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Yandere ヤンデレ【やんでれ】 精神的に病ん(ヤン)でいるのではないかと思われる程、対象に異常なまでの愛情を注ぎ込む(デレ)キャラクター(主に女性)を形容する言葉。 愛情を募らせるあまり病んだ状態になる場合も含まれる。 大倉都子 『4』の幼なじみキャラである大倉都子がシリーズ初のヤンデレキャラとして話題になった。 彼女に電話をし続けて情報キャラから攻略キャラに昇格させ、ある程度進めていくと主人公が彼女を傷つけるイベントが発生。 (主人公のパラメータが高い状態で攻略キャラにすると、その後何もしなくても自動的に上記のイベントが発生する事もある) このイベント後に彼女は友好(ヤミ)状態になるが、この状態でのBGMや都子のグラフィックは不気味なものになる。 そして友好状態から更にイベントを進めていくと、今度は主人公と都子が仲直りするイベントが発生する。 その後の彼女はときめき(デレ)状態になり、グラフィックがストレート系からポニーテールへ変化し、それと同時にBGMもおどろおどろしい曲から爽やかな曲に変化する。 (ときめき後に他キャラとデートをすると一時的にヤミ状態に戻る。この場合は一晩で元気になるが) 彼女を攻略キャラに昇格させて友好(ヤミ)以上になると、一切の情報(電話番号や評価)が聞けなくなるので注意。 特にこの後に新しくキャラを登場させてしまうと、上記の通り面倒な事になる。 更に、都子と遭遇する度に50%の確率で傷心度上昇という他キャラ全員の傷心度が10上昇してしまう、名前そのままかつ恐ろし過ぎるマイナス特技を仕掛けてくるが、これに対しては心の開錠術で対策できる。 とどめはお小遣いの供給が絶たれてしまうという具合に正常な進行が極めて困難になる。 主人公側としては、他キャラとのデートを途切れされる事なく続けて都子を友好(ヤミ)状態にしたまま卒業式を迎えたり、他キャラとのデート後や下校イベントで他キャラに化けているうさぎさんを倒して、止められたお小遣い以上のリッチを巻き上げるなどの報復手段もあるが、そもそも彼女をこのような状態にしたのは主人公であるのだから、極力最後まで面倒を見るべきではなかろうか。 不用意な言葉で都子を傷つけたのは主人公とはいえ、それに対する反応が凄まじ過ぎるような気もするが。 都子本人だけを攻略するのであれば特に実害はないが、そうでない時はトリプルデートの存在にも注意が必要である。 このイベント前に都子を友好(ヤミ)にしていると、ここで登場したキャラの情報が聞けずに爆弾処理がまったく出来なくなってしまう。 同時攻略をするのであれば都子を友好(ヤミ)状態にするのはトリプルデートの後にしよう。 (余分なキャラを連れてこないキャラが本命ならこの限りではない) なお、友好(ヤミ)状態だと半数近くのデートスポットやイベントに誘えなくなり、デートでの三択でも正解が天の邪鬼になったりと一筋縄ではいかなくなるので、不安ならデート前にセーブしておくと良いだろう。 友好(ヤミ)状態であってもバレンタインデーには義理(本人談)チョコをくれる。 何やら怪しいものが入っているようでもあるが…。 誕生日プレゼントに関しては、友好(ヤミ)状態の時は休日もしくは長期休暇中に限り貰える。 このように色々なヤンデレとしての顔を見せてくれる(無理矢理見せつける?)都子であるが、主人公に甘えているというか何とか気を引こうとしているような姿も散見される。 いじらしいと見るか、薄気味が悪いと見るかはプレイヤーの好み次第であろう。 ヤミ状態の都子は一部で「闇子」と呼ばれることもあるが、コナミの「クイズマジックアカデミー」に登場する「マラリヤ」はこのときの都子と雰囲気が似ている。 なおトーキョーグリモワールでの日本人名風通り名では「毒島闇子」となっている。 そのほかのヒロイン また『2』では本人を攻略する際は天使だが、他のキャラを攻略する際はデートの誘いを連発&爆弾魔と化してしまう陽ノ下光を広義でヤンデレと言う場合もある。 光がときめいている状態で爆弾が発生し傷心イベントに出現した際に、顔を赤くしたまま「……」と無言で去っていく事がある。 どういう仕様になっているのかは不明だが、悲しい顔や怖い顔をされるより逆に恐ろしく、ヤンデレの一種と言えよう。 更にGSシリーズの女友達は、普段は頼もしい親友だが、彼女達の片思いキャラを攻略する際はゲーム中&現実にもストレスを溜めてしまう嫌味キャラと化してしまう。 特に『GS1』の紺野珠美は通常時とVS状態では他キャラより差が大きいので、ある意味ヤンデレと言えるのかもしれない。 関連項目 用語 大倉 都子
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9 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 前編 ◆DSlAqf.vqc :2011/01/03(月) 19 14 48 ID AFjyYqDO 『私はね、類まれなる・・・フコウモエ・・・なんだよ』 「何ですって?」 自室。 飾り気のない、黒の携帯電話の向こうで発話された月日さんのアホな台詞に、俺は思わず聞き返した。 緋月月日さん。 緋月三日のお父さん。 和装仮面。 ゴツい首輪に長い鎖。 電話の向こうで今身につけているのは作務衣か着流しか。 この人とは夏休み前に初めて会って以来、ちょくちょくこうして電話やメールをしてくるのである。 夏休みに入った今となっては、ちょっとしたメル友である。 ・・・・・・あんまし歓迎したくないけど。 ちなみに、三日とは電話はしてもメールはしない。 そもそも、携帯電話を持っていないのである。 『不幸に萌えと書いて『不幸萌え』さ、人の幸せよりも不幸に萌えを見出す、新時代の・・・スタンダード・・・』 「いやな新時代ですね」 って、言うか『萌え』とか分かるのか、この人。 『・・・マジメ・・・な話』 と、月日さんは話を続ける。 『幸せなヤツを見つければ不幸にしたくなるし、誰かを幸せにするくらいなら・・・フコウ・・・にしたい。私が・・・ツマ・・・と・・・ムスメ・・・双方と関係を持っている現状を維持しているのはだからだよ。言いかえれば、二日とレイちゃんは私を愛し愛されているからこそ不幸なのさ』 月日さんはそう、自らの、そして自分の家族の異常をあっさりと認めた。 「・・・・・・前に、家族のことを『・・・タベチャイタイ・・・くらい愛してる』とか言ってたじゃないですか」 『ああ、それは・・・ウソ・・・』 「んな!?」 『と、いうのはそれこそ・・・ウソ・・・さ。・・・アイシテル・・・からこそ笑顔ではなく泣き顔を見たい。・・・アイシテル・・・からこそ幸せな姿ではなくて不幸せな姿を見たい。これはもう理屈ではなく・・・ショウドウ・・・だね。・・・リセイ・・・ではどうしようもない』 月日さんは他人事のようにそう言った。 『だから、三日がキミに恋をしたことを知ったときは小躍りにコサックダンスをするほど・・・ヨロコンダ・・・ね。『ああ、あの子がどこの馬の骨とも知れぬ・・・ロクデナシ・・・に引っかかった』ってね』 ロクデナシらしい、俺は。 『ただまぁ、新しい家族になるキミの存在が私たちにどう影響するか分からないから色々と・・・シラベ・・・させてもらったけどね。その上で、君に実際に会ってみて、我が家に相応しいかどうか・・・タメソウ・・・ということになった』 「試されてたんですか?」 それは、初耳だった。 しかし、言われてみれば思い当たる節は無くもない。 二日さんは何かと「失点」だの「加点」だの言ってた気がするし。 口癖や決め台詞とかじゃなかったのか、あれ。 『そう、言ってみれば試験、いや・・・ニンゲンシケン・・・というわけだね、ウフフ』 「そりゃ、あのラノベに出てくる妹萌えの殺人鬼とあなたじゃ、変態度でいい勝負できるでしょうがね」 『否定はしないよ、…ザレゴト…だけれどね』 月日さん、『戯言』好きっぽい。 いっそ仮面も狐面にすれば良いのに。 『キミはもう、3人の内の2人に会い、・・・セイサ・・・されている』 俺の言葉をスルーして、彼は続ける。 3人、ということは二日さん、月日さん、零日さん、ということだろう。 一日さんは……まぁ、あんなことになってるし。 「そりゃどうも」 『二日による一回目は合格、私の二回目は―――まぁ・・・ギリギリ・・・補欠合格としておこうか』 「ギリギリ、ですか」 『そう、・・・ギリギリ・・・。・・・トハイエ・・・、それはむしろ誇るべきところだ。無条件に合格していたらキミは、人を・・・フコウ・・・にするのが大好きな駄目人間ということになるのだからね』 自分が駄目人間だという自覚があるらしい月日さん。 って、ちょっと待て。 10 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 前編 ◆DSlAqf.vqc :2011/01/03(月) 19 15 46 ID AFjyYqDO 「その理論だと、月日さんの合格基準って『人を不幸にするかどうか』ってことですか?」 「・・・ソノトオリ・・・」 電話の向こうで、月日さんがニィと笑った気がした。 「キミは人並み程度には・・・ゼンリョウ・・・な人間だよ。大切なのはこの・・・ヒトナミ・・・という部分さ。これは・・・イッパンロン・・・だが、人間は自分が思っているほど他人に優しくなんてない。むしろ、他人に対して非常に・・・ザンコク・・・だ』 先ほどから変わらない落ち着いた口調で、しかしどこか意地悪く、月日さんは言う。 『何しろ、他人の・・・イタミ・・・なんて自分にとっては痛くも痒くも無いからね。よく学校では『人の痛みのわかる人間になりなさい』なんて・・・キョウイク・・・されるけど、逆説的に言えば、それは人の痛みが分からないからこそ言われるのだろうさ』 「人並み程度の善良さは人並み程度の残酷さとイコール、ってことですか」 『・・・ソ!・・・ノ!・・・ト!・・・オ!・・・リ!・・・!!』 月日さんが今まで聞いたことの無いような大声を出した。 『キミはキミが思っている以上に残酷で、キミはキミが思っている以上に残虐で!ソシテ!キミはキミが思っている以上に三日を不幸にする・・・カノウセイ・・・を秘めている』 圧倒的なテンションで、月日さんが言う。 圧倒されるテンションだった。 『私は正直、キミが三日を不幸にする日が楽しみで楽しみで・・・シカタナイ・・・!幸福は・・・タイクツ・・・の同義語だ。三日を・・・オモシロク・・・してくれることを期待しているよ』 「・・・・・・さすがに」 そこで、俺はやっと言い返す。 「さすがに、そのご期待には応えられそうにありませんね。昔っから苦手なんですよそういうの。むしろ、台無しにしてしまうって言うか。貴方を台無しにしたくなるって言うか」 『・・・ダイナシ・・・。それもまた・・・ヨシ・・・』 電話越しに、クククと笑う声が聞こえる。 『・・・フコウ・・・にしても・・・ダイナシ・・・にしても、次もキチンと合格してくれよ。試験はもう・・・イッカイ・・・残っているのだから』 意味ありげに言葉を切り、月日さんは続ける。 『精々…シメキリコロサレ…ないでくれよ?』 一方的にそう言って、電話が切れた。 こちらもスイッチを切り、軽くため息をつく。 「緋月月日さん、か。やっぱ苦手だなー」 どうにも食えない人だ。 どこまでがウソでどこまでがホントか、どこまでが本気でどこまでが冗談か全然分からない。 家族に関して酷薄なことを言ったかと思えば愛しているとも言い、人の倫理観を逆なでするようなことを言ったかと思えば―――警告じみたことを言ったりもする。 「試験ってのがどこまで本当かはともかく、『三日を不幸にするな』って言ってるようにしか聞こえないっての」 自ら家族の脅威となることで危機感を生み、倫理観を逆なですることで正義感を煽る。 見事なまでに、あの人に誘導されたような気がする。 まぁ、あの人がどこまで『三日のため』にやってるのかは怪しい部分はあるが。 もしかしたら本気で不幸を望んでいるだけかもしんない。(そうでないかもしんない) もしかしたら言ってることの全てが嘘かもしれないし本当かもしれない。 ある意味、マジメに相手にするのがこれほどバカらしい相手もいない。 なので、マジメに相手にしないことにしよう。 「明日はみんなと夏祭りに行くんだし」 11 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 前編 ◆DSlAqf.vqc :2011/01/03(月) 19 16 57 ID AFjyYqDO 学園からほど近いところにある神社。 所狭しと並ぶ屋台。 お囃子の音と人々の声が賑やかに聞こえる。 俺は縦縞の飾り気の無い浴衣の裾を揺らし、慣れない下駄をカランコロンピッタンコとならしながら、待ち人の姿を探す。 もっとも、見つけるのは待ち人の方が早かったらしい。 「・・・千里くん!」 そう言って俺の方に駆け寄ってくるのは緋月三日。 浴衣姿に、かんざしで髪をまとめたスタイルが普段と違って新鮮だ。 服に着られてるきらいのある俺と違って白い浴衣を如才なく着こなしている。 「や、三日。待った?」 「・・・・・・・・・い、いえ。今来たところです」 ひょいと手を上げて言う俺に、三日が言った。 口下手なせいか話す前にワンテンポ入る三日だが、今回は普段よりも間が長い。 三日は、基本的に嘘が付けないヒトなのだ。 素直ヒトなのである。 「そっか、悪いね」 俺はくしゃくしゃと彼女の頭を撫でてその手を引いた。 「それじゃ、行こうか」 「・・・はい!」 そう言って俺の腕にぎゅーっと腕を絡めてくる三日。 服越しに柔らかい感触を感じ、季節のせいでただでさえ高い体感温度が、頬を中心に一気に上がる。 高鳴る心臓。 フラッシュバックする映像。 はだけた浴衣。 真っ白な肌。 露になる乳房。 「・・・・・・」 頬をぽりぽり掻きつつ俺は三日に合わせて歩を進める。 三日は今、紫陽花の柄をあしらった白っぽい浴衣を着ている。 個人的に、三日と言えば黒のイメージが強いのだが、この前見た部屋着の浴衣のセンスがサイアクだったので俺が新たに見立てたのだ。 あえて今までとは違うイメージのものを見立ててみたのだが結果は大成功。 白い浴衣に、簪でまとめられた美しい黒髪が良く似合っている。 そもそも、三日の顔立ちで和服が似合わないというのがありえないのだが。 ・・・・・・しかし、以前三日を見舞いに行ったときのお陰で、三日+浴衣=エロスという方程式が俺の中でがっつり出来上がっているなぁ。 あの時とは全く違う柄だし、きちんと下着やTシャツを身に着けているとはいえ(見下ろすとシャツがチラリと見える)、脳裏からあの時の映像が離れない。 そんなエロキャラだったか、俺? 確かに、女性と話すのには抵抗は無いが、女性の裸体に対しては免疫無いかも。 って言うか、もしかしてあの時が初めてなんじゃない? 女の子のハダカとか生で見たの。 ・・・・・・うわー。 「…どうしたんですか?」 不思議そうな顔で、三日が俺を見上げてくる。 バカなこと考えてたのがバレたのか? 「ああ、いや。そのカッコ似合ってるな、って思って」 「ホントですか!?」 誤魔化すように言った俺の言葉に、ぱっと顔を輝かせる三日。 スマン、三日。 でも、似合ってると思ったのも本当だ。(言い訳がましい) 12 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 前編 ◆DSlAqf.vqc :2011/01/03(月) 19 17 32 ID AFjyYqDO 「もう少ししたら、奥で葉山たちと合流だったよね」 「・・・ええ。・・・そういう口実(こと)で2人を一緒にしましたから」 「お互い少し早く着すぎちゃったから、今度は少し遅れていってやろうか」 「・・・はい」 内心を取り繕い、そんなやり取りをしながら、俺たちはゆるゆると歩く。 早く着たから遅く行こうとは我ながら妙な理屈だが、これで明石が葉山と2人っきりになれる時間が増える。 クラスメイトである明石の恋路を応援こそすれ邪魔する道理は無い。 「しっかし、この歳で夏祭りってのも不思議なキブンだなー」 「・・・そうですか?」 「まぁ、ガキの頃は全然全く来た事なかったんだけどね、夏祭り。一緒に行くような友達もいなかったし」 昔からこういうキャラでも無かったのである、俺も。 「・・・私も、そんなに来た事無かったです。・・・季節が変わる頃は、体調を崩していたことが多かったので」 三日が言った。 「ふぅん・・・・・・」 そういえば、以前の三日は病気がちだと言っていたし、現在もあまり体力がある方ではない。 なので、こうして2人で出かけることはそう多くない。 デートはもっぱらまったりとお部屋デートである。 「・・・でも、小さな頃に1回だけ来たのを覚えています。・・・お兄ちゃんに連れられて」 三日の兄、一日さん。 三日が家族の中で1番慕っていて、一日さんのほうも三日に世話を焼いていたらしい。 個人的にはあまり会いたくは無い、しかしいつか会わなければならない相手だろう。 「・・・その時も、手をつないでいて。・・・でも気が付いたらその手を離していて・・・離れていて・・・逸れていて」 絶望的なまでに身長差のある俺の目線からは、三日の表情は見えない。 想像してみる。 幼子の三日が祭の人ごみの中に1人取り残されている。 知っている人は誰もいない人ごみに。 誰もが自分に無関心に通り過ぎていく人ごみに。 それは、小さな子供にはそれこそ絶望的な心境なのではないだろうか。 「・・・あの時は、大泣きしました。・・・大泣きして、それから、多分家には帰れたと思うんですけど―――」 「・・・・・・けど?」 俺は、静かに先を促した。 「・・・・・・あの後、どうやって帰ったんだろ。…全然、覚えてないんです」 「・・・・・・」 子供の頃の思い出なんて、印象的な部分しか覚えていない。 そういうものだ。 「・・・お兄ちゃんはきっと、私を迎えに来てくれなかったんです。・・・私を置いて、どこかに行ってしまっていたんです。・・・今なら分かります」 うつむく三日の表情は、絶望的なまでに見えない。 「でも、今は違うだろ?」 「・・・」 俺の言葉に、三日は一瞬押し黙ったが、少ししてコクンと頷いた。 「じゃ、この話題はこれでお終い。今年は今年で目一杯楽しもうよ」 そんな三日の髪を、俺はまたくしゃっと撫でた。 13 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 前編 ◆DSlAqf.vqc :2011/01/03(月) 19 18 22 ID AFjyYqDO それから・・・・・・ 「オ、あんなところに射的があるなー」 俺は、ふと目に付いた屋台の方を見やる。 「・・・得意なんですか、射的?」 「それはもう―――経験すら無い!」 大げさな動作でそう言う俺に、ずっこけそうになる三日。 良いリアクションである。 「ま、こーゆーのは出来ても出来なくても、楽しむのが一番だからね。せっかくだから、やってこうよ」 俺は射的屋のおじさんに料金を払い、コルク銃を手に取る。 「一回三発までだよ」 「どーも」 俺はおじさんに答え、ズラリと並べられた的=景品を見る。 ぬいぐるみやブリキのミニカーなど、古いものから新しいものまでオモチャと呼ばれるものがごっちゃに並んでいる。 「・・・なんか、混沌としてますね」 「まー、似たような景品ばっかでもアレでしょ。なーに狙おうかな?この中に三日は欲しいのあるー?」 「・・・御神くんの、好きなもので」 「じゃあ、三日の好きなものを俺の好きなものにしよう」 「・・・なな!?」 俺のからかいに、真っ赤になる三日。 「・・・えっと、それじゃあ」 三日は並べられた景品を見つめ、その1つを指差す。 細い目の、狐のようなぬいぐるみである。 口にはテープが貼られたようなデザインで、そのテープには『HELP!』の文字が書かれている。 可愛らしい手足は鎖を模したフェルトでぐるぐる巻きにされている。 中々にブラックなセンスに溢れた代物だった。 「ズイブンとこう・・・・・・独特なデザインだね」 「・・・似てませんか、千里くんと」 「・・・・・・そぉ?」 昨日、月日さんに狐面が似合うと考えた後だけに、狐に関しては微妙にフクザツ。 「ま、いいや。狙い撃つぜぇ!」 狙うは一点。気合を入れて、コルク銃を3連射! 「狙い撃つ!!乱れ撃つ!!!」 コルクの弾丸は次々と勢い良く銃身から放たれ―――あさっての方向に飛んでいった。 それどころか。 「あたァ!?」 三発目に至っては、射的屋さんの額にクリティカルヒット。 「うわ、スイマセン・・・・・・」 「ガハハ、大丈夫大丈夫」 額に当たったコルク弾を手で弄びながら、射的屋さんは豪快に笑う。 「それにしても、ココまで当たらないモノだったとはなー」 「いや、お兄さんくらいハズすのも珍しいけどな」 やっぱり、俺は下手らしい。 ま、まぁ、初めてなら仕方ないだろう、ウン。 「そうだ、折角だからお嬢ちゃんもやってくかい?一発だけサービスするよォ」 「・・・い、良いんですか?」 「可愛いお嬢ちゃんには優しくしとけってばーちゃんが言ってたからな」 言って、豪快に笑う射的屋さん。 三日は俺のほうを遠慮がちに見上げる。 14 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 前編 ◆DSlAqf.vqc :2011/01/03(月) 19 18 55 ID AFjyYqDO 「折角だからやってきなよ」 俺は、肩に手をやって言った。 「・・・では、お言葉に甘えて」 射的屋さんからコルク銃を受け取り、三日は構える。 「そんなガチガチじゃぁ、当たるモンも当たんないぜ、お嬢ちゃん」 射的屋さんがそんなアドバイスを送る。 女の子相手になったと思うとズイブンと態度が変わる。 三日はそれを受けて、軽く深呼吸。 改めて構えると、幾分か自然なフォームになっているように見える。 ぬいぐるみに狙いを定め、指先に力をこめる。 コン、とコルクが撃ちだされ、的に向かってまっすぐに向かう。 そして、カコンとぬいぐるみに当たる。 ぬいぐるみは台の上をグラグラと動き―――落下した。 「・・・当たった」 静かに、けれど嬉しそうに三日が呟く。 見事なヒットだった。 「三日、こう言うのやった経験あったの?」 俺の言葉に、三日はふるふると首を横に振った。 ……同じ素人でもこうも違うもんなのか。 って言うかカッコ悪いなぁ、俺。 それはともかく。 「やったな、三日」 「・・・はい!」 俺がそう言うと、三日が満面の笑みで答えた。 15 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 前編 ◆DSlAqf.vqc :2011/01/03(月) 19 19 46 ID AFjyYqDO 「オ、みかみんじゃん」 それからしばらく周りの出店を見ていると、声が1つかけられる。 待ち合わせの時間より一足早く、期せずして葉山たちと出くわしてしまった。 葉山はラフなジーンズに、麦わら帽子を被った海賊旗をあしらったシャツ、バスケで鍛えた腕の目立つ袖の無いジャケットのストリート系っぽい服装。 高校生としては適度に童顔のもあり、こうした出で立ちでもどこか愛嬌がある。 「ン、お待たせ。はやまん」 「思ったより早く合流できて何よりだぜ」 「むしろ遅くても良かったんだけど、って言うか遅い方が良かったんだけどなー」 「何の話だ?」 「こっちの話ー」 そんなやり取りの横では、明石が立っている。 水泳で鍛えたスマートな肢体を、比翼の鳥の柄をあしらった華やかな柄の浴衣で包んでいる。 それだけでも道行く男たちの視線を独占できそうだが、身につけている肝心の本人はその全てを帳消しにするような、どこか疲れた表情をしている。 「・・・どうしたんですか、朱里ちゃん」 「・・・・・・正樹とのフラグがたたない」 「・・・心中、お察しします」 小声で聞く三日に、同じく小声で、というかゲッソリとした声で答える明石。 鈍感も極まると難儀なモンだ。 いやまぁ、三日と付き合う出す前の俺も似たようなモンだったんだろうけど。 いくら三日が尾行に長けているとしても、存在すら気が付かなかったもの。 (実際、三日の尾行はプロ並だ。最近でも、気が付いたら後ろに彼女が立っていたということも珍しくない。) 「ありゃ、御神先輩たち―――とユカイなお邪魔虫先輩じゃないですか」 その時、並んでいる出店から声がかけられる。 「あ、河合さんたち。やってるねぇ」 「どうしたのアナタたち、こんなところで」 後輩の河合直子をはじめとする、出店の中の見知った顔に俺と明石が答えた。 「ウチの料理部も、有志でお店出させてもらってるんですよ!」 事情を知らなかった明石に、河合さんが親指を立てて答える。 「先輩たちもいかがっすか、オレらの沖縄風焼きそば。お安く―――はしませんけど」 料理部の男の子が、俺たちに声をかける。 折角だから、買っていこうかな。 「じゃあ、さっそく―――」 「・・・駄目です、千里くん」 財布を出そうとする俺に、三日からストップがかかる。 「・・・そんなお邪魔虫後輩が作ったものなんて虫が付いているに決まってます。…ばっちぃのです」 「ちょっと緋月先輩!?」 三日の言葉に抗議の声を上げる河合さん。 河合さんの方が先に三日のことを『ユカイなお邪魔虫』呼ばわりしたので、フォローできないのだが。 そうは言っても、料理部の友人や後輩たちが頑張って作ったものだから、いただいていきたいのも本音。 「んー、じゃあ三日。折角だし2つ買って行ったら?」 「・・・千里くんがそう言うなら」 財布から小銭を出し、焼きそばを2つ購入する三日。 1個分のお金は、後で彼女に返すことにしよう。 葉山や明石も購入し、その場で食べることになった。 3人は大きな豚の切り身の乗った焼きそばをおいしそうに口に運ぶ。 16 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 前編 ◆DSlAqf.vqc :2011/01/03(月) 19 29 57 ID AFjyYqDO 「おいしそうだねー、三日。ちょっと頂戴?」 「・・・はい、千里くんがそう言うなら」 そう言って、同じ容器に入った焼きそばを2人で食べる俺達。 「・・・あれ?」 と、三日が言ったのは2人で2つ分ほぼ食べ終えた後だった。 「なんかこー、目の前でラブラブぶりを見せ付けられただけに終わったよーな気が・・・・・・」 納得いかない表情で俺と三日を見る河合さん。 ちなみに、三日も似たような顔をしているのだがそれはさておき。 「ごちそうさま、文句無くおいしかったよ」 料理部の子たちに俺は笑顔で言った。 「「「ありがとうございまーす」」」 料理部の面子も、これまた笑顔で返してくれたのであった。 17 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 前編 ◆DSlAqf.vqc :2011/01/03(月) 19 31 31 ID AFjyYqDO 狭い水槽の中で、金魚たちが悠々と泳いでいる。 俺は、それをやぶれたポイを通して見ている。 「金魚、全然すくえないねぇ」 「…すぐに、破けちゃいますから」 同じく右手に持った、網ではなく穴と化したポイを見つめている三日。 ちなみに、左手には先ほど捕ったキツネのぬいぐるみが大事そうに握られている。 つーか、こんなんそうそうすくえるモンでも……。 「どーしたよ、お前ら。こっちは入れ食い状態だぜヒャッハー!」 「「何で!?」」 俺たちのすぐ横で、葉山が次々と金魚をすくっていた。 まるで魔法のような手際だった。 「さっすが正樹!『縁日マスターのまーちゃん』と言われただけはあるね!!」 