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このページはこちらに移転しました マジカルドリーマー 作詞/俺 TA・RA・CHAN!TA・RA・CHAN! 薬を決めリャ 眼前trip! お前の尻にも 断然フリスク! ワカメはレイプ! カツオは万引き! マスオはリストラ! サザエは不倫! TA・RA・CHAN!TA・RA・CHAN! ハーイ!バブー!チャああああああああン!!!!! TA・RA・CHAN!TA・RA・CHAN! 何時でもLocck in 俺は借金! YOUの名前も 既に保証人! 船は痴呆! 波平育毛! ノリスケリストラ! タイコは入信! TA・RA・CHAN!TA・RA・CHAN! ハーイ!バブー!チャああああああああン!!!!! TA・RA・CHAN!TA・RA・CHAN! TA・RA・CHAN!TA・RA・CHAN! (このページは旧wikiから転載されました)
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前ページゼロと在らざるべき者 フーケの小屋の中で見つけた「破壊の剣」、それに手を触れた瞬間、ルイズの周囲が――世界が弾けた。 気付けばルイズは漆黒の世界の中に浮かんでいた。 ただただ広い、ただただ深い闇。 その闇の中に浮かぶ無数の星々。 そんな距離も自分の位置も向きすら分からない漆黒の世界。 「これは……ここは……?」 ここがどこで、ここが何で、なぜここにいるのか、何も分からない。何も考えることが出来ない。ただただ際限なく広がっている世界を前にルイズは圧倒されていた。 呆然とするルイズ。どれほどそうしていただろうか、気づくとルイズの目の前に星の一つが漂っていた。何気なく手を伸ばしたルイズの意思に応じるように、その小さな星がルイズの手に収まるようにふわりと飛び込んでくる。 「うわぁ……これが、星……? こんな風に見るなんて……すごい」 ルイズの手の中で光る星、その中には一つの世界があった。広大な大洋に浮かぶ島々、水を切って行き交う巨大な帆船、その船を飲み込もうとする白い四本腕の怪物。怯える船員を押しのけ、慌てて甲板に飛び出す一人の男。 「ああっ、危ない! 逃げないと……」 驚き心配するルイズをよそに、男は怪物を見据えると一つ深呼吸をして心を落ち着かせ、きっと睨み返しながら腰の皮袋から一枚の石版を引き抜いた。それは先ほどルイズが目にしていた「破壊の剣」 とは少々形状と大きさが違うものの―― 「カード!? それじゃあこの男は?」 ルイズが覗き込む星の中で、男はカードを手に一声叫ぶ。ルイズの知らない言語での呼びかけ、それに応えてカードが展開する。板状だったカードが中央とその周囲のパーツに別れて広がってゆく。 その広がってゆくカードの中央から、四本腕の怪物の半分に満たない程度だが同じく怪物が生まれる。現れた怪物は全身が水で形作られた水人間というべき存在。それが船に近づく四本腕の前に立ちはだかり拳を振るう。負けじと四本腕も水人間に襲い掛かるが、水人間の体は飛沫を上げるだけですぐに飛び散った水が集まり人型を取り戻す。。 そんな異形の戦いを思わず拳を握りながら見守っていたルイズだが、いつの間にかその周囲にまたいくつもの星が集まっていた。ある星の中には不毛の荒野で粗末な鎧の盗賊がカードを手に亜人を率いて村を襲い、ある世界ではドラゴンが奇妙な剣を手にしたメイジ ――いやセプターによって打ち倒され、ある世界では大量の矢が飛び交う戦場で平然とジャグリングを演じるピエロが笑っていた。角ばった塔が林立する中を走る道を大量の人が埋め尽くす街があった。 火の雨が降り注ぎ人々が逃げ惑う光景があった。薄暗い樹海を生き抜く小さな獣の一生があった。 いくつもの星々、その中にある全く知らない異郷の風景、次々に集まっては散ってゆく星の見せる世界にルイズは見入っていた。だがある一つの星に手を伸ばした時、突然周囲を強い光が満たし始める。驚きの声すら塗りつぶす強い光、両手をかざしながら光源へと向き直ったルイズの前に、光を背負った巨大な人影が立っていた。 「始祖……」 思わず呟くルイズ。ルイズたちハルケギニアの人々にとっての絶対の存在である始祖ブリミル、それを思わせるほどの強大な存在感を持ったものが彼女の前に居た。 ――――力を使え 厳かな「声」がルイズの心に刻まれる。突然心の中に侵入してきた「声」に戸惑うルイズだが、そんなことは意に介さず「声」は続く。 ――――その手に集めよ 「声」と共に、本のイメージが心に浮かぶ。その本がパラパラとめくれて行き、やがて最後のページに到達するとばらばらになって散り散りになる。 ――――時を越え ばらばらになったページが平原に、海に、森に、雪原に、砂漠にとさまざまな場所に降り注ぐ。 ――――目指せ それらのページ、カードに何者かが手を伸ばし…… 覚醒。 突然の轟音。 小屋が震え、窓の板戸が、続いて屋根が根こそぎ吹き飛んでゆく。 「な、何が……!」 突然開けた周囲の風景。今までのことは、今の轟音は何なのか、この光景は何なのか、驚愕の連続にルイズは混乱のまま轟音のする方へ目を向ける。そこにあったのはさらなる驚愕だった。 屋根がなくなった小屋から見える周囲の木々とそこにそびえる巨大なゴーレム――土くれのフーケ。だがそれ以上にルイズたちを驚かせている物、それはルイズの手の中にあった「破壊の剣」、このただの石版だったものが姿を変えつつあったのだ。 「これは……カードが……」 「ル、ルイズ!? もしかしてこれが破壊の剣の本当の姿なわけ?!」 現れたフーケのゴーレムを前にして浮き足立っていたキュルケとタバサが今の状況も忘れて変容する破壊の剣を見つめていた。その変化しつつあるカードを呆然と見つめていたルイズの唇が、無意識に脳裏に浮かんだ言葉を呟いた。 「ストーム、コーザー」 胎動。 その言葉が紡がれた瞬間、「破壊の剣」はルイズが先ほどまで見ていた星の中の世界のよう、その中に秘められた力を顕現させた。 「なんてこったい、大当たりだよ。まったく生徒なんかがやって来ちゃ誰も使い方が解らないと思ったら……何とか生け捕りにして使い方を吐かせてやらないとね」 小屋の方へと足を進めるゴーレムの上で、土くれのフーケは姿を変えつつある「破壊の剣」を見下ろし不敵な笑みを浮かべながら呟いた。学院から破壊の剣を盗み出したフーケだったが、箱の中に収められていたのは小さな石版一枚だけだった。なにのマジックアイテムだろうとは思うのだが、破壊の剣の名を呼ぼうと、思いつく限りの呪文で呼びかけても何をしても反応しない。このままでは魔法学院の宝物庫から危険を冒して使えないゴミを持ち出したことになってしまう。それ故フーケはさらなる危険を犯すことになるものの学院へと取って返して教師達を破壊の剣の元へとおびき出して使い方を知ろうとしたのだ。 結果としてこの芝居は成功したものの、教師達は身の危険と任務に失敗した時の責任に二の足を踏んでなぜか生徒がやって来てしまった。しかし、その生徒の中に「破壊の剣」の使い方を知る者が居たというのはとてつもない幸運である。 「さぁて、森の中じゃこのゴーレムから逃げるなんて無理だろうねぇ。 再生する私のゴーレム相手にどこまでやれるかい?」 「おお、ルイズ様はやはりセプターの才が……」 展開してゆくカードの姿を前に感激の声を漏らすミゴール。見守るキュルケとタバサ。その前でようやく、カードの中に秘められていた物が姿を現した。 最初に飛び出したものは、禍々しい鉤爪。それを先端に付けた昆虫のような、百足の胴体のような足が続けて何本も飛び出して展開したカードの淵を捕らえ、びきびきと力が込められて行く。 みちりみちり、そんな音を漏らしながら、カードから飛び出した足が中からその「破壊の剣」そのものと言うべき物を引きずり出す。 最初に引き出されたのは眼、緑に光る眼球。それが瞬きをするたびに単眼と複眼に入れ替わる。その眼の先に存在する刀身には人の顔が刻み込まれていた。それも慟哭に震えるかのような、恐怖と絶望に染められたデスマスクである。 現れたのは禍々しくおぞましい魔剣。赤黒く塗れた刀身に緑の光を灯す眼、ギチギチと蠢く柄から伸びた鉤爪のある触手――まさに 「破壊の剣」と言う名に違わぬ恐怖を与える姿だった。 「これが……破壊の剣だって言うの……こんな物が、学院の宝?」 迫るフーケのゴーレムよりも、この剣に恐怖を感じて一歩後ずさるキュルケ。ルイズはそれに構わず視線を傍らのミゴールに移す。 顔を上げるミゴールと眼が合う。無言で力強く頷く己の使い魔の姿に、ルイズも頷き返す。今、ルイズの心の中には先ほどの混乱と驚愕は既に無く例えようも無く落ち着いていた。自分の心が、精神が、ルイズという存在が「広がった」、そんな感覚がルイズにあった。 「ミゴール、この剣で勝てるわね?」 「お任せ下さい」 短い言葉。ルイズとミゴールの意思を受けて、破壊の剣が担い手としてその鉤爪の生えた足をミゴールに伸ばして右腕に食らい付き同化してゆく。黒い血が飛び散り腐臭と煙を上げ、ボコボコと皮膚の下に剣の足が潜り込む。そのおぞましい姿に青ざめるキュルケとタバサだったが、ルイズは顔色を変えずにその様子を見届けると、一言命令を下した。 「やりなさい」 フーケはゴーレムの上から小屋の中での「破壊の剣」の変化を見届け、ルイズを人質にしようとゴーレムに腕を伸ばさせながら一歩踏み出そうとした。だが、その視線の先でルイズがその使い魔―― 昨夜にただの鉄の棒を投げつけてゴーレムの体を抉った亜人に破壊の剣を持たせるのを見て一瞬体が凍った。頭の片隅で、盗賊としての勘が猛烈に警鐘を鳴らし始める。これは危険だと、ゴーレムの力を過信するなと、今すぐ逃げろと本能が叫ぶ。トライアングルメイジとしてのプライドが、土くれのフーケという自負がそれを押し止めようとするが―― 「ちっ、こういう勘は当たっちまうもんだよっ」 吐き捨てるとゴーレムの肩を蹴り後ろへ跳躍しながらレビテーションを唱える。結果として盗賊としての勘に従った行動が、プライドによる躊躇いが、その双方がフーケの命を救った。 「コオォォォォォォォ!」 「ッガアアアアアアア!」 二つの咆哮。一つは洞窟を吹き抜ける風のような空虚で寒々しい心を乱し引き裂く声。もう一つは昨夜も聞いた、敵に死の先触れの恐怖を刻む荒々しい闘争の雄叫び。 爆音に近いほどの猛烈な突風が吹き荒れ、残った小屋の壁が舞い上がり風に砕け、直後に風が収束して収まる。その風が収束した中心、そこにあの亜人が破壊の剣を腰だめに構えてゴーレムを見据えている。その右腕は破壊の剣と一体化し、亜人と破壊の剣、双方の禍々しい外観が相まって、おぞましい異形の怪物となっていた。 「グゥゥ、ゴアアアアァァ!」 振り抜かれる破壊の剣。 その刀身から迸った物は、風。ミゴールの雄叫びすら飲み込み吹き荒れる嵐を刃として押し固めた破壊の刃。それは大地を抉り木々を切り裂く。ぶ厚いゴーレムの胴をあっさりと両断してフーケの足元数メイルの空間を突き抜け、それでも止まらずその背後の森を斬り進む。 「くっ、さすが学院の秘宝だね……だけど両断されたくらいならまだ再生は」 空中で幸運にも嵐の刃を身に受けずに済んだフーケが、さらなる破壊に巻き込まれる。押し固められた嵐が解き放たれ爆裂する。風が爆発する、新たに小さな刃がでたらめに飛び散る、また爆裂する。 嵐の刃を追いかけるように走る風の爆発が両断されたゴーレムを粉々に砕き、フーケを深い森の中に吹き飛ばし、そして森を1リーグに届く程も切り開いた。破壊の剣の一振り、たったそれだけのことがこれ程の破壊を巻き起こしたのだった。 「あぁ、そっちはどう?」 「……(ふるふる)」 「そう……やっぱり、あれに巻き込まれて……」 使い魔の風竜から降りたタバサからの返答に沈むルイズ。フーケをただの一撃で撃退した「破壊の剣」の破壊力はすさまじいものだったのだが、如何せん破壊力が大きすぎたのだった。森を切り開くほどの破壊力はルイズたちが乗ってきた馬車にも及んでいた。嵐の刃の痕跡が残る末端付近なのだが、それでも馬車は目茶目茶に砕け散っており、馬車を牽いていた馬も無残に「散らばって」いる。 あの破壊の剣の一振りでフーケのゴーレムが破壊されたのは一目瞭然、だというのにミス・ロングビルは一向に現れる気配が無かった。