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14 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.4 ◆yepl2GEIow:2011/10/12(水) 22 43 03 ID vXnZtfxw 4年前 「ヒーローに、なりたかった」 「はぁ?」 「昔の話だ、九重。だから、そんな汚物を見るような目を向けること無いだろ」 「ああ、そう。でも、キミが今も年甲斐も無く子供向け特撮ヒーロー番組のオタクやってるのって……」 「うん。その想いがあったからだと思う」 「ボクは女子だから分かりかねるのだけれど、ヒーローってそんなに良い物なのかな?」 「ヒーローは、1人だけど、1人じゃないから」 「どーゆーこと?」 「ヒーローって、戦ってるのはヒーロー1人でも、彼らの守っているたくさんの人と、応援で、声援で、支援で、繋がってるから。絆があるから。だから、俺も少しでもそんな風になれたらって」 「そう。良く分からないけどね、ボクには」 「うん、そうかも」 「しかし、キミに英雄願望なんて大それた代物があったなんて知らなかったよ」 「英雄なんて大それたものじゃない。大それたものでなくていい。ただ、少しでも誰かの助けになって、誰かを笑顔にして―――」 「誰かに恩を売って?」 「恩って……。まぁ、感謝はされたいかな。それで、誰かと繋がれれば」 「そっか。まぁ、幼少時代のエピソードとしては中々微笑ましいものだったね、戯れに耳を傾ける意義はあった」 「それは重畳」 「ウン、興味深かったよ。千里は昔から千里だったんだなって」 「どう言う意味、それ?」 「言葉通りの意味」 「うぐぅ……」 「でも、その英雄願望。現実問題として、実現するのは無理だろうけど」 「そっか、無理か」 「そう、無理。どれだけ頑張っても、どれだけ時間をかけても、キミはヒーローやら、正義の味方やらにはなれない」 「……うん」 「キミになれるのは、せいぜいヒーローの真逆の引き立て役。英雄に否定され、主人公の踏み台にされ、騎士から斬り捨てられ、他者から拒絶され、誰からも忌み嫌われる―――敵役だけ、だ」 15 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.4 ◆yepl2GEIow:2011/10/12(水) 22 43 37 ID vXnZtfxw 現在 「・・・・・・う、うう」 俺は呻き声をあげながら、重い眼を開けた。 窓の無い、殺風景な部屋の中だった。 体が痛い。 まだ痺れる。 酷い気分だ。 って言うか、酷い目にあった。 いや、実際どういう目にあったのか、俺もいまいち把握していないのだが。 「あら、あらあらあら。気がついちゃったみたいね」 うわぁ・・・・・・ 最初に目が合ったのは、嗜虐的な表情を浮かべた明石だった。 正直、寝起きに見るにはかなり刺激が強かった。 ましてや、自分を昏倒させた相手となればなおさらだ。 「おはよう、明石」 けれども、俺はいつも通りの笑みを作り、余裕な振りをしてそう呼びかけた。 「それに、三日も」 三日は、明石の後ろ、部屋の隅に立っていた。 ここからでは表情は窺い知れない。 けれども、俺の言葉に何も反応しない。 どうやら俺は、この2人に呆気なく捕えられてしまったらしい。 「しかしまぁ、明石。随分と見事な手際というか見事な出来栄えだねぇ。三日を囮役にして、スタンガンで不意打ったってワケね。」 「余裕ね、こうしてなすすべも無く閉じ込められたって言うのに」 明石の言う通り、俺は見覚えの無い、室外から施錠されたドアのある無機質な部屋の中、椅子に縛られていた。 それも、よくよく見れば両手足に胴体を縛る縄にプラスして手錠まで。 念の入った話だった。 「まぁ、こうなると初台詞が『お前も仲良くするのだ~!』だった奴とは思えないけどね」 「そんな台詞、覚えてる人も信じてる人もいないでしょ」 「いや、信じてる人はいると思うけど……。それにしてもそれを差し引いても、いやはや、見事な連携だよ、2人とも。これが友情パワーって奴なのかな」 単なる軽口でもなく、これが2人の友情の成果だと言うなら、自分の状況を棚上げにして素直に称賛したかった。 これが明石と三日の絆の証だと言うなら、三日のためならば、一応、何とか、許せる。 しかし、 「友情?」 養豚場のブタでも見るような眼をして、明石は言った。 「勘違いしてもらっちゃ困るわね、緋月三日はただの私の駒よ」 ………は? 「明石、今のもう一度言ってくれないかな?どうも、酷い聞き違いをしちゃったみたいでね」 「聞きたいなら何度だって言ってあげるわ。友情なんてくだんない。ソコのソレはただの駒よ」 その言葉、昨日の憔悴した三日、そして今の無言の三日、俺の今の状況。 一瞬、頭が真っ白になってから――――それでも全てが繋がった。 「………お前、今、三日のこと、自分の親友のことなんて言った?」 「駒」 俺の言葉に、明石は冷たく答えた。 即答した。 言い放った。 言い放ち、やがった……! 16 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.4 ◆yepl2GEIow:2011/10/12(水) 22 43 56 ID vXnZtfxw 「………り消せ」 全身が沸騰しそうになるほどの激情を全力で抑え込み、俺は言った。 「はぁ?」 侮蔑に満ちた顔をする明石。 「取り消せと言ったァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 直後、怒轟と共に俺は明石に飛びかかっていた。 椅子に体を拘束されたまま、腹の筋肉だけで、椅子を前方に倒れこませ、奴の喉笛に噛みつかんとする! 「ヒッ!?」 しかし、すんでのところで避けられてしまう。 俺は、椅子に座った姿勢のまま、フローリングの床の上に転がる。 今、もう少しでアイツの喉笛を噛み千切れたのに。 畜生。 ど畜生。 「あは、あはははは……」 がくん、と床の上に尻を突き、強がるように笑う明石。 「強がっちゃって、無茶をするわね無駄をするわね。アンタは所詮単なる餌。どうこうしてもどうしようもできない、どうでも良いモブでしかない。そこで大人しくしているが良いわ」 「……」 明石が何か言っているが、その言葉は怒りでほとんど聞こえない。 誰かを殴ったことは何度もあるが――――誰かを殺したいと思ったのは、これが初めてだった。 ……ズ……ズ……と。 床の上をもがき、尻もちをついた明石の元に這い寄っていく。 「動かないで!」 悲鳴のように、明石が叫ぶ。 三日を指差して。 「さっきも言ったでしょう!緋月三日は私の駒!私の意のままに動かせる!どんなに酷いことだってさせられる!殺せと言えば殺す!死ねと言えば死ぬ!そうさせるだけ脅迫して屈伏させたんだから!」 屈伏させた……? 脅迫して、だって……? 「私に危害を加えれば、この部屋から出ようとすれば、私がどんな命令をするか、このコがどんな目に会うか。分からないアンタじゃない―――わよね?」 つまり三日は明石の仲間でも無く、協力者でもなく、囮役でも無く――――人質、か? おい。 おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい。 俺は知らない。 俺は聞いてない。 こんな展開なんて。 こんなことになっているなんて。 「そう言うことだから、大人しくしてなさい、餌役さん!」 そう言って、俺の頭をゴッと蹴り飛ばす明石。 「……っつ!」 さすが水泳部、良い脚(力)してるよ、へたりこんだままでも。 忌々しい。 「…!?」 三日が息をのむ声が聞こえる。 「だい……じょうぶだから、俺は」 何とかそう言ったが、半ばうめき声のような声でどこまで安心させられたか分からない。 そうこうしている内に、明石がフラリと立ち上がった。 「じゃあ、緋月三日。約束の日までこの餌頼むわよ、良いわね」 明石の言葉に「…はい」と消え入るような声で答える三日。 約束の日?何の話だ? 「じゃぁ、また。もっとも、次に会う時が最後でしょうけど」 そう言って、部屋のカギを開けて(部屋の中にも鍵があるのだ、ココは)出て行こうとする明石。 「待て、どこへ……」 「どこ、ですって?」 不思議そうな顔をする明石。 「決まってるでしょ?学校に、行くのよ」 17 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.4 ◆yepl2GEIow:2011/10/12(水) 22 44 44 ID vXnZtfxw 御神千里と緋月三日が失踪した。 その事実は瞬く間に学校中に伝播した。 本人たちは否定しているものの、2人は校内でちょっとした有名人であり、恋人同士だったからだ。 姿を消した理由ははっきりしないが、駆け落ちをしたとも、事件に巻き込まれたとも、様々な憶測が飛び交った。 とは言え、この事件に対する反応は千差万別だった。 その行方を、面白半分で話題にする者、心配する者、探す者、気にする者、気にしない者。 そして、何の進展も無いままに、千里と三日が不在の夜照学園高等部の学校生活は、今日も何事も無く過ぎて行き……。 事件の情報を最も早く掴んだのは、前期生徒会役員たちだった。 「御神後輩と、あの不愉快な男の妹が失踪?」 ある空き教室の中で、氷室雨氷は怪訝そうな顔で相手に聞き返した。 「その通りなのでござる」 情報を伝えたのは、李忍。 いつも通りの奇妙な口調だが、心配そうな色が滲んでいる。 その場には、一原百合子の恋人たちが集っていた。 但し、百合子本人はいない。 「とにかく、その話を一原会長……もとい前会長の耳に入れないよう尽力しなくてはなりませんね」 「氷室殿!?」 冷たく言い放った氷室に、李は抗議の声をあげる。 それも当然だった。 千里と三日は彼女のクラスメートで、生徒会の活動も手伝ってもらったこともある友達なのだから。 面と向かって友達だと言ったことは無かったが、少なくとも李自身はそうだと感じている。 「李前書記も、一原前会長の性格を知っているでしょう。彼女のことです。話を聞いたら、喜々津……もとい嬉々としてこのトラブルに首を突っ込むに違いありません」 「でござるから……!」 「自分の受験勉強を放り出した上で、ね。それは、避けるべき事態です」 冷静に語る氷室。 「友の安否より受験の方が大事と言うのでござるか!!」 「李、気持ちは分かるけど……」 「イマはcool downにcalm downです」 喰ってかかろうとする李を、周りにいる霧崎涼子やエリス・リーランドが押しとどめる。 「今は、彼女にとって大事な時期。一原前会長は、これまで学園の為、一般生徒たちの為―――つまり、他人の為に尽力してきました。だから、もう良いでしょう。彼女が自分の為に尽力しても」 冷たい声音の氷室だったが、その言葉には百合子への気遣いが感じられる。 そして、それは氷室達全員の統一見解でもあったはずだった。 生徒会長で無い百合子が、他人の為に身を削ることはもう必要ない、と。 一方で、元生徒会メンバー達はヒトとしての能力こそ規格外ではあっても、百合子という中心人物が無ければその能力を十分に発揮できないことも確かだった。 いくら規格外と言った所で、所詮は個人レベルに過ぎないのだ。 言わば、彼女たちは百合子と言う剣士に振るわれる刀のような存在だ。 扱う剣士がいなければ、どんな名刀も単なる棒きれでしか無い。 「今のお姉は生徒会長じゃないしね。あんま無茶もさせらんないし」 一原愛華が言うように、この学園の生徒会長は絶大な権限を与えられている。 人事権を始め、様々な権利を与えられている。(愛華が1年生にも関わらず生徒会に所属できたのはこの権利の濫用である) それに、多少の無茶も学園側からのフォローがある。もっとも、これは顧問であるエリスによる部分も多分にあったが。 「私達の時のように、『終わっても何事も無かったように』とはいかないかもしれませんわ」 と、鬼児宮左奈は言った。 「だからと言って、今御神氏たちがどのような目にあっているのかも分からぬというのに……!」 「どのような目に会っているとしても、御神後輩が切り抜けられないかも分かりませんがね」 もどかしげな李に向かって、氷室は静かに言った。 「御神後輩も、私や一原前会長と中等部時代から行動を共にしてきた者。多少のことでどうにかなる道理は――――ありません」 18 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.4 ◆yepl2GEIow:2011/10/12(水) 22 45 38 ID vXnZtfxw 「直子ちゃ~ん、直子ちゃ~ん?」 料理部の活動中、河合直子は部長の由良優良里(ユラユラリ)先輩に呼びかけられて我に返った。 「あ、部長」 「はい~部長です~」 相変わらずおっとりとした、しかし温かな笑顔を浮かべる由良部長。 「それよりも~、直子ちゃん~?」 「何でしょう?」 「あなたの~そのお鍋~、噴きこぼれてないかしら~?」 「うわ、マジっすか!?って言うかマジだ!?」 慌ててコンロの火を止める河合。 「何で早く言ってくれなかったんですかー!って、ゆらゆらな由良部長に言っても仕方無いですね」 「ごめんなさいね~。でも、珍しいわね~」 「何がですか?」 「直子ちゃんが~、料理しててボーっとしてるなんて~」 言われてみればそうだった。 今までは、横に御神千里先輩がいたので、談笑で手元がおざなりになることはあっても(それでよく千里に注意されたものだ)、上の空になることなど、一度も無かった。 けれども、今は…… 「先輩が、いないですから……」 「やっぱり~、心配に~なるわよね~」 でもね~、と気遣わしげに直子の肩に手を置く部長。 「大丈夫よ~、絶対。私達の助っ人くんは~そう簡単にどうにかなるような子じゃないもの~」 「そう、ですよね……」 自分に言い聞かせるように呟くと、両の頬をパンと叩く直子。 「ぃよし!御神先輩が帰ってきた時の為に、エンジン全開ガンバルオー!」 空元気の声を上げる直子。 それを、穏やかな笑みで見つめる部長。 その部長の頭に、ポンと手が置かれる。 「あんまり気ィ張りすぎないで下さいよ、部長も」 「あら~、三九夜ちゃん~」 部長の後ろに立っていたのは、女子制服の美少女、天野三九夜。 「ちゃんって言わないで下さい。何かこそばゆいンですよ」 「ごめんね~。でも大丈夫よ~。私はいつもど~り~」 「塩と砂糖を間違えない、水と料理酒を間違えない、大根とにんじんを間違えない。そんなアナタのどこがいつも通りですか」 「あら~、そう言えばそうね~。今日は一回も間違えてないわ~」 「……ったく、心配で来てみればご覧の有様かよ」 「何か言った~?」 「何でも無ぇッス」 そっぽを向きながら言う三九夜。 『御神、あんまりコイツらに心配かけないで緋月と早く戻ってこい。オレだって―――』 三九夜は、どこにいるとも知れぬ友に向かって、心の中でそう呼びかけた。 19 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.4 ◆yepl2GEIow:2011/10/12(水) 22 46 26 ID vXnZtfxw 「みかみん……」 午後の授業を片手間に受けながら、葉山正樹は虚ろに呟いた。 教師がチョークを振るう音を聞き流し、正樹はちらと隣の席に目をやった。 いつも見慣れた、本来あるべき御神千里の姿が無く、まるで大穴がぽっかりと空いたようだった。 ――――お前は、それで良いの……!?――― 千里の席を見るたびに、彼が言い残した言葉が繰り返し思い出される。 本人は平静を装っているつもりでも、もどかしさや気遣いが隠しきれない、優しくも激しい言葉。 (しっかたねーじゃんよ) 聞く者の無い答えを、正樹はひねり出す。 (何もかもが異常で異形で非常事態なンだよ。こんなンなっちまったのに、何か出来るってンだよ。何が出来るってンだよ。俺が聞きてぇっての) 言い訳だ。 それは、正樹自身が一番良く分かっている。 自分がすべきなのは、自分が想うべきなのは、自分が、決めるべきなのは――― そんなことを想っている内に、授業終了のチャイムが鳴る。 「やほー、まーちゃん!!」 授業が終わるのとほぼ同時に、明石朱里が彼に声をかけてくる。 「う……あ、ああ……」 明石の登場に、今までの思考が胡散霧消する。 「さっきの授業、ノート取ってたー?いやー、アタシ途中で寝ちゃってさー」 そう言いながら、当り前のように千里の席に座る朱里。 ―――何も言えず、何も言わず、ただ唯々諾々と流されて。それを恐れるばかりで何もしないで――― その後、千里は何と言いたかったのだろうか。 分からない。 けれども、正樹は何か言わなくてはいけない気がした。 強く。 「朱里……そこ、みかみんの席だ」 振り絞るように、正樹は何とか、朱里に向かってそう言った。 「え、ああ。そうだっけ?」 とぼけた風に言う朱里。 気のせいか、その声音にはどこか意地の悪い響きがあるように聞こえた。 「……そーだよ。だから……お前が我が物顔で我が物みたく座るのは、その……どーなンだよ?」 「意外と細かいコト気にするんだねー!」 そう、朱里は正樹の言葉を笑い飛ばした。 「良く分かんないけど、緋月三日と御神千里はまだ見つかって無いんでしょ?」 「……ああ、万里さんが探してる。……『心当たりはあるから心配しないで』って言ってた」 「あー、万里さんからの電話!?アタシん家にも来たよー!なんかー、あの人クラス全員に電話かけて御神千里と緋月三日が来てるか確認したみたいだねー!すごいよねー!こう言うの、『親の鑑』って言うのかな!?」 「かも、な。……まぁ、こればっかは大人のヒトに任せるっきゃねーんだろーな。……みかみん達を探したくても、アイツらがどこにいるのかなんて、見当もつかねーし」 「なら、遠慮なく座ってもそんな問題無いじゃん!」 本格的に背もたれに体重を預け、朱里は笑う。 「高校生のアタシらにはどーしよーも無いし!それに、万里さん『心配しないで』って言ってたんでしょ!?だったら……」 「……わ、悪い、朱里……」 ハイテンションに台詞を捲し立てる朱里を何とか遮る正樹。 「……悪いけど、ホント、今、お前と話したい気分じゃ無いんだ。後にして……くれねーか?」 「へぇ……」 戦々恐々としながらも言葉を発した葉山に、朱里はコールタールのようにドロリとした視線を向ける。 「イヤなんだ。私と話すの私と話すのに恋人(わたし)と話すの、イヤなんだ」 詰め寄る明石にたじろぎそうになる葉山。 「うぅ……キ、キブンの問題だよ。こう言っちゃなんだが、心配するなと言われて心配しないほど、俺も割り切った性格しちゃいねーし」 「じゃあ、最近緋月三日と御神千里を見た――っていう情報を私が持っていても?」 「本当か!?」 朱里の言葉に、思わず身を乗り出す葉山。 その姿を見た明石が、心の中で歪な笑みを浮かべていたことなど、親友の身を案じる葉山に分かるはずも無かった。 20 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.4 ◆yepl2GEIow:2011/10/12(水) 22 47 07 ID vXnZtfxw そうして、世間様に嘆きや心配や寂しい思いや迷惑や期待をさせている最中の数日間、俺がどうしていたかと言うと、何もしていなかった。 と、言うより何かする気も起きなかった。 俺の心は、御神千里の心は、これ以上無く折れていた。 ポッキリと折れきっていた。 最初は、明石に対する怒りや殺意しか無かった。 けれども、冷静になるにつれ、そうした感情は自分自身に向けられた。 自己嫌悪になった。 俺は、どうして誰も救えなかったのか。 俺は、どうして親友に伝えるべきことを伝えるのが遅れてしまったのか。 俺は、どうして親友に想いを寄せる少女の暴走と破綻を止めなかったのか。 俺は、どうして大切な人を守れず、それどころか、彼女の危機を気付くことさえできなかったのか。 俺は、本当に、何も学んでいない。 俺は、正しくあることができなかった。 俺は、主人公(ヒーロー)でも英雄(ヒーロー)でも騎士(ヒーロー)でも無い。 俺は、無力だ。 そんな人間に、明石を恨む道理は無い。 「…千里くん」 縛られた俺の膝の上で、三日が俺の首に白い手を回す。 「…千里くんは何も気にしなくて良いんです。…何も考えなくて良いんです。…何も心配しなくて良いんです。…全てが、上手くいきますから」 無表情に言葉を紡ぐ三日。 三日のその言葉は、毎日のように繰り返されていた。 まるで、壊れたレコードのように。 それは、俺にと言うよりも、三日自身に言い聞かせているようにも聞こえた。 三日は明らかに無理をしていた。 精神的な負担を強いられていた。 それに対して、俺は何も言わない、しない、出来ない。 俺のような、人間失格には。 誰かマトモな奴なら、それこそ一原先輩みたいな人なら、今の三日の危うさなんて、一言で解消してくれるのだろうけれど。 ここには、その一原先輩はいない。 一原先輩のみならず、俺と三日の2人しか人間がいない。 明石は俺を閉じ込めたあの日以来、電話越しでしか連絡を寄越さないし。 そんな有様だから、俺の想いは沈んでいく一方だった。 沈みに沈み、自分のキャラクターすら保てないでいた。 元々、俺の緩いキャラクターは、ここ数年でようやく関わりを持てた、家族や友人と言った、俺に好感を持ってくれているみんなとの人間関係の中で、無我夢中で構築し、維持してきたものだ。 誰かがいなければ、保てない、急ごしらえで薄っぺらなものだ。 だから、みんながいなければ、俺のキャラクターは崩れていくほかない。 これが本当のキャラ崩壊。 全然上手く無い。 全てが上手くいかない。 21 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.4 ◆yepl2GEIow:2011/10/12(水) 22 47 33 ID vXnZtfxw 放課後 「……本当に、こっちなのか。その……みかみん達を見たっていうのは」 人の少ないビル街を、葉山正樹は明石朱里に案内されるままに歩いていた。 「ウン、大体この辺りでチラッとだけ2人の姿を見たんだってー!」 キョロキョロと近くを見回し、いかにも辺りを探してますと言う風を装いながら朱里は答えた。 「見たって言うと?」 「アタシの友達の友達の、そのまた友達!大体、2日前くらいだって!」 「2日か……。……じゃあ、今居るかどうかは微妙なラインだし、見間違えかもしれねーよな」 「どーするー!?このまま帰るのもアリだと思うけど!その後ついでにここら辺デートしたり!!」 「こんな雑居ビルが集まったトコにデートスポットがあるとも思えないけどな……」 久々のツッコミを入れながら、逡巡する正樹。 「……とりあえず、近くを探して良いか?……正直、みかみんが心配で藁にもすがりたい思いだし」 「アイアイサー!」 そうして、近くのビルの中に入る2人。 「?……ひょっとしてココがらんどうか?」 「そうそう。元々はマンションとして建設されたんだけど、建物が完成したって時に大元の会社が潰れちゃったんだってー!いやー、不景気はイヤだよねー!」 「く、詳しいんだな……」 「アタシが情報通なのは、学園内だけじゃないんだよ!」 えへん虫、と胸を張りながら、中を探索する。 「でも、ちょーっと分かんないかな!」 「……な、何がだ?」 「何でそんなに御神千里を心配するのかな!噂じゃ、前期の生徒会の無茶にも付き合ってたらしいし、大抵のことは1人で何とかなるんじゃない、アレ」 放っておこうよ、という意味を暗に込めて朱里は言う。 「……確かに、アイツはトラブルに場慣れしちゃいる。けど、それだけだ」 「それだけってー!?」 「……意外と危ういンだよ、メンタル的に。普通にしてればなんてこと無いんだけどよ。一度沈むとトコトン沈む。一度キレるとメチャクチャ性質が悪い。初めてアイツと会った時なんて、九重以外のありとあらゆる人間にガン飛ばしてた位だったんだぜ」 「普段温厚な人ほど怒ると怖いってコトー?」 「……まぁ、な。だから、アイツは心配なんだ。生死とかフィジカルなトコだけじゃなくて、メンタルの部分もな」 22 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.4 ◆yepl2GEIow:2011/10/12(水) 22 47 58 ID vXnZtfxw その廃ビルの一室に、俺達は居た。 「…はむ、ンちゅ…ふにゅ…あむ…」 三日の口の中で丁寧に細かく刻まれたコンビニ弁当の唐揚げが、マウストゥマウスで俺の喉の奥に押し込まれる。 所謂口移しと言う奴だ。 俺は手足を拘束されているため、この数日恒例になっていた食事風景だった。 いつものように、俺に口移しで食事を与えていた三日が、 食事や下の処理など、おはようからおやすみまで俺の生命維持のために尽力したここ数日の三日の献身ぶりは語り尽くせないほどだ。 語れば語るほど、俺の無力さが浮き彫りにされるだけとも言うが。 三日の献身に対して、俺は何も応えることが出来ないのだから。 「…そんな顔しないで下さい、千里くん。…全てが上手く終われば終われば、千里くんだって幸せな気持ちになれますから」 唐揚げペーストを俺に嚥下させ、弁当が空になったところで、三日は俺から唇を離し、俺に向かってそう囁きかけた。 俺は、どんな顔をしているのだろうか。 どんな顔でも、もうどうでも良い。 「…全てが上手く終われば、千里くんだって幸せな気持ちになります。なってくれます。なってくれるに決まっています。…だから、私も頑張ります」 三日が繰り返す。 喜ぶ。 幸せ。 それは、俺の望みがかなう、ということだろうか。 俺の、望みは――― 「みんなが、おれのすきなみんなが、わらっていてほしい」 「…」 俺の言葉に顔を曇らせる三日。 彼女は、今笑ってはいないから。 ああ、俺は本当に無力だよなぁ。 みんなの笑顔のために、なんてテレビの中のヒーローみたくなりたかったけどなぁ。 所詮人は人、ヒーローはヒーローか。 俺には、何もできないか。 どれだけ、やりたいと思っても。 あーあ。 やっぱり俺は、『意味ある人』じゃなくて『ある意味人』だよな。 