「ガキの時分のハズい渾名を、このタイミングでバラしてんじゃねーぜ!」 明石に言い返しながらも、子供に戻って「ゲットだぜ!」とか言いながらハイテンションで金魚をすくっていく葉山。 「いやー、狩った狩った。ンなに捕れたのはヒサブリだぜ」 数分後、葉山は金魚で溢れた器を手に、満足感溢れる笑顔でそう言った。 20匹以上はいるだろう。 ちなみに、俺たち3人の獲得数は0。 もっとも、明石は金魚を捕りまくる葉山にすごいすごいと言ってただけで、まともにすくっていなかったわけだけれど。 「あ、おじサン。捕った金魚入れる袋4つにしてくんねーか、4つに」 その金魚を袋にいれようとしていた、金魚すくいの屋台のおじさんに、葉山はそう言った。 「なんでまたー?」 そう言ったのは、おじさんではなく俺だった。 「折角こんなに捕れたンだ。みんなで分けよーぜ」 ニッと笑って葉山は言った。 「いーの?」 「いーンだよ。今日の俺はキゲンがいーンだ」 こんな良い笑顔で言われては、というものである。 俺たちは金魚を受け取ることにした。 ちなみに 「ぷれぜんと~、ぷれぜんと~。正樹が私にぷれぜんと~」 と、受け取った金魚を手に、明石がとんでもなく上機嫌になったのは別の話。 18 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 前編 ◆DSlAqf.vqc :2011/01/03(月) 19 33 06 ID AFjyYqDO 「あなた。はい、あーん」 「あーん」 近くで、若い恋人同士がそうやってたこ焼きを食べあっている光景が目に入る。 「ねぇ正樹、アレやろ!じゃなくてたこ焼き買お!」 「お前本音がダダ漏れじゃねーか!」 それを見た明石の言葉に、幼馴染同士の気安さで、葉山が彼女の方を見もせずにツッコミを入れる。 「アレをやらせるとかどんな罰ゲームだよ。俺そんな悪いことお前にしたっけか?」 なおも容赦なく突き刺さる葉山のツッコミに、足を止めてうつむく明石。 何やらブツブツとつぶやき始め、明らかに大ダメージを受けている。 ドス黒いオーラをまとい始めた明石に、親友である三日でさえ軽く引いている。 ちなみに、葉山は横の様子も見ないですっかり先行しているので、その様子に全く気が付いていない。 「ま、まぁ明石……」 「黙れこの泥棒猫」 「はい!?」 何か言って慰めようと声をかけた俺に、明石がドスの効いた声で呟いた。 って言うか泥棒猫とか言われた? 俺が? 男なのに? 何で? そんなことを考えていると、明石が顔をあげた。 「って、私らすっかり置いてかれちゃってるじゃんYO!待ってよ正樹ー!」 そう言って走り出す明石には、「いつも通りの」笑顔が浮かんでいた。 俺は、この時ほど「いつも通り」というものが恐ろしく感じたことは無かった。 「明石……」 「…ガクガクブルブル」 俺と三日は明石の背を見ながら、夏の暑さを吹き飛ばす思いを感じていた。 19 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 前編 ◆DSlAqf.vqc :2011/01/03(月) 19 33 50 ID AFjyYqDO 「オッ、ココのお面屋ってやっぱ色々カオスじゃねーか」 葉山がそう言うように、目の前にズラリと並ぶセルロイドのお面は、確かに雑多な品ぞろえだった。 おかめやひょっとこ、狐面といったいかにもな物や、吸血鬼や猫娘、重し蟹といった妖怪、センタイやライダー、戦線シリーズといったテレビヒーローは年代問わずゴチャゴチャと並んでいる。 何のキャラだか分からないようなのもある。 付けてるだけでネタになりそうだ。 「アレ、これって正樹の好きなキャラじゃない?」 「うわ、これが魔女大帝か!?似てねー!」 そう言って明石と葉山が見たのは、ゴシック服の少女を模したお面だった。 魔女大帝というのは、特撮ヒーロー番組『超人戦線ヤンデレンジャー』(つくづく、よその制作会社に訴えられないか心配な名前だ)に登場する悪役さん。 あどけない少女なのに悪の組織を率いる女ボス、というギャップで世代を問わず人気がある。 着ぐるみではなく、演じている役者さんが素顔を晒して演じているため、このお面ではアニメのキャラクターっぽい姿にアレンジしてある。 しかし、あくまで適当にそれっぽくしているだけのため、どうにも生気の無い目をした、気の抜けた顔の微妙なお面になってしまっている。 生身の人間を造形物でキチンと似せるって難しいしね。 「コレ、えくりんが見たらショック受けんじゃね?」 葉山が言うえくりん、というのは魔女大帝を演じる零咲(レイサキ)えくり(芸名)ちゃんの、ファンによる愛称だ。 零咲ちゃんはキャラクターだけでなく役者さんのファンも多い人で、ファンクラブができているほどらしい。 俺も、一度だけ雑誌のインタビューを読んだことがあるが、明るく素直な印象の、かわいらしい人だった。 あんなコに無邪気な笑顔を向けられれば、ロリ趣味が無くともファンになろうというものだ。 (ちなみに、年齢はなぜか非公開。なので、ファンの間では零咲えくり小学生説と中学生説で議論が紛糾しているらしい。) ついでに言えば、ウチの親の御神万里がメイクを担当する役者さんの1人でもある。 大人気のアイドル的女優も、あの人にかかれば仕事仲間の1人でしかない、というのは不思議な気分だ。 「…あの人の特徴を、よく捉えてると思いますけど」 お面を覗き込んで、三日は言った。 「そう?」 三日はそう言うが、このお面はテレビや写真で見る魔女大帝の可憐な雰囲気を再現してるとは思えない。 今握っているキツネのぬいぐるみといい、三日のセンスは中々にオモシロ変だ。 「…この、目の辺りなんてそっくりです」 「のぞき穴じゃん」 三日の言葉に、俺は思わずツッコミを入れた。 それは、とても楽しいやりとりだった。 20 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 前編 ◆DSlAqf.vqc :2011/01/03(月) 19 37 57 ID AFjyYqDO その後、緋月三日たちは人ごみの中、屋台の中を練り歩いた。 ソース煎餅、リンゴ飴、ヨーヨーすくいなどを周り、祭りを満喫していた。 楽しんでいた。 愉しんでいた。 はしゃいでいた。 夢見心地だった。 気が、抜けていた。 だから… 「あらぁー、誰かと思ったら三日ちゃんじゃない」 ふと、三日に声をかけてくる人物が1人。 「・・・こんばんはです」 その相手に向かって、三日は控えめにお辞儀をした。 スラリとした長身に活動的なファッションをした、ウェーブのかかった長髪の妙齢の美女―――に見える。 「あれ、このヒトみっきーのお知り合い?」 三日に耳打ちする明石。 「・・・えっと、私の知り合いというかなんと言うか・・・・・・」 「皆さん、始めまして」 改めて一同に向き直る『彼女』。 「私の名前は御神万里。御神千里の父よ。皆、いつも息子がお世話になってるわねー」 笑顔でそう言った『彼女』―――いや彼の言葉に、葉山と明石は一瞬フリーズする。 「「「お父さん!?」」」 一瞬後、声を揃えて叫ぶ2人。 幼馴染らしく、息がピッタリだった。 「いやいや待て。確かに言われてみれば確かに中坊ン頃の授業参観とかでお見カケしたことある気がするがよ。それだって、いや『お父さん』って・・・」 「本当よ、葉山くん。いつもセン――― 息子の千里に良くしてくれて、本当にありがとう」 慌てる一同に動じることなく、万里は笑みを向ける。 「・・・ちなみに、私にとってもお義父様にあたります」 「ンもう、『お義父様』なんてよそよそしいわよ、三日ちゃん。ワタシのことは『パパ』でいいっていつも言ってるじゃなーい」 ドサクサに紛れていらん解説を入れる三日に向かって万里は言った。 「いや、でもホント綺麗な女の人にしか見えなくて・・・・・・」 明石が困惑しながらもそう言った。 「きちんと美容と健康に気を使って、自分の魅力を引き出すのに最適なメイクを選べば、人間男でも女でも、若くても年老いてても綺麗に見えるものよ」 「いやメイクって・・・・・・」 「私、一応メイクアップアーティスト、テレビ番組のメイクさんをやってるのよー。今度時間があったら、アナタにメイクさせてもらって良いかしら、明石さん」 「ハイ、是非!!」 「フフ、恋する乙女はいつも美しいものねー」 元気よく言う明石に、万里はどこか慈しむような目を向けた。 もっとも、彼の言う恋する乙女は、心の中で「もっと綺麗になれば、正樹は私に確実に墜ちるわククク…」と美しくない笑みを浮かべているのだが。 21 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 前編 ◆DSlAqf.vqc :2011/01/03(月) 19 38 58 ID AFjyYqDO 「でもみかみんのおじサン、今日はどうされたんです?チョー忙しいって聞いてたんですけど……」 「あー、やっぱりそう言ってる、セン?」 葉山の言葉に苦笑する万里。 「今日はこの近くで撮影だったんだけど、それが早く終わってね。近くでお祭りがあるって聞いたから、カントクの鶴の一声で『じゃあ、行くか』ってなって。そしたら見知った後ろ髪……もとい後ろ姿あったモノだからね」 軽く三日の髪を見て、万里は説明した。 「ホントは連れを探してたんだけど、まぁすぐに合流できるでしょ。せっかくだから、一緒に周らない?」 そう言う万里に、皆は一瞬迷ったが、彼の「奢るわよ」の一言に「ありがとうございます」と首を縦に振った。 「良いわよ、お礼なんて。いつもセンと仲良くしてもらってるし、あなたたちには」 そう言って笑う万里。 「いやー、お前の親御さんマジ良い人だな、みか……みん?」 そう言って葉山は御神千里の方を見上げようとして……ある違和感に気付く。 最初に三日の隣を見上げ、それから辺りを見回す。 上下、左右、前後、上上下下ABAB 「何やってんの、正樹?」 訝しげに声をかける明石。 「いや、その……みかみんの奴さ――――いなくね?」 葉山の言葉に、3人は辺りを見回す。 しかし、人ごみにあっても目立つ筈の御神千里の長身は、どこを探しても見当たらない。 「…千里くんが、いなくなっちゃっ……た」 三日の手から、先ほど射的で手に入れたぬいぐるみが、落ちた。 楽しんでいた。 愉しんでいた。 はしゃいでいた。 夢見心地だった。 気が、抜けていた。 だから、誰も気付かなかったのだろう。 御神千里が姿を消していたことに。 御神千里が今までにない危機に見舞われようとしていたことに。 22 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 前編 ◆DSlAqf.vqc :2011/01/03(月) 19 39 27 ID AFjyYqDO 以下回想 『緋月一日会長のコト?』 自室。 飾り気のない、黒の携帯電話越しから現生徒会長・一原百合子先輩の良く通る声が聞こえる。 『御神ちゃん、最近ズイブン緋月会長……一日会長のコト気にするわね。もしかしてBLに目覚めたとか?それだったら三日ちゃんは私にゆずりなさいよ』 「今更ンなわけねーじゃねーですか」 俺、御神千里はゲンナリとして言った。 「中等部から相変わらずですね、先輩は」 『そりゃ、人間そうそうキャラ変わらないわよ。御神ちゃんもいい加減このキャラに慣れなさいな』 先輩はそう、電話越しにカラカラと笑った。 一原先輩は、中等部時代に生徒会に入って以来の付き合いだ。 このむちゃくちゃな先輩に当時の俺は振り回されまくったものだった。 その過程で彼女の恋人たちから、ナイフで襲われたり、スタンガンを押しつけられたり、縛られたり……。 こうやって思い出すと、三日がいつもやってることがどんだけかわいいものかあらためて分かる。 『私のおかげで、きんろーほーしの喜びに目覚められたでしょ?』 「そうは思いたくないですけどね」 そう言って聞えよがしにため息を吐く。 この人に遠慮するだけ無駄なのは、これまでの付き合いで良く分かっている。 「で、話戻しますけど三日のお兄さんの緋月一日さんのコトですよ。あの人が……その……」 俺が先輩に電話をかけたのには、割と真面目な理由がある。 先日、緋月家にお邪魔した時、月日さんがこう言っていた。 緋月一日は行方不明だ、と。 その後、それについて何回かあの人に聞く機会はあったのだが、何度聞いてもその詳細についてははぐらかすばかりだった。 さりとて、一日さんを慕う三日にも聞きづらい。 なので、一原先輩に聞いてみることにしたのだ。 ……でもなぁ。 情報ソースが月日さんだから信用しきれないんだよな。 事が事だし、どうにもはっきり聞くには躊躇する話だ。 「行方知れずだ、っていう話を聞いたもので」 少し逡巡したが、ハッキリということにした。 事実無根の冗談なら笑ってもらえばいいだけだし。 『……それは、誰から?』 しかし、先輩は珍しく真面目な声音でそう聞いた。 「緋月月日さん、三日たちのお父さんから聞きました」 そう言って俺は、緋月家でのことを要点だけ伝えた。 『……そう』 随分と神妙な声で先輩は言った。 「マジ、なんですね」 『そうね』 憂鬱そうにさえ聞こえる声で、先輩は答えた。 「どう言う事情、なんですかね」 『ソレを私に聞く?』 「先輩以上の適任がいますか?」 俺は即座に切り返した。 軽口では無い。 こう言う場面では、俺は一原先輩に全幅の信頼を置いている。 一原百合子とはそういう人だ。 『ズルい言い方ね。……まぁ、そうかもしれないけど』 パンパン、と手を打ち鳴らし、先輩は言った。 『しっかし、どこから話したモンかしらねぇ』 「最初からお願いします。俺にしてみれば何が何やら」 『おーけー。ま、面白おかしくいきましょ。マジに話して楽しいことでもないし、ね』 そう言って、先輩は話し始めた。 23 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 前編 ◆DSlAqf.vqc :2011/01/03(月) 19 40 30 ID AFjyYqDO 物語はいつだって王子様とお姫様がいるものだけど、これもそう。 王子様は緋月一日生徒会長。 文武両道、頭脳明晰、人類最麗。 どんな造型士が手掛けたのかってくらい形の良い目鼻。 切れ長の、黒曜石のような漆黒の瞳。 白磁に白い肌。 鴉の濡れ羽色をした艶やかな髪。 すごいのは見た目だけじゃない。 1人で何でもできる人だったわね。 私らもズイブンとお世話になったわー。 って言うか面白い人だったわ。 トークは上手いし優しいし変態紳士だし。って、『変態』でもなかったか。 それに何より、みんなの望みを叶えるのに一切の妥協をしない人。 パンが無いならお菓子を食べれば良いじゃない、なんて言葉があるけど、あの人はパンが無ければ本当にウェディングケーキを調達しちゃうタイプね。 憧れの先輩だったわ。 私の生徒会長としてのあり様はあのヒトに影響を受けに受けてると言ってもいいわね。 え、昔からこんなモンだって?何言ってるのよ、カクジツにパワーアップしてるでしょ?って何よそのタメイキ!? ・・・・・・話を進めるわね、釈然としないけど。 お姫様は、彼と同学年の女の先輩。 ある巨大企業の社長令嬢。 イギリス人とのハーフ。 絹のような肌に、ウェーブのかかった見事な金髪。 意志の強さを感じさせるサファイア色の瞳。 これまた容姿端麗、文武両道、人呼んで月下の君(レディ・クレセント)。 名前を鬼児宮フィリア先輩。 ただし、これがまたとんでもないツンデレさんでねー。 どれだけツンデレかと言うとね、私が一目惚れして「生まれる前から好きでしたー!」って告白したら「生まれる前から出直してきたら?」って言われるくらい。 ……え、ソレが普通だって?うるさいわね!本当のことを言わないでよ! とにかく、この2人はいつの頃からか深く愛し合ってたのよ。 私が知り合いになった時には、もうらぶらぶだった、なんてことは秘密秘密、秘密のあっこちゃんだったわ。 対外的にはただのクラスメイト同士ってことになってたし。 だってそうじゃない? 方や、いずれは社会的地位の高い男性に嫁ぐことが定められた社長令嬢。 方や文武両道、頭脳明晰、人類最麗……だけれどただの高校生。 あまりにも立場が違い過ぎたわ。 だから、2人は人から隠れて愛し合っていた。 いつか一日先輩をフィリアさんの親御さんに堂々と紹介できるようになるその日までと思って。 隠れに隠れ、隠れ続けて、隠しきれなかった。 どこでバレてしまったのか、どこで綻びが生まれてしまったのかは分からない。 けれど、事実は明らかにされ、フィリア先輩のお父さんの耳に入った。 それはもう烈火のごとく怒ったらしいわ。 どこぞのお偉いさんに嫁がせる予定だった娘が、どこの馬の骨とも知らぬ男を本気で愛していたのだから。 彼は無理矢理に2人を引き離し、フィリア先輩を卒業前に海外の婚約者に嫁がせた。 時同じくして、一日先輩は自動車事故に合ってしまった。 24 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 前編 ◆DSlAqf.vqc :2011/01/03(月) 19 42 02 ID AFjyYqDO 笑っちゃうわよね、自動車事故って。 ハリー・ポッターかっての。 ま、証拠が無いから何とも言えないけど。 ともあれ、一日先輩はなんとか命を取り留めた。 取り留めたけれど、彼の心には大きな傷を残した。 愛する者を奪われた傷を。 愛する者を守れなかった傷を。 愛する者を傷つけてしまったという傷を。 一度だけ、その頃の会長に会うことができたわ。 大勢で行った方が良いだろうって、担任の先生や会長の友人、それに妹さんたち―――当時からお付き合いのあった二日先輩とその下の三日ちゃんとね。 まぁ、三日ちゃんの方は私がいたなんて覚えてないだろうけど。 けど、けれど、その時に私たちが見たあれは、何だったなのかしらね。 彼は、何も見ていなかった。 彼は、私を見ていなかった。 彼は、先生を見ていなかった。 彼は、友達を見ていなかった 彼は、家族を見ていなかった。 そう。 彼は、 三日ちゃんを見ていなかったのよ。 一日会長が、私たちの前から姿を消したのはそれから少しした後のことだったわ。 家族を、友人を、全てを捨てて、ね。 私らも八方手を尽くして探したけど、何の手がかりも無くてね。 そうそう、御神ちゃん。 あなたの言っていた緋月月日さんともその頃に会えたわ。 電話越しだったけどね。 何か、手がかりが掴めるんじゃないかって思って。 結果は空振り。 それどころかこんなことを言われたわ。 『一日を心配するだけ…ムダ…さ』 ってね。 『心配など無駄で無為で無意味な…コウイ…さ。アレは…ヒトリ…で何でもできる、何でもする男だ。ソレがたった一人で、君たちに何も言わずに、何の助力も請わずに姿を消したというのなら』 『アレにとって君たちは、』 『…イラナイ…』 『ということになる』 だ、そうよ。 25 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 前編 ◆DSlAqf.vqc :2011/01/03(月) 19 42 51 ID AFjyYqDO 『このお話はこれっきり。主役が舞台の上から姿を消して、脇役連中だけが置いてかれた。主役がいなきゃ物語は進まない。終わるしかない。だから、これで終わり』 フゥ、とため息をつきながら、先輩は話を終えた。 面白おかしく、と言いながらやはり陰鬱で。 先輩の声は血を吐くようで、吐き出すべきものを我慢しているようで。 当然だろう。 一原先輩は、本当に一日さんのことが好きだったことが、言葉の端々に滲み出ていたから。 そんな人が、何も言わずに自分の前から姿を消してしまったのだから。 生きているかも分からない。 死んでいるかも知れない。 そんな状態になってしまったのだから。 『御神ちゃん。まさかアナタ、『ボクちゃんの心酔する百合子サマがカワイソー』とか思ってんじゃないでしょうね』 俺の内心を見透かしたように、一原先輩が言った。 『一日先輩の一件はとっくに自分の中で折り合いをつけたし、それを差し引いても私は今、これ以上ないってくらい幸せよ。ハーレムも出来たしね。これ以上を望んじゃゼイタクってくらい』 あくまでおどけた口調で、先輩は言った。 『だから、一日会長について私に聞いたこと、謝ったりなんかしたら承知しないわよ』 まったく、本当に見透かしたようなことを言う。 この人は本当に、馬鹿で、助平で、自分の欲望に忠実で、トラブルを加速させるのが趣味の困った人だ。 それでも、生徒会長として皆から慕われているのはこういうところがあるからだろう。 だから、俺はただ、「ですね」とだけ返そう。 『それよりも』 と、先輩は続ける。 『アナタが心配するべきなのは三日ちゃんのことよ』 そうだ。 俺は元々、三日のことで一日さんについて一原先輩に電話したのだ。 『三日ちゃんと一日会長はとても仲の良い兄妹だったと聞いているわ。と、言うより会長からどれだけ猫かわいがりしているか聞いてるってトコかしら』 「ただのシスコンじゃないですか」 『そう、ただのシスコンとブラコン』 カレシとしては不本意でしょうけどね、と先輩は続けた。 『そんな女の子が、ほんの1年くらい前にヒドい形でお兄さんを失ったのよ。アナタと会ってても、お兄さんの話題を出すことなんてあってトーゼン』 極力砕けた調子で、先輩は言った。 『だから、そう言うことで目くじら立てなさんな』 あー、そういう風に見えちゃうか。 別にそんなつもりで一日さんのことを聞いたつもりも、いや、少しはあったのかな。 「分かってますよ」 とはいえ、ここはこう返すべきだろう。 『よろしい』 えっへん、と擬音をつけて言う先輩。 『いーい、御神ちゃん。三日ちゃんと付き合うからにはあのコのことを最優先に考えなさいな』 先輩は言葉をつづけた。 『学園の平和を守るのなら私らにだってできるけど―――三日ちゃんのナイトはあなたにしかできないのよ』 「先輩……」 まったく、この人は……。 「学園の平和なんて、守った試し無いじゃないですか」 俺はそう、軽口で応じるのだった。 26 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 前編 ◆DSlAqf.vqc :2011/01/03(月) 19 43 36 ID AFjyYqDO 「おにー・・・さん!」 そんな回想を中断するように、俺に声をかけてきた者がいた。 舌足らずな、あどけなさの残る可憐な声だった。 その声のした方に、俺は反射的に振り向いた。 それと同時に、三日の手を握っていたはずの手に、随分前から何の感触も無いことに、今更ながら気が付いた。 いつの間に皆とはぐれていたんだ? 「おにーさんに・・・お願いがあるんだよ!」 そんなことに考えをめぐらす暇も無く、相手は明るく言った。 俺は、その姿を見て目を丸くした。 声をかけてきたのは、フリルの多いゴシックな装飾が施された浴衣を着た娘だった。 サイズが合ってないのか、長い袖に小さな手が隠れてしまっている。 体型はかなり小柄だ。 三日もたいがいにして小柄だが、彼女はそれを上回る。 140cmも無いだろう。 年齢は、10代前半ほどに見える。 大きな、漆黒の瞳。 桜色の頬。 真紅の唇。 あどけない顔立ち。 真っ白な肌。 ツインテールにした、サラサラの真っ黒い髪。 手足は、モデルのように細いようだ。 『ようだ』、というのは浴衣の装飾がその体型をほとんど隠してしまっているからだ。 その頭には、昔ながらの白狐のお面を身に着けている。 驚いた理由はその可憐さに、ではない。 俺は、その顔を知っていた。 毎週、テレビの中で見る顔。 特撮番組『ヤンデレンジャー』、魔女大帝役。 明るく無邪気。 アイドル的な女優。 「零咲・・・えくり、ちゃん」 少女を見下ろし、俺は言った。 「大正解だよ…おにーさん!」 そう言ってにぱっと笑った少女、零咲ちゃんは俺を見上げて言葉を続ける。 「ちょっと困ったことがあるから・・・おにーさんにして欲しいことがあるんだよ!」 明るく無邪気な仕草で少女は言った。 「受けて・・・くれるよね!?」 それが、受験開始の合図だった。 27 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 前編 ◆DSlAqf.vqc :2011/01/03(月) 19 44 17 ID AFjyYqDO おまけ ヤンデレの生徒会長さん 出張版 「ねぇ」 じっとりとした声で、一原百合子生徒会長は自宅の玄関先で言った。 掛け値なしの美少女である。 茶色に近い長髪をポニーテールにし、目鼻立ちのはっきりとした顔立ち。 本人もそれを自覚しているのは確実で、くどくなりすぎない程度のメイクも、その檸檬(レモン)色の浴衣も、どうすれば自分が魅力的に見えるか考え抜かれていた。 「私ら今頃お祭りに行って、リンゴ飴食べたり後輩ちゃんたちをからかったり三日ちゃんを暗がりに押し倒したりとか、そーゆーラブコメ展開を満喫してるはずなのに……」 目の前にいる、浴衣姿の女性と少女たちに語りかける百合子。 もっとも、相手の耳には入っていないだろうが。 彼女たちは、百合子の友人たち―――ではない。 同性ではあるが、百合子は心底彼女たちのことを愛していたし、彼女たちも心の底から百合子を愛していた。 彼女らにとって、性別は問題では無いのである。 問題は、彼女たちが百合子の恋人という立場を何かと独占したがることなのだが。 「ゆーちゃんと祭りに行くのは私の専売特許です!」 「アハ!それはこっちの台詞だよ、副会長さん!」 「You girlsに年功序列という言葉を教えてあげるデース!」 「エリ先生殿、実は日本語が上手でいらっしゃるのでござるのでは……?」 「キャラ立てだろ、李と同じでさぁ!」 彼女たちはある者は武器を手に、ある者は無手で周囲を縦横無尽に動き回り、互いを排除しようと試みる。 「何でこんな少年ジャンプ展開になってるの?」 百合子は言った。 周囲にはキィン!だのメシィ!だのメメタァ!だのと言った音が響き渡っている。 その度に金属バットやナイフが振るわれ、素人にはついていけないほど高度な攻防が繰り広げられる。 「あ、瞬歩」 そう百合子が形容するようなスピードが発揮されるほど、ハイレベルな攻防であった。 全ては夏祭りのために。 「いやいやいや」 あまりにもあんまりな理由で繰り広げられる攻防に、思わずツッコミを入れる百合子。 しかし、である。 「Youたちをフリキリます!」 そんな言葉と共に、紅色の浴衣の裾をまくりあげて、空色の浴衣を着た別の少女に回し蹴りを放つ女性。 「おお!」 その様子に、特にまくりあげられた裾の奥に、一気にテンションが上がる百合子。 「クッ!」 その蹴りを避けた、空色の浴衣を着たボーイッシュな少女だったが、彼女の避けた先にはナイフを持った藍色の浴衣の、眼鏡をかけた少女がいる。 「刺され、ばらされ、並べ替えられなさい!」 眼鏡を煌めかせ、ナイフを振るう少女だったが、そこにバットを持ったあどけない少女が割り込む。 「かるーく一原をはじめるよ!」 ピンクの浴衣の袖をはためかせてバットを振るう少女だったが、それをナイフと金属棒で受け止められる。 「何を始めるの、あっちゃん!?」 その戦いに完全に第三者視点でツッコミを入れる百合子。 と、言うより完全に他人事という顔だった。 「まったくでござるな、百合子殿」 その言葉に、いつの間にか百合子の隣にいた、忍装束のように真っ黒な浴衣の少女が言った。 「あの4人は放っておいて百合子殿は拙者と祭りに……」 そう言って百合子の手を取ろうとする忍少女だったが、それを他の女性たちに気付かれる。 「ルール違反はずたずたのずたずたにします!」 「アハ!レッドカードなんだよ!」 「させないdeath!」 「そう上手くいくと思う!?」 4人の攻撃が同時に忍少女に襲いかかる。 28 :ヤンデレの娘さん 夏祭の巻 前編 ◆DSlAqf.vqc :2011/01/03(月) 19 45 06 ID AFjyYqDO 謎の悲鳴と共に吹き飛ぶ忍少女。 攻撃により、浴衣が破れて柔肌があらわになる。 「ポロリキター!!」 その様子に一瞬にしてその美少女フェイスを崩し、助平親父の顔で叫ぶ百合子。 あ、鼻血出てる。 「何をするでござるか!」 忍少女の懐から放たれた手裏剣が、ボーイッシュな少女の浴衣を切り裂く。 「オオ!」 それにより晒された柔肌を、鼻の下を伸ばしてガン見する百合子。 その横では、眼鏡少女のナイフが年長の女性の胸元に迫っていた。 「いーぞもっとやれー!」 次々に晒される肌色に、すっかり野次馬の顔になった百合子が奇声をあげた。 女性に襟首を掴まれた眼鏡少女の衣服が乱れる。 「うっひょー!おっほー!コレさいこー!」 そう言っている間にも、激闘は続き、服は切り裂かれていく。 「パーフェクトよー!ライナーよ!コンプリートよ!エクストリームよー!」 もはや慎みも何もないキャットファイトと化しつつ攻防に、百合子は小躍りする。 「きゃっほー!そーだ、このバトルに勝ったコには私がちゅーしてあげるわ!」 ノリと勢いで叫ぶ百合子の言葉に、女性たちの目が輝く。 「ゆーちゃんの唇!?」 「マジ!?マジだよねお姉!?」 「ソウいうコとなら負けられないデース!」 「卑怯卑劣な手段を使ってでも勝利するでござる!なぜなら忍者だから!」 「ま、勝つのはぼくだけどさぁ!」 ご町内を舞台に、さらに戦いは激化していく。 彼女たちが夏祭りに行くのは、まだ先のことになりそうだった。 一原百合子。 ポニーテールの美少女。 夜照学園高等部今期生徒会長。 御神千里とは中等部時代からの学友。 同性愛者。 そして、 悲しいほどに、呆れるほどに自分の欲望に忠実な、どこに出しても恥ずかしい―――変態だった。
