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【Fate/Zero】8/8 ○衛宮切嗣/○セイバー/○言峰綺礼/○アーチャー(ギルガメッシュ)/○ランサー/○ウェイバー・ベルベット/○ライダー/○バーサーカー 【カゲロウプロジェクト】6/6 ○如月伸太郎/○如月桃/○木戸つぼみ/○鹿野修哉/○小桜茉莉/○瀬戸幸助 【刀語】6/6 ○鑢七花/○とがめ/○鑢七実/○否定姫/○左右田右衛門左衛門/○真庭鳳凰 【バトル・ロワイアル】6/6 ○七原秋也/○中川典子/○川田章吾/○桐山和雄/○相馬光子/○清水比呂乃 【魔法少女リリカルなのはStrikerS】6/6 ○スバル・ナカジマ/○ティアナ・ランスター/○エリオ・モンディアル/○キャロ・ル・ルシエ/○ゼスト・グランガイツ/○ルーテシア・アルピーノ 【リトルバスターズ!】6/6 ○直枝理樹/○棗鈴/○棗恭介/○宮沢謙吾/○神北小毬/○来ヶ谷唯湖 【シークレットゲーム-KILLER QUEEN-】5/5 ○御剣総一/○八幡麗華/○綺堂渚/○手塚義光/○高山浩太 【スーパーダンガンロンパ2-さよなら絶望学園-】5/5 ○日向創/○七海千秋/○狛枝凪斗/○九頭龍冬彦/○辺古山ペコ 【とある魔術の禁書目録】5/5 ○浜面仕上/○滝壺理后/○木原円周/○木原加群/○木原病理 【魔法少女まどか☆マギカ】5/5 ○鹿目まどか/○暁美ほむら/○美樹さやか/○佐倉杏子/○巴マミ 【ひぐらしのなく頃に】4/4 ○前原圭一/○竜宮レナ/○園崎詩音/○北条沙都子 【Fate/stay night】4/4 ○衛宮士郎/○アーチャー(エミヤ)/○葛木宗一郎/○イリヤスフィール・フォン・アインツベルン 【ONE PIECE】4/4 ○モンキー・D・ルフィ/○ポートガス・D・エース/○エドワード・ニューゲート/○エネル 【空の境界】2/2 ○両儀式/○黒桐幹也 【書き手枠】残り一つ 72/72
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参加者名簿 6/6【涼宮ハルヒの憂鬱】 ○キョン/○涼宮ハルヒ /○朝倉涼子/○朝比奈みくる/○古泉一樹/○長門有希 6/6【とある魔術の禁書目録】 ○上条当麻/○インデックス/○白井黒子/○御坂美琴/○ステイル=マグヌス/○土御門元春 6/6【フルメタル・パニック!】 ○千鳥かなめ/○相良宗介/○ガウルン/○クルツ・ウェーバー/○テレサ・テスタロッサ/○メリッサ・マオ 5/5【イリヤの空、UFOの夏】 ○浅羽直之/○伊里野加奈 /○榎本/○水前寺邦博/○須藤晶穂 5/5【空の境界】 ○両儀式/○黒桐幹也/○浅上藤乃/○黒桐鮮花/○白純里緒 5/5【甲賀忍法帖】 ○甲賀弦之介/○朧/○薬師寺天膳/○筑摩小四郎/○如月左衛門 5/5【灼眼のシャナ】 ○坂井悠二/○シャナ/○吉田一美/○ヴィルヘルミナ・カルメル/○フリアグネ 5/5【とらドラ!】 ○高須竜児/○逢坂大河/○櫛枝実乃梨/○川嶋亜美/○北村祐作 5/5【バカとテストと召喚獣】 ○吉井明久/○姫路瑞希/○島田美波/○木下秀吉/○土屋康太 4/4【キノの旅 -the Beautiful World-】 ○キノ/○シズ/○師匠/○ティー 4/4【戯言シリーズ】 ○いーちゃん/○玖渚友/○零崎人識/○紫木一姫 4/4【リリアとトレイズ】 ○リリアーヌ・アイカシア・コラソン・ウィッティングトン・シュルツ/○トレイズ/○トラヴァス/○アリソン・ウィッティングトン・シュルツ 【60/60】 ※書き手枠完売。決定しました。 ※書き手枠(スタート時点で名簿に名前が載っていない10名)は以下の通り。 【フルメタル・パニック!】 ○メリッサ・マオ 【空の境界】 ○白純里緒 【甲賀忍法帖】 ○如月左衛門 【灼眼のシャナ】 ○フリアグネ 【とらドラ!】 ○北村祐作 【バカとテストと召喚獣】 ○島田美波/○木下秀吉/○土屋康太 【戯言シリーズ】 ○零崎人識/○紫木一姫
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5910 ~隔離された小島で~ ◆kALKGDcAIk 「やっぱり泳げないよな……」 僕は無意識に呟いた。 支給されたデバイスで位置を確認してみるとエリアF-2。遺跡のある小島の一角らしい。 地図を見る限り、向こう岸に渡る為の橋などは見当たらない。 少し散策した所、見つかったのは小型のモーターボートが一隻。 但し、対岸に。かろうじて目視出来る距離だ。 デバイスに付属している方位磁石によると、だいたいF-1辺りに停泊している。 対岸までは別に水泳が得意な訳でもない僕にはとても泳ぎきれる距離ではない。 正直手詰まりだ。 だからといって、こんな所でじっとしていても仕方がない。 先ほど確認した名簿にはよく知る名前が二つあった。 両儀式と浅上藤乃だ。 両儀式。 人を殺せない殺人鬼。 あらゆるモノの死が見える特別な目の持ち主。 彼女は強い。こんな馬鹿げたゲームで人を無差別に殺したりしないし、簡単に殺されることもないはずだ。 浅上藤乃。 死に接触して快楽する存在不適合者。 視界内の任意のモノを捩じ曲げる超能力の持ち主。 かつては、復讐の末の殺人者だったが。既にそれは解決した問題だ。 無差別に参加者を殺すとは思いたくない。 他にもまだ13人分名簿に載っていない名前がある。鮮花や橙子さんが参加させられている可能性だって十分あるのだ。 式とは合流したいし、浅上藤乃の存在も気になる。 それに自分だけ、逃げの姿勢をとりたくなかった。 先ほど見せしめとして目の前で殺された少女。 大切な家族を想い、勇気を持って壇上に上がった少女。 彼女のような何の罪もない人たちがこの会場には恐らく多くいるだろう。 そんな人たちがいるのに、僕だけ逃げの一手を考える気にはなれない。 僕には式のような戦う力はない。守る為でも、相手を殺すための引き金を引けるか分からない。でも、反攻の意思は示し続けたい。見せしめになった少 女のように。 だから僕はこんな所に隔離されている気はない。 参加者全員に支給された物品ではこの窮地を脱す手助けにはならない。 周囲に特にめぼしいものも落ちていない。 だったら、この状況を切り抜ける術をこのゲームの命綱ともいえるランダムアイテムに賭けるしかない。 そんな神様にも祈る気持ちで取り出したランダムアイテムは―――。 たった一冊の本。タイトルはバトルロワイアル観光ガイド。 「―――なにこれ?」 驚きとイラつきが僕の頭を過ぎった。 観光ガイドなんてこの場で何の役に立つのか。 付属している説明書には、 バトルロワイアルをより盛り上げる為に用意された施設。 その魅力を存分に詰め込みました。 殺し合いを有利に進めるマル秘情報も満載! 確かに地図を見ると、確かに象の像やらショッピングセンターとか殺し合いの会場とは思えない変わった施設が多く書かれている。 だからといってこんな参加者をあざ笑うような観光ガイド。 これを入れようと決めた奴は楽しんでやったと思う。 投げ捨てる衝動を抑えつつ、とりあえずこの小島にある唯一の施設である遺跡のページを捲って見る。 【F-2/遺跡】 神根島の遺跡をそのまま移築しました。 太古から伝わる遺跡に歴史のロマンを感じながら、凄惨な殺し合いを楽しむことが出来ます。 申し訳ありませんが、ゲームの進行に関係のない思考エレベータに関しましては、現在機能を停止させております。 【マル秘情報!】 遺跡には隠された地下道が存在します。どこに繋がっているかは入ってからのお楽しみです。 前半の文章で、破りたくなる衝動にすら駆られたが、一つの文章が目を引いた。 "遺跡には隠された地下道が存在します。” 最初は大はずれだと思ったが、どうやらそれは見当違いだったようだ。 少なくともこの場では大当たりも同然だ。 選択肢なんてない。地下道がどこに繋がっていようが、進むしかない。 僕は覚悟を決めて、遺跡への一歩を踏み出した。 【F-2/遺跡前/一日/深夜】 【黒桐幹也@空の境界】 [状態]:健康 [服装]:私服 [装備]:なし [道具]:デイパック、支給品一式、バトルロワイアル観光ガイド [思考] 基本:ゲームに乗らない。ゲームに反抗する姿勢は持ち続けたい。 1: 小島から脱出する為に、遺跡の地下道を探す。 [備考] ※参戦時期は第三章「痛覚残留」終了後です。 【バトルロワイアル観光ガイド】 会場内にある各施設の名称やその特徴、見所について写真と共に掲載されています。 マル秘情報として、普通に見て回るだけでは気づきにくい事柄が載っている事もあります。 遺跡について 遺跡は神根島の遺跡@コードギアス 反逆のルルーシュR2を移築したものです。 F?1の畔に3人ほど乗れる小舟が一隻あるのが確認できます。 思考エレベータなどの機能は停止されています。機能を復旧させられるかどうかは不明です。 遺跡には地下道が隠されています。 地下道の具体的な場所やどこに通じているかは、後の書き手さんにお任せします。 時系列順で読む Back 桃色教師のあいしかた Next 魔女は晩餐 投下順で読む Back 桃色教師のあいしかた Next 魔女は晩餐 黒桐幹也
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2nd / DAYBREAK S BELL(4) 4 / THIS ILLUSION (Ⅰ) 流星が煌めく天空の下。 荒れ狂う呪怨の波を、避け、斬り裂き、吹き飛ばす。 軽く置いた足を基点に、猛烈な勢いで上方向へ飛散した岩盤。 一方通行の前面に展開された石壁は、迫りくる灼熱を孕む泥で出来た触手を受け止める。 超能力『一方通行(アクセラレータ)』により瞬間的な盾となった瓦礫の山は、殺戮の呪いからの浸食を押し留めていた。 ベクトル操作による『反射』の膜が通用するか疑わしい、明らかに物理法則下から外れている攻撃。 これまでの常識が通用しない超常者すら超える規格外など何度も会ってきた。 超能力の行使の節約のコツは完全に掴んでいる。 注入したベクトルは極僅か。制限時間内の1%程度の消費に過ぎない。 それでも射出された岩盤の砲弾にはロケット弾の初速並の運動力が込められている。 目前の生命に絡みつこうとする触手の包囲は瞬く間に飛散し―――その突破を一瞬で塗り替える頭上からの波濤が押し寄せた。 「……ちィっ!」 舌打ちと同時に後方に飛び退く。 小石を蹴る程度の小突きで十メートルはゆうに超えた距離にまでの超移動。 数秒前に立っていた位置には四方八方から雪崩れ込んだ大波が叩きつけられ、泥沼の一部と変わっていた。 やおら頭上に目をやる。 そこには、別の「根」から持ち上げられた野太い縄のような泥が計七筋。 退避した一方通行を逃がすまいと、泥第の二波が空から落ちてくる。 瓦礫を射出し迎撃するが、止められるのは末端のみ。 頭部にあたる場所を吹き飛ばされても、残った部分だけで脈動し、軌道を修正して再び躍りかかってくる。 下がる一方通行を獰猛に追いすがり陰湿に付け狙ってきた。 「しつけェぞ、ゲテモノ野郎!」 乱雑に袈裟に右腕を振るい上げる。 腕の軌跡をなぞって、通過した斬裂の空刃が黒縄を両断する。 大気の流れを操って生み出した真空の衝撃波は、瓦礫の投擲とと同様純粋な物理攻撃だ。 微細な物理計算を念頭に入れる必要もなく、ただ破壊に必要な運動エネルギー分だけぶつければ事足りる。 『反射』を封じられても、ベクトル操作による多種多様な手段は未知の物質にも有効となる。 万能にも等しい法則改変こそが一方通行の超能力が最強たる所以だ。 戦術もなく、遮二無二突っ込んでくる悪意など、脅威には値しない。人類根絶の呪いであろうと銃火器と大差のない障害だ。 「……はァ」 問題となるのはむしろ、際限なく溢れて止まない無尽蔵の質量だ。 泥の支配に濡れてないまだ安全領域の場所にまで下がって俯瞰するのは、全身をよじるおぞましき妖樹。 飛散していく泥は骨格という決まった形で定まれておらず、生体を補う内臓も詰まってない。 アメーバのような単細胞生物に等しく、従って弱所もありはしなかった。 毛先一本分に足らない分を潰した程度で動きが止まるほど、繊細な造りはされてはいない。 現出を促し、自然崩壊を留めている「核」を叩かない限り決定打になり得はしない。 それがなんであるかを、とうに一方通行は看破している。 「……」 樹体に半分埋もれたオブジェと化した少女。 もはやヒトとしての機能は求められていない。ただ悪魔をこの世に招き寄せる為の依代、儀式の生贄の供物。 一方通行は同情はしない。 たとえ彼女が何の罪も背負わない陽の元の世界の住人だとしても、全てはとうに遅い。 切り捨てるのは悪だろう。速やかに終わらせるのが唯一の救いになる、という言い分も所詮は詭弁。 救える手には限りがある。血に染まった己に救えるのはもうただひとつしかない。 誓ったのだから。それ以外に手を差し伸ばせるわけもない。 「第一、構ってやれるほど暇じゃねェンだ。 せいぜい恨み辛み重ねたまま、絶望して消えて逝け」 悪の殺到する死の森へと切り込む。 迷いなく一方通行は選ぶ。人でも敵でもない障害として、非道に片づける修羅の道を。 一方通行が離脱したアンリマユの支配圏では、今も両儀式が駆け走っていた。 視覚もなく本能といえるものすら曖昧なのにも関わらず、そこにいる命には鋭敏に察知し蹂躙しようと根が向かう。 戦場をくまなく覆い尽くしてあらゆる地点から飛び出す魔手。 正面、背後、地表、天井。 逃げ場のないそれを、手に持った一刀が照らす白銀の煌めきが切り拓き道を成す。 間合いに入り込んだ敵は例外なく斬滅する『剣の結界』。古の剣士の業が犠牲者と共に再現される。 両目に映るのは赤。流れ落ちる血の色。燃え上がる戦火の色。 泥に刻まれた呪詛のような『線』は、眼球を蕩かせるような熱を押し込んでくる。 目を通し脳に伝わる痛みを切り捨て、その線に刃を入れてその身に死を具現させる。 ボロボロと崩れゆく触手の末路には一瞥もくれず、瞬きの後には返された二の太刀が次なる獲物を斬っていた。 『死』ははっきりと、これ見よがしに鮮明に映っている。 それは異常だった。気を抜けばあらゆる物、人に死を見るとはいえ、この泥に入っている線はあまりにも、濃い。 かといって脆く虚弱というわけでもなく、まともに受けては式とて死に至る殺傷性がソレにはある。 全身に死を明瞭に映し出しているくせに、世界を死に至らす圧倒的な闇を振りまいていく。 弱さと強さを併せ持った矛盾の塊。犠牲者でありながら簒奪者であり続ける死神。 立ちはだかる存在のその奇妙さに、だが式は疑問を覚えない。 分かりもしない意味を考えることはせず、単にそういうものだと割り切って済む話だ。 刀剣の暗示化にある中でそのような些事は抱かない。 あるのは直感、戦闘本能としての違和感だけ。 戦闘、生存に特化した人体は背筋に走る氷の冷たさを常に満たしている。 その冷たさを飲み干して、改めて敵へ肉薄する。 魔眼と刀技による絶対死の一撃も、武器の間合いにないものには届かない。 周囲を埋め尽くす勢いの大滝の如き呪いの坩堝に飛び込むとしても、そこにしか勝機がないのなら選ばない理由はない。 狙うのは祭壇に侍る言峰綺礼。 式が生きるにはこの聖杯の根源を抹消する他ない。だがその時間違いなく邪魔なのはむしろ神父の方だった。 危険の度合いでいうなら、人殺しに特化した泥を生む聖杯のが大きく上回っている。 それでも脅威の点、存在を許容できない意味で、式は聖杯以上に言峰へと先に剣を突き付ける。 水溜りを踏みつけ、飛沫が舞う。 聖杯に言峰を守る意志などだいだろうが、それでも自らの元に走り寄る命には貪欲に引きつけられた。 怪魔の軍勢が、我こそはと式の肢体を蹂躙せんと詰め寄る。 対極の聖杯の略奪が最優先だとしても、それで他の存在に手心を加えるなどという機能はこの聖杯には元からない。 生き物の気配を感知したのなら是非もなくその身を焼き焦がし責め殺す。そんな使命の元悪意を躍動させていた。 その死の渦を、掻い潜る。 正に渦を巻く、と呼ぶべき螺旋廻廊。 その内の洞。