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早朝、ルイズ達はアルビオンに向かう準備をしています するとギーシュが提案しました 「僕の使い魔を連れて行きたいんだ」 地面から大きなモグラ、ジャイアントモールが出てきます ギーシュは「僕の可愛いヴェルダンデ!」と抱きつきます 可愛いかどうかは見る人が見れば可愛いのでしょう ですが地中をかなりの速度で掘り進めるヴェルダンデとはいえ行き先は空中に浮かぶアルビオン 即座にルイズから却下されます 却下したときヴェルダンデは少し鼻を嗅いですぐにルイズを押し倒しました 「ちょ、ちょっと! 何なのよこのモグラ!?」 ルイズは身体をモグラの鼻で突き回され、地面をのたうちスカートが乱れたりします 「いやぁ、巨大モグラと戯れる美少女ってのは、ある意味官能的だな」 「・・・なにをやってるんですか」 途中まで見ていたドッピオがヴェルダンデを止めにかかります ですがジャイアントモールの力は強くキングクリムゾンのパワーでないと止めれませんでした ヴェルダンデの目線はルイズの一部分に釘付けでその目先を見たギーシュがこう言いました 「なるほど指輪か。ヴェルダンデは宝石が大好きだからね。 よく貴重な鉱石や宝石を僕のために見つけてきてくれるんだ」 「なるほど『土』系統のメイジには役立つ使い魔ってことですか・・・あ!」 押して勝てないと悟ったヴェルダンデはすぐさま地中をもぐってルイズの前に現れます また押し倒そうとしたその時、一陣の風が舞い上がりヴェルダンデを吹き飛ばしました 「なっ、何をするだァ――――ッ! 許さん!」 ギーシュが杖を抜いてわめきます。怒りのあまり言語が田舎臭くなっています ドッピオは瞬時にエピタフを発動し『敵』ではないことを判断しました 羽根帽子の男は一礼をして名乗ります 「僕は敵じゃない。姫殿下より、君達に同行する事を命じられた者だ 君達だけではやはり心許ないらしい。しかしお忍びの任務であるゆえ、一部隊をつける訳にもいかぬ。 そこで僕が指名されたって訳だ」 帽子を取ったその男は自分達より十歳は年上と思われるダンディな髭の男でした 「女王陛下の魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵だ。 すまない・・・婚約者がモグラに襲われているのを見て見ぬフリはできなくてね」 「・・・婚約者?」 ドッピオは疑いの眼差しでワルドと、ルイズを見くらべます ルイズは確か十六歳のはずだ。まあこの世界なら婚約者というものがあってもいいかもしれません だがワルドはどう見ても十歳くらい年上です。ロリコンか、ヴァリエール公爵家の家名目当てか ドッピオはなんとなく後者・・・何らかのモノがほしいために婚約しているように思えました 何せそのワルドの顔がかつてのボスのように仮面を被った様な顔なのですから ルイズは感動の再会を楽しんだ後、ドッピオとギーシュを紹介しました ワルドは最初、使い魔が人間ということに少々驚いていたようですがそのようなことなど気にしないようでした (・・・この程度なら化けの皮は剥がれない・・・か) ドッピオのみがワルドに対し疑念を抱く中、彼らはアルビオンへと旅立つ事になりました ちなみにヴェルダンデは「行き先はアルビオンだから」という理由で結局置いてく事に ギーシュは本当に別れを惜しんでいましたがその後 「・・・地中を掘ってるなら途中までばれない・・・」 と呟き、出発しました。いたはずのヴェルダンデはどこかに消えていました さて、一行は各自の移動手段を持って急いでいます ルイズとワルドは一つのグリフォンに乗っています。ギーシュとドッピオは学院の馬に 道中、ワルドはルイズに甘いささやきを繰り返します ギーシュは確実に数日かかるということに「ああ、モンモランシー。君に数日も会えないなんて・・・」などと言っています ルイズはワルドの甘いささやきを聞きながら、チラリ、チラリと後ろを見ています 見ているのは大げさな演技をして笑いを取ろうとしているギーシュ・・・ではなくドッピオのほうです ドッピオは無言で馬に乗っています どうやら慣れていないようで自分の能力を使っているようですがルイズには分かりません 自分に対して反応の無さが、ちょっと癪に障る。理由は解りませんが 「やけに後ろを気にするね。まさか、どちらかが君の恋人かい?」 ワルドは笑いながら、しかし真剣な眼差しで言っているようです 「こ、恋人なんかじゃないわ」 「そうか、ならよかった。婚約者に恋人がいるなんて聞いたらショックで死んでしまう」 「で、でも・・・親が決めた事だし」 「おや? 僕の小さなルイズ、僕の事が嫌いになったのかい?」 「・・・嫌いな訳ないじゃない」 ワルドは憧れの人 幼い日、婚約の正しい意味を知らなくとも、彼がずっと一緒にいてくれると思って、嬉しく思っていました 今ならその意味が解り、結婚という意味も解っています アンリエッタの政略結婚とは違う自分達の結婚を ですがルイズは何だかとっても複雑な気持ちになりました いざ結婚となるとどうしても気持ちが違うような気がしてならなかったのです (私は・・・ワルドのことが・・・) 好きか嫌いか、どちらと言われると好きなのでしょう 結婚するのかしないのか、好きなのに結婚が純粋に望めない (・・・今は姫の任務の遂行。ワルドのことは後回しよ!) 自分自身に対する疑念を考えるうちに港町ラ・ローシェルに到着しました ラ・ローシェルは峡谷に挟まれるようにあり岸壁を彫刻のように彫った建物が多数見受けられます おそらく土のメイジが作ったのでしょう。しかし港町なのになぜこんな山地にあるのでしょう 疑惑を持ったドッピオは空を見上げます 「・・・なるほど、空の港と言うわけですか」 それは船でした。空中に浮かぶその船はまさに圧巻 (ヴェルダンデがいけないと言う事はアルビオンは空にあるわけですか) 一行はラ・ローシェルで一番上等な『女神の杵』という宿に入った瞬間 「ハァ~イ、遅かったじゃない」 「きゅ、キュルケ!? 何であんたがここにいるのよ!」 と、いきなりの歓迎を受けました 一階は食堂になっていて、タバサもキュルケと同じテーブルで本を読んでいます キュルケはいきなりワルドににじり寄り 「お髭が素敵よ。あなた、情熱はご存知?」 当のワルドはキュルケを拒絶するように左手で押しやりました 「婚約者が誤解するといけないので、これ以上近づかないでくれたまえ」 そう言ってルイズを見るワルド。視線に気づきつまらなそうな顔をするキュルケ 「婚約者?あんたが?・・・ドッピオー!あなたを追いかけてきたのよ!」 「見事な対応変換だね」 「うるさいわよ。ギーシュ」 即座に矛先を変えてキュルケはドッピオの腕にしがみついてきます いくら追い払ってもやめないことは分かっていますがそれでも一応の望みをかけて追い払います 「ひとまず離れてください・・・大体何で貴女がここに・・・」 キュルケは簡潔に答えてくれました どうやら自分達が出かけるのが見つけたためタバサに頼んでシルフィードで送ってきてもらったようで その本人、タバサもこちらの行動に興味があったようで不満の色は見せていません 船について出来ることがないので宿屋の食堂でドッピオ達がくつろいでいると桟橋へ乗船交渉へ行ったワルドとルイズが帰ってきました 「アルビオン行きの船は明後日にならないと出ないらしい」 仕方ないからそれまでの間この街で時間を潰す事となり、早速ではあるが宿の部屋割りがワルドによって決定され鍵を渡されました キュルケとタバサが同室。ドッピオとギーシュも同室。ルイズとワルドは同室 婚約者だから当然ではあるがルイズはかなり動揺の様子 そしてその夜、ルイズとワルドは同じ部屋へと消えていきました 食堂ではギーシュが自棄酒を飲んでいました 「モンモランシー・・・ケティのことは誤解だって言ってるのに聞いてくれないんだよ?」 「はあ・・・」 ドッピオはその自棄酒に付き合っています。ちなみに肉体年齢ならもうとっくに三十路を過ぎているので酒は飲んでも大丈夫 キュルケはどうしたものかしらと思いつつワインを飲み、タバサは見かけによらず大食いなのか食事を続けています 「しかし、まさかルイズに婚約者がいたとはなぁ……」 「あら、ルイズにも手を出そうとしてるのかしら?」 ギーシュの呟きに乗ってきたのはキュルケ一人でした 「やれやれ、何でそういう勘違いをするかな。単純に驚いただけだよ。 それにしてもルイズにはできすぎた婚約者だな。 女王陛下の魔法衛士隊でグリフォン隊隊長……憧れるよ」 「でもあんな髭ヅラのおじさん、私ならお断りよ」 ここまでルイズ達を追いかけてきた最初の行動はすっかり忘却の彼方らしい。 「まっ、確かに年上すぎるかな。何歳なんだろうね? 三十には届いてないようだが」 「殿方っていうのはね、ドッピオくらいの年齢が丁度いいのよ 青春の真っ盛り、尤も自分が輝くときが一番良いに決まってるじゃない」 「まあ確かに。でもルイズは年齢より幼く見えるからなぁ」 「・・・・・・」 「あら?ドッピオ、もしかして寝てる?」 「酔いが回ったようだね。まったくこのくらいの酒で目を回すなんて情けない」 ちなみに飲んだ量はワイン一本程度です 結局、自棄酒はギーシュがドッピオを部屋に運ぶということで終了し キュルケと食事を終えたタバサも眠りに付くことで任務一日目を終えるのでした