フーケのゴーレムが破壊されたというのに、周囲の警戒に残ったミス・ロングビルが現れない理由……考えられるのは、フーケに捕らえられたか破壊の剣に巻き込まれて気絶している、あるいは…… と、その時森の木々の間を縫って空に火球が一つ昇り爆発した。 はっとしたタバサがレビテーションを使い木々の上に浮かび上がる。 その視線の先で、髪に木の枝をつけたキュルケが気絶したロングビルを抱えて飛んできていた。 「全く、感謝して欲しいわねルイズ。私が見つけなかったら気絶したミス・ロングビルを死んだことにして帰っちゃう所だったのよ?」 「むぐ……でもあんたがやったことってそれだけじゃない」 「何よ、そもそもミス・ロングビルが気絶したのはあんたのとこのせいじゃない」 気絶したミス・ロングビルの手当てをするタバサ――水の系統魔法に加えて応急手当の心得もあるそうだ――の横で言い争うルイズとキュルケ、その騒がしさによってか手当てのかいあってか、そのまぶたがゆっくりと開かれる。 「眼が覚めた」 タバサの声に、ルイズとキュルケは慌てて言い争いをやめてロングビルの様子を窺う。三人が見守る前でロングビルは上体を起こしながら何度か瞬きをする。そして、 「なっ、あ、あんたらっ!?」 慌てて跳び退ろうとするが、先ほどまで気絶していた程の打撲と感覚の狂いに疲労で地面に倒れこむ。キュルケが慌ててその体を抱き起こし、ルイズと共に声を掛ける。 「大丈夫?! ミス・ロングビル、しっかりして」 「ミス・ロングビル、もう大丈夫です。フーケは倒しました、もう安全ですから」 体を支えられた上体で前後から声を掛けられることで、だんだんとロングビルも落ち着きを取り戻して目覚めた直後の怯え慌てた様子も収まった。目覚めたロングビルにタバサがいくつか質問しつつ体の調子を確かめて骨折などの様子が無いことを確認する。 「ああすみません、ご心配をおかけして……すっかり足を引っ張ってしまいましたわ」 「お気になさらないでミス・ロングビル。それもこれも加減を知らないヴァリエールがいけないのですわ」 口元を隠しながら笑うようなしぐさをするキュルケ。それに反論しようとするルイズだったが、その前にロングビルが慌ててルイズの肩を掴んで問いかける。 「そうですわ、破壊の剣ですわ! ミス・ヴァリエール、破壊の剣の使い方は、今どこに!?」 「ちょ、ミス・ロングビル落ち着いて……」 「ですから、破壊の剣はっ」 と、そこでロングビルの言葉が途切れる。ずい、と半身を黒く汚したミゴールが無言で歩み寄るとロングビルの体に手をかけて持ち上げる。というか体が宙に舞った。自由落下を経てどさりと地面に激突する。 「ご無事ですかルイズ様?」 「ミ、ミゴールあんた怪我人に何してんの!」 ルイズの傍に控えていたミゴールが強引にロングビルの体を放り投げたのだ。先ほどの破壊の剣を振るった際の傷が開いて黒い血が滴っている怪我人の一人なのだが、多少動きが鈍い程度でどうもあまり気にした様子が無い。とりあえずミゴールは大丈夫そうだと判断したルイズは再び慌ててロングビルの元へと駆け寄る。 「落ち着いて下さい、ミス・ロングビル。破壊の剣は無事取り戻しましたわ。ほら、ここに」 そう言って胸元にしまって置いたカードを取り出すルイズ。だがロングビルは苦しそうに身を起こしながら首を振る。 「いえ、ミス・ヴァリエール……その破壊の剣は学院の秘宝でありながら誰も使い方が解らなかったそうです。もし使い方が解るのであればやって見せて頂けませんか? そこまで確認しなければ……」 苦しそうに言葉を紡ぐロングビルの様子に、ルイズは頷いてカードを手にその名を唱える。 「ストームコーザー」 再び展開するカード、そこから現れる禍々しい魔剣を見てロングビルはにやりと微笑んだ。現れた破壊の剣――ストームコーザーに手を伸ばすルイズに、ロングビルは渾身の力を振り絞って飛び起きて思い切り突き飛ばす。 「な、ミス・ロングビル!?」 驚愕するルイズたち、その前でロングビルがストームコーザーを手に取って倒れたルイズに突きつける。その表情は苦痛と疲労、そしてそれ以上の悪意で歪んでいた。 「やれやれ、こんなことになっちまうなんて予想外だよ。でもまあ予定通り人質も取れたし……げほっ、結果オーライってとこかね」 「ミス・ロングビル……いえ、もしかして……」 突き付けられた刃の下でルイズが睨む。その視線を受けてロングビル、いやフーケが悪意に満ちた笑顔を返す。 「そうさ、わたしが土くれのフーケさ。盗んだのはいいんだけど、使い方が解らなくてね。ふん、要するに全然関係ない名前が付いてただけかい」 フーケはキュルケ、タバサ、ミゴールの様子を見守り牽制しつつどうやって逃げようかを考え始める。だが、いかにも悔しそうにしているキュルケに対して(タバサはいまいち解らないが)ルイズとミゴールの様子が妙に落ち着いている。特に、あの忌々しい亜人のミゴールはやたらと主人に忠誠心が強く、先ほど怪我人のフーケが主人の肩に手をかけただけで宙に放り投げるほどだ。それがこうして剣を突き付けられた主人を遠巻きに見ているだけというのはおかしい、何かを企んでいると見るのが正解だろう。 ならば、とフーケは考えを変えた。もうみんな殺してしまおう、全員この場で殺して、しばらく休んで体力が回復したら死体5人分になるほどばらばらに刻んで逃げればいい、それが一番確実だ、そう考えた。 常識的に考えればそれが確実な手段だったろう。だが、今この場この状況においてはその判断は致命的な失敗だった。いや、これを 「フーケが判断を誤った」と言い切るのは酷なことだろう。フーケは知らなかったのだ。ストームコーザーがどういう剣なのか、ミゴールがどのようにしてこの剣を右腕にとったのか、そして、ミゴールの血が「黒い」ということを知らなかった。故に気づけなかったのだ、魔剣が放つ破壊力の代償が何なのか。 このフーケの攻撃の意志を、殺意を、右手の魔剣は鋭敏に感じ取り、彼女を次の自身の担い手と認めて――その触手を伸ばし、体に突き立てた。 鮮血が舞った。 邪悪な笑顔を浮かべたままのフーケの首がぼとりと転がる。 バケツをひっくり返した、と形容されるようにルイズの上に血が溢れる。ストームコーザーがフーケの右腕を咥えたまま地面に突き刺さる。 血を溢しながら立つフーケの体は右腕から右胸までが、一瞬にしてストームコーザーの触手によって綺麗に食い千切られていた。 起き上がるルイズに押されてどさりと倒れるフーケの体。 思わず嘔吐するキュルケ。破壊の剣に杖を向けるタバサ。 それをよそにルイズはマントで顔を乱暴に拭い、軽く精神を集中する。するとそれに応えて破壊の剣は再びカードに戻った。そう、カードはルイズが己の意志でその内に秘められた力を解放していただけであるため、ルイズがカードに戻そうと思えばフーケの命を奪う前にカードに戻すことも出来たのだ。だがそうしなかった。始めて得た「己の」力に酔っていたのだろうか、それともこんなことに慣れなければいけないという無意識の決意なのだろうか。フーケの死の証である鮮血に濡れながら、ルイズは先ほどの行動を思い返し、なんとなく口に出して思い返してみる。 「私も随分変わってしまっていたのね。ミゴールを召喚して、カルドセプトなんて神話を知って、ミゴール族を救うと誓って……私がカードが使えると知って……ふふ、そしてフーケを見殺しに、いいえ、フーケを殺して……なのにこんな風に落ちついてられるなんて」 口にした瞬間、ルイズの体に一瞬震えが走った。口にしたことではっきりと自覚した。落ち着いてなどいない、ただ理解できなかっただけだ、理解を拒否していたんだと気づいてしまった。 私は、人を殺した。 震えが手にも伝播する。いけない、そう直感する。このままでは自分が壊れる、そんな思いが脳裏に浮かぶ。耐えなければいけない。 フーケは罪人だ、自分達を襲った、それに貴族ではない、むしろ賞賛される行為だ、そんな自分を弁護する言葉が次々と思い浮かぶが、そんな考えを勢い良く頭を振って追い出す。飛び跳ねた血の飛沫に遠巻きに様子を窺っていたキュルケが小さな悲鳴を上げたが、ルイズは構わず己の使い魔を呼ぶ。 「ミゴール。こいつの、首を、持って帰るわ。こんな表情なんだもの、証拠としては十分でしょ」 「はっ」 足元の生首を示しながら必死になんでもない様子を装う。私はこんなことに動じたりはしない、父様と母様も戦争を経験しているのに、その娘の私が盗賊退治で「人を殺してしまった」なんて言えるものか、父様と母様に「人を殺しす感じにどうやって慣れたか」と教えてもらうつもりか。自分に言い聞かせ、心に湧き上がる恐怖と後悔に必死で耐えた。そうして傍らにやってきたミゴールと共に、フーケの首をその手に取って、フーケのローブで包む。震えそうになる両腕と足を叱咤しながら、行動によってルイズは死を乗り越えようしていた。 そうして昨日までならば想像すら出来なかった行為を終えたルイズは血にまみれた袋を手に提げながらキュルケたちの方へ振り返る。 ルイズはなんでもない風を装いながら、しかし強張った表情と声でキュルケとタバサに告げた。 「ねえキュルケ、タバサ、帰る前に頼みがあるんだけど。私が「破壊の剣」の使い方を知っているってこと、秘密ね。……絶対に言わないでよ?」 ストームコーザー。嵐を刃とする「最強」の魔剣。 「最強」の代償は、命。命を用いて嵐の刃を得る。 そして「最強」を振るう代償を払い切れない者がその力を求めた時、その者は刃を振るう間も無くただ命の全てを食い尽くされ無為の死を遂げる。 その犠牲者が、また一人。 前ページゼロと在らざるべき者
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──教室吹っ飛ばして掃除中 「──だから『ゼロ』のルイズなのか…」 「フンッ! あんたまで『ゼロ』『ゼロ』ってわたしのことバカにするのね」 「聞いてたのか。怒るなよ、ルイズ。 君はオレの命の恩人で、頼りになる主人だと思っている。友人ともな。 それじゃ、いけないか?」 「…生まれてこの方、わたしの人生狂いっぱなしよ。 『フライ』はおろか、『レビテーション』ですら失敗ばかりだし、 それが、『あの』由緒あるヴァリエール公爵家の三女ってことで、他の連中にはバカにされるし…、 べ、べべ別にわたしはやっかみなんて気にしてないわよ!? わたしは、少し他と違うだけで、原因を突き止めたら、 きっと、魔法が使えるようになるんだから! …でも、その足がかりになるはずだった使い魔召喚でも、 あんたみたいな平民が召喚されちゃうし、もう、めちゃくちゃよ」 「焦ってんだ」 「…なんですって?」 「オレと同じさ。 どうしたらいいか、何をしたらいいか、わからなくて、焦ってる。 状況の変化に対応できてない」 「なっ、なによ! わたしはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、 由緒あるヴァリエール公爵家の三女よ!!」 「名門貴族の子も人ってことだろ?」 「……ふ、ふんだ、なによ! わかったような口きいちゃって! …あぁもう! さっさと片付けてご飯食べに行くわよ!! わたしも手伝うから! か、勘違いしないでよね! さっきからお腹ペコペコで、一刻も早く食べに行きたいだけなんだから!!」 「わかったよ。 早く一緒に食べに行こう、ご主人様」 「…フン」 スーパーロボット大戦Dの男主人公 ジョシュア=ラドクリフを召喚