呪いの通貨しない空いた箇所へと身をねじ込んだ。 悲鳴を上げる関節。 粒になって散った泥が付着し叫ぶ肌。 その全てを無視して、渦の外を突破する。 着地と同時に、隙を逃さず真上から落下する魔力の波濤。 逃れられず、防ぎようのないそれを、触れるより前に手にある刃で祓い落とした。 唐竹に割れる汚泥。 周囲を闇に覆われながら裾を黒ずませても、中心に立つ姿は未だ無垢に残ったままだ。 「私を先に狙うか。懸命だな。 劣る敵とはいえ倒せる相手なら先に倒すべきだ。でなくばいざという時足元を掬われかねん」 言峰との距離は、既に十メートルを切っていた。 死の圏内が縮んできても、神父は相変わらず悠然な笑みのままでいる。 「それとも。さっきの一言が余程腹に据えかねたのか? 荒耶も言っていたな。おまえは見かけよりも激情的な―――」 語らせる気も、聞く耳も持たない。 その口を噤ませるべく、いますぐ一閃を払って言峰を両断せんと、体が流れ次の一歩を深く踏み込む。 その直前。 夜気を揺るがす豪爆の音界が、燐光を伴って並み居る触手を燃え散らした。 「………………!」 起きた風が紬の袖を払い、カソックをはためかす。 濃霧舞う空を切り裂き貫通した空間にあるのは、やはり赤い粒子。 この世全ての悪とはある種同一にあたる、人造の悪意である劣化GN粒子。 GNドライブ搭載機の基本武装のひとつであるGNミサイルの炸裂した跡だった。 比喩などではない本物のミサイルの爆発は、周囲にあった泥を根こそぎ消失させていた。 もし飛来物に反応して飛びついた触手の数が少なければ、式と言峰にまでも被害が及んでいただろう。 「……ち。照準がズレたか。まだ粒子が馴染まねェのか。 成分は理解してるが弾くならともかく、自分で使うとなると勝手が違うな」 一方通行は、空になった手を前方に突き出したままの姿勢で立っている。 推し量るまでもなく、彼は自らを誘導弾の"発射台"としていたのだ。 殺害の報酬に頂いた多量の首輪を換金して得た銃火器のうち、最も大きな武器であるGNミサイル。 対モビルスーツ戦を想定して造られた、人に向けるには過剰極まる破壊力。 だがその照準は人ならざる魔性。機械など及びもつかない真性の悪鬼だ。 能力の制限に縛られている中で攻撃力を維持するにはうってつけだった。 「まァ、いい。今のでコツは覚えた。次は直撃させるぜ? 逃げられるもンなら逃げてみなァ。その寸胴から足が生えるかは知らねェがよ」 デイパックから引き抜かれる二基目のミサイル。 人間一人では引き摺ることさえ出来ない質量のそれを、まるで紙細工の模型かのように軽々しく持ち上げる。 内部機器に干渉して推進に点火し、勢いのまま手づかみで投擲した。 射角調整は僅かな操作で事足りる。センサーは己の感覚で補う。 「そうら、ブッ散れ」 手から離れ、猛進する第二射。 だがここで、ただこのまま固定砲台に甘んじる気概で収まる一方通行ではない。 次なる一手は構築済み。殲滅のための超能を制御する知識が回転する。 「はっ――――――!」 ミサイルが射出されるや否や、一方通行もまた前方に跳んだ。 高速で移動するミサイルに更なる超高速で追いすがり、その上体に足を着け、乗り上げたのだ。 そこからは、まるで大道芸でも見るかのような光景だった。 取り付いた一方通行はその姿勢のままベクトル能力を行使、ミサイルの運動法則を操りサーフボードの要領で「操縦」した。 二転三転と繰り返す蛇行。 運動神経では人並み以下でも、それに反比例して頭脳内での演算力は卓越してる。 襲いかかる触手の速度、精度はとうに見切った。 戦国武将の剣戟、見上げる巨躯の機動兵器に比べれば稚拙そのもの。馬鹿正直に来たものに突っ込むしか能がない。 肉体的な反応でなく、起きる現象の数値を正しく計算した結果であれば、軌道の穴に入り込むのは余裕だった。 無数の触手を、風を読み自在に羽ばたく燕のように鮮やかな演舞でかわし切る。 「おらァっ!」 右往左往する蛇の上まで昇り、決着の一撃を放つ。 足の接地を外し空に浮く体。制御から離れ先を行く爆槍。 後背部のブースター面へと、裂帛の気合いを込めて力強い蹴りをぶつけた。 膨張する火焔の柱。 けたたましく鳴る龍の逆鱗の咆哮。 今までとは比の違う時間行使。桁外れの力(ベクトル)を注入され、人智の兵器はいま条理を越えた魔具へと変性を遂げる。 埒外の加圧を受けたミサイルは、城門を砕く破壊槌そのものだ。 中に貯蔵されたGN粒子までもが付与された力に騒然としている。 食らいつく先はただひとつ。いまも無防備に括られている裸身の生贄。 神父の謳う女神とやらを、木端微塵に打ち砕くべく突貫する。 だがそれさえも、超能力者には布石の一投に過ぎない。 槍は泥の集積した塊に阻まれ、本懐を果たせずまま火花を散らした。 莫大な威力の余波で、防いだ壁の包囲には完全な穴が貫通する。 表面を焦がされたことで凝固したトンネルを、颶風と化した白の影が通り抜ける。 飛び勇む一方通行の狙いは変わらず、少女を磔にする聖杯の中心部。 「じゃあな、潰れろォ!」 一本に重なるふたつの撃槍。 ひとつ目で盾を奪い取った今、邪魔するものは何もない。 轟然と向かう五体が流星となり、肉の詰まった杯を爆砕するべく衝突する―――。 一方通行の蹴撃が振るわれると同時の瞬間、式は弾けるように駈け出していた。 一発目の時点で、影はもう消えていた。 上から落ちてくる一撃がただならぬ脅威と察知したのか、周囲に寄っていた触手が空へと吸い込まれるように昇っていった。 無限を誇る総量の泥が、この時点でのみその均衡が崩れる。 解れた結び目の境の間隙を未来予知の域にまで高まった直感で見つけ、その先を踏破する。 進路の邪魔になる触手の根を横薙ぎの斬撃で消し去り、振り抜いた反動を使って黒縄の檻の外―――言峰綺礼の立つ地面へと跳ね飛んだ。 一足。 泥の障害が消えた今、言峰の眼前にまで踏み込むにはそれだけで十分だった。 言峰は構えを取る。しかし遅い。 音速の域に辿り着く式の足運びは言峰の反応速度の限界を凌駕している。 たとえ防御が間に合っても、その守りごとを切り落とす。 掲げられた上段。限界まで引き絞られる筋繊維。 直に構えられた太刀が、雲耀の速度を以て振り下ろされる―――。 両儀式と一方通行との連撃は、阿吽の呼吸に相応しいタイミングで続いた。 当然、連携の示し合せなど二人は行っていない。 他に向けられる意識は用意されておらず、自分が定めた敵を倒すためだけに動いている。 だが他者を見ずとも、状況は常に確認している。 自らにとって有利な展開を定め、生み出すために直感と知能を総動員している。 結果、両者はそれぞれ同時期に勝機の到来となる鍵を見つけた。 それは一方通行には聖杯付近に踏み込んで泥の襲来を集中されている両儀式であり、 式には上からミサイルを蹴り放ち、核を守ろうと泥を集約させた一方通行の存在だった。 最大の真価を発揮するために他人を利用する。 言葉にすればそれだけの方法だが、それが成立するには数々の条件が塞いでいる。 狙う敵が一致し、思考が同一だったからこそ成り立った共同戦線。 どちらかが少しでも違った行動を取れば即座に双方共自滅する、綱渡りの選択。 だがそもそも、この二人が直に殺し合った回数は一度や二度では済まない。 死線で結ばれた関係は、所詮互いの否定でしかない。 理解しているのは、その戦法。 使う武器、持ち得る能力、予測される攻撃、弾き出される運動性能の限界。 刃を重ね殺し合いを演じるごとに、二人の間には情報が蓄積されている。 技の冴えも、武装の破壊力も。自分が相対した場合の対処法を幾つも想定している。 それを応用に使ったのが、今し方の連続攻勢の仕組みだった。 繰り出される心技を十分に把握していた二人は、片方がこの状況で取る行動を逆算し、それに後続して相乗った。 前進して出来た孔は直後の後押しの相乗効果を受けて拡大し、遂に泥の牙城を突き破ったのだ。 確信があった。次の手で完全に決まると。 GNミサイルの爆散で、一方通行と核の少女との間を阻む壁は取り払われている。 両儀式はアンリマユの波状攻撃を透過し、言峰綺礼の目の前に辿り着いた。 これ以上ない絶好の勝機。 この手を下ろせば汚濁は潰える。二人の願いを壊す禍つ聖杯は崩れ去る。 二人は全く同じタイミングで悪夢を終わらせる止めを刺そうとして。 『怪異』が、起きた。 「「――――――――――――――――――!!!???」」 得も言われぬ悪寒が、両者に走った。 何か、道の途中で大切なものを落としてきてしまった気がする。 自分達は途方もない思い違いをしていたのではないかという、猛烈な不安が。 あり得ないと信じる思考が、覆さざる現実によって脆くも浸食され、反転する。 宮永咲に差し出された一方通行の拳は、顔面に触れる寸前に中空で制止していた。 泥の強度を念頭に入れて設定された威力の一撃。 粘性と熱性の防壁が敷かれようと纏めて風圧で吹き飛ばして、減衰したままでも無抵抗の少女の首を折る計算の力を発揮したはずだった。 なのに、今一方通行の拳を受け止めたのは、たった一枚の掌大の花弁だった。 花弁は他の泥の溶けた鉄のような色とは違う、鮮明な光が灯っている。 美しく幻想的な灯。春に吹雪く桜の華。 一方通行の目に、それは死者の人魂としか見えなかった。 式の持つ中務正宗もまた、言峰を斬ることなく軌道を止めていた。 髪の先まで近づいているのに、そこから先がまったく動かない。 阻んでいるものは、刀と男の合間に境界となって挟まれた細い根。 今までとはまるで手応えの違う感触にただ困惑した。これではまるで鋼で出来た業物の刀剣だ。 そして乱れる自分の呼気の音を聞いて、その事実に固まった。 あれだけ死を味わいながらもこの身を刀に保っていた暗示の術が、解けている―――。 突如の異変に時が止まる。 異常な事態だと理解しているのに体が追いつかない。 「――――――――」 先に復帰したのは一方通行だった。しかしそれは自力での復帰ではない。 肌が触れ合う近さで自分を真っ直ぐに見る「視線」に気づき、反射的にそれを見返してしまったのだ。 屍同然だった宮永咲の瞳は、開いていた。 虹彩は赤い。生まれ持った花の可憐さはなく、眼光には見た者を焼き焦がす烈火の炎だけが炯々と灯っている。 そして瞼の内からはごぼごぼと、どろどろと、黒い涙が滂沱と溢れていき……。 「……………っっっ!!!」 本能からの警鐘で完全に自己復帰して咄嗟に後ろに飛び退いた。 攻めを止め下がる選択をしたのは単なる警戒か、それとも殺意よりも生存の意志が勝ったのか。 当然前者だ。前者でしかない。それ以外であっていいはずはない。 答えの出ない迷宮に囚われた思考で、今はただこの「敵」と距離を取る事だけを考えるのみだ。 弾けた白影に連動して、式もまた背後に下がった。 得体の知れない異常よりも、確かに死の手応えを教える硬い感触が腹部に押し込まれる。 その寸前、身をよじり衝撃の全てを受け止めるのだけを避ける。 「……っ―――」 それでも、触れた箇所には鈍い痛みが疼く。 内部からの破壊を目的にした八極の拳打は、まともに入れば内臓と、それを守る骨が砕かれていただろう。 逸らした顔があった位置を、幹のように野太く鍛えられた言峰綺礼の腕が通過する。 まともに打たれれば首がもがれてもおかしくない功夫の冴えに、式の本能は刺激される。 続く拳をスウェーでかわし背後に下がる。 空いた隙へ切り込むよりも、全身に刺さる怖気から身を守る方を選んだ。 周囲にひしめく泥は何の反応も見せず、拍子抜けするほど簡単に退避が出来た。 聖杯を俯瞰できる位置、即ち初めてここの着いた時の場所にまで戻って、式は海に浮かぶ樹を見上げる。 空に巣食う赤い稲妻。 天上での死闘の余波が、聖杯に触れようとする黒い泥の手を打ち落とす。 「―――――――――これは」 隣には、立ち戻った一方通行が焦燥した表情で同じ標的を睨んでいる。 「……この感じ、前にもあったぞ。 似たような胸糞悪い障られ方だ。あの紅いヤツとやってた時、か?」 かつて似た現象に囚われていた記憶を一方通行は反芻する。 そう、あれは駐車場での事だ。あらゆる手を封じて詰みに入っていた紅い騎士の機動兵器。 それが突如として威勢を取り戻した、あの時の不穏な不運を招かれた謎の介入操作―――。 「そうか、決めにきたか。 調整するのはもう十分かね?宮永咲」 「あン?」 ただ一人。 全てに納得しているとばかりに、異変に顔を強張らせないまま微笑でいる男の声が聴こえる。 「なんだ、ここに至ってまだ分かっていないのか。 数々の未知の異能、ありえざる異常に関わってきたのならすぐ気づくかと思っていたが、残念だな」 『樹』は、未だ異変の只中にいたままでいる。 花葉が枝が根が幹が、樹全体が激しく揺れている。 「―――遊戯の中では、時に魔物が身を潜めていることがある。 賭けるものがないがゆえに他を顧みず容赦なく全力を尽くし、命を取り合う恐怖がないからこそ他を竦ませる戦術を躊躇いなく用いる。 戦場であれば恐れられ疎まれるであろうその魔物は、遊戯台にあってはむしろ賛美と名声で迎えられる。 当然だ。彼らは公正な試合の元で戦い、単純に勝ったのみだ。それが疎まれる謂れはない。 己の異質さ、禍々しさを自覚することなく、戯れに人の死を築き上げていく。 悪意も敵意もないまま、純然たる善意と好意を以て他者を蹂躙し嬲り屠る魔性の化物。 宮永咲はまさにそれだった」 伝わる揺れは樹木全体が起こしているものだ。 根を張る地面のみならず、空までもが樹の振動に震撼していた。 「単に素養があるだけで聖杯の器は務まらん。 まして始めから器になるべく設計も調整も為されていない娘では、この孔を固定することは到底かなわん。 だが彼女には別の素質があった。世界という絵巻の秤となるべく生まれ落ちた舞台装置。 そして卓上のみにおいて発揮される、運命を決める権能の力。 誇張なく、宮永咲は『世界の主役』と呼ばれる存在だ」 然り。これこそ震えだった。 殺戮の喜悦によるものとは質の違う漣の根源は、途方もない恐れから振るえているのだと式には思えた。 あの視線を受け止めた一方通行は、ふと思ってしまう。 悪しか齎さない殺害という概念の化身であるあの泥。 意志すら定かでないこの世全ての悪が、あんな踏めば潰れるような草花に恐怖しているのだと、あまりにも馬鹿馬鹿しい考えを。 「私とお前たち、そして彼女。 これで四人。卓を囲むには丁度いい数だ。 とうに牌は配られ、賽子(ダイス)は回っている。ならば後はもう思うがままだ」 「さっきから、何を言ってる。おまえ」 殺し合いに巻き込まれた不幸な被害者。 何の責もなく、無理やり生贄の役目を負わされた憐れな犠牲者。 式も一方通行も、あの少女はそれだけの存在だと認識していた。 今でも、それが間違っていると思わない。 だが、それなら今あそこに収められている人型は。 全体を影に呑まれ、焔を宿した眼でこちらを睥睨するその姿は。 「単純な話だ。既に我々は彼女の遊興に付き合わされていたというわけだ。 損傷、消耗、彼我の戦力差。 真剣に殺し合ってるように見えて、その実我々には互いに何も失っていない。 全てが以前と――――変動なし(プラスマイナスゼロ)のままでいる。 私も含め誰もが決着を望んでいるというのに、彼女の意志がそれを拒んだというだけで、こうして膠着を生み出した。 聖杯ですらもその指向性を誘導させられている。引き役を務めるこちらでさえ空恐ろしさを覚えずにはいられんな」 戦慄する。 勘違いしていたのは―――果たして、いったいどちらだったのか。 予め定められた都合のいい展開を相手から差し出され、知らぬうちにそれに乗せられ操られていた。 これまで思い通りに進めていた戦いが全て、あの掌の上で転がされていたとすれば。 もはや人に収まる業ではない。正統な流れにある者には受け入れられない邪に映る。 「魔」と呼ばれる類の、怪異だ。 「だがそれも終わりだ。 どうやら、この状態でも勝利の決意は残っているらしい。本能が剥き出しになったと言った方が正しいか。 図らずも、私にとっても喜ばしい限りだ。虚飾のない人間の命の疾走は、誰であろうと美しい」 神父は笑った。これ以上なく朗らかに。晴れやかに。 虚偽なき本心からの祝福を、人ならざるカタチに昇華された魔姫へ送る。 