約 596,291 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4937.html
前ページ次ページZERO A EVIL 無事に裏口から脱出したルイズ達は、船が停泊している桟橋に向かっていた。 貴族派の妨害があった以上、一刻も早くアルビオンに辿り着かなければならない。 長い階段を駆け上がり丘の上に出ると、四方八方に枝を伸ばした巨大な樹が現れる。枝の部分には船が木の実のようにぶら下がっていた。 後ろを振り返ってみても、追っ手が来る様子はない。どうやら、フーケはうまく敵をひきつけてくれているようだ。 「よし、こっちだ!」 ワルドに促され、ルイズ達は樹の根元にある空洞の中に入っていく。 空洞の中には各枝に通じる多くの階段がある。ルイズ達はアルビオン行きの階段を見つけると、再び長い階段を上り始めた。 階段をしばらく上り続け、踊り場付近に辿り着いた時、ルイズは背後からこちらに近づいてくる足音を耳にする。 慌てて振り向くと、白い仮面という怪しげな風貌の男がこちらに向かってくるのがわかった。 どう見ても船に乗りに来た客には見えない。貴族派の刺客とみてまず間違いないだろう。 そう考えたルイズがワルドとシエスタに知らせようとした瞬間、仮面の男は走るスピードを上げ黒塗りの杖を取り出すと魔法を詠唱し始める。 すると、仮面の男の杖の先端が白く光る。一撃で相手を刺し貫くことができる威力を持つ魔法、エア・ニードルだ。 仮面の男は最後尾のシエスタに目をつけたようで、一直線にシエスタの方に向かっている。シエスタも仮面の男に気付いたようだが、その時には男はすぐ側まで迫っていた。 それを見たルイズは、背中に背負っていたデルフリンガーを抜き、一気に仮面の男との距離を詰める。 そして、シエスタを貫こうとしたエア・ニードルをすんでのところで受け止めた。 「シエスタには指一本触れさせないわよ!」 「やっと俺の出番がきたぜ! さあ相棒、一気にやっちまえ!」 デルフリンガーは自分の出番がきたことに喜んでいるようだが、ルイズの心はそれどころではなかった。 あと一歩でも遅かったらシエスタは命を落としていたかもしれないのだ。そう考えると、この仮面の男を許すわけにはいかなかった。 憎しみと怒りの感情が溢れそうになるのを抑えつつ、ルイズはデルフリンガーを構えて仮面の男と対峙する。左手のルーンは僅かに光を放っていた。 「シエスタ、今のうちにここから離れて!」 「は、はい!」 「ワルド様、シエスタをお願いします!」 ワルドにシエスタのことを任せたルイズは、仮面の男に向かって高くジャンプするとそのまま勢いよく斬りかかる。 オルステッドが使っていた技である『ジャンプショット』。シンプルだが強力な技だ。 仮面の男はとっさに杖でガードするが、勢いを殺しきれず、鍔迫り合いでルイズにおされる形になる。 ルイズはその隙を見逃さず、渾身の力でデルフリンガーを仮面の男に叩きつける。剣をハンマーの代わりにして相手を叩く力技『ハンマーパワー』。峰打ちだが威力は申し分ない。 ルイズの攻撃をまともに喰らった仮面の男は、回転しながら後ろに吹き飛ばされる。 その時、いつの間にか側まで来ていたワルドが追い討ちをかけるようにエア・ハンマーを放つ。直撃を喰らった仮面の男は階段から落下していった。 その後しばらく待ってみても仮面の男が戻ってくる気配はない。どうやら撃退に成功したようだった。 「どうやら、もう大丈夫のようだね。さすがルイズ、見事な剣さばきだったよ」 「そんな。敵を撃退できたのはワルド様のお陰ですわ」 「謙遜することはない。君の力は僕の想像以上だよ! この力があれば貴族派の妨害など恐れることもないさ!」 「ワルド様?」 どこか興奮気味に語るワルドを不思議に思ったが、戦いに勝って気分が高揚しているのだから無理もないと気にしないことにした。 シエスタにも怪我はなさそうなので、ひとまずは安心といったところだろうか。 「あれ? ひょっとして俺の出番、もう終わり?」 そんなデルフリンガーの呟きをよそに、ルイズ達はさらに上を目指す。 階段を上りきり、桟橋に着いたルイズ達は、そこに停泊している船に乗り込む。 いきなり現れたルイズ達に船員は驚くが、ルイズとワルドが貴族だとわかるとすぐに船長を呼びに行った。 船長との交渉の末、ワルドが風の魔法で風石の代わりをすることで話はまとまり、船はアルビオンに向けて出港する。 「二人ともよくがんばったね。空に出てしまえばしばらくは安全だろうから、今のうちに休んでおくといい」 ずっと走りっぱなしで疲れていたルイズは、ワルドの言葉に甘えて客室で休むことにした。 シエスタはルイズと一緒の部屋で休むのをためらっていたが、ルイズに強引に引きずられていってしまう。 そんな二人の姿をワルドは微笑みながら見送っていたが、その目はシエスタの後姿を鋭く射抜いていた。 翌日、アルビオンが目に見える位置まで近づいた時にそれは現れた。 舷側から大砲を突き出した大きな黒い船が近づいてきたのだ。旗も掲げていないところを見ると、どうやら空賊のようだ。 その船にルイズ達の船はあっけなく停船させられてしまう。この船の武装は貧弱で、頼みのワルドも船を浮かすために精神力をほとんど使っていたのだから無理もなかった。 甲板に降り立った派手な空賊の男が船長と交渉している。どうやらこの男が空賊の頭のようだ。 そんな中、ルイズは大人しくしていた。ここで暴れればワルドやシエスタが危険な目に遭う可能性があるからだ。 もちろん二人に危害を加えるようならただでは済まさない。そんなことを考えながら、ルイズは怯えるシエスタを背中に隠し、成り行きを見守っていた。 男と船長の交渉はすぐに終わり、船長は命を助ける代わりに船と積荷を全て渡すという一方的な要求をのむことになった。 うな垂れる船長をよそに、上機嫌な男はルイズ達に目をつけると、船倉に閉じ込めるよう部下に指示を出す。後で身代金をたんまり取る腹積もりのようだ。 こうして、杖とデルフリンガーを取り上げられたルイズ達は空賊の捕虜になってしまうのだった。 「ルイズ様、これから一体どうなってしまうんでしょうか……」 「心配しなくてもいいわ。待っていれば、必ずチャンスは来るはずよ」 ルイズ達は、空賊が持ってきた水と食事のスープを飲みながら今後の事を話し合っていた。 シエスタにはああ言ったものの、ルイズも不安なのに変わりはない。だが、ワルドやシエスタの手前もあるので、冷静を装っていた。 そんな中、ワルドは一人落ち着いている。今は船倉の積荷を見て回る余裕すら見せていた。 その時、扉が開き空賊の男が入ってくる。男は三人を見渡すと、楽しそうに喋りだした。 「あんたらも運が悪かったな。まあ、大人しくしてりゃ悪いようにはしねえからよ」 「いや、そうでもないさ。目当ての人物にこうも早く会うことができるなんて思わなかったからね」 「あん? お前、一体何言ってんだ?」 「頭に伝えてくれないかな。我々はトリステインの大使で、アンリエッタ姫殿下から密書を言付かっているとね」 「……てめー、そんなことばらしちまってただで済むと思ってんのか?」 「いいから早く頭に伝えてくれないかな」 「いいだろう。ちょっと待ってな」 そう言うと空賊の男は船倉を出て行った。 二人の会話を聞いていたルイズとシエスタは唖然とした表情をしている。大事な任務をあっさり喋ってしまうワルドの真意がわからなかったからだ。 何か言いたそうな二人の表情にワルドは気付いていたが、特に気にする素振りもなく、ただ黙って男が戻ってくるのを待っていた。 しばらくして、男が船倉に戻ってくる。先程とは違い、表情は真剣そのものだった。 「来い。頭がお呼びだ」 男に連れられて、ルイズ達は船長室に通される。そこには、あの派手な空賊の男がいた。 「お前か、トリステインの大使ってのは」 空賊の頭の質問に、ワルドは優雅に一礼してから答える。 「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵です。先程伝えましたとおり、アンリエッタ姫殿下より密書を言付かって参りました」 「そんな大事なことを空賊なんかにぺらぺら喋っていいのかい? お前らを貴族派に売り飛ばすこともできるんだぜ」 「あなたがそんなことをするはずがないでしょう。ウェールズ・テューダー皇太子殿下」 その瞬間、その場にいた空賊全員の目がワルドを睨みつけるように鋭くなったのをルイズは見逃さなかった。 派手な空賊の男をウェールズ皇太子と結論付けたワルドの真意はわからないが、この反応を見るとまったくの見当違いにも思えない。 「俺がアルビオンの皇太子だっていう確証でもあるのかい?」 「殿下が指にしているのはアルビオン王家に伝わる風のルビーではありませんか? もしそうなら、トリステイン王家に伝わる水のルビーと共鳴し、虹色の光を作り出すことができるはずです」 その言葉を聞いたルイズは、アンリエッタから渡された水のルビーをワルドに手渡す。 「ワルド様、これを」 「ありがとうルイズ。殿下、よろしいですかな?」 空賊の頭は自分のしていた指輪を外すと、ワルドの持っている水のルビーに近づける。 すると、ワルドの言ったとおり二つの宝石が共鳴し、虹の光が作り出された。 「どうです、殿下」 「まいったな。まさかこんな形で見破られるとはね。君の言うとおり、私がアルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」 ウェールズは苦笑いを浮かべながら変装を解く。それを見た周りの空賊達は一斉に姿勢を正した。 シエスタは突然の展開に驚いていたし、ルイズはウェールズの変装を見破ったワルドを尊敬の眼差しで見つめている。 そのため、二人はワルドの手際が良すぎることを疑問に思うこともなかった。 その後、ワルドから手渡された手紙を読み終わったウェールズは、アンリエッタから送られた手紙を返すことを了承した。 だが、手紙はニューカッスル城に置いてあるとのことなので、ルイズ達はウェールズと一緒にニューカッスル城に向かうことになる。 ワルドがウェールズから手紙を受け取れば、今度はルイズの任務が始まる番だ。 ニューカッスル城に着いたルイズ達は、ウェールズの自室に通される。 ウェールズは机の中から宝石箱を取り出すと、中に入っている手紙を読み返し始めた。すでに何度も読んでいるのか、手紙はぼろぼろであった。 手紙を読み終えたウェールズは、それを丁寧に折り畳み、封筒に入れワルドに手渡す。 「姫からの手紙は、この通り確かに返却したぞ」 「ありがとうございます」 頭を下げ、ワルドが手紙を受け取る。 ワルドの任務が終了し、いよいよルイズの出番がやってきた。 「恐れながら、殿下に申し上げたいことがございます」 「君は?」 「ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと申します。幼少の頃、アンリエッタ姫殿下の遊び相手を務めさせていただきました」 「ほう。よし、何なりと申してみよ」 「ありがとうございます」 ルイズは一つ息を吐くと、意を決したように話し始めた。 「私は姫様から重大な任務を受けてここにやってきました。殿下、姫様は殿下がトリステインに亡命することを望んでいます! 私達と一緒にトリステインにいらしてください!」 「それはできない。私はアルビオン王家の誇りをかけて、最後の最後まで戦い続けるつもりだ」 「お願いでございます! 姫様は今でも殿下のことを愛しております! 私にも愛している人がいます。ですから、姫様のお気持ちがよくわかるのです! もし、殿下が亡くなられるようなことがあれば、姫様は悲しみに打ちひしがれてしまいます! それに、このまま勝ち目のない戦いを続けるより、トリステインに亡命して再起を図る方がきっといい結果が得られるはずです! ですから、どうか、どうかお願いします!!」 ルイズの熱のこもった説得を聞いたウェールズは静かに目を閉じる。どうやら頭の中で考えをまとめているようだ。 ルイズはウェールズの返答を緊張した面持ちで待っている。やがて、ウェールズは目を開けるとルイズへ答えを出した。 「亡命はできない。例えそれが姫の望みであってもだ」 「殿下!」 「明日、ニューカッスル城への総攻撃が始まる。朝には非戦闘員を乗せた船が脱出する予定だ。君達もそれに乗って帰りなさい」 「待ってください!」 「そろそろパーティーも始まる時間だ。王国が迎える最後の客として、是非参加してほしい」 「まだ話は!」 「よせ、ルイズ!」 淡々と話すウェールズに、なおも食ってかかろうとするルイズだが、ワルドに止められてしまう。 「このまま君が取り乱してしまっては、ますますいい結果が得られなくなる。ここは僕に任せてくれないか」 「ワルド様、でも!」 「ルイズ、僕を信じてくれ」 「……わかりました」 「ありがとう。シエスタ、ルイズを連れてしばらくここから離れてくれないか」 「は、はい。ルイズ様、行きましょう」 ルイズはシエスタに連れられて部屋の外に出て行く。 ウェールズの説得に失敗した自分を情けなく思うが、まだ全てが終わったわけではない。 ワルドがきっといい方向に話をもっていってくれることを信じて、ルイズは待つことにした。 夜になり、城のホールではパーティーが始まる。 明日、貴族派の総攻撃があるというのに、パーティーに参加している者達の表情は明るかった。皆が楽しそうに食事をしたり、踊ったりしている。 一方、ルイズは用意された客室でシエスタと一緒にワルドの帰りを待っていた。 城のメイドからパーティーが始まるという知らせを受けたが、自分の代わりにウェールズを説得してくれているワルドを置いて、パーティーに参加できるわけがない。 「それにしても遅いねー。何かあったんかね?」 「ウェールズ殿下を説得するのは、いくらワルド様でも簡単にはいかないわ。あれだけ強い意志を持っていらっしゃるんだもの」 デルフリンガーの呟きに答えるルイズの声には不安の色が混じっていた。あのウェールズの強い意志をどうやって曲げさせるのか、ルイズには想像もできない。 もし、ワルドの説得が失敗すれば、明日の総攻撃でウェールズは命を落としてしまうかもしれない。そう考えると気が気でなかった。 その時、ドアをノックする音と共にワルドが部屋に入ってきた。 「遅くなってすまない」 「ワルド様! ウェールズ殿下の説得はうまくいきましたか?」 「ルイズ、落ち着いて聞いてほしい。説得はうまくいかなかったが、ウェールズ殿下の意志を変えることができるかもしれない妙案があるんだ」 「その案とは何なのです?」 ルイズは緊張した面持ちでワルドの返事を待っている。ワルドはルイズが落ち着いているのを確認した後、口を開いた。 「僕達がここで結婚式を挙げるんだ」 「け、結婚式ですか!?」 「そうだ、お互いに愛し合っている僕達の結婚式を見れば、きっとウェールズ殿下の考えも変わるはずだ」 確かに、ウェールズがアンリエッタを愛しているのなら、幸せそうな結婚式を見ることで心に迷いが生まれる可能性はある。 ワルドと結婚することで自分だけ幸せになるのはアンリエッタに申し訳ないが、これでウェールズの命を救うことができたならアンリエッタも喜んでくれるはずだ。 こんな形で結婚式を挙げるとは思わなかったが、ワルドと結婚することに不満はまったくない。 「わかりました。私、ワルド様と結婚します」 「ありがとう、ルイズ。ウェールズ殿下にはすでに明日の結婚式の媒酌を頼んである。大丈夫、きっとうまくいくさ」 「はい!」 ルイズの返事に満足そうに頷いたワルドは、続いてシエスタの方に視線を向ける。 「シエスタ、君はその剣を持って先に船で脱出しなさい。