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前ページ次ページ鮮血の使い魔 こんな笑い声、聞いた事がなかった。 「あはははははははは」 単調で、けれど深い闇を内包し、聞くだけで心が蝕まれるような。 ルイズは逃げ出したい衝動に駆られながらも、恐る恐るコルベールへと視線を向ける。 右腕の肘から上を失い、そこから多量の血をこぼしながら、悲鳴ひとつ上げぬコルベール。 そんな彼に、言葉は再び、ノコギリを。 「――駄目ッ」 だからルイズは、咄嗟に言葉とコルベールの間に割り込む。 言葉の黒く黒く深く深く暗く暗く淀んだ淀んだ瞳にルイズが映る唇が弧を描く。 「あなたも、私から誠君を奪おうっていうんですか?」 「ち、違う。そうじゃ、ないの」 「大丈夫ですよ。私は寛容ですから、誠君が他の女の子に目を向けても構いません。 でも、誠君は言ってくれたんです。これからは私だけを見てくれるって。 けれど西園寺さんみたいに誠君を傷つけようとするなら、私は」 「あの、あのね、ミスタ・コルベールは悪気があった訳じゃなくて。 別に、あなたと、そ、その、マコト君を引き離そうとなんて……。 で、ですよね!? ミスタ・コルベール!」 半泣きになりながらルイズは叫んだ。 そして、その後ろで、コルベールがか細い声で答える。 「……その通りだ。すまない、思慮に欠ける発言をしてしまった。 コトノハ君……とにかく、ここは人目がある。 ミス・ヴァリエールと一緒に、治療室まで来てくれないか?」 人形のような感情の無い表情で、言葉はコルベールを見つめていた。 嘘か本当か、見極めようとしているのだろうか。 けれど、ルイズは早く今の状況を何とかしたい一心で言う。 「だ、大丈夫。あんたは私の使い魔なんだから、あんたの大事なモノを奪わせたりしない」 「……本当ですか?」 「本当よ。だから、ミスタ・コルベールを運ぶのを手伝って。早く手当てしないと」 「……解りました。それじゃ、行きましょう、誠君」 その後、キュルケがコルベールに、タバサがコルベールの右腕にレビテーションをかけ、 治療室まで運んでくれた。そこでコルベールは治癒の魔法を受ける。 治療を受ける直前にコルベールはキュルケとタバサを寮に帰し、 使用人のメイドに言葉の着替えを用意させると、 血で服を汚しているルイズと言葉に着替えるよう指示する。 ルイズは自分の部屋から着替えを持ってきてもらった。 着替え終えた二人は、コルベールの治療が終わるのを待つ。 その間、ルイズは使い魔の言葉と顔を合わせようとしなかったが、 ふいに言葉はルイズに話しかけてきた。誠の首を持ったままで。 「ここは、魔法の国なんですか?」 「え? え、と、魔法なら私達貴族は使えるわ」 「そうなんですか、素敵ですね」 「ま、まあね」 「ねえ、ルイズさん。私はあなたの使い魔になってしまったんですか?」 「う、うん。いや?」 いやなら、やめてもいいわよ。なんて。 「いいえ。少し嬉しいです」 何で!? ルイズは泣きたくなった。 「ルイズさんは、私と誠君を守ろうとしてくれました。 私達を祝福してくれる人がいるなんて……ほら、誠君も喜んでます」 と、顔を、見せられた。死体の顔を。 もちろん直視などしない。 唇を引きつらせながらルイズは、視線をあっちこっちに泳がせる。 「あ~……そう。どうも」 逃げ出したい逃げ出したい逃げ出したい。ルイズは心の中で連呼した。 そこに、コルベールの大怪我を聞いたオールド・オスマンがやって来る。 オスマンは言葉と、誠を、見て、顔をしかめたが、無言で治療室の奥へ向かった。 そこでは右腕を何とか元通りつなごうと苦心する水のメイジの姿があり、 コルベールは酷い汗をかきながら痛みをこらえていた。 「ミスタ・コルベール。災難じゃったな」 「オールド・オスマン……」 「ちょっと内緒話でもしようかの」 オスマンは杖を取り出すと、素早い口調でサイレントを唱えた。 風系統の魔法で、外界の音を遮断する魔法だ。 オスマンは自分とコルベールの周囲のみ魔法で包み、 治療を続ける水のメイジだけは魔法の外という絶妙なコントロールをやってのける。 「さて、これで誰にも話は聞かれまい」 「ええ」 「まず何から話せばいいのやら……。のう? ミスタ・コルベール。 とりあえず、怪我の具合はどうかね」 「大丈夫。腕は元通りくっつくでしょう」 「本当に『元通り』ならいいがね」 どうやらお見通しらしいとコルベールは苦笑した。 かつてとある部隊に所属し、数多の戦場を焼き払ったコルベールは、 こういった傷がどうなるものかを重々承知していた。 例え腕がくっついても、その腕は握力を失い、言う事を聞かず、杖すら持てなくなる。 腕があるか無いかの違いがあるだけで、実質的には片腕を失ったも同然だ。 「あの胸の大きな少女を、ミス・ヴァリエールの使い魔にしたそうじゃな」 「……使い魔の召喚は神聖な儀式。彼女が召喚したのだから、当然でしょう」 「しかしあの娘はお前さんの腕を」 「あの娘は被害者です、心を病んでいるのだから。罰などは与えないでください」 「首を抱えとる者が相手でもか?」 「私は、心の壊れてしまった人間というものを、何度か目撃しております。 それは水の魔法薬を使ってなどと生易しいものではありません。 人は、真に恐怖し、絶望し、喪失した時、壊れる事で己を守る。 壊れた心を治すには、長い、長い時間と、優しさが必要なのです」 「贖罪のつもりかね」 厳しい口調でオスマンが訊ねると、コルベールはゆっくりとうなずいた。 「……あの娘は、お前さんのせいでああなった訳ではあるまい。 なのに背負い込もうというのかね? いや、背負わせようというのかね? 償う罪など犯しておらぬ、ミス・ヴァリエールにまで」 「傲慢だと言ってくださって構いません」 「ほっ! では言おう、傲慢じゃなミスタ・コルベール!」 温厚で、いつもふざけていて、怠け者で、怒るという行為を知らないような老人。 しかし今、オスマンは怒っていた。 ミス・ヴァリエールに途方も無い重荷を背負わせようとするコルベールに。 「……コトノハといったか。同情しておるのだな、あの娘に」 「ええ」 「聞けば、彼女の持っている首は、恋人のものだとか」 「ええ。恐らく何者かに目の前で恋人を惨殺され、心が壊れたのでしょう」 「しかし首を切断したのはあの娘かもしれぬぞ」 ドクンと、コルベールの心臓が跳ねる。 (さすがはオールド・オスマン、そこまで見抜きましたか。 私しか気づいていないと思っていたのですが……) 彼女の彼氏、誠という男の首の切り口を見れば、どのように切断されたか想像はつく。 鋭利な刃物で刎ねられたのではない。 あの傷口は、そう、ノコギリのようなもので切り裂いた傷だ。 ならば、血濡れのノコギリを持っている言葉こそが、誠という少年を。 「まあ断言はできんのじゃがな。それともうひとつ、その腕を切断したノコギリじゃが」 「……血が付着したままで、特に手入れした様子もない、普通のノコギリに見えました。 ノコギリは何度も刃を押し引きして物を切る……」 「私は『ノコギリで腕を切断された』としか聞いておらん、 まさか木の枝を切り落とすようにノコギリを押し引きされていた訳ではあるまい」 「……彼女の左手に刻まれた見慣れぬ使い魔のルーンが光ったと思った次の瞬間、 すでに私の腕は切り落とされていました。とても、人間業では」 「あのノコギリがマジックアイテム、という訳でもなさそうだしのう」 「そうですね。……うぐっ」 「おっと、長話しすぎたようじゃな」 オスマンはサイレントを解いて会話を打ち切ったが、その瞬間咳き込む声を聞いた。 「何じゃ?」 「ミス・ヴァリエールが咳き込んでいるようです。この臭いじゃ仕方ないでしょう」 サイレントの外にいた水のメイジが言い、オスマンとコルベールは納得する。 言葉の抱いている誠、いつ死んだのかいつ首を切断されたのかは解らないが、 すでに死臭が漂い始めている。嗅ぎ慣れぬ者にとってはつらいだろう。 「オールド・オスマン。あの少年はあの娘の心の拠り所のようです。 無理に引き離してしまっては、どうなるか解りません。……頼めますか?」 「やれやれ。どうなっても知らんぞ」 オスマンはがっくりとうなだれながら、ルイズと言葉の前に移動した。 「あー、コトノハといったか」 「はい」 「私はオールド・オスマン。このトリステイン魔法学院の学院長をしておる者じゃ。 いきなりで不躾ではあるが、その、この臭いを何とかしたいんじゃが」 「臭い……? ああ、ごめんなさい。誠君、お風呂に入れて上げないと」 「まあ、そうじゃな。お風呂に入れて上げなさい。その後『固定化』をかけて上げよう」 「固定化?」 「彼が、これ以上崩れていかぬようにする魔法じゃよ」 彼女が凶行にでないか、オスマンはわずかに身構えながら訊ねた。 が、言葉はすんなりとオスマンの申し出を受けて頭を下げる。 「ありがとうございます。では、誠君をお願いしますね」 「うむ」 どうやら、言葉という少女は誠が死んでいる事を理解しているらしい。 その上で、まだ誠が生きていると信じている。 だから『崩れていかぬように』という話も通じるのだ。 人間の心など元から矛盾を抱えているものだが、 心が壊れてしまった人間は常人以上の矛盾を抱えられるものという事だろうか。 治療室にあった水で誠を綺麗に洗い、水を拭った言葉は、 オスマンから固定化の魔法を誠にかけてもらい、嬉しそうに微笑んだ。 その笑顔を、コルベールは哀れみ、ルイズは恐怖を覚える。 こんなのと一緒にいたら、自分の精神がどうにかなってしまう。 そう思いながらも、この哀れな少女を救えるのならという優しさもあって、 結局コルベールに頼まれるがまま、少女を使い魔として扱わざるえないルイズ。 「今日から誠君と一緒にお世話になります、ルイズさん」 「え、ええ。あの、嫌なら使い魔なんてやめてもいいから」 「いいえ。邪魔者ばかりの"世界"から解放してくれたルイズさんには感謝してますから。 大丈夫、ルイズさんが私達を守ってくれるように、私もルイズさんを守って上げます。 誠君のように」 狂気は正気を蝕んでいく。果たしてルイズと言葉の行き着く未来は――? 前ページ次ページ鮮血の使い魔
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前ページデジモンサーヴァント 第三節「デジタライジング」 時は、十数分前まで遡る。 まだ右手が麻痺しているアルファモンのことを心配しながら、ルイズは昼食を食べていた。 一方、数名の男子生徒が談笑していた。 何のことは無い、ギーシュが誰と付き合っているかで話し合っているだけ。 当のギーシュは、巧妙にはぐらかす。 が、タイミングよく、彼のポケットから香水の入ったビンが落ちた。 そして運悪くシエスタがそれを拾ってしまう。 「あの、これ、落としました?」 シエスタが聞くが、もちろんギーシュは無視する。 しかし、結局他の男子生徒たちがそれを見て、「モンモランシーが作った香水じゃないか」と騒ぎ出し、原作どおりに二股がバレた。 原作とは違い火攻めと水攻めを食らって、瀕死になるギーシュ。 「さようなら、ギーシュ様……」 「さよなら! ギーシュ!」 ギーシュはズタボロの状態でケティとモンモランシーから別れの言葉を吐きかけられた。 そして、起き上がったギーシュはフラレた腹いせにシエスタに当たり始めたのだ。 それを見たルイズはギーシュを咎め、言い合いに発展して……現在に至る。 杖も兼ねた薔薇の造花を手に、ギーシュはキザな仕草でポーズを決めた。 「諸君、決闘だ! ルイズ、僕は魔法で戦う。君では勝負になら無いと思うけどね……」 「……ひょっとして、私が怖いの?」 ルイズの挑発に、瞬時に頭に血が上ったギーシュは、一体のゴーレムを錬成する。 女性を模った青銅のゴーレムで、その手にはレイピアが握られていた。 「行け! ワルキューレ!」 自分目掛けてレイピアをかざして突進するワルキューレを見ながら、ルイズは思い出した。 「君が自棄になったら、使い魔である俺はどうすればいいんだ!?」、アルファモンの悲痛な訴えを。 そして、決闘を申し込まれた際に、一度断った際のギーシュの一言も。 「やれやれ、君の従者も大変だね。あんな重そうな鎧を着せられた挙句……」、全部言い終わる前に金的をかまし、黙らせたついでで決闘に応じたが。 ワルキューレをギリギリまでひきつけ……、ルイズは紙一重でレイピアでの一突きをかわし、杖をワルキューレの顔面に突きつけ、吼える。 「錬金!」 ワルキューレの頭が吹き飛び、残りの部分もその衝撃で砕けた。 呆然としている隙を突き、ルイズは一気にギーシュとの距離を詰める。 ギーシュが我に帰った頃には、既にルイズは彼の眼前に杖を突きつけ、降伏を勧告した。 「……さっきの人形の二の舞になりたい?」 「ぼ、僕の負けだ……」 もし、抵抗の意思を見せれば、ルイズは迷うことなく失敗魔法を炸裂させる、彼女の目を見たギーシュはそれを悟った。 魔法が使えないルイズが、あっさりギーシュに勝ったのを見て、観衆がざわめく。 素直に感心したり驚愕する者もいれば、呆れた事にそれを良しとしない者もいた。 その中の一人が、ルイズの勝利に異議を唱え、決闘を申し込む。 「『ゼロの』ルイズが勝つなんて認められるか! 今度は僕が決闘を申し込む!」 彼のその一言に、ルイズの勝利を認められない者たちが一斉に決闘を申し込み、それを見たルイズは吼えた。 「面倒くさいわね! そんなに勝負したいなら、みんなまとめて掛かって来なさい!!」 