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60 :ヤンデレは誰だ/毒蛇 ◆i8W/K/qE6s [sage] :2007/09/18(火) 03 33 31 ID vd74AtWu その日、事件が起きた。 俺のちっぽけな人生の中で、未だかつて経験したことのない大事件だった。 その日の朝。俺はいつものように朝寝坊をして由香里に叩き起こされ、夢うつつのまま学校へと向かった。 そしていつものように教室へ向かい、いつものように席に座り、いつものように授業を受けた。 しかしその日の昼休みだけは、いつものようではなかった。 さて、今日の昼も健やかに惰眠を貪ろう。 そう思って机に突っ伏そうと思った矢先、俺を呼ぶ声がした。 声の方を振り向くと、教室の入り口に見かけぬ女子生徒がいる。 「笹田先輩! ちょっといいですかー?」 元気よく俺を呼ぶ女子生徒。「先輩」ということは、この子は一年生か。 俺は戸惑いながら彼女の方へ歩くと、気弱な返事をした。 「えっと…。何かな?」 「先輩、ちょっとお時間いいですか?」 元気いっぱいに尋ねる一年生。その爛々とした目に押され、用を尋ねることも忘れて生返事をしてしまう。 「あ、うん。いいけど…」 「じゃあ、一緒に来て下さい」 その子はそれだけ言うと、俺の手を引っ張って歩き出した。 「え、ちょっと…。どこ行くの?」 「いいから、ついて来てください」 有無を言わさぬ押しの強さに、何もいえない俺。 下級生を相手に我ながら情けないものだと思いながら、そのまま引かれていった。 連れて行かれた場所は、体育館の裏だった。 「あの、こんなところに来てどうするの?」 何とも古典的且つベタなスポットへと来てしまい、俺は彼女に尋ねた。 すると彼女はくるっと俺の方へ振り返り、にこっと笑った。 「じゃあ、わたしはこれで」 そう言うと、なんと彼女はすたすたと立ち去ってしまったではないか。 「え、いやちょっと待って…」 俺の声は届かない。彼女は見る見るうちに遠くへ行ってしまう。 「…何なんだ、これ。嫌がらせ?」 この状況にどう対処してよいか分からず、呆然と立ち尽くす。 しかし、そうしているうちにあることに気づいた。 「……!!」 足音だ。そう遠くないところから、足音が聞こえたのだ。 足音はどんどんこちらに近づいてくる。 俺は心臓が高鳴るのを感じた。 何なんだ、一体。まさか校内で美人局…? いや、そんなはずはない。ていうか第一俺は何もしてないし…。 軽くパニックに陥った頭でそんなことを考えながら、俺は近づいてくる足音を待った。 しかし、そこに現われたのは、俺の予想外の生物だった。 「せ、先輩…」 ひょこっと俺の目の前に現われたのは、小柄な少女だった。 彼女はなぜか頬を赤く染め、俯きながら近づいてきた。 「え、えっと…。君も一年生?」 「は、はい…。一年の中島といいます」 「さっきの子は、君の友達?」 「はい。あの、わたしが頼んで、先輩を連れてきてもらったんです」 中島という女子生徒は、落ち着かない様子でそう言った。 61 :ヤンデレは誰だ/毒蛇 ◆i8W/K/qE6s [sage] :2007/09/18(火) 03 34 39 ID vd74AtWu 「そう。それで…何かな?」 そう尋ねると、彼女はまた俯いて黙り込んでしまった。 「………」 …さて、どうしたものか。俺まで気まずくなってしまう。 しかしいつまでもこうしていても、らちがあかない。 第一、俺の貴重な睡眠時間を削ってここに来ているのだ。これでどうでもいいような用事なら困る。 俺は先を急かそうとして口を開きかけた。 「あのさ…」 「先輩、好きですっ!!」 俺が話そうとしたその瞬間、そんな言葉のピストルが俺の脳天を貫いた。 多分、時が止まった。 あまり覚えていないが、数秒の間、俺は呆然と立ち尽くしていたと思う。 やっとの思いで我に返ると、俺は慌てて喋りだした。 「え、あの、いや…。え? その、あーっと…。マジで?」 なんだかよく分からない出来事に混乱した俺は、なんだかよく分からない言葉を発した。 「本当です!! わ、わたしと付き合ってくださいっ!!」 彼女は先ほどまでとはうって違い、俺の目を真っ直ぐと見据えた。 そんな気迫に、思わずたじろいでしまう。 ただでさえ生まれて初めての体験に、脳が追いついていない。ここは一旦落ち着いて考えるべきだ。 そう自分に言い聞かせ、俺は小さく深呼吸を繰り返した。 数分が経っただろうか。 俺は冷静さを取り戻すと、じっくりと考えていた。 この場の空気に流されないように、一番良い答えを見つけれるように、いつになく真剣に考える。 そしてゆっくりと口を開いた。 「あのさ…、俺なんかのどこがいいの?」 「えっと。気の弱そうなところとか、ちょっと頼りないところとか…」 中島さんは照れたような表情で言った。 なんかあまり褒められた気はしないが、それでも彼女の気持ちは本当らしい。 俺はもう一度考えると、一つ息をついた。 「…ごめんね」 その言葉を聞くと、彼女の顔に絶望の色が広がった。 みるみるうちに瞳に涙が溜まっていく。 「…なんでですか?」 彼女は震えた声で尋ねる。 「俺は君のことよく知らないし、…やっぱり急には無理だよ」 適当なことを言って誤魔化しても仕方がない。俺は正直な気持ちを口にした。 それからまた数分が経って、彼女はか細い声で「分かりました」と言って、泣きながら走っていった。 「はぁ…」 緊張が切れて、大きなため息をつく。 初めてのことに何がなんだか分からなかったが、ひょっとして勿体無いことをしてしまったのかなと、未だ冷めない頭で思った。 教室に戻ろうと歩き始めた頃、昼休みの終わりを告げるチャイムが響いた。 62 :ヤンデレは誰だ/毒蛇 ◆i8W/K/qE6s [sage] :2007/09/18(火) 03 35 11 ID vd74AtWu その日の先輩は、なぜか機嫌が悪かった。 放課後、珍しく部活に顔を出すことにした俺は美術室へと向かった。 また何か絡んでくるかと思いきや、俺を見た先輩は「あら、来たの」とそっけない態度をとる。 無愛想なのはさほど珍しくないのだが、いつもはもっと辛らつな感じで攻撃してくるはずなのだが…。気のせいだろうか。 まあ、それはさておき部活に集中だ。どうやら今日は人物画のデッサンをするらしい。 しばらくして顧問の若槻先生が来て指示があると、部屋の中心に置かれた台の上にモデルを立たせ、他の部員でそれを囲んだ。 俺はたまたま先輩の隣だった。いつもと違う様子が気にならないこともないが、とりあえず集中してデッサンを始めることにした。 静かな部屋の中、カリカリと鉛筆の擦れる音が響く。 少し疲れた俺は、手を止めて一息入れることにした。すると、隣にいる芳野先輩が俺を見ていることに気づいた。 「…あんた、一年生の子に告白されたんだって?」 「え…。な、なんで知ってるんですか?」 「みんな知ってるわよ。結構うわさになってたから」 カリカリと鉛筆を動かしながら、先輩は言った。 沈黙が流れるが、何秒かすると先輩はまた鉛筆を止めてこちらを向いた。 「で、どんな子だったの?」 「どんな、ですか?」 そう言って少し考え込む。 「うーん。割りと背の低い子だったかな。っていっても先輩とそんなに変わらないですけど。…まあ、なんていうか結構可愛かったと思います」 「そう」 先輩は自分で聞いておきながら、興味なさげにそう言った。 そしてまた鉛筆を動かし始める。…と思ったら、また止めて口を開いた。 「なんで、断ったの?」 核心を突く質問に一瞬驚くが、俺は素直に答えた。 「まあ、知らない子にいきなり付き合ってって言われても…。やっぱりそういうのは好きな相手じゃないと」 「…そう」 先輩はそう言うとまた鉛筆を動かし始めた。 今度は本当にデッサンに戻ったようで、時間が終わるまで何も話さなかった。 どのくらい経っただろうか。 かなり疲れが出始めた頃、若槻先生が手首の時計を見て「そろそろ休憩にしよう」と指示した。 みんな集中していたのだろう。かなり疲れた様子で、それぞれ休息を取りだした。 俺はふと先輩を見る。 先輩は心ここにあらずといった感じで、ただぼうっと自分の描いた絵を眺めていた。 さっきは色々と聞いてきたが、もしかして俺のことと何か関係があるのだろうか。 「……そんなわけないか」 ふと窓を見ると、外は暗くなり始めていた。 63 :ヤンデレは誰だ/毒蛇 ◆i8W/K/qE6s [sage] :2007/09/18(火) 03 35 45 ID vd74AtWu 部活を終えた俺は、少し重い足取りで玄関へ歩いていた。 やはりたまにしか顔を出さない幽霊部員には、あの長時間の集中は厳しい。 今日は早く帰って、風呂でも入ってさっさと休もう。そう思いながら歩いていると、靴箱のあたりで見知った後姿を見つけた。 やや小柄で、細身の体の腰あたりまである自慢の黒髪が、さらさらと揺れている。 「委員長。今から帰り?」 俺が後ろから声をかけると、その背中はびくっと驚いた。 「さ、笹田くん。びっくりした…」 振り返った委員長は、胸に手を当ててそう言った。 「あ、ごめん」 そんなに驚くとは思わなかった俺は、反射的に謝る。 「あ、ううん。いいの。笹田くんも今から帰り? よかったら途中まで一緒に帰りましょう」 そう言って微笑む委員長に、ノーとは言えない。 俺たちは玄関を抜けて、薄暗くなった道を一緒に帰ることにした。 しばらく一緒に歩いていると、委員長もどこか様子がおかしいことに気づいた。 なにか落ち着かない様子で髪を触ったり、メガネをかけ直したり、とぎこちない。 「委員長。どうかしたの?」 そう尋ねるが、委員長は答えずに下を向いて何かを考え始めた。 しばらくすると、委員長は意を決したように重い口を開いた。 「あ、あのっ。笹田くん、一年生の子に、その…」 「…ああ、委員長も知ってたんだね」 「えっと、その…。振っちゃったの?」 委員長は腫れ物に触るように、恐る恐る尋ねた。 「ん、まあそうなるかな」 隠してもしょうがないので、俺はありのままを話した。 「やっぱり、全然知らない子とそういうのはダメかなって思って」 そう言うと、委員長は「そうなんだ」と小さく呟いた。 それにしても、こういう話に興味があるなんて委員長もやっぱり年頃の女の子なんだな、と俺は妙な感心をしていた。 いつも控えめで地味なところもあるけど、この子も誰か男を好きになったりするのだろうか。 「そういえばさ、『俺のどこがいいの』って聞いたら『気弱そうなところ』とか言うんだよ、その子」 どことなく静かな空気になってしまったので、俺は冗談交じりな口調でそう話した。 しかし、委員長の反応は俺の期待したものではなかった。 「分かるな、それ」 「え? ここ笑うとこなんだけど…」 「でも、なんとなく分かるの」 委員長は静かに笑いながらそう続ける。 「笹田くんって、何となくそんな感じ。母性本能をくすぐるっていうか…。ね」 優しく微笑んだ彼女を見て、俺は一瞬ドキっとした。 「どうしたの?」 「い、いや。なんでもない」 委員長もこんな顔をするのか…。 なんだか今日は、女性には色んな顔があるということを勉強したような気がした。 64 :ヤンデレは誰だ/毒蛇 ◆i8W/K/qE6s [sage] :2007/09/18(火) 03 37 34 ID vd74AtWu 「ねえ、誠。由香里の帰りが遅いんだけど、知らない?」 家へ帰りテレビを見ながら食事をとっていると、キッチンから母の声がした。 「いや、知らないけど」 もぐもぐと飯を口に押し込みながら答える。 「あいつだってもうそんな子供じゃないんだし、ちょっと帰りが遅いくらい心配ないよ」 「そうだといいんだけどねぇ」 洗い物をしている母が背中を向けたまま答えた。 すると、リビングのドア越しに玄関の扉がガチャリと開く音が聞こえた。 「ただいまー」 「ほらね」 由香里が慌しく部屋の中へ入ってくる。…なにやら小さな体にたくさんの荷物を抱えて。 「遅かったじゃない、由香里」 心配していた母がそう言うと、由香里はふて腐れたように答える。 「だって買い物してたら荷物多くて大変だったんだもん」 そう言いながら荷物をどかっと下ろしていく。おそらく洋服や本、化粧品などの入った紙袋やバッグが幾つも転がった。 「この間お兄ちゃんに荷物持ち頼もうと思ったけど、ダメだったからさ。今日は一人で頑張ったよ」 「ん? それなら今日誘えばよかったのに」 おかずのハンバーグを頬張りながらそう言った俺を、由香里はなぜか冷ややかな目で見た。 「お兄ちゃんは今日は幸せの絶頂だろうから、そっとしてあげようと思ったの」 「幸せの絶頂…?」 一体なんの話だろう。そう思って記憶を辿ると、昼休みのことが思い当たった。 「…あぁ、お前も知ってたのか」 「当たり前じゃない。隣のクラスの子だもん」 そう話す由香里は、どこか機嫌が悪そうだ。 「本当に物好きよね。よりにもよって、なんでお兄ちゃんなのかしら」 「まあ、あれかな。俺の秘められたカリスマ性に引き寄せられたんじゃ…」 「バカじゃない?」 な、なんて可愛げのない…。 まったく、昔はあんなに可愛かったのに。思春期の娘は難しいものだ。 そんなことを考えながら、俺はテレビのリモコンを手に取り、チャンネルを変えた。 この時間なら確かどこかの局で音楽番組があっただろう。 別に俺は見たい訳ではないが由香里が見たがるだろうと思い、チャンネルを回した。 その時だった。 『……先ほど入ってきたニュースです。河崎市内の高校生、中島伊織さん(16歳)が下校中、自宅近くの道路で 何者かによって腹部をナイフのような物で刺され、倒れているのを付近の住民によって発見されました。 中島さんはすぐに市内の病院に運ばれ、現在意識不明の重体です。現場では現在警察が捜査を行っています。 それでは現地のリポーターに様子を伝えてもらいましょう……』 その日、俺のちっぽけな人生の中で、未だかつて経験したことのない大事件が起きた。 そして、本当の事件が起こった。 65 :ヤンデレは誰だ/毒蛇 ◆i8W/K/qE6s [sage] :2007/09/18(火) 03 38 13 ID vd74AtWu 「9/18 火曜日」 どうして。 どうしてみんな邪魔をするの。 わたしがあの人を愛しているのに。 わたしが一番、あの人を愛しているのに。 誰も近寄らせない。 わたしがあの人を守ってあげる。 あの人に近寄る女がいたら、わたしがあの人を守ってあげる。 そう。今日みたいに。 どうしてみんな、わたしたちの邪魔をするんだろう。 どうして。
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ヤンデレ臣下とヤ○チャ王act.1
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542 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15 07 25 ID vAX2GWOI Side Aika 荒縄で縛られた痛みが、彼女を覚醒させる。 ここはどこ、自分は誰、いや、そっちは分かる。 夜照学園生徒会庶務、一原愛華だ。 しかし、自分は一体どうしたのか。 そうだ、確か昨日1人で下校している時に、頭に衝撃が走って……。 「ウ……ン」 目を開き、辺りを見回す。 品の良い調度品に囲まれた、女性の、それもかなり富裕層の女性の部屋だった。 扉1つ分位の大きさの油絵が随分印象的だった。 「目が覚めましたかしら、ですわ?」 その部屋の、天蓋つきのベッドに1人の少女が座っていた。 耳元の隠れる、ウェーブのかかった長髪。 良く手入れされた色白の肌。 育ちのよさそうな、優雅な物腰の美少女。 愛華は彼女に見覚えがあった。 確か、同じ学園で三年生の、 「鬼児宮サナ先輩・・・・・・」 愛華の呟きに、少女は満足そうに頷いた。 「早速だけど妹さん。あなたには百合子先輩をおびき寄せる餌になっていただきますのですわ」 そう言って、少女は拘束した愛華に向かってにっこりと微笑んだ。 「まさか、拒否するなんて言いません、ですわよね?」 543 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15 08 10 ID vAX2GWOI Side Senri 一原百合子、傾向と対策 『御神ちゃん御神ちゃん、ちょっと私らを助けてちょうダイナ』 俺達の学園の生徒会長、一原百合子がこんなことを言う時、傾向としては2つに分かれる。 1つは、大したことではないけれど、自分達だけでは面倒くさいことを頼むとき。 面倒では合っても当たり前に常識的に危険は無いので、俺も気軽に引き受けられる。 もう1つは、切実に確実に助けが必要な時だ。 笑っちゃう位に危機的な状況で、笑うしかない位に危険が満載。 今から語るのはそんなバカ話だ。 本来なら本伝とは言いがたい、転外(スピンオフ)にさえ相当しない物語。 これから始まるのは、いつもの日常とはちょっとだけズレた、そんな話だ。 544 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15 10 18 ID vAX2GWOI 夜照学園高等部三年生、鬼児宮サナ先輩にさらわれた妹の愛華さんを助ける手伝いをして欲しい。 そんな一原先輩からの要請を受け、俺たちはその日曜日、鬼児宮邸(厳密には分家よりとかなんとかで、本家の本館は別にあるらしいが)の地下にある下水道を歩いていた。 「古典的っつーかなんつーか・・・・・・。こんなんでどうにかなるのかねー。お金持ちなら警備にも金かけてそうだし」 懐中電灯片手に下水道を歩きながら、俺は相方に言った。 「その心配はござらんよ。百合子殿の知己の『はっかー』の方に助力を得て、警備のからくりは全て機能を無効化しているでござる」 忍者もどきな口調で明瞭に答えるのは、李忍だ。 俺と李の、たった2人だけの道中だった。 現在、彼女以外の生徒会メンバーは地上で鬼児宮家の警備員やらメイドさんやらと大バトルを繰り広げているところである。 鬼児宮先輩の要求は、『妹と引き換えに、指定時間に一原百合子が自室に1人で来ること』。 その先、鬼児宮先輩が一原先輩の身をどうするかは―――分からない。 そこで、一原先輩たちは対策を講じた。 まず、一原先輩本人は妹の身の安全のためにも、要求どおり1人で鬼児宮邸に向かう。 ただし、その間件のハッカーやら、李を除く生徒会のメンバーらで鬼児宮邸のガードをかく乱。 同時に李と俺で邸内に潜入、一原先輩が愛華さんを逃がすと同時に不意打ちを仕掛けるという作戦だ。 「何、一原先輩ネットでも女の子たらしこんだの?」 「いえ、その方は『むーんさん』氏と仰る、殿方であるそうでござる」 「むーんさん、ね。『さん』も含めてハンドルネームなんだ」 どうでもいいが、なぜかあまり和訳したくない名前だった。 『むーん=月』と『さん=日』なんて一般名詞の部類だよね、うん。 「しっかし、一原先輩もそうしたコネは使っても、荒事を警察に任せようとは思わないんだよね」 順当に考えて、妹がさらわれたら警察に連絡するのが一番無難だろう。 何せプロだし。 「相手も一応はあの鬼児宮を名乗る者。誘拐の1つや2つ、金銭の力でもみ消せるでござろう」 「あー」 鬼児宮と言えば、政財界に大きな影響力を持つ一族だ。 表だって財閥とは名乗っていないものの、一族の一人一人が経営する会社が日本経済の要となっている。 ウチの学園だって、一応鬼児宮の血縁者が学園長をやってるし。(夜照学園に、意外と良いトコの生徒がいるのはそうした事情も関係している) 「それに、仮に相手が鬼児宮家で無かったとしても、百合子殿は警察などには任せず、表ざたにすることなくこの件を解決しようとしたでござろう」 「まったく、何考えてるんだか・・・・・・」 「鬼児宮サナが警察のお縄に付けば、彼女は犯罪者の汚名を被ることになるでござろう。そうしたものは、一生付いて回るでござる」 実感のこもった口調で、李は言った。 確かに、身内に犯罪者が出たとなれば一族の恥だろうし、いらぬ偏見で見られることもでるだろう。 「鬼児宮女史の目的は見えぬでござるが、荒っぽい内々の『交渉』でどうにかなるのならそれに越したことは無いのでござる」 李の言う『交渉』は拳銃と書いてパースエイダーと読む的な意味だろうが。 「自分の敵対する相手の為に、自分達が危険を冒すってわけね」 「愚かだと笑うでござるか?」 「バカだとは思う。けど笑わない」 昔から全く変わらぬ一原先輩の姿勢に呆れを通り越して、尊敬すらしている。 あのバカ先輩は『みんな幸せ』という綺麗ごとをいつでも何度でも実現させようとするのだ。 肉欲の権化みたいな女子ハーレム計画も、ある意味その表れなのかもしれない。 「あの人のやることは、中等部の頃から分かってたし」 「羨ましいでござるな、御神氏は」 しみじみと李は呟いた。 「そう?」 「うむ。拙者の存じ上げぬ時分の百合子殿を存じている故」 「毎度毎度巻き込まれて、ウンザリするけどね」 「と、言いつつ今回も助力してくれているでござろう?」 「・・・それが千里くんの良いところなんですよ」 「それほどでもないけどさ。ま、腐れ縁だし」 「縁を大事にするのでござるな、御神氏は」 「・・・そういう人なんですよ、千里くんは」 「ま、大げさに言ってそんな感じかな」 しみじみとした口調で頷いた李に、俺たちは答えた。 俺たちは。 545 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15 11 36 ID vAX2GWOI はて。 李以外の生徒会メンバーは地上でビッグバトル、あるいは監禁状態のはず。 そしてこの下水道を行くのは李と俺だけのはずなのだが・・・・・・。 「・・・どうしたんですか、千里くん?」 「どーしたもこーしたもあるか!」 きょとんとした顔の三人目、珍しく動きやすさ重視のパンツルックな緋月三日に向かって俺は怒鳴った。 ちなみに、最近長くなり過ぎ感のある黒髪はポニテ気味にしてまとめている。 「御神氏が声を荒げるところ、拙者初めて見たでござる」 変なところで感心する李。 それよりも。 「俺、ヤバいことしに行くから着いて来るなって言わなかったか?」 「・・・その言葉と、千里くんが他の女子と2人きりになるという危機。・・・天秤にかけさせていただければ、後は分かりますね」 「相分かったでござる」 三日の言葉に同調する李。 「・・・・・・李、三日がいたの気が付かなかった?」 「気づいていたでござるが、御神氏も分かっているものだとばかり思っていたでござる」 「だとしたら俺は結構な鬼畜だな。放置プレイってヤツ?」 「尤も、先の緋月嬢の言葉を聞けば、連れて行かぬ道理は無くなったでござる」 「いや、その理屈はおかしい」 これから、誘拐事件の解決(笑)に行こうってのに非戦闘員を連れて行くバカがいるかと。 うん、時々おかしくなるんだよな、生徒会メンバーって。 「・・・大丈夫ですよ、千里くん」 「今日は、護衛がいますから・・・」 そう言って、下水道の暗闇の中から更に現れたのは和装の女性、三日のお姉さんの緋月二日さんだった。 いつものように静々と歩いているが、和服の裾が汚れないよう、良く見れば細心の注意を払っていた。 その手には布袋に納められた細長いモノが握られているが、中身は真剣とかじゃないよな。 「二日さん・・・・・・」 「一方ならぬ事態のようなので、非常に面倒なことに、三日に護衛を頼まれました・・・」 「あー、一応この件は他言無用でお願いしますです」 これも、一原先輩との約束だった。 「分かりました・・・。何にせよ枝葉末尾には興味はありません・・・」 本当に興味なさげに、二日さんは答えた。 「さいですか」 「それよりも、読者に私のことが『実はコイツ弱いんじゃね?』と思われてそうなのが重要です・・・」 「いや、そんなこと誰も思ってないと思いますけど」 「ただでさえ、出番が少ないというのに・・・」 「まぁ、学校とか違いますしね、俺ら」 「学園ものの宿命ですか・・・」 と、嘆息する二日さん。 そんな二日さんに李が声をかけた。 「貴殿が緋月二日女史でござるか」 「ああ、貴女が一原さんの後輩の・・・」 「李忍と申す。お噂はかねがね。百合子殿がお世話になりましたでござる」 「こちらこそ、いつも妹がお世話になっています・・・」 と、呑気に頭とか下げる李と二日さん。 「いや、お二人さん。これでも俺ら不法潜入ミッションちゅ・・・・・・」 俺の言葉は、鼻先を掠めた剣閃に遮られた。 「誰だ!?」 当然、味方からの攻撃ではない。 今の今まで誰の気配も無かったのに!? 546 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15 11 55 ID vAX2GWOI 「その言葉、そっくりそのまま返さざる得ないっての」 いつの間にか下水道の暗がりに現れたのは、日本刀を片手に持った巫女服の女性だった。 巫女服と言えば清楚なイメージがかもし出されるものだが、それを着崩し、ショートカットの髪を茶色に染めた彼女からはそうしたイメージはまったく感じられない。 「まー、でもその内李忍ってやつのことだけは事前に聞いてるっての。大方アタシらのご主人の願いを妨害するために現れたっての」 刀を地面にぶっ刺し、タバコに火をつけながらその女性は言った。 「とりあえず、侵入者はこっから先には入れないっての。どーでも良いけど、この振井子振(ブライコブラ)の刀の錆びになる順番でも決めとけっての」 彼女、振井さんは面倒くさそうに言った。 余裕なのだろう。 何だかんだといいながら、こちらは只の高校生。 ふざけたナリとはいえ鬼児宮の警備(?)を勤めているらしい振井さんにとっては取るに足らない相手でしかない。 1人を除いて。 「順番を決める必要はありません・・・」 ガィン、という金属同士がぶつかり合う音がその場に響く。 