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前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ その日の午後の授業は使い魔とのコミュニケーションのために休講となっている。 学園の庭では二年生達は使い魔と思い思いに過ごしている。 その中でギーシュは自分の使い魔のジャイアントモールのヴェルダンデがいかに素晴らしいかをテーブルの向かいに座っているモンモランシーに熱く、そして暑苦しく語っていた。 知的な瞳だとか、官能的なさわり心地といったギーシュにしか解らないようなモグラの魅力を聞かされたモンモランシーはうんざりしていたが、 「君の使い魔もキュートなところが君にそっくりだよ」 などと言われると悪い気は全くしなかった。 「相変わらずお上手ね」 と、全部わかっているように言うのもギーシュの次のお世辞を引き出すためだ。 「僕は君の瞳には嘘はつけないよ」 定番の麗句を聞いたモンモランシーは気になることを思い出す。 本当だろうか、と思って問いただすことにした。 「でも、最近一年生ともつきあってるって噂を聞いたんだけど」 ぎく。 あからさまにギーシュの体と声が硬くなる。 「バカなことを、君への思いに裏表なんて……」 モンモランシーの脳細胞がその言葉の裏にあるものを察知し目がつり上がる直前、ギーシュとモンモランシーの間にある机が轟音を立て、破片と土煙を周囲にぶちまけた。 ついでにモンモランシーの頭からは自分がなにを察知したかが吹っ飛んでしまった。 ギーシュとモンモランシーの間にあった机だったものは周囲の生徒と使い魔の注目を集めることとなった。 土煙が立ちこめる中、皆が無責任にそこでなにが起こったか想像を始める。 隕石が落ちたのか? いや、地下から怪物出現か? いやいや、ギーシュに怒ったモンモランシーが香水で破壊したのか? どんな香水かは不明だが。 だが煙が晴れるとその場にいた全員が納得することとなった。 「いったーい」 そこにはルイズがいたからだ。 ルイズと言えば爆発。爆発と言えばルイズ。 なので、ここで爆発が起こったのは何ら不思議ではないと言うわけだ。 ユーノを肩に乗せながらテーブルの残骸を杖に腰をさすって立ち上がったルイズは、近くの見知ったメイドであるところのシエスタを見つけた。 「そこのあなた」 「は、はい」 「湿布持ってきて。腰、打っちゃたのよ。いたた」 あわてて走っていくシエスタを見送ったルイズはやっとテーブルだった残骸を手放し、自分の足で立ち上がった。 そこでやっとその場にいる全員がルイズを注目しているのに気づく。 周りを見回したルイズは手を組んで少し考え、一言言った。 「ちょっと失敗しちゃった」 周りの生徒達は一斉に叫んだ。 「どういう失敗だ!!」 ほとんどのものはそれですませたが、ギーシュはそれでは収まらない。 驚いてそばに来ているモンモランシーの肩を抱いて、かっこいいと思っている角度でルイズに顔を向ける。 「だいたい、そこで君はなにをしていたんだね」 「ちょっと魔法の練習をしていたのよ」 モンモランシーが不安げに自分の方を見ている……と思い込んだギーシュはルイズに次の言葉をぶつける。 「君が魔法の練習を?よしたまえ。爆発を起こすだけじゃないか。見たまえ。モンモランシーもおびえている」 今のセリフはかっこいい……と思ったギーシュが後を続けようとしたができなかった。 ルイズをはさんだ向かい側にバスケットを持ったケティがいたからだ。 「ギーシュ様……その方……一体……せっかく」 「こ、これは……いや、その」 あわてるギーシュにモンモランシーが追い打ちをかける。 「ギーシュ……さっきの噂、やっぱり」 モンモランシーは頭から吹っ飛んだはずのことを思い出していた。 「ギーシュ様酷い……そんな方がおられたなんて……私だけって言ったのに」 それを聞いたモンモランシーはギーシュを睨みつけた。逃げたくなるような目つきで。 「あなた、さっき、私に同じようなこと言ってたわね」 「そんな、この方にも?嘘ですよね?ギーシュ様」 ルイズのことなど、すでにもうどうでもよくなった二人がギーシュをさらに追い詰める。 「落ち着いてくれたまえ。二人とも。これにはわけが……」 あるはずがない。 「うそつきっ」「うそつきっ」 二人は同時にギーシュの頬に手のひらを見舞った。 モンモランシーは右に。 ケティは左に。 ギーシュの両頬に微妙に形の違う赤い手形が2つできた。 「ふんっ」「ふんっ」 呆然とするギーシュを置いて、二人は近づきたくない雰囲気を纏いどこかに行ってしまう。 「ま、待ってくれたまえっ」 ようやく気づいたギーシュは青い石を中心に置いた薔薇を着けた杖を振り回しながら二人を追いかけていった。 状況において行かれたルイズは走っていくギーシュを見ていた。 次第に視線が一点に集まっていく。 ギーシュの振り回している杖の先についた薔薇。 その中心にある青い石に。 「あーーーーーっ」「あーーーーーっ」 ユーノは思わず声を出す。 あわててルイズがユーノの口を押さえて周りの生徒を見る。 どうやら誰も気づいていないようだ。 (ルイズ、今の) 気づかれないように今度は念話を使う。 (わかってるわ。あれって、ジュエルシードよね) (うん、間違いない) ルイズは走り出す。 「ちょっと、ギーシュ!待ちなさいよ!!」 ルイズもいなくなってしまった。 そこにいる生徒達は状況が読めていなかった。 そして、その中にはキュルケもいた。 「なによ、あの四人」 とりあえず状況を整理するが何が何だかよくわからない。 悩むキュルケに話しかける者がいた。 「あの、ミス・ヴァリエールがどこに行かれたか、ご存じありませんか?」 キュルケは名前は知らないがシエスタだ。 「あー、あの娘ならさっきあっちに走っていったわよ」 「ありがとうございます」 シエスタは一礼してルイズを追っていった。 「ふーん」 キュルケは考える。 恋のもつれでどこかに行ったモンモランシーとケティ。 それを追って行ったギーシュ。 さらに、そのギーシュを追って行ったルイズ。 さらにさらに、ルイズを追いかけていったメイド。 なにが起こっているのかさっぱり解らなかったが1つ解ることがあった。 「なにか面白そうじゃない」 キュルケは一言つぶやいて口の両端をあげると、メイドを追っていった。 他の生徒達も考える。 そしてキュルケと同じように笑うと、キュルケを追って走って行った。 「ギーシュ!ちょっと待ちなさい!」 ギーシュは自分を呼び止めるルイズの声を無視した。 「待ちなさいよ!」 待っていられるはずがない。 角をいくつか曲がっているうちにケティを見失ってしまった。 今、ギーシュが追いかけているのはモンモランシーだ。 走って追いかけてヴェストリの広場まで来てしまった。 「待ってって言ってるでしょ!聞こえないの?」 ヴェストリの広場は昼間でも人が少なく、今は誰もない。 おかげでルイズの声がよく響く。 「いいかげん止まりなさいよ!ギーシュ・ド・グラモン !!!」 あまりにうるさいのでとうとう振り向くことにした。 「ええい、いったい何のようなんだね。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!」 立ち止まったギーシュにルイズが走って追いつく。 「貴族たるもの、マントを振り乱して大声を出すものじゃない。それに僕は今忙しいんだ。後にしてくれたまえ」 だがルイズはそんなことは聞かない。 「あなたの杖の先についているそれ!」 呼吸を落ち着かせてすかさず話し始める。 「この薔薇かい?」 「ちがうわ。その薔薇の中に入れている青い石。それ返して!」 「この石を?」 「そうよ!早く返して」 「ふむ」 公爵家の娘の持ち物にしてはみすぼらしい気もするが、そんなものをここまで追いかけてくると言うことはルイズの持ち物なのかも知れない。 それに、どうせ拾ったものだ。 気に入ってはいるが無理に自分のものにするほどの物でもない。 「いいだろう。ただし……」 授業では爆発に見舞われた。 さっきはルイズにモンモランシーとの会話をぶちこわされた。 少しくらい意地の悪いことをしてもいいだろう。 そう考えたギーシュは杖を振る。 「僕のワルキューレと話し合ってからにするといい」 一枚の花びらと青い石が宙を舞った。 前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ
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前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ ソーサリー・ゼロ これまでのあらすじ 第一部「魔法使いの国」 君は、若く勇敢な魔法使いだ。 祖国アナランドを危機から救うべく、カーカバードの無法地帯を横断する旅を続けていた君だったが、ふと気がつくと周囲の光景は 一変していた。 そこは、ハルケギニア大陸のトリステイン王国と呼ばれる未知の土地であり、魔法を使える特別な血筋の者たちが王侯貴族として君臨し、 大多数の平民たちを支配しているという、奇妙な世界だったのだ。 君がこのハルケギニアにやって来たのは、ルイズという少女が執り行った、『≪使い魔≫召喚の儀式』が原因だった。 ルイズは大いに戸惑いながらも、とにかく君を≪使い魔≫にすることに決め、自分に対する忠誠を求めた。 今すぐカーカバードに戻る方法がないと知らされた君は、当面の庇護を得るために彼女に従うことに決めるが、自分が重大な任務を帯びた 魔法使いであることは、黙っておいた。 ルイズは、貴族の子弟のための学び舎『トリステイン魔法学院』の生徒であり、君も彼女の学業につきあわされることになる。 君の『ご主人様』であるルイズは、名門貴族の令嬢でありながら、どういうわけか魔法がまったく使えぬ劣等生であり、 心ない者たちから≪ゼロのルイズ≫という屈辱的な名で呼ばれていた。 ハルケギニアに召喚されてから七日目に、事件が起きた。 学院の教師コルベールが、解読の助けを求めて君に手渡した≪エルフの魔法書≫と呼ばれる書物が、≪土≫系統の魔法を操る正体不明の盗賊、 ≪土塊(つちくれ)のフーケ≫によって奪われたのだ。 森の中でフーケに追いついた君は、盗賊の正体が美しい女だと知るが、そこに思いもよらぬ乱入者が現れる。 かつて、君によって全滅させられたはずの『七大蛇』のうちの二匹、月大蛇と土大蛇が、君とフーケに向かって襲いかかってきたのだ。 さらには、ルイズと、彼女の同級生であるキュルケとタバサまでもが駆けつけ、激しい闘いの末、月大蛇は打ち滅ぼされ、土大蛇は逃走した。 学院に戻った君は、ルイズと学院長のオスマンに、自らの正体と≪諸王の冠≫奪回の任務について打ち明ける。 ふたりは大いに驚きながらも、君の話を信じ、君がカーカバードに帰還する方法を調べると、約束してくれた。 翌日の夜、学院で催された舞踏会から抜け出したルイズは、君のところへやって来て、必ず≪ゼロ≫から抜け出し、君より偉大な魔法使いに なってみせる、と宣言する。 君は、『ご主人様』のルイズや学院の人々、そして、この美しい世界に対して愛着を覚えるようになっていたが、自身の内側で起きている 恐るべき異変には気づいていなかった。 第二部「天空大陸アルビオン」 トリステインの王女アンリエッタが学院を訪れた日の夜、君とルイズはオスマン学院長の呼び出しを受ける。 オスマンが話すところによれば、彼の旧友であるリビングストン男爵という貴族が、遠く離れた二つの場所をつなげる≪門≫を作り出す魔法を 研究しているのだが、その≪門≫は、このハルケギニアと、君が居たカーカバードを結んでいるかもしれぬというのだ。 カーカバードへ戻れる望みが出てきたことを知った君は、男爵が住まうアルビオンに向かうが、その旅には『ご主人様』のルイズと、 かつて君を相手に決闘騒ぎを起こしたギーシュが、強引に同行してきた。 港町ラ・ロシェールで≪土塊のフーケ≫と再会した君は、彼女と力を合わせて水大蛇を倒すが、七大蛇がアルビオンに拠点を置いて、 何かを企んでいることを知る。 『白の国』の異名をもつアルビオンは、雲と霧に包まれて天空を漂う、驚異の地だった。 空飛ぶ船でアルビオンに降り立った君、ルイズ、ギーシュの三人は、リビングストン男爵の領地へ向かうが、アルビオンは国を二分しての 内乱に揺れており、男爵は行方知れずになっていた。 男爵を探してとある村に立ち寄った君たちは、そこで酸鼻きわまる虐殺を行っていた傭兵たちと出くわし、捕らえられてしまう。 君は、以前にオスマンから貰った、意思を持つ魔剣であるデルフリンガーの謎めいた力の助けを借りて、彼らの首領格であるメンヌヴィルを 討ち取り、残った傭兵たちは、突如現れた、アルビオン王国の皇太子ウェールズ率いる一隊によって、殲滅された。 君たちがアルビオンに来るにいたった事情を知らされたウェールズは、リビングストン男爵は貴族派と呼ばれる反乱軍によって捕らえられ、 むごたらしく殺されたと告げる。 ウェールズは、帰還の望みが絶たれたことを知らされて意気消沈する君を、ニューカッスルの城へと招いた。 追い詰められた王党派にとって最大の拠点であるその城には、男爵の遺品や書き置きが残されているかもしれぬのだ。 秘密の地下通路をたどってニューカッスルの城に入った君たちは、倉庫で男爵の日記を見いだすが、君の役に立つような記述は何もなかった。 ≪門≫の探索をあきらめてトリステインに戻ることに決めた君たちは、トリステインから派遣された大使、ワルド子爵と出会う。 婚約者であるルイズとの偶然の再会に喜ぶワルドだったが、その正体は、アルビオンの貴族派を背後から操る結社≪レコン・キスタ≫の 一員だった。 巨大なゴーレムがニューカッスルに襲来した混乱に乗じて、国王の命を奪い、ウェールズをも手にかけようとしたワルドだったが、その場に 君が立ちふさがる。 ルイズとデルフリンガーの助けもあって、どうにかワルドに打ち勝った君だったが、そこに火炎大蛇が現れ、ワルドは逃走する。 火炎大蛇が倒されたのち、ウェールズは君たちに、裏切り者のワルドにかわって、トリステイン大使の務めを果たしてほしいと頼む。 務めとは、かつてアンリエッタ王女がウェールズに宛てた恋文を、王女のもとへ持ち帰ることだった。 この恋文の存在が明らかになれば、締結直前にあるトリステインと帝政ゲルマニアの同盟は破棄され、トリステインは単独で、 ≪レコン・キスタ≫が主導する新生アルビオンの脅威に、立ち向かうことになってしまうのだという。 君たちに手紙を託したウェールズは、数日のうちに全軍による突撃を敢行し、名誉ある戦死を遂げるつもりだと言うが、ルイズはそれに反対し、 トリステインへの亡命を勧める。 ウェールズはルイズの意見に頑として耳を傾けなかったが、ついで説得に立った君の言葉に心を動かされ、たとえ卑怯者と呼ばれようとも 生き延びて、≪レコン・キスタ≫を苦しめてみせると告げた。 ウェールズと意気投合した君は、彼が語った噂話から、七大蛇が≪レコン・キスタ≫の頭目クロムウェルの忠実なしもべだと知る。 君たちはニューカッスルの城から脱出する難民船に便乗し、トリステインへの帰路につくが、その頃アルビオンでは大陸全土に、 奇妙な甲高い音が鳴り響いていた。 それは、二つの世界を隔てる壁が引き裂かれた音だった。 第三部「さまよえる冒険者」 トリステインに帰り着いた君たちは、アルビオンでの顛末とウェールズの決意をアンリエッタ王女に報告した。 アンリエッタは感謝の証として、ルイズに王家伝来の秘宝≪水のルビー≫を譲り、また、同じく国宝ではあるが、何も書かれていない頁が 連なるだけの書物≪始祖の祈祷書≫を預け、その調査を頼む。 アンリエッタは、大国ガリアを中心とした≪レコン・キスタ≫討伐のための諸国連合軍が結成され、トリステインもこれに参加することを、 君たちに伝える。 これによって、アルビオンの脅威は遠からず消滅することは確実なため、トリステインとゲルマニアの同盟締結は中止され、アンリエッタは、 ゲルマニア皇帝との望まぬ政略結婚をまぬがれることとなった。 学院に戻った君はタバサと言葉を交わし、彼女の家族が重い病に臥せっていると知り、近いうちにその者の治療に行くと約束した。 数日後、君は荷物持ちとして、ギーシュとその恋人モンモランシーとともに『北の山』へ行くことになったが、そこで土大蛇の襲撃を受ける。 土大蛇を倒した君だったが、深手を負ったギーシュを救うために、ブリム苺のしぼり汁を使い果たしてしまった。 この薬は、タバサの家族に試すはずの癒しの術を使うために、必要不可欠な物なのだ。 タルブの村の出身で、今は学院に奉公している少女シエスタの実家に、同じ薬があることが明らかになり、君、ルイズ、タバサ、キュルケ、 シエスタの五人は、タルブへと向かった。 シエスタの実家でブリム苺のしぼり汁を手に入れた君は、シエスタの曾祖父が、君と同じように≪タイタン≫の世界からハルケギニアに 迷い込んだ人物であることを知る。 君たちは、シエスタの曾祖父がくぐり抜けた≪門≫が存在するという洞窟を調べ、最深部にそれらしき場所を見出したが、そこに≪門≫はなかった。 洞窟の調査を終えた君たちがタルブに戻ると、そこに、生きた泥沼のような姿をした≪混沌≫の怪物が来襲する。 草木や家畜をむさぼり喰い、土や空気を汚染して、どんどん大きくなる≪混沌≫の怪物を前に、進退窮まる君たちだったが、ルイズが偶然開いた ≪始祖の祈祷書≫に現れた呪文を唱えると、まばゆい光が炸裂し、怪物は跡形もなく消滅した。 デルフリンガーによれば、ルイズが唱えた呪文は、伝説の失われた系統≪虚無≫のものであり、彼女は≪虚無≫の担い手なのだという。 ルイズが普通の≪四大系統≫の魔法を使えなかったのは、≪虚無≫を受け継いだ代償だったのだ。 タバサに連れられて、彼女の実家にやってきた君が見たものは、恐るべき毒に心を狂わされ、我が子を目にしておびえた声を上げる、 タバサの母親の姿だった。 タバサの母親に癒しの術をかけた結果は、完治には程遠いものだったが、それでも彼女は、恐怖や苦痛からは解放されたようだった。 タバサと、彼女の実家を管理する老執事は涙ながらに喜び、君は、タバサがガリア王家の出身であり、彼女とその両親は王位継承争いの 犠牲者だということを知らされた。 タルブから持ち帰ったブリム苺のしぼり汁は数に余裕があったため、君は次にルイズの姉を治療するべく、ルイズの実家である ラ・ヴァリエール公爵の屋敷へ行くが、そこで執事殺しの疑いをかけられ、屋敷の中を逃げ回ることになってしまった。 ルイズの姉カトレアは君の無実を信じ、部屋にかくまってくれるが、そこに今回の事件の黒幕である風大蛇が現れ、君たちに襲いかかる。 七大蛇の主人クロムウェルは、正体不明の兵器を用意していたが、それを妨げる手段を知るかもしれぬ君を危険な存在とみなし、 抹殺するべく土大蛇と風大蛇をさしむけてきたのだ。 