僕とルイズはウェールズ殿下を連れてグリフォンでトリステインに帰る」 「え、でも……」 「待ってください、ワルド様。シエスタには私の結婚式に出席してもらいたいんです」 「しかし、グリフォンにはそんなに大勢は乗れないんだ」 「それなら、船が出発する前に結婚式を挙げましょう。ウェールズ殿下を説得する時間も必要なのですから、早くても損はないはずですわ」 ルイズは世話になっているシエスタに自分の晴れ姿を見てもらいたかったし、自分の結婚式に親しい人間が一人も出席しないのは嫌だった。 この状況では、姉のカトレアもアンリエッタも出席することはできない。だから、せめてシエスタだけでも出席してほしいと思ったのだ。 「わかった。ウェールズ殿下には僕から連絡しておくよ」 「すみません、ワルド様」 シエスタが結婚式に出席するのを認めたワルドは、ウェールズに連絡するために部屋を出て行った。 「ありがとうございます、ルイズ様。私なんかがルイズ様の結婚式に出席できるなんて夢のようです」 「私の一生に一度の晴れ舞台なんだから、シエスタには出席してもらわないとね。デルフ、あんたも出席すんのよ」 「おう、相棒の勇姿を拝ませてもらうぜ」 その後、ルイズ達は明日に備えるため早めに寝ることにした。 今日は興奮して眠れないと思っていたルイズだが、疲れていたせいもあり、ベッドに入るとすぐに眠ることができた。 ルイズは夢を見ている。 夢の中のルイズは、日の本という国でとある城の城主をしていた。 ルイズには大きな野望があった。混乱状態にある日の本を戦乱に巻き込み、その戦乱に乗じて自分が日の本を支配しようと企んでいたのだ。 そのために人外の力を手に入れ、異形の者達を手下にするなど着々と準備を進めてきたルイズだが、それを邪魔する者が現れた。 ルイズの野望を成功させるために捕らえていた男をある忍びが救出にやってきたのだ。 忍びの力はかなりのもので、捕らえていた男を救出されただけでなく、異形の手下達も倒されてしまう。 そして、忍びと捕らえていた男がついにルイズの所までやってくる。 だがルイズには人外の力がある。負ける気は毛頭なかった。 天守閣の屋根の上で、ルイズはカエルとヘビの姿に変化する。この姿こそ、これからの日の本を治めるのに相応しい気高き姿だとルイズは思っていた。 しかし、忍びと捕らえていた男にルイズは敗れ、天守閣の屋根の上から落下する。 こうしてルイズの野望は脆くも崩れ去ったのだった。 場面が切り替わり、ルイズの姿が変わる。 次のルイズは、鳥の顔をした大仏の姿をしていた。だが、これはルイズの本当の姿ではない。 この姿は、ある寺の池に捧げられた2000人の液体人間の憎しみという感情から生まれたルイズが、池の中央に建っている大仏に宿っただけなのだから。 ルイズの目の前には、自分と同じくらいの大きさのロボットが立っている。 液体人間の強い憎しみの感情に突き動かされるように、ルイズは目の前のロボットに戦いを挑む。 だが、圧倒的な強さを持つロボットにルイズは敗れてしまう。 ルイズは敗れたが、それで液体人間の憎しみが消えるわけではない。 液体人間は自分達をこんな姿に変えた者達を飲み込み、ルイズを倒したロボットさえも飲み込もうとするのだった…… 再び場面が切り替わる。 今度のルイズは、以前見た夢と同じように山の頂上で下にいる者達を見ているだけだった。 だが、今回の夢は下にいる人物が違っている。下にいたのは背格好がまったく違う4人の人間と魔王だった。 やがてオディオと名乗った魔王と人間達との間に戦いが始まる。魔王の力は恐るべきものだったが、戦いは人間達の勝利で幕を閉じた。 戦いに敗れた魔王は真の姿を現す。そこに現れた姿を見たルイズに衝撃が走った。 魔王の正体は、ルイズもよく知っているオルステッドだったのだから…… その時急に場面が切り替わり、ふと気が付くと、ルイズは別の場所に立っていた。自分の姿を見てみると、魔法学院の制服を着たルイズ本人の姿なのがわかる。 辺りを見回してみると自分の周りに7つの石像があるのがわかった。石像を見ようと近くによるが、その姿を見たルイズは驚いてしまう。 「こ、これって!」 その7つの石像にルイズは見覚えがあった。 翼のないドラゴン、頭だけの姿をしたマザーコンピュータ、坊主頭の格闘家、ガトリング銃を持った大男、武道家、カエルとヘビの変化、鳥の顔をした大仏。 全て夢の中でルイズが体験した姿だった。 その時、奥に見える扉から一人の男が現れる。オルステッドだ。 オルステッドが現れたことでルイズは激しく動揺する。7つの石像とオルステッドは、自分もここにいる者達と同じ末路を迎えるということを示しているように感じられた。 だが、それを認めるわけにはいかない。 「私はあなた達と同じにはならないわ! 結婚式だってうまくいくし、ウェールズ殿下の命だって救ってみせるんだからッ!」 そう叫んだ瞬間、7つの石像の目が光を発し、周りの風景がぼやけていく。 ルイズが最後に目にしたのは、悲しそうな表情を浮かべるオルステッドの姿だった。 やがて、ルイズはゆっくりと目を覚ました。窓の外は薄暗く、まだ夜が明けていないのがわかる。 「大丈夫。きっとうまくいく、きっと……」 だが、いくら大丈夫と呟いてみても不安が晴れることはなかった。 前ページ次ページZERO A EVIL
https://w.atwiki.jp/omf-game/pages/1674.html
名前 カルイの契約書 抽選で★4以上のキャラクター1体を仲間にできる 抽選内容 【★5キャラクター】 ティア、シルエラ、ライオ、ミリア、ジゼル、チェルシー、リーナ、 ヴィスコ、プラチナ、ユイ、クレイ、アリエット、カレン、ロア、アキラ、 メイコ、サーシャ、エーディン、トルナド、ブロンゾ、ラファル、ピピン、 ステラ、ハッカ、バステト、アリス 【★4キャラクター】 クラウディア、ミケ、ビーノ、イムベル、バーロ、イルミナ、バーバラ、 アイゼン、プルイーナ、ペルル、ルリア、シャル、イリュメ、アイラ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8810.html
前ページ次ページるろうに使い魔 時は幕末―――――。 黒船来航から端を発した一つの時代。明治維新が訪れるまでの十五年間。 尊王、佐幕、攘夷、開国―――様々な理想野望が渦巻く最中。 徳川幕府と維新志士――剣を持つものは二つに別れて戦いを繰り広げた。 その幕末の動乱期、その渦中であり激戦区となった土地、京都にて、『人斬り抜刀斎』と呼ばれる志士がいた。 修羅さながらに人を斬り、その血刀を以って新時代『明治』を切り拓いたその男は、動乱の終結と共に人々の前から姿を消し去り、時の流れと共に『最強』という名の伝説と化していった。 そして時代が進み、今や刀や侍は過去のものへとなっていった明治の東京にて、その男は人知れず姿を現した。新しい『信念』と『刀』を携えて。 数々の出会いと死闘に身を投じながらも、男はその信念を持って剣を振るい、明治の時代にその名を残さなかったまでも、関わった人々からは確かな『英雄譚』となって語り継がれることとなった。 その、確かな居場所を見つけた男は、ある日再び姿を消すこととなる。誰にも知れず、ひっそりと――――。 そして新たな浪漫譚は別の世界。この世界とは根本的に別な『どこか』。刀と侍ではない、魔法と幻想が栄える世界の『どこか』。そんな世界から話は始まる。 るろうに使い魔 ――ハルケギニア剣客浪漫譚―― 「次、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」 「はい!」 そう呼ばれて、ルイズは立ち上がり、皆の前から一歩前へ出た。 今日は自身にとって大切な儀式、自分の一生の召使いである使い魔を呼ぶ神聖な日だ。 「おい、ルイズの奴何を召喚するかな?」 「どうせボンボン爆発して終わりさ、賭けたっていいぜ」 などとざわつく周囲の言葉をなるべく無視して、今はこの瞬間に全身全霊を尽くす。 生まれてこの方16年、あらゆる魔法を爆発という形で失敗させ続け、未だに系統魔法どころか基礎的な魔法まで扱うことができない。 家族からは才がないと言われ、生徒たちからは『ゼロのルイズ』という不名誉なあだ名が通ってしまい、その屈辱に耐える日々。 そんな生活から、一転して変えることのできる重大な日。それがこの召喚の儀である。 (見てなさい、立派な使い魔を呼んでアッと言わせてやるんだから!) 周りの生徒たちは、あらかた使い魔を召喚し終えた後だった。 皆それぞれサラマンダーやモグラ、タコやカエル、中にはドラゴンまで召喚しており、今は一体何を呼び出すのか……と好奇の目でルイズの方を注目していた。 段々とざわめきが薄くなり、静かになっていく中、ルイズは杖を掲げて朗々と唱えた。 「宇宙の果てにある私の僕よ、神聖で美しく、そして強力な使い魔よ!私は心より求め、訴えるわ。我が導きに応えよ!」 刹那、ボンッと大きな音と共に煙やら埃やらが宙を舞った。 失敗したの…?と不安が頭の中に過ったが、煙の向こう側になにやら影みたいなものを見つけると、今度は期待で胸が弾んだ。 (せめて、みんなから馬鹿にされないくらいの使い魔が出てきて!) そう心の中で願うルイズをよそに、次第に視覚を遮る邪魔な煙が晴れていく。そして……。 「これが…私の使い魔…?」 ルイズの目の前に現れた『もの』。それはこの世界ハルケギニアでは見かけない不思議で異形な服を着ていた。 そして緋色の長い髪を一括りに纏めており、腰に刺さった知らない得物と頬についた十字傷が特徴の―――。 そう、それは紛れもない『人間』だった。 第一幕 『世界を越えた流浪人』 「……おろ?」 その日、この異世界にやってきた人間、緋村剣心はこの不思議な光景にすっかり目を丸くしていた。 先程まであった見慣れた神谷道場の姿はそこにはなく、あるのはただっ広い草原とそびえ立つ、城とも屋敷とも取れる異形な建物。 周囲には明らかに日本人じゃない――夷人とも言うべき髪の色をした少年少女が、これまたマントを羽織って好奇の目でこちらを見ていた。 その中で目の前に立つ人物、桃色の髪を長く伸ばした少女が、自分と同じくらい呆れた表情で自分を見つめていた。 「これが……私の使い魔…?」 その声を皮切りに、周囲からどっと笑いの歓声が響いた。明らかに嘲笑を含んだ笑いだ。 「おい、ルイズが人間を召喚したぜ!」 「しかも平民じゃん! ゼロのルイズにはお似合いだな!」 「おまけになんだあの服、貧乏人じゃねえの?」 周りが口々にそう囃し立てると同時に、桃髪の女の子――ルイズと呼ばれた少女は顔を真っ赤にして叫んだ。 「ミスタ・コルベール、今のは失敗です! もう一度チャンスを…」 「残念だが、それは出来ない」 ルイズの願いも虚しく、コルベールと呼ばれた、真ん中が禿げた中年の男性は、静かに首を振った。 「一度サモン・サーヴァントで召喚した以上、例外は認められない」 「そ、そんな…」 がっくりとうなだれたルイズは、しばらく悩み込んだまま動かないでいたが、やがて顔を上げると、意を決したように立ち上がり剣心の方へと寄って行った。 「あんた、感謝しなさいよね。貴族にこんなことされるなんて、普通は一生ないんだから」 そう言うと、未だに状況をつかめていない剣心をよそに、ルイズは杖を振りかざし、何やら変な呪文を詠唱し始める。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 そしてそのまま、杖を剣心の額に当てると……。 「……おろ!?」 なんと口元に向かってキスをした。 さすがの剣心も、これで我に帰ったのか、目を丸くし慌ててルイズのもとから後ずさる。 「い、一体何を……っ…?」 と同時に、焼けるような痛みが剣心の左手に襲いかかった。何かと思い見てみると手の甲当たりに文字のようなものが刻まれ始めていたのだ。 象形文字の類なのだろうか、一通り焼きあがると痛みも徐々に消えていった。 「ふむ、これは珍しいルーンだな」 ふと気づくと、いつの間にかコルベールが剣心の左手に刻まれた文字を見て、なにやら書き込んでいた。どうやら記録しているらしい。 やがて書き終えると、未だにどよめきが上がっている周囲に向かっていった。 「さてと、じゃあ皆教室に戻るぞ」 そう言うなや否や周囲の子供たちは杖を取り出し、何か短く唱えるとふわりと宙に浮き、そのまま上へと飛んでいった。 先程のキスで、幾拍か頭がはっきりとしていた剣心だったが、この出来事に再び理性がフィードバックした。 「ルイズ、お前は歩いてこいよ!」 「あいつ『フライ』はおろか、『レビテーション』さえまともにできないんだぜ!」 そんなことを言いながら去っていく彼らを見て、剣心はただただ呆然とするしかなく、やがて二人きりになったところで、ようやくルイズを見て口を開いた。 「あのー、ここ……どこでござる?」 「はぁ? 『ここ』をどこか知らないなんて、あんたどこの田舎から来たのよ!」 至極真っ当な質問のはずなのに、なぜかルイズは呆れながらため息をついた。 ルイズの説明を簡潔にするとこうだ。 まず、自分は『コモン・サーヴァント』なる儀式として、使い魔としてここ『トリステイン魔法学院』に呼び出されたこと。ルイズと契約(さっきのキスがそうだったらしい)したため、彼女を主人として――要は従者となって仕えること。この世界には魔法なるものがあって、それを行使できるメイジが一番偉いということ。 「ファーストキスだったのに、もう!」 顔を真っ赤にして叫ぶルイズに対し、剣心はかつてない程脳みそをフル回転させ、これまでの状況を整理する。 考えてみれば、あまりに突飛すぎる。いきなり外国と思われる所へ移動させられ、そこで使い魔をやれ? おまけに貴族と呼ばれる種族は魔法なんて力をもって、空を飛んだりすることだってできるだって? 夢物語は夢の中にして欲しいものだが、あの時感じた左手の火傷や、今感じる風を打つ感触は、紛れも無く本物だった。状況が状況だけに、まだモヤモヤした部分があるが、とりあえず今、ハッキリと分かることはただひとつ―――。 とりあえず自分は飛ばされてきたのだ。このどことも知れない異世界に。 「…それで、どうやったら帰れるでござるか?」 一縷の希望をのせたこの質問もルイズの言葉にあっさりと砕けてしまう。 「何言ってんのよ、そんなもんあるわけないじゃん」 元々サモン・サーヴァントで呼び出したものを、送り返す手段はない。この学院で進級するための大事な伝統であり儀式のため、召喚したものはたとえどんなものだろうと、それこそ人間だったりしても異例は認められない。 仮にあったとしても、最早契約まで済ませてしまった使い魔をみすみす返したりなどしないだろう。 駄目元での質問だったとはいえ、あっさり返された答えを受け止めるとなると、やはり剣心としてはくるものがあった。 ルイズはルイズで、なぜ理想の使い魔を呼べなかったのだろうと肩を落としていた。 (ドラゴンとか、サラマンダーなんて高望みはしない、せめて犬とかフクロウでもよかったのに…よりによって人間……しかも平民…) また大きなため息が出そうになったとき、ふと思い出したように剣心の方を見た。 「そういえば、まだあんたの名前聞いてなかったわね」 「あぁ……そう言えばまだ名乗ってなかったでござるな」 剣心も、一度立ち上がって、改めてルイズを見た。 身長は自分とあまり変わらないかちょっと下当たり、綺麗な桃髪を流し、太ももまで見える程の短い着物に膝まである長い足袋みたいなものをつけている。 釣り上がった目や攻撃的な気性からあまりそうは見えないが、黙っていれば中々に美しい容姿をしていた。 「拙者は剣心、緋村剣心でござるよ」 「ケンシン? 変な名前ね。……まあいいわ、私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。仕方ないからあんたのご主人様になってあげるわ。感謝しなさいよね」 そう言ってルイズは、平坦な胸を大きくそらしてふんぞり返った。未だコトを把握しきれない剣心としては色々と待って欲しい事が多かったが、どうやら使い魔になったという状況を認めなければ話が進まなさそうである。 とうとう観念して苦笑いを浮かべながらも、剣心は優しい微笑みをルイズに見せた。 「まあ、こちらこそよろしくでござるよ、ルイズ殿」 かくして、その昔『人斬り抜刀斎』としてその名を残し、多くの人々から伝説とまで謳われた男、緋村剣心は、通称『ゼロのルイズ』ことルイズ・フランソワーズの使い魔と相成ったのであった。 前ページ次ページるろうに使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1758.html