「―――喜べ少女。君の願いは、ようやく叶う」 聖杯は願いを叶えるもの。 どのような人物、どのような小さな願望だろうとその理想を形にして見せる。 少女はいま、確かに願った。 人間性、世界との関わりを削ぎ落とし、裸になった心になお残った、あまりにもささやかな希望。 それが此処に、最悪の形で曲解され一つの局を立つ。 「さあ、開化(カイホウ)が始まるぞ。 せいぜい耐えるがいい。命を消(とば)されたくなければな」 妖花が狂い咲く。 悶え乱れた触手総てが、無作為に悪害を散らすだけだった呪いが、ここにひとつの意志の元で統一される。 声を皮切りに、地に埋もれていた"根"が一丸となって、猛烈な勢いで二人に押し寄せてきた。 町を飲み込み災禍を引き起す、荒海の津波そのものの速さ。 これまでにない膨大な量の泥は、左右に別れて回避した式と一方通行の間を通過したまま残留し、二人を分断する壁となった。 「「っ――――――!」」 動いた後で、双方が詰んだと悟った。 何が起きたかは計れない。ただ体の奥底で警鐘を通り越して観念したに近い声を鳴らしたのだ。 これから先、自分達はあの少女に殺される。 真綿で締められるように刻一刻と、絶望を丹念に塗り込められながら死んでいく。 理論を一切挟まない直感だけが、そう真実を叫んでいた。 当然、両者ともそれを易々と受け入れる性根の良さは持ち合わせていない。 式の前に踊る泥の筋は六条。刀を握った時で踏み込めば容易に討てる数。 しかし、繰り出されてきた触手の群れは一糸乱れぬ無駄のない機動で人体の急所めがけて突き入れにきた。 泥状の固形物でしかなかった呪いは、今や研ぎ澄まされた槍の形に先鋭化していた。 古流の剣客の業を継承した殺人鬼を以てしてかわしきれない槍撃の冴え。 研ぎ澄まされた殺意に統率された、訓練を受けた兵士の槍捌きであるかのような攻めは、式に迎撃の間を与えずその場に釘付けにする。 その肉の内は、よく見れば人間の静脈のような青い筋が通っている。 バースデイを介して混入させられたG-ER流体は人の悪意という記憶を読み取る。 そしてその惨劇の再現を行い、死を演出する。 幸せの時と名付けられた織物の如く。 少女に幸福な夢を魅せるため、ふたつの水は融和し、世界を満たそう広がっていた。 斬りつけ合う間に、槍衾は数を増していき、広がる光景は地獄の剣山の様相を呈していた。 一際大きい、心臓を狙う突き。式は避けも防ぎもせず正眼の大勢で槍の到来を待つ。 柱大の太さの黒槍が刃先に触れた瞬間、柄を持つ手首を捻り刀身を穂先に絡みつかせる。 流された槍の柄に浮かぶ溝に刀を押し込んだ途端、それまでの豪壮さが嘘のように槍は霧散した。 一本を凌いだところで安堵には遠すぎる。剣の山はひっきりなしに襲い掛かってきている。 二本目を落とす。三本目、四本目も同様に切る。 五本、裂く。六本を殺す七本を刈る八本九本は半ば無理やりに押し通す。 だが減らない。無限の質量は未だ健在のままでいる。 ただ一点の変化は、この呪いが今一人の意志に基づいて運動していることだ。 獲物は槍といわず、あらゆる類の武器が押し寄せる。 人の全知を尽くした殺戮の道具。それを自らの手で握り振るう血潮の武芸。 式に斬りかかっているのはただの呪いではなかった。 その対象に選別され凝縮された死の歴史。その閲覧に他ならない。 浅く、手足を戦斧が掠める。 継戦には支障ない。だがそれは今の式の剣捌きが現界に達しつつあるのを示す。 限界なのは肉体のみではない。中務正宗の刀身は綻び、名刀の銘に陰を落としていく。 付着する泥の一粒が、武器を腐食させる強酸となってじわじわと力を削いでいく。 地面から伸びる棘に間一髪で飛び退く。 通った跡を縫うように次々と棘が突き出て行く。 どこまでもどこまでも、追いかけていく。 「は―――っ、が、ァ――――――!」 別れた一方通行もまた、追われる立場にあった。 変化した戦法は無粋な物量戦。 無思慮に飛び込むだけだった呪いの塊は、明確な目的に測りその性質を多様化させていった。 対空迎撃用の榴弾を浴びせ続け、地面には一帯を覆う棘が足場を奪い時には串刺しにせんと伸縮する。 空を遮断するドームから滴り落ちる花弁が全身を打ちつける。 地より突き上げられる朽ちた死者の腕が仲間を求め足を掴んで引き摺り下ろす。 ただ独り、一方通行だけを取り残して、この世の全てが敵に回っていた。 無論、単なる物量に任せた包囲戦など超能力者の一方通行はものともしない。 回避するまでもなくただ立っているだけで凡そ全ての通常兵器はねじ曲がり、反射される。 だが今一方通行を襲うのは、この世にあらざる側から招かれたこの世全ての悪だ。 「っ!ギィ――――――!」 落ちてくる泥を退けようと振り上げた腕に、横から伸びた黒い縄が縛り上げられる。 肉は、溶けていない。デフォルトの反射では機能しなくとも一方通行の意志で適応するフィルターは変更できる。 泥と同質である脳内にこびりつく怨念を精査し、それに対応するよう再設定することで、即座に死に至ることは防いでいる。 そこまで対処しても、巻きつかれた触手は一向に離れようとはしない。 リアルタイムで設定を組み替えているのに、泥はそれに応じて組成を変化させているかのようにフィルターをすり抜けようとのたうっている。 結果、肌にへばり続けている泥は徐々にだが一方通行の肌に染み込み、内側から侵されつつあった。 「ベタベタと、付き纏って……鬱陶しいことこの上ねェンだよ!」 繋がれた線を介して逆流のベクトルを送り返す。 膨張破裂する触手。しかし既に次の手は迫っている。 空より降ってくるのは、一方通行を丸ごと包む大きさの桜色の泥花。 「この、クソがァっ!」 手で払いのける動作の通りに引き裂かれる花の蜜。 直接触れぬまま風圧でかき消せば反射の浸食も関係ない。 だがその分、能力時間は減っていってしまう。必要なベクトル数量が上がってしまう。 泥の強度が増しているのだ。 飽和状態で野暮図に垂れ流すだけだった能力が、ここにきて急速に結束している。 より硬く、速く、鋭く。 まるで何かを果たす為に計算されているような、豪胆と緻密が両立した間断なき攻め。 全方位からくまなく振りかかる呪詛の大波を止めるのに、既に能力の制限時間の四割を費やした。 条理外の法則で動く泥は能力による迎撃に相当のロスを生じさせていた。 まるで蜂にたかられる蟲だ。 飛べるのならまだいいが、羽をもがれて地に落ちれば、今度は蟻の群体についばまれ解体される。 「何も見ェねェ聞こェねェ分からねェ、その癖して好き勝手しやがって……! こンなモン、もう能力でもなンでもねェぞクソッタレがァ!」 触手をかわし続けつつ、黒くなった少女の能力を見抜こうと計算しても、答えにまったく行き着かない。 解析不能(エラー)ですらもない。『何が起きているか分からない』。 少女がこの異常を握っているのは理解できる。 何か、この場そのものに介入しているのも想定はできる。 空間に作用しているのか、特殊な電磁波を発しているのか。 たとえ一方通行自身に解析・観測されない波だとしても、結果としてあるものを見れば逆算して答えを導けるはずだ。 なのに齎す効果がなんなのか、能力の性質を読み解くピースが一片すら手に取ることが出来ないのはどういうことなのか。 宮永咲の能力。 果たして、それを能力に定義してしまっていいものなのか。 かつて一度、一方通行の挙動を翻弄してのけた天江衣も、この類の"魔"を携える雀士であった。 『麻雀を打つ』。 そんな他人からすれば一笑に付すような状況が、彼女らが生まれ持つ奇跡を発現するための土台となるものだった。 彼女が彼女であること以外に理由はなく、彼女らがそこに立つだけで事は速やかに成る。 そこにはありとあらゆる理論は省略され、ただ結果だけを現実に書き起こす。 規模こそ小さいが、それは確かに奇跡と呼ばれる業のひとつだった。 観測した現象から逆算して本物に近い推論を導こうにも、現象そのものが不理解であれば推理しようもない。 因果の累積で導けるとは違う、真の意味での運命。 人類、如何な系統樹の生命でも届かない断崖の果て。 一方通行にとって、彼女らの力は天敵に当たる存在というわけだ。 直死の魔眼でさえ、運命の死に線を通すのは叶わない。 ……当然その発揮は麻雀内に限定される以上、本来なら脅威になどなりようはずもない。 ただの競技、遊興の域でしかなかった力を変えたのは、言うまでもない。 意思の強弱に関わらず。願いの質を問わずして。 万人の声を聞き届け実現する魔女の窯は、今目の前で中身を盛大に返しているのだから。 槍群に挟み込まれる。 空間ごと呑まれていく。 何処へ行こうが、死の轟雷は鳴り止まない。 嗚咽。苦悶。人の負の声が地獄で響き続ける。 段々と、『流されている』のを二人は感じた。 まるで強風に飛ばされる花弁のように、為す術なく風の向くままに吹き飛ばされている。 落ちる先が煉獄の炎だと理解しており、必死に抜け出そうとしても、風の檻は堅牢でまったく刃が立ってない。 印象を操り、思考を謀り、行動を縛る。 相手の自由を根こそぎ奪い尽くして自分の優位を不動のものにしてから、その果てに討ち取る。 これこそが遊戯の本質。差し手の赴くまま、盤上の駒は玩弄させられる。 命は転がされ、娯楽の大衆は消費される。 それを眺めて花々は微笑む。 搾り取られる贄の叫喚を、貌を綻ばせて愉しいと。 血の味も死の意味も知らなかった身で、少女は地獄を具現する。 それでも。 そう、それでもと、膝を折れない理由がある。 流れる血の海の中で、呪詛の弾雨が四方に散る。 絢爛とは真逆の汚濁した武具が粉と消える。 服を煤けさせ、幾度なく身に傷を増やそうとも、二人の動きが止まることはなかった。 皮膚から溶かされていく肉は、全ての熱を失ってない。 肉体の限界。能力の制限。そんなものは知らないと愚直に前を睨み進み続ける。 遊びに精を尽くす少女とは違う。 式が先に進むのは。一方通行が命を賭けるのは。より硬い意志から伸びているもの。 こんな枝葉で止められほど、止まっていられるほど彼らの決意は温くはない。脆くない。 この世全ての悪だろうと地表に墜落寸前の彗星だろうと、立ち向かうという選択以外取るべき道(コト)はない。 何故なら、その先に求めるものがあるから。 その先が、自分の歩みたい道なのだから。 全世を覆う怨念に比べてなんとも小さい願い。 だから、譲らない。自分だけのものだからこそ、誰にも邪魔させることはない。 制限時間の四割を切りながらも障害を跳ね除けて一方通行は前進する。 式も壁となって潰しかかる武具の猛撃を死の線に這わせて屑鉄に変えながら走り出す。 奇跡の恩寵を受けた聖杯の呪層界をものともせず突っ切って行く。 肉体の限界。能力の制限。そんなものは知らないと愚直に前を睨み進み続ける。 故に。 己の導いた通りに動いた二人を、少女は完全に刈りにかかった。 時間がない、と二人は言った。これ以上の暇はないと。 事実その通りだった。もう、時間はない。 生者が生きていられる時間はここで打ち止めとなる。 駒は回りに回り、場は掻き混ぜられた。『宣言』の準備は成っている。 対峙者の血をも蒸発させる、極大極地の一撃。 千山に咲き誇る、大輪の花の開放は。 「当たりを引いた、か。ではこれで終局だな」 逃れようのない終わり。 聖杯の女神と化した、少女が少女である所以の発動。 コールタールのように濁った海。 煮えたぎり、泡立つ、命の生存を許さない泥の中で、瘤が隆起した。 足を広げた地面に枝、式と一方通行の立つ位置、聖杯自身からも至る場所に瘤が表れていく。 拳大でしかなかったそれは空気を含んだ風船のように急激に膨れ上がり、瞬く間に破裂直前にまで成長した。 水から上がったクラゲじみた、滑稽にも映る風体。 だがそこに詰まっているだろうものを想像すれば、笑いなどすぐに引きつった。 樹木から生えてくるモノといえば当然、開化を待つ前の蕾に他ならない。 「「 !!」」 絶句。 秒を刻むより先に疾駆。 白と黒の直線を残像にして二人は走り出していた。 空気が爆発し、中空で急激に加速する一方通行。 式も網の目をくぐるように呪いの剣槍をかいくぐって最短で中心に向かおうとする。 確信だ。 ここで落とさなければ間違いなく終わる。 予測予感なんてものとは比較にならない実感が背中を後押ししていく。 「黙って、撃たせて、やると、 思ってンのかァ――――――!」 足を着けて移動しなければならない式より、空を弾けて飛ぶ一方通行が一歩早く必殺の態勢を取った。 手と手の間。風を吸い込み収束される電子の波。 圧縮された空気はプラズマ化され融滅の光線へと変わりゆく。 この桜花が中身にある種子を破裂させるより前に、大元たる黒樹を焼き散らす―――! 照準を向けている光を理解したか、阻止させる迎撃が振るわれる。 地盤ごと持ちあがったような震動を上げて放たれたのはもう触手とは呼べない形状だった。 太さといい大きさといい、深海の海獣が全身をそのまま叩きつけるのに等しい。 海中を遊泳する鯨の如き泥の結晶は猛然と一方通行へと突貫し――――途中でビタリと微動だにせず制止した。 「邪魔だ」 切り開くのは、一刀の煌めき。 数百メートルに及ぶ巨躯に、数十センチ程度の小さな傷が突き刺さる。 悪魔はその動力の元を断たれ、十と七の破片に分割した。 式にとっては、進行上の妨げだったものを殺しただけ。 接近して自らの手で聖杯に刃を通すために進行上の障害物を破壊したに過ぎない。 それでも、一方通行にとってはこれ以上ない援護の形。 「素敵な仕事だな両儀クン、ご褒美にトドメは貰っといてやるよォ! さあ燃え散れ!チリも残らずなァ!!」 照射される熱線。 吼え奔る光の渦。 灼熱の衝撃が悪を具現した黒い巨塔を眩く照らす。 怒れる雷神の鉄槌が、科学の鬼子の手によって振り下ろされる。 触れるまでもなく蒸発していく泥沼。 汚濁の跡も許すまいと閃光の熱波は容赦なく世界を滅ぼしていく。 その、筈なのに。 「な」 白滅する視界の先に広がるのは、 怪物の口を思わせる、底なしの暗闇。 咲き乱れる、惡の華。 光をも飲み干す黒い海。 雷火の輝きすらもが、無窮の地獄に落ちていく。 「に―――」 プラズマの熱線が少女に直撃するよりも前に。 式が裂いた巨塊の破片それぞれの中に、無数に敷き詰められた蕾が破裂したという、起きた事実を理解する事もない。 ベクトルの反射など何の抵抗ももたらさず。 断末魔の声を上げる間もなく、一方通行の全身は波濤に押し流されるように消えていった。 「ぁ――――――」 正面から大波を浴びた一方通行と違い、聖杯に肉薄していた式は背中から諸共にソレを受けることになった。 断線される意識の中で感じたのは泥がもたらす灼熱の傷みではなく、腹部に叩きこまれた拳打の衝撃。 蕾の炸裂と同時に震脚を打ち鳴らし懐に滑走した言峰綺礼の発勁だった。 吹き飛ばされる全身が、爆散して溜め込まれた泥の海に激突し、中へと沈み込んでいく。 呪いのたちこめる展示場から、生きる者の気配が消える。 立つのはただ一人の死者、言峰綺礼だけ。 死人は濁った空を仰ぎ見て、地の底へと思いを馳せる。 「そろそろ、だろうな。 最後に待つ扉まで辿り着いた時、君は如何とする?」 ◆ ◆ ◆ 4 / 花痕 -shirushi- (Ⅰ) 音を追う。 怪物に浸食された展示場。黒く染まり鼓動する壁面の続く先。 奈落のような螺旋階段。 螺子巻く道の最奥から広がる音を、僕は追う。 こつ、こつ、こつ、と。 それは小さな靴音だった。 決して力強くはない、むしろ可愛らしさすら感じさせる、弱い音だった。 だけどその音は、決して止まることが無かった。 どこまでも行く。 地下へと潜る階段の向こう、闇の向こう、僕のずっと先を行く少女の足取りに、迷いだけは無かった。 少女は、秋山澪は進んでいく。 ひたむきに。ひたむきに。怪物の腹の中を進んでいく。 潜り込んでいく。 廊下の先に広がる闇の、更に更に奥へと。 僕はその足取りを追い続けていた。 先ほど廊下で見た、流れる黒髪の残滓。以降、秋山澪の姿を見てはいない。 尾行に気づかれないよう、後姿が見えないギリギリの距離で足音を追い続ける。 だから僕たちはまだ、お互いの顔を見てすらいないのだ。 「どこまで……いくんだろうな、アイツ」 口の中で、僕は小さくつぶやく。 