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前ページゼロと在らざるべき者 フーケの小屋の中で見つけた「破壊の剣」、それに手を触れた瞬間、ルイズの周囲が――世界が弾けた。 気付けばルイズは漆黒の世界の中に浮かんでいた。 ただただ広い、ただただ深い闇。 その闇の中に浮かぶ無数の星々。 そんな距離も自分の位置も向きすら分からない漆黒の世界。 「これは……ここは……?」 ここがどこで、ここが何で、なぜここにいるのか、何も分からない。何も考えることが出来ない。ただただ際限なく広がっている世界を前にルイズは圧倒されていた。 呆然とするルイズ。どれほどそうしていただろうか、気づくとルイズの目の前に星の一つが漂っていた。何気なく手を伸ばしたルイズの意思に応じるように、その小さな星がルイズの手に収まるようにふわりと飛び込んでくる。 「うわぁ……これが、星……? こんな風に見るなんて……すごい」 ルイズの手の中で光る星、その中には一つの世界があった。広大な大洋に浮かぶ島々、水を切って行き交う巨大な帆船、その船を飲み込もうとする白い四本腕の怪物。怯える船員を押しのけ、慌てて甲板に飛び出す一人の男。 「ああっ、危ない! 逃げないと……」 驚き心配するルイズをよそに、男は怪物を見据えると一つ深呼吸をして心を落ち着かせ、きっと睨み返しながら腰の皮袋から一枚の石版を引き抜いた。それは先ほどルイズが目にしていた「破壊の剣」 とは少々形状と大きさが違うものの―― 「カード!? それじゃあこの男は?」 ルイズが覗き込む星の中で、男はカードを手に一声叫ぶ。ルイズの知らない言語での呼びかけ、それに応えてカードが展開する。板状だったカードが中央とその周囲のパーツに別れて広がってゆく。 その広がってゆくカードの中央から、四本腕の怪物の半分に満たない程度だが同じく怪物が生まれる。現れた怪物は全身が水で形作られた水人間というべき存在。それが船に近づく四本腕の前に立ちはだかり拳を振るう。負けじと四本腕も水人間に襲い掛かるが、水人間の体は飛沫を上げるだけですぐに飛び散った水が集まり人型を取り戻す。。 そんな異形の戦いを思わず拳を握りながら見守っていたルイズだが、いつの間にかその周囲にまたいくつもの星が集まっていた。ある星の中には不毛の荒野で粗末な鎧の盗賊がカードを手に亜人を率いて村を襲い、ある世界ではドラゴンが奇妙な剣を手にしたメイジ ――いやセプターによって打ち倒され、ある世界では大量の矢が飛び交う戦場で平然とジャグリングを演じるピエロが笑っていた。角ばった塔が林立する中を走る道を大量の人が埋め尽くす街があった。 火の雨が降り注ぎ人々が逃げ惑う光景があった。薄暗い樹海を生き抜く小さな獣の一生があった。 いくつもの星々、その中にある全く知らない異郷の風景、次々に集まっては散ってゆく星の見せる世界にルイズは見入っていた。だがある一つの星に手を伸ばした時、突然周囲を強い光が満たし始める。驚きの声すら塗りつぶす強い光、両手をかざしながら光源へと向き直ったルイズの前に、光を背負った巨大な人影が立っていた。 「始祖……」 思わず呟くルイズ。ルイズたちハルケギニアの人々にとっての絶対の存在である始祖ブリミル、それを思わせるほどの強大な存在感を持ったものが彼女の前に居た。 ――――力を使え 厳かな「声」がルイズの心に刻まれる。突然心の中に侵入してきた「声」に戸惑うルイズだが、そんなことは意に介さず「声」は続く。 ――――その手に集めよ 「声」と共に、本のイメージが心に浮かぶ。その本がパラパラとめくれて行き、やがて最後のページに到達するとばらばらになって散り散りになる。 ――――時を越え ばらばらになったページが平原に、海に、森に、雪原に、砂漠にとさまざまな場所に降り注ぐ。 ――――目指せ それらのページ、カードに何者かが手を伸ばし…… 覚醒。 突然の轟音。 小屋が震え、窓の板戸が、続いて屋根が根こそぎ吹き飛んでゆく。 「な、何が……!」 突然開けた周囲の風景。今までのことは、今の轟音は何なのか、この光景は何なのか、驚愕の連続にルイズは混乱のまま轟音のする方へ目を向ける。そこにあったのはさらなる驚愕だった。 屋根がなくなった小屋から見える周囲の木々とそこにそびえる巨大なゴーレム――土くれのフーケ。だがそれ以上にルイズたちを驚かせている物、それはルイズの手の中にあった「破壊の剣」、このただの石版だったものが姿を変えつつあったのだ。 「これは……カードが……」 「ル、ルイズ!? もしかしてこれが破壊の剣の本当の姿なわけ?!」 現れたフーケのゴーレムを前にして浮き足立っていたキュルケとタバサが今の状況も忘れて変容する破壊の剣を見つめていた。その変化しつつあるカードを呆然と見つめていたルイズの唇が、無意識に脳裏に浮かんだ言葉を呟いた。 「ストーム、コーザー」 胎動。 その言葉が紡がれた瞬間、「破壊の剣」はルイズが先ほどまで見ていた星の中の世界のよう、その中に秘められた力を顕現させた。 「なんてこったい、大当たりだよ。まったく生徒なんかがやって来ちゃ誰も使い方が解らないと思ったら……何とか生け捕りにして使い方を吐かせてやらないとね」 小屋の方へと足を進めるゴーレムの上で、土くれのフーケは姿を変えつつある「破壊の剣」を見下ろし不敵な笑みを浮かべながら呟いた。学院から破壊の剣を盗み出したフーケだったが、箱の中に収められていたのは小さな石版一枚だけだった。なにのマジックアイテムだろうとは思うのだが、破壊の剣の名を呼ぼうと、思いつく限りの呪文で呼びかけても何をしても反応しない。このままでは魔法学院の宝物庫から危険を冒して使えないゴミを持ち出したことになってしまう。それ故フーケはさらなる危険を犯すことになるものの学院へと取って返して教師達を破壊の剣の元へとおびき出して使い方を知ろうとしたのだ。 結果としてこの芝居は成功したものの、教師達は身の危険と任務に失敗した時の責任に二の足を踏んでなぜか生徒がやって来てしまった。しかし、その生徒の中に「破壊の剣」の使い方を知る者が居たというのはとてつもない幸運である。 「さぁて、森の中じゃこのゴーレムから逃げるなんて無理だろうねぇ。 再生する私のゴーレム相手にどこまでやれるかい?」 「おお、ルイズ様はやはりセプターの才が……」 展開してゆくカードの姿を前に感激の声を漏らすミゴール。見守るキュルケとタバサ。その前でようやく、カードの中に秘められていた物が姿を現した。 最初に飛び出したものは、禍々しい鉤爪。それを先端に付けた昆虫のような、百足の胴体のような足が続けて何本も飛び出して展開したカードの淵を捕らえ、びきびきと力が込められて行く。 みちりみちり、そんな音を漏らしながら、カードから飛び出した足が中からその「破壊の剣」そのものと言うべき物を引きずり出す。 最初に引き出されたのは眼、緑に光る眼球。それが瞬きをするたびに単眼と複眼に入れ替わる。その眼の先に存在する刀身には人の顔が刻み込まれていた。それも慟哭に震えるかのような、恐怖と絶望に染められたデスマスクである。 現れたのは禍々しくおぞましい魔剣。赤黒く塗れた刀身に緑の光を灯す眼、ギチギチと蠢く柄から伸びた鉤爪のある触手――まさに 「破壊の剣」と言う名に違わぬ恐怖を与える姿だった。 「これが……破壊の剣だって言うの……こんな物が、学院の宝?」 迫るフーケのゴーレムよりも、この剣に恐怖を感じて一歩後ずさるキュルケ。ルイズはそれに構わず視線を傍らのミゴールに移す。 顔を上げるミゴールと眼が合う。無言で力強く頷く己の使い魔の姿に、ルイズも頷き返す。今、ルイズの心の中には先ほどの混乱と驚愕は既に無く例えようも無く落ち着いていた。自分の心が、精神が、ルイズという存在が「広がった」、そんな感覚がルイズにあった。 「ミゴール、この剣で勝てるわね?」 「お任せ下さい」 短い言葉。ルイズとミゴールの意思を受けて、破壊の剣が担い手としてその鉤爪の生えた足をミゴールに伸ばして右腕に食らい付き同化してゆく。黒い血が飛び散り腐臭と煙を上げ、ボコボコと皮膚の下に剣の足が潜り込む。そのおぞましい姿に青ざめるキュルケとタバサだったが、ルイズは顔色を変えずにその様子を見届けると、一言命令を下した。 「やりなさい」 フーケはゴーレムの上から小屋の中での「破壊の剣」の変化を見届け、ルイズを人質にしようとゴーレムに腕を伸ばさせながら一歩踏み出そうとした。だが、その視線の先でルイズがその使い魔―― 昨夜にただの鉄の棒を投げつけてゴーレムの体を抉った亜人に破壊の剣を持たせるのを見て一瞬体が凍った。頭の片隅で、盗賊としての勘が猛烈に警鐘を鳴らし始める。これは危険だと、ゴーレムの力を過信するなと、今すぐ逃げろと本能が叫ぶ。トライアングルメイジとしてのプライドが、土くれのフーケという自負がそれを押し止めようとするが―― 「ちっ、こういう勘は当たっちまうもんだよっ」 吐き捨てるとゴーレムの肩を蹴り後ろへ跳躍しながらレビテーションを唱える。結果として盗賊としての勘に従った行動が、プライドによる躊躇いが、その双方がフーケの命を救った。 「コオォォォォォォォ!」 「ッガアアアアアアア!」 二つの咆哮。一つは洞窟を吹き抜ける風のような空虚で寒々しい心を乱し引き裂く声。もう一つは昨夜も聞いた、敵に死の先触れの恐怖を刻む荒々しい闘争の雄叫び。 爆音に近いほどの猛烈な突風が吹き荒れ、残った小屋の壁が舞い上がり風に砕け、直後に風が収束して収まる。その風が収束した中心、そこにあの亜人が破壊の剣を腰だめに構えてゴーレムを見据えている。その右腕は破壊の剣と一体化し、亜人と破壊の剣、双方の禍々しい外観が相まって、おぞましい異形の怪物となっていた。 「グゥゥ、ゴアアアアァァ!」 振り抜かれる破壊の剣。 その刀身から迸った物は、風。ミゴールの雄叫びすら飲み込み吹き荒れる嵐を刃として押し固めた破壊の刃。それは大地を抉り木々を切り裂く。ぶ厚いゴーレムの胴をあっさりと両断してフーケの足元数メイルの空間を突き抜け、それでも止まらずその背後の森を斬り進む。 「くっ、さすが学院の秘宝だね……だけど両断されたくらいならまだ再生は」 空中で幸運にも嵐の刃を身に受けずに済んだフーケが、さらなる破壊に巻き込まれる。押し固められた嵐が解き放たれ爆裂する。風が爆発する、新たに小さな刃がでたらめに飛び散る、また爆裂する。 嵐の刃を追いかけるように走る風の爆発が両断されたゴーレムを粉々に砕き、フーケを深い森の中に吹き飛ばし、そして森を1リーグに届く程も切り開いた。破壊の剣の一振り、たったそれだけのことがこれ程の破壊を巻き起こしたのだった。 「あぁ、そっちはどう?」 「……(ふるふる)」 「そう……やっぱり、あれに巻き込まれて……」 使い魔の風竜から降りたタバサからの返答に沈むルイズ。フーケをただの一撃で撃退した「破壊の剣」の破壊力はすさまじいものだったのだが、如何せん破壊力が大きすぎたのだった。森を切り開くほどの破壊力はルイズたちが乗ってきた馬車にも及んでいた。嵐の刃の痕跡が残る末端付近なのだが、それでも馬車は目茶目茶に砕け散っており、馬車を牽いていた馬も無残に「散らばって」いる。 あの破壊の剣の一振りでフーケのゴーレムが破壊されたのは一目瞭然、だというのにミス・ロングビルは一向に現れる気配が無かった。フーケのゴーレムが破壊されたというのに、周囲の警戒に残ったミス・ロングビルが現れない理由……考えられるのは、フーケに捕らえられたか破壊の剣に巻き込まれて気絶している、あるいは…… と、その時森の木々の間を縫って空に火球が一つ昇り爆発した。 はっとしたタバサがレビテーションを使い木々の上に浮かび上がる。 その視線の先で、髪に木の枝をつけたキュルケが気絶したロングビルを抱えて飛んできていた。 「全く、感謝して欲しいわねルイズ。私が見つけなかったら気絶したミス・ロングビルを死んだことにして帰っちゃう所だったのよ?」 「むぐ……でもあんたがやったことってそれだけじゃない」 「何よ、そもそもミス・ロングビルが気絶したのはあんたのとこのせいじゃない」 気絶したミス・ロングビルの手当てをするタバサ――水の系統魔法に加えて応急手当の心得もあるそうだ――の横で言い争うルイズとキュルケ、その騒がしさによってか手当てのかいあってか、そのまぶたがゆっくりと開かれる。 「眼が覚めた」 タバサの声に、ルイズとキュルケは慌てて言い争いをやめてロングビルの様子を窺う。三人が見守る前でロングビルは上体を起こしながら何度か瞬きをする。そして、 「なっ、あ、あんたらっ!?」 慌てて跳び退ろうとするが、先ほどまで気絶していた程の打撲と感覚の狂いに疲労で地面に倒れこむ。