前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ 今日は虚無の曜日。 ルイズは今日という日を待っていた。 どうしてもやりたいことがあるのだ。 朝の魔法の練習はいつもより気合いを入れる。 今日のためにはその方がいいからだ。 それが終わったら学院に戻って朝食を摂る。 少し少なめにしておいた。 特にデザートは絶対に摂らないようにしておく。 食事を終えて外に出たルイズは念話でユーノを呼ぶ。 (ユーノ。今日は出かけるわよ) (え?授業は?) (今日は虚無の曜日。だから授業はおやすみなのよ) (わかったよ。すぐ行く) 念話を切って早足で歩き出す。 部屋に戻って準備をしないといけない。 はやる心は抑えきれず、すたかーんすたかーんとスキップをしていた。 すぐ行く、とは言ったもののユーノが合流したのはルイズが準備をすませて寮から出た後だった。 こう言うときには念話は役にたつ。 待ち合わせ場所でずーっと待っておかなくてもいいからだ。 「遅かったわね。なにしてたのよ」 「ごめん。ちょっと、捕まってて……」 「だれによ」 「誰の使い魔かはわからないけど、竜に捕まってたんだ」 今この学院で竜を使い魔にしているメイジは1人しかいない。 同級生のタバサだ。 「だったら誰かに喋ってるところを見つかったりして捕まってたわけじゃないのね」 「うん、それは大丈夫。人と話してないから」 肩に駆け上がるユーノをなでて、ルイズは馬小屋に向かった。 昼前に目を冷ましたキュルケはむっくり体を起こした。 床に放りっぱなしの服と下着を部屋の隅に寄せて、タンスとクローゼットから新しい服と下着を取り出す。 服を着たら鏡に向かって化粧をしながらまだ寝ぼけている頭で考える。 今日は虚無の曜日。 授業はない。 「何をしましょうか」 閃いた。 まずは朝一番──すでに昼前ではあるが──にしなければならないことがある。 思い立ったらすぐに行動。 枕元に置いてある杖を取って部屋を出る。 目指すのはルイズの部屋。 これから奇襲をかけるのだ。 なぜそんなことをするのかというと、 虚無の曜日の前日の夜ならルイズはあの男の子を部屋に連れ込んでいるに違いない!! 自分もそうしてたから可能性は高い。 などと、キュルケは考えていたからだ。 そうしているうちにルイズの部屋の前に着く。 ノックはしない。 そんなことをしたら奇襲にならない。 さらにいきなりアンロック。 校則違反だが気にしない。 ルイズの男の正体を暴く重大性に比べれば遙かに些細なことだ。 だがルイズの部屋には誰もいなかった。 ぐるり物色しても誰も見つからない。 床に散らばっていた羊皮紙がなくなって前に来たときよりも部屋を広く感じる。 だからといって隠れる場所が増えたわけではない。 「ルイズー」 念のために呼んでみる。 やはり返事はない。 もう一度見回してみる。 誰もいない。 その代わり鞄が見つからない。 どこにもないのだ。 ということは…… 「何よー、出かけてるの?」 不満を口にした瞬間に今日2回目の閃きが訪れる。 出かける、ということは……間違いない!! 「チャンスよ!」 キュルケはルイズの部屋を飛び出した。 今日のタバサは自分の部屋で読書を楽しんでいた。 視線を集中させて文字の海に心を浮かべていると窓をコンコン叩くものいた。 次いで外からきゅいきゅい声がする。 なにか催促をしているみたいだが、今は読書を続けたいので無視。 静寂を得たかったのでついでにサイレントをかけておく。 これで静かになった。 再び読書を再開。 何ページか呼んだところで今度はドアが開かれる。 音もなく壁にたたきつけられたドアから入ってきたのはキュルケだった。 魔法で音が聞こえなくなっているのにドアを力いっぱい連打したのだろう。 手の甲が赤くなっている。 入ってきたキュルケはタバサに大股で歩いて近づくと本を取り上げてなにやらわめき立てた。 それでも静寂は乱れない。 あたりまえだ。 サイレントをかけているのだ。 仕方なくタバサは魔法を解く。 「タバサ。今から出かけるわよ!早く支度をしてちょうだい!」 他の人間ならただではおかないところだが、友人のキュルケにはそんなことはしたくない。 「虚無の曜日」 なので、静かに過ごしたいと伝えるがキュルケは止まらない。 「虚無の曜日!わかってるわ。でも、そんな場合じゃないのよ!!男よ!男!」 それがどうしたとタバサは首をかしげる。 キュルケと男の組み合わせは珍しいものではない。 「いい?あのヴァリエールが出かけたの!近頃、部屋に男を連れ込んでいるヴァリエールが虚無の曜日に出かけたのよ!もう解るでしょ?きっとその男と会いに出かけたに違いないわ!!!」 タバサはもう一度首をかしげる。 キュルケはそれを気にせずに喋り続ける。 「ヴァリエールの男!間違いなく、あの塔を壊したゴーレムを止めてた1年の男の子に違いないわ!!あなたは興味ないの?」 言われてみれば興味がある。 塔を壊すくらいの一撃を防ぐような強力な防御魔法の使い手。 それから……。 タバサにしては珍しいことだが、自覚したら興味が大きくなってきた。 ならば追いつくには自分の使い魔が最適だろう。 それにキュルケの頼みなら引き受けてもいい。 ついでにキュルケと同じようなことをしたいと言っているのが一匹いる。 そっちの頼みも聞くことにした。 タバサはとんとん音を立て続ける窓に向かう。 サイレントの魔法で聞こえなくなっていた音が聞こえ始めたのだ。 「そういえば、さっきから窓から音がするわね。窓の外に誰かいるの?」 タバサは1つうなずいてから窓を開いた。 「わぁっ」 思わずキュルケは声を上げてしまう。 外には鼻先で窓を叩き損ねたタバサの使い魔の風竜が顔を部屋の中に勢いよく入れてきたからだ。 バランスを崩した風竜は羽をばたつかせてようやく安定を得る。 「ねえ、タバサ。あなた、いつも窓の外に風竜を飛ばせてるの?」 タバサは首を横に振って、風竜を指さす。 「一緒に出かけたい」 つまり、風竜がお出かけをしたいらしい。 「一緒にって、あなたと?」 タバサはまた首を横に振る。 「私と友達と」 タバサが近頃友達と呼ぶのは1人……いや、1匹しかいない。 「友達って……ルイズの使い魔のユーノ?」 タバサは今度は縦に首を振る。 「あなたの使い魔ってユーノが気に入っちゃったの?」 縦に首を振るタバサ。 「はぁ……竜の感性ってわからないわね。フェレットのどこがいいのかしら」 タバサが竜になにか話しかけている。 使い魔とメイジが話し合うのは珍しいことではない。 風竜がなにかをタバサに伝えたのだろう。 うなずいたタバサが振り返った。 「知的な瞳が魅力的」 確かに知的さで言えばユーノは群を抜いている。 そういえば、この前はけっこう難しい本を単語帳無しで読んでいた。 ユーノは同級生のメイジたちより知的かも知れない……。 そんなことを考えていると窓の外からタバサの声がした。 「乗って」 「ええ、そうね」 キュルケが背中に乗った途端、風流は飛びはじめる。 いつもより早く飛んでいる。 「ちょ、ちょっと待って。どこに行けばいいのかわかってるの?」 「探してる」 タバサの使い魔の風竜、シルフィードは空を旋回しながら遠くの友達を探す。 そして翼を広げ、力いっぱい羽ばたいた。 前ページ次ページ魔法少女リリカルルイズ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7246.html
前ページ次ページアノンの法則 「トリステイン魔法学院で教えるのは、魔法だけじゃないのよ」 食堂の蒙華絢燗さに驚いて、ぽかんとしているアノンに、得意げに指を立てて、ルイズが言った。 「メイジはほぼ全員が貴族なの。『貴族は魔法をもってしてその精神となす』のモットーのもと、貴族たるべき教育を、存分に受けるのよ。だから食堂も、貴族の食卓にふさわしいものでなければならないのよ」 「へぇー」 「わかった? ホントならあんたみたいな平民はここには一生入れないのよ。ほら、いいから椅子をひいてちょうだい。気の利かない使い魔ね」 「ああ、うん」 アノンが椅子を引いてやると、ルイズは礼も言わずに腰掛ける。 アノンも隣の椅子を引き出して座った。 「しかし、朝からずいぶん豪華なメニューだね」 テーブルを見渡して、アノンが感想を述べる。 その肩を、ルイズがぽんぽんと叩いた。 「ん?」 ルイズは床を指差した。 そこには、なにやら貧しいものが乗せられた皿が一枚。 「これは?」 「あのね? ほんとは使い魔は、外。あんたはわたしの特別な計らいで、床」 まるで犬か猫のような扱いだ。 だが、使い魔とはそういうものなのかと、アノンはおとなしく床に腰を下ろした。 とは言え、皿の上にあるのは、小さな肉のかけらが浮いたスープと硬そうなパンが二切れだけ。 これではとても足りない。 「偉大なる始祖ブリミルと女王陛下よ。今朝もささやかな糧を我に与えたもうたことを感謝いたします」 祈りの声が、唱和される。 (シソブリミルって誰だろ?) そんな疑問を抱きながら、アノンは目をつむって祈りを捧げるルイズの皿から、鶏肉をつまみ上げて口の中に放り込んだ。 ルイズとアノンが中に入っていくと、先に教室にやってきていた生徒たちが一斉に振り向いた。 いつもならここで、馬鹿にした視線と、くすくす笑いが聞こえてきそうなものだが、今日はそうではなかった。 二人が教室に入ってきた途端、使い魔たちが一斉に騒ぎ始め、生徒達はルイズどころではなくなってしまったのだ。 唸り声を上げて暴れだす使い魔もいれば、怯えたように主人の影に隠れようとするものもいる。 今朝会ったキュルケもいたが、彼女の使い魔も椅子の下に頭を突っ込もうとジタバタしていたため、こちらには気づかなかった。 ルイズは不思議に思ったが、アノンは気にした様子もなく、ルイズに尋ねる。 「あの目の玉のお化けはなに?」 「バグベアー」 「あの、蛸人魚は?」 「スキュア」 ルイズは答えながら教室を歩き、席の一つに腰かけた。 アノンも隣の椅子に座った。ルイズが睨む。 「なに?」 「ここはね、メイジの席。使い魔は座っちゃダメ」 「使い魔ってずいぶん不便なんだね」 アノンは、ぼやきながら食堂と同じように床に腰を下ろした。 扉が開いて、紫色のローブに身を包み、帽子を被った中年の女教師が入ってきた。 その頃には、主たちの努力の甲斐あって、使い魔たちはどうにか落ち着きを取り戻していた。 「あの人も魔法使い?」 アノンはルイズに呟いた。 「当たり前じゃない」 中年の女性は教室を見回すと、満足そうに微笑んで言った。 「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」 ルイズは俯いた。 「おやおや。変わった使い魔を召喚したものですね。ミス・ヴァリエール」 シュヴルーズが、アノンを見てとぼけた声で言うと、教室中がどっと笑いに包まれた。 使い魔たちだけは、凍りついたようにじっとしていたが。 「ゼロのルイズ! 召喚できないからって、その辺歩いてた平民を連れてくるなよ!」 そんな声が聞こえ、ルイズは立ち上がって怒鳴った。 「違うわ! きちんと召喚したもの! こいつが来ちゃっただけよ!」 「嘘つくな! 『サモン・サーヴァント』ができなかったんだろう!」 ゲラゲラと教室中の生徒が笑う。 「ミセス・シュヴルーズ! 侮辱されました! かぜっぴきのマリコルヌがわたしを侮辱したわ!」 「かぜっぴきだと? 俺は風上のマリコルヌだ! 風邪なんか引いてないそ!」 「あんたのガラガラ声は、まるで風邪も引いてるみたいなのよ!」 マリコルヌと呼ばれた小太りの生徒が立ち上がり、ルイズを睨みつける。 シュヴルーズが手に持った小ぶりな杖を振った。立ち上がった二人は糸の切れた操り人形のように、すとんと席に落ちた。 「ミス・ヴァリエール。ミスタ・マリコルヌ。みっともない口論はおやめなさい」 ルイズはしょぼんとうなだれた。 「お友達をゼロだのかぜっぴきだの呼んではいけません。わかりましたか?」 「ミセス・シュヴルーズ。僕のかぜっぴきはただの中傷ですが、ルイズのゼロは事実です」 くすくす笑いが漏れる。 シュヴルーズは、厳しい顔で教室を見回し、杖を振った。 くすくす笑いをする生徒たちのロに、どこから現れたものか、ぴたっと赤土の粘土が押しつけられる。 「あなたたちは、その格好で授業を受けなさい」 (なかなか便利そうだな…) アノンは初めて見る空を飛ぶ以外の魔法を、興味深げに観察していた。 「では、授業を始めますよ」 授業内容はごく初歩的な、系統の数や種類、その役割を確認するものだったが、魔法の知識がほとんどないアノンにとってはかなり有用な物だった。 (なるほど、魔法は『火』『水』『土』『風』『虚無』の五つの系統から成り立ってると。あ、でも『虚無』は失われたんだから、実質四つか。で、あの人は『土』の魔法を教える先生ってわけか) 口の中でブツブツ言いながら、真剣に授業に聞き入るアノン。 それぞれに固有のものが与えられていた能力者の“能力”とは違い、魔法とはある程度決まった技術を習得していくものらしい。 (メイジでもないのに、魔法の授業が面白いのかしら?) そんなアノンを、ルイズは変な目で見た。 次にシュブルーズは『錬金』の魔法の説明をして、杖を振る。 すると、ただの石ころが、光る金属へと変化した。 「ゴゴ、ゴールドですか? ミセス・シュヴルーズ!」 キュルケが身を乗り出した。 「違います。ただの真鍮です。ゴールドを錬金できるのは『スクウェア』クラスのメイジだけです。私はただの……」 ごほんと、もったいぶった咳をして、シュヴルーズは言った。 「『トライアングル』ですから……」 「ルイズ」 アノンはルイズをつついた。 「なによ。授業中よ」 「スクウェアとか、トライアングルとかって、どういうこと?」 「系統を足せる数のことよ。それでメイジのレベルが決まるの」 「それってどういうこと?」 ルイズは小さい声で説明した。 「例えばね?『土』系統の魔法はそれ単体でも使えるけど、『火』の系統を足せば、さらに強力な呪文になるの」 「なるほど」 「『火』『土』のように、二系統を足せるのが、『ライン』メイジ。シュヴルーズ先生みたいに、『土』『土』『火』、三つ足せるのが『トライアングル』メイジ」 「同じ属性を二つ足す意味はあるのかい?」 「その系統がより強力になるわ」 「なるほど。つまり、あの先生は『トライアングル』だから、強力なメイジというわけだね?」 「そのとおりよ」 「じゃあルイズのクラスは?」 ルイズは黙ってしまった。 そんな風にしゃべっていると、シュヴルーズに見咎められた。 「ミス・ヴァリエール」 「は、はい」 「授業中の私語は慎みなさい」 「すいません……」 「おしゃべりをする暇があるのなら、あなたにやってもらいましょう。ここにある石ころを、望む金属に変えてごらんなさい」 シュブルーズがそう言った途端、教室が騒がしくなった。 みんな口々に、やめろだの危険だなどと言っている。 その声に反発するように、ルイズは勢いよく立ち上がった。 「やります、やらせてください!」 そして、緊張した顔で、教室の前へと歩いていく。 アノンは、ルイズの魔法をまだ一度も見ていなかったので、少し楽しみだった。 隣に立ったシュヴルーズは、にっこりとルイズに笑いかけた。 「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」 頷いて、ルイズが手に持った杖を振り上げる。 その時、アノンは何かを感じた。漠然とした、形にならない感覚。 「なんか、この場所イヤな感じだなぁ…」 誰にともなく呟いて、アノンは頭を下げた。 ルイズが杖を振り下ろした瞬間、机ごと石ころが爆発した。 爆風をモロに受けたシュヴルーズが黒板に叩きつけられ、教室のあちこちから、悲鳴が上がる。 驚いた使い魔たちが暴れだし、教室は瞬く間に地獄絵図と化した。 「だから言ったのよ! あいつにやらせるなって!」 「もう! ヴァリエールは退学にしてくれよ!」 「俺のラッキーがヘビに食われた! ラッキーが!」 シュヴルーズは倒れたまま動かない。 もしかしたら、あれは死んでいるのかもしれない。 「ちょっと失敗したみたいね」 教室の大騒ぎを意に介した風もなく、ルイズは淡々とした声で言ってのける。 机の下で難を逃れたアノンは、ルイズヘの評価を大幅に修正した。 前ページ次ページアノンの法則