風大蛇はルイズの母親によって倒され、怪物の放つ毒を吸って重態に陥ったカトレアも、君のかけた術によって救われたが、 癒しの術も、彼女の生まれつきの体質を改善するまでにはいたらなかった。 学院に戻った君は、≪虚無≫の絶大な力を恐れたルイズが、アンリエッタと相談した末、自分が≪虚無≫の担い手であることを絶対の 秘密とし、二度と≪虚無≫の術を使わぬと決めたことを知った。 ルイズやキュルケ、ギーシュたちと一緒になって、アルビオンに向かって出征するトリステインの軍勢を見物する君の内心は、 穏やかではなかった。 クロムウェルが用意しているという、この世界の常識を超えた恐るべき秘密の兵器とは、いったいなんなのだろうか? 一 夏の訪れを感じさせる陽射しを受け、額に汗をにじませながら、西の空を見上げる。 視界の遥か先を漂っているであろうアルビオン大陸の姿は、見えるはずもないが、雲と霧をまとって空に浮かぶ『白の国』の壮大な眺めは、 君の頭に刻み込まれている。 かの地では今、敵味方合わせて十万をゆうに越す大軍がぶつかり合い、火花を散らしているはずだ。 ハルケギニア諸国連合軍によるアルビオン遠征が始まって、二十日近くが経つが、トリステイン王国と魔法学院は平和そのものだ。 アルビオンにおける戦況について、宮廷からの発表はなく、人々の情報源はもっぱら、徴用された貨物船の水夫や荷役夫たちが持ち帰る土産話と、 貴族の将校たちが家族や恋人に宛てた手紙による。 君は学院とトリスタニアの町でこの大戦(おおいくさ)に関する噂を拾い集めたが、その多くは、万事が順調に進んでいることを示していた。 ──アルビオンへの進撃において、驚くべきことに、精強を謳われたアルビオン空軍の迎撃はなく、艦隊はまったくの無傷で上陸した。 ──連合軍は各地で快進撃を重ね、トリステイン軍は交通の要衝である古都シティ・オブ・サウスゴータを占領した。 ──主力をつとめるガリア軍は首都ロンディニウム攻略の準備にかかっており、もうすぐ≪レコン・キスタ≫は崩壊し、戦は終わるだろう。 噂を聞くかぎり、連合軍の勝利は揺るぎなきものと思えたが、君が本当に知りたいこと──ウェールズ皇太子の安否とクロムウェルの秘密兵器── に関する情報は、なにひとつ得られなかった。 『白の国』に上陸した連合軍はすぐさま、アルビオン王家の最後の生き残りであるウェールズの生死を確認すべく動いたが、 彼の足跡は、王党派最後の拠点ニューカッスルの城──今は瓦礫の山に変わっているそうだ──を最後にふっつりと途絶えており、 その行方は杳として知れぬという。 君は、アルビオンを発つ前夜にウェールズと交わした言葉を思い起こす。 「たとえ卑怯者のそしりを受けようとも、私は生きる」 「この命が続く限り、奴らの悪だくみを邪魔し続けてやるさ」 力強くそう言った皇太子が『名誉の戦死』を遂げたとは思えぬが、ならばなぜ、彼とその部下たちは連合軍と合流しておらぬのだろうか? また、ルイズの実家で風大蛇が語った、クロムウェルが準備しているという『百万の軍勢でも千フィートの城壁でも防げぬ、 まったく新しい武器』の存在も噂にあがらず、その実態は推測することもままならない。 追い詰められたクロムウェルにとって、起死回生の策となるであろう兵器は、結局のところ間に合わなかったのだろうか? それとも、連合軍を懐に引き寄せてから使って、一網打尽にするつもりなのだろうか? 君の不安はつのるばかりだが、アルビオンへ出向いて直接調べるわけにもいかない。 君の身分は、トリステイン魔法学院の生徒ルイズの≪使い魔≫にすぎぬのだから。 今日の授業は終わり、生徒たちは夕食までのあいだ、めいめいのやりかたで時間を潰している。 時間を潰さなければならぬのは、君も同じだ。 とくにルイズから言いつけられた用事があるわけでもなく、今の君は手持ち無沙汰なのだ。 これからどこに向かうべきかを考える。 マルトーやシエスタの居る調理場へ行けば、食糧や日用品を扱う出入りの商人から仕入れた、新しい噂を聞けるかもしれない。 噂といえば、ギーシュと話してみるのはどうだろう? 彼は武門の生まれであり、三人いる兄はいずれも、アルビオン遠征に参加しているらしい。 かの地の様子を記した手紙も、何通か受け取っているだろう。 授業が終わった直後に、東の広場へ向かっているところを見かけたので、そちらへ向かえば会えるはずだ。 そこまで考えたところで、君は唐突に、アルビオンから戻った直後にコルベールとかわした会話を思い出す。 コルベールは、君の左手に刻まれた≪ルーン≫の効果に興味を示し、人間のような知性をもつ生き物に≪ルーン≫が刻まれた例を 探してくれると言ったはずだが、あれから何の音沙汰もないままだ。 君は今の今までその事を忘れていた──考えてみれば、なんとも奇妙なことだ。 調べ物には何の進展もなかったのかもしれぬが、それでも彼の『研究室』を訪れるのは有意義だ。 彼のような学識豊かで誠実な人物と言葉をかわすというのは、悪くない時間の使いみちだろう。 どこへ行く? 調理場・二二二へ 『研究室』・一三六へ 東の広場・五三四へ ルイズの部屋・一二三へ 前ページ / 表紙へ戻る / 次ページ
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前ページ次ページ狂蛇の使い魔 第九話 フーケが破滅の箱を盗み去った、その翌日。 学院長室にて、目撃者であるルイズたち三人と教師一同、そして学院長のオスマンらによる臨時会議が行われた。 ルイズたちによる証言の後、フーケの居場所を突き止めたと途中から部屋に入ってきたロングビルの情報を元に、オスマンがフーケ討伐隊の結成を提言。 本来なら、教師たちが率先して名乗りを挙げるべきであった討伐隊。 しかし、相手が強力なメイジであることや事後処理などの責任問題で、誰も杖を上げようとしなかった。 その代わり、今度こそ周りを見返してやろうと燃えるルイズが真っ先に杖を上げた。 ルイズには負けられないとキュルケ、皆が心配とタバサの二人も杖を上げ、結局三人でフーケの討伐に向かうことになったのである。 「あー、ミス・ヴァリエール。君の使い魔を呼んできてはくれんかね。……少々話があるのでな」 会議も終わり、一人また一人と学院長室を出ていく中で、ルイズはオスマンに声をかけられた。 「オールド・オスマン。使い魔をお連れしました」 「……俺に何か用か?」 話がある、と聞かされた浅倉は、ルイズに連れられて学院長室にやってきた。 浅倉の無礼な態度を、ルイズが慌ててたしなめようとする。 「よいのじゃ、ミス・ヴァリエール。……ところで使い魔殿。突然で悪いが、破滅の箱について話があるのじゃ」 オスマンが学院長席で手を組み合わせながら、浅倉に尋ねた。 扉の横の壁に寄りかかり、腕と足を組んだ浅倉がそれに応える。 「破滅の箱……ああ、あのカードデッキのことか。それについては俺も聞きたいことがあったな」 ふむ、とオスマンが考える。 「それなら、わしの質問が終わった後で答えることにしよう。まずはあの箱について知ってることを教えてくれんか?」 「それならこいつに聞け。知ってることは全部こいつに話した」 浅倉がルイズの方を向き、再びオスマンに目線を戻す。 「えっ、私!?」 いきなり話をするようにと言われ反論しようとしたルイズであったが、逆らえそうにもないと分かると渋々と口を開いた。 ルイズが一通り話し終えると、オスマンは椅子にゆっくりともたれ掛かった。 「なるほどのう……。にわかには信じがたいが、信じる他なさそうじゃ」 ギーシュと浅倉の決闘の様子を思い出しながら、オスマンが言った。 「今度はこっちの質問に答えてもらおうか。……お前、どこであれを手に入れた?」 浅倉の質問に、オスマンは白髭を撫でながら答える。 「そうじゃのう。あれは数年前のことじゃ……」 オスマンが言うには、数年前、とある村に見慣れない格好をした男が倒れていたという。 男は既に死亡しており、村人らによって葬られた後、彼の持ち物は村人たちの手に渡ったらしい。 その内の一つが破滅の箱である。 見た目はただの奇妙な箱だが、この箱を手にした者は、どのような呪いなのかはわからないが、幾日かの間に忽然と姿を消してしまうというのである。 当初、男の持ち物を所持していた村人も消えてしまったという。 そのため、気味悪がった村人たちによって売り払われ、破滅の箱という名で取り引きされるようになったのである。 それ以来、秘宝という価値に惹かれた者、呪いの正体を暴こうとする者、興味半分に手を出す者などが後を絶たず、犠牲者は増えるばかりであった。 オスマンもまた、呪いの原因を突き止めようとした者の一人であった。 最近になって闇市場に出回っているのを見つけたオスマンは、ようやくこの呪われた秘宝を手にすることができたというわけである。 「なるほどな。……そうだ、一ついいか?」 浅倉がオスマンに向かって尋ねた。 「なにかの?」 「あのデッキを俺によこせ。呪いでないことがわかったなら、もう必要ないだろう?」 そう言って、浅倉が口元に笑みを浮かべた。 「そうじゃのう……。フーケを捕らえられたなら、箱は好きにするがよかろう。扱いを知っている者なら、これ以上犠牲者を出さずに済むじゃろうて」 オスマンが軽く頷いた。 「話が分かる。で、用事というのはこれだけか?」 言いながら扉に向けて歩き出す浅倉を見て、オスマンが思い出したように言った。 「そうじゃ、もう一つ。君が毎日やっている決闘の相手に、もう少し休みを与えてやってはくれんか。このままだと死んでしまうからのう」 「……気が向いたらな」 オスマンに背中を向けると、浅倉は扉を開けて部屋を出ていった。 ルイズはオスマンに向かって一礼すると、慌ててその後を追うのであった。 会議から一時間ほど後に学院を発った、ルイズたちと浅倉。 彼らはロングビルの案内のもと、フーケが逃げてきたという森へとやってきた。 「情報によると、あの小屋に『土くれ』のフーケが潜伏しているとのことです」 ロングビルが、少し離れたところにある古びた小屋を指さしながら言った。 草木に身を隠しながら、ルイズたちは作戦を練り始める。 「誰かが囮になって中のフーケを誘きだし、出てきたところを皆の魔法で叩く! これでいけるはずよ」 「でも、ルイズ。肝心の囮役はどうするのよ。もちろん言い出しっぺのあんたが……」 「わたしが行く」 挑発しようとするキュルケを遮り、タバサが名乗り出た。 「ケンカはだめ。作戦は調和が大事」 作戦会議が一段落したところで、ロングビルが「辺りの様子を見てきます」と言い残し、森の奥へと消えていった。 ルイズたちは作戦の準備に取りかかる。 「ところで、アサクラを見ないんだけど……どこにいったの?」 キュルケがルイズに尋ねた。 「そういえば姿が見えないわね。どこにいって……あっ! アサクラ!!」 いつの間にか小屋の前に立っている浅倉に向けて、ルイズが叫ぶ。 と同時に、小屋の扉が勢いよく蹴破られた。 「無人か……」 デルフリンガーを背負った浅倉が呟いた。 誰かがいたような後が見られるものの、最近使われていなかったのか、部屋の至るところが埃をかぶっている。 テーブルに目を向けると、盗まれたはずのカードデッキが置いてあった。 浅倉がデッキを手にとると、デルフリンガーがカチャカチャと喋りだした。 「相棒、どうやらこの状況は……」 「そのようだな」 浅倉が小屋を飛び出したのと、小屋の天井が吹き飛んだのはほぼ同時であった。 突如目の前に現れたゴーレムは、フーケがいるはずの小屋を破壊すると、ルイズたちがいる方向に向けて歩き出した。 キュルケとタバサが魔法で応戦するも全く歯がたたず、動きを止めることができないでいた。 浅倉は懐からルイズに借りている手鏡を取り出すと、デルフリンガー、盗まれたデッキとともに地面へ放り投げた。 そして自らの持つ蛇のデッキを鏡に向けると、右手を胸の前で前後させ、叫んだ。 「変身!」 ベルトにデッキを差し込み、ガラスの割れるような音とともに王蛇への変身が完了する。 王蛇はデルフリンガーを拾いあげると、鞘から刀身を抜き、巨大なゴーレムに向かって駆け出した。 「ウオオオオッ!!」 ゴーレムが反応するよりも早くその足元に近づくと、浅倉は土でできた右足をがむしゃらに斬りつけた。 二度、三度と斬りつけるうちに足が切断され、ゴーレムが態勢を崩す。 しかし、すぐにまわりの地面から土を吸収し、元の無傷な状態へと戻ってしまう。 左足や胴体でも結果は同じであった。 ゴーレムの攻撃は単調で避けることは容易いが、これでは一向に勝負がつかない。 「チィッ……イラつかせるっ……!!」 ルイズは焦っていた。 せっかく自分が提案した作戦も決行前にご破算。 魔法は危ないから使うなとキュルケに釘を刺され、現れたゴーレムに逃げ惑うことしかできないでいる。 これでは役立たずのままではないか。 (何か……何かできることはないの!?) そう考えながら、ルイズは辺りを見回す。 ふと、浅倉に貸しっぱなしだった手鏡が目に入った。 そして、その傍らにあるのは…… (破滅の箱……?) フーケに盗まれたはずの秘宝。 手にした者を破滅させるという呪われた品。 しかし、浅倉の言う通りならばこれを使って変身できるはず……。 (これなら私だって……私だって戦える!!) 思い立つやいなや、すぐにデッキを拾い上げると、鏡に向かってその白虎の紋章をかざし、叫んだ。 「変身!!」 「あれは……破滅の箱!?」 タバサが呼び寄せたシルフィードに乗り、上空に避難していたキュルケがルイズの方を見て、叫んだ。 タバサも珍しく驚いた顔つきでルイズの方を見つめている。 ルイズが腰に巻かれたベルトに破滅の箱を差し込むと、ルイズの姿が一瞬にして青と銀の鎧に包まれた。 「近くへ寄って」 タバサはシルフィードに指示を出し、ルイズの元へと急ぐ。 「これが……破滅の箱の力……」 自身の姿が映った手鏡を覗き込むようにして見ながら、ルイズが呟いた。 その姿は、胸に青と銀の、肩に鋭い爪を模した装甲を纏い、顔は虎をイメージさせるような形の面を被っている。 両手を動かすと、チャキチャキと装甲が擦れる音がした。 「ルイズー!」 ルイズが鏡に見入っていると、上からキュルケの声が聞こえてきた。 振り返ると、シルフィードから降りたキュルケとタバサがこちらに向かって走ってきていた。 「ルイズ、この格好は……」 驚きの表情で尋ねるキュルケに、ルイズ―仮面ライダータイガ―は答えた。 「これはアサクラと同じ、『仮面ライダー』よ」 前ページ次ページ狂蛇の使い魔
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名前 ルイン 性別/年齢 男/25歳 種族 ヒューマン 人称 一人称:俺/座長 二人称:男子:呼び捨て、お前 女子:呼び捨て、○○ちゃん その他あだ名 三人称:呼び捨て、あの人、あの子、あいつ 外見的特徴 髪:メカクレ青髪 目:澄んだ青(前髪で見えない) 服装:露出が少ないフォーマルっぽい服が好き。若さを感じさせる服はそろそろきつい。一番落ち着くのはクローズクォーター(デフォ服)。 身長/体重/体格 172cm。ムキムキではないややがっちり。割と柔軟性がある 視力/利き手/健康状態など 視力:それほど遠くまでは見えないが動体視力はいい。右利きから両利きに矯正。ねむみに弱い。 性格的特徴 思ったことをすぐ口走る。ツッコミたがり。へらへらふにゃふにゃしていたが最近黙り込むことが多くなった。 長所 自然体でいること。座長だからといって強く見せよう賢く見せようとは毛程も考えていない。 短所 現状維持をしすぎるところ。ふまじめ。 仕草のくせや性癖、ポリシー・思想 ダーカーと龍族、原生種などの喧嘩(殺し合い)をわーすごいと眺めるのが好き。劣勢側を応援した後ヤメルンダキミタチ(両成敗)したりする。襲ってきたら相手の事情に関わらず倒す。 趣味、特技 人気のないスポット探し、デイトレ戦士 たまにオートワードを一新しているが本人はよくわかってない。平行世界のなんかがなんからしい 好物 ダーカーの弱点(手応えが好きとか) 弱点、嫌いなもの 障壁・発掘系Eトライアル。「結果は結果だ」 知性や知識レベル 特に役に立たない無駄知識をまれにこぼすが、肝心のアークス業務に関する知識は最低限しかない。デイトレ野郎だけあって日々変動する相場には注意している。 ファイトスタイル 後方に回り込んでひたすら叩く。ガツンと効く裏拳が好きだがよく外す。ジャストガード? なんですかそれ…… ギャップなど 賑わいの中にいるのが好きな反面、時折どうしようもなく一人になりたくなることがある。 生い立ちや経歴など アークスである両親は宇宙を飛び回っていたため、幼い頃から叔母の家で暮らしていた。叔母夫婦は両親やアークスを毛嫌いしており、ルインの前であろうと両親が職務中に亡くなろうと暴言をやめなかった。毎年検査のように適性試験を受け、15歳の時に適性があると判明するや否や両親に替わる新たな金づるとしてすぐさま養成へと送り出される。以後叔母夫婦とは顔を合わせておらず、両親の息子、アークス候補生として余計な確執を生まないよう黙々と研修し20歳でようやくハンターとして正式にアークスになる。 家族構成(恋人なども含む) 両親(故人。顔も知らない)、叔母夫婦(一般人。仕送りの宛先不明通知から亡くなったと知る。市街地火災と最近判明)、叔母夫婦の息子(いとこ。叔母夫婦と同様と思われていたが……?) 人物、心証など特筆すべき点があれば ぽよみ女子芦浦ちゃん:メカクレ女子は実際珍しいので気にかけている。落ち着きがあっていいねと思っている。お元気?ナガメ:もはやナガメちゃんではなくナガメでもなくナガメさんなのではないか? と真剣に考えている。男前ぶりを分けてほしい。錆ちゃん:クールでセクシーなおしゃれ番長。ブレイバーお似合いですよと思いつつよくゴーストとして呼んでいる。ブルス子:ちっちゃくてかわいいけどあなどれない。頭の回転がいい。おだんごまじかわ。ちはやちゃん:一緒にふざけるのが楽しい。何気なくプレゼントなどしてしまう。援助交際じゃないです。黒澤ちゃん:眼鏡いいよね……としみじみ噛み締めている。華奢で一輪花めいた儚さがぐっとくるらしい。いがほ:そういえばまだまともにお話してないぞ! なんて座長だ! と反省している。サポ子:些細なことでもいいから嬉しいこととか悲しいこととかなんでも教えてください。りりっ。ぽよみ男子ヌン:第二章中盤。コンゴトモヨロシク……マサカドおじいちゃん:なんだかよくイメチェンしていて、老いて益々盛んとはこのことかと感心しきり。オハギ:最近イケメン度合いが増してきて置いていかれてる感がある。じっさま関係のシンボルが密かにお気に入り。バッスィ:カワイイツインタワーの一角。レイをつけてたのがくそかわで羨ましいらしい。シパチャン:カワイイツインタワーのもう一角。スパルダイオン装備が味わい深い。ヘギョミツ:人となりを把握しきれてないくやしみがあるので観察したい。ノアお兄さん:スタイリッシュダンスしているのをよく羨ましそうに見ている。いずれゴーストで呼びたい。マショワール:いい人だよなぁと思っている。お腹のぽよみが新鮮。ぽよみってほんと自由な集まりだなと思い始めたきっかけ。あかぼ:メカクレシンパシーを感じている。ふらふらと危なっかしいので逆にその後ろをつけてみたいと思っている。ミチザネじいちゃん:妙な気楽さがあってよくゴーストとして同行してもらっている。ハル:どっかいっちゃうかと思ってたけど最近大変そうで何より。でももうちょっと苦労した方がいい。シュウ:ええと。なんていうかその、ごめんなさい。よろしく。 任務に対するやる気 無駄口(オトワ)叩きたいがために出陣するみたいになってる。オトワ道楽やめられない。 +SS(ザムロード)