キュルケが慌ててその体を抱き起こし、ルイズと共に声を掛ける。 「大丈夫?! ミス・ロングビル、しっかりして」 「ミス・ロングビル、もう大丈夫です。フーケは倒しました、もう安全ですから」 体を支えられた上体で前後から声を掛けられることで、だんだんとロングビルも落ち着きを取り戻して目覚めた直後の怯え慌てた様子も収まった。目覚めたロングビルにタバサがいくつか質問しつつ体の調子を確かめて骨折などの様子が無いことを確認する。 「ああすみません、ご心配をおかけして……すっかり足を引っ張ってしまいましたわ」 「お気になさらないでミス・ロングビル。それもこれも加減を知らないヴァリエールがいけないのですわ」 口元を隠しながら笑うようなしぐさをするキュルケ。それに反論しようとするルイズだったが、その前にロングビルが慌ててルイズの肩を掴んで問いかける。 「そうですわ、破壊の剣ですわ! ミス・ヴァリエール、破壊の剣の使い方は、今どこに!?」 「ちょ、ミス・ロングビル落ち着いて……」 「ですから、破壊の剣はっ」 と、そこでロングビルの言葉が途切れる。ずい、と半身を黒く汚したミゴールが無言で歩み寄るとロングビルの体に手をかけて持ち上げる。というか体が宙に舞った。自由落下を経てどさりと地面に激突する。 「ご無事ですかルイズ様?」 「ミ、ミゴールあんた怪我人に何してんの!」 ルイズの傍に控えていたミゴールが強引にロングビルの体を放り投げたのだ。先ほどの破壊の剣を振るった際の傷が開いて黒い血が滴っている怪我人の一人なのだが、多少動きが鈍い程度でどうもあまり気にした様子が無い。とりあえずミゴールは大丈夫そうだと判断したルイズは再び慌ててロングビルの元へと駆け寄る。 「落ち着いて下さい、ミス・ロングビル。破壊の剣は無事取り戻しましたわ。ほら、ここに」 そう言って胸元にしまって置いたカードを取り出すルイズ。だがロングビルは苦しそうに身を起こしながら首を振る。 「いえ、ミス・ヴァリエール……その破壊の剣は学院の秘宝でありながら誰も使い方が解らなかったそうです。もし使い方が解るのであればやって見せて頂けませんか? そこまで確認しなければ……」 苦しそうに言葉を紡ぐロングビルの様子に、ルイズは頷いてカードを手にその名を唱える。 「ストームコーザー」 再び展開するカード、そこから現れる禍々しい魔剣を見てロングビルはにやりと微笑んだ。現れた破壊の剣――ストームコーザーに手を伸ばすルイズに、ロングビルは渾身の力を振り絞って飛び起きて思い切り突き飛ばす。 「な、ミス・ロングビル!?」 驚愕するルイズたち、その前でロングビルがストームコーザーを手に取って倒れたルイズに突きつける。その表情は苦痛と疲労、そしてそれ以上の悪意で歪んでいた。 「やれやれ、こんなことになっちまうなんて予想外だよ。でもまあ予定通り人質も取れたし……げほっ、結果オーライってとこかね」 「ミス・ロングビル……いえ、もしかして……」 突き付けられた刃の下でルイズが睨む。その視線を受けてロングビル、いやフーケが悪意に満ちた笑顔を返す。 「そうさ、わたしが土くれのフーケさ。盗んだのはいいんだけど、使い方が解らなくてね。ふん、要するに全然関係ない名前が付いてただけかい」 フーケはキュルケ、タバサ、ミゴールの様子を見守り牽制しつつどうやって逃げようかを考え始める。だが、いかにも悔しそうにしているキュルケに対して(タバサはいまいち解らないが)ルイズとミゴールの様子が妙に落ち着いている。特に、あの忌々しい亜人のミゴールはやたらと主人に忠誠心が強く、先ほど怪我人のフーケが主人の肩に手をかけただけで宙に放り投げるほどだ。それがこうして剣を突き付けられた主人を遠巻きに見ているだけというのはおかしい、何かを企んでいると見るのが正解だろう。 ならば、とフーケは考えを変えた。もうみんな殺してしまおう、全員この場で殺して、しばらく休んで体力が回復したら死体5人分になるほどばらばらに刻んで逃げればいい、それが一番確実だ、そう考えた。 常識的に考えればそれが確実な手段だったろう。だが、今この場この状況においてはその判断は致命的な失敗だった。いや、これを 「フーケが判断を誤った」と言い切るのは酷なことだろう。フーケは知らなかったのだ。ストームコーザーがどういう剣なのか、ミゴールがどのようにしてこの剣を右腕にとったのか、そして、ミゴールの血が「黒い」ということを知らなかった。故に気づけなかったのだ、魔剣が放つ破壊力の代償が何なのか。 このフーケの攻撃の意志を、殺意を、右手の魔剣は鋭敏に感じ取り、彼女を次の自身の担い手と認めて――その触手を伸ばし、体に突き立てた。 鮮血が舞った。 邪悪な笑顔を浮かべたままのフーケの首がぼとりと転がる。 バケツをひっくり返した、と形容されるようにルイズの上に血が溢れる。ストームコーザーがフーケの右腕を咥えたまま地面に突き刺さる。 血を溢しながら立つフーケの体は右腕から右胸までが、一瞬にしてストームコーザーの触手によって綺麗に食い千切られていた。 起き上がるルイズに押されてどさりと倒れるフーケの体。 思わず嘔吐するキュルケ。破壊の剣に杖を向けるタバサ。 それをよそにルイズはマントで顔を乱暴に拭い、軽く精神を集中する。するとそれに応えて破壊の剣は再びカードに戻った。そう、カードはルイズが己の意志でその内に秘められた力を解放していただけであるため、ルイズがカードに戻そうと思えばフーケの命を奪う前にカードに戻すことも出来たのだ。だがそうしなかった。始めて得た「己の」力に酔っていたのだろうか、それともこんなことに慣れなければいけないという無意識の決意なのだろうか。フーケの死の証である鮮血に濡れながら、ルイズは先ほどの行動を思い返し、なんとなく口に出して思い返してみる。 「私も随分変わってしまっていたのね。ミゴールを召喚して、カルドセプトなんて神話を知って、ミゴール族を救うと誓って……私がカードが使えると知って……ふふ、そしてフーケを見殺しに、いいえ、フーケを殺して……なのにこんな風に落ちついてられるなんて」 口にした瞬間、ルイズの体に一瞬震えが走った。口にしたことではっきりと自覚した。落ち着いてなどいない、ただ理解できなかっただけだ、理解を拒否していたんだと気づいてしまった。 私は、人を殺した。 震えが手にも伝播する。いけない、そう直感する。このままでは自分が壊れる、そんな思いが脳裏に浮かぶ。耐えなければいけない。 フーケは罪人だ、自分達を襲った、それに貴族ではない、むしろ賞賛される行為だ、そんな自分を弁護する言葉が次々と思い浮かぶが、そんな考えを勢い良く頭を振って追い出す。飛び跳ねた血の飛沫に遠巻きに様子を窺っていたキュルケが小さな悲鳴を上げたが、ルイズは構わず己の使い魔を呼ぶ。 「ミゴール。こいつの、首を、持って帰るわ。こんな表情なんだもの、証拠としては十分でしょ」 「はっ」 足元の生首を示しながら必死になんでもない様子を装う。私はこんなことに動じたりはしない、父様と母様も戦争を経験しているのに、その娘の私が盗賊退治で「人を殺してしまった」なんて言えるものか、父様と母様に「人を殺しす感じにどうやって慣れたか」と教えてもらうつもりか。自分に言い聞かせ、心に湧き上がる恐怖と後悔に必死で耐えた。そうして傍らにやってきたミゴールと共に、フーケの首をその手に取って、フーケのローブで包む。震えそうになる両腕と足を叱咤しながら、行動によってルイズは死を乗り越えようしていた。 そうして昨日までならば想像すら出来なかった行為を終えたルイズは血にまみれた袋を手に提げながらキュルケたちの方へ振り返る。 ルイズはなんでもない風を装いながら、しかし強張った表情と声でキュルケとタバサに告げた。 「ねえキュルケ、タバサ、帰る前に頼みがあるんだけど。私が「破壊の剣」の使い方を知っているってこと、秘密ね。……絶対に言わないでよ?」 ストームコーザー。嵐を刃とする「最強」の魔剣。 「最強」の代償は、命。命を用いて嵐の刃を得る。 そして「最強」を振るう代償を払い切れない者がその力を求めた時、その者は刃を振るう間も無くただ命の全てを食い尽くされ無為の死を遂げる。 その犠牲者が、また一人。 前ページゼロと在らざるべき者
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スネーク「あのヒゲは・・・・・・。」 大佐 「『永遠の二番手』だな。」 スネーク「おいおい、ルイージだろう?」 大佐 「いわゆる日陰者だ。」 スネーク「そんなに悪く言わなくてもいいじゃないか!!」 大佐 「甘いぞ、スネーク!兄に勝る弟などいない!!」 スネーク「ど、どうしたんだ!?大佐?」 大佐 「らりるれろ! らりるれろ! らりるれろ!」 スネーク「大佐!しっかりしろ!大佐!!大佐ぁぁーーーーーーーーーーっ!」
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前ページ次ページ鮮血の使い魔 こんな笑い声、聞いた事がなかった。 「あはははははははは」 単調で、けれど深い闇を内包し、聞くだけで心が蝕まれるような。 ルイズは逃げ出したい衝動に駆られながらも、恐る恐るコルベールへと視線を向ける。 右腕の肘から上を失い、そこから多量の血をこぼしながら、悲鳴ひとつ上げぬコルベール。 そんな彼に、言葉は再び、ノコギリを。 「――駄目ッ」 だからルイズは、咄嗟に言葉とコルベールの間に割り込む。 言葉の黒く黒く深く深く暗く暗く淀んだ淀んだ瞳にルイズが映る唇が弧を描く。 「あなたも、私から誠君を奪おうっていうんですか?」 「ち、違う。そうじゃ、ないの」 「大丈夫ですよ。私は寛容ですから、誠君が他の女の子に目を向けても構いません。 でも、誠君は言ってくれたんです。これからは私だけを見てくれるって。 けれど西園寺さんみたいに誠君を傷つけようとするなら、私は」 「あの、あのね、ミスタ・コルベールは悪気があった訳じゃなくて。 別に、あなたと、そ、その、マコト君を引き離そうとなんて……。 で、ですよね!? ミスタ・コルベール!」 半泣きになりながらルイズは叫んだ。 そして、その後ろで、コルベールがか細い声で答える。 「……その通りだ。すまない、思慮に欠ける発言をしてしまった。 コトノハ君……とにかく、ここは人目がある。 ミス・ヴァリエールと一緒に、治療室まで来てくれないか?」 人形のような感情の無い表情で、言葉はコルベールを見つめていた。 嘘か本当か、見極めようとしているのだろうか。 けれど、ルイズは早く今の状況を何とかしたい一心で言う。 「だ、大丈夫。あんたは私の使い魔なんだから、あんたの大事なモノを奪わせたりしない」 「……本当ですか?」 「本当よ。だから、ミスタ・コルベールを運ぶのを手伝って。早く手当てしないと」 「……解りました。それじゃ、行きましょう、誠君」 その後、キュルケがコルベールに、タバサがコルベールの右腕にレビテーションをかけ、 治療室まで運んでくれた。そこでコルベールは治癒の魔法を受ける。 治療を受ける直前にコルベールはキュルケとタバサを寮に帰し、 使用人のメイドに言葉の着替えを用意させると、 血で服を汚しているルイズと言葉に着替えるよう指示する。 ルイズは自分の部屋から着替えを持ってきてもらった。 着替え終えた二人は、コルベールの治療が終わるのを待つ。 その間、ルイズは使い魔の言葉と顔を合わせようとしなかったが、 ふいに言葉はルイズに話しかけてきた。誠の首を持ったままで。 「ここは、魔法の国なんですか?」 「え? え、と、魔法なら私達貴族は使えるわ」 「そうなんですか、素敵ですね」 「ま、まあね」 「ねえ、ルイズさん。私はあなたの使い魔になってしまったんですか?」 「う、うん。いや?」 いやなら、やめてもいいわよ。なんて。 「いいえ。少し嬉しいです」 何で!? ルイズは泣きたくなった。 「ルイズさんは、私と誠君を守ろうとしてくれました。 私達を祝福してくれる人がいるなんて……ほら、誠君も喜んでます」 と、顔を、見せられた。死体の顔を。 もちろん直視などしない。 唇を引きつらせながらルイズは、視線をあっちこっちに泳がせる。 「あ~……そう。どうも」 逃げ出したい逃げ出したい逃げ出したい。ルイズは心の中で連呼した。 そこに、コルベールの大怪我を聞いたオールド・オスマンがやって来る。 オスマンは言葉と、誠を、見て、顔をしかめたが、無言で治療室の奥へ向かった。 そこでは右腕を何とか元通りつなごうと苦心する水のメイジの姿があり、 コルベールは酷い汗をかきながら痛みをこらえていた。 「ミスタ・コルベール。災難じゃったな」 「オールド・オスマン……」 「ちょっと内緒話でもしようかの」 オスマンは杖を取り出すと、素早い口調でサイレントを唱えた。 