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第一章 使い魔は暗殺者 前編 リゾットは怒っていた。心の底から。頭のてっぺんを突き抜けるような怒りを、不甲斐ない自分に感じていた。 ――オレは…何一つとしてっ、仲間と交わした誓いを果たすことが出来なかったっ!! それが、リゾットの怒りの原因だった。 ボスを殺すこと。 栄光を掴むこと。 仲間たちと約束したことを、リゾットは何一つとして叶えることが出来ず、無様に死んでいく自分が、リゾットはこの世で一番許せなかった。 誇りを傷つけられ、栄光を掴もうと誓った。 けれど、全ては無駄に終わってしまったのだ。自分たちの反乱は、挫折した。 誰が悪いのではないだろう。強いて言うのならば、運が無かったとしか言えない。 戦いに勝つには天の時と地の利と人の和が必要だと言われている。 地の利と人の和は同等だった。けれど、天の時はブチャラティたちに味方した――そういうことだ。 しかし、リゾットはそれだけに全てを委ねる事はできなかった。 リーダーである自分がもっと上手くチームを指揮していれば勝てたのではないか。そう考えてしまうのだ。 すでに起きてしまった出来事にもしもはない――。そう分かっていても、リゾットの頭の片隅で声は囁く。 ――お前の采配が悪かったから仲間たちは無駄死にしたのだ…………。 と。 だからこそリゾットは相打ちを覚悟でボスを殺したかった。 相打ちでボスを殺してもどうしようもないことは分かっていたけれども。仲間はもう一人も残っていないし、ボスを殺しても自分が死んでしまっては、それで終わりだ。 それに、リゾット以外の仲間が死に絶えたとき、ボスを殺す理由は無くなっていた。“仲間と”栄光と掴むためにボスを殺そうと決意したのだから。 それでもリゾットがボスを殺そうとしたのは、死んだ仲間たちに少しでも報いたかったからだ。 死んだ後、あの世で仲間たちと再会したとき、胸を張っていられるように。そう思って、リゾットはボスを殺しに行った。 が、最後の最後、後一歩が及ばなかった。結局、天の時は最後までリゾットの味方をすることはなかったのだ。 ――オレたちは……決して栄光を掴む事が出来ないと言う事なのか?! 神を裏切ったオレたちには祝福を受ける資格がないと言うのか?! そんなことは……そんなことは認めないッ! 絶対に認めるものかァッ! オレは……いや、オレたちは! 使い捨てられて、踏み台にされるために生きていたのではないッ!!!! リゾットは怒っていた。心の底から。頭のてっぺんを突き抜けるような怒りを、無慈悲な神に向かって感じていた。 ――オレたちは……栄光を掴むんだ!!! 「あんたたち誰?」 雲ひとつ無い晴天の空を背景に、誰かがリゾットの顔を覗き込んでいた。 急激に意識が上昇して目が覚めたため、視界はあまりよくなかったが、リゾットを真上から見下ろしている人物が桃色に近いブロンドの少女だという事は分かった。 そうして、その少女が白いブラウスとプリーツスカートを身に纏い、その上に黒のマントを羽織っている事も。 (コス……、プレとかいうやつか?) 少女の姿を見たリゾットの最初の感想は、正直どこかずれていた。しかし、これは彼にとっては致し方ないことでもあった。 少女の格好からリゾットが連想したものは、チーム仲間のメローネが(自分の)食費を削ってまで購入していたジャッポネーゼアニメやジャッポネーゼマンガに描かれていた、いわゆる魔女っ子と呼ばれるものだったからだ。 メローネや歳若い仲間が楽しそうに読んでいるのを見て、一度だけリゾットも読んだ事があるが、あまりの展開の破天荒さに5ページほどで挫折した。 けれども、メローネたちにはそこがいいらしく、同じく面白さが分からなかったプロシュートやギアッチョとともに肩身の狭い思いをしながら、 『あれが若さか』 などという発言をしてちびちびとワインを啜った記憶が懐かしい。あの時はまだ、ソルベとジェラートも居て、ボスに反感を持つ前だった。 あれから、そう、色んなことがあった。 身を粉にして組織を大きくしたというのに、与えられた対価はそれに見合うことは無く。ボスはリゾットが嫌っている麻薬を金のために、裏の人間だけではなく一般市民にまで売り出した。 それがリゾットには気に食わなかった。元々リゾットは裏の人間が必要以上に表の人間と関わる事を良いとは思っていなかったし、麻薬は人をボロボロにする。短い目で見れば金になる商売かもしれないが、長い目で見れば害にしかならない。 そうこうしている内に、待遇に不満を抱いたソルベとジェラートがボスのことを調べ始めて、殺された。 そんな様々な要因が重なって、トリッシュというボスの娘の噂が切っ掛けとなり、リゾットたちは組織を裏切った。ボスを倒すために。 そして、昔夢見た理想を現実にするために。 しかし、現実は非情で、リゾットの仲間たちはボスの娘を護衛するブチャラティチームたちと戦い、死んでいった。 リゾットも一人ボスと対峙し、負けた。そう、ボスのスタンド能力の前にリゾットは敗北したのだ。裏の世界では負けはそのまま死に繋がる。つまり、リゾットは死んだ――はずだった。 (そうだ。俺はエアロスミスの銃弾を受けて死んだはずだ) 未だ上手く働かない思考をフル回転させてリゾットはこの状況を理解しようとした。何故、イタリアのサルディニア島でボスに敗れた自分がこんな城の見える平原に居るのか。しかも―― (この女、あんたたち……複数形で訊いた?) そのことに疑問を持ったリゾットは、目の前にいる少女を警戒しながらゆっくりと上体を起こし、体を捻って後方に視線を動かした。 「!!?」 その瞬間、リゾットはこれまで味わった事の無いほどの混乱に襲われた。 メタリカを体内に宿しているせいで白目の部分が充血している、他人とは違う目を大きく見開いて自分の後ろに広がっている光景を呆然とした表情で見つめる事しかできない。 (馬鹿な……っ、これは、どういうことだ?!) サルディニア島に居たはずなのに、こんな観光地のような場所に居る事も不可思議な事だが、それ以上に不可解なことが目の前に広がっている。 「ホルマジオ……、イルーゾォ……、プロシュート……、ペッシ……、メローネ……、ギアッチョ……。馬鹿な……、死んだはずだ……ッ」 そう、リゾットの背後には死んだはずの彼の仲間たちが倒れていたのだ。 暗殺チームのリーダーとして普段から滅多に感情を揺らす事の無いリゾットだが、この状況にはただ心の底から驚愕するしかなかった。 (天国とでも言うのか?) イタリア生まれのイタリア育ちであるリゾットはギャングに入って後も基本的な思考はローマ・カトリックに由来していた。 そのため、この異常な状態を天国と思ったわけだが――、それにしてはどうも様子がおかしい。 混乱しながらも、仲間たちは全員気絶しているだけだと確認したリゾットは、次に周りの様子を慎重に観察し始めた。 目の前には未だに少女が憤然とした面持ちで仁王立ちしている。 その遥か後ろには平地用の――つまりは守りに向いてない移住性を重視した――城が聳え立っていた。 そして、その城と少女の間に、十数人ほどの人間が、全員同じような黒いマントを羽織ってまるでファンタジーに出てくる魔法使いの持つ杖のようなものを手にして、リゾットたちを物珍しそうな顔で眺めている。 「あんたたち、誰?」 もう一度少女は聞いてきた。瞳には苛立ちの色がはっきりと見える。それ以外には、焦りと、少しばかりの恐怖。 期待通りに行かなかった事に対する拍子抜けしたような感情。それと、大きな疑問だろうか。この事態に戸惑っているようにも思えた。 「……オレは……、リゾットだ」 とりあえずリゾットはそれだけ答えた。頭の中では未だに黄色いヒヨコが踊っている。 (とにかく、ここがどこか分かるまではこちらの情報は最低限隠さなければいけないな……) 「どこの平民?」 平民? この問いにリゾットは一瞬詰まった。身分社会が崩壊して久しいこの時代、ヨーロッパにも貴族と呼ばれる人種は居るが、こういった物言いをすることはない。 つまり、導き出される結論は、ここはヨーロッパ以外の身分社会がまだ残っている土地か――、はたまた、地球ではないどこかだ。 (本当に異世界だとすると――ナルニア国年代記のようなものか) リゾットは幼い頃に読んだヨーロッパで有名なファンタジーシリーズの名前を挙げて秘かに笑った。 従兄弟が憧れていたファンタジーの世界に――もしかしてだが――自分が足を踏み入れているのかと思うと、なんとも言いがたい気分になってくる。 「ルイズ、『サモン・サーヴァント』で平民を呼び出してどうするの?」 と、リゾットが物思いに耽っている間に、周囲の時間はどんどん進んでいたようだ。 驚きが終わった野次馬たちが、馬鹿にしたような色を浮かべながら声を掛けてくる。げらげらという爆笑をバックコーラスにして。 「ちょ、ちょっと間違っただけよ!」 「間違いって、ルイズはいっつもそうじゃん」 「さすがはゼロのルイズだ!」 ルイズ――どうやらこの桃色掛かった金髪の少女の名前らしい――の拙い反論に、他の子供たちは一斉に笑い声を上げ、馬鹿にする。 そんな子供たちの幼稚な行為に、リゾットは眉を顰めた。 他人を嘲笑うという行動は大きく分けて、自分に絶対の自信があるために相手を軽く見るというものと、相手を軽んじる事で自分が優れていると錯覚したいというものがある。 しかし、どちらの場合も相手の実力を過小評価し、自分の実力を過大評価する傾向にある。そして、それは殺し合いの世界に身を置く者としては非常に不味い事であった。 自分を強いと思うことは油断を招くし、相手を弱いと思うことは隙を生む。過去、その結果として自分に殺された要人やギャングなどの構成員たちを思い出しつつ、リゾットは緩やかに警戒レベルを戦闘時から常時に戻した。 どうやらそこに居る人間たちが結託してリゾットたちを攻撃するような状況にはならないらしい。 けれども、疑問は何一つとして解消されて無い。リゾットは慎重に彼らの出方を待った。 「ミスタ・コルベール!」 少女がまた叫ぶ。誰か――リゾットが推測するに引率者――を呼んだようで、その声に反応して人垣の中から中年の男性が進み出た。 丸い眼鏡をかけた、額から頭のてっぺんまで禿げている温厚そうな男である。この男も真っ黒なローブを身に纏い、大きな木の杖を手にしていた。 絵本や映画などに出てくる魔法使いそのものの姿だ。街でこんな格好をしていたら、道行く人たちに白い目で見られることは確実である。 が、その男――ミスタ・コルベールと呼ばれていた――を見て、リゾットの暗殺者としての感覚が盛大に反応した。 一気に警戒レベルが跳ね上がり、ドッドッドッと心臓が血液を全身に送り出そうと動き出す。酸素が体中を駆け巡り、思考が活性化する。 (この男……、強い! そして、戦い慣れしている!) 男の表情や足運びなどから彼の実力を推測したリゾットは、全身の筋肉を強張らせた。 しかし、そんなリゾットの考えとは裏腹に、男は昼行灯という言葉が似合うほど害意の無い顔でルイズという少女に対して返事をする。 「なんだね。ミス・ヴァリエール」 「あの! もう一回召喚させてください!」 そうして、のんびりとした男とは対象的に、身振り手振りで気を引き必死になって何事かを頼み込んでいるルイズの台詞に、リゾットは思い切り困惑した。 (召喚だと?) その単語を聞いて真っ先に思い出したのは、やはりチーム仲間の一人、ジャッポネーゼマニアのメローネがやっていた(ジャッポネーゼ言葉ではプレイするというらしいが)ファイナル○ァンタジーとかいう、指輪物語の設定を下地にしているRPGとかいうTVゲームだった。 頭に角を生やして杖を持った幼女が脳裏に浮かぶ。そういえば目の前にいる少女も幼い。角は生えてないようだが、杖は持っていた。 「それはダメだ。ミス・ヴァリエール」 「どうしてですか!」 「決まりだよ。二年生に進級する際、君たちは『使い魔』を召喚する。今、やっているとおりだ」 半ば涙目になりながらルイズは尚も言い募るが、コルベールは素っ気無く首を振るだけだ。 周りの生徒たちはコルベールとルイズの会話を邪魔しないように大声で笑う事は止めていたが、ルイズに対してニヤニヤと歪んだ笑みを向けている。 (召喚……使い魔……。この二人の言葉をそのまま信じるのなら、オレは……いや、オレたちは地球から別の世界に呼び出されたということか!) コルベールの登場で脳に充分な酸素が行き渡ったリゾットは、先入観を棄ててこの事態を正確に把握する事に専念する。 この状況が理解できなければ、どういった行動が最適になるのかも分からない。 リゾットの能力ならばここにいる全員を一気に殺すことも可能だが、それをして仲間が危険になるような事になってしまっては困る。 「それによって現れた『使い魔』で、今後の属性を固定し、それにより専門課程へと進むんだ。一度呼び出した『使い魔』は変更することはできない。何故なら春の使い魔召喚は神聖な儀式だからだ。好むと好まざるにかかわらず、彼らのうちの誰かを使い魔にするしかない」 「でも! 平民を使い魔にするなんて聞いたことがありません!」 ルイズが屈辱と怒りで頬に朱を散らせて大声を張り上げると、また子供たちが一斉に笑った。 それをルイズが悔しそうな瞳で睨みつけるが、それでも笑い声の大合唱は止まらない。 リゾットはあまりに幼稚すぎる子供たちの反応に、呆れたような視線を向けた。 あまりに呑気すぎる。イタリアの小学生より程度が低いかもしれない。 (それにしてもオレたちはこのルイズとかいう女に呼び出されたのか……。使い魔…………というとあれか、黒猫のような扱いを受けるのか) 生粋のイタリア育ちのリゾットが想像する使い魔と言えば、ローマ・カトリックの魔女狩りでイメージが固定化された黒猫である。 ちなみにリゾットの脳内では、箒に乗った鉤鼻の魔女が黒猫を従えて満月をバックに飛んでいる姿が浮かんでいた。 (それは……少し、いや、かなり嫌だな。というよりこの傲慢で駄々っ子なマンモーニの下につくなど真っ平ゴメンだ。逃げるのが得策だと思うが……、仲間を見捨てるわけにはいかない。どうするべきか……) リゾットはこの短い時間でルイズの性格を端的にだがきちんと把握していた。ルイズには悪いが、このような人間は雇い主としては最低の部類に入る。きっと食事すらまともに与えてはくれないだろう。 「これは伝統なんだ。ミス・ヴァリエール。例外は認められない。彼らは……」 リゾットが本気で対策を考え始めた頃、コルベールの説教も終わりに掛かっていた。 「ただの平民かもしれないが、呼び出された以上、君の『使い魔』にならなければいけない。古今東西、人を使い魔にした例はないが、春の使い魔召喚の儀式のルールはあらゆるルールに優先する。彼らのうち誰か一人には君の使い魔になってもらわなくてはな」 「そんな……」 (どうやら使い魔とやらは一人しかなれないらしいな。しかし……、仲間にそれを押し付けることはリーダーとしてあってはならない行為だ……) がっくりと肩を落として溜め息を吐くルイズに少しむっとしながら、リゾットは冷静に情報を処理していく。 今までの会話や様子から推測できる事をまとめると、こんな感じだ。 一、ここは魔法使いが存在する異世界である。 二、リゾットたちはルイズと呼ばれる少女の使い魔として呼ばれた。 三、何故か知らないが、仲間たちは全員生き返っている。 四、彼らは学校に所属している。コルベールと呼ばれる男が教師らしい。 五、彼女らは二年生になったばかり。 六、現在、ここの季節は春だ。 七、ルイズと呼ばれる少女はクラスメイトから軽んじられていると思われる。 八、使い魔は一人一体が原則。 九、この国は平和である。 十、彼らは全員中流以上の家庭の生まれ。 ほかにも細々としたところが推測できたが、彼らと関わる上で重要になってくるところと言えばこれくらいだろう。 「さて、では、儀式を続けなさい」 「えー、彼らのうち、誰かと?」 「そうだ。早く。次の授業が始まってしまうじゃないか。君は召喚にどれだけ時間をかけたと思ってるんだね? 何回も何回も失敗して、やっと呼び出せたんだ。いいから早く一人を選んで契約したまえ」 コルベールがそう厳しく言うと、途端に周りから、そうだそうだ、早くしろよ、どれも一緒だからさっさと選べよ、などといった野次が飛ぶ。 あまりのウザさにリゾットは一瞬メタリカを使い全員の口をホッチキスの針で縫い止めようかと思ったが、止めておいた。そんなことより仲間の事が気に掛かる。 何故選ばれたのかは不明だが、この召喚によって――ソルベとジェラートは除くが――全員が生き返っている事は、リゾットにとって幸運だった。 暗殺チームに身を置き、それを率いる事になったリゾットにはチーム以外に信頼できる人間がいない。チームが家族と言っても過言では無いくらい互いを大切に感じてもいる。 (――つまり、これは恩か?) ルイズの召喚の儀式がなければ自分も仲間たちも死んだままだった。そう考えると、リゾットはルイズにかなりの恩を受けたことになる。 「ねえ」 新たな発見に脳をフル回転させていたリゾットに、空気をまったく読まずにルイズが声を掛けてくる。 リゾットが顔を上げるとそこには何かを決意して唇を真一文字に結んだルイズが立っていた。 「なんだ?」 「起きているのがあんただけだし、まあ、顔もそこそこイケてるし……。とにかく、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから」 リゾットが返事をすると、瞳にあった決意はあっさりと霧散し、ルイズはブツブツと言い訳を口にする。 そのマンモーニぶりにリゾットはメタリカで説教したくなったが、いきなり目を閉じたルイズに虚を突かれた。 はて、何をするつもりなのだろう。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 疑問を感じているリゾットの前でルイズは杖を振ると、朗々とした声で呪文と思しき言葉を唱えた。 そうして、リゾットが反応するより先に、杖をリゾットの額に置く。 (何だ?! 体が動かないだと?!) とっさに避けようとしたリゾットは、そこに来て自分の体の自由が利かないことに気付いた。 上体を起こして膝立ちになった格好から、全身が彫像になったかのように身動きが取れない。そうして、そのことに戸惑っている間に、どんどんルイズの顔は近づいてくる。 一体なにが起こるんだ? そう思ったとき、ルイズの唇がリゾットの唇に重なった。柔らかい感触がする。 目を閉じたルイズは何故か頬を染めているが、リゾットにとっては蚊に刺された事と同レベルだ。 と、無感動にルイズを見つめているうちに(何しろ体が動かないのでそれ以外出来ない)キスは終わり、ルイズは唇を離した。 「終わりました」 少し恥らいながらコルベールに向かって報告するルイズを、リゾットは冷めた表情で眺める。 「『サモン・サーヴァントは』何回も失敗したが、『コントラクト・サーヴァント』はきちんとできたね」 やっと厄介ごとが終わったというように晴れ晴れとした顔でコルベールが言った。 その言葉にリゾットは心の中だけで盛大に舌打ちする。やはり今のは使い魔とやらの契約の儀式だったらしい。 面倒な事になったと、頭を抱えたくなった。ルイズの唇が離れたせいか、体は元通り動くようになっていた。 後ろをもう一度覗くが、仲間たちはまだ目を覚まさない。普段の彼らならすぐに起きるのだが、一回死んでいるので勝手が違うのだろうか。 殴って起こそうかとも考えたが、スタンド攻撃が飛んできそうなので遠慮しておいた。 ここでザ・グレイトフル・デッドやホワイト・アルバムなんぞを発生させたら大変な事になる。 「相手がただの平民だから『契約』できたんだよ」 「そいつが高位の幻獣だったら、『契約』なんかできないって」 リゾットの注意が逸れている間も彼らの会話は進んでいく。それにしても平民平民と煩いものだ。リゾットは真剣にメタリカで口を塞ごうかと考える。 「バカにしないで! わたしだってたまにはうまくいくわよ!」 「ほんとにたまによね。ゼロのルイズ」 おほほほ、と今にもお嬢様笑いが聞こえてきそうな声音で、見事な巻き毛を持つブロンドの少女が言う。 顔にはそばかすが散っていて、まだまだガキといった容貌だ。外見と中身が比例している良い例である。 「ミスタ・コルベール! 『洪水』のモンモランシーがわたしを侮辱しました!」 「誰が『洪水』ですって! わたしは『香水』のモンモランシーよ!」 「あんた小さい頃、洪水みたいなおねしょしてたって話じゃない。『洪水』の方がお似合いよ!」 「よくも言ってくれたわね! ゼロのルイズ! ゼロのくせになによ!」 「こらこら。貴族はお互いを尊重しあうものだ」 ルイズとモンモランシーとかいう女の聞くに堪えない低レベルな口喧嘩(少なくともリゾットは耳栓がほしくなった)を、穏やかな声でコルベールが宥める。 この男、この集団と一人で相対しても勝てるほど飛び抜けた強さを持っているが、あまり畏怖されていないようだ。その事に僅かに首を傾げた瞬間、リゾットの体が熱くなった。 「なんだ、これはッ?!」 熱の発信源はどうやら左腕のようだ。見れば左手の甲に見知らぬ文様が刻まれていっている。熱い。 我慢出来ないほどではないが、脂汗が滲むのを感じた。 「『使い魔のルーン』が刻まれているだけよ。すぐ終わるわよ」 やはりさっきのキスが契約履行の条件だったらしく、ルイズは苛立った声で説明してくれた。 どうやら契約のキスがよっぽどおきに召さなかったと思われる。しかし、激痛に襲われるリゾットにはそこまでルイズを観察する余裕は無い。 