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前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence― その夜……。 ルイズが部屋に戻ったのは日もとっぷりと暮れた夜だった。 オスマン氏との話を終えたルイズは、学院長室を出た後、そのままエツィオのいるであろう部屋に戻ることができなかった。 話をしてみろ、とオスマン氏に言われていたものの、エツィオの正体を知ってしまった今、どう話かけていいかわからなかったのだ。 中庭のベンチに腰掛け、どうエツィオに話を切り出すべきかと、あれこれ考えているうちにすっかり夜になってしまっていた。 結局、なんの考えも浮かばずに、仕方なくルイズは部屋に戻ることにしたのだった。 「おかえりルイズ、随分と遅かったじゃないか、もう寝る時間だぞ」 ルイズが部屋の扉を開けると、使い魔であるエツィオがにこやかに迎え入れてくれた。 違いといえば、いつも身につけている白のローブではなくシャツを着ているという所だけであろうか。 こうしてみると、どこにでもいる品のいい青年、と言った感じである。 今まで片づけていたのだろう、下着や食器が散乱していたはずの部屋は綺麗に片付いている。 それどころか、ベッドの上にはルイズの着替えまで置いてあった。帰ってきて早々この仕事っぷり、相変わらず気の利く男である。 久しぶりに見る、いつも通りの陽気なエツィオ。そんな彼を見ていると、本当にこいつはアサシンなのだろうか? と首を傾げたくなってくる。 「どうしたんだ? 悩み事か? なんなら相談に乗ってやるぞ」 「な、なんでもないわよ!」 そんな風にルイズが考えていると、エツィオが顔を覗きこんでくる。 相変わらずの、人をからかうような仕草にルイズは頬を僅かに赤くしながら怒鳴りつける。 ルイズはベッドに行くと、そこに置かれた着替えを手に取った。 エツィオの言うとおり、そろそろ寝る時間だ。随分長い間悩んでいたものだと考えながら、着替えを始める。 だが、何を思ったか、着替えようとしていたルイズの手がはたと止まった。それから、はっとエツィオの方へ振り向いた。 エツィオはというと、机の上に置かれた装具類を点検している。こちらを見てはいないようだ。 それをみたルイズは、いそいそと外していたブラウスのボタンを留め、ベッドのシーツを掴むと、それを天井に吊り下げ始めた。 「ん? 何をしてるんだ?」 ルイズのその行動に、流石に気が付いたのか、エツィオが尋ねる。 しかしルイズは頬を赤く染めたきり答えずに、シーツでカーテンを作り、ベッドの上を遮った。 それからルイズは、シーツのカーテンの中に入り込む。ごそごそとベッドの中から音がする。ルイズは着替えているようだ。 エツィオは小さく首を傾げた、いつもだったら、堂々と着替えていたはずなのに……。とそこまで考えが至った瞬間、ニヤっと、口元に小さな笑みを浮かべた。 ああ、そういうことか。ようやく俺のことを男として見始めたな。 とにかく鋭いエツィオは、ルイズの行動の原因として、即座にその答えをはじき出した。 さて、これからどう接してやろうか。と考えていると、カーテンが外された。 ネグリジェ姿のルイズが月明かりに浮かんだ。髪の毛をブラシですいている。 煌々と光る月明かりのなか、髪をすくルイズは神々しいほど清楚に美しく、可愛らしかった。 「へえ、これは驚いたな、カーテンの中からウェヌスが出てきたぞ」 「ウェヌス?」 聞きなれぬ名に、ルイズは首を傾げる。 そう言えばそうだった、ここは異世界だ、彼女がローマの神を知る筈はない。 「俺のとこの、美の女神さ」 エツィオがそう教えると、ルイズの頬に、さっと朱が差した。 「なな、何冗談言ってるのよ! あんたは!」 「冗談じゃないさ、きみは美しい」 「ば、バカ言ってないで、さ、さっさと寝るわよ!」 まっすぐにそう言われ、ルイズの顔が益々赤くなった。見るとエツィオはにやにやとほほ笑んでいる、こちらの反応を楽しんでいるようだ。 ルイズはベッドの上に置いてあったクッションをエツィオに投げつけた。コイツと話をしていると、ホントに調子が狂ってしまう。 ぐったりとした様子で、ルイズはベッドに横になり、机の上に置かれたランプに杖を振って消した。 灯りが消え、窓から差し込む月の光だけが、部屋を照らしだした。 装具の点検を終えたエツィオも、睡眠をとるべく、部屋の隅に置かれたクッションの山に体を預けた。 クッションが敷かれているとはいえ、寝心地は最悪である、これならアルビオンに滞在中に眠った安宿のベッドのほうが幾分かマシである。 「あいたたた……」 久しぶりの寝床の寝心地の悪さに、思わずエツィオは爺くさい声をだす。 そんな風にして学院に戻ってきたという事実をしみじみと感じていると、ルイズがもぞもぞとベッドから身を起こし、エツィオに声をかけた。 「ねえエツィオ」 「ん?」 返事をすると、しばしの間があった。 それから、言いにくそうにルイズは言った。 「いつまでも、床っていうのもあんまりよね。だから、その、ベッドで寝てもいいわ」 思わぬルイズの提案に、エツィオは顔を輝かせた。 「おい、いいのか? きみのこと襲っちゃうかもしれないぞ?」 「勘違いしないで、へ、変なことしたら、殴るんだから」 エツィオは手をわきわきと動かしながら、冗談めかして笑った。 「殴るだけか? ……なら試す価値はあるかな」 そう嘯くと、エツィオは即座にベッドの中に潜り込み、ルイズに寄り添う様に隣に寝転んだ。 ルイズが許可を出してからこの間、わずか数秒。 一切の迷いもためらいもない、あまりのその自然な行動にルイズは何も反応できずに、固まってしまった。 「さて、どうしてやろうか」 「ちょ、ちょっとやめてよね! 変なことしたら殴る……っていうか殺すわよ!」 顔を赤くしながら、震える声で叫ぶルイズに、エツィオはからかうように笑って見せた。 「冗談さ、嫌がる子を無理やりってのは好きじゃないんだ。だから……」 「だ、だからなに……?」 「きみが俺を求めるまで、俺は手を出さないことを誓ってやるよ」 ニィっと、口元に笑みを浮かべてエツィオが笑う。 その言葉が意味するところを知ったのだろう、ルイズは羞恥と怒りを爆発させる。 「こ、この……! 馬鹿にするのもいいかげんにっ……!」 「はいはい、悪かったよ。きみには刺激が強すぎたかな」 「ぐっ……、やっぱり呼ぶんじゃなかった……!」 悔しそうに歯ぎしりするルイズを見ながら、どれだけ耐えられるか、見ものだな……と、エツィオは内心ほくそ笑んだ。 プライドの高いルイズのことだ、そうやすやすと落ちはしないだろう。だからこそ、落とし甲斐があるというものだ。 ……しかし、しかしである。もしもルイズに手を出した場合……、なんだかすごく面倒なことになりそうな気がしてならないのも事実だ。 それこそイヴの誘惑に負け、エデンの果実を口にしたアダムのようになりかねない、そんな予感がする。世に言うめんどくさいタイプだ。 そう言う意味では、彼女は創世記にある禁断の果実そのものなのだろう。俺はもっと楽しみたい、だから最高の楽しみは、最後に取っておく。 自分の魅力に落ちない女性はいない、そんな絶対の自信を持っているエツィオだからこそ出来る、邪な考えであった。 しばしの間、そんな二人の間を沈黙が支配する。 そして、しばらくたった後、エツィオはぽつりと呟くように口を開いた。 「アルビオンでは……すまなかったな」 ルイズは答えない。 もう寝てしまったかな? と思ったが、寝息は聞こえてこない。エツィオは続けた。 「きみに辛い思いをさせた上に、危険な目にも合わせてしまった、……使い魔失格だな」 「そ、そんなことっ……!」 その言葉に、ルイズは思わず身を起こし、エツィオを見つめた。 エツィオは口元に笑みを浮かべ、言葉の続きを促す様に首を傾げて見せる。 「そんなこと?」 「な……ない……」 ルイズはエツィオから顔をそむけ、僅かに頬を赤くしながら小さな声で答えた。 ほんとなら、ちょっとは文句くらい言おうと思っていた、しかし、エツィオに先手を打たれ、思わず本音が出てしまったのである。 再びベッドに横になり、エツィオに背を向ける。そんなルイズを横目で見つめながら、エツィオは小さく笑い、言った。 「二度ときみを傷つけさせない、約束するよ」 「あたりまえじゃないの」 それからルイズは決心したように口を開いた。 「でも、わたしも、あんたに謝らなきゃ。ごめんね、勝手に召喚したりして」 「本当だよ、まったく」 「んなっ!?」 エツィオがあっさりそんな事を言う物だから、ルイズは再び体を起こし、今度はエツィオを睨みつける。 「ど、どういうことよ!」 「イタリアに帰りたくなくなるってことさ」 エツィオは、うー、と睨みつけてくるルイズにニヤリと笑みを浮かべてみせると、ルイズの頬に手を伸ばし、愛おしそうに撫でた。 「俺は今、毎日が充実してる、きみのおかげだ」 「か、からかわないでっ!」 かぁっ、とルイズは顔を赤くすると、その手を取り払った。 ぼふっとベッドに横になると、再びエツィオに背を向けてしまった。 「もう! 謝らなきゃよかった!」 「ははっ、でも本当さ、出来るならずっときみの傍にいたい、そう思ってる」 「っ……!」 耳元で囁かれ、どくん、とルイズの胸が高鳴った。 並みの女性なら、それだけでノックアウトされてしまいそうになる程、憂いを含んだ甘い囁き。 ひどい、エツィオひどい。そんな事言われて、平常心なんて保っていられるわけないじゃない。 今、自分がどんな顔をしているのかまるで想像が出来ない、きっと酷い顔になっている。 エツィオに背を向けていてよかった、こんな顔見られたら、ますますからかわれてしまう。 そんなルイズの様子を知ってか知らずか、エツィオは続けた。 「でも……それはできない。いつかは帰らなきゃ……」 「し、心配しなくても、きちんと帰る方法を探すわよ……」 「おい、本当か? ……まあ、期待せずに待つとするさ」 エツィオは笑いながらそう言うと、それきり黙ってしまった。 しばしの沈黙の後、ルイズはもぞもぞと動き、エツィオの方を向いた。 寝てしまったのかな? と思っていたが、エツィオはまだ起きているようだ。 話をしなきゃ……と、ルイズは意を決してエツィオに話しかけた。 「ねえ、あんたのいたイタリアって、魔法使いがいないのよね」 「いない、概念はあるけどな」 「月は一つしかないのよね」 「生憎、二つ浮いているのは見たことがないな」 「へんなの」 「ははっ、そうだな、月はともかく、魔法が無いなんて、不便なものさ。お陰で空も飛べやしない」 「あんたは向こうでは……」 ルイズはそこで言葉を切った。 それからエツィオの横顔を見つめながら、ためらう様に尋ねた。 「あんたは……『アサシン』なのよね」 「……」 「オールド・オスマンから聞いたの、あんたが『アサシン』だってこと」 ルイズがそう言うと、エツィオは天井を見上げたまま、厳かに口を開いた。 「……アウディトーレ家は銀行家だった、っていうのは話したよな」 「うん」 「それは本当だ、事実、俺は父上の後を継ぐべく勉強してたよ、あまり真面目じゃなかったけどな」 エツィオは小さく笑う。しかし、すぐに真面目な顔になった。 「銀行家、俺もそう思っていた。だけど、それはあくまで表の顔だった。アウディトーレ家には、もう一つ、隠された裏の顔があったんだ」 「それって……」 「そう、フィレンツェにとって脅威となる存在を排除する、――『アサシン』。要はフィレンツェの暗部さ。 祖先がそうであったように、父上もまた、アサシンだった」 『アサシン』の家系……、あらかじめオスマン氏から聞いていたとはいえ、 本人の口から言われると、やはり重みが違う。改めて真実を突きつけられた気分になり、ルイズは思わず息をのんだ。 「俺がそのことを知ったのは二年前、フィレンツェを追放され、伯父上のところに匿われた時だった」 「追放……?」 「そう言えば前にも聞かれたな、何故貴族の地位を剥奪されたか……」 「あ……、い、言いたくないなら別に言わなくてもっ!」 「いや、聞いてくれ、いつかは言わなきゃならないことだ」 ルイズは慌ててエツィオを止めようとする。 だがエツィオはゆっくりと首を横に振り、口を開いた。 「……罪状は国家反逆罪、もちろん濡れ衣だ。父上は、アウディトーレ家はハメられたんだ、奴らに」 「奴ら?」 「テンプル騎士団。世界の支配を目論み、陰謀を企てている連中だ。 俺達アサシンと数百年にもわたって戦い続けている、それこそ因縁の相手ってやつだよ」 きみとキュルケの因縁には負けるかもしれないけどな。とエツィオは笑って付け足す。 だがそれは、我ながらあまりに笑えない冗談であることにすぐに気づいた。 すまない……。と小さく呟き、話を続けた。 「……二年前、父上はとある事件を調査していた。ミラノ公国、そこを治める大公が暗殺された事件があった。 その事件が起こるより前、暗殺計画を事前に察知していた父上は、それを阻止すべく動いていた。しかしそれは叶わず、大公は暗殺されてしまったんだ。 表は反乱分子による暴発、そう言うことになっている。しかし、その裏ではフィレンツェの支配を巡るテンプル騎士の陰謀が隠されている事に気が付いた父上は、 騎士団からフィレンツェを守る為に調査に乗り出した」 ルイズは固唾を呑んで、エツィオを見つめた。 天井を見つめるエツィオの横顔からは、先ほどまでの陽気な青年の面影は掻き消えていた。 ぞっとするほど冷たい表情、おそらくは、これこそが『アサシン』、エツィオ・アウディトーレの素顔なのかもしれない、とルイズは思った。 「父上は事件に関わった者たちを狩り出し、始末した。だけど、悔しいが奴らの方が一枚上手だった、 父上はその事件の真相に至る前に、その事件の濡れ衣そのものを着せられ警備隊に兄弟共々捕らえられてしまったんだ。 運よくそれを免れていた俺は、父上が掴んだ陰謀の証拠を手に、父上の親友でもある判事の家へと走った、それが皆を救うものと信じてね」 「……」 「判事は言った、この証拠を翌日の裁判で提出すれば父上への嫌疑は晴れ、必ず助かると、それを聞いて俺は心から安堵した、これで元の生活に戻れるってね」 「それで、どうなったの……?」 ルイズは恐る恐る尋ねる。 エツィオは目を細め、苦しそうな表情を作った。 「……次の日、俺は裁判が開かれているシニョーリアの広場まで走った、今頃父上の無罪が証明され釈放されるところなのだろうと。だが……違った……。 そこで見たものは……絞首台にかけられる父上と兄上、そして……弟の姿だった」 「そんなっ! 証拠も提出したのにどうして!」 「簡単なことさ、判事が裏切ったんだ、判事もあいつらの仲間だった……そして俺が見ている目の前で……父上達はっ……!」 「エツィオ……」 唇を噛みしめ、怒りに満ちた声で吐き捨てる。 普段の彼からは想像もできないほど声を荒げ、感情を露わにするエツィオに、ルイズは言葉を失ってしまう。 いつもの冗談と思いたかった、しかし、それにしてはタチが悪すぎる。 「俺はシニョーリアの刑場から必死で逃げた、吊るされた家族を見捨てて。あの姿は今でも忘れられない……忘れてはならない……」 掌で顔を覆い、エツィオが呻くように呟く。怒りと悲しみ、そして悔恨がないまぜになった、苦悶の表情。 そんな自分を呆然と見つめるルイズに気が付いたのか、エツィオは小さく息を吐き、目を閉じる。 ルイズは思わず言葉を失ってしまった。 いつも陽気で不敵なエツィオとは思えないほど、弱弱しい表情。 この男が、こんな表情をするとは夢にも思わなかったのだ。 唖然としたままのルイズをよそに、エツィオは淡々とした口調で、言葉を続けた。 「全てを失った俺は、残された妹と心を壊した母上を連れ、伯父上の下に逃げ込んだ。そこで俺はアウディトーレ家の歴史とテンプル騎士団との宿縁を知った。 俺は父上の後を継ぎ、奴らに復讐を誓った。父上の死に関わった者共を全員狩り出し、一人残らず地獄に送ると」 復讐、その言葉にルイズははっとする。 いつか、アルビオンへ向かう船の上で聞いた、エツィオがイタリアに戻らねばならない理由。 エツィオの戦いは、まだ終わってはいないのだ。 「その、裏切り者の判事は……?」 「……殺したよ、この手でね。奴を前にした時、怒りで目の前が真っ赤に染まった……、 気が付いた時には、俺は判事の腹を貫き、切り裂いていた……、何度も……何度も……」 エツィオは顔を覆っていた左手を掲げ、じっと見つめる。 「俺の手は、もう奴らの血で真っ赤だ……。俺はただ、平和に暮らしていたかっただけなのに。 兄上と一緒に馬鹿やったり、恋人と愛し合ったり……、ただ自由に、普通に暮らしていたかっただけなのに……」 不意に、エツィオが首を傾げ、ルイズを見つめる。 そのエツィオの顔をみたルイズはぎょっとした。 エツィオの双眸から、一筋の涙が流れている。泣いているのだ。 唖然とするルイズの前で、エツィオは表情を歪ませながら震える声で呟いた。 「もう……もう何も戻らない。父上も、兄上も、弟も……。……どうして、どうしてこうなったんだ?」 それは、家族を失ってから、誰にも明かすことのなかった、胸の内の苦しみ、悲しみ、悔恨。 それら全ての感情を全部、ルイズに打ち明けるように、エツィオは心情を告白する。 使い魔の語る、想像を絶するほどの、悲惨な過去。陽気さの裏に隠された、悲壮な覚悟。 ルイズは思わず、涙を流すエツィオを掻き抱いていた。 いつか、ニューカッスルの廊下で、エツィオが泣きじゃくる自分にそうしてくれたように、今度は自分がエツィオを支える番だと思ったのだ。 「父上……、兄さん……、ペトルチオ……、ごめん……。ごめん……俺は……!」 エツィオの双眸から、堰を切ったように涙があふれ出す。 気が付けば、ルイズも涙を流していた。彼の境遇に同情したわけではない。同情など、軽々しく出来るはずもない。だが、不思議と涙があふれてきたのだ。 しばらくの間、ルイズの胸に顔を埋め、静かに涙を流していたエツィオだったが、やがて離れると、涙を拭いた。 「……カッコ悪いところを見せたな……でもお陰で楽になった」 「エツィオ……」 「俺の弱い心は、ここに置いて行く。もう泣き言は無しだ」 そう言ったエツィオの表情は、いつもの笑顔が戻っていた。 強い意思を感じさせる瞳に、余裕と自信に満ちた不敵な笑顔。 ルイズの目じりに溜まった涙を指先で拭ってやりながら、エツィオは微笑む。 「……酷い顔だ、きみに涙は似合わないな」 「あっ、あんたのせいよ! あんたがあんな話を――」 「ありがとう、最後まで聞いてくれて」 「っ……!」 