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132 名前:依存型ヤンデレの恐怖[sage] 投稿日:2011/10/22(土) 11 38 09 ID u8FGsT46 [2/5] 依存型ヤンデレの恐怖3 いつものように未夢にエサを与える。 「よし、食え」 「はーい!」 今日は日曜日だ。従って、朝メシはいつものように手抜きしない。きちんと米を炊いて、和風の朝食を採る。 「うまいか?」 「おいひーよ?」 「そうか…」 未夢は口一杯にご飯を頬張って、朝メシをやっつけるのに必死だ。 いつもアホな行為に隠れがちだが、未夢の抱えている問題は大きい。 先ず、未夢は仕事に就くことができない。俺と一緒に居るか、何か俺を連想させる場所や物がない場合、平静でいられない。具体的には、多動性が出る。小学生の低学年クラスに一人はいる落ち着きのないアレだ。 そんな奴が仕事などできるわけがない。 通常、幼少期の多動性は年齢を重ねると落ち着き、矯正されるものだが、こいつの場合、それがうまく行かなかったのだ。 とにかく、こいつは一人にしておくとロクなことをしない。 見た目通り、子供を放し飼いにするようなものだ。 しかも、どうしようもないタイプの。 俺にとっての一番大きい問題は、そのことを未夢本人は勿論、家族も十分理解し、その上で俺に丸投げしているということだ。 (まあ、いずれ独り立ちさせるが…) 「なあ、未夢。寺に行かないか?」 「リューヤがイクなら…」 なんだ?何かがおかしかったな…。 「なにするの?」 「ズバリ、精神修養だ」 「セイシ…?やだぁ…リューヤったらぁ…」 駄目だ。こいつの頭では理解できない。既に曲解を始めている。そもそも、俺も坊主に知り合いはいない。 「デート、デート♪リューヤとデート♪」 未夢は俺とずっと、一緒に居られる週末は基本的には機嫌がいい。 くそ、こいつは人の気も知らないで。 「未夢…おまえ、俺のことナメてるだろ」 未夢は、ぱぁっと笑みを浮かべる。 「ナメる…しゃぶる、じゃ駄目かな…?」 最近の未夢は何かを掴みつつある。 俺を困らせる、という一点において何かの技術を獲得しつつある。 もうヤだ…こいつ。 俺が頭を抱えるのと同時に家電が鳴った。 「未夢…出てくれ」 「はーい!」 ニコニコと笑顔で電話のフックを上げる未夢。 次の瞬間、その笑顔が鬼のような修羅の形相に変わった。 「う…!」 思わず呻く。部屋の温度が2、3度下がったような冷気漂う緊張感。 「…いないよ」 押し出すように低く言って、そっとフックを掛ける。 これも未夢。 170 名前:依存型ヤンデレの恐怖 ◆a5x/bmmruE[sage] 投稿日:2011/10/24(月) 15 12 28 ID SiDsRrmg [2/3] いつ頃からだろう。未夢がこんな憎悪に満ちた表情を見せるようになったのは。 進路が別々になった時とリストカットした時期は、ほぼ同時期だ。俺も余計なことをしたものだ。おそらく、未夢は変わらざるを得なかったのだ。 俺との関係を継続して行く上で、今の変化は未夢にとって必要なものだったのだ。 「誰からだ?」 知っているが、敢えて聞いてみる。 「しらない」 硬質な声。 いつものように無意味な元気も無ければ、笑顔もない。 俺が何気なく放った無責任な一言が、こいつの内包する何かを変えたのだ。だとすれば、未夢の無邪気な笑顔を奪った俺の罪は如何ばかりか。代価として何を支払えばいいのだろう。 不吉な予感がする。 また、電話が鳴る。 「でるね」 そしてまた、未夢が電話を切る。 その繰り返し。 未夢は馬鹿だから、この繰り返しを苦痛とは捉えない。キリがないとも捉えない。 「俺が出る」 乾いた声。 くそ…俺が未夢にビビるなんて……あり得ん! 退かぬ! 媚びぬ! 顧みぬ! 違うな…こんな馬鹿な自分が、結構好きだ。 ほう、と息を吐いて、未夢の頭を撫でてみる。 何も起こりはしないのだ、と。 「わ……」 未夢は、目を丸くしてこっちを見る。 こうしたのは、いつ以来だ? わからん。 未夢を褒める俺の姿が想像できん。 …まあいい。電話に出る。 「オラ!このリスカ女!リューヤ先輩出せよ!てめえの汚い肉穴で―――」 「ぐおっ!」 キーンと来た。 この殺伐とした男口調。やはりヤツだ。 「あっ!リューヤ先輩?ウチです!キサラギです!」 うるさい。耳が爆裂したかと思った。 「聞こえてるよ。もっと静かに喋ってくれ」 このキサラギという女のことをただ一言で表現するなら、 「うるさい。お前は本当に、うるさい」「すんません……でも!あのリスカ女がいけないんですよ!」 キサラギは俺の一つ年下の高一だ。去年まだ中学生だったキサラギを助けてから、週末たまに電話をかけてくるようになった。 「リスカ女?未夢のことか?その呼び方止めろって、何回言わせるんだ。後、汚い言葉遣いも。何遍も言わせんな」 「……すんません……」 うわ…めっちゃ気のない反省。 「で、なんか用か?」 「あっ!よ、よかったら、ウチと映画でも――」 「行かない」 「……」 キサラギは静かになった。何時もこれならいいのに。 「じゃあな」 171 名前:依存型ヤンデレの恐怖 ◆a5x/bmmruE[sage] 投稿日:2011/10/24(月) 15 13 53 ID SiDsRrmg [3/3] 俺は未夢の世話で忙しい。キサラギの相手をする暇など微塵もない。 悪く思うなよ… 心の中で拝みつつ、そっとフックを掛ける。 不意にゾクッと背筋に悪寒が走った。 未夢だ。この変態が何を考えたか、俺の指を舐めたのだ。 「んふ…リューヤぁ」 また電話が鳴る。 取ると同時に未夢の頭に拳骨を見舞う。 未夢は「ピッ」て言った。 「酷いですよ!リューヤ先輩…なんで、ウチにばっかり、そんなに冷たいんですかぁ…」 最後の方は鼻声だった。 「そんなにリスカ女が大事なんですかぁ…?」 キサラギは突然泣き出した。とても面倒なことになったことだけはわかる。 ちなみに俺は未夢を含めた皆に等しく厳しく冷たい。だから、キサラギの評価は間違っている。 どうしたもんか考えていると… 「学校辞めたら、ウチのことも飼ってくれますかぁ…?」 「はぁ?」 飼う? も?複数形? 泣きながらそんなことを口走るキサラギは、きっと変態なのだろう。 変態の相手なら慣れている。 「飼うって、何のことだ?」 「ウチのことですよ……」 「変態」 キサラギは黙っていたが、グサッという音が聞こえたような気がした。 また、俺はそっとフックを掛ける。 電話が鳴ることはもう、ないだろう。 鳴った時は、その時はもうキサラギは人ではない。超えてはならない一線を超えた変態だ。 変態を熟知する俺がそう思うのだ。間違いない。 変態、と真剣に吐き捨てた言葉はキサラギの全人格を否定する言葉だ。 故に、キサラギが本物の変態でない限り俺に電話を掛けることはあり得ない。 だが、電話は、鳴った。 それは、運命のベル。 キサラギからの電話は、いつもうるさくけたたましく聞こえるが、この時は何故か静かに控えめに聞こえた。 俺は電話の線を引き抜いておいた。 さようなら、キサラギ。また来世で会おう。 変態の知り合いは二人もいらない。キサラギが変態でないのなら、それはそれで結構なことだ。 俺は足元でうずくまるもう一人の変態に視線を向ける。 「リュ、リューヤ、ひ、光が見えたよ……」 「そうか…」 そのまま光に飲まれてしまえば良かったのに…。 俺は何か吹っ切れたような気がした。 未夢とキサラギが変態なのは、俺のせいなどではない。 二人には元々素質があった。それだけのことだったのだ。 俺がボタンを押した。それだけだ。
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161 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 22 57 00 ID 3YlMb2N3 今日も今日とてゆるゆる過ごし、やがて気付けば下校時間。 日と月がバトンタッチをする時間、夕日が二つの影を伸ばしている。 「そう言えば、緋月の兄貴ってウチの生徒会長やってたんだって?三年くらい前に」 中でも長い方の影の持ち主、って要は俺、御神千里はいつものようにみんなとゆるゆるとダベる。 「…はい、お兄ちゃんが生徒会長で、お姉様が副会長だったと聞いています」 そう応じるのは小さく細い影の持ち主、緋月三日。 相変わらず華奢で細身なので、無駄にデカい俺と並ぶと兄妹のようにも見えるが、実際はそろそろ名前呼びイベントとか欲しい時期の恋人同士である。 「俺も今の生徒会長から聞いただけだけど、ハンパ無いイケメンで破天荒つーかアグレッシブな人だったとかー」 今年度の生徒会長を思い出しながら俺は言う。 俺と緋月の交際を聞いた美少女狂いの彼女が、珍しくいろいろと緋月の兄、緋月一日(ヒヅキカズヒ)に話してくれたのだ。 曰く、不正を是正するために学生運動まがいの大騒ぎを起こしたとか、曰く告白してきた百人近くのの女子をことごとく振ったとか、曰く学園中の生徒から慕われていたとか曰く―――いやこの先は止そう。 「…はい、どんな相手にも物おじしない人で、頭とかもすごい良い人なんです。…憧れの、自慢のお兄ちゃんです」 俺の言葉に緋月は憧憬のこもった目でそう言った。 「……ふぅん」 実際、憧憬に値する人物なのだろう。 あの美少女狂いの変人でさえ明らかな尊敬した口調だったし。 …緋月も、兄のことを語る時は何となく気安い感じだし。 「嫉妬!?」 「いやいやいや」 緋月の過剰(?)反応をいなしながら、俺はゆるゆる歩を進める。 「…私は、こちらなので」 「んじゃなー」 「…はい、また明日」 途中で、緋月と別れた俺は1人、今の友人関係に想いを馳せる。 葉山と緋月は最初は随分仲が悪いと思ったが、最近は随分話せるようになってきたと思う。(葉山は、もう諦めたと言っていたが) 明石はしばしば葉山にアプローチらしきものを仕掛けているが、全くもって気付かれる様子は無い。 けれど、決して仲が悪いようには見えないので、希望はあるんじゃないだろうかと思う。 そして、緋月と俺。 正直なところ、俺の中には最初アイツに対して積極的な感情は無かった。 ただ、アイツの頑張る姿が何か良いな、と思っただけだった。 今でも、アイツへの感情が激しいものだとは思わない。 けれど、アイツといるのは悪くないと思う。 世話のかかる面はあるけれど、世話をするのは嫌いじゃない。 恋人としてはいささか踏み込みすぎている部分はあるかもしれないが、俺自身としてはそれに不満は無い。 別に、うるさくされてる訳でもないしな。 まぁ、熱烈に愛する対象と言うよりは、家族みたいなモン? まぁとにかく、アイツといる時間は嫌いじゃない。 正直、好き、なんだと思う。 これからもそんな時間をアイツと過ごしていきたいと思うし、アイツがそれを望んでくれているなら嬉しく思う。 それは、積極的な感情、なのかもしれない。 そんなことを思いながら、部屋のドアを開ける。 「ただいまー」 誰もいるはずの無いマンションの室内に、俺は呼びかける。 うん、いる「はず」の無い「はず」だ。 今日は親は遅いし、他に(緋月を勘定にいれなければ)家族は居ない。 だから、この家に今俺意外に誰もいない。 そのはずだった。 162 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 22 58 12 ID 3YlMb2N3 「おかえりなさい…。今日は、早かったのですね…」 そう言って姿を現したのは、見覚えの無い女性だった。 年齢は恐らく、俺達より少し年上、10代後半から20代前半といったところか。 俺ほどでは無いが背は高い。 シミ一つない陶磁器のような肌が特徴的だ。 目鼻立ちは日本人形のようにクセ無く整っており、夜空の色をした眼は吸いこまれそうな魅力がある。 ハッとするほど美しい黒髪も相まって、奥ゆかしげな和風美人といった雰囲気。 ただし、首から下は全然奥ゆかしく無い。 プロポーションが良すぎるくらいに良い。 グラビアアイドルがハダシで逃げ出す位に肉感的である。 淫微と言っても良い。 なまじ一挙一動が優雅なので、逆に惹きつけられる。 彼女と言う人間そのものが、ある種の芸術品のように見えた。 そして、彼女はその美しい手足を惜しげも無く俺の眼にさらしている。 彼女の体を隠しているのは、エプロン一枚に見える。 いわゆる裸エプロンである。 正直、引いた。 ……これは、笑うところなのだろうか。 そもそも、この状況は何なんだ? 親がデリヘル嬢でも呼んだのか? あの人、女装好きの変態ではあるけれど、ゲイってわけじゃないからな。 俺にはそんな素振りを見せないだけで結構溜まっている筈―――ってそんな話で無く。 「……ええっと、すみません」 俺は何とか、彼女に対する言葉を絞り出す。 「はい、何でしょう、義弟くん…」 その女性は、いちいち優雅な動作で応じる。 服装が裸エプロンなんでそれが逆にエロい。 平静を装わなきゃならんこっちの身にもなって欲しい。 って言うかオトウトくん?そう言う設定なのか?」 「失礼ですが、どちらさまでしょうか?俺――僕と貴女は今日初めてお会いするものだと思うのですが」 目上の相手なので、一人称を言いなおし、なるべく丁寧に聞いてみる。 「あら、それは失礼…。では、私のことは通りすがりのお義姉様とでも呼んで下さい…」 じゃあそのまま通り過ぎて頂きたい。 って言うかおねーさま、って何よ? 「もう少ししたら、食事の準備が整いますから…。ゆっくり、待っていてくださいね…」 「いや、あの…」 「待っていてください、ね…」 穏やかながら、どこか有無を言わせぬ口調でそう言って、おねーさんはナチュラルにキッチンへと戻る。 キッチンからは彼女の言葉通り美味しそうな匂いが漂ってきている。 そこは俺の場所だ。 つーか、答えを見事にはぐらかされた。 「答える気は無いってコトか…」 俺はカバンを放りだし、リビングにゴロ寝する。 取りあえず、あの女性は放置しよう。 恰好がアレなだけで、取りあえず害は無いっぽいし。 ……それにしても裸エプロンの美女と二人っきりか。 ……緋月の奴に知れたらあらぬ誤解を招きそうな状況である。 ピンポーン…ピンポーン… そんなことを考えていると、家のチャイムが鳴る。 「義弟くん、出ていただけますか…?」 キッチンからおねーさんの声が聞こえる前に、俺はもうインターホンに応じている。 「はいはい、御神です」 『…御神くん、…ドアを開けていただけませんか…?別に、怒ってるわけではありませんから…』 インターホンのマイク越しに聞こえのたは、緋月の声だった。 随分と押し殺したような声だった。 163 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 22 58 55 ID 3YlMb2N3 「おっけー。今開けるね。でもどうしたん?さっき別れた所なのに…」 ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン 「話してる途中にチャイムを鳴らすなよ!」 ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピピンポンピポンピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポ… 「分かったから分かったから。今開けるからそんな高速でチャイムを押すなって。近所迷惑だから」 ピポピポピポピピピピピピピピピピピーーーーーーー! 高速で押しすぎて、連打が線のようになってる。 …微妙に分かりづらいが、どうも緋月は怒っているらしい。 この感じだと、下手をしたら過去最高クラスかもしんない。 無警戒にドアを開けたら、ちょっと厄介かもしれない。 軽く注意しつつ、俺はドアを開ける。 「うわあああああああああああああああん!」 ガチャリ、と開けた瞬間、涙目の緋月が飛び込んできた。 ナイフを振り上げての、渾身の体当たりだった。 ―――ってナイフはヤバイバ! 164 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 22 59 19 ID 3YlMb2N3 咄嗟に身を捻ってかわす。 「ひぎゃ!」 そのままの勢いでびたーん!と床の上にころぶ緋月。 「あ、ごめん…」 意外と痛そうな音に、思わず謝る俺。 取りあえず、転んだ時に緋月の手から離れたナイフは俺が確保しとこう。 コイツにこんなモンを持たせるのは、赤ん坊に核ボタンを持たせるようなものだ。 そんなことをしていると、緋月が鼻を押さえながらも起き上がり、俺に向き合う。 「うわきものうわきものうわきものうわきものうわきものうわきものうわきものうわきものうわきもの~~~~~~~~~~!」 涙目になりながら、ぽかぽかと俺の胸板を叩く緋月。 本人としては殴ってるつもりなのだろうが、コイツの基本スペック(攻撃力とか)は低いので大して痛くは無い。 「ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない~~~~~~~~~~!」 ぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽか こう言うテンションの緋月は珍しい。 「いやまぁ、取りあえず落ち着けって」 くしゃくしゃと緋月の頭を撫でながら、俺は言う。 「私がいないからって、裸エプロンといやらしいことをしようとするなんてぇ!お姉様となんてぇ!うわーん!ころしてやるころしてやるころしてやる~~~~~!」 ぽかぽかぽかぽかぽかぽか 「いやいや、やらしーことなんて何もないって。誤解だって」 ぽかぽかと俺の腹を叩き続ける緋月の頭をくしゃくしゃと撫でる。 …しっかし、何で裸エプロンのおねーさんがウチに居るなんて知ってるんだろ、緋月は? 「失点」 その時、冷たい感情をのせた声が、その場に響いた。 「想定していたよりも2分55秒も到着が遅れましたよ、三日…。この遅れは致命的にもなりえます…」 そう言ったのは、噂のおねーさまだった。 美しい黒髪をゆらりと揺らし、何ら動じることなく言葉を紡ぐ。 