実際、尾行を始めてから、かなりの時間が経っていた。 黒き聖杯と同化した展示場外周廊下から地下に降り始め、もう数十分は経過しただろうか。 かなり地下深くに潜っている筈だけど、螺旋階段の終わりは一向に見えない。 外の戦いは今、どうなっているんだろう。 そもそも、どこに繋がる階段なんだろう。 秋山澪は、今、このタイミングで、どこを目指しているのだろう。 そして僕の全身を襲う寒気は、言いようのない不安は、どこから来ているのか。 秋山澪の黒髪を見た時。 感じた恐怖の正体。 きっと僕はどこかで、確信を抱いていて……。 「なあ、この階段、どこに繋がってるんだ?」 だから僕は小声で、知っている奴に答えを聞くことにした。 「おそらく工房……アラヤの残した結界の内側です」 僕の背中にのっかる小さなシスター。 忍野から僕に引っ付き先を映した魔導図書館は、今までとは少し違った口調で答えてくれる。 「黒聖杯の影響か、アラヤの仕掛けか、分かりませんが、展示場地下の構造が変化しています。 ですが向かう先は間違いなくそこです。目的までは推定しきれませんが」 今の彼女の声には、『色』があるような気がした。 少しずつ見え始めていた物がいよいよ顔を出したような。 所謂、人間味という暖かさ。 それが、今、薄暗い螺旋階段を潜り続ける僕の身には、とても優しく感じられた。 ◆ ◆ ◆ 足音が、止んだ。 長い長い螺旋の終わりを告げる無音。 つまり彼女はもうすぐたどり着くのだ。彼女の目指していた場所に。 僕の歩みも自然、早くなりかける。 だけど抑えなければならない。 ここで一気に距離を詰めようとしたら、今まで気づかれないように尾行してきた意味がない。 目の前に広がるのは長い長い廊下。 幾重にも分岐した、迷路のような真っ黒い道だった。 もう一度だけ考える。 彼女がここに居る意味。 僕がここに居る意味。 僕が感じていた予感の意味を。 何故、彼女はまっすぐここに来たのだろう。 僕たちの敵を名乗った彼女が。 一人の味方すら持たない彼女が何をもって戦おうとし、ここに現れたのか。 当然、ここに勝ち目があるからに他ならない。 そして、もしも、もしも、だ。 参加者も主催者も、誰しも平等に混乱を約束されていた、『黒聖杯』の出現。 この世界の神を名乗る者でさえ、知らなかったというもう一つの『逸脱した力』。 この状況で、冷静で在れた者が居たとすれば。 冷静に、己の勝筋に進んでいける物が居たとすれば。 それは、それを『知っていたモノ』に限られる。 そしてそれが、もしも、彼女だとするならば。 「―――――なっ!!」 前方から微かに聞こえていた足音が、唐突に切り替わった。 穏やかな『歩行』リズムから、連続した、そして切迫した『走り』のそれへと。 「くっそ! ……ここで待ってろ!」 慌てて僕も、インデックスを背中から降ろし、その場に残したまま床を蹴り飛ばして駆け出した。 何故気づかれた? いや、違う。 「いつ、バレてたんだよ!?」 足音が遠すぎる。 全力で追いかけているのに、未だに背中が見えない。 距離が、開きすぎている。 少しずつ、少しずつ、秋山澪は歩くスピードを上げていたのか。 螺旋階段の一本道では追いつかれるから。 迷路のように複雑な廊下に出てから、一気に僕を引き離すつもりで! 「にがすか……!!」 まだ僅かに聞こえる足音を追って、スピードを上げる。 道に迷ったら終わりだ。 曲がる廊下を間違えないよう、体に残る吸血鬼の血を総動員して、聴覚を研ぎ澄ます。 目を凝らして薄暗い廊下の先を暗視する。 ―――足音が、完全に止んだ。 秋山澪はたどり着いたのだ。 思考が、そして体が『急げ!』と命令してくる。 何かが、手遅れになる前に。 廊下の角を一度曲がり、二度曲がり、見えた。 通路突当りの部屋――と言っていいのだろうか。 シェルターのように大掛かりな扉が今にも閉じようとしていた。 ◆ ◆ ◆ 広く、そして真っ白い部屋だった。 壁も、床も、何もかもが白い。 黒く染められた建造物の中にあって、それは異質な場所だった。 だけど白さの質は、空に浮かぶ清廉とはまた別種の物だ。 機械的な白。無機質な白。滅菌処理を徹底し、生活感を削ぎ落したような無の空気。 滑り込んだ部屋は、そんな場所だった。 部屋にはプラスチック製の机が大量に置かれ、机の上にはずらりとPCが並べられている。 そして中央、聳え立つモニターの集合体のような塔の麓に、彼女は立っていた。 平沢と同じ女子高の制服を着た、一人の少女。 部屋に侵入した僕を無視し、モニターの塔の麓でコンソールを叩き続ける彼女は一心不乱に指を動かし続けている。 僕が来る前からずっと、操作し続けていたのだろう。 かたり、かたり、と。 最後に一度二度操作を行ってから。 彼女はこちらを振り返った。 「そっか、あなたが、来たんだ」 黒髪が、流れる。 突発的に脳裏によぎる、第一印象。 『綺麗な女の子』だ。 そう、『綺麗』で『女の子』だ。 傷だらけで、もうどうしようもない位彼女はいろんな意味で傷だらけで。 それでも目の前に立つ少女は『綺麗』で、そして『女の子』だった。 ああ、平沢から聞いてた印象と、ピタリと、当てはまる。 「お互い。実際に会うのは初めてだな。秋山澪」 「そうだな。阿良々木暦」 その話し方に、物凄いアンバランスさを感じる。 アンバランスさが、マッチする。 何とも言い難い大和撫子。 そんな事を、思った瞬間だった。 『管理コード:コトミネキレイ 認証』 無機質な機械音声が、辺りに響き渡った。 『最終権限者と認識します』 発生源は秋山の背後の機械塔に取り付けられたスピーカー。 同時、映し出されるモニター、そして部屋中のPCが一斉に起動した。 嫌な予感が、いや、絶望的な予感が、全身を駆け巡る。 ここは一体、何をする場所なんだ? 「……お前……」 「―――言っただろ。私は、敵だって」 冷淡な声で、冷淡な言葉を、少女は奏でる。 その眼からは、欺瞞も、迷いも、一切の躊躇すらも、感じ取ることはできなかった 『フェーズ:5 開始』 秋山澪の背後。 モニターに表示された事象が、どれだけ非現実的な光景であったとしても。 『最終権限行使により、ゲームの強制終了を実行します』 眼は、本気だと、何より饒舌に語っていた。 「私は勝つよ、阿良々木暦。あなただけじゃない、全員に、勝たせてもらう」 ああ、本当に、ここまでとは思わなかった。 『使用兵器名称―――――』 完全に、僕の予想を超えていた。 終わらせる。 ここは『そのための場所』なのだ。 「勝って、取り戻す。 取り戻す為に私は、この世界を……ぶっ壊す!!」 『"Field Limitary Effective Implosion Armament"』 フレイヤ。 領域制限爆縮兵器の『大量投入』による、地上空間の消滅。 そう、殲滅ですらない――消滅だ。 モニターに表示されている圧倒的な破壊事象は、文字通り、地上に存在する生命全てを壊すと告げていた。 『最終認証を行います。実行しますか……?』 白聖杯、そして黒聖杯。 幻想の究極系を打ち倒す『現実』の究極系は、 幻想よりも遥かな非現実感をもって、僕の前に映し出されている。 「待……っ!」 駆け出した時には遅かった。 いや最初から、この部屋にたどり着いた段階から、僕は遅すぎた。 僕の足が部屋の中央に辿り着くよりも、少女の手が振り下ろされる方が、早いに決まっている。 機械塔から飛び出した認識口を切り裂くように、スラッシュされるカードキー。 最後のトリガーが、引かれた。 『最終認証終了。カウントダウンを開始します』 次に上げられた少女の手は、既にカードキーを握っていなかった。 代わりに、銀の銃を……どこかで見覚えのある銃口を、こちらへ突きつけていた。 「……ッァ!!!」 思考を放棄し、身体を捻って、近くの机の影に飛び込む。 瞬間、肩口に焼けるような痛みが走った。 無視して這いずりながら、放たれる銃撃をやり過ごす事に全神経を集中する。 『フレイヤ発射まで、残り十分です』 机の影に隠れ、銃撃を凌ぎながら肩口を押さえる。 回復力は……だいぶ弱まってはいるものの、まだ働いている。 戦う事は出来るだろう。 だけど既に、トリガーは引かれてしまった。 希望があるとすれば……実行までの残り時間だけか。 「……このカウントダウンが終われば、フレイヤは発射される。 それを使えば、地上の会場全部が吹き飛ぶんだってさ」 淡々と、淡々と、冗談のようなスケールを少女は語る。 「帝愛が残した最後の切り札。ゲームのリセットボタン。 ……すごいよな。 空に浮かんでる神様も、このすぐ上の真っ黒お化けも。 全部全部、平等に消えてなくなる。そしたら……勝ったも同然だ」 全てを壊して、求める全てを手に入れると。 いや、全てを、取り戻すのだと。 「地下シェルターとアラヤの結界で地上と二重に切り離されたこの場所だけは、爆弾の影響範囲外。 だから……あんただけは、私が直接殺さなきゃいけないみたいだけど」 「それで……願いを叶えられるモノまで消してしまったら、どうするつもりなんだよ!!」 「―――心配ないよ」 僕の叫び声を、一笑に付して、少女は軽く言い切った。 「願いだけは、誰にも撃ち落せないから」 無茶苦茶だ。 方法が滅茶苦茶すぎる。 そしてそれ以上に滅茶苦茶なのは―― 「だから早く、さ。出てきてほしいんだ。 なるべく早く終わらせたいんだよ、こんなの」 彼女が今、泣いていることだ。 後悔、罪悪感、恐怖。正体ははっきりしていない。 だけど初めて彼女の顔を見た時から既に、彼女の表情はくしゃくしゃに歪んでいた。 泣きながら、そして涙をぬぐいながら、彼女は、リセットボタンを押し切ったのだ。 「私の願いは、失くした物を取り戻すことだ。 その為に、自分勝手に全部壊そうとしてる。 正義の味方がやりたいなら、出てきて私と戦えばいい。まあ、どうせ手遅れだけど」 自分の為に。 求める物の為に。 全部を壊すと言い切った。 その願いを、その想いを、その行為すらを。 僕は、愚かと思う事も、悪だと断ずることも、出来なかった。 彼女はヤケになったわけでも、気が狂ったわけでもない。 ただ純粋に求めているだけだ。 泣けるほど痛みを感じる事が出来る、震えるほど恐怖を感じることができる。 無感になったわけでも、無痛になったわけでもない。自分を偽ったわけですらない。 『それでも』だ。それでも、求めてやまないから。 諦めることが出来ないから、手を伸ばす。 失くした物を、理不尽に奪われたものを、ひたむきに。 泣きながらでも。震えながらでも。 取り戻したいと願っている。 その姿を、愚かだと、悪だと、誰にも言う権利はない。 僕だって、彼女と同じ思いを感じることが出来るから。 僕には、それを、彼女ほど純粋に願う事が出来ないだけで。 取り戻したいと思う気持ちなら、十分に理解できてしまうから。 世界の崩壊すら、こんな世界なら、いっそ痛快かもしれない。 むしろ彼女から、僕から、大切なモノを奪った世界へと振るわれる鉄槌に、多少の正当性すらあるように感じる。 そう、何故なら僕は――― 「僕は、正義の味方じゃない」 僕には彼女の願いも、行動も、否定できない。 この場所にはもう、善も悪も、残っていない。 在るのは一つの純粋な祈りだけ。少女の背負う、ひたむきな『願い』だけだ。 だから他に、在るとすれば、あと、もう一つ。 「僕は僕の、身勝手な理由で、お前に殺されてなんかやらないよ。秋山」 ああ、やっぱり。 僕が請け負うべき役目はここに在るらしい。 それは、正義などではない。 善などでは、全くない。 酷く、酷く、残念で最低な役柄だ。 世界丸ごと敵に回した少女の、ちっぽけで尊い願いを、踏みにじる為に、一人の無粋な男がやってきた。 それが誰かは、もはや言うまでもないだろう。 かちり、と。 遠くで装填の音が聞こえる。 ぐい、と。 止血を終えた僕は、膝に力を込める。 「残り十分。時間もない。始めようか」 どちらからともなく、そう言った。 一応、世界の命運を左右するんだけど、実は世界なんかどうでもいい個人戦。 最終幕。 僕にとっての、戦いの始まり。 最後にしてもっとも規模の小さく、そのくせ与える影響のもっとも大きな戦局が、静かに動き出していた。 ◆ ◆ ◆ 時系列順で読む Back 2nd / DAYBREAK S BELL(3.5) Next 2nd / DAYBREAK S BELL(5) 投下順で読む Back 2nd / DAYBREAK S BELL(3.5) Next 2nd / DAYBREAK S BELL(5) 338 2nd / DAYBREAK S BELL(1) 両儀式 2nd / DAYBREAK S BELL(5) 一方通行 言峰綺礼 阿良々木暦 インデックス 3rd / 天使にふれたよ(2) 335 1st / COLORS / TURN 5 『Listen!!』 秋山澪 2nd / DAYBREAK S BELL(5)
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第四回放送までの死亡者リスト 時間 名前 殺害者 死亡作品 死因 凶器 夜中 ライダー 一方通行 247 疾走スル狂喜 【壹】247 疾走スル狂喜 【貮】247 疾走スル狂喜 【參】247 疾走スル狂喜 【肆】247 疾走スル狂喜 【伍】 射殺 コーヒー缶 夜中 ヒイロ・ユイ ヒイロ・ユイ 247 疾走スル狂喜 【壹】247 疾走スル狂喜 【貮】247 疾走スル狂喜 【參】247 疾走スル狂喜 【肆】247 疾走スル狂喜 【伍】 自爆 M67破片手榴弾 夜中 レイ・ラングレン レイ・ラングレン 253 幻想(ユメ)の終わり(前編)253 幻想(ユメ)の終わり(後編) 銃殺 ベレッタM1934 真夜中 ゼクス・マーキス 一方通行 258 夢幻の如くなり(前編)258 夢幻の如くなり(後編) 破裂(ベクトル操作) なし 以上四人【残り二十三人】 おまけ 名前 最期の言葉 ライダー 「どうか……幸せになってください……」「―――」 ヒイロ・ユイ 「任務、完了」 レイ・ラングレン 「あの娘を撃ったことは……済まなかった。これだけは、心から詫びておく」 ゼクス・マーキス きっと、それこそが――、 殺害数 順位 該当者 人数 このキャラに殺された人 生存状況 スタンス 1位 バーサーカー 7人 刹那・F・セイエイ、本多忠勝、アーニャ・アールストレイム、ヴァン、伊達政宗、張五飛、平沢唯 死亡 無差別 2位 明智光秀 6人 プリシラ、キャスター、黒桐幹也、田井中律、琴吹紬、トレーズ・クシュリナーダ 死亡 無差別 3位 浅上藤乃 3人 加治木ゆみ、月詠小萌、真田幸村 生存 奉仕→対主催 織田信長 3人 リリーナ・ドーリアン、神原駿河、アーチャー 生存 無差別 5位 平沢憂 2人 池田華菜、安藤守 生存 奉仕 琴吹紬 2人 千石撫子、船井譲次 死亡 対主催→無差別 ヒイロ・ユイ 2人 海原光貴、ヒイロ・ユイ 死亡 対主催 レイ・ラングレン 2人 玄霧皐月、レイ・ラングレン 死亡 無差別→対主催 一方通行 2人 ライダー、ゼクス・マーキス 生存 対主催→無差別 10位 カギ爪の男 1人 カギ爪の男 死亡 自殺 中野梓 1人 竹井久 死亡 無差別 ライダー 1人 片倉小十郎 死亡 無差別 荒耶宗蓮 1人 中野梓 生存 特殊 トレーズ・クシュリナーダ 1人 兵藤和尊 死亡 特殊 アリー・アル・サーシェス 1人 御坂美琴 生存 無差別 利根川幸雄 1人 八九寺真宵 死亡 脱出 伊藤開司 1人 利根川幸雄 死亡 対主催 東横桃子 1人 セイバー 生存 奉仕 ユーフェミア・リ・ブリタニア 1人 伊藤開司 生存 特殊 秋山澪 1人 明智光秀 生存 対主催→特殊 両儀式 1人 バーサーカー 生存 対主催
