実さんを見ている。 そんな、無言の圧力空間。 乾いた笑いしか出ないとはこのことだろう。 電車が停車。 降りる人も無く、乗る人が多少いるくらい。 その時。 俺の位置から見えた姿があった。 よくあるデザインのセーラー服。 それを着た、何処か足取りが覚束ない、一人の女の子。 顔色は、かなり悪い。 焦燥している、という感じだろうか。 その女の子が、視線を俺たちの空いている席へと止めた。 怜「ちょおスマンけど……相席しても、ええかな……?」 玄「園城寺さん!?」 怜「……あれ、確か阿知賀の……」 玄「玄です!松実玄!って、フラフラじゃないですか!どうぞ座ってください!」 怜「か、堪忍な……」ヨロヨロ ふらりと、椅子に腰を下ろす。 はぁ、と小さく息を吐いたのが見えた。 ……かなり消耗している、か? 照「園城寺……千里山の」 京太郎「あの、大丈夫ですか?」 怜「……あれ、おかしいな?なんやチャンピオンが男と居る幻覚が見えるわ……」 玄「園城寺さん、それ幻覚じゃないです……」 508 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/07(木) 21 23 45.38 ID LbpamgC3o [13/28] 京太郎「ちょっと失礼します」 怜「……変なとこ触らんといてー」 京太郎「触りませんよ!!」 俺は園城寺さんの目と顔色を見て、額を触れる。 熱い。 体の中に熱でも篭ってるんじゃないだろうか。 それに汗の量が少ない。 今日は暑い。 汗ばむくらい、誰だってしているはずだろう。 となると、この人は体温調整があまり効かないのか? 汗をかけないと体温調整が出来ない。 見るからに病弱なこの人はそんな体なのだろうか? そんなことを思いつつ、俺はカバンから冷え○タを取り出し、玄さんに協力して貰いでこに張る。 張った瞬間、「はうっ」と。 びくん、と反応した。 どうにも冷たかったらしい。 次の停車駅。 俺は150円を掴んでダッシュでスポーツドリンクを買ってくる。 それを俺は園城寺さんに渡して、そして最後に取り出した飴玉を口に押し込む。 カロコロと。 少し戸惑ったようにしていた園城寺さんが口内で飴玉を転がす音が聞こえる。 そのままスポーツドリンクを一口。 そうすることで結構顔色が良くなってきているように見えた。 怜「ぷはっ……あー……死ぬかと思ったわ」 京太郎「知らずのうちに脱水症状起こしてましたね……結構歩いてますよね?」 怜「うん、今朝調子よかったからちょうな……これ、塩飴やな」カラコロ 照「京ちゃん、私にも飴頂戴」 京太郎「無理が祟りましたね……あ、レモンと塩と梅がありますけどどうします?」 照「レモンがいい」 京太郎「はいどうぞ、あーん」 照「あーん…んっ……おいしい」カラコロ 京太郎「松実さんも要ります?」 玄「あ、じゃあ私は梅で……」 京太郎「はい、あーん」 玄「じ、自分で食べるから大丈夫だよ!」 京太郎「あ、すいません癖で……」 518 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/07(木) 21 41 08.68 ID LbpamgC3o [14/28] はっはっは。 伊達に照さんや淡の世話で磨かれたスキルだ。 以前よりも増して磨かれているぜ。 しかし、何でだろうなー? 俺、一人暮らしになる前にお袋から色々と仕込まれたけど、何故か何でも出来たし。 すわ才能か、と疑ったりもしたなぁ。 ………主夫の才能って何かあれだなぁ…。 そんなことを俺が思わず思うと、小さく。 クスッと、そんな笑い声が聞こえた。 怜「須賀君、やったっけ………君、おもろいなぁ」 京太郎「へ?」 怜「ん、何でもあらへんよ」 アナウンス『次は――――』 怜「ここで降りな」 京太郎「丁度、俺たちもですね」 よっと、立ち上がろうとする園城寺さん。 だが、がくん、と膝が砕ける。 そりゃ、そうだ。 塩分の不足は筋肉の動きに障害を引き起こす。 元々体が強くない園城寺さんなら、その効果も通常の数倍だ。 困ったような、そんな顔をする園城寺さん。 それに俺は小さく息を吐くと、背中を差し出す。 旅は道ずれ。 まぁ、そういうのは助け合いから続くもんだろう。 また小さく、園城寺さんが笑う。 すまんな、と。 小さく。 照「………っ」 玄「………んん??」 両名の病み&害意上昇 523 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/07(木) 21 46 57.11 ID LbpamgC3o [15/28] 【8月17日:夜】 京太郎「いやー、今日色々と買いましたね照さん」 照「そう」 京太郎「まさかこうなるなんてなー」 照「そう」 京太郎「……楽しかったなー、照さんと買い物いけて」ボソッ 照「……そう?」 京太郎(これ誘導尋問じゃね?) 帰り道。 俺は二人と別れて照さんと帰っていた。 松実さんは集合場所に向かい、園城寺さんはチームメイトの人が迎えに。 行き先の駅が同じというだけで、そこから先の行動は別々だ。 俺は照さんと一緒に目的を果たしたので特に不満はない。 ただ、照さんの距離が全体的にやけに近い。 そう感じるくらいだ。 ……というか、だ。 実際、照さんは俺の手を握ってる。 近いというか接触してるのだ、これ。 何でかなぁ。 俺、何も悪いことしてないのになぁ。 いやまぁ、ふらふらと何処かに消えることはこれで無くなるんだろうけど。 京太郎「……そういや、明日試合ですね」 照「うん」 大丈夫ですか? なんて言葉は、当然出ない。 聞くまでもない。 それだけのことだ。 ただ。 俺はちらりと、照さんを見る。 無表情の中にある、少しの喜色。 それを滲ませるような、人形みたいな顔。 この人は、こうして無表情のまま。 当然のように、勝つんだろうな。 そう、俺は思っていた。 ふと、俺はビルを見上げる。 月を背景に光るビルを背に。 