厨房では、ルイズとギーシュが決闘することと、そうなった事情を聞いたアルファモンは、決闘がどこで行われるのか聞き、そこに向かおうとしてマルトーに止められる。 アルファモンの身を案じてのことであった。 「あんた、たかが貴族一人のために死にに行くのか!?」 「……俺は死なない。それ以前に、俺はルイズの使い魔だ!」 「それだけの理由で……」 「ルイズは、俺のことを「優しい」と言ってくれた。それも理由だ!」 マルトーを振り払い、アルファモンはヴェストリの広場へと向かう。 ただ、ルイズ一人のために。 アルファモンがたどり着いた際に見たのは、ズタボロになって尚立ち上がっているルイズの姿。 制服はボロボロ、所々出血し、顔は惨たらしいまでにアザだらけ、挙句の果てに右腕は筋を斬られたらしく、ただ垂れ下がっているだけであった。 それでもルイズは闘志を失わず、更にアルファモンの姿を見て、微笑みかける。 「どうしたの、アルファモン?」 ボロボロになったルイズの姿を見て、アルファモンは加勢しようとするが、ルイズの目で止められる。 「手助けはいらないわ、私の決闘だから」、目がそう言っていた。 周りを囲む、決闘相手たちの魔法の一斉射撃を必死に避けるルイズ。 それを口惜しそうに見ているギーシュを見て、何があったのかを問い質した。 「一体何があったんだ!?」 「彼女が僕に勝ったのが認められいからって……、あいつらが一斉に決闘を申し込んだんだ。それに怒ったルイズがまとめて掛かって来いって言ったから一斉に……」 それを聞いたアルファモンは心の中で毒づく。 これのどこが決闘なんだ、と。 すでに体力が底を突いていたルイズは、一瞬よろめく。 その隙を突き、生徒の一人がファイアーボールを放ち、避けられないと判断したルイズは、動かなくなった右腕を盾にしてそれを防いだ。 もちろん、右腕は焼け爛れ、所々炭化する。 「○×△□~~~~!!」 余りの激痛に声になっていない呻き声を上げながらも、ルイズは闘志を失わない。 が、見ている方は限界であった。 再びルイズ目掛けて放たれたファイアーボールを、アルファモンは前方に立ち塞がり、ファイアーボールを代わりに受ける。 生徒たちはファイアーボールが直撃しても傷一つついていないアルファモンの姿に、ルイズはいきなりアルファモンが割って入ったことに驚愕した。 「アルファモン、これは私の決闘よ!」 「使い魔は、主人と一心同体だと君は言った。ならば、俺の決闘でもある!」 アルファモンは眼前にいる、ルイズの右腕を焼いた生徒に狙いを定める。 それと同時にアルファインフォースを発動させ、瞬時にその生徒を滅多打ちにし、止めにがら空きのアゴを蹴り上げた。 もちろん、アルファモン以外は最後の一撃しか見えない。 いきなり四肢があらぬ方向に曲がったかと思うと、アゴを蹴り上げられた衝撃を宙を舞ったその生徒の姿に、他の決闘相手たちは唖然となる。 そして、彼らにアルファモンは事実上の死刑宣告をした。 「そっちが集団で挑んだんだ、卑怯とか言うなよ!」 ギーシュは我が眼を疑った。 アルファモンのその常識外れの強さに。 「デジタライズ・オブ・ソウル!」 アルファモンが放った、破壊力を持った光の奔流が、ゴーレムをあっと言う間に塵に還す。 その衝撃で、ゴーレムを錬成した生徒が無残に吹き飛ばされた。 「スティング!」 「ぶあ!」 次に、別の生徒の後ろに回り掛け声と共に、その延髄に指を突き刺す。 穴こそ開きはしなかったが、延髄に食らったダメージでその生徒は悲鳴を上げた直後に泡を吹いて気絶する。 アルファモンの強さを見て、決闘を挑まなかった他の生徒たちは、何時の間にかアルファモンを応援し始めていた。 ルイズは自分の使い魔の強さに見とれていて気付かなかった、決闘相手の一人である「風上の」マリコルヌが自分の背後に回り、『ブレイド』によって剣と化した杖を振り下ろさんとしていることに。 そして、ギーシュはたまたまルイズの方に視線を移した際にそれに気付き、一心不乱に駆け出した。 「ゼロのルイズのクセにぃ!」 マリコルヌの声に気付き、振り向こうとした直後に、ルイズは何者かに突き飛ばされた。 ルイズが、元いた地点に目を向けると、そこには剣と化した杖を持ったまま硬直するマリコルヌと、左目を縦一文字に斬られ血を流すギーシュの姿が……。 「『ブレイド』!」 「……へ!?」 みんなが唖然とする中、ギーシュはブレイドを発動させ、魔力の刃をマリコルヌの右腕に突き刺す。 余りのことに、激痛を感じながらもマリコルヌはただ口を開閉するしかなかった。 そして、ギーシュはやれやれと言った表情で吐き捨てる。 「君は無粋なんだよ、マリコルヌ」 ブレイドを解除し、ギーシュはルイズの元へ駆け寄る。 斬られた左目からはまだ血が流れ、激痛が走っていたが、ギーシュはそれすら耐え抜く。 「ルイズ、右腕は……大丈夫じゃないみたいだね」 「あんたこそ、目をやられているじゃないの……」 彼女の左腕を肩に回し、ルイズを抱え起こすギーシュ。 しかし、それを見ていたマリコルヌは、懲りずに杖を左手に持ち替え、ギーシュたちに狙いを定める。 直後、アルファモンの声がいきなり響いた。 「聖剣、グレイダルファー!」 「……あら、ひ、ひだ、ひだだだだだだだだだだり!!」 アルファモンが、聖剣グレイダルファーでマリコルヌの左腕を容赦なく切り落とした。 自分の左腕が、肘から先からなくなってしまったショックで悶絶し、悲鳴を上げるマリコルヌ。 そんなマリコルヌに、アルファモンは言い放つ。 「そんなもの、魔法でくっ付ければいいだろ」 マリコルヌ以外の決闘相手たちは、すでにアルファモン一人によって全滅していた。 アルファモンはルイズをお姫様抱っこして、医務室へと向かう。 ギーシュは左目をおさえながら、それを追った。 学院長室。 遠見の鏡で一部始終を見ていたコルベールが唖然としていた。 一方、リリスモンは非常に楽しそうである。 オスマンは、自らの使い魔に話しかける。 「モードソグニル、あれが「空白の席の主」の力なのか?」 「……いや、彼奴は辛うじて手加減はしておった。それでもあれだけの力か……。我に牙向いた時、その力を解放するかどうか……楽しみだな」 「……楽しむためなら己が命すら大事にせぬその性分、少しは直したらどうじゃ?」 「叶わぬ夢をほざくでない」 意味深に微笑みながら軽口を叩き合うオスマンとリリスモン。 一方のコルベールは、アルファモンが作った惨状を見て固まっている。 「おおお、オールド・オスマン、如何いたしましょう!!??」 「……まあ、誰が悪いのかは明らかだし。とりあえずヴァリエールとグラモンは決闘の罰として来週までの謹慎って形で休ませて、「空白の席の主」の小僧にボコられた奴らは来週まで謹慎&外出禁止、謹慎明けから数日は中庭掃除とかをやらせるかの」 「ミス・ヴァリエールの怪我は、ご実家の方に報告しますか?」 「……あれだけ派手にやったんじゃ、いっその事全部正直に報告した方がいいじゃろうて。それと、小僧のルーンに関しては他言無用じゃぞ」 思いっきり投げやりであるが、どこかオスマンは嬉しそうであり、リリスモンとコルベールもそれを見抜いていた。 そして、二人そろって首を縦に振る。 医務室。 アルファモンは椅子に座り、黙り込んでいる。 一方のギーシュは魔法で止血はしてもらったものの、左目は完全に失明しており、縦一文字の傷には顔の右半分に大きく走っていた。 そしてルイズの右腕は……、彼女自身の予想通り「既に手遅れ」と診断される。 それを聞き、激昂しそうになるアルファモンを抑え、ルイズは痛みをこらえながら淡々と治療を担当してくれた教師に頼み込む。 「治したところで、既に元通りに動かせ無いことは予測できていました。ですからこの右腕、肩から切り落としてくれませんか?」 辺りが静寂に包まれる。 それは、ルイズ以外が驚きのあまり言葉を失ったからであった。 次回、「デジタルワールドからの物体NANIMON」まで、サヨウナラ……。 前ページデジモンサーヴァント
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前ページ次ページゼロのアトリエ 「あさー、あさだよー。」 誰かの声がする。誰だっけ? まあいいや、もう少し寝ていよう…そう思って体を丸めようとした瞬間、毛布が剥ぎ取られる。 「お目覚めですね? ご主人様!」 そう言ったヴィオラートの笑顔には、ルイズ自身の言った事は絶対に守らせる!という 凄みがあった。 ゼロのアトリエ ~ハルケギニアの錬金術師4~ 「ああ、ヴィオラート…そうね。昨日、召喚したんだっけ…」 ルイズはのそのそと起き出して、ヴィオラートに命じる。 「服。」 ヴィオラートは一瞬怪訝な顔をするが、すぐに納得したのかルイズの服一式を用意する。 「着せて。」 今度はあっさりと、ルイズの着替えを手伝うヴィオラート。 しかし、ルイズはなんとなく居心地悪さを感じ始めていた。 (何なの、この…私をイツクシムような、ヤサシサあふれる視線は…) なんで着替えぐらいでこんな気持ちにならなければならないのか。 (ひょっとして、私をかわいそうな子扱いしてるんじゃないでしょうね!) 苛立ちをおぼえて振り向いたその先には、しかし、 「ん?」 ヴィオラートの、人懐っこい微笑があるだけで。 「な、何よ。さあ、着替え終わったらさっさと行くわ。朝食よ。」 ばつが悪くなったルイズは、正体不明の何かから逃げるように扉を開けた。 「あら。おはよう、ルイズ。」 嫌なやつに会った。ルイズが扉を開けたちょうどその時、同じように扉を開けて燃えるような赤い髪の女の子が姿をあらわしたのだ。 「…おはよう。キュルケ」 義務的に挨拶を返す。 魔法が使えて、あらゆる意味の色気にあふれ、そして何より、おちちが…おちちが大きい。 その存在全てがルイズの感情を逆撫でする、まさに不倶戴天の仇敵であった。 「あなたの使い魔って、それ?」 彼女は小馬鹿にした口調で、ヴィオラートを指差す。 「そうよ。」 「あっはっは! ホントに人間なのね! すごいじゃない! 流石はゼロのルイズ!」 「うるさいわね」 「あたしも昨日、使い魔を召喚したのよ。誰かさんと違って一発でね?」 「あっそ」 「どうせ使い魔にするなら、こういうのがいいわよね~。フレイム!」 キュルケがそう呼びかけると、キュルケの部屋からのっそりと、オレンジ色の大きなトカゲが現れた。 「ああっ、サラマンダー! 大丈夫なの?」 ヴィオラートは驚いて、距離をとりつつ秘密バッグの口に手をかける。 「平気よ。あたしが命令しない限り、襲ったりしないから。それより見て、この尻尾。素晴らしいと思わない?」 たしかにすごい。ルイズから見ても素晴らしいと思う。正直羨ましかった。 しかし、まさにそこがルイズの癇に障る。自分が不甲斐ないからキュルケなんかを調子に乗らせる。 「へえ~、こんなのも使い魔になるんだー。触ってもいいかな?」 ヴィオラートがしきりに関心を示しているのも気に入らない。何だというのだ。 キュルケなんか…ツェルプストーなんかに愛想をふりまかなくてもいいのに! 「あなた、お名前は何とおっしゃるの?」 「あたしはヴィオラート。」 「ヴィオラート。いい名前ね。あたしはキュルケ。微熱のキュルケ。」 キュルケはそこで一旦区切ると、ルイズにあてつけるように胸を張り、ルイズに向かって艶かしい視線を送る。 「ささやかに燃える情熱は微熱。でも、世の男性はそれでいちころなのですわ。あなたと違ってね?」 キュルケは視線をヴィオラートの胸に移動させ、その後視線をルイズの胸に固定し、嘲るような笑みを浮かべる。 「じゃ、失礼?」 そのまま、キュルケはさっそうと歩いていく。歩く姿でさえ何だか様になっていた。 「くやしー! 何なのあの女! 自分がサラマンダーを召喚できたからって! ああもう!」 やり場のない憤りを抱えたまま、ルイズはちらりとヴィオラートの胸をチェックする。 (使い魔のくせに、つつつ使い魔のくせに! この学院じゃキュ、キュルケの次に大きいんじゃないの? 腹立つわ!) キュルケが胸山脈なら、ヴィオラートは胸連峰。私はせいぜい河岸段丘、河岸段丘のルイズ。はは。 「ルイズちゃん?」 様子のおかしいルイズを心配したのか、ヴィオラートがひざを屈めてルイズを覗き込む。 ヴィオラートの顔と一緒に胸部もルイズの視界に入ってくることになり、ルイズは理不尽な怒りを覚えることとなる。 「だ、だいたいあんたが!」 「え? あたしが?」 言葉に詰まる。ヴィオラートは何も悪くないのだ。それどころか、今の今まで胸を意識せずにいられたのは、ヴィオラートの気遣いによるところ大であろう。何を責めるというのだ。 自分にとって最高の使い魔であるとルイズ自身がそう思っているのに、何が悪いと言えばいいのだろう。 「…河岸段丘…」 「え?」 思わず口をついて出た言葉は、ヴィオラートに悩みを打ち明けたいという依頼心のあらわれであろうか。 「な、何でもないわ! さっさと行くわよ!」 照れ隠しなのか、廊下をまさにのし歩くルイズの後姿を見つつ、ヴィオラートはルイズの発した言葉の意味を勘案しつづけるのだった。 「…河岸段丘?」 前ページ次ページゼロのアトリエ