エツィオにそう言われ、ルイズは何も返せなくなってしまう。 もにょもにょと口を動かすルイズにエツィオはにやっと笑って見せた。 「それに、貴重な体験もできたしな。ああルイズ、出来ればもう一回……んがっ!」 そう言いながら顔を近付けてきたエツィオの鼻っ柱にルイズの拳が叩きこまれた。 「ちょっ、調子に乗るなっ! このエロ犬!」 「わ、悪かった! 悪かったよ!」 ルイズは羞恥に顔を真っ赤にしながら、枕でぼこぼことエツィオを叩いた。 エツィオは笑いながらルイズにされるがままになっている。その様子は、はたから見るとまるでじゃれあっているようだ。 一しきりそうやってエツィオを叩いていたルイズは、荒い息を吐きながら、ごそごそと布団の中に潜り込んだ。 「次やろうとしたら、もう一回殴るわよ」 「はいはい……でも殴られるで済むならもう一回くらい……あ、いや! なんでもない!」 再び握りこぶしを作ったルイズに、エツィオは慌てて口を噤む。 調子いいんだから……。と、恨めしそうに見つめてくるルイズに、エツィオは小さく微笑み、ぽつりと呟いた。 「……もしかしたら俺は、ただ怖かっただけなのかもしれないな……、いや、やっぱり怖かったんだろうな」 「なんのこと?」 神妙な面持ちで呟くエツィオに、ルイズは首を傾げる。 「身分を明かせなかった事さ。きみに拒絶されるのが怖かった、だから明かせなかった」 「そ、そんなこと……するわけないじゃない」 ルイズがぽつりと呟く。 僅かに顔を赤くし、上目遣いにエツィオを見つめながら、言いにくそうに言った。 「だ、だって、あんたはわたしの使い魔だし……、それに……」 「それに?」 「な、なんでもないわよ!」 ぷい、と顔をそむけてしまったルイズを見て、素直じゃないな……。エツィオは苦笑する。 まぁそこがかわいいんだが……。と内心ほくそ笑んでいると、どうやらその笑みは表に出てしまっていたらしい。 ルイズは再びエツィオに恨めしげな視線を向けていた。 「なに笑ってんのよ……」 「あ、いや、安心したらつい……な」 また殴られてはたまらないと、エツィオは誤魔化す様に笑って見せた。 そんなエツィオを見つめていたルイズであったが、ややあって、ちょっと真面目な表情で呟いた。 「……どうして」 「ん?」 「どうしてあんたは、わたしにそこまでしてくれるの?」 「さて、なんでだと思う?」 「からかわないで。……わたしが魔法を使えないの、知っているでしょ? いつもいつも失敗ばかりで……、こんなダメなわたしに、どうしてあんたはそこまでしてくれるの?」 ルイズは口をへの字に曲げながらエツィオに尋ねた。 エツィオは、凄腕のアサシンであることを差っ引いても、とにかく有能な男だということを、ルイズは嫌というほど実感していた。 何をやらせてもそつなくこなし、マナーも礼節も完璧。魔法が使えないという点を除くと、およそ貴族に求められる物全てを兼ね備えていると言っても過言ではなかった。 アルビオンで、ウェールズ殿下がいたく気に入っていたところを見るに、是非とも彼を配下に欲しいと思う貴族は数多くいるだろう。 そんな彼が、何故ゼロと呼ばれ続ける自分の傍にいてくれるのか、疑問に思ったのだ。 「あのワルドが言ってたわ、あんたは伝説の使い魔だって。あんたの手の甲に現れたのは『ガンダールヴ』の印だって」 「……らしいな、デルフもそう言ってる。あいつは昔、その『ガンダールヴ』に握られていたそうだ」 「それってほんと?」 「さてね、なにしろデルフの言うことだからな」 エツィオはちらと部屋の隅に置かれたデルフリンガーを見つめる。 聞こえているぞ、とでも言いたいのか、ぷるぷると震えていた。 「でもまぁ、本当なんだろうな、実際このルーンにも、デルフにも助けられた」 「だったら、どうしてわたしは魔法ができないの? あんたが伝説の使い魔なのに、どうしてわたしはゼロのルイズなのかしら。いやだわ」 「きみは伝説と呼ばれるような、そんな偉大な存在になりたいのか?」 エツィオが問うと、ルイズは首を横に振って見せた。 「違うわ、わたしは立派なメイジになりたいだけ。別に、そんな強力なメイジになりたいとかそういうのじゃないの。 ただ、呪文を使いこなせるようになりたいだけなの。得意な系統もわからない、どんな呪文を唱えても失敗なんてイヤ」 心情を吐露するルイズに、エツィオはただ黙って聞いた。 「小さいころから、ずっとダメだって言われ続けてた。お父さまも、お母さまも、わたしには何も期待していない。 クラスメイトにもバカにされて、ゼロゼロって言われて……。わたし、本当に才能ないんだわ。 得意な系統なんて、存在しないんだわ、魔法を唱えてもなんだかぎこちないの。自分でわかってるの。 先生やお母さまやお姉さまが言ってた。得意な系統の呪文を唱えると、体の中に何かが生まれて、それが体の中を循環する感じがするんだって。 それはリズムになって、そのリズムが最高潮に達した時、呪文は完成するんだって、そんな事、一度もないもの」 ルイズの声が小さくなった。 「そんなダメなわたしなのに……どうして?」 落ち込んだ様子でルイズが尋ねると、エツィオは澄ました表情であっさりと答えた。 「きみの事が好きだからさ」 「は、はあ!?」 あまりに唐突に、しかも真顔でそう答えられ、ルイズの顔がずどん、と火を噴いたように赤くなった。 暗闇の中でもわかるくらいに顔を真っ赤にし、滑稽なほどルイズは慌てふためいている。 「すすす、好き、好きって! どど、どういう……!」 「言葉の通りさ、俺はきみを気に入ってるんだ」 「こ、こんな時に冗談はやめてよ! ばっ、ばっかじゃないの!」 そんなルイズの反応を愉しむかのように、エツィオは意地悪な笑みを浮かべる。 ルイズが反応に困っていると、すっと、エツィオの手が伸びる、そしてルイズの顎を持つと、優しく自分の方へと向けた。 「ルイズ」 「なっ! なに……よ……」 「俺はいつだって、きみの味方だ」 その言葉に、ルイズはビクンっと身体を震わせ、エツィオを見つめた。 「きみが信念を捨てない限り、俺は喜んできみの力になる」 「えっ……あ……」 「俺は決してきみを見捨てないし、裏切らない。苦難あれば共に乗り越え、道誤ればそれを正そう」 ルイズの頬を優しく撫でながら、エツィオは誓いを立てるように、呟いた。 「きみに二度と、辛い思いをさせるものか……」 いつにないエツィオの真剣な眼差し、憂いを含んだ情熱的な囁きに、ルイズの心臓が、狂ったように警鐘を鳴らす。 いつかの、ラ・ロシェールで掛けられたワルドの言葉とは、まるで比べ物にならないほどの熱量を秘めた情熱的な甘い言葉。 それはまるで麻酔の様に、ルイズの頭の芯を、じんわりと痺れさせた。気が付けば、ルイズはエツィオから目が離せなくなっていた。 本当は気恥ずかしくて、エツィオの顔なんてまともに見れたものじゃない、だけど一時も目を離したくない。そんな気持ちがルイズの中でせめぎ合っていた。 「それに……」 そんなルイズを知ってか知らずか、エツィオはぽんと、ルイズの肩を叩いた。 「今は魔法が出来なくても、人は決して負けるように出来てはいない。今の境遇に、死ぬまで甘んじなければならないという法はないさ」 力強いエツィオの言葉に、ルイズは胸が熱くなるのを感じる。ちょっと涙まで出てきた。 それを隠すためにルイズは、エツィオの手を慌てたように振り払うと、毛布をひっかぶり、エツィオに背を向けた。 「す、すす、好きとか、な、なな、何言ってるのよ! も、もう!」 「おや? これじゃ不服かな? 困ったな、他に理由が見当たらない」 「ば、ばかなこと言わないで! この話はもうおしまい!」 ルイズは気恥ずかしさを隠すかのように、無理やり話を中断させる。 それから仰向けになると、毛布から顔を出し、ちらとエツィオを横目で見つめた。 「で、でも、お礼はいわなきゃね。……あ、ありがとう……」 消え入りそうなほど、小さな声でそう言うと、ルイズは目を瞑ってしまった。 礼を言われるとは思っていなかったのか、エツィオは少し驚いたようにルイズを見つめた。 「なに、気にすることはないさ、俺が好きでやってること……っと」 ニィっと笑みを浮かべ、ルイズの顔を覗き込む。 そこでエツィオは言葉を切った。どうやらルイズはそのまま寝入ってしまったらしい。なんともまぁ、寝付きのいいことだ。 僅かに首を傾げ、あどけない寝顔を見せている。 手は軽く握られ、桃色がかったブロンドの髪が月明かりに溶け、キラキラと輝いている。 うっすらと、開いた小さな桃色の唇の隙間から、寝息が漏れていた。 「くー……」 エツィオはルイズの寝顔を見つめ、優しい笑みを浮かべると、ルイズの唇に自分の唇を重ね合わせた。 「……おやすみ、ルイズ」 唇を離し、エツィオは小さく囁きながら、ルイズの頭を撫でる。 それからエツィオも仰向けになると、目を瞑り、眠りの世界へと落ちて行った。 寝たふりをしていたルイズは、エツィオの寝息が聞こえてきた瞬間、がばっと跳ね起きた。 キス、された。 思わず唇を指でなぞる、心臓が狂ったように早鐘を打っている、顔はもう真っ赤っかだ。 おそるおそる、隣で眠るエツィオに視線を送る。もしかしたら、こいつは自分と同じように寝たフリをしていて、 あのからかうような笑みを浮かべるのではないかと、気が気ではなかったが……。どうやら本当に眠っているらしい。 「寝てる……」と、ルイズは少し安心したかのように呟いた。 ルイズは枕をぎゅっと抱きしめて、唇を噛んだ。 意味分かんない、何を考えているのか、さっぱりわからない。 ルイズは胸に手を置いた、やっぱり、そばにいると胸が高鳴る。 となると、この前、確かめたいと思った気持ちは本物なのだろうか? 同じベッドで眠ることを許したのは、今まで離れ離れになっていたのが寂しかったから……、というわけではない。 そう、アルビオンに残ってまで、自分に対する脅威を人知れず排除していた使い魔の献身へのご褒美のつもり……。でも、それだけじゃない。 異性に対するこんな気持ちは初めてで、ルイズはどうしていいかわからなかったのだ。 着替えそのものをエツィオに見せなくなったのはそのせいだ。意識したら、急に肌を見せるのが恥ずかしくなった。 ほんとだったら、寝起きの顔すら見せたくない。 いつごろから、エツィオにこんな気持ちを抱くようになったのだろう? エツィオは本当に自分に好意を寄せてくれているのだろうか? キスしてきたのだから、やっぱりそうよね。……正直に言うと、エツィオに『好き』とはっきり言われ、嬉しかった。 しかし、同時にみんなに言ってるんじゃないの? いや、絶対言ってるだろ。という確信にも似た疑念を生んだ。 なにせギーシュがかわいく思えるくらいの女たらしである。それに先ほどのキス、初心なルイズにでもわかる、あれはもう慣れてるキスだ。 やっぱり、他の女の子にもしていることなのだろうか? 怒りと喜び、二つの感情がルイズの胸の中でごちゃ混ぜになる。 あの言葉は、先ほどのキスは、本心からでたものなのだろうか? それが知りたい。 ルイズは、自分でもなんだかよくわからなくなって、う~~っと唸って、エツィオを枕で叩いた。起きない。 その時だった。その様子を黙って見ていたデルフリンガーが不意に口を開いた。 「寝かせてやれ、相棒はこれまでロクに寝てないんだ」 「っ! あ、あんた、見てたの!」 思わぬところから声をかけられ、ルイズは思わず叫んだ。それから慌てて口を閉じる、今のでエツィオが起きたらどうしようと思ったのだ。 だが幸いなことに、エツィオは起きる様子もなく、安らかに寝息を立てている。 そんな二人を見て、デルフリンガーは呆れたような口調で言った。 「俺はお前らが何しようと知ったこっちゃないね、何せ剣だからな」 「じゃ、じゃあ口出ししないでよ、それに、この事はエツィオにはぜーったい言わないでよ!」 「言わねぇよ……。それに娘っ子、お前さんはしらないだろうが、相棒はいつも、娘っ子が寝付くまで眠らないんだ。それがこれだ、よほど疲れてたんだろうな」 そのデルフリンガーの言葉を聞いて、ルイズはぐっと顔をしかめ、エツィオを見つめた。 ああもう、エツィオのこういうとこ、ホントムカツク。なによなによ、カッコつけちゃって……これじゃ、文句のつけどころがないじゃない。 ルイズは口の中で小さく呟くと、デルフリンガーをきっと見つめ、「誰にも言わないでよ……」と釘を差した。 それからルイズは、思い切ってエツィオの顔に自分の顔を近付けた。 鼓動のリズムが、さらに速度を増してゆく。そっと、エツィオの唇に、自分のそれを重ね合わせる。 ほんの二秒、触れるか触れないかのキス。エツィオは寝がえりをうった。 ルイズは慌てて顔を離し、ばっと毛布の中に飛び込んで枕を抱きしめた。 なにやってるのかしら、わたし。使い魔相手に。 バカじゃないかしら、どうかしてるわ。 寝ているエツィオの顔を見た。 控えめに見ても、エツィオは世に言う美形と呼ばれる部類の人間だ。その上、誰より知的で紳士的、どんなことでもさらりとこなし、常に余裕の笑顔を絶やさない。 フィレンツェという所から来た、普段はおちゃらけた陽気な青年。だがその実体は、アルビオン全土を震えあがらせる超凄腕のアサシン。そしてルイズの使い魔、伝説の使い魔……。 どうなんだろう、やっぱり、好きなのかな。これって好きなのかしら? 心の中でそう呟きながら、ルイズはそっと唇をなぞった。そこだけ、熱した鉄に押し当てたように熱い。 どうすれば、この答えは得られるのだろう。 結局分からなくなって……、いやだわ、もう……と呟いて、ルイズは目を瞑る。 今夜は……なかなか寝付けそうになかった。 前ページ次ページSERVANT S CREED 0 ―Lost sequence―
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前ページ次ページPersona 0 「――私は、私ィィィィィ!」 下から響いてきた絶叫にキュルケは慌ててレビテーションを解いた。 頭から真っ逆さまに地面へと落ちていく、その途中に異様なものを見てキュルケは思わず再度レビテーションを唱えるのを忘れそうになった。 「あは、あはは、あははははぁぁぁ」 それは船だった、どこにでもあるような小さな小さな木製の船だ。 そこから冗談のように太い樹が天に向かって生え聳えている。 太い根を船中にのたくらせた樹は血のように赤い葉をを思うままに茂らせている。 もっともその樹が茂らせているのはそれだけではない。 「あはは、キュルケェェェ!」 小さな船を苗床に育ったその樹は、首を吊った桃色の髪の少女と言う実をつけた。 「――!? ヴァリエール」 船が揺れるたびにガサガサと葉がこすれる音が響き、それに伴って少女の体も右に左にと不安定に揺れる。 その揺れの狭間にわずかに垣間見えるのは、船の中に倒れ伏した桃色の髪の少女。 ――ヴァリエールが二人? 「あんたも私のこと馬鹿にしてるんでほぉぉぉぉぉ」 「きゃ!?」 考え事のせいでレビテーションの操作がおろそかになったところに撃ち込まれる見えない力、その強烈な威力にキュルケは吹き飛ばされ床の上に投げ出された。 「なにすんのよぉ」 「うるさいうるさいうるさい、私のことを馬鹿にするやつはみんな死になさい!」 ――メギド! 聞いたことの詠唱に、聞いたことのない効果。 一見して魔法と分かるのにどんな攻撃をされているのか皆目見当が付かない。 「あぐっ!?」 体を抉られるような痛みにキュルケは呻き、その場に膝を折った。 「あははは、当たった。当たったわぁ、もう一発!」 「くっ、フライ!」 笑いながら詠唱を唱えるルイズの姿に本能的な危機感を覚え、キュルケは反射的にフライを唱えた。 次の瞬間キュルケが居た空間に閃光が火花と散る。 「どうせあんたもわたしなんか死ねって思ってるんでしょう、生まれてこなかったほうがいいって思ってるんでしょう!」 首を括ったルイズは目から血の涙を流しながら、高々と高々と吠える。 「いいわ死んであげようじゃない、後腐れなく死んであげようじゃない!」 まるでこれまでの鬱屈すべてを吐きだそうとしていみたいに、キュルケにはその姿はとても晴れ晴れとして見えた。 「でも一人は嫌、だから一緒に死にましょう? いいわよね?散々バカにしたんだから」 「いい加減にしなさいよヴァリエール!」 だがその姿は到底キュルケには受け入れられるものではなかった。 ルイズが彼女の好敵手足りえたのはひとえにどれほどの嘲笑にも負けずルイズが意地を張り続けた故。 今は魔法は使えずとも、いずれは必ずヴァリエールの名に恥じないメイジになると言う愚直なまでにまっすぐな生き方に、フォン・ツェルプストーの敵として相応しいと思った故に。 だからルイズの姿でルイズの声で、普段のルイズとは似ても似つかない言葉を囀る目の前の相手は到底許せるものではなかった。 「こんのぉぉおぉぉ、フレイムボール!」 全力を込めたフライを解除する目標はルイズの姿をした化け物、回避などしない。フライの慣性を使って全速力で吹き飛びながらキュルケは呪文を完成させた。 杖の先に燈る紅蓮の焔、自らの皮膚や肺すら焦がすその熱を抱えたまま。 「ルイズゥゥゥゥゥ!」 キュルケは笑い声をあげるルイズへと向かって突っ込んだ。 「げふっ、げっふ……」 一瞬黒く吹き飛んだ意識は次の瞬間猛烈な痛みによって引き戻された。 どうやら激しく地面に叩きつけられたようで呼吸ができない、咳きこんだ息には血が混ざり左手は変な方向へと曲がっている。 「っぐ」 それでもキュルケは立ち上がった、ぼろぼろの体でよたよたと不格好に。 まず最初にしたのは自分の傷がどれほどの対価を生み出したのかと言うこと。 「いたい、いたい、いたいい、いたいいぃぃぃぃ」 骨の一本や二本折った甲斐はあったとキュルケは笑った。 半ばほどから折れたキュルケの杖は首を吊ったルイズの胸に突き刺さりその周囲を炭に変えている、樹から生えた腕のような形の枝がその傷を庇うように押さえている。 その傷口からしてもやはり人間のものではない、痛みのなかに一体こいつはなんなのかと言う疑念が湧きあがり、次に本当のルイズはどうなったのか? とキュルケは視線を巡らせる。 見れば先ほどの特攻で船のなかから放り出されたのか、すぐ近くには桃色の髪の少女が安らかな寝息を立てていた。 一見して大きな傷はなく、多少髪や皮膚が焦げ跡や火傷が残る程度このくらいなら水の秘薬で綺麗に治るだろうとキュルケは胸を撫で下ろす。 「痛いじゃないの!」 それが油断となったのか、もう一つのルイズの声に振り向いた瞬間強烈な張り手が来た。 「あんたうるさいのよ人のこと“ゼロ”、“ゼロ”って、うるさい、うるさい! だからお返ししてあげるわ!」 ――マカラカーン! お返しすると言った割にはもう一人のルイズは動かない、それを訝しく思いながら霞む視界でキュルケは折れた杖を構え。 「いい、加減に、黙りなさい、よ……」 最後の力を振り絞り呪文を唱えようとしてそのまま気を失った。 「あ、あは、あはは、あはははは!」 もう一人のルイズはそれをあざ笑う、滑稽だ、馬鹿みたいだと嘲笑する。 