いつの間にか、布袋の中から一本の日本刀を抜刀し、一瞬で間合いを詰めた二日さんの一撃を、武等井さんは辛うじて受け止めていた。 「なぜなら、刀の錆びになるのは貴女の方なのですから・・・」 「へぇ、言うだけのことはありそうだっての。久々に骨のある相手と・・・・・・」 振井さんが最後まで言い終わる前に、二日さんの再度の一撃。 今度は刀ではない。 脚を大きく跳ね上げた前蹴り! 「グゥ!」 二日さんのゴツいブーツを何とか腕で受け止めた武等井さんはうめいた。 「テ、メェ!そのナリで剣士じゃねーのかっての!?」 「剣士でもありますよ・・・。剣以外も使いますが・・・」 今度は左の掌打を繰り出しながら二日さんは息1つ乱さずに言った。 「大体、ここは剣道の道場では無いでしょう・・・?スポーツでも何でもない、ルール無用の、ただの現実です・・・」 うめく相手を見下ろし、二日さんは言った。 「義弟くん、それに貴女方、何をしているんですか・・・?この色々舐めた女を私が折檻している間に、先に行きなさい・・・」 「・・・は、はい」 二日さんの言葉に頷き、先へ進もうとする三日。 「そ、そんなことさせるかって・・・・・・」 振井さんの言葉は、やっと振りぬかれた二日さんの刀で遮られた。 「・・・千里くん、李さん、早く行きましょう」 「ですが、三日嬢。姉上は・・・・・・」 「・・・大丈夫です。・・・お姉様はお兄ちゃん以外に喧嘩で負けたことが無いんです」 李と俺は一瞬迷ったが、先を急ぐことにした。 あまり時間があるわけでもない。 愛華さんを助けるためにも、迷っている暇は無い。 「二日女史、ご武運を!」 「死なないで下さいよ。あと、相手の人も殺さないで下さいね!」 そう言って俺達は先を急ぐ。 「まったく、注文の多い・・・」 最後に、二日さんの不敵な軽口を俺達は背に聞いた。 547 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15 12 22 ID vAX2GWOI Side Nika 「テ……メ!?」 緋月二日の蹴りを受け、体勢を立て直そうとする振井だが、二日は体勢どころか台詞1つ吐き出すことすら許さない。 「!…」 「アバ!?」 振井がまともに動くよりも先に、速く、鋭いアッパーが二日によって叩きこまれる! 思わず悲鳴が振井の口を突いて出るが、対する二日はささやかな呼気を発するのみ。 「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!…」 「アババババババババババババババババババババババババババババババババババ!?」 殴る、蹴る、掌打、膝蹴り、回し蹴り、足刀、手刀・・・・・・ 考えうる限りあらゆる打撃が振井小振に叩き込まれる。 振井の実力は、決して低くは無い。 最初の、完全に気配を消しての不意打ちは二日でさえも気づけなかった。 だからこそ、二日のとる戦法はたった1つ。 相手が実力を発揮する間もなく圧倒(ボコボコに)する! 「セイ・・・ヤ!」 乱打の留めに、二日は刀の柄頭を振井の鳩尾に叩き込む。 「アバビャ!?」 その瞬間にスイッチを入れ、スタンガンのような電撃をも振井に浴びせる。 足元の汚水にも漏電するが、帯電性のブーツを履いた二日には何の問題も無い。 技が炸裂する瞬間に、相手に電撃を浴びせるのがこの刀『輝炸月(キサラギ)』に仕込まれた仕掛けだった。 それを仕込んだ弊害として、日本刀と呼ぶにはいささか重く、切れ味も今1つなのが欠点だったが。 それでも二日がこの『輝炸月』を使っているのは、亡くなった祖父が製作したからに他ならない。 使えるのか使えないのかが分からない代物を作るのが祖父の趣味だった。 『まぁ、相手の記憶を刈る『無月(ムツキ)』とかよりはマシですしね・・・』 と、倒れ伏す振井を見下ろしながら、二日は思った。 「さぁ、そろそろ三・・・義弟たちを追いかけますか・・・」 と、その場を歩き出しながら呟く二日さん。 「待て、っての・・・・・・」 その足を、搾り出すような声が止める。 「貴女、まだ動けたんですか・・・?」 ゆっくりと起き上がる振井に、二日は油断無く構えを取って言った。 「ハハ・・・・・・正直かーなーりキツいっての。けど、ご主人のためにこのまま侵入者を通すわけにはいかないっての!」 自らを鼓舞するような叫びと共に、振井小振は刀を構える。 「貴女、どうしてそこまでするんです・・・?」 「ハッ!アンタにゃ分からねぇっての。剣しか取り得のねーアタシを取り立ててくれたご主人が大好きなアタシの気持ち。この報われない気持ちがさ!」 地を蹴り、一瞬で間合いを詰める振井。 「!…」 「バハァ!」 二日と振井。 2人の剣撃が交錯する! 「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」 雷電が暗い下水道を照らし、振井の叫びが響く。 「ガハ・・・・・・」 膝を突き、振井は声を漏らす。 「すまねぇ、ご主人」 そう言って、今度こそ振井は倒れた。 「謝る必要はありませんよ・・・」 と、二日は言った。 恐らくは振井には聞こえていないであろうことは、分かっていたが。 「貴女は任務を立派に務めたのですから・・・」 肩口から血を流しながら、二日は肩膝を着く。 こんなことを言ってしまうなんて、こんなところで傷を受けてしまうなんて、我ながら甘い、と二日は思う。 報われぬ想い、というものにはどうにも弱いのだ。 自分の境遇が、思わず重なり。 「ふぅ・・・」 思考を打ち切ってから、ゆっくりと和服の袖を切り、それを傷口に巻き付けて止血する。 傷を負いながらなので、さすがにスムーズにはいかない。 「流石に、これ以上の戦闘は難しいですね・・・。まぁ、元々私がどうしても体を張らなくてはならない問題と言うわけでもありませんし・・・」 と二日は呟き、その場に倒れた。 548 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15 12 43 ID vAX2GWOI Side Aika モニターの向こうで、屈強な男達が軒並み倒されていく。 銃さえ持つ彼ら(銃刀法を知らないのだろうか)を相手取っているのは愛華の幼馴染にして生徒会副会長氷室雨氷を先頭とする生徒会メンバー。 「まったく、どういうお育ちをしたら、あんな冗談のような強度を持った女子高生共と教師が生まれるのかしら、ですわ?」 モニターを見ながら、少女が嘆息した。 「鬼児宮先輩も大概にしてジョーダンみたいだけどね!私を餌にしてお姉をおびき寄せようなんてさ!」 ケラケラと笑いながら、愛華は言った。 「余裕、ですのね」 「ま、ねー」 正直、戦闘行為で生徒会メンバーが負ける気などしない。 生徒会メンバーがどれ程厄介なのかは、百合子を巡って彼女らと合争った愛華自身が良く知っている。 程なくして、突破してきた彼女らに自分は助け出されるだろう。 「でもさ、何でお姉なワケ?お姉は鬼児宮先輩よりはビンボーだよ?」 「この国では、『鬼児宮』の苗字を持つ者以上に富める者はいない、ですわ」 絶大な自信を持って少女は言った。 愛華の知る限り、鬼児宮家は日本経済ではかなりの大企業の主だが。 それでも、少女が言うほど絶大では無いはずだ。 自由競争の原理やら何やらはそこまで破綻していないはず。 「この世の表も裏も牛耳りきっているのが鬼児宮家なのですわ。もっとも、そんな世の中のことも知らずに育った庶民には想像も及ばぬことでしょうが、ですわ」 そんな内容を、むしろ憂鬱そうに少女は言った。 「それ故、幼少の頃より鬼児宮の人間はこの世の悪意の全てを見て育つのですわ」 ドス黒い何かが、少女の瞳に宿る。 「だから、サナにとって一原百合子の存在はことさらに目立ったのですわ」 「なんでー?」 「誰にでも好かれ、何物にも縛られず、何者の障害も跳ね返す強さを持っていたからですわ」 文脈的に不自然なほどベタ褒めだった。 「あー、分かる分かる」 「そうでしょう、ですわ。だから、サナの心に1つの願望が芽生えたのですわ」 と、そこで言葉を切り、少女は続けた。 「その自由な心の翅をむしりとり、一所に閉じ込めたい、と」 それは、暗い願望の告白だった。 「へぇん」 おぞましささえ感じる告白に、愛華はあくまで軽く答える。 「あなたにも分かるでしょう?一原百合子を愛するというのなら」 「あっはー、確かにお姉を独占したいとか、そういう衝動にかられることはあっちゃうよねー。でもさー」 からから笑いながら、愛華は続ける。 「お姉はね、ただ自由なんだよね。本気で愛する癖して、本気で1人の女に縛られない。移り気なんかじゃなくね。とにかくフリーな心の持ち主なんだよ」 「だから、誰もがそれに惹かれる、と?」 「そういうこと。だから、さ」 笑みを消して、愛華は続ける。 「止めてよね、私の大好きな、自由なお姉を縛り付けようなんてさ」 口調は穏やかだが、これ以上無い殺気を伴った言葉を、愛華は相手にぶつけた。 「若い、というか青いですわね」 その殺気を軽く受け流すように、少女は嘆息した。 「自分の想いが、願望が貫けるものだと思っている。貫けぬにしても道理を持って阻まれると信じている。この世の不条理など見たことも無いというわけですわね」 「何、ソレ?『フジョーリ』っておいしいの?無理を通して、そういうのを蹴っ飛ばすのが私達・・・・・・」 「見せて差し上げますわ。この世の不条理というものを」 愛華の言葉をみなまで言わせず、少女は朗々と語る。 そう言いながら少女が示すモニターの先には、立ち回りを繰り広げる生徒会メンバーに向かって、一台の車両が接近する様が写っていた。 モスグリーンの車体。 無骨なフォルム。 それに、大きな砲塔。 それの示すモノは、 「・・・・・・戦車?」 鬼児宮の大邸宅にはどうにもそぐわないソレを見た愛華は、呆然として言った。 549 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15 13 27 ID vAX2GWOI Side Uhyou 鬼児宮邸正門前の庭 「あははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」 生徒会会計の霧崎涼子が、武装した警備員や執事、メイドらを老若男女容赦なく殴り倒す笑い声が、校庭の2、3個は入りそうなほど広い庭に響く。 雨氷の認識する限りでは、涼子は性同一性障害に近い性質の持ち主だ。 自身を男性として認識しながら、一方で同性愛者である百合子を愛している。 性別に関するアイデンティティの置き所が非常に曖昧なのだ。 だからこそ、男だろうが女だろうが男女差別無く暴力を振るえる。 その性質は時として恐ろしいが、こうした時には頼もしいと雨氷は思う。 「Let s rock and roll!」 少し視線をずらせば、銃撃を舞うように避け、相手に華麗な蹴りを叩きこむ生徒会顧問教師のエリスの姿が見える。 エリスにせよ涼子にせよ、彼女ら程の達人になれば、銃など少々リーチと威力の高い拳打のようなものだ。 むしろ、直線的な分攻撃が予測しやすい、と以前エリスが講釈を垂れていたのを雨氷は思いだした。 いくらなんでも、そこまで怪物的な強さは身につけたい気はしない。 と、雨氷は銃を向けてきた執事の腹にナイフの峰を叩き込みながら思った。 ここまで書くとまるで生徒会メンバーが暴虐の限りを尽くしているように見えるが、手を出してきたのはあくまで相手だ。 そもそも、「鬼児宮サナに会わせろ」と言ったら向こうから雨氷達を襲ってきたのだ。 素直に会わせてくれるとは最初から思っていなかったが。 「Well,ウヒョウ。あまり長い長持ちはしないデスよ?適当なトコロで逃げるべきデス」 10人ほど一度に文字通り一蹴してから、エリスは雨氷に近づき、そう耳打ちしてきた。 言われなくても分かっている。 雨氷達の目的はあくまでも警備のかく乱。 一介の高校生である彼女達が相手取って敵う連中とは思えないし、万一敵ってしまった方が後が面倒だ。 自分達を社会的抹殺することは、一応は鬼児宮家であるサナには容易なのだから。 「ええ、分かっています先生。ですが、百合子が来るまで後少しだけ粘ってください。後で面倒にならない程度に」 「Okay.デスガ、目的が分からないのがヤッカイですね。何故サナはアイカをキッドナップしたのか」 近づく武装したメイドたちに回し蹴りを食らわせながらエリスは言った。 「そうですね。ですが、鬼児宮にとって人一人の人生をどうにかするのは児戯のようなものですから」 エリスの言葉に答える雨氷の脳裏に、かつて刃を交えた鬼児宮の名を持つ女性とその不愉快な恋人の姿が思い浮かんだ。 確か、鬼児宮本家の人間だった例の女性にとって、サナは従姉妹にあたるはずだった。 「2人とも、あんまり悠長なこと言ってる暇は無いみたいだよ」 シニカルな笑みを浮かべ、涼子が言った。 「見て、アレ」 涼子が指差す先には、大砲をのせた車両があった。 豪邸の庭にはとても不釣り合いな無骨なソレは、 「A tank?」 「ええ。戦車、ですね」 一瞬、呆然としそうになりながら、エリスと雨氷は言った。 「厳密にはちがうっぽいけどね。この馬鹿デカイお庭に収まる位のサイズだし」 「厳密性を求めている場合ではないでしょう」 涼子に雨氷がツッコミを入れている間にも、その小型戦車は砲塔を動かした。 ばごん、と言う耳が割れんばかりの轟音と共に何かが飛び出し、どーん、という音と共に鬼児宮邸の一角を消し炭にする。 「作戦変更です。逃げましょう」 「だね」 「Let s run away」 3人は揃って回れ右をして、鬼児宮邸の門に向かって走り出した。 「逃がすか!」 「待て!」 当然のように、警備員達が追いかけてくるが、そんなものよりも小型戦車の方が恐ろしい。 「待てと言われて待つヤツはいないでしょ!」 「その通りデス!」 「私達を全力で見逃がしなさい!」 と、3人は警備員達に、というより小型戦車に言った。 とにかく走る、走る、走る。 死ぬことが恐ろしいから、ではない。 自分の命を守る、それが百合子と雨氷達の約束だったからだ。 だから、3人は逃げ出した。 どれ程の屈辱を感じたとしても。 ただ、愛の為に。 550 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15 14 04 ID vAX2GWOI Side Aika 「薄情者ー!」 警備員達を翻弄しながら、小型戦車から逃げ去る3人を見て、愛華は叫んだ。 勿論、モニター越しだからそんな叫びが届くはずも無いのだが。 「お分かりいただけましたですわ。これが理不尽な力の前に敗北する者の姿なのですわ」 メイドに用意させた紅茶を飲みながら、少女は言った。 口元に笑みを浮かべて。 「楽しそうだね、先輩」 「ウフフフ・・・・・・・。ええ、本当に愉快ですわ。理不尽な力で敗かして虐げ蹂躙して絶望させるのは、本当に愉快」 フフ、と笑みを濃くしながら、少女は言う。 「ウフ、ウフフフフ・・・・・・、アハハハハハハ!ざまぁ見やがれですわ!暢気に軽薄に覚悟も無く楯突くからこう言うことになるのですわ!!弱い奴は弱い奴らしく地に這い蹲っていれば良いのですわ!」 美しい面立ちを醜く歪め、少女は笑う。 「見事なまでに悪役の台詞だね。ううん、いじめられっ子の台詞、かな?」 「・・・・・・なんですって?」 一見希望が絶たれたかのような状況でも、軽い口調を崩さぬ愛華を、少女は睨み付けた。 「知ってる、先輩?いじめられっ子がいじめっ子に転進したパターンで結構多いのが、自分のいじめられた苦しみを他人にも味合わさせたいってのなんだって。ま、八つ当たりだね」 「それが、何の関係があるって言うんですの?」 鬼のような形相の少女に動じることなく、愛華は笑う。 「だって今の先輩、そのパターンにそっくりなんだもん」 そう答えた愛華の襟首を、少女は憤怒の形相で掴んだ。 「生意気言ってんじゃ無いわよ。アンタの存在には人質以上の価値なんて無いのよ?」 視線だけで愛華を殺さんばかりの勢いの少女だったが、そう言った所で急に愛華を放り出し、耳元に手を当てた。 ウェーブのかかった長髪に隠れた耳元に。 何事か呟いているようにも見えたが、愛華には聞こえない。 それから、改めて少女は愛華に向き直った。 「失礼いたしましたのですわ」 憤怒の形相を無理やり笑顔に戻して少女は言った。 そして、放り出した勢いで倒れた、愛華を縛り上げた椅子を立たせて、その身なりを整える。 「貴女はお客人。一原百合子を手に入れるまでは。それまでにしっかりと歓待してさしあげなければいけませんでしたわね、ええ、ええ」 急激な態度の変化に、さしもの愛華も戦慄した。 551 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15 14 44 ID vAX2GWOI Side Senri 二日さんの尊い犠牲(死んでない)のお陰で振井さんの関門を抜けた俺たちは、下水道を上り、通風孔を通って何とか鬼児宮邸内に侵入を果たした。 「全メイド、執事の行動パターンは調べ上げているでござる。彼らは、どんな自体でも寸分の狂いも無く行動するそうでござるから、そのパターンの隙を突いて移動するでござる」 懐から潜入ルート等が書かれたメモを取り出し、李が言った。 「・・・ですが李さん、鬼児宮先輩のご家族は?・・・もしかしたら急に帰ってくることもあるかも・・・・・・」 「鬼児宮サナはこの屋敷で1人暮らしでござる。幼少の見切りより」 三日の疑問に、李は間髪いれずに答えた。 「・・・」 「1人暮らしって・・・・・・」 クラス1つ分の人数が暮らしてもまだ余裕がありそうな豪邸で1人暮らしとは。 他に住み込みの執事やメイドがいるのかもしれないが、随分剛毅な1人暮らしもあったものだ。 だからと言って、それが恵まれているとは限らないが。 幼い頃から、執事やメイドがいても、親がいないのなら。 親の愛情が、無いのなら。 「驚いている暇は無いでござるよ、お二方。いざ参るでござる」 そう言って先を促す李だったが。 「参らせる訳にはいかねぇんだよな、これが」 という声に遮られる。 「お前は、空蝉!?」 李の声に答えるように、1人の青年が現れる。 黒い道着に、顔を隠す頭巾、長身痩躯だが鍛錬を感じさせる体つきの持ち主だった。 「知っているのか、雷電!?」 「うむ、聞いたことがある。……って誰が雷電でござるか!」 俺のボケにツッコミを入れながら、李は答えた。 「この男は空蝉。拙者と同門の中国忍者でござる」 「・・・ちゅーごくにんじゃ」 ひどい言霊が聞こえた気がした。 宇宙忍者とかゲルマン忍者とかの方がまだマシなんじゃなかろうか。 「オイオイ、忍。中国四千年の歴史を誇る『九毒拳』の訳語にソレは無いんじゃねーの?」 空蝉と呼ばれた青年はそう言って大げさに肩をすくめた。 『九毒拳』というのが中国忍者とやらの正式名称らしい。 「それに忍、お前は九毒拳の裏切り者で、俺の幼馴染兼元許婚だろ?ソコを忘れちゃいけねーよなぁ」 ビシ、と李を指差し、空蝉さんは言った。 「・・・許婚」 「それは九毒拳の長が勝手に決めたこと。それに、裏切りではなく足を洗ったと言うべきでござろう。諜報、暗殺、そうした汚れ仕事から」 苦々しげに李は吐き捨てた。 なるほど、九毒拳とはスパイ行為の為の武術らしい。 中国忍者という訳語はこれ以上なく的を射ていたようだ。 それっぽい設定が付くともっともらしく聞こえるから困る。 「御神氏、緋月女史、先に行くでござる」 そんなことを考えていると、屋敷の進行ルートを書かれたメモを無理やり握らされ、李から意外なことを言われた。 「え、でも・・・・・・」 彼女を見捨てろ、と言うのだろうか。 「ここから先は中国忍者同士の戦。嫌な言い方でござるが、お二方はむしろ足手まといになってしまうのでござる」 確かに、三日の身体能力は普通の女の子以下だし、俺のほうも李ほど武芸に長けているわけではない。 ここは中国忍者のやり方を知っているらしい李に任せるのが適任かもしれない。 二日さんの時といい、あまり他人に丸投げするのは気が進まないが。 「ヤバくなったら逃げなよ、李」 「承知」 李が頷くのを確認し、俺は「わきゃっ!?」と言う三日を抱えて走り出す。 「逃がすかYO!?」 俺に飛び掛ろうとする空蝉さんは、李の投げた手裏剣に動きを止められる。 「今の内に早く!」 「ありがとう!」 李を置き去りにすることへの迷いを振り切るように、俺は走った。 552 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15 16 27 ID vAX2GWOI Side Li 中国忍者―――九毒拳は本来、諜報や暗殺に特化した武術である。 他者の隙を見抜き、瞬時に射抜く。 己を殺し、一撃をもって他人を殺す。 先手必勝にして一撃必殺の武術。 故に、 「中国忍法、転!来!旋風刃!!」 「あくぃたー!?」 たった一撃の、しかし渾身の技をもって、李忍は空蝉を叩きのめした。 しかし・・・・・・ 「まだ、終わりとは思えぬでござるな」 構えを解くことなく、李は呟いた。 「その「通り「だぜ「忍」 その瞬間、どこからともなく十数人の人影が李の周囲に現れた。 そのどれもが空蝉と同じ背格好と肌の色。 「これは!?」 驚く李に、空蝉たちは笑う。 「どうだ「驚いたか「忍。「日本流「に言えば「分身の術「ってとこ「ろだ」 それぞれの空蝉がそれぞれの言葉を引き継いで話す、異様な光景。 「そんな漫画のようなこと、本当に出来るはずが無いのでござる。大方、似たような背格好の者を集めてお主の猿真似をさせた忍軍でござろう!」 「ああ「コイツらは「俺の雇い主が集めた「俺と良く「似た背格好の「犯罪者だかなんだかだ」 と、空蝉たちは自慢げに続ける。 ここまでは、李の予想通りだった。 「その「心を「拷問と「薬で「壊し「俺そっくりに「整形し、「俺そっくりに「振舞うように「教育した「ってわけさ」 「何!?」 なんでもないことのように発せられた空蝉の非道な言葉に驚愕する李。 「オイオイ「薬と「拷問「なんざ九毒拳じゃ「当たり前だろ?「ま、「この人数は「さすが金持ちって「ところだけどな」 そう言って笑う空蝉に、不快感を隠さない李。 「だから拙者は中国忍者を抜けたのでござるよ・・・・・・!」 「キレイごとだなぁ「忍。「そんなことで「本物の「俺を「見破れる「か「な!?」 空蝉の長台詞が終わる前には李はまっすぐに走り、忍軍の1人を殴り倒していた! 「な、何故、どうして!?」 「本物が分かったか、でござるか?」 容赦なく次の一撃を加えながら、李は言った。 「抜けたとはいえ、お主とは何年も共に稽古したのでござる。細かな癖、挙動、全て嫌になるほど知っているのでござるよ」 「だから、コイツらは俺そっくりに!?」 「それでも他人。細かな動きに違いが出るのでござる。薬や拷問で人の心を折ることは出来ても、その存在を完全に粉砕することはできぬ!」 渾身の一撃を叩き込み、李が叫ぶ。 「さす、がだな、忍・・・・・・」 倒れこみながら、本物の空蝉は言った。 「だが、俺を倒しても第二、第三の俺が、お前を・・・・・・・」 「!?」 その言葉が終わる前に、周囲の偽空蝉たちが一斉に李に向かって群がった。 『本物が倒れたときは、倒した相手を襲え』 事前に仕込まれたその指令を忠実に全うするために。 553 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15 16 46 ID vAX2GWOI Side Senri 「・・・どうしたんですか、千里くん?」 と、俺に抱えられた三日が言った。 李の遺したメモ(だから死んでない)を頼りにルートを進み、鬼児宮サナ先輩の部屋のすぐ真上まで来た。 たった2人となってからも、なるべくサクサク、如才なくこうしてリアルメ○ルギアソリッドを進めていたつもりだったが、三日には分かってしまうものらしかった。 「・・・少し、迷っているように見えますよ、千里くん」 「まぁ、ね」 そう、俺は迷っている。 二日さんに任せ、李に任せ、鬼児宮先輩の部屋への奇襲と言う最終最後の逆転の役回りは俺たちに、俺に任された。 任されて、しまった。 「俺なんかで、良いのかなって思って」 本来、俺はこの事件の部外者だ。 二日さんのように実力を誇示するつもりも無ければ、李のように一原先輩の為なら何でも出来るような覚悟も無く、愛華さんと特別親しくしてもらっていたわけではない。 ただ、一原先輩に助力を頼まれただけの人間だ。 やる気はあるが、それは生徒会メンバーには程遠いだろう。(一原先輩への愛のためなら命を捨てる人たちだ) 知的好奇心とやらで動く推理小説の名探偵よりも、問題解決のための目的意識が低いと言って良い。 この場にいることが必然ではなく、自然でも無い。 不必然にして不自然。 そんな人間が、最後の逆転の役回りに就いて良いのか、俺が相応しいのか、それが、ほんの少しだけ、迷う。 「・・・そうじゃないって思うなら、やめれば良いと思います」 と、三日は言った。 止めてしまえ、放り出してしまえ、と。 「・・・李さんのメモを使って、ここまで来ることが出来たのですから、今から帰ることも出来るでしょう」 三日の言うことはもっともだった。 「けど・・・・・・」 未成年のやったこととはいえ、これは誘拐事件。 それをそのままにして良いのだろうか。 いや、それは一般論だ。 人として守るべき社会常識、モラルであっても、それは俺個人の意見では無い。 俺個人の気持ちが入っていない。 「…つまらないことで、千里くんがやりたくも無いことで、千里くんが傷つくなんて、それこそ非道なことです。…私もそんな姿、見たく、ありません」 顔を伏せて、三日は言った。 「まぁ、言いたいことは分かるけどさ」 俺は返した。 けど、って何だ、と自分で思わずにはいられなかった。 「・・・それでも、私は、千里くんの判断を支持します」 と、三日は言った。 「・・・それがどのようなものであったとしても、それは千里くん自身が考え、決めたものなのですから。・・・それは、何であれ誇るべきものです」 三日の言葉に、俺は一瞬だけ、迷い、考え、決断した。 554 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15 17 12 ID vAX2GWOI Side Yuriko 「さー、サナさん。約束どおり1人で来たわよ」 どや、と鬼児宮サナの私室の扉を開け、一原百合子は堂々と言った。 「お姉!」 椅子に縛られた愛華が呼びかける。 「怖かったわね、愛華(あっ)ちゃん。あとでおねーちゃんが慰めてあ・げ・る。と、言うわけで鬼児宮さん、あっちゃんを離して私らを帰しなさい!」 どどーん、という効果音が欲しくなる(by百合子)ほど大げさに百合子は言った。 「そうはいかないのですわ」 余裕の表情で、鬼児宮と呼ばれた少女は応じた。 「なんでよ。警備はもうしっちゃかめっちゃかで、アナタもう打つ手無しっしょ?さすがに、私を案内する係がいなかったのは驚いたけど」 「だとしても、貴女1人ではどうしようも無いのですわ。だって・・・・・・」 何でもないことのように少女は続ける。 「一原愛華には遠隔操作の爆弾が仕掛けられているからですわ」 そう言って、愛華の縛られた椅子の後ろを見せる少女。 縄の間には、確かに火薬の仕込まれた無骨な装置があった。 「んな!?」 「その上、サナの持つスイッチでオンオフ自在なのですわ」 「なな!?」 「部屋全体には大した被害は及びませんが、まぁ、一原愛華1人とその周りを吹き飛ばすくらいは出来るのですわ」 「くぅ、なんてベタな!」 「つっこむところがソコですの?」 百合子のリアクションに心底呆れたような顔をする少女。 「それはともかく、一原百合子。妹を殺されたくなければ誓うのですわ。