ヒーローどころか、人としてあまりに脆弱だ。 九重、お前はいつだって正しいよ。 けれど。 ―――やりたいなら四の五の言わずにやりなさいよ――― 唐突に、親の言葉が思い出された。 そうか。 どれだけ無力感に苛まれていても、俺の想いだけは、まだこんなにも燻っている。 燻って、消えていない。 キャラはブレても、想いはブレてない。 だったら。 例え、無力でも。 例え、ヒーローにはなれなくても。 例え、『ある意味人』でしかない、人間失格でも。 「おしえて―――教えてくれ、三日」 「…え?」 数日ぶりに力を込めて、想いを込めて発せられた俺の言葉に、驚いた顔をする三日。 「俺は、お前の、お前達の笑顔の為に何ができる?」 「…え、でも」 「どんな小さなことでも良い。お前の望みを言え。それさえ分かれば―――どんな願いも叶えてやる」 「…千里くん」 何となく、三日の表情に元気が戻ってきたような気がした。 「…このタイミングでネタに走らなくても」 「あ、分かった?」 詳しくは『告白の巻』参照。あるいは平成ライダー8作目。 「…くすくすくす」 「あっは、ははははは!」 場違いなネタに、その場違いさ加減がどうにもツボにはまり思わず2人して笑ってしまう。 「…フフ、何だか、1億と2千年ぶりに笑った気分です」 「対抗したね?」 「…はい、対抗させていただきました」 「お前の冗談、マジで今から36万…いや、1万4千年振りに聞いた気分だ」 「…何で言い直すと短くなるんですか」 そう言って、互いに笑いあう。 今までの、沈み続けるような気分が、笑い合ううちに少しずつ薄れて行くのを感じる。 いや、まだ何も何一つ良い方向に向かっちゃいないんだけどね。 ……よし、少しずついつものキャラが戻ってきたぞ。 23 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.4 ◆yepl2GEIow:2011/10/12(水) 22 48 46 ID vXnZtfxw 「…真面目な話、この先千里くんに何かしてもらう予定はほとんど無いんですよね、朱里ちゃんの計画には。…元々、ほとんど朱里ちゃん1人でやってるようなものですし」 笑みを消し、キリっとした顔で三日が言った。 「計画って言うと?俺、その内容全然知らないんで教えて欲しいんだけど」 と、言うより教えられる前に監禁されたからな。 実は誘拐犯に向かって悠長に自分が攫われた理由を聞いているようなものだったりするこの状況。 わお、デンジャー、デンジャー、デンジャラス。 「…話せば、長くなるんですけど」 「3行でお願い」 「…千里くんがいなくなると、葉山くんが心配します。 …それを餌にして、朱里ちゃんが葉山くんをこの家におびき寄せます。 …そしたら、そのまま2人きりでずーっと一緒。 …みんなハッピー」 「3行と言いつつ4行って……」 「…え、そう言うお約束じゃないんですか?」 「まぁ、そうだけど」 それで素で4行にする辺り、すごいというか何と言うか。 「って言うか、思いのほか杜撰な計画だな」 「…杜撰、ですか?」 「詰めが甘い、って言った方が良いけど。大体、警察が動き出したら、居場所なんて一発だぜ。何せ、そして4人もいなくなるんだし。」 俺に関しては、明石に脅されて「ちょっと自分探しの旅に出るから」と家の留守電に入れてるけど、それを信じるような人ばっかりでも無いだろう。(大体、ウチの親が信じたのかも分からないし) 葉山や明石までいなくなったら、ほぼ確実に捜索願が出されると見て良い。 ウン、だんだんと頭が働いてきたぞ。 「…確かに、国家権力が動き出したら面倒ですけど」 「って言うか、警察動くだろ、絶対」 「…でも、お母さんたちだって大丈夫ですし」 「お前の両親とは、状況は違うだろ。少なくとも、月日さんは今の状況にある程度納得しているし」 誘拐と同居では天と地ほどの差がある。 「…いえ、今はそうした大人の事情はお母さんがどうにかしているらしいですし」 「あの人一枚噛んでるのかよ!?」 俺の驚きにコクンと頷く三日。 学生ばかりで計画された誘拐計画だと思っていたのに、超展開だ。 「一体全体どうしてンなことに」 「…何でも、雨の日に偶然会ったとかで」 「捨て猫を拾ったみたいな話だな……」 それにしても、零日さんが絡んだ件は、俺の迂闊さがあからさまに露呈することが多い気がする。 その上、三日を窮地に追いやるし。 いや、まだ2回だけだけど。 「そうは言っても、警察を誤魔化すにしても、あの人が出来ることにも限界があるでしょ。何のかんの言っても、一介の女優さんでしかないでしょ?」 「…それはそうですね」 って言うか、あの人はヤバくなったらさっさと逃げそう。 大体、零日さんは人助けなんて殊勝な理由で動くタイプの人じゃ無いし。 「零日さんの助けは、長期的にはあんまり期待できないと思う。だから、大事になる前に、はやまんを攫うなんて止めた方が良いかもしれない。本当に、葉山と明石の行く末を思うなら」 「…でも、朱里ちゃんは2人きりで、時間をかけて、ここで想いを伝えたいって言ってました」 「あー、ゴメン」 「…はい?」 「それ、多分ムリ」 「無理!?」 「今まで割かし言葉濁してたけど、はやまん明石に本気でビビッてるからなぁ。こんなところに閉じ込められた日には、明石の言うことなんて聞く耳持たないよ」 「…そう、なんですか」 「ぶっちゃけ、葉山は漫画のヘタレ主人公みたいなモンだ」 「…ヘタレ主人公そのものですね」 「だから、今の葉山に押せ押せで行くのは逆に下策だと思う」 「…押して、上手く行くと思ったんですけど」 「こればっかりは、巡り合わせが悪かったとしか言えないなぁ。ただ単に明石が自分の想いを明かすだけならこうはならなかったんだろうけど、はやまんは明石の狂烈な部分まで知っちゃったから」 今の冷酷非情な恋愛暴走特急状態が明石の本質だとは思わないが。 そいつを明石の本性だと思ってるのが今のはやまん、といったところか。 いや、まぁ、明石の一部ではあるんだろうけれど。 それだけじゃ無いと思うんだよなぁ。 葉山にとっても。 はっきりとは分からないけれど。 うーみゅ。 「みんな幸せ、って言うのは難しいのかなぁ」 「ええー!?」 三日からのブーイングが聞こえる。 24 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.4 ◆yepl2GEIow:2011/10/12(水) 22 49 10 ID vXnZtfxw 「そう言うのも分かるけど、葉山と明石っていう二項対立が完全に出来ちゃったからなぁ」 逃げるはやまん、追う明石、みたいな。 「…それなら、私は明石軍に入ります」 「あー、そこはブレないんだ」 「…親友ですから。………朱里ちゃんは、そうは思ってくれてないようですけど」 「ンなことは無いと思うんだけどなぁ」 「…ありがとうございます。…慰めでも、気が楽になりました」 「いや、マジでマジで」 あの時はブチ切れたけど、改めて思うと明石の『駒』発言が本当の本心だとは思えないんだよな、何となく。 明石自身が自分の想いをないがしろにしているだけで。 極めて感情的な理由で動いている癖に、感情を一番後回しにしているという矛盾。 ヤンデレてる明石は気付いて無いんだろうなぁ。いや、もしかしたら気付いていて気付かないふりをしてるのか。 「…それで、千里くんはどちらの味方になるんですか?」 三日がそう問いかけた。 問いかけに躊躇が無い辺り、俺が三日と同じ側に立つことを期待&確信しているのだろうけれど…… 「俺は、2人のどちらとも味方で居たかったんだよなぁ」 ため息交じりに俺は答えた。 「今となっては難しいけれど」 「…葉山くんが朱里ちゃんのモノになってくれれば、万事解決なんですけど」 「それが二項対立なんだよなぁ」 「…対立してると思うのに、両方の味方になりたい、ですか。…何だか、頭がこんがらがってきました」 三日がそう言うのも無理無いだろう。 現在の状況を二項対立として捉えながら、対立する2人の両方の味方でいたい。 そんなものは虫の良い考え方だし、矛盾した考え方だ。 「それもそうだけど……」 ……二項対立 ……叱咤激励 ……葉山の恐怖 ……明石の狂愛 ……人間関係 ……友情 ……愛情 ……感情 ……矛盾 ……虚偽 ……真実 ……覚悟 ……決意 ……構築 ……崩壊 ……絆 ……ヤンデレ 今までの状況と、今まで俺が感じてきた物が、俺の頭の中で集束していく。 「二項対立、ね」 そう呟いた俺は、どんな顔をしているのだろうか? 「あは……」 少なくとも、笑顔の形はしていたのだろうけれど。 「あはははは……」 「…千里くん?」 三日が心配そうに声をかけてくるが―――『そんなものはどうでも良い』。 25 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.4 ◆yepl2GEIow:2011/10/12(水) 22 54 11 ID vXnZtfxw 「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは 「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは 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「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 26 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.4 ◆yepl2GEIow:2011/10/12(水) 22 54 44 ID vXnZtfxw 狂ったように、狂気その物の哄笑を一しきり上げると、俺は口元に鮫のように獰猛な笑みを作る。 「覚悟を決めたぜ、三日」 そう嗤った俺の顔は、間違い無く獣のようだっただろう。 え、俺のキャラ?何それおいしいの? 「俺は、二項対立の三項目になる」 「…はい?」 俺の滅茶苦茶な発言に、当然困惑したような顔を浮かべる。 「葉山と明石。あの2人に否定され、2人の踏み台にされ、2人から斬り捨てられ、2人から拒絶され、2人から忌み嫌われる奴に―――2人の敵になってやる」 拳を握り込み、言葉に力を込めて言い放つ。 「協力してくれるよなぁ、三日?」 そうは言った物の、俺は拒否権なんて認めるつもりはさらさらなかった。 こうして、物語に無理矢理エンドマークを打つための、主役を無理矢理に表舞台に引き上げるための、乱雑で乱暴で粗暴で蛮行その物の戦いが始まろうとしていた。 27 :ヤンデレの娘さん 朱里の巻 part.4 ◆yepl2GEIow:2011/10/12(水) 22 55 09 ID vXnZtfxw おまけ バー『ラックラック』 都内某所にある小さなバー。 英語での綴りは"Luck Lack"(幸運欠如) 看板は四つ葉のクローバー、ただし一枚だけ葉が落ちている。 うす暗く、ジャズのレコードがささやかな音楽を奏でるだけだが、店内は隅々まで清潔にされている。 静かで穏やかな雰囲気、美味なカクテル、内密な話をするには最適な席の配置。 何より、分煙が行き届いている。 職業柄、役者の至近距離まで近づくことも多い『彼』は、煙草を含めたあらゆる臭いに対して気を使っていた。 役者の中には喫煙者も多いが、少なからず嫌煙家も少なくない。 衣服に煙草の臭いをつけたりして、仕事中相手に不快な思いをさせてくないという、『彼』の当り前のプロ意識だった。 そんな訳で、バー『ラックラック』は『彼』―――御神万里の行きつけのバーとなっていた。 「来たわね、レイちゃん」 いつもの席で、普段通りグラスを二つ並べた万里は、店内に入ってきた相手に言った。 「フフ…待たせちゃった…かな?」 そして、いつも通りどこか虚ろな笑みで万里に応じる相手、緋月零日。 「久し振り…だね。万里ちゃんにこのお店に誘われ…たの」 「そぉ?」 「前の時は、ご用事だった…ね?」 「そんな昔のこと、忘れたわ」 零日の言葉に恍ける万里。 「7月のこと…だよ?」 「歳を取ると物忘れがひどくてね」 「もう…」 そんな雑談をしながら、席に着く零日。 「だったら、忘れちゃった…かな?私に搦め手は…無意味」 「そうだったわね」 「何事もストレートなのが好み…なんだよ?」 コクリ、と首をかしげる零日。 「そうね」 「だから、ウィスキーもストレート」 「それは初耳」 どうやら、零日は飲まないだけで、飲めない訳では無いらしい。 本当に彼女のキャラクターは掴めない、と万里は思った。 「じゃ、ストレートに」 「ストレート…に」 「ウチのセンと三日ちゃんが居なくなってるから、居場所教えてもらう」 万里の言葉に、零日はスッと目を細める。 「どうして、私に聞くの…かな」 「アナタしかいないからよ。センはともかく、三日ちゃんの行方をレイちゃんが把握してないとかあり得ないでしょ?さぁ―――教えて?」 御神万里と緋月零日。 ここでもまた、深く、静かに、戦いが始まろうとしていた。
https://w.atwiki.jp/feltwerewolf/pages/62.html
恋人陣営:本体系 変化系 占い結果 霊能結果 カウント 能力使用 襲撃耐性 村人 村人 村人 強制 なし 勝利条件:ゲーム終了時に自身と片思い相手の生存 始まりの夜に生存者から1人を選択します。 選択した相手の片方を自身との片思いの関係にします。 片思いされた人は無自覚で、元々の能力も失われません。 片思いの相手が死亡した場合、終末ヤンデレは覚醒し勝利条件などが変化します。 覚醒後 占い結果 霊能結果 カウント 能力使用 襲撃耐性 人狼 人狼 人狼 強制 なし 勝利条件:生存者が2人以下になる 片思い相手が死亡した時点で即座に「終末ヤンデレが覚醒しました」と告知されます。 その告知後の占い結果などは上記の通りになります。 毎夜、生存者から1人選択して襲撃します。 この襲撃はヴァンパイアの襲撃と同等です(人狼、妖狐を死亡させることができる)。 カウントが人狼なので、「村村狼ヤ」と残ると人狼の勝利になることや襲撃耐性は持っていないので注意が必要です。 出典:Twitterのツイート
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/2372.html
667 :ヤンデレの娘さん 観点の巻(女子) ◆yepl2GEIow:2011/08/26(金) 21 02 43 ID rcML5ZKE 「うなー」 だらりと自宅のダイニングテーブルの上にジャージ姿の上半身を横たえ、明石朱里はうなった。 「宿題難しー、だるーい、やりたくなーい」 寝癖がついたままの姿(ノーメイク)で、だらしなく朱里はうなる。 彼女の横には数学の問題集とノート。 その様子を、正面に座る緋月三日が苦笑交じりに見ていた。 彼女の服装は、地味目のジーンズにシャツ。 いかにも、家にあったものを適当に組み合わせてきましたと言った風。 長い髪は後ろで無造作に括っている程度。 最近、三日は御神千里の父親であるプロのメイクさんのアドバイスを受けて、髪・肌のお手入れやメイクの腕が上達していた。(ただし、校則違反にならない程度) 平たく言って、かわいさ急上昇中だったのだが、今日はほとんどノーメイク。 両者ともにいささか女子力の低い服装で、朱里にいたってはだらしのないことこの上無かったが、それを指摘する者はこの場にはいない。 現在、この家には共働きである朱里の両親がいない上に、男子の目が無いからこそ見せられる姿だった。 「・・・この辺りは、とっかかりさえ見つかれば、公式を上手く応用していけますよ」 「そのとっかかりがねー」 明石朱里は数学が苦手だ。 日本史のような丸暗記なら圧倒的に強いのだが、数学だけはどうにも苦手だった。 「・・・他の科目ですと、そんな不得手というわけでも無いのですのに」 「他の科目って、授業中に先生の言ってたこと覚えてヤマ張れば結構いけるでしょ?あと暗記」 「・・・あまり、実になるタイプの学習法とは思えませんけど」 「『作者の心情を述べよ』とか分かっても、将来実になるとか思えないけどねー」 国語教師が聞いたら怒り出しそうなことを言う朱里。 ちなみに、三日は現在数学の教師役。 久々に多量に出された数学の宿題を一緒にやろう、と朱里が三日を誘ったのだ。 否、頼んだのだ。 一緒に宿題をやるのではなく、数学の勉強を三日が朱里に教える形になっている。 「みっきーはすごいよねー、ある意味。マジメに勉強してて、頭良くて」 「・・・病院暮らしも長かったですから。・・・勉強くらいしかやること無いんです、そういう時」 その時に身に付けた勉強する習慣づけが、現在の学力に反映されているらしい。 「何でそれが成績に出ないの、みっきー?」 朱里に言わせれば、三日はかなり頭が良い。 教え方も上手だし、勉強の内容をきちんと理解している。 ヘタな学年上位の成績の持ち主よりも、先生役に適任だった。 それにも関らず、テストの順位は中ほどを行ったり来たり。 「・・・テストって緊張するじゃないですか」 「あー、なるほど」 朱里にも経験のあることだった。 無言の教室に、独特のプレッシャー。 テスト中の、あの独特の雰囲気に三日は押され、実力を発揮できないのだろう。 「・・・いつ後ろから刺されるかと思うと」 「それは疑いすぎ」 だらけた姿勢のまま、朱里はツッコミを入れた。 幼馴染の影響か、どちらかと言えばツッコミ気質の朱里だった。 「あー、だるー」 「・・・だったら、一息入れましょうか」 だるすぎてヒロインにあるまじき表情になってきた朱里に、三日が提案した。 「マジ!?」 「・・・勉強なんてモチベーションが低いまま続けても、あまり身につきませんし。・・・休憩も大切です」 「やっほーい!」 三日先生の言葉に諸手を上げる朱里。 そのまま大きく伸びをする。 「そー言えば、正樹たちは今頃どうしてるかしらね」 お茶とお煎餅を用意しながら、朱里は言った。 完全にリラックスモードだった。 「・・・確か、千里くんが葉山くんと2人で今日映画を見に行くと仰っていましたが」 「結婚しちゃえYO!ってくらい仲良いわね。・・・・・・死ねばいいのに」 最後の一言でドス黒いオーラを纏う朱里。 「・・・ええっと、あ、そうだ!・・・折角ですから、聞いてみます、二人の様子?」 「聞いて・・・・・・って声とか拾えるの?ココから?」 元の表情に戻り、聞き返す朱里。 668 :ヤンデレの娘さん 観点の巻(女子) ◆yepl2GEIow:2011/08/26(金) 21 03 21 ID rcML5ZKE 「・・・はい、この携帯電話の機能を使えば」 朱里の言葉に首肯する三日。 「ケータイかー。アタシ、キライなんだよね、ケータイ」 「・・・私とは、よく長電話をしますのに」 「あれはトクベツ」 お煎餅をバリバリ食べつつ、そんな話をしながら、三日が鞄の中から携帯電話を取り出す。 説明書を参照しつつ、携帯電話を充電器とスピーカー(本来は携帯オーディオプレイヤー用)に繋げる。 そして、待ち受け画面でキー入力。 「・・・9、1、3、と」 その後、通話ボタンを押す。 『Standing by…』 嫌な予感しかしない、くぐもった電子音声が響き、隠し機能(の1つ)、盗聴機能が起動していく。 「ズイブンと変わった機能があるのね」 「・・・このような便利機能(ワザ)が計2000個あります」 「今となってはタイムリーとは言いがたい個数ね」 『…Complete』 そうこうしている内に、三日の電話の盗聴機能が、御神千里の携帯電話と繋がる。 『ところで、はやまん的に、何ていうか・・・・・・、女の子観ってどうなの?』 千里の声がスピーカーから響く。 「キター!」 いきなり葉山の恋愛観に切り込む千里の言葉に朱里は目を輝かせて叫んだ。 叫んだ勢いで三日の顔におせんべいの食べカスが飛ぶが、そんなものは見えていない。 ティッシュで顔を拭く三日の横で、朱里はスピーカーに耳を近づける。 『オンナノコって、みかみん。いきなりどーしたよ』 『んー、何ていうか、俺には、その、三日がいたりいなかったりするワケじゃん?それで、時々はやまん的に妬ましいというかそんなんじゃないかとか、そういう風に感じちゃったり』 『ないないないない。あんな女返品しちゃえよって位ない』 『それじゃあ、他の女子とは?その、そういう関係になりたいとか思ったこと無いの?』 御神千里の言葉に、スピーカーに更に更に耳を近づける朱里。 『しょーじき、今の俺は、ボールが友達、ボールが恋人ってカンジかねぇ』 『サッカー漫画じゃん、ソレ』 と、千里からツッコミを入れられて笑いあう2人。 『ま、今はバスケ位しか考えられねぇわ。正直、リアル女子と付き合ってる自分の姿とかマジ想像つかねぇ』 ちなみに、正樹はスポーツのみならず、漫画からゲームまで趣味は幅広い。 ・・・・・・中にはゲームはゲームでも18禁のモノまであったりするのだが。(朱里がどうしてそんなことを知っているのかはヒミツです) 『んじゃぁ、好きなコとかは居ないわけだ、まだ』 『好きなヤツなら居なくは無いけどな』 『だれー?』 「誰よ!」 千里と唱和する形でスピーカーに向かって叫ぶ朱里。(通話ではないので男子組に声は聞こえません) 『みかみん』 「「ちょっとー!?」」 正樹の一言に、朱里のみならず三日までが叫んだ。 「やっぱり、ホモ?ホモなのね、2人は!!」 「・・・葉山くん、私に対するネガティブキャンペーンが凄まじいと思ったら、そういうことだったのですね?」 室内の黒いオーラが二倍、いや二乗される。 『あとは九重もだし、バスケ部のみんな、クラスの奴らもだな』 『友達として、ってことねー』 スピーカーからもれ出る千里の声は、苦笑だろうか。 その言葉に、女性陣も安堵のため息を漏らす。 「正樹、今のはマジで心臓に悪いわよ」 「・・・正直、今のはかなり・・・・・・」 ようやく黒いオーラから開放される2人。 669 :ヤンデレの娘さん 観点の巻(女子) ◆yepl2GEIow:2011/08/26(金) 21 03 52 ID rcML5ZKE 『ま、その中でも俺の名前を最初にあげてくれたのはコーエイというかニンテンドーというか』 『そら、一番の親友だからな』 『・・・・・・』 「照れてんじゃねーわよ」 正樹の言葉に無言となった千里に、黒オーラが再発する朱里。 『まぁ、そんなはやまんの攻略難易度を設定するとしたら中の上くらいってところー?』 『アン、何故そーなる?』 『恋愛ベクトルに誘導できないとお友達エンドになりそうだから』 『モーションかけられりゃ、俺も気づくと思うけどなぁ』 「ぜってー嘘だ」 「・・・同感です」 頬をかきながら言ったであろう正樹の言葉にツッコミを入れる女子2人。 『ハハハハハ・・・・・・』 女性陣と内心同意見なのだろう。御神千里は苦笑しているようだった。 『ンじゃあ、そう言うみかみんはどうよ』 『俺ねぇ・・・・・・』 考え始める千里に、今度は三日がワクワクした様子でスピーカーに耳を近づける。 対する朱里は興味なし、という顔をしていた。 『しょーじき俺さ、去年辺りなら、女の子にとってはすっごいチョロかったと思うよー。ギャルゲーなら攻略難易度下の下くらい』 『そうかぁ?』 『寂しがり屋さんだもん、こー見えて』 冗談めかして、千里は言った。 『兎じゃああるまいし』 『寂しくて死ぬトコだったよ?』 『マジで兎かよ!』 正樹がツッコミを入れた。 「・・・私的には、千里くんは大型犬のイメージなんですよね、大人しくて毛がモフモフのグレートピレニーズ辺り」 「デカいってところには同意」 朱里としてはデカくて鈍い河馬やら象辺りを押したい所だが。 ちなみに、三日のイメージは飼い主にじゃれ付く子犬。 正樹はやんちゃな虎の子。 自分は―――何だろう? 蛇辺りが似合いだろうか。 ずるい女だから。 「・・・朱里ちゃん?」 見ると、三日が気遣わしげに朱里の方を見ていた。 「ああ、何でもない何でもない」 笑顔を作り、三日を安心させる朱里。 そうして、改めてスピーカーに耳を傾ける。 『だから、少し優しくされるだけでその娘にまいっちゃったと思う。甘えちゃったと思う』 『そう言うモンかねぇ』 納得しかねる様子の正樹。 恋愛経験が無いとそんなものだろう。 『でも、今は三日がいるから、難易度は無限大かなー』 『緋月ねぇ』 声音だけでも苦々しげな様子が感じられる。 『やっぱ、はやまん的に仲良くやれないかな、三の字と』 『三日だから三の字って・・・・・・。そりゃ、ストーカー被害を目の当たりにすりゃーな』 『過去は水に流してさ。俺は気にしてないのに』 『・・・・・・いや、気にしろよ!ドンっだけ危険にドンカンなんだよ!!』 『んーいや、気にしてないって言うか、なんと言うかその・・・・・・』 ゴニョゴニョと呟く千里。 嚥下する音は、照れ隠しにペットボトル飲料でも飲んでいるのか。 「あによ、はっきりしない男ね」 「・・・千里くん、可愛い」 「うそぉ!?」 千里の声に本気でときめいているらしい三日に本気で引いている朱里。 三日の親友をやって1年以上になるが、未だに彼女の男の好みは分かりかねる部分のある朱里だった。 670 :ヤンデレの娘さん 観点の巻(女子) ◆yepl2GEIow:2011/08/26(金) 21 04 28 ID rcML5ZKE 『お前、ぶっちゃけ緋月のドコが好きなわけ?』 『ブ!』 苦々しげな正樹の声に、千里が飲料をむせる声が聞こえる。 「汚いわね」 「・・・」 ツッコミを入れる朱里を不満げに見る三日。 先ほど飛んできた煎餅の食べかすをぬぐったハンカチは彼女の手元にある。 『いや、何でそんなこと今更急に聞くわけ?』 『いやー、今まで聞こうと思って聞けなかったからなぁ。今までは隣に緋月がいたし』 『好きとか嫌いとかさ、ストレートに言われても困るって』 攻略難易度なら良いらしい。 『でも、お前ら付き合ってるんだろ、俺的には不本意だがよ』 『そりゃ、向こうから頼まれたしね』 「そんな理由!?」 スピーカーからの声に、思わず叫ぶ朱里。 『それだけでくっつかねーだろ、お前なら特に』 朱里と同じような意見を、正樹も持っていたようだった。 こう言う時、朱里は正樹と精神的な部分で繋がっているような感覚を覚え、嬉しくなる。 『まぁ、マジな願いにはマジに答える主義ではあるけどね。