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4612.html
前ページ次ページゼロ・HiME 翌日の早朝、ルイズ達はタバサの使い魔のシルフィードに乗って学院を出発すると、一路、トリステインの南部にある港町ラ・ロシェールへと向かった。 時間的なことを考えれば、直接アルビオンに向かいたいところだが、さすがに五人も乗せての長距離移動は無理があるということで、一旦ラ・ロシェールに向かい、そこからアルビオン行きの船に乗ることになった。 「ルイズ、非常に言いにくいんだが……」 学院を飛び立ってしばらくした後、後ろの方に乗っているギーシュがルイズに向かって声をかける。 「……なによ?」 「僕のヴェルダンテを連れて行くのを君が快く許可してくれたことには大変感謝しているんだが……あの扱いはどうにかならないのかな」 そう言うとギーシュはシルフィールドに咥えられた自分の使い魔であるジャイアントモールのヴェルダンテを指差す。 「しょうがないでしょ、これ以上シルフィードの背中に乗せられないんだし」 「まあ、それはそうなんだが……ああ、僕の可愛いヴェルダンテ、ラ・ロシェールにつくまで辛抱しておくれ」 大げさに嘆くギーシュの様子を見て、静留が苦笑ぎみに声をかける。 「まあ、大人しゅうしとるみたいだし、大丈夫ですやろ……それにしても、ほんにギーシュはんは使い魔思いどすなあ」 「へっ……い、いやあ、別に大したことじゃありませんよ。メイジとして使い魔を大事にするのは当然の嗜みですから。それにヴェルダンテを使い魔にして以来、僕はジャイアントモールほど優秀で愛らしい生物はいないと思っているのですよ。強靱な手足、宝石を探し当てる鋭い嗅覚、艶やかで高貴な毛並み、忠誠心を秘めたつぶらな瞳、そしてなにより抱き心地がいいキュートなボディ――その全てが僕の心を魅惑してやまないのです。まあ、僕の貴女への熱い想いとは比べようもありませんがね」 「はあ……」 話しかけられたうれしさからか饒舌にヴェルダンテのことを語るギーシュに、やや引き気味に静留が相槌を打つ。それを見ていたルイズがやや呆れた感じで口を開く。 「シズル、それはギーシュのいつもの病気だから相手しなくていいわよ。それより、ギーシュ、あんたモンモランシーをちゃんと言いくるめて学院を出てきたんでしょうね?」 「も、もちろんだとも、そうでなきゃ旅になんか出られるわけないよ」 ルイズの問いに、冷や汗をだらだらかきながら焦った口調でギーシュが答える。 「ふ~ん、その分だと黙って出てきたみたいねえ。後でどうなっても知らないわよ~」 「帰ったらおしおき……絶対」 「あは、あははは……」 ギーシュは無慈悲なキュルケとタバサの突っ込みに、虚ろに笑いながらがっくりと肩を落としてうなだれた。 やがて太陽が真上に昇る頃、ルイズ達は休憩するために山間に流れる川のそばにシルフィードを降下させた。 「ああ、こんなにやつれてしまって可哀想に……さあ、ヴェルダンテ、今の間に思う存分、ミミズを食べておくれ」 そう言ってギーシュがシルフィードの口から開放されたヴェルダンテに駆け寄って撫で回すと、彼(?)は嬉しそうにヒクヒクさせた後、土の中へと潜っていった。 その時だ。 不意に向こう岸の崖の上からくつろごうとしていたルイズ達の周囲に、風切り音と共に何本かの矢が飛んできて地面に突き刺さった。 「奇襲だ!」 ギーシュが叫ぶと同時に、ルイズ達目がけて無数の矢が雨のように降り注ぐ。 「そう簡単には当てさせませんえ!」 デルフリンガーを手にルイズ達の前に飛び出した静留が初弾の矢を打ち払い、ついでシルフィードが翼を大きく羽ばたかせ、その風圧で続く矢を叩き落す。 「ふふん、奇襲する相手が悪かったわね……タバサ!」 「了解……反撃開始……」 そんな会話を交わしながら、崖の上に向かってキュルケがファイアボール、タバサがエア・カッターを叩き込む。 「うわ~~~~」 崖の上部が崩れ、ボロボロになった賊らしき5、6人の男達が火の粉をまといながら悲鳴をあげて転げ落ちてきた。更に崖の土砂と岩が彼らを飲みこんだ。 「うっ……自衛の反撃の結果とはいえ、気分が悪いわ」 「襲ってきたのは向こう……彼らの自業自得……」 「それはそうだけど……」 敵の末路を目の前にしても、動揺することなく、冷淡に切り捨てるようなタバサの言葉にキュルケが顔をしかめる。 「キュルケさん、こればっかりはタバサさんの言うとおりや。うちらの任務の性格上、妨害する連中との戦闘は避けて通れまへん。相手に遠慮してやっとったら、こっちが死ぬことになりますえ」 静留は真剣な表情でキュルケにそう言った後、ふっと表情を和らげるとキュルケを気遣うように言葉を続ける。 「……まあ、今回は事故みたいなもんやし、あまり気にせん方がええ」 「そうね、皆が無事だったんだし、余計なことは考えないことにするわ……ルイズ、ギーシュ、怪我はない?」 キュルケは気分を切り替えるように明るい声で静留に答えると、後方にいるルイズ達に声をかける。 「ああ、僕らは無事だよ」 「ええ、おかげ様でね……任務を受けた以上から妨害はあると覚悟していたけど、まさかトリステイン領内で仕掛けてくるとは思わなかったわね」 そう言いいながらもルイズはほっとしたような微笑みを浮かべる。だが、安心するには早すぎた。 「うお~~~~~!」 ふいにルイズの後ろの茂みから剣をかまえた男が飛び出し、絶叫しながらルイズに向かって切りかかる。 「あかん、ルイズ様!」 異変に気づいた静留がルイズの元へと走るが、ルイズと男との距離はわずかで到底間に合わない。 「「「――――――っ!」」」 全員がルイズの死を覚悟したその時、上空から大きな影が高速で舞い降り、ルイズを襲った男を吹き飛ばした。 「……ぐぎゃ!」 飛ばされた男は首から地面に叩きつけられ、蛙の潰れた様な声を上げるとそのまま動かなくなった。 皆が突然のことに唖然とする中、ルイズを救った大きな影――グリフォンから長身の羽根帽子をかぶった青年がルイズの前に降り立つ。 「どうやら間に合ったようだね……怪我はないかい、ルイズ?」 「……ワルド様!」 ルイズは立ち上がると、震える声で男の名を呼んだ。 その声に男――ワルドはうれしそうな笑顔を浮かべると、ルイズを抱き上げる。 「久しぶりだね、ルイズ! 僕の可愛いルイズ!」 「お久しぶりでございます、ワルド様。おかげで難を逃れることができましたわ」 抱き上げられたルイズが頬を染めてワルドに礼を言う。 「いや、もう少し遅ければ君を失うところだった。これも君らを追うように命ぜられた王女陛下の知己と始祖プリミルのご加護の賜物だよ」 「姫殿下が……」 「さすがに学生だけで死地に向かわせるのは忍びないと思われた様でね。しかし、お忍びの任務ゆえ、一部隊をつけるというわけにもいかぬ。そこで僕が同行者として遣わされたいうわけさ」 ワルドはルイズを地面に下ろすと、いぶかしげな表情を浮かべる静留達の方に向かって声をかける。 「驚かせてしまってすまない。僕は王女陛下の命により諸君の任務に同行することとなった魔法衛士隊、グリフォン隊隊長のワルド子爵だ、よろしく頼む。では、ルイズ、彼らを僕に紹介してくれたまえ」 「あ、はい……そこにいるのが友人のギーシュ・ド・グラモン、向こうにいるのが同じく友人のキュルケとタバサ、それと使い魔のシズルです」 ルイズの紹介を受け、ギーシュが深々と、キュルケ、タバサ、静留が軽く会釈する。 「君がルイズの使い魔かい? 陛下から人だと聞いていたが、まさかルイズと同年代の少女だとはね。僕のルイズがお世話になっているよ」 「いえいえ、こちらこそルイズ様にはずいぶんと良うしてもろうてます。ところでさっきからなんやずいぶんと馴れ馴れしい感じやけど、ルイズ様とはどういうご関係で?」 ワルドは友好的な笑みを浮かべて静留に手を差し出すが、静留はそれに答えず、ワルドとルイズとの関係を問いただす。その静留の問いにワルドは一瞬、鼻白んだ表情を浮かべるが、すぐに笑顔を繕いながら答える。 「おや、さっきの説明では不十分だったかね? 容易く主人以外を信用しないのは使い魔として立派な心がけだが……自分の主人の婚約者に対してその態度はあんまりだとは思わないか」 「婚約者……ほんまどすか?」 「ええ、そうよ。もっとも、幼い頃に親同士が勝手に決めたことだけど……」 ルイズは顔を赤らめながら静留に答えると、照れ隠しの言葉をごにょごにょと呟く。 「おやおや、ルイズは僕を嫌いになったのかい? まさかそこのグラモン家のご子息が恋人だ、なんて言い出したりしないだろうね?」 「なっ、そ、そんなこと――」 おどけたようなワルドの問いにルイズが慌てて何か言い返そうとするが、それより前にギーシュが口を開く。 「いやいや、それは酷い誤解ですよ、ワルド卿。生憎と彼女の様な慎ましい女性は私の守備範囲から大きく外れておりますので、ご安心を」 「ルイズが慎ましい……?」 「……深く考えてはダメ」 ルイズは朗らかな笑顔で否定するギーシュの言葉と、それを聞いてひそひそ話をするキュルケとタバサに少し腹が立ったものの、ワルドの手前なんとか怒りを堪える。 「それはよかった。もし彼が君の恋人だったら、君を賭けて彼に決闘を申し込まねばならないところだったよ」 「あはは、ご冗談を……」 やわらかい笑顔と裏腹にぜんぜん笑っていないワルドの視線を受け、ギーシュはひきつった笑いを浮かべた。 「さて、敵は撃退したが、ここにいてはまた襲撃を受けるかもしれない。ラ・ロシェールに急ぐとしよう」 そう言ってワルドはひらりとグリフォンに跨ると、ルイズに手招きした。 「おいで、ルイズ」 ルイズはしばらく真っ赤になってモジモジした後、ワルドに抱き上げられ、グリフォンに跨った。 そして、ワルドは静留たちがシルフィードに乗り込むのを確認した後、グリフォンの手綱を握り、杖を掲げて叫んだ。 「では、諸君! 出発だ!」 グリフォンが空へと駆け上がり、続いてシルフィードが飛び立つ。 「なんや、タイミング良すぎるのが気になりますな……何もおきんとええけど」 「奇遇だな、俺もそう思うぜ、姐さん」 シルフィードの背中から前方のグリフォンを見つめながら、静留はデルフと小声で会話を交わした。 前ページ次ページゼロ・HiME
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/4459.html
前ページ次ページ鮮血の使い魔 風の国アルビオンにある寂れた教会。 人気は無く、薄暗くて寒い、しかしそこがアンリエッタから知らされた場所。 ルイズ達はこの教会に行くよう指示されていた。 恐らく王党派と連絡を取れる場所なのだろうと推測しながらも、 同行するワルドはいつでも杖を抜けるよう警戒し、 言葉もまた鞄を開けっぱなしにしいつでもチェーンソーを取り出せるようにしている。 そんな三人が部屋の真ん中まで来ると、柱の影から甲冑を着たメイジが現れた。 四方を囲んで四人。全員が杖を三人に向けてくる。 言葉は双眸を細めると、頭の中でメイジ達を皆殺すシミュレートを開始する。 ガンダールヴのパワーとスピードなら、あんな甲冑など問題にならない。 「私はルイズ・フランソワーズ! トリステイン王国、アンリエッタ姫殿下の使者でございます。 ウェールズ皇太子へのお目通りを!」 言葉がそんな物騒な事を考えてるとは露知らず、ルイズは堂々と名乗りを上げた。 アンリエッタに言われてこの教会に来たのだから、 当然ここにいる甲冑騎士達は王党派のメイジなのだろうと決めつけている。 もう少し疑ったり慎重になった方が安全なのだが、今回はこの愚直さが正解だった。 柱の陰から新たな甲冑の騎士が現れると、鉄仮面の奥からルイズへ視線を向ける。 そして、左手の指に輝く青の宝石に気づくと、堂々とした足取りで歩み寄ってきた。 その立ち振る舞いに敵意が無いと気づきながらも、ワルドは警戒を解かない。 言葉は、敵意があろうが無かろうが警戒を解く気は無い。 ルイズの前までやってきた甲冑の騎士は、鉄の小手を外すと、 そこにはめられていた指輪を取り、ルイズに向けた。 「指輪を」 言われて、ルイズは左手を前に出す。 薬指にはめられている水のルビーが、騎士の指輪のルビーと共鳴するように光り、虹色の輝きが二人の間に現れた。 「間違いない。君がはめているのは、アンリエッタの持つ水のルビーだ。 そして、僕の指にあるこれは、アルビオン王家に伝わる、風のルビー。 水と風、二つのルビーは虹を作る。王家と王家を結ぶ架け橋のような虹を」 「では、その風のルビーを持つ貴方は」 「そうだ」 甲冑の騎士はゆっくりとした所作で鉄仮面を脱ぎ、 金髪の見目麗しい美青年の姿をあらわにする。 「僕がアルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」 そこでようやく、ワルドは警戒を解いて杖をしまった。 しかし、未だ消えぬ殺気を感じ取り視線を向ける。 言葉が、闇夜の海のように深く暗い眼差しでウェールズを見ている。 この少女、ルイズの使い魔であるはずなのに、なぜウェールズを敵視するのか? その疑問に、ワルドは想像を働かせた。 ニューカッスル城に案内されたルイズ一行は客間に通され、 そこで休むよう言われたが、ルイズだけはウェールズの部屋に呼ばれた。 アンリエッタからの密書を渡し、任務を果たさねばならないからだ。 だから、ワルドは使い魔の少女と二人きりという状況で、それを好機と受け取った。 「コトノハ……といったね?」 ソファーに腰を下ろしたワルドは、紳士的な口調で言葉に声をかける。 しかし言葉は、武器の入った重そうな鞄を持ったまま、 窓際に立ち外の景色を見つめている。振り向きもしない。 「少し質問があるんだが、いいかな」 話を進めたいため、沈黙を肯定として受け取る事にして、ワルドは続けた。 「君はルイズの忠実な使い魔だ。そうだろう? だから、ルイズの身に危機が及んだ時、そう、教会で騎士に囲まれた時、 僕も君も、ルイズを守るために警戒し、いつでも戦えるよう、構えた。 