俺は帰り道を二人で行く。 543 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/07(木) 22 30 01.26 ID LbpamgC3o [18/28] 【ビル屋上】 . . . . . . .. . . ...○ . . . . .. . . ........ .............................. .......................... , ;;; ;; ,iiiiiiii!!!i! , ;;--゙゙,,;;;;; ;;; ,,,,,;;;;,,,;;,,,....;;;;... .. .. ....;;;;;;;;;;;..,,;;... . .. ... ..;;,,,,,;;;;; ;;; ,,;;;;;';;llllliiiiii!!liiii!!!lll;; illlllllliiiiiillllllllllliiiiiiiiiiliiiiiiiiliiii!!!;;;,,,,,;;;!!!iillllllliiiiii!!;;;,,,,,;;;!!!iillllll!!!iiiiiiiiiiii!!!lll;; ;;;;;;i;;;;i;i;;iiii!!!lll ''"''"''"''"~~~''"''"''"''"''"''"''"""''"''~"''"''"''"''"'''~'''''"''"''~~~"''"''"''"''"'''"''"' ________________ '´ `ヽ__''~"''''''''''"''"''''"'' || || || || || || || || || || ||.! ((从リリ))ゝ|| ||\~"""''"''''"''"' || || || || || || || || || || ||.!,(リ‘ -‘ノ、!|| || . ||\'" ̄"''--...  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ /j 氷i0 ̄ ̄'\|| . ||\ .................................................................................... (_/_j_j|〉...................'\||!. ;||\ .................................................................................... ヒヒ!...........................'\|| .!.||\ .....................................................................................................................................'\||!. .||\ ............................................................................................................................................'\|| .─────────────────────────────────────── .| / | ./ ∧ .. . . . . | | . / ゙| . . . , '´ .| / . ∧| .|' .| / ./ .∧ . . . . | | / . .; ´ |イ . . ./ .| .| | / . / ∧ . . . . Ⅳ |' -‐--- '´ ' /i/ .| / . / /i . \ . . .| iム / 、 イ /| ……… .| . ./ / .| . . . .\ .从_ムー---‐ ´ .イ '! / .| / ./ .| . . . . 厂 ´ト、. ヽ _.. / / |′ .|' ./ | . . . ∧ . /| . `¨¨へ '´ ./ iル′ .|/' | / ∨ !、 . / |>o。_ / .!-ー-- .._ {. | ./ ∨{. Y/ | . . . ./i . ¨7 T¨¨¨¨¨¨´ ^ー 、 ` ̄ 17日、終了 557 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/07(木) 22 44 47.16 ID LbpamgC3o [21/28] 【8月18日:朝】2回戦当日です 『ないてるの?』 『ないて、ない……』 『うそだ、ないてるじゃん』 『ないてないもんっ!』 『いーや、ないてる!』 『ないてない!』 少年と少女が居た。 遠い記憶の中。 そこに微かに。 だが二度と忘れないように刻まれた風景の中に。 少年と少女が居た。 その出会いは偶然で。 その出会いは必然。 少年は、泣いている女の子を放っておけなかった。 少女は、泣くことで誰かの救いを求めていた。 その両者がかみ合っただけの話。 須賀京太郎、6歳。 ※※※、※歳。 小さな、運命の出会い。 それは何所までも普通で。 何所までも不器用な。 小さな、出会い。 京太郎『ほら、たてるか?』 ※『う、うん……』 京太郎『けが、ないよな』 ※『だ、だいじょうぶだよ!』 京太郎『そっか……あ、おれはすがきょうたろうっていうんだ……なぁ、きいていいか?』 教えてくれないか、君の名前。 ※『わたし……わたしは――――』 ※【私の名前は、※※※、だよ】 823 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/08(金) 23 34 41.89 ID Ks+wqLmPo [27/33] 「―――ちゃん!