一頻り笑った後で気が済んだのか、ユラユラと揺れる船底に足を生やしのしのしと歩きだした。 キュルケは無視して、目指すのは勿論本当の自分。 「さぁて、“ゼロ”の人生もこれでおしまい」 細い細い指で桃色の頭を掴んで吊り上げ、その愛らしい寝顔にこれでもかと言うほどの悪罵の礫を投げつける。 「さようならルイズ、生きる価値のないルイズ、だぁれにも愛されていない“ゼロ”のルイズ」 そしてルイズはゆっくりとその指に力を込めて行く。 「あなたが死んでもきっとだぁれも泣いてくれないわね」 そう言ってルイズはわずかに儚げにくすりと笑い。 「さようなら、さようなら、大っきらいなルイズ」 そして血の花が咲いた。 はたり、はたり地面に黒い滴が零れる。 「あ、れ……?」 ルイズはそう呟くと背後を見た。 その瞬間におもちゃのような樹の細腕がもげる。 「何よ、あんた?」 ルイズは根本から取れた樹の根本を見ると、次に背後に立つ影を見た。 金色に光る二つの眼をしたそいつは形こそいびつに歪んでいるが人の形をしているように見える。 もっとも背丈が巨大な樹木の二倍以上もある人間など居るわけがない。 ソイツの正体もまた、ルイズと同じシャドウだった。 では一体誰の? これほどの大きな影を持つ人物をルイズは知らない。 「ズゥゥゥ、ズゥオオオオオオオオオ!」 ソイツは高々と一声吠えると固く固く拳を握った。 その拳の先には影に覆われた長い棒のようなものを持っている。 だが体中を覆う黒い靄のような影に覆われて、その輪郭すら確かではなかった。 「なんなのよ!あんた!」 夢から醒めたようにそう言うと、影のルイズは魔法を唱える。 ――メギド! 炸裂する万能、だがソイツは全く痛痒など感じないとばかりに船の舳先をその足で踏みつぶした。 その事実がさらにルイズを激昂させる、癇癪のままに激情のままに何度も魔法を解き放つ。 ――メギド、メギド!! メギド!!! それもすべて無駄だった。 だからもう一人のルイズは己のすべてを注ぎ込んで、可能な限り強力な魔法を唱えた。 偽りの体が崩れていくが、それすら一切構わなかった。 「あんたは一体、なんなのよぉぉぉ!」 ――メギドラオン! 一際大きい激情が力を引き出し巨大な力となって爆心地にクレーターを作る。 だがソイツはまるで何事もなかったかのようにその黄金に光る二つの眼を輝かせると、紙でも引き裂くようにルイズの影を真っ二つにした。 「しっかりするクマ、傷は浅いぞ、がんばれー」 ぺちぺちと頬をはたかれ、キュルケはゆっくりと目を覚ました。 体中に残る鈍痛、それでも先ほどの気が狂うほどの激痛はない。 目の前にはクマがいる? 「ううん、此処は……」 「お、目を覚ましたクマね」 目の前の謎の物体は安心したように笑うと、ゆっくりとキュルケに近寄ってきた。 「いやぁよかったクマ、君たちが倒れているのを見た時はクマどうしようクマかと」 「あんた――何?」 「クマは、クマクマ!」 どうやらこの子が自分たちを運んで来て、おまけに応急処置までしてくれたのだろう。 ならばよくはわからないが貴族として礼は言わないといけない。 「ありがと、よくわからないけど助かったわ、えっとクマちゃん?」 「気にすることないクマ、こんな可愛い女の子二人ならクマ大歓迎」 もう一人と言われて咄嗟にキュルケは悲鳴じみた声をあげる。 「そうだルイズは!?」 「ルイズってもう一人の女の子クマか?」 「そうよ! 桃色のブロンドの……」 「それならそこにいるクマ」 「え?」 言われて振り返ると、そこには好敵手と認めた相手が体育座りでベソを掻いていた。 「いやぁ驚いたクマよ、いきなり霧が晴れる日でもないのにシャドウが暴れだしたと思ったら、2体のシャドウが同士討ちしてるんだもん。クマ怖くなって君たち浚って逃げてきたクマ」 聞きなれない言葉にキュルケはクマに向かって聞き返す。 「シャドウって、やっぱりさっきの」 「そうクマ、このコのシャドウもすっごく大きかったけどもう一匹のシャドウはクマが見たことないくらい強い奴で、もうクマおしっこちびっちゃいそう」 あーおっかないおっかないクマクマと五月蠅いクマに向かってキュルケはもう一度問いかける。 >シャドウって何 「シャドウ? シャドウは人の押さえつけた心から生まれてくるクマ」 「押さえつけた心?」 「そうクマよ、シャドウはもともと人の心の一部なのクマよ。けどそれを認めてあげないとただ暴れることしか出来なくなってやがて宿主すら殺してしまうクマよ」 「それって、つまりは……」 あの巨大な化け物はルイズの心の一部なのだろうか? 普段顔を突き合わせている相手の以外な一面に驚きつつ、キュルケはルイズに声を掛けた。 「ヴァリエール……」 「う゛、うるざいわねぇ、ほう゛って、おいで、よぅ」 ルイズはぽろぽろと涙を流す、しょうがない発破をかけてやろうと立ち上がったキュルケは。 「――!?」 クマの影に隠れていた、ルイズに向かい合って座るもう一人のルイズの姿を見た。 キュルケは慌てて杖を構えようとするが、しかし杖がないことに気づいてたじろぐ、どうしようと歯が未してどうしようもないことに気がついた。 もう一度暴れられたら今度こそもう止められない。 「安心するクマ、ルイズちゃんの影は落ち着いてる」 そう言いながらクマはぺったんぺったんとルイズの隣に歩いて行く。 「ねぇ、ルイズちゃん」 「らによぉ、あんたは!」 「クマはクマよ、ルイズちゃんこの子を許してやって欲しいクマ」 そう言ってクマはもう一人のルイズを指さした。 「暴走しちゃったけどこの子もルイズちゃんの一部なのクマよ、だから……」 「違うもん、こんなの私じゃないもん」 涙声でルイズは拒否するが、その声には力がない。 その代わりにまるでルイズの内面を代弁するように影がさらに激しく涙を零す。 「ルイズちゃん……」 「私は立派なメイジになるんだもん、いつか必ず魔法を使えるようになって、胸を張ってヴァリエール家に帰るんだ、もん」 それはどうしようもなく虚勢だった、それはルイズ自身にもわかっていた――はずである。 「だからこんなところで挫けちゃ駄目なんだもん」 『でもやっぱり怖いだもん』 ルイズの言葉を継いだのはもう一人のルイズ。 『いつまで経ってもコモンマジックすらろくに使えなくてみんなに“ゼロ”だ“ゼロ”だって言われて、だんだん本当に自分でも“ゼロ”なんじゃないかと思えてきて……』 ぽつりぽつりと吐き出されるその言葉にルイズははっと息を飲んだ。 「あなた……」 『本当に“ゼロ”なら、そんな私なんていらないって思ってた』 キュルケもまた二人のルイズを前にして息を呑んだ、あれだけの意地と虚勢の下にはこれほどの苦悩があったのか。 『私なんて、産まれてこなければよかったって思ってた』 もう一人のルイズはゆっくりと顔をあげると虚ろな目でまっすぐにルイズを見つめる。 『最初からこの世界に居なかったことになってしまえばいいと思ってた』 ルイズはなにか言おうとして、しかし何も言えずに口を噤んだ。 「ほら、しっかりなさいなルイズ」 そんな背中をとんと押してキュルケはルイズに笑いかけた。 その笑顔はまるで炎のよう、凍てついたルイズの心を温め、燃やし、無理やりにでも前に進む活力を注ぎこむ。 そのおかげだろうか、やっとルイズはまっすぐにもう一人の自分を見ることができた。 長い桃色の金髪と吊りあがり気味の瞼、普段はきつく結んだ口元は今は薄く閉じられておりこうして見れば随分と可愛らしく見える。 ルイズをじっと見つめるその姿は、まるで雨に濡れて震える捨てられた子犬のようだった。 「――分かってた、あなたは私のなかにいたんだって」 「ルイズちゃん!」 「弱虫で泣き虫で、ずっと諦めたがってた。どうせ“ゼロ”なんだって認めて楽になりたいと思ってた、私」 そう言ってルイズは自嘲するように笑った。 「でもごめんね、まだ私は諦められないの。だって魔法を使える立派な貴族になるのは私の夢だから、魔法が使えるようになってちぃ姉さまのご病気治して差し上げたいから」 だからもうちょっとだけ一緒に頑張ってくれないかしら? ルイズのか細い言葉に、もう一人のルイズは同意するようにこくりと頷いた。 「ふふ、一番大切なものはやっぱり私と一緒なんだ……」 そうしてルイズはくすりと笑う。 「あなたは、私ね」 >自分自身と向き合える強い心が、“力”へと変わる… >ルイズはもう一人の自分。 >困難に立ち向かうための人格の鎧、ペルソナ“イドゥン”を手に入れた。 「これが……」 そのまま意識が遠くなっていく。 手に黄金の林檎を持った桃色の髪の仮面の乙女、そんなもう一人の自分の姿を目に焼き付けながらルイズは意識を失った。 ~二日後~ 「あなたの、テレビに、時価ネットたなか~」 「ルイズー、ちょっといい?」 「あ、うん。分かった」 テレビのスイッチをぷつんと切ってルイズは立ち上がった。 黒い画面に映る自分の顔を見ながらしみじみと考える。 魔法の力など少しも使っていないただの箱なのに、ボタンを押すだけでいろいろな映像を見ることができるなんてとんでもないアイテムである。 クマの話によるとこの箱は“テレビ”と言うらしい、本来は電源と電波と言うものが必要らしいのだが問題なく動いているのはやはり…… 「この使い魔のルーンのせいなのかしらね……」 テレビの側面には珍しい形の使い魔のルーンが今も光を放っている、なぜ珍しいかと言えば半日ほど図書館の本をひっくり返しても該当するルーンは結局見つからなかったからだ。 「ルイズー、聞いてるのー?」 「あーごめん、今出るわ」 音を立てて扉を開けるとそこには最近親しくなった赤毛の友人の顔。 「もぉ遅いわよぉルイズ」 「勝手に人の部屋に上がりこんでおいて遅いもなにもないじゃない」 「そんなことは後々、早くしないと夏のソナタ始まっちゃうわよ」 はいはい、と言いながらルイズは指で消したばかりのテレビを弄る。 ぷつんと言う音と共に画面に光が満ち、まるで遠見の鏡のように番組を映し出す。 『オールハンドゥガンパレード、全軍抜刀、全軍突撃、男と女が一人ずつ生き残れば我々の…』 ぷつん 『嘘だッ!』 ぷつん 『空ーと君との間にはー、今日も冷たい雨がふ…』 ぷつん 『ぱれろちゅちゅ、ぱれろちゅちゅ…』 ぷつん 「ああ、これよこれ」 何度かのチャンネル変更を経てテレビにはハルケギニアでは見慣れない服装で抱き合う男と女の姿が映し出されていた。 それを見るともなしに見ながら、ルイズはついとキュルケに話を振ってみる。 「なんなのかしらね、これ」 「これって、どっち?」 ルイズは己の手とテレビを見比べながら、拗ねたように「両方」と言った。 「夢じゃ、ないわよね」 「夢だったら良かったわね」 そう言ってキュルケは未だ生傷の残る左腕をかざして見せた。 水の秘薬で粗方は直したが、もともと何故こんな大怪我をしたのか公に出来ないこともあって、キュルケが手配した分の秘薬では細かい擦り傷や切り傷まで完治させるには到底足りなかったのだ。 「ペルソナって言ったっけ? 良かったじゃない、魔法が使えるようになって」 「ありがと、けど全然良くないわよ。私自身の力じゃないし……」 ルイズはそう言って自分の胸を貫くように生い茂る半透明な樹木の枝と、その先端から伸びる若い娘の姿を見た。 左手に持った籠には黄金の林檎、顔を覆う仮面は硝子のような白い球面、たなびく髪の先には桃色の花が満開に花開いている。 イドゥン、それがもう一人のルイズが姿を変えた“ペルソナ”の名前。 「それにこんな魔法じゃ、下手したら異端扱いよ」 「まぁ、それもそうね」 そう言うとキュルケは唇に指を当て、 「けれど一人や二人は喜んでくれる人がいるでしょう?」 「そんなこと……」 そう言ってルイズの頭に浮かんだのは優しい二番目の姉と厳しい両親、そして子供頃からずっと憧れている一人の青年の姿。 「それに私もその一人だしね」 ついと横を向いたキュルケの姿がどこかおかしく、ルイズは笑った。 すっごく嬉しかったけどそれを悟られるのが同じくらい恥ずかしく思えて、ルイズもまた反対方向に向けてそっぽを向く。 一つの部屋に素直じゃない少女が二人、部屋の中にはテレビのBGMだけが響いている。 窓の外は、雨。 午前零時。 ルイズが寝静まった部屋のなかで電源の切れたテレビにひどく鮮明な映像が映った。 人のような、獣のような黒い影が、もはや肉塊となった物体を引きずりながら画面に近づいてくる。 「オオオオオォォォ――ズゥゥゥゥ、オォォォォ、ィズゥゥゥゥ」 深い呼気のようなその遠吠えは高く高く、テレビのなかの世界に響き渡る。 異なる理に支配された異なる世界、だと言うのにマヨナカのテレビは不吉なものを映し出す。 前ページ次ページPersona 0
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結局、ルイズとその使い魔である双識が、地獄絵図の後始末をさせられることになった。 吹き飛んだゴミを片付け、吹き飛んだ窓を付け、吹き飛んだ机を並べる。 元は椅子だった木屑を片付けている双識の目の前で、ルイズはかろうじて生き残った机を拭いている。 「使い魔なんだから――」という例の言葉が出てくると思っていた双識は面食らっていた。 さしものルイズも自分が引き起こした惨状を双識一人に片付けさせるのは気が引けたのだろうか。 「最悪だわ……」 暗澹たる気分でルイズは呟いた。 使い魔に知られたくなかった事実――魔法が使えないということがばれてしまったのだ。 これで、ルイズの今までの努力は全て水泡に帰したことになる。 ルイズは手際よく掃除をこなしている双識を見る。 まだ正面切って馬鹿にされるなら良い。だが陰で笑われるのは耐えられなかった。 この従順に見える使い魔も、心の中では自分を笑っているのかもしれないと思うと、悔しくなった。 ルイズが俯くと、窓を拭いている双識が唐突に口を開いた。 「――まだ話してなかったかもしれないけれど、私の嫌いな言葉のベスト3は不誠実、無責任、非人情でね」 「……え?」 ルイズの方を向くことはなく、双識は独り言のように続ける。 「初めてこの世界に私が召喚されてきたとき、ルイズちゃんはベスト3を全て満たしていた。 勝手に呼び出して文句を言って、まともな食事もくれず、おまけに人間扱いすらしてくれない。 本来なら『不合格』間違いなしなんだが――私にはどうもきみを『不合格』にする気が起こらなかった。 それが私にはどうにも不思議だったんだが、」 一旦言葉を切って、双識は振り返り、ルイズに真正面から向き合う。 「けど、さっきの爆発を見てわかったよ。ルイズちゃん、きみは――魔法が使えないんだね?」 「……そうよ。もうわかったでしょ、確かに私は『不合格』だわ。魔法が使えないメイジなんて、聞いたことないもの」 痛いところを突かれたルイズは、自嘲ぎみに言う。俯いた顔から諦めと、それ以上の悔しさが伺えた。 「いや、そういうことが言いたいんじゃない。問題は精神だ。魔法が使えるか、使えないか、そんなくだらないこと――」 「くだらないことなんかじゃない!私は貴族なのよ!魔法が使えなくていいなんて、そんな、そんなこと!」 顔を上げて、双識に食って掛かるルイズ。 自分の今までの苦労を、生き様を踏みにじるような双識の発言が、ルイズには許せなかった。 「――きみは魔法を使えるように、貴族として『普通』になれるように、努力を重ねているんだろう?」 憤るルイズに構わず、双識はさっきの混乱で床に落ちたルイズの教科書を拾い、パラパラと捲る。 要所に貼られた付箋、丁寧な字で入れられた注釈、何度も開いたためによれたページ。 それらは紛れも無く、ルイズの努力を表す証拠だった。 「私にとっては『普通』を求めようとするその精神こそ、賞賛に値すべきものなのだよ。 無意識のうちにその精神を感じ取ったから、私はきみを『不合格』にしなかった――今ならそう思える。 それに、今魔法が使えないからってそう悲観することもないさ。 ――きみが前に向かって進む限り、目標は近づきこそすれど、遠ざかることは無いのだからね」 どうやら双識はルイズのことを励ましているらしかった。 双識の柔らかく諭すような口調を聞いていると、不思議とルイズの心は安らいだ。 「……ありがと。あんたに慰められるとは思わなかったわ」 「それじゃ、続きをさっさと終わらせてしまおうか」 元の飄々とした態度に戻った双識と、ルイズは掃除を再開する。 机を拭くルイズの胸中からは、さっきまでの鬱屈とした気分が綺麗に消えていた。 掃除が終わるとルイズと双識は、食堂で遅い昼食を食べた。 教室での出来事のせいか、ルイズの機嫌はそれなりに良かった。 出すぎた説教だったかもしれないと後悔した双識だったが、存外に効果があったようだ。 もっとも、相変わらず机の上での食事は叶わなかったのだが。 ルイズの食事が半分も進まないうちに、双識の食事は終わった。 マナーに従って上品に食べているルイズとは食べる速度も、量も違うので、どうしても時間差が出てきてしまう。 暇になった双識が昨日のように食堂の中をのんびりと眺めていると、食堂の一角で大きな声が上がった。 続いて乾いた高い音が響く。どうやら、何か揉め事が起こっているらしい。 双識は食後の退屈しのぎに覗きに行ってみることにした。 「す、すみません!」 双識の目にまず飛び込んできたのは、メイド服の少女が、同じ年齢ぐらいの少年に平謝りしている光景だった。 謝られている方の少年は薔薇の花をワイングラスでも持つかのように指に挟み、足を組んで悠然と少女を見下ろしている。 本人は格好をつけているつもりなのだろうが、頬に咲いた紅葉のせいで、なんとも間抜けである。 さっきの乾いた音の正体はこれらしい。 いずれにせよ、年若い少女が苛められている光景というものは、双識にとってはあまり気分の良いものではなかった。 「何にせよ、二人の女性の名誉を傷つけたのは事実だ。謝罪したまえ」 「そんな、私は香水を拾っただけなのに……」 「違うね。君の気が利かないから、だ。そもそも平民ごときが――」 「その辺りで勘弁してあげる、というのはどうかね?」 突然会話に割り込んできた部外者に、その金髪の少年は不機嫌そうに少女をなじる口を閉じた。 少女も、意外なところから差し伸べられた救いの手に、驚いたように双識を見ている。 「何だね、君は……ああ、ゼロのルイズが呼び出した平民か。 ふん。礼儀を知らない平民を少々叱っていたところだ。わかったらさっさと行きたまえ」 「ギーシュ!お前が二股かけてたのが悪いんだろ!」と取り巻きから茶々が入る。 どうやらこのギーシュという少年は、二股の責任を少女に転嫁しようとしているらしい。 双識は少女の頭を上げさせると、ギーシュに向き直った。 「大体の事情はわかった。結論から言えば、きみは二股をかけた女性たちに謝ってくるべきだね。 文句を言われ、場合によっては叩かれるかもしれないが――なあに、かえって免疫がつく」 「いきなり出てきて何を言うかと思えば……君は誰に向かって物を言っているのか、わかっているのかね?」 『反論をしたら許さない』と言外に含ませ、ギーシュは双識をねめつける。 ギーシュの見下したような視線を意にも介さず、双識は笑う。笑って、言う。 「勿論だとも。『三人』の女性の名誉を傷つけた少年に対して、私は言っているのだよ」 「ッ!……いいだろう。平民が貴族に逆らうとどうなるか教えてやろう。ヴェストリの広場で待っている」 どうにか感情を表に出すことを抑えたらしいギーシュは、ゆっくりとした足どりで去っていった。 「食事が終わっていなくなったと思えば……あんた、自分が何したかわかってんの!?」 振り向けば、いつの間にか双識の横にルイズが立っていた。顔色が悪い。 そういえばさっきの少女はどこにいったのだろう、と双識が辺りを見るが、既に少女の姿はない。どうやら怯えて逃げてしまったようだ。 「『苛められるメイド少女』は十分に私のストライクゾーンだったんだが――ギーシュくんの不誠実さに我慢ができなくてね」 双識のふざけた動機に、ルイズの顔が更に蒼白になる。 「そんな理由で……?あなた、殺されるわよ!」 「――私を殺せるなら、是非とも殺していただきたいものだね」 ルイズは不思議な気持ちだった。 この使い魔の妙な余裕の裏には、何の根拠もなく、何の打算もないのだろう。 貴族を相手にして勝てる平民なんか、一握りもいないのだ。 ましてや、こんな平民には到底無理な芸当のはず――なのに。 その姿は余りにも悠然としていて―― その姿は余りにも颯爽としていて―― 歩き出した双識の背中に、ルイズは思わず声をかけずにはいられなかった。 「……ヴェストリの広場はそっちじゃないわよ」 (青銅のギーシュ――試験開始) (第五話――了)