けれど、相手がウェールズ皇太子と解って尚、君は警戒を解かなかった。 いや、警戒は解いたのかもしれないが、敵意は解かなかった。そうだろう? なぜなんだい? まさかあの皇太子を、偽者だなんて疑っているのかい?」 「あなたには関係ありません」 ようやく出た返答は拒絶だった。 しかし、自分の想像が当たっているのなら、当然の反応であった。 「君はまさか、アルビオンに対し害意を抱いているのではなかろうか? もしそうであるならば、君がルイズの使い魔であったとしても、 今ここで成敗せねばならなくなる」 言いながら杖を抜くワルド。 ようやく、言葉が振り向いた。 「まさか。そんな訳、あるはずがありません」 柔らかい口調とは裏腹に、後ろに回した鞄をゆっくりと開ける言葉。 ワルドは、鞄の中身を知らない。 しかしそこに武器があるだろうとは承知していたし、 平民の使い魔が単身であの土くれのフーケを倒したという事は、 それだけ強力な武器であろうと判断している。 「ところでワルドさん。あなたは、ルイズさんの婚約者ですよね?」 「……ああ」 「では、ルイズさんを愛していらっしゃるんですね?」 これはつまり、ルイズの味方かどうか答えろという意味か。 ワルドは返答に困った。 幾つか、ワルドは言葉の真意を想像してある。 まず、言葉がアルビオンに対し害意を抱いている可能性。 あるいはレコン・キスタという組織に入りたがっている可能性。 これは、正直言ってありがたい。 ルイズにさえ秘している真の目的を果たすため、取り込めるからだ。 そして使い魔である彼女を取り込めば、 あの潔癖で気高いルイズを丸め込むいい道具として利用もできる。 それとは別に、ルイズへの裏切りを考えている可能性。 これはこれで利用できる。 この少女の真意をルイズに暴露すれば、さぞ落ち込むだろう。 つまり心に隙が出来、懐柔は容易になってくる。 この場合、この少女は始末せねばならない。その方が都合がいい。 別の可能性。 この少女はルイズに忠実ではあるが、それ以外を一切信用しないというもの。 しかしこれは無いだろうとワルドは思う。 騎士の正体がウェールズだと解った時点で、この少女は警戒を解いた。 例え敵意まで解かなかったとはいえど、警戒を解いたという事は、 一応ウェールズを信用したと判断していいだろう。 それにルイズにのみ忠実であるなら、彼女にとっては突如現れたルイズの婚約者、 すなわち自分に対しもっと警戒していいはずだ。 魔法学院からここアルビオンまでの旅路、 彼女はワルドを敵視するような素振りは見せなかった。 ルイズがワルドを信頼しているから、彼女もワルドを信頼してくれたというのは無い。 ルイズがウェールズを信頼した時点で、彼女はウェールズを信頼しなかったから。 だからこの可能性は無いと考えていい。 否定する材料はもうひとつある。 ラ・ロシェールの街で彼女は、ルイズと自分に隠れて、土くれのフーケと会っていた。 ワルドがこの事実を知っている事を、彼女もフーケも、ルイズも知らない。 果たして、この使い魔、コトノハの真意は如何に? それによって、己の返答も変わってくる。 「どうなんですか。婚約者なんですよね? だったら愛しているんでしょう?」 「……ああ、僕はルイズを愛している。この気持ちに偽りはない」 彼女がルイズの敵であるならば、それを明らかにし排除すればいい。 彼女がアルビオンの敵であるならば……。 「そうですか」 言葉は安心したように微笑んだ。 (ルイズへの裏切り行為……フーケと密かに会っているが、 ルイズ自身を敵視している訳ではないという事か?) 判断材料が足りない。下手に突いてやぶ蛇になっても厄介だ。 口封じは容易いが、今はアルビオンの城の中、疑惑の目は避けたい。 しかしこの使い魔の少女自体がイレギュラーとなりかねない。 だったらと、彼は訊ねた。 「君はラ・ロシェールの街外れで、土くれのフーケと会っていたね」 言葉の双眸がわずかに細まる。 「何の……事でしょう?」 「土くれのフーケ……どう脱獄したかは知らないが、手引きした者がいたはずだ」 その手引きを自分がするはずだったと、ワルドは言わなかった。 手引きをして、スカウトするつもりだったのに、何者かが先にフーケを解放した。 「何を企んでいる。返答次第では――」 「私の邪魔をするというのなら、貴方でも容赦しません」 言葉の手が鞄の中に沈む。 「土くれのフーケと組んでいるという事は、王党派は敵……か?」 ワルドは、事前調査してあったフーケの正体、 アルビオン王家によって貴族としての地位を追われた元貴族である事を思い出し、訊ねた。 「ルイズを裏切ってまで、君は何をしようとしている」 その目的によっては、取り込める。 「……私はただ……誠君を生き返らせたいだけです」 言葉はチェーンソーを握り締め、鞄から取り出そうとした。 土くれのフーケとの件を知られてしまったのなら、もうここにはいられない。 ワルドを倒し――殺しはしない、彼には役目がある――ウェールズの首を取り、 レコン・キスタに行きクロムウェルに会わねばならないのだから。 だから、ワルドには悪いが、治療で助かる程度の、しかしこの場から動けなくなるほどの、 重傷を負ってもらわねばならない。 鞄から、チェーンソーを、しかし、その直前、ワルドが言う。 「ならば私達は手を取り合える」 言葉の目的を理解したワルドは会心の笑みを浮かべた。 「なるほど、君は生き返って欲しい人がいる。 そして、人を生き返らせるなどという魔法を使える者はこの世にただ一人。 虚無の担い手、クロムウェル。 しかし『生き返らせてください』と頼んだところで、 いちいち聞いてやるほどクロムウェルは暇ではない。 そこで! 願いを聞き入れてもらえるだけの手土産を持っていけば……。 それほどのものといえば、皇太子の首など、さぞ喜ばれるだろう。 警戒を解いて尚、敵意を解かなかった理由は、それだね?」 見抜かれた事ではなく、手を取り合えるという発言が、言葉の手を止めていた。 いつでもチェーンソーを起動できるよう言葉は身構えたまま、話を聞く。 「ふふふっ、それは主であるルイズを裏切ってでもかなえたい願いと見える。 だったら話は早い。その願い、私がかなえよう」 「……貴方が?」 「そうだ。君が私に協力してくれるなら……私は君を、クロムウェル様に会わせよう」 「……レコン・キスタ……? 貴方はレコン・キスタの方? ……裏切り者?」 「裏切り者はお互い様だろう、ミス・コトノハ。 君がフーケと共に私の側について、私の任務に協力してくれるのなら、 私がその功績をクロムウェル様に報告し、 マコト君とやらを生き返らせてもらうよう頼んで上げるよ」 「……貴方の、任務は?」 「ウェールズ皇太子の持つ手紙の入手。ウェールズ皇太子の命。この二つだ」 「……そうですか。では、ルイズさんはどうするおつもりですか?」 「もちろん連れて行く。彼女は私の愛しい婚約者だからね、説得するよ」 「………………解りました。ワルドさん、貴方に、協力しましょう」 言葉は思っていた。 ルイズを裏切り、レコン・キスタに行き、クロムウェルから指輪を奪おうと。 しかし、しかしこれなら。 ワルドに協力するならば。 レコン・キスタに行き、誠を生き返らせてもらい、また一緒にいられる。 そして。 戸が開く。ノックもせず入ってきたのは、ルイズだった。 向き合っているワルドと言葉を見て、眉をひそめる。 「ただいま……。ワルド様、コトノハ、どうかしたの?」 「いいえ、何でもありません。ちょっとお話をしていただけです」 「そう?」 そして、ワルドがルイズを説得してくれるのなら。 ルイズも共にレコン・キスタへ行ってくれるのなら。 誠だけじゃなく、ルイズとも、一緒にいられる。 あの日見た――もう忘れてしまった、けれど幸せだった夢が現実となる。 だから。 第12話 悪魔のささやき 前ページ次ページ鮮血の使い魔
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1561.html
"王子様"から手紙を受け取り、さっさととんずらかと思えば―― まただ。また雲行きが怪しい。 髭野郎め、此処にきて本性を出してきたか? しゃあない、働くしかねえ―――俺も律儀になったもんだ。 宵闇の使い魔 第拾参話:悲嘆のルイズ 「これが姫から頂いた手紙だ。このとおり、確かに返却したぞ」 ウェールズはそう言ってルイズに手紙を手渡した。 その手紙は何度も、何度も読み返されたのだろう。ボロボロになっている。 見事な装飾が施された鍵付きの小箱に大切にしまわれていた事からも、ウェールズがその手紙をどれだけ大切にしていたかが伝わってくる。 「確かに、お預かりいたします―――」 ルイズはその中に書かれているであろう内容を想像しては、悲しげに目を伏せて受け取った。 空賊の頭がウェールズであると判明した後、アルビオン王立空軍最後の艦艇である《イーグル号》は、雲中を潜行して浮遊大陸の下部から秘密の港へとたどり着いた。 虎蔵達が乗ってきたフネ《マリー・ガラント号》の積荷である硫黄を見ては、栄光ある敗戦を行えると喜ぶアルビオン軍人達。 ルイズは彼らに複雑な視線を向けながらも、ウェールズの居室へと案内されたのだった。 「明日の朝、非戦闘員を乗せて《イーグル号》が出る。君達はそれに乗って、トリステインへと帰りたまえ」 「あの、殿下―――先ほど、栄光ある敗北とおっしゃっていましたが、王軍に勝ち目は無いのでしょうか」 手紙が入っていた小箱を机の中へと戻しながら言うウェールズに、ルイズが躊躇うように声を掛ける。 ウェールズは彼女へと視線を向けると、至極あっさりと「無いよ」と答えた。 「我が軍は三百。敵軍は五万。万に一つも勝ち目は無く、我らに出来るのは、勇敢な死に様を奴らに見せることだけだ」 ―――そりゃ、絶望的だな――― 虎蔵は右手を口元に持っていき、流石にルイズに葉巻を奪われた事を思い出した。 手持ち無沙汰にぷらぷらと右手を揺らす。 負け戦などというレベルではない。 まともに戦えばただの虐殺だろう。 そして彼らはゲリラ戦などという手は取らないのだ。 貴族は矜持を食べて生きている。 「その中には、殿下の討ち死になさる様も―――含まれるのですね」 「当然だ。私は真っ先に死ぬつもりだよ」 ウェールズの言葉を聞くと、ルイズは深々と頭をたれて、ウェールズに一礼してから口を開いた。 「殿下、失礼をお許しください。恐れながら、申し上げたいことがございます」 「なんなりと、申してみよ」 「この、ただいまお預かりした手紙の内容、これは―――」 ルイズの言わんとしていることは、虎蔵にも理解できた。 政略結婚の障害になりえるということや姫様からの手紙を読んだ時のウェールズの表情、そして何より、手紙が入れられていた小箱の内蓋の――アンリエッタの肖像。 虎蔵も木石漢ではない。 ただ、それを口にしようとは思わないが。 ルイズは悲しげな表情でそれらを指摘する。 年若い彼女には、彼らはただただ悲劇の主人公に写っているのだろう。 「やはり、姫様と、ウェールズ皇太子殿下は―――」 「恋仲であった、と言いたいのかな?」 「そう想像いたしました。そして、この手紙の内容も―――」 ルイズはウェールズから受け取った手紙に視線を落とす。 ウェールズはそれを見ると、優しげに、しかし何処か困ったように笑った。 「恋文だよ。きみの想像通りだ。この恋文がゲルマニアの皇帝に渡っては、不味いことになる。 なにせ、彼女は始祖ブリミルの名において、永久の愛を誓っているのだからね。 そして、その結果トリステインが辿るであろう運命は―――言うまでも無いだろう」 ルイズは深く頷いた。 始祖に誓う愛は、婚姻の際の誓いである。 ということは、この手紙が白日の下に晒されたならば、アンリエッタは重婚の罪を犯すことになる。 「―――とにかく、姫様は、殿下と恋仲であらせられたのですね?」 「昔の話だよ―――そう、昔の話だ」 ウェールズは静かに、諦観を含んだ笑みを浮かべる。 しかし、ルイズは熱っぽい口調でウェールズに詰め寄る。 「殿下、亡命なされませ!トリステインへ亡命なされませ!」 ワルドがすっと歩み出て彼女の方に手を置く。 だが彼女は納まらずに、更にウェールズに詰め寄る。 だが、ウェールズは静かに笑って首を振った。 「それは出来んよ。彼女もそれは望んではいない」 「しかしッ!」 「ラ・ヴァリエール嬢。君は優しい子だな―――」 ウェールズは笑みを湛えたままルイズに近寄ると、そっと彼女の頭を撫でる。 「だが私は王族だ。王族として、最後まで守らねばならないものがある」 「―――名誉、ですか?」 「それもある。だが、私だけの物ではない。 敗戦の決まった国に残り、命を掛けてくれる全ての将兵のだ。 それに、我々の敵である貴族派の連中――《レコン・キスタ》は、ハルケギニアを統一しようとしている。 《聖地》を取り戻すという、理想を掲げてな」 仄かに匂う宗教臭に、虎蔵は肩を竦める。 もっとも、恐らくは出汁にしている程度なのだろうが。 良くあることだ。 「理想を掲げるのは良い。 しかし、あやつらはそのために流される民草の血の事など、荒れる国土の事など考えてはいない。 我々は此処で散る運命であろうが、せめて勇気と名誉の片鱗は見せ付けねばならぬ。 ハルケギニアの王家は弱敵ではないと示し、残る他の王家に望みを託さねばならぬ。 そしてその為には、私一人が個人の幸福の為に投げ出し、逃げ出す訳には行かない。 それは彼女も分かっている筈だ。この任務を君に託した時の彼女を思い出してごらん―――」 ゆっくりと諭すウェールズに、ルイズはもはや何も言えずに俯くしかない。 「そろそろ、パーティの時間だ。君達は、我らが王国が迎える最後の客だ。是非とも出席してくれたまえ」 彼はルイズの頭からそっと手を離して、そう言った。 ルイズは小さく頷くと、か細い声で礼を告げて足早に出て行く。 「殿下に話がある。先に行っててくれたまえ」 虎蔵が追いかけんのか?といった視線をワルドに向けるのだが、彼はそう言って部屋に留まる。 虎蔵は一瞬だけ鋭い視線を向けるが、一言「あいよ」と告げて部屋を出て行くのだった。 パーティーは城のホールで行われた。 簡易の王座に年老いたジェームズ一世が腰掛けて集まった貴族や臣下を目を細めて見守るなか、彼らは最後のパーティを存分に楽しんでいる。 しかし、ルイズはこの場の空気に耐え切れなかったのだろう。 パーティが始まり、暫くすると逃げるように出て行った。 今度はワルドが追いかけて行ったため、虎蔵は一人、壁際で静かにワイングラスを傾けている。 「やぁ。こんな隅で、何をしているんだい」 「ん?あぁ―――場違いだと思ってね」 そんな虎蔵に、座の真ん中で歓談していたウェールズが近寄ってきては、声を掛けてきた。 「今更そんな事を気にするような無粋な者は、こんな国に残っては居ないさ。存分に楽しんで欲しい」 「なに、たっぷりと飲ませてもらってる」 「それは重畳。しかし、人が使い魔とは珍しい。トリステインは変わった国だな」 「良く分からんが、トリステインでも前代未聞らしいぜ」 虎蔵の口調を気にするでもなく、気さくに話しかけて来るウェールズに虎蔵が軽く肩を竦めて見せると、ウェールズは「やはりそうか。彼女が特殊なのだろうね」と楽しげに笑った。 しかし虎蔵は、ふと、ワルドが彼の居室に残ったことを思い出して、彼に問いかける。 「そういや、さっきは男二人で何の話だったんだ?」 「ん、聞かされていないのかい?彼とラ・ヴァリエール嬢の婚姻の媒酌を頼まれたのだよ」 「ほぉ―――こんな時にか」 「是非とも頼みたいと言われてね。私としても、最後に前途ある若者たちの祝福が出来るならば、とね」 ふむ、と考え込む虎蔵。 此処にきて、急にアンリエッタの懸念が杞憂ではなくなってきた気配を感じる。 