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万獣の詩 断章『セトの息子達』 第1話(前編) =─< 断章『セトの息子達』(上) >────────────────────────= 失敗したと思った時には、もうなにもかもが終わっていた。 望みを叶えるはずの圧倒的な力は、望みに反してあらゆるものを壊してしまった。 敵も味方も。 ぼくが壊したかったものも、ぼくが守りたかったものも。 たった一度の過ちで。 たった一度の過ちだったのに。 力を持って生まれて来た事は天恵の勅詔だと、全てのそうでない人々は言う。 才を持って生まれて来た事は運命の祝葉だと、全てのそうでない人々は言う。 自分と違う存在に向けられる、賞賛と恐怖の眼差し。 選ばれた存在に向けられる、羨望と嫉妬の眼差し。 だけどぼくは神様じゃない。 脆く儚い人の器に、この力はあまりにも重すぎる。 ぼくは別に何かの義憤に駆られて人間を皆殺しにしたいのではない。 ぼくは別にそこまでの欲望に駆られて山野を焦土に変えたいのではない。 ぼくは、普通でいたかった。 ぼくは、もっとささやかで当たり前のものが欲しかった。 ……こんな力。 ……こんな力さえ、なかったら。 しかし逃げることは許されない、ぼくの背には既に咎人としての十字架がある。 あの人の選んだ道。あの人の目指したもの。 その『プライド』に賭けて、証明してみせよう。 ――あまりにも大きすぎる力は、人を不幸にしかしないのか? ――破壊の力では、人を救う事はできないのか? 違う、と。 断じて違う、と。 …違う、違う。 違う違う違う違う違う違う違う違う違う!! ここに全てを捨てていく。 その決意のため、二度と同じ過ちを繰り返さず、『人を超えた人』になるために。 ぼくは超人。ぼくは正義の味方。ぼくは物語の救済者。 衆生に交わることなく、観測者であり第三者、だからこそ誰も傷つけない、 ……ぼくも傷つく事はない。 ぼくの名は。 =―<A-1 Lynne in 14 years ago AM 11 03 >──────────────────= 建物ン中に入った時から嫌な気配はしてたけどなぁ。 「こちらです」 部屋ン中に通された時ゃあ、思わず顔もしかめちまった。 「……酷ぇなこりゃ」 じっとりと淀んだ陰風、立ち込める瘴気。 ここまで酷くなりゃ、さすがにトーシロにも何かおかしいのが分かるみてぇだな、 母親だっていう後ろのヘビの嬢ちゃんも具合悪そうにしてやがる。 ……しっかしあれだ。 話は逸れるけど犯罪だよな、(ヘビなのに)26で10歳のガキの母親ってのは。 ガキがガキ産んでるようなモンじゃねーか、 噂にゃあ聞いてたが、想像以上にすげぇところだわ、このハーレムってのは。 つぅかロリか? この国の国王って? ……まぁそれよりもすげぇのが、目の前のこのガキなんだけどよ。 ほとんど骨と鱗だけに痩せこけてブツブツ、 ゴーカな寝台の背もたれに凭れ掛かったまま、誰も居ない空間に話しかけてやがる。 …まぁ本当は虚空にでなく、この世ならざるモノに対してなんだろうけどよ。 しっかしオレだって修行積んで術使わねぇと見られねーようなもんを、 こんな何の修行も積んでねぇヘビのガキんちょが普通に見れてるっつうこたぁ。 「……てめぇ、見鬼(けんき)か」 かけた言葉に応答なし。 チッ、こんな美人のおねーさんが声掛けてるっつのに、可愛げのねぇガキ。 ……ま、取り殺されかけてる今の状態じゃ、 答えを期待すんのも無理っちゃ無理なぁ話なんだが。 「ケン、キ?」 「よーするに『ミエルヒト』ってこった」 息を呑む母親を尻目に、オレは腰に手を当てて目の前のヘビのガキを睨みつける。 「ま、あんたらヘビが分かんねぇのも無理はねえな。 こういうのの専門は、昔から狐か獅子って相場が決まってんだし」 確かにまぁネコやトラ、ライオンの見鬼っつぅのはそこそこ珍しくもねぇんだが、 ヘビの見鬼ってのはオレも聞いた事がねぇ、初めて見た。 「おまけにこの様子じゃ、憑巫(よりまし)も入ってるってトコか?」 口笛だって吹くってもんだぜ。 【見鬼】の才も、【憑巫】の才も、 どっちも生来の魔力が高けりゃ同時に見につくような才能じゃねぇ。 偶然の恩恵か、何か特別な事情が必要な、 それをお前、二つ同時にだなんて、笑っちまうぞオイ。 「うはははははは、こりゃ洒落になんねえな」 試しに算命盤回してみた日にゃ、耐え切れずに本当にゲラゲラ笑っちまった。 「こいつ、とっくの昔に死んでるぞもう?」 「えっ、ええ!?」 何度占っても、命数0。 「つまりこいつ、もうとっくの昔に死んでなきゃおかしいってこった」 「そ、そんな……」 明らかにビビって狼狽するかあちゃんの動揺を、でもオレは見逃さない。 「ん~、奥さん、何か心当たりがあるアルネ~?」 「………!!」 ここら辺の話術はまぁ、商売用のテク。 詳しい事占えって言われたらちょっと手間ぁかかるが、 でも「いついつに大病して死に掛けた」ぐらいなら徴(しるし)もすぐ分かっからな。 あとはそういうのをキッカケにグッと信頼させた後、 値段交渉の時間ってわけよ。 ……最近はなんだ、機械だの魔科学だの、魔力がない奴にも使える道具、 そういうのが沢山出てきたせいかオレらロートルは肩身が狭くてね、 ネコみたいであれなんだか、オレみたいな「インチキ道士」は食ってけねぇわけよ。 哀しいけど、稼げる時には稼いで置かねぇとなぁ。豊かな老後の為にもさ。 …つか、酷いと思わねぇ? 実力は確かなのによ? ちょ~~っと女で、酒飲んで、男遊びが激しくて、博打もやって、肉や魚も食って、 三日に一度しか風呂に入んない、道服も一週間に一度しか洗濯しねぇだけで、 「インチキ道士」「ナマグサ道士」だなんて、お前ら方士道士に夢見すぎ。 日々精進潔斎して清廉潔白、霞食って生きろってか、バーカ。 ……ほらそこ! そこのオレが女ってだけで「インチキくせ~」とか思ってる奴や、 肉も酒も男もやるだけで「生臭だ~」って思ってる奴、お前らに言ってる! あのね、オレら獅子国の道士にとって大事なのは「陰陽合一」なの。 「陰陽合一」ってのは、陰氣と陽氣のバランスが整ってる事。 それさえ取れてりゃ、もう男女交合しようが肉や酒をかっ食らおうが別にいいワケ。 むしろ必要に応じて簡単に陰陽のバランスを崩したり戻したり出来て便利、 肉食って陰氣に傾いた後は、陽根受け入れて陽氣を取り入れれば、はい元通り。 身なりが小汚いのもカンケーねぇ、「陰陽」は「合一」してんだからな。 「はん……なるほど、つまりこいつは【鬼子】だ、あんた」 「お、おにこ…??」 だから腕はいいんだぜぇ腕は? 伊達に実践道術で食っちゃいねえからな。 ヘビの国じゃあなんて呼ぶかぁ知らねえが、 少なくともオレらの宗派に関しちゃ、こういうガキは鬼子って呼ばれてる。 「10年前だな。…あんたの胎から出てきた時、こいつは既に死んでるはずだった。 死産、死んで生まれてくる予定、そういう風に決められてたんだよ」 「!!」 星の巡りを見ても、命数を見ても、両方からそれは明らかだ。 このガキ、そもそも生命線が無ぇと来てる。 占い師泣かせ間違いなしのガキだね、オレにもちょっとこいつの運命は覗けない。 「どっこい、何を間違ったか。…まぁ天上の神サンにも、地獄の閻羅サンにも、 うっかりミスってやつはあるらしくてね」 本当に死神がいるのか、キャベツ畑のコウノトリサマが居るのかはともかく、 よーするに分かり易くいうと、 あっちで生まれた、こっちで死んだで今日もてんやわんやで働いてる内に、 業務上過失、「ついうっかり」取り違えた。 ……「死」んで生まれてくる予定のを、間違って「生」にしちまったんだな、うん。 どこのドジっ子神サンだよって思うかも知れねぇけど、 ディスティニーちゃんだって人間?だしな。間違う事もあるわけよ、時々。 で、それでたま~~~~にこういう『おかしなガキ』が生まれてくる、と。 生来魔力の高い低い、才能のあるなし、頭のいい悪いとはまた別の次元の話、 生きながらにして死んだガキ、運命の定から外れた子、【鬼子】。 「魂魄の存在位相が半分幽界、…犬猫風に言やぁアストラル界にズレてんのな」 蛇眼をぱちぱちさせてオレの話を聞いてるおふくろさん。 ……おお、やっぱりトーシロには分かんねぇか、こういう専門の話をしても。 でもオレにゃこれ以上分かり易く説明もできねーしなぁ。 「だから【見鬼】。どんなに生来の魔力が高かろうと、でも普通に生まれた限りは 特別な術でも使わねえ限り視えねぇようなモンが、こいつには普通に視えちまう」 上は神様とか死神、下は幽霊や山の精、木の精。 それどころか普通の人間だったらまず大魔法使いでも絶対に感知できねぇような、 幽霊にさえなれない超々微弱の残留思念、――鬼や妖の元になるモノまで。 「だから【憑巫】。五感どころか存在そのものがチョロっと向こう側にはみ出してっから、 向こうの存在からも認識されやすい、黙って立ってるだけでモロに影響受けちまう」 巫女体質。霊媒体質。シャーマン体質。なんとでも呼びゃあいい。 おかげで『こんなややこしい事』にもなったりするんだけどよ。 「……ま、こいつも運が悪いねぇ」 そういうモンに理解のあるうちの国か、あるいはキツネの国に生まれてれば、 それこそ重宝されただろう、生き神サマみたくに扱われたろうに。 なんせこればっかは、普通の遺伝や血筋で受け継がれるようなもんでもねぇからな、 滅多に無い人材なだけに、幾らでも使い道はある、求人需要ありまくり状態だ。 「……いや、それとも運がいいのか?」 ――もっとも。 そんなわけで、ちゃんと知識のある奴が保護して修行も積ましてやらねぇと、 長く持って12か15までの儚いガキでもある。 …なにせ物心つく頃からそれがどれだけ危険な事かもロクに認識しないで、 鬼や妖と背を並べて普通に生活してるわけだ。 普通はこのガキみたく、無意識に引き寄せて背負い込んで取り憑かれて、 招き込んだモンに押し潰される形で自滅する、食い殺される。 おまけに日頃からそこら中の負の存在、陰氣と接して暮らしてるわけだかんな、 自然生気を吸い取られて、病弱で身体の弱いガキになるわけよ。 貧しい農村なんかに生まれちまった日には流行病でコロリ、 こんな豪華な王宮の奥で傅かれてさえ、宮廷魔術師にも全然気づかれずに 今まで放置されてきたってのも、まぁヘビだし無理もねぇか。 滅多になくて、しかも見出されなきゃ早死確実と来りゃあそもそも認知がされねぇ、 このガキみたく相手にされずに腫れ物扱いってのはまだマシな方かもな。 迷信深い村とかに生まれたら、気味が悪いってんで叩き殺されるのもあるだろう。 そんな事をとつとつと説明してやったら、おお、なんだかーちゃん、青ざめてるな? 謝礼金ふんだくるのにちょっとあれこれ面白おかしく説明してやったが、 別に驚かすつもりで言ったんじゃねぇ、ちょっと誇張表現も入ってるんだぞ? ……まぁそれで金たくさんくれるんならそりゃ貰うが。 「そ…それでイェスパーは、私の息子は助かるんですか…?」 「助かるとも助かるとも! オレを誰だと思ってるんだあんた!?」 心配すんなぁとばかりにドンと胸を叩いて、 「……ま、お助け具合はきっちり貰えるモンを貰えればの話だけどな?」 にっかりと笑って手を差し出す事は忘れない。 背後に刺さる女官やら女兵士やらの冷たい無言視線が痛ぇけど、うるせーな、 こういうハーレムでのお前らの役目って、背景Aとか、置物Bとかだろ? 偉い人同士のやんごとなき会話を邪魔するんじゃねーっての、すっこんでろザコ! =―<A-2 a horrible rainbow 14 years ago AM 1 50 >───────────────= ――さて、そんなこんなで真夜中。 それも草木も眠る丑三つ時、妖が跳梁跋扈するには一番もってこいの時間だ。 ……思いっきり人間の方が不利、 鬼とか妖に有利な時間じゃねーかって言う奴もいるだろうがな。 でも逆に言やぁはっきりくっきり『出る』、 昼間よりも相手の正体をずっと見極め易い時間だって言う事もできるんだぜ? 昼間は生きてる人間の雑踏や息遣い、氣のやり取りに掻き乱されて、 やっぱおぼろげで判然としない事が多いからなぁ。 完全に正体掴んで暴露して滅するには、かえってこの時間の方が都合がいいワケよ。 「いいか? 何があってもその線の中からは出んじゃねぇぞ?」 神妙に言って踵を返したけど、やっぱり背中に突き刺さる視線は冷たい。 「中に居る限りはどんだけ騒ごうが悲鳴を上げようが関係ねぇけどな、 出ちまったら向こうも気がつく、何されるか保障できねぇからな」 ボソボソと『あんな胡乱な輩を信用して~』とか『絶対インチキに決まって~』とか、 そういう声さえ小声で聞こえてくんだけど…… ……さて、いつまでそんな態度が続くかだな。 「よぅ、イェスパー」 砂漠の深夜だという事を差し引いても寒々しい冷気、 それが渦巻く部屋の中心の傍に立ち、オレはやせ細ったヘビのガキに声を掛ける。 同時に小さく口訣を唱えて、丹田から五感へと氣を走らす。 人ならざるモノを、見鬼ではないオレが捉える為に。 ………… ……これは……ちょっと想像以上だな。 よくもまぁこんな、居るわ居るわ、こりゃまた随分かき集めたもんだ。 女に、男に、子供にジジババ、兵士や昔の王様っぽいのまで。 「…死人に囲まれての王様気分は楽しいか? イェスパー」 ――そんなオレの言葉にピクリ、と微かに反応はしたみてぇだが、 すぐに無視して鬼の一人との会話に戻りやがった。 ……ガキが起きてるような時間じゃねえだろとぶん殴ってやりたいトコなんだが、 周りに鬼火飛ばすようにまでなったガキにンな事言っても無駄か。 だから見鬼の、憑巫のガキは嫌なんだ。 ただ視えるってだけで、認識できるってだけで、これだけのもんを呼び込みやがる。 視えさえしなけりゃそもそも生まれようも無いもんを、こんな簡単に。 「青い鱗、茶色の長衣を来た、お前と同じくらいの歳の女の子」 ――これにはさすがに反応した。 「腰が曲がって杖を突いた黒蛇の爺さん、紫のベールで顔を隠した女」 ――慌てて首を動かし、驚愕に眼を見開いてオレの顔を見る。 「槍を持って皮の鎧を着込んだ黄鱗の男兵士、脇に本を抱えた優しそうなお兄さん」 ――ま、それも当然か。 なにせ初めて自分以外の、『はっきり視える』人間が現れたんだから。 「あとはお前と同じ年頃か、ちょっとちっちゃい位のガキが多いな。…8人、9人?」 「う…あ……」 言葉にならねぇ言葉を呻いて、ようやくオレの事をまともに認識してくれるこいつ。 …うん、まずは掴みは上々。 「凄いな、イェスパー」 注意を十分引き付けた、オレに十分意が向いたのを確認してから、 「これ全部、お前が『造った』のか?」 事実を認めさせるための刃を、抉り込むように突き刺した。 「つく――《こんにちわ、ライオンのお姉さん》 と、相手の返事が帰ってくる前に、こいつのすぐ横の【鬼】から妨害が入る。 《作ったなんて酷いわ、私達はずっと昔からここにいたのに》 一番傍に居た例の茶色の長衣、こいつと同じくらいの青い女ヘビ。 「アポス……」 魂が抜けたように王子サマが『それ』の名前らしきを呟くあたり、 多分こいつが鬼共のボス、 ……話を聞く限りの、一番最初に王子サマが作った『おともだち』か。 《イェスパーだけが私達に気がついてくれたの、彼だけが私達を見れるのよ?》 はん、鬼の分際でよくしゃべる。 訊かれてもいねぇのによ。 《だから私達、イェスパーのお友達になっ 「「 ――ままごとの人形は黙ってろ 」」 ――ざわり、と。 辺りの、鬼共の空気が揺れるのが分かった。 『瘴気』が、強まる。 「お前に訊いてるんだよイェスパー。…他の誰でもない、お 前 に 訊いてるんだ」 …へっへ、痒い痒い。 他はともかく、オレに対してこれしきの瘴気、笑っちゃうっての。 「お前はそれでいいのか? イェスパー?」 正中線に一本、真っ直ぐな鉄の棒をイメージして一歩。 丹田に力を込めながら、ぐっと足を踏み出す。 「生きてる友達と遊んでもらえないから、誰にも相手にしてもらえないからって、 拗ねて、引き篭もって、うじうじ自分の殻ン中に閉じ込って」 金色の瞳が、でっかく見開かれた。 ベットのシーツを掴む鱗の手に、ぎゅっと力が篭められる。 「自分に都合のいい世界を作って、自分の言う事は何でも聞く人形を侍らして…」 《イェスパー、だめよ、聞いちゃだめ》 そんな力の篭った手にそっと手を添えながら、鬼が。 「…『嘘』と『偽物』捏ね繰り回して、おままごとして楽しいか?」 でも生憎だったな、どうやらしっかり耳には入っちまってるみてえだぜ? 「――本当は気がついてるんだろ?」 