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ルイズが変わったのは、春の使い魔召喚の儀式からである。 と言っても、当時のわたしはルイズにさしたる興味を持っていなかったので、これは後になって友人に聞き知ったことだ。 ゼロのルイズが平民の女の子を使い魔にしたという話は、少しの間、話題になった。 リリイという名の、その使い魔は、コウモリのような羽根があったり、犬のような耳を生やしていたりと、どう見ても亜人であったのだが、 その女の子が大した能力がなさそうな人畜無害な見た目をしていたり、羽根があるくせに飛べなかったりということで、ゼロのルイズに亜人が召喚できるはずがないという偏見から、そう噂されたのだ。 魔法の成功率ゼロのルイズが使い魔の召喚に失敗して、その辺りを歩いていた平民の女の子を捕まえてきて仮装させて使い魔扱いしている。 そんな根も葉もない噂を流されて、しかしルイズは何の反応もしなかった。 友人に言わせると、ここからしてありえないということだが、わたしは、それをおかしいと思えるほどルイズの事を知らない。 そして使い魔召喚の儀式の翌日、ルイズの使い魔が決闘をすることになる。 相手は、ドットの土メイジ、青銅のギーシュ。 決闘に至った原因は、リリイのせいでギーシュが二人の女の子と付き合っていたのがバレて、フラれたとのことだが、そこはどうでもいい。 見た目はどうあれ、リリイは亜人である。ならば、その戦い方を見ておいて損はないだろうと、わたしは考えた。 もしも未知の魔法でも使いこなせるようなら、その知識を得ておくことは決して損にはならないのだから。 だけど、期待は裏切られる。 リリイは、普通の平民よりは強かった。 だけど、それだけの話。ギーシュの作り出した一体目の青銅ゴーレムを破壊したまでは良かったが、彼が六体を同時に生み出した後は、数の暴力に負けて敗れさった。 そこで、わたしのルイズとその使い魔に対する興味は消えた。 たから、わたしの使い魔である韻竜のシルフィードに、二人が夜になるとこっそりどこかに出かけていると聞かされても、何も思わなかった。 ルイズも、その使い魔も自分が興味を向けるだけの価値のある存在ではない。 その認識を改めたのは、かなり後になってからなのだけれど、きっかけになったのは、学院に土くれのフーケを名乗る盗賊が現れたときだったのかもしれない。 学院の宝物庫を襲ったフーケの討伐に名乗りを上げた三人の一人がルイズであった。 もっとも、実際に名乗りを上げたのはルイズだけで、残りの二人、キュルケはルイズに対抗してみただけであるし、わたしはそんなキュルケが心配で付き合っただけである。 そして、わたしたち三人とルイズの使い魔のリリイとフーケの情報を持ってきた学院長秘書のミス・ロングビルの五人はフーケのアジトと思われる廃屋に向かい、そこで奪われた宝物を見つけた後、フーケの巨大な土ゴーレムに襲われた。 この時、不可解なことがいくつか起こった。 わたしやキュルケでは、どうにも対抗できなかった土ゴーレムに、自分の身長よりも長大な剣を持ったリリイが立ち向かったのだ。 ギーシュのゴーレムにすら敵わなかったはずのリリイは、フーケの巨大ゴーレムと五分に渡り合っていた。 もちろん、巨体であり、いくらでも再生するゴーレムを剣一本で倒せる道理はない。 だけどゴーレムも、素早く動き剣で容易くゴーレムを切り裂くリリイを倒せず、しばらくの膠着状態の後。土ゴーレムは自然に崩れ落ちた。 その後である。 フーケは逃げ出したらしい、自分とミス・ロングビルは、あと少し辺りを調べてから帰るから、先に宝物を持って帰って欲しい。 そう、ルイズから連絡があったとリリイが言い出したのは。 思い返せば、ルイズとロングビルは、わたしたちが廃屋に入ったときに、周囲を見てくると言って姿をくらませたままである。 その時のわたしは、冷静な判断力を失っていたのだと思う。 メイジとその使い魔は、精神で繋がっている。だから、離れていても連絡をしてくることが出来るのだから、これは不思議なことではない。 その程度にしか思わなかったのだが、思い返してみれば、何故ルイズにフーケが逃げたと判断できたのかを疑問に思うべきだったのだ。 そう、これも後になって分かったのだが、フーケは逃げてなどいなかった。捕まり、拘束されていたのだ。ルイズの手によって。 ルイズの目的が、フーケを捕まえて官憲に引き渡すことではなく、自身の手駒とすることだと知ったのは、ずっと後になってからの話。 わたしたちに遅れて二人が帰ってきたとき、ロングビルは着ていた服が引き裂かれ、肌も露わな姿で憔悴した顔をしていて、その理由が分かったのは、これもかなり後になってからのこと。 ルイズは、フーケに襲われた結果だと言っていたが、それは嘘だろう。ミス・ロングビルの正体がフーケなのだから。 キュルケは何かを察していたが、その時点では教えてくれなかった。 ともあれ、そこでルイズとの縁は切れるのだと思ったのだけれど、そうはならなかった。 それから、何日もの日々が過ぎたある日のことである。 ルイズが、トリステイン魔法衛士隊の隊長と出かけるのを見かけたキュルケが、後を追うと言い出したのだ。 そして、その後わたしたちが魔法学院に帰ることはなくなる。 ルイズたちの目的はアルビオンに向かうことであり、とりあえず港町ラ・ロシェールの前で賊に襲われていた彼女たちに加勢したわたしたちは、不可解なものを見ることになった。 そこにいたのは、ルイズとギーシュと魔法衛視隊隊長でありルイズの婚約者であるワルド子爵。ルイズに個人的に雇われたのだと言って一緒にいた、目が死んでるミス・ロングビル。 そして、わたしたちと同年代の亜人の少女。 ルイズの使い魔と同じ種族に見えるその少女が、リリイ本人であると聞かされたときは、目を疑った。 何をどうすれば、あの小さな女の子が急に成長するというのか。 とはいえ、驚いてばかりもいられない。 夜も遅かったので、ラ・ロシェールに宿泊することにしたわたしたちは、ルイズたちが乗るアルビオン行きの船が出るまでの間、そこに留まることにした。 そして、二つの事件が起こる。 一つは、早朝のリリイとワルドの決闘。 かつてギーシュにすら敗れたリリイは、スクウェアメイジであるワルド子爵とすら互角以上の実力を見せた。 そして、もう一つの事件は夜に起こった。 アルビオンは今、王党派と貴族派に分かれて戦っていると聞く。 その一方。貴族派に雇われた傭兵が宿を襲ったのだ。 その時、ワルド子爵は二手に分かれて、片側が傭兵の足止めを、もう一方はアルビオンに向かう船に乗り込むべきだと主張し、わたしも同意した。 それは正しい判断であったはずである。真相を知っている今では、そうではないとわかるが、あの時点で知りうる情報からでは、それ以上に正しい判断ができるはずがない。 そのはずなのに、ルイズはその主張を退けた。 それが、仲間を置いて自分だけが逃げるのは嫌だなどという感傷であれば、わたしもワルド子爵も黙殺したのだろうが、そうではなかった。 どのみち船が出るのは、翌日である。ならば、それまでに傭兵たちを倒してしまえばいい。 そう言った彼女には、それができる自信があったのだ。 そして、現実に傭兵たちは、わたしたちの前に倒れた。 それは、ほとんどがリリイの仕業であった。 ルイズの防衛をわたしたちに任せて一人で突撃したリリイは、強かった。 それだけではない。いかにスクウェアメイジと五分に戦える実力を持っていても多勢に無勢、無傷で戦えるはずもないのだが、たとえ傷を負っても ルイズの唱える聞いた事もない呪文ですぐに癒されていたのだ。それは、敵対している傭兵たちからすれば不死身の怪物と戦っているような錯覚を覚えさせただろう。 そうして全ての傭兵を打ち倒したわたしたちは、なし崩しに全員でアルビオンに向かうことになった。 何故、わたしとキュルケまで? と気づいたのは、勢いでマリー・ガラント号という船に乗った後。 その後、空賊に扮したアルビオン皇太子の乗った空賊船に襲われたり、それらと戦い皇太子の正体に気づかずに捕らえ拘束してしまったりという珍事はあったが、わたしたちは、無事にアルビオン王城ニューカッスルに到達した。 そこで初めて、わたしとキュルケは、ルイズたちの目的がトリステイン王女がアルビオン皇太子ウェールズに送った手紙の回収なのだと知ったのだが、それもどうでもいいことである。 より重要なのは、実はワルド子爵がアルビオンの貴族派レコン・キスタと通じており、手紙とウェールズの命を奪わんとしていたことであろう。 結論から言ってしまえば、彼は上手くやった。 手紙をルイズから預かり、ルイズと結婚式を挙げたいと訴え、ウェールズを王党派の軍人から引き離し、見事その胸を貫いた。 だが、そこには一つの計算違いがあった。 ワルド子爵は、ルイズには力があると信じていた。そして、その力を自身の欲望のために利用しようと考えていた。 実際、ルイズには力があった。だけど、それはワルド子爵に制御できる程度のものではなかったのだ。 結婚式の時、ルイズは遅れて礼拝堂にやってきた。 リリイとロングビルに持たせた大きな風呂敷包みが、なんだか不安を誘ったが、そこはみんなでスルーした。 そして、いざ始祖ブリミルへの誓いをというときになって、ルイズはワルド子爵に言ったのだ。 「何をそんなに焦っているのだ?」 その言葉で、わたしたちは気づいた。 幼いときからの知り合いで、婚約者であるはずのワルド子爵は、この旅の間、発情期の孔雀のようにルイズに自分をアピールし続けていた。 まるで、この機会を逃せば、もうルイズを手に入れることが出来なくなるのだというように。 ルイズを自身の手駒として手に入れようと考えていたワルド子爵の考えは、当のルイズ本人に看破されており、自身の望みが果たせないことを理解した彼は、正体を明かすと同時にウェールズの命を奪った。 そして、手に入らないのならばとルイズの命を奪わんとしたとき、ルイズが隠していた能力を見せる。 ルイズには、ワルド子爵と互角の戦闘力を持つ使い魔のリリイがいる。普通に考えれば、ワルドに勝ち目はない。 だが、風のスクウェアメイジには、偏在という魔法がある。 それは、自身とまったく同じ能力を持った分身を生み出す魔法。いかにリリイが強くとも本体を含めて五人ものワルド子爵に勝てる道理はない。 そして、リリイ以外の人間。わたし、キュルケ、ギーシュ、ルイズ、ロングビルの五人には、残念ながらワルド子爵に勝てるほどの能力はない。 ゆえに、ルイズの生存は絶望的なはずであった。 この時ルイズが使った魔法は、原理としてはサモンサーヴァントに似たものだったのだと思う。 離れた場所にいる者を召喚する魔法。違うのは、それらは複数であり、すでにルイズと契約を済ませ命令を聞く存在であったこと。 現れたのは、オーク鬼や翼人や吸血鬼といった亜人たち。 毎夜どこかに出かけていたルイズは、それらを倒し配下としていたのだ。ちなみに、前の事件でフーケを捕らえたのも、彼らだったのだという。 平民とは比較にならない強靭な肉体を誇るオーク鬼や、先住の魔法を使う翼人と吸血鬼。 それらは、ただでさえメイジにとってすら脅威となりうる戦闘力を持つのに、ルイズの下で働かされ戦いを繰り返すことで、それぞれがリリイと互角の実力を持っていた。 数で、こちらを蹂躙しようとしたワルド子爵は、より多くの数で敗れ去ったのだ。 だけど、ルイズは裏切り者であるワルド子爵を殺しはしなかった。 それが、婚約者への未練であるのではないかと思ったのは、一瞬のこと。 ルイズは、倒れたワルドの服を剥ぎ、同時にリリイにも脱ぐようにと命じた。 その後、何かを察したキュルケに一時放り出されたわたしは、しばしの時間の後、やけにグッタリした顔の皆と再会する。 全員。ルイズもリリイもキュルケもロングビルもギーシュも、妙に上気した顔をしていて服も乱れていたのだから、さすがにわたしにも何をしていたのか理解できるのだが、なんの目的でそんなことをしていたのかは分からなかった。 キュルケも、ルイズの目的は分かっていなかったはずなのに、躊躇いなく参加するのは如何なものか。 まあ、目的の方も尋ねてみればすぐに答えが返ってきたのだけど。 ルイズには、性魔術という魔法が使えて、それを使うと魔法を使うための精神力を簡単に回復できるのだそうだ。 それで、亜人たちを召喚するのに使った精神力を回復させた理由は、レコン・キスタを倒すことであるとルイズは言った。 無茶だ。と、わたしは思ったが、彼女には勝算があった。 礼拝堂に遅れてやってきたルイズたちが持ってきた荷物。それは、この城中から集めてきた宝物。 呆れたことに、火事場泥棒をしてきたルイズが運んできた物の中に古いオルゴールがあった。 それが、勝利をもたらすのだと言われても、納得できようはずもない。 とはいえ、思ったより早く攻めてきたレコン・キスタを相手に逃げる暇のなかったわたしたちには、ルイズの賭ける以外に他に手立てがなかった。 ルイズがオルゴールから得たものは、虚無の魔法。 その魔法が、どれほどの威力を持つものなのか、わたしたちは知らなかった。多分、ルイズも正確には予想できてなかったに違いない。 だって、一個人の使う魔法が、一撃で万単位の兵士を吹き飛ばすだなんて、誰に予想できるというのだ。 大爆発の魔法の後に敵兵士の襲いかかった亜人の群。それが、レコン・キスタを完膚なきまでに叩きのめし、敵軍の首魁クロムウェルすら虜囚にする。 それで、全てはおしまい。 それが、思い違いであったと、わたしたちはすぐに思い知らされる。 ルイズは、別にアルビオンの王党派を救おうなどとは考えてはいなかった。 ただ単に、自分の集めた戦力とここで手に入れた魔法を試してみたかっただけなのだ。 そして彼女は、もう充分だと判断した。のみならず、クロムウェルから人の心を操るアンドバリの指輪というマジックアイテムすら奪い取った。 その結果、ルイズは彼女が欲するものの足がかりを手に入れたのだ。 この世界全てを蹂躙する力と軍隊を。 そうして初めて、彼女は自身の正体と目的をわたしたちに話す。 ここではない、ある世界での物語。 そこには、魔王と呼ばれる邪悪がいて、そいつは勇者たちによって倒された。 だけど、魔王は自身の魂だけを切り離し、使い魔に持たせ逃れさせた。 それをルイズが召喚してしまった。 魔王の魂を持つ使い魔を。 そして事故が起こる。 使い魔、リリイの持つ魔王の魂がルイズに入り込んでしまったのだ。 これは、お互いにとって不本意な事態であったろう。 ルイズとしては、そんな得体の知れないものに肉体を乗っ取られるなど、望んでいたはずがないし、魔王としても、少女の肉体に憑依するなど納得できようはずがない。 なにしろ、性魔術を使うに当たっては、男性を相手にしなくてはならなくなったのだ。リリイという、代わりを務めてくれるものがいなければ発狂していたかもしれないとは本人の弁である。 なんにしろ、魔王は自身の望みを叶えるために活動を開始する。 リリイを育て、戦力を集め、元の世界に帰る方法を探す。 封印された肉体を取り戻すために。かつて、自身を打ち倒した者たちを責め滅ぼすために。 今、レコン・キスタとアルビオン王党派を、アンドバリの指輪の力で手に入れたルイズは、ハルケギニアの全てを支配するつもりである。 元の世界を攻める戦力を手に入れるという理由ために。 そして、今わたしやキュルケはルイズの下でハルケギニアを征服する軍体の指揮を取っている。 わたしたちとは、わたしとキュルケとギーシュとワルドと、ついでに更に成長したリリイのこと。 ルイズがわたしたちに秘密を話したのは、ようするに仲間になれという宣言であり、それ以外の選択を許さないという通告である。 わたしたちに選択肢は与えられていなかったのだ。 ただし、わたしは条件を出した。 わたしタバサ、いや、シャルロット・エレーヌ・オルレアンの命は、母を守ること。復讐を果たすこと。そのためにある。その二つを叶えてくれるなら、従おうと答えた。 ルイズは、それを了承した。それどころか事情を聞いて、毒を飲まされ正気を手放した母を癒してくれるとまで言った。 その勇気があるならばと、前置きしてだったが。 母は、優しい人だったと記憶している。 その母が、魔王の配下となった自分を見てどう思うのか? そんなことを今の今まで、考えていなかった、むしろ考えないようにしていたわたしは、自分に勇気などないことに気づかされた。 だからといって、ルイズの仲間になるのをやめるという選択肢はない。ルイズはそんなことを許さないし、あのままガリアで働いていても救いなどないと分かりきっていたのだから。 だから、ルイズの力を借りて連れ出した母は、今も気がふれたままであり、執事のペルスランに任せきりになっている。 わたしにとって意外だったのは、キュルケが素直にルイズの仲間になったことである。ギーシュのことはどうでもいい。 元々ルイズと仲がよかったわけでもはなく、ルイズの世界征服にも興味を持たないであろうキュルケが何故と思ったわたしに、彼女は苦笑と共に答えた。 「だってねえ。本当にルイズが魔王に完全に乗っ取られていたら、わたしたちは今生きてないわよ」 キュルケが魔王の過去の話を聞いて最初に感じたのは違和感であったという。 魔王が、自身の話した通りの存在なら、それは人の命を虫ケラの如く扱い、自分たちのことなど、さっさと口封じに始末しているか、どこかで使い捨てにしているだろう。 なのに、それをしなかった理由はどこにあるというのか? それは、魔王に乗っ取られた身の裡に、ルイズ本人の心が残っているからに違いないとキュルケは考えた。 ならば、魔王からルイズに守ってもらっている自分としては、その借りを返さないわけにはいかないではないか。 そんなことを言う親友に、わたしは今更ながらに彼女がルイズを嫌ってなどいなかったのだと、それどころか好きだったのだと気づかされた。 そうでなくて、借りがあるからと、家族のいる祖国にまで戦争を仕掛けようという魔王に手を貸そうなどと誰が考えるものか。 わたしは、わたしと母を取り巻く過酷な運命から救ってくれたルイズに感謝している。 わたしは、キュルケまで、こんな運命に巻き込んだルイズを憎んでいる。 わたしは多分間違っているのだろう。だけど、今更道を違えることは出来ない。 この先、わたしたちにどのような結末が待っているのかは分からない。分からなくても進むしかないのだから。 小ネタで姫狩りダンジョンマイスターからリリイ召喚