美しい黒髪……? 彼女の髪に妙な既視感を覚え、思わず緋月を見る。 緋月の髪はおねーさんと同じくらい艶やかな黒髪だ。 いや、髪だけでは無い。 真っ白な肌も、癖の無い顔立ちも、緋月とおねーさまはどこか似ている。 面影が、ある。 「…お姉…様」 おねーさまの言葉に、緋月はビクっとおとなしくなる。 「…二日(ニカ)、お姉様…」 緋月は、裸エプロンの女性を見て、そう言ったのである。 165 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 22 59 49 ID 3YlMb2N3 緋月二日(ヒヅキニカ) 正直、彼女について俺が知ることはそう多く無かった。 緋月三日の姉で、緋月家長男の緋月一日(ヒヅキカズヒ)の妹。 19歳の大学生。 緋月家の家事担当。 そして、緋月三日が誰よりも恐れる相手。 それが、その人が今目の前に居た。 「さぁ…、冷める前に召し上がりなさいな…」 いつの間にかダイニングに食事を並べ終え、裸エプロンのおねーさまこと、緋月二日さんは言った。 我が家のダイニングは、完全に二日さんの天下だった。 ちなみに、二日さんはいつのまにか清楚なロングスカート姿に着替えている。 「「いただきます」」 取りあえず、俺と緋月(妹の方ね)はそろって手を合わせる。 二日さんが用意してくれたのは、ハンバーグだった。 ワインの香りが上品なソースが香る、上品な感じの逸品である。 「しかし、驚きましたよー」 俺は、ナイフでハンバーグを切り分けながらそう言った。 「緋月―――三日さんのお姉様が我が家にいらっしゃるなんて。しかも、食事までご用意していただくなんてありがとうございます。事前に仰っていただければ、おもてなしの用意をしておきましたのに」 正直なところ、緋月まで来るのなら自分で作りたかったというのが本音だ。 アイツが俺の料理をキラキラした目で頬張る姿を見るのは俺の楽しみの1つだし。 俺の言葉に、二日さんは薄く微笑む。 「お気遣い無く…。妹の恋人である貴方は、いずれ私達の家族になるのですもの…。家族が家族の所に来るのに、何の気兼ねも問題も無いでしょう…?」 その言葉は、自分がここに居る理由を追求するなと言っているようにも聞こえた。 ……ん、美味しいけどちょっとソースの酸味が強いかな? 緋月(妹)はむしろもう少し甘めの方が好みっぽい気がするけど… もしかしてこのレシピ、本来は別の誰かのための料理なのかな? 例えば、二日さんの一番好きな人とか。 「と、緋月。口にソースがついてる」 ふと、俺の横に座る緋月に声をかける。 「「(…)はい(…)?」」 緋月(彼女)と二日さんが同時に反応する。 って、今この場には緋月姓は二人いるんだった。 「ええっと、妹さんの方」 「「(…)はい(…)」」 いや、確かに二人とも上に兄姉がいるけれど! ここまでハモると確信犯なんじゃなかろーか! …とはいえ。 「緋月三日よ」 どうにも気恥ずかしいが、改めて聞いてみる。 「…はい」 「下の名前でお呼びしてもよござんしょか」 「はい!」 輝くような笑顔で答える緋月もとい三日。 この笑顔をみられただけで、今日1日生きてて良かったと思わされる。 ……それはともかく。 「ところで三日。一体全体どーして俺ん家におねーさんが来てるって分かったん?俺も来てるの知らなかったのに」 三日の頬についたソースを拭き取りつつ聞いてみる。 「…私も全然知りませんでしたよぅ!お姉様が御神くんの家に来てるなんて。丁度家について、いつものように御神家監視カメラの映像を見て癒されようと思ったら、お姉様があんな恰好で映っていてぇ…」 興奮した様子で答える三日。 つーか今すげぇこと言いましたよね。 監視カメラって… いやまぁ、今さら何されたって驚きゃしませんが、もう家ン中で迂闊なことはできやしないな。 「あー、それじゃ誤解してもしゃーないか…」 「それで、取るものも取らずに取り合えずナイフだけ持ってこっちに来たんです」 「明らかに取らなくて良いものを取ってきてるよな!」 思わず三日にツッコミを入れる俺とは対照的に、二日さんはどこか満足げに頷いている。 「何を忘れてもナイフ一本は忘れてはいけませんからね、三日…。護身、殺害、料理…これ一本で何でもできますからね…。長いこと調きょ…もとい教育し続けた甲斐があります…」 二日さん、あなたが原因ですか…。 っていうか今調教って言いかけましたよね。 緋月家の教育方針は色々と問題がありませんか? 166 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 23 01 43 ID 3YlMb2N3 「……料理にはちゃんと調理器具を使った方が良いと思いますよ?」 色々ツッコミどころはあったが、俺は取りあえずこれだけは言っておくことにした。 「もちろん、料理は言葉の綾ですわ…。ですが、嫁入り前のか弱い娘が出歩くのに護身の術は必須…。そうでしょう、義弟くん…?」 二日さんが当然のように言った。 「―――俺はそのか弱い娘に殺されかかりましたがね、今さっき」 俺は苦笑しながら言った。 なまじ間違ったことは言っていないだけ性質が悪いな、この人。 「…け、けれど、お姉様。…本当に浮気では無いんですか?」 恐る恐ると言った風で二日さんに聞く三日。 「浮気です」 「ええー!」 真顔で即答する二日さんに、目が飛び出んばかりに驚く三日。 驚き過ぎてキャラが崩れている。 「と、言ったらどうしますか…?」 そう続ける二日さん。 「…えう」 二日さんの言葉に涙目になる三日。 「…お姉様に本気になられたら、勝ち目なんて無いじゃないですか…」 自分と二日さんを見比べて言う三日。(特に胸を) 三日がそう言うのも分からんでも無い。 実際、見た目的にも三日をパワーアップさせた感じだからな、二日さん。 性格は正反対だが。 「失点の失点ですね…」 それを見た二日さんが冷たく言い放つ。 「どのような相手であろうと自らの幸福を諦めるなど、緋月家の娘にあらざる態度…。自身の幸福の為なら全てを叩き潰しなさい踏みつけになさい蹂躙なさい!相手が肉親だろうと!友人だろうと!恋人だろうと!自分だろうと!」 今までにないテンションの二日さんの言葉に、三日の表情が消える。 「…はい、潰します。全ての喜びを怒りを哀しみを楽しみを。相手が例えお兄ちゃんだろうとお姉様だろうとお母さんだろうとお父さんだろうと朱里ちゃんだろうと御神くんだろうと私自身であろうとも…!この幸福を永遠にするために!!!!!!!!!」 ガリ、とナイフを握る三日の手に力がこもる。 「いやいや、そこで自分まで潰しちゃ駄目だよね?」 くしゃ、と俺は三日の頭を撫でる。 「おねーさんもあんまり妹さんをいじめないでやって下さいよ。ウワキなんざする気もさせる気も無いンでしょう?」 三日を撫でながら俺は二日さんに言った。 「それくらいの仮定と覚悟が無くして人を愛することなどできないでしょう…?何しろ恋は戦争、ですから…」 「恋はまったり進行、とも言いますがねー」 ハンバーグを頬張る俺の言葉に怪訝そうな顔をする二日さん。 「誰の言葉ですか…?」 「俺の言葉です」 無駄にきりっとした表情で答えてやる。 「それはそれはそれは……オメデタイ、ですね…」 明らかに言葉通りでは無い表情で二日さんが俺を見る。 なんつーか木から百回くらい落ちたサルでも見たような顔だ。 「ところで義弟くん」 唐突に話を変える二日さん。 167 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 23 03 05 ID 3YlMb2N3 「何でしょう?」 「学校での三日の具合はいかがでしょうか…?」 「具合、ですか?健康状態に関しては、特に問題は無いようですね。ただ、体力は相変わらず無いようなので、栄養のつく物を食べさせてはいますが…」 「いえ、そちらでは無く、ベッドの上での…」 「まさかの下ネタ!?」 この人、先ほどの恰好といい、微妙にオヤジ臭いな! 「それで、実際のところはどうなのですか…?男女の仲になったからには、当然そうしたこともしているのでしょう…?ねぇ、三日…?」 えらい冷たい流し眼で三日を見る二日さん。 「はひぃ!」 二日の口調には相変わらず穏やかな中に反論を許さない空気があり、三日は硬直する他無い。 「ま、やることはやってますね。キスとかキスとかベロチューとか。最初の一回は白昼堂々で公衆の面前だったので、さすがに先生方から注意を受けましたよ」 「と、いうことはそれ以上のことはやっていないということですね…。私にも欲情する様子はありませんでしたし、もしかして貴方―――」 「紳士ですか?」 「チキンですね」 「……」 今日会ったばかりの相手にひでぇこと言われた。 「……褒め言葉として受け取らせていただきます」 俺は渋い顔になりそうになりながらもそう言った。 もし二日さんを襲ってたらnice boatな結末しか思い浮かばないから、本音ではあるのだが。 チキンで死亡フラグを避けられるのなら、チキン万万歳である。 「ああ、それとも女性に対しては勃たない人ですか?あるいは男性に対してしか欲情しないとか?父親の性癖を考えるとそちらの方が―――」 「……」 人の肉親を遠慮なく悪し様に言う二日さん。 どうにも、人がイラっとくるポイントを突いてくる人だ。 フォークを握る手に、少しだけ力がこもる。 「誤解ですよ。俺はただ、そう言うのが顔に出ない性質でして」 正直俺にしては珍しくかなりイラついているが、ここはサラっと流しておこう。 何か、さっきから三日もビクついてて静かだし。 ムカついたからって怒りを露にしたら、三日を無駄に不安にするだけだ。 ここはむしろ怒った方が負けだろう。 恋人の身内に対しては、心象は悪いより良い方が良いし。 「そう言えば義弟くん…?夕食を作る前に少々、貴方の部屋を見させていただいたのですが…」 二日さんがこれまた唐突にそんなことを言った。 自分の家のようにくつろいで下さいとはよく言うが、それを本当に実践してる人だ。 …今さら言うようだけど、そもそもこの人はどうやってこのウチに入ったんだろうか? 「ベッドの下の春画の類を全てゴミに出させていただきました…」 二日さんの言い回しに、一瞬ワケが分からなくなる。 「シュンガって…」 「いわゆるエロ本です」 ベッド下に隠してた俺の素晴らしきコレクションを捨てたと申すか! 「一通り見させて頂きましたが…、童女から熟女、セーラー服から和服、二次元から三次元まで、随分と節操無い系統の本を揃えましたね…」 「ンなこと別にどうでも良いじゃないですかい…」 何とかツッコミを入れるが、何か冷や汗はダラダラである。 俺のコレクションが!?って言うか俺のプライバシーが!? 「ああ…、でも、幾分かの共通項はありましたね…。表紙や内容から察するに、貴方は髪の長い女が好…」 「ごめんなさいマジすいませんもう勘弁して下さい」 よりにもよって三日の眼の前で自分の性癖を明かされるって、どんな拷問ですか。 その彼女は顔を真っ赤にしながらも食い入るように俺を見てるし。 「…御神くんは私以外の女で欲情するなんて…」 訂正、三日は顔を真っ赤にしながら嫉妬のこもった視線を俺に向けている。 …ドン引きされなかっただけマシだが、キツいことには変わりない。 知らん内にコレクションまで捨てられてるし、俺のプライバシーがガシガシ浸食されとるし。 ま、まあたかだか本だけどね! 168 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 23 04 22 ID 3YlMb2N3 「まぁ、義弟くんにはあんな春画などこれからは必要ないのでしょう…?」 何でもないような口調で仰る諸悪の根源二日サマ。 居直り強盗よりも性質が悪い台詞だが、一体どういう意味だろう。 「代わりに妹を使えば良いじゃないですか…」 …は? 「三日なら、性欲のはけ口としては適切で手頃でしょう…。この娘にあれらの本にあるようなコトをさせれば良いではないですか…。やり過ぎれば壊れてしまうかもしれませんが、あの娘の体など私には関係の無いことですから…。好きに好きなだけお使いなさいな…」 自作のハンバーグを口にしながら、あくまでも優雅で穏やかに二日さんは言った。 まるで、三日が目の前にいないかのように。 どうにも、楽しくない態度である。 いやまぁ、確かに、俺だって性欲はある。 三日を抱きたいと思うことだってあるさ。 けれど、ただそれだけの為の相手と言わんばかりの言い回しは好きじゃない。 ましてや『関係の無い』なんて ましてや『壊す』なんて。 そんな言葉、好きじゃないし、許し難い。 「俺がアンタの立場なら―――」 普段糸目にしてる目つきが自然と鋭くなるのが分かる。 「身内を性欲のはけ口と認識するような奴を生かしちゃおかないでしょうね」 俺は、努めて軽い口調で続けた。 「ふう、ん…」 俺の言葉を聞いた二日さんが、スッと目を細めた。 「軽く叩きつぶしたと思ったのですが…、中々どうして生意気をやってくれますね」 虚無の色をした二日さんの目が、俺を見つめる。 うわぁ… こりゃ怖いわ。 ぶっちゃけ感情とか全然見えない目なんだけど、その代わりに問答無用で圧倒する威圧感がある。 隣で三日がガクブル震えてるのも良く分かる。 こりゃトラウマになるや。 そうして二日さんはカエルを睨むヘビのように俺を見つめていたが、やおら唇を動かした。 「加点」 はい? 「どれだけ引っかき回してもまともに反抗しないので単なる木偶の棒かと思ったら、そうでも無いようですね…」 クスクスと口だけで笑いながら、二日さんは言った。 一体何だって言うんだ? 「義弟くん、自分で気づいてましたか…?私が妹を『性欲のはけ口』と言った時、貴方はとても良い顔をしていましたよ…。とても良い怖い顔を、ね…」 二日さんが続けた。 「正直、私が扇情的な恰好で表れて何の反応もしないような殿方が女性と、ましてや妹と真剣に交際しているというのは半信半疑でしたが、まぁ、そうでも無いらしいですね…。三日も苦労しそうではありますが…」 ああ、あの痴女みたいなカッコはあれで意図があったんだ。 どんな対応取っても地雷だった気がするけど。 「さて、私はそろそろお暇させていただきますか…」 いつの間にか食事を終えていたニカさんは立ち上がった。 169 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 23 04 45 ID 3YlMb2N3 「もう暗いですし、お送りましょうか?」 「お気遣いなく…。三日と違ってこれでも自分のことを守る心得ぐらいはありますもの…」 俺の申し出を言葉だけはやんわりと断る二日さん。 心得、というのは武術の類だろうか? 「それはまた…見てみたいような見たくないような」 二日さんの闘いを想像して言う。 とんでもなくえげつないやり方をするに違いない。 「見せて差し上げますよ…。もし、あなたが妹を大切にしないようなことがあれば、ね…」 そう言ってにこぉ、と二日さんが口を三日月に開いた。 「それじゃ、見る機会は二度と無さそうですね」 俺の口から、思ったよりスッとその言葉が出た。 「期待してますよ、義弟くん…」 そう言って立ち去ろうとする二日さん。 「…あ、では私もそろそろ…」 それに続こうと立ち上がる三日。 「ああ、義弟くん…。今日はソレを置いていきますね…」 しかし、動き出そうとする三日を指さして二日さんは言った。 「生意気を言うようですが、最愛の妹さんをソレ呼ばわりはどうかと思いますよ?」 「それは誤解です…。私が『愛』と言う言葉を使うのは1人だけ…。まぁ、三日にも愛着程度はありますが、ね…」 俺の苦笑に穏やかな口調で応じる二日さん。 「それでは、また…。今度会う時が最期にならないことを、祈っていますよ…」 そう言って、二日さんは颯爽と去って行った。 170 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 23 05 44 ID 3YlMb2N3 「なんつーか、地味に嵐みたいな人だったなー」 バタン、と閉まったドアをたっぷり1分は見た後、俺は呟いた。 場を無駄に引っかきまわすだけ引っかき回したら帰ってった。 「…お姉様は、我が家の女王様ですから」 三日が言った。 その気持ちは超わかる。 でもまぁ…、 「女王様ではあっても、暴君では無いんじゃないかな」 俺は言った。 二日さんの行動を思い返すと、どうも一貫して俺を、妹の恋人を試していたように思える。 それはつまり、三日が心配だったんだと思う。 あまりにも弱くて脆くてまっすぐで、『愛着』のたっぷりある妹が。 「…はい。お姉様は一度敵と認めた人に対しては容赦ありませんけど、そうでない人にはそんなことありませんから」 三日も同意する。 さすが姉妹。お互いのことをよく分かってら。 「良いおねーさんだね」 こういうの、きょうだいのいない、親一人しか家族のいない俺にとっては素直に羨ましいと思う。 が、 「そこは全力で否定させてください!」 「そうなの!?」 色々台無しな、三日の一言だった。 いやさ、確かにさ、超スパルタンなおねーさんではあったけど、そこまで言わんでも良くない? 全力でなくても良くない? 今回って、『家族って良いな』的なオチじゃなかったんだ… そんなことを思っていると、 「…えっと、あの、ところで御神くん…」 三日がモジモジしながら言った。 「なにー?」 身長差のある三日に目の高さを合わせて俺は応じる。 「…あの、あの、今日は、今日から、名前で呼んでくれてありがとうございます。御神くんの方から言ってくれてとても嬉しくて、その…さしでがましいようなんですけど、あの…」 つっかえつっかえしながらも、自分の想いを伝えようと言葉を紡ぐ三日。 それを俺は笑顔で聞いている。 彼女が言いたいことを言えるように、それを邪魔しないように。 「…私も、…私も御神くんのこと名前で呼んで良いでしょうか!?」 三日が言いきった。 いつかの大桜でのような、全力がこめられた、頑張った一言だった。 思えば、大桜の下での告白を言うのにも、一年近くかかったんだよな、コイツ。 俺は、三日の頭をくしゃっと撫でて答える。 