風系統の魔法で、外界の音を遮断する魔法だ。 オスマンは自分とコルベールの周囲のみ魔法で包み、 治療を続ける水のメイジだけは魔法の外という絶妙なコントロールをやってのける。 「さて、これで誰にも話は聞かれまい」 「ええ」 「まず何から話せばいいのやら……。のう? ミスタ・コルベール。 とりあえず、怪我の具合はどうかね」 「大丈夫。腕は元通りくっつくでしょう」 「本当に『元通り』ならいいがね」 どうやらお見通しらしいとコルベールは苦笑した。 かつてとある部隊に所属し、数多の戦場を焼き払ったコルベールは、 こういった傷がどうなるものかを重々承知していた。 例え腕がくっついても、その腕は握力を失い、言う事を聞かず、杖すら持てなくなる。 腕があるか無いかの違いがあるだけで、実質的には片腕を失ったも同然だ。 「あの胸の大きな少女を、ミス・ヴァリエールの使い魔にしたそうじゃな」 「……使い魔の召喚は神聖な儀式。彼女が召喚したのだから、当然でしょう」 「しかしあの娘はお前さんの腕を」 「あの娘は被害者です、心を病んでいるのだから。罰などは与えないでください」 「首を抱えとる者が相手でもか?」 「私は、心の壊れてしまった人間というものを、何度か目撃しております。 それは水の魔法薬を使ってなどと生易しいものではありません。 人は、真に恐怖し、絶望し、喪失した時、壊れる事で己を守る。 壊れた心を治すには、長い、長い時間と、優しさが必要なのです」 「贖罪のつもりかね」 厳しい口調でオスマンが訊ねると、コルベールはゆっくりとうなずいた。 「……あの娘は、お前さんのせいでああなった訳ではあるまい。 なのに背負い込もうというのかね? いや、背負わせようというのかね? 償う罪など犯しておらぬ、ミス・ヴァリエールにまで」 「傲慢だと言ってくださって構いません」 「ほっ! では言おう、傲慢じゃなミスタ・コルベール!」 温厚で、いつもふざけていて、怠け者で、怒るという行為を知らないような老人。 しかし今、オスマンは怒っていた。 ミス・ヴァリエールに途方も無い重荷を背負わせようとするコルベールに。 「……コトノハといったか。同情しておるのだな、あの娘に」 「ええ」 「聞けば、彼女の持っている首は、恋人のものだとか」 「ええ。恐らく何者かに目の前で恋人を惨殺され、心が壊れたのでしょう」 「しかし首を切断したのはあの娘かもしれぬぞ」 ドクンと、コルベールの心臓が跳ねる。 (さすがはオールド・オスマン、そこまで見抜きましたか。 私しか気づいていないと思っていたのですが……) 彼女の彼氏、誠という男の首の切り口を見れば、どのように切断されたか想像はつく。 鋭利な刃物で刎ねられたのではない。 あの傷口は、そう、ノコギリのようなもので切り裂いた傷だ。 ならば、血濡れのノコギリを持っている言葉こそが、誠という少年を。 「まあ断言はできんのじゃがな。それともうひとつ、その腕を切断したノコギリじゃが」 「……血が付着したままで、特に手入れした様子もない、普通のノコギリに見えました。 ノコギリは何度も刃を押し引きして物を切る……」 「私は『ノコギリで腕を切断された』としか聞いておらん、 まさか木の枝を切り落とすようにノコギリを押し引きされていた訳ではあるまい」 「……彼女の左手に刻まれた見慣れぬ使い魔のルーンが光ったと思った次の瞬間、 すでに私の腕は切り落とされていました。とても、人間業では」 「あのノコギリがマジックアイテム、という訳でもなさそうだしのう」 「そうですね。……うぐっ」 「おっと、長話しすぎたようじゃな」 オスマンはサイレントを解いて会話を打ち切ったが、その瞬間咳き込む声を聞いた。 「何じゃ?」 「ミス・ヴァリエールが咳き込んでいるようです。この臭いじゃ仕方ないでしょう」 サイレントの外にいた水のメイジが言い、オスマンとコルベールは納得する。 言葉の抱いている誠、いつ死んだのかいつ首を切断されたのかは解らないが、 すでに死臭が漂い始めている。嗅ぎ慣れぬ者にとってはつらいだろう。 「オールド・オスマン。あの少年はあの娘の心の拠り所のようです。 無理に引き離してしまっては、どうなるか解りません。……頼めますか?」 「やれやれ。どうなっても知らんぞ」 オスマンはがっくりとうなだれながら、ルイズと言葉の前に移動した。 「あー、コトノハといったか」 「はい」 「私はオールド・オスマン。このトリステイン魔法学院の学院長をしておる者じゃ。 いきなりで不躾ではあるが、その、この臭いを何とかしたいんじゃが」 「臭い……? ああ、ごめんなさい。誠君、お風呂に入れて上げないと」 「まあ、そうじゃな。お風呂に入れて上げなさい。その後『固定化』をかけて上げよう」 「固定化?」 「彼が、これ以上崩れていかぬようにする魔法じゃよ」 彼女が凶行にでないか、オスマンはわずかに身構えながら訊ねた。 が、言葉はすんなりとオスマンの申し出を受けて頭を下げる。 「ありがとうございます。では、誠君をお願いしますね」 「うむ」 どうやら、言葉という少女は誠が死んでいる事を理解しているらしい。 その上で、まだ誠が生きていると信じている。 だから『崩れていかぬように』という話も通じるのだ。 人間の心など元から矛盾を抱えているものだが、 心が壊れてしまった人間は常人以上の矛盾を抱えられるものという事だろうか。 治療室にあった水で誠を綺麗に洗い、水を拭った言葉は、 オスマンから固定化の魔法を誠にかけてもらい、嬉しそうに微笑んだ。 その笑顔を、コルベールは哀れみ、ルイズは恐怖を覚える。 こんなのと一緒にいたら、自分の精神がどうにかなってしまう。 そう思いながらも、この哀れな少女を救えるのならという優しさもあって、 結局コルベールに頼まれるがまま、少女を使い魔として扱わざるえないルイズ。 「今日から誠君と一緒にお世話になります、ルイズさん」 「え、ええ。あの、嫌なら使い魔なんてやめてもいいから」 「いいえ。邪魔者ばかりの"世界"から解放してくれたルイズさんには感謝してますから。 大丈夫、ルイズさんが私達を守ってくれるように、私もルイズさんを守って上げます。 誠君のように」 狂気は正気を蝕んでいく。果たしてルイズと言葉の行き着く未来は――? 前ページ次ページ鮮血の使い魔
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──教室吹っ飛ばして掃除中 「──だから『ゼロ』のルイズなのか…」 「フンッ! あんたまで『ゼロ』『ゼロ』ってわたしのことバカにするのね」 「聞いてたのか。怒るなよ、ルイズ。 君はオレの命の恩人で、頼りになる主人だと思っている。友人ともな。 それじゃ、いけないか?」 「…生まれてこの方、わたしの人生狂いっぱなしよ。 『フライ』はおろか、『レビテーション』ですら失敗ばかりだし、 それが、『あの』由緒あるヴァリエール公爵家の三女ってことで、他の連中にはバカにされるし…、 べ、べべ別にわたしはやっかみなんて気にしてないわよ!? わたしは、少し他と違うだけで、原因を突き止めたら、 きっと、魔法が使えるようになるんだから! …でも、その足がかりになるはずだった使い魔召喚でも、 あんたみたいな平民が召喚されちゃうし、もう、めちゃくちゃよ」 「焦ってんだ」 「…なんですって?」 「オレと同じさ。 どうしたらいいか、何をしたらいいか、わからなくて、焦ってる。 状況の変化に対応できてない」 「なっ、なによ! わたしはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、 由緒あるヴァリエール公爵家の三女よ!!」 「名門貴族の子も人ってことだろ?」 「……ふ、ふんだ、なによ! わかったような口きいちゃって! …あぁもう! さっさと片付けてご飯食べに行くわよ!! わたしも手伝うから! か、勘違いしないでよね! さっきからお腹ペコペコで、一刻も早く食べに行きたいだけなんだから!!」 「わかったよ。 早く一緒に食べに行こう、ご主人様」 「…フン」 スーパーロボット大戦Dの男主人公 ジョシュア=ラドクリフを召喚
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前ページデジモンサーヴァント 第三節「デジタライジング」 時は、十数分前まで遡る。 まだ右手が麻痺しているアルファモンのことを心配しながら、ルイズは昼食を食べていた。 一方、数名の男子生徒が談笑していた。 何のことは無い、ギーシュが誰と付き合っているかで話し合っているだけ。 当のギーシュは、巧妙にはぐらかす。 が、タイミングよく、彼のポケットから香水の入ったビンが落ちた。 そして運悪くシエスタがそれを拾ってしまう。 「あの、これ、落としました?」 シエスタが聞くが、もちろんギーシュは無視する。 しかし、結局他の男子生徒たちがそれを見て、「モンモランシーが作った香水じゃないか」と騒ぎ出し、原作どおりに二股がバレた。 原作とは違い火攻めと水攻めを食らって、瀕死になるギーシュ。 「さようなら、ギーシュ様……」 「さよなら! ギーシュ!」 ギーシュはズタボロの状態でケティとモンモランシーから別れの言葉を吐きかけられた。 そして、起き上がったギーシュはフラレた腹いせにシエスタに当たり始めたのだ。 それを見たルイズはギーシュを咎め、言い合いに発展して……現在に至る。 杖も兼ねた薔薇の造花を手に、ギーシュはキザな仕草でポーズを決めた。 「諸君、決闘だ! ルイズ、僕は魔法で戦う。君では勝負になら無いと思うけどね……」 「……ひょっとして、私が怖いの?」 ルイズの挑発に、瞬時に頭に血が上ったギーシュは、一体のゴーレムを錬成する。 女性を模った青銅のゴーレムで、その手にはレイピアが握られていた。 「行け! ワルキューレ!」 自分目掛けてレイピアをかざして突進するワルキューレを見ながら、ルイズは思い出した。 「君が自棄になったら、使い魔である俺はどうすればいいんだ!?」、アルファモンの悲痛な訴えを。 そして、決闘を申し込まれた際に、一度断った際のギーシュの一言も。 「やれやれ、君の従者も大変だね。あんな重そうな鎧を着せられた挙句……」、全部言い終わる前に金的をかまし、黙らせたついでで決闘に応じたが。 ワルキューレをギリギリまでひきつけ……、ルイズは紙一重でレイピアでの一突きをかわし、杖をワルキューレの顔面に突きつけ、吼える。 「錬金!」 ワルキューレの頭が吹き飛び、残りの部分もその衝撃で砕けた。 呆然としている隙を突き、ルイズは一気にギーシュとの距離を詰める。 ギーシュが我に帰った頃には、既にルイズは彼の眼前に杖を突きつけ、降伏を勧告した。 「……さっきの人形の二の舞になりたい?」 「ぼ、僕の負けだ……」 もし、抵抗の意思を見せれば、ルイズは迷うことなく失敗魔法を炸裂させる、彼女の目を見たギーシュはそれを悟った。 魔法が使えないルイズが、あっさりギーシュに勝ったのを見て、観衆がざわめく。 素直に感心したり驚愕する者もいれば、呆れた事にそれを良しとしない者もいた。 その中の一人が、ルイズの勝利に異議を唱え、決闘を申し込む。 「『ゼロの』ルイズが勝つなんて認められるか! 今度は僕が決闘を申し込む!」 彼のその一言に、ルイズの勝利を認められない者たちが一斉に決闘を申し込み、それを見たルイズは吼えた。 「面倒くさいわね! そんなに勝負したいなら、みんなまとめて掛かって来なさい!!」 厨房では、ルイズとギーシュが決闘することと、そうなった事情を聞いたアルファモンは、決闘がどこで行われるのか聞き、そこに向かおうとしてマルトーに止められる。 アルファモンの身を案じてのことであった。 「あんた、たかが貴族一人のために死にに行くのか!?」 「……俺は死なない。それ以前に、俺はルイズの使い魔だ!」 「それだけの理由で……」 「ルイズは、俺のことを「優しい」と言ってくれた。それも理由だ!」 マルトーを振り払い、アルファモンはヴェストリの広場へと向かう。 ただ、ルイズ一人のために。 アルファモンがたどり着いた際に見たのは、ズタボロになって尚立ち上がっているルイズの姿。 制服はボロボロ、所々出血し、顔は惨たらしいまでにアザだらけ、挙句の果てに右腕は筋を斬られたらしく、ただ垂れ下がっているだけであった。 それでもルイズは闘志を失わず、更にアルファモンの姿を見て、微笑みかける。 「どうしたの、アルファモン?」 ボロボロになったルイズの姿を見て、アルファモンは加勢しようとするが、ルイズの目で止められる。 「手助けはいらないわ、私の決闘だから」、目がそう言っていた。 