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前ページ次ページ使い魔はじめました 使い魔はじめました―第三話― どうにか部屋まで戻ってきた二人と一匹 もっとも、先程こけた際にルイズは後頭部をぶつけて気絶し、 二人を探しにきたコルベールに部屋へ運び込まれた、 という顛末があったため、すっかり夜中になってしまっていた 「ううー……」 まだ痛む頭を撫でつつ、メイドに持ってこさせた サンドイッチを食みながら、ルイズは改めて自分の召喚した 使い魔とその使い魔に目を向ける 二人はぽかんと口を開けたまま外を眺めていた 「ねえねえ、見てサララ!月が二つあるよ!」 窓から身をのりだした猫が驚愕の声をあげている 「何当たり前のこと言ってるのよ」 「だって、ボクらの居たとこには月は一つだけだったもの」 こくこくと頷き、それに同意するサララ 自分が育った村でも、店を開いていた町でも月は一つだった 「もしかしてここ、ボクたちが居たのとは違う世界なんじゃない?」 チョコのその言葉にサララは考え込む 月が二つ、箒が無くても飛べる魔法使い 部屋の中を見渡せば、見たこともない作りの調度品で溢れている その可能性は十分あるだろう 「はあ?違う世界って何よ?月が一つ?馬鹿にしてるの?」 イライラしているらしいルイズの言葉に慌てて首を左右に振る 「……もういいわ。とりあえず、あんたらが何処から来たのかは、 この際置いておきましょ。ここに座んなさい」 テーブルを挟んで椅子に座り、主と使い魔は向かい合う 「改めて確認するけれど、『サララ』と『チョコ』ね」 一人と一匹を順番に指差してルイズが名前を確認する 「で、あんたはマジックアイテムを売る商人をやっていた」 「そーだよ。ねえ、ぼくたち、元の場所に帰りたいんだけど」 「無理ね」 ルイズはチョコの言葉を一蹴する 「どうして?」 「だって、サララは私の使い魔になったんだもの。 額に、ルーンが刻まれたはずよ」 サララはそっと髪の毛の下の額に触れる 確かに何か文字のようなものが刻まれている手触りだ あんまり人に目から上を見せないとは言え、ちょっといやだなあ、と思った 「使い魔とメイジは一心同体!あんただってそれは分かるでしょ?」 「う」 人差し指で鼻を突かれて、チョコは言葉に詰まった 「確かに、それはわかるよ。 ぼくだって、サララのパートナーだもの」 「でしょ?」 勝ち誇ったようにルイズは告げる 「それで、よ。使い魔のものは主のもの、よね」 ずい、とルイズは身をのりだし、サララに詰め寄る 「あの鍋の中のマジックアイテムも、私のもの、よねえ? ねえ、そうよね、見てもいいわよね?」 たじろいだサララがうっかり頷いたのを確認すると、 ルイズは椅子から立ち上がり、鍋にかかった梯子に手をかける 「さあ、一体どんなものがあるのかしら! ご主人様が確認して……え?」 鍋を覗き込んだルイズは、そこが真っ白に輝いてるのを見た 「何これ?一体どうなって……きゃあ!」 身を乗り出したルイズが、 そのままバランスを崩して鍋の中に転げ落ちる 「わわっ!まずいよサララ!早くあの子を助けないと!」 チョコに急かされて、サララは慌てて 鍋の中から出ている梯子に手をかけた鍋の中へと入っていった 梯子を降りたサララは、きょろきょろと辺りを見回し、 目を回しているルイズを見つけ、慌てて抱き起こす 「うう……あ、あれ?私一体?」 自分の状況が掴めないルイズが目を白黒させた 「もう、うっかりしてるなあ。鍋の中に落ちるなんて」 「ううう、うるさいわね!」 チョコに怒鳴ってから、ルイズははた、と気がつき辺りを見渡した そして恐る恐る、チョコとサララに向き直る 「ここ、何処?」 「だから、鍋の中」 再び、視線を巡らせる そこには異様とかしか呼べない光景が広がっていた まるで、巨大なデコレーションケーキだった 自分達の存在は、さながらその上に置かれた砂糖菓子の人形である 「な、な、何なのよ、これはあああ!!説明しなさいよ、ねえ!!」 パニックになったルイズを見つつ、チョコはあっさり言い放つ 「魔女の大鍋の中は、こーいう風になってるもんなんだよ。 不思議だよねえ。入れたアイテムはどこにしまわれてるんだろ?」 可愛らしく首を傾げるチョコ こーいう風になってる、と言われてもルイズは動転したままだ 「な、鍋の中って!嘘!だってあんなに天井?が高いじゃない!」 見上げた上部は、どこまでも続いているような気がした このまま戻れないのではないかと、 ちょっと泣きたくなりかけた時だった 「……って、ちょっと待ちなさいよ。鍋の中を知ってるってことは、 あんた、この鍋の中入ったことあるの?」 サララは、つい、とすぐ側にある梯子を指差す 「……出られるの?」 首を縦に振り肯定の意を示したサララを見て、 ルイズは何となく気恥ずかしくなり、顔が真赤に染まってしまう 「だ、だったら先に言いなさいよ、もう……」 照れ隠しのようにぱっと起き上がると、梯子に手をかけ昇り始める 「(びっくりした……)」 部屋に戻ってからも、まだルイズの心臓はドキドキしていた あんなに高く見えたのに、梯子を何段か昇れば、 あっさり元の自分の部屋へ帰ることができたのだ 一体、どんな仕組みになっているのだろうか 「ねえ、あんたたち」 鍋から出てきた彼女達に声をかける 「あんたたちが、別の世界から来たかもしれないって、信じるわ。 だって、ハルケギニアにはそんな変な鍋、存在しないもの」 「やーっと信じてくれた?」 チョコがやれやれ、といった様子でため息をつく 「それよりさあ、使い魔やるにしても、 とりあえず一度、元の場所に帰してくれないかなあ」 サララもそれには同意だった 使い魔をやると決めたのは自分だが、 せめて、引越しとか休業のお知らせをしないと 常連客たちが心配するだろう 「……無理よ」 「どうして!」 ルイズは困った顔でサララ達に告げた 「だって、あなたたちの世界と、 こっちの世界をつなぐ魔法なんてないもの」 「じゃあ、どうしてぼくらは来られたのさ!」 「そんなの知らないわよ!……召喚魔法は、ハルケギニアのものを 呼ぶ魔法だし……サモン・サーヴァントは、 使い魔が死なない限り、二度と使えないんだもの……」 段々声が小さくなっていくルイズ じっと聞き入っている彼女らは、多分困っているのだろう 魔法が使えないことで苦労するのは自分も痛い程知っている その上、いきなり知らない場所に連れて来られたのだ せめて、自分が有能なメイジであれば、 彼女らを召喚せずにすんだのでは? などと考えて、落ち込んでしまう 「んー……じゃあ、しょうがないかな?」 あっさりと開き直ったチョコにがくっと、なるルイズ 「……あんたたち、それで、いいの?」 「サララがやるって決めたんだし、今の所、元の世界に 帰る方法もない。じゃあ、使い魔やるしかないじゃないか」 今までだって、行き当たりばったりで様々な目に遭ってきたが、 いつだって、何とかなっていた きっと、今度も何とかかなるだろうとサララとチョコは考えた 「そ、そう、ならいいのよ!ああ、それじゃあ、使い魔が 何をしなくちゃいけないか教えてあげるわ!」 無い胸を張って、ルイズが告げる 「魔法媒体じゃないの?」 首を傾げるチョコを否定する 「そんなことしないわよ。 まず、使い魔は主人の目となり耳となる能力を与えられるわ」 「できそう?」 「……さっきから試してるけど無理ね。人間だからかしら?」 もっとも、見えた所で視界は悪そうよね、という言葉は飲み込んだ 「それから、使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ」 それを聞いた瞬間、サララは満面の笑みを浮かべた そういったことなら、自分の得意中の得意だ 仕入れるよりも、ダンジョンで拾ったアイテムの方が確実に多い 「……そーいうのなら得意だよ。 ぼくら、よく、ダンジョンに潜ってたもの」 「ダンジョン?」 訝しげな顔をしたルイズを見てサララは戸惑う 「あ……もしかして、ダンジョン、ない? 薄暗い洞窟でさ宝箱とかあって」 チョコが恐る恐る尋ねた 「……ない、わねえ。じゃあ、無理かしら」 その場に、三つのため息がこぼれる 特にサララのため息が一番大きかった 多少危険ではあるが、仕入先として重宝していたダンジョン それが無いのでは、迂闊に道具を使うことも売ることもできない これは商売人として大きな痛手である 「で、最後なんだけど……使い魔は主人を守る存在よ。 その能力を使って、主人を敵から守るのが 一番の役目……なんだけど」 「あ、そっちも大丈夫だよ」 さらりとチョコが告げる 「大丈夫、って……あのねえ、強い幻獣だったら、 並大抵の敵には負けないけど、 あんたらなんか、カラスやカエルにだって負けそうじゃない」 苛立たしげに言うルイズに、チョコは小さな胸を張る 「ぼくはともかく、サララなら大丈夫さ。カラスやカエルどころか、 ドラゴンにだって、サラマンダーにだって負けるもんか!」 「ふーん……」 疑いの眼差しをサララに向けるルイズだが、思いなおす 「そうね。あんたには、さっきのアレみたいな マジックアイテムがあるんだもの。 ひょっとしたら、ひょっとするかもしれないわね。 ……でも、そんな機会は、きっとあんまりないわ」 だから、とルイズは指を立てた 「掃除、洗濯なんかの雑用もやってもらうわよ!」 「あちゃー、やっぱりかあ。ぼく手伝わないからね、サララ」 チョコの言葉を聞いて苦笑しながらも、サララは頷いた どうせ、頼る相手は目の前の彼女しか居ないのだ だったら、精一杯のことをやるだけである 「ふわ……喋ったら、疲れちゃったわ」 ルイズはあくびをした 「ぼくたちだって疲れちゃったよ。 ねえ、ぼくたちは何処で寝たらいい?」 その言葉にルイズはしばし考え込む 普通の使い魔なら宿舎、あるいは床だが 相手は自分とそう年も変わらないであろう少女だ 「……しょうがないわね。一緒に寝てもいいわよ」 そう言いながらルイズは服を着替えていく 「もーちょっと恥じらいを持った方がいいんじゃない?」 「猫と同性の前で何を恥らえって言うのよ。 あ、これ。明日洗濯しておいて」 下着をサララの方に放るともぞもぞとベッドに潜り込んだ 「朝になったら起こしてね、おやすみ」 ぱちん、と指を鳴らしランプを消すと、 あっという間に小さな寝息を立てだした 「はあ……なんだか、大変なことになっちゃったね、サララ」 くぁ、と小さくあくびをするとチョコはルイズの枕元に飛び乗る 「サララも、早く寝た方がいいよ……。 明日からは、もっと大変になるだろうから……。 んー、ふかふかのベッドだな……」 組んだ前足に頭を乗せて、チョコも寝息を立てだした 着替えがあればよかったのに、と思いながら、 サララも帽子を脱ぎ、エプロンをはずしていく コトリ、と何かがポケットから床に落ちた 見れば、広場で拾っておいた、占いカードと日記帳である サララは手に取った日記帳を開き床に置くと、 挟んでおいた羽ペンでさらさらと今日の出来事を記していく 魔女の世界には、日記をつけておけば、例え天変地異があっても そこからやり直せるという言い伝えが残っているため、 大事なことの前後には、日記をつけておくクセがあった 月明かりが元の世界より明るく、ランプがなくとも十分だった 『『ハルケギニア』という場所に召喚されて、 ルイズという少女の使い魔:パートナーになった 元の場所に戻れるかはわからないけれど、ちょっとワクワクする まるで、ダンジョンで新しい階層に潜る時のよう』 それだけ書くと、日記帳を閉じる それから、思い立って、占いをしてみることにした 占いカードの内、『最後のカード』を除いた十三枚のカードを よくシャッフルし三つの束にする その三つの束のいずれかの一番上のカードを選ぶという ごくごく簡単な方法で明日はどんな日か占う占い方だ 手にとったカードは、『Ⅰ:水晶玉』 『水晶玉』の暗示する意味を、頭に思い浮かべる 『完成』、『完全』そして……『未来』 三つの意味の中で、これが一番しっくりくる気がした あの町で初めてやった占いでも同じカードを引いたことと、 初めてのお客様から始まったあの町での暮らしを思い出す 二つの月が輝くこの異世界で、自分と、チョコと そして彼女には、どんな『未来』が待っているのだろうか そう考えながら、ベッドに潜り込むと、サララは眠りに落ちていった 前ページ次ページ使い魔はじめました
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前ページ次ページルイズと夜闇の魔法使い 「……どうやら私を追ってきたって訳じゃなさそうだね」 「まあ別件でな」 柊達から一定の距離を保ったまま、壁に背を預けたフーケがそう言うと、柊は軽く頷いた。 柊が捕縛した後のフーケについて知っているのは、彼女を王都に連行する際に護衛の衛士隊が何者かに襲撃され、その犯人と共に逃走したという事くらいだ。 そのごたごたで上の方ではなにやら揉めたり手配書が国中に出回ったりしたらしいが、その後の音沙汰は全くないといってよかった。 まあこうしてフーケはアルビオンにいるのだからトリステインで音沙汰がないのも当然だろうが。 「……で、こっちに高飛びしてきて火事場泥棒でもやろうってのか?」 個人的に多少の縁があるとはいえ、一応彼女は逃亡中の犯罪者である。 とりあえず尋ねてみると、彼女は何故か顔を顰めて黙り込んでしまった。 柊とタバサが互いに顔を見合わせ、改めてフーケを見やると、彼女は肩を落として大きな溜息をつき、手を頬に軽く添える。 「……盗賊は廃業したよ。出頭するつもりはないけど、もうああいう仕事はやらない」 フーケは呟くようにそう漏らし、頬の手を離すと残滓を惜しむように指を擦った。 そんな彼女の様子をじっと見ていた柊が、確認するように口を開く。 「本当だな?」 「信じる信じないはそっちの勝手だよ。捕まえようってんなら抵抗するけどね」 ふんと鼻を鳴らしてフーケが返すと、柊はしばし何事かを考えるように腕を組んだ。 そして彼はフーケから踵を返し、その場から離れながら懐から何かを取り出す。 手の平大の小さな箱を指で弄くってから耳に寄せると、ややあって虚空に向かって話し始めた。 「ああ、俺だけど。今大丈夫か? ……あぁ、アルビオンには着いた。今サウスゴータってトコに来ててな、実は――」 誰を向いているでもないのにまるで会話をしているようにぼそぼそと話す柊を見て、フーケは訝しげに首を捻って脇に佇んでいたタバサに眼を向けた。 「アイツ、何をやってるんだ?」 「……知らない」 タバサにとっても柊の行動は謎だった。 柊の行動は少なくともハルケギニアの人間から見れば十中八九はちょっと残念な人に映っているだろう。 実際そのような視線を向けているフーケを他所に、柊は虚空に向かって喋り続けた。 そして彼はようやくといった感じで会話(?)を打ち切って二人を振り返ると、フーケの方へと歩み寄った。 「あんた、大丈夫? そっちのケがあったのかい?」 「そんなのねえよ。それよりな」 言いながら柊は手に持っていた何かフーケに手渡した。 意図が読めずに首を捻るばかりの彼女に、彼はそれを耳に充てるように促す。 訳のわからないまま指示通りに彼女がそれを耳にあてると――箱から聞き覚えのある声が聞こえてきた。 『――ロングビル先生?』 「っ!?」 フーケはぎょっと眼をむいて周囲を見回したが当然その声の少女――志宝エリスはこの場にいない。 声が聞こえてきた箱……0-Phoneを凝視して、次いで柊を見やると、彼はにやりとした笑みを浮かべて 「遠くの奴と話ができるマジックアイテム」 とだけ言った。 呆然とするフーケの手元で、再び呼びかけるエリスの声が小さく響く。 慌てて彼女は0-Phoneを耳に充て、にやにやとした笑みを浮かべる柊と興味深げに見やるタバサの二人から隠れるように背を向けて語りかけた。 「あ、ああ、大丈夫だよ。ちゃんと聞こえてる。……元気にしてたかい?」 『はい、私の方は。先生は大丈夫だったんですか? あれから、その……』 「こっちも問題はないよ。おかげさまで牢屋に入らずにすんだからね」 『……ごめんなさい、私……』 「なんであんたが謝るのさ。悪さをしでかしたのはこっちなんだから、あんたが謝ったり気に病んだりする必要なんてないんだよ。――うん、うん。ああ……」 それなりに付き合いがあり、捕縛以降は一切会話ができなかったこともあって話すことがあるのだろう、0-Phoneごしにエリスとフーケは語り合う。 そんな彼女の後姿を見ながら、柊はちらりとタバサに目を向けて囁いた。 「あの分だと本当に大丈夫みたいだな」 「……悪辣」 「エリスが気にかけてたのは本当なんだからいいだろ、これくらい」 ぼそりと呟いたタバサに柊は言い返してから表路地の方を指差し、頷いた彼女と共に裏路地を後にした。 ※ ※ ※ フーケが路地裏から姿を現したのはそれからしばらく経ってのことだった。 適当に露天を見物していた柊とタバサを見つけた彼女は、やや肩を怒らせて二人の下へと歩み寄った。 フーケの接近に気付いた柊は開口一番、口の端を意地悪く歪めて言う。 「生徒に心配かけちゃいけねえな、センセイ?」 「……やってくれるじゃないか」 言われた彼女は屈辱と怒りがない交ぜになった顔で柊を睨みつけた後、手にしていた0-Phoneを乱暴に彼に向かって放り投げた。 慌ててそれを取る柊にフーケは言う。 「エリスのこと、気付いたかい?」 「エリス? あいつがどうかしたのか?」 「なんだかあんたと話したい事があるようだったよ。途中でご主人のあの子が横槍入れてきたけどね」 「……あー」 察しがついて柊は0-Phoneで額をかきつつ唸った。 置いてけぼりを食わされて怒り心頭のルイズ(と多分キュルケも)が手におえないのだろう。 柊は連絡を入れてみるかどうか少し迷ったが、ここはあえて放置することにした。 ここで下手に彼女を刺激するとややこしいことになりかねない。 ……放置すれば放置したで後のややこしさが膨れ上がるだけというのもわかっているが、現行の状況を片付けるのを優先しておいた方がいい。 「喧嘩別れして傭兵にでもなったのかい?」 「いや、違う。ちょっと野暮用でな……」 尋ねてきたフーケに、柊は誤魔化すように手の中の0-Phoneを弄くりながら答える。 