ぐっと唇を噛み締めて痛みに耐える。そして、その数瞬後、熱と痛みはあっさりと退いた。 「……使い魔のルーンか……。本格的だな……」 異常が終わった事に安堵の息を吐いたリゾットは、左手の甲に浮かび上がった文様を見てそう零した。 すると、コルベールが近づいてきて、リゾットの左手を持ち上げた。リゾットは反射的に攻撃に転じようとして、意識的にそれを抑えた。 コルベールにはリゾットに危害を加えようとする意志は無い。ただ、リゾットに刻まれたルーンを確認しようとしているだけだ。 相手に完全に敵意が無いことを理解し、リゾットはそれまで無意識に行っていた警戒を解いた。 この男はリゾットが敵になろうと思わない限り攻撃してこないだろう。 「ふむ……。珍しいルーンだな」 何か突っ込まれるかと思ったが、感想はそれだけのようだった。 もしかしたら自分が普通の人間ではないことがばれるかもしれないと思っていたリゾットは、この台詞に安心する。 「さてと、じゃあ皆教室に戻るぞ」 「ちょっと待ってくれ」 くるりと踵を返して生徒たちに指示を出すコルベールを、リゾットは呼び止めた。平民の事を侮っている者たちなので無視されるかもしれないと案じていたが、リゾットが初めて自主的に声を掛けたからか、コルベールは興味深げな顔をして振り返ってくれた。 「何かね、――……ええと……」 声を掛けたコルベールはそこで自分がこの使い魔の名前を知らないことに気付いたようで、視線で名前を尋ねる。 リゾットはここで反抗的な態度を取る事のデメリットを理解していたので、出来るだけ丁重な口調で話すことにした。 「リゾット。リゾット・ネエロという。不躾で悪いのだが、気絶している彼らを運ぶのを手伝ってもらいたいのだが、お願いできるだろうか?」 その言葉にコルベールは、ああ、と軽く頷いた。別に了承したのではなく、失念していたことを思い出した、という様子だ。 複数形で話してはいたが、リゾットの仲間の事はすっかり忘れ去られていたらしい。 「そうだな、六人もの人間を学院まで運ぶのは難しいだろう。分かった。彼らはわたしが責任をもって学院に送り届けよう。君はミス・ヴァリエールと共に来たまえ」 そう言って今度こそコルベールは生徒たちに向き直り、宙に浮かんだ。 魔法使いと思わしき格好をしていることから、リゾットはこの可能性を頭のどこかで肯定していたが、想像と実際に見てみるとは大違いだという事を知る。 思わずぽかんとした間抜けな表情で、すうっと空中に飛び上がって静止するコルベールの後ろ姿を見上げる。さらに生徒たちも一斉に空へと浮かんだ。 およそ十メートルの高度で留まっている。ある意味でとても衝撃が強い光景だ。メローネなんかは飛び跳ねて喜びそうだが、あいにくとリゾットにそんな余裕は無い。 生まれて初めて見る魔法にひたすら唖然としていた。そうしているうちに、まずはコルベールが気絶しているリゾットの仲間たちを背後に浮かべて地平線の少し手前に位置している城へ向かって飛び出す。 「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」 「あいつ『フライ』はおろか『レビテーション』さえまともにできないんだぜ」 「その平民、あんたの使い魔にお似合いよ!」 次に生徒たちが口々にルイズをからかう言葉を残して去っていった。 これにはさすがのリゾットも、人間が宙を飛んでいくという画期的なシーンを目撃した興奮に砂をかけられた気分になった。 ある意味心沸き立つ光景であったため余韻に浸りたかったのだが、台無しである。が、そのおかげで現実に立ち戻ったリゾットは、横に居るルイズを見やった。 ルイズは先ほどの生徒たちの哄笑に怒りを感じているらしく、苛立ちを込めた視線で去っていく生徒たちの後ろ姿を睨みつけていた。 「あんた、なんなのよ!」 しかし、リゾットが自分を見ていることに気付くと、いきなりキレてきた。リゾットは一瞬この展開の速さについて行けずに目を見張る。 もっとも感情豊かなルイズに比べたら微々たる変化なので、相対するルイズは無反応だと感じたようで、さらに言葉を重ねるために息を吸った。 「なんで『サモン・サーヴァント』であんたみたいな平民を呼び出しちゃうのよ! ああ、ドラゴンとかグリフォンとかマンティコアとか……カッコいいのがよかったのに。それがダメだったらせめてフクロウとかワシとかそんな有能な使い魔を望んでたのに!」 どうやら癇癪玉が爆発してしまったらしい。地団太を踏んで悔しがっている。 リゾットはそんなルイズに向かってメタリカを発動させたかったが、仲間を全員生き返らせてもらった恩があるので何とか堪える。 ギアッチョだったら即行ブチギレて殴りかかるだろうな、プロシュートなら説教タイムに突入するだろう。と、苛々を紛らわせるために別のことを考えながら。 「…………それなのに、それなのに! なんであんたみたいな平民がのこのこ召喚されちゃうの?! 由緒正しい古い家柄を誇るヴァリエール家の三女であるこのわたしがなんであんたみたいな平民を使い魔にしないといけないの? ああ、わたしの人生お先真っ暗だわ!」 「………………それはすまないな。ところでミス・ヴァリエール」 全然申し訳ないと思ってない表情と声でリゾットは謝ってみせる。 ルイズはそれに対して、誠意が篭ってない! と怒鳴ったが、一応話を聞くつもりはあるらしい。じっとリゾットの目を見つめた。 「ここはどこなのか教えてもらえないか?」 「は? あんたそんな田舎から来たの? ここはトリステインよ。そして、あそこに見える城がトリステイン魔法学院! ちなみにわたしは二年生のルイズ・ド・ラ・ヴァリエールよ。今日からあんたのご主人様だからね。ちゃんと覚えておきなさいよ」 だが断る。と、リゾットは返そうと思ったが、話がややこしくなるので止めておく。 その代わり新たに入った知識で推測を補強することにした。 (この国の名前はトリステイン。地球上には存在しない国だな。先ほどの魔法の件もあるから、ここは本当に正真正銘の異世界なのだろう。 そして、トリステイン魔法学院とか言ったな。ならばそこは国立校だと分かる。 その学校に通っているという事は、このルイズとか言う女はかなり身分の高い貴族だという事になる。そうして、貴族は平民を見下している。それもかなり徹底的にな) ルイズはその隣で、トリステイン魔法学院も知らない田舎者の平民を使い魔にするなんて。しかも、ファーストキスだったのに。 と、さらに嘆いていたが、自分の思考に没頭していたリゾットは余裕で無視した。 (とりあえず今はこの世界の情報を手に入れる事を優先しなくてはいけないな。ボスへの反逆でここしばらく緊迫した状態が続いていたからな……、少しは休息も必要だろう。それに……この女には恩もある) リゾットは飽く迄仲間たちのことを考えていた。成り行きで使い魔になってしまったが、人の実力を見極める事もできずに喚き散らすだけしか出来ない主人に忠誠を誓う気はまったく持ってない。 ――つまり、真面目に使い魔をやる気などこれっぽっちもないのである。しかし、ルイズに恩があることも事実。それを返さないことはリゾットの生き様にも関わる不祥事だ。 (恩を返すまでは使い魔として仕えるが、それ以後は………………この女次第だな) ちらりと横目でリゾットはルイズを見下ろす。彼女はまだリゾットたちを召喚してしまった事を嘆いていた。始祖ブリミルがどうとかこうとかと呟いている。 しかし、リゾットはこの我侭な少女が、まだ研磨する前の宝石のような存在である事を見抜いていた。
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空賊に捕らえられたセッコたちは、船倉に閉じ込められた。 元の船の乗組員たちはそのまま船の曳航を手伝わされているらしい。 セッコは剣を取り上げられ、ワルドとルイズは杖を取り上げられていた。 周りには砲弾やら火薬樽やら酒樽やら様々なものが雑然と置かれている。 ワルドはそれらを興味深そうに見て回っていた。 考え事をしていたルイズが、暇そうに寝転がっているセッコに向かって声をかけた。 「ねえ、こっそり外の様子を見てきてくれないかしら」 「こっそりは無理だ。」 「なんでよ?」 ワルドが代わりに答えた。 「扉の外に看守がいるし、他にも見張りはいるだろう」 いや、そういうことじゃねえんだけどな。 ワルドに聞かれたくなかったのでルイズの傍に寄る。 (壁や床が、薄すぎる。中に隠れられねえし、通った後に少し穴が残る。) 「そう、困ったわね。なんとかならないの?」 (部屋から部屋へ渡り歩いて一人残らず死体にするぐらいならできるぜ? ホラー小説みたいによお。) ルイズの顔が引き攣った。 「あのね、セッコ?」 「なんだよお。」 「それは、絶ッッッ対、絶対に!駄目!」 面白そうだと思ったのになあ。 その大声に、あたりを調べていたワルドが戻ってきた。 「落ち着くんだ、ルイズ。僕たちはずいぶん丁重に扱われているぞ」 「杖を取り上げられて船倉に押し込まれてる、これのどこが丁重なの?」 珍しくワルドが正しい。気がする。 「だよなあ、ルイズはともかくよお、おっさんとオレが拘束の必要もない病人や子供に見えるかあ?」 まあ、オレに物理的拘束は意味ねえけどな。 「セッコ、ちゃんとワルドのこと名前で呼びなさいっていったでしょう。 ・・・でも、言われてみればおかしいわよね」 ワルドが言葉を続ける。 「それも不自然ではあるが、この部屋には火薬まで貯蔵してあるようだ。 確か、今のアルビオンでは火薬や硫黄が、黄金かそれ以上の価値があるのではなかったかな? もし、僕たちが自爆したらどうなるんだろうね」 「オレはまだ死にたくねえぞ。」 考えるのが面倒になってきたので再び寝転がる。 ワルドとルイズも腕を組んで首を捻った。 その時、突然扉が開いて痩せぎすの空賊が姿を現した。 「頭が、直々におめぇらを尋問したいとさ。」 なんだそりゃ?身代金を取るために家名でも聞くのかあ? ルイズが泡を飛ばして突っかかる。落ち着け。 「空賊風情が、貴族に聞きたいことなんてあるのかしら?」 「細かいことはお頭に聞いてくれ。俺たちも仕事なんでねえ」 そう言って男は笑った。 「いいじゃないか、ルイズ。直接交渉できるならこれほど楽なことはないだろう」 ワルドがルイズを制した。 