「俺の答えは、あん時から同じー」 その時は、まだ積極的な感情は無かった。 けれど、今はちょっとだけ違う。 一緒に居たいかな、と強く思う。 「良いよー」 だから、同じなのは言葉だけだ。 「はい!千里くん!」 三日は、そう花の咲くような笑顔で言ったのだった。 171 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 23 06 08 ID 3YlMb2N3 数分後 「―――ところで、三日。今夜はマジでウチに泊まってくん?」 さっきからえらい嬉しそうにしている三日を見ながら、俺は思いだして言った。 「…はい、千里くん。お姉様のことですから、今夜は帰っても家に入れてくれないと思います。だから、今夜私が頼れるのは千里くんだけなんです、千里くん」 キラキラした目で答える三日。 犬だったらパタパタと尻尾を振ってることだろう。 「…千里くん家にお泊まり、千里くんとの一晩、千里くんと朝帰り、千里くん千里くん千里くん千里くん千里くん千里くん千里くん千里くん、ああ…!」 名前で呼べるのがよほど嬉しいのか、何度も俺の名を連呼する三日。 コイツが嬉しいのは良い事なのだが、状況はイロイロと微妙である。 「ええっと、あの、三日さん?けれども年頃の男女が同じ屋根の下で過ごすのってさ…」 俺がそこまで言うと、三日はポッと頬を赤らめた。 「…千里くんの、えっち…」 ぐはぁ! 「…千里くんのえっち千里くんのえっち千里くんのえっち千里くんのえっち千里くんのえっち千里くんのえっち」 「止めて連呼しないでお願いいやマジでお願いします」 今日1日の文脈的にその一言はキツすぎる。 三日的には俺の名前を呼びたいだけなんだろうが。 これはアレだ。 二日さんの罠だ! あの人からの最後の試験だ! 一晩三日と同じ屋根の下に置いて、俺の理性を試そうってハラだな! 「…今日も、千里くんのお父様たちはお仕事で帰られないのでしょう?」 「なぜ知ってる!?」 何だこの状況… 客観的に見ればかわいそうなクラスメートを一晩泊めるだけだってのに、どんどん追いつめられてる気がする。 「…遅い時間まで千里くんと愛し合っても、何ら問題はありませんよね?」 恥じらった顔でそんなことを言ってくれる三日。 『愛し合って』って、どう考えても言葉通りの意味じゃないよな! 「…私、その、そうしたことは初めてなので、千里くんが千里くんが千里くんが優しくしてくださると、嬉しいと言うか何と言うか…」 そんな三日を見て、ふと去り際におねーさんが言った一言が思いだされる。 ―――もし、あなたが妹を大切にしないようなことがあれば、ね…――― この場合、どうすることが三日を大切にすることになるんだ? 今日は諸々必要な物の用意が無いし、ああでも三日がそうしたいって言うならそうしてあげた方が良いのか…! もしかして、コレ、どんな行動をとっても地雷しか無いんじゃないのか!? しかも下手したら俺、二日さんに殺されかねないし! 思ったよりもハンパ無いぞ、二日さんの罠! あまりの状況に、俺の頭もパンクしそうになる。 「あんのヤンデレの娘さんのおねえさんがああああああ!」 俺はただ、そう叫ぶほか無かった。 172 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 23 06 33 ID 3YlMb2N3 おまけ 夜風に身を任せるような優雅さで家路を行きながら、緋月二日は上品なデザインの携帯電話をとりだした。 慣れた手つきでキーを操作し、ある人物の番号を呼び出す。 携帯電話を耳に当ててすぐに相手と繋がる。 「もしもし、愛しい方…」 御神千里にも、ましてや妹にも聞かせたことの無い、甘く愛しげな声音で、二日は言った。 「私の愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい――――お父様」 父、と呼びながら、二日の声は最愛の恋人に対するそれだった。 そう、彼女は愛しているのだ。 血のつながった実の父親を。 自身の母という妻を持つ1人の男を。 「ええ、きちんとちゃんとお父様のお言いつけ通りに御神千里を、あの障子紙より弱い妹の最愛の恋人を、義弟を、つまり未来の家族を精査して検査して調査して参りましたわ…。え、君が言ったんだろうって?あらあら、そうだったかしら…?」 フフ、と嬉しそうに笑う二日。 嬉しいのだ、彼女は。 今この瞬間父と話している、繋がっているというその事実が。 母親では無く自分が、という現実が。 「結果は…、まぁギリギリ合格と言った所でしょうか…。まだ緋月家向きの殿方とは言い難いですが、少なくとも三日との交際の結果私たちまで不利益を被ることはない、と断言出来ますわ。…ええ、三日との交際は思いのほか真剣だったようです…」 嬉々とした表情で、二日は電話の相手に報告する。 そうしているうちに、自然と足元が躍るようなステップに変わる。 月に照らされて舞う二日の姿はとても美しく―――同時にどこか狂気的であった。 「正直あの三日のことだから、悪い男に引っかかったんじゃないかと心配…もとい期待していたのですが、そんなことは無かったようでした…。とはいえ、フフ…。中々に初心で、三日以上にいじめ甲斐がありそうな殿方でしたわ…。思いのほか反骨精神もあるようですし」 自分を睨みつける御神千里の顔を思い出し、二日は笑った。 三日のようなタイプも良いが、それなりに反抗してくれた方が彼女としては面白い。 「これで、私たち家族の、いえ私たち二人の憂いは無くなりましたわ。今日は母も仕事で帰りませんし、今夜はとてもとても楽しく激しく愛しく―――」 二日は笑う。 実の父を想って。 実の父との『この後』のひと時のことを想って。 「抱き合いまぐわい愛し合いましょう、お父様?」 もし、そう言って笑う二日の姿を見る者がいたとしたら、禍々しさを感じぬ者は居なかっただろう。 禍々しさを感じながら――――その笑みの美しさを否定できる者もまた、居なかっただろう。
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198 名前:依存型ヤンデレの恐怖 ◆a5x/bmmruE[sage] 投稿日:2011/10/29(土) 00 36 11 ID MPaMNP4Q [2/14] 「リューヤぁ、しんどい…」 「おー」 俺はなるべく平静を装う。 未夢との 秘密の約束 だ。キサラギの相手はここまで。 「キサラギ、先に風呂に入れ」 「あ…はい…」 赤面するキサラギ。変態的言動の予感がする。 「あの…ウチ、処女ですからぁ…安心して下さぁい」 どうでもいい。処女だろうが、あばずれだろうが俺は等しく冷たく厳しく接する自信がある。 「でもぉ…なめるはめるくわえるしゃぶる、オールOKなんでぇ…」 「変態」 何の呪文だろうと思った。 こいつは宇宙人だ。 別の言葉。 別の風習。 未夢を抱えて、自室に入る。 「未夢、大丈夫か?」 「お腹、痛い…」 「トイレか?」 未夢は首を振った。唇を尖らせ、やや不満げに振る舞うのは、キサラギの出現が原因だろう。 「おしっこ、漏れた…」 「あ…?」 未夢が腰掛けているベッドを見るが、濡れている様子はない。 ひょっとするとあれだろうか。 いくら幼なじみだからといって、ここまでするのもどうなのかとは思う。だが、未夢の両親からは警告を受けているし、そのための準備も出来ている。 未夢は、まだ初潮が来てない。 「リューヤぁ、しんどい…」 秘密の約束 だ。 身体に不調を覚えた時はすぐ言う事。 これは、いくつかある変態的な約束とは一線を画するマジ約束だ。 俺は速やかに手を打たなければならない。違えれば、未夢は今後、あらゆる約束を反故にするだろう。 それくらいマジ約束だ。 「未夢、脱がせるぞ。いいか?」 「うん…」 相変わらず犯罪臭のする無毛の土手が、懸念通り血まみれになっている。 「……」 持て余す。正直な感想はそれだ。 手を拱いていると、未夢も気付いたのだろう。言った。 「未夢、死ぬの…?」 俺は首を振った。 「違う。未夢は…大人になったんだ」 心と身体のアンバランス。 大人の反応をする身体に対し、精神と知識が追いついていない。性知識だけが豊富なのは、何か大きな歪みの発露なのだろうか。 これも未夢が抱える大きな問題の一つだ。 「未夢、血を拭き取らないといけない」 これは非常にデリケートな問題だ。そのため、確認する。 「キサラギに手伝ってもらうか?」 「やだ。リューヤがいい」 頷く。未夢の両親とはもう話してある。二人が悩んだ末、持ち込んだ問題だ。 血を拭いて、ナプキンをする。それだけの行為。だが、持て余す。 199 名前:依存型ヤンデレの恐怖 ◆a5x/bmmruE[sage] 投稿日:2011/10/29(土) 00 37 39 ID MPaMNP4Q [3/14] 未夢は俺が居ないと食事もしないし、俺以外は身体に触れさせない。 未夢の両親の悔しそうな顔を思い出す。 何故そうなったのか。これに関しては誰も答えることができない。 理由がないのだ。自然にそうなった。俺一人だけを信頼して、依存する。 ……歪んでいる。 覚悟を決め、行動に取り掛かる。 血を拭く作業は、未夢が興奮したため、中々はかどらなかった。 「リューヤぁ、そこぉ…もっと強くぅ」 「変態」 黙ってやるよりいいかもしれない。 赤飯を炊かないと… その後、腹痛を訴えたため、鎮痛剤を服用させる。 「念のため、明日病院に行こうな?」 「うん…」 未夢の生理は重めのものであるようだ。 身体が出来上がったばかりの未夢にとって、婦人病がどの程度の脅威になるかわからない。用心するに越したことはない。 俺は未夢におやすみを言って、部屋を出た。当然だが、あらゆる変態行為を禁止した。 今日は俺がソファで寝るか。 一階の廊下ではキサラギが全裸で、俯けに倒れている。 何のワナだろう? 「変態」 「……」 キサラギは動かなかった。 ぴくりともしない。休んでいるようにも見えない。 何故、変態は次々と問題を起こすのか。 最近、非日常が俺の日常になりつつある。 「変態!」 「……」 やはり、キサラギは動かない。 死んでるのだろうか。…楽でいい。 「キサラギ、大丈夫か?」 抱き起こす。 「う…」 かすかな呻き。俺は舌打ちしそうになるのを我慢した。 「何があった?」 「からだ、いっぱい…洗って…気持ち悪い…」 途切れ途切れ呟くため、断言は出来ないがおそらく湯当たりしてのぼせたのだろう。 キサラギの乳首と股の辺りは擦りすぎて少し赤くなっている。何を考えて、どこを重点的に洗ったのかアホでも検討がつく。 この二人はどこまで俺を賢者にすれば気が済むのだろう。 「…先、輩…」 「大丈夫だ」 しかし、キサラギは力なく首を振った。 消え入りそうな声で呟く。 「トイレ…」 俺にも武士の情けはある。抱き起こしてトイレに向かう。 だが…キサラギが悲鳴に近い呻きを上げる。 「あ…あ…ああ…!」 下半身を濡らす温かい液体。…間に合わなかった…。 …しかし…こいつは今日1日だけで、どれだけ俺に全てを見せるつもりなんだ。 後はもう、脱糞くらいしか残ってない。 200 名前:依存型ヤンデレの恐怖 ◆a5x/bmmruE[sage] 投稿日:2011/10/29(土) 00 38 15 ID MPaMNP4Q [4/14] 「あ…ああ…ウチ、なんてこと…」 キサラギは顔面蒼白だ。流石にこれはワザとではない。 「忘れろ。見てない。こんな時だってある」 ボロボロに泣き崩れるキサラギにバスタオルを巻き付けトイレに入れる。 変態と言ってやりたいが、むご過ぎるので止めておく。 未夢の様子を見に行くと、大人しく眠っていた。 俺と未夢には 秘密の約束 がある。 二人きりの約束。 未夢は体調不良を押してでも俺と一緒に居ようとする。 これがいつか大事に至るのではないか。ヒヤリとさせられる場面も何度かあった。 だからこれは苦肉の策だ。 恋人同士のように、共通の秘密と約束という名の鎖で未夢を管理している。 未夢は俺に嘘を吐かない。 その約束を未夢が守る限り、俺には未夢を守る義務が生じる。 これが 秘密の約束
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114 :ヤンデレの娘さん 脅迫の巻 ◆DSlAqf.vqc :2010/11/01(月) 01 04 52 ID wJ+H+9ca 「…千里くんの弱みって何ですか?」 ある日の下校中、俺こと御神千里(ミカミセンリ)は恋人であるところの緋月三日(ヒヅキミカ)に脈絡無くそんなことを聞かれた。 「や、割と弱みというか欠点は多いほうだと思うけど、何でいきなりンなことを?」 「…例えばですよ、ある日、まかり間違って千里くんがどこかの女狐に誘惑されて篭絡されるかもしれないじゃないですか」 「いきなりヘヴィな例え話だね」 「…それで、私に向かって『別れよう』とか言い出すかもしれないですよね?」 「……それで?」 「…だけどそれはある種の気の迷いで間違いで正さなきゃいけないことなんですよ!」 くわ、と身を乗り出して三日は言った。 「それと俺の弱みがどうつながるん?」 「弱みを握っていれば別れられないじゃないですか!」 「ってソレ脅迫じゃないの!?」 断言する三日に反射的にツッコミを入れる。 つーか、たとえ話の中の俺が最低すぎる。 浮気男かよ、誠死ね状態だよ。 そーゆーことしたら最後、「女の子に似合わないカオ作ってんじゃねぇ!」と親にブン殴られる。 見た目女なのにパンチ力がハンパ無いからな、あの人。 「…それで、今までの観察記録(せいかつ)から千里くんの弱みを洗い出そうとしているんですけど、中々うまくいかなくて…」 「それで直接本人に聞いたと」 俺の言葉にこくん、と頷く三日。 ……正直なのは良いことである。 「とりあえず三日。さしあたり、俺に浮気と別れる予定は無いよ?」 「…昔の人は言いました、予定は未定と」 あれ、もしかして俺、恋人からの信頼度とてつもなく低い? 「…それに、男の人が別れたい理由なんてたくさんあります。『君にはもっと魅力的な相手がいる』とか『占いで相性が悪かったし』とか『実は巨乳(貧乳)フェチなんだ』とか『ぶっちゃけ愛が重い』とか」 「無駄に具体的だね…」 「…実体験です。というか全部月日(ツキヒ)お父さんが零日(レイカ)お母さんや二日(ニカ)お姉様に言った言葉です」 「娘の前で何別れ話切り出してんのおとーさん!?」 まだ知らぬ三日の家族の名前が明かされたと思ったら、その上ヘヴィな話を明かされた。 ……つーか、『お姉様に』って何さ。 まさかとは思うけど、実の娘さんが美人過ぎるからって手ぇ出したんじゃあるまいか…。 一日(カズヒ)おにーさんといいこの月日さんといい、どうにも緋月家の男共は油断ならんというか何というか。 「三日、もし親父さんからいやらしいことをされたら相談してくれ。絶対力になるから」 「…ありがとうございます、千里くん。でも、お母さんやお姉様がいますから、お父さんもこれ以上泥沼にしようとは思わない……と思います」 ああ、泥沼なのがデフォなのね。 もしかして、緋月家の家庭環境って割と殺伐としてんじゃなかろうか? 「…あ、我が家は割と仲良いですよ?日曜朝に子供向けヒーロー番組を家族4人そろって観る位には」 俺の心配を見て取ったのか、三日が言った。 116 :ヤンデレの娘さん 脅迫の巻 ◆DSlAqf.vqc :2010/11/01(月) 01 06 56 ID wJ+H+9ca 「ああ、それなら…」 「…観ながら、お母さんとお姉様が正々堂々真正面からお父さんを奪い合うくらいには」 「随分オープンな三角関係なんだな…」 「…この前なんて、テレビのヒーローが必殺技を放つのと同じタイミングでお母さんがお姉様を吹き飛ばしました」 「随分バイオレンスな三角関係なんだな!?」 「…お兄ちゃんが家を出ているので、最近は飛んでくるお姉様を避けるのが大変です」 「三日その内殺されるんでない?凶器は二日さん、犯人は零日さんで」 「…それで、千里くんの弱みって何ですか?」 「どうしてそこで話をそらすかな!?って言うか戻るかな!?」 「…ウチの家族は何だかんだで幸せみたいですから」 幸せらしい。 当事者がそう言うからにはそうなんだろう。 将来的には、色々な意味で三日を引き離したくなる家庭ではあるが。 「…次は、私たちの幸せを考えましょう」 「俺の弱みが俺らの幸せに関係するとも思えないけどなー」 そうは言いながらも、自分の弱みとやらちょっと考えてみる。 が、いきなり聞かれても分からん。 弱みってぇとアレだろ? 世間に暴露されたらピンチになるような情報のことだろ? 一介の高校生がそういくつも持っているモンでも無いような気がしてきた。 「自分の欠点なら数え切れないほど思いつくんだけどなー」 「…え、御神くんに欠点なんて無いじゃないですか?」 俺の言葉に、まるで当然のように言う三日。 「参考までに聞くけど、三日的に俺ってどんななん?」 「…御神千里。二年四組出席番号十九番、窓側の列の前から四番目、血液型はA型、身長195cm、体重83kg。 所属クラブは無し、ただし料理部助っ人、夜照学園生徒会助っ人、他多数助っ人。得意科目は国語、苦手科目は数学。 趣味は私と料理と昼寝と読書、好きな物は私と料理、本(漫画含む)、特撮番組、特技は私と家事全般、住所は都内夜照市病天零4丁目13-13。 得意料理は和食。特に肉じゃがは絶品。ただし朝のホットケーキも捨てがたい。 家族構成はメイクアップアーティストのお義父様、御神万里(ミカミバンリ)さん。お母様の御神千幸(ミカミチサチ)さんは故人。 性格は温厚。意識して他人に気を配れて、頼まれると嫌とは言わないタイプ。 けれど、できないことはできないと言うし、なおかつ頼まれたことは一通り達成する、達成できるミスター・パーフェクト。 1日のスケジュールは…」 「オーケー、分かった。それくらいでいい。あと、明日の弁当は肉じゃがにしよう」 際限なく話そうとする三日を、俺は押しとどめた。 このままでは何時間でも俺の話をしてそうだ。 そうか、三日は肉じゃが好きなのか。 じゃ無くて。 「さすがに、ミスター・パーフェクトはほめすぎっしょ。俺はそんな大層な人間じゃ無いよ」 「…そうですか?」 