跪いて足を舐めて。『一原百合子は鬼児宮サナに心身共に絶対隷従します』と そう言って、少女はサディスティックに笑った。 「そしたら、私はどうなるのかしら?」 「永遠にこの部屋の住人になるのですわ。勿論、ボイスレコーダで言質は取らせて頂きますわ」 「どーせ、この部屋の様子はチキンと記録されてるんでしょ?」 わざと『きちんと」ではなくチキンと言った。 あまり上手くない百合子だった。 「勿論ですわ」 そう言って、少女は足を組みなおす。 「さぁ、誓いなさい。鬼児宮サナに屈服すると」 「お姉、こんな奴の言う事聞いちゃ駄目!!」 歪んだ笑みを浮かべる少女と、切迫した声を上げる愛華。 しかし、百合子は大胆不敵な笑みを浮かべる。 「ねぇサナさん、私は1人で来た、とは言ったけど、味方がいない、と言った覚えは無いわよ?」 「生徒会のお歴々のことですわね」 ハッ、と百合子の言葉を鼻で笑う。 「今頃は我が手駒の前に倒れているころですわ」 「どうかしらね?」 「それはどう言う・・・・・・」 その回答は、轟音によってなされた。 部屋の窓が割れ、ロープを使って1人の少年が部屋の中に侵入する。 「何者!?」 その叫びに対し、少年―――御神千里は不敵に答える。 「ただの、ヘルプですよ」 555 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15 18 16 ID vAX2GWOI Side Senri 「よっと!」 急な襲撃に驚愕する少女(恐らく、あれが鬼児宮サナ先輩だろう。事前に写真で見た)に向かって、部屋に侵入した俺は飛び掛る。 「ただのヘルプですって!?おふざけを!!」 「ふざけちゃいませんよ」 俺から半ば転がるように距離を取った少女に、俺はいつも通りの笑みで応じる。 「貴方、生徒会の人間ではありませんね。それがなぜここに?利害?報酬?青臭い正義感?それとも一原百合子の押しの強さに負けて?」 「どれでもありません、よ!」 そう少女に返しながら、俺は距離を詰める。 「腐れ縁で、昔から何かと世話になった先輩に頼まれた、頼りにされた。その期待に応えたいとか思っちゃったり。理由はそれだけです!」 その言葉と共に、足払いをかける。 それだけ、であっても俺の行動にはもう迷いは無い。 例えそれ以上の目的が無いとしても、例え部外者だとしても! 一原先輩が俺のことを知らなければ、あるいは俺のことを頼りにならないどうでも良い奴だと思っていたら、俺はそもそもこの場には呼ばれていない。 そうではないことを、俺はこれ以上無く嬉しく、誇りに思っていることに遅まきながら気が付いたんだ! 「せいや!」 転ばせることはかなわなかったが、俺は少女のバランスを崩すことはできたようだった。 俺は背中から彼女を取り押さえ、首に腕を回す。 「さーて、鬼児宮サナ先輩。これ以上痛い目みたくなければ、降伏してください」 「あら、か弱い女性に手を上げるおつもりですの?」 首を絞められながらも、少女は気丈に軽口で返した。 「確かにこう言うのは趣味じゃないけど、男女差別はもっと趣味じゃないんですよね」 「あら、そうですの」 「それに、俺の行動を後押ししてくれた奴もいますし」 俺のその言葉に、「・・・女子に暴力を振るって下さい、という意味でもなかったような」という声と共に三日が降りてきたような気がしたがスルーした。 「…でも、絆を大事にする千里くんらしいです」 と、後ろで笑ってくれたのは嬉しかったが。 「いずれにせよ、私を押さえてもあまり意味はありませんわ」 「はい?」 なぜか余裕のその言葉に、俺は怪訝な声を出す。 「だって『私』、左菜(サナ)では無いのですから」 その言葉に、一瞬虚を突かれた。 「ガッ!?」 少女が袖口から取り出したスタンガンの一撃を、俺は腹部にモロに受ける。 「改めまして、はじめまして、ですわ」 俺から距離をとり、その少女は、ウェーブのかかった長髪の向こうに小型の通信機を付けた少女は、スカートの端を持って優雅に一礼する。 「私は左菜の妹、鬼児宮右菜(オニゴミヤ・ウナ)と申しますわ」 その少女、右菜さんを見ながら、俺は何とか立ち上がった。 「アンタが最終関門ってワケですか」 『その通りですわ』 そう答えたのは、部屋のどこかに仕掛けられたスピーカーからの音声。 目の前の右菜さんに良く似た声音だった。 「アンタが鬼児宮左菜さん?」 俺は、スピーカーからの声の主に向かって聞いた。 『ええ、私の方が鬼児宮左菜(オニゴミヤ・サナ)。以後お見知りおきを願いますわ。尤も、あまり長い付き合いにはならないでしょうけれど、ですわ』 笑みさえ感じさせる声で、左菜さんは言った。 「双子の入れ替わりトリック・・・・・・」 さしもの一原先輩も驚愕していた。 「ひどいじゃない!そんな使い古されたトリック!しかも伏線がどこにも無いし!」 「申し訳ございませんが私達、フェアと伏線が保証された本格ミステリをするつもりは無いのですわ」 妙なところに怒り出す一原先輩に、右菜さんが冷たく言い放った。 『それに、右菜の存在は世間にもひた隠しにされていたのですわ。せいぜい、私の名前に『左』の文字が入っていたことがその暗示』 「ンな右京さんと左京さんじゃないんだから・・・・・・」 「それに、警備担当の九毒拳士に似たようなトリックを使わせていたのですけれど、貴方方はご存じなかったようですわね」 嘲笑するような声音の右菜さん。 どうやら、空蝉さんにも替え玉がいたらしい。 もし彼に全員で対決していればこの展開を予想できたかもしれない。 「後悔してる暇は無いわよ、御神ちゃん」 「ええ、分かってますよ」 再度右菜さんを警戒しながら、俺は言った。 556 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15 19 16 ID vAX2GWOI 「どうするつもりですの?」 『ええ、一原愛華に仕掛けた爆弾のスイッチは、隠し部屋にいる私が持っているというのに』 双子からの余裕の声。 しかし、日本語は正確に使って欲しい。 愛華さんに仕掛けた爆弾では無く、正確には愛華さんの『椅子に』仕掛けられた爆弾だ。 だから、 「こうするつもりですよ!」 俺は再度、右菜さんに飛び掛る。 「この!!」 スタンガンを振り回す右菜さんだったが、種が割れている以上避けるのは難しくない。 思ったとおり、右菜さんの身体能力は普通の女子高生以上の物ではない。 恐らくは、あくまで右菜さんは左菜さんのボディガードではなく替え玉であり、戦う為の訓練は受けて無いのだろう。 だから、一般的な高校生でしかない俺でも十分に対抗できる。 「すいま、せん!」 俺は右菜さんのわき腹に軽く蹴りを入れ、愛華さんの椅子の方に飛ばす。 「三日、ロープを!」 「・・・はい!」 俺の言葉に、三日は俺たちがこの部屋に侵入するのに使ったロープを投げ渡す。 「何を・・・・・・!?」 「はい、ぐーるぐる」 縛られた愛華さんにその隣の右菜さん。 その更に上から、俺はロープを巻きつける。 「ど、う、だ!」 もがく右菜さんをしっかりと縛り上げ、俺は言った。 『何のつもりですの?』 「人質」 左菜さんの言葉に俺は即答した。 愛華さんに仕掛けられた爆弾が実際どれほどの威力かは知らないが、今の状態で起爆したが最後、右菜さんも道連れになる。 爆弾を使って左菜さんは愛華さんを人質に捕ったが、同じ方法で俺は右菜さんを人質に取られせてもらった。 「貴方、見た目の割に性格悪いですわね」 「そりゃどうも」 憎憎しげに見つめる右菜さんの言葉に、俺はサラリと返した。 ともあれ、これで状況はイーブンになった。 一原先輩の言うことを聞かせるために爆弾を仕掛けた左菜さんだけど、その手はもう使えないだろう。 ここから文字どおりの意味での先は話し合い――― 『お得意になっているところ申し訳ありませんが、私に右菜は人質になりませんわ』 「・・・・・・はい?」 まるで当たり前のように言われた言葉に、俺は声を出すのがやっとだった。 『私の目的は、あくまで一原百合子を手に入れること。それ以外の為の手段も、犠牲も問いませんわ』 「左菜!?」 そう叫んだのはほかならぬ右菜さんだった。 「それハッタリよね!?ブラフよね!?左菜が私を、たった1人の姉妹を犠牲にするはず無いわよね!?」 今までに無く余裕をなくした形相で、右菜さんは訴えた。 言葉遣いも乱れ、目元に涙すら浮かべていた。 『右菜、あなたの存在は私の替え玉、身代わり、それ以上の価値は無いのですわ』 「!?」 あっさりと言い放った左菜さんに、右菜さんが絶句する。 「ちょ、待ってよどうしてよ!?」 そう抗議したのは一原先輩だった。 「どうしてサナさんは私をそんなに欲しがるの!?妹さんまで犠牲にして!!」 『ご自分の胸に手を当てて、良く考えてみることですわ』 左菜さんは、それ以上の説明をするつもりは無いようだった。 「正気かよ、アンタ・・・・・・」 俺は、そう言わずにはいられなかった。 だってそうだろう? 生まれたときから一緒だった相手を、共に喧嘩し、共に泣き、共に笑った相手を何でそんなにあっさり犠牲に出来る!? 『ええ、確かに私は正気では無く、狂気に侵されているのかもしれないのですわ。けれども、一原百合子を手にするためには、それさえも瑣末なことですわ』 「そう・・・・・・」 そう、静かに答えたのは一原先輩だった。 「そっかそっか、そう言う事なんだ」 何かを納得したように頷く先輩。 少しずつ、愛華さんたちの方に近づきながら。 557 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15 19 59 ID vAX2GWOI 「でもゴメンね、アナタが私に『服従』とか『屈服』とかして欲しいならムリだわ」 ひょい、と肩をすくめて一原先輩は言う。 「あなたが望むなら、絆は喜んで結ぶ。あなたが望むなら、その絆は喜んで愛する。でも誰かに隷従するのは、私の魂が拒絶する。だって―――」 にっこりと笑顔さえ浮かべ、先輩は言った。 「そんな関係、つまんないじゃない」 『・・・・・・それが、答えなのですの?』 感情を押し殺した声で左菜さんは言った。 『・・・・・・・んで』 声と共に漏れるのは、嗚咽だろうか。 『なんでなんでなんでなんですか!?貴女は私が生まれて初めて本気で欲しいと思った相手なのに!?本気で羨ましいと思った相手なのに!?本気で本気で本気で本気で本気で本気で!!』 栓をしていた感情を吐き出すように慟哭する左菜さん。 俺の本能が警告する。 ヤバい、このパターンはヤバい!! 『もう取引なんてどうでもいい!脅迫なんてどうでもいい!爆弾を起動する起爆する爆発させるのですわ!!』 「左菜!!」 そう叫んだのは誰の声だったろうか。 爆発する! そして。 しかし。 どれだけたっても。 「・・・爆発、しません」 思わず覆いかぶさった俺の下から、三日が怪訝そうに言った。 爆音がしない。 熱風も、来ない。 なぜなら。 愛華さんと右菜さん、両者を抱きしめるように一原先輩が密着していたから。 「離さないわよ」 と、先輩は言った。 「私は絶対、誰も離さない」 強い意志さえ感じさせる声だった。 「ねぇ、左菜さん。いいえ、さっちゃん。あなた、私が羨ましいって言ったわよね。だったらさ」 にっこりと、全てを包み込むように笑う一原百合子先輩。 「この輪の中に、入りなさいよ」 楽しいわよ、と一原先輩は言った。 「・・・・・・はい、ですわ」 その答えは、すぐ近くから返ってきた。 部屋の中で一際大きな油絵。 その裏の隠し扉から。 そこから現れたのは、右菜さんとそっくりな、けれどどこか違った雰囲気の少女。 この人が、本当に鬼児宮左菜さん。 左菜さんは、爆弾のスイッチを投げ捨て、一原先輩に抱きついて、大声で泣いた。 558 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15 21 38 ID vAX2GWOI Side All 「私、一原百合子がこの世で一番好きなのですわ」 その少し後。 俺こと御神千里らに加え、生徒会メンバーに、下水道でリタイヤしていた二日さんと振井さん(二日さんが勝ったらしい)、さらに李と彼女にボコられた空蝉さん(替え玉も全員倒されたらしい)は左菜さんの部屋に集められた。 そこで左菜さんから発せられたのが上の台詞。 その言葉に、反応は様々。 最初から知っていたらしい右菜さんや途中で察したっぽい一原先輩、そもそも興味無しな二日さんは普通の反応。 振井さんと空蝉さんは驚愕。 生徒会メンバーは軒並み苦い顔をした。 俺と三日は、何というか、脱力? どうやら、一原先輩の厄介な恋愛に思いっきり巻き込まれただけみたいなわけだし。 で、一原先輩の返事は。 「一億と二千年前から愛してました」 「適当こくな」 一原先輩のバカに、俺は容赦なくツッコミを入れた。 「でもさっちゃん。どうしてそれを最初から素直に言ってくれなかったの?私は女の子はみんな大好きなのに?」 俺のツッコミをスルーして、さっちゃん、もとい左菜さんに問いかける一原先輩。 確かに、先輩が同性愛者なのは学園の全校生徒が知っている。 「貴女が気にしなくても、我が家が気にするのですわ」 「鬼児宮家は血族の繋がりが強い上に、本家のご当主による独裁体制なの。私たち親戚筋はソレに絶対服従。一般には全然知られてないけどね」 左菜さんの言葉を、右菜さんが補足した。 敬語ではないのは、右菜さんの素なのだろう。 「あー、ものすごい納得した」 渋い顔をして一原先輩は応じた。 「結婚相手を指定したり、同性愛をタブー視するような、頭のおか・・・・・・失礼頭の固い方々が本家にいる、ということなのですね」 と、応じる氷室副会長もこれまた渋い顔。 そう言えば、彼女らの先輩の鬼児宮エリスさん、つまり三日のお兄さんの恋人さんも鬼児宮姓だった。 多くは語らないけれど、先輩達はかなりの程度鬼児宮の滅茶苦茶具合を肌で知ってるのかもしれない。 「そんなところですわ。けれども、家の中に、その『飼う』というか『囲う』というのなら、何とか本家の人間も納得させられますから」 「それで、恋人関係じゃなく、上下関係を結ぼうとしたわけね」 左菜さんの説明に、一原先輩は言った。 事情は分かったけど、手段が荒っぽいにも程がある。 「けれども、計画が潰えた以上、どうしようもありませんわ。このまま生きていても、好きでもない男性に嫁がされるだけですわ」 自決するしかありませんわ、と暗い表情になる左菜さん。 「大丈夫よ、さっちゃん」 左菜さんを安心させるように、一原先輩は彼女の手を握った。 「私達にはこんなにも心強い仲間が、恋人がいるもの。すぐにはムリでも、少しずつ他の人にも納得してもらえば良いわ。ねぇ、そうでしょ、みんな?」 ひょい、と生徒会メンバーの方を向く先輩。 「鬼児宮殿には、我々との百合子争奪戦に参加していただくことにはなるでござろうが」 「ソレ以外はスポーツマンシップに反するデス。そう言うのは、争いはストップイットデス」 「お姉は私のだけど、みんな一緒の方が賑やかだしね、お姉は私のだけど」 「ま、鬼児宮家にいられなくなったら百合子にもらってもらえば?」 「過ちは繰り返さない、が私のモットーですから」 と、李やエリス先生、愛華さん、霧崎や氷室副会長が答えた。 「何だったら、この家の女の子全員私の嫁にもらうけど?」 と、先輩は左菜さんと振井さんを見るが。 「「いや、あなたタイプじゃないんで」」 と無碍に断られる。 「でも・・・・・・」 となおも不安そうな顔の左菜さん。 559 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15 22 09 ID vAX2GWOI 「大丈夫よ、さっちゃん」 スルリ、と左菜さんの首に手を回す一原先輩。 「心配も不安も全部、私が一緒に肩代わりしてあ・げ・る」 あと数ミリで唇が触れ合うというところで、先輩は囁いた。 そのまま床の上に左菜さんを押し倒す。 どうでもいいが、妙に抵抗感が無かった。 「百合子殿!?」 「Oh,ジョーネツ!」 「ズルいよ、先輩」 「ボクも混ぜろよ!」 「百合子(ゆー)ちゃん!?」 と、先輩達の周りがくんずほぐれずのダンゴ状態になる。 「あ、アンタたち人の姉上にナニやってるのよ!?変なことしたら私が許さないわよ!!」 それをひきはがそうと、右菜さんが止めに入るが、割と逆効果に見えた。 「右菜のご主人、おいたわしーぜ」 その光景を複雑そうな顔をして見る振井さんだが、二日さんとの戦闘でボロボロになった身ではホロリと涙を流すくらいしかできない。 「なぁ、振井。こっから先は若い衆に任せようや」 そんな彼女に気遣わしげに手を置く空蝉さん。 「うう、ご主人……」 ダンゴ状態を押し留めようとする者、諦めたように部屋を出る者。 「・・・え、ええっと?」 超展開(一原先輩にとってはいつものこと)に呆然とする三日。 俺は、そんな三日を強制的に回れ右。 ここから先は18禁だ。 「さーて、帰るか」 「・・・良いんですか、放って置いて?」 「ああやって先輩のハーレムは拡大していくのさ、いつも」 三日の困惑に、俺はため息混じりに答えた。 結局、おいしいところは全部先輩が持っていった。 一原先輩絡みの荒事のエンディングは、いつもこんな感じなのだ。 まぁ、この場合俺が主役になっちゃいけないパターンだったんだろうけど。 これで良いのだ、と言えばそうなのだろうけど。 「そうだ三日、二日さん。今日はウチで夕飯食べてきません?」 部屋を出て、家へ帰ろうとする道すがら、俺は2人に提案した。 「悪くはありませんね・・・」 「・・・お姉様も誘うんですか?」 「不服ですか・・・?」 「・・・ソンナコトハゴザイマセン」 「折角ですから、お父様も呼びましょう・・・」 「外に出られたんですか、アレ!?」 さて、今日はとりあえず、憂さ晴らしに三日たちにたんまり美味しい物を作って、賑やかにおなか一杯食べるとしよう。 「まったく、やれやれだ」 頭を掻きながら、俺は呟いた。 「…そう言いながら笑ってますよね、千里くん」 そんな三日の指摘に、俺はそっぽを向いた。 560 :ヤンデレの娘さん 荒事の巻 ◆yepl2GEIow:2011/08/16(火) 15 22 33 ID vAX2GWOI おまけ 後日 あるウェブサイトのチャットルームにて。 むーんさん:ところで『yuriko』君、というか百合子君。この前は・・・ウマクイッタ・・・かい? yuriko:ええ、『むーんさん』さん。色々ありましたけどお陰でバッチシVでしたよー むーんさん:それは・・・ザンネン・・・。私としては…トラブル…の種を撒ければ良いと思って協力したのだからね yuriko:まー、そう悪いことばっか起きないってことですねー! むーんさん:ハッハッハッー yuriko:代わりに、ウチは今まで以上に賑やかになりましたから、そう言う意味じゃ『むーんさん』さんはトラブルの種を撒いたってことになりますかね むーんさん:それは…ヨロコンデ…聞いておこうかな yuriko まー、また何かあったときはよろしくお願いしますね、『むーんさん』さん、いえ、緋月先輩のお父様 むーんさん:・・・ワカッタ・・・よ、一原百合子君。機械関係なら、この『むーんさん』こと緋月月日に・・・マカセテ・・・おきたまえ
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114 名前:依存型ヤンデレの恐怖 ◆a5x/bmmruE[sage] 投稿日:2011/10/21(金) 21 45 40 ID y9ZxoISc [12/14] 依存型ヤンデレの恐怖2 寝苦しい夜だった。体中をナメクジが這い回るような感触。クソ。未夢のヤツだ。相変わらず生粋の馬鹿のこいつは、現在、俺の足に股間を擦り付けて絶賛自家発電中だ。 「うぁ…リューヤ、リューヤぁ!」 ふざけんな。小一時間も問い詰めてやりたい。だが、俺はそうしない。普通にキモイ。 でも止めない。俺は意地悪だから。むしろ手伝ってやる。 (うりうり!) 足を軽く揺すってやると、未夢は若鮎のようにおとがいを反らして反応した。 「あっはぁ…!?」 もうすぐだ。未夢はイク時、俺の名前を安売りみたいに連呼する。 「リューヤ、リューヤ、リューヤ、リューヤぁ…」 堪え性のない奴だ。そんな奴には、罰を与えてやる。 (今だ!) 狙いすまして動きを止めてやる。 「あぁ!あああ…んんん~!」 不完全燃焼の未夢は切なそうな呻きを上げる。 しかし、バレてないとでも思ってるんだろうか?俺の寝間着は未夢の吐き出した粘液でズルズルだ。 (もう一度だ。こんなエロっ娘は懲らしめてやる!) そんなことを繰り返しているうちに朝になった。 日の光と共に起き出した俺は、疲れてはいたが爽快な気分だった。一方の未夢は、どんよりとした眼差しに疲労の色を浮かべ、うつらうつらと船を漕いでいる。 (勝った…!) 「起きんか!このメス犬!」 下半身剥き出しの未夢に頭突きを食らわせる。 「きゃいぃん!」 いい悲鳴だ。 未夢が俺の身体でオナニーに耽るのはこれが初めてではない。この馬鹿はイッて満足してしまうと、後始末もせずに寝てしまうので部屋中性臭で一杯になってしまう。もちろん、俺の寝間着はガビガビだ。 初めこそチェリーの俺は動揺したものの、今ではこの通り、何も感じなくなってしまった。 (なんか違う…自慢するとこじゃない) 男として枯れてしまったような気がした。 未夢にエサを与えてそそくさと登校する。俺を見送った未夢は、欲求不満からか虚ろな目つきをしていた。 今度はオナニーを禁止してやろう… 学校で、有意義な授業を受け満腹になった俺はついうとうとと眠ってしまった。 …遠くに雨の音が聞こえる… はっ、として目を覚ますと窓の外は雨だった。 (しまった!) 窓から身を乗り出して校門を見ると、未夢のヤツが、また俺の服を着て一人、ぽつんと立っている。 濡れた子犬のように、惨めで哀れを誘う光景だった。 115 名前:依存型ヤンデレの恐怖 ◆a5x/bmmruE[sage] 投稿日:2011/10/21(金) 21 49 25 ID y9ZxoISc [13/14] 降りしきる雨の中、全力で校門に向かう。 「馬鹿っ、おまえ、なんで来たんだ。こんな雨の中、傘も差さないヤツがあるか!」 未夢は熱があるのだろうか、目元を赤くしてどこかしら浮かされたように言った。 「だって、未夢、リューヤだけしかする事ないもん…」 ゾワッと来た。 重い。 重すぎる。 幼なじみじゃなかったら、迷わず逃げ出すところだ。 未夢の身体は熱く、吐き出す息はどこか気だるそうだった。 慌てて帰宅する。こんな時にもかかわらず、この馬鹿は熱っぽい息を俺の耳に吹きかけたり、股間に手をやってモジモジしたりと忙しかった。おかげで電車の中で目立ってしょうがなかった。 帰宅して、救急箱を 探すが見当たらない。このときほど健康優良児の自分を恨んだことはない。 「未夢っ、救急箱知らないか?」 自分の家のことを何故他人に尋ねるのだろう。情けなさすぎる。 「風邪薬…?」 「ああ、それと濡れた服を着替えないとな…」 未夢はふらふらとリビングの奥に消えて行った。 そして帰って来た時、ヤツは風邪薬を片手に微笑み、何故か全裸だった。 「……」 「……」 沈黙があった。 流石の俺も意表を突かれ、この時ばかりは言葉を忘れた。 何なんだ、こいつは。一体、何処の星からやって来たのだ。 気を取り直して、全裸の未夢から風邪薬を受け取る。気にしたら負けだ。 「……」 俺の見込みは甘かった。どうしようもなく甘かった。 驚きはまだあった。 未夢が持って来たのは…座薬だった。 こいつは此処までするのか。 できるのか。 「変態」 「違うもぉん…リューヤが好きなだけで…」 俺? 未夢が怖くないかって? 怖いよ。 めっちゃ怖い! 「なあ、未夢…物事にはTPOというのがあってだな…」 「むつかしい話しはわからないよ……」 未夢…お前が、ナンバー1だ。 そして夜、またしてもリビングの床に未夢を正座させた。 バカは風邪を引かないという逸話があるが、どうやらそれは実話であるらしい。ピンピンしている。 「さぁ、誓うんだ。未夢!」 「リュ、リューヤのお家ではオナニーしませんっ!」 ここに至るまでの間にウメボシを山ほどかましてやった。流石に少し堪えたようだ。 「もう一丁!」 「リュ、リューヤのお家では、へ、変態禁止っ!うわーん!」 ふんっ! 誓わせてやったわ! 心配して損した…。