とりあえず、様子を見るべきかなあ。 狭い通路を通り、細い階段を登り、三人が連れて行かれた先は立派な部屋だった。 どうやらそこがこの空賊船の船長室らしい。 扉が開くと、豪華なディナーテーブルがあり、一番上座に眼帯を着けたヒゲ面の派手な男が腰掛けていた。 大きな水晶のついた杖を持っている。 頭の回りでは、ガラの悪い空賊たちがニヤニヤと笑って、入って来たルイズたちを見つめている。 入り口のそばにいた一人が声をかけてきた。 「おい、お前たち、頭の前だ。挨拶しろ」 しかし、ルイズはそれを無視して頭を睨む。 「失礼ね!聞きたいことがあるならそっちから挨拶しなさいよ!」 頭はにやっと笑って言葉を返した。 「気の強い女は好きだぜ。子供でもな。さてと、なら本題に入ろうか」 「何よ」 「実を言うと俺たちはな、貴族派の密命で、アルビオンに入る連中を監視してるんだよ。 貴族がこの時期のアルビオンに行くからには何かあるんだろう?旅行なんて言い訳は無しにしようや」 「そう、つまりこの船は反乱軍の軍艦なわけね?」 「いいや、それは違うな。俺たちはあくまで空賊。対等なビジネスさ」 「空賊と手を結ぶなんて本当にアルビオンの反乱軍は屑ね。 わたしはアルビオン王党派、いえ、アルビオン王家への使者よ。 曲がりなりにもあなた達が軍と対等な関係というのならば、大使としての扱いを要求するわ」 「なにしに行くんだ?あいつらは、明日にでも消えちまうよ」 「まだ、敗北宣言はしてないでしょう?それに、何のために行くかなんてあんたらに言うことじゃないわ」 頭は、妙に楽しそうな様子でこちらを見ている。そしてルイズに言った。 「成る程な。まあ俺たちはそんな重箱の隅みたいなことまでは気にしてねえさ。 金が入ってくりゃあそれでいいんだからな。ところで、今からでも貴族派につく気はないかね? あいつらは、メイジを欲しがっている。礼金もたんまり弾んでくれるだろうよ」 ルイズは少し震えながらも、胸を張って答えた。 「死んでもイヤよ」 セッコはその様子を見ながら思った。こいつは、本当に強情な奴なんだなあ。 ・・・確かフーケの時もこんなだっけなあ。 その精神構造は基本的に自分優先のセッコにとって納得できるものではない。 だが、“主”として信念を決して曲げないのは多分いいことなんだろう。 少なくとも、ワルドやアンリエッタよりはいくらかマシに違えねえ。 ワルドのほうを伺うと、神妙な顔で“頭”を見つめている。相変わらずよくわからねえ奴だ。 「もう一度だけ言う。貴族派につく気はないかね?」 大きく息を吸い、胸を張りなおしたルイズより先に、いい加減イライラしていたセッコが罵声を上げた。 「つかねえって言ってんだろうがよお。 どうしても寝返らせてえなら、腕を切り落とすなり今ここで現金積むなり 無理矢理従わせりゃあいいじゃねえか!オメーら訳わかんねえよ!何がしてえんだあああああ!」 「ちょ、ちょっとセッコ気持ちはわかるけど落ち着きなさい!」 ルイズが慌てて止める。それと同時に“頭”がセッコのほうをじろりと見た。 「貴様はなんだ?」 「使い魔だがよお、それがどうした」 「・・・使い魔?」 突然、頭が大声で笑い始めた。 「トリステインの貴族は、気ばかり強くって、どうしようもないな。まあ、どこぞの国の恥知らずどもより、何百倍もマシだがね」 言いつつ立ち上がる。セッコはいきなりの変貌を観察した。 ワルドとルイズも顔を見合わせている。 「いや、実に失礼した。貴族に名乗らせるなら、こちらから名乗らなくてはな」 頭はそう言うと、突然顔のパーツを剥がし始めた。 いつの間にかニヤニヤしていた取り巻きたちが直立している。 現れたのは、なんと威風堂々とした金髪の若者だった。 「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令長官だ。 もっとも、既にこの[イーグル]号しか存在せず、装わざるとも空賊と大差ない無力な艦隊だがね。 もっとわかりやすく表現するならば、アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」 ルイズは口をあんぐりと開けた。 セッコは首を捻った。 ワルドは興味深そうに、皇太子を見つめた。 ウェールズは、笑みを浮かべると、ルイズたちに席を勧めた。 「アルビオン王国へようこそ。大使殿。さて、御用の向きをうかがおうか」 ルイズはいまだぽかんとしている。セッコは胡乱な目でウェールズを見た。 「なあ・・・おめえ本当に本物かあ?だってよお・・・」 今にもウェールズに掴みかかりそうなセッコを制して、ワルドが優雅に頭を下げた。 「アンリエッタ姫殿下より、密書を言付かって参りました」 「ふむ、姫殿下とな。きみは?」 「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵。 そしてこちらが姫殿下より大使の大任をおおせつかったラ・ヴァリエール嬢。そしてそこの男がその使い魔です」 「なるほど、して、その密書とやらは?」 ルイズが慌てて、胸のポケットからアンリエッタの手紙を取り出した。 しかし、ウェールズは手紙ではなくルイズの指輪を見つめている。 「あ、あの・・・どうなされました?」 「ラ・ヴァリエール嬢、その指輪はどこで手に入れたのかね?」 「これは、任務を受ける際に姫殿下から賜ったものです」 「やはりそうか!それはアンリエッタが嵌めていた[水のルビー]だな。そして・・・」 ウェールズは自分の手から指輪を外し、ルイズの手に近づけた。 「この指輪は、アルビオン王家に伝わる[風のルビー]だ。 水と風は、虹を作る。王家の間にかかる橋さ」 2つの宝石が共鳴し、虹色の光を振りまいた。 「すごい・・・」 ルイズが感嘆したように呟く。セッコとワルドも目を丸くした。 ウェールズは満足そうに微笑んだ。 「すまない、少し話が逸れてしまった。では密書を頂こうか」 ルイズが一礼し、手紙をウェールズに手渡した。 ウェールズは、しばらくの間手紙を恍惚とした表情で眺めていたが、花押に接吻し、開封すると真剣に読み始めた。 「姫は結婚するのか?あの、愛らしいアンリエッタが。私の可愛い・・・、従妹は」 ワルドとルイズが無言で頷いた。 ウェールズの表情が少し曇ったが、最後まで読み終えた時には、微笑みに変わっていた。 「了解した。姫は、あの手紙を返して欲しいとこの私に告げている。何より大切な、姫からもらった手紙だが、姫の望みは私の望みだ。そのようにしよう」 ルイズの顔が輝いた。 「しかしながら、今、手元にはない。ニューカッスルの城にあるんだ。 姫の手紙を、空賊船に連れてくるわけにはいかぬのでね。多少面倒だが、ニューカッスルまで足労願いたい。 ・・・そうそう、剣と杖を返さないとな」 ウェールズはそう言って笑い、甲板に出て行った。セッコたちもそれに続く。 「なあ、ルイズよお?」 「何かしら?」 「アンリエッタは手紙を回収しろつってたけどさ。」 「それがどうしたのよ、今から取りに行くんでしょう」 「受け取ったら、即焼き捨てた方がよくねえかな・・・」 「なんでわざわざ命令無視しなきゃいけないのよ」 「いや、ヤバい手紙なんだろ?どこにあったって爆弾じゃねえかあ?」 アンリエッタがどうなろうと知ったことじゃねえ。 だが、たかが手紙が原因で同盟破棄?戦争?冗談じゃねえ。 まだ死にたくねえつーの。 「馬鹿ね、トリステインなりゲルマニアなり、ちゃんとした城の中にあれば大丈夫よ」 「盗まれたらどうすんだよ。」 「まともに機能してる城にどうやって忍び込むのよ。[ディテクト・マジック]っていう魔法を探知する魔法だってあるわ」 「いやほら、オレとかヴェルダンデみたいに。」 「あ・・・」 「気づけよ。」 「ま、まあ取り戻して姫様に返す前にでも考えればいいわ、多分」 「ほんとかよ。」 ルイズとセッコが話していると、ワルドを伴ったウェールズがルイズの杖とデルフリンガーを持って戻ってきた。 ニューカッスル城まではまだかなりかかるらしい。 そういえば、今日はまだ何も食ってねえなあ。 セッコは、飴を女神の杵亭に忘れてきたことを後悔した。 To be continued…… 戻る< 目次 続く
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フーケの騒動があってから一週間が経ちました いろんな人たちから一目置かれるようになったルイズとドッピオ ルイズはあいかわらず魔法の腕が上がっていないのでフーケの件は使い魔がすべて行ったと周りは思っているようです その所為か決闘を申し込む貴族は殆どいなくなり、ドッピオにとっては平和な日々が続いていました そんな中 「ドッピオ、アンタ芸とかある?」 そんなことを主人から聞かれました 「芸・・・ですか?なんでまた」 いきなりそんなことを聞いてきたルイズに質問で返します 「質問を質問で返さない!・・・まあ、いきなりなのは認めるけど 今度使い魔の品評会があるのよ」 「品評会?・・・そういえば」 最近学院の中で使い魔に芸を教え込む人たちを見たことがありました 「・・・で、何かある?」 「・・・・・・」 この人たちにはスタンドは見えない。ならスタンドを使った芸でもいいかと考え 「・・・うーん」 いざ芸をしろと言われても思い浮かびません 「・・・え?もしかして特に無い?」 「・・・いえ、特に無いってわけじゃないですけど」 スタンド自体の能力は未来予知・・・これを利用した芸といって思いついたのは 「・・・手品なんてどうでしょう?」 「手品?・・・なにが出来るの?」 「そうですね・・・硬貨とかありますか?」 「あるけど・・・」 そういって一枚金貨を取り出します 「表か裏か。右手か左手か。絶対にあてることが出来ます」 「・・・それじゃこれはどっち?」 差し出した両手。ドッピオはエピタフを発動させます 「・・・右手、裏」 「・・・当たってる。でも」 二人が考えることは 「地味ね」 「そうですね」 ドッピオではどうも未来予知を生かしきる芸と言うものが思いつきません 「・・・まあ品評会は明後日だし手品だって変な力使ってやってるんでしょう?」 