周りを囲む、決闘相手たちの魔法の一斉射撃を必死に避けるルイズ。 それを口惜しそうに見ているギーシュを見て、何があったのかを問い質した。 「一体何があったんだ!?」 「彼女が僕に勝ったのが認められいからって……、あいつらが一斉に決闘を申し込んだんだ。それに怒ったルイズがまとめて掛かって来いって言ったから一斉に……」 それを聞いたアルファモンは心の中で毒づく。 これのどこが決闘なんだ、と。 すでに体力が底を突いていたルイズは、一瞬よろめく。 その隙を突き、生徒の一人がファイアーボールを放ち、避けられないと判断したルイズは、動かなくなった右腕を盾にしてそれを防いだ。 もちろん、右腕は焼け爛れ、所々炭化する。 「○×△□~~~~!!」 余りの激痛に声になっていない呻き声を上げながらも、ルイズは闘志を失わない。 が、見ている方は限界であった。 再びルイズ目掛けて放たれたファイアーボールを、アルファモンは前方に立ち塞がり、ファイアーボールを代わりに受ける。 生徒たちはファイアーボールが直撃しても傷一つついていないアルファモンの姿に、ルイズはいきなりアルファモンが割って入ったことに驚愕した。 「アルファモン、これは私の決闘よ!」 「使い魔は、主人と一心同体だと君は言った。ならば、俺の決闘でもある!」 アルファモンは眼前にいる、ルイズの右腕を焼いた生徒に狙いを定める。 それと同時にアルファインフォースを発動させ、瞬時にその生徒を滅多打ちにし、止めにがら空きのアゴを蹴り上げた。 もちろん、アルファモン以外は最後の一撃しか見えない。 いきなり四肢があらぬ方向に曲がったかと思うと、アゴを蹴り上げられた衝撃を宙を舞ったその生徒の姿に、他の決闘相手たちは唖然となる。 そして、彼らにアルファモンは事実上の死刑宣告をした。 「そっちが集団で挑んだんだ、卑怯とか言うなよ!」 ギーシュは我が眼を疑った。 アルファモンのその常識外れの強さに。 「デジタライズ・オブ・ソウル!」 アルファモンが放った、破壊力を持った光の奔流が、ゴーレムをあっと言う間に塵に還す。 その衝撃で、ゴーレムを錬成した生徒が無残に吹き飛ばされた。 「スティング!」 「ぶあ!」 次に、別の生徒の後ろに回り掛け声と共に、その延髄に指を突き刺す。 穴こそ開きはしなかったが、延髄に食らったダメージでその生徒は悲鳴を上げた直後に泡を吹いて気絶する。 アルファモンの強さを見て、決闘を挑まなかった他の生徒たちは、何時の間にかアルファモンを応援し始めていた。 ルイズは自分の使い魔の強さに見とれていて気付かなかった、決闘相手の一人である「風上の」マリコルヌが自分の背後に回り、『ブレイド』によって剣と化した杖を振り下ろさんとしていることに。 そして、ギーシュはたまたまルイズの方に視線を移した際にそれに気付き、一心不乱に駆け出した。 「ゼロのルイズのクセにぃ!」 マリコルヌの声に気付き、振り向こうとした直後に、ルイズは何者かに突き飛ばされた。 ルイズが、元いた地点に目を向けると、そこには剣と化した杖を持ったまま硬直するマリコルヌと、左目を縦一文字に斬られ血を流すギーシュの姿が……。 「『ブレイド』!」 「……へ!?」 みんなが唖然とする中、ギーシュはブレイドを発動させ、魔力の刃をマリコルヌの右腕に突き刺す。 余りのことに、激痛を感じながらもマリコルヌはただ口を開閉するしかなかった。 そして、ギーシュはやれやれと言った表情で吐き捨てる。 「君は無粋なんだよ、マリコルヌ」 ブレイドを解除し、ギーシュはルイズの元へ駆け寄る。 斬られた左目からはまだ血が流れ、激痛が走っていたが、ギーシュはそれすら耐え抜く。 「ルイズ、右腕は……大丈夫じゃないみたいだね」 「あんたこそ、目をやられているじゃないの……」 彼女の左腕を肩に回し、ルイズを抱え起こすギーシュ。 しかし、それを見ていたマリコルヌは、懲りずに杖を左手に持ち替え、ギーシュたちに狙いを定める。 直後、アルファモンの声がいきなり響いた。 「聖剣、グレイダルファー!」 「……あら、ひ、ひだ、ひだだだだだだだだだだり!!」 アルファモンが、聖剣グレイダルファーでマリコルヌの左腕を容赦なく切り落とした。 自分の左腕が、肘から先からなくなってしまったショックで悶絶し、悲鳴を上げるマリコルヌ。 そんなマリコルヌに、アルファモンは言い放つ。 「そんなもの、魔法でくっ付ければいいだろ」 マリコルヌ以外の決闘相手たちは、すでにアルファモン一人によって全滅していた。 アルファモンはルイズをお姫様抱っこして、医務室へと向かう。 ギーシュは左目をおさえながら、それを追った。 学院長室。 遠見の鏡で一部始終を見ていたコルベールが唖然としていた。 一方、リリスモンは非常に楽しそうである。 オスマンは、自らの使い魔に話しかける。 「モードソグニル、あれが「空白の席の主」の力なのか?」 「……いや、彼奴は辛うじて手加減はしておった。それでもあれだけの力か……。我に牙向いた時、その力を解放するかどうか……楽しみだな」 「……楽しむためなら己が命すら大事にせぬその性分、少しは直したらどうじゃ?」 「叶わぬ夢をほざくでない」 意味深に微笑みながら軽口を叩き合うオスマンとリリスモン。 一方のコルベールは、アルファモンが作った惨状を見て固まっている。 「おおお、オールド・オスマン、如何いたしましょう!!??」 「……まあ、誰が悪いのかは明らかだし。とりあえずヴァリエールとグラモンは決闘の罰として来週までの謹慎って形で休ませて、「空白の席の主」の小僧にボコられた奴らは来週まで謹慎&外出禁止、謹慎明けから数日は中庭掃除とかをやらせるかの」 「ミス・ヴァリエールの怪我は、ご実家の方に報告しますか?」 「……あれだけ派手にやったんじゃ、いっその事全部正直に報告した方がいいじゃろうて。それと、小僧のルーンに関しては他言無用じゃぞ」 思いっきり投げやりであるが、どこかオスマンは嬉しそうであり、リリスモンとコルベールもそれを見抜いていた。 そして、二人そろって首を縦に振る。 医務室。 アルファモンは椅子に座り、黙り込んでいる。 一方のギーシュは魔法で止血はしてもらったものの、左目は完全に失明しており、縦一文字の傷には顔の右半分に大きく走っていた。 そしてルイズの右腕は……、彼女自身の予想通り「既に手遅れ」と診断される。 それを聞き、激昂しそうになるアルファモンを抑え、ルイズは痛みをこらえながら淡々と治療を担当してくれた教師に頼み込む。 「治したところで、既に元通りに動かせ無いことは予測できていました。ですからこの右腕、肩から切り落としてくれませんか?」 辺りが静寂に包まれる。 それは、ルイズ以外が驚きのあまり言葉を失ったからであった。 次回、「デジタルワールドからの物体NANIMON」まで、サヨウナラ……。 前ページデジモンサーヴァント
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前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ なぜタバサの母親が何の前触れもなく、理由も謎のまま、回復したのか。 それは毒を飲んだ時からの記憶を失っている本人すら解らぬ事だった。 そのため手放しに喜ぶという訳にはいかなかったが、タバサはとても落ち着いていた。 なぜ母が正気を取り戻したのか、理由などどうでもいいという態度。 母親はタバサが目覚めてから、改めて己の身に起きた出来事を聞かされ、 今までタバサにつらい思いをさせたと酷く悔いた。 だがこれから、今までの不幸だった分を取り戻すべく、幸せな時間をすごせる。 キュルケもしばらく学院を休んで、母と一緒にすごす事を勧めた。 しかしタバサは言う。 「他にやる事ができた」 タバサはその日のうちに学院へ戻った。ルイズ達と一緒に。 第14話 忠実なるもの 「本当によかったの? せっかくお母様が元気になられたのよ? 今までさみしい思いをしてきたんだから、数日学院を休むくらい……」 「いい」 馬車の中でキュルケはしきりにタバサに話しかけたが、タバサは普段通り黙々と読書、 かと思いきや時折御者台に目を向ける。手綱を握っているのは、ハクオロだった。 「ダーリンと何かあったの?」 「別に何も」 やっぱり何かあったに違いないとキュルケは思ったが、 タバサがそれを口にしたくないなら、何も訊かない方がいいのだろうとも思う。 ギーシュとモンモランシーは外の景色を眺めながら歓談している。 ルイズは、一人でぼんやりとハクオロの背中を見つめていた。何か考え事があるようだ。 しばらくして、ハクオロは「あっ」と声を上げる。 全員の視線が集中する中、ハクオロは気まずそうに言った。 「……いかん」 「ハクオロ、どうかしたの?」 「すっかり忘れていた……」 「何を?」 ハクオロは、引きつった笑みを浮かべる。 「デルフの奴を、タバサの家に置き忘れた」 「別にいいんじゃない?」 「そうね、無くても特に困らないんじゃない?」 「デルフって何?」 「ああ、あのインテリジェンスソードか。後で送ってもらえばいいんじゃないか?」 こうして、わざわざ取りに戻るというのを面倒くさがった皆の意見により、 デルフリンガーは後で学院に送ってもらう事になった、のだが。 「私が取ってくる」 と、タバサが言うや、口笛を吹いて使い魔のシルフィードを呼び、 わざわざ取ってきてくれるから驚きだ。 ちなみに持ってこられたデルフリンガーは愚痴がうるさかったので、 鞘にきつくきつく納められましたとさ。 学院に帰ってからの生活は静かで平和だった。 特に事件も無く、ギーシュとモンモランシーも仲直りしたようで、 タバサも手紙で母とやり取りしているようだ。それを見てキュルケも安心している。 ハクオロはハクオロで、タルブの村の様子を知るべく手紙を受け取っていた。 シエスタと一緒に手紙を読んで、二人して笑っているところを見ると、 どうやらタルブの村改造計画は順調らしい。収穫が楽しみだ。 ルイズは、コモンマジックに続いて系統魔法も成功させようと躍起になっているが、 結局夜中の広場で爆発を起こすだけで何の進展も無かった。 平和な日々を壊す人物は、外からやって来る。 ある日、突然、アンリエッタ王女殿下が学院を訪問してきた。 授業は中止になり生徒達総出で歓迎する。 姫の警護をしていた衛士の一人に、ルイズとキュルケは見惚れてしまう。 が、ルイズの場合はキュルケとは違う意味でその衛士から目が離せないようだった。 夜になって、ルイズの部屋をアンリエッタが訪ねてきた。 探知の魔法で目や耳が無い事を確認すると、顔を隠すフードを脱いでルイズと手を取り合う。 ルイズは幼少の頃、アンリエッタ姫の遊び相手をしていた事があったらしい。 思い出話に花が咲き、蚊帳の外のハクオロは藁の上で正座をしていた。 一応、相手が姫という事で正座なのだが、眼中に無いから意味が無い。 しかしいよいよアンリエッタが本題に入ろうかとしたところで、 今さらすぎるがハクオロの存在に気づいた。 ルイズが部屋に連れ込んだ恋人、というお約束の誤解を解いて使い魔と説明。 するとアンリエッタは、秘密の話をルイズだけでなくハクオロにも聞かせる事にした。 アンリエッタはゲルマニアの皇帝に嫁ぎ、両国に同盟を結ぶ事になった。 理由はアルビオンの貴族が反乱を起こし、 王室を倒した後はトリステインを攻めてくる可能性が高いためだ。 だが同盟のための婚姻を阻む材料が、アルビオンの王室にある。 それが反乱軍、貴族派の手に渡れば婚約ともども同盟はご破算。 かつてアルビオンのウェールズ皇太子に送った一通の手紙がその材料だ。 大仰に嘆き悲しむアンリエッタを、ルイズが励ます。自分がその手紙を回収する、と。 そこでハクオロが口を出した。 「失礼。アンリエッタ皇女殿下にひとつ質問がある」 「何でしょう?」 「貴女は、友人たるルイズに『死ね』と命じているとご理解しておいでか」 アンリエッタとルイズの表情が固まる。 「……反乱の起こっている國、しかも劣勢な王室の皇太子に会いに行くなど不可能に近い。 まさに命をとして果たさねばならぬ任務だろう。 國の平和のために、唯一信頼の置ける友に命令を下すという貴女の判断を否定はしない。 だがそのような泣き落としをしてルイズを死地に送るのは如何なものか?」 「……それは…………」 「少なくとも私は、自分の部下に危険な任務を命ずる時、その者の死を覚悟する。 ……私の言葉で、その者が死ぬという責任を負う覚悟を。貴女はどうか? 姫殿下」 沈痛な面持ちとなったアンリエッタは、しばし黙り込み、唇を噛んで震えた。 そんなアンリエッタを見ながら、ハクオロはいくつかの記憶を思い出す。 死ねと命じた事は無い。