ぅ……ゃん!!」 「―――よう!お……ん!ど…しよ…!」 京太郎(あたまが、いたい) 声が聞こえた。 聞き覚えのある声。 なんだ? なんでそんなに、あせってる? 分からない。 脳みそがシェイクされるような感覚。 指先が、感覚を感じる全てが痺れているような。 そんな気だるさがある。 ゆっくりと、目を開く。 見えたのは……2本の角? 京太郎「照さん……咲……?」 照「京ちゃん…!」 咲「良かった、京ちゃん……」 京太郎「………え?」 俺は、ベンチに寝ている。 何でだ。 それを理解する前に、俺は二人を見た。 ……前は、あんなに咲を拒絶していた照さんが。 咲に反応していない。 だけどそれは一瞬だけ。 照さんが、俺の腕を掴んだ。 照「京ちゃん、待機部屋に戻ろう」 京太郎「いや、照さん?試合は……」 照「私の出番は終わって菫が出ている……いいから、帰ろう」 京太郎「いや、でも……」 俺は咲に視線を向ける。 そうだ、思い出してきた。 俺は試合終了後、またお菓子を買いに行った照さんを探しにいって、咲に会った。 少し話し込んで、照さんを探そうと思って咲と別れようとしたんだ。 そしたら、照さんが居て……。 その二人が向かい合う構図を見て、意識を失ったんだ。 この前は、そんなこと無かったのに。 829 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/08(金) 23 39 20.70 ID Ks+wqLmPo [28/33] だけど。 あの女の子は、誰なんだ? 知っている子だ。 そのはずだ。 そのはずなのだ。 それを思い返そうとする前に、手を引かれる。 見れば、照さんがまた手を引いていた。 俺は咲に視線を移す。 さっきまで険難な空気が無かった。 それは、照さんがそれを咲に向ける余裕が無かったから、だろう。 それだけ、俺が倒れたことに注意を向けてくれたのだろうか。 咲は、小さく頷く。 行っても大丈夫。 その意味だろう。 俺はすまんと、小さく呟いて照さんに引かれていく。 ぽつんと。 遠ざかる咲の姿。 また、何所かで見たことがある。 そんな光景だった。 832 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/08(金) 23 41 17.11 ID Ks+wqLmPo [29/33] 【8月18日:昼】2回戦当日です 京太郎「照さん……」 照「……」 京太郎「照さん……!」 照「………」 京太郎「照さん!!」 ぴたりと。 俺の手を引いていた照さんが止まる。 周りに人気は無い。 勢いよく、前すら見ずに歩いていたから当然だろう。 それが照さんなら、なおさらだ。 俺もここが何所だか、分からない。 そんな場所に俺たちは来ていた。 ただ、一つ。 一つだけ言えるとすれば、ここなら誰かが聞き耳を立てることも。 誰とも出会うことも無い。 ただそれだけは、分かるのだ。 俺は照さんを見る。 表情が無い。 感情の抜け落ちたような、そんな顔だ。 それは、咲を前にして見せた顔。 それを、俺に向ける照さん。 ぞわりと。 背筋が粟立つ。 この人は、何かを考えている。 ろくでもない何かを。 それを実感するだけの雰囲気が、あった。 京太郎「照さん……?」 照「………京ちゃんは――――」 京太郎「え……?」 また前を向いた照さんが口を開く。 それに俺は疑問の声で聞き返し。 照さんは、ゆっくりと振り返った。 照「京ちゃんは、どこにも、いかないよね?」 937 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/09(土) 21 45 04.50 ID vjZyLTM7o [3/11] 何所にもいかない。 そう聞かれる。 そう、問われる。 それに答えるのは、簡単だ。 何所にもいかない。 今の状況を受け流すには、最適の言葉だ。 だけど。 ああ。 何で、喉が震えるのだ。 そうだよ。 照さんだって、完全に全てが本気な訳じゃない。 これからの長い人生だ。 人との出会いも別れも多く存在するだろう。 何所にもいかない、というのはつまり、「勝手にいなくならない」。 そういうことを示しているのだろう。 当たり前だ。 それ以外の意味に取る理由がない。 ああ、そうだ。 うん、と。 はい、と。 そう答えろ。 俺がそうすれば、場は全て収まる。 にこりと、顔を引きつらせて、笑う。 答えようと、息を吸い込み。 京太郎「俺は―――」 照「あいつなんかと、もう会う必要なくなるもんね」 あい、つ……咲。 咲と、会う必要が無くなる……? 京太郎「照さん、貴女―――ッ!?」 照「ん……」 どういう意味ですか。 その俺の問いかけは、問う前に閉ざされる。 照さんの唇で。 唐突に。 あまりにも唐突に、閉ざされて。 947 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/09(土) 21 58 08.51 ID vjZyLTM7o [5/11] 壁に背中がつく。 追い込まれた。 痺れる脳みそじゃそこまで考えれなくて。 俺は目を見開く。 まるで眠っているように瞳を閉じた照さんが目の前に居る。 この人は。 いや、これは、誰だ? 分からない。 俺の知っている照さんは、もっと何も考えてない。 いや、何かとお菓子の事を考えていて、それでいて不器用。 そんな人だ。 なのに、今の顔は。 何所までも色気に満ちている、そう見える顔だ。 京太郎「っぁ……て、る……さん……」 照「っ……」 ずるずると。 俺は壁に背中をつけたまま、膝を砕く。 俺の尻が地面へとつき、今度は俺が照さんを見上げる角度に。 だけど、それは直ぐに同じ高さに。 照さんが、俺の足を跨いで膝立ちになって。 俺の頬を両手で挟む。 にこりと。 ゆっくりと、微笑む照さん。 今まで見たこともないような、笑顔で。 俺へと、告げる。 