お前は何を言ってるんだという顔で首をかしげる三日。 「…千里くんは腹立たしいまでに優しい人じゃないですか。優しさで世界を狙える人じゃないですか。むしろ神」 「何の世界を狙うのさ…」 「…それに、私のことも助けてくれましたし」 つぶやく様に付け加える三日。 彼女が1年の時、1人迷って途方にくれていた所を、俺が助けたことが俺らの関係の発端である。 いやまぁ、俺も最近忘れかけてた設定だけど。 「でも、言っちゃあれだがよくある話だろ?たまたま、俺がそのとき声かけただけで」 「…そこです」 ググ、と手を握り、三日は語りだす 「…当時、お兄ちゃんもいなくなり、人見知りで校内の知り合いも碌にいなかった私にとって、御神くんの存在がどれほど救いになったか…」 舞台役者もかくや、という大げさな身振りで語る三日。 「三日、みんな見てるみんな見てる」 「…良いじゃないですか、千里くんが完璧なのは事実なんですから」 陶酔さえ感じさせる様子で語る三日。 うわぁ、目がマジだ。 1人の人間に対してよくもまぁここまでカッとんだことを言えるもんである。 117 :ヤンデレの娘さん 脅迫の巻 ◆DSlAqf.vqc :2010/11/01(月) 01 07 31 ID wJ+H+9ca 「なんつーか…、三日がその内近いうちに悪い男に引っかかって、ボロボロにされてポイされそうで怖くなってくるわ…」 「…え、そんな日は来ないですよ?」 俺の言葉にキョトンとした目をする三日。 いや、そういうところが怖いんだけど。 「…千里くんは私をアクセサリのように扱ったうえ、好きなだけエッチした上に都合が悪くなったら捨てて高跳びしたりしないでしょう?」 「だからなんで無駄に具体的かな!?」 「…大丈夫ですよ、そんな日は来ませんから。……千里くんが私の隣にいる限り」 「確かにそうなんだけれども!」 うわぁ、愛が重い。 多分、本来の意味でなく愛が重い! 愛が負担という意味でなく、妙な責任感が生まれる重さだ! いや、これは愛が重いというか、むしろ… 「あ、分かった」 妙に納得して、俺は言う。 まじまじと三日の顔を見つめながら。 「…そ、そんなに見ないで下さい。…濡れます」 「そこは大人しく照れときなよ」 そういうキャラでもなかろうに。 「そうじゃなくて、俺が思いつく限り最大の弱みがあったのに気が付いてね」 「おお!」 期待に満ち溢れた目でこちらを見る三日。 「…やっぱり、出生の秘密!?失われた記憶!?それとも世界が滅びるような極秘情報とかですか!」 「いや、どこのライトノベルの主人公だよ。それにこの弱み、できたの割と最近だし」 「…最近の弱み?もしかして、私も知っていることですか?」 「そう」 不思議そうな顔をする三日を指差し、俺は言った。 俺の唯一最大の弱みを、その原因に向かって。 「惚れた弱み」 その言葉を聞いた三日が顔をトマトのように赤くして……それを見た俺も自分の言ったことの恥ずかしさに悶絶したのはまた別の話。 118 :ヤンデレの娘さん 脅迫の巻 ◆DSlAqf.vqc :2010/11/01(月) 01 08 11 ID wJ+H+9ca おまけ とある過去の一幕 「好きな人に見つめられたら…濡れます」 今から数年前、ある日の緋月家の居間で緋月二日が堂々とそんなことを言った。 「…濡れる、ですか?」 「ええ、そうですよ…。主に下半身が…」 きょとんとした顔の、髪を童女のようにおかっぱに切りそろえた妹の三日に対して、二日がまるで当然のことのように語る。 「いや、それは貴様だけだからな、無知蒙昧にして愚かなる上の妹よ」 読んでいた本から顔を上げ、まるで舞台役者のような口調で突っ込みを入れるのは、彼女らの兄である緋月一日。 一挙一動が独特というか非日常的というかナルシストっぽいというかはっきり言って胡散臭い。 妹たちが和服姿なのに対して、一日は1人だけ洋服なので更に無駄に浮いていた。 「…え、濡れないのですか、お兄ちゃん?」 「そこは心がときめくところだ、下の妹よ」 妹に対して、詩集を片手にやれやれ、と大仰な動作で言う一日。 舞台の上なら息をのむ動作であったが、生憎ここは一般家庭のリビングである。 「そんな台詞がでるのは、貴方がまだ恋をしたことが無いからでしょう…?不感性の愚兄さん…?」 「…貴様にさん付けで呼ばれると、下半身でなく頭に血が昇るのは何でだろうな…?」 二日の言葉に、形の良い眉をひくつかせる一日。 一触即発の空気にオロオロとする三日。 「ああ、大丈夫だ、かわいい下の妹。これは単なる日常会話。僕がこんな愚物相手に本気で怒るはず無いだろう?」 「ええ、大丈夫ですよ三日…。これは単なる日常会話…。私がこの愚兄に対して刀を抜く筈も無いでしょう…?」 ほぼ同時に言う一日と二日。 仲が良いのか悪いのか。 「とにかく…、意中の殿方に見つめられると濡れる…。これは、大宇宙の真理なのです…」 「真理とは大きく出たな、この変態が」 「黙りなさい、この汚物…」 茶々を入れる一日に対して、射殺さんばかりの勢いで睨みつける二日。 「とにかく…」 と、改めて三日のほうに目を向けて二日は言う。 「三日も、恋をすれば分かることでしょう…。というか分かりなさい…」 「…わ、分かりましたです、お姉様」 無表情にも関わらず威圧的な視線を向けられた三日が敬礼とともに答える。 「…こうして、日々洗脳が行われていくわけだね…」 「何か言いましたか、愚兄…?」 「Nothing,my Lord(何も?)」 二日に目を向けることなく、一日はすっとぼけるのであった。 これが、緋月家の日常会話。 その頃の緋月家の姿。
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ジャンル 【ヤンデレ】 黒戸屋 アイラ不ME
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217 : ヤンデレの娘さん 転外 とすと ◆3hOWRho8lI:2011/07/12(火) 23 37 40 ID tot03qBY バーに入った時、私は必ず最初の一杯は必ず二人分のお酒を頼むようにしている。 それは、私が単に大酒のみだからとかそういう理由だけでなく。 ただ、この場にはいない、いや、もうこの世にはいない人に捧げたいからだ。 いや、捧げたいというと仰々しいだろう。 この世にはいないあの人と、一緒に飲みたい。 そんな、センチメンタルな感情に基づく行為だ。 お酒の楽しみなんて知らないままに亡くなった娘だしね。 とにかく、1人息子のセンがようやく『野犬』に襲われた傷が癒えて退院する前日、私は行きつけのバーでいつものように2つのグラスを頼んだ。 で、私は頼んだ2つのグラスをチン、と鳴らす。 「乾杯、千幸(チィ)ちゃん」 この世には無い、嫁の名を呟く。 独り言だ。 そんな風に、私こと御神万里がいつも通りのコトをしていると、この小さなバーに入って来る、これまた小さな影が見えた。 「お待たせ…万里ちゃん」 「はぁい、レイちゃん」 笑顔を浮かべる相手に、私もまた片手をあげて返す。 レイちゃんこと緋月零日ちゃんは、私の仕事の同僚、パートナーといったところだ。 彼女は役者、私がそのメイクアップを担当している。 何のかんので10年以上の付き合いだろうか。 息子の千里(セン)には手っ取り早くとっつきやすい、子供番組に出演している相手、とだけ説明しているが、実際の所レイちゃんは様々な芸名で様々な役柄を演じている。 芸名を取っ払ってその出演歴を見れば(もし見ることが出来れば、の話だが)、経歴も演技力も有名女優と言って差し支え無いのだが、レイちゃんは本名を公表しようとしない。 以前の役のイメージが付いて回るのを嫌っていることもあるし(もっとも、レイちゃんの演じた役を見て、それが全て彼女と同一人物であると見破るのは難しい。)、役者には珍しく名誉欲という物がないからということもある。 いや、あらゆる意味でのしがらみというものを嫌っている、拒絶していると言うべきだろう。 彼女は夫婦関係を至上とする人だ。それ以外は時として邪魔になる。 そんなことを理解したのも、極々最近の話。 そんなレイちゃんが、私と対面に座る。 「レイちゃん、何か飲む?」 「んー…ブラッディ・メアリーで!」 こうやって元気に返事をしている姿だけをみると、健康健全な若い女の子にしか見えないのだが。 「お客さん、ウチは未成年にお酒は……」 少女にしか見えない外見のレイちゃんに難色を示すバーの店長さん。 「成人…だよ」 それに対して、レイちゃんはヒラヒラと運転免許証を示す。 「……失礼しました」 運転免許証を確認し、店長さんはお酒の準備に入る。 「こーゆー時は面倒だよ…ね。バーに居てサマになる万里ちゃんが羨ましいよ…ちょっとだけ」 「あら、ちょっとだけ?」 「そう…ちょっとだけー」 そう言ってかりゃかりゃと笑うレイちゃん。 この会話を第三者が見たらどう思うのだろう。 仲の良い友人同士の会話に見えてくれれば良いのだけれど。 実際はともかくとして。 「それにしても珍しい…かな。万里ちゃんから飲みに誘ってくるなんて…ね」 「レイちゃんこそ」 私は撮影の打ち上げ等にこそ参加するが(大抵はフォロー役や幹事の手伝いだ)、確かに誰かと一対一でお酒を飲むのは珍しいかもしれない。 どちらかと言えば、1人酒の方が気楽でいいと考えるタイプ。 一方、レイちゃんはあまりお酒自体飲まない方で、飲んだとしても軽いお酒がメインだ。 そんなにお酒を勧めたくなるようなルックスでも無いしね。 218 : ヤンデレの娘さん 転外 とすと ◆3hOWRho8lI:2011/07/12(火) 23 38 23 ID tot03qBY 「私もまぁ、1人で飲むのが寂しくなることもあるってコト。レイちゃんとも、今じゃ全く仕事だけの関係ってワケでも無いしね」 「そうそう。まさか私の三日ちゃんが、万里ちゃんの子供を好きになる…なんてね」 そう、私の息子であるセンと、レイちゃんの娘さんの三日ちゃんは現在恋人同士の関係にある。 「さすがにアレは世間の狭さを感じたわね」 「驚い…た?」 「ええ、驚いたわ」 一応、レイちゃんの娘さんが息子と同じ学校に通っていたことは知っていた。 しかし、まさか彼女がある日ドアを開けたら立っていたのは驚いた。(ピッキングまがいのことを試みていたようにも見えたが気のせいだろう) 聞けば息子の彼女と言うではないか。 あの子も、もうそんな歳かと思ったものだ。 「でも良い娘じゃない。ちょっと人見知りだけど、礼儀正しいし、気立ても優しいし」 「フフ…そう言われると嬉しいね」 「自分が誉められてるみたいで?」 冗談めかして、私はレイちゃんに言ってみる。 「私を誉めてるんだよ…実際。あの娘は『私の続き』…なんだから」 『私の続き』、というのはレイちゃんが時折使う三日ちゃんへの呼び方だ。 それだけ、親の性質を受け継いだ娘だということなのだろうが。 そうした枠に子供を当てはめてしまうのはどうなのだろう。 いや、私もそうしたことを言えるほど立派な親ではないか。 「子供と言えば、この間万里ちゃんの息子に会った…よ」 「私に似ず、良い子だったでしょ」 「いいえ、万里ちゃんそっくりな…良い子だったよ」 「あら。じゃあお姑さんとしては、合格?」 「まぁ、及第点…ってところ?」 「センもホッとしたでしょうね」 私は笑いながら答えた。 「元気してる…あの子?」 「元気とは言い難いわね。現在絶賛入院中。明日やっと退院だけど」 「ああ、そう言えば…聞いたね。野犬に襲われたん…だって?」 ごく普通に、いけしゃあしゃあとレイちゃんは言った。 「そうそう。とても黒い、とても可愛らしい野犬だったそうよ」 これは嘘だ。 センはこんなことを言っていない。 何も言わないのなら、何も聞かないのが私のスタンスだ。 今回ばかりは、そのスタンスを少しだけ変更させてもらうが。 「ふう…ん」 しかし、レイちゃんは普通のリアクション。 まぁ、ある程度は予想していたけど。 一見感情豊かに見えて、基本的に冷静な子だし。 一方で、怒る時は烈火のごとしだが、そんなことは滅多に無い。 時折、感情そのものがアンバランスに見えるくらい。 あるいは―――狂気的とも見えるくらい。 そんなことを考えていると、バーテンダーが注文したお酒を置いて、離れて行く。 この位置なら、もう何を話しても誰にも聞こえないだろう。 「腹の探り合いは無意味、か」 「私も、はっきり言ってくれた方が助かる…かな」 互いに、大きく伸びをする。 「ねぇ、レイちゃん。もしかしたら勘違いだったらごめんなさいなんだけどね、」 「何かな…万里ちゃん。ハッキリ言って良い…よ」 「じゃ、お言葉に甘えて」 そして私ははっきりと言う。 「私の大事な子供を襲ったその『野犬』―――もしかして、レイちゃんだったんじゃないの?」 219 : ヤンデレの娘さん 転外 とすと ◆3hOWRho8lI:2011/07/12(火) 23 39 23 ID tot03qBY それに対して、レイちゃんは、 「うん…そうだよ」 と、あっさりと言った。 「どうしてそんなことを……って聞くのはそんなに意味が無いかしら」 「かも…ね。万里ちゃんは私の良いメイクさんではあるけれど、私の良き理解者…って訳じゃないし」 「そうなることを、望んでもい無いくせに」 「そう…だね。私が私のことを理解して欲しいのは、私の愛する人ただ一人…だから」 だから、私はどれ程時を重ねても、きっと彼女のことを理解することは無いだろう。 どれ程、そう願ったとしても。 他者と断絶した彼女の心を、私はただ『狂気』と評することしかできない。 それは、とても悲しいことだけど。 「そんな顔をしないでよ…万里ちゃん。あなたは、あなたの大切な人のことだけ考えてれば…いい」 「それだけでどうにか出来れば、世の中苦労はしないわよ」 「そんなこと言ってると、天国の奥さんに『旦那さんが浮気してる』…って言っちゃうよ」 「あなたはいつからイタコになったのよ。あと、嘘教えないで。私はもう恋愛しない主義」 実際、私は嫁が死んで以来、恋愛をしたことがない。 「一途…なんだ」 「そんなんじゃないわよ。ただ、何て言うか、萎えちゃってね」 確かに、嫁がこの場に居れば「私を忘れて他の女を愛するなんて許さない」とは言いそうではあるが。 正直、一途とかではなく、とても他の人と恋愛なんてする気にはなれないのだ。 あの娘の――― 千幸(チィ)ちゃんの存在があまりに鮮烈で。 「奥さんが亡くなってから、随分長い間お仕事に逃げ込んでたもの…ね」 そんな私の内面を見透かしたように、レイちゃんが言う。 そちらの内面は見たくても見せてくれない癖に。 しかし、痛いところを突いてくる。 彼女の言うように、私は嫁が死んでから長いこと仕事に打ち込むことでその悲しみを忘れようとした。 「あなたの言う通りよ。そのせいで、息子には随分寂しい思いをさせてしまったわ。させすぎてしまった」 お陰で、息子とマトモな関係を構築するのに随分回り道してしまったのはまた別の話。 「だからこそ、あの子にはこの先もっと幸せになって欲しい。そうなる権利がある。だから―――」 スッと相手を見据え、続ける。 「もしあなたが、息子の幸せを邪魔するなら―――俺は絶対に許さない」 怒気さえきかせたその言葉に、レイちゃんは無反応。 この人に何を言ったところで、何をしたところで、その心に響くことは無いのかもしれない。 「んー…わかった。わかって…ます。元々、追撃の予定は無かったし…ね」 「暴力だけに限らず、の話。アナタ言葉責めも得意じゃない」 「了解…かな。そうすることは、多分もう私に何のメリットも無い…し」 本当に、彼女の心に響いていない。 ささやかな失望と、寂しさを覚える。 何のかんので10年以上の付き合いだと言うのに、だ。 「それに、私も別段子供に不幸になって欲しいって思ってる…なんて訳じゃないし」 「あら?」 それは、少し意外だった。 自分の旦那以外なんてどうでもいいと思っていそうなものなのに。 「本当…だよ。三日ちゃんも二日ちゃんも、どこでどうしてるか知らないけど一日(カズ)くんも、できることなら不幸になって欲しく無い。だって―――」 「あなた達が愛した証、だから?」 私がそう引き継ぐと、本気で驚いた顔をされた。 「どうして…理解(わか)ったの?」 「なんとなく、ね。ジッサイ、子供って自分が死んでも自分がいたことを証明してくれるし」 「それは、万里ちゃんの考え?」 「一般論、よ」 自分の考えとするのには、自分の考えとして引き継ぐのには、それはあまりにも重すぎる。 色々と、思うところはあるし、それ相応の経緯もあるのだが、まぁそこまで話すことは無いだろう。 「何にせよ、万里ちゃんが私と同じような考えしてたのは、少し不思議な気分…かな」 「不思議な気分、ね」 「そう、気持ち悪いとは思わないけど、さりとて嬉しいと言うほどでも…ない。不思議な…気分」 私としては嬉しく思って欲しかった気もする。 先ほどは物騒なことも言ったが、やはりレイちゃんとは良い関係を築きたいのだから。 友達で、ありたいのだから。 叶わぬ望みかもしれないけれど。 「まぁ、重い話はこれくらいにして飲みましょうか」 「そう…だね」 そう言って、互いのグラスを掲げた。 220 : ヤンデレの娘さん 転外 とすと ◆3hOWRho8lI:2011/07/12(火) 23 39 48 ID tot03qBY きっと、私たちの関係はこのグラスと同じなのだろう。 完全に分かりあうことは無いけれど、ただ一点だけ、ただ一瞬だけは繋がることが出来る。 乾杯の瞬間に触れ合うこのグラスのように。 それが希望なのか絶望なのかは分からないけれど。 「私たちの…愛と」 レイちゃんの言葉を、 「それに続く子供たちの幸せに」 私が引き継ぎ、 「「乾杯(トスト)!」」 2人の声が唱和し、チン、と一瞬だけグラスがぶつかり合った。
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キャラクターの形容語のひとつ。「病み」と「デレ」の合成語であり、精神的に病んだ状態にありつつ他のキャラクターに愛情を表現する様子をいう。 このギルドにはやけにヤンデレが多い。どういうことだ?きよぽん無双か?