無駄だってのに、このガキは必死に聞くまいと耳を塞ぐ。 それが何よりも効果がテキメンって事の証明なのにだ。 「……分かってるんだろ? なぁイェスパ 「アポスッ!」 ――ガッシャン、と。 一歩下がったオレの眼前を傍にあった香炉が猛スピードでかっ飛び、 派手な音と共に壁にぶち当たって金属音を立てた。 一瞬窒息した室内の空気、 ……視界の片隅には、らんらんと目を輝かせる女のガキの姿をした鬼。 「……『サイード』、『マサルハ』、『ファウジ』、『サミーフ』! 『バラケ』!!」 名づけ親の王子サマに【名前】を呼ばれて。 ボス以外の鬼共も、おんなじ様に目を輝かせながらゆらりと動く。 同時にカタカタ、カチャカチャ音を立てながら、 窓から差し込む月の光の下、ランプとか、香油壷とか、花瓶…… ……果ては丸椅子や壁に掛かってた絵画まで。 ひとりでに浮かび上がって、勝手にグルグルと飛び回るその光景に、 背後に控えさせた女官や衛兵共が、オレにも聞こえるくらい大きく息を飲んだ。 うん、まー、あれだな。 『ぽるたーがいすと』だっけか? ネコ風に言うところの? ……それもここまで物理的な、目に見えてそれと分かるくらいの強力な奴たぁ、 やっぱり仕込んでおいて正解だったわ、昼間の内に。 「……だぁーから、さ。無駄だっつってるだろ?」 つま先をちょいと持ち上げて、 「他はともかく、オレ相手じゃあ分が悪ぃっつの」 バン!と一つ、床を踏み鳴らす。 ガチャガタガシャン!!――と。 それだけで宙を浮いてぐるぐる回ってた調度品類が、全部床に落っこった。 一瞬で塗り替えられた陣地の勢力図を見て、 そこで初めて、鬼の親玉の顔の、張り付いてた笑みが消えやがる。 「…まぁ同情はするよ」 ますます強まる瘴気、化けの皮が剥がれ出し、露骨に矛先を向けられる悪意。 「気持ちは分かる」 でも今しかねぇ、ここで一気に畳み掛けて一息に引き摺り上げるしか。 「寂しかったんだろ?」 初めて思い通りにならない、手に入れたチカラが捻じ伏せられたのを見て、 でも王子サマの瞳孔が、憤怒というよりは驚愕の様相できゅうっと収縮した。 「仲間が欲しかったんだろ?」 《~~~~…………!!》 横に引っ付いた女のガキの姿の鬼が、必死で耳元に何かを囁いてるが、 でも無駄だよ、今のこいつの意は、完全にお前達の方には向いちゃいねぇ。 「――自分にしか視えないモンを、同じように視える友達がよ」 「…あ……」 困惑するような、胸を打たれたような表情をして王子サマが喉から声を漏らした。 「仲間外れは、辛いもんな」 ぐるぐると鬼火が舞う。 鬼火が。 「だからこれは」 それを見たオレは両腕をおーきく広げて…… 「ご褒美だ」 ――パン!―― 胸の前で、柏手を打った。 「ヒッ」 「キャアアアアアアッ?!」 「…ッ!」 途端に背後から上がる悲鳴のオンパレード。 「線から出るんじゃねぇって言っただろうがッ!!」 わたわたと慌てふためいて線から出ようとする女官共に素早く一喝棘を刺し、 オレは呆然と眼を見開いている王子サマの方に向き直る。 《……貴様、何を――ッ》 さすがに様子がおかしいのに気がついたか、 メスガキ姿の鬼がぐわっと目ぇ見開いて脅しつけるようにこっち睨みやがって。 ……ああ、でもなあ。 「あン? 何って、ちょいと細工して『視える』ようにしてやっただけさ」 せっかくの可愛い女の子姿が台無しだぜ、鬼さんよ? 『虫の眼』してないで、ちゃんと人間の姿保とうや、産みのご主人様の前でくらいよ。 「後ろのトーシロ共にもなぁ、お前らの姿が視えるよう、氣ぃ足してやったんだ」 ニィッ、と口を歪めて笑って見せた傍で。 …でも じとり、と生暖かい脂汗が背中の窪みを伝って落ちていくのが分かった。 あぁ、やっぱ、口で言うほど単純な芸でもねぇのがな。 こんだけの鬼を、全く才能も修行もなしのトーシロにも視えるようにすんにはちょっと、 ……ちょっと氣ぃを使い過ぎんのがよ。 「さぁて、どうだ? …気分はどうだよ、イェスパー?」 アホみてぇにぽかんと口を開けているガリガリのヘビガキ。 「今まで自分を散々嘘つき呼ばわりした連中に、見せつけてやれた気分はどうだ?」 こっちのガードを、陣地を侵蝕しようとうねる瘴気。 どうやら本気で敵と認識したらしい、鬼共が全力で叩きつけてくる無数の鬼火。 「…ほら、見てみろよあのアホ面、悪かぁないだろ?」 オレとこいつが日頃『視て』『感じて』るものを目の当たりに、 カチカチと歯の根を合わせる衛兵共、ガクガクしながら何か呟いてる女官共。 「スッとしただろ? 悪くないよな? 悪くないなら――…」 いなさなきゃなんねぇ鬼火の数のしんどさに、てのひらに脂汗を溜めながら、 「…――戻って来い」 ――< interrupt in >─― 「お前は『嘘つき』じゃねぇよ」 《ダメよイェスパー、信じちゃダメ、あんな人に貴方の何が分かるっていうの?》 雷に打たれたように、王子の肉体は硬直する。 「『嘘つき』なんかじゃないさ、イェスパー」 《私より、あんな今日出会ったばかりの、知らない人の言う事を信じるの!?》 彫像のように凍りついたまま、侍る亡霊の甘言を聞き。 《言葉だけで、本心では信じちゃいないんだわ。騙して、笑い者にしようとしてる》 違う、と信じたかった。 信じたかったが。 ……でもその勇気は、もう彼の中には微塵も残っていない。 「お前にはただ、ほんのちぃ~っとばかり特別な力があったってだけよ。 他の奴らにはこれっぽっちもねぇ、超珍しい才能があったってだけの話」 《本当は嘲笑ってるのよ、心の底では。…皆が、貴方のお母さんもそうなように》 チクリと、少年の胸が痛む。 もうだいぶ感じる事はなくなってたはずの、『痛み』。 「壊れてるんじゃねぇ、欠陥品なんかじゃねぇ、特別なのさ、選ばれたんだ」 《ほら、ああやっておだてて、子供相手だと思って嘘の褒め言葉を並べ立てて》 女官達、衛兵達が、裏で彼の事をどんな風に言っているか、 彼の目となり耳となって教えてくれたのは、他ならぬ亡霊達の仕事だったが、 「本当はもう分かってるはずだろ?」 《ほら、聞いちゃだめよ。あの人は私達とイェスパーを引き剥がそうとしてる》 そんな亡霊達もまた自分を欺き騙し利用しようとしているのだと、 本当は気がついていた、子供特有の敏感さに薄々心底で勘付いていた。 「なんで自分が起き上がれないのか、どうしてどんどん具合が悪くなってくのか」 《皆と同じ。起き上がれないのを、病弱なのを、悪い事だ、いけない事だって》 それでも。 女官達や衛兵達が裏で見せる言葉と態度は、全て偽り無き事実の指摘であったし、 それでもそんな彼を肯定し賞賛し、友人となってくれたのは彼らだ。 ――お菓子をくれる悪人についていく『独りぼっち』を、一体誰が責められる? 「いくら生きてる人間が嫌いだからって、生きてる世界が辛いからって」 《どうして辛いのに耐えないといけないの? 苦しいのを我慢しないといけないの?》 彼は。イェスパー・ユルングは。 だから絶望の淵に立つ。これ以上なく深く、暗く、決して波立たぬ鏡の淵に。 「でも『そっち』はダメだ、もうそれ以上『そっち』に行くんじゃねぇ」 《もうすぐよイェスパー。もうすぐ力が満ちる、一緒に【パイリダエーザ】に昇れるわ》 ――パイリダエーザ。『約束された永遠の楽園』。 死してその身をセトに捧げた敬虔な教徒が、 来たる約束の日まで住まい過ごす事を許された天上庭園、死後の国。 「死ぬぞ。それ以上そいつらにお前の命くれてやったら」 《悩みも、苦しみも、辛い事も何一つない。暖かくて安らぎに満ちた天の国に》 『死ぬ』事自体は、とても痛くて、辛くて、恐ろしい事。 でも『死んだ後』、その苦難を乗り越えた後には、永遠の安息が待っている。 ……厳密にはそれは教義の誤解、主旨の取り違えなのだが、 しかし子供であるイェスパーは、子供向けの物語からそう誤って受け取った。 「死人に……いや、 故に。 「自分の作ったおままごとの人形に取り殺されるなんざ、洒落にならねえだろ?」 ――< interrupt out >─― 《…しつこいわね。まるで私達がイェスパーの妄想みたいな言い方して》 薄く笑って、鬼のボスがオレの方に視線を移した。 どうやら鬼火や瘴気で力尽くの撃退ができねぇのに業煮やして、 舌戦に切り替える算段らしい。 ……望むところなんだよ、バーカ。 《あなた、幽霊が視えるくせに、結局イェスパーの事信じてないん―― 「それじゃあお前、『言ってみろ』よ」 問答で、舌戦で、本職の『道士』に勝てると思ってんのか? 「『お前は誰だ?』」 丹田から絞り上げるように、練った力を言の葉に乗せて出す。 【召鬼法】。これは強要だ。 「『どこの誰だ? 何者だ? いつ死んだ? どうして死んだ? 言ってみろ』」 逆らい難い圧力を伴ってぶつけられたはずの『力ある言葉』に、 このアマは――幽鬼の群れは、にたりと笑って正面から応じてきた。 よっぽど自信があるらしい。…自意識過剰もいいとこだけどな。 《私の名前はアポス・アーペプ》 そうか、それがこのヘビっ子がお前につけた【名前】か。 《今から200年くらい前にこの土地で暮らしていた帝国の地方貴族の子よ。 流行り病で死んじゃって、それからずっとここで彷徨っていたの》 そうか、それがこのヘビっ子がお前にやった【設定】か。 「父親と母親の名は?」 《お父様の名はゲレグ・アーペプ、お母様の名はヘザト・アーペプ》 「兄弟姉妹の名は?」 《生憎と一人っ子だったわ》 さすがにこの辺はすらすら答えるな、でも。 「じゃあ爺ちゃん婆ちゃんの名は?」 《…………》 ほら、詰まった。 目線が石みたく硬直して、顔が能面みてぇに無表情になる。 未記載設定なんだからそれも当然か。 人間のフリをした人間の紛い物なこいつには、少々解答に困る質問。 ただ、もっと粗悪な、未成長の奴ならこれでボロ出すんだけどなぁ。 「おい、どうした? 爺ちゃん婆ちゃんの名前は何だったって聞いてるんだ」 《…………確か、居なかったと、思うけど》 多少『ふりーず』はしたものの、すぐに自分で思考してアナログな解答を弾き出す。 《でも詳しい事は忘れちゃったわ、だって200年近くも前の事ですもの》 白々しい。 …でもま、これだけ生気吸い取ってりゃ、それくらいには成長してて当然か。 もうかなり学習してる、ヒトガタに近くなってやがる。 ……元は影の分際で、シラを切るとか嘘を付くとか、人間にしかできねぇ芸当を。 「そうか、じゃあ好きな食い物は」 《そ、そんな事聞いて何に…》 どっこいそれも、畳み掛ければすぐボロの出る事だ。 あと二週間遅かったらヤバかっただろうが……でもまだ親から独立できてねぇ、 産みの親の定めた設定に依らなきゃ存在を許されないのがこいつらの弱み。 「好きな食べ物は何だって聞いてるんだよ、人間だったんだろ?」 《……ひ、羊肉のクスクス鍋よ》 はっ、このアマ……もとい連中、必死だね。 蓄積した『でーたべーす』の中から、必死に設定に矛盾しない情報を探し出して。 「そうか、それじゃ好きな花は?」 《……忘れたわ》 でも、さすがに、オスガキの知識を探っても設定できないような個人情報は。 「おいおい女の子なんだろ? それじゃ好きな宝石は?」 《……わ、分からないわよ、私子供なのよ!?》 おお、苦しい苦しい、必死だねぇ。 自分『女の子』のくせに、脂汗垂らして随分必死に食い下がりやがる。 「分かんねえんだよなぁ、こういうのは案外よ。なにせ『設定』されてねぇもんなあ」 《なっ――》 ……でも、早く消えてくれねえかな、 実は脂汗流してんのは、さっきからこっちも同じなんであって。 ……持久戦、長期戦ってやつは、どうもオレには。 「名前や身分はともかく、意外とこういう所でボロが出る、例えば――」 【穴】が閉じりゃあ話は早いんだが。 あんだけ呼びかけたっつのに、閉じる気配もない、こりゃ無駄足だったかな。 …まぁこんなガキに人生論説くだけ、無駄だったのかもしらねえが。 「一日は何時間だ? 一ヶ月は何日だ? 一年は何日だ? ええ?」 途端、僅かに安堵した表情で鬼の顔が緩む。 優越したような、人を見くびったような。 《…馬鹿にしないで。24時間、**日、***日よ》 へえ。知ってんだ。 ……こんな普段気にもしねえ当たり前の常識まで学習してるっつう事は、 あんまり良い傾向とは呼べねぇな。 「……。…じゃあ1月の初めは何の祝日で何をする日だ? 木偶人形?」 《元旦よ、幾らなんでも、私だってそれくらい》 最悪、このガキを殺してでも、受肉して生まれてくるのを阻止しねえと。 親の腹食い破って完全に現世に出てきたら、間違いなく厄介な事に…… 《街じゃ新年を祝うお祭りがあって、花火を打ち上げたり出し物をやったりするわ》 《年始めには家の家族部下全員が一堂に会して食事を取るの》 「お年玉は―― 《貰えたわ。それで街の屋台で皆と一緒にお菓子を食べ歩――「「 ダ ウ ト 」」 ……厄介な事になるから。 だからここで潰す。 「……旧帝暦って、分かるか?」 こいつらは、影だ。 200年前に流行り病で死んだ、アポス・アーペプなんて名前のガキは存在しない。 全部こいつの――王子サマの作った物語の中の、【設定】だ。 「一日が24時間? 60秒60分24刻み? どこの国の、いつの時代の話だ?」 こういう姿形のガキがいたのは確かだろ。だからこそ影が残ってる。 でもこいつは、その影を依り代、ヒトガタにして、 この王子サマが無意識に生気を、魔力を注ぎ込んできた結果生まれちまった、 「お前ら200年前、旧帝時代から、ネコの暦、ネコの文化でセーカツしてたんだな」 ――ツクリモノだ。 「12月と1月の境が年の節目? 元旦が新年のお祝い? お年玉?」 だからこんな、ちぐはぐな事が起こる。 「なぁ、嬢ちゃんも、お前らもさ」 200年前の幽霊だって言っときながら、でも今の習慣風習に順応した記憶。 そりゃそうだろ、さすがの王子サマでも、でも10歳だ。 「『今』じゃなくて、『自分が死んだ頃』のこの国の思い出話をしてもらえねーかな?」 知るわけがねぇさ、 自分が当たり前に使ってる、セパタ、統一度量衡、共通時法、共通暦法。 全部ここ100年ぽっちで、だけど急速に広まったもんだなんてな。 「できるだろ? 即興の造り物じゃねぇんだったらよ?」 《………あ…》 完全な『魔法』『精霊』じゃない、不完全で穴だらけのこいつら。 でもそれでも『魔法』であり『精霊』――構成が概念の域に掛かってるこいつら。 「ほら、言えよ、一つくらいは覚えてるだろ? 帝都時代の祝事とか」 《…あ、あ亜、a……》 自己の存在目的と意義、構成定義に重大な齟齬や矛盾が発生すれば、 それだけで自壊、良くて半壊は避けられない……はず。 「親父お袋の名前まで覚えてんだ、さすがに一つも言えないなんて事ぁ、無ぇよなぁ?」 自己矛盾を消化して解消しきれねえ……はずだったんだよ。 《……い、イェスパー!》 なのに。 《わ、私達、本当にあなたの造り物なの!? あなたが作った人形なの!?》 この鬼、途端に女が泣きつくみてぇに抜け殻の王子サマに抱きつきやがって。 《違うわよね? 私達、『ともだち』よね? …そうだって言ってよ!!》 ――こいつ。 ――このクソアマ。 《『勝手に作って勝手に消す』なんて、 そ ん な 酷 い 事 し な い わ よ ね ?》 ちらりとこちらに向けた顔、にたっ…と笑う鬼の親玉に。 オレの手札は、万策尽きた。 女の泣き落としなんて、もう使い古された古典的手口だけどよ。 でも自己矛盾を、主人の憐憫と許容に転化する事での消化。 ……ここまで癒合同化が激しいと、オレにはもうどうにも手管が見つからない。 『救済』の策が思いつかない。 『破壊』や『滅却』、『器』ごと滅ぼす以外に具体的打開策が見当たらない。 (ああ、ダメだ、こりゃもう) ――泣いて頭を下げてきた、こいつのお袋さんの顔が脳裏に浮かぶ。 (いや、ここは一旦体勢を立て直して) ――『助けてくれ』って頼まれたんだ、『倒してくれ』って頼まれたんじゃない。 (でも、時間が) (今ここで滅ぼしきれなかったら、ぜってぇ面白くねぇ事に) (どうする、どうする、どうす――…) 「……もういいんだ、アポス」 ――小さな声だった。 驚愕に目を見開くオレらの前で小さく、でも確かにはっきりと。 