それが相手の意に沿わないとしても』 付き合いたくなかったらそう言っている、ということらしい。 『で、緋月の場合は意に沿ったワケだ。どういうわけか』 『それが納得いかないと?』 『そう言う事だ』 『九重のこととは無関係に?』 『そのネタはもうやったからな』 『しっかし、好きなところねぇ・・・・・・』 そこで言いよどむ千里。 「ホントはっきりしないわね。迷う所、フツー?」 「・・・千里くんかわいいです千里くん。・・・千里くんは私の婿!」 同じリアクションでも真逆の対応を取る2人。 特に、三日は椅子から床の上に寝転び、ゴロゴロと身悶えていた。 『嫌いなところからでも良いぞ。むしろそっちからの方が』 『嫌いなところねぇ。時々、って言うか結構俺に何も言わないで動く所とか?ソレぐらいしか思い浮かばないや』 千里の言葉に、ゴロゴロを止めてかなり本気で考え出す三日。 『フツー気にするところだろ。明らかにイジョーじゃねぇか』 『たかだか、それ位の異常性に目くじら立ててもねぇ』 「あ、異常なのは否定しないのね」 「・・・どこに異常性があるのかが分かりませんけど」 「さぁ?」 朱里と三日は今までの自分達の行動を思い返した。 ・・・・・・何一つ異常な点は見受けられなかった。 悲しいかな、この場に常識人はいないのだ。 『百歩譲ってみかみんに実害が無いとしよう、今現在は。だがよ、この先もそうとは限らねーだろ』 『それが一番心配なわけだ、はやまんとしては』 「・・・私は千里くんに幸福しかもたらした覚えはありませんけど」 「幸せの青い鳥か、アンタは」 「・・・むしろ、私の幸せは千里くんの幸せ。・・・そうでしょう?」 「まったく持ってそのとおりだわ!」 一瞬は不満そうだった朱里だが、三日の言い換えに手を握って同意した。 『親友の隣にバクダンが転がってると思うと、おちおち夜も眠れやしねぇ』 『そこは見解の相違って奴だねー』 口調はおどけたまま、冷たい声音で千里は言った。 「・・・この台詞、白衣とメガネかけて言って欲しいです」 「誰得よ、それ」 「私得です!」 「納得」 671 :ヤンデレの娘さん 観点の巻(女子) ◆yepl2GEIow:2011/08/26(金) 21 05 05 ID rcML5ZKE 『アイツはただ、恋に必死なだけの女の子だよ。爆弾なんかじゃ、ない』 『とてもそうは思えねぇけどなぁ・・・・・・』 「昔の偉い人は言ったわ。恋愛はバクハツだー!、と」 「・・・名言だとは思いますけど、本当にそれ、昔の偉人が言ったんですか?」 そんな馬鹿トークをしている間にも、スピーカーからは千里の言葉が続いていた。 『どれほど不安や嫉妬や怒りや悲しみに駆られても…・・・!例え心が病もうとも…・・・!恋をすることをやめない。そう言う奴だよ、アイツは!そう言うのって―――」 『ヤバいよ』 言葉に熱が入ってきた千里を、正樹が冷たく留めた。 彼の言葉に、何故か朱里の心もヒヤリとする。 『どんなになっても、ンな風に手前の意思を押し通そうとするエネルギーが、ほんの少し矛先がズレたら、本気でヤバいことになる。そう言う想いって、むしろ―――怖いよ』 その言葉に、朱里は以前正樹が話してくれたことを思い出した。 小学校の頃、バスケットボールの試合でとんでもない選手に当たったらしい。 相手のプレーからは、バスケットにとんでもない情熱を燃やしていることが伝わってきて、そしてそれ以上に試合に負けてはならないという切迫感が伝わってきた。 その選手と相対して、正樹は恐ろしかったという。 バスケットに向ける、その暴力的なまでの力の矛先が一度他へ向かうとどうなるか、それを思うと恐ろしい、と。 『怖い、ね。まぁ、それぐらいの方が相手する甲斐があるって言うか『お前も、怖いよ』 正樹の内心も知らずに暢気に続けた千里の言葉は、やはり遮られる。 『いっくら中等部時代に滅茶苦茶な連中を相手してきたからって、いや相手してきたのにも関わらず、未だにそう言う滅茶な連中を受け入れちまう。それは怖いしヤバいし―――危うい』 『怖くてヤバくて危うい、ね。じゃ、はやまん、そろそろ俺と友達止めとく?俺らのとばっちり受ける前にさ』 『バカ言うな!今更、ハイさようなら、なんてなってたまるかよ。これでもお前のコト結構好きだしよぉ』 軽口とはいえ、好き、という言葉は自分に向けて欲しいと願う朱里だった。 『ウン、俺も同じ』 恐らくは笑みさえ浮かべ、千里は正樹の言葉を受け止める。 それは、朱里にはただヘラヘラしているとしか見えないが、三日にとってはどうなのかは分からない。 『はやまんのことも好きだし、誰かの危うさも、自分の危うさも、みんな好きなものだから。だからみんな自分で背負ってく』 千里はいつもの軽い調子でそう続けたが、 『本気でヤバくなったら、本気で止める。止めてみせる……!』 と、いつになく真剣な声でこう言った。 「・・・・・・」 意外な言葉に、思わず朱里は息を呑んだ。 『だから、そんな心配しないでよー』 『ゼンブ分かってんじゃねぇか。けどよ、俺の考えは変わんねーぜ。緋月みてーな奴はヤバいと思うし、奴がマジでヤバくなったらマジでお前を引き離す』 「・・・引き離す、ですか」 正樹の言葉に苦々しげな顔をする三日。 彼女にとっては敵対宣言をされたようなものだ。 『ン、覚えとく』 と、しかし一方の千里は静かに受け止めた。 その声の後ろからは、喧騒が聞こえる。 どうやら、目的の映画館に辿り着いたらしい。 「御神のヤツ、一応三日ちゃんとの付き合いのこと、マジメに考えてたのね」 「・・・元々、千里くんって結構真面目な方なのですよ」 「そーかしら?バカやってる印象の方が強いけど」 「・・・真面目な部分、あまり表に出さない人ですから」 そう言う物だろうか、と朱里は思った。 「・・・慣れると、少しずつ内心が見えてきてたまらなく可愛いんですけどね」 そう言って微笑を浮かべる三日の顔は、ほのかに朱に染まり、本当に幸せそうで。 「良いわね、みっきーは」 本当に羨ましく思い、朱里は言った。 「殺したいくらいに」 本当に、妬ましく思い、朱里は続けた。 「・・・ごめんなさい、無神経でした」 「良いのよ、みっきーと御神千里をくっ付けるのは、アタシの計画だったし」 朱里としては、三日を利用して、御神千里の関心を正樹以外の方向へ向けさせる手はずだった。 そのまま御神千里を正樹から引き離せなかったのは、むしろ朱里自身の不手際だと自己分析していた。 「いーえ、計画(笑)ね」 策士の才は自分には無いな、と朱里は自嘲した。 672 :ヤンデレの娘さん 観点の巻(女子) ◆yepl2GEIow:2011/08/26(金) 21 05 37 ID rcML5ZKE 「・・・その計画に、私は助けられました」 「みっきーを利用するための計画よ、ぶっちゃけ。アタシの成果にならなきゃ、手伝った甲斐は無いわ」 甲斐も無いし、意味も無い。 「・・・でも、朱里ちゃんと葉山くんの距離は」 「近づいたわね、トモダチとしては。でもまー、小さかった頃ほどじゃないけど」 結局、緋月三日に協力したことは、自分の恋愛にとってどれ程有益だったのだろうかと朱里は考える。 親しい関係には戻れたが、御神千里の言う『お友達エンド』に近づいただけのような気もする。 『プラマイゼロ、って所か』 朱里の心の冷たい部分がそう分析し、それから嫌な気分になる。 親友を完全に自分の道具として観た発想だった。 『って言っても、利用し合うために結んだ友情だけどね』 心の冷たい部分が、再度事実を突きつける。 そう。 御神千里と正樹の心を射止めるために、朱里と三日は友情を結んだ。 その打算的な事実は厳然と変わらない。 恐らくは、今もなお。 「・・・朱里ちゃん、朱里ちゃん、どうしたんですか?」 気が付くと、三日が朱里の顔を心配そうに覗き込んでいた。 どうやら、思いのほか長く考え事をしていたらしい。 「ああ、ゴメンゴメン。何でも無い」 大げさな動作で手を振り、否定する朱里。 その動作すら、打算的な友情のための空々しい行為に思えてくる。 空々しく、空しい、行為で好意。 「・・・勉強をさせすぎてしまったでしょうか」 「や、そーゆーんじゃ無いんだけど」 いやにマジメに考え込む三日にツッコミを入れる朱里。 基本ボケ同士の三日と御神千里に、基本ツッコミな正樹と朱里。 カップリングとしてはかなりバランスが悪いんじゃないかと思えてきた朱里だった。 と、いけないいけない。 冷たい考えに引っ張られている暇は無い。 学生の本分は学業だし、乙女の本分は恋愛だ。 それ以外のことにかまけている余裕は無い。 「やっぱ、正樹をコッチに引き寄せる策を考えなきゃ駄目よねー」 半ば無理やりにいつものペースに自分を戻し、朱里は言った。 「・・・それなんですけど、朱里ちゃん。・・・とても今更なことをお聞きしてよろしいでしょうか」 大真面目な顔で、三日が問いかけてきた。 「別にいいけど、なに?」 ゴクリ、と嚥下する音を立てたのは、朱里か三日か。 「・・・どうして朱里ちゃんは、葉山くんにストレートに告白してしまわないんです?」 その言葉に、朱里は息を呑んだ。 『ヤンデレの娘さん 朱里の巻part1』へ続く おまけ 後日 「どうしたの、三日。こっちの方見てニヤニヤして」 「・・・いえ、やっぱり千里くんはかわいいなって」 「いや、ゴメン。高校生男子に『かわいい』って形容詞は止して。マジ恥ずかしいから」 「・・・そう言う所が可愛いのですのに」 「ったく、まいったなぁ・・・・・・カンゼンにまいってる、俺」 「・・・何か、おっしゃいました?」 「・・・・・・何でもない」 「・・・やっぱり、可愛いです」
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「おはらっきー! らっきー☆ちゃんねるナビゲーターの小神あきらです♪」 「同じくアシスタントの白石みのるです」 番組開始の挨拶とともに笑顔を振りまくあきらと軽く会釈する白石。 「では早速お便りです」 白石はそのハガキの内容を読み上げる。 「『あきら様はSですか? ドSですか?』ちなみに僕はドSだと思います」 白石が付け加えた余計な一言に反応し、あきらが凶悪な顔つきで灰皿を投げつけた。見事に 白石の頭部に命中し、床に転がってカラカラと余韻の残る音を立てる。 「あきらイジメなんかきらいっ。ファンのみんなとも仲良くできるといいな」 一瞬にしてぶりっ子モードに転じる。潤んだ瞳の上目遣いは、見た目だけなら可愛い。 「で、では次のお便りは……」 灰皿のダメージから立ち直りきれず、少しふらつきながらも番組を進行する。 「『あきら様はツンデレだと思いますが、ヤンデレの素質もあると思います。』ヤンデレという 言葉を知らない人のために説明しておきますと、精神的に病んでいるキャラがデレ状態にある とか病的なほど誰かにデレであるとかいうことを指します。この状態のキャラは得てして過激 な行動に及ぶことが多いようですが、あきら様は――」 「さっきから聞いてれば人のことを散々言ってくれるじゃないの」 ヤンデレの説明の間、刻々とあきらの表情が不機嫌になっていることに気付いていなかった のが白石の運の尽き。気付いていたとしても番組の進行の上で止められるものではなかったが。 とにかく、その表情と声はとっくに黒くなっている。もちろん色彩としてではなく比喩表現 としての黒である。 「いえ、これはヤンデレという言葉を説明してあきら様はどうですかと訊こうと」 対して白石は青くなっていた。こちらは比喩ではなく。 「第一誰がデレよ誰が! あたしがいつあんたにデレたって?」 「は、ハガキに書いてあったんです!」 視聴者は自分に火の粉が降りかからないのである程度踏み込んだ質問もできるし、そういう ハガキを採用するのはディレクターや構成作家なので白石に責任はないのだが、あきらの怒り の矛先になるのは決まって白石である。あきらのツンギレがこの番組の基本的な要素であり、 視聴者にとってこの番組の最も面白いとされる部分であった。 毎週同じパターンのやり取りを繰り返し、しかしファンを飽きさせない二人もそれなりの 人気を博している。 男女のコンビで一つの番組のレギュラーを勤めるとよくあることだが、ファンが彼らなり に想像を巡らせる事柄がある。 つまり、この二人はどんな関係なのかと。 特にらっきー☆ちゃんねるの場合は、白石があきらにマジギレしたうえに暴走し、セット を破壊するという暴挙に出たことがある。先輩に(威圧的に)仲を取り持って貰ったとはいえ いつの間にか元の鞘に収まりその後も普通に番組を続けているという事態が、彼らの妄想に 拍車をかけている。 ある者は、二人の関係は番組そのままだという。 ある者は、二人の仲は険悪だが仕事のために共演を続けているという。 ある者は、二人は恋人関係であり、番組での掛け合いはポーズだという。 ある者は、所詮は芸能人、番組は番組でプライベートでは何ともないという。 ある者は、白石の反逆そのものが番組を盛り上げるための演出であったという。 二人を直接見るスタッフでさえ何もわからず、最後の説を否定する以外には一般のファンと 二人を見る目に違いはなかった。 真実を知るのは、当の二人だけである。 「あんた、わかってんでしょーね」 その日の収録後も、白石はあきらの楽屋に呼び出された。 「座んなさい」 白石が楽屋に入るなり命令され、それに大人しく従って正座した。いくらあきらが小柄とは いえ、床に正座する白石の前に仁王立ちすればあきらが見下ろす形になる。 「あたしがツンデレ? ふざけるのも大概にしなさい」 「いえ、あれは」 あきらの威圧的な物言いと視線に、白石の身が竦んだ。正しく蛇に睨まれた蛙である。二人 の間には絶対に覆せない上下関係があった。 「へえ、あんたはあたしに口答えできるほど偉くなったのね」 「そ、そのようなことは」 番組内では白石にもある程度の弁解をさせていたが、ここではそれすら許していない。 「あたしに逆らうな。いつもいつも言ってるわよね」 「はい……」 今回のことは番組の進行上仕方なかった、という反論を白石はしなかった。反論しても火に 油を注ぐだけだからである。 「毎回毎回、あたしが教育してやってるのにまだわかんないのかしら」 「うっ……」 あきらが爪先で白石の股間を突くと、そこは既に固くなっていた。 「ここは、ちゃんとわかってんのに」 それは毎週行われる『教育』の成果だった。あきらが白石を楽屋に呼び出した時点で、こう なることは二人ともわかっているのだ。 あきらが固くなっている部分を爪先でなぞると白石は小さく身悶える。 「あたしがたてろって言わなくてもたってんのよ。あんたもこのくらい気を利かせなさい」 「これは勝手になって――」 あきらが一睨みしただけで、白石の口は止まってしまった。 「言わないとわかんないのかしら? 脱ぎなさいよ」 「は、はいっ!」 あきらの言い分は、毎回同じことをやってるんだから流れを読め。下僕は命令する前に実行 するのが当然。 白石の言い分は、言われずに分かるわけがない。 もちろん、白石がそれを口にすることはない。 「なにチンタラやってんのよ」 いくら回数を重ねたとはいえ女性の目の前で服を脱ぐのは気恥ずかしさがあり、手の動きも 躊躇いがあるのだが、そのせいでベルトを緩めるのに手間取ってしまった。あきらに急かされ てピッチを上げる。 果たして、彼の反り立ったものが露になった。 「あたしに脱がせてもらおうなんて百年早いのよ」 「そんな期待をしていたわけではないのですが」 あきらがまた睨むと、そのまま白石を突き飛ばした。白石はとっさに足を後退させること ができず、尻餅をついてしまう。 「やることはわかってんでしょ。学習しなさい」 あきらはドスを利かせた声で言い、白石の前に膝をついて座り、頭を下げる。その動作の まま、あきらは白石のモノを口に含んだ。 「んむっ、ちゅっ……んんっ、ん」 「あ、あきら様……」 フェラチオは男性だけが一方的に快感を得る行為であること、必ず男性が女性を見下ろす 体位になることから、一般的には女性から男性への奉仕や従属を表す行為とされる。 その一方で、男性器を他人の口内に晒すのは非常に危険な行為であり、これによって相手 の男性を支配下に置いていると捉えることもできる。 解釈は自由として、そのどちらのつもりでやっているのかは本人しか知らない。 「あっ、あきら様」 あきらの舌が白石の肉棒をねぶり、唇が柔らかく締め付ける。その度に唾液が淫らな音を 立てて二人を興奮させる。 「んちゅぅ……んふぅ……」 白石は全く抵抗していない。白石にとってあきらを振りほどくことは、物理的には容易で ある。しかし、性格が悪いとはいえ掛け値なしの美少女が自分のものを咥えて快感を与えて くれているという誘惑に抗うには、彼は若過ぎた。 「ううっ……んっ……な、なんでそんなに上手いんですか」 暖かく柔らかい刺激に、白石は思わず喘ぎ声をあげてしまった。あきらの舌が白石の一番 好きな部分を的確に攻めてくる。上目遣いで白石の反応を窺いつつ、駆け引きなどなくただ ストレートにそこを攻め続ける。 仮にこれが愛情表現であるとするならば、言葉に置き換えてただ『好き』とだけ言うような、 そんな真っ直ぐさだった。 それはあくまで例え話であって、当のあきらは何も言わず一心不乱に舌で舐り続ける。もし 今すぐ口を利けるならそれは愛の告白なのではないかと思えるほどに。 十四歳の女の子の技巧に屈して、白石に射精感がこみ上げてきた。 「あきら様、なんでこんなこと……」 思わず口をついて出た疑問に、あきらは顔を上げて白石を見やる。自分の質問がもたらした 結果に、白石は複雑な表情をした。 「なんでって決まってるじゃない」 あきらは白石の前に再び仁王立ちになる。 「あんたみたいな三下はあたしに逆らえないの。それを教えてやるためよ」 あきらは自分のスカートをめくり上げて白石に見せる。その下には何も穿いていなかった。 「あたしの番組で白石なんかに楯突かれたとあっちゃ、あたしの沽券に関わるのよ」 あきらは自分の指で秘唇を広げて見せた。その部分は既に液体に濡れて艶を帯びている。 「言いなさい。僕はあきら様のものです。二度と歯向かいませんって」 微笑に善悪があるとすれば、それは間違いなく悪だった。それも、美しさを備えた悪だった。 「…………」 白石は答えられずに口をぱくぱくさせている。 「何度もあたしとヤっておきながら、まだあたしのものになってないつもりだったの? あたしの 初めてを奪っておきながら後はしらんぷりとでも言うのかしらねー」 「それは――」 白石は二の句を継げなかった。 番組本番中に大暴れして以来、二人は絶縁状態だった。その態度は仕事にも表れ、人気は 低下していった。番組関係者が打ち切りを考えるようになった頃、あきらは白石を襲った。 その美貌で誘惑し、衣服を剥ぎ取り、手や口やあらゆる部分で愛撫し、自らを貫かせた。 あきらが何度も繰り返すように、白石は逆らえなかった。あきらが流した涙と破瓜の血を 彼は忘れられなかった。 無理矢理奪ったのはあきらの方だ。だが、いくら理屈ではそうであっても、男としてそれ を主張することなど出来るはずも無い。誘惑に抗えなかったのは事実なのだから。 結局、この出来事が二人の関係を決定付けた。毎回、収録後にはスタッフに見つからない ようにどちらかの楽屋に出入りするようになり、一時期落ち込んでいた人気は回復の兆しを 見せ、安定した人気を誇る番組となった。 「アンタはホントはあたしとヤりたいって思ってんのよ。これがその証拠」 あきらの視線の先には、白石の男の象徴。早くしたいと、懸命に自己主張している。 「ですからこれは自然と」 「そうよ。あんたはあたしに従うのが自然なのよ」 あきらの主張は一貫してそれだった。白石の意思など関係ない。 あきらはそれだけ言って白石の男根に腰を落とし、そのまま挿入させた。座位の形で二人 は繋がり、十センチもない間隔で見詰め合った。 「んっ……あたしが、ツンデレなわけっ……ないじゃない」 「あきら様、なんで、そんな……」 始めはきつく当たっていた白石に、もしあきらが惚れているのだとすれば、あきらはツン デレであるということになる。あくまで理論上はそうなるというだけの話だ。 「ツンデレとか、んぅっ……ヤンデレとか……ふざけるんじゃないわよっ……あんたはあたし のものなのよ。ただそれだけなのよ!」 あきらは頑として譲らない。病的なまでにそれを繰り返し、その結果として男を犯すという 行為にまで及んでいる。もしこれが白石への好意に基づくものであるとするならば、あきらは ヤンデレであるということになる。あくまで理論上はそうなるというだけの話だ。 あきらは何一つ肯定しない。ただ、白石の上で腰を振るだけだ。 「あんたなんかっ……あたしにすぐイかされちゃうだけの男なんだから!」 前後に腰を振って、その度に喘ぎ声をあげる。 「ほら……あっ、あぅっ……き、気持ちいいんでしょ?」 「は、はいっ」 白石は初めて素直に肯定した。あきらの膣内はそれほどまでに良かった。 それだけでなく、あきらも自分の中の感じる部分を白石に刺激されていた。座位という体位 を活かして、体重をのせて深く挿入させていた。 「あぁっ、ふぁっ、あ、あたしで、感じてるんでしょ?」 「あ、あきら様も」 これだけ近づけば、互いが深い吐息をついていること、その原因が快感であることもすぐ に分かってしまう。 「みのる……あっ、あぁん、あたしを抱きしめなさい」 白石が抱きしめる前に、あきらが自ら白石に身体を寄せ、その背中に手を回した。すぐに 白石も従い、二人は抱き合う形になった。 「も、もっと強く、だきしめなさい」 白石との身長差から、あきらは相手の胸に顔を埋めている。なので白石からは見えないが、 その目はとろんとしていて、口はだらしなく半開きになっていた。呼吸が乱れていることだけ は、白石にも感じとることができた。 「あっ、うぅ……絶対に、離さないでっ」 「わっ、わかりました……」 それを告げると同時に、あきらも白石を強く抱きしめる。 「わかったら、あたしの、んっ……中にっ……出しなさい……あんたは、あたしの……もの、 なんだからねっ……」 あんたはあたしのもの。その言葉を繰り返す度に、腰を擦り付けるように前後させ、自分の 中に白石を招き入れる。そうすれば、白石はあきらのものになると言わんばかりに。 「あたしだって、ああぁっ……他のやつには、こんなこと」 自分の身体の深い部分を貫かせる。それは確かに、互いの所有権を主張する行為であった。 「あたしの中でイきなさいっ……あたしの中に出しなさい……っ」 この体勢では、あきらが退かない限り逃れることはできない。しかし、白石には逃れよう という気は既になかった。 「あきら様、もう、いっちゃいそうです!」 「出しなさいっ、あんたのものは……ぁあっ……全部、んっ、あたしのっ」 あきらは更に腰を激しく動かす。その度に、あきら自身も高まっていった。 白石はあきらの中に、あきらは自分の中に白石が入っていることに酔いしれていた。互いの こと以外何も考えられなくなるほどに心が昂ぶり、それは頂点に達しようとしていた。 「あきら様、あきら様っ」 「あぁっ、あたしの、ものっ……ぜったい、はなさない……んっ、ぁっ、ああああぁぁぁ!」 あきらの中が白石のものを急激に締め付け、白石はあきらの中の深くに射精した。 「はぁっ……はぁっ……」 「あきら様……」 同時に絶頂に達した二人は、荒い呼吸のまましばらく抱き合っていた。 白石が後始末を終えて気だるい雰囲気の中、あきらは鞄の中のタバコを探し始めた。一本 取り出して咥え、ライターはどこだったかと再び鞄の中を探る。 「あきら様、何してるんですか」 「何ってタバコに決まってんでしょ。ヤった後にタバコって定番じゃない」 何の悪気もなく、さも当然のようにあきらは言ってのける。 「ダメですよ、匂いは残りますから。タバコ一本でもスキャンダルですよ」 そうなると、白石と番組が出来なくなるわけで……。 「仕方ないわね」 タバコを鞄の奥深くに仕舞った。白石はキョトンとした顔であきらを見つめる。 「あんたに従ったわけじゃないわよ。ただ私がそうしたかっただけ」 今度は事も無げに白石を押し倒し、そのまま抱きついて強制的に添い寝した。 「あ、あきら様!?」 「あたしのイメージはヤった後はタバコを吸うか相手に抱きつくかなのよ。タバコがダメなら こうするしかないじゃないの」 「そんな無茶苦茶な……」 意味不明の理屈に、結局白石は流される。 「あきら様」 「あ?」 「どうしてこんなことしようって思いついたんですか?」 「あー、事務所の先輩から『男なんてヤらせてやればみんな言うことをきく』って言われてね」 「……そこまででいいです」 思わぬスキャンダルのネタを掴みそうになって、話をやめてもらう。 寄り添いながら交わした言葉は、睦言と呼べるような内容ではなかった。 今回も、好きだとか愛してるとか、僕はあなたのものですだとか、決定的な一言はどちらも 発しなかった。ただ片方が強制し、もう片方がそれに流されただけだ。 そしてそれは、その次の週も繰り返される。 「おはらっきー! らっきー☆ちゃんねるナビゲーターの小神あきらです♪」 「アシスタントの白石みのるです」 白石がいつものように会釈する前に。 「白石ぃ? あんたは『下っ端』で十分でしょ」 「え゙……一応、白石という名前がありますので」 「そんなのどーでもいいの。あたしが下っ端って言ったら下っ端。わかった?」 「しかし番組の進行上それでは」 「あたしはこの業界で十年以上もやってんのよ。そのあたしに逆らうとでも?」 「そんな、滅相もございません!」 白石は冷や汗をたらし身体を硬直させ、そのまま動かなくなった。 「今日もみんなのアイドル小神あきらが笑顔をお届け! らっきー☆ちゃんねる始まるよ!」 今日もあきらは淀みなく番組を進行する。 ツンデレだかヤンデレだか、あるいはそのどちらでもない本音を隠し、ある意味ファンの 妄想通りの、ある意味全く的外れな関係を保ちながら。 -終わり- コメントフォーム 名前 コメント これいいw -- 名無しさん (2009-10-23 20 01 21) あきらっていい性格してるなぁって思う -- 名無しさん (2009-02-16 00 45 18) おっきおっきアッー! -- 名無しさん (2008-04-16 01 44 00)