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ヤンデレ- 霊夢-
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794 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20 29 33 ID jWW4PdQE って、ちょっと待てよ? 何でこの娘が3人目なんだ? 俺の予想では三日の母、緋月零日さんが来ているはずなのだが。 お仕事でむっちゃ忙しい人だとは聞いてるけど。 代役? 「ヒーロー番組観てる子供たちのアイドルを、こんな試験の試験官やらせんでも良かろうに……」 「こんな試験って…どういう意味かな、かな?」 「キャラ、ブレてるぞ」 「かな、かな…なんだよ?」 「どっちにせよパクリ感は否めないけどな」 「素人さんに駄目だしされた!?」 そんなに驚かれても。 実際、その通りだし。 それはともかく。 「月日さんは一体何を考えてるのかって話。君だって、この一件のためにかなり無理したんでない?」 「月日お兄ちゃんのためにすることは無理でも努力でも何でもないこと…なんだよ!」 胸を張って言う零咲。 良い娘だなぁ。 アブないけど。 俺の命を現在進行形で危うくしてるけど。 「ンじゃあ、月日さんのためにも、お互い早めに終わらせちゃおうか」 笑顔の零咲に、俺は優しげな様子で(様子だけ)言った。 正直、いつまでも脚から血をダクダク流してるわけにもいかない。 「ウン…なんだよ!」 零咲が笑顔で頷いて、ふと思い出したように言葉を続ける。 「そう言えばとてつもなくどうでも良いことだから忘れてたけど…おにーさんの試験結果は会ってすぐくらいには出していた…なんだよ!」 「そう言えばとてつもなくどうでも良くないことだから可及的速やかに聞かせてー」 可及的速やかにとこの状況から抜け出すために、俺は先を促した。 「おにーさんの試験結果は…」 しかし、零咲はそう言って口元に三日月型の笑みを浮かべた。 目の笑っていない、凄惨な笑みを。 「これ以上なく不合格!」 同時に、零咲の両手が舞う。 その動きが見えるか見えないかという段階で、俺は既にその場を移動している。 間一髪、ワイヤーの風切音だけが通り過ぎる。 飛んできたワイヤーを避ける、なんて恰好のいい動作では無い。 ほとんどその場を後ろに転がったようなものだ。 「お願いだから、お互い早めに終わらさせて欲しいかな…なんだよ、おにーさん」 体勢を立て直した俺の方に、悠然と近寄り、上目遣いで俺を見上げる零咲。 その動作に、思わずドキリ、とする。 「どうしたのかな…おにーさん?」 その仕草は魅力的だった、だけではない。 その仕草は、あまりに見覚えのあるものだったからだ。 いや、零咲の動作の所々は、俺が驚くほどよく知るものばかりなのだ。 「どうにも、お前が三日の奴に似てるように見えてね。いや、見た目とかだけでなく、ちょっとした仕草とかがさ」 俺の言葉に、ニヤリとした笑みを浮かべる零咲。 「おにーさんがそう思うのは当然…なんだよ」 その語る零咲の表情は、俺なんかよりもずっと大人びて見えた。 ついさっきまで、随分と年下の女の子に見えていたのに。 「三日ちゃんは私の続きなのだから…なんだよ」 そして、彼女は虚ろなほどに漆黒の瞳でこちらを見据える。 「そうだこうしようよ…なんだよ、おにーさん」 「どーしようってのさ」 三日そのままな上目遣いのまま、零咲を言った。 「三日ちゃんのことを聞かせてみて欲しいかな…なんだよ」 795 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20 30 06 ID jWW4PdQE 一方――― 「チッ!」 何度かのコールの後、明石朱里は再度小さく舌打ちをした。 携帯電話のモニターには『御神千里』の文字が映る。 その文字を明石は憎々しげに見た。 「何で、私がアイツなんかのせいでダブルデート(仮)を邪魔されなきゃいけないのよ……」 隣の葉山に聞こえないように、明石はそう小さく呟いた。 明石は、千里のことが嫌いだった。 自分の想い人の隣というポジションを占有し、自分の親友の想われ人という立場を占有している。 その上、そのことに何の有難味も感じていないかのような顔でヘラヘラしている。 どちらの立場も、明石が羨むほどの物なのに、だ。 いや、流石に三日の恋人になるつもりは無いが。 しかし、千里と正樹の仲の良さは何なのだろう。 2人とも交友関係は決して狭くは無いが、この2人の関係は別格のように見える。 17年の付き合いのある自分よりも近しいではないか。 ホモか、ホモなのか。 どちらにせよ今すぐ代わって欲しいポジションだった。 『羨むってことは、嫌悪というより嫉妬なんでしょうね』 そう心の中で呟く。 ドロドロとした感情が、心の中で渦巻いていた。 そもそも、明石は『幼馴染』という現在の自分のポジションをあまりよく思っていない。 正樹とは親友と言うには遠すぎて、さりとて女として接してもらうには近すぎる。 歯がゆいと言っても良いし、嫌悪していると言っても良いし―――自己否定的なまでに憎悪していると言って良い。 「こんなコト考えるのも、あの男のせいだ」 今度は口に出してそう言い、再度千里の携帯電話をコールする。 見つけたらボロボロになるまでボコボコにしてやろうなどど思いながら。 796 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20 30 35 ID jWW4PdQE その頃、ボロボロでボコボコになった俺こと御神千里はと言うと。 「聞かせる?」 零咲の言葉に、俺はいかにも怪訝そうに答えていた。 「アイツの人となりを知りたいのなら、俺の話より、実際会って話すのが一番でしょ。って言うか近くに居るはずだから俺と一緒に会いに行こうぜ」 「そんな言葉でお兄ちゃんの試験を逃れようなんて、いくらなんでもあざといかな…なんだよ」 俺の戯言を一刀両断する零咲。 「まぁ、わざわざ聞くまでもなくないか、って思ったのはホントだけどねー。実際、零咲は三日の親戚か何かなんだろ?」 外見からも当て推量をして、俺は言った。 多分、零咲の本名は緋月なんとかとかその辺なんだろう。 まあ、月日さんとは『親戚のお兄ちゃん』と呼ぶには歳が離れすぎてるようだから、そこら辺はあの変態の趣味なのだろうけど。 でも、見た目的に一番似てるのが、外見ではなく所作だってのが気になるけど。 「多分、おにーさんの推測は遠からずとも当たらずってところなんだとは思うけど…あたし的にそこはどうでも良い…なんだよ!」 遠からずも当たらずって、入れ替えただけなのに、受けるイメージが180度変わる言葉だな。 「おにーさんから見た『緋月三日』…というのを聞かせて欲しーんかな…なんだよ!」 「あ、なるホロ」 「と、言うより…聞かせる以外の選択肢は無いんだよ」 ゾッとするほど静かな声でそう言って、ゴス浴衣の中から再度右手を示す零咲。 その気になればすぐにでも俺を殺せると言わんばかりに。 「もし聞かせてくれたら…試験結果の見直しを考えてあげても良い…なんだよ!」 「ンなこと急に聞かれてもなー」 俺はそう言って頬をポリポリやった。 凶器持った相手を目の前に。 「さっきから思ってたけど…あたしを前にしておにーさんも動じない…なんだよ!」 「カッコつけてるだけだよ。内心ブルッブル」 「あたしの続きのために…そこまですることも無いかもなんだよ!」 「今のやりとりだけでどうしてその結論に辿りつけたのは謎だけどなー」 「でも…そうなんでしょ?」 「まぁそうかなー」 「あんな弱い娘のために…なんだよ?」 怪訝そうな顔で言う零咲。 「あんな惰弱で脆弱で虚弱で最弱な娘のために、何でまたおにーさんはそこまでするのか、そこまでする価値を見出しているのか、あたしは分からない…なんだよ?」 「弱い、ね」 やんわりと零咲を見据え、俺は言った。 「そりゃどーかな?」 「どう言う意味なのかな…なんだよ?」 「言葉どおりの意味さ」 勤めて静かに、俺は言葉を紡ぐ。 「零咲、さっき『友情は裏切られる』って言ったよね」 「?」 俺の唐突な言葉に、きょとんとする零咲。 「でもさ、そもそも裏切られるレベルの友情、裏を返せば裏切られると感じるほどに信頼できる友情―――人間関係を構築するのってマジ大変じゃん。相手がその信頼にこたえてくれなかったら、裏切られたら、傷つけられたら……なんて考えたらできないし」 「…それで?」 「ソレをアイツは、三日はやってるわけよ。俺との人間関係を繋ぐために。自分の想いを伝え、想いを繋げるために。全力で、命がけでね」 俺が1人ではできなかったことを。 俺にはできなかったことを。 だから――― 「それを強いと言わずに何て言うのさ」 迷い無く、俺は断言する。 「俺けっこー尊敬してるのよ、三日のコト」 笑いながら、誇らしげに、断言する。 797 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20 32 01 ID jWW4PdQE 「けれど・・・」 零咲が静かに口を開く。 まるで、詰問するように。 「おにーさんはほんのひと時とはいえあたしと行動することを選んだ。あの娘と離れることを…選んだ。その選択は無かったことにはならない、一度した間違いは無かったことにはならないならないならないならない…ならない」 先ほどまではまがりになりも浮かべていた笑みを消し、無表情に零咲は言う。 「だから…結果は変わらない。どんな想いがあったとしても、あたしの言葉に応じた瞬間、あたしと係わり合いを持とうとした瞬間、きみの不合格は確定…した」 言葉と同時に、零咲の右手が舞う。 ワイヤーが舞う。 「!?」 咄嗟に転がり、ギリギリのところで避ける。 今日のために買った浴衣の裾がずたずたにされる。 「1度確定したことは決して…無かったことにはならない。だからあたしはきみを…絞め斬り殺す」 再度、ワイヤーが舞う。 横に転がるが、それを追いかけるようにワイヤーが風を切る音が聞こえる。 「くぉ!?」 追いかけてくるワイヤーを、思い切り後ろに跳ぶことで避ける。 ようやくワイヤーの追撃から逃れられた。 両足は勿論痛いが、今度こそ根性で我慢。 とはいえ、そう何度も続けられるとも思えないけど。 「無様に・・・あがくのね」 一歩ずつこちらに歩み寄る零咲。 「無様なあがきで、無様なもがきさ。これでようやく三日とおそろいになれる」 「頑張るね…無意味に。きみはもう全体的に根本的に潜在的に最終的に劇的に決定的に断定的に…終わっていると言うのに」 「終わってるなんて……」 もう一度大きく距離を取り、俺は言った。 正直、軽く息が荒い。 正直、軽くヤバい。 対して、零咲は傷一つなく、息一つ切らさず、一歩一歩こちらに近づいてくる。 ワイヤーは、まだ使ってこない。 けれど、次に使われたときが俺の最期だろう。 武器の性質みたいなものは少しずつ分かってきた。 まず、右手からしか出せないこと。 次に、すぐに二撃目が来ないってことは、武器としての間合い自体はさほどでも無いであろうということ。 もっとも、そんなことが分かっても何の意味も無い。 見えない上に、どこから来るのかも分からない攻撃なんてどうしようもないのだから。 体力的にも、もうそうそう何度も避けられるモンでもないだろうし。 死にたい、と思わないけど。 死ぬ、とは思った。 あーあ。 死ぬ時は、ヒロインのロングヘアにハグられて死ぬって決めてたんだけどなぁ。(艶やかな黒髪ならなお良し) でも、まぁ、何のかんので楽しい人生だったし。 親とも何のかんので仲良くなれたし。 良い方には変われたと思うし。 色んな人とも会えたし。 大切な人とも出会えたし。 悔いは無い、かな。 そう、思った。 798 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20 32 24 ID jWW4PdQE 「ああ…そうそう。1人で死ぬのは寂しいだろうから先に…教えておいてあげる」 けれど。 「きみを殺したら三日ちゃんも…あたしの続きもきちんときみのところに送ってあげる」 零咲のその言葉に、俺のおめでたい思考は吹っ飛んだ。 「言った…でしょう?あの娘は…弱い。きみはそこにある種の強さを見出したようだけど、それでもきみがいなくなって耐えられるほどのものじゃあ…無い」 だから…苦しむ間もなく、送ってあげる。 零咲はそう、光の無い目で言った。 その瞳には何の感情も見られない。 だからこそ分かる。 この女は確実に三日を殺す! 「いやいやいや、とりあえずソレは慎んでご遠慮したいところなんだけどねー。いやマジで」 マジで、死ねない。 あきらめモードは、もう終わりだ。 バン、と脚を叩き、しっかりと立つ。 「どう…して?」 こちらに近づきながら、無表情に言う。 そこに、感情的な動作は何一つ無い。 ただこちらを見ながら唇を動かすだけだ。 「アイツが死んだら……」 零咲を見据えながら、俺は言う。 「アイツは死んだら苦しむことも泣くこともできない。誰にも笑っても怒ってもくれない。俺と祭を周ってもくれない。趣味の悪いぬいぐるみを欲しがったりもしない。部活の後輩とケンカしたりもしない」 アイツとの楽しい時間を思い返して、俺は言う。 「それが無くなるなんて、マジありえないから。あって、たまるか」 俺は、静かにそう言った。 静かなのは、そこまでだったが。 「アイツに指一本でも触れてみろ!俺はどんな手段を使ってでも確実にお前を殺してやる!」 叫ぶ。 俺は叫ぶ。 抑え込まれいたものを 「そんなことを言うのは―――あの娘を愛しているからなのかな…なんだよ?」 零咲に、ストレートに聞かれた。 ド直球だった。 その場にそぐわないとも思える、けれどもこれ以上なくふさわしいとも言える言葉に、俺は一瞬言いよどむ。 「そ…そう言う気の効いたセリフは―――最終回に取っておくモンだろ」 俺は、そう答えた。 その時、零咲の懐から振動音が聞こえる。 「ケータイかい?」 「きみの…ね。話してみるかな…なんだよ?」 俺が頷くと、零咲は無造作に俺のケータイを投げ渡す。 開閉するのももどかしく、俺はディスプレイを確認する間もなく着信ボタンを押す。 『山に棄てられるか海に棄てられるか、嫌いな方を選べ』 無感情ながら随分とドスの効いた声だが、どうにか分かる。 明石だ。 「悪いね、明石。今すぐヤボ用が終るから、そしたらフルスロットルでそっちに戻『アンタのことはどうでも良い』 俺の言葉をさえぎり、明石は言葉をかぶせた。 もしかして怒ってるだけではなく、焦っている、のか。 どうして? 『そんなことよりも、三日がそっちに行っているかどうか5秒以内に答えなさい』 明石が三日のことを渾名で呼ばないのを、俺は初めて聞いた。 「三日が?アイツに何かあったのか!?」 799 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20 33 00 ID jWW4PdQE その答えを聞く寸前、俺の携帯電話はガシャン、と地面に落ちた。 同時に、ガクンと、俺の体に衝撃が走る。 瞬時に体が拘束され、口はふさがれ、挙句の果てに足が地面を離れていた。 先ほどの木の上に縄で吊り上げられた、と気がつくのには少々の時間を要した。 木の上で、かなりの高さがある。 誰がやったのかは考えるまでも無いだろう。 どうやら、零咲の奴はワイヤーだけでなく縄まで使いこなすらしい。縄跳びとかさせたらサイコーに上手いんじゃないのか? 殺されなかっただけマシとはいえ、かなりキツい体勢だ。特に、体中、特に首の辺りには窒息しそうなほどギリギリと縄が食い込んでくる。 