照「大丈夫だよ、京ちゃん……京ちゃんは、何も考えなくていいんだから……」 ああ……畜生。 何で、こんなことに…。 951 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/09(土) 22 01 21.68 ID vjZyLTM7o [6/11] 【8月18日:夜】 どれだけの時間が過ぎたんだろうか。 1分だったかも知れない。 1時間だったかも知れない。 ただ、俺がそれに気づいたのは本当にいきなりのことで。 ああ、携帯に出なきゃ。 それくらいの感想だった。 京太郎「もし、もし……」 菫『須賀か!?お前今まで何所にいってたんだ?』 京太郎「すい、ません……」 菫『まぁいいさ……お前は別にそんな問題を起こすような奴じゃないからな……お前、照を知らないか?』 京太郎「……すいません、知りません」 菫『参ったな……分かった、照に会ったら確保しといてくれ、じゃあな』 京太郎「はい、失礼します……」 電話を切る。 電話を切って、俺は視線を向ける。 俺の隣に座る、照さんを。 すみません、弘世部長。 照さんは、ここにいます。 それに。 ……それに、俺、問題起こしました。 届かない言葉。 俺は手を握り、眠るように肩に寄りかかる照さんを見る。 照「………菫から?」 京太郎「はい……」 照「そっか……」 小さく、そう尋ねる照さん。 俺は、そこから言葉は続かない。 照さんが、目を開いた。 照「どうしよう」 京太郎「俺に言わないでくださいよ……」 96 名前: ◆VB1fdkUTPA[sage] 投稿日:2013/02/09(土) 23 39 25.37 ID vjZyLTM7o [9/12] 照「帰ろう」 京太郎「……了解です」 照さんの言葉。 それに俺は頷く。 足が重い。 くそ、何でこんなに疲れてるんだ? 俺は思わず反射的に唇に手を添える。 そして、見上げた。 こちらを見下ろす、照さんの顔。 女の艶を見せた、顔。 ちろり。 照さんの小さい舌が、自分の唇を舐める。 ……くっそ。 何も言えん。 いや、言うべきことはある。 あるんだ。 でも言うに言えないというか。 この人が分からないというか。 そうだ。 俺は混乱している。 今は時間が欲しいんだ。 それも切実に、本当に。 冷静に物事を処理する時間が。 そこにあるのは、虚しさだけだから。 何かに見切りをつけなければ。 俺はきっと、駄目なんだろう。 照「帰ろう、京ちゃん」 照「……うっす」 明るくそう笑う照さん。 差し出される手を握らず、俺は自力で立つ。 照さんは腕を掴んで。 俺の顔を、覗き込んだ。 照「続きは、帰ったら」 ………ああくそ。 134 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/09(土) 23 56 59.05 ID vjZyLTM7o [12/12] 照さんと並んで帰る。 会話は無い。 会話することがない。 それが今のこの奇妙な関係を彩っている。 そんな気がするのだ。 照「~♪」 一人、機嫌良く前を行く照さん。 数日前。 咲と出会った道だ。 それを行く照さんには、翳りが無い。 俺はちらりと。 周囲を探る。 咲は来ないか。 そう思って、前を向き直す。 目が合う。 照さんが、目を見開いて。 俺の顔を、至近距離で覗き込んでいた。 照「誰、探してるの?」 京太郎「――――ッ!」 思わず、下がる。 じりっと。 下がる。 照「駄目だよ、京ちゃん」 京太郎「……何がです?」 照「そんなに不注意だと、怪我するよ」 京太郎「……気をつけます」 視線を車道に。 向けて喋る照さんに、俺も車道に視線を向ける。 気づかれてない。 それに詰めた息を吐いて。 照「アイツは来ないよ、京ちゃん」 息を、吸い込めなかった。 152 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/10(日) 00 10 31.06 ID 1pgCD7RWo [1/38] 照「……」 京太郎「………なんの、ことです?」 照「……さぁ…?」 京太郎「答えてください!!」 俺は照さんに詰め寄る。 なんでだ。 この人が言ってること。 それが何でも軽いのに。 どこまでも重いと感じるのは。 それに。 それになんで。 なんで、この人はそんなに。 京太郎「なんでそんなに……笑顔、なんです……!?」 照「…………」 そうだ。 この人は笑ってる。 まるで何もかもが予想通りだと。 いや、自分の思うとおりになっていると。 そう嬉しげに。 笑っているのだ。 照「……さぁ?」 京太郎「さぁ、って……」 照「分からない……でもね、京ちゃん」 照さんがまた、俺の頬に手を触れる。 ゆっくりと、抱きついてくる。 それを離そうと。 そうすれば出来るだろうけれど。 照さんの言葉。 それだけしか、俺は聞けなかった。 照「アイツが居ない……それだけで、私は……」 ′ | \| ハ  ̄ \{  ̄´ / ∨ | |l λ , ハ | i| 込、 __ __,. ,イ ! 、 | それだけで……笑顔が、消えないんだ。 __| |__,. ー‐ ´ ./| | ハ |-‐= ' | .l| | . /> . イ.>| | / ‐ | |l 八 |. ′ / | /| /_ '} 八 / \ | |-- 、 --/ . | / | / \| ト-========イ }' .ノ' 158 名前: ◆VB1fdkUTPA[saga] 投稿日:2013/02/10(日) 00 18 03.76 ID 1pgCD7RWo [2/38] 話は終わり。 そう言うように。 照さんは俺の手を掴む。 ずるずると。 手を引いてくる。 くそ。 くそ、くそ、くそ。 動けよ、俺の手。 何で、動かないんだ。 気づけば、ホテルの前に。 皆が、手を振っていた。 ずるずると。 俺を引き込もうとする、照さん。 そうだ。 この人は。 照「さぁ、帰ろう?今の京ちゃんの居場所に……」 京太郎「照…さん……」 この人は……。 照「あそこは……今の京ちゃんが帰れる、数少ない場所なんだから」 …………。 【END:シマイ】