「そうなんですけど・・・」 「時間には猶予があるしもっとパッとした物、思いついてよ」 言うだけ言って主人は眠ってしまいました 翌日、もはや日課と化した使い魔の仕事をこなしてドッピオは自由時間を謳歌していました 「・・・品評会か」 自分を晒されるようであまりいい気分ではありません それでもやるなら驚かせるようなものをしてやろうと思い芸を考えますが (・・・学院精鋭百人連続で倒すなんてどうだろう) 変なものばかり思いつきます 「・・・やっぱりエピタフを使ったもので・・・」 ぶつぶつ言いながら廊下を歩いていると 「ドッピオー♪」 そう言って誰かが後ろから抱きついてきました。いえ、誰かなんて分かっています 考え事をしながら歩いていたドッピオはその突然のことに対応できず前のめりで転んでしまいました 「っ」 「あっと・・ごめんなさい」 抱きついてきた人はドッピオに謝ります。もちろんその人はキュルケでした 「・・・キュルケさん。いきなり抱きつくのはちょっと」 「そうね。今度からは前からにするわ。ところで」 「・・・品評会ですか?」 「ピンポーン♪ドッピオは何をするのかな?」 はっきり言ってまったく思いつきませんでした 「・・それがまだ」 「えー?ドッピオのことだからすること決まっていたと思ったのに」 残念ながらまったく決まっていません 「・・・手品」 そんな中キュルケの横で黙っていたタバサが口を開きました 「手品?ああ、そういえばルイズが言ってたわね」 現状でなにも芸が無い以上手品程度でしかドッピオには出来ません 「で?どんな手品が出来るの?」 「えっと相手がなにを持っているかとかそういう類のものなら」 事実未来を見えるドッピオにはそれが尤も簡単かつすごいと思わせるものです 「それじゃカードを使った手品をしたらいいんじゃない? カードくらいならルイズだってすぐ用意できるでしょ」 「・・それだ!」 ドッピオはいきなり叫びました 「ありがとうございます!これなら・・・」 そう言ってドッピオは走っていきました。おそらく行き先はルイズの部屋でしょう 「・・・楽しみ」 タバサが小さい声で言いました 「え?タバサ?」 「・・・なんでもない」 「ルイズさん!」 部屋に入りこんで来た使い魔がいきなり自分のことを呼びました 「なに?芸でも決まったの?」 「はい。ところでカードって用意できますか?」 「出来るけど・・・カードで手品でもするの?」 「はい」 言い切りました。ここでキュルケからの提案とかは言いません 言ったら絶対「するな」といわれますから 「カードか。やっぱり手品といえばカードかしらね」 「どうでしょう?用意できます?」 「大丈夫よ、そのくらい。で、すごいのが出来るの?」 「・・・カードが来たら見せてあげます」 (・・そんなに自信があるのなら問題ないかしら) そう思ったルイズは 「分かったわ。カード用意するからすごい手品してよね」 「もちろんです!」 13へ
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翌日。いつものようにフレイムをギアッチョの監視に行かせたキュルケは、彼らが馬に乗ってどこかへ出掛けた事を知った。ここ数日でギアッチョを危険だと感じた事はなかったし、もうぶっちゃけ監視とかしなくてよくね?時間の無駄じゃね?と思いつつあったキュルケだが、学院外に出るという今までに無いパターンだったので念の為もう一日だけ監視を続行することにする。 キュルケが急いで支度を済ませて廊下に出ると、ルイズの部屋の前で棒立ちしていた男と眼が合った。松葉杖をつき、服の下からは包帯が見えている。ギーシュ・ド・グラモンその人であった。 「・・・あなた何してるの?」 キュルケはいぶかしげに尋ねる。 「・・・や、やあキュルケ ちょっとルイズに用があるんだが・・・まだ寝てるのかここを開けてくれなくてね・・・」 ギーシュはばつの悪そうな顔をしながら答えた。 「用?あなたがルイズに?またあの子に何かしようとしてるんじゃないでしょうねぇ」 「そ、それは違う!僕はただルイズに謝ろうと・・・」 聞けばギーシュは二股をかけており、そいつがバレた上にビンタでフられてムカムカしていたところにルイズとぶつかってモンモランシーの為の香水がブチ割れて、彼は怒りで周りが見えなくなってしまったのだという。 「・・・呆れた 完全に逆恨みじゃない あなた貴族としてのプライドってものがないの?」 二股のくだりだけはキュルケに文句を言われる筋合いはないはずだが、概ね正論だったのでギーシュは黙って耐えた。 「それで、謝りたくてやって来たんだが・・・」 「ルイズならもういないわよ」 「な、なんだってーーー!?」 物凄い顔で驚くギーシュにキュルケは溜息を一つついてから、 「ルイズと一緒にギアッチョもいるんだからどっちか一人は気付くでしょ 常識的に考えて・・・」 とのたまった。その「ギアッチョ」という言葉に、ギーシュの体がビクリと反応する。 「・・・そ、そそそういや彼もいるんだったねぇ・・・ハハハ・・・ハ・・・」 ギーシュにとってギアッチョは相当トラウマになっているようだった。ヒザが滑稽なぐらいガクガク笑っている。 あんな目に遭っておいてトラウマになるなというほうが無理な話ではあるが。 「私はこれからタバサに頼んでシルフィードでルイズ達を追いかけるつもりだけど・・・あなたはどうする?」 キュルケの助け舟に、「是非とも一緒に・・・」と叫びかけたギーシュだったが、 「・・・ちょ、ちょっと待ってくれたまえ ルイズ『達』ということは・・・」 「勿論ギアッチョもいるわよ」 ビシッ!と心臓が凍った音が聞えた。ギーシュは「・・・あ・・・あう・・・」とまるで懲罰用キムチでも食らったかのように呻いている。 そんなギーシュを見てキュルケは更に溜息を重ねると、 「どの道ギアッチョはルイズの使い魔なんだから、いつでもあの子と一緒にいるでしょうよ ルイズが一人になる隙をうかがうよりは今特攻したほうがスッキリすると思うけど?」 生きていればね、と小さな声で付け加えてギーシュを見る。 「き、聞えてるぞキュルケ!やっぱりダメだ・・・ここ、こっそりルイズに手紙を渡して人気の無いところへ呼び出して・・・」 常軌を逸した怯え方である。殺されかけたという事に加えて、自分の魔法をことごとく破られ跳ね返されたという事実が彼の恐怖を加速させていた。 キュルケは呆れを通り越して哀れになってきたが、いい加減出発しないとシルフィードでもルイズ達を見失うかもしれない。 これを最後にするつもりでキュルケはギーシュに発破をかけた。 「あなた少しは男らしいところ見せなさいよ こんなところをあの使い魔が見たらまた『覚悟』が無いとか言われるんじゃあないの?」 「――!」 その言葉に、ギーシュは動きを止めた。彼は何かを考え込むようにわずか沈黙し、真剣な眼でキュルケを見る。 「・・・ねぇ君 『覚悟』って一体何なんだろう」 先ほどまでのヘタレ具合とは一転、彼の眼には苦悩の色が浮かんでいた。 「あの男――ギアッチョに言われたことがずっと耳から離れないんだ 『覚悟』って何なんだ?彼と僕と、一体何が違うんだ? ギアッチョと僕を隔てる、絶対的な何かがあるのは解る だけど一体それが何なのか、いくら考えても答えが出ない」 ギーシュの懊悩は、キュルケには解らない。あの男の真の凄み、そして恐ろしさは、対峙してみなければ理解は出来ない。ギーシュはそう知りつつも、誰かに疑問をぶつけずにはいられなかった。例えギアッチョと同等の能力を持っていたとしても、 自分は永遠に彼に勝つことは出来ない。そうさせる何かが、あの使い魔にはある。 自分にはそれがない。その事実がただ悔しかった。 「あの決闘で――自分がどれほど自惚れていたのかを思い知らされたよ」 ギーシュはうつむいて言葉を吐き出す。 「・・・そして どれほど愚かだったのかも」 なまじっか顔と成績がいいばっかりに、高く伸びていたギーシュの鼻をヘシ折れる生徒は存在しなかった。そのギーシュを完膚なきまでに叩きのめしたのは、タバサでもキュルケでも、マリコルヌでもモンモランシーでもなかった。 ゼロと蔑まれていた少女、その人間の、しかも平民の――加えて言うならば顔もよくはない――使い魔だったのである。 ギーシュのプライドは粉々にブチ割れた。そして同時に、自分がどれほど他人を見下していたかを理解した。 「こんな屈辱に――ルイズはずっと耐えてきたんだ ・・・僕は 僕はどうしようもなく馬鹿だった」 彼女に謝罪しなければならないと言うギーシュの眼は、紛れもなく本気だった。 タバサはキュルケ達の頼みを快諾した。他でもない唯一の親友キュルケの頼みだという事もあるが、あのギーシュがそりゃもうジャンピング土下座でもしそうな勢いで頼み込んで来たのである。 それも己の利益の為ではなく、純粋に少女への謝罪の為とくれば、いくら虚無の曜日とはいえタバサも力を貸すにやぶさかではなかった。 そういうわけで彼女達は今タバサの使い魔である風竜、シルフィードに乗ってルイズ達を追っている。竜の背中でタバサは中断していた読書を再開し、キュルケはしきりとシルフィードを褒め称え、ギーシュは勢いで飛び出してきたもののやっぱりギアッチョが怖いらしく、時折キュルケの口からギアッチョの名が出る度にビクビクと震えていた。 「ギーシュ あなたいい加減腹をくくったら?」 ちょっと男らしい事を言ったかと思えばこれである。キュルケはまたも呆れていた。 「そ、そんなこと言ったって怖いものはしょうがないじゃないか!自分の魔法で全身蜂の巣にされる恐怖が君に分かるかい!?」 ギーシュがまくし立てると、 「自業自得」 タバサが活字に眼を落としながら呟く。それを聞いたキュルケが思わず噴き出し、ギーシュはもういいよとばかりにがっくりと肩を落とした。