「ふぅん…」 俺の足元で零咲が言う。 「登場するには悪くないタイミング…なんだよ、三日ちゃん」 俺の足元で、零咲の前に三日が現れる。 悪くないなんてものじゃない。 最悪のタイミングだ! 「…どうして、ここにいるんですか?」 感情の失せた目を向けて、三日は言った。 髪をまとめていた簪はどこかで落としたのか。 髪はほどけて乱れ、浴衣の裾は枝に引っ掛けたのかボロボロになっていた。 鬼女もかくや、というありさまである。 「ちょっと驚いた…なんだよ。この辺には事前に人払いの技術を使っていたのに」 「…それを私に伝授してくれたのは、あなたでしょう?…質問に、答えてください」 「さぁどうしてなんだろう…ね」 それに対して、何でも無いような口調で零咲は言った。 俺の携帯電話を拾い上げ弄びながら。 三日に見せつけるようにしながら。 それにしても、改めて零咲と三日を見比べると―――全然似てない。 今まで似てると思っていたのが嘘のように似ていない。 零咲より三日の方がずっとしなやかな体つきだし、 零咲より三日の方がずっと艶やかな髪だし、 何より、零咲より三日の方が、ずっと必死だ。 生き汚い位に必死だ。 けれども、そんなコイツの姿を、俺は美しいと思う。 そう思っている間にも、足元で会話は進行している。 「どうなんだろうというよりもどうしてなんだろうと言うべきかな…なんだよ?どうして―――希望があるなんて寝惚けたことを言えるのかなぁ」 グシャリ、と零咲の手の中で粉々になる。 握力だけでなく、恐らくは例のワイヤーを使ったのだろう。 粉々になった携帯電話は、血まみれになりながら無残に地面に落ちる。 「ねぇ、どうしてどうしてどうしてかなぁ?幸せなんて刹那の焔!一瞬で粉々になるなんてこと、カズくんのコトで痛い位に学んだと思ってたんだけどなぁ!?」 零咲の責め立てるような言葉に、三日が茫然としたような顔をする。 「そう!Time up!全ては手遅れ!!三日ちゃんの大切なモノはもう!この私がこんな風にバラバラに粉々にブチ壊してブチ殺した後でした!残念無念!またの挑戦をお待ちしております、なんだよ!!」 両手を広げ、零咲が宣言した。 それが現実であるかのように。 あまりにもあっさりと、それだけに真に迫った、真実であるかのような言葉。 「…どうして、そんなことを?」 茫然とした顔で、憔悴しきった表情で、三日はその言葉だけを絞り出した。 「私がしたのは時計の針を勧めただけのこと…なんだよ」 そう言って零咲は三日に近づき、血の付いた手で頬を撫でる。 800 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20 33 26 ID jWW4PdQE 「私と三日ちゃんは全く持って同じ…なんだから」 慈しむように、愛おしむように。 「私が何もしなくても、三日ちゃんは遠からず不幸になっていた。大切な人を失うか、大切な人に拒絶されるか。確実に不幸になっていた。今のまま…だったら」 「…どうして」 「だって」 言って、零咲は微笑んだ。 誇らしげに、それでいながら泣きそうな顔で微笑んだ。 「私がそうだったから」 だから、あなたもいずれそうなる…んだよ、と零咲は言った。 確信を持ってそう言った。 「幸せを求めるならそれ以外のすべてを捨てなくちゃ。その為の全てのリスクを背負わなくちゃ。その為なら大切な人を不幸にするくらいでなくちゃ。自分自身でさえ不幸にしなくちゃ。どれ程その手を汚そうと。どれほど罪を重ねようと。それが貴女のためなんだから。それがその人のためなんだから。そうにきまってるそうでないなんてありえない。だって…」 あくまで穏やかに三日の頬を撫でながら零咲は続ける。 「貴女は私そのもの…なんだから」 「…貴女は私」 「そう、貴女は私。違う肉体違う人間として存在していることが不自然なくらいに同一」 「…不自然…同一」 「だから、もっと私に近づきなさい。そうしないと貴女は押しつぶされてしまう。この現実に。この先の不幸に」 慈愛さえ感じさせる口調で、母性さえ感じさせる表情で零咲は言う。 零咲の虚言が、見る間に三日の精神を蝕んでいく。 でもな、零咲。 お前は最初から最後までミステイクだ。 間違いと勘違いしかしていない。 なぜなら、零咲と三日は圧倒的なまでに違うから。 細かなモーションが似ていても、上っ面の属性が同じでも、それでもお前たちは違うんだよ。 零咲にあって三日に無いものも多いだろう。 そして、それと同じくらい三日にあって零咲に無いものも星の数ほどある。 例えば、短い間でも俺と積み重ねてきた時間とか。 それがもし零咲にあったら、こんな致命的なミスは犯さなかったんだろうなぁ! 「これからどうするの、三日ちゃん?探せば彼の死体ぐらいは見つかるかもしれないし、私を殺せば彼の仇くらいはとれるかも…なんだよ?」 足元で、そんな会話が聞こえる。 「…う」 零咲の言葉に、三日は俯いた。 「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」 そして激情のままに零咲の首に手をかける。 「三ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ日ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」 手をかける、その瞬間に俺は落ちて来た。 2人の前に、ドシンと盛大に音を立てて。 いや、ドシンなんて生易しいモンでも無いけれど。 「…千里、くん?」 信じられないものを見るような目で、俺の方を見る三日。 「よぉ、三日。随分と心配かけてすまないけど、ご覧の通りピンピンしてるよー」 俺は潰れた蛙のような姿勢で、三日に無理矢理作った笑顔を向けた。 正直、ピンピンなんてしてないけど。むしろ地面に叩きつけられた衝撃で全身痛いけど。 801 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20 33 46 ID jWW4PdQE 「あなた…どうして?」 「だーから、お前は三日と別物なんだよ」 地面に這いつくばった体制のまま零咲の方に顔だけ向ける。 「若いくせに幼いくせにさっきから知った風な口を聞きやがって。仮面ライダーだって一号二号とかぱっと見似てても全然違うだろ?それに比べてもお前と三日は一欠けらも似てねぇっつの」 「質問に…答えて。かなりきつく縛ったのに。恐ろしいほどの高さに釣り上げた…のに」 「縄抜けは得意なんだよ。この知ったか女、その程度のことも知らなかったのか?」 「そんなこと…」 「三日程度ならフツーに知ってることだぜ」 そう、零咲と三日が本当に同キャラなら、俺を吊り上げるのに縄なんて使わない。 俺に告白したその日に、アイツはそうしようとして、俺にあっさり縄抜けされてしっぱいしたのだ。 失敗して、知っている。 俺と時間を、着実に重ねている三日なら。 勿論、俺との時間をさほど重ねていない零咲が知らないのも無理ならぬ話ではあったが。 たかだか2カ月足らずの時間、1クールアニメにも満たない期間だが―――されど2カ月近い間、確実に俺と三日は時間を積み重ね、少しずつ互いを理解して行っている。 零咲とは違って。 「大体、こんな最悪にたちの悪いドッキリまがいの方法でてめぇの思想を押しつけようなんざどーゆー了見だっての。自分の理想を子供に押し付ける教育ママかお前は」 「…」 教育ママ、という言葉になぜか図星を突かれたような顔をする零咲。 「三日はお前のようにはならない。お前みたいに不幸に耽溺したりしない。お前に無いものをたくさん持っているからな。お前の持たない仲間も十二分に持っているからなぁ」 「それ…でも」 フラストレーションが溜まりに溜まりまくっていた俺の長台詞に圧倒されていた零咲が口を開いた。 「それでもこの娘が不幸に陥りそうになったら!取り返しのつかないことになったらどうしてくれるのよ!この娘はこんなにも弱いのに!!」 その叫びには、確かに三日を心配する響きがあった。 「その時は、俺が必ず守る」 その言葉は、俺の口から思った以上にスルリと出た。 「どんな馬鹿でかい不幸や困難が三日を襲っても、その時は俺が必ず支えになる守りになる騎士―――になってみせる。三日の不幸程度で三日を見捨てたりはしない。手放しなんてしない。だって―――」 次の俺の一言は、嫌な人は読み飛ばして欲しい。さすがに、これは台詞はクサ過ぎる。 「三日が俺の隣からいなくなることの方が俺にとっての不幸だ」 そう、三日の方を見ながら言って―――俺の意識はそこで途切れた。 802 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20 35 47 ID jWW4PdQE おまけ ここで俺が死んだら中々に格好良すぎで出来過ぎな展開なんだろうけど、そんなことがあるはずもなく。 俺が気絶した直後、タイミング良くウチの親が俺を見つけてくれたらしい。 何でも「えくりちゃんのメイクアップの時嗅ぎ慣れたお香のような匂いがしたから」らしい。 思い返して見れば、あの樹の周りには奇妙な匂いがしていた気がする。 人払いの技術、とか零咲が言っていた気がするが、その辺の手品のタネはそこにあるのだろう。 無意識に人間が嫌う匂いを立てる、とかそんな蚊取り線香みたいな感じの。 とはいえ、それで全てが大団円といくはずもなかった。 と、言うのも俺の体のことである。 零咲のワイヤーでズタズタにされた足首に、駿河問いもどきの拘束、加えて木の上と言う高所からの落下。 俺の体には割と洒落にならないダメージが叩きこまれていたらしい。 そんなわけで、俺は急きょ病院に運び込まれることになった次第である。(零咲はいつの間にか紛れて姿を消していた。) 夏祭りどころでは無くなってしまった。 同じく祭に来ていたはずの生徒会メンバーと会えなかったのは残念だったし、お約束の花火を見られなくなったのも心残りだし、何よりダブルデート(?)を台無しにしてしまって皆には申し訳なかった。 明石には恨みがましい目で見られたことだろう。 もっとも、この辺り、俺は意識を失っていたのでよく覚えていないのだが。 全ては後に親から聞いた話。 と、言う訳で翌日。 グルグルの包帯まみれで俺は病院に居た。 足首の怪我に全身打撲その他諸々で絶賛入院中である。 その怪我の内、一番ひどいのが落下によるものというのが笑えない。 自業自得じゃねえか。 「まー、入院が短期で済んだのは不幸中の幸いってトコかしら」 病院の病室、俺の寝るベッドの隣で、親は事態を笑い飛ばすように言った。 この人は今回一番の功労者にして苦労人の筈なのだが、それをおくびにも出さない。 「まぁ、そうと言えばそうなんだろうなぁ……」 親の言葉に、俺は力なく答えた。 「…元気出して下さい、千里くん」 その隣で三日は言った。 三日とウチの親は俺が病院に運ばれる諸々のバタバタにずっと付き合ってくれて、今も俺に付いていてくれている。 一時期は仕事中毒を通り過ぎて仕事に毒殺されかかったような有様で、子供のことなど顧みることなどできなかったあの親がそんなことをしてくれたことに俺はストレートに驚いているし、素直に嬉しくも思う。 三日に対しても、今回は奇妙で微妙な事態に巻き込まれた被害者だというのに、一緒に居てくれて、感謝してもしきれないくらいだ。 葉山と明石は早々に帰った。葉山は残りたがっていたが「いてもできることなんてないじゃない」という明石の至極真っ当な建前で強制的に帰らされたのだそうな。 今回のことを、親には「野犬に襲われた」と説明してある。 ここまでやってもらって本当のことを言えないのは心苦しいが、零咲の奴が十中八九緋月家の縁者であることを考えると、色々とややこしいことになる可能性が高かったからだ。 最悪、緋月家、というより三日と距離を置くことを強要される可能性もあるし。(良識ある大人としては妥当な対応ではあるのだが) まったく、零咲も面倒なことをしてくれたものだ。 「…そりゃあ病院なんて退屈ですし、ご飯は美味しくないですし、検査は面倒ですし、点滴は痛いですけど、慣れればそう悪いところじゃありませんから」 幼い頃は入退院を繰り返していたという三日が言うとかなり真に迫った内容だった。 つーか、本気で病院が嫌いなのね。 「いや、別にそう言うことを気にしてる訳じゃ無いんだけどねー」 「…?なら、どうしたんです?」 俺が切り返すと、三日が不思議そうな顔で聞いてきた。 本気で不思議そうな辺り、今の俺は目に見えて元気が無いのだろう。 と、言うよりあからさまにヘコんでいた。 803 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20 36 13 ID jWW4PdQE 「なんつーかさぁ、今回、俺、無警戒にみんなから離れて、無防備に怪我して、無意味に皆に心配と手間かけちゃってさぁ……」 胸の奥に溜まっていた感情を、ゆっくりと吐き出していく。 「今回の俺、サイコーに情けないなって思ってさぁ」 非現実の世界のヒーローになりたいとも思わないし、勇敢な騎士になれるとも思わないけど、せめて、大切な人たちが心配する顔なんて見たくなかった、させたくなかった。 大切な人たちと繋がっている者として。 「子供なんて親に心配をかけるのが仕事みたいなモンよ、そう気にしすぎる物じゃないわ」 ポンポン、と俺の肩に手をやって親が言った。 こう言うところ、本当に父親らしくもあり、まるで母親の様だとも思う。 こう言う普通の関係になるまで、随分かかってしまったけど。 と、そんな風に物思いに沈んでいると、親の懐から振動音が聞こえる。 「あら、ケータイ」 「ココ病院」 「電源切っとくの忘れてたみたい」 ダメね、と頭に手をやって、親は言った。 似合わない似合わない。 「ちょっと外で電話してくるわ」 「おっけー」 仕事の電話なのだろうか、俺は病室を出る親を見送った。 病室は俺と三日の2人きりになる。 「…仕方ないですよ、今回ばかりは」 親が姿を消して少ししてから、俺を慰めるように三日は言った。 「…あの人は我が家でも強さが別格ですから、生き残っただけでも幸いかと。だから、今回私そんなに怒って無いじゃないですか、千里くんが他所の女と一緒に居たのに」 「いや、お前今回怒って良いと思う」 繰り返しになるけど、三日は被害者だからな、今回。 「…千里くんに?…それともあの人に?」 「んー両方?ってか、あのナリで強さが別格なのか、零咲は」 「…いえ、単純な殴り合いならお兄ちゃんやお姉様の方が勝るんですけど、あの人は年季が圧倒的に違いますから」 「年季……?」 「…私たちには想像できないほど何度も追いつめられて、その度に手段を選ばないで…、それを心身が壊れるくらい繰り返してきたあの人は、もうほとんど人間じゃあない」 「人間じゃ、ない」 確かにそうかもしれない。 零咲は、月日さんに頼まれたからという程度のモチベーションで、俺の生死さえ自由に出来るような空間を作って見せた。(俺が迂闊だったのもあるとはいえ) その上で、一度は俺を殺しにかかり、三日を精神的においつめてみせた。 躊躇も何も無く、他人の心身を踏みにじって見せた。 月日さんのため、という題目のためだけに。 どれ程他人と傷つけ合えば、そんなメンタリティが生まれるのだろう。 争いの世界で生きていない、むしろ争いを積極的に避けて生きている俺などにはとても到底想像もつかない。 「や、人を化物みたいに言われても困るかな…なんだよ、割と」 804 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20 36 55 ID jWW4PdQE 「うおおい!?」 