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特別編 side永水 ※京太郎は昔から永水にいたという設定です。日記発見から中身拝見までの流れは省略します ★月◆日 買い物に行くと、福引をやっていた 久しぶりにやってみると、特賞という枕崎紅茶『姫ふうき』というのが当たった 紅茶には詳しくないので帰ってから調べてみると、なんでも世界一になったことがある紅茶だとか 結構すごいもの当てたんだな、俺 これを1人で飲む訳にはいかないので、小蒔さん、霞さん、初美さん、巴さん、春、それに明星と湧も呼んで飲むことになった 調べられるだけ調べて、できることをできる限りやって『姫ふうき』を淹れた みんな世界一ということで期待した様子で飲んだ 紅茶には詳しくないが、これはすごい なんというか、今まで飲んだものと明らかに”違う”と分かるほどの味だった 普段紅茶を飲まないみんなも驚いたような顔をしていた にぎやかな初美さんは静かになり、春に至っては普段手放さない黒糖を置くほどだった しばらくみんな無言で『姫ふうき』を味わった 巫女服で紅茶は似合わないが、これほどの紅茶ならまた飲んでみたいと思った 小蒔「あの紅茶は美味しかったですね!」 霞「ええ。私も驚いたわ」 巴「ですね。当てた京太郎くんに感謝しないと」 初美「もう一回当ててきて欲しいですねー」 春「ん。アレは黒糖といいレベル」 初美「あくまで黒糖基準なんですかー?」
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灼「んんっ……」モゾモゾ 京太郎「あ、やっと起きた?」 灼「…………おはよ、きょうたろ……」ボーッ 京太郎「おはよう灼さん、朝食の準備はできてるよ」スッ 灼「ん……いまいく……」モゾッ 京太郎「……んー、すぐに起きるのは良いことなんだけどさ」ポリポリ 灼「……?」ポケーッ 京太郎「そのかっこでごはんを食べるってのはいかがなもんかと思うんだが……」ニヤニヤ 灼「…………っ!?」バッ 灼「き、京太郎のすけべ……///」 京太郎「そんなの今さらだろ……待ってるから、早く着替え終わらせとけよ?」ガチャッ バタンッ 灼「………もう」はぁ… 灼(いまだに信じられないけど、もう結婚して一ヶ月すぎたんだよね……)スッ 私、鷺森灼は……一月前に長年名乗っていた自分の名字に別れを告げた 今の私の名前は須賀灼……京太郎のお嫁さんになって、もう一ヶ月が過ぎた 京太郎「ごちそーさまでした」パンッ 灼「ご馳走さま……なんかまた料理上手くなってない?」 京太郎「ふっふっふ、まーこんだけ作ってりゃ上手くもなりますって」スッ 灼「あ……片付けなら手伝う」 京太郎「いいっていいって!……灼さんまだ昨日の疲れとれてないだろ?今日はゆっくり休んでて……」 灼「お願い、やらせて……」 京太郎「灼さん……?」 灼「最近朝も夜もごはん作ってくれてるの京太郎でしょ?こういうのって普通…お……お嫁さん…の仕事…だから……///」ゴニョゴニョ 京太郎「……分かったよ、じゃあ一緒に片付けようか」ニッ 灼「う、うん……」コクンッ ジャーゴシゴシ 灼「……そういえば、私も聞きたいことがあったんだけど」キュッキュッ 京太郎「なに?」 灼「京太郎ってなんで未だに私の事さん付けするの?」 京太郎「なんかもう灼さんでなれちゃってさ……無意識にそう言っちゃうみたいなんだよ」 灼「そうなんだ……でも昨日の夜は私のこと呼び捨てで……よ、呼んでたよね///」カァァ 京太郎「そりゃあまぁ……な、……俺だってヒートアップしたら、そーいう風に呼ぶことだって、あ…あるさ///」 京太郎(じ、自分で言っててけっこー恥ずかしいな、これ)ハハ… 灼「……///」ボッ 京太郎(……いかん、思い出したらなんかムラムラしてきた………けど朝っぱらからこーいう事するのはいくらなんでとダメだよな……)ソワソワ 灼「……ねぇ」 京太郎「な、なんだ……?」ドキッ 灼「私は京太郎のこと呼び捨てで呼んでるのに、京太郎だけ私の事呼び捨てにしないのはズルいと思う……」ギュッ 京太郎「あ、灼さん……せっかく着替えたのにまた汚すのは……」 灼「今日は私もオフの日だし……時間もいっぱいあるから……だ、だから」ドキドキ 灼「京太郎は、京太郎の好きな時に、私を好きにしていい……」スッ 灼「京太郎………いっぱい、愛して……?///」 京太郎「ーっ、灼……!!」ドサッ 灼「きゃっ……」 京太郎「もう止めてって言ってもやめないからな……覚悟しとけよ?」 灼「あ……きょう……たろぉ……」ギュゥッ 京太郎「灼……」ギュゥッ 続きはWebで!カン!
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http //hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1359011353/ 和「巨乳が好きだったんじゃないんですか?」 京太郎「いや、もちろん今でも巨乳は好きだけど最近ミニスカもよく思えてきてさ」 和「そうですか。気持ち悪いのでもう語らなくていいですよ」 京太郎「お前から聞いたんじゃないか……」 咲「…………」 優希「…………」 京太郎「──見つけた!!」 京太郎「和と比べれる人は少ないが、並より大きく形もいい!」 京太郎「スカートも危ないほどに短くけれどもいやらしくない!」 京太郎「顔もかわいい、っていうか凄いかわいい!」 京太郎「そしてその打ち筋!」 京太郎「決して『全国区の化け物』レベルではないものの粘り強く、その不屈の精神力は他の追随をゆるさない!」 京太郎「母性溢れまくりの一挙手一投足!」 