だが、死の危険がある命令を下した事はある。 戦なのだ。死者が出ぬ訳がない。 それを理解した上で、自分は戦に身を投じた。 守るために戦った事もあれば、復讐のために戦った事もあった。 皇として、國のために、友のために、家族のために。 (ああ、そうか。私は皇……トゥスクルの皇だった) 思い出したからこそ、このアンリエッタという姫の未熟さがよく解る。 だからといって彼女を蔑むつもりは無い。 しかしこのままでいいとも思わない。 「アンリエッタ姫。無礼を承知で、言わせていただきます。 貴女は皇族としてもっと自覚を持ち、学ぶべきだ。 友の前で素顔をさらすのはいい。だが公私はわきまえなければならない。 如何に相手が友といえど、このような頼み事をするのなら、 例え胸中がどれほどの不安にさいなまれようとも毅然とあるべき……」 デルフリンガーが鞘をかぶったままハクオロの後頭部をどつく。 「だっ!?」 「ひひひ、姫様に何て無礼な事を……!」 デルフリンガーを振るったのはルイズだった。 しかしそんな彼女を、アンリエッタがたしなめる。 「いいのです、ルイズ・フランソワーズ。彼の言う事はもっともです。 このアンリエッタ、如何に自分が未熟であるかを思い知りました。 使い魔さん。貴方はもしや、高貴な生まれの方でいらっしゃる?」 「自分は……」 皇だった。しかし自分は反軍を率いて朝廷を滅ぼし、新たに國を築いたにすぎない。 余計な乱を防ぐため皇の座について、皇としての立ち振る舞いも学んだ。 そう、例えば……山積みの書簡を置いて逃げ出して虎に餌をやったり、 エルルゥとお茶を飲んだり、視察と称して町に行っちゃったり。 「……自分は、別に高貴ではありませんよ」 元皇として偉そうな事を言ってしまったハクオロだが、 思い出した記憶によると、あまり褒められた皇ではなかったように思える。 「自分は、異境から召喚されたルイズの使い魔です。 今の私はそれ以上でもそれ以下でもありません」 「……そうですか。では、ルイズ・フランソワーズ。改めて命じさせていただきます。 アルビオンへ赴き、何としてもウェールズ様の持つ手紙を回収してきてください」 仕切りなおしとばかりに、ルイズは深々と頭を垂れてひざまずいた。 「はっ」 「そして……この任務、どれほど危険なものか承知した上で……。 もうひとつ、無理難題を申しつけます」 「何なりとお申しつけください」 「生きて、帰ってきてください。私のお友達、ルイズ・フランソワーズ」 「……必ずや、この任、完遂してみせます」 綺麗に場がおさまったと思った途端、部屋の戸を開け放ち一人の少年が入ってきた。 「姫殿下! その任、どうか僕にもお与えください!」 ギーシュである。どうやら部屋の外で盗み聞きしていたらしい。 気づかなかった自分達に落ち度があるが、聞かれてしまった以上放ってもおけない。 仕方なく彼も任務に加える事で情報の漏洩を防ぐ。 アンリエッタはウェールズに手紙を返してもらう旨を書いた手紙を用意し、 ルイズ達は翌日の早朝、ラ・ロシェールに向けて馬を走らせる事にした。 そして最後に、アンリエッタは己の指から抜き取った青い宝石の指輪をルイズに渡す。 「これは?」 「これは水のルビー。お守りとして持っていってください。 もしお金に困るような事があれば、資金に変えてしまって構いません」 これで任務のすべてを話し終えたと、アンリエッタはこっそりと退出する。 それからしばらくして、ギーシュも部屋から出て行った。 明日は早いとルイズとハクオロが寝入ってから、 窓の外で、外壁に錬金をかけ足場を作って息を潜めていた彼女は、 ようやくレビテーションで静かに地面に降りた。 翌朝になってふと目覚めたキュルケは、まだ早い時間だったため二度寝を考えたが、 ふと見た窓の外、学院の塀を越えて広場へと入ってくるシルフィードに気づいた。 朝食をもらいにきたにしては妙だ、この時間では他の使い魔は眠っている。 となれば、任務、だろうか? タバサは王室から危険な任務を命じられ、利用されている。死すら願われている。 急速に意識を覚醒させたキュルケは、素早く着替えるとタバサの部屋に走った。 「タバサ!」 アンロックで鍵を開けて中に入ると、タバサは旅支度を整え、 今まさに窓から抜け出そうとしている最中だった。 「……任務、なの?」 「違う」 恐る恐る訊いて、即座に否定された。 タバサの事情を知っている自分に対して嘘をつく理由は無い。 「……違うの? じゃあどこ行くのよ?」 「……ラ・ロシェール」 「……任務じゃないのよね?」 タバサはうなずく。 しばし黙考したキュルケは、タバサの肩を抱くと窓から飛び降りる。 予想通り、そこには彼女の使い魔シルフィードが待機していた。 「さあ、ラ・ロシェールにしゅっぱーつ!」 抗議の声を上げたのはタバサではなくシルフィードだった。 いいの? とタバサに鳴いて訊ね、いい、と態度で返事をされる。 こうしてタバサとキュルケはラ・ロシェールに向けて飛び立った。 早朝から旅支度を整えたルイズとハクオロは、馬を二頭借りて学院の外に出る。 そこにはやけに張り切った様子のギーシュが、馬に乗って待っていた。 「やあ! 遅かったね二人とも!」 「あんたが早いのよギーシュ。約束の時間まで、まだちょっとあるわよ」 「そうかい? いやあ、姫殿下に尽くせるのだと思うと気分が晴れ晴れとしてね!」 「あー、そう」 ギーシュのテンションに朝っぱらからついていけるはずもなく、 ルイズとハクオロは申し合わせたように深々と溜め息をついた。 「……さて、行きましょうか」 「……そうだな、行くとしよう」 頭に春が来てるギーシュを置いていく勢いで二人は馬を走らせようとし、 直後頭上から舞い降りてくる影に気づき慌てて馬を止める。 「何だ?」 呟きながら上を見ると、一頭のグリフォンがその背に何者かを乗せて降りてきた。 アンリエッタからの命を知るのは自分達のみ。 だからグリフォンに乗る人物は、敵でもなければ味方でもないはずだ。 学院の誰かだろうかとハクオロは思ったが、 着地したグリフォンから降りてきたダンディな男は満面の笑顔を向けてきた。 「久し振りだねルイズ! 僕の可愛いルイズ!」 「わ……ワルド様!?」 男の正体はグリフォン隊の隊長、ワルド子爵だった。 聞けば彼も昨晩アンリエッタから命を受け、ルイズ達に同行するよう言われたらしい。 ルイズの身を案じて、あの後信用できる者を護衛にと考えたのだろう。 そうならそうと前もって言って欲しかったが、仲間が増えるのは心強い。 ワルドが憧れの魔法衛士隊とあって、ギーシュは感激し、 ハクオロも快く彼を仲間として受け入れた。 しかし、顔見知りらしいルイズとワルドの関係を訊ねてハクオロは唖然とする。 「婚……約者?」 これにはギーシュも引っくり返るほどに驚いた。 ルイズは恥ずかしがり、けれど、嬉しそうな素振りも見せる。 だからワルドが自分のグリフォンに乗らないかとルイズを誘えば、 当然その誘いを受け、余った馬をハクオロに頼んで戻しに行ってもらう。 ハクオロが馬を返しに学院の中に戻っている時、ワルドは何気なくルイズを褒めた。 「ルイズ。君は美しい指輪と腕輪をしているね。どちらも色鮮やかな蒼の宝石がついてる。 とてもよく似合ってるよ、僕のルイズ」 しかしその褒め言葉で、初めてルイズの表情が陰った。 左手にしているクスカミの腕輪を見て、白い仮面の男を思い浮かべた。 ――これは君が持っているといい。 今朝旅支度をしている時、彼が護身用にと渡してきたのだ。 コモンマジックを除けば、威力が凄まじいとはいえ失敗魔法しか使えないルイズにとって、 雷の柱を何本も落とせるこのクスカミの腕輪は強力な武器となるだろう。 使い魔として当然の心配りが、ルイズにはとても嬉しかった。 ハクオロが戻ってくると、彼とギーシュは馬で、ルイズとワルドはグリフォンで、 ラ・ロシェールに向けて旅立つのだった。成すべき事を果たすために。 NGシーン 「……任務、なの?」 「違う」 恐る恐る訊いて、即座に否定された。 タバサの事情を知っている自分に対して嘘をつく理由は無い。 「……違うの? じゃあどこ行くのよ?」 「……ロマリアで開かれる天下一はしばみ草大食い大会へ出場しに」 「……行ってらっしゃい」 食闘士(シュヴァリエ)タバサ 天下一編 序奏~overture~ 完 前のページへ / 一覧へ戻る / 次のページへ
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~たのしいトリステイン~ 題字:大和田秀樹(嘘) 第一話~わたしがルイズです~ トリステイン魔法学院、この学校では2年生に昇級する際、あるひとつの儀式を行う それはここで学ぶ魔法使い達にとっては一生の問題でもある『春の召喚の儀式』 一生涯のパートナーでもある使い魔を呼び出す儀式である ここにその儀式に挑む、一人の少女がいる ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール この物語の主人公である 彼女は名家の生まれでありながら全ての魔法が失敗する、しかも爆発すると言う、学院創立以来の劣等生として通っている 事実、彼女はすでに何十回も召喚に失敗しては爆発していた。 級友の殆どは彼女に対し、口汚く罵り、嘲り、笑った。 だが、彼女は一つも諦めてはいなかった そしてその思いは遠く、遥か彼方の地で同じく 気高く、己を貫き通す男に使役されていたモノに届く 「こぉーーーーーーーい!!」 もう呪文も何も無い、魂からの叫びと同時に今まで以上の爆音が土煙がおこる そしてその中から影が浮かび上がった ルイズは薄れ行く土煙から影を見て 心から願った もう平民でもいいから何かきてくれと しかしその希望は嘆息に変わっていった 土煙の中から現れたモノ それは・・・・・・・ それは触覚の様なモノに鏡を生やしていた、不思議な一つ目をしていた、椅子がついていた、竹やりの様なモノが生えていた 二つの車輪で大地に立っていた 後ろにゆくにしたがって凶悪な姿をしていた 「コルベール先生・・・・・召喚のやり直しを」 さすがのルイズも使い魔を呼び出したつもりが見た目からまったくの無機物だとわかるモノを使い魔とするのはどうかと考えやり直しを要求するが 「・・・・それは出来ません、春の召喚の儀式は神聖な儀式なのです」 監督していたコルベールの一言によって彼女も意を決した 「五つの力を司るペンタゴン、この者に祝福を与え我の使い魔となせ」 目?と思わしき部分にルイズは口付けをする、と同時に使い魔の情報が、使い方が、そして何か巨大な意志の強さみたいなものが彼女に流れ込む 使い魔の正面にルーンが刻まれた 「全員、無事に召喚 出来ましたね それでは戻りましょう」 コルベールの言葉とともに皆が魔法で空に飛び学院に帰って行く 一人ルイズだけを残して 「ゼロのルイズ、お前は歩いて帰ってこいよ!!」 「けっ、ゼロのルイズが」 彼女に様々な罵声が浴びせられる しかし彼女は動じなかった この程度なら慣れている それに今は・・・・・・この使い魔がいる 彼女は自分の使い魔にまたがる、使い方なら契約した時に頭に流れ込んできた、乗馬は得意だから乗りこなせるだろう ギャアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオオオオオ!! 大爆音が地面を揺るがす、後ろをゆっくりと飛んでいたマリコルヌは見た 地面を土煙を上げ猛スピードで走ってくるルイズとその使い魔を その光景を見た彼は後にこう友人達にこう言ったという 『まるで・・・・・悪魔を見ていた様だった』と ルイズは使い魔に乗り、風を切って走り抜けていた、顔が綻ぶ これはいいものだと直感的にわかった そして、ルイズは喜びのあまり使い魔の名前を無意識に叫んでいた 「パッソーーーール!!」 大和田秀樹 たのしい甲子園 より 悪魔のパッソル を召喚