当り前のように病室のドアを開けて入ってきたのは零咲だった。 当り前のようにこちらを驚かせるのは止めて欲しい。心臓に悪い。 零咲は見た目だけは相変わらずちっこくて可愛らしいが、服装は昨晩のゴス浴衣ではなく、ややフォーマルな服装で、髪もツインテールではなくストレートにおろしている。 こうして見ると髪型もあって見た目だけは本当に三日に似通っているが、心なしかかなり大人びた印象を受ける。 「……」 昨日の今日なので自然と警戒し、ベッドから体を起こそうとする。 「無理しない方が良い…んだよ、おにーさん。怪我、まだ全然治って無いんでしょ?」 そもそもの原因である零咲にそんなことを言われても嬉しくも何ともなかった。 とりあえず、どこから三日を逃がすかということから考えないと……。 「やぁ、零咲。今日は殺し損ねた俺をわざわざ殺しにでも来てくれたのかな?」 なけなしの勇気で、軽口を叩いたりしてみる。 言葉面だけはハードボイルド気取りだが、内心はガクブルのハーフボイルドだ。 「そんなこと言わないで欲しいかな…なんだよ。今日は、ソレを取り下げに来たんだから」 零咲は苦笑して言った。(これまた大人びた余裕を感じる笑みだった) それにしても、取り下げるとは意外な展開だ。 「それは、月日さんの気まぐれ?」 「うーん、外れ…かな?そもそも、おにーさんの生殺与奪は私に一任されてたし」 本当に月日さんは関係ないらしい。 いかにも全ての黒幕っぽいこと言ってたので、ちょっと意外。 まぁ、あの人は騒ぎの横で傍観者諦観者気取っている方がしっくりくるか。 「…なら、一体どうして?」 こちらも心なしこわばった表情の三日が問いかける。 「正直、一回は本気で殺っちゃおうかとは思った…なんだよ。けれど」 って言うか、絶対吊り上げてあのまま窒息死させるつもりだったろ。 ご丁寧にも首に縄を括りつけてくれて。 「けれども、それは初対面の段階で千里おにーさんを見限ってたから…なんだよ。そこからおにーさんは見事に評価をひっくり返してくれた…なんだよ。花丸をあげるー…なんだよ」 わしゃわしゃと俺の頭を撫でる零咲。 今の俺はベッドに座っているので、頭を撫でるのにワイヤーを使う必要は無い。 「…何かしたんですか、千里くん?」 と、三日が聞いてくるが、正直覚えが無い。 「正直、おにーさんのコトはその場のノリで三日ちゃん以外を優先させるような、三日ちゃんをその程度にしか考えていないようなコだと思ってたんだけど…」 どうやら、零咲は俺をかなりカルい男だと思っていたらしい。 失礼な。 「それは勘違いでした、謝ります」 語尾に『…なんだよ』を付けること無く、零咲は俺に向かって殊勝に頭を下げた。 「…え?」 あまりに殊勝過ぎて三日がそんな声を漏らすが、俺としてもビックリだ。 「私の拘束を振り切って、三日ちゃんのところに帰って来たおにーさんを見て分かった。きみは私たちと同じタイプの人間だ…って」 「同じタイプ?」 いや、正直零咲と同類と言うのは心外と言うよりあり得ないと思うのだが。 タイプが全然違うじゃん。 「自分の幸せのために、自分さえも犠牲に出来るタイプの人間、ということ」 補足するように零咲は言った。 「この歳で自分と同じ部分にしか共感できないというのも悪い癖だって言うのは分かっているんだけど、その一点できみのことを認められるかなーなんて」 この歳でって、零咲は俺より年下じゃん。 ロリじゃん。 805 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 後編 ◆3hOWRho8lI:2011/06/19(日) 20 37 19 ID jWW4PdQE 「まぁ、良いけどね」 俺としては、紆余曲折あるとはいえ『三日のために行動した』という一点だけは零咲を認められるポイントなのだが。 それで許してしまう俺も俺だが、まぁ子供相手にこれ以上ムキになっても大人げないか。 「改めて、三日のことをよろしく頼みたいんだよ、千里」 大人びた笑みで、如才なく零咲は言った。 「いや、お前によろしく頼まれてもな。本当に教育ママみたいだぜ、零咲」 「その点に関しては二の句を告げないなぁ」 見た目に似あわない大人びた苦笑を浮かべて零咲は言った。 「母親だし」 ……今、なんと仰いました、零咲さん? 「…千里くん、もしかして何も聞いてませんでした?」 よほどすごい顔をしていたのだろう、俺の顔を見た三日が怪訝そうな顔でそう言った。 零咲は悪戯が成功した子供のようにクスクスと笑っている。 「…千里くんは先ほどから芸名の『零咲』とだけ呼んでますけど、この人の本名は緋月零日」 零咲を手で示し、三日が言う。 「…お父さんの旦那さまで、私とお姉様、そしてお兄ちゃんのお母さんです」 「ちなみに、今年で36歳!」 三日と零咲が連チャンで爆弾を落とす。 「……はい?」 零咲、もとい緋月零日さんのちんまくて可愛らしい姿を見やり、俺は何とか言葉を絞り出した。 ……ソレってつまり、零咲は俺よりずっと年上で、36歳の人妻で、月日さんとの間に三人の子供を作って出産して……それで……? 「三日のお母さん……?」 「ウン!」 零日さんは、見た目相応に、実年齢不相応に元気よく頷いて言った。 「改めて、三日ちゃんをよろしく頼みたいな…なんだよ、『おにーさん』」 零日さんのそんな台詞が俺の頭に入るはずも無く。 「はいーーーー!?」 許容量を超えた俺の絶叫が、病院を震わせた。 (人間試験) (試験官:零咲えくり=緋月零日) (御神千里―――合格)
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472 :ヤンデレの娘さん 暴露の巻 ◆3hOWRho8lI:2011/07/29(金) 21 03 58 ID 2AmFjdJU それは、3年と幾らか前のこと。 「へぇーん」 夜照学園中等部、第二校舎屋上に上がった俺(とてもそうは見えないが当然中学生)に、そう声がかけられた。 時刻は昼休み。 教室にもどこにも居場所が無かった俺は、とりあえずの身の置き場所を探してこの場所に辿りついた。 「わざわざ好き好んでこんな場所に来るのがいるとはねー。よっぽどの物好きー?」 そう言ったのは、スラリとした体つきの女生徒だった。 艶やかな、セミロングの黒髪。 中等部の冬服に黒タイツ。 糸のように細めて笑う姿は、まるで美しい狐のようだった。 「しかも立ち入り禁止のこの場所。ひょっとして、キミ不良さん?じゃぱにーずばんちょーってやつー?」 クルクル舞いながら、クスクス笑う少女。 「違う」 と、俺は答えた。 「人のいない場所を探していたら、ここに辿りついた。それだけ」 「ふいーん」 と、俺の言葉に分かっているのかいないのか分からない少女。 「奇遇だね」 「なぜ」 「ボクも、同じだから」 飄々とした少女の態度からは思いもよらぬ言葉に、俺は驚いた。 「信じられないって顔してるね。いや、マジマジ。小うるさい教室からここに――――逃げてきた。人のいない、ここに」 「……」 無言の俺に、少女は改めて向き直った。 「ひょっとしたら、ボクとキミは同類なのかもしれないねー」 と、もう一度笑う。 くすくすと。 屈屈と。 「ねー。名前を教えてよ、同類」 至近距離からこちらを見上げ、少女は言った。 「御神千里」 俺は問われるままに答えた。 「そう」 ニィ、と笑みを深くする少女。 「ボクは九重かなえ。よろしく、千里」 その日から、俺と九重かなえの、互いの互いの傷を舐め合うような、互いの流血を舐め合うような緋色の関係が始まった。 473 :ヤンデレの娘さん 暴露の巻 ◆3hOWRho8lI:2011/07/29(金) 21 05 44 ID 2AmFjdJU そして、約3年後の現在 夜照学園高等部にて 「第1回 御神千里の恥ずかしい過去大暴露大会!いえーい!」 新学期が始まり、始業式が終わったその日のこと。 一原先輩に「手伝って欲しいことがある」と言われて呼び出された夜照学園高等部生徒会室。 そこで、俺は上記のような阿呆な音頭に迎えられた。 「と、ゆー訳でやっと来たわね、今回の主役」 「……い、ち、は、ら、せ、ん、ぱ、い?」 じっとりした目で相手を見てやる。 この野郎、手伝って欲しいことってこれかい。 って言うか何をしろってのか。 「まぁまぁ、取り合えず座って。御神ちゃんは今回の主役と言うかオモチャと言うかそんな感じだから」 「オモチャって何ですか」 ツッコミを入れながらも席に着く俺。 普段はコの字型に組み合わされているであろう長椅子は、今はT字型に組み合わせられていた。 Tの横棒の方の長椅子の後ろにはホワイトボードがあり、『大暴露大会!』という頭の悪い名前がでかでかと書いてあった。 誰だ、こんな自分の頭の悪さをアピールしまくってる名前考えた奴。 「私はお姉や副会長さんと違って、中等部のコトは知らないからドキがムネムネだよ!」 「そう言えば、妹殿は中学は他所でござったか」 「確か、私立の天川中だっけ?李はその頃まだ海外だよね」 「…ついにこの日がやって参りましたね」 そう言うのは、生徒会役員で一原先輩の妹の愛華さん、同学年の李忍、霧崎涼子。 それに加えて、緋月三日。 緋月三日 大事なことなので(以下省略) 「何でお前がここにいるのぉ!?」 「わひゃぁ!?」 思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。 三日の悲鳴が無駄に可愛かったがそれはさておき。 「いや三日さん!?俺確かあーたに『生徒会には近づくなよ!絶対近づくなよ!』と言いまくってましたよねぇ!?」 肩を掴んでがっくんがっくんと詰め寄る俺。 「やめて御神ちゃん!全部私が悪いの!私があなたの過去話を餌にして三日ちゃんをここにおびき寄せたから!」 「いかにも悲劇のヒロイン口調だけどやってることは悪党だよなぁ!」 目に涙を浮かべてそうな顔の(あくまで『そうな』)一原先輩にツッコミを入れる。 どうやら全ての元凶はこの人らしい。 「…あ、いや、実は私の方からお願いしたんですけど」 「惑わされるな!それが奴の手口だ!」 申し訳なさそうな三日を俺は全力で説得する。 「何か、ン年来の付き合いの後輩にラスボスか何かみたいな扱いを受けてるんだけど、私」 「いや、アンタがこの話のラスボスなんじゃないかと最近本気で思うんですけど……」 「残念ながらソレは無いわよ。確かに、『敵は生徒会の美少女軍団!』って言うのは華があるけど」 そう言ってから、一原先輩は全員を見回して、 「いっそのこと皆でやる、ラスボス?『三日ちゃんを返して欲しければこの生徒会四天王を倒していくことだな!』みたいな」 「「「「「「「いやいやいやいや」」」」」」 周りのほぼ全員から否定される一原先輩。 華のある無しでラスボスにならないで欲しい。 って言うかドサクサにまぎれて三日を攫わないで欲しい。 大体、これはどう言う展開なんだろう。 474 :ヤンデレの娘さん 暴露の巻 ◆3hOWRho8lI:2011/07/29(金) 21 06 24 ID 2AmFjdJU 「とどのつまり、中等部時代の昔話に華を咲かせましょう、という企画なんですけどね」 淡々と答えるのは、副会長の氷室先輩。 この人とも付き合いは長いけど、凶器での突き合いの方が多かった気がする。 思い出したくもない思い出だった。 「それが、何で三日たちまで?」 「…私たちは、中等部時代の千里くんたちを知りませんから」 「同じく」 三日に加え李や霧崎、愛華さんも頷く。 「ユリコたちは最近study hardにwork hardデシタから、コレくらいの息抜きがヒツヨーデス」 生徒会の顧問であるエリス・リーランド先生も賛同しているらしい。 しっかし、スタディーハードにワークハードって、先輩がハードワークってねぇ……。 「うっわ、疑いの目で見られた」 「日ごろの行いですよ」 不服そうな先輩だけど、こればかりは仕方ないと思う。 「会長も私も、これでも夏休みの間受験勉強のために邁進していましたからね」 と、氷室先輩が言うので意外にも真実らしい。 「まー、私は受験においても頂点に立つ女だからね!」 エヘンと胸を張る一原先輩。 「志望校を考えれば、まだまだ足りない位ですけどね」 「雨氷(うー)ちゃんキビシー」 そう言えば、先輩たちはどこの大学を狙ってるのだろう。 雨氷先輩は学内でもかなり成績上位者で、一原先輩の成績は―――ムラがある。 期末試験で一位を取る時もあれば、掲示板の上位者発表に名前が載らないと気もある。 そう思って聞いてみると。 「「東大」」 と2人から即座に答えが返ってきた。 「東大って……東北の大学全般とかそーゆーオチじゃないんですよね?」 あまりにあっさり言ったので、俺は聞き返した。 「さすがにそこでネタに走らないわよ」 「私や会長の成績なら、困難ではあっても全く実現不可能と言う程ではありません」 「まぁ、そうかもですけど意外ですね。氷室先輩ならともかく、一原先輩が学歴とかちゃんと考えてるなんて」 「御神ちゃん、私のこと何だと思ってるのよ……。まぁ、それはともかく、思うところがあってね」 「思うところですか?」 「そう、この一原百合子には『夢』がある!」 と、背景に『ドドドドド!』と言う擬音が欲しいポーズで先輩が言った。 「将来この国を、ノーテンキラキラに笑って暮らせる良い国作ろう鎌倉幕府にすること!」 「おお!」 発言は頭悪いし具体性は欠片もないが、言ってることは非常に立派だ! 「そしてぇ!私はそのトップで誰よりもノーテンキラキラな極上幸せ生活をエンジョイするのよ!」 「おい」 結局は私欲かよ。 「Oh,ユリコ。Youのユメはいつ聞いても素晴らしいデス」 横でエリス先生がハンカチ片手に感涙していた。 それで良いのか教育者。 「myselfをハッピーに出来ないヒトがyourselfをハッピーにはデキマセン」 そこを突っ込むと、至極真っ当な言葉が返ってきた。 確かにそうかもしれない。 ただ、一原先輩の日ごろの行いを見てるとストレートに尊敬できないんだよなぁ……。 女の子ばっか追いかけてる人、というイメージが強すぎて。 「まぁまぁ。私らのことはともかく、御神ちゃんも座って座って。お弁当持ってきてるでしょ。それも広げてさ」 と言う先輩の言葉に、俺は流されるままに席に付き、隣の三日にお弁当箱を渡す。 勿論自分のも取り出しいただきます。 他の面子もめいめい弁当を取り出していた。 「あ、このお菓子は適当に摘まんでねー」 と、一原先輩たちが市販のポテトチップスやチョコレートも広げる。 ジュースまで用意され、ちょっとしたパーティーみたいだ。 475 :ヤンデレの娘さん 暴露の巻 ◆3hOWRho8lI:2011/07/29(金) 21 07 23 ID 2AmFjdJU 「しっかし中等部時代ですか。そんな面白いネタがあるとも……」 「はいはーい!一番、一原百合子行っきまーす!!」 俺の言葉を無視して挙手する一原先輩。 「どうぞ」 進行役なのか、氷室先輩がそう言うと、一原先輩は立ち上がり、キメ顔を作る。 「俺は、自分の目で見た物しか信じない」 いかにも男声を作ってますよ、という声音だった。 「だから、俺は心とか友情とか信じません。目に、見えませんから」 フッ、と言いたげな仕草をする先輩。 って言うかコレって…… 「以上、御神ちゃんが初対面でかましてくれたイタい台詞でしたー!」 「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」 覚えてたのか! そんなつまんない台詞覚えてたのか! いや、実際言ったけど忘れていて欲しかった! 「…千里くん、そんな深遠な哲学をお持ちだったのですね」 「いっや深遠じゃないから!って言うか今すぐ忘れて!」 「嫌です!」 