「……演技はもういいよ、今までどうもありがとう」 ……な…に…? 「ぼくの命が欲しいんなら、あげるから」 オレはもちろん、目の前の鬼共でさえ、思わず耳を疑うその言葉に目を丸くして。 こいつ、何を―― 「どうせ要らない、何の役に立たないものなんだし」 言っ、て――… ――< interrupt in >─― ――それは本当に彼の、10歳の子供の本心からの言葉。 それがどれだけ忌まわしい事か、イェスパー・ユルングは実は理解していない。 「お姉さんも。気持ちは嬉しいけど、もういいんだ」 日々熱に喘ぎ、悪寒に苦しんできた彼にとって、生は楽しいものではない。 人生の大半を寝台に臥して過ごしてきた彼にとって、生は豊かなものではない。 憎まれも、愛されもしない、空気のような王子にとって、生は。 父親から道端の石ころ程度にしか見られていないのを知る子供にとって、生とは。 「死ぬのは怖くないんだ。…死んだらもう誰にも迷惑をかけなくて済むから」 ――楽しくない。 ――楽しくない。 ――そんな拘るほど楽しくない。 「生きてても、辛くて苦しいだけで、面白くないし」 なにより死は、いつも彼の隣にいた。 死んで生まれてきた彼にとって、死は別に遠いものでも、恐ろしいものでもない。 彼はいつだって死の中にいたのだ。 生きながらにして『負』に包まれ、『反』に覆われ、『幽』を背に、『死』に囲まれて。 「だからぼくみたいなのは、さっさと天国に行っちゃった方が、みんな =―<A-3 against pain 14 years ago AM 2 13 >─────────────────= 何が起こったのか、すぐにはよく分からなかった。 反転する視界、ものすごい衝撃。 ぎしぎしと痛む熱で浮かされた身体、口に中に広がる鉄臭い味。 一拍遅れて凄まじい激痛が頬を中心に襲いかかって来ても、 それでもイェスパー・ユルングは自分がぶん殴られたという事実を理解できなかった。 母親にすらぶたれた事がないのであれば、無理もない。 聞き分けはよいが性情のおとなしい、気の小さくて線の細い子供である。 ましてや病弱の、身体の弱い子供である。 「あ……」 ぼたぼたと口の端から垂れる赤い粘液。 刹那喉奥に引っかかった異物感に噎せて咳き込んだ結果、 朱に混じって白い固形物が2~3個吐き出された。 口中に広がる生暖かくも芳醇な鉄の味に、イェスパーが愕然としかけた時。 「っ!」 喉輪を掴まれて宙吊りにされ。 少年は初めて、失神すら不能な圧倒的恐怖の存在を知る羽目になった。 「……クソが」 先刻までとは別人のような、突き刺すような怒気、ドスの利いた恐ろしい声に、 睾丸は縮み上がり、歯の根は噛み合わず、ナメクジに睨まれたように全身が凍る。 ――恐怖。 ――恐怖だ。 「ナマ言ってんじゃねえぞ、ガキの分際で。…あぁ?」 それでも彼女はライオンで、寝たきりの子ヘビ一匹摘み上げるなど造作もない。 大人の力で手加減無く、歯が折れるほどに殴られた頬の痛みは、 今やイェスパーが感じた事もない灼熱感と激痛を伴って全身に伝播していた。 病から来る緩慢の恐怖でもない、疎外から来る社会的恐怖でもない、 それは暴力による、突発的な、横殴りの根源的恐怖。 「…人がこんなに、汗水垂らして苦労してヒィヒィ言ってるってのによ」 ――コロサレル。 初めての体験になる恐慌と激痛に、少年はガタガタ、声も上げられずに震えて涙し、 病人の寝巻きの股座には、見る見る湯気の立つ黄色い染みが大きさを増す。 「『助かりたくない』? 『死にたい』? 『あげる』? 『自分は要らない子』だぁ!?」 いたいけな子供を振り回し、憎々しげに喚き散らす赤毛の獅子に、 背後に控えた女官達や衛兵達はおろか、妖物ですらあっけに取られて立ち尽くした。 状況を正確に把握できている者は、おそらく一人もこの中にはいない。 「っざけんじゃねえよ! はぁ!? 何だよオイお前! えぇ!!?」 「あ゙ぐ…ッ」 寝台に思いっきり叩きつけられた後、今度は襟首を掴んで持ち上げられる。 まるでボロ雑巾のように扱われながら、でも向けられた先は。 「……言ってみろよ」 圧迫から解放された喉が、すぐに引き攣った音を立ててすぼまった。 「……母ちゃんの目ぇ見て言ってみろよ、まん前でよぉ?」 背より猛烈な怒気を浴びせかけられながら、宙吊りのイェスパーはそれを見た。 彼と同じに震えながら、それでも涙を浮かべて立ち尽くす母の姿を。 悲痛を浮かべながらも彼から目を逸らそうとしない、産みの親の姿を。 「『生きてて楽しくありませぇん♪』、『早く死にたいでぇす♪』って」 子供が子供を産んだような母だった。 親子というよりはもう姉弟に近い、少女のような母親だった。 「『どうして産んだんですか』、『生まれて来たくなんかありませんでした』って」 この子供にしてこの親あり、 ただ飾りとして生まれ、ただ飾りとして嫁ぎ、ただ飾りとして子を孕んで産んだ。 そんな運命に抗おうともしなければ、恨み嘆いて悲観するわけでもなく、 ただただ諦観の内に、レースの翻る窓辺、籐椅子に座っているような女(ひと)。 彼の『腑抜けさ』は、間違いなくこの母からの遺伝。 「……言ってみろ」 でもイェスパーは、そんな母の事を、誰よりも。 「言ってみろってんだよ、ジャリガキが!!」 ――今度の涙は、痛みからでも、恐怖からでもなかった。 強制的に向き合わされたのは、彼がずっと目を逸らして逃げ続けてきたもの。 イェスパー・ユルングは、死にたいと願っていた。 別に死んでもいい、命を捨ててもいいと、正真正銘本心から望んでいた。 ――《あなたのお母さんもそうよ、お母さんも皆と同じ》 だから信じた。 同年代の子達の声、女官の声、衛兵達の声こそ伝えれど、 でも母の声だけは直接伝えはしなかった彼女が、それでもそう彼に囁いた時、 信じた。 信じたかった。 ……思い込みたかった。 自分は、母に、嫌われているのだと。 イェスパー・ユルングは『愛』を知る。 その貴くも得難きものを、それでも確かに知っている。 それは、寝台に臥す自分の頬を撫でてくれる、滑らかにもひんやりとした手。 額の濡れ布巾を、汗ばんだ寝巻きを取り替えてくれる手。 寝台の側に腰掛けてはまどろむイェスパーに寝物語を読んで聞かせてくれて、 夜中に怖くて一人で厠に立てない彼に、嫌な顔一つせず付き添ってくれる。 眠れない夜は一緒の布団に手を繋いで寝て、 雷や嵐の恐ろしい夜には、やはり手を繋いで一緒に震えながら眠った。 ……それは、当たり前のようにそこにあるもの。 ……手を伸ばせばすぐ届くところに、いつでも触れられるものとしてあったもの。 夕暮れの中、窓辺の籐椅子に腰掛けて、穏やかに刺繍を営む美しい人を、 翻るレースのカーテンの中、涼しい顔を受けて蒼穹を仰ぐ人形の姫を、 だからイェスパーは、愛すべくして愛した。 『視えない』のに彼のいう事を信じてくれる彼女の事を、 真剣に聞き入って頷いてくれる母親の事を、愛すべくして。 ……いつも諦念を滲ませて、静物のように窓の外を眺めている哀しそうな人を。 ……儚い、色白な、今にも消えて、どこか遠くに行ってしまいそう、 世間知らずの箱入り姫が、好きで、好きで、大好きだった。 それは『希望』だ。 誰からも見向きもされない、いてもいなくてもどうでもいい無価値な石ころを、 けれど彼女だけは見てくれる、彼のその手を握ってくれる。 たった一粒の、櫃底の希望。 無機質な世界で、陰氣に囚われて幽鬼に囲まれながら、 それでもイェスパーが今日まで生きて来られたのは、その希望があったから。 だから物心つくに従って、絶望した。 ――『ははうえ、ははうえ』 ――『ははうえの望みは、なんですか?』 ――『ははうえの幸せは、なんですか?』 彼がそう尋ねる度に、母親は笑って彼の事を抱きしめ。 ――『貴方が幸せなら、母上は幸せよ、イェスパー』 ――『貴方の幸せが、私の幸せ』 次第にイェスパーは、そんな母の顔を正面から見れなくなっていった。 たった一粒の希望の光を、真正面から見据える事ができなくなっていった。 彼は、幸せではなかった。 確かに希望はあったが、でもそれ以上に辛くて苦しい事があまりにも多すぎた。 絶え間なく襲ってくる、発熱、頭痛、吐気、悪寒。 友達もろくに作れない、いじめられっ子。 王位を目指そうにも、病弱の上に末弟の彼には権力はあまりにも遠い。 イェスパーは、母が大好きだった。 この世界の何よりも、そして生きている者達の中で、ただ一人母だけを。 ――『ははうえ、ははうえ』 ――『ははうえの望みは、なんですか?』 ――『ははうえの幸せは、なんですか?』 自分の事はどうでもいいから、母に幸せになってもらいたかった。 自分の事なんて見捨てていいから、母に幸福になってもらいたかった。 母に喜んでもらいたかった。 母の望みをかなえてあげたかった。 ――『貴方が幸せなら、お母さんは幸せよ、イェスパー』 ――『貴方の幸せが、私の幸せ』 イェスパー・ユルングは知っていた。 タンスの中に隠れながら、物陰で本を読みながら、寝台に臥しながら聞いていた。 子供でしかないが、子供だからこそ。 「あれでは成人するまで生きられない」、そう周囲の大人達が漏らすのを。 「ムダメシグイ」「フグ」「カタワ」、己がそう呼ばれる存在である事を。 そうして。 母が己の医者代、薬代を捻出するために、恥を忍んで実家に度々金を無心し、 また嫁入り前に持ってきた宝石類や調度品類を手放している事も。 ――『ああ、イェスパー、イェスパー、可愛いイェスパー』 ――『どこにもいかないで、お願いよ』 ――『お母さんを置いて、先にどこかへ行っちゃわないで』 仔馬が、誰に教えられずとも、生後速やかに四足で立つ方法を知るように、 イェスパーは自分が死ななければならない事を理解する。 それも速やかに、できるだけ早く。 長引くほど彼女を拘束する。下手な期待を持たせるほど余計に彼女を悲しませる。 彼が、何よりも愛している人が。 彼の全てを投げ打ってでも、幸せになってもらいたいと願う女(ひと)が。 疎んでもらいたかったのだ。 なじられ、罵られ、これ以上ないというくらい憎まれて足蹴にされたかった。 冷たい目で、『はやく死ねばいいのに』と言われたかった。 蔑みの目で、『お前なんか産まなければ良かった』と言われたかった。 言って欲しかった。 ……見捨てられたかった、見捨てて欲しかったのだ。 そうすれば。 そうすればもう。 だから。 だから思い込もうとして。 自分は母に疎まれている、要らない子なのだと思い込もうとして。 思い込もうとして。 思い込もうとして。 思い込もうとして。 「……あ」 目の前で、最愛の女(ひと)が泣いている。 親子というよりは、もう姉弟に近い、少女のような母親が。 泣かせたのは誰か? 悲しませたのは誰か? ――彼だ。 「…………あ」 半分死んで生まれてきた、いてもいなくてもどうでもいい王子にとって、 生まれてきた時から死と隣り合わせだった彼にとって、死は別に遠いものではない。 イェスパー・ユルングは、だから死にたいと願っていた。 別に死んでもいい、命を捨ててもいいと、正真正銘本心から望んでいた。 「ははう―― 「「……だめ」」 涙に濡れた、悲痛の声。 たったそれだけで死を受け入れ、死を覚悟していた少年の心が大きくたわんだ。 頬を殴られた痛みよりも、なお勝る激痛。 今まで目を逸らして考えないようにしてきた分、嘘を信じて誤魔化そうとしてきた分、 世界でもっとも愛する人の声は、少年の心を切り刻み、深々と抉る。 「ごめ 「「…だめ、イェスパー……っ」」 抉る、抉る、抉る、抉る――… 「行っちゃ駄目えぇッ!」 明日をも知れぬ病身の身に、『死んでない』だけなのが楽しくないのは本当で。 疎外されての空気の様な存在感、『生きてない』のが面白くないのは本当で。 ……でも『死にたかった』のではなく、『生きたかった』のでもなく。 ……『消えてしまいたかった』のでもなく、『世に認められたかった』のでもなく。 イェスパー・ユルングは。 「……ごめ、んな……さい…っ」 ただ母を。 「……ごめんな、さい…、はは…うえ…」 もうこれ以上。 「…はは……うえぇ……ッ」 悲しませたく。 ――穴は閉じた。 =―<A-4 rampage assault 14 years ago AM 2 29 >───────────────= 空気の流れが、『それ』と分かるほどに変わった。 同時に部屋隅に蹲った女官達からの、まるで気が触れたようなけたたましい悲鳴。 今更そんなものが盛大に上がるのは、【供給源】を失った『彼ら』の姿が。 ……確かに、大部分を構成するのは人間の魄(はく)、 もっとも色濃く表れ、目に見える形で強く残っていたのは人間としての姿形だ。 ――でも『100%』が人間ではない。 その根源、本質の部分では、他にも色々なものが混じってしまっている。 虫の魄。魚の魄。小動物の魄。植物の魄。 より無機的で、より原始的な、人ほどには高等で無い、人以外の『残滓』。 故に彼らは鬼(クイ)と呼ばれ、故に彼らは妖(あやかし)と呼ばれる。 【穴】が閉じられ、【憑座】との連結が切断された結果か。 人外の奇声を上げて踊りかかるその先頭は、ヘビの少女の肉体をベースに、 砂蠍の頭を持ち、脇腹から蜘蛛の足を生やして、蟷螂の鎌の両手を持った…… ……先刻まで『アポス』と呼ばれていたモノ。 そうして、ある者は魚の頭を。ある者は植物の樹皮と根を。ある者はうねる触手を。 蟲の体節。獣の手足。蝦蟇の頭部。肥大した目玉。蜻蛉の羽根。 刹那の出来事。 へたり込んだ少年と、それに駆け寄ろうと界の外に出てしまった母親に、 雲霞のごとく殺到しようとしたそれら百鬼夜行を――… …――眩いばかりの閃光が、轟音と共に横薙いだ。 ――< switch over >─― 「大」 「逆」 「転」 「……だな」 《………ガ…ぁ…》 視覚と聴覚をことごとく塗り潰した光と音の狂宴の後。 へたり込んで抱き合う母子の視界に戻ってきたのは、見る影もなき『残骸』と…… ……そしてその前に仁王立ちして見下して、 稲光の残り香を纏った払子を右手、道服をたなびかす緋髪の雌獅子。 《…く……あ……、オま、え……》 その正体は、狂おしいまでの想いより生まれた不完全な魔法、不完全な精霊。 いかなる武器、たとえ重機関砲を喰らおうとも傷つかないそれは、 しかし故にこそこうして散り散りに引き裂かれ、消滅の時を迎えようとしていた。 修復可能な限界を超えて、構築を破壊され、定義を破壊され、設定を破壊され。 構造構成における致命的なまでの損壊、もはや魔法として存在できぬ程に、 術式(スクリプト)に破損をきたし、貯蓄魔力(リソース)も喪失し。 だが、それでも。 それでも、ここまであっけなく。 具現の依代たる【憑座】とのリンクが断たれた瞬間を狙われて、 無限の供給源たる【穴】が閉じた瞬間を突かれたとは言え、 それでも。 こんな、ここまで成長した彼女が、ここまで一瞬で、まるで砂の楼閣を殴るように。 《…いっ……タ、い…》 「――何、おかしい事ぁねぇ。単にオレはこっちの方が得手だってだけの話さ」 『アポス』という名だった存在は、そこで改めて敵対者の姿を仰ぎ見た。 緋色の服に、緋色の髪。紫苑の瞳に、黄色種の肌。 落ち着きなく尾を揺らめかす雌獅子は、凶暴なまでの狩猟者の笑みを浮かべ。 仙人というよりは、悪魔のような。 「昔から、浄霊とか、封印とか、退魔調伏なんてモンより――」 さっきは確かに脂汗を浮かべて、 今にも崩れ落ちそうだったこの女の実力を。 「力ずくでぶっ飛ばして、消し飛ばす方が得意でね」 本質を見誤っていた事を、彼女は素直に自認した。 ゆっくりと持ち上げた左の掌に、再度膨大な力が集まるのを感じて。 「――無極生太極」 《…ア、あハッ。…あハハはハはハハははッッ♪》 肩から上――顔右半分だけになった禍霊は、狂女のような哄笑を上げた。 残った体節、触覚を折り曲げて、蟲の瞳をぎょろぎょろさせながら、 人間をベースに色々なものが混じってしまったモノが、力を持っただけの存在が。 「――太極分両儀」 《イェす、パー?》 ぎとり、と睨んだ先で、へたり込んだままの少年が身を竦める。 反射的に母親が抱きしめて守ろうとするが、その視線は既に釘付けの状態。 