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前ページ次ページゼロの使い魔BW 身体を揺さぶられて、目が覚めた。 目を開いたら、見慣れぬ格好の少年がこちらを見下ろしていて、思わず叫んだ。 「だ、誰よあんた!」 「……ツカイマだよ、ゴシュジンサマ」 「ああ、使い魔ね。そうね、昨日召喚したんだっけ」 窓から朝の日差しがさんさんと降り注いでいる。ルイズは寝台の上でうーんと伸びをすると、椅子にかけてあった服を指して命じた。 「取ってくれる?」 使い魔の少年は無言で頷くと、服を取ってルイズに手渡した。 寝起きのけだるさのままネグリジェに手をかける。途端にくるりと背を向ける辺り、この使い魔にも一応年頃の少年らしい部分もあるらしい。 「後、下着も――そこのクローゼットの一番下に入ってるから、取って」 彼はクローゼットを開けると、ぎくしゃくとした動きで下着を取り出す。と、そこで完全に停止した。 なにを考えて止まったのかが分かって、ルイズは呆れた。別に、使い魔に見られたところでどうということもないのだが、彼は動きそうにもない。 「……投げてくれていいわよ」 飛んできた下着は、過たずルイズの手元に納まった。見えてるんじゃないかと思うようなコントロールである。むしろ見てるんじゃないかと思って使い魔に目をやるが、完璧に背を向けていた。 服を着させるところまでやらせようと思っていたが、やめた。無駄に時間がかかるのは分かりきっている。下手をすれば、朝食を食べそこなうことにすらなりかねない。 壁を向いて硬直している使い魔を横目に、ルイズはこれまでのように着替え始めた。 身支度を済ませたルイズたちが廊下へ出ると、ちょうど近くの扉が開くところだった。 中から出てきたのは、燃え上る炎のような赤い髪の女の子だ。 ルイズよりも背が高く、スタイルも良い。彫りの深い美貌に、突き出た胸元、健康的な褐色の肌、と街を歩けば十人が十人振り返るような容姿だった。 だが、その顔を見た途端、ルイズは不機嫌そうな顔になる。赤い髪の少女がにやりと笑った。 「おはよう、ルイズ」 「おはよう、キュルケ」 むっつりとした表情のまま、ルイズは挨拶を返す。 「あなたの使い魔って、それ?」 「そうよ」 寡黙に控えている少年を指さしての問いに、ルイズは短く答えた。 「あっはっは! 本当に人間なのね! さっすが、ゼロのルイズ」 「うっさいわね」 無愛想に返答するルイズを横目に、キュルケは少年を観察する。 「中々可愛らしい顔してるじゃない。あなた、お名前は?」 「なに色惚けたこと言ってんのよ。あと、名前を聞いても無駄よ。そいつ、記憶喪失だから」 「それは残念。……だけど、記憶喪失、ねぇ。それは元から? それとも、ルイズのせいかしら?」 その指摘に、目の前の勝気な少女が言葉に詰まったのを見て、キュルケは頷いた。 「なるほどねえ。――それじゃ、あたしも使い魔を紹介しようかしら。フレイムー」 キュルケが呼ぶと、背後の扉の中から赤い巨大なトカゲが現れた。大型の獣並みの体躯に、真紅の鱗。尻尾の先は燃え盛る炎となっていて、口からもチロチロと赤い火が洩れている。 「……リザード?」 熱気を物ともせずにそれに見入っていたルイズの使い魔が、ここで初めて声を上げた。 「りざーど? これは火トカゲよ」 「ヒトカゲ?」 首を傾げて言ったルイズの使い魔に、キュルケは微笑みかける。 「なんか発音がおかしい気がするけど、そうよー。火トカゲよー? しかも見て、この大きくて鮮やかな炎の尻尾。間違いなく火竜山脈のサラマンダーよ? 好事家に見せたら値段なんてつかないわ」 「そりゃよかったわね」 ルイズが無愛想に答えた。 「素敵でしょ? もう、あたしにぴったりよね」 「あんた、『火』属性だしね」 「そう。あたしは微熱のキュルケですもの。ささやかに燃える情熱は微熱。でも、男の子はそれでイチコロなのですわ。あなたと違ってね?」 キュルケは得意げに、その男であれば視線を釘付けにされそうな胸を張った。 ルイズも負けじと胸を張るが、残念ながらボリュームの違いは明白だった。それでもキュルケを睨みつける辺り、かなりの負けず嫌いらしい。 「あんたみたいにむやみやたらと色気を振りまくほど、暇じゃないだけよ」 キュルケは余裕の笑みを浮かべて、その言葉を受け流す。そして颯爽とこの場を後にしようとして、使い魔のサラマンダーが居ないことに気づいた。 「あら? フレイムー?」 「わたしの使い魔も居ないわ。……まさか、あんたのサラマンダーに食べられちゃったんじゃ」 「失礼ね。あたしが命令しなきゃ、そんなことしないわ。……あ、居た」 ルイズとキュルケが言い争っていた場所から少し離れたところに、二人の使い魔は揃っていた。二人が喧嘩している間に、使い魔は使い魔で親睦を深めていたらしい。 少年は、慣れた手つきでサラマンダーを撫でてやっている。撫でられているほうも、妙に落ち着いた様子で彼の手のひらを受け入れていた。 キュルケが目を丸くする。 「あらま。確かに、誰彼構わず襲うような子じゃないけど、誰彼構わず懐く子でもないのに」 「あんたのことを見習ったんじゃないの?」 「どういう意味よそれ。……まあ良いわ。それじゃ、お先に失礼。行くわよフレイムー」 呼ばれて、サラマンダーが動き出す。図体に似合わないちょこちょことした足取りでキュルケの後を追うが、少し行った先で少年のほうを向くと、ぴこぴこと尻尾を振った。 少年も微笑んで、手を振って返す。 一連の流れを見ていたルイズが、少年の頬をつねりあげた。 「……いふぁい」 「いーい? あの女はフォン・ツェルプストー。わたしたちヴァリエール家にとっての、不倶戴天の敵なの。だから、ツェルプストーの使い魔なんかと仲良くしちゃダ、メ、よ?」 「ふぁい」 一音ごとに頬をねじり上げるようにして確認され、少年は涙目で答えた。 トリステイン魔法学院の食堂は、学園の敷地内で一番背の高い、真ん中の本塔の中にあった。食堂の中にはやたらと長いテーブルが三つ並んでいて、それぞれに少年少女が座っている。 ルイズは、黒いマントをつけた生徒が並ぶ真ん中のテーブルへと向かった。 ここに使い魔を連れてくるのには非常に苦労した。なんせ他の使い魔を見るたびに、吸い寄せられるようにそっちに行こうとするのである。首輪と縄が必要かしら、とルイズは思った。 その使い魔は、豪華な食事が並べられたテーブルや、絢爛な食堂をきょろきょろと見回している。その顔に少なからぬ驚きを見て取って、ルイズは得意げに指を立てて言った。 「トリステイン魔法学院で教えるのは、魔法だけじゃないのよ。昨日も説明した通り、メイジのほとんどは貴族。だから、『貴族は魔法をもってしてその精神となす』のモットーのもと、貴族たるべき教育を受けるの。この食堂も、その一環ね」 「すごいね」 素直に驚きを示す使い魔に、椅子を引くように促す。本来なら「気が利かないわね」ぐらいは言ってやりたいところだが、記憶喪失では致し方ない。 椅子についてから、ルイズは考えた。この使い魔がもう少し反抗的であれば、床ででも食べさせるつもりであったが、今のところは特にそういった気配はない。 現在も自分が座るべき席ではないと理解しているためか、脇にじっと佇んだままである。 しばらく逡巡した後、ルイズは近くに居た使用人の一人を呼びとめた。 「ちょっと、そこのあなた」 「はい、なんでしょうか。ミス・ヴァリエール」 呼びとめられた黒髪のメイドに、脇の使い魔を指して見せる。 「こいつに、なにか食べさせてやって頂戴」 「分かりました。では、こちらにいらしてください」 「食べ終わったら戻ってくるように」 ルイズの言葉にやはり頷くと、使い魔は促されるままにメイドについて行った。 「もしかしてあなた、ミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう……」 行きがてらにそう問われて、少年は頷いた。目下のところは、彼の唯一の身分である。 「知ってるの?」 「ええ。なんでも、召喚の魔法で平民を呼んでしまったって噂になっていますわ」 にっこりと笑って、黒髪のメイドは答えた。屈託のない、野の花のような笑顔だ。 「君もメイジ?」 「いいえ。私はあなたと同じ平民ですわ。貴族の方々をお世話するために、ここで御奉公させていただいているんです」 どうやら自分と同じような立場らしい。納得すると、彼は黙り込んでしまった。 記憶がないというのは、話題がないというのに等しい。訊きたいことは山ほどあったが、彼女は仕事中だったようだし、あまり時間を取らせるわけにもいかないだろう。 そんな考えからなる沈黙だったが、どうやらそれは少年を気難しく見せていたらしい。しばらくは静かだった黒髪のメイドが、いかにも恐る恐るといった様子で口を開いた。 「……えっと、私はシエスタです。あなたのお名前を訊いても良いですか?」 少年はそれに黙ったまま首を振る。しかし、不味いことでも訊いてしまったのだろうかと狼狽するシエスタを見て、言葉を続けた。 「名前は分からないんだ。記憶喪失だから」 「キオクソウシツ……って、あの、記憶がなくなっちゃうあれですか?」 頷くと、シエスタの視線が途端に同情的になった。少年を上から下まで眺めまわして、はう、とせつなげな溜息を洩らす。 「大変だったんですね……」 そうだったんだろうか。そうだった気もするが、今のところは大したことがない気もする。だが少年がなにか答える前に、彼女はいきなり彼の手をギュッと掴むと、引っ張り始めた。 「なるほど、そいつは大変だ」 コック長のマルトー親父は、シエスタの話(学園内で出回っている噂を少し盛った上で、記憶喪失であるという事実を付け加えたもの)を聞くとうんうんと頷いた。 「やっぱりそうですよね、マルトーさん!」 「記憶を失くした上に、あの高慢ちきな貴族どもの下働きだろ? しかも、こういう仕事を選んでやってる俺たちと違って、強制的にだって話じゃねえか。いやあ、災難だな、お前さん」 二人で完全に盛り上がってしまっている。展開について行けず途方に暮れそうになったところで、少年のお腹がぐう、と鳴った。 「おっと、悪かったな。シエスタ、賄いのシチューを持ってきてやれ。俺は戻らにゃならん」 「はい、わかりました!」 少年を厨房の片隅に置かれた椅子に座らせると、シエスタは小走りで厨房の奥へと消えた。 マルトーもまた、背を向けて調理場へと向かう。が、ふと振り向くとニッと笑った。 「同じ平民のよしみだ、なにか困ったことがあったらいつでも相談してくれ」 「ありがとう。いざって時には頼りにさせてもらいます」 少年が礼を言うと、マルトーは「良いってことよ」と大笑いして去って行く。 入れ違うように、シエスタがシチューの入った皿を持って戻ってきた。目の前に置かれたそれをスプーンで掬って、口に運ぶ。思わず顔がほころんだ。 「おいしい」 「よかった。おかわりもありますから、ごゆっくり」 思った以上に空腹だったことに気づく。丸一日ばかり食べていないような、そんな感じだ。 夢中になって食べる少年を、シエスタはニコニコしながら見ている。 仕事中だったのに大丈夫なんだろうか、なんて思うが、食堂には彼女のようなメイドが沢山いたし、一人ぐらい抜けても問題ないのかもしれない。 「ごちそうさま。おいしかったよ」 「ふふ。ぜひ、マルトーさんにも言ってあげてください。喜びますから」 食べ終わって皿を返すと、シエスタは微笑んでそう言った。そして皿を片づけるために立ち上がりざま、そういえば、と彼の顔を見る。 「えっと、なにか分からなくて困ってることとかあります?」 「……それなら、洗濯物のことなんだけど」 なるほど、とシエスタが頷く。 「ああ、そうですよね。水汲み場とか分かりませんよね」 「それもあるんだけど、ここでのやり方もイマイチ分からないから、教えてもらえると助かる」 彼の常識は、洗濯物には洗濯機を使え、と言っている。使い方も分かる。しかし同時に、それがここにはないだろうということもなんとなく分かっている。 昨晩のルイズとの会話と、今日見て回った学内の様子から、自分の常識の欠落は記憶喪失から来るものではないことに、少年はうすうす感づいていた。 「洗濯のやり方なんて何処でも同じ気がしますけど、わかりました。今からご案内しても良いんですが、ミス・ヴァリエールに『戻ってくるように』って言われてましたよね」 確かに、「食べ終わったら戻ってくるように」と言っていた。 「それじゃ、お昼もまたこちらで取られるでしょうし、その際にでも」 「よろしくお願いします」 心からの感謝をこめてお辞儀をすると、シエスタはウインクして答える。 「マルトーさんも言ってましたけど、同じ平民のよしみ、です。いつでも頼ってくださいね」 魔法学院の教室は、石造りのやはり巨大な部屋だった。生徒が座る席は階段状に配置されており、その中央最下段に教師が立つ教壇がある。 二人が入ると、先に教室に来ていた生徒たちが一斉に振り向いた。そしてくすくすと笑い始める。 だが、ルイズにそれを気にしている余裕はなかった。今日は学年最初の授業ということで、大抵の生徒が使い魔を連れている。そんな場所に少年を放りこんだらどうなるか。 早くもふらふらと引き寄せられそうになった彼の襟元を、がっしと掴んで引きずりつつ、ルイズは席の一つへ向かった。本格的に、首輪と縄が必要かもしれない。 席の近くの床に少年を座らせる。机があって窮屈なのは気にならないらしいが、周囲の使い魔を見てそわそわしている。 