京太郎「──すみませんッ!!」 ???「はい?」 京太郎「僕と……付き合って下さい!!」 花田煌「なにゆえっ!?」 ─とある喫茶店─ 煌「……お話は解りました」 京太郎「済みません、いきなり不躾なこと言って…」 煌「そ、そうですね。私といえど焦りますよあれは」 京太郎「………」シュン 煌「1つ、よろしいですか?」 京太郎「はい?」 煌「あの……何故、私なのでしょう」 京太郎「それは…」 京太郎「俺、長野の清澄って高校の麻雀部員をしてるんですよ」 煌「長野? 懐かしいですね、私も中学生までは長野にいました」 京太郎「俺を含めて6人の小さい部なんですが、その中に『片岡優希』と『原村和』って女の子がいるんです」 煌「……!」 京太郎「みんなでインハイ二回戦を観ていたとき、2人は花田さんに気が付いてました」 京太郎「『この人はわたし達のセンパイなんだじぇ』って」 煌「……そうですか…原村さんと一緒に、優希さんもインターハイに来られてたんですね」 京太郎「はい、2人とも、すごく楽しそうに花田さんのことを話してました」 煌「なんだか恥ずかしいですね」 京太郎「……二回戦、みせてもらいました」 煌「本当にお恥ずかしい…」 京太郎「それに、準決勝も…」 京太郎「きっかけは友人2人が応援していたから、って軽い理由でですけど、僕も花田さんのこと応援してました」 煌「ふふ、結果はあのような収支になってしまいましたが…」 京太郎「花田さん、好きです」 煌「ホワッ!?」 京太郎「二回戦であれだけチャンピオンに好き放題された」 京太郎「それでも準決勝で、全く怯むことなく終始全力で立ち向かっていった貴女が、好きになりました」 煌「え……えぇっと、メゲない諦めないことが私の持ち味みたいなものでしてね」 京太郎「花田さんは自分がどれだけやられていてもずっと笑顔で、最後には他家のアシストまでしてチャンピオンを止めてみせて」 京太郎「男の俺からみても、すごく格好良かったです」 煌「あはは……」 京太郎「いきなり、こんな不審者同然の男に告白されて困るのはわかってるんですけど…」 煌「まぁ…その…」 京太郎「貴女の打った麻雀は、きっと沢山の人の胸をうったはずです。俺みたいに」 煌「嬉しい御言葉ですが、それは褒めすぎです。あの大会ではみなさんすばらでした。私なぞはとてもとても」 京太郎「…僕は、貴女以上に『すばら』な女性は知りません」 煌「……そう真正面から言われると反応に困ってしまいますね……顔が熱いです」 京太郎「──告白は、受けてくれなくてもいいんです」 煌「…?」 京太郎「やっぱり初対面で『付き合って下さい』はないですよね」 京太郎「……今日はこの気持ちを伝えられただけで満足でした、ありがとうございます」 煌「──私からも。ありがとうございます」 京太郎「へ…?」 煌「あの対局で、私は全力…『自分が納得できる方法』を選び、その結果としてあのように決着がつきました」 煌「不満はありません。だってあれは私が必要とされた結果なのですから」 煌「……ですが、あの対局をみて、貴方のように、私のやった事で心を震わせてくれた方がいらっしゃったのであれば、」 煌「こんなに嬉しいことは、他にないでしょう」 煌「私の打ち筋を支持してもらえた、私の生き方を認めてもらえた。それはとても喜ばしいことで、何ものにも代え難い私の誇りになります。……だから、」スッ 京太郎「あっ…」 煌「ありがとうございます。その気持ちを、私に伝えにきてくれて」ギュウ 京太郎「あ、は、はい、あの…」 pipipipipi 煌「おや、私の携帯電話のようですね」 京太郎「あ、どうぞ」 煌「すみません。──はい、この電話は花田煌のものですが…あ、部長」 京太郎「(…花田さんの手……温かかったな…)」ドキドキ 煌「はい…はい…すばら…すばらです…はい…ではすぐに戻ります…はい、では──ふぅ」 京太郎「あの、もう行きますか?」 煌「そうですね、うち部長からミーティングの招集がかかりましたので」 京太郎「そうですか…」 煌「………」 京太郎「…あ、花田さんは先に行ってもらって大丈夫ですよ。ここは俺が出しますから」 煌「ふふ……なるほど、普段は“俺”なんですね」 京太郎「あ…」 煌「いいですよ。私は体裁を取り繕うより、本音を言ってくれる人の方が好きですから」 京太郎「…ありがとうございます」 煌「………」 京太郎「……花田さん…?」 煌「あっ……あー、そのぉー……」 京太郎「…?」 煌「わた、私としましては、先ほどのような事を言われたのは人生経験上類をみないことでした」 煌「なのでつい返答につまづいてしまいましたが……」 京太郎「あっ……いいんです、本当に。僕…俺の自己満足ですから、花田さんが気にしなくても…」 煌「おっ──お友達からというのは、どうでしょうか?」 京太郎「……へ?」 煌「あの、やはりですね、『お付き合い』というのは最低限に互いのことを知っていなければ始まらないと思うのです」 京太郎「はい…」 煌「で、ですから……まずはお友達から始めなければ、いいもわるいも御返事ができませんね」 京太郎「それって…」 煌「お友達です! お友達! お互い在宅の離れている身ですから、ここは私のメールアドレスを送らせてもらいますね」 京太郎「じゃあ俺のアドレスも…」 ピロピロリン 煌「受信完了……須賀京太郎さん、ですか」 京太郎「あ、はい。俺の方が年下ですから、呼び捨てで大丈夫ですよ」 煌「それは私のスタイル的に無理ですね」 煌「……でもお友達になろうというのに名字で呼ぶのも他人行儀なので、私からは京太郎さんと、お呼びさせていただきますね」 京太郎「わかりました、花田さん」 煌「それもです」 京太郎「えっ?」 煌「私も下で呼ばれたほうが嬉しいですから、名前呼びでお願いします」 京太郎「えっと……煌、ちゃん?」 煌「───」ボッ 京太郎「うぉあ!?」 煌「……ちゃ…ちゃんはやめていただけますか……なんかすっごく恥ずかしいので……」 京太郎「はっ、はい煌さん!」 煌「……すばらです!」 京太郎「こうして、俺と花田さ…煌さんとのメル友関係が始まった」 煌「京太郎さんは結構マメに、でも多すぎない程度に、そしてこちらの生活リズムに合わせた頃にメールをくださいました」 京太郎「写真なんかを添付して、俺の周りの環境のことも色々と説明してみて」 煌「お返しにと思って、私のお部屋の写真を送ったときは大変でしたね……」 煌「鏡に映った私のあられもない姿が入り込んでいましたから…」 京太郎「あんまりの衝撃にその日は眠れなかった」 煌「お恥ずかしい……」 . . . . . こうして文通を重ねることで仲良くなっていって、色々な機会を設けたお陰で、 なんども会うことが出来た2人の恋愛がどうなっていくのかは、 まだ誰にもわからない。