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322 :痴漢とヤンデレ:エクスタシー ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/30(日) 13 19 07 ID hZWgCSrL 『痴漢とヤンデレ:エクスタシー』 平凡なサラリーマンとは、おそらく俺のことを言う。そう、この俺、『麻生忠雄(あそう ただお)』。 この現代日本の男の平均値を搾り出してみよう。ほら、君も俺の顔を思い浮かべることができるはずだ。 平平凡凡な顔、身体、運動能力。なにも秀でたところなんてありゃしない。社会の歯車でしかない二十六歳。 それなりの人生を生きて、それなりに死んでいく。そんな未来しか見えてない。 スリリングな生き方に憧れた若き日もあったように思うが、今ではもうそんなこと、忘れてしまった。 ……それにしても、俺は今いつも通りの満員電車に乗って通勤している。が、何かが変だ。 いつも通りではない。 揺れる電車の中、俺は一人の女子高生と密着状態にある。 その子は某名門女子高に遠くから電車で通っている娘らしく、俺は何度か電車内で見かけていたし、密着状態も一度や二度のことではない。 それはそうだろう。どの車両に乗るかは、意識的にせよ無意識的にせよ、だいたいは決まっているものだ。 その女子高生ははっきりといえば地味で、おとなしそうな少女だった。大柄でも小柄でもないのだが、オーラとも言うべき存在感にかけていて、体格よりも小さく見える。 髪は黒で、後ろで大きな三つ編みにしており、今は俺の胸をうっとうしくくすぐってくる。 顔はあまり眺めたことは無い。おそらく俺と同じ、平平凡凡なのだろう。眼鏡をしているという情報しか、俺の頭には残っていない。 制服の着こなしも地味以外の何もいえない。スカートは校則にきっちり準拠しているであろう膝丈。脚はハイソックスで覆い隠されている。 本来なら、俺は密着状態であろうがその少女になんの興味も示すことは無かった。 だが、今日は違った。 少女の背中に密着している俺だが、その首筋を見下ろしたとき、強烈なフェロモンを嗅ぎ取っていた。 そのフェロモンに当てられて、俺の理性に皹が生じたのだ。 ……その首筋、舐めたい。 323 :痴漢とヤンデレ:エクスタシー ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/30(日) 13 19 38 ID hZWgCSrL いや――いけない。 俺は平凡なサラリーマン。そんな痴漢行為を働けば、いちやく変態サラリーマンの仲間入りだ。 せっかく婚約して同棲中の恋人もいるのに、俺は職とともに全てを失ってしまう。 ――そもそも、あいつがいけないんだ。 俺はフィアンセである、『一条美恵子(いちじょう みえこ)』を思い出す。今は俺の部屋にいるだろう。何をしているかは知らない。 「忠雄さん! ……こ、このいかがわしい読み物は一体なんなのですか!? わたくし、忠雄さんがこんなにいやらしい方だとは思いませんでした!」 ある日、俺の秘蔵の人妻本を発見した美恵子が叫んだセリフである。 一ヶ月ほど前から同棲を始めた美恵子は、真っ先に俺の部屋をガサ入れし、上記のものに類似したセリフを連発してあらゆるオナネタを捨ててしまったのだ。 曰く、「忠雄さん、わたくしという婚約者がありながら、なんですの! このいかがわしいサイトの観覧履歴は!」 曰く、「忠雄さん、このティッシュはなんでございますか! ゴミ箱を妊娠させるおつもりですか!」 曰く、「ああいやらしい! わたくし、このようないかがわしいビデオが世に出回っているなどとは、つゆほどにも知りませんでした!」 曰く、「わたくしの目の黒いうちは、不潔な行為を一切ゆるしませんわ!」 美恵子はつまり、俺にオナ禁を強要した。 ならば恋人なのだから、俺の下半身の世話を美恵子がしてくれるのかと思えば、その期待は間違っていた。 「まあ、まさか忠雄さんは婚前交渉をお持ちになろうというの!? この美恵子、そんな軽い女ではございませんわ!」 美恵子は、思うに、古風すぎるにもほどがあるのではないか。 いや、事実現代では珍しいほどの箱入り娘だ。しかし、ネットも大衆雑誌も無しの生活が、ここまでの堅物を生み出すのは予想外だった。 昔――俺が大学生のとき、当時高校生の美恵子の家庭教師をつとめたとき。これがきっかけで俺達は恋人になったのだが、俺はこの時点ではこれも魅力だと思っていた。 実際、美恵子のこういう世間知らずなところは俺は好きだ。 俺は箱入り娘の親に家庭教師を任命される(美恵子の父は、俺の大学の教授だった)程度にはまあ、高学歴というかインテリと言える人間だったので、美恵子とは知的な分野の話が異様に合った。 下品な外国文学の話ではない。日本の古きよき文学について、二人で話し合った。俺達は互いに惹かれあい、今に至る。 思えば、文学の話で結びついた俺達が性的なものの見解に相違があるなど、当たり前だ。 世の中、こういうことで別れてしまう、言うなれば『夢を見ていたカップル』がたくさんいるのだろう。 ……とまあ、こういう理由で俺は一ヶ月オナ禁であるので、性欲は十分すぎるほどに溜まっていた。 もちろん、美恵子のことは愛しているし、美恵子だってたぶん俺を愛している。――愛しすぎているくらいで、俺がテレビの女優をきれいだと褒めただけでそのテレビをスクラップにしたくらいだ。 325 :痴漢とヤンデレ:エクスタシー ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/30(日) 13 20 12 ID hZWgCSrL その後、ストーカーや無言電話の被害でその女優が活動を休止したのは、偶然だろうか。文学的に考えると、美恵子の生霊が……? いや、ばかな。 とにかく、俺は目の前の地味な女子高生に、すさまじいまでに魅力を感じていた。 ごくり。唾を飲み込む。 いや、なにやってんだ俺は。美恵子のためにも、俺は善良なサラリーマンで有りつづけるべきだ。教授からたくされたあの箱入り娘は、俺以外の人間では手におえないだろう。 それに、美恵子は一人では生きていけない。あの性格では一生社会に出られはしない。俺が養ってやらないと、だめだ。 そう、ここで社会的地位を失うわけにはいかない。 と、ここで違和感に気付いた。 ちらちらと、女子高生が『下』を気にしている。 『下』? 俺は下を見る。 おおーっ!!!!??? NO! 俺の股間のビッグマグナムは見事に肥大化していて、少女の背中をつんつんとつついていた。電車が揺れるたびに、マヌケにも当たっている。 恥ずかしそうに顔を赤らめながら、少女は俺に態度で訴えた。 だ、だめだ……。 謝ろう。ここは謝るしかない。 しかし、無情にも電車の揺れは絶妙なタイミングで強化された。 「――うぁ!?」 倒れそうになる。まずい、何かに捕まらねば! 「んっ……」 ぽよん。……ぽよん? なんということか。おお、神よ。それほどまでに俺をスリリングな世界に導こうとしているのですね。 俺は見事に少女の胸を掴んでしまっていた。なんというか、柔らかすぎて一瞬別世界のものかと思った。っていうか、死んだかと思ってしまった。 その感触は、まさに天使。肉肉しいというか、俺の身体にはない女っぽさがどうしようもなく俺の興奮を促進した。 こういう地味な娘も、エロい身体してるもんなんだなぁ、と、なんだか感無量だ。 っていうかさ……ああ、俺、捕まったな。 今時さ、こういうセクハラ行為はな。すぐに警察行きのフラグが立つわけなんですよ。そうです。俺は人生終わりました。 皆さん、さようなら、さようなら! 326 :痴漢とヤンデレ:エクスタシー ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/30(日) 13 20 43 ID hZWgCSrL ……と思ったが、ずっと少女の胸を掴んだまま放心していたにも関わらず、少女は何もしない。 後ろから顔を覗き込むと、ただ顔を赤らめてうつむいているだけだった。 ――俺の理性は崩壊した。 「――っ……!」 制服の上から、強く胸をもむ。少女は声にならないうめきを上げた。痛いのだろうか。 相変わらず柔らかくてとろけてしまいそうなエロい肉体だ。 股間のマグナムも、腰にすりつける。腰周りの肉も、ほどよくついている。気持ちが良い。 ぴくぴくと振るえる少女がなんだか可愛らしく、平凡なはずだった俺に眠っていた加虐心に火がつく。 制服の中に、下から手を突っ込み、ブラをずらして生乳を触った。 「はぅ……!」 手が冷たかったのだろう、少女はびくんと跳ねた。 周りの目を気にして見る。みな、背を丁度向けてくれている。俺達を見ている人間などいない。好都合すぎる。 俺は差し込んだ右手ですべすべの肌をひとしきり楽しみ、胸をちょいとつまんだ。 さらにうつむく少女。顔はゆでだこのように真っ赤だ。そんな少女にあまりに魅力を感じる。そうか、俺は変態だったのだな。 胸を、外側から円を描くように撫でてゆき、徐々に中心部に向かっていく。手触りからの推測だが、少女の胸には強いはりと弾力があり、なかなかのサイズながらもつんと上を向いている。 おそらく、俺の思ったとおりの場所――この円軌道の終着点こそが、少女のイチゴの生った場所なのだ。 「ひっ!」 しゃくりあげるように少女が小さく叫ぶ。その声は電車と、多すぎる人々の騒音に容易にかき消された。 俺の指が少女のピンクの果実に行き着いたのだ。色は見ていないが、どう見ても処女だし、なんとなくのイメージで、ピンクだとしておく。 乳首を指ではさみこみ、ちょいとひっぱった。 ぴくりと少女が反応した。 それに気をよくした俺は、くりくりと乱暴に弄ってみる。 「はぁ……ぁ……ぅ……」 あまりの羞恥心に、少女は興奮して息を荒くしていた。 乳首に刺激を与えるたびに、少女の口から声がもれ出る。 俺は、「感じてんのか? 淫乱な女だぜ」と言えるほど自分に自信は持っていない。 俺の手が冷たいからとか、屈辱だからとか、人前だからだとか、そういう羞恥心などの新鮮な刺激が少女を興奮させているのだ。 俺のフィンガーテクで少女が感じているなどとは、どうにも思えない。 が、それでも気分はいい。少女の反応は、痴漢もののAVで見たようなものよりよほど初々しくて可愛らしくて、エロい。 空いた左手も使おう。 327 :痴漢とヤンデレ:エクスタシー ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/30(日) 13 21 13 ID hZWgCSrL 俺は大胆にも、少女の長いスカートをめくり上げ、少女のたっぷりとした尻を下着の上からつかんだ。 「んくっ……」 少女は脚を震わせて緊張を示した。拒絶の意か。 ならば、と、俺は胸を思いっきり乱暴につかみ、乳首を高速で擦り上げた。 「――っ!?」 ぴくんと少女の身体がはね、下半身への注意がそれる。その間に、するりと手を滑り込ませ、下着の中に手を差し込んだ。 もちろん、最初から急いで秘所に突撃などはしない。まずはその柔らかい尻の感触を味わうのが礼儀と言うもの。 左手で、丁寧に、ねっとりと、絡みつくように尻の肉をもみしだく。 直接触れる少女の尻はすべすべで、指に張り付くように肉質が見事な感触をかもし出していた。 「ぁぅ……ぅぅ……」 少女はもはや抵抗を示さず、俺にされるがままだ。上では乳首を弄られ、下では尻をもまれ。 おそらく人生でも最大級の屈辱だろう。 さて、肉感は味わいつくしたので、そろそろメインディッシュといきますか。 俺は左手をスライドさせ、股間に差し込んだ。 脚の付け根をすりすりと摩っていく。 「くぅ……ん」 少女の顔を後ろからまた覗き込む。あそこに触れる瞬間の顔が見てみたいからだ。 今の少女は、真っ赤な顔で、目を硬く閉じている。恥ずかしさに顔から火が出る勢いなのだろう。正直萌える。いや、燃える。 では、いただくとします。 「――ん――っ!?」 少女の茂みを探し出し、割れ目に指を当てた瞬間、少女の身体が大きくのけぞって口が開かれた。少女は声を抑えようと必死で、持っていたハンカチを噛んだ。 声にならない叫びが歯と歯の間から零れ落ちる。 ああ、いいよ、きみ。その大きさだと、周囲には聞こえない。 「ひぐ……ぁう……ひっ……!」 ちろちろと、弱い力で、じらすように花弁を弄くりまわす。 まだ本格的な性感帯は攻めない。ゆっくりと、反応をうかがいながらが良い。 ぐちゅぐちゅと、いやらしい音が響く。――実際には響いていない。周囲の騒音にかき消されている。 少女のそこは、既に濡れていた。まさか、俺の乳首攻めで本当に感じてしまったのだろうか。 いや、防衛本能というやつだろう。危険なときこそよく濡れるというらしいし。レイプの時が一番濡れるとも聞いた。 328 :痴漢とヤンデレ:エクスタシー ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/30(日) 13 21 44 ID hZWgCSrL 少女は顔を上に上げて口を大きく開けて激しく息をしている。 肺から空気が押し出される感触があるのだろう。 そろそろいいか。と、俺はさらにその股間をまさぐり、小さな突起をみつけた。 「ん――!!!」 今までで最大の反応。俺がクリトリスをつまんだ瞬間だ。 少女は身体を大きくのけぞらせてびくびくと震えた。 おそらく、達してしまったのだろう。 早いな、つまらん。 俺はお構いなしに、クリトリスをさらに弄くりまわした。 「ひぐぅ……!?」 少女はついにこちらを向いて、抗議の目を向けた。初めて目が合った。 赤く染まった頬には、涙が流れ落ちていた。少女のその姿は、今まで見た誰より――美恵子より、美しいとさえ思った。 「イッたばかりなのに……!」とでも言いたげなその顔を無視しながら、俺は手をさらに加速させた。 「はぅ……あ、あぁ……!!」 少女の声が徐々に大きくなる。おいおい、周りに聞こえるぞ。 だが、誰も俺達を気にせず、吊り革を持ちながらうとうとしている。なんという平和ボケした連中だ。 もう、いいや。捕まってもかまわん。俺のやりたいこと全て、完走してしまおう。 俺は乳首を弄っていた右手を引っこ抜き、スカートの下に動かした。 左手ではクリトリスを弄ったまま、右手では、少女の割れ目を蹂躙し始める。 「ぃ、あぁ……ぅん……くあ……!!」 よほど気持ちよくなってきたのだろう。少女の腰はただの震えではない上下運動を始めていた。 少女はもの欲しそうに腰をくねらせ、その花弁は蜂を誘い、蜜をしたたらせていた。 ぱくぱくと何かを求めて開いたり閉じたりしている少女の秘所に、俺はついに指を……! 『×××駅ー! ×××駅ー!』 なんとっ! 車内アナウンスによって、俺は指を止めた。それは俺の降りる駅だ。 俺ははっと理性を取り戻し、少女から手を離してカバンを拾いあげ、電車から駆け下りた。 車内には少女を残したままだったが、気にしてる場合はない。 顔を覚えられた可能性は有るが、明日から車両を変えればいいだけの話。現行犯でもなければ証拠不十分だ。少女を避ければいいのだ。 とにかく……。 俺は駅のトイレに駆け込み、その個室で抜いた。 ありえない量。丁度アトリエかぐやで描かれるほどのレベルで出てしまった。 今までこれほどに女に欲情したなど、恐らく初めてではなかろうか。美恵子にすらここまで欲情はしたことない。 というか、美恵子はロリだ。 あの少女のように成熟した体はもってはいない。 ……その違いが、俺の脳を締め付ける。もしかしたら、俺は明日も少女に痴漢行為を働いてしまうかもしれない。 自分の中の『悪』が間違いなく俺自身の身体を蝕み始めていた。 329 :痴漢とヤンデレ:エクスタシー ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/30(日) 13 22 21 ID hZWgCSrL 仕事を終えて、家に帰る。どたどたと慌てて美恵子が飛び出してきて、俺に抱きついた。 ああ、美恵子。なにもかもが懐かしい。 「……ん」 「どうした、美恵子」 「忠雄さん、あなた……浮気をしましたね」 「……!?」 俺は答える暇もなく、組み伏せられていた。玄関のタイルが冷たい。 美恵子は俺の腹に馬乗りになり、ヒステリックに叫ぶ。 「どうしてですか! どうして……忠雄さんには、わたくしがいるのに……! そんな雌犬の匂いと、精子の匂いを漂わせ、わたくしに対するあてつけなのですか!?」 「いや、違うんだ美恵子、誤解だ!」 「なにが誤解ですか!」 そうだ、何が誤解なんだよ、俺。全部俺が悪いんだ。美恵子の誤解なんか、なにもない。むしろ正しい。 「忠雄さん……わたくしが間違っていたのですね」 だが、美恵子は急にもうしわけなさそうな顔をして俺に謝り始めた。 「忠雄さんも、一人の男性です。やはり、将来的にではありますが、妻であるわたくしが……その、下のお世話も、しなければならないのですね……」 美恵子は、顔を赤くしながら自分の上着をめくり上げた。 ぺったんこで、ブラすらつけていない胸が剥き出しになった。あの少女と比べると、いささか迫力に欠けるだろう。 しかし、婚約者の今まで見たこともないような部分を見た俺のベストフレンドは、またまた天を目指して背伸びをしていた。 一発だしただけじゃ、一ヶ月の蓄積はなくならなかったと言うのか。 「忠雄さんの……」 ごくりと唾を飲み込み、美恵子は俺のズボンを剥ぎ取った。露出したマグナムを小さな手で掴む。 「ふごっ!!」 驚いて変な声を出してしまった。美恵子が俺のマグナムをぺろりと舐めたのだ。 「ああ、これが忠雄さんの……夢にまで見た、忠雄さんの……」 「お、おい美恵子、まて!!」 「忠雄さん、忠雄さん……!」 俺の声なんてまるで聞いてはいない。美恵子は夢中で俺のモノを舐め上げていた。 まるで大好物のアイスにでもしゃぶりつくように、小さな口で必死にむしゃぶりつく。 330 :痴漢とヤンデレ:エクスタシー ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/30(日) 13 22 51 ID hZWgCSrL 「わたくしも、忠雄さんと同様に我慢していたのですよ……。でも、もう限界でした。忠雄さんが他の女に取られるくらいなら、こんなくだらない主義は捨てることにします!」 ……なんつーか。俺達は空回りしてるんだなぁ。と、つくずく感じた。 そういえば、美恵子は俺のモノを舐めている。ということは……。美恵子の尻はこっちを向いている。 俺は美恵子のスカートを掴んであげ、尻を露出させた。 二十四歳にしてはちいさくて可愛らしい尻と下着。 「た、忠雄さん……!?」 「我慢してたんだろ? なら、俺もご奉仕してやるよ」 下着を一部だけずらし、割れ目だけを露出させ、人差し指で触れた。 「ああ……!」 ぴくんと美恵子の尻が跳ねる。あの少女にしたときとは違って、声を押さえる必要がない。美恵子の、小さな少女のような声が心地よい。 花弁を指で押し広げ、中を確認してみる。 「た、忠雄さん、見すぎですよ! ……そんなところ、汚いでしょう!?」 「いいじゃないか。綺麗だぞ、美恵子」 ピンク色の膣が見える。俺はそこに人差し指を先っぽだけ入れ、ゆっくりかき回した。 「はぅ……ああっ!!」 ぴくぴくと、美恵子は反応する。その間にも俺の股間の怪物を小さな手で擦り上げるのは継続させている。 「お前、相当な淫乱だったんだな」 「ひぃ……い、言わないでぇ……!」 弄れば弄るほどに、美恵子の秘所からは蜜が溢れ出し、俺の顔に滴り落ちていた。 「俺の指を必死でくわえ込んで、可愛いまんこだ。お前にそっくりだぞ」 「わたくしの……一部なのですから……あっ……あたりまえ……です……!」 可愛い幼な妻(二十四歳なのに、外見は十四歳くらいに見える)への愛情を俺は完全に取り戻しつつあった。 あの少女の肉体に欲情した俺自身が、もはや嘘のようだった。 そうだ。 やはり、あの少女には絶対に近づかないでおくべきだ。 俺にはもう、こんなに魅力的な妻がいるじゃないか。 331 :痴漢とヤンデレ:エクスタシー ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/30(日) 13 23 22 ID hZWgCSrL 次の日。 なぜ、こんなことになっているのか。 俺は再び少女と密着していた。 車両は変えたはず。 ……まさか! 少女も俺を避けるために車両を変え、それがたまたま同じになったとでもいうのか? いや、それにしてもできすぎている。 同じ車両でも、ここまで満員電車のなかで密着などできるか? 移動も制限されているのに。 少女がわざとここに来たとしか思えない。 「……あの」 「!?」 びくりと、今度は俺の肩が跳ねてしまった。 少女が話し掛けてきたのだ。 何を言われるのだ。まさか、俺の痴漢行為を携帯ムービーに収めたから、神妙にお縄につけというのか? それとも、俺を脅すのか? 金を出せと。なら、昨日大人しかったのは演技で、この少女はとんだくわせものか? 「あなた、麻生忠雄さんですね?」 「……ご、ごめんなさい」 俺は反射的に謝っていた。なんと、少女は俺の名前を知っていたのだ。馬鹿な! 調べたのか? それとも、毎日同じ電車に乗っているからいつのまにか知られて……。 ごまかすのももう無理だろう。しらばっくれるよりは、素直に謝ることにした。 「あなたは……犯罪者です……。それは、わかります、よね?」 丁寧な口調で少女が問い詰める。あまり怒っているようには見えない。感情の起伏が少ないタイプなのか。 それとも冷静に見えているほうがむしろ本気で怒っているというあれなのか。 「はい……どのような処分も甘んじて受けます」 もう、諦めた。 俺は小心者だ。こんな局面で対抗しようなんて気は起こらない。 「なら……」 少女は俺に何かを突きつけた。――って、ナイフ!? 「静かにしてください。これから私の要求を言いますから」 こくこくと、俺は必死で頷いた。 「まず、私は『近衛 木之枝(このえ このえ)』といいます。名前を復唱してください」 「こ……このえ」 「そうです」 少女は満足そうに微笑んだ。 332 :痴漢とヤンデレ:エクスタシー ◆.DrVLAlxBI [sage] :2008/11/30(日) 13 24 05 ID hZWgCSrL 「麻生忠雄。名門国立××大学文学部卒業後、御神グループの系列である某大会社に入社。徐々にその能力を認められ、将来有望なエリートサラリーマン。その性格は真面目で、容姿とあわせて癖が無く、平凡そのもの。婚約者が一人存在。 名は、一条美恵子。その父は××大学文学部教授であり、彼の著書はロングセラーを多数たたき出す、かの有名な一条博士。……すばらしい経歴ですね。あなたのような方が、犯罪者などとは、世の中悪くなったものです」 「そ、その通りです……」 なんで、俺の情報がこんなに……! 馬鹿な! 一日やそこらで、俺の顔をチラッと見ただけで? 前々から調べてないとこうはならないんじゃないのか? 俺は、この少女……木之枝に底知れない恐怖を覚えた。腰が抜けて、まともに声も出ない状態に追い込まれる。 木之枝は、俺にさらに身体をすりつけてくる。 ――そして、その手が俺の股間を掴んだ。 「あなたのような犯罪者はほうっては置けません。よってこれからは私が管理させていただきます。わかりましたか?」 頷く。 「これからは毎朝、この時間のこの車両に乗ってください。そして、私のいる場所まで移動してください」 頷く。 「それからは私が監視します。私以外の女性に手をだしてはいけませんから、これからは私だけに痴漢行為を働くこと。これは、あなたのような犯罪者の性欲の捌け口を身を持って勤めるという、私なりの犯罪の抑止です。いかなる感情的行為にも当てはまりません」 頷く。 「これらの要求に逆らえば、分かりますよね? 順調な人生の素晴らしさは、失ってから気付くものなんですよ」 頷くしか、なかった。 「では、最後の要求です。私に昨日の続きをしてください」 もはや、恐怖で逆らうなどという選択肢は消えていた。 ああ……俺の人生、終わったな。 注:くれぐれも、痴漢は犯罪です。