「こんなとこだけ即答ですかー!」 三日にだけは知られたくない、イタい過去だった。 「まぁ、御神ちゃんにも中二病を発症していた過去があったということで!」 人のトラウマスイッチを押しまくった女が、イイ笑顔でそう言った。 「…すごい。…あの千里くんが見事なまでに玩具にされています」 妙な所に関心する三日。 「二番手は私ですね」 俺の心理的ダメージをスルーして、氷室先輩が立ちあがる。 「こういう場合、公平に私の恥ずかしい過去も暴露しておくべきでしょう」 いや、その理屈はおかしい。 「当初、私は御神後輩が会長に懸想している物と勘違いしていました」 「それは恥ずかしい勘違いだね!」 氷室先輩の心を笑顔で抉る愛華さん。 「・・・何で千里くんまで渋い顔をしているんです?」 「いや、その勘違いのお陰で随分な目に合ったからさ」 その勘違いのお陰でナイフで刺されかかったり、そうした勘違いをした他所の女の子を守るためにスタンガン突きつけられたりね。 実のところ、一原先輩を尊敬する先輩として(一瞬だけ)見たことはあっても、それが好意に発展したことは無い。 「半分以上はあなたのせいでしょう」 「いやその理屈はおかしい」 自分が悪いとはかけらも思っていない氷室先輩だった。 「・・・ひょっとして、千里くんの危機順応力ってその頃に身についていたりします?」 「だね、氷室先輩とやりあったお陰で縄抜けやら護身の術やら見に付いちゃいましたよ」 「ある意味、御神後輩は私が育てたといって過言ではありませんね」 「自分の悪事を省みない発言どうもありがとうございます、氷室先輩」 「私は神に誓って過去一切罪を犯していません」 堂々と言いやがった、氷室先輩(このおんな)。 「御神ちゃんはいつでも女の子のために奮闘してたわよねー」 そのやり取りを横から見ていた一原先輩が笑いながら言った。 「・・・なん・・・ですと・・・」 先輩の言葉に、どこぞのバトル漫画のように驚愕する三日。 「いやね、うーちゃんの時もそうだけど、御神ちゃんって何かと女の子に力を貸すことが多くってさー」 「その女の名前を全て教えてください!いえ教えなさい!」 一原先輩に対してすごい剣幕で詰め寄る三日。 「ちょっと待てい、それを聞いてどうするつもりだ」 それを押さえる俺。 「その時のイベントの結果、千里くんとフラグが立っていたら皆殺します!」 「殺すなよ。っ言うか立ってないし」 「・・・立たないんですか?」 「現実とゲームを一緒にするな」 きょとんとする三日に、俺は嘆息しながら答えた。 「・・・そうは言っても、千里くんって女の子にモテる方ですよね、実のところ」 「酷い誤解だ」 三日も葉山と同じ種類の誤解をしていたらしい。 「そーいえば、御神ちゃんが女の子とお付き合いしたって話聞かなかったわね」 「ええ、私の知る限り、緋月三日後輩が初めてです」 一原先輩と氷室先輩がウラを取ってくれる。 「・・・でも、どうしてでしょう?千里くんのような素晴らしくて優しい人なら、河合後輩のように下手な女がコロリと参ってしまいそうなものですが」 三日のその純粋な言葉に、背景で吹く一原先輩と氷室先輩。 「しょ、正直御神ちゃんの中二病時代知ってるから・・・・・・・」 「て、手放しで褒められると、お腹が痛・・・・・・」 「お前らあああああああああああああああああ!!」 俺を何だと思ってるんだろう、コイツらは。 先輩でなかったらブン殴ってるところだ。 476 :ヤンデレの娘さん 暴露の巻 ◆3hOWRho8lI:2011/07/29(金) 21 09 07 ID 2AmFjdJU 「学級の中でも、女友達はいても恋愛関係に発展しそうな件は稀でござったな」 と、冷静に分析するのは、実は現在同じクラスだったりする李だ。 俺と話したことは多くない筈だが、良くクラスを見ているようだ。 「所謂、いい人止まりってヤツ?」 どこかからかうように霧崎が言った。 「ま、そんなところー。今まで積極的にカノジョとか作ってなかったのもあるけどね」 「そこいらは、割ときっちり距離取るタイプよね、御神ちゃん」 合点するように言う一原先輩だけど、残念ながらハズレ。 「んー、何て言うか友達の距離感と恋人の距離感とかって良く判んないんですよね。近づきすぎたらウザいですし」 「あー、確かにそれはウザい」 一原先輩はナチュラルに同意するが、周囲の生徒会メンバーが一様に目を逸らすのは何故だろう。 「・・・距離感、ですか」 神妙な顔をする三日。 「あー三日は気にしないでいいよ。三日みたくそっちからザクザク入ってこられると逆に助かるしー」 「・・・ありがとうございます。…って、え、あれ?…ザク…ざ、く?」 俺の言葉に礼を言ってから不思議そうな顔をするけれど、不思議に思う要素がどこにあっただろうか。 三日ほどこちらの距離に近づいてくる相手は無いと思うのだが。 「まー、御神ちゃんも恋人にすると死ぬほどメンドいタイプよね」 「失礼な」 「勝手に三日ちゃんのお弁当を作ってきたり」 「ウグ」 いきなり反論できなくなった。 「そういう風にイロイロやって、相手がウザがると『こんなに尽くしてきたのに!』って思っちゃうタイプ」 「あう・・・・・・」 否定できない。 表に出すかはともかく、そういう『努力に見合わない結果』って言うのはかなりキツい。 「・・・九重かなえのときも、そんな感じだったんですか?」 「かなえちゃんのとき?」 不思議そうにそう言って、こちらの方をジト目で見る一原先輩。 「なぁに、御神ちゃん。三日ちゃんに昔の女の話をしたわけ?デリカシー無いわねぇ」 「誤解を与えるような言い方しないで下さい。他所で話しているのを偶然聞かせちゃったんですよ」 と、俺は先輩に説明した。 「・・・昔の女、やっぱり・・・」 ゴゴゴゴゴゴゴ、と横で黒いオーラを纏い始める三日。 もう1人、誤解を解くべき人間がいるようだ。 「落ち着いて、三日。俺と九重がそういう関係だったことは一瞬たりとも無かったから」 「むしろ、御神ちゃんの片思いだったもんねぇ」 「そうですね」 うんうんと頷く一原先輩と氷室先輩。 「あなた方・・・・・・」 と、俺がジト目で見てやると、 「うん、気づいてた」 「ある程度あなたの性格を掴んだらすぐ判りました」 あっさりという先輩コンビ。 ちなみに、当時2人はそんな素振りかけらも見せていませんでした。 「・・・カタオモイッテ、ドンナカンジデシタカ?」 うっわ、三日の声から感情が消えうせてる。 ついでに黒いオーラの濃度が増してる。 「何て言うか、御神ちゃんの姿は見てて居た堪れないというか痛々しいというか」 「・・・タトエバ?」 「いつも一緒にいたと言うか」 「いつも九重後輩についていったと言うか」 抑揚の無い三日の言葉に、一原先輩と氷室先輩は言った。 「あー、よく屋上で添い寝とかしてたわよね、2人して」 「誤解を招くような言い方をするな」 一原先輩の言葉に抗議する。 『添い寝』という言葉から連想されるような嬉し恥ずかしな展開は全然全く悲しいくらいに無かったので念のため。 「・・・ソレカラ?」 「親切をすると、」 「スルーされる」 「勇気を出した遠まわしな口説き文句は」 「いなされる」 「熱い視線を向けると」 「目をそらされる」 「最後の手段、愛情こめたお弁当は、」 「『まー、フツー?』」 「「って感じ」」 夫婦漫才のようなテンポで説明した先輩コンビの言葉に、三日の大切な何かがブチンと切れた。 477 :ヤンデレの娘さん 暴露の巻 ◆3hOWRho8lI:2011/07/29(金) 21 11 15 ID 2AmFjdJU 「ムギャー!」 ハサミ、カッターナイフ、十得ナイフ、ダガーナイフ、伸縮式警棒、ワイヤー、アイスピック、妙なスプレー、スプーン、包丁、お玉etcetc 凶器という凶器を雨のように周囲にブチまける! って言うかどこに隠してたんだそんなモン!? 「うわぁ!」 ソレに対して思わず距離をとり、物陰に隠れる一同。 「ココノエカナエココノエカナエココノエカナエココノエカナエココノエカナエココノエカナエココノエカナエココノエカナエエエエエエ!」 ついでに、どこからともなく大鉈を取り出し、めちゃくちゃに振り回す! 「ちょっとどうしてこんなことになっちゃうのよ!?」 「こうならない方がおかしいでしょうが!」 暴風のごとき三日の狂行を避けながら、俺は一原先輩にツッコミを入れる。 「なんだか知りませんが、こうなったらころしてでもとめるしか―――」 「俺に任せてください!」 物騒な行いに出ようとした氷室先輩たちに先んじて、俺は三日の方に向かう。 振り回す手が広がったときを見計らってソレを掴むようにタックル。 そのまま床の上に押し倒す。 「三日、三日、落ち着いて。大丈夫だから」 「ココノエカナエココノエカナエココノエカナエココノエカナエ」 「アイツは、九重は過去のこと。もう終わったことだから。それに、多分俺はアイツと一緒になっても幸せになれなかった!」 「ココノエカナエココノエカナエココノエカナエココノエカナエアアアアアアアアアアアアアアアア!」 「俺は!お前といてこれでもそこそこ―――幸せだ!」 言った。 言っちまった。 こんな大勢の前で。 恥ずかしい。 死ぬほど恥ずかしい。 けれども。 俺の言葉に三日は動きをピタリと止めた。 「・・・しあ、わせ?」 驚いた様子の三日に俺は無言で頷いた。 「・・・私といて、幸せですか?」 再度頷く。 実際、三日はいつも俺と寄り添ってくれようと、必死で、ひたむきで。 そうした姿勢に、ささやかながら救われない日なんて―――今まで1日たりとも無かった。 「・・・九重かなえと一緒にいるときよりも?」 「かも、ね。アイツといる時間の心地良さは、幸せとはベクトルが違ったから」 「…そうですか」 良かった、と三日は言った。 そして、俺たちは三日が暴れて散らかった生徒会室を片付けた。 そのことを三日と一緒に生徒会役員達に謝ることも忘れない。 三日はまだ落ち着いていないというか、不承不承といった感じだったが、一原先輩は笑って許してくれた。 それから、改めて暴露大会再開。 俺は、九重といた過去を、静かに説明し始めた。 478 :ヤンデレの娘さん 暴露の巻 ◆3hOWRho8lI:2011/07/29(金) 21 12 07 ID 2AmFjdJU 「あの時、俺は友達がいなかったからなぁ。だから、同じく友達のいない奴がいるってのはそれだけで救われた」 「・・・いなかったんですか、お友達」 「だね。途中から葉山が気まぐれだか動物的感だかで絡んできたけど、それまでは一生に1人も。だからまぁ、九重が初めての友達って言ってもいいな」 「・・・私にとっての、朱里ちゃんみたいな、ですか」 「え、そうなのか?」 「・・・はい。入院生活が長くて、小学校はあまり通えなくて、中学でも、上手く人付き合いが出来なくて」 「それで、明石が」 「・・・はい」 「お前が会ったのが、明石で良かったかもな。タイプが違うから。俺と九重はベクトルが似すぎてた。誰とも心を通じ合えず、誰にも心を開かなかった」 「そうね!だからかなえちゃんに会ったときにビビッと分かったわ!この娘に必要なのは仲間だ、ってね!」 静かな会話を、一原先輩がブチ壊した。 「そんなきちんとした考えを持って、九重を生徒会に入れたんですか?」 「ああ、ゴメン。何も考えて無かったかも」 「だから、俺も生徒会に入ったんですよね。先輩から九重を守るために」 「もしかして気づいてた?私がかなえちゃんに惚れてたの」 「はい、何となく」 うん、昔っからこんな調子なんだよな、この人。 「お陰で、何度九重後輩を暗殺しにかかったか・・・・・・」 困ったように嘆息する氷室先輩だけど、明らかにあなたは加害者側です。 お陰で、何度九重を命の危機から切り抜けさせることになったか。 「・・・でも、何で千里くんはその九重という女に堕ちたんですか?・・・聞く限りでは随分嫌な嫌な嫌な人みたいですけど」 やれやれ、三日も随分耳の痛いところを突いてくる。 「そのときの俺も、嫌な嫌な嫌な奴だったからなー。『嫌な奴で良くない?』って言ってくれたのはアイツが初めてだったし」 「・・・千里くんを肯定してくれた人だったんですね」 「だね。アイツがいなければ、今の俺はなかった。そう胸を張って言える」 たとえ傷を舐めあうような関係だったとしても、その頃の俺には傷を舐めあうことが必要だったのだろう。 「ま、同類だからこそ九重は俺になびかなかったのかもなー。人は自分に無い物を求めるって言うし」 そもそも、九重はどう思っていたんだろう、俺のこと。 軽蔑?嘲笑?同族意識? 決して本心を明かさない女だったので、今となっては判らないが。 ここにあるのは、ただ俺のいて欲しいときに九重がいてくれた、という事実だけだ。 「・・・いな」 と、三日が呟いた。 「・・・悔しいな。・・・本当なら、そこには私が居たかったのに。その頃千里くんに会っていれば私がそこにいられたと断言できません」 それが、たまらなく悔しいのです、と三日は言った。 拳を強く握り締めて。 「今居てくれる。それだけで十分」 その拳を両手で包み込み、俺は笑った。 「俺だって、過去の弱っちい頃にお前と会っていて、お前と居られたかは分からないしさ」 俺の言葉に、コクンと頷く三日。 思えば、俺は三日のことを意外と知らない。 俺が弱かった頃、もしかしたら三日も弱かった頃だったのかもしれない。 比翼の鳥には、共に羽ばたくだけの強さが必要なのだ、両者共に。 「御神ちゃん、やっぱりビミョーに中二病残ってるわよねぇ」 「人の心を読まないで下さい」 当然のように茶々を入れた一原先輩に、俺はツッコミを入れた。 「それほりも、何か面白いネタ無いですかね?」 「んー、アレとかどう?御神ちゃんが恋のキューピッド役をやった話」 「アレも大概にして大変でしたけどね」 「…それ、興味深いですね」 「ゾクゾクするでしょ?」 こうして、賑やかな放課後がなんとか無事に過ぎて行った。 479 :ヤンデレの娘さん 暴露の巻 ◆3hOWRho8lI:2011/07/29(金) 21 12 33 ID 2AmFjdJU おまけ 「それでは、失礼しますね」 「…本日は、ありがとうございました」 その後、和気あいあいと思い出話に花を咲かせ、御神千里と緋月三日は生徒会室を去って行く。 「昔の俺、格好悪かったでしょ、三日」 「…いえ、むしろ千里くんは昔から千里くんだったんだなって分かって嬉しかったです」 「ソレ成長してないってこと?」 「わわ…違います違います」 「分かってるって」 そんな風に遠ざかって行くやり取りを、生徒会室で役員達は聞いていた。 ある者は笑いながら、ある者は苦笑しながら。 いずれにしても、何のかんのと言いながら、あの2人は似合いのカップルだ、と言うのが彼女らの総意だった。 緋月三日もそうだが、御神千里も大概にして相手に参っている。 「これでアナタの願いに叶えられましたかね、緋月先輩」 2人のやり取りが聞こえなくなった生徒会室で、一原百合子は呟いた。 「十分すぎるくらいでしょう」 と、氷室雨氷が百合子の紙コップにジュースを入れながら答えた。 「ありがと、うーちゃん」 雨氷に微笑みかける百合子。 その笑顔に、雨氷は目をそらす。 照れているのだ。 「しっかし、かなえちゃんかぁ」 紙コップに口を付けながら、百合子は言った。 飲んだジュースの味はするのに、思いはどうにも苦かった。 「やはり、思うところはありますか」 「まぁ、ね」 重いため息。 後輩達の前では見せなかった、暗い表情だ。 この辺りの気遣いを天然でやっているのだから恐れ入る、と雨氷はいつも思う。 「これまで、生徒会として、一個人として学園の誰かのために尽力していた貴女が―――」 「そう、私が唯一、そのヤミを」 「「救えなかった相手」」 百合子と雨氷の声が、重く、暗く、唱和した。