ウェールズは彼女が護衛にと付けたワルドを疑ってなどいない様ではあるが――― 「なぁ、王子様よ。この辺りの結婚式ってのは、親も呼ばずにやるものなのか?」 「―――いや、余程の事情でもない限り、両親を呼ばないということは―――」 「こう言っちゃなんだが、あんたに媒酌人を頼むってのは、"余程の事情"には思えんのだがね」 そう。 ウェールズがハルケギニアに名を轟かす高名な司祭という訳でもない。 ましてやルイズは公爵家の息女である。 それが親も呼ばずに結婚式を行うというのは、普通では考えられない筈である。 「それは――そうだな。確かに、よくよく考えれば、腑に落ちない」 「だろ?んでな、ちょいと聞いて欲しいんだが―――」 虎蔵は、辺りの人間がこちらの声を聞いていないのを確認すると、静かに話し始めた。 アンリエッタがワルドを完全に信用している訳ではないという事。 ワルドが《レコン・キスタ》であった場合、新郎と媒酌人の近さで不意打ちをされれば命は無いという事。 帰る手段の有無を出汁に、自分は《イーグル号》に乗るように言われるであろう事。 「しかし、彼が私の命を狙っているとしたら、先ほど私の部屋で事を成すのではないか?」 「俺がドアの外に居たのに気づいてたんだろ。後は、手紙とあんたの命、両方貰ってくつもり――とかな」 ウェールズはそれを聞くと、「なるほど――」と深刻そうに頷いた。 明日、最後の一戦の準備で忙しいアルビオン貴族は、誰一人として式には参列しないであろうから、ルイズの持つ手紙とウェールズの命を同時に狙うには絶好のチャンスだ。 勿論、虎蔵の予想が全て正しければ、という事になるが。 「ではやはり、適当な理由をつけて断るべきか―――」 「いんや、それよりも、だ―――死ぬ前に、愛した女の"身中の虫"を探ってみるってのも、一興じゃないか?」 虎蔵の予想が当たるにせよ外れるにせよ、悪い結果にならないように手を打とうするウェールズに、虎蔵はニヤリと人の悪い笑みを見せた。 虎蔵は、一人真っ暗な廊下を歩いている。 あの後ウェールズと別れた虎蔵は、ワルドに声を掛けられて結婚式のことを告げられた。 グリフォンには二人しか乗れないので、先に《イーグル号》で帰るように勧められた事も含めて、予想通りである。 余計な警戒をさせるつもりも無かったので、素直に頷いておいた。 勿論、嘘だが。 「細工は流々、後は仕掛けをなんとやら―――と?」 あてがわれた寝室に近づいたところで、彼は窓を開けて月を眺めるルイズを見かけた。 月を見て、一人涙ぐんでいる。 色々と整理がつかないのだろう。 虎蔵はやれやれと肩を竦めると、面倒そうに彼女に近づいた。 「どした」 「ッ!?――なんでも、ないわよ―――」 ルイズは虎蔵に気づくと、目頭をごしごしとぬぐった。 だが、そのかいもなく、再び涙がこぼれる。ぽろぽろと。 虎蔵が近づくと、彼女は力が抜けたかのように彼の身体にもたれかかった。 虎蔵は何も言わない。 拒絶もしない。 ただ、胸――というよりもわき腹の辺りを貸しているだけだ。 「慰めてはくれないのね――」 「柄じゃないね」 ぼそりと不満を漏らすルイズに、虎蔵は肩を竦める。 「ただまぁ、お前の言いたい事は分からんでもない。何も死ぬこたぁあるまい、ってな」 「―――うん」 「だが、そいつは俺の――平民の考えだ。貴族は違うんだろ?」 「―――そうね」 虎蔵に言葉に、ルイズは抱きついたまま、ただ頷く。 彼のジャケットを握る小さな手に、きゅっと力が篭った。 「けど、納得できないの。納得できないのよ。 どうして死を選ぶの?王族の義務や名誉って、愛する人よりも大事なの?」 「しらんがな―――俺はただの使い魔だぜ」 虎蔵はぷらぷらと片手をふる。 本当に手持ち無沙汰だ。 こういうややこしい話の時は、煙草が必要だと思う。 「姫様もそう―――なんでかしら。王子様のことが好きなはずなのに――」 「王子様が言ってたとおり、覚悟を決めてるんじゃねえの? だいたい、生き延びても結婚は出来んのだろ?」」 「だけど死ぬよりは―――ねぇ、トラゾウ。貴方からも何か言ってあげてよ。 貴方、私より色々と経験が豊富なんでしょう?だったら―――」 「お断りだ。そいつは使い魔の仕事じゃあるまい」 「ッ!!」 虎蔵の言葉にルイズがビクッと肩を竦めた。 彼女は顔を伏せたまま、震える声を搾り出す。 「いつも――いつもそれね。仕事、仕事。そうよね、貴方が私と居るのは使い魔の契約があるからだものね」 「何を言ってんだ、お前は―――」 唯でさえ死というものを直視せざるを得ない状況に情緒不安定になっていたルイズの感情が爆発した。 色々なことが頭に浮かんでは、心を乱す。 「―――私、ワルドと結婚するわ」 「さよけ」 「彼は優しいもの。慰めてくれるもの。貴方とは違うもの!」 もはや虎蔵の言葉など聞いては居ない。 泣きながらも、キッと虎蔵をにらみつけて来る。 マチルダの――フーケのゴーレムに追い詰められた時と似た表情だ。ベクトルはだいぶ違うが。 彼女にして見れば不本意だろうが、虎蔵にはなぜかその表情が、彼女らしいと感じてしまった。 「あんたなんか嫌いッ!だいっきらいッ!何処にでも行っちゃえばいいのよ!」 ルイズはぽろぽろと涙を流しながら一方的に怒鳴ると、廊下を駆け出していった。 残された虎蔵ははぁっと深いため息をつき、窓から覗く月を見上げては――― 「だから苦手なんだって。子供は―――」 そうぼやくのだった。 翌朝、ルイズは始祖ブリミルの像が置かれた礼拝堂に立っていた。 目の前には皇太子の礼装に身を包んだウェールズ。 隣には魔法衛士隊の格好をしたワルド。 自分はといえば、いつもの黒いマントを純白に変え、頭にはアルビオン王家かせ借り受けた新婦の冠を載せている。 何処からどう見ても結婚式である。 なぜこんな事態になっているのだろうか。 ルイズはぼーっとしてよく働かない頭で考える。 今朝はやく、いきなりワルドに起こされ、此処までつれてこられた。 戸惑いはしたが、昨夜の事が頭に残っていて考えるのが億劫になっていたためか、深く考えずにここまでやってきた。 死を覚悟した王子たちと、昨日自分が言ってしまった言葉が、ルイズを激しく落ち込ませていたのだ。 そんなルイズに、ワルドが「今から結婚式をするんだ」と告げて、今のような格好にさせられてしまった。 式が始まったのか、ウェールズの声が聞こえる。 だが、どこか遠くで鳴り響く鐘のように、心もとない響きだ。 ワルドが重々しく頷いて、杖を握った左手を胸の前に置いた。 ウェールズは次に、ルイズの方を向いて何かを言っている。 よく聞こえない。 心に、頭に、靄が掛かっているようだ。 だが―― 「――汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛しそして夫として―――」 ウェールズの読み上げる詔だけは聞こえた。 それを聞いて、パッと頭に掛かっていた靄が晴れ、結婚式の最中だということに気づいた。 相手は、憧れていた頼もしいワルドだ。 彼のことは嫌いじゃない。むろし好いてもいるだろう。 だが、ならばどうしてこんなに切ないのだろうか。 どうしてあんなに泣いたのだろうか。 滅びいく王国を見たからか? 愛する者よりも、王族としての死を選ぶウェールズを目の当たりにしたからか? 死に行くウェールズを引き止めることを良しとはしない、アンリエッタの覚悟に気づいたからか? 違う。違うはずだ。 悲しい気持ちにはなっても、こんな憂鬱な気持ちにはならない。 ―――後悔、してるんだ――― 一時の感情に任せて、あんな事を言ってしまった自分に。 ―――なんて子供なんだろう、私は――― あれでは唯のヒステリーだ。 きっと、納得するべき事を納得できない自分と虎蔵を比べて勝手に距離を感じていたんだろう。 だから少し突き放されただけであんなに悲しくなったのだ。 結婚するなんて言っったのも、自分から突き放すことで、逆に相手に引き止めて欲しかったのだろう。 子供にありがちな思考だ。 だとしたら、こんな気持ちで結婚するのは、ワルドにも失礼だ。 「ごめんなさい。ワルド―――」 「どうしたんだい、ルイズ―――急に――」 「ごめんなさい、ワルド。私、貴方とは結婚できない」 ルイズは生気の戻った、いつもの意思のある瞳でワルドを見て、そう告げた。 一方、礼拝堂でそのような問答がなされる少し前。 虎蔵は礼拝堂から少し離れた木陰で葉巻を吹かしていた。 ワルドに見つかると面倒な事になるので、人気の無いところに居なければならなかったのだ。 「さて、と――――そろそろ控えとくか」 ウェールズとの話し合いの上で、礼拝堂の裏口から忍び込んでいざという時に備えることになっている。 だがその時――― 「ん?」 足元から気配を感じて、わずかに距離をとる。 暫くすると、地面が盛り上がり―――巨大なモグラが出てきた。 「なんだ―――これは―――」 「よし、良い子だ。主人より役に立つよ―――」 モグラがのそのそと這い出てくると、その後ろから見覚えのある顔がぞろぞろと出てきた。 マチルダ、ギーシュ、キュルケ、タバサ――― ラ・ロシェールで別れた三人が、マチルダを連れて追いついてきたのだ。 「おや、良い所にいるじゃないか。トラゾウ。こんな空の上まで言い訳しにやってきたよ」 「僕だってやる時は―――おぉ、トラゾウ。見つかって良かった」 「ダーリンッ!」 「――――ふぅ」 「いや、いっぺんに喋らんといてくれるか?」 彼を見るや、驚く彼を置き去りにしていきなり話しかけてくるマチルダとギーシュ。 キュルケは問答無用で抱きついてきた。 タバサだけが静かに、わずかに土で汚れた眼鏡を拭いている。 「あれ、ルイズは?というか、人気の無い所を選んで出てきた筈なのに、何でこんな所に?」 「あー――」 虎蔵に抱きついているにも拘わらず、ルイズの抗議の声が聞こえてこないことに気づいたキュルケが辺りを見回す。 虎蔵はぽりぽりと頬をかくと、面倒臭そうに説明を始めた。 「なるほどね―――そりゃ、黒だね」 「まぁ、俺もこの強引な展開はほぼ黒だと思ってんだがな。根拠が?」 「風の遍在さ」 話を聞き終わると、深くため息をついて首を振るマチルダに虎蔵が問うが、彼にはその答えも理解できない。 虎蔵は解説を、と言わんばかりにタバサを見る。 彼の中でタバサはそういうキャラクターになっているらしい。 「《ユビキタス・デル・ウィンデ》、風系統の高位呪文。自律した分身を作り出す」 「ふむ―――」 「風のスクウェアなら、使って不思議ではない」 「それでアンタ達を分断させたって訳だね。ついでに、仮面野郎と子爵は、背格好が殆ど同じ筈だよ」 タバサの説明に続けて、学院で彼を見た時のことを思い出しながら、だいたいの身長を手で示すマチルダ。 虎蔵だけでなくキュルケとギーシュも「なるほど」と頷いていた。 二人ともよく理解していなかったらしい。 「ともあれ、これだけ戦力があるんだ。逃がしゃしないよ。だろ?」 不敵な笑みを浮かべるマチルダに、虎蔵もニヤリとした人の悪そうな笑みを浮かべる。 それを見たギーシュは一人、僅かながらワルドに同情した。 静寂の礼拝堂に、ルイズの声が響いた。 「ごめんなさい、ワルド。私、貴方とは結婚できない」 はっきりとした拒絶の言葉である。 いきなりの展開に、ウェールズは首をかしげてワルドを見た。 だがワルドは、このような展開になると思ってはいなかったのだろう。うろたえている。 「子爵―――花嫁が望まぬ式を続けるわけには行かないぞ?そもそも、合意の上ではないのかね」 「緊張しているんだ――そうだろう、ルイズ。きみが、僕との結婚を拒むわけがないじゃないか――」 「ごめんなさい、ワルド。憧れだったのよ?恋もしていたわ。今だって嫌いじゃないの――― でもね。私はまだ子供だって気づいたわ―――だからまだ――」 ワルドはウェールズの視線に構うことなく、ルイズの手を取るが、彼女はやんわりと拒否する。 するとワルドは手を彼女の肩にやり、表情を変えた。 いつもの優しげなものではなく、冷たい、どこか爬虫類めいたものに。 「世界だルイズ。僕は世界を手にいれる!その為に君が必要なんだ!」 「ッ―――私、世界なんていらないわ――」 ワルドの豹変ッぷりに、ルイズは悲鳴を上げかける。 一歩下がろうとしたが、肩を抑えるワルドがそれを許さない。 「僕にはきみが必要なんだ!きみの才能が!きみの力が!」 ものすごい剣幕でワルドは語る。 ルイズはブリミルに劣らぬメイジになると、自分の才能に気づいていないだけだと。 しかし、ルイズはそんなことを信じられるはずも無い。 自分は虎蔵を召べたこと以外は失敗だらけの駄目メイジなのだ。 「ワルド、あなた―――」 ルイズの声が震える。 ワルドがまったく知らない誰かに見えた。 ウェールズが二人の間に割って入ろうとするが、ワルドは怒鳴りながらその手を跳ね除ける。 「ルイズ!きみの才能が僕には必要なんだ!わかってくれ! 君は自分の才能に気づいていないだけなんだよ、ルイズ!」 「やだ、ワルド―――貴方、何を言っているの? そんな結婚、死んでも嫌よ!貴方、私のことまったく愛していないじゃない―――」 貴方が愛していたのは、有りもしない魔法の才能?」 ルイズは涙を浮かべて手を振り払おうとするが、ワルドの力には抵抗できずに首を振ることしかできない。 ウェールズも見かねて彼の肩に手をやり、ルイズから引き離そうとする。 「子爵。そこまでに―――」 「五月蝿い!黙っていたまえ!」 しかしワルドはウェールズを突き飛ばす。 あまりの物言いに、突き飛ばされたウェールズの顔に赤みが走る。 彼は立ち上がると杖を抜いた。 「なんたる無礼!なんたる侮辱!子爵、今すぐにラ・ヴァリエール嬢から手を離したまえ!」 「ふぅ――――こうまで僕が言っても駄目かい?ルイズ。僕のルイズ」 ワルドはやれやれと首を振ってルイズから手を離すと、どこまでも優しく、そして嘘に塗り固められた笑顔を向ける。 しかし、ルイズは怒りで震えながらも、きっぱりと「嫌よ」と告げた。 するとワルドは、やや芝居がかった調子で天を仰ぐと、まるで台詞のように語り始める。 「ラ・ロシェールでも、フネの中でも、いい所を彼に奪われてしまったのが残念だ。 こうなっては仕方が無い。目的の一つは諦めよう」 「目的?」 「そうだ。この旅における僕の目的は三つあった。一つ目はルイズ。君を手に入れること」 その言葉にルイズはビクッと震えて一歩後ずさる。 だがウェールズはワルドに杖を抜けたまま動かない。 役者もかくやという語りに入っているワルドは気づいていないようだが、ぶつぶつと小声で何かを唱えている。 「二つ目の目的は、ルイズ、君のポケットに入っている、アンリエッタの手紙だ」 「ワルド、あなたまさか―――」 ルイズは事の重大さに気づいて顔を蒼白にすると、手紙を収めている胸ポケットを押さえた。 だがワルドはそれに構わず、ニヤリと笑みを狂気に歪める。 「そして三つ目は―――」 ワルドは二つ名の閃光の如く素早く杖を引き抜き、呪文を完成させた。 風のように身を翻し、青白く光る杖をウェールズに向ける。 後は貫くだけだ。 しかし――― 「子爵。獲物を目の前にしての舌なめずりは、三流のやることだ」 ウェールズは怒りに赤くしていた筈の顔に余裕の笑みを浮かべる。 先に杖を向けていたのはワルドではなくウェールズなのだ。 いかに《閃光》と言えども勝てるものではない。 「くッ!?」 ワルドは絶妙な判断で真後ろへと跳躍する。 ギリギリでウェールズの放った《ウインド・ブレイク》の最適距離を逃れたワルドは、吹き飛ばされこそしたが身を捻って着地に成功する。 強風で僅かに切れた頬から流れる血を拭いながら、憎しみの篭った視線をウェールズに向ける。 「貴様―――何故―――」 「怪しいと警告されれば、備えもするというものだ。戦に出ずに命を捨てる訳にもいかんのでな。 まぁ、彼のおかげと言うことだよ―――」 ふっと笑うウェールズは、やや気取った仕草でパチンと指を鳴らした。 すると――― 「どぉーれ―――ようやっと出番か」 「トラゾウ?」「ルイズの使い魔ッ―――」 始祖ブリミルの像の後ろから、虎蔵が用心棒よろしく顎に手を当ててはニヤニヤと笑いながら出てきた。 一人事態に付いていけていないルイズは、僅かに嬉しそうな声を上げながらも、彼が出てきた場所に首を傾げる。 一方、ワルドは全てを覚ったのか、怒りの声だ。 ワルドの――《レコンキスタ》の企みが一つ、潰えた瞬間であった。