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601 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2010/08/22(日) 12 01 04 ID F4oj/qfV [2/14] ***** 白いブラ。それに包まれたおっぱい。 今の俺が藍川のことを思い出したら、それが真っ先に思い浮かんだ。 藍川はインドア派だから、あまり肌が黒くない。かなり白い、いや、恐ろしく白い。 そんな奴が白い下着を着けたら一体どう見えるのか。 言うまでもない。素っ裸だ。マッパだ。生まれたままの姿そのもの。 藍川の双丘に、桜色に染まった一帯がないことに違和感を覚えるほどだった。 藍川の容姿を一言で言い表すなら、清楚。 ドレスを着せてピアノでも弾かせてれば、相当な数の男が騙されることだろう。 そんな清楚な女が素っ裸。 間違いなく、母親から「はしたないわよ、京子! せめて黒にしなさい!」なんて言われるに違いない。 そう。たしかにはしたない。 あの藍川の姿を見て興奮しない男はいない。 衝動に任せ、飛びかかってその肢体を蹂躙しようとするに違いない。 むしろ、そうしなければ男ではない。 その理屈で言うなら、俺は男ではない。 踏み荒らされていない雪原に足を踏み入れさえもしなかった。 一目見て、それきりスルーした。 はっきり言おう。それどころではなかった。 はしたない藍川に構っているほど、あの時の俺に余裕はなかった。 それほど集中していたのだ。何にか、というと―――― 602 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2010/08/22(日) 12 02 48 ID F4oj/qfV [3/14] 「んがっ」 突然鼻っ柱に痛覚が襲いかかった。電柱に顔面をぶつけたのだ。 ものの見事に。体の正中線と電柱の芯が、狂い無く正面からぶつかった。 鼻に触ってみる。鼻血は出ていない。再び歩き出す。 しかし、真っ直ぐ歩けない。塀に手をついていないと、真横に倒れてしまう。 「これは、ひどい……」 こんな経験をしたことはない。 やってみようと思い付き、実際に行動しても、こんなになるまで意識を保てなかった。 二徹。 二晩通して起き続けて、プラモデルを作っていた。藍川と二人きりで。 なんでこんな馬鹿なことをしたかというと、藍川が言い出したからだ。 毎週恒例のプラモ作りのはずだった。 いつもと違ったのは、ちょうど気分が乗って来た頃に藍川がTシャツを脱ぎ捨てて、マッパじみた下着姿になったことだろう。 Tシャツの正面には「YES!」、背面には「NO!」と書いてあったのを覚えている。 だが、そんなアホなTシャツのことはどうでもよかった。プラモを作る方が大事だった。 だから俺は藍川を放置し、プラモ作りに没頭した。 黙々と作業を続け、夜を明かしたところで、俺はいつものように帰ろうとした。 そこで藍川が、眠気混じりの狂った瞳を向けてこう言った。 『ちょ、ちょっと待ってよ。まだやることが残っているでしょ?』 そのまま帰っても良かったのだが、藍川がやる気になっているなら、俺は帰れない。 逃げたみたいに思われるのは癪だった。 藍川は友人であり、同好の士でもあるけど、ライバルでもある。 あいつが眠気を我慢して作り続けるなら、俺だって逃げない。 結果、俺と藍川はそれから二十四時間に渡ってプラモデルを作っていた。 作り始めた時間から計算すると、三十六時間。 やればできるものだ。これまでの最長記録、二十四時間を大幅に上回った。 我慢大会も俺の勝ち。藍川は本日午前三時になった時点で寝落ちした。 勝敗に何も賭けていなかったことが悔やまれる。 「景品はやっぱ、コレジャナイって言いたくなる、あいつがいいな……」 あのキットにはプレミアがついていて、どこを探しても見つからない。 ネットで探しても、オークションにすら出品されていない。 藍川の奴は、その貴重なキットを組み立てせず、大事にしまっているのだ。 俺はいつかあのキットを組み立てて、魔改造を施してやろうと思っている。 とりあえず関節を増やして、全身フル稼働。見えないところにコックピットを増設して、パイロットを乗せる。 他のキットの部品を拝借して、中身にそれっぽいギミックを仕込む。変形機能までつける。最低でもこれぐらいやる。 いずれは、藍川と決着をつけねばならない。あのキットの所有権を賭けて。 だが、今はとりあえず。 「この眠気と、決着を……」 あのキットがかかっていても、睡魔になら負けてもいい。 今の俺は、一刻も早く布団に入って眠りたい。 604 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2010/08/22(日) 12 05 36 ID F4oj/qfV [5/14] ***** 「ただいま」 「あ! お帰り、お兄ちゃん!」 朝の五時になって、ようやくお兄ちゃんが帰ってきた。 藍川っていう女の家に行ってから、丸一日帰ってこなかったんだ。 もう、不安で不安で。 藍川の家に飛び込んでやろうと思った。家が分からなかったから、行けなかったんだけど。 でも、帰ってきてくれたってことは、家に居るって事だよね? 一緒に居られなかった分、くっついちゃうから。 お兄ちゃんが靴を脱いで、床に上がったところで左腕にしがみつく。 ぎゅっ、ってする。力一杯、私の体を押しつける。 こうすると、心が温かくなる。でも、同時に悔しくなる。 花火ちゃんみたいにホルスタインだったら、きっとお兄ちゃんも興奮するんだろうな、って。 お母さんはあんなにスタイルが良いのに、どうして私はこんななんだろう。 もちろん無いわけじゃない。でも花火ちゃんに比べたら、無いに等しい。 何度花火ちゃんに鼻で笑われたことか。そのせいで何回言い争ったことか。 兄さんは、いつか絶対に大きくなるって、と励ましてくれる。 いつかって、いったいいつよ。もう待ち続けて三年は経つんだけど。 花火ちゃんが私と同い年の頃には、上の制服の中で、でっかいおっぱいが不必要な自己主張をしてた。 あそこまで、でかくなくていいの。せめてお兄ちゃんが愉しめるぐらいは欲しいの。 そうね、お兄ちゃんのモノが挟めるぐらいかしら。 今の私じゃ、挟んであげようと思っても、お兄ちゃんを空しくさせるだけだろうから。 「お兄ちゃん、ご飯は?」 「それより、早く寝たい」 お兄ちゃん、すっごく眠そうな顔。 先週藍川の家から帰ってきた時でも、ここまでじゃなかった。 もしかして、お兄ちゃん眠ってないの? ってことは、あの女の家では眠る暇すらなかった? 「まさか、お兄ちゃん。あの女と、一緒に寝たんじゃ……」 返事はない。お兄ちゃんは俯いたままだ。 首筋に鼻を近づけて、匂いを嗅いでみる。 ……? お兄ちゃんの芳しい体臭だけ? 女の家に行ったのに、一切女の匂いがしないって、どういうこと? お兄ちゃん、本当に藍川の家に行ったのかしら? 「悪い。部屋に運んでくれ」 「う、うん。わかった」 よくわかんないけど、眠そうにしているお兄ちゃんはこのままにしておけない。 この機会を逃すのは惜しい。いっぱい悪戯したい。 でも、自分でもよく分からないけど――今日のお兄ちゃんはとってもすごいことをしてきたように感じる。 だから、いっぱい休ませてあげたい。 605 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2010/08/22(日) 12 08 51 ID F4oj/qfV [6/14] お兄ちゃんの部屋には布団が敷きっぱなしになっている。 私が事前に用意していた。お兄ちゃんがいつ帰ってきても良いように。 「着いたよ、お兄ちゃん」 「……おう」 お兄ちゃんを床に座らせる。すると勝手に後ろに倒れてくれた。 数秒のうちに穏やかな寝息が聞こえてきた。胸がゆっくりと上下し始めた。 「おやすみ、お兄ちゃん」 夏とはいえ、風邪を引かないとは限らない。タオルケットをお兄ちゃんの体に被せてあげる。 なんだか、子供みたい。寝顔、いくつになっても、いつ見ても、変わらないね。 子供の頃のまま。私が昔から知っているお兄ちゃんのまま。 もう、何年も昔。 伯母さんにいじめられている私を、お兄ちゃんは身を挺してかばってくれた。 強く抱きしめて、私を励ましてくれた。伯母さんに、私をいじめないでって何度も言っていた。 伯母さんを包丁で刺した時は驚いた。お兄ちゃんが怖くなった。 でも、それは全て私を守るためにしたことなんだって、すぐに気付いた。 お兄ちゃんは、他の人を誰一人傷つけなかったもの。 花火ちゃんが止めに入っても、手は出さなかった。 これからもお兄ちゃんは私を守ってくれる。ずっと、ずっと。 その確信が揺らぎ始めたのは、十歳になった頃。 クラスの女子が泣いてたから理由を聞いてみたら、年上の兄に叩かれた、って言った。 信じられなかった。どんなお兄ちゃんも、私のお兄ちゃんみたいに妹を守るものだと思ってたから。 不安になって皆に聞いたら、兄妹にもいろんな在り方があるんだって気付かされた。 いじめる、叩く、馬鹿にする、悪口を言う、嫌う。他にも、たくさん。 私のお兄ちゃんにはそんな部分はなかったけど、それでも、不安になった。 私が頑張り始めたのは、それから。 お兄ちゃんに嫌われないよう、お兄ちゃんが好きだって言い続けるようになった。 だって、好きだって言い続ければ、好きになってくれるはずだもの。 少なくとも、私のお兄ちゃんは絶対にそう。 その甲斐あって、私はお兄ちゃんと良い関係を保ち続けている。 お兄ちゃんは私に優しくしてくれる。馬鹿なことを言っても、ちゃんと相手してくれる。 さすがに、今みたいな気分になるとは予想外だったけど。 「キスしちゃってもいいよね、お兄ちゃん。ここまで運んだお礼、頂戴」 ちなみに駄目だって言っても、しちゃうから。 油断大敵よ、お兄ちゃん。 薄く開いた唇。ずっと欲しかったお兄ちゃんの唇。 私にとっての聖域。そこにたどりついた私はきっと、これ以上なく清らかな気持ちになれる。 清らかだもん。兄妹のキスなんておかしくないもん。小さい頃からいっぱいしてきたんだから。 「……うーん」 でも、なんかカタルシスが無いっていうか、ムードが足りないっていうか。 やっぱり、今日はほっぺたにしとこう。 お兄ちゃんの右の頬に口づける。 そのまま舌で舐めたり、吸い続けているうちに、お兄ちゃんが身動ぎした。 口惜しさを感じながら、唇を離す。 「じゃあ、おやすみなさい。お兄ちゃん」 606 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2010/08/22(日) 12 10 33 ID F4oj/qfV [7/14] そう言って、顔を離した時だった。 寝返りを打ったお兄ちゃんが、私の体を抱きしめたのは。 「え……ええ、え?」 混乱する。きっと寝ぼけているだけなんだって、冷静に判断できる。 でも、このシチュエーションって。 たまにお兄ちゃんが寝ているところに忍び込んで、寝顔覗いてる時の妄想、そのままじゃない! エッチな夢を見てるお兄ちゃんが、たまたま隣に居た私を相手にエッチする、っていうやつ。 ってことは、何。 今から私、お兄ちゃんに抱かれちゃうの? ――やば。部屋に行ってシたくなってきた。 この経験があれば、これから一ヶ月、いえ三ヶ月、いいえ半年は困らないわ。 ここまで最高のネタがあったかしら? いいえ、あるわけがない。 心臓の鼓動がうるさいし、吐息が熱いし、むずむずするし。 すぐにここから逃げたい。早く溜まった欲望を解き放ってやりたい。 お願いお兄ちゃん、この手を早く離して。私を自由にしてちょうだい。 ……あれ? でも。 これ、よく考えたら逃げる必要ないんじゃないの? だって、想像通りなら、私ここでお兄ちゃんに初めてを捧げるのよ。 何を拒む必要があるの? 奪い取られなさい。今は性欲に任せる時なのよ! 「で、では。遠慮無く」 小声で呟いてから、お兄ちゃんとの距離を縮める。一緒のタオルケットの中に入る。 わああ――――お兄ちゃんの顔だ……。吸ってる息が全部お兄ちゃんの吐息だ。 将来の仕事を選べるなら、間違いなくお兄ちゃんに添い寝する仕事を選ぶわ。 これって、私向きの仕事よね。絶対に私以外には果たせない仕事だわ。 他の人間には任せられない。もし前任者がいたって、すぐに地位を奪い取ってやるわ。 では、未来へ向けての努力、その一。 お兄ちゃんに私のおっぱいを揉ませる。 大事な事よ。大事な事だわ。大事な事でないわけがない。 お兄ちゃんの手に私の感触をすり込ませる。 そうすれば、私のおっぱい以外じゃ満足できない、でかいものがいいわけじゃないって体が覚える。 悪いわね、花火ちゃん。唯一のあなたのチャームポイントを奪ってしまって。 その余分なものは、お兄ちゃん以外の男に味わわせてあげて。 そうね、兄さんなんかいいんじゃないかしら。 幼なじみだし、お似合いだと思うわよ。 607 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2010/08/22(日) 12 11 28 ID F4oj/qfV [8/14] お兄ちゃんの左手は私の背中に回っているので、右手を握る。 起こさないようゆっくりと肘を曲げて、手を広げる。 すでに、何かの拍子でお兄ちゃんが動けば、絶対に揉まれてしまう。そんな位置だ。 どきどきしっぱなし。おっぱい揉ませたら、心臓の鼓動を感じて起きちゃうんじゃないか。 ほっぺたにキスするのとは全然違う。 だって、男に揉ませたこと一回もないんだもの。今から初めてを奪われてしまうのね。 ごめんなさい、お祖母ちゃん、お父さん、お母さん。 私は今この時から、淫らな女の子になります。 意を決して、お兄ちゃんの手を胸に押し当てる。 もう、それだけで体の芯までしびれた。シチュエーションが理想通りすぎる。 「ん……は、ぁん……こ、れ。こんなのって……」 体をくねらせ、お兄ちゃんの指を激しく動かし、愛撫させる。 手が届かないと諦めていたものが、手に入ってる。文字通りの意味。 顔も、呼吸も。どこまでも熱くなっていく。 「も、う……これだけで、イっちゃい、そ…………あぁっ……」 お兄ちゃんの顔。唇。朝だから、よーく見える。 ここまでやったなら、後戻りはできない。 「おにい、ちゃん……」 目を閉じて、顔を近づけていく。お兄ちゃんの唇を、これから奪う。 608 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2010/08/22(日) 12 14 32 ID F4oj/qfV [9/14] 「――――あぁっ!?」 唐突に、強烈な快感が背筋に走った。 背中に暖かな手の感触。Tシャツの上からじゃない。素肌に当たってる。 お兄ちゃんの手が、シャツを避けて、背中をなで始めた。 「あっ、や……やめ、いひぅっ! だめ、だめぇ……そこ、弱くて、触っちゃ、やぁぁ……」 神経を愛撫されているみたいに、脳も、指先も痺れる。 上から下に。腰から首に。お兄ちゃんの指先の感触が絶えず動く。 いつのまにか私はお兄ちゃんの手を離していたみたいだった。 だって、さっきまで服の上にあったはずの右手が、服の中に入り込んでいるんだもの。 「やだ、寝ぼけてるの、お兄ちゃん……」 そうじゃなきゃ、こんな大胆なこと、絶対にしない。してくれない。 お腹を撫でて、脇を撫でて……両手で背筋を刺激するなんて。 「……はっ、ぁ……ぁぁ、んん、んぅ……」 喘がないようにしても、結んだ唇の端から漏れてくる。 お兄ちゃんを起こさないようにしてるのに、お兄ちゃんがそれを許してくれない。 「ひどいよぅ……おにい、ちゃ……んぁ、ぁふ……」 いじめられてる。お兄ちゃんに、性的な悪戯をされてる。 私の体を弄んで、たっぷり感じさせて、いつまでもじらし続ける。 こんなんじゃ、生殺しだよぉ………… 背中を撫でていた手が、ブラのホックを外した。 ここにくるまで、私にとっては永遠に続きそうなほど長かった。 下着の拘束が緩んで、隙間ができる。お兄ちゃんの手は容赦なくそこに入り込んでいく。 両手で、左右から脱がしていく。 呼吸が普段通りにできない。何キロも続けて全力で走った後みたい。途切れ途切れ。 お兄ちゃんの手が、とうとう前の方にやってきた。 ブラはもう完全にずれてる。肩に引っ掛かってるだけ。 お兄ちゃんの手が、私のおっぱい揉んでる。 直接、何にも遮られず、指先が乳房をいじり出す。 喘ぎ声を我慢する余裕は無くなってた。快感に全ての制御を任せ、悶える。 悶えて、欲望を檻から解き放ち、より強い快感を得ようと、全身を熱で満たす。 たまに指先が乳首に当たる。そんな些細なもので、一つ喘いでしまう。 「お兄ちゃん、おにいちゃん、おにい、ちゃん…………お兄ちゃんっ」 好き。好き。大好き。 いくら叫んだって、この気持ちは伝えられない。 どれだけお兄ちゃんを欲しいかは、どんなに強くその体を抱きしめても伝わらない。 お兄ちゃんと一つになれないことがもどかしくて涙が出そう。 もう隠せない。 隠す壁は確かにあったはずなのに、もう爆発して木っ端微塵になって、跡形もない。 セックスして。 純潔はお兄ちゃんのために大事にとってたの。いつか来ると思っていた、その時のために。 今がその時。今以外の機会は、後にも先にも無い。 お兄ちゃんになら奪われても良い。むしろお兄ちゃんじゃなきゃ嫌。 私のわがままを聞いて。 お兄ちゃんのためならなんでもする。 恥ずかしいことでも、ちょっと怖いことでも、なんでも。なんでも、なんでも……なんだってするから! だから、私を選んで。私だけを抱いて! 609 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2010/08/22(日) 12 17 37 ID F4oj/qfV [10/14] お兄ちゃんの穿いているジーンズを脱がしていく。 ベルト、トップボタン、ジッパー。ジーンズと一緒にパンツも力任せにずらす。 飛び出したのは、勃起しているお兄ちゃんのモノ。弾かれたせいで揺れる、男の人特有の、男性器。 顔を近づけて良く見る。傘の部分が少し濡れている。初めて見たけど、誰もが皆こうなんだろうか。 そこは、お兄ちゃんの匂いが一番強い。 「こんな大きいのが、体に入るっていうの……」 本当に? ひょっとして私の知ってる知識って、嘘だったりしない? だって、見てるだけで……体を串刺しにされるような感覚を覚える。 もちろん例えだけど、目の前にすると、あながち例えだと言い切れないような。 で、でも! お兄ちゃんのなら平気よ! 平気だもん! 怖くなんかないわ! うう。確か、前に読んだ本によると男の人の性器を撫でたり、キスすると気持ちいいんだ、って。 寝てる……よね。お兄ちゃん。 何の夢見てるんだろう。私の夢だったらいいんだけど……他の女との夢だったら? 途端に憎らしくなってきたわ。 私をこれだけ夢中にさせて、感じさせたくせに。自分は気分に合わせて誰にでも興奮する、なんて。 そんなの許さないからね。 お兄ちゃんは私の。私だけの恋人なんだ。浮気なんか許さない。 お兄ちゃんを気持ちよくさせられるのは、私だけなの! そびえ立つ一物を両手で包み込む。びくびく震えてる。体のどの部分よりも熱い。 おもむろに顔を近づけ、濡れている傘に唇を付ける。 濡らしている液体は、ぬるぬるしてて、言い表せない奇妙な味をしてた。 だけど、お兄ちゃんのものだと思えば、抵抗感は無くなってしまう。 陰茎を上下に愛撫しながら、傘を舐めていく。 裏のちょっとくぼんだ部分を、舌先で集中して攻める。 そうすると、お兄ちゃんの体が小さくピクッとする。 反応を楽しみ続けていると、次第に陰茎が膨らみだした。 きっと強く感じてるに違いない。キスを幾度も繰り返して、小さな穴を舌で拡げる。 お兄ちゃんの腰が動いたのはその時。弾みで半ばまで口にくわえ込んでしまった。 「ン、んぐぅっ?!」 間髪入れず、口内にいっぱい熱いものが注がれた。口の中を全部満たすんじゃないか、って思った。 臭いが口から鼻へ流れていく。とっても臭い。 ねばねばしているものが、歯にも舌にも口内にも、絡みついていく。 吐き出してお兄ちゃんの布団を汚したくなくて、私はねばねばしたのを全部飲み下した。 「あれ、精液って、もしかして今の……なの?」 妊娠するためには膣の中に出さないといけない、って知ってるけど、飲んでもいいものなの? 今のところなんともないから、大丈夫よね……きっと。 610 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2010/08/22(日) 12 24 42 ID F4oj/qfV [11/14] 「……トイレ」 お兄ちゃんの声が聞こえて、びっくりした。 なんとなく自分のしていることが悪いことに思えて、ずらしていた下着とジーンズを元に戻してしまった。 一度もやったことない動きだったのに、恐ろしいほど手際よく手が動いた。 「お、お兄ちゃん? 起きちゃった? ごめんね」 「妹か? なんで、ここに……まあいいか」 あれ、いいんだ、添い寝してても。添い寝っていうか、ほとんど性行為だったけど。 「と、トイレに行ってくるの?」 「悪い、ちょっとだけ……」 タオルケットをどけると、壁を伝いながらふらふらと部屋を出て行った。 扉が閉まる。……行った、わね。よし。 戻ってくるまでに部屋に行って、あれをとってこないと。 ゴム。避妊具だ。 ここまでやったのだから、お兄ちゃんには絶対に本番までやってもらう。そうなったら、ゴムが必要。 お兄ちゃんとの間に子供が欲しくないのか、というと、否。欲しいに決まってる。 だけど、何事も計画的じゃなきゃいけない。 私は冷静に物事を判断できるの。さっきは、妊娠でも子供でも何でも来い、って気分だったけど。 お兄ちゃんの部屋から出ようと、扉を開ける。すると、そこに見知った顔があった。 「……花火ちゃん?」 「よう、ちっさい妹。アニキの部屋で何をやってたんだ?」 「それはこっちが聞きたいわ。なんで人様の家に勝手に上がり込んでるの」 「玄関の鍵、開けっ放しだったぞ。入られたくないんなら鍵をかけておけよ」 花火ちゃんは、いつもみたいに男っぽい喋り方で話しかけてくる。 しかし、全てがいつも通りというわけじゃない。 眉間に青筋が浮かび上がっているし、右手が拳骨の形になっている。 「何怒ってるの、花火ちゃん」 「怒らないとでも怒ってるのかよ。 アニキの布団の中に潜り込むなんて、ずるい手を使いやがって。まさか、手を出したんじゃないだろうな」 あれ、さっきしてたことは見てないの? それなら良かった。バレてたら、何か言うよりも先に、花火ちゃんは手を出しただろう。 「いいえ。まだ何も。添い寝していただけよ。 私は、勝つための手段をとり続けているだけのことよ。それをずるいだなんて、考え方が甘いんじゃないかしら」 「勝つために、か……そういうことなら、私は最後のカードを切らせてもらおうかな」 花火ちゃんが一歩踏み込んできた。後退する。また近づかれた。下がる。 じわじわと距離を詰めながら、花火ちゃんが言う。 「ちっさい妹。許せ。全てはアニキを手に入れるため。アニキの幸せのため。お前は犠牲になれ」 「……なんですって」 「安心しろ、命までは奪わない。二度とアニキの前に姿を現わしたくない、と思わせるだけだ」 そんなことを聞かされて安心するわけがないじゃない! 退路は? 正面突破は無理。 それなら、窓から飛び出すしかない。鍵が掛かっていたら、窓を割って外に出る。 この部屋でお兄ちゃんと続きをできないのが残念だけど、命には替えられない。 612 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2010/08/22(日) 12 28 18 ID F4oj/qfV [12/14] 「ねみい……」 どのタイミングで飛び出そうか図っている途中、お兄ちゃんが戻ってきた。 寝ながら歩いて居るみたいな有様だった。全然前を見ていない。 花火ちゃんはお兄ちゃんの存在に気付くと、お兄ちゃんに道を譲っていた。 「あ……アニキ。おはよう」 「おはよう。悪いけどまた寝るからな」 お兄ちゃんは誰に話しているかわかっているんだろうか。 あの様子だと分かって居なさそうな気がするわ。 お兄ちゃんは布団の方じゃなくて、私の方に近づいてくる。 何を頼りにして歩いているんだろう。匂い? さっきまでぴったりくっついてエッチなことしてたから、ありえる。 「おう、こんなところに居やがったか」 「お兄ちゃん、布団はあっちで――」 「枕が逃げるな。眠れん」 はい? 疑問の声をあげるより早く、私は押し倒されて、のし掛かられた。 その様子を見ていた花火ちゃんが、叫んでから、私の方に近づいてくる。 私とお兄ちゃんを力尽くで引き離すつもりなのだろう。 だけど、そんなことをしても無駄。 私は笑顔を浮かべて、花火ちゃんを見返した。 見てたでしょ。お兄ちゃんが私を押し倒すところ。 花火ちゃんの出番はないのよ。女の魅力で負けたんだから。 早く帰って、お兄ちゃんに優しくされる妄想をしながら自慰してれば? 花火ちゃんはさらに顔を赤くして、詰め寄ってくる。 でも残念。私の上にはお兄ちゃんがいるから、手を出すことはできやしない。 それでも構わず花火ちゃんは拳を振りかぶり、私の顔だけを狙って拳を放った。 馬鹿ね。どこを狙ってくるかバレバレな攻撃を、避けない敵がいるとでも思ってるの? これはゲームじゃないのよ。たった一人の人間の奪い合いなんだから、負けられないの。 避けるに決まってるじゃない。 首を捻って攻撃を躱す。 風圧を頬で感じた。部屋中の床の畳をひっくり返すんじゃないか、って思うぐらい強力な一撃。 でも。 「当たらなきゃ意味ないのよ、花火ちゃん」 「黙れ! まだまだこれからだ!」 そう言って、花火ちゃんが拳を戻す――ところで、お兄ちゃんが呟いた。 「……あれ、コレジャナイ。これ枕違う」 私の体の上でうつぶせになっていたお兄ちゃんが、体を離した。 花火ちゃんは不意を突かれて止まっていた。その隙をついて、お兄ちゃんは花火ちゃんの腕をとった。 お兄ちゃんが私の視界から居なくなる。次の瞬間には、別の場所に移動していた。 一瞬の間に押し倒した、花火ちゃんの体の上に。 「――あ、アニキ? ……あの、えと」 「ああ、こっちか」 「へ?」 「枕はこっちだ。そこのじゃない」 613 名前:ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] 投稿日:2010/08/22(日) 12 29 40 ID F4oj/qfV [13/14] お兄ちゃんが、花火ちゃんの体を、敷き布団代わりにした。 大きなおっぱいを枕にして、うつぶせになって眠っていた。 「な、なにやってんのよ、お兄ちゃん!」 「な、ちょ、何だ。なにやってんだアニキ! ちっさい妹、これはどういうことだ!」 「コレジャナイって、そこのじゃないって、どういうことよ! 私だって枕代わりになるわよ! いつか絶対に花火ちゃん以上大きくなるんだから! そうに違いないわ!」 「あっ……アニキ、私の胸は枕じゃなくって、でも……ちょ、揉むなよアニキ! バカ、胸は……弱いんだってば。やめろ、ってば……こんなのまだ、駄目だって……ふぁっ……」 「さっきはあんなことまでしたくせに! お兄ちゃんの……バカぁぁぁ!」 ――結局、お兄ちゃんは花火ちゃんの胸を枕代わりにしたまま、お昼過ぎまで眠っていた。 よほど疲れていたんだと思う。 でも、理由があるからって、お兄ちゃんが私にやったことは許されるわけじゃない。 私は決意した。今度お兄ちゃんがあんな状態になったら、絶対にモノにすることを。 そして、邪魔者が家に入りこまないよう、戸締まりをしっかりする。 今回、私にとっての収穫は、毎夜のネタに困らなくなったという点に尽きる。 キスはしてないけど、おっぱいは揉まれたし、精液飲んじゃったし。 これはもう、次があったら絶対にお兄ちゃんに処女を奪われてしまう。 その時が来るのが、今から楽しみでしょうがない。 せめてそれまでに、コレジャナイとか言われないぐらい、胸が大きくなってますように。 絶対に、どんな手段を使ってでも、花火ちゃんには負けない。 譲れないのよ、お兄ちゃんの隣の位置だけは。 これから一生をかけて、恩返ししていくんだから!