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前ページ次ページゼロの登竜門 ズドン、と何度目かわからない爆発音に、砂埃が巻き起こる。 日は既に落ち、二つの月は穏やかな光で草原を照らしている。 「もうそろそろ休んだらどうかね? ミス・ヴァリエール。使い魔召喚は明日にでもやり直したらいい」 「まだですっ、まだやれます! お願いしますミスタ・コルベール、納得がいくまでやらせてください!」 そう言って、月に照らされた人影はその手に持った杖を振り下ろした。 そして再度。何もない空間が爆発、轟音と爆煙を巻き上げる。 「また失敗……」 咳き込む少女、目尻に涙を浮かべながら、また杖を振り上げて呪文を唱える。 そして振り下ろす。 すると今度は爆発しなかった。 数え切れないほど呪文を唱え、数え切れないほど杖を振り上げ、杖を振り下ろし。 ただ一つだけ、使い魔を呼び出すことだけを考えて、一心不乱に。 そしていま、やっと『失敗』しなかったのだ。 視界を邪魔する土煙がうっとおしい、早く、早く己の使い魔の姿を見たかった。 どんな姿をしているのだろうか、美しいのだろうか、強いのだろうか、賢いのだろうか。 コレで、コレでやっと、誰にもゼロなんて言わせない! 煙を散らすと、そこには………… 高さ一メートルほどの大きなタマゴが存在した。 自室のベッドの上にタマゴを載せ、ルイズはそれを指先でつん、とつついた。 すると、タマゴはプルプルと震える、もうすぐ生まれそうだ。 そんなタマゴに、ルイズは自分の頬が弛みまくるのを自覚していた。 こんなに大きなタマゴなのだ、一体どんなのが生まれてくるのだろう。 ドラゴンだろうか、グリフォン、いやいやヒポグリフと言うのもある。 きっと強くて格好良くて優雅な幻獣が生まれてくるだろう。それを考えると心臓が早鐘のように波打つ。 いや、そんなに贅沢は言わない、呼び出せただけでもこんなに嬉しいのだから。 早く生まれてこないだろうか………。 召喚が長引いたせいか、何度も失敗して精神力を使った所為か、次第にまぶたが重くなる。 着替えるのすら億劫になったルイズは、そのままベッドに上がって丸くなった。 とくん、とタマゴの鼓動が心を揺さぶる。 きっと、明日には生まれてくれるだろう。 とても、楽しみ。 朝、窓から差し込む陽光によって目を覚ました。 すぐさまタマゴを見やるが、プルプルと動いているがまだ生まれていない。 仕方なしにルイズはベッドから降りて新しい制服へと着替える。 ブラウス、スカートを履いてマントを着けてブローチを止める。 そして杖を持って部屋を出ようとノブに手をかけたとき。 背後から「ピキッ」という音を捉えた。 その時の首を動かすルイズの動きは、一瞬だが180度回転しているように見えた。 その手の杖を放り捨ててルイズはタマゴへと駆け寄る。 頭頂部からヒビが走る。 ピシッ……ピキッ………パリンッ 「きゃっ」 眩い光にとっさにルイズは顔を覆ってしまう。 けれど、生まれた、自分の使い魔を早く見ようと眼を細めて真っ直ぐとそれを……… 「え………」 ベッドの上で、ぴち、ぴちとはねているのは、一匹の魚……だろうか。 赤い鱗にマヌケそうなつぶらな瞳、背びれは金色で、なんだかデフォルメされた王冠を彷彿させる。 長いヒゲが二本、にょろーんと伸びて、魚が、ぴたん、びたんはねるたびに揺れる。 「………み………水ーーーーー!」 まさか魚が生まれるとは思わなかった。 大急ぎで水場に連れていき、タライに水を張って放り込んだ。 そこまでやり遂げた時点で、ルイズはゼーハーと荒い息をはいて両手両膝を地面に付いた。 魚がやけに重かったのだ。しかもやたら跳ねまくってここまで連れてくるだけ一苦労。 窓から放り投げた方がどれだけ楽だっただろうかと思う。 抱き上げるのが難しいと判断し、最終的にはしっぽを掴んで引きずったほどだ。 水を得た魚は、小さなタライの中で気持ちよさそうにすいすいと泳いでいる。 魚の額にルーンが刻まれている。タマゴの時にはなかったが、ちゃんと契約できていたみたいだ。 「コッ、ココココイッココッコココイッコココイッコココッ」 魚が何かを言うが、何を言おうとしているのかはさっぱりわからない。 そうだ、名前を付けてあげよう。 名前………ジョセフィーヌ……フランシーヌ………シャルロット……クリストフ。 どれもぱっとしない。 ふと、背びれに目が行く、王冠のようなその背びれ。 「キング」 「コッ」 「キング」 「コココッ」 呼んだらはねながら返事をした、どうやら気に入ったようだ、いやきっとそうだ、そうに違いない。 「コレからよろしくね。キング」 最後のルイズの言葉にはキングは応えず、狭いタライの中をすーいと泳ぎ回る。 キングの様子を、丁度そこにやってきたメイドに言いつける。 よくはねるから、タライから外に出てたら戻しなさい、と。 なお「蹴っ飛ばしても良い」と付け加えると、メイドは慌てて首を振った。 貴族様の使い魔を蹴るなんてとんでもない、と。 従順なその態度に好感を覚えつつ、食堂へ。 いつものようにキュルケと口論しながら食事を取る。 そういえば、いつもゼロと言ってバカにするのに、今日に限っては「よかったじゃない」と言ってくれた。 すこし嬉しかった。けれどいつものように悪態をつく。 食事を摂ったら土の授業、今日の授業はそれだけでそれ以後は使い魔とコミュニケーションの時間。 でも、ミセス・シュヴルーズが錬金をして見ろと言ったからやった、でも爆発した。 召喚は出来たんだから出来るようになってると思ったのに、魔法は相変わらずみたいだ。 そう言えば、自分の系統はなんなんだろう。 キングは魚だから、水………なのだろうか? しかし得意系統以外の魔法が使えるのは珍しくない。 例えば、土系統のギーシュは風系統のフライを使える。 もしわたしが水系統だったとしても、なんで爆発するんだろう……。 教室の片付けを適当にさらっとこなして使い魔の元へ行く。 寂しがっているだろうから。 別に、わたしが寂しい訳じゃない、あくまで使い魔が寂しがっているといけないから、行くだけだ キングのところへ行くと、案の定タライの外でぴち、ぴち。 ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち。 ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち、ぴち。 あのメイドは……戻しておけと言ったのにほっぽいてどこへ行ったんだ…… と思ったが、その行方はすぐしれた。 広場の真ん中で土下座している、相手は……グラモンのバカか。 「こらはねないの」 キングをタライの中に戻して、メイドのところへ行く。 「ちょっと」 仁王立ちでメイドを見下ろす。 「あ……み、ミス・ヴァリエール……」 「キング見ててって言ったのになにやってんのよ、タライの外に出てたじゃない」 「も、申し訳ありませんっ。ミス・ヴァリエール」 「なるほど。あの赤いマヌケそうな魚は君の使い魔か」 マヌケそうな、と言ったギーシュの言葉にルイズの眉がつり上がる。 「あんたほどじゃないわよ。おおかた二股がばれてそれをメイドに言いがかり付けてるだけでしょ。いい加減そう言うのやめなさいよ、バカに見えるわよ」 「なななななな何をいってるんだっ! 彼女が軽率に香水を拾ってしまったから。その事で罰を与えているだけなんだ。ゼロのルイズは引っ込んでいたまえ!」 「あいにくこっちが先約なのよ、使い魔見ておくように言っておいたのは朝のうちだからね」 ふん、と胸を張ってギーシュを睨み付ける。 「二股してたのは事実でしょ! だったらメイドに言いがかり付けてないで相手の女の子にとっとと謝ってきなさい!」 「ぜ……ゼロのルイズがぼくに意見する気か!」 「もうゼロなんて言わせないわ! わたしは、ちゃんとキングを召喚したもの!」 ギーシュの言葉に、ルイズはキングのいるタライを杖で指した。 「………なにもいないが」 「えっ?」 ギーシュの言葉にルイズは慌てて振り返って確認、そこにはタライしかなかった。 「ウソッ! さっきまでいたのよ、一体何処に」 「はははははは。さすがゼロのルイズ、使い魔にまで逃げらぶべっ!?」 ギーシュの言葉は途中で途切れ、直度ズドンと衝撃音が広場を襲う。 「キング!?」 ルイズがギーシュを見やると、その腹の上でびたんびたんとはねているキングの姿があった。 どうやら、ルイズがいじめられているとでも判断したのだろうか。 タライのところからはねて、頭上からギーシュに突撃したようだ。 キングの体長は1mもないが、重さは10㎏ある。そんな物が激突してはただではすまない。 あっけなくギーシュは意識を手放し、口から泡を吐いてピクピクと痙攣していた。 「……あんた結構凄いのね」 はねるだけで人垣を飛び越え、ピンポイントでギーシュをスナイプしたその底力が、である。 泡を吹いて倒れたギーシュは医務室に運ばれ、目覚めたときには何があったの記憶が曖昧になっていたらしい。 タライを部屋まで運ぶわけにはいかないから、キングは水場で毎日過ごすことになる。 泳ぐのは結構早い、だが魚だから普通の使い魔みたいにあちこち連れ回すわけにはいかないだろう。 「………わたしがいじめられてるって思ったのかしら。使い魔としての心構えはあるみたいね」 主を守る、という使い魔にとっては最重要とされるポイント。 キングはギーシュを倒すことでそれを証明して見せたのだ。 「ご褒美上げる。東方から仕入れたあめ玉なんだけど、成分解析してもよく判らない貴重品なのよ。でもとても美味しいんだって」 そう言ってルイズは大きなあめ玉をキングに食べさせる。 するとキングは嬉しそうにぴちぴちとはねる。 「きゃっ。もうそんなに美味しかったの? じゃぁもう一個あげる」 二個目、包装をほどいてキングの口の中に放り込む。 大喜びするキングに、ルイズは頬を弛ませる。 役立たずでも良い。ただキングがずっと使い魔でいてくれたら。 もっとがんばれる気がした。 気付いたら、あめ玉を軽く10個も上げてしまっていた。 使い魔の触れ合いはとても重要だ。 わたしも、時間があればすぐ水場へと向かってキングと触れ合っている。 その度にあめ玉をせがむキングだが、あんまり上げすぎるのも良くないと思って最近は自制している。 合計で14個目を上げた途端。キングのおねだりが激しくなった。 はねるだけだったキングが、わたしにすり寄ってくるのだ。 最初こそマヌケそうに思えたその表情だったが、こうも懐かれると非常に愛着がわいてくるモノだ。 すり寄ってくることによってわたしの服が濡れるが、それは仕方がないから叱ることはしない。 そもそもキングは魚だ、言って聞くとも思えない。 今日は2個あめ玉を上げた。 月がキレイ。 ところがその時、轟音とともにゴーレムが現れたのだ。 本塔の壁を殴っている。あそこは………宝物庫? そう思い至ったところで、土くれの話を思い出す。 貴族の館に忍び込んで宝を盗み出す薄汚い盗賊。まさかメイジが沢山居る学園を襲うだなんて! 貴族の誇りとして看過は出来ない。即座に杖を振って攻撃する。 けれど外してしまう。それどころか宝物庫の壁が爆発してしまう始末。 あれ、ちょっと……まずい、かな? ゴーレムの肩に立っているローブの人影、きっとアイツが土くれだ。 そいつがゴーレムの腕を伝って宝物庫の中にとびこんだ。 まずい、非常にまずい、目の前で盗賊を逃がしてしまう。 そう思って何度も魔法を放つが、爆発は狙いが定められない。 ゴーレムの表面を襲い、爆発させるが破壊するには至らない。 そもそもゴーレムは土で出来ている、いくら破壊してもすぐに修復してしまう。 「ありがとよ!