交差した。 生者と死者の、主人と家来の、――造物主と被造物の、――本物と紛い物の。 恐怖と悲痛に染まった視線と、憎悪と皮肉に染まった視線が、交差した。 「――両儀啓四象」 《わたシたち…、ワタ、シ、たち、ヒっ、おトもダチ、もだち、よ、ネえェ?》 もう少しだったのに。 もう少しで彼の腹を内側から食い破り、現世に生まれ出る事が出来ていたのに。 子が親を、被造物が造物主を殺す事での、因果反転、虚実交換、受肉の儀。 もう少しで蜘蛛糸を手繰って、地獄の釜底から現世に這い出る事が出来ていたのに。 そう思って、笑って、笑って、笑って、笑って。 「――四象至八卦」 《オトもだちヨネエええええぇぇぇぇぇぇ!!?》 ――もういいんだ、アポス ――ぼくの命が欲しいんなら、あげるから ――今までどうもありがとう …――自分が泣いている事に愕然と。 それが『アポスと呼ばれていたモノ』の、その場での最後の思考となった。 「邪怪禁呪、悪業を成す精魅、天地万物の理を以って微塵とせむ――禁」 ホワイトアウト、ブラックアウト =―<A-5 reject real, because they answer 14 years ago PM 6 32 >────────= ――どこの国にもあるだろ? 似たような【怪談話】が。 とても仲のいい親子。おしどり夫婦。恋人同士。 その子供や片割れが、突然の事故か何かで死んじまう。 別れを言う暇もなく唐突に。 ありがちなプラスアルファじゃ、些細なきっかけで誤解から仲違いしたまんま。 土砂崩れや鉄砲水、溺死なんかで、『死体が見つからない』事も多い。 で、残された方は、絶対「息子は」「夫は」死んでないって信じるんだ。 もう何日も経ってて、他の家族や近所の人間が全員首を振っても、信じ続ける。 …本当はもう絶望的なんだって薄々感づいてても、認められない。 あの子は、あの人は、帰ってくる、帰ってくる、死んでない、死んでない、死んでない。 見ている方が居た堪れないくらいに、 もう気が触れちまったんじゃねぇかってくらいに、信じ続ける、目を逸らし続ける。 …それである晩、戸口を叩く音が響く。 『愛しい人、帰ってきたよ』『おふくろ、ここを開けてくれ』って。 待ってた本人は、もう狂喜乱舞して喜ぶが。 ……でもそれ以外の家族は、すぐに戸口の外に立ってるモノの正体に気がつく。 間違いなくそいつの声に、でも肉の腐ったような匂い、湿った水音。 異様な空気が辺りに立ち込めても、でも待ち望んでた本人だけは気がつかない。 ――当たり前だよな。他でも無いそいつの『願い』が、呼び戻したんだから。 “あの子は、あの人は、死んでない、死んでない、帰ってくる、帰ってくる” ……そんな狂おしいまでの想いが引き起こした、不完全な魔法。 信じ続けて目を逸らし続けるあまりの妄執が引き起こした、歪んだ奇跡。 もちろん、帰ってきたのは『帰ってきて欲しかった本人の魂』じゃない。 …『帰ってきて欲しかった奴のカタチ』だけ似せた、何か別の、おぞましいモノ。 ここで必ず「開けてくれ」「入れてくれ」って頼むのは、 でも連中が自力じゃ入って来れない、向こう側からは開けられないから。 『生者の世界』、『現世』、『現象界』に、 でも『負』で、『反』で、『幽』で、『死』な連中は、自力じゃ上がっては来れないんだ。 本来はそれくらい虚ろで、儚い、力無く、存在するはずのないモノ。 ――生きてる世界の側から、生きてる人間の手で引き上げて貰わない限りは、な。 だからあの手この手で誘惑して、あるいは脅しつけて開けさせようとする。 『入れてくれ』『開けてくれ』『何で入れてくれないんだ』『早く開けてくれ』。 声、音、幻聴、幻覚、 実体を伴わないあの手この手、全ての虚象を総動員して、 それで何とか誘惑に耐えて、開けずに済ませられればそれでいいんだが…… ……でも開けちまったら、その時はもう。 …ああ、そうさ、そうとも、その通りだよ。 鬼(クイ)も、妖(あやかし)も、幽(ゆうれい)も、でもそのほとんどが人が望んだモンだ。 全部人間の、生きてる人間の心の中からやって来たモンだ。 現実を見つめたくない想い、事実を否定したい気持ち、都合のいい奇跡を望む心。 狂おしい、あまりにも強すぎる想いが魔法の域にまで到達して、 ……魔が答える、無意識に、けれど間違いなく術者本人が望んだままに。 死者に、死んじまった人間に出来る事だなんて、だからタカが知れてるのさ。 …本当に力を持ってるのは、いつだって生きてる人間の、生きた想い。 「……そういうわけだ。結局元凶は、全部あんたの息子だったって、な」 三日後。 夕暮れの日差しの中で皿に山盛りの果実に貪りつきながら、 オレはお袋さんと一対一で向かい合っていた。 赤色に染まる部屋の中に居るのは、今はオレとこの女の二人だけ。 さすがに『こんな話』、例の女官共や衛兵共の前でするわけにいかねぇから、 苦労して人払いしてもらって、なんとかここに漕ぎ付けられた。 ……これが第一夫人様とかなら、ぜってーこうはいかないんだろな。 お袋さんが見捨てられまくりの影薄い夫人だった事を、今だけは点に感謝しとく。 「あいつが『望んだ』んだよ」 むしゃりと汁気たっぷりのヤシの実の削ぎ切りを齧りながら、二の句を継ぐ。 「だから『来た』、願いのままに、望みのままに」 ――厳密に言えば、あそこまで劇的に反応する事はまずほとんどねぇんだが。 どっこいそこは、あの王子サマの生まれ持っての余計な体質が災いした。 『視えちまう』――『認識できちまう』って事は、たったそれだけで十分やっかい。 対象を認識できる、明確なイメージを思い描けるって事は、 魔術の世界じゃ実に重要な要素だかんな。 …二つと無い才能、お前は選ばれたんだって、オレ、あいつに言ってやったけど。 でも実際、そう考えればどうなんだろうな、この【見鬼】って奴の能力も。 「だからあいつが変わらない限り、結局は元の木阿弥だ、『再発』する」 「……!」 びくりとおふくろさんが身を震わせたが、でも可哀想だがこりゃあ事実だ。 「オレがやったのは、もうカタチを持ってあいつの周りにべっとり纏わりついてたのを、 できるだけ細かく引き千切って、遠くにぶん投げて吹き飛ばしてやっただけ」 吹っ飛ばして、それで終わりだったなら最初からそうやってる。 『救済』しなくていい、『破壊』すればいいだけだったんなら最初からそうしてるさ。 「でも【核】が滅んでねぇんだからな。引力がある限り、そりゃ再生もするさ」 「そんな……」 そうして【核】を破壊しちまったら元も子もない、【核】だけ傷つけずに周りだけ 削ぎ落とさなきゃダメだったせいで、あんなにややこしいかったんであって。 「じゃあ…一体あの子は、どうすれば……」 ただ、途方に暮れたような顔をするおふくろさんに対し。 「いやいや、言っただろ、『変わらない限り』ってな」 にやりと笑って、オレは次の果実に手を伸ばしながら指を振る。 「…かわ、る…?」 「そう、要は生きるのが楽しいって思わせればいいのさ」 杯に注がれたエールを煽ると、両手を広げて高らかに。 「太陽が眩しい! 空気が旨い! 食べ物も美味しい! 女の子は可愛い! 死人の友達を作らなくったって、生きている友達さえ居ればいいやっ! ああ、人生ってなんて素晴らしいんだろう! 生きてて良かったー…ってな♪」 そう、なるだけ冗談めかして言ったつもりだったが。 「…………」 ああ、暗いな~おふくろさん。 まあ実の息子が10歳で既に自殺志願者って知れば当然かも知らねぇがよ。 でも、ま。 「そんな事――…」 「いやいや、あるんだなーこれが、ちょうどいい手段が」
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解説 ライトノベルキャラ29名で行うトーナメント。 前回と異なり、今回は代理出演なし。全員本人が出演している。 ……その分、同一人物が出演していたりするのだが。 前回出そびれたメンツも総出演しているため、作品ファンにとってはうれしいことである。 なお、そっくりさんのみのおまけ大会「他人の空似トーナメント」も併設されている。 出場キャラクター + 本戦 『涼宮ハルヒの憂鬱』 涼宮ハルヒ(チョイヤー氏) 涼宮ハルヒ(汚レ猫氏) キョン キョン子 古泉一樹 朝比奈みくる(minoo氏) 朝比奈みくる(CCI氏) 長門有希(ドロウィン氏) 長門有希(i@氏) 長門有希(汚レ猫氏) 朝倉涼子(yukimiti氏) 朝倉涼子(minoo氏) 谷口 鶴屋さん 『マリア様がみてる』 小笠原祥子 藤堂志摩子 島津由乃 福沢祐巳 松平瞳子 『フルメタル・パニック!』 ARX-7 アーバレスト ボン太くん 『ロードス島戦記』 ディードリット 『キノの旅』 キノ 『アンジュ・ガルディアン』 マリー=デイヨン 『東方香霖堂』 森近霖之助 『ゼロの使い魔』 ルイズ 『ウィザーズ・ブレイン』 セラ 『空の境界』 両儀式 『灼眼のシャナ』 シャナ 『サモンナイト』 ミニス・マーン 『パラサイト・イヴ』 Aya BREA + 他人の空似トナメ 『吉永さんちのガーゴイル』 高原喜一郎 『這いよれ!ニャル子さん』 クー子 ニャル子 『グイン・サーガ』 グイン 『キノの旅』 陸 『僕にお月様を見せないで』 駒犬銀之介 メタルゴリラ 『狂乱家族日記』 乱崎月香 関連大会 ラノベっぽい何かでタッグトーナメント オリキャラ&版権キャラでタッグトーナメント RPGっぽい何かでタッグトーナメント 特撮っぽい何かでタッグトーナメント 有名ペアっぽい何かでタッグトーナメント おもちゃ屋さんトーナメント コメント ハルヒ多すぎワラタwww -- 名無しさん (2009-12-17 17 12 06) minoo氏長門作ってたっけ? -- 名無しさん (2009-12-18 19 47 09) ↑誤植のようでしたので、訂正しておきましたー。 -- 月見うどん食べたい (2009-12-19 19 56 49) 名前 コメント マイリスト
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『参加者名簿』80/80 9/9[魔法少女リリカルなのは] 高町なのは/フェイト・テスタロッサ/シグナム/ヴィータ/ザフィーラ/エリオ・モンディアル/キャロ・ル・ルシエ/スバル・ナカジマ/ティアナ・ランスター 7/7[ダンガンロンパ-希望の学園と絶望の高校生-] 苗木誠/霧切響子/十神白夜/腐川冬子/大神さくら/舞園さやか/戦刃むくろ 5/5[ニセコイ] 一条楽/桐崎千棘/小野寺小咲/鶫誠志郎/橘万里花 5/5[Steins;Gate] 岡部倫太郎/椎名まゆり/牧瀬紅莉栖/阿万音鈴羽/桐生萌郁 5/5[銀魂] 坂田銀時/神楽/志村新八/沖田総吾/土方十四郎 5/5[カゲロウデイズ] 如月シンタロー/如月桃/キド/カノ/マリー 5/5[空の境界] 両儀式/黒桐幹也/黒桐鮮花/荒耶宗蓮/浅上藤乃 5/5[ココロコネクト] 八重樫太一/稲葉姫子/永瀬伊織/桐山唯/青木義文 4/4[上条(悪)「この右手で、殺してやるだけさ」] 上条当麻/一方通行/御坂美琴/ステイル=マグヌス 4/4[戦国BASARA] 真田幸村/伊達政宗/織田信長/明智光秀 4/4[スーパーダンガンロンパ2-さよなら絶望学園-] 日向創/七海千秋/狛枝凪斗/超高校級の詐欺師 4/4[Fate/Zero] 衛宮切嗣/ウェイバー・ベルベット/セイバー/ライダー 4/4[織田信奈の野望] 織田信奈/相良良晴/蜂須賀五右衛門/竹中半兵衛 4/4[魔法少女まどか☆マギカ] 鹿目まどか/暁美ほむら/美樹さやか/佐倉杏子 4/4[刀語] 鑢七花/鑢七実/とがめ/宇練銀閣 2/2[HELLSING] アーカード/アレクサンド・アンデルセン 2/2[ドラえもん] ドラえもん/野比のび太 2/2[コードギアス 反逆のルルーシュR2] ルルーシュ・ランペルージ/枢木スザク
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ストライダー飛竜 【出展】ストライダー飛竜 【種族】人間 【性別】男 【カオスロワでの活躍】 7期と8期にて継続して危険対主催のスタンスを貫く。 彼と対峙したキャラは飛燕以外全員が死亡するという驚きの死亡率。 カオスロワながら性格とやっていることが原作とほとんど変わっていない。 つまり外伝でも似た性格で、マーダーと主催者の脅威になるのであろう。 【カオスロワ外伝での主な行動】 +ネタバレ注意 ストライダー飛竜のカオスロワ外伝における動向、設定。 初登場話 001 ドラゴン・クライシス 死亡話 [[]] 登場話数 3話 スタンス 対主催 現在状況 一日目・午後の時点で生存 設定 【性格】冷血漢 【一人称】俺 【二人称】お前 【解説】 忍者を前身とした機関、ストライダーズの、超A級ストライダー。 かつて地球を滅ぼそうとした冥王グランドマスターを暗殺した過去を持つ。 徹底したプロ根性の持ち主で、任務のためならば何処までも冷酷になれる。 しかし、MARVEL VS. CAPCOMでは、パートナーに共感する一面もあるため、人並みの感情は存在する。 キャラとの関係(最新話時点) キャラ名 関係 呼び方 解説 初遭遇話 両儀式 仲間 式 役に立たないと判断したら殺すつもりだった 007 二人の死神 ジャイアンの母 敵対 強敵と認識 063 母の来襲 最終状態 【板橋区/1日目・午後】 【ストライダー飛竜@ストライダー飛竜】 [状態] 疲労(中) [装備] 投げナイフ(10本)、エンジンブレード@仮面ライダーW [道具] ,基本支給品一式 [思考・状況] 基本:バトルロワイアルの破壊及び主催者の抹殺(手段は選ばない)。 1 『殺し合い』に乗る気はないが、降りかかる火の粉は払う。 2 基本的に自分からの殺しはしないが、自分の任務達成に必要でない人間を助けるつもりは無い。 3 当分は仲間や主催者達の情報、首輪を集める。 4 ジャイアンの母(名前を知らない)を警戒 ※主催者に反逆してもある程度なら首輪は爆破されないと考えました。 ※直死の魔眼について簡単な説明を聞きました。
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参加者名簿 作品名は外部サイト『Wikipedia』にリンクしています。 6/6【AC北斗の拳@ゲーム】 ○ジョインジョイントキィ/○ラオウ/○ハート様/○QMZ(ジャギ)/○┌┤´д`├┐(シン)/○K.I(レイ) 6/6【PSYREN-サイレン-@漫画】 ○夜科アゲハ/○ドルキ/○遊坂葵/○碓氷/○雨宮桜子/○天樹院フレデリカ 6/6【ナムカプ@ゲーム】 ○ガンツ/○ストライダー飛竜/○殺意の波動に目覚めたリュウ/○ゾウナ/○ザベル・ザロック/○小牟 6/6【バトル・ロワイアル@漫画】 ○七原秋也/○杉村弘樹/○織田敏憲/○琴弾加代子/○内海幸枝/○清水比呂乃 6/6【魔界塔士Sa・Ga@ゲーム】 ○かみ/○そうちょう/○デスマシーン/○つるぎのおう/○アシュラ/○村一番の美人 6/6【メタルマックス3@ゲーム】 ○ダイコンデロガ/○ガウーマン/○超流動デカプリン/○ニセンイチロー/○うろつきポリタン/○男アーチスト 5/5【DARKER THAN BLACK‐黒の契約者‐@アニメ】 ○黒/○ノーベンバー11/○アンバー/○黄/○銀 5/5【魔法少女おりこ☆マギカ@漫画】 ○美国織莉子/○巴マミ/○呉キリカ/○美樹さやか/○暁美ほむら 3/3【キャシャーン Sins@アニメ】 ○キャシャーン/○ディオ/○レダ 3/3【空の境界@アニメ】 ○両儀式/○臙条巴/○浅上藤乃 3/3【テイルズオブエターニア@ゲーム】 ○リッド・ハーシェル/○リリス・エルロン/○メルディ 3/3【花の慶次@漫画】 ○前田慶次郎利益/○風魔小太郎/○奥村助右衛門 3/3【百舌谷さん逆上する@漫画】 ○百舌谷小音/○葛原未来/○樺島番太郎 2/2【神様ドォルズ@漫画】 ○枸雅匡平/○枸雅詩緒 2/2【GO DA GUN@漫画】 ○ギャリック=ライダー/○ガンマ=ハングドクロス 65/65