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470 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/10/16(火) 11 49 41 ID 3EWtNrIn ***** 休日の朝である。眠いのである。 なぜ眠いのかというと、やむにやまれぬ事情というものがあるからであった。 なにせ、昨晩から両親はどこかへ出かけているのである。 故に、健全な高校生としては、不健全に徹夜のようなものをするのにふさわしい状況だったのである。 もちろんただ起きていたわけではない。 昨晩は夜間のプラモデル作りについてとやかく言う母が我が家に不在であったため、 昼間しか使えないエアブラシを夜間に存分に使うことができた。 結果、1/12サイズのGPレーサーのプラモデルを完成させられた。 朝日の差す場所に、数分前に完成させた作品を置く。 ――おお、黄色く輝いて見えるぞ。 出来としては、最近作ったものの中では一番である。 やはり創作環境というものは大事だと改めて気づかされた。 これからも父には是非とも頑張ってもらい、母を外へ連れ出していただかなくては。 なんなら、このまま一ヶ月ぐらい旅行へ出かけてもらっても構わないぞ、父と母よ。 さて、今は7時。 今から昨晩の睡眠時間を取り戻すとしようか。 7時間寝るとして、起きるのは十四時。つまり午後の2時。 まあ、昼飯を食うのに遅すぎる時間というわけではないな。 朝飯は食わず、このまま倒れるように布団の上で眠るとしよう――。 布団がちょうどいい暖かさになっていて、心地よく眠れそうだ、などと思っていた時であった。 携帯電話に突然着信があったのである。 誰だ?こんな朝から電話してくるような俺の知り合いは。 携帯電話のディスプレイを見る。知らない番号だ。よし。 通話ボタンを押す。間髪入れずに電話を切る。 朝から間違い電話などに付き合っていられるほど、今の俺に余裕はない。 早く眠りたいのである。 もう一度布団に身を投げ出し、再度眠りにつこうとしたら、今度は部屋のドアがノックされた。 弟か妹であろう。めんどくさかったので、狸寝入りをする。 が、いくら待ってもノックが止む気配がない。 むう。なにかあったのであろうか。もしやとうとう父の体力が尽きて危険な状態になってしまったのか? 仕方ないな。少しだけなら相手をしてやってもいいだろう。 「空いてるから入っていいぞ」 扉へ向けて話しかける。すると、弟がドアを開けて入ってきた。 「兄さん、おはよ。電話がかかってきてるよ」 「誰からだ?」 「話してみたらわかるって。はい」 弟は電話の子機ではなく、自分の携帯電話を俺に渡した。 弟の知り合いか?俺と弟に共通する知り合いなどいないのだが。 いまいち納得のゆかないまま電話に話しかける。 471 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/10/16(火) 11 50 28 ID 3EWtNrIn 「もしもし、変わりました」 「……あ……」 「あの、どちらさまですか?」 「あの……その……」 あのその、と言われても。 電話越しに緊張するなんて、どれだけシャイなんだ、この相手は。 「とりあえず、名前を教えてくれませんか?」 「あ……そ、そっか。私、同じクラスの葉月」 「え……」 葉月さんだって?なぜよりにもよってこんな朝から電話をかけてくるんだ。 昨日、あんなかたちでふってしまったというのに、どうして電話をしてくる? 「おはよ。葉月さん」 「お、おはよっ、うございます」 もしかして今、噛んだ? まあ、緊張するのも無理はないか。昨日のこともあるし。 「何か用なの?」 「あ、あのね。今日おうちにいるかな、と思って。それで電話したの」 「はあ。一応、今日はずっと家にいるつもりだけど」 俺の予定など聞いてどうしようと言うんだ。葉月さんは、弟が好きなのに。 そういうことは俺ではなく、弟に聞くべきだろう。 「そうなんだ……あの、誰かが遊びに来るわけじゃあないよね?」 「違うよ」 悲しむべきか喜ぶべきかわからないが、今日は誰かと遊ぶという約束はしていない。 恋人でもいるのならば、デートにでも行くのであろうが。 恋人か。もし昨日葉月さんの告白にOKの返事をしていれば――やめよう。 葉月さんの気持ちが俺に向けられていないことを知っておいて付き合うなど、失礼だ。 それに、そんなことをしてもまた俺が惨めな気分を味わうだけである。 葉月さんが何用で俺に電話をかけてきたのかは知らないが、早いところ切ってしまうに限る。 だいたい、葉月さんは弟のことが好きなわけで――ん。おお、そうだ。 「葉月さんは今日、何か用事が?」 「え……無いけど?」 「じゃあ、うちに来ない? 弟もいるよ」 「え……嘘、いいの? 今、こっちから遊びに行ってもいいか聞こうとしてたんだけど」 「もちろんいいよ。弟も喜ぶと思う」 「う、うん、わかった! すぐに行くから待っててね! じゃあ!」 言い終わると、葉月さんはすぐに電話を切った。 なんともわかりやすい反応であった。 弟がいると聞いてあそこまで喜ぶということは、やはり葉月さんは弟のことが好きなのであろう。 携帯電話の番号を交換しあうほど2人は仲良くなっていたのか。葉月さんの熱意には敬意を表したい。 しかし、どうして俺に電話を代わるという展開になったのかは、よくわからない。 弟も勝手に葉月さんを家に呼べばいいというのに、なぜ俺に電話を代わったのか。 もしや、俺に遠慮でもしているのであろうか? 弟のことだから有り得る。だが、俺はそのへんは寛大なつもりである。 もし弟と葉月さんの間に甘い空気が流れ始めたら俺はしばらく家を出て時間をつぶす。 人の恋路を邪魔して、その後で馬に蹴られて死ぬ予定は俺にはない。 472 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/10/16(火) 11 51 35 ID 3EWtNrIn ただ、弟と葉月さんが付き合いだすには、一つの障害がある。三兄妹の末っ子の、妹のことである。 今では立派なブラコンに成長してしまった妹は、葉月さんを快く思うまい。 いや、心証を悪くするだけならまだよい。あくまでも勘であるが、ただごとでは済まない気がするのである。 具体的には、昼ドラ的な展開が起こりそうな気がするのだ。 あの、『この泥棒猫!』がリアルに聞ける可能性が大である。 オプションとして妹が葉月さんに包丁を向ける可能性もなきにしもあらず。 しかも演じるのはベテラン女優ではないにしても、シリアスに怒っている妹である。 思わず身震いするような気迫を放ってくれるに違いない。 現場に居合わせたくはない。録画した映像で俺は満足できるから。 とはいえ、妹が怒りに燃えるとなると、間違いなくその場に居合わせるであろう弟と葉月さんが 無事で済むという保証ができなくなる。 やはりここは妹を外に連れ出して、弟と葉月さんの2人っきりにさせるのがベストであろうな。 さあ、妹を外に――――――どうやって連れ出す? 如何なる手段をもって妹を外に連れ出そうなどと考えついたんだ、俺は。 連れ出せるわけがないだろう。なにせ妹は俺を嫌っている。いや、それ以前にどうでもいい存在に思っている。 同様の理由で妹を引き留めるのも不可能。 そんな絶望的な条件下で、どうやって同じ屋根の下にいる弟と妹と葉月さんを鉢合わせさせないようにできるのだろう。 俺と弟で家を出て葉月さんを迎えに――行ったら、おまけに妹もついてくるか。 仕方がない。今から電話をかけ直して葉月さんに、今日は来ないでくれ、と言おう。 こちらから誘っておいて来るなと言うのも失礼だがこの場合は仕方がない。 弟と葉月さんには、この家以外の場所で会うようにしてもらおう。 慣れない弟の携帯電話を操作し、葉月さんにリダイヤルしようとしたときである。 ピンポーン、という間延びした音が鳴った。来客が玄関のチャイムを押したのであろう。 つまり、今この家の玄関に来客が来ているということになる。 携帯電話で時刻確認。7時50分。 この時間に突然の訪問者は現れることは稀にあるが、今日ばかりはそれとは違うように思える。 おそらく、玄関のチャイムを押したのは葉月さんだ。 来るのが早過ぎるぜ、葉月さん。通話が終了してから10分も経っていないじゃないか。 葉月さんの家は、この家のすぐ近くなのか? いや、電話をかけてきたとき、すでにこの家へ向かっていたのであろう。だからこんなに早く来られたんだ。 葉月さんが我が家の玄関まで来てしまった以上、出迎えに行かない、というわけにはいくまい。 おお、そうだ。俺が出て葉月さんに帰ってくれるよう頼めばいいじゃないか。電話をする手間が省けた。 部屋を出て、玄関へと向かう途中のことである。2人分の話し声が聞こえた。 「弟君、おはよう」 「おはようございます、葉月先輩。今日は、やっぱり……」 「うん。昨日のことをちゃんと聞こうと思ってきちゃった」 「わかりました。じゃあ早速中へどうぞ」 足音が玄関の方向から伝わってきた。即座に自室へ引き返す。 しばらく待っていると2人分の足音は部屋の前を通り過ぎ、リビングへと向かった。 危なかった。別に弟と葉月さんに会って危ないということではないが、つい逃げてしまった。 昨日、あんなかたちでふってしまったから、葉月さんと顔を合わせたくなかった。だからつい逃げてしまった。 チキン。ヘタレ。臆病者。なんとでも罵れ、自分。俺はこんなやつなのだから。 473 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/10/16(火) 11 52 37 ID 3EWtNrIn 部屋を出て、廊下からこっそりとリビングの音声を聞く。 「葉月先輩、コーヒーでいいですか?」 「うん、ありがと。ねえ、弟君」 「はい?」 「私って、魅力が無いのかなあ……?」 自信なさげな声であった。 俺は葉月さんに魅力がない、とは思わないのだが。 「僕はそんなことないと思います。同じクラスの男子も先輩は美人だって言ってますよ」 この辺の考えは俺と弟は一致しているらしい。というか大概の男なら同じ意見であろう。 「じゃあ、どうしてあんな簡単にふられちゃったんだろ。私嫌われてるのかな、お兄さんに」 俺が葉月さんをふったということは、弟に伝達済みらしい。 俺は弟に話していないから、葉月さんから話したのであろう。 「うーん……兄さんは先輩みたいなひと好きそうなんですけどね。 どうして断ったのか、僕にもよくわからないです」 「そう……」 弟よ。本当にわからないというのか? 目の前にいる葉月さんが、お前を強く想っているということが。 彼女の目をよく見ろ。どこまで鈍感なんだお前という男は。 いや、鈍感であるから弟は女性にもてているのか? むう。こうなったら俺も負けじとニブチン男になってやろうか。 しかし、如何なる訓練を積めば女性の好意に気づきにくくなれるのであろう。 うむむ……思いつかん。やはり鈍感というのは天賦の才なのか? 「ねえ、弟君。お兄さんは今どこ?」 ぎくり。 「部屋にいますよ。先輩が来ても出てこないってことは、寝てるんじゃないんですか。 昨日は徹夜してたみたいだから。見に行きます?」 見に行く?まるで動物園にいるシカを見物しにいくような調子ではないか、弟よ。 それに出てこないのは寝ているからではなく、葉月さんと顔を合わせたくないからだぞ。 交際を断った昨日の今日で正面から話せるわけがないだろう。そのへんの事情を察して発言しろ。 「うん……でも、私……もしかしたら嫌われてるかも。だから会ってくれないんじゃ……」 「大丈夫ですって。兄さんも一晩過ぎて先輩と付き合わなかったことを後悔してる頃ですよ。 もう1回告白すれば、きっとオーケーしてくれます」 このアホ弟!なぜ葉月さんの好意に気づかない! 葉月さんが俺に告白してきたのは、お前に近づくためなんだぞ! 本気で好きじゃない男に告白してまでお前に近づきたいと思っているんだ! 彼女はそこまで思い詰めているんだぞ! 「うん……わかった。もう1回言ってみる。このコーヒー飲み終わったら行くよ」 ええい、葉月さんも葉月さんだ。 なぜ二人っきりのシチュエーションだというのに甘い空気へ持っていかない。 恋の勝負はチャンスを逃せばそれでおしまいなんだぞ。いや、よくわからないけど、たぶんそう。 ちい。このままでは葉月さんと顔を合わせることになってしまう。 そうなったら、昨日なぜ告白を断ったのか問い質されてしまう。 それに対して洗いざらい吐いてしまうという手段もあるが、できればそれはしたくない。 いくら葉月さんが嘘をついているとはいえ、当人の前で嘘を暴いてしまったら傷つくだろう。 早く家から出よう。葉月さんから逃げるんだ。 目に涙を溜めた儚い表情の葉月さんから告白されて、また断れるかはわからない。 ふとした弾みで頷いてしまうかもしれない。 それだけはしたくない。また後になってふられてしまって、苦い思いを味わいたくはない。 前の彼女みたいに、葉月さんを心の底から嫌いになりたくない。 474 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/10/16(火) 11 55 58 ID 3EWtNrIn 立ち聞きしていた場所から玄関へ向けて一歩踏み出したそのときである。 カチャ、という丁寧な音が聞こえた。リビングのドアが開く音に似ていた。 似ているということはつまり本物の音である可能性もあるわけで。 もし今の音がリビングのドアが開く音であると仮定した場合、後ろには葉月さんがいる、ということになる。 逃げ遅れてしまった。 ああ、何を言われるのであろう。もしかしたらあの手紙での告白以上に熱烈であり、しかし嘘である告白を してくれるのであろうか。 いやそれとも、葉月さんが言いそうにない罵詈雑言をたっぷりぶつけてきてくれるのであろうか。 不意に、家の前の道路を自動車の走行音が通り過ぎた。そして、排気音の響きが止んだころである。 「誰よ! あんた!」 いきなり妹の怒声が背後からすっ飛んできた。 脳に残っていた朝特有の爽快な気持ちの残滓が、今ので全て吹き飛んだ。 振り返ると、確かにリビングのドアは開いていた。しかし葉月さんはそこにはいなかった。 代わりに、妹の後姿が廊下へ少しだけはみ出していた。妹はリビングへ向けて怒鳴っていた。 「なんで朝から人の家に上がりこんでいるの!」 弟と葉月さんが一緒に居る光景を妹が見たらまずい空気になるだろうとは思っていた。 だが、妹の調子は最初から怒りの方向へまっしぐらであった。いきなり臨戦態勢になっている。 体を後ろへ方向転換し、リビングへ向かう。 リビングの入り口から見えたのは、まず妹のセミロングの黒髪であった。 その奥に、致命的な失敗をしましたと物語っている表情の弟と、きょとんとしながらコーヒーカップを 持ち上げている葉月さんが、一つのテーブルに向き合うように座っていた。 2人の視線は妹へ固定されている。妹は視線を一身に受けながら叫ぶ。 「答えなさいよ! どういうつもり?!」 「落ち着けって。この人は葉月先輩。兄さんのクラスメイトの人だよ」 表情を普段のように柔和にした弟が言った。 「先輩……?」 「そうよ。よろしくね、妹さん」 葉月さんは微笑みながらそう言ったのだが、妹の感情は落ち着いてくれなかった。 「何しにきたの……? もしかして、お兄ちゃんを奪いにきたの?」 「奪う? どういう意味?」 「お兄ちゃんを誑かして、この家から連れ去る気だったんでしょ!」 「誑かす? え?」 「絶対に、お兄ちゃんは渡さない! お兄ちゃんは私とずっと一緒にいるんだから!」 「え……なに、それ」 葉月さんが困惑している。 まあ、無理もない。いきなり目の前でブラコン宣言されたのだから。 しかもそのブラコンっぷりが兄弟愛のレベルを超して、男女の愛であることを匂わせるようなものであったから、 なおのこと葉月さんには理解し難かったろう。 475 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/10/16(火) 11 58 18 ID 3EWtNrIn 葉月さんはようやく俺に気づいたようだった。妹を挟んで、見つめ合う。葉月さんから話しかけてきた。 「ねえ、どういうこと、これ」 「その……見ての通り、妹はこういう人間なわけで」 「もしかして昨日の告白を断ったとき、理由を言えなかったのって、妹さんのせい……? 妹さんが好きだから、私を拒絶したの?」 ふむん?妹の話をしていたというのに、なぜ昨日の告白の話になるのであろう。 それに、俺が妹を好き?好きか嫌いかで言わせれば好きである。ラブではなくライク。 「確かに妹のことは家族として大事に思ってるよ。けどそれと昨日……のことは関係ないよ」 「……嘘。今、返事するまで間があった。ごまかすために、言い訳を探してた」 それ、言いがかりですから。 返事に窮しているときは嘘を考えているときである、なんて乱暴すぎる。 俺が嘘を吐いていないと困ることでもあるのだろうか。 嘘を吐いているということにすれば、昨日葉月さんをふった理由になるからかもしれない。 なるほど、それなら今の言いがかりが葉月さんの口から飛び出してもおかしくはない。 だがその言いがかりは絶対的に真実ではない。 だって葉月さんは、俺の「妹のことを家族として大事に思っている」という台詞を嘘だと思っているのだ。 つまり、葉月さんはこう言いたいのだ。 「妹さんが好きなんでしょ? だから昨日、何も言えなかった。そうでしょう?」 ありがたくも葉月さんが脳内の台詞を代弁してくれた。 そしてその台詞はとうてい無視できるようなものではない。 「違うよ。俺が昨日あの返事をしたのは…………別の理由があるからなんだ」 「じゃあ、それを教えて」 「言えないんだ、どうしても。ごめん」 「……ほら、やっぱり嘘を吐いてる。バレバレだよ」 真実を語っているというのにそれを相手が信じない。 俺が隠し事をしているからそう思われているだけかもしれないが。 「そうなんだ。妹がいいんだ……だから、私をふったんだ……」 ゆっくりと椅子をひき、葉月さんは立ち上がった。 葉月さんの目は、今まで俺が目にしたことの無いような――いや、どこかで似たものを見た気もするが 思い出せない、暗い色をたたえていた。 妹が、俺と葉月さんを結ぶ空間に割り込んできた。 「帰って頂戴。お兄ちゃんは私とずっと一緒にいるの。この家でずっと暮らし続けるの。 あなたが割り込む隙間なんか、一ミリだってありはしない」 「……あなただったのね。あなたがいるから、彼は私を拒んだんだ。 あなたの言うことは、少しも聞き入れられないわ。だって、私はあなたのお兄さんを好きなんだもの」 「お兄ちゃんを……?」 「ええ、そうよ。諦めなさい。兄妹が結ばれることなんか、ありはしない。絶対にね」 「そんなことない! だってうちの両親は……」 ――まずい! 「言うな!」 叫んだのは弟。タッチの差だった。もし弟が言わなかったら、俺が妹を止めていた。 「そのことは、言っちゃダメだ。家族だけの秘密なんだから」 妹は弟の言葉には返答せず、ただ頷きだけしてみせた。 476 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/10/16(火) 12 00 05 ID 3EWtNrIn しかし妹の勢いは少しも静まっていなかった。再度葉月さんに食ってかかる。 「世間では兄妹同士は結婚できないって言うわ。けど、結婚なんかしなくたって一緒には居られる。 私は、結婚できなくてもいい。ただお兄ちゃんと暮らせればそれでいい。 だけど、その生活には誰も割り込ませない。特に、あんたみたいな泥棒猫にはね!」 「本気なの? そんな馬鹿げた考えが世の中で通用すると思っているの? きっと、あなたの両親も親戚もあなたの考えを認めないわ。2人別々の道を歩かせようとする。 そんなとき、あなたは立ち向かえるの? 悪いことは言わないわ。よしておきなさい。 お兄さんへの感情なんか、所詮兄弟愛を超えるものになりはしないんだから」 「あんたに何がわかるのよ! お兄ちゃんのことなんか、何一つ知りはしないくせに!」 「そうね。まだ少しだけしか知らないけど、私は全てを受け入れるつもりでいるわ。 そして、妹であるあなた以上に彼のことを理解してあげられる。私なら、それができる。 お兄さんの幸せを願うなら、お兄さんの一生を壊したくないのなら――諦めなさい」 葉月さんは、まったく妹の考えを認めていなかった。 兄妹の恋愛など、絶対に成立しない。むしろ、相手のことを思うならば諦めるべきだと、そう語っていた。 葉月さんの言葉は俺に直接向けられたわけではないが、どれだけ妹にとって残酷な台詞だっただろうか。 両親が兄妹同士でありながら結ばれたのと同じように、自分と兄も一緒になれると思っていた妹。 きっと妹は、正面から自分の考えを否定されたことなどなかったろう。 両親は我が身を省みては何も言えなかったはずだ。俺は妹に説教したことはない。 おそらく、弟も何も言っていない。弟は妹に優しいから。否、誰に対しても優しいから。 だから、初めて妹に説教した葉月さんに対して、妹が反発するのは当然のことであった。 「この……! あんたなんかに、お兄ちゃんを幸せにできるはずがない! どうせ誰にでもそんなこと言ってるんでしょ! 美人はいいわね、男に不自由しなくって!」 「私、誰とも付き合ったことなんかないわよ? おまけに言うと、あなたのお兄さんに会うまで、 誰かを好きになったことすらなかったもの」 そうだったのか? 葉月さんの初恋は弟だった? なんて果報者なんだ、弟よ。できたら俺と代わってくれ。妹はお前に譲るから。 「嘘! 嘘よ! あんたなんか、あんたなんか……」 「私なんか、何?」 「あんたなんか……死んじゃえ! お兄ちゃんの前から、消えてしまえ!」 突然妹が葉月さんへ向かって駆けた。後ろにいた俺は止めることさえできなかった。弟も同様であった。 ただ、妹が葉月さんに両手を伸ばし――突然宙を舞い、床に叩きつけられるのを見ているだけだった。 「がっ! ……あっ…………ぐ、ごほっ、ごほっ!」 ずだん! という音と共にフローリングの床の上に背中から着地した妹が、激しく咳き込んだ。 妹の位置は、葉月さんの斜め後ろ。着地地点には何も置かれていなかったことが幸いだった。 何が起こったのかは理解できた。葉月さんが妹を投げたのだ。 細かくは見られなかったが、一瞬で妹の体が頭上まで浮いたシーンは目に焼き付いている。 その際に妹のスカートの中身も見えた。青と白のしましまであった。