あんたの爆発でやっとこさ穴が開いたよ」 宝物庫から出てきた土くれがそう叫んできた。女の声、土くれは女だったのか。 「こいつはお礼だよ! 受け取りな!」 そう言って土くれはゴーレムを操作、その脚を持ち上げて……… 眼前に広がるゴーレムの足の裏。右へ逃げるか左へ逃げるか。このままでは潰されてしまう。 ほんの一瞬の逡巡、しかしその一瞬は生死を分ける。 どん、と横からの衝撃にわたしはふっとばされ、ゴーレムの脚がほんの少しマントを掠った。 キングだ。キングがぶつかってわたしを飛ばしてくれたのだ。 そのキングはわたしの隣で今もはねている。 フーケのゴーレムは私達に見向きもせず学院の外へ出ていった。 途中でぐしゃりと崩れ、その後は夜の静寂が広がるだけ。 ミス・ロングビルが手綱を引く馬車に揺られ、フーケが潜むという小屋へと向かう一行。 馬車に乗るのは、ルイズと、キュルケと、タバサ。そして御者を務めるロングビル。四人だけ。 翌朝、宝物庫が破れた事で、その場に居合わせたと言うことでルイズが呼ばれた。 盗まれたのは破壊の小箱と言うらしいが、使い道はよく判っていないらしい。 使い道がわからない秘宝だが、それをおめおめと盗まれてそのままにしておく訳にはいかないらしい。 丁度ロングビルがフーケの居場所を突き止め帰ってきたことで、討伐隊を組むことになった。 しかし教師の誰も杖を揚げない、仕方なくルイズが志願したのだ。 出発するときになってキュルケに見つかり、お節介にも付いていくと言いだした。 すると隣にいたタバサも心配と言いだし、同行することになる。 ロングビルが言うには戦力は多い方が良いでしょう、とのこと。 悔しいけれど言い返せない、キュルケは炎のトライアングル。学園内ではトップクラスの実力者だろう。 タバサは……よく判らない。キュルケと一緒にいることが多いけどその実力は未知数。 でもキュルケが保証するというならば確かな実力だろう。 ロングビルが貴族の身分を追われた事を、キュルケが好奇心で聞こうとするのをルイズが窘めながら、馬車は行く。 おいてきたキングのことがちょっと気がかりだった。 あのメイド、シエスタに任せてきた。 欲しがればあめ玉をあげても良いと言い付けてきた。大人しくしてくれたらいいのだけど………。 ルイズに命じられた使い魔の世話を、シエスタは行う。 とは言っても。タライからでないように注意する程度だが、はねるのに慣れたキングはタライから出ても自分で戻るようになったからそれほど手がかからない。 ただ気になったのが預けられたあめ玉の瓶。 欲しがったらあげても良いと言われたがどれほど上げたらいいのだろう。 キングは瓶のあめ玉を見て催促するようにぱくぱくと口を開閉している。 あまり上げすぎても叱られるかもしれないと、シエスタの心の中は葛藤している。 「一つくらいなら………」 言い聞かせるように呟きながらシエスタは中からあめ玉を取りだし、包装紙を取り除いてキングに食べさせる。 ぱちゃぱちゃとはねながら喜ぶキングに、シエスタも笑みを浮かべた。 「おいしいですか?」 シエスタの言葉に、キングはぱくぱくとしながら次を催促する。 すこし悩んだが、シエスタはもう一つあけて、食べさせる。 再び嬉しそうに飛び跳ねるキング。 余りの喜びように、シエスタの方も嬉しくなってしまうほど。 「それじゃぁ、後一つ……」 同じように包装紙を取り除いて、シエスタはキングにあげた。 すると、さっきまで元気に動き回っていたキングの動きが、止まった。 そう、ピタリと、身動きもせず。身じろぎもせず。 キングの急変にシエスタは恐怖におののいた。 まさか、食べ過ぎて体に異変が!? まさか……死……そんな、使い魔を死なせてしまったとなったら打ち首どころか家族さえも………。 シエスタの目の前が真っ白になる。 パリッ。 「え………」 異音は、目の前のキングから。 シエスタが目を見張ると、キングの体が眩い光に包まれた。 小屋の中から破壊の小箱を奪還し、いざ帰ると言うときになってフーケのゴーレムが襲撃した。 ルイズも、タバサもキュルケも応戦するが、圧倒的な質量を持って襲うゴーレムには有効打を与えられない。 「撤退」 タバサが短くそう言うが、ルイズが反論する。 「待って、ミスロングビルがまだ」 「いいえ、今回の任務は秘宝の奪還が最優先よ。ミス・ロングビルもメイジなんだから無事よ!」 キュルケがそう言ってルイズを諭す。 「イヤよ! ここでロングビルを見捨てるわけにはいかないわ! わたしはフーケを捕まえるの。もう誰にもゼロなんて言わせない。言わせないんだから!」 キュルケの説得は無意味、シルフィードの背中から飛び降りる。 慌ててキュルケがルイズにレビテーションを駆ける。 「全くいじっぱりなんだから……仕方ないわね、付き合ってあげるわよ。タバサ、ゴーレムの周囲を飛んで。牽制するわよ」 「了解」 ルイズがふわりと着地するのを確認して、タバサをシルフィードを駆ける。 タバサの使い魔は風龍、名は風の精霊を戴くシルフィード。 その機動力は他の追従を許さない。 ゴーレムの周囲をくるくると飛び回りながら、二人は魔法を浴びせる。 しかし、その質量の前ではどれほどの効果があるだろうか。 見た限りではさほど有効打を与えてるには見えない。 「ルイズから注意をそらすのよ。こっちはなんとか避けられるけどあの子は無理だから」 「了解」 キュルケの指示にタバサは短く応える。 しかし、ゴーレムは飛び回って撃墜が難しいシルフィードを無視し、ルイズの方へゆっくりと歩み出した。 視界が真っ白になったのは、キングからの光だという事はシエスタは今になって気付く。 そしてその光はキングの体を包み、その輪郭を別な物へと変えていく。 「な、なに……いったい何が………」 「コッココッコッ………ギッ…ギョォ……………」 キングの啼き声が光の中でゆっくりと別のモノへと変わる。 キングの体の光が、ゆっくりと大きく。その輪郭も重厚で無骨な魚の鱗から、柔らかく柔軟性に富んだモノへと変わる。 そして大きくなった光はゆったりとした動作で宙へ。 変わる。 それは新たな存在の証明。青く輝くその鱗は東方に伝わる竜の証。 だれも見たことない、サファイアの如く美しき鱗をもつ凶竜。 その赤く輝く瞳はルビーのような鮮やかさ。 目の前で起こったキングの豹変にシエスタは腰を抜かしてへたり込みながら、その優美さに目を奪われている。 (なんて………綺麗) 「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONNNNNNN」 キングだったモノの咆吼に、シエスタは思わず身をすくませて耳を塞ぐ。 誰が想像できるだろうか。 かの世界において。その存在が暴れたとき、巨大な都市を壊滅に追いやることすらあると言うことなど。 キングはきょろきょろと首を動かし、何かを探すような仕草をする。 翼は持たぬが、それは紛れもない竜。 ある方角へ、ピタリと視線を向けたかと思うと、キングはその巨体を波打たせ高速で飛び去った。 「えいっ、えいっ、えいっ」 破壊の小箱を掲げたり振ったりするが、何も起こらない。 「何よコレ! どうやって使うのよ!」 「ルイズ! 使い方がわからないって学園長も言っていたじゃない! 振ったり掲げたりするだけで使えるわけないでしょ! 良いから逃げるわよ!」 「イヤッ!わたしは逃げないわ! 貴族とは魔法を使うモノの事じゃないわ! 敵に背を向けないモノのことを言うのよ!」 「あぁもうっ、意地を張るのも大概にしなさい! 死んじゃったら意味無いでしょうがっ!」 シルフィードが低空飛行で、キュルケがルイズの腕を掴んで引っ張り上げる。 「勝てないと悟ったら撤退するのも作戦のうちなのよ! うだうだ意地張ってんじゃないわよ。あんたに死なれたって目覚めが悪いのよこっちも」 ルイズを引っ張り上げて、シルフィードはゴーレムの腕の届かない高度に達する。 「帰るわよ! 名のある貴族だって捕らえられなかったフーケをあたし達で捕らえられるわけないじゃない。生きて戻るだけでも御の字よ」 「でも………」 ルイズが反論しようとした途端。衝撃が襲う。 「きゃぁっ」 一瞬ふわりと浮遊感がしたと思ったら、体が重力にひっぱられて落ちていくのがわかった。 「くっ、なっ……!?」 とっさにキュルケとタバサがレビテーションを唱える。 ゆっくりと地面に降り立ったとき、何が起こったのか全てを把握した。 シルフィードの体に石の礫が多数突き刺さっていたからだ。 「大丈夫?」 「大丈夫、でも飛ぶのは無理」 キュルケの言葉にタバサが応えた。 そしてゆっくりと近づいてくるゴーレム。 ゴーレムが腕から石の礫を飛ばしたのだろう。 これほど巨大なゴーレムを作れるとなると、おそらくトライアングルクラス。 石の弾丸を放つ事など簡単にやってのけるだろう。 相手がゴーレムだからと言って油断した、腕の届かない高所にいれば大丈夫だと見誤ってっていた。 操っているのはメイジなのだ。 「やるしか………無いって訳ね」 覚悟を決めたのだろう。三者三様に杖を掲げ、ゴーレムを向かい打つ。 そして呪文を唱えようとした、その時だ。青い影が頭上を飛び越え、ゴーレムに突撃したのは。 その衝撃音はルイズの爆発を遥かに凌ぐ。 青い鱗が太陽の光を反射させて宝石のような美しさを魅せる。 その巨体をゴーレムに巻き付けて動きを封じている。 「なに………あれ」 キュルケのその言葉は三人の意見を統一して代弁するモノだった。 「GYAOOOOOOOOOnN」 見たこともない生物、ハルケギニアにあんな生き物がいたなんて、ルイズも知らない。 魔法が使えない故、せめて勉強だけは人一倍にしてきたルイズですら、だ。 その姿を表現するならば、青き空を飛ぶ大蛇。 ゴーレムが巻きつきを解こうと暴れるが、関節を極めるように巻き付かれていて上手くいかない。 しかし、所詮はゴーレム、土によって作られたモノでしかない。 フーケが何処からか見ているのだろう。いったんゴーレムが崩れ落ちてまた新たなゴーレムが現れる。 しかし、ゴーレムはそれを警戒するようにして動かない。 「助けてくれた………みたいね……でもなんで」 キュルケが、ルイズとタバサに視線を向けるが、二人ともふるふると首を振った。 「知らない」 「わたしも知らない。あんなの……見たこともない」 いや、とある文献で読んだことはあった。 体長10mほど、翼が無くとも空を飛ぶ。雨を呼び嵐を呼び雷を起こす伝説の存在、竜。 ルイズが思い出しながらそう言うとキュルケが驚きながら言う 「翼がないのに空をぉ!? そんなわけ………」 そこまで言ったところでキュルケは口を噤んだ。今目の当たりにしている現実を否定するほどバカじゃない。 確かに目の前の大蛇に翼がない、翼に相当するだろう場所が見あたらないのだ。 「ドラゴンとは違うの?」 「違うみたい。詳しくはわからないけど……」 その時、ルイズは大蛇と目があったのがわかった。 大きく開かれた口からはするどい牙が輝くのが見えた。 しかしそんな凶悪な顔をしているにも関わらず、その瞳はとても穏やかでルビーのような煌めきを湛えている。 なぜか、脳裏にキングの顔が浮かんだ。 「まさか………」 キングのあののんびりとした顔とは似ても似付かないはずのその表情だったが、ルイズは自分を見るその暖かな視線にキングを思い浮かべずにいられなかった。 「キング………キングなの…………? まさか………嘘でしょ」 否定か肯定か、青い竜は天に向かって高らかに吠えた。 「キングぅっ!? キングってあんたの……うっそ、赤い魚だったじゃない!」 「わかんないっ、わかんないわよぉ、わたしだって何が何だか………でも何となくだけどキングと同じような気がしたんだもん」 「あれ」 キュルケの大声にルイズが狼狽する。 しかし冷静に観察していたタバサが、竜の額を指差した。 燦然と煌めく額のルーン。 それは紛れもなく、ルイズの呼び出した赤き魚に刻まれていたルーン。 「ホント……に。キングなんだ……」 「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAANNNNNN」 突然現れた竜にとてつもなく驚いたが、それがキングであるとわかっているのなら怖がる理由など有るはずがない。 そう、キングは、自分の使い魔なのだから。 「キングッ!」 止めようとするキュルケを振り切ってルイズがキングに駆け寄る。 するとキングはゴーレムと相対するのをやめてルイズにすり寄った。 