ふと、少年が使い魔のうちの一体――浮かんだ巨大な目の玉を指さして言った。 「アンノーン?」 「違うわ。バグベアーよ」 「チョロネコ?」 「あれは単なる猫じゃない。チョロってなによ」 「アーボ?」 「あれは大ヘビ……一体、その名前は何処から出てきてるのよ」 ルイズが呆れたように言ったところで、教室の扉が開いて一人の魔法使いが入ってきた。 ふくよかな頬が優しげな雰囲気を漂わせている、中年の女性だ。紫色のローブに、帽子を被っている。 彼女は教室を見回すと、満足そうに微笑んで言った。 「皆さん。春の使い魔召喚は、大成功のようですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ」 ルイズは俯いた。 「おや? ミス・ヴァリエール、使い魔はどうしました?」 床に座った少年は、教壇からはちょうど死角になっていて、彼女からは見えないらしい。 シュヴルーズが問いかけると、ルイズの近くに座っていた少年が声を上げた。 「ゼロのルイズ! 召喚出来ずにその辺の平民連れてきたからって、恥ずかしがって隠すなよ!」 その言葉に、教室中がどっと笑いに包まれた。 ルイズは椅子を蹴って立ち上がった。長い髪を揺らし、可愛らしく澄んだ声で怒鳴る。 「違うわ。ちゃんと召喚したもの! こいつが来ちゃっただけよ!」 「嘘つくな! 『サモン・サーヴァント』に失敗したんだろう?」 ゲラゲラと教室中が笑う。 「ミセス・シュヴルーズ! 侮辱されました! 『かぜっぴき』のマリコルヌが私を侮辱したわ!」 「かぜっぴきだと? 俺は『風上』のマリコルヌだ! 風邪なんか引いてないぞ!」 同じく椅子を蹴って立ち上がったマリコルヌに向けて、ルイズが追撃を放つ。 「あんたのガラガラ声は、まるで風邪でも引いてるみたいなのよ!」 次の瞬間、立ち上がった二人は揃って糸の切れた人形のようにすとんと席へ落ちた。 「ミス・ヴァリエール。ミスタ・マリコルヌ。みっともない口論はおやめなさい」 席に座ったルイズは、先ほどの剣幕が嘘のようにしゅんとしてうなだれている。 「お友達をゼロだのかぜっぴきだのと呼んではいけません。わかりましたか?」 「ミセス・シュヴルーズ。僕の『かぜっぴき』は中傷ですが、ルイズの『ゼロ』は事実です」 教室にくすくす笑いが広がった。 シュヴルーズは厳しい顔をすると、ぐるりと教室を見回し一つ杖を振った。するとどこから現れたものか、笑っていた生徒の口元に赤土の粘度が貼り付いた。 「あなたたちは、その格好で授業を受けなさい」 くすくす笑いがおさまった。 「それでは、授業を始めますよ」 少年は授業にはあまり興味がなかった。彼の注意はもっぱら他の使い魔に向けられていたが、属性の話が出た時は少しだけ耳をすませた。 現在は失われた『虚無』の魔法を含めて、魔法の属性は五種類あるらしい。彼の感覚からすると、五つの属性――タイプというのは、酷く少なく思えた。 もっとこう『はがね』だとか『エスパー』だとか『あく』だとかがあって良い気がする。もっとも、単に彼の感覚の方が細分化されている、というだけのことかもしれないが。 そんなことを考えたり、周囲の使い魔を観察していたりすると――。 「それでは、この『錬金』を誰かにやってもらいましょう。そうですね……ミス・ヴァリエール」 不意に指名されたルイズは、びくっと肩を跳ねさせると、シュヴルーズに問い返した。 「えっと、私……ですか?」 「そうです。ここにある石ころを、望む金属に変えてごらんなさい」 そうやって教壇を指し示されても、ルイズは動かない。痺れを切らしたシュヴルーズが更に促そうとしたところで、キュルケが困った声で言った。 「先生」 「なんです?」 「やめといた方が良いと思いますけど……」 「どうしてですか?」 「危険です」 キュルケが言い切った。ほとんどの生徒もそれに頷く。 「危険? 一体、なにがですか」 「先生は、ルイズを教えるのは初めてですよね?」 「ええ。ですが、彼女が努力家であるという事は聞いています。さぁ、ミス・ヴァリエール。気にしないでやってごらんなさい。失敗を恐れていては、なにもできませんよ?」 「ルイズ。やめて」 キュルケが蒼白な顔で言う。しかし、ルイズは立ち上がった。 「やります」 言って、若干硬い動きで教壇へと向かう。通路に乗り出すようにして、少年はその背中を見送った。 教壇に上ったルイズに、シュヴルーズが隣に立って微笑みかけた。 「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を強く心に思い浮かべるのです」 ルイズはこくりと可愛らしく頷く。そして緊張した面持ちで小石を睨みつけると、神経を集中した。 同時に、少年は周囲の生徒たちが、彼と同じように机の影に隠れるのに気付いた。なんでだろうと思う間もなく、短いルーンと共に、ルイズが杖を振り下ろす。 瞬間、小石は机もろとも爆発した。 爆風をもろに受けて、ルイズとシュヴルーズは黒板に叩きつけられた。悲鳴が上がる。 驚いた使い魔たちが暴れ始めた。 眠りを妨げられたキュルケのサラマンダーが火を吹き、尻尾をあぶられたマンティコアが窓を突き破って外へ逃げ、その穴から巨大な蛇が顔を出して誰かのカラスを飲みこんだ。 教室が阿鼻叫喚の大騒ぎになる。髪を乱したキュルケが、ルイズを指して叫んだ。 「だから言ったのよ! あいつにやらせるなって!」 「もう! ヴァリエールは退学にしてくれよ!」 「ラッキーが! 俺のラッキーがヘビに食われた!」 黒板の前にシュヴルーズが倒れている。時々痙攣しているので、死んではいないようだ。 煤で真っ黒になったルイズが起き上がった。服装は悲惨極まりない。上も下もところどころ破れていて、隙間から下着が覗いている。 だが、ルイズは自身の惨状も教室の阿鼻叫喚も気にしない様子で、淡々とした声で言った。 「ちょっと失敗したみたいね」 当然、他の生徒から猛然と反撃を喰らう。 「ちょっとじゃないだろ! ゼロのルイズ!」 「いつだって成功の確率、ほとんどゼロじゃないか!」 爆風で吹き飛ばされた帽子を拾いつつ、少年は一人、すごい『だいばくはつ』だったなと頷いていた。 「おふっ……ミス・ロ……ング、ビル……やめて、やめ……お、おち、る……」 ルイズが教壇を吹き飛ばし、それの罰として掃除を命じられている頃。 この魔法学院の学園長であるオールド・オスマンは、秘書にいつもよりも酷いセクハラ行為――尻を両手でじっくり三十秒ほど捏ねまわすように揉んだ――に及び、いつもよりも苛烈な報復を受けていた。 首を絞められ、今にも気を失いそうなオールド・オスマンに対し、ミス・ロングビルは無表情でチョークスリーパーをかけ続けている。 そんなちょっとした命の危険は、突然の闖入者によって破られた。 「オールド・オスマン!」 荒っぽいノックに続いて、髪の薄い中年教師――コルベールが部屋に入ってくる。 その時には既に、オールド・オスマンもロングビルも自分の席へと戻っていた。早業である。もっとも、オスマン氏は酸欠気味で、頭をふらふらと揺らしていたが。 「なん、じゃね?」 「たた、大変です! ここ、これを見てください!」 ようやく脳に酸素が戻ってきたらしきオスマン氏は、コルベールの焦りに鼻を鳴らした。 「大変なことなどあるものか。全ては些事じゃ。……ふむ、これは『始祖ブリミルの使い魔たち』ではないか。こんな古臭い文献など漁りおって。そんなものを持ちだしている暇があったら、たるんだ貴族たちから学費を上手く徴収する術でも考えたまえ。ミスタ……なんじゃっけ?」 「コルベールです! お忘れですか!」 「おうおう、そんな名前じゃったな。君はどうも早口でいかん。……で、この書物がどうしたのかね?」 「これも見てください!」 コルベールが取りだしたのは、少年の右手にあったルーンのスケッチであった。 それを見た瞬間、オールド・オスマンの表情が一気に引き締まり、目が鋭い光を放つ。 「ミス・ロングビル。席を外しなさい」 ロングビルが席を立ち、部屋を出ていく。それを見届けると、オスマン氏は口を開いた。 「詳しく説明するんじゃ。ミスタ・コルベール」 ルイズが滅茶苦茶にした教室の掃除が終わったのは、昼休みの前だった。 罰として魔法を使うことが禁じられていたため、時間がかかったのである。といってもルイズはほとんど魔法が使えないから、余り変わらなかったが。 ミセス・シュヴルーズは二時間後に目を覚ましたが、その日一日錬金の授業を行わなかった。どうやらトラウマになってしまったらしい。 片づけを終えたルイズと少年は、食堂に向かった。昼食を取るためである。 道すがら、少年は先ほどの光景を思い返していた。何故か、『わるあがき』という言葉が浮かんで消える。 次にちょっと間抜けな顔をした大きな魚が出てきて、最後に巨大な龍が脳裏をよぎった。 その余りの脈絡のなさに、自然と苦笑が漏れる。それを見とがめたルイズが、少年を睨みつけた。 「……あんたも」 「?」 「あんたもわたしを馬鹿にしてるんでしょ!? 貴族だなんだと散々言っておいて、その実はなにも出来ない、『ゼロ』であるわたしを!」 そんな叫びは、少年のきょとんとした表情によって迎えられた。作ったものではない。心の底から、なにを言われているか分からない、と思っている顔だ。 それを見た瞬間、毒気も怒りも、全て雲散霧消してしまった。 沈黙したルイズを見て、少年はしばらく考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。 「……使い手と『わざ』には相性がある」 「ふえ?」 「どれだけ強い力を持っていても、相性の悪い『わざ』は使えない。今のゴシュジンサマは、相性の良い『わざ』がない状態なんじゃないかと思う。だから、『わるあがき』しかできない。……けど、それでもあれだけの力があるんだから、適正のある『わざ』ならすごい威力になるんじゃないかな」 突然饒舌になった使い魔に、ルイズはしばらくぽかんとしていたが、それが彼の不器用な慰めだと気づくと、くすりと笑った。 それに、こいつの考え方は面白い。これまで失敗してきた『わざ』――魔法を使えるように努力するのではなく、相性の良い魔法を探す。 今までも色々な魔法を試してはきたが、もっと色々と、それこそ普通は思いもしないようなものまでやってみるのも悪くないかもしれない。 ただ、今は――。 「……『わるあがき』ってなによ」 「えっ? ええと、うんと……なんなんだろう」 「ご主人様にそういうこと言う使い魔は、お昼ご飯抜きにしちゃうわよ?」 慌てる少年にルイズはくすくすと笑うと、先ほどより明らかに軽い足取りで、食堂へと向かった。 前ページ次ページゼロの使い魔BW
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前ページ次ページルイズの魔龍伝 2.異世界の夜に 「普通だったらこの世界に存在する幻獣その他もろもろを呼び出すの。 あんたみたいな良く分からないのが出てくるなんてトリステイン魔法学院始まって初めての事だわ。」 「しかし驚いたな、俺のような姿をした者は本当にいないのか…」 「むしろアンタみたいなゴーレム、どこから出てきたのか私が知りたいぐらいよ」 ルイズの自室、高級そうな調度品が所々に置いてあり貴族のいる部屋、というのが何となく伺える。 ベットに腰掛けるルイズの目の前にはどっしり胡坐をかいて腕組みをしているゼロガンダムの姿があった。 窓から差す午後の日差しも沈みかけて鮮やかなオレンジに色になっている、そんな時間の事である。 「それはいいが…俺の事はゼロと呼んで欲しいのだが…どうしても駄目なのか?」 「絶対にいや」 「ゼロのルイズと呼ばれてるのに何か関係あるのか」 「うるさい!次に同じ質問したら壊すわよ!」 「…ふぅ」 これで二回目の問いかけであったがやはりルイズはむっとした顔で聞き入れてくれなかった。 サモン・サーヴァントはこの日の授業の最後の科目であり 終了後は使い魔との交流という事でルイズのクラスは他より早く放課になっていた。 なのでルイズもゼロを連れて部屋へ戻って使い魔についての説明をしていたのである。 「材料の調達は地理を知るのにいいし、必要なものは君が教えてくれればいいからな」 「うん」 「守る…これも仕方が無い、この世界を知るためにしばらくここに身を置く以上勤めは最低限は果たそう」 「うんうん」 「だが、何で俺が掃除雑用下着の洗濯までせねばならんのだ!」 「だって使い魔の勤めだもの」 軽く怒っているゼロにしれっと言い放つルイズ。 「断る」 「義務」 「…埒が空かんな。仕方が無い、話を変えて俺の事も少し話そう。」 