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http //hayabusa.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1379605327/ 京太郎「そうだったのか……。気が付かなかったぞ」 咲「中学生の時にお姉ちゃんに人生相談したら気持ち悪がられてね」 京太郎「もしかしてそれが別居の理由?」 咲「……うん。私と居ると身の危険を感じるんだって」 京太郎「咲が何かするとか思えねーんだけどな」 咲「私も一生懸命、弁解したよ。でも、何か同じ空間に居るのが嫌みたいで」 京太郎「まぁ…仕方ねぇよ」 咲「…そうだね。私が女の子好きなのは身内の恥だと思ってるだろうし」 京太郎「うーん。なんで俺にカミングアウトしたんだ?」 咲「京ちゃんも私と同じって思ったから」 京太郎「……俺は巨乳好きの女好きだよ」 咲「嘘だ!私、見たもん!京ちゃんが嬉しそうな顔して男の人の車に乗るの」 京太郎「チッ…」 咲「あんな顔、私達の前では見せなかった!和ちゃんの胸を見てる時より目がキラキラしてたよ」 京太郎「しゃーねな。咲もカミングアウトしてくれたんだ……。俺も…」 京太郎「今、付き合ってる彼氏とデートしてたよ」 咲「彼氏!?やっぱり、京ちゃんは……」 咲「京ちゃんはホモ?」 京太郎「そうなるな。今、好きな人は男の人だ」 咲「私も……好きな人は女の人」 京太郎「咲は付き合ってないのか。片思いか?」 咲「う、うん。最近その人の事を考えると夜も眠れないの」 京太郎「……完全に恋する乙女モードだな」 咲「毎日毎日の部活が楽しくて…、楽しくて…。 こんな日がずっと続けばいいのにって思う反面、もっと違う関係になれたらとも思う」 京太郎「なぁ、咲の好きな人当てていいか?」 咲「え?部活には四人も居るよ。当てれるの?」 京太郎「麻雀は下手くそな俺だが、これだけは当てる自信がある。99%当てれる」 咲「最低でも25%だよ!?い、言ってみてよ。一回で当てたらレディースランチ奢ってあげる」 京太郎「その言葉、忘れるなよー」 咲「当てれなかったら、京ちゃんが私にレディースランチ奢ってよ?」 京太郎「へいへいその条件のった」 咲(私がかなり有利だよね。三人もハズレが居るわけだし) 咲(やっぱりこう言う賭けはフェアじゃないと駄目だよね) 咲「ヒント出した方がいい?四択ってよく考えたら難しいよね」 京太郎「いらねぇ。むしろ全国含めても良かったくらい」 咲「ホント!?私、ずっと普通の女の子演じてたはずだよ!普通、ノーマル。バレてるわけがないよ!」 京太郎「いやー……、もしかすると部長も気付いてると思うぞ」 咲「嘘だ嘘だウソだ!そんなのバレてたら、もう私学校に来れないよぉ……」シュン 京太郎「部長と話した事はないんだけどな。何となくそう思うだけだよ」 咲「……で誰だと思うの?」 京太郎「和」 咲「~~~~~ッッ!?!??!??!」ビクッ 京太郎「レディースランチご馳走さん」 咲「う、うん///当たってるよ」 京太郎「咲は和に恋愛感情を持ってたのか……。友情にしては…こう…、少し異質な物を感じてた」 咲「同じ部活仲間に恋愛感情を持つっておかしいよね?私、頭おかしい子だよね?」グスン 京太郎「そうだな。頭がおかしいのかもしれない」 京太郎「部活仲間と恋愛はよく聞く話だ。俺と咲なら何の問題もなく付き合ってるだろうな」 京太郎「けどさ……。俺もホモだからわかるけど、好きになっちまったもんは仕方ないって思うんだよな」 咲「うっうっ…、和ちゃんってなんで女の子なんだろう…。 もし男の子に生まれてくれてたら、私も告白して玉砕出来るのに」ポロポロ 京太郎「和は女だからなぁ……。こればっかりはどうにも」 京太郎「後、二年以上あるぞ。ずっと秘密にするのか?」 咲「墓まで持って行こうと思う。和ちゃんとはずっと親友で居たいから……」 京太郎「それがいいかもなぁ……。和がレズならワンチャンあるけどさ」 咲「絶対ないよ!和ちゃん、真面目だもん」 京太郎「俺も真面目なつもりなんだが……」 咲「嘘だー。宿題もロクにやってこないのに?」 京太郎「宿題は……咲の写せばいいからな」 咲「そんな事だから嫁さん言われるんだよ。わ・た・し・が」 京太郎「ごめんな。カモフラージュにはちょうどいいって思ってるぜ」 咲「京ちゃん恋人居るんでしょ?私が嫁扱いされて、怒ったりしないの?」 京太郎「あの人は大人だからなぁ……。嫉妬なんかしないんじゃねぇかな」 咲「大人の人と付き合ってるんだ」ドキドキ 京太郎「おおぅ、大人はいいぞー。奢ってくれるし、帰りは送ってくれるし」 咲「そっかー。いつの間にか京ちゃんは大人の階段登ってたんだね……」 京太郎「まぁな」ドヤッ 咲「ど、どんなデートしてるの?」 京太郎「気になるの?」 咲「もちろん」コクコク 京太郎「咲は俺の秘密を知る数少ない友人だから、話してやるか」 咲「うんうん」コクコク 京太郎「彼氏は俺と違って働いてるから、ホモバレは絶対避けたいはずなんだ」 咲「だよねぇ」 京太郎「だから室内デートが多いよ」 京太郎「咲が見たのは……、多分、俺達映画を見に行ってたかな」 咲「映画かー。