ただ、6mを超える巨体が近づいてくるという、圧迫感は消しようがなかった。 ルイズの目の前で止まり、キングはその紅い瞳を細めた。 心なしか、ルイズにはキングが笑っているように見えた。 「キング………貴方ずいぶん大きくなって………」 額の三つに分かれた冠に刻まれたルーンを、ルイズが優しく撫でる。 その時だった。 未だにその手に持っていた破壊の小箱を、キングがじいっと見つめているのに気付いた。 「これ? 使い方がわからなくて……」 ぐるん、と胴体をねじらせて、尾びれの先で小箱の横に着いている凹みをキングはつつく。 突然ピンポンと、小箱から音がしてぱかっと開く。ルイズは驚いて目を丸くした。 「キング使い方わかるの?」 ルイズの言葉にキングは行動で示す。 キングの背びれに小箱を置くと、キングは体をねじってそのするどい牙で銜える。 間違って噛み砕いたりしないように、細心の注意を払っているのがわかった。 「わざマシンを起動します………中には『はかいこうせん』が記録されています。『はかいこうせん』をポケモンに覚えさせます。よろしければもう一度ボタンを押してください。キャンセルする場合はリセットボタンを押してください」 キングは、その牙を軽く押し込んだ。 土くれのフーケは、その光景をしっかりと見ていた。 「なるほどねぇ……ああして使うのかい。他の物も同じかねぇ」 そう呟きながら、傍らにあった小箱のボタンを押す。 すると、同じようにピンポンと音がしてメッセージが流れた。 予想通りな小箱の反応にフーケはニヤリとほくそ笑んだ。 「コレで奴らは用済みっと。あの大蛇が使えたって言うのは驚きだったけど。どうでも良いか、始末させてもらうよ」 杖を振ってゴーレムを動かし、キングとルイズへと襲いかかる。 ゆっくりとキングが振り返る。 そして巨大な牙が光る口を、これでもかと開いた。 そこへ光が集まり、巨大な球状を形成する。 その場にいる誰もが目を見張った。 キングはいったい何をしようとしているのか。 あの光の玉はいったい何なのか。 それが何なのかと言うことは。その三秒後。 人間で言えば腹部に位置する部分が吹き飛ばされた事実がまざまざと教えてくれた。 キングの口から放たれた光線。それはゴーレムの胴を吹き飛ばしながらもなお留まらず。森の木々と地面を削り飛ばした。 後には、轍のような一本線が森林のど真ん中に残るだけ。 胴が無くなったゴーレムは、上半身を支えきれずにぐしゃりと崩れ落ち、土と混ざって跡形もなくなった。 へなへなとへたり込んだルイズに、キュルケが歓びのあまり抱きついた。 キングの顔が怖かったからである。 「やったじゃないルイズッ、ゴーレムをやっつけたのよ! どうしたのよあんたの使い魔がやっつけたのよ? もっと喜びなさいよ」 「あ……はは……ちょっと気が抜けちゃって……」 ゴーレムの胴を吹き飛ばし、更に森林破壊まで簡単にやってのけたキングの「はかいこうせん」の威力に力が抜けてしまったのだ。 「もうなにやってんのよ、ほら」 キュルケがルイズに手を伸ばすと、ルイズはその手取ろうか取るまいかすこし悩んだが、結局掴んで立ち上がった。 攻撃を済ませたキングが戻ってきて、ルイズに頬ずりする。 顔は厳つくなったが、それでもキングはルイズをしたっている。 ルイズはそれがとても嬉しくて、とても愛おしくなった。 「それにしても。その………キング。一体何者なの? ゴーレムを吹き飛ばす魔法なんて…… キュルケのその言葉に、ルイズはたぶん違うと思っていた。 破壊の小箱からアナウンスされた意味のわからない単語。ただ『ポケモン』と言う単語だけ聞き取ることが出来た。 きっとあの小箱は特定の生き物に有効なアイテムなのだろう。 そしてそれを使えたキングは、『ポケモン』に分類される生き物。 おそらく、このハルケギニアとは違う文化圏に存在する生き物なのだろうと、何となく思っていた。 ただ、あんな小さな小箱を使うだけで、あれ程の力を発揮できるようになるなんて……… まさしく「はかいこうせん」だ。 「タバサ、シルフィードは」 「休ませてる」 「そう……」 キュルケの問いにタバサは短く答える。 「ロングビルは無事だと良いけど……」 その時だ、草木の影がガサリと音を立て、ロングビルが姿を見せたのは。 「ミス・ロングビル! 無事だったのね。フーケは何処からゴーレムを操って………」 ルイズがそこまで言ったところでその手に破壊の小箱が握られているのを気付いた。 「ミス・ロングビル……それ」 「ご苦労様」 「え………どういう」 「さっきのゴーレムを操っていたのはわたし」 ロングビルからの告白に場が凍り付く。 ロングビルが眼鏡を外すと、柔和だった目がつり上がって猛禽類のような目つきに変化する。 「そう、わたしが『土くれ』のフーケさ。しかしとんでもない威力ね。破壊の小箱。わたしのゴーレムが一撃じゃない……動くんじゃないよ!」 杖を構える三人を、フーケはその手の小箱を見せつけて制する。 「破壊の小箱は複数あったのさ。わかったなら全員杖を遠くへ投げなさい」 三人は言われるがままに杖を放り投げる、コレで三人とも魔法を唱えることが出来ない。 「実はね、盗み出したは良いけれど使い方がわからなかったのよ。討伐に来る奴に使わせて、知ろうと思ったのよ」 「わたし達の誰も知らなかったらどうするつもりだったの?」 「その時はゴーレムで全員踏みつぶして新しい人が来るのを待つだけよ。まぁその手間は省けたわね。こうして使い方もわかったんだし」 そう言ってフーケは小箱を起動する。 しかしフーケは気付いていなかった。 その小箱は人間に使えないことを。 その手に持っている小箱にヒビが入っていることを。 ヒビが入っている故、不良品故に人間に使えてしまうと言うことを。 そして、形は同じでもそれは破壊の小箱とは全く違う事を。 アナウンスの言葉の意味をわからなかった、それがフーケの敗因だった。 「わざマシンを起動します……ザザッは『ねザザザッ』が記録ザザッています。『ザッむる』をザザッモンに覚えさせザザッ。よろし……」 メッセージを最後まで聞かないでフーケはボタンを押した。 その直後フーケは糸が切れたように崩れ落ちた。 突然眠ってしまったフーケを縄でぐるぐる巻きにして、今三人はキングの背に乗っている。 全身に傷を負ったシルフィードはキングが口にくわえて輸送している。 相当嫌そうだったが、タバサが説得して渋々と納得した様子だった。 未だにシルフィードはきゅいきゅいと鳴いている、どうやらキングに必死で何かを伝えているようだ。 おおかた「食べないで」とか「噛まないで」と言った類だろう。 たまにキングがべろんと舐めているようだ。「きゅいいいいいーーー」と悲鳴が上がる。 「ねぇ、ルイズ。あんたどう思う?」 「どうって、なにが?」 「このキングと……後あの破壊の小箱の事もよ。なんでロングビル……フーケは急に眠ったのかしら」 キングは強力な光線魔法を放ったのに、とキュルケは続ける。 そんな事言われてもルイズに詳しいことは判らないのだから答えようがない。 「フーケを引き渡すときにオールド・オスマンに聞いてみるわよ。何か判るかもしれないし」 「私も気になる」 タバサが会話に乱入してきた。 タバサが言うには、あれだけの破壊力を持つ魔法は四大系統にも存在しないとのこと。 その事はルイズの方が良く知っていた。 風、水、火、土の四つの系統。 その中で最も破壊力のあるとされる火のスクウェアクラスでも30mもあるゴーレムの吹き飛ばすことは出来ないだろう。 「竜………か。これって、大当たりなのかしらね」 ルイズのそんな言葉にキュルケがツバを飛ばしながら、 「大当たりに決まってるでしょ! あんな魔法、使い魔どころか、どんなメイジだって出せないわよ」 と言った。 フリッグの舞踏会は通常通り執り行う事になった。 着飾ったルイズが会場に入った途端、ざわめきが覆い尽くす。 しかし、ルイズは男性からのダンスの誘いを全て断り、一直線にベランダへと向かった。 「キング」 そう短く呼ぶと、頭上から凶悪な顔が姿を見せた。 「あ……あの、ミス・ヴァリエール………」 「ん?」 突然後ろから声をかけられてルイズは振り返る。 「あの、その……あめ玉をあげて良いと言われたので、三つほど挙げたのですが、そしたら……」 シエスタはぽつりぽつりと告白する。 「あぁ、その事。いいのよ。キングには助けてもらったし、あげても良いって言ったのは私だし、律儀ねあなた」 恐縮するシエスタの仕草に、ルイズは思わず笑みを浮かべた。 ベランダから顔を覗かせるキングを、ルイズは撫でる。 「確かに驚いたけど………この子はキングよ、他のなんでもないわ……私を助けてくれた。私の可愛い使い魔」 そこで、ルイズは悪魔的な笑みを浮かべてシエスタをみやる 「ただ………そうね、可愛かったキングをこんなに怖い顔にした罰は与えようかしら」 「な、何なりと。申しつけ下さい。如何なる罰でも」 「本当に?」 ルイズのその言葉にシエスタは思いっ切り頭を垂れてふるふると震える。 そんなシエスタに背を向けて、ルイズはドレスのままベランダの手すらに手をかけて上る。 ルイズの意図をいち早く察したキングは、そのしっぽをルイズの前に差し出した。 ドレスのため動きにくそうにするが、なんとかしっぽに飛び移ると。それを補うようにキングはしっぽを頭の位置へと運ぶ。 ルイズは、キングの頭に飛び移り、額の冠にしがみついた。 「ほら、シエスタ。貴方も来なさい」 「え……」 ルイズの意図を把握したキングは、もう一度手すりにしっぽを向ける。 「着飾った途端にしっぽを振ってくるような安い人には興味は無いわ。一緒に月夜の浪漫飛行と行きましょう。命令よ」 命令、と言う言葉にシエスタはビクリと肩をすくませたが、やがておずおずと手すりに手をかけて昇り、そのしっぽへと飛び移る。 キングは同じように頭の上へと移す。 ルイズがシエスタへと手を差しのばす。 汚れのない真っ白なグローブがシエスタの目に映った。 おずおずと伸ばされたシエスタの手を、ルイズの方からも手を伸ばしがっしりと掴んだ。 そして、シエスタもキングの頭へと飛び移る。 「さ、キング、高く高く飛びなさい! 息苦しい地表から離れた、空と月しかない場所へ!」 ルイズの命令に、キングは嬉しそうに叫んだ。 その咆吼で会場の窓硝子に一斉にヒビが入る。 しかし後に残ったモノは、ドップラー効果で遠ざかる、対照的な少女の悲鳴と歓喜の声だった。 コレは、とある少女と、蒼き竜の物語。 役立たずと蔑まれ、誰からもバカにされた、少女と竜の物語。 雨を呼び。津波を起こし。雷を呼び。吹雪を起こし。大地を揺らし。炎を吐いた破壊の竜の物語。 誰が想像しうるだろうか。役立たずと言われた彼女らが、一万年の後にすら伝説として語り継がれることになるなど。 前ページ次ページゼロの登竜門