だがそんなことはどうでもいい。 「葉月先輩、いきなり何を!」 妹の背中をさすりながら、弟が言った。 「いきなり襲いかかってきたんだもの。正当防衛よ」 「だからって、いきなりこんな!」 「聞き分けのない子供には、誰かがしつけをしてあげないと。それがその子のためよ」 弟と妹を見下ろしていた葉月さんの視線が、俺へと向けられた。 たじろがず、正面から見つめ返す。ここで引くことはできない。 ――あれ、なんで俺はそんなことを思うんだ? 理由は、思い出せない。兄として妹を守らなくては、という意識のせいであろうか。 ただ、どうしても弱気にならない。葉月さんのナイフのような目が俺に向けられていて怖いと思っているくせに、 体だけは恐怖を覚えない。 今なら、包丁が正面から飛んできても突っ込めそうだ。体が心を鼓舞してくれている。 477 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/10/16(火) 12 01 42 ID 3EWtNrIn くすり、と葉月さんが笑った。 おかしいから笑ったのか、嬉しくて笑ったのかはわからない。 「見た? あなたの妹さん。おとなしそうな外見とは違って凶暴なのね」 「……そうだね」 「実は私の実家、道場を開いててね。ときどき練習にお邪魔させてもらっているの。 だから、さっきみたいに襲いかかられるとつい体が反応してしまうのよ」 「なるほどね」 昨日、屋上で俺を地面に組み伏せることができたのは武道の心得があったからなのか。 ぱっと見ただけではそういうことをしている人には見えないが、美人には謎が多い方がいい、 とか誰かが言っていたから、葉月さんに意外な一面があってよかったと思うとしよう。 しかしそんなことを聞いても、この場では緊張の種にしかならない。 いったいどれほどの実力者なのか、話を聞いただけでは推測できなかった。 理想としては初心者レベルであって欲しいが、一瞬で妹の体を投げ飛ばす人が軽く武道をかじっただけなら 師範クラスの人はどこまで化け物なのかわからなくなり空恐ろしいので、葉月さんは中堅クラスとお見受けする。 まあ、武道を習っている時点で脅威であることに代わりはないか。 俺がそんなことを考えているうちに、葉月さんは妹に向き直っていた。 「妹さん。お兄さんのこと、諦める気になった?」 いいえ、と答えることを許さない口調である。 妹は咳を吐き出していた胸を鎮め終わったところだった。 床に手を着きながら立ち上がる。が、体をぐらつかせて弟に支えられた。 それでも、葉月さんに敵意を向けることだけは忘れない。 「誰が諦めるか……。お兄ちゃんは、私の、ものよ」 「まだそんな口を叩けるのね。本当はやっちゃいけない投げ方で投げたのに。 なんなら、もう1回いっとく?」 「やれるもんなら、やってみなさいよ……。近づいた瞬間、あんた喉笛を噛み切ってやる。 投げようとしたら、その時に肘をへし折ってやるから」 実に勇ましい台詞ではあったが、それが強がりであることは俺にもわかる。 おそらく葉月さんもそれを理解している。 妹の執念は、蛮勇をもってしてどうにか支えられている状態であった。 「そう。じゃあ、涙と鼻水を流しながらごめんなさいするまで、痛めつけてあげましょうか」 葉月さんが一歩踏み出す。妹は歯ぎしりをさせつつ、葉月さんをきつく睨む。 その雰囲気に危険を感じた俺よりもいち早く、弟が妹をかばうように抱きしめた。 「やめてください、先輩」 「どきなさい、弟くん」 「嫌です」 「どうしても?」 「絶対に、絶対に嫌です。先輩が何をしようと、どきませんから」 「そんなふうに妹さんをかばうから、わがままな妹さんになってしまったとは思わない?」 「僕は、先輩が何を言っても絶対にどきません」 弟はすでに葉月さんも妹も見ていない。ただ目を閉じて妹を抱きしめていた。 そして、抱きしめながら言う。 「先輩、『妹をいじめないで。いじめないでください』」 2つの写真を用いた間違い探し。それの正解を見つけたときの閃きに似た、既視感が脳をよぎった。 同時に、悲しくなり、寂しくなる。 叫びたくなった。けれどそれが喉にある堤防のようなもので止められ、やはり叫べない。声も出せない。 恐怖だった。俺は恐怖を思い出していた。弟の言葉が引き金になって。 『妹をいじめないで』。妹をいじめないで。ただこれだけで、どうしてここまで心が揺れ動く? 何かが思い出せそう――なんだけど、何かの影しか浮かんでこない。何かの正体が掴めない。 探れば探るほど、影は薄くなっていく。そして――あっというまに見えなくなった。 478 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/10/16(火) 12 03 52 ID 3EWtNrIn 夢想から覚めた時、目の前には以前と同じ光景がまだ残っていた。 葉月さんと妹はにらみ合っていた。弟は妹の体を横から抱きしめていた。 妹が葉月さんへ飛びかからないように、また同時に葉月さんが妹に手を出せないように、抱き留めていた。 「いじめるだなんて。別にそんなつもりはないんだけど。ただ妹さんに考えを改めてほしいだけなのに」 「けど、そのためなら先輩は妹をいじめるんでしょう? 同じことです」 「強情ね。その妹を守ろうとする姿勢はいいのだけれど、そのせいで自分の身が危険にさらされている、 ってことわかってる?」 「……もちろんです」 「それでもどくつもりはない、ってわけ。いいわ。だったら、君も……」 君も?弟も妹と同じ目に合わせるつもりか? どうしてだ。どうして、葉月さんは自分の好きな男に対しても憎悪を向けるんだ? もしや、妹への憎悪で我を忘れているのか? こんなことはやめてほしかった。ここが俺の家であるという要素を抜きにしても、骨が軋み皮膚が 裂かれてしまうような争いは、葉月さんにも妹にもしてほしくない。 2人ともただ弟が好きなだけで、その気持ちは似通っているはずなのに、ぶつかり合ってしまう。 似たもの同士であるはずなのに、磁石のSとNが弾かれるように、太極の陰と陽が交わらないように、 葉月さんと妹はわかり合おうとしない。 諍いが、どちらか一方が弟からの恋や愛を独占するためのものであることなどわかっている。 決着が、どちらかが諦めるまではつかないということもわかっている。 また、どちらも決して諦めないということも。 この場にいる俺はなにもせず、終わる目処の立たない争いをじっと見ているつもりか? 俺は何のためにここにいる?俺がここでできることは何もないのか? そんなことはないだろう。この3人にはできない、何かが俺にはできる。 3人とは違うからこそ、成せないこともあれば成せることもある。 母性本能をくすぐると女子生徒の間で評判の弟にも、可愛い顔をしながら弟以外の男に興味を持たない 妹にも、クラス一の美少女でありながら意外と怖い葉月さんにも、できないことがある。 そうとも。この修羅場を鎮めることができるのは、俺だけしかいないんだ。 「葉月さん」 呼びかける。葉月さんが端正な横顔を向け、目線を流してきた。 「ごめんね。ちょっとだけ待ってて。妹さんをすぐにしつけの行き届いた犬みたいに従順にしてあげるから」 微笑みを見せながら、葉月さんが言った。 その笑顔も、俺が立ち向かわなければならないものであると、自分に言い聞かせた。 「妹にも、弟にも手を出さないでくれ。いや、出させない」 「え? 何、言ってるの?」 「目の前で、妹が痛めつけられるのはもう見たくない。だから」 葉月さんの白い右腕を掴む。思っていたよりもずっと、彼女の手首は細かった。 「悪いけど、今日は帰ってくれ。葉月さん」 きっぱりと告げて、その場できびすを返して葉月さんの腕を引く。 突然、足裏が床を滑った。床がベルトコンベアになっているみたいに、後ろへ無理矢理動かされた。 体は壁に叩きつけられてからようやく止まり、短いうめき声を吐き出した。 今のが葉月さんの仕掛けた技だとは理解していた。 彼女の手首を握った瞬間から、こうなることは覚悟していたからだ。 だから、まだ俺の手は葉月さんの手首と繋がったままだった。 「妹さんを庇うの? そんなに、妹さんが大事?」 平らにした目で葉月さんが見下ろしてくる。 返事の代わりに、腕を引っ張って意志を伝える。妹は大事にしたい人だよ、葉月さん。 それが不快だったのか、それとも最初からこのつもりでいたのか、葉月さんは俺を持ち上げた。 いや、俺の感覚からすると持ち上げられたというよりも、自分の超能力で浮いたと言った方がふさわしい。 もちろん俺に超能力など無いが、もしあったとしての話。 浮遊の後は、重力に逆らうことなく、今回はテーブルの上に落っこちた。 頭のすぐ横で猫の絵が描かれたカップが倒れて、中身をテーブルにぶちまけた。 コーヒーは熱を持っていなかったが、頬をべったりと濡らして俺を不快にさせた。 479 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/10/16(火) 12 07 41 ID 3EWtNrIn 強制的な宙返り運動の余韻に苛まれながらも、俺はまだ葉月さんの手を離していなかった。 この手を離したら終わりだという意識が働いていたからだろう。 「離してよ! 離してったら!」 葉月さんが俺の手を外そうとしている。だが当然のごとく俺は抗うわけであり、簡単に事は運ばない。 右に目を向けると、揃いも揃って目を大きくした弟と妹の姿があった。 なんだかおかしかったので、やあ、とでも挨拶したい気分になったが忙しかったのでやめた。 唐突に浮遊感が襲来した。俺の体はテーブルからテイク・オフ。 今回はひと味違い、回転運動が加わっていた。葉月さんを中心にして、リビングの宙を舞う。 テレビ、ソファー、窓ガラス越しの朝の風景、顔面蒼白の弟、いつもと違う眼差しで見つめてくる妹、 無人の整頓されたキッチン、リビングのドア。 あらゆるものがカラフルな線へと変容し、俺の目の前を通り過ぎていく。否、俺が通り過ぎているのか。 空中回転木馬によるフライトは、固いものに体がぶつかってようやくの終焉を見た。 意識が千々に乱れていて、自分が衝突した場所を理解するまで手間取った。 俺は右にある茶色の壁にもたれていた。よし、生きてるな。 続いて平衡感覚と視界を再構成する。 あれ――おかしい。葉月さんと弟と妹、さらにあらゆる景色までが右側の壁に垂直に立っている。 これだけの短時間に地球の重力は歪んでしまったのか?ではなぜ俺だけが正常なんだ? いや、待て。もしかして……。 目を閉じる。スリーカウント。ワン、ツー、スリー。目を開ける。 ……ああ、さっき見たのは間違いだった。周りがおかしいんじゃなかった。 俺が床に倒れていたから、景色が90度回転して見えたのだ。 体が重い。床に引っ張られているような感じだ。 努力して上半身はどうにか起こせたが、膝が笑っていて立つことができない。 すでに俺は葉月さんの腕を離していた。俺と彼女の間には1メートル強の距離がある。 葉月さんが妹に手を出していたら、とても止められない距離であった。 だが、葉月さんは視線を俺へと向けることに集中していた。 弟と妹も俺を注視していた。俺は唇だけで小さな笑いを作る。 手近にあった壁を支えにして立ち上がり、再度葉月さんと対面する。 「気が済んだ? 葉月さん」 「なんで……なんでそこまでして、必死に庇うのよ」 葉月さんが悔しげな顔で俯いた。ロングヘアーも地面へ向けて垂れる。 「そんなに妹さんが好きなの? 私の告白は断ったのに! 未練なんかこれっぽっちも見せなかったのに!」 叫び声が肌を襲う。皮膚の表面の毛を軒並み震わせる。そんな錯覚までした。 俺の腹の虫が機嫌を損ね始めた。どうして今さら、この人は。 「妹さんを見なさいよ! あなたがこんなになっても、どれだけ必死になっても庇ってくれない! 動こうとしない! 私はあなたのためならなんでもする気なのに、それでも絶対に拒絶するの?! 妹が好きなら、はっきりそう言えばいいじゃない! 私なんか嫌いだって、そう言えばいいじゃない!」 そっちこそ、本音で語ってくれないくせに。 ――もういいや。吼えよう。全部吐き出そう。 「葉月さんが本当は俺のことなんか好きじゃないって、俺にはわかってるんだよ!」 自分の声で耳鳴りがした。それでも口はいくらでも働いてくれる。 「俺のことなんか少しも興味なんか無いんだろ? だからいつも話をするとき、弟のことしか聞いてこなかったんだろ! 葉月さんが弟のことが好きだってとっくに俺は知ってるんだよ!」 葉月さんの顔に驚きが見えた。思惑を言い当てられたんだから当然だ。 しかし、弟も同様に表情を変化させたのはなぜなのであろう。 まあいい。今は葉月さんだ。 「俺と嘘の付き合いをして、弟と仲良くなろうとしてたことなんてバレバレなんだよ! もう昔みたいな経験をするのはたくさんだ! 好きになってくれないって知っているのに、 付き合おうなんて言えるもんか! 葉月さんこそ本気になれよ! 真剣になれよ! 勇気を出して、弟に正面から告白すればいいじゃないか!」 震える腕を奮い立たせ、びしっ、と葉月さんの顔を指さす。 ああ恥ずかしい。思ってたこと全部吐いてしまった。 もう頭の中がからっぽだ。言いたいことなんか一つもねえ。おかげですっきりしたけど。 480 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/10/16(火) 12 10 10 ID 3EWtNrIn 腕を下ろす。果たして飛んでくるのは葉月さんの怒声か、鉄拳か。 何にしても、もうガス欠である。敗北必至。四面楚歌。 しかし、身構えていても何も起こらない。 変だ。俺の口撃から10秒は過ぎている。なのに反撃がこない。 葉月さんはまるで未知の数式に相対したかのような微妙な表情で俺を見ていた。弟もである。 「あの……………………兄さん」 なぜ弟が口を開く。 「なんだ、弟。しばらく大人しくするか、逃げるかしてくれ」 「言いたいことがあるんだけど、言ってもいいかな。結構大事なことなんだけど」 この場で発言しなければならない事項が弟にあるとは思えないのだが。 「いいぞ。言ってみろ」 「うん、あのね、兄さん」 いつの間にか、葉月さんと弟が微笑み顔を浮かべていた。 なんだ?この学園ドラマでよく見る喧嘩の和解シーンのような空気。 妹は困惑顔のままである。たぶん俺も同じであろう。笑っている2人の思考が読めないから当たり前である。 葉月さんと弟は一度顔を見合わせて笑い合うと、俺を見た。 二人揃って、先ほど俺がしたように人差し指を突きつけてくる。そして、口を開く。 「勘違いしてる」 ***** 「ごめんなさい。本当にごめんなさい」 俺は謝っていた。後で見たら可哀想になるぐらいかしこまりながら土下座をしていた。 もはや土下座組にでも入った心意気であった。上手に謝らなければタマをとられる。 謝罪の意志を向ける対象は葉月さんである。 「勝手に勘違いしてごめんなさい。ひどいこと言っちゃってごめんなさい」 「い、いいよ、もう。そんなに謝られても困るし……私にも悪いところあったと思うし。 紛らわしいことしちゃって、ごめん」 俺と葉月さんがいるのは、家の玄関である。 そこで俺は平身低頭、必死に頭を下げているのであった。 「本当にごめん。俺、昔っからこうで。告白とかされると、疑いから入ってしまうんだ」 「もういいって言ってるのに……。でもよかった。私のことが嫌いなのかとか、 他に好きな女の子がいるのかとか考えちゃってたから。よく考えたら、妹に恋するわけないよね」 あはは、と葉月さんが恥ずかしそうに笑った。俺は父親とかを思い浮かべつつも、笑顔を見せた。 さっきの一件は、俺の勘違いが原因で起こったのである。 事は、俺が『葉月さんは弟が好きである』と勘違いして告白を断ったことからまず始まる。 ふられた原因を確かめようとこの家にやってきた葉月さんは、弟と会話しているシーンを妹に目撃された。 兄(弟の方)ラブの妹は、葉月さんが兄を奪う泥棒猫であると勘違いした。 妹にとっての『お兄ちゃん』(俺はお兄さんと呼ばれている)が俺のことであると勘違いした葉月さんは、 妹が邪魔者であると勘違い。掴みかかってきた妹を投げ飛ばした。 そこへ、頭がパーになっていないとやらないような勘違いをした俺が乱入し、リビングは戦場になった。 というわけである。 発端は俺、終末も俺。何やってんだ俺。 ああ、あと十回くらい投げられた方がいいかも。そしたら頭が正常に戻るかもしれないし。 今度葉月さんの道場を覗きに行こうか。うん、星座占いで一位だったらお邪魔しに行こう。 481 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/10/16(火) 12 12 40 ID 3EWtNrIn ***** 今の私は、嬉しさと恥ずかしさで泣きそうな気分だ。 だって、彼に恋人がいないという確信が得られた代わりに、3回も投げてしまったのだから。 目の前で彼が正座しながらまた謝ろうとしてくるのを、私は肩を掴んで止める。 「謝らせてくれ、葉月さん。俺みたいな人を信じられない奴は、こうしなきゃならないんだ」 「あの、あんまり謝られても困るから、その……この辺りでやめてほしいな、私」 「ああ! ごめん。また俺は勘違いを……」 らちがあかない。こうなったら、強引に話題を変えてしまおう。 「あのさ、告白の返事。まだちゃんとした返事してもらってないかなー、なんて思うんだけど」 恥ずかしいなあ。昨日屋上で向かい合ったときよりずっと恥ずかしいよ。 どうしよう。顔、紅くなってないよね? 「返事、もらえないかな。ここで」 ――言っちゃった。また言っちゃった。 ああどうしよう。今すぐに答えを求めなくてもいいのに。 彼に性急な女だと思われないかな? 彼は頭を掻きながらうー、とか、あー、とか呻いている。 わかる。彼は今、真剣に私の告白について悩んでくれている。 彼が私のことだけ考えてくれてる。 もしかしたら、私とデートするシミュレーションを頭の中で考えたりしてる? 喫茶店に行ったり映画館に行ったり海に行ったりするところとか。キ……キスするシーンとか。 いやもしかして、それより先に……ああ、でもそれはまだ早いよ……でも、あなたとなら……。 「――――きさん? 葉月さん?」 「えっ、あっ?!」 「大丈夫? 具合でも悪い?」 「ううん! 平気平気。私健康と頑丈さだけが取り柄みたいなものだから!」 ちょっとトリップしてたみたい。唇を指で撫でる。よかった、よだれは垂れてない。 彼が私の目を見据えている。自然と私の体は金縛りにあったみたいに固くなる。 「告白の返事なんだけど」 「う、うん……」 ああ、何を言われるんだろ。――ううん。断られたっていい。 彼には何遍だってアタックしてみせる。 何度投げられたって意志を曲げなかった彼に、私はさらに惚れ込んでいるのだから。 彼が、躊躇いがちに口を開く。 「オーケーとは、言えない。ごめん」 ああ、やっぱりか。覚悟はしていたけど、はっきりと言われるとやっぱり辛いなあ。 仕方ないよね。さっきあんなに投げちゃったんだから。嫌いって言われないだけマシだよ。 私が肩を落としていると、また彼はしゃべり出した。 「俺さ、女の人と付き合う時は自分から告白しようって決めてたんだよね。昔変な経験したから」 「?」 「だから、女の人から告白では、付き合わないつもりなんだ。こんなの聞いたら男は怒るだろうけど、 どうしようもないんだ。体がどうしても受け入れてくれない。それでね、じゃなく、けれども……俺は」 彼の顔が紅くなっている。初めて見た。うわ、なんだか可愛い。 「もう少し葉月さんと仲良くなりたい。前からそう思ってた。俺、葉月さんのことろくに知らないから。 つまりどうしたいかというと、あのですね」 彼が白い携帯電話を取り出した。私のと同じ電話会社のだ。嬉しい。 「携帯電話の番号とメールアドレスを教えてください」 ――要するに、彼は、いつでも私の声を聞きたいと。 ――どんなときでも私からの連絡をお待ちしていますと。そういうことですね?そう受け取っていいんですね? そして、自分から告白したいというさっきの台詞は、いずれ私に告白してくれると。そういうことですね? 「いいかな? 葉月さん」 好き好き大好き愛してるアドレスだけじゃなくってスリーサイズもカップも敏感なところも全部教えてあげますよ、 とは言わない。実はすでにあなたに朝電話をかけたのは私です、とも言わない。ただ、私は頷いた。 こみ上げてくる気持ちを涙に変えないよう、じっくりと噛みしめながら。 482 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2007/10/16(火) 12 15 20 ID 3EWtNrIn ***** ごめんクラスの皆、すまない後輩諸君、許してください先輩方。俺はヘタレです。 みんなの憧れ、葉月さんからの告白を断ってしまいました。身勝手な理由で。 さらに、葉月さんの好意を利用して携帯電話の番号とアドレスを聞き出してしまいました。 彼女の気持ちが俺にまだ残っていることを察していながら、そんなことをしたんです。 いくらでも罵ってください。俺は美人の葉月さんとのつながりをこれっきりにしたくなかったんです。 浅ましい人間なんです。下劣な下半身が主の人間なんです。そして低脳の勘違い人間でもあるんです。 でも俺は後悔していません。それだけは事実です。 さて。まだまだ足りない気もするが、内省はこれぐらいにしておくとしよう。 葉月さんが帰ってからリビングへ移動すると、床に散らばった小物を拾い集めている弟の姿があった。 妹はキッチンへ移動して、フライパンをガスコンロの火で炙っていた。朝食でも作っているのであろう。 弟の手伝いをすべく、床に落ちた割れたコップの破片を拾い集める。 左手に乗せた破片が、突然弟の手によって取り上げられた。 「何をする。弟よ」 「兄さんは座ってて。僕がやるよ」 「何を言う。さっきの喧嘩は俺のせいで起こったようなもんだ。俺がやるのが当然。 お前こそ椅子に座って朝食を食べてろ」 ふう、と弟はため息を吐いた。続いて目をつぶりながらかぶりを振る。 「なんだ、その呆れたことをあらわすようなジェスチャーは」 「兄さんはどれだけ立派なことをしたか、自覚がないんだね」 「立派なんて言葉、俺には十年早い」 ヘタレだもん。 「そんなことないよ。昔みたいに、僕と妹を庇ってくれた」 「庇ったって……結果的にはそうなるけど、そりゃ普通のことだろ」 昔っからああするのが当然だったんだ。今さら感謝されるほどのことでもない。 ――ん、昔? 「なあ、昔お前か妹がいじめられてたことなんかあったか? 記憶にないんだけど」 「やっぱり忘れてるんだ。兄さんは」 兄さん『は』ってなんだ。俺が馬鹿みたいじゃ――はい、脳みそツルツルピカピカでした。ごめんなさい。 しかし、弟にしては珍しく思わせぶりな口調だな。 「お前、何か俺に隠し事してないか?」 弟は首を振る。 「兄さんも知っているはずのことだから、あえて言わないだけだよ」 ふむん?俺は既知のはずである、と? 思考の海へボートで出て、オールで漕ぐ。――だめだ。いくら漕いでも目的地にたどり着けない。 靄がかかっているし、海面から岩が突き出しているから体力ゲージがあっという間に尽きてしまった。 「思い出せなければそれでもいいと思うよ。僕だって、本当は忘れたいんだから」 くそう。弟のくせに生意気な。もう勉強を教えてやらんぞ。 本当は忘れたい、ね。俺は何かを忘れているんだろうか。そして、それは思い出せない方がいいものなのか。 忘れたいと願い、記憶の奥底へ封じ込め、たぐり寄せる糸も、たどりつくために使う磁針も投げ捨てたのか。 きっとそうなんだろうな。俺は昔から、嫌なこととかすぐに忘れたいと望む男だから。 それでいいのだ。 コップの破片を捨てたあと、俺は朝食を摂ることにした。 朝食は、奇跡でも起こったか投げられたせいで頭でも打ったのか、殊勝にも妹がフレンチトーストを作ってくれた。 はっきり言おう。妹はなんにでも砂糖や塩を使いすぎである。 だが、美味かった。それだけは事実である。