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294 :名無しさん@ピンキー [sage] :2007/04/03(火) 14 40 41 ID w5w+UrXk なぁ、みんな! ツンデレ喫茶があるんだからきっとこれからはヤンデレ喫茶もメジャーになり、テレビに進出………………………………無理か。 きっと警察沙汰になるもんな 295 :名無しさん@ピンキー [sage] :2007/04/03(火) 15 02 22 ID dQSk7oyh ヤンデレ喫茶か…… 毛髪入りとか睡眠薬入りのメニューがありそうだな 296 :名無しさん@ピンキー [sage] :2007/04/03(火) 15 17 11 ID UshWYBTj 前にもそんなネタあったなぁ 確か十回その店に通ったとかでサービスという名の拉致監禁。とか 297 :名無しさん@ピンキー [sage] :2007/04/03(火) 15 44 28 ID w5w+UrXk 296 前にもあったんだ。俺比較的新参者だから知らなかった。 俺の妄想の中では ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 「いらっしゃいませ!こちらの席へどうぞ!」 「ご注文はお決まりでしょうか? 〇〇〇〇が一つですね。 ……………………私以外のウェイトレスに話しかけないでね?あんな体の70%が水分のかわりに汚物や虫でできてる奴としゃべったら料理がまずくなっちゃうよ?」 ・ ・ ・ 店員がこれだと食欲うせるわぁー 妄想に付き合ってくれてありがとうな 302 :ヤンデレ喫茶は実在するのか? ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/04/03(火) 20 56 37 ID bhK99rbs 297 こんな感じ? ↓ とある掲示板で、面白い書き込みを見つけた。 『 なぁ、みんな! ツンデレ喫茶があるんだからきっとこれからはヤンデレ喫茶もメジャーになり、テレビに進出………………………………無理か。 きっと警察沙汰になるもんな 』 僕がよく覗きにいくスレッドの名前は『ヤンデレスレ』。 ヤンデレとは、『男性を愛するあまり心を病んでしまった女性』のことを差して使う言葉だ。 そのスレッドはなかなかの盛況ぶりである。 帰ってきてからこのスレッドでSSを読んだり、雑談するのが僕の毎日の楽しみだ。 それはともかく。 さっきの書き込みにあるように、ヤンデレ喫茶というものが存在していたら面白い、と僕は思った。 そこで、早速僕は行動を開始した。 比較的仲のいい友人二人に連絡を取る。 彼らは、都内某所のメイド喫茶に頻繁に通っている。 詳しく聞いてみたところ、友人Aは8回、友人Bは6回同じところに通っているという。 ちなみに僕も彼らに連れられて、先日までで4回ほど通っている。 ヤンデレスレに投下されたネタによると、10回通うと特別サービスということで 特別ケーキをごちそうされて、その後で監禁されてしまうらしい。 僕が『メイド喫茶に10回通って、監禁されるか試そう』とメールすると、 友人Aは『参加希望 ノ』と返信し、 友人Bは『ヤンデレにレイプされたいので参加キボンヌ』と返してきた。 そういうわけで、僕と友人二人でヤンデレ喫茶が存在するのかを検証してみようと思う。 303 :ヤンデレ喫茶は実在するのか? ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/04/03(火) 20 57 42 ID bhK99rbs 都内の大通りから少し離れた場所にある、メイド喫茶が検証の場所だ。 初めてメイド喫茶に足を踏み入れたときは「父さん母さん生まれてきてごめんなさい」と思ったが、 実際にはただウェイトレスさんがメイド服を着ているだけのお店だった。 意外と普通のお店だな、というのがメイド喫茶に対する印象だった。 ―とはいえ、気が引けるのは相変わらずではあるが。 それはともかく、さっそくメイド喫茶の扉を開けるとしよう。 からんからん、という軽いベルの音が扉の上から聞こえた。 そして、入り口の近くには白と黒の組み合わせが男の妄想を掻き立てる、 メイド服を着た女の子が立って、僕たちに向けて挨拶をした。 「お帰りなさいませ。ご主人様」 うやうやしく頭を下げた女の子の髪には、フリルのついたカチューシャが飾られている。 僕としては、このカチューシャがメイド服の一番素晴らしいところだと思う。 ちなみに、友人Aにそう言ったら、「メイド服といったらエプロンだろう!」と声を荒らげ、 友人Bは「はん! メイド服はロングスカートが最高なんだよ!」と吐き捨てた。 だが、なんと言われようと僕はカチューシャが好きなのだ。ここはゆずれない。 特に理由は無いけれど。 メイドさん(ここでは便宜的にそう呼ぶことにする)に案内されて、三人で同じテーブルにつく。 「何にいたしましょうか。ご主人様」 と、漆黒の長い髪を伸ばしたクールな印象のメイドさんが聞いてきた。 僕はアイスカフェオレを注文した。友人二人とも同じものを、と言った。 「お待たせいたしました」 しばらく待っていると、さっきのメイドさんがアイスカフェオレの入ったカップをトレイの上から一つずつ、 僕たちのいるテーブルの上にゆっくりと置いた。 「それでは、ごゆっくりおくつろぎくださいませ」 と言いながら頭を下げると、メイドさんは他のお客さんの接客へと移っていった。 アイスカフェオレに口をつける。 舌で味わって見る。が、特に変わった味もしなかった。 「まだ10回通っていないからだろう」と僕は思ったが、友人二人はどこかつまらなさそうな顔をしていた。 アイスカフェオレを飲んだ後、僕たち三人はお店をでることにした。 「いってらっしゃいませ。ご主人様」 髪の長いメイドさんが頭を下げながら、僕たちを見送った。 この日で、メイド喫茶へ通った累計回数は僕が5回、友人Aが9回、友人Bが7回になった 304 :ヤンデレ喫茶は実在するのか? ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/04/03(火) 20 59 37 ID bhK99rbs 検証二日目。 もしヤンデレスレのネタが実現するとしたら、友人Aは今日監禁されてしまう。 それを理解しているからだろう。 友人Aはスーツを着てメイド喫茶へやってきた。 しかし、スラックスはしわだらけだし、ジャケットのボタンはほつれている。 はっきり言って、カッコ悪い。 友人Aにさりげなく注意してみたら、「あえて着崩すのがいいんだよ」と、薄く笑いながら言った。 僕は「それを言っていいのは着こなしを知っている人だけだ」と思ったが、あえて言わないでおいた。 大通りからわき道に入り、メイド喫茶の前にやってきた。 もちろん、今日の検証場所も同じ場所だ。 「おかえりなさいませ。ご主人様」 と、お決まりになった出迎えの台詞でメイドさんに挨拶をされた。 そのメイドさんは、一日目と同じ、黒い髪に真っ白なカチューシャが映える人だった。 カウンターのテーブルに三人並んで座り、先日と同じくアイスカフェオレを三人分注文した。 ネタが実現するならば、この後で友人Aの前には薬の入ったケーキが置かれるはずだ。 「お待たせいたしました」 髪の長いメイドさんがトレイを持って僕たちの前にやってきた。 そのトレイの上にはカップが三つあるが――ケーキが置かれていなかった。 それを見て、僕は「ああ、やっぱりか」と思った。 しかし、友人Aは首が折れたのではないか、というほどにうなだれた。 友人Bはいったいどれだけの肺活量があるんだ、と言いたくなるほどの長さでため息をついた。 しかし。 「ご主人様! お着物のボタンがほつれております!」 メイドさんが突然に慌てた声をだした。 「え、あ、その」と友人Aがしどろもどろになっていると、 「私が、すぐに手直しいたします!」 と言ってから、メイドさんが友人Aを店の奥へと引っ張っていった。 「もしかして、実験成功か?」と僕たちは顔を見合わせた。 そして、友人Aが店の奥へと引っ張られていってから一時間が経過した。 「このまま戻って来るな!」と僕は祈った。友人Bもそう思っていたはずだ。 いや、友人Aを嫌っているからではない。 もしこのまま戻ってこなかったら、ヤンデレスレのネタが実現するからだ。 数分待っていると、『チャーンチャチャンチャン チャーンチャチャンチャンチャーン』というメロディーが聞こえた。 『TAXI』のテーマソングは僕のメール着信音ではない。友人Bのものだ。 友人Bが届いたメールを確認する。――それを見た彼は、顔に深いエクボを浮かべた。 彼が僕に向けて、携帯電話の画面を見せる。 『おまいらさきにかえてろ』 ……おそらくは、『お前ら、先に帰ってろ』と送るつもりだったのだろう。 つまり、一緒に帰れない、ということだ。そして、友人Aは店の奥に連れて行かれてこんなことになった。 これが意味することは――ひとつしかない。 都市伝説的なヤンデレ喫茶は、ここに――大通りから外れた場所にこそ、在ったのだ。 そのあと、会計を済ませた僕らは興奮をなんとか押さえ込み、 見送るメイドさんに見向きもせずに、店をあとにした。 この日で、メイド喫茶へ通った累計回数は僕が6回、友人Bが8回になった 友人Aは、監禁(?)されてしまったので、カウントしない。さらば――エプロン萌えの勇者よ。 312 :ヤンデレ喫茶は実在するのか? ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/04/04(水) 02 08 30 ID 7cbl3E8J 検証三日目。 僕と友人Bは昨日に引き続き、またしてもメイド喫茶へとやってきた。 ちなみに友人Aとは連絡がとれなかった。そのため、今日は同行していない。 しかし、僕には――いや、僕と友人Bには確信があった。 「友人Aは、ロングヘアーのメイドさんに監禁されてしまったのだ」という、確信が。 そのため、僕と友人Bははやる気持ちを抑えつけるのにかなりの労を要した。 僕はアルバイト中、ずっとうわの空で過ごしていた気がするし、 友人Bは朝の5時に起きて、僕にメールを送ってきた。 『早く行こうぜメイド喫茶!』というのが本文だったが、午前1時に眠りについた僕としては実に不愉快だった。 ともあれ、今日も憧れの監禁に向かう一歩を踏み出すことにした。 具体的には、メイド喫茶の入り口のドアを開けた。 「……いらっしゃいませ。…ご主人様」 挨拶してきたのは、昨日入り口近くに立っていたメイドさんではなかった。 昨日のつややかな髪をした女性ではなく、どこかくすんだ印象のある黒髪だった。 髪型はボブカット。そして、縁無しの丸い眼鏡をかけている。 だが、もっとも印象的なのは、エプロンの胸元を押し上げている巨乳であった。 見るつもりはなくても、つい凝視してしまいそうになる。 友人Bにいたっては、誰が見てもセクハラにしか思えないような目でメイドさんを見つめていた。 主に胸を。彼の萌えポイントであるロングスカートには目もくれない。 所詮、彼にとってはその程度のものだった、ということだろう。 僕は彼女の髪に飾り付けられているカチューシャを見た。 ――至福。メイドにはカチューシャがあればいいのだ。胸など、おまけの要素でしかない。 メイドさんの小さな声に導かれるようにして、テーブルにつく。 僕は、「昨日の髪の長い女性は?」とメイドさんに問いかけた。 「あ……実は、昨日付けで……、やめ、てしまったんです」 僕の問いに対して、彼女は僕の視線におびえるような震えた声でそう言った。 そのまま下を向きながら、 「ご注文は、その……何に、いた、いたしま、しょう……?」 と言った。 僕はアイスカフェオレを注文した。友人Bは、カプチーノを注文した。 メイドさんがおどおどとした様子で僕たちの前から去って言った後、 僕は友人Bに「なんで今日はカプチーノなんだ」と聞いた。 彼は、「彼女の顔を見ていたら、カプチーノを注文してしまったんだよ」と言った。 その後に、「あの眼鏡、そしてあの豊満なバスト……まるでカプチーノの泡のようじゃないか」と続けた。 どうやら、友人Bは眼鏡をかけた巨乳のメイドさんに惚れてしまったらしい。 そうでなければ、そんな意味不明な言葉を発するはずがないからだ。 その後、アイスカフェオレとカプチーノをそれぞれ飲み干し、店を後にする。 巨乳のメイドさんが見送ってくれたが、彼女の声は小さくて聞こえなかった。 三日目にして、メイド喫茶へ通った累計回数は僕が7回、友人Bが9回になった。 ――明日、友人Bは10回目のメイド喫茶通いを達成する。 313 :ヤンデレ喫茶は実在するのか? ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/04/04(水) 02 09 34 ID 7cbl3E8J 検証四日目。 僕と友人Bは大通りから横道に入り、ひとけの少ない路地を肩を並べて歩いている。 僕の右を歩いている友人Bは、タキシードを着ていた。 「なぜタキシードを着ているのか」と問いかけると、友人Bは首もとの蝶ネクタイをつまんだ。 「今日は俺の一世一代の晴れ舞台なんだ。そして……最後のな」と彼は言った。 僕は何も言わなかった。ただ、心の中で彼の言葉に同意だけすることにした。 メイド喫茶のドアを開けると、メイドさんが二人、向かい合って立っているのが見えた。 昨日の巨乳のメイドさんと、金髪ツインテールのメイドさんだった。 二人は実に対照的だった。 とても暗く、輝きの無い黒髪と、蛍光灯の光を反射するように輝く金色の髪。 エプロンの胸元を激しく隆起させている巨乳と、エプロンの形を崩さない貧乳。 その対照的な二人が、向かい合って口論をしていた。 「あんた! もっとはっきり喋りなさいよ!」 「ひぃっ……ごめ、ごめんなさい……き、気をつけます、から……」 どうやら、金髪のメイドさんが巨乳のメイドさんを叱っているようだ。 これはどうしたものか、と思っていると、突然後ろから大声が飛んできた。 「やめたまえ! そこのツインテールの貧乳メイド!」ということを言っていた。友人Bであった。 貧乳と言われたことに腹を立てたのか、金髪のメイドさんが友人Bを睨みつけた。 「何よ、このメイド萌えのオタク! 邪魔しないでよ!」 とてもメイドが言うような言葉ではなかった。――が、僕はあることに気がついた。 彼女は「ツンデレメイド」という存在である。 ツンデレ、プラス、メイド。萌え要素を無理矢理合わせたとしか思えない存在である。 事実、こうやって目にするとちっとも萌えない。 それはともかく。 友人Bは金髪のメイドさんの声に痛いところを突かれたのか、押し黙ったままだった。 そのまま居心地の悪い空気が続くかと思ったが、意外な人によってその空気は破られた。 「ごめ、ご、ごめんなさ、……ごめんなさい……ごめんなさい……!」 謝罪の言葉を述べながら、巨乳のメイドさんが立ち上がった。 くしゃくしゃの泣き顔をした彼女は友人Bの側を通り抜けて、店内から出て行った。 友人Bはしばらく呆けていたが、すぐにきびすを返してメイドさんのあとを追った。 僕も、とりあえずその後を追うことにした。 後ろで誰かに声をかけられた気がするが、この場では優先すべきことではないと思ったので、 彼らの後をそのまま追うことにした。 店内を出て、路地を見回しながら、友人Bと巨乳のメイドさんを探す。 ―――いた。メイド喫茶の向かい側の店の、裏手で向かい合っている。 僕は彼らのもとに近づこうとした。が、すぐにためらった。 友人Bが、メイドさんの眼鏡を外して、ポケットから取り出したハンカチーフで彼女の涙を拭っていたからだ。 友人Bの唇が小さく動いた。彼女に向かって、何かを言ったようだった。 すると、メイドさんがまた涙を流して、友人Bの背中に手を回して、抱きついた。 友人Bはメイドさんの黒髪をいとおしげに撫でている。 ――それは、父が我が子を泣き止ます仕草にも見えた。 邪魔をするのも野暮に思えたので、僕はその場を後にして、家路につくことにした。 もし、今日のことをカウントするならば、メイド喫茶へ通った累計回数は僕が8回で、友人Bが10回ということになる。 314 :ヤンデレ喫茶は実在するのか? ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/04/04(水) 02 10 56 ID 7cbl3E8J 検証五日目。 僕は今日もメイド喫茶にやってきて、アイスカフェオレを注文した。まだ届いてはいない。 携帯電話を見る。メールの着信も、電話の着信もなかった。携帯電話をポケットにしまう。 僕が誰からの連絡を待っているのかというと――友人Bからのものだ。 昨日、帰ってからも連絡をしたのだが、なしのつぶてだったのだ。 その原因がなんであるか。それはわかっている。 ――自分達が原因である。 『メイド喫茶に10回通うと監禁される』。 ヤンデレスレで語られたネタを真に受けて実行してみれば、この通り。 友人Aは黒髪のメイドさんと、友人Bは巨乳のメイドさんと一緒に消えた。店内に彼女の姿が無いからだ。 消えた、という表現は正確ではない気もする。 僕の見える場所から居なくなっただけで、彼らは――おそらく――この世界に居る。 ただ、見えないだけなのだ。つまり、それが『監禁』というものの実態である。 しかし――考えてみればなんでもないことにも思える。 世界が狭くなっただけなのだ。そう。ただ、男と女の二人だけしかいない世界に変わっただけ。 とはいえ、僕としてはそれは好ましくない。 僕はただ、ヤンデレ喫茶が存在するのかを検証したかっただけだ。 友人Aや友人Bのように、監禁されたかったわけではない。 僕は家族や友人、そして、社会に住む人々との世界を望む。 だが――今僕は監禁されるかもしれない、という状態に置かれている。 今日この店を出てから、明日ここに来れば、僕はきっと監禁される。 そう考えると、店内を優雅な足取りで歩くメイドさんたちが恐ろしく見えてきた。 彼女達は、僕を監禁しようとしているのではないか。という疑心暗鬼にとらわれる。 ――もう、やめよう。 ここまでやったらもう、疑う余地はない。『ヤンデレ喫茶は実在する』のだ。 あとは、それをヤンデレスレに書き込めばいい。 『俺の友達が10回メイド喫茶に行ったらいなくなっちゃったよ』と書き込めば、全ては幕を下ろす。 そのあとで適当にスルーされてしまえば、心のもやもやもなくなるはずだ。 ――さらば。友人Aと友人B。 椅子から立ち上がると、金髪のメイドさんが僕の前にアイスカフェオレを持ってきた。 「あ……これ、いらないの…?」 トレイにはアイスカフェオレが注がれたカップが乗っている。 先日までは味わって飲んでいたそれも、いまとなっては恐ろしい毒物に見えてくる。 僕は「いらない」とだけ告げて、レジに立っているただ一人の男性ウェイターにお金を払う。 そして、店をでるためにドアを開ける。 と。 「待って! ……行かないで、お願い……また、ここに来て――来て、下さい……」 金髪のツンデレメイドが僕のシャツの裾をつまんでいた。 その姿を見ていると、そのままお持ち帰りしたくなる。 だが、それをしてはいけないのだ。監禁されるなんて、僕は御免だ。 全力で走って店を出て、路地を駆け抜け、大通りに出る。 これで、メイド喫茶に行ってから通算9回目。しかし、もうあの店にいくことはない。あっては、ならない。 315 :ヤンデレ喫茶は実在するのか? ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/04/04(水) 02 12 11 ID 7cbl3E8J 自宅の前までようやく辿り着いた。 メイド喫茶から立ち去ったものの、さっきの金髪メイドが追ってきているかもしれない、 と思うとゆっくり歩いて帰ることができず、自宅前まで走ってきたのだ。 これなら、後をつけられたとしても、さすがにわかるまい。 僕はこれでも逃げ足だけは速いのだ。 高校では陸上部のエースとして慣らした足だ。そうそうなまるものではない。 ふと、時刻が気になった。 ジーンズの後ろポケットに入れた携帯電話を取り出そうと、手を入れる。 しかし――そこには何も入っていなかった。 走ったばかりで温まっていたはずの体に、冷たいものが走る。 どこで落とした?走っているときか?――もしそうだったら、僕でもさすがに気づくはずだ。 次に考えられるのは、どこかに忘れてきた、ということだ。 たしか最後に携帯電話を見たのは、メイド喫茶だった。 そうだ。そして、後ろのポケットに入れた。それは覚えている。 その後、勘定を済ませて、それから――――あの、メイドさんにくっつかれた。 ということは、彼女が僕に近づいたときに掠め取ったのか? もし、そうであればまたメイド喫茶に行かなければならない。 そして――――そのとき僕は、あの店に10回目の靴の跡を残すことになる。 結果、僕は監禁される。 相手は、おそらくあの金髪のツンデレメイドだろう。 彼女以外に話をしたメイドさんはあの店にはいない。 携帯電話を放置しておいたら、他人に悪用される可能性もある。 それは良くない。 この情報化社会で情報を漏らすことは、人間関係にも悪影響を及ぼす。 そこまで考えて、僕は決断した。 ――もう一度だけ、あのメイド喫茶へ行こう。 もちろん行くだけだ。 男性のウェイターさんに声をかけ、ツンデレメイドから携帯電話を返してもらう。 拒否されたら、その場合は警察に連絡をすればいいのだ。 あのツンデレメイドには近づかない。 それさえ守れば、僕が監禁されることはない。 僕は、もう一度メイド喫茶へ向かうために、さっき走ってきた道を引き返すことにした。 316 :ヤンデレ喫茶は実在するのか? ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/04/04(水) 02 14 00 ID 7cbl3E8J メイド喫茶についたとき、玄関には『CLOSED』の札が張り付いていた。 おかしい。まだ太陽は沈んではいない。 どう考えても、普通の喫茶店が閉店するような時間ではない。(メイド喫茶が普通かどうかは置いておくとして) ――店が閉店していては、どうしようもないな。 そう思い、立ち去ろうとしたら。 『キィィーーー』 という音を立てて、ドアがゆっくりと開いた。 そして、ドアが開ききったとき、僕はおかしなものを見た。 「う、うっうっうぅぅ……」 金髪のツインテールをしたメイドさんが、立ったまま、顔に手を当てて泣いていたのだ。 彼女の足元には、トレイと、それの上に乗せられたコーヒーカップがあった。 カップにはキャラメルのような色をした液体――カフェオレが注がれていた。 おそらくは、僕が注文したカフェオレだろう。 だが、何故それを今までカップに入れたままにしているんだ――? 「私のいれたカフェオレ……どうして、飲んでくれないの…? なんで? 私………が、私が悪いの? ……あなたに、なにかしちゃった? いつも、来た時には飲んでくれたの、にぃ……どし、て……? 私が、いれた、い、れ…ぁ…う、ふぅぅぅ、うう、う、う………」 彼女は、両手を顔から離して、僕に向かって消え入りそうな声で語りかけてきた。 僕はその姿に――ヤンデレヒロインの影を見た。 健気で、惚れた男のために懸命に尽くす、心を病んだ女性たち。 そして、主人に奉仕するメイドという職業。 僕には、その二つがどこか似通った部分があるように思えてきた。 気づいたら、僕は歩き出していた。 大きな目から涙を流す金髪のメイドさんの元へ向けて。 何も考えられなかった。 ――彼女のその涙を拭いたい。 それだけしか、考えられなかった。 そして、僕が店内の床に右足をつき、次に左足をついたとき。 ばぁん! と真後ろから大きな音が聞こえてきた。 振り返ると、ドアが閉まっていた。 ノブをひねる。押しても、引いても、開かない。 鍵がかかっていた。 317 :ヤンデレ喫茶は実在するのか? ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/04/04(水) 02 15 09 ID 7cbl3E8J 「あぁははは……あぁはははははは……やったぁ……ヤァッタァァァァ! これで、これでこれでこれで! あなたはわたしの、わたしはあなたのものよ!」 笑い声に振り向くと、金髪メイドが大きい目をさらに大きく、目玉が飛び出すのではないか、 と思うほどの大きさにして、僕を見つめていた。 僕は、呼吸が重くなるのを感じた。 「うれしい。とぉっても、すっごく……うれしい。 ううん。言葉になんてできないし……、言葉にするなんてもったいない。 この想いは、私の! 私の! 私だけのものよぉ! そして! あなたもぉ! ねえ、うれしいでしょ? ねえ。ねえねぇねえねぇねぇーーーーーーーー!」 金髪メイドが僕の肩を掴んだ。 そのまま、前後に揺らす。 だんだんと、その動きが早くなっていくのがわかる。 そして、僕が気持ち悪くなり、酔いそうになったとき――足払いをかけられ、仰向けに倒された。 金髪メイドは倒れている僕の胸の上に腰を下ろし、馬乗りになった。 彼女の右手にはコーヒーカップが握られている。 「さあ……召し上がれ」 そう言うと、彼女はとても美しい金髪の上から、カフェオレをかぶった。 ばしゃり、と。 勢い良く。ためらいなく。 それは彼女の金髪を伝い、幼さの残る顔の額、こめかみ、鼻の横を通り、彼女のメイド服を濡らしていく。 その顔を拭いもせず、彼女は僕の唇に、自分の唇で――くちづけた。 唾が、まず入った。 はじめのうちだけカフェオレの味がして、その後は甘くも苦くも辛くもなく、舌に泡の感触だけを与えてきた。 僕がそれを飲み込まないように必死に喉を引き絞ると、彼女は両手で僕の脇に指を当てて、くすぐった。 すると、引き絞っていた喉の力がほんの少しだけ緩められて、彼女の口液が喉の繊細な部分にかかった。 たまらず、僕はむせた。 一回、二回と咳き込む。僕と彼女の唇の結び目から唾液があふれ出した。 それでも、金髪のメイドは唇を離さない。 今度は、舌を入れられた。 小さい舌だった。僕がいつも口内に擦り付けている、自分の舌ではなくて、もっと細くて、 もっと薄い、それでも温かい熱を持った舌だった。 口内で蠢くそれは、上顎、下顎の順に歯茎をゆっくりと這いずり回る。 舌の裏に、ざらざらとした感触が生まれた。 時に細かく、時に素早く動く彼女の舌が僕の顎の筋肉を弱らせていく。 「ん……ふふふぅん♪」 金髪メイドは僕から顔を離すと、唇を結んだまま、鼻でわらった。 318 :ヤンデレ喫茶は実在するのか? ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/04/04(水) 02 16 30 ID 7cbl3E8J 右手をつかまれた。 そして、馬乗りになっている彼女の左足の下を通り過ぎると、彼女のスカートの中に持っていかれた。 僕の手の甲と、彼女の掌が重なる。 そして指の一本ずつに、それぞれの指を添えられた。 人差し指と、中指が動いて、彼女が身に着けているパンツの上から、秘所を弄らされる。 僕の指が曲がると、彼女が両足で僕の両脇を締め付け、指が秘所から離れると軽く腰が浮く。 まるで、僕の指と性行為をしているかのようだった。 金髪のメイドは腰を動かしながら、空いている右手でブラウスのボタンを外そうとし始めた。 しかし、腰を動かしていて、さらに焦点の合っていない目では上手く外せないのか、もたついていた。 「……こうしちゃお♪」 僕の左手を掴むと、またしても指を添えて、ブラウスのボタンとボタンの間に、僕の指を差し込んだ。 そして、彼女は一気に腕を下ろした。 ぶちぶち、という音がして、ボタンがちぎれてブラウスとエプロンがはだけ、 勢いよくおろした指の勢いに負けて、ブラジャーまでがずれた。 彼女の決しておおきくない乳房には、ピンク色の乳首があった。 白い肌の上にあるそれは、雪の上に落ちた桜の花びらのようだった。 金髪の雌は僕の指を操作し、右の乳首をつまませた。 その途端、彼女の口から小さな声が漏れて、僕の指にはぷにぷにとした肉の感触があらわれた。 僕の指を使って乳首を押し込み、つまみ、そのまま上に下に、左右に弄る。 物足りなくなると、今度は左の乳首をつかって同じことを繰り返す。 僕の胸の上で暴れる腰はでたらめな動きになっていった。 前に動くと思ったら、腰で円を描き、左にいくかと思ったら上へと動く。 「あっん! も……ふぅ、あっ! …………あはっ♪」 金髪のメイドは胸の上から腰を浮かせて、後ろに下がっていく。 そして、すっかり硬くなっている僕の股間を軽く撫でた。 「…・・・これ、いただくわ……」 そう言うと、彼女は僕の身に着けているベルトを外し、ジーンズを膝まで下ろした。 その次は、僕の下着までも、ずらした。 それまで衣服の上に圧迫されていた陰茎が開放される。 すぐに金髪メイドの小さな手がそれを覆い隠す。そして上下に動かしだした。 すかさず、自分の口からうめき声が漏れた。 冷たい手の感触と、乱暴に動き出していく、速度さえもいびつな上下運動。 陰茎が、どんどん伸びていくような気がした。 腰の奥に溜まっていたものが引っ張り出されて、限りなく伸びていく。 319 :ヤンデレ喫茶は実在するのか? ◆Z.OmhTbrSo [sage] :2007/04/04(水) 02 18 56 ID 7cbl3E8J ――が、突然その動きが止まった。 思わず、「なんで」の「な」までを口に出してしまった。突然、竜巻のような快楽から開放されたからだ。 「だ、め、よ。……全部、なかにいれてぇ。中にぜぇんぶ……、だしてもらうから」 そう言いながら、彼女は右足だけを上げて、ショーツを脱いだ。 笑いながら腰を動かし、淫裂を陰茎にそって這わせる。 それを幾度か繰り返すと、垂直に立つペニスを秘所で後ろに押し倒しながら、 亀頭を彼女の入り口にぴたりと当てる。 腰をゆっくりと回しながら、彼女の下の口が陰茎を少しずつ咥えていくのが感じられた。 途中で、軽く引っかかりを感じたが、金髪のメイドはさらに笑顔を愉悦に歪め、そして――腰を落とした。 うめき声や、叫び声は出さなかった。 むしろ、笑い声の大きさがさらに増えた。 僕と彼女は、そのとき完全に繋がっていた。 僕にも彼女にも、その場所自体がスカートに隠されていて見えてはいなかったが。 金髪のメイドは髪を振り乱し、肩を上下させ、腰を乱暴に振りはじめた。 乱れていく。僕の意識が。 乱れている。メイドの体も、呼吸も、笑い声も。 締め付けられると陰茎が爆発しそうに思えるほど膨らむのに、 今度は緩められて快楽を遠くへと追いやっていく。 「あっは、は、はあぁ、あっすき、すきぃ…好きよぉ……おっ!」 彼女の動きは、止まらない。 がくがくと顎が上下に揺れて、頭も前後に振られている。 背中と、肩は入れ代わるように前へ行ったり、後ろへ行ったりあわただしく動く。 腰はどんな方向にでも動いた。 上と下、前、後ろ、斜め、横。 ときには、腰を回す動きをする。そのとき、彼女の上体は腰を中心にして円を描く。 首をがっくんがっくんと動かしながら、哄笑をあげながら。 そして、とうとう――僕に限界が訪れた。 僕は、全力で喉から声を絞り出した。 足、背中、腹、腰。全てに溜まっているものが陰茎の出口から精液とともに吐き出される。 その全ては、金髪のメイドの膣内に注がれた。 「あたしぃ、あなたの……くひ、ひく、くひひ……こども、うむ……からね……」 その言葉を聞いて、僕は完全に、自分の立場を理解した。 僕は――ヤンデレメイドに縛り付けられた。 別の言い方をすれば、金髪メイドに監禁されたのだ。――――完膚なきまでに。 終