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本日何度目かの失敗、ゼロのルイズは春の召喚の儀式で周りから笑われながらも再度爆発を引き起こす。 他の生徒たちが飽きてあくびをし始めたころ、ルイズはとうとう召喚に成功した。 煙の中から現れたのは、思わす同情してしまいそうなほどみすぼらしい魚だった。 「あっはっは! 何だよあのしょぼいのは!」 「さすがゼロのルイズ、お似合いだぜ!」 ルイズは周りの声が気にならなかった。 いいじゃないか、見た目がボロボロでもこんなに珍しい生き物はそういない。 何よりどう見ても魚なのに地上で平気そうにしている。 ルイズは静かに、その醜い魚に口付けをした。 ボロボロの醜いその魚は、とにかくのんびりしていた。 水に浸かっても陸に上がってもとにかくボーっとしている。 渋いものが好きなのか、ハシバミ草の抽出液を与えるときだけ目を輝かせていた。 手入れをしていてわかったことは、この魚はボロボロなのではなく初めからこういう見た目だということ。 ぼろい見た目のくせにかなりしっかりした甲羅のようなうろこは非常に頑強で、意外にスベスベしていた。 それを毎日毎日磨きながら、ルイズはそのボロボロの魚を撫でる。 まるで今の自分のような、ボロボロの醜い魚。 「大丈夫よブリジット、いつか一緒にきれいな人魚になるんだもん、ね」 答えるようにピチピチと、そのボロボロの魚はひれを動かした。 ブリジットは今日もハシバミ草の抽出液を飲み、ハシバミ草を固めたものを食べ、ハシバミ草のサラダをむさぼる。 その目をむかんばかりの渋い液体をおいしそうに飲むブリジットを、ルイズは今日もキレイに磨いていた。 青い髪の少女が己の使い魔に押し付けているハシバミ草まで横取りし、渋いサラダと渋いジュースをブリジットは今日もむさぼっていた。 少なくともこのとき、ルイズは幸せだった。 醜くも愛らしい己の使い魔を愛でながら、ルイズは一人微笑んでいた。 使い魔としての役割を果たすことはできないだろう、そう思いながらも、ルイズは己の使い魔をかわいがっていた。 視界の共有をすれば驚くほどにごった白黒の映像が映る。 魔法の秘薬の材料を探すといってもそもそも行動範囲は狭そうだ。 主を守ることなどどうあってもできはしないだろう。むしろこちらが守る側だ。 それでもルイズにとってブリジットは、何より愛しい存在だった。 だから彼女を侮辱されることは、ルイズにとって己を侮辱されるより響いたのだ。 その魚を笑いながら蹴飛ばしたのは、三年の生徒だった。 平民どころか生徒と教師にまで嫌われている、いわゆるダメなエリートだった。 選民意識ばかりが高く、三年も学んだのにぎりぎりラインメイジ、努力を嫌い血筋だけで威張る典型的なダメ息子だった。 その男はルイズの目の前でブリジットを蹴り飛ばしたのだ。 だからルイズはその少年に杖を突きつけた。 だが悲しいかなたとえライン崩れ、1.5程度のメイジでもゼロよりは上だった。 ルイズは数体の土のゴーレムに殴られ、ひざを突いた。 それでも杖は手放さなかった。 左手の痛みは折れていなくても間違いなくヒビが入っているだろう。 口の中が切れているし、舌の上を転がる異物は自分の歯だろう。 初歩的な水の魔法も使えない自分ではそれらの傷を治せなくても、ルイズはただ前をにらみつけた。 男は本当にダメな男だった。 強いものには影でつばを吐きながら頭を下げ、弱いものにはとことん尊大になる。 本当にダメな、長男なのに跡目争いから真っ先に外されるほどダメな男だった。 だから回りのものが止めても嬉々としてゴーレムの拳を振り上げたし、ルイズがじっと自分をにらみつけていてもゴーレムの拳を振り下ろした。 だからこそそれは、聞こえるはずの無い音だった。 骨が立てる人を殴った音ではなく、何か非常に硬いものに土の塊をぶつけた音。 殴ったゴーレムの拳が砕けるほど硬いうろこを持った、ルイズの使い魔がそこにいた。 ルイズが声をかけるより早く、男が再びゴーレムを動かすより早く、使い魔はただ一度、ぴょんと跳ねた。 その強靭なうろこに包まれた体が、術者の集中が途切れてもろくなっていたゴーレムを打ち砕いた。 【ブリジットは52の経験値を得た!】 【おや、ブリジットの様子が……】 ブリジットが光に包まれる。 思わず顔を覆うほどまばゆい光、その光の中で、あらゆる物理法則を無視してそれの持つ因子が全身の構成情報を書き換える。 ボロボロのうろこもひれも姿を消し、その体がありえない速度で成長する。 艶やかな体色に彩られ、鮮やかないろどりのひれが生成される。 光が納まったとき、そこには美の女神の化身がいた。 美そのものがそこにはあった。 しなやかな強さがそこにはあった。 太陽のごとき晴れやかさがそこにはあった。 美の女神の名に恥じぬ美しさを持って、ブリジットはそこにあった。 そしてその眼光は、確固たる強さに彩られていた。 大きく開かれたその口の中、真っ白な何かが凝固し始める。 『水・風・風』というトライアングル・メイジでしか行使できないはずの冷気がその口内を満たす。 男が慌てて動かしたゴーレムは、眼前に展開された光の壁にさえぎられた。 周囲の熱を奪い吐息を白くしていたそれが、その口の中収束される。 シリモチを突く男に、彼女は少しも遠慮することなくその押し固められた冷気を放った。 放たれた冷気はゴーレムを消し飛ばし、その下の地面を抉り取り、外壁をやすやすと穿ちぬき、固定化のかけられた防壁をいとも簡単に打ち砕き、男をその天井に氷付けにしてようやく収まった。 呆然とするルイズに向かって、ブリジットはまるで天使のように美しい鳴き声とともにキラキラ光る光の粉を振りまく。 それはルイズの傷を、疲労を、まるで元から無かったかのように癒してしまう。 自分の体をしげしげと見つめるルイズにブリジットは優しく巻きつくと、そのほほにやわらかく口付けた。 ルイズはただ喜びにむせび泣いた。 後の世に名を残すことになる虚無の担い手ルイズ。 その傍らには生涯、どんなものでもその前では光を失うとまで言われた美しき使い魔がいた。 かつての世界でミロカロスと呼ばれた使い魔はルイズが年老いて亡くなるまでそのそばに控え、彼女の死と同時にその姿を消したという。 その後にはただ、美しき守り神の伝説だけが残されていた。
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前ページ次ページゼロのルイズと魔物の勇者 タイジュの国―― 青々と茂る巨木の枝の先に一匹のスライムがいた。 彼の名前はスラお。 かつて最強のモンスターマスター、テリーと共に星降りの大会を制し、クリオと共に様々な冒険を繰り広げてきた魔物である。 「暇だ・・・」 スラおはゆっくりと空を流れる雲を見上げながらそう嘆いた。 自分のマスターであるクリオが先日、自分の世界へと帰って行ってしまったからだ。 いつタイジュの国に戻ってくるかも分からないクリオが居なければ、冒険に出ることは出来ない。 生殺し状態である。 「クリオなんて置いてオイラ達だけで冒険に行っちまおうかな」 スラおには二匹の仲間がいる。 ゴールデンスライムのゴレムとエンゼルスライムのエルゼだ。 もちろん、この二匹の魔物の心境はスラおと同じで、今か今かとクリオの帰りを待ち望んでいる。 そんなことを考えながらスラおは牧場に戻ろうとした。 「何だこれ?旅の扉か?」 突如としてスラおの前に現れたのは、光る鏡のような物体。 この世界には旅の扉という、別の世界へ繋がる扉が存在する。 スラおは真っ先にその旅の扉を連想した。 しかし、スラおの知っている形とは違う。 「こいつもちゃんと別の世界に繋がってんのか?」 ほんの僅かな好奇心だった。 その不可思議な旅の扉に入るつもりはなく、ただそっと覗いてみただけ・・・ 「うぉぉ!?す、吸い込まれる!」 その瞬間、スラおは光る鏡の中へと姿を消した。 ―――――――――――――――――――――――――― 目を開けるとそこにはタイジュの国と変わらない青空が広がっていた。 今日は絶好の冒険日和だ、などとのんきに考えていたがどうも様子がおかしい。 「何・・・これ?気持ち悪い・・・・」 自分を覗きこんでいる桃色の髪の少女は毒を吐いた。 「なッ・・・そいつはもしかしてオイラのことを言ってんのか?」 突然喋り出した青いゲル状の物体に少女を含め周りの人間たちは驚く。 「しゃ、喋れるの!?」 「あたりめぇだろ!」 無駄に声を張り上げる少女に対して、スラおも負けじと声を張り上げ言い返した。 「あなた・・・一体何者?」 少女は見たこともない喋るゲルに聞いた。 自分で呼び出しておいてあんまりである。 「オイラはスラお。純正のスライムだ。お前こそ誰なんだよ!」 スラおの問いかけに少女は軽く息を吸い込んで答える。 「私の名前はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。貴族よ」 相手が気持ちの悪いゲル状の生き物であっても、何度も失敗したサモン・サーヴァントが成功したことに浮かれ、ついフルネームを答えてしまう。 儀式を完了させるのに、またフルネームを言わなければならないのに。全くの二度手間である。 「なげぇ名前だな。ルイズでいいな」 「な、あんた貴族に対する礼儀がなってないわね!」 スラおのフランクな態度にルイズは怒る。 「そ、そんなもんどうだって良いじゃねぇかよ・・・・」 そんなルイズの態度に対して、今まで敬意という敬意をはらったことのないスラおは素直に戸惑う。 「流石ゼロのルイズだぜ!とても強い使い魔には見えないな!」 「俺、前に錬金失敗してあんなの作っちゃったことあるぜ」 ルイズとスラおがグダグダしていると周りを取り囲む人間からルイズを蔑む声があがる。 それを聞いてルイズは唇をかみしめる。 おそらくここで使い魔召喚の担当であるミスタ・コルベールに召喚のやり直しを頼み込んでも無駄だろう。 断られるだけの理由はそろっている。 それをルイズは悟った。だからこそ何も言えない。 しかし、野次馬の声に黙ってはいられないスライムが一匹。 「おい、お前ら・・・そいつはオイラを馬鹿にしてるってことか?」 スラおは凄む。しかしそれでも生徒たちの馬鹿にした笑いは収まらない。 「オイラはマスターなしでこの世界に来たんだ。それはもう野生のモンスターみてぇなもんだ」 スラおは戦闘態勢に入る。 体から湧き出る魔力。その小さくシンプルな姿からは想像もできないほどの力。 「だったら人間に気を使う必要もねぇよなぁ?」 流石の生徒達もその魔力に気付く。 その力を真っ先に察知したのはタバサであった。次にキュルケ。 「ベギラマァ!!」 スラおが呪文を唱え、それと同時に閃光が走る。 生徒達はその熱に悶え苦しむ・・・はずだった。 ベギラマはコルベールの火の魔法により相殺された。 「ミス・ヴァリエール!契約を早く!」 コントラクト・サーヴァントさえ終えてしまえば正式にルイズの使い魔となり大人しくなると考えたのか、コルベールは叫ぶ。 ルイズは一瞬躊躇したものの、このスラおとかいう魔物が魔法を使えることを知り、その自信は少し回復しつつあった。 それ故にルイズのとる行動は一つ。 「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」 そしてルイズはキスをする。 青色の塊には幸い顔が付いている。口の場所もすぐに分かった。 突然顔の位置まで持ち上げられ、キスをされたスラおは目を丸くした。 たいあたりでぶっ飛ばそうとしたが、体中が痛みそれができない。 スラおの背中には見たこともない文字が浮かぶ。 しかし、文字はまるで水で溶けたインクのように滲み、消えていった。 「いててててて!!!」 強い痛みのせいか、スラおは気絶した。 「今のルーンは・・・」 コルベールは一瞬だけ浮かび上がったルーンに対して過剰な反応を見せる。 「全く、ルイズったらおかしな使い魔を召喚して・・・でも、なんだか面白くなりそうね」 キュルケが親友であるタバサにそう言うと、タバサは何も言わずにうなずいた。 前ページ次ページゼロのルイズと魔物の勇者
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これ購入したひといる? -- 名無しさん (2011-07-27 21 34 55) 勿論即買いです。ココア可愛すぎ -- 名無しさん (2011-07-28 00 15 43) ここにもいるぞノ 咲音ちゃん可愛いよ咲音ちゃん(´∀`) -- 名無しさん (2011-07-28 00 46 03) おお!なんかニコ動に動画見つからないから不安だった! -- VP貯まりしだい購入 (2011-07-28 07 07 35) とにかく背中がエロい -- 名無しさん (2011-07-28 13 30 07) メイコより乳ちっせーな -- 名無しさん (2011-07-29 23 17 54) ちっさい -- 名無しさん (2011-07-30 01 29 08) ↑1 2咲音さん16歳と比べられんでしょ、メイコさんじゅ(ry -- 名無しさん (2011-07-30 01 39 20) メイコは生まれた時からでかかった・・・乳ぃぃぃ -- 名無しさん (2011-07-30 01 41 48) この程好いボリュームが良いんじゃないか! -- 名無しさん (2011-07-30 12 21 41) めーちゃんの爆乳もいいけど咲音ちゃんの程よい谷間も堪らない。水着は幼いのに…! -- 名無しさん (2011-07-30 16 01 26) 爆乳の未来の咲音に期待 -- 名無しさん (2011-07-30 21 55 28) よくよく考えたら手袋してない咲音ちゃんはこれだけだね -- 名無しさん (2011-07-31 11 12 26) そだね -- 名無しさん (2011-07-31 11 16 31) ようやく買えたぁぁぁあ! ココアとMSSに設定してきた -- 名無しさん (2011-10-19 17 41 52)