いいなぁ……。私も和ちゃんと映画行けたら……」 京太郎「映画くらい行けるだろ?誘えよ」 咲「優希ちゃんがセットで着いて来るから……。私が行きたいのは映画デートで、映画見に行くんじゃないもん!」 京太郎「和って映画のラブシーンで表情変えたりするのかな?」 咲「わかんない。意外にアタフタするかもしれないし、シレッとしてるかもしれない」 京太郎「和は精密機械みたいな印象あるからな。やっぱり何もなかったかのようにポップコーンを食べ……」 咲「恋人さんはどうだったの!?」 京太郎「男同士だからアクション見てたよ。もちろん手を繋ぐ事もなく」 咲「きゃーーーーー!きゃああああああ!!!!!」 咲「こうやって手を重ねるとかないの?」ピトッ 京太郎「ねぇよ。男同士が、手を重ねてたら気持ち悪いだろうが」 京太郎「ってか、俺に触るな!」ババッ 咲「ご、ごめん。つい」 京太郎「女に触られると蕁麻疹が出るんだよ」スリスリ 咲「ごめん、気をつけるよ」ペッコリン 京太郎「手を繋ぐで思い出した。咲、お前和の布団に入りこんだらしいぞ」 咲「うそッ!?」 京太郎「ホントホント。全国大会個人戦の夜な」 咲「あの日かな……。お姉ちゃんに会いに行って叩かれて、トイレで泣いた日」 京太郎「トイレで泣いてたの?花子さんかよ」 咲「みんなの前では泣かないようにって……。でもさ……」 咲『ごめん。今日は一人させ……』 和『咲さん。ウサギさんみたいに目が真っ赤ですよ』 優希『そうだじぇ!ほっとけないじぇ』 咲『ううっ…うぐっ…、えぐっ…な、な、な泣いて…なんか……』ポロポロ 和『咲さん』ダキッ 優希『さーきーちゃーん』ダイブ 和『何があったか聞きません。知りたくもありません』 優希『泣きたいのに我慢しちゃ駄目だじぇ。私なんか試合が終わってからすぐ大泣きしてたじぇ』 咲『わたわわわわたし、昔から変な子で!お姉ちゃんにいっぱい迷惑かけて!ぐすっ…えぐっ…、それで…、それで!』ポロポロ 和『咲さん、今日は私と優希がずっと側に居ますから……』ギュウゥゥゥ 優希『私達、ズットモだじぇ!』ビシッ 咲『うん!うんうん。和ちゃんと優希と友達になれて良かった』ポロポロ 咲「で、三人で仲良くガールズトークしながら寝たの」 京太郎「その後。その後だ、話は。和が言うにはなぁ~」 モゾモゾモゾ…… 和『なんだか寝苦しいです』 咲『くーかー』スピー 和(咲さん!?) 咲『お姉ちゃん…今までごめん。そしてありが…と…う…。変われなくてごめんなさい』ムニムニ 和『んっ…くぅ…、咲さん咲さん、私はお姉さんではありませんよ』小声 咲『最後に…これで最後だから…、昔みたいに…』ポロポロ 和『……咲さん』 咲『甘えさせて下さい』モミモミ 和(今夜だけですよ?寝苦しい夜になりそうですね) 京太郎「ってわけよ。おかげで和には目のクマがばっちりと」 咲「あーーーーーーーー!あの日の翌朝、和ちゃんが眠そうにしてたのは私のせいなんだ」 京太郎「安心しろ。本人的には青春の一ページの思い出として話してた。レズビアン特有の行動とは思ってないはずだ」 咲「ううっーーー恥ずかしい///私、何やってるの……」ドヨーン 京太郎「このままだといずれボロが出るかもしれないぞ」 咲「ごめん。気をつける」 京太郎「俺に謝られてもなぁ……。咲は和に触れたいのか?」 咲「そりゃ…少しは…、思ってるよ…」 京太郎「咲にも性欲があるのか。お兄さんびっくりだ」 咲「むっ!?性欲なんかじゃないもん!もっとこうピュアな感情だよ」 京太郎「性欲でも肉欲でもいいよ。咲は、和の体に触れたいんだろ?」 咲「……」コクン 京太郎「レズならバレずに触れ。優希にもベタベタしつつ、和ともベタベタすればいい」 咲「う~ん、難しいなぁ」 京太郎「女はまだマシだぞ。ベタベタしてても、同性愛とは疑われにくい」 咲「そうだね。私も優希がこっち側の人間かと思ってたけど」 京太郎「アイツは違う」 京太郎「男同士なんか人目がある所でイチャイチャ出来ないんだぞ!?この辛さがお前にはわかるのか?」 咲「でも京ちゃん、恋人居るし……。私よりずっとずっと、幸せだよ!」 咲「いや…私も十分に幸せなはずかな。とても仲のいい友達が居る、好きな人が同じ部活に居る」ブツブツ 咲「和ちゃんの横顔を眺めている時間は私にとって、とても…とても…幸せな時間のはず」ブツブツ 京太郎「そうそう。今以上の幸せを望むなら、失う覚悟もしないとな」 咲「それって和ちゃんとの信頼関係って事?」 京太郎「そうだ。俺がホモだとバレたら、きっと俺はクラスで孤立するだろう」 咲「……うん。私もバレたら、優希ちゃんも余所余所しくなるかもしれないね」 京太郎「和はもっとひどいかもしれん」 和『咲さんってレズビアンの方ですか?すいません、私はそっちの気はないので……、その…とても…困ります』ビクビク 咲「うわあああああああああ!!!!!!!!!!」 京太郎「落ち着け!それはまだマシなパターンだ!もっと最悪なパターンもある」 咲「どうしよ…どうしよ…」カタカタ 京太郎「今のままの付き合い方だとバレる可能性があると思う。部長が勘付いてるくらいだし」 咲「うっう…、私が和ちゃんを嫌いになればいいの!?無理、無理ムリムリ!嫌いになんかなれるわけない」ポロポロ 京太郎「恋心を隠して上手く付き合って行くしかないんじゃないか?」 京太郎「レズなら少しくらいベタベタしても大丈夫だからさ」 咲「……うん」 京太郎「元気出せよ。帰りにマグロナルド奢ってやるから」 咲「京ちゃん優しいね。男の人にもモテるわけだよ」 咲「そーいえばさー」モグモグ 京太郎「ん?」 咲「京ちゃんの彼氏ってどんな人?写真ある?優しい人?」チューチュー 京太郎「優しいよ。咲の知ってる人だよ」 咲「誰だろ……。全くわかんないなぁ」パクパク 京太郎「ハギヨシさん///」 終わり