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271 :依存型ヤンデレの恐怖 ◆a5x/bmmruE:2011/11/01(火) 00 32 01 ID n30qBM32 キサラギは動かなかった。 静寂の中、秒針の音がやけに響く。 未夢は、この張り詰めた空気の中、ただ一人どこまでも自然だった。 俺には、それがとても歪なものに映る。 キサラギが、スッと腰を落とした。 まだ、椅子に腰掛け、立ち上がってはいない。 ただの予備動作。何らかの事前運動。 だがそれだけで、空気が変わる。 武道を嗜まない俺には、よく分からない。ただ、違うとしか。 キサラギは変わった。身に纏うものが。 『これ』は、俺の手に負えない。 身体をずらし、僅かに未夢に近寄る。 いざというときは、この身体を盾に―― 「だいじょうぶだよ、リューヤ」 未夢に特別変わった様子はない。言った。 「だって、未夢の方が強いもん」 未夢が、キサラギより強い……? 体格も体力も技術も頭脳も経験も全てキサラギが上だ。 いいたくないが、この中で一番無力なのは…未夢だ。 めき… テーブルの上で、キサラギの拳が鳴る。 「未夢、リューヤしか持ってないもん。負けるわけない」 めき… 未夢は、テーブルの上のそれを指した。 「それはいらないものだよ。それを使ったら、最後。…未夢にはなれないよ」 未夢になれない? キサラギが? キサラギが未夢になれない? その超理論は俺には理解できない。 だが―― 「っ…!」 キサラギは肩を抱きしめて、眦に涙を浮かべ、滑稽なくらい動揺している。 「リューヤ先輩はウチのだっ!」 その叫びに、未夢は首を振る。 「遅いよ。三年くらい」 こいつ…誰だ? これが、未夢? あくまで冷ややかに、キサラギを追い詰めていくこの女の子が、未夢? みしっ…! キサラギが――動いた! 俺は素早く未夢を抱き寄せ、庇うようにキサラギに背を向ける。 「ああうっ!」 キサラギは火傷したかのように出しかけた手を慌てて引っ込めた。 俺の胸の中で、未夢が嘲笑った。 「ほら、やっぱり未夢のだ」 「違う違う!ウチは、ウチは、ただ…リューヤ先輩が…」 髪を振り乱し、叫ぶキサラギの声は、徐々に尻すぼみになり、消えて行った。 ……理解できない。 豹変した未夢もそうだが、あれだけ殺気立っていたキサラギが…… 今は力なくへたり込み、ただ泣き崩れている……。 ……圧倒。その表現が一番しっくり来る。 未夢の持つ何かがキサラギを圧倒し、屈服させたのだ。 272 :依存型ヤンデレの恐怖 ◆a5x/bmmruE:2011/11/01(火) 00 33 34 ID n30qBM32 キサラギは、結構すごいやつだ。 小さい頃から空手をやって、いくつかの大会で結果を出している。 俺の通う高校は進学校だ。それなりにレベルも高い。キサラギもそれなりに頭はいいだろう。 そのキサラギが、アホの未夢に圧倒されて泣きが入るこの状況。 理解不能だ……。 最前から、俺を自分のものだと言い張る未夢。これも分からない。 ただ、キサラギが取り乱したこの状況。 力付くになれば、未夢は圧倒的に不利だ。故に、俺は未夢の側に立つ。 一方、未夢は澄ました表情だ。 椅子の上で、つまらなそうに足をプラプラさせている。 …生意気な。 「…そりゃ!」 未夢の頬をひねり上げる。 「ひ、ひたいっ! ひたいよ、リューヤ!」 「やかましい。未夢の癖に生意気な」 さらに逆の頬をひねり上げる。 「ぷぎゃっ!」 「上上下下左右左右…」 「ぷぎゃァァァ!」 俺のジャイアニズムが未夢をひとしきり蹂躙する。 「ウチ…」 キサラギが、ボソッと呟く。 「ウチだって、リューヤ先輩だけで…」 「あ?」 振り返ると、キサラギが立ち上がって、こちらを見ている。 涙に濡れた頬には、後れ毛がへばり付き、その表情はかなり痛々しい。 「…わかりました。ウチ、先輩を困らせません。学校行って来ます」 ニコッと笑うキサラギ。 何だろう…不吉な笑顔だ。 達観。 あるいは諦観。 そんなものが漂う笑み。 「お、おう、わかってくれたか」 言いながら、俺の胸によぎる一抹の不安。 待て。 俺は…いつか、こんな笑顔を、どこかで… 「行って来ます」 キサラギが出て行く。 既視感。 寂しそうな背中。 袖を引かれ、振り返ると未夢の笑顔。 「リューヤぁ、病院…」 「おう、そうだった」 馬鹿な俺は思い出せずにいる。 キサラギが見せた笑顔の意味を。 答えは、目の前にあるものを。 273 :依存型ヤンデレの恐怖 ◆a5x/bmmruE:2011/11/01(火) 00 35 32 ID n30qBM32 未夢と病院に向かう。 保険証を準備し、着替えの指示までする俺は、まんま未夢の保護者だ。 未夢の方は体調の不具合が機嫌にも反映しているようだ。 むっつりとして、ポケットに手を突っ込んでいる。 電車の窓から流れる風景を見る。 窓ガラスに映った未夢が、じっと俺を見つめている。 その頬が、ほんのりと桜色に染まっていく。 「…?」 なんだろう。未夢は言いたいことがあるのか、じっと俺を見つめている。 「お膝、座りたい……」 「ダメ」 言ってまた車窓に視線を戻す。 「未夢ね…一人だけなら、許すよ」 「?」 わけわからん。一人ってなんだ。膝と前後の繋がりがチンプンカンプンだ。 「なんだそれ…。許さんかったら、どうなるんだ?」 「…悪い子になっちゃうかも…」 未夢はにこにこと笑う。いつもの笑顔。 …ゾクッと来た。 最近、未夢にビビらされることが多い。 「未夢…いっぱい、いっぱい考えたんだよ」 「ん?ああ…」 「リューヤは、ワガママさん嫌いで、でも、未夢はいっぱい、いっぱいワガママさんで…」 未夢は足りない頭で、必死に言葉を探しているようだ。 その口調はたどたどしい。 「いっぱい、いっぱいリューヤは、未夢によくしてくれて、でも、未夢は足りなくて……」 「……」 未夢は、何かを伝えようとしている。こういう時、俺は口を挟まないようにして、なるべく未夢に話させることにしている。怒らず、辛抱強く。大切なことだ。 「未夢が、もうちょっと我慢すれば、きっとリューヤは、いろいろなことができて……」 「がんばれ」 未夢の頭をかき回す。 「未夢…悪い子なの。あの子もすごく悪い子で…」 あの子?キサラギのことだろうか。 「…ほんとは、仲良くしたくない。でもリューヤが…」 俺が、なんだ…? 未夢が俯きがちだった顔を上げた。 「だから、一人だけ我慢するの。未夢、きっと悪いこといっぱいするけど、リューヤがそうしてほしいなら…」 よくわからん。 つまり、こういうことか? 未夢は、キサラギのペット化を認めるということか? 俺は、それを感謝しないといけないのか? ほんとにわからん。 未夢も、キサラギも、あの『飼う』を本気で捉え―― ヤバい…。俺、また適当なこと言ったかも。 だとしたら、キサラギ……悪い予感しかしない。 274 :依存型ヤンデレの恐怖 ◆a5x/bmmruE:2011/11/01(火) 00 37 56 ID n30qBM32 総合病院の婦人科では滅茶苦茶キツい思いをさせられた。 学生服でロリ体型の未夢を伴い受け付けを済ませる俺。 イタい。 激しくイタい。 診察を受ける未夢を待つ間、針のむしろのイタさは最高潮に達した。 診察の順番を待つ、若い夫婦たちの視線が厳しい。人間のクズを見るような冷たい目。 「…あんな小さい子に…」 「男の風上にも置けんヤツだ」 くそお! 未夢めえ!! そして帰って来た未夢は何故かご満悦の様子だった。 「リューヤぁ、スッゴいの――」 「わあ!!言うなあ!」 その後、腹が減ったとゴネる未夢と繁華街で食事する。 登校したのは、結局昼過ぎてからだったが休むよりはいい。 担任は俺の特殊な事情を理解してくれている。…もちろん、その説明は未夢の両親にさせた。俺は無制限にお人好しではない。 もう少しで放課後なので、未夢は校門で待つ。 校門は人だかりでいっぱいだった。救急車やパトカーが詰め掛け、大きな騒ぎになっている。 いやな予感に歩を進めると、 「リューヤ!リューヤっ!」 校舎を見上げると、友人の何人かが隣の校舎を指差して、叫んでいる。 視線を向ける。 隣の校舎。 屋上のフェンスを乗り越え、壁際に立つ人影は、 「キサラギ…?」 キサラギの両手首は何本もの赤い筋が入り、白いブラウスは血であろう赤い液体に染まっていた。 フェンスを乗り越えた壁際で、ナイフを片手に、近寄ろうとする連中を牽制している。 いかれてる…。 素直な感想がそれだ。 「がんばるね、あの子…」 気が付くと、未夢が隣に立って、俺と同じように、屋上のキサラギを見上げていた。 「キミ!キミがリューヤ君かっ!」 慌ててやって来た警官が、携帯電話を押し付けてくる。 「説得してくれ!彼女は興奮して、誰の言う事も聞かんのだ!」 「なんで、俺に…」 その俺の問いかけに、警官は不吉なものでも見るように、一瞬キサラギに視線を飛ばした後、眉根を寄せた。 「キミの名前ばかりを叫んでるよ…もう、一時間にもなる…」 「一時間も?…死ぬ気なんですか?」 警官は首を振った。 「それが、わからん。本人はそのつもりはないようなんだが、飛び降りるつもりではいるらしい」 なんだそれ…。 困惑しながら、携帯電話を受け取る。 『あっ、先輩ですかぁ。ウチですぅ、キサラギですぅ』 こんな事態を引き起こしておいて、キサラギは 275 :依存型ヤンデレの恐怖 ◆a5x/bmmruE:2011/11/01(火) 00 40 50 ID n30qBM32 いつものように、声にしなを作って喋り出す。 『あのぉ、ウチぃ、これから見せるんでぇ、よぉく見といて下さいぃ』 「見せる?……何を?」 『ウチの気持ちですぅ』 キサラギの俺に対する好意と、飛び降りになんの関係があるのだろうか…。 「おまえ、バカか?」 なるべく冷たく言う。 『え…?』 「誰がそんなことしろって言ったんだ?」 『え?で、でも、リスカ女の時は…』 「あん?」 怒ったように言う。……本当は、滅茶苦茶びびってる。 「おまえ、未夢に張り合ってそんなことやってんのか!!」 『……ぐすっ…』 大きく鼻を啜る音。 『だって…リューヤ先輩…ウチのこと、見てくれないじゃないですかぁ…』 「そんなことせんでも、ちゃんと見てる」 沈黙。 『…ウソだ。ウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだウソだぁ!リューヤ先輩、ウチを見てくれない!命張らないと、ウチを見てくれない!』 「そんなことない」 くそ…手に負えん…これは…飛ぶ… 落下予想地点には、もちろんマットを設置してある。だが、そんなもの、キサラギの意志一つでどうにでもなる。 もし…いや、もう飛ぶと覚悟して…どうする? どうやって、キサラギを助ける!? 『先輩、見てて下さい。ウチも先輩だけなんです。ウチ、先輩に命差し出せますから!』 その時、未夢が言った。 「長いね。早く、飛ばないかなあ…」 まるで、遊園地のアトラクションを楽しみにしている子供のようだった。 キサラギが笑う。 これ以上ないくらい晴れやかな笑顔で。 そして、キサラギは、飛んだ。 276 :依存型ヤンデレの恐怖 ◆a5x/bmmruE:2011/11/01(火) 00 44 16 ID n30qBM32 キサラギが、空を、飛んだ。 ――狂ってる。 躊躇いなく空に身を踊らせたキサラギは、笑顔だった。 …マジか。 できるのか、それが。 キサラギの思いの質と量を、大幅にはかり違えた。 目の前が白くなる。 音が消え、時間の概念が希薄になるのが分かる。 今、この瞬間、集中力が極限にまで上がってるのがはっきりわかる。 キサラギが、ゆっくりと落ちてくる。 このバカ…笑ってやがる。 だが、どうするんだ俺?キサラギを助けるのか? …なんか、やだなぁ。 助けるんだったら、あれか? 漫画で見た、あれか? すげー痛そうだったぜ、あれ。 畜生…別のヤツがやれよ。 …みんな、固まってやんの。 足が動く。…やっぱりか。俺がどうにかしろってことか。 ヤになっちゃった。 けど――行くぜ、俺。 地を駆ける。未夢は、少し驚いて、それから笑った気がした。 「あと一人だけ、我慢するよ」 あの言葉は、この瞬間を予期してのことか。 しかし、未夢。 コイツには問題がある。 キサラギをガラクタくらいにしか思ってない。 …少し話す必要があるな。 そんなことより、キサラギが近くなってきた。 でも、さっきからおかしいぜ。 俺、こんなにスゴいヤツだったか? これって、ひょっとしたら……まだ、チェリーなのに… ひでえよ、神様。 空中でキサラギを受け止める。 ――重っ、キサラギ重! 両腕が、プチプチってヤな音がした。 構わず滑るようにして、受け身を取る。 漫画じゃ、これで上手く行ってた。 上手く、行ってた。 全身を叩かれたような衝撃が走った。 現実は漫画ほど甘くなく、受け身は完全に失敗した。 50点。 得点にしたらそれくらいだろうか。 俺の身体がクッションになった。キサラギは無事な筈。 ヤバい。 あんまり痛くない。 これって… まあ、いいか。上出来だろ。 俺って、今イケメンだよな! 今が、人生の最盛期。 ……あんまり嬉しくない…… キョトンとしたキサラギと目が合った。 キサラギは周囲を茫然と見回し、大の字に倒れた俺を視線に捉えたところで動きを止めた。 キサラギの顔が、見る見るうちに青くなる。 「あ、あああああああああああああああああああああ!」 本当にコイツはうるさい。 「違う違う!ウチが先輩を壊すわけない!ウチが先輩を壊すわけない!」 277 :依存型ヤンデレの恐怖 ◆a5x/bmmruE:2011/11/01(火) 00 45 09 ID n30qBM32 未夢に抱き起こされる。 「……」 未夢は、コイツこそ取り乱すだろうと思ったが、様子が変だ。とても静かで、落ち着いた表情をしている。 それはなんだか、心地よくて… 少し、眠くなってきた。 「リューヤ、死ぬの?」 返事のかわりに、俺はチョコレートみたいな血を吐き出した。 「すぐ、逝くね」 ああ…そういうことか。 馬鹿な俺にもようやくわかった。 コイツは…未夢には俺しかない。 勉強もスポーツも駄目。体型にも恵まれない。何の特技もない。 未夢のどこを切っても、俺しか出てこない。 未夢の小さい身体には、俺に対する気持ちしか詰まってない。 それでか…キサラギが勝てないわけだ。 「未夢には、リューヤしかすることないもん」 何度も言ってたのになぁ…。 未夢にキスされる。 小さな舌が、これでもかと言わんばかりに俺の口腔を蹂躙する。 俺もまた、それに応える。 離れる。 血の雫が二人の間に伝う。 血の鎖で結ばれた二人。 それがなんだか心地よい。 なんだか、よく眠れそうだ… 「おやすみなさい、リューヤ」 未夢の頬に伝う、一筋の銀の雫。 なんだ…コイツ、やっぱりツラいのか。 びっくりしたぞ。落ち着いてたから。 俺は、そっと未夢の耳元に口を寄せる。 「起きたら…………やらせろよな……」 だから今は…… おやすみ…。
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213 :依存型ヤンデレの恐怖 ◆a5x/bmmruE:2011/10/29(土) 20 52 19 ID MPaMNP4Q 「ちょっと待て!」 この瞬間、世界はキサラギの敵になった。 ちょっとしたお遊び。 あるいは、 ちょっとした悪ふざけ。 世界はそんな茶目っ気を許さず、あっさりキサラギを捨てた。 心臓の鼓動がうるさい。 カウンターの上に、一冊の漫画が乗っている。値段は……忘れた。そんなに高くない。 注目する客の視線は、まずは好奇心。 続いて侮蔑。 最後にカウンターの漫画を一瞥。そして嘲笑。 今すぐ世界が終わればいいのに。 そんなことを考えるキサラギの耳に、世界は遠い。 まるで夢の中のように。 世界は無音だ。 目の前で中年男が、嗜虐的な笑みを浮かべ、何かのたまっているが、それはキサラギの耳にも心にも遠い。 あまりに遠い。 無音の世界。 全てはあまりに虚ろだった。 そんな中、彼と目が合う。 カウンターをチラリ。 彼の眉がハの字に寄る。 (なんだそれ……つまんねえの……) おかしい。 全ての情報をシャットアウトしたはずのキサラギの心に届く声。 (しょうがねえな…今回だけだ…) まただ。 おかしい。 世界は自分を捨てたはず。だからこんなにも音がない。 こんなにも虚ろなのに――― 激しい衝撃音。 金属製の本棚が前倒しになり、四方に雑誌をバラまいた。 キサラギは、虚ろな目で彼の視線を捕まえる。 (ほれ、今だ) また聞こえた。 ふらっと足が一歩を踏み出す。 後は、勝手に足が動いた。 すれ違いざま、目が合う。 口元が少し笑ってる。 多分、自分も笑ってる。 こうして、キサラギは世界に帰還した。 逃げ込んだ路地裏で、キサラギは大きく肩で息をしながら、夕焼けに染まる空を見上げた。 ああ、世界はこんなにも美しかったのだ。 九死に一生を得た。あのまま行けば、自分はどうなったか。それは想像したくない。 しかし…あの少年は…… キサラギは首を振った。 もう会うことはないだろう。そう思った。 この時は。 春。 つつがなく受験を終えたキサラギは、第一志望の高校に入学する。 「リューヤ!おい、リューヤ!」 青い襟章が目印の二年生の男子生徒が、一人の少年を呼び止める。 その少年は、ちょうどキサラギの前を歩いている。 「…俺の名前を、安売りみたく連呼するな。気持ち悪い!」 少年が振り返る。 それが全てのはじまり。 214 :依存型ヤンデレの恐怖 ◆a5x/bmmruE:2011/10/29(土) 20 53 11 ID MPaMNP4Q 「な、リューヤ!ノート見せてくれ!」 「知らん」 リューヤは気付かない。 一人の少女……キサラギが瞬きすら忘れてその背中を見つめていることを。 「な!リューヤ、この通り!」 「…しょーがねえな…今回だけだぞ」 ああ、そうだろう。キサラギが知る彼ならそう答える。 「リューヤったら、もう!そんなこと言って、いつも助けてくれるくせにぃ…」 「変態!まとわりつくな!」 抱きついて来た男子生徒と肩を叩き合い、談笑しながらリューヤは去る。 「先輩……リューヤ先輩!」 勝手に動いた口を押さえ、キサラギは、あっと後ずさる。 リューヤは少し気まずそうに振り返る。 「はぁ…あのな、せっかく知らん顔してやったのに、自分から話しかけるヤツがあるか」 キサラギの胸が大きく一つ跳ねる。 (覚えててくれた!) 初恋だった――。 それは、不意にやって来た嵐。 嵐はどこまでもキサラギを翻弄する。 必死になって気を引いて、必死になってかき口説く。 対するリューヤの口癖は、 「また今度な」 都合のいい言葉だ。相手を傷つけず、やんわり断るには一番いい言葉かもしれない。 キサラギは空回り、気ばかり焦る。 そんな中、雨が降る。 全力疾走のリューヤは、すれ違ったキサラギには目もくれず、一直線に校門目掛けて走っていく。 そして、見てしまった。 リューヤが、鞭打たれたような苦しげな表情で、一人の少女の肩を抱き寄せている光景を。 あれは、なんだ? 時間が止まった。 あれは、守っているのだ。キサラギはすぐに理解した。 リューヤは守っている。この世界の全ての悪意から、少女のことを守っている。 世界が回る。 自分は何をしているのだ。指をくわえて見ているのか。 なぜ、自分はあそこにいない。 あの少女……ああ…あれがそうか。 リューヤにフられて手首を切ったとかいう。 「おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい……絶対、おかしい」 間違っている。 キサラギは、よろよろと歩き出す。 あの少女……未夢とかいったか。 受験に失敗したらしいが、彼女は絶対馬鹿じゃない。 最初から知っていたのだから。 己が、全身全霊で寄りかかっていい存在を。 生まれてから死ぬまでの間に、いったい何人の人間がそんな存在を見いだすことができるのだ。 何故、自分はあの少女になれなかったのか。 215 :依存型ヤンデレの恐怖 ◆a5x/bmmruE:2011/10/29(土) 20 53 42 ID MPaMNP4Q きっと、覚悟が足らなかったのだ。 だからこんなおかしなことになる。 覚悟だ。 どうしてもあれが……リューヤが欲しい。 この世界は、キサラギには寒過ぎる。 虚ろに過ぎる。 覚悟だ。 それだけでよい。 だって、あの少女は、それだけでリューヤを手に入れているではないか。 キサラギは覚悟を示す必要があった。
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161 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 22 57 00 ID 3YlMb2N3 今日も今日とてゆるゆる過ごし、やがて気付けば下校時間。 日と月がバトンタッチをする時間、夕日が二つの影を伸ばしている。 「そう言えば、緋月の兄貴ってウチの生徒会長やってたんだって?三年くらい前に」 中でも長い方の影の持ち主、って要は俺、御神千里はいつものようにみんなとゆるゆるとダベる。 「…はい、お兄ちゃんが生徒会長で、お姉様が副会長だったと聞いています」 そう応じるのは小さく細い影の持ち主、緋月三日。 相変わらず華奢で細身なので、無駄にデカい俺と並ぶと兄妹のようにも見えるが、実際はそろそろ名前呼びイベントとか欲しい時期の恋人同士である。 「俺も今の生徒会長から聞いただけだけど、ハンパ無いイケメンで破天荒つーかアグレッシブな人だったとかー」 今年度の生徒会長を思い出しながら俺は言う。 俺と緋月の交際を聞いた美少女狂いの彼女が、珍しくいろいろと緋月の兄、緋月一日(ヒヅキカズヒ)に話してくれたのだ。 曰く、不正を是正するために学生運動まがいの大騒ぎを起こしたとか、曰く告白してきた百人近くのの女子をことごとく振ったとか、曰く学園中の生徒から慕われていたとか曰く―――いやこの先は止そう。 「…はい、どんな相手にも物おじしない人で、頭とかもすごい良い人なんです。…憧れの、自慢のお兄ちゃんです」 俺の言葉に緋月は憧憬のこもった目でそう言った。 「……ふぅん」 実際、憧憬に値する人物なのだろう。 あの美少女狂いの変人でさえ明らかな尊敬した口調だったし。 …緋月も、兄のことを語る時は何となく気安い感じだし。 「嫉妬!?」 「いやいやいや」 緋月の過剰(?)反応をいなしながら、俺はゆるゆる歩を進める。 「…私は、こちらなので」 「んじゃなー」 「…はい、また明日」 途中で、緋月と別れた俺は1人、今の友人関係に想いを馳せる。 葉山と緋月は最初は随分仲が悪いと思ったが、最近は随分話せるようになってきたと思う。(葉山は、もう諦めたと言っていたが) 明石はしばしば葉山にアプローチらしきものを仕掛けているが、全くもって気付かれる様子は無い。 けれど、決して仲が悪いようには見えないので、希望はあるんじゃないだろうかと思う。 そして、緋月と俺。 正直なところ、俺の中には最初アイツに対して積極的な感情は無かった。 ただ、アイツの頑張る姿が何か良いな、と思っただけだった。 今でも、アイツへの感情が激しいものだとは思わない。 けれど、アイツといるのは悪くないと思う。 世話のかかる面はあるけれど、世話をするのは嫌いじゃない。 恋人としてはいささか踏み込みすぎている部分はあるかもしれないが、俺自身としてはそれに不満は無い。 別に、うるさくされてる訳でもないしな。 まぁ、熱烈に愛する対象と言うよりは、家族みたいなモン? まぁとにかく、アイツといる時間は嫌いじゃない。 正直、好き、なんだと思う。 これからもそんな時間をアイツと過ごしていきたいと思うし、アイツがそれを望んでくれているなら嬉しく思う。 それは、積極的な感情、なのかもしれない。 そんなことを思いながら、部屋のドアを開ける。 「ただいまー」 誰もいるはずの無いマンションの室内に、俺は呼びかける。 うん、いる「はず」の無い「はず」だ。 今日は親は遅いし、他に(緋月を勘定にいれなければ)家族は居ない。 だから、この家に今俺意外に誰もいない。 そのはずだった。 162 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 22 58 12 ID 3YlMb2N3 「おかえりなさい…。今日は、早かったのですね…」 そう言って姿を現したのは、見覚えの無い女性だった。 年齢は恐らく、俺達より少し年上、10代後半から20代前半といったところか。 俺ほどでは無いが背は高い。 シミ一つない陶磁器のような肌が特徴的だ。 目鼻立ちは日本人形のようにクセ無く整っており、夜空の色をした眼は吸いこまれそうな魅力がある。 ハッとするほど美しい黒髪も相まって、奥ゆかしげな和風美人といった雰囲気。 ただし、首から下は全然奥ゆかしく無い。 プロポーションが良すぎるくらいに良い。 グラビアアイドルがハダシで逃げ出す位に肉感的である。 淫微と言っても良い。 なまじ一挙一動が優雅なので、逆に惹きつけられる。 彼女と言う人間そのものが、ある種の芸術品のように見えた。 そして、彼女はその美しい手足を惜しげも無く俺の眼にさらしている。 彼女の体を隠しているのは、エプロン一枚に見える。 いわゆる裸エプロンである。 正直、引いた。 ……これは、笑うところなのだろうか。 そもそも、この状況は何なんだ? 親がデリヘル嬢でも呼んだのか? あの人、女装好きの変態ではあるけれど、ゲイってわけじゃないからな。 俺にはそんな素振りを見せないだけで結構溜まっている筈―――ってそんな話で無く。 「……ええっと、すみません」 俺は何とか、彼女に対する言葉を絞り出す。 「はい、何でしょう、義弟くん…」 その女性は、いちいち優雅な動作で応じる。 服装が裸エプロンなんでそれが逆にエロい。 平静を装わなきゃならんこっちの身にもなって欲しい。 って言うかオトウトくん?そう言う設定なのか?」 「失礼ですが、どちらさまでしょうか?俺――僕と貴女は今日初めてお会いするものだと思うのですが」 目上の相手なので、一人称を言いなおし、なるべく丁寧に聞いてみる。 「あら、それは失礼…。では、私のことは通りすがりのお義姉様とでも呼んで下さい…」 じゃあそのまま通り過ぎて頂きたい。 って言うかおねーさま、って何よ? 「もう少ししたら、食事の準備が整いますから…。ゆっくり、待っていてくださいね…」 「いや、あの…」 「待っていてください、ね…」 穏やかながら、どこか有無を言わせぬ口調でそう言って、おねーさんはナチュラルにキッチンへと戻る。 キッチンからは彼女の言葉通り美味しそうな匂いが漂ってきている。 そこは俺の場所だ。 つーか、答えを見事にはぐらかされた。 「答える気は無いってコトか…」 俺はカバンを放りだし、リビングにゴロ寝する。 取りあえず、あの女性は放置しよう。 恰好がアレなだけで、取りあえず害は無いっぽいし。 ……それにしても裸エプロンの美女と二人っきりか。 ……緋月の奴に知れたらあらぬ誤解を招きそうな状況である。 ピンポーン…ピンポーン… そんなことを考えていると、家のチャイムが鳴る。 「義弟くん、出ていただけますか…?」 キッチンからおねーさんの声が聞こえる前に、俺はもうインターホンに応じている。 「はいはい、御神です」 『…御神くん、…ドアを開けていただけませんか…?