https://w.atwiki.jp/skyfantasy-trpg/pages/191.html
確定設定 オート・コンヴァージョン 毎朝、女性 ルイ になるか男性 レイ になるかランダムで決定される。 ただし、シナリオによっては性別が固定される。 また、再びコンヴァージョンを使うことで任意に変更もできる。 ルイとレイ コンヴァージョンする事で"身体及び性格が"切り替わる。 二重人格的設定で、記憶の共有はしている。 また、お互いに勝手にコンヴァージョンを唱えて中から出てくることも。 戦闘では現レベルでやっとお互いのやりたいことが出来るように。 ルイ→魔法ぶっぱ レイ→デーモンルーラーで投影して魔力撃ぶっぱ ただ、メインでやることであって、お互いに出来ないことはない。 イザベラとのLGBT ルイレイ共々イザベラと愛し合っている(直喩)。 ルイはイザベラに『幸せ』を貰った。 レイは不明。 星の巫女 巫女枠の一人。GMから設定されている。 その設定が投げられる直前の成長でミスティックを取っている() →とりあえず星の巫女の副作用だかなんだかの所為にしておく。 スケッチ ルイの趣味の一つに、人物画・風景画がある。 最初は単に暇つぶしの一環で描いていたのだが、 いつのまにか日常と化してしまった。 ちなみに、レイは描いているのではなく描かされている。 構想設定 ルイとレイ もともと別人同士、という設定。 「サモンナイトエクステーゼ夜明けの翼」の主人公たちの持っていた設定をパロパクったもの。 一つの体に二つの魂が共存し、表に出るほうで身体も変わる。 そのため、ルイの肉体が何処かにあるとかないとか。 が、別にレイは肉体を取り戻したいとも思ってなく、ルイも貸せばいいや程度の認識。 ヴァリアン城にいた理由 最初のきっかけはおそらくイザベラの一言。 ヴァリアンがーヴァリアンがーと五月蝿かったのではなかろうか。 なんやかんやあって単身乗り込んだはいいものの、半幽閉されてしまったオチ。 プレイヤーキャラクター一覧へ Dominateメインメニューへ
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6606.html
前ページ次ページ虚無のパズル ブルドンネ街は、王都トリスタニアで一番大きな通りである。 真っすぐトリステインの宮殿まで続く白い石造りの通りには、露天や酒場が溢れ、大勢の人が行き交っている。 そんなブルドンネ街から一本入った通り、チクトンネ街の一角に、酒場『魅惑の妖精』亭があった。 一件ただの居酒屋なのだが、可愛い女の子がきわどい格好で飲み物を運んでくれることで人気のお店であった。 酒場の二階は小さな宿になっていて、その一室には、アルビオンから戻ったばかりのキュルケとタバサとギーシュ、そして眠っているルイズとティトォの姿があった。 シルフィードに乗ってアルビオンを脱出した一行は、ラ・ロシェールの町を飛び越して、そのままトリスタニアに飛んできたのだ。 シルフィードは幼生とはいえ立派なウインドドラゴンであるので、一日中飛び続けてもまだまだ元気であった。 しかし背中に乗っているタバサたちはそうもいかず、アルビオンからの長旅にすっかり疲れてしまっていた。 ティトォとルイズも眠ったままなので、一行は王宮へ報告に行く前に、宿をとって休むことにしたのである。 「なに、宿を取る?それならいいところを知ってるよ!」 そう言って『魅惑の妖精』亭を紹介したのはギーシュであった。 「いらっしゃいませ〜〜〜〜!あらあらまあまあ、これは貴族のお嬢さんがた!まあ綺麗!なんてトレビアン!店の女の子が霞んじゃうわ!」 店に入ると、背の高い、筋骨隆々の、ぴったりとした革の胴着を身に付けた男が出迎えた。『魅惑の妖精』亭店長のスカロンである。 やたらと身をくねらせるその姿は、まるでオカマであった。というか、オカマそのものであった。 タバサは無表情ながらも、若干げんなりした顔になっていた。 キュルケはというと、多少は面食らっていたが、世間慣れしているのですぐにそういう人なのだと受け入れたようだった。 「あら、お久しぶりね、貴族のおにいさん!最近来てくださらないから寂しいわ!本日はどうぞ楽しんでいってくださいましね!」 スカロンがギーシュに声をかけた。 「楽しんでいってくださいませ!」 店の女の子たちも、ギーシュに声をかけた。輝くような笑顔の女の子たちは、まるで下着姿のようなきわどいビスチェで身を包んでいる。 キュルケは、ややじとっとした目でギーシュを見る。 「あんた、こんな酒場に入り浸ってるわけ?」 「まあその。……たしなみとしまして」 ギーシュは真顔になって、優雅な仕草で言った。 「たしなみとしまして」 しかしその視線はあさっての方向を向いていた。 ギーシュはスカロンに頼んで、酒場の二階の部屋を宿として借りた。 アルビオンを脱出してからずっと眠ったままの、ルイズとティトォを寝かせる。 ティトォは頭に怪我をしていたので、タバサが『水』の魔法で治療した。 タバサは『水』の系統ではないので、あまりしっかりとした治癒の魔法は使えなかったのだが、ギーシュも宝石の精霊を使って治療を手伝った。 カルサイトとスモーキーウォークの宝石には、傷を治す精霊が宿っているのである。 二人のおかげで、ティトォの傷はすっかり消え去った。 そんなふうにして身体を休めていると、やがてルイズが目を覚ました。 「う……、ここは……」 そうだ、アルビオンから脱出して…… ルイズがむくりと身を起こした。しかし次の瞬間、 「あがごげ」 ルイズはうめいて悶絶した。身体強化の魔法で、普段使わない筋肉を酷使したので、ルイズは全身筋肉痛に襲われていたのである。 床をのたうちながら辺りを見回すと、そこは簡素な作りの部屋だった。小さなベッドが置かれ、その上にはティトォが寝かされていた。 「あら、お目覚め?」 キュルケがルイズに声をかけた。 そちらを見ると、キュルケは椅子に座って爪の手入れをしていた。すぐそばにはタバサもいて、本を読んでいた。ギーシュは机に突っ伏して、うとうといていた。 ルイズはキュルケを睨みつけた。床に寝かされていたせいで節々が痛かった。 「キュルケ!なによこれ!なんでわたしが床で、ティトォがベッドなの!使い魔とかそういう以前に、なんで女が床で男がベッドなの!ありえないでしょ!」 「ティトォは怪我をしてたのよ。あなた、傷一つないじゃない。怪我人がベッドよ」 なるほどルイズの身体には、すり傷ひとつなかった。 しかし、アルビオンでルイズは裏切り者ワルドと激しい戦いを繰り広げたのである。 風の槌で殴られ、風の刃で肌を切られ、一度など心臓まで止まった。 それらの傷は、ティトォが魔法で跡形もなく消してくれたのだ。 で、あるので、ルイズの身体は、筋肉痛を除けば健常そのものであった。 対してティトォは、頭に怪我をしていた。ルイズが逃げる時に階段に頭をぶつけたせいである。 そのことは申し訳ないと思うけど…… 「……なにかしら。ものすごく納得いかないわ」 ルイズは憮然としてこぼした。 「ていうかね、なんでこんなベッドがひとつしかないようなボロ部屋取ってんのよ。もっといい宿にしなさいよ」 「しかたないじゃない。あたしたち今手持ちがないの」 「はあ?なんでよ」 ルイズが顔をしかめて尋ねる。 するとギーシュが「うおっほん!」と、わざとらしい咳払いをした。ギーシュはなんだか目をそらしていた。 ルイズは首をかしげたが、やがて痛む身体に鞭打って立ち上がった。 「あら、どこへ行くの?ルイズ」 「姫殿下にご報告にいくのよ」 「あんたって生真面目ねえ。もう少し休んでからにしなさいよ、疲れちゃったわ」 「あんたたちは来ないでいいわよ、これはわたしが請け負った任ですもの。あんたたち勝手に着いてきただけじゃない」 「いったい、どんな任務だったのよ」 ルイズはふいと目を逸らした。キュルケが自分たちを先へ行かせる為に囮になったことを思い出して、話すべきかどうか少し迷ったが、やっぱり極秘の任務のことを教えるわけにはいかないのだった。 キュルケは眉をひそめ、それからギーシュの方を向いた。 「ねえギーシュ、あなたは最初からルイズに着いていってたわよね。アンリエッタ姫殿下が、あたしたちに取り戻せと命じた手紙の内容を知ってるんでしょ?」 ギーシュは薔薇の造花をくわえて、目をつむって言った。 「そこまではぼくも知らないよ。知ってるのはルイズだけだ」 「ゼロのルイズ!なんであたしには教えてくれないの!ねえタバサ、あなたどう思う?なんだかとってもバカにされてる気がするわ!」 キュルケは、本を読んでいるタバサを揺さぶった。タバサはされるがままに、ガクガクと首を振った。 ルイズはそんなふうに騒いでいる一同を残して、ドアの方へ向かっていった。 「じゃあね、行ってくるわ。すぐ戻るから」 隣国アルビオンを制圧した『レコン・キスタ』が、次はトリステインに侵攻してくるという噂を受け、王宮の警備は厳重になっていた。 アンリエッタにも、いつもなら簡単に拝謁できるというのに、王宮の門をくぐるまでに何度も厳重なチェックを受けた。 ディテクト・マジックで『魅了』の魔法などで何者かに操られていないか、魔法で化けていないかなど厳しい検査をいくつも通り抜けて、ようやくルイズはアンリエッタに目通りを許された。 王宮の執務室で、アンリエッタはルイズを出迎えた。 「ごめんなさいね、みんな不安なのよ」 ルイズの疲れた顔を見て、アンリエッタは苦笑する。 それからルイズに駆け寄ると、その身体をひっしと抱きしめた。 「ああ、無事に帰ってきたのね。嬉しいわ、ルイズ。ルイズ・フランソワーズ……」 「いだだだ!姫さま!ごめんなさい!痛い!離し痛い!」 ルイズは全身筋肉痛の身体を抱きすくめられて、悲鳴を上げた。 「あら!ごめんなさい!まあ、いやだわルイズ。ずいぶんと大変な旅だったようね……」 アンリエッタはルイズを来客用の椅子に座らせると、得意の水魔法でルイズの身体を流れる水を操り、ルイズの疲れを癒した。 姫殿下にそんな真似をさせるなんて!とルイズは恐縮したが、「いいのです。わたしのわがままで危険な目に合わせてしまったんですもの。これくらいはしないと、罰が当たるわ」というアンリエッタの言葉に素直に従った。 治療を受けながら、ルイズはアンリエッタに事の次第を説明した。 道中、キュルケたちが合流したこと。 アルビオンへと向かう道中、空賊に扮したウェールズと会ったこと。 ウェールズ皇太子に亡命をすすめたが、断られたこと。 そして……、ワルドと結婚式を挙げるために、脱出艇に乗らなかったこと。 結婚式の最中、ワルドが豹変し……、ウェールズに襲いかかり、ルイズが預かった手紙を奪い取ろうとしたこと……。 「あの子爵が裏切り者だったなんて……。まさか、魔法衛士隊に裏切り者がいるなんて……」 アンリエッタは青い顔で話を聞いていた。ルイズはポケットから手紙を取り出すと、恭しく差し出した。 「しかし、このように手紙は守り通しました。ワルドを退け、皇太子の御身も守り抜きました。『レコン・キスタ』の野望……、ハルケギニアを統一し、エルフから『聖地』を取り戻すという、大それた野望はつまずいたのです」 無事、トリステインの命綱であるゲルマニアとの同盟は守られたのだ。 しかし、命を救われたウェールズが、最後まで父王に殉じたのだと聞くと、アンリエッタは悲嘆にくれた。 「あの方は、わたしの手紙をきちんと最後まで読んでくれたのかしら。ねえ、ルイズ」 ルイズは頷いて、短く肯定した。 「ならば、ウェールズ様はわたくしを愛してはおられなかったのね」 アンリエッタは、寂しげに首を振った。 「ではやはり……、皇太子に亡命をお勧めになったのですね」 ウェールズは頑に「アンリエッタはわたしに亡命を薦めてなどいない」と否定していたが、やはりあれは嘘だったのだ。 「ええ。死んでほしくなかったんですもの。愛していたのよ、わたくし」 アンリエッタは水の魔法の治療を終えると、呆けた様子で椅子に座り込んだ。 「わたくしより、名誉の方が大事だったのかしら。みっともなく落ち延びるより、誇り高い死を望んだのかしら。ねえ、ルイズ」 「わかりませんわ」 ルイズは別れ際の、ウェールズの言葉を思い出していた。「アンリエッタに伝えてくれないか。ウェールズは勇敢に戦い、勇敢に死んでいったと」そう笑顔で言った王子様のことを、思い出していた。 「わたしには、殿方の理屈はわかりませんわ」 ルイズは目を伏せて言った。 しばらくの間、沈黙が部屋を包んだが、やがてアンリエッタがルイズに声をかけた。 「……ごめんなさいね、困らせてしまって。どうかそんな顔をするのはやめてちょうだい、ルイズ。あなたは立派にお役目通り、手紙を取り戻してきてくれたのです。誇りに思ってほしいわ」 「でも……、わたしがもっと強く、皇太子を説得していれば……」 「わたくしは亡命を薦めてほしいなんて、あなたに言ったわけではないのです。あなたが気にすることなんてないのよ」 それからアンリエッタは、にっこりと笑った。 「わたくしの婚姻を妨げようとする暗躍は未然に防がれたのです。我が国はゲルマニアと無事同盟を結ぶことができるでしょう。そうすれば、簡単にアルビオンも攻めてくるわけにはいきません。危機は去ったのですよ、ルイズ・フランソワーズ」 アンリエッタは努めて明るい声で言った。 ルイズはポケットから、アンリエッタにもらった水のルビーを取り出した。 「姫さま、これ、お返しします」 アンリエッタは首を振った。 「それはあなたが持ってなさいな。せめてものお礼です」 「こんな高価なもの、いただけませんわ」 「いいから取っておきなさいな。今回の任は密命ゆえ、表立って褒章を与えるわけにいきません。そんなものくらいしか授けられるものがないのよ、どうか許してちょうだい」 「そんなもの」とは言っても、売れば立派な庭付きの家が買えるであろう宝石だ。ルイズは恐縮し、受け取った。 それから、ウェールズから預けられた指輪のことを思い出し、反対のポケットからそれを取り出した。 「姫さま。これ、ウェールズ様から預かったものです」 アンリエッタは、その指輪を受け取ると、目を大きく見開いた。 「これは、風のルビーではありませんか」 「はい。別れ際、姫さまに渡してほしいと託されたものです」 「そうですか……」 アンリエッタは愛しそうに、そして少し寂しそうに、その指輪を撫でた。 アンリエッタがルビーを左手に通し、呪文を呟くと、リングの部分がすぼまって、アンリエッタの薬指にぴったりになった。 「ありがとうね、ルイズ。ウェールズ様の形見をわたくしに届けてくれて。これがあれば、わたしもう何も怖くはないわ」 アンリエッタは微笑んで言った。 「あの人は勇敢なる死を選んだけれど……、わたしは生きるわ。困難があっても、きっと勇敢に生きてみせる。わたしは女ですもの、生き急ぐ殿方の理屈はわかりません。でもそうすれば、ウェールズ様の魂に、わたしなりに近付くことができると思うの」 ルイズが『魅惑の妖精』亭に戻ると、ティトォが目を覚ましていた。 