と、そこでフーケはようやくある事に気付いた。 柊が手に持っている奇妙な箱。 最初に渡された時はエリスの事で気が回らなかったが、改めてみればそれは彼女の知っているあるモノに似ているのだ。 大きさが全然違うのだが、作りや雰囲気などが酷似している。 「なんだよ。やらねえぞ」 フーケがまじまじと0-Phoneを見やっているのに気付いて、柊は眉を潜めて言った。 しかし彼女は顎に手を添えたままじっと柊を見つめていた。 雰囲気が違うことに気付いて柊が首を捻るのと、彼女がぽつりと声を漏らしたのはほぼ同時だった。 「……あんた、『チキュウ』って知ってる?」 「……!」 フーケから飛び出したその言葉に柊は肩を揺らし眼を見開く。 「……エリスから聞いたのか?」 「いや……って事は、知ってるんだね?」 フーケが重ねて尋ねると、柊は黙り込んで彼女を見やった。 そして少しの沈黙の後、嘆息して彼は答える。 「知ってるも何も。俺達が来たファー・ジ・アースってのがその『地球』だ。細かい説明は省くが、そういう事なんだよ」 二つの呼称の違いを説明するためには世界結界による常識・非常識の二重構造から説明しなければならないため、柊はとりあえずそう返した。 フーケはその返答を受けて眉を潜め、何事かを考え始めた。 ややあって彼女は柊に再び尋ねる。 「あんた達、時間はあいてるか?」 「悪い、纏まった時間は取れねえ。もうちょっとしたら出発するつもりだし……」 地球の事を切り出してきたのだから柊としては気になる所ではある。 ただ、今はアンリエッタから受けた依頼を片付けるのが筋というものだろう。 決行は夕刻だが、早めに出発して遠目からでも戦陣を確認しておきたいのだ。 「別件とか野暮用とか……あんた等、一体何しに来たのさ。このご時勢で観光って訳でもないんだろ?」 半ば呆れ顔でそんな事を呟いたフーケを見ながら柊は小さく苦笑を返すことしかできなかった。 確かに安穏としたトリステインから戦時下のアルビオンに飛び込んでくる理由など推測はできないだろう。 ……王女殿下から密命を帯びてきている、など柊達自身からしても想像の埒外と言っていいくらいのものだ。 と、ここで今まで黙り込んでいたタバサが唐突に口を開いた。 「ニューカッスル城に行って王党派の人間と接触する」 「タバサ!?」 いきなりの発言とその内容に柊は驚いて彼女を見やった。 フーケは一瞬台詞の内容が理解しきれずぽかんとタバサを見つめ、はっとして周囲を見回した後改めて彼女を覗き込んだ。 タバサは二人の様子を意にも介さず、どこか冷めた視線を向けて言葉を継ぐ。 「城に潜入する方法か、それができそうな王党派側の人間に心当たりがあるなら教えてほしい。……『土くれ』のフーケ」 「……」 検めるようにその名を言うと、フーケは目を細めてタバサを睨みつけ――そして薄く笑った。 「なるほど。どうやらあんたは学院の馬鹿貴族共よりは賢いようだね」 「心臓に悪いな、おい……」 タバサの意図に気付いた柊が嘆息交じりに漏らし、二人を先程出てきた路地裏に促した。 流石にこれからの話はそれなりに人通りのある表路地ですべきではない。 再び人気のない路地裏に入り込むと、柊は表通りを監視するように入り口付近に陣取った後壁に背を預けた。 「で、実際心当たりはあるのか?」 タバサがフーケにあんな事を言ったのは盗賊としての彼女の『裏の筋』を見越しての事である。 二人もこの街に入ってそれなりに情報収集はしたが、所詮それは表に出回る程度のもの。 この国に来たばかりの柊達では込み入った『裏側』にまで踏み入ることができようはずもない。 トリステインで活動していたとはいえ貴族相手に盗賊をやっていた『土くれのフーケ』ならばそれなりに顔が通ってもおかしくはないだろう。 「教えてくれるならちゃんと払うもんは払うぞ……タバサが」 幾分申し訳なさそうに柊が言った。 柊はこの任務においてルイズがアルビオンに行く必要性は皆無だと判断して置いてきた訳だが、たった一つだけルイズが一緒にいる意味がある事を思い知った。 ……柊は路銀を全く持っていなかったのである。 サウスゴータに到着していざ情報収集という段になってようやくその事実に気付き愕然としたが、それを賄ってくれたのがタバサだった。 服やデルフリンガー購入の代金に続いてタバサにまで負債を背負ってしまう羽目になった柊は、この任務が終わったら傭兵だの商隊の護衛だのをして金を稼ごうと心に決めたのだった。 それはともかく。 柊は探るようにフーケを見たが、彼女はさほど迷うでもなく軽く笑うと肩をすくめて見せた。 「確かにこっちの方にも通じちゃいるが、残念だけど心当たりはないよ。というか、今のこの情勢で王党派に付く裏の人間なんていないだろ。 むしろあんた達を貴族派に売る方が確実に稼げるよ。……あんた達みたいな半端者が一番のカモだってこと、覚えておくんだね」 「……肝に銘じます」 ぐうの音の出ない正論(?)に柊は思わず肩を落として呻いた。 切り出した当のタバサもこころなしかしゅんとしている。 どうやら彼女もこの手のやり方はさほど経験がなかったようだ。 そんな二人を見ていくらか気をよくしたのか、フーケはまるで教師が生徒を諭すように言葉を続ける。 「大体ねえ、ちゃんと下調べすればいちいち聞くまでもなく無理なのはわかりきってるだろう。 ニューカッスル城といえば岬の袋小路、平地の城と違って陸路が限定されるから貴族派も封鎖しやすいし、空からは侵入するのが丸わかりだ。強行突破ならまだしも潜入なんて――」 と、そこまで言ってフーケは不意に口を噤んだ。 まるで時間を止めたように固まってしまった彼女に、柊とタバサはお互いに顔を見合わせた。 ややあってフーケは顔を傾け、何事かを考えるかのような仕草を見せた後タバサに眼を向けた。 「……あんた、確か風竜を召喚した生徒だったね? てことは、その風竜でここに来たのかい?」 「まあ似たようなもんだけど……」 箒の事を言うまでもないと柊が先んじてそう答えると、再びフーケは今までになく思案顔で眼をそらした。 口の中で何事かを呟き、小さく頭を振って――そして眼を細めて言った。 「……あるよ。ニューカッスル城に潜入するルート。おそらく、貴族派の連中は知らない」 「本当か?」 思わず身を乗り出して尋ねる柊に、フーケははっきりと頷いた。 「ああ。その子の持ってる風竜の能力次第だがね」 「それなら問題ない」 逡巡することもなくタバサは即答した。 もしシルフィードがそれを聞いていたら狂喜乱舞していただろう。 「頼む、そのルートを教えてくれ。見返りが必要ならちゃんと用意する」 「……金は要らない。その代わり、あたしも一緒に行く。……もっとも、聞いただけじゃ行けないだろうから道案内は必要だろうがね」 「いいのかよ。戦場のど真ん中だぞ」 意外といえば意外な彼女の提案に柊は眉を潜めて尋ねる。 すると彼女は僅かに顔を傾け――薄く嗤った。 「……いいよ」 冷笑でも嘲笑でもない、どこか歪な笑み。 今まで見たことがないフーケの表情に柊は表情を険しくし……そしてタバサは息を呑んだ。 何故かはわからないが、彼女のその顔を見た瞬間に激しく心臓を突き動かされたような気がしたのだ。 「……お前」 「今出ると着くのは夜になるからまずい。だから出発は明日陽が昇ってからだ」 問い質そうとした柊を拒絶するかのようにフーケは踵を返して表路地の方へと歩き出す。 先程の表情に関して答えてくれそうな気配はなかったので、柊は軽く息を吐いて彼女に言った。 「白昼堂々忍び込むのかよ」 「あたしも知ってるだけで行ったことはないからね。聞いた通りの場所なら明るい方がいいはずだ」 行ってフーケは背中越しに柊を振り返り――顔は既に元の彼女に戻っていた――更に続ける。 「これで時間が空いたろ。ついでだからさっきの続きだよヒイラギ。 ――あんたに会わせたい奴がいる」 ※ ※ ※ ――ほんの少しだけ時間は遡る。 フーケ……ロングビルとの会話を終わらせたエリスは安堵した表情を浮かべて0-Phoneを胸に抱いた。 余韻を少しばかり堪能した後彼女は一つ深呼吸して振り返る。 その視線の先にはほんの少し表情を険しくしたルイズが待ち受けていた。 「話は終わったの?」 「……はい」 エリスが答えるとルイズはそう、とだけ言って手を差し出す。 有無を言わせぬといった彼女の態度にエリスは僅かに逡巡しながらも、持っていた0-Phoneを手渡した。 「旅が終わるまでこれは没収ね。持たせてるといつアイツと連絡を取るか知れたもんじゃないもの」 「……」 口に出して反論はしないものの不満そうな表情を垣間見せるエリスを、しかしルイズはあえて無視して踵を返した。 二人は連れ立って近くにある大振りな木へと歩を進めた。 その木陰にいるのは見るからに立派な幻獣――グリフォンと、一人の男。 ルイズ達が戻ってきたことに気付いたグリフォンが首をもたげると、男もまた二人を振り返って口を開いた。 「話は終わったかい?」 「ええ、お待たせしてごめんなさい」 「構わないよ。ラ・ローシェルまで中ごろといった所だし、休憩には丁度いいだろう」 男が闊達と笑うと、ルイズは少し気恥ずかしげに頬を染めた。 しかしエリスの表情は優れない。 何故なら彼女は、この男の事が苦手だった。 彼の名はジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド子爵。 貴族達の憧れであり戦場の華たる魔法衛士隊、その中の一つグリフォン隊の隊長を勤めており――ルイズの婚約者だという。 なるほど確かに彼は肩書きに相応しい威厳があり、その割には気さくで(ハルケギニアの見地では)平民であるエリスに対してもそこまで威圧的ではない。 要するに好人物であり、悪い印象はほとんどと言っていいほどなかった。 ……だが、それでもエリスはワルドの事は苦手だった。 そんな彼女の心境を知ってか知らずか、ワルドは興味深そうにエリス見やって口を開く。 「しかし、便利なマジックアイテムを持っているものだね。アル・ロバ・カリイエでは平民でもそのようなものを持っているのか?」 「はい……いえ、ほとんど持っていないんじゃないかと……」 少なくともアル・ロバ・カリイエにこれを持っている人間は存在しないだろう。 エリスがややぎこちなく答えるとワルドはふむ、と頷いてからエリスを観察するように眺めやると、軽く頭を振った。 「まあよいか……それで、その彼等はどこにいると?」 「アルビオンのサウスゴータっていう街だそうです」 するとワルドに僅かばかりの驚きが混ざる。 彼は顎に手を添えながら、思案顔で呟くように漏らした。 「深夜に出発してサウスゴータ? 連れ合いの風竜は随分と優秀なのだな……軍の成竜でもそこまで速くはない」 一概に比較できる訳ではないが、とワルドが言うと、ルイズがどこか焦ったように口を開いた。 「だったら急いで行かないと。下手に陣中突破なんて企まれたら捕まえられないわ」 「そうだな。では出発するとしよう」 言ってワルドが促し、ルイズは彼の手を借りて地に伏せたグリフォンの背中に跨る。 次いで彼はエリスにも手を差し出したが、彼女はその場に立ち止まったままおずおずと語りかけた。 「あの……本当にアルビオンに行くんですか?」 夜が明けて出発予定の時間になった折、学院の前で柊とタバサの二人が既にアルビオンへ向かった事を知らされたルイズとキュルケは予想通りというべきか、激しく怒り狂った。 朝もやに向けてさんざっぱら悪態をつきまくった挙句やはり予想通りに追いかけようという方向性になりかけもした。 が、相手が風竜(とキュルケは思っている)ではいくら行き先がわかっていたとしても無謀な追跡でしかない。 柊に後詰を任されたエリスは全力で二人を説得し、どうにかこうにか『帰ってきたらツケを払わせる』という形で収めたのである。 ……少なくともルイズとキュルケの二人を相手にこの形で収めたのは大成功というべきだろう。 キュルケは「まさかあの子が人の恋人を寝取るだなんて!」などとのたまいながら憤懣やる方なく学院へと戻って行ったが、ルイズはその後も学院の入口でアルビオンの方角を睨み続けていた。 そこに現れたのがグリフォンに乗ったワルドなのである。 お互いに紹介を――彼がルイズの婚約者である事も含めて――終えた後エリスが柊達の事を伝えると、ワルドは驚いた表情を浮かべながらもややあってルイズに告げた。 「王女殿下より任務を賜った以上、おめおめと帰る訳には行かない。僕は彼等を追ってアルビオンに行くが……キミはどうする?」 ルイズの返答は今更語るほどの事ではなかった。 ワルドは彼女の答えを待ち望んでいたかのように快く受け入れ、自ら手を引いてルイズをグリフォンへと乗り込ませた。 エリスは最後まで躊躇したが、二人の乗ったグリフォンが空へと飛び上がろうとした段になって半ば反射的に自分も同行すると言ったのである。 もはやルイズを止めることなどできないだろうし、一緒に行って自分が何かできると思った訳でもない。 ただ単純に、放っておけなかっただけだった。 エリスの言葉を聞いた騎上のルイズは憤懣も露にしてエリスに向かって言った。 「当たり前よ。姫様から賜った重大な密命をあいつらだけに任せておくなんてできないわ」 「で、でも、実際もうアルビオンまで行ってるんだし、ちゃんとやれてるじゃないですか」 「……それは」 ルイズは思わず口ごもってしまった。 しかしそれはエリスに説き伏せられたのではなく、自分の言いたい事が上手く伝えられないからだ。 そもそもエリスは根本的に彼女の心情を履き違えている。 ヒイラギならそれなりに上手く立ち回って任務を果たす事もできるかもしれない。 それはエリスに言われずともルイズはちゃんと理解していた。 だが彼女がアルビオンへと行きたいのはそういう事ではないのだ。 それを伝えられないまま――そしてその帰結として当然のように、エリスは意気込んでルイズに訴えた。 「それに親書も指輪も柊先輩が持ってるんだし、今更追いかけたってきっと間に合いません。ルイズさんが行く意味なんて――」 「それは違うな、ミス・シホウ」 そこで割って入ったのは今まで二人のやりとりを黙ってみていたワルドだった。 闖入に思わず身を硬くしたエリスに、彼はあえて態度は軟化させず彼女に向かって言う。 「意味、というならルイズが行く事そのものに意味があるのだよ。 なるほど確かにヒイラギとやらの採ったやり方は効率的だろう。彼はそれなりに優秀な傭兵なのかもしれん。 だが我々は傭兵ではない、『貴族』なのだ。密命とはいえ王女殿下より賜った大任、なればこそ相応しき者が果たさねばならぬ。 古来より我等貴族はそうやって国と王に報い、己が身と家名に名誉と誇りを刻み続けてきたのだよ」 「ワルド……」 彼の言葉にルイズは感じ入ると同時、胸のつかえが下りたような気がした。 彼が語ったとおり、これは単純に依頼された事を果たせばいいという類のものではないのだ。 アンリエッタより願いを託された事に意味があり、託された自分が赴くことに意味がある。 王宮にいる他の誰でもなく、自分を頼ってきてくれた事にルイズはささやかな誇りを感じていたのだ。 しかし目の前のエリスにはそれを理解されず、柊に至ってはあろうことか部外者と共に任務を掻っ攫っていった。 ルイズはそれに憤りと失望を感じると同時、やはり彼女等は自分とは違う『平民』であると再認識してしまう。 自分の気持ちを代弁してくれた同じ『貴族』であるワルドの背がどこか頼もしく見えた。 「……」 一方のエリスは、それ以上何も言い返す事ができなくなってしまった。 ただ、不満の表情は顔に出ていてしまったのだろう、それを見たワルドが小さく溜息をつくと諭すように言った。 「それが貴族というものなのだよ。平民のキミにはわからないだろうがね」 その台詞を耳にいれ、エリスの肩が僅かに揺れた。 ――エリスがワルドを苦手な理由は、まさにこの一点といってもよかった。 今の台詞にしても別に彼は平民を殊更卑下した風に言った訳ではない。 逆に貴族である事を意気高々にひけらかしている風でもなかった。 しかし彼は『平民と貴族が別種の存在である』という厳然な認識を持っていて、それを揺ぎ無いほどに体現しているのだ。 彼のような人物が貴族というものであるのなら、普段学院で見ている生徒達も長ずれば彼のようになるのだろうか――ルイズもまた。 それは違う、と否定するほどエリスはこの世界の貴族を理解できていない。 だから貴族とはそういうものだ、と言われればエリスは何もいう事が出来なくなってしまう。 いっそ厨房で働いているコック長のマルトーのように『いけすかない奴等だ』と嫌ってしまえれば楽だったのだろうが、彼女は簡単に割り切ることができなかった。 ……だからエリスはワルドが好きでも嫌いでもなく、単純にどうしていいかわからないぐらい『苦手』なのだ。 「そんなに行きたくないんだったら、あんただけ学院に帰ってもいいのよ。ここから歩いて帰すのは酷だからラ・ローシェルまでは一緒に行って、後は馬車でも手配してあげるわ」 渋るエリスに焦れてきたのか、グリフォンの上のルイズが肩を怒らせて声を投げかけた。 エリスは少し迷った後、顔を俯かせて返答する。 「……いえ、行きます」 「では行こうか」 恭しく差し出されたワルドの手を半瞬逡巡してから取り、それに助けを借りてグリフォンの同乗する。 最後にワルドがグリフォンに跨り、三人を乗せた幻獣は翼を翻して空へと飛び上がった。 流れていく眼下の景色を見やりながら、エリスはルイズにせめてもの提案を持ちかける。 「……せめて柊先輩に連絡をとりませんか? 目的は同じなんだから合流した方が――」 「それはダメ。あいつのことだから、きっとなんだかんだと難癖つけて反対するに決まってるもの。下手したら逃げるかもしれないわ」 「そんなこと……」 「そんなことあるわよ! アイツからすればわたしは足手まといなんだから!」 語気を荒らげてルイズがエリスを振り返ると、グリフォンがぐらりと揺れた。 箒で落ちかけたことを思い出してルイズが身を強張らせると、脇からワルドが腕を添えて彼女を支えグリフォンの体勢を整える。 「すまない。だが、三人乗った上であまり動かれると流石に危ない……速度も結構出しているしね」 「ご、ごめんなさい……」 「すみません……」 しゅんとなって謝る二人を見やるとワルドはに軽く笑った。 「この旅の主導はルイズなのだから、彼女の良いようにするといい。 確かに合流した方が安全ではあるが、何、一人二人守り抜くだけの力は持っているよ。伊達で魔法衛士隊隊長の肩書きを戴いている訳ではないからな」 柊から無碍に置き去りにされた後だけにルイズは一層頼もしそうにワルドを見やって深く頷き、そしてエリスは逆にいっそ困惑といってもいい程の表情を浮かべて顔を俯けてしまった。 とりあえず事態が収拾した事にワルドは一つ頷くと、手綱を引いてグリフォンの速度を増した。 勢いを増した風切りに彼は片手で器用に帽子を深く被る。 帽子の鍔で目元を隠すと、ワルドは小さく囁いた。 「……サウスゴータ、か」 呟きは傍にいる二人に届く事すらなく、風に掠れて消えていった。 前ページ次ページルイズと夜闇の魔法使い