別に、怒ってるわけではありませんから…』 インターホンのマイク越しに聞こえのたは、緋月の声だった。 随分と押し殺したような声だった。 163 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 22 58 55 ID 3YlMb2N3 「おっけー。今開けるね。でもどうしたん?さっき別れた所なのに…」 ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン 「話してる途中にチャイムを鳴らすなよ!」 ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピピンポンピポンピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポ… 「分かったから分かったから。今開けるからそんな高速でチャイムを押すなって。近所迷惑だから」 ピポピポピポピピピピピピピピピピピーーーーーーー! 高速で押しすぎて、連打が線のようになってる。 …微妙に分かりづらいが、どうも緋月は怒っているらしい。 この感じだと、下手をしたら過去最高クラスかもしんない。 無警戒にドアを開けたら、ちょっと厄介かもしれない。 軽く注意しつつ、俺はドアを開ける。 「うわあああああああああああああああん!」 ガチャリ、と開けた瞬間、涙目の緋月が飛び込んできた。 ナイフを振り上げての、渾身の体当たりだった。 ―――ってナイフはヤバイバ! 164 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 22 59 19 ID 3YlMb2N3 咄嗟に身を捻ってかわす。 「ひぎゃ!」 そのままの勢いでびたーん!と床の上にころぶ緋月。 「あ、ごめん…」 意外と痛そうな音に、思わず謝る俺。 取りあえず、転んだ時に緋月の手から離れたナイフは俺が確保しとこう。 コイツにこんなモンを持たせるのは、赤ん坊に核ボタンを持たせるようなものだ。 そんなことをしていると、緋月が鼻を押さえながらも起き上がり、俺に向き合う。 「うわきものうわきものうわきものうわきものうわきものうわきものうわきものうわきものうわきもの~~~~~~~~~~!」 涙目になりながら、ぽかぽかと俺の胸板を叩く緋月。 本人としては殴ってるつもりなのだろうが、コイツの基本スペック(攻撃力とか)は低いので大して痛くは無い。 「ゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさないゆるさない~~~~~~~~~~!」 ぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽかぽか こう言うテンションの緋月は珍しい。 「いやまぁ、取りあえず落ち着けって」 くしゃくしゃと緋月の頭を撫でながら、俺は言う。 「私がいないからって、裸エプロンといやらしいことをしようとするなんてぇ!お姉様となんてぇ!うわーん!ころしてやるころしてやるころしてやる~~~~~!」 ぽかぽかぽかぽかぽかぽか 「いやいや、やらしーことなんて何もないって。誤解だって」 ぽかぽかと俺の腹を叩き続ける緋月の頭をくしゃくしゃと撫でる。 …しっかし、何で裸エプロンのおねーさんがウチに居るなんて知ってるんだろ、緋月は? 「失点」 その時、冷たい感情をのせた声が、その場に響いた。 「想定していたよりも2分55秒も到着が遅れましたよ、三日…。この遅れは致命的にもなりえます…」 そう言ったのは、噂のおねーさまだった。 美しい黒髪をゆらりと揺らし、何ら動じることなく言葉を紡ぐ。 美しい黒髪……? 彼女の髪に妙な既視感を覚え、思わず緋月を見る。 緋月の髪はおねーさんと同じくらい艶やかな黒髪だ。 いや、髪だけでは無い。 真っ白な肌も、癖の無い顔立ちも、緋月とおねーさまはどこか似ている。 面影が、ある。 「…お姉…様」 おねーさまの言葉に、緋月はビクっとおとなしくなる。 「…二日(ニカ)、お姉様…」 緋月は、裸エプロンの女性を見て、そう言ったのである。 165 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 22 59 49 ID 3YlMb2N3 緋月二日(ヒヅキニカ) 正直、彼女について俺が知ることはそう多く無かった。 緋月三日の姉で、緋月家長男の緋月一日(ヒヅキカズヒ)の妹。 19歳の大学生。 緋月家の家事担当。 そして、緋月三日が誰よりも恐れる相手。 それが、その人が今目の前に居た。 「さぁ…、冷める前に召し上がりなさいな…」 いつの間にかダイニングに食事を並べ終え、裸エプロンのおねーさまこと、緋月二日さんは言った。 我が家のダイニングは、完全に二日さんの天下だった。 ちなみに、二日さんはいつのまにか清楚なロングスカート姿に着替えている。 「「いただきます」」 取りあえず、俺と緋月(妹の方ね)はそろって手を合わせる。 二日さんが用意してくれたのは、ハンバーグだった。 ワインの香りが上品なソースが香る、上品な感じの逸品である。 「しかし、驚きましたよー」 俺は、ナイフでハンバーグを切り分けながらそう言った。 「緋月―――三日さんのお姉様が我が家にいらっしゃるなんて。しかも、食事までご用意していただくなんてありがとうございます。事前に仰っていただければ、おもてなしの用意をしておきましたのに」 正直なところ、緋月まで来るのなら自分で作りたかったというのが本音だ。 アイツが俺の料理をキラキラした目で頬張る姿を見るのは俺の楽しみの1つだし。 俺の言葉に、二日さんは薄く微笑む。 「お気遣い無く…。妹の恋人である貴方は、いずれ私達の家族になるのですもの…。家族が家族の所に来るのに、何の気兼ねも問題も無いでしょう…?」 その言葉は、自分がここに居る理由を追求するなと言っているようにも聞こえた。 ……ん、美味しいけどちょっとソースの酸味が強いかな? 緋月(妹)はむしろもう少し甘めの方が好みっぽい気がするけど… もしかしてこのレシピ、本来は別の誰かのための料理なのかな? 例えば、二日さんの一番好きな人とか。 「と、緋月。口にソースがついてる」 ふと、俺の横に座る緋月に声をかける。 「「(…)はい(…)?」」 緋月(彼女)と二日さんが同時に反応する。 って、今この場には緋月姓は二人いるんだった。 「ええっと、妹さんの方」 「「(…)はい(…)」」 いや、確かに二人とも上に兄姉がいるけれど! ここまでハモると確信犯なんじゃなかろーか! …とはいえ。 「緋月三日よ」 どうにも気恥ずかしいが、改めて聞いてみる。 「…はい」 「下の名前でお呼びしてもよござんしょか」 「はい!」 輝くような笑顔で答える緋月もとい三日。 この笑顔をみられただけで、今日1日生きてて良かったと思わされる。 ……それはともかく。 「ところで三日。一体全体どーして俺ん家におねーさんが来てるって分かったん?俺も来てるの知らなかったのに」 三日の頬についたソースを拭き取りつつ聞いてみる。 「…私も全然知りませんでしたよぅ!お姉様が御神くんの家に来てるなんて。丁度家について、いつものように御神家監視カメラの映像を見て癒されようと思ったら、お姉様があんな恰好で映っていてぇ…」 興奮した様子で答える三日。 つーか今すげぇこと言いましたよね。 監視カメラって… いやまぁ、今さら何されたって驚きゃしませんが、もう家ン中で迂闊なことはできやしないな。 「あー、それじゃ誤解してもしゃーないか…」 「それで、取るものも取らずに取り合えずナイフだけ持ってこっちに来たんです」 「明らかに取らなくて良いものを取ってきてるよな!」 思わず三日にツッコミを入れる俺とは対照的に、二日さんはどこか満足げに頷いている。 「何を忘れてもナイフ一本は忘れてはいけませんからね、三日…。護身、殺害、料理…これ一本で何でもできますからね…。長いこと調きょ…もとい教育し続けた甲斐があります…」 二日さん、あなたが原因ですか…。 っていうか今調教って言いかけましたよね。 緋月家の教育方針は色々と問題がありませんか? 166 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 23 01 43 ID 3YlMb2N3 「……料理にはちゃんと調理器具を使った方が良いと思いますよ?」 色々ツッコミどころはあったが、俺は取りあえずこれだけは言っておくことにした。 「もちろん、料理は言葉の綾ですわ…。ですが、嫁入り前のか弱い娘が出歩くのに護身の術は必須…。そうでしょう、義弟くん…?」 二日さんが当然のように言った。 「―――俺はそのか弱い娘に殺されかかりましたがね、今さっき」 俺は苦笑しながら言った。 なまじ間違ったことは言っていないだけ性質が悪いな、この人。 「…け、けれど、お姉様。…本当に浮気では無いんですか?」 恐る恐ると言った風で二日さんに聞く三日。 「浮気です」 「ええー!」 真顔で即答する二日さんに、目が飛び出んばかりに驚く三日。 驚き過ぎてキャラが崩れている。 「と、言ったらどうしますか…?」 そう続ける二日さん。 「…えう」 二日さんの言葉に涙目になる三日。 「…お姉様に本気になられたら、勝ち目なんて無いじゃないですか…」 自分と二日さんを見比べて言う三日。(特に胸を) 三日がそう言うのも分からんでも無い。 実際、見た目的にも三日をパワーアップさせた感じだからな、二日さん。 性格は正反対だが。 「失点の失点ですね…」 それを見た二日さんが冷たく言い放つ。 「どのような相手であろうと自らの幸福を諦めるなど、緋月家の娘にあらざる態度…。自身の幸福の為なら全てを叩き潰しなさい踏みつけになさい蹂躙なさい!相手が肉親だろうと!友人だろうと!恋人だろうと!自分だろうと!」 今までにないテンションの二日さんの言葉に、三日の表情が消える。 「…はい、潰します。全ての喜びを怒りを哀しみを楽しみを。相手が例えお兄ちゃんだろうとお姉様だろうとお母さんだろうとお父さんだろうと朱里ちゃんだろうと御神くんだろうと私自身であろうとも…!この幸福を永遠にするために!!!!!!!!!」 ガリ、とナイフを握る三日の手に力がこもる。 「いやいや、そこで自分まで潰しちゃ駄目だよね?」 くしゃ、と俺は三日の頭を撫でる。 「おねーさんもあんまり妹さんをいじめないでやって下さいよ。ウワキなんざする気もさせる気も無いンでしょう?」 三日を撫でながら俺は二日さんに言った。 「それくらいの仮定と覚悟が無くして人を愛することなどできないでしょう…?何しろ恋は戦争、ですから…」 「恋はまったり進行、とも言いますがねー」 ハンバーグを頬張る俺の言葉に怪訝そうな顔をする二日さん。 「誰の言葉ですか…?」 「俺の言葉です」 無駄にきりっとした表情で答えてやる。 「それはそれはそれは……オメデタイ、ですね…」 明らかに言葉通りでは無い表情で二日さんが俺を見る。 なんつーか木から百回くらい落ちたサルでも見たような顔だ。 「ところで義弟くん」 唐突に話を変える二日さん。 167 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 23 03 05 ID 3YlMb2N3 「何でしょう?」 「学校での三日の具合はいかがでしょうか…?」 「具合、ですか?健康状態に関しては、特に問題は無いようですね。ただ、体力は相変わらず無いようなので、栄養のつく物を食べさせてはいますが…」 「いえ、そちらでは無く、ベッドの上での…」 「まさかの下ネタ!?」 この人、先ほどの恰好といい、微妙にオヤジ臭いな! 「それで、実際のところはどうなのですか…?男女の仲になったからには、当然そうしたこともしているのでしょう…?ねぇ、三日…?」 えらい冷たい流し眼で三日を見る二日さん。 「はひぃ!」 二日の口調には相変わらず穏やかな中に反論を許さない空気があり、三日は硬直する他無い。 「ま、やることはやってますね。キスとかキスとかベロチューとか。最初の一回は白昼堂々で公衆の面前だったので、さすがに先生方から注意を受けましたよ」 「と、いうことはそれ以上のことはやっていないということですね…。私にも欲情する様子はありませんでしたし、もしかして貴方―――」 「紳士ですか?」 「チキンですね」 「……」 今日会ったばかりの相手にひでぇこと言われた。 「……褒め言葉として受け取らせていただきます」 俺は渋い顔になりそうになりながらもそう言った。 もし二日さんを襲ってたらnice boatな結末しか思い浮かばないから、本音ではあるのだが。 チキンで死亡フラグを避けられるのなら、チキン万万歳である。 「ああ、それとも女性に対しては勃たない人ですか?あるいは男性に対してしか欲情しないとか?父親の性癖を考えるとそちらの方が―――」 「……」 人の肉親を遠慮なく悪し様に言う二日さん。 どうにも、人がイラっとくるポイントを突いてくる人だ。 フォークを握る手に、少しだけ力がこもる。 「誤解ですよ。俺はただ、そう言うのが顔に出ない性質でして」 正直俺にしては珍しくかなりイラついているが、ここはサラっと流しておこう。 何か、さっきから三日もビクついてて静かだし。 ムカついたからって怒りを露にしたら、三日を無駄に不安にするだけだ。 ここはむしろ怒った方が負けだろう。 恋人の身内に対しては、心象は悪いより良い方が良いし。 「そう言えば義弟くん…?夕食を作る前に少々、貴方の部屋を見させていただいたのですが…」 二日さんがこれまた唐突にそんなことを言った。 自分の家のようにくつろいで下さいとはよく言うが、それを本当に実践してる人だ。 …今さら言うようだけど、そもそもこの人はどうやってこのウチに入ったんだろうか? 「ベッドの下の春画の類を全てゴミに出させていただきました…」 二日さんの言い回しに、一瞬ワケが分からなくなる。 「シュンガって…」 「いわゆるエロ本です」 ベッド下に隠してた俺の素晴らしきコレクションを捨てたと申すか! 「一通り見させて頂きましたが…、童女から熟女、セーラー服から和服、二次元から三次元まで、随分と節操無い系統の本を揃えましたね…」 「ンなこと別にどうでも良いじゃないですかい…」 何とかツッコミを入れるが、何か冷や汗はダラダラである。 俺のコレクションが!?って言うか俺のプライバシーが!? 「ああ…、でも、幾分かの共通項はありましたね…。表紙や内容から察するに、貴方は髪の長い女が好…」 「ごめんなさいマジすいませんもう勘弁して下さい」 よりにもよって三日の眼の前で自分の性癖を明かされるって、どんな拷問ですか。 その彼女は顔を真っ赤にしながらも食い入るように俺を見てるし。 「…御神くんは私以外の女で欲情するなんて…」 訂正、三日は顔を真っ赤にしながら嫉妬のこもった視線を俺に向けている。 …ドン引きされなかっただけマシだが、キツいことには変わりない。 知らん内にコレクションまで捨てられてるし、俺のプライバシーがガシガシ浸食されとるし。 ま、まあたかだか本だけどね! 168 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 23 04 22 ID 3YlMb2N3 「まぁ、義弟くんにはあんな春画などこれからは必要ないのでしょう…?」 何でもないような口調で仰る諸悪の根源二日サマ。 居直り強盗よりも性質が悪い台詞だが、一体どういう意味だろう。 「代わりに妹を使えば良いじゃないですか…」 …は? 「三日なら、性欲のはけ口としては適切で手頃でしょう…。この娘にあれらの本にあるようなコトをさせれば良いではないですか…。やり過ぎれば壊れてしまうかもしれませんが、あの娘の体など私には関係の無いことですから…。好きに好きなだけお使いなさいな…」 自作のハンバーグを口にしながら、あくまでも優雅で穏やかに二日さんは言った。 まるで、三日が目の前にいないかのように。 どうにも、楽しくない態度である。 いやまぁ、確かに、俺だって性欲はある。 三日を抱きたいと思うことだってあるさ。 けれど、ただそれだけの為の相手と言わんばかりの言い回しは好きじゃない。 ましてや『関係の無い』なんて ましてや『壊す』なんて。 そんな言葉、好きじゃないし、許し難い。 「俺がアンタの立場なら―――」 普段糸目にしてる目つきが自然と鋭くなるのが分かる。 「身内を性欲のはけ口と認識するような奴を生かしちゃおかないでしょうね」 俺は、努めて軽い口調で続けた。 「ふう、ん…」 俺の言葉を聞いた二日さんが、スッと目を細めた。 「軽く叩きつぶしたと思ったのですが…、中々どうして生意気をやってくれますね」 虚無の色をした二日さんの目が、俺を見つめる。 うわぁ… こりゃ怖いわ。 ぶっちゃけ感情とか全然見えない目なんだけど、その代わりに問答無用で圧倒する威圧感がある。 隣で三日がガクブル震えてるのも良く分かる。 こりゃトラウマになるや。 そうして二日さんはカエルを睨むヘビのように俺を見つめていたが、やおら唇を動かした。 「加点」 はい? 「どれだけ引っかき回してもまともに反抗しないので単なる木偶の棒かと思ったら、そうでも無いようですね…」 クスクスと口だけで笑いながら、二日さんは言った。 一体何だって言うんだ? 「義弟くん、自分で気づいてましたか…?私が妹を『性欲のはけ口』と言った時、貴方はとても良い顔をしていましたよ…。とても良い怖い顔を、ね…」 二日さんが続けた。 「正直、私が扇情的な恰好で表れて何の反応もしないような殿方が女性と、ましてや妹と真剣に交際しているというのは半信半疑でしたが、まぁ、そうでも無いらしいですね…。三日も苦労しそうではありますが…」 ああ、あの痴女みたいなカッコはあれで意図があったんだ。 どんな対応取っても地雷だった気がするけど。 「さて、私はそろそろお暇させていただきますか…」 いつの間にか食事を終えていたニカさんは立ち上がった。 169 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 23 04 45 ID 3YlMb2N3 「もう暗いですし、お送りましょうか?」 「お気遣いなく…。三日と違ってこれでも自分のことを守る心得ぐらいはありますもの…」 俺の申し出を言葉だけはやんわりと断る二日さん。 心得、というのは武術の類だろうか? 「それはまた…見てみたいような見たくないような」 二日さんの闘いを想像して言う。 とんでもなくえげつないやり方をするに違いない。 「見せて差し上げますよ…。もし、あなたが妹を大切にしないようなことがあれば、ね…」 そう言ってにこぉ、と二日さんが口を三日月に開いた。 「それじゃ、見る機会は二度と無さそうですね」 俺の口から、思ったよりスッとその言葉が出た。 「期待してますよ、義弟くん…」 そう言って立ち去ろうとする二日さん。 「…あ、では私もそろそろ…」 それに続こうと立ち上がる三日。 「ああ、義弟くん…。今日はソレを置いていきますね…」 しかし、動き出そうとする三日を指さして二日さんは言った。 「生意気を言うようですが、最愛の妹さんをソレ呼ばわりはどうかと思いますよ?」 「それは誤解です…。私が『愛』と言う言葉を使うのは1人だけ…。まぁ、三日にも愛着程度はありますが、ね…」 俺の苦笑に穏やかな口調で応じる二日さん。 「それでは、また…。今度会う時が最期にならないことを、祈っていますよ…」 そう言って、二日さんは颯爽と去って行った。 170 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 23 05 44 ID 3YlMb2N3 「なんつーか、地味に嵐みたいな人だったなー」 バタン、と閉まったドアをたっぷり1分は見た後、俺は呟いた。 場を無駄に引っかきまわすだけ引っかき回したら帰ってった。 「…お姉様は、我が家の女王様ですから」 三日が言った。 その気持ちは超わかる。 でもまぁ…、 「女王様ではあっても、暴君では無いんじゃないかな」 俺は言った。 二日さんの行動を思い返すと、どうも一貫して俺を、妹の恋人を試していたように思える。 それはつまり、三日が心配だったんだと思う。 あまりにも弱くて脆くてまっすぐで、『愛着』のたっぷりある妹が。 「…はい。お姉様は一度敵と認めた人に対しては容赦ありませんけど、そうでない人にはそんなことありませんから」 三日も同意する。 さすが姉妹。お互いのことをよく分かってら。 「良いおねーさんだね」 こういうの、きょうだいのいない、親一人しか家族のいない俺にとっては素直に羨ましいと思う。 が、 「そこは全力で否定させてください!」 「そうなの!?」 色々台無しな、三日の一言だった。 いやさ、確かにさ、超スパルタンなおねーさんではあったけど、そこまで言わんでも良くない? 全力でなくても良くない? 今回って、『家族って良いな』的なオチじゃなかったんだ… そんなことを思っていると、 「…えっと、あの、ところで御神くん…」 三日がモジモジしながら言った。 「なにー?」 身長差のある三日に目の高さを合わせて俺は応じる。 「…あの、あの、今日は、今日から、名前で呼んでくれてありがとうございます。御神くんの方から言ってくれてとても嬉しくて、その…さしでがましいようなんですけど、あの…」 つっかえつっかえしながらも、自分の想いを伝えようと言葉を紡ぐ三日。 それを俺は笑顔で聞いている。 彼女が言いたいことを言えるように、それを邪魔しないように。 「…私も、…私も御神くんのこと名前で呼んで良いでしょうか!?」 三日が言いきった。 いつかの大桜でのような、全力がこめられた、頑張った一言だった。 思えば、大桜の下での告白を言うのにも、一年近くかかったんだよな、コイツ。 俺は、三日の頭をくしゃっと撫でて答える。 「俺の答えは、あん時から同じー」 その時は、まだ積極的な感情は無かった。 けれど、今はちょっとだけ違う。 一緒に居たいかな、と強く思う。 「良いよー」 だから、同じなのは言葉だけだ。 「はい!千里くん!」 三日は、そう花の咲くような笑顔で言ったのだった。 171 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 23 06 08 ID 3YlMb2N3 数分後 「―――ところで、三日。今夜はマジでウチに泊まってくん?」 さっきからえらい嬉しそうにしている三日を見ながら、俺は思いだして言った。 「…はい、千里くん。お姉様のことですから、今夜は帰っても家に入れてくれないと思います。だから、今夜私が頼れるのは千里くんだけなんです、千里くん」 キラキラした目で答える三日。 犬だったらパタパタと尻尾を振ってることだろう。 「…千里くん家にお泊まり、千里くんとの一晩、千里くんと朝帰り、千里くん千里くん千里くん千里くん千里くん千里くん千里くん千里くん、ああ…!」 名前で呼べるのがよほど嬉しいのか、何度も俺の名を連呼する三日。 コイツが嬉しいのは良い事なのだが、状況はイロイロと微妙である。 「ええっと、あの、三日さん?けれども年頃の男女が同じ屋根の下で過ごすのってさ…」 俺がそこまで言うと、三日はポッと頬を赤らめた。 「…千里くんの、えっち…」 ぐはぁ! 「…千里くんのえっち千里くんのえっち千里くんのえっち千里くんのえっち千里くんのえっち千里くんのえっち」 「止めて連呼しないでお願いいやマジでお願いします」 今日1日の文脈的にその一言はキツすぎる。 三日的には俺の名前を呼びたいだけなんだろうが。 これはアレだ。 二日さんの罠だ! あの人からの最後の試験だ! 一晩三日と同じ屋根の下に置いて、俺の理性を試そうってハラだな! 「…今日も、千里くんのお父様たちはお仕事で帰られないのでしょう?」 「なぜ知ってる!?」 何だこの状況… 客観的に見ればかわいそうなクラスメートを一晩泊めるだけだってのに、どんどん追いつめられてる気がする。 「…遅い時間まで千里くんと愛し合っても、何ら問題はありませんよね?」 恥じらった顔でそんなことを言ってくれる三日。 『愛し合って』って、どう考えても言葉通りの意味じゃないよな! 「…私、その、そうしたことは初めてなので、千里くんが千里くんが千里くんが優しくしてくださると、嬉しいと言うか何と言うか…」 そんな三日を見て、ふと去り際におねーさんが言った一言が思いだされる。 ―――もし、あなたが妹を大切にしないようなことがあれば、ね…――― この場合、どうすることが三日を大切にすることになるんだ? 今日は諸々必要な物の用意が無いし、ああでも三日がそうしたいって言うならそうしてあげた方が良いのか…! もしかして、コレ、どんな行動をとっても地雷しか無いんじゃないのか!? しかも下手したら俺、二日さんに殺されかねないし! 思ったよりもハンパ無いぞ、二日さんの罠! あまりの状況に、俺の頭もパンクしそうになる。 「あんのヤンデレの娘さんのおねえさんがああああああ!」 俺はただ、そう叫ぶほか無かった。 172 名前:ヤンデレの娘さん 義姉の巻[sage] 投稿日:2010/10/04(月) 23 06 33 ID 3YlMb2N3 おまけ 夜風に身を任せるような優雅さで家路を行きながら、緋月二日は上品なデザインの携帯電話をとりだした。 慣れた手つきでキーを操作し、ある人物の番号を呼び出す。 携帯電話を耳に当ててすぐに相手と繋がる。 「もしもし、愛しい方…」 御神千里にも、ましてや妹にも聞かせたことの無い、甘く愛しげな声音で、二日は言った。 「私の愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい愛しい――――お父様」 父、と呼びながら、二日の声は最愛の恋人に対するそれだった。 そう、彼女は愛しているのだ。 血のつながった実の父親を。 自身の母という妻を持つ1人の男を。 「ええ、きちんとちゃんとお父様のお言いつけ通りに御神千里を、あの障子紙より弱い妹の最愛の恋人を、義弟を、つまり未来の家族を精査して検査して調査して参りましたわ…。え、君が言ったんだろうって?あらあら、そうだったかしら…?」 フフ、と嬉しそうに笑う二日。 嬉しいのだ、彼女は。 今この瞬間父と話している、繋がっているというその事実が。 母親では無く自分が、という現実が。 「結果は…、まぁギリギリ合格と言った所でしょうか…。まだ緋月家向きの殿方とは言い難いですが、少なくとも三日との交際の結果私たちまで不利益を被ることはない、と断言出来ますわ。…ええ、三日との交際は思いのほか真剣だったようです…」 嬉々とした表情で、二日は電話の相手に報告する。 そうしているうちに、自然と足元が躍るようなステップに変わる。 月に照らされて舞う二日の姿はとても美しく―――同時にどこか狂気的であった。 「正直あの三日のことだから、悪い男に引っかかったんじゃないかと心配…もとい期待していたのですが、そんなことは無かったようでした…。とはいえ、フフ…。中々に初心で、三日以上にいじめ甲斐がありそうな殿方でしたわ…。思いのほか反骨精神もあるようですし」 自分を睨みつける御神千里の顔を思い出し、二日は笑った。 三日のようなタイプも良いが、それなりに反抗してくれた方が彼女としては面白い。 「これで、私たち家族の、いえ私たち二人の憂いは無くなりましたわ。今日は母も仕事で帰りませんし、今夜はとてもとても楽しく激しく愛しく―――」 二日は笑う。 実の父を想って。 実の父との『この後』のひと時のことを想って。 「抱き合いまぐわい愛し合いましょう、お父様?」 もし、そう言って笑う二日の姿を見る者がいたとしたら、禍々しさを感じぬ者は居なかっただろう。 禍々しさを感じながら――――その笑みの美しさを否定できる者もまた、居なかっただろう。