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(『使い魔のルーン』だとォ~~~? 何言ってんだコイツァ~~~ッ! っつーか痛みで声がでねぇぇえ!) 億泰は次第に転がるのをやめ、痙攣しながら左手を押さえている。 口から漏れ出るのも奇妙な呻き声だけだ。 と、そこにコルベールと呼ばれたハゲが近寄ってきて、 有無を言わさずに億泰の手を取ってしげしげと見る。 「ふむ……珍しいルーンだな。 まあ、何にせよミス・ヴァリエール。 『コントラクト・サーヴァント』はきちんと一度でできたね」 先程までのテンションからうって変わって嬉しさを顔に湛え、 やさしい声で言う。 「ただのアホの平民だからできたんでしょ」 「下等なゴーレム相手でさえできそうにないゼロがぁああ!」 「こらこら、友人を侮辱するんじゃない。 さあ、みんな教室に戻ろう」 パンパンと手を叩きコルベールが皆を促すと、周囲の生徒達が宙に浮かぶ。 それを見てコルベールも宙に浮かぶとお城へと向けて飛んでいった。 「ま、とにかくがんばれよゼロ。 まずは『フライ』も『レビテーション』も使えないで教室までな!」 「その平民、貴方にはお似合いね。間の抜けた顔とか」 「素晴らしい使い魔じゃないかゼロ。 このネズミのクソよりもゲスな平民こそがなぁぁあああ!」 口々にいやみを言って去っていく生徒達を睨み、 倒れしている億泰へとルイズは振り返る。 何か怒ったような顔で怒鳴ってくるが、それよりも億泰は自分の疑問の方が大事だった。 「あんた一体なんd」 「オメー誰だ!?っつーかここどこなんだよォ~~? なんであいつ等飛んでんだァア~~~!?」 「~~~!ったく、どこの田舎から来たか知らないけど。 いいわ、説明してあげる。 ここはかの高名なトリステイン、トリステイン魔法学院! そして私達はメイジ!分かったの?平民!」 今日は私のセリフは潰されるためにあるのかしら、と思いつつ、 ルイズはイライラを億泰をバカにする気持ちへ変換して嫌味ったらしく言った。 「……? トリステイン~~~?魔法ォ~~~~? っつーかどー考えても日本じゃメイジじゃなくて平成だろーがよー!」 一方でそれを聞いた億泰は嫌味に気づかない程に心底ビビっていた。 魔法と大マジに言い、普通に宙に浮いてすっ飛んで行く連中が居たら無理もないが。 「日本?なにそれ、そんな国見たことも聞いた事もないわよ。 そもそも平成って何それ?」 更にその言葉に億泰は耳を疑った。 いくらなんでも、自分と同程度のバカでさえ世界の日本を知らないという事は普通ない。 (っつー事はそもそも地球じゃねえな。 ああ、そーいう事ネ) 「ってフザケてんじゃねーぞコラ! 日本を知らないだと!ドッキリもたいがいにしやがれ! キスされたのは嬉しかったけどよォー!」 億泰に怒鳴られた途端ルイズの顔が真っ赤になった。 怒りと恥ずかしさではどーみても怒りの強い顔に。 「だから日本なんて『存在しない』わよ、そんな国ぃ! キ、キキキキスは契約の儀式なんだから仕方ないでしょ!」 「契約ゥウ?って事はオレは騙されたのかチクショー! モテ期到来だとばかり思ってたのによぉ~~!」 「何言ってるのよ! アンタみたいなのなんかにそんなの来る訳ないじゃない! 儀式は儀式なんだから仕方なかったの! とにかくアンタのご主人様は今日から私!理解しなさい!」 「わかるかボケェ!」 そう言いながら、ふと億泰の視界に変な物が入り、空を見上げてみた。 二つの月が輝いていた。 億泰は喜んで考えるのをやめた。
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朝になってアルビオンへ出発するため正門にでる。 おれの荷物はデルフリンガーのみだ。 ルイズは旅用の荷物のほかに王女から預かった『水のルビー』とやらを持っている。 バナナはおやつに入る?って聞いたら怒られた。これは遠足じゃないらしい。 お、ギーシュがやってきた。さあ出発だ。 「お願いがあるんだ」 と思ったら何か話があるらしい、空気を読め、まったく。 「僕の使い魔を連れて行きたいんだが、良いかい?」 まったく、そんなことかよ 「ダメだ」 「何で!?せめて見てからでも良いじゃないか!」 「ダメだ」 「ヴェルダンデ、出てきてくれ」 そういってギーシュが地面を足で叩く。話を聞け。 すると大きなモグラが現れた。 「これが僕の可愛い使い魔、ジャイアントモールのヴェルダンテさ!」 「なるほど、で味は?」 「食べる気かい!?そんなことしちゃダメだよ!」 食ったらウマそうなんだがなぁ 「アルビオンに行くのよ、そんなの連れて行くなんて、ダメよ」 今まで黙ってたルイズが口を挟んできた。 「そんな…お別れなんてイヤだよヴェルダンテ…」 ギーシュが悲しそうな声で言う、だがそのモグラはルイズに向かって突進した。 そのままルイズを押し倒す。 「おお、これは中々見ごたえがあるな」 それを見たギーシュの感想がこれだ。まったくそのとおりだ、ある意味官能的で実に良い。 「あんたたち!早く助けなさいよ!」 えー、もっと見たいのに。 「このモグラ!姫様から頂いた指輪に鼻をつけないで!」 指輪?水のルビーか? 「ああなるほど、ヴェルダンテは宝石が大好きだからね」 よし、ならこいつは部下にしよう。ついでに後で盗む予定のルビーの罪もなすりつけよう。 さて、そろそろ助けようかな、でもルイズはどうせ感謝しないだろうしどうしようかな。 あ、今の右ストレートは痛いぞ~、助けるのはモグラの方だなこりゃ おれがそのまま傍観するか否かを決めかねていたら強い風が吹いてモグラを吹き飛ばした。 風の魔法か?おれが辺りを見回すと。 おっさんがいた。 そのおっさんはアンリエッタが来る時にルイズが見ていたおっさんだった。 「貴様、僕のヴェルダンテに何をするんだ!」 ギーシュが騒いだ。うるせーなあ。 「僕は敵じゃない。魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルドだ。」 なるほど、おれ達だけじゃ不安だから援軍としてやってきたって事か、だが納得できない事がある。 「敵じゃないのに何故攻撃した?」 敵じゃないならモグラを吹き飛ばす理由などない。これは絶対に不自然だ。 「すまない。婚約者が襲われているのを見て見ぬ振りはできなくてね」 そうかヴェルダンテの婚約者だったのか。変わった趣味だがそれなら納得だ。 「ワルド様!」 いきなりルイズが声を上げた。ちゃんと謝っとけよ、お前はコイツの婚約者をボコボコにしてたんだから。 「久しぶりだな!ルイズ!僕のルイズ!」 あ、婚約者ってルイズの方か、なるほど婚約者が犯罪者にならないようにモグラを吹き飛ばしたのか。 って納得いかねぇーーーー! なんでルイズが婚約してるの!? モグラじゃなくてルイズ!?ありえねーだろ!あ、モグラの方がありえないか。 つまりお前はロリコンか?ロリコンなのか?おれもだ! おっと混乱しちまった。 おれはロリコンじゃないぞ、ロリコンでもあるってだけでそれ以外もオッケーだ。 だがコイツは真性のロリコンだ。間違いない。 話が脱線したな、元に戻そう。 そのロリコンはルイズを抱え上げ、 「彼らを紹介してくれないか?」 と言った。紹介くらいならまだ良い、だがおれをそっちの道に引きずり込むなよ。迷うから。 「ギーシュ・ド・グラモンと使い魔のイギーです」 ギーシュは頭を下げ、おれも一応下げておいた。目を付けられたくないからな。 「この犬がルイズの使い魔かい?フーケを捕まえた時は大活躍だったらしいね」 まあな、スゴイだろ。でもロリコンのほうがスゴイな、絶対。 「さて」 そういってワルドは口笛を吹いた。その口笛が合図なのかグリフォンが現れた。 そのグリフォンにルイズを抱えたまま跨り、杖を掲げて叫んだ。 「では諸君!出発だ!」 ロリコンのクセに仕切るな。 後で上下関係をハッキリさせてやるぞ。 おれはそう誓いながら馬に乗り込み(もちろん部下にしてある)出発した。 To Be Continued…
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「昼間まで、ねえ。馬車はあと一人乗れるみたいだし…ワムウはどこにいったのかしら…」 護衛の任務を受けたルイズは、キュルケと自分の使い魔を探す。 「あんた、自分の使い魔も呼べないの?」 「仕方ないでしょ、あんた達の使い魔とは決定的に違うんだから」 「まあ、そうよね…仕方ないわよね」 敷地内の森の中に入っていく 「ワムウッ!用事があるの!とっとと出てきなさい!」 「なんだ、騒がしいな」 上から声が聞こえる。 巨木の上からストンと降りてくる。 「ワムウ、出かける準備をしなさい」 「今度はなんだ」 「私が任務を受けたの、重要人物の護衛よ。詳細は馬車で話すからとっとと来なさい」 ルイズは身を翻す。 「断る」 「はぁ?」 「お前が受けた任務をなぜ俺が手伝わなければならん。俺をあてにして受けたならば、諦めて死んで来い。 それに、俺は護衛などやったこともないし、護衛しなければならないようなか弱き人間も護衛も嫌いだ」 「あんたは私の使い魔でしょ!これは命令よ!」 「使い魔は主人の身を守ると言っていたが、わざわざ火中に進む主人は別に止めん、俺もこうみえて忙しいのでな」 「なに屁理屈こねて…ちょっと待ちなさい!」 走り去るワムウに二、三発呪文を飛ばすものの、周りの木の幹を折るだけであった。 「どうすんのよ、ルイズ。オールド・オスマンもあと一人として彼を期待して席を空けたようだし…とにかく誰か一人連れてこないと」 「タバサが風、キュルケが火だから…ミス・ロングビルにはあまり戦わせたくないし…土か水がいると便利かもしれないわね」 「土ねえ、なんだか嫌な予感がするのう」 予感はもちろん的中した。 「やあ君たち、護衛の任務を受けたって?土属性をお探しなら、このギーシュ・ド・グラモンを…」 「えーと、水属性といえば…」 「最低ラインは欲しいわね」 二人は平然と流す。 「待ちたまえ!無視しないでくれよキュルケもルイズも!君たちを探してたんだ!」 「あんたと付き合う趣味は無いわよ」 ルイズにはとりつく島も無い。 「変な意味じゃなくて!君たちの任務に同行したいんだ!」 「あのねえ、私たちはワムウの代役を探してるのよ!決闘で完璧に優劣をつけられたドットメイジなんて論外よ論外!」 「フッ、そうは言うけどね、薔薇は女性を守るときにしか針を出さないものなのさ、それに僕をあのときの僕とは思わないで欲しいね」 「なにが変わったって言うのよ」 「成長のために図書館に入り浸り、僕に必要なものがわかったのさ!そう、それは必殺技!」 「えーと、モンモンラシーの部屋は…」 「待ちたまえええッ!せめてどんな技かくらい聞いてくれよ!」 ギーシュが哀願する。 「しょうがないわね、どんな技なの?」 「まず、ワルキューレは青銅でできている。つまり人間より重いため、相手より早く落ちる。そこで放り投げた相手を空中で首に足をかけて、 逆立ち状態になったワルキューレが地上に手をつき相手に首四の字を仕掛けると言う…名づけて『ロビンスペ…」 「キュルケ、304号室ってどこの棟だかわかる?」 