疲れていたキュルケたちも、ティトォの魔法ですっかり回復していたので、一行はそのままシルフィードに乗って魔法学院へと飛んだ。 「それにしてもすごいね、きみの魔法は」 ギーシュが肩をぐるぐる回しながら言った。長旅の疲れがすっかり抜けていた。 「ほんとに。こんなに便利だと、なにか副作用があるんじゃないかって疑っちゃうわ」 キュルケも感心したように呟く。 「副作用かあ、そういえば、そんな感じのものもちょっとだけあるなあ」 「ええ!こ、怖がらせないでくれよ!一体どんな副作用があるって言うんだい?」 「あはは。心配しなくても、命に関わるものじゃないよ。ほんのちょっとした……」 「んもう!じらすのがお上手なのね、ダーリンてば!ねえ、いい加減教えてくださらない?あなたたちが取り戻した手紙のこと」 ギーシュとティトォの間に、キュルケが割り込んできた。 手紙の内容に関して、ルイズがだんまりを決め込んでいるので、キュルケは今度はティトォに標的を変えたようだった。 ティトォがなにか言うより先に、ルイズがティトォの襟首を引っ掴んで引き寄せた。 ルイズはキュルケをじろりと見て「ご・く・ひ・に・ん・む・よ!」と一言ずつ区切って言った。 つまんないつまんなーい、と騒ぐキュルケを放って、ルイズはティトォを睨みつけた。 「そんなに睨まないでも、しゃべったりしないってば」 ティトォがルイズに気圧されて言った。 「違うわよ。睨んでないわよ。……睨んでた?」 「うん」 「そんなつもりじゃないのよ、ただね、あんたに言っておきたいことがあって」 そう言ってルイズはティトォを睨みつけた。本人は睨んでるつもりはないのだが、慣れないことを言うつもりなので、ついこんな顔になってしまうのだった。 「……その、ごめんね。あんたの頭のこと」 ルイズはもごもごと謝った。 ティトォは、何のことだろう?ときょとんとしたが、すぐにルイズが自分の頭を階段にさんざんぶつけたことを言っているのだと気が付いた。 「気にしてないよ」 ティトォはにっこり笑って言った。 ルイズはそんなティトォの顔を見て、言葉を続けた。 「ねえ、あんた。どうしてわたしを助けてくれたの?」 ルイズは、結婚式の前の日の夜、ティトォと喧嘩をしたことを思い出していた。 「ワルドに襲われたとき……、どうしてわたしを助けてくれたの?わたし、あんたにひどいこと言ったじゃない。でも助けにきてくれた。どうして?」 「どうしてって、あれはぼくも悪かったし。それに……」 ティトォは頬を掻いて、少し照れくさそうに言った。 「ルイズは友達だと思うから」 ルイズは目をぱちくりさせた。 「友達?」 「うん。アクアもあんな風だけど、結構きみのこと気に入ってるんだよ」 ルイズは急に照れくさくなって、頬を染めてそっぽを向いた。 「はん!ととと、友達ですって?貴族相手に気安いったらないわ!そうよね、考えてみれば、あんた使い魔だもの。主人を助けるなんて当たり前なのよ。それを友達だからなんて、もう、ほんとに。ふんとに」 ルイズはぶつぶつと文句を言ったが、本気で嫌がっているようすではなかった。 ティトォに『友達』と言われたとき、ルイズはなんだか胸があったかくなった。 考えてみれば、ルイズは友達が少なかった。『ゼロのルイズ』と馬鹿にされ、そのたびツンケンと周りに噛み付いていたルイズの周りには、あまり人が集まらないのだった。 鋭い洞察力を持つわりに、人の心の機微にはわりと疎かったりするティトォだが、ルイズの態度は非常にわかりやすかったので、その文句が本心でないことは簡単にわかった。 「はいはい、ご主人様」 ティトォは笑って、ルイズの頭をぽんぽんと撫でた。 「そういうのが気安いって言ってんのよお〜〜!」 むきー!とルイズが食ってかかる。 そんな二人の様子を見て、キュルケは「なんだかあの二人、兄妹みたいねえ」と言った。 タバサはいつも通り、興味なさそうに本を読んでいた。 そしてギーシュはというと、言い合っている二人に近付くと、ルイズに声をかけた。 「ルイズ。その、なんだ。聞きたいことがあるんだが……」 「あによ」 ギーシュは薔薇の造花をいじりながらルイズに尋ねた。 「姫殿下は、その、ぼくのことをなにか噂しなかったかね?頼もしいとか、やるではないですかとか、追って恩賞の沙汰があるとか、その、密会の約束をしたためた手紙をきみに預けたとか……」 ルイズはちょっとだけギーシュが気の毒になった。アンリエッタはギーシュの『ギ』の字も話題に上らせなかったからだ。 「その、なにか噂しなかったかね?」 突然突風が吹いて、シルフィードは身体を揺らした。 とと、とギーシュがバランスを崩したのを見逃さず、ルイズはそっとギーシュの身体を押した。 ギーシュは風竜の身体から落っこちて、ぎぃやぁああああああ、と絶叫した。途中でギーシュは杖を振り、『レビテーション』で浮かぶことができたので、危うく命を落とすことは免れた。 「ひどくない?」 ティトォが突っ込んだ。 「いいのよ、ギーシュだし。半日も歩けば学院に付くでしょ」 ニューカッスルの王城は、惨状を呈していた。城壁は度重なる砲撃と魔法攻撃で、瓦礫の山となり、無惨に焼けこげた死体が転がっている。 攻城に要した時間はわずかであったが、反乱軍……、いや、新政府『レコン・キスタ」の損害は想像の範疇を超えていた。 三百の王軍に対して、損害は三千。怪我人を会わせれば五千。 戦死者の数だけ見れば、どっちが勝ったかわからないくらいであった。 浮遊大陸の突端に位置した城は、一方向からしか攻めることができない。密集して押し寄せたレコン・キスタの大軍は、魔法と大砲の斉射を何度もくらい、大損害を受けたのである。 どうしようもない戦力差であるにもかかわらず、王軍の士気は高かった。ウェールズ皇太子が自ら先陣切って、王軍を導いたことが大きい。 対してレコン・キスタの士気は低かった。人間、勝ちの見えている戦となると、死にものぐるいで戦うよりも、生き伸びることを優先して考えてしまうものである。 しかし、所詮は多勢に無勢。一旦城壁の内側に侵入されると、王軍はもろかった。 なにせ王軍のほとんどはメイジであり、詠唱の時間を稼ぐ護衛の兵を持たなかったのである。 王軍のメイジたちは、群がるアリのような名もなき『レコン・キスタ』の兵士たちに一人、また一人と打ち取られ、散っていった。 敵に与えた損害は大きかったが……、その代償として、王軍は全滅した。文字通りの全滅であった。最後の一兵に至るまで、王軍は戦い、斃れた。 かくして、アルビオン革命戦争の最終決戦、ニューカッスルの攻城戦は、百倍以上の敵軍に対して、自軍の十倍以上の損害を与えた戦いとして、伝説となったのであった。 戦が終わった二日後、ニューカッスルの城。死体と瓦礫が散らばる中、死体から金目のものを奪い取る金貨探しの一団に混じって、戦跡を検分する長身の貴族がいた。 それは誰あろう、ワルドであった。水の治癒魔法で、全身に負ったひどい火傷の跡はほとんどが消されていたが、完全に治すことは難しく、今でも肌がちりちりと痛んだ。 「随分と手ひどくやられたみたいだね」 彼の隣に経つ女のメイジが、そういって薄く笑った。ワルドと合流した、土くれのフーケであった。 「言ったろ?あの小僧を甘く見るなってさ。なにしろあいつは、不思議な魔法を使う。攻撃力はないけど、あの魔法にわたしのゴーレムは倒されたんだ」 「ふん……、さすがは『ミョズニトニルン』と言ったところか」 ワルドは感情を抑えた声で嘯いた。 歩いていくと、ワルドの爪先が転がる死体を蹴飛ばした。足下を見ると、それは右半身が焼けこげたウェールズの死体であった。右の腕と足は完全に炭化していて、ワルドが蹴飛ばしたときの衝撃で、ばさりと崩れた。 フーケはその凄惨な死体に、思わず目を背けた。 「どうした?土くれよ。アルビオンの王家は貴様の仇だろうが。王家の名の下に、貴様の家名は辱められたのではなかったか?」 「そうね。そうなんだけどね」 フーケは冷たい声で言った。 「王様……、王子様って言っても、死ぬ時はあっけないもんだね」 やがて二人は、城の隠し階段を下り、ニューカッスルの秘密の港を発見した。その地面に開けられた大穴を見て、ワルドは思わず舌打ちをした。 戦跡にルイズとその使い魔の少年の死体はなかった。つまり、この穴を掘って、二人は逃げ仰せたのだろう。 ワルドの顔が怒りに歪む。ルイズを手に入れることと、ウェールズの命を奪う……ウェールズをあのとき確実に始末できていれば、レコン・キスタの損害がここまで大きくなることもなかったろう……こと。 この二つの目的を果たせなかった今、せめてルイズの死体からアンリエッタの手紙を奪おうと、戦跡検分に来たと言うのに……。 遠くから、そんなワルドに声がかけられた。 「子爵!ワルド君!件の手紙は見つかったかね?その、なんだ。アンリエッタがウェールズにしたためたと言うラヴレターは……、ゲルマニアとトリステインの婚姻を阻む救世主は見つかったかね?」 そういってやってきた男は、歳のころ三十代の半ば。高い鷲鼻を持ち、丸い球帽を被った、一見聖職者のように見える男。帽子の裾から、カールした金髪が覗いている。 「閣下。どうやら手紙は、穴からすり抜けたようです。私のミスです、申し訳ありません。何なりと罰をお与え下さい」 ワルドは跪き、頭を垂れた。 「なに!そうか……」 閣下と呼ばれた男は、あからさまに失望した表情を浮かべたが、すぐに人なつっこそうな笑みを浮かべて、ワルドの肩をぽんと叩いた。 「顔を上げたまえ、子爵。きみはこれまで、目覚ましい働きをしてくれたのだ。手紙の件は残念ではあるが、なに、きみのような優秀なメイジを、たった一度の失敗で罰することなどできはしないよ」 ワルドはかしこまった態度を見せ、謝罪を繰り返した。 「なに、同盟は結ばれてもかまわん。どのみちトリステインは裸だ。余の計画に変更はない」 ワルドは立ち上がり、会釈した。フーケはそんなワルドに身を寄せ、小声で尋ねた。 「ワルド、この人……、いえ、この方は」 「紹介していなかったな」 ワルドが恭しい態度で、球帽の男を指し示した。 「貴族議会の投票により、『レコン・キスタ』総司令官に着任された、オリヴァー・クロムウェル総司令……、つまりは、アルビオン新皇帝その人だ」 トリスタニアから学院に戻った次の日は、虚無の曜日であった。 ティトォはうきうきと図書館に向かっていった。久々に魔法学院の蔵書を堪能できるのが嬉しいのだろう。その足取りは今にもスキップしそうなくらい、浮かれていた。 ルイズは相変わらず好き勝手な使い魔にため息をついたが、アルビオンへの旅ではずいぶんとティトォに助けられたので、大目に見ることにした。 ルイズはというと、久々に厨房に顔を出すことにした。今度こそおいしいクックベリーパイを作りたかったし、それになんだか、シエスタの顔を見たかったのだ。 ルイズはトリスタニアからの帰り道、ティトォに言われた言葉を思い出していた。 「ルイズは友達だと思うから」 友達。 わたし、シエスタのことを友達だと思ってるのかしら。 シエスタはわたしによくしてくれるし、わたしの趣味のお菓子作りに付き合ってもくれる。おしゃべりの相手にもなってくれるわ。 でもでも、それはシエスタが使用人だから。メイドだから、わたしに従ってるのよね。 平民と貴族の友情なんて、おかしいことよね。 そう、恩義。わたしが感じているのは、わたしによくしてくれる、つまりシエスタの忠誠に対する、恩義なのよ。 忠誠には報いるところが必要だものね。 そんなふうに、誰にともなくルイズは言い訳した。 厨房に行くと、シエスタは快くルイズを迎えた。 それから二人は、パイ作りを始めた。ルイズはパイを作るのはまだ二度目だが、その前にクッキーやスコーンを何度か作っていたので、慣れた手つきだった。 数刻後、見事なクックベリーパイが焼き上がると、二人はお茶会を開いた。 切り分けられたパイを、パイくずが散らからないように、気をつけてかじる。パイ皮の、さっくりとした歯触りが心地良い。 前回は失敗しちゃったけど、今回は大成功ね。ルイズは満足げに、紅茶をすすった。 ふとシエスタを見ると、シエスタは真顔になって、手にした自分の分のクックベリーパイを見つめていた。 「……パイ皮はパリパリとして香ばしく、ふわっと軽い食感……、甘さもバターも控えめ、だからこそクックベリーの自然なおいしさが生きてくる。素朴でいて、なんて奥ゆかしい味わい……!」 シエスタの肩は、小さく震えていた。尋常ではないシエスタの様子に、「どうしたの?」とルイズが声をかけようとすると、シエスタが熱っぽい目でルイズを見つめてきた。 「……素晴らしいです、ミス・ヴァリエール。たったの二回で、ここまで素晴らしいパイを作り上げてしまうとは……」 「そ、そう?ありがと」 「このまま上達を続ければ、料理長のマルトーさんにも匹敵する職人に……、いえ、すでにマルトーさんを超えているやも知れません。ミス・ヴァリエール。あなたは天才、まさに天才です!」 誉められるのは悪い気分ではなかったが、シエスタの態度はいくらなんでも大げさに見えた。 ひょっとしておべっか使われてるのかしら?と疑念が浮かんだが、シエスタの顔は真剣そのものであった。 「ああ、許されるならずっとここに残って、厨房を支えてほしい……、いえ!むしろわたしの故郷にいらして!わたしの嫁になっていただきたいわ!」 「ちょ、ちょっとシエスタ。落ち着きなさい」 シエスタのあまりの剣幕に、ルイズは後じさった。そんなルイズを見て、シエスタは我に返る。 「……すみません、取り乱しました。不敬をお許しになって……」 しゅんとシエスタは肩をすくめた。いいわよ別に、とルイズが言うと、シエスタは嬉しそうにぺこりと頭を下げた。 「しかし、ミス・ヴァリエール」 シエスタは、また真顔になって言った。 「どんなパイの職人でも、越えられない壁があるのをご存知ですか?どんな天才でも、達することのできない域があることを」 シエスタの真剣な様子に、ルイズは思わずごくりと唾を飲んだ。 「越えられない壁?それは一体……」 「それは……」 シエスタは一拍置いて、厳かにその言葉を口にした。 「パイ神様です」 「パイ神様!?」 「そう……、パイ職人に突然降りてくる神のことです。神が降りてきた時に作られたパイは、すべてを超えた究極の芸術品!パイを超えたパイ、『スーパーパイ』です」 「スーパーパイ……」 「かく言うわたしにも、パイ神が降りてきたことがあります。そのとき作ったパイをわたしはまた作ろうとしました。しかし、無理でした」 シエスタは遠い目をして言った。 「気まぐれな神です。いつ降りてくるかもわからない。しかし、心の底からパイを愛し、パイ神に認められた者ならば、その力を手に入れることができるはずです」 す、とシエスタはルイズの手を握った。 「ミス・ヴァリエール。あなたならできるはずです。パイ神の力を自分の物とすることが……!」 どこまでも真剣なシエスタの瞳に見つめられ、ルイズは高揚にどくんと胸が高鳴るのを感じた。 「……わかったわ。できるかどうかわからないけど……、いえ、必ずできるわ!やってやる!」 「そうですか!パイ神を目指しますか!」 きゃあきゃあと嬉しそうにシエスタは跳ねた。 「ええ!もちろんよ!」 「まあ、まあ!それでは……」 シエスタはどこからか、羊皮紙に印字されたパンフレットを取り出した。 「このパイ神教に入会しましょう!」 「ええ!」 「月に一回この会報が発行されます!年に二回はパイの祭壇にて集会も開かれます!」 「ええ!」 「入会金は40エキュー!年会費は200エキューです!」 「ええ!」 「入信者にはもれなくパイ神ピンバッヂが付いてきます!」 「ええ!」 残念ながら、彼女たちを止めてくれるツッコミ役は、この場にはいなかった。 前ページ次ページ虚無のパズル