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キャラクター 職 レベル 職人レベル 狩り専/対人専/両方 一言 ヤンデレルラ リパ Lv57 - - - ぱーにゃん 紅茶華殿
https://w.atwiki.jp/i_am_a_yandere/pages/622.html
675 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 00 49 44 ID Kgb2rgNQ *** 風邪をこじらせてから、朝と夜はお兄ちゃんの世話になっている。 と言っても、寝汗を拭いてもらうだけ。 まだ体温が高いからお風呂には入れないので、汗だけでも拭いてもらっているのだ。 でも、そんなのは建前。 目的はお兄ちゃんの理性を崩すこと。 無防備な姿を見せて、お兄ちゃんの方から襲いかかってもらう。 実行前は、こんな作戦は上手くいくはずがないと思っていた。 だけど、塵も積もれば山となる。 だんだん、私を見るお兄ちゃんの眼が変わってきている。 タチの悪い風邪だったらしく、今晩でもう三日目。 その間ずっと、妹とはいえ女の体を見続けてきたのだから、お兄ちゃんの反応は男として正解だ。 仲の悪い兄妹ならありえないけど、私は努力して『理想の妹』を作り込んできたから別。 明るい性格で、恥じらいを持ち、容姿を磨いて、男に頼る弱さを見せる、普通の女の子。 加えて、お兄ちゃんに近づく女は居ない。姉以外の全ての女は、皆遠ざけてきた。 女が一人だったら、その子を選ぶしかない。 その子が良い子だったらなら、何の問題もないはず。 だ、か、ら。ね、お兄ちゃん? 安心して、私を選んじゃっていいんだよ。 「ちょっとだけ待ってて。今から、下着、替える」 夜に汗を拭いてもらう前は、必ずパジャマと下着を替える。 もし汗の匂いがしたら、お兄ちゃんが幻滅してしまう。 女としても、男の人に触れてもらう時は綺麗な姿の方がいい。 ちなみに、お兄ちゃんを部屋に待たせたまま着替えるのも作戦。 もしかしたら、男の人は女の着替えを覗くのが好きなんじゃないかと思って。 効果はばっちり。後ろでお兄ちゃんがそわそわしてるのが、物音で聞こえてくる。 お願いしてるから、お兄ちゃんは部屋から出て行くこともできない。 ――もうそろそろいいかな。決着つけちゃっても。 677 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 00 51 35 ID Kgb2rgNQ 「いいよ、こっち向いても。下からお願い、ね?」 どうせパジャマを脱ぐのにあえて着直すのは、じらすため。 この作戦では、私のひとつひとつの行動が明暗をわけてしまう。 一挙一動、全てにおいてお兄ちゃんを興奮させなければならない。 太腿をさらけ出す時は膝までしかパジャマを下ろさない。 ふくらはぎとすねを拭き終わったら、パジャマの下は脱ぎ捨てる。 もうこの時点で――あははっ、可愛いお兄ちゃんったら、顔を真っ赤にして、私の足をじっと見てる。 放っておいても、今夜電気を消した時に襲いかかってくれそうだけど、念には念を押す。 ベッドに寝転んで、パジャマのボタンを、下からひとつずつ外していく。 いつもなら寝転ばず、自分で脱いでいる。 けど、今日はそうしなかった。 そうできない理由があった。 きっと今頃お兄ちゃんの頭を駆け巡っている、ひとつの事実。 私が今、ブラをつけていない――いわゆる、ノーブラだから。 パジャマの隙間から見えるのは私の肌だけ。 下に穿いているのはショーツだけ。 どこだったかな――そうそう、お兄ちゃんが隠し持っていたえっちい本の売女がしてる格好。 どう料理してくれても構いませんよ、っていう感じ。 実際に私がそんな気分になってる。 上からでも下からでも、お好きなところからどうぞ、お兄ちゃん。 身じろぎせず、お兄ちゃんをじっと見続ける。 迷いが見て取れた。 私を、妹として見るか、女として見るか。欲望と理性のぶつかりあい。 ここは黙ったままでいようと思ってたけど――あえて作戦を変更した。 「お兄ちゃん、恥ずかしがらなくてもいいんだよ。 私たち兄妹だから、何も問題ない」 これは賭だ。 お兄ちゃんの心がどこに流れていくかわからない。 もしかしたら冷静になってしまうかもしれない。その逆かもしれない。 私とお兄ちゃんの関係を決める、丁半博打。 「妹の体に触ってもだーれも、咎めたりなんかしないんだよ?」 賭は――――私の勝ち。 お兄ちゃんは私の体に覆い被さり、乱暴に胸を弄りだした。 右手で乳房に触れ、左手でパジャマを脱がせていく。 お兄ちゃんと目を合わせる。そのまま、近づける。 一瞬の躊躇の後で、お兄ちゃんは私の唇を奪った。 舌を入れて、思うままに私の口内を貪る。 お兄ちゃんの手はショーツの上から私の秘所を愛撫する。 背中に手を回し抱きしめると、荒々しい吐息が聞こえた。 その事実に、笑わずにはいられなかった。 あっは。 うふふ。あはははは! ははははは、ははははは! 見た? 馬鹿姉。 もうお兄ちゃんの唇は私のもの。私はお兄ちゃんに唇を奪われた。 あんたがいくらお兄ちゃんにアピールしようと、もう遅いの。 これからお兄ちゃんは私を抱く。私の体に溺れていく。 最高だわ。体が火照って、しょうがない。 お兄ちゃんが愛しくてたまらない。 可愛い可愛いお兄ちゃん。これから一生、私がお世話してあげるからね―――――― 678 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 00 52 19 ID Kgb2rgNQ *** かつて、俺は伯母の冴子を包丁で刺したことがある。 自らの意志で包丁を手に取り、確固たる目的を持ってそれを振るった。 それが十年ほど前の話。 伯母に包丁を向けようと思ったのは、実はその時が初めてではない。 それよりも何日も、何ヶ月も前からだ。 実行に踏み切ったきっかけ、それは――弟と妹を虐待の日々から救えるのは俺しかいないと気づいたから。 いつか誰かがなんとかしてくれると思っていた。 虐待の現場を見つけた父が救ってくれる。 母が俺たち兄妹を助けてくれる。 伯母がいつか飽きて家に来なくなる。 大人頼みだったけど、それでもいつかは誰かがなんとかしてくれると、信じていた。 でもそんなことは無かった。 だから俺は、自分で解決しようとした。 まだ小さい頃の俺が弟と妹を助けるには、ああする以外に方法がなかった。 伯母にあんなことをしなければよかったなどと後悔しない。 しかし、もしもあの時をやり直せるなら。 俺はそれまで親しかった憎んでもいない相手を――仲の良い幼なじみを傷つけるようなことはしない。 少し考えればわかることだったのだ。 花火が俺を裏切るはずないと、信じてやれば良かった。 そうしていれば、花火の心と顔に、傷が付くことなどなかったのに。 679 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 00 53 28 ID Kgb2rgNQ 妹がコーラの入ったグラスをストローでかき混ぜる。 カラン、と氷とグラスのぶつかる音がした。 「昨日、伯母さんのところに行ったよ」 ああ、昨日祖母と両親と一緒に来ていたのは、それが目的だったのか。 「……まるで別人だった」 「そりゃ、お前が覚えている伯母とは違うだろうよ。 俺も会ったけど、一目見ても誰だかわからなかったからな」 「私が言ってるのは外見じゃなくて中身。 どんな顔だったかなんて、私は覚えてない。 まだずっと私やお兄ちゃんのことを嫌っているのかと思ったら、全然ハズレで、覚えてさえいなかった。 正直、一発ぐらい仕返しするつもりでいたのに」 「そ、そっか。 ……でもなんでまた、伯母に会おうなんてしたんだ?」 「昔のこと思い出したけど、いまいちはっきりしなかったから。 お兄ちゃんとお兄さん、頭の中でごちゃごちゃしてた。 ……っていうか、認めたくなかったのかも。 今まで、お兄ちゃんがかばってくれてたと思ってたのに、実はそれ、お兄さんだったんだもの」 ……ふーん。 そんなに俺にかばわれてたのが嫌か。 ま、無理もない。 妹にとっては、俺より弟が活躍している、有り体に言えば、格好いい方が嬉しいだろうし。 「お前は、かばってくれていた人間が弟だったから、好きになったのか?」 「きっかけは、そう。 単純って思った? でもね、私にとっては十分なきっかけだった。それなりに大事な、ね。 ……それが勘違いだって知ったときは、ショックだった」 「そうか。まあなんというか…………残念だったな」 「先に行っておくけど、勘違いしてたからって今更お兄さんのこと好きになったりなんて、しないから」 「そいつぁ残念だ。あっはっはっはっは」 わざとらしく笑ってみせる。 別に妹の台詞が期待はずれだったからじゃない。 そもそも、弟みたいに愛されるのなんて御免だ。 妹のことは大事だし、好かれている方が嬉しいが……愛されるのはちょっと、勘弁だ。 むしろ期待通りで嬉しいぐらいだ。 妹がそんなに軽々しく人を好きになるわけではないとわかった。 ――ん、待てよ? 軽い気持ちで弟を好きになっていないということは、本気で弟が好きってことか? やべえ、ちっとも嬉しくない。 これから先、どうしたもんかね。 俺は弟と妹がそういう関係を結ぶの、反対してるからな。 嗚呼、いつか妹と口、もしくは肉体言語でぶつかりあわなくちゃならんのか。 妹、諦めてくれないかな。……諦めてくれないだろうなあ。 680 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 00 56 03 ID Kgb2rgNQ 「それで、どうしてお兄さんは私の誤解を解こうとしなかったの? 勘違いしてる私を見て、心の中で笑って楽しみたかったの?」 「あいにくだが、そういう趣味はない」 「じゃあ、どうして?」 ふうむ。正直に言って、果たして信じてもらえるものだろうか。 でもさっき正直に答えると約束したし。言わざるを得ない、か。 「実は、お前と同じで今の今まで――入院して伯母に会うまで思い出せなかったんだよ。 情けないことだけど、あれだけのことがあったのに、綺麗さっぱり忘れてた。 だから、つまり……お前や弟が何を言ってるのかすらわからなかった」 妹はじっと俺を見つめている。 …………。 ………………そして、少しも目を逸らさない。 視線で責められている気分だ。 妹なりに俺の目を見て言葉の真偽を見抜こうとしているのかもしれない。 「あの日のこと、全部、綺麗さっぱり?」 「おう」 「……お兄さん、いったいどこまで鈍いの? お兄ちゃんみたいな鈍さなら許せるけど、お兄さんみたいなのは、ただ腹が立つだけだよ。 あの女、葉月を振ったってさっき言ったけど……去年から昨日まで返事できなかっただけなんて、酷すぎる。 ……女が皆、あの女みたいに気長で優しいと思ったら、大間違いよ」 妹の毒舌攻撃。効果は抜群だ。 ええ。俺が馬鹿だったのです。 友達同士というぬるい関係をいつまでも続けたいなんて思っていたから悪いのだ。 自覚しているから、もう責めないでくれ、妹。 認めてやる、俺はお前に弱いのだよ。 通常の二割増しでダメージを受けてしまう。 なんせ、呼べば応えるシスコンだからな! 681 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 00 56 33 ID Kgb2rgNQ 妹がでかいため息を一発吐き出した。 ため息でここまで俺にダメージを与える女など妹しか居ない。 そして、妹のため息でこれだけのショックを受ける男など俺しか居ない。 「も、いい。そういうことだったらいいよ。 私だって最近思い出したぐらいだから、人のこと言えないし。 ……私、先に帰る」 「え? おい、まだ注文したのが届いてないんだが」 「いいよ。お兄さんはゆっくり食べてて。お勘定も私が済ませておく」 「お前も待ってりゃいいじゃないか」 「私がそんなこと、したいと思う?」 ――思わねえだろうさ。 ああ、ああ。わかってるよ。 ファミレスに来て俺と同じテーブルで向かい合ったままでいるなんて御免なんだろう。 この妹は昔のことがどうであろうと、俺への態度を改める気はないらしい。 悪い方に変わらないだけマシだ、と思ったら負けかもしれん。 ちくしょう。いつから俺は妹の犬に成り下がってしまったんだ。情けない。 「じゃあね、お兄さん。寄り道しないで帰ってよ。 お兄ちゃんが何かあったかも、って心配するから」 「……あいよー」 「あ、そうだ。あと一つ言い忘れてることがあった」 「まだあるのか? 今度はなんだよ……」 早く軽食が届いてくれないだろうか。そろそろ体力ゲージが尽きかけているのだが。 仕方なくウーロン茶を飲んでいると、妹が言った。 「お兄さん、この間はかばってくれてありがとう」 ……………………え、何? 「お、おま、お前何か今、言ったか?」 「さあ? 気のせいじゃないの。それじゃ、今度こそお先」 妹はそう言って、すたすたと歩いていく。 俺は妹が会計を済ませ出て行く姿を見送るしかできなかった。 …………このウーロン茶、なんだか後味が塩に似てやがる。 口直しに今度はメロンソーダをいれようと、俺は席を立った。 683 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 00 58 59 ID Kgb2rgNQ ファミレスの窓から外の歩道を見ると、遠足でもしているのだろうか、 リュックサックを背負った小学生の集団が歩いているのが見えた。 先頭には元気の良さそうな男の子と女の子。 続いて、数人のグループが追ってくる。 一人だけ背の高い、引率らしき男の人がいる。 彼の周りに子供達が固まり、後ろから遅れたグループがついてくる。 小学生の頃の俺だったら先生より後ろに居て、マイペースで歩くんだろうな。 ああ、そういえば。 あの日も俺は、自分の家に帰りつくまで、あんな風に楽しげにしていたっけな。 花火に誘われて、どこに行ったのか覚えられないほど遊び回って。 帰りには弟と妹へのみやげにお菓子なんか買って。 途中で両親の車が来て、それに乗って家まで帰った。 楽しかった。 我が家のリビングのドアを開ける、その時までは。 685 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 01 00 41 ID Kgb2rgNQ リビングでは、伯母による虐待が起こっていた。 耳を覆いたくなるほど悲痛な声で泣いている妹と、黙って妹を抱きしめ伯母の暴力からかばう弟。 父も母も立ちつくしたままで、ぼけっと突っ立ったままだった。 どうして、この光景を見てもそうして居られるんだ? かばってくれないのか? 自分の子供が乱暴されてもなんとも思わないのかよ。 両親が何を思っていたのかなんてどうでもいい。 誰も弟と妹を助けてくれないという現実があった。 このまま、俺ら兄妹は伯母に殴られ続けなければならないのか? 心が壊し尽くされるまで、ずっとずっと? ――――嫌だ。 兄妹三人が一人でも欠けるなんて、嫌だ。 弟も妹も俺には必要だ。二人とも大事なんだ。 弟の痛みに喘ぐ声なんて聞きたくない。間違ってる。 こんな目に遭うほどひどいことをしていないのに。 妹は伯母の前ではいつも泣いている。最後に妹が笑ったのはいつだった? 俺は、妹が笑った顔をずっと見ていない。 それからのことは全て覚えている。 立ちつくす両親の間をすり抜けて、全力で伯母に椅子を投げつけた。 床に散らばる割れたグラスの破片を素手でかき集め、伯母の足下へ。 右手に刺さった破片が皮膚を貫いて、じわじわと掌を赤く染める。 キッチンへ飛び込む。手に取ったのはありったけのコップと、まな板の上にあった包丁。 リビングの床を蹴って進む。 伯母が俺を見て糞餓鬼とかなんとか言っていた。 ――うるさいよ。今からその餓鬼にあんたは消されるんだ。 振りかぶり、コップを投げつける。 一個が伯母の鼻にぶつかった。 包丁を構え、大きく踏み込んだ。 その途端、足の裏に激痛が走った。グラスの破片を踏んづけた。 だけど止まらない。止まれない。 倒れていく間に見えた伯母の膝へ、包丁を突き立てた。 固いのは最初だけで、後はずぶずぶと入り込んでいった。面白いぐらいに。 やかましい悲鳴をあげて、伯母が倒れる。足を押さえ、血を流しながら、もがき苦しんでいる。 足りない。この程度では、とてもじゃないが、足りやしない。 この女が俺たちに与えた苦痛と恐怖はずっと消えない。 でも、それももうすぐ終わる。消えて無くなる。 伯母は二度と俺たちの前に姿を現さない。 この場で、俺が終わらせる。 包丁を逆手に持ち、振りかぶる。 伯母を足で仰向けに転がし、包丁の柄を両手で掴み、最上段から振り下ろして―――― 686 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 01 04 20 ID Kgb2rgNQ 次の日から、伯母は姿を現さなくなった。 俺たち兄妹は伯母の恐怖から解放された。 結果はそういうことになる。 だけど、大きな代償もあった。 代償は、自分でも持っていることに気付けていなかった、とても、とても大切なもの。 妹からの信頼と、仲の良かった幼馴染み。 どちらも、他に代わりなど無い。 今も、代わりになるぐらい大事なものは見つかっていない。 あの時、伯母を刺す直前になって、花火は俺を止めた。 花火の説得は、血の上った頭を鎮めるのに効果的だった。 俺は自分のやっていることがいけないことだと気づき、刃物を下ろした。 ここで終わっているはずだった。花火があと一言言わなければ。 伯母さんに頼まれてアニキを遊びに連れ出した私にも責任はあるんだ――と。 それを聞いて、小さい頃の俺はこう思った。 花火が裏切った。伯母と繋がっていた。今日こうなることも知っていたんだ。 花火も伯母と同じで、俺たちをいじめる人間なんだ。 じゃあ、こいつも同じ目に遭わせてやる。 花火の頬を殴りつけた。 目を丸くしている花火に向けて、今度は包丁を振るった。 一回、二回、三回、四回。でたらめに振り回した。 唐突に花火が悲鳴をあげた。 あまりの声量に顔を顰めた。花火の体を蹴り、離れた位置まで吹き飛ばす。 これで、この場に俺を止める人間は居なくなった。 伯母の居る方に目を向けると、父が必死に声をかけている姿が見えた。 伯母は目を閉じたままで動かない。気絶している。 ――いい気味だ、ざまあみろ、と、小さい頃の俺が呟いた。 すると、小さな声が耳に入り込んできた。 声のする方向、花火を蹴飛ばした方向へと目を向ける。 横たわる花火は頬を押さえていた。 血が両手を染めている。顔中に紅い血糊が付いていた 手から、肘から垂れていく鮮血がフローリングの床を汚していく。 花火の唇が動いた。けど、いまいち聞き取れない。 むしろ泣き声の方が大きかった。 涙を流しているのに、眼の鋭さは少しも衰えていない。 憎悪の籠もった瞳を見ていると、何も言われなくても、花火がなんと言っていたのかがわかった。 そして、答え合わせをするように、花火の唇が動き、声を発した。 ――この人殺し。あんたなんか、大嫌いだ。そう、言っていた。 理解できなかった。 俺は伯母を倒して、弟と妹を守ったのに、どうして俺が人殺しなのか。 それを言われるのは、伯母じゃないか。 なあ? と、同意を求め妹の方を見やる。 妹は弟にかばわれたまま、俺をずっと見ていた。俺が伯母と花火に何をしていたかを。 きっと、俺が現れた時から。 妹の目には恐怖が映っていた。 まるで、伯母を見ているような瞳。 その時になって、ようやく自分で気付くことができた。 俺がやったことは、伯母のやったことと何一つ変わりないのだと。 伯母を刺して、花火を深く傷つけて、妹を怖がらせた。 687 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/18(月) 01 06 22 ID Kgb2rgNQ そんなつもりはなかったとしても、それとこれとは別。 平穏を得た代わりに、大事なものを失った。 ただ、家族が仲良く、平和に過ごせればよかった。 俺は誰に対してもそうだ。争いもなく穏やかに過ごすことが好きだった。 その結果がこれ。 障害を排除したら、妹と幼馴染みの信頼を失った。 俺を好きと言ってくれる人に長らく応えず、後になって傷つける。 俺の選択や行動はいつも、なにかしら間違っている。 小さい頃から、何年経っても、いくつになっても。
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ヤンデレ攻撃隊 2黒 クリーチャー・人間・ミニオン エコー 2黒 側面攻撃、側面攻撃、側面攻撃 ヤンデレ攻撃隊がいずれかの対戦相手に戦闘ダメージを与えるたび、 そのプレイヤーは毒カウンターを1つ得る。 1/1 ヤンデレシリーズのひとつ。どんだけ側面に執着しているのだろうか。 攻撃時には本家の《アルビノ・トロール》やこちらのギコ教授を一方的に殴り倒すことができる。 ただし、根本的に1/1であるため簡単に焼かれてしまう上、側面攻撃が攻撃時にしか誘発しないことから、ブロッカーとしては使えない。