「東棟よ、確か」 「ちょっと待ってくれええええッ!僕が悪かった!ギーシュ・ド・グラモン、一生のお願いだ!どうか、僕を参加させてくれ! 君たちの後をつけて校長室の声を盗み聞きまでしたんだ!名誉挽回、汚名返上のこんなチャンス逃すわけにはいかないんだ!」 二人はため息をつく。 「しつこいわね、そんなんだから振られるのよ。わかったからとっとと準備してきなさい」 キュルケが促す。 「しっかり働くのよ」 ルイズも一応認める。 「うう、ありがとう……必ずや僕のジェットストリームアタックを成功させてみるからね!」 「…やっぱり、人選間違えたかしら」 * * * 「……ということで、ギーシュ・ド・グラモン、この任務にお供させていただきます、ミス・ロングビル。 命に賭けても必ずやあなたをお守りいたしますッ!」 口に薔薇を咥えながら一礼をする。 「は、はあどうも…」 ミス・ロングビルも困惑しながら返答する。 「あんたもそんなことやってないで早く乗りなさいよ」 ルイズに促されギーシュが乗り込む。 ミス・ロングビルが手綱を持ち、出発する。 「えーと、その護衛対象の人物の所在地はミス・ロングビルが地図を頂いたようだし…その人物の特徴は… えーと…『30~40歳の男性』で、『白人』で、『世界ビックリ機械』…『おじさんX』…な、なによこれ」 「はは、オスマン師も人が悪いな。まあ地図を見る限り周りに人はいなさそうだし、すぐわかるんじゃないか?」 「偽者だとしたらどうするのよ、噂によると土くれのフーケは人を操れるとか…白人で中年男性なんてどっからでも呼べるわよ」 「まあ『世界ビックリ機械』な人はそういないだろうさ、見ればたぶんわかるんじゃないか」 「あんたは楽観的ね…」 馬車は深い森を抜け、開けた場所に出る。 「あの小屋ね!きっと!」 キュルケが声を張り上げ、前方を指す。 タバサは本を閉じ、顔を上げる。 馬車が小屋の前に止まる。 すると、一人の男が出てくる。 「貴様らは、オスマンの言っていた護衛か?」 距離を保った状態で聞いてくる。 「ええ、そうよ」 「名前を名乗れッ!護衛の名前は聞いているッ!」 「私がルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 「私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ」 「タバサ」 「ロングビルです」 「僕の名はギーシュ・ド・グラモン、二つ名は『青銅』、以後お見知りおきを」 男は手紙を睨みながら名前に耳を傾ける。 「待ていッ!最後の奴の名前は知らんぞッ!信頼できるのか?」 「私たちと同じくトリステイン魔法学院の生徒よ」 男は小さく舌打ちし、 「よし、いいだろう。どうやら本物の護衛のようだな」 「ちょっと待って、あなたが本物の護衛対象かわからないわ…『30~40歳の男性』『白人』は該当してるけれども、 『世界ビックリ機械』『おじさんX』であることを証明して欲しいわ」 男はニヤリ、と笑う。 「娘!人種は違えどわたしはお前のような慎重な者に敬意を表すぞ、『世界ビックリ機械』か、オスマンめ、悪趣味な奴め」 あまり見慣れない服の上を脱ぎ、目深に被っていた帽子を外す。 その胴体と右目は『機械』であった。 「な、なにこれ…」 「見てのとおり機械の胴体だ。少々無茶をして体を吹っ飛ばしてしまってな、腕、胴体、顔面、脚が義手義足のようなものになっている」 全員があっけにとられる。 「さ、触っても構わないですか?」 キュルケが尋ねる。 「ああ、構わん。痛くするなよ、優しくだ」 そっとキュルケが触れる。 「ほ、ほんとに金属ね……」 「どうだ、信じたか?」 「じゃあ『おじさんX』ってなんなんですか?」 「それは…俺とオスマンの間でのジョークだ、あまり気にするな」 一同は小屋の中に案内される。 暖炉と木の椅子、テーブルが置いてあり、スコップ、ロープ、油入れ、その他なにかよくわからない物がいくつか落ちている他は、 質素な木の小屋だった。 「……しかし、オスマンも心配性だな、あの老人のほうが俺としては心配だ」 「私も噂にしか聞いておりませんが、世界でも数人しかいないといわれる『ペンタゴン・メイジ』であるという話もあります。 名うての盗賊であり、魔法使いでもあるフーケですらも敵わないと言えるでしょう。あなたはどうやって自衛を?」 ミス・ロングビルが質問する。 「ふむ、いいだろう。少々もったいないがとりあえずもう一度外に出てくれ」 一同は外に出る。 男は上を脱ぎ、胴体の機械を露出する。 男は叫んだ。 「ナチスの科学力はァァァァァァァアアアッ!!世界一ィィィイイイイ!!!!」 胴体から何か小さいものが連続して発射し、森の木に突き刺さる。 その威力は数秒で森の木を何本も幹から折り、倒していた。 「これでわかったかね?気の毒だが、偽者の護衛だと判断したら君たちを蜂の巣にさせて貰った」 一同はごくりとツバを呑む。 「まあ、一応護衛をつけてもらったんだ、三人は護衛、二人は見回りでもしてもらおうか。人選はそちらで決めて構わない」 紆余曲折の結果、最初の護衛はロングビル、キュルケ、タバサ、見回りはルイズ、ギーシュとなった。 「あーもう、寒いのについてないわね」 「できればミス・ロングビルかキュルケがよかったなあ…」 「どういう意味よそれ、吹っ飛びたいの」 「べ、別に他意はないよ」 「そう、吹っ飛びたいのね」 この森の木には災難な日であった。 * * * 「ところで…そこに転がっている杖のようなものはなんなんでしょう?もしかして…」 「それか、オスマンは『破壊の杖』などと呼んでいたが…我がナチスの技術の結晶ゥゥウウウッ! 15cm炸裂弾搭載ィイイイイッ!グレネードランチャーパンツァーファウストだァアアアッ!」 全員が立ち上がる。 「な、なんでそんな重要なものが無造作に何個も転がってるのよ!」 「うむ、オスマンにはまだ言ってなかったが、探してみたら数個出てきてな、何発か試し撃ちしてもまだ残っている、困ったものだ」 「試し撃ち?これは杖ではないのですか?」 ミス・ロングビルが尋ねる。 「杖などではないィイイイイッ!貴様らは魔法を使えメイジとやららしいが、俺はそんなものなくともこれを発射できるゥウウウッ! ここをこうしてこうすると、あら不思議憎きソ連兵の戦車が木っ端微塵ッ!」 途中言っていることが少し理解できなかったが、全員これが恐ろしい威力を誇ると言うことはわかった。 「…ちょっと、驚きましたわ……頭を冷やすため少し外にいかせていただきますが、構いませんか?」 「ええ、構わないわ」 タバサもうなずく。 ミス・ロングビルは小屋を出て行き、数分後戻ってきた。 * * * 「見回りって言ってもねえ…まだ時間じゃないのかしら?」 「僕だって同じ気持ちさ、そうそう都合悪くフーケが襲ってくるなんてことはないさ」 「そうだといいんだけど……どうやら都合は悪いみたいよ…」 ルイズには見覚えのある巨大なゴーレムと、フーケとおぼしき人影が立っていた。 フーケはこちらに気づいたのか、進行方向を変える。 「な、なあ、任務は護衛だしいったんここは逃げたほうが…」 「あんた、名誉挽回のチャンスなんじゃないの?貴族とは敵に後ろを見せないものを言うのよ!」 ルイズは呪文を唱え数発放つが、一発も当たらない。 「ほら、僕のワルキューレでもあれには敵わないよ!ここはさっきの人の手助けを…」 「護衛する相手に頼ってどうするのよ!そんなに逃げたいならあんただけでも逃げなさいよ!」 「じょ、女性を置いて逃げられるか!」 そんなことを言い合っている内に、ゴーレムが近づいてくる。 「しょ、しょうがない、僕の必殺技を試すしか…」 そこに人影が現れる。 「ワムウ!あんた、来てくれたの!あれがフーケのゴーレムよ、呪文当てるからちょっと距離を稼いで!」 ルイズはゴーレムに向き直る。 しかし、ワムウはゴーレムの方向には向かわない。 ルイズとギーシュの方へ迫り、 両方に蹴りと拳を叩き込んだ。 ルイズとギーシュは地面に倒れる。 土くれのフーケがゴーレムから降り、ルイズの手首を触る。 次に、ギーシュの胸を触る。 「ルイズは脈なし…ギーシュも鼓動なし、と……別に殺すつもりはなかったのに、鍛えてない貴族なんてあっけないわね」 フーケは再びゴーレムに乗り、小屋へ向かっていった。 To Be Continued...
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「聖剣伝説3」のホークアイ 夜刃の使い魔 ~プロローグ~ 夜刃の使い魔 第一夜 夜刃の使い魔 第二夜 夜刃の使い魔 第三夜 夜刃の使い魔 第四夜 夜刃の使い魔 第五夜
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ルイズに召喚された次の日、ヴァニラはルイズよりも早く目覚めた 昨夜用意されていた干草のベットを見るとムカっ腹にきてまたルイズを粉微塵にしそうになったが 代わりにその干草を消し飛ばし警告に換え、壁に背中を預けて眠った ルイズは何か言おうとしたが壁の穴を見て思い直したらしく、額縁ずらして穴を塞ぐと大人しくベットに潜り込んでいた ヴァニラは肩を揉み解しながら眠っているルイズへ近寄り 「おい、朝だ起きろ」 不遜にもベットを蹴って揺り起こす しかしッ 「う~ん?揺らすんじゃないわよ犬、ちゃんと歩きなさい・・・」 何の夢を見ているのか、もごもごと口の中で呟くと更に布団に潜り込んでしまった 「いい加減にしろ、次は引っくり返すぞ」 唯でさえ低い声を一層低くし、本当に引っくり返してやろうかとベッドの縁に手を掛けるがその前にルイズが跳ね起きた 「ちょ、ちょっと起きる!起きるわよッ!」 気持ちよく夢を見ていたところを起こされ多少不機嫌だが朝っぱらからベッドの下敷きにされては堪らない 椅子に腰を下ろした使い魔を尻目に大人しく着替え始める 昨夜のうちは着替えさせようか等と甘いことを考えていたがコイツが大人しく従うとは思えない (見てなさいよ、食事の席で思い知らせてやるんだから) いそいそと着替えながら黒い笑いを浮かべるルイズを他所に、ヴァニラは甲斐甲斐しくも元の世界にいる主の無事を祈っていた To Be Continued...