「じゃあ聞かせてもらうわよガンダム」 掃除雑用下着の洗濯を巡る攻防に終わりが付かないと判断したゼロは話題を換え 自分の事について話す事にした。これで理解してもらえば下着の洗濯だけは 避けられるかもしれない、そう信じていた。 「俺の名前は…まぁ知っているか、これでもユニオン族というれっきとした種族の一つだ。」 「しゅ、種族ぅ!?アンタってゴーレムじゃなかったの!?」 「…召喚された時も俺はゴーレムじゃないと言ったぞ」 「だってアンタみたいな種族なんて聞いた事無いわよ。 どこかの高名なメイジが作った自意識があるゴーレムか何かかと思ったわ。」 「それで、俺はこの世界とは別の世界であるスダ・ドアカからやってきたって訳さ。」 ルイズの顔が一気に胡散臭いものを見ている顔になる。 「異世界?全然信じらんない」 「君が信じようが信じまいが俺はスダ・ドアカという世界から来た、それだけだ。」 「…一応そういうことにしておくわ、ゴーレムさん」 下着洗いを回避しようとするならば多少の事は我慢する必要があった、ゴーレム扱いもやむなし。 そう思いつつゼロはルイズの言葉を流しつつ更に説明を続ける。 「あと俺はまぁ…騎士だ、己の剣の冴えで戦う者。流石に騎士ぐらいはこの世界に存在するだろう」 「それならいるわね、あんた自身は魔法とかは使えないの?」 「無縁だな、とりあえず君を守るという事なら出来る実力ならあるさ。」 「ふーん 本当はかなりの事が出来るのだが正直に話した所で絵空事に取られるだけだろうと考え ゼロはとりあえず騎士、という事にした。 あまり力はひけらかさない方が良い、力とは良くも悪くも人を変えてしまうものだという 考えもあっての事ではあるのだが。 「(ゴーレムかと思ったら良く分からないし魔法は使えないっていうし…)」 そっけない受け答えをしながらも内心ルイズは落胆していた。 自分の望んでいた使い魔のイメージとはまるでかけ離れていたのもあるが 金のような鎧に妙なと見た目で、しかもゴーレムにしては 身長がルイズよりやや大きいぐらいの小ぶりな大きさ。 「(…夢と違うじゃないのよ)」 あの夢はなんだったのか、自分を乗せて雄大に飛ぶあの黒い龍はどこへ? 彼女の疑問は尽きなかった。 「という事で下着の洗濯はやってもらうから」 「なぬっ!」 結局ルイズはゼロに下着洗いを命じたのであった。 「…これは何だ?」 「何ってあんたの食事よ」 日もとっぷり落ちて夕餉の時間、大きいテーブルが三つ並び荘厳な飾り付けが施された 『アルヴィーズの食堂』に通されたゼロが目にしたものは 床に置かれた皿と、申し訳程度に小さな肉片が浮かんだ琥珀色のスープ、そしてその皿の隅っこに ちょこんと置かれた小さいパン二切れであった。 「俺の席はどこだ?」 「何言ってるのよ、あんたは使い魔だから床で食べるの」 「…」 「本当は使い魔なら外で食べるんだからね、それだけでもありがたいと思いなさい。 っていうか物を食べるゴーレムなんて初めて見るわよ」 呆れ顔になってるゼロの心境を察してか止めを刺すつもりなのか ルイズの容赦ない一言が炸裂する。 「…」 「ちょ、ちょっとどこ行くのよ!」 「使い魔は使い魔らしく、俺も外で食べる事にするよ」 そう言ってゼロはスープとパンの乗った皿を持つと食堂を後にしてしまった。 当然後に残されたルイズは憤慨していた。 「なっ、なんなのよアイツ!次からは床じゃなくて外に用意してもらうようにしてやるから!」 「大きい月が二つ…か、俺も随分遠い世界に来てしまったもんだな…」 校舎の外、多数の生徒の使い魔が集まりそれぞれのエサを食べている中 どっしり座ったゼロは月を眺めながらパンをかじりスープをすすっていた。 この世界における自分の待遇とスダ・ドアカ界には無い宙に浮かぶ二つの月が 自分が異世界にいるという事をより実感させてくれる。 「文句は言えんが…腹に据えかねるものが…っと、もう空か」 あっという間に食べてしまい目の前には何も無い皿しか残っていなかった。 物足りなさを感じつつも戻ろうとした時、自分のマントに何か違和感を感じたゼロ。 振り返ると尾に炎を灯た真っ赤で、結構大きなトカゲが彼のマントを引っ張っていたのである。 「きゅるきゅる…」 「中々立派な火竜だな、こっちでいうとサザビードラゴンかそのあたりか?」 そのトカゲは自分の足元にあった何かの生肉を加えてこっちに差し出してくる。 「…もしかして俺にくれると?」 「きゅる」 「いいよ俺は。その気持ちだけ有り難く受け取っておくさ」 大トカゲの頭を撫でたゼロを見てたいた他の使い魔達も自分が食べていた餌を運んで来た。 何かの生肉をはじめとして草や虫、ミミズなど野性味溢れる餌がゼロの前に積まれてゆく。 「いや、俺が足りないなとは思ったけど別にそこまでは欲しくないぞ!いいから!お前たちで食え!」 ゼロは皿を手に取ると熱烈的な使い魔達から逃れるように再び食堂へと戻っていった。 その時、右手のルーンがぼんやり光を放っていたのにはゼロ自身も気づいてはいなかった 「(ちょ~っと調子が狂ったけど一日の最後こそは きっちりと主従関係を叩き込んで締めないとね!)」 一日も終わり就寝の時間、ルイズは決意を固めながらゼロと自室まで歩いていた。 「さて、寝る場所だけどあんたはここね!こーこ!」 「床か?」 「そう、使い魔だから当っ然床!これ以上ない位床よ!」 ドアを開けた途端から高圧的な態度で床を指差しゼロに話すルイズ。 「(いくらなんでもこれなら私の立場が上だって気づいて…)」 「そうか、すまないが鎧を置かせて欲しい」 「え?えああそそっ、そうね、そこのクローゼットの隣に置けばいいんじゃないかしら?」 「悪いな」 今まで流浪の身であったゼロにとっては野宿は当たり前、ましてや敵の気配も無いここなら どこであろうと問題なく眠りに就けるのであった。 ルイズの企みはあっけなく幕引き。目の前で鎧を脱いで指定した場所に置くゼロの横で 同じく服を脱いでそこら辺に投げるルイズ。 「ルイズ」 「何よ、ご主人様と呼びなさいって言ってるでしょうガンダム」 「女の子なら多少は恥じらいを持った方がいいぞ」 「使い魔、しかも人間じゃない奴に見られても別に何とも思わないわよ!」 そういってさっさとネグリジェに着替えた彼女はすばやく布団に潜り込んで指を鳴らすと 部屋を灯していたランプも消えてしまった。月の明かりだけが部屋に蒼く差し込む。 「使い魔の説明の時にも言ったけどそれ、明日洗っといてね」 先ほど脱いだ下着を投げ口早に言うとそれっきり彼女は一言も喋らなくなった。 「(やれやれ、とんだじゃじゃ馬娘だ)」 ゼロは脱いだ鎧にかかっていた自身のマントをひったくり、それに丸まって床に横になった。 「(ユニオン族のいない異世界…か)」 心に去来するのはかつての戦いの記憶。 強大な力を持った遺跡、ドゥームハイロウの力によりユニオン族が抹消され 幻魔皇帝がザンスカール族を率い人間を統制支配する悪しき世界。 生き残った唯一人のユニオン族であるゼロは受け継がれた雷の技と 一族に伝わる神の獣、龍機ドラグーンを用いこれに挑んだ。 雷の奥義にて召喚された城は巨人となりて幻魔皇帝と戦い、抹消されたはずの仲間も 精神のみの状態で現世に舞い戻り自身に力を与えた。 集う力はついに幻魔皇帝を討ち破り、消えたユニオン族をこの世に再び戻し平和を取り戻した…。 「(雷龍剣よ、俺はこの世界でどうすればいい?)」 かつての戦いが思い浮かんでは消えていき、その意識も眠りの中にゆっくりと落ちていった。 彼の、長い一日はこうして終わりを告げたのである。 前ページ次ページルイズの魔龍伝
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前ページ次ページゼロのアトリエ 「あさー、あさだよー。」 誰かの声がする。誰だっけ? まあいいや、もう少し寝ていよう…そう思って体を丸めようとした瞬間、毛布が剥ぎ取られる。 「お目覚めですね? ご主人様!」 そう言ったヴィオラートの笑顔には、ルイズ自身の言った事は絶対に守らせる!という 凄みがあった。 ゼロのアトリエ ~ハルケギニアの錬金術師4~ 「ああ、ヴィオラート…そうね。昨日、召喚したんだっけ…」 ルイズはのそのそと起き出して、ヴィオラートに命じる。 「服。」 ヴィオラートは一瞬怪訝な顔をするが、すぐに納得したのかルイズの服一式を用意する。 「着せて。」 今度はあっさりと、ルイズの着替えを手伝うヴィオラート。 しかし、ルイズはなんとなく居心地悪さを感じ始めていた。 (何なの、この…私をイツクシムような、ヤサシサあふれる視線は…) なんで着替えぐらいでこんな気持ちにならなければならないのか。 (ひょっとして、私をかわいそうな子扱いしてるんじゃないでしょうね!) 苛立ちをおぼえて振り向いたその先には、しかし、 「ん?」 ヴィオラートの、人懐っこい微笑があるだけで。 「な、何よ。さあ、着替え終わったらさっさと行くわ。朝食よ。」 ばつが悪くなったルイズは、正体不明の何かから逃げるように扉を開けた。 「あら。おはよう、ルイズ。」 嫌なやつに会った。ルイズが扉を開けたちょうどその時、同じように扉を開けて燃えるような赤い髪の女の子が姿をあらわしたのだ。 「…おはよう。キュルケ」 義務的に挨拶を返す。 魔法が使えて、あらゆる意味の色気にあふれ、そして何より、おちちが…おちちが大きい。 その存在全てがルイズの感情を逆撫でする、まさに不倶戴天の仇敵であった。 「あなたの使い魔って、それ?」 彼女は小馬鹿にした口調で、ヴィオラートを指差す。 「そうよ。」 「あっはっは! ホントに人間なのね! すごいじゃない! 流石はゼロのルイズ!」 「うるさいわね」 「あたしも昨日、使い魔を召喚したのよ。誰かさんと違って一発でね?」 「あっそ」 「どうせ使い魔にするなら、こういうのがいいわよね~。フレイム!」 キュルケがそう呼びかけると、キュルケの部屋からのっそりと、オレンジ色の大きなトカゲが現れた。 「ああっ、サラマンダー! 大丈夫なの?」 ヴィオラートは驚いて、距離をとりつつ秘密バッグの口に手をかける。 「平気よ。あたしが命令しない限り、襲ったりしないから。それより見て、この尻尾。素晴らしいと思わない?」 たしかにすごい。ルイズから見ても素晴らしいと思う。正直羨ましかった。 しかし、まさにそこがルイズの癇に障る。自分が不甲斐ないからキュルケなんかを調子に乗らせる。 「へえ~、こんなのも使い魔になるんだー。触ってもいいかな?」 ヴィオラートがしきりに関心を示しているのも気に入らない。何だというのだ。 キュルケなんか…ツェルプストーなんかに愛想をふりまかなくてもいいのに! 「あなた、お名前は何とおっしゃるの?」 「あたしはヴィオラート。」 「ヴィオラート。いい名前ね。あたしはキュルケ。微熱のキュルケ。」 キュルケはそこで一旦区切ると、ルイズにあてつけるように胸を張り、ルイズに向かって艶かしい視線を送る。 「ささやかに燃える情熱は微熱。でも、世の男性はそれでいちころなのですわ。あなたと違ってね?」 キュルケは視線をヴィオラートの胸に移動させ、その後視線をルイズの胸に固定し、嘲るような笑みを浮かべる。 「じゃ、失礼?」 そのまま、キュルケはさっそうと歩いていく。歩く姿でさえ何だか様になっていた。 「くやしー! 何なのあの女! 自分がサラマンダーを召喚できたからって! ああもう!」 やり場のない憤りを抱えたまま、ルイズはちらりとヴィオラートの胸をチェックする。 (使い魔のくせに、つつつ使い魔のくせに! この学院じゃキュ、キュルケの次に大きいんじゃないの? 腹立つわ!) キュルケが胸山脈なら、ヴィオラートは胸連峰。私はせいぜい河岸段丘、河岸段丘のルイズ。はは。 「ルイズちゃん?」 様子のおかしいルイズを心配したのか、ヴィオラートがひざを屈めてルイズを覗き込む。 ヴィオラートの顔と一緒に胸部もルイズの視界に入ってくることになり、ルイズは理不尽な怒りを覚えることとなる。 「だ、だいたいあんたが!」 「え? あたしが?」 言葉に詰まる。ヴィオラートは何も悪くないのだ。それどころか、今の今まで胸を意識せずにいられたのは、ヴィオラートの気遣いによるところ大であろう。何を責めるというのだ。 自分にとって最高の使い魔であるとルイズ自身がそう思っているのに、何が悪いと言えばいいのだろう。 「…河岸段丘…」 「え?」 思わず口をついて出た言葉は、ヴィオラートに悩みを打ち明けたいという依頼心のあらわれであろうか。 「な、何でもないわ! さっさと行くわよ!」 照れ隠しなのか、廊下をまさにのし歩くルイズの後姿を見つつ、ヴィオラートはルイズの発